新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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152: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:41:23.49 ID:5HbT9nK2O
切断した左腕を渡してから、研究員は丸のこを金切り鋏に持ち替えた。


研究員3「今度は脳の活動を観察しながらだ」

以下略 AAS



153: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:42:34.06 ID:5HbT9nK2O
背後からがりっという硬く耳障りな音がして振り向くと、手術室の中を見通せる見学室とのあいだに設置されたガラスに爪痕のような四本の線があった。このガラスは強化ガラスだった。ガラスの向こうにいる人物は影になっていて、そのうちの一人の腕が上がりスピーカーのスイッチを入れた。『どうした?』という声に研究員は聞き返した。


研究員3「いや……ガラスの傷、最初からありましたっけ?」

以下略 AAS



154: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:43:44.20 ID:5HbT9nK2O
下村の視線の向いている場所は、研究者や自分を計るかのように見つめる戸崎とは別のところだった。実験中の研究員たちの手前、だれもいないはずの空間に下村は眼を集中させている。


下村「……はい」

以下略 AAS



155: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:45:07.42 ID:5HbT9nK2O
もっと痛みを与えて観察しよう、という研究者の声がして、実際にスピーカーから指示を与えていた。黒い幽霊は何もかもに無関心な様子でぼおっと突っ立ったままで、ぼそぼそと呟きを発している。


戸崎「なぜだ……」

以下略 AAS



156: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:46:04.42 ID:5HbT9nK2O
下村「いま自覚してないとすると『幼少期からずっと』ということになります。長期間干渉しあわないまま過ごした結果、彼と黒い幽霊のリンクは、極めて不安定なのかもしれません……例えるなら、電波状況の悪いところで通話する感じでしょうか。ですから、いずれは彼らを攻撃する可能性が……」

戸崎「いまは?」

下村「え?」
以下略 AAS



157: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:47:19.12 ID:5HbT9nK2O

戸崎「……見てる……か……」


だがすぐに戸崎の視線は細く鋭いものに戻り、透明なガラスの向こうの戸崎には見えない幽霊に、忌々しいものを見つめるときのような侮蔑と憎しみに染まった眼を突きつけた。
以下略 AAS



158: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:48:28.22 ID:5HbT9nK2O
戸崎「きみがここでそうしていられるのは、私が秘密裏にかくまっているからにすぎない。しっかり働けよ。さもなくば……きみもああなる」


下村は頭を上げられなかった。じわじわと恐怖によって玉のような汗が滲んできた。実験室の音声がスピーカーから聞こえてくる。実験道具が出す高音と肉が掻き分けられる湿った音、低く響き渡る苦痛の音声が恐ろしいハーモニーを生んでいた。

以下略 AAS



159: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:49:31.08 ID:5HbT9nK2O
研究者1「反応がにぶくなってきたな」

研究者2「リセットするか」


以下略 AAS



160: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:51:07.07 ID:5HbT9nK2O
下村「あっ」


下村がそれ以上反応を見せるのを戸崎は睨みつけることで抑えた。実験室内の黒い幽霊が永井の感情に感応したのか、研究員の背後へゆっくり近づいていく。研究員は狙いを正確に定めようとこてを持ち上げたまま動かない。黒い幽霊は研究員に近づきながら腕を上げ、手で鉤爪を作るように指を折り曲げた。下村は研究員が引き裂かれると思い、眼をつむった。瞼の裏の暗いスクリーンの中に慧理子の病室での出来事が今このときのようにありありとよみがえる。戸崎の眼は冷徹に前に向けられたままだ。

以下略 AAS



161: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:52:16.95 ID:5HbT9nK2O
永井はふたたび意識を取り戻し眼は光を受容したが、視界は白一色に染まり何も見えなかった。眼に覆いをかけられているせいだった。瞼に触れる覆いが包帯であること、さらに全身に包帯がきつく巻かれていることを今度はあらかじめ知っていた。腕に力を入れてみたが、すこし震えただけで上がらない。全身が手術台の上で固定されていた。永井はもがくのやめこれから到来する苦痛に呼吸を荒くしていると、自分の喉から出てくる音がやはり声でなくなっていることに気がついた。喉はただの風穴になっていて、隙間風のような空気が漏れ出てくる音しか出さない。声帯が切り取られていたせいだった。


研究員1「よーし、後半戦いくぞー」

以下略 AAS



162: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:53:38.23 ID:5HbT9nK2O
十日後、雨がしつこく篠突いている中、今日も各報道局のレポーターがレインコートを羽織りカメラに向かって報道している。

この日はアメリカからオグラ・イクヤ博士が来日・視察のために研究所を訪れる日だった。生物物理学者であるオグラは九九年に渡米し、同地で亜人研究トップクラスの地位を得ていた。亜人研究は各国競争状態で、基本的に他国の亜人事情にはノータッチが原則なのだが、日米の一部の研究機関は協力関係を結んでおり、日本で新しい亜人が発見捕獲された場合オグラ博士が視察することになっている。

博士を乗せた車両が研究所のゲートを通り抜けるあいだ、レポーターたちはこれらの情報を説明していた。ゲート周辺は幾つもの光源が寄り集まり、ひとつの大きな光のドームを作っていた。そこでは雨筋が白い糸となり、垂直機織でもしているかのように上から下へと送られ続けている。ゲートのすぐ横には二メートル程の高さの植込みが光を遮る壁となっていて、黒い葉を雨で揺らしながら敷地の内と外を区切るフェンスを光から遠ざけていた。
以下略 AAS



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