侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2

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392 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:41:10.22 ID:bMcrfVdQ0

それぞれの決意を口にして──

さぁ……いよいよ決戦だ……!





    🎹    🎹    🎹





あの後、彼方さんは海未さんに送られる形で、国際警察の医療施設の方へと飛んでいった。

……決戦前日の今日は、遥ちゃんと過ごしたいとのことだった。

エマさんはいつもどおり、自分の寮へ。明日の朝迎えに行くことになっている。

そして、私たちも……今日はセキレイへと帰ってきていた。


かすみ「……かすみんたち、これから世界を救う戦いに行くんですね」

侑「……そうだね」
 「ブイ…」

かすみ「旅に出たばっかりのときは……こんなことになるなんて想像もしてなかったです」

侑「私もだよ」

リナ『ごめんね、私たちの世界の事情に巻き込んじゃって……』 || 𝅝• _ • ||

かすみ「別にリナ子が謝ることじゃないよ」

侑「うん。みんなで解決しよう」

リナ『……うん! ありがとう!』 || > ◡ < ||


かすみちゃんと夜のセキレイシティを歩く。


侑「そういえばさ……」

かすみ「なんですか?」

侑「かすみちゃん……このこと、お父さんとお母さんには言った?」

かすみ「はい! ローズで入院してるときに言いました! パパとママには猛反対されたけど……絶対かすみんがしず子を助けに行くんだって言い続けたら、納得してくれましたよ!」

侑「そっか……。……やっぱ、反対されるよね……」

かすみ「……? ……もしかして、侑先輩……」

リナ『親御さんに言ってないの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……うん」


きっと何を言っても心配を掛けてしまう気がして……なんて言えばいいのかわからなくて……まだ言えていなかった。


かすみ「侑先輩、それはよくないですよ……!」

侑「……だよね」


さすがに命を懸けた戦いに行くのに、家族に何も言わないのは……よくないよね。


侑「……今日、話すよ」

かすみ「それがいいです! もし反対されちゃったら、かすみんに連絡してくださいね! 一緒に説得しますから!」

侑「うん、ありがとう、かすみちゃん」

かすみ「それじゃ、かすみんこっちなんで! ……また明日です! 侑先輩もリナ子もゆっくり休んでくださいね!」

侑「うん、かすみちゃんも」
393 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:44:10.81 ID:bMcrfVdQ0

私はかすみちゃんと別れて──自分の家に向かう。





    🐏    🐏    🐏





彼方「遥ちゃん」

遥「…………」

彼方「ふふ、すっごくお寝坊さんだね……誰に似たのかなぁ〜?」

遥「…………」

彼方「たくさん、怖い思いさせちゃったね……ごめんね……。……でも、次遥ちゃんが目を覚ますときは、怖いことは全部解決してるはずだから」

遥「…………」

彼方「お姉ちゃん……行ってくるね。全部に決着をつけてくるから……遥ちゃんはここでゆっくり休んでて」


そう伝えてわたしは席を立つ。


職員「もう、よろしいんですか?」

彼方「はい。遥ちゃんの近くにいると、離れられなくなっちゃうから……」


本当は一緒にいたいけど……少しでも自分の中にある闘志の炎を絶やさないように……。


彼方「行ってきます。夢の中で……応援してくれると嬉しいな」


そう残して、遥ちゃんの病室を後にしたのでした。




遥「………………お…………ねぇ…………ちゃん………………?」





    🎹    🎹    🎹





自宅のマンションへと帰ってくると──ちょうど、タカサキ家から人が出てくるところに出くわす。


侑「歩夢のお父さんとお母さん……」

歩夢母「あら……侑ちゃん……」

歩夢父「こんばんは」

侑「こんばんは」


挨拶を返しながら顔を見ると──二人とも少しやつれていた。

そりゃそうだ……娘の歩夢が攫われて……もう2週間以上経っているんだから。
394 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:44:55.38 ID:bMcrfVdQ0

侑「あの……」

歩夢母「……ふふ、大丈夫よ」

侑「え……」

歩夢母「歩夢は……ちゃんと帰ってくるって、信じてるから」

歩夢父「今いろんな人たちが、動いてくれているとリーグの方から聞いたからね……。……きっと大丈夫だよ」

歩夢母「だから、侑ちゃんも無理しないでね」

侑「……はい」

歩夢父「それじゃ、おやすみなさい」

侑「……おやすみなさい」


ペコっと頭を下げると、二人はお隣のウエハラ家へと帰っていった。


侑「……」


1秒でも早く、歩夢のご両親を安心させてあげたい……。

そのためにも、私は……戦わなきゃ……。

思わず、自然と拳を握って立ち尽くしてしまう。すると──


侑母「侑ちゃん、いつまでそうしてるの?」


お母さんが目の前にいた。


侑「お母さん……」

侑母「おかえりなさい、侑ちゃん。イーブイちゃんと、リナちゃんも」
 「ブイ♪」

リナ『ただいま』 || > ◡ < ||

侑母「ご飯出来てるから、冷めちゃう前に食べましょう? お父さん待ちくたびれちゃうから。あ、もちろんポケモンちゃんたちの分も用意してるからね」


そう言って、にっこり笑う。


侑「うん」
 「ブイ♪」


私は頷いて家に入る。


侑「歩夢のお父さんとお母さん……よく来るの?」

侑母「まあ……不安だろうからね」

侑「……そうだよね」


私の両親と歩夢の両親は古い付き合いらしいし……一緒にいるだけでも、不安が和らぐものだからね……。


侑母「あ、ご飯の前に手洗いうがいしなさいね」

侑「はーい」


私は洗面所で手洗いうがいをしてから──リビングに入ると……。


侑父「侑、おかえり。イーブイとリナさんもおかえり」

侑「ただいま」
 「ブイブイ♪」

リナ『ただいま』 || > ◡ < ||
395 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:45:27.93 ID:bMcrfVdQ0

お母さんの言うとおり、食卓で待っていたお父さんに出迎えられる。

そして食卓には──豪華な食事が並んでいた。


侑「うわぁ……!」

リナ『すごーい!』 ||,,> ◡ <,,||

侑母「今日は侑ちゃんの好きなものばっかり作ったから♪」

侑「うん!」


私は椅子に座る前に、


侑「みんな、出てきて!」
 「ウォーグ」「…ライボ」「ニャー」「パルト」「フィオ〜♪」

 「メシヤ〜」「メシヤ〜」「メシヤ〜」「メシヤ〜」「メシヤ〜」


みんなをボールから出す。ついでにドラメシヤたちも。


侑母「はーい、ポケモンちゃんたちのご飯はこっちだからね〜♪」

 「イブイッ♪」「ウォーグ♪」「…ライ」「ウニャァ〜♪」「パルト」

 「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」

侑母「リナちゃんのご飯も用意できたらよかったんだけど……」

リナ『気にしないで! その気持ちだけで嬉しい!』 || > ◡ < ||

侑母「ふふ、ありがとう♪」


──お母さんが用意してくれたポケモン用のご飯をみんなが食べ始めるのを見ながら、


侑父「ふふ、随分賑やかになったね」

リナ『侑さん、旅の中でたくさん仲間が増えたから』 ||,,> ◡ <,,||

侑父「そうみたいだね」


お父さんが優しく笑う。


侑母「さぁ、侑ちゃんも冷めないうちに食べて?」

侑「うん……! いただきます……!」


からあげをお皿に取って、口に運ぶ。


侑「……おいしい……っ!」

侑母「ふふ、侑ちゃん昔から好きだったもんね、お母さんのからあげ」

侑「うん! やっぱり、お母さんの作るご飯が一番おいしい……」

侑母「もう、おだてたってなにも出ないわよ〜? あ、デザートもあるからね♪」

侑父「ははっ、侑がお母さんのことを褒めると、どんどんメニューが豪華になりそうだな」

侑「あはは♪」


当たり前の家族の会話が……なんだか、すごく幸せに感じた。

だから……だからこそ……今、ちゃんと伝えないといけないと思った。


侑「……あ、あのさ……お父さん……お母さん……」

侑母「んー?」

侑父「なんだい」
396 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:46:15.20 ID:bMcrfVdQ0

二人が優しい表情で私を見つめてくる。


侑「……あ、あのね……私……」


ちゃんと、伝えなくちゃ……。息を吸って、


侑「…………歩夢を……助けに行くんだ……」


そう言葉にした。

でも、私の言葉を聞いたお父さんとお母さんは驚くどころか、


侑母「ふふ、知ってる」

侑父「わかってるよ」


優しい表情のまま、そう答える。


侑「え……?」

侑母「侑ちゃんが、歩夢ちゃんのこと助けに行かないわけないって……それくらい、お母さんたち最初からわかってるのよ?」

侑父「もしかしたら、言ってくれないんじゃないかって心配はしてたけどね」

侑「お父さん……お母さん……。……で、でもね……すごく危ないところに行くんだ……」

侑母「うん」

侑「もしかしたら……帰って、来られないかもしれない……」

侑父「大丈夫」

侑「え……?」

侑父「お父さんもお母さんも……侑のことを信じてるから」

侑「……!」


その言葉を聞いて──ふいに、頬を涙が伝った。


侑母「もう……泣くことないでしょ〜?」


そう言いながら、お母さんが席を立って、私の涙を指で優しく拭ってくれる。


侑「ご、ごめん……」

侑母「もちろんね……侑ちゃんが危ないところに行くのは心配……だけどね……侑ちゃんが自分で決めたことなんだよね? だったら、お母さんたちは侑ちゃんを信じて応援するよ」

侑「お母さん……」

侑父「ははっ、侑が泣くのを見たのは──歩夢ちゃんの旅立ちが決まったとき以来だね」

侑「!?/// お、お父さん!?///」

リナ『え? 侑さん、歩夢さんの旅立ちが決まったときに泣いちゃったの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「リナちゃんがいるのに変なこと言わないでよ!?///」


──実は私は……歩夢が旅立ちの3人に選ばれたとき、泣いてしまった。

私は小さい頃からずっとポケモンが……ポケモンバトルが大好きで、ずっとずっとトレーナーに憧れていて……。

自分もいつかは最初のポケモンと図鑑を貰って旅に出ることが夢で、いつかそうなるんだって思っていたから……。

私じゃなくて──歩夢が、大切な幼馴染がそれに選ばれたことが嬉しくて誇らしかったのと同時に……なんで私じゃなかったんだろうって、悔しくて泣いてしまったんだ。

でも、そんな姿を見せたら、歩夢は絶対に旅立ちをやめてしまう。だから、気持ちはこの家の中までに留めて……歩夢にはちゃんとおめでとうと伝えた。

……その後、歩夢に旅に付いてきて欲しいとお願いされたときは、なんだかすごく安心したのを覚えている。

最初のポケモンと図鑑を貰ってではないけど……私も、ポケモンたちとの冒険の旅に出られるんだって……。
397 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:47:43.99 ID:bMcrfVdQ0

侑父「お父さんとお母さんはね、ポケモンやポケモンバトルについては素人だから、詳しくはわからないけど……侑の顔と、侑のポケモンたちを見ればわかるよ」

 「ブイ♪」「ウォーグッ」「…ライボ」「ウニャァ〜」「パルト」「フィオ〜♪」

侑父「侑は素敵な仲間に恵まれて……強く、たくましくなってきたんだって」

侑「お父さん……」

侑父「あのとき、悔しくて泣いていた侑が……旅をして、大切な仲間に出会って、強くなって……大切な人を助けに行きたいと言っている。……それを応援しない親がいると思うかい?」

侑母「私たちは……いつだって、侑ちゃんの味方だよ」


お父さんが優しく笑い、お母さんが私を抱きしめてくれる。


侑「うん……、うん……っ……」


ポロポロ、ポロポロと涙が溢れてきた。


侑母「お母さんたちは……このお家で、侑ちゃんのこと、信じて待ってるから……」

侑父「侑は僕たちの自慢の娘だよ。だから、胸を張って……行っておいで」

侑「うん……っ……。……うん……!」


私はこの日、お父さんとお母さんの子供でよかったと……心の底から、そう思ったのでした。





    🎹    🎹    🎹





リナ『素敵なご両親だね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「……うん」
 「ブイ♪」


自分の部屋に戻ってきて……今はイーブイのブラッシングをしてあげている。


侑「……リナちゃん」

リナ『なぁに?』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「……絶対に、帰ってこよう……みんなで……!」

リナ『もちろん!』 || > ◡ < ||


それぞれの想いを胸に──決戦前夜は更けていく……。



398 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:48:17.41 ID:bMcrfVdQ0

    🎹    🎹    🎹





──翌日。やぶれた世界。


果南「全員、揃ったみたいだね」

ダイヤ「それでは……始めましょうか」

鞠莉「OK. 座標の最終調整開始」


鞠莉さんが端末を弄りながら、最終調整を行い。


鞠莉「捕捉完了!! ダイヤ、行くわよ!」

ダイヤ「はい、いつでも!」


鞠莉さんとダイヤさんが、手にそれぞれ珠を持ち、


 「ディアガァァァ!!!」「バァァァァァル!!!」


ディアルガとパルキアが雄叫びをあげると同時に──ゲートが開通する。

私は、


侑「みんな」


みんなを振り返る。


侑「絶対に……帰ってこよう! みんなで!」
 「イッブィッ!!」

リナ『うん!』 ||,,> ◡ <,,||

かすみ「当然です!」

彼方「任せろ〜♪」

エマ「うんっ!」

侑「……行くよ!!」
 「ブイッ!!!」


私たちは決戦の地に赴くために、ゲートに向かって──飛び込んだのだった。



399 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:48:53.79 ID:bMcrfVdQ0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【やぶれた世界】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.75 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.74 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.74 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.70 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.71 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.68 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:239匹 捕まえた数:10匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.76 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.72 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.70 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.70 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.71 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.71 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:234匹 捕まえた数:14匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



400 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 01:25:32.18 ID:qt5/exVx0

 ■Intermission👏



愛「……来たよ」


計器を見ながら、敵の来訪をカリンに伝える。


果林「……行きましょうか」

姫乃「はい」

しずく「仰せのままに♡」

歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」


先導するカリンの後ろを姫乃が、そしてしずくが歩夢を乗せた車椅子を押しながら歩き出す。


せつ菜「……決戦ということですか」

果林「気が乗らないのなら、来なくてもいいのよ」

せつ菜「……いえ、行きますよ」

しずく「せつ菜さん、私のこと守ってくださいね♡」

せつ菜「……ええ」


しずく……いつの間にか、せっつーに自分を守らせてるなんて、ホント食えない子だよねー。
401 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 01:26:24.24 ID:qt5/exVx0

愛「んじゃ、あと頑張ってねー」

姫乃「愛さん、貴方……まさか付いてこない気ですか?」

愛「愛さんにはちょっとやることがあってね〜」

姫乃「総力戦なんですよ!? 貴方はこんなときでも自分勝手な行動を……!!」

果林「姫乃、やめなさい。愛はあくまでエンジニアよ。戦力であることを強要するのはお門違い」

姫乃「ですが……!」

果林「……それになんだかんだで、必要な行動を勝手にしてくれる。それが愛よ」

姫乃「…………」

愛「いやー愛さん信頼されてんね〜」

果林「ただ……変な行動をしたときは……わかってるわよね」


果林が鋭く睨みつけてくる。


愛「おーこわ」


その視線を適当に受け流す。


果林「……行ってくるわ」

愛「行ってら〜」


果林たちが出て行くのを見送ったのち──


愛「……さて……アタシも始めるかー……」
 「──リシャン」


リーシャンと共に、“テレポート”でウルトラスペースシップを後にした。


………………
…………
……
👏

402 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:26:56.90 ID:qt5/exVx0

■Chapter062 『決戦』 【SIDE Yu】





──ゲートを潜ると……。


侑「ここが……果林さんたちの拠点世界……?」
 「ブイ…」


巨大な峡谷のような景色が広がっていた。


かすみ「……なーんか、思ったより異世界って感じしませんね……かすみんたちの世界にもこういう場所ありそう」

エマ「雰囲気はカロス地方の9番道路とかに似てるかな……?」

リナ『コウジンタウンと輝きの洞窟を繋ぐ道路だよね。確かにそんな感じだね』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「さしずめ、ウルトラキャニオンってところだね〜」


みんなが言うように、異世界という割にはそこまで私たちの世界との違いが感じられない。


侑「ここに……いるんだよね?」

リナ『うん、間違いない』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「とりあえず、立ち往生して先に見つけられると不利になるから……移動しようか〜。周囲の警戒は怠らないようにね〜」

かすみ「はーい! 了解です〜」


私たちは果林さんたちの拠点世界改め──ウルトラキャニオンを進んでいく……。





    🎹    🎹    🎹





かすみ「それにしても……向こうはかすみんたちが、こうして近くに来てることに気付いてないんですかね?」


周囲を警戒しながら峡谷を歩くかすみちゃんが、そう零す。


彼方「そんなことはないと思うけど〜……」

リナ『逆探知はされてると思う。向こうからしたら、私たちから追われるだろうってことも想定してるはずだし』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「でもでも、かすみんたちが来るってわかってるなら、普通留まらないんじゃないないですか? かすみんだったら別の世界に逃げちゃいます」

リナ『いや、それはないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「なんで??」

リナ『理由はいくつかある。一つは離れてもまたすぐに探知されるってことがわかってるから。こっちは向こうの機器の持つ固有の情報をほとんど掴んでるし。向こうもそれに気付いてるから』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「でも、電波とかを出す機械を全部取り換えちゃえばいいんじゃないの? しゅーはすう? 的なものが変わっちゃうとこっちも見つけるのが大変になっちゃうんでしょ?」

リナ『言うほど機器を取り換えるのは楽なことじゃない。計器の中には、かなり貴重なものもあるし……それこそコスモッグを探知するレーダーはかなりコストが掛かってる。航行にはコスモッグのエネルギーも消費するし、それを捨てるのはあまりにリスキーすぎる。だからと言って逃げ回るのもエネルギーを消費するし非効率ってこと』 || ╹ᇫ╹ ||


確かに仮にコスモッグを探知するレーダーを失った状態で、コスモッグに逃げられたらウルトラスペース内のどこかの世界から脱出できなくなる可能性があるわけだ。

こっちからコスモッグ探知レーダーの周波数を使って、場所を探られたからと言って、それを捨ててしまうのはあまりにリスクが大きすぎるというのは頷ける話だ。
403 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:28:24.64 ID:qt5/exVx0

侑「もう一つの理由は?」

リナ『それは歩夢さんの能力が関係してる』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「歩夢の……?」

リナ『ポケモンに対する引き寄せ体質を持ってる人の論文は私も昔読んだことがあるけど……。あの能力は一ヶ所に留まっていた方が効果が大きくなる』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そうなの?」

リナ『引き寄せ体質の人から放たれるフェロモンのようなものを感知したからって、すぐさまポケモンがわらわら集まってくるわけじゃないからね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……まあ、それはそっか」


確かに歩夢の周りには、よくポケモンが集まってきていたけど……そこまで極端な集まり方ではなかったはずだ。

もしそうだったら、歩夢はまともに旅なんか出来ないだろうし……。


リナ『それに果林さんたちが引き寄せようとしてるのはウルトラビースト。ウルトラビーストはそもそも数も少ないだろうし……大量に捕獲するつもりなら一ヶ所に留まって、捕獲を行うのが一番効率がいいはず』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「なるほど……」

彼方「それに……果林ちゃんたちは性格的に、逃げるよりは追ってくる戦力を徹底的に叩くのを選びそうだしね〜……」

リナ『うん。私も果林さんだったら、相手の戦力を削ぐことを優先すると思う』 || ╹ᇫ╹ ||

エマ「誰も追ってこれなくなっちゃえば、場所がわかっても関係ないもんね……」

リナ『そういうこと』 || ╹ ◡ ╹ ||


確かに私の目から見ても、果林さんは実力を誇示して、相手を折るタイプな気がするし……何より、一緒の組織に属していた彼方さんやリナちゃんが言うと説得力がある……。

果林さんたちが拠点世界を変えない理由に納得していると……。


リナ『みんな、止まって』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんがみんなを制止する。


彼方「みんな、一旦岩陰に入って」

侑「は、はい!」


私たちは指示通り、一旦近くの岩陰に隠れる。

隠れたところで、


彼方「リナちゃん、何か見つけたんだよね?」


彼方さんがリナちゃんにそう訊ねる。


リナ『うん。あそこの岩壁の上にウルトラスペースシップが見えた』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「え、ホントに……? なんにも見えないけど……」

リナ『私のカメラは高性能。間違いない』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||

彼方「コスモッグレーダーの反応も近付いてるってことだよね?」

リナ『うん。ただ、この世界には衛星がないから……GPSみたいな正確な位置情報の把握までは出来ないけど……』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「あ、それならリナ子のえこーろーてーしょん……? みたいなやつで探してみるのは?」

侑「いや、それはやめた方がいいと思う……。エコーロケーションしても、ローズジム戦のときみたいに逆に見つかるだけだよ」


相手の場所がわかっても、こっちの場所がばれたら意味がない。
404 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:29:07.99 ID:qt5/exVx0

彼方「とりあえず……この先にいるのは間違いないと思うよ〜」

リナ『わざわざ、ウルトラスペースシップを放棄する理由もないしね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「……じゃあ、このまま進んでいけば……」

リナ『間違いなく接敵するね』 || ╹ᇫ╹ ||


いよいよ、決戦の時ということだ……。


彼方「この先に進む前に……それぞれの役割をちゃんと確認しておこっか」


彼方さんの言葉にみんなで頷く。


侑「私は歩夢を助けること」


私の目的はとにかく歩夢の救出を第一目標にしている。

場合によっては歩夢を安全な場所に避難させるために、逃げることも視野に入れるという話になっている。

……もちろん、簡単に逃げられるような相手とは思っていないけど……。


かすみ「かすみんはしず子の目を覚まして連れ戻すことです!」


かすみちゃんの第一目標はしずくちゃんの救出。

しずくちゃんは、フェローチェによる魅了の力のせいで、敵になっていると考えた方がいい……。

かすみちゃんはしずくちゃんと戦闘になってでも、どうにかしずくちゃんを無力化して相手から引き剥がす。

それが、かすみちゃんに課せられたミッションだ。


エマ「わたしは果林ちゃんのところに行ってお話することだよね!」


エマさんの目的は果林さんの説得だ。

これが出来れば、全ての戦闘をそれだけで終わらせられるかもしれない。

ただ……エマさんはバトルが得意なわけじゃないから、私たち3人でエマさんをフォローしながらということになっている。

もちろん、説得が出来ないと判断した場合には、エマさんを優先してゲートの場所まで彼方さんが逃がすという話だ。


彼方「そして、彼方ちゃんは〜……せつ菜ちゃんの足止め〜。……正直、一番荷が重いよ〜……」


そして、彼方さんの役割は……せつ菜ちゃんとの戦闘だ。

敵戦力の中でもせつ菜ちゃんの強さは頭一つ抜けていると考えた方がいい。

誰かが抑える必要はあるということで、彼方さんがせつ菜ちゃんと戦闘する担当になったんだけど……。


かすみ「自慢の防御力で時間を稼いでくれればいいんですから! かすみん、すぐにしず子の目を覚まさせて加勢に行きますから!」

侑「私も、歩夢を安全な場所に避難させたら、すぐに戦闘に戻ってきます。せつ菜ちゃんも放ってなんかおけないし……」

彼方「うん、お願いね〜」


せつ菜ちゃんに勝つには1対1では不可能と考えて、まず彼方さんが足止めをし、先に目的を達成した人が加勢に行くことになっている。

もちろん……せつ菜ちゃんを助けることも大事な目的な一つだ。

──『貴方なんかに──私の気持ちは、理解出来ませんよ……』──

まだ、あのときの言葉が胸に刺さっているけど……。それでも、このまま……何も理解出来ないままなんて嫌だから……。

──そして、最後に……。果林さんと愛ちゃんについて。


彼方「愛ちゃんもだけど〜……エマちゃんが果林ちゃんの説得に失敗しちゃった場合とかは、この二人とは無理に戦わなくてもいいからね」
405 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:31:44.06 ID:qt5/exVx0

果林さんや愛ちゃんに関しては、この場で無理に倒す必要はない。

最優先は歩夢、しずくちゃん、せつ菜ちゃんを救出及び連れ戻すことだ。

もちろん、邪魔をしてくるのは間違いないだろうから……戦う必要が出てくる場面は予想されるけど……。

私に関しては歩夢を救出するだけだけど……かすみちゃんはしずくちゃんと敵対する可能性が高い分、負担は大きい。

もちろん、もっとも大変なのは彼方さんだけど……。


彼方「まあ、この作戦もあくまで、相手の戦力がこれしかいない場合だけどね……」

リナ『組織に属する人間が他にいる可能性もあるけど……それを言い出したらキリがないからね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

彼方「とはいえ……他世界遠征作戦は基本的に限られた少人数しか参加しないはずだから……たぶん、大丈夫なはず……。イレギュラーに関しては各自柔軟に対応してね」

侑「はい!」

かすみ「了解です!」

エマ「わかった!」


私たちは最後の確認を終え、戦いへと赴きます──



彼方「……侑ちゃんは歩夢ちゃん、かすみちゃんはしずくちゃん、エマちゃんは果林ちゃん。……それぞれ助けたい人や気持ちを伝えたい人がいるけど……リナちゃんは大丈夫?」

リナ『……』 || ╹ _ ╹ ||

彼方「愛ちゃんと……お話し出来るかもしれないよ?」

リナ『……悩んだけど……いい』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「そう……?」

リナ『……せっかく時間が経って……璃奈の死に整理がついてるかもしれないのに……璃奈の記憶を持った私が出ていったら……辛いこと思い出させちゃうだろうから』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「……そっか」

リナ『彼方さんこそいいの?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「え?」

リナ『果林さんのこと』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「……。……うん。きっと、もうわたしの言葉は……果林ちゃんには届かないから……」

リナ『……そっか』 || ╹ _ ╹ ||





    🎹    🎹    🎹





歩くこと小一時間──


侑「大分……近付いてきたね」

かすみ「……ですね」


私たちの目にも、岩壁の上に停まっているウルトラスペースシップが見えてきた。

出来るだけ目立たないように、岩壁に沿って進んでいると──峡谷の途中に、少し開けた場所が見えてきた。

大きな岩壁に囲まれているのは変わらないけど──広場のようになっていて、左側は岩壁が途切れ、空が見える。

道も続いていないところから見て、恐らくその先は崖になっているんだと思う。


かすみ「開けた場所まで来ましたね……」

彼方「気を付けてね。見晴らしがいいってことは……相手からも見つけやすいところってことだから……」
406 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:33:18.30 ID:qt5/exVx0

そのとき──突然、頭上から熱気を感じ、


侑「イーブイ!! “いきいきバブル”!!」
 「ブーーーィィッ!!!!」


咄嗟に放ったイーブイの体から発生した泡が──頭上から迫っていた炎の玉を鎮火させる。

この炎は──


果林「──へぇ……まさか、貴方たちが来るとは思わなかった」
 「コーン」

侑「……果林さん……!」


声がして見上げると……前方の岩壁の上に──果林さんが立っていた。


かすみ「不意打ちなんて相変わらずですね!!」

果林「あら、自分たちからのこのこ敵地に出向いてきて……不意打ち程度で怒らないで欲しいわ」

侑「……歩夢はどこですか」

果林「怖い顔ね……。可愛い顔が台無しよ、侑」

侑「答えてください」

果林「そう焦らないで。貴方の大切な歩夢は──ここよ」


果林さんがそう言うと──彼女の背後から、ウイーンと音を立てながら電動車椅子のようなものが独りでに前に出てくる。

そして、その車椅子の上には……。


歩夢「………………」
 「──ジェルルップ…」


頭の上に見たこともないようなポケモンを乗せ──ぐったりとしている歩夢の姿があった。


侑「……あゆ……む……?」


私の中でサァーっと血の気が引いていく。


果林「ふふ……そう、貴方の大好きな歩夢よ。素敵な姿になったでしょう?」

リナ『ウルトラビースト……ウツロイド……!?』 || ? ᆷ ! ||

彼方「果林ちゃん……歩夢ちゃんにウツロイドを寄生させたの!?」

果林「ええ、別に欲しかったのはこの子のフェロモンだけだもの」

かすみ「ひ、ひどい……」


ウツロイドというウルトラビーストが、どんなポケモンなのかわからないけど……今の歩夢はとてもじゃないけど、まともな状態でないのは一目でわかった。


侑「歩夢……」

果林「こんなになっても、ちゃんとこの子の能力は活きているけどね」

侑「っ……!!」


──まるで歩夢を道具扱いするような物言いを聞き、頭がカッと熱くなるのを感じて、前に踏み出した瞬間、


エマ「果林ちゃんっ!! もうこんな酷いことするのはやめてっ!!!」


エマさんが叫んだ。

今の今まで、私たちを煽るような物言いをしていた果林さんだったけど、
407 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:34:26.30 ID:qt5/exVx0

果林「……!? え、エマ……!? なんで、ここに……!?」


エマさんを認識した瞬間、露骨に動揺の色を見せる。


エマ「果林ちゃん!! 果林ちゃんがしたかったのは、本当にこんなことなの!? 誰かを傷つけてまで、酷いことしてまで、しなくちゃいけないことなの!?」

果林「……そ、そうよ……!! 私は最初からこういうことをする人間なの!!」

エマ「違うよ!! 果林ちゃんは本当は優しい人だもん!!」

果林「貴方は私に幻想を見過ぎなのよ!! ここまで来たのなら、わかっているんでしょう!? 私は……貴方の、エマの世界を滅ぼそうとしているのよ!!」

エマ「そんなの嘘だよっ!! 果林ちゃんはそんな人じゃないっ!! そんなこと心の底から望んでるはずないっ!!」

果林「……っ……! エマ、貴方に私の何がわかるの!?」

エマ「わかるよ……!! だって……だって……ずっと、果林ちゃんのこと……見てたもん……!」

果林「……だ、黙りなさい!!」

エマ「黙らないよっ!! 果林ちゃんが望んでないことして苦しんでるのに、ほっとけないもん!!」

果林「望んでないなんて、勝手に決めつけないで!! 私は私の意志で戦ってるの!!」


果林さんはエマさんの言葉に、想像以上に狼狽えていた。


果林「もし、私の邪魔するなら──」


果林さんは狼狽えながらも、手を上げ──それと同時に、


 「コーーンッ!!!!」


果林さんの背後のいるキュウコンの尻尾の先に狐火が宿る。


果林「……エマ……貴方にも、容赦しない……!!」


そう言葉をぶつけてくる果林さんに対して、


エマ「いいよ」


エマさんはそう答えて、前に歩み出る。


彼方「え、エマちゃん!? 前に出ちゃダメ……!」


彼方さんが制止しようとするけど、


エマ「果林ちゃん。私はここにいるよ」


エマさんは、彼方さんを手で制しながら、果林さんを挑発する。


エマ「わたしが果林ちゃんのこと何もわかってないって言うなら……その炎で燃やせばいい」

果林「な……」

エマ「……でも、果林ちゃんはそんなことしないって、わかってるよ。わたしは……果林ちゃんのこと、ずっと見てたから……」

果林「……っ……」


果林さんの振り上げた手が──震えていた。


エマ「……果林ちゃん……もう、やめよう……? 自分の気持ちを押し殺して……悪い人になろうとしても……悲しくなっちゃうだけだから……」

果林「う、うるさいっ……!! 私の気持ちがわかるなら……これ以上、私を惑わすこと言わないでっ!!」

エマ「なら……その炎を飛ばせばいいよ。抵抗しないから」
408 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:35:05.75 ID:qt5/exVx0

エマさんが無防備に手を広げた、そのとき──エマさんの頭上に、巨大な物体の影が差した。


 「──テッカグヤ!! “ヘビーボンバー”!!」
  「────」

エマ「っ!?」

彼方「エマちゃん!!」


咄嗟に彼方さんがエマさんを押し倒すように飛び付き、今しがたエマさんが居た場所に──落ちてきた巨体が轟音を立てながら、大地を割り砕く。


リナ『あわわ!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「うわぁっ……!!?」
 「イブィッ…!!?」


目の前で大地が割れ砕け、巻き込まれそうになった瞬間──後ろにグイっと引っ張られる感覚。


 「──カインッ!!」
かすみ「侑先輩!? 平気ですか!?」

侑「かすみちゃん!?」
 「ブイッ!!?」


気付けば、かすみちゃんのジュカインに抱きかかえられる形で、割れ砕ける大地から離脱する。

でも──エマさんたちは、今の攻撃に巻き込まれてる……!


侑「っ……!! エマさんっ!! 彼方さんっ!!」


エマさんと彼方さんの名前を呼ぶけど──巻き起こる砂塵のせいで、二人の姿を確認出来ない。

一方──砂塵の中に、巨大なポケモンの影が見える。そして、その中から声が響く。


姫乃「果林さん!! その女の言葉を聞いてはいけません!!」

果林「ひ、姫乃!?」

姫乃「こいつらは、その女が果林さんと繋がりがあるのを知った上で、果林さんを惑わすために連れてきた……!! これは敵方の策略です!! その女の言葉を聞いてはいけませんっ!!」


姫乃と呼ばれた女の子の声が響き渡る。

──私たちの知らない敵がいる……!?


エマ「──惑わす!? 作戦!? 違うよ!? あなたはなんで果林ちゃんに戦わせようとするの!?」

侑「……!」


砂煙の中から響くエマさんの声……! エマさんは無事だ……!


姫乃「黙りなさい……!! テッカグヤ!!!」
 「────」


テッカグヤと呼ばれた巨大のポケモンの影が巨大な手を振り上げ──音を立てながら崩れる大地にダメ押しをするように、叩きつけた。


エマ「──きゃぁぁぁぁぁっ!?」

彼方「エマちゃん……っ!!!」


轟音の中響くエマさんの悲鳴と、彼方さんの声。

そして、ガラガラと地面が崩れ落ち──砂塵が落ち着いた頃には……先ほどまであった広場の3分の1ほどが、崩落してしまっていた。

そこにエマさんと彼方さんの姿は無く──テッカグヤと呼ばれていた巨大なポケモンと、姫乃と呼ばれていた女の子の姿もなかった。

恐らく、崩落に巻き込まれた二人を追撃しに行ったんだ……!
409 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:36:52.91 ID:qt5/exVx0

侑「え、エマさんたちを助けにいかなきゃ……!!」

かすみ「あ、ちょっと、侑先輩!?」


着地したジュカインの腕を振り払うように飛び出し、崖の下に向かって飛ぼうとした瞬間──


果林「──“れんごく”!!」
 「コーーーンッ!!!!」

リナ『侑さん、攻撃!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「!? フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「──フィーーーッ!!!!」


飛んできた怨念色の炎を、咄嗟に繰り出したフィオネの“ハイドロポンプ”で消火する。


果林「…………どこに行くつもりかしら」


果林さんがこちらを睨みつけている。

その目には──先ほどまでの動揺は見てとれず、今までのような冷たい……射殺すような表情に戻っていた。


侑「……っ」


説得は──失敗した。


かすみ「救助にはかすみんが行きます!! 侑先輩は果林先輩を……!!」
 「カインッ!!!」


そう言いながら、かすみちゃんがジュカインと一緒に崖下に向かって、飛び出すけど──


 「──サーナイト、“サイコキネシス”」
  「サナ」


声がした直後、


 「カインッ!!?」
かすみ「えっ!?」


ふわりと浮き上がったかすみちゃんとジュカインが──上に押し戻されるように吹っ飛ばされ、岩壁に叩きつけられる。


かすみ「っ゛、あ゛……」
 「カ、カインッ…!!!!」

侑「かすみちゃん!?」
リナ『かすみちゃん!?』 || ? ᆷ ! ||


岩壁に叩きつけられ、鈍い声をあげながら地面に落っこちるかすみちゃんに駆け寄ろうとしたとき、


 「ダメですよ、かすみさん♡ せっかく、分断出来たんだから♡」


声が響く。

その声は──私もよく知っている人物の声。


かすみ「……しず……子……っ……!!」

しずく「ふふ♡ かすみさんの目的は私でしょ? 他に気を取られてないで……私と遊んでよ♡」


気付けば、果林さんの横に──しずくちゃんが立っていた。
410 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:38:36.62 ID:qt5/exVx0

しずく「果林さん、私はかすみさんを倒しに行っていいですか?♡」

果林「ええ……完膚なきまでに叩きのめせたら……ご褒美をあげるわ」

しずく「ホントですか!? 嬉しい♡ 頑張ります♡」


そう言いながら、しずくちゃんが崖を飛び降り──地面スレスレで、サーナイトのサイコパワーにより減速して着地する。


かすみ「……しず、子……」


しずくちゃんの名前を呼びながら、かすみちゃんがよろよろと立ち上がる。


侑「かすみちゃん、平気!?」

かすみ「これくらい……掠り傷です……」
 「…カインッ!!」

しずく「あはは♡ それでこそ、かすみさんだよ♡ もっと、私のこと楽しませて♡」

リナ『し、しずくちゃん……かすみちゃんを本気で攻撃して……』 || 𝅝• _ • ||


しずくちゃんは……かすみちゃんを攻撃して、笑っていた。

とてもじゃないけど、今目の前にいるしずくちゃんは──私たちの知っているしずくちゃんとは思えなかった。


かすみ「……全くしず子ったら……イタズラにしては……度が過ぎてるんじゃない……?」

しずく「え〜、かすみさんが私にお説教ですか〜?♡」

かすみ「イタズラしず子には……お仕置きが必要だね……!」


そう言いながら、かすみちゃんの腕に付けた“メガブレスレット”が光り輝き、


 「カイィィィィンッ!!!!!」


ジュカインがメガジュカインへと姿を変える。


しずく「うふふ♡ かすみさんが私を叱るなんて……10年早いよ♡」


そう言うのと同時に、しずくちゃんの首に提がっているブローチが眩い光を発し、


 「──サナ…」


しずくちゃんのサーナイトがメガサーナイトへと姿を変える。


かすみ「ぶん殴ってでも……目、覚まさせてあげる……」
 「…カインッ!!!」

しずく「あはは♡ 私はいつでも正気だよ♡」
 「…サナ」


かすみちゃんがしずくちゃんとの戦闘態勢に入る中──しずくちゃんの背後……崖の上にもう一つの人影……。

黒髪ストレートロングの右の髪を一房だけくくった──……私の憧れのトレーナー……。


侑「せつ菜ちゃん……」

せつ菜「……」


せつ菜ちゃんは一瞬だけ私に目を配らせたけど、すぐに目を逸らしてしまった。

直後──
411 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:39:23.80 ID:qt5/exVx0

果林「──“かえんほうしゃ”!!」
 「──コーーーンッ!!!!」

侑「!? “どばどばオーラ”!! “みずのはどう”!!」
 「ブーーーィィッッ!!!」「フィォーーー!!!!」


突然、果林さんの方から突然飛んできた攻撃を2匹の技で打ち消す。


果林「よそ見なんて余裕じゃない……」

侑「……っ」


果林さんから視線を外さないように、目の端でせつ菜ちゃんを確認すると──せつ菜ちゃんの視線は、かすみちゃんとしずくちゃんの方を見ていた。

なんで、そこで立ち尽くしているかはわからないけど……せつ菜ちゃんは、私よりもかすみちゃんを狙っているように見える。

それだと、かすみちゃんが1対2で戦うことになってしまう。どうにか、果林さんの攻撃を捌いて加勢に行きたいんだけど……!


 「コーーンッ!!!」


再び、果林さんのキュウコンの尻尾の先に狐火が灯る。

とてもじゃないけど、隙なんか見せてくれそうにない。

どうにかして、かすみちゃんが1対2になるのを防がないと……何か方法は……!

そう思った、そのとき、


かすみ「侑先輩!!」


かすみちゃんが私の名前を呼ぶ。


かすみ「侑先輩の目的……! 忘れないでください!!」

侑「……!」

かすみ「かすみんの心配は二の次でいいです! お互い、まずは自分の目的を果たしましょう……!!」


……そうだ、私の目的は──


 「──ジェルルップ…」
歩夢「………………」


まずは歩夢を助けることだ……!


侑「ごめん、かすみちゃん! すぐに助けに戻るから……! 行くよ、ウォーグル!!」
 「──ウォーーーッ!!!!」


私はボールからウォーグルを出して、崖上の果林さんに向かって飛び出した。



412 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:39:54.90 ID:qt5/exVx0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.75 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.74 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.74 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.70 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.71 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.68 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:241匹 捕まえた数:10匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.76 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.72 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.70 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.70 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.71 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.71 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:236匹 捕まえた数:14匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



413 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 02:06:46.29 ID:loIPccok0

 ■Intermission✨



──やぶれた世界。


曜「──それじゃ行ってきまーす!」


曜がゲートに飛び込み──


善子「……んじゃ、行ってくるわ」


千歌救出班の最後のメンバー、善子がゲートに向かう。


鞠莉「善子。みんなのこと、お願いね」

善子「……マリーこそ、途中でへばってゲート閉じないでよ」

鞠莉「あら、善子ったら……相変わらず可愛くないわね」

善子「はいはい、私は可愛くないですよ」

鞠莉「……ふふ」

善子「なによ」

鞠莉「いつもの言わないのね」

善子「……本気で心配して言ってるときくらい……私の真名で呼ぶこと……許してやらなくもない」


そう残して──善子はゲートの中に飛び込んでいった。これで千歌救出部隊の5人全員が向こうの世界に行った。


鞠莉「……行ってらっしゃい、善子」

ダイヤ「……ふふ」

鞠莉「……なんで笑うのよ」

ダイヤ「なんだかんだで、良好な関係のようで安心しましたわ」

果南「善子ちゃんが出て行ったとき、鞠莉ったらわんわん泣いてたもんね。もっと優しくしてあげればよかったーって」

鞠莉「ちょ!?/// い、今そんな話しなくていいでしょ!?///」

ダイヤ「ほら、動揺するとゲートが閉じてしまいますわよ?」

果南「ま、おしゃべり出来る余裕があるなら大丈夫そうだけどね〜」

鞠莉「ぐ、ぬぬぬ……」


果南もダイヤも、隙を見せるとすぐからかってくるんだから……!

……ああもう、集中集中……!

恥ずかしさを紛らわすように、手に握った“しらたま”に意識を集中しようとした──そのときだった。


鞠莉「……え……?」


目の前で──明るい茶髪をツインテールに結った女の子が……先ほど侑たちが入っていった世界に繋がっているゲートに向かって飛び込んでいった。


鞠莉「な……え……!?」

ダイヤ「い、今の……!?」

果南「二人とも、ゲート不安定になってる!! 今集中切らしたら善子ちゃんたちがウルトラスペースに投げ出される!!」


そう言いながら、果南が私たちの持っている“しらたま”、“こんごうだま”に上から手を乗せる、
414 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 02:07:25.34 ID:loIPccok0

鞠莉「っ……!! ダイヤ!!」

ダイヤ「は、はい!!」


ダイヤと共に集中する。

果南の助けもあり……ゲートはすぐに安定し始めるけど……。


鞠莉「い、今……人がゲートを……」

ダイヤ「わ、わかっています……ですが……」

果南「……私たちはこの場を離れられない……」

ダイヤ「……こうなってしまうと……もはや、本人にどうにかしてもらうしか……」

鞠莉「この後、一般人を通すって話は聞いてたけど……今の子じゃないわよね……? 護衛も付いてなかったし……」

ダイヤ「は、はい……」

果南「……とにかく、今はゲート維持に集中しよう。人が来たら、海未に報告を頼むってことで」

鞠莉「……OK. そうだネ……」


今は自分たちの役割を全うするしかない……。

でも、今の子……誰だったのかしら……?


………………
…………
……


415 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:04:16.24 ID:loIPccok0

■Chapter063 『ハルカカナタ』 【SIDE Kanata】





 「メェ〜〜」
彼方「……ふぃ〜……危なかったぜ〜……」


“コットンガード”によって、自分の体毛をこれでもかと大きく膨らませたバイウールーの綿毛から顔を出しながら、汗を拭う。


エマ「あ、ありがとう……彼方ちゃん……。バイウールーも……」

 「メェ〜」

彼方「エマちゃん、怪我してない?」

エマ「うん、お陰様で……」


テッカグヤの攻撃で地面が崩れ落ちる中、咄嗟にバイウールーの綿毛で自分たちを包み込み、そのまま落下してきた。

バイウールーの特性が“ぼうだん”だったこともあって、崩れ落ちる岩を防げたのも大きい。


彼方「それにしても……大分落ちてきちゃったね……」

エマ「うん……」


見上げると、私たちがさっきまでいたであろう場所が遥か高くに見える。


エマ「彼方ちゃん、早く上に戻ろう……!」

彼方「……いや、まずはエマちゃんを逃がすのが先」

エマ「え……」

彼方「説得は失敗した。……当初の作戦どおり、まずはエマちゃんを戦域から逃がすのを優先するよ」

エマ「ま、待って……! もう少し……もう少しお話し出来れば……!」

彼方「……」


確かに、エマちゃんの言葉は、元仲間のわたしも驚くほど、果林ちゃんの動揺を誘っていた。

……もしかしたら……エマちゃんなら、時間を掛ければ本当に果林ちゃんを説得出来ちゃうのかもしれない。

でも……もう戦闘は始まってしまっている……。


エマ「彼方ちゃん……お願い……! もう一度、果林ちゃんのところに連れていって……!」

彼方「エマちゃん……」

 「──その必要はありませんよ」

彼方・エマ「「……!」


上空から声がして、顔を上げる。

そこには──


姫乃「……何故なら、ここで私が始末するからです……」


姫乃ちゃんが空からわたしたちを見下ろしていた。

腕のバーナーから炎を噴き出し、飛行するテッカグヤに乗って。


エマ「あ、あなたは……さっきの……」

彼方「……まさか……あなたがここにいるとは思わなかったよ〜。……姫乃ちゃん」

姫乃「…………」
416 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:05:25.01 ID:loIPccok0

わたしの言葉に対して、姫乃ちゃんは返事をせずに冷たい視線だけ送ってくる。


エマ「彼方ちゃん……知ってる子なの……?」

彼方「組織に居たときに、研究班の中に居た子なんだ。……遥ちゃんと同期の子」

姫乃「……今は、実行部隊ですがね……そして、“MOON”です」

彼方「……果林ちゃんが“SUN”になったのは知ってたけど……まさか、姫乃ちゃんが“MOON”になってたとは思わなかったよ」


つまり……姫乃ちゃんは組織内のトップ2の実力にまで上り詰めたということだ。……今、愛ちゃんが組織内でどういう扱いなのかがわからないのは気になるけど……。


姫乃「ですので……コスモッグ、返して欲しいんですが? それは私が持っているはずのポケモンです」

彼方「それはだめー。第一もう進化しちゃったし」

姫乃「そうですね……全て貴方の裏切りのせいで……組織はめちゃくちゃですよ……!」
 「────」


テッカグヤのバーナーがこちらを向き──猛烈な勢いで“かえんほうしゃ”を発射してくる。


彼方「カビゴン!!」
 「──ゴンッ!!!」


咄嗟にカビゴンを出し、“あついしぼう”で炎を受けるけど、


 「カ、カビ…!!!!」
彼方「か、火力……つよ〜……!!」


特性の効果で半減されているはずなのに、猛烈な炎の勢いに気圧される。

わたしが次のポケモンを出そうとボールに手を掛けた瞬間、


エマ「ま、ママンボウ! “みずのはどう”!!」
 「──ママァ〜ン」

彼方「……!」


エマちゃんのママンボウが炎を消火してくれる。


エマ「彼方ちゃん、大丈夫……!?」

彼方「ありがとう〜エマちゃん、助かったよ〜」

エマ「わ、わたしも戦う……!」

彼方「ふふ、ありがとう〜。……でも、今は〜」


わたしは、エマちゃんの手を取り──姫乃ちゃんに背を向ける。


彼方「逃げるっ!」

エマ「ええ!?」


地上で速く動けないママンボウをカビゴンが抱え上げて、彼方ちゃんの横を走り出す。


姫乃「待ちなさい……! テッカグヤ、“エナジーボール”!」
 「────」


逃げ出したわたしたちに向かって飛んでくる“エナジーボール”を、


彼方「バイウールー!」
 「メェェ〜〜」


バイウールーが“ぼうだん”で受け止める。
417 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:12:11.89 ID:loIPccok0

姫乃「くっ……! “ラスターカノン”!!」

彼方「ムシャーナ! “ひかりのかべ”!!」
 「──ムシャァ〜」


立て続けに飛んでくる集束された光線を、繰り出したムシャーナが“ひかりのかべ”で防ぐけど──消しきれずに光線が屈折し、彼方ちゃんたちの足元に着弾して、爆発する。


彼方「わわっ!?」

エマ「きゃぁっ!?」

彼方「か、カビゴン!!」
 「カビッ!!」


爆風に吹っ飛ばされるわたしたちを、カビゴンが先回りしてお腹で受け止める。


彼方「やっぱ、向こうはウルトラビーストなだけあって……簡単には防ぎきれないな〜……。エマちゃん、無事〜?」

エマ「へ、平気だけど……。……彼方ちゃん、わたしのことはいいから……!」

彼方「それはダメ〜。今はエマちゃんの身の安全が最優先〜!」


すぐさまカビゴンのふかふかのお腹から飛び降り、再びエマちゃんの手を引いて走り出す。


彼方「エマちゃんは戦闘のために来たんじゃないんだから、無理な戦闘は絶対にダメ〜!」

エマ「彼方ちゃん……」


出来ることなら、早く姫乃ちゃんを倒して侑ちゃんたちの加勢に戻りたいけど……エマちゃんを守りつつ、ウルトラビーストの猛攻を掻い潜って戦うのはちょっと厳しい。


姫乃「“エアスラッシュ”!!」
 「────」

彼方「“サイコキネシス”!!」
 「ムシャァ〜〜」


ムシャーナのサイコパワーで防ごうとするも、軌道を少し逸らすのが限界で──彼方ちゃんたちからちょっと離れたところを空気の刃が地面を撫で、大きく抉り取る。


彼方「や、やば〜……! 当たったら、彼方ちゃんぶつ切りにされちゃうよ〜……!」


いくら防御が得意な彼方ちゃんでも、あの威力はまともに受けたらやばすぎるし、防御に集中出来ない状況じゃ受けきるのも難しい。

ただ、幸いここは峡谷……走っていたら、すぐに岩壁に挟まれた細い道が見えてくる。


彼方「とりあえず、こっち……!」

エマ「う、うん……!」


彼方ちゃんたちは、細い通路へと逃げ込む。


姫乃「ちょこまかと……!」


峡谷に出来た天然の細道は、9m以上あるテッカグヤの巨体では入り込むことは出来ないような狭さだけど、


姫乃「テッカグヤ!!」
 「────」


テッカグヤはそんなことおかまいなしに、両手のバーナーによる逆噴射で加速し、無理やり岩壁を破壊しながら、彼方ちゃんたちを追いかけてくる。


彼方「ご、強引〜!!」

姫乃「“いわなだれ”!!」
 「────」
418 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:12:51.11 ID:loIPccok0

テッカグヤが身を振るいながら、砕いた岩壁をこちらに向かって雪崩のように崩してくる。


彼方「“テレキネシス”!!」
 「ムシャァ〜〜」


大量の岩を“テレキネシス”で浮かせて、そのまま細い天然の通路をダッシュ。


姫乃「鬱陶しい……!!」


わたしがとにかく逃げ回りながら、攻撃を捌くことしかしないからか、姫乃ちゃんの苛立ちが見て取れる。

ただ、こうして細い道に逃げてきた判断は間違っていなかったらしく、強引に破壊しながら追ってきているものの、障害物を破壊しながら進んでいる分、テッカグヤのスピードは落ちているし、何より推進力に両腕を回しているため、出来る攻撃の種類が減っている。

これなら、逃げながら捌くことも難しくない。……だけど、問題もあって……。


彼方「ま、また分かれ道……! こ、こっち……!」

エマ「う、うん……!」


峡谷の細道は、複雑に枝分かれしていて、天然の迷路のようになっていた。


彼方「え、えっと〜……さっきは右に曲がったから、方角は〜……! もう〜! ゲートはどっち〜!?」


とにかく、エマちゃんをこの世界から逃がしてあげたいけど、こんな分かれ道だらけで見晴らしの悪い場所じゃ、方向感覚も無茶苦茶になるし、ゲートがどっちだったのかもわからなくなってくる。

それにずっと走ってると──


彼方「はぁ……! はぁ……!」


息も切れてくる。彼方ちゃん、走り回るのはあんまり得意じゃないんだよ〜……!


エマ「……彼方ちゃん」

彼方「な、なに〜!?」

エマ「ゲートがある場所まで行けばいいんだよね?」

彼方「そ、そうだけど〜……!」

エマ「じゃあ、こっち……!」

彼方「え……!?」


さっきまで私が引いていたはずの手を、逆にエマちゃんに引かれる。

エマちゃんは彼方ちゃんの手を引き始めると、ほとんど迷う素振りも見せずに分かれ道を進む。


エマ「……こっち……!」

彼方「え、エマちゃん、道分かるの……!?」

エマ「わたし、自然の中なら絶対に迷わない自信があるから!」

彼方「お、おお……!」


さすが山育ち……! 大自然で育った人はそういう感覚が根本から違うのかもしれない。

峡谷にある天然の迷路は奥まって行けば行くほど、どんどん複雑に折れ曲がっていき、次第に姫乃ちゃんのテッカグヤを引き離していく。

陰に隠れる形で、視界からテッカグヤが見えなくなったところで、エマちゃんが立ち止まる。
419 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:13:24.35 ID:loIPccok0

彼方「はぁ……はぁ……え、エマちゃん……?」

エマ「……彼方ちゃん、わたし……足手まといだよね……」

彼方「え……? そ、そんなこと……ないけど……」

エマ「うぅん、わたしがいるから彼方ちゃんが全力で戦えてないことくらいわかるよ」

彼方「…………」

エマ「たぶんだけど……向こうもわたしが戦力じゃないことには気付いてるよね」

彼方「……そうだね」

エマ「なら、わたしのことはそんなに積極的に狙ってこない……はずだよね」

彼方「それは……そうかも、しれないけど……」


確かに向こうからしたら、出来る限りこっちの戦力を削ることに注力したいはず……。

姫乃ちゃんが一番困るのは、彼方ちゃんが侑ちゃんたちのところに戻って、果林ちゃんとの戦闘に加勢をすることのはずだし……。

戦えないエマちゃんの優先度は一番低くなるはずだ……。


エマ「なら、わたしはここから先は一人で逃げるから……彼方ちゃんは戦って……!」

彼方「え、で、でも……」

エマ「悔しいけど……わたしには戦う力がないから……。でも、彼方ちゃんには戦う力がある……それなら、彼方ちゃんの力はわたしを守るよりも、戦いに使うことに集中して欲しい……」

彼方「エマちゃん……」


確かにこの峡谷の中、迷わずに走り抜けられるなら、むしろエマちゃんが一人で逃げて、わたしが足止めを兼ねて戦闘に集中した方が効率がいいかもしれない。


彼方「……わかった。でも、絶対途中で引き返したり、一人で果林ちゃんを説得に戻ったりしちゃダメだよ? 約束してくれる?」

エマ「うん、約束する」

彼方「おっけ〜! なら、彼方ちゃん、すぐに姫乃ちゃんを倒してくるから……!」

エマ「うん!」


エマちゃんは、カビゴンが抱えていたママンボウをボールに戻し、


エマ「出てきて! パルスワン!」
 「──ワンッ!!!」


代わりにパルスワンを出す。


エマ「彼方ちゃん、気を付けてね……!」

彼方「うん! エマちゃんも」

エマ「Grazie♪ パルスワン! Andiamo.」
 「ワンッ!!!」


エマちゃんはパルスワンに乗って走り出した。


彼方「さて、それじゃ……彼方ちゃんもやりますか〜……!」


振り返ると、


姫乃「──やっと……戦う気になりましたか」
 「────」


追い付いてきた姫乃ちゃんがテッカグヤの上から、こちらを見下ろしていた。



420 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:16:17.16 ID:loIPccok0

    👠    👠    👠





侑「ウォーグル!! “エアスラッシュ”!!」
 「ウォーーーッ!!!」

果林「キュウコン!! “ねっぷう”!!」
 「コーーンッ!!!!」


飛んでくる風の刃を、“ねっぷう”により無理やり吹き飛ばす。


侑「ぐっ……!?」

果林「そんな攻撃が私に届くと思ってるの? “かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!!」

侑「フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーッ!!!!」


空中でキュウコンとフィオネの攻撃が真正面からぶつかり合い相殺する。


果林「でも、防がれるのはめんどうね……! なら、こっちも空中戦をしてあげるわ……! ファイアロー!!」
 「──キィーーー!!!!!」

果林「“ブレイブバード”!!」
 「キィーーーッ!!!!」


ボールから飛び出したファイアローは猛加速して、ウォーグルに向かって襲い掛かる。


侑「は、はや……!? “ブレイククロー”!!」
 「ウォーーーッ!!!!」


猛突進してくる、ファイアローを爪で何とかいなしているが、そこに向かって、


果林「“かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!!」


追撃の火炎攻撃。


侑「くっ……!」
 「ウォーーーッ!!!!」


どうにか、空中で身を捻りながら辛うじて回避しているけど、あれじゃ私に近付けないわね。

そんな侑の姿を、


せつ菜「…………」


せつ菜が見下ろしながら、黙って眺めている。


果林「貴方が戦ってもいいのよ?」

せつ菜「いえ……私が戦わなくても、侑さんじゃ貴方にすら勝てない」

果林「あら……まるで貴方の方が私より強いとでも言いたげね」

せつ菜「……言葉の綾です」

果林「そう? まあ、別にいいけれど」


まあ確かに……私はまだフェローチェすら出していない。

それで苦戦している侑に勝ち目がないのは明白だ。
421 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:17:30.67 ID:loIPccok0

せつ菜「それに……私はしずくさんとの約束がありますから……」

果林「しずくちゃんがピンチになったら、しずくちゃんを守ってあげるって話?」

せつ菜「……そんなところです」

果林「ふふ……律義ね」

せつ菜「……今のしずくさんは……命を投げ出すことに躊躇がありません。ですが、貴方は彼女がどうなっても……助けたりしないでしょう?」

果林「だから、自分が助けると……。まるでナイト様ね」

せつ菜「……なんとでも言ってください」


最初からせつ菜を御しきれるとは思っていなかったけど、この子の場合は最悪戦闘に参加しない可能性すらあった。だから、これはむしろいい方だ。

今現在のせつ菜は、しずくちゃんの行動ありきで動いている節がある。それを知ってか知らずか……しずくちゃんはせつ菜に自分を守らせることで、せつ菜を戦場に引きずり込んでいる。

しずくちゃんがかすみちゃんを倒せなかったとしても……ピンチになったらせつ菜が戦闘に介入する。

つまり──かすみちゃんはこの戦いに絶対に勝てない。


せつ菜「貴方はせいぜい……そっちのお姫様を取り返されるようなヘマをしないことですね」

歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」


せつ菜はそう吐き捨てると、視線を再びしずくちゃんの方に戻す。


果林「まあ……負ける気なんてしないけどね」


私はファイアローとキュウコンの攻撃を捌くので精一杯な侑を見て、肩を竦めた。





    🐏    🐏    🐏





姫乃「テッカグヤ!! “ヘビーボンバー”!!」
 「────」

彼方「さぁ……彼方ちゃんの本領、発揮しちゃうよ〜!!」


降ってくる巨体に対して身構える。


彼方「ムシャーナ、“サイコキネシス”!」
 「ムシャァ〜〜」


ムシャーナが落ちてくる、テッカグヤをサイコパワーで押し返そうとするが、


姫乃「そんな技でテッカグヤが止められると思っているんですか……!」


もちろん、これだけじゃテッカグヤは止まらない。


彼方「バイウールー、“コットンガード”!」
 「メェ〜〜〜」


もこもこもこっとバイウールーが肥大化し、落下してくるテッカグヤの落下速度をさらに緩めて、


彼方「ネッコアラ、“ばかぢから”!」
 「──コァ〜〜…!!!!」


ボールから飛び出したネッコアラが“ばかぢから”を使う。ただし、テッカグヤ相手ではない──これはカビゴンを持ち上げるための技だ。
422 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:18:37.43 ID:loIPccok0

彼方「テッカグヤに向かって〜ぶん投げろ〜!!」
 「コァ〜〜!!!!」

姫乃「な……!?」


ネッコアラがカビゴンをテッカグヤに向かって放り投げ、


彼方「空に向かって〜〜〜“のしかかり”〜〜〜!」
 「カビ〜〜〜」


カビゴンが前に突き出したお腹がテッカグヤにぶつかると、柔らかいお腹にテッカグヤがめり込んで──それが弾力で戻るパワーによって、テッカグヤを弾き飛ばす。


 「────」
姫乃「きゃぁぁぁ!!?」


吹き飛ばされたテッカグヤの巨体は、そのまま岩壁に叩きつけられ──轟音を立てながら、岩壁を破壊する。

テッカグヤのような超重量級のポケモンがぶち当たったら、岩壁が木っ端みじんになるのも無理はない。


彼方「これが彼方ちゃんの本気防御だよ〜!」


姫乃ちゃんは崩れ落ちる岩壁に巻き込まれちゃったかと思ったけど、


姫乃「……やるじゃないですか……!」
 「──チリ〜ン…!!!」


今しがた繰り出したであろう、チリーンのサイコパワーで浮遊し、テッカグヤから離脱していた。


彼方「まあ、さすがにこれくらいじゃやられてくれないよね〜……」

姫乃「……その物言い、気に入らないですね……。まるで、自分の方が強いとでも言いたげで……」

彼方「そんなつもりはないんだけど〜……とはいえ、彼方ちゃん元“MOON”だからね〜。君の先輩だよ〜?」

姫乃「私は貴方を先輩だなんて思ったことはありませんよ……この裏切り者……!」
 「────」


姫乃ちゃんの言葉と共に──テッカグヤがこちらに向かって、バーナーを向けてくる。


彼方「おっと、それはやばい……!」


彼方ちゃんは攻撃の予兆を確認した瞬間、後ろに向かって走り出し、岩壁の細道に逃げ込む。


姫乃「“だいもんじ”!!」
 「────」


テッカグヤのバーナーから発射される大の字の業炎。

それを見ると同時に、


 「カビッ!!!!」「コァッ!!!!」


カビゴンが右側の岩壁を拳で殴りつけ、ネッコアラが左側の岩壁を丸太で殴打する。

それによって、ヒビが入った岩壁が崩れ落ち──


彼方「いっちょあがりぃ〜」


目の前に積みあがった瓦礫の山が、炎を防ぐ防火壁になり、それにぶつかって業炎が四散する。

でも、姫乃ちゃんもすぐに次の手を打ってきた。
423 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:22:28.17 ID:loIPccok0

姫乃「“ふきとばし”!!」
 「──テングッ!!!」


指示の声と共に、目の前の瓦礫たちが彼方ちゃんたちの方に襲い掛かるように、吹き飛ばされてくる。


彼方「わ、やばっ!? バイウールー、お願い!!」
 「メェ〜〜〜」


もこもこと肥大化するウールで、目の前から迫ってくる岩を受け止める。

そして、食い止めた岩を、


彼方「カビゴン! “ギガインパクト”〜!」
 「カビッ!!!!」


巨大なウールの中から飛び出したカビゴンが全体重を乗せた一撃で粉砕する。

目の前の岩を除去して、再び開けた視界の先では、


 「────」


テッカグヤのバーナーの先に──輝く鋼色のエネルギーが集束を始めていた。


彼方「!? そ、それはホントにヤバイって〜!?」

姫乃「“てっていこうせん”!!」
 「────」


迸り迫る、はがねタイプ最強クラスの技。

わたしは咄嗟にボールを放る──直後、“てっていこうせん”が投げたボールの場所に着弾し、爆発と共に、周囲に爆音と爆風が駆け抜ける。


彼方「ぅぅ〜〜……!!」


バイウールーのもこもこの中で身を縮こまらせながら、爆風に耐える。

そのまま耐え、爆風が止んだ頃に目を開けると──


姫乃「……っ」


姫乃ちゃんが忌々しそうな目を向けていた。

無理もないかもしれない。だって、わたしが“てっていこうせん”を防ぐために出したポケモンは──


 「────」
彼方「ありがとう……コスモウム」


コスモウムだったからだ。姫乃ちゃんにとっては因縁のあるポケモンだろう。


姫乃「人のポケモンで防ぐなんて……良い度胸ですね」

彼方「この子は彼方ちゃんのポケモンだよ〜」


そう言いながら、姫乃ちゃんの隣を見やると──


 「テング…」


いつの間にか、ダーテングの姿。

……さっきの“ふきとばし”はあの子の仕業か〜……。

ついでに言うなら……。
424 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:22:57.63 ID:loIPccok0

彼方「あ、暑い……」


気付けばここら一帯が強い日差しに見舞われている。

あのダーテングの“にほんばれ”だ。

そして、その日本晴れを利用するように、


姫乃「出てきなさい、ラランテス!!」
 「──ランテス」

姫乃「“ソーラーブレード”!!」
 「ランテス!!!!」


チャージタイムを省略して振り下ろされる、陽光の剣。

でも、


 「────」


真っ向からコスモウムが受け止め、バチバチと太陽のエネルギーを爆ぜ散らせながら──“ソーラーブレード”が逆に折れる。


姫乃「…………」

彼方「さぁ〜どうする〜? 攻撃、全部防いじゃったよ〜?」

姫乃「…………そろそろ……頃合いですか」

彼方「……?」


姫乃ちゃんの意味深な台詞に、わたしは一瞬身構える。

直後、ダーテングが自分の両手の葉を高く掲げると──太陽の光が反射して、


彼方「っ!?」


周囲が眩い光に包まれる。


彼方「……ふ、“フラッシュ”……?」


多少目がちかちかするけど、すぐに目を瞑れたから、視力が持っていかれるほどではなかった。

何より、このフィールドは太陽の光で照らされているため、暗所で使う“フラッシュ”程の効果はない。

ただ、


彼方「え……?」


目を開けたときには、そこに──姫乃ちゃんの姿はなかった。

そしてその直後──彼方ちゃんの頭上に大きな物体の影が差す。

ハッとして上を見ると──テッカグヤがバーナーを逆噴射しながら、彼方ちゃんの頭上を通り過ぎていくところだった。


彼方「え……?」


逃げた……? この状況で……?

姫乃ちゃんがいなくなり、さきほどまでの激しい戦闘とは打って変わってフィールドは静まり返る。

……いや……?


彼方「……なにか……聞こえる……?」
425 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:24:02.27 ID:loIPccok0

何か、僅かに耳に届いてくる音がある。本当に僅かに、違和感を認識できる程度の小さな音。

ただ、自然の音ではなく、明らかに何かから発生している……ノイズのような……。

何……この音……?

音といえば……あのチリーン……最初に姫乃ちゃんを浮遊させたあと、何もしてこなかったような……。

状況が飲み込めないまま困惑しているとき、ふと──この戦場に訪れる際に、かすみちゃんが言っていた言葉が頭を過ぎった。

──『あ、それならリナ子のえこーろーてーしょん……? みたいなやつで探してみるのは?』──


彼方「……エコー……ロケーション……?」


姫乃ちゃんは何故かわたしを無視して通り過ぎていった。

そして、さっきの台詞。

──『…………そろそろ……頃合いですか』──

それら全てが頭の中で繋がって、血の気が引いていく。

姫乃ちゃんはわたしを狙っているように見せかけて── 一人で逃げたエマちゃんが、わたしから十分に離れるのを待っていたんだとしたら……!?


彼方「ま、まずい!! エマちゃん……!!」


わたしはテッカグヤを追いかけて、全力疾走で走り出した。





    🍞    🍞    🍞





エマ「パルスワン、全速力で走って……!!」
 「ワンッ!!!」


私は片手で頭を押さえながら、パルスワンに指示を出す。

さっきから、明らかに自然の音と違うものが頭に響いてきて、気持ち悪い。

恐らく……ポケモンが発している音。

しかも、その発生源が徐々に近づいてきている。

直感でわかる──この音はわたしにとって、よくない音だ。

ゲートまではまだ距離があるけど……パルスワンなら全速力で走り続けられる。

それで、どうにか逃げきらなくちゃ……!

でも、そう思った瞬間──頭上から、轟音が響き、


エマ「……!?」
 「ワフッ!!!?」


咄嗟に見上げた頭上から、大量の崩れた岩が落ちてくる。


エマ「パルスワン……!」
 「ワッフッ!!!」


無理やりブレーキを掛け、落石に巻き込まれるのをギリギリ回避するけど、


エマ「……み、道が……」


目の前の道が落ちてきた大岩のせいで、完全に塞がれてしまう。
426 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:25:09.51 ID:loIPccok0

エマ「……っ! パルスワン、一旦引き返そう……!」
 「ワンッ」


すぐに戻って別の道を進むように指示を出すけど──振り返った瞬間、


エマ「きゃぁっ!!?」


──ゴォっと音を立てながら、炎が降ってきて、私たちの進路を炎の海にする。

そして、その上空から、


姫乃「……さぁ、もう逃げ場はありませんよ……」


姫乃ちゃんが見下ろしながら、私に言葉を投げつけてくる。


エマ「……ま、ママンボウ! “みずびたし”……!」
 「──ママ〜ンボ」


ママンボウをボールから出して消火するけど──


姫乃「“かえんほうしゃ”」
 「────」

エマ「きゃぁ……!?」


消火した傍から、また炎をばら撒かれる。


姫乃「……逃がしませんよ」

エマ「……っ」


どうして、姫乃ちゃんはわたしを狙うの……? まさか、彼方ちゃん……。


姫乃「彼方さんは無事ですよ」

エマ「……!」


姫乃ちゃんはまるでわたしの心を見透かしたように言う。


姫乃「……どうして自分が狙われているのか理解できないようですが……。……この場に訪れたのを見た瞬間から、わたしの狙いは貴方でしたよ」

エマ「ど、どうして……」

姫乃「どうして? それは、貴方が果林さんにしてきたことを考えれば当然でしょう?」

エマ「え……?」

姫乃「言葉巧みに果林さんを惑わして……目的遂行の邪魔をする……本当に腹立たしい……」

エマ「ち、違うよ……! わたしがここに来たのはそんな理由じゃない……!」

姫乃「なら何故、果林さんの邪魔をするんですか?」

エマ「邪魔……? むしろ、どうしてあなたは果林ちゃんを戦わせようとするの!? 果林ちゃん、あんなに苦しそうにしてるのに……! あなたたちが果林ちゃんに無理やり戦うことを強要するから、果林ちゃんはずっと一人で背負ったまま苦しんで──」

姫乃「──貴方に果林さんの何がわかるんですかッ!!!」

エマ「……!?」


心の底から怒気の籠もった言葉に、ビクリと身が竦む。


姫乃「可哀想……? 苦しんでる……? 貴方は果林さんの苦しみも、悲しみも、怒りも、憤りも、やるせなさも、何一つ理解していない……!! だから、そんな言葉が出るんです!!」

エマ「な、なに言って……」

姫乃「……果林さんの……覚悟も……知らないくせに……」
 「────」
427 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:26:31.96 ID:loIPccok0

直後──テッカグヤのバーナーの先に周囲の岩石を引き寄せるような、重力の球のようなものが集束され始める。


姫乃「もう……誰も……果林さんの邪魔……しないでください……お願いだから……。……果林さんの邪魔をするなら──消えてください。テッカグヤ、“メテオビーム”」
 「────」


集束された球から──極太のビームがわたしに向かって一直線に降ってくる。


エマ「……あ」


気付いたときにはもう逃げることも出来ず、頭が真っ白になる。


彼方「──コスモウムッ!!! “コスモパワー”ッ!!!」
 「────」


直後、炎の向こうから飛び込んできた彼方ちゃんが、コスモウムの技で“メテオビーム”を受け止め、それによって拡散したエネルギーが空中で大爆発する。


エマ「きゃぁ……!!」

彼方「ムシャーナぁ!! “ひかりのかべ”ぇ!!」
 「ムシャァーー!!!」


そして、爆発の衝撃をムシャーナが壁を作り出して、防いでくれる。


エマ「か、彼方ちゃん……」

彼方「はぁ……はぁ……ま、間に合った……」

エマ「か、彼方ちゃん、火傷してる……!!」


気付けば、彼方ちゃんは服のあちこちが焼け焦げ、脚は痛々しく赤く腫れている。

わたしを助けるために、炎の海を突っ切ってきたからだ……。


エマ「ママンボウ……!」
 「マ〜ンボゥ」


ママンボウが彼方ちゃんの患部に身を寄せる。ママンボウの体を覆う粘液には、傷を治す効果がある。


エマ「ごめんね、彼方ちゃん……わたしのせいで……」

彼方「これくらい掠り傷だよ〜……エマちゃんこそ、無事……?」

エマ「う、うん……」


彼方ちゃんは私の安否を確認すると、


彼方「……姫乃ちゃん。今の組織は非戦闘員にまで執拗な攻撃をするようになってるの?」


そう言いながら、姫乃ちゃんを睨みつける。普段温厚な彼方ちゃんにしては珍しく……わたしでもわかるくらいに怒気の込められた声だった。
428 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:29:16.97 ID:loIPccok0

姫乃「…………そもそも、貴方も貴方です、彼方さん」

彼方「質問に答えてくれないかな」

姫乃「果林さんの痛みを理解していながら……何故、平気で裏切れるのか……私には理解できない……。貴方も“闇の落日”を見たでしょう? “虹の家”で育った子たちを知っているのでしょう……?」

彼方「…………」

エマ「“闇の落日”……? “虹の家”……?」

姫乃「知らないようなので教えてあげますよ……。私たちの世界は常に少しずつエネルギーを失い崩壊していっていますが……世界のエネルギーの喪失がある基準を超えた瞬間、一気に崩壊が進むんです……。それによって、7年前、大規模な大災害が起こった……それが“闇の落日”です。この落日によって多くの人が住む家を、家族を……そして故郷を……失った」

彼方「……。……そのときにたくさんの子供が孤児になって……それを受け入れていたのが、わたしのお母さんが作った……“虹の家”って場所だったんだ。……お母さんは、もう病気で亡くなっちゃったけど……」

姫乃「そして……果林さんはその“虹の家”に住んでいました」

エマ「え……」


じゃあ、果林ちゃんは……。


姫乃「目の前で……たくさん友人が瘴気の中で血を吐き、崩落する山に大切なポケモンたちが巻き込まれ、割れる大地に最愛の家族が飲み込まれ……故郷の島が毒の海に沈んだ……。たった一晩で……遺品や遺体どころか、自分の住んでいた場所さえ、影も形もなくなった……。果林さんは……そんな島の、唯一の生き残りなんです……」

エマ「そん……な……」

姫乃「それでも、果林さんは気丈だった。自分と同じ想いをする人がこれ以上生まれないようにと、自分の世界を守る道を選んだ。……それの何が間違ってるんですか? おかしいんですか? 果林さんの気持ちがわかる……? 苦しみがわかる……? 私には、そんな言葉を軽々しく口にする貴方の方がよほど理解出来ない……!! あの人の苦しみはわかってあげたくても……どんなに想像しても……計り知れないじゃないですか……」

エマ「…………」


わたしは、果林ちゃんの境遇を知って……言葉を失ってしまった。


姫乃「……他者を傷つけることを望んでない? そんなの当たり前じゃないですか……! ただ、自分たちか自分たち以外かを選ばなくちゃいけないから選んだだけです……! それを覚悟するのに、果林さんが何も思わなかったと本当に思うんですか!?」

エマ「それ、は……」

姫乃「貴方の言葉は、そんな果林さんの覚悟を踏みにじる言葉です……!! 果林さんが助けられなかった人たちを侮辱する言葉……!! だから私は、果林さんを惑わす貴方を……許さない……!!」
 「────」


怒りの言葉と共に──テッカグヤが岩壁を破壊しながら、“ヘビーボンバー”で落下してくる。


彼方「ムシャーナ!! “サイコキネシス”!! バイウールー!! “コットンガード”!!」
 「ムシャァァ〜〜!!!」「メェ〜〜〜」

姫乃「また同じ手ですか……。なら、これならどうですか……──行きなさい、ツンデツンデ!!」
 「──ツンデ」


そう言いながら、姫乃ちゃんが投げたボールから──もう1匹巨大なポケモンが飛び出してくる。


彼方「……!? 2匹目のウルトラビースト!?」

姫乃「ツンデツンデ!! “ヘビーボンバー”!!」
 「ツンデ」

彼方「……っ……!!」


彼方ちゃんが、わたしを全力で突き飛ばす。


エマ「……!? 彼方ちゃん!?」

彼方「エマちゃん……逃げて……!!」


直後──


 「ムシャァ〜〜…!!!」「メェェェェ〜〜〜!!!!」


ムシャーナとバイウールーが上から落ちてくる2つの巨体に巻き込まれ──轟音を立てながら、大地が割り砕け、それによって発生した衝撃波で、身体が宙を浮く。
429 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:30:05.38 ID:loIPccok0

エマ「きゃぁぁぁぁ……!? え、エルフーン!!」
 「──エルッフ!!!」

エマ「“わたほうし”!!」
 「エルフーー」


吹き飛ばさながらも咄嗟に出したエルフーンが、周囲に綿毛をまき散らし──その綿毛に包まれたまま、地面に墜落する。

ただ……衝撃を殺しても、あまりに勢いが強かったからか、


エマ「あ……ぐ……ぅ……」


身体を強く打ち付け、痛みに悶える。


 「エ、エルフ…」
エマ「だ、大丈夫……だよ……」


心配そうに鳴くエルフーンを撫で、痛みに耐えながら身を起こすと──目の前は先ほどまで峡谷だったとは思えないような光景になっていた。

岩壁が消滅し、大地は爆弾でも落下したかのように、大地が割れ砕けていた。

結構な距離を吹き飛ばされたのか──離れたところにテッカグヤとツンデツンデの姿が見え……砕けた岩の隙間に──彼方ちゃんが倒れているのが見えた。


エマ「か、彼方ちゃん…………!!」


助けに行こうと立ち上がろうとして、


エマ「いた……っ……!!」


強烈な痛みを足に覚え、わたしはその場に転んでしまう。

痛みの場所に目を向けると──足首が赤く腫れていた。ずきずきと痛む足……よくて捻挫……最悪、骨が折れているかもしれない。


エマ「彼方ちゃん……っ……」


今すぐにでも助けに行きたいのに、わたしの身体は言うことを聞いてくれなかった……。





    🐏    🐏    🐏





──薄っすらと目を開けると……空が見えた。


彼方「……さ、すがの彼方ちゃん……も……死んだと、思った……ぜ〜……」


2匹の落下の衝撃で吹っ飛ばされ、砕けた岩石が降り注ぐ中──彼方ちゃんはどうやら奇跡的にその間にすっぽり嵌まる形で助かったらしい。

それに加えて……。


 「マ、マァ〜ン…」


ママンボウの粘液が、私を守ってくれたらしい。


彼方「ありがとう……ママンボウ……水がなくて、苦しいかもしれないけど……ちょっと、休ん、でて……」
 「マ、マァン…」


よろよろと身を起こす。全身が壊れそうに痛むけど、


姫乃「……本当に悪運の強い人ですね」
430 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:30:55.63 ID:loIPccok0

まだ戦闘は終わっていないから、休んでいるわけにはいかない。


彼方「……ウルトラ、スペースシップ……壊されても……生きてたから、ね……運には……自信、あるんだよね……」


言葉を返しながら周囲を素早く確認する。

フィールドに降り立ったテッカグヤとツンデツンデ、そして2匹の落下によって割り砕かれた大地には、


 「ムシャ…ァ…」「メェェ……」「……ワ、ン」


彼方ちゃんのムシャーナやバイウールだけでなく、エマちゃんのパルスワンも大ダメージを受けて戦闘不能になっていた。


彼方「まさ、か……姫乃ちゃん、が……ウルトラビースト……2匹も、持ってるとは、思わなかった、よ……」

姫乃「……悔しいですが、私は“MOON”でありながら、果林さんの実力には遠く及ばない。……だから、果林さんは優先して私にウルトラビーストを持たせてくれたんです」
 「────」「ツンデ」

彼方「なるほど……ね……」


さすがにこれは想定外だった。テッカグヤだけなら、どうにかなったかもしれないけど……もう1匹、大型ウルトラビーストのツンデツンデがいるとなると話が変わってくる。

でも、姫乃ちゃんは待ってくれるはずもなく、


姫乃「ツンデツンデ、“ジャイロボール”」
 「ツンデ」


ツンデツンデが体を構成する石垣を組み替え──球状になって、高速で回転しながらこちらに迫ってくる。

あの巨体……潰されたらもちろんお陀仏。


 「ツンデ」


割れ砕けた岩石が散乱するフィールドをまるで意にも介せず、すべてを踏みつぶしながら迫るツンデツンデ。

直撃まであと数メートルというところで──わたしの足元からポケモンが飛び出す。


 「────」
彼方「“コスモパワー”……!!」


──ガィィィンッ!!! と音を立てながら、飛び出してきたコスモウムがツンデツンデを弾き返す。

弾き返されたツンデツンデは、ゴロゴロと後ろに転がったあと、再び元の角ばった形に自分を組み替えなおして、こちらを見つめてくる。
431 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:32:38.61 ID:loIPccok0

 「ツンデ」

彼方「……どんな、もんだ〜……彼方ちゃんの、防御力は……無敵だぞ〜……」

姫乃「……彼方さん、貴方はどこまでも受動的ですね」

彼方「……?」

姫乃「貴方が動くときは……いつも自分からではなく、周りの人間が動いてからなんですよ」

彼方「……何が、言いたいの……」

姫乃「貴方が“MOON”まで上り詰めておきながら……組織を裏切った理由。……それは遥さんではないですか?」

彼方「……!? は、遥ちゃんは関係ない……!!」

姫乃「やはり、図星ですか。……遥さんは争いを好まない人でしたからね。差し詰め、計画を知った遥さんから、何か言われたのが原因で逃げ出したんじゃないですか?」

彼方「ち、ちが……っ」

姫乃「いつも飄々としているのに、随分狼狽えているじゃないですか。それでは、遥さんに何を言われたのか、当ててあげましょうか? 『誰かを傷つけてまで、自分たちが助かるなんて間違ってる』。違いますか?」

彼方「……っ」

姫乃「ほら、やっぱり。結局貴方は人の言葉で動いているだけ。自分の意志もなく、ただ周りの誰かの意見に乗っかっているだけの受け身人間。そういう考えが、戦い方にも現れてるんじゃないですか? だから、貴方は防御ばかりする」

彼方「…………」

姫乃「そんな自分の意志がない人だから──ちょっと揺さぶられただけで、足元がお留守になるんです」

彼方「……っ!!?」


急に地面が揺れ、ただでさえ不安定な岩の山がガラガラと音を立てて崩れ始める。


彼方「“じしん”……!? しまっ……!!」


ツンデツンデの“じしん”によるものだと気付いたときには、もう時すでに遅し。わたしは崩れ落ちる岩に巻き込まれて、滑り落ちる。

滑落しながら、わたしの全身に大小様々な岩が衝突し、


彼方「い゛、っ゛……ぁ゛……」


“いわなだれ”が収まった頃には、全身がズタボロになっていた。

身を起こそうとするけど、


彼方「ぁ゛……ぐ……ぅ……」


全身に激痛が走り、思わず呻き声をあげる。

全身打ち身だらけだし……右腕とあばら骨辺りは痛み方からして、たぶん折れてる……──あ、ヤバイ……。痛みで意識が朦朧としてくる。

ぼんやりする思考の中で──あのときの遥ちゃんと話したことが脳裏を過ぎる。



──────
────
──


遥「お姉ちゃん……!!」


青い顔をして、遥ちゃんが私の部屋に飛び込んできた。


彼方「遥ちゃん? どうしたの?」

遥「お、お姉ちゃん……これ、本当……?」


震える声で遥ちゃんが差し出してきたのは──ある書類だった。

それは、わたしが“MOON”に昇格する旨の書かれた辞令。
432 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:34:26.74 ID:loIPccok0

彼方「実行部隊のお姉ちゃんのお部屋に入ったの?」

遥「それに……この計画書……」

彼方「……ダメだよ、勝手に入っちゃ……」

遥「誤魔化さないで……! これに書いてあること……ホントなの……?」

彼方「それは……」


そこに書いてあった計画書には……ざっくりと他世界を衰退させることによって、わたしたちの世界を再生する計画が記されていた。

まだ、幹部クラスの人間にしか知らされていない、今後の組織の方針内容だ。


遥「私たち……こんなこと、しようとしてたの……?」

彼方「遥ちゃん……」

遥「自分たちが助かるために……他の世界の人たちを犠牲にしようとしてるの……?」

彼方「…………」

遥「お姉ちゃんは……こんなことに賛成してるの……?」

彼方「ち、違うよ……! ……彼方ちゃんも、反対はしてるけど……なかなか上層部は聞き入れてくれなくって……」


それに彼方ちゃんはつい最近、愛ちゃんが“SUN”を外れた結果、繰り上がりで“MOON”に昇格しただけで発言権がそこまで大きくないし……。

なにより……反対派だった、璃奈ちゃんと愛ちゃんが二人ともいなくなったせいで、今は特に賛成派の意見が強くなっている。


彼方「あんまり、大きな声で反対したら……きっといい顔されない。お姉ちゃんはそれでも大丈夫だけど……きっと、妹の遥ちゃんまで、そういう目で見られることになる……」

遥「そんな理由で守られても嬉しくないよ……!」

彼方「……遥ちゃん……」

遥「このままじゃ……異世界間で侵略戦争になっちゃう……。私たちがこんなことに加担してるなんて知ったら……死んじゃったお母さんが……悲しむよ……」

彼方「…………」


──この崩落する世界の瘴気にやられて身体を壊し……1年ほど前に他界したお母さんは、孤児院を作って多くの子供たちを受け入れていた人だ。

残り少ない資源しか残っていないこの小さな世界だから……譲り合って、助け合って、お互いを守り合おうと、そんな理念で、孤児院を運営し……わたしたちを育ててくれた。


彼方「…………」


確かにお母さんは悲しむかもしれない。

だけど……それだけじゃ、遥ちゃんを守れない……。

でも、悩むわたしに向かって、遥ちゃんは……。


遥「お姉ちゃん……。……どんな理由があっても……誰かを助けるために、誰かが傷つくことを肯定するなんて……間違ってる……」

彼方「遥ちゃん……」

遥「もし、それを肯定しないとここに居られないなら……こんなところに無理に居続けなくていい……」

彼方「…………」

遥「お姉ちゃんは幹部だから……そんな簡単に組織を抜けられないのもわかってる。……だから……私と一緒に逃げよう」

彼方「……遥ちゃん……? 逃げるって……」

遥「ウルトラスペースシップを使って……他の世界に逃げて、真実を伝えて匿ってもらおう……!」

彼方「そ、そんな、無茶だよ……! 第一、お姉ちゃんウルトラスペースシップの操縦なんて出来ないし……」

遥「ほとんど自動操縦だから、簡単な起動が出来れば大丈夫……! それに私は研究班で、起動方法くらいは習ってる……!」

彼方「遥ちゃん……本気……?」

遥「……本気だよ」

彼方「…………」
433 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:35:33.02 ID:loIPccok0

遥ちゃんの言っていることを実行するのは即ち……政府への反逆を意味している。

もし途中で捕まるようなことがあれば……無事じゃ済まない。


遥「……自分たちのために……誰かを犠牲にする世界なんて……私、嫌だよ……」

彼方「……遥ちゃん……」

遥「それに……お姉ちゃんが誰かを傷つけることなんて……耐えられないよ……」

彼方「…………遥ちゃん」


わたしは、遥ちゃんをぎゅーっと抱きしめる。


遥「お姉ちゃん……?」

彼方「…………遥ちゃんは強い子だね……」

遥「お姉ちゃん……」

彼方「……もう、戻ってこられないよ」

遥「……わかってる」

彼方「……捕まったら……殺されちゃうかもしれない」

遥「……わ、わかってる……」

彼方「それでも……お姉ちゃんと一緒に、ここから逃げてくれる……?」

遥「……うん」

彼方「……わかった。それじゃあ、一緒に逃げよう」

遥「……! お姉ちゃん……」

彼方「ただ、お姉ちゃんの手……絶対に放しちゃダメだからね……!」

遥「……うん!」


──その後、わたしは数日後に渡される予定だったコスモッグを奪取し……ウルトラスペースに逃げ込んだのち、果林ちゃんのフェローチェにウルトラスペースシップを破壊され……“Fall”となった……。


──
────
──────



──ああ……これが走馬灯ってやつかな……。

姫乃ちゃんの言うとおり……わたし……人に流されてばっかりなのかな……。


姫乃「……もう、限界のようですね」


姫乃ちゃんの声が聞こえる。


姫乃「……最後は苦しまずに死ねるように、首を落としてあげますよ。……せめてもの情けです」
 「────」


テッカグヤが腕を振り上げる音が聞こえる。


姫乃「テッカグヤ、“エアスラッシュ”」
 「────」


そして──空気の刃が彼方ちゃんに向かって飛んでくる。


彼方「──ごめ、んね……はる、か……ちゃん……」
434 :>>433 訂正 ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:38:42.47 ID:loIPccok0

遥ちゃんの言っていることを実行するのは即ち……政府への反逆を意味している。

もし途中で捕まるようなことがあれば……無事じゃ済まない。


遥「……自分たちのために……誰かを犠牲にする世界なんて……私、嫌だよ……」

彼方「……遥ちゃん……」

遥「それに……お姉ちゃんが誰かを傷つけることなんて……耐えられないよ……」

彼方「…………遥ちゃん」


わたしは、遥ちゃんをぎゅーっと抱きしめる。


遥「お姉ちゃん……?」

彼方「…………遥ちゃんは強い子だね……」

遥「お姉ちゃん……」

彼方「……もう、戻ってこられないよ」

遥「……わかってる」

彼方「……捕まったら……殺されちゃうかもしれない」

遥「……わ、わかってる……」

彼方「それでも……お姉ちゃんと一緒に、ここから逃げてくれる……?」

遥「……うん」

彼方「……わかった。それじゃあ、一緒に逃げよう」

遥「……! お姉ちゃん……」

彼方「ただ、お姉ちゃんの手……絶対に放しちゃダメだからね……!」

遥「……うん!」


──その後、わたしは数日後に渡される予定だったコスモッグを奪取し……ウルトラスペースに逃げ込んだのち、果林ちゃんのフェローチェにウルトラスペースシップを破壊され……“Fall”となった……。


──
────
──────



──ああ……これが走馬灯ってやつかな……。

姫乃ちゃんの言うとおり……わたし……人に流されてばっかりなのかな……。


姫乃「……もう、限界のようですね」


姫乃ちゃんの声が聞こえる。


姫乃「……最期は苦しまずに死ねるように、首を落としてあげますよ。……せめてもの情けです」
 「────」


テッカグヤが腕を振り上げる音が聞こえる。


姫乃「テッカグヤ、“エアスラッシュ”」
 「────」


そして──空気の刃が彼方ちゃんに向かって飛んでくる。


彼方「──ごめ、んね……はる、か……ちゃん……」
435 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:39:31.35 ID:loIPccok0

──お姉ちゃん……もう、死んじゃう……みたい……。

もう身体に力も入らない……。ごめんね……。

心の中で謝った、瞬間。


 「──お姉ちゃんっ!!!!」

彼方「え……?」

姫乃「……な……!?」


走り込んできた影が──わたしを庇うように、飛び付いてきた。

影はわたしを抱きしめたまま、二人で転がるようにして、“エアスラッシュ”をギリギリで回避する。

誰かが、助けてくれた……? いや、誰かなんて、言うまでもない。

わたしがこの声を聞き間違えるはずがない。

全身に走る激痛を堪えながら、顔を上げる。

すると、そこには、


遥「おねえ、ちゃん……間に合って、よかった……」


他の誰でもない──わたしの世界で一番大切な妹が、


彼方「遥ちゃん……!!」


遥ちゃんがいた。

そして同時に──手にぬるりとした感触がする。

それは──血だった。


彼方「遥ちゃん……!? “エアスラッシュ”が……!?」

遥「えへへ……掠っちゃった……みたい……」

彼方「い、今すぐ治療を……!!」

遥「お姉ちゃん……」

彼方「遥ちゃん……!? なに……!?」

遥「……誰かを守ることを……迷わないで……」

彼方「え……」

遥「……お姉ちゃんの力は……誰かを守る力だから……。……お姉ちゃんにしか出来ない……優しい、強さだから……」

彼方「遥……ちゃん……」

遥「だから……負け、ないで……」


遥ちゃんがカクリと崩れ落ちる。


彼方「遥ちゃん……!?」

遥「…………」


すぐさま、首筋に指を当てると──辛うじて脈はまだある。

彼方ちゃんが全身の激痛に耐えながら立ち上がると──


 「…ママァン…」


気付けば、満身創痍なはずのママンボウが岩石の上を跳ねながら、わたしたちのすぐ傍まで来ていた。

きっと、崩れ落ちる“いわなだれ”に一緒に巻き込まれて、落ちてきたんだ……。
436 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:40:13.87 ID:loIPccok0

彼方「ママンボウ……苦しいかもしれないけど……遥ちゃんの治療、出来る……?」
 「ママァ〜ン…」

彼方「ありがとう……お願いね……」


ママンボウの粘液の治癒効果は、医者いらず薬いらずと言われるほどだ。

満身創痍だとしても、安静に出来る場所さえあれば、遥ちゃんの治療も出来るはず。

遥ちゃんをママンボウに任せて──わたしは全身に力を込めて、真っすぐ立つ。


姫乃「……大した姉妹愛ですね」


目の前には姫乃ちゃんの姿。


姫乃「大人しく……当たっておけば苦しまずに済んだでしょうに……」
 「────」


テッカグヤがこちらに、バーナーを向けてくる。


姫乃「……お望みなら、姉妹まとめて……消し去ってあげます。……“かえんほうしゃ”!!」
 「────」


バーナーから噴出される“かえんほうしゃ”がわたしたちに迫るけど──炎はわたしに当たる直前で、まるでわたしたちを避けるように左右に枝分かれする。


姫乃「……なっ!?」


その炎の枝の根本には──


 「──パルル」

姫乃「パー……ルル……?」


パールルが炎を防ぎきっていた。





    🐏    🐏    🐏





……わたしたちが“Fall”になって、4年くらい経ってるから……お母さんが死んじゃったのはもう5年くらい前になるのかな。



──────
────
──


彼方「──お母さん、見て見て〜お弁当作ってきたよ〜♪」

彼方母「……ふふ、いつもありがとう、今日は看護師さんに叱られなかった?」

彼方「あーあの看護師さん怖いよね〜。『病院の方で栄養管理をしているので!』って〜。でも、今日はすんなりいいよって通してくれて拍子抜けだったよ〜」

彼方母「ふふ、そっか♪ はるちゃんは?」

彼方「遥ちゃんは今日は研究班の研修〜。遥ちゃんすごいんだよ〜? 同期の中では成績トップなんだって〜」

彼方母「ホントに? はるちゃんも頑張ってるんだ〜……お母さん嬉しい」

彼方「うん、遥ちゃんすっごく頑張ってるんだ〜わたしも鼻高々だよ〜」


遥ちゃんのことを褒められると自分のことのように嬉しい。もちろん、お母さんが褒めたとしてもだ。
437 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:41:00.41 ID:loIPccok0

彼方「はーい、それじゃあーん♪」
 「メェ〜」

彼方「あ、こらこら、ウールーには後でちゃんとあげるから。これはお母さんの分」
 「メェ〜」

彼方母「ふふ♪ 別にウールーにあげてもいいわよ?」

彼方「いいの〜これはお母さんの分だから。はい、あ〜ん♪」

彼方母「あーん」

彼方「おいしい〜? その出汁巻き卵、自信あるんだけど〜」

彼方母「うん♪ すっごくおいしい♪ かなちゃんまた腕を上げたね〜」

彼方「えへへ〜そうでしょ〜。お母さん絶対この味好きだろうな〜って作ったから〜」

彼方母「うん。かなちゃんの優しさがたくさん詰まってて……おいしい。かなちゃんは誰かの心に寄り添える子だから、きっと料理が向いてるんだね」

彼方「て、照れちゃうな〜……でも、本当にそうなら嬉しい……えへへ♪」

彼方母「でも、すっかりお母さんよりも料理上手になっちゃって……そこはお母さんちょっと寂しい……」

彼方「ええ〜? お母さんに比べたら、まだまだだよ〜……お母さんの料理からまだたくさん盗みたいから、早く退院して戻ってきて欲しいな〜。そうだ! 退院したらピクニックに行こうよ〜♪ 遥ちゃんと3人で〜♪」
 「メェ〜」

彼方「あ、ごめんごめん……もちろんウールーも一緒だよ〜」
 「メェ〜」


そう言いながら、お箸で次のおかずを取ろうとすると、


彼方母「かなちゃん」


お母さんがわたしの名前を呼ぶ。


彼方「んー?」

彼方母「……お母さんね──もう……長くないんだって」


わたしの手が止まる。
438 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:41:41.17 ID:loIPccok0

彼方「…………そうなんだ」

彼方母「うん。……もう、全身が瘴気に侵されちゃってて……ダメみたい。落日のときに……たくさん瘴気を吸いすぎちゃったみたいで……それで、身体のあちこちがもうボロボロなんだって」

彼方「…………あと、どれくらい?」

彼方母「1ヶ月持てば……良い方みたい」

彼方「……そっか」

彼方母「あんまり驚かないんだね」

彼方「……お母さんが突然倒れたときから……なんとなく覚悟してたから」

彼方母「そっか……。せっかく、お父さんが身体張って助けてくれたのにね……」

彼方「……そうだね……はい、あーん」
 「メェ〜」

彼方「だから、ウールーの分は後でだってば〜……はい、お母さん、あーん」

彼方母「あーん」

彼方「おいしい?」

彼方母「うん、おいしい♪ 出汁がよく効いてて……」

彼方「……実はね〜」

彼方母「んー?」

彼方「今日の卵焼き、本当は甘いやつなんだ〜……」

彼方母「…………そっか」

彼方「……やっぱり……もう、味……わかんないんだね」

彼方母「あはは……やっぱ、バレちゃってたか」

彼方「うん。実は……結構前から、なんとなく……」

彼方母「そっか……」


ずっと私のご飯をおいしいおいしいと言って食べてくれていたから……信じたくはなかったけど……。

もう……味覚も感じられないくらいに……身体が壊れかけている……。きっと味覚だけじゃない……あちこちが、もう……。

そのとき──お母さんがわたしの頭を抱いて、自らの胸に抱き寄せる。


彼方母「……あなたたちを残して先に逝っちゃうけど……ごめんね」

彼方「うぅん、いいよ……悲しいけど……お母さんがお母さんでいてくれて……わたしはすっごく幸せだったから」

彼方母「ありがとう……。……かなちゃんは強いね……」

彼方「……お姉ちゃんだからね〜」

彼方母「……そっか。はるちゃんのこと……よろしくね……」

彼方「任せて〜。遥ちゃんのことは、わたしが何が何でも守ってみせるから〜」

彼方母「ふふ、頼もしい♪」

彼方「うん。……だって、お母さんの子だもん。頼もしくて当然だよ」

彼方母「そっか。……かなちゃんの優しさで……たくさんの人を、たくさんのポケモンを……守ってくれたら……お母さん嬉しいな」

彼方「うん」


ただ、お母さんが優しくわたしの頭を撫でてくれる。そんな静かな病室の中で、


 「メェ〜〜」


事情がわかっているのかわかっていないのか……ウールーの気の抜ける鳴き声が昼下がりの穏やかな病室の中で、木霊するのだった。


──そして、この日からちょうど1ヶ月後に……お母さんは静かに息を引き取った。
439 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:42:15.14 ID:loIPccok0

──
────
──────


姫乃「パールル1匹で……テッカグヤの攻撃を防ぎ切った……!?」

彼方「ごめんね……遥ちゃん……。……お姉ちゃん……迷ってばっかりだ……」

遥「…………」


大好きな大好きな遥ちゃんをぎゅっと抱きしめて、そう伝える。


彼方「でも……もう、迷わないよ……」


伝えて──立ち上がった。


彼方「パールル、ここで遥ちゃんのこと、守ってね」
 「パルル」


わたしはボールからポケモンたちを出す。


 「──カビッ」「──コァ〜」


ボールから飛び出したカビゴンとネッコアラ、そして──


 「────」


コスモウムと一緒に姫乃ちゃんに向かって歩き出す。


姫乃「……さ、さっきのはきっとまぐれです……! “エアスラッシュ”!!」
 「────」

彼方「ネッコアラ、“ウッドハンマー”」
 「コア!!」


わたしが左手で方向を指差しながら指示をしたネッコアラの“ウッドハンマー”は、テッカグヤの“エアスラッシュ”を弾いて逸らし──弾かれた空気の刃が岩石を豆腐のように切り裂きながら明後日の方向へと飛んでいく。


姫乃「う、嘘……? ら、“ラスターカノン”!!」
 「────」

彼方「コスモウム、“コスモパワー”」
 「────」


集束された光のレーザーは、わたしが指差した先に移動したコスモウムが、芯で捉えるように受け止めると、その場で霧散する。


姫乃「ツンデツンデ……!! “ロックブラスト”!!」
 「ツンデ」

彼方「カビゴン、ネッコアラ」
 「カビッ」「コァ」


飛んでくる岩石の砲弾を一つ一つ指差し、


 「カビッ」「コァ!!!」


それをカビゴンの拳とネッコアラの丸太が、正確に撃ち落としていく。


姫乃「……な、なにが起こっているんですか……!?」


姫乃ちゃんが動揺して、半歩身を引く。
440 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:42:48.47 ID:loIPccok0

彼方「……前に、千歌ちゃんが言ってたんだ。攻撃には……芯があるんだって」

姫乃「な、なに言って……」

彼方「千歌ちゃんは攻撃の芯を相手に的確に当てることによって、必殺の一撃を繰り出すんだってさ」

姫乃「だ、だから……!! 何を言っているんですか、貴方は……!?」

彼方「……でも、わたし思ったんだよね。芯があるのは攻撃だけじゃないんじゃないかな〜って。……防御にも芯はあるんじゃないかって」


ポケモンにとって最も効率的に攻撃を通せる芯があるように──防御にも、最も効率よく防御を通せる芯があるんじゃないかって。


彼方「なんか今……それが見える気がするんだ」

姫乃「そ、それ以上近寄らないでください……!! ツンデツンデ!! “ジャイロボール”!!」
 「ツンデ」


ツンデツンデが丸い形に石垣を構築しなおし、高速で回転しながら、飛び出してくる。

猛スピードで転がってくるツンデツンデに対し、すっと指を真っすぐ前に出し、そこに向かって、


 「コァッ!!!」


ネッコアラが──ど真ん中を叩くように、“ウッドハンマー”を振るうと、


 「──ツンデ…!!」


体格差が嘘のように、ツンデツンデが野球ボールのように後ろに弾き返される。


姫乃「嘘……嘘嘘嘘です、こんなの……」

彼方「……相手をよく見て、相手のことを考えて、的確に防御を置き続ける……」

姫乃「て、テッカグヤ!! “ロケットずつき”!!」
 「────」


テッカグヤがバーナーを逆噴射し──頭をこちらに向けて真っすぐこっちに突っ込んでくる。


彼方「……きっと、わたしにしか出来ない……みんなのことをたくさん見てるから、みんなの言葉にたくさん耳を傾けてるからこそ、出来る強さなんだ」


スッと指を前に差す。

──ガァァァァァンッ!!!! という音と共に──コスモウムが、テッカグヤの突進を真正面から押し止めた。

テッカグヤは今もバーナーから噴射の推進力で前に進んでいるはずなのに、コスモウムは微動だにしない。


姫乃「……反則……です……」


それを見て、姫乃ちゃんがへたり込む。


彼方「だから、わたしの防御は、人に寄り添う優しさを強さに変えた絶対防御。あーでも……それで言うなら、彼方ちゃん……まだまだかもなぁ〜……」

姫乃「え……?」

彼方「だって……姫乃ちゃんが果林ちゃんの邪魔をする人が許せないように……彼方ちゃんも──遥ちゃんを傷つける人は絶対に許さないから。そこはまだ、優しく出来ないや」


コスモウムによって噴射をしながら空中で止まってしまったテッカグヤの頭を──カビゴンがガシリと掴んで、振り上げる。


姫乃「あ……あ……っ……」


そしてそれを思いっきり──


彼方「反省してね……“ばかぢから”!!!」
 「カビッ!!!!」
441 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:45:29.29 ID:loIPccok0

振り下ろした。


姫乃「……ッ!!!?」


振り下ろされたテッカグヤの巨体は、


 「ツンデ…!!!」


ツンデツンデの真上に振り下ろされ──超重量級のポケモン2匹分の加重によって、ツンデツンデを地面にめり込ませ──さらに発生した衝撃波で地面がひしゃげ、周囲の岩石を吹き飛ばした。


姫乃「きゃぁ……!?」


至近距離で衝撃波を受けて、姫乃ちゃんが吹き飛ぶけど、姫乃ちゃんは地面を転がりながらも受け身をとってすぐに起き上がる。

さすが、“MOON”……よく訓練してるな〜……。彼方ちゃんには真似できないや。


姫乃「じ、冗談じゃないです……!!」


姫乃ちゃんはわたしから視線を外さずに後退していく。


彼方「ありゃ? 逃げちゃう感じ?」

姫乃「こ、こんなこと認めません……!! う、ウルトラビーストが1度に2匹も倒されるなんて……!!」


うーん……彼方ちゃん今は痛くてあんまり速く走れないから、逃げないで欲しいんだけどなぁ……。

そんなことをぼんやり考えていると、後退する姫乃ちゃんの後ろから近付いてくる影に気付く。


彼方「あ、姫乃ちゃん……そっちに行くと……」

姫乃「こ、来ないでください……!!」

 「──え、えーっと……ご、ごめんね?」

姫乃「え……!?」


背後から声を掛けられ、姫乃ちゃんが驚いて振り向くと同時に、


エマ「“ウッドホーン”」
 「ゴートッ!!」

姫乃「ぴぎゅ……!?」


姫乃ちゃんの脳天にエマちゃんが乗っていたゴーゴートのツノが叩きつけられ──姫乃ちゃんは気を失って、ひっくり返ってしまった。


エマ「え、えーっと……よかったんだよね……?」

彼方「……うん、ナイスだよエマちゃん」

姫乃「……きゅぅ……」


満身創痍だけど……どうにか姫乃ちゃんとの戦闘に勝利できた彼方ちゃんは、安堵の息を漏らすのでした。



442 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:46:13.95 ID:loIPccok0

    🐏    🐏    🐏





遥「……ん……ぅ……」

彼方「あ、遥ちゃん……!!」

遥「……おねえ、ちゃん……?」

彼方「よかったぁ〜〜〜……!! 遥ちゃん痛いところない!?」


彼方ちゃんは遥ちゃんをこれでもかと言わんばかりに抱きしめます。


遥「い、痛い痛い、お姉ちゃんの抱きしめる力が強すぎて痛いよ……」

彼方「いたたたたた!!?」

遥「えっ!? なんでお姉ちゃんが痛がってるの!?」

エマ「だ、ダメだよ、彼方ちゃん……! 固定したとはいえ、右腕の骨が折れてるんだから……!」

彼方「は、遥ちゃんが目を覚ました喜びで忘れてた……」


あの後──エマちゃんが見つけてきてくれた倒木の破片を添え木にして……応急処置をしてもらった。

そして、遥ちゃんの傷だけど……。


彼方「遥ちゃん、背中の傷は平気?」

遥「え? ……言われみれば……全然痛くない……」

彼方「ママンボウのお陰だね〜ありがとうママンボウ〜」
 「ママァ〜ン」

遥「ママンボウが治療してくれたんだ……ありがとう」
 「ママァ〜ンボ」


ママンボウの治癒効果は本当に目を見張るほどで、すっかり切り傷が塞がっていた。


遥「でも……ちょっとふらふらするかも……」

彼方「血を流しちゃったからね……しばらくは大人しくしてないとダメ〜」

遥「う、うん……」

彼方「というか、どうやってここまで来たの?」

遥「えっと……お姉ちゃんの持ってる端末のGPS表示を見てたら……15番水道の端っこで消えちゃったから……そこにいるんだって思って……」

彼方「うん?」


そういえば、わたしと遥ちゃんは支給されてる端末を持っていて、お互いの端末位置は検索できるんだった。


遥「それで、病院から抜け出して……ある程度、船で移動したあと……ハーデリアに掴まって……泳いできた」

彼方「なんて危ないことしてるの!?」

遥「ご、ごめんなさい……! でも……居てもたってもいられなくって……」

彼方「もう〜……誰に似たんだか〜……」

エマ「ふふ、誰に似たんだろうね?」


くすくす笑うエマちゃん。

そういうエマちゃんもゴーゴートの背に腰かけたまま……足に添え木をしていて……。
443 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:47:02.54 ID:loIPccok0

遥「エマさんのその足は……」

エマ「あ、うん……わたしも足の骨が折れちゃったみたいで……」

彼方「ごめんね、エマちゃん……結局、怪我させちゃった……」

エマ「うぅん、わたしは大丈夫。こうして……姫乃ちゃんを止めることも出来たし……」

姫乃「……きゅぅ〜……」


完全に目を回して気絶している姫乃ちゃんは、今はロープで手足を縛った状態で手持ちも全部彼方ちゃんが回収済み。

外に出ていたポケモンも全部ボールに戻したから、もう姫乃ちゃんは完全に戦闘には参加できない状態になっています。


彼方「しばらくしたら、みんなのところに戻ろうね……」

エマ「うん。……わたし、やっぱりまだ果林ちゃんとお話ししなくちゃいけない。伝えきれてないこと……たくさんあるから


きっと戦闘は激化しているだろうけど……。さすがにすぐには動けない……。

今は、侑ちゃんとかすみちゃんを信じるしかない……かな……。



444 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:47:43.94 ID:loIPccok0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 彼方
 手持ち バイウールー♂ Lv.79 特性:ぼうだん 性格:のんてんき 個性:ひるねをよくする
      ネッコアラ♂ Lv.77 特性:ぜったいねむり 性格:ゆうかん 個性:ひるねをよくする
      ムシャーナ♀ Lv.78 特性:テレパシー 性格:おだやか 個性:ひるねをよくする
      パールル♀ Lv.76 特性:シェルアーマー 性格:おとなしい 個性:ひるねをよくする
      カビゴン♀ Lv.80 特性:あついしぼう 性格:わんぱく 個性:ひるねをよくする
      コスモウム Lv.75 特性:がんじょう 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 エマ
 手持ち ゴーゴート♂ Lv.40 特性:くさのけがわ 性格:むじゃき 個性:ねばりづよい
      パルスワン♂ Lv.43 特性:がんじょうあご 性格:ゆうかん 個性:かけっこがすき
      ガルーラ♀ Lv.44 特性:きもったま 性格:おっとり 個性:のんびりするのがすき
      ミルタンク♀ Lv.41 特性:そうしょく 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      ママンボウ♀ Lv.40 特性:いやしのこころ 性格:ひかえめ 個性:とてもきちょうめん
      エルフーン♀ Lv.40 特性:いたずらごころ 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 1個 図鑑 未所持


 彼方と エマは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



445 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:11:45.72 ID:8UVAxvmj0

 ■Intermission🍊



千歌「──バクフーン!! “ひのこ”!!」
 「バク、フーーーンッ!!!!」

 「フェロッ…!!!?」


鋭く飛ぶ“ひのこ”が高速で飛びまわるフェローチェを撃ち落とす。

クリーンヒットした“ひのこ”がフェローチェを撃墜するが、


 「ガドーンッ!!!」


すでに私の背後では、ズガドーンが頭を外して投げるモーションに入っている。


千歌「フローゼル!! “ハイドロポンプ”!!」
 「ゼーーールゥゥゥ!!!!!」

 「ガドーーンッ…!!!?」


投げようとしていた頭ごと激流でぶっ飛ばし──直後、ドォォンッ!! と音を立てながら、ズガドーンが爆発する。


千歌「くっ……!」


強引に距離を取ったから、爆発のダメージこそなかったものの、爆風が吹き付けてくる。

そして、爆風に一瞬動きを止めた私に向かって、


 「────」


カミツルギが斬撃を伴って、上から飛び掛かってくる。

その斬撃を、


 「ウォッフッ!!!」


飛び出したしいたけが“ファーコート”と“コットンガード”で強引に受け止め、剣を受け止められ一瞬止まったカミツルギを、


 「ワォーーーーンッ!!!!」


ルガルガンが“ドリルライナー”で突っ込んで仕留める。


千歌「今なら、空に抜けられる……! 逃げるよ!!」
 「ピィィィィィ!!!!」



私はムクホーク以外をボールに戻して、その場を離脱した。





    🍊    🍊    🍊





千歌「……はぁ……はぁ……。……さ、さすがに……このままじゃ……ヤバイ……」


息を切らしながら、飛び込んだ断崖にある横穴から外を覗く。

そこには──
446 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:12:24.55 ID:8UVAxvmj0

 「ブーーン」「フェロ…」「────」「──ジェルルップ…」


マッシブーン、フェローチェ、カミツルギ、ウツロイド……いや、それだけじゃない。

ありとあらゆるウルトラビーストの姿が確認出来た。

大型のウルトラビーストであるテッカグヤやツンデツンデもいる。

……さすがにアクジキングは、見た瞬間全力で逃げたけど……。


千歌「……たぶん……歩夢ちゃんの影響……だよね……」


ここに来たときから、ちらほらウルトラビーストは見かけていたし……恐らくこの世界は今、果林さんたちがウルトラビーストを呼び込んでいる世界とウルトラビーストたちが住んでいる世界のちょうど狭間にあるんだと思う。

彼女たちが歩夢ちゃんの力でウルトラビーストたちの呼び寄せを開始した結果、中継地点のようになっているこの世界にウルトラビーストたちが溢れかえっているんだ……。

彼女たちが歩夢ちゃんを使ってまでウルトラビーストを呼び寄せているのは恐らく捕獲目的だろうし、出来ることなら撃退したいけど……。

手持ちの体力も限界な上に……数が数……撃退するどころか……。


千歌「逃げ切れるかな……あはは……」


さすがに、この絶体絶命の状況に乾いた笑いが漏れる。


千歌「ダメだダメだ……! 弱気になるな……!」


弱気を打ち消すように、頭を振る。


千歌「とにかく、一点でいいから、うまく包囲網を抜けられそうな穴を作れば……!」


そう思った瞬間──背後でドォンッと嫌な音がした。


千歌「……!?」


ギョッとして振り返ると──背後の壁にヒビが入っている。そして、またドォンッという音ともに、壁のヒビが大きくなっていく。


千歌「や、やば……!! ムクホーク、逃げるよ!!」
 「ピィィッ!!!!」


ムクホークと一緒に横穴の外に逃げ出そうとした瞬間、


 「──シブーーーンッ!!!!」


ショルダータックルで壁をぶっ壊しながら、マッシブーンが突っ込んできた。

──避けきれない……!


千歌「“フェザーダンス”っ!」
 「ピィィィィッ!!!!」


咄嗟の判断で、大量の羽毛をまき散らし、マッシブーンの攻撃力を落とすが、


 「ブーーーーンッ!!!!」

千歌「ぐっ……!!」


タックルに吹っ飛ばされて、断崖の横穴から追い出される。

外に飛び出た瞬間、


 「ピィィィッ!!!!」
447 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:13:24.01 ID:8UVAxvmj0

ムクホークが私の肩を掴んで飛び立つ。


千歌「ムクホーク!! 高度上げてっ!!」
 「ピィィィッ!!!」


状況確認もまだ出来ていないけど、確実にウルトラビーストたちのど真ん中に放り出された。

狙い撃ちにされる前に上空に逃げようとしたが、


 「ピッ…!!!?」


ムクホークが急に掴んでいた私の肩を離す。


千歌「へっ!?」


急に浮遊感に包まれ、何事かと思った直後──ピシャーーーーンッ!!! という空気を劈く音が上から轟いてくる。

この音は──“かみなり”だ……!

落下しながら私の視界には──


 「────ジジジ」


巨大なデンジュモクの姿が目に入る。

ムクホークは“かみなり”の予兆に気付き、私を巻き込まないために、咄嗟に掴んでいた私を離して巻き込まれないようにしてくれたんだ……!

──猛スピードで落下する私は、地面に向かってボールを放つ。


千歌「しいたけーーー!! “コットンガード”ぉーーー!!!」

 「──ワッフッ!!!」


飛び出したしいたけが、体毛をもこもこと膨らませ、私はそこに向かって落下する。

──バフンという音と共に、しいたけの上に不時着したあと、


千歌「っ……!」


すぐに顔を上げ──


 「ピィィィ……」

千歌「ムクホーク、戻って!!」


“かみなり”の直撃で黒焦げになって落ちてくるムクホークをボールに戻す。

ムクホークの機転のお陰で助かったけど──これで飛んで逃げることも出来なくなった。

そして、周りは──


 「フェロ…」「ガドーーン」「──ジジジ」「シブーーン!!!!」


ウルトラビーストに取り囲まれていた。


千歌「バクフーン! ルガルガン! フローゼル!」
 「バクフーーッ!!!」「ワォンッ!!!」「ゼルゥッ!!!」

千歌「諦めてたまるかぁぁぁ!!!」
 「ワッフッ!!!」


私はポケモンたちと一緒に駆け出す。
448 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:13:59.73 ID:8UVAxvmj0

千歌「“ひのこ”!!」
 「バクフーーーッ!!!!」

 「フェロッ!!!?」


駆け出すと同時に、防御の薄いフェローチェを撃ち抜き、


千歌「“ストーンエッジ”!!」
 「ワォンッ!!!!」

 「──ジジジジ…」


ルガルガンが、範囲攻撃の得意なデンジュモクを優先して倒す。


 「ガドーンッ」


他のウルトラビーストを攻撃している隙に、頭を投げようとしている、ズガドーンに向かって、


千歌「“アクアジェット”!!」
 「ゼルゥゥゥゥッ!!!!!」

 「ガドーンッ…!!!?」


フローゼルが“アクアジェット”で黙らせ、


千歌「走るよ……!!」
 「バクフッ!!!」「ワォンッ!!!」「ゼルッ!!!!」


全員で包囲網を抜けるために走り出すが、


 「ワッフッ!!!」
千歌「……!?」


背後でしいたけが鳴く。

後ろを確認する間もなく──


 「シブーーーーンッ!!!!」


突っ込んできたマッシブーンのショルダータックルでしいたけが突き飛ばされ、それに巻き込まれるように私も吹っ飛ばされる。


千歌「……っ゛……ぐ……っ……!!」


吹っ飛ばされながらも、しいたけが私の身体を守るように抱き着いてきて──空中で姿勢を制御しながら、自分を下にして地面に落っこちる。


千歌「…………ぐ……」


痛みを堪えながら起き上がると──


 「ワフ…」


しいたけが私の下で戦闘不能になっていた。


千歌「しいたけ……ごめんね、ありがとう……戻って……」
 「ワッフ…──」
449 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:14:36.80 ID:8UVAxvmj0

しいたけをボールに戻す。

恐らくしいたけは私を庇って、死角からのマッシブーンの攻撃を受け止めようとしてくれたんだ。

しいたけが守ってくれなかったら、私の身体はマッシブーンのタックルによって、今頃バラバラになっていた……。

タックルだけでも大ダメージを受けていたはずなのに、落下の衝撃からも守ってくれたんだ……。

──でも、一難去ってまた一難。


 「────」

千歌「テッカグヤ……!」


目の前で、テッカグヤがバーナーをこちらに向けていた。


 「バクフーーーッ!!!!」

 「────」


吹っ飛ばされた私に駆け寄りながら、バクフーンが“もえつきる”でテッカグヤを焼き払う。


 「ゼルッ!!」「ワォンッ!!!」「バクフーーーッ!!!」


フローゼルが、ルガルガンが、バクフーンが、私を守るように周囲を固めるけど──


 「ッシブーーンッ!!!」「──ジェルルップ…」「────」「フェロ…」


マッシブーンに、ウツロイド、カミツルギ、フェローチェ……いや、それだけじゃない。

さっきとは別固体のデンジュモクやズガドーン、テッカグヤがこっちに近付いてくるのが見えるし……戦う意思があるのかはともかく、ツンデツンデも遠方に確認出来る。

さらに──


 「──ドカグィィィィィ!!!!」


アクジキングの鳴き声まで聞こえてくる。

手持ちは残り3匹……。みんな体力は限界ギリギリ。しかも、バクフーンは炎が燃え尽きてしまっている。

この戦力差は……もう……無理だ……。


千歌「……はぁ……はぁ……」


私は息が切れて、膝をついてしまう。

そこに向かって──


 「シブーーーンッ!!!!」「フェロッ!!!」「──ジェルルップ…」


ウルトラビーストたちが一斉に飛び掛かってくる。


千歌「くっそぉぉぉぉぉ……!!」


諦めかけた──次の瞬間、


 「──“ハードプラント”!!!」
  「──ガニュゥムッ!!!!!」


響く声と共に──


 「マッシブッ!!!?」「フェロッ…!!!?」「──ジェルルップ…」
450 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:15:14.32 ID:8UVAxvmj0

急に地面から生えてきた大樹が、ウルトラビーストたちを巻き込みながら、一気に成長していく。

大樹は私たちを守るよう壁のように、周囲を取り囲んでいく。


千歌「……この、技……!」


この技を使える人を……私は一人しか知らない。

上を見上げると──


梨子「──千歌ちゃぁぁぁぁんっ!!」

千歌「梨子ちゃんっ!!」


ピジョットに乗った梨子ちゃんが、上空から一直線に舞い降りてくるところだった。

それと同時に──


 「ガニュゥムッ!!!!」


メガニウムが私の近くに着地する。


千歌「メガニウム……! ありがとう……!」
 「ガニュゥムッ♪」


メガニウムの“ハードプラント”によって、救われた。


梨子「千歌ちゃん、無事……!?」

千歌「お陰様で間一髪……!」


プラントたちの防壁の中に降り立った梨子ちゃんが駆け寄ってくる。

が、


 「ガドーンッ!!!」


ズガドーンの鳴き声と共に──樹木の壁のすぐ外で爆発音が響く。


梨子「きゃ……っ!?」

千歌「……っ……!」


──“ビックリヘッド”が炸裂した。

強烈な爆発と爆炎によって、樹木の壁が一瞬で焼け崩れる。


 「──はーーい!! 消火しちゃうよーー!! “ハイドロポンプ”!!」
  「──ガメェェェェッ!!!!!!」

千歌「……!」


けど、炎はすぐに上から降ってきた大量の水によって消火される。

上を見上げると──カメックスが首と手足を引っ込めたまま、ランチャーだけを外に出し、水流の逆噴射で空を飛びながら、大量の水で消火を行っていた。


千歌「曜ちゃぁーーーん……っ!!」

曜「助けに来たよ!! 千歌ちゃん!!」


そして、曜ちゃんがヨルノズクから飛び降りて、私に駆け寄り抱き着いてくる。
451 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:16:54.72 ID:8UVAxvmj0

曜「絶対……無事だって、信じてた……!」

千歌「うん……っ……! 絶対、助けに来てくれるって……信じてた……っ……」

梨子「ふふっ」


再会を喜ぶ私たちに、


 「マッシブ!!!」「フェロッ!!!」


飛び掛かってくる、マッシブーンとフェローチェの姿。

でも、その攻撃は──


ルビィ「──コラン!! “リフレクター”!!」
 「ピピィッ!!!!」

 「シブッ…!!?」「フェロッ…!!?」


降りてきたルビィちゃんとコランによって、弾き返される。

そして、弾かれた2匹に向かって──


花丸「──カビゴン!! “のしかかり”!!」
 「ゴンッ!!!!」

 「シブッ…!!!」「フェロ…ッ」


降ってきた花丸ちゃんのカビゴンが“のしかかり”でまとめて押しつぶす。


千歌「ルビィちゃん……! 花丸ちゃん……!」

ルビィ「助けに来たよ!! 千歌ちゃん!!」

花丸「どうにか、間に合ったみたいだね……」


ただ、ウルトラビーストたちの猛攻は止まらない。

コランが展開してくれた、“リフレクター”を、


 「────」


カミツルギが斬撃で破壊する。


ルビィ「ぴぎっ!?」

花丸「か、“かわらわり”……!?」

 「────」


カミツルギが二の太刀を振り下ろそうとした瞬間──


善子「──……遅い」
 「…ソル」


いつの間にか降り立っていた善子ちゃんとアブソルが、カミツルギよりも速い斬撃で斬り裂いていた。


 「────」


カミツルギが崩れ落ちる。
452 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:18:29.54 ID:8UVAxvmj0

善子「本気の千歌の方が、100倍速いわ……」

千歌「善子ちゃん……っ!!」

善子「ヨハネだって言ってんでしょ」

千歌「えへへ……うんっ! ヨハネちゃん!」

善子「素直でよろしい」


みんなが──みんなが助けに来てくれた……!!


花丸「それにしても……すごい数ずらね〜……」

ルビィ「うん……何匹くらいいるのかな……?」

梨子「……まあ、数えきれないくらいいることはわかるかな」

善子「でも、私たち全員揃ってたら……これくらい訳ないでしょ?」

曜「当然!! みんな、千歌ちゃんを守るよ!!」

梨子「ピジョット!!」
曜「カメックス!!」
善子「アブソル!!」
花丸「デンリュウ!!」
ルビィ「バシャーモ!!」


梨子ちゃんの“メガブレスレット”が、曜ちゃんの“メガイカリ”が、善子ちゃんの“メガロザリオ”が、花丸ちゃんとルビィちゃんが首から提げているお揃いの“メガペンダント”が──同時に輝きだす。


梨子・曜・善子・花丸・ルビィ「「「「「メガシンカ!!!」」」」」
 「ピジョットォ!!!」「ガメェーーーッ!!!!」「ソルッ!!!!」「リュゥ!!!!」「バシャーーーモッ!!!!」


5匹が同時に光に包まれ──メガシンカする。


曜「撃ち抜け……!! “ハイドロポンプ”!!」
 「ガメガメガメガメェェェェェッ!!!!!」

 「ズガッ!!!?」「ガドドッ!!!?」「ドーーンッ!!!?」


連続で発射される水砲が、周囲のズガドーンたちを的確に撃ち抜き、


善子「──“かまいたち”!!」
 「ソルッ!!!」

 「────」「──」「───」


極太の風の刃がまとめて、カミツルギたちを薙ぎ払う。


 「──フェロッ!!!!」「ローーチェッ!!!」「フェローーーッ!!!!」


飛び掛かってくる、フェローチェたちは、


ルビィ「“ブレイズキック”!!」
 「シャァーーーーモッ!!!!」

 「フェロッ…!!!」「ローチェッ!!?」「フェロォ…!!?」


“かそく”するメガバシャーモが高速軌道で動き回りながら、炎の蹴撃で片っ端から叩き落していく。


 「──」「────」


空からこっちに向かってくる、テッカグヤたちを、
453 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:21:05.21 ID:8UVAxvmj0

花丸「“かみなり”!!」
 「リュウッ!!!」

 「────」「──」


花丸ちゃんがメガデンリュウの“かみなり”で正確に撃ち落とす。

そして、


 「──ジェルルップ…」「──ジェル…」「──ルップ…」


接近してくるウツロイドたちを、


梨子「ピジョット!! “ぼうふう”!!」
 「ピジョットォォォォォ!!!!!」


梨子ちゃんとメガピジョットが“ぼうふう”で吹き飛ばした。


千歌「みんな……すごい……!!」


頼もしい仲間たちの戦いっぷりに目を潤ませていると、


 「──ジジジジ」「──ジ、ジジジ」


デンジュモクたちが電撃を体に溜め始める。


千歌「……! い、いけない……! 電撃が……!」

花丸「任せるずら!! ドダイトス!! マンムー!!」
 「ドダイッ!!!!」「ムオォォォォ!!!!」

花丸「“ぶちかまし”!! “10まんばりき”!!」
 「ドダイトォスッ!!!!!」「ムォォォォォッ!!!!!!」

 「──ジジ…ッ」「──ジジジ…ッ」


でんきタイプの効かない、じめんタイプのドダイトスとマンムーが体に電撃を纏ったデンジュモクたちを、強力なじめん技で無理やりぶっ飛ばす。


 「マッシブーンッ!!!!」


突然、飛び掛かってくるマッシブーン。


曜「カイリキー!!」
 「──リキッ!!!」

 「シブッ!!!?」


それを曜ちゃんのカイリキーが4本の腕で組み伏せる。

5人が力を合わせて、迎撃をする中、


 「────ツンデ」


先ほどまで遠方にいたツンデツンデが、戦闘に刺激されたのか、こっちに向かって“ジャイロボール”で猛スピードで転がってくる。


曜「うわ、なんかでかいのきたよ!?」

梨子「任せて……! 行くよ──ダイオウドウ!!」
 「──パオォォォォォォ!!!!!」


梨子ちゃんの繰り出したダイオウドウが真正面から、ツンデツンデに体をぶつけて、押し止める。

──押し止めたツンデツンデを、
454 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:21:45.09 ID:8UVAxvmj0

善子「でかした、リリー!! ゲッコウガ!!」
 「ゲコガァッ!!!!」


善子ちゃんのゲッコウガが──石垣の継ぎ目に沿って大きな水の手裏剣で斬り裂くと、


 「…ツンデ」


ツンデツンデがバラバラになって崩れ落ちる。


梨子「善子ちゃん!! リリー禁止って言ったでしょ!?」

善子「善子言うな!?」


気付けば──周囲のウルトラビーストはほとんど倒しきっていた。


千歌「みんな……すごすぎだよ……!」


あと残るは──


 「──ドカグィィィィィ!!!!!」


さっき鳴き声だけ聞こえていたアクジキングが岩山を喰らいながら、こっちに向かって走ってくる。


曜「や、山食べてるよ!?」

ルビィ「ぅゅ……あ、アクジキングさん……」

花丸「山って、おいしいのかな……?」

梨子「そこ……?」

善子「……なかなかやばそうなのが来たわね」


見るからにヤバイウルトラビーストなのに、みんなは割と能天気な反応をしている。


善子「あ、そうそう……千歌」

千歌「ん?」

善子「忘れ物よ。ロッジで寂しく待ってたから、連れてきた」


そう言って、ボールを投げ渡してくる。


千歌「……!」

善子「最後の見せ場、あげるから……やっちゃいなさい」

千歌「……うん!!」


私は善子ちゃんから受け取ったボールを放る。


千歌「行くよ!! ルカリオ!!」
 「──グゥォッ!!!!」

千歌「メガシンカ!!」


ボールから飛び出したルカリオが、私の“メガバレッタ”の輝きの呼応して──メガルカリオへと姿を変える。


 「──グゥォッ!!!!」

千歌「ルカリオ……私の波導……感じるよね」
 「グゥォッ!!!」
455 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:22:29.99 ID:8UVAxvmj0

もう疲れ切っているはずなのに……。

頼もしい仲間たちが助けに来てくれた。

その嬉しさと喜びで、すごくすごく、気持ちが高揚していた。


 「ドカグィィィィィッ!!!」


──本来、アクジキングは見たら即逃走してもいいくらい危険な相手だけど……。


千歌「今は……負ける気がしない」
 「グゥォッ!!!!!」


ルカリオの波導が一気に膨れ上がる。

そして、両手に波導のエネルギーを集束し始める。


千歌「波導の力……見せつけるよ!!」
 「グゥォッ!!!!」


ルカリオが──両手を前に構えると同時に、波導のエネルギーが膨れ上がる。


千歌「“はどうのあらし”!!!」
 「グゥォォォォォ!!!!!!!」


両手の先から極太の波導のレーザーが発射され──アクジキングに向かって飛んでいく。


 「ドカグィィィィィッ!!!!」


アクジキングは大口を開けて、飛んできた“はどうのあらし”を飲み込んでいく。

が、


 「ドカ、グィィィィ…!!!?」


波導エネルギーを飲み込んでいたはずのアクジキングの口の中で──青いエネルギーが膨張し始める。


千歌「いっけぇぇぇ……!! 波導、最大っ!!!」
 「グゥォォォォォォォ!!!!!!」


私の気合いの掛け声に呼応するように──“はどうのあらし”はさらに一段階太くなり、膨張したエネルギーは、


 「ドカグィィィィィィ!!!!!!!?!!?」


アクジキングを中心に──大爆発を起こした。

その爆発の勢いがあまりに強すぎて、


千歌「ど、どわぁぁぁ!!?」


まだ結構距離があるはずなのに、爆風で立っていられずに尻餅をつく。


梨子「きゃぁぁぁ!!?」

ルビィ「ピギィィィィィッ!!!?」

曜「み、みんな伏せてっ!!」

善子「少しは手加減しなさいよ、アホー!!?」

千歌「ご、ごめーーーん!?」

花丸「このデタラメな感じ、やっぱ千歌ちゃんずら〜」
456 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:23:13.97 ID:8UVAxvmj0

しばらくの間、吹き荒ぶ爆風に耐えたあと……顔を上げると──


 「……ドカ、グィィィィ……」


アクジキングはひっくり返って動かなくなったのだった。





    🍊    🍊    🍊





曜「はい、千歌ちゃん♪ オレンサンド♪」

千歌「いただきまーす!! はむ、はむ、はむっ!! もぐもぐ……んぐっ!?」

梨子「ああもう……そんなに焦って食べるから……はい、お水」

千歌「ごくごくごく……!! ぷはっ……はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」

曜「たくさんあるから、ゆっくり食べて」

千歌「うん……ありがとう」


せっかく絶体絶命のピンチを乗り越えたのに、危うく世界一情けない理由で死ぬところだった……。


花丸「みんな〜“げんきのかたまり”と“かいふくのくすり”ずらよ〜」
 「バクフー」「ワォンッ」「ゼルゥ」「ピピィ」「ワッフ」

ルビィ「ポケモンさんたちのご飯もたくさんあるからね!」
 「ワフ、ワフワフッ!!」

ルビィ「わわ!? し、しいたけ……落ち着いて……」

千歌「あはは、しいたけ食いしん坊なのに、ずっと我慢してたもんね〜」


やっと思う存分食事が出来て、しいたけも嬉しそうだ。


善子「それにしても……ここ、岩と砂しかないんじゃない? よくこんな場所で2週間以上生きてられたわね……」

千歌「ホント死ぬかと思ったよ……」


ほぼ砂漠の中に岩山が生えてるみたいな世界だったしね……。野生のポケモンが持っている“きのみ”がなかったら死んでたと思う。


善子「千歌の生命力には感心するわ」

千歌「それ褒めてる……?」

善子「ま、6割くらいは」

千歌「全面的に褒めてよ〜……」


──2週間振りに思う存分ご飯を食べ、ポケモンたちも回復してもらって……。


千歌「よっしゃぁ! 完全復活!!」


身体に力がみなぎってくる。やっぱりご飯は大事だね、うんうん。
457 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:23:55.19 ID:8UVAxvmj0

梨子「それにしても……善子ちゃんがタマムシまで迎えに来たときはびっくりしたよ……」

善子「作品作ってる間、連絡確認しなくなる癖、直しなさいって何度も言ってるじゃない」

梨子「はい、反省してます……」

花丸「まあまあ、梨子ちゃんも忙しいんだよ」

善子「ちょっと……その言い方だと私が暇みたいじゃない!!」

ルビィ「もう、二人ともこんなところまで来てケンカしてないでよ〜!」

千歌「あはは、いつものみんなだ♪」


最近6人で集まれる機会なんて中々なかったから、こうしてみんなの会話を聞いていると、懐かしくなってしまう。

そんな中、


曜「千歌ちゃん」

千歌「ん?」

曜「海未さんから、渡すようにって言われて持ってきたよ」


曜ちゃんが私に、ある物を差し出してくる。


千歌「……!」

曜「あと、伝言もあって……」

千歌「……いや、そっちはいいや」

曜「え?」

千歌「……聞かなくても、わかるから」


どうしてこんなものを曜ちゃんに預けたのか……それを考えればわかる。

きっと、海未師匠は……こう言っていたはずだ。

──『役目を果たしなさい』──……と。


千歌「……行かなきゃ」


私は……もうひと踏ん張りするために、この世界を後にする──


………………
…………
……
🍊

458 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:11:42.96 ID:8UVAxvmj0

■Chapter064 『かすみとしずく』 【SIDE Kasumi】





──────
────
──


かすみ「はー……はー……」

果南「結局完走に2日掛かったね。……まあ、途中で睡眠も取ってるし……初回としては上出来かな」

かすみ「そ、そりゃどーもです……」

果南「それじゃ、今日は宿で休みな。明日は早朝に出るから」

かすみ「わかりました……」

果南「お、素直だね。てっきり、もう行きませんとか言うと思ったのに」

かすみ「だって……かすみんにとって……この修行は必要なんですよね……?」

果南「そうだね」

かすみ「なら、やってやりますよ……」

果南「そっかそっか♪ やっぱり、私が見込んだだけのことはあるよ♪」


そう言いながら果南先輩は、かすみんの頭を撫でます。


かすみ「やーめーてー……髪崩れちゃいますぅ〜……」

果南「あはは♪ あれだけ、ひぃひぃ言いながら走ってたのに、髪型に気を遣うのすごいね」

かすみ「髪のセットは乙女の命なんですぅ!!」


ぷりぷり怒りながら、果南先輩の手を振り払う。


果南「あはは♪ かすみちゃんって、ちょうどいいサイズ感だから撫でたくなるんだよね」

かすみ「むー……確かにかすみんは超絶可愛いから、ナデナデしたくなるのはわかりますけどぉ……」


それにしても果南先輩って、飄々としていて何考えているのか、よくわかんないんですよねぇ……。

彼方先輩よりも謎かもしれません……。


かすみ「あのー……果南先輩」

果南「ん?」

かすみ「どうして、かすみんの面倒見てくれるんですか……? かすみんが可愛いから?」

果南「あはは♪ 確かにかすみちゃんは可愛いけど、それが一番の理由ではないよ」

かすみ「じゃあ、どうして?」


かすみんにはずっと疑問でした。どうして果南先輩みたいな人が、わざわざかすみんに稽古を付けてくれるのか……。

いや、あの、正直内容が死ぬほどキツイのはどうにかして欲しいんですけど……。


果南「そうだなぁ……強いて言うなら──かすみちゃんの中に可能性を見たから……かな」

かすみ「可能性……? いや、確かにかすみん可能性の塊だと自負してますけどぉ……」

果南「あはは♪ そういうとこそういうとこ♪」

かすみ「……?」

果南「ポケモンバトルで……いや、人が生きていく上で一番大切なことってなんだと思う?」

かすみ「え?」
459 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:12:39.96 ID:8UVAxvmj0

急に難しいこと言いだしますね、この人……。


かすみ「うーん……。……みんなから愛される可愛い女の子になること?」

果南「あははっ、確かにそりゃ大事かもね! ポケモンバトルで役に立つかはわからないけど」

かすみ「じゃあ、なんなんですか……」

果南「諦めないことだよ」

かすみ「諦めないこと……?」

果南「生きてるとさ……どんな人でも苦しくて、足が止まりそうになることがたくさんあるんだ。戦うのが苦しくなったり、前に進めなくて辛くなったり、目標を見失って未来に希望が持てなくなったり……」

かすみ「果南先輩もですか?」

果南「うん、そうだよ」

かすみ「……お気楽能天気そうなのに……?」

果南「お? そんな生意気なこと言うのはこの口かな〜?」


果南先輩が、かすみんのほっぺを摘まんで引っ張ってくる。


かすみ「い、いひゃい〜……かしゅみんのかわいいほっへがのびちゃいまふぅ〜……」

果南「ホントにほっぺぷにぷにだね。ずっと引っ張ってたいかも」

かすみ「ひゃめて〜……」

果南「はいはい。じゃ、もう生意気なこと言っちゃダメだよ」


果南先輩はやっとほっぺを摘まんでいた手を放してくれる。


果南「……みんなだよ。みんな、前に進めなくなるときがあるんだ。侑ちゃんも、せつ菜ちゃんも……きっと私の見てないところで、歩夢ちゃんも、しずくちゃんもたくさん挫折して悩んでたんじゃないかなって思うんだ」


果南先輩はそう言って……目を細める。


果南「だけど、かすみちゃんだけは違った。……どんなに苦しいことがあっても、挫けそうなことがあっても、辛いことがあっても、かすみちゃんだけはずっと前を向くことをやめなかった。それはかすみちゃんが思っているよりも、ずっとずっと、すごいことなんだよ」

かすみ「そういうもんなんですか……?」

果南「そういうもんだよ。そしてそれは誰にも負けない武器になる」

かすみ「誰にもって……千歌先輩とか、せつ菜先輩にも?」

果南「うん……かすみちゃんはいつか、千歌やせつ菜ちゃんにも負けないくらい強くなるって私は思ってる」

かすみ「……。……な、なんですか……めちゃくちゃ持ち上げるじゃないですか……///」

果南「私は本来弟子なんて作るタイプじゃないんだけどね。……でも、かすみちゃんを見てたら……かすみちゃんにだけはいろいろ教えてみたくなった」


果南先輩が珍しく真剣な顔で言うから……かすみんなんだか恥ずかしくなっちゃって目を逸らしちゃいます。


かすみ「……そ、そういうことなら……かすみん……しばらく、果南先輩に教わってあげてもいいですよ……?」

果南「ふふ♪ じゃあ、教わってくれるかな♪」

かすみ「は、はい……その代わり……かすみんのこと、強くしてください!」

果南「うん、私に教わるんだから、強くなってくれないと困るよ♪」


──
────
──────

460 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:16:28.08 ID:8UVAxvmj0

かすみ「ジュカイン!! “ソーラーブレード”!!」
 「カインッ!!!」

しずく「サーナイト、“サイコキネシス”♡」
 「サナッ」


ジュカインが陽光の刃を振るうのに対して、メガサーナイトはサイコパワーで自身の目の前に黒い球体を作り出す。

すると、“ソーラーブレード”はその球を中心に軌道を捻じ曲げられ──しず子を避けるように飛んで行ってしまう。


かすみ「“リーフストーム”!!」
 「カインッ!!!」


今度は背を向け、しっぽミサイルに纏わせて“リーフストーム”を放つけど、


しずく「ふふ♡ 当たらないよ♡」


それも、黒い球に逸らされて、明後日の方向へ飛んで行ってしまう。


かすみ「……ブラックホール」

しずく「あはは♡ さすがに勉強してきたんだね、偉いよかすみさん♡」


事前に確認してきたサーナイトの図鑑によると……こう書かれていた。

 『サーナイト ほうようポケモン 高さ:1.6m 重さ:48.4kg
  未来を 予知する 能力で トレーナーの 危険を 察知し 空間を
  ねじ曲げることで 小さな ブラックホールを 作り出す 力を 持つ。
  胸の 赤いプレートは 心を 実体化したもの と言われている。』


しずく「そう、サーナイトはサイコパワーで小さなブラックホールを作り出せる。これがあれば遠距離攻撃は全部逸らすか吸い込むことが出来ちゃうんだよ♡」
 「サナ」

しずく「それにサーナイトがメガシンカのパワーで出来るようになったのは防御だけじゃないよ……♡ “ハイパーボイス”!」
 「サーーーナーーーッ!!」


──サーナイトから強烈な音波攻撃が発せられ、かすみんたちに襲い掛かってくる。


 「カインッ…!!」
かすみ「ぐ、ぅぅぅぅぅっ!!」


咄嗟に耳を塞いで鼓膜を守るけど──強力な音波は、耳だけでなく、物理的な衝撃となって、かすみんたちを吹き飛ばす。

衝撃で身体が浮くかすみんを、


 「カインッ…!!」


ジュカインが、尻尾を伸ばして、吹き飛んでいかないように助けてくれる。


かすみ「あ、ありがと……! ジュカインは平気?」
 「カインッ!!!」

しずく「ふふ♡ かすみさんのジュカインもメガシンカしてすっごくたくましくなったね♡ でも、メガシンカでドラゴンタイプが増えたせいで……“フェアリースキン”のメガサーナイトとは相性が悪くなっちゃったね♡」


しず子がくすくすと笑いながら言う。


かすみ「……相性なんて、パワーでくつがえしてあげる」

しずく「へー♡ 楽しみ♡」
461 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:17:19.58 ID:8UVAxvmj0

そう言いながら、しず子がすっと手を上げる。

攻撃の予兆を感じ、ジュカインも刃を構える。

──しず子が“サーナイトナイト”を持っていたのは最初から知っていたし、果南先輩と一緒にサーナイト対策はしっかりしてきた。

もちろん厄介な音波攻撃への対策も……!


しずく「サーナイト」
 「サーーーーー──」


空気を吸うサーナイト、そしてそれを見て、


 「カインッ…!!!」


刃を構えるジュカイン。

──果南先輩曰く……音波攻撃を攻略するには……。


果南『音より速く攻撃すればいいだけだよ』


とのこと……。

お陰で──……めちゃくちゃ可愛くない技を習得させられました……。


 「カインッ!!!!」


自らを“ふるいたてる”ことによって、ジュカインの腕の筋肉が隆起する。

強化した筋力で振り下ろす──神速の斬撃……!!


しずく「“ハイパーボイス”!!」
 「──ナーーーーーーーッ!!!!!!」

かすみ「“かまいたち”!!」
 「カァインッ!!!!!!!」


飛んできた音波を──音速の刃が斬り裂いた。


しずく「……! へぇ……♡」


音を斬り裂いたのと同時に、


かすみ「行くよっ!!」
 「カインッ!!!」


ジュカインが地を蹴って飛び出す。

俊足のジュカインは一瞬でメガサーナイトに肉薄し──


 「カインッ!!!」


“リーフブレード”を逆袈裟斬りの要領で振り上げる。


かすみ「いっけぇぇぇ!!」


攻撃が決まった──そう思った瞬間。


しずく「ふふ♡」


しず子がサーナイトの前に飛び出してきた。
462 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:18:13.40 ID:8UVAxvmj0

かすみ「!? ジュカインッ!?」
 「カ、カインッ!!!?」


ジュカインの刃が──しず子の脇腹を斬り裂く寸前で止まる。


しずく「“マジカルシャイン”♡」
 「サナ!!!」

 「カインッ…!!!?」


ジュカインは目の前で強烈な閃光を食らって仰け反り、


しずく「頭ががら空きですよ……♡ “サイコショック”!」
 「サナッ!!!」


サーナイトが目の前に作り出した──ちょうどジュカインの頭くらいのサイコパワーのキューブが、ジュカインの頭にぶつけられる。


 「カイン…ッ!!!!」

かすみ「ジュカインッ!!」


ジュカインの体がグラリと揺れたけど、


 「カイ、ンッ!!!!」


ジュカインはドンと震脚しながら踏ん張る。


しずく「あはは♡ 今のも耐えるんだね♡」

かすみ「っ……!! “アイアンテール”!!」

 「カインッ!!!」


ジュカインが身を捻って、尻尾を振るうけど、


しずく「はい、ダメです♡」


また、しず子が前に出てきて、


かすみ「っ……!! ジュカイン、ストップッ!!」

 「カ、カインッ…!!!」

しずく「“サイコキネシス”♡」
 「サナッ!!!」

 「カインッ…!!!」


サイコパワーでジュカインが、かすみんの方に吹っ飛んできて──


かすみ「ぐ……!?」


巻き込まれるようにして、ジュカイン共々地面を転がる。


かすみ「……っ゛……!!」

しずく「あはは♡ 咄嗟に“グラスフィールド”を展開して衝撃を殺したんだね♡ すごいすごーい♡」

かすみ「……ジュカイン……! 立てる……!?」
 「カインッ…!!!」


ジュカインは声を掛けると、すぐに立ち上がる。“グラスフィールド”を展開してくれたお陰で、大きな怪我にこそならなかったけど……。
463 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:20:34.32 ID:8UVAxvmj0

しずく「ふふ……♡ かすみさんは、私のこと攻撃出来ないって──信じてたよ♡」

かすみ「しず、子ぉ……!!」

しずく「かすみさんは私には絶対勝てないよ♡ だって、私が私である以上、かすみさんは私を傷つけられないもの♡ あはは♡ 今の私……すっごく悪役っぽいね♡」

かすみ「……ぐ……!!」


思わず拳を握りこんでしまう。

……まさか、ここまでしてくるなんて思ってなかった。

怒りで腸が煮えくり返りそうですけど……むしろ、そのお陰で完全に腹が決まった。


かすみ「何がなんでも正気に戻してやるから……っ!!」





    👠    👠    👠





せつ菜「……っ!!」


しずくちゃんが逆にポケモンの盾になったのを見て、せつ菜が今にも飛び出しそうになったけど……かすみちゃんのメガジュカインが攻撃を寸止めしたのを見て、その場に踏みとどまる。


せつ菜「…………」

果林「……しずくちゃんが自分の命に頓着しないと言ったのは貴方よ?」

せつ菜「わかってます……」


せつ菜はいつでも助けに入れるように身構え始める。

とはいえ……私もしずくちゃんがあそこまでするのは予想外だった。

お陰でせつ菜の視線は完全にしずくちゃんに釘付けになってしまっている。

……しずくちゃんは恐らくあの行動がもっとも私のためになると考えているのかもしれないけど……いや……案外、せつ菜の気を引きたいだけの可能性もあるのかしら……?

せつ菜としずくちゃんはウルトラディープシーにて、数日間寝食を共にしていたし……浅からぬ絆が芽生えていても……。

そこまで考えて、私は頭を振る。

いや……だとしても、フェローチェの魅了以上の動機で動くことはありえない。

どうにも、フェローチェというポケモンが持っている毒は、感性の強い人間相手だと影響が強すぎる。

調節が効かないものだから仕方ないけど……。

……まあ、せつ菜の注意が向こうの戦闘に寄っているのは別に構わない。

だって、


 「キーーーッ!!!!」

侑「ぐぅっ……!?」
 「ウォーーーグッ……!!!!」


空中で必死に攻撃を避けていたウォーグルを、今しがたファイアローが上から攻撃を加えて叩き落としたからだ。


 「コーーーンッ!!!!」

侑「“ハイドロポンプ”ッ!!」
 「フィーーーオォーーーーッ!!!!」
464 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:23:13.38 ID:8UVAxvmj0

落下しながらもキュウコンの炎はフィオネの激流が相殺する。

咄嗟の防御は一人前だけど……いつまでもつかしらね。





    👑    👑    👑





かすみ「避ける気がないなら、動きを封じればいい……!! ダストダス!!」
 「──ダストダァ!!!」


ダストダスをボールから出し、


かすみ「“どくガス”!!」
 「ダァァァス!!!!」


両手からしず子に向かって“どくガス”を噴出する。


しずく「“ミストフィールド”♡」
 「サナ」

かすみ「ぐ……」

しずく「“どくガス”……“ミストフィールド”で掻き消えちゃったね♡」

かすみ「なら、直接捕まえるだけ……!! ダストダス!!」
 「ダストダァァス!!!!!」


直接しず子を捕まえようと、ダストダスが腕を伸ばす。


しずく「“サイコキネシス”♡」
 「サナ」


片腕をサイコパワーで止められるけど──まだ、もう片腕が逆側から、しず子に向かって迫っている。

行ける……! そう思った瞬間、


 「ベァァァァ…!!!」

かすみ「……!」

しずく「私にも手持ちは複数いるんだよ?」


そう言いながら、もう片方の手は──しず子が繰り出したツンベアーがガッチリと掴んでいた。

ツンベアーは冷気で掴んだダストダスの腕を凍らせながら、


 「ベァァァッ!!!!」


手前に思いっきり引っ張る。


 「ダストダァッ…!!!?」


そのパワーにダストダスが引っ張られ体勢を崩して、転ばされる。


かすみ「ダストダス!?」

しずく「パワーはこっちに分があるみたいだね♡」
 「ベァァァ…」
465 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:24:05.64 ID:8UVAxvmj0

そして、そのままダストダスの腕を凍らせ、地面に縫い付けるようにして動けなくする。

が──氷漬けにされながらも、ジュウジュウと音を立てながら、ダストダスの腕の氷が溶けはじめる。


しずく「……! ツンベアー下がって!」
 「ベァァァッ」


異変を察知して、ツンベアーがダストダスの腕から離れると同時に──ダストダスの腕の氷が完全に溶け自由になり、


かすみ「“ロックブラスト”!!」
 「ダストダァッ!!!」


ダストダスが、手の平の先をツンベアーに向け岩を発射しようとした瞬間、


しずく「……ふふ♡」


しず子がその間に割って入ってくる。


 「ダ、ダストダァ…」


ダストダスは困った表情になり、攻撃を止めてしまう。


かすみ「……腕、戻して」
 「ダストダ…」


ダストダスが私の指示に従って、伸ばした腕を戻す。


しずく「あれ? もう終わり? なんだ、つまんないなー♡」

かすみ「ねぇ、しず子」

しずく「ん?」

かすみ「これが……本当にしず子の望んだことなの……?」

しずく「そうだよ?」

かすみ「自分を盾にして……そんな無茶苦茶な戦い方してでも……しず子がそこまでして戦う理由は何……?」

しずく「果林さんにフェローチェを魅せてもらうためだよ♡」


私はギュッと拳を握る。


かすみ「……しず子……いっつも、かすみんが危ないことしたら叱ってくれたじゃん……。……なのに、なんでそのしず子がこんな戦い方するの……」

しずく「なんでって……当たり前でしょ? ──あんなに美しいポケモンを魅せてもらえるんだよ?♡」

かすみ「…………っ」


──そのとき、わかってしまった。

もう……私の知っているしず子は……いないんだ。

誰よりも真面目で、誰よりも優しくて、誰よりも努力家で、いっつもお小言を言いながら……それでも私の傍にいてくれたしず子は……もう、いないんだ……って。

はる子が言っていた……毒が回りすぎると……もう治療出来ないって……。つまり、しず子は……もう……私が助けたところで……。

それがわかった途端──


かすみ「……ぅ……ひっく……っ……」


涙が出てきた。
466 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:25:12.38 ID:8UVAxvmj0

しずく「泣かないでかすみさん。かすみさんは何も悪くないよ♡ ……これが本当の私だっただけ♡」

かすみ「…………」

しずく「だから、かすみさんが泣かなくていいんだよ♡」

かすみ「…………」

しずく「黙らないでよ〜……。……うーん……あ、そうだ! そんなに悲しいなら、かすみさんも一緒にフェローチェの虜になろう♡ 幸せな気持ちになれるよ♡」

かすみ「…………」

しずく「戦いをやめてくれれば、かすみさんのこと果林さんに紹介してあげる♡ だから──」

かすみ「ああああああああああああああああああああっ!!!!! うるっさいっ!!!!!!! バカしず子っ!!!!!!!」

しずく「……!?」


私の大きな声に驚いたのか、しず子は一瞬ビクリと身を竦める。


しずく「な、なに……突然……!?」

かすみ「……決めた……」

しずく「……何を?」

かすみ「……最初は正気に戻すつもりだったけど……もうやめです。……とっつかまえて、ふんじばって、気絶させて……引き摺ってでも連れて帰る……」


もうきっと……連れて帰っても、しず子は元には戻ってくれない……。でも……。


かすみ「……引き摺って、連れ帰って、療養施設に叩きこんで……一生ウルトラビースト症の治療を受けさせてやるっ!!」

しずく「…………」

かすみ「それで……!!! それで……っ」

しずく「それで……?」

かすみ「かすみんが……病気のしず子のこと……一生面倒見てやりますよ……!!」

しずく「……!?///」

かすみ「ジュカイン!!」
 「カインッ!!!」


私はジュカインに飛び乗り──同時にジュカインが地を蹴って飛び出した。


しずく「つ、ツンベアー!!」
 「ベァァァァ!!!!」


進路を塞ぐように、ツンベアーが飛び出してくるけど──


 「ダストダァァァッ!!!!」

 「ベァァッ!!!?」


ダストダスが両手を伸ばし──ツンベアーを地面に押さえ付ける。

その隙に、ジュカインはツンベアーを飛び越え、しず子に迫る。


しずく「正面突破……!? サーナイト!! “サイコショック”!!」
 「サナッ!!!」


サーナイトが正面に特大のサイコパワーのキューブを作り出すけど──ジュカインは腕の刃に光を集束していた。

もちろん“ソーラーブレード”だけど……これはただの“ソーラーブレード”じゃない。

果南先輩と考えた──次の段階に進化した、最強の“ソーラーブレード”だ……!!

本来大きく伸びるはずの光の刃は──ジュカインの腕の刃の形に沿うようにして、集束していく。

大きく伸びると範囲がある分、威力が分散する……なら……!!
467 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:26:28.44 ID:8UVAxvmj0

かすみ「全部の太陽エネルギーを……!! 一本の小太刀に……!!」
 「カイィィンッ!!!!!」


光り輝く、腕の小太刀を縦に振り下ろすと──特大のサイコキューブは、真っ二つに斬り裂かれた。


しずく「っ……!? “サイコキネシス”!! ブラックホール展開!!」
 「サナッ!!!!」


斬り伏せたキューブの先で、サーナイトがサイコパワーでブラックホールを作り出す。

でも、関係ない……!!


しずく「!? ブラックホールに突っ込んでくる気!?」

かすみ「吸い込まれるよりも速く──斬り伏せる……!!」
 「カインッ!!!!」


振り上げられる神速の光剣は──真空の刃を作り出し、ブラックホールすら真っ二つにしてみせる。


しずく「なっ!?」
 「サナッ…!!!」

かすみ「しず子ぉぉぉぉっ!!!!」
 「カァァァインッ!!!!!」


サーナイトはもう目と鼻の先──ジュカインが刃を構える。

が、


 「サナッ!!!!」


サーナイトの胸の赤いプレートから──パステル色の輝きが溢れ出す。


しずく「“はかいこうせん”っ!!!」
 「サナァッ!!!!!!」

かすみ「……!!」


“フェアリースキン”によって強化された、至近距離からの最大威力の大技……!!

だけど……!!


 「カィィィィンッ!!!!!!!」


ジュカインの刃は、“はかいこうせん”をど真ん中から斬り裂きはじめる。


しずく「“はかいこうせん”まで斬るつもり……!?」
 「サーーーーナーーーーッ!!!!!」

 「カインッ…!!!!」


輝きの奔流の中、踏ん張るジュカインの体が揺れる。

確かに至近距離から放たれる“はかいこうせん”の威力がとんでもないのはわかる、だけど……!!

私の──私たちの刃を作り出す力の根源は……諦めない心だから……!!


かすみ「諦めなければぁぁぁぁ……!! 斬れないものなんて──ないっ!!」
 「カァァァインッ!!!!!!!!」

しずく「……!!」
 「サナッ!!!」


ジュカインの刃が完全に“はかいこうせん”を斬り伏せようとした瞬間、
468 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:27:40.37 ID:8UVAxvmj0

しずく「……っ!!」


しず子が飛び出してくる。

わかってるよ、それも知ってる。だから──


かすみ「──私がいるんだよっ」


私は、ジュカインから飛び降り……割って入ろうとする、しず子に向かって──飛びついた。


しずく「!?」

かすみ「いっけぇぇぇっ!!! ジュカインっ!!!」
 「カァイィィィィンッ!!!!!!」


ジュカインの集束“ソーラーブレード”が──


 「サ、ナ…ッ」


サーナイトを……斬り裂いた。

そして、


しずく「は、放して……!!」

かすみ「しず子ぉっ!!!!」


私はしず子の両腕を掴んで、馬乗りになる。

そして、思いっきり頭を引く。


しずく「や、やめ……!」


そのまま頭突きの要領で──頭を振り下ろした。


しずく「っ……!!」


しず子が目を瞑った。

………………。

…………。

……。

──コツン。


しずく「え……」

かすみ「しず……こぉ……っ……。……もう……かえろう……っ……」

しずく「かすみ……さん……」


私は……しず子のおでこに、自分のおでこをくっつけたまま……ポロポロと涙を流していた。

……本当は一発かましてやるつもりだったのに……。

しず子を目の前にしたら……結局、出来なかった。


かすみ「わた、しが……ずっと……ずっと……いっしょにっ……いるからぁっ……だから、だからぁ……っ……」

しずく「………………」

かすみ「しず、こが……っ……いないの、……いやなの……っ……だから、……っ……かってに、いなくならないで……よぉ……っ……わたしが、……まもって、あげるから……っ……そばに、……いてよぉ……っ……」

しずく「…………かすみさん……」
469 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:28:35.56 ID:8UVAxvmj0

涙で滲む視界の向こうで──


しずく「…………本当に……強く、なって……ここまで来たんだね……」


しず子が……笑っていた。いつもの、あの笑顔で……。


かすみ「しず……子……?」


が、そのとき、


 「──ズガドーン!! “シャドーボール”!!」
  「──ガドーーーンッ!!!!」


聞き覚えのある声が響くと同時に──後ろに向かって思いっきり引っ張られる。


かすみ「わっ!?」


何かと思ったら──


 「カインッ!!!!」


私を引っ張ったのはジュカインで──今の今まで私が居た場所を、特大の“シャドーボール”が通り過ぎていく。


かすみ「い、今の……!?」


距離を取って顔を上げると──


せつ菜「……しずくさん、無事ですか」
 「…ガドーンッ」

かすみ「せつ菜……先輩……」


せつ菜先輩がズガドーンを携えて、しず子に手を差し伸べていた。


しずく「……ありがとうございます」

せつ菜「貴方の全力見せてもらいました。ですが、それよりも彼女は強い……。……なので、約束どおり……ここからは私が助太刀します」
 「ガドーン…」

かすみ「……っ!」


せっかくしず子を連れ戻せそうだったのに……こんなところで、せつ菜先輩が割って入ってくるなんて……!

さすがにこの状況で2対1になるのは分が悪すぎる……。


しずく「……せつ菜さん、ありがとうございます。出てきて、バリコオル」
 「…………」


しず子がせつ菜先輩の手を取って立ち上がりながら、バリコオルをボールから出す。


せつ菜「いえ、約束したので」

しずく「そうですか……。……ごめんなさい」

せつ菜「……? 何故、謝るんですか?」

しずく「……せつ菜さんが……本当に優しい人で助かりました」

せつ菜「……? なに言って……」


直後──せつ菜先輩の背後に……高い高い“リフレクター”と“ひかりのかべ”の二重の障壁が出現する。
470 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:29:33.44 ID:8UVAxvmj0

せつ菜「……!? な、なにを……!?」


突然の展開に目を見開くせつ菜先輩、そしてそれと同時にしず子は大きく息を吸って──


しずく「歩夢さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!! 今ですっ!!!!!!!」


大きな声を張り上げた。





    🎹    🎹    🎹





 「コーーーーンッ!!!!!」
 「キーーーーーッ!!!!!」

侑「くっ!!! “ブレイククロー”!! “みずのはどう”!! “どばどばオーラ”!!」
 「ウォーーーーッ!!!!」「フィーーーオーーー!!」「ブーーイィッ!!!!」


地上に叩き落とされ、なお激しく攻撃してくるキュウコンとファイアローの攻撃を捌いているときだった。


しずく「──歩夢さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!! 今ですっ!!!!!!!」


侑「!?」
 「ブイッ!!?」

リナ『なに!?』 || ? ᆷ ! ||


しずくちゃんの大声が聞こえてきて、ギョッとする。


果林「な、なに……!?」


それは果林さんも同様だったらしく……一瞬、攻撃の手が止まる。

それと同時に──


歩夢「──……ウツロイド!! “アシッドボム”!!」
 「──ジェルルップ」


先ほどまで、車椅子の上でぐったりしていたはずの歩夢が──急に立ち上がり、歩夢の頭の上に寄生しているウツロイドが果林さんへ攻撃を放った。


侑「えっ!?」
 「ブイッ!!!?」

リナ『嘘!?』 || ? ᆷ ! ||

果林「なっ!? キュウコンッ!!」
 「コーーーンッ!!!!」


果林さんは咄嗟の判断でウツロイドの“アシッドボム”を火炎で蒸発させるが、その一瞬の隙に歩夢が駆け出して──


歩夢「ウツロイド!! 飛び降りるよ!!」
 「──ジェルルップ」

歩夢「……たぁっ!!」


そのまま、何の躊躇もせずに──崖から飛び降りた。

何が起こったのか理解出来なかったけど──


侑「……歩夢っ!!!」
 「ブイッ!!!!」
471 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:30:09.64 ID:8UVAxvmj0

私は反射的に駆け出していた。

歩夢は空中に飛び出すと──ウツロイドに掴まって落下傘の要領で降りてくる。


果林「……キュウコン!! “かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!!」


そこに向かって放たれるキュウコンの火炎。


侑「“ハイドロポンプ”!!」
 「フィオーーーーッ!!!!!」


それを阻止するように、フィオネが“かえんほうしゃ”を消火する。

果林さんも急なことに動揺しているのか、威力が十分に乗せ切れていない。


果林「く……!? ファイアロー!!」
 「キーーーッ!!!!」


先ほどまで、私たちを執拗に攻撃していたファイアローが歩夢の方へと飛び立とうとした瞬間、


 「ウォーーーーグッ!!!!!」

 「キーーーッ…!!?」


ウォーグルが爪で押さえつけるようにして、飛行を中断させる。

その間に私は駆ける──


歩夢「う、ウツロイド!! もうちょっとだから、頑張って……!」
 「──ジェルルップ…」

果林「“ひのこ”!!」
 「コーーンッ!!!!」


数で撃ち落とすのを優先してきたのか、9つの狐火がウツロイドに向かって降り注いでくる。


歩夢「よ、避けて……!!」
 「──ジェル…」


ふわふわと軌道を変えながら、避けようとするも──1発の“ひのこ”がウツロイドの傘に直撃し、爆発する。


歩夢「きゃぁっ!?」
 「──ジェルップ…」


その爆発の衝撃で歩夢がウツロイドを掴んでいた手を滑らせた──


歩夢「きゃぁぁぁぁぁぁ!!?」

侑「歩夢ーーー!!!!!」


私は歩夢が落ちてくるその場所に向かって──滑り込んだ。

朦々と砂煙が立ち込める中──

私は──

──歩夢を、ぎゅっと……抱きしめていた。
472 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:31:36.24 ID:8UVAxvmj0

侑「歩夢……っ……」

歩夢「──……侑ちゃん……絶対助けに来てくれるって……信じてたよ……」

侑「うん……っ……」
 「ブイィ…」

リナ『歩夢さん……本当に歩夢さんだよね……』 || > _ <𝅝||

歩夢「えへへ……イーブイとリナちゃんも……」
 「ブイィ♪」

リナ『うん♪』 || > ◡ <𝅝||

侑「歩夢……っ……もう……絶対、離さないから……っ」

歩夢「……うん……ずっと……離さないで……」


私は、世界一大切な幼馴染をぎゅっと……ぎゅっと……力強く抱きしめた。





    💧    💧    💧





かすみ「え……なに……どういうこと……?」


かすみさんがぽかんとしている。

そして、


果林「なにが……起こってるの……?」


バリコオルが展開した透明な壁の向こうで、果林さんが目を見開いて驚いていた。

私はそんな果林さんに向かって、


しずく「──そもそも、どうしてウツロイドは例外だと思ったんですか」


声を張り上げながらそう言葉をぶつける。


果林「え……」


しずく「歩夢さんにポケモンを手懐ける──いえ……ポケモンと仲良くなる歩夢さんの才能が、どうしてウツロイドには例外的に効かないと思ったんですか?」


果林「……ま、さか……しずくちゃん……貴方……!!?」


しずく「果林さん……私にこう言ってくれたじゃないですか。『舞台に立つときは、自分が今何を求められていて、今の自分に必要な役割を考えて……その上で出せる最高の自分を演じてみるといい。役割を理解していれば自ずとチャンスは巡ってくる。』って。だから……私は私の舞台で、私の役割を理解して──演じました。そして、チャンスは巡ってきました」


果林「……!? じゃあ、フェローチェの毒に侵されていたのも……!?」


しずく「ええ。私は貴方たちに付いていったあのときから……──フェローチェになんてこれっぽちも興味ありませんでしたよ♡ 私の狂人演技、どうでしたか? まんまと騙されてくれましたよね♡」


果林「……………………やって、くれるじゃない……」
 「コーーーンッ!!!!!」


怒りに任せてキュウコンが炎が飛んできますが──“ひかりのかべ”に防がれて霧散する。


しずく「このときのためだけに、ひたすら“リフレクター”と“ひかりのかべ”の練習をしていたんです。破らせませんよ……!」


果林「く……!」
473 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:32:26.39 ID:8UVAxvmj0

せつ菜「つまり……貴方は全員まとめて謀ったと……」
 「ガドーン」


そう言いながら、ズガドーンが“シャドーボール”を集束しながら、私に向かっていつでも発射できる状態にしていた。


せつ菜「数日間……寝食を共にした仲ですから……言い訳くらい、聞きますよ」

しずく「……そもそも……歩夢さんが攫われた時点で、絶望的な戦力差を埋める方法を私はずっと考えていたんですよ」

せつ菜「……」

しずく「だけど……どんなに考えても……戦力差は絶望的だった……だから、私は考えたんです──」


あのとき──カーテンクリフの遺跡で、彼方さんと遥さんの容態を見守っていたときのこと……。



──────
────
──



彼方「しずく……ちゃん……はるか、ちゃんのこと……おね、がい……」

しずく「彼方さん……!? そんな身体で、どこに行くつもりですか!?」

彼方「みん、なを……たすけ、なきゃ……戦闘に……な、ってる……」


確かに先ほどから激しい戦闘の音が響いているけど……。


しずく「なら、私が行きます……! 彼方さんはここに──」

彼方「ぜっ、たい……ダメ……、かり、んちゃんは……フェロー、チェを……持って、る……」

しずく「え……?」

彼方「いい……? ぜったい、ここに……いるんだよ……!!」


そう残して、彼方さんは身体に鞭打ちながら、階段を駆け上がっていった。

──フェローチェがいる……つまり、それは……。


しずく「かすみさんたちが戦っているのは……ウルトラビースト……!?」


待っていろと言われたけど……。


遥「…………」


すっかり気を失って、ぐったりしている遥さん。

でも上では戦闘が起こっていて、助太刀に行かないとかすみさんたちが危ない……でも、どうすれば……。

そのとき──


 『──侑ちゃんっ!! かすみちゃんっ!! 逃げてぇぇぇっ!!』

しずく「……!!」


歩夢さんの叫び声、


 『──もう、やめてぇぇぇぇぇっ!!!!』

しずく「……! 遥さん……ごめんなさい……!!」


私は階段を駆け出す。

階段を駆け上がった先にあった光景は──
474 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:34:12.43 ID:8UVAxvmj0

彼方「…………」

かすみ「……っ゛……ぅ……」

侑「歩夢……行っちゃ……ダメだ……!」

歩夢「侑ちゃん……来ないで……」

侑「……!!」


ボロボロになって気を失っている彼方さん。

満身創痍の侑先輩とかすみさん。

そして……歩夢さんが、目の前のある大きな空間の穴に向かって──果林さんと一緒に歩いているところだった。


歩夢「ごめんね……」

侑「あゆ……む……」


歩夢さんが連れ去られようとしている。

今、私に何が出来る? ポケモンを出して戦う……? いや、無理だ。

侑先輩やかすみさんに勝てなかった相手に、私が挑んだところで勝てるわけがない。

だから歩夢さんは自分を犠牲にして付いていくことを選んだんだ。そうじゃなきゃ、無抵抗に付いていったりするはずがない。

私は目の前で起こっている出来事に対して、脳をフル回転させながら分析し、激しく思考する。

──今、私に、何が出来る……?

その自問自答が至った答えは──


しずく「フェローチェ……」


果林さんの横に居るポケモンだった。

──ドクリと胸が高鳴る。あのときのフェローチェに酔う感覚を身体が思い出す。

でも──もし、これに抗って、敵の懐に潜入出来たら……? もしかしたら、今度こそ……本当に正気を失って……壊れてしまうかもしれない。

だけど、


しずく「……やるしかない」


今、私に出来ることは──いや……今、私にしか出来ないことは、これしかない……!


果林「さぁ、歩夢この穴に──」

しずく「──待ってください!!」


私は──大きな声で果林さんを引き留めた。


しずく「…………」

かすみ「しず……子……?」


──オウサカ・しずく。あなたは今から──フェローチェの虜になった、可哀想な女の子……。


しずく「…………私も、連れて行ってくださいませんか……♡」


この瞬間から、私は──私の戦場に自らを駆り出したのだった。



──
────
──────

475 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:36:00.56 ID:8UVAxvmj0

しずく「そして、その先で……せつ菜さん、貴方が彼女たちに与していることを知りました」

せつ菜「…………」

しずく「貴方が敵だとしたら……恐らく、まともに戦って勝てるトレーナーは千歌さんしかいない。ですが、その千歌さんも捕らえられていた。そこで私は考えたんです──まともじゃない戦況に貴方たちを引き摺り込むしかないと」


そう言った瞬間、


 「サ…ナ…」


私のすぐ足元で、瀕死寸前になっていたサーナイトが私の足を掴む。次の瞬間、フッと視界が切り替わる。


かすみ「へっ!? し、しず子が急に目の前に……!?」

せつ菜「っ……!? “テレポート”……!?」

しずく「かすみさん、走るよ!!」

かすみ「う、うん……!」


私はかすみさんの手を取って走り出す。それと同時に、


しずく「サーナイト、お願いね……!」
 「サナ…」


サーナイトに私のバッグを持たせ──再度“テレポート”させる。


せつ菜「くっ……!! 待ちなさい!!」

かすみ「えとえとえと……かすみん、何がなんだか……」

しずく「簡単に言うとね……! 私は最初から──せつ菜さんと果林さんを分断させて、多対一になる形を作ろうとしてたってこと!!」

かすみ「……!! じゃあ……!!」

しずく「かすみさん!! 二人でせつ菜さんを倒すよ!!」

かすみ「しず子……!! うんっ!!」


かすみさんとの共同戦線による──せつ菜さんとの戦いの火蓋が切って落とされた。





    🎀    🎀    🎀





歩夢「侑ちゃん……」

侑「歩夢……」


ああ……久しぶりの侑ちゃんの匂い……侑ちゃんの温もり……ずっとこうしていたいけど……。


リナ『ゆ、侑さん、歩夢さん……再会が嬉しいのはわかるけど……』 || >ᆷ< ||

歩夢「そうだね……侑ちゃん、行こう」

侑「歩夢……うん!」


リナちゃんに促されて立ち上がる。

直後──


果林「──“かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!」
476 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:39:18.29 ID:8UVAxvmj0

上から炎が降ってくる。


歩夢「ウツロイド!! “ミラーコート”!!」
 「──ジェルルップ」


その炎を反射する。


果林「くっ……!!」
 「コーンッ!!!」


果林さんたちは反射されたと判断した瞬間すぐに身を引いたから、ダメージは与えられなかったけど……十分牽制にはなった。

それと同時に、


 「サナ」


しずくちゃんのサーナイトが目の前に“テレポート”してくる。

サーナイトは私にしずくちゃんのバッグを預けたあと──ぱぁぁぁっと、優しい光を放ち……。


 「サナ…」


パタリと倒れてしまった。


リナ『今の……“いやしのねがい”……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「た、確か使ったポケモンが戦闘不能になる代わりに、控えのポケモンが全回復する技だよね……?」


つまり……。


歩夢「ありがとう……しずくちゃん……!」


しずくちゃんのバッグに入っていたサーナイト用のボールに倒れたサーナイトを戻し──さらにしずくちゃんのバッグから、私のボールベルトを取り出して腰に着ける。

そして最後に……たくさんの回復アイテムが詰まったバッグの奥に、小箱を見つける。

その箱を開けると──


歩夢「……ありがとう……しずくちゃん」
477 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:39:56.74 ID:8UVAxvmj0

心の底からのお礼を呟いて──私は箱から取り出したローダンセの髪飾りを身に着ける。

私の大切なものは……しずくちゃんが全部守ってくれた。

手持ちたちの育成から、回復まで、全部……大事な侑ちゃんからの贈り物も……全部……全部……!!

あと、私に出来ることは──


果林「“ほのおのうず”!!」
 「コーーーンッ!!!!!」


──ゴォっと炎を周囲にまき散らし、私たちの逃げ場を塞ぐようにキュウコンが炎を吐いてくる。


果林「……逃がさないわよ……」


怒りを顕わにした果林さんが、崖の上から見下ろしてくる。


歩夢「侑ちゃん……私と一緒に……戦って……!」

侑「うん! 私……歩夢と一緒なら、誰にも負けないから……!!」


二人で頷き合って、


侑・歩夢「「二人で倒そう……! 果林さんを……!!」」


私と侑ちゃんは果林さんを倒すために──前に踏みだした。



478 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:40:35.83 ID:8UVAxvmj0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.75 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.74 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.74 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.70 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.71 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.69 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:245匹 捕まえた数:10匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.63 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.63 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.61 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.62 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.60 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.70 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:207匹 捕まえた数:20匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.76 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.72 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.70 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.70 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.71 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.71 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:239匹 捕まえた数:14匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.65 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.64 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.64 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.64 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.64 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:208匹 捕まえた数:22匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



479 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 03:19:39.68 ID:w+jDVHjQ0

 ■Intermission☀





──音ノ木上空。


穂乃果「……うーん」


私はリザードンの背の上で、腕を組んで首を傾げる。


穂乃果「……ウルトラビーストの出現率は日に日に上昇してるし……野生のポケモンがウルトラビーストに襲われる件数も増えてるんだよね……」


相談役から貰ったデータを見ながら呟く。

正直、こういうデータを見る、とかは苦手なんだけど……それにしたって、少し妙だなと思ってしまう。


穂乃果「これは、地方の危機に含まれないってこと……? 龍の咆哮すらないなんて……」


もちろん龍の咆哮は、メテノの墜落の方じゃなくて、本物の方のこと。

確かに、グレイブ団事変のときに比べると、目に見えて危機に思えないのはわかるけど……向こうだって、目で見て判断しているわけじゃないはずなのに……。


穂乃果「うーん……」

 「──何を唸っているのですか」

穂乃果「……!」


声がして、振り向くと、


海未「ずっと、ここに居るんですね」


海未ちゃんがカモネギに掴まって飛んでいた。


穂乃果「なんだ、海未ちゃんか……」

海未「なんだとはなんですか……。……作戦が始まったことだけ伝えようと思って」

穂乃果「……! わかった」

海未「場所はわかりますか?」

穂乃果「15番水道にある幽霊船だよね。相談役から聞いてる」

海未「なら、よかった。可能であれば……助力を頂けるとありがたいです」

穂乃果「わかった」

海未「よろしくお願いします」


それだけ言うと海未ちゃんは私に背を向ける。
480 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 03:20:43.20 ID:w+jDVHjQ0

穂乃果「もう行っちゃうの?」

海未「ええ。本当に用件を伝えに来ただけなので」

穂乃果「なら、ポケギアに連絡入れてくれればいいのに……」

海未「普段滅多に出ない癖によく言いますね」

穂乃果「う……それは、ごめん……」

海未「……ふふ、冗談ですよ。……たまたまスケジュールに微妙な隙間があったので、パトロールがてらに幼馴染の顔を見に来ようと思っただけです。……居る場所がわかること自体が珍しいんですから、貴方は」

穂乃果「そっか」

海未「ええ。……穂乃果」

穂乃果「なに?」

海未「今回の騒動……片付いたら、久しぶりにことりと3人で……ご飯でも食べに行きましょう」

穂乃果「いいね、行きたい!」

海未「言質……取りましたからね。放り出したら承知しませんよ」

穂乃果「はーい」

海未「……では」


海未ちゃんは今度こそ、飛び去っていった。


穂乃果「…………」


私は傍らにある音ノ木に目を向ける。


穂乃果「……今回は……見逃してくれるってことなのかな……?」


私は未だ何の音沙汰もない龍神様に向かって、一人呟くのだった……。





    🏹    🏹    🏹





──ローズシティ。ニシキノ総合病院。特別治療室。


真姫「こっちよ」

海未「ありがとうございます」


真姫に病室まで案内をしてもらう。


真姫「それじゃ私は、もう行くわね……」

海未「はい。忙しい中、ありがとうございます」

真姫「ん」


私を案内し終わると、真姫はすぐにその場を後にする。

彼女にはこの後やることがありますからね。

病室に入ると、


理亞「……海未さん」

海未「理亞、こんにちは」
481 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 03:21:33.19 ID:w+jDVHjQ0

私に気付いた理亞が、少し不安そうな顔をする。

まあ、これから行うのは事情聴取ですから……多少の不安はあるでしょう。

そして──事情聴取をする当の本人に顔を向ける。


海未「……それと、聖良。……初めましてという方がいいでしょうか」

聖良「……ええ。お会いするのは初めてですね……」

海未「その様子だと……すっかり、声は出るようになったようですね」

聖良「ふふ、理亞がずっと話し相手になってくれていましたからね」


そう言って笑う聖良は、意外にも悪人の顔の片鱗は感じられず……その表情は、私が幼い頃、年の離れた姉から向けられていた顔に近い物を感じました。

……つまり、姉の顔ということです。


聖良「それで、私に聞きたいのは……グレイブ団事変の真相というところでしょうか?」

海未「……それもですが……今、この地方は少々立て込んでいまして……。貴方に聞きたいのは、この人物たちのことです」


そう言いながら、私は端末に二人の人物の写真を表示して、聖良に見せる。


聖良「……愛さんと果林さんですか」

海未「……! やはり、面識があるのですね」

聖良「はい。私たちの飛空艇──Saint Snowの設計をしてくださったのは愛さんです。……そして、果林さんからは資金協力を頂いていました」

海未「どうりであれほどの規模の飛空艇が作れたわけですね……。彼女たちとはどうやって?」

聖良「ディアンシーの研究をしている際に、私の研究内容をどこかで掴んでコンタクトを取ってきたという感じでした」

海未「では、向こうから……?」

聖良「はい」

海未「ふむ……」


自分から協力を名乗り出たということは……。


海未「……向こうの要求はなんだったんですか?」


必ず対価を求められたはずだ。


聖良「ディアンシーの捕獲に成功し、全てが終わったら──ディアルガ、パルキア、ギラティナを渡す約束をしていました」

海未「なんですって?」


私は少し考える。……確かにその3匹を手中に収めておけば、こちらは果林たちを追跡することがほぼ不可能になっていた。

……ということは、彼女たちはこの3匹の伝説のポケモンたちの力で、自分たちを追跡される可能性に最初から気付いていた……?

それなら一応筋は通っていますが……なんだか釈然としない。

聖良とのコンタクトがグレイブ団事変の前ということは……3年以上前のことなわけだ。

そのときには果林はモデル事務所をフェローチェの力で掌握し、表舞台に出ていたとはいえ……そこまで想定出来るものなのでしょうか……。


海未「果林は……その3匹を手に入れて何をしようとしていたのかわかりますか?」

聖良「いえ、そこまでは……という以前に、その3匹を欲しがっていたのは果林さんではありませんよ」

海未「果林ではない……? では……」

聖良「はい、その3匹を欲しがっていたのは愛さんです。加えて、そのことは果林さんには言わないで欲しいと言われていたので……。果林さんに言われたことと言えば……そうですね……出来る限りオトノキ地方内の戦力を削って欲しいとは言われましたが……」

海未「……」
482 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 03:22:29.24 ID:w+jDVHjQ0

果林の目的は理解出来る。オトノキ地方内の戦力を削れば、ウルトラビーストを撃退することもままならなくなるからだ。

だが……愛の目的が理解出来ない。

先のとおり、彼女がエンジニアとして、私たちの追跡をその時点で想定して、対策を打っておいたということも考えられなくはないですが……。

だとしたら、果林に隠す理由はなんでしょう……?


海未「まだ……私たちがわかっていないことがある……?」


リナや彼方のような、かつて組織に所属していた人間にも、知られていない何かが……?


聖良「私が彼女たちについて知っているのは……これくらいですね」

海未「そうですか……。……ありがとうございます」


そう言って私は席を立つ。


理亞「あ、あの……海未さん……! ねえさまは……これから、ねえさまはどうなるの……?」

海未「……事態が落ち着いたら、グレイブ団事変について、改めて事情聴取をすることになると思います」

理亞「そうしたら……ねえさまは……」

聖良「罪を償うことになるんでしょうね」

海未「……貴方が素直に罪を認めるなら、そうなるでしょう」

理亞「……ねえさま」

聖良「いいのよ、理亞。……私が犯した罪は事実ですから」

理亞「……」

聖良「私が寝ている間に……貴方はジムリーダーとして、多くの人に囲まれるようになっていた……。貴方が笑ってくれているなら……私はそれで満足です」

理亞「……ねえさま……」

海未「……とりあえず、後日また来ます。そのときに改めてお話ししましょう」

聖良「はい」


私は、そう残して──聖良の病室を後にした。

……それにしても……愛はディアルガ、パルキア、ギラティナを手に入れて……何をする気だったんでしょうか……?


………………
…………
……
🏹

483 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:04:19.83 ID:w+jDVHjQ0

■Chapter065 『決戦! ポケモントレーナー・せつ菜!』 【SIDE Shizuku】





しずく「──とりあえず一旦、せつ菜さんから距離を取ろう!!」
 「ベァ…!!!」

かすみ「う、うん! 行くよ、ジュカイン!」
 「カインッ!!」

かすみ「ダストダスは一旦戻って!」
 「ダストダァ──」


私はかすみさんの手を引きながら、峡谷の細い道へと走り出した。

その際かすみさんは、体が大きく走るのが苦手なダストダスを一旦ボールに戻す。


せつ菜「……逃げるなら内側にいるバリコオルを倒すまでです! ズガドーン! “かえんほうしゃ”!!」
 「ガドーンッ!!!」


ズガドーンが、透明な壁を作っているバリコオルへ攻撃を仕掛けるが、


 「…………」


バリコオルは無言のまま、壁をすり抜け、壁の外側へ移動する。


しずく「バリコオルの特性は“バリアフリー”です!! 展開解除自由自在ですから、自分が通る部分だけ解除してすり抜けることも出来ますし、再展開もすぐ出来ます!!」

せつ菜「く……!」

しずく「“バリアー”を解除したいなら……!! まずは私たちを倒すことですね!!」


そう言いながら、私はかすみさんの手を引き、峡谷の細道を曲がる。


しずく「次は……こっち……!」

かすみ「み、道知ってるの……!?」

しずく「出来る限りの下調べは徹底的にしたから……! 今はとにかくせつ菜さんを奥に誘い込むよ!」

かすみ「なんで!?」

しずく「広いフィールドで戦うと絶対に力負けするから! 少しでも、複雑な地形で搦め手を使わないと勝ち目がないって話!」

かすみ「ぐぬぬ……悔しいけど、確かにせつ菜先輩を真っ向から倒すのはきついかも……」


せつ菜さんはただでさえ強いのに……彼女が今使っているのはウルトラビースト。しかも、私の認識が間違っていなければ、せつ菜さんが持っているウルトラビーストの数は3体だ。

かすみさんは以前に比べたら信じられないほど強くなったし、性格的に真っ向勝負で戦いたいかもしれないけど……相手はあのせつ菜さん。勝率を少しでも上げるために策を弄する必要がある。

幸いここら一帯の地形は頭に叩き込んだ。複雑な峡谷の道をかすみさんの手を引きながら突っ走る。


しずく「……はぁ……はぁ……もうちょっと奥まで引っ張りたい……けど……」


ある程度走って、せつ菜さんと距離を離したところで、


かすみ「しず子……!」


かすみさんが足を止めて、私の顔を覗き込んでくる。


しずく「ん? なに?」

かすみ「ホントにホントに……フェローチェのこと……もう大丈夫なの?」
484 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:05:23.26 ID:w+jDVHjQ0

かすみさんは心配そうな表情でそう訊ねてくる。

……確かにかすみさんにとっては大事なことか。

もし、私がまだ完全にフェローチェの魅了から脱していないとなったら、いつ発作が起きるかもわからないまま戦うことになるだろうし……何より純粋に心配してくれているんだと思う。

ここからは、かすみさんとの共闘がどれだけうまく行くかに全てが懸かっている。せつ菜さんを引き離している今のうちに、話しておくべきだろう。


しずく「……平気だよ。もうフェローチェになんか、なんの興味もない」

かすみ「ホントに……? ずっと、果林先輩のフェローチェの近くに居たんでしょ……?」


……確かに、果林さんの信頼を得るためには、フェローチェに心酔している演技をし続ける必要があった。

だから、何度かご褒美と称してフェローチェを魅せてもらっていた。……そのとき、私の体内にある毒が何度も暴走しかけたけど……。


しずく「平気だよ……私は平気なの。……フェローチェの毒には絶対に負けない……」

かすみ「な、なんでそう断言できるの……?」

しずく「ふふ♪ かすみさんが言ったんだよ?」

かすみ「え?」

しずく「かすみさんの方が……フェローチェなんかよりも、可愛くて、美しくて、綺麗で、魅力的なんでしょ?」

かすみ「え、あ、そ、それは……///」


かすみさんの顔が赤くなる。

私は……いつかかすみさんが言ってくれた、この言葉のお陰で、負けずにいられた。


しずく「それとも、かすみさんは……私のこと、こんなに魅了しておいて……責任取ってくれないの……?」

かすみ「へっ!?/// あ、いや、だから、あれは別にそういう意味じゃなくて……しず子を助けるために必死で……/// あ、でも、しず子がそう思ってくれるのは嬉しくって……その……///」

しずく「ふふっ」


耳まで真っ赤になるかすみさんを見て、くすくす笑ってしまう。


しずく「あ、でも……フェローチェに魅了されてるのも悪くないかもなー……」

かすみ「へっ!? な、なんで!?」

しずく「だって、そうしたら──かすみさんが一生面倒見てくれるって言ってたから……それも悪くないかな〜……って」

かすみ「ぅ……/// だ、だから……それは……///」

しずく「そう言ってくれて……嬉しかった……」


そう言いながら、かすみさんの指に私の指を絡めると──なんだか、心地の良いドキドキがしてきて……この気持ちの方がフェローチェの魅了なんかよりも、ずっとずっと……幸せな気持ちだった。

──そのとき、近くでドカンッ!! と爆発音がする。

せつ菜さんが追い付いてきた……!


かすみ「や、やば……走るよ……!」

しずく「あ、うん」


かすみさんが私の手を引いて走り出す。

……むー……なんか誤魔化されちゃったな……。まあ、いいけど。

なんて、思っていたら、
485 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:06:06.64 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「あ、あのさ……」

しずく「ん?」

かすみ「……べ、別に……病気とかじゃなくても……しず子の面倒くらい……ずっと、見て……あげなくもない……から……///」

しずく「……へっ!?///」


──完全に不意打ちだった。自分の顔が一気に熱くなるのを感じる。


かすみ「だからっ……!! 今は、せつ菜先輩に勝たなきゃ!! 勝って、帰るよ!!」


そう言いながら、かすみさんが──あるものを投げ渡してきた。


かすみ「せつ菜先輩に勝つには必要でしょ!」

しずく「……! うん!」


それを受け取り確認した直後に──私も代わりにあるものをかすみさんに投げ渡す。


かすみ「さぁ〜て……! それじゃ、いっちょやってやりますか〜!」

しずく「うん……!」


位置も十分奥まで来た。

ここでせつ菜さんを迎え撃つ……!!





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「……」
 「ガドーンッ!!!」


先ほどからズガドーンが炎弾を放ち、岩壁を爆破で破壊しながら進んでいる。

さっき一瞬だけ、岩壁の影に彼女たちの逃げる姿を見つけられたが……また、奥へと走り去っていってしまった。


せつ菜「……誘い込んでいるわけですか……」


しずくさんは明らかに地形を把握し、死角の少ない場所を選んだ逃げ方をしている。

恐らく、ここの地形も事前に下調べをしていたのだろう。

最初から全て……私を倒すために作戦を立てていたわけだ。


せつ菜「あの言葉も、全部……演技──嘘だったんですね……」


胸がジクりと痛んだ気がした。せっかく……やっと、私の気持ちを理解してくれる人が現れたと思ったのに……。


せつ菜「とんだ……大女優ですね」


そして、今も彼女は策を弄し、私を誘い込んでいる。

それがわかった上で、攻め込むのは愚策だとわかっているけど──


せつ菜「いいですよ……その誘い……乗ってあげますよ。もちろん……ただで思惑通りに誘われるつもりはありませんが……!」


私も、やられたまま引き下がるなんて、性分が許さない。
486 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:06:47.41 ID:w+jDVHjQ0

せつ菜「ズガドーン!! “ビックリヘッド”!!」
 「ガドーーーーンッ!!!!!」


私はダメージ覚悟の爆発技で開戦の狼煙を上げた。





    👑    👑    👑





かすみ「…………」

しずく「…………」


二人で物陰に隠れて、せつ菜先輩を待ち構える。


しずく「音が……止んだ……?」


しず子の言うとおり、先ほどから鳴り続けていた爆発音が突然止まる。

……が、その直後……先ほどとは比べ物にならない轟音と共に──岩壁がこちらに向かって雪崩のように襲い掛かってきた。


しずく「っ!?」

かすみ「しず子!!」


かすみんは咄嗟にしず子の腕を掴み、


 「カインッ!!!」


私たち二人をまとめて抱き上げて、ジュカインがその場から離脱する。

それと同時に、


しずく「ツンベアー戻って!!」
 「ベァ──」


しず子が崩れ落ちてくる岩から、間一髪でツンベアーをボールに戻す。


かすみ「い、いきなりなんですか……!?」

しずく「まさか、“ビックリヘッド”……!?」

かすみ「それって、前に見た自爆するやつ!?」

しずく「うん……体力が大きく削れるから、こんな序盤から使ってくるとは思ってなかったのに……」


ガラガラと崩れるの岩の隙間から、せつ菜先輩の姿が見えた。


せつ菜「……見つけましたよ……」


直後、


 「────ジジジジ」


せつ菜先輩の傍らに──巨大な電線のようなポケモンが姿を現す。


かすみ・しずく「「……!?」」
487 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:08:31.37 ID:w+jDVHjQ0

そして、そのポケモンの体が──青白くスパークしながら、帯電を始める。

でも、かすみんたちは今……崩れる岩から逃れるために──空中に跳んでいた。


しずく「空中じゃ逃げ場が……!?」

かすみ「ジュカインッ!! 尻尾立てて!!」
 「カインッ!!!」

せつ菜「“かみなり”!!」
 「──ジジジ」


直後、カッと周囲が青白い閃光に照らされ──ピシャーーーーーンッ!! と轟音を立てながら空気を震わせる。

“かみなり”というよりも──もはや青白い光の柱のような雷撃を、メガジュカインの特性“ひらいしん”で受け止めます……が、


かすみ「威力が……強すぎる……っ!」


以前見た、侑先輩のメガライボルトの“かみなり”を彷彿とさせる──いや、もしかしたらそれ以上かもしれない電撃は、ジュカインの尻尾に吸収しきれず、バチバチと周囲に爆ぜ散っている。


しずく「地面にいないから、電気を逃がしきれてないんだよ……!」

かすみ「わかってるっ! “やどりぎのタネ”!!」
 「カインッ!!!」


ジュカインが地面に向かって、“やどりぎのタネ”を吐き出し──


かすみ「とりゃぁっ!!!」


電撃が爆ぜる中、ジュカインの背中のタネに手を伸ばしてもぎ取る。

そのとき──バチンッ!!


かすみ「っ゛……!?」


爆ぜた“スパーク”が指先に当たり──全身が痺れて動けなくなる。

──感電した。

気付いたときには、かすみんの身体はフラりと落下を始める。


しずく「かすみさんっ!!」


落ちそうになったかすみんの腕をしず子が掴み、


しずく「ロズレイド!! “アロマセラピー”!!」
 「──ロズレイドッ!!!」


心地の良い香りと共に、身体の痺れが和らぐ。


かすみ「っ……!! しず子、ありがと……っ!!」


お礼を言いながら、真下に向かって、タネをぶん投げる。

すでに地面で成長を始め、ツタを伸ばし始めている“やどりぎのタネ”の横に、ジュカインの背中のタネが落ちてきて弾けると──

ツタは一気に成長し──太い樹となって、ジュカインの足元まで伸びてくる。


 「カインッ!!!」


──その樹木に着地すると同時に、ジュカインの尻尾で吸いきれずに爆ぜていた電撃は、樹を通って、地面へと逃げていく。
488 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:09:58.42 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「ジュカインの背中のタネは……植物を急成長させるほどに栄養満点なんですよ……!」

しずく「それよりかすみさん、身体は平気……!?」

かすみ「ちょっと、ビリっとしただけ……!」


正直、感電した瞬間、軽く意識が飛びかけたけど……当たったのは指先だったし、すぐに“アロマセラピー”を使ってくれたお陰で痺れも一瞬で取れたから、動けないほどのダメージにはなっていない。

が、もちろん息をつく暇などない。


せつ菜「“うちおとす”!!」
 「ガドーーーンッ!!!」


ズガドーンが落ちていた石に業炎を纏わせ、火球にして飛ばしてくる。


しずく「ロズレイド! “にほんばれ”!!」
 「ロズレ!!」

かすみ「“ソーラーブレード”!!」
 「カインッ!!!!」


強い日差しの下で、集束“ソーラーブレード”を作り出し、火球を真っ向から斬り裂く。


せつ菜「“でんじほう”!!」
 「──ジジジジッ」

かすみ「尻尾向けて!!」
 「カインッ!!!」


今度は尻尾の“ひらいしん”で吸収し、地面に流して無効化する。


せつ菜「なら……“やきつくす”!!」
 「ガドーーーーーンッ!!!!」


畳みかけるような攻撃──今度はズガドーンが、やどりぎの樹木の根本に業炎を噴き付ける。

とんでもない火力で焼かれた樹木は一気に炎で焼け崩れ──グラリと傾き始める。


かすみ「わったたっ!? ジュカイン!! 地面に向かって跳んで!!」
 「カインッ!!!」


空中に居たらダメ……!! とにかく、地面に着地しないと……!!

傾く樹木を蹴って、地面に向かって一直線に飛び出すけど、


せつ菜「“かみなり”!!」
 「──ジジジジジ」


その一瞬の隙にすら攻撃を放ってくる。


しずく「ロズレイド! “パワーウィップ”!!」
 「ロズレ!!!」


“かみなり”がジュカインの尻尾に落ちるのとほぼ同時に──ロズレイドが腕にある花から“パワーウィップ”を伸ばして地面に突き刺す。

──落雷の轟音が空気を震わせる中、今度はそれがアースの代わりになって、地面に電撃を逃がす。

やっとの思いで着地をするも、


せつ菜「“かえんほうしゃ”!!」
 「ガドーーーンッ!!!!」


せつ菜先輩の猛攻は止まらない。
489 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:10:35.73 ID:w+jDVHjQ0

しずく「ツンベアー!! “しおみず”!!」
 「──ベァァ!!!」


再びボールから繰り出されたツンベアーが、炎に向かって口から“しおみず”を発射するが──ジュゥゥゥッ! と音を立てながら、どんどん蒸発していく。


せつ菜「そんな威力で受けきれると思ってるんですか!!」

しずく「く……っ!!」


確かにみずタイプじゃないツンベアーだと消火が追い付かない。でも、少しでも炎の勢いを殺してくれれば十分……!


かすみ「行くよ、サニゴーン!! “ミラーコート”!!」
 「──ニゴーーーンッ!!!」


ツンベアーの目の前にサニゴーンの繰り出し──“ミラーコート”で反射する。


かすみ「自分の炎で燃えやがれです〜!」


反射された“かえんほうしゃ”がせつ菜先輩たちに迫りますが──


せつ菜「“だいもんじ”!!」
 「ガドーーーンッ!!!!」


その炎をズガドーンが“だいもんじ”で相殺する。


かすみ「う、嘘!?」

しずく「……! 反射の可能性を考えて、あえて1段階弱い技を選んでたんだ……!」

かすみ「どんだけ先読みしてるんですか……!」

せつ菜「リスクをケアして攻撃するのは、当たり前のことですよ……」

かすみ「な、なら……!!」
 「ニゴーーーーンッ!!!!」


周囲の岩石がふわりと浮かび上がる。


かすみ「いっけぇーー!! “ポルターガイスト”!!」
 「ニゴーーーンッ!!!!」


大きな岩石たちが、せつ菜先輩を襲いますが──


せつ菜「“かみなりパンチ”!! “ほのおのパンチ”!!」
 「──ジジジ」「ガドーーーンッ」


大きな岩石さえも、雷撃と業炎を纏った拳がやすやすと割り砕いていく。


かすみ「こ、攻撃が通らない……っ」

しずく「ツンベアー!! “つららおとし”!!」
 「ベアァァァ!!!!」


しず子が間髪入れずにサニゴーンの目の前に巨大なつららを落として氷の壁を作る。


せつ菜「“マジカルフレイム”!!」
 「ガドーーーンッ!!!!!」


分厚い氷の壁が炎を防ぐと思いきや、ものすごい勢いで溶け始める。
490 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:11:24.71 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「ひ、日差しが裏目に出てる……!」

しずく「く……!! インテレオン、“あまごい”!!」
 「──インテ!!」


しず子が出したインテレオンが雨を降らせて炎の勢いを弱めようとするけど──あまりの炎の勢いに消火が間に合わず、燃え盛る炎がサニゴーンに襲い掛かる。


かすみ「“ミラーコート”!!」
 「ニゴーーーンッ!!!」


2度目の“ミラーコート”を構えるが──


せつ菜「2度も同じ技で反射出来ると思ってるんですか?」

かすみ「……!?」


“マジカルフレイム”はサニゴーンの目の前で──クンと軌道を上に逸らし──


 「ベァァァッ!!!?」


その背後に居たツンベアーに襲い掛かる。


しずく「ツンベアー!?」
 「ベァァ…」


ツンベアーが炎に焼かれて、その場に倒れる。

さらに、


せつ菜「──“ロックブラスト”!!」
 「ガドーーンッ!!!!」

 「ニゴーーンッ…」


炎を纏った岩石がサニゴーンを吹き飛ばす。

さらに、追撃、


せつ菜「“かみなり”!!」
 「──ジジジジッ」

かすみ「ジュカインッ!! 尻尾立ててぇっ!!」
 「カインッ!!!!」


落ちてきた青い柱をジュカインの“ひらいしん”で吸収する。

……が、青白い稲妻は何故かさっきよりも威力が強く、吸収しきれなかった電気が、稲光となって、周囲に迸る。


しずく「かすみさんっ! 伏せて!!」

かすみ「わわっ!?」


しず子に腕を強引に引っ張られ、転ぶように伏せると──今さっきまでかすみんの頭があった場所を稲妻が走る。


かすみ「な、なんで吸収できないの……!?」

しずく「たぶん、ズガドーンしか攻撃してないタイミングあったから、その間に“じゅうでん”してたんだと思う……っ! きゃぁっ!?」


しず子の目の前に──バチンと稲妻が爆ぜて、声があがる。


 「カインッ…!!!」
かすみ「ぐぅ……っ! ……じ、ジュカイン頑張ってぇ……!!」
491 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:12:28.40 ID:w+jDVHjQ0

本来でんき技を無効化するはずなのに、ウルトラビーストの規格外のパワーのせいで、それすら完遂しきれない。

“かみなり”が終わるのを身を伏せたまま耐えていると、


 「ガドーンッ」

かすみ・しずく「「……!?」」


伏せている私たちの目の前にズガドーンが立っていた──巨大な影の球を集束しながら。


かすみ「……っ……! ブリムオン!!」
 「──リムオンッ!!」

しずく「インテレオン!!」
 「インテッ!!!」

かすみ・しずく「「“シャドーボール”!!」」
 「リムオンッ!!!」「インテッ!!!」

 「ガドーーンッ」


ズガドーンから発射される“シャドーボール”に、2匹の“シャドーボール”をぶつける。

2匹掛かりで同じ技をぶつけるが──


しずく「ダメ……っ! 向こうの方がまだ強い……っ!」


巨大な“シャドーボール”に、こっちの2つの“シャドーボール”が飲み込まれ始める。

でも、


 「カィィィンッ!!!」


まだ、ジュカインは“かみなり”を吸収しきれていない……!

ジュカインを失ったら“ひらいしん”も使えなくなり、デンジュモクの範囲攻撃で一網打尽にされて一巻の終わり……!

何がなんでもジュカインは守らなきゃ……!


かすみ「ブリムオンっ! “ひかりのかべ”!!」
 「リムオンッ!!!」


2匹の“シャドーボール”を飲み込んだ、ズガドーンの特大“シャドーボール”が“ひかりのかべ”に衝突して、影のエネルギーが爆ぜ散る。

だけど、どんどん影の球は“ひかりのかべ”にめり込むようにして、かすみんたちの方へと迫り出してくる。


かすみ「お、抑えきれないぃぃぃ……! さ、“サイコキネシス”ッ!!」
 「リムォォンッ…!!!!」


追加の技で、“シャドーボール”を押し返そうとするけど──ゆっくりと影の球がかすみんたちに迫ってくる。

巨大な影の球が目と鼻の先まで迫ったそのとき──


しずく「インテレオン……!?」


しず子の声が響く。それと同時に、


 「インテッ!!!!」


インテレオンが体に“あくのはどう”を纏って、“シャドーボール”に自ら突っ込んだ。

衝突と同時に、“シャドーボール”の影のエネルギーが一気に破裂し──


 「インテッ…!!!」
492 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:13:16.75 ID:w+jDVHjQ0

インテレオンが吹き飛ばされる。


しずく「戻って……!! インテレオン……!!」


直撃を受けたインテレオンは、あえなく戦闘不能……ですが、お陰で“シャドーボール”は消え去った……!


かすみ「ブリムオンッ!! “サイコ──」


目の前のズガドーンに攻撃を食らわせてやろうと思ったけど、


せつ菜「“オーバーヒート”」
 「ガドーーンッ」


こっちが攻撃態勢に入るよりも早く、ズガドーンの体から真っ赤な熱波がかすみんたちを襲った。


かすみ「あっつ……!!?」
 「リムオンッ…!!!?」


“ひかりのかべ”で防いでいるにも関わらず、全身が焼け焦げるような熱波が周囲一帯に広がっていく。

そんな中、


 「リムオンッ!!!」
かすみ「ブリムオン……!?」


ブリムオンが一歩前に出て、さらに私の周囲だけサイコパワーで熱波を逸らし始める。


かすみ「だ、ダメ……!! ブリムオンが燃えちゃう……!!」
 「リムゥォォォンッ!!!!」

しずく「ロズレイドッ、“はなふぶき”ッ!!」
 「ロズレッ!!!」


しず子が、少しでも熱波を防ぐようにと、ブリムオンの目の前にお花の壁を吹かせるけど──向こうは業炎、こっちは花。花は一瞬で燃え尽きてしまう。

そのとき、ちょうど、


 「……カインッ!!!」


ジュカインが“かみなり”を吸収しきり、


かすみ「か、“かまいたち”ッ!!」
 「カインッ!!!!」


背後から、ジュカインが刃を振るって作り出した“かまいたち”が飛んできて、それを身を捻って避けながら、かすみんは後ろに逃げる。

真空の刃が熱波をど真ん中から斬り払う。

どうにか、広がる熱波に対する逃げ道を見つけて、かすみんが致命傷を受けるのは免れたけど──


 「リム…オン…」


ブリムオンが崩れ落ちた。


かすみ「……っ……」


やっと落ち着いたフィールドでは──先ほど“マジカルフレイム”で戦闘不能になったツンベアーが横たわり、“ロックブラスト”で弾き飛ばされたサニゴーンが気絶して転がっている。


 「ガドーンッ」


そんな中、目の前でくねくねと身をくねらせているズガドーンと、かすみんの間に割って入るように、
493 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:13:56.73 ID:w+jDVHjQ0

 「カインッ!!!」


ジュカインが割り込んでくる。


せつ菜「……そのジュカイン、よく育てられていますね……ウルトラビースト2匹との攻防の中心にいながら、未だに主人を守るために前に立っている」

かすみ「……」

せつ菜「ですが……力不足です。……ウルトラビースト2匹の力には及ばない。……しずくさん、計算高い貴方も……最後の最後でつく陣営を間違えたようですね……」

しずく「……」

せつ菜「2対1なら勝てると思いましたか?」

しずく「……はい、そう思っていました。──そして、今も……思っています……!!」
 「ロズレッ!!!!」


ロズレイドがしず子の言葉と共に、ジュカインの前に踊り出した。


せつ菜「!? ロズレイドが単身……!?」


ズガドーンとの相性がすこぶる悪いロズレイドが前に飛び出してくるのは、さすがのせつ菜先輩も予想外だったらしく、一瞬判断が遅れる。

ロズレイドは両手の花をズガドーンに向けて、


しずく「“わたほうし”!! “どくのこな”!!」
 「ロズレィッ!!!!」


2つの花から、それぞれ別の技をズガドーンに向かって、放出する。


せつ菜「悪あがきを……!! “マジカルフレイム”!!」
 「ガドーーンッ」

 「ロズレッ…!!!」


至近距離から“マジカルフレイム”で焼かれて、ロズレイドが戦闘不能になる──けど、


かすみ「ダストダス!! “ベノムトラップ”!!」
 「──ダストダァァスッ!!!!!」


ボールから飛び出したダストダスが、“どく”状態の相手にだけ効く毒霧を噴射する。


 「ガ、ドォーーンッ」


“わたほうし”と“ベノムトラップ”によって、ズガドーンの動きが鈍った瞬間──


 「ガァァァァァーーーーーッ!!!!」


上空から、鳴き声が響く。


せつ菜「なっ……!?」

かすみ「さぁ、かましてやってください、アーマーガア!!」

 「ガァァァァァァ!!!!!!」

 「──ジ、ジジジジ」


上空から突っ込んできたアーマーガアが、“ボディプレス”でデンジュモクに向かって突っ込む──と同時に、デンジュモクの足元にヒビが入る。


せつ菜「……!?」

かすみ「実はかすみん……まだ得意な戦法があるんですよ……!」
494 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:15:02.04 ID:w+jDVHjQ0

その亀裂はどんどん大きな亀裂となり──


かすみ「動かない相手になら特に有効──落とし穴作戦ですっ!!」

 「──グマァァァァァァ!!!!!!」

 「──ジジジジ」
せつ菜「落とし穴……!?」


穴の中からマッスグマが雄叫びをあげる。それと同時に、せつ菜先輩ごと巻き込んで地面が崩落を始めた。


せつ菜「くっ……!?」


せつ菜先輩は軽い身のこなしで、その場から飛び退きますが──大きな巨体のデンジュモクはそうもいかない……!


 「──ジ、ジジジジ」

せつ菜「こんな巨大な穴、いつから……!?」

しずく「最初からですよ」

せつ菜「最初から……!?」

かすみ「逃げてるように見せかけて──せつ菜先輩の足元にはずっと穴を掘って追いかけるマッスグマがいたんですよ!!」


崩落する地面に足を取られ、さらに上からアーマーガアの“ボディプレス”を受け、体勢を崩したデンジュモクの巨体が倒れ始める。


せつ菜「デンジュモクッ!! “ほうでん”!!」

 「──ジジジジジジジ!!!!」

 「ガァァァァァッ…!!!!!」「グマァァァァッ…!!!?」


“ひらいしん”で吸い寄せる前に、直接電撃を浴びせられたアーマーガアとマッスグマが気絶して動きを止める。

だけど、もうバランスを崩したデンジュモクに、攻撃を回避する術はないし──


 「ガ、ドォォーーーーンッ」


動きの鈍ったズガドーンじゃ、もうサポートも間に合わない……!


かすみ「ダストダス!! “にほんばれ”!!」
 「ダストダァァァス!!!!」


降っていた雨をダストダスが再度晴らし──


 「カィィィンッ!!!!!」


ジュカインが、大地を踏み切って──飛び跳ねた。

雲の切れ間から、差し込む陽光の帯の中──太陽の光を輝く剣に集束して、


かすみ「“ソーラーブレード”ォォォォォッ!!!!」

 「カィィィィィィィィィンッ!!!!!!!!!」


バランスを崩し傾くデンジュモクの体を──頭から足の根本まで一直線に斬り裂いた。


 「──ジ、ジジジジ」


最大威力で斬り裂かれたデンジュモクは──そのまま、ゆっくりと大地に崩れ落ちたのだった。
495 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:16:07.56 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「やったぁ!! ナイスだよ、ジュカイン!!」

 「カァァインッ!!!!」


が、喜ぶのも束の間──ボォンッ!! と音を立てて、ジュカインが爆炎と共に吹き飛ばされた。


 「カィンッ…!!!?」

かすみ「ジュカイン……!?」


爆発に吹き飛ばされ、地面を転がったジュカインは──


 「カ、ィンッ…」


ついに戦闘不能になってしまった。


かすみ「じ、ジュカイン……!」

せつ菜「……確かに、デンジュモクを倒したのはお見事でした……。……ですが、いくら動きが鈍っていても、他のポケモンを攻撃している間に炎で狙い撃つのは容易いことです……!!」

 「ガドォーーンッ」

かすみ「だ、ダストダス……!!」
 「ダストダァスッ!!!!」


ダストダスが、腕を伸ばしてズガドーンを拘束する。


せつ菜「……“にほんばれ”のサポートをする時間で、ズガドーンを拘束するべきでしたね。尤もそれでは、ジュカインの“ソーラーブレード”が間に合いませんでしたが」


そう言うと同時に──


 「ガドーーーン」


ダストダスに拘束されているズガドーンの頭が──ポロリと落ちる。


かすみ「……!?」

せつ菜「ですが……ウルトラビースト2匹相手に、相討ちまで持っていったことは……素直に評価しますよ。──“ビックリヘッド”」


ズガドーンの頭が膨張し、爆発──しようとした瞬間。

──パァァァァンッ!!!! と音を立てて、落ちたズガドーンの頭が、水の弾丸に撃ち抜かれた。


せつ菜「……え……?」


撃ち抜かれた頭は不発し、


 「ガ、ドォン」


自身のエネルギーの大部分を内包する頭部を撃ち抜かれたことによって、ズガドーンの体も崩れ落ちた。


せつ菜「……な……に……?」


さすがに何が起こったのか理解出来なかったのか、せつ菜先輩が驚きで目を見開く。


しずく「……せつ菜さん。私の手持ちには──インテレオンがいるんですよ。遠方にアーマーガアが運び出し、そこから“ねらいうち”にさせてもらいました」

せつ菜「インテレオン……? インテレオンはさっき戦闘不能にしたはずです……!」

しずく「ええ、そうですね」


そう言いながら、しず子が手の平にボールを乗せて、せつ菜先輩に見せつける。
496 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:17:57.43 ID:w+jDVHjQ0

しずく「──この子が、本当に……インテレオンなら……ですが……」

せつ菜「は……?」


そう言いながら、しず子が戦闘不能になって、フィールドに倒れているロズレイドとツンベアーをボールに戻す。

かすみんも倣うように……ジュカイン、マッスグマ、サニゴーン、ブリムオン──そして、“アーマーガア”をボールに戻した。


せつ菜「……え……あ、アーマーガアはしずくさんのポケモンではなく、かすみさんのポケモン…………?」

かすみ「一時的に、ですけどね」

せつ菜「一時的に……まさか……戦闘前に……交換していた……? じゃあ、しずくさんの最後のポケモンは……!?」

しずく「せつ菜さんが、かすみさんの手持ちを把握していなくて……助かりました」


……そう、こんなことが出来るポケモンは──特性“イリュージョン”を使えるポケモンしかいない。


せつ菜「……ゾロ……アーク……?」

かすみ「……純粋なバトルじゃ、せつ菜先輩の方が、私たち二人より強いかもしれませんけど……騙し合い化かし合いでは、かすみんたちの方が1枚上手だったようですね」

せつ菜「…………」


せつ菜先輩は一瞬黙り込みましたが、


せつ菜「…………はは……ははは……あはははははははっ!!」


すぐに大きな声で笑いだした。


せつ菜「確かにすごいです……!! こんな戦法を取ってくるなんて、考えてもいませんでした……仮に私が貴方たちの立場だったとしても、思いつかなかったと思います……。一人のトレーナーとして……素晴らしかったと賞賛したいです。……ですが──」

 「────」

 「ダストダァ…ッ」


ダストダスが──突然崩れ落ちる。


かすみ「ダストダス……!?」

せつ菜「……まだ、私には……ウルトラビーストがもう1匹残っています……」

 「────」


この離れた距離から一瞬で肉薄し、ダストダスを斬り裂いたポケモンは──小さな折り紙のような見た目をしたウルトラビースト。


かすみ「……カミツルギ……」

せつ菜「……本当に、賞賛に値します。……ですが、貴方たちの負けです」

かすみ「…………っ」


どうする……どうする……。

本当の本当に私の手持ちは1匹も残っていない……。


せつ菜「覚悟は……出来ていますね……」

 「────」


カミツルギがこっちに、剣先を向けてくる。

直後──
497 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:21:37.82 ID:w+jDVHjQ0

 「────」


──パァンッ!! と音を立てながら、音速で飛んできた水の弾丸が、カミツルギによって斬り裂かれた。

それと同時に、


しずく「かすみさん、逃げるよ!!」

かすみ「しず子……!」


しず子が私の手を引いて、走り出す。


せつ菜「この状況でまだ、逃げられると思っているんですか……?」

 「────」


カミツルギがものすごいスピードで追いかけてくるけど……そんなカミツルギを狙い撃つように、連続で水の弾丸が飛んでくる。


せつ菜「……本当の本当に、悪あがきですね……」

 「────」


せつ菜先輩はゆっくり私たちの後を追いながら、カミツルギは音速の水の弾丸を、それよりも速い斬撃で斬り払っていく。


しずく「まだ……まだインテレオンがいるから……!! まだ、負けてないから……!!」

かすみ「……しず子」

しずく「私は……諦めない……!! 諦めないことを……今まで何度もかすみさんから教えてもらったから、絶対に諦めない……!!」


そう言って握られた、しず子の手は──震えていた。


しずく「二人で生きて帰るって約束したもん……! だから、だから……!!」


だけど──激しい戦闘の後で、体力が限界だったのかもしれない。

しず子が足をもつれさせ、


しずく「あっ……!?」


──転んだ。


 「────」


背後に迫るカミツルギ。


かすみ「しず子っ!!」


私は咄嗟に、転んだしず子に覆いかぶさり、カミツルギからの攻撃の盾になるように、跳び付こうとした──のに。

しず子は私の腕を引っ張りながら、自分は身を捻り、私が跳び付く勢いを利用して、まるで合気道のような方法で、逆に私を自分の背後に投げ飛ばした。


かすみ「……っ!?」


私は地面を滑る。

すぐに身を起こして振り返るけど、


 「────」


もう、カミツルギがしず子に向かって、刃を振り上げていた。
498 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:23:16.13 ID:w+jDVHjQ0

しずく「……護身術……まさか、初めて使う相手が──かすみさんだとは思わなかったよ」


しず子はそう言って、笑った。





    💧    💧    💧





──刃が迫る。

もうこの距離は絶対に避けられない。でもいいんだ。かすみさんを守れるなら。

それに私──せつ菜さんを、傷つけちゃったから……。

みんなを助けるためとはいえ……苦しんでいるせつ菜さんを、利用することを選んだ悪い子だから……。

もしその報いを受けなくちゃいけないんだとしたら──それは私の役目だから。


かすみ「──しず子ぉぉぉぉぉっ!!!!!」

しずく「ばいばい……かすみさん。……大好きだよ……」


背中でかすみさんが叫ぶ自分の名前を聴きながら──私はお別れの言葉を呟いて──目を閉じた。


…………。

…………。

…………。


あれ……?

おかしいな……。……痛みがない。

もしかして……痛みを感じる暇もないくらい……一瞬で死んじゃったのかな……?

私がゆっくり目を開けると──


しずく「……え……」


私の目の前には、


かすみ「う……そ……」


みかん色の髪の女性と、青色の波導を纏ったポケモンが居た。


せつ菜「……なん……です……って……?」


この地方最強のトレーナー──オトノキ地方・チャンピオン。


千歌「……」
 「グゥォ」


千歌さん、その人だった。



499 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:24:13.01 ID:w+jDVHjQ0

    🍊    🍊    🍊





千歌「……しずくちゃん、平気?」

しずく「……は、はい……」

千歌「そっか、よかった。……下がってて」
 「グゥォ」


ルカリオが波導の剣で受け止めたカミツルギの刃を振り払う。

そして私は──せつ菜ちゃんを見据える。


せつ菜「う、動かないでください……!!」

千歌「それは聞けないかな」

せつ菜「動くなっ!! カミツルギ! “いあい──」

千歌「“いあいぎり”」
 「グゥォッ」

 「────」


ルカリオの神速の波導が──カミツルギを一瞬で斬り裂き、カミツルギはその場に崩れ落ちた。


せつ菜「う……そ……」


せつ菜ちゃんが膝をつく。


かすみ「す、すご……」

しずく「な、何も見えなかった……」


せつ菜ちゃんが、膝をついたまま、拳を握りしめる。


せつ菜「…………」

千歌「せつ菜ちゃん、立って」

せつ菜「……え」

千歌「まだ、ポケモン……居るでしょ?」

せつ菜「…………!」

千歌「大切な……“せつ菜ちゃんのポケモンたち”が、まだいるでしょ?」

せつ菜「…………」


私がどうしてここまで来たのか、それは──


千歌「あのとき……出来なかったバトル、しに来たよ」


私はそう言いながら、バッグから──マントを取り出し、それを羽織る。


せつ菜「──チャンピオン……マント……」

千歌「そうだよ。……オトノキ地方のチャンピオンの証……チャンピオンマント」

せつ菜「……それを羽織る意味……わかっているんですか……!?」

千歌「わかってるよ」


意味、それは──このマントを羽織ってするバトルは、いついかなるモノであったとしても──オトノキ地方の頂点を決める、正式なチャンピオン戦となるということ。
500 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:24:52.29 ID:w+jDVHjQ0

せつ菜「わ、私が貴方に何をしたのか、理解して──」

千歌「んー、それはもう、この際どうでもいいや」

せつ菜「……!」

千歌「今更私たちが語るのは、言葉じゃなくていいよ。……ポケモンバトルで語ろうよ」

せつ菜「……」

千歌「私が勝ったらチャンピオン防衛。せつ菜ちゃんが勝ったら──今日からせつ菜ちゃんがオトノキ地方のチャンピオンだよ」

せつ菜「…………」


せつ菜ちゃんが、腰からボールを外して手に持った。


千歌「ありがとう」


──あのとき、私が未熟だったせいで、伝えられなかったことを伝えに……ここに来たから。

オトノキ地方のチャンピオンとして──誰よりも、ポケモンバトルを愛する……一人のポケモントレーナーとして。


千歌「──オトノキ地方『チャンピオン』 千歌!! 行くよ、せつ菜ちゃん……!!」


今度はちゃんと──伝えてみせるから……!!



501 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:25:57.21 ID:w+jDVHjQ0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.78 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.73 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.72 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.71 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.72 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.72 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:242匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.66 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.65 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.65 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.65 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.65 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:212匹 捕まえた数:23匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



502 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 02:32:28.29 ID:VUrl28Mg0

 ■Intermission✨



──やぶれた世界にて、ゲートの維持を続けていると……。


果南「真姫さん、こっちだよ」

真姫「……やぶれた世界……初めて来たけど、想像以上におかしな場所ね……」


真姫さんを先頭にした5〜6人ほどの集団を、果南がこのゲートまで案内してくる。


鞠莉「チャオ〜真姫さん」

ダイヤ「こんな状態のままで、恐縮ですが……」


わたしたちは、珠経由でディアルガとパルキアに指示を送りながら、挨拶をする。

彼女の後ろには、数人のリーグ職員と……四十代前半くらいの夫婦の姿があった。


鞠莉「そちらの人たちが事前に聞いていた……」

真姫「ええ、そうよ」


事前に聞いていた──ゲート先に通すことになっている人たちだ。

わたしが軽く会釈すると、ご主人は会釈を返し、奥様は深々と頭を下げてくれた。


真姫「鞠莉、ダイヤ、果南。ゲートの維持、お願いね」

ダイヤ「はい、お任せください」

鞠莉「みんなが帰ってくるまで維持するのが、わたしたちの役目だからね♪」

果南「何かあったときは私が対処するから、こっちは任せて」

真姫「ありがとう。それじゃ、今からこのゲートを潜って……世界を移動する。貴方たちは絶対に私たちから離れないようにして。その代わり、貴方たちの身の安全を最優先に守ることを、私含め、ポケモンリーグが全面的に保障するわ」


真姫さんが夫婦に向かってそう伝えると──彼らはその言葉に頷く。


真姫「行きましょう……!」


そして真姫さんたちは、ゲートを潜り──侑たちの向かった世界へと、飛んでいった。


ダイヤ「うまく……行けばいいのですが……」

鞠莉「こればっかりは、わたしたちにはどうすることも出来ないからね……」

果南「とにかく今は私たちに出来ることをしよう」


3人で頷き合う。


果南「って、言っても……この感じだと私の役割はあんまりなさそうだけどね〜」


確かに果南の言うとおり、ダイヤもわたしも、ディアルガとパルキアのコントロールが大分安定している。

このまま何事もなければ、ゲート維持自体は問題なく最後までこなせそうだ──と思った、まさにそのときだった。


 「──よっと……なーるほどねー。ここ、やぶれた世界ってやつだよね。こーゆーカラクリだったのかー」


──人影がゲートから、こちらの世界に躍り出てきた。

一瞬、今入っていった真姫さんたちが、何かの事情ですぐに引き返してきたのかと思ったけど──

その人物の容姿は──明るい金髪をポニーテールに結った少女の姿をしていた。それはまさに……数日前、会議で確認した姿そのもので、
503 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 02:33:19.88 ID:VUrl28Mg0

愛「表と裏の狭間にある世界から、ディアルガ、パルキア、ギラティナの力で、無理やり空間直通ゲートを伸ばすとは……よー考えたねー」


わたしたちの敵である──ミヤシタ・愛、本人だった。


ダイヤ「……っ!?」

鞠莉「な……!?」

果南「ラグラージッ!!!」
 「──ラァグッ!!!!」


果南が一瞬で攻撃態勢に移行し、繰り出したラグラージが飛び掛かる。

が、


 「リシャァーーンッ」
愛「まぁまぁ、そー焦んないでよー」

 「ラ、ラァァァグッ…!!!」


愛の傍らに居るリーシャンが一鳴きすると、作り出された音の障壁でラグラージが弾き返される。


果南「な……!? 止められた……!?」

愛「……もっとゆっくり楽しもーよ。……愛さんが遊んであげるからさ」


愛はそう言いながら──不敵に笑った。


………………
…………
……


504 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:30:44.67 ID:VUrl28Mg0

■Chapter066 『決戦! チャンピオン・千歌!』 【SIDE Setsuna】





──ドクン、ドクンと心臓が脈打ち、口から飛び出してきそうだった。

もう二度と、戦うことがないと思っていたのに。あれで──あの戦いで終わりだと、全て終わってしまったと……思っていたのに。

千歌さんが──私の目の前に居た。

今の私に勝てるの?

ウルトラビーストもなしに、彼女に……勝てるの……?

『特別』のない私が……『特別』な彼女に、勝てるの……?

そこまで考えて──私は頭を振った。

やめよう。そんなことを考えても意味はない。

ギュッとボールを握り込む。

『特別』がなくても、私は彼女に何度も挑んだ。

そして何度も負けて、何度も何度も悔しくて泣いて、それでも何度も何度も何度も彼女の戦いを見返して、考えて、分析して……次は勝てるようにと、そう自分に言い聞かせて、私は──私たちは強くなった。強くなってきた。

私のトレーナー人生は──千歌さんを倒すためだけに存在していたと言っても過言ではない。

これはきっと、千歌さんの最後の気まぐれだ。

もう二度と巡ってこない、本当の本当に最後のチャンス。彼女を超えるための──最後のチャンスなんだ。


せつ菜「……すぅ……。……はぁ……」


息を吸って、吐いて──ボールを握り込んだ。


せつ菜「行くよ……! ゲンガー!!」
 「──ゲンガァァーーーッ!!!!」


ボールからゲンガーが飛び出す。


せつ菜「“シャドーボール”!!」
 「ゲン、ガーーーッ!!!!」


フィールドに飛び出すと同時に発射された“シャドーボール”が猛スピードでルカリオに向かって飛んでいく、だが、


千歌「……“はっけい”っ!!」
 「グゥオッ!!!!」


千歌さんとルカリオが“シャドーボール”に掌打を合わせるように放つと、パァンッと音を立てながら、“シャドーボール”が霧散する。

大丈夫、これくらいのことは当たり前。やってくるに決まってる。

だけど、私が次の攻撃に入ろうと思ったときには、


 「──グゥォッ!!!!」


ルカリオは“しんそく”でゲンガーに肉薄していた。

そして、波導の剣を構える。

──恐らく技は、“いあいぎり”。本来ゴーストタイプのゲンガーには効かない技だが、彼女のルカリオが放つ刃は実体のないものすら“みやぶる”必中の斬撃。

あまりに速過ぎる、“しんそく”の居合が、ゲンガーを捉えようとした瞬間──


千歌「……!! ルカリオッ!!」

 「グゥォッ…!!!」
505 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:39:19.48 ID:VUrl28Mg0

ルカリオの刃がゲンガーにあと紙切れ1枚ほどで当たるか当たらないかの場所で、寸止めされた。

何故なら、ゲンガーが──黒いオーラを纏っていたからだ。


千歌「“みちずれ”……!」


さすが千歌さん。あの速さでありながら、咄嗟に攻撃を止められる判断力。そしてルカリオの技量。

ただ、それによって生じた隙に、


せつ菜「“あくのはどう”!!」
 「ゲンガーッ!!!!」

 「グゥオッ…!!!」


全方位に広がる“あくのはどう”でルカリオを吹き飛ばす。

そして、吹き飛んだことにより距離が離れた瞬間に、ゲンガーの口から、


「أ̷͕͈͈͆͊̂̀͂̾͂̃̿̂ͅن҉̱͚̬͍̘̟͎̙́̏̉̓́ا̸͈̞̭͎̰͚̥̮̮̱͔̄̓̌͒͂̇́́̑ ل̸̫̝͖̝̘̝͍̦̝͕̈͒̉̄͛ع̴͎͇̗̯͉̳̰̫͚̘͇͙̽̀̄̈́̐̽̃̈́̓́̓ن̷̗̲̠͎͖͖͖͉͂̃̈́̋̌̀̐̑̆͐͊ ي̶͙̙͖̙̘͔͖̬̰͙́̊̂͂̐̃م҉͔͚̳̦̗̍̀̀̌̿̚ك҈̖͍͙͍̞̩̾͂͒̈́̌̿̍̚ͅن҈̰̫͍͙͓̬͚̍̉͊̿̌̚ك҉̲̥̥̮̗̫͕̟̋̔̈̇̅̓́̀̍͆ ا҉̞͙̖͍̭̈̍̏̽ͅل̷͈̫̮͈̙͔̖̠̞͒̽̍͑̎̓̑̉̈͗͊ق̸̩̤̝͓̥̜̜̝̠̐͊͛̍̔̈́̿̍͋̓ي̶͖͎͚͇̥̙̩̊̔͂̅̿ا̴͔̣̗̲̫̳̠̫̙̦̃̉̓͛ͅͅم̸̟͓͇͚̯̜͓̥̮̞͚͆̑̓̌ ب҈͚͎͓̯͖̥̓̈̅̆ͅه̷͚͉̦̝̥̘͉̩͙̥̆̌͂̄̑́̊̽̐͑」


この世のものとは思えないような、呪いの歌が流れだす。


千歌「……! ルカリオ、戻──」

せつ菜「“くろいまなざし”!!」


千歌さんが一瞬で、“ほろびのうた”に気付きルカリオを戻すためにボールを投げるが、私はそれよりも早く“くろいまなざし”で交換を封じる。

交換は封じた……!! これで、千歌さんのエースを同士討ちに──


 「グゥォッ!!!」


と思った瞬間、ルカリオが“しんそく”により再び一瞬でゲンガーの懐に潜り込み、


千歌「“ともえなげ”!!」
 「グゥォッ!!!」


波導を纏った手でゲンガーの腕を掴みながら、真後ろに身を捨てつつ、足で押し上げるようにゲンガーを放り投げた。


 「ゲンガ──」
せつ菜「……!」


“ともえなげ”によって放り投げられたゲンガーは、私のボールに勝手に戻っていく。

──相手を強制的に控えに戻させる技だ。

千歌さんはゲンガーが場から退場して“くろいまなざし”が解除されると同時に、


千歌「ルカリオ戻れ!! 行け、フローゼル!!」
 「グゥォッ──」「──ゼルゥゥゥゥッ!!!!」


ルカリオを戻し、代わりにフローゼルを繰り出しながら走り出す。


せつ菜「スターミー!!」
 「──フゥッ!!」

千歌「フローゼル!! “かみくだく”!!」
 「ゼルゥッ!!!」


私がスターミーをボールから出すと、千歌さんは一瞬の判断で相性のいい“かみくだく”を選択指示するが、
506 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:40:05.34 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「“かたくなる”!!」
 「フゥッ!!!」

 「ゼルッ…!!?」


噛み付いたフローゼルの歯がガキッと硬い音を立てる。

間髪入れず、


せつ菜「“マジカルシャイン”!!」
 「フゥッ!!!」

 「ゼルッ…!!!」


至近距離から激しい閃光で焼き尽くす。

ダメージを負いながら吹っ飛んだフローゼルに向かって、


せつ菜「“10まんボルト”!!」
 「フゥッ…!!!」


今度はこっちが相性のいい“10まんボルト”で攻める。


千歌「“アイアンテール”!!」
 「ゼルッ…!!!!」


フローゼルは吹っ飛ばされながらも尻尾を硬質化し、それを地面に突き刺し、


千歌「“いわくだき”!!」
 「ゼルッ!!!!」


後ろに飛ばされている反動も利用し、てこの原理で足元の岩を砕きながら捲りあげて、盾にする。

普通なら驚いてしまうけど……千歌さんならそれくらいのことはしてくる……!!


せつ菜「それくらい、読んでます!!」


スターミーの“10まんボルト”は岩の盾に阻まれたように見えたが、岩にぶつかると沿うように回り込み、岩の後ろのフローゼルに向かってバチバチと音を立てながら襲い掛かるが──


千歌「“みずびたし”!!」
 「ゼルッ!!!」


フローゼルが、巨大な球状の水の塊を目の前の岩に向かって吐き出すと、“10まんボルト”は岩の水分に吸着されるように、それ以上前に進めなくなる。


千歌「水は電気をよく通すから、水に巻き込まれると進めなくなるんだよ!」

せつ菜「……!」


確かに、導電体の水から、絶縁体である空気中に向かって放電をするのは極めて難しい。

ご丁寧に“みずびたし”にする際も、口から出している水流から感電しないように、一度口の中で球状にしてから、ある程度の水量を纏めて発射し、自身と電撃の接触部分が出来ないようにしているのも芸が細かい。


千歌「フローゼルへの電気攻撃対策は完璧だから!」

せつ菜「なら、これはどうですか!! “10まんボルト”!!」
 「フゥッ!!!」

千歌「だから、効かないって!! “みずびた──」


再び放った“10まんボルト”に対して、千歌さんが再び“みずびたし”を指示しようとした瞬間──ボンッ!!! と音を立てながら、フローゼルの目の前で爆発が起きた。


 「ゼルッ…!!?」
千歌「うわぁっ……!?」
507 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:41:09.24 ID:VUrl28Mg0

千歌さんは爆風でフローゼルと一緒に地面を転がりながらも、すぐに受け身を取って立ち上がる。


千歌「ば、爆発した!?」


今の“10まんボルト”は電撃による直接攻撃が狙いじゃない。

私が利用したのは放電中に起こる電熱だ。

水は電気を流せば、水素と酸素に分解される。水素は熱を加えると酸素を使って爆発的に燃焼する物質。なら、2度目の電撃による電熱で急に加熱されたら爆発するに決まっている。

吹き飛んで出来た隙に向かって、


せつ菜「“こうそくいどう”!!」
 「フゥッ!!!」


スターミーが体を高速回転させながら、フローゼルに向かって突っ込んでいく。スピードアップしながらの渾身の突撃……!


せつ菜「“すてみタックル”!!」

 「フゥッ!!!」

千歌「っ……! “スイープビンタ”!!」
 「ゼルッ!!!」


フローゼルはすぐに体勢を立て直し、硬い尻尾でスターミーを弾き飛ばすが、


 「フゥッ!!!」


弾き飛ばされても、スターミーは高速軌道で、すぐに切り返してくる。


千歌「も、もう一発っ!!」
 「ゼルッ!!!」


2撃、3撃と連続で弾き返すが──高速回転しながらスターミーはどんどん速度を上げていく。

このままだと、捌ききれなくなることに気付いた千歌さんは、


千歌「“あまごい”!!」
 「ゼルッ!!!!」


雨を降らせ始める。雨が降り始めると──


 「ゼルッ!!!」


フローゼルは尻尾のスクリューを高速回転させながら、ものすごいスピードで動き出し、スターミーの突進を回避する。


せつ菜「……! “すいすい”……!」


“すいすい”は水中や雨の中で、自身の素早さを倍加させる特性。

さらに、


千歌「“アクアジェット”!!」
 「ゼルッ!!!」


水流を身に纏い、超加速しながらフローゼルが、横回転するスターミーの丁度中央のコア部分に突撃してくる。


 「フゥッ…!!!?」

せつ菜「スターミー!?」


お互いが超高速軌道で動いていることもあって、その一撃でスターミーがバランスを崩し回転しながら墜落して、突起部分が地面に突き刺さる。
508 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:42:05.73 ID:VUrl28Mg0

千歌「そこだっ!!」

 「ゼルッ!!!」


その一瞬の隙を見逃さずに、尻尾を高速回転させ始めるフローゼル。あれは見たことがある──“かまいたち”の予備動作……!

スターミーはどうにか突起の先から水を逆噴射させることで、地面に刺さった体をすぐに引き抜くが、フローゼルはもう攻撃の体勢に入っていた。


千歌「“かまいたち”!!」

 「ゼルッ!!!!」

せつ菜「“スキルスワップ”!!」

 「フゥッ!!!!」


が、スターミーのコアが光ると同時に──スターミーがまさに目にも止まらぬスピードで、風の刃を回避した。


千歌「うそっ!?」

せつ菜「“すいすい”、貰いましたよ!!」

 「フゥッ!!!!」


先ほどのさらに倍のスピードで雨の中を駆けるスターミーは、今度こそフローゼルの背後を取り、体を回転させながら突撃を炸裂させ──


千歌「“うずしお”ッ!!」
 「ゼルゥッ!!!」

 「フゥッ!!!?」

せつ菜「な……っ!?」


──たと思ったら、巨大な水の渦がフローゼルの背後に発生し、突っ込んできたスターミーを逆に渦の中に捕えてしまった。


千歌「これでも速い相手を見切るのは得意なんだよ!!」

せつ菜「くっ……!! “こうそくスピン”!!」

 「フゥッ!!!」


スターミーはすぐさま体を逆回転させ、渦を対消滅させる。

渦から解放された瞬間、


千歌「“ソニックブーム”!!」
 「ゼルッ!!!!」


フローゼルの尻尾から、音速の衝撃波が飛んでくる。


せつ菜「“ちいさくなる”!!」
 「フゥッ!!!!」


スターミーが指示と共に一気に体を小さくし、攻撃をギリギリ回避する。


千歌「く……!」


間一髪の回避。

スキルスワップにより、フローゼルの特性が“しぜんかいふく”に変わってしまったせいか、速度の面でスターミーに大きく軍配が上がっていたことも大きいだろう。

私はスターミーの回避を確認し、間髪入れずにボールを投げ込む。


せつ菜「ドサイドン!!」
 「──ドサイッ!!!!」
509 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:44:00.70 ID:VUrl28Mg0

ドサイドンがボールから飛び出すと同時に、大きな腕をフローゼルに向かって振りかぶる。


 「ゼルッ…!!?」
千歌「……っ!」

せつ菜「“アームハンマー”!!」
 「ドサイィィッ!!!!」


振り下ろされる重量級の拳に対して、


千歌「しいたけ!! “コットンガード”!!」
 「──ワッフッ!!!」


ボールから飛び出したトリミアンが、フローゼルを庇って、攻撃を受け止める。

ボフンと音がして、“ファーコート”に打撃が吸収される。

そして、その隙に、


千歌「フローゼル!! “ハイドロポンプ”!!」
 「ゼルゥゥゥッ!!!!」


トリミアンの影から、フローゼルが“ハイドロポンプ”でドサイドンを攻撃してくる。

……が、


 「ドサイッ…!!!」


ドサイドンはダメージを受けながらも、“ハイドロポンプ”を耐えていた。

ドサイドンはもともとタフな上に、特性は“ハードロック”。弱点タイプのダメージを軽減する特性なのが活きている。

さらに、ドサイドンの体からキラキラと輝く鉱物のようなものが舞い散る。


千歌「……!? や、やばっ!?」

せつ菜「“メタルバースト”!!」
 「ドサイッ!!!!」

 「ゼルゥッ!!!?」


さらにそのダメージを、はがねのエネルギーに変換し、フローゼルに叩きつけた。


 「ゼ、ゼルッ…」
千歌「戻って、フローゼル!!」


さすがに、耐えきれず動けなくなったフローゼルをボールに戻しながら、


千歌「しいたけ!! “アイアンテール”!!」
 「ワッフッ!!!」


トリミアンが硬質化した尻尾をドサイドンに突き刺してくる。


せつ菜「そんな威力じゃ、ドサイドンの防御は貫けませんよ!!」
 「ドサイッ!!!!」


お返しとばかりに、ドサイドンが“アームハンマー”を叩き付けるが、

またしても──ボフンッと音を立てながら、強力な打撃がいとも簡単に吸収される。


千歌「それを言うなら、こっちも防御力が自慢だよ!」
 「ワッフ!!!」
510 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:44:38.42 ID:VUrl28Mg0

さっきの高速軌道の戦いとは打って変わって、今度はどっしりと構えた物理戦が始まる。

──が、そんな悠長にやるつもりは最初からない。


せつ菜「そうは言っても……得意なのは物理攻撃に対してだけですよね!! “アームハンマー”!!」
 「ドサイッ!!!!!」


三たび振り下ろされる、重量級の拳が──


 「ギャウッ!!!?」
千歌「なっ!!?」


今回は毛皮に衝撃を吸収されずに、トリミアンを押しつぶす。

そして、怯んだところにドサイドンが手の平を突き付ける。


せつ菜「“がんせきほう”!!」
 「ドッサイッ!!!!!」


ドサイドンの手の平に空いた穴から、巨大な岩石が発射され、


 「ギャウンッ!!!!」


砕ける岩石がトリミアンを吹き飛ばした。


千歌「し、しいたけ!! 戻れ!!」


これで2匹戦闘不能……!!


千歌「……防御しきれなかった……? ……違う、防御力で受けてなかったんだ」

せつ菜「そうです……“ワンダールーム”です」
 「フゥ!!」


小さくなり、いつの間にか私の足元まで戻ってきていたスターミーが鳴き声をあげる。

体を小さくし、“ほごしょく”によって姿を眩ませていたスターミーが使っていたのは、“ワンダールーム”という技。

フィールド上にいる全てのポケモンの防御と特防を入れ替えるという不思議な効果を持つ。

それによって“ファーコート”を無効化し、“コットンガード”の上から押しつぶしたというわけだ。


せつ菜「さぁ……次のポケモンを出してください……!!」

千歌「……その前に」

せつ菜「……? なんですか……」

千歌「ドサイドン、戻した方がいいよ」

せつ菜「……はい? 何を──」


何を言っているのかと思った瞬間、


 「ドサイッ…!!!」


ドサイドンの巨体が崩れ落ちた。


せつ菜「な……!?」

千歌「しいたけがドサイドンに突き刺してたのは──ただの“アイアンテール”じゃないよ」


一瞬何かと思ったが、
511 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:45:11.07 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「……“どくどく”……!」


すぐに思い至った。ひっそりと刺した尻尾から“どくどく”を注入されて、“もうどく”状態にさせられていたというわけだ。

私は言われたとおり、ドサイドンをボールに戻す。


せつ菜「……やるじゃないですか」

千歌「せつ菜ちゃんこそ!!」


スターミーが再び“ほごしょく”で姿を消す中、お互いが次のポケモンのボールをフィールドに放つ──





    👑    👑    👑





安全圏に避難してきたかすみんたちは、千歌先輩とせつ菜先輩のバトルを見て言葉を失っていました。


かすみ「……一つ一つの判断が早過ぎます……」

しずく「……これが……最強クラスの人たちの戦い……」


かすみん……自分が強くなった自覚はありますけど……このレベルのバトルはまだ出来る気がしません……。


かすみ「……というか、せつ菜先輩……ウルトラビーストで戦ってたときより、強くない……?」

 「──そういうことなのよ、要は」

かすみ「え?」


声がして振り返ると──


善子「……千歌がここに来た理由は、きっとそういうことなのよ」

しずく「ヨハネ博士……!」


ヨハ子博士はかすみんたちに近付いてきて──ギューッと抱きしめてきた。


善子「二人とも……無事でよかったわ……」

かすみ「よ、ヨハ子博士……」

しずく「ヨハネ博士……ご心配をお掛けしました……」

善子「無事ならいいわ」


ヨハ子博士はそう言いながら、かすみんたちの頭を撫でる。


かすみ「あ、あのあの……それでそういうことって……どういうことですか……?」

善子「……見てればわかるわ」

しずく「見てれば……わかる……?」


ヨハ子博士はそれ以上多くは語らなかった。……見てればわかるって、どういうことだろう……?


善子「頼んだわよ……千歌」



512 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:45:59.46 ID:VUrl28Mg0

    🎙    🎙    🎙





千歌「ルガルガン!! “ドリルライナー”!!」
 「──ワォンッ!!!!」


体を回転させながら猛突進してくるルガルガンに対して、


せつ菜「エアームド!! “てっぺき”!!」
 「──ムドーーーッ!!!!」


こちらはエアームドを繰り出して、攻撃を真っ向から受ける。

──ギャギャギャと耳障りな音が鳴り響き、ギィンッ!! と音を立てながらルガルガンを弾き返す。

弾かれたルガルガンに向かって、


せつ菜「スターミー!! “ハイドロポンプ”!!」

 「フゥッ!!!」


小さい姿かつ“ほごしょく”によって潜伏しているスターミーが“ハイドロポンプ”でルガルガンを狙撃する。

ルガルガンに対して相性のいい大技のはずだが、


千歌「見つけた!! “ドリルライナー”!!」
 「ワォンッ!!!」


むしろ、千歌さんは──“ハイドロポンプ”に真っ向から突っ込んできた。

ルガルガンは激流を真っ向からドリルのパワーで穿ちながら、突っ切ってくる。


せつ菜「スターミー!! 一旦退避しなさい!!」

 「フゥッ!!!」


スターミーは攻撃を中断し、再び“ほごしょく”で姿を消す。


千歌「逃がしちゃダメ!!」

 「ワォンッ!!!」


スターミーが姿を消し、岩に突っ込んだルガルガンはそのまま弾けるように、スターミーの追跡を始める。


せつ菜「エアームド!! “フリーフォール”!!」

 「ムドーーーッ!!!!」


だが、そんなことは許さない……!

エアームドがルガルガンに向かって、鉤爪を構え上から急襲した──瞬間、


 「ピィィィィィッ!!!!!!」

 「ムドーッ!!!?」


ムクホークがエアームドに向かって突っ込んできた。

そのまま大きな爪でエアームドを地面に押し付けながら──


千歌「“インファイト”!!」

 「ピィィィィィィッ!!!!!!」
513 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:46:44.32 ID:VUrl28Mg0

爪と翼と嘴を使って、猛打を叩きこんでくる。

激しい近接攻撃だが──エアームドの防御を貫くにはまだ足りない……!


せつ菜「そこです!! “ドリルくちばし”!!」

 「ムドーーーッ!!!!」


攻撃に集中するあまり、防御がおろそかになっている部分を突いて、“ドリルくちばし”をムクホークの胸部に叩きこむ。


 「ピィィッ…!!!!」


嘴が直撃し、ムクホークは一旦後ろに逃げたが──

すぐに、爪でエアームドを抑えつけようとしてくる。

そのとき、


 「──フゥッ…!!!?」


スターミーの鳴き声が聞こえてくる。


せつ菜「くっ……!」


このムクホークの執拗な攻撃が、ルガルガンがスターミーを追いかけるための足止めだと言うのはわかっていたが、気付けば小さな小さなスターミーがルガルガンの口に咥えられていた。

ただ──いくらなんでも見つけるのが早過ぎる。


千歌「“かみくだく”!!」

 「ワォンッ!!!」

せつ菜「コスモパワー!!」

 「フ、フゥッ!!!!」


ガキン!! と音を立てながら、辛うじてキバを耐える。


せつ菜「“サイコショック”!!」

 「フゥッ!!!!」


そして、ルガルガンの口の中にサイコパワーで1個だけキューブを作り出し、


 「ワ、ワォ…!!?」


ルガルガンの口を無理やりこじ開ける。

今のうちに脱出させ──


 「ピィィィィィィッ!!!!!!」

 「ム、ムドーーーッ!!!!」

せつ菜「……!?」


今度はエアームドの鳴き声があがる。目を向けると、ムクホークが足でエアームドの体を掴み、低空飛行しながら引き摺り始めていた。

そのまま、ムクホークが飛び立とうとした瞬間、


せつ菜「エアームド!! “ボディーパージ”!!」

 「ム、ムドォー!!!!」
514 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:47:28.43 ID:VUrl28Mg0

エアームドが掴まれていた部分の鋼の鎧をパージして、脱出する。

でも、今度は、


 「フ、フゥゥ!!!!」

せつ菜「……!!」


スターミーがルガルガンの足に踏みつけられじたばたしていた。

──ルガルガンはスターミーの姿を完全に捉えている……!?

そこで、やっと気付く。


せつ菜「……しまった、“かぎわける”……!?」


相手は最初からスターミーの姿ではなく──ニオイで追っていたことに気付くが、もう時すでに遅し。


千歌「“ブレイククロー”!!」

 「ワォンッ!!!」

 「フゥッ…!!!?」


踏みつけていたスターミーを、防御を貫く爪撃で切り裂いたあと──


千歌「“アクセルロック”!!」

 「ワンッ!!!」

 「フゥゥッ…!!!?」


たてがみの岩を高速で突進しながら叩きつけられ──スターミーは戦闘不能になる。


せつ菜「く……っ! 戻りなさい、スターミー!!」


私はスターミーをボールに戻しながら──視線をエアームドに戻すと、


 「ムドーーッ!!!!」

 「ピィィィィィッ!!!!」


上昇して逃げるエアームドをムクホークが追いかけているところだった。


千歌「“こうそくいどう”!!」

 「ピィィィィィッ!!!!!」


千歌さんの指示でムクホークが加速し──


千歌「“すてみタックル”!!」

 「ピィィィィッ!!!!!」


“すてみ”による渾身の一撃が──エアームドに直撃した。


 「ムドォォォッ…!!!!」

せつ菜「エアームド……!!」


あまりの破壊力に全身の鎧をばらばらに砕かれ、落下を始めるエアームドを、


 「ピィィィィッ!!!!!」
515 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:48:12.97 ID:VUrl28Mg0

ムクホークが掴んで、そのまま地面に急降下を始める。


千歌「“ブレイブバード”!!」

 「ピィィィィィッ!!!!!」


そのまま一直線に──エアームドごと地面に墜落し、その衝撃で地面にヒビが入る。


千歌「エアームドが硬くても、こっちのパワーの方が上だったね!」


千歌さんが胸を張って自慢げに言ってくるが、


せつ菜「……あはは、千歌さん。忘れていませんか?」

千歌「……え?」

せつ菜「私のエアームドの特性──“くだけるよろい”ですよ」
 「ムドーーッ!!!!」

千歌「わ、忘れてた!?」


直後、鎧を脱ぎ去って加速したエアームドが、ムクホークの足元から飛び出し──


せつ菜「“はがねのつばさ”!!」
 「ムドーーーッ!!!!」

 「ピィィィィッ!!!?」


ムクホークの脳天に叩きこむ。


 「ピィィッ…!!!」


脳震盪を起こしてふらつく、ムクホークに向かって、


せつ菜「“ガードスワップ”!!」
 「ムドーーーッ!!!」


“くだけるよろい”で下がった自身の防御力を──ムクホークに移す。

“ガードスワップ”はお互いの防御の能力変化を入れ替える技だ。


せつ菜「エアームド──」


私がエアームドに次の指示を出そうとした瞬間、千歌さんも迎撃態勢に移る。


せつ菜「“てっぺき”!!」

千歌「させな──“てっぺき”!?」
 「ワォンッ!!!!」


だが、千歌さんはムクホークへの追撃を予想していたのか、エアームドが防御を固めてきたことに面食らって驚きの声をあげる。

それと同時に、飛び込んできたルガルガンの爪を──ギィンッ!! と音立てながら、エアームドの鎧が弾き返す。

“くだけるよろい”で下がった防御は“ガードスワップ”でフォローし、さらに再び“てっぺき”で硬質化させた鎧で、ルガルガンの爪を弾く。

──そもそも、ここで千歌さんが自由に攻撃をさせてくれるはずがない。

だから、私の選択肢は最初から……防御一択。

それに──


千歌「い、今のうちにムクホーク!! 逃げ──」


もうすでに、ムクホークへの攻撃は完了している……!
516 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:49:10.98 ID:VUrl28Mg0

 「ピィィィィィッ!!!!?」

千歌「……!?」


──突然、上空から落ちてきた、無数の鉄の剣が、ムクホークを斬り裂き、


 「ピ、ピィィィ…」


ムクホークは戦闘不能になってその場に倒れ込む。


千歌「今の……“くだけたよろい”で砕けた破片……!?」


そうだ。最初から私の作戦は、あの場でムクホークを動けなくさえすれば、もう完了していた。

そして今のうちに、


せつ菜「エアームド!! “はねやすめ”!!」

 「ムドーーー」


エアームドが地上に降り立ち、回復を始める。


千歌「っ……! “ドリルライナー”!!」
 「ワォンッ!!!」


地上に落りたエアームドに向かって、ルガルガンが回転しながら突っ込んでくる。

それに合わせるように、


せつ菜「“ドリルくちばし”!!」

 「ムドーーーッ!!!!」


両者のドリルの先端が真っ向からぶつかり合い、耳障りな音が周囲を劈く。

──ギャギャギャギャ!!! と大きな音を立て──ガキンッ!! という音と共に、お互いのポケモンが弾かれて、後ろに飛び退く。


せつ菜「……はぁ……はぁ……」

千歌「……はぁ……っ……はぁ……っ」


激しい攻撃の応酬に、さすがに息が切れる。それにしても……。


せつ菜「……千歌さんって、何度戦っても、いつもなにかしら前に見たことを忘れてますよね」

千歌「う……!? ……で、でも、“くだけるよろい”を攻撃に使うのは見たことなかった! 今の知らなかったもん!」

せつ菜「特性さえ知っていれば防げたはずでは?」

千歌「そーいうせつ菜ちゃんだって、私の技で見切れてないのたくさんあるじゃん!」

せつ菜「な……!? で、ですが、毎回少しずつ改善されてるじゃないですか!? 前に10番道路で戦ったときは、ほぼ見切っていたようなものです!!」

千歌「それでも、私たちもどんどん強くなるから、完全に攻略されることはないけどねっ!」

せつ菜「強くなってるのは私たちだって同じです!! いつか──いえ、今日こそ、完全に攻略してみせますよ!! エアームド!!」
 「ムドーーッ!!!」


エアームドが戦闘不能になったムクホークの傍に突き刺さっている鉄の刃を一本引き抜き嘴に咥える。

その動作の隙に、


千歌「“アクセルロック”!!」
 「ワォンッ!!!!」
517 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:49:49.63 ID:VUrl28Mg0

ルガルガンが飛び出してくる。

──ギィンッ!! ルガルガンのタテガミの岩と、エアームドの鉄の刃が鍔迫り合う。

パワーが拮抗する中、


せつ菜「引きなさい!」
 「ムドォ!!!」


エアームドが身を引く、


 「ワォッ…!!?」


急に身を引かれて、ルガルガンが一瞬前につんのめるが、


千歌「“ストーンエッジ”!!」
 「ワ、ワォンッ!!!」


千歌さんはよろけて前に踏み込む動作を、咄嗟の判断で攻撃に変換する。

ルガルガンの踏み込みと同時に鋭い岩が飛び出してくるが、


 「ムドォ!!!」


エアームドはその岩を足蹴にして、空に飛び立つ。

が、ルガルガンはすぐに自身のタテガミの岩で、“ストーンエッジ”を割り砕き、


千歌「“ロックブラスト”!!」
 「ワンッ!!!」


砕いた岩を投げ飛ばしてくる。


せつ菜「“きりさく”!!」
 「ムドォーーーッ!!!」


その岩を鉄の刃で斬り裂きながら、


せつ菜「“てっぺき”!!」
 「ムドォッ!!!」


さらに体を硬質化しながら、エアームドは岩石の弾丸の中、ルガルガンに向かって急降下を始める。


せつ菜「“ボディプレス”!!」
 「ムドーーーッ!!!!」

 「ワォンッ!!!?」


硬い鉄の鎧ごと、上空からルガルガンに叩きつけた。

ここまでのダメージも含め、これが決め手となり、


 「ワ、ワォン…」


崩れ落ちるルガルガン。


せつ菜「わ、私たちの勝ちです!!」

千歌「……残念、相打ちだよ」


千歌さんの言葉と共に──
518 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:50:44.81 ID:VUrl28Mg0

 「ムドォ…」


エアームドも崩れ落ちた。


せつ菜「エアームド……!?」


驚いて、倒れたエアームドを見ると──胸にルガルガンのたてがみの岩が折れて、突き刺さっていた。


せつ菜「か、“カウンター”……!」

千歌「これ折れるとまた生えるまで時間かかるんだけどねー……ま、仕方ない! せつ菜ちゃん相手にたてがみの岩一本の犠牲なら上出来だよ! 戻れ!」


そう言いながら、千歌さんはルガルガンとムクホークをボールへ戻す。


せつ菜「……戻ってください」


私も戦闘不能になって倒れているエアームドをボールに戻す。


千歌「さぁ、次だよ!!」


千歌さんがボールを構える。


せつ菜「望むところです……!!」


私も次のボールを構えたところで、


千歌「──せつ菜ちゃん」


千歌さんが私の名前を呼んだ。


せつ菜「なんですか?」

千歌「……楽しいね……!」

せつ菜「え……」

千歌「せつ菜ちゃんとのバトルは……予想外のことがたくさんあって……! 知らない技が、戦術がたくさんあって……! 何度戦っても、ドキドキワクワクする! ──せつ菜ちゃんは?」

せつ菜「……私は」


私は──

──胸が……ドキドキしていた。

でも、最初の動悸とは全然違う。

これは、このドキドキは──


せつ菜「──わけ……ないじゃないですか……」


このドキドキの正体なんて──そんなの……前から知っている。


せつ菜「──……楽しくないわけ……ないじゃないですか……っ!!」

千歌「うんっ!! そうだよねっ!!」


何度も何度も感じてきたこの高揚感。

そうだ、私は……ポケモンバトルの、この感覚がずっとずっと……大好きだったんだ。
519 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:51:28.82 ID:VUrl28Mg0

千歌「私も今、さいっこうに楽しい!! だからさ、もっともっと楽しいバトル、しようよっ!!」

せつ菜「望むところですっ!!」

千歌「行くよ、ルカリオ!!」
 「──グゥォッ!!!」

せつ菜「行きますよ、ゲンガー!!」
 「──ゲンガーーッ!!!」


私の“メガバングル”と、千歌さんの“メガバレッタ”が同時に光り輝く。


せつ菜・千歌「「メガシンカ!!」」
 「ゲンガァァァァァァァァァッ!!!!!!」「グゥォォォォォッ!!!!!!!」


メガゲンガーから影の力が、ルカリオから青い波導の力が溢れ出し、空間を震わせる。


千歌「ルカリオッ!! 波導全開ッ!! 行くよっ!!」
 「グゥオッ!!!!!」

せつ菜「ゲンガーッ!! 全身全霊で迎え撃ちますよっ!!」
 「ゲンガァァァァァァ!!!!!!」





    🎙    🎙    🎙





千歌「ルカリオ!! 波導の力を斬撃に……!!」
 「グゥオッ!!!」

せつ菜「“ふいうち”!!」
 「ゲンガッ!!!」

 「グゥオッ!!!?」
千歌「……!」


千歌さんの攻撃は確かに必中必殺の一撃。

だけど、ノータイムで連発出来るようなものではないし、一定以上の集中が必要になる。

攻撃を撃たせないことがもっとも正しい。

千歌さんも私の魂胆に気付いたのか、攻撃方法を切り替えてくる。


千歌「“ボーンラッシュ”!!」
 「グゥオッ!!」


剣状にしていた波導を長い骨の形にし振り回す。


せつ菜「“ゴーストダイブ”!!」
 「ゲンガッ──」


それを避けるように、ゲンガーが影の中に潜り、“ボーンラッシュ”が空振る。


千歌「なら……!」
 「グゥォッ!!!」


ルカリオは地面に骨を突き立て──それに掴まったまま上に伸ばして、上へと逃げる。


千歌「メガゲンガーは体が影に埋まってるから、空には追ってこれないでしょ!!」

 「グゥオッ!!」

せつ菜「確かにそうですね、ですがこれならどうですか!!」
520 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:52:07.91 ID:VUrl28Mg0

今しがた影に飛び込んだ場所──即ちルカリオが骨を突き立てた地面が、ジュウウッと音を立て始める。

それと同時に、骨がグラリと揺れる。


 「グゥオッ…!!?」

千歌「溶けてる……!? “ヘドロばくだん”だ……!! ルカリオ、離脱!!」

 「グゥォッ!!!」


ルカリオが“しんそく”で飛び出しながら、地上に向かってジャンプする中、地面がドロドロに溶け始め、そこからゲンガーが顔を出す。

相手が空中にいる間がねらい目……!!


せつ菜「“シャドーボール”!!」
 「ゲンガァァァァッ!!!!!」


ゲンガーの口から特大の“シャドーボール”が放たれる。


せつ菜「落ちながらで受け切れますか!!」


“はっけい”で対抗してくると思ったが──何故かルカリオの落下が急に止まり、


せつ菜「……え!?」


軌道を読み違えて外れた“シャドーボール”が、そのまま明後日の方向に飛んでいく。

よく見たら、ルカリオの足元が、わずかにスパークしているのがわかった。


せつ菜「まさか、“でんじふゆう”!?」

千歌「“ラスターカノン”!!」

 「グゥゥゥォォォッ!!!!!!」


集束した光線が空中に浮いたルカリオから発射される。


せつ菜「く……!? “シャドーボール”!!」
 「ゲンガァァァァ!!!!」


“ラスターカノン”に向かって、再度“シャドーボール”を発射するが──

特性“てきおうりょく”で強化された“ラスターカノン”は“シャドーボール”を貫いて、ゲンガーに直撃する。


 「ゲ、ゲンガァァッ!!!!」
せつ菜「ゲンガー……!?」

千歌「さぁ、ガンガン行くよー!!」

 「グゥオッ!!!」


ルカリオが再び“ラスターカノン”の態勢に入るが──


 「ゲンガ…!!!」


ゲンガーが空にいるルカリオに向かって手をかざすと──急に集束していた光が弱まり、消滅する。


千歌「ふ、不発……!? しまった、“かなしばり”……!?」


一瞬で正解にたどり着くのはさすがです……!
521 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:52:55.59 ID:VUrl28Mg0

千歌「でも、空にいればそっちの攻撃は──」

せつ菜「“かみなり”!!」
 「ゲンガァッ!!!!」

 「グゥオッ!!!?」
千歌「うわぁっ!!?」


目の前で、特大の落雷が発生し、空中にいるルカリオに直撃する。

ダメージを受けたルカリオがふらりと落ちてくる。

無防備に落ちてくるルカリオに向かって──


せつ菜「“きあいだま”!!」
 「ゲンガァーーーッ!!!!」


気合を集束したエネルギー弾を発射する。


千歌「ルカリオーーーッ!!! “はどうだん”ッ!!」

 「グゥ…オォッ!!!!」


落下しながらも、ルカリオの発射した“はどうだん”が“きあいだま”とぶつかり合い、相殺しあう。


そのまま、着地したルカリオは、跳ねるような身のこなしでゲンガーに接近し、


千歌「“はっけい”!!」
 「グゥオッ!!!!」


波導を纏った掌打をぶつけてくる。が、


せつ菜「“したでなめる”!!」
 「ゲンガァァァ〜〜〜」

 「グゥオッ!!!?」
千歌「いっ!?」


それに合わせるように──ゲンガーがベロリと舌を出す。

ルカリオの“はっけい”はゲンガーの舌にべちょりと音を立てながらぶつかった直後、


 「ゲンガッ…!!!?」


波導のエネルギーによって、ゲンガーが吹っ飛ばされる。

だが──


 「グ、グゥオ…!!!」
千歌「ま、“まひ”した……!!」


“したでなめる”の追加効果で“まひ”させた。

さらに、


せつ菜「“たたりめ”!!」
 「ゲンガァァッ!!!!!」


弱り目に“たたりめ”。状態異常の相手には倍の効果を発揮する呪いの攻撃でルカリオを攻撃する。


 「グゥ、オォォォ…ッ」


苦悶の顔を浮かべながら膝を突くルカリオに向かって──
522 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:53:47.46 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「“シャドーボール”!!」
 「ゲンガァァァァッ!!!!」


三度目の正直の特大“シャドーボール”を発射する。

怯んだルカリオは避けることも出来ず──


 「グゥォォォッ…!!!!」


影の球に呑み込まれる。


せつ菜「よし、このまま……!!」

千歌「“あくのはどう”!!」
 「グゥオォォォォッ!!!」

せつ菜「……!」


だが、ルカリオは影の球の中から全方位に向かって“あくのはどう”を放って、“シャドーボール”を吹き飛ばす。

そして、影の球から出てきたときには──


 「グゥオ…」


その手に──波導で出来た剣を手にしていた。


千歌「波導の力を斬撃に……!!」

せつ菜「させないっ!! “シャドーパンチ”!!」
 「ゲンガァァッ!!!!」


ゲンガーが自身の両手を影に沈めると──ルカリオの足元の影から、拳が飛び出す。

が、


 「グゥオ」


ルカリオは波導の剣で、冷静に受け止める。

でも……“いあいぎり”の集中は切った……!!

攻撃を畳みかけようとした瞬間──


 「ゲンガッ…!!!?」
せつ菜「な……!?」


ゲンガーの影から──波導のエネルギーが拳の形をして飛び出してきて、ゲンガーの体にめり込んでいた。


せつ菜「……“まねっこ”……!?」


“シャドーパンチ”を真似され、背後からの突然の攻撃でゲンガーが怯んだ隙に──


千歌「波動の力を斬撃に──」
 「グゥオッ!!!」


千歌さんとルカリオが必中必殺の型を完成させる。


せつ菜「“ゴーストダイブ”!!」
 「ゲンガッ!!!」


苦し紛れの回避択。ゲンガーが影に潜り込むが、
523 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:54:32.95 ID:VUrl28Mg0

千歌「影ごと斬り裂け──“いあいぎり”!!」
 「グゥゥオッ!!!!」


下から上に向かって薙がれる波導の剣が、ゲンガーの潜った影を一閃する──

一瞬、フィールド上が静寂に包まれたが──

数秒後、


 「…ゲン、ガ…」


影の中から戦闘不能になったゲンガーが浮かんできたのだった。


千歌「はぁ……はぁ……斬ったよ……!」
 「グゥオッ!!!」

せつ菜「ウインディッ!!」
 「──ワォンッ!!!」

千歌「……!」


間髪入れずに飛び出したウインディが、


せつ菜「“ねっぷう”!!」
 「ワォォォンッ!!!!!」


“ねっぷう”でルカリオを焼き尽くす。


 「グゥォォォッ…!!!!」
千歌「ぐ……っ!!」


最後は斬られたとは言え──不発も含めれば全力の集中技を3回も使わせた。

集中が必要不可欠な技はその分負担も大きい。畳みかけるなら、今しかない……!!


千歌「波導、全開ッ!!!」
 「グゥゥゥゥオオオオオッ!!!!!!」


ルカリオが“ねっぷう”の中、両手の平をこちらに向けて──残りの波導エネルギーを発射してくる。


せつ菜「“だいもんじ”!!」
 「ワァォンッ!!!!!」


それに対して、巨大な火炎で真っ向から立ち向かう。


千歌「ルカリオッ、頑張れぇぇぇッ!!」
 「グゥ、オォォォォッ!!!!!」


波導と“だいもんじ”がぶつかり合い、拮抗するが──


 「グゥ、ォォォォォ…!!」


ルカリオもさすがに体力の限界だったのか──次第に火炎が優勢になり。


千歌「くっ……!!」
 「グゥ、ォォォォッ…!!!!」


“だいもんじ”がルカリオを飲み込んだ。

業炎は千歌さんごと飲み込んだように見えたが──炎が晴れると、


 「グゥ、ォ…」
524 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:55:17.06 ID:VUrl28Mg0

戦闘不能になったルカリオの向こうで、


 「──バクフーーーンッ…!!!!」
千歌「……やっぱり、ここまで追い詰められちゃうか……」


業炎から主人を守るように、バクフーンが千歌さんの前に立っていた。





    👑    👑    👑





しずく「……これで、お互い……最後の1匹……」

かすみ「…………しず子、どうしよう…………かすみん、千歌先輩を応援しなくちゃいけないはずなのに…………せつ菜先輩は敵なのに……今、どっちにも負けて欲しくないって……思ってるかも……」

しずく「…………私も……」


胸が熱かった。

死力を尽くして戦う二人の姿を見ていたら、どうしようもなく、胸が熱かった。

胸が熱くて、ドキドキしていた。





    🎙    🎙    🎙





せつ菜・千歌「「“かえんほうしゃ”!!」」
 「ワォォォンッ!!!!」「バクフーーーンッ!!!!!」


2匹の“かえんほうしゃ”が真っ向からぶつかり、フィールドに炎を散らす。

ぶつかった、火炎の勢いは──


せつ菜「互角……!!」

千歌「なら……!!」


先に動いたのは、千歌さんだった。


千歌「“ふんか”!!」
 「バクフーーーーンッ!!!!!!」


バクフーンの背中から──爆炎が飛び出す。


せつ菜「ウインディ!!」
 「ワォンッ!!!」


私はウインディに飛び乗り、


せつ菜「“しんそく”!!」
 「ワォンッ!!!!!」


降ってくる火炎弾の中、ウインディが私を乗せて猛スピードで走り出す。

私は上を見上げ──落ちてくる火山弾の軌道を見ながら、ウインディのたてがみを引っ張り、避ける方向を伝える。


 「ワォンッ!!!!」
525 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:56:03.58 ID:VUrl28Mg0

ギリギリの軌道で炎弾を避け──最短ルートでバクフーンに肉薄し、


せつ菜「“インファイト”!!」
 「ワォンッ!!!!」


打撃を食らわせようとした瞬間、


千歌「“ふんえん”!!」
 「バクフーーーンッ!!!!」

せつ菜「ぐっ!?」
 「ワォンッ!!!」


バクフーンが背中をこちらに向けて、“ふんえん”を噴き出す。

全身が燃えるように熱かったけど──


せつ菜「今は……私の心の方がもっと熱い……!! “かえんほうしゃ”!!」
 「ワァォォォォンッ!!!!!!」


炎の中で、ウインディが炎を噴き出す。


千歌「くっ……!?」
 「バクフーーンッ…!!!」


“ふんえん”を押しのけて、火炎がバクフーンと千歌さんに襲い掛かり、


せつ菜「“フレアドライブ”ッ!!」
 「ワァォォォォンッ!!!!!!」


全身に炎を纏ったウインディが、自身の出した炎を突っ切りながら──バクフーンに突撃した、が、


 「バクフーンッ!!!!」


バクフーンはそれを両手で受け止める。


千歌「負けるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 「バク、フーーーーーーンッ!!!!!!!!!」


ウインディを受け止めながら、千歌さんに気合いの声に呼応するように、バクフーンの背中から気合いの炎が噴き出す。


千歌「“れんごく”ッ!!!」
 「バクフーーーーーーーンッ!!!!!!!!」


さらなる爆炎が、バクフーンの口から放たれる。


せつ菜「“だいふんげき”ッ!!!!」
 「ワァァァォォォォォンッ!!!!!!!」


ウインディも全身からありったけの業炎を放ち、お互いの炎がぶつかり合う。


せつ菜「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
 「ワァォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!」

千歌「燃えろおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
 「バクフーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!!」


お互いの爆炎が業炎が、ほのおのエネルギーぶつかり合い……膨張した熱が──爆発した。
526 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:56:37.00 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「ぐぅぅぅぅっ……!!?」
 「ワォンッ…!!!」

千歌「ぐぅぅぅぅぅっ……!!」
 「バクフーンッ…!!!」


お互いが爆風で吹き飛ばされる。


せつ菜「……ぐ、ぅぅぅ……ッ……!!! まだ……まだ、です……ッ……!!!」
 「ワォォォンッ…!!!!」


燃えるような熱さの中、立ち上がると──


千歌「はぁ……はぁ……ッ……!!」
 「バク、フーーーンッ…!!!!」


千歌さんも立ち上がっていた。

お互いの体力はもう限界。

恐らく次がお互い最後の技になるだろう。

だから、私は──


せつ菜「千歌さんッ!!!!」

千歌「……!?」

せつ菜「Z技を……使ってくださいッ!!!!」

千歌「……!!!」

せつ菜「あの技を超えないと──私は胸を張って、貴方に勝ったと言えないからッ!!!!」


最後だからこそ、手加減なしの全てとぶつかり合いたかった。

『特別』だとかそうじゃないとか、もうそんなことはどうでもよくて。

今はただ──全力の千歌さんとぶつかり合いたかった。


千歌「うんっ!! バクフーーーーンッ!!!! 行くよっ!!!!! 全力のZ技っ!!!!!」
 「バクフーーーーーーンッ!!!!!!!」


千歌さんの腕についたZリングが──燃えるような赤色の光を灯す。

そこから、エネルギーがバクフーンへと流れ込み──


 「バクフーーーーーーンッ!!!!!!!!!」


バクフーンから抑えきれないほどの炎熱のエネルギーを感じた。


千歌「行くよッ!!!!! せつ菜ちゃんッ!!!!!」

せつ菜「はいッ!!!!! 千歌さんッ!!!! 私は、今日、ここでッ!!!!! 貴方を超えますッ!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

千歌「“ダイナミックフルフレイム”ッ!!!!!!!」
 「バクフーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!」


バクフーンから──視界一杯を覆いつくすような業炎が──放たれた。



527 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:57:09.56 ID:VUrl28Mg0

    🎙    🎙    🎙





せつ菜「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!!!!!」


向かってくる大火球に向かって、ウインディが全身全霊の炎で迎え打つ。

とんでもない炎熱を肌で感じる。

だけど、


せつ菜「負けるかあああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!」


雄叫びをあげながら、立ち向かう。

──熱くて熱くてたまらない、苦しいはずなのに、今は、この瞬間が、この戦いが、終わって欲しくない。そんな気持ちでいっぱいだった。

そうだ。私が大好きなポケモンバトルはこれだったんだ。

ただ強い人と全力でぶつかり合って、胸が熱くなる。この瞬間が大好きだったんだ。

だから私は──ポケモンバトルが大好きだったんだ。

……ふと、思う。

私はいつから、この気持ち忘れてしまっていたのだろうか。

いつから勝ちにばかり拘るようになってしまったんだろうか。

いつから──選ばれることに拘るようになってしまったんだろうか。

本当は、『特別』だとかそんなこと、どうでもよくて──ただ、この楽しくて大好きな時間を、ずっとずっと味わっていたかった。ずっとこの中にいたかった。それだけのはずだったのに。

お父さんにポケモンを取り上げられそうになった瞬間、なくなってしまうと思った瞬間、怖くなってしまった。

だから私は、在り方ばかり考えて、ただ──結果だけを示そうとして。

でも違った。そうじゃなかったんだ。私の本当の気持ちは、強い自分を見せつけることなんかじゃない。実績を誇示して納得させることなんかじゃない。

ただ──私がポケモンを、ポケモンバトルを大好きだって気持ちを──伝えなくちゃいけなかったんだ。


せつ菜「……気付くのが遅いよ……私……っ……」


涙が零れて──炎の中で一瞬で蒸発する。

取り返しの付かないことをしてしまった。

大好きなポケモンで──人を傷つけてしまった。

許されないことを、してしまった。

これが終わったら……私はもう、ポケモントレーナーではいられない。

だから。きっとこれが最後だから──


せつ菜「全部の炎ッ!!!!!!! 出し切ってッ!!!!!! ウインディィィィィィィィィッ!!!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!」



528 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:58:38.61 ID:VUrl28Mg0

    👑    👑    👑





──なんでだろ。なんで……。


かすみ「なんで……かすみん……泣いてるの……っ……?」


せつ菜先輩と千歌先輩が全力でぶつかる姿を見ていると、胸が燃えるように熱くて、勝手に涙が溢れてくる。


しずく「私は……っ……わかる、気がするよ……っ……」

かすみ「え……」


しず子もポロポロと涙を流しながら、


しずく「だって、全力で何かをする人たちの姿は……っ、見ている人たちの心を──震わせるものだから……っ……」

かすみ「っ……!!」


そっか、今私の心は──震えてるんだ。

そう思ったら、居てもたっても居られなくて──


かすみ「せつ菜先輩ッ!!!! 千歌先輩ッ!!!!! どっちも頑張ってぇぇぇぇッ!!!!!」


かすみんは思わず叫ぶ。

ただ、全力で全てを懸けて戦う人たちに、自分の心の震えが少しでも届くようにと──


善子「……人とポケモンは、どうしてポケモンバトルなんてものをするのかしらね」

しずく「え……?」

善子「……歴史の中で、何度もポケモンを戦わせるのをやめさせようとしたことがあったらしいわ。戦いは野蛮だとか、ポケモンを傷つけるなとか、理由はいろいろあった。それでも……人もポケモンも……戦うことを、競い合うことをやめなかった」

しずく「………………」

善子「私たちは今……その答えを……見ているのかもしれないわね……」





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「あああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」


燃え盛る炎の中で、


 「ワォォォォォォォォンッ!!!!!!!!」


相棒と一緒に──生まれて初めて捕まえたポケモンと一緒に──ただ、心を燃やす。

529 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:59:36.30 ID:VUrl28Mg0

────────
──────
────
──


せつ菜「やっと……捕まえた……!」
 「ワン…」

せつ菜「私の……初めての……ポケモン……!!」
 「ワン…」

せつ菜「よろしくね、ガーディ!」
 「…ワンッ」


──ガブリ。


せつ菜「いったぁっ!!?」

真姫「……まさに飼い犬に手を噛まれるね」

せつ菜「うぅ……が、ガーディ……わ、私、君のトレーナーなんだよ……?」
 「ガルル…」

せつ菜「ま、真姫さぁん……」

真姫「ふふ、最初はそんなものよ。大丈夫、きっとすぐに仲良くなれるから」

せつ菜「ほ、ホントかなぁ……?」
 「ガルル…」


──
────


せつ菜「やったぁ♪ 勝ったよ、ガーディ♪」
 「ワンッ♪」


──ペロ。


せつ菜「きゃっ!? あはは♪ く、くすぐったいよ、ガーディ♪」


──
────


 「ワォォォォォンッ!!!!!」
せつ菜「これが……ウインディ……! ガーディの進化した……姿……!」

 「ワォンッ」
せつ菜「……うん。一緒にもっともっと強くなろう……。誰にも負けないくらい、強く、強く……!」

 「ワォォォォォォォンッ!!!!!」


──
────
──────
────────


せつ菜「私とウインディは……ッ!!!! 誰にも負けないッ!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!」


雄叫びをあげながら、業炎に立ち向かう──が、


せつ菜「ぐぅぅぅぅぅぅっ……!!!!」
 「ワォォォォォンッ…!!!!!!」


一向に勢いが弱まらない千歌さんたちの炎に次第に押され始める。
530 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:00:46.47 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「まだッ!!!! まだ、終わらせないッ!!!!!!!」
 「ワォォォンッ!!!!!!!!」

せつ菜「最後までッ!!!!! 諦めないッ!!!!!!」
 「ワォォォォォンッ!!!!!!!」

せつ菜「最後まで……諦めたくないッ!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォンッ!!!!!!!」





    👑    👑    👑





──せつ菜先輩側の炎が徐々に押され始めたのが、かすみんの目にもわかった。


かすみ「っ……!!! せつ菜せんぱぁぁぁぁぁいっ!!!!! 負けないでぇぇぇぇぇっ!!!!!!」

しずく「せつ菜さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!! まだ……まだ終わってないですよーーーっ!!!!!」


あの業炎の中、声が届くのかわからないけど──かすみんたちは叫ぶ。

ただ、真っすぐに戦う──先輩に向かって。

そのとき──


 「菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」


男の人が──菜々先輩の名前を呼んだ。


男性「負けるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」

女性「菜々ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!! 頑張ってぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」


その人と並んで、女の人が──菜々先輩の名前を叫んだ。

誰かはわからないけど──心の底から、菜々先輩のことを応援して叫んでいるのが、一目でわかった。





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「う、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
 「ワォォォォンッ…!!!!!!!!!」


目の前に迫る炎が大きくて、熱かった。

──ああ、これがチャンピオンの炎なんだ。

熱さに朦朧とする頭で、そう、思った。

いつか、届くかな。

いつか、この炎を超えられるかな。

……うぅん、いつか。超えよう。


 「ワ、ォォンッ……」
せつ菜「…………やっぱり、千歌さんは……強いなぁ……」


炎が私を飲み込もうとしている。

そのときだった──
531 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:01:32.51 ID:VUrl28Mg0

 『っ……!!! せつ菜せんぱぁぁぁぁぁいっ!!!!! 負けないでぇぇぇぇぇっ!!!!!!』

せつ菜「え……」

 『せつ菜さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!! まだ……まだ終わってないですよーーーっ!!!!!』

せつ菜「この……声……」


かすみさんと……しずくさんの……声……。


せつ菜「……っ……!!! ウインディッ!!!!!!」
 「ワォォォォォンッ!!!!!!!!!」


まだ終わってない。終わってない。終わりたくない……!!

──違う。そうじゃない、終わりたくない、じゃない。


せつ菜「私は……ッ!!!!!! 勝ちたいッ!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォンッ!!!!!!!!!」

 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』

せつ菜「……!!」


この声──


 『負けるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!』


せつ菜「おとう……さん……っ……」


お父さんの、声だった。

どうして今聞こえるのかわからないけど──お父さんが私を応援していた。


 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!! 頑張ってぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!』

せつ菜「おかあ……さん……っ……」


お母さんが私を応援していた。


 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! お前はこんなところで終わるのかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!! チャンピオンになるって言っただろうっ!!!!!!!!』

 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! 最後までっ、諦めないでぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!』


──お父さん、お母さん。


せつ菜「──うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!! ウインディィィィィィィィ!!!!!!!!!! “もえつきる”までぇぇぇぇぇ!!!!!! やきつくせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ウインディが──全身全霊の炎を、ぶつけた。



532 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:02:11.58 ID:VUrl28Mg0

    🎙    🎙    🎙





せつ菜「……………………はぁ…………はぁ…………」
 「ワォ、ン…ワォン…!!」

千歌「…………はぁ…………はぁ…………」
 「バク…フーーンッ…!!」

せつ菜「…………止め、ました……よ…………」

千歌「あ、はは…………すご、すぎ…………」

せつ菜「ウイン、ディ……」
 「ワォ…ン…ッ」


私はウインディと一緒に歩き出す。


せつ菜「決着をつけ……ましょう……」
 「ワォ、ン…」


もうすぐそこに──手を伸ばせば、チャンピオン、に──


 「ワォ…ン…」
せつ菜「………………」


ウインディが──崩れ落ちた。


せつ菜「………………負け……か……」


私は立ち尽くして、空を仰いだ。

私のポケモンは全て、戦闘不能になった。

この勝負は……私の負けだ。


千歌「……せつ菜ちゃん」


千歌さんがよろよろとした足取りで、目の前まで歩いてくる。

そして、


千歌「……さいっこうの……バトルだったよ……」


私を抱きしめた。
533 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:03:04.63 ID:VUrl28Mg0

千歌「また……やろうね……」

せつ菜「千歌……さん……。……でも、私は……もう……ダメですよ……」

千歌「そんなこと……ない……」

せつ菜「ダメ、なんです……私は……ポケモンを使って……人を、傷つけてしまった……もう、ポケモントレーナーを続ける資格なんて……私には……っ……」

千歌「…………せつ菜ちゃん。……ポケモンは好き?」

せつ菜「え?」

千歌「…………ポケモンバトルは、好き?」

せつ菜「………………はい」

千歌「なら……もうそれだけで十分だよ。……せつ菜ちゃんは……それだけで、ポケモントレーナーだよ……資格とか、そんなもの……必要ないよ……」

せつ菜「……千歌……さん……っ……」

 「──間違えたなら……またやり直せばいいわ」

せつ菜「……!」


声がして振り向くと──


真姫「……菜々」


真姫さんが居た。


せつ菜「真姫、さん……わ、私……」

真姫「いい。……今は、何も言わなくていいから」

せつ菜「…………真姫……さん……」

真姫「私よりも……ちゃんと話さないといけない人が来てるから」

せつ菜「え……」


その言葉を聞き──真姫さんの後ろを見ると、


菜々父「菜々……」

菜々母「菜々……」

せつ菜「お父さん……お母さん……」


お父さんとお母さんがいた。


せつ菜「あ…………わ、わたし……その……わた、し……おとうさんと、おかあさんに……迷惑……かけ……て……」

千歌「せつ菜ちゃん、そうじゃないよ」

せつ菜「え……」

真姫「今貴方が伝えなくちゃいけないことは……そういうことじゃないでしょ?」

せつ菜「………………はい」


私はお父さんとお母さんの前に歩み出て、二人の顔をしっかりと見る。


せつ菜「お父さん……お母さん……私──ポケモンが大好きなの。……ポケモンバトルが大好きなの。……危ないこともいっぱいある、うまく出来ないこともいっぱいある。だけど──大好きなの」

菜々母「……うん」

菜々父「……そうか」

せつ菜「だから、私がポケモントレーナーでいることを……許してください……! 私は大好きなものを諦めたくないから……! 大好きを諦めたら──私が私でいられなくなっちゃうから……! だから──」

菜々父「……じゃあ、いつかはチャンピオンにならないといけないな……」

せつ菜「え……」
534 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:04:04.37 ID:VUrl28Mg0

お父さんはそう言って、私の頭を一度だけ撫でた。

その後、背を向けて──


菜々父「……私は、ポケモンを好きにはなれないけどな……」


それだけ言うと、数人のガードの人と共に、お父さんは行ってしまった。


せつ菜「えっ……と……?」

菜々母「……ふふ、許してくれるって」

せつ菜「そ、そういうことで……いいの……?」

菜々母「お父さん……菜々にいろいろ言っちゃったから、素直に認めづらいみたいだけど……菜々のポケモンリーグのビデオ見てるとき、すっごく熱くなってたのよ?」

せつ菜「え?」

菜々母「判定に対して、『今のは合理的に考えて審判がおかしかった。やり直すべきだ』って」

せつ菜「お父さんが……?」

菜々母「そうよ。……菜々の試合を見てたらね……菜々がすごく真剣で、菜々は本当にこれが大好きなんだって……お父さんもお母さんも、わかったから」


そう言いながら、お母さんは私を抱きしめる。


菜々母「ごめんね、菜々……。私たち……貴方ともっともっとお話ししなくちゃいけなかった……。……遅いかもしれないけど……これからたくさん、菜々の大好きなもの、大切なもの……私たちに教えてくれないかな……?」

せつ菜「…………うん……っ……。私こそ……今まで……ちゃんと、言えなくて……ごめんなさい……っ……」

菜々母「うぅん……大丈夫よ」


お母さんは私を抱きしめながら、頭を撫でてくれた。


菜々母「それでね……。実は菜々……貴方に会いたいって人がいるの」

せつ菜「え……?」


そう言って、お母さんが私を離すと──その後ろに、その人が居た。


善子「──こうして……博士として会うのは……初めてかもしれないわね。せつ菜。……いいえ──菜々」

せつ菜「ヨハネ……博士……?」

善子「やっと、会えた……」


ヨハネ博士は私の目の前まで歩いてくる。


善子「手、出して」

せつ菜「え?」

善子「いいから」


私が手を出すと──


善子「これから頑張りなさい。……貴方は──このヨハネにとって、初めて旅に送り出すトレーナーなんだから」

せつ菜「……あ」


私の手の平に上に──真っ赤なポケモン図鑑と……モンスターボールが1つ、置かれていた。


善子「貴方のポケモン図鑑と──」


ヨハネ博士が私の手に乗せられたモンスターボールのボタンを押し込むと──
535 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:04:35.73 ID:VUrl28Mg0

 「──ベアーマ!!」


私の足元に、灰色の小さな熊のようなポケモンが姿を現した。


善子「貴方の最初のポケモン──ダクマよ」


その言葉を聞いて、


せつ菜「……ぁ……っ、……ぅぁぁっ……」
 「…ベァ?」


私は思わず図鑑とボールを持ったまま──両手で顔を覆って、膝を突いてしまう。


せつ菜「ぅっ……ぅぁぁぁっ……!!」


ポロポロと涙が溢れ出して……そんな私を──ヨハネ博士が抱きしめる。


善子「……あのとき、手を離しちゃって……ごめんね……。……でも、もう大丈夫だから……貴方は、私の大切なリトルデーモンよ……」

せつ菜「う、ぁ、ぁぁぁっ……ぅぁぁぁぁぁぁん……っ……うぁぁぁぁぁぁ……っ……」
 「ベァ?」


私は小さな子供のように、声をあげて泣きじゃくる。

こうして私は……長い長い戦いの果てで、やっと── 一人のポケモントレーナーとして、始まることが出来たのだった。

本当に……本当に……長い……長い……道の果てで──



536 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:05:08.19 ID:VUrl28Mg0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.5 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.81 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.79 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.82 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:10匹 捕まえた数:9匹


 せつ菜は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



537 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:01:28.94 ID:Sh64zN700

 ■Intermission✨



果南「“アクアテール”!!」
 「ラァグッ!!!!」

愛「……よっと!」


愛がラグラージの振るう尻尾を、後ろに飛び退きながら避けると、


 「リシャンッ!!!!」


愛の陰から、リーシャンが飛び出してくる。


愛「“しねんのずつき”!」
 「リシャンッ!!!!」

 「ラグッ!!!?」


的確にラグラージの顎下を突き上げるように、リーシャンが体をぶつける。


果南「く……っ!! “アームハンマー”!」
 「ラァグッ!!!」


ラグラージはすぐに顎を引き、目の前にいるリーシャンに向かって拳を振り下ろすが、


愛「“ねんりき”♪」
 「リシャンッ」


リーシャンの周囲に力場が発生して、ラグラージの腕を弾く。


鞠莉「ね、ねぇ……ま、まずくない……?」

ダイヤ「果南さんが……リーシャン1匹に押されてる……!?」

鞠莉「わたしたちも加勢に入った方が……!」


一旦ゲートを閉じてでも、愛の撃退をするべきかと思ったけど、


果南「ダメっ!! 二人はゲート維持に集中して!!」


果南は私たちの加勢を拒否する。


ダイヤ「ですが……!」

愛「そーだよー。加勢してもらった方がいいんじゃない〜?」


愛がケラケラと笑いながら果南を挑発する。


果南「相手の狙いはゲートでしょ!? こんなんで、ゲート閉じてたら、それこそ思うツボだって!!」

愛「へー押されてる割に冷静じゃん」

果南「そもそも私は、二人のゲート維持を邪魔させないためにいるんだ……! ラグラージ、メガシンカ!!」
 「ラァグッ!!!!」


ラグラージが光に包まれ、メガラグラージへと姿を変え、腕の噴出口から空気を逆噴射しながら、ラグラージが急加速する。


果南「“たきのぼり”!!」
 「ラァァァァグッ!!!!!!」
538 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:02:18.75 ID:Sh64zN700

ラグラージがリーシャンに向かって、滝すら登れるような、ものすごいスピードで飛び出す。

が、


愛「じゃ、こういうのはどう?」


愛はそう言いながら、リーシャンを胸に抱え込み──自らラグラージに向かって走り込んでくる。

そして、そのまま──スライディングをするように、突撃してくるラグラージの足元を潜り込んで、


愛「“ハイパーボイス”!」
 「リシャァァァーーーーンッ!!!!!!」

 「ラグッ…!!!?」


ラグラージの真下から、真上に指向性を向けた“ハイパーボイス”によって、ラグラージの体が宙を浮く。


果南「なっ……!?」


そして、滑り抜けた愛の手には、


 「──ルリッ!!!」

果南「ルリリ……!?」

愛「“たたきつける”!!」
 「ルリッ!!!」


愛はルリリの胴体を右手で掴み、自身の腕を横薙ぎに振りながら──その勢いをプラスしたルリリの尻尾が果南の脇腹辺りに飛んでいく。


果南「がっ……!?」


果南は咄嗟に腕でガードしたけど──その勢いに負けて吹っ飛ばされた。


鞠莉「果南っ!?」
ダイヤ「果南さんっ!?」

愛「……ダメだよ、これはただのバトルじゃなくて、戦争なんだからさ〜」


愛がそう言い放つのと同時に、


 「ラグゥッ…!!!?」


先ほど真上に飛ばされたラグラージが、落下してくる。


果南「ぐっ……! ぅ……っ……」

愛「って、マジ!? あれ直撃したのに、すぐ立つんだ!」

果南「鍛えてるからね……」


果南が腕を押さえながら立ち上がると同時に、


 「ラァァァァグッ!!!!」


ラグラージが大きな腕を振りかぶって、愛に飛び掛かる。が、


愛「“ねんりき”」
 「リシャンッ!!」


その拳との間に飛び出したリーシャンが──また力場でラグラージの拳を弾く。
539 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:02:52.63 ID:Sh64zN700

 「ラグッ…!!!」


腕をかち上げられて、隙が出来たところに、


愛「ほら、“プレゼント”だよ」
 「ルーリィ〜」


ルリリが“あわ”を吐き出し──それは、ラグラージの顔の目の前で大爆発した。


 「ラ、グ…ッ!!!」


至近距離で爆弾の爆発を受けたラグラージは、そのまま白目を向いてひっくり返る。


果南「ラグラージ……!! く……ギャラドス!!」
 「──ギシャァァァ!!!!」


果南はすぐに倒れたラグラージの代わりに、ギャラドスを繰り出した。


ダイヤ「……鞠莉さんっ!!」


わたしの名前を呼びながら、ダイヤが“こんごうだま”を投げ渡してくる。


ダイヤ「ディアルガの制御、お願いします!!」

鞠莉「え!?」


そう言いながら、ダイヤは、


ダイヤ「ハガネール!!」
 「──ガネェェェェルッ!!!!!」

ダイヤ「メガシンカ!!」


ハガネールをメガシンカさせる。


ダイヤ「“アイアンヘッド”!!」
 「ンネェェェェーーーールッ!!!!!」


メガハガネールは全身を回転させながら、愛に向かって突っ込んでいく。

それに対して愛は、


愛「リーシャン」
 「リシャンッ」


リーシャンを左手で掴んで、ジャンプしながらリーシャンを下に向けると──空気に弾かれるように上空に向かってジャンプする。


ダイヤ「なっ……!?」


突然予想外の大ジャンプをされ、ハガネールの攻撃が相手のいない地面に突き刺さる。

愛は、そのままハガネールの上に着地し、


愛「あらよっと……!」


そのまま、ハガネールの体の上を走りだす。

そして、右手に掴んだルリリをブンと振ると──伸びた尻尾が猛スピードでダイヤの側頭部に迫る。
540 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:04:38.55 ID:Sh64zN700

ダイヤ「……!?」

果南「ギャラドス!! “アクアテール”!!」
 「ギシャァァァァァッ!!!!」


ダイヤに向かって迫るルリリの尻尾に合わせるように、ギャラドスが尻尾を振るって弾き返す──が、


 「ギシャァァッ…!!!」


ギャラドスの尻尾も振りかぶり切れずに弾かれ、ダイヤのすぐ真横の地面に叩きつけられる。


ダイヤ「く……っ……!?」

果南「ダイヤ、無事!?」

ダイヤ「は、はい……!!」

愛「へー、やるじゃん」


ハガネールの上でステップを踏む愛だが──


 「ンネェェェーールッ!!!」

愛「おろ?」


ハガネールが勢いよく尻尾を振り上げて、愛を上空にぶん投げる。

そのまま、


 「ンネェェェェェルッ!!!!!」


大きな顎を開きながら──愛に向かって、頭から突撃していく。


ダイヤ「“かみくだく”!!」
 「ンネェェェェルッ!!!!!」


空中で無防備な愛に、大顎がバクンと噛みついた──ように見えたが、


 「ン、ネェェェェル…!!!」

愛「ふー、危ない危ない……」

ダイヤ「嘘……でしょ……っ!?」


ハガネールの口の中で、リーシャンが発生させた球状の力場がハガネールの大きな顎を無理やり押し開いていた。

愛を守る力場の球はハガネールが口を閉じようとする勢いを利用して──スポンと上に飛び出し、


愛「ルリリ!! かますよ!!」
 「ルリッ!!!」


空中に飛び出した反動を利用して、ルリリを振りかぶった。


愛「“アイアンテール”!!」
 「ルーーリィッ!!!!」


遠心力を使って伸ばされたルリリの尻尾が、


 「ンネェェェーーールッ!!!!!?」


ハガネールの頭を真上から殴りつけ──


ダイヤ「……!?」
541 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:05:23.49 ID:Sh64zN700

その衝撃を受けハガネールが白目を向いたまま──ダイヤに向かって、猛スピードで倒れ込んできた。

ハガネールの巨体はダイヤを巻き込み、その重量で大地を割り砕く。


果南「ダイヤッ!!?」

鞠莉「ダイヤッ!!!」


果南がダイヤに向かって駆けだす。

ダイヤは──


ダイヤ「…………」


押しつぶされこそしなかったものの、ハガネールが割り砕いた大地に巻き込まれ──全身のあちこちから出血しながら、気を失っていた。


愛「重量級のポケモンを使うと、こういうリスクがあるんだよねー」

果南「ダイヤッ……!!!」


果南がダイヤを瓦礫の中から救出しようとした瞬間──


愛「“ハイパーボイス”!!」
 「リシャァァァァァーーーーンッ!!!!!」

鞠莉「果南っ!! 避けてっ!?」


駆け寄る果南に向かって、“ハイパーボイス”が迫る。


果南「“アクアテール”!!」
 「ギシャァァァァッ!!!!」


それに対抗するように、ギャラドスが尻尾を音を超える速度で縦薙ぎにし──音波攻撃自体を吹き飛ばす。


愛「うぉっ!? マジ!?」


愛もさすがにそんな方法で“ハイパーボイス”を防がれると思っていなかったのか、驚きの声をあげる。


果南「ダイヤ……!!」


ギャラドスが攻撃を防ぎ、その間に果南がダイヤを瓦礫の中から抱き上げる。


ダイヤ「……か、な……ん…………さ……」

果南「喋らなくていい……! とにかく治療を──」

 「──ギシャァァァッ!!!?」

果南「!?」


ギャラドスの鳴き声に驚き果南が視線をギャラドスに戻すと──ギャラドスの首に、ルリリの伸ばした尻尾が巻き付いていた。


愛「……よそ見してるなんて余裕だね〜」
 「ルリッ」


その巻き付けた尻尾を戻す勢いに引っ張られるように愛がギャラドスの頭部に向かって飛び出し──


愛「リーシャン、行くよ!」
 「リシャァンッ」


左手に持ったリーシャンが発生させた力場を、まるで拳のようにして──
542 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:06:30.44 ID:Sh64zN700

 「ギシャァァァァッ…!!?」


ギャラドスの顔面を殴りつけた。


果南「ギャラドス!?」


ギャラドスの巨体が、いとも簡単に吹っ飛ばされる。


果南「っ……!」


果南がすぐ様、次のボールに手を伸ばした瞬間──果南の周囲に、大量のサイコキューブが出現する。


果南「……!?」

愛「“サイコショック”」
 「リシャンッ」

果南「ダイヤッ!!!」


果南は咄嗟にダイヤを庇うようにして、その場に伏せって覆いかぶさる。

直後、サイコキューブが弾丸のように、果南の背中に降り注ぎ──


鞠莉「果南っ!!?」

果南「……ぁ……ぐ……っ……。……く、そ…………ッ……」


果南はその場に崩れ落ちた。


愛「よし、いっちょあがり」

鞠莉「うそ……」


果南とダイヤが負けた……?

元チャンピオンと四天王よ……?


愛「さーて……あと一人」

鞠莉「……っ」


愛がこちらに視線を向けてくる。

どうする……。

わたしもバトルが苦手なわけじゃないけど、さすがに果南やダイヤほどの実力はない。

その二人をここまで圧倒した相手に、わたし一人で勝つのは難しい──いや、ほぼ無理だ。


鞠莉「……ロトム」
 「ロ、ロト…」

鞠莉「わたしの図鑑に」
 「──マ、マリー…」


ボールから出したロトムをわたしの図鑑に入れさせる。


鞠莉「わかるわね」
 「ロト…!!!」


ロトムはわたしの言葉に頷くと──ゲートの中に入っていった。

それを確認して、わたしは愛に向き直る。
543 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:07:02.43 ID:Sh64zN700

鞠莉「……あなたの目的は何? ゲートの破壊?」

愛「まあ、それも悪くないんだけどね。アタシの目的は──その子たちだよ」


そう言って指差したのは──ゲートの前にいるディアルガたち。


愛「大人しく渡してくれれば、アタシも手荒なことしなくて済むんだけどな」

鞠莉「……」


さっき善子から聞いたゲートの通過時間を考えれば……そろそろ、ロトムはゲートの向こうに抜けたはず……。


鞠莉「……ディアルガ!! パルキア!!」
 「ディアガァァァァッ!!!」「バアァァァァルッ!!!!!」


“こんごうだま”と“しらたま”を使って、ディアルガとパルキアに“テレパシー”を飛ばし、ゲートを閉じさせる。


愛「……はぁ、やるってことね」


どこまで出来るかはわからない……。だけどこのまま、はいわかりましたと、ディアルガやパルキアを渡すわけにはいかない。

わたしが戦闘態勢に入ると同時に──


 「──ギシャラァァァァァッ!!!!!!」


ギラティナが“シャドーダイブ”で愛に向かって突っ込んでいく。


愛「……ま、いいや」
 「リシャンッ!!」


愛がそう言いながら手に持ったリーシャンをギラティナに突き付けると、


 「ギシャラァァァァ…!!!!」


ギラティナもリーシャンの作り出したサイコパワーの力場で、押し返される。


愛「3匹まとめて相手してあげるよ」

鞠莉「行くわよ!! ディアルガ!! パルキア!! ギラティナ!!」
 「ディァガァァァァァ!!!!!!」「バァァァァァァルッ!!!!!!」「ギシャラァァァァァァァッ!!!!!」


3匹の伝説のポケモンの鳴き声が、やぶれた世界に轟いた。


………………
…………
……


544 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:16:45.81 ID:Sh64zN700

■Chapter067 『果林』 【SIDE Emma】





姫乃ちゃんとの戦いを終えて……。


彼方「いったたたたっ!!」

遥「うーん……肋骨……かなり折れてるね……。よくこれで肺に刺さらなかったね……」

彼方「お、お姉ちゃん……運、いいからね〜……」

遥「でもあんまり激しく動いちゃダメだよ? これから刺さるかもしれないし……」

彼方「善処しま〜す……」


今は戦闘後の治療の真っ最中。

そんな中わたしは、どうしても彼方ちゃんに聞きたいことがあった。


エマ「ねぇ、彼方ちゃん」

彼方「ん〜? な〜に〜?」

エマ「……彼方ちゃんって、果林ちゃんと一緒の孤児院で育ったって……さっき言ってたよね……?」

彼方「ああうん。……そうだね……」

エマ「……あのね、わたし姫乃ちゃんに言われてハッとしたの……。……わたし、果林ちゃんのこと……本当は何も知らないんじゃないかって……それで、説得しに来たなんて言っても……お前に何がわかるんだ〜って言われちゃって当然なのかなって……」


わたしが勝手に、果林ちゃんのことをわかった気になっていただけな気がしてならない。

もちろん、だからといって今の果林ちゃんを放っておけないという気持ちは本当だけど……。


エマ「ねぇ、彼方ちゃん……果林ちゃんが自分の住んでた世界にいたとき……どんな子だったか……教えてくれないかな……?」

彼方「…………結構辛い話になると思うけど、それでもいい?」


彼方ちゃんがそう確認を取ってくる。


エマ「うん……。むしろ、果林ちゃんの辛い気持ちに寄り添ってあげたいから……教えて」


わたしの言葉を聞くと、彼方ちゃんは頷いた。


彼方「……わかった。…………そうだなぁ……あれは……果林ちゃんが“虹の家”に来たときだから……もう、7年も前になるのかな……」


彼方ちゃんはそう前置いて、話し始めた。





    👠    👠    👠





──崖下で陽炎に揺れ燃える大地の中で、侑と歩夢が私と戦うために身構えていた。

しずくちゃんには……まんまとやられてしまった。まさかあんな形で裏切られるなんて……噫、私はいつもこうだ。

璃奈ちゃんも彼方も……みんな……私の傍から離れて行ってしまう。

愛も……本当に仲間と呼べた頃が、もう記憶の遥か遠くで……。今は何をしたいのかがよくわからない。

きっと……私の味方は……本当は最初から誰もいなかった……。全てがめちゃくちゃになった……あの、厄災の夜から──

545 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:17:17.49 ID:Sh64zN700

────────
──────
────
──


 「──大丈夫……!? しっかりして……!?」

果林「ん……ぅ……」


大きな声で呼びかけられ、目を開けると──見知らぬ女の人が居た。救助隊の格好をしているから……救助隊なのだろう。


女の人「……! 息がある……! 人工呼吸器回して!!」


人工呼吸器を口に当てられる。


女の人「あなただけでも……助かってよかった……」

果林「…………」


私が揺れる船の窓から、外に目を向けると──真っ暗な夜の闇の中……私の故郷の島が……今まさに……海に飲み込まれているところだった……。





    👠    👠    👠





あの夜──所謂“闇の落日”と呼ばれるあの日のことは、今でも忘れられない。

本当にそれは唐突で……急に大きな地震が起こったかと思ったら、大地が裂け、家が崩れて飲み込まれた。

命からがら脱出し、家族と逃げ惑う中、崩れた大地からは瘴気が噴き出し、それを吸い込んだご近所さんが喀血して、倒れた。

私たちは必死に逃げた。道中で、大地の崩落に友達が巻き込まれるのを見た。

「助けないと」と泣き叫ぶ私を、両親が無理やり引き摺るようにして、島の高台へと逃げ──その道中、砕ける岩の崩落にお父さんが巻き込まれて、瓦礫と共に消えていった。

島の高台にたどり着けたのは……私とお母さんと──


 「コーン…」


小さい頃から大切にしていた、ロコンしかいなかった。

高台に逃げても……どんどん水位が上がってきて……瘴気の影響もあって、私の意識は朦朧としていた。

そんなとき──救いの手とも言える、ヘリのライトが私たちを照らした。

朦朧とする意識の中──「果林! しっかりして!!」──母が私を押し上げ、ヘリの救助隊の人がやっとの思いで私をヘリに引っ張りこんだ直後──

お母さんとロコンは──高台ごと……海に飲み込まれた。一瞬だった。

私の意識は、そこで途絶え──次に目を覚ましたときには……船の上から……遠方で大きな渦潮に飲み込まれるように、私が生まれ育った故郷が沈む姿を眺めていたのだった。





    👠    👠    👠





院長「──今日からここが貴方のお家よ」

果林「…………ありがとう、ございます……」
546 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:17:48.58 ID:Sh64zN700

保護された私は、あの“闇の落日”の中でも残った大きな都市国家の一つである──プリズムステイツの郊外にある“虹の家”という孤児院に送られた。

当時15歳。

もう分別のわかる歳だった。だから……どうしようもないことが起こったんだと理解出来た。だけど……だからこそ、辛かった。

何もわからないくらい……小さな子供だったらよかったのにと、何度も思った。


院長「果林ちゃん15歳よね? 実はわたしの上の娘も同い年なのよ。かなちゃーん?」

 「なーにー?」


気の抜けるような声で返事をしながら、院長先生とよく似た髪色の女の子がとてとてと歩いてきた。


院長「この子、果林ちゃん。今日から、一緒に住むことになる子よ」

彼方「あーうん、言ってた子だよね〜。彼方ちゃんはね〜彼方って言うの〜。よろしくね〜」

果林「……よろしく」


これが──私と彼方の初めての出会いだった。





    👠    👠    👠





“虹の家”には私を含め、10人の子供と……院長先生の娘である彼方と遥ちゃんの計13人が一緒に暮らしていた。

大きな孤児院ではなかったけど、院長先生は率先して“闇の落日”で身寄りを失った子供を受け入れていたそうだ──もちろん、それでも孤児の数が多すぎるため、こうして受け入れてもらえただけでも、運がよかったと言える。

ここにはおおよそ10歳くらいの子が多く、私と彼方はその中でも最年長だったけど……私はあまり年下の子と上手に接する自信がなかったため、一人で過ごしていることが多かった。

もちろん、邪険に扱っていたわけではないから、嫌われたり、怖がられていたということはなかったけど……。

一方で彼方は……なんだか掴みどころのない子だった。

孤児院内で率先して家事を手伝っていたり、他の子たちの御守りも率先してやっていたとかと思えば……暇が出来ると、


彼方「…………むにゃむにゃ……」
 「……メェ……zzz」


ウールーと一緒に日の高いうちからお昼寝していたり……忙しないのか、のんびりしているのか、よくわからない子だった。

わかりやすいことと言えば……とにかく妹の遥ちゃんが大好きだということだろうか。

そして、一番わからなかったのは──


果林「……」


“虹の家”の近くの岬に……簡易的に建立された──沈んだ私の故郷の慰霊碑があった。

慰霊碑と言っても……本当に簡易的なもので、見た目はただの大きめの石。……これが慰霊碑であると言われなければ誰にもわからない。そんな代物だった。

私はこの慰霊碑に手を合わせるのが日課だった。

そして両手を合わせて目を開けると、決まって──


彼方「……」
 「メェ〜〜」


いつの間にか隣で、彼方も両手を合わせていた。仲良しのウールーと一緒に。


果林「……」
547 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:18:26.53 ID:Sh64zN700

私が無言で慰霊碑を後にすると──彼方も特に何も言わずに、孤児院へと戻っていった。それが毎日。

私は特別進んで彼方とコミュニケーションを取っていたわけではなかったけど……この時間は何故か、彼方と二人で過ごす時間だった。

私が慰霊碑を訪ねると、本当に毎日、律義なことに……気付けば彼方が隣に居る。さすがに気になって、ある日──


果林「…………ねぇ、彼方」


私は彼方に声を掛けてみた。


彼方「ん〜?」
 「メェ〜〜」

果林「院長先生に何か聞いたの?」


さすがに院長先生は、私の島のことは知っているけど……何も知らない彼方が、こうして手を合わせてくれる理由がよくわからなかった。

だから私は、てっきり院長先生が何かを言ったのかと思っていたんだけど……。


彼方「うぅん、特に何か聞いたわけじゃないよ〜? まあ……毎日手を合わせてるのを見たら……なんとなく、わかるし……」
 「メェ〜〜」

果林「……まあ、言われてみればそれもそうね……」


孤児院に居る人間が毎日欠かさず手を合わせている石を見たら……なんとなく、わかるか。


果林「……見ず知らずの人たちの慰霊碑に、毎日手を合わせに来るのは、大変じゃない?」

彼方「うーん……それは特に考えたことなかったな〜。もしかして、迷惑だった?」
 「メェ〜〜」

果林「迷惑なんてことはないけど……不思議だと思ったから」

彼方「彼方ちゃんは関係ない人なのに、どうしてこんなことしてるんだろうってこと?」

果林「まあ……そんな感じ」

彼方「う〜ん……それは……果林ちゃんがいっつも一人で行動したがるからかな」

果林「……どういうこと?」

彼方「果林ちゃんが……新しい場所でずっと一人だったら……心配しちゃうかなって思って……」


そう言いながら、彼方は慰霊碑を見つめる。


果林「彼方……」

彼方「あ、もちろんみんなで行動しろって意味じゃないよ〜? 一人が好きな人もいるからね〜。だから、こうしてご家族に報告するときだけでも……彼方ちゃんが隣にいるのを見れば、安心してくれるかなって……」


それは彼方なりの優しさだった。……見ず知らずの私の家族が、今の私を見て心配しないようにと……。


果林「……ありがとう……。……私の家族もきっと……安心してると思うわ……」

彼方「ならよかった〜。じゃ、戻ろっか〜」


私がお礼を言うと、彼方はニコっと笑う。優しい笑顔だった。


果林「…………聞かないの?」

彼方「ん〜果林ちゃんが言いたいなら」


彼方は不思議な子だった。

寄り添っているように見えて、自分からは踏み込んでこない。

それは彼女が人を優しく慮っているからこそ出来ることで……見ず知らずの私を家族として扱ってくれているからに他ならなかった。

だからだろうか……私を家族と思ってくれる人にくらいは……言ってもいいのかな、と……。
548 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:19:07.49 ID:Sh64zN700

果林「…………平和な島だった。あの日まで……」

彼方「うん」

果林「…………もちろん世界がどうなってるかは知ってるし……いつか起こるかもしれないとは、みんな思っていたけど……急だった。つい数時間前まで話してた島の人たちが、友達が……家族が、ポケモンが……みんな……私の目の前で、死んでいった……」

彼方「……うん」

果林「……全部……飲み込まれて……なくなっちゃった……。……もう、私の住んでた故郷は……影も形も……残ってないんだって……。残ってるのは……たまたまポケットに紛れ込んでた、この小石くらいかな……」


そう言って……彼方に小石を見せる。

逃げ惑っている際に紛れ込んでしまっただけだろうけど……今となっては、これ以外にあの島にあったものは何も残っていなかった。


彼方「……」
 「メェ〜〜」


そんな私を見て……彼方は無言で私を抱き寄せ──頭を撫でてくれた。


果林「大切な人が……場所が……なくなるのは……悲しい……。…………もう誰にも……こんな想い……して欲しくない……」

彼方「……うん」


もし、こんなどうしようもない世界を救う方法があるのだとしたら……私は迷わずにそれを選ぶのに。

あまりに無力な自分が……虚しくて……悲しかった。





    👠    👠    👠





孤児院に来て数ヶ月経った頃、私はプリズムステイツにある、警備隊へと入隊することを決めた。

プリズムステイツはいろんな場所から、いろんな種類の人間が故郷を追われ生活している場所だから……なんというか、あまり治安がいい場所ではなかった。

それ故に、警備隊での仕事は決して安全なものではないし……だからこそ、稼ぎも相応によかった。

それに孤児院経営も決して裕福な環境で行っているわけではないのは、近くで見ていればわかったし……少しでも、私を拾ってくれた院長先生への恩を返したい気持ちもあった。

そして、何より──


彼方「それじゃ〜、今日も頑張ろうね〜」


彼方が私と同じような考えで、この警備隊へ入ろうとしていることを聞いたから、一緒に入隊した。

──入隊すると、戦闘用のポケモンが支給された。そのときに彼方はネッコアラを貰い……なんの因果か、私に支給されたポケモンは、


 「コーーン」


故郷で失った家族と同じ種類のポケモン──ロコンだった。

自分で言うのもなんだけど、ありがたいことに私にはポケモンで戦うセンスがあった。

そしてそれは彼方も……。

私たちはあっという間に、警備隊の中でもトップクラスの強さへと伸し上がり──ものの半年で私は率先して前に出る攻撃部隊の隊長に、彼方は救護や防衛を主とする防御部隊の隊長になっていた。

ただ……それは決して、楽でもなければ、楽しいものでもなかった。
549 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:27:10.65 ID:Sh64zN700

果林「キュウコン、“ひのこ”!!」
 「コーーーンッ!!!」

男「あ、あちぃっ……!?」

果林「さぁ……盗ったもの……返しなさい。返さないなら……痛い目に合わさないといけないの……だから……」

男「か、勘弁してくれ……家族を食わせるためなんだ……」

果林「…………キュウコン、やりなさい」
 「コーンッ」


──窃盗は特に多かった。

土地が減れば、資源も食糧も乏しくなる。いつも誰かが誰かの住処と食糧と──命を奪い合っているような世界。

そして……私も、その一部だ……。


果林「…………」

彼方「……あの人……しばらく投獄されるって。常習犯だったから……お手柄だって、上の人が言ってたよ……」

果林「…………」

彼方「……果林ちゃん……」

果林「…………あの人の家族は……きっと、飢えて死ぬ……。……私が……殺したようなものだわ……」


私は寮のベッドの中で横になり、丸くなって、頭を抱える。

そんな私を見て──彼方はベッドに腰かけ、私の頭を撫でる。


彼方「果林ちゃん……果林ちゃんが辛いなら、彼方ちゃんと同じ防御部隊に回してもらうようにお願いしない……? 彼方ちゃんもお願いするから……」

果林「…………いい。……今は……一人にして……」

彼方「果林ちゃん……。……わかった。……あとでご飯持ってくるから、一緒に食べようね」


──きっとこれは私の役割だ。そう思っていた。

だから、上の人間には、彼方は防御部隊の隊長が適任であると、何度も伝えていた。

そして……私が攻撃部隊として……全てを排除すれば、彼女が辛い戦いをすることも減る……そう考えて、戦い続けた。

彼方には……誰かから奪うなんて似合わないから。





    👠    👠    👠





──警備隊に入って1年ほど経ったある日、


果林「政府主導の研究機関に統合される……?」

彼方「うん、そうらしいよ〜」


二人で食事をしているときに、彼方からそんな話を聞かされた。
550 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:27:45.33 ID:Sh64zN700

彼方「まだ、噂話を聞いただけだから……実際どういう感じになるのかはわからないけど〜……」
 「メェ〜〜」

彼方「はいはい、ご飯ね〜」
 「メェ〜」

果林「研究……聞いただけで、鳥肌立ちそう……」

彼方「あはは〜、果林ちゃんお勉強は苦手だもんね〜」

果林「……別にいいでしょ。……それにしても、なんでまた……」

彼方「なんでも、すご〜い研究者の人が、すご〜い発見をしたらしくってね〜」

果林「ふーん……そのすご〜い研究者のすご〜い発見ってなんなの……?」


私は話半分に聞いていたけど──


彼方「……世界を救う方法が、見つかるかもしれないんだって〜」

果林「え……?」


私は彼方の言葉を聞いて、目を見開いた。


果林「ホントなの……?」

彼方「なんかね、どうして世界がこんなになっちゃったのか……突き止められたかもしれないって〜。それをすご〜い研究者の人たちが見つけたみたいなの」

果林「も、もっと詳しく……!!」

彼方「あわわ……急に食いつきよくなった……。……でも、彼方ちゃんが知ってるのはここまで〜……噂話だから、どこまで本当なのかはよくわからないし……」

果林「なんだ……」

彼方「結局は実際に統合されてからじゃないとだね〜……。あ、ただ……」

果林「ただ……?」

彼方「噂によると……そのすご〜い研究者さんたちは15歳と14歳の女の子二人組らしいよ〜」

果林「……15歳と14歳って……」


どっちも私たちより年下じゃない……。





    👠    👠    👠





──実際に噂どおり、私たちプリズムステイツ警備隊は、政府主導でプリズムステイツの研究機関の実行部隊へと組み込まれることになった。

そして私と彼方は……警備隊での実績もあったため、その実行部隊の隊長、副隊長へと任命された。


彼方「か、かかか、果林ちゃん……!! この契約書見て……! お給料……すごいよ……!!」

果林「さすが政府の抱える実行部隊の隊長ね……」


──ここに来るまでに、なんとなくの説明は受けた。

確かに彼方の言うとおり、今この世界がどうしてこんなことになってしまったのか……それを突き止めた天才科学者が居たらしく、プリズムステイツでもトップクラスの戦闘能力を持つ私たちには、何かと発生する荒事を任せたいとのことだった。

その際、今この世界に何が起こっているのかも簡単に聞いたけど……正直何を言っているのかちんぷんかんぷんだった。エネルギーが世界から流出するのがどうたらとか……。

まあ、わかっていなかったのは私だけじゃなくて、彼方も同じような感じだったので、私の理解力が特別低いわけではない。……はず。

そして今日は、実際にその天才科学者二人と顔合わせするということで、早めに着いた私たちは研究所の応接室に通され待っているところだ。

今後は私たちとその二人の科学者さん、合わせて4人で連携を取っていくことになる。
551 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:30:40.44 ID:Sh64zN700

彼方「研究者さん、どんな子たちなんだろーねー?」
 「メェ〜」

果林「正直……気が進まないわ……」

彼方「そうなの〜?」
 「メェ〜」


彼方が膝の上のウールーを撫でながら、のんきな声で訊ねてくる。


果林「科学者って、きっと眼鏡掛けて白衣を着たお堅い形の子たちってことでしょ……? いかにも勉強の話ばっかりしてる感じの……」

彼方「偏見すごいね〜……。失礼だから、本人たちにそんなこと言っちゃダメだよ〜?」
 「メェ〜」

果林「言わないわよ……」


とはいえ、うまくやっていける気がしない……。

もちろん、世界を救うためと言うなら協力するのは吝かではない。むしろ望むところだ。

ただ……理論の話とかは聞きたくない。絶対にその日一日、頭痛に悩まされるハメになること請け合いだ。


彼方「まあ、嫌だったら果林ちゃんは横でおすまし顔しててくれればいいから〜。果林ちゃん綺麗だから、座ってるだけでも絵になるし〜」

果林「……場合によってはそうするかも……」

彼方「まあ、気楽に行こ〜。そろそろ時間かな〜?」


彼方の言うとおり、応接室内の壁掛け時計を見ると、そろそろ時間になろうとしていた。

そして──扉が開いた。


研究者1「お、もう着いてたんだね。待たせちゃったみたいで、ごめんね!」

研究者2「は、初めまして……」


そう言いながら応接室内に女の子が二人入ってくる。

私はその容姿で、すでに面食らってしまった。

一人は明るめの金髪をポニーテールに縛っている活発そうな女の子だった。

もう一人は外巻きカールのセミロングヘアをした小動物のような印象を受ける女の子。

この子たちが……噂の天才科学者たちなの……? イメージどおりなのは、白衣を着ていることくらいだった。

私と彼方は席から立ち上がる。


果林「この度、プリズムステイツ警備隊から統合される形で配属されました、アサカ・果林です」

彼方「同じく、コノエ・彼方です〜」

研究者1「あ、いいっていいって、これから一緒にやってく仲間なんだし、そういう堅苦しいのは無しで! 歳も近いらしいしさ! もっとフランクな感じでいーよ!」

果林「は、はぁ……」

愛「あっと……名乗ってなかったね。アタシはミヤシタ・愛! んで、この子はりなりー!」

璃奈「えっと……て、テンノウジ・璃奈です……」
 「ニャァ〜」

璃奈「この子は……お友達のニャスパー……です……」


璃奈ちゃんは腕に小さな猫ポケモンのニャスパーを抱いていて、その子も一緒に紹介してくれる。
552 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:31:12.72 ID:Sh64zN700

果林「……えっと……それじゃ、ミヤシタさんとテンノウジさん……」

愛「愛でいーよ! りなりーもファーストネームでいいよね?」

璃奈「うん。ファミリーネームは長いし……ややこしいから、璃奈でいい」

果林「……わかったわ。愛と……璃奈ちゃん」

 「ニャー」

果林「それと……ニャスパーね」


なんというか、愛は呼び捨てにしていい気がしたけど……璃奈ちゃんはなんというか……璃奈ちゃんという感じだった。


果林「それなら、私たちのことも下の名前で呼んで頂戴。良いわよね、彼方」

彼方「うん〜、もちろん〜。よろしくね〜、愛ちゃん、璃奈ちゃん〜。あ〜あと、この子は彼方ちゃんの親友のウールーだよ〜」
 「メェ〜〜」

愛「うん、よろー! カリン! カナちゃん! ウールーも!」

璃奈「よろしく、お願いします……果林さん……彼方さん……ウールー……」


挨拶をしながら、璃奈ちゃんは愛の後ろに隠れてしまう。


彼方「果林ちゃん、璃奈ちゃんが怖がっちゃってるかも……」
 「メェ〜〜」

果林「……彼方、それはどういう意味か説明してくれる?」

彼方「冗談だってば〜。璃奈ちゃん、もしかして緊張してるのかな〜?」

愛「あはは……りなりー緊張しいなんだよね。やっぱり、ボードあった方がいいんじゃない?」

璃奈「……初対面だから……素顔の方がいいと思ったけど……。……そうする」


璃奈ちゃんはそう言いながら──上着の中から、1冊のノートを取り出した。


璃奈「あ、あのね……私……人の顔を見て喋るの……緊張しちゃって苦手で……だけど、怒ってないし、怖がってないよ……」 || ╹ ◡ ╹ ||


そう言いながら、表情が描かれたページを開いて顔の前に掲げる。

少し変わっているけど……どうやらこれが、彼女なりの感情表現ということらしい。


彼方「あはは〜よかったね果林ちゃん、怖がられてないって〜」

果林「彼方……」

彼方「だから、冗談だって〜」

果林「はぁ……全く……。……これから一緒に頑張りましょう。私たちも早く貴方たちを理解できるように努力するわ」

璃奈「果林さんも彼方さんも優しそうな人でよかった。私もこれから一緒に頑張りたい。璃奈ちゃんボード「やったるでー!」」 || > ◡ < ||
 「ニャー」

愛「じゃ、これから、今後の活躍を祈って、もんじゃパーティーでもしますか〜!」

彼方「え、もんじゃってあのもんじゃ〜!? 今どき作れる人がいるなんて珍しい〜! 彼方ちゃんにも作り方教えて教えて〜」

愛「あははっ♪ 愛さん、もんじゃを作る腕には自信あるからね! 何を聞かれても、もんじゃいない! なんつって!」

璃奈「愛さん、今日もキレキレ!」 ||,,> ◡ <,,||

愛「どんなもんじゃいっ! あははは〜!!」


なんだか、思ったより変な人たち──主に愛が──だけど……。

想像していたよりは、意外と楽しくやっていけそうかも。私はそんな風に思うのだった。



553 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:31:44.45 ID:Sh64zN700

    👠    👠    👠





──結論から言うと、この二人……特に愛とはとても気が合った。


愛「あー!! また負けたぁー!!」

果林「はぁ……はぁ……。これで……私の10勝9敗7引き分けね……」

愛「カリンもっかい! 次勝って、10勝10敗にする!」

果林「あ、明日ね……今日はさすがにしんどいし、私はこの後取材があるし……愛にも研究があるでしょ……?」

愛「うー……わかった。でも、約束だからね!」


愛は研究者でありながら、とにかく戦闘でも腕が立つ子だった。

戦績としては拮抗しているように見えるけど……彼女の使うポケモンは全て小柄で進化前しかいない。

これで私と実力が拮抗しているのだから、末恐ろしい戦闘センスと言わざるを得なかった。


果林「……ねぇ、愛」

愛「ん?」


私は訓練場から、研究棟に戻る最中、愛に訊ねてみる。


果林「どうして、ベイビーポケモンばかり使うの? 貴方だったら、ポケモンを選べば実行部隊に居たとしても、遜色ないのに……」

愛「んー……リーシャンはもともと友達だったからだけど……りなりーが可愛いポケモンが好きって言うからさ」

果林「……それだけ……?」

愛「え? うん。それにりなりーったら、可愛いポケモンで敵をばっさばっさなぎ倒すところがかっこいいって褒めてくれてさ〜♪」

果林「……そう」


彼女と私とでは、戦いに対する価値観が違いすぎる……。

そこに関しては研究者らしい変わり者というか……だからこそ、戦闘員ではなく研究員なのかもしれない。


愛「──たっだいま〜♪」


愛が元気よく、中央研究室のドアを押し開くと、それに気付いた璃奈ちゃんと彼方が寄ってくる。


璃奈「愛さん、果林さん、おかえりなさい」
 「ニャァ〜」

彼方「二人ともおかえり〜」
 「メ〜」

果林「ただいま。彼方、今日は防衛演習があるんじゃないの? まだここに居て大丈夫?」

彼方「もう〜今日は夜間演習だって言ったよ〜? だから、今のうちにすやぴしておこうと思って〜」
 「メェ〜〜」

果林「……そうだったかしら……」


彼方は私と違って防衛隊の隊長だから、私とは訓練の運用スケジュールが全然違って覚えられる気がしない……。
554 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:34:49.89 ID:Sh64zN700

璃奈「愛さん。ボール収納時に発生する質量欠損と空間歪曲率の統計データ、ほぼ完成した」

愛「マジで!? まだだいぶ時間掛かる予定だったはずなのに……!?」

璃奈「予算がたくさん貰えたから、それで自動化ロボットを作る余裕が出来た。すごくありがたい」

愛「いや〜やっぱり、これもカリンとカナちゃんが来てくれたからだね〜♪ 統合サマサマだ〜♪」

彼方「あはは〜、やっぱりお金は大事だもんね〜」

果林「お陰で、“虹の家”の抜けた床と雨漏りが直ったって言ってたものね……」


政府主導の統合によって予算が増えたのは警備隊側だけではなかったらしく、研究所も正式な政府機関として、多額の予算が下りているというのは噂で聞いている。

それだけ、この機関には多くの期待が寄せられていた。

私は彼女たちの話を傍で聞きながら、トレーニングウェアを脱ぎ捨て、シャワーを浴びに行く。


彼方「あ〜も〜、また服脱ぎっぱなしにする〜……」
 「メェ〜」

果林「別にいいでしょ。急いでるのよ」

彼方「摸擬戦から帰ってきたばっかりなのに、もう出るの〜?」
 「メェ〜?」

璃奈「果林さん……今日はメディアからの取材がある」

果林「そういうこと」


私は手早くシャワーで汗を流して、表向きの格好に着替える。


彼方「あんまり忙しいなら……彼方ちゃんが代わるよ〜?」

果林「夜から演習なんでしょ。彼方は早く寝なさい」


私はそう残して、中央研究室を後にした。



555 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:35:22.67 ID:Sh64zN700

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私たちのやっていることは……簡潔に言ってしまえば、この世界を救うための最先端活動だ。

璃奈ちゃんと愛が、ウルトラスペースと言われる異次元空間の存在を発見したことを端に、プリズムステイツ政府はそれに世界の命運を懸けて、多額の予算と──そして、警備隊から多くの戦力を実行部隊として送り込んだ。

最初は研究機関が戦力を求める理由がよくわからなかったけど……どうやら、ウルトラスペースという空間には、ウルトラビーストと呼ばれる危険な生物がいるらしく、私たちはその生物たちとの戦闘を想定して、ここに呼ばれたらしい。

特に私と彼方は、特別優秀な戦力として数えられているらしく、私は攻めの対ウルトラビースト戦略、彼方は守りの対ウルトラビースト戦略を任されている。

今回のこの研究の注目度はかなりのもので……物資や土地の奪い合いで睨み合っていた他国も、プリズムステイツ政府に多額の資金援助や物資援助を申し出ているほど……つまり、全世界が私たちの動向に注目している。

私と彼方は孤児院の経営のために、稼ぎの良い仕事していただけのはずなのにね……──璃奈ちゃんや愛が常軌を逸した天才で、世界が注目するのはわかるけど……。

ただ、その理由は実際にここに来て、すぐにわかった。世界が注目している研究ということは──世界中からメディアも押し寄せてくるからだ。

国家間での電信通信なんてものが失われて久しいこの世界において、各国のメディアは何がなんでも自国に情報を持ち帰りたがる。有り体に言えば……少し強引なこともしてくる。

故に──前に立たせる人間が欲しかったということだ。

そして、私はそれに選ばれた。理由は……俗的な話だけど、要約すると顔とスタイルがよかったかららしい。

若くて、麗しい少女たちが前線に立ち戦う姿は、人々から支持を得やすいという目論見が上にはあるらしかった。

まあ……俗的だとは思うけど、容姿を褒められて悪い気はしないし、私はそこまで嫌だとは思わなかった。

何より、人前に出るのが極端に苦手な璃奈ちゃんを守る盾は必要だったわけだし、理由にも納得出来た。

……目立ちたがり屋の愛は、たまに勝手に付いてきて一緒に取材を受けていることもあったけど……。

──気付けば私たち4人は……世界中の期待を背負って、世界の命運を託されていたのだった。





    👠    👠    👠





璃奈「空間歪曲率上昇。ウルトラホール、展開」


璃奈ちゃんが機器を操作する中、ガラス張りの向こうにある実験室で──空間に穴があく。


愛「おっけー、ホール安定。このまま、維持するよ。ベベノム、苦しくない?」

 『ベベノ〜』『ベベノ〜』


愛が端末越しに2匹のベベノムに話しかけると、ベベノムたちは元気に返事をする。


果林「それにしても……ベベノムがウルトラビースト……ねぇ……」

彼方「ベベノムって、街外れの丘にたくさんいるからね〜……。“虹の家”の外でもたまに見かけてたよね」


ウルトラビーストは大きなエネルギーを体に持っていて──それによって空間を歪めて、ウルトラホールをあけることが出来る……璃奈ちゃんたちが突き止めた大発見はこれによって始まったらしい。

実際に目の前で奇怪な空間の穴を何度も見せられているので、それが嘘ではないということは理解出来ているけど……ちょっと街の外れにいくと生息しているポピュラーなポケモンが、危険と称されるウルトラビーストの仲間だったと言われてもなかなかピンとこない。


彼方「……すやぁ……」

果林「彼方、寝ないの」

彼方「えぇ〜……だってぇ〜……毎回、こうやってホールを見てるだけなんだもん〜……」

果林「私たちは万が一に備えてここに居るのよ」

彼方「わかってるけど〜……」
556 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:35:59.74 ID:Sh64zN700

確かに、ただホールがあいて、それが消えるのを見るだけなのが退屈なのはわかる。

私も気を抜くと、欠伸の一つでもしていまいそうだと思いながら、見ていると──その万が一が発生した。


璃奈「……! ホールにエネルギー反応!」

愛「この数値……!? ヤバイ!! りなりー、ホール閉じて!!」

璃奈「もう、やってる……! けど……ホールが外側からこじ開けられてる……!」

果林「な、なに……!?」


直後──研究室内のホールがカッと光り、


果林「……っ……!?」


眩い光の中に──


 「──フェロ…」


真っ白な上半身と、黒い下半身をした──細身のポケモンが立っていた。


果林「綺麗……」


思わず目を引かれてしまうような──そんな、美しいポケモンだった。


璃奈「ウルトラビースト……フェローチェ……!」

愛「カリン!! 直視しちゃダメ!! ウルトラビーストには人を操る力を持った奴がいるから!!」

果林「え……?」


直後──


 「フェロッ!!!」


ガシャァンッ!! と音を立てながら、ウルトラビーストがガラス張りの壁を蹴り破り──私に向かって突っ込んできた。


彼方「ネッコアラっ!! “ウッドハンマー”!!」
 「コァッ!!!」

 「フェロッ…!!」


振り下ろされるウルトラビーストの脚に対し、彼方のネッコアラが割って入るように丸太を振りかざして、弾き飛ばす。


彼方「果林ちゃん、平気!?」

果林「あ、ありがとう、彼方……!」


私は頭を振る。なんだか、頭がボーっとしていた。

愛の言っていたように、人を操る力とやらにやられかけていたらしい。


愛「私も戦う……! りなりー! 下がってて!」

璃奈「う、うん……ニャスパー、隠れるよ」
 「ニャァ」


璃奈ちゃんが机の影に隠れ、愛がウルトラビーストの前に出てくる。
557 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:36:29.40 ID:Sh64zN700

 「…フェロッ」

果林「いいわ、暴れるって言うなら……貴方が私を魅了するよりも早く……倒してあげるから……!」





    👠    👠    👠





果林「……はぁっ…………はぁっ…………」

愛「し……死ぬかと思ったぁ……」

彼方「……かなたちゃん……もう……うごけないぃ…………」


私たちは、3人の力を合わせて、どうにかウルトラビーストを倒し……捕獲することに成功した。

戦闘後の研究室内は……ボロボロだった。


果林「……どうりで……戦力を欲しがるわけね……」


こんなのを愛一人で対応し続けるのは、確かに無理がある……。


璃奈「みんな……大丈夫……!?」
 「ウニャァ〜」


戦闘が終わって、物陰に隠れていた璃奈ちゃんが心配そうに飛び出してくる。


彼方「ど、どうにか〜……」

愛「平気だよ……カリンとカナちゃんがいなかったら、さすがにやばかったけどね……」

璃奈「今、医療班を呼んでくるから……!」


部屋を飛び出そうとした璃奈ちゃんが、


璃奈「あれ……?」


何か気付く。


愛「りなりー?」

璃奈「……ウルトラホールがあった場所に……まだ、何か……いる……?」

果林「……!?」


私は、その言葉を聞いて身構えた──けど、そこにいたのは……。


 「ピュィ…」


小さな小さな……紫色の雲のようなポケモンだった。



558 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:37:12.36 ID:Sh64zN700

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──そこで捕まえた雲のようなウルトラビーストは……コスモッグというらしく、大量のエネルギーを内包するポケモンであることがわかった。

結論から言うと、このコスモッグを捕獲したことによって、璃奈ちゃんと愛の研究は飛躍的に進むこととなった。

このポケモンが持っているエネルギーを利用すれば──理論上ウルトラスペースの中を航行しうるエネルギーになるということがわかったからだ。

政府は、急ピッチでウルトラスペースを航行するための船──ウルトラスペースシップの開発に着手し、半年という驚くべきスピードでウルトラスペースシップを完成させるに至った。

これにより、ウルトラスペース内の探索が可能になり、研究は次の段階へ……世間からも大きな賞賛を浴び、世界を救うという途方もない話がだんだん現実味を帯びてきていた。

戦闘によって捕まえたウルトラビースト──フェローチェは私が手持ちとして従えることとなり……いろいろなものが順調に進んでいく中──


──“虹の家”の院長先生が……彼方のお母さんが……亡くなった。





    👠    👠    👠





遥「おかあさん……っ……おかあ、さん……っ……」

彼方「……遥ちゃん……」


遥ちゃんが棺桶にすがるように泣きじゃくり、彼方がそんな遥ちゃんを抱きしめている。


果林「…………院長先生……」


数ヶ月前に過労で倒れたというのは聞いていたけど……ウルトラビーストとの邂逅もあり、私はなかなか時間が取れず──いや、正確には彼方を無理にでもお見舞いにいかせるために、仕事を強引に肩代わりしていたためだけど──まさか、こんなすぐに亡くなってしまうとは……思っていなかった。

“闇の落日”の時に吸った瘴気が……ずっと院長先生の身体を蝕んでいたらしい。


果林「…………」


短い間ではあったけど……私にとっては、もう一人のお母さんのようなものだったから……やるせなかった。





    👠    👠    👠





──葬儀も全て終わり……明日にはまた研究所に戻る。……そんな夜のことだった。

私と彼方は、すごく久しぶりに“虹の家”で過ごしていた。

ただ……どうしても寝付けなくて、水でも飲もうかと思いリビングに行くと──


彼方「…………」


彼方が遺影の前で、正座していた。


彼方「…………“虹の家”……立派になったね」


遺影に……院長先生に……母親に、話しかけていた。

私は親子の会話を邪魔したくなかったので、音を立てないように、物影に隠れる。
559 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:37:58.45 ID:Sh64zN700

彼方「…………あんなに軋んでた床も、音鳴らなくなったね。雨漏りもしなくなったし……立て付けの悪かったドアもちゃんと開くようになったね。職員の人も何人も雇っててびっくりしちゃった。孤児院としては、もう安泰だね」

果林「…………」

彼方「果林ちゃんと一緒に……頑張ってきてよかったって……思ったよ……」

果林「…………彼方……」

彼方「……わたしたち……これからも頑張るね……世界中の人……救って見せるから。……この世界を、果林ちゃんたちと一緒に……救って見せるから」

果林「…………」

彼方「………………でも…………でも、ね……っ……」


彼方の声が、震えていた。


彼方「…………ほんとうは……おかあさんに……っ……すくわれた世界を……みせて、あげたかった……よぉ……っ……」


彼方は……肩を震わせて泣いていた。

……私はこのとき初めて、彼方の泣いている姿を見た。

葬式の間、泣きじゃくる遥ちゃんや、この家の小さな子たちの前では、絶対に見せなかったのに……彼方が、声を震わせて、泣いていた。


彼方「…………おかぁ……さん……っ…………ぐす……っ……ひっく……っ……」

果林「………………」


──この世界は理不尽だ。

理不尽に奪われて、泣く人ばかりの世界で……そんな中でも、誰かに与えて手を差し伸べてくれる人が……命を落とす。

私はギュッと……拳を握りしめた。


果林「…………こんな世界……間違ってる…………」


こんな、誰かが泣かなくちゃいけない世界のままで……いいはずがない。


果林「…………私が……変えるんだ…………」


こんな奪われるだけの世界を……私が、変えなくちゃ……いけないんだ。





    👠    👠    👠





──ウルトラスペースシップによる本格的なウルトラスペースの調査が開始された。

調査メンバーはもちろん、私、彼方、愛、璃奈ちゃんの4人だ。

その中で……私たちは、ウルトラスペースの中に、いろいろな世界があることを知った。

荒廃しきった世界や、巨大な電気を帯びた樹木が張り巡らされた世界、一面に広がる砂漠の世界、宝石のような輝く鉱物があちこちに生えた洞窟の世界……。

本当にいろいろな世界があって……そこにはいろいろな種類のウルトラビーストが生息していた。

時に捕まえ、時に撃退し、時に逃げ……私たちは少しずつウルトラスペースとウルトラビーストという存在を理解していった。

その中で、テッカグヤ、デンジュモク、カミツルギ、ズガドーン……そして、2匹目のコスモッグを捕まえることに成功した。

それと同時に……並行して行っていた、ウルトラスペースシップの2台目を完成させたり……とにかく調査は順調に進んでいた。

ただ……そんな調査の中でも……私たちが見つけた世界の中に、文明がある世界は一つしか見つけることが出来なかった。

それも、遠く……自由に行き来するとなると、コスモッグの持っている途方のないエネルギーをもってしても、少し不自由があるというくらいには遠くにだ。

そんなある日のことだった。
560 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:38:47.16 ID:Sh64zN700

璃奈「……!」


研究室にいるとき、璃奈ちゃんが急に椅子を跳ねのけるようにして、立ち上がった。


愛「り、りなりー? どうしたの? 何かひらめいたん?」

璃奈「………………わかった」

彼方「わかったって……何がわかったの〜……?」

璃奈「世界を………………救えるかも……しれない……」

果林「ホントに……!?」


私は、思わず璃奈ちゃんの両肩を掴んで、


果林「一体どういう方法なの……!? 璃奈ちゃん……!!」


思わず彼女に詰め寄るように訊ねてしまう。


愛「ちょ、カリン……!」

璃奈「……か、果林さん……い、痛い……」

果林「あ……ご、ごめんなさい……」

愛「……カリンが人一倍気持ちが強いのは知ってるけど……そんな風に詰め寄ったら、りなりーが困っちゃうからさ……」

果林「そう、よね……ごめんなさい……」

璃奈「うぅん……大丈夫」

彼方「それで……どういう方法なの……?」


彼方が訊ねるけど、


璃奈「……それは……」


璃奈ちゃんは、何故か酷く歯切れが悪かった。


璃奈「…………言っていいのか……わからない」

果林「言っていいのか……? わからない……?」


私は思わず眉を顰める。
561 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:39:20.03 ID:Sh64zN700

果林「世界を救う方法があるんでしょ……? それを言っていいのかわからないって、どういうこと……?」

璃奈「そ、それは……。……でも、今この場では……教えていいことか……私だけじゃ判断しかねる……」

果林「なによそれ……。……ねぇ、璃奈ちゃん……貴方も世界を救いたいんじゃないの……?」

彼方「か、果林ちゃん、落ち着いて……」

愛「…………何か思うことがあるってことだよね」

璃奈「……うん」

愛「わかった。……ただ、私たちは政府から託されて研究してるから……」

璃奈「……わかってる。……報告しないわけにはいかない……」

果林「なら、ここで言ってもいいんじゃないの?」

璃奈「……ご、ごめんなさい……」

愛「カリン、やめて。りなりーが困ってる」

果林「私たちは仲良しごっこしてるんじゃないのよ? 世界の命運を懸けて戦ってるの」

愛「……」

果林「……」

彼方「ふ、二人とも落ち着いて! 果林ちゃん、焦って聞いても彼方ちゃんたちにはよくわからないだろうし、ちゃんと報告した後にわかりやすく纏めてもらった話を聞こう? ね?」

果林「…………わかった」


私は璃奈ちゃんに背を向けて、近くの椅子に腰を下ろした。


璃奈「……ほっ」

愛「りなりー、大丈夫?」

璃奈「……うん」

彼方「ごめんね……果林ちゃんも悪気があって言ってるわけじゃなくて……最近、調査進捗とかメディアから詰め寄られることが多くって……だから、ちょっと焦っちゃってるだけで……」

璃奈「うん、理解してる。果林さん、ごめんね、すぐに言えなくて……」

果林「……私こそ……ごめんなさい……。……ちょっと、頭を冷やすわ……」

愛「……それじゃ、アタシとりなりーで一旦理論を纏めてくるから……」

果林「ええ……お願いね」


愛と璃奈ちゃんが部屋を後にする。

私は思わず両手で顔を覆って俯く。

璃奈ちゃんにやつあたりするなんて……何やってるの、私……。


彼方「……果林ちゃん、疲れてるんだよ……今日はお仕事やっておくから、休んで?」

果林「彼方……」

彼方「いっつも、前に立たせちゃって……ごめんね……。……果林ちゃんが一番しんどい位置にいることは……わたしも、璃奈ちゃんも、愛ちゃんもわかってるから……」

果林「……ありがとう……彼方……」





    👠    👠    👠





ここからしばらく、愛と璃奈ちゃんが理論を纏めるのに難航することとなる。

……どうやら、璃奈ちゃんの思いついた理論が……大きなリスクを孕んでいるものだからという噂は耳に入ってきた。
562 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:39:52.44 ID:Sh64zN700

 「──だからそれじゃ、根本的な解決にならないって言ってんでしょ!?」


応接室から、愛が荒げた声を聞く機会もだんだんと増えていった。恐らく、政府の役人と今後の方針で揉めているのだろう。

その間は調査が滞り、私たちは訓練と演習くらいしかすることがない中──ある辞令が下った。


果林「──……“SUN”と“MOON”……?」

彼方「うん。上からの辞令で……組織内でポケモンでの戦闘が強い二人に権限を渡すって話みたい」

果林「権限って……なんの?」

彼方「コスモッグを自由に扱う権利みたいだね……2匹のコスモッグがそれぞれ“SUN”と“MOON”に1匹ずつ渡されるみたい」


彼方が辞令に目を通しながら言う。


果林「それってつまり……」

彼方「……ある程度、自由にウルトラスペースを調査する権限みたいだね」

果林「……そう」

彼方「嬉しくないの? 果林ちゃん、“MOON”に任命されたってことは……出世みたいなものだよ?」

果林「そうね……」


私は思わず眉を八の字にしてしまう。

──組織内で戦闘が強い二人──

この指定の仕方は……恐らくだけど……私には愛が政府の役人に反発し続けた結果のように思えた。

反発をする愛に対し、上の人間は愛に自由を与えないために、作戦そのものの実行能力を持った人間に権限を与えようとしたけど……愛は彼方より強い。下手したら私よりも……。

研究者でありながら、作戦の実行能力も高い彼女から、全ての権限を奪いきれなかった結果、こんな不自然な辞令が下ったんじゃないかしら……。

もちろん、想像の域は出ないけど……。


彼方「……どうする?」

果林「……まあ、コスモッグを受け取るのは構わないけど……」


コスモッグはウルトラビーストではあるものの、戦闘能力が皆無なウルトラビーストだ。

故に持っていようが持っていまいが、そこまで大きな問題はないと思う。……ただ、エネルギーを放出させすぎると休眠状態になると予想はされているから、そこは考えないといけないけど……。

ちなみに他のウルトラビーストは、結局うまく扱える人がいなくて、持て余しているのが現状だ。

一度、彼方がテッカグヤを扱おうとしたものの……結局強すぎる力に振り回されてしまい断念。

私も何匹か使ってみたものの……フェローチェほど、しっくりくるものがなく、現状の手持ちの方が有効に戦えそうだったために、受け取りはしなかった。

閑話休題。

コスモッグを受け取るのはいいとしよう。ただ──


果林「だからって、私だけで調査に行くことってないと思うんだけど……」

彼方「……それはそうかも」


ウルトラスペースシップの操縦はほとんどプログラミングされた自動操縦らしいし、簡単な使い方くらいは聞いているから、動かすことは出来ると思うけど……。

それ以外のことは、完全に愛と璃奈ちゃん任せだから、私たちに持たされても使い道があまり思いつかない。

……他国のスパイとかに奪われる可能性が減るくらいかしら……?


果林「それにしても……なんで“SUN”と“MOON”……太陽と月なのかしら……?」

愛「──文献を見つけたからだよ」


そう言いながら、愛と璃奈ちゃんが部屋に入ってくる。
563 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:42:33.94 ID:Sh64zN700

果林「愛……」

彼方「文献って?」

璃奈「2匹目のコスモッグを見つけた世界で、石板があったの覚えてる?」

果林「あったような……なかったような……」

愛「まあ、あったんだけどさ。その石板にあった碑文をりなりーが言語解析プログラムにずっと掛けてたんだけど……それの結果が出たらしくってね」

果林「それが太陽と月だったの?」

愛「コスモッグは成長すると、太陽の化身もしくは月の化身へと姿を変えるんだってさ」

璃奈「日輪と月輪が交差する場所で、交差する時に、人の心に触れ、太陽の化身もしくは月の化身に姿を変えるって記されてた」

彼方「あーだからか〜……太陽と月をそれぞれ授けるぞ〜ってことだね〜」

璃奈「そんな感じ。強いトレーナーの傍に居れば、いつか覚醒して私たちの力になってくれるだろうって考えてるみたい」


まあ……自分で言っておいてなんだけど……正直命名の理由には言うほど興味はない。興味があるのは……──私が任命された“MOON”じゃない方。


果林「……“SUN”は貴方よね、愛」

愛「……まーね」

果林「上の人と揉めてるの……?」

愛「……」


愛は気まずそうに頭を掻く。

……恐らく、私の予想はそこまで大きく外していないのだろう。


愛「……大丈夫、ちゃんとチャンスは貰ったから」

果林「チャンス……?」

愛「世界……ちゃんと救える理論、見つけてみせるからさ」

璃奈「……私たち頑張る! 璃奈ちゃんボード「ファイト、オー!」」 || > ◡ < ||


愛は“SUN”の称号を得て、璃奈ちゃんと何かをしようとしていることはわかった。

ただ──これが……最悪の結果を招くことになる……。





    👠    👠    👠





果林「──愛……!!」

愛「ん? カリン、どしたん?」

果林「どしたんじゃないわよ!! 璃奈ちゃんと二人でウルトラスペースの調査に行くってどういうこと!?」

愛「うぇー……情報筒抜けじゃん。独立した権限があるなんて嘘っぱちだねぇ……」

果林「行くなら私たちも連れていって……!」


ウルトラスペースは危険な場所だ。

いくら愛の腕が立つと言っても、たった二人で行くのは危険すぎる。
564 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:43:18.50 ID:Sh64zN700

愛「んっとね……最初はアタシもそうお願いしたんだけど、拒否されちゃってさ」

果林「拒否……? どうして……?」

愛「お前たちのわがままのために、貴重な戦力を危険な目に合わせるわけにいかないって」

果林「……危険な場所に行くの……?」

愛「まーね……。……だから、二人でしか行けないなら、アタシも断念しようとしたんだけど……りなりーがね。……行かないわけにいかないって」

果林「璃奈ちゃんが……」


あの気弱な璃奈ちゃんが……政府の役人に対して、そんなことを言ったなんて、想像出来ないけど……。

それでも、勇気を振り絞って言ったということだろう……。


愛「りなりーが行くって言うんだったら、愛さんが行かないわけにいかないっしょ!」

果林「愛……。……ちゃんと、帰って来るんでしょうね……?」

愛「もちのろん! ちゃんと成果持ち帰ってくるために行くんだから! 任せろって!」

果林「わかった。じゃあ、もう何も言わない」

愛「あんがとっ! ま、カナちゃんと一緒にお昼寝でもして待っててくれりゃいーからさっ!」

果林「ふふ、じゃあ……そうさせてもらおうかしらね」


──数日後、愛は璃奈ちゃんと一緒にウルトラスペースの調査へ出た。

結果────璃奈ちゃんが……死亡した。





    👠    👠    👠





──ウルトラスペースシップが帰ってきた時点で、異変があった。

ウルトラスペースシップの形状が──変わっていた。シップの倉庫部となるはずの部分が消失していた。


果林「な、なにが……あったの……?」

彼方「わ、わかんない……」


船が戻ってくる報告を聞いて、離発着ドックに来た私たちは、酷く動揺していた。

そして、ボロボロのウルトラスペースシップの中から、


愛「…………」


愛が出てくる。


果林「愛……! よかった……!」


私たちは愛に駆け寄る。

よく見ると愛は随分とやせ細っていて──どこを見ているのかわからないような、そんな虚ろな目をしていた。


彼方「あ、愛ちゃん……?」


嫌な予感がした。


果林「……愛……? ……璃奈ちゃんは……?」

愛「──………………ちゃった……」
565 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:44:48.06 ID:Sh64zN700

愛は消え入るような声で、


愛「……りなりー…………いなく……なっちゃった…………」


そう、言ったのだった。





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彼方「…………どうして……」

果林「…………」

彼方「…………どうして……璃奈ちゃんが……」


愛が帰ってきて、半日ほどが経過した。

愛があまりに憔悴しきっていて、とてもじゃないけど話が聞けない状態だったため、詳しいことはまだわかっていないけど……調査中に事故でウルトラスペースシップが半壊し、その際に璃奈ちゃんが亡くなったという見方が強かった。


果林「…………まだ…………奪うの…………?」


私は唇を噛んだ。

そのときだった──急に研究所内にアラートが鳴りだした。


彼方「な、なに……!?」


──『離発着ドックにて緊急事態発生。緊急事態発生。』──


果林「彼方……! 行くわよ……!」

彼方「う、うん……!」


私たちはとにかく、離発着ドックへ走る。





    👠    👠    👠





──たどり着いた離発着ドックでは、


愛「──あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
 「リシャーーーーンッ!!!!!!」


愛が、ドックを破壊していた。


彼方「あ、愛ちゃん……!?」

果林「愛っ!? 何やってるの!?」

愛「りなりーを……っ!!! りなりーを返せぇぇぇぇぇっ!!!!!」
 「リシャァァァァンッ!!!!!」


愛が大暴れしていて、他の職員はとてもじゃないけど、近付けない。

でも、このまま放っておいたら離発着ドックが使い物にならなくなる……!
566 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:46:31.68 ID:Sh64zN700

果林「彼方!! ドックを守って!! 消火も!!」

彼方「わ、わかった!! バイウールー! パールル!」
 「──メェ〜〜〜〜」「──パルル」


バイウールーがリーシャンの音攻撃を体毛で吸収し、施設の被害を抑えながら、パールルが“みずでっぽう”で壊れた機器から出火した炎を消火する。

その間に私は、


果林「キュウコン、“かなしばり”!!」
 「──コーーンッ!!!」

 「リシャンッ…!!?」


リーシャンの動きを止めて、


果林「愛っ!! やめなさいっ!!」


後ろから愛を羽交い絞めにする。


愛「りなりーをぉっ、かえせぇぇぇぇぇっっ!!!!!! かえせぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

果林「っ……!」


愛は錯乱しながら、叫び続ける。

とてもじゃないけど、呼び掛けで止めるのは不可能だと判断し、


果林「……フェローチェ……!」
 「──フェロッ」

果林「“みねうち”……!」
 「フェロ」

愛「がっ……!?」


愛のお腹に、手加減した打撃を叩きこんだ。


愛「……りな……りー……」


愛は気絶して……大人しくなった。璃奈ちゃんの名前を……呼びながら……。





    👠    👠    👠





──愛は、施設を破壊した責任を問われ……ひとまず拘束されることになった。今はポケモンを没収の上、自室で軟禁状態らしい。

加えて、このチームからも除名されるらしい。


彼方「…………果林ちゃん……“SUN”になるんだってね……。……彼方ちゃんが……“MOON”だって……」

果林「…………みたいね……」

彼方「…………研究班が足りなくなっちゃうから……。……人が補充されるみたい」

果林「……聞いた。……姫乃って子と……遥ちゃんよね……」

彼方「……うん」

果林「…………あの4人じゃなきゃ……ダメなのに……」

彼方「果林ちゃん……」

果林「なんで……なんで、こうなっちゃうのよ…………」
567 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:47:07.78 ID:Sh64zN700

私たちは……力を合わせて世界のために戦っていたはずなのに……。

気付いたら……愛も……璃奈ちゃんも……いなくなってしまった。





    👠    👠    👠





──そして、私たちはやっと、愛と璃奈ちゃんが……どうして、世界を救う方法とやらを教えてくれなかったのかを理解した。


果林「…………」

彼方「…………」


先ほど司令から……璃奈ちゃんが気付いた、世界を救う方法をざっくりと聞かされた。

それは──


果林「…………私たちの世界を救うには…………他の世界を……滅ぼすしか……ない……って……」

彼方「………………」


詳しい理屈はわからないけど、そうらしい。他の世界を滅ぼすことによって……私たちの世界の崩壊を、食い止めることが出来る。それが、璃奈ちゃんが突き止めた世界を救う方法だった。

それに加えて──もし、それをしなければ……私たちの世界は今後もどんどん、確実に、滅亡へと進んでいく……とも。

彼方は……珍しく私に背を向けていた。どんな顔をすればいいのかわからないからなのか……それとも……。


果林「…………ねぇ……彼方……」

彼方「…………なぁに……?」

果林「…………………………怒らないで、聞いて……」

彼方「…………うん」

果林「………………私は……何をしてでも……この世界を、守りたい……」

彼方「…………果林ちゃん」

果林「………………こんな酷い世界だけど……大切な人がたくさんいるの……思い出の場所が……大切な場所が……たくさん、あるの……もう……この世界から、誰かが、何かが失われるのなんて……耐えられない……」

彼方「…………」

果林「…………彼方……」


私は無言の彼方の背中にすがるように、おでこを押し付ける。


果林「…………貴方は……私の前から……いなく、ならないで……。……お願いだから……」

彼方「……………………」

果林「…………壊すのは……全部、私がやる……奪うのも……罪も、業も、憎しみも、恨みも……全部私が背負う……だから……彼方だけは……私の傍に居て…………お願い…………」

彼方「………………」

果林「………………彼方……」


でも、彼方は──


彼方「……………………ごめん、果林ちゃん……少し……考えさせて……」

果林「………………」
568 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:52:18.19 ID:Sh64zN700

私を置いて……行ってしまったのだった……。





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──なんとなく、わかっていた。彼方は誰かから奪うようなやり方に賛同なんてしないって。

案の定というか、数日もしないうちに彼方が司令に反対の意思を伝えたという話が耳に聞こえてきた。

彼方と……施設内ですれ違っても──


彼方「あ……」

果林「あ……か、彼方……!」

彼方「ご、ごめん……今、急いでるから……」

果林「……彼方……」


すっかり、避けられてしまっている。

ただ……上の人間たちは、完全に──他世界への侵略の方向で進めようとしている。

……このまま、彼方が反対し続けたら、何が起こるだろうか……?

彼方は事実上の組織の幹部……もし、組織の意向に沿えなかったからと言って……ただ、辞めることで解決できないところまで事情を知ってしまっている。そうなったら彼方は……。

だから私は──


果林「……」


──コンコン。だから私は、戸を叩く。中に入ると、政府の役人たちが会議をしていた。

内容は──彼方をどうするかについて話しているところだった。

だから、私は、こう言った。


果林「彼方は……私が説得します……」


彼方を守るには……もう、これしかないから。





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果林「………………」


深夜──私は計画書を見て、眉を顰める。

内容は……まさに他世界への侵略だった。

彼方もすでに、この計画書は受け取っているはずだ。この内容を踏まえた上で……私は彼方を説得しないといけない。

でも、やらなくちゃいけない。

私が……彼方を──家族を……守らないといけないんだ……。


果林「………………早く行かないと」
569 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:53:01.28 ID:Sh64zN700

躊躇している暇はない。

そう思ったけど──


果林「…………今更……何にびびってるんだか……」


私の手は……震えていた。


果林「…………そりゃ……出来るなら……奪いたくなんて……ないわよ……」


誰も悲しまない世界があるなら、その方がいい。そんなの当たり前だ。そうに決まってる。


果林「…………でも…………選ばなくちゃいけないなら…………選ぶしか、ないじゃない…………っ」


黙って滅びを待つなんて……出来ない。

だから、せめて……私が背負うから……私以外のみんなを守るために……私が背負って……地獄に落ちるから……。


果林「…………」


私は覚悟を決めて、彼方の部屋へと向かう。





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──コンコン


果林「彼方、今いい?」


返事がない。


果林「……入るわよ」


でも、話すしかないから。

私が部屋の中へ入ると──そこは本当に誰もいなかった。

今は深夜だ。外出しているとは考えにくいのだけど……。


果林「どこに行ったのかしら……?」


そんな風に言葉を漏らした、まさにそのときだった──

──『緊急事態発生。緊急事態発生。』──

施設内にアラートが鳴りだした。


果林「な、なに……!?」


──『何者かが、ウルトラスペースシップを占拠し、発進しようとしています』


果林「……!」


今この場でそんなことをする理由がある人間なんて、数えるほどしかいない。

加えて、もぬけの殻になった彼方の自室……そんなのもう……!
570 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:54:09.62 ID:Sh64zN700

果林「彼方……!!」


私は離発着ドックへと走り出した。





    👠    👠    👠





離発着ドックに着くと、職員が数人倒れていた。

ほとんど気絶していたけど、


職員「ぅ……」


まだ、意識のある職員がいた。


果林「何があったか教えて……!!」

職員「コノエ姉妹が……シップに乗り込んで……」

果林「遥ちゃんも……!?」


そんなことを言っている間に、目の前で一隻のウルトラスペースシップが──発進した。


果林「彼方……待って……!! ……くっ……!」


私は、もう一隻の方──愛が乗っていた半壊のウルトラスペースシップに乗り込む。

愛はちゃんと帰ってきたし、メインエンジンが壊れていたらしいけど、そこはすでに新しい物に換装されている。万全の機体ではないが、これでも追いかけることは出来るはず……!


果林「た、確か……ここにエネルギーを充填して……オートパイロット……行き先は……」


もし、この状況で向かうとしたら──もうここに戻ってくるのは想定していないはず。その上で、何もない世界に行っても、生きていくことなんて不可能。

なら──行き先は一つ。……私たちが滅ぼそうとしている……たった一つだけ見つけることが出来た、文明のある世界。

私はそこにオートパイロットを合わせる。

発進シークエンスに入ると同時に、通信が入る。


果林「今、忙しいの!! 後にして!!」

 『──果林か』

果林「……!」


通信相手は実行部隊の司令。私が彼方を説得すると、そう宣言した相手だった。


司令『彼方のやっていることが、どういうことか……わかるな?』

果林「……それは理解してます……でも、私が必ず説得します。説得して連れ帰ります……だから……!」

司令『わかった。連れ帰れたときは……君に免じて今回は不問にしても構わない。……だが、もし連れ帰れないときはどうする?』

果林「…………」


彼方たちがやっていることは──恐らく亡命だ。

亡命先で私たちの世界がやろうとしていることを知らされる。そんなことになったら、私たちの世界は……。

そういう意味での問い。もうこの時点で裏切り者の烙印を押されてもおかしくない中で、最後の最後の譲歩をされている。

だから、もしそれが出来なかったときは──
571 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:54:46.12 ID:Sh64zN700

果林「……私が……撃墜します……」


……私が、手を……下すしか……ない。





    👠    👠    👠





果林「…………なんで…………なんでよ……。……彼方……」


なんで、そんな道を選ぶのよ……。

なんで……。


果林「私を……置いていくの……」


ウルトラスペースシップは……倉庫部がない分、軽いからかむしろ通常よりもスピードが出ていた。

航行を続けていると──前方に彼方たちの乗っているシップが見えてきた。

私は通信を飛ばす。


果林「彼方っ!! 聞こえる!?」


私が問いかけると、


彼方『か、果林ちゃん……』

遥『果林さん……』

果林「止まって、二人とも!! お願いだから……!! もしここで止まってくれたら不問にするって、約束もしてもらった、だから、お願い……!!」

彼方『……でも、不問にして……計画に加担しろって、ことだよね……?』

果林「……彼方っ!! お願い、言うことを聞いて……!! 貴方を……失いたくないの……!!」

彼方『…………果林ちゃん』

果林「……知らない誰かの命よりも──私は貴方が大事なの……!! だから……っ!!」


私の言葉に対して──


彼方『…………わたしね、果林ちゃんに初めて会ったとき──ちょっと怖い子だなって思ったんだ……』

果林「……え……?」


彼方は突然、そんなことを言いだした。


彼方『……それは……果林ちゃんがそのときのわたしにとって……“知らない誰か”だったからなんだと思う……』

果林「…………」

彼方『でも……でもね……。……あのとき、果林ちゃんに会えて……よかったって、思うの……。……“知らない誰か”が、“大切な人”になったから、そう思うの……』

果林「かな……た……っ……」

彼方『……だから……“知らない誰か”が……いつかの自分にとって“大切な人”かもしれないって……思っちゃうんだ……。……だから、わたしは……戻れない……』

果林「…………っ……かなた……っ」

彼方『──……ごめんね、果林ちゃん』


その謝罪は──決別の言葉だった。
572 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:55:33.67 ID:Sh64zN700

果林「…………っ…………ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!! フェローチェッ!!!」

 『──フェロッ!!!!』


ウルトラビーストは、ウルトラスペース内でも活動出来る。

シップのボール射出機能で外に出したフェローチェが、彼方たちのシップに取り付く。


果林「“むしのさざめき”ッ!!!」

 「──フェロォォォォォッ!!!!!!」

彼方『っ゛ぅ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!?』

遥『ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!?』


もし、ここで彼方たちを逃がしたら──だから、私はもう選ぶしかなかった。


果林「フェローチェ……ッ!! やりなさい……ッ!!」

 『…フェロッ!!!』


音を遥かに凌駕するスピードで振り下ろされるフェローチェの脚が、彼方たちの乗っているウルトラスペースシップを……真っ二つに、両断した。

シップはそのまま……バラバラになって、ウルトラスペース内に消えていった。

私は……両手で顔を押さえる。


果林「なんで…………なんで…………こう、なっちゃうの…………なんで…………っ」


私は……どうして、大切な人を……自分の手で……。

なんで、どうして……どう……して……。





    👠    👠    👠





──私は……本当はどうすればよかったんだろう。

わからない。……わからない。

だけど、一つわかることがある。

……起こってしまったことは、もう戻らない。……だから私は……もう、戻れない。

私は──


果林「私は……私の世界を救うんだ……」


もう、進むしかない。





    👠    👠    👠





果林「……愛、入るわよ」


軟禁中の愛の部屋に押し入る。
573 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:56:15.60 ID:Sh64zN700

愛「……や、カリン。来ると思ってたよ」


愛は随分と余裕そうな表情をしていた。


果林「もっと落ち込んでると思ってたわ……」

愛「アタシもカリンはもっと落ち込んでると思ってた。……聞いたよ、カナちゃんの乗ったシップ……カリンが撃墜したんだってね」

果林「…………」


私は愛の首にチョーカーを着ける。


果林「……愛……私に協力しなさい……」

愛「…………ああ、これが首輪ってわけか。逆らったときは電撃? それとも、首でも飛ぶ?」

果林「電撃よ……。死なれたら困るわ……貴方には、やってもらわないといけないことがたくさんあるからね……」

愛「アタシがこんなおもちゃで言うこと聞くと思ってんの?」


私は、手に持ったリモコンのスイッチを入れる。


愛「っ゛、ぁ゛!!?」


愛に着けた首輪に電流が流れ、愛を痺れさせる。


果林「……もう一度言うわ、愛。私に協力しなさい……」

愛「……っ゛……。……まあまあ、カリン……そう、焦んないでよ……」

果林「…………」

愛「……言うこと聞くつもりはないんだけどさ……協力はしてやってもいいよ……」

果林「……は?」

愛「……その代わり……カリンもアタシに協力してよ……」

果林「……この状況で交渉しようって言うの?」

愛「どっちにしろ、アタシの頭が必要なんでしょ? いーよ、アタシの頭脳でよければ貸してあげるよ。ただ──アタシにもやりたいことが出来たから、それはやらせてもらう」

果林「…………」

愛「どーせこのおもちゃに発信機も付いてんでしょ? カリンの監視範囲内でアタシはアタシのやりたいことをやる。アタシはカリンの求める知恵と技術を提供する。それでお互いWin-Winっしょ?」

果林「……わかったわ」

愛「交渉成立だね〜♪ これからはカリンの駒として、せっせと働いてあげるよ」

果林「……信用してるわ、愛」

愛「へいへい、任せろ〜」


愛は何やら企んでいるようだけど……私の目的を邪魔するつもりがないならいい。

私は愛と協定を結んだ。





    👠    👠    👠





──私たちのチームは、璃奈ちゃんと彼方がいなくなり、愛が事実上の除名。副隊長候補だった遥ちゃんも居なくなったため……新しく入る姫乃という女の子を“MOON”に据え、二人──プラス愛──で動かすことになった。
574 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:56:55.61 ID:Sh64zN700

姫乃「──よ、よろしくお願いします!」

果林「よろしく、姫乃」

姫乃「あ、あの……」

果林「何かしら?」

姫乃「私、果林さんにずっと憧れていたんです……それで、組織に入っていつか一緒に働ければと思っていて……」

果林「そうだったの……ありがとう」

姫乃「果林さんも……“闇の落日”でご家族を失ったと聞きました……。……実は私も……それで孤児になって……」

果林「……大変な思いをしたのね……」

姫乃「いえ……それでも果林さんは世界を救うために、戦っていると聞いて……私も果林さんのお力になりたいと……ずっと思っていました……」

果林「……そう思ってくれて、嬉しいわ……」


この子はきっと──愛や璃奈ちゃんや彼方とは違う……。

大切な何かを選ぶためなら……優先順位の低い物を切り捨てられる子……直感で、そんな気がした。

きっと──この子は使える。信頼を得ておいた方がいい。

信頼を得るには……自己開示かしらね。


果林「……姫乃」

姫乃「な、なんでしょうか」

果林「これから一緒に戦う仲間だから……貴方には、私が……あの夜に見たものを、先に……話しておこうと思って……」

姫乃「か、果林さん……は、はい……」


私はもう……日和らない……。

世界を……私の守るべき世界を……救う。

そのために手段なんか……選ばない……。





    👠    👠    👠





──姫乃は優秀だった。

研究班として入ってきたが、もともと戦闘の腕もそこそこ立つ子だったし、二人体制になったことを知った瞬間、すぐに戦闘訓練に熱心に取り組み始め、あっという間に実行部隊のトップ2になった。

私たちはすぐにでも計画を実行したかったけど──問題があった。

それは、あの時点で“MOON”であった彼方が、コスモッグを持ち逃げしていたことだった。シップを撃墜した際に、落ちてしまったコスモッグを回収しないと、エンジンエネルギーの充填の問題でウルトラスペース内を自由に行き来しづらくなる。

そこで愛がコスモッグの持つエネルギーを探知する装置を作り出し──コスモッグを探すことになり、この作戦は星の子に準えて、コードネーム“STAR”と名付けられた。

そして、肝心の“STAR”の行き先は──


愛「……ああ、これ……アタシたちが滅ぼそうとしてる世界だね」


とのことだった。


果林「なら丁度いいわね……。確か、世界そのものに穴をあけるためには、ウルトラビーストをその世界に呼び込んで、大量のウルトラホールをあければいい……って話だったわよね?」

愛「そうそう。ただ、そのためにあっちこっちの世界からウルトラビーストを探すための航行エネルギーが必要だかんね。コスモッグは2匹欲しいってわけ」
575 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:57:43.90 ID:Sh64zN700

「別に地道に待っても3〜4年くらい待てば不自由ないくらい集まる気はするけどね〜」と付け加えながら。

──しかし、とある問題が起こった。

それは──


愛「……んー……“STAR”の反応……消えたね……」


目的の世界に来たときには、“STAR”の反応が消えてしまっていたということだ。

──痕跡はあったから、間違いなくこの世界にはいるはず……とのことだったけど……。

こっちの世界に来てからすぐに、フェローチェの毒を使い、モデル事務所をコントロールして資金を集めながら……私たちは“STAR”を探していた。

……そんなあるとき──偶然訪れた、コメコシティでのことだった。


果林「……のどかな町ね……」


右を見ても、左を見ても、大きな建物がないけど……とにかく牧場が広い。

このゆったりした空気は、私の故郷に似ている気がして、居心地がいい気がした。

そのとき、ふと──


果林「……え……?」


視界の先に、彼女は、居た。

オレンジブラウンのロングヘアーに、トロンと垂れた眠そうな瞳。見間違えるはずがない。

私が苦楽を共にした家族……。


果林「……彼方……」


彼方が前方から歩いてきていた。


果林「彼方……っ……!」


あのとき、私が手に掛けてしまったと思っていたけど……生きていたんだ。

私は感情が抑えきれず、彼方に向かって駆けだしていた。


彼方「……あ!」


彼方も私に気付いたように、駆けてくる。

どんどん近付き、私は彼方を抱きしめようとした──のに、


彼方「花陽ちゃーん! 今日もしかして、新米入ったの〜?」

花陽「あ、彼方さん! はい、今日は新米が入りました! やっぱり、お米は新米だよね!」


彼方は──私に気付かず、私の横を……すり抜けていった。

──彼方は、私を……覚えていなかった。


果林「………………」
576 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:58:48.24 ID:Sh64zN700

──そっか……。……シップごと……墜落したんだもの。

記憶がなくなっているくらいのことはあっても、なんらおかしくない。

だけど……。

このとき私は、思ってしまった。

──噫、私は……彼方にとって、忘れられる存在だったんだ、と。

忘れても……大丈夫な存在だったんだと……。

思ってしまった。


果林「……ふふ。……そっか」


そのとき──私の心の中で、大切にしまっていた何かが……壊れてしまった気がした。

このときを最後に、私はもう……本当に自分で自分を止めることが……出来なくなってしまった気がした。


──
────
──────
────────



私には……もう味方なんて、いらない……。

私はただ……自分の大切なものを守るために……選ぶだけ。

ただ、そのために……戦うことを選んだから。


果林「全部……壊してあげる……」


私は眼下の侑と歩夢を、自分の邪魔をする全てのものを……排除する。



577 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 13:00:32.66 ID:Sh64zN700

    🍞    🍞    🍞





彼方「……彼方ちゃんが覚えてるのは……シップが撃墜された、その瞬間まで……。……その後、コメコに“Fall”として落ちてきて……エマちゃんに助けてもらった後はエマちゃんも知ってるとおりかな」

エマ「……そっか」

彼方「聞いてみて……どう……思った? ……きっとね……果林ちゃんをあそこまで極端にさせちゃった原因は……わたしにあると思うんだ」

遥「お姉ちゃん……」


彼方ちゃんはそう言って声を沈ませるけど……。


エマ「……違うよ」


わたしはそうは思わなかった。


エマ「彼方ちゃんの優しさも……果林ちゃんの優しさも……どっちも間違ってなんかないよ。お互いの優しさが……ボタンの掛け違いみたいになっちゃっただけ……」

彼方「エマちゃん……」

エマ「今でもきっと……果林ちゃんの心のどこかに、彼方ちゃんと仲直りしたいって気持ち……きっとあると思う。前みたいに、家族に戻りたいって気持ち、あると思う」

彼方「……うん」

エマ「優しさがすれ違ったままなんて……悲しすぎるよ……。でも……果林ちゃんはもう自分の力じゃ止まれない……だから、誰かが止めてあげないと……」


大切な家族同士が……こんな形で争うなんて、悲しすぎるから。


エマ「だから、行こう……! 果林ちゃんを止めに……!」



578 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 13:01:01.92 ID:Sh64zN700

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 エマ
 手持ち ゴーゴート♂ Lv.40 特性:くさのけがわ 性格:むじゃき 個性:ねばりづよい
      パルスワン♂ Lv.43 特性:がんじょうあご 性格:ゆうかん 個性:かけっこがすき
      ガルーラ♀ Lv.44 特性:きもったま 性格:おっとり 個性:のんびりするのがすき
      ミルタンク♀ Lv.41 特性:そうしょく 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      ママンボウ♀ Lv.40 特性:いやしのこころ 性格:ひかえめ 個性:とてもきちょうめん
      エルフーン♀ Lv.40 特性:いたずらごころ 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 1個 図鑑 未所持

 主人公 彼方
 手持ち バイウールー♂ Lv.79 特性:ぼうだん 性格:のんてんき 個性:ひるねをよくする
      ネッコアラ♂ Lv.77 特性:ぜったいねむり 性格:ゆうかん 個性:ひるねをよくする
      ムシャーナ♀ Lv.78 特性:テレパシー 性格:おだやか 個性:ひるねをよくする
      パールル♀ Lv.76 特性:シェルアーマー 性格:おとなしい 個性:ひるねをよくする
      カビゴン♀ Lv.80 特性:あついしぼう 性格:わんぱく 個性:ひるねをよくする
      コスモウム Lv.75 特性:がんじょう 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 エマと 彼方は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



579 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:05:50.39 ID:2N444K9g0

■Chapter068 『決戦! DiverDiva・果林!』 【SIDE Ayumu】





果林「──キュウコン!! “かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!!!」


またしても、崖の上からこちらに向かって火炎が降ってくる。


歩夢「エースバーン! “かえんボール”!!」
 「──バーースッ!!!」


ボールから出したエースバーンが真上に向かって、火の玉を蹴り出し、キュウコンの炎と相殺させる中、


侑「フィオネ! “みずあそび”!」
 「フィオ〜♪」


フィオネが周囲に大量の水をばら撒き、私たちを包囲していた“ほのおのうず”を消火する。


侑「歩夢!」

歩夢「うん!」


侑ちゃんが私の手を取り、走り出す。


果林「待ちなさい……!! “かなしばり”!!」
 「コーーンッ!!!」


果林さんは逃げ出す私たちの動きを止めようと、“かなしばり”を放ってくるけど、


侑「ニャスパー!! “マジックコート”!!」
 「──ニャーーッ!!!」

果林「ぐっ……!?」
 「コーーンッ…!!?」


侑ちゃんとニャスパーがそれを反射して、逆に果林さんたちの動きを止める。


リナ『侑さんナイス判断!』 || > ◡ < ||

侑「今のうちに一旦距離を取ろう……!」

歩夢「うん!」


侑ちゃんに手を引かれながら、必死に足を動かしていると──


果林「ぐ……っ……ファイ、アロー……!! “ブレイブバード”……!!」

 「キィーーーーッ!!!!!!」


上空からファイアローが猛スピードで急襲してくる。


歩夢「ウツロイド! “パワージェム”!!」
 「──ジェルルップ…」

 「キ、キィーーーッ!!!」


そのファイアローをウツロイドが相性的にかなり有効な、いわタイプの技で牽制する。

ファイアローは目にも止まらぬスピードで身を翻しながら、“パワージェム”を回避するけど、なかなか近寄れず空中を旋回し始める。


侑「そういえば、歩夢……そのポケモン……ウルトラビーストだよね……?」
580 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:06:30.08 ID:2N444K9g0

二人で逃げる中、侑ちゃんがウツロイドを見ながら、そう訊ねてきた。


歩夢「あ、うん、ウツロイドって言うんだよ」
 「──ジェルルップ」

リナ『ウツロイド きせいポケモン 高さ:1.2m 重さ:55.5kg
   謎に 包まれた UBの 一種。 ポケモンや 人間に 寄生し
   寄生された 生物が 暴れだす 姿が 目撃されている。 意思が
   あるかは 不明だが 時折 少女の ような 仕草を みせる。』

リナ『きせいポケモンって言われてるみたいだけど……平気なの……?』 || 𝅝• _ • ||

侑「…………」


侑ちゃんとリナちゃんが少し不安げな表情をするけど──


歩夢「この子はそんな怖い子じゃないよ。ね、ウツロイド」
 「──ジェルルップ」


ウツロイドは私の言葉に答えるように、触手を持ち上げて返事をする。


歩夢「ウツロイドたちは怖いポケモンなんかじゃなくて……ちょっぴり“おくびょう”なだけなの……」
 「──ジェルルップ」


私は──しずくちゃんに崖から突き落とされたときのことを思い出しながら、侑ちゃんたちに説明を始めた。



──────
────
──


歩夢「──しずくちゃん……!! 絶対、絶対、侑ちゃんたちが助けに来てくれるから……!! だから──んぅっ、」


全身をウツロイドの触手に絡め取られ──私は一瞬で引き摺り込まれ、口元も視界も覆われて──目の前が真っ暗になった。

──このまま、毒を注入されちゃうのかな……そう思ったとき。


 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルップ…」

歩夢「…………?」


ウツロイドの触手は、私の身体をまさぐっているけど……なかなか毒を注入するような気配がない。

──もしかして……? 私がなんなのかを……確認してる……?


歩夢「…………」


全身をまさぐる触手が、私の手の平に触れたとき──思い切って、優しく握ってみると……。


 「──ジェルルップ」


ウツロイドは鳴き声をあげながら、私の手に触手を巻き付けてくる。

反応してる……──返事……してる……?

しずくちゃんはウツロイドには強力な神経毒があって危険と言っていたけど……ウツロイドは崖上から私たちが見ていても、近寄ってきて攻撃するようなことはなかった。


歩夢「………………」


もしかして──この子たちが危険なウルトラビーストだって言うのは……毒にやられた人間が勝手に言っているだけなんじゃないか。

調査と称して、自分たちに突然近付いてきた人間に驚いて……毒で自分たちを守っているだけなんじゃ……。


歩夢「…………ん、むぅ……」
581 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:07:08.76 ID:2N444K9g0

刺激しすぎないように、僅かに口をもごもごと動かすと──


 「──ジェルップ…」


口を塞いでいた触手が少しだけ浮く。


歩夢「…………そっか……君たちは……本当は、怖かっただけなんだね……」
 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルップ…」

歩夢「……ごめんね。……急に人が落ちてきたら……びっくりしちゃうよね。……攻撃されたのかなって思っちゃうよね……ごめんね……」
 「──ジェルル…」「──ベノメ…」「──ジェルルップル…」

歩夢「……大丈夫だよ。……私は君たちに怖いこと、したりしないから……」


ウツロイドの触手を優しく握って、頬に寄せる。


 「──ジェルルップ…」

歩夢「……ちょっとひんやりしてる……」
 「──ジェルル…」

歩夢「……うん。……大丈夫だよ、怖くない……私は君たちの味方だよ……」
 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルルル…」


──
────


結局ウツロイドは、私に何もしなかった。

そのままゆっくりと洞窟の地面に、私を降ろしてくれた。


歩夢「ありがとう、ウツロイド」
 「──ジェルルップ…」


私は地面に横たわり、未だ視界を埋め尽くすウツロイドたちを見ながら考える。

……恐らくこの後、毒で動けなくなるはずの私を、しずくちゃんたちが回収しにくるはず……。

なら、そのときを見計らって脱出を──そこまで考えて、首を振る。


歩夢「……だ、ダメ……それじゃ、しずくちゃんが果林さんに何されるか……」
 「──ジェルルップ…」

歩夢「あ、ご、ごめんね……ちょっと考えごとしてて……」


私が首を振る動作でウツロイドを少し驚かせてしまったようだ。

もう一度、優しくウツロイドの触手を握って頬を寄せる。


 「──ジェルル…」


すると、私が今接しているウツロイドが、私の頭にすっぽりと覆うように、頭に取り付いてくる。


歩夢「……その場所が落ち着くの?」
 「──ジェルルップ…」

歩夢「ふふ、わかった」
 「──ジェルル…」


ウツロイドも落ち着いたようだから、また考え始める。

……それにしても、こんな風に頭をすっぽり覆われた状態で、横たわっていたら……見た人は絶対、私が寄生されたって勘違いするよね……。


歩夢「……あ……」
582 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:08:26.76 ID:2N444K9g0

そうだ……勘違いしてもらえばいいんだ……。

もともと、寄生されている状況を狙っているわけだし……。


歩夢「……ウツロイド、しばらくの間……私の頭にくっついたままでいてもらってもいい?」
 「──ジェルルップ…」


どちらにしろ……私はこの洞窟から逃げる術もない……。

脱出の機会を伺うために、私は一旦寄生されたフリをすることにした。


──
────


ウツロイドたちの中で、横になったままじっとしていたら……気付けば眠ってしまっていた。

これだけ密集している状態は暑そうに思えるけど……ウツロイドの体はひんやりとしていて、なんだか心地よくて……。

我ながら能天気かも……と思いながら、寝起きのぼんやりとした頭のまま、引き続きその場で倒れたフリをしていると──


しずく「──……歩夢さん……」


しずくちゃんの声が近くで聞こえてきて──直後、抱き起される。


しずく「……歩夢さん……可哀想に……」


そのまま、しずくちゃんが私に頬を寄せて抱きしめてくる。

正直、肝が冷えた。寄生されているフリをしていることがバレないようにと、必死に息を殺していた、そのときだった──


しずく「──…………そのまま、寄生されたフリを続けてください」

歩夢「……!」


私の耳元で、私にしか聞こえないような小さな囁き声で、しずくちゃんが話しかけてきた。


しずく「…………絶対に、歩夢さんが逃げるタイミングを作り出します……それまで、私が歩夢さんと歩夢さんの大切なものはお守りします……ですので、どうかそのときが来るまで……耐えてください」

歩夢「…………」


──しずくちゃんはフェローチェに操られてなんかいない。その言葉だけで十分に理解出来た。

私はしずくちゃんの言葉に無言で肯定の意を示した。


──
────
──────



歩夢「──……だから、ウツロイドは私を助けてくれたお友達なんだよ」
 「──ジェルルップ…」


私の言葉を受けて、


リナ『……確かに、ウツロイドの神経毒には、宿主にウツロイド自身を守らせように心理誘導する作用が含まれてるらしい。強力な毒はあくまで外敵から身を守る手段でしかないというのは、歩夢さんの考えてるとおりなのかも』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんがそう補足してくれる。
583 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:09:03.22 ID:2N444K9g0

侑「とにかく、信用出来る歩夢の友達ってことだね!」

歩夢「うん!」

侑「歩夢がそう言うなら信じるよ! 一緒に戦って! ウツロイド!」

 「──ジェルルップ…」





    👠    👠    👠





果林「……く……! ……うご……きな、さい……!!」


全身に力を込めて、無理やり“かなしばり”を解除する。

崖の下に目を向けると──侑と歩夢から結構な距離を離されてしまっていた。

──果林、落ち着きなさい。

心の中で自分に落ち着くように促す。

あんな初歩的な反射技に引っ掛かるなんて、さすがに頭に血が上り過ぎている。

一度深く息を吸ってから──ピューイッ! と指笛を吹いて、ファイアローを呼び戻す。


 「キィーーーーッ!!!」


ファイアローがこちらに向かって切り返してきたのを確認して──私は崖から飛び降りた。


 「キィーーーーッ!!!!」


落下しながら、私を拾いに来たファイアローの脚を掴み──逃げた二人を追いかけて飛行を開始する。


果林「キュウコン、付いてきなさい!」

 「コーーーンッ!!!!」


指示を聞いて、崖を駆け下りるキュウコンと共に、私は猛スピードで追跡を始めた。





    🎹    🎹    🎹





侑「はぁ……はぁ……! ここまでくれば……!」

歩夢「はぁ……はぁ……う、うん……!」

リナ『距離は十分に取れた!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


──高所から一方的に攻撃されるのを避けるために、それなりに距離を離した。

でも、振り返ると──ファイアローに掴まった果林さんが猛スピードで追い付いてきているところだった。


リナ『もう、追い付いてきた……!?』 || ? ᆷ ! ||

果林「ファイアロー!! “だいもんじ”!!」
 「キーーーーッ!!!!」


ファイアローが口から特大の炎を噴出する。
584 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:09:38.08 ID:2N444K9g0

侑「く……! フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーッ!!!!」


“ハイドロポンプ”を発射し、“だいもんじ”を相殺しようとするけど──ジュウウウッと音を立てながら、水がどんどん蒸発していく。

それに加えて──


 「──コーーーンッ!!!!」


地面を駆けながら追い付いてきたキュウコンも加勢の“だいもんじ”を発射してくる。

──2匹分の“だいもんじ”を受けきるのは無理……!?

そう思った瞬間、


歩夢「トドゼルガ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「──ゼルガッ!!!」


キュウコンの火炎に対して、歩夢のトドゼルガが“ハイドロポンプ”で対抗する。

が、


歩夢「と、トドゼルガ、頑張って!」
 「ゼルガァァァァ!!!!!」


トドゼルガの水流はキュウコンの火炎に押され始める。

いや、歩夢だけじゃない。


 「フィーーーーーッ!!!!!」


私たちもファイアローの炎に負けそうになっている。


侑「く……イーブイ!! “どばどばオーラ”!!」
 「イーーブィッ!!!!」


肩の上から飛び跳ねたイーブイが周囲に相手の特殊攻撃を半減するオーラを発生させ──それでやっと拮抗し始める。


侑「これなら……!!」


──防ぎきれると思った瞬間、


 「キィーーーーッ!!!!」

侑「……!?」


ファイアローが自身で出した炎を突っ切り、“ハイドロポンプ”を掠めるように躱しながら、突っ込んできた。


果林「──“フレアドライブ”!!」
 「キィーーーーッ!!!!」

侑「くっ!? “ブレイククロー”!!」
 「ウォーーーーッ!!!!」


咄嗟にウォーグルへ指示。ウォーグルが大きな猛禽の爪を薙ぐが──ウォーグルの爪を掠めるように、ファイアローが宙返りで回避する。


 「ウォーグッ!!!?」


爪を空振り驚くウォーグル。しかも──その宙返りをしているファイアローの脚に、果林さんの姿がなかった。

直後──ズサァッと音を立てながら、私のすぐ横を果林さんが滑り抜けていく。


侑「な……!?」
585 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:10:32.87 ID:2N444K9g0

ファイアローが宙返りをする瞬間に手を離して、その勢いのまま私の背後に回り込みながら、


果林「“つばめがえし”!!」

 「キィーーーーーッ!!!!」

 「ウォーーーグッ…!!!?」
侑「ウォーグルっ!?」


炎を身に纏ったまま、切り返してきたファイアローがウォーグルに突撃し、さらに──


果林「バンギラス!! “じしん”!!」
 「──バンギッ!!!」


背後でボールから飛び出したバンギラスが、“じしん”によって大地を激しく揺らす。


侑「うわぁ……!?」


あまりの激しい揺れに立っていることもままならず、私は尻餅をつかされ、


歩夢「きゃぁっ……!?」


背後で歩夢も転倒し、二人で背中合わせで蹲ったまま動けなくなってしまう。

バランスを崩したのは私たちトレーナーだけでなく、


 「ゼルガァ…ッ」
歩夢「と、トドゼルガ……!!」


キュウコンと攻撃を撃ち合っていたトドゼルガも例外ではなく、大きな揺れで狙いが逸れてしまったのか、消火しきれなくなった“だいもんじ”が迫ってくる。

だけど、トドゼルガは──


 「ゼルガァッ!!!!」


むしろ自分から盾になるように“だいもんじ”突っ込んでいく。


歩夢「トドゼルガ!?」
 「ゼルガァァァ!!!!」


私たちに攻撃が届かないように、特性“あついしぼう”で炎を受け止めながら冷気を発して対抗する。

ただ、その間にも、


リナ『侑さん!! 攻撃が来るよ!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……!?」


果林さんは待ってなどくれない。


果林「“ばかぢから”!!」
 「バンギィッ!!!!」


バンギラスが両腕を振り上げ、蹲る私たちに向かって──力任せに振り下ろしてくる。


侑「歩夢ッ……!!」

歩夢「きゃっ!?」


揺れる大地で満足に動けないながら、私は背後の歩夢に跳び付くようにして、その場から離脱しようとする。

どうにか振り下ろされる腕そのものは回避できたけど──バンギラスのパワーで、大地が割れ砕け、その衝撃で、
586 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:11:09.86 ID:2N444K9g0

侑「っ゛……!!」

歩夢「きゃぁぁぁぁっ!!!」


歩夢ともども吹き飛ばされる。


歩夢「ふ、フラージェス!! “グラスフィールド”!!」
 「──ラージェス」


歩夢が咄嗟にフラージェスに“グラスフィールド”を指示し、私たちは敷き詰められた草の絨毯の上を転がる。


侑「つぅ……っ……」

歩夢「侑ちゃん、平気……!?」

侑「お、お陰様で……みんなは……?」
 「ブ、ブィ…」「ニャー…」「フィー…」

 「バース…」「──ジェルルップ…」


イーブイ、ニャスパー、フィオネ、エースバーンもどうにか無事。ウツロイドは浮遊して逃げていたらしく、歩夢のそばにふわふわと降りてくる。

ただ、


 「ウォ、ウォーグ…」


先ほどのファイアローの攻撃ですでに戦闘不能になっていたウォーグルと、


 「ゼルガァァァ…!!!」


私たちの盾になって、“あついしぼう”でどうにか炎を受けきったトドゼルガは、体力が限界だったのか、その場に崩れ落ちる。


歩夢「戻って、トドゼルガ……!」
 「ゼルガ──」

侑「戻れ、ウォーグル……!」
 「ウォーグ──」

リナ『侑さんっ!! 歩夢さんっ!! また来てる!?』 || ? ᆷ ! ||

 「キィーーーーッ!!!!!」

 「コーーーンッ!!!」

侑「っ……!?」

歩夢「……!!」


──本当に息つく暇がない……!


侑「ニャスパー!! サイコパワー全開!!」
 「ウニャーーッ!!!」

 「キィッ…!!!」


ニャスパーのサイコパワーを全開にし、発生した念動力の衝撃波をファイアローに向けて発射すると、ファイアローは押し返されるようにして、後ろに逃げていく。

そして、飛び掛かってくるキュウコンは、


歩夢「ウツロイド! “パワージェム”!!」
 「──ジェルップ」

 「コーーンッ…!!!?」


歩夢のウツロイドが迎撃して吹き飛ばす。


 「…コーーーンッ…!!!」
587 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:12:00.02 ID:2N444K9g0

それでもキュウコンは、全身の毛を逆立てながらすぐに立ち上がる。


リナ『“じしん”のダメージもあるはずなのに、すごいタフ……』 || > _ <𝅝||

侑「……歩夢、立てる……?」

歩夢「う、うん……!」


歩夢の手を取りながら、私たちは立ち上がるけど──


 「コーンッ!!!!」

 「キィーーーッ!!!!」

 「バンギィッ…!!!」


気付けば、あっという間に三方向から敵に囲まれてしまっていた。

さらに、ダメ押しとばかりに──果林さんの胸にあるネックレスが光を放つ。


果林「バンギラス、メガシンカ」
 「バンギラァァスッ!!!!!!」


バンギラスが光に包まれ──頭の角や、両肩、尻尾のトゲがより攻撃的に鋭く伸び、岩の鎧が全身を覆い、より攻守に優れた姿へとメガシンカする。

そして、それと同時に、周囲が激しい“すなあらし”に包まれる。


果林「……二人掛かりでなら勝てるとでも思ったのかしら?」

侑「く……」

果林「大人しくしていれば、痛い目に遭うこともなかったのにね……」


完全に果林さんの強さに圧倒されてしまっている。

どうにか態勢を立て直さないと……!

そのとき──歩夢がギュッと私の手を握ってくる。


侑「……!」

歩夢「侑ちゃん、落ち着いて」


そうだ……落ち着け。

焦ったまま戦っちゃダメだ……。

──果林さんのやろうとしていることを、冷静に考えてみるんだ……。

果林さんが積極的にやっていること、それは──包囲だ。

攻撃やポケモンを配置することによって、相手を包囲することを優先した戦い方をしている気がする。

理由は恐らく──歩夢だ。

果林さんにとって今一番困るのは、私が歩夢を連れて逃げ去ること。

果林さんの計画のために、現状最も重要なピースになっているのが歩夢だからだ。

なら今すべきことは包囲網を崩すこと──


侑「歩夢……バンギラス相手に時間、稼げる?」

歩夢「ちょっとなら……!」

侑「わかった、任せる……!」

歩夢「うん!」
588 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:12:42.87 ID:2N444K9g0

私は──キュウコンに向かって走り出す。

今包囲網を抜ける方法があるとしたら──狙うべきは手負いのキュウコンから……!!


果林「バンギラス!!」
 「バァンギッ!!!!」


もちろん、果林さんも簡単にそれをさせないように動くはず。


歩夢「ウツロイド!! “パワージェム”!!」
 「──ジェルルップ…」


動き出そうとするメガバンギラスに向かって、ウツロイドが攻撃を放つけど──宝石のエネルギー弾は、“すなあらし”に阻まれてほとんどが掻き消えてしまう。


果林「効かないわよ、そんな攻撃じゃ……!」
 「バァンギッ!!!」


そこに向かって──歩夢が他の手持ちのボールを放つ。


果林「“ストーンエッジ”!!」
 「バァンギッ!!!!」


歩夢のポケモンがボールから飛び出すと同時に、そこに鋭い岩が突き出てくるけど──岩が貫いた場所からは、ベシャッと粘性の高い音が鳴る。


果林「……!?」

歩夢「マホイップ!! “マジカルシャイン”!!」
 「マホイップッ!!!」


“とける”で攻撃を防いだマホイップが相性の良いフェアリー技を激しく閃光させる。


 「バァンギッ…!?」
果林「く……!?」

歩夢「フラージェス! “ムーンフォース”!!」
 「ラージェス!!!」

 「バンギッ…!!」


フェアリー技で畳みかけ、


歩夢「エースバーン!! “とびひざげり”!!」
 「バーーーースッ!!!!」

 「バンギッ…!!?」


エースバーンが怯んだメガバンギラスの頭部を蹴り飛ばす。

効果抜群の相性で有利な展開を取ったように見えたが、


 「バンギッ!!!!」


バンギラスは根性で仰け反った体を戻しながら、エースバーンに“ずつき”をかまして反撃する。


 「バーーースッ…!!!?」


反動の乗った反撃にエースバーンの体が宙を舞う。


歩夢「え、エースバーン!? 戻って!!」


歩夢がエースバーンをボールに戻す。無傷とはいかなかったけど──隙は十分作ってくれた……!!
589 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:13:13.02 ID:2N444K9g0

侑「フィオネ、“みずあそび”! イーブイ、“いきいきバブル”!」
 「フィーーーッ」「ブーーイィッ!!!」


フィオネが周囲に水をまき散らし、イーブイが周囲に泡を展開させる。


 「コーーーンッ!!!!」


それによって、キュウコンの“だいもんじ”の威力を軽減しつつ──


侑「ドラパルト!! “ドラゴンアロー”!!」
 「──パルトッ!!!!」
 「メシヤーーーッ!!!!!」「メシヤーーーッ!!!!!」


ドラパルトをボールから繰り出すと共に、音速で発射されたドラメシヤたちが、威力の下がった“だいもんじ”を突っ切り──


 「コーーンッ…!!!?」


火炎の向こうであがるキュウコンの鳴き声が、“ドラゴンアロー”の直撃を知らせてくれる。

よし……!

そして、


 「キィーーーッ!!!!」

侑「ニャスパー! パワー全開!! “サイコキネシス”!!」
 「ウニャーーーッ!!!」


横から迫ってくるファイアローをサイコパワーで牽制する。


 「キ、キィーーーッ!!!!」


またしても、ファイアローはサイコパワーの風を前にすると、後ろに退避していく。

やっぱりそうだ……! ファイアローはさっきから、攻撃を避けることを優先していた。

最初からファイアローは包囲網の維持を優先するように指示を受けているということだ。

メガバンギラスとファイアローを牽制し、キュウコンを撃退した。


侑「ドラパルト! “ハイドロポンプ”!!」
 「パルトォーーーッ!!!!」


私は威力の弱まった“だいもんじ”にダメ押しの水流をぶつけて消火し、道を作りながら、


侑「歩夢!! こっち!!」


歩夢を呼び寄せる。


歩夢「うん!」


歩夢は頷きながら踵を返して、私の方へと走り出す。

が、それと同時に、


果林「バンギラス!! “いわなだれ”!!」
 「バンギィッ!!!」


態勢を立て直したメガバンギラスが“いわなだれ”を発生させ、それが歩夢に迫る。


侑「ニャスパーッ!! “テレキネシス”!!」
 「ウニャ---ッ!!!」
590 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:13:54.01 ID:2N444K9g0

すぐさま、ニャスパーでサポートするけど──岩の量が多すぎて、全ての岩を浮遊させきれない。


侑「ドラパルト!! “りゅうのいぶき”!!」
 「パルトォーーーーッ!!!」


ドラパルトが少し上に浮遊しながら撃ち下ろす形で、歩夢の背後の岩をピンポイントで吹き飛ばし──私は歩夢に向かって両手を広げる。


侑「歩夢!! 跳んで!!」

歩夢「侑ちゃん……!!」


歩夢が岩に巻き込まれる寸前で踏み切って、私の胸に飛び込んでくる。

歩夢を抱き留めた瞬間──地面から巨大な樹が生えてきて、“いわなだれ”を塞き止めた。


侑「はぁ……せ、セーフ……」
 「イッブィ!!」

歩夢「この樹……“すくすくボンバー”……?」

侑「うん、そうだよ」


間一髪、仕込んでおいた“すくすくボンバー”で“いわなだれ”を凌ぎきったけど、またすぐに追撃が来るはずだ。


侑「歩夢、行こう!」

歩夢「うん!」


歩夢の手を引きながら再び走り出した瞬間──


リナ『侑さん! 上!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「上!?」

果林「──サザンドラ!! “りゅうせいぐん”!!」
 「サザンドーーーーラッ!!!!!」


サザンドラの背に乗った果林さんが指示を出すと──大量の“りゅうせいぐん”が降り注いでくる。


歩夢「侑ちゃん! 下がって!!」


歩夢が一歩前に出て、


歩夢「マホイップ! “ミストフィールド”! フラージェス! “ムーンフォース”!」
 「マホイ〜〜」「ラージェスッ!!!」


マホイップがドラゴンタイプの攻撃を半減するフィールドを展開し、フラージェスが月のパワーを放出し、落ちてくる流星に向かって発射する。

“ムーンフォース”が直撃すると、流星はエネルギーを失い、バラバラの塵になって消滅する。

そもそも、フェアリータイプにはドラゴンタイプの攻撃は効果がないから、マホイップやフラージェスのパワーでも十分対抗出来ている。

なら私は──


 「キィーーーーッ!!!!」

侑「後ろだ……!! “ドラゴンアロー”!!」
 「パルトッ!!!!!」
 「メシヤーーーッ!!!!!」

 「キィーーーーッ…!!!!?」

果林「……!」


後ろから急襲してきたファイアローを一点読みで撃ち落とし──
591 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:15:05.87 ID:2N444K9g0

 「メシヤーーーーッ!!!!」


もう1匹のドラメシヤはグンと軌道を変え、サザンドラに向かって突っ込んでいく。

が、


果林「“りゅうのはどう”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!!」

 「メ、メシヤーーーーッ!!!!!?」


そちらは攻撃失敗。迎撃されて、吹っ飛んできたドラメシヤをボールに戻し、他のドラメシヤをボールから出してドラパルトに装填する。


果林「……読まれた……?」


果林さんは戦闘不能になったファイアローに向かってボールを投げ、控えに戻しながら、怪訝な顔をする。

──包囲を優先する動きからして、サザンドラを見た瞬間、ファイアローは背後に回してくると思った。


果林「……ふふ、そういうこと……」


果林さんが含むように笑う。


果林「侑、貴方──ずっと、私の出方を伺ってたのね……」

侑「…………」

果林「考えてみれば当然よね……。意識を失った歩夢を助け出したとしても……フェローチェの速度からは逃げられないものね」


そう、そもそもフェローチェの速度からは、まともに逃げる術がない。

だからこの戦いは元から、最低限フェローチェは倒さないといけない戦いだった。


果林「わざわざこの決戦の地まで来たのに……弱すぎると思ったのよ」

侑「果林さんが戦闘中に意識してることは──包囲、行動阻害、死角からの攻撃ですよね」


そして、果林さんもフェローチェが居れば、最悪歩夢を奪われても打開出来ると考えていたということ。

私たちにとって、今一番まずいシチュエーションは──フェローチェに追跡されながら、他の手持ちに包囲され、一網打尽にされることだった。

だから、とにかくフェローチェを出してくるタイミングに注意しながら、果林さんが戦闘をどう組み立てるのかを伺っていたというわけだ。


果林「観察タイプのトレーナー……嫌な相手ね。なら、ここからは──観察させずに倒さないとね」


──腹を決める。

ここからが本番だ。


侑「ライボルト!! メガシンカ!!」
 「──ライボッ!!!」


ボールから出したライボルトが光に包まれると同時に──


果林「“とびひざげり”!!」
 「──フェロ…ッ!!!!」


一瞬で目の前に現れたフェローチェの膝を、


侑「ライボルト!!」
 「ライボォッ!!!!」


ライボルトの目の前に黒い壁のようなものが飛び出して、攻撃を防いだ。
592 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:16:01.33 ID:2N444K9g0

果林「……!」


さあ、必殺技の解禁だ……!



──────
────
──


侑「──私の長所……ですか……?」

彼方「うん〜。わたしも果南ちゃんも、侑ちゃんの短所にばっかり言及しちゃってたからね〜。でも、短所に関しては、ここまでで十分補強できたから、ここからは長所をちゃんと理解してもらいたいなって思って」

侑「なるほど……。……それで、私の長所って……?」

彼方「前にも果南ちゃんがちょっと言ってたけど〜……侑ちゃんが得意なのは戦局の見極めだね〜。特にトレーナーが何をしようとしているのかを、見抜く力がある」

侑「確かに……前にダイヤさんからも似たようなことを言われました。トレーナーをよく見てるって……。……でも、それって結構基本的なことなんじゃ……」

彼方「確かに相手のやりたいことを考えて動くのは戦闘の基本だね〜。でも、それが出来るトレーナーって意外と少ないんだよ〜?」

侑「そう……なんですか……?」

彼方「バトル中って考えることがたくさんあるからね〜。果南ちゃんやかすみちゃんはあんまりそういう組み立て方はしてないだろうし〜……」


言われてみれば、あの二人は組み立てる戦いというよりも……自分たちの出来ることを無理やりにでも通すって戦い方かもしれない……。


彼方「そういう彼方ちゃんもそっちタイプではないし……千歌ちゃんとか穂乃果ちゃんも違うからな〜……。……強いていうなら、せつ菜ちゃんが一番侑ちゃんに近いかも」

侑「え……!?」


思わぬところで、憧れのトレーナーの名前が出てきて驚く。


侑「せ、せつ菜ちゃん……?」

彼方「せつ菜ちゃんは純粋に頭が良い子みたいだから、たくさんの戦術を知ってるし……相手のポケモンやトレーナーの癖を考えながら、バトルを組み立てるタイプ。理論派って言うのかな? もちろん、ポケモンの鍛え方もトップクラスだから、彼方ちゃんも相手にするのは気が重いんだけどね〜……」

侑「じ、じゃあ……私も長所を伸ばしていけば、せつ菜ちゃんみたいに……!」

彼方「ふふ、そうだね〜。でも、この考え方を実行するには、出来なくちゃいけないことがあるのです!」

侑「出来なくちゃいけないこと……?」

彼方「それは、いなしと防御だよ〜」

侑「いなしと……防御……?」

彼方「相手を観察する戦い方って、もともと戦ってる姿を見たことがある相手には最初から使えるけど……初めて戦う相手の場合、まず相手を観察しなくちゃいけないでしょ?」

侑「は、はい……それは確かに」

彼方「でも、戦いにおいて一番難しいのは、初めて見る攻撃を対処すること」

侑「なるほど……だから、いなしと防御が必要だと……」

彼方「そういうこと〜。ただ、侑ちゃんのポケモンは防御が得意なポケモンばっかりじゃないよね。うぅん、どっちかというと苦手な部類かな」

侑「……そうかもしれません」


私の手持ちで出来る防御手段というと、イーブイのいくつかの“相棒わざ”とニャスパーのサイコパワーくらいだ。


彼方「そこで考えるのがいなし。例えば真っすぐ飛んでくる拳は〜」


そう言いながら、彼方さんがこっちにゆっくり拳を向けてくる。
593 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:16:41.46 ID:2N444K9g0

彼方「真っすぐ拳をぶつけて相殺するより、上から叩いて攻撃を逸らす方が、少ないパワーで相手の攻撃を無力化できるよね?」

侑「はい」

彼方「じゃあ、これが炎だったらどうする〜?」

侑「えっと、水で消火するとか……?」

彼方「うんうん。他には岩で火を遮ったり、風で進路を逸らしたり。攻撃を無力化する方法って実はいろいろあるんだ。これをいかに無駄なく、瞬時に選べるか……それがいなしの技術ってわけ。それを侑ちゃんには習得して欲しいってわけだよ〜」

侑「なるほど」


どうやら私の長所は、相手の攻撃を防ぐ手段があってこそ真価を発揮するという話のようだ。

そんな中、ずっと話を黙って見ていたリナちゃんが、


リナ『でも、常に全部の攻撃をいなすのって難しくない?』 || ╹ᇫ╹ ||


そんな疑問を彼方さんにぶつける。


彼方「そうだね〜。いなしが得意な人でも、全ての攻撃をいなすのは難しい。特に相手が速い場合や攻撃範囲が広い場合は、ほぼ無理かも。だから、いなしだけじゃなくて、どこかで防御も必要ってこと」

リナ『なるほど』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「でも、私のポケモンじゃ、防御手段が……」

彼方「ふっふっふ……そこで彼方ちゃんの出番なわけですよ〜」

リナ『どういうこと?』 || ? ᇫ ? ||

彼方「何を隠そう、彼方ちゃんは防御戦術の達人なのだ〜。だから、これから侑ちゃんに新しい防御手段を授けよう〜」

侑「お、お願いします……!」


──
────
──────



黒い盾はフェローチェの蹴撃を弾く。


 「フェロ…!!!」


着地し、一旦距離を取ろうとするフェローチェに向かって、


侑「“でんげきは”!!」
 「ライボッ!!!」


高速で広がる電撃で攻撃する。


果林「フェローチェ!!」
 「フェロッ……!!!!」


果林さんの呼び掛けと共に──フェローチェが一瞬で、果林さんの傍まで離脱する。


リナ『本来“でんげきは”は必中クラスになるはずの高速技なのに……』 || > _ <𝅝||

侑「相手がそれだけ速いんだ……そこは割り切ろう」
 「ライボ…!!!」


それよりも──ちゃんと実戦で成功した。

この黒い盾が、彼方さんと編み出した、私の防御手段の切り札だ……!


果林「一体どうやってるのかしら──ね!!」

 「フェローーーッ!!!!!」
594 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:17:27.97 ID:2N444K9g0

今度はフェローチェが真上から“とびかかる”で降ってくるが、


 「ライボッ!!!」

 「フェロ…!!!」


黒い盾が真上に移動し、フェローチェを弾く。フェローチェはまたすぐに反撃を受けないように離脱し、


果林「サザンドラ!! “りゅうのはどう”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!」


サザンドラがライボルトに向かって、“りゅうのはどう”を放ってくる。


歩夢「フラージェス!! “ムーンフォース”!!」
 「ラージェスッ!!!」


それを、フラージェスが“りゅうのはどう”を相殺する。

が、


 「バンギィッ!!!!」


メガバンギラスが前に飛び出し、ドラゴン技の防御に入っていたフラージェスを“アイアンヘッド”で叩き落とす。


 「ラージェスッ…!!?」
歩夢「フラージェス……!? も、戻って!!」


歩夢がフラージェスとボールに戻すのとほぼ同時に──


 「フェロッ」
歩夢「……!?」


歩夢の目の前にフェローチェが膝を引きながら、現れる。


 「ライボッ!!!」


そこに割り込むように飛び込んだライボルトが黒い盾で攻撃を防ぐ。


歩夢「ら、ライボルト……! ありがとう……!」


攻撃を防いだ瞬間、


果林「サザンドラ!! “りゅうのはどう”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!」


サザンドラが再びライボルトに向かって、“りゅうのはどう”を発射してくる。


侑「ニャスパー!!」
 「ニャーーーッ!!」


そこにニャスパーが飛び込み、サイコパワーで“りゅうのはどう”をいなす。

が、いなした瞬間、


 「バンギィッ!!!」


またしても、メガバンギラスが防御したポケモン──今度はニャスパーを叩きに来る。
595 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:18:12.07 ID:2N444K9g0

侑「フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーーッ!!!!」

 「バンギッ…!!!」


フィオネの“ハイドロポンプ”でメガバンギラスの腕を弾いて攻撃を中断させるが、


 「フェロッ!!!」

 「フィーーーッ!!!?」


フェローチェが標的を変え、フィオネを蹴り飛ばした。

蹴り飛ばされたフィオネは、そのまま岩壁に叩きつけられる。


侑「フィオネっ!?」

 「フィ、フィー…」

侑「戻って!!」


ボールに戻す隙にも、


果林「“りゅうせいぐん”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!!」


次の攻撃が降ってくる。


歩夢「マホイップ! “マジカルシャイン”!!」
 「マホイーーーーッ!!!」


マホイップが降ってくる流星を、フェアリータイプの“マジカルシャイン”で破壊するけど──


歩夢「きゃぁっ……!」


歩夢から少し離れた場所に消し損ねた流星が落ちてきて、その衝撃で地面が揺れ、歩夢が転倒する。

流星の数が多すぎる……!


侑「歩夢!! この数を捌ききるのは無理だ!! ニャスパー! こっち!!」
 「ウニャー」


私はニャスパーを呼び寄せながらライボルトにまたがり、稲妻のような速度で走り出しながら、歩夢に手を伸ばす。


侑「歩夢!!」

歩夢「うん……!」


すれ違いざまに歩夢の手を掴み、ライボルトの背中に引っ張り上げた。


侑「一旦退避を──」
 「フェロッ!!!」

侑「ッ!?」


走るライボルトの横にフェローチェが追い付いてきていた。

並走しながら、フェローチェの脚が迫る。


 「ライボッ!!!!」


──ゴッと音を立てながら、フェローチェの蹴りをギリギリで黒い盾がガードする。
596 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:18:59.20 ID:2N444K9g0

侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブーーーイィッ!!!」

 「フェロッ…!!」


しかし、またしてもフェローチェはヒット&アウェイで攻撃を回避する。


侑「防げても攻撃が当てられない……っ」


純粋なスピードでは、メガライボルトよりもフェローチェの方が速いかもしれない。

どうにか防御で凌いで、攻撃をヒットさせたいんだけど……!

黒い盾を傍らに浮遊させながら、ライボルトが“りゅうせいぐん”の降りしきるフィールドを走り回る。


歩夢「……その黒い盾……もしかして、砂鉄……?」

リナ『歩夢さん、正解! よく気付いたね!』 || > ◡ < ||

歩夢「なんか、この黒い盾……近くにいると肌がピリピリするから……電磁力か何かで操ってるのかなって思って……」

侑「ほ、ホントによく気付いたね……」


そう、彼方さんと一緒に考えたこの黒い盾の正体は──砂鉄だ。

周囲のフィールドから砂鉄を集め、メガライボルトの超高出力の電磁力で制御、超圧縮し、頑強な壁を生成している。

メガバンギラスの起こす“すなあらし”のお陰で砂鉄の回収効率もかなりのものになっていて、意図せずこちらにとって好都合な環境になっている。


侑「ただ、でんきエネルギーのほとんどを防御に回しちゃうから、攻撃の出力が落ちちゃうんだ」

リナ『攻防両立とはなかなかいかない……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「フェローチェは防御力が低いウルトラビーストらしいから……攻撃を当てさえすれば、ダメージにはなると思うんだけど……!」


一旦距離を取って、態勢を立て直そうとした、そのとき──急にグラグラと地面が大きく揺れ始め、


 「ライボッ…!!!?」
侑「いっ!?」

歩夢「えっ!?」

リナ『わーーーっ!?』 || ? ᆷ ! ||


これ“じならし”……!? 

メガバンギラスからの攻撃だと気付いた時には、ライボルトが転倒し、私たちの身体は宙に浮いていた。

しかもライボルトの走行速度が速度だけに、このまま地面に激突したらやばい……!?


侑「“テレキネシス”!?」
 「ニャァァッ!!!!」


すぐさま“テレキネシス”で落下による地面への激突は防ぐけど──


リナ『横の勢いが止まらない!?』 || ? ᆷ ! ||

歩夢「きゃぁぁぁぁっ!!?」


私と歩夢はそのまま、岩壁に激突しそうになった瞬間、


 「パルトッ!!!」


ジェット機のようなスピードで飛んできたドラパルトが間一髪のところで、私たちを頭で拾い上げるように乗せて救出する。

そして、ライボルトは──
597 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:19:36.76 ID:2N444K9g0

 「ライボッ!!!!」


“でんじふゆう”を壁に向かって使い激突を防ぐ。


侑「あ、ありがとう……ドラパルト……」
 「ブ、ブィ…」

歩夢「ぶ、ぶつかっちゃうところだった……」

リナ『間一髪……』 || > _ <𝅝||


ドラパルトは旋回をしながら、宙を舞うが──その進行方向に、


 「サザンッ!!!」


全身に黒いエネルギーを集束させた、サザンドラの姿。


侑「やばいっ!?」

果林「“あくのはどう”!!」
 「サザンドーーラッ!!!!」

 「パルトッ!!!?」
侑「ドラパルトッ……!?」

歩夢「きゃぁぁぁぁっ!!?」


“あくのはどう”の直撃を受けて、私たちはドラパルトから振り落とされ──再び地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。


侑「ニャスパー!! もっかいっ!!」
 「ウニャーッ!!!」


今度はさっきと違って、重力による自由落下だけだから、“テレキネシス”だけで落下の衝撃を防げるけど──


 「ニャッ!!?」


そのとき突然ニャスパーがサイコパワーを全開にし──


侑「えっ!?」

歩夢「っ!!?」


周囲にいた私たちを吹っ飛ばす。

私は宙を舞いながら咄嗟に──


侑「歩夢ッ!!」


歩夢を抱き寄せ──地面の上を転がる。


侑「ぅ……ぐぅ……っ……!」

歩夢「ゆ、侑ちゃん……!」

侑「あゆ、む……無事……っ……?」

歩夢「わ、私は平気だけど……侑ちゃんが……!」

侑「へ、平気だよ……そんなに高い場所から落ちたわけじゃないから……」


全身の痛みに耐えながら立ち上がると──


 「フェロ…」
 「…ウニャ…」
598 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:20:28.46 ID:2N444K9g0

ニャスパーがフェローチェの“ふみつけ”を受けて、戦闘不能になっていた。

フェローチェの攻撃を察知して、咄嗟に私たちだけを吹き飛ばしたんだ……。

そして、目が合った瞬間、


 「フェロッ!!!!」


一瞬で肉薄してくるフェローチェ、


 「──ライボッ!!!!」


そこに割り込むように、ライボルトが防御する。


侑「“スパーク”!!」
 「ライボッ!!!」


ライボルトが火花を散らせるが、


 「フェロッ」


やっぱりフェローチェには逃げられてしまう。さらにそこに──


果林「それ……物理の防御にしか使ってないわよね」

侑「!?」


上空からギクりとする言葉を掛けられる。

そう、砂鉄による防御はあくまで物理攻撃への防御手段。

特殊攻撃へは特筆出来るほどの防御にはならない。


果林「“かえんほうしゃ”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!」


しかも、ドラゴン技じゃないから、フェアリータイプで無効化出来ない……!?


歩夢「マホイップ!! イーブイに“デコレーション”!!」
 「マホイ〜〜!!」


そんな中、マホイップがイーブイに、クリームやリボンのあめざいくを“デコレーション”をし始める。


侑「……! イーブイ! “めらめらバーン”!!」
 「ブーーーィィィッ!!!!」


“デコレーション”は味方の攻撃能力を上昇させる技だ。

強化された炎を身に纏い、イーブイが真っ向から炎に突撃する。

“デコレーション”の効果もあって──こちらの炎の勢いが上回り、


 「ブーーーィィッ!!!!」


炎同士の衝突によって、“かえんほうしゃ”の方向をどうにか逸らす。

が、そこに向かって──


果林「“あくのはどう”!!」
 「サザンッ!!!!」


攻撃を受けきったばかりのイーブイに、追撃の“あくのはどう”が飛んでくる。
599 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:21:26.93 ID:2N444K9g0

侑「“どばどばオーラ”ッ!!」

 「ブーーィィィッ!!!」


咄嗟に“どばどばオーラ”を放って防御させるが、


 「ブィィィッ…!!!」


完全には防ぎきれず、イーブイが撃ち落とされる。


侑「イーブイッ!!」


私がイーブイの落下地点に走り出した瞬間、


 「フェロッ」

侑「くっ……!?」


フェローチェの蹴撃が迫る。


 「ライボッ!!!!」


俊足のライボルトが、それをすかさずガードし──私はスライディングしながら、イーブイをキャッチする。


侑「イーブイ平気!?」
 「ブ、ブィ…!!」


ダメージは少なくないけど──どうにか無事だ。

ほっと一安心した、そのとき、


歩夢「侑ちゃんッ!!!!」


歩夢が私の名前を叫んだ。

ハッとして顔を上げると──


 「──バンギッ!!!!!」
 「──フェロッ」


腕を振り下ろすメガバンギラスの姿と、脚を振り下ろすフェローチェの姿。


 「ライボッ!!!!」


またしても、フェローチェの攻撃を絶対防御する姿勢を貫いているライボルトが、フェローチェの攻撃は防いだものの──バンギラスの攻撃が私に向かって降ってきていた。


歩夢「侑ちゃん、逃げてぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」


歩夢の絶叫が響く。

──無理だ、避けられない。

目の前の光景がスローモーションになる中、


 「イッブゥィッ!!!!」


腕の中のイーブイから──闇が放たれた。
600 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:22:24.82 ID:2N444K9g0

侑「……!?」


周囲が突然真っ暗になり何も見えなくなったかと思ったら、腕の中からイーブイが飛び出し──月光のような淡い光を纏いながら、


 「バンギッ!!!!」
 「ブーーーィッ!!!!」


自身の体でバンギラスの攻撃を受け止めた。


侑「……うそ!?」


まさか──


リナ『“相棒わざ”!? “わるわるゾーン”!?』 || ? ᆷ ! ||


物理攻撃のダメージを減らす“相棒わざ”……!?

私が呆気に取られていると──


歩夢「──マホイップッ!! “マジカルシャイン”ッ!!」
 「マホイーーーーッ!!!!」

 「バンギッ…!!?」


歩夢の叫ぶような技の指示と共に、メガバンギラスが足元から強烈な閃光で焼かれ、よろける。

──ハッとして、ライボルトに視線を向けると、


 「ライボッ…!!」


バチバチと“スパーク”するライボルトの傍からはすでにフェローチェの姿は消えていた。

でも、これはこのタイミングなら、むしろ好機だ……!!


侑「ライボルト!! バンギラスに“ライジングボルト”!!」
 「!! ライボォッ!!!!」

 「バンギィィッ!!!!?」


立ち上る電撃を足元から受け、立て続けの攻撃にふらつくバンギラスに向かって、


侑「イーブイ!! “いきいきバブル”!!」
 「ブーーーィィッ!!!!」


イーブイが大量のバブルでメガバンギラスの全身を埋め尽くし──


 「バ、バンギ…ッ…」


メガバンギラスの体力を吸いつくし、戦闘不能に追い込んだのだった。

あとはサザンドラと、フェローチェ……!!


果林「くっ……サザンドラ、“りゅうせい──」


果林さんが技を指示しようとした瞬間、


 「──ジェルルップ」
果林「っ!!?」


突然、果林さんの背後から、ウツロイドが飛び掛かった。

果林さんは咄嗟にサザンドラから飛び降りて、回避するが、
601 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:23:08.16 ID:2N444K9g0

 「サザンドーーーーーラッ!!!!!?」


ウツロイドは、サザンドラの頭に纏わりつき、サザンドラに神経毒を注入し始める。


果林「戻りなさいっ!! サザンドラ!!」


果林さんは落下しながら、サザンドラをボールに戻し──

着地の衝撃を受け身を取って殺しながら、すぐに立ち上がる

さすが訓練された人間だけあって、見事な動きではあるけど──


果林「……っ……」


さすがに、それなりの高さがあったこともあって、全く無傷とは行かなかったようだ。

しっかり立ってはいるものの、足に少しふらつきが見える。

加えて、毒を注入されたサザンドラは恐らくもう戦闘は出来ない……!


侑「サザンドラも倒した……! これなら……!」


が、直後──


 「フェロッ!!!」
 「──ジェルップ」


ウツロイドの真上にフェローチェが突然現れて、かかと落としの要領で叩き落した。


歩夢「ウツロイド……!!」


地面に墜落したウツロイドは──


 「──ジェルル…。…」


動かなくなってしまった。戦闘不能だ。


果林「……はぁ……はぁ……。……ずっと……背後からウツロイドを忍び寄らせてたわね……」

歩夢「あと……ちょっとだったのに……」

果林「本来は貴方が寄生されるはずだったのに……悪いこと考えるじゃない……」


フェローチェの姿が掻き消えたと思ったら──


 「フェロッ!!!!」
歩夢「……!」


次の瞬間には歩夢の顔面にフェローチェの脚が迫り、


 「ライボォッ!!!!」


ライボルトが、もう何度目かわからないディフェンスをする。


果林「はぁ……はぁ……。何よ……なんで、邪魔するのよ……ッ!」


だんだん果林さんに焦りが見えてきた。彼女は息を切らせながら、大声をあげる。

直後、


 「フェロッ!!!!」
602 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:24:02.72 ID:2N444K9g0

フェローチェが歩夢の背後に回り、後頭部を蹴ろうとし、


 「ライボッ!!!」
歩夢「きゃっ!?」

 「フェロッ!!!!」


そして今度は側頭部、


 「ライボッ!!!!」
歩夢「……っ!!」

 「フェロッ!!!!」


また正面から、


 「ライボッ!!!!」
歩夢「……っ!!」


連続攻撃を、ライボルトがギリギリで防ぐ。


果林「私が負けたら……!! 私の世界の人たちはッ!! みんな死んじゃうのよッ!!」

 「フェロッ!!!!」

 「ライボッ!!!!」
歩夢「っ……!! ゆ、侑ちゃん……っ」


フェローチェが歩夢へ連続攻撃を始める。

どうにか、ライボルトが防ぐ中、


侑「ライボルト!! “でんげきは”!!」
 「ライボォッ!!!!」

 「フェロッ!!!? …ローチェッ!!!」


あまりに捨て身な連続攻撃だったため、ここで初めてこっちの攻撃がフェローチェにヒットする。

ただ、攻撃は当たったが──フェローチェの攻撃が止まらない。


侑「ライボルトッ!! 歩夢を連れて逃げて!!」

 「ライボッ!!!」
歩夢「きゃっ!?」


ライボルトが歩夢の襟後を咥え、無理やり背中に乗せて走り出す。

でも──


 「フェロッ!!!」


フェローチェは執拗に歩夢を狙う。


果林「そう、歩夢がいれば、歩夢の身体があれば、世界が救える、救えるの……ッ」

侑「果林さんッ!! 歩夢が死んじゃったら、歩夢の能力も使えなくなるんじゃないのッ!!?」

果林「うるさいッ!!! 少しでも息があればいいのよ……ッ!!!」


追いつめられて、果林さんは正常な判断力を失っているのが、私の目から見てもわかった。
603 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:24:59.76 ID:2N444K9g0

侑「ライボルトッ!!! とにかく逃げてッ!!!」

 「ライボォッ!!!!」
歩夢「っ……!!」

 「フェロッ!!!!」


駆けるライボルト、追うフェローチェ。


侑「く……っ」


私は果林さんのもとへと走る。


侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブーーーィィッ!!!」


イーブイの“びりびりエレキ”を果林さんのすぐ真横に落とす。


果林「きゃぁっ!!?」

侑「果林さんッ!! フェローチェに止まるように指示して!!」

果林「お、お断りよ……ッ!!」

侑「っ……! イーブイ!! “びりび──」


いったん気絶させようと、イーブイに指示を出そうとした、そのときだった。

度重なる防御で──ライボルトもいい加減疲労が限界だったんだろう、


 「フェロッ!!!」

 「ライボッ!!!?」
歩夢「きゃっ!!?」


フェローチェの“ローキック”がライボルトの脚に引っ掛かり──ライボルトがバランスを崩す。

それと同時に──猛スピードで走るライボルトの背に乗っていた歩夢が、放り出された。


侑「歩夢ッ!!?」


歩夢が放り出された瞬間。


 「マホイッ!!!!」


歩夢の胸元にいたマホイップが“サイコキネシス”で飛んでいく勢いを軽減するが──それでも、ニャスパーのような強力なサイコパワーですら止めきれなかった勢いは殺しきれず、


 「マホイッ…!!!」


マホイップは自身の体を下敷きにするように、“とける”で歩夢のクッションになろうとする。

──ベシャッ、ベシャッと音を立て、クリームをまき散らしながら、歩夢が地面を転がる。


侑「歩夢−−−−ッ!!!」
 「イブィーーーッ!!!!」

リナ『歩夢さんっ!!』 || > _ <𝅝||


私は歩夢のもとへと走り出す。


歩夢「……っ゛……あ、ぐ、ぅ……っ……」
 「マ、マホィ…」

歩夢「……あ、はは……クリームまみれ……だ……。……けど……お陰で、たすかった……よ……マホイ……ップ……」
 「マホ…」
604 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:25:54.25 ID:2N444K9g0

辛うじて、歩夢の意識はあった──が、


 「フェロ…」


動けなくなった歩夢の前で、フェローチェが脚を振り上げる。

ライボルトは──


 「ライ、ボッ…」


先ほどの攻撃によって、猛スピードで転んだことで、すぐに起き上がれるような状態じゃなかった。

ライボルトはもう──歩夢を守れない。

マホイップも全身のクリームが飛び散っていて、すぐに戦える状態じゃない。


 「フェロ──」

侑「歩夢ーーーーーーッ!!!! 逃げてぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」


フェローチェの脚が振り下ろされ──そうになって……フェローチェの脚が──止まった。


侑「……え……」

リナ『………………!?』 || ? ᆷ ! ||

果林「……う、そ……」


フェローチェの軸足に──


 「──シャーーーボ」


歩夢の上着の袖から顔を出した──サスケが、噛み付いていた。


歩夢「……サスケ……おりこうだね……」
 「シャーーーボッ」

 「フェロ……」


ライボルトの電撃を受けていたこともあり……防御力が極端に低いフェローチェは──最後はアーボのサスケの“どく”により……力尽きて崩れ落ちた。

一瞬、呆然としてしまったけど──すぐに我に返って、また駆け出す。


侑「……歩夢っ……!!」

歩夢「……ゆう……ちゃん……」


ボロボロの歩夢を抱き起こす。


侑「歩夢、大丈夫……!?」

歩夢「……ゆう、ちゃん……わたしたちの……勝ち……だよ……」

侑「そんなことどうでもいい……!! 歩夢……!!」

歩夢「どうでも……よく、ないよ……。……ちょっと痛いけど……大丈夫……」


怪我をしているのは間違いないけど……意識もちゃんとある。


侑「……すぐに治療してあげるから……もう少しだけ我慢してね……」

歩夢「……ぅん」


歩夢を抱き上げようとした、そのとき、
605 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:26:34.98 ID:2N444K9g0

果林「──ゴロンダッ!!」
 「──ロンダ…」

侑「……!?」
 「イブィッ!!!?」

果林「“アームハンマー”!!」
 「ロンダァッ!!!!」

侑「っ……!!」


私は歩夢を抱きかかえたまま、その場から飛び退き、地面を転がる。


歩夢「ぁ゛……っ゛……」

侑「ご、ごめん、歩夢……!! 痛かったよね……」

歩夢「へい……き……だ、よ……」

侑「……っ……すぐ、終わるから……!」


私は顔を上げる──


果林「…………はぁっ…………はぁっ…………。……私は……私は…………負けちゃ……いけないの……っ……」
 「ゴロンダァ…」


まだ──ポケモンが残っていた。


リナ『こ、こわもてポケモン……ゴロンダ……』 || > _ <𝅝||

侑「く……イーブイ!!」
 「ブイッ!!!」

果林「私は…………負ける、わけに…………いかないのよ………………」


果林さんは、引き攣った顔で、そう呟く。

この満身創痍の状態……イーブイ1匹で体力満タンの果林さんのポケモンに勝てるの……!?


 「ロンダァッ…!!!」


ゴロンダが走り込んでくる。


侑「……やるしかないっ……!! イーブイ!! “きらきらストーム”!!」
 「ブーーーーィィィィッ!!!!!」

 「ゴ、ロンダァ…!!!!」


ゴロンダをパステル色の風が包み込み──


 「…ゴ、ロンダ…ァ…」

侑「あ、あれ……?」
 「ブイ…?」


ゴロンダは一発の攻撃で、力尽きて、倒れてしまった。


侑「強く……ない……?」

果林「あ……ぁ…………」


果林さんがそれを見て、カタカタと震えだす。
606 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:28:35.29 ID:2N444K9g0

果林「…………ダメ、ダメよ……私は……負けちゃ……ダメ、なの……」

侑「果林さん……!! もう、終わりです!! 私たちの勝ちです!!」

果林「終わり……違う……終わりじゃない……!!」


もうポケモンは残っていないはず。だけど、果林さんは私に向かって歩いてくる。

そして、懐から──サバイバルナイフを取り出した。


侑「う、嘘でしょ……?」

果林「私は…………たくさんの人の…………想いを……願いを……背負ってるのよ…………だから……だから……ッ」


果林さんが走り込んできて──ナイフを振りかざした。


侑「……ッ!!」


私をナイフで切り付けようとした、その瞬間──私を庇うように、人が飛び込んできた。

レンガレッドのおさげを揺らしながら──


エマ「……っ……!」

侑「エマ……さん……!?」

果林「!? え、エマ……!?」

エマ「…………果林、ちゃん……」


エマさんは果林さんの名前を呼びながら、その場に崩れるようにして蹲る。

その肩には──真っ赤な血の痕が服に滲んでいた。


侑「え、エマさん……!? 血が……!」

エマ「大丈夫……ちょっと掠っただけ……。……全然深くないから……」

果林「え、エマ……な、なんで……」

エマ「果林ちゃん……もう……こんなこと……終わりにしよう……? これ以上……誰かを、傷つけないで……」

果林「…………ダメよ……」

エマ「……本当はこんなこと……もう、したくないんでしょ……?」

果林「…………ち、違う……私は……私の意志で、ここに……」

エマ「……もう、大丈夫だから……一人で抱え込まないで……一人で泣かないで……いいんだよ……」


エマさんがよろよろと立ち上がる。その足には添え木とギブスがしてあった。

怪我をしている足で立ったら痛むはずなのに……エマさんは優しい表情を崩さず──果林さんを抱きしめる。


エマ「そのゴロンダちゃん……わたしが最初にあげたヤンチャムちゃんだよね……?」

果林「…………ぁ…………それ、は…………」

エマ「まだ持っててくれたんだね……。……それに……果林ちゃんがお家に残していった……他のヤンチャムちゃんたち……メール持ってたよ……?」

果林「…………」

エマ「……『この子たちのこと、よろしくね』って……これから滅ぼす世界に……そんなメール持たせたポケモン、置いてかないでしょ……?」

果林「わた……し……は……」

エマ「……あれは……わたしに宛てた……果林ちゃんからの……SOSだったんだよね……? ……『私を止めて』って……『もうこんなことしたくない』って……」

果林「…………っ」

エマ「大切な人たちを守るために……頑張って悪い人になろうとしてたんだよね……。……でも、果林ちゃんが一人で抱えなくていいんだよ……」
607 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:29:34.95 ID:2N444K9g0

カランと音を立てて、果林さんの持っていたナイフが地面に落ちる。

それと共に、果林さんが膝から崩れ落ちた。


果林「………………」

エマ「果林ちゃん……ここまでずっと……一人で頑張ったんだよね……偉いよ……」


エマさんは果林さんを抱きしめたまま、頭を撫でながら言う。

そして、そこにもう一人……。


彼方「……果林ちゃん」

果林「……彼方……」

彼方「……ずっと……ずっと……一人にして……ごめんね……。果林ちゃんと……ちゃんと向き合ってあげられなくて……ごめんね……」

果林「…………私……は……」

彼方「…………これからは一緒に考えよう……一緒に……みんなが笑顔になれる世界のこと……。……簡単じゃないのはわかってる……だけど、一緒に、ちゃんと……考えよう……わたしたちの世界のこと……」


そう言いながら、彼方さんも果林さんを抱きしめる。

すると──果林さんは、全身の力が抜けたかのように……エマさんと彼方さんにもたれかかる。


果林「…………彼方。……私……もう……疲れちゃった……」

彼方「……ごめんね……いっぱい、いっぱい……背負わせちゃって……。……でも、これからは一緒に背負うから……だから、今はもう……休んでいいよ……果林ちゃん……」

果林「…………うん……」


こうして私たちの死闘は──意外な形で……幕を閉じることとなったのだった。



608 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:30:07.38 ID:2N444K9g0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.77 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.75 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.73 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.73 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.71 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:250匹 捕まえた数:10匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.65 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.71 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:211匹 捕まえた数:20匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



609 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 02:29:42.07 ID:mDhGJcE10

 ■Intermission👏



 「ディァ…ガァァ…」「バァァ……ル…」「ギシャ…ラァ…」

愛「伝説のポケモンって言っても、こんなもんなんだね」


倒れた3匹のポケモンたちを見ながらぼやく。


鞠莉「……っ…………つよ……すぎる……」


強い……強いかぁ。


愛「愛さんからしたら……他の人が弱すぎるだけなんだけどね……」

鞠莉「……っ……」


昔から疑問だった。どうしてポケモントレーナーは戦いになっても、自身が前に出ないのか。

ポケモンの真価を発揮するなら──トレーナーも一緒に戦うべきだ。

ただ、どうやらポケモンバトルというものでは、そういう考え方はあまり主流ではないらしい。

ま……正直もうどうでもいいけど……。


愛「んじゃ、貰ってくよ」


そう言いながら、ディアルガにボールを投げる。


 「ディァ…ガァ…──」


ディアルガが、パシュンとボールに吸い込まれる。


鞠莉「……スナッ……チ……!?」

愛「ん、こっちではそういう言い方するんだ。……愛さんはね、ビーストボール──こっちの世界で言うモンスターボールの開発の研究をしてたんだよね」


マリーにそう説明しながら、今度はパルキアにボールを投げる。


 「バァル…──」

愛「上書き捕獲機構くらい、大して難しい技術じゃないんだけどね」

鞠莉「あなたは……っ……そのポケモンたちを、捕まえて…………なにを、するつもり…………?」

愛「んー……アタシはね……──全ての世界を一つに繋げる」

鞠莉「……? ……一つに……繋げる……?」

愛「ま……言ってもわかんないだろうね。わかんなくてもいいけど」


そう言いながら、ギラティナに向かってボールを投げた瞬間──


 「ギシャラァッ…!!」


ギラティナが影に潜って逃げ出した。


愛「……外した。ま……すぐに追いかけて捕まえるからいいけど。……あ、そうだ」


アタシはマリーに近付き、


愛「それ、貰っとくわ」
610 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 02:30:40.60 ID:mDhGJcE10

彼女が手に持っていた、“こんごうだま”と“しらたま”を奪い取る。

奪い取ると言っても、だいぶ痛めつけてあげたから、もう抵抗する力もないっぽいけどね。


鞠莉「っ……」

愛「さーてと……ギラティナ捕まえに行って、あとはおさらばかな〜。……あ、そうだ……せっかくだし、最後にいいもの見せてあげるよ」


そう言いながら、マリーの目の前に今しがた捕まえたディアルガとパルキアをボールから出す。


 「ディァガァ…」「バァル…」

鞠莉「……なにする……つもり……?」

愛「“こんごうだま”と“しらたま”……君たちはこれをディアルガとパルキアに指令を送るための“どうぐ”だと思い込んでたみたいだけど……。ホントの使い方はこうするんだよ」


アタシは“こんごうだま”をディアルガの胸の宝石に向かって、“しらたま”をパルキアの肩の宝石に向かって投げつける。

すると──


 「ディァ…ガ──」「バァル…──」


“こんごうだま”と“しらたま”はディアルガとパルキアの体にある宝石に吸い込まれていく。


鞠莉「……な……」


するとディアルガとパルキアの体の形が変化していく。

ディアルガは側頭部の甲殻が口元を覆う顎当てへと変化し、胸部の甲殻は首の中ほどに移動し、宝珠を中心に詰めた砲のような形へと変わる。前足が肥大化し、後ろ足が細くなる。そして胴には特徴的な突起のついたリングが出来ている。

パルキアは腕が四足獣のような蹄を持った前脚へと変化し、後ろ脚も前脚と同じように、蹄を持った形に。尻尾は細長い5本のものになり、こちらにも特徴的なリングが胴に現れる。


愛「……これが、このポケモンたちの“オリジンフォルム”ってやつだよ」

鞠莉「“オリジン……フォルム”……?」

愛「……ああそういや……“はっきんだま”も貰っておかないとね。……マリーは持ってなさそうだから……あの二人のどっちかか……」


アタシは気絶しているダイヤと果南の持ち物を漁ってみる。すると──すぐに見つかった。


愛「おっし……そんじゃ、あとはギラティナ捕まえに行きますか〜」


ディアルガとパルキアをボールに戻しながら、肩をぐるぐる回して気合いを入れていた──そのとき、


 「──ボルテッカー!!!」
  「ピィィーーーーカァァァーーーーッ!!!!!」

愛「! リーシャン!!」
 「リシャァァァァンッ!!!!!」


リーシャンが咄嗟に音の障壁を作り出し、突っ込んできたピカチュウを弾き返そうとするが──


 「ピィィィィカァァァァ!!!!!!」


ピカチュウは音の障壁をお構いなしにどんどんめり込んでくる。


愛「く……!? リーシャン!!」


アタシはリーシャンの体をグリップしながら身を捻る──直後、


 「ピカァァァァァッ!!!!!」
611 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 02:32:03.27 ID:mDhGJcE10

ピカチュウが音の障壁を貫き、アタシがそれをギリギリで躱すと──背後に突っ込んだピカチュウが轟音をあげながら、周囲にとんでもない規模の雷撃を散らす。

このピカチュウ、この強さ……思い当たるトレーナーは一人しかいない。


穂乃果「……駆けつけて来てみたら……大変なことになっててびっくりした」

愛「……最後に規格外なのが来たね」


恐らく……この地方で最も強いトレーナー……。元チャンピオン・穂乃果。

果南のパワーでも破られなかった音の障壁を軽々とぶっ壊してきた。


穂乃果「でも、いいリベンジマッチの機会かな。ここなら、“テレポート”で飛ばされることもないだろうし」

愛「だから、穂乃果とは……まともに戦いたくなかったんだよね」

穂乃果「まあまあ、そう言わないでよ。……愛ちゃん、強いでしょ?」


そう言いながらボールを構える。


愛「……わかった。ただ、さすがの愛さんでも、穂乃果相手に手加減は出来ないから──死んでも文句言わないでよね?」

穂乃果「安心して、私が勝つから!」


どうやらここが愛さんにとっての──ラスボス戦みたいだね。


………………
…………
……
👏

612 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:16:22.75 ID:mDhGJcE10

■Chapter069 『決戦! DiverDiva・愛!』 【SIDE Honoka】





穂乃果「ピカチュウ!! “10まんボルト”!!」

 「ピーーカ、チュゥゥゥゥゥ!!!!!!」


愛ちゃんを挟んで向かい側にいるピカチュウが、電撃を放つ。

それに対し、


愛「リーシャン!!」
 「リシャァァァァンッ!!!」


愛ちゃんがリーシャンの名前を呼ぶと、ピカチュウの電撃が狙っていたはずの愛ちゃんから逸れて、変なところに落ちる。

その隙に愛ちゃんはリーシャンを左手で掴み、ステップを踏みながらピカチュウから距離を取る。


穂乃果「音で作った障壁……!」


さっきピカチュウの“ボルテッカー”を避けるときにも使っていた。

リーシャンの持つ音の振動を増幅して行う攻撃とサイコパワーという二つの能力を掛け合わせ、発生させた音の衝撃をサイコパワーで自分の周囲に留め、壁として存在させている。

それの精度がものすごく緻密で高度……さらに、その間集中して動けないはずのリーシャンは、愛ちゃんが直接手に持って移動することによって、トレーナーが欠点をカバーしている。

人が手に持てるくらい小さなポケモンである、リーシャンの性質を生かした、よく考えられた戦い方だ。


穂乃果「なら……! ケンタロス!!」
 「──モォォォォォォッ!!!!!」


ケンタロスがボールから飛び出すと同時に、愛ちゃんに向かって突っ込んでいく。


愛「リーシャン!!」
 「リシャァァァァンッ!!!!」


愛ちゃんは左手に掴んだリーシャンを前に突き出し、音の障壁を展開する。けど──


 「ブモォォォォォ!!!!!」

愛「と、止まらない……!? ルリリっ!!」
 「ルリィッ!!!」


ケンタロスは音の障壁をただの“とっしん”でぶち破る。

愛ちゃんは後ろに身を引きながら、今度は右手に持ったルリリが尻尾を振るってくる。


 「ブモッ…!!!?」


ルリリの尻尾がケンタロスの側頭部を叩き、ケンタロスが一瞬怯むけど──


 「ブモォォォォォッ!!!!!」


ケンタロスは3本の尻尾で自分の体をピシピシと叩きながら、自身を“ふるいたてる”。


 「ブモォォォォォッ!!!!」


そして、再び愛ちゃんたちに向かって“とっしん”していく。


愛「く……しつこい……!?」
613 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:17:02.93 ID:mDhGJcE10

愛ちゃんは後ろに向かって跳躍しながら、リーシャンを真下に向け、


愛「リーシャン!!」
 「リシャァーーーンッ!!!!」


リーシャンが真下に向かって、音の障壁を発生させ、その反動で空に跳び上がる。


 「ブモォォォォォッ!!!!!」


確かに空に跳ばれたらケンタロスでは手が出せない。けど──


穂乃果「ピカチュウ!! “かみなり”!!」
 「ピッカァァァァッ!!!!」


ピカチュウが“かみなり”を空中にいる愛ちゃんの上に発生させる。


愛「リーシャンッ!!」
 「リシャーーーーンッ!!!!」


すぐにリーシャンを真上に掲げ、音の障壁を作り出す。けど、“かみなり”は愛ちゃんの真上ではなく、真横に落ち──真横から急に軌道を変えて、横から愛ちゃんたちに直撃した。


愛「がぁっ……!!?」
 「リシャンッ!!!?」「ルリィッ!!!?」


──バリバリと音を立てながら、稲妻が迸り、


愛「……ぐ……ぅ……」


愛ちゃんが、地面に落下する。


穂乃果「ふぅ……」


さすがに生身で“かみなり”を受けたら、戦闘継続は不可能かな……。

そう思ったけど、


愛「……っ……い、今……完全に空中で不自然に曲がったよね……」

穂乃果「な……」


愛ちゃんはすぐに立ち上がる。


愛「……アタシ、これでも技術担当だからね……服に耐電加工くらいしてきてるよ……」

穂乃果「……さすがに一筋縄ではいかなさそうだね……」
 「ティニ…」

愛「……! さっきの不自然な“かみなり”の挙動……ビクティニの“しょうりのほし”か……」


“しょうりのほし”。ビクティニの特性で、味方の命中率を底上げする特性だ。

ビクティニは勝利をもたらすポケモンと言われていて、ピカチュウの“かみなり”は勝利をもたらすために“偶然”軌道を変えて愛ちゃんに襲い掛かったというわけだ。


愛「あー……やっぱ、穂乃果は強すぎるわ……。……久しぶりに本気出さなきゃダメそう」

穂乃果「ピカチュウ!! “かみなり”!!」
 「ピッカァァッ!!!!!」


再び迸る雷撃が、また勝利に導かれ……愛ちゃんに吸い込まれるように飛んでいくけど──愛ちゃんに当たる直前で跳ね返ってくる。


穂乃果「!? ピカチュウ!! 尻尾!!」
 「ピ、ピッカァッ!!!!」
614 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:18:06.23 ID:mDhGJcE10

ピカチュウは咄嗟に尻尾を向けて、跳ね返ってきた“かみなり”を“ひらいしん”で吸収する。


 「ピ、ピカァ…ッ!!!」


それでもエネルギーが吸いきれず、周囲に稲妻が放出され、あちこちに雷撃が落ちて大地を破壊し始める。


穂乃果「っ……! 溜めちゃだめ!! “ほうでん”!!」
 「ピカァッ!!!」


ピカチュウは尻尾に落ちてきた電撃をその場で“ほうでん”して体から逃がしながら、“かみなり”を受け止める。

それによって──どうにか吸収しきれた。


穂乃果「ほ……。……今の反射、“ミラーコート”……!」

愛「そーゆーこと」
 「──ソーナノ!!」


どうやら、ソーナノに反射されたらしい。


 「ブモォォォォォッ!!!!!」


ケンタロスが愛ちゃんに向かって、“とっしん”していくけど、


愛「“カウンター”!!」
 「ソーーナノッ!!!!」

 「ブモォォォッ!!!?」


ソーナノは物理技でも反射出来る。

ケンタロスはそのまま跳ね返されて、地面を転がる。


穂乃果「ケンタロス、大丈夫!?」

 「ブ、ブモォォォッ…!!!」


ケンタロスはすぐに体勢を立て直して起き上がる──が、起き上がったケンタロスの頭に……紫色の何かが引っ付いていた。


 「──レズン…」

穂乃果「……!? エレズン!?」


──“カウンター”で反撃する際に、一緒に張り付けられた……!?


愛「“ほっぺすりすり”」

 「レズン」

 「ブ、ブモォォッ!!!?」


エレズンが自身の頬を擦り付けると──ケンタロスが“まひ”で動きを鈍らされる。

そこに向かって──


愛「“すてみタックル”!!」

 「ルーーーリィッ!!!!!」

 「ブモォッ!!!?」


愛ちゃんの手から離れて飛んできたルリリがケンタロスの顔面にめり込んだ。


 「ルリッ」
615 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:18:41.20 ID:mDhGJcE10

ルリリは尻尾をバネにしながら、離脱し──


 「ブ、モォ……」


ケンタロスは崩れ落ちた。


穂乃果「……!」

愛「ルリリ、エレズン、戻っておいで」

 「ルリ」「レズン」


逃がしちゃダメだ……!!


穂乃果「ラプラス!! “フリーズドライ”!!」
 「──キュゥゥゥ!!!!」


繰り出したラプラスが、広がる冷気をエレズンとルリリに向かって発射する。

でも、そこに向かって──


愛「リーシャンッ!!」
 「リーシャンッ!!!」


愛ちゃんが逃げる2匹を庇うように、リーシャンを構えながら飛び込んでくる。

またしても、音の障壁を作りながら冷気を吹き飛ばそうとするけど──


 「キュゥゥゥゥ!!!!」

愛「いっ!? 冷気でも貫通してくんの!?」


ラプラスは強引に音の壁ごと凍らせ始める。さらに──


穂乃果「“ハイドロポンプ”!!」
 「キュゥゥゥゥッ!!!!!」


冷気の層に向かって、それを押し込むように、“ハイドロポンプ”を発射する。

音の壁を凍らせ始めていた“フリーズドライ”の層にぶつかった“ハイドロポンプ”は──凍り付いて杭のように、音の壁に突き刺さる。


愛「ぐっ……!?」


愛ちゃんは咄嗟の判断で身を伏せて、ギリギリ氷の杭を回避するけど──私はそこに向かって次のポケモンのボールを投げ込む。


穂乃果「ガチゴラス!!」

 「──ゴラァァァァスッ!!!!!」

愛「!?」


伏せた愛ちゃんに──ボールから飛び出したガチゴラスが大顎を開けながら、“かみくだく”!!


愛「ソーナノッ!! “カウンター”!!」
 「ソーーナノッ!!!!」


ソーナノが飛び込んできて、ガチゴラスの大顎による攻撃を反射し、無理やりこじ開けようとするけど、


穂乃果「“ばかぢから”!!」

 「ゴラァァァァァスッ!!!!!!」


押し返されそうになった、ガチゴラスはパワーでソーナノの反射を無理やり抑え込む。
616 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:19:13.15 ID:mDhGJcE10

愛「は、反射をパワーで!? む、無茶苦茶……!?」

 「ソナノッ!!!?」


ガチゴラスはパワーで無理やり圧倒したソーナノに噛みつき、そのまま頭を振るって、ブンと真上の放り投げる。


 「ソ、ソーナノーッ!!!?」

穂乃果「“もろはのずつき”!!」

 「ゴラァァァァスッ!!!!!」

 「ソーーナノッ!!!!?」


空中で抵抗できないソーナノが、破砕の一撃で、吹っ飛ばす。


愛「っ……!! リーシャン!!」
 「リシャンッ!!!」


吹っ飛ぶソーナノを、リーシャンがサイコパワーで受け止め、助けるけど──


 「ソー…ナノ…」


落下のダメージがなくても、打撃の威力だけで十分だ。

ソーナノはすでに戦闘不能になっていた。


愛「ごめん、ソーナノ……無茶させすぎた」
 「ソーナノ──」


愛ちゃんは謝りながら、ソーナノをボールに戻す。

直後──


 「ゴラァァァァスッ!!!!!」


ガチゴラスが勝手に頭を構えて走り出した。


穂乃果「え!?」


指示はまだ出してない……!?

ハッとして、フィールドを見ると──


 「レズンレズン♪」


エレズンが手を叩いていた。


穂乃果「しまった!? “アンコール”!?」


同じ技を出させる技によって、“もろはのずつき”を無理やり誘発させられ、


愛「さすがに突進系の大技は軌道が読みやすいよね……!!」


愛ちゃんはガチゴラスの下を潜るようにスライディングしながら、


愛「“ハイパーボイス”!!」
 「リシャンッ!!!!」

 「ゴラァァスッ!!!?」


真下からガチゴラスの顎を狙って、音の衝撃を直撃させ、さらに──
617 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:19:53.16 ID:mDhGJcE10

愛「“アクアジェット”!!」
 「ルリッ!!!!」

 「ゴラァスッ!!!?」


追い打ちを掛けるように、もう一発、真下から顎に向かってルリリが強烈な突撃でガチゴラスの顎を跳ね上げる。


愛「“ふぶき”!!」
 「ルーーーリィッ!!!」

 「ゴラァァァス…!!!?」


そして、トドメと言わんばかりに至近距離から、ガチゴラスが苦手とするこおりタイプの技で一気に氷漬けにする。


穂乃果「ガチゴラス……!?」


氷漬けになったガチゴラスがゆっくりと横転するのと同時に──


愛「リーシャン!!」
 「リシャンッ!!!」

 「…レズンッ!!!」


愛ちゃんの指示の声と共に、突然エレズンが猛スピードで吹っ飛んできて、


 「キュゥッ!!!?」


ラプラスの顔に張り付いた。


穂乃果「なっ……!?」

愛「“ほっぺすりすり”!」

 「レズン♪」

 「キュゥ…!!!?」


ルリリがガチゴラスを攻撃している間に、愛ちゃんはリーシャンの音の衝撃によって、エレズンをラプラスに向かって飛ばしてきた。

理解したときにはもうラプラスは“まひ”させられていて、さらに──エレズンはボールを抱えていた。そのボールから、


 「──ベベノッ」


白光の体色を持った、色違いのベベノムが飛び出してきた。


愛「ベベノム!! “ヘドロウェーブ”!!」

 「ベーーベノーーーッ!!!!」

 「キュゥゥゥゥ!!!!?」

穂乃果「ラプラス!?」


ラプラスが、至近距離から発生した、波のように押し寄せてきた毒液にまみれ、


愛「“とどめばり”!!」

 「ベベノッ!!!!」

 「キュゥッ…!!!!」


ダメ押しの一撃を食らって戦闘不能になる。


穂乃果「ピカチュウ!! “かみなり”!!」
 「ピッカァァァッ!!!!」
618 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:20:51.90 ID:mDhGJcE10

“かみなり”をベベノムの頭上に落とすけど、


愛「“アイアンテール”!!」

 「ベノッ!!!!」


ベベノムが“とどめばり”によって、爆発的に上昇させた攻撃力によって、尻尾を振るって強引に“かみなり”を弾き飛ばす。

さらに畳みかけるように、


 「レズンッ!!」

 「ピカッ!!?」


エレズンがピカチュウに跳び付いてくる。


穂乃果「くっ……!? ピカチュウ!! “10まんボルト”!!」
 「ピィーーーカァ、チュゥゥゥゥゥッ!!!!!!!」

 「レズンッ!!!!!」


取り付いたエレズンごと電撃で攻撃する。が、その隙に、


愛「ベベノム、“いえき”!!」

 「ベベノッ!!!」

 「ティニッ!!!?」


ビクティニがベベノムから“いえき”を掛けられる。


愛「ルリリ!! 今のうちに“はらだいこ”!!」
 「ルリッ!!!」


ルリリがパワーを高め始める。

一方、


 「ピカァァァァァッ!!!!!」

 「レ、ズンッ…!!!」


ピカチュウは優勢。

でも、至近距離から電撃による反撃を食らっているエレズンが倒れそうになった瞬間、


愛「“じたばた”!!」

 「レズンッ!!!」

 「ピカッ!!!?」


エレズンがピカチュウの目の前で全身を無茶苦茶に振り回しながら暴れだし、ピカチュウを吹き飛ばす。


穂乃果「“かえんだん”!!」
 「ティニーーーッ!!!!!」


ビクティニが周囲に向かって、真っ赤な炎弾を撃ち出して、


 「レズンッ!!!?」「ベベノッ!!!!」


エレズンとベベノムを強烈な炎で攻撃し、


 「ベ、ベベノ…!!!」
619 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:22:39.12 ID:mDhGJcE10

ベベノムにはギリギリ耐えきられて、逃げられてしまうが、エレズンはどうにか戦闘不能に追い込む。

が、


愛「“たきのぼ、り”ッ!!!」

 「ルーーーリィッ!!!!!」


愛ちゃんが水のエネルギーを全身に纏ったルリリを──ビクティニに向かって、ぶん投げてきた。


 「ティニッ!!!?」
穂乃果「ビクティニ!?」

 「ティ、ティニ……」


“はらだいこ”でフルパワーになったルリリのパワーによって、ビクティニは一撃で戦闘不能に、


穂乃果「ピカチュウ!!」
 「…ピッカァァァッ!!!!!」


エレズンの“じたばた”で大きなダメージを負ったものの、どうにか耐え切ったピカチュウが、全身に電撃を纏いながら、ビクティニを倒して着地したルリリに向かって、


穂乃果「“ボルテッカー”!!」
 「ピィィィィィカァァァァァァァッ!!!!!!」

 「ルリィーーーッ!!!!?」


ルリリを撃破する。


愛「く……ルリリ、エレズン、戻れ……!」
 「ルリ…──」「レズン…──」


愛ちゃんがルリリとエレズンをボールに戻す。


穂乃果「ラプラス、ガチゴラス、ビクティニ、戻って!」
 「キュウ…──」「……──」「ティニ…──」


私も戦闘不能になったラプラスとビクティニ、氷漬けになってこれ以上の戦闘が続けられないガチゴラスをボールに戻す。


愛「いやぁ……ホント強すぎ……っ、こんな追い詰められたのいつ以来だっけ……」
 「ベベノ…」「リシャンッ」

穂乃果「それはお互い様かな……」
 「ピカッ…!!!」


愛ちゃんはベベノムとリーシャンと共に身構え、私はピカチュウと──


穂乃果「リザードン!」
 「──リザァッ!!!」


リザードンを出して──メガリングをかざす。


穂乃果「メガシンカ!!」
 「リザァァーーーッ!!!!」


リザードンが光に包まれると共に──やぶれた世界の中に、強い日差しが差し込んでくる。

それと同時に、リザードンは尻尾が長く伸び、翼も一回り大きく変化。頭には一際大きな角が頭頂から1本伸び、腕にも翼を備えた姿──メガリザードンYへとメガシンカする。


 「リザァァーーーーッ!!!!!」

穂乃果「リザードン……! “かえんほうしゃ”!!」
 「リザァーーーーーッ!!!!!」
620 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:23:32.63 ID:mDhGJcE10

リザードンが強烈な火炎を放つ。


愛「く……リーシャンッ!!」
 「リシャァーーーーンッ!!!!」


リーシャンが例によって、音の障壁を発生させるが──とてつもない火炎は、音の障壁に阻まれるどころか、一瞬で防壁を貫く。


愛「うわっちっ!!? き、距離取るよ!!」
 「リシャンッ!!!」


愛ちゃんは、リーシャンの音撃の反動で、後ろに向かって距離を取るけど、


穂乃果「ピカチュウ!!」
 「ピッカァッ!!!!」


ピカチュウが全身に電撃を纏い、“ボルテッカー”の構えを取りながら走り出す──そして、走りながらそのエネルギーを拳へと集中させ、


 「ピッカァッ!!!!」

愛「……っ!?」


稲妻のような軌道を描きながら、リザードンの吐いた炎を飛び越えて──真上から愛ちゃんたちに向かって飛び掛かる。


穂乃果「“ボルテッ拳”!!」

 「ピカァァァァッ!!!!!」

愛「リーシャンッ!! “ハイパーボイス”!!」
 「リシャァーーーーーーンッ!!!!!」


愛ちゃんが咄嗟に、真上から飛び掛かってくるピカチュウに向かって、爆音によって攻撃してくるけど──


 「ピィィィィィカァァァァァァッ!!!!! チュゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!」


“ボルテッ拳”のパワーは音の衝撃のエネルギーを遥かに凌駕し──


愛「く……っ……!?」
 「リ、リシャァァァッ!!!!?」


一瞬の静寂ののち──バヂバヂバヂバヂッ!!!!! と激しい稲妻の音を空間内に轟かせながら、電撃のエネルギーを盛大に爆ぜ散らせた。

その反動で、


 「ピッカァッ!!!」


ピカチュウがくるくると回転しながら、私の隣に着地しながら戻ってくる。

そして、電撃エネルギーによって、巻き起こった爆発が晴れると、


愛「ぐ……く、そぉ……」
 「リシャンッ…」


愛ちゃんがリーシャンと共に倒れていた。


穂乃果「……これなら、どう……?」

愛「っ゛……」


さすがに愛ちゃんの表情が歪む。

耐電撃スーツでも、さすがに“ボルテッ拳”を無効化しきることは出来なかったようだ。
621 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:24:43.12 ID:mDhGJcE10

穂乃果「……もう終わりだよ」

愛「…………っ」


私はうつ伏せになって倒れている愛ちゃんへとゆっくりと近付く。


穂乃果「……さぁ、降参してくれるかな?」

愛「……。……わかった。……降参……──するもんかっ!!」
 「──ベベノッ!!!!」

穂乃果「……!?」


うつ伏せの愛ちゃんの胸の下から──ベベノムが飛び出してきて、毒液を射出する。

毒液は私の顔に真っすぐ飛んできて──


 「ピッカァッ…!!!」
穂乃果「!! ピカチュウ!!」


ピカチュウが私を庇って毒液を受ける。


穂乃果「リザードンッ!!」
 「リザァァッ!!!!」


リザードンが至近距離で“ねっぷう”を起こし、


愛「ぐぅぅっ!!?」
 「ベ、ベベノォッ!!!?」


愛ちゃんを焼き尽くす。


愛「ぐ……ぅ……」


さすがに、この攻撃で愛ちゃんも大人しくなる。


穂乃果「……ピカチュウ……ありがとう……」
 「ピカカ…」

穂乃果「うん、ボールに戻って、休んでね」
 「チャー…──」


ピカチュウをボールに戻す。


愛「………………つよ……すぎ……でしょ……」

穂乃果「……! まだ、意識があるんだね……」

愛「…………耐熱も…………してん……だよ……」

穂乃果「でも、もう動けないよね」

愛「……ぁ゛ー……動きたくは……ない、ね……」

穂乃果「……とりあえず、ディアルガとパルキア……返してもらうよ」


そう言いながら、私は屈んで愛ちゃんが腰に着けたボールに手を伸ばす。


愛「……これが……試合みたいな……ポケモンバトルじゃなくて……よかった……」

穂乃果「え?」

愛「…………やっぱ、アタシは……そういうルールに縛られた戦いよりも…………ただ、相手を倒す戦いの方が、向いてるっぽいね……」

穂乃果「何言って──」
622 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:28:17.30 ID:mDhGJcE10

──ゴッ!!! 鈍い音と共に、頭に強い衝撃を受けた。


穂乃果「ぁ゛……っ……!!」


衝撃と痛みで私はその場に倒れ込む。

倒れた私の目の前には──


 「──ウソッ」

穂乃果「ウソ……ハチ……っ゛……」


ウソハチがいた。ウソハチが──私の頭上に、落ちてきた。


 「リザァッ!!!!」


リザードンが咄嗟に、炎を吐こうとしたが、


愛「ウソハチ……“だいばくはつ”……!!」
 「ウソッ…!!!」

 「リザッ!!!?」


ウソハチがリザードンの懐に飛び込み──爆発して吹き飛ばした。


愛「…………悪いね。……真面目に戦ったら、勝てる気がしなかったから……卑怯な手、使わせてもらったよ」

穂乃果「いつ、の……間に……空に……」

愛「……“ボルテッ拳”だっけ? ……あのとんでも技が上から飛び掛かってくる使い方で……助かったよ」

穂乃果「…………あの、とき、の……“ハイパー……ボイス”……」


愛ちゃんは、ピカチュウの攻撃を相殺するように見せかけて──遥か上空に向かって、ウソハチの入ったボールを打ち上げていたんだ……。

私の視界が赤く染まっていく。私は……頭から大量の血を流していた。


愛「……もう、立つのは無理っしょ……猛スピードで落ちてきた岩が……頭に直撃したようなもんだからね。勝負ありだよ……」

穂乃果「…………っ゛……」


愛ちゃんがよろよろと立ち上がって、私に背を向ける。


愛「さーて、今度こそ……ギラティナ捕まえて、おさらばだ……」


そう言いながら立ち去ろうとする背に──


穂乃果「──……ま、って……」


立ち上がって、声を掛ける。


愛「…………冗談でしょ? あれ食らって立つの……?」

穂乃果「あなたは……野放しにしちゃ……いけない……」

愛「…………」

穂乃果「リザー……ドン……」
 「…リザァ…ッ…!!!!」


ウソハチの“だいばくはつ”で吹っ飛ばされたリザードンが、羽ばたきながら戻ってくる。
623 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:29:10.58 ID:mDhGJcE10

愛「ここまで来ると……ポケモンも……トレーナーも……化け物じゃん……」

穂乃果「あなたは……ここで……とめ、る……」


意識が朦朧とする。だけど、この人だけは……絶対にここで止めないとダメだ。

ここで逃がしたら──本当に誰にも手が付けられなくなる。

そのときだった。愛ちゃんが抱き抱えていたベベノムが──


 「ベベノ…──」


カッと眩く光り輝いた。


穂乃果「この光……しん、か……?」


この土壇場で──愛ちゃんのベベノムが進化して、アーゴヨンに──


愛「ただの、進化じゃないよ……」
 「──アーゴッ…!!!」


確かに愛ちゃんのベベノムは色違い。

進化したアーゴヨンも、本来の色とは違い、黄色と黒の警告色をしたアーゴヨンへと姿を変える。でも──それだけじゃなかった。


穂乃果「……なに……これ……?」


目の前のアーゴヨンは──翼から目が痛くなるような、激しいオレンジ──超オレンジと言っても差し支えのない、強烈な閃光を放ち、お腹の毒針からもそれがエネルギーとしてスパークしている、異様な姿だった。


愛「……悪いね……。……アタシは……止まるわけにいかないんだよ」


私とリザードンは……アーゴヨンから放たれた閃光に──飲み込まれた。





    👏    👏    👏





穂乃果「…………」
 「……リ、ザ……」

愛「…………」


今度こそ、動かなくなった穂乃果に背を向けて歩き出す。


愛「……さて、ギラティナ……出てきてくんないかな……。……逃げられないこと……わかってるっしょ……?」


虚空に向かって呼び掛けると──


 「──ギシャラァッ…」


満身創痍のギラティナが、空間を裂いて現れる。

そして、その直後──そこらへんを転がっていた、果南、ダイヤ、マリーの真下に空間の裂け目が生じ、3人を飲み込んだ。


愛「……!」


それと同時に──背後の穂乃果……さらに、彼女たちがボールに戻せていなかったポケモンたちも空間の裂け目に飲み込まれて姿を消す。
624 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:29:39.86 ID:mDhGJcE10

愛「……逃がしたってことか……」

 「ギシャラ…ッ」

愛「……自分がもう、アタシから逃げられないってわかってて……。ギラティナがいなくなったら……この空間自体、維持できないもんね……。……そんなナリで意外と義理堅いじゃん。愛さん、そういうの嫌いじゃないよ」

 「ギシャラァッ!!!!!」


ギラティナが最後の力を振り絞って飛び掛かってくる。


愛「ま……それでも、捕獲させてもらうけどね……」
 「アーゴッ!!!!」

 「ギシャラァァァァァッ!!!!!」


ギラティナの雄叫びが──やぶれた世界に、響き渡った。



625 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:30:09.97 ID:mDhGJcE10

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


 レポートに しっかり かきのこした


...To be continued.



626 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:05:43.89 ID:djK6Kzqg0

■Chapter070 『戦いを終えて』 【SIDE Yu】





侑「……歩夢、もう痛いところ……ない……?」
 「ブイ…」

歩夢「うん、大丈夫だよ。エマさんのママンボウが治療してくれたから……」
 「ママァ〜ン」

遥「やっぱり、ママンボウの治癒力はすごいですね……。……幸い骨に異常はなさそうですし……私が診た感じでも、問題ないと思います」

歩夢「遥ちゃんも……ありがとう」


あの後、エマさんのママンボウに傷を治してもらい……遥ちゃんから怪我を診てもらっていた。

ママンボウの治癒効果のお陰で、切り傷や擦り傷はすぐに治り、私も歩夢もすっかり元気になっていた。


歩夢「ただ、その……服がクリームでべとべとだから……出来れば、着替えたい……かも……」
 「マホ…」

歩夢「あ、ご、ごめんね!? マホイップを責めてるわけじゃないの! むしろ、マホイップがいなかったらもっと大怪我してたし……」
 「マホ〜…」

侑「とりあえず、あとで着替えよっか。歩夢の着替えも持ってきてるから」

歩夢「うん、ありがとう……侑ちゃん」


さて……どうにか歩夢を救出することに成功したわけだけど……。


彼方「……手錠……痛くない……?」

果林「…………ええ、大丈夫よ」


果林さんは、武装を完全に解除させられ……彼方さんが持ってきていた手錠を着けられている。


エマ「か、彼方ちゃん……やっぱり、手錠までしなくても……。果林ちゃん……もう、酷いことしないと思うから……」

果林「いいえ……今は……こうしておいて……。……もう、私が変な気を起こしても……大丈夫なように……」

エマ「果林ちゃん……」


果林さんは……先ほどまでの攻撃的な表情が嘘のように、戦意を失っていた。

そんな中、


姫乃「──あ、貴方たち!! 果林さんから、離れてくださいっ!!」


急に声が響く。

目を向けると──拘束されて、彼方さんのカビゴンに担がれている姫乃さんが、声を荒げていた。


果林「姫乃……」

彼方「姫乃ちゃん、目が覚めたんだね〜……」

姫乃「果林さん!! そんなやつらの口車に乗ってはいけませんっ!! 私たちは使命を帯びてここにいるんです……!! だから……」

果林「……もう、いいの」

姫乃「か、果林さん……」

果林「…………私たちの……負けよ……」

姫乃「…………」

果林「姫乃……今まで、一緒に戦ってくれて……ありがとう……」

姫乃「…………私は……」
627 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:06:15.90 ID:djK6Kzqg0

姫乃さんは果林さんの言葉を聞き、何か言いたそうにしていたけど……結局口を噤んだ。

果林さんが負けを認め……戦いは終わった。

そして、ちょうどそこに──


 「──侑せんぱ〜い!! 歩夢せんぱ〜い!! リナ子〜!!」


声が聞こえてくる。

この声は──


侑・歩夢「「かすみちゃん!」」
リナ『かすみちゃん!』 || > ◡ < ||

かすみ「侑先輩!! 歩夢先輩!! リナ子!!」


声の方に振り向くと同時に、かすみちゃんが抱き着いてくる。


かすみ「お二人とも、ボロボロじゃないですか……でも、無事でよかったです……」

侑「あはは……そう言うかすみちゃんも、ボロボロだよ」


まさに全員死闘を終えたという様相になっていた。


しずく「本当に……みんな無事で、よかったです……」


そして、ゆっくりと追い付いて来るしずくちゃんを見て、歩夢が、


歩夢「しずくちゃん……!」

しずく「わわっ……?」


しずくちゃんに抱き着く。


歩夢「ありがとう……しずくちゃんのお陰で……私の大切なもの……全部、全部失くさずに済んだよ……」

しずく「ふふ……お力になれたのなら……何よりです……」

侑「それにしても……あれが全部演技だったなんて……」

しずく「敵を騙すにはまず味方から……ですよ♪」

侑「あはは……ホントに騙されたよ……」

かすみ「……そういえば、それについてなんだけどさ」


私に抱き着いていたかすみちゃんが、不満そうな顔をしながら口を開く。
628 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:06:50.88 ID:djK6Kzqg0

しずく「ん?」

かすみ「しず子、戦ってる最中……かすみんのこと、勧誘してたよね? フェローチェの虜になりましょう〜とか」

しずく「あ、う、うーん……言ったかも……?」

かすみ「あそこで、かすみんがうんって言ったらどうするつもりだったの? せつ菜先輩を引っ張り込むために本気で戦うフリしてたのはわかるけど……勧誘までする必要なくない?」

しずく「それは……その……。……役に……のめり込みすぎちゃって……つい……」

かすみ「…………はぁ……。……ま、しず子らしいけど……」

しずく「で、でも! かすみさんなら、絶対にあそこで「うん」なんて言わないってわかってたし……!」

かすみ「ま……結果丸く収まったし……そういうことにしてあげなくもないかな〜……」

しずく「む……かすみさんだって、勢いに任せて……その……す、すごいこと……言ったくせに……///」

かすみ「……!?/// だ、だから、あれは……///」

リナ『二人とも顔真っ赤だよ? 大丈夫?』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「なんでもないですっ!!///」
しずく「な、なんでもないよ!?///」


何やら、向こうは向こうでいろいろあったようだ……。

それは追い追い聞くとして──私はこちらに歩いてくる人影に目を向ける。

黒髪の右側を結んでいる、凜とした──私の憧れのトレーナー。


侑「……せつ菜ちゃん」

せつ菜「……侑さん」


私が立ち上がって目を合わせると──


せつ菜「侑さん……ごめんなさい」


せつ菜ちゃんは二の句を告げず、頭を下げた。


侑「せ、せつ菜ちゃん……!?」

せつ菜「あのとき……クリフの遺跡で、侑さんは私を止めようとしてくれていたのに……私が未熟だったばかりに、侑さんに酷いことを言ってしまって……八つ当たりしてしまって……」

侑「あ、頭を上げて……! 私、怒ってないから……!」

せつ菜「で、ですが……」

侑「私も……せつ菜ちゃんの気持ち……なんにもわかってないのに、勝手なこと言っちゃって……ごめん……。……せつ菜ちゃんの苦しみ……全然わかってなかった」

せつ菜「そ、そんなこと……」

侑「うぅん……。……勝手に憧れて、勝手に私の理想を押し付けてた……。……無責任なこといっぱい言っちゃって……。だから私、これからは憧れるばっかりじゃなくて……もっとちゃんと、せつ菜ちゃんのことが知りたい……」

せつ菜「侑さん……」

侑「……一人のポケモントレーナーとして……一人の……友達として……」


私はせつ菜ちゃんの手をぎゅっと握る。


せつ菜「……侑さん……っ……。……はい……っ……」


せつ菜ちゃんは目に浮かぶ涙を拭ってから、私の握手に応えるように両手で私の手をぎゅっと握りしめる。

そして、そんな私たちの頭にポンと手が置かれる。


善子「──それと……同じヨハネのもとから旅立った図鑑所有者としても……ね?」


ヨハネ博士だった。
629 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:07:40.20 ID:djK6Kzqg0

侑「ヨハネ博士……! 同じ図鑑所有者ってことは……!」

せつ菜「その……はい……。先ほど……ポケモン図鑑と……最初のポケモンを……頂きました……」


せつ菜ちゃんは少し恥ずかしそうに、目を伏せながら言う。


せつ菜「わ、私……その……侑さんに図鑑所有者でなくてもチャンピオンに、とか、なんか、いろいろ言ったから、そんな私が図鑑所有者になるのは、あれかと思うかもしれませんが、ですから、その……」

侑「よかったぁ〜〜!!」

せつ菜「わぁっ!?///」


私は思わずせつ菜ちゃんに抱き着いてしまう。


せつ菜「ゆ、侑さん……!?///」

侑「せつ菜ちゃんが……うぅん、菜々ちゃんが、やっと夢を叶えられて……よかった……」

せつ菜「侑さん……。……はい……」

侑「えへへ、これからはおんなじ図鑑仲間だ♪」
 「ブイ」


抱き着きながら、ニコニコ笑っていると、


歩夢「…………むー……」

侑「おとと……? 歩夢……?」


歩夢が、私の腕に抱き着いてくる。


侑「え、えっと……どうしたの……?」

歩夢「…………むー……」


歩夢はぷくーっと頬を膨らませたまま、不満そうにしている。

わ、私……何かしたかな……?

そんな歩夢に、


しずく「歩夢さん、言いたいことがあるなら、ちゃんと言わないと、侑先輩にはわかりませんよ? 鈍感なんですから」


しずくちゃんがそんなことを言う。


歩夢「…………知ってるけど…………。……むー……」

侑「え、えっと……?」
 「ブイ…」

侑「え、なんでイーブイ呆れてるの……?」

リナ『さすがの私もこれには、リナちゃんボード「あきれ」』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「リナちゃんまで!?」


ホントになんなの……!?

私が歩夢の反応にあたふたする中、


せつ菜「……そうだ、しずくさん」

しずく「はい?」


せつ菜ちゃんがしずくちゃんの手を取って──


せつ菜「私……結局、守ろうとした直後に敵対関係になってしまったせいで……まだしずくさんのことを、ちゃんと守れていません」
630 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:09:16.02 ID:djK6Kzqg0

せつ菜ちゃんは片膝を折って、


せつ菜「……何かあったら、1回だけ守るというのは約束したことなので……何かあったら言ってくださいね? 今度こそ、私が命を懸けてお守りします!」


まるで王子様のように、しずくちゃんに向かってそう宣言する。


しずく「へっ!?/// い、いや、ですがあれは私が騙したようなものなので、そんな律義に守らなくても……!?///」

せつ菜「いえ……私はあの一時だけでも、貴方のあの言葉に救われたんです……。ですから、守らせてください」

しずく「で、でも……/// ……じ、じゃあ……そういうときがあったら……///」

せつ菜「はい、お任せください!」

しずく「……///」


しずくちゃんが顔を真っ赤にしながら、しおらしい反応をする。


かすみ「ちょっとしず子!! 何、満更でもなさそうな顔してんの!?」

しずく「だ、だって……///」

リナ『一瞬であちこちに修羅場を作り出してる……せつ菜さん恐るべし……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

せつ菜「え? えっと……?」


私たちを見て、ヨハネ博士が、


善子「くっくっく……賑やかで何よりね。でも、仲良くしなさいよ。貴方たちはみんな、このヨハネのリトルデーモンなんだから」


そう言って笑うのだった。





    🍊    🍊    🍊





曜「一件落着……みたいだね」

花丸「千歌ちゃんが、せつ菜ちゃんとの戦いには手を出さないで欲しいって言いだしたときは、どうしようかと思ったけど……」

梨子「千歌ちゃんったら……すっかりチャンピオンになってたんだね。ちゃんと一人のトレーナーとして……せつ菜ちゃんに道を示した」

ルビィ「ルビィもジムリーダーとして、見習わなくちゃ……!」

千歌「…………」

曜「千歌ちゃん?」


曜ちゃんが、反応がない私の顔を覗き込む。

でも、もう……無理……。

──バタン。


曜「わー!? 千歌ちゃん!?」

梨子「ち、千歌ちゃん!? もしかして、バトルで怪我したんじゃ……!?」


──ぐ〜……。


曜・梨子「「…………」」

花丸「人間、空腹には勝てないずら」

ルビィ「千歌ちゃん……ここに来る前に、あんなに食べてたのに……」
631 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:09:55.75 ID:djK6Kzqg0

たくさん動きすぎて、お腹空いた……。ついでに、眠い。


千歌「…………お腹空いた……眠い……疲れた……もう、ダメ……」

梨子「帰るまで頑張りなさい……って言いたいところだけど……今回ばかりはね……」

曜「カイリキー、千歌ちゃんのこと運んであげて」
 「──リキッ」

ルビィ「あ……! ルビィ、飴さんなら、持ってるよ!」

千歌「食べさせてー……」

ルビィ「うん。はい、口開けて」

千歌「あーむ……」

花丸「棒が喉の奥に刺さらないように気を付けてね?」

千歌「ふぁ〜い……」

梨子「……棒付き飴なんだ……」

善子「うわ……!? カイリキーに抱えられてだらけた千歌の口に、ルビィが飴を押し込んでる……!? 何事……!?」

曜「おー……善子ちゃんが的確に状況を説明してる……」

善子「善子じゃなくてヨハネよ!!」


みんなが甘やかしてくれる……幸せー……。

身に沁みる飴の甘さを感じながら、私はぼんやりと──せつ菜ちゃんに目を向ける。
632 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:10:49.08 ID:djK6Kzqg0

侑「そういえばさ、そういえばさっ! せつ菜ちゃんが貰った最初のポケモンってどんな子なの!?」

せつ菜「あ、はい! 出てきて、ダクマ!」
 「──ベァーマ…」

歩夢「わ、可愛い♪」

侑「ダクマ! この子がせつ菜ちゃんの最初のポケモンなんだねっ!」

せつ菜「最初というか、最後というか……少し言い方に悩んでしまいますけどね……」
 「ベァ?」

せつ菜「あ、そうだダクマ! おやつがあるので、食べませんか? えっと……」
 「ベァーマ」

歩夢「せつ菜ちゃん、ゲンガー用にあげたやつまだ余ってる?」

せつ菜「え? あ、はい。たくさん貰ったのでまだありますけど……」

歩夢「うん♪ じゃ、桃色の“ポフィン”をあげようね♪ ダクマが好きな味だから♪」

せつ菜「え、でも……ダクマだけ、自分用のおやつがないのは可哀想です……。……ゲンガーもおやつを取られたら嫌でしょうし、私が前に作ったやつが確か……」

歩夢「私がいくらでもあげるから、ダクマには桃色の“ポフィン”をあげようね?」

せつ菜「あ、歩夢さん……? ……な、なんだか……すごく圧が強いです……。ですが、私が作った自慢のやつがあるんです! ダクマ! おやつですよ!」
 「ベ、ベァ…」

かすみ「し、しず子……あれ、炭みたいな色してない……?」

しずく「というか……炭そのもののような……」

歩夢「あーーーーーサスケーーーーー人のもの勝手に食べちゃダメだよーーーーー」
 「シャーーーボッ」

せつ菜「あーーーーーっ!? 私特製の自慢の“ポフィン”がーーーーっ!?」

リナ『歩夢さんとサスケの尊い行いによって、また1匹のポケモンの命が救われた……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

歩夢「ごめんね、せつ菜ちゃん……。……お詫びに今度、私と一緒に“ポフィン”作らない?」

せつ菜「え……! い、いいんですか!?」

歩夢「うん♪ “ポフィン”はみんなで作った方がおいしくなるから、一緒に作ろう♪」

かすみ「歩夢先輩! かすみんも一緒にいいですか!? 歩夢先輩のお菓子作りの技術を盗──じゃなくて、教えてください!」

しずく「あ、それなら私もご一緒したいです」

歩夢「うん♪ みんなで作ろう♪ ──そのときに上手な作り方を徹底的に教えなくちゃ……うん」

せつ菜「? 歩夢さん、何かおっしゃいましたか?」

歩夢「うぅん♪ なんでもないよ♪」

侑「じゃあ、私はみんなが作ったのを食べるね! えへへ、楽しみ……」
 「ブイ…」

リナ『ポケモン用のお菓子なのに、自分が食べる話ししてる……』 ||;◐ ◡ ◐ ||


賑やかなあの子たちを見ていると──まるで昔の私たちを見ているような気持ちになった。


千歌「せつ菜ちゃん……よかったね……」


仲間に囲まれた彼女は……きっともう大丈夫……。

私は……チャンピオンとして、一人のポケモントレーナーとして……大切なことを教えてあげられたことに安堵するのだった。



633 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:11:17.71 ID:djK6Kzqg0

    👠    👠    👠





果林「……」

彼方「……」

果林「……懐かしいな」

彼方「……そうだね」


侑たちを見ていると……昔の自分たちを思い出す。

同じ志を持った仲間たちと……過ごした日々を……。


果林「私たち……いつから……すれ違っちゃったのかしらね……」

彼方「果林ちゃん……」

果林「私はどこから……間違っちゃったのかしらね……」

彼方「…………」

果林「…………」

彼方「……やり直せばいいよ」

果林「ふふ……簡単に言うんだから……」

彼方「みんなが笑える世界を……目指そう……昔みたいに……一緒に……」


彼方が私の手を握る。


果林「……そうね。……彼方……後のことは……よろしくね……」


彼方には……この言葉で十分伝わるはずだ。彼方は……私の家族だから。


彼方「……大丈夫。私、頑張りながら……待ってるから……」

果林「……うん」

エマ「ま、待って……どういうこと……?」


そんな私たちの会話を聞いて、エマが瞳を揺らしながら訊ねてくる。


果林「どう足掻いても、私はこの後、国際警察に捕まるって話……釈放されるのに、どれくらい掛かるかしらね……」

エマ「そ、そんな……!」

果林「いいのよ、エマ。……それでいいの」

エマ「果林ちゃん……」

果林「私が出来る限りの罪を背負うから……外に出るのは、時間が掛かっちゃうかもしれないわね……」

姫乃「……! 果林さん、それって……!」

果林「……この一連の問題は全て──私が無理やり命令して従わせた。そういうことよ。姫乃も愛もね」

姫乃「ま、待ってください……! 私は……そんなことされても嬉しくありません……!」

果林「姫乃……」

姫乃「果林さんが負けを認めて、檻に入ることを選ぶなら……私もお供します……。……させてください……」

果林「……ありがとう、姫乃」


最初は利用するつもりでしかなかったのに……姫乃はいい子だった。……最後まで、私に付き従ってくれるらしい。
634 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:12:19.94 ID:djK6Kzqg0

せつ菜「──なら……私も一緒に檻に繋がれるべきです」

果林「せつ菜……」


いつから聞いていたのか、気付けばせつ菜が私たちの方へやってきて、自分にも責任があると言いだした。


果林「……ダメよ、それこそ貴方は私が利用しただけ。関係ないわ」

せつ菜「いいえ……私は自分の意志で貴方たちに付いて行きました。貴方たちが裁かれるなら、私も同じように裁かれて然るべきです」

果林「……子供がかっこつけるんじゃない」

せつ菜「な……」

果林「自分の意志でとは……よく言うわね。まんまと心の弱みに付け込まれて利用された分際で」

せつ菜「それは……」

果林「貴方は、貴方の帰るべき世界があるでしょう? ……なら、そこに帰りなさい」

せつ菜「…………」

果林「特に……親や……自分を大切にしてくれる人を悲しませちゃダメよ……」


せつ菜の後方にいる──彼女の両親や……彼女をずっと見守ってきたであろう真姫……そして、彼女たちの仲間を見ながら。


果林「なんて……私が言えた話じゃないけどね……」

せつ菜「果林さん……」


せつ菜は何か言いたげだったけど──後方の両親たちや仲間と私を何度か見比べたあと、


せつ菜「…………」


私に向かって、綺麗なお辞儀をしてから、仲間たちのもとへと──帰っていった。


果林「それと……愛もね。……愛は本当に私が無理やり従わせてただけだから……」

彼方「そういえば……愛ちゃんはどこにいるの……?」

果林「あちこち移動しているせいですぐにはわからないけど……発信機があるから、それでちゃんと見つけて……もう終わったことを伝えるわ。私たちの負けだって……」


それで全て終わり……。やっと全部……終わりなんだ……。





    🎹    🎹    🎹





リナ『……』 || ╹ _ ╹ ||

侑「リナちゃん……行かなくていいの?」


果林さんたちをじっと見つめているリナちゃんに、そう訊ねる。

リナちゃんにとって……果林さんたちは、かつての仲間だ。……あの場に行きたいんじゃないかな……。


リナ『うぅん……いい。私はコピーだから……。璃奈はもう、死んだんだよ。あの輪に加わるべきなのは、私じゃない』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「リナちゃん……」

リナ『それに今の私は、侑さんのポケモン図鑑だから!』 || > ◡ < ||

侑「……わかった。リナちゃんの意思を尊重する」

リナ『ありがとう、侑さん』 || ╹ ◡ ╹ ||
635 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:12:50.49 ID:djK6Kzqg0

粗方の話もついて……。

あとは──


侑「あとは……帰るだけだね」
 「ブイ」

かすみ「ですね」


私たちは歩夢と、しずくちゃんと、せつ菜ちゃんを無事救出し……果林さんの野望も食い止めた。

やっと戦いが終わったんだ……。

──そう思った、そのときだった。


 「──しずくちゃーーーーんッ!!!」


空から電子音のような声が降ってきた。


しずく「この声……もしかして、ロトム……?」

 「やっと見つけたロトッ!!!」


焦った様子で、しずくちゃんの目の前にロトム図鑑が舞い降りてくる。


しずく「どうしたんですか……?」

 「た、大変ロトッ!!!」


焦った様子のロトムが口にしたことは、


 「やぶれた世界に居た、マリーたちが…愛って人にやられたロト…!!!」

しずく「え!?」


まさに青天の霹靂。私たちの知らない場所で、まだ事態が動いていたことを知らされる。


侑「ど、どういうこと!?」

 「ゲートを狙われたロト…あまりに強すぎて、果南ちゃんもダイヤちゃんも歯が立たなかったロト…」

果林「──なるほどね……愛はゲート側に行ってたのね……」


そう言いながら、彼方さんに手を引かれる形で、果林さんがこちらに歩いてくる。


果林「……今すぐ、愛を呼び戻すわ。もう戦闘が終わったことを伝える」


果林さんが愛ちゃんを止める旨を口にした瞬間──


 「──その必要はないよ」


またしても、空から声が降ってきた。

その場にいた全員が、空を見上げると、


愛「……アタシはここにいるから」
 「アーーゴ」


黄色と黒の巨大なハチのようなポケモンに掴まった──愛ちゃんがいた。
636 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:13:32.00 ID:djK6Kzqg0

侑「愛ちゃん……!」

果林「愛……もう戦いは終わったの……! 私たちの負けよ……!」

愛「……みたいだね。まんまと負けちゃったみたいでまぁ……」

果林「……ごめんなさい。でも、出来る限りの責任は私が負うから……だから──」

愛「んー……別にそれはどうでもいいや」

果林「どうでもいい……?」

愛「挨拶しにきただけだから──」
 「アーーーーゴッ!!!!!」


直後、上空から──大量の“りゅうせいぐん”が降り注いできた。


侑「……!? イーブイ!! “きらきらストーム”!!」
 「ブーィィッ!!!!」

歩夢「マホイップ!! “マジカルシャイン”!!」
 「マホイーーーッ!!!」


咄嗟に私たちに向かってくる流星をフェアリー技で掻き消すが──大量の“りゅうせいぐん”を全ては捌ききれず、


侑「くっ……!! 歩夢、伏せて!!」

歩夢「きゃっ!!?」

せつ菜「……くっ! せ、せめて、戦えるポケモンが残っていれば……!」

かすみ「しず子……!!」

しずく「きゃっ!?」



全員でその場に伏せる。

でも──数が多すぎる。


果林「愛!! やめなさい!! ……くっ……!!」

彼方「エマちゃん!! 遥ちゃんと姫乃ちゃんと一緒に、わたしの近くで伏せてて!!」

エマ「う、うん……! 遥ちゃん! 姫乃ちゃん!」

遥「は、はい……! 姫乃さんも……!」

姫乃「あ、愛さん……一体何を……」


みんなが伏せる中、


彼方「ネッコアラ!! “ウッドハンマー”!! コスモウム!! “コスモパワー”!!」
 「コァッ!!!」「────」


彼方さんのネッコアラが流星を強引に叩き落とし、コスモウムが頑強な体で隕石を破壊する。

さらに──
637 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:14:01.99 ID:djK6Kzqg0

曜「カメックス!! “ハイドロポンプ”!!」
 「ガメェーーーッ!!!!」

梨子「メガニウム!! “ハードプラント”!!」
 「ガニュゥーーーッ!!!!」

ルビィ「コラン!! “ひかりのかべ”!!」
 「ピピピッ」

花丸「デンリュウ!! “チャージビーム”ずら!!」
 「リューーーッ!!!」

千歌「はぇ!? なになに!? うわぁ!? でっかい隕石降ってきてる!?」

善子「あんたは寝てなさい!! アブソル!! “かまいたち”!!」
 「ソルッ!!!!」


図鑑所有者の先輩たちが、隕石を破壊していく。

少し離れたところにいた、せつ菜ちゃんのお父さんやお母さんたちは、


真姫「絶対私から離れないで!! ハッサム!! “バレットパンチ”!!」
 「ハッサムッ!!!!!!」


真姫さんのハッサムが守っている。

しばらく、流星による攻撃が続いたが──実力者たちの尽力によって、どうにか凌ぎ切る。


愛「……へー……耐えきるのか。さすがに実力者揃いだね……」

彼方「……さ、さすがに……戦闘で疲れきってるところに、この攻撃は堪えるよ〜……」

遥「それより……あのポケモン……なに……?」

しずく「ウルトラビーストじゃないんですか……? アーゴヨンってポケモンじゃ……確かに、色が違いますけど……」

善子「いや……データで見たアーゴヨンとは……姿が違う……。色違いだとしても……あんなエネルギーの塊みたいな、光る翼を持っているポケモンじゃない……」


確かに愛ちゃんのアーゴヨンは──見ているだけで目が焼かれそうなくらいの、超オレンジと言いたくなるような強烈な閃光を放っていた。

そして、お腹にある毒針らしき場所からも、バヂバヂと音を立てながら、エネルギーを爆ぜ散らしている。


愛「ああ、この子はね……。……ベベノムが……愛さんの気持ちに応えた姿だよ」

侑「気持ちに……応えた……姿……?」

善子「……まさ……か……」


その言葉を聞いて、ヨハネ博士が目を見開いた。


善子「……キズナ……現象…………」

愛「……へー……知ってる人がいるとは思わなかった。そうキズナだよ! この子はずっとアタシと共に、目的のために戦い続けてきた……!! そして、目覚めたんだよ!! キズナの力が……!!」
 「アーーーーゴッ!!!!!!」


アーゴヨンが、超オレンジの閃光翼を羽ばたかせると──周囲にとんでもない勢いの風が発生する。
638 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:14:34.71 ID:djK6Kzqg0

侑「ぐぅ……!?」

歩夢「きゃぁ……!?」

せつ菜「ふ、風圧が強すぎて……! た、立っていられない……っ……!!」

果林「愛ッ!! もうやめなさい!! これは命令よ!! もう、戦いは終わったの!!」

愛「へー……」

姫乃「愛さんっ!! 何を考えているんですかっ!? 味方まで巻き込むつもりですか……!?」

愛「……アタシは最初から……カリンも姫乃も……味方だなんて、思ってなかったけど?」

姫乃「なっ……」

果林「彼方!! さっき私から回収したリモコン貸して!!」

彼方「り、了解〜!!」


彼方さんが取り出したリモコンを、手錠をした果林さんの手に受け渡す。

恐らく──前に聞いた、愛ちゃんの首に着けられたチョーカーに電撃を流すボタンだ。


果林「愛ッ!! 止まりなさいッ!!」


果林さんがボタンをポチリと押したが──


愛「…………」


愛ちゃんはケロリとした顔をしている。


果林「な……なんで……!?」

愛「はぁ……こんなおもちゃで本当にアタシに言うこと聞かせられると思ってたんだね」


そう言いながら、愛ちゃんは──チョーカーに手を掛け、バキっと折りながら外してしまった。


果林「な……そんな外し方したら……電撃が……」

愛「こんなのね、着けられたその日にはもう外してたよ……」

果林「嘘……それじゃ、今までは……」

愛「そ、逃げられないフリして……カリンのこと利用してただけ」

果林「ど、どうして……そんな……?」

愛「このポケモンたちを手に入れるためだよ……」


愛ちゃんはそう言いながら──3つのボールを放り投げる。

そのボールから飛び出したのは──


 「──ディアガァァ…」「──バァァァル…」「──ギシャラァァァ…」


とてつもない威圧感を発する、3匹の巨大なポケモンの姿。


侑「……な、なに……あの、ポケモン……」

かすみ「い、一匹はギラティナですよね……!? で、でも、やぶれた世界以外じゃ、あの姿になれないんじゃ……」


私たちの疑問に答えるように、愛ちゃんが口を開く。
639 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:15:13.29 ID:djK6Kzqg0

愛「この子たちはね……真の姿を取り戻した、時の神、空間の神、反物質の神だよ……」

善子「まさかそれが……ディアルガ、パルキア、ギラティナの……本来の姿……ってこと……?」

愛「そーゆーこと」

彼方「そのポケモンたちを捕まえて、何するつもりなの……!?」

愛「それは簡単だよ。……これから、世界を── 一つに繋げるんだよ……」

善子「世界を一つに……繋げる……?」

愛「……もうちょっと具体的に言うとね……ウルトラスペース内の特異点を……神の力でインフレーションさせて、全宇宙のありとあらゆるエネルギーを均一化する……」

善子「なん……です……って…………?」


ヨハネ博士がその言葉に目を見開く。


善子「あんた、そんなことしたら全世界が──いや、全宇宙がどうなるかわかってんの!? それってつまり、全宇宙の熱的死が訪れるってことよ!?」

愛「もちろん。……ありとあらゆるエネルギー差異が消滅して……全てが無になる……」

善子「そんなことしたら、あんたも消えることになる!! 何考えてんの……!!?」

愛「……りなりーを迎えに行くんだよ」

果林「え……」

彼方「璃奈、ちゃん……を……?」

愛「全てが無になった──物質が消え去り……情報しかなくなった世界……つまり、全てがりなりーと同じになる……」

果林「愛……あ、貴方……何……言ってるの……?」

愛「ねぇ、カリン、カナちゃん。……りなりーが最期になんて言ってたか知ってる……?」


愛ちゃんは果林さんたちを見下ろしながら──


愛「……もし生まれ変われるなら……次は、みんなと繋がりたい……そう言ったんだ……。……だから……アタシがりなりーの夢を叶える……全宇宙を……情報レベルでバラバラになったりなりーと……一つに……繋げるんだ……」

果林「なに……言ってる……の……?」

善子「……狂ってる……」

愛「狂ってる? ……あははっ! だろうねっ! アタシはりなりーを失ったあの日から、もう狂ってるんだよ!! ……りなりーを奪った、世界のせいで……!」

果林「奪ったって……あ、あれは事故で……」

愛「あれが本当に不幸な事故だったと思ってんの?」

果林「え……」

愛「……確認したらさ……ウルトラスペースシップに細工してやがったんだよね……アイツら……。……ご丁寧にアタシたちが出発前点検を済ませた後に……」

彼方「ま、まさか……それじゃあ、あの事故は……」

愛「そうだよ。……政府方針に反対するアタシたちを消すために……仕組まれたんだよ」

果林「そん……な……」

愛「だから、こんな世界に未練なんてない。アタシはりなりーの望みを叶える。他のことなんてどうでもいい。……あはははははっ!! やっとこの時が来たんだ……!!」


愛ちゃんは高笑いを上げながら、そう宣言する。

そのとき、


リナ『──そんなこと、璃奈は望んでないッ!!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


大きな声をあげながら──私の傍から、リナちゃんが飛び出した。


侑「リナちゃん……!?」


勢いよく飛び出したリナちゃんが、愛ちゃんの目の前に相対する。
640 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:15:57.17 ID:djK6Kzqg0

愛「……何?」

リナ『璃奈はそんなこと望んでない!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

愛「……リナちゃん……だっけ? 名前が同じだけのロトム図鑑の分際で……りなりーの何がわかるの?」

彼方「愛ちゃん、その子は璃奈ちゃんなの!!」

愛「……は?」

彼方「璃奈ちゃんの記憶を持ってる子なの……!!」

愛「嘘でしょ……?」

リナ『彼方さんの言ってることは……嘘じゃない……。私はロトム図鑑じゃない。……璃奈の記憶をベースに作られた……AIだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「……ベースに……か」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………じゃあ、答えてよ……」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………君は……りなりーなの……?」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………」

リナ『…………璃奈では……ない。……私は……コピー。……璃奈は今も……情報として……どこかを……漂ってる……。……璃奈は……もう……絶対に生き返らない……』 || 𝅝• _ • ||

愛「………………。…………だよね…………知ってる。……知ってるよ。……だって──りなりーの作った理論に……そう書いてあったから……りなりーの提唱した理論には……一度情報レベルでバラバラになった人間を……完全に復元するのは絶対に不可能だって……」

リナ『…………』 || 𝅝• _ • ||

愛「何度も何度も何度も何度も何度も何度も……計算しなおした……。もしかしたら、万に一つ、億に一つ、兆に一つ……あの理論が間違ってて……りなりーを救える可能性があるかもしれないって。でも…………りなりーが作った理論が……間違ってるはず、なかった……。……ないんだ……。……だって、りなりーが作った理論だから……。……りなりー自身が……もうりなりーが帰ってこないことを……証明してたんだ……」

リナ『…………』 || > _ <𝅝||

愛「でもさ……」


愛ちゃんはギュッと拳を握りしめて──


愛「……こんなときくらい──嘘……吐いてよ……」


絞り出すような声で……そう、言った。


リナ『……愛、さん……』 ||   _   ||

愛「そうじゃなきゃ……アタシ……っ……。……もう、本当に……止まれないじゃん……っ……」


愛ちゃんは──泣いていた。

直後──アーゴヨンの背後に巨大なウルトラホールが出現し、


愛「…………もう……全部終わりだ……この世界も、この宇宙も……全部……一つになる……。……りなりーと……一つになって……繋がるから……──」

リナ『愛さんっ!!』 || > _ <𝅝||


愛ちゃんは……ホールに飲み込まれて──消えてしまったのだった。



641 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:17:41.04 ID:djK6Kzqg0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口

642 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:18:11.36 ID:djK6Kzqg0

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.77 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.75 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.73 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.73 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.71 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:255匹 捕まえた数:10匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.65 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.71 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:221匹 捕まえた数:20匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.78 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.73 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.72 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.71 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.72 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.72 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:251匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.66 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.65 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.65 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.65 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.65 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:224匹 捕まえた数:23匹

 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.5 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.81 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.79 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.82 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:28匹 捕まえた数:9匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



643 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:46:19.80 ID:Xct6+7De0

■Chapter071 『終焉と絶望。……それでも──』 【SIDE Yu】





リナ『…………』 ||   _   ||

侑「リナちゃん……」

リナ『…………ごめんなさい……愛さんを……止められなかった……』 ||   _   ||

歩夢「リナちゃん……」

かすみ「リナ子……!! なんで、嘘吐かなかったの!? 愛先輩の言うとおり、あそこで自分が璃奈だって言ってれば……!!」

しずく「かすみさんっ!! リナさんの気持ちも考えて!!」

かすみ「でも……!! このままじゃ世界、滅んじゃうんでしょ!?」

しずく「そ、それは……」

リナ『うぅん、かすみちゃんの言ってることは正しい……。……合理的に考えれば、あそこは嘘を吐いてでも止める場面だった』 ||   _   ||

侑「……じゃあ、どうして……嘘を吐かなかったの……?」

リナ『………………私…………愛さんには…………嘘……吐けなかった……。…………大好きな愛さんにだけは…………嘘……吐けなかった…………』 || 𝅝• _ • ||

かすみ「…………リナ子……。…………ごめん」


それは……リナちゃんが、どうしようもなく璃奈ちゃんだったから……愛ちゃんの目の前で……璃奈ちゃんの死を肯定せざるを得なかった。


侑「…………」


やるせなかった。

でも、もう……どうすればいいか。

みんなが沈黙する中……口を開いたのは──


歩夢「……愛ちゃんを、止めに行こう」


歩夢だった。


侑「歩夢……?」

歩夢「私……愛ちゃんの気持ち……ちょっとだけ……わかる気がするんだ……」

かすみ「ま、マジですか……?」

歩夢「……もし、侑ちゃんが……死んじゃったとして……。……それでも、侑ちゃんに繋がる何かがあったら……私はそれが世界を滅ぼすことになるんだとしても……きっと手を伸ばしちゃうと思う……」

侑「歩夢……」

歩夢「……大好きな人に嘘を吐けなかったリナちゃんの気持ちも……わかるよ……。……好きな人に嘘吐くのって……苦しいし……悲しいもん……」

リナ『歩夢さん……』 || 𝅝• _ • ||

歩夢「でも……それってどっちも、大好きで、大切だから、そう思うんだよね……? ……お互いを想い合う……大好きな気持ちのせいで……誰も望まない未来を選んじゃうなんて……悲しすぎるよ……」


歩夢の言うとおりだ。……こんな悲しい結末で、終わらせちゃダメだ……。


侑「……ねぇ、リナちゃん」

リナ『なぁに……?』 || 𝅝• _ • ||

侑「リナちゃんはどうしたい? ……オリジナルとか、コピーとかじゃなくて……。……リナちゃんはどうしたい?」

リナ『私は……』 ||   _   ||


リナちゃんは少しだけ悩んでいたけど──


リナ『……私は──愛さんを救いたい……!! 愛さんに、この世界で生きる未来を……選んで欲しい……!!』 || > _ <𝅝||
644 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:47:53.84 ID:Xct6+7De0

リナちゃんはそう、自分の気持ちを口にしてくれた。


侑「……うん! じゃあ、決まりだ」

歩夢「愛ちゃんを止めに……行こう……!」


私は歩夢と頷き合う。


かすみ「……そうですね……。……このまま、世界が消えるのを黙って待つなんて……絶対お断りですし」

しずく「せっかく、ここまで来たんですから……ハッピーエンドで終わらせないと、納得行きませんよね」


かすみちゃんとしずくちゃんが、歩み出る。


せつ菜「こんな形で、世界を終わらせるわけに行きません。……やっと、私は私を始められるんですから……!」

エマ「なにが出来るかわからないけど……。……誰かを想う気持ちが、悲しい結果になるのは……嫌だから……。わたしにも手伝わせて……!」


せつ菜ちゃんとエマさんが、協力を申し出て。


果林「……仲間の不始末は……さすがに責任取らないとね」

彼方「そうだね〜。一発愛ちゃんには厳しく言ってやらないと! 一人で考え込むな〜って」


果林さんと彼方さんが、仲間の為に決意する。


リナ『みんな……』 || 𝅝• _ • ||

侑「リナちゃん……! 愛ちゃんを止めに行こう……!」

歩夢「大切な人を想う気持ちを……悲しい結末にしないために……!」

リナ『……うん!』 || > _ <𝅝||


私たちは最後の戦いに臨むために……覚悟を決めた。



645 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:49:14.34 ID:Xct6+7De0

    🎹    🎹    🎹





曜「とりあえず……愛ちゃんが具体的に何しようとしてるのかが、私たちにはよくわからなかったんだけど……」

善子「そうね……まず、その説明をしようかしら……」

せつ菜「確か……特異点のインフレーション……とか言ってましたよね……?」

しずく「それによって、全宇宙のエネルギーを均一化するとも……」

かすみ「果林先輩たちの世界って、エネルギーが他の世界に偏っちゃうから困ってたんですよね……? 均一化ってことは……みんなで平等に分け合うってことじゃないんですか?」

リナ『うぅん、そういう次元の話じゃない。エネルギー差異の完全均一化は全ての熱的活動の終焉を意味する』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「……???」

善子「えーっと……そうね……。めちゃくちゃ簡単に言うなら……熱いの反対は冷たいだけど……それが全部一定になったら、熱いも冷たいもなくなっちゃうって話かしら」

せつ菜「つまり……相対概念の消失……でしょうか」

リナ『そういうこと。さらにこれは、何も熱に限った話じゃない。光は暗いから明るい、空気が多い場所から少ない場所へ移動するから風が吹く……みたいに、ありとあらゆる現象はエネルギーの差異によって生じてる。これがなくなると……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「えっと……熱さもないし、明るさもないし、風もない世界になる……ってこと……?」

リナ『それどころか、物質もエネルギーが動き続けてることによって存在してるから、エネルギー差異が完全消滅したら……全ての物質がなくなるに等しい。人やポケモンどころか、星も……宇宙すらも』 || ╹ᇫ╹ ||

花丸「つまり……無……」

かすみ「え……!? そ、それ……めちゃくちゃやばいじゃないですか……!?」

善子「だからヤバイって言ってるでしょ……。これが全宇宙の熱量的な終焉──熱的死と言われてる。愛はそれを無理やり引き起こそうとしている」

果林「つまり……全宇宙が滅びるってことね」

彼方「果林ちゃん……あんまり、わかってないよね?」


とりあえず……愛ちゃんを止めないと、全てが滅んじゃう……ってことはわかったかな……。

となると、次に話すべきは……どうやって愛ちゃんを止めるかだ。


善子「だから、私たちは愛が事を起こす前に、追い付いて止めないといけないんだけど……そもそも特異点ってシップで行けるの?」

リナ『たぶん……無理……。……特異点って言っても愛さんが行こうとしてるのは特異点の中核……。普通のシップじゃ行けたとしても、途中でバラバラになる……』 || > _ <𝅝||

善子「そうよね……向こうはキズナ現象を起こした規格外のアーゴヨンに……覚醒したディアルガ、パルキア、ギラティナまで持ってる……。それによって、やっとたどり着けるってことよね……」

リナ『速度自体はポケモン単体の速度よりかは全速力シップの方が上だから、もしかしたら特異点に着くまでに追い付くこと自体は出来るかもしれないけど……』 || 𝅝• _ • ||

果林「シップ内に居たらウルトラスペース内での戦闘は無理……。……追い付いたところで無抵抗のまま墜とされるのが関の山ね」

侑「となると必要なのは……ウルトラスペースを自由に航行すること、かつウルトラスペース内で戦闘して愛ちゃんを止められること……か……」

しずく「ウルトラビーストに乗って移動するのはどうでしょうか? 確かウルトラビーストには、ウルトラスペースのエネルギーを中和する効果があるんですよね? それなら、生身の人間でも活動出来るはずです!」

彼方「確かにそうだね〜……実際、愛ちゃんはアーゴヨンでウルトラスペース内のエネルギーを中和して、航行してるはずだし……」

善子「でもあのアーゴヨンは特別……エネルギーの出力的に普通のウルトラビーストじゃ追い付けないわよね?」

リナ『うん。速度の面でも、活動限界時間を考えても、普通のウルトラビーストで飛び出すのは少し無謀かも……』 || 𝅝• _ • ||

花丸「ちなみに……愛ちゃんはどれくらいで、その特異点とやらにたどり着くずら?」

リナ『私たちが以前行ったことがあるのは、あくまで重力圏内までだったけど……中核となると、全速力のシップでも何年も掛かるような距離だから、多少の余裕はある……と思う。ただ、ディアルガやパルキアがいるから、時空を歪めて加速とかはしてそう……。ざっくり1ヶ月くらいがボーダーだと思った方がいいかも……』 || > _ <𝅝||

遥「どちらにしろ……向こうが時空を操って移動出来る以上……こちらもかなりの水準でワープ航行レベルの速度が求められることになります……」

千歌「条件が厳しすぎるよ〜……」


確かに、必要とされていることはわかりやすいかもしれないけど……それを満たすことがあまりに難しすぎる。

早くも議論が詰まってしまったところで、口を開いたのは、


かすみ「は〜……相変わらず皆さん、難しく考えすぎなんですよ……」
646 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:50:01.55 ID:Xct6+7De0

かすみちゃんだった。


侑「何か考えがあるの……?」

かすみ「はい! 要は超速くて超強いウルトラビーストを捕まえれば万事解決です!」

しずく「それが出来たら苦労しないでしょ! 真面目に考えなさい!」

かすみ「いひゃい〜……ほっへひっはららいれ〜……」


かすみちゃんがしずくちゃんにほっぺを引っ張られて悲鳴をあげる。


姫乃「……とりあえず、ここでうんうん唸っていても仕方がないので、ひとまずシップをこちらに持ってきます」

遥「そういうことなら、姫乃さんの手錠……一旦外しますね。いいよね、お姉ちゃん?」

彼方「うん。さすがにこんな状況だし、敵も味方もないからね〜……果林ちゃんのも一旦外してあげるね〜」

姫乃「助かります」

果林「お願い」


姫乃さんたちが、シップの移動へと動き出す中──


侑「うーん……新しいウルトラビーストか……」


私はかすみちゃんの考えは、案外悪くない気はしていた。

今のこっちのカードじゃ、どっちにしろ追い付くことすら難しいというなら……新しい航行方法を得る方がまだ可能性がある気がするし……。

向こうがポケモンの力によって無理を通しているなら、それを覆すにはこっちも無理を通せるだけのポケモンの力が必要なんじゃないかな……。

そのときふと──


 「────」
侑「コスモウム……?」


彼方さんのコスモウムが、私の前に舞い降りてきた。

……確かに修行中にそこそこ仲が良くなったポケモンではあるけど……。


侑「そういえば、コスモウムもウルトラビーストなんだっけ……」
 「────」


まあ……あまりに遅すぎて、追い付くとかそういう次元じゃないんだけど。


歩夢「侑ちゃん……何か思いついた……?」

侑「うぅん……全然……。……歩夢は?」

歩夢「私も……なかなかいい案が思い浮かばない状態……」

侑「だよね……」
 「────」


二人で悩んでいた、そのとき──唐突に歩夢の胸元が輝きだした。


歩夢「えっ!? 何……!?」


歩夢が驚きの声をあげると同時に──


 「──ピュィッ!!!!」
歩夢「……! コスモッグ……! ずっと私の服の中に居たの……?」


コスモッグが飛び出し、光り輝いていた。その光は──今までにも、何度か見たことのある光だった。
647 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:50:44.54 ID:Xct6+7De0

侑「こ、これってまさか……!?」

歩夢「進化の光……!」


光に包まれたコスモッグは──


 「────」


紅い水晶を持った、コスモウムへと……進化した。

そして、再び歩夢の胸元に降りてくる。


侑「コスモウムに進化した……」

かすみ「……ちょーっと待ってください……? コスモッグが進化しちゃうと、ウルトラスペースシップのエネルギーが取り出せなくなっちゃうんじゃ……!?」

果林「……そうね」

かすみ「ぬわーーー!? ますます、シップで追い付く希望がなくなっちゃいました〜〜〜!?」


かすみちゃんが頭を抱えるけど──


彼方「…………」

果林「…………」


果林さんと彼方さんが、急に口元に手を当てて何かを考え始めた。


エマ「果林ちゃん……? 彼方ちゃん……?」

果林「……ねぇ、彼方……もしかして、今私と同じこと考えてない?」

彼方「……奇遇だね〜、彼方ちゃんも今、果林ちゃんが同じこと考えてる気がしてたよ〜」


果林さんと彼方さんは、リナちゃんの方に向き直る。


果林「リナちゃん、コスモウムは……太陽の化身か月の化身に姿を変えるって前に言ってたわよね?」

彼方「それが本当なら……もしかしたら……追い付けるんじゃない……?」

リナ『……! 確かに、コスモウムは大きなエネルギーを内包している繭みたいな状態……それが覚醒して進化した姿なら……! もしかしたら……!』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「それじゃ、この子たちを進化させれば……!」
 「────」

侑「ってことは……」
 「────」

かすみ「コスモウムを持ってる歩夢先輩と彼方先輩なら、乗り込めるってことですか……!?」

彼方「んー……一人は歩夢ちゃんだけど……もう一人は彼方ちゃんよりも──侑ちゃんがいいと思う」

侑「え!? な、なんで!?」
 「────」

彼方「コスモウム……さっきから侑ちゃんの周りを漂ってるし……」

侑「え?」
 「────」


言われてみれば、確かにコスモウムが私の周りをくるくると回っていた。
648 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:52:42.72 ID:Xct6+7De0

侑「……ホントに私でいいの……?」
 「────」

彼方「……コスモウムはもしかしたら……ずっと主を探してたのかもしれないね」

侑「え……?」
 「────」

彼方「だって、彼方ちゃんの傍に4年も居たのに……進化の兆しすらなかったんだもん」

果林「太陽の化身、月の化身になぞらえて、“SUN”と“MOON”の称号を組織内で最も強い二人に与えていた……。それは単純な強さが化身の力を呼び覚ますと思っていたからだという節があるわ。……でも、本当はそうじゃなかったかもしれない」

侑「それって、一体……?」
 「────」

彼方「それが何かはわからないけど……コスモウムは侑ちゃんに、その何かを見出したんじゃないかな」

侑「……そういうことなの? コスモウム?」
 「────」


周りを飛びまわっているコスモウムに訊ねても、言葉が返ってくるわけじゃないけど……。

大人しかったコスモウムがこんなに活発に動き回っている様子が、答えなんじゃないだろうか。


侑「……わかった。それじゃ……私と一緒に来て、コスモウム」
 「────」

歩夢「侑ちゃん……!」
 「────」

侑「うん……! コスモウムたちを進化させよう……!」
 「────」





    🎹    🎹    🎹





──現在私たちは、ウルトラスペースシップに乗り込み……私たちの世界を目指しているところだ。


姫乃「果林さん、本当に全速でいいんですね……!? ここで燃料を使ったら、確実に愛さんを追いかけることはできなくなりますが……」

果林「ええ。とにかく、戻るのを優先して。どっちにしろ、シップで追い付けないなら、コスモウムたちが進化することに賭けた方がいい」

姫乃「……わかりました」


速いと言っても1日以上は掛かるらしいので、私たちは移動の時間を使いコスモウムの進化条件について考えているところだった。


リナ『私が以前読んだ石碑の碑文のとおりなら……コスモウムは、日輪と月輪が交差する場所で、交差する時に、人の心に触れ、化身へと姿を変えるって記されてた』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「太陽と月が交差する場所……」
 「────」

歩夢「どういうことかな……?」
 「────」


コスモウムたちは、どんどん活発に私たちの周囲を衛星のように回っている。

まるで、進化のタイミングを今か今かと待っているかのように……。

コスモウム側の準備が出来ているなら、あとは条件を整えてあげるだけだけど……。
649 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:53:26.40 ID:Xct6+7De0

しずく「人の心に触れという文面からして……確実に進化する場所があるのは、文明のある世界だと考えていいでしょうね」

かすみ「つまり、かすみんたちがさっきまでいた世界じゃ、どう足掻いても進化しないってことだよね……」

せつ菜「はい。……それで、日輪と月輪が交差する時というのですが……単純に昼夜が切り替わる瞬間のことではないでしょうか?」

かすみ「まあ確かに太陽はお昼のものですし、月は夜のものですもんね」

しずく「となると……夕暮れか夜明け……ですかね」

侑「確かに、試してみる価値はあるよね」

歩夢「じゃあ、時間は夕暮れか夜明けとして……問題は場所だよね……」

かすみ「うーん……日輪と月輪が交差する場所……。太陽と月……どっちにも近い場所ですかね?」

せつ菜「天体に少しでも近いとなると……宇宙?」

リナ『それだと、昼夜の概念と人の心に触れって場所がおかしくならない?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「あ、確かに……」

かすみ「じゃあ……一番近い場所……高い場所ってこと?」

しずく「……あぁっ!!」


そのとき、しずくちゃんが突然大きな声をあげる。


かすみ「ちょ……び、びっくりさせないでよ、しず子……!」

しずく「あ、ありました……! 太陽と月と縁の深い場所……!」

侑「ほ、ホントに……!?」

歩夢「どこなの……?」

しずく「カーテンクリフの遺跡です! あそこには、太陽信仰と月信仰があったと考えられていたはずです!」

せつ菜「確かに……私も同じような話を聞いたことがあります」

かすみ「太陽と月を同時に崇めるなんて、欲張りな遺跡ですねぇ……」

せつ菜「確か……真西から日差しが差すときと、真東から日差しが差すときに、雲海に映る巨大な人の形をした影を神として崇めた……とかだったような……。……もちろん、その正体は自分自身の影なんですけど……。東に見た場合と西に見た場合、両方の人が主張をした結果、2つの信仰が生まれたという話だった気がします」

しずく「せつ菜さん……詳しいですね」

せつ菜「私は修行でよく登っていたので……気になって調べたこともありますし、実際に西にも東にも巨人の影を作ってみたことがありますよ! それと、もう一つ……あそこには面白い話があるんですよ」

歩夢「面白い話……?」

せつ菜「時間帯で……遺跡の呼び方が変わるんです」

かすみ「へ? なんでですか……?」

侑「地名そのものが変わるってこと……?」

しずく「……そっか、夕暮れか夜明けかによって、崇拝対象自体が変わるから……」

歩夢「あ、なるほど……夕暮れの神様を崇拝した呼び方と、夜明けの神様を崇拝した呼び方があるんだ……」

せつ菜「はい! そういうことです! 夕暮れ時が近づくと“黄昏の階(たそがれのきざはし)”、夜明け時が近づくと“暁の階(あかつきのきざはし)”と呼ぶそうですよ」

侑「じゃあ、交差するって言うのは……」

せつ菜「黄昏と暁が切り替わる場所……と考えれば辻褄が合うのではないでしょうか」

かすみ「なんかそれっぽい気がしてきました……!」

侑「……ふふ♪」


──ふと、笑みが零れてしまう。
650 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:54:33.76 ID:Xct6+7De0

歩夢「? 侑ちゃん? どうかしたの?」

侑「あ、ごめん……なんか、みんなどんどんアイディアが飛び出してきて、あっという間に正解なんじゃないかって場所にたどり着いちゃったから……なんか、すごいなって思って」

せつ菜「皆、それぞれに旅をしてきましたからね……その経験と知識が集まれば、わからないことなんてありませんよ!」

しずく「ですね。私たち、本当にいろんな場所を見て回ってきましたから……!」

かすみ「もしかしたら、かすみんたち……こうして世界を救うために、冒険の旅に出たのかもしれませんね!」

せつ菜「そう考えると、RPGの勇者一行みたいでかっこいいですね!!」

歩夢「ふふ……♪ 最初は、どうして自分が選ばれたのかわからなくって悩んでたのに……今は世界どころか……全宇宙を救おうとしてるなんて、あのときの私が知ったらびっくりして倒れちゃうかも……♪」


本当に……本当に、たくさんのものを、この旅の中で見てきた。辛いことも、悲しいことも、苦しいこともたくさんあったけど……それでも、思うんだ──


侑「……私……旅に出られて、本当によかった……。……歩夢、ありがとう」

歩夢「え?」

侑「歩夢が居てくれなかったら私……今ここに居なかった。……歩夢のお陰で偶然イーブイと出会って、たまたまポケモン図鑑を貰って……こうして、みんなと一緒に冒険できたことが……本当に夢みたいなんだ。だから──」


最後まで言おうとして、


歩夢「……違うよ、侑ちゃん」


歩夢に人差し指で口を押さえられる。


侑「……?」

かすみ「侑先輩、わかってないですねぇ……。いつまで経っても、自分はあくまで歩夢先輩のおまけみたいに言うんですから……」

しずく「侑先輩は、脇役なんかではありませんよ」

せつ菜「そのとおりです。侑さん、貴方はもう立派な強さと志を持った── 一人のトレーナーじゃないですか」

侑「……みんな……」

歩夢「……私が居たから、侑ちゃんがここに居るんじゃないよ。侑ちゃんがここまで歩いてきたから……侑ちゃんはここに居るの」


歩夢はそう言って私の手を握る。


侑「歩夢……」

歩夢「そして……それはみんな同じ。……侑ちゃんは私たちと何も変わらない」

しずく「もし侑先輩の旅立ちが偶然なら、私たちの旅立ちだって偶然ですよ」

せつ菜「むしろ、侑さんの場合は自分で掴んだ結果です。そんな消極的に捉えられたら、私の立つ瀬がないじゃないですか! もっと自信を持ってください!」

かすみ「選ばれたかすみんたちと侑先輩、じゃありませんよ。私たち5人みんなが、ヨハネ博士に選ばれたトレーナーです!」

侑「……!」


──私は、無意識のうちに、引け目を感じていたのかもしれない。

自分は選ばれたわけじゃないから。選ばれたみんなに便乗させてもらっただけだ……なんて。

でも、そうじゃない。……そうじゃ、なかったんだ。

本当は、きっかけなんて……どうでもよかったんだ。

私たちはみんな──旅に出て、いろんな景色を見て、時に悩んで、考えて、戦って……ポケモンたちといろんな困難を乗り越えてきた、一人の──ポケモントレーナーなんだ。


侑「そっか……そうだよね……」
 「ブイ♪」

歩夢「イーブイも侑ちゃんとの出会いが偶然なんて言われたら、嫌だもんね〜?」
 「ブイ!!」

歩夢「ほらね♪ イーブイに怒られないように、侑ちゃんも胸を張って。ね?」

侑「……うん!」
651 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:55:22.59 ID:Xct6+7De0

だから、私は言い直す。


侑「みんなと旅が出来て……本当によかった! これからも、そんな旅が続けられるように……私たちで守るんだ!」


私の言葉に、みんなが頷く。

決意を胸に──シップは進んでいく。





    😈    😈    😈





──ローズシティ、病室。


善子「入るわよ」

鞠莉「……返事くらい待ちなさい」

善子「……こてんぱんにされたって聞いてたから、そんなこと言えるくらいには回復してるみたいでよかったわ」


そう言いながら、私はマリーの横にある椅子に腰かける。

ウルトラキャニオンから戻ってきてすぐ……私たちは海未からの報せで、瀕死のマリーたちが病院に担ぎ込まれた話を聞いた。

だから、こうして師の見舞いに来たというわけだ。


鞠莉「こんなことしていていいの? まだ、終わってないんでしょ?」

善子「出来ることがないだけよ。大勢で遺跡に押し寄せてもしょうがないからね……それに……」

鞠莉「それに……?」

善子「未来は……あの子たちに託してきたから」


私の自慢のリトルデーモンたちに、ね。


鞠莉「……言うようになったじゃない」

善子「ええ。マリーたちの仇は私の可愛いリトルデーモンたちが取ってくれるから、安心しなさい」

鞠莉「ふふ……頼もしい」


ウルトラビーストの出現報告も依然あるらしく……さっき言ったように、大勢でクリフの遺跡に押し寄せたところで、出来ることがあるわけではない。

だから、曜とルビィはジムに戻った。……ずら丸も何故かダリアに戻ったけど……まあ、やることがあるんでしょ。

リリーも事態が収束するまでは、ローズの防衛に参加するらしい。

そして千歌はリーグへと帰還した。

もちろん、私たちが戦う選択肢もあったけど……6人全員、満場一致だった。

未来は──新しい世代に託そう、と……。


善子「私たちは、もう前に世界を救ってるからね。おいしいところは、あの子たちにあげることにしたわ」

鞠莉「ふふっ、さっき出来ることがないって言ってたじゃない……」

善子「それはそれよ……んで、他の人たちは大丈夫なの?」

鞠莉「うん。ダイヤはさっき目が覚めたって聞いたわ。大怪我だったから、当分ベッドの上だろうけど……。あと……果南も大怪我してたはずなんだけど……」


そのとき、廊下からドタドタと騒がしい声が聞こえてくる。
652 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:56:19.35 ID:Xct6+7De0

ナース「ま、待ってください〜!!」
 「ハピハピッ!!」

果南「無理〜〜!! 1ヶ月もじっとしてたら、死んじゃうって〜!!」


部屋のすぐ外で、慌ただしく果南が通り過ぎていった。


善子「……どっかで見た光景ね……」

鞠莉「まったくね……」


マリーは肩を竦める。


鞠莉「穂乃果さんは……かなり酷い怪我だったけど、どうにか意識は取り戻したみたい。命に別状はないって」

善子「そ……ならよかった」


私とマリーは、何気なく、窓の外を見る。

外には、今日も穏やかな青空が広がっていた。


鞠莉「……まさか、あと一月足らずで……この世界どころか……宇宙全てが滅びようとしてるなんてね……」

善子「本当にね……。……まあ、きっと大丈夫よ」

鞠莉「ふふ、そうね。自慢のリトルデーモンたちがいるものね♪」

善子「そういうことよ」


あの子たちは、度重なる困難を……ポケモンたちと力を合わせて、打ち破ってきた。

今回だって、きっとそうしてくれる。私はそう確信している。


善子「頼んだわよ……リトルデーモンたち……」


みんなの生きる世界を──お願いね。





    🎹    🎹    🎹





侑「……相変わらず、何度見ても長い階段だね……」
 「ブイ」「────」

かすみ「まさか、3回も登ることになるとは思ってませんでした……」


私たちは、カーテンクリフの遺跡に続く階段へとたどり着いていた。


彼方「これ……登るの〜……? 絶対無理〜……」

遥「お、お姉ちゃん、登る前から諦めちゃダメだよ……!」

姫乃「……果林さん、本当に上の遺跡に直接シップを着けなくてよかったんですか……?」

果林「でも、この階段……登った方がいいんでしょう?」

リナ『うん。進化は儀式だから。信仰では階段を登ることも儀式の手順に含まれてるみたいだし、その方が確実』 || ╹ ◡ ╹ ||

果林「じゃあ、登るしかないわね。彼方、しっかりしなさい」

彼方「はぁ……わかったよぉ……。彼方ちゃん、これでも怪我人なのになぁ……」


果林さんに言われて、彼方さんが渋々階段を登り出す。
653 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:57:26.36 ID:Xct6+7De0

エマ「それじゃ……ゴーゴート、お願いね」
 「ゴォート」


足を怪我しているエマさんは、ゴーゴートの背に乗って登り出す。


果林「エマ。辛かったら、すぐに言うのよ」

エマ「うん、ありがとう、果林ちゃん♪」

姫乃「……」


仲の良さそうなエマさんと果林さんを見て、姫乃さんが不満そうな顔をしながら付いていく。


しずく「……この三角関係……ありですね……」

かすみ「なに言ってんのしず子……」

せつ菜「はっ……! こんなに長い階段……ダッシュで登れば、いい修行になるはず……!!」
 「──ベァーマッ!!」

せつ菜「ダクマ……! まさか自分から出て来るなんて……! 一緒に修行したいってことですね!!」
 「ベァーマ」

せつ菜「それでは一緒に階段ダッシュしましょう!! ……うおおおおおお!!!」
 「ベァァァァ!!!!」

歩夢「……せ、せつ菜ちゃん……これは儀式だから、ダッシュは……。……行っちゃった……」
 「────」

侑「あはは……せつ菜ちゃんらしいや……」
 「ブイ」「────」

しずく「かすみさん、今回は走らないの?」

かすみ「さすがに3回目となると……ゆっくり景色でも見ながら登ろうかな……」

しずく「ふふ、そっか♪」


しずくちゃんがクスクス笑いながら、かすみちゃんと一緒に登り始める。


侑「それじゃ、私たちも行こっか」
 「────」

歩夢「うん」
 「────」


2匹のコスモウムを連れ、私たちも階段を登り始めた。





    🎹    🎹    🎹





せつ菜「──皆さーんっ!! 遅いですよー!!」
 「ベァ!!」


登っていくと、途中でせつ菜ちゃんとダクマが、足踏みしながら待っていた。


かすみ「あの人、どんだけ元気なんですか……」

彼方「……かなたひゃん…………もう、むりぃ〜……」

遥「お、お姉ちゃん……もうちょっとだから……頑張って……」


彼方さんはすでにヘロヘロで、さっきから遥ちゃんが後ろから押してあげている。
654 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:58:10.01 ID:Xct6+7De0

果林「まったく……それでも元“MOON”なの……?」

彼方「だってもう4年も前の話だよ〜……? それに、彼方ちゃんのスタイルは昔から座して動かずだったし〜」

果林「……はぁ……もう、手引いてあげるから、頑張りなさい」

彼方「わ〜♪ 優しい〜♪ 優しい妹とお義姉ちゃんに挟まれて、彼方ちゃんハッピーだよ〜♪」

果林「はいはい。調子いいんだから……」

遥「ふふ♪」


あちらはあちらで仲睦まじそうだ。


せつ菜「それにしても……すっかり日が暮れてしまいましたね」


そう言いながら、せつ菜ちゃんが私たちのところまで駆け下りてくる。


かすみ「上ったり下りたり忙しそうな人ですね……」

歩夢「あはは……」
 「────」

リナ『これだと……もう黄昏時は過ぎちゃってるから……』 || ╹ᇫ╹ ||

しずく「そうなると次は、暁時ですね」

侑「頂上に行って、夜明けまで待つことになるかな」
 「────」

せつ菜「ですね! それじゃ、ラストスパートです! 行きますよ、ダクマ!!」
 「ベァーマッ!!!」

せつ菜「うおおおおお!!」
 「ベァーーー!!!」

歩夢「せ、せつ菜ちゃん……あの……だから、これは儀式で……。……行っちゃった……」
 「────」

侑「あはは……」
 「────」


私たちは頂上を目指します。





    🎹    🎹    🎹





──頂上にたどり着くと……辺りはすっかり暗くなっていました。


かすみ「野生のポケモン……いませんよね……?」

侑「……前に来たときは襲われたもんね」
 「ブィ…」


しかも、かなり強かったし……。一応、警戒して周囲を見渡すけど、


せつ菜「皆さーん! 遅いですよー!」
 「ベァーマ」


相変わらず元気そうなせつ菜ちゃんがいるだけで、野生のポケモンはいなさそうだ。

とりあえず一安心していた、そのとき──袖をくいくいっと引かれる。


歩夢「侑ちゃん……」
655 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:59:47.61 ID:Xct6+7De0

歩夢だった。


侑「どうしたの?」

歩夢「空……見て……」

侑「空……?」


歩夢に促されて見上げると──


侑「うわぁ……!」


そこには、今にも落ちてきそうな満天の星が瞬いていた。


しずく「綺麗……」

かすみ「前に来たときは、それどころじゃなくて気が付かなかったですけど……確かにこれはすごいですねぇ……!」

侑「うん……!」


そして、そんな星空に反応するかのように、


 「────」「────」


コスモウムたちも活発に私たちの周囲を回っている。


せつ菜「コスモウムたちのこの反応……場所はここで間違いなさそうですね……!」

侑「うん! あとは、夜明けを待つだけだね!」
 「ブイ」

しずく「夜明けとなると……あと9時間くらいでしょうか……?」

彼方「そんなに待てない〜……彼方ちゃんは寝る〜……すやぁ……」

姫乃「はぁ……マイペースですね……」

果林「……とはいえ、少し長いし、休息を取る必要はありそうね……。……特に侑、歩夢。貴方たちは突入もあるから、今のうちに休んでおきなさい」

侑「は、はい!」

歩夢「わかりました」

エマ「かすみちゃんたちも先に寝ちゃっていいよ♪ 見張りはわたしたち大人がするから♪」

かすみ「そういうことなら……お言葉に甘えて……」

しずく「うん、そうだね。暁時を逃さないためにも……早めに寝て備えるべきだしね」

せつ菜「でしたら、あちらに集まって寝ましょう!」

侑「うん」
 「ブイ」


私たち図鑑所有者の5人は、先に仮眠を取らせてもらうことにする。

石畳の上にそのまま転がるのも憚られるので、シートを敷いて……薄手の毛布だけ出して、みんなで横になる。
656 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 12:01:06.15 ID:Xct6+7De0

せつ菜「……こうして、皆さんと星空を眺めて寝るなんて……キャンプみたいでワクワクしますね!」

かすみ「あ、ちょっとわかります! ここしばらく、外でこんな風にのんびりするタイミングもなかったですし……」

しずく「もう……二人とも、遊びじゃないんですよ? 今は休息が最優先。おしゃべりしてないで寝ますよ」

かすみ「ちょっとくらい良いじゃん……しず子のケチー」

せつ菜「ですが、しずくさんの言うことも一理あります。休むときは迅速に休む。これも大事なことですよ」

かすみ「えぇー……でも、すぐに寝ろって言われても眠れませんよぉ……」

せつ菜「コツがあるんですよ。目を閉じて……力を抜いて……呼吸を深く……。………………すぅ…………すぅ…………」

かすみ「え、うそ……もう寝ちゃったんですか……?」

侑「さすが、せつ菜ちゃん……休息の速さも一流……」

かすみ「オンオフ激しすぎませんか……?」

しずく「かすみさんも見習ってね。……さ、おしゃべりは終わり。目瞑って」

かすみ「ぅ〜……わかったよぉ……」

歩夢「……侑ちゃん……手、繋いでもいい……? ……その方が……すぐ眠れるから……」

侑「うん、いいよ」
 「ブイ…zzz」

歩夢「ありがとう……♪」


胸元で寝息を立てるイーブイを撫でながら、私は歩夢と手を繋いで目を瞑る。

長い階(きざはし)を登ってきた疲れもあったのか、思いのほか、私の意識はすぐに微睡んでいった──





    🎹    🎹    🎹



──────
────
──


──夢を見た。


愛「………………りなりー……」
 「ニャァ…」


愛ちゃんが……泣いていた。


愛「りなりー……」


戸を叩いて……。


愛「ねぇ、りなりー……」


泣いていた。


愛「りなりー……開けてよ……りなりー……っ……」
 「ニャァ…」


──胸が痛くなるような……悲痛な声で……。


──
────
──────

657 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 12:01:45.92 ID:Xct6+7De0

    🎹    🎹    🎹





 『──侑さん、時間だよ』

侑「…………ん、ぅ…………」


ぼんやりと目を開けると──


リナ『おはよう、侑さん』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんが目の前に居た。


侑「おはよう……」


ゆっくりと身を起こす。


歩夢「侑ちゃん、おはよう。あったかいエネココア作るけど……飲む?」

侑「飲む……」

歩夢「わかった♪ ちょっと待っててね」


歩夢が手際よくエネココアを作り始める。

辺りを見回すと──


しずく「ほら、かすみさんしっかりして。せつ菜さんも」

かすみ「まだ……ねむぃぃ……」

せつ菜「あふぅ……頑張りまひゅ……」


しずくちゃんはもう完全に目を覚ましていて、寝起きで乱れたかすみちゃんとせつ菜ちゃんの髪を梳かしてあげている。

果林さんたちは……。


果林「………………すぅ…………すぅ…………」

彼方「……すやぁ…………はるか……ちゃぁ〜ん…………」

遥「…………すぅ…………すぅ…………」

エマ「…………くぅ…………くぅ…………」

姫乃「…………」


すでに眠っている。どうやら、私が起きるのが少し遅かったようだ。


歩夢「はい、エネココア。火傷しないようにね」

侑「ありがと……」

歩夢「こっちはイーブイの分だよ♪」
 「ブイ♪」


受け取ったエネココアを一口飲むと……甘さと温かさでなんだか、ホッとする。
658 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 12:02:18.33 ID:Xct6+7De0

歩夢「せつ菜ちゃんとかすみちゃんも、どうぞ♪」

せつ菜「ありがとう、ございます……ふぁぁ……」

かすみ「いただきまーす……。……ふー……ふー……。……こくこく……。……えへへぇ……おいしい……」

歩夢「しずくちゃんは……今飲む……?」

しずく「あ、すみません……。かすみさんの髪を梳かし終わったら頂きます。そこに置いておいてもらえれば……」

歩夢「うん、わかった♪」
 「シャボ」

歩夢「サスケの分もすぐに用意するから、ちょっと待ってね」
 「シャボ」


みんなにエネココアを配り終わり、歩夢も私の隣に腰を下ろして、エネココアを飲み始める。

これから最後の戦いを控えているというのに、なんだか随分と穏やかな時間が流れていた。


せつ菜「もう、すっかり深夜ですね……」

リナ『夜明けまで、だいたいあと4時間くらいだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「4時間……そう考えるとまだ結構あるかも……」

歩夢「みんなでお話ししてたら、すぐだと思うよ♪ 彼方さんたちを起こさないように、小さな声でだけど……」

しずく「そうですね」

リナ『どんなお話しするの?』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「……それなんだけどさ。……私、リナちゃんの話が聞きたいな」

リナ『私の?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「よく考えたら……私たち、リナちゃんが……璃奈さんとして、生きていた頃のこと……ほとんど知らないから……。もちろん、リナちゃんが嫌じゃなかったらだけど……」

リナ『構わないよ。……うぅん、というより、私も侑さんたちには、知っておいて欲しいかも。ただ、ちょっと長い話になっちゃうけど……いい?』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんの言葉を受けて、みんなが首を縦に振る。


侑「うん。……聞かせて、リナちゃんのこと」

リナ『わかった。……それじゃ、話すね。私が……プリズムステイツで──愛さんたちと過ごした、日々のこと……』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんはそう前置いて……生きていたときの──昔話を語り始めた……。



659 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 12:04:01.07 ID:Xct6+7De0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【暁の階】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.●⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口
660 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 12:04:43.14 ID:Xct6+7De0

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.77 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.75 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.73 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.73 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.71 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
      コスモウム Lv.75 特性:がんじょう 性格:ゆうかん 個性:からだがじょうぶ
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:258匹 捕まえた数:11匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.65 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.71 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      コスモウム✨ Lv.75 特性:がんじょう 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:227匹 捕まえた数:20匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.78 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.73 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.72 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.71 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.72 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.72 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:253匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.66 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.65 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.65 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.65 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.65 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:225匹 捕まえた数:23匹

 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.15 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.81 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.79 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.82 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:50匹 捕まえた数:9匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



661 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:28:01.72 ID:5MWtUFJH0

■Chapter072 『ツナガル物語』 【SIDE Rina】





璃奈「──え、えっと……い、以上の観測結果から……この世界とは別のところに、高次元空間が存在してて……えっと……ポケモンの発生させるエネルギーによって、空間を歪曲させて……じ、実際にアクセス出来る可能性……」


──私は、スクリーンに映し出された研究発表のスライドと共に、自分の考えている理論を、手元のメモを見ながらたどたどしく読み上げる。

でも……そんな私──テンノウジ・璃奈の研究発表を聞いている人はほとんどいない。

先ほどまで、たくさん人がいたはずなのに……最後の順番である私のときには、室内に残っているのは2〜3人しかいなかった。

……いや、順番を最後に回した時点で……最初から誰も、私の話なんて聞く気がなかったんだと思う。

きっと、私が──研究所の創設者の娘だから……お情けで発表の場を作ってくれただけなんだと思う……。


璃奈「……い、以上で……は、発表……終わり……ます……」


私が発表を終えると、残って聞いていた数人の人たちも、部屋を退出していく。

私も足早に、この場を後にしようとした、そのとき──

──パチパチパチと、拍手が聞こえてきた。


璃奈「……?」


チラりと目をやると──金色の髪をした女の子がパチパチと拍手をしていた。

これが──私と愛さんの出会いだった。





    📶    📶    📶





発表を終え、早く自分の研究室に戻ろうと、せかせかと通路を歩く。

道中、研究員の姿を何人か見かけたけど……みんな私の姿を見ると、目を逸らしてこそこそと離れていく。

そんな日常にも、もうとっくの昔に慣れてしまった。

でも、そんな中──


 「──ねぇ〜! 君〜! 待って待って〜!」

璃奈「……?」


後ろから、大きな声で私を呼び止める人がいた。


愛「もう〜……さっさと退出しちゃうからびっくりしたよ〜!」


それは、さっきの金髪の女の子だった。


璃奈「えっと……」

愛「さっきの研究発表、すっごく面白かったよ!」

璃奈「ありがとう……ございます……」


お礼を言いながら、私は彼女を観察する。……歳は……十代前半かな。……でも、私よりは少し年上かも。

若い研究者はたくさんいるけど……その中でも一際若い気がする。

それに女性はちょっと珍しい……。
662 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:28:44.16 ID:5MWtUFJH0

愛「アタシ、最近ここに来たばっかりでさ〜……若くて、まあ女じゃん? だから、周りのおじさんたちの目が厳しくてさ〜……。だから、君みたいな小さな女の子がいると思わなくて、びっくりしちゃったよ!」

璃奈「小さな女の子……。……私……13歳です……。……そんなに、変わらないと思う……」

愛「え……!? あ、愛さんと1つ違い……!? 10歳くらいだと思った……」


それは……よく言われる……。

私は背が低いから、特に……。


愛「でもそれって同年代ってことだよね!! ホント愛さん、同年代の子と会えるなんて思ってなかったから嬉しいよ!! ……あ! アタシ、ミヤシタ・愛って言うんだ!」

璃奈「……テンノウジ……璃奈……」

愛「んじゃ、りなりーだね! よろしく!」

璃奈「りなりー……」


彼女は、私の手を握ってぶんぶんと上下に振る。

なんというか……距離の詰め方が……すごい……。


愛「でさでさ! アタシ、もっとりなりーの話聞きたくってさ! だから、今からりなりーの所属してる研究室に行こうと思ってたんだ〜!」

璃奈「え?」

愛「いい?」

璃奈「……いい……けど……」

愛「そんじゃ、レッツゴー!」

璃奈「わ……!」


彼女は私の手を引いて走り出す。


璃奈「わ、私の研究室の場所……わかるの……?」

愛「……あ!」


私の言葉を聞いて、急に止まる。


愛「……わかんない……案内して!」

璃奈「……こっち……」


今度は逆に彼女の手を引いて、私は自分の研究室を目指して歩き出す。





    📶    📶    📶





愛「ここがりなりーの研究室なんだね!」

璃奈「……うん」


部屋に入るなり、彼女は興味深そうに、私の研究室内をキョロキョロと見回す。

面白いものとか……別にないんだけど……。
663 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:29:37.26 ID:5MWtUFJH0

愛「他に室員の人は?」

璃奈「……いない。この研究室は、私だけ……」

愛「え、そうなん?」

璃奈「強いて言うなら……」

 「…ウニャァ〜」


机の影から──ニャスパーがとてとてと私の足元に寄ってくる。

そんなニャスパーを抱き上げて見せる。


璃奈「この子くらい……」
 「ニャァ〜」

愛「おぉ、ニャスパーじゃん! よろしくね、ニャスパー!」

 「ウニャァ〜」

愛「この子はりなりーのポケモン?」

璃奈「正確には……お父さんとお母さんのポケモンだけど……」
 「ニャァ〜」

愛「へー、お父さんとお母さんも研究者だったりするの?」

璃奈「……うん。というか、この研究所の創設者」

愛「創設者!? え、めっちゃ偉い人じゃん……! どーりで、りなりーがその歳で自分の研究室持ってるわけだ……。……って、創設した人に挨拶もしないとか、さすがにやばいな……。ねぇ、りなりー! お父さんとお母さんに挨拶させてよ!」

璃奈「……無理。……それは出来ない」

愛「そう言わずにさ〜……」

璃奈「……出来ない。……もう、お父さんもお母さんも……いないから」

愛「……え」


彼女は言葉を詰まらせる。


璃奈「お父さんと、お母さんは……私が8歳のときに……研究中の事故で死んじゃったから」

愛「あ……ご、ごめん……」

璃奈「……別にいい。気にしてない。だから、この研究室は正確には私の研究室じゃない……。……お父さんとお母さんの研究室。二人が死んじゃってからは……ずっと私一人」


私は生まれたときからこの研究所で育ってきたから……ここは実質自分の家のようなものだ。


愛「……お父さんとお母さんとの思い出の研究室だから、他に誰も研究者を入れてないってこと……?」

璃奈「そういうわけじゃない。……誰も寄り付かないだけ」

愛「寄り付かない……? なんで……?」

璃奈「創設者の娘である私に嫌われたら、ここに居られないかもって考えてるからだと思う……。……だけど、私はこの研究所で一番子供。そんな人間の下について研究したいとも思わないだろうし、そんな人間を自分の下に付けたいモノ好きもいない」


つまり、腫れ物扱い……ということだ。


璃奈「相続はしてるから、私の研究所ということにはなってるけど……実際に管理しているのは別の人だし、私に誰かを追い出す権利とかはないと思う……。それでも、創設者の娘との間に問題が起こる可能性を考えて、近寄らないのがベターって思うのは合理的だと思う」

愛「合理的って……」

璃奈「別にそれに不満はない。この時代に住む場所に困らないだけでもすごくありがたいし、ご飯も食堂で作ってもらえる」


服も白衣を支給してもらえるし……衣食住に困らないだけで、十分な話だ。
664 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:30:13.49 ID:5MWtUFJH0

璃奈「私はこの研究所で……お父さんとお母さんが遺した研究の続きが出来れば、それでいい」

愛「お父さんとお母さんが遺した研究……? ……じゃあ、さっき発表してたのは……」

璃奈「うん。お父さんとお母さんが研究してたこと。私の目的は……二人の考えていた理論を完成させること……」

愛「…………」

璃奈「だから、貴方がお父さんとお母さんが研究していたことに興味を持ってくれたのは素直に嬉しい。……だけど、私と関わってると研究所で居づらくなるかもしれない。……だから、あんまり私と関わらない方がいいよ」


私は彼女に向かって、ここにいると損することを伝える。

だけど彼女は、ここを去るどころか──


愛「……ずっと……一人で頑張ってたんだね……」


そう言いながら、私を抱きしめてきた。


璃奈「……えっと……?」

愛「……決めた」

璃奈「? 何を?」

愛「アタシ、この研究室に入る」

璃奈「え……?」


私は彼女の言葉に驚く。


璃奈「……なんで?」

愛「なんでって……今の話聞いちゃったら、ほっとけないって!」

璃奈「……ここは他の研究室に比べて予算も少ない。扱ってるテーマも特殊だし……何よりこの研究室に入ったって知られたら、貴方も他の所員から良い顔をされないと思う。メリットがない」

愛「メリットとか、デメリットとか、そういう問題じゃないんだって……!」

璃奈「……貴方が優しい人なのはわかった。その気持ちは嬉しい。ありがとう。……だけど、私は一人で大丈夫だから。これまでもずっとそうだったし……」

愛「大丈夫だって言ってる子は……そんな寂しそうな顔しないぞ」

璃奈「……え?」


彼女はそう言いながら、私の頬に手を添える。


璃奈「私……寂しそうな顔……してる……?」

愛「……してるよ」

璃奈「……私、研究所の人たちが、私は無表情で何考えてるかわからないって噂してるの、知ってる……きっと思ってても、そんな顔はしてない」

愛「……それは、他の人たちがりなりーのこと、ちゃんと見てないからだよ……」

璃奈「……」

愛「とにかく、もう決めたから! アタシ、この研究室に入る! 入室手続きとかっている?」

璃奈「別に……いらないけど……」

愛「おっけー! じゃあ、今いる研究室抜けてくるから、ちょっと待ってて!」


それだけ言うと、彼女は部屋から飛び出して行った。


璃奈「……行っちゃった……」


そして、30分もしないうちに、彼女は自身の所属研究室を抜けて、私の研究室に荷物を抱えて戻ってきたのだった。



665 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:30:51.24 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





璃奈「こっちが執務室……こっちが私の部屋で……こっちがシャワールーム。……実験室はあっち」

愛「おー……この部屋って、いろいろ揃ってるんだね」

璃奈「私たち家族の住居スペースを兼ねてたから、ここだけでも生活が送れるようになってる。ご飯は食堂に行くことがほとんどだけど……」


キッチンもあるにはあるけど、お父さんもお母さんも研究一筋の人だったし、使ったことはほぼなかった。


愛「なるほどね。んじゃ、ここに愛さんの荷物置いちゃうよ?」


そう言いながら彼女は、自分の私物らしきものを執務室に置く。


愛「研究系の資料は、そっちに運んでっと……」

璃奈「あの……本当にいいの?」

愛「ん? 何が?」

璃奈「さっきも言ったけど……ここで扱ってるテーマは特殊……。……貴方が研究したいことも研究出来るか……」

愛「さっきから気になってたんだけど……その貴方って呼び方やめよっか」

璃奈「え?」

愛「これからは、同じ研究室の仲間なんだから! 名前で呼んでよ!」

璃奈「……」


彼女は……私が何を言ったところで、自分の意見を変える気はなさそうだ……。


璃奈「……」

愛「ほら! 愛って呼んで♪」

璃奈「……愛……さん……」

愛「うん! りなりー♪」


彼女──愛さんは、私が名前を呼ぶと、嬉しそうに笑った。


愛「んで、研究テーマの話だけど……四次元空間だよね?」

璃奈「うん……正確には高次元空間とエネルギーだけど……」

愛「なら、アタシの研究テーマはそんなに大きく外れてないよ!」

璃奈「え?」


私は首を傾げる。

私以外に、そんなテーマを研究している研究室あったかな……。

世が世だけに、研究予算が降りやすいのは、実際に役に立つ技術が多い。

食料生産や、それをオートメーション化するためのロボット。……あとは、兵器関連。

だから、私の研究しているような、一見なんの役に立つのかがわかりづらい研究は予算をほとんど出してもらえない。

それなのに、愛さんは自分の研究テーマと大きく外れていないと言う。


愛「愛さんが研究してるのはね……ビーストボールについてだよ」

璃奈「ビーストボール……ポケモンを持ち運ぶためのボールだよね」

愛「そうそう」
666 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:31:43.22 ID:5MWtUFJH0

ポケモンは弱ると小さくなるという性質を利用した、携行用のボールを開発している研究室は確かにあった。


璃奈「確か……ほぼ実用レベルまで進んでるって聞いた」

愛「うん。もうそろそろ、流通も始まることになってるよ! んで、これはそのボールの試作品!」


そう言いながら、愛さんがボールを取り出し、そのボールに付いているスイッチボタンを押し込むと──


 「──リシャン♪」


ボールからポケモンが飛び出してくる。


璃奈「リーシャン……!」

愛「この子はね、“愛”さんの“相”棒なんだ♪ 愛だけにね♪」
 「リシャン♪」

璃奈「本当にボールに入れて持ち運べるんだね」

愛「うん。ただ、アタシはボールそのものよりも……どうやってポケモンたちが小さくなってるのかの方が気になってさ」

璃奈「確かに……小さくなる性質を利用はしてるけど……どうやって小さくなってるのかはよくわかってないらしいね」

愛「しかも、どんなに大きいポケモン、重いポケモンも、ボールに入れれば持ち運べる。これって、不自然だよね」


そこまで聞いて、私はなんとなくピンと来た。


璃奈「ポケモンの重さは……どこに失われてるか。……それがここじゃない、どこかに……ってこと?」

愛「あはは、さすが研究者なだけあって、理解が早いね♪」


つまり愛さんは──


璃奈「ポケモンは小さくなるとき……私たちには認識できない場所に、自身の質量をエネルギーとして放出してる……」

愛「ま、あくまで愛さんの考えた仮説だけどね。そして、その放出先ってのが、りなりーの研究してる高次元空間なんじゃないかなって、研究発表聞いてたら、ビビッと来てさ!」

璃奈「……すごく、興味深い考え方だと思う」

愛「でしょでしょ! あの研究室だと、ボール開発とか生産コストの研究にシフトしちゃってて、メカニズムを知るための研究はほとんど出来なくってさ……どうしよっかなって思ってたんだよね」

璃奈「なるほど……」

愛「だから、愛さんはここの研究室に入っても損はしない! むしろ、アタシの研究内容はりなりーの役に立つかもしれないってコト! どうかな?」

璃奈「……納得した」


確かにそれなら、愛さんの研究内容から遠く離れたものではないし……お互いの研究テーマがお互いにとっての助けになる可能性がある。

そうなってくると、この研究室に入ることを頑なに拒否する理由もない……。


璃奈「ただ……予算は少ないよ?」

愛「そんなもん、これから結果出して増やせばいいよ!」

璃奈「……わかった」

愛「ってわけで、これからよろしくね、りなりー!」

璃奈「うん。よろしく、愛さん」


こうして私の研究所に仲間が増えることとなった──私にとって、生涯で最も大切と言える人が……。



667 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:32:20.62 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





──愛さんが私の研究室に来て、早くも1ヶ月ほどが経とうとしていた。


 「リシャン」
愛「ん……? リーシャン、どしたん?」

 「リシャン」
愛「え? ……って、うわ……もうこんな時間じゃん……。りなりー」

璃奈「…………」
 「ウニャ」

愛「りなりー」

璃奈「え? あ、ごめん……なぁに?」

愛「時間。……もう深夜だし、そろそろ寝た方がいいかなって」

璃奈「……あ、うん。……キリのいいところまで行ったら寝るね」

愛「ダメだよ。それで先週は朝まで寝なかったんだから。今日は終わり」

璃奈「で、でも……」

愛「でもじゃな〜い!! りなりー、アタシがいないときからずっとこんななの?」

 「ウニャァ」


愛さんが訊ねるとニャスパーが頷く。


璃奈「ニャスパーが裏切った……」

愛「いいから、寝るよ〜」

璃奈「はぁーい……」


まだ1ヶ月しか経っていないのに……愛さんは世話焼きで、私の身の回りのいろいろなことをお世話してくれていた。

夜更かししがちな私に、時間が遅くなると寝るように言ったり……ご飯を作ってくれたりする……。

愛さんは意外なことに料理上手で、特に焼き料理を作るのが上手だった。


愛「ほら、白衣のまま寝ないの〜! シワになっちゃうぞ〜?」

璃奈「このまま寝れば、起きてすぐ研究を始められて効率いいのに……」

愛「せっかくパジャマ買ってあげたんだからさー」

璃奈「無駄遣い……」

愛「こーゆーのは無駄って言わないの。ほら着替えた着替えた」

璃奈「はぁーい」
 「ウニャァ〜」


ニャスパーが愛さんの買ってくれたパジャマをサイコパワーで浮かせながら持ってきてくれる。


璃奈「ありがと、ニャスパー」
 「ウニャァ〜」


愛さんの買ってきてくれたパジャマ──ニャスパーをイメージした、耳付きフードのついている可愛らしいパジャマだ。


愛「うん、可愛い可愛い」

璃奈「ん……」

愛「お、りなりー照れてるな〜」

璃奈「ん……」
668 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:33:07.03 ID:5MWtUFJH0

愛さんから顔を背ける。


愛「ふふっ♪」


愛さんは楽しそうに笑う。


愛「そんじゃ、愛さんも部屋に戻るから。また明日ね。こっそり研究続けちゃダメだぞ〜? ちゃんと、寝るんだよ?」

璃奈「あ、うん……」

愛「おやすみ、りなりー♪」


そう言って背を向けて、研究室を後にしようとする愛さん。


璃奈「……」


私はそんな愛さんの服の裾をきゅっと……掴む。


愛「りなりー?」

璃奈「…………」

愛「ふふ……どしたん?」


愛さんが優しい表情で私の頭を撫でてくれる。

歳は一つしか違わないはずなのに、こういうときの愛さんはすごく大人っぽく見える。

私よりも全然背が高いからかな……。


璃奈「もうちょっと……お話ししたい……。今日……研究ばっかりで……あんまりお話し出来てないから……」

愛「……ふふ、じゃあ今日はりなりーの部屋に泊まろっかな〜」

璃奈「ホント……?」

愛「うん♪ 今着替え取ってくるから、待ってて」

璃奈「うん」





    📶    📶    📶





──愛さんと過ごすようになって、久しぶりに人とまともに話すようになった気がする。

だからかな……最近、愛さんがいない時間が妙に寂しくて……。


璃奈「愛さん……」

愛「んー? 今日のりなりーは甘えん坊だな〜」

璃奈「…………」

愛「じゃあ、りなりーが寝るまで、ぎゅーってしててあげるね」

璃奈「うん……」


最近、愛さんの前では少しだけ……自分が素直になれている気がした。

それと同時に……自分がこんなに甘えん坊な性格だったことに驚いていた。
669 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:35:16.05 ID:5MWtUFJH0

璃奈「…………愛さん……変に思わないんだね……」

愛「ん?」

璃奈「……私が……甘えてきても……」

愛「まーね。……アタシも昔は、よく近所のお姉ちゃんに甘えてたから。なんとなく気持ち、わかるというかさ」

璃奈「そうなの……?」

愛「うん。……まあ、お姉ちゃん身体が弱くってさ……もう死んじゃったんだけど……。……今の世の中、身体が弱っちゃうと、なかなかね……」

璃奈「…………」

愛「って、こんな暗い話聞きたくないよね、ごめんごめん」

璃奈「うぅん……愛さんが嫌じゃなかったら……愛さんの家族のこと……知りたい」

愛「そう……? ……えっと、アタシね……生まれてすぐにお父さんもお母さんも病気で死んじゃったらしくってさ。顔も写真でしか見たことないんだよね。だから、おばあちゃんに育ててもらったんだ。そんで近所には美里お姉ちゃんって人が居て……よく一緒に遊んでもらってた」

璃奈「……うん」

愛「おばあちゃんもいい歳だったし、お姉ちゃんも身体が弱かったからさ、あんまり遠出とかできなかったんだけど……。……一度だけお姉ちゃんの調子がよくなった時期があってさ、そのときに陽光の丘に一緒に遊びに行ったんだ」

璃奈「陽光の丘……ベベノムが生息してる街はずれの暖かい丘だよね」

愛「そうそう。……あそこって今では世界一のどかな場所って言われてるらしくってさ。ポニータの乗馬体験とか出来るんだよ」

璃奈「そうなんだ……」

愛「うん。お姉ちゃんはね、ポケモンが好きな人だったから、ポニータを間近で見られてすっごく嬉しそうにしてたんだ……それに、すっごく楽しそうだったんだ。だから、もっともっとたくさんお姉ちゃんとこうして楽しいことが出来ればって思ってたんだけど……お姉ちゃん、またすぐに身体の調子悪くしちゃってさ」

璃奈「…………」

愛「でさ、そのときに丁度、ポケモンをボールに収めて持ち運ぶ研究をしてるって話をたまたま知ったんだ。……もし、そんな風に持ち運べたら、お姉ちゃんにいろんなポケモンを見せてあげられるんじゃないかって」

璃奈「……だから、愛さん……ビーストボールの研究を……」

愛「うん、始めた理由はそんな感じ。……だけど、アタシが研究所に入るための勉強をしてる間に……死んじゃったんだ。丁度、半年前……“闇の落日”のときにさ、薬とか食料が不足した時期があったでしょ? そのときにね……」

璃奈「……そっか……」

愛「んで、アタシが研究所に入所が決まったのとほぼ同時くらいかな……今度はおばあちゃんが倒れちゃってね……。そんで、おばあちゃんもそのまま……。だから、実はアタシも今は身寄りとかないんだよね。……だからある意味……研究所に入れてよかったよ。ここは寮もあって、住み込みで研究出来るし……」


私たちの住んでいる場所では、親を亡くして身寄りがない子は少なくない。

“闇の落日”でより増えたとは思うけど……元より病死率が高いため、小さい頃から天涯孤独になってしまう子供がすごく多い。

だから、孤児院は多くあるし……13〜4歳くらいになると、お金を稼ぐために働き始める子も多い。

私や愛さんみたいに、その働き口が研究者なのはレアケースだけど……。多くの子は、実入りがある警備隊に入ることが多いと聞く。

ただ……隊での仕事は危険が伴うため、そこで死んでしまう子供も多い。……今は……そういう、世の中。

危険な場所に赴かずとも……仕事と住む場所を与えられている私たちは……確かに恵まれているのかもしれない。


愛「……だから、自分を重ねちゃって……りなりーのことほっとけないなって思っちゃったところもあるんだけど……。……今考えてみると、寂しいのはアタシも同じだったのかも、なんて」


そう言って力なく笑う愛さん。

私は……そんな愛さんの頭を撫でる。


愛「……ありがと、りなりー……」

璃奈「私は……愛さんのお陰で……寂しくないよ……。むしろ……愛さんと会うまで……今まで、自分が寂しいって思ってたことにすら……気付いてなかったんだ……」

愛「そっか……ならよかった」

璃奈「もし……私も愛さんの寂しさを少しでも埋めてあげられてるなら……嬉しい」

愛「……あーもー……! りなりーってば、ホント可愛い〜!」

璃奈「わわっ……あ、愛さん……く、苦しい……」

愛「うりうり〜……♪」

璃奈「愛さん……」
670 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:35:56.18 ID:5MWtUFJH0

強く抱きしめられて、少し苦しい。……だけど、嫌ではない。むしろ、この距離感が温かくて……なんだか幸せだった。


璃奈「……ねぇ、愛さん」

愛「んー?」

璃奈「……愛さんは、私の家族のこと……聞かないの……?」

愛「んー……気にならないわけじゃないけど……デリケートな話だから……。……でも、りなりーが話したいなら、いくらでも聞くよ」

璃奈「……うん。……聞いて欲しい……。……お父さんと……お母さんのこと……」

愛「わかった」

璃奈「……うん」


悲しくなっちゃうから……出来る限り思い出さないようにしていたけど……。

でも、きっと……これは忘れちゃいけないことだから……。

お父さんとお母さんの為そうとしていたことを……愛さんにも知って欲しかったから……。

私は、ぽつりぽつりと、話し始める。





    📶    📶    📶





私のお父さんとお母さんは、お互いがもともと研究者の家系で、同じ研究所で出会い、結婚し、そのときに自分たちの研究所を持ち……その数年後に私が生まれた。

お父さんとお母さんは二人とも研究一筋な人たちで……家族の時間らしい時間がたくさんあったかと言われると、少し怪しかった気がする……。

だけど、間違いなく二人とも私を愛してくれていたし、私はお父さんもお母さんも好きだったし、子供心に研究者である二人を誇らしく思っていたことをよく覚えている。

だからかもしれないけど……私は小さい頃から、お父さんとお母さんの研究論文をよく読んでいた。

私が内容を理解出来るとお父さんもお母さんも喜んでいたし、褒めてくれたから、私は二人の研究結果をたくさん読んだ。

わからないことがあっても聞けばすぐに教えてくれたし、お父さんとお母さんの論文を読むために勉強をするのは楽しかった。


愛「──そのときから……りなりーのお父さんとお母さんは、高次元空間について研究してたの?」

璃奈「うん、ずっと研究してた。いつも私に『いつかこの研究が世界を救うから』って言ってたよ」

愛「世界を……救う……?」


愛さんは私の言葉に首を傾げる。


璃奈「あのね……お父さんとお母さんは、今の世界がどうしてこうなっちゃったのかが……わかってたみたいなんだ」

愛「……マジで?」

璃奈「うん……世界のエネルギーは……高次元空間にどんどん漏れ出して行ってるせいで……世界がどんどん委縮していっちゃってるんだって……」

愛「……じゃあ、世界のあちこちが急に崩落するのは……」

璃奈「……世界を維持するだけのエネルギーが……徐々に失われているから……。だから、私のお父さんとお母さんは、それが失われている先──高次元空間へアクセスする方法をずっと研究していた。……だけど、その研究の実験中に……事故が起きた」

愛「……」


いつもの昼下がりだった。

私は実験室の隅っこで、お父さんとお母さんの研究を見ていた。
671 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:36:30.63 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……そのとき……開いたんだ」

愛「……開いた……?」

璃奈「──高次元への……ホールが……」

愛「え……?」

璃奈「お父さんとお母さんは……そこに吸い込まれて……消えていった」

愛「……う、嘘……? じゃあ、りなりーはもうすでに……高次元空間へアクセスする瞬間を……目撃してたの……?」

璃奈「うん。私も……ニャスパーがサイコパワーで守ってくれなかったら……吸い込まれてたかもしれない……」
 「…ゥニャ?」

愛「じゃあ、それを発表すれば……!」

璃奈「うぅん、発表したけど……誰も信じてくれなかった」

愛「な、なんで……!? 実際に見たんでしょ……!?」


確かに私は見た。お父さんとお母さんが、ホールに飲み込まれるところを……。ただ……。


璃奈「証拠が……何も残ってなかった。……記録機器も全部ホールに飲み込まれちゃったし……そのときに研究資料の大半も一緒にホールに飲み込まれちゃった……」

愛「でも、りなりーの証言があれば……! 事故直後なら、子供の言うことだとしても全く検証しないことなんて……」

璃奈「私ね、そのときのショックが原因で……声が出なくなっちゃって……4年間くらい、喋れなかったんだ」

愛「え」

璃奈「だから、あのときのことを人に言えるようになったのは……本当につい最近。その間に、お父さんとお母さんのことは……実験中に起きた爆発事故として片づけられちゃって……」

愛「……」


だから、発表をしても、子供の妄想で片付けられてしまった。

……でも、それはそうかもしれない。

資料もない、記録もない、証拠は5年前に私が見たという事実だけ。

そんなものを信じるのは──科学ではない。


璃奈「だから……私はお父さんとお母さんが気付いてたこと……世界に何が起きてるのかを突き止めなくちゃいけない……。お父さんとお母さんの理論を、研究を、完成させないといけない……」

愛「りなりー……」

璃奈「そうじゃないと……お父さんとお母さんが、報われないから……」

愛「…………」


愛さんは無言で私を抱きしめる。

強い力で……自分の胸に、私を抱き寄せる。


愛「…………りなりー……」

璃奈「……なぁに……?」

愛「…………研究、絶対に……完成させよう……」

璃奈「……うん」



672 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:37:09.96 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





あの夜から数日後、私たちは本格的に二人で研究を始めた。

ここ1ヶ月は、お互いの研究や設備の確認。……後は、愛さんが私の身の回りのお世話をしてくれていたというか……。

だから、ようやく本格的な研究がスタートしたという感じだ。


愛「──まず、ホールを発生させる方法だけど……」

璃奈「たぶん……高エネルギーの衝突が方法……だと思う」

愛「それはりなりーが書いた理論でもそうなってたよね。……ただ、問題はどうやってぶつけるか……。りなりーのご両親はどうやってたの?」

璃奈「サーナイトが発生させるブラックホール同士を衝突させてた」

愛「そのサーナイトは?」

璃奈「お父さんとお母さんと一緒に……」

愛「……まあ、発生源に居たんだとしたら、そうなるよね……。まあ、どっちにしろ、サーナイトを捕まえる必要があるってことかな?」

璃奈「うん。でも、私……戦闘が苦手で……。……何度か試したけど、ラルトスすら捕まえられなかった」
 「ニャァ」


仮にラルトスを捕まえたところで、サーナイトまで進化させる自信もない……。

特にラルトスは、臆病ですぐ逃げてしまうから、本当に難しい……。


愛「じゃあ、とりあえず……ポケモンを連れてくるべきだね。ま、それはアタシに任せてよ!」

璃奈「愛さん、頼もしい」
 「ニャァ〜」

愛「へへ、愛さん戦闘は昔から得意だからね〜! それに今はボールもあるし! サーナイトだけじゃなくて、いろいろなポケモン捕まえてみよっか!」

璃奈「うん」





    📶    📶    📶





 「…コド…ラ──」

愛「ほいっと……コドラゲットっと」
 「リシャン♪」

璃奈「すごい! これで10匹目!」
 「ウニャァ〜」

愛「へへ、どんなもんだ〜♪」

璃奈「ホントにすごい! 愛さん、かっこいい!」

愛「あーもう! りなりーにそんなこと言われたら、愛さんもっと頑張っちゃうぞ〜!」
 「リシャン♪」


愛さんは本当に戦闘が得意だった。

別に疑っていたわけじゃないけど……その実力は予想以上で、リーシャンと一緒に、次から次へとポケモンを倒しては捕獲していく姿はまさに圧巻だった。


璃奈「それにしても、ボールに入れちゃえば本当にいくらでも持ち運べちゃうんだね」

愛「うん、すごいっしょ♪」
673 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:37:43.72 ID:5MWtUFJH0

愛さんからボールを受け取ってバッグに入れる。

ボール10個となると、それなりに嵩張るけど……もしボールに入れていなかったら小型のポケモンが1匹入るか入らないかくらいと考えるとすごいことだ。


愛「運よくサーナイトも今日中に捕まえられたし!」

璃奈「うん! 幸先がいい!」

愛「この調子でガンガン行くぞ〜! ……って言いたいところだけど……」

璃奈「日も傾いてきた。……そろそろ、戻ろっか」

愛「そうだね。行くよ、リーシャン」
 「リシャン♪」

璃奈「ニャスパー、帰るよ。おいで」
 「ウニャァ?」


足元でじゃれているニャスパーを抱き上げて、研究所へ戻るために、街の方へと歩き出す。

研究所は街の端っこにあるため、街を突っ切っていくことになるんだけど……その道中、何やら人だかりが出来ていた。


愛「ん……?」

璃奈「なんだろう……」


二人で近寄ってみると──


男性1「やっと捕まえたぞ……」

男性2「手こずらせやがって……」

男性3「んで、どうする?」


数人の男性に取り囲まれた中心に──


 「ベベノ…」


黄色と白色の体をした、小さなポケモンが蹲っていた。


璃奈「あれ、ベベノム……!」


色違いだけど……普段は陽光の丘に生息しているベベノムに間違いない。


璃奈「弱ってる……! 通して……!」

愛「あ、ちょっと、りなりー!?」


私は、大人の人たちの間をすり抜けて、中央のベベノムに駆け寄って、しゃがみこむ。


璃奈「大丈夫……?」
 「ベベノ…」


ベベノムは明らかに様子がおかしかった。

どこかに異常があるに違いない……。ちゃんと診てあげたかったけど、


男性1「なんだい、嬢ちゃん。そいつを庇うのかい?」

璃奈「え、あ、あの……」
674 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:38:25.57 ID:5MWtUFJH0

おじさんがすごんできて、身体が強張る。

何も考えずに飛び込んできてしまったのを少し後悔する。

だけど……怪我したベベノムをほっとくわけにいかないし……。

なんて言葉を返せばいいのかわからず慌てる私に、


愛「ちょっとちょっと、大の大人がこんなちっちゃいポケモンに寄ってたかって何してんのさ……」


愛さんが人だかりを掻き分けながら、助け舟を出してくれる。


男性2「こいつはな、ここらで食料泥棒を働いてたんだよ」

愛「ベベノムが? わざわざ?」

璃奈「ベベノムは知性の高いポケモン……理由もなくそんなことしない」
 「ベベノ…」


わざわざ人のテリトリーに侵入して、そんなリスクを冒すとは到底思えない。


男性3「だったら許せとでも? 貴重な食料を奪われてるんだぞ……!」

愛「わかった。じゃあ、この子アタシたちが引き取るからさ。それで大目に見てくんないかな?」

璃奈「愛さん……」

男性1「なんで見ず知らずの嬢ちゃんたちが、そんなこと勝手に決めるんだ?」

愛「どっちにしろ、捕まえたところで持て余すでしょ? それとも、紐にでも繋いで餓死でもさせる? そんなことしても、後味悪いでしょ」

男性2「それは……」

愛「食料奪われたのが気に食わないってんなら……盗られた分の代金払ってあげるからさ。……これで足りる?」


そう言いながら、愛さんはポケットから取り出した硬貨を男性に手渡す。


男性1「あ、ああ……これだけあれば足りるが……」

愛「んじゃ、これで手打ちにしてよ。野生のポケモンを寄ってたかってイジメてたなんてのがバレて、警備隊に目付けられるのも嫌っしょ?」

男性1「わ、わかったよ……。……行こう……」

男性2「あ、ああ……」


とりあえず、溜飲は下がったのか男性たちは去っていった。

いなくなったのを確認してから、


愛「りなりー、平気?」


愛さんがそう言って、私に手を差し伸べてくる。


璃奈「愛さん……」


ベベノムを抱えたまま、その手を取って立ち上がりながらお礼を言う。


璃奈「……私一人じゃ、どうすればいいかわからなかった……ありがとう……」

愛「うぅん。……貴重なお金、勝手に払っちゃってごめんね」

璃奈「大丈夫。むしろ、あれがベストだった」


無用な争いになるよりもずっといい。

それはそれとして……今は、
675 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:38:59.15 ID:5MWtUFJH0

璃奈「この子……早く診てあげないと……」
 「ベベノ…」

愛「そだね。研究所に急ごう」

璃奈「うん」


私たちはベベノムを診るために、急いで研究所へと戻る──





    📶    📶    📶





璃奈「栄養状態が悪くて、毒腺が詰まってる……。だから、狩りが出来なくて、人の食べ物を奪ってたんだね……」
 「ベベノ…」

璃奈「でも、大丈夫だよ。ちゃんと栄養のあるものを食べれば、すぐ良くなるから」
 「ベベ…」

璃奈「だけど……どうして、こんなになるまで……」


ベベノムは賢いポケモンだから、群れに弱っている個体がいたら、普通は食料を分け与える。

だから、こんな風に栄養失調で弱ったベベノムが単体でいるのはすごく珍しい。

……というか、そもそも街にいること自体が不可解だ。

人を必要以上に怖がらないポケモンではあるけど、人の集落にわざわざ好んで現れるかと言われると、そんなことはない……。

私が頭を捻っていると──


愛「……たぶん、この子……人が逃がしたポケモンだね」


愛さんが検査端末を弄りながら、そんなことを言う。


璃奈「……どうして、そんなことがわかるの?」

愛「この子……ボールマーカーが付いてるから」

璃奈「ボールマーカー……? ……えっと、ボールに入れたときに紐付けされる情報だっけ……?」

愛「そう。しかも、試作品のボールマーカーだね……。……開発資金を提供してた一部の金持ちに配られた型かな。たぶん、色違いが珍しくて試しに捕まえてみたはいいけど……結局手に負えなくなって、街中に逃がしたってところだと思う」

璃奈「それで……自分の住処に帰れなくなっちゃったんだね……」
 「ベベノ…」

愛「だから、一般人の手に渡らせるのは、流通が始まってからの方がいいって言ったのに……。……一応アタシならボールマーカーの個別識別情報から、誰の手に渡った試作ボールかまで特定出来なくはないけど……どうする?」

璃奈「……うぅん、そこまでしなくていいと思う……。……その人のところに連れて行ったところで、責任なんて取らないだろうし……」

愛「ま……そうだろうね」

璃奈「とりあえず……元気になるまで、ここでお世話してあげよう」
 「ベベノ…」

愛「それがいいかもね」

璃奈「もう安心して大丈夫だからね。ベベノム」
 「ベベノ…」



676 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:40:27.78 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





──私たちはその後も着々と研究を進めていった。


愛「サーナイト、そこまでで」
 「サナ」「サナ」

愛「……うーん……」


愛さんはエネルギー測定器の数値を見ながら、眉を顰める。


璃奈「やっぱり、理論式から考えても、エネルギーが全く足りてないね……」

愛「確かに、サーナイトたちの作り出すブラックホールの衝突が一番数値としては大きいけど……。さすがに、空間に穴を開けるのはこれじゃ難しいね……」

璃奈「うーん……でも、実際にホールが発生したときは、この方法だったと思う……」

愛「何か他に条件とかがあったのかな……」

璃奈「わからない……。……でも、二人は何度もこれを繰り返して少しずつエネルギー効率の高いぶつけ方を何度も検証してた……」

愛「そのうちのとある1回でホールが発生したと……」

璃奈「……ただ、こうして実際に数値を見る限り……他に要因がないと現象が起こるとは考えづらい……」

愛「……となると、今後考えることは3つだね。より効率の良いぶつけ方、他の要因探し、それと……」

璃奈「もっと大きなエネルギーを発生させうるポケモンを見つける」

愛「うん、そうなるね」


お父さんとお母さんも普通の研究者だったから、ポケモンを捕まえるのが得意だったわけじゃない。

ましてや今と違って、ビーストボールのような捕獲道具があったわけでもなかったし……。

サーナイトを実験で使っていたのは、お父さんとお母さんが子供の頃から、たまたまラルトスを持っていたからに過ぎない。

半面、愛さんは戦闘や捕獲が得意で、これまでに数十種類のポケモンを捕獲している。

今のところ、サーナイト同士が一番大きな成果を出しているけど、もしかしたら、今後これよりも大きな結果を得られる組み合わせが見つかるかもしれない。

それが3つ目の『もっと大きなエネルギーを発生させうるポケモンを見つける』というわけだ。


愛「まー……サーナイトのサイコパワーはトレーナーとの絆に呼応して強くなるって言うし……一緒に過ごす時間が長くなれば、結果も変わってくるかもしれない。根気よくやっていこうか」


そう言いながら、愛さんがサーナイトたちをボールに戻す。


愛「とりあえず一旦休憩にしよっか……朝からずっと検証してたから、さすがにくたびれたよ……」

璃奈「なら、ご飯にしよっか。パンがあるから」

愛「お、いいね」


二人で食事をしようと、実験室を出ると──


 「ベベノ〜♪」


ベベノムがパンを持って、私たちのもとへと飛んでくる。


璃奈「ベベノム」
 「ベベノ〜♪」

愛「お、持ってきてくれたん? ありがと、ベベノム〜♪」
 「ベベノ〜♪」

璃奈「ベベノムも一緒に食べよっか」
 「ベベノ〜♪」
677 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:41:01.57 ID:5MWtUFJH0

そう言うと、ベベノムは嬉しそうにくるくると踊り出す。


璃奈「ニャスパーもおいで、ご飯だよ」
 「…ウニャァ〜」

愛「リーシャン、ルリリもおいで」
 「リシャン♪」「ルリ」


お部屋で遊んでいた私たちのポケモンも呼び寄せて、みんなで食事をとり始める。

ニャスパーはすごく“マイペース”だから、適当にパンを一つとって、小さな口で齧りながらもくもくと食べ始める。


愛「リーシャン、はいあーん」
 「リシャン♪」


愛さんが小さくちぎったパンをリーシャンに食べさせると、リーシャンは嬉しそうに鳴く。


愛「ルリリの分は……ここにおいておけばいい?」
 「ルリ」


逆にルリリは、あんまり人の手から貰うのは好きじゃないらしいから、適当なサイズにちぎって渡してあげることが多い。

ポケモンごとによって食事の取り方もそれぞれだ。


 「ベベノ〜♪」
璃奈「はい、ベベノム」

 「ベベノ♪」


そして、ベベノムは人の手から貰うのがものすごく好きで、


 「ベベノ〜♪」
愛「今りなりーから貰ったところでしょー? もう、甘えん坊だなぁー。……はい、あーん♪」

 「ベベノ〜♪」

 「リシャン」
愛「あーわかってるわかってる、順番ね〜」

 「リシャン♪」


愛さんと私から、交互に貰いに来る。


璃奈「はい」
 「ベベノ〜♪」

愛「それにしても……すっかり懐いちゃったね」

璃奈「もともと、人懐っこいポケモンだから、ある意味当然かもしれない」
 「ベベノ〜♪」

愛「まーね……」


そんなベベノムの世話も出来ずに、街に放り出した人は……本当にロクでもない人だったんだと思う。

その証拠に、今ではこんなに懐っこいベベノムも、最初は私たちにあまり近寄らなかったくらいだから。


愛「ただこれだと、群れに返すって感じじゃなさそうだね……。むしろ、友達のベベノムがいた方がいいくらいかもなー……」

璃奈「ベベノムは群れで生活してるもんね。確かに仲間が居た方がいいかもしれない」


私はパンをパクつきながら、端末を弄り始める。


愛「りなりー……行儀悪いぞー……」

璃奈「さっきのデータを整理するだけ」
678 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:41:43.35 ID:5MWtUFJH0

取ったデータを簡単にグラフで視覚化して……。


璃奈「ん……まだデータ取り続けてる……。……愛さん、機器の電源落ちてない」

愛「……あ、忘れてた。機器の寿命を減らさないためにも、使わないときはちゃんと落とさないと……」


愛さんはそう言いながら席を立つ。

私はまだリアルタイムでデータを取り続けている端末のデータを見ながら、ふと、


璃奈「……?」


データ上に不審な点があることに気付いた。


愛「切ってきた〜。……って、どうかしたん?」


実験室から戻ってきた愛さんが、私の表情を見て、首を傾げる。


璃奈「……愛さん、ここのデータおかしくない?」

愛「え?」


私は愛さんに身を寄せて、端末の画面を見せる。


愛「…………こんなに大きな数値出てるタイミングあったっけ……?」


愛さんの言うとおり──妙に大きな数値が出ている瞬間があった。

少なくともさっき見ていたときはこんなに大きな数値を見た覚えがなかった。


璃奈「タイムスタンプと録画のデータを比較する」


私は端末を弄りながら、この数値が出た瞬間のカメラのデータを見てみて……驚いた。

それは──


璃奈「ポケモンを……ボールに戻した瞬間だ」

愛「……これって……」

璃奈「愛さんが前に言ってたこと……」


ポケモンがボールに入る瞬間──どうやって小さくなっているかの話。


璃奈「ボールに入って小さくなる瞬間……質量をエネルギーとして放出してる……?」

愛「りなりー!!」

璃奈「うん、早急に調べる必要がある」
 「ベベノ〜?」


私たちは食事中だったこともすっかり忘れて、慌ただしく実験室へと戻るのだった。



679 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:44:47.45 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





──結論から言うと、ポケモンがボールから入る瞬間、エネルギーを放出しているというのは正しかった。

調べ方は簡単で、他の種類のポケモンをボールに戻す瞬間にも同じようなことが起きているか、ということを調べるだけだから、すぐにわかった。

ただ……。


愛「い、意味わからん……」


その数値をまとめたデータを見て、愛さんは頭を抱えていた。


愛「……放出エネルギーがポケモンの種類ごとによって違うのは、わかるんだけど……」

璃奈「……体重、身長、形状……そこに相関性が見つけられない……」


簡単に言うと、私たちは大きなポケモンや重いポケモンほど小さくなるときにたくさんエネルギーを放出していると考えていたんだけど……どうやら、それはあんまり関係ないらしい。

ボスゴドラの方がコロモリよりも放出エネルギーが小さいと言えば、それがどれくらいイメージに反していたのかが、わかりやすいだろうか。

ただ、一つわかったことがある。


璃奈「……これなら……より大きなエネルギー効率が出せるかもしれない……」


私たちが、研究を前に進める一歩を見つけた瞬間だった。





    📶    📶    📶





──さて、私たちの目的は研究だけど……研究を続けていくためには必要なことがある。

それが……研究発表だ。


璃奈「……で、ですので……ポケモンがボールに収まる瞬間、お、及び飛び出す瞬間には……こ、高次元空間との、えねりゅぎーの……噛んだ……」

愛「……ふーむ……」

璃奈「やっぱり、ダメかな……」

愛「アタシはそういうりなりーも可愛くて好きだけど……やっぱ、発表の場ってなるとね……」

璃奈「……だよね……」


今はその練習中。

まだ私たちが目指している核心の部分ではないけど……途中でも、大きな発見があったときにしっかり発表する必要がある。

何故なら──それによって、次期の研究予算がどれだけ下りるかが変わってくるからだ。

でも……。


璃奈「私……やっぱり、発表は……苦手……」


私はとにかく発表というものが苦手だった。
680 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:45:22.85 ID:5MWtUFJH0

璃奈「そもそも……人前でうまく、話せない……」

愛「やっぱり、人前に立つと緊張しちゃう感じ?」

璃奈「それもあるけど……私、4年くらい誰とも話せなかったから……。……人ともほとんど関わらなかったし……。……所内でもお話し出来るの、愛さんと所員食堂のおばちゃんしかいない……」

愛「まぁ、発表は愛さんがするよ」

璃奈「でも……研究室長は私だし……」

愛「別に室長がしなくちゃいけないって決まりはないでしょ? そこは助け合おう♪」

璃奈「愛さん……。……うん」


確かに、もう発表まで日もないし……今回に関しては、もともと研究テーマ的にも愛さんがやっていたことだ。


璃奈「……もっと……上手に人とお話……したいな……」

愛「りなりー……」


お父さんとお母さんが目の前でいなくなっちゃったショックで喋れなくなっちゃって……。

ただ、ニャスパーはエスパータイプでテレパシーが使えたから、無理に喋らなくても最低限の意思疎通が出来たし……食堂のおばちゃんも事情を知っていたからか、メニューを指差せば察してくれていたお陰で、どうにかなっていた。

逆に言うなら、私はそれ以外のコミュニケーションを一切取ってこなかった。

そのツケというか……代償というか……。


璃奈「私……表情がないんだって……。……無表情で何考えてるかわからないって……噂されてるの……知ってる……」

愛「そんなことないよ」

璃奈「……そんなことある。……わかるのは愛さんが特別だから……。……普通の人は……私の顔を見ても……何考えてるか、わからない。……わからないものは……怖いから、誰も近寄らない……」


特に私は創設者の娘。……そんな人間がずっと無表情だったら……確かに近寄りたくないと思う。


璃奈「お父さんとお母さんがよく言ってた……私たち研究者は、未来の誰かの笑顔のために研究をするんだって……。……未来に繋ぐために研究をするんだって……」

愛「……」

璃奈「お腹が空くのは辛いから、お腹がいっぱいになれるように、食物の研究をする。不便だと大変だって思うから、それを解消しようって便利なものを作る。武器だって……人を傷つけるものだけど……根本にあるのは、自分たちや自分の大切な人や物を守りたいって想いがあるから……。……研究は、そういう想いがあって、初めて始まって……それが繋がって、大きくなって……為して行くものだって……」

愛「……そうだね」

璃奈「でも……それをしようとしてる人が……笑顔一つまともに出来ないようで……伝わるのかな……誰かの笑顔を……未来に繋げていけるのかな……」


今の私は……そもそも研究者として相応しいのか。

大袈裟かもしれないけど……そう、思ってしまう。


愛「……別に無表情な研究者は普通にいるし、それは願いの大小とは関係ないから……アタシはそんなに気にすることだと思わないけど……。……りなりーにとっては大事なことなんだよね」

璃奈「……うん」

愛「じゃあ、何か考えてみよっか」

璃奈「……ありがとう、愛さん。……でも、一朝一夕で表情が豊かになる方法なんてあるのかな……」

愛「うーん……なかなか難しいかもね」

璃奈「せめて……自分が今思ってる気持ちだけでも伝われば……誤解されることはなくなるのに……」

愛「……あ、ならさ」

璃奈「……?」


愛さんは、近くにあった紙にペンで何かを描き始める。
681 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:45:57.60 ID:5MWtUFJH0

愛「嬉しいときは、こう」 ||,,> ◡ <,,||

愛「楽しいとき」 ||,,> 𝅎 <,,||

愛「怒ったとき」 || ˋ ᇫ ˊ ||

愛「悲しいとき」 || 𝅝• _ • ||

愛「どうかな? 名付けて、璃奈ちゃんボード! これなら、りなりーの今の感情が、わかりやすく伝えられそうじゃない?」

璃奈「……! それ、すごくいい!」

愛「でしょでしょ! これなら“ボーっと”してても“ボード”で気持ちがわかっちゃう! なんつって!」

璃奈「うん! やってみて、いい?」

愛「もちろん♪」


私は愛さんに紙とペンを受け取り、


璃奈「にこにこ」 || > ◡ < ||

璃奈「むー」 || ˋ ᨈ ˊ ||

璃奈「ぐすん」 || > _ <𝅝||

璃奈「わかる?」

愛「喜んでるとき、むっとしてるとき、悲しいことがあったときって感じだね」

璃奈「すごい! ちゃんと伝わってる……!」

愛「表情で出せなくても、今どう思ってるのかが伝わればいいわけだからね!」

璃奈「単純なことなのに……うぅん、単純だからこそ……すごい……」

愛「すぐにりなりーの思い描く、表情豊かな人になるのは難しいかもしれないけど……。……少なくともこれなら、りなりーの気持ちは伝えられると思うよ」

璃奈「……うん! 璃奈ちゃんボード……!」


私は紙束を抱きしめる。

これから……この紙が私の気持ちを表す顔になってくれる。

璃奈ちゃんボードが誕生した瞬間だった。





    📶    📶    📶





──愛さんが提案してくれた璃奈ちゃんボードのお陰もあり、私たちは幾度かの研究発表を乗り越え……。


璃奈「愛さん! また、予算増やしてもらった!」

愛「やったね! これで、設備をもっと充実させられる!」

璃奈「うん! それに、これならポケモンの数も増やせそう!」

愛「そうだね。ポケモンたち……増やせば増やすほど、餌代がとてつもなく高くなってくからね……」


私たちがデータを取るためにはたくさんの種類のポケモンが必要だから、そのための餌代はバカにならない。


璃奈「これも愛さんが璃奈ちゃんボードを作ってくれたお陰だよ」

愛「あはは、りなりーが頑張ったからだって♪」

璃奈「これからも二人で頑張ろうね」

愛「任せろ〜♪」
682 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:46:32.81 ID:5MWtUFJH0

──ただ、ここから研究進捗は難航していくことになる……。





    📶    📶    📶





愛「さて、ベベノム! お前の故郷だぞ〜!」
 「ベベノ♪」


ベベノムは嬉しそうに陽光の丘を飛びまわり始める。


璃奈「ベベノム、嬉しそう」

愛「そうだね、連れてきてあげてよかったね」


私たちは本日、野生のベベノムの生息地である、陽光の丘を訪れている。


愛「研究詰めだったし……アタシたちも久しぶりに羽を伸ばそうかね〜……」

璃奈「うん」


ここしばらく、なかなか思うように結果が進展していなかった。

より大きなエネルギーを持つポケモンを見つけることは出来ていたけど……それでも、ホールを発生させるほどの大きなエネルギーにはまだまだ遠く……相変わらずエネルギーの大小を決める要素もわかっていないままだった。

恐らく、ポケモンが内包しているエネルギーが関係しているんだとは思うけど……。


愛「お、ベベノム。早速、他のベベノムと仲良くしてるじゃん」

璃奈「ホントだ」


私たちの白光のベベノムは、本来の色のベベノムたちに紛れて楽しそうに飛んでいる。

でも、しばらくすると──


 「ベベノ♪」


一度私たちのところに戻ってきてから、


 「ベベノ〜♪」

 「ベノ〜」「ベノム〜」「ベベベノ〜」


また、ベベノムたちのもとへと戻っていく。

そんなことを繰り返していた。


愛「アタシたちに楽しいこと、報告してくれてるのかもね♪」

璃奈「うん。きっとそう」


ぽかぽか陽気の丘で、ベベノムを見守っていると──


 「ベベノ?」


1匹のベベノムが私に近寄ってくる。


 「ベベベノ? ベノ?」
璃奈「ベベノム……私の周りを飛んでる」
683 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:47:14.78 ID:5MWtUFJH0

そのまま、私の頭に乗っかってくる。


璃奈「乗っかられた……」
 「ベベノ」

愛「やっぱ、ベベノムは人懐っこいね〜」

璃奈「好奇心旺盛だからね。……よいしょ」
 「ベベノ?」


頭の上にいるベベノムを掴んで、胸の辺りに持ってくる。


 「ベノベノ♪」
璃奈「ホントに人懐っこいね」

 「ベノ♪」

愛「だとしてもだけどねー……そんなに警戒心ないと、悪い人に捕まっちゃうぞ〜?」
 「ベノ?」


愛さんの言葉に小首を傾げるベベノム。

すると、


 「ベベノ〜?」
愛「おっ、おかえり、ベベノム♪」


私たちの白光のベベノムも戻ってくる。


 「ベベノ?」「ベノベノ?」

 「ベベベノ」「ベベベ♪」

璃奈「なんか喋ってるね」


2匹のベベノムは鳴き声で会話をしたあと、


 「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」


2匹で踊り出した。


璃奈「この子なら、仲良くなれそう」

愛「そうだね。ねぇ、ベベノム、よかったらアタシたちのベベノムと友達になってよ」
 「ベベノ〜♪」


ベベノムは愛さんの言葉を受けると、今度は愛さんの周囲をくるくると飛び始める。


愛「よかったね、ベベノム♪ 友達出来たよ♪」
 「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」

璃奈「また、賑やかになるね」

愛「だね〜♪」



684 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:48:31.83 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





璃奈「愛さん、これ見て」

愛「ん?」

璃奈「2台の機材で同時に計測してみた結果」

愛「……微妙に出てる数値が違う……?」

璃奈「もしかしたら、エネルギーの集束点の座標がわかるかもしれない」

愛「確かに……! いやー、新しい機材買った甲斐あったね!」

璃奈「うん」


最近詰まっていた研究も……増えた予算で買った新機材のお陰で、少しずつだけど進みつつあった。


璃奈「──……やっぱり、ある程度エネルギーの集束点はランダムに変化してるね」

愛「たぶん……集束点の完全予測は不可能っぽいね〜……」

璃奈「ただ、範囲だけでも絞り込めれば、十分現実的な試行回数まで持ってけると思う」

愛「だねー……。……まあ、それでも根本的にエネルギーが足りてないんだけど……」

璃奈「ポケモンももう50種以上試したけど……」

愛「……アプローチを変えてみた方がいいんかねー……」

璃奈「例えば?」

愛「集束点がランダムに変化するなら……エネルギー同士をぶつけることも出来るかなって」

璃奈「……確かに。……というか、本来は技をぶつけてたんだから、もっと早く思いつくべきだった」

愛「ま、やっと発生するエネルギーの形がわかってきたところだからねー」

璃奈「……そうだね。……じゃあ、早速試してみよう」


──ぐー……。


璃奈「……」

愛「……っと、もう夕方じゃん……。お昼食べてなかったね」

璃奈「ご飯食べてからにする……」

愛「ん、そうしよっか」


──二人で実験室から出ると、


 「ベベノーーー!!!」「ベベノーーー!!!」

璃奈「ベベノムたちがお怒り」

愛「あー、わかったわかった!! ご飯遅くなって悪かったって!」

 「ベベノーー!!!」「ベノーー!!!」


ベベノムたちが飛びまわる中、簡単な食事の準備を始める。
685 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:49:13.57 ID:5MWtUFJH0

 「ウニャァ〜」

璃奈「ニャスパー……今、愛さんがご飯作ってくれるからもうちょっと待っててね」
 「ニャァ〜」

璃奈「……そういえば、愛さん」

愛「ん、なに?」
 「リシャン」「ルリ」

璃奈「私たち、ニャスパーの数値って測ったっけ?」

愛「え? ……そういえば、そもそもりなりーのニャスパーってボールに入れたことなかったよね……」

璃奈「……初歩的な見落とし……」

愛「……もとから一緒に家族として暮らしてるポケモンだと、ボールに入れる必要が全くなかったからね……。うっかりしてた……」

璃奈「……それで言うと、ベベノムも」


そういうつもりで捕まえたわけじゃなかったというか……。もともとは怪我が治ったら野生に返してあげようとしていたから、ボールに入れるというのが頭から抜け落ちていた。

私も愛さんも最初は、方法を考えることで頭がいっぱいだったから、本当にうっかりしていた。


愛「ご飯食べたら、計測してみようか」

璃奈「うん」


ちっちゃくて愛らしいポケモンだから……そこまで期待はしていなかったけど──これが本当に私たちの運命を変える結果を叩きだすことになる。





    📶    📶    📶





愛「…………」

璃奈「…………」

愛「…………これ、マジ……?」

璃奈「…………計器が故障してる可能性があるかも」


昼食後、真っ先に測ってみた白光のベベノムの数値は──今まで見たことのないような飛びぬけたエネルギー数値を見せていた。

さすがに何かの間違いだと思ったけど……何度調べても数値は異常に高い結果が出る。


愛「ち、ちょっと、通常のベベノムも測ってみよう……!」
 「ベベノ…?」

璃奈「う、うん」


結果は──
686 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:49:46.85 ID:5MWtUFJH0

愛「…………」

璃奈「…………まだ、計器の故障の可能性がある」

愛「そ、そうだね……。……2台同時に故障するのかはわかんないけど……」

璃奈「ニャスパー、おいで」
 「ウニャ?」

璃奈「ちょっと、このボールに入るけど、我慢してね」
 「ウニャ」

璃奈「愛さん」

愛「ん、もう計測準備出来てるよ」

璃奈「それじゃ、ボールを固定して……ニャスパー、ボールに入れるよー」
 「ウニャ…?」


ニャスパーをボールに押し当てると──パシュンという音と共にボールに吸い込まれた。


璃奈「愛さん、数値は?」

愛「……他のポケモンとほぼ変わらない」

璃奈「…………」


そんなことを言っている間にも、


 「──ウニャァ〜」


慣れないボールが窮屈だったのか、ニャスパーが勝手にボールから飛び出してくる。


愛「計器の故障じゃない……」

璃奈「……見つけた……」
 「ウニャァ?」


私たちが探していたポケモンは──どうやら、ベベノムだったらしい。



687 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:50:28.63 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





──日を改めて……。


愛「りなりー、資料全部別の部屋に移動した?」

璃奈「大丈夫」

愛「あんがと。計器こっちでいい?」

璃奈「うん。そこで固定して」

愛「了解」

璃奈「ボール固定、金属パーツアタッチメント装着……完了」

愛「計器固定完了したよ」

璃奈「ありがとう。さっき、愛さんの端末に録画機器の設置位置送っておいたから、それどおりに移動しておいて」

愛「任せろ〜!」

璃奈「あとは……」

愛「あ、録画機材のデータ、端末に自動送信になってる〜?」

璃奈「確認する」


私たちはバタバタと準備を進めていた。

昨日取ったベベノムのデータは……数値の上では、十分にホールを開きうるものになっていた。

つまり、これから行うのは──本番だ。


愛「……2つのボールのシステムリンクさせたよ。こっちの端末で操作できる」

璃奈「ベベノムに金属ベルト装着完了……ちょっと重いけど我慢してね」
 「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」

璃奈「うん。いいこいいこ」

愛「電磁石の方も準備出来たよ。端末操作ワンタッチで起動しちゃうから注意してね」

璃奈「うん、わかった」


いざというときにベベノムたちを助けるための準備も出来た。


璃奈「あとは、私たち」

愛「うん。じゃあ、背中向けて。ハーネス着けちゃうから」

璃奈「お願い」


私たちも緊急時に自分たちを固定するための器具を取りつけていく。


璃奈「愛さんにも着けるから背中向けて」

愛「うん、お願いね、りなりー」


愛さんにも私と同じようなハーネスを取りつける。

──これで準備は出来た。


璃奈「愛さん、始めよう」

愛「うん」
688 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:51:30.47 ID:5MWtUFJH0

私たちは、実験を──開始した。





    📶    📶    📶





愛「ベベノムたち、ボールに戻すよ」

璃奈「うん」


愛さんが端末を弄ると──


 「ベベノ──」「ベノー──」


ベベノムたちがボールに収まる。

二つの機器でエネルギーの集束位置を確認。


璃奈「誤差10」

愛「OK. 繰り返すよ」


ボタンを押してベベノムをボールから出す。


愛「ベベノムたち、辛かったら言うんだよ!」

 「ベベノ〜」「ベノ〜」

愛「続けるよ」

璃奈「うん」


──2回目、3回目、4回目と試行を続けていく。


璃奈「誤差2。……ベベノムたちのバイタルは?」

愛「問題ないよ」

璃奈「わかった。続ける」


一定以上、ボールに入る時に発生するエネルギーの発生位置が被れば、エネルギー同士が衝突して、ホールが発生するはず……。

こればかりは試行回数が必要だから、ベベノムたちの調子が悪くなる前に、ホール発生を確認したい。

──試行が20を超えた……そのときだった。


愛「ボール、入れるよ」

 「ベベノ──」「ベノノ──」


ベベノムがボールに入った瞬間──空間に歪みが発生した。


璃奈「……! 来た!!」


それと共に、周囲の空気を吸い込み始める。


璃奈「ボールは……!?」

愛「無事!! ちゃんと固定されてる!!」
689 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:52:05.15 ID:5MWtUFJH0

ベベノムたちも無事。

そして、ガラスを挟んだ向こうに──幼い日に見た、両親を吸い込んだ穴が……そこには確かにあった。


璃奈「……実験、成功した……」

愛「やったね、りなりー……!」

璃奈「うん……!」


次第にホールの吸引力は弱まっていき──エネルギーが尽きてゲートが閉まるのかと思った……そのときだった。

ゲートの中から──何かの影が現れた。


 「──シブーーン…」

璃奈「……!?」

愛「な……!?」


──異様な姿をした生き物だった。

虫のような頭に、筋骨隆々とした肉体、そして四足の下半身。

異様と言う以外、他に形容する言葉が見当たらなかった。

そいつは、


 「マッシブ!!」


ガラスの向こうで、何故かポージングをし始めた。

それと同時に、背後のゲートはエネルギーを失って維持できなくなったのか、閉じていく。


璃奈「な、なに……? ポケモン……?」

愛「わ、わかんない……。……でも、絶対に外に逃がしちゃダメだよね……! リーシャン!! ルリリ!!」
 「──リシャンッ」「──ルリッ」


愛さんがボールからリーシャンとルリリを繰り出す。

だけど、相変わらず謎の生物は、


 「マッシブ…!!!」


ポーズを決めている。


璃奈「て、敵意は……ないのかな……?」


しばらくすると、そいつは──


 「シブ…」


見せつける相手がいないことに気付いたのか、軽く項垂れたあと……その謎の生物の目の前に──先ほど消えたはずのホールが再出現した。


璃奈「……!?」

愛「ホールが……!?」


そして、謎の生物は──


 「シブーン──」


ホールの中へと消えていき──いなくなるのと同時に、ホールも消滅してなくなったのだった。
690 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:52:42.60 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……消えた……」

愛「……とりあえず、ベベノムたちのボール、回収してくる」

璃奈「う、うん。気を付けてね……」


私たちは目的のホールを発生させることが出来たが──想定外の謎の生物に遭遇し、困惑を隠せなかった。





    📶    📶    📶





璃奈「……愛さん、これ」

愛「ん」


愛さんに開いた本のページを見せる。

今、私たちがいるのは──プリズムステイツにある国の図書館だ。

その伝説やUMA──所謂、未確認生物の本が集まっている場所に来ている。

そして、私が開いたページには──


愛「……虫の頭と翅、筋肉質な上半身、四本の足を持った異形……。……間違いない、こいつだ」

璃奈「……うん」


例の謎の生物と特徴の一致する記載があった。


愛「……名前は……マッシブーンと、名付けた……場所は……。……もう海に沈んじゃった島だね……」

璃奈「この発見例……500年以上前だからね……」


今はもう残っていない土地で……遥か昔に、発見例があった。


璃奈「この謎の生物は……ひとしきり、筋肉を見せつけたあと……空間に穴を開け、消えていったと言われている……」

愛「…………」


普段だったら、オカルトや伝説で片付けてしまうことだけど……。


愛「りなりー、同じような目撃例、集めてみよう」

璃奈「うん。書籍内の情報を自動で抽出するプログラム、作ってみる」


私たちは普段見ることのないような本の情報を片っ端から洗い始めた。





    📶    📶    📶





──それによって、わかったことは……。
691 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:53:29.25 ID:5MWtUFJH0

璃奈「ウルトラ……ビースト……」

愛「ここではない……ウルトラスペースからやってくると考えられている……異形の生き物のこと……」

璃奈「人智を超えたパワーを持っていて……空間の穴を通って、こちらの世界に現れることがある……」

愛「普段だったら、絶対……胡散臭いって思うのに……」

璃奈「たぶん……これは、事実……」


数百年に1度あるかないかの頻度で……この異形が現れているという記録……というか、伝説や伝承が見つかった。

種類は様々で……瞬足を持つ美しき純白の異形、巨大な竹のような腕を持った飛翔体、爆発する頭を持った霊魂など……一見、共通点が見当たらないように見えるけど……。

それらには、共通して……空間に開いた穴に消えていったという情報が見受けられた。

そして、その情報の中に──異世界からやってくる異形のことを……ウルトラビーストと名付けている記述があった。


愛「……これって、つまり……」

璃奈「恐らくだけど……私たちが探していた高次元空間に生息してる生物……ってことだと思う……。……帰っていったって記述を見る限り……あのポケモンたちは、異次元へのホールを自分たちで開けられるのかも……」

愛「……じゃあ、アタシたちの前に現れたのは……」

璃奈「……恐らく、こちらから穴が開けられたせいで……ウルトラスペースから、こっちに迷い込んできた……」

愛「……ってことだよね……」


そして、もう一つ……気になることがあった。

その、ウルトラビースト……という生き物に該当する存在に、


璃奈「……紫色の毒針を持つ、毒竜……。……これ……」

愛「ベベノムの進化系のアーゴヨン……だよね……」

璃奈「……うん」


この世界には、アーゴヨンというポケモンが居る。

ベベノムの群れには、ベベノムたちを甲斐甲斐しく面倒を見て育てる、進化系のポケモンがいる。それがアーゴヨンだ。私たちの世界でも稀に見ることが出来るポケモン。

つまり……実はベベノムはウルトラビーストの子供かもしれないということだ。……一見突飛な話にも聞こえるけど──


愛「……仮にベベノムがそういう存在なんだとしたら……異様に大きなエネルギーを持ってたこと……ホールを開けることが出来た理由を説明出来る……」

璃奈「……ベベノムはウルトラビースト……」

愛「でも、それだと逆にベベノムはなんでウルトラスペースに帰らないんだろう……?」

璃奈「……これは、私が考えた仮説だけど……。……逆なんじゃないかな」

愛「逆……?」

璃奈「アーゴヨンはもともとウルトラスペースに住んでいたけど……子育てをするために、安全な世界を見つけて……それが居ついて……」

愛「何百年、何千年って時間を掛けて……繁殖した個体がいたってこと……?」

璃奈「うん……。……もちろん、仮説の域を出ないけど……」


ただ、重要なのはそこではない。


璃奈「じゃあ、アーゴヨンにホールを開ける能力があるのか……だけど……」

愛「……たぶん、この世界で繁殖を続ける中で、失われたって考える方が妥当だよね……。……能力が残ってるなら、すでにホールの存在を誰かしらが気付いてる気がするし……」

璃奈「失われたというか……戻る必要がなかったから、今この世界にいる個体はウルトラスペースに行けることを知らないってだけかもしれないけどね……。それだけのエネルギーはベベノムたちでも持ってるわけだし」

愛「……なるほど」


さて、ウルトラビーストとウルトラスペースという伝説の産物が、恐らく事実であることを突き止めた私たちは……次に何をするべきだろうか。

──世界を救うために、私たちが次にするべき行動は。研究は。
692 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:54:06.70 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……愛さん」

愛「ん?」

璃奈「……私は、ウルトラスペースについて、研究をするべきだと思う。お父さんやお母さんの言うとおり、世界のエネルギーが高次元空間に漏れているって言うなら……それはウルトラスペースのことだと思うし……それが漏れ続ける原因を知ることが、私たちの研究の目指すべき場所」

愛「……だね」

璃奈「私たちは、自分たちでホールを作り出す方法も見つけてる……なら、今後も同じようにホールを発生させて、ウルトラスペースを調査する必要があると思う」

愛「……ただ、そのためには必要なものがあるかな」

璃奈「必要なもの……?」

愛「戦う力だよ」

璃奈「どういうこと……?」


私は愛さんの言葉に首を傾げてしまう。


愛「これ、記述の中にさ……現れたウルトラビーストによって、大きな被害を受けた国とか島がいくつもあったでしょ」

璃奈「う、うん……」


確かに愛さんの言うとおり、現れたウルトラビーストによって、人口の大半を失った国や沈んでしまった島もあった。


愛「私たちは確かにウルトラスペースに繋がるホールを自分たちで開ける術を見つけたけど……逆を言うなら、またウルトラビーストを呼び寄せる可能性もある。今回現れたマッシブーンがたまたま無害だったからよかったけど……もし、狂暴なウルトラビーストが現れてたら……プリズムステイツがなくなってたかもしれない」

璃奈「……確かに」


知らなかったとは言え、私たちは随分と危ない橋を渡っていたのかもしれない。


愛「となると……ウルトラビーストが現れても対抗出来るだけの戦力が必要になる」

璃奈「で、でも……私……戦闘は……」

愛「わかってる。だから、強い人たちに協力を仰ごう」

璃奈「協力……? どうやるの……?」

愛「それは、簡単だよ。アタシたちは──研究者なんだからさ」





    📶    📶    📶





──愛さんが取った方法は、確かに簡単なことだった。

ウルトラスペースに繋がるホール──即ちウルトラホールの存在を学会に発表することだった。

最初は懐疑的に捉えている人も多かったけど……開いた瞬間の映像と、大量の統計データ、さらに伝承の資料などを提示されたら、さすがに学会も信じざるを得なかった。

それと同時に……私はお父さんとお母さんが唱えていた、世界からエネルギーが失われている説の発表をした。

そして──これ以上、世界からエネルギーが流出することを防ぐための研究をしているということも……。

この話は瞬く間に学会中に知れ渡り……なんと……。


璃奈「──プリズムステイツ政府から、政府研究機関に指定……」

愛「発表内容が内容だけに、政府が動いたね」

璃奈「予算も政府からたくさん下りた……なんだか大事になってきた」

愛「それだけ期待されてるってことだね。……なんせ、世界を救うことに直結する問題だからね。でも、研究所側も調子いいよね……実際、りなりーに所内の管理権限ほとんど与えてなかったのに、調子よくテンノウジ所長なんて発表しちゃって……」

璃奈「まあ、それはいいかな……。……実際、任されても管理は出来ないし……。……でも、これで前より自由に研究出来るようになった」

愛「それにアタシたちが狙ってた目的も達成されたしね」
693 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:55:08.47 ID:5MWtUFJH0

──狙っていた目的……それは即ち、ウルトラビーストに対抗する戦力のこと。


愛「来週には、プリズムステイツの警備隊が、この研究機関に統合される……。……特にアタシたちの護衛には、その警備隊のトップ2の人たちが付いてくれるらしいし、これで戦力面はちょっと安心かな……」

璃奈「うん。……でも、どんな人なんだろう……。……怖い人じゃないといいけど……」

愛「どうだろね……。……話に聞いた感じだと、向こうは16歳の女の子らしいけど」

璃奈「歳は私たちとほとんど変わらない……でも、若くて強い人たち……すごく厳しかったりするのかな……」

愛「なくはないけど……こればっかりは会ってみてからだね。大丈夫! もし怖い人だったとしても、りなりーのことは愛さんが守るからさ♪」

璃奈「愛さん……。……わ、私も、愛さんに頼ってばっかりじゃなくって、仲良く出来るように頑張るね! これから一緒に頑張ってく仲間なんだから……」

愛「お、いいね! その意気だよ、りなりー♪」

璃奈「うん……!」





    📶    📶    📶





愛「りなりー、準備いい?」

璃奈「うん」
 「ニャァ〜」

愛「ニャスパーも準備万全だね〜♪」

 「ニャ〜」


あっという間に、警備隊から来る二人との顔合わせの日が訪れた。


璃奈「璃奈ちゃんボードも持ってきてる……出来る限り使わないように頑張るけど……」


二人はこれから一緒にやっていく仲間になる人だから……出来るなら、素顔のまま話せた方がいい。……出来ればだけど……。


愛「まあまあ、気楽に行こう。今日は挨拶するだけだからさ♪」

璃奈「うん……」
 「ニャ〜」


二人で応接室に、待ち合わせ時間ピッタリに到着する。

愛さんが扉を押し開けると──中にはすでに、警備隊から来た二人らしき人たちが待っていた。


愛「お、もう着いてたんだね。待たせちゃったみたいで、ごめんね!」

璃奈「は、初めまして……」


ペコリと頭を下げて挨拶をし、それを見て二人が立ち上がる。


果林「──この度、プリズムステイツ警備隊から統合される形で配属されました、アサカ・果林です」

彼方「同じく、コノエ・彼方です〜」


果林さん、彼方さんと名乗る二人。

果林さんは整った顔立ちに、長身ですらっとしている。全体的にクールな印象を受ける人だった。

彼方さんはゆるふわなロングヘアーに、優しそうな垂れた目……果林さんとは対照的で、喋り方も相まって、すごくゆったりした人に見える。

二人の形式ばった挨拶に対して、


愛「あ、いいっていいって、これから一緒にやってく仲間なんだし、そういうの堅苦しいのは無しで! 歳も近いらしいしさ! もっとフランクな感じでいーよ!」
694 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:57:35.67 ID:5MWtUFJH0

愛さんはお得意の一気に距離感を詰める切り出し方をする。


果林「は、はぁ……」

愛「あっと……名乗ってなかったね。アタシはミヤシタ・愛! んで、この子はりなりー!」

璃奈「えっと……て、テンノウジ・璃奈です……」
 「ニャァ〜」

璃奈「この子は……お友達のニャスパー……です……」


また、ペコっと頭を下げながら、自己紹介をする。


果林「……えっと……それじゃ、ミヤシタさんとテンノウジさん……」

愛「愛でいーよ! りなりーもファーストネームでいいよね?」

璃奈「うん。ファミリーネームは長いし……ややこしいから、璃奈でいい」


テンノウジはお父さんとお母さんの名前でもあるから……何かと公式な場で使うとややこしくなりかねないし……何よりファーストネームの方が呼ばれ慣れている。


果林「……わかったわ。愛と……璃奈ちゃん」


果林さんは頷いて私たちの名前を呼んだあと、


 「ニャー」

果林「それと……ニャスパーね」


軽く膝を折って、私に抱っこされているニャスパーに目線を合わせながら挨拶してくれる。

それだけで……少なくともポケモンには優しい人だというのは十分わかった。


果林「それなら、私たちのことも下の名前で呼んで頂戴。良いわよね、彼方」

彼方「うん〜、もちろん〜。よろしくね〜、愛ちゃん〜、璃奈ちゃん〜」


彼方さんは間延びするような口調で喋りながら、


彼方「あ〜あと、この子は彼方ちゃんの親友のウールーだよ〜」
 「メェ〜〜」


足元に居たウールーを抱き上げながら、紹介してくれる。


愛「うん、よろー! カリン! カナちゃん! ウールーも!」

璃奈「よろしく、お願いします……果林さん……彼方さん……ウールー……」


顔を上げて、二人の顔を見ようとしたとき──果林さんと視線がぶつかる。

態度には出さないようにしているけど……果林さんはさっきから、私たちを見定めようとしているのがなんとなくわかった。これから、一緒にやっていくのに相応しい人間なのか……観察しているんだと思う。

私は彼女のその眼力に負けて、思わず愛さんの後ろに隠れてしまう。

隠れてしまってから──失礼なことをしたかも……と思った瞬間、


彼方「果林ちゃん、璃奈ちゃんが怖がっちゃってるかも……」
 「メェ〜〜」


彼方さんが果林さんに向かってそう言う。


果林「……彼方、それはどういう意味か説明してくれる?」

彼方「冗談だってば〜。璃奈ちゃん、もしかして緊張してるのかな〜?」
695 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:59:29.53 ID:5MWtUFJH0

彼方さんはそう言いながら、私に優しく微笑みかけてくれる。

……もしかして……フォローしてくれたのかな……。


愛「あはは……りなりー緊張しいなんだよね。やっぱり、ボードあった方がいいんじゃない?」

璃奈「……初対面だから……素顔の方がいいと思ったけど……。……そうする」


やっぱり、私はまだ素顔のコミュケーションは苦手かもしれない……。だけど、誤解はされたくない。仲良くしたいから……。


璃奈「あ、あのね……私……人の顔を見て喋るの……緊張しちゃって苦手で……だけど、怒ってないし、怖がってないよ……」 || ╹ ◡ ╹ ||


璃奈ちゃんボードで、怖がってないことを伝える。


彼方「あはは〜よかったね果林ちゃん、怖がられてないって〜」

果林「彼方……」

彼方「だから、冗談だって〜」

果林「はぁ……全く……。……これから一緒に頑張りましょう。私たちも早く貴方たちを理解できるように努力するわ」

璃奈「果林さんも彼方さんも優しそうな人でよかった。私もこれから一緒に頑張りたい。璃奈ちゃんボード「やったるでー!」」 || > ◡ < ||
 「ニャー」

愛「じゃ、これから、今後の活躍を祈って、もんじゃパーティーでもしますか〜!」

彼方「え、もんじゃってあのもんじゃ〜!? 今どき作れる人がいるなんて珍しい〜! 彼方ちゃんにも作り方教えて教えて〜」

愛「あははっ♪ 愛さん、もんじゃを作る腕には自信あるからね! 何を聞かれても、もんじゃいない! なんつって!」

璃奈「愛さん、今日もキレキレ!」 ||,,> ◡ <,,||

愛「どんなもんじゃいっ! あははは〜!! そんじゃ、アタシたちの部屋へレッツゴ〜!」

彼方「お〜♪」
 「メェ〜」


楽しそうに笑う愛さんは彼方さんを引き連れて、私たちの部屋へ向かって歩き出す。

果林さんは、その様子を眺めながら、


果林「なんだか、賑やかになりそうね」


やれやれと言いたげに、肩を竦めたのだった。


璃奈「果林さんも……行こ?」 ||,,╹ᨓ╹,,||

果林「ええ」


こうして、私たち4人のチームが始まったのだった。





    📶    📶    📶





璃奈「空間歪曲率上昇。ウルトラホール、展開」


あれから、幾度と実験を重ね……ウルトラホールを開くのもだんだん成功率が上がり、今ではホールを開くだけなら、かなりの精度になっていた。

ボールもホール開閉のための特別なものを作り、放出されるエネルギーをある程度制御出来るものを開発した。


愛「おっけー、ホール安定。このまま維持するよ。ベベノム、苦しくない?」

 『ベベノ〜』『ベベノ〜』
696 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:00:18.95 ID:5MWtUFJH0

愛さんがボール内と話すために作った端末でベベノムのバイタルを確認する。こちらも異常無し。


果林「それにしても……ベベノムがウルトラビースト……ねぇ……」

彼方「ベベノムって、街外れの丘にたくさんいるからね〜……。“虹の家”の外でもたまに見かけてたよね」


やっぱり果林さんたちも、ベベノムがウルトラビーストというのは未だに信じられない様子だった。

確かに、すごくポピュラーなポケモンだから、あの子たちが特別な存在だったと言われても、ピンと来ないのは仕方がない。

私たちも、最初はまさかベベノムがそんな特異なポケモンだなんて、考えてもいなかったわけだし……。


彼方「……すやぁ……」

果林「彼方、寝ないの」

彼方「えぇ〜……だってぇ〜……毎回、こうやってホールを見てるだけなんだもん〜……」

果林「私たちは万が一に備えてここに居るのよ」

彼方「わかってるけど〜……」


果林さんたちの目的は私たちの安全確保。

そのため、実験をするときは絶対に同席してもらうんだけど……ウルトラビーストが現れたのは、私たちが最初の実験でホールを開いたときの1回だけ。

だから、二人は実験中ただ座って、じっと実験の光景を眺めるだけの毎日が続いていた。

今日も同じように、ホールのデータだけ取って終わりかな……。……そう思った、まさにそのときだった。


璃奈「……! ホールにエネルギー反応!」


ホールのエネルギーの数値が急に跳ね上がった。

私は端末を操作して、エネルギーの出力を絞るけど──ホールは閉じようとしない。


愛「この数値……!? ヤバイ!! りなりー、ホール閉じて!!」

璃奈「もう、やってる……! けど……ホールが外側からこじ開けられてる……!」


焦る私たちの様子を見て、


果林「な、なに……!?」


果林さんも立ち上がる。

直後──研究室内のホールがカッと光り、


 「──フェロ…」


気付けば実験室内に──真っ白な上半身と、黒い下半身をした、細身のポケモンが立っていた。

それを見て、果林さんが「綺麗……」と呟くのが聞こえた。

あのポケモンは──


璃奈「ウルトラビースト……フェローチェ……!」


自身の美しさで人やポケモンを魅了する力と、瞬足の攻撃で都市一つを壊滅させた……そんな伝承が残っている、ウルトラビースト・フェローチェとよく似た特徴を持っているポケモンだった。


愛「カリン!! 直視しちゃダメ!! ウルトラビーストには人を操る力を持った奴がいるから!!」

果林「え……?」


愛さんが果林さんにそう注意を促すのと同時に、
697 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:01:27.65 ID:5MWtUFJH0

 「フェロッ!!!」


──ガシャァンッ!! と音を立てながら、フェローチェが実験室のガラスを突き破って、果林さんに飛び掛かる。

そこに割って入るように、


彼方「ネッコアラっ!! “ウッドハンマー”!!」
 「コァッ!!!」

 「フェロッ…!!」


彼方さんのネッコアラが丸太を使って、フェローチェを弾き返した。


彼方「果林ちゃん、平気!?」

果林「あ、ありがとう、彼方……!」


彼方さんに声を掛けられて、果林さんが頭を振る。


愛「私も戦う……! りなりー! 下がってて!」

璃奈「う、うん……ニャスパー、隠れるよ」
 「ニャァ」


戦えない私は、机の影に隠れ、愛さん、果林さん、彼方さんがフェローチェと相対する。


 「…フェロッ」

果林「いいわ、暴れるって言うなら……貴方が私を魅了するよりも早く……倒してあげるから……!」

愛「カリン、カナちゃん! 気を付けてね!!」

彼方「防御は任せて〜!」

 「フェロッ」


実験室内にて、ウルトラビーストとの戦いの火蓋が切って落とされたのだった──





    📶    📶    📶





──カツーンッ!

ビーストボールが床に落ちて、特有の音を響かせた。


果林「……はぁっ…………はぁっ…………」

愛「し……死ぬかと思ったぁ……」

彼方「……かなたちゃん……もう……うごけないぃ…………」

果林「……どうりで……戦力を欲しがるわけね……」


先ほどまでずっと響いていた大きな戦闘音が落ち着いたところで、身を隠していた私が顔を出すと──実験室内はボロボロになっていた。

実験室のガラス張りが吹き飛んでいるのは当たり前として、ひしゃげた壁、破壊された機材、天井の照明も一部が破壊され配線が剥き出しになり、スパークしている。

よくこの実験室内で戦闘を収束させられたと思ってしまうくらいには破壊されていた。

そんな中で愛さんたちは、息を切らせながらへたり込んでいる状態だった。


璃奈「みんな……大丈夫……!?」
 「ウニャァ〜」
698 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:02:04.73 ID:5MWtUFJH0

その惨状を見て、私は物陰から飛び出し、みんなのもとへと駆け寄る。


彼方「ど、どうにか〜……」

愛「平気だよ……カリンとカナちゃんがいなかったら、さすがにやばかったけどね……」


そうは言うけど……3人とも、大怪我こそしていないものの、ところどころ切り傷や擦り傷、それに服に血も滲んでいるところもあって、とにかくボロボロな状態だった。


璃奈「今、医療班を呼んでくるから……!」


急いで医療班を呼びに行こうとしたとき──ふと、


璃奈「あれ……?」


視界の端──実験室の中に、何かの影が見切れた。


愛「りなりー?」

璃奈「……ウルトラホールがあった場所に……まだ、何か……いる……?」

果林「……!?」


果林さんが私の言葉を聞いて、身構えたけど──


 「ピュィ…」


そこにいたのは……小さな小さな、紫色の雲のようなポケモンだった。





    📶    📶    📶





愛「……なんだこれ……」

璃奈「……」

 「ピュィ…」


私と愛さんは、小さな雲のようなポケモンの持っているエネルギー量を調べてみて絶句した。


愛「……持ってるエネルギー量が……フェローチェやベベノムの比になってない……」

璃奈「……」

愛「りなりーどう思う……?」

璃奈「仮説だけど……。……ウルトラスペース内に溢れるエネルギーを吸収してるんだと思う……さすがに一個体のポケモンが作り出せるエネルギーとは思えないというか……」

愛「もうちょっと、詳しく調べてみる必要があるね……」


愛さんがそう言って、触ろうとすると──


 「ピュィ──」


そのポケモンが急に……消えた。
699 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:02:56.50 ID:5MWtUFJH0

愛「……え!?」

璃奈「……!?」

愛「え、う、嘘……!? 今、ここいたよね……!?」

璃奈「に、逃げた……!?」


二人で焦る中、


 「──ひゃぁぁ!? え、なになに!? 君、いつのまに彼方ちゃんのお洋服の中に……!?」


研究室の外から、彼方さんの悲鳴が聞こえてきた。


璃奈「……“テレポート”……」

愛「……こりゃー、一筋縄じゃいかなさそうだね……」


どうやら、あの雲のようなポケモン……ワープする能力があるらしい。


果林「ちょっと、愛ー!? あのポケモン、彼方の服の中にいるんだけどー!?」


果林さんが、彼方さんの手を引きながら、研究室に入ってくる。


彼方「もしかして、この子……男の子なのかな?」
 「ピュィ…」


そう言いながら、彼方さんが襟元辺りを引っ張りながら、自分の服の中を覗き込むようにしていた。恐らくそこに、あのポケモンが潜り込んでるんだろうけど……彼方さんの着こなしは、もともとちょっとルーズだから……なんというか、すごく際どい感じになっていた。


果林「やめなさい……男の人が通ったらどうするのよ……」

愛「カナちゃんって、ちょっと警戒心薄いよね……」

果林「ホントに……心配になるわ……」

彼方「えぇー? そうかなぁー?」


肩を竦める愛さんと果林さんの反応を見て、彼方さんは少し不服そう。


璃奈「……極端に憶病なポケモンなんだと思う……。彼方さんが一番守ってくれそうだから……彼方さんのところに逃げたんだと思う。……たぶん」

彼方「おぉー、この子、人を見る目があるよ〜♪」
 「ピュィ…」

愛「ポケモンからの好かれやすさってあるもんねー。確かにカナちゃんって、ポケモンに好かれる方だよね。……逆にカリンは……」

果林「……何が言いたいのよ」

愛「おっと……何でもない何でもない」

璃奈「とりあえず、何か情報がわかるまで、呼び名があった方がいいかも。いつまでも“あのポケモン”とか“この子”とかって呼ぶのもわかりづらい」

愛「カナちゃんが付けてあげたら?」

彼方「んー……それじゃ、雲みたいだから“もふもふちゃん”で〜」
 「…ピュイ」


めでたく、このポケモンの名前が“もふもふちゃん”に決定した。


果林「……それより、頼まれてたもの、持ってきたわよ」
 「バンギ」

彼方「あ、そうだったそうだった〜。カビゴン、ここに置いて〜」
 「カビ」

愛「あっと……本来の頼み事を忘れるところだった」


果林さんのバンギラスと、彼方さんのカビゴンが、抱えていたコンテナを室内に下ろす。
700 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:03:57.88 ID:5MWtUFJH0

愛「サンキュー二人とも!」

璃奈「すごく助かる」


愛さんと二人でコンテナを開けると──中には大量の本が詰まっていた。

そう、二人に持ってきたもらったものは……本だ。国の図書館から借りてきたもの。


果林「それにしても……すごい量の本ね……」

彼方「これ、全部読むのー?」

愛「ウルトラビーストについては、なんだかんだで記述を見つけられたからね……。改めて検索してみたら、そのポケモンの情報もあるかもしれないって思って」

彼方「おぉ〜なるほど〜」
 「ピュィ…」

愛「もしかしたら、見落としがあった可能性もあるし」

璃奈「さすがに図書館の中で検索するには時間の限界もあったから……こうして、国から借りられたなら、もっと精密に情報の検索が出来る」


前回と違って、政府公認の研究機関になったため、今回はなんと国の図書館から資料を大量に借り出すことが出来た。

私はさっき突貫で組み立てた装置の中に本を数冊置いてみる。


璃奈「スキャン開始」


──ムォォォンと音を立てながら、装置が本をスキャンし始める。


果林「あれ……何してるの……?」

愛「りなりーが開発した、本の情報を抽出検索する装置。なんかインクの反応を調べて、そこから文字情報を抽出するんだってさ」

果林「随分、前衛的な読書ね……」

彼方「璃奈ちゃんの周りだけ科学技術が数十年進んでる気がするね〜」

璃奈「でも、読めるのは一度に3冊まで。スキャンが終わるまではひたすら、出して入れてを繰り返すことになる」

果林「……そこはローテクなのね」

璃奈「自動で出し入れする機構も考えたけど……問題が発生して本を破損するとまずいから……こういうのは手作業でやるしかない」

愛「機械はどうしてもエラー起こすときは起こすからねー……よいしょっと……」


そう言いながら、愛さんが本を装置の傍に運び始める。
701 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:04:32.25 ID:5MWtUFJH0

果林「わかった……。手伝うわ」

彼方「それじゃ、彼方ちゃんはお昼寝してるから頑張ってね〜」

果林「貴方も手伝いなさい」

彼方「や、やだよ〜」

璃奈「とりあえず、出来るだけ早く終わらせちゃおう……」
 「ウニャァ〜」「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」

璃奈「ありがとう。みんなも手伝ってくれるんだね」

果林「ポケモンですら、率先して手伝ってくれるのに……こんな情けない姉の今を知ったら、遥ちゃんもガッカリでしょうね……」

彼方「……!?」

果林「……あ、もしもし、遥ちゃん?」

彼方「果林ちゃんやめてっ!? 遥ちゃんにだけは言わないでっ!?」

果林「じゃあ、今すぐ運ぶのを手伝いなさい」

彼方「り、了解であります! 軍曹!」

果林「誰が軍曹よ……」

愛「二人とも、コントやってないで手伝ってよ〜!」





    📶    📶    📶





さて、検索結果が出るまで、実に数週間の時間を要した。

その結果……。


璃奈「……あった。この伝承に出てくる絵。このポケモンにそっくり」

愛「どれどれ……“星の子”……か……」

璃奈「浴びた光を際限なく吸収して、そのエネルギーで成長する……。名前は……コスモッグって呼ばれてたみたい」

彼方「君、コスモッグって言うんだ〜」
 「ピュイ…」

果林「一気にエネルギーを放出すると、空間に穴があいた……? これって……」

璃奈「たぶん、大昔の人が見たウルトラホールのことだと思う……」

果林「じゃあ、貴方……ウルトラホールをあけられるのね」


果林さんが話しかけると──


 「ピュ」


コスモッグはそっぽを向く。


果林「……相変わらず“なまいき”な子ね……」

 「ピ、ピュィィ…」
彼方「あーほら〜、果林ちゃんが怖い顔するから、もふもふちゃんがびっくりしちゃったよ〜?」

果林「すぐ彼方に隠れるんだから……」


もふもふちゃん──もといコスモッグは随分人に慣れたものの……果林さんには一向に懐かず、“なまいき”な態度を取っていた。
702 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:05:03.66 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……大量のエネルギーを溜め込み成長するが……取り込んだエネルギーを全て放出しきると、休眠状態になってしまう……」

彼方「無理させると、すやぴしちゃうんだ〜?」

愛「まあ、そういうことだね」

璃奈「……このポケモンはエネルギーを溜め込む性質がある……」

愛「? りなりー?」


私はふと、あることが気になった。


璃奈「愛さん、ウルトラホールからのエネルギー放射データってすぐ出せる?」

愛「出せるけど……どしたん?」


愛さんが出したデータに目を通す。


璃奈「……もし、コスモッグにエネルギーを溜め込んだり、放出したりする能力があるとしたら……。……私たちの研究は異次元に進む可能性がある」

彼方「異次元……?」
 「ピュイ?」


私たちの研究は──コスモッグの存在によって、次なるステージに進もうとしていた。





    📶    📶    📶





璃奈「…………」


私は無心で紙に計算を書き連ねていた。


果林「ねぇ、愛……璃奈ちゃん、もう3日くらいあの調子よ? 大丈夫なの?」

愛「休むようには言ってるんだけどね……スイッチ入っちゃうと、アタシでも止められないんだよね……」

彼方「研究が異次元に進むって言ってたよね……どういうことだろう?」


璃奈「……やっぱりだ……」


彼方「あ、ペンが止まった」

愛「りなりー? 何かわかったの?」

璃奈「愛さんっ!!」

愛「わっ!? な、なに?」

璃奈「今から設計図作る……!! 手伝って!!」

愛「せ、設計図……? なんの……?」

璃奈「ウルトラスペースを渡る船──ウルトラスペースシップの設計図……!!」

愛「へ……?」


愛さんはポッポが豆鉄砲を食らったような顔になる。
703 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:06:11.75 ID:5MWtUFJH0

果林「ウルトラ……?」

彼方「スペースシップ……?」

愛「え、ちょ……ちょっと待って、りなりー……順を追って説明して……?」

璃奈「コスモッグはウルトラスペースのエネルギーを溜め込んだり、放出したり出来る。そのエネルギーがあれば、ウルトラスペース内の強いエネルギーを中和して、活動出来る……!」

愛「……ま、マジ!?」

璃奈「そもそも、ウルトラビーストはなんで高エネルギーに満ちてるウルトラスペースで生存できるのかがわからなかったけど……自身が溜め込んだエネルギーを放出して、中和してる……! コスモッグはその中でも、余剰にエネルギーを溜め込む性質があるから、それを使えば人間もウルトラスペースで航行出来るはず……!!」

愛「じゃあ、ウルトラスペースシップってのは……!」

璃奈「コスモッグのエネルギーを借りて、エネルギー中和と推進力を生みだすことで、ウルトラスペース内の探索が理論上可能……! 高次元からの観測が出来るようになったら、どういう風に私たちの世界からエネルギーが消失してるのか、そのエネルギーがどこに行ってるのかまで全部計測出来る……!!」


つまり、まさに私たちの研究のステージは──文字通り、異次元に突入するということだ。


愛「わかった……! りなりーは設計のたたき台を作って! さすがにその規模だと二人じゃ無理だから、工学系の研究室とかに応援頼めないか聞いてくる!!」

璃奈「わかった!! お願い……!!」


愛さんが研究室から飛び出し、私はウルトラスペースシップ設計のたたき台に取り掛かる。


果林「どうやら……話が進むみたいね」

彼方「置いてけぼりだけど……なんか、そうみたいだね〜」

果林「邪魔しちゃいけないし……私たちは別の部屋に居ましょうか」

彼方「うん、そうだね〜」


そのとき──prrrrと彼方さんの方から端末が鳴った。


果林「貴方に連絡してくる子と言えば……」

彼方「もちろん、愛しの遥ちゃ〜ん♪ 実は遥ちゃん、ここの入所試験受けてたから、それの結果が出たのかも!」

果林「いつの間に……」

彼方「もしかしたら、近いうちにここで一緒に働けるかも〜♪ もしもし〜遥ちゃん? どうしたの〜?」


彼方さんは心底幸せそうな笑顔で通話に応じたけど──


彼方「……え?」


その声のトーンが、急に今まで聞いたことのないような重いものになった。


璃奈「……彼方さん……?」


あまりに聞き覚えのない重い声に、集中していたはずの私も振り返ってしまった。


果林「彼方……?」

彼方「………………果林ちゃん……。…………お母さんが……倒れたって……」


彼方さんは青い顔をして、果林さんにそう伝えたのだった。





    📶    📶    📶





──ウルトラスペースシップの設計が始まって、早くも1ヶ月が経とうとしていた。
704 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:06:59.72 ID:5MWtUFJH0

愛「……この調子なら……来週には着工出来そうだね」

璃奈「うん、順調」

愛「造船についてはもう話付けておいたし、設計計画が完成すれば、すぐにでも始められると思う」

璃奈「ありがとう、愛さん」

愛「いやいや、アタシよりも……この短時間で設計図を完成させたりなりーの方がすごいって……。……とりあえず、休憩しよっか。お茶でも淹れるよ」

璃奈「うん、ありがとう」


とりあえず、私たちはひと段落するところまで来ていた。

愛さんにお礼を言いながら、私たちが休憩室に戻ると──頭を抱えている人が居た。


果林「……た、助けてぇ……愛ぃ……」

愛「ま、またぁ……? 今日のは何……?」

果林「防衛部隊の予算計画書なんだけど……何度やっても数字が合わないのよぉ……っ……彼方って、こんなに難しいことしてたの……?」

愛「……研究所で算数レベルの話、教えることになるとは思わなかったよ……」

璃奈「果林さん、私も一緒に考えるね」

果林「ありがとう〜……璃奈ちゃん……」

愛「はぁ……。……アタシたちに泣きつくくらいなら、引き受けなきゃいいのに……」

果林「ダメよ……彼方は今は……院長先生──お母さんと一緒にいるべきだもの……」


──彼方さんは、ここ1ヶ月ほどの間、倒れたお母さんのお見舞いに行くため、頻繁に部隊を空けている。

その間は臨時で、果林さんが攻撃部隊と防衛部隊の両方の隊長を兼任しているみたい。

ただ、隊長には隊長の執務がある。そうなってくると、彼方さんの執務も果林さんがやることになるんだけど……果林さんはそういう作業が滅法苦手だった。意外な弱点。


愛「隊長って言っても、実際にウルトラビーストクラスの敵と戦えるのって、カリンとカナちゃんくらいしかいないんだから、もう部隊から切り離してもらったら……?」

果林「私もそれは思ったことはあるけど……後進育成も必要だって、彼方に言われて……」

愛「あーまあ……カナちゃんなら言いそう」

果林「それに元は警備隊なわけだからね……私たちがこっちで動いてることが多いだけで、組織自体は今でもプリズムステイツの治安維持は並行して行ってる……有事の際には私たちも出向いてるわけだし……」

愛「そっちはそっちで大変そうだねぇ……」

果林「そうなのよ、大変なのよ……だから、助けて……」

愛「別にいいけど……カリン、普段自分の隊の執務はどうしてんのさ……」

果林「全部、隊の他の人に任せてる……」

愛「あー……なるほどねー……」

璃奈「とりあえず……ここ、計算間違ってる」

果林「え……?」

愛「先は長いなぁ……」





    📶    📶    📶





──あれから5ヶ月が経過した。


愛「……ウルトラスペースシップ……完成したね」

璃奈「……うん」
705 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:09:31.34 ID:5MWtUFJH0

竣工したウルトラスペースシップを見上げながら、愛さんの言葉に頷く。


愛「……本来なら、喜んでたんだろうけどね……」

璃奈「……そう……だね……」


──ちょうど今朝、連絡があった。

彼方さんのお母さんが……亡くなった、と。

果林さんと彼方さんは……お葬式に行ったため、今ここにはいなかった。


璃奈「……家族が死んじゃうのは……悲しい……」

愛「……そうだね」


俯く私の頭を、愛さんがぽんぽんと撫でる。


愛「……そういう悲しいを、少しでも減らすために……アタシたちは頑張ってるんだ」

璃奈「…………うん」

愛「……大丈夫。アタシたちは……前に進んでる。……りなりーも、カリンも、カナちゃんも……」

璃奈「…………うん」


辛くても……前に進まなくちゃいけない。……私たちは、みんなの未来を、背負っているから……。





    📶    📶    📶





──数日後。


彼方「ただいま〜」

果林「……戻ったわ」

愛「おかえり! カリン! カナちゃん!」

璃奈「おかえりなさい」


二人が研究所に復帰した。


璃奈「彼方さん……大丈夫……? 無理しないでね……」

彼方「ありがとう、璃奈ちゃん。でも、彼方ちゃん、くよくよしてられないから〜」

果林「……私たちがいない間に、シップ……完成したんでしょ? 見に行きたいわ」

愛「随分やる気じゃん、カリン」

果林「……気合いが入ったのよ。……私たちは、何がなんでも世界を救わなくちゃいけないんだから。……そうでしょ?」

璃奈「……うん。そのとおり」

彼方「これ以上、悲しむ人を増やさないためにも……」

愛「そうだね。案内するよ!」



706 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:10:28.21 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





──そして、あっという間に……ウルトラスペースへと旅立つ時がやってきた。


璃奈「エネルギー充填完了。エンジン稼働正常。ウイング稼働正常」

愛「レーダーOK. 装甲へのエネルギー循環100%だよ」

彼方「コスモッグ、苦しくない〜?」
 「ピュイ♪」

彼方「コスモッグの準備も大丈夫そう〜」

愛「検知結果来てる〜?」

璃奈「うん、コスモッグ暫定エネルギー量63%」

果林「……やることがないわ」

愛「カリンはなんも触んないでね。シップが沈んだら全員お陀仏だから」

果林「一応、指揮は私が執ることになってるんだけど……」

愛「だから、出発前のメディア対応お願いしたじゃん。カリンはアタシたちの顔だよ♪」

果林「調子いいんだから……」

璃奈「全点検終了。……予定通り、10分後に発進シークエンスを開始する」

愛「了解。さぁーて、いよいよだねー」

璃奈「……その前に、みんなに聞いておきたいことがある」

果林「聞いておきたいこと?」

彼方「なになに〜?」


私はみんなの顔を順番に見回す。


璃奈「……ここから先は……人類未踏の世界。……命の保障が出来ない。……だから──」

果林「降りるなら、今が最後のチャンスだって話かしら?」

璃奈「うん。……この先はずっと、死と隣り合わせになる」

愛「……ま、アタシはもちろん行くけどね。聞くだけ野暮ってやつだよ、りなりー」

彼方「まあ、危ないなら尚更、一緒に行かなくちゃだよね〜」

果林「貴方たちを危険から守るために、私たちがいるんでしょ。……今更、仲間外れにしたら、怒るわよ?」

愛「ま、カリンは準備段階で軽く仲間外れみたいになってるけどねー」

果林「……怒るわよ?」

愛「冗談だって〜♪ ま、そーゆーことだからさ。みんな行くよ」

璃奈「愛さん……彼方さん……果林さん……」

彼方「もう、これは璃奈ちゃんだけの夢じゃないよ。みんなの夢」

果林「私たちはもう……4人で1つのチームでしょ」

愛「みんなで世界、救いに行こう♪」

璃奈「……うん!」


みんなの頼もしい言葉に、私は力強く頷く。
707 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:11:18.43 ID:5MWtUFJH0

果林「そういえばチームで思い出した」

彼方「え、なになに〜?」

果林「今メディアが私たちのことなんて呼んでるか知ってる?」

愛「なんかあんの?」

果林「……『異界の海へと潜り行く美姫たち』……って意味を込めて──“DiverDiva”って呼ばれてるみたいよ」

璃奈「“DiverDiva”……」

愛「へー! いーね、それ! たまにはメディアもセンス良いこと言うじゃん!」

彼方「美姫か〜なんか照れちゃいますな〜」

璃奈「……ちょっと……恥ずかしいけど……嫌いじゃない」

愛「そんじゃ、リーダー! 発進前に、一発気合いの入るの言ってよ!」

彼方「お、いいね〜。そういうノリ、彼方ちゃん嫌いじゃないぜ〜?」

璃奈「果林さん。お願い」

果林「突然言わないでよ、もう……。……みんな、世界を救いに行くわよ! この4人──“DiverDiva”で……!!」

璃奈「うん!」
愛「あいよー!」
彼方「任せろ〜!」


私たちの──異界での旅が、幕を開けたのだった。





    📶    📶    📶





──さて、ウルトラスペースの調査が本格的に開始し……私たちは少しずつウルトラスペースのあちこちを旅しながら、いろんなことを知ることになる。

まずウルトラスペースの中には、私たちの世界のように、いろいろな世界が存在していることがわかった。

私たちは世界を見つける度に、そこに降りて調査を行った。

そして……世界によっては──新たなウルトラビーストに出会うこともあった。


────
──


例えば……巨大な電気を帯びた樹木が張り巡らされた世界……。


 「──ジジジジ」

果林「みんな!! 姿勢下げて!!」

愛「雷……雷無理、雷怖い、無理無理無理……」

璃奈「あ、愛さん、しっかりして……!」

彼方「おー……愛ちゃんの意外な弱点だ〜……」


────
──
708 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:12:12.67 ID:5MWtUFJH0

例えば、一面に広がる砂漠の世界……。


 「──フェロッ!!!!」

果林「こっちよ!!」
 「フェロッ!!!」

 「フェ、ローーチェ!!!!」

愛「カリン!! 一人じゃ無茶だって!?」

果林「フェローチェの速さに対抗出来るのは、フェローチェしかいないでしょ!! 任せなさい!!」


────
──


宝石のような輝く鉱物があちこちに生えた洞窟の世界……。


 「──ジェルルップ…」「──ジェルル…」「──ジェルップ…」

璃奈「……ウツロイド……。……強力な神経毒を持ってるウルトラビースト……」

愛「寄生されたらアウトだからね……慎重に調査しないと……」

果林「彼方……いざとなったら、無理やりにでも手引っ張って逃げるからね……。貴方、走るの苦手なんだから……」

彼方「えへへ〜……果林ちゃん頼りになる〜」


────
──


例えば巨大なジャングルのような世界……。


 「マッシブーーーーーンッ!!!!!!」

果林「……っ……!!」

愛「カリン!! 逃げて!!」

璃奈「果林さん!!」


──ボフッ。


 「…ッシブッ!!?」

彼方「ダメだよ……果林ちゃんは、彼方ちゃんの大切な家族なんだから……傷つけさせない」
 「──メェェェェ…!!!!」

果林「かな……た……」

愛「ウールーが……」

璃奈「進化……した……!」


────
──


例えば、巨大な遺跡の世界……。


彼方「この模様……なんだろ……?」

果林「太陽と……月……かしら……?」

愛「……かつて文明があったのかな……」

璃奈「人が住んでたのか……他の世界から持ち込まれたのかはわからないけど……。……ただ、もうこの世界に知的生命体は生息してないと思う。……あまりに世界規模が小さすぎる……」

 「──ピュィ…」
709 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:14:48.11 ID:5MWtUFJH0

────
──


本当に……いろんな世界を見て回った。

そして、私はその中で、世界はそれぞれ違う規模を持っていることを突き止めた。

加えていろいろな世界を巡る中で──私たちは、ウルトラビーストを何種類か捕獲することに成功した。

テッカグヤ、デンジュモク、カミツルギ、ズガドーン……そして、2匹目のコスモッグ……。

ただそれなりの数の世界を見て回ったけど──知的生命体による文明が進行形で築かれている世界へは、たどり着けなかった。





    📶    📶    📶





調査を続ける中で……久しぶりに研究所に戻ってきていた私は、考えていた。

──結局何故、私たちの世界からはエネルギーが漏れ出してしまっているのだろうか?

各世界にある物質の放射性年代測定から見るに……誕生から時間が経過している世界ほどエネルギー状態が不安定だった。

それが指し示すのは……この現象は世界そのものに起こっている経年劣化のようなものと考えるのが妥当……?

世界はエネルギーの風船のようなもので……その風船のゴムの表面が徐々に弱まって、エネルギーが逃げ出していくと仮定して……。

そうだとしてエネルギーはどこに……?

スペース内でエネルギーに偏差が観測出来るってことは、エネルギー自体は流動しているってことだから……。

そうだ……期間ごとの放射誤差のデータと、周辺スペースのエネルギーの飽和状態を見れば……!

私は、集めたデータを見比べる。……やっぱり……ウルトラスペース内に、エネルギーの圧力のようなものが存在しているんだ……。

私は一人、頭の中で理論を整理していく。


彼方「それにしても……これだけ世界を見て回ったのに……人が住んでる世界って、ないもんなんだねー……」

果林「そうね……。……でも、文明がある可能性が高い世界はあったんでしょ?」

愛「まあね。……エネルギー観測によると、アタシたちの世界よりも大きな規模の世界が1個だけ見つかったから。そこにはもしかしたら……文明があるんじゃないかって考えてるけど……」

彼方「エネルギー……ちょっとくらい分けてくれないかな〜……」

愛「それが出来ればなんだけどね〜……」


エネルギーを分ける……?


璃奈「……!」


私はそのとき、あることに気付き、椅子を跳ねのけるようにして、立ち上がった。


愛「り、りなりー? どうしたの? 何かひらめいたん?」

璃奈「………………わかった」


もし、周辺のウルトラスペースのエネルギー圧が小さいほど、エネルギーが流出するのなら、自分たちの世界の周辺のエネルギー圧を上昇させるのが答えになる。

そして、そのための方法があるとしたら……。


彼方「わかったって……何がわかったの〜……?」

璃奈「世界を………………救えるかも……しれない……」

果林「ホントに……!?」


私の言葉を聞いて、果林さんが私の両肩を掴みながら、
710 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:20:47.70 ID:5MWtUFJH0

果林「一体どういう方法なの……!? 璃奈ちゃん……!!」


血相を変えて訊ねてくる。

強い力で肩を掴まれていたため、肩に果林さんの指が食い込んでくる。果林さんはそれくらい強い力で私の肩を掴んでいた。


愛「ちょ、カリン……!」

璃奈「……か、果林さん……い、痛い……」

果林「あ……ご、ごめんなさい……」


果林さんは謝りながら、掴んでいた手を離す。


愛「……カリンが人一倍気持ちが強いのは知ってるけど……そんな風に詰め寄ったら、りなりーが困っちゃうからさ……」

果林「そう、よね……ごめんなさい……」

璃奈「うぅん……大丈夫」

彼方「それで……どういう方法なの……?」


彼方さんに訊ねられるけど……。


璃奈「……それは……」


私はこれを口にしていいものか……悩んでしまった。

もし自分たちの世界の周辺をエネルギーで満たすということが意味していることを考えると……。


璃奈「…………言っていいのか……わからない」


安易に言っていいものなのかわからなかった。


果林「言っていいのか……? わからない……?」


私の言葉に果林さんが眉を顰める。


果林「世界を救う方法があるんでしょ……? それを言っていいのかわからないって、どういうこと……?」

璃奈「そ、それは……。……でも、今この場では……教えていいことか……私だけじゃ判断しかねる……」

果林「なによそれ……。……ねぇ、璃奈ちゃん……貴方も世界を救いたいんじゃないの……?」


果林さんの語調が強くなる。


彼方「か、果林ちゃん、落ち着いて……」

愛「…………何か思うことがあるってことだよね」

璃奈「……うん」

愛「わかった。……ただ、私たちは政府から託されて研究してるから……」

璃奈「……わかってる。……報告しないわけにはいかない……」


最終的には、可能性であっても、報告の義務がある。

政府がどれだけ私たちに投資しているかを考えれば……私一人の意思で、研究の中で見つけた事実を発表するかしないかを決めていいわけがない。

それを聞いて果林さんは、


果林「なら、ここで言ってもいいんじゃないの?」


再び強い口調をぶつけてくる。
711 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:22:04.28 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……ご、ごめんなさい……」

愛「カリン、やめて。りなりーが困ってる」

果林「私たちは仲良しごっこしてるんじゃないのよ? 世界の命運を懸けて戦ってるの」

愛「……」

果林「……」

彼方「ふ、二人とも落ち着いて! 果林ちゃん、焦って聞いても彼方ちゃんたちにはよくわからないだろうし、ちゃんと報告した後にわかりやすく纏めてもらった話を聞こう? ね?」

果林「…………わかった」


彼方さんが宥めると、果林さんは私に背を向けて椅子に腰を下ろす。


璃奈「……ほっ」

愛「りなりー、大丈夫?」

璃奈「……うん」

彼方「ごめんね……果林ちゃんも悪気があって言ってるわけじゃなくて……最近、調査進捗とかメディアから詰め寄られることが多くって……だから、ちょっと焦っちゃってるだけで……」

璃奈「うん、理解してる。果林さん、ごめんね、すぐに言えなくて……」

果林「……私こそ……ごめんなさい……。……ちょっと、頭を冷やすわ……」


果林さんの焦りも理解出来る……。……矢面に立って、一番せっつかれているのは間違いなく果林さんだ。

……それも、人前に立つのが苦手な私の盾になってくれている。

だから、煮え切らない態度を取ってしまったことに申し訳なさはある。


愛「……それじゃ、アタシとりなりーで一旦理論を纏めてくるから……」

果林「ええ……お願いね」


とりあえず、愛さんに相談して……どう上の人に伝えるかを纏めないと……。

愛さんと一緒に執務室に移動する。


愛「それで……聞いていいかな」

璃奈「…………。私たちの世界がエネルギー的に委縮を続ける理由は……恐らく世界の持つ根本的な寿命なんだと思う……。高次元との間の境界面が、時間と共に薄くなって……そこからエネルギーが流出していく」

愛「じゃあ……どうしようもないってこと……?」

璃奈「うぅん……。もし境界面が薄くなったとしても……周辺にあるエネルギーが多ければ問題ない。問題なのは、世界の周辺のエネルギーが不足して、エネルギーの圧力のようなものが下がってるから」

愛「……なるほど。内外で圧力差が生じるから、外にエネルギーが逃げちゃうのか」

璃奈「うん。なら……周辺のエネルギー圧を上げればいい……」


問題はその方法だ。


璃奈「エネルギーはウルトラスペース内で流動してる。……ということは、どこかで巨大なエネルギーの爆発を起こせば……その余波で、私たちの世界の周辺のエネルギー圧も上昇するはず……」

愛「まあ、単純な話だよね……。少ない場所にエネルギーを供給するには、溜め込んでる場所から持ってくればいいもんね」

璃奈「でも……たくさんのエネルギーを溜め込めるのは……恐らく、世界そのもの」

愛「……世界がエネルギーを溜め込む風船みたいなイメージだよね」

璃奈「うん。……つまり、より大きな風船を割ると……よりたくさんのエネルギーがウルトラスペースに還っていく……」

愛「確かにそう……。……え?」


愛さんも気付いたようだ。
712 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:23:09.52 ID:5MWtUFJH0

愛「…………」

璃奈「でも、より大きなエネルギーを持った世界には……恐らく文明がある。……人が、ポケモンが……たくさん生きてる文明がある……。それを壊すってことは……その世界の人やポケモンたちを……犠牲にするってこと……」

愛「…………なるほど……こりゃ、確かにアタシでも言っていいのか迷う……」


愛さんは片手を頭に当てて、椅子に腰を下ろした。


愛「……でも、果林たちは何か方法があることを知っちゃってる……。……上への報告を一切しないのは無理かな……」

璃奈「ごめんなさい……。……もっと熟考してから、口にするべきだった……」

愛「いや、りなりーは悪くないよ……。ただ、これは……そのまま、上には伝えられない」

璃奈「うん……」


こんな非人道的なことをするとは考えたくないけど……もしわかった上でやるとなったら……取り返しがつかない。


愛「……それっぽい理屈で、方法はあるけど、危険だから出来ないって説明をしよう」

璃奈「それしかないよね……」


私たちはどうにか嘘を吐かない範囲で、研究報告を作り始めるのだった。





    📶    📶    📶





──後日。私たちは政府の役人や実行部隊の司令官の集まる席での、口頭での発表をお願いされた。


璃奈「まさか、呼び出されると思わなかった……」

愛「書面だけじゃなくて、ちゃんと説明しろってことかねー……」


やっぱり内容が内容だけに、書面で伝わりづらいニュアンスも解説することを求められているのかもしれない。

ちなみに私たちが出した研究報告書はざっくり言うと──『世界からエネルギーが流出するのは世界の寿命が迫っているから。それを遅らせるには、私たちの世界周辺のエネルギー量を増やすことが必要だが、それをする方法は現在調査中』という形で提出した。

嘘は吐いていない。


愛「りなりー、ボード持ってきてる?」

璃奈「うん」


やっぱりまだ緊張するから……ボードは使っている。私の発表の方法は割と知れ渡っているから、こういう堅い場でも使うことが許されているのは助かる。


愛「んじゃ、行こうか」

璃奈「うん」


もうすでに人が揃っている会議室内へと足を踏み入れる。

中には……十数人ほどの政府役員、所内の管理者や、実行部隊の司令官が揃っていた。


愛「失礼します。ミヤシタ・愛です」

璃奈「テンノウジ・璃奈です。よろしくお願いします」 || ╹ ◡ ╹ ||

政府役人「待っていたよ。……それでは、早速だが研究の報告を改めてお願いしてもいいかな?」

璃奈「はい」 || ╹ ◡ ╹ ||


そのとき、ふと──
713 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:24:51.78 ID:5MWtUFJH0

 「ネイ」


部屋の隅にネイティが居ることに気付いた。

……そういえば、今までも役人の人たちとお話するときには、いつもお部屋にネイティがいた気がする。

役人の人の中にネイティを好きな人がいるのかな……?

まあ、いいや……。

私たちは研究内容の報告を始める。

もちろん、報告書で書いたとおりの内容でだ。


璃奈「──ですので……報告書にも書いたとおり、その大量のエネルギーをどこから持ってくるかは研究中です」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「当てはあるのかな?」

璃奈「あくまで現状では理論がわかっただけなので……そちらに関してはこれから考えるつもりです」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「現状では、具体的な方法には見当が付いていないと……?」

璃奈「……はい」


私は役人の言葉に頷く。

そのときだった、


 「ネイティー」


ネイティーが──鳴いた。


愛「……!」

政府役人「聞き方を変えよう。……何か私たちに報告していないことがあるんじゃないかい?」

璃奈「……? ……ありませ──」

愛「りなりー、ダメだ……!!」


愛さんが急に私の口を手で塞ぐ。それと同時に──


 「ネイティー」


また、ネイティーが鳴いた。


璃奈「あ……愛さん……?」


何が起こったのかわからず困惑していると、


愛「……普通、そこまでする?」

政府役人「…………」


愛さんはそう言いながら、政府の役人たちを睨みつける。


璃奈「え、えっと……ど、どうしたの……?」

政府役人「君たち研究者は、研究を政府から拝命しているにも関わらず、自分たちの倫理道徳観に従って、結果を隠すことがあるからね……」

愛「研究に主観や研究者の願いが含まれるのは当然でしょ!? 研究者だって、人間なんだよ!?」

政府役人「だから、それをクリアするための措置だ……。……君たちに求められていることは、一刻も早く世界を救う方法を見つけ出すこと……違うかね? 政府がどれだけ君たちの研究に、予算と人員をつぎ込んでいると思ってるんだ?」

愛「だ、だとしても……こんな騙し討ちみたいな方法……!」

璃奈「あ、愛さん……! どういうこと……?」
714 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:26:44.40 ID:5MWtUFJH0

私は突然役人の人と口論を始めた愛さんに説明を求める。

すると愛さんは、苦々しい顔をしながら──


愛「……最初から、この人たちはアタシたちの報告を信用なんてしてなかった……。……だから、嘘発見器まで置いて……」

璃奈「嘘……発見器……?」


ハッとする。


 「ネイ」

璃奈「まさか……あの……ネイティ……」

愛「アタシたちが……嘘や虚偽の発言をしたとき……鳴いて知らせるように、訓練されてる……」

璃奈「……嘘」


私の手から……璃奈ちゃんボードが滑り落ちて、パサっと音を立てながら床に落ちた。


政府役人「さぁ……報告を続けて貰おうか」

愛「……だから、今は調査中です。これ以上、報告出来ることはありません」


愛さんが睨みつけながら言葉を返す。


政府役人「“さいみんじゅつ”で吐かせることも出来るんだ。……手荒な真似をさせないでくれ」

愛「…………」

璃奈「……愛さん、話そう」

愛「りなりー……!?」

璃奈「ここまで、強引な手を使ってくるってことは……言わないと、何されるかわからない。……私たちだけじゃなくて……果林さんや彼方さんにも……」

愛「…………」


恐らく……ここで突っぱねても、強引に吐かせられるか……何かしらの罰が、私たちだけじゃない……チームの連帯責任として、課されるなんてことは想像に難くない。

私の言葉を聞いて、


司令官「……」


実行部隊の司令官さんが目を逸らした。

恐らく、そういうことだろう。


政府役人「それだけ……我々も必死なんだ。世界のために……」

愛「だ、だからって……恥ずかしくないの……!?」

璃奈「愛さん。言ってもしょうがない……。……組織の合理性を考えたら……研究者に研究内容を秘匿させないのは……間違った選択じゃない……」

愛「……っ」

璃奈「ただ……この方法は、完全に人道に反する。……私たちは一切推奨しないし、今も他の方法をしっかり模索し続けていることは理解して欲しい」

政府役人「……いいだろう」


そう前置いて──私は、世界にエネルギーを溢れさせる方法を……話し始めた。



715 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:27:53.27 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





愛「……くそ……」

璃奈「……ごめんなさい」

愛「りなりーは……悪くない……。……あんな卑怯なことされたら……」


とりあえず……本日のところは、報告をしただけで会議は終わった。

ただ……方法の一つに──他世界を滅ぼすということがあるのは完全に知られてしまった。

今後具体的にどうするかは、政府で検討したのち、私たちに次の指示を出す、とのこと……。


愛「でも、アイツら……検討するなんて思えない……」

璃奈「…………」


確かに、もうすでに研究者に対する人道は損なわれている。


愛「りなりー……研究を……放棄しよう……。……これ以上は、いくらやっても政府に利用されるだけになる……」

璃奈「……それは出来ない」

愛「なんで……!」

璃奈「今放棄しても……今いる実行部隊をウルトラスペースに送り込んで無謀な調査を続行するとしか思えない……。……そうしたら、他の世界の人たちどころか……私たちの世界の人たちまで無駄に死ぬことになりかねない……」

愛「それは……」


政府からしてみれば……メディアに大々的にアピールもしてしまっている……他国からも多額の支援を受けてしまっている。

もうプリズムステイツ政府も、十分に切羽詰まっているのだ。

そう考えると……今後どういう方針で動いていくことになるのかは……わかっているようなものだった。


璃奈「今の政府の考えを止めるには……もう、私たちに選択肢は一つしか残されてない……」

愛「一つ……?」

璃奈「……政府が動き出すよりも前に……より良い代替案を見付けるしかない──」





    📶    📶    📶





──だけど、代替案はなかなか思いつかず……。

その最中にも、何度か会議が行われた。
716 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:29:01.73 ID:5MWtUFJH0

愛「だから、仮に他世界を滅ぼして、ウルトラスペースにエネルギーを溢れさせても、また数百年、数千年もすれば同じことが起こるんだって!!」

璃奈「エネルギーは流動する……。……エネルギーの固定方法を考えるよりも、移住を考える方が現実的かもしれない」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「だが、数百年数千年我々の世界は守られる。それに今更になって、この世界を捨てると世界中に説明しろと?」

璃奈「現実的な問題の話をしてる。……今、貴方たちが計画してることは侵略。世界間で戦争になる可能性だってある。それに勝利したとしても、また時間が経てば同じ問題が起こる」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「なら、そのときはまた戦うしかない。人はずっとそうしてきたんじゃないかい?」

愛「だからそれじゃ、根本的な解決にならないって言ってんでしょ!?」

璃奈「愛さん……落ち着いて……」

政府役人「……話にならんな」

愛「それはこっちの台詞だよ!!」

政府役人「君たちの聞き分けがあまりに悪いため……今後は組織の全指揮系統を実行部隊に渡すことにした」

愛「はぁ!?」

政府役人「今後は研究の方針や予算の割り振りも、実行部隊が管理する。今後はそちらの指示で動いてもらう」

愛「ふっざけんなっ!!」

政府役人「……実際に航行エネルギーとして扱う星の子、コスモッグと言ったな。……あのポケモンはすでにこちらで確保させてもらった」

愛「はぁ……!?」


愛さんと私は、同席している実行部隊の司令官に視線を向ける。


司令官「……果林と彼方には上からそういう指示があったと言って回収した」

愛「……いつの間に……」


先手を打たれたということだ……。

果林さんたちは私たち以上に上下のある組織をベースに動いている。

そうなると、上からそういう指示があれば、それには従うだろう……。


政府役人「2匹のコスモッグは今後、実行部隊で管理する」

愛「……横暴だ……!」

政府役人「ポケモンの扱いに長けた実行部隊がポケモンを管理するのは合理だと思うが?」

璃奈「……本当にそう思うんですか? ポケモンの扱いに長けた人がコスモッグの管理をするのが適切と」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「当然だ。あれは君たちのポケモンではない。世界を守ろうと考える全ての人間の中で公平に扱われるべきポケモンだ。他に何か合理的な異論でもあるのか?」

璃奈「ない。その理屈は正しい」 || ╹ᇫ╹ ||

愛「り、りなりーっ!」

璃奈「ただ、ポケモンの扱いに長けた人間に渡すという理屈を是とするなら、実行部隊に2匹とも渡すのは筋が通ってない」 || ╹ᇫ╹ ||

愛「え……?」

政府役人「……何?」

璃奈「……この組織全体で見ても、愛さんのポケモンの扱いはトップ2には間違いなく入ってる」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「……そうなのか?」


役人の人が司令官さんに確認を取る。


司令官「……確かに摸擬戦の結果では、果林は愛博士とは同程度の実力ですが……彼方は明確に負け越しています」

政府役人「……」

璃奈「なら、少なくとも2匹のコスモッグのうち1匹は愛さんの手に渡るはず。それが合理と言ったのは貴方」 || ╹ᇫ╹ ||


役人の人は私の言葉に、黙り込み、眉を顰めていたけど──さすがにこれだけの地位にいる人間が、簡単に言っていることを覆すことは出来ないだろうという私の読みどおり、
717 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:31:51.82 ID:5MWtUFJH0

政府役人「……わかった、いいだろう。では、改めて組織内でポケモンの扱いに長けた2名──アサカ・果林、ミヤシタ・愛に、コスモッグの管理権を渡す」


コスモッグは愛さんと果林さんの手に渡ることになった。


政府役人「辞令は追って出す」

璃奈「わかりました」 || ╹ᇫ╹ ||





    📶    📶    📶





危うく全権剥奪されかねないところだったけど……どうにか、首の皮1枚繋がった感じだ……。

そして後日──正式に愛さんに“SUN”、果林さんに“MOON”という階級称号が与えられた。

今後は、この二人がそれぞれコスモッグを管理することになる。


璃奈「愛さんに渡されるコスモッグは、彼方さんが持ってた子みたいだね」

愛「まぁ……カナちゃんの持ってたコスモッグは、カリンとは仲悪かったからね……」


愛さんと話しながら研究室に戻っていくと、ちょうど中から果林さんたちの話し声が聞こえてきた。


果林「──それにしても……なんで“SUN”と“MOON”……太陽と月なのかしら……?」


恐らく、果林さんたちも辞令について話しているんだと思う。

そこに愛さんがドアを開けながら、


愛「文献を見つけたからだよ」


果林さんの疑問に答える。


果林「愛……」

彼方「文献って?」

璃奈「2匹目のコスモッグを見つけた世界で、石板があったの覚えてる?」

果林「あったような……なかったような……」

愛「まあ、あったんだけどさ。その石板にあった碑文をりなりーが言語解析プログラムにずっと掛けてたんだけど……それの結果が出たらしくってね」

果林「それが太陽と月だったの?」

愛「コスモッグは成長すると、太陽の化身もしくは月の化身へと姿を変えるんだってさ」

璃奈「日輪と月輪が交差する場所で、交差する時に、人の心に触れ、太陽の化身もしくは月の化身に姿を変えるって記されてた」

彼方「あーだからか〜……太陽と月をそれぞれ授けるぞ〜ってことだね〜」

璃奈「そんな感じ。強いトレーナーの傍に居ればいつか覚醒して、私たちの力になってくれるだろうって考えてるみたい」


ただ、果林さんが本当に聞きたかったのは、命名理由というよりも……どういう基準で選ばれたかということみたいだったらしく、


果林「……“SUN”は貴方よね、愛」


愛さんに向かって、そう訊ねてくる。
718 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:35:35.99 ID:5MWtUFJH0

愛「……まーね」

果林「上の人と揉めてるの……?」

愛「……」


急な辞令だし……私たちのことは最近何かと噂になっている。果林さんも何かしら、察しているんだと思う。

愛さんは果林さんの言葉を受けて、気まずそうに頭を掻く。


愛「……大丈夫、ちゃんとチャンスは貰ったから」

果林「チャンス……?」

愛「世界……救える理論、ちゃんと見つけてみせるからさ」

璃奈「……私たち頑張る! 璃奈ちゃんボード「ファイト、オー!」」 || > ◡ < ||


果林さんは心配そうにしているけど……私たちにはまだ、やれることがあるはず。

現状の方針を覆すためにも……私たちはとにかく調査を続けることにした。





    📶    📶    📶





愛「……つってもなぁ……。……他の方法かぁ……」


愛さんが頭を抱える。


璃奈「……何か方法はきっとあるはずだから……」

愛「……うん。……ってか、りなりーさっきから何してるの?」


さっきから私が弄っている端末を、後ろから覗き込んでくる。


璃奈「……ウルトラスペース内のエネルギー流動シミュレーション」

愛「……流動シミュレーション……?」

璃奈「……エネルギーには偏差がある。それは常に空間そのものが運動している証拠。……一生空間が運動し続けるんだとしたら……」

愛「ウルトラスペースは……ある基点を中心に回転してる……?」

璃奈「うん。その可能性が高い」


ある一方向に進み続ければいつかはエネルギーが尽きてしまう。

なら、可能性としては円運動をしていると考える方が論理的だ。


璃奈「そして、その中心点には……エネルギーが集中してるはず。……そこを見つけ出して、エネルギーを抽出する方法が見つかれば……もしかしたら……」


私はより大きなエネルギーが存在する場所を、今持っているエネルギーの流動情報からシミュレーションで導き出そうとしていた。


愛「……りなりー、シミュレーション手伝う。データ回して」

璃奈「うん、お願い」



719 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:36:31.79 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





──愛さんと二人で、シミュレーションを始めて約数週間……。

睡眠以外ほぼ不休で進めていた検証の結果……。


璃奈「……あった……」


私たちは──探していたウルトラスペースの中心……即ち特異点の存在の予兆を、探り当てていた。


愛「問題は距離か……。……航行エネルギーが足りない……」

璃奈「……それも、どうにか出来るかもしれない」

愛「どういうこと?」

璃奈「エネルギーが中心に集まってるのは……中心に向かってエネルギーが引き寄せられてる……つまり、中心点には強い重力が存在してるから。だから、近くの世界の重力に捕まらなければ、基本的に中心点に向かって引き寄せられていくはず」

愛「なるほど……。向こうが引き寄せてくれるなら、推進にエネルギーを使い続ける必要がない……」

璃奈「私たちは何も特異点の中心に行こうとしてるわけじゃない。一定以上のエネルギーさえあれば──コスモッグがエネルギーを吸収する性質を利用して、回収出来るかもしれない」

愛「回収したら、行きで使わなかった分の推進力を使って、重力圏から脱出する……」

璃奈「そういうこと」

愛「これなら……行けそう……! 他の世界を犠牲にしなくても、世界が救える……!!」

璃奈「うん。今すぐ、この結果を上に報告しよう」

愛「……だね!」


私たちは、やっと希望を見出した……。ただ……現実は無情だった。





    📶    📶    📶





政府役人「……却下だ」

愛「なんで……!?」

政府役人「それはあくまでもシミュレーションによって得られた仮説なんだろう?」

璃奈「だけど、理屈は筋が通ってる。十中八九エネルギーが集中するポイントがあると思われる」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「だが100%ではない」

愛「そりゃ……そうだけど……」

政府役人「君たちのその理論だと……推進エネルギーに使うコスモッグと、エネルギーの回収に使うコスモッグが必要ということだろう?」

璃奈「……確かに必要」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「それによってコスモッグを失わないと保証できるのか?」

璃奈「……そればっかりはやってみないとわからない」 || ╹ _ ╹ ||

政府役人「もし失敗して2匹ともコスモッグを失った場合……我々は確実に滅亡する」

愛「それは……」

政府役人「……推論の段階で、貴重なコスモッグを2匹とも向かわせるわけにはいかない」


確かに現状では理屈上あると考えられるだけで、観測すら出来ていない。

政府側の主張では、そんな見切り発車で、全ての希望であるコスモッグを2匹とも使わせるわけにはいかない……ということらしかった。
720 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:38:56.71 ID:5MWtUFJH0

政府役人「安全が保障されていないなら、この話は到底許可出来ない。それならば、今ある確実な方法を進めるべきだ。我々には時間も多くは残されていない」

愛「…………っ」

璃奈「……なら、私たちだけで行きます」 || ╹ᇫ╹ ||

愛「……りなりー……?」

璃奈「実際に観測を行って……その上で、改めてエネルギー回収のための安全を確保した理論を完成させたら……この作戦を許可してもらえますか? その間、こちらでは今ある方法を進めていてもらっても構わない」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「……ああ、それなら構わない」

愛「りなりー……でも、アタシたち二人で行くのは……危険だよ」

璃奈「そんなことは百も承知。……だけど、行かないわけにいかない」

愛「……りなりー」

璃奈「みんなが望む平和を、幸せを……みんなの想いを、未来に繋げるために……誰かが誰かと繋がる世界を守るために……私たちの研究はあるから」


誰かが犠牲になる世界じゃない。誰もが誰かと繋がれる、そんな世界のために……私はずっと研究を続けてきたから。


璃奈「その可能性が目の前にあるなら……私は諦めずに手を伸ばしたい」


私の言葉を聞いて、


愛「……わかった」


愛さんは頷いてくれた。


愛「一緒に行こう……そんで、全部守って……繋げよう」

璃奈「うん」





    📶    📶    📶





愛さんと二人でウルトラスペースへ発つことも決定し……研究室で、もろもろの準備を行っている最中のことだった。


彼方「──りーなちゃん♪」

璃奈「彼方さん?」


彼方さんが私に声を掛けてくる。

それと同時に──


璃奈「……良い匂い……」


すごく甘くて、良い匂いがしてくる。


彼方「実はね〜スフレを作ったんだ〜♪ 一緒に食べない〜?」

璃奈「うん! 食べたい!」

彼方「よかった〜♪ 休憩室で食べよ〜♪」

璃奈「うん!」
 「ウニャァ〜」「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」

彼方「ニャスパーとベベノムたちも一緒に食べようね〜♪」


彼方さんに誘われて、休憩室に移動する。
721 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:39:39.14 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……いただきます!」
 「ニャ〜」「ベベノ♪」「ベベノ〜♪」

彼方「召し上がれ〜♪」


彼方さんの作ってくれたスフレは……一口食べるだけで、ふわっとした食感と共に、甘さが口の中に広がり、すごく幸せな気持ちになる。


璃奈「おいしい♪」
 「ゥニャァ〜〜」「ベベベノノ〜〜♪」「ベベノ〜♪」

彼方「ふふ、よかった〜♪」


ポケモンたちにも大絶賛。

彼方さんはそんな私たちを見てニコニコ笑う。


彼方「ねぇ、璃奈ちゃん」

璃奈「なぁに?」

彼方「……愛ちゃんと二人で……危険な調査に行くんだってね」


彼方さんの言葉に──フォークが止まる。


彼方「果林ちゃんに聞いたんだ。……果林ちゃんは愛ちゃんから聞いたって言ってたけど」

璃奈「……そっか」

彼方「……ごめんね」

璃奈「どうして彼方さんが謝るの?」

彼方「……彼方ちゃんたちは……璃奈ちゃんたちを守るためにここにいるはずなのに……何もしてあげられないから……」

璃奈「そんなことないよ……。……私も愛さんも……彼方さんたちに何度も助けられた……」

彼方「璃奈ちゃん……」

璃奈「大丈夫、絶対に帰って来るから。待ってて」

彼方「……うん」

璃奈「彼方さんの作ったお菓子……もっとたくさん食べたいから、絶対に帰って来る」

彼方「ふふ……わかった〜。帰ってきたら、璃奈ちゃんの好きなもの、いくらでも作ってあげるよ〜♪」

璃奈「やった〜!」
 「ウニャァ〜」「ベベノ〜」「ベベノ〜」


彼方さんは、私の傍に来て、私を抱きしめる。


彼方「……絶対……絶対だからね……。……彼方ちゃん……もう……大切な家族がいなくなるのは……嫌だからね……」

璃奈「……うん。約束する」


私を……家族と言ってくれる彼方さんを悲しませないためにも……私たちは、絶対に戻ってくる。そう胸に誓って……。



722 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:41:06.82 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





璃奈「──エネルギー充填完了。エンジン稼働正常。ウイング稼働正常」

愛「レーダーOK. 装甲へのエネルギー循環100%」

璃奈「コスモッグにも異常なし」
 「ピュイ♪」

愛「ポケモンたちの安全確認もよし……」
 「ベベノ〜」「ベベノ〜」「ニャ〜」

愛「よし、そんじゃ発進シークエンスに──」


発進シークエンスに移行しようとした、そのときだった。


璃奈「待って、通信。……繋ぐね」


通信が入った。

その相手は──


政府役人『……テンノウジ博士、ミヤシタ博士。聞こえるかな』


まさかのあの政府の人だった。


愛「……まさか、ここまで来てイヤミでも?」

政府役人『……作戦の無事を祈って、一言言わせてもらおうと思ってな』

愛「へー……どういう風の吹き回しなんだか」

政府役人『我々は、君たちを嫌っているわけではない』

愛「どうだか……」

政府役人『我々が君たちの考えに賛同出来なかったのは、優先順位の問題だ。……今回の観測調査が成功し、君たちの望む未来が実現することを祈っている』

愛「……そりゃ、どーも」

璃奈「激励、感謝する」


通信はそこで終了する。


愛「ホント……何考えてんだか……」

璃奈「意外だったけど……応援してくれてるのかな」

愛「どうせ、アタシたちがうまく行った場合に調子よく話を進めるためでしょ……」

璃奈「……観測が成功した際、こちらに傾いてくれるのなら、それはそれで助かる」

愛「まあね」

璃奈「どちらにしろ……私たち次第」

愛「……だね。……そんじゃ行くよ、りなりー!」

璃奈「うん!」
 「ニャ〜」「ベベノ〜」「ベベノ〜」

愛「発進シークエンス開始!」


発進シークエンスが開始し──


璃奈「……ウルトラスペースシップ……発進」
723 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:42:18.94 ID:5MWtUFJH0

私たちは──全てを懸けた観測調査を開始したのだった。





    📶    📶    📶





──シップで旅に出て、数週間ほどが経過した。


愛「景色変わらないねぇ……」


ウルトラスペースシップ内からは、ウルトラスペースの景色しか見えないから、進んだところであまり代わり映えしない。

たまに遠方に他の世界への入り口が見える程度だ。


璃奈「でも、確実に相対速度は上昇してる」

愛「エンジン推進を切ってから、それなりに経つもんね」

璃奈「慣性だけじゃない証拠……ちゃんと加速してる」


今はメインエンジンはほぼ稼働していない。使うとしても、誤差修正用のスラスター噴射くらいだ。

それは即ち……中心にある巨大な引力に少しずつ引き寄せられていることを意味していた。


愛「りなりーの理論は……間違ってなかったってことだね……」

璃奈「うん。あとは……十分なエネルギーを持った領域まで辿り着いて……その観測結果を持ち帰れば任務完了」

愛「やっと……ここまで来たんだね……」

璃奈「……うん」


あと一歩……。あと一歩で……私たちの目的は達成される。

お父さんとお母さんの研究が……完成する。誰かの想いを未来を……繋げていく、そんな二人の意志が……。


璃奈「愛さん……ありがとう。愛さんが居てくれたから……ここまで来られたよ」

愛「もう……りなりー、まだ終わってないぞ〜?」

璃奈「わかってる。だけど……今、お礼を言いたくなった」

愛「……そっか」


愛さんは微笑みながら、私を抱き寄せる。

すごく温かかった。


璃奈「……私ね……ずっとずっと……ずーっと……一人で──独りで研究していくんだと思ってた。だけど……気付いたら、周りにいろんな人が居て……果林さんが……彼方さんが……。……愛さんが」

愛「うん」

璃奈「未来の私がこんな風になれるなんて……全然想像してなかった。……愛さんがあのとき……私を見つけてくれたから……今の私がある」

愛「……大袈裟だって。アタシがしたことなんて大したことじゃない。りなりーがお父さんとお母さんを信じて頑張ってきたから、今があるんだよ」

璃奈「愛さん……」

愛「りなりーから始まったんだ。りなりーの気持ちが、想いが、アタシを動かして……カリンやカナちゃんが仲間になって……どんどんどんどん、大きくなって……」

璃奈「……うん」

愛「りなりーが繋げたんだよ……」


愛さんの言葉が嬉しかった。

私がお父さんとお母さんを信じてやってきたことは……何一つ無駄じゃなかった。そう言ってくれることが。
724 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:43:00.88 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……あ、あのね……愛さん……」

愛「んー?」

璃奈「私ね……新しい夢が……出来たんだ……」

愛「新しい夢!? なになに、聞かせて聞かせて!」

璃奈「えっとね……わ、笑わないでね……」


私はそう前置いて、


璃奈「私ね……この研究をしていて、いろんな人と知り合って、協力して、手を合わせて、前に進んできて……誰かと繋がることって、こんなに嬉しいことなんだって……知ったんだ」

愛「うん」

璃奈「……だからね、私の次の夢は──研究を通して、全世界の人たちと……こんな風に繋がれたら……もっともっと、嬉しいんじゃないかなって……」


自分の次の夢を、口にした。


璃奈「……ど、どうかな……?」

愛「…………」

璃奈「……やっぱり、全世界なんて……無理かな……」


愛さんが無言だから、少し大それたことを言いすぎたかなと思ったけど──


愛「……めっちゃいい……。……それ、めっちゃいいよ、りなりーっ!! あんまりに壮大すぎて、びっくりしちゃった……!!」


愛さんは心の底から嬉しそうな声で、反応を示してくれる。


璃奈「出来るかな……?」

愛「出来るよ!! りなりーなら絶対出来る!!」


そう言ってまたぎゅーっと抱きしめてくれる。


愛「これから先……りなりーを心の底から大事に、大切に思ってくれる仲間がたくさん出来るよ……! いろんな人と繋がっていけるよ……アタシが保証する……!」

璃奈「……愛さんが保証してくれるなら……心強い」

愛「その繋がりを一つ一つ大切にして、増やして行けば……いつか、全世界──うぅん、全宇宙の人とだって、繋がれる……」

璃奈「……それは大それた夢だね」

愛「でも、きっと出来るよ! りなりーなら!」

璃奈「……うん。愛さんがそう言ってくれるなら……出来る気がしてきた」

愛「でしょでしょ! ……あ、でも……」

璃奈「……?」

愛「りなりーがたくさんの人と繋がれたら本当に素敵だと思うけど……みんなにりなりーを取られちゃったら……ちょっと、寂しいかも……」

璃奈「大丈夫。……愛さんはずっと私の1番だから」

愛「りなりー……! うん! アタシの1番もずっとりなりーだけだよ!」

 「ウニャァ〜」「ベベノ〜!!!」「ベベノ〜!!!」

璃奈「わわ……」

愛「あはは♪ 仲間外れにするなって♪」

璃奈「ニャスパーも、ベベノムたちも大好きで、大切」
 「ウニャァ〜」「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」


そのとき──ガコンッと音を立てながら、シップが大きく揺れる。
725 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:44:21.91 ID:5MWtUFJH0

璃奈「わっ……!」
 「ウニャ〜」

愛「とっとと……りなりー、大丈夫?」
 「ベベノ〜?」「ベベベノ〜?」

璃奈「うん……平気、ありがとう」


愛さんが私とニャスパーを抱き留めてくれる。

ベベノムたちは浮いてるから、平気そう……。


愛「……今の揺れ……何……?」

璃奈「……確認する」


私はコンソールを弄りながら、機体の状態を確認すると──


璃奈「……まずいかも」

愛「え?」

璃奈「……メインエンジンが……損傷したかも……」

愛「……なっ!?」


メインエンジンの異常アラートが確認出来た。

ただ、実際に見てみないと端末からだけでは状況の把握が出来ない。


璃奈「ちょっと様子を見てくる」

愛「船外用のスーツ、用意する……!!」

璃奈「お願い」





    📶    📶    📶





私が船外に出て、直接確認を行う──


愛『りなりー! どう……!?』

璃奈「……メインエンジンの噴出口がひしゃげてる……これじゃ、使い物にならない」

愛『……ま、マジか……』


メインエンジンは……目に見えてわかるくらいに損傷を受けていた。

エネルギー推進のための噴射口がひしゃげていて、とてもじゃないけどこれを使って航行することが出来ないのは間違いない。


璃奈「…………」


私はそれを見て考え込む。

恐らく、さっき揺れたときに何らかの損傷を受けたんだとは思う。

デブリか何かがぶつかった……?

いや、このメインエンジンの損傷の仕方は……外側から、何かがぶつかったというより……内側から力が掛かっているように見える。

内側からってことは……。
726 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:45:09.98 ID:5MWtUFJH0

璃奈「…………」

愛『りなりー!! りなりー!? 返事して、りなりー!!』


気付けば、無線通信の向こうで愛さんが声を張り上げていた。


璃奈「あ……ごめん。……ちょっと考え事してた」

愛『……よ、よかった……返事がないから、何かあったのかと思った……』

璃奈「とりあえず、一旦中に戻る」





    📶    📶    📶





愛「りなりー……! メインエンジン直りそう……?」


戻ると、愛さんが駆け寄ってきて、そう訊ねられる。


璃奈「たぶん、無理。完全に噴出口がひしゃげてる。無理に使ったら、エンジンそのものが耐えきれなくなって、最悪爆散する」

愛「そんな……」

璃奈「とりあえず、メインエンジンへの全てのエネルギー供給を遮断して、サブエンジンに送り込む」

愛「わかった……!」


とりあえず、使えないものに期待してもどうしようもない。

まさか、ウルトラスペース内で修理するわけにもいかないし……。

メインエンジンへのエネルギー供給を完全に遮断して、機能を停止させる。

だけど──あまりに間が悪すぎる。

今シップは……中心特異点の重力圏に捕まりつつある。

メインエンジンの推進力は全体の7割以上を占めている。

サブエンジンはあくまで微調整用のものでしかない。

もちろんメインエンジンの推進力をサブエンジンに回す分、サブエンジンの推進能力は上昇するけど……。

メインエンジンと同じだけのエネルギーを送り込んだら、間違いなくオーバーヒートして使い物にならなくなる。


璃奈「…………」
 「ウニャァ〜…」


ニャスパーが鳴きながら心配そうに、私に身を摺り寄せてくる。


愛「りなりー!! メインエンジンへのエネルギー供給、完全に遮断して、サブエンジン側に切り替えた」

璃奈「ありがとう、愛さん」

愛「……でも、どうする? サブエンジンだけだと、スラスターを推進補助に使ったとしても、今の重力圏から逃げ切れるかどうか……」


愛さんも同じことに気付いている。

……そう、あまりにも間が悪すぎる。

いや……これは……──悪すぎる間で起こるようになっていたとも言える。
727 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:46:04.31 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……私に考えがある」

愛「マジ……!?」

璃奈「一旦倉庫に行ってくる。愛さんはサブエンジンを稼働してて、もちろんオーバーヒートしないギリギリの範囲で」

愛「わかった!」

璃奈「それじゃ、行ってくる」


私が駆け出そうとすると──


 「ウニャァ…」


ニャスパーが私の足にしがみついてきて、


璃奈「……ニャスパー、ここで待ってて」
 「ウニャァ…」


でも、ニャスパーは離れようとしない。

……ポケモンは、人よりもずっとずっと……勘が鋭い。

──私はニャスパーを抱き上げ、


璃奈「愛さん。ニャスパー、預かってて」


ニャスパーを愛さんに預ける。


愛「わかった。ニャスパー、りなりーは今忙しいから、アタシと一緒にいよう」
 「ウニャァ〜…」


嫌がるニャスパーを愛さんが抱きしめる。


璃奈「愛さん、ニャスパーのこと……お願いね」

愛「ん、任せろ♪」

 「ベベノ…」「ベベノ…」
璃奈「ベベノムたちも……ここで待っててね。それじゃ、今度こそ行ってくる!」

愛「頼んだよ、りなりー!!」


愛さんは私を信用して──送り出してくれた。




璃奈「──…………ごめんね。…………愛さん」





    📶    📶    📶





──シップの後部にある倉庫に入り、持ち込んだ端末で倉庫内のコンソールにアクセスする。


璃奈「……倉庫をロック。装甲循環エネルギーを一時的に倉庫外壁に集中」
728 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:47:40.63 ID:5MWtUFJH0

私は……あることに気付いていた。

突然起こった……メインエンジンの破損。

あれは……どう見ても──人為的な破壊のされ方だった。

つまり……これは……。


璃奈「……私が……ここに来るって言ったからだね……」


私はよくわかっていなかったのかもしれない。

世界というのは……思った以上に、大きな力で、大きな意思で……動いていた。

私たちが何かを言ったところで……変えることなんて……出来なかったのかもしれない。

──私は紙を取り出し、手書きで計算を始める。


璃奈「今の相対速度と、サブエンジン、スラスターによる推進力から考えると……必要な加速度は──」


微妙な軌道計算をしている暇はない。とにかく最低限の推進力の確保が必要。


璃奈「……出来た」


計算は出来た。私は端末に目を向ける。

倉庫の外壁に集中させていたエネルギーは十分溜まった。


璃奈「…………」


私は端末から──シップにある指令を送った。

直後──


愛『り、りなりー!!』


愛さんから通信が入る。


愛『なんか、シップ全体が急に一切の命令を受け付けなくなった……!? ど、どうしよう……!!』
 『ウニャァ〜…』

璃奈「うん。私が倉庫からクラッキングして、全操作権を奪った」

愛『え……』

璃奈「装甲出力をシップ後部に集中する」


本来デブリなどから防ぐためのエネルギーを後部に集中させる。これでシップは背部からの衝撃に対して強くなる。


愛『な、なにしてるの……!? りなりー!?』

璃奈「今から、後部倉庫をパージして──爆発させる」

愛『な……っ!?』


今しなくちゃいけないことは、推進力の確保と、機体重量を落とすことの二つだ

後部倉庫を切り離し……爆発の勢いで装甲を強化したシップを押し出すことによって、この二つを同時にクリアする。
729 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:48:26.02 ID:5MWtUFJH0

愛『待って……待ってよ……今、りなりーどこにいるの……?』

璃奈「…………」

愛『まさか……後部倉庫じゃ……ないよね……?』

璃奈「……正しい軌道でシップを押し返すには、手動で計算して、スラスターで誤差を微調整してから爆破させないといけない」

愛『……何……言ってんの……?』

璃奈「……二人とも助かる可能性は……ゼロ。でも、これなら……愛さんは助けられる」

愛『……っ……!!』


愛さんが席を立ったのが音声越しでもわかった。

恐らく、私のいる後部倉庫まで来るつもりだと思う。


璃奈「無理だよ。ブリッジから出るための隔壁を全て閉鎖したから、そこからは出られない」

愛『なんで……!! なんでこんなことするの!! りなりー!!』
 『ウニャァァ〜…』

璃奈「……これはきっと……私のせいだから……」

愛『意味わかんないよ……!! いいから、ここ開けて!! 今すぐそこから戻ってきて!! りなりーっ!!』


──ガンガンッと……無線越しでも、愛さんが隔壁を叩いているのがわかる。


璃奈「大丈夫、隔壁は時間で開くようになってる。通路に最低限の食料と水を出しておいた。……少しでも重量を減らすために、本当に最低限だけど」

愛『そんなこと聞いてるんじゃないっ!! りなりーっ!! 今すぐ戻ってきて!!』

璃奈「…………愛さん」

愛『何!?』

璃奈「……今まで、ありがとう。愛さんに会えて……私……幸せだった。ニャスパーも良い子にするんだよ」


私は端末から──外部倉庫のパージ命令を送った。

ガコンッと揺れながら、外部倉庫がシップから切り離される。


愛『ダメだッ!! りなりーっ!!』
 『ウニャァ〜…』


パージと共に、倉庫の位置をスラスターで微調整し始める。

その際──目の前に紫色のポケモンが現れた。


 「ベベノ!!」
璃奈「……! ベベノム……付いてきちゃったの……?」


紫色のベベノムだけ……私に付いてきてしまっていたらしい。

白光のベベノムは……姿が見えないから、まだシップ内にいる……はず。


 「ベベ」
璃奈「もう……切り離しちゃったよ……」

 「ベノ♪」
璃奈「……ウルトラビーストだから……もしかしたら、ウルトラスペース内に放り出されても……生き残れるかな……」

 「ベベノム♪」
璃奈「……うん」


もうどっちにしろ……後戻りは出来ない。


愛『り────りー──……──な、りー──』
730 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:49:12.29 ID:5MWtUFJH0

切り離されてもうほとんど聞こえない通信に向かって、


璃奈「……愛さん。……もし……もしさ……生まれ変われるなら……」


最期の願いを、


璃奈「私…………次は……世界中の……うぅん、宇宙中のみんなと……繋がりたいな……っ」


伝えて。

──倉庫を……爆発させた。





    📶    📶    📶





──ああ……。

……誰かと繋がるのって……難しいな……。

みんな同じ世界で生きているのに……みんな違う想いを抱えていて……みんな違う正義を持っていて……。

……そんなみんなと……どうすれば……繋がれるかな……。……どうすれば……繋がれたのかな……。

わからない。

……そういえば私……どうなったんだろう……。

……あれから……どれくらい……経ったんだろう……。

……ここ…………どこ……なんだろう…………。

…………よく……わからないや……。

……………………。

…………………………愛さん、無事かな……。

……………………愛さん。

…………会いたいよ。


 『──…─………………────………』


……?

何……?


 『────……──…──…………──』


……何かの……信号…………?

……誰か……いるの……?

………………私…………ここに……いるよ……。

…………もし……私に……まだチャンスがあるなら……。

……繋がりたい……。


私は──自分の意志の欠片を……そこに向かって、飛ばした。


──
────
──────
────────

731 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:49:50.72 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





リナ『その信号が、やぶれた世界に現れた果南さんのポケモン図鑑の信号だった。あとはみんなの知ってるとおりだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||


──長い長い物語を……話し終える。


侑「…………璃奈ちゃんにとって……愛ちゃんは……すごくすごく……大切な人だったんだね。……そして、それは今も……」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「話してくれて、ありがとう……」

リナ『うぅん、私も久しぶりにちゃんと思い出せて……懐かしかった』 || ╹ ◡ ╹ ||


あのとき、仲間たちと共に戦った日々を思い出せて……。


リナ『なんか……思い出したら、羨ましくなっちゃったけど』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「羨ましい……?」

リナ『仲間たちと……手を取り合って前に進む……侑さんたちが』 || ╹ ◡ ╹ ||


私が……あのとき失ってしまったものを、侑さんたちが持っていることが……すごく、すごく羨ましかった。

もう……私には……戻ってこないものを持っている、侑さんたちが──


かすみ「何言ってんの!!」

しずく「そうですよ、リナさん」

リナ『え……?』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「リナ子はとっくの昔に──かすみんたちの仲間じゃん!!」

リナ『……!』 || ╹ _ ╹ ||

しずく「むしろ……今まで仲間と思ってもらえていなかったんだとしたら……ショックです」

リナ『あ、あの、そういうわけじゃ……!?』 || ? ᆷ ! ||


私は思わずあたふたしてしまう。


歩夢「リナちゃんはずっと前から、私たちの仲間だし……大切なお友達だよ」

せつ菜「今もこうして、共に同じ目的に向かって進んでいるんです。それを仲間と言わず、なんと言うんですか!! わ、私が言うと……ちょっと説得力がないかもしれませんけど……」

歩夢「ふふ♪ そんなことないよ、せつ菜ちゃん♪」

リナ『歩夢さん……せつ菜さん……』 || ╹ _ ╹ ||


そして、侑さんが私の目の前に立って、


侑「ねぇ、リナちゃん……私がここまで旅をしてこられたのは……歩夢が居て、イーブイが居て──リナちゃんが居てくれたからだよ」
 「ブイ♪」


そう言った。そう、言ってくれた。


リナ『侑……さん……』 || 𝅝• _ • ||

侑「私の最高の相棒だよ。リナちゃんは」


そう言って、侑さんが私のボディに触れた。

──そっか……そうだったんだ、
732 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:51:23.01 ID:5MWtUFJH0

かすみ「リナ子!」

しずく「リナさん♪」


──私は……私には……。


歩夢「リナちゃん♪」

せつ菜「リナさんっ!」


──とっくの昔に……。


侑「リナちゃん!」
 「ブイ♪」


──こんなに素敵な仲間たちが……また、出来ていたんだ……。

──『これから先……りなりーを心の底から大事に、大切に思ってくれる仲間がたくさん出来るよ……! いろんな人と繋がっていけるよ……アタシが保証する……!』──


リナ『やっぱり……愛さんが保証してくれただけ……あった』 ||   _   ||


なんだか──胸が熱かった。

私にはもう、身体はないのに。

機械の体なのに──胸が熱くて、嬉しくて泣いてしまいそうだった。


侑「──私たちみんなで……守ろう……!」

リナ『……うん! ツナガル──未来を……!』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


私は胸の熱さに突き動かされるように──未来を守ることを決意した。侑さんたちと──仲間たちと一緒に。



733 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:52:03.67 ID:5MWtUFJH0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【暁の階】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.●⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口
734 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:52:41.35 ID:5MWtUFJH0

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.77 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.75 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.73 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.73 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.71 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
      コスモウム Lv.75 特性:がんじょう 性格:ゆうかん 個性:からだがじょうぶ
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:258匹 捕まえた数:11匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.65 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.71 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      コスモウム✨ Lv.75 特性:がんじょう 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:227匹 捕まえた数:20匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.78 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.73 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.72 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.71 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.72 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.72 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:253匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.66 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.65 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.65 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.65 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.65 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:225匹 捕まえた数:23匹

 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.15 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.81 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.79 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.82 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:50匹 捕まえた数:9匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



735 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:21:32.10 ID:jK0Y5xHa0

 ■Intermission👏



愛「…………」


ウルトラスペースの中を、アーゴヨンがアタシの身体を掴んだまま、3匹の伝説のポケモンたちと一緒に突き進んでいく。

ただ──ここウルトラスペースの景色は……何度見ても、あの日のことを思い出す。

りなりーを失った……あの日のことを──



────────
──────
────
──


愛「りなりーっ!!!! りなりーっ!!!!!」


ただ、通信先に向かって、りなりーの名前を叫ぶ。


璃奈『────あ……さん』
 「ニャァァ〜…」


ノイズだらけの音声が聞こえてくる。


愛「りなりー……っ!!」
 「ニャァ〜…」

璃奈『……もし……──……生まれ──われるなら……』

愛「だ、めだよ……りな、りー……」
 「ニャァァ〜…」

璃奈『──……次──世界中……うぅん、宇宙中のみん──と……繋がりたいな……っ』


その言葉の直後──シップを強烈な揺れが襲い、アタシとニャスパーは壁に叩きつけられる。


愛「ぐ…………!」
 「ウニャァァァ〜…!!」


──しばらく揺れが続いた。立ち上がることもままならず、ニャスパーを抱きしめる。


愛「…………っ……」
 「ウニャァ…」


しばらく揺れに耐え……やっと、揺れが収まるの同時に──シュンと音を立てながら、ブリッジから通路への隔壁が開いた。


愛「………………りなりー……」
 「ニャァ…」


アタシはよろよろと立ち上がり──後部倉庫へと向かって駆け出す。

きっと……これは、何かの悪い冗談なんだ……。

そんなこと……そんなことあるはずない。……あっていいはずがない。

後部倉庫への道の途中──


 「ベベノ…」
736 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:22:37.88 ID:jK0Y5xHa0

白光のベベノムが床に転がって目を回していた。さっきの揺れで壁に叩きつけられて、気絶してしまったのかもしれない。

アタシはベベノムを抱き上げて……再び駆け出す。

後部倉庫の前にたどり着くと──……部屋の前には食料と水の入ったコンテナが置かれていた。

アタシはそれを避けて──


愛「りなりー……」


倉庫のドアを叩く。


愛「ねぇ、りなりー……」


叩く。


愛「りなりー……開けてよ……りなりー……っ……」
 「ニャァ…」


何度戸を叩いて、名前を呼んでも──りなりーは返事をしてくれなかった。





    👏    👏    👏





その後……アタシは抜け殻のようになったまま、自分たちの世界へ戻るシップの中で過ごしていた。

自動操縦で戻っていくシップの中で……死なない程度に食料と水を摂取していた。

……あと、もう1匹のベベノムが居ないことにも途中で気付いて探したけど……結局、見つけることは出来なかった。

何度か後部倉庫の扉を叩いて、りなりーの名前を呼んだりもしたけど──返事が戻ってくることはなかった。

ただ、現実感がなくて……ぼんやりと過ごしていた。

気付いたら──シップはアタシたちの世界へと戻ってきていた。

ハッチが開いたので、覚束ない足取りでシップの外に出ると──


果林「──愛……! よかった……!」


カリンとカナちゃんが駆け寄って来た。

フラフラな身体を、カリンに支えられる。

──きっとそのとき……よほど酷い顔をしていたんだと思う。


彼方「あ、愛ちゃん……?」


カナちゃんがアタシを見て、不安そうな声をあげた。


果林「……愛……? ……璃奈ちゃんは……?」


アタシは……ちらりと、シップを見た。

シップは──後部倉庫がなくなっていた……。


愛「──………………ちゃった……」


絞り出すような声で、


愛「……りなりー…………いなく……なっちゃった…………」
737 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:23:30.03 ID:jK0Y5xHa0

カリンたちに、そう伝えた。





    👏    👏    👏





とりあえず、帰還後すぐに医務室に運び込まれ、点滴を打たれる。

点滴を受けている最中、天井を見ながら、アタシはぼんやりと考えていた。


愛「……りなりー…………いなく……なっちゃったんだ…………」


なくなった後部倉庫を見て……嫌でもその事実と向き合わざるを得なかった。


愛「……りなりー……っ……」


りなりー……どうして……あんなことしたの……。

アタシ一人生き残ったって……りなりーがいなくちゃ……。


愛「………………」


改めて──どうして、りなりーがあんなことをしたのかが、疑問に思えてならなかった。

メインエンジンの損傷を確認しに行く、つい数刻前まで……りなりーは未来のことを話していたのに……。


愛「…………なんか…………おかしい…………」


りなりーがいなくなった事実を直視せざるを得なくなったからなのか──りなりーの行動に突然一貫性がなくなったような気がしてならない。

それも……メインエンジンを確認してから、急に……。

そういえば……りなりー……おかしなことも言っていた気がする。

──『……これはきっと……私のせいだから……』──


愛「……私の……せい……?」


なにが……私のせいなんだ……? りなりーは……メインエンジンを確認したときに……何かに気付いた……?


愛「……まさか」


ある可能性が頭を過ぎった。

アタシはベッドから跳ね起き、駆け出そうとする。

もちろん、点滴中だったので管に引っ張られガシャリと音を立てながら点滴台が付いて来ようとする。


愛「……邪魔……!」


無理やり点滴の針を引っこ抜く。

すると、医務室にいた看護師たちが騒ぎ出す。


看護師「み、ミヤシタ博士……!?」
738 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:24:19.13 ID:jK0Y5xHa0

でも、今は構っている場合じゃない。確認しないと……今すぐ……。

アタシはウルトラスペースシップの離発着ドックへと走り出した。





    👏    👏    👏





離発着ドックに着くと、整備士たちがたくさん居て、


整備士「──み、ミヤシタ博士……!? お身体は……」


突然現れたアタシに驚いていたけど……。


愛「ごめん、確認したいことがあるから、通して」


押しのけるようにしてシップへと近付く。

そしてシップの裏側──メインエンジンを確認して、目を見開いた。

アタシは勝手に、デブリがぶつかった等のアクシデントによる破損だと思い込んでいたけど──


愛「……完全に……内側から……壊されてるじゃん……」


メインエンジンの壊れ方は……外から何かがぶつかったようなものではなく──ブースターそのものを内側から爆破されたような壊れ方をしていた。

つまり、これは──


愛「……まさか……爆弾……?」


方法は至って原始的だった。それも、エネルギー噴射に反応せず、ある程度ウルトラスペースを航行した先で起動する、時限式の物。

ウルトラスペースシップの航行エネルギーは熱噴射ではなく、あくまでコスモッグから取り出したエネルギーの噴射だから、C4爆弾のような外力で爆発しないものを使えば十分可能だ。

手間の掛かるものではあるが……用意さえしてしまえば、取り付けるだけで良いから時間は掛からない。

でも、そんなものいつ付けた? 発進直前の点検では、そんな不審なもの確認出来なかった。


愛「……あ」


──『……テンノウジ博士、ミヤシタ博士。聞こえるかな。……作戦の無事を祈って、一言言わせてもらおうと思ってな』──


愛「あの……と、き……」


発進前点検を終えたあと、どうしてあの政府役人から激励の言葉なんてあったのかが……やっと理解出来た。


愛「なに……が……作戦の無事を祈って……だって……?」


思わず握り込んだ拳が、怒りで震えていた。

これは──仕組まれていた。

最初から、アタシとりなりーを事故で済ませて消すために、仕組まれていたんだ。

通信に気を取られている隙に……役人の息が掛かった整備士が……。


愛「……誰だ……。……誰が、付けた……答えろ……」
 「──リシャン…」


アタシはリーシャンをボールから出しながら、整備士たちを睨みつける。
739 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:25:46.66 ID:jK0Y5xHa0

整備士「み、ミヤシタ博士……?」

愛「……答えろ」

整備士「ヒッ……」


殺気を込めた視線に驚いた整備士たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

──わかってる。どうせ、犯人が問われたところで自分から名乗り出るはずがない。


愛「……こんな、やつらのせい、で……っ……りなりーが……りなりー……が……っ……!!!」


腸が煮えくり返るという感覚を、生まれて初めて味わっている気がした。


愛「……りなりーが何したって言うんだ……っ……!!! 世界を……みんなを守ろうとしてただけじゃんか……っ……!!!」


──あんなに臆病だったりなりーが、勇気を振り絞って、見ず知らずの誰かの未来を守るために、戦っていたのに。

こんな形で振り払われることがあっていいのか? いいわけあるか……!! あってたまるか……!!


愛「……りなりーを……っ……返してよっ!!!!」
 「リーーーシャーーーーッ!!!!!!!!」


リーシャンがアタシの怒りに呼応するように──周辺一帯を“ハイパーボイス”で吹き飛ばす。


愛「……ふざけんな……ふざけんなふざけんなふざけんなぁぁぁぁっ!!!!!!」
 「リシャァァァァァァンッ!!!!!!!」


手当たり次第に、攻撃をまき散らし、ドックを破壊し、逃げ惑う整備士たちを吹っ飛ばす。


愛「──あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
 「リシャーーーーンッ!!!!!!」


叫びながら、目に付くもの全てを吹き飛ばす。

そうでもしないと、気がおかしくなりそうだった。いや、そうしていても、おかしくなりそうだった。

自分が今まで感じたことのないような、怒りと憎しみから生まれる破壊衝動。

そんな暴走をするアタシのことを聞きつけたのか、


彼方「あ、愛ちゃん……!?」

果林「愛っ!? 何やってるの!?」


カリンとカナちゃんがドックに飛び込んできた。


愛「──りなりーを……っ!!! りなりーを返せぇぇぇぇぇっ!!!!!」
 「リシャァァァァンッ!!!!!」

果林「──彼方!! ドックを守って!! 消火も!!」

彼方「わ、わかった!! バイウールー! パールル!」
 「──メェ〜〜〜〜」「──パルル」

果林「キュウコン、“かなしばり”!!」
 「──コーーンッ!!!」

 「リシャンッ…!!?」


カリンたちが暴れまわる、アタシたちを止めに入ってくる。


果林「愛っ!! やめなさいっ!!」


キュウコンがリーシャンを動けなくし、カリンがアタシを後ろから羽交い絞めにする。
740 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:26:44.73 ID:jK0Y5xHa0

愛「りなりーをぉっ、かえせぇぇぇぇぇっっ!!!!!! かえせぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

果林「っ……!」


ただ、アタシには──ぼんやりと遠くにカリンたちの声が聞こえる気がする……そんな認識だった。


果林「……フェローチェ……!」
 「──フェロッ」

果林「“みねうち”……!」
 「フェロ」

愛「がっ……!?」


急に腹部に衝撃を受け──


愛「……りな……りー……」


アタシの意識は──ゆっくりと闇に沈んでいったのだった……。





    👏    👏    👏





──その後、目を覚ましたときには、りなりーと一緒に過ごしてきた……自室に居た。

部屋の鍵を外から掛けられ……見張りも付けられ……ポケモンも全部没収されている状態だった。

所謂、軟禁状態。

最初はあの事故の原因が、政府の陰謀だったとカリンたちに伝えることを考えた。

だけど……完全に手を打たれていて、カリンたちと話したいと何度言っても、二人がアタシのもとに訪れることはなかった。

たぶん……アタシたちが最後に行っていた調査内容は……握りつぶされ、他世界への侵略が計略されている頃合いだろうか。


愛「………………」


何もする気が起きなかった。

食事は定期的に運ばれてくるけど……正直、食べる気なんてこれっぽっちも起きなかった。

……このまま、餓死でもしてやろうかな。そんな風にさえ思っていた。

政府は、誰もが助かる遠回りよりも、誰かから奪って自分たちが生き残る近道を選んだ。


愛「…………馬鹿馬鹿しい…………」


世界は……なんて、馬鹿馬鹿しいんだ……。


愛「……りなりー……」


りなりーの名前を呼ぶ。……もちろん、りなりーの返事は……ない……。

りなりーは恐らく……ウルトラスペースの高エネルギーの中で……情報レベルでバラバラになった。

通常領域ならまだしも……あそこはもう中心特異点の重力圏内だ。

エネルギー密度の濃い空間では……生身の人間の身体なんて耐えられるはずがない。


愛「…………そういえば…………りなりー…………それについての論文……書いてたっけ…………」
741 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:28:12.28 ID:jK0Y5xHa0

生物が高エネルギー次元でどうなるかの論文だ。

のそのそと起き上がって──りなりーの机にあったファイルの中から、論文を探す。


愛「……あった……」


そこにはご丁寧に、計算式とともに、生物が生命維持出来ず、情報レベルでバラバラになることが示されていた。


愛「…………」


アタシはなんとなく、それを開いたまま──ペンを持って、紙に計算式を書き始める。

もしかしたら……この式のどこかが間違っていて……りなりーは実はまだ生きているかもしれないなんて……そんな希望的観測にすがりながら。

──1時間経った。間違いは見つからない。

──2時間、3時間、4時間……。間違いはやっぱり見つからない。

──半日が経った。1日が経った。2日経って、3日経って……。

アタシは……ペンを落とした。


愛「…………間違ってるわけ……ないじゃん。……これ……りなりーが作った……理論なんだから……っ、間違ってるわけ……ないじゃん……っ」


りなりーのすごさは、アタシが一番知っている。

アタシも天才だなんて持て囃されていたけど……りなりーは別格だ。天才の中でも、一際飛びぬけた天才……。

そんな、りなりーが作り上げた理論に……間違いなんてあるはずなかった。

仮に間違いがあったとして……アタシにそれが見つけられるわけなかった。

──ポロポロと涙が零れて、大量の式を書き連ねたメモ紙が滲んでいく。

りなりーが作り上げた理論が……りなりーの死を……証明していた。


愛「……りなりー……っ、……りなりーっ、」


アタシは……どうするべきだったんだろうか。

わからない……。……わからない。





    👏    👏    👏





ひとしきり泣いた。

ただ、何日も何も食べていない身体では、泣く体力もあまり残っていなかったらしく、気付けばぐったりしていた。


愛「………………このまま…………終われるかな…………」


空腹と疲労で頭がぼーっとしていた。目を瞑る。

このまま……りなりーの居る場所に……いけるかな……。


愛「…………りな、りー…………」


──『……愛さん……』──


りなりーの声が、聞こえた。

幻聴かな……。でも……いいや……りなりーの声が聞こえるなら……。
742 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:32:56.59 ID:jK0Y5xHa0

──『……愛さん。……もし……生まれ変われるなら……』──

──『……次は……世界中の……うぅん、宇宙中のみんなと……繋がりたいな……っ』──


愛「……………………」


ゆっくりと目を見開く。


愛「……………………」


アタシは起き上がって、先ほど自分の涙で濡らしたメモ紙と、りなりーの論文を見た。


愛「……………………りなりーは…………死んだんじゃない…………バラバラになったんだ…………」


なら──


愛「…………りなりー以外も…………宇宙全部が…………バラバラになれば…………りなりーは…………みんなと、繋がれる…………。……あはは。……あはは、あはははははは、あははははははははっ!!!!!」


アタシの笑い声が──部屋中に響く。


愛「そうだ……!!!!! まだ、りなりーの夢は死んでない……!!!!! アタシが……アタシが叶える……叶えるんだ……!!!!!! りなりーの夢を……っ……!!!!!」


このときから──狂気の歯車が、アタシの中で、動き出し始めてしまった。





    👏    👏    👏





数日後……カリンが、逃げ出したカナちゃんとその妹の遥ちゃんを乗せたウルトラスペースシップを……撃墜したという噂が流れてきた。

あまりに衝撃的な内容だったのか、見張りが交替の際に話しているんだから、嫌でもわかってしまう。

噂が聞こえ始めて、数日もしないうちに──


果林「──……愛、入るわよ」


アタシの部屋の中に、カリンが強引に押し入ってきた。


愛「……や、カリン。来ると思ってたよ」

果林「もっと落ち込んでると思ってたわ……」

愛「アタシもカリンはもっと落ち込んでると思ってた。……聞いたよ、カナちゃんの乗ったシップ……カリンが撃墜したんだってね」

果林「…………」


カリンはアタシを一瞥すると──手に持っていたチョーカーをアタシの首に着け始める。

そのとき見たカリンの目は──酷く濁っていた。

ああ、アタシと同じ目だ。

自分の目的のためなら──全てを捨てる覚悟をした人間の……目。


果林「……愛……私に協力しなさい……」

愛「…………ああ、これが首輪ってわけか。逆らったときは電撃? それとも、首でも飛ぶ?」

果林「電撃よ……。死なれたら困るわ……貴方には、やってもらわないといけないことが、たくさんあるからね……」

愛「アタシがこんなおもちゃで言うこと聞くと思ってんの?」
743 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:34:11.73 ID:jK0Y5xHa0

挑発するように言うと、カリンは躊躇なく、手に持ったリモコンのスイッチを押し込む。

直後──


愛「っ゛、ぁ゛!!?」


首に着けられたチョーカーから電流が走り、アタシは痺れて床に転がる。

そんなアタシを見下ろすように、


果林「……もう一度言うわ、愛。私に協力しなさい……」


カリンがそう──命令してきた。


愛「……っ゛……。……まあまあ、カリン……そう、焦んないでよ……」

果林「…………」

愛「……言うこと聞くつもりはないんだけどさ……協力はしてやってもいいよ……」

果林「……は?」


カリンはアタシの言葉に怪訝な顔をする。


愛「……その代わり……カリンもアタシに協力してよ……」

果林「……この状況で交渉しようって言うの?」

愛「どっちにしろ、アタシの頭が必要なんでしょ? いーよ、アタシの頭脳でよければ貸してあげるよ。ただ──アタシにもやりたいことが出来たから、それはやらせてもらう」

果林「…………」

愛「どーせこのおもちゃに発信機も付いてんでしょ? カリンの監視範囲内でアタシはアタシのやりたいことをやる。アタシはカリンの求める知恵と技術を提供する。それでお互いWin-Winっしょ?」

果林「……わかったわ」


カリンはアタシの言葉に頷いた。


愛「交渉成立だね〜♪ これからはカリンの駒として、せっせと働いてあげるよ」

果林「……信用してるわ、愛」

愛「へいへい、任せろ〜」


信用……ね。

アタシも信用してるよ、カリン……。

こうして──新生“DiverDiva”の計画が、始まったのだった。





    👏    👏    👏





……アタシはりなりーを失った。カリンはカナちゃんを……。

完全に政府の方針と一致した動きを見せていたカリンの発言権は強く、アタシもカリンに首輪を嵌められていたこともあって、すぐに軟禁は解除された。

──まあ、その日のうちに構造を完全に理解して、いつでも外せるようにはしてたんだけどね。

そうしたら、ポケモンたちもみんな戻ってきた。……ただ、ニャスパーはどこにもいなかった。

りなりーがいなくなったことを知って……この場から去ってしまったのかもしれない。
744 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:36:19.29 ID:jK0Y5xHa0

愛「……ベベノム」
 「ベベノ」

愛「……みんな……いなくなっちゃったね……」
 「ベノ…」

愛「……でも、アタシは……全部取り戻すよ」
 「ベノ…!!」

愛「……アタシに力を貸してくれる?」
 「ベベノムッ♪」

愛「ありがとう……愛してるよ、ベベノム」
 「ベベノ♪」


──その後、アタシたちは政府が滅ぼすと決めた世界へと移動し……そこで計画を始めた。

アタシはアタシで──どうやって、宇宙全てを情報レベルに分解するかを考え続けながら……ありとあらゆる情報機関にクラッキングし調べた結果──ディアルガ、パルキア、ギラティナというポケモンの伝承にたどり着いた。

時間の神、空間の神、反物質の神が揃えば……恐らく、特異点を強引に発散、インフレーションさせることが可能だろう。

なんせ3匹の力を合わせれば、時空を歪め、重力すら反転出来るのだ。特異点からエネルギーが発散されれば……全宇宙にエネルギーが押し寄せ……飲み込まれることになるだろう。

そして、その理論を思いつくと同時に……グレイブ団の首領・聖良が、その3匹を探し求めていたことにたどり着く。

彼女はあくまでディアンシーに会うのが目的だったため、アタシは目的が達成された後はその3匹を貰うというのを交換条件に、技術協力と資金提供を行った。

カリンには、彼女が世界を混乱させている間に計画を進行させるとか適当なことを吹いたら、割とあっさり信じてくれた。

まさか……彼女の計画が、勇敢なポケモントレーナーたちの手によって、あっという間に収束してしまったのには驚いたけどね……。

──こんな、全てを利用してやると決めたアタシにも……人の心が残っていたのか、本格的に自分たちが動き出す際──彼女の病室に忍び込んでまで顔を見に行ったのは、自分でも意外だった。

もちろん、表向きの理由としては、ディアルガ、パルキア、ギラティナの有益な情報を持っていないかを確認しに行ったつもりだったけど……冷静に考えれば病室にそんなものが転がっているわけもないので、きっとあれは……アタシが最後に見せた人の顔の感情だったんだと思う。同情という名のね……。


愛「……待ってて、りなりー……すぐにりなりーのところに行くからね……」


──
────
──────
────────



愛「もうすぐ……もうすぐ、一つになれるよ……りなりー……待っててね……」
 「アーゴヨンッ!!!」


アタシは──特異点の中心へと、突き進む……。





    🎹    🎹    🎹





──だんだん東の空が白んできた。


しずく「もうすぐ……暁時ですね」

かすみ「な、なんか緊張してきた……」

せつ菜「私たちは……離れていた方がいいですかね」

彼方「そうだねー。儀式をするのはあくまでコスモウムたちと、その主人だからー」


彼方さんの言葉に、歩夢と顔を見合わせて頷き合う。
745 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:41:09.96 ID:jK0Y5xHa0

侑「……歩夢」
 「────」

歩夢「うん」
 「────」


二人で、遺跡の中でも一際高い場所にある祭壇を見る。


果林「……まさか、コスモッグたちを進化させるのが……“SUN”でも“MOON”でもないとはね……」

彼方「ホントにね〜」

リナ『侑さん、歩夢さん。コスモウムは日輪と月輪が交差する場所で、交差する時に、人の心に触れ、化身へと姿を変える……きっと、二人の心に反応して、太陽の化身か月の化身へと進化するはずだから』 || ╹ ◡ ╹ ||

エマ「頑張ってね! 二人とも!」

侑「はい、行ってきます」
 「────」

歩夢「行ってきます」
 「────」


私は歩夢と手を繋いで──祭壇を上り始めた。





    🎹    🎹    🎹





侑「……ねぇ、歩夢」

歩夢「なぁに?」

侑「私たち……なんか、すごい所まで来ちゃったね」

歩夢「……そうだね」


祭壇から見た景色は── 一面雲海に覆われている。……まるで、空の上にでもいるかのようだった。


侑「太陽の化身か月の化身だってさ」

歩夢「そうだね」

侑「どっちになると思う?」

歩夢「……リナちゃんが言ってたとおりなら……私たちの心に反応して、姿を変える……ってことだよね」

侑「そうなるね」


二人で手を繋いで、祭壇の頂上へ立つと──雲海の向こうから、日が昇り始める。

──暁時だ。

それと同時に──


 「────」
 「────」


2匹のコスモウムが激しく私たちの周囲を飛びまわり、輝き始める。

進化の時だ。


歩夢「侑ちゃん」

侑「ん」

歩夢「私たちの心の中にあるのが、太陽なのか、月なのか……それならもう、決まってるよ」

侑「決まってる……。……そうだね」
746 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:42:29.00 ID:jK0Y5xHa0

私は歩夢の言葉に頷いた。


侑「──歩夢は、私の太陽だから」

歩夢「──侑ちゃんは、私の太陽だから」

侑・歩夢「「私たちは……お互いがお互いの──太陽だから」」

 「────」「────」


暁の光に照らされて──朝と夜が入り混じるこの時、この場所で──2匹のコスモウムは──


 「──ガオーレッ!!!!」「──ラリオーナッ!!!!」


『光り輝く白銀の太陽』と『赤く燃える赫灼の太陽』へと姿を変えたのだった。





    🎹    🎹    🎹





 「──ガオーレ…」「──ラリオーナ…」

リナ『ソルガレオ にちりんポケモン 高さ:3.4m 重さ:230.0kg
   別世界に 棲むと いわれる。 全身から 無尽蔵の 光エネルギーを
   放出し 闇夜も 真昼のように 照らす。 遥か 大昔の 文献に
   太陽を 喰らいし 獣と いう 名前で 記録が 残っている。』

歩夢「太陽を喰らいし獣……」

侑「ソルガレオ……」


私たちはコスモウムが進化したポケモン──ソルガレオを見上げる。


果林「まさか……どっちも太陽の化身になるなんて……」

彼方「なんか……勝手にどっちかが太陽でどっちかが月だって思い込んじゃってたね……」


結果はどちらも太陽の化身──白銀の太陽と真っ赤な太陽だった。


 「──ガオーレ…」「──ラリオーナ…」


ソルガレオたちが、身を屈める。


侑「うん、ソルガレオ……!」

歩夢「行こう……愛ちゃんを止めに……!」


私たちは、ソルガレオの背に乗る。
747 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:43:33.55 ID:jK0Y5xHa0

かすみ「かすみんも乗りたいです〜!!」

せつ菜「私も乗ってみたいです!!」

果林「ダメよ、突入するのはあの二人だけ」

彼方「ウルトラスペースは生身で行くのは危険な場所だからね〜……何人も相乗りするのは危ないから〜」

かすみ「え……じゃあ、かすみんたちなんでここまで付いてきたんですか!?」

せつ菜「まさか……お見送りのため……ではないですよね……?」

果林「私たちには私たちで、やることがあるのよ」

しずく「やること……ですか……?」

姫乃「これから、ソルガレオたちの力によって……大きなウルトラホールが開くことになります」

遥「そこからは恐らく……ウルトラビーストが飛び出してきます」

かすみ「……なるほど、そういうことですか」

しずく「侑先輩たちが帰って来るまで……私たちは、そのウルトラビーストを捌き続ける」

せつ菜「確かに……1匹たりとも通すわけにはいきませんからね」

果林「そういうことよ」

エマ「か、果林ちゃん……! わたしも手伝うね……!」

果林「ええ、お願いね。でも、無茶はしちゃダメよ? エマは私の傍から離れずに戦うこと……いいわね?」

エマ「うん♪」

姫乃「……距離が……近い……」

果林「姫乃も、頼りにしてるわ」

姫乃「……! は、はい!! お任せください!!」

しずく「……はぁ〜……」

かすみ「しず子……何、うっとりしてんの……」

彼方「遥ちゃんは、お姉ちゃんから離れちゃダメだよ〜?」

遥「うん! もし負傷しても、私が皆さんを治療します!」

彼方「よろしくね〜遥ちゃん〜♪」


そして、果林さんが私たちに向き直る。


果林「侑、歩夢。貴方たちの帰る場所は……私たちが死守する。だから、愛のこと……よろしくね」

侑「はい!」

歩夢「絶対に愛ちゃんを止めて……帰ってきます」


私たちは、果林さんの言葉に頷いた。


侑「イーブイ、振り落とされないようにね」
 「ィブイ♪」

歩夢「サスケも……今日はお昼寝しないでね?」
 「シャーボッ!!!」


自分たちのポケモンに声を掛け──最後に、


侑「リナちゃん!」

リナ『うん!』 || > ◡ < ||


私がリナちゃんの名前を呼ぶと、飛んできて私の腕に装着される。
748 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:44:26.32 ID:jK0Y5xHa0

侑「行こう……! 愛ちゃんの居る場所へ! リナちゃんの想いを……伝えに……!」

リナ『うん! 侑さん、歩夢さん、私全力でサポートするね!』 ||,,> ◡ <,,||

歩夢「うん、お願いね、リナちゃん♪」

侑「頼りにしてるよ!」
 「ブイ♪」


私たちを背に乗せた白銀と赫灼の太陽が、


 「──ガオーレッ!!!!」「──ラリオーナッ!!!!」


“おたけび”を上げると──目の前に大きなウルトラホールが口を開く。


侑「歩夢」

歩夢「侑ちゃん」

侑・歩夢「「行こう! 愛ちゃんを止めに……!!」」


私たちは、最後の戦いへと──2匹の太陽と共にウルトラスペースを、走り出した。


………………
…………
……
🎹

749 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:48:00.64 ID:jK0Y5xHa0

■Chapter073 『ツナガル未来の為に』 【SIDE Yu】





「ガオーレッ!!!!」「ラリオーナッ!!!!」


──2匹の太陽は、光の速さでウルトラスペース内を駆けて行く。

猛スピードで流れる景色の中、他の世界へ繋がっているであろうウルトラホールを傍目に見ながら、私たちは進んでいく。


歩夢「す、すごいスピード……」

リナ『ソルガレオが持ってる光のエネルギーを速度に変換してるみたい!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「この速さなら……愛ちゃんに追い付ける……!!」
 「ブイッ!!」

リナ『ただ、ソルガレオから絶対に振り落とされないようにね。ソルガレオの周囲にはエネルギー場が発生してるから、侑さんたちに影響がないだけで……ウルトラスペースが生身で耐えられる環境じゃないのには変わりないから』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「了解! 歩夢、気を付けてね!」

歩夢「うん♪ 侑ちゃんも」


歩夢がニコリと笑って返してくる。

そんな私たちを見て、


リナ『二人とも……旅立ちの頃に比べると、すごくたくましくなったね』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんが、そんなことを言う。


歩夢「え、そ、そうかな……?」

リナ『特に歩夢さん! 最初はバトルは怖いって言ってたけど……今はすっかり頼もしくなった』 || > ◡ < ||

歩夢「……きっと、そうなれたのは……侑ちゃんが隣にいてくれたからだよ」

侑「歩夢……」

歩夢「……これまでずっと侑ちゃんが守ってくれたから、助けてくれたから。でも、これからは私も侑ちゃんを支えられるように、もっともっと強くなって……今度は私が侑ちゃんを守るんだって決めたから。侑ちゃんを隣で守るためなら、もう戦うのも怖くない」


歩夢はそんな風に言う。だけど──


侑「私はずっと前から……歩夢に助けられてばっかりだよ」


最初は私が歩夢を守らなくちゃいけないなんて息巻いて……空回りしたこともあったけど──いつの間にか、歩夢と一緒に戦うようになっていて、私も歩夢に背中を預けるようになっていて……。


侑「私も……歩夢が隣に居てくれるから戦える。歩夢が居てくれるから、勇気が湧いてくる。立ち向かえるんだ」

歩夢「侑ちゃん……」

侑「私は一人で戦ってるんじゃない。歩夢が、リナちゃんが、イーブイが……みんながいるから戦えるんだ」
 「イブイ♪」

歩夢「うん……私も、侑ちゃんが、リナちゃんが……サスケやみんながいるから戦える」
 「シャボ」

リナ『侑さん……歩夢さん……。……うん!』 ||,,> ◡ <,,||

 「ガオーレッ!!!」「ラリオーーナッ!!!!」


──ここまで旅をしてきて……出会ったポケモンたち。出会った人たち。いろんな出会いがあったから……今、私はこうして戦えている。


侑「そして……これからも、いろんな人たちと、いろんなポケモンたちと……新しい出会いを、新しい冒険をしたいから……」

歩夢「うん。……そうだね……。これからも、きっとたくさん、楽しいこと、わくわくすること……たくさんあるはずだから……」

リナ『誰かと誰かが繋がっていく明日のために……!』 ||,,> ◡ <,,||
750 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:48:34.91 ID:jK0Y5xHa0

──私たちはそんな当たり前の未来を守るために……。


侑「世界を……救おう!」
 「ブイ♪」

歩夢「うん♪ 私たちで!」
 「シャボ」

リナ『リナちゃんボード「ファイト、オー!」』 ||,,> ◡ <,,||

 「ガオーレッ!!!」「ラリオーーナッ!!!!」


愛ちゃんのいるところまで──あと、少し……!





    👑    👑    👑





──侑先輩たちがウルトラスペースに入っていって……。


しずく「侑先輩、歩夢さん、リナさん……どうか、ご無事で……」

かすみ「大丈夫だよ、しず子。侑先輩たちなら……絶対、愛先輩を止めて帰ってきてくれるって!」

せつ菜「ですね! 今は私たちに出来ることをしましょう!」

しずく「かすみさん……せつ菜さん……。……はい、そうですね」

果林「……なんて言ってる間にも」

彼方「お出ましみたいだね〜」


 「──ドカグィィィィッ!!!!」


エマ「わ……!? す、すっごい大きなウルトラビーストさん……!?」

遥「アクジキング……!」

姫乃「よりにもよってですね……」


ウルトラビーストの中でも一際大きな強敵……! ですが──


かすみ「前は苦戦しましたけど……今のかすみんは、あのとき以上に強いですよ!!」

しずく「私も、ウルトラビーストについてはたくさん研究したんです……!」

せつ菜「今更、この程度の相手、造作もありません!!」

 「ドカグィィィィィッ!!!!!」


侑先輩、歩夢先輩、リナ子……!

ここはかすみんたちが食い止めます。だから、世界を……お願いします……!



751 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:49:19.49 ID:jK0Y5xHa0

    👏    👏    👏





──ここまで、長かった。

りなりーが居なくなってから……毎日が地獄のようだった。

世界の全てが灰色に見えた。朽ちているように見えた。……壊れているように見えた。

何度も何度も悔いた。自分の無力さを、非力さを嘆いた。

世界で一番大切な人すら守れない……自分を呪った。

それが、やっと……やっと、終わる。

だのに──


愛「……最後の最後まで……アタシを邪魔する人たちは……いなくならないんだね」


振り返ると──


 「──ガオーーレッ!!!!」「──ラリオーーナッ!!!!」


白銀と赫灼の太陽が、背後から迫ってきていた。





    🎹    🎹    🎹





侑「──愛ちゃんっ!!」


ウルトラスペースの中に──愛ちゃんと共に前を飛ぶアーゴヨンと、時空・空間・反物質の神たちを見付ける。


愛「……こんな場所まで、よく追ってこられたね……。……これから大事な用事が残ってる神たちを傷つけられたら堪ったもんじゃない……。一旦戻れ」
 「ディアガ──」「バァァル──」「ギシャラァ──」


愛ちゃんが神のポケモンたちをボールに戻しながら、私たちを睨みつけてくる。


歩夢「愛ちゃん……! こんなこと、もうやめて……!」

リナ『愛さん……!! こんなことしても、誰も喜ばない……!!』 || > _ <𝅝||

愛「それを決めるのは、お前じゃない……──りなりーだ……!!」
 「アーーーゴヨンッ!!!!」


愛ちゃんの言葉と共に──アーゴヨンのお尻の毒針が黄色く輝き始める。


愛「“ヘドロウェーブ”!!」
 「アーーーゴヨンッ!!!!」


その輝きは濃縮されたブライトカラーの一筋の毒液となって、私たちに向かって発射される。


歩夢「ウツロイド!! “ヘドロウェーブ”!!」
 「──ジェルルップ…」


歩夢がボールからウツロイドを繰り出し、同じ技で対抗するが──ウツロイドの出した紫色のヘドロの波動を橙色の輝くヘドロ液が貫いてくる。


 「──ジェルップッ…!!」
752 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:50:21.60 ID:jK0Y5xHa0

愛ちゃんの攻撃はウツロイドをいとも簡単に弾き飛ばし──


歩夢「……っ……!?」


背後に居た歩夢の眼前に迫る。


侑「歩夢っ!!」
 「ガォーーーレッ!!!!」


私は咄嗟に、ソルガレオと一緒に歩夢の前に飛び出す。

“メタルプロテクト”を身に纏ったソルガレオの鋼鉄の体なら、受け止められると踏んでの防御だったが──ソルガレオの側面に攻撃が当たった瞬間、ジュウウウウウッ!!! と音が立つ。


 「ガォーーーーレッ……!!!!」
侑「な……っ!?」

リナ『侑さん!? 防ぎきれてない!?』 || ? ᆷ ! ||


どくタイプの攻撃なのに、はがねタイプで防ぎきれない……!?


侑「く……ニャスパー!! フィオネ!!」
 「ウニャァーーーッ!!!」「フィォ〜〜」


私は咄嗟にニャスパーとフィオネを出し、


侑「ニャスパー!! “サイコキネシス”!! フルパワー!!」
 「ウニャァァァッ!!!!」


ニャスパーが真上から、一直線に突き刺さる、橙色のヘドロ液を真下に向かって捻じ曲げる。


 「ガォーーーレッ…!!!」


その隙にソルガレオはその場から退避し、


侑「フィオネ! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーッ!!!」


フィオネが激しい水流によって、ソルガレオの体に付着した毒液を洗い流す。

幸いそれで毒を洗い流すことはできたけど──ソルガレオの鋼鉄の装甲は、毒によって変形していた。


歩夢「侑ちゃん……!! ソルガレオ……!! 大丈夫……!?」

侑「こっちは大丈夫……! それよりウツロイドは!?」

歩夢「こっちもどうにか……」
 「──ジェルルップ…」


吹っ飛ばされたウツロイドも、ふよふよとウルトラスペースを漂いながら、歩夢の傍に戻ってきていた。


侑「よかった……。それにしても……ソルガレオの鋼鉄の体でも受けきれないなんて……」

リナ『キズナ現象によって強化された影響だと思う……』 || > _ <𝅝||


──直後、真上から、


愛「──そうだよ。ゆうゆと歩夢じゃ、今のアタシたちは……止められない」

侑「!?」

愛「“エアスラッシュ”!!」
 「アーーーーゴヨンッ!!!!!」
753 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:50:53.34 ID:jK0Y5xHa0

いつの間にか真上を取っていたアーゴヨンが巨大なオレンジ色に輝く風の刃を、私たちに向かって放ってくる。


歩夢「ソルガレオ!! “テレポート”!!」
 「ラリオーーーナッ!!!!」


咄嗟に歩夢がソルガレオごと私たちに突進し──直後に全員を巻き込んで“テレポート”する。

──視界がフッと切り替わり、次の瞬間には私たちの目の前を巨大な風の刃が真下に向かって通り過ぎて行った。


侑「あ、ありがとう、歩夢……」

歩夢「う、うぅん……でも……ソルガレオ2匹分だと、ほとんど移動できなかった……」
 「ラ、ラリォーーナッ…」

リナ『質量が大きいと“テレポート”の移動距離や精度は下がっちゃうから……でも、歩夢さんの判断がなかったら直撃してた……』 || > _ <𝅝||


それにウルトラスペースのような安定しない空間で使ったからか、歩夢のソルガレオには疲労が見える。回避には何度も使えないかもしれない……。


愛「へー……やるじゃん。アタシのリーシャンでも、ここじゃうまく“テレポート”出来ないのに……」
 「アーゴ…!!!」

侑「愛ちゃん……!! もうやめて……!!」

愛「……ここまで来て、やめてくださいって言われてやめると思ってんの? “エアカッター”!!」
 「アーーーゴッ!!!!」


またしても真上から風の刃が降ってくる。

だけど、今度はさっきのような大きな一刃ではなく──複数の小さな風の刃が降ってくる。


 「ウーニャァッ!!!!」


それに向かって、ニャスパーが飛び出し、耳を全開にする。


侑「イーブイ!! サポートするよ!! “どばどばオーラ”!!」
 「イッブイッ!!!!」


イーブイからオーラが発され──僅かに“エアカッター”のスピードが鈍ったところに、


 「ウニャァーーー!!!」


ニャスパーが全力“サイコキネシス”で“エアカッター”をどうにか逸らす。

それでも、全てを逸らしきることは出来ず、


 「ガオーレッ…!!!」「ラリオーナッ…!!!」

歩夢「きゃぁぁぁぁっ……!?」

侑「ぐ……っ……!」

リナ『侑さんっ!! 歩夢さんっ!!』 || > _ <𝅝||


体の大きなソルガレオに攻撃が被弾し──ギャ、ギャギャギャと、耳障りな音と共に、風の刃で鋼鉄の鎧の表面が抉られる。

攻撃を受け、その身を大きく揺するソルガレオたちに、私たちは必死にしがみ付く。


歩夢「ソルガレオ……!! “ワイドガード”……!!」
 「ラリオーーナッ!!!!」


そんな中、歩夢が咄嗟に防御技を指示すると、ソルガレオの真上に大きなエネルギーの壁が出現し、風の刃を弾き飛ばす。
754 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:51:48.05 ID:jK0Y5xHa0

歩夢「侑ちゃん、平気……!?」

侑「た、助かった……ありがとう……」

リナ『“エアカッター”なのに……すごい威力……』 || > _ <𝅝||


本来はそんなに強力な技じゃないはずなのに、キズナ現象によって強化されたアーゴヨンは、ソルガレオの鋼鉄の防御すら平気で貫いてくる。

そんな中、愛ちゃんは攻撃を防いだニャスパーを見下ろす。


愛「……そのニャスパー……ドッグランでアタシを助けたニャスパーだよね」

 「ニャ〜」

愛「……やっぱり……りなりーのニャスパーだったんだね……」

 「ニャ〜」

愛「ねぇ、ニャスパー……。……アタシは今から、りなりーのところに行くんだ……。……一緒に行こう……りなりーのところに……」


愛ちゃんはそう言うけど、


 「ニャァ〜」


ニャスパーはふるふると首を振る。


愛「……そっか……。……ニャスパーも……わかってくれないんだ……。……でも、大丈夫……みんな一つになるから……」

リナ『愛さん……もうやめて……! そんなことしても、何も戻らない……! 誰も望んでる結果にならない……!』 || > _ <𝅝||

愛「だから……それを決めるのは……りなりーだ……」

リナ『璃奈だって、こんなこと望んでない……!! 望んでるわけない!!』 || > _ <𝅝||

愛「この問答にこそ意味がない……君の言葉は……どこまで行っても、りなりーの言葉じゃないんだよ……」

リナ『愛さん……』 || 𝅝• _ • ||

愛「……こんなところまで追ってきて、説得しようなんて甘いこと考えてないでさ……。本当にアタシのやってることが間違ってるって思うなら……力尽くで止めてみなよ……」
 「アーーーゴ…!!!」

愛「アタシもアーゴヨンも……とっくに覚悟は決まってるんだ……!! “りゅうせいぐん”!!」
 「アーーゴヨンッ!!!!」


アーゴヨンの全身がカッと眩く光る。直後──ウルトラスペース内だと言うのに、大量の流星が私たちに向かって降り注いでくる。


侑「く……ソルガレオ!!」
 「ガオーーレッ!!!」


ソルガレオが“おたけび”をあげながら、自身の体に周囲のエネルギーを集束し始める。

それと同時に私はソルガレオから跳び下りて、


侑「ウォーグル!!」
 「──ウォーーーッ!!!」


ボールから出したウォーグルの脚に掴まる。


侑「“メテオドライブ”!!」
 「ガオーーーレッ!!!!!」


ソルガレオは、自身に集束したエネルギーと共に、隕石のように真っ向から突進し──“りゅうせいぐん”を割り砕きながら、突き進む。

確かにアーゴヨンのパワーはすごいけど……こっちだって、ウルトラビーストなんだ……!!


 「ガオーーーーレッ…!!!!!」


“りゅうせいぐん”を正面突破しているにも関わらず、ソルガレオは全く勢いを衰えさせることなく──愛ちゃんたちに突っ込んでいく。
755 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:52:21.95 ID:jK0Y5xHa0

愛「……! アーゴヨン!!」
 「アーーゴッ!!!」


愛ちゃんは、砕ける“りゅうせいぐん”の影から飛び出してくるソルガレオに気付き、すんでのところで“メテオドライブ”を回避する。

それと同時に、


歩夢「ウツロイド……! 侑ちゃんたちを守ってあげて……!」
 「──ジェルルップ…」


ウツロイドが歩夢の指示で、ウォーグルの背中に張り付く。

今は歩夢のソルガレオが近くにいるから大丈夫だけど……もし離れてしまったら、ウルトラスペースの環境に耐えられなくなってしまうからだ。

愛ちゃんが“メテオドライブ”を回避したことで、


 「ガオーレ…!!!」

 「ラリオーナ…!!!」


自然と、上下に位置した2匹のソルガレオで挟み撃ちの形になる。


愛「やっと攻撃してきたね……」

侑「……」

愛「来なよ……ゆうゆ、歩夢……! どっちの考えが正しいか……白黒付けようじゃん……!!」
 「アーーーゴッ!!!!」


──アーゴヨンが輝く翼をしならせながら、猛スピードで飛び出してくる。


愛「“りゅうのはどう”!!」
 「アーーーーゴッ!!!!」


アーゴヨンの口にドラゴンのエネルギーが集束され──バヂバヂと音を立てながら、私たちに向かって一直線に飛んでくる。


侑「ドラパルト!! “りゅうのはどう”!!」
 「──パルトッ!!!!」


ドラパルトも対抗するように“りゅうのはどう”を発射し、


歩夢「ウツロイド!! “パワージェム”!!」

 「──ジェルルップ…」


ウォーグルの背中の上から、ウツロイドが“パワージェム”を発射する。

でも、2匹掛かりでも、どうにか軌道を逸らすのが限界──


侑「くっ……!!」
 「ウォーーーグッ…!!!」


直撃こそ避けたものの、アーゴヨンの発射した“りゅうのはどう”が目の前を過ぎるだけで、その余波によって、私たちは吹き飛ばされる。


歩夢「侑ちゃん!!」
 「ラリオーーナッ!!!!」


歩夢のソルガレオが吹き飛ばされた私たちを追って、駆け出そうとするが、


愛「“ドラゴンダイブ”!!」
 「アーーーゴッ!!!!!」


畳みかけるように、アーゴヨンが猛スピードで迫ってくる。
756 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:53:06.46 ID:jK0Y5xHa0

リナ『侑さんっ!? 避けてっ!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「っ……!」
 「ウォーーグッ…!!!」


ウォーグルはすぐに体勢を立て直したが──相手が速すぎる。

回避は無理……!


侑「ならっ……!!」
 「ウォーーーグッ!!!!!!」「パルトッ!!!!!」


ウォーグルが爪を、ドラパルトが尻尾を、身を捻りながらアーゴヨンの上から同時に叩き付けるようにして──攻撃を逸らす。

──彼方さん直伝のいなし術……!


愛「……! へぇー……!」


攻撃を捌かれ、アーゴヨンがすれ違いざまに通り過ぎた……瞬間──グイッと足が後ろに引っ張られる。


侑「……!?」
 「ウォーーグッ!!!?」


何かと思って下に目を向けると──


 「ルリ…!!!」

侑「ルリリの尻尾……!?」


いつの間にか、愛ちゃんが右手に掴んでいるルリリの尻尾が、私の足に巻き付いていた。

そしてそのまま、尻尾が戻る反動を利用して、


愛「さぁ、もういっちょだ……!!」
 「アーーーーゴッ!!!!」


アーゴヨンが再び“ドラゴンダイブ”で突っ込んでくる。

しかも今回はルリリの尻尾が私の足に絡みついているため、さっき以上に高い精度で真っすぐ私に突っ込んでくる。


侑「く……っ……イーブイ!! “わるわるゾーン”!!」
 「イッブイッ!!!」


苦し紛れにイーブイがゾーンを発生し、本当に僅かにアーゴヨンの突進速度が緩んだように見えたが、


愛「焼け石に水って言うんだよ……!! そういうの!!」
 「アーーーーゴッ!!!!!」


アーゴヨンは“わるわるゾーン”の中をお構いなしに突っ切ってくる。

避けきれない……!! そう思った瞬間、


歩夢「ソルガレオ!! “てっぺき”!!」
 「ラリオーーナッ!!!!!」


私たちの間に赫灼のソルガレオが、身を硬めながら飛び込んでくる。

だけど──アーゴヨンの猛烈な突撃に、


 「ラリオーーナッ…!!!!」
歩夢「きゃぁ……!!」
757 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:53:41.92 ID:jK0Y5xHa0

ソルガレオがパワー負けして、こちらに押されてくる。

それどころか、“ドラゴンダイブ”を真っ向から受けた“メタルプロテクト”にビシリとヒビが入る。


愛「邪魔っ!!」
 「アーーゴッ!!!!」


アーゴヨンが突撃したまま、ガパッと口を開き──そこにドラゴンエネルギーが集束され始める。


歩夢「……!」


至近距離で“りゅうのはどう”を撃たれそうになった瞬間、


侑「ソルガレオッ!! “メテオドライブ”!!」

 「ガオーーーーレッ!!!!!!!」


真上から、ソルガレオが急降下してくる。


愛「ち……! あっちが先!!」
 「アーーゴッ!!!!」


アーゴヨンは咄嗟に上を向き、真上から迫ってくるソルガレオに“りゅうのはどう”を発射する。

だが、こちらも大技による突進──“りゅうのはどう”を真っ向から突っ切っていく。


愛「くっ……」
 「アーゴッ」


愛ちゃんたちはこれ以上の撃ち合いを不利と見たのか、2匹のソルガレオに対して放っていた、“りゅうのはどう”と“ドラゴンダイブ”を中断し、またしてもソルガレオの大技をすんでで躱す。

どうにか歩夢から引き剥がすことが出来た──けど、これじゃまだダメだ。

私の足にルリリの尻尾が絡みついている。

これがある限り、愛ちゃんはいくらでも私を捕捉出来る。


侑「なら……!!」


私は──ウォーグルの脚を掴んでいた手を……自分から放した。


リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||


私は落っこちながらルリリの尻尾を手で掴み──


侑「フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーーッ!!!!」


小脇に抱えたフィオネの“ハイドロポンプ”を逆噴射させる。

ルリリの尻尾の戻る反動も使い、割って入って助けてくれた歩夢のソルガレオを飛び越えるようにして──

一気に愛ちゃんの方へと接近する。


愛「なっ……!?」


逆に利用されるとは思っていなかったのか、愛ちゃんが一瞬動揺する。

その一瞬の隙に、私はアーゴヨンのお腹の突起に手を掛けてしがみつく。


 「ブイッ!!!」


そして肩に乗っていたイーブイが愛ちゃんに向かって飛び出す。
758 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:54:17.27 ID:jK0Y5xHa0

侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
 「ブーーーイィッ!!!」


至近距離からの突撃──絶対に避けられない距離。

だと思ったのに、


 「ルーーリィッ!!!!」
愛「ちょ!? ルリリ!?」


ルリリが自分から愛ちゃんの前に飛び出して、攻撃を受けに出てきた。


侑「く……!?」

 「イッブィッ…!!!」


突撃の反動で跳ね返るイーブイを、


 「ウニャァ!!」


頭にしがみついていたニャスパーが、サイコパワーで私の元に引き寄せ救出。


愛「ルリリ……!!」
 「ルリィ…」


愛ちゃんは直撃を受け、瀕死になったルリリをキャッチしながら、


愛「離れろ……!!」


アーゴヨンにしがみついている私に蹴りを入れてくる。


侑「ぐっ……!?」


蹴り飛ばされ、私がウルトラスペースに放り出された──瞬間、


 「ガオーーーレッ!!!!!」


白銀のソルガレオが私の真下に滑り込み、間一髪で救出される。


歩夢「侑ちゃん、大丈夫!?」
 「ラリオーナッ!!!」

侑「な、なんとかね……」
 「ブィ…」


近寄ってきた歩夢と共に、再び愛ちゃんと相対する形になる。


愛「……生身で突っ込んでくるなんて……大した度胸だね。一歩間違ったら、ウルトラスペースの中に消えるところだったよ?」

侑「でも、お陰で……ルリリは倒せた……」

愛「……全くね。やるじゃん。正直……見くびってたよ……。……でも、もう遊びは終わり」
 「アーーゴッ!!!」


アーゴヨンが毒針をこちらに構える──


愛「“ヘドロウェーブ”!!」
 「アーーーゴッ!!!!!」


直後、橙色の毒液が毒針から噴き出す。

ただ、最初に使った集束された一本の毒液じゃない──3本の針から、辺り一帯を覆いつくすようなとんでもない範囲に毒液が発射され、それはまるで毒の壁のように私たちに迫ってくる。
759 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:54:47.99 ID:jK0Y5xHa0

侑「……!?」

リナ『こんなの避けられない……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「じゃあ……!!」

歩夢「防ぐしかない……!!」


私は咄嗟に、ドラパルトとウォーグルをボールに戻し、


侑「歩夢!!」

歩夢「うん!!」

侑・歩夢「「“ワイドガード”!!」」

 「ガオーーーレッ!!!!!」「ラリオーーーナッ!!!!!」


2匹分の防御技で広範囲攻撃を防ぐ。

最初の集束されたものと違って、広範囲に散っている分、攻撃力は低いと踏んでの防御策。

目の前に展開した大きな防御壁に眩しい蛍光色の毒液がべったりと張り付き前が見えない。

もし、これを破られたら──全員毒まみれになることになる。恐らく一滴でも当たろうものなら致命傷になるような猛毒。

だけど──ここは私たちの読みが勝っていた。

次第に勢いが弱まり──“ワイドガード”をべったりと覆っていた毒液が徐々に下に落ちて流れていく。

ただ──


リナ『……!? 毒液の向こうから、超巨大なエネルギー反応!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……なっ……!?」

歩夢「え……!?」


“ワイドガード”の向こう──アーゴヨンは、バヂバヂと周囲にエネルギーをスパークさせながら、超オレンジの光を放っていた。


愛「──“アルティメットドラゴンバーン”!!」
 「アーーーーゴッ!!!!!」


アーゴヨンの全身から、一気にエネルギーが発散され──それは空を飛ぶ一匹のドラゴンのような形になって──私たちに向かって超高速で突っ込んできた。

回避か防御かの判断すら間に合わず──直撃しそうになった瞬間、


 「──ジェルルップ」

歩夢「ウツロイドッ!?」


ウツロイドが私たちの盾になるように、“ミラーコート”を身に纏って、飛びだしていた。

が、もちろん攻撃を受け切れるわけもなく──ウツロイドを中心に、ドラゴンエネルギーが大爆発を起こした。


 「ガオーーーーレッ…!!!!」「ラリオーーーナッ…!!!!」


その爆発で、ソルガレオの巨体さえも軽々と吹き飛ばされ──


侑「ぐ、ぅぅぅぅぅ……っ!!!!」
 「ブィィィィィィッ!!!!!」「フィオーーーーッ!!!!!」「ウニャァァァァ〜〜〜!!!?」

歩夢「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

リナ『みんな!!!! 絶対手離しちゃダメ!!!! 耐えて!!!!!』 || >ᆷ< ||


私たちはポケモン共々必死にソルガレオにしがみつく。

だけど──余りの衝撃に、
760 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:56:01.33 ID:jK0Y5xHa0

侑「……あ」
 「ブイッ…!!!?」


私は手を──ソルガレオから離してしまった。

イーブイを肩に乗せたまま、ウルトラスペースに放り出されそうになった瞬間、


歩夢「侑ちゃんッ……!!!」
 「シャーーーボッ!!!!!」


歩夢の腕に尻尾を巻き付けたサスケが体を伸ばして、私の腕に噛みついた。


侑「っ゛……!!」


痛みを感じると同時に、私もサスケの体を掴む。


 「シャーーーーーボッ!!!!!」


サスケが全身の筋肉を使って、私を歩夢の方へと引っ張る。

それと同時に歩夢が私に向かって手を伸ばす。


歩夢「侑ちゃんッ!!!」

侑「歩夢ッ!!!」


伸ばした手が──ギリギリで、届いた。


歩夢「……っ!!」


歩夢がぐっと引き寄せ、私は歩夢に抱きしめられる形でどうにか難を逃れた。

歩夢にぎゅっと抱きしめられたまま──揺れるソルガレオの背の上で、じっと耐え続け……。


 「ラリオーーナッ…!!!」


やっとソルガレオが態勢を立て直す。


歩夢「ゆう……ちゃん……っ……」


揺れも衝撃もひとまず収まったけど……私を抱きしめる歩夢は、震えていた。


歩夢「…………ゆう……ちゃん……っ……」

侑「歩夢……もう大丈夫だよ……。私は……無事だから……」

歩夢「…………」

侑「ありがとう、歩夢……」

歩夢「……うん」


歩夢の背中を優しく叩きながら、二人で顔を上げる──

すると、


 「──ジェ…ル…」


私たちの近くを……ボロボロになったウツロイドが漂っていた。


歩夢「……っ……!! ウツロイド、戻って……!!」
 「ジェ…ル…ップ…──」
761 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:56:43.41 ID:jK0Y5xHa0

歩夢はすぐさまウツロイドをボールに戻す。


歩夢「ごめん、ごめんね……痛かったよね……ありがとう……っ……」


ギュッとボールを胸に抱きながら、ウツロイドへの謝罪とお礼を口にする。

ウツロイドが盾になってくれなかったら……私も歩夢も間違いなく、ウルトラスペースの彼方に吹き飛ばされていた……。


 「ガオーレッ!!!」


そこに、白銀のソルガレオが私のもとへと戻ってくる。


 「フィオーーッ!!!」「ウニャァ〜〜」


ソルガレオにしがみついていた2匹も無事で安心する。

……けど、


愛「──あっはは、間一髪だったね」

侑「……!」


気付けば──愛ちゃんがアーゴヨンと共に、目の前に来ていた。

爆風でかなり吹き飛ばされたはずなのに……。

恐らくアーゴヨンの猛スピードの飛翔能力で、吹っ飛ばした先から追い付いてきたのだろう。


愛「……見た? 今のZ技」

侑「Z……技……」

リナ『なんで、Z技が……』 || > _ <𝅝||


Z技は特別な道具を使って発動する超大技だ……。

でも、愛ちゃんはそんな道具を使った様子はなかった。


愛「Z技はね……ウルトラスペースに溢れる輝きのエネルギーと……ポケモンとのキズナを同調させて使うんだ。……本来はその同調に道具を使うんだけどね……アタシとアーゴヨンは……すでにキズナで繋がってる」
 「アーーーゴッ」


直後──アーゴヨンに再び超オレンジのエネルギーが集束され始める。


歩夢「に……二発目……?」


歩夢がソルガレオの上でへたり込む。


愛「……すごいと思うよ。あのとき出会った新米トレーナーたちが、ここまでアタシと張り合ったこと……誇っていいと思う」


愛ちゃんは私たちを見据えながら言う。


愛「でもね……ゆうゆや歩夢とじゃ……覚悟も、想いも、痛みも、強さも……積み重ねてきたキズナも……比べ物にならなかったってことだよ」


愛ちゃんはそう言うけど、


侑「そんなことないよ」
 「…ブイ」

愛「……?」

歩夢「侑……ちゃん……?」


私は──ぎゅっとイーブイを抱きしめて立ち上がる。
762 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:57:28.58 ID:jK0Y5xHa0

侑「覚悟はしてきた。大切な人たちを守りたい想いもある。戦うことの辛さも、失うことの痛みも知ってる。強さだって……ここまで旅して、いろんな経験をしながら……みんなと強くなってきた……」
 「ブイッ!!!!」


──イーブイが、光を放つ。


愛「な……」

侑「キズナだって……!! ここにある……!!」
 「イッブィッ!!!!!」


ここまで何度も困難と立ち向かってきた。どんな苦しい戦いも、イーブイと一緒に切り抜けてきた。

Z技の条件が……この場であることと……特別なキズナの繋がりだって言うなら──


侑「私と相棒だって……特別なキズナで結ばれてる……!!」
 「イブィッ!!!!!」


イーブイの周囲に、8色の光の球が浮き上がり──そこから8本の光の筋がイーブイに向かって注がれる。


歩夢「……侑ちゃんと……イーブイの……Z……技……」

リナ『“ナインエボルブースト”……!?』 || ? ᆷ ! ||

 「イッブイッ!!!!!!」


イーブイの体に8つの光の力が注がれ強化される。

私は、8色の光包まれて輝くイーブイを抱いたまま、


侑「歩夢」
 「ブイ♪」

歩夢「侑ちゃん……?」


へたり込んでしまった、歩夢に手を差し伸べる。


侑「……私とイーブイを……信じて」
 「ブイ!!」

歩夢「……うん!」


歩夢が私の手を取って立ち上がる。

立ち上がって──私の抱きかかえるイーブイの頭を撫でる。


歩夢「……この光……あったかい」


絶望的な状況なのに、その光は不思議と──安心するあたたかい光だった。


愛「……この土壇場で、技を覚醒させるとは思わなかったけど……でも、それでアタシのアーゴヨンの技を超えられる?」
 「アーーーゴッ!!!!」


気付けば、アーゴヨンの全身から今にも溢れ出しそうなくらいに、エネルギーが充填されている。


侑「……勝てるよ。だって、イーブイとのこのキズナは……私一人の分じゃないから」

愛「一人分じゃ……ない……?」


──私はずっと考えていた。

どうして、このイーブイは──“相棒わざ”を覚える、この特別なイーブイが……私のもとにやってきてくれたのか。

それは──いろんな人と出会う喜びを、繋がるきっかけを、私に教えるためだったんじゃないかなって。
763 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:58:16.45 ID:jK0Y5xHa0

──せつ菜ちゃんと戦って覚えた“めらめらバーン”。

──愛ちゃんと共闘して覚えた“びりびりエレキ”。

──エマさんに教えてもらった憩いの場で“すくすくボンバー”を覚え。

──彼方さんに稽古を付けてもらっているときに“いきいきバブル”を。

──しずくちゃんとピンチを乗り越えるために“こちこちフロスト”が。

──かすみちゃんと決死の戦いの中で“きらきらストーム”を閃き。

──璃奈ちゃん……リナちゃんとの一騎打ちで“どばどばオーラ”を。

──果林さんとの死闘の中で“わるわるゾーン”を覚えた。


イーブイがその身に覚えてきたことは……全部、私が旅の中で経験した、誰かとの出会いと、人との繋がりの中で生まれたんだ。

そして……もう一人。


侑「……歩夢」
 「ブイ」

歩夢「うん」


私は歩夢の肩を掴んで抱き寄せる。

イーブイには……まだ閃いていない、私の旅を一番近くでずっと支えてくれた──歩夢との、繋がりとキズナが残っている。


侑「だからこれが──最後の“相棒わざ”だ」
 「ブイッ!!!!」


私の旅の出会いと、キズナと、繋がりを象徴するこの技は──

イーブイが眩い光に包まれる。


リナ『新しい……“相棒わざ”の……反応……。……イーブイが……今、覚えた……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん。……私とイーブイ……歩夢とリナちゃんと……旅で出会った全ての人との繋がりとキズナがある……!! それは愛ちゃんにだって……負けたりしない……!!」
 「ブイッ!!!」

愛「……上等じゃん……」
 「アーーーゴヨンッ!!!!」


愛ちゃんとアーゴヨンが攻撃を構える。


愛「どっちの覚悟が、キズナが本物か……今ここで試してやろーじゃん!! アーゴヨンッ!!」
 「アーーーゴッ!!!!!」

愛「“アルティメットドラゴンバーン”!!」
 「アーーーーーゴッ!!!!!!」


アーゴヨンから超オレンジのエネルギーが放出され──1匹のドラゴンのような形となって、襲い掛かってくる。


侑「イーブイ」
 「イブイ♪」


イーブイに声掛けると、イーブイが嬉しそうに笑った。


侑「いっけぇぇぇ!!! イーブイ!! “ブイブイブレイク”!!」
 「イッブイッ!!!!」


イーブイが全身に光を纏って……ソルガレオの背を蹴り──猛スピードで飛び出した。

超オレンジのドラゴンと──キズナの力をその身に纏ったイーブイが、衝突し、周囲にエネルギーが弾け飛ぶ。
764 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:58:54.17 ID:jK0Y5xHa0

愛「そんなのただのすごい“たいあたり”でしょ!! アタシとアーゴヨンのキズナが負けるわけない!!」
 「アーーーーーゴッ!!!!!!」

侑「ただの“たいあたり”じゃない!! 私たちの今までの旅で見てきたもの、出会った人たちの想い、全部を乗せた“たいあたり”だよ!!」
 「ブゥゥゥゥゥィィィィィィィィィィッ!!!!!!!!!!!!!」


最後の“相棒わざ”とドラゴンのZ技が、ウルトラスペースの中で、轟音と衝撃波を発生させながら空間を揺らす。


 「ブゥゥゥイィィィィィッ!!!!!!」


イーブイの気迫はドラゴンのエネルギーの中を徐々に徐々に前に進んでいくが──


 「アーーーーーゴヨッ!!!!!!!!!!」


アーゴヨンも一歩も引かない。次から次へと自身のパワーを超オレンジに輝くドラゴンエネルギーに変換し、放出してくる。


 「ブ、ブィィィィィッ…!!!!」


一瞬、その勢いに飲み込まれそうになるけど──


歩夢「イーブイーーーー!! 頑張ってーっ!!」

 「イッブゥゥゥゥゥゥィッ!!!!!!!!」


歩夢の声援で、イーブイの纏う光が大きくなる。

このイーブイの力は──繋がりの力だから。


──あのとき、ゴルバットの攻撃に巻き込まれそうになった君を……助けたときから始まった。キズナの力だから。

あのときから……たくさん助け合って、ここまで来た。私と──私の相棒は、ここまでの全部を力に変えて、走ってきたから……!!


侑「イーブイッ!!!! いっけぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」
 「イッブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥイッ!!!!!!!!!!」


イーブイの光がより一層大きく膨れ上がり──


愛「うそ……でしょ……」


超オレンジで大閃光するドラゴンを内側から──大爆発させた。

──轟音と共に、先ほどとは非にならないほどの衝撃波が私たちに向かって飛んでくる。


侑「ぐぅ……っ……!! 歩夢ッ!! 私から離れないで……ッ!!」

歩夢「う、うん……っ!!!」


二人で身を伏せながら、ソルガレオの背にしがみつく。


 「ラリオーーーナッ…!!!」


必死に衝撃波に耐える赫灼の太陽を、


 「ガオーーーレッ!!!!!!」


白銀の太陽が後ろから支える。


 「ウニャァ〜〜〜」「フィオ〜〜〜!!!!」

リナ『ニャスパーもフィオネも、あとちょっとだから耐えて〜〜〜!!!』 || >ᆷ< ||
765 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:59:40.53 ID:jK0Y5xHa0

揺れる空間の中で必死に耐え続けると……次第に衝撃波は収まり始め──


 「──ブィィィィィ……」

侑「……!! イーブイッ!!!」

歩夢「……侑ちゃん!?」


イーブイがこちらに向かって吹っ飛んでくる。

私はイーブイに向かって、一目散に駆け出して、


侑「イーブイッ!!」
 「ブィ…」


イーブイに跳び付くようにキャッチする──と、同時に浮遊感。


リナ『侑さん!? 跳んだら落ちる!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「!?」


イーブイを助けること以外、何も考えてなかった……!?

飛び出してしまった私の真下に──


 「ガオーレッ!!!!」


滑り込むようにして、白銀のソルガレオが救出してくれた。


侑「あ、ありがとう……ソルガレオ……」
 「ガオーーレッ」

歩夢「……ほっ……」


どうにか、無事助かった……。


愛「……あっはは、あはははははははははっ!!!!」

侑「……!!」

愛「はぁ……っ……はぁ……っ……強い……強いね、確かに強いよ……っ……ゆうゆ……っ。それは認めてあげる。だけどね──」
 「…アーーーゴヨッ…!!!」

侑「……うそ」

歩夢「……そん、な……」


愛ちゃんとアーゴヨンは──まだ、倒れていなかった。

すでにボロボロだけど……それでもまだ、しっかりと飛んで、私たちを見据えていた。


愛「最後に勝つのは──やっぱり、アタシたちだ……!!」
 「…アーーーゴッ!!!!」


アーゴヨンがその身からカッとオレンジ色の光を放つと同時に──引き寄せられるようにどこからともなく、“りゅうせいぐん”が降り注いでくる。

──向こうも満身創痍による攻撃だけど……ボロボロの私たちを倒しきるには、十分すぎる攻撃だった。


愛「これで……終わりだぁぁぁぁぁっ!!!」


迫る流星。

どうにか逃げられないか、避けられないか、考えたけど──数が、多すぎる。

いや──
766 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:00:51.93 ID:jK0Y5xHa0

侑「ソルガレオ!!」
 「ガオーーーレッ!!!!!」


白銀のソルガレオと一緒に──赫灼のソルガレオの前に踊り出す。


歩夢「侑ちゃん……!? だめぇッ!!!」


せめて、歩夢だけでも……!!!

そう思って前に出たけど──それは必要のないことだった。

突然、私たちの目の前に──


 「──アーーーーゴヨンッ!!!!!!!!」

侑「……!?」


紫色の影が躍り出てきたからだ。


侑「アーゴヨン……!?」


しかも、愛ちゃんの持っているアーゴヨンと違う──紫色のアーゴヨンだった。

私たちに向かって降り注いでくる“りゅうせいぐん”は──


 「アーーーゴヨンッ!!!!!!」


突然現れた紫色のアーゴヨンの“りゅうせいぐん”によって──私たちに当たる前に、全て流星同士の衝突によって……砕け散った。


愛「な……」
 「アーゴ…」

 「アーゴヨン…」

侑「な、なにが……起きたの……?」

歩夢「野生の……アーゴヨンが……助けて、くれた……?」

 「アーーゴヨンッ」
リナ『まさか……君は……』 || ╹ᇫ╹ ||

 「アーゴヨン…!!!」

愛「……なんで……お前まで……アタシを裏切るの……?」
 「アーーゴ…」

 「アーーゴヨンッ!!!!」

愛「……くっそぉぉぉぉ……!! アーゴヨン!! “りゅうのはどう”……!!」
 「アーーーゴッ…!!!!」


愛ちゃんのアーゴヨンが“りゅうのはどう”を口から発射するのと同時に──


 「アーーーゴヨンッ!!!!!!」


紫色のアーゴヨンも──同じように“りゅうのはどう”を放っていた。

愛ちゃんたちは……もう体力が限界だったんだろう……紫のアーゴヨンが放った攻撃は……愛ちゃんのアーゴヨンの“りゅうのはどう”を真正面から貫き──


愛「……!!」
 「アーーーーーゴォッ……!!!!!」

愛「……ぐぅぅぅぅ……っ……!!」


愛ちゃんのアーゴヨンに直撃したのだった。

──最後の一撃を受けた、愛ちゃんとアーゴヨンは、
767 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:01:26.77 ID:jK0Y5xHa0

愛「く……そ……。…………」
 「アー…ゴ…」


──揚力を失って……ふらりと落ちていく。


愛「……あは、は……。……や、っと……。……お、わ、れる……。……りな、りー……。……いま……そっちに……いく、よ……」


愛ちゃんたちが、ゆっくりとウルトラスペースに……落ちていく──


リナ『──ニャスパァァァァァァァーーーーッ!!!!!!!!! 愛さんをッ!!!!!! 助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!』 || > ᆷ <𝅝||

 「ウニャァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!」


ニャスパーが……ソルガレオの頭を踏み切って──落ちていく愛ちゃんたちに向かって、跳びはねた。

そして──


 「ウニャァァァァァァァッ!!!!!!!」


全力のサイコパワーで、愛ちゃんとアーゴヨンを“テレキネシス”によって、救出した。


愛「………………」
 「アー…ゴ…」


──こうして……最後の戦いは、終わりを迎えたのだった……。





    🎹    🎹    🎹





──あの後……紫色のアーゴヨンはいつの間にか、ウルトラスペースの彼方へと、消えてしまっていた。

恐らくあのアーゴヨンは璃奈ちゃんと愛ちゃんの……。


愛「………………」

侑「ボールは……これで全部かな」

リナ『……うん。間違いない』 || ╹ _ ╹ ||


ニャスパーが間一髪で助けた愛ちゃんは……今はソルガレオの上で、腰を下ろしたまま……黙って俯いていた。

……もう戦う力が残っていないのか……その気力がないのか……。先ほどまでの激しい戦いぶりが嘘のように、大人しくなっていた。

どちらにしろ、ディアルガ、パルキア、ギラティナ含め……愛ちゃんの持っている全てのポケモンのボールを回収した。

開閉スイッチも壊したから……自分から飛び出してくることもない。
768 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:02:26.87 ID:jK0Y5xHa0

愛「………………」

リナ『……愛さん』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………なんで」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

愛「……なんで……助けたの……」

リナ『それは……』 || 𝅝• _ • ||

愛「……やっと……りなりーのところに……行けると思ったのに……」

リナ『…………』 || > _ <𝅝||

愛「……やっと終われるって……思ったのに……。……ねぇ……なんで……? ……なんで、助けたの……? ……ねぇ……!!」

リナ『…………』 || > _ <𝅝||

愛「答えてよっ!!」


激しくリナちゃんに向かって詰め寄る愛ちゃん。


愛「ねぇ……!!! 答えてよ!!!! なんで、助けたのっ!!!?」


詰め寄る愛ちゃんの前に──


歩夢「…………」


歩夢が歩み出て──

──パシンッ。

愛ちゃんの頬を叩いた。

私はその光景に……呆気に取られてしまった。


侑「……あ、歩夢が……人を……叩いた……?」


私はそんな光景を今まで一度も見たことがなかったため、心底驚いてしまった。

それは私だけではなく、


愛「…………ぇ……」


愛ちゃんも同様だったようで……。突然のことに目を丸くしていた。


歩夢「…………まだっ、……わからないの……っ……!!」


歩夢は怒っていた。大粒の涙を目に溜めながら……怒っていた。


歩夢「……リナちゃんが……璃奈ちゃんだからだよ……っ……!」

愛「……ぇ……」

歩夢「……前に愛ちゃんを助けたときと何も変わらない……っ!! リナちゃんが、璃奈ちゃんだからだよっ!! なんで、わからないのっ……!!」


歩夢の目から、ぽろぽろと涙が零れだす。


愛「…………変わら……ない……?」

歩夢「…………璃奈ちゃんが願ったことは……愛ちゃんと同じなんだよ……」

愛「……アタシと……同じ……? …………──……ぁ……」


歩夢の言葉に……何かに気付いて──愛ちゃんの目から、涙が零れだした。
769 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:03:25.31 ID:jK0Y5xHa0

愛「…………アタシ……りなりーに……生きてて……欲しかった……、……世界なんて……どうでもいいから……生きてて……欲しかった……」

リナ『愛……さん……』 || 𝅝• _ • ||

愛「…………そっ、か……りな、りーは……アタシに…………生きてて、欲しかったんだ…………」


それは鏡のようで──愛ちゃんが……心の底で願っていたことのように……。

璃奈ちゃんは──自分の夢だった、『みんなと繋がる』ことよりも……それ以上に……愛ちゃんに生きて欲しかった。

生きていて……欲しかった。

生きていて……欲しがった。

ただ……愛ちゃんに……この世界で生きていく未来を、選んで欲しかった。


愛「……ぁ、ぁぁっ……」


愛ちゃんが──泣き崩れる。


愛「……ぅ、ぅっ、ぁぁぁぁっ、……り、なりーっ、……りな、りーっ、……りな、りー……っ……ぅぅっ、ぁっ、ぅぁぁぁぁぁぁっ」


──しばらくの間……ウルトラスペースには、愛ちゃんの嗚咽が……静かに静かに……響いていたのだった……。





    👑    👑    👑





 「──ジ、ジジ……ジ……ジ……。……」


──ズウン、と音を立てながら、デンジュモクの巨体が崩れ落ちる。


せつ菜「……はぁ……はぁ……やっと……倒せました……」
 「ワォンッ…!!!」

かすみ「はぁ……はぁ……これで……何匹目……ですか……?」
 「カイン…ッ」

しずく「はぁ……っ……はぁ……っ……ご……50匹……くらいかな……」

彼方「さすがに……きついかも〜……」

果林「……数が……多すぎる……」


長い間続く、度重なる戦闘にかすみんたちはもう限界ギリギリでした。


エマ「み、みんな、大丈夫……!?」

姫乃「弱ったポケモンはこちらに……!!」

遥「怪我した方が居たら、すぐに診ます……!!」


後方で回復を任せていたエマ先輩とはる子、その二人の護衛をしていた姫乃先輩が駆け寄ってくる。


かすみ「侑先輩……歩夢先輩……リナ子……早く……帰ってきて……」


祈るように呟いた──そのときだった。

目の前のウルトラホールが眩く輝いて……その向こうから──


せつ菜「……! 皆さん!!」

しずく「……! あのポケモンたちは……!」
770 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:04:25.56 ID:jK0Y5xHa0

真っ白な太陽と、真っ赤な太陽が──こちらに向かって駆けてきているところだった。


かすみ「……侑先輩ーーー……! 歩夢先輩ーーー……! リナ子ーーー……!!」


気付いたら、私は走り出していました。





    🎹    🎹    🎹





──ホールから飛び出すと、


せつ菜「侑さーん!! 歩夢さーん!! リナさーーん!!」

しずく「皆さん……よくぞ、ご無事で……っ……」


せつ菜ちゃんが手をぶんぶん振りながら駆け寄り、しずくちゃんは口元を押さえて涙を堪えていた。


 「ガォーレ」「ラリォーナ」


2匹のソルガレオが身を屈め──私たちは、“暁の階”へと降りていく。

そんなに長い時間ではなかったはずなのに……すごく久しぶりに地面を踏みしめた気がした。

そして──


かすみ「ゆ゛う゛せ゛んぱ〜い゛……!! あ゛ゆ゛む゛せ゛んぱ〜い゛……!! リ゛ナ゛こ゛ぉ゛〜〜……!!」


かすみちゃんが涙でぐしゃぐしゃになりながら、私たちに抱き着いてくる。


侑「おっとと……」

歩夢「きゃ……」

リナ『かすみちゃん……』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「み゛んな゛、か゛え゛って゛き゛て゛く゛れて゛……よ゛か゛った゛よ゛ぉ゛〜……」


かすみちゃんはもうすでに涙でぐしゃぐしゃだった。


侑「ただいま……かすみちゃん」

歩夢「ごめんね……心配掛けちゃったかな……」

かすみ「し゛んぱい゛し゛た゛にき゛ま゛って゛る゛じゃな゛い゛です゛か゛ぁ゛〜〜〜……!! い゛っし゛ゅ゛うか゛んもも゛と゛って゛こ゛な゛い゛か゛ら゛ぁ゛……、ゆ゛う゛せ゛んぱいた゛ち゛、ま゛け゛ち゛ゃった゛んじゃな゛いか゛って゛ぇ゛……」

しずく「そうですよ……っ、どれだけ心配したと思ってるんですか……っ……」

侑「え……!?」

歩夢「い、一週間……?」

侑「私たちがウルトラスペースに居たのって……せいぜい半日くらいじゃ……」

リナ『……ソルガレオの力を使って亜光速で移動してたから……私たちが半日と感じていた間に、こっちでは一週間経過してたんだね……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「そ、そういうものなの……?」

リナ『そういうもの。むしろ、一週間くらいで済んでよかった』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


そういうものらしい……。つまり、かすみちゃんたちは……一週間もウルトラビーストたちの猛攻に耐えながら、私たちを待ち続けてくれていたらしい……。
771 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:05:24.75 ID:jK0Y5xHa0

侑「ご、ごめんね……!! そんなことになってるなんて知らなくて……!!」

せつ菜「ですが……信じていました。きっと、お二人なら、帰ってきてくれると……」

歩夢「せつ菜ちゃん……」

かすみ「せ゛つ゛な゛せ゛んぱい゛す゛る゛い゛て゛す゛ぅ゛……!! か゛す゛み゛んか゛い゛お゛う゛と゛お゛も゛って゛た゛の゛に゛ぃ゛……!!」

せつ菜「え、あ……す、すみません……!」

しずく「はいはい……涙拭いてからにしようね。ほら、可愛い顔が台無しだよ?」

かすみ「か゛わ゛い゛く゛な゛い゛の゛や゛た゛ぁ゛〜〜……」

しずく「大丈夫だから、もう全部終わったからね……なでなで」

かすみ「し゛す゛こ゛ぉ゛〜……」

しずく「ちょっと今日は落ち着くまで、時間が掛かりそうです……」

せつ菜「それだけの戦いだったんです……今日くらいは存分に泣いても誰も文句は言いませんよ」

侑「うん。……ただいま、かすみちゃん」

歩夢「ただいま……待っててくれて、ありがとう」

かすみ「ひぐ……ひっく……っ……。……お゛か゛え゛り゛、な゛さ゛い゛〜……」


私たちが再会を喜び合う中、


彼方「3人とも……おかえり」

果林「……おかえりなさい」

エマ「侑ちゃん……歩夢ちゃん……リナちゃんも……よかった……っ……」

姫乃「……こっちでも、泣きださないでくださいよ……はい、ハンカチ……涙拭いてください……」

エマ「ご、ごめんね……ありがとう、姫乃ちゃん……」

遥「ふふ♪ ……おかえりなさい、侑さん、歩夢さん、リナさん」


彼方さんたちも、こちらにやってくる。


果林「無事に……終わったみたいね……」

侑「はい……!」

果林「それと……」


果林さんの視線が──


愛「…………」


やっと、ソルガレオの背から降りてきた、愛ちゃんに向けられる。


果林「……愛」

愛「…………」


果林さんは、愛ちゃんに歩み寄り──


果林「…………ごめんなさい」


愛ちゃんを抱きしめた。
772 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:06:07.38 ID:jK0Y5xHa0

愛「…………カリン……?」

果林「私……自分のことばっかりで……貴方の痛み……全然理解してなかった……」

愛「…………」

果林「……ごめんなさい……」


そして、


彼方「……愛ちゃん……ずっと一人にして……ごめんね……」

愛「……カナちゃん……」


彼方さんも愛ちゃんをギュッと抱きしめる。


彼方「……仲間がこんなに辛い思いしてたのに……わたしも……カリンちゃんも……自分たちのことでいっぱいっぱいで……、愛ちゃんの痛みに全然寄り添ってあげられなかった……」

愛「…………まだ…………アタシを……仲間って……言ってくれるんだね……」

彼方「……もちろんだよ……。途中で道は違えちゃったけど……わたしたちはずっと……4人で世界を救う為に……戦ってきたんだもん……」

果林「……私がしてしまった過ちは……元には戻らない……それでも……また、やり直したい……。……仲間として……」

彼方「……うん。……みんなで、やり直そう……」

愛「…………カリン…………カナちゃん…………。…………うん」


かつての仲間同士……抱き合う、3人を──


リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

侑「リナちゃん」

リナ『……なぁに?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「行っておいで」

リナ『…………でも、私は……璃奈じゃ……』 || 𝅝• _ • ||

侑「大事なのは……姿形じゃないよ」

歩夢「本当に大切なのは……リナちゃんが、愛ちゃんたちを想う心……なんじゃないかな」

リナ『侑さん……歩夢さん……』 ||   _   ||


リナちゃんは少し考え込んだけど──


リナ『……私、行ってくる……!』 || > _ < ||


愛ちゃんたちのもとへと飛んでいった。


リナ『みんな……!!』 || > _ < ||

愛「……ぁ……」

果林「……璃奈ちゃん」

彼方「……ふふ……やっと4人、揃ったね」

リナ『……私……私も……またみんなと……やり直したい……。……こんな姿になっちゃったけど……。……ダメ……かな……』 || > _ < ||

彼方「……もちろん大歓迎だよ〜♪ ね、果林ちゃん♪」

果林「ええ……また4人で」


頷く彼方さんと果林さん、


愛「……ぁ……ぇっと……」
773 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:06:38.91 ID:jK0Y5xHa0

愛ちゃんはリナちゃんの言葉に目を泳がせていたけど──


果林「ほら……愛も」

彼方「……愛ちゃん」

愛「…………」


果林さんが愛ちゃんの背中を叩き、彼方さんが愛ちゃんの肩に手を置く。


リナ『……愛さん……』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………」


二人が向き合う。だけど──


愛「………………すぐには…………ごめん…………」


愛ちゃんはそう言って、目を逸らす。


リナ『……! ……だ、だよね……ごめんなさい……』 || 𝅝• _ • ||

愛「でも……」

リナ『……!』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「…………少しずつ……受け止めていくから……。……あの子が選ばせてくれた未来を……受け止めていくから……」

リナ『……愛さん……』 || 𝅝• _ • ||

愛「だから……少しだけ……もう少しだけ……待ってて……──りなりー」

リナ『……!! 今……』 || 𝅝• _ • ||

愛「…………」


愛ちゃんはそれっきり、口を閉ざしてしまったけど──


リナ『うん……待ってる。待ってるね……!』 || > ◡ <𝅝||


リナちゃんには──うぅん、璃奈ちゃんには、ちゃんと伝わったようだった。


姫乃「…………」

エマ「姫乃ちゃんたちは……行かなくていいの……?」

姫乃「……入れませんよ……。……あそこは、あの4人の場所ですから……」

遥「はい……やっと……長いわだかまりが解け始めたんです……今は4人で……」

姫乃「……だから、邪魔……出来ませんよ」

エマ「……そっか。……偉い偉い」

姫乃「……頭撫でないでください……」

エマ「……ふふ、遠慮しなくていいんだよ♪」

姫乃「してません!!」

遥「ふふ、すっかり仲良しですね♪」

エマ「うん♪」

姫乃「あぁもう……。……まあ、いいですよ……今くらい……」


──こうして……長かった戦いは……終わったのだった。
774 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:08:36.37 ID:jK0Y5xHa0

歩夢「侑ちゃん」

侑「ん」

歩夢「帰ろっか」

侑「うん」


私たちはやっと……平穏な日常へと、帰っていく──



775 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:09:06.29 ID:jK0Y5xHa0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【暁の階】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.●⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口
776 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:09:40.27 ID:jK0Y5xHa0

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.79 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.76 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.75 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.74 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.73 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
      ソルガレオ Lv.77 特性:メタルプロテクト 性格:ゆうかん 個性:からだがじょうぶ
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:259匹 捕まえた数:12匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.66 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ソルガレオ✨ Lv.77 特性:メタルプロテクト 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:227匹 捕まえた数:20匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.80 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.74 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.73 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.72 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.73 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.73 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:262匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.67 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.67 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.67 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.67 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.67 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.67 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:238匹 捕まえた数:23匹

 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.38 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.82 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.80 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.83 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:75匹 捕まえた数:9匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



777 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:14:24.67 ID:gpGK8xOx0

■Chapter074 『それから……』 【SIDE Yu】





 『──さん……侑さん……起きて、侑さん』

侑「…………ん、ぅ…………」


声がして、ぼんやりと目を開ける。


リナ『朝だよ、侑さん♪』 || > ◡ < ||

侑「……リナちゃん……おはよ……」

リナ『おはよう♪』 || > ◡ < ||


リナちゃんの挨拶と同時に──


 「ブィ♪」
侑「ぐぇ……」


イーブイがお腹に飛び乗ってくる。


侑「それやめてって言ってるのに……」
 「ブイブイ♪」

リナ『イーブイも早く起きろって言ってるよ♪』 || > 𝅎 < ||

侑「起きるから……」
 「ブイ♪」


イーブイをお腹の上から降ろして、ベランダへと出て行くと──


歩夢「──あ、おはよう、侑ちゃん、リナちゃん♪」
 「シャーボ」


いつものように、ベランダ越しに歩夢が待っていた。


侑「おはよ、歩夢。サスケも」

リナ『おはよう♪』 || > 𝅎 < ||

 「ブイ」


私が歩夢たちに挨拶をしていると、とことこと私の後を付いて部屋から出てきたイーブイが、器用にベランダの手すりに飛び乗って、歩夢の部屋へと歩いて行く。


 「ブイ♪」
歩夢「イーブイもおはよう♪」


歩夢が挨拶しながら、イーブイを抱っこすると、イーブイは嬉しそうに鳴く。


侑「落ちても知らないよ……」

歩夢「そのときは侑ちゃんが助けてくれるから平気だよね〜♪」
 「ブイ♪」

侑「歩夢……あんまり甘やかさないでよ〜……」


まあ……こんな会話が出来るのも……平和だからこそだけどさ……。
778 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:15:08.29 ID:gpGK8xOx0

リナ『歩夢さんは久しぶりのお家のベッドだったと思うけど……昨日はよく眠れた?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「うん、たくさん寝て、調子がいいくらい♪」

侑「やっぱり、自分の家のベッドが一番だよねぇ……病院のベッドはなんか気疲れしちゃうし……」

歩夢「あはは……そうだね。私はみんなでお泊りしてるみたいで楽しかったけど」


──なんで病院のベッドの話が出るかというと……私たちはつい最近まで、検査入院のため国際警察の持っている医療機関で過ごしていたからだ。

私、歩夢、かすみちゃん、しずくちゃん、せつ菜ちゃんの5人は戦いのために何度もウルトラスペース内を行き来していたため、“Fall”のような症状が出ていないかの検査をする必要があった。

幸い、誰にも症状らしい症状は出ていなかったし……特にかすみちゃんは、5人の中でも一番ウルトラスペースで過ごした時間が少なかったために、入院したのはたった1日だけで……。


かすみ『なんで、かすみんだけ一人ハブられてるみたいになってるんですかっ!』

しずく『退院出来るんだからいいでしょ……』


逆に文句を言って、しずくちゃんに呆れられていた。

私は最後の戦いで長時間ウルトラスペースに居続けたため、せつ菜ちゃんも長い間、別の世界で過ごしていたことから、1週間ほど掛けて精密検査を行った。

そして、異常がなかったため退院。

歩夢はウツロイドの毒の影響がないかなどを詳しく調べたため……さらに1週間長く入院していたけど……全く問題がなかったということで、昨日退院になった。

ただ……しずくちゃんはまだ入院中だ。


侑「しずくちゃん、元気だった?」

歩夢「うん。少しずつウルトラビースト症もよくなるだろうって」

侑「そっか……よかった……」


しずくちゃんは……フェローチェから受けたウルトラビースト症による後遺症が少し残っていた。

ただ、本人の意思の強さで、ほとんど克服しかけていたらしく……さらに、果林さんがフェローチェとフェローチェの知識を提供したことによって、快復も十分に見込めるとのことらしかった。


侑「……さて……今日はどうする……?」

歩夢「うーん……せっかくだし、9番道路の方にお散歩に行かない? 太陽の花畑に行きたいな♪」

侑「ふふ、わかった」

歩夢「じゃあ、私準備するから、侑ちゃんも朝ごはん食べたら来てね♪」

侑「了解」


歩夢がパタパタと部屋に戻っていく。


侑「……あ」

リナ『どうかしたの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「イーブイ……歩夢が連れてっちゃった……」

リナ『……相変わらずどっちが“おや”なんだか……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「ホントにね……。……んー……」


私はベランダで軽く伸びをする。

空を見上げると──


侑「……今日も平和だね」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||
779 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:16:31.65 ID:gpGK8xOx0

青い青い空が広がっていた。

みんなで守った……どこまでも続く、青い空が──





    🎹    🎹    🎹





さて……あの後、みんながどうなったかを少し話そうかな。

まず、かすみちゃんとしずくちゃん。


かすみ「さぁ、行くよジュカイン! いざ、チャンピオンロードへ!」
 「カインッ!!!」

しずく「ふふ、張り切ってるね♪」

かすみ「もちろん! かすみん、このままチャンピオンになっちゃうかも!」

しずく「頑張ろうね♪ 応援してるよ!」

かすみ「うん! しず子、ちゃんと付いてきてね!」

しずく「もちろん。かすみさんとなら、どこまででも」

かすみ「じゃあ、しゅっぱ〜つ!!」
 「カインッ!!!」


かすみちゃんはしずくちゃんが退院後、またすぐに二人で旅に出たみたい。

あっちこっちのジムで本気のジムリーダーと戦ったり……今は四天王への挑戦もしているという話を聞いたり聞かなかったり。

しずくちゃんは、そんなかすみちゃんと一緒に、冒険を続けているみたい。

前にセキレイで会ったときに、しずくちゃんには旅の目的があるのか訊ねてみたら──


しずく『今は……かすみさんと一緒に、この楽しい旅を続けられたら……それだけで幸せなんです。……あ、これ、かすみさんには内緒にしてくださいね……? ……さすがに本人に知られるのは、恥ずかしいので……なんて♪』


そんな風に言って、いたずらっぽく笑っていた。

今も二人はこのオトノキ地方のどこかで、仲良く冒険をしている。



 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.81 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.75 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.73 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.72 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.73 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.73 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:269匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.67 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.67 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.67 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.67 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.67 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.67 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:256匹 捕まえた数:23匹



780 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:17:20.38 ID:gpGK8xOx0

    🎹    🎹    🎹





次にせつ菜ちゃん。せつ菜ちゃんには千歌さんの誘拐幇助の容疑が掛けられていたんだけど……千歌さんがこれを真っ向から否定。

頑なに、あれはたまたまバトル中に起こったアクシデントだったとリーグに主張し続け……果林さんからも、せつ菜ちゃんはあくまで自分が無理やり言うことを聞かせていたという証言から、完全にお咎めなしとまではいかなかったけど、リーグから厳重注意を受けるくらいに落ち着いた。

……ただ、せつ菜ちゃんもせつ菜ちゃんのご両親も、逆にそれでは納得がいかなったらしく……特にせつ菜ちゃん本人が、ちゃんとペナルティを科して欲しいとリーグに強く主張したらしい。

まさかの当事者からの申し出に海未さんは相当頭を悩ませたらしいけど……結局、3ヶ月間のトレーナー活動の制限及び地域への奉仕活動を言い渡され、ペナルティを受けたせつ菜ちゃんは何故か満足気だったとか……。

そして……せつ菜ちゃんの事実上の責任者だった真姫さんは責任を取って、ジムリーダーを辞め……るつもりだったらしいけど……これも、せつ菜ちゃんのご両親が反対し不問に……なるかと思いきや、これまた何故か当事者の真姫さんが、「それじゃ、示しが付かない」と海未さんに直談判。

悩みに悩んだ海未さんは、突然のジムリーダー辞職は街への影響も大きすぎるという理由から、辞職は受け入れず、3ヶ月間の謹慎ということに落ち着いたそうだ。

なんだか、せつ菜ちゃんと真姫さんの頑固さは……ある意味似た者同士なのかもしれない。

真姫さんが謹慎中は臨時で梨子さんがジムを見ていたそうだ。

そして、せつ菜ちゃんは今──


せつ菜「……これじゃ、全然ダメ」

菜々父「……これでダメなのか」

せつ菜「確かに硬い素材だとは思うけど……私のポケモンのスピードも乗せたら、簡単に壊せちゃうかな。硬度だけじゃなくて、もっと靭性を高めないと耐えられないと思う」

菜々父「わかった。改良しよう。……また、時間があるときに、意見を聴かせてくれ」

せつ菜「うん、わかった」

菜々母「二人ともー、お仕事の話もいいけど、いい加減ご飯にしましょうー?」

せつ菜「あ、お母さんが呼んでる……! 行こ、お父さん」

菜々父「そうだな。菜々」


以前のように、修行の日々を過ごしながら……時折お父さんのお仕事を手伝っているそうだ。

その内容は……ポケモンの攻撃にも耐えられる装甲や建材の研究。

ただ、前と違って、ポケモンと人とを断絶するものとしてではなく、人とポケモンがよりよく共存するために……ポケモンが苦手な人や小さな子供でも安心してポケモンと触れ合えるようにするための道具を研究しているそうだ。

最近はよくご両親とポケモンバトルの観戦に行くことも増えたらしく、この間会ったときにその話を嬉しそうに話してくれた。

すっかりわだかまりは解消され──前以上に笑顔が明るくて、元気で……そして、誰よりも強い、私が憧れたせつ菜ちゃんに戻ってくれて……本当に心の底から安心している。

もう、心配の必要はなさそうだ。



 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.51 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.82 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.80 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.83 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:143匹 捕まえた数:9匹



781 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:18:32.73 ID:gpGK8xOx0

    🎹    🎹    🎹





次は彼方さんと遥ちゃん。

あの戦いのあと……国際警察とオトノキのポケモンリーグは連携して、プリズムステイツ政府と交渉をしていくことになったようです。

そして、その間に立つのは彼方さんたち……なんだけど……。

彼方さんたちはプリズムステイツからは敵として認識されていたため、国際警察の護衛を付けた状態で、一旦プリズムステイツへ向かい、璃奈ちゃんの事故や……そもそも、世界を救うために政府がやろうとしていた他世界への侵略を公表。

詳しくはわからないけど……かなりいろいろあった中で、結局政府の代表や役員たちが更迭されることになったらしい。そして、組織も事実上の解体……。

今後どういう形になっていくのかはわからない。住民たちを移住させるのか、どうにか新しい解決方法を見つけるか……そこにまだ答えは出ていないけど……全てを一からやり直して、一歩ずつ一歩ずつ、誰もが笑える未来を目指して、こっちの世界と向こうの世界を行き来しながら日々奔走しているそうだ。

ちなみに、あの戦いが終わったあと、私と歩夢の2匹のソルガレオは彼方さんにお返しした。

もともと私たちのポケモンではなかったし……今後、世界間を行き来して、交渉をしていくには必要だと思ったからだ。

そして、リナちゃんも、たびたび知恵を貸すために彼方さんのところに呼び出されている。

そういえば……それについて、彼方さんのところを訪れた際に、こんな会話をした。


リナ『ディアルガたちの力を使えば、救えないかって?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「うん……。愛ちゃんは爆発させようとしてたけど〜……うまく力をコントロールすれば出来るんじゃないかなって〜……」

リナ『……うーん。……出来るかもしれないし、出来ないかもしれない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「伝説のポケモンでも、出来るかわからないの……?」

リナ『特異点への到達自体、今のままじゃ事実上の片道切符みたいなものだし……。それに、すごい力を持ってても、ただインフレーションさせることと、制御するのじゃ難易度も変わってくる。どれくらいの規模や制約があるのかをしっかり確認しないと……難しい。試してみる価値はあるけど、それは結局これからの研究次第かな……』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「そっか〜……なかなか簡単には行かないね〜……」

リナ『それに……理論を提唱していた私が言うのはおかしいかもしれないけど……どこかから無理やりエネルギーを持ってきても……結局どこかで歪みが生じちゃうんじゃないかなって……今は思ってる』 || 𝅝• _ • ||

侑「……」

リナ『規模が大きすぎてわかりづらいけど……結局、起こっているのは自然現象だから……無理やり仕組みを変えるんじゃなくて、どう折り合いを付けていくかを考えなくちゃいけなかったのかなって……』 || > _ <𝅝||

彼方「……それは……そうかもしれないね……」

リナ『もちろん、抜本的に解決出来る方法があるかもしれないし、それはこれからも探していく。自分たちの住んでいる場所はもう寿命だから諦めようって言われても、誰も彼もが「はい、わかりました」とはなかなかならないし……そういう考えの違いはまた争いを生む。そういう問題も含めて……私たちは向き合っていかなくちゃいけないんだと思う』 || ╹ _ ╹ ||

侑「……もし、私たちに何か協力できることがあったら、遠慮なく言ってください……! リナちゃんや彼方さんたちが私たちの世界を守ってくれたみたいに……私たちもそっちの世界を助ける何かが出来ればって思うから……」

彼方「ありがとう、侑ちゃん〜……その気持ちだけでも心強いよ〜」

リナ『うん! そのときはお願いさせてもらうね!』 || > ◡ < ||


果たして、世界の寿命というものが人の手にどうにか出来るものなのかはわからないけど……誰もが手を取り合える落としどころが見つかればと願うばかりだ……。

そして……これはいつか、私たちの世界にも訪れる問題だということも忘れないように……。



782 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:19:37.76 ID:gpGK8xOx0

    🎹    🎹    🎹





果林さんたちは、戦いのあと……本人たちもわかっていたように、国際警察に捕まり、収監されることになった。

ただ、他世界の住人というのは当たり前だけど前例がなく……扱いには困っている模様。

果林さんたちが罪を認めて、償う気で居るのが、ある意味救いかもしれない──


エマ「果林ちゃん、体調崩してない……? ご飯ちゃんと食べてる……? 朝はちゃんと起きられてる……?」

果林「……その話、先週の面会でもしたわよ。……大丈夫よ、ご飯は食べてるし、至って健康。……朝は……まあ、頑張って起きてる」

エマ「なら、いいんだけど……。……他の二人は……? 特に姫乃ちゃんは面会に来ても会ってくれなくて……」

果林「愛と姫乃もたまに会うけど……模範囚みたいよ」

エマ「ちゃんと出来てるんだね……! よかったぁ……みんな偉いよ……!」

果林「はぁ……悪いことして捕まったんだから、ちょっとまともなことしたって、別に偉くないわよ……」

エマ「そ、そんなことないよ……!」

果林「全く、エマ……そんなんじゃ、悪い人に騙されないかが心配だわ……」

エマ「だ、大丈夫だよ……たぶん」

果林「……あんまり心配しないで、エマ。私たち……少しでも早く外に出て、彼方や貴方と一緒に……やり直すつもりだから。待ってて」

エマ「果林ちゃん……。……うん、待ってる」


エマさんは……あの戦いのあと、牧場での仕事を辞め──なんと、ポケモンリーグの職員になったらしかった。

海未さんも事情を知っていたし、彼方さんや果林さんとの交友関係もあるエマさんから、二つの世界の橋渡しを手伝いたいと申し出があり、採用したらしい。

もちろん、そういう立場になるにはいろいろ準備も必要なので……今は職員として働きながら、勉強中だそうだ。

ただ、今でも牧場の仕事は好きらしく、休みの日にはコメコに帰って牧場のお手伝いをしているらしい。

あまりの働きぶりに、コメコの人たちも海未さんも少し冷や冷やしてるらしいけど……。エマさん本人は割とケロっとしている辺り、やっぱり山育ちの体力はすごいってことなのかな……たぶん。



783 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:20:10.66 ID:gpGK8xOx0

    🎹    🎹    🎹





そして最後に──


愛「……いらっしゃい、ゆうゆ、歩夢」

侑「……愛ちゃん」

歩夢「……元気?」

愛「あはは、困ったことに割と元気なんだよね……意外とご飯もおいしいしね。もんじゃが出てこないのはちょっと寂しいけど……」

歩夢「もんじゃ……差し入れが出来たらよかったんだけど……」

愛「冗談だって、真に受けないでよ。もう、歩夢ったら素直なんだから♪」


そう言って愛ちゃんはカラカラと笑う。


愛「あと……ゆうゆの背中に隠れてないで、出ておいでよ」

リナ『……こ、こんにちは』 || ╹ _ ╹ ||

愛「表情硬いよ。表情を豊かにするために璃奈ちゃんボードを考えたんだからさ、笑って──りなりー」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||


愛ちゃんにはこうして、リナちゃんと一緒に定期的に会いに来ている。

まだぎこちなさはあるものの……愛ちゃんもリナちゃんも……少しずつ、少しずつ、今の形を受け入れようと頑張っている。


愛「みんな……ありがとね。あんなしょーもないことしたアタシに……何度も面会に来てくれて」

歩夢「しょうもなくなんて思ってないよ」

侑「私たちも……ドッグランで助けてもらったし」

愛「あはは♪ あれを助けてもらったなんて言えるの、ゆうゆたちくらいだよ♪ お人好し過ぎて心配になっちゃうよ……」


愛ちゃんはそう言って笑うけど──


愛「……でも、りなりーが……そんな優しい人たちと出会えてよかったって……今は……心の底からそう思うよ」

リナ『愛さん……』 || 𝅝• _ • ||

愛「ほら、泣かないでって! 相手と楽しく話したいときは〜?」

リナ『リナちゃんボード「にっこりん」』 ||,,> ◡ <,,||

愛「そうそれそれ♪」

リナ『うん!』 ||,,> ◡ <,,||

愛「さってと……アタシはそろそろ戻ろうかな」

侑「もう行っちゃうの……?」

愛「心配して来てくれる人がいるだけで……アタシには十分すぎるよ」


そう言って、面会室から出て行こうとする際、


愛「あ、そだ……歩夢」


愛ちゃんが振り返って、歩夢を呼ぶ。
784 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:20:47.81 ID:gpGK8xOx0

歩夢「?」

愛「……もしまた、アタシがバカなことしそうになったら……引っ叩いて、目覚まさせてね」

歩夢「え、えっと……ご、ごめんね……叩いちゃって……」

愛「……くく♪ その返し……歩夢らしいや♪」


愛ちゃんは笑いながら、去っていくのだった。





    🎹    🎹    🎹





侑「──ん〜……良い天気……」
 「ブィィ…」

歩夢「そうだねぇ……」
 「シャーボ…zzz」

リナ『今日暖かいね、お外でお昼寝しても大丈夫そうなくらい』 || > ◡ < ||


花畑に歩夢と二人で寝っ転がっていると、リナちゃんの言うとおりぽかぽかしていて、眠ってしまいそうだ。


侑「……歩夢」

歩夢「んー?」

侑「次は……どこ行こうか……」

歩夢「ふふ……♪ 侑ちゃんと一緒ならどこへでも♪」

侑「……そういうのが一番困るんだけどなぁ……」

歩夢「だって……侑ちゃんとなら、どんな景色も……宝物なんだもん……♪」

侑「じゃあ……その新しい宝物……探しに行こうか……!」


私は起き上がって、歩夢に手を差し伸べる。


歩夢「うん♪」


歩夢が私の手を取って──


侑「イーブイ! リナちゃん!」
 「イブイッ♪」

リナ『うん!』 || > ◡ < ||

侑「歩夢!」

歩夢「うん♪ 行こう、侑ちゃん♪」

侑「新しい冒険の旅に……!!」


──また、ポケットモンスターの世界へ……!!

785 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:21:37.16 ID:gpGK8xOx0

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.80 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.76 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.75 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.74 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.73 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:261匹 捕まえた数:12匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.66 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.66 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:240匹 捕まえた数:24匹



786 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:22:10.13 ID:gpGK8xOx0

    🎹    🎹    🎹





 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...

 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!



787 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:22:58.01 ID:gpGK8xOx0

    ☀    ☀    ☀





相談役「……穂乃果さん、ここまでありがとう」

穂乃果「いえ……今回は私……いいところなかったなぁ……」

相談役「ふふ、世代交代かしら?」

穂乃果「まだ、負けるつもりないですよー!」

相談役「冗談よ」

穂乃果「……それにしても……これ以上は、いいんですか……?」

相談役「……今回は結局、何も異常を確認出来なかったから……。……リーグ側からはひとまずね……」

穂乃果「……本当に……今回は見逃してくれただけ……なのかな……」


穂乃果「龍神様──レックウザは……」





    🔔    🔔    🔔





  「──ヴァァァッ…」


バチバチと稲妻をスパークさせながら、飛翔する鳥ポケモンに向かって、


 「精靈球!!」


精靈球──モンスターボールを投げつけると、そのポケモンはボールに吸い込まれ、カツーンと音を立てながら、地面に落下した。


 「それじゃ、ミア。あとはよろしくね」


そう言いながら私は、今しがたポケモンを捕まえたボールを投げ渡す。


 「I got it.」

 「さて……そろそろ始めましょうか……」


私は、この地方にある大きな大きな大樹──音ノ木を見据える。


 「待っててね……──栞子」


そう呟いて……。



788 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:23:57.08 ID:gpGK8xOx0

    🔖    🔖    🔖





 「──────キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!!!!!!」

栞子「……ダメです…………。……ダメです……ッ……」

 「──────キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!!!!!!」

栞子「お願い……します……。……龍神様……」

 「──────キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!!!!!!」


額を汗が伝う。

苦しい。だけど、今解き放つわけにいかない。

ウルトラビーストによる襲撃は終わっても……まだこの地方の危機は……去っていない。

今、怒れる龍神様を……解き放ってしまったら……。

オトノキ地方は──……壊滅する。





...Next EpisodeΔ


...To be continued.



789 : ◆tdNJrUZxQg [sage saga]:2023/01/11(水) 14:08:26.52 ID:mgX0GYuD0
残り分量的にこの板で終わらないのと、キリがいいので次スレに行きます。

次スレ
侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part3
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1673413466/
790 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2023/03/18(土) 12:53:21.06 ID:84Q7DkhpO
幕張イベまで10日連続
私生活垂れ流し配信/3日目【3/10】

「ポケモンORAS(オメガルビー)人生縛りをやる人」
(10:18〜)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
791 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2023/03/19(日) 17:19:20.42 ID:2fT54XhjO
「ポケモンORAS/オメガルビー
人生縛りをやる人2日目」(後編)

▽vsナギ戦〜ストーリークリアまで
(10:31〜)

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