【トトリのアトリエ】ミミ「こんなことはこれっきりにしてよね」
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1:名無しNIPPER[saga]
2017/08/27(日) 13:15:57.66 ID:SC7wIBIj0
 何も考えるな、何も考えるな、足場の悪い森の中を機械的にただ歩く。頭の中を無心で埋め、とにかく左足と右足を交互に前へ出す。私の背に負ぶさるトトリの熱を、軽さを感じながら。

「ほんと、いつまで経ってもドジなんだから」
「えへへ…いつもごめんね、ミミちゃん」

 囁かれるトトリの息は私の真っ赤な耳を擽り、体をぞくぞくと震わせる。生い茂る草木に遮られた夏の陽光よりも、露出の多い薄手のレオタードを着たトトリはどうしても温かい。

「街まであとちょっとだね。もう少しゆっくり歩いてもいいんだよ」
「自分の立場分かってるの?私はさっさと重ーいあんたを降ろして楽になりたいのよ」
「あー、ミミちゃんひどーい」

 わざとらしく拗ねたような口調でぼやくトトリを無視する。

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2:名無しNIPPER[saga]
2017/08/27(日) 13:16:35.95 ID:SC7wIBIj0
 毎度毎度、こんなことは二度としたくない、勘弁して欲しい。そう思っているのに。私を庇って右足を怪我した彼女を背負わないわけにはいかない。薬はとっくに底を尽きている。

 ただでさえトトリを背負っては歩みが遅くなるのだ。それなのにトトリの身体は私の心臓の鼓動を早め、呼吸を荒くさせる。彼女は私に余計な息を吐かせ、消耗させようとしているのだ。そうに決まっている。

 私がトトリを背負うとき彼女は決まって、私の髪に鼻を擦り付けてじゃれてくる。そんな甘えたな犬みたいなこと、よくも出来るものだ。そんなことをされると体が固まるのよ。
以下略 AAS



3:名無しNIPPER[saga]
2017/08/27(日) 13:17:02.86 ID:SC7wIBIj0
 もはや日は沈んでいた。生い茂った樹木は辺りをより暗く濃い闇に包む。何度過ごしても夜の森は慣れない。どこから獣が襲うかも知れない、これ以上進むのは危険だろう。

「そろそろテントを張りましょう」
「やった、今日も二人で野宿だね!」
「なーに喜んでのよ…私は清潔で柔らかいベッドで眠りたいわ」
以下略 AAS



4:名無しNIPPER[saga]
2017/08/27(日) 13:17:31.67 ID:SC7wIBIj0
「わたし、先に見張ってるから。ミミちゃんはゆっくり休んでてね」

 夕食を済ませると、トトリは見張りを買って出た。順番で言えば今晩は私が先なのだが、とにかく疲れている。今日は甘えさせてもらおう。

「そうさせて貰うわ。荷物が煩くってくたびれちゃった」
以下略 AAS



5:名無しNIPPER[saga]
2017/08/27(日) 13:18:01.71 ID:SC7wIBIj0
 ちらちらと燃える焚き火の灯りはテントの中の闇を光で揺らしている。槍を傍に置き体を横にして毛布を被る。トトリを連れていれば、基本的に屋根の下で眠ることが出来るのはありがたい。体はすっかり疲労している、すぐに眠れるだろう。私は眠気を感じながら、光に揺れる天井を眺める。

 うつらうつらと曖昧な頭で、ついさっきトトリがなんだか知らない草を摘む姿を思い出していた。いつもの光景だ。

 トトリの眼にはなんでもない草木、花、土、どんなものも違って映るのだろう。目を凝らし、必要なものを浮き出して見つけることができる。砂利を捨てて宝石を拾うことができる。私には出来ない。
以下略 AAS



6:名無しNIPPER[saga]
2017/08/27(日) 13:18:40.52 ID:SC7wIBIj0
 次の日の朝には、視界の悪い森をようやく抜けることができた。ほとんど開けた小高い丘だ、森に比べればはるかに歩き易い。ここまで来てしまえば、明日中には街に着くだろう。森から出たところでトトリの重みは変わったりはしないが。直接注いでくる、強すぎる日光を遮断するために帽子と上着を着る。
 
「やっと森を抜けられたね。もう少しだけ頑張って」
「言われなくてもそうするわ」

以下略 AAS



7:名無しNIPPER[saga]
2017/08/27(日) 13:19:32.03 ID:SC7wIBIj0
「ミミちゃん、一回休もっか」
「…そう、ね……」

 トトリは隠しきれない私の疲れを感じたのだろう、プライドが邪魔して足を止められない私の代わりに休憩を勧めてくれた。休むには少し早いが仕方が無い。いつものように虚勢を張る余裕も無い、確かにもう限界だ。なんとか林立する木の陰まで少しずつ、少しずつ、進んで。着いた。ああ、涼しい。足を止めた瞬間トトリは左足だけで急いで飛び降り、私も傍に倒れこんだ。荒い呼吸がようやく収まってくる。

以下略 AAS



8:名無しNIPPER[saga]
2017/08/27(日) 13:20:05.20 ID:SC7wIBIj0

 確かに過去二度、同じような状況になっては街の目は鼻の先であったから。トトリも私がここまで疲弊するとは予測していなかった。心底申し訳なさそうな顔をしている、そんな顔を見せるな。

「心配しなくてもいいわよ。私を誰だと思ってるの?」
「ミミちゃんは、ミミちゃんだよ。わたしこんなに…」
以下略 AAS



9:名無しNIPPER[saga]
2017/08/27(日) 13:20:39.41 ID:SC7wIBIj0
「分かったわよ、分かったってば。私も休みたかった所だから」
「ゆっくり休んでね。なんでも言って。わたし、なんだってするから」
「なんでもなんて大げさね、軽々しくそんなこと言うんじゃないわよ。そのうち痛い目に会うわよ」
「大丈夫だよ、ミミちゃんにしかこんなこと言わないから」
「………」
以下略 AAS



10:名無しNIPPER[saga]
2017/08/27(日) 13:21:16.14 ID:SC7wIBIj0
 早めの夕食を済ませて木陰に二人並んで座り込むと、風がさっと吹き入りトトリの匂いを私へと届けてくれた。花のような甘い香りだ。なんて落ち着く香りだろう。汗も混じっているが、それすらも清々しい。風に全身の疲れが溶けていく。

 日は丘を、私達を橙に照らす。私達は夕闇に染まる空をなんとなく眺めていた。なんでもない時間も、トトリと一緒ならばこんなにも心地よい。どちらともなく肩を寄せ合い、ゆっくりと地平線に沈む夕日を時間も忘れて眺めていた。

 どれだけの時間そうしていたのだろう。すっかり日は沈み月が出ても、私達の目は空に張り付けられている。
以下略 AAS



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