12: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/06/14(水) 22:39:58.72 ID:6jKTh3xi0
普段なら一声、挨拶を掛けてから、通り過ぎて奥へと向かうところではあるのですが、今日、それは2つの理由によってできませんでした。
1つ目、この後のお仕事がフレデリカさんと一緒であるということ。
いくら人形の傍にいたくないからといって、ここでフレデリカさんと会話をしないのはあまりにも不自然です。
そして2つ目、これがどちらかといえば大きな理由なのですが。
……人形を見つめるフレデリカさんの目が、表情が、今までにないくらいに真剣で、思わず息を呑むほどだったからです。
私の気配を察したのか、フレデリカさんが振り返ります。その表情はまだ硬いもので、私はなかなか声が出せませんでしたが、それも一瞬だけ。
私の姿を視界に認めたであろうフレデリカさんは、すぐにいつもの笑顔に戻って、声を掛けてきました。
「わお! ありすちゃん! ぼんじゅー♪」
先ほどの表情なんて、まるで幻だったように。
……もちろん、幻ではなかったからこそ、いつもよりは下がったトーンで、私は、網膜に焼きついた、人形を真剣に見つめるフレデリカさんに返答を返します。
「何を……見ていたんですか」
「え? ……んーとね」
一瞬だけ、フレデリカさんは迷いの表情を浮かべ、どこか観念したかのように、口を開きました。
「この娘の目ってさ」
「目……?」
「……こんな色だったっけ?」
「……え?」
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