83: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:16:30.56 ID:/aq2I7elo
電話を切ったあと、なんだか涙があふれた。
箱ティッシュを使い切るほどの勢いで鼻をかむ私を、先生方が不思議そうに見ていた。
「いやあ、あの子たちも、もうすぐ卒業なんだなぁ、と思うと……」
84: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:17:44.82 ID:/aq2I7elo
――――
卒業式当日。
古くなった空の層が剥がれかかっているような曇天で、ひどく冷え込んでいた。
体育館には大きなジェットヒーターがいくつも置かれ、轟々と絶え間なく騒音が続いた。
85: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:21:05.53 ID:/aq2I7elo
ピアノの前に座って、鍵盤に手をかける。
キリリと冷えたその感触に、私は思わず身震いした。
緊張すると、私は脇汗がよく出る。パッドを入れておけばよかった。
86: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:24:36.39 ID:/aq2I7elo
生徒たちの声はひとつひとつ混ざり合って、まるで大きな川のように流れていく。
そして、私も、その川の一部になる。没入していく。
私は、いい先生でいられたかなぁ……。
87: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:26:06.46 ID:/aq2I7elo
教員にとっては、式後が長い。
体育館内や、その周りで、皆思い思いに談笑したり、写真を撮ったり。
私もすでに何枚も写真を頼まれた。
88: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:27:23.88 ID:/aq2I7elo
「先生!」
声のする方向を見ると、やはり、ありすだった。
泣くまい、と思った。
89: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:28:38.13 ID:/aq2I7elo
「おめでとう」
「ありがとうございます。先生……」
「うん」
90: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:30:04.45 ID:/aq2I7elo
「ありす!」
私は小走りに追いかけて、彼女の肩を抱いた。
腰をかがめて、真っ直ぐに見つめ合う。
91: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:32:18.61 ID:/aq2I7elo
「ありすは、ひとりぼっちじゃないんだって、それだけ、……忘れないでいて。
ありすは、ひとりぼっちなんかじゃないんだよ」
そうしてうなだれた私を、慰めるように、ありすは私を抱きしめた。
92: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:33:31.61 ID:/aq2I7elo
その日の夜、雪が降った。
稀に見る大雪で、朝になると街路樹から道路まで、真っ白に埋めてしまった。
私は仕事でくたびれた体を起こして、ベランダからその様子を眺めた。
吐息が白々と朝日を掴まえた。
93:名無しNIPPER
2017/11/10(金) 17:34:46.49 ID:/aq2I7elo
以上、「二人ぼっちのアリス」でした。
読んでいただき、ありがとうございました。
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