10:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:43:18.42 ID:2O49l66V0
☆
俺のことに大半の人は興味が無いとはいえ、少しくらい自分のことを振り返ったって良いだろう。
大学生の頃はバンド活動をしていて、割と本気で曲を作り、活動していたのだが、どこのメジャーレーベルも俺たちを引っ掛けようと針を垂らすことはなかった。
11:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:43:59.19 ID:2O49l66V0
現在でもバンドマンだった頃の趣味は抜けず、聴く音楽の趣味も変わらず、服装も同様。
たまに曲を作る習慣も抜けず。
インドア趣味なおかげで、今回の釣りのようにアウトドアな遊びをするとなったら、どうしても音楽フェスに行くような……ハーフパンツと、寒さ対策にレギンスを履いて、という格好になってしまうのだ。
12:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:45:04.50 ID:2O49l66V0
この服装になると、肇と初めて出会った時のことを思い出す。
彼女の採用を決めた先輩に「この子の担当になってみない?」と軽めに言われて、「明日寮に来るらしいよ」と付け加えられた。
彼女が寮に来るらしい日はちょうど休みだった。
13:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:46:50.17 ID:2O49l66V0
彼女は一度、寮を真剣な目で見つめていた。
一つ深呼吸をしたあと玄関までの階段を登ろうとしたようだが、どうやらキャリーバッグが持ち上がっていなかった。
彼女が困り顔で辺りを見回しているのを、俺は走るフリをするのも忘れて、ボケっと見ていた。
14:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:48:01.54 ID:2O49l66V0
一目見ただけで、また夢を見た。
それは白昼夢と言っていいものかもしれなかったけれど、肇の黒い髪がライブのステージで揺れ、白いサイリウムの光に手を伸ばして歌う光景をはっきり見た。
素朴な雰囲気のあの子が、俺が作り出した舞台で、仕事で、欲を言えば楽曲で、白い花を大きく咲かせたように素敵に着飾る姿を、確かに見たのだ!
15:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:49:12.39 ID:2O49l66V0
今思えば肇には随分怖い思いをさせたと思う。
なぜあの時「君のプロデューサーです」と切り出せなかったのか。
いや、それを言っても怖がらせてしまったかもしれない。ただ、もう少しやり方はなかっただろうか。
16:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:50:30.89 ID:2O49l66V0
さて、着替えも終わり、軽自動車に乗り込む。
学生時代からの相棒に久しぶりに火を入れると、なんとか元気な様子で安心した。
ギアを入れアクセルを踏むと、ボロロロという音がした。
17:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:51:35.65 ID:2O49l66V0
☆
寮の前に車を停めると、既に肇は表に立っていた。
18:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:53:26.64 ID:2O49l66V0
門前には五十嵐さんも立っており、俺たちを見送りに来たようだった。
いくらか手伝ってもらいながら、彼女にそっと耳打ちをされる。
「深夜、ふたりきり。いいですかっ、変なことはなしですよ」
19:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:54:34.74 ID:2O49l66V0
積み込みが終わり、俺が運転席に乗り込む。
「後ろに乗りなよ」
と肇に言ったが、肇は澄まし顔で助手席に乗り込んだ。
20:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:55:31.67 ID:2O49l66V0
ガソリンスタンドは割とすぐそこにあり、セルフのスタンドだったことに安心する。
「目的地はどこ?」
「神奈川の、東扇島西公園……というところです。海釣りの場所は詳しくないのですが、調べたところそこで釣りができるらしくて」
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