1: ◆b0Vu8MQV5UgY
2017/12/10(日) 20:25:03.57 ID:tkpAzfiG0
自分が「できない子」なのだと気付いたのはずいぶん昔の事でした。
「黒澤」の次女という立場上、私は・・・ルビィは、ランドセルを背負う前から多くの習い事に励んでいました。
舞踊、茶、琴、習字、また礼儀作法にまで至る色んな事。
先生は誰もが、その道を専門として、誇りを持ち、人生を捧げていた人たち。
そんな人たちの貴重な一日数時間を、どうしてルビィなんかに費やしていたんだろう。今更言っても仕方ないけど。
始めた頃はどれもが新鮮で、舞の動作一つ覚えるだけで物凄い達成感に包まれたし、「くろさわるびぃ」を初めて書けたときは嬉しくてたまらなかった。
でも、ルビィが喜んでも先生方は喜びませんでした。最初に思い浮かぶのは、疲れと呆れの入り混じった、そんな顔ばっかり。
そりゃそうだよね、お姉ちゃんは、見せて、話して、間違いを正して、そしてそれを繰り返して、そんなことする必要無かったんだから。
ルビィは、だって、私と先生しかいなかったから、自分が「できない」子だなんて思わなかった。考えもしなかった。だから怖かった。
会う毎に表情の消えていく顔が。感情の無くなっていく声が。かと思えばふと爆発するその度に、ルビィは自分が小さくなっていくような気がしました。
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2: ◆b0Vu8MQV5UgY
2017/12/10(日) 20:25:44.79 ID:tkpAzfiG0
理由を知ったのは風邪を引いたある日。
いつもより静かな私室まで流れ込んだ音に引かれ、ふらふらとたどり着いたのは、今日は使わないはずの離れ部屋。
そこまで来て初めて、耳に触る心地良い旋律が、いつもヘロヘロ鳴らしている弦楽器によるものだと気付きました。
3: ◆b0Vu8MQV5UgY
2017/12/10(日) 20:26:11.89 ID:tkpAzfiG0
ダイヤ「・・・? っ!?ルビィ!」
ルビィ「あ・・・」
ダイヤ「何をしているの!寝てないとダメじゃない!」
4: ◆b0Vu8MQV5UgY
2017/12/10(日) 20:27:15.48 ID:tkpAzfiG0
お腹に溜まった粘っこい何かの吐き出し方も分からず、陰気なルビィと先生たちの日々が終わったのは、高学年に入った年の冬。
その日の先生は、比較的若い男の人。有望株として期待されていた書道家さんだったそうです。いつか、謝りにいかないと。
特別な何かがあったわけではありません。
5: ◆b0Vu8MQV5UgY
2017/12/10(日) 20:28:25.74 ID:tkpAzfiG0
ともかくそれからは、「勉強」の名目で先生たちが来ることは無くなりました。
ただ翌日、生徒を逃がしてしまったあの人は、わざわざ必要のない謝罪をするため、お屋敷までやって来て下さいました。
謝るのはルビィの方でした。それなのに、自室からあの大柄な体を見ただけで、ルビィの体は芋虫みたいに縮こまってしまう始末。
6: ◆b0Vu8MQV5UgY
2017/12/10(日) 20:29:04.50 ID:tkpAzfiG0
―――鬱陶しい夢は、そこで途切れました。
ぼんやり開いた瞼。最初に見えたのは、腕元で毎夜温もりを与えてくれる抱き枕。
ルビィは・・・私は、半覚醒の頭で鳴り響く騒音のもとを探して、視線をきょろきょろ。夢で見た私室よりさらにモノが増えています。
7: ◆b0Vu8MQV5UgY
2017/12/10(日) 20:29:36.68 ID:tkpAzfiG0
続きはそのうち
8: ◆b0Vu8MQV5UgY
2017/12/11(月) 00:14:59.63 ID:BAjaaNJf0
定刻通りに部屋を降りると、お茶の間の真ん中に陣取る座卓の傍らで、お母さんが振り返った。
黒澤母「おはよう、ルビィ」
ルビィ「うん、おはようお母さん」
9: ◆b0Vu8MQV5UgY
2017/12/11(月) 00:15:56.87 ID:BAjaaNJf0
ルビィ「お姉ちゃんは?」
東京の大学へ進学したお姉ちゃん。現在は春休みということで帰郷しています。
黒澤母「昨日から帰ってないわよ。お友達のところへ泊まると言っていたから」
10: ◆b0Vu8MQV5UgY
2017/12/11(月) 00:17:05.06 ID:BAjaaNJf0
黒澤母「てっきり、もっと目を赤くして降りてくると思ったわ」
ルビィ「私が?」
黒澤母「他にいないじゃない」
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