9: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/06/14(水) 22:37:44.13 ID:6jKTh3xi0
まだ多少、朦朧とした意識で、音の出所を探ると、手に持ったヘッドホンへ辿り着きました。
本来なら耳に当てないと聞こえないはずの音が。こんなに離れた場所からは届くはずのない音が。
その部屋にいる全員の耳へ運ばれていました。
10: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/06/14(水) 22:38:13.29 ID:6jKTh3xi0
「ちょっと! なんであんなに上がってるん!? 危ないでしょ!?」
周子さんがスタッフに詰めよりますが、当のスタッフも当惑した表情を隠せない様子です。
それもそうでしょう。人によって差はあるものの、1人目が収録した時の音量をリセットするなんて非効率的です。
11: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/06/14(水) 22:39:11.81 ID:6jKTh3xi0
〜〜〜〜〜
翌日。気を取り直して……というわけではありませんが、なるべく昨日のことは気にしないように、事務所へ入りました。
すると、人形の前に1つ、人影が。
12: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/06/14(水) 22:39:58.72 ID:6jKTh3xi0
普段なら一声、挨拶を掛けてから、通り過ぎて奥へと向かうところではあるのですが、今日、それは2つの理由によってできませんでした。
1つ目、この後のお仕事がフレデリカさんと一緒であるということ。
いくら人形の傍にいたくないからといって、ここでフレデリカさんと会話をしないのはあまりにも不自然です。
そして2つ目、これがどちらかといえば大きな理由なのですが。
13: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/06/14(水) 22:40:39.86 ID:6jKTh3xi0
フレデリカさんが言った"この娘"が誰を指しているのかなんて、考えるまでもありません。
"見たくない"という恐怖心は、少しの怖いもの見たさという好奇心と、"確かめなければ"という表現しがたい義務感によって敗れ去りました。
返事をしながら人形の、その目に視線を移すと、その色は。
14: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/06/14(水) 22:41:17.93 ID:6jKTh3xi0
〜〜〜〜〜
「フンフンフフーン♪」
15: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/06/14(水) 22:41:46.85 ID:6jKTh3xi0
「あれー? あのスタジオ、どっちだっけ?」
「そこを左です。……フレデリカさん、私よりも行ってる回数多いですよね?」
16: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/06/14(水) 22:42:28.49 ID:6jKTh3xi0
煙草だ。
ふと浮かんだのは、「煙草を持つ手は、子供の顔の高さだ」なんてどこかのポスターの言葉。
17: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/06/14(水) 22:43:08.09 ID:6jKTh3xi0
「ってうわ! 高い! ナニコレ!?」
そんな私を正気に戻してくれた声は、いつもの調子で、言葉を放り投げています。
18: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/06/14(水) 22:44:03.76 ID:6jKTh3xi0
パッと手が離れた時には、フレデリカさんはもう、前を向いていました。
その後の撮影のことなんて覚えていません。
指示なんて全然聞こえませんでした。足どりも表情も、きっと困らせるくらいに重くて。
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