932: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:07:17.36 ID:TPJ777ywO
平沢「五分が過ぎた。おそらくフラッドは収束した」
立ち上がった永井の顔を見つめながら、平沢が言った。
933: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:21:53.21 ID:TPJ777ywO
屋上までは問題なくたどり着いた。いつのまにか永井を追い抜いて先頭を走っていた中野がドアを手で押した。
中野「閉まってるぜ!」
934: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:22:38.27 ID:TPJ777ywO
アナスタシアは驚愕のあまりわずかなうめき声すら出せなかった。そのせいか背後で平沢がナイフを抜いた際、ナイロン製のケースと擦れる静かな音がいやに耳を衝いた。平沢はドアの前まで来ると永井が指し示した箇所をナイフで引っ掻き、バツを描いて目印を作った。
永井「佐藤がどうやってあの穴を開けたか……」
935: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:23:25.15 ID:TPJ777ywO
永井「撃たれて復活したら体内の弾丸は無くなってるだろ? 同じ理屈だ。それに消すわけじゃない。たとえば肝臓が作り出すアルコール分解酵素。これはけっして体内に入ったアルコールを消すのではなく、アルコールと反応して人体に無害に物質に変化させるだけだ。おそらく似たようなことが起きてるんじゃないか? 亜人は再生の際、障害となる物体を分解するための未知の物質を……作り出してる」
永井の話が終わっても、アナスタシアはナイフを持ったまま棒立ちになっていた。ナイフを持たされた意図を理解しておらず、あきらかに戸惑っている。
936: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:26:36.46 ID:TPJ777ywO
ビルの屋上は風が激しく吹いていた。風は冷たく、皮膚に震えを催させ、吹き上げられた髪が乱れ舞い、風音がうるさく、耳の奥が痛くなるほどだった。新鮮な空気が身体に染み渡るが、あまりに透き通っているからか、呼吸には適さない。鼻の奥がツンと痛くなった。
ごうごうと鼓膜を突き刺してくるかのように吹き荒れる風は、しかし、どこか虚しさと寂しさを感じさせた。風は身体全体にぶつかってきたが、どこか届かないところから鳴っている声みたいに思えてならない。
937: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:27:24.36 ID:TPJ777ywO
中野「え、でもよ……」
激しく吹き荒れるビル風にかき消されるまでもなく、中野の言葉はそこで途切れた。中野はなにかを探すように視線を彷徨わせた。見えたのは不愛想なコンクリートの屋上の床ばかりだった。風に揺れ動くものは何もなく、階段を駆け上がってきたせいで火照って汗をかいた身体ももうすっかり冷え込んでしまっていた。
938: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:28:34.00 ID:TPJ777ywO
中野「うお!」
下を覗き込んだ中野が叫んだ。後をついてきていたアナスタシアもおそるおそる顔を出す。それまで意識の外にあった地上や周囲のビルの窓から洩れる明かりが色とりどりに輝いているのが眼に入ってきた。地上に埋め込まれた光を見ていると、風のせいではない悪寒が背筋を走り抜けた。
939: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:29:26.78 ID:TPJ777ywO
中野「あっ」
アナスタシア「アッ」
940: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:30:23.95 ID:TPJ777ywO
永井「清掃用のリフトなんか無い」
永井は平沢の顔から上着へと視線を下げた。おもむろなゆっくりとした視線の移動は平沢にそのことを告げるためのようだった。永井は上着のある部分を見つめながら、こんどは静かな声で言った。
941: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:31:52.24 ID:TPJ777ywO
平沢「持っていけ。おれにはもう必要ない」
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