621: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 20:32:31.53 ID:Wqc3ZOPPO
中野「ない……何も……」
空っぽの部屋を中野は茫然と眺めていた。コンクリートが打ちっぱなしになっている部屋は、佐藤が亜人たちを召集したホテルにある地下室だった。中野が入ってくるまでそこは音の無い部屋だった。床にうっすら積もった埃が空気の振動や振幅がいままで存在していなかったことを証明していた。
622: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 20:34:27.00 ID:Wqc3ZOPPO
怒鳴りあう声が壁にぶつかって跳ね返った。言い争いに発展しそうになったそのとき、永井のポケットのスマートフォンが着信を告げた。永井があわてて着信を確認する。
永井「よかった、待ってたぞ」
623: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 20:41:34.02 ID:Wqc3ZOPPO
ダウンロードが完了した。PDFファイルをスクロールしていると、ふと永井の親指が宙にとめられた。ファイルを読む。永井はほくそ笑みながら口を開いた。
永井「こいつにしよう」
624: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 20:42:54.09 ID:Wqc3ZOPPO
永井「婚約者が意識不明の重体、その医療費を自分で負担してる……保険に入ってないのか。はははっ、これはちょっとやそっとじゃ払い続けられる額じゃないぞ!」
すこし興奮気味の早口での説明を聴きながら、中野は戸崎のことを思い出していた。自宅マンションのまえでの無慈悲な眼がはっきりと記憶され、その印象が中心となってその他の輪郭や風景を形作っていた。記憶の世界ができあがると、無慈悲な眼の奥を覗きこめるような気になった。それは感情的な背景であり、戸崎の苦悩と、そして自分の同情が存在していた。
625: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 20:45:53.45 ID:Wqc3ZOPPO
コウマ陸佐「上の連中は敵を見くびってる」
626: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 20:47:08.82 ID:Wqc3ZOPPO
突然、研究者が戸崎をきっと睨み付け、責めるような声をあげた。
627: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 20:48:10.19 ID:Wqc3ZOPPO
曽我部を制したのは報告の内容が予想できたからだった。おおかた暗殺リストの三人目が消化されたのだろう。今朝遺体が発見された桜井に引き続いてとなると、たしかにそのペースにはすこし眼を見張るものの、別段驚くほどのことでも……
曽我部「岸先生が、暗殺されました」
628: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 20:50:46.90 ID:Wqc3ZOPPO
すぐ眼の前に喫煙室があった。ガラス張りされた透明な隔離所にはクールビズ姿の男性職員がふたり、煙草を吹かして紫煙を吐き出していた。壁掛けテレビが他愛もない午後のニュースを報じていた。
戸崎は喫煙の欲求をなんとか押さえ込み、自販機横にある合成皮革の長椅子に腰を下ろした。
629: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 20:51:56.15 ID:Wqc3ZOPPO
携帯の着信音が聴こえた。現実に引き戻された戸崎は、数コールしてからスーツの左側の内ポケットから携帯を取り出した。画面が暗い。着信音は右側から聴こえる。右ポケットを探る。非通知設定の電話着信。
戸崎「私用の携帯に……」
630: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 20:52:48.82 ID:Wqc3ZOPPO
戸崎「永井圭だと!? なにをしているんだ」
『ああ! いまその車内から掛けてる! 僕らがどこに向かってるか……』
631: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 20:55:11.87 ID:Wqc3ZOPPO
アナスタシアにとって九月三日の朝は、新たな殺人の報告から始まった。午後にはまた新たな死者。わずか二日で三人が殺された。
彼らの死をどう受け止めればいいのだろうか。
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