侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2

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292 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:37:50.01 ID:PfMOWZim0

タマンタはそれを掻い潜り、きりもみ回転しながら突っ込んでくる。


曜『く……! 当たらない……! ダダリン! “てっぺき”!』
 「────」


曜は目の前にダダリンを出し、“てっぺき”でタマンタの“つばさでうつ”を防ぐが、あまりに勢いがありすぎて、


 「────」
曜『うわ!?』


4m近いダダリンの巨体が押されている。


曜『そ、それはやばいって!?』


回転しながら、ダダリンを圧倒するタマンタだが、


 「…!! タマッ!!!」


何かに気付いたように、その場から一瞬で離脱し──直後、別の場所から飛んできた“エナジーボール”がタマンタのいた場所を素通りする。


 「ゲルゥ…」


私のブルンゲルが回り込んでタマンタを攻撃したが、外したらしい。


曜『ご、ごめん……助かった』


お礼を受けながらも、私は私で返す余裕があまりない。


 「ゼルルルッ!!!!」


高速で動き回るブイゼルを目で追うので必死だからだ。


善子『ゲッコウガ、“みずしゅりけん”!!』
 「ゲコガガガガッ!!!!!」


連続で“みずしゅりけん”を放つが──ブイゼルはさらに加速し、泡をまき散らしながら“みずしゅりけん”をひょいひょいと躱す。


曜『ブイゼルもタマンタも速過ぎる……!』

善子『……。……スーパーキャビテーション』

曜『え!? なに!?』

善子『あのブイゼル、疑似的にスーパーキャビテーションを使ってるわ』

曜『いやだから、なにそれ!?』

善子『簡単に言うと、水と自分の表面の間に空気の層を作ることによって、摩擦を減らして速度を上げてるの。恐らく、“かまいたち”で作り出した空気の渦を体毛に紛れ込ませて、自分と体表と水の間に空気層を作り出してる。わかる?』

曜『とにかく速いのだけはわかった!!』


まあ、とりあえずそれがわかればいい。

正確に言うと発生メカニズムは全然違うから“疑似”なんだけど……まあ、今は細かいことを説明してもしょうがないから、これでいいでしょ。
293 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:38:46.96 ID:PfMOWZim0

曜『あの2匹はなんかすごい技使ってるから速いってこと!?』

善子『いや、タマンタは違う。体毛がないもの』

曜『じゃあ、素であんな速いとでも!?』

善子『たぶん、タマンタに関しては……速いのは泳ぐ速度じゃない』

曜『え?』

善子『タマンタはどんなポケモンか考えなさい。あんたも持ってるんだから』

曜『…………そうか、触角……!』


そう、タマンタは2本の触角で海水の微妙な動きをキャッチすることが出来るポケモン。

恐らくあのタマンタは──海水の微妙な揺らぎからこっちの動きを予測していて、まるで未来予知のような回避行動のせいで、実際の動きよりも速く感じているだけに過ぎないというわけだ。


善子『ただ、それは海水の揺らぎよりも速い攻撃には対応しきれない』

曜『……! だから、果南ちゃんのラグラージの攻撃は当たったんだ……!』

善子『答えがわかったら、あとはそっちでどうにかしてくれるかしら! 私はブイゼルを倒す秘策を思いついたから!!』

曜『了解であります……! タマンタ攻略の秘策は──タマンタだ!』
 「──タマァ〜!!」


曜はタマンタを繰り出し、


曜『“ちょうおんぱ”!!』
 「タマァァァァ〜〜〜〜」


“ちょうおんぱ”を前方に向かって発射する。

すると──


 「タ、タマァァ…!!!?」


相手のタマンタは急に軌道がおかしくなって、ふらふらしだす。

動きの鈍ったタマンタに──


曜『ラプラス!! “うたかたのアリア”!!』
 「キュゥ〜〜〜♪」


海中に心地の良い音色が響き渡ると──タマンタを包み込むようにみずエネルギーのバルーンが発生し、タマンタを閉じ込める。


 「タ、タマァ…!!!?」

曜『捕まえた……!! カメックス!! “はどうだん”!!』
 「ガァァーーーーメェェェーーー!!!!!」


動きを封じたタマンタに向かって、“メガランチャー”から“はどうだん”が発射され──


 「タマァァァ!!!!?」


バルーンごとタマンタを吹き飛ばした。


 「タ、タマアァァ…!!!!」


しかし、直撃を食らってなお、タマンタは態勢を立て直す。

……が、


 「タマ…!!!?」
294 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:39:30.05 ID:PfMOWZim0

そのときには既に、タマンタの頭上に──大きな黒い影が降ってきていた。


曜『“アンカーショット”ォッ!!!』
 「────」

 「ダマ゙ッ!!!!!?」


真上からダダリンの巨大なアンカーを叩きつけられ──タマンタは海中に向かって沈んでいった。


曜『よっし!!』

善子『やればできるじゃない』


いくらタマンタが海水の動きで先読みを出来ると言っても──音自体が攻撃だった場合は無理だ。

水中での音速は地上の4倍。察知出来ても避けるなんて到底不可能。

一瞬でも“こんらん”によって動きが鈍れば、曜に捉えられないような相手じゃない。

さて──あとは、


 「ゼルルルルッ!!!!!」


“みずしゅりけん”による牽制を潜り抜けて突っ込んでくるブイゼルだ。


善子『スーパーキャビテーション……面白いものを見せてもらったわ。でも、それ……相当制御に気を遣うんじゃない?』


空気の渦を自分に纏って速度を上げるなんて、よほどの達人芸だ。

そういう繊細な技は──


善子『ちょっと小突けば綻びるのものよ……!』
 「ゲコガッ!!!!」


ゲッコウガの右手に持ったクナイがパキパキと凍り始める。

それを見て──


 「ゼル…!!!」


ブイゼルがニヤリと笑ったのが見えた。そんなもの通じないとでも言いたげな笑み。


 「ゼルルルルッ!!!!」

 「ゲコガァッ!!!!」


2本のクナイを構えたゲッコウガと、ブイゼルが──すれ違いざまにお互いの斬撃をぶつけ合う。

──ギィンッという音がした直後……すれ違った背後に行ったブイゼルの体から──空気の層が裂け、体毛から弾けるように水泡が一気に飛び出した。


 「ゼルッ!!!?」

善子『スーパーキャビテーション、敗れたりね』


制御を失ってすっぽ抜けたブイゼルの先に──ヌッと現れる紫色の影。


 「ゲル…」

 「ゼルッ!!?」


ブルンゲルが触手を使って、ブイゼルをキャッチし、


善子『“ギガドレイン”!!』
295 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:40:16.71 ID:PfMOWZim0

 「ゲルゥ」
 「ゼルゥゥゥゥッ!!!!?」


ブイゼルからエネルギーを吸い取った。


 「ゼ、ゼルゥゥゥ…」


体力を吸いつくされて気絶したブイゼルは──ブルンゲルが解放すると、そのまま海底へと沈んでいった。


善子『……確かに、あれだけの芸当が出来る実力があるんだもの。ちょっとやそっと空気層に温度変化を与えても対応してくるわよね、でも──』


ゲッコウガは氷のクナイと──“ねっとう”で作ったクナイを海の水に霧散させた。


善子『冷たいのと熱いので2ヶ所を同時に斬られたら、さすがの達人でもうまくいかなかったみたいね』

曜『やるぅー! さすが、善子ちゃん!』

善子『ヨハネだっつってんでしょ』

曜『それにしてもよく気付いたね、あの2匹の使ってる能力に……』

善子『無視すんじゃないわよ! ま……ヨハネアイに掛かればこんなもんよ。これでも伊達にポケモン博士やってるわけじゃないってこと』

曜『お陰で助かったよ……ありがとう。それにしても……さっきの2匹って、やっぱり……』

善子『ええ。あの洞窟にある、特別な何かを守るための特別なポケモンに違いないわ。私の勘はそう言ってる』

曜『侑ちゃんと果南ちゃんを追いかけよう……!』

善子『そうね。思ったより時間食っちゃったし、急ぐわよ……!』


私たちは侑たちを追って、海底洞窟へと急ぐ。





    🎹    🎹    🎹





──海中洞窟を進むと……。


侑『……!? 果南さん、あれ……!』

果南『海面だ……』


ランターンで照らしながら海中を進んでいると──上の方に、海面が見えた。


果南『ラグラージ、ゆっくり上昇して』
 「ラグッ!!!」


ラグラージが果南さんの指示で海面に顔を出すと──


侑『ここ……完全に空洞になってる……?』


そこは身体が浸かるくらいの深さの水こそあるものの、上の方は完全に水のない、大きな空洞になっていた。

しかも仄かに壁が光っている気がする……。


果南『ヒカリゴケが自生してる……? 海底洞窟に……? あ、侑ちゃん、まだレギュレーター外さないでね。リナちゃん』

リナ『多少酸素濃度が低いけど……呼吸は出来ると思う。長時間は危ないかも』 || ╹ᇫ╹ ||

果南『わかった』
296 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:40:56.46 ID:PfMOWZim0

果南さんはリナちゃんの言葉に頷きながらレギュレーターを外す。


果南「……うん、多少息苦しいけど、呼吸は出来るね。侑ちゃん、レギュレーター外してもいいよ」

侑『は、はい』


言われたとおり、自分のと──イーブイのレギュレーターを外してあげる。

すると、確かに少し息苦しさを感じるものの、普通に息が出来る空間だった。


侑「フィオネ……この先に、マナフィがいるってこと?」
 「フィオ」


イーブイと一緒に腕に抱いていたフィオネが、私の腕からぴょんと飛び降りて、水の中を泳いで進み始める。


果南「付いていこう」

侑「はい」


ラグラージの背に乗ったまま、フィオネを追いかけて奥へ進んでいくと──開けた空間に出た。


侑「……ここにいるの?」
 「フィオ〜」


訊ねるとフィオネはさらに奥へと進んでいく。


侑「まだ、ここじゃないんだ……」

果南「……ラグラージ、フィオネを追いかけて」
 「ラグ」


広い空間をさらに奥に進んでいた──そのときだった、


リナ『!! ポケモンの反応!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


リナちゃんの発報と共に──


 「フィオッ!!!?」


水中から何かに突き上げられるようにして、フィオネが吹っ飛ばされる。


侑「フィオネ!?」


私は咄嗟に、ラグラージの背から踏み切って、空中でフィオネをキャッチし──そのまま、水の中にザブンと落ちる。


果南「侑ちゃん!?」

侑「ぷは……っ!! だ、大丈夫です!! それより、フィオネ! 平気!?」
 「フ、フィォ〜…」


訊ねると、フィオネの顔色が悪い。


リナ『フィオネ、“どく”状態になってる……』 || > _ <𝅝||

侑「“どく”……!?」


直後、目の前の水の中から──ザバァと音を立てながら、とんでもないサイズのトゲを生やした丸いポケモンが姿を現す。


 「ハリィ…」


その見た目にはなんとなく、既視感があったけど──
297 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:41:50.78 ID:PfMOWZim0

侑「は、ハリーセン……──じゃない……!?」


目の前にいたのは、ハリーセンをそのまま大型化して凶悪にしたような姿をしたポケモンだった。


果南「まさか、ハリーマン……!? ハリーセンの進化した姿だ!!」

侑「ハリーセンの……進化系……!?」

 「ハリィ…!!!!」


ハリーマンは全身の針をさらに伸ばし──それが私たちに迫ってくる。


果南「“アームハンマー”!!」
 「ラグッ!!!!」


その針ごと水中に叩き落とす勢いで、ラグラージが大きな拳を使ってハリーマンに攻撃する。

……が、


 「ハリィ…!!!!」


ハリーマンは水中に沈むどころか──その針をラグラージの拳に突き刺して、攻撃を耐えている。


 「ラ、グゥ…!!!」

侑「くっ……!!」


私はダイビングスーツの腕のボタンを押して、


 「──パルトッ!!!!」

侑「ドラパルト!! “ドラゴンアロー”!!」
 「パルトッ!!!!!」
 「メシヤーーーーッ!!!!!」「メシヤーーーーッ!!!!!」


ドラパルトを繰り出し、“ドラゴンアロー”で攻撃する。

至近距離から音速で飛んでくる矢を受けたハリーマンは、


 「ハリッ…!!!」


さすがにノックバックし、ラグラージの拳に突き刺さった針が抜ける。


侑「果南さん! このポケモンは私がどうにかします! だから、果南さんは先に奥へ──」

果南「いや……!! 先に行くのは私じゃない……!」

 「ラグッ!!!!」


ラグラージが水面を高速で泳いでハリーマンに接近して、フックによる拳撃を叩きこみ、さらに畳みかけるように両手で上から押さえつける。

もちろん、全身針だらけのハリーマンはここぞとばかりに、ラグラージに針をぶっ刺しまくる。


 「ハリィッ…!!!!」

侑「か、果南さん……!? 何して……!?」

果南「フィオネの“おや”は誰!? ここまで来た目的は何!?」

侑「……!」

果南「ここは私に任せて……! こいつに侑ちゃんの邪魔はさせないからさ!!」

侑「ドラパルト……!!」
 「パルトッ!!!」
298 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:42:28.42 ID:PfMOWZim0

私はドラパルトを呼び寄せ、頭の上に登り──


侑「行くよ!!」
 「パルトッ!!!!」


ドラパルトは猛スピードで奥へ向かって発進した。


 「ハリィッ!!!!」


ハリーマンが私たちを狙って針を伸ばそうとするが、


果南「させないって言ってんでしょ!!」

 「ラァグッ!!!!!」

 「ハリッ!!!!!」


ラグラージが両拳を上から叩きつけ、激しい水しぶきを上げながら、ハリーマンを水中に沈める。


果南「侑ちゃん!! 頼んだよ!!」

侑「はい!!」


私は奥に向かって──突き進む。



 「…ハリィィィィィ!!!!!!」

果南「まあ……さすがにこの程度じゃやられてくんないよね」
 「ラグッ…!!!」

果南「相手にとって不足なし……!! やってやろうじゃん!!」





    🎹    🎹    🎹





──ドラパルトの頭に乗って進んでいくと、大部屋の壁際にはいくつか先に続く横穴があった。

携行ライトを点けて照らしてみるけど……。


侑「やっぱり、フィオネじゃないとどこに行けばいいのかがわからない……」
 「フィオ…」


“どく”で弱った、フィオネを見て、


侑「そうだ! フィオネ、“ブレイブチャージ”!」
 「フィオォォォォ…!!!」


フィオネに“ブレイブチャージ”を指示する。


 「フィオ〜」


すると、すっかり元気になってフィオネは再び水中へと飛び込んでいく。

“ブレイブチャージ”には状態異常を回復する効果がある。

それで“どく”を回復し、元気になったフィオネは──


 「フィオ〜」
299 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:43:13.40 ID:PfMOWZim0

横穴の内の一つに迷わず進んでいく。


侑「ドラパルト、フィオネを追いかけて」
 「パルトッ」


私たちはフィオネを追いかけ──奥へと進む。





    🐬    🐬    🐬





 「ハリィッ!!!!」

 「ラグッ…!!!!」


ハリーマンの針が突き刺さると、ラグラージは苦悶の表情を浮かべる。


果南「さっきよりも威力が上がってる……! それが、“どくばりセンボン”ってやつだね……!」


“どくばりセンボン”は相手を“どく”状態にする効果がある技でありながら、“どく”状態の相手には威力が倍増する技だと文献を読んだことがある。

何故、こんな曖昧な言い方かというと──ハリーマンは今現在、野生の姿が一切確認されておらず絶滅種とされているポケモン。

まさか、こんな海深くの洞窟の中で……しかもオトノキ地方にこんなに近い場所でひっそり生息していたなんて考えもしなかった。


果南「海のポケモンのエキスパートとして、会えて嬉しいよ……! しかも、野生とは思えない強さ……光栄だよ!」

 「ハリィィィィ!!!!!」


なら、私もその強さには本気で応えないとね……! 私は髪をかき上げ、左耳を出す。──そこには、貝殻ピアスの中に輝く“キーストーン”。


果南「ラグラージ……!! メガシンカ!!」
 「ラァァァァーーーグッ!!!!!」


ラグラージが光に包まれ──上半身の筋肉がさらに発達し、巨大になった腕を振り上げる。


 「ラァァァァーーーーグッ!!!!!」
果南「“アームハンマー”!!」


腕を振り下ろすのと同時に──腕についているオレンジの噴出口からジェットエンジンのように水を逆噴射し、超加速して拳を叩きつける。


 「ハリィィッ!!!?」


──ドッパァッ!! という音とともに特大の水しぶきを上げ、ハリーマンを水底に向かって叩き落とす。

ド派手に上がった水しぶきは洞窟の天井まで水浸しにし、洞窟内に水滴が落ちる音があちこちから鳴り響く。


果南「……まさか、これで終わりじゃないよね……!」
 「ラグ…!!」


ラグラージがピクリと反応し、ラグラージが全身にある噴出口から水を逆噴射して、ジェットスキーのようなスピードで泳ぎ出す──と同時に、水中から大量の槍のような鋭さ針が一斉に飛び出してきた。


果南「“ミサイルばり”……!!」


ラグラージの背の上で振り返ると、ハリーマンの“ミサイルばり”がこちらを追尾してくる。

なら……!
300 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:46:04.59 ID:PfMOWZim0

果南「“いわくだき”!!」
 「ラグッ!!!」


ラグラージは高速で泳ぎながら、壁に拳を叩きつけ、洞窟の壁を壊し──


果南「“いわなだれ”!!」
 「ラァグッ!!!」


崩れてきた岩を殴り飛ばして、“ミサイルばり”にぶつける──が、“ミサイルばり”は容易に岩を穿って、


 「ラァグッ!!!?」
果南「うわっ!?」


ラグラージに直撃する。


 「ラ、グゥゥッ…!!!」
果南「岩くらいじゃ止めらんない……!」


怯んだラグラージの目の前に、


 「ハリィィィィッ!!!!」


ハリーマンが飛び出し、ハリーマンから黒いオーラが溢れ出す──“あくのはどう”だ……!

私はすかさず、次の技の指示。


果南「“みずのちかい”!!」
 「ラグッ!!!!」


ラグラージが水面叩くと──水柱がハリーマンの真下から飛び出し、ハリーマンを打ち上げる。

それによって、照準のズレた“あくのはどう”は私の頭スレスレの場所を飛んでいく。

打ち上げられたハリーマンは──


 「ハ、リィィィィ!!!!!」


空中で体を膨らませ──洞窟の天井に全身の鋭い針を突き刺し、そのままスパイクのように天井の岩盤を噛みながら、回転して──こっちに向かって飛び出してくる。


果南「うわ……! あれ、当たったら絶対痛いじゃん……!」


飛んでくるハリーマンを前にそんな感想を呟く。

あの硬さ、鋭さの針を持った球体に突っ込まれたら──絶対、無事じゃ済まない。


果南「ただ……こっちのパンチは、それ以上だけどね……!!」
 「ラァァァーーーーグッ!!!!!」


ラグラージがみずタイプのエネルギーを一気に片腕に集束し──直後、水流噴出口からジェット噴射──スピードを乗せた最大火力の拳……!!


果南「“アクアハンマー”!!」
 「ラァァァーーーーーーーグッ!!!!!」

 「ハリィィィィ!!!!!」


2匹の攻撃がぶつかった瞬間──バキバキッ!! と音を立てながら、ラグラージの拳が、ハリーマンの全身の針を折り砕き、


 「ハ、リィッ…!!!?」


拳のインパクトと共に、膨れ上がったみずのエネルギーが──周囲の海面と岩壁を衝撃で抉り取った。

爆発のような音と共に、海底洞窟を揺らし──嵐の中かと見紛うほどに激しく波立つ向こうで……。
301 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:47:18.94 ID:PfMOWZim0

 「ハ、リィィ…」


岩壁にめり込んだハリーマンが気絶していた。


果南「うっし……お疲れ様、ラグラージ」
 「…ラグ…ラグゥ…!!!」

果南「いやー、強かったね……“アクアハンマー”使ったの、千歌との戦い以来だよ……」
 「ラグッ…」


この技は消耗が大きい分、一撃必殺級の大技だ。

いくら相手が強かろうが、硬かろうが関係なく、全てをパワーでねじ伏せる。私がラグラージと一緒に考えた最終兵器。


果南「ま……私のラグラージ相手にパワーで挑もうとしたのが運の尽きだったね」


そのとき、


 「ラ、ラグ…」
果南「おとと……!?」


ラグラージがよろけて、乗っている私も落っこちそうになる。


果南「っと……“どく”受けてたんだった。お疲れ様、ゆっくり休んで」
 「ラグ──」


ラグラージをボールに戻す。

それと、同時に少し離れてフィールド全体を照らしていたランターンが泳ぎ寄ってくる。


果南「さて、侑ちゃんを追いますかー」
 「ターン」


ランターンに掴まって、奥へと進もうとしたそのとき──


 「──今の爆発何!? 侑!? 果南!? 無事なの!?」
 「──二人ともー!! 返事してー!!」


入り口側からそんな声が聞こえてきた。


果南「あ、やば……曜ちゃーん! 善子ちゃーん! こっちだよー!!」


“アクアハンマー”の衝撃を爆発と勘違いして大慌てする曜ちゃんと善子ちゃんに向かって、大きな声で応える。

一旦二人と合流するために、入り口側へと泳ぎ出すと──


 「ヨハネだっつってんでしょーーーーー!!」


善子ちゃんの元気な返事が響いてくるのだった。



302 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:48:45.33 ID:PfMOWZim0

    🎹    🎹    🎹





──ゴォンッ……!!


侑「わっ……!? な、なに……? 爆発……?」
 「ブイ…」


背後から、爆発音と共に、洞窟内が揺れる。

なんだか、果南さんのことが心配になるけど……。


リナ『果南さんなら、たぶん大丈夫だよ。とんでもなく強いから』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん……今は前に進もう」
 「ブイ」


リナちゃんの言葉に頷く。


 「フィオ〜」


引き続き、フィオネを追ってしばらく進むと──また、開けた空間に出た。

ただ、そこはさっきの空間とは違い──水底が見えていた。


リナ『かなり浅い……たぶん足がつくと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……ドラパルト、降りてもらっていい?」
 「パルト」


ドラパルトに指示を出して──そこに降り立ってみると、水深は私の脹脛くらいまでしかなかった。

ただ、それよりも……。


侑「ここ……レンガだ……」


透き通るの水の中でクリアに見えている水底は──エメラルドグリーンをした、レンガで出来ていた。

どう見ても、人工物……。つまり……。


侑「ここは……人が作ったってこと……?」

リナ『海底洞窟じゃなくて、海底遺跡だったんだね』 || ╹ᇫ╹ ||


そんな中、


 「フィオ〜」


フィオネがちゃぷちゃぷと音を立てながら、さらに奥へと進んでいく。


侑「……行こう」
 「ブイ」


フィオネを追って、ちゃぷちゃぷと音を立てながら進んでいく。

不思議なことにこの空間は、何故だか不思議な光に包まれていて……携行ライトを消しても、十分視界が確保されている。

壁もだけど……足元も光っている気がする。


侑「……もしかして、このレンガが光ってるのかな……?」

リナ『見ただけじゃ私でも、何の物質で出来てるのかがわからない……』 || ╹ᇫ╹ ||
303 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:49:46.53 ID:PfMOWZim0

得体の知れない場所だけど……不思議とその光を見ていると心が落ち着く気がした。

しばらく、フィオネを追って進むと──


 「フィオ〜」


フィオネが、動きを止める。


侑「フィオネ?」
 「フィオ〜」


名前を呼ぶと、フィオネが私のもとへと戻ってくる。


侑「……フィオネはここから来たの?」
 「フィオ〜♪」


私が訊ねると、フィオネが鳴きながら頷いた。


侑「じゃあ、ここに……」


私は周囲を見回す。……今のところ、特にポケモンの姿は見えないけど……。

でも、フィオネのタマゴはここで産まれたらしい。そして、海を渡って……私のもとにたどり着いた。

なら、きっとここに……いるんだ。


侑「──マナフィ! いるなら、出てきて! あなたにお願いしたいことがあるんだ!」


私の声が、不思議な光に包まれた空間の中で反響する。


侑「…………」


ただ、呼び掛けてもそこにあるのは、穏やかな水面と依然光り続ける不思議な壁と床だけ。


リナ『今のところ……ポケモンの反応はない』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ここじゃ……ないのかな……」


もっと奥に行ってみた方がいいのかな……。そう思って、足を踏み出そうとした、そのときだった。


 「──フィ〜♪」

侑「……!」

リナ『……!?』 || ? ᆷ ! ||


急に空間内に鳴き声が響き──直後……まるで、今しがた目の前で生まれたかのように、フィオネによく似た姿のポケモンが水の中から現れた。


侑「……マナ……フィ……」

 「フィ〜」

侑「マナフィ! お願いがあるんだ!」

 「フィ〜?」


私の言葉にマナフィは首を傾げる。


侑「マナフィの心を入れ替える力を貸して欲しいんだ……! だから、私たちと一緒に来てくれないかな……」


私がそう言うと、
304 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:50:40.54 ID:PfMOWZim0

 「……マーーナフィーーッ!!!」

侑「わぷっ!?」
 「ブイッ!!?」


私の顔に向かって“みずでっぽう”が飛んできて、尻餅をつく。


リナ『侑さん、大丈夫!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「う、うん……びっくりしただけ……」


私が立ち上がろうとすると──


 「フィ〜」


マナフィがその隙に奥へと逃げていく。


侑「!? ま、待って……!!」


マナフィを追いかけようとした瞬間──私の目の前に“うずしお”が3つ発生し、竜巻のように水を巻き上げる。


侑「な……!?」


そして、その渦の中から──


 「フィオ〜」「フィオ〜」「フィオ〜」


3匹のフィオネが飛び出してきた。

そして、同時に、


 「フィオーー」「フィオーー」「フィオーー」


“バブルこうせん”を発射してきた。


侑「うわぁ!?」
 「フィーーーオーーー」


驚く私の前にフィオネが躍り出て──“ハイドロポンプ”で、相手の攻撃を相殺する。


侑「あ、ありがとう……フィオネ……!」
 「フィオ〜」

 「フィオ〜」「フィオ〜」「フィオ〜」


3匹のフィオネが、マナフィの盾になるように立ちはだかる。

そして、その奥で、


 「フィ〜」


マナフィがこちらを見つめていた。

まるで──私の実力を試しているかのように。


侑「……わかった。ここはポケモントレーナーらしく……バトルで実力を示すよ……!!」
 「パルトッ!!!」


私は頭を下げたドラパルトの頭に掴まり、そのまま飛び上がる。

飛行して水面から離れると同時に、
305 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:51:20.87 ID:PfMOWZim0

侑「イーブイ!! “きらきらストーム”!!」
 「ブーーーイッ!!!!」


私の肩に乗ったイーブイが、パステル色の旋風を発生させて、フィオネたちを攻撃する。


 「フィーー!!?」「フィーー!!?」「フィーー!!?」


フィオネたちは、その風に巻き上げられて、ストームの中をぐるぐると振り回されるが──


 「フィーー!!」「フィーー!!」「フィーー!!」


竜巻の中で、同時に“れいとうビーム”を発射してくる。

回転する渦に巻き込まれながら発射してくるビームは、あちこちでたらめな方向に発射され、壁や天井を手当たり次第に凍らせ始める。


リナ『あわわ!?』 || ? ᆷ ! ||

 「パルトッ…!!!」
侑「く……!?」


あまりにでたらめな攻撃に、逆に反応出来ず、“れいとうビーム”がドラパルトの体を掠る。

凍った体は“きらきらストーム”の効果で一瞬で溶けるけど、こおりタイプの攻撃はドラパルトにとって弱点になっちゃう……!


侑「イーブイ! “びりびりエレキ”!!」
 「ブイッ!!」


イーブイが私の肩からぴょんと跳ねて──風に巻き込まれているフィオネたちに電撃を放つ。


 「フィオーーー!!?」「フィオーーー!!?」「フィオーーー!!?」


電撃に痺れたフィオネたちに向かって──


侑「“ドラゴンアロー”!!」
 「ドラパッ!!!!」
 「メシヤーーーーッ!!!!」「メシヤーーーーッ!!!!」


ドラメシヤたちを発射し、


 「フィーーッ!!!?」「フィーーッ!!!?」


フィオネを2匹吹っ飛ばす。


侑「あと1匹……!!」
 「ブイッ!!」


イーブイをキャッチしながら、次の攻撃を構えようとした瞬間──


 「フィーーーオーーー!!!!」

侑「!?」
 「パルトッ…!!?」


フィオネが激しく閃光した。

その強烈な閃光に焼かれたドラパルトがバランスを崩し、振り落とされそうになる。

私は咄嗟にドラパルトのツノにしがみついて振り落とされないようにする。
306 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:52:22.34 ID:PfMOWZim0

侑「い、今の“マジカルシャイン”……っ」

リナ『ゆ、侑さん大丈夫……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「ちょっと、だいじょばないかも……」


不意を打たれて、まともに“マジカルシャイン”を見てしまったせいで、目がちかちかする。

私が視界不良の中、


リナ『侑さん、前!?』 || ? ᆷ ! ||


リナちゃんの声がしたと思ったら、


 「パルトォッ!!!?」


ドラパルトの悲鳴のような鳴き声と共に浮遊感に襲われる。


侑「……っ」


霞む目で、ドラパルトを確認すると──ドラパルトの体が半分ぐらい凍り付き、落下を始めていた。


侑「“れいとうビーム”……!」


何をされたかを理解すると同時に──バシャンッ!! と音を立てながら、ドラパルトが床に落下する。

落下の衝撃で、私もドラパルトの上から放り出されて、バシャッという音と共に床に落ちる。

水の張った床の上だから、そこまで痛くはなかったものの──今の私はほとんど目が見えない。


 「フィオ〜!!」


目の前で敵のフィオネの鳴き声が聞こえる。


リナ『侑さん!! また、“れいとうビーム”が来る!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……っ……!」


リナちゃんの悲鳴のような声を聞いて、私は……フィオネの声がした方に向かって──イーブイをぶん投げた。


 「フィーーー!!!!」

侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」

 「ブイィィィィ!!!!!」


イーブイは空中で全身に炎を纏って──“れいとうビーム”の中を突き進む。


 「フィッ!!?」

 「ブイッ!!!」

 「フィーーーッ!!!?」


鳴き声でフィオネに“めらめらバーン”が直撃したことを確認し、


侑「“こちこちフロスト”!!」

 「イッブィッ!!!」

 「フィォッ──」


フィオネを真っ黒い氷の塊の中に閉じ込めた。
307 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:53:40.77 ID:PfMOWZim0

侑「はぁ……はぁ……」

リナ『侑さん、平気!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「うん……どうにか……」


やっと目も慣れてきて、視界が戻ってくる。

顔を上げると──“ドラゴンアロー”の直撃を受けて気絶し、ぷかぷかと浮いている2匹のフィオネ。黒い氷の中で動けなくなった3匹目のフィオネと──部屋の奥でぽわぁっとした光を放つマナフィの姿が見えた。


リナ『侑さん!? あれ、“ほたるび”!? マナフィが攻撃の準備してる!?』 || ? ᆷ ! ||


“ほたるび”は自身の特攻を一気に上昇させる技だ。


 「マーーナーー──」


マナフィが口から水流を吐き出そうとした瞬間──


 「──フィオ〜」


マナフィの背後に──私のフィオネが、水の中から現れた。


 「フィ!?」

侑「“うずしお”!!」

 「フィオ〜!!」


フィオネがマナフィの立っている水面に“うずしお”を発生させて、マナフィの動きを拘束した。


 「フィ、フィーーー!!!?」


“うずしお”中でくるくる回りながら、マナフィが鳴き声をあげる。


侑「はぁ……どうにか、捕まえた……」


思わず安堵の息が漏れた。


リナ『今のってもしかして……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん。フィオネは最初から“とける”で水の中に身を隠しながら、少しずつマナフィの背後に近付いてたんだよ……」

 「フィオ〜♪」


そして、背後から“うずしお”でバインド。

どうにかうまく行ってよかった……。


 「フィーーー!!!?」


私は依然“うずしお”の中で目を回しながら回転しているマナフィのもとに歩み寄る。


 「フィーーーッ!!!! フィーーーッ!!!」


私の気配を感じたのか──マナフィは周囲に向かって、デタラメに“みずでっぽう”を発射し始める。


侑「わわっ!?」

 「フィーーーーッ!!! フィーーーーッ!!!」


どうにか、身を屈めて、水流を避けながら前に進むけど……。
308 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:54:16.25 ID:PfMOWZim0

 「フィーーーッ!!! フィーーーーーッ!!!!」


大きな声を出しながら、私が近寄るのを拒んでいるマナフィを見て──


侑「……フィオネ、“うずしお”解除してあげて」

 「フィオ」


“うずしお”を解除させた。


 「フ、フィ…?」

リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||


突然攻撃の手を止めた私に、マナフィが戸惑いの表情を浮かべ、リナちゃんが動揺した声をあげる。


侑「……私は、マナフィを無理やり捕まえに来たんじゃない」


私はそう言いながら、戸惑っているマナフィの方に歩を進め──マナフィの目の前で身を屈める。


侑「……マナフィ、私……助けたい人がいるんだ」

 「フィ…?」

侑「すごくすごく……大切な人なんだ。……その人を助けるためには……君の力が必要なんだ」

 「フィ…」

侑「少しの間でいいから……私に君の力を貸してくれないかな……?」
 「…フィ」


真っすぐマナフィの目を見つめながらお願いすると。


 「フィ」


マナフィは頷いて、私の膝に手を触れる。


侑「うん、ありがとう、マナフィ」


お礼を伝えながら、マナフィを優しく抱き上げる。


リナ『さ、さっきまで戦ってたのに……説得しちゃった……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「ちゃんとお願いすれば……マナフィにも伝わるかなって……」
 「フィ〜」

侑「それに……力を貸してもらうのに、力尽くで無理やり言うことを聞かせるなんて、ダメだって思ったんだ。……それじゃ、果林さんたちのやろうとしてることと、何も変わらない」

リナ『侑さん……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「もちろん、戦って示さなくちゃいけないときはある。だけど……今はそういうときじゃないって、思ったからさ」

リナ『……うん。私もそれがいいと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん」


それに……無理やりマナフィに言うことを聞かせて助けてもらったなんて知ったら……歩夢は悲しむと思うから。


 「フィ〜♪」
侑「それじゃ、戻ろっか!」
 「ブイ♪」「フィオ〜♪」

リナ『うん♪』 || > ◡ < ||



309 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:55:06.00 ID:PfMOWZim0

    🎹    🎹    🎹





大広間に戻ると──すぐにランターンの光が見えてきた。


侑「果南さーん!」

果南「! 侑ちゃん!」

善子「侑!」

曜「侑ちゃん!」


私の声に気付いて、みんなが近寄ってくる。

私もフィオネに引っ張ってもらいながら、みんなのもとへと泳いでいく。


果南「よかった……道がたくさんあって、どこに行ったのかわからなかったから……」

善子「侑、怪我してない? 平気?」

侑「はい! それと……ちゃんと、目的も達成しました!」


私がそう言うと、


 「フィ〜♪」


マナフィが水中から私たちの目の前に姿を現した。


果南「……! マナフィ……!」

侑「はい! 協力してもらうようにお願いして、一緒に来てもらいました!」
 「フィ〜♪」

善子「よくやったわ……リトルデーモン侑……! ほ、褒めて遣わすわ……!」


そう言いながらヨハネ博士は、何故か顔を背ける。


曜「あはは……ごめんね、侑ちゃん。善子ちゃんさっきまで侑ちゃんのことすごい心配してたからさ。安心して、泣けてきちゃったみたい」

善子「泣いてないわよ!! あとヨハネよ!!」

果南「はいはい、再会に感動するのもいいけど、ここはまだ海の底だよ。そういう話はホエルオーの場所に戻ってからにしよう」

侑「はい! 帰りましょう……!」
 「フィ〜」


こうして私たちは、無事マナフィを連れて帰ることに成功したのだった。





    🎹    🎹    🎹





果南「──遺跡があった……?」

侑「……はい」

リナ『マナフィが居た場所は、床がレンガ造りで、明らかに人の手で作られた空間になってた』 || ╹ᇫ╹ ||

果南「ふーむ……」


ホエルオーに揺られながら、すっかり日も落ちた海を進む最中、私はマナフィのいた場所のことを果南さんたちに話していた。
310 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:55:43.47 ID:PfMOWZim0

曜「マナフィにレンガを扱う力があるとかは?」

善子「……まあ、可能性はゼロじゃないけど……人が作ったって考えた方がいくらか自然だと思うわ」

曜「でも、あんな場所だよ?」

善子「それはまあ……」

果南「…………」


果南さんはしばらく、顎に手を当てて考えていたけど──


果南「……マナフィにはちょっとしたお伽噺があるんだけどさ」

侑「お伽噺……ですか……?」

果南「海の王子と呼ばれるポケモンに人の勇者が会いに行くお話しなんだけど……勇者はマナフィに会うために、3匹の海のポケモンに認めてもらって、そのポケモンたちをお供にして、マナフィに会いに行くんだ」

曜「3匹……? それってもしかして……」

果南「うん。その3匹は……ブイゼル、タマンタ……そして、大きなトゲのハリーセンだって言われてる」

善子「ブイゼルにタマンタに……大きなトゲってのは、ハリーマンよね……なるほどね」

曜「あのポケモンたちは……勇者のお供のポケモンだったってこと?」

果南「かもしれないね……」

善子「勇者はマナフィに出会ったあと……マナフィのために、神殿を作り、自らのお供たちを王子を守る門番として、あそこに残した……。そう考えるとしっくり来るわね」

曜「勇者のお供かぁ〜……どうりで強いわけだよ……」

果南「ただ、大昔のお話だから、本当に勇者のポケモンたちだったのかはわからないけどね……」

善子「ま……それは今後の研究課題としましょう。今はとにかく、作戦の成功を喜びましょう」

侑「……はい!」


ホエルオーは月明りが照らす海をゆっくりと進んでいく。

そんな月夜の下──


 「フィ〜♪」


マナフィは嬉しそうに、鳴き声をあげながら、泳いでいるのだった。



311 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:56:16.46 ID:PfMOWZim0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【蒼海の遺跡】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.73 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.71 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.72 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.64 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.67 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.64 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:231匹 捕まえた数:10匹


 侑は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



312 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:01:24.16 ID:9NVhM0zb0

■Chapter059 『裏側の世界』 【SIDE Kasumi】





──セキレイシティを発ったかすみんたちは、ただいま15番水道を目指して移動の真っ最中です。


鞠莉『あーあー……マイクテス、マイクテス……聞こえるかしら?』


耳に付けたイヤホンマイクから、鞠莉先輩の声が聞こえてくる。


かすみ「聞こえてますよ〜!」

理亞『聞こえる。問題ない』

ルビィ『大丈夫です!』

彼方『彼方ちゃんもおっけ〜。全員大丈夫そう〜』

鞠莉『Thank you. これで離れても連絡が取れるから、飛行中は外さないでね』

かすみ「はーい♪ それにしても、これ便利ですねぇ〜。いつでもかすみんの可愛い声をみんなに届けられちゃいます♪」

彼方『あはは〜そうだね〜』

理亞『……はぁ』

かすみ「む……誰ですか、今溜め息吐いたの!」

ルビィ『け、ケンカしないで〜!』

鞠莉『賑やかねぇ……。もう少しで15番水道に入るわよ。みんな、気を引き締めて!』


鞠莉先輩の言葉で前方に目を向けると──船の残骸のようなものが漂う海域が眼下に見えてくる。


理亞『船の墓場……』

ルビィ『ぅゅ……ここ、いつ来てもちょっと怖いかも……』

かすみ「ルビ子は怖がりだなぁ〜、飛んでれば問題ないって〜」

理亞『……ルビィ、かすみにルビ子なんて呼ばせてるの?』

ルビィ『え? よ、呼ばせてるというか……呼ばれてるというか……。……か、可愛くないかな……? ルビィは結構気に入ってるんだけど……』

理亞『年下でしょ? 舐められてるんじゃないの?』

ルビィ『舐められてるってことはないと思うけど……でも、ルビィこんな見た目だから……』

かすみ「むー、別にかすみんが、ルビ子のことどんな風に呼んでもいいでしょ!」

理亞『年上に対して敬意はないの?』

ルビィ『り、理亞ちゃん! ケンカしないでって……!』


な〜んか、やったら突っかかってきますねぇ……。


かすみ「はっはぁ〜ん……さては〜……」

理亞『何よ』

かすみ「理亞先輩ったら、かすみんがルビ子のこと、あだ名で呼んでるから嫉妬しちゃってるんですかぁ〜?」

理亞『はぁ!? 何言ってんの!? バカじゃないの!?』

かすみ「もう、そうならそうと最初から言ってくださいよ〜。理亞先輩も、りあ子って呼んであげますから〜。ルビ子とお揃いですよ〜?」

理亞『ちょっと今からあの子、撃ち落としてくる』


そう言いながら、理亞先輩のクロバットがこっちに方向転換して向かってくる。
313 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:02:06.59 ID:9NVhM0zb0

かすみ「ひ、ひぃぃぃぃ!!? こっち来ないでくださいよぉー!!?」

鞠莉『もう、じゃれてないで真面目にやりなさい!! 幽霊船の海域に入るわよ!』

理亞『ちっ……次言ったら本気で落とすから』

かすみ「も、もう……ちょっとした冗談じゃないですか……」

彼方『いや〜みんな、楽しそうだね〜』

ルビィ『ぅゅ……大丈夫かなぁ……』





    👑    👑    👑





幽霊船の海域とやらに入って数分もしないうちに──眼下の海は濃い霧に包まれ始めていました。


鞠莉『……確かにすごい濃霧ね』

彼方『海が全然見えなくなっちゃったねー……』

鞠莉『……ロトム、解析お願い』
 『了解ロトー』


ロトムが鞠莉先輩の指示で、海霧を上から観察し始めると、


 『パターン一致。一ヶ所だけ、発生源が違うと思われる霧があるロト。あそこに幽霊船があるロト』


すぐに目的の場所を発見する。


鞠莉『OK. そこまで、案内して』
 『了解ロト』


ロトムが先導する形で、かすみんたちは霧の中へと降りて行きます。





    👑    👑    👑





霧の中を進んでいくと──その中から、見覚えのある巨大な木造船が姿を現しました。


かすみ「……! これ、これです! かすみんたちが乗ったのはこの船で間違いないです!」

彼方『おー! まさしくな幽霊船! 雰囲気あるね〜』

ルビィ『ぅゅ……やっぱり、お化けとかいるのかな……』

理亞『ルビィ。私がいるから平気。何かあったら守るから』

ルビィ『理亞ちゃん……うん!』

鞠莉『甲板に降りるわよ。全員付いてきて』

かすみ「はいです!」

ルビィ『はい!』
理亞『わかった』


鞠莉先輩の指示に従って、甲板に降り立つ。
314 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:04:48.71 ID:9NVhM0zb0

鞠莉「ロトム、案内ありがとう」
 「どういたしましてロト」

鞠莉「さて……この船の奥に、空間の裂け目がある。それで間違いないのよね?」

かすみ「はい!」

鞠莉「わかった。それじゃあ、中に入りましょう。ゴーストポケモンのテリトリーだから、全員離れないようにね。かすみ、案内お願いしていい?」

かすみ「任せてください!」


かすみんが先頭に立って、船内を歩き始め──た瞬間、バキッと音がして、


かすみ「っ!?」


ガクンと身体が落ちそうになり、


理亞「ちょっと何してんの……!」


理亞先輩が、咄嗟にかすみんの腕を掴んで引っ張り上げてくれる。


かすみ「あ、ありがとうございます……理亞先輩……」

理亞「はぁ……気を付けなさい」


お礼交じりに足元を見ると──床板が抜けていた。


彼方「ありゃー……床板が腐ってたんだねぇ……」

ルビィ「足元に気を付けて進んだ方がいいかもね……」

かすみ「で、ですねぇ……」


いきなり幸先が悪いですぅ……。

──気を取り直して。かすみんたちは船の奥へと進んでいく。

すると、急に──背筋がゾクリとした。

こ、この感覚は……。


ルビィ「……い、今……変な感じしなかった……?」

理亞「……した。なんかいる」

かすみ「あいつらです……!」

 「────」「…………」「〜〜〜」


例のお化けたちがどこからともなく姿を現した。

しかも、前よりも数が多い……10匹、いや20匹はいます……!


ルビィ「ピ、ピギィィィ!!? お化け!!?」

かすみ「あいつらはゴースです!! 今、“シルフスコープ”を──」


正体を見破るために、かすみんが以前ここでゲットした“シルフスコープ”を、バッグから取り出そうとした瞬間、


鞠莉「サーナイト」

彼方「ムシャーナ」

鞠莉・彼方「「“サイコキネシス”」」
 「サナ」「ムシャァ〜…」


いつの間にボールから出したのか、鞠莉先輩のサーナイトと彼方先輩のムシャーナが“サイコキネシス”でお化けを全員吹き飛ばしてしまった。
315 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:06:05.51 ID:9NVhM0zb0

鞠莉「悪いけど、遊んでる暇ないから、通らせてもらうわよ」

彼方「おどかすだけのポケモンなら全然怖くないよ〜」


二人は何食わぬ顔で、前進していく。


かすみ「あ、あんなにいたのに一瞬で……?」

ルビィ「す、すごい……」

理亞「……追い払うだけなら、私でもすぐ出来た」

鞠莉「ごめんなさいね、理亞。ただ、戦力は温存しておいた方がいいと思って♪」

理亞「……まあ、そういうことなら」


──その後も、お化けが出てくる度に有無を言わさず鞠莉先輩と彼方先輩が吹き飛ばし、あれよあれよという間に、目的の空間の裂け目がある操舵室へとたどり着きました。


かすみ「この部屋です!」


部屋に入って、見回すと──それは前と同じ場所にあった。

空間にあいている穴。浮いている穴です。


鞠莉「……! 確かに、これよ! やぶれた世界に続く空間の裂け目に間違いない……!」

理亞「確かにこんな場所にあったら……鞠莉さんたちが探しても見つからないわけね」

かすみ「そんな場所を見つけちゃうかすみんはさすがですね〜! 褒めてくれていいんですよ!」

彼方「おーよしよし〜♪ かすみちゃんは偉いね〜♪」

ルビィ「かすみちゃん、ありがとう♪」

かすみ「もっと褒めてください〜♪」


やっぱり褒められると気分がいいですね〜♪


かすみ「でも、この穴……入れるんですかね?」


穴は拳大くらいしかありません。


かすみ「……かすみんがいくら小ぶりで可愛いキュートな女の子だとしても、さすがにこのサイズは……」

鞠莉「だから、私が穴を広げる役として、残るのよ」

かすみ「あ、なるほど」

理亞「それじゃ……穴を広げて」

鞠莉「Wait a minute. ちょっと待って、理亞」

理亞「?」

鞠莉「行く前にちゃんと作戦を確認した方がいいわ」

理亞「必要ない。やぶれた世界のことは頭に入ってる」

ルビィ「あ、えっと……る、ルビィは確認したいかな……」

彼方「彼方ちゃんも、改めて最終確認しておいた方がいいと思うな〜」

かすみ「そうですよ! かすみん、やぶれた世界のこと、なんにもわかんないんですから!!」

理亞「自信満々に言わないでよ……来る途中に説明したでしょ?」

かすみ「確かに言ってましたけどぉ……1回じゃよくわかんないですよぉ……」

理亞「……」


かすみんの言葉に、理亞先輩が眉を顰める。
316 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:06:37.53 ID:9NVhM0zb0

鞠莉「理亞。やぶれた世界が危険な場所なのはわかっているでしょう? ここにいる全員で力を合わせるの。そのためにもしっかり確認をしてから臨むべきよ」

ルビィ「理亞ちゃん。こうして、穴は見つけられたわけだから……焦らずに行こう?」


ルビ子がそう言うと、


理亞「……わかった」


理亞先輩は了承する。……やっぱり理亞先輩、ルビ子にはちょっと弱いみたいですね……?


鞠莉「まず目的」

彼方「ピンクダイヤモンドを見つけること〜」

鞠莉「そうね。ただ、そのためには前提条件がある」

かすみ「えっと……確か、やぶれた世界を操ってるポケモン……? に協力してもらわないといけないんですよね?」

鞠莉「自力で探すって方法もあるんだけど……ちょっと運頼りになっちゃうのよね」

理亞「だから、捕獲を視野に入れて動く」


そんな風に言う理亞先輩。


ルビィ「……」


でも、ルビ子は少し浮かない顔をする。


理亞「ルビィ……? どうかしたの……?」

ルビィ「……ギラティナさんは自分の世界にいるだけなのに……捕まえちゃってもいいのかなって思って……。あ……も、もちろん反対してるわけじゃないんだけど……!」

理亞「……今回は協力をしてもらうだけ。終わったら、やぶれた世界に還してあげればいい」

ルビィ「……うん。そうだよね……ごめんね、変なこと言って……」

理亞「うぅん……ルビィらしいと思う」

鞠莉「……確かにギラティナからしたら迷惑な話かもしれないけど……。このまま何もせずに、果林たちにこの世界を滅ぼされるようなことになったら、ギラティナも困るはずよ」

ルビィ「うん……そうだよね」


ルビ子はやっぱり少し浮かない顔……。でも、確かにこのまま放っておいたら、リナ子の記憶を元に戻せないし、果林先輩たちのこともわかりません。

かすみんは……指を咥えたまま、やりたい放題されるなんてまっぴらです。

何より、しず子を助けに行かなくちゃいけないんだから……!


かすみ「えっと……それじゃ、まずそのギラティナを捕まえて、その後ピンクダイヤモンドの場所に案内してもらうってことでいいんですよね?」

鞠莉「ええ。でも、マナフィがいないとピンクダイヤモンドにあると予想されてるリナの魂を移動できないから……確認出来たら帰ってくる。それが今回のミッションよ」

かすみ「おっけ〜です! かすみん、完璧に把握出来ましたよ!」


とりあえず、ギラティナってポケモンを捕まえて、道案内してもらう。思ったより単純なミッションですね!
317 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:07:18.90 ID:9NVhM0zb0

ルビィ「……あの、あともう一つ」

理亞「……ルビィ……?」

ルビィ「わたしたちは……わたしと理亞ちゃんは、もう一つ目的があります」

理亞「ルビィ……!? そ、それは……!」

ルビィ「理亞ちゃん、やっぱり言っておいた方がいいよ」

理亞「でも……。……これは、完全に私の事情だし……」

鞠莉「ルビィ……とりあえず、教えてもらってもいい?」

ルビィ「うん。……わたしたちは……ディアンシー様に会って、聖良さんの心を返してもらおうと思ってます」

理亞「……」

かすみ「でぃあんしーさま?」


また新しい単語が出てきて、かすみんは首を傾げます。


ルビィ「あのね、ディアンシー様は……この地方を守ってくれてる女神様なの。……そして、わたしはそのディアンシー様と人との間を取り持つ巫女なの」

かすみ「う、うん……?」


地方守ってくれてる……? 巫女……? 余計によくわかんないんだけど……。


ルビィ「それで……聖良さんのことなんだけど……」

鞠莉「……聞いてる。目を覚ましたけど、心がない状態……なのよね」

理亞「……! 知ってたの……?」

鞠莉「私も真姫さんから参考意見を求められてね……。正直、見たことも聞いたこともない症状だからお手上げだったけど……ルビィの話を聞いて、ピンと来たわ」


鞠莉先輩はルビ子と理亞先輩を順に見て、


鞠莉「聖良の心は……ディアンシーのところにあるのね。だから、ディアンシーに会って……聖良の心を返してくれるようにお願いをする……」

ルビィ「……うん」

理亞「ねえさまはディアンシーの攻撃を受けたから……そのときにきっとディアンシーに心を封印されたんだと思う……」

ルビィ「だから……わたしたちはディアンシー様に会いに行く必要があるの……いいかな?」


ルビ子は真剣な顔をして訊ねてくる。


かすみ「うーん……? なんか、よくわかんないんですけど……要は理亞先輩のお姉さんを助けるために、そのディアンシー様に会わないといけないってことですよね?」

ルビィ「うん、そういうことかな」

理亞「嫌だったら……無理強いは出来ない……。これはあくまで私の問題だから……」

かすみ「……? あのあの、なんでわざわざやるかやらないかの確認を取るんですか……? それで理亞先輩のお姉さんを助けられるなら、やるべきじゃないですか?」

理亞「え? い、いや……まあ、そうなんだけど……これは私のわがままみたいなもので……」

かすみ「……?」


かすみんよく意味がわからなくて首を傾げちゃいます。


彼方「ふふ♪ かすみちゃんは良い子だね〜♪」


笑いながら、彼方先輩がかすみんの頭をナデナデしてくる。
318 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:08:45.34 ID:9NVhM0zb0

かすみ「わわっ、な、なんですか、彼方先輩〜?」

彼方「困ってる人がいたら、助けないとだもんね〜♪」

かすみ「はい! 当り前じゃないですか!」

理亞「……!」


理亞先輩が驚いたように目を見開く。


かすみ「あ、あの……だから、さっきからなんですか……?」

理亞「いや……」

彼方「かすみちゃんは、こういう子なんだよ〜♪ 変に難しいことを考えずに行動できる子だもんね〜♪」

かすみ「……? 褒めてます?」

彼方「うん♪ 心の底から褒めてるよ〜♪」

理亞「……かすみ」

かすみ「なんですか?」

理亞「私、貴方のことちょっと勘違いしてたみたい……。……ディアンシーを……一緒に探してくれる?」

かすみ「はい。さっきから、そう言ってるじゃないですか!」

彼方「ふふ♪ もちろん、彼方ちゃんも反対する気なんてないのだ〜♪」

鞠莉「話は纏まったみたいね」

ルビィ「よかったね、理亞ちゃん」

理亞「……うん」


……というわけで、今回のミッションは──ギラティナを探して協力を仰ぐ、ピンクダイヤモンドを見つける、ディアンシーに会うの3つです!


鞠莉「最後に戦力確認。順に今持ってきている手持ちを全員に共有しましょう」

かすみ「はーい! かすみんは、ジュカイン、ゾロアーク、マッスグマ、サニゴーン、ダストダス、ブリムオンの6匹です!」

彼方「彼方ちゃんは、バイウールー、ネッコアラ、ムシャーナ、パールル、カビゴン……それと、コスモウムだよ〜」

ルビィ「ルビィは、バシャーモ、アブリボン、キテルグマ、オドリドリ、メレシーのコランと……グラードンです」

理亞「グラードン……連れてきたの……?」

ルビィ「うん。……戦えるかはわからないけど……ギラティナさんと戦うことになったら、必要になると思ったから。最後、理亞ちゃんの番だよ」

理亞「あ、うん。……私は、マニューラ、オニゴーリ、ガチグマ、クロバット、チリーン……そして、ねえさまから預かったマーイーカの6匹」

鞠莉「Ursaluna(*)?! Really...?!」
     *ガチグマの英名

鞠莉先輩が急に目をキラキラとさせ始める。


理亞「う、うん……」

鞠莉「持ってたリングマが進化したってことよね!? どうやって“ピートブロック”を手に入れたの!?」

理亞「グレイブマウンテンを北に進んだ平野の雪の下……掘り返したら、湿地帯の痕跡があって……そこで拾った」

鞠莉「Really....!? あそこ降雪地帯よね!?」

理亞「うん。……だから、気候が変わってしまう程の何かが起こったんだと思う。……もしかしたら、それが北方の国が滅亡した理由かもしれないって、私は思ってる……」

鞠莉「興味深いわ……! もっと詳しく話を──」

かすみ「す、ストーーーップ!! 何、こんな場所でお勉強の話、始めてるんですか!?」


難しい話が始まったので、かすみん思わず待ったを掛けます。
319 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:14:22.15 ID:9NVhM0zb0

鞠莉「S, sorry... 帰ってきたら聞かせてね!」

理亞「わかった」

鞠莉「それじゃあ、戦力確認も出来たし──これから、ゲートを開くわ」


そう言いながら、鞠莉先輩がボールを2つ放り投げると──


 「ディアガァァ!!!!」「バァァァルッ!!!!!」

かすみ「わひゃぁ!!?」


やったら、迫力のある大型のポケモンが姿を現します。というか、2匹とも出てくるや否や船の天井を突き破ってるんですけど……。


鞠莉「これから、この2匹の力で穴を押し広げるわ。かなり調整してきたから、それなりの時間穴をあけ続けることは出来ると思うけど……12時間以内には戻ってくること。……まあ、向こうの時間が一定じゃないから……とにかく、素早くMissionをこなして帰ってくるように!」

かすみ「そ、そこは雑なんですね……」

鞠莉「そして、今後のLeaderは彼方にお願いするわ。よろしくね、彼方」

彼方「らじゃ〜任された〜」


彼方先輩がゆるーい感じで敬礼のポーズをする。


鞠莉「それじゃあ、始めるわ」


鞠莉先輩はバッグの中から、きらきら輝く宝石と、真っ白い珠を取り出して、


鞠莉「ディアルガ、パルキア、穴を広げて!」
 「ディアガァァァァ!!!!」「バァァァァルッ!!!!!」


ディアルガとパルキアの力で、穴を押し広げ始める。

穴はどんどん大きくなっていって──人一人が通り抜けられるくらいのサイズになった。


鞠莉「それじゃあ、みんなよろしくね!」

かすみ「はい!」

ルビィ「鞠莉さんも気を付けてください……!」

理亞「行ってきます」

彼方「それじゃあ、みんな〜行っくよ〜!」


──かすみんたちは、穴へと飛び込みました。





    👑    👑    👑





かすみ「……っは!」


気付いて目を開けると──異様と言う他ない空間にいた。

地面が浮いて、その下には空がある。

壁は床だし、床は天井、天井は床で、滝は下から上に落ちるし、見えない足場がある。


かすみ「な、なにここ……?」
320 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:15:15.17 ID:9NVhM0zb0

矛盾したことが自分の頭の中で目まぐるしく流れていく。

でも、おかしいとわかっているのに違和感はない。

ここでは“そう”らしい。


理亞「相変わらず困った空間ね……」

ルビィ「うん……」

かすみ「あ、あのあの、ここどうなってるんですか……!?」


理亞先輩とルビ子に駆け寄ろうとすると──


かすみ「あ、あれ!?」


何故か、二人から離れていく。


ルビィ「かすみちゃん! 動かないで!」

かすみ「は、はいぃ!!」

理亞「マーイーカ、“ひっくりかえす”」
 「──マーイーカ」


理亞先輩が、ボールから出したマーイーカに技を指示する。


理亞「もうこっちに歩いてきていい」

かすみ「は、はい……?」


言われたとおり、足を踏み出すと──


かすみ「あ……普通に歩ける……」


確かに思ったとおりに前に進むことが出来るようになっていた。


理亞「この辺りは……特に歪みが酷いみたい」

かすみ「歪み……?」

ルビィ「前に進むと後ろに進んじゃったり、右に行くと左に行っちゃったり……そういうのがあべこべな世界なの」

理亞「ただ、ねえさまのマーイーカは特別な訓練を積んでるから……“ひっくりかえす”で周囲のあべこべを無理やり矯正出来る。出来る限り、マーイーカから離れないようにして」

かすみ「わ、わかりました。……それはいいんですけど……」


かすみんは周囲をきょろきょろと見回す。


かすみ「あの……彼方先輩は……」

理亞「たぶん……入ったときにはぐれた。入ったときはある程度近くに出るはずなんだけど……微妙に位置がズレるの」

ルビィ「それで彼方さんだけ、たまたま違う場所に出ちゃったんだね……」

かすみ「た、大変じゃないですか!? こんなところで彼方先輩一人にさせるなんて……!」

理亞「早く見つけないと……そんなに離れてはいないはずなんだけど……」


3人で彼方先輩を探しに行こうとしたそのとき、


彼方「おーい、みんな〜」


──頭上の床から、彼方先輩の声が聞こえてきた。

直後、
321 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:16:00.19 ID:9NVhM0zb0

彼方「とーう!」


彼方先輩がジャンプして、かすみんたちの前に飛び降りてきた。


彼方「ごめんね〜。なんか入ったときに違う場所に飛ばされちゃってたみたい〜」

かすみ「か、彼方先輩〜! よかったですぅ〜!」


かすみん思わず彼方先輩に抱き着いちゃいます。


彼方「おお、よしよし〜。彼方ちゃんは無事だぞ〜」

理亞「……この空間内をどうやって……?」

彼方「ん〜? ああ、えっとね〜上の床は右にジャンプすると、ここに向かって落ちるみたいだったから〜」

理亞「それをこの短い時間で把握したの……!?」

彼方「ふっふっふ〜、彼方ちゃん、組織に居た頃に特殊空間の状況把握訓練を受けてるからね〜。これくらいの空間、飛ばされたところでなんにも問題ないんだぜ〜」

ルビィ「す、すごいです……! 彼方さん……!」

彼方「えへへ〜もっと褒めて〜。……っと、今はそれどころじゃなかったね〜」


彼方先輩はわざとらしくコホンと咳ばらいをする。


彼方「まず陣形を決めよっか〜。彼方ちゃんは盾役が出来るから前に出るね〜。理亞ちゃんはスピードアタッカーだから、中央で両翼に気を配ってくれると嬉しいな〜。かすみちゃんは遠近対応のパワーアタッカーだから、後衛から私たちの動きを見ながら大きな一発を叩きこむ役目だよ〜。ルビィちゃんはトリッキータイプだから、基本は真ん中に位置取って、状況に応じて前後衛をうまくスイッチしてね。あと、今ここら一帯の空間を補正してるのはそのマーイーカちゃんだよね? それなら、全員に影響を与えられるように、真ん中にいるルビィちゃんの頭上に居てくれると助かるかな〜」


彼方先輩が普段ののんびりな様子からは考えられないくらい、テキパキと指示を出す。

その光景に全員でポカンとしてしまう。


彼方「こらこら〜ボーっとしてちゃダメだぞ〜?」

ルビィ「あ、ご、ごめんなさい……。……でもその、ルビィたちの戦い方も把握してるんですね……?」

彼方「鞠莉ちゃんに二人がどんなトレーナーかは予め聞いてたからね〜」

理亞「それにしても……さっきまでと全然印象が違う……」

彼方「彼方ちゃんは〜やるときはやるのです! これでも最年長としてリーダーを任せられたからね〜。さぁ、行くよ〜」


彼方先輩先導で、やぶれた世界の中を歩き始める。


彼方「とりあえず、ある程度見晴らせる場所まで移動しよう〜」

かすみ「そういえば彼方先輩……最年長って言ってましたけど……一体今いくつなんですか?」

彼方「む……かすみちゃん、レディーに歳を訊くのは失礼だぞ〜?」

かすみ「……ご、ごめんなさい……でも、気になって……」

彼方「ふふ、冗談だよ〜。彼方ちゃんはね〜鞠莉ちゃんより1歳年上の22歳だよ〜」

ルビィ「22歳……!? ルビィの1個上くらいかなって思ってました……」

理亞「そういうルビィも私と同い年とは思えないけどね」

かすみ「いや、理亞先輩も18歳には見えませんけど……」


なんというか、ここにいる人たち全員実年齢より見た目が幼い人たちばっかりですね……。

みんな背が低いってのもあるのかもしれませんが……。
322 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:16:29.80 ID:9NVhM0zb0

彼方「まぁ、実は彼方ちゃんの身体の成長は18歳で止まってるから、見た目は18歳なんだけどね〜」

かすみ「え、どういうことですか、それ……!?」

彼方「乙女にはいろいろあるのだよ〜」

かすみ「き、気になるんですけど……!」

彼方「ふふ、じゃあまた今度教えてあげるよ〜」


こんな無茶苦茶な空間なのに、彼方先輩と話しているとなんだか気が抜けてしまう。

緊張感のない会話をしながら、当初の予定通り、見晴らしのいい場所に到着する。


彼方「さて、ここからピンクダイヤがないかを探して……。……ん?」

かすみ「彼方先輩? どうかしたんですか?」

彼方「……何かが、こっちに向かって飛んでくる」

理亞「……!? それってまさか……!」


彼方先輩の目線の先を見てみると──影のような翼を持った、龍のような見た目をした生き物が、こちらに向かって猛スピードで接近してきてるじゃないですか……!?


 「──ギシャラァァァァァッ!!!!!」


大きな鳴き声がやぶれた世界全体を揺らすように響き渡る。


かすみ「あ、あれって……!?」

ルビィ「ギラティナさん……!」

理亞「やっぱり、こっちの世界に侵入したらすぐにバレるか……!」


あの禍々しいフォルム、空間全体を震わせるあの鳴き声、そして何より特有の圧のようなものを感じる。

見るからにヤバそうなポケモン……! 相手取るにしても、真っ向から戦うのはヤバイことくらい、かすみんにもわかります……!


かすみ「彼方先輩! 距離があるうちに一旦隠れましょう!!」


そう提案した直後──


 「──ギシャラァァァァァ!!!!!」


気付けばギラティナは──かすみんたちの目の前にいた。


かすみ「え!?」
ルビィ「ピギッ!?」
理亞「っ!?」


そして、大きな爪をこちらに向かって振り下ろしてくる。


彼方「コスモウム、“コスモパワー”!!」
 「────」


──ギィィィィンッ!! と大きな音を立てながら、コスモウムがギラティナの爪を弾く。


彼方「この世界でギラティナから逃げるのは無理だよ〜! 全員戦闘態勢!」

ルビィ「コラン! “パワージェム”!!」
 「──ピピィッ!!!」

理亞「オニゴーリ! “こおりのいぶき”!!」
 「──ゴォォーーーリッ!!!!!」


彼方先輩が叫ぶのとほぼ同時に、ルビ子のメレシーと理亞先輩のオニゴーリが攻撃を放つ。
323 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:17:12.01 ID:9NVhM0zb0

 「ギシャラァァァァァ!!!!!」


ですが、ギラティナは鬱陶しそうに身を振るって、宝石のエネルギーと凍てつく吐息を吹き飛ばす。

ただ、その動作によって一瞬だけ隙が出来る。


彼方「かすみちゃん!!」

かすみ「わかってます! ジュカイン、メガシンカ!!」
 「──カインッ!!!!」


かすみんはその隙にすかさず繰り出したジュカインをメガシンカさせます。


かすみ「“リーフストーム”!!」
 「カインッ!!!!」


背を向けたジュカインがしっぽミサイルに草の旋風を纏って発射する。

この至近距離、外したりするわけもなく、


 「ギシャラァァッ…!!!!」


頭に直撃して、ギラティナを仰け反らせる。


かすみ「へっへ〜ん! どんなもんですか!」


ですが、


 「ギシャラァァァァッ!!!!!」

かすみ「いっ!? き、効いてない!?」


雄叫びをあげながら、ギラティナが突っ込んでくる。

それを真っ向から、


彼方「ムシャーナ!! “サイコキネシス”!!」
 「ムシャァ〜〜」


彼方先輩のムシャーナが“サイコキネシス”で無理やり止める、けど……。


 「ギシャラァァァ!!!!!」

 「ム、ムシャァ…」
彼方「す、すごいパワーだよ〜……!」


ギラティナのあまりのパワーに、念動力で止めているはずなのに、ギラティナはジリジリと前に進んでくる。

そこに加勢するように、


かすみ「サニゴーン! “ちからをすいとる”!」
 「──ゴーーーン…」


ギラティナのパワーを吸い取って弱体化させる。……させたはずなんだけど……。


 「ギシャラァァァァ!!!!!」

かすみ「なんで、全然勢い止まらないの!?」

理亞「相手のパワーが強すぎる……!! 間接的なやり方じゃ間に合わない!! ルビィ!!」

ルビィ「うん! コラン、“じゅうりょく”!」
 「ピピィーーー!!!!」
324 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:18:07.55 ID:9NVhM0zb0

ルビ子のメレシーがカッと光ると、


 「ギシャラァァァァ…!!!!!」


ギラティナが無理やり浮遊する大地に引き摺り落とされ、その重量で大地にヒビが入る。

そこに向かって──


理亞「ガチグマ!! “ぶちかまし”!!」
 「──グマァァァァ!!!!!」


理亞先輩が出した大きなクマのポケモン──ガチグマが全身全霊の体当たりを食らわせて、ギラティナを吹っ飛ばす。


 「ギシャラァァァァ…!!!!!」


浮遊している大地の外まで吹っ飛ばされ、そのまま“じゅうりょく”に引かれるように落下していくけど──


 「ギシャラァッ!!!!!」


またすぐに宙を泳ぐようにして、かすみんたちがいる大地の周囲を旋回し始める。


かすみ「じ、“じゅうりょく”があるはずなのに……!」

理亞「マーイーカの“ひっくりかえす”の範囲外に逃げられたら、“じゅうりょく”の方向は向こうが制御出来るから意味がない……!」


そして、ギラティナは旋回をしながら──口に巨大な真っ黒い球体を集束しはじめる。


理亞「あれ、“シャドーボール”……!?」

かすみ「あ、あんなでかいの食らったらひとたまりもないですよ!?」

彼方「ムシャーナ!! “ふういん”!!」
 「ムシャァ〜」


彼方先輩が、ムシャーナに“ふういん”を指示すると──ギラティナが集束させていた影の球が霧散する。


彼方「これで、“シャドーボール”は使えないよ……!」

かすみ「さすが、彼方先輩ですぅ〜!」


喜ぶのも束の間、ギラティナの目がギラリと赤く光ると──ギラティナはまた再び口に黒い球を集束し始める。


彼方「え、うそ!?」

理亞「技を“ふういん”されたっていうルールそのものを書き換えられた……!」

かすみ「なんですかそれ!? ズルじゃないですか!?」

 「ギシャラァァァァ!!!!」


直後、ギラティナの口から──特大の“シャドーボール”が発射され、かすみんたちに迫ってきます。


かすみ「わーーーーー!!!? あ、あんなの避けられないーーー!!?」

ルビィ「理亞ちゃん!! “じゅうりょく”をひっくり返して!!」

理亞「……!! マーイーカ!!」
 「マーイーカッ!!!」


マーイーカが鳴くと同時に──身体がフワリと浮き上がって、


かすみ「へっ!?」
325 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:19:14.93 ID:9NVhM0zb0

猛スピードで──上に向かって落下を始める。

直後、かすみんたちがいた足場は特大の“シャドーボール”によって、轟音を立てながら木っ端みじんに砕け散る。


彼方「た、助かったよ〜! ルビィちゃん〜、理亞ちゃん〜」

かすみ「で、でもこのままじゃ……!?」


かすみんたちは──上にある別の大地に向かって猛スピードで落下しています。


かすみ「ぶ、ぶつかるーー!!?」


思わず目を瞑った瞬間──ぼふっという音と共に、浮遊感が消えてなくなった。


かすみ「あ、あれ……?」


恐る恐る目を開けると──かすみんの視界は真っ白いふわふわしたものに包まれていました。


 「メェェェェェ」

かすみ「ば、バイウールーの毛……?」

彼方「ふぅ〜……危なかったぜ〜……」


気付けばかすみんたちは手持ちともども、大きく肥大化したバイウールーの“コットンガード”のお陰で事なきを得ていました。

でも、戦いは終わっていません……!


 「ギシャラァァァァ!!!!!」


ギラティナが再び口に特大の“シャドーボール”を集束し始める。


かすみ「ま、また“シャドーボール”が飛んできますよ!? どうするんですか!?」

彼方「みんな伏せて〜! 彼方ちゃん、どうにかする方法思いついちゃったから〜!」

かすみ「は、はいぃ!」
理亞「信じるからね……!」
ルビィ「お、お願いします……!」


かすみんたちは言われたとおりに身を伏せる。

それと同時に、


 「ギシャラァァァァ!!!!!」


ギラティナの口から“シャドーボール”が発射される。


かすみ「き、きたぁぁぁ!!?」

彼方「バイウールー! “コットンガード”!!」
 「メェェェェ!!!!」


彼方先輩の指示で、バイウールーの体毛がさっき以上に肥大化し──かすみんたちの頭上を覆い隠すほどになる。

直後、迫ってきた特大の影の球は、バイウールーの体に当たった瞬間──バスンと音を立てて、掻き消えた。


かすみ「き、消えた!?」

ルビィ「……そっか! ゴーストタイプの技だから、ノーマルタイプで無効化できるんだ……!」

彼方「あのサイズだから、こっちも大きくなる必要があったけどね〜」

理亞「彼方さん!! 次、来る!!」
326 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:20:16.80 ID:9NVhM0zb0

理亞先輩の声で、バイウールーの体毛の影から覗くようにしてギラティナを見ると──今度は青色のエネルギーを集束し始めてるじゃないですか……!?


理亞「“はどうだん”が来る……!」

彼方「大丈夫だよ〜落ちついて〜」


彼方先輩がのんびり喋っている間に──発射された“はどうだん”が猛スピードで、バイウールーに向かって飛んでくる。

けど──ぼふんっ! と音を立てながら、“はどうだん”もバイウールーの毛に吸い込まれるように消えてしまった。


かすみ「あ、あれ……?」

ルビィ「“はどうだん”も消えちゃった……」

彼方「彼方ちゃんのバイウールーの特性は“ぼうだん”だよ〜。弾系の技は一切通用しないのだ〜!」

かすみ「も、もう! それなら、先に言ってくださいよ!」

彼方「えへへ〜ごめんごめん〜。……ただ、防いでるだけじゃジリ貧だよね〜……何か考えないと〜……」


確かに彼方先輩の言うとおり、かすみんたちの攻撃は思ったように通用していません。

このままじゃ、そのうちやられちゃいます……。


ルビィ「あの……少し、時間を稼いでくれませんか」

理亞「ルビィ……?」

ルビィ「ルビィが、どうにかします……」
 「ピピィ」


そう言いながら、ルビ子がメレシーを抱きしめると──ぽわぁっと紅い光がメレシーの体から溢れ出す。


理亞「……! ルビィ、それって……!」

彼方「おぉ〜何かやるつもりだね〜」

かすみ「とにかく、時間を稼げばいいんですよね!?」

ルビィ「うん!」


ルビ子が頷くと同時に──


 「ギシャラァァァァ!!!!!」


ギラティナが、鋭い爪を剥き出しにしながら、猛スピードで突っ込んできます。


彼方「コスモウム〜! もう1回、“コスモパワー”!」
 「────」


──ギィィィンッ!!! 最初と同じように、彼方先輩のコスモウムがギラティナの爪を弾きます。

それで出来た一瞬の隙に、


理亞「オニゴーリ!! メガシンカ!!」
 「──ゴォォォォーーーーリッ!!!!!」

理亞「“ギガインパクト”!!」
 「ゴォォォォーーーーリッ!!!!!」


メガシンカした理亞先輩のメガオニゴーリが全身に分厚い氷の鎧を纏いながら、ギラティナに全身全霊の突進をぶちかます。

メガシンカのパワーを乗せた、一撃に、


 「ギシャラァァッ……!!!!」
327 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:20:53.56 ID:9NVhM0zb0

ギラティナが一瞬怯んで後退する。

そこに向かって、


かすみ「ダストダス!! “ヘドロばくだん”!!」
 「──ダストダァァァァス!!!!」


繰り出したダストダスが腕を伸ばして──両手の平から、“ヘドロばくだん”を発射する。


 「ギシャラァァッ!!!!」


でも、ギラティナはまた身を捻るようにして、“ヘドロばくだん”を吹き飛ばし──大きな顎を開いて、ダストダスに向かって突撃してくる。


 「ギシャラァァァァ!!!!!」

かすみ「く、来るならきやがれですぅ〜!!」

彼方「かすみちゃん!?」


でも、かすみん臆したりしません……! ギラティナの大顎で、ダストダスの頭部を“きりさく”──と、大柄なダストダスの体がユラリと掻き消える。


かすみ「……だって、この子はダストダスじゃありませんから!」
 「──ゾロアーーーーークッ!!!!!」


──“イリュージョン”が解除され、本来の姿を現したゾロアークが、


かすみ「ゾロアーク!! “ナイトバースト”!!」
 「ゾロアーーークッ!!!!」

 「ギシャラァァァァ…ッ!!!」


ギラティナの顔面に闇のオーラをぶちかまします。

闇が顔に纏わりつき視界を奪われたギラティナに向かって──


理亞「ガチグマ!! “10まんばりき”!!」
 「グマァァァァァァ!!!!」

 「ギシャラァァァァァ…!!!!!」


ガチグマが大きな前足で、ギラティナを殴り飛ばします。


彼方「かすみちゃん、理亞ちゃん、ナイスだよ〜!」

かすみ「ふっふ〜ん、それほどでもあります!」


胸を張るかすみん。

でも、吹っ飛ばされたギラティナは、


 「──ギシャラァァァァァ!!!!!」


すぐに身を翻して襲い掛かってくる。


かすみ「わひゃぁぁぁっ!!!?」

彼方「ムシャーナ!!」
 「ムシャァ〜〜」


さっきと同様に、彼方先輩のムシャーナがギラティナをサイコパワーで無理やり押し止める。
328 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:21:34.29 ID:9NVhM0zb0

彼方「が、頑張って〜!! ムシャーナ〜!!」
 「ムシャァ〜〜」

 「ギシャラァァァァァ!!!!」

理亞「ルビィ、まだ!?」


どうにか彼方先輩が押さえている間に、理亞先輩がルビ子の方を振り返る。

すると──


ルビィ「…………」
 「────」


ルビ子の抱きしめているメレシーは、さっきの比にならないくらいに紅い輝きを放っていました。

その光は──


かすみ「……なんか、すっごく……あったかい……」


戦闘中なのに、それを忘れてしまうくらい……優しくて、温かい、そんな光……。


ルビィ「…………うん。一緒に、戦って」
 「──ピィーーー」


ルビ子が誰に向かっての言葉なのか、そう呟いて顔を上げると同時に──ルビ子の腰に着いたボールから、


ルビィ「行くよ……! グラードン!!」
 「──グラグラルゥゥゥゥ!!!!!!」


真っ赤な巨体が飛び出してきた。


ルビィ「“ほのおのパンチ”!!」
 「グラルゥゥゥッ!!!!!」

 「ギシャラァァァッ…!!!」


ムシャーナが押さえていたギラティナに拳を叩きつけ──体勢を崩したところに、


ルビィ「“ヒートスタンプ”!!」
 「グラルゥゥゥ!!!!!」


グラードンと呼ばれたポケモンが、赤熱する足でギラティナを踏みつける。


 「ギシャラァァァァァ…!!!!!!」

かすみ「つ、つよ……」


ルビ子のグラードンが、ギラティナを圧倒していた。

そして、それと同時に──この不条理な世界の中で、これでもかと言わんばかりに、強く強く太陽が照り付けていた。


かすみ「さ、さっきまで太陽なんてあった……?」

彼方「あれはたぶん……グラードンが作り出した太陽だね〜……」

理亞「これが……伝説のポケモンの力……」


あまりに圧倒的な力に、3人で立ち尽くしてしまうけど──ギラティナもやられたままではない。


 「ギシャラァァッ…──」


グラードンの足の下でギラティナが一鳴きすると──ギラティナの体がドプンと影に潜り込んで消え、急に踏みつけていた対象がいなくなったせいで、グラードンの足が地面を割り砕く。
329 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:22:11.08 ID:9NVhM0zb0

かすみ「き、消えた!?」

理亞「ルビィ……! これ、“シャドーダイブ”……!」

ルビィ「うん、わかってる……!」

彼方「みんな! どこから、攻撃してくるかわからないから気を付けて!」


彼方先輩の指示で、全員周囲に気を配る。


かすみ「でも、気を付けてって言っても、影に潜られたらどうしようもないですよぉ〜……!?」


かすみんがそう言った直後、


 「──ギシャラアァァァァァ!!!!!!」


何もない空間から突然飛び出してきたギラティナが、グラードンの背後から襲い掛かる。


 「グラルゥッ…!!!!?」
ルビィ「グラードン!?」


亜空間から飛び出し、猛烈なスピードでタックルされたグラードンは体勢を崩す。そしてうつ伏せに倒れたグラードンに向かって──影で出来た大きな爪を振りかざす。


かすみ「“ソーラーブレード”!!」
 「カインッ!!!!」


それを邪魔するように、ジュカインが横薙ぎに振るう特大の“ソーラーブレード”でギラティナを攻撃する。


 「ギシャラァァァァ!!!!!」


ギラティナは、それを影で出来た爪──“シャドークロー”で受け止めますが、


 「グラルゥゥッ!!!!」


グラードンがその隙に背後に向かって、大きく腕を振るいながら立ち上がる。


 「ギシャラァァァッ!!!!」


ギラティナは、グラードンが振るう腕をすんでのところで飛び立つようにして回避する。

もうすっかり“じゅうりょく”の効果も切れて、空に逃げようとするギラティナ。


かすみ「逃がしません……!! “ソーラーブレード”!!」
 「カインッ!!!!」


今度は縦薙ぎの“ソーラーブレード”がギラティナの頭上に振り下ろされる。


 「ギシャラァァァァァ…!!!!!」


今度は直撃……! 脳天に攻撃を食らい、そのままギラティナが一瞬よろけ──そこに向かって、


ルビィ「グラードン!! “うちおとす”!!」
 「グラルゥゥッ!!!!」


グラードンの足元から──まるで意思を持ったかのように、大岩が飛び出し、ギラティナの真っ黒な翼に直撃する。


 「ギシャラァァァァッ…!!!!」
330 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:23:00.84 ID:9NVhM0zb0

大岩をまともに食らったギラティナの巨体が落下し、その衝撃で地面を割り砕く。

そして、そこに、


ルビィ「“だんがいのつるぎ”!!」
 「グラルゥゥゥゥ!!!!!」


大地から鋭い刃が飛び出し、ギラティナを斬り裂きながら、動きを封じるように交差する。


 「ギシャラァァァァァ…!!!!!!!」


ギラティナの苦悶の鳴き声が周囲を劈く。


理亞「これなら、捕獲出来る……!!」


理亞先輩が、ボールを構えた──まさに、そのときだった。

ギラティナの真上に──大きな空間の穴が生じ、


 「──ドカグィィィィィ!!!!!!!」

彼方「……!!?」
かすみ「へっ!?」
ルビィ「え!?」
理亞「なっ!?」


グラードンやギラティナよりもさらに大きな巨大で真っ黒なポケモンが──降ってきた。

そいつは大口を開け……ギラティナを拘束している、“だんがいのつるぎ”ごと──食べてしまった。


かすみ「え、ちょ、な、なに!!?」


あまりの急展開に混乱していると、


彼方「全員、一旦距離取って!!」


走ってきた彼方先輩が、かすみんの手を取って走り出す。


かすみ「は、はい……!?」


急に手を引かれたせいで、足がもつれそうになったけど、かすみん頑張って走ります。


理亞「あれ何!? ここにはギラティナとディアンシーくらいしかいないんじゃ!?」

ルビィ「る、ルビィにもわかんない!?」


かすみんたちを追いかけるように走る理亞先輩とルビ子も混乱している。


かすみ「あ、あいつ、なんなんですか!?」

彼方「あれは──ウルトラビーストだよ……! ウルトラビースト・アクジキング!!」

かすみ「ウルトラビースト!? やぶれた世界には来ないんじゃなかったんですか!?」

彼方「か、彼方ちゃんにもわかんないよ……!! でも、あれは間違いなくアクジキングだよ……!!」


彼方先輩の言葉を聞き、走りながら振り返ると──アクジキングは、腕と口の中から伸びた2本の触手を使って、割り砕いた地面を手当たり次第に口の中に放り込んでいる。


かすみ「じ、地面を食べてるんですか……!? というか、ギラティナも食べられちゃいましたよ!? どうするんですか!?」


かすみんが焦る中──今度はアクジキングの頭上の空間に穴が空き、
331 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:23:39.57 ID:9NVhM0zb0

 「ギシャラァァァァァァ!!!!!!」


ギラティナが飛び出して、アクジキングを襲撃する。


理亞「ギラティナ……!」

ルビィ「“シャドーダイブ”で逃げてたんだね……!」

 「ギシャラァァァァァァ!!!!!」


ギラティナは大きな爪で、アクジキングに襲い掛かりますが、


 「ドカグィィィィィ!!!!!」


アクジキングは触手の先に付いた大きな口で、ギラティナのボディを“かみくだく”。


 「ギシャラァァァァァァ…!!!!!」


ギラティナは悲鳴のような鳴き声をあげながらも、ガパッと口を開いて──


 「ギシャラァァァァァ!!!!!」


アクジキングに向かって、“りゅうのいぶき”を噴きかける。

が、


 「ドカグィィィィ!!!!!」


アクジキングはその“りゅうのはどう”すらも大口で吸い込み、


 「ドカグィィィ!!!!」


そのまま大きな巨体を乱暴にぶつけ、


 「ギシャラァァァッ…!!!!」


ギラティナを吹っ飛ばす。

気付けば、ギラティナとアクジキングの怪獣大戦争が始まっていた。


かすみ「な、なんなんですか、あいつ……!? ……そうだ、図鑑……!」


ここでかすみん、鞠莉先輩にウルトラビーストも認識出来るように図鑑を改造してもらっていたことを思い出します。

 『アクジキング あくじきポケモン 高さ:5.5m 重さ:888.0kg
  山を 喰らい 削り ビルを 飲みこむ 姿が 報告 されている。
  つねに なにかを 喰らっているようだが なぜか フンは 未発見。
  食べたもの すべてを エネルギーに 変えていると 考えられている。』


かすみ「山……!? ビル……!? あ、あいつヤバいですよ!?」


そんなことを言っている間にも、


 「ギシャラァァァァァ…!!!!!!」


先ほどの“ドラゴンダイブ”で怯ませたギラティナを、アクジキングが大きな触手で捕まえ、


 「ドカグィィィ!!!!」


自らの口の中に運ぼうとしていた。
332 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:24:20.09 ID:9NVhM0zb0

かすみ「ちょ、ヤバ……!?」


ギラティナを食べられるは不味すぎます……!!

かすみんは咄嗟に飛び出そうとしますが、それよりも早く──


理亞「オニゴーリ!!」
 「ゴォォォォーーーリッ!!!!!」


メガオニゴーリが空気中の水分を凍らせて、アクジキングの触手を氷で作り出した巨大な腕で掴んで止め、


ルビィ「グラードン!! “だんがいのつるぎ”!!」
 「グラグラルゥゥゥ!!!!!」


地面から突き出た巨大な断崖の刃がアクジキングを、斬り裂いた。


 「ドカグィィィ…!!!」


激しい攻撃に怯んだアクジキングは、その拍子にギラティナを捕まえていた触手が緩んだのか──


 「ギシャラ…!!!」


その一瞬の隙にギラティナが、逃げ出す。

逃げ出すや否や、口に“はどうだん”の集束を始め──


 「ギシャラァァァッ!!!!」


──それを、アクジキングに向かって発射する。

が、


 「ドカグィィィィィ!!!!!」


アクジキングは飛んできた“はどうだん”を大口で飲み込み、全身を使って氷の腕と“だんがいのつるぎ”をへし折り、折った先から口に運んで飲み込んでいく。


理亞「とりあえず、あいつがいたらギラティナを捕獲するどころじゃない……!」

ルビィ「先にアクジキングをどうにかしないと……!」

かすみ「彼方先輩! なんか、あいつの弱点とか知らないですか!?」

彼方「じ、実は彼方ちゃん……アクジキングと戦うのは初めてなんだよ〜……あんまり、見ない種類のウルトラビーストだから……しかも、超危険種なんだよ〜……」

かすみ「き、危険なのは見ればわかります……」


かすみんたちが話している間にも、


 「ギシャラァァァァァ!!!!!」

 「ドカグィィィィィ!!!!!!」


ギラティナとアクジキングは大きな鳴き声を轟かせながら、“りゅうのはどう”を撃ち合い、お互いを牽制している。


理亞「どっちにしろ、倒すか追い払うかするしかない……! ギラティナが食べられでもしたら、それこそ一巻の終わり……!」


こればっかりは、理亞先輩の言うとおりです。ここでギラティナを食べられちゃったら、せっかくここまで来たのに、それこそ手詰まりになっちゃいます……!


彼方「……もう、こうなっちゃったら、やるしかないよね〜……! みんな、まずはアクジキングをどうにかするよ〜!」
333 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:25:02.79 ID:9NVhM0zb0

──やぶれた世界での戦いは思わぬ乱入によって、次なる局面を迎えます……!





    👑    👑    👑





かすみ「ジュカイン!! “ソーラービーム”!!」

理亞「オニゴーリ!! “ウェザーボール”!!」

 「カインッ!!!!」「ゴォォーーーリッ!!!!!」


強い日差しによって、チャージを省略して即発射される“ソーラービーム”と、小さな太陽の塊のようなエネルギー弾が、アクジキングに向かって飛んでいきます。

が、


 「ドカグイィィィ!!!!」

かすみ「あーもう!! また、食べられましたぁーー!?」

彼方「口を狙うと食べられちゃうから、他の部分を狙うしかないよ〜!!」

かすみ「そんなこと言ってもほぼ口じゃないですか!?」


一方、ギラティナは、


 「ギシャラァァァァァ!!!!!」


アクジキングの頭部に向かって、“りゅうのはどう”を発射する。


 「ドカグィィィィ!!!!!」


それを相殺するように、アクジキングも“りゅうのはどう”を発射し、2つのエネルギーがぶつかり合って爆発が生じる。

2匹の大型ポケモンの攻撃は相殺の衝撃もすさまじく、


かすみ「わわっ!?」
 「カインッ」


爆風で吹き飛ばされそうになったところを、ジュカインが尻尾で受け止めてくれる。


かすみ「あ、ありがと、ジュカイン……」
 「カイン」

彼方「頭を狙って〜……“ムーンフォース”!」
 「ムシャァ〜〜」


今度は彼方先輩がアクジキングの頭部を狙い打ちますが、


 「ドカグィィィ!!!!」


発射された月のエネルギーは、アクジキングの大きな触手で強引に受け止められてしまいます。


彼方「相性はいいはずだから、ダメージはあるはずなんだけど〜……」

ルビィ「グラードン!! “だんがいのつるぎ”!!」
 「グラグラルゥゥゥ!!!!!」


今度はルビ子のグラードンが、再び“だんがいのつるぎ”で攻撃し、飛び出る大地の剣に一瞬怯みこそするんですが……。


 「ドカグィィィ!!!!!」
334 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:26:20.29 ID:9NVhM0zb0

またさっきと同じように、自分を突き刺す“だんがいのつるぎ”を触手でへし折って、食べ始める。


かすみ「もぉーーー!! ホントにあいつなんなんですかぁーーー!!!」

理亞「相手がタフすぎる……っ」

彼方「たぶん、こっちの攻撃を“のみこむ”でエネルギーに変換してるんだと思う……もっと一撃で体力を持ってかないと、何しても回復のためのご飯にされちゃってるよぉ〜……」

理亞「ルビィ、グラードンにもっと強い攻撃とかないの……!?」

ルビィ「え、えっと……グラードンは肉弾戦の方が強いから……だけど……近付いたら、食べられちゃうかもしれないし……」


ルビ子の言うとおり、あいつに食われたら終わりなせいで、近距離戦がほぼ封じられている。

それはかすみんたちだけでなく、


 「ギシャラァァァァ…!!!!」


先ほどからアクジキングの周囲を旋回しながら、“シャドーボール”や“りゅうのはどう”を撃っているギラティナも同様のようです。

そんなことをしている間にもアクジキングは自分の周りの地面を大きな足とトゲトゲの尻尾を割り砕き、それを片っ端から触手で掴んで食べまくっている。


かすみ「た、食べ飽きたらそのうち帰ってくれるとかは……」

彼方「この世界にあるもの全部食べ尽くしたら……帰るかも……」

理亞「そんなの待ってたらギラティナが食べられる……! 仕掛けないと……!」


話している間にも、


 「ギシャラァァァァ!!!!」


ギラティナが“シャドーボール”を放ちますが、


 「ドカグィィィィ!!!!!」


それに反応するように伸ばされたアクジキングの2本の触手が──特大の“シャドーボール”を真ん中から突っ切って、ギラティナの体に噛みつきます。

さらに“かみつく”によって、がっちりと食い込んだ触手は、強引にギラティナを自分の口へと引っ張っていく。


 「ギシャラァァァァ…!!!」

理亞「オニゴーリ!! “はかいこうせん”!!」
 「ゴォォォーーーーリッ!!!!」


理亞先輩のオニゴーリが、右の触手を“フリーズスキン”によって強化された“はかいこうせん”で凍り付かせ、


かすみ「ジュカイン!! “リーフストーム”」
 「カインッ!!!!!」


ジュカインがしっぽミサイルを発射──炸裂と同時に着弾点に巻き起こる“リーフストーム”で左の触手を弾きます。

そして、


ルビィ「グラードン!! “だいちのちから”!!」
 「グラルゥゥゥゥ!!!!!!」


グラードンが足を踏み鳴らすと──ボンッ!!! と音を立てながら、アクジキングの足元の大地が爆発します。


 「ドカグィィィィ!!!!!」


再び捕食の邪魔をされ、怯んだアクジキングの触手から逃れたギラティナは、


 「ギシャラァァァァ!!!!!」
335 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:27:19.86 ID:9NVhM0zb0

逃れた瞬間──発射した“はどうだん”をアクジキングの頭に直撃させます。


 「ドカグィィィ…!!!」


かすみ「やった……! 効いてますよ……!」

理亞「ギラティナのパワーなら、攻撃を食べられさえしなければ十分なダメージになってる……! このまま、ギラティナをサポートして──」


ですが、次の瞬間、予想外なことに──


 「ドカグィィィィ!!!!!」


アクジキングがこっちに向かって走り出してきた。


かすみ「ちょ!? こっち来ますよ!?」

 「グィィィィ!!!!!!」


こちらに走り込みながら、両手の触手を──グラードンに向かって伸ばしてくる。


ルビィ「!? コラン!! “リフレクター”!!」
 「ピピィッ!!!!」


咄嗟に前に出た、ルビ子のメレシーが壁を作り出して、触手を弾き飛ばす。

だけど、弾き飛ばされた触手は、またすぐにグラードンに照準を定めて──“ヘドロウェーブ”を発射してくる。


彼方「ムシャーナ! “ひかりのかべ”!!」
 「ムシャァ〜」


今度は彼方先輩がすかさず“ひかりのかべ”を展開して、“ヘドロウェーブ”は弾き飛ばします。


ルビィ「か、彼方さん、ありがとうございます……!」

彼方「どういたしまして〜♪」

かすみ「でも、あいつ急にグラードンを狙ってきましたよ!?」


そんな中で、


 「ギシャラァァァァァ!!!!!!」


ギラティナが“ドラゴンクロー”でアクジキングの背後から飛び掛かる。


 「ド、カグィィィィ!!!!!!」


さすがに背後からの攻撃には対応しきれず、地面を破壊しながら前につんのめりますが──


 「カグィィィィィ!!!!!」

 「ギシャラァァッ…!!!!」


トゲの付いた鉄球のような尻尾をブンと振り上げて、ギラティナを顎下から殴り飛ばします。


 「ギシャラァァァ…!!!!」


ギラティナは攻撃を受けながらも再び宙に逃げますが、アクジキングはまたギラティナに触手を伸ばして追い始める。
336 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:27:59.86 ID:9NVhM0zb0

かすみ「ま、またギラティナと戦い始めた……。さっきのはなんだったの……?」

ルビィ「グラードンが攻撃したから怒ったとか……?」

理亞「なら、なんでオニゴーリやジュカイン、ムシャーナには反応しないの?」

ルビィ「わ、わかんないけど……」

彼方「……そっか、エネルギーだ」


かすみんたちの疑問に彼方先輩が独り言を言うように答える。


かすみ「エネルギー……?」

彼方「アクジキングは常にエネルギーを摂取するために、ありとあらゆるものを食べてるけど……より大きなエネルギーを得ようとしたら、エネルギーを多く持ってるものを狙うはずでしょ?」

理亞「……そうか、ギラティナやグラードンみたいな伝説のポケモンは、他のポケモンに比べてエネルギーの量が多いから……!」

かすみ「もしかして……ギラティナとグラードン以外は狙われないってことですか……?」


考えてみれば、アクジキングから攻撃を受けているのはギラティナとグラードンだけです。

もちろん、近付いてたら食べられちゃうかもしれませんが……。


理亞「誰に優先して攻撃するのかがわかれば、やりようはある……! クロバット!」
 「──クロバッ!!」

ルビィ「理亞ちゃん、どうする気!?」

理亞「私がギラティナに飛んでくる攻撃を捌いてサポートする……! マーイーカはここに残って!」
 「マーイーカ」


理亞先輩は鞠莉先輩から貰ったヘッドセットのスイッチを入れながら、そう言う。


かすみ「ま、マーイーカ無しじゃめちゃくちゃな空間でギラティナをサポートすることになっちゃいますよ!?」

理亞「私はマーイーカ無しで、ここで戦闘した経験がある。どうにかする。その間に何か大きな一撃を叩きこむ方法を考えて。あと、天気は一旦“ゆき”で書き換えさせてもらうから」
 「ゴォォォーーリッ!!!」


そう言いながら、オニゴーリの使った“ゆきげしき”で天候が“ゆき”に変化する。


ルビィ「理亞ちゃん……。わかった! お願い!」

彼方「理亞ちゃん、気を付けてね……!」

理亞「うん。行くよ、クロバット! オニゴーリも付いてきて!」
 「──クロバッ!!!!」「ゴォォォーーリッ!!!!!」


理亞先輩がクロバットで飛び出すと同時に、オニゴーリも冷気を使って、巨大な足を作り出し、それを使って歩き出した。





    ⛄    ⛄    ⛄





クロバットで飛行を始めると──すぐにマーイーカの“ひっくりかえす”圏外に出たのか、重力がおかしくなる。


理亞「クロバット、落ち着いて対処。ここは重力が右斜め45度になってる」
 「クロバッ!!!」


体感を信じながら、逐一クロバットに指示を出し、


 「ギシャラァァァッ!!!!」

 「ドカグィィィィ!!!!」
337 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:29:01.26 ID:9NVhM0zb0

遠距離攻撃で相殺し合う2匹に接近する。

クロバットでギラティナの近くを通り過ぎると──


 「ギシャラァァァァ!!!!!」


ギラティナがこっちに向かって、“りゅうのはどう”を発射してくる。


理亞「……っ! ……回避!!」
 「クロバッ!!!」


クロバットはすぐさま、高速軌道でそれを回避する。


 「ドカグィィィィッ!!!!!」


アクジキングはギラティナが私たちに向かって攻撃した一瞬の隙を突いて、三たび触手を伸ばしてくる。

それを、


理亞「オニゴーリッ!!」

 「ゴォォォォォーーーリッ!!!!」


地上を進むオニゴーリが巨大な氷壁を展開し、触手の行く手を阻む。


 「ドカグィィィィィッ!!!!!」


分厚い氷の壁に触手が阻まれたアクジキングは、触手を使った“アームハンマー”で氷壁を割り砕く、が──メガシンカしたオニゴーリの冷気ならまたすぐに、壁を展開できる。


 「ドカグィィィィッ!!!!!」


それでも、アクジキングは氷を割り砕き、あくまでギラティナを攻撃しようとしている。

明らかに氷の壁を発生させているのはオニゴーリなのに。


理亞「やっぱり、アクジキングは大きなエネルギーに向かって攻撃してる……!」


これが確認出来ただけでも大きい。

私はクロバットに指示を出しながら、旋回しつつ、


理亞「ギラティナ!! こっちに来なさい!!」
 「クロバッ!!!」

 「ギシャラァァァァッ!!!!!」


氷の壁を回り込むように移動し、壁の切れ目からアクジキングが見切れた瞬間、


理亞「“かげぶんしん”!!」
 「クロバッ!!!!」

 「ギシャラァァァッ!!!!」


高速軌道の残像を作って、ギラティナの“シャドーボール”を回避する。

回避した攻撃はもちろんその先にいる──


 「ドカグィィィィィッ…!!!!」


アクジキングに直撃する。

攻撃が直撃したアクジキングは、ギラティナの姿を認識すると、
338 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:29:48.43 ID:9NVhM0zb0

 「ドカグィィィッ!!!!!」


またしても触手を伸ばしてくるが──


 「ゴォォォォリッ!!!!!」


それを再びオニゴーリの氷の壁で防ぐ。


理亞「これなら……どうにか、出来そう……!」





    👑    👑    👑





ルビィ「理亞ちゃんすごい……!」

かすみ「ギラティナの攻撃をアクジキングの方に誘いながら、アクジキングの攻撃がギラティナに届かないように防いでますよ!」


これなら、ギラティナがうっかり食べられちゃうみたいな心配もしなくてよさそうです……!


彼方「でも……その分、回復もされてる……」


珍しく眉を顰めながら言う彼方先輩。確かに、アクジキングは触手の進路を防ぐために作り出された氷の壁を、砕いた先から口に放り込んでエネルギーに変換している。


ルビィ「やっぱり……一撃で倒せるような、すごい攻撃を当てないとなのかな……」

彼方「うん……。避けながら攻撃を加えても、アクジキングの周りにエネルギー源がある以上、ジリ貧になっちゃう気がするよ〜……」

かすみ「その場からロクに動きもしないのに、めんどうなやつですねぇ〜……!! ……あれ?」


そこでふと、かすみんあることに気付きます。


かすみ「なんでアクジキングの周りは……重力が普通なんですか……?」


よくよく考えてみたら、かすみんたちはマーイーカのお陰で真っすぐ立っていられますが、アクジキングも同じようにその場に留まっていられるのはおかしい気がします。


彼方「たぶんだけど……ウルトラスペースで浴びたエネルギーの影響で、変なエネルギー場が生まれてて、ギラティナが干渉出来てないんだと思う……。ウルトラスペースからこっちに来るときも空間を捻じ曲げて来るくらいだから……」

かすみ「うーんと……? とりあえず、アクジキングにはこの世界の影響がないってことですよね……?」

彼方「そういうことかな〜……」

かすみ「……」


かすみんちょっと考えます。つまりアクジキングは重力の影響を普通に受ける……。

つまり、下に何もなければ落ちるし、上に何かあったら落ちてくるはず……。


かすみ「あの……一つ作戦を思いついたんですけど」

ルビィ「作戦……?」

かすみ「はい、えっとですね──」


かすみんが今思いついた作戦を、ルビ子と彼方先輩に伝える。


彼方「なるほど〜……確かにそれなら威力は十分……うぅん、十二分かも〜!」

ルビィ「グラードンは問題ないけど……」

かすみ「理亞先輩!! 今の作戦聞いてましたか!?」
339 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:32:48.24 ID:9NVhM0zb0

ヘッドセットに向かって訊ねかける。


理亞『聞いてた。でも、その作戦をするとなるとギラティナの協力が必要になる』

かすみ「はい! だから、どうにかしてください!」

理亞『まあ、やるしかないし、どうにかする』

かすみ「お願いします!」


さあ、一発逆転の一手……狙ってやりますよ!





    ⛄    ⛄    ⛄





かすみの無茶な作戦提案を受け、


理亞「クロバット! ギラティナに取り付いて!」
 「クロバッ!!!」


クロバットに指示を出し、攻撃を掻い潜りながら、ギラティナの頭部に降り立つ。


 「ギシャラァァァァァァッ!!!!!」


もちろん、頭の上に乗ろうものなら、ギラティナから激しく威嚇をされるわけだけど、


理亞「ギラティナ!!! 聞いて!!!」


私は声を張り上げる。


理亞「このままじゃ、アクジキングにこの世界をめちゃくちゃにされる!! ……一時的にでもいいから、アイツを追い出すために、協力して欲しい!」

 「ギシャラァァッ…!!!」


私の言葉がわかっているのかそうじゃないのか、ギラティナの動きが止まる。

そこに向かって──


 「ドカグィィィィィ!!!!!!」


しつこく迫ってくるアクジキングの触手を、


 「ゴォォーーーーリッ!!!!!!」


オニゴーリの作り出した氷の壁が阻む。


理亞「全力でサポートする。だから、お願い」

 「…ギシャラァァッ!!!!」


ギラティナは大きな赤い瞳で私を一瞥すると──


 「ギシャラァッ!!!!!!」


私を乗せたまま、大きな身をくねらせて、動き始めた。


理亞「了承と受け取るからね……!」
340 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:33:26.62 ID:9NVhM0zb0

私はギラティナへ指示を出し始める──





    👑    👑    👑





かすみ「……来た!」


頭上の遥か高い場所で──やぶれた世界の中にある浮遊大地が一ヶ所に集まり始めたのが見える。


理亞『ルビィ!!』

ルビィ「うん! グラードン! “だんがいのつるぎ”!!」
 「グラグラルゥゥゥゥ!!!!!」


グラードンが“だんがいのつるぎ”によって、大地に剣を突き立てます。

でも、今回はアクジキングの足元じゃない──アクジキングの頭上にある浮遊大地の底部分……!!


かすみ「彼方先輩!! 合わせてください!!」

彼方「任せろ〜!」

かすみ「ジュカイン!! サニゴーン!!」

彼方「ネッコアラ〜! カビゴン〜!」

かすみ・彼方「「“じならし”!」」
 「カインッ!!!」「ゴーーーン…」「コアッ!!!」「ゴンッ」


4匹が同時に“じならし”を発生させ、


 「ドカグィィィィィ!!!!!」


激しい揺れで、アクジキングの足を止める。


かすみ「ルビ子!! 外さないでよ!!」

ルビィ「うん!! 行くよ、グラードン!!」
 「グラグラルゥゥゥゥ!!!!!!」

ルビィ「“じわれ”!!」
 「グラルゥゥゥ!!!!!!」


雄叫びをあげながら、グラードンが両腕を思いっきり地面に叩きつけ──その衝撃で、大地に亀裂が走る。

その亀裂は、“じならし”で足の止まったアクジキングの真下まで走り──バキバキと音を立てながら、大地が真っ二つに広がっていく。


 「ド、ドカグィィィィ!!!!!」


足を取られ、さらに900kg弱の体重を支え切れず──アクジキングは落下を始める。

もちろんここにある大地は空中大地だから、それが割れればそこは空。

そして、割れた大地のすぐ下に見えるのは──また別の浮遊大地。

その大地には──すでに切り立った“だんがいのつるぎ”たちが剣山のように敷き詰められていました。

そうです、さっきの“だんがいのつるぎ”は上の大地の底面だけじゃなくて──下の大地の上面にも展開していたんです。


 「ドカグィィィィィッ!!!!!」


剣山の山に向かって落下するアクジキングに向かって、
341 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:34:02.70 ID:9NVhM0zb0

かすみ「理亞先輩!! やっちゃってください!!」

理亞『ギラティナ!! 今!!』

 「ギシャラァァァァァ!!!!!!」


上空に集まっていた巨大な浮遊大地が──重力に従って、落下を始めた。

もちろん、歯のように鋭く生えそろった“だんがいのつるぎ”を真下に向けながら──


 「ドカグィィィィィッ!!!!!?」


それはまるで──大きな大地の口が、アクジキングを喰らうような光景でした。


かすみ「悪食な大喰らいにはお似合いですよ!!」

 「ドカグィィィィィッ!!!!!!」


二つの大地が衝突した瞬間──衝突の衝撃で、聞いたこともないような轟音がやぶれた世界中を劈き、


かすみ「わひゃぁぁぁぁ!!!?」


発生した衝撃波で、かすみんの身体が宙に浮く。

そんな、かすみんを、


彼方「っと……!!」


ムシャーナの上に乗っかっていた彼方先輩が、キャッチしてくれる。


ルビィ「コラン!! “リフレクター”! “ひかりのかべ”!」
 「ピピッ!!!」


そして、サイコパワーで浮いているムシャーナ、マーイーカと、飛行するルビ子のオドリドリの周囲を包み込むように、衝撃を防ぐ2種類の壁を球状に展開される。


かすみ「た、助かった……」


最初から逃げるつもりで、グラードンの“じわれ”直後にポケモンたちを全員ボールに戻してましたけど……まさか、こんなとんでも威力になるとは……。


彼方「うわ〜……すごいことになっちゃったね〜……」

ルビィ「ぅゅ……アクジキングさん……死んじゃったんじゃ……」


優しいルビ子がアクジキングの心配をする。……た、確かに……ちょっと、やりすぎましたかね……?

そう思った瞬間──


 「──ドカグィィィィィィィ!!!!!!!!」

かすみ「っ!?」
ルビィ「う、うそ……!?」
彼方「マジか〜……」


大地を粉砕しながら、アクジキングが飛び出してきた。


かすみ「こ、これでも倒れないなんて……も、もう無理ですよぉ……!?」


さすがに、冷や汗が出てきた。

あれで倒れないなんて、もはや生き物なんですかあいつ!?
342 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:34:36.14 ID:9NVhM0zb0

かすみ「もう策なんてないですよっ!?」

 「ドカグィィィィィ…!!!!!」

かすみ「ぎゃーーーーーーっ!!? しかも、こっち見たぁぁぁぁぁ!!!?」


さっきまで、完全にかすみんたちのことを無視していたくせに、さすがに“げきりん”に触れてしまったらしい。


 「ドカグィィィィィィッ!!!!!」


アクジキングは大地を粉砕しながら、こちらに向かって踏み出した──直後、グラリと揺れ、


 「ドカ……グィィィィィ……」


そのまま、躓くように倒れて、動かなくなった。


かすみ「……あ、あれ……? た、倒れた……?」

ルビィ「……び、びっくりした……」

彼方「……さ、さすがにね〜……あれで耐えられてたら、彼方ちゃんもどうしようもないと思ってたよ〜……」


そう言いながら、ムシャーナがアクジキングの方へとゆっくり下降していく。


かすみ「ち、近付いてどうするんですか……!?」

彼方「もう、ウルトラスペースに還る体力も残ってないだろうからね。……こうする!」


彼方先輩はムシャーナの上から──クモの巣のようにネオン模様を張り巡らされた変わったモンスターボールを、アクジキングに向かって投げつけた。

ボールが当たると──パシュンとモンスターボール特有の音を立てながら、アクジキングは吸い込まれ……カツーン! と音を立てながら、大地の上に落ちたのだった。


彼方「アクジキング、捕獲完了っと〜……」

かすみ「お〜! さすがです、彼方先輩!」

彼方「それほどでも〜」

理亞「──のほほんとしてる場合じゃない!!」

かすみ「わぁっ!? り、理亞先輩……!?」


気付いたら、理亞先輩が声を荒げながら、かすみんたちのもとに降りてきていました。そして、その視線の先には──


 「ギシャラァァァ…!!!!」


かすみ「ぎ、ギラティナ……わ、忘れてた……!」


考えてみれば、一時的に協力関係を結んだだけで、ギラティナとは敵同士なんでした……!


ルビィ「グラードン!!」
 「──グラグラルゥゥゥ!!!!」


ルビ子が再びグラードンをボールから出し、かすみんたちの前に立ちます。


 「ギシャラァァァ…!!!!」

 「グラルゥ…!!!」


2匹がにらみ合い、緊張が走ります──が、


 「ギシャラァァァ」
343 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:35:08.86 ID:9NVhM0zb0

ギラティナは攻撃するどころか──そのままかすみんたちがいる大地に降り立って、静かにこっちを眺めているだけでした。


かすみ「あ、あれ……?」

理亞「攻撃……して、こない……?」

ルビィ「もしかして……」

彼方「一緒にアクジキングを倒したから……信用してもらえたのかもしれないね〜……」

 「ギシャラァ」

かすみ「……よ、よかったぁ……」


あんなとんでもポケモンのあとに、伝説のポケモンとの第二ラウンドなんて、シャレになりませんから……。

かすみんは安心して、その場にへなへなとへたり込んじゃうのでした。





    👑    👑    👑





理亞「ギラティナ。大きなピンクダイヤモンドがある場所……わかる?」
 「ギシャラァ」


理亞先輩がそう訊ねると──ゴゴゴッと音を立てながら、大地が動き出す。


かすみ「お、おお……全自動……」

彼方「動く歩道ならぬ、動く大地だね〜」

ルビィ「ギラティナさん、ありがとう♪」
 「ギシャラ…」


ルビ子が声を掛けると、ギラティナは身を屈め、ルビ子に頭を寄せる。

ルビ子はそんなギラティナの頭を撫でながらお礼を言う。今さっきまで、あんな戦いをしていた相手なのに、怖くないんですかね……?


かすみ「ルビ子って、普段あわあわしてるのに度胸ありますよね……」

理亞「ああ見えて、無鉄砲というか、変なところで無頓着というか……」

ルビィ「? どうかしたの?」

彼方「ふふ♪ ルビィちゃんは優しい子だよね〜って、お話ししてたんだよ〜♪」

ルビィ「そ、そうなの……?」


しばらく浮遊大地の上で待っていると──


かすみ「……! あれじゃないですか!?」


景色の遥か先に──ピンク色の光が見えた。


ルビィ「うん、そうだと思う……!」

理亞「本当にあったんだ……巨大なピンクダイヤモンド……」

彼方「ふぃ〜……見つけられて一安心だよ〜……」


大地はゆっくりとその輝きへと近付いて行きます。



344 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:35:48.09 ID:9NVhM0zb0

    👑    👑    👑





かすみ「……いや……嘘ですよね……?」


かすみんたちが遠方にピンク色の輝きを見つけてから、そこにたどり着くまで──たぶん、1時間くらい掛かった気がします。

そして、たどり着いたそこにあったのは──


かすみ「でっか……」


見上げるほどの高さのピンクダイヤモンドでした。


彼方「わ〜……これはすごいねぇ〜……」

ルビィ「ヒャッコクシティの日時計よりも遥かに大きい……」

彼方「果南ちゃんはここに来たときに、これを見たんだねぇ〜……」

かすみ「……と、とりあえず、ここにリナ子の基になった人の魂があるんですよね!」

理亞「仮説通りならね……」


とにもかくにも、これにてミッションは2つ完了です……!

やることはあと1つ……!


理亞「あとは……ディアンシーに会うことだけ……」


理亞先輩がそう言葉にする。


理亞「ルビィ、ディアンシーを探そう」

ルビィ「……」

理亞「……ルビィ?」

ルビィ「……ドキドキする……」

理亞「え……?」

かすみ「……まあ、ルビ子も女の子ですし、これだけ大きな宝石を見たらドキドキしちゃうのもわかりますよ。でも、かすみん的にはここまで大きいとちょ〜〜〜〜っと可愛くないかな〜って──もがっ!?」

彼方「かすみちゃん、今はちょっと静かにしてよっか〜?」

かすみ「んー? んーー??」


彼方先輩に口を塞がれる。

よく見たらルビ子は、胸の前で手を組んで、目を瞑っていた。


ルビィ「近くに……いる……」

理亞「……」

ルビィ「…………きっと……ここに来てからずっと……私たちを見てくれていた……」


ルビ子はゆっくりと目を開けて、


ルビィ「……ディアンシー様」


そう名前を呼ぶと、ピンクダイヤモンドが光り輝き──


 「──アンシー…」
345 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:36:33.33 ID:9NVhM0zb0

気付けば、ポケモンが居た。

ピンクに輝く宝石を全身に纏ったポケモン。その輝きは、今まで見たことのない強烈な輝きを放っていて──


かすみ「きれい……」


思わず言葉が漏れる。でも、他に言葉が出ないくらい、美しいポケモンでした。


ルビィ「ディアンシー様……お久しぶりです……」

 「アンシー…」

理亞「……ディアンシー……お願いがあるの」


そう言いながら、理亞先輩が前に出る。


理亞「ねえさまの……心を返して……ください……」


そして、頭を下げた。


理亞「ねえさまのしたことは許せないかもしれない……でも……私にとって、たった一人の家族で……かけがえのない人だから……」

 「…アンシー」


ディアンシーはふよふよと理亞先輩の目の前まで下りてくる。

理亞先輩が顔を上げたのを確認すると、ディアンシーは──首を横に振った。


理亞「…………。…………そっか」


理亞先輩は、ディアンシーから拒絶されて、顔を伏せる。


かすみ「理亞、先輩……」

理亞「…………まだ、足りないんだ……。……わかった、認めてもらえるくらいになったら……また来るから……そのときは──」

ルビィ「……違う。……ディアンシー様が言ってるのは……そういうことじゃない……」

理亞「え……?」


気付けば──ルビ子の瞳の中にピンク色の光が見えた。


ルビィ「…………はい。…………そもそも、心を奪ってなんかいない……?」

理亞「え……?」

かすみ「ルビ子、もしかして……?」

彼方「ディアンシーと喋ってる……?」


どうやら、ルビ子はディアンシーとお話をしているようだった。

……巫女って言っていましたし……たぶんそういうこと、ですよね……?


理亞「じ、じゃあ、ねえさまの心はどこに……!!」

ルビィ「…………いつも、そこに……?」

理亞「そこ……?」

ルビィ「…………そっか、そういうことだったんだ……」

理亞「……?」


ルビ子は理亞先輩に振り返り、
346 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:37:32.48 ID:9NVhM0zb0

ルビィ「聖良さんは……ずっと、理亞ちゃんの傍にいたんだ……」


そう言って、理亞先輩の上着のポケットを上から触った。


理亞「……!」


理亞先輩は目を見開いて、ポケットから──ピンク色のダイヤモンドの欠片を取り出した。


理亞「ここに……ねえさまが……?」

ルビィ「……ディアンシー様の力が聖良さんの心を身体から引き剥がしちゃったのは本当だけど……聖良さんは、ずっと……理亞ちゃんの傍にいたんだね……」

理亞「……そっか、そうだったんだ……っ……ねえさま……っ、……ずっと、そこにいたんだね……っ……私を見て……くれてたんだね……っ、……ねえさま……っ……」


理亞先輩は大事そうに、胸にピンクダイヤモンドの欠片を抱きしめながら──静かに涙を流したのでした。

その涙は……何故だか、宝石のように美しい涙に見えた気がしました。





    👑    👑    👑





さてあの後、かすみんたちはやぶれた世界に入ってきた場所まで、ギラティナに案内をしてもらって、


かすみ「──んべっ……!!」

ルビィ「ピギィ!?」

理亞「……っと」

彼方「彼方ちゃん、無事帰還〜」


そこにあった穴を通って、戻ってきたのでした。


鞠莉「……はぁ……はぁ……みんな……おかえりなさい……」

彼方「鞠莉ちゃん!? 大丈夫!?」


崩れ落ちそうになった鞠莉先輩に彼方先輩が駆け寄って、身体を支える。


鞠莉「へ、平気よ……さすがに、消耗したけど……」

ルビィ「鞠莉さん……ありがとう」

理亞「お陰で無事に帰ってこれた」


みんな鞠莉先輩にお礼を言ってますけど──


かすみ「それ、より、も……早く、かすみんの上から……どいて、くだ、さい……お、重い……」

ルビィ「あ、ご、ごめんね!? かすみちゃん!?」

理亞「ごめん。気付いてなかった」

かすみ「もう……酷いですぅ……」


かすみん、お洋服についた埃をぱたぱたと払いながら立ち上がります。


鞠莉「それで……結果は……どうだった……?」

理亞「……このボールにギラティナが入ってる」
347 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:38:08.00 ID:9NVhM0zb0

理亞先輩はそう言いながら、取り出したモンスターボールを鞠莉先輩に見せる。

ギラティナは今後もしばらく協力してもらうことになるため、ボールに入ってもらいました。

事情を説明するとすんなり捕まってくれましたし……ギラティナに協力関係を取り付けるというのは完璧ということで問題ないでしょう。


ルビィ「ピンクダイヤモンドも見つけました!」

理亞「ねえさまのことも……わかったから」

鞠莉「そっか……よかった……消耗した甲斐があったってものデース……」

彼方「鞠莉ちゃん、ありがとね〜。帰ったら彼方ちゃんがおいしいご飯作ってあげるよ〜」

鞠莉「ふふ……それは……楽しみデース」

彼方「詳しい報告は後にして……とりあえず、セキレイに帰ろう〜」

かすみ「はーい!」


やぶれた世界での戦いは、予想外のこともありつつ、大波乱でしたが──どうにかこうにか、全ての目的を達成し、オールオッケーな感じで終わりを迎えることが出来たのでした♪



348 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:38:46.13 ID:9NVhM0zb0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【忘れられた船】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥・ :● ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.74 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.68 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.66 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:228匹 捕まえた数:14匹


 かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



349 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 02:19:42.72 ID:0yMsBTVK0

 ■Intermission🎹



  「ニャ…」

 「遥ちゃん……!! こっち!!」

 「うん!!」


姉妹が大きなシップへと乗り込んでいく。


  「ニャァ〜…」


それを追って、シップへと乗り込んでいく。

──やがて、シップは発進し、異空間の中を突き進んでいくが……。

ドォンッ!!! と鳴り響く轟音と共に、激しい揺れに見舞われる。


  「ニャァァァッ!!!!?」


そのまま視界は……光に包まれた。


──
────


  「ニャァ…」


目が覚めたら、浜辺に居た。

起き上がって、歩き出した。

お腹が空いたら、“きのみ”を探して食べた。

食べたら、また歩き出す。


  「シャーーーボックッ!!!!!」

  「ウニャァーーーッ!!!!」


時に自分より大きなポケモンに襲われた。

頑張って戦って、倒したら……また歩き出す。

雨が降ってきた。でも歩く。

すごい日差しに照らされて暑くて仕方がない。でも歩く。

風が強くて吹き飛ばされそうになる。でも歩く。

雪が降ってきて凍えそうになる。でも歩く。

歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて……歩いて……。


 『──そっか。じゃあ、今は心の準備中なんだね』

 「うん、そんな感じかな」

  「ニャ…?」


声がした。初めて聞く声だけど、すごく懐かしい声だった。

近寄ってみる。
350 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 02:20:17.16 ID:0yMsBTVK0

 『……ん』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

 「? どうかしたの?」

 『野生のポケモンの反応』 || ╹ᇫ╹ ||

 「え? どこ?」

  「ニャァ」

 「わ、かわいい♪」

 『ニャスパー じせいポケモン 高さ:0.3m 重さ:3.5kg
  プロレスラーを 吹きとばす ほどの サイコパワーを
  内に 秘めている。 普段は その 強力な パワーが
  漏れ出さないように 放出する 器官を 耳で 塞いでいる。』

 「ニャスパーって言うんだね? おいで♪」

  「ニャァ」


すごく懐かしいけど、知らない。

知らないけど、すごく懐かしい。

──やっと……見つけた。……やっと、会えた──



 「ニャァ…」



──
────
──────


──また、夢を見た。


侑「…………」


ただ、1匹のポケモンが、大切な主人を想って──世界すら越えて会いに行こうとする……そんな夢……。

そっか……私がずっと見ていた、あの夢は……。


リナ『侑さん? また酔った?』 || ╹ᇫ╹ ||


今はまだホエルオーの上。ウラノホシに向かっての航海中。

シュラフの中で身を起こす私を見て、リナちゃんがそう訊ねてきた。


侑「……うぅん、なんでもないよ。ちょっと目が覚めちゃっただけ」

リナ『そう……?』 || ╹ᇫ╹ ||


私はシュラフの中で、腰に着けたボールの1つを……優しく撫でた。


侑「……きっと……もうすぐ、会えるから……」


そう独り言ちて……。


………………
…………
……
🎹

351 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:41:55.99 ID:0yMsBTVK0

■Chapter060 『リナと璃奈』 【SIDE Yu】





──無事航海を終えてウラノホシのたどり着いた私たちは、行きと同様、そこから“そらをとぶ”でセキレイへと移動。

私たちが飛び立って行ったツシマ研究の前に戻ってくると──


かすみ「──侑せんぱぁぁぁぁいっ!!」

侑「わぁ!?」
「ブイ!!?」


かすみちゃんが抱き着いてきて、尻餅をつく。


かすみ「遅いから心配してましたぁ……おかえりなさいです……」

侑「ふふ……ただいま、かすみちゃん」
 「ブイ♪」

リナ『ただいま♪』 || > ◡ < ||

かすみ「はい♪ リナ子とイーブイもおかえり♪」


子犬みたいに嬉しそうに笑うかすみちゃんの頭を撫でていると、


彼方「おかえり〜、侑ちゃん♪」


彼方さんも近付いてきて、私たちにいつものニコニコ笑顔を向けてくれる。


侑「はい! ただいまです!」

果南「ふふ、熱い歓迎だね♪」

鞠莉「果南、善子、曜も。お疲れ様」

善子「だーかーらー……!! 何度言えばわかるのよ!! ヨハネって言いなさいよ!!」

曜「あはは……」

鞠莉「それで……どうだった?」


鞠莉博士が果南さんにそう訊ねると、


果南「もちろん、完遂してきたよ。侑ちゃんの活躍でね♪」


そう言いながら、果南さんが親指で後ろを指差すと──


 「ウォーーーッ!!!!」


ウォーグルの足に括りつけた紐の先に、タライくらいのサイズの水槽があり、その中に、


 「フィー♪」


マナフィがいた。


果南「そっちは?」

かすみ「ギラティナ捕まえてきちゃいましたよ! こっちもミッションコンプリートです!」

海未「──両作戦、共に成功ということですね」


そう言いながら、海未さんが研究所の方から歩いてくる。
352 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:44:37.07 ID:0yMsBTVK0

海未「果南、曜、善子、侑。お疲れ様です」

善子「だーかーらぁー……!」

海未「セキレイの中央街で会議室を借りています。とりあえず、そちらへお願いします。ルビィと理亞もそちらで待っているので」

善子「聞きなさいよ!」

曜「はいはい、善子ちゃん行くよ〜」

侑「あはは……」


私たちは一旦、落ち着いて話が出来る場所へ移動します。





    🎹    🎹    🎹





海未「──さて……まずは皆さん、お疲れ様です。どちらの作戦も滞りなく進んだようで何よりです」


海未さんが全員を見回す。


海未「とりあえず、次の動きですが……」

果南「リナちゃんとマナフィをピンクダイヤモンドの場所に連れていく。だよね」

海未「はい。それが最優先になりますね。……なので、理亞。聖良の件については……」

理亞「そっちが終わってからで大丈夫。……ねえさまは、ちゃんとここにいるから」


そう言いながら、理亞さんはピンク色をした宝石を抱きしめていた。


海未「そう言っていただけると助かります。では、早速向かって欲しい……と言いたいところですが、マナフィ班は帰ってきたばかりで疲れているでしょうから、今日は休んでください」


海未さんの言葉で正直ホッとする。

リナちゃんのことは急いだ方がいいけど……さすがにくたくただし、ベッドで休みたい気持ちだった。


海未「侑もかすみも今日は一度、家に帰るといいでしょう」

善子「こっちに残る人は、私の研究所に泊まるといいわ。部屋は余ってるし」

鞠莉「ええ、そうさせてもらうわ」

ルビィ「ルビィと理亞ちゃんは……一旦自分の町に帰るつもりです。お姉ちゃんも心配してるだろうし……」

理亞「いつまでも自分の管轄を希さんに任せておくわけにいかないしね……」

曜「私も一旦セキレイの警固に戻ります。ことりさんはただでさえカバー範囲が広いんだから、私もサポートしないと……」

海未「わかりました。では四天王たちには私の方から連絡を入れておきます。では、明日の作戦は果南、鞠莉、善子、彼方、侑、かすみの6人でお願いします。……そういえば、マナフィはともかく、ギラティナは言うことを聞いてくれそうですか?」

鞠莉「それなんだけど……さっき、確認のためにギラティナをボールから出したら、姿が変わっていたの」

海未「姿が……ですか……?」

鞠莉「たぶん、やぶれた世界と違って、こっちの世界にいる間は、元の姿が維持できないんだと思うわ。そのときに、ギラティナからこれが落ちてきたんだけど──」


そう言いながら、鞠莉さんが大きな金属の塊のようなものを取り出す。
353 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:45:11.81 ID:0yMsBTVK0

ルビィ「えっと……すごく純度の高いプラチナみたいなものみたいです」

鞠莉「恐らく、ディアルガやパルキアの持っている珠とよく似たものだと思う。図鑑で調べたらこのギラティナの特性も“テレパシー”だったから、これがあれば、ある程度意思疎通が出来ると思うわ」

海未「なるほど……」

鞠莉「もちろん、使うには心身に負担がかかると思うから……ギラティナへの指示はわたしが出すわ。あくまでピンクダイヤの場所まで連れて行ってくれるようにお願いするだけだから、そんなに大変じゃないだろうけどね」

果南「最悪私も代われるし、その辺はどうにかなりそうだね」

海未「わかりました。では、そのようにお願いします。他に何かある方はいますか?」

彼方「そうだ〜! 大事なことがあったんだった〜!」


彼方さんがそう言いながら手を上げる。


彼方「やぶれた世界にウルトラビーストが出現したんだよ〜!」

海未「……確かに、帰還後の簡易報告でもそう言っていましたね」

かすみ「さすがのかすみんも、アクジキングが突然飛び出してきたときはビビりましたよ……」

彼方「捕まえたアクジキングは、国際警察の方に送ったけど……裏世界にまで来るとは思わなかったよ……」

鞠莉「……ただ逆を言うなら、それはピンクダイヤモンドにリナの“魂”がある説を強めてくれるわ」

侑「どういうことですか……?」

鞠莉「前に彼方が言っていたことによれば……リナのオリジナルの──璃奈さんはウルトラスペースの調査中に亡くなったんでしょ?」

彼方「うん。ウルトラスペースにいる最中にシップの事故でって、聞いて……あ、そっか」


そこまで言って彼方さんは自分で気付いたようだ。


鞠莉「そういうこと。もし、璃奈さんがウルトラスペースで消息を絶って、やぶれた世界で精神が見つかったんだとしたら……この2つの空間が完全に行き来が出来ないとなると、そもそもの話が成立しなくなっちゃうもの」

リナ『一応ウルトラスペースから、ここの表の世界を経由して、やぶれた世界に流れ着いたって説も0じゃないけどね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

鞠莉「まあ、どちらにしろ……明日、実際にリナと行ってみれば全部わかることよ」

海未「そうですね……。ただ、ウルトラビーストの襲撃があり得ることは、十分に警戒してください」

彼方「らじゃー!」

海未「他に何か話がある方はいますか?」


海未さんが見回しながら訊ねる。


海未「なさそうですね。……それでは、本日は一旦解散とします。あと、今回の作戦中はこちらを仮本部としていますので、こちらにはリーグの人間を配置しておきます。何かあったら、こちらまでお願いします。それでは皆さん、重ねてになりますが……作戦ご苦労様でした」


海未さんがそう締めくくり、『マナフィ捜索』、『やぶれた世界調査』の両作戦は解散となったのだった。





    🎹    🎹    🎹





──翌日。


鞠莉「それじゃ、始めるわよ。ギラティナ、出てきて」
 「──ギシャラ」


幽霊船を訪れた私たちは、


 「フィ〜♪」
354 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:45:50.99 ID:0yMsBTVK0

マナフィを連れて、やぶれた世界に向かおうとしていた。


彼方「ギラティナくん、よろしくね〜♪」

かすみ「お願いします〜!」

 「ギシャラ…」


ギラティナが一鳴きすると──空間に浮いていた裂け目のようなものがどんどん広がっていく。


善子「この大きさだと全員横並びでも入れそうね……」

鞠莉「ディアルガとパルキアだと2匹合わせても人一人通るサイズがやっとなのにね……。やっぱり、向こうはあくまでギラティナの世界なのね……。こんなの見せられると今までの苦労が馬鹿らしくなってくるわ……」

果南「まあまあ。今までの苦労のお陰で楽になったって考えればいいじゃん」

鞠莉「まあ……そうね。それじゃ、みんなやぶれた世界へ行きましょう」


私たちはやぶれた世界へ向かいます。


リナ『リナちゃんボード「ドキドキ」』 || ╹ᨓ╹ ||





    🎹    🎹    🎹





空間の裂け目を通って、目を開けると──摩訶不思議な空間が広がっていた。


侑「……地面が……浮かんでる……?」
 「ブイ…」

リナ『ありとあらゆる計器が異常な数値を示してる……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

かすみ「初めて来たときはびっくりしますよね……かすみんもびっくりしましたもん」

彼方「ねー。こんな世界があるなんてびっくりだよね〜」

かすみ「その割に、彼方先輩はすぐに順応してましたけどね……」


驚く私とリナちゃん。そして、すでに訪れたことのあるかすみちゃんと彼方さんは私たちの反応を見て、しきりに頷いていた。

一方で、


善子「なかなかそそる光景じゃない……ヨハネ好みの雰囲気だわ」

果南「あー……そうだ、確かに前来たときもこんな感じだった」

鞠莉「へー……こんな感じだったのね」


博士たちは、三者三様の感想を述べる。


果南「……言われてみれば、鞠莉はここ来たことないんだっけ?」

鞠莉「わたしはいつもGatekeeper役だったからね〜……まさか3年越しに来ることになるとは思わなかったわ」


鞠莉博士はそう言って肩を竦める。


かすみ「とりあえず、ピンクダイヤモンドのところに移動しちゃいましょう!」

彼方「ギラティナくん、引き続きお願いね〜」
 「ギシャラ…」


彼方さんがギラティナにお願いすると、足元の浮島が動き出す。
355 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:46:26.06 ID:0yMsBTVK0

果南「おー……あの見境がなかったギラティナが言うこと聞いてる……」

鞠莉「かすみと彼方には随分なついているみたいね。これなら、“はっきんだま”は必要なさそうかしら……?」

かすみ「かすみんたちはギラティナと一緒に戦った仲ですからね! 昨日の敵は今日の友ってやつです!」

彼方「ギラティナくん的には、理亞ちゃんとルビィちゃんの方が好きみたいだけどね〜」
 「ギシャラ」


ギラティナに導かれ、私たちはピンクダイヤモンドのもとへと赴きます。





    🎹    🎹    🎹





──動く浮島に乗って移動すること小一時間ほど……。


侑「……これが……ピンクダイヤモンド……」


私たちは、見上げるほど大きなピンクダイヤモンドのもとに辿り着いていた。


侑「ここに……リナちゃんがいるんだね」

リナ『……』 || ╹ᨓ╹ ||

鞠莉「時間も勿体ないし、早速始めましょう……リナ、心の準備はいい?」

リナ『うん、お願い』 || ╹ᨓ╹ ||


リナちゃんの声からも、少し緊張しているのが伝わってくる。


果南「侑ちゃん」

侑「はい。マナフィ」
 「フィ〜♪」


抱っこしていたマナフィを地面に下ろしてあげると、マナフィは宝石の方に歩いていく。


鞠莉「リナ」

リナ『うん』 || ╹ᨓ╹ ||


そして、リナちゃんは宝石とマナフィの間にふよふよと移動する。


かすみ「そういえば……マナフィの技で心を移し替えるって言ってましたよね?」

果南「うん、そうだよ」

かすみ「ってことは……今までのリナ子の記憶とか心は新しいのと入れ替わっちゃうんですかね……?」

鞠莉「大丈夫よ。リナが図鑑のボディになってからのことは、全てストレージに複製しているらしいから」

リナ『感情や記憶を動かしてる回路に外部からデータが入ってきたとき、自動的にストレージに複製した記憶領域にアクセスするように自己プログラムを組んでるからそこは問題ない。はず』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「えっと……よくわかんないけど、大丈夫ってことですよね?」

侑「……リナちゃんが大丈夫って言ってるなら、大丈夫だと思う」

リナ『うん、大丈夫』 || ╹ ◡ ╹ ||


……はずって言うのは……確証はないってことなのかもしれないけど……。

それは、リナちゃんの緊張している声を聞いていてもなんとなくわかる。

リナちゃんが何に緊張しているのかも。
356 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:47:38.17 ID:0yMsBTVK0

侑「リナちゃん」

リナ『? なぁに?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「何があっても……私と一緒に旅をしたリナちゃんのことは……私がちゃんと覚えてるから。大丈夫だよ」

リナ『……!』 || ╹ _ ╹ ||

侑「きっと……このピンクダイヤの中にあるリナちゃんの記憶は、心は……リナちゃんにとっても大切なもののはずだから。怖がらないで」

リナ『侑さん……うん……!』 || 𝅝• _ • ||


鞠莉「……ふふ。……リナのこと、侑に任せてよかったわ」

果南「ふふ、そうだね」

善子「まあ、私に見る目があったってことね、感謝しなさ──いたたっ!? マリー痛い!? 耳引っ張らないでよ!?」


侑「リナちゃん、始めるよ」

リナ『うん!』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「マナフィ、お願い!」
 「フィ〜〜♪」


私がマナフィにお願いすると……マナフィの触角の先がぽわぁっとピンク色に光り出し──それと同時に……リナちゃんとピンクダイヤモンド中から、虹色の球状の光が飛び出して──入れ替わった。


侑「…………」

かすみ「も、もしかして……今ので終わりですか……? 随分、あっさり……」

侑「リナちゃん」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||


リナちゃんはしばらく黙っていたけど、


|| ╹ᇫ╹ ||

|| ? ᆷ ! ||

|| 𝅝• _ • ||

|| ╹ _ ╹ ||

|| ╹ ◡ ╹ ||


何度も表情を切り替えたのち、


リナ『うん。……全部、思い出したよ』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんはそう言葉にして、私のもとに戻ってくる。


リナ『侑さん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「なぁに?」

リナ『全部話したいけど……あまりにたくさんあって……ここで全部話すのは難しい。だから、ちゃんとした場所で話したい』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん、わかった」

鞠莉「ええ、すぐに海未さんに連絡して、場を用意してもらうようお願いするわ」

リナ『うん、ありがとう。博士』 || ╹ ◡ ╹ ||


そして、リナちゃんはふよふよと移動し、彼方さんの前で止まって、


リナ『彼方さん……久しぶり』 || ╹ ◡ ╹ ||


そう言った。
357 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:48:21.75 ID:0yMsBTVK0

彼方「……! じゃあ、やっぱり……」

リナ『うん。……私の記憶は間違いなく、テンノウジ・璃奈を基に作られてる。ただ、私にわかるのは私が消えるまでのことまで。情報の補完がしたい。お話しするの、一緒に手伝って欲しい』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「うん……! もちろん……っ」


頷きながらも、彼方さんの目には涙が浮かんでいた。

死んでしまったと思っていた、かつての仲間との再会だもの……無理もないよね。

そして……リナちゃんとの再会を喜ぶのがもう1人──うぅん、もう1匹。

私の腰に着けたボールがカタカタと揺れ、


 「ニャァァァーーー!!!!!」


飛び出したニャスパーが、リナちゃんに飛び付いた。


 「ニャァァァァ…ッ、ニャァァァ…ッ」
リナ『ニャスパー……びっくりしたよ。ここまで追いかけてきちゃったの?』 || ╹ ◡ ╹ ||

 「ニャァァァ…」

彼方「え……じ、じゃあ、そのニャスパー……もしかして……」

侑「やっぱり……──リナちゃんのニャスパーだったんだね」

かすみ「え!? 嘘!?」

リナ『侑さん、知ってたの……?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「確証は持てなかったけど……ニャスパーと一緒に旅するようになってから、ずっと不思議な夢を見てたんだ」


いつもすごく低い目線で、誰かを追いかけていた。そんな夢──


侑「あれは……ニャスパーの記憶だったんだ」

リナ『……ニャスパーはエスパータイプだから、寝てるときに思念が侑さんに流れ込んじゃってたんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||
 「ニャァァァ…」

リナ『侑さん、今までニャスパーと一緒にいてくれてありがとう。“おや”として、すごく感謝してる』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うぅん、こちらこそ。ニャスパーにはすっごく助けられたから。ニャスパー、よかったね……やっと君を“おや”に会わせてあげられたよ」
 「ニャァ…」


今になって考えてみると……ニャスパーは確信を持てないながらも、リナちゃんに何かを感じていたから、よく目で追っていたんだと思う。


善子「……ポケモンが“おや”を探して……他の世界から渡ってきたってこと……?」

鞠莉「驚きを隠せないわね……」

果南「……でも、まだ驚くようなことがたくさんあるんでしょ?」

リナ『うん。何から話せばいいかわからないくらいたくさんある』 || ╹ ◡ ╹ ||

果南「なら、まずは帰還しよう」

鞠莉「ええ、そうね。……これからのことを、話し合うためにも……」


私たちは、リナちゃんの記憶を取り戻し──やぶれた世界から帰還するのだった。



358 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:49:10.20 ID:0yMsBTVK0

    🎹    🎹    🎹





──あの後、やぶれた世界から戻ってすぐに海未さんに連絡したところ、すでに用意が出来ていたようで、昨日借りていたセキレイの会議室へトンボ返りしてきた。


海未「まずは……無事にリナの記憶が戻ったと聞いて安心しています。ジムリーダーも四天王もあまり持ち場を離れられない状況なので……少人数での情報共有になってしまいますが……」

果南「その辺は海未がうまいこと纏めて、みんなに伝えてくれるんでしょ?」

海未「……他人事だと思って……」

果南「期待してるよ〜理事長〜♪」

海未「……はぁ……とりあえず、ここで得られる新しい情報を基に今後の方針を立てていくつもりです」

リナ『……まず、何から話せばいい?』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「そうですね……まず確認になりますが……リナ、あなたはテンノウジ・璃奈さんということでいいんですか?」

リナ『確かに私はテンノウジ・璃奈を基に作られている。それは間違いない。でも、私がテンノウジ・璃奈だと言うのは正確じゃない』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「正確じゃないというのは……?」

リナ『私はあくまでテンノウジ・璃奈の記憶と精神をベースに作られた劣化コピー品。大部分の記憶情報は元に戻ったけど、完全ではないし……何より肉体の情報は99.999%欠損したまま。人間にとって肉体の持っている情報量は大きい。だから、私を生物学的にテンノウジ・璃奈と断定するには、無理がある』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「……なんか、リナ子がへりくつみたいなこと言ってる……」

リナ『屁理屈じゃない。生物として同じ個体と言うにはあまりに定義から逸脱してる。だから、私をテンノウジ・璃奈であるとするのはおかしいって話』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「あはは♪ その考え方、ホントにリナちゃんだ〜♪」


彼方さんはそう言って嬉しそうに笑う。


かすみ「……侑先輩、リナ子なんかちょっとめんどくさい感じになってませんか……?」


一方で、かすみちゃんは隣に座っている私に小声で耳打ちをしてくる。


侑「まあ……リナちゃん、研究者だって話だし……きっと、リナちゃんにとっては大事なことなんだと思うよ」

かすみ「そういうもんなんですかねぇ……」

善子「そういうもんよ。学者にとっては定義って大事なものだから」


私たちの話が聞こえていたのか、隣のヨハネ博士がかすみちゃんに向かってそう答える。
359 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:51:00.87 ID:0yMsBTVK0

海未「わかりました。では、貴方はテンノウジ・璃奈の記憶と人格を持った……AIということでよろしいですか?」

リナ『相違ない』 || ╹ ◡ ╹ ||

海未「その上で……そうですね、貴方の精神がどうして、やぶれた世界のピンクダイヤモンドに宿っていたのか……説明は出来ますか?」

リナ『それを話すには、まず私の死因から話さないといけない』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……やっぱり……そのリナちゃんというか……璃奈さんは……」

リナ『うん。生物学的には間違いなく死んでると思ってもらって差し支えない』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「え、えっと……死因は……ウルトラスペース航行中に起こった、ウルトラスペースシップの一部が爆発したことが原因って、彼方ちゃんは聞いてるんだけど……」

リナ『……それを原因と言うには、少し雑すぎるかも……。報告って愛さんがしたんじゃないの?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「愛ちゃんは……あの事故のあと、塞ぎ込んじゃって……事故の報告は、組織の上の人が愛ちゃんから聞いた話を基にしたって……」

リナ『なるほど……確かに、愛さんじゃないとパッと概念を理解するのは難しいかったかも……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

彼方「それじゃ……爆発事故じゃなかったってこと……?」

リナ『うん。正確には、爆発で死んだというよりは……ウルトラスペース内の特異点の中で、情報レベルでバラバラになったって言うのが正しい』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「情報レベルでバラバラになった……? どういうことかしら?」

リナ『テンノウジ・璃奈と愛さんは、ウルトラスペースの研究を進める中で、ウルトラスペース内に特異点と呼べるレベルでエネルギーが集中している領域を発見した。その近くに赴いた際にエンジントラブルで……その特異点の重力に捕まって逃げられなくなった』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「とくいてん……? って何……? 重力ってことはすごい引っ張られてたってこと……?」

リナ『簡単に言うならそんな感じ。──脱出が困難だと思った璃奈は……無理やりその場で宇宙船の分離機構を改造して、愛さんだけでも助けるために、切り離した後部倉庫を爆発させて、その反動で愛さんの乗っていたシップを特異点の重力圏から無理やり脱出させた』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……じゃあ、璃奈さんは……」

リナ『……爆発の制御を間違えたら、愛さんの乗っているシップすら重力圏から逃がすのが難しかった。だから私は後部に残って、自分の乗ってた倉庫を爆発させた』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「…………」

彼方「そういう……ことだったんだ……。……そりゃ、愛ちゃん……ふさぎ込んじゃうよ……」


つまり璃奈さんは……身を挺して愛ちゃんを助けたということだ。

……愛ちゃんからしてみたら、自分がいたから璃奈さんが死んでしまったんだって……そんな風に思ってしまっても無理はない。


善子「でもさっき、爆発は直接的な死因じゃないって言ってなかった?」

リナ『うん。実は、爆発で身体が焼けるよりも前に……特異点の重力で私の身体は情報レベルでバラバラになった。それが直接的な死因』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「すみません、その……情報レベルでバラバラになったというのがよくわからないのですが……」

リナ『特異点の重力はあまりに大きすぎて、本格的にそれに捕まったら普通の物質はその形を保てなくなる。分子も原子も、それどころか光も……なにもかも……』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「……ブラックホールに吸い込まれると、似たような現象が起こると考えられているわ。もちろん、今のわたしたちの世界の技術ではそれを実際に観測することは出来ていないんだけど……」

かすみ「……かすみん……もう頭痛くなってきましたぁ……」

善子「確かにかすみにはちょっと難しい話かもね。……それで、情報レベルでバラバラになったのはとりあえず理解したけど……それをどうやって今の形にしたの……?」

リナ『……正直ここから先は憶測になるんだけど……ウルトラスペースの特異点は収縮と発散を繰り返している。……発散の際に情報の粒子みたいなものが飛び出して、スペース内を漂っていたんだと思う。思念……って言えばいいのかな……。それが、いろんな世界を旅しながら……引き寄せられるようにして、心のエネルギーをため込む場所に蓄積されていったんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「それがやぶれた世界のピンクダイヤモンドだったってこと……? じゃあ、やっぱり……やぶれた世界もウルトラスペースと繋がることがあるんだ……」

リナ『繋がることがあるというか……やぶれた世界の方がウルトラスペースに近い位置にある世界だから。どっちかというと、道理かも』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

鞠莉「そうなの……?」

リナ『ウルトラスペースは時間や空間を超越した高次元空間なんだけど……ギラティナが作り出したやぶれた世界も似たような作りをしている』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「つまり……もともとやぶれた世界にあったピンクダイヤモンドには、リナの思念が集まりやすい条件が揃っていた……」

リナ『そういうことだと思う。そして、ピンクダイヤモンドの中で……私は思った。また、みんなに会いたいって』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「リナちゃん……」

リナ『そんなとき……偶然すぐ近くに、電波を発している物体が近づいてきた。だから、私はその電波の発信源に向かって自分の原始的な情報を乗せて、忍び込ませたんだ』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「それが……果南のポケモン図鑑だったってわけね……」

リナ『うん。その後は博士が考えていたとおりだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
360 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:51:46.11 ID:0yMsBTVK0

つまり、まとめると……璃奈さんは愛ちゃんを助けるために、ウルトラスペース内でバラバラになって……バラバラになった璃奈さんの思念が──やぶれた世界のピンクダイヤモンドにたどり着き……そこに居合わせた果南さんのポケモン図鑑に自分の一部を侵入させた……ということらしい。

そして、その後……鞠莉さんのポリゴンZのバグ取りをして、自分の存在を気付かせ、図鑑に組み込んでもらい……いつか自分の完全な記憶が宿っているピンクダイヤモンドにたどり着いてくれるように、わざと不自然な状態の記憶を持った“リナちゃん”という存在を作りだした……。


海未「……にわかには信じがたい話ですね」

リナ『それには私も同意する。情報レベルでバラバラになった存在が一ヶ所に集まれるとは思えない。……だけど』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「だけど……?」

リナ『愛さん風に言うなら……私の情報全てが、みんなにまた会いたいって思っていたから、あそこにたどり着けたんだと思ってる』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「……ふふ、確かに愛ちゃんが言いそうだね」

かすみ「あ、かすみんそういうのなんて言うのか知ってるよ!」

リナ『なんて言うの?』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「想いが起こした奇跡って言うんだよ!」

リナ『想いが起こした奇跡……うん、そうかも』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんはかすみちゃんの言葉に頷く。


海未「……リナ、貴方がどういう存在かは理解しました。……その上で、以前所属していた組織について……私たちに教えてくれますか……?」

リナ『もちろん。そのために、私はここにいるんだもん』 || ╹ ◡ ╹ ||

善子「あーちょっといい?」

リナ『何?』 || ? _ ? ||

善子「璃奈はその……亡くなるそのときまで、その組織とやらに属してたのよね? それなのに、私たちに情報を提供するのは裏切り……みたいにならない?」

リナ『確かにそうだけど……私と愛さんは組織のやり方にあまり賛成してなかった。やろうとしてることが強引すぎたから』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「それは……以前彼方も言っていたように、他の世界を滅ぼそうとしている……という話ですか?」

リナ『うん。私たちはその方針にはずっと同意しかねていた。だから、他の方法を模索するためにウルトラスペースを調査していたんだけど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「その最中、璃奈さんは事故に遭って亡くなってしまった……」

リナ『そういうこと。だから、ここで組織について情報提供することは、結果として私の目的とも一致する』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「じゃあじゃあ、リナ子は全面的にかすみんたちの味方ってことでいいんだね!」

リナ『もちろん!』 ||,,> ◡ <,,||


私はそれを聞いて、正直ホッとしていた。

もしオリジナルの璃奈さんが、果林さんたちのいる組織側であったなら、私たちへの協力も情報提供もしてくれなかった可能性があったし……。

なにより……リナちゃんと敵同士になんて、なりたくなかったから……。


鞠莉「果林たちの組織が他世界を滅ぼそうとしていたのって……確か、自分たちの世界の再興のためって話だったわよね?」

リナ『うん、あってる』 || ╹ ◡ ╹ ||

鞠莉「なら、聞きたいんだけど……どうして、あなたたちの世界は滅びかけてるの……? 住む場所がほとんど残ってないって話だったけど……」

リナ『それは簡単。あの世界がエネルギーを保持する力を失いつつあるから』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「エネルギーを保持する力……? 世界の持ってるエネルギーが減るってこと……? エントロピーの話……?」

かすみ「えん……とろ……? え……侑先輩、わかりますか……?」

侑「えっと……よくわかんないけど……とりあえず、聞いてみよう」


たぶん、科学者の領分だから口を挟んでもややこしくなりそうだし……。
361 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:54:06.25 ID:0yMsBTVK0

リナ『あってるけど、たぶんヨハネ博士の考えてる範疇の話だと間違ってる』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「……。……世界の中で起こるレベルのエントロピー増大じゃないと……?」

鞠莉「それだと、エネルギー保存則と矛盾しないかしら?」

リナ『しない。そもそもエネルギー保存則は各々の世界レベルじゃなくて、全宇宙……うぅん、もっと広い範囲でやり取りされるエネルギーの総量が一定って話』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「あー……なるほど。虚数領域にエネルギーが落ち込むとか、そういう方向性ね……。でも、なんでそんなことが目に見える形で起こるのよ?」

リナ『わかりやすくいうと、私たちの世界自体の経年劣化』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「経年劣化……? つまり、長く続きすぎた世界だから、委縮してるってこと?」

リナ『うん。簡単に言うとそういうこと……というか、そもそも世界は基本的にはビッグバンによるインフレーションから始まって、そこからどんどんエネルギーが外に漏れ出ていく。問題はそれが急速に進行してること』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「なんで急速な進行が起きてるの……?」

リナ『世界とウルトラスペースの境界面に穴が空いて、世界のエネルギーが流出するから』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「なんで穴が空くのよ」

リナ『世界とウルトラスペースの境界面を形作ってるのが、そもそもエネルギーで出来てるからかな。あまりに世界が長く続きすぎると境界面のエネルギー層がその形質を保てなくなる』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「Ozone holeみたいな……?」

リナ『イメージとしては近い。違いとしては、オゾンは惑星内部で作られるけど、エネルギーは新しく生成されない。熱力学の第一法則があるから』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「進行を防ぐ方法は?」

リナ『流出してるし、新しく作り出せないんだから、流出量より多くのエネルギーを外から持ってくるしかない』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「それが他の世界を滅ぼすってことなの……?」

リナ『正確には他の世界からエネルギーを流入させるには、滅ぼすのが一番早いって話かな』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「だぁぁぁーーーー!!! もう無理!!! もう限界です!!! もっとわかりやすい言葉で話してくださいよ!?」


かすみちゃんがついにキレた。

とはいえ、私も全然わからないし……もう少し噛み砕いた説明が欲しいかも……。


善子「あらかた話が終わったら、わかりやすく説明するつもりだったんだけど……マリー」

鞠莉「OK. 」


鞠莉さんは突然、自分の荷物の中から“ふうせん”を取り出して、携帯式のエアポンプで膨らませ始める。


鞠莉「まずこれが世界だと思って頂戴」

かすみ「は、はい……」

善子「んで、この中に存在している空気がエネルギーよ」

鞠莉「ただ、この“ふうせん”の中の空気はずっとこのまま放置しておくとどうなりマースか?」


経験則から考えるなら……。


侑「ちょっとずつ空気が抜けてしぼんでいく……?」

鞠莉「イエース! そのとーりデース!」

善子「それが経年劣化による世界の萎縮の仕組みって話ね」

果南「でもそれって、どんな世界にも起こることなんじゃないの?」

善子「ええ。だから、問題はこの世界に──」


ヨハネ博士は机の上に置いてあったペンを持って──それをぶっ刺した。


善子「穴が空いてるのが問題」


もちろん、ペンが刺さった“ふうせん”は音を立てて破裂してしまった。
362 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:55:15.99 ID:0yMsBTVK0

善子「仮にこんな風に無理やり穴を空けたんじゃなかったとしても、徐々に表面のゴムが劣化し、目に見えないような小さな穴が空いていってどんどん萎む速さは加速していく。これと同じようなことが起こってるってわけ」

彼方「あの〜……エネルギーが抜けていっちゃうってことはわかったんだけど〜……それが起こるとどうして彼方ちゃんたちの世界は住む場所がなくなっちゃうの〜……?」

リナ『エネルギーが失われると、最終的には分子間力も失われていく。そうすると物質は結合を保てず原子レベルでバラバラになるし、そうすると大地は崩れ落ちて、空気や水は生物にとって有毒なものになる』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「えっと……?」

鞠莉「イメージしづらいかもしれないけど……そもそも、エネルギーがないと物体は存在出来ないって話かな」

善子「これ以上は専門知識がないと説明出来ないから、そういうものとしか言えないわね……」

彼方「とりあえず、彼方ちゃんたちの世界はそれが理由でどんどん住めなくなっちゃったってことだね〜……」

リナ『その理解で概ねあってる』 || ╹ ◡ ╹ ||


やっとなんとなくだけど……意味がわかってきたかな……?

そんな中、ヨハネ博士が次の話題を切り出す。


善子「んで……。……なんで、それで私たちの世界を滅ぼすと、そっちの世界が救われるの?」

リナ『ある世界のエネルギーが流出したら、流出したエネルギーは次にどこに行くと思う?』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「え?」


質問を質問で返され、ヨハネ博士は顎に手を当てて考え始める。


善子「ウルトラスペースに流出して……ウルトラスペース中にエネルギーが充満する……?」

リナ『充満したエネルギーは何に使われると思う?』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「…………そういうことか。……世界がエネルギー流出によって委縮したら、それによってウルトラスペース内に溢れた余剰エネルギーで──……新しい世界が生まれる」

リナ『そういうこと。そうやってウルトラスペース内でエネルギーは循環してる』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「なるほどね……新しくてエネルギーが豊富に溢れている後発の世界から、無理やりエネルギーを流出させて滅ぼしちゃえば……ウルトラスペース内にエネルギーが溢れかえることになる……」

善子「自分たちの世界の周辺に溢れるエネルギーが増えれば、ウルトラスペース内のエネルギー圧が大きくなるから……自分たちの世界の萎縮を遅らせることが出来る……。理屈はわかった……でも、それってキリがないんじゃない? 周辺の自分たちのものより新しい世界を片っ端から滅ぼし続けないといけないわよ?」

リナ『でも、私たちの世界の上層部はそれを実行しようとしている。だから、私と愛さんはずっと反発してた』 || 𝅝• _ • ||

鞠莉「Oh...crazy...」

善子「もう貴方たちの世界自体になりふり構ってる余裕がないってことね……」

リナ『そういうこと』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんや博士たちによる難しい話に対して、海未さんが発言する。


海未「……恐らくなのですが、今の話の大半はあくまで理論の話ですよね? 重要なのは彼らの世界にエネルギーを取り戻すためには、他の世界からエネルギーを消失させる必要がある……という理解でよろしいでしょうか」

リナ『うん、それであってる』 || ╹ ◡ ╹ ||

海未「では、彼女たちは具体的にどのようにして他世界を滅ぼそうとしているんですか? 先ほどの“ふうせん”の例えどおりに考えるなら……無理やり世界に穴を空けるということでしょうか?」

リナ『海未さんは理解が早い! それであってる!』 || > ◡ < ||

海未「ふむ……? では、どうやって穴を?」

リナ『それは簡単。もう私たちはウルトラスペースとこの世界の境界面に、穴が空く現象を既に見てる』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんの言葉を受けて、かすみちゃんが可愛らしく顎に人差し指を当てながら考え始める。
363 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:56:13.97 ID:0yMsBTVK0

かすみ「穴…………穴……? ……あっ! ウルトラホールだ!! ウルトラビーストがこっちに来たり、還ったりするときに空くやつ!」

リナ『かすみちゃん、正解!』 || > ◡ < ||

善子「……そういえば、そもそもどうしてウルトラビーストはウルトラホールから出現するの?」

リナ『ウルトラビーストは体に多くのエネルギーを溜め込む性質があって、その強いエネルギーでウルトラスペースと世界の境界面に穴を空けて侵入してくるんだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「なんでそこまでして私たちの世界に来るのかしら……?」

リナ『それは正直迷い込んでるだけかな……野生のポケモンがたまに街に迷い込んでくるのと同レベルの話』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

善子「はた迷惑な野生ポケモンね……」

鞠莉「つまり……ウルトラビーストがNeedle──この世界に穴を空ける針の役割を担っている。もし、それの数を意図的に増やせるとしたら……」

侑「……そうか……! だから、歩夢を連れ去ったんだ……!」

彼方「そっか……歩夢ちゃんの力でウルトラビーストをたくさん捕まえて〜……」

侑「私たちの世界に一斉に送り込むことで……私たちの世界を穴だらけにして、世界からエネルギーを流出させる……!」

海未「やっと真相が見えてきましたね……」


海未さんの言うとおり、果林さんたちが何をしようとしているのかが、やっと理解出来るようになってきた。


海未「……ただ、わかったところで、彼女たちのもとに辿り着けなければ意味がありません……リナ」

リナ『なに?』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「ウルトラスペースとやらを航行するには、ウルトラスペースシップというものがないといけないんですよね?」

リナ『うん。ウルトラスペースは強いエネルギーに満ちてるから、生身で長時間いるとかなり危険。ウルトラスペースシップみたいなエネルギーを遮断できる乗り物に乗るか……あとはウルトラビーストみたいな強いエネルギーを持ってるポケモンで中和しないといけない』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「彼方、ウルトラビーストを借りるというのは……」

彼方「う、うーん……彼方ちゃんは国際警察に保護されてるだけで、職員ってわけじゃないから……そういうのは難しいかも……」

鞠莉「そもそも、こんな事態になるまで存在を隠していたくらいなんだから……よっぽど知られたくないんだと思うし、国際警察からウルトラビーストを借りるって言うのは現実的じゃないと思うわ……」

彼方「……こんなことなら、アクジキングを引き渡さなければよかったよぉ……」

海未「そうなると……やはり、ウルトラスペースシップを作るしかないようですね……。リナ、作ることは出来ませんか……?」

リナ『作り方は教えられるけど、この世界の今の技術レベルだと、数年は掛かるよ』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「…………そんな猶予はない……」

かすみ「え、まさか……ここまで来て手詰まりですか……!? リナ子の記憶が戻れば、全部解決すると思ったのに……」

リナ『うぅん、まだ方法はあるよ』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「……本当ですか……? でも、ウルトラスペースにいる果林たちを追いかけるには、ウルトラスペースシップしか……」

リナ『そうじゃなくて……果林さんたちはウルトラスペースにはいないはずだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「……はい?」


海未さんがリナちゃんの言葉にポカンとした表情になった。


侑「でも、果林さんたちはウルトラスペースシップで航行してるんじゃないの……? そのために、コスモッグからエネルギーを集めてたって……」

リナ『移動はウルトラスペースシップだと思う。だけど、ウルトラスペースに長期間滞在するのはリスクがとてつもなく大きい。だから、普通はどこか小さな世界でいいからウルトラスペースの影響が少ない場所に降りて、そこを拠点にする』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「あ、そっかぁ! ウルトラスペースにいないなら、かすみんたちもウルトラスペースに行く必要ないじゃん!」

善子「……そんなわけないでしょ」

かすみ「はぇ?」

善子「仮にウルトラスペースにいないとしても、ウルトラスペースを経由しないと、果林たちが拠点にしてる世界にもいけないでしょ……」

かすみ「……はっ!」

彼方「せめて、ウルトラスペースを経由しないで、果林ちゃんたちがいる世界に移動が出来れば〜……」

リナ『出来るよ?』 || ╹ᇫ╹ ||
364 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:57:22.54 ID:0yMsBTVK0

── 一瞬、場が静まり返る。


海未「ほ、本当ですか……!?」

善子「でもどうやってそんなこと……!?」

リナ『直通のゲートを繋げればいいだけだよ』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんはあっけらかんと言う。


善子「それが出来れば苦労は……」

リナ『そもそも、ウルトラスペースって言うのは、私たちの世界よりも高次元に存在する亜空間のこと』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「……Hm?」

リナ『時間や空間がねじれ曲がってて……ウルトラスペースシップがないと人や普通のポケモンは留まることすら出来ないけど……。逆を言えば、時間や空間を制御出来れば出入口を強引に繋げることだって出来るはずでしょ?』 || ╹ ◡ ╹ ||


時間や空間……? どこかで聞いたような……?


侑「……あ」

鞠莉「ディアルガと……パルキア……」

リナ『そういうこと。しかも私たちは、ウルトラスペースにアクセスしやすい場所も知ってる!』 || > ◡ < ||

果南「……! そっか、やぶれた世界……!」

リナ『ディアルガ、パルキア、ギラティナの3匹を持ってるんだから、直通のホールを繋げることは可能なはずだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

善子「ま、マジで……?」

リナ『マジマジ』 || > ◡ < ||

鞠莉「でも、繋ぐ方法はあっても、果林たちの居場所がわからないとたどり着けないんじゃない……? まさか虱潰しにあちこちの世界に行くわけにもいかないでしょうし……」

リナ『向こうに歩夢さんとしずくちゃん……それに千歌さんもいるでしょ』 || ╹ ◡ ╹ ||

海未「はい……そもそも、彼女たちを助けに行くという話なので……」

リナ『あの3人はポケモン図鑑を持ってる。ディアルガ、パルキア、ギラティナの力を借りれば、図鑑の持ってる固有シグナルを探知することも出来るはずだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

善子「マジで……?」

リナ『マジマジ』 || > ◡ < ||

鞠莉「……ウルトラスペース内でも電波は感知出来るの……?」

リナ『もちろん、とんでもなく減衰するから、ウルトラスペース内を検索しても意味ないけど……3匹の力を借りて、いろんな世界にアクセスしながら歩夢さんたちの図鑑の反応があるかを調べればそんなに時間は掛からないはずだよ。そうでなくても、果林さんたちのシップにはコスモッグを探索するためのセンサーが詰まれてるから、それを逆探知すれば居場所を把握するのは容易。そのための探索プログラムは私ならすぐにでも作れるし』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「じゃあ……!」
 「ブイブイ♪」

かすみ「かすみんたち……しず子や歩夢先輩たちのことを助けに行けるんだね!」

リナ『うん!』 || > ◡ < ||


やっと現実的に歩夢たちを助けに行く方法がわかった……!


海未「リナ、そのプログラムで探すのにはどれくらいの時間を要しますか。加えてゲートを直通させるということについても」

リナ『こっちで演算をするから……探索は長くても2日で終わらせる。ゲート直通はミスしたら生死に直結することだから慎重にやるとして……それでも1週間もあればどうにか出来る』 || ╹ ◡ ╹ ||

海未「わかりました。必要なものはこちらで全て用意します。言ってくださればすぐに手配しますので……!」

リナ『助かる』 || > ◡ < ||

海未「皆さん、他に何か話したいことはありますか? なければ、実際に千歌及び歩夢、しずく……そして、せつ菜を奪還するための人員の調整を今から始めます……!」

果南「話すことはもうないでしょ。あとは、やるべきことをやるだけだよ」

海未「そうですね……! では、私は早速調整に取り掛からなければいけないので、失礼します……!」


そう言って、海未さんは珍しく慌ただしい様子で、会議室から出ていった。
365 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:58:24.84 ID:0yMsBTVK0

果南「海未……千歌を助けられるってわかったら、突然元気になっちゃってまあ」

彼方「ずっと心配してたみたいだもんね〜。海未ちゃんも希望が見えてきて嬉しいんだよ〜きっと〜」

善子「とりあえず……海未から次の動きがあるまでは待機かしらね。あの調子だとすぐに指示がありそうだけど」

かすみ「か、かすみんは……休憩したいです……休まないと……頭使いすぎで……死んじゃいますぅ……」

彼方「ふふ、かすみちゃん、よく頑張ったね〜♪ 偉いぞ〜♪」

かすみ「きゃぅ〜ん♪ もっと、褒めてください〜♪」

鞠莉「とりあえず各自指示が出るまで休息を取りましょう。……ここから先は本当にいつ休めるかわからないからね」


鞠莉さんの言葉にみんなで頷いて、今回の会議はお開きとなったのだった。





    🎹    🎹    🎹





会議を行っていた会館を出て、私はかすみちゃん、彼方さんと一緒に、セキレイシティの中央にある噴水広場に訪れていた。


かすみ「はぁ〜……それにしても、うまく行きそうでよかったですぅ〜……」

彼方「そうだねぇ〜これも全部リナちゃんのお陰だよ〜」

リナ『そう言われるとちょっと恥ずかしい……。リナちゃんボード「テレテレ」』 ||,,╹ᨓ╹,,||


かすみちゃんと彼方さんがベンチに腰掛けてリナちゃんと話す中、私はとある手持ちのボールをじっと見つめていた。


かすみ「侑せんぱ〜い? 侑先輩もこっち来て座らないんですか〜?」

侑「……うん。まだやることがあるから」

彼方「やること?」


私はそう言いながら──手に持ったボールを放る。

そのボールに入っているのは、


 「──ニャァ〜〜」


ニャスパーだ。

ボールから飛び出してきたニャスパーはふよふよと浮遊して──リナちゃんに抱き着く。


リナ『ニャスパー……前が見えない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「ねぇ、リナちゃん」

リナ『なに?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「それと、ニャスパー」

 「ニャァ?」

侑「ニャスパーはリナちゃんのポケモンなんだよね」

リナ『うん。正確には……オリジナルの璃奈のポケモンだけど』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「でも、なんて言えばいいかな……。……私にとっても、ニャスパーはもう大切な仲間だと思ってるんだ」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「だからさ……リナちゃん。ニャスパーの“おや”として、改めて──私がニャスパーと一緒に戦うトレーナーとして相応しいか、リナちゃんの目で確かめて欲しいんだ」

リナ『……なるほど』 || ╹ ◡ ╹ ||
 「ニャァ」
366 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:59:02.29 ID:0yMsBTVK0

私は──リナちゃんと向き合って。


侑「リナちゃん、私とポケモンバトルして!」

リナ『……わかった』 || ╹ ◡ ╹ ||
 「ウニャァ〜!!」


バトルを申し込んだ。


かすみ「え、えぇ!? 侑先輩とリナ子がバトルするの……!?」

彼方「これからも、胸を張ってニャスパーと一緒に戦うためにってことだよね」

侑「はい!」

彼方「わかった! そういうことなら、彼方ちゃんが審判をしましょう〜! 使用ポケモンは1匹ずつでいいね?」

侑「はい! 行くよ、イーブイ!」
 「ブイブイッ!!!」

リナ『ニャスパー、行くよ!』 || > 𝅎 < ||
 「ウニャァ〜〜!!!」


イーブイとニャスパーが相対する。


彼方「それじゃ行くよ〜! レディー、ゴーッ!!」


彼方さんの合図で──私とリナちゃんのポケモンバトルが始まった。





    🎹    🎹    🎹





リナ『ニャスパー! “ねこだまし”!』 || > 𝅎 < ||
 「ニャッ!!!」

 「ブイッ!!?」


試合開始と同時に、ニャスパーがサイコパワーを使って、イーブイの目の前で大きな音を立てて怯ませ、


リナ『“サイコキネシス”!』 || > 𝅎 < ||
 「ニャーーッ!!!」

 「イブィッ…!!!」


出来た隙を突かれて、サイコパワーで吹き飛ばされる。

イーブイは吹っ飛ばされながらも、


 「ブイッ…!!!」


転がりながら受け身をとって、すぐに体勢を立て直す。


リナ『“サイケこうせん”!』 || > 𝅎 < ||
 「ウーーーニャーーーッ!!!!」

侑「“びりびりエレキ”!!」
 「イッブイッ!!!!」


“サイケこうせん”と“びりびりエレキ”が空中でぶつかり合い、お互いのエネルギーが爆ぜ散る。

空中でぶつかり合う攻撃の下を──イーブイが小さな体で駆けていく。
367 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:59:40.86 ID:0yMsBTVK0

侑「“めらめらバーン”!!」
 「ブーーーイッ!!!」


ニャスパーは防御力が低い。だから、接近戦で一気に勝負をつける……!

だけど、リナちゃんは冷静に、


リナ『“バリアー”!』 || > 𝅎 < ||
 「ニャァッ!!」


“バリアー”を展開し、


 「イッブッ!!!?」


イーブイは突然目の前に発生した壁に衝突する。

壁にぶつかり止まったイーブイは──


リナ『“サイコキネシス”!!』 || > 𝅎 < ||
 「ニャァーーー!!!!」

 「ブィッ…!!!」


またしても、“サイコキネシス”で吹き飛ばされてしまう。


侑「イーブイ! 大丈夫!?」
 「イッブィッ!!!」


もちろん、吹っ飛ばされただけでは倒れたりはしない。

すぐに起き上がるけど──どうにも距離を詰め切れない。


かすみ「あわわ……こ、これニャスパーに近寄れませんよ!? ゆ、侑先輩負けちゃうんじゃ……!」

彼方「ふふ、大丈夫だよ。侑ちゃんを見てごらん」

かすみ「え?」


かすみちゃんと彼方さんの会話を端で聞きながら──私は、


侑「……ふふっ」


笑っていた。


侑「ニャスパー、強いね……!」
 「ブイッ!!」


ニャスパーの強さに笑みが零れた。だって──


侑「あんなに強い子が今までずっとずっと一緒に戦ってきてくれたんだ……ニャスパーがどれだけ頼もしい仲間なのかは、私たちが一番知ってる……!」
 「ブイッ」


でも、だからこそ……ちゃんと示してあげなきゃ……!


リナ『ニャスパー! “サイコショック”!!』 || > 𝅎 < ||
 「ウーーニャァーーーッ!!!!」


ニャスパーが周囲にサイコパワーを放つと──直後、イーブイに向かって、念動力で出来たキューブが突撃してくる。


侑「──これからも私たちに付いてきてって……胸を張って言えるように!!」
 「ブイッ!!!」
368 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 12:00:14.29 ID:0yMsBTVK0

直後、イーブイから赤紫色のオーラが溢れ出し──そのオーラは、周囲に浮遊していた”サイコショック”をかき消した。


リナ『え!?』 || ? ᆷ ! ||
 「ニャァ!?」

かすみ「技が……消えた……!?」

侑「私たちは……これからも、もっともっと強くなるから……! だから……!」
 「ブイッ!!!」


イーブイが先ほどのオーラを身に纏ったまま、地を蹴り、ニャスパーに向かって走り出す。


リナ『ニャスパー! “サイコキネシス”!! フルパワー!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
 「ウーーーニャァーーーーッ!!!!」


一方ニャスパーは耳を完全に開ききり、フルパワーの“サイコキネシス”を放ってくる。

でも、イーブイは──


 「ブィィィィィッ!!!!!」


放たれるサイコパワーの中を突っ切り──


侑「“すてみタックル”!!」
 「ブーーーィィィッ!!!!」

 「ウニャァァッ!!!!?」
リナ『ニャスパー!?』 || ? ᆷ ! ||


ニャスパーに“すてみタックル”を炸裂させた。

猛烈な突進を受けたニャスパーは吹っ飛ばされて、地面を転がったあと──


 「ウ、ウニャァ〜〜…」


目を回して、ひっくり返ったのだった。


彼方「……ニャスパー戦闘不能、よって侑ちゃんとイーブイの勝ち〜!」


彼方さんが決着の宣言をすると、リナちゃんはニャスパーのもとに近寄り、


リナ『ニャスパー、お疲れ様』 || ╹ ◡ ╹ ||
 「ウニャァ…」


ニャスパーを労う。

そんなリナちゃんとニャスパーの傍に歩み寄ると、


リナ『えへへ……やっぱり、侑さんは強いね』 || ╹ ◡ ╹ ||


そんな風に言う。
369 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 12:00:53.01 ID:0yMsBTVK0

侑「リナちゃん、聞いてもいい?」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「……今の──新しい“相棒わざ”の名前は……」

リナ『“どばどばオーラ”! 相手の特殊技の威力を半減させる“相棒わざ”だよ! ニャスパーのサイコパワーに適応したんだね!』 || > ◡ < ||

侑「えへへ♪ やっぱり新しい“相棒わざ”を覚えたときは……リナちゃんに教えてもらわないと♪」
 「ブイ♪」

リナ『ふふ、いくらでも聞いて!』 || > ◡ < ||
 「フニャァ〜」

侑「うん! ……リナちゃん、ニャスパー。私たち、これからも、もっともっと強くなるから……私たちに、力を貸して。……私たちと、一緒に戦って……!」

 「ニャァ〜〜!!!」
リナ『もちろん!』 || > ◡ < ||


私は、ニャスパーを、リナちゃんを、抱き寄せる。


侑「これからも、よろしくね♪」

 「ニャァ〜〜」
リナ『こちらこそ♪』 ||,,> ◡ <,,||


今までは、“誰か”のニャスパーだったけど──ここまで一緒に旅をしてきて、やっと……ニャスパーが──私の6匹目……最後のポケモンが、正式に仲間として加わったのだった。



370 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 12:01:28.39 ID:0yMsBTVK0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.74 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.71 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.72 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.67 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.67 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.64 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:234匹 捕まえた数:10匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.74 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.68 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.66 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:229匹 捕まえた数:14匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



371 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 23:40:07.06 ID:0yMsBTVK0

 ■Intermission🎙



しずく「──バリコオル!! “ワイドフォース”!!」
 「…………」


バリコオルが無言のまま、フィールド上を広がるサイコパワーを展開すると、


 「シャボッ…!!!!」「バァースッ…!!!!」


サスケさんとエースバーンが吹き飛ばされる。


しずく「……ふぅ、少し手こずってしまいましたね♡」
 「…………」


しずくさんはそう言いながら、


 「…シャボ」「…バース…」


戦闘不能になった2匹に向かって、歩夢さんから取り上げた空のモンスターボールを投げつけ、ボールに収める。


せつ菜「ボールに戻してどうするんですか……?」

しずく「もうすぐ、果林さんたちも迎えに来ると思いますし……ここに置いていくのも忍びないじゃないですか♡」


しずくさんは相変わらず読めない表情をしたまま、歩夢さんのポケモンたちをボールベルトに着け、ボールベルトごと自分のバッグにしまい込む。


せつ菜「また勝手に飛び出してくるのでは?」

しずく「どうせ戦闘不能ですし♡ ボールで休んでいたら多少回復はするかもしれませんが……ここまでコテンパンにされれば、もう反抗する気なんておきませんよ♡」

せつ菜「……そうですか」


実際……彼女はここ数日で何度も歩夢さんの手持ちを撃退し……今しがたついに、歩夢さんの手持ち全てを戦闘不能まで追い込んで、捕獲している。


しずく「それにしても……歩夢さんのポケモン、なんだか強くなっていた気がします♡」

せつ菜「ずっと貴方と戦い続けていましたからね。それで、経験を積んでレベルが上がったのでしょう」

しずく「図らずも、歩夢さんの手持ち育成に貢献してしまったわけですね♡」


……歩夢さんの手持ちは、進化して姿を変えてまで、しずくさんに挑みかかってくるポケモンもいたくらいには成長をしている。

皮肉なことに、繰り返されるしずくさんとの戦いが彼女のポケモンたちを大幅に強化していたというのは間違いないだろう。

だが……それは歩夢さんのポケモンに限った話ではない。


しずく「お陰で私のポケモンたちもたくさん経験値を得て、強くなってしまいましたね♡」


……しずくさんも、日々強くなっていく歩夢さんの手持ちと戦いを続けるうちに、手持ちのレベルが上がっていた。

その証拠に、彼女の持っているバリヤードはバリコオルに、クマシュンもツンベアーへと進化している。

特に彼女は襲ってくるポケモンたちを捌くという状況が多かっただけに、防御やいなしに力を入れた戦いを行っていた。

本気で防御態勢を取られたら、私でも多少苦戦するかもしれないくらいには……。


しずく「ふふ……♡ これで、もっともっと……果林さんの役に立てる……♡ そうしたら、またフェローチェをたくさん魅せてもらえます……♡」

せつ菜「……」

しずく「せつ菜さんも、ありがとうございました♡」

せつ菜「……いえ」
372 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 23:40:40.82 ID:0yMsBTVK0

私も、彼女の戦闘を端で見ていて……口出しをする形で何度か戦闘の指南をした。

自分で言うのもなんですが……その甲斐あって、彼女の戦闘能力は一段階ブラッシュアップされたと言っていいだろう。

二人でそんなことを話していると──少し遠くにウルトラホールが開き、そこから私たちが乗っていたウルトラスペースシップが現れる。


しずく「〜〜〜♡ せつ菜さん、果林さんたちが迎えに来てくれましたよ♡ フェローチェを魅せてもらえます♡」

せつ菜「……そうですね」

しずく「それじゃ歩夢さん、行きましょう♡ サーナイト、お願い」
 「サナ」

歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」


頭にウツロイドが寄生したままの歩夢さんをサーナイトの“サイコキネシス”で持ち上げながら、しずくさんはスキップしながらウルトラスペースシップに向かっていく。

そんな中、ふと見た歩夢さんは、


歩夢「…………」


やはり今もぐったりとしていて……時折、手足が反射でピクリと動くことが、彼女が辛うじて生きていることを証明している程度だった。


せつ菜「…………」

しずく「せつ菜さん♡ 早く行きますよ♡」

せつ菜「……はい」


私は恐らく……死んだら地獄行きですね。


せつ菜「……いや、今更ですね……」


そう呟きながら、私はしずくさんの背中を追って歩き出した。


………………
…………
……
🎙

373 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:21:47.53 ID:bMcrfVdQ0

■Chapter061 『決戦へ向けて』 【SIDE Yu】





──翌日。

海未さんからの次の指示を待つ間に──


理亞「……侑、お願い」

侑「はい。マナフィ、“ハートスワップ”」
 「フィ〜♪」


マナフィの触角の先がぽわぁと光り、理亞さんが手に持っていたピンクダイヤの欠片から虹色の光が飛び出して──


聖良「…………」


理亞さんのお姉さん──聖良さんの身体の中へと入っていく。

すると……先ほどまで目を見開いたまま虚空を見つけていた聖良さんの目が動き──


聖良「…………り………………ぁ………………?」


掠れるような声で、理亞さんの名前を呼んだ。


理亞「……! ねえさま……っ……」


そんな聖良さんを見て、理亞さんが目に涙を浮かべながら、聖良さんに抱き着く。


聖良「…………こ……こ…………は………………?」

真姫「ローズシティの病院よ。その調子だと……意識ははっきりしているようね」


真姫さんの言葉を聞き、聖良さんは首を縦に振る。


真姫「当分は声が出せないと思うわ。……なんせ、3年も眠っていたんだからね……」

聖良「……そぅ…………で、……すか…………」

理亞「ねえさま……今はまだ、無理に喋らなくていいから……。ゆっくり、リハビリすれば、きっと元気になれるから……」


理亞さんの言葉を聞くと、聖良さんは細い腕で理亞さんの頭を優しく撫でる。

そして理亞さんは……本当に愛おしそうに聖良さんを抱きしめる。


真姫「……あとは、二人きりにしてあげましょう」

侑「……はい。行こっか、マナフィ」
 「フィ〜♪」


私はマナフィを抱き上げて、病室を後にしたのだった。



374 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:22:47.98 ID:bMcrfVdQ0

    🎹    🎹    🎹





真姫「侑、ありがとね」

侑「いえ……私じゃなくて、マナフィのお陰ですから」
 「フィ〜♪」

真姫「そっか……。……マナフィ、ありがとう」

 「フィ〜♪」


──真姫さんは長いこと聖良さんを診ていたらしく、とても安堵した様子だった。

でも……。


侑「聖良さん……これから、どうなるんですか……?」

真姫「……そうね……。……喋れるようになったら、リーグや警察から取り調べを受けて……リハビリをして、動けるようになったら……恐らく刑務所に行くことになるでしょうね」

侑「せっかく……目が覚めたのに……」

真姫「それくらいのことをしたのよ、聖良は……。……貴方も、グレイブ団事変のことは覚えているでしょう……?」

侑「はい……」


私がここに来て、聞かされたこと──


侑「……でも……まさか、理亞さんのお姉さんがあの騒動の首謀者だったなんて……」


3年前のグレイブ団事変は──聖良さんが起こしたものだったということだ。


侑「あの……もしかして、理亞さんがジムリーダーであることを最近まで公表してなかったのって……」

真姫「……そうね。そういうこと。……だけど、理亞は聖良の指示に従っていただけだったからね……。……ルビィがあの子を強く庇ったから、海未も観察処分で様子を見ていたし」

侑「理亞さんは……そこから、ジムリーダーになったんですね……」

真姫「……ええ。いろいろあったわ……。一般人には公表されてなかったとはいえ、ジムリーダー就任の際は、リーグ内部から猛反発があってね」

侑「そう……なりますよね……」

真姫「成績は文句なしだったんだけどね。ルビィや海未、希の助けもあったし……何よりあの子が、自分がこのオトノキ地方を守るジムリーダーとして前に立つということを証明するために、努力をし続けたから、今があるのよ」


真姫さんの言葉を聞いて……以前、理亞さんとジム戦をしたときに、考古学者としての立場を得るためにジムリーダーになったと言っていたの思い出す。

それも、理由の一つなんだろうけど……理亞さんがジムリーダーになったのには、ある種の贖罪のような意味合いもあったのかもしれない……。


真姫「これから、理亞もいろいろ大変だろうから……今くらいは一緒にいさせてあげないとね」

侑「今、ヒナギクジムには希さんがいるんですよね」

真姫「ええ。理亞がこっちに来たとき、『今、お姉さんの傍にいるより大事なことなんてないでしょ』って、ジムを追い出されたって言ってたわ」

侑「みんな優しいんですね……」

真姫「そうね……。そうやって、優しい気持ちを持って、みんなで助け合えれば……きっと、争いなんて起きないのよ……きっとね……」

侑「……」

真姫「でも、世の中そんな簡単にはいかない。……みんな、自分の信念があるから。私にも、侑にも、理亞にも、聖良にも……菜々にも……」

侑「……はい」

真姫「だから、人はぶつかり合う。……でも、私はそれを悲しいことだとは思わないようにしてる」


真姫さんはぎゅっと、胸の前で手を握りながら、


真姫「それはきっと……人が人を、理解するために、わかり合うためにする……大切な営みだと思うから」
375 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:23:53.75 ID:bMcrfVdQ0

そんな風に、言葉にするのだった。





    🎹    🎹    🎹





病院の外に出ると、


かすみ「あ、侑せんぱーい! 終わりましたか〜?」
 「ブイ♪」

侑「うん。ごめんね、一人で待たせちゃって」


イーブイを抱えながら、かすみちゃんが待っていた。

聖良さんの病室は、ポケモンも含めて最低限の人しか入れないとのことだったので、私はイーブイをかすみちゃんに預けて、聖良さんの病室を訪れていたというわけだ。


侑「カフェとかで待っててもよかったんだよ?」

かすみ「イーブイも預かってましたし……歩夢先輩がいない間は、かすみんが侑先輩と一緒にいるって約束しましたから!」

侑「ふふ……ありがとう、かすみちゃん」

かすみ「それに今はリナ子もいないですからね。侑先輩が寂しくないように、かすみんがここで待つことくらいどうってことないですよ!」


そう。かすみちゃんが言うように今はリナちゃんがいない。

リナちゃんは、すでに歩夢たちの居場所を探知するプログラムを組むのに着手するため、鞠莉博士と一緒にオハラ研究所にいる。

こればかりは、私が一緒にいてもなんの役にも立てないだろうから、今は別行動というわけだ。


かすみ「それで、この後はどうするんでしたっけ……?」

侑「えっと、彼方さんと果南さんが今コメコにいるみたいだから、そっちに合流する感じかな」

かすみ「あー……彼方先輩、コメコで荷物の整理しなくちゃって言ってましたもんね」


彼方さんは決戦を前に……ずっと利用していたコメコの森のロッジの整理に向かったそうだ。

いつまでも放置しておくわけにもいかないし……この戦いが終わったら、もう使うこともないだろうから……と。


侑「それに……私も果南さんと一緒にやらなくちゃいけないことがあるしね」
 「フィ〜」

かすみ「っと……そういえばそうでしたね。それじゃ、コメコシティに行きましょう〜♪ お願いします、侑先輩!」

侑「うん。行くよ、ウォーグル」
 「──ウォーーーッ!!!」


私たちはコメコシティに移動します。





    🎹    🎹    🎹





──コメコシティに着いた私たちは……彼方さん、果南さんと合流して、コメコの南にある浜辺を訪れていた。


果南「それじゃ……侑ちゃん」

侑「はい」
 「フィ〜」
376 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:26:45.35 ID:bMcrfVdQ0

私は頷きながら──胸に抱いていたマナフィを、浜辺に下ろす。


侑「マナフィ、ありがとね」
 「フィ〜」

侑「本当は遺跡のある場所まで、送ってあげたかったんだけど……」
 「フィ〜」


私の言葉に、マナフィはふるふると首を横に振ったあと──背後の波に浚われるようにして、海へと還っていく。

マナフィは手を振りながら、どんどん遠ざかっていく。


侑「またいつか、会いに行くねー!!」

 「フィ〜〜〜」


私の言葉に返事をするように鳴いたあと、海に潜って──マナフィの姿は見えなくなった。


侑「マナフィ……大丈夫かな……。ちゃんと帰れるかな……」

果南「大丈夫だよ。帰巣本能があるし……なにより野生のポケモンは逞しいから」

侑「……はい」

果南「そんなに心配なら、全部が終わったあと、またあの海底神殿に行ってみよっか♪」

侑「はい! そのときはまたお願いします」

果南「うん! 任せて♪」


果南さんはニコニコしながら答えてくれる。

そして、そんな私たちのもとに、


彼方「マナフィ、行っちゃったね〜」

かすみ「意外とあっさり行っちゃいましたね……」


後ろで見守っていた、かすみちゃんと彼方さんが歩いてくる。


かすみ「でも……侑先輩、よかったんですか? せっかく、マナフィと仲良くなれたのに……」

侑「うん。マナフィには最初から、少しの間、手伝って欲しいって約束で来てもらってただけだし……それに、私にはフィオネがいるから」


私の手持ちはもうすでに6匹、ちゃんと決まっている。

マナフィにしか出来ないことは、もうしてもらったから……あとは、私が仲間たちと一緒に戦う番だ。


かすみ「まあ、侑先輩がそう言うなら……」

彼方「かすみちゃんはやぶれた世界班であんまりおしゃべりできなかったから、マナフィちゃんともうちょっとおしゃべりしたかったんだよね〜?」

かすみ「も、もう……彼方先輩、余計なこと言わないでいいですから〜……」

侑「ふふ、じゃあ全部終わったら、かすみちゃんも一緒にマナフィに会いに行こう」

かすみ「……はい! 約束ですよ? あ、もちろんそのときは──」

侑「歩夢としずくちゃんも一緒に、だよね!」

かすみ「はい♪」

 「ブィ〜…」

侑「もちろん、イーブイも一緒だよ♪」
 「…ブィ♪」


和やかな雰囲気の中、
377 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:27:35.36 ID:bMcrfVdQ0

果南「……さてそれじゃ、彼方ちゃん、そろそろ始めますか〜……」

彼方「お〜う、任せろ〜♪」


果南さんがそう言いながら肩を回し始め、彼方さんも身体を伸ばしてストレッチし始める。


かすみ「? お二人とも、なにかするんですか?」

果南「うん。まあ、なにかするのは私たちというよりも……」

彼方「侑ちゃんとかすみちゃんだけどね〜♪」

かすみ「……はい?」

侑「え?」
 「ブイ…?」


かすみちゃんともども、首を傾げる。……なにかやるって話ししてたっけ…?


果南「私たちはこれから、リナちゃんや鞠莉たちが敵の居場所を探知するまで、やることがないでしょ?」

彼方「でも、だからって、その間のんびりしてる暇はないよ〜」

侑「えっと……」

かすみ「何するんですか……?」

彼方「これから、決戦の時が来るまでの間〜、私が侑ちゃんを〜♪」

果南「私がかすみちゃんを、それぞれ鍛えてあげるってこと♪」

侑「……! ホントですか……!?」

彼方「うん♪ ビシバシいくから覚悟するんだぞ〜?」


まさか、また彼方さんから、直接稽古を付けてもらえるなんて……!


侑「はい! よろしくお願いします!」
 「ブイ♪」

彼方「うむ、良いお返事だ〜♪」


私は思わず気合いが入ってしまうけど……一方でかすみちゃんは、


かすみ「あ、え、えーっと……か、果南先輩とマンツーマン……ですか……?」

果南「そうだよ? 嫌なの?」

かすみ「い、イヤとかではないですよ……? で、でも、果南先輩の修行はそのー……パワー系過ぎて〜……か、かすみんには似合わないと言うか〜……? そもそも付いていけるか……」

果南「もう、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。強くならないといけないんだから。それに、かすみちゃんに合わせたメニューをちゃんと考えてるから」

かすみ「ほ、本当ですか……!? し、信じていいんですか!?」


もうすでに腰が引けているかすみちゃん。


果南「もう、時間ないからさっさと行くよ〜」


そう言いながら、果南さんがかすみちゃんを担ぎ上げる。
378 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:28:48.02 ID:bMcrfVdQ0

かすみ「え、ちょ!? どこ連れてく気ですか!?」

果南「トレーニング着に着替えてもらって……まずは手始めに、コメコから東に行ってホシゾラ、フソウ、サニー、セキレイ、ダリアと回ってコメコに戻ってくるルートをポケモンたちと一緒に走り切るよ〜!」

かすみ「はぁ!? 何十キロあると思ってるんですか!? ってか途中、海じゃないですか!?」

果南「大丈夫大丈夫♪ セキレイからダリアの間は自転車だからさ♪」

かすみ「なんですかその地獄のトライアスロン!? 無理ですっ! そんなのやったらかすみん死んじゃいますぅっ!」

果南「やる前から諦めてどうすんの。さ、行くよー」

かすみ「ぎゃーーーーっ!!! た、助けてーーー!!! 侑せんぱーーーい!!! まだ死にたくなーーーい!!!」


かすみちゃんは助けを求める悲鳴をあげながら──果南さんに連れて行かれたのだった。


侑「……」

彼方「かすみちゃん、無事に帰ってこられるといいね〜……」


頑張れ、かすみちゃん……。

私は胸中でかすみちゃんの無事を祈るのだった……。





    ✨    ✨    ✨





海未『では……すぐにでも、果林たちの居場所探知を始められる準備が整ったということですね?』

鞠莉「ええ、リナが……まさに一瞬で探知プログラムを作ってくれたわ」

リナ『頑張った! リナちゃんボード「えっへん」』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||


探索プログラムが出来たわたしたちは早速海未さんへ報告をしているところ。


鞠莉「ただ……わたし一人でディアルガ、パルキア、ギラティナを制御するのは難しいわ。ギラティナはともかく……ディアルガとパルキアは一人で長時間指示を出し続けられないから……せめて、ジムリーダーか四天王クラスの人を一人……」

海未『それに関してはもう話が付いています。大雑把な説明を四天王に共有した際に、ダイヤから志願がありました』

鞠莉「ダイヤが……?」

海未『彼女は以前にもディアルガの制御を行っています。勝手もわかるから自分がやると志願してくれました。ウチウラやウラノホシの警固はこちらでもフォローをしますし、あのエリアにはダイヤのお母様もいらっしゃるので』


確かに元ジムリーダーのダイヤママなら、警固の戦力としては申し分ない。……一族でジムリーダーをやっているクロサワ家サマサマデース。


海未『すぐに幽霊船の方に出向くように伝えておきますので、現地で合流してください』

鞠莉「OK.」


海未さんとの通信を切り。


鞠莉「リナ、行くわよ!」

リナ『リナちゃんボード「ガッテン」』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||


リナと共に、研究所を飛び出した。



379 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:30:00.29 ID:bMcrfVdQ0

    👠    👠    👠





──DiverDivaウルトラスペースシップ。

いつまでもウルトラスペースに滞留するのは危険なので、現在は拠点となる世界に降り立っている。


姫乃「あの……果林さん」

果林「何かしら?」

姫乃「しずくさんが……フェローチェを魅せろとうるさくて……」

果林「あら……今朝魅せてあげたのに……もう禁断症状?」

姫乃「どうしますか?」

果林「別に放っておいていいわ。魅せたら魅せたで症状が加速するし」

姫乃「そうですか……」

果林「……もうそろそろ……持たないかもしれないけど」


彼女の様子を見るに……毒が回りすぎている。

精神崩壊するのも遠くないかもしれない。


果林「愛から見てどう思う?」

愛「んー? なにがー?」

果林「しずくちゃんの容態」

愛「……あー……しずくの精神力、すごいよね。いや、胆力って言うのかな?」

果林「まあ……何度も私や姫乃に魅せろ魅せろって迫ってくるものね」


フェローチェの毒は人の理性を破壊して衝動的にするから……ある意味、正しい反応でもあるのだけど……。


姫乃「それはそうと果林さん。次の作戦行動はいつにしますか?」


作戦行動──即ち、ウルトラビーストの捕獲作業の話だ。


果林「そうね……明日にまた1匹……いえ、2匹を目標に捕獲しましょう」

姫乃「わかりました」

愛「それにしても、歩夢の力はすごかったよね〜」

果林「……全くね」


私たちは当初の予定通り、昨日歩夢の能力によるウルトラビーストの誘引を初めて行ったわけだけど……。

予想以上の誘引能力だった。

最初に現れたツンデツンデを捕まえ撤退しようとした瞬間──マッシブーン、ウツロイド……さらに、アクジキングが一斉に飛び出してきて、私たちは大急ぎで誘引作戦を行った世界から脱出したくらいだ。


果林「一歩間違えると……こっちも大損害を受けかねないわね……」

愛「ただ、逆に良い方向での予想外もあったけどね〜」

姫乃「どういうことですか?」

愛「歩夢のフェロモンに中てられて誘引されたウルトラビーストたちは、平均よりも動きが緩慢だったんだよ」

姫乃「……本当ですか?」

愛「うん。たぶん、ポケモン自体を宥める力があるんだろうね。……いやー、ホントすごい能力だわ」

果林「狂暴性を完全に抑えられるわけではないとはいえ……少しでも鈍らせてくれるのは助かるわね」
380 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:30:53.81 ID:bMcrfVdQ0

相手はウルトラビースト……規格外の強さを持ったポケモンたちだ。

少しでも捕獲難度が下がるのは、願ったり叶ったり。


果林「この調子で……ウルトラビーストをもっと集める……」


──そして、それを一斉に送り込まれたあの世界は……滅亡する。

そんなことを考えていたときだった、


愛「ん……?」


愛が珍しくモニターに映る計器を見ながら眉を顰める。


果林「愛? どうかしたの?」

愛「……どうやら、まだ簡単には行かせてくれなさそうだよ」

姫乃「どういうことですか?」

愛「……この場所が何者かに探知されてる」

果林「なんですって……?」


愛は複数のコンソールを弄りながら、解析を始める。


愛「……でも、愛さんを舐めるなよ〜? こうして、こうして〜……ほい、ジャマー展開」


一瞬で対策を講じる。……が、


愛「……え? ジャマー解析速過ぎない……!?」


珍しく愛の表情に焦りが見て取れた。


愛「……向こうにはとんでもないエンジニアがいるみたいだね……」

姫乃「探知元はわからないんですか?」

愛「……うまく隠されてるね……とりあえず探ってみるけど、まあ……」

果林「状況から言って、出元は……」

愛「歩夢たちがいた世界……だろうね」

果林「そうなるわよね……」

姫乃「追ってくる……ということでしょうか」

愛「……たぶん、歩夢とかしずくが持ってる図鑑の固有信号を探知に使ってるね」

姫乃「今すぐ彼女たちの図鑑の電源を切るか、破壊してきます」


姫乃がブリッジを出ようとしたところを、


愛「いや、もう遅いからやらなくていい」


愛が制止する。
381 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:31:34.04 ID:bMcrfVdQ0

姫乃「遅いとは……?」

愛「そこからバックドア仕掛けられたみたい。コスモッグ用のセンサーもだけど……ありとあらゆる通信機器の信号をハッキングされてる」

果林「は、ハッキング……!?」

姫乃「操作権が奪われたんですか……!?」

愛「いや、さすがにそこは防いだ。でも、こっちの居場所は完全に筒抜けになった」

果林「……今すぐ拠点世界を移しましょう」

愛「それももう意味ない。このレベルのハッカー相手だと世界を移動したところで秒で特定されるだけだよ」


こうして場所を特定してきたということは──


果林「……向こうには、私たちの場所まで辿り着く手段があると考えた方がいいわよね……」

愛「だね。間違いなく来ると思う」

果林「……腹を括れということね」


向こうも……最後の最後まであがくつもりということだ。なら、こちらも相応の態度で臨むしかない。


果林「……姫乃、せつ菜としずくちゃんを呼んで」

姫乃「どうするんですか……?」

愛「どーもこーもないって話。……もう、ここまで来るのは確定したようなもんだから……あとは──」

果林「追ってくるなら……返り討ちにするしかない……!」

姫乃「……わかりました。今すぐ呼んできます」


姫乃がブリッジを出て、せつ菜たちを呼びに行く。


愛「せっつーはともかく、しずくも戦力に数える気?」

果林「少し頼りないけど……戦力にならないというほど弱くもないはずよ」

愛「……ま、アタシは構わないけど」


そう言いながら、愛は再びコンソールを弄り始める。

恐らく少しでも情報の流出を防いでいるのだろう。

ただ、向こうはこちらの擁する天才エンジニアを出し抜くほどの手練れを用意してきた。

つまり、それだけ本気ということだ。

だけど、


果林「……いいわよ、やってやろうじゃない」


ここまで来て、こちらも引くわけにはいかない。


果林「勝った方が生き残って、負けた方が滅亡よ……!」


最後は私たちDiverDivaらしく──純粋な強さで白黒つけようじゃない。



382 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:32:15.41 ID:bMcrfVdQ0

    ☀    ☀    ☀





──音ノ木上空。


穂乃果「……異常無しです」

相談役『……逆に不気味ね』

穂乃果「……ウルトラビーストの出現量は増えてるんですか?」

相談役『……今は通常の1.2倍くらいね……。恐らく、敵方がウルトラスペースを行き来しているせいで、刺激されたウルトラビーストがこっちに来ているんだと思うわ。ただ、大型種はクロユリに現れたテッカグヤくらいで……ひとまずジムリーダーたちで撃退しきれている』

穂乃果「うーん、増えてはいるんですよね……。……でも、これくらいなら異変として認識されてないってことなのかな……?」

相談役『その匙加減に関しては私たちにはわからないけど……』

穂乃果「……たぶん、海未ちゃんたちの方も戦力が相当カツカツだと思うから……場合によってはそっちに行った方がいいかも……」

相談役『実際に作戦が始まってからどうするかの最終判断は穂乃果さんに任せるわ。ただ──レックウザが現れた場合は、全ての作戦行動を中断してでも、音ノ木に急行してもらえる?』

穂乃果「はい! わかりました! それじゃ、また連絡します!」


ポケギアの通話を切る。


穂乃果「……前はディアルガ、パルキアが一度に現れたから、来ちゃったけど……ウルトラビーストはそういう脅威じゃないって思われてるのかな……」


それならそれで構わないんだけど……なんだか、気持ち悪い感じがする。


穂乃果「とにかく……私は何が起きても対応できるようにしておかないと……」


私は独り、音ノ木の警固を続ける……。





    🐏    🐏    🐏





──彼方ちゃんはコメコシティで侑ちゃんの特訓の真っ最中だったんだけど〜……。

侑ちゃんと特訓をしているときに、彼方ちゃんにお話があるって人が来て……今はそこに出向いています。

そして、その相手というのは……。


エマ「……突然ごめんね、彼方ちゃん。今、コメコにいるって聞いたから……」


エマちゃんでした。

私はエマちゃんに呼ばれて、エマちゃんの寮のお部屋に来ています。


彼方「うぅん、大丈夫だよ〜。でもどうしたの?」

エマ「……あのね、彼方ちゃん。……わたしを果林ちゃんのところに連れて行って欲しいの」

彼方「…………」


なるほど……。そういう話か〜……。
383 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:33:18.49 ID:bMcrfVdQ0

エマ「わたし……あの後、何度も考えたの……。……でも、やっぱり……果林ちゃんが心の底から、みんなに酷いことをしようとしてるなんて、どうしても思えないの……」

彼方「エマちゃん……」

エマ「……果林ちゃんは……誰かのために背負いこんで、自分一人が悪い人になって……みんなを守るために無理してるんじゃないかって……」

彼方「……」


エマちゃんの言うことは……あながち的外れというわけでもなかった。

果林ちゃんはストイックだし、目的のために手段を選ばないけど……仲間想いな人だ。

今は道を違えてしまったけど……わたしも果林ちゃんには何度も救われた。

果林ちゃんは果林ちゃんなりに……自分の世界を救うために必死なだけなんだ。それくらいは理解している。


エマ「前に……果林ちゃんが悪い人なのか……彼方ちゃんに聞いたよね……」

彼方「……うん」

エマ「そのとき彼方ちゃんは……『どの立場から見るかによる』って言ったよね。果林ちゃんを悪い人だとは……言わなかった」


確かに、わたしはそう答えた。


エマ「……あの言葉を聞いて……彼方ちゃんも……本当は果林ちゃんと戦いたくないんじゃないかなって……」

彼方「それは……」


それは……そうだ。……わたしだって、かつての仲間──うぅん、家族……かな──と戦いたいなんて思わない。


エマ「もし、彼方ちゃんが今でもわたしと同じように……少しでも、果林ちゃんと戦わない方法を考えてくれてるなら……。……わたしも果林ちゃんのところに連れていって。……わたしが果林ちゃんに、もうこんなことはやめようってお話しするから……」


わたしは返答に困る。

果林ちゃんにとって……エマちゃんが特別な相手だったのはそうなのかもしれない……。

とはいえ、今になってエマちゃんの言葉を聞いたところで、止まってくれるのか……。


エマ「彼方ちゃん……お願い……」

彼方「う、うーん……」


エマちゃんの視線から逃げるように目を逸らしたとき、ふと──エマちゃんのお部屋に石が置いてあることに気付く。

いや、正確には何度かこの部屋は訪れているから、あるのは知っていたんだけど……。


彼方「……あれ……あの石……」


よく見ると──どこかで見たことがあるものだった。


エマ「石……? ……あ、えっとね……それは果林ちゃんがずっと前にくれた石なの……御守りだって」

彼方「……思い出した」


あの石は確か──果林ちゃんが持っていた石と同じものだ。


彼方「果林ちゃんの……故郷の石……」

エマ「え、そうなの……?」


──もう、なくなってしまった……果林ちゃんの故郷の石。

そんな大切なものを……これから滅ぼす世界に置いていくかな……?


彼方「…………」
384 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:34:16.25 ID:bMcrfVdQ0

それを託されたエマちゃんは……。


エマ「彼方ちゃん……?」

彼方「わかった。今から海未ちゃんにお願いしてみよう」

エマ「いいの!?」

彼方「うん。もしかしたら……エマちゃんなら本当に……果林ちゃんを説得出来るかもしれないから……」





    🐏    🐏    🐏





海未『……なるほど……それで彼女を同行させたいと……』


わたしたちはあの後すぐに、海未ちゃんに連絡を取り、無理を言って話をする時間を作ってもらった。


彼方「……もし戦わずに済むなら、それ以上のことはないと思うんだ」

海未『それは確かにそうですが……』

エマ「わたしが絶対果林ちゃんを説得してみせます……だから……」

海未『…………』

彼方「エマちゃんはわたしが警護するって条件でもダメかな……? 果林ちゃんはあの場での責任者みたいなものだから……果林ちゃんを説得しさえすれば、それで全部収まるかもしれないし」

海未『賭けてみる価値はある……ということですか……。……確かに今は猫の手も借りたい気持ちですが……』

エマ「お願いします……!」

海未『……ですが、エマさん。貴方は一般人ですし……いくら彼方が警護すると言っても……』

エマ「わ、わたしもいざとなったら、ポケモンと一緒に戦えます……!」

海未『…………』


海未ちゃんはモニター越しに困った顔をして黙り込む。たぶん……説得が出来るなら、本当にそれに越したことはないけど、そもそも危険な場所にエマちゃんを送り込むということ自体がネックなんだと思う。

エマちゃんも確かにポケモンは持っているけど、さすがに侑ちゃんやかすみちゃんのような実力はない。

リーグ側から侑ちゃんやかすみちゃんに、すごく厳しい条件を出した手前っていうのもあるだろうし……。

ただ、そんな中でわたしたちに助け船を出してくれたのは、


侑「──……私は戦わなくて済む方法があるなら、それに越したことはないと思います」


そう言いながら、お部屋の中に入ってきた侑ちゃんだった。


彼方「ゆ、侑ちゃん……!?」

侑「ごめんなさい……彼方さん、なかなか帰ってこなかったから……。牧場の人に訊いたら、ここにいるって言われて、案内してもらって……。そうしたら、中から話が聞こえてきたので……」

エマ「ご、ごめんね……! 彼方ちゃん、侑ちゃんと一緒に修行してたんだよね……」

侑「いえ、それよりも……エマさんが果林さんを説得出来るなら、私はそれに越したことはないと思います」

海未『侑……貴方はいいのですか?』

侑「私とかすみちゃんは、最初から戦うことを前提で作戦に参加するつもりでしたけど……エマさんはあくまで説得のために同行するんですよね? そういうことなら、かすみちゃんも反対しないと思います。元より……私たちは戦いたいわけじゃないので……」


確かに、わたしたちの目的は戦うことではない。

攫われた歩夢ちゃんたちを取り戻すことが最優先だ。

あくまで戦闘は、そのための手段でしかない。
385 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:35:37.92 ID:bMcrfVdQ0

侑「なら、少しでも問題を解決する手段は多い方がいいと思うんです……。もちろん、エマさんのことは、私やかすみちゃんも一緒に守るように行動します」

エマ「侑ちゃん……。……あ、あの……お願いします……!」


エマちゃんは通信端末の前で頭を下げる。


エマ「わたしが……果林ちゃんを止めてあげなくちゃ……果林ちゃんはもう、自分の意志だけじゃ止まれないから……」


そう懇願する。


海未『…………。…………かすみにも伝えておいてください。くれぐれもエマさんに怪我をさせないように、と……』

エマ「……!」

彼方「それじゃぁ……!」

海未『はい、エマさんの作戦への同行を許可します。ただし、エマさん。貴方は戦闘員ではありません。無理な戦闘は絶対に避け、説得が出来ないと判断した場合は、即座に撤退することを頭に入れて行動してください』

エマ「は、はい!」

彼方「海未ちゃん、ありがとう〜!」

海未『彼方……エマのことは、任せますよ』

彼方「うん! 任せて!」

海未『それでは、私は人員調整に戻ります。リナから特定が順調である報告も受けているので……今日中にはまた連絡をすると思いますので』

侑「わかりました」


そう残して、海未ちゃんからの通信が切れると、


エマ「彼方ちゃん……侑ちゃん……わがまま言ってごめんね……。……ありがとう」


エマちゃんはそう言いながら、わたしと侑ちゃんを抱きしめる。


彼方「ふふ、いいんだよ。でも、連れて行くからには期待するからね〜?」

エマ「うん……! 任せて……! 果林ちゃんのことは……絶対にわたしが説得してみせるから……!」

侑「一緒に頑張りましょう……!」

エマ「うん!」


こうして、エマちゃんの作戦参加が決定したのでした。





    😈    😈    😈





──ツシマ研究所。


曜「──よーしーこーちゃーん」

善子「…………」


私が外出しようとドアを開けたとき、ちょうどそこに居た曜を見て、顔を顰めた。
386 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:36:10.58 ID:bMcrfVdQ0

善子「今忙しいから帰れ」

曜「うわ、その対応はさすがに酷くない!?」

善子「あんたと遊んでる場合じゃないのよ。それにヨハネって呼びなさいよ」

曜「別に私も遊んでる暇があるわけじゃないんだけど……」

善子「じゃあ、何しに来たのよ……」

曜「……善子ちゃん、千歌ちゃんのこと聞いた?」

善子「ああ……そのこと……」


リナの探知の結果曰く──千歌の図鑑の反応は、歩夢たちの図鑑の反応及びコスモッグレーダーがある場所とは別の場所にあったそうだ。

つまり、千歌は果林たちの手からは自力で脱出していると考えられる。


善子「あんたの予想通りだったみたいね」

曜「まあ、千歌ちゃんだからね」

善子「ふふ、そうね」


あの千歌が黙ってやられっぱなしなわけないものね。


善子「で、そんな世間話をしにきたの?」

曜「随分物騒な世間話だね……。……善子ちゃん、聞いたよ。千歌ちゃん救出作戦に志願したんだってね」

善子「ええ、自分で言うのもなんだけど、私は実力者だし、ジムリーダーや四天王たちほど動きが制限されないからね」

曜「抜け駆けしてズルい!」

善子「……めんどくさ」

曜「だから、私も千歌ちゃん救出作戦に志願したのであります!」


そう言いながら、曜が敬礼をする。


善子「……セキレイはどうするのよ」

曜「ことりさんにお願いした。……というより、ことりさんに千歌ちゃんを助けに行くように言われた。幼馴染がピンチなんだから、行ってあげてって」

善子「……相変わらず過保護なんだから……あの人は……」


まあ、確かに言いそうだけどね……。


曜「あと、海未さんから預かりものもあるし!」


そう言いながら、曜は自分のバッグをパン! と叩く。

何、預かってきたんだか……。


曜「それにそう言われて来たのは私だけじゃないよ」


そう言う曜の後ろから──人影が二つ。


ルビィ「ルビィたちも一緒に行くよ!」

花丸「作戦参加が善子ちゃんだけなんて、心配しかないからね」

善子「ルビ助!? ずら丸!?」


そこに居たのは、かつての同期たちの姿だった。
387 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:36:49.28 ID:bMcrfVdQ0

ルビィ「ルビィも……お母さんから、ジムはいいから助けに行ってあげなさいって……」

花丸「マルもにこさんから、こんな場所にいる場合じゃないでしょって、ダリアを追い出されたずら」

善子「……いや、なんでにこから追い出されるのよ」

花丸「それには海より深い理由があって、説明は難しいずら……」

善子「あっそ……」


全くこいつはいつも説明をはぐらかすんだから……。

まあ今更だし、別にいいけど……。


曜「というわけで、お邪魔しまーす!」

花丸「邪魔するずら〜」

ルビィ「あ、あの……お世話になります」

善子「いや、どういうわけよ……」


何故か、私の横をすり抜けて堂々と研究所の中に入っていく3人に突っ込みを入れる。


曜「作戦決行日まで、ここで過ごすから!」

善子「あっそ……外出するときは戸締りしてよね……」


そう言いながら、曜に鍵を投げ渡す。


曜「おっとと……! ……善子ちゃん、どこか行くの?」

善子「ちょっと野暮用があるのよ……」

花丸「野暮用ずらか?」

ルビィ「すぐに戻ってくるの……?」

善子「ええ、作戦開始までには絶対に。私が留守の間、研究所で騒いだりしないでよ? 近所迷惑になるから」

曜「はーい」

花丸「善子ちゃんが心配するようなことは何もないずら」

ルビィ「が、頑張ってね! 何しに行くのかはわからないけど……」

善子「ん。じゃあ、行ってくるわ」


私は仲間たちに背中越しで手を振りながら──ドンカラスの足に掴まり飛び立つのだった。





    👑    👑    👑





──フソウタウン。


かすみ「…………ぜぇ…………ぜぇ…………」

果南「もう……かすみちゃん、まだ13番水道抜けたところだよ? ポケモンの補助もあるんだから……」

かすみ「……かすみんには……みずタイプが……いないん、ですって……」
 「ゴーン」「スグマ」


ポケモンの補助と言っても、サニゴーンにビート版のように掴まるのと、マッスグマに引っ張ってもらうくらいです。


 「カイン」「ロアーク」「ダストダァス」「リムオン…」
388 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:38:05.59 ID:bMcrfVdQ0

他の手持ちたちも、なんだかんだで泳いで付いてきているのが偉すぎます……。

ちなみに新発見だったんですが、ダストダスはあの巨体だけど、体内にあるガスのお陰で浮くらしいです。

この知識、いつか役に立つときが来るんでしょうか……。


かすみ「……せめて……休憩を…………」

果南「仕方ないなぁ……15分休憩ね」

かすみ「じ、15分しかないの……!?」

果南「まだ4分の1くらいなんだから、あんまり休んでると今日中にコメコに帰れないよ」


むしろこの人……今日中にオトノキ地方の南半分を1周するつもりだったらしいですよ。どう考えても海渡るだけで1日掛かりますよ……。

かすみんも侑先輩と一緒に、彼方先輩と修行したかったですぅ……。

とはいえ、泣き言を言っていても、果南先輩が逃がしてくれるわけもないし……。

ポケモンたちは“げんきのかけら”を使えば元気になるけど……かすみんには食べられませんし、今もお腹がぐーぐー鳴っています……。


かすみ「はぁ……なんか出店でご飯食べよ……」


幸いフソウは港からちょっと行くとすぐに屋台がありますから……15分もあれば、何か軽く食べることくらい出来ますし……。


かすみ「さて……何を食べましょうかねー……」


キョロキョロと辺りを見回しながら、めぼしい屋台ご飯がないかを探していると──


 「──さぁ、お客さん! 世にも珍しい、奇跡の灰だよ〜!!」

かすみ「ん……?」


客を呼び込んでいる怪しいおじさんの姿。

なんか聞き覚えのある声な気が……。


かすみ「……って、あーーー!!! 前かすみんにサニーゴ売りつけたおじさん!!」

おじさん「!? あ、あのとき嬢ちゃん……!?」

かすみ「あのときはよくも、騙してくれましたね……!! なーにがサニーゴを3000円で譲るですか!! ガラルサニーゴじゃないですか!!」

おじさん「結局1500円に負けてやっただろ! それにサニゴーンに進化してるじゃないか!」

 「ニゴーン」
かすみ「ぐ……た、確かに今となっては悪い出会いじゃなかったって気はしますけど……! それとこれとは話が別です!!」


私がガルル〜とおじさんを威嚇していると、


果南「かすみちゃん? 揉め事?」


果南先輩が騒ぎを聞きつけたのか、こっちにやってきます。


かすみ「こいつ詐欺師なんです!!」

おじさん「おいおい、言いがかり付けないでくれよ」

果南「詐欺師? ……ああ、まだやってたんだ」

おじさん「は? まだやって、た……って……か、果南さん……?」


おじさんは果南先輩の顔を見ると、急に真っ青になってブルブル震えだす。
389 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:38:54.62 ID:bMcrfVdQ0

果南「前にも懲らしめたのに、懲りないねぇ……」

おじさん「か、かかか、勘弁してください……!」

果南「はぁ、しょうがないなぁ……」


そう言いながら、果南さんはポキポキと拳を鳴らす。


おじさん「ひぃぃぃぃぃ!!! し、失礼しましたぁぁぁぁ!!!」


その姿を見ただけで、おじさんは大量の道具を乗せたリアカーを引いて逃げ出してしまいました。


果南「ありゃ……まだ何もしてないのに……。もう、やっちゃダメだよ〜」

かすみ「果南先輩……どんな懲らしめ方したんですか……」


まあ、追っ払えましたし……いいですけど……。


かすみ「はぁ……なんか休憩してたはずなのに、声出したせいで無駄に疲れましたね……」


お陰でお腹の虫も文句を言っています。

ぐーぐーお腹鳴らしてるのは可愛くないから、早くご飯を──


果南「そろそろ15分だし、続き行くよ」

かすみ「……え!? う、嘘!? せ、せめてご飯食べさせてくださいっ!」

果南「運動中に固形物取ると消化不良で効率が落ちるから……はい、ゼリー飲料」

かすみ「い、いやですっ! せっかくフソウまで来たのに、こんな味気ないご飯っ!」

果南「また明日も来るんだからいいでしょ」

かすみ「明日もやるんですかっ!?」

果南「当たり前でしょ。ほら、さっさと行かないと日が暮れちゃうって」

かすみ「た、助けて、こ、殺されるー!?」

果南「死なない死なない、ほらサニータウンまで泳ぐよー」

かすみ「もう、いやーーーー!!!!」


フソウの空にかすみんの絶叫が響き渡るのでした。





    🎹    🎹    🎹





──コメコシティ。


侑「──ウォーグル!!」
 「ウォーーッ!!!!」


ウォーグルが殻を閉じたパールルに飛び掛かり、大きな爪で握り潰すように爪を立てると──

バキッ!!!


侑「!?」

彼方「あわわっ!? 侑ちゃん、ストップ、ストーーーップ!?」

侑「ウォーグル!? パールル離して!?」
 「ウォー」
390 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:39:42.71 ID:bMcrfVdQ0

指示を出すと、ウォーグルはすぐにパールルを放す。

放したパールルに彼方さんが駆け寄って貝殻の表面を撫でる。


彼方「んーっと……」

侑「ご、ごめんなさい、彼方さん……パールル……大丈夫ですか……?」

彼方「うん。すぐ止めてくれたから大丈夫だよ〜。ちょっとヒビが入っちゃってるけど……しばらくすれば、自然治癒するはずだから〜」

侑「ならよかった……」


ホッと安堵の息を吐く。


彼方「それにしても、侑ちゃん……すっごく強くなったね〜。前はパールルの殻に全く歯が立たなかったのに〜……」


彼方さんの言うとおり……前にこの浜辺で稽古を付けてもらったときは、まるで歯が立たなくて、3匹掛かりでどうにか攻略したのに……今はウォーグル1匹のパワーで殻にヒビを入れてしまった。


彼方「本当に、あのときのひよっこトレーナーがこんなに強くなるなんてね〜」

侑「あはは……確かに、あのときは本当にひよっこって感じでしたよね……」


そのせいで、歩夢とすれ違っちゃったんだっけ……。なんかもう、懐かしい気さえしてくる。


彼方「でも、本当に強くなった……彼方ちゃんも師匠として鼻高々だよ〜。あ、でも……教えてたのはちょっとだし、師匠なんて言うのはおこがましいかな……」

侑「そんなことないです! 私、彼方さんがいなかったら絶対にここまで強くなれませんでした。あのとき、彼方さんに教えてもらったお陰で、今の私があるんです!」

彼方「あ〜もう〜! 侑ちゃんったら〜、可愛いこと言ってくれるな〜うりうり〜♪」

侑「わわっ、や、やめてくださいよ〜。く、くすぐったい〜」

彼方「ふふ、そんな侑ちゃんでも、この子の防御は破れないだろうけどね〜」
 「────」


そんな風に言う彼方さんのすぐ傍には、コスモウムが浮いている。


侑「はい……コスモウムって本当に硬いんですね……」


すでに何度か挑戦しているけど……まさに規格外の硬さで今の私たちでも歯が立たない。


彼方「ふふふ〜宇宙一硬いよね〜この子〜」
 「────」


コスモウムは無表情のまま、ゆったりと私の周囲をくるくると回り始める。


彼方「あはは、壊せるものなら壊してみろ〜って言ってるのかも〜」

侑「む……じゃあ、チャレンジするよ……! イーブイ! ウォーグル!」
 「ブイ!!!」「ウォーー!!!」


私が2匹を構えると、コスモウムは余裕の表れなのか、その場でゆったりと回転し始める。


彼方「ふふ、コスモッグのときを思い出すな〜。その子、“なまいき”な子だったから〜」

侑「私たちの本気で殻が割れても怒らないでよ?」
 「ブイブイッ」「ウォーグッ」

 「────」


私を煽ってくるコスモッグに向かって、攻撃をしようとしたそのとき、


エマ「二人とも〜おやつの時間だよ〜♪ 休憩にしよ〜♪」


エマさんに呼ばれる。
391 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:40:21.80 ID:bMcrfVdQ0

彼方「わ〜おやつ〜♪ 食べる食べる〜♪ 侑ちゃんも行こ〜♪」

侑「え、えー……今からやる気まんまんだったのに……」

彼方「休憩も大事だよ〜♪ ほら、行こ行こ♪」

エマ「もちろん、イーブイちゃんたちのおやつもあるからね〜♪」

 「ブイ♪」「ウォーグ♪」


イーブイたち……私より先にエマさんの方に行っちゃったし……。


侑「まあ、いっか……コスモウムも行こっか」
 「────」


私も動きがゆっくりなコスモウムと一緒に、エマさんのもとへと向かうのだった。





    🎹    🎹    🎹





──修行をしながら日々を過ごしていたら、瞬く間に時間は過ぎて行って……。

1週間後……。


海未「──以上が今回の作戦内容になります」


コメコシティにて、明日に迫った決戦の、最後の作戦確認を行っていた。


海未「もう直通ゲートはほぼ完成しているそうです。すでに果南、鞠莉、ダイヤには幽霊船の方で待機してもらっています」

リナ『ただ逆探知の可能性も考慮して、ゲートは全員がその場所に揃ってから繋げるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

海未「貴方たちの突入後……少し遅れて、千歌のいる世界にもゲートを繋いで、千歌救出部隊を突入させます」

かすみ「同時には行けないんですか?」

リナ『一度繋いじゃえば問題ないけど……最初に繋ぐときだけは慎重な調整が必要だからね。繋ぐのだけは順番』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「そういうことですね。それと最後に……。……辞退するなら、これが最後のチャンスです。……覚悟はいいですか」

侑「もちろんです」

かすみ「あったりまえじゃないですか!」

彼方「彼方ちゃん、全部に決着をつけてくるから!」

エマ「絶対に……果林ちゃんを止めてみせます」

リナ『みんながいれば怖くない! 私も全力でサポートする!』 || > ◡ < ||

海未「……聞くまでもありませんでしたね」


海未さんは嬉しそうに笑いながら言う。


海未「皆さん、この地方……いえ、この世界の未来のために……よろしくお願いします」


海未さんは深々と頭を下げる。


侑「はい、必ず歩夢たちを連れて……みんなで戻ってきます……!」

かすみ「かすみん、果南先輩の地獄の特訓にも耐えましたからね……! 大活躍してきますよ! 任せてください」
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