17: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:02:11.70 ID:r5zFZECu0
僕は再び歩を進めながら、彼女を見つめた。
身を包んでいる簡素な服はとうてい防寒具には見えなかったし、袖から覗く手は、寒気に晒されて真っ赤だった。
それでも控えめに笑顔を振りまく彼女は、紙きれのようなものを配っていた。
18: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:03:05.85 ID:r5zFZECu0
「寄付をお願いいたします」
修道服姿の彼女が僕に差し出してきた紙には、端整な字と、少しばかりの絵柄とがあった。
微かに触れた彼女の指先は、彫像のように冷えきっていた。
19: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:04:05.56 ID:r5zFZECu0
「あの」
「はい、なんでしょう?」
彼女の、絹のようにすべらかな髪が揺れるさまを見つめる。
20: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:04:54.50 ID:r5zFZECu0
「ありがとう、ございます」
愛らしい、花のような笑顔だった。
21: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:06:06.50 ID:r5zFZECu0
事務所に帰り着くと、まだちひろさんが残っていた。
どこだって大抵はそうなんだろうけど、うちの業界も年末は忙しい。
22: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:07:20.28 ID:r5zFZECu0
「え、僕、ぼんやりしてます?」
「ええ、心ここにあらずって感じですけど」
頷きながら彼女は、くすくすと笑っている。
23: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:08:08.42 ID:r5zFZECu0
「……僕、さっき見つけてしまったかもしれないです」
それは閃きに過ぎなかった。
24: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:09:05.13 ID:r5zFZECu0
神様の存在を信じるという感覚が、今一つ理解できない。
なぜって、その姿を見たことがないから。
頭の中で明確に像を結べないものに頼るということに、違和感を覚えてしまうからだった。
25: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:09:57.72 ID:r5zFZECu0
その日は朝から分厚い雲が垂れ込めていた。相も変わらず滲むような冷えが厳しかった。
プリントした地図を頼りにと思っていたが、大して迷うこともなく辿り着くことができた。
26: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:11:21.82 ID:r5zFZECu0
教会に入るなんて、初めてのことだった。
礼拝堂には平日の朝から自由に入れるとあったが、扉を開けるのには少なからず躊躇いがあった。
27: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:13:11.45 ID:r5zFZECu0
教会の中に入る。
外に比べて、遥かに空気が暖かい。
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