40: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:50:05.33 ID:fLR/Lwcb0
「夏目君、きみ全然酔ってなくない?」
彼女が訝しげな表情を浮かべて、おれの様子を窺っていた。
41: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:52:03.33 ID:fLR/Lwcb0
どこか拗ねたような横顔。その顔がおれに向き直り、こちらに身を乗り出して、そのまま右の耳元に近付いてきた。
おれはというと、突然の事態についていけなくて身体が動かなかった。
「言うときに照れんくなるばい」
42: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:53:06.55 ID:fLR/Lwcb0
とん、という微かな音と共に、柔らかな質感。そしてすぐそばから漂う、くだもののような香り。
43: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:53:58.19 ID:fLR/Lwcb0
大切な秘密を打ち明けるように、そっと言ってくれた。
「うちもきみのこと、好いとうよ」
44: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:57:16.33 ID:fLR/Lwcb0
店を出て、連れ立って歩く。
幾らか涼しくなっている気候に、漸く長い夏のおわりを見た気がした。
更け切った夜の、ずっと静かな気配がそこかしこにある。
45: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 23:00:36.19 ID:fLR/Lwcb0
「先輩」
彼女を呼ぶ。
いつもならすぐに反応をくれるのに、どうしてだか彼女は振り向きもしなかった。
46: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 23:02:18.01 ID:fLR/Lwcb0
「うちの名前は"先輩"なんかじゃなかよ」
つっけんどんなその返事が、いちいち可愛かった。
「あー、すんません」
47: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 23:03:23.54 ID:fLR/Lwcb0
「手、繋ぎたいです」
「ん」
おれの方にぶらっと伸ばされた、白くて小さな左手に触れる。
48: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 23:04:29.15 ID:fLR/Lwcb0
「夏目君」
「はい?」
名前を呼ばれて彼女を見ると、彼女もこちらを見つめていた。
49: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 23:05:07.04 ID:fLR/Lwcb0
ひとしきり笑い終えてから、彼女が呟いた。
「うちは本気で言いよっちゃよ?」
手を握る力を強めたり弱めたりしながら、なにかをねだるように。
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