97: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 19:53:39.25 ID:U37eLnDj0
「……お兄さん?」
「ん? あれ、海ちゃん!」
きっちりとしたスーツ姿で、赤茶けた髪をきちっと整えた、男の人。
98: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 19:54:13.44 ID:U37eLnDj0
ちらりと見てみれば、綺麗なお姉さんは、こちらを興味深そうに見ながらゆっくり歩いている。
やっぱり見た事ある気がするんだけど……兎も角、なんだかそれが無性に腹が立つ気がする。
ウチはあんなに気を揉んだのに。
「いやー、侍らせてるわけじゃないよ? これも一応仕事だからさ。撮影の下見」
99: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 19:54:54.81 ID:U37eLnDj0
近づいてきた女性――アイドルの原田美世さんが、はにかむようにして笑う。
うわ、可愛いなぁ……。思わず、そんなことを思ってしまう。
「へぇ、海ちゃん、美世のこと知ってるんだ。ちょっと意外な気もするけど」
100: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 19:55:30.45 ID:U37eLnDj0
「海ちゃんには言ってなかったけど、実はこういう者なんだよね」
そこに書かれていたのは、お兄さんの名前。
そして。
101: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 19:56:34.44 ID:U37eLnDj0
●
「はい、海ちゃん」
「ん、ありがと」
102: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 19:57:03.34 ID:U37eLnDj0
「……」
「……」
ちょっと予想外の場所での出会いに、ウチもお兄さんも、何を喋ればいいか分からなくて、押し黙ってしまう。
103: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 19:57:51.24 ID:U37eLnDj0
「……ん。今日は仕事なんだ?」
「そう。数日後から、何回かに分けて鎌倉で撮影があってね、その下見」
104: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 19:58:21.18 ID:U37eLnDj0
ふと、お兄さんが真剣な表情を見せる。
前も、一度だけ見た表情。あの時と同じく、その表情にどきりとした。
「皆、色々な魅力を持ってる。けど、それをどう引き出すか。どう魅せるか。それを考えるのが俺の役目って感じかな」
105: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 19:58:56.09 ID:U37eLnDj0
そんなことを、思っていたのだけれど。
「……この際だから言うけどさ」
「うん? 何、お兄さん」
106: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 19:59:22.60 ID:U37eLnDj0
「海ちゃん、座って座って」
「あ、うん……いやでも、ウチをスカウトって……何で?」
「前に言ったこと、覚えてない?」
107: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 20:00:05.30 ID:U37eLnDj0
「あの時の海ちゃん、外見の話とかだけじゃなくてさ、本当に綺麗だった。だから、きっとアイドルになれると思ってね」
「……でもお兄さん。そんなコト、一度も」
「うん。まぁ、それは不覚なんだけど。マリンスポーツの話したりしてる内にさ、なんだか……うーん」
108: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 20:00:49.83 ID:U37eLnDj0
何でそんなことを言うんだろう。
ウチは、別にそんなこと思っていないのに。
「だって、ここ暫くで仲良くはなれたと思ってるけどさ……最初はある意味、下心満載だったわけだし」
109: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 20:01:17.50 ID:U37eLnDj0
真面目な雰囲気が解けて、軽く項垂れるお兄さん。
……さっきの原田さんとのやり取りといい、いつもこんな感じなのかな?
やっぱりお兄さんはお兄さんなんだななんて、ちょっとだけ安心した。
「まぁ、そんなわけでさ。海ちゃん」
110: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 20:01:47.70 ID:U37eLnDj0
「もう全部喋っちゃったからさ。改めて言うよ」
「う、うん」
111: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 20:02:21.68 ID:U37eLnDj0
「……そうだねぇ。まずはありがとう、お兄さん。ウチみたいなガサツで可愛げのない女に、そこまで言ってくれて」
「……」
「この前逢った時も、言ってくれたよね。ウチは輝ける人だってさ」
112: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 20:02:47.92 ID:U37eLnDj0
「でも、ゴメン」
「……理由、聞いてもいい?」
「うん。本当にさ、プロデューサーがそう言ってくれたのは嬉しかったよ。ウチのこと、認めてくれた気がして」
113: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 20:03:22.15 ID:U37eLnDj0
「けどさ。前も言ったみたいに……ウチはやっぱり、自分が輝くよりも、人を輝かせるモノを、作りたいから」
「……あぁ」
「ウチのデザインした服で、バッグで、アクセサリーで! その人の魅力をもっと引き出せたら素敵だなって、思うからさ」
114: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 20:03:53.74 ID:U37eLnDj0
「ん、そっか。それなら仕方ない、か。あーあ、振られちゃったなぁ……俺、ちょっと泣きそうかも」
「ちょ、お兄さん! 言い方!」
「いやまぁ、振られたのは事実だし」
115: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 20:04:24.59 ID:U37eLnDj0
「……さ、それじゃあ俺は帰るかな」
ひとしきり笑いあったあと、お兄さんはそう言う。
言われてみれば日は更に傾いて、もう1時間もすれば夜、という時間になっていた。
116: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 20:05:06.72 ID:U37eLnDj0
●
「……よかったの、プロデューサー?」
「まぁ、仕方ないよ。振られちゃったからなぁ」
117: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2017/09/29(金) 20:07:14.87 ID:U37eLnDj0
今日はここまで。あれよあれよというまに2ヶ月空いてしまいました。
もう読んでいる人も、少ないかもしれないけれど……それでも完結させたいので、頑張ります。
ちなみに、今回の投稿分の「お寺」や「神社」は全部モチーフとなった場所があります。
特に神社の方は分かる人はわかる……かも?
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