201:ななしのラムネ様(お題:ななし・ラムネ) 5/9[saga]
2016/07/01(金) 00:09:14.76 ID:Uf2E1B1ho
「私」がまだ「俺」だったころ。
家が近くでよく登下校を共にしていた黒髪の似合う彼女は、ある日の帰り道にこんな話をしてくれた。
「ね。ね。知ってる? ななしのラムネ様のうわさ」
日差しが強い夏の日だった。少ない小遣いでも買えるラムネを握りしめていた俺は、自分の手の中のそれと彼女の顔
202:ななしのラムネ様(お題:ななし・ラムネ) 6/9[saga]
2016/07/01(金) 00:11:43.13 ID:Uf2E1B1ho
「俺」は年頃の少年であった。ならばこそ、色恋沙汰に関心を持っていたのも道理というものだ。
「そうなんだ」なんて興味のないふりをしながら、内心ではすぐにでも試してみたくてしかたなかった。というのも、
そこに書きたい名前のアテがあったからこそ、なのだが。
善は急げを体現するがごとく、その翌日にはすぐさま実行に至った。彼女にはいつものように一緒に帰ろうと誘われ
203:ななしのラムネ様(お題:ななし・ラムネ) 7/9[saga]
2016/07/01(金) 00:13:04.09 ID:Uf2E1B1ho
「わ、いい風」
私の視界の中で、彼女の黒髪が揺れる。
あの日から。ななしのラムネを見つけたあの日から、「俺」が意中の相手と両想いになれたのかは、わからない。
わかるのは、結局その相手とはなんら進展することもなく、小学校も中学校も高校も卒業し、「俺」は東京の大学へ
204:ななしのラムネ様(お題:ななし・ラムネ) 8/9[saga]
2016/07/01(金) 00:13:48.01 ID:Uf2E1B1ho
「え?」
聞き返す私を、面白そうに見つめる彼女。
蝉の声が、クラスメイト達の声が、風の音が、遠くなる。
言葉を何度か咀嚼して。
205:ななしのラムネ様(お題:ななし・ラムネ) 9/9[saga]
2016/07/01(金) 00:14:17.62 ID:Uf2E1B1ho
「――そう、なんだ」
それでも、平気な顔を保てたのは。
206:ななしのラムネ様(お題:ななし・ラムネ) 10/9[saga]
2016/07/01(金) 00:14:43.31 ID:Uf2E1B1ho
以上、投下終了です
207:名無しNIPPER[sage]
2016/07/01(金) 02:49:07.50 ID:3LWxxECj0
転載しておきました
text-poi.net
たぶんこれで問題ないはず
208:名無しNIPPER[sage]
2016/07/01(金) 03:09:38.22 ID:8YPCvVC8O
感想は投票期間になってからかな?
209:何事もなき夏の出来事(お題:ラムネ)0/8[sage]
2016/07/03(日) 22:14:24.81 ID:vx65kHWzo
8レス投下します
連投規制とかあるかもしれないので、しばらく投下されなかったら虫してください
210:何事もなき夏の出来事(お題:ラムネ)1/8[sage]
2016/07/03(日) 22:14:58.80 ID:vx65kHWzo
夏の日暮れどき、縁側の網戸に丸々としたカナブンがとまっていた。居間で兄と夏休みの宿題をやっていた僕
はちゃぶ台に肘をつきながら、西日に照らされたカナブンの陰影をじっと眺めていた。隣の空き地から虫の鳴く
のが聞こえる。風が吹くと、青っぽい湿った匂いがした。目の前には絵日記が広げられているが、日付以外は真
っ白なままだ。かれこれ三日、日記をなまけている。絵にしろ文にしろ、何も書くことが思いつかなかった。
「夏祭り兄ちゃんと行っていい?」
211:何事もなき夏の出来事(お題:ラムネ)2/8[sage]
2016/07/03(日) 22:15:29.63 ID:vx65kHWzo
姉の話し声が聞こえてきた。「かわいい子だったわね」
僕はすっかり嬉しくなって、母親のところへ走って行った。それから荷物持ちを手伝って、夕飯を食べてる間
「今日の料理はウマイなぁ」等と言ったりした。テレビもいつもより面白かった。
+
それから夏休みの間、僕は山岸の家に遊びにいくことばかり考えた。しかしそれが実現することはなかった。
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