侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2

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192 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:24:33.33 ID:/nLmInIK0

    🎹    🎹    🎹





侑「ライボルト!! “エレキフィールド”!!」
 「ライボッ!!!!」


ライボルトの背に乗り、走り回りながら、“エレキフィールド”を展開する。

相手に捉えられないように、周囲を旋回しながら、


侑「“かみなり”!!」
 「ライボッ!!!!」


空に展開した、雷雲から“かみなり”を落とす。


 「ジュ、ラルッ…」

侑「よし……! 効いてる……!」


相性は悪いけど、“エレキフィールド”による強化からの大技。

多少はダメージが通り始めた。

畳みかけるように“かみなり”を指示しようとした瞬間──


 「ジュラァァァーーールッ!!!!!」

侑「!?」
 「ライボッ!!?」


ジュラルドンが、雄叫びをあげながら、こちらに向かって猛スピードで転がってきた。

しかも、ジュラルドンが転がった道は──電気を帯びたフィールドが解除されていた。

あれは……“ハードローラー”……!?

突然のことに、咄嗟に対応出来ず、


 「ライボォッ…!!!」
侑「うわぁっ!!?」


ライボルトもろとも吹っ飛ばされる。

その拍子に──戦闘が始まると同時にポケットにねじ込んだ、鍵の入った小箱が宙を舞う。


侑「しまっ……!?」


そのまま、私の身体は硬い石畳に叩きつけられ── 一瞬、息が止まる。


侑「……が……ぐ……っ……ぅぅ……!」


でも、気合いですぐに顔を上げる。──今、下を向くな……! トレーナーは常に状況判断を優先するんだ……!

視界の先に、宙を舞う小箱──それに向かって、いち早く気付いて飛び出したのは、


 「ブィィ!!!!」

侑「イーブイ……!!」


イーブイがそれを空中で咥えてキャッチする。……がそれと同時に──キィィィンッと音を発しながら、“ラスターカノン”がイーブイを貫いた。


 「ブ、ィィィィィッ…!!!!」

侑「イーブイ……!!」
193 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:25:20.61 ID:/nLmInIK0

“ラスターカノン”が直撃し、吹き飛ばされるイーブイ。

私は身を起こし、無我夢中でイーブイの方へと走り出し、


侑「イーブイ!!」


ヘッドスライディングの要領で飛び付き、イーブイをキャッチする。


侑「イーブイ、大丈夫!?」
 「ブィィィ…」


イーブイは力なく鳴くと──顔を少し上げ、口に咥えた小箱を私に見せる。

小箱は“ラスターカノン”に焼かれ、ぼろぼろになってしまったけど……原型はしっかりと保っている。


侑「イーブイ……偉いよ、ありがとう……」
 「ブィ…」


私がぎゅっと抱きしめると、その拍子に焼かれて脆くなった小箱から──小さなバングルが零れ落ちた。

小さな……丸い宝石のような珠が嵌まった……バングル。


侑「……これは」


それは──前に見たことがあった。

これは……。


侑「せつ菜ちゃんが……着けてたものと同じだ……」


──そのとき突然、後襟辺りを何かに引っ張られる。


侑「わぁ!?」
 「ライボッ!!!!」


それはライボルトだった。ライボルトが無理やり私を背に乗せ、猛スピードで駆け抜ける。

直後、私の居た場所に“ラスターカノン”が迸った。


侑「あ、ありがとうライボルト……!」
 「ライボッ!!!」


あそこでぼんやりしていたら、今頃丸焦げだった。

それにしても……この小箱に入っていたバングル。

──果南さんはこれを鍵だと言っていた。

そして、宝箱の中に入っているアイテムは──私たち以外が持っていても意味のないもの、とも。

つまり、あの宝箱には……この鍵──キーと私たちしか持っていない何かに対応するアイテムが入っている。

そんなモノ──入っているのはアレ以外ありえない……!!


侑「ライボルト!! 宝箱だ!!」
 「ライボッ!!!!」


ライボルトは私の指示を受けると、脚の筋肉を刺激し、稲妻のような軌道を描きながら猛加速する。

稲妻の速度でたどり着いた、宝箱の前で──バングルを腕に嵌めると、それに反応したかのように、宝箱がその口を開いた。

私は中にあった、2つの珠を掴み── 一つは、


侑「ライボルト!!」
 「ライボッ!!!」
194 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:25:57.05 ID:/nLmInIK0

ライボルトに咥えさせ──もう一つは、


侑「かすみちゃん!!!! 受け取って!!!」


かすみちゃんに向かって、投げ渡した。





    👑    👑    👑





──膠着した状態の中、


侑「──かすみちゃん!!!! 受け取って!!!」

かすみ「へっ!?」


侑先輩の声がして、振り向くと──何か丸い物がかすみんに向かって飛んできていた。


かすみ「わぁぁぁ!?」


突然のことに驚きながらも、どうにかキャッチする。


かすみ「へ、これ、何……!?」


それは──不思議な色で輝く珠だった。

……あれ、この珠……似たのをどこかで見たこと……あるような……。


かすみ「……! そうだ!」


オハラ研究所で──しず子が貰っていた珠だ……!

つまり、これは──


かすみ「どうりで、かすみんたち以外が持ってても意味ないなんて言うわけですね!! ジュカイン!!」


かすみんはジュカインに向かって、その珠をパスする。


 「カインッ!!!!」


ジュカインがそれをキャッチしたのを確認すると同時に──腕に付けた“メガブレスレット”を前方に構えた。


かすみ「行きますよ、ジュカイン──メガシンカ!!」
 「カインッ!!!!!」


かすみんの掛け声と共に──“メガブレスレット”についた“キーストーン”が光り輝き、それに呼応してジュカインも光に包まれる。

光の中から現れたジュカインは──全身のシルエットがより鋭利に、胸には大きなX字状に広がる草のアーマーを身に着け、もともと大きかった尻尾はさらに大きく成長する。背中に付いていた黄色い実も、数が増え、尻尾の根本部分まで連なっている。


 「ジュ、カィィィンンッ!!!!!!」


これが、ジュカインの新しい姿……!


 「オノノォッ!!!!!」
195 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:26:30.16 ID:/nLmInIK0

そんなメガジュカインに向かって、オノノクスが顎を構えて突っ込んできた。

──そのまま、鋭利な顎で噛みついてきたけど、


 「カィィンッ!!!!」


ジュカインはまたしても、オノノクスの攻撃を腕の刃で受け止め──そのまま、腕力でオノノクスを持ち上げる。


 「オ、ノノクッ!!!?」


急なことに驚いたオノノクスは顎を広げてジュカインから離れようとしたけど──ジュカインは逆に腕を広げ、オノノクスの顎を両刃で突っ張るようにして、さらに高く持ち上げる。


かすみ「“りゅうのはどう”!!」
 「ジューーーカイィィンッ!!!!!!」


持ち上げたオノノクスの胸部に向かって──口から発射した、ドラゴンの波動を至近距離からブチ当てる。


 「オ、ノノォッ…!!!!」


苦悶の鳴き声をあげながら、波動の勢いで上方に向かって吹っ飛ばされるオノノクス。

ジュカインはくるりと背中を向け──大きな大きな尻尾の先端を宙を舞うオノノクスに向ける。


かすみ「“リーフストーム”!!」
 「カィィィンッ!!!!!」


かすみんの指示と共に、尻尾に一番近い場所にある実が破裂──その反動で尻尾が回転し、草の旋風を巻き起こしながら、ミサイルのように飛んで行って、


 「ノォクスッ…!!!!!?」


オノノクスに直撃した──だけでは留まらず、オノノクス巻き込んだまま……遺跡の外まで吹き飛んでいった。


かすみ「す、すご……」
 「カァインッ!!!」


気付けば、今しがた飛ばしたばかりのジュカインの尻尾は、また生え変わっていた。

どうやら、再生力もすごいらしいです……。


かすみ「これがメガシンカの力……」
 「カァインッ!!!」

かすみ「えへへ、すごいじゃないですか、ジュカイン!」
 「カァインッ!!!!」


ただでさえ強かったジュカインが、さらに強くなっちゃいましたよ……!


かすみ「そうだ、侑先輩たちは……!」


パワーアップを喜ぶのも束の間、かすみんは侑先輩たちの戦局へと目を向けます──



196 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:27:39.15 ID:/nLmInIK0

    🎹    🎹    🎹





侑「ライボルト、行くよ……!! メガシンカ!!」
 「ライボォッ!!!!!」


ライボルトが眩い光に包まれる。

その光の中から、現れた姿は──全身の体毛が大きく成長し、まるで稲妻を身に纏っているかのようなフォルムに。

それと同時に全身から、バチバチとスパークを爆ぜながら、


 「ライボォォォォォッ!!!!!」


“いかく”するように、雄叫びをあげる。

それと同時に、私は全身の毛が逆立つのがわかった。

空間一帯にとてつもない量の静電気が発生して、私の全身の毛を逆立ててるんだ……!

直後──


 「ライボォォォォッ!!!!!」


まさに文字通り、目にも止まらぬスピードでメガライボルトが走り出す。

メガライボルトが走り抜けた通り道はあまりの速さに、摩擦で床が赤熱し、稲妻のようなシルエットを浮かばせる。

と、同時にメガライボルトの通った空気が──雷轟のようにゴロゴロと大きな音を立てる。

まるで、ライボルト自身が雷そのものになったようだった。


 「ジュラル…!!!?」


ジュラルドンが、メガライボルトのあまりのスピードに、何が起こったか理解出来ずにいる間に、


 「ライボッ…!!!」


ライボルトはジュラルドンに肉薄していた。


 「ジュラルッ…!!!?」


そして、自身に向かって── 一斉に周囲のでんきエネルギーを集束させる。


侑「──“かみなり”!!!」

 「ライボォォォォォッ!!!!!!!」


──もはやそれは、見慣れた枝分かれする稲妻のような形ではなく……光と熱と音を伴った、大きな電撃の柱のようだった。

至近に落ちた雷柱が周囲の空気を震わせ、雷轟が劈く。


侑「……っ!?」


私は咄嗟に耳を塞いだけど、それでも鼓膜どころか──雷轟が全身を震わせるような衝撃を伴っていた。

衝撃がやっと止んだかと思って、耳を塞いでいた手を離すと──周囲の山から、やまびこのように響く雷轟が私の耳に何度も届いてくる。

そして──そんなとんでもない威力の“かみなり”の直撃を受けたジュラルドンは……、


 「…………」


真っ黒焦げになって、完全に沈黙していた。
197 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:28:15.64 ID:/nLmInIK0

侑「す、すごい……。……すごいよ、ライボルト!!」

 「ライボッ!!!!」


私はライボルトに向かって、駆け出し、


かすみ「──すごいすごいじゃないですよっ!!?」

侑「わぁっ!!?」


と思った瞬間──かすみちゃんが、ものすごい剣幕で私に詰め寄ってきた。


かすみ「ライボルトの“かみなり”の一部がジュカインの尻尾に吸い寄せられてきたんですよ!! 目の前がものっすごい光に包まれて、とんでもない音が目の前でして、かすみんしばらく耳キーンってなっちゃったんですからね!? というか普通に死んだかと思いましたよ!!!」


め、めちゃくちゃ怒ってる……。


侑「え、えーっと……メガジュカインの特性が“ひらいしん”だからじゃないかな……あ、あはは……」

かすみ「知ってるなら!!!! 技を選んでくださいよ!!!!?」

侑「ご、ごめんって!! 私もメガライボルトのパワーがこんなにすごいなんて知らなくて……」

かすみ「うぅ……かすみんも、メガジュカインのパワーには驚いたからわかりますけどぉ……」

 「ライボ…」


気付けばライボルトが、私のもとに歩み寄ってきていた。

戦闘が終わったからか、姿はすっかりもとのライボルトに戻っていて、口に“メガストーン”を咥えていた。

かすみちゃんがあまりに怒っているからか、少々困惑気味だけど……。


かすみ「はぁ……。……まあ……この際、勝てたから、もういいですぅ……」

侑「あはは……つ、次から気を付けるね」
 「ライボ…」

かすみ「是非そうしてください……」


あまりにパワーが強すぎるから、ちゃんとメガシンカを上手に扱えるようにならないとね……。

なにはともあれ──


侑「これで目標達成だね!」

かすみ「……はい! あとは下山するだけです!」

侑「よし、それじゃ、帰ろっか!」

かすみ「はい! 全速力で戻りましょう!」


私たちは無事、果南さんの用意してくれたアイテム──“メガストーン”を手に入れて……。下山を開始するのだった。



198 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:28:54.94 ID:/nLmInIK0

    🐏    🐏    🐏





リナ『侑さんたち……まだ降りてこない……』 || 𝅝• _ • ||

彼方「……そうだねー……」

果南「ん……」


──今日で、侑ちゃんたちがカーテンクリフを登りに行って……3日目だ。

そして、もう日も落ちてしまった。

つまり……タイムリミットの3日目の夜ということだ。

夜になってしまうと、山の中で動くのは難しくなる……。


リナ『やっぱり……カーテンクリフ往復を3日でこなすのはまだ早かったんじゃ……』 || 𝅝• _ • ||

果南「……いや、そうでもないみたいだよ」

彼方「……え?」


果南ちゃんがそう言って指差す先には──灯りを持った、二つの人影が見えた。





    🎹    🎹    🎹





侑「おーい!! リナちゃーん!! 彼方さーん!! 果南さーん!!」
 「イブィ♪」

かすみ「かすみんの凱旋ですよ〜!! おいしいご飯作ってくれましたか〜!?」


かすみちゃんが大きな声で訊ねると、


リナ『──侑さーん!! かすみちゃーん!! おかえりなさーい!!』 ||,,> ◡ <,,||

彼方「──とびっきりのご馳走作って待ってたよー!! 早く降りておいでー!!」


と、大きな声で返事をしてくれた。


かすみ「……へへ、かすみんたち、間に合いましたね♪」

侑「1日で戻るのは……かなりきつかったけど、どうにかなったね……」

かすみ「それじゃ、彼方先輩のご馳走フルコースが冷めないうちに、早く行きましょう♪」

侑「うん!」


──私たちはみんなのもとへ帰るために、ローズシティへと降りていくのでした。



199 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:29:27.99 ID:/nLmInIK0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.70 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.69 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.69 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.61 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.64 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.55 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:211匹 捕まえた数:9匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.71 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.63 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.63 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.61 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.60 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.65 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:204匹 捕まえた数:9匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



200 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 04:39:54.48 ID:tTvUwYyF0

 ■Intermission🎙



──ウルトラディープシーを訪れて……丸一日が経った。

崖下に降りると……。


歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」


ウツロイドが頭に寄生した状態で──歩夢さんが地面にぐったりとして、横たわっていた。


せつ菜「…………」


あまりにむごすぎる光景に、目を逸らしたくなるが……。


しずく「……歩夢さん……」


しずくさんは、ウツロイドが彼女の頭の上に取りついているにも関わらず……歩夢さんを抱き起こす。


しずく「……歩夢さん……可哀想に……」


そのまま、頬を寄せ、彼女を抱きしめる。……まるで、病床に伏せる親しい友人を憂うような……。

──今の彼女の情緒は、全く理解が出来ない。

自分で突き落としておいて、いざ倒れている歩夢さんを見て、憂うような行動を取るなんて……。

彼女は、言うまでもなく……もうすでに……狂ってしまっている……。正直……今のしずくさんを見ていると、恐怖さえ覚える。

だけど……それを言葉にする気にはなれなかった。なぜなら、今の私も自覚がないだけで……端から見れば、彼女と同じようなものなのかもしれないからだ……。

しずくさんが言ったとおり……私もウルトラビーストに魅入られていて……もうとっくの昔に狂気の中に居るのかもしれない……。


しずく「……今、安全な場所に連れて行ってあげますね……」


そう言いながら、しずくさんが歩夢さんのことを背負おうとしたとき、


 「バーーースッ!!!!」


──エースバーンが岩の陰から飛び出し、飛び掛かってきた。

が、


しずく「インテレオン、“ねらいうち”」
 「──インテ」

 「バーーースッ…!!!?」


しずくさんは、冷静にエースバーンを迎撃する。

が、エースバーンと入れ替わるように、さらにポケモンが飛び出してくる。


 「フラーーージェスッ!!!」


──フラージェスが“はなふぶき”を身に纏いながら、突撃してくる。

しずくさんは、次のボールに手を掛け、


しずく「バリヤード、“バリアー”」
 「バリ」


バリヤードが足元で作り出した氷の“バリアー”を目の前に蹴り上げ──
201 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 04:40:42.95 ID:tTvUwYyF0

 「ジェス…!!!」


フラージェスの攻撃を弾き返す。そこに、さらに追撃、


しずく「“フリーズドライ”」
 「バリッ!!!!」

 「ジェス…!!!」


広がる冷気で、フラージェスの体がパキパキと音を立てながら、凍り始める。

そんなフラージェスとの間に割って入るように──


 「トドォォォォ!!!!!!」


トドゼルガが飛び出し、長い牙を“バリアー”に突き立て──力任せに破壊する。


しずく「ふふ……次から次に、ですね」


対抗するように、しずくさんはまた新しいポケモンをボールから繰り出す。


 「──ロズレ…!!!」

しずく「ロズレイド、“リーフストーム”!」
 「ロズ…!!!」

 「トドォ…!!!!」


トドゼルガはタフなポケモンだが、至近距離からの苦手なくさタイプの大技に為す術なく、吹き飛ばされる。


しずく「ふふ♪ やっぱり、トレーナーがいないとタイプ相性も適当ですし、攻め方も単調ですね♡」


しずくさんが嘲るように笑うと、


 「シャーーーボッ!!!」


アーボが穴の中から顔を出し、鳴き声をあげる。


 「バ、バース…」「ジェス…」「トド…」


すると、エースバーン、フラージェス、トドゼルガは撤退していった。恐らく……あのアーボ──サスケさんがリーダーのような役割を担っているんだろう。


しずく「また、何度でもどうぞ♡」

せつ菜「…………」

しずく「ふふ……進化までして助けに来るなんて、歩夢さんは本当にポケモンから愛されているみたいですね♡」


歩夢さんの手持ちたちは、1日の間に何度もしずくさんに攻撃を仕掛けにくるが、その度に撃退されている。

今回マホイップがいなかったのは、前回撃退されたときに、ダメージを追いすぎて回復中だったからだろうか。

歩夢さんのポケモンが極端に弱いということはないと思うが……。やはり、トレーナーがいないというのは大きなディスアドバンテージなのだろう……。


しずく「それにしても、この洞窟は不思議なエネルギーに満ちているんですね……歩夢さんのフラージェスもですが、お陰で本来は“ひかりのいし”で進化するはずのロゼリアもロズレイドになってくれました♡」
 「ロズレ…」

せつ菜「あちこちに生えているあの輝く水晶が、光のエネルギーを蓄えているのかもしれませんね……。それに反応したんだと思います」

しずく「みたいですね。よいしょ……」


しずくさんは今度こそ歩夢さんを背負い、歩き出す。
202 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 04:43:07.48 ID:tTvUwYyF0

せつ菜「……どうするつもりですか?」

しずく「一旦、ウツロイドの少ない崖上まで移動させようと思いまして」

せつ菜「それは見ればわかります。移動させて、何を?」

しずく「歩夢さんが死なないように、お世話役を仰せつかっています♡」

せつ菜「……なるほど」


つまり……動けない状態の歩夢さんの力だけを利用するために、お世話をするということらしい。

ぐったりして気を失っているとはいえ……放っておいたら死んでしまうのは、想像に難くない。


せつ菜「……上にあがるまで、ウツロイドに襲われないように援護します」

しずく「ありがとうございます♡」


ですが……さすがに、死なれるのは寝覚めが悪いどころの話ではない。

私は一応、彼女たちの身の安全を守るためにここにいるわけですし……。

ただ、しずくさんは歩夢さんよりも、身長が小さい分、背負って歩こうとすると足取りがかなり覚束ず、見ていて少し不安だ……。

……まあ、私はそんなしずくさんよりも、さらに身体が小さいので、代役をできるかと言われると微妙ですが……。

よたよたと歩くしずくさんの後ろを、警戒しながら歩いていたそのとき──


 「──ピュイ…」


歩夢さんのバッグから、鳴き声が聞こえてきたと同時に──コスモッグが飛び出してきた。


しずく「きゃ……!? コスモッグ……? もしかして、ずっと歩夢さんのバッグの中に隠れていたんでしょうか……」

 「──ピュイ、ピュイ」


コスモッグはしずくさんの周囲をくるくる回りながら、時折体をぶつけている。

……恐らく、攻撃しているつもりなんでしょうが……しずくさんはまるで意に介していない。

コスモッグには戦闘能力がないと聞いているので、仕方がないですけど……。

しばらく、攻撃らしきものを続けたコスモッグは──


 「ピュイ…」


どうにもならないと悟ったのか、歩夢さんのバッグの中に戻っていった。


しずく「……さて、急ぎましょうか♡ ウツロイドが集まってくる前に」

せつ菜「……はい」

歩夢「………………」



………………
…………
……
🎙

203 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:52:05.24 ID:tTvUwYyF0

■Chapter055 『激闘! クロユリジム!』 【SIDE Kasumi】





──ローズシティ。

カーテンクリフ登りの修行から帰ってきた翌日の朝です。


果南「カーテンクリフを踏破出来たんだから、二人とも確実に強くなってるはずだよ。メガシンカもきっと使いこなせるから、胸を張って行っておいで!」

侑・かすみ「「はい!」」


果南先輩から激励を受け、かすみんたちはジム戦に向かうために、ローズシティを発つところです。


彼方「それにしても……よく“メガストーン”を昨日の今日で2つも用意できたねー? 大変だったんじゃない〜?」

果南「ローズで会ったときにダイヤにお願いしてたんだ。そんなすぐに用意出来ないってかなり小言言われたけど……まあ、なんだかんだで用意してくれるのがダイヤらしいよね」

彼方「あははー……ダイヤちゃんも大変だー……」

かすみ「ダイヤ先輩が、昨日かすみんたちがゲットした“メガストーン”を持ってたんですか? ……なんで?」

侑「ダイヤさんは、くさタイプのエキスパートだからね。あと、ダイヤさんのお母さんは、でんきタイプを使うジムリーダーだったんだよ」

リナ『エキスパートタイプを持つジムリーダーは、各タイプのポケモンの“メガストーン”を研究のために所持してることが多い。だから、“ジュカインナイト”と“ライボルトナイト”を用意出来たんだと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「はー……なるほどです」


ダイヤ先輩には、今度会ったときにお礼言わないとですね。


果南「それと、“メガバングル”と“キーストーン”は、私から侑ちゃんへのプレゼントだよ。かすみちゃんには鞠莉があげてたからね」

侑「ありがとうございます……!」

果南「……英玲奈さんも理亞ちゃんも強いだろうけど、強くなった自分と自分のポケモンたちを信じればきっと大丈夫だよ」

彼方「良い報告を待ってるからね〜」


果南先輩と彼方先輩に見送られて──


侑・かすみ「「行ってきます!」」


かすみんたちは、最後のジム戦へと向かいます……!





    👑    👑    👑





──クロユリシティ。


かすみ「──侑先輩! ここまで、送ってくれてありがとうございます! ウォーグルも!」

侑「どういたしまして♪」
 「ウォーー!!」


かすみんはウォーグルの背中から飛び降りながら、お礼を言う。
204 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:52:38.75 ID:tTvUwYyF0

侑「それじゃ、私もヒナギクに向かうよ。かすみちゃん! 頑張ってね!」
 「ウォーーッ!!!」「ブイ」

かすみ「はい! 侑先輩も、次会うときはお互いバッジ8つですよ!」

侑「うん! もちろん!」

リナ『私も応援してる! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 ||,,> ◡ <,,||

かすみ「リナ子もありがと♪ それじゃ、またあとで!」

侑「うん! お願い、ウォーグル!」
 「ウォーー!!!!」


ウォーグルの脚に掴まって、ヒナギクへ飛び立つ侑先輩を見送り、


かすみ「……さぁ、行きますか!」


かすみんは最後のジム──クロユリジムに向かいます。





    👑    👑    👑





かすみ「たのもぉーーー!!」


──クロユリジムのドアを勢いよく押し開け、ジムの中に入ると、


英玲奈「……来たか」


ジムの奥で目を瞑って立っていた英玲奈先輩がゆっくりと目を開ける。

かすみんが来るまで、精神統一をしていたのかもしれません。


英玲奈「ローズで見たときは、まともに勝負になるのか不安だったが……少しは強くなったようだな。立ち居振る舞いを見るだけでわかる」

かすみ「……はい! 強くなったかすみんは絶対に負けませんよ!」

英玲奈「ふふ……勇ましくて何よりだ。せっかく久しぶりに本気を出せるのに、張り合いのない相手だったらガッカリだからな」


そう言いながら、英玲奈先輩がボールを構える。


英玲奈「今回のバトルフィールドはこのクロユリジムとクロユリジムの後ろに広がる竹林全域」

かすみ「はい! わかりました!」

英玲奈「今回は理事長からフリールールをオーダーされている。故に、トレーナーの君もポケモンの攻撃に巻き込まれる可能性があるのは、予め覚悟してもらおう」

かすみ「ぅ……で、ですよね〜……。……でも、それくらい覚悟の上です……! わかりました!」

英玲奈「……他には特に難しいことは何もない。シンプルに戦って最後まで立っていた方が勝者だ。──さあ、始めようか」

かすみ「はい!」

英玲奈「クロユリジム・ジムリーダー『壮烈たるキラーホーネット』 英玲奈。お互い心行くまで戦おうじゃないか!!」


かすみんと英玲奈先輩のボールが同時に放たれ──バトルスタートです!!



205 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:53:10.61 ID:tTvUwYyF0

    👑    👑    👑





かすみ「──行くよ、ジュカイン!」
 「──カインッ!!!!」


こちらの1番手はジュカインです!

今回は本気の本気の本気! 出し惜しみなんて一切なしです!

──侑先輩から事前に、英玲奈先輩の切り札はメガスピアーだと、聞いています。

エースのジュカインで切り札を出してくるまで、相手の戦力を一気に削り切りますよ……!


英玲奈「行くぞ、スピアー!!」
 「──ブーーーンッ!!!!」

かすみ「うぇっ!?」

英玲奈「メガシンカ!!」
 「ブーーーンッ!!!!!」

かすみ「え、ちょっ……!?」


ボールから出て来た瞬間、スピアーが光に包まれ──より攻撃的なフォルムのメガスピアーへと姿を変える。

──直後、


英玲奈「“ダブルニードル”!!」
 「──ブーーーンッ!!!!!」


メガスピアーが猛スピードで突っ込んでくる。


かすみ「……っ……! “リーフブレード”!!」
 「カァインッ!!!!」


刃を上手に針の切っ先に合わせて、攻撃を受けようとしたけど──


 「カァインッ…!!!!」


受けきるどころか、そのパワーで、ジュカインが後ろに向かって、吹っ飛ばされ──壁に叩きつけられる。


かすみ「ジュカイン!!」


かすみんは振り返って、ジュカインのもとへと駆け出す。

だけど、英玲奈先輩は当然そこに向かって追撃を繰り出してくる。


英玲奈「“どくづき”!!」

 「ブーーーンッ!!!!!」


駆けるかすみんの真横を猛スピードでメガスピアーが横切って、5本の“どくばり”を構える。


かすみ「──ジュカイン、メガシンカ!!」

 「カィンッ!!!!!」


かすみんが“メガブレスレット”を構えると、ジュカインが光に包まれ、姿を変える。


かすみ「“りゅうのはどう”!!」

 「カァインッ!!!!!」
206 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:54:16.13 ID:tTvUwYyF0

メガシンカしたジュカインが、猛スピードで突っ込んでくるメガスピアーに向かって“りゅうのはどう”を放ちます。

だけど、メガスピアーはすぐに察知し、高速で直角に曲がるようにして、“りゅうのはどう”を回避する。


英玲奈「怯むな!! “みだれづき”!!」

 「ブーーンッ!!!!」


回避からすぐにまた切り返して攻撃に移行。再びメガスピアーがジュカインに向かって飛翔し、連続の針でぶっさしまくってくる。


かすみ「“みきり”!!」

 「カィンッ!!!!」


ジュカインは、頭部に向かってくる針は首を捻ってギリギリで避け、胴を狙う針は刃でいなし、下半身を狙う針は切っ先に当たらないように横から弾くように蹴り飛ばす。

逸らされ回避された針はもちろん、ジュカインの背後の壁に叩きつけられるように突き刺さり──そのまま壁を吹っ飛ばす。


 「カインッ…!!!!」

かすみ「ちょ!? ジム、壊してる!?」

英玲奈「避けるか……! ならば、“ドリルライナー”!!」

 「ブーーーーンッ!!!!!!」


お尻の針が──キュィィィィーン!! と音を立てながら回転を始め、ジュカインに向かって突き刺してくる。

それはジュカインの胸部に直撃し──


 「カインッ…!!!」


そのまま、ジュカインをジムの外まで吹っ飛ばす。


かすみ「ジュカイン……!?」

英玲奈「スピアー!! 追いかけろ!!」
 「ブーーンッ!!!!」


メガスピアーは外に吹き飛んでいったジュカインに追撃をするために、穴から飛び出して行く。


かすみ「や、やば……!!」


かすみんも大急ぎで、その穴から外に出ます。

すると、ジムの外にあった竹林の前で、


 「ブーーーンッ!!!!!」

 「カァインッ!!!!」


すでにジュカインは立ち上がり、腕の刃でメガスピアーの両腕の針と鍔迫り合いをしているところでした。

“ドリルライナー”が直撃したけど、致命傷にはなってないみたい……!


かすみ「胸のアーマーが功をなしましたね……!」


こんなに早くメガシンカを使う予定はありませんでしたが、メガシンカによって新たに胸部に草のアーマーを身に着けたお陰でどうにか助かりました……!

ただ、このままメガスピアーと肉弾戦を続けるのはまずいです……!

鍔迫り合いをしながら、メガスピアーは、


 「ブーーーンッ!!!!」
207 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:55:25.90 ID:tTvUwYyF0

後ろ脚にある2本の針を構える。


かすみ「サニーゴ!! “かなしばり”!!」
 「──……サ」

 「ブ、ゥゥゥーーーンッ!!!!!」


すかさずサニーゴを繰り出し、メガスピアーの後ろ脚に向かって“かなりばり”を使う。

だけど、メガスピアーは、


 「ブ、ゥゥゥゥーーーンン!!!!!」


“かなしばり”を受けたにも関わらず、後ろ脚の針は少しずつだけど、前に進んでいる。


かすみ「げっ……!? パワーだけで強引に“かなしばり”を引き剥がそうとしてる……!?」


規格外のパワー……やばすぎですよ……!?

でも、こっちもメガシンカポケモン……! 一瞬隙さえ作っちゃえば……!


かすみ「“ダブルチョップ”!!」

 「カァインッ!!!!」


ジュカインは、両腕を振り上げるようにしてメガスピアーの針を弾きながら──そのまま両腕を振り下ろし、チョップに派生する。


 「ブゥゥゥーーンッ!!!!?」


そのまま、脳天にチョップを叩きつけると、メガスピアーが一瞬怯む。

その隙を見逃さず、メガスピアーに背を向け──背中のタネを切り離す。


かすみ「“タネばくだん”!!」

 「カインッ!!!!」


切り離したタネが爆発し──


 「ブーーンッ…!!!!」


爆風でメガスピアーを吹っ飛ばす。


英玲奈「スピアー!! まだだ!! 止まるな!!」


背後から英玲奈先輩の声。


 「ブ、ゥゥゥーーーンッ!!!!!」


メガスピアーはその声に呼応するように、すぐに態勢を立て直す中、かすみんはサニーゴを小脇に抱えて、メガスピアーの脇を走り抜け──ジュカインの大きな尻尾に飛び乗る。

──あんな肉弾戦メインのポケモン相手に、真っ向勝負し続けるのは分が悪すぎです……!!

目の前にある大きな竹林は今回のバトルフィールドに指定されてる場所……!


かすみ「ジュカイン!! 竹林の中に!!」
 「カインッ!!!」


ジュカインはかすみんを尻尾に乗せたまま──竹林の中へと走り出した。

208 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:56:03.32 ID:tTvUwYyF0

英玲奈「……っち、逃がしたか……。追うぞ、スピアー!」
 「ブゥーーーーンッ!!!!!」





    👑    👑    👑





かすみ「──とりあえず、一旦撒けたみたいですね……」
 「カインッ!!」「……サ」


サニーゴを小脇に抱え、ジュカインの尻尾に乗ったまま移動中です。

──英玲奈先輩はむしポケモンのエキスパートですから、自分にとって一番力を発揮できる場所として竹林を指定したんでしょうけど……。

ジュカインはもともと樹の上で生活するポケモンです。こちらにとっても竹林のような草木が生い茂る場所は本領を発揮できる場所。

今も竹から竹にひょいひょいと飛び移りながら、ものすごいスピードで移動しています。

しかも、かすみんがおっこちないように、尻尾を常に水平に保ってくれているため、すごく快適です。


かすみ「それにしても……いきなり切り札のメガスピアーから出してくるとは思いませんでしたね……」


メガシンカが出来るのは1回の戦闘で1匹だけ……。

2匹以上同時にメガシンカするのは、自分の身体への負担が大きすぎるから絶対にダメだと、果南先輩に口酸っぱく説明されました──まぁ、かすみんはジュカインしかメガシンカ出来ないんですけど……。

なので、さすがにメガスピアーが切り札じゃないなんてことはないと思います。


かすみ「向こうも最初から出し惜しみなしってことですね……」


とにかく、あのメガスピアーを倒す方法を考えないといけません。

侑先輩に聞いた情報ですが……メガスピアーはメガシンカで爆発的なパワーとスピードを手に入れていますが、防御面に関しては普通のスピアーと変わらず、あまり打たれ強くないと言っていました。

つまり……どうにか攻撃を決め切ることさえ出来れば、最悪メガジュカインでなくても、対抗が出来る可能性があります。

──問題は、当てられるか……なんですけど……。

対策を頭の中でこねこねしていたそのとき、


英玲奈「──隠れていないで出てこい……! 本気のバトルをしてくれるんだろう……!?」


──と、英玲奈先輩が張り上げた声が聞こえてくる。

英玲奈先輩はよほど本気のバトルを楽しみにしていたらしい……というか、しょっぱなからジムをぶっ壊してたし……。


かすみ「もしかして……英玲奈先輩って……」


英玲奈「──……出てくる気はないんだな!! なら……こちらにも考えがあるぞ……!!」


かすみ「……へっへーん、そんな挑発で出て行くほど、かすみんおバカじゃないですもんね〜」


虚空に向かってあっかんべ〜した瞬間、


英玲奈「──“がんせきアックス”!!」
 「──グラッシャァァァァァ!!!!!!」


大きな鳴き声と共に──目の前の竹たちが急に傾き始めた。


かすみ「いっ!?」
 「カインッ!!!?」
209 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:57:37.52 ID:tTvUwYyF0

いや、そうじゃない……!? ここら一帯の竹を──根本から伐採した……!?

英玲奈先輩は、こーんな立派な竹林を、なんの躊躇いもなくぶった切って、かすみんたちを竹の上から落とす作戦を取ってきた。


 「カインッ…!!!」


でも、ジュカインは空中でうまくバランスを取り、姿勢を維持しながら、地面に着地する。

──もちろん、かすみんに落下の反動がいかないように、着地のタイミングで尻尾を上手にしならせて、反動を殺してくれる。


かすみ「あ、ありがとう……ジュカイン……」
 「カインッ!!!」


そして、降り立った私たちの前に、


英玲奈「……やっと降りて来たな」


英玲奈先輩が姿を現す。

そして、その傍らには、


 「グラッシャァ」


見たことがないポケモンが居た。


かすみ「な、なんですか、そのポケモン……!?」

英玲奈「見たことがなくても無理はない。……このポケモンはこの地方では私しか持っていないからな」


なんですか、それ……!?

かすみんは警戒しながらも、上着のポケットから図鑑を出して、目の前のポケモンを調べてみる。

 『バサギリ まさかりポケモン 高さ:1.8m 重さ:89.0kg
  硬い岩で 自分自身の 身を守っている。 両腕に ついた
  大きな まさかりで 大木を 切り倒す。 翅が 退化して
  飛行能力を 失った代わりに 脚力と 腕力が 増している。』


かすみ「バサ……ギリ……?」


図鑑で調べても、見たことも聞いたこともないポケモンです。


英玲奈「こいつはストライクの進化した姿だ」
 「グラッシャ…」

かすみ「え……? ストライクの進化系……? それってハッサムじゃ……」

英玲奈「本来はな……。かつてシンオウ地方では極僅かだが、ストライクはこのバサギリに進化していたそうだ。私はむしタイプのエキスパートとして、このポケモンを長いこと調べていて──やっとのことで、ストライクがバサギリになるための“どうぐ”を見つけ、手に入れたのだ」
 「グラッシャァァ…」


バサギリが、体を捻って──大きなまさかりを後ろに振りかぶる。


英玲奈「それによって得たパワー……味わうといい!!」
 「グラッシャァァ!!!!!」

かすみ「……! ジュカイン!! ジャンプして!!」
 「カインッ!!!」


かすみんの指示で、ジュカインがジャンプをした直後──バサギリが横薙ぎに放った斬撃により、さっき以上の範囲の竹が根元からぶった切られ、周囲を竹が舞い踊る。
210 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:58:36.88 ID:tTvUwYyF0

かすみ「こんなに立派な竹林、よく躊躇なくぶった切れますね!?」

英玲奈「バトルのためだ、そういうこともあるだろう!!」

かすみ「やっぱ英玲奈先輩──戦闘狂ってやつですか……!?」

英玲奈「戦闘狂……確かにあんじゅには、何度もそう言われたことがあるな!!」


何度もあるの!? 筋金入りってやつじゃないですか!?

なんの躊躇もなく、戦いのために手段を選ばないというのは考えようによっては脅威です……!

しかも、この範囲、この破壊力……あのポケモンは、ああいう人が持っちゃいけないんじゃないですか!?

かすみん、思わずいろいろ言いたくなっちゃいますけど──今はバトルに集中しなくていけません。


かすみ「ジュカインっ!!」
 「カィンッ!!!!」


ジャンプで攻撃を避けたジュカインは、落ちてくる竹を蹴りながらさらに上昇し──腕を振り上げる。

竹が盛大に伐採されたせいで、隠れ場所はなくなっちゃいましたけど──お陰で空からは太陽の光がさんさんと降り注いでいます……!


かすみ「“ソーラー──ブレード”ッ!!!」
 「カィィンッ!!!!!」


ジュカインが空中から、バサギリに向かって“ソーラーブレード”を振り下ろす。

未だ斬り裂かれた竹たちが舞い踊っていますが、それを意にも介せず斬り裂きながら、バサギリに迫る。


英玲奈「受け止めろ!!」
 「グラッシャァァァァッ!!!!」


バサギリは腕のまさかりを振り上げ、“ソーラーブレード”を受け止めますが──見たことないポケモンだかなんだか知りませんが、こっちはメガシンカのパワーがあるんです……!!

まさかりとブレードがぶつかった瞬間、


 「グラッシャァァァッ!!!!?」


バサギリの体が光の剣の衝撃で沈み込み、それと同時に周りの広がった衝撃波が、周囲に落ち転がっていた竹たちを紙切れのように吹き飛ばして行く。


かすみ「メガシンカしてれば、こっちの方がパワーは上です!!」

 「──ブーーーンッ!!!!!」

かすみ「っ!?」


嫌な音が聞こえて振り向くと──メガスピアーが背後から迫ってきていた。


 「……サ」


小脇に抱えたサニーゴが自分の判断で“パワージェム”を発射するけど、


 「ブン──」


メガスピアーは素早い動きで、視界から消え──その直後、


 「カインッ…!!!?」
かすみ「っ……!?」


ジュカインに向かって、上から“どくづき”を叩きこまれ、落下する。


 「カインッ…!!!!」
211 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:59:39.92 ID:tTvUwYyF0

地面に落下した衝撃で、


かすみ「わぁぁぁ!!?」


かすみんはジュカインの尻尾の上から跳ねるように放り出されて、地面を転がります。

かすみん、地面を転がりながらも、


 「──グラッシャァァァ!!!!!」

かすみ「“リーフブレード”ォ!!!」


聞こえてきた鳴き声に反応して、指示を叫ぶ、


 「カァインッ!!!!」


──ギィンッ!! と刃同士がぶつかり合う音が響くと同時に、


英玲奈「──カイロス!! “ハサミギロチン”!!」
 「カイーーーッ!!!!」

かすみ「!?」


バッと顔を上げると、かすみんに向かって、カイロスがハサミを構えて突っ込んでくるじゃないですか……!?

このままじゃ、やられる……!?

かすみんは咄嗟に小脇に抱えていたサニーゴを両手で掴んで前に出す──ガァンッ!! と音立てながら、サニーゴが“ハサミギロチン”に挟まれます。

相手の攻撃は、一撃必殺ですが、


 「……サ」


ゴーストタイプのサニーゴになら、効きません……!

かすみんは咄嗟にサニーゴからパッと手を放し、腰のボールを2個、弾くように落とす。


 「──ヤブクッ!!!!」「──テブッ!!!」


ボールから、ヤブクロンとテブリムが飛び出し、


かすみ「“ヘドロばくだん”!! “サイコショック”!!」
 「ヤーーブクッ!!!」「テブリィッ!!!」

 「カイロッ!!!?」


カイロスの足元で攻撃を炸裂させ吹っ飛ばす。それと同時に、挟まれていた──ノーダメージですけど──サニーゴも解放され……それと、同時に上から翅音。


 「ブゥゥゥーーンッ!!!!」


そりゃメガスピアーが追撃に来ますよね!?

かすみんは目の前のサニーゴを再び掴んで、真上を向かせる。


かすみ「“あやしいひかり”!!」
 「…………サ……コ」

 「ブゥゥゥンッ!!!?」


上を向いたサニーゴがカッと発光し、メガスピアーに閃光を浴びせかけた。

至近距離で真正面から“あやしいひかり”を受けたメガスピアーはおかしな軌道を描きながら、再び上昇していく。
212 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:03:23.73 ID:tTvUwYyF0

英玲奈「く……“こんらん”させられたか……! スピアー、一旦戻れ!!」
 「ブゥゥゥーーン──」


英玲奈先輩はボールを投げて、スピアーを控えに戻す。

それと同時に──ギィンッ!! と硬い音を立てながら、


 「カインッ…!!!」


ジュカインが飛び退いてくる。


かすみ「ジュカイン、大丈夫!?」
 「カインッ…!!!」

英玲奈「バサギリのパワーと互角か、さすがメガシンカポケモンだな……!」
 「グラッシャァァ…!!!」

かすみ「むしろ、なんでメガシンカポケモンと互角のパワーなんですか……!?」


今度はバサギリが縦向きにまさかりを構え、さっき吹っ飛ばされたカイロスも身を起こして、前傾姿勢になる。

攻撃が来る──そう思った瞬間、


 「カインッ!!!?」
かすみ「!?」


ジュカインが何かに後頭部を殴られ、前に向かって体勢を崩した。

その隙を見逃してくれるはずもなく、


 「グラッシャァァァァ!!!!」


バサギリがまさかりを振り下ろしてくる。


かすみ「……っ……! “アイアンテール”で受け止めて!!」
 「カインッ……!!!!」


ジュカインはバランスを崩しながらも、手を突き──前に倒れる反動をそのまま利用して、尻尾を振り上げる。

ちょうど逆立ちになったような状態で尻尾を硬化させ、振り下ろされるバサギリのまさかりを尻尾で受け止めた。

そして、間髪入れずに、


かすみ「しっぽミサイル、発射ぁ!!」
 「カァインッ!!!」


ジュカインは尻尾側の種を破裂させ──尻尾をミサイルのように発射した。


 「グラッシャァ!!!?」


──ギィンッ! と硬い音を立てながら、しっぽミサイルに弾かれたバサギリの腕が持ち上がる。

腕が持ち上がり、無防備になったバサギリに向かって、


 「テブリッ!!!!」


テブリムが頭の房を構えて飛び出した。

が、


 「テブリッ!!!?」
かすみ「な……っ!?」
213 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:05:40.38 ID:tTvUwYyF0

またしても、見えない何かの攻撃で、今度はテブリムが吹っ飛ばされる。

吹っ飛ばされたところに、


 「──カイーーーッ!!!!」


カイロスが突っ込んで来て──テブリムをハサミで捕まえる。


英玲奈「“しめつける”!!」
 「カイイーーーッ!!!!!」

 「テ、テブリィィィィ!!!!!」


テブリムは締め付けられる瞬間、頭の房を両側に突っ張って、どうにか耐えてますが……! 早く、助けなきゃ……!

かすみんがゾロアのボールを手に取った瞬間──ボールを例の見えない何かに弾き飛ばれた。


かすみ「しまっ……!?」


直後見えない何かは、ゾロアの入ったモンスターボールの開閉スイッチをピンポイントで攻撃して、破壊する。


かすみ「!?」


開閉スイッチが壊されたら、ボールからゾロアが出せない……!?

しまったと思ったけど、


 「ヤーブクゥ!!!」


ヤブクロンが、ゾロアのボールに向かって“アシッドボム”を吐き出すと──ボールが溶けて、


 「──ガゥッ!!!」


中からゾロアが飛び出してくる。


かすみ「ナイスです……! ヤブクロン!」
 「ヤブクゥ!!!」


それはそれとして、動きが見えないポケモンをどうにかしないと……!


 「テ、ブゥゥゥゥゥ…!!!!!」
 「カィィィロォォォ…!!!!」

 「グラッシャァ!!!!!」
 「カィィィンッ!!!!!」


テブリムはまだ必死に耐えている。

ジュカインもまたバサギリと鍔迫り合いを始めている。

もうちょっと、頑張って……!!

──この動きが見えないポケモン、どうにかするには……!


かすみ「みんな、一瞬息止めてーーーー!!! “どくガス”!!!」
 「ヤブクゥゥーーー!!!!!」


ヤブクロンが上空に向かって、“どくガス”を吐き出す。


英玲奈「……! “どく”状態にして削り倒すつもりか……!! だが、倒れるまでテブリムやジュカインが持つと思うか……!」


もちろん、そんな悠長な作戦じゃありません……!
214 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:06:14.89 ID:tTvUwYyF0

かすみ「“ベノムトラップ”!!」
 「ヤーブーーーーッ!!!!!」


ヤブクロンが霧状の毒を上空に向かって噴き出す──この技は曜先輩との戦いでも使った技……!

“どく”状態のポケモンがこの霧に突っ込むと──


 「──…ジジジ」


動きが鈍る……!


英玲奈「!? なんだと……!?」

かすみ「テッカニン……!!」


あのポケモンが“かそく”しまくって見えなくなってたんですね……!!

でも姿が見えれば、こっちのもんです……!!


 「ガゥッ!!!!」


ゾロアがかすみんの足から身体を伝って駆け登り──頭の上から踏み切って、


 「ガゥッ!!!!」

 「──ジジジ!!!?」


動きの鈍ったテッカニンに爪を引っかけて、引き摺り落とす。

爪を引っかけ、一緒に落下しながら、


かすみ「“しっとのほのお”!!」

 「ガーーーゥゥ!!!!」

 「ジジジジジジ!!!!?」


ゾロアが体から炎を放って、攻撃する。

至近距離から炎で焼かれ──テッカニンは戦闘不能になって地面の上でひっくり返った。


かすみ「よし……!! これで、1匹……!!」


やっと1匹目を倒したと思った矢先、


 「──カィィィンッ…!!!!」


ジュカインが吹っ飛ばされてきた、


かすみ「ジュカイン!?」


バサギリと互角の迫り合いをしてたんじゃ……!?

ハッとしてバサギリの方を見ると──


 「ブゥゥゥーーン」

かすみ「!」


──気付けば、メガスピアーが再びフィールドに姿を現し、バサギリの援護に入っていたらしい。


英玲奈「スピアー!! 次はテブリムだ!!」
 「ブーーーンッ!!!!」
215 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:07:16.48 ID:tTvUwYyF0

メガスピアーは今度は、カイロスのハサミに挟まれたままのテブリムに向かって、飛び出して行く。


 「テブリィィィィ…!!!!」
 「カイィィィ!!!!!」


もちろん、今の状態じゃテブリムはカイロスから逃げ出すことは出来ない。

メガスピアーが針を構え、


英玲奈「“とどめばり”!!」

 「ブゥゥゥゥーーンッ!!!!」


メガスピアーのお尻の針がテブリムに直撃しようとした、瞬間、


 「カィィッ!!!?」


カイロスの足元が沈み込み、標的がずれたメガスピアーの針は──ガンッと音を立てながら、カイロスのツノに直撃する。


英玲奈「な……!?」


メガスピアーのあまりあるパワーは、事故でぶつかっただけでも、カイロスのツノにヒビを入れ──その拍子に、


 「テブリッ!!!」


テブリムが脱出する。

カイロスの頭の上を飛び降りたと同時に、


かすみ「“マジカルシャイン”!!」

 「テブリッ!!!!」


テブリムが激しく閃光して、


 「カイィッ!!!!」「ブゥンッ!!?」


カイロスとメガスピアーを牽制する。

もちろん、今しがたカイロスの足を取ったのは──


 「クマァッ!!!」


地面に忍ばせたジグザグマです!!


英玲奈「……! ジグザグマ……!」

かすみ「どんなもんですか! かすみんのジグザグマお得意の“あなをほる”で同士討ちさせてやりましたよ!」
 「クマッ!!!」「テブリッ!!!」


ジグザグマとテブリムが、かすみんのもとに戻ってきて、


 「カインッ…!!!」「ガゥゥッ!!!」「クマァッ」「……サ」「ブクロンッ!!!」「テブリッ!!!」


かすみんパーティ勢揃いです……!

一方で英玲奈先輩の手持ちはテッカニンが戦闘不能、カイロスがツノが砕けている状態……! これは有利な状況です……!
216 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:09:02.64 ID:tTvUwYyF0

英玲奈「なるほど……ここまで来るだけあって、強いな……!」

かすみ「当然です! それに、強いだけじゃありません……勝ちに来たんですから!!」

英玲奈「いい威勢だ……だが、これならどうだ──」


英玲奈先輩の台詞と同時に──空の太陽が急にとんでもない熱を主張し始めた。


かすみ「あっつ!? な、なに……!!?」


太陽に目を向けると──真っ赤な太陽がどんどんこっちに落ちてくるじゃないですか……!?


かすみ「……いや、違う……あれ、太陽じゃない……!?」

 「──ビィィィ……」


真っ赤な炎を身に纏った──大きな翅をはためかせながら、降りてくる。……まさか、ポケモン……!?


英玲奈「ウルガモス!! “ほのおのまい”!!」
 「──ビィィィィィ!!!!!!」


ウルガモスが6枚の翅から、鱗粉をばら撒くと──それは周囲一帯に灼熱の炎が降り注いでくる。

しかもここは竹林……切り倒された大量の竹がある場所でそんなことしたら……!?

一瞬で炎は周囲の竹に引火し──辺りは一瞬で火の海になり、四方八方を炎で包囲されてしまった。


かすみ「!? う、うそ……!?」


これじゃ、炎から逃げられない……!?


英玲奈「さぁ、どうする、チャレンジャー……」

かすみ「こ、こんな炎の中じゃ、英玲奈先輩のむしポケモンも燃えちゃうじゃないですか!?」

英玲奈「ああ、そうだ。だが、だからこそ、私も、私のポケモンたちは昂ぶるんだ……!」
 「グラッシャァ」「カイーーーッ!!!!!」「ブーーーンッ…!!!!」

英玲奈「逃げられないからこそ、燃え上がるんじゃないか!! ポケモンバトルは!!」

かすみ「こ、この戦闘狂〜……!!」

英玲奈「戦闘狂で結構だ……!! 私はこのバトルが最後まで楽しめればなんでもいい!! 行け、ペンドラー!!」
 「ペンドラァァァ!!!!!」

かすみ「っ……!?」


英玲奈先輩の最後のポケモン──ペンドラーはボールから出ると同時に、猛スピードでこっちに向かって突っ込んでくる。


英玲奈「“メガホーン”!!」
 「ペンドラァァァ!!!!!」


ペンドラーが頭のツノを前に突き出して突っ込んでくる。

こんな逃げ場のない炎の海の中……避けられない……!?


 「カインッ!!!!」


そのとき、ジュカインが前に飛び出して──ガァンッ!!! と音を立てながら、“リーフブレード”でペンドラーのツノを受け止める。


かすみ「ジュカイン!?」
 「カインッ!!!!」


そのまま、腕を振るって、ペンドラーを弾き返すが、
217 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:09:37.73 ID:tTvUwYyF0

 「ペンドッ!!!!」


ペンドラーはまた、すぐに戻ってきて、再びツノを突き出し突っ込んでくる。


 「カインッ!!!」


──ガァンッ!!! ガァンッ!!! ガァンッ!!!

弾いても弾いても、ペンドラーはまたすぐに戻ってきて──しかも、どんどん“かそく”しながら、“とっしん”を繰り返す。


英玲奈「そいつはしつこいぞ……! “かそく”しながら、相手が倒れるまで何度でも攻撃する……!」

かすみ「くっ……! 加勢しなきゃ……!」
 「ガゥッ!!!」「テブッ!!!」「ヤブクッ!!!」「クマッ」「……サ」


5匹がジュカインに加勢しようと飛び出す、が、


英玲奈「バサギリ!! “がんせきアックス”!! カイロス!! “じしん”!!」
 「グラッシャァァァァ!!!!」「カィィィッ!!!!!」


バサギリが思いっきり、地面にまさかりを叩きつけた衝撃と、カイロスの起こした“じしん”で、


 「ガゥッ!!?」「テブリッ!!!?」「ブクロンッ…!!!」「ク、クマァ…!!!」


浮いているサニーゴを除き、かすみん含めた全員が足を取られる。

直後──


 「カァインッ!!!!」


ジュカインの足元から草が広がっていく。

──ジュカインが使った“グラスフィールド”だ。“グラスフィールド”には“じしん”の効果を半減する効果がある。


 「ペンドラァァァァ!!!!!」

 「カインッ!!!!」


──ガァンッ!!!

ジュカインはペンドラーを捌きながら──みんなのサポートまでしている。


かすみ「ジュカイン……っ!! 無茶しないでっ!!」

 「カィィンッ!!!!」


──ガァンッ!!


かすみ「みんな、ジュカインのサポートを……!!」


みんなに指示を出すけど、


英玲奈「スピアー!! “ミサイルばり”!!」
 「ブゥゥーーーンッ!!!!」

かすみ「……!?」


猛スピードで“ミサイルばり”が飛んでくる。


かすみ「“サイコキネシス”!! “スピードスター”!! “シャドーボール”!!」
 「テブリッ!!!」「ガゥゥゥッ!!!!」「……サ、コ」
218 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:10:18.52 ID:tTvUwYyF0

相殺しようと攻撃を放つけど、“ミサイルばり”は“シャドーボール”を貫き、“スピードスター”を弾き飛ばす。

2匹の技で減速させたところを、テブリムの“サイコキネシス”がどうにか軌道をずらし──ドォンッ!! と音を立てながら、ギリギリ当たらないところに着弾する。


かすみ「……っ……!!」
 「テ、テブリィ…!!!」「ガゥゥゥゥッ!!!!!」「…………」


その間にも、


 「ペンドラァァァ!!!!」
 「カィンッ!!!」


──ガァンッ!! ガァンッ!! と音を立てながら、ジュカインが盾になっている。

でも、ペンドラーはどんどん加速しているし、


 「ビィィィィ!!!!!」


ウルガモスの発する炎はどんどん勢いを増していく。

ジグザグマで落とし穴を作って止めるのも考えたけど……“じしん”をされたら、逆に大きなダメージを受けちゃうし、“ベノムトラップ”もどくタイプのペンドラーにはそもそも通用しない。


かすみ「こ……このままじゃ……! そうだ……! サニーゴ!! “くろいきり”!!」
 「……サ」


“くろいきり”なら、ペンドラーの“かそく”をリセット出来るはず……! と思ったけど──周囲が火の海の中で出した“くろいきり”はこの場に留まることが出来ず、一瞬で空高くまで吹き飛んで行ってしまった。


かすみ「そ、そんな……ど、どうしよう……」
 「ガ、ガゥゥ…」「テ、テブ…」「ク、クマァ…」「ブ、ブクロン…」「…………」


もう、打つ手がない……!

そして、ついに──


 「ペンドラァァァァッ!!!!」
 「カインッ…!!!?」


相手が“かそく”しきって、捌ききれずに──ペンドラーの“メガホーン”が、ジュカインのお腹に直撃した。


かすみ「ジュカインッ!!」


でも、


 「カァァァィィィィンッ!!!!」


ジュカインは足を踏ん張り、かすみんたちの目の前まで押されながらも、ペンドラーを止め──そのまま、手で上からペンドラーの頭を押さえつける。


 「ペンドラァァァァァ!!!!!」
 「カァィィィィンッ!!!」

かすみ「じ、ジュカイン……!」

英玲奈「……大した根性だ。自分がエースである自覚があるんだろうな……だが、同情してやるつもりはないぞ。ウルガモス、“ねっぷう”!!」
 「ビィィィィィィ!!!!!!」

かすみ「あっつっ!!」
 「ガゥゥゥゥ!!!?」「テ、テブリィッ…!!!」「ブクロンッ…!!!」「クマァッ…!!?」「…………ニ」


全員を熱波が襲い掛かる。もう、限界……このままじゃ……!


 「カァィィィィンッ!!!!」


そのとき、ジュカインが大きな鳴き声をあげながら──私たち全員を掬い上げるように尻尾を振るう。
219 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:11:40.58 ID:tTvUwYyF0

 「ガゥ!!!?」「テブリッ!!?」「ブ、ブクロ…」「クマァッ…!!!」「……サ、ニー…ゴ」
かすみ「ジュカイン……!?」

 「カインッ…」


全員が尻尾に乗ったのを確認すると──ジュカインは、


 「カィンッ!!!!」


尻尾に一番近いタネを破裂させ……私と5匹の手持ちを乗せた尻尾を──後方に向かって発射した。


かすみ「ジュカイン!? 待っ!?」
 「ガゥ!!!」「テブッ!!!」「ブクロンッ!!!!」「クマ、クマァッ!!!」「サ、ニーーーゴ…!!!」


私と5匹の手持ちを乗せたしっぽミサイルは、猛スピードで炎の海を突っ切り──炎のデスマッチの場外まで、私たちを離脱させた。



 「…カインッ…」

英玲奈「……仲間たちを逃がしたのか? この場で私たちに対抗しうる力を持つのは、お前だけだぞ?」

 「……カィィンッ!!!!」

英玲奈「……仲間たちを信じているとでも言うのか? ……心意気は嫌いではないがな」

 「……カィ…ン…」

英玲奈「……やっと倒れたか……。……いや、メガシンカしているとはいえ、自分以外の手持ちとトレーナーを庇い続けたんだ……体力はとっくに限界だったろう。安心しろ、すぐに彼女たちを見つけて試合は終わらせてやる──私たちの勝利で」





    👑    👑    👑





──いつだか……しず子と、こんな話をした。


──────
────
──


かすみ「え……? 歩夢先輩のサスケは、進化しない……? キャンセルしてたんじゃないの……?」

しずく「うん、てっきり私もそうなんだと思ってたんだけど……サスケさんは一度も進化しそうになったこともないんだって。歩夢さんは……いつまでも自分の肩に乗っていたいから、進化しないんだと思うって言ってたけど……」

かすみ「そうなんだ……。……じゃあ、かすみんの手持ちも、そうなのかな……」

しずく「え?」


しず子は私の言葉にきょとんとする。きょとんとした後、少し考える素振りをして──


しずく「……そういえば、最近かすみさんがキャンセルボタン押してるとこ……見てないかも」

かすみ「うん。実はちょっと前から、みんなのレベルが上がっても、進化しようとしなくなったんだ」

しずく「それって……」

かすみ「たぶん……かすみんが、いつまでもみんなに可愛いままでいて欲しいって気持ちが伝わったからなんじゃないかな〜って」

しずく「ふふ♪ ……かすみさんのポケモンたちは、かすみさんが自分たちにどうあって欲しいのかを、ちゃんとわかってくれてるんだね♪」

かすみ「ホント、いい子たちです……えへへ♪ かすみんこんないい子たちと一緒に旅が出来て、幸せです♪」

しずく「ふふ、そうだね♪」
220 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:12:38.79 ID:tTvUwYyF0

──
────
──────



かすみ「……はぁ……はぁ……」


燃え盛る竹林を、ジュカインのお陰でどうにか脱出出来たけど……。


 「テブ、テブゥッ!!!!」「ガゥガゥゥ!!!!」

 「ヤ、ヤブクーー…!!!」「ク、マァァァ…!!!」


今にも飛び出しそうなテブリムとゾロアを、ヤブクロンとジグザグマが必死に止めている。


 「……ニ」


サニーゴはそれを呆然と眺めている。

……かすみんたちは、みんな……ジュカインに助けてもらうことしか出来なかった。

理由はなんとなく……わかっていた。

私たちはずっと……唯一進化して戦い続けるエース──ジュカインに頼り過ぎていたんだ。

──……だからかな。……今、話をしなくちゃいけないと思った。


かすみ「……ねぇ、みんな。……聞いて欲しいことがあるんだ」
 「ガ、ガゥ…?」「テブ…」「ブクロン…」「クマ…?」「……ニゴ」


私が……みんなをどう思っているかのお話を……。


かすみ「……かすみんね……ずっとずっと、可愛いポケモンたちと旅がしたかったんだ。それが……夢だったの」


旅に出る前からずっと思っていた。可愛いポケモンたちに囲まれて、可愛いポケモンたちと一緒に、可愛い可愛い旅がしたかった。

──でも、なかなか思ったとおりにはいかなくって……。

最初に欲しかったのは可愛いヒバニーだったのに、結局貰ったのはキモリだったし……。


かすみ「ジグザグマはもともとイタズラされて腹が立ったから、懲らしめるために捕まえただけだし……」
 「クマ…」

かすみ「サニーゴはホントはガラルのサニーゴじゃなくて、ピンク色の可愛いのがよかった」
 「……ニゴ」

かすみ「ヤブクロンだって、かすみんのイメージじゃなかったんだよ? でも、ほっとけなくて……」
 「ブクロン…」

かすみ「テブリムも、なりゆきで一緒に行くことになってさ……。かすみんのこと子分扱いする生意気な子でさ……」
 「テブ…」

かすみ「みんな……全然かすみんの想像する可愛い可愛い仲間たちじゃなくって……。……でも……でもね……」


私は──みんなを抱き寄せる。
221 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:13:33.84 ID:tTvUwYyF0

かすみ「──今は……みんなが可愛くて可愛くて仕方ないの……っ……」
 「クマ…」「…サニゴ」「ブクロ…」「テブリ…」「ガゥ…」

かすみ「ジグザグマが私のためにたくさんいろんなものを集めてきてくれて……褒められたときにする顔、私、可愛くて大好き……」
 「クマァ…ッ…」

かすみ「サニーゴ……普段はボーっとしてるように見えて……実は表情豊かで、熱い気持ち持ってて……嬉しいときは嬉しい顔、ちゃんと見せてくれる……そういうギャップにとびっきりの可愛さ感じてるよ……」
 「サコ……ッ…」

かすみ「ヤブクロン……寝るときに、私がぐっすり眠れるように、枕元で良い匂い出してくれてるの、実は知ってたよ? それにヤブクロンの笑顔、愛嬌があってすっごく可愛いんだよ……」
 「ブクロン……ッ…」

かすみ「テブリムは生意気だけど、私を守るためにいっつも強がってるでしょ……? ホントは群れのみんなのこと思い出して寂しくなっちゃってるの知ってるんだよ……そういう可愛いところあるの私にはバレバレなんだからね……?」
 「テ、テブ……ッ…」

かすみ「ゾロア……私の初めてのお友達。初めてゾロアをママからもらったとき、可愛い可愛いってずっと可愛がってたけど……テレビでゾロアークの姿を、見た目を知ったとき、私、大泣きしちゃったんだよね。覚えてるかな……?」
 「ガゥゥ…」

かすみ「ちっちゃい頃の私は……いつか、ゾロアもこうなっちゃうんだって、可愛くなくなっちゃうんだって……そう思ったの……。……でも、でもね……今ならわかるんだ」


私はみんなを──ジグザグマを、サニーゴを、ヤブクロンを、テブリムを……ゾロアを、順に見つめて。


かすみ「……可愛さって、溢れ出るものなんだって。見つけられるものなんだって」


私が──誰よりも可愛くて強いトレーナーになるのに必要なことは──


かすみ「私は……みんながどんな姿でも、みんなの可愛さ、見つけられるよ……♪ 見つけてみせるよ……♪」
 「クマ…」「…サコ」「ブクロン…ッ」「テブ…ッ」「……ガゥッ!!!」

かすみ「だから、もう……止めなくていい……! 私のために、私の夢のために、止まらなくていい……! 私と一緒に、前に進もう……!」
 「クマ──」「サコ──」「ブクロン──」「テブリ──」「ガゥゥゥ──」


私は──この子たちと一緒に……変わるんだ……!!


かすみ「行こう……!! みんな……!!」





    👑    👑    👑





英玲奈「……出てこい」


英玲奈先輩が炎の竹林の中から、歩いてくる。


 「グラッシャァァ!!!!」「カイィィロス!!!!」


バサギリが、カイロスが力任せに燃える竹を蹴散らしながら──


 「ペンドラァァァーーー!!!!」


そして──ペンドラーの背中の上には、戦闘不能になって気絶したジュカインの姿。


英玲奈「せめてもの情けだ。連れてきてやったぞ」


そう言って、ペンドラーはジュカインを地面に下ろす。


かすみ「……ありがとうございます」


私はお礼交じりに竹林の陰から姿を現す。
222 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:14:54.72 ID:tTvUwYyF0

かすみ「戻って、ジュカイン」


ジュカインをボールに戻して、ぎゅっと胸に抱きしめた。


英玲奈「……さぁ、どうする? まだ続けるか? ……出来れば降参なんて興の醒めることはして欲しくないが……」

かすみ「しませんよ。……ここで、諦めたりしたら……ジュカインの努力が全部無駄になっちゃいます」

英玲奈「良い心掛けだ……。そんな君を……これから、完膚なきまで叩きのめしてしまうことに……心が痛むよ」

かすみ「出来るもんなら……やってみろです……!!」

英玲奈「行け……!! ペンドラー!!」
 「ペンドラァァァァ!!!!!」


ペンドラーが猛スピードで走り出してくる、が──私の足元を横切るように、何かが猛スピードで飛び出した。


英玲奈「!? なんだ!?」


その影は──竹林の中を直角に曲がりながら、猛スピードでペンドラーに接近し、


かすみ「“しんそく”!!」

 「──クマァァァーーー!!!!」

 「ペンドラァァァ……!!!!」


真横から、強烈なタックルをお見舞いする。

ペンドラーはまさか、真横から攻撃されると思っていなかったのか、バランスを崩して横転する。

そこに向かって、


かすみ「“すてみタックル”!!」

 「──クマァァァーーー!!!!」


全身全霊の突撃をお見舞いした。


 「ペ、ペンドラァァァ…!!!!!」


ペンドラーが突撃された衝撃で、地面を滑る。


英玲奈「……! その姿……!」


 「クマァーーー…!!!」


ボサボサだった毛並みが真っすぐ流線形になり、細長くスマートな体躯を見せつけながら──マッスグマが鳴く。


英玲奈「この土壇場で進化した……ということか。そういうのが流行っているのか? だが、そんな一発技があっても戦況はひっくり返らないぞ……!! スピアー!!」
 「ブーーーーンッ!!!!」


メガスピアーが猛スピードで飛び出した瞬間、藪の中から──白い何かが伸び出てきた。


英玲奈「!?」


急に飛び出したソレは──さらに真っ白い枝のようなものを伸ばし、メガスピアーに絡みついていく。


かすみ「“ちからをすいとる”!!」
 「ニゴーーーンッ!!!!」

英玲奈「サニゴーン!? 2匹同時進化だと!?」

 「グラッシャァァァァッ!!!!」「カイーーーッ!!!!!」
223 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:15:48.09 ID:tTvUwYyF0

異変に気付いたバサギリとカイロスが飛び出してくると同時に──竹林の中から腕が伸びてきて、


 「グラッシャァッ!!!?」「カイィッ!!!?」


バサギリとカイロスを上から押さえつけ、直後──


かすみ「“タネばくだん”!!」
 「──ダストォォォ!!!!!!」


その手の先から出したタネが──ボォンッ!!! と音立てながら爆発する。


 「カ、ィィィ…」


もともとダメージを負っていたカイロスは、そこで後ろに向かって倒れ、


 「グラ、ッシャァァァ…!!!!」


バサギリにもダメージを与えながら──そのまま、両手でバサギリを掴んで持ち上げ、ぶん投げる。


 「グラッシャァァア!!!!?」

英玲奈「なんだ!? 何が起きている!?」

 「ブ、ブーーーンッ…!!!?」


鳴き声にハッとするように、英玲奈先輩がメガスピアーに顔を向けると、


 「ニゴーーーンッ」


メガスピアーはサニゴーンに絡め取られて動けなくなっていた。


英玲奈「スピアー!? なにしている!? 早く逃げないと、どんどん力を吸われるぞ!!」

かすみ「無駄ですよ……! パワーを吸い取られた上に、“かなしばり”で動きを止めましたから……! サニゴーンの呪いのパワーはもうサニーゴの比じゃありません……!」

英玲奈「く……っ……ウルガモス!! “ほのおのまい”!!」
 「ビィィィィィ!!!!!」


ウルガモスが踊るように炎の鱗粉を周囲にばら撒き、風に乗せてこちらに向かって飛ばしてくるが──その炎は急に意思でも持ったかのように、風に煽られ明後日の方向に飛んでいく。


英玲奈「な……!?」


驚いて目を見開く英玲奈先輩。

──まさか、さっきまで戦っていたポケモンの“サイコキネシス”であの大量の炎を一瞬で吹き飛ばされたなんて、信じられないでしょうね。


かすみ「隙だらけです……!! “サイコショック”!!」
 「リムオーーーーンッ!!!!」


鳴き声と共に──とてつもない量の実体化したサイコパワーのキューブがウルガモスの真上に出現し、マシンガンのようにウルガモスの体に降り注ぐ。


 「ビ、ビィィィィィ!!!!!」


耐えることもままならず、ウルガモスは地面に落下し──落下したウルガモスに向かって、先ほどの長い腕がその先端をウルガモスに突き付ける。


かすみ「“ヘドロウェーブ”!!!」
 「──ダストダァァァァス!!!!!」

 「ビィィィィィィ!!!!!!」
224 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:16:28.97 ID:tTvUwYyF0

手の平から、“ヘドロウェーブ”が噴射され、ウルガモスを襲った。

ウルガモスは“サイコショック”と“ヘドロウェーブ”による立て続けの攻撃を受け──ヘドロまみれになって気絶する。

それと同時に──私の背後に現れる2匹の影。


 「リムオン…」「ダストダァーース!!!」

英玲奈「ブリムオンに……ダストダス……!? 1匹ならまだしも、バトルの最中に4匹同時進化だと……!? そんなの聞いたことがないぞ……!?」

かすみ「いえ──……5匹同時進化です……!!」
 「ゾロアーーーークッ!!!!!」

英玲奈「……!?」

かすみ「ゾロアーク!! “ナイトバースト”!!」
 「ゾロ、アーーーークッ!!!!」


ゾロアークが前に飛び出し──広がる暗黒の衝撃波がペンドラーを吹き飛ばす。


英玲奈「ペンドラー!?」


そして、それと同時に──


 「ブーーーンッ……」
 「ニ、ゴォーーーン……」


サニゴーンとメガスピアーが同時に落下してくる。


英玲奈「な……!? メガシンカポケモンが同士討ちにされただと……!?」

かすみ「サニゴーンの特性は“ほろびのボディ”です! 接触した相手と一緒に滅ばせてもらいました……!」


残るは──


 「グラ、ッシャァァァァ……!!!!」


バサギリのみ……!


 「グラッシャァァァァァッ!!!!!」


バサギリは、近くにいたゾロアークに向かって飛び出してくる、が、


 「ゾロアーーーーーク…」


ゾロアークが、バサギリの額に、コツンと拳を当てた瞬間──


 「グラッシャァッ!!!!!?」


バサギリの体がとてつもない勢いで、吹き飛んでいった。


英玲奈「な……なん……だと……」

かすみ「……“イカサマ”成功ですね」
 「ゾロアーーーークッ!!!!」


“イカサマ”は相手の攻撃力の分だけ、技の威力が上がる技。

バサギリのような、とんでもないパワーを持ったポケモンには効果てき面だったみたいですね。

何本か竹をへし折りながら吹っ飛んだ先で──バサギリは白目を向いて、気絶していた。

気付けば──英玲奈先輩のポケモンは全滅していました。
225 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:17:35.27 ID:tTvUwYyF0

英玲奈「……あ、あの状況から……負けた……だと……?」


英玲奈先輩はよほど驚いたのか、その場で呆然と立ち尽くしていた。

私はそんな英玲奈先輩のもとに近付いて、


かすみ「英玲奈先輩。……ありがとうございました」


頭を下げた。


かすみ「英玲奈先輩のお陰で……私、ポケモンたちとちゃんと向き合うことが出来ました。この子たちの魅力に、ちゃんと気付いてあげられました」

英玲奈「…………」

かすみ「私は──かすみんは、この子たちともっともっと強くなります。この子たちと一緒に最強の可愛い強いトレーナーを目指します! えへ♪」


ほっぺに指を当てながら可愛く言うと、


英玲奈「……君の言っていることは、全く理解出来ないのだが……」


英玲奈先輩は髪をくしゃっと押さえて、


英玲奈「……君たちの強さが……私たちの強さを上回ったことは……わかるよ……」


悔しそうにそう言うのでした。


英玲奈「……君みたいなトレーナーは……見たことがない……」

かすみ「えへへ♪ かすみんはオンリーワンでナンバーワンですからね〜♪ 当然ですよ〜♪」

英玲奈「……まさか、本気を出して負けるなんて……夢にも思わなかったよ……。……今でも信じられない。……だが、事実は認めねば、私も先に進めない……」


英玲奈先輩はそう言いながら、懐に手を入れ、


英玲奈「……“スティングバッジ”だ。持って行ってくれ」

かすみ「……はい!」


私に“スティングバッジ”を手渡してくれました。

最後のバッジを手にして──やっと、実感が湧いてきて、


かすみ「これで……これで、全ジム制覇ですーーー!!!」


思わず、大きな声で喜びを叫んでしまう。

そこに、


 「ゾロアーク」「クマーーー」「リムオン」


ゾロアークとマッスグマとブリムオンが近寄ってくる。

遅れて、


 「ダストダァァス」「……ニゴーン…」


戦闘不能になったサニゴーンを抱え上げながら、ダストダスもやってきた。


かすみ「えへへ……ゾロアーク、マッスグマ、サニゴーン、ダストダス、ブリムオン──みんなありがと♪ 大好きだよ♪」
 「ゾロアーク♪」「クマーー♪」「ニゴーン…♪」「ダストダス♪」「リムオン♪」


そして、
226 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:18:08.03 ID:tTvUwYyF0

かすみ「……ありがとう、ジュカイン……今日も最高にかっこよかったよ……大好きだよ……」


ジュカインの入ったボールを胸にぎゅっと抱きしめて、かすみんは心の底からのお礼を伝えたのでした。


かすみ「……さぁ、侑先輩……! かすみんはやり遂げましたよ……! 侑先輩ももちろん、勝ちますよね……!」


私は最後のバッジ──“スティングバッジ”を手に入れ、同じように侑先輩が勝つことを祈って、そう一人言葉にするのでした。



227 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:18:53.03 ID:tTvUwYyF0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クロユリシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    ●     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.73 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.66 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.63 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:214匹 捕まえた数:14匹


 かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



228 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 02:20:41.23 ID:gk2TE+8k0

 ■Intermission🍊



 「──マッシブーーーンッ!!!!」

千歌「ムクホーク!! “ブレイブバード”!!」
 「ピィィィィィ!!!!!!」

 「ッシブッ!!!?」


ムクホークが、マッシブーンを低空飛行の突撃で吹っ飛ばしながら、空へと上昇する。


 「ッシブ…!!!!」


もちろん、これくらいじゃ諦めてくれないことくらい理解してる。


千歌「“ふきとばし”!!」

 「ピィィィィ!!!!!」

 「──ッシブーーンッ!!!!?」


上空から強風を叩きつけて、マッシブーンを吹っ飛ばす──それと同時に、


千歌「ムクホーク!! おいで!!」
 「ピィィィィ!!!!!」


ムクホークを呼び寄せ──脚に掴まって、私は戦線を離脱した。





    🍊    🍊    🍊





千歌「……さすがに撒いたかな」


私は岩壁に小さな洞穴を見つけて、そこで一息吐く。


千歌「……とりあえず、ご飯にしよっか」
 「ピィィ」

千歌「みんなも出ておいで」
 「ゼル」「ワフ」「…バク」「…ワォン」


もともと出していたムクホークに加え、フローゼル、しいたけ。……そして、せつ菜ちゃんとの戦いで大ダメージを負った、バクフーンとルガルガン。

小さい洞穴だから、5匹もポケモンを出すとちょっと手狭だ。

そんな中で、私はバッグから“きのみ”を取り出す。


千歌「“シュカのみ”と“キーのみ”と“タンガのみ”しかないけど……みんなで仲良く分けて食べるんだよ」
 「ワフ」


しいたけは一鳴きすると、“キーのみ”と“タンガのみ”を咥えて、バクフーンとルガルガンの前に持って行く。


 「ワフ」
 「…バクフ」「…ワォン」


弱っているバクフーンとルガルガンには、“きのみ”を1つずつ渡して、


 「ワフ」
 「ゼル」
229 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 02:22:21.56 ID:gk2TE+8k0

フローゼルが、“シュカのみ”を“かまいたち”で4つに切り分け、それをしいたけとフローゼルとムクホークが分けて食べる。

……小さな“きのみ”だから、割ったら一欠片くらいになっちゃうけど……。


 「ワフ」


その中の一欠片を、しいたけが咥えて、私の前に持ってくる。


千歌「私はいいよ。そんなにお腹空いてないから」


──ぐぅ〜〜……。


千歌「……」
 「ワフ」

千歌「……食べるね、ありがと」


どんなに強がっても、お腹の虫は誤魔化せないらしい……。


千歌「……食糧……どうにかしないと……水も……」


──私がここの世界に降りてきて、何日経ったっけか……。たぶん1週間以上は経っているはず。

ウルトラスペースに飛び出し、見つけたホールにフローゼルの噴射を使って飛び込んだはいいけど……そこは酷く荒廃した世界だった。

到着と同時にムクホークで何十キロかは飛んでみたけど……岩と崖と干上がった大地くらいしか見つけられなかった。

携帯食料はもうとっくに食べきってしまったし、水はフローゼルに貰っている分があるから今は大丈夫だけど……いくらみずポケモンでも補給なしでは限度がある。

むしろ今は水の節約のためにフローゼルはほとんど戦闘から外している。

なので今は攻撃をムクホーク、防御をしいたけが担う実質2匹態勢……。戦力面でもカツカツだ。

幸い、たまーに野生のポケモンがいるため、そういうポケモンを倒したときに落とす“きのみ”が今の食糧になっている。

ありがたいことに、潤沢とは言えないものの、“きのみ”からは最低限だけど水分も補給できるしね。

……本音を言うなら、もっと積極的に探索をしたいんだけど……この世界には困ったことにウルトラビーストもいる。


千歌「せめて、手持ちがみんな揃ってれば……」


ルカリオはコメコのロッジに置いてきちゃったし……。バクフーンとルガルガンは私に何かがあったときはボールに戻る訓練をしていたため、こうして手持ちにいるけど……ネッコアラにはそこまで訓練が出来ていなかった。

遺跡に置いてきてしまったネッコアラ……さすがに誰かが回収してくれているとは思うけど……。

そんなわけで、今私の手持ちは5匹しかいない。

……尤も、相談役から特別に支給してもらった、この特注ボールベルトがなかったら、今頃手持ちが1匹も居ない状態で途方に暮れていたんだろうけど……。

──ぐぅ〜……。

考え事をしていたら、またお腹が鳴る。


千歌「……とりあえず、今日はもう寝よっか……」
 「ワフ」


そう言うと、しいたけが私のもとに寄ってくる。もふもふの毛皮のお陰で、冷える荒野の夜でも、凍えずに済むのはありがたい。

明日も……水と食糧を探して、荒野を彷徨うことになる、体力は温存しておかないと……。


千歌「せめて町とかがあればなぁ……」


そんな淡い期待を抱きつつも……正直、この世界には文明があるかも怪しい……。

幸いなことに、“きのみ”を優先して食べさせていたバクフーンとルガルガンは徐々に回復してきているし……2匹が復活すれば、戦闘は多少楽になると思う。


千歌「でも……出来れば、ウルトラビーストとの遭遇は避けたいなぁ……」
230 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 02:22:49.44 ID:gk2TE+8k0

この数日で出会った野生のウルトラビーストは、先ほど戦ったマッシブーンと、数日前に遭遇したズガドーン。ちらっと見かけたツンデツンデくらいだ。

多くはないけど……私たちの世界からしたら十分多い。今後も遭遇する可能性は十分ある。

──本来ウルトラビーストは1つの世界で何種類も見ることはあまりないらしい。

私たちの世界では“ウルトラビースト”と一括りにされてしまうためにわかりづらいけど……マッシブーンなら“ウルトラジャングル”。フェローチェなら“ウルトラデザート”と、ある程度生息している世界は決まっているようだ。

だからきっと……あのウルトラビーストたちもウルトラホールを通って、他の世界からここに迷い込んできたんだと思う。

逆に言うなら、今居るこの場所は、いろんな世界と繋がりやすい場所とも考えられる……はず。それなら、私が元居た世界に繋がる可能性だってなくはない。

それに、ウルトラスペースシップに連れ込まれてから、割と短時間で脱出したつもりだから……たぶん私たちの世界ともそんなに遠くない。……はず。

……今出来ることは、とにかく耐え凌ぎながら、どうにかして元の世界に帰ることだ……。


千歌「……とにかく寝よう」


私は目を瞑る。暗くなって安全に動けない時間は、体力温存のために少しでも眠らないと……。

今は、生き抜くために……。


………………
…………
……
🍊

231 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:41:51.63 ID:gk2TE+8k0

■Chapter056 『決戦! ヒナギクジム!』 【SIDE Yu】





──かすみちゃんをクロユリシティに送り届け……私は、ヒナギクシティに向かって飛行している真っ最中。


リナ『侑さん』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ん?」
 「ブィ」


腕に装着したリナちゃんが、話しかけてくる。


リナ『また、ドラメシヤが近くに来てるよ』 || ╹ᇫ╹ ||


言われて、周囲に視線を彷徨わせると、


 「メシヤ〜」


確かに、ドラメシヤが近くを飛んでいた。

私は空のモンスターボールを取り出し──ドラメシヤに向かって投げる。


 「メシヤ──」


ドラメシヤはほぼ無抵抗でボールに吸い込まれて、難なく捕獲される。

私は、ウォーグルに指示を出して、ボールをキャッチし──再びヒナギクに向かう飛行経路に戻る。


リナ『これで、5匹目だね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん……やっぱりドラパルトに引き寄せられてきてるのかな」
 「イブィ…?」

リナ『そうだと思う。でも、ドラパルトが力を発揮するなら、ドラメシヤの力は必要』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


──実は、ドロンチがドラパルトに進化してからというもの、定期的にドラメシヤが私の近くに寄ってくるようになっていた。


侑「ドラメシヤはドラパルトに発射してもらうのが好きみたいだもんね」

リナ『心待ちにしてるらしいね。不思議な生態』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんはそう言いながら、ドラパルトの図鑑データを表示する。


リナ『ドラパルト ステルスポケモン 高さ:3.0m 重さ:50.0kg
   ツノの 穴に ドラメシヤを 入れて 暮らす。 戦いになると
   マッハの スピードで ドラメシヤを 飛ばす。 ツノに 入った
   ドラメシヤは 飛ばされるのを 心待ちに しているらしい。』


──ドラパルトというポケモンは頭のツノに穴が空いている。

図鑑の説明どおり、その穴にドラメシヤたちを住まわせていて、戦いになるとその穴からマッハのスピードでドラメシヤを飛ばす“ドラゴンアロー”という技が使える。

……理由はよくわからないけど、ドラメシヤたちは飛ばされるのが大好きらしく、こうして寄って来ているということらしい。


リナ『ドラパルト自体、数が少ないから、たくさん引き寄せられてきちゃうのかもね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「まあ、バトルで使うことになるだろうから、助かるけどね」
232 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:42:24.87 ID:gk2TE+8k0

なので、こうして寄ってきたドラメシヤは積極的に捕まえているというわけだ。

……全く抵抗しないし、ドラメシヤ側も捕まえて欲しいんだと思う。

今もすでにボールの中にいるドラパルトの両ツノの穴には、ドラメシヤが住んでいる状態だ。

……ドラメシヤが2匹住んでいたら、ドラパルトのボールの中には3匹のポケモンが同時に入っている気がするけど……。

ツノの穴の中に入ってさえいれば1匹として扱われて、そのまま3匹を1つのボールに入れられるらしい……。


侑「なんか……不思議なポケモンだよね」

リナ『まだまだ生態に謎が多いポケモンはたくさんいる。ドラパルトも戦いが終わったあとに、博士に見せてあげたら喜ぶかもしれないね』 || > ◡ < ||

侑「ふふ、そうかもね」


確かに、文化研究をしているヨハネ博士からしてみたら、自分から人間のもとに集まってくるドラメシヤたちの生態は興味深いだろうし、道具研究をしている鞠莉博士も、1つのボールで3匹入ってしまう不思議なポケモンに興味を示しそうだ。

全部のことが終わったら、見せに行こうかな。


侑「それにしても……こうして、リナちゃんの装着具を作ってもらえて助かったよ。これなら、移動中にもお話し出来るし、図鑑データも見られるから」

リナ『うん! もっと前から作ってもらっておけばよかったね!』 || > ◡ < ||


──私とかすみちゃんが修行から帰ってきたら、リナちゃんの背面に、私の腕にくっつける機能が実装されていた。

リナちゃんの意思で、腕輪のような装着具を展開して、私の腕に固定出来る。

鞠莉博士が図鑑をウルトラビースト対応にアップデートする際に、追加で改造を施してくれたらしい。

しかも、わざわざ私の腕に合わせて作ってくれたみたいで、フィット感が完璧──ちょっと振ったくらいじゃ、まったく動かないほどだ。


リナ『これなら、空の移動でも、激しいバトルでも、安心して侑さんと一緒にいられるね!』 || > ◡ < ||

侑「うん、そうだね♪」


今回のバトル──ヒナギクジム戦も前回に続いてフリーバトルだ。

激しい戦闘が予想されるから、こうしたリナちゃんのアップデートは本当にありがたい。


リナ『今回は、私も今まで以上に侑さんをサポート出来るように頑張るね!』 || > ◡ < ||

侑「うん! お願いね、リナちゃん!」


そして、そんな話をしていると、


侑「見えてきたね……!」

リナ『ヒナギクシティ♪』 ||,,> ◡ <,,||
 「イブィ♪」


私は、最後のジムがある町──ヒナギクシティへ到着しようとしていた。





    🎹    🎹    🎹





ヒナギクシティのポケモンジムの前に降りると──


理亞「……やっと来た」


理亞さんはすでにジムの前で待っていた。
233 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:43:19.32 ID:gk2TE+8k0

侑「す、すみません……遅くなって」

理亞「別に、遅いとは言ってない」


そうぶっきらぼうに言うと、理亞さんはジムに背を向けたまま歩き出す。


理亞「ジム戦は別の場所でやるから」

侑「は、はい」


理亞さんはヒナギクの町をすたすたと北上していく。


侑「この先って……」

リナ『グレイブマウンテンだね』 || ╹ᇫ╹ ||


以前、雪崩に巻き込まれたしずくちゃんを助けに行った場所だ。

私たちの会話が聞こえていたのか、


理亞「ジム戦はグレイブマウンテンでやるから」


理亞さんはそう簡潔に回答する。


侑「ぐ、グレイブマウンテンで、ですか……?」

理亞「そう。ジム戦はこっちが場所を指定していいって言われてるし、私はあそこで戦うのが一番力を出せるから」


あんな険しい山が一番だなんて……とも、思うけど……。


侑「……理亞さんって、確か普段は考古学者としての仕事をされてるんですよね……?」

理亞「……よく知ってるのね。誰かに聞いたの?」

侑「は、はい。果南さんに……」

理亞「……なるほどね」


私はローズで果南さんから聞いた話を思い出す……。


──────
────
──


果南「──理亞ちゃんがどんな人か知りたい?」

侑「は、はい……私、ジムリーダーのことは大体知ってるんですけど……理亞さんのことだけはよく知らなくって……」

果南「あーまあ、理亞ちゃんって最近までジムリーダーやってることも非公表だったからね。公式戦もジム戦以外ですることもないし……」


……そう、私は他のジムリーダーに関しては──クローズドジムリーダーの花丸さんを除けば──大体のことを知っているつもりだけど、理亞さんについてはほとんど何も知らない……。

何故なら、彼女は他のジムリーダーと違って、公式大会にも出場しないし、公の場に滅多に姿を現さないからだ。

でも、戦いを前に一切の前情報がないのも不安だし……。果南さんなら何か知っているかもしれないと思って、訊ねてみたというわけだ。


果南「んー……そうだなぁ……理亞ちゃんは……考古学者さんだよ」

侑「考古学者……?」

果南「そ。グレイブマウンテンとか、その周辺について調べてるみたいだよ。詳しいことは私もよく知らないけど……。……って、そもそも聞きたいのはこういうことじゃないか」

侑「は、はい……まあ……」


理亞さんが考古学者というのも気になるんだけど……今知りたいのはそういうことよりも……。
234 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:44:01.05 ID:gk2TE+8k0

果南「こおりタイプのエキスパートだけど……本気の手持ちはこおりタイプだけじゃないよ」

侑「! そうです! そういうの聞きたいです!」


エキスパートタイプを持つジムリーダーだけど……実は人によっては本気の手持ちはエキスパートタイプ以外を使っている人も少なくない。

今のジムリーダーで言うなら、ルビィさん、凛さん、花陽さん、曜さんは公式大会ではエキスパートタイプ以外のポケモンを使っている。

逆に真姫さん、英玲奈さん、にこさんなんかは公式戦でもエキスパートタイプを使うことを好む人たちだ。

本来、タイプが事前にわかるジム戦はある程度の対策を立てられるけど……今回は本気の手持ちを使ったバトルである以上、どんなポケモンを使ってくるかわからないどころか、どんなタイプを使うかすらわからない状態。

だからこそ、事前に使用ポケモンがわかるだけでも、話は全然変わってくる。


果南「んー……って言っても、私も理亞ちゃんのポケモンには全部は知らないんだよね。確かマニューラとチリーン……あとはクロバット、リングマは持ってたかな」

侑「そこまでわかれば十分です……!」

果南「そう? ならよかった。……まあ、後のことは本人に会って確かめるしかないね──」


──
────
──────


そんなやり取りがあったため……理亞さんが考古学者ということを知っていたというわけだ。


理亞「まあ……考古学って言うけど……基本はグレイブマウンテン以北を調べてるだけ」

リナ『確かにグレイブマウンテンはポケモンの化石が出てくるから、歴史的価値の高い場所だって言われてる』 || ╹ ◡ ╹ ||

理亞「私は古生物学者ではないから……あんまり化石を調べたりはしないけどね」

侑「じゃあ、グレイブマウンテンで一体何を……?」


私がそう訊ねると、


理亞「……グレイブマウンテン以北には、かつて国があったって言われてるの」


理亞さんはそう話し始める。


理亞「ただ、その国は……あるときを境にパタリと歴史から姿を消して……今は、滅んだ国と関係があるのかもわからない、小さな集落が点在するだけになった」

侑「そ、そうなんですか……?」


そんな話全く知らなかった……。歴史の授業でもそんなことは習わなかったと思う……。


理亞「知らなくても無理はない。……つい最近までは、そこに滅んだ国があったことさえ知られてなかったらしいから」

侑「あったことを知られてなかった……?」

リナ『遥か昔、オトノキ地方はある王家の一族が治めていて、その王家は北方の国と戦った……って歴史があるんだけど、長年その敵国が正確にどこにあったのかはわからなかったんだって』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「あ……オトノキ地方に王家があったって言うのは聞いたことあるかも……」


歩夢がその時代の話を題材にした、小説を読んでいた気がする。

……内容は戦争史というより、貴族の色恋のお話だったけど……。


理亞「……この地方ではヒナギク開拓後、グレイブマウンテンまで調査の手を伸ばした際に──山の北側から麓に掛けて、雪の下から大規模な集落の痕跡やお墓が見つかった。そのときにその敵国が山を越えたすぐ先にあったことがわかったらしい」

侑「それじゃ……理亞さんはそれを詳しく調べるために、考古学者に……?」

理亞「調べるというか……故郷のことだから。知っておきたいって思っただけ」

侑「……え? 故郷……?」


故郷という言葉に私は目を丸くする。
235 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:44:36.82 ID:gk2TE+8k0

理亞「私はグレイブマウンテン北部の小さな集落の出身なの」

侑「じゃあ……」

理亞「滅んだ国の生き残り……かもしれないとは思ってる。集落にいた私自身も、自分のルーツをあまり知らないまま生きてきたから……それが知りたくて調べてる」

リナ『じゃあ、理亞さんは……正確にはオトノキ地方出身の人じゃないんだね』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「そうなる。……だから、私も最初はジムリーダーになるつもりはなかった。……ただ、ちゃんと調べるには立場があった方が何かと都合がいいからって……ルビィと希さんに薦められて……」

侑「…………」


私は理亞さんの話を聞いて──理亞さんがあまり公の場に姿を現さない理由が少しだけわかった気がした。

謎多きヒナギクジムのジムリーダーの理亞さんだけど……3年ほど前に希さんの四天王昇格で新ジムリーダーが着任したヒナギクジムは、つい最近になるまでジムリーダーが誰かを公表していなかった。

一応ジムリーダーがいることはわかっていたけど……新ジムリーダーはジムチャレンジャーとのバトルのみを行い、他の権限は四天王になった希さんが持ち続けるというかなり異例なジムリーダーだった。

今でこそ、正ジムリーダーとして全ての権限を持っているけど……もしかしたら、理亞さんの心の中には、後ろめたさのようなものがあったのかもしれない。

自分はオトノキ地方の人間ではないのに、オトノキ地方のジムリーダーになっていいのかという……そういう迷いが……。


理亞「……でも、今はちょっと違う」


ただ、私のそんな考えに答えるかのように、


理亞「今は……一人のジムリーダーとして、オトノキ地方のために何が出来るか……考えてるつもり」


そう答えながら、足を止める。

気付けば私たちは──グレイブマウンテンの麓にたどり着いていた。


理亞「……正直……普通のトレーナー相手に……本気を出していいのか、悩んでたけど……。……少し事情が変わった」

侑「……?」

理亞「……あなたが、ねえさまを助けるための作戦に……支障がない実力を持っているのか……確かめる」


理亞さんはそう言ってボールを構える。


理亞「フィールドは、グレイブマウンテン全域……! ただし、グレイブガーデン側に逃げるのは絶対禁止……」

侑「は、はい……!」

理亞「それ以外のルールはない……準備はいい?」

侑「……はい!」
 「ブイ!!!」

理亞「……ヒナギクジム・ジムリーダー『無垢なる氷結晶』 理亞。全力で行くから……!」


放たれるボールと共に、私の最後のジム戦が──始まった……!!





    🎹    🎹    🎹





理亞「マニューラ……!」
 「──マニュッ!!!」


理亞さんの1番手はマニューラ。

対する私の1番手は、


侑「行くよ、イーブイ!」
 「ブイ!!」
236 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:45:14.87 ID:gk2TE+8k0

イーブイだ。


リナ『マニューラ かぎづめポケモン 高さ:1.1m 重さ:34.0kg
   寒い 地域で 暮らす ポケモン。 4、5匹の グループは
   見事な 連係で 獲物を 追いつめる。 樹木や 氷の
   表面に 鋭い ツメで 模様を 刻み 仲間に 合図を 送る。』


フィールドにお互いのポケモンが相対した瞬間、


 「マニュッ──」


マニューラの姿が掻き消え──次の瞬間には、


理亞「“つじぎり”!!」
 「マニュ!!!!」


イーブイの真横から、マニューラが爪を構えて斬りかかってきていた。

が、


理亞「……! マニューラ!!」

 「マニュッ…!!」


マニューラの爪はイーブイには当てず、ギリギリの場所で空を裂き──そのまま、マニューラは軽い身のこなしでイーブイから距離を取る。

……何故、マニューラがイーブイに攻撃しなかったのか、それは──イーブイが燃えていたからだ。


侑「おしい……!」
 「ブイ…!!!」


“めらめらバーン”の炎を体に纏いながら、マニューラの攻撃を誘って“やけど”にする作戦だったけど、相手は最後ジムリーダー。さすがに一筋縄ではいかないみたいだ。


理亞「なら、直接触らなければいいだけ……! “つららおとし”!!」

 「マニュッ!!!」


マニューラが冷気で作り出した、つららをイーブイの頭上に落としてくる。

私はすかさず、次のポケモンを出す。


侑「ニャスパー! “テレキネシス”!」
 「──ウニャーー」


ニャスパーがボールから飛び出すと同時に──落ちてくるつららを空中で静止させる。


侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブイ!!!」


相手の攻撃を止めたら、すかさず攻撃……!

“びりびりエレキ”が迸る──が、


理亞「オニゴーリ!!」
 「──ゴォーーリッ!!!!」


理亞さんはマニューラに向かって駆けながら、オニゴーリを繰り出し、


 「ゴォーーリッ!!!!」


オニゴーリが、氷の盾を作り出し、電撃を弾く──と同時に、
237 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:48:05.84 ID:gk2TE+8k0

理亞「“ふぶき”!!」
 「ゴォーーーーリッ!!!!!」

侑「うわっ……!?」
 「イブィッ!!!?」「ウ、ウニャァー」


猛烈な“ふぶき”を放ってくる。

強烈な冷風なのはもちろん、ものすごい勢いの風に、体重の軽いイーブイとニャスパーは吹き飛ばされ──


リナ『侑さん! 今ニャスパーが飛ばされたら……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……っ!」


ニャスパーの集中が切れて、私に向かって“ふぶき”に煽られたつららが突っ込んで来る。


侑「“フィオネ”!! “みずでっぽう”!!」
 「──フィオーー!!!」


すかさず繰り出したフィオネが、飛び出すと同時に薙ぐように“みずでっぽう”を噴き出し、噴き出した水は“ふぶき”の中で即座に凍り付いて──即席で作った氷の盾につららが突き刺さる。

お互い盾を使って、防ぎ合う遠距離戦……!

ただ、ここは雪山……相手の方が場の支配力に優れる以上、出来れば距離を詰めたい。

そうでなくても、まずは“ふぶき”の圏内から外れないと……!


侑「行くよ、フィオネ……!」
 「フィオーー」


フィオネを抱きかかえて、私は氷の盾から飛び出す。

それと同時に、フィオネが前方に水を撒き散らし、氷で風よけを延長しながら──近くの岩陰に滑り込む。

吹き飛ばされたイーブイとニャスパーを救出しなくちゃいけないけど……まずは、“ふぶき”を止めないと……!

策を巡らせていると──急に、辺りが静かになった。


侑「……?」


先ほどまで聞こえていた、“ふぶき”の音が急に消えたのだ。


侑「……」


私は恐る恐る、岩の陰から理亞さんの居た方を伺うと──すでにそこに理亞さんの姿はなかった。

警戒しながら、岩の陰を出て周囲を確認してみるけど……理亞さんの姿はどこにも見当たらない。


侑「……逃げた……?」


あの状況で……? わざわざ……?


リナ『侑さん!! 上!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「えっ!?」


リナちゃんの声で顔を上に向けると同時に──紫色の影が大きな口を開けて降ってきた。

ヤバイ……!? 避けきれない……!?


 「フィオッ!!!」


フィオネが咄嗟に飛び出して──“ねんりき”によって、相手の動きを止める。
238 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:48:38.60 ID:gk2TE+8k0

 「──クロ、バ……」

侑「クロバット……!?」


目の前で大口を開けて静止しているのは、クロバットだった。

フィオネの判断のお陰でどうにか奇襲を防いだけど、フィオネの“ねんりき”じゃパワーが足りず──


 「──クロバッ!!!」
 「フィオ!!?」


力任せに閉じられたキバに噛みつかれる。


侑「フィオネ!?」


私が、腰のボールに手を掛けた瞬間──

腰の辺りでバキリと、嫌な音がした。


侑「!?」


ギョッとして、腰を見ると──


 「マニュ…!!!」


マニューラが私の腰に爪を立てているところだった。


リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……っ!」


私は咄嗟にマニューラから距離を取る。それと同時に──


 「ブーーイッ!!!」
 「マニュッ!!!?」


戻ってきたイーブイが“とっしん”でマニューラを突き飛ばし、


 「ニャーー!!!」
 「クロバッ!!!?」


ニャスパーがサイコパワー全開で、クロバットを上空に向かって吹っ飛ばす。

その拍子に、


 「フ、フィオ〜」


噛み付かれていたフィオネがクロバットのキバから解放されて、落ちてくる。


侑「フィオネ……!」


フィオネをキャッチしながら、私は走り出す。

そこに、


 「ブイ!!」


並走するイーブイと、


 「ウニャァ〜」
239 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:50:38.41 ID:gk2TE+8k0

ふわふわ浮きながら、私の横に並んで飛ぶニャスパーの姿。


侑「イーブイ! ニャスパー! よかった、無事だったんだね!」
 「ブイ!!」「ニャー」


走りながら、私の背後からは──


 「マニュッ!!!」「クロバッ!!!!」


マニューラとクロバットが猛スピードで追いかけてくる。


侑「ダメだ……! 走ってたら、追い付かれる……!」


私は咄嗟にウォーグルのボールを手に取り──またギョッとした。


リナ『侑さん、どうしたの!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「ウォーグルのボール開かない!?」

リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||


ウォーグルの入ったボールは──開閉スイッチが破壊されて開けなくなっていた。

さっきした、嫌な音の正体はこれだったんだ……!? す、すぐにボールを完全に壊してウォーグルを……!?

私は混乱しながらも、必死に頭を回転させて打開策を考えるけど──その一瞬のタイムロスすら、相手は許してくれなかった。


 「マニュッ!!!」「クロバッ!!!」


マニューラが爪を、クロバットがキバを構えて、飛び掛かってくる。


侑「……っ!!」


もうダメだと思った瞬間──


 「──ドラパッ!!!!」
侑「うわぁっ!?」
 「ブイ!?」「ウニャ!?」


腰のボールから、ドラパルトが自分の意思で飛び出し、私たちを頭に乗せて──猛スピードで発進した。


 「マ、マニュ…!!」

 「クロバッ!!!」

理亞「クロバット、深追いしなくていい」
 「ク、クロバ…」

理亞「逃げられたけど……こっちが有利だから」





    🎹    🎹    🎹





侑「ドラパルト……ありがとう……助かったよ……」
 「ドラパー♪」


ドラパルトに乗って飛行しながら、お礼を言う。

ドラパルトのお陰でどうにか窮地を脱することが出来た。……出来たんだけど……。
240 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:51:18.50 ID:gk2TE+8k0

侑「……かなり、まずいかも」

リナ『ウォーグルのボール……早く完全に割って中から出しちゃった方がいい。ボールだけ壊せば、ウォーグルは傷つかないはずだから……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「いや、そっちはいいんだけど……」

リナ『……?』 || ? ᇫ ? ||

侑「……そもそも手持ちのボールが、いくつかなくなってる……」

リナ『え!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「あのマニューラの特性……“わるいてぐせ”だったりしない……?」

リナ『……する』 || > _ <𝅝||

侑「だよね……」


完全にやられた……。まさか、手持ちを直接奪いに来るなんて……。


リナ『ごめんなさい、侑さん……私がもっと早く伝えてれば……』 || > _ <𝅝||

侑「うぅん……私も警戒不足だった……」


完全に予想外の戦術だけど……考えてみれば実戦で相手のトレーナーを無力化するなら、物理的にポケモンを使えなくするのはかなり有効……。

今回のバトルは実戦を模して行われるフリールール……こういう策も考慮しておくべきだった。


リナ『盗られたボールは……?』 || 𝅝• _ • ||

侑「うーんと……とりあえず、5個なくなってる……」

リナ『5個も!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「あ、でも、ほとんどはドラメシヤが入ったボールだよ」


本来想定していた意図とは全く違うけど……ある意味、ここに来る途中でドラメシヤを捕まえておいてよかった……。

──改めて、マニューラに盗まれたボールを確認する。


侑「ドラメシヤのボールが3つ……。あと、フィオネのボールもないね」

リナ『空のボールってこと?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん……。フィオネはすでに外に出てるけど……ボールに戻せなくなった」
 「フィオ…」


ボールを取り戻さない限り、フィオネを戻すことが出来ない……。

そして、問題は最後の1つ。


侑「……ライボルトのボールがない」

リナ『……ヤバイ』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「……ヤバイね」


よりにもよって、唯一メガシンカ出来るライボルトを持っていかれたのは痛手だ……。


侑「ドラメシヤに関しては、“ドラゴンアロー”の使用タイミングを気を付ければいいけど……」

リナ『撃ち出されたドラメシヤは、そのうち戻ってくるしね……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ただ……ライボルトだけはどうにかして取り戻さないと……」


さすがに本気の手持ちのジムリーダー相手に、メガシンカ無しで挑むのは無謀すぎる……。

理亞さんもメガシンカは使ってくるだろうから、尚更……。

策を考えていると──ウォーグルのボールがカタカタと震える。
241 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:52:40.99 ID:gk2TE+8k0

侑「あ、ごめんごめん……ウォーグルをボールから出してあげないとだね。ニャスパー」
 「ウニャ」


ニャスパーがサイコパワーでボールを捩って、割り砕く。


 「──ウォー」


ウォーグルがボールから飛び出して、ドラパルトの横を並んで飛行しだす。


リナ『ニャスパー、ちょっと器用になった?』 || ╹ᇫ╹ ||
 「ニャー」

侑「カーテンクリフでの修行で、サイコパワーの使い方が上達したんだ。……まだ、完璧じゃないけどね」
 「ニャー」


今までは一方向へ強い力を発するか、浮かせるくらいしか出来なかったから、捩るとか、止めるとかが出来るようになったのは大きな進歩だと思う。

戦略の幅も広がるしね。


侑「とりあえず……今後どうするかを考えないとね……。どうにかしてボールを取り戻さないと……」

リナ『考えられるパターンは3つだね。理亞さんが持ってるパターンか、マニューラが持ってるパターンか……あとは、どこか別の場所にボールを隠してるパターン』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「開閉スイッチは確実に壊してるだろうから……ライボルトが自分から出てくることはまず期待できない……。見付けたら、ボール自体を壊して出してあげないといけないね」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「あと……隠してるパターンはほぼないと思う」

リナ『理由は?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「こっちにはリナちゃんがいるから」

リナ『なるほど。納得した』 || ╹ ◡ ╹ ||


隠したところで、リナちゃんはポケモン図鑑だから、サーチをすればすぐに見つけられてしまう。

だから、この線はほぼないと考えていいかな……。


侑「……そうだ、確認しておきたいんだけど……」

リナ『何?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「モンスターボールってモンスターボールの中に入れられたりするの?」

リナ『完全に未使用のモンスターボールなら、ポケモンに持たせれば入れられなくはないけど……。すでにポケモンと紐づいてるボールとか、ポケモンが入ってるボールは入れられないよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そっか、よかった……」


もし、それが出来たら理亞さんの持っているボールの中に入れられた時点で詰みみたいなものだしね……。


侑「近付けば……誰がボールを持ってるかはわかるよね?」

リナ『もちろん! ポケモン図鑑だから、見える場所にいれば、それはすぐにわかるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「わかった。それじゃ、また理亞さんたちに近付いたら聞くと思うからよろしくね」

リナ『了解!』 || ˋ 𝅎 ˊ ||

侑「ただ……問題はどうやって近付くか……」


理亞さんの手持ちは果南さんの情報が確かなら、マニューラ、チリーン、クロバット、リングマ……そして、すでに出してきたオニゴーリ。

5匹は割れている。かすみちゃんから貰った情報だと、他にモスノウやバイバニラを使ってきたらしいけど……こおりタイプがやや多いというだけでタイプに統一性はないし、この2匹を持っているかは微妙だ。


侑「リナちゃん……さすがに理亞さんの手持ちポケモンが何かまでは……わからないよね……?」

リナ『うん……侑さんの手持ちはボールの固有周波数でわかるけど……初めて会う人のポケモンはわからない。せいぜい、近くにいるときにポケモンが入ってるボールを何個持ってるかがわかるくらいかな』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||

侑「となると、最後の1匹はわからないまま戦うしかないかな……」
242 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:53:23.41 ID:gk2TE+8k0

最後の1匹が何かわからないという不安要素はあるけど……。


侑「……みんな、ライボルト奪還作戦なんだけど──」
 「ブイ」「パルト」「ウォー!!」「ニャァ」「フィー」


私はみんなに作戦の共有を始めた。





    🎹    🎹    🎹





理亞「…………」

侑「……いた!」


私は、上空から理亞さんを見つけ──


侑「ウォーグル!! 行くよ!!」
 「ウォーーーーーーッ!!!!」


理亞さんに向かって一気に急襲する。


理亞「……!」


理亞さんはウォーグルの鳴き声に気付き顔を上げ──バッと手を上げた瞬間、


 「クロバッ!!!!」


クロバットが猛スピードで岩陰から飛び出してきた──


侑「クロバット、出てくるよ……ねっ……!!」
 「フィオーー!!!」


私はフィオネを──クロバットに向かって放り投げる。


理亞「……!?」

 「クロバッ!!?」


驚く理亞さんたちを後目に、フィオネがクロバットに取り付きながら──手に持っていた、ボールを前に突き出す。


 「ニャーーッ」


ボールから飛び出したニャスパーに向かって、


侑「翼を止めて!!」

 「ニャーーッ」
 「クロバッ…!!?」


サイコパワーで翼の動きを止めるように指示を出す。


理亞「クロバット……!? く……チリーン!!」
 「──チリーンッ!!!」


理亞さんがクロバット救出のために、チリーンを繰り出す。
243 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:54:49.93 ID:gk2TE+8k0

侑「ニャスパー!!」

 「ニャーーーッ」


私の声と共に──ニャスパーがクロバットを踏み切って、チリーンに向かって飛び出した。


理亞「チリーン!! “サイコショック”!!」

侑「ニャスパー!! “サイコショック”!!」

 「チリーーーンッ!!!」
 「ウニャァーー」


2匹のサイコパワーが空中で出現し、ぶつかり合う。


理亞「クロバット!! ニャスパーの注意は逸らした!! 今のうち……に……!?」


理亞さんが驚いた顔をする。何故なら──クロバットの翼が凍り付いていたからだ。


侑「この気温なら、“みずでっぽう”でも十分凍りますよ!!」

 「フィオーー♪」

理亞「……! 狙いは最初からクロバットを凍らせること……!?」


そう。ニャスパーだとクロバットの動きを封じるには常に付きっ切りにならなくちゃいけないけど──フィオネで凍らせれば、ニャスパーはフリーになる。

理亞さんの手持ちで、すでに割れているポケモンのうち、空を飛べるのはクロバットとチリーン。なら、クロバットの動きを一時的に封じればチリーンが出てくると読んでいた。

理亞さんのポケモンのレベルが高くても、フルパワーのニャスパーなら、対抗出来るはずと踏んでチリーンにぶつけ──


理亞「クロバット……!! 一旦ボールに──」


理亞さんはボールを構えて、クロバットの落下地点に向かって走り出す。


侑「させません!! フィオネ! “ブレイブチャージ”!!」

 「フィ、オーーーーッ!!!!」


フィオネが自分自身を奮い立たせてパワーを高め──


侑「“ハイドロポンプ”!!」

 「フィーーーオーーー!!!!!!」

 「クロバッ……!!!?」


理亞さんのボールが届く距離に入る前に──真下に向かって、“ブレイブチャージ”で強化した“ハイドロポンプ”を叩きこんだ。

万年雪が降り続けるグレイブマウンテンの寒さの中──“ハイドロポンプ”は凍り付きながら、一本の氷の柱を突き立てるように、クロバットを地面に突き落とした。


理亞「クロバット……!!」
 「バ…バットォ…」

理亞「く……戻れ……!」


理亞さんがクロバットをボールに戻す。


リナ『やったよ侑さん! クロバット戦闘不能!』 || > ◡ < ||

侑「このまま、畳みかけるよ!! ニャスパー!!」

 「ウニャァ〜」
 「チ、チリーーンッ…!!」


ニャスパーが耳を全開にして、上から下に向かってサイコパワーを放出すると、チリーンがじりじりと押され始める。
244 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:56:33.82 ID:gk2TE+8k0

理亞「パワーがあるだけじゃ、私のチリーンには勝てない……!! チリーン!! “ハイパーボイス”!!」

 「チーーリィィィーーーーンッ!!!!!!!」
 「ウニャァ〜〜」


圧していたニャスパーだけど、チリーンの“ハイパーボイス”によって、逆に真上に吹っ飛ばされる。

私はその横を、ウォーグルで急降下しながら、理亞さんに向かって突撃する。


理亞「な……!? チリーンを無視……!?」

侑「リナちゃん!! マニューラは今どこ!?」

リナ『そこの岩陰の裏!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


私は降下しながら、リナちゃんにマニューラの位置を確認。


理亞「まさか、ニャスパーは囮……!? オニゴーリ!!」
 「──ニゴーーーリッ!!!!」


理亞さんはすかさずオニゴーリを繰り出す。

でも、これも私の読みどおり……!!


侑「ウォーグル!! “ばかぢから”!!」
 「ウォーーーッ!!!!!!」


猛禽の爪を立てながら、飛び出してきたオニゴーリを地面に押さえつける。

その隙に──私はウォーグルの背を飛び降りて、リナちゃんが教えてくれた岩陰に向かって走り出す。


侑「ウォーグル! オニゴーリは任せるよ!」
 「ウォーーーッ!!!」


オニゴーリをウォーグルに任せるが──相手は冷気を操るポケモンオニゴーリだ。ウォーグルの脚は一瞬で凍り始める。


理亞「“フリーズドライ”!!」
 「ニゴォォーーーリッ!!!!」


追撃の“フリーズドライ”でパキパキとウォーグルの体が凍り始めるが──


 「イッブイッ!!!!」


ウォーグルの背中の上からオニゴーリに向かって、イーブイが飛び出した。


理亞「イーブイ……!?」

侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」

 「ブイィィィィィ!!!!!」

 「ニゴォォォーーリッ!!!!?」


至近距離から突然現れたイーブイに全く反応出来なかったオニゴーリに、“めらめらバーン”が直撃する。

そして、私は──件の岩の裏に到着し、


 「マニュッ…!!!!」


逃げ出すマニューラを発見する。


侑「いた……!!」

理亞「マニューラ!! 戦わないで逃げればいい!!」
245 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:57:04.88 ID:gk2TE+8k0

マニューラは山肌に爪を引っかけながら、ひょいひょいと登って逃げてしまうが──もう場所は把握出来た。

姿さえ確認できれば──


 「──ラパルト…」
 「マニュッ!!?」

侑「“ゴーストダイブ”!!」

 「パルトッ!!!!」
 「マニュッ…!!!!?」

理亞「マニューラ!?」


崖を登るマニューラを、突然背後から現れたドラパルトが太い尻尾で叩き落とす。

その拍子に──マニューラが隠し持っていたボールがバラバラと宙を舞う。


理亞「マニューラ!! 盗られるな!!」

 「マ、ニュッ!!!!」


マニューラは吹っ飛ばされながらも、さすがの身のこなしで岩肌に爪を引っかけながら──ボールに向かって、飛び出す……が、


侑「こっちの準備はもう……終わってる!! “ドラゴンアロー”!!」

 「パルトッ!!!!!」
  「メシヤーーーーーーッ!!!!」「メシヤーーーーーーッ!!!!」


2匹のドラメシヤが音の速さで射出され──宙を舞うボールを2つ、割り砕いた。


 「──メシヤ〜〜」


1つはドラメシヤ、外れだ。だけど、もう1つは──


 「──ライボッ!!!!!」

リナ『5分の2、一発で引き当てた!!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「ライボルト!! マニューラに向かって、“10まんボルト”!!」

 「ライィィボォォォォォ!!!!!!」

 「マニュゥゥゥ!!!!?」


空中でマニューラを電撃で撃ち落とす。ライボルトはそのまま落ちていたボールを拾い、岩肌を駆け下りて、私のもとへと戻ってくる。


侑「おかえり、ライボルト……!」
 「ライボッ!!!」

リナ『ライボルト、奪還成功!』 ||,,> ◡ <,,||


作戦成功……!! ライボルトは取り戻した……!

と、思った瞬間、


 「ブイィィィィ!!!?」


イーブイが“めらめらバーン”で体に炎を滾らせたまま、こっちに吹っ飛ばされてくる。


侑「イーブイ!?」
 「ブ、ブィ!!!」


雪を溶かしながら、転がったものの、イーブイはすぐに炎を消しながら、受け身を取って立ち上がる。
246 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:57:43.64 ID:gk2TE+8k0

理亞「……ライボルトを取り返されたのは予想外だったけど……」
 「ニゴォォォォォォリッ!!!!!!」

侑「……!」


気付けばオニゴーリの大きな顎が外れて──そこから、大量の冷気を吐き出していた。


侑「メガオニゴーリ……!」


理亞さんは、いつの間にかオニゴーリをメガシンカさせていたらしく──


 「…………」

リナ『ウォーグルが氷漬けになってる……』 || × ᇫ × ||


ウォーグルは氷漬けになって、沈黙していた。


理亞「ついでにこいつらも返す」

 「チリーンッ」
 「ウニャ…」


チリーンが“サイコキネシス”で投げてきたニャスパーが雪の上を転がる。


侑「ニャスパー……!」


そして、ニャスパーと同じように──


 「フィオ〜…」


フィオネもこっちに転がってくる。


侑「フィオネ……!?」


フィオネが飛んできた方に目を向けると──


 「カブトプス…」


化石ポケモンのカブトプスが鋭い視線をこちらに向けていた。


侑「カブトプス……!」


理亞さんの最後のポケモンは……カブトプスだったらしい。


理亞「……そっちの戦力は3匹削った、こっちはまだ2匹戦闘不能になっただけ。ライボルトは取り戻せたかもしれないけど、トータルではこっちに分がある」
 「ニゴォーーリッ…!!!!」「チリンッ」「カブトプス…!!!!」

侑「……」


私は、ライボルトの持ってきてくれた、マニューラから取り戻したボールを受け取りながら、戦闘不能になったニャスパーとフィオネをボールに戻す。

ウォーグルは……ここからだと、ちょっと距離があるし……さっき、ボールを割っちゃったから、戻せない……。


侑「……でも、私にも、まだこれがあります──ライボルト、メガシンカ!!」
 「──ライボォッ!!!!!」


ライボルトが光に包まれ──周囲にバチバチとスパークを爆ぜさせながら、メガライボルトに姿を変える。


侑「ライボルト!! まずはカブトプスを狙うよ!!」
 「ライボッ!!!!」
247 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:58:18.76 ID:gk2TE+8k0

ライボルトが稲妻のような速度で飛び出した。

一瞬でカブトプスを射程に捉える速度だったが──


 「ライボッ…!!!!」


ライボルトの進行方向に突如、巨大な氷の壁が出現し、ライボルトは突撃する寸前で、その壁を直角に曲がりながら回避する。

もちろん、こんなことが出来るのは──


 「ニゴォォォォォリ……!!!!」


メガオニゴーリしかいない。


理亞「簡単に通すと思う?」

侑「……く……ライボルト!」
 「──ライボッ!!!!」


私がハンドシグナルで戻ってくるように促すと、一瞬でライボルトが私の傍に帰ってくる。


侑「まずメガオニゴーリをどうにかしなきゃ……!」

リナ『でも、壁があったら向こうもメガオニゴーリ以外攻撃出来ない』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「確かに。……だけど、メガオニゴーリがいれば十分……! “ふぶき”!!」
 「ニゴォォーーーーリッ!!!!!」


メガオニゴーリの口が開かれ──強烈な“ふぶき”が放たれる。

周囲一帯の冷気を操って支配しているメガオニゴーリにとって、氷の壁が自身の攻撃を妨げることはなく、むしろその壁からも冷気が風となって襲い掛かってくる。


侑「く……!? ライボルト!! “かえんほうしゃ”!! イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
 「ライボォォォォ!!!!」「ブィィィィ!!!!!」


ライボルトが炎を噴き出し、イーブイが自身の発する炎の熱波で、“ふぶき”を相殺しようとするが──


理亞「メガシンカのパワーがすごいのは認める。でも、メガライボルトもイーブイもほのおタイプは自分のタイプじゃない。本来のタイプで攻めてるオニゴーリに勝てると思う?」

侑「ぐ……っ……」


確かに理亞さんの言うとおり、2匹のほのお技だけでは“ふぶき”をかき消しきれず、自身が燃えているイーブイ以外にはどんどん雪が積もっていく。

でも、いい……時間が稼げれば……!!

“ふぶき”の中、果敢に炎によって対抗する中──氷の壁の向こうにユラリと、影が、


理亞「オニゴーリ、凍らせろ」
 「ニゴォォ!!!!」

 「──ラパ、ルト…!!!!」

侑「……!! ドラパルト!?」

理亞「“ゴーストダイブ”でチリーンを狙ってたんでしょ。……何度も同じ手は通じない」

侑「……っ……」


頼みの綱だった、“ふいうち”が不発に終わる。

まずい……このままじゃ、“ふぶき”でみんなやられる……!

どうにか策を巡らせるけど──だんだん手足もかじかんで来て、寒さで頭が回らなくなってくる。

どんどん“ふぶき”も強くなり──気付けば視界がホワイトアウトし始め、音も“ふぶき”の音しか聞こえなくなってきた。


侑「どうにか……どうにか……しなきゃ……!」
248 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:58:54.87 ID:gk2TE+8k0

吹き飛ばされないように、必死に“ふぶき”に抵抗していると、


リナ『侑さん! 作戦、ある!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


耳元で、リナちゃんの声がした。

さっきまで、腕にくっついていたはずのリナちゃんがいつのまにか、自立飛行形態に戻って、私の耳元で喋っていた。


侑「リナちゃん……!? 吹き飛ばされちゃうから、腕に……!」

リナ『それよりも、作戦!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「さ、作戦……!?」

リナ『むしろ、これはチャンス!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「何が!?」

リナ『雪は……ライボルトにとって有利に働く!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「え……?」

リナ『あのね──』 || ╹ᇫ╹ ||


私はリナちゃんの策を聞いて──目を丸くする。


侑「そ、そうなの……?」

リナ『うん! 間違いない!』 || > ◡ < ||


リナちゃんが言ってることが、ホントかはわからないけど……!!


侑「リナちゃんを信じるよ!! ライボルトッ!! “じゅうでん”ッ!!!」


“ふぶき”に声をかき消されて、ライボルトに届かないなんてことがないように、大声で叫ぶ。

すると──


 「──ライボォォ…!!!!!!」


目の前で、雄叫びと共に、バチバチという音と、光が見える。

私の指示は、まだちゃんと聞こえてる……!


侑「ライボルト……!!! やるよ!!!!」
 「ライボォォォォォ!!!!!!!」





    ⛄    ⛄    ⛄





理亞「……そろそろ、限界のはず」
 「ニゴォォォーーーリッ!!!!!」


この雪山で、メガオニゴーリにパワーで競り勝つのは……ほぼ不可能だ。

この圧倒的なパワーによる“ふぶき”で勝敗が決することを確信した、そのとき──

“ふぶき”で真っ白になった景色の向こうから──光る何かが、飛んできた。


 「ゴォォォォォォ…!!!!!!!!!!!!!!?!!?」
理亞「……え?」
249 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:59:24.58 ID:gk2TE+8k0

次の瞬間には──極太のビームが氷の壁もろとも、オニゴーリを吹っ飛ばしていた。

直後──


 「ライボォッ!!!!!」

理亞「!?」


メガライボルトが稲妻のような速さで、砕け散った氷の壁の内側に侵入し、


侑「──イーブイ!! “びりびりエレキ”!! ライボルト!! “10まんボルト”!!」

 「ブーーーィィィィィ!!!!!」「ライボォォォォ!!!!!!」

 「チリィィィィンッ!!!!?」「カブトプッ!!!!?」


チリーンとカブトプスに電撃を食らわせていた。


理亞「……!?」


私は咄嗟に、その場を離れるために、山の斜面を滑り降りて距離を取る。


理亞「な、なに……!?」


気付けば──


 「ゴォ……リ……」
 「チリィィン…」「カブトプ…」


私の手持ちは3匹とも戦闘不能になっていた。





    🎹    🎹    🎹





侑「す、すご……ホントに出来た……」


技の指示を出しておいてなんだけど……私は今しがたメガオニゴーリを氷の壁もろとも吹き飛ばした、“チャージビーム”のあまりの威力に驚いて、尻餅をついていた。

あんな極太のビームになるなんて……。うまいこと、氷漬けのウォーグルに当たらなくてよかった……。


理亞「あ、あんた……今何したの……!?」


理亞さんが斜面の下から、大きな声で訊ねてくる。


侑「え、えっと……“チャージビーム”を……」

理亞「はぁ!? “チャージビーム”であんな威力出るわけ……!!」

リナ『メガライボルトは周囲の電気を集束して撃ち出した。だから、あれだけの威力になったんだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「だから、どこにそれだけの電気が……!!」

リナ『雪だよ』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「……雪……? …………まさか……雪の帯電現象のこと……!?」


どうやら、理亞さんはリナちゃんの言葉でピンと来たらしい。

私は正直今でも、まだピンと来ていないんだけど……リナちゃんがさっき私に耳打ちしたのは──『あのね、雪は大量の静電気を溜め込む性質がある。それを集束すれば、ライボルトは大出力の攻撃が出来るはずだよ』──そんな内容だった。
250 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:59:59.21 ID:gk2TE+8k0

リナ『雪は正電荷を大量に帯電する性質があって、その帯電量は発電が可能なほどって言われてる。ライボルトは周囲の空気中の電気を“じゅうでん”して自分のパワーに出来る。これだけ雪に囲まれてたら、これくらいの出力になって当然』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「……っ」


リナちゃんの説明を聞いて、理亞さんが悔しそうに顔を歪めた。

本当に予想外の攻撃だったんだろう。……私も予想外だったし。

とにもかくにも、


侑「リナちゃん、ありがとう……! これで……理亞さんを追い詰めた……!」


私の手持ちは残りイーブイとライボルトの2匹。対する理亞さんはリングマ1匹だ。


理亞「…………」


理亞さんはボールを構える。


理亞「正直……この子はあまり人前に出すつもりはなかったんだけど」

侑「……?」

理亞「行くよ──ガチグマ!!」
 「──グマァァァ」

侑「え!?」

リナ『ガチグマ!?』 || ? ᆷ ! ||


リングマじゃ──ない……!?

その姿は確かにクマのようなポケモンだけど……大きな体躯に泥のようなものを身に纏っている。

私はポケモンの種類には詳しい方だと思っていたけど……このポケモンは今まで一度も見たことがないポケモンだった。


 「グマァァァァ」


低い鳴き声をあげながら、ガチグマと呼ばれたポケモンがのっしのっしとこちらに向かって登ってくる。


侑「ライボルト!! “10まんボルト”!!」
 「ラァィィィィ!!!!!」


ライボルトが発する“10まんボルト”は緩慢に動くガチグマには、いとも簡単に直撃するが、


 「…グマァァァ」


電撃は、確かにガチグマに当たったはずなのに、全くダメージを受けたような素振りを見せなかった。


侑「き、効いてない……!?」

リナ『ゆ、侑さん! ガチグマはじめんタイプがあるから、でんき技は効果がないよ……!』 || >ᆷ< ||

侑「じ、じめんタイプ……!?」

リナ『ガチグマ でいたんポケモン 高さ:2.4m 重さ:290.0kg
   リングマが 泥炭が 豊富な 環境で 進化した姿。 まとった
   泥炭は 非常に 頑丈。 鼻が とてもよく 匂いを たよりに
   埋まっているものを 探して 掘り当てることが できる。』

侑「リングマにさらに進化があったの……!?」


しかも、このタイミングでじめんタイプのポケモンが相手なんて、タイミングが悪すぎる……!?


理亞「ガチグマ! “10まんばりき”!!」
 「グマァァァァ」
251 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:00:37.27 ID:gk2TE+8k0

ガチグマは低い声で唸りながら、こちらに向かって山の斜面を登り始める。


侑「か、“かえんほうしゃ”!!」
 「ライ、ボォォォォ!!!!!」


迫ってくるガチグマに対して、“かえんほうしゃ”で攻撃するけど、


 「グマァァァ」


ガチグマは炎の中を意にも介せず進んでくる。そして、十分に近づいたタイミングで、


 「グマァァァァ…!!」


雪面を蹴って──走り出した。


侑「……!?」


思ったより、速い……!?


侑「ライボルト……!!」
 「ライボッ!!!」「ブイ!?」


私はイーブイを抱きかかえ、ライボルトの背に乗る。

それと同時に、ライボルトが走り出し──


 「グマァァァ!!!!」


ワンテンポ遅れて、ガチグマが突っ込んでくる。

ライボルトのスピードのお陰で、回避には成功したけど──ガチグマが私たちが今さっきまで居た場所に思いっきり前足を叩きつけると、


侑「うわぁ!?」


轟音を立てながら、衝撃で雪が吹き飛び、さらに硬い山肌にヒビが入り──山が揺れた気がした。


リナ『い、威力がヤバイ……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

理亞「避けないでよ。ガチグマは動きが遅いの」

侑「……っ……」


確かに動きは緩慢で、走り出しこそ遅いけど、体が大きいからか見た目以上にスピードがある。

しかも、あの威力……当たったら、確実に無事じゃ済まない……!


侑「い、一旦距離を取ろう……! ライボルト、上の方に走って!!」
 「ライボッ!!」


ライボルトが私を背中に乗せたまま、山を駆け上がり始める。

そして背後に向かって、


侑「イーブイ! “すくすくボンバー”!」
 「ブイ!!!」


イーブイが尻尾を一振りすると、タネが飛んで──山の斜面に大きな樹が成長を始める。

これで少しくらいは時間稼ぎに……!

だけど、
252 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:01:19.23 ID:gk2TE+8k0

理亞「ガチグマ! “きりさく”!」

 「グマァァァ」


ガチグマが爪を立てながら、樹を殴りつけると、いとも簡単に樹がへし折られる。


リナ『全然止まらない……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「く……」


でも、“すくすくボンバー”は樹による防御技じゃない──タネによる攻撃技だ……!

ガチグマの頭上に、大きなタネが落下し──直撃するが、


 「グマ…」


ガチグマは意にも介さず、再び歩き始める。

その際タネから伸びた“やどりぎのタネ”がガチグマの体に絡みついていくが、それもまるで無視だ。


侑「き、効いてない……!?」


いや、効いてないわけじゃない……。相手の体力が多すぎて、気にしてないんだ……!

ガチグマが山を登る度に、私たちはさらに高く登って距離を取る。


理亞「逃げ続けてても、勝てないけど?」


理亞さんもガチグマの後ろを歩きながら、そう言葉を掛けてくる。

確かに、ずっと逃げ続けてても埒が明かない。ダメージは小さくても、攻撃を仕掛けないと……!


侑「イーブイ! “こちこちフロスト”!」
 「イーブイッ!!!」


黒い冷気が、ガチグマの体に纏わりつくように現れ──黒い氷の結晶がガチグマの体を凍らせるが、


 「グマァ…」


めんどくさそうにガチグマが体を揺するだけで、氷は薄いガラスのように砕け散ってしまう。


侑「い、“いきいきバブル”!」
 「ブーーイッ!!!!」


今度はイーブイの全身からぷくぷくと溢れ出す泡をガチグマに向かって飛ばす。

泡が直撃すると、


 「…グマ」


ガチグマは少しだけ鬱陶しそうにリアクションを取りこそしたものの、


 「グマァ…」


また、すぐに山を登り始める。


侑「た、タフすぎる……!」


全くダメージが通っていないなんてことはないはずなのに、全然手応えが感じられない。

ガチグマから目を離さないように、ライボルトに乗って距離を取りながら、考えていたとき──ズボッという音と共に、視界がガクンと揺れた。
253 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:02:10.16 ID:gk2TE+8k0

侑「!? な、なに……!?」


ハッとして、ライボルトを見ると──


 「ラ、ライボ…!!」


ライボルトの体が、雪にはまっていた。


リナ『侑さん!? ライボルトが新雪に沈んでる!?』 || ? ᆷ ! ||


──どうやら、逃げ回っている最中に、新雪が大量に積もっている場所に足を踏み入れてしまったらしい。

私とイーブイが乗っている分の重さも相まって、ライボルトは新雪に沈んで、身動きが取れなくなる。

もちろん、こっちの身動きが取れないからって、ガチグマが待ってくれるはずもなく、


 「グマァァ」


むしろこっちの動きが鈍ったことに気付き、スピードを上げて近付いてくる。


侑「……く……!」


私はライボルトから飛び降りる。

もちろん、降りた先も新雪だから、私の身体が一瞬で膝くらいまで雪に埋まってしまうが、


侑「ライボルト、“かえんほうしゃ”!! イーブイ、“めらめらバーン”!!」
 「ライボォッ」「ブイィィ!!!!」


炎熱で周囲の新雪を無理やり溶かして、スペースを確保する。

雪が溶け、バシャバシャと水音を立てながら、山肌を再び登りだす。


理亞「いい加減、面倒……ガチグマ、“じならし”!」
 「グマァァ!!!」

侑「うわぁっ!?」
 「ライボッ…!!!」「ブイ…!?」


ガチグマが地面を激しく揺らし、その揺れに足を取られ──直後、ツルっと足が滑った。


侑「っ!?」

リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||

理亞「……ここは氷点下。雪を一気に溶かしたら──すぐに凍結する」


どうにか足を踏ん張るけど、凍結した斜面で立つことは困難で、私はそのまますっ転ぶ。

そしてここは斜面。一度足を滑らせたら──私の身体は、一気に滑落していく。


 「ライボッ…!!!」「ブイ!!!」
侑「ライボルト!! イーブイ!! 来ちゃダメ!!」


滑落する私を助けようと飛び出す2匹を制止するけど、ライボルトもイーブイも止まってくれない。

そして、そこに向かって──


 「グマァァァァァ!!!!!」


ガチグマが雄叫びをあげながら、走り込んでくる。


 「ライボッ!!!」
254 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:02:48.19 ID:gk2TE+8k0

ライボルトが滑る私の襟後に噛み付き、


 「ブイッ!!!」


イーブイが“こちこちフロスト”で私の滑り落ちる先に氷の壁を作ることで、滑落は止まったけど──


 「グマァァァァッ!!!!!」


そのときには、ガチグマはもう目と鼻の先だった。


侑「ライボルト、逃げ──」

理亞「“ぶちかまし”!!」
 「グマァァァァァ!!!!!」


リングマの“ぶちかまし”が“こちこちフロスト”の黒い氷ごと──私たち全員を、大きな体躯で突き飛ばした。


侑「……っ゛……ぁ゛……!!」


強い衝撃に脳を揺さぶられるような感覚──そして、数瞬後には、落下の衝撃で呼吸が一瞬止まる。


侑「ぐ……げほ、げほっ……!」

リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「はぁ……はぁ……リナちゃん……平気……?」


腕に着いたリナちゃんに声を掛ける。


リナ『わ、私は大丈夫……侑さんは……』 || 𝅝• _ • ||


私は──視界が真っ白だった。

意識が飛びかけてるのかと思ったけど──よく見たらそれは雪だった。


侑「今度は……新雪に……たすけ、られたね……」


新雪がクッションになったお陰で、山肌に直接落下するのを避けられたらしい。

近くからは、


 「ライ、ボ…!!!」「ブイィィ…!!!」


ライボルトとイーブイの鳴き声も聞こえる。

どうやら、2匹とも無事のようだ。……だけど、


 「グマァァァァ!!!!!」

リナ『侑さん!? ガチグマ、近付いてくる!! 逃げなきゃ!!』 || ? ᆷ ! ||

侑「逃げたいんだけど……身体が……動かない……」

リナ『えぇ!?』 || ? ᆷ ! ||


落下の衝撃が軽減されたと言っても……“ぶちかまし”で数十メートルは吹き飛ばされた。

骨が折れてるのか、どこかを強く打ったのかとかはよくわからないし、戦闘で高揚しているからか不思議と痛みはあまり感じなかったけど……とにかく、身体が言うことを聞かず、起き上がることが出来なかった。


 「グマァァァァ!!!!!」


ガチグマの足音がどんどん近付いてきて、地面が揺れる。
255 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:03:35.08 ID:gk2TE+8k0

リナ『侑さんっ!! お願い、立って!! 立って逃げなきゃ!!』 || > _ <𝅝||

侑「……っ」

リナ『諦めないで!!』 || > _ <𝅝||

侑「ぐ……ぅ……っ……」


そうだ、ここで諦めたら──なんのために修行したのか、わからないじゃないか。

身体に必死に力を籠める。だけど──ちょっと身体を持ち上げるのが限界で、すぐに崩れ落ちて、ぼふっと身体が雪に沈み込む。


侑「……く、そぉぉぉ……」

リナ『侑さんっ!!』 || > _ <𝅝||


あと、ちょっと……あとちょっとなのに……。


リナ『雪……!! 動くのに雪が邪魔なら、私がどける!!』 || > _ <𝅝||


リナちゃんがそう言いながら、私の腕を離れて、雪に突撃する。


侑「リナ……ちゃん……」


もちろん、リナちゃんに雪を掘る機能なんてない。新雪に板型の窪みが出来るだけ。

この状態で、辺り一面を新雪に囲まれた状態じゃ……。


侑「…………雪……?」

リナ『侑さん!! 這ってでも、逃げて! そしたら、きっとチャンスがあるはずだから!!』 || > _ <𝅝||

侑「……リナちゃん、私の腕に戻って……!」

リナ『侑さん!! 諦めないで!!』 || > _ <𝅝||

侑「違う! 作戦があるんだ!」

リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「私から、絶対離れないで!!」

リナ『わ、わかった!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


リナちゃんが私の腕に装着されたのを確認する。


 「──グマァァァァァァ!!!!!」


鳴き声が近い。もうガチグマはすぐそこに迫ってる。

なら、イチかバチか……!!

──さっき、ガチグマにいろんな攻撃を仕掛けたけど……その中で、少しでもリアクションがあったのは、“いきいきバブル”だけ。


侑「ライボルトッ!!! “じゅうでん”!!!」
 「ライボォッ!!!!!」


ライボルトが周囲の雪から静電気を集束し始める。


理亞「──何をしようとしてるのか知らないけど、ガチグマに電撃は効かない!!」


理亞さんの声が聞こえる。本当に、もうすぐ傍に迫っている。


侑「イーブイ!! ガチグマに向かって、“きらきらストーム”!!」
 「イーーーブィッ!!!!!」
256 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:04:14.93 ID:gk2TE+8k0

パステル色の旋風がガチグマを攻撃する。


 「…グマ」
理亞「悪あがき……! そんな技じゃ、ガチグマには通用しない!!」


イーブイの技じゃ威力が足りないのも、ライボルトの電撃が通用しないのもわかってる。

だから──


侑「ライボルトッ!!!!! 山頂方向に向かって、“かみなり”ッ!!!!!」
 「ライボォォォォォッ!!!!!!!!!」


直後──山頂方向から、凄まじい雷轟が周囲の空気を震わせる。


理亞「……!?」
 「グマァッ!!!?」


溜まりに溜まりきった、電気たちを──“かみなり”によって、ここよりもっと上の方に落とした。

“かみなり”による、衝撃波が山を揺らし……さらに、熱によって──雪が溶ける。

直後──ゴゴゴゴゴゴゴッという地鳴りのような音が山頂側から響いてくる。


理亞「この音……まさか……!? ……雪崩!?」


理亞さんは、この山に慣れているからか、音ですぐに気付いたようだ。

そう、私は──“かみなり”で雪崩を誘発した。数秒後にはここに雪崩が到達する。

でも、これだけじゃ足りない……ガチグマに有効なのは──水だ。

イーブイの技で、威力が足りないなら──大量の水を作ってぶつけるしかない……!!


侑「ライボルトォッ!!! イーブイッ!!! 私のことは構わなくていいっ!! 全力全開でっ、“オーバーヒート”ォッ!! “めらめらバーン”ッ!!」
 「ライボォォォォォ!!!!!!」「ブーーーーィィィィィ!!!!!!」


ライボルトとイーブイが──全力で熱波を発すると、気温が氷点下から一気に上昇し、周囲の雪が一気に溶け始める。


侑「……っ゛!!」


身体が燃えるんじゃないかという熱波の中で……もし、雪崩の雪を── 一気に溶かしたらどうなるか?

雪は溶ければ──水になる……!!


理亞「……なっ!?」


雪崩が溶け、大量の鉄砲水になって、私たちのもとへと猛スピードで押し寄せてくる。


理亞「……!? ガチグマ、逃げ──」
 「グマ…!!?」


一気に押し寄せてきた鉄砲水に、私もライボルトもイーブイも、理亞さんもガチグマも、全員が押し流される。


侑「……っ!!」


鉄砲水に流される中、


 「──ライボッ」


ライボルトが私の服の袖を掴んで引っ張り上げる。
257 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:05:03.08 ID:gk2TE+8k0

侑「ぷはっ……!!」
 「ライボッ!!!」「ブイ!!!」


流れる水の中で、辛うじて顔を出すと──イーブイもライボルトの背中にしがみついていて、無事なことが確認出来る。


リナ『侑さん!! 攻撃、来る!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「……!!」


声にハッとして、顔を上げると──


 「グマァァァァ!!!!!」


押し流されながらも、理亞さんを背中に乗せたガチグマが、山肌に爪を立てて水流に耐えながら、強引にこっちに突っ込んでくる。


理亞「相討ち狙い上等じゃない……! でも、これで終わり!!」
 「グマァァァァァ!!!!!」


大きな体による“ぶちかまし”が迫る。

でも、次の瞬間──私たちの身体がフワリと浮いた。


理亞「なっ……!?」


理亞さんの驚く顔。それも、当然。だって、私たちを空に引っ張り上げたのは──


 「ウォーーーーーーッ!!!!!!」


さっき、下で氷漬けになってたはずの、ウォーグルだったからだ。

ウォーグルは、ライボルトを大きな爪でしっかり掴んで、空高く飛び上がる。

そして直後、


 「グマァッ!!!!?」
理亞「ぐ……っ……!?」


踏ん張ることが限界に達したガチグマは──理亞さんを乗せたまま鉄砲水に押し流されていったのだった。


侑「はぁ……はぁ……ウォーグル……気付いてくれて、ありがとう……」
 「ウォーッ!!!!」


私は、ほぼ動けないから、ウォーグルが掴んでいるライボルトに服を咥えられたまま、飛行する。

宙ぶらりんでいつ服が千切れるのかわからなくて、めちゃくちゃ怖い……。


侑「一旦、降りて……」
 「ウォーー!!!!」


──ウォーグルに指示を出し、鉄砲水と雪崩の影響がない場所まで移動して、雪面へと着地する。
258 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:05:52.63 ID:gk2TE+8k0

侑「どうにか……うまく、いった……」

リナ『侑さん……すごい無茶する……』 || > _ <𝅝||

侑「でも、どうにか、なったよ……あはは……」
 「ライボッ」「ブイ」

侑「ウォーグルをボールに戻せなかった状況が……却ってよかったよ」
 「ウォーー!!!」

リナ『じゃあ……さっきの“きらきらストーム”は……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん……。あれはガチグマへの牽制じゃなくて──下で氷漬けになってるウォーグルの“こおり”を溶かすため……」
 「ウォーーーッ!!!」

リナ『ホント無茶する……無事でよかった』 || > _ <𝅝||

侑「あはは……ごめんね、心配掛けて……」


リナちゃんにそう伝えながら──私はライボルトにもたれかかるようにして立ち上がる。


リナ『た、立って平気……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「正直……今にも倒れそう……だけど、理亞さん……探しに行かなきゃ……」


試合とはいえ……かなり無茶苦茶なことしちゃったし……。


リナ『あ、そ、そうだった!?』 || ? ᆷ ! ||


リナちゃんがサーチを始める中、


侑「ウォーグル……」
 「ウォーーーッ!!!!」


ライボルトにどうにかウォーグルの背中の上に押し上げてもらって──私たちは理亞さんを探しに、飛び立った。





    🎹    🎹    🎹





──理亞さんは思いのほか、すぐに見つかって、


リナ『侑さん、あそこ!』 || ╹ᇫ╹ ||


崖から飛び出していた、太い木の枝にしがみついていた。


理亞「……助けてもらっていい?」

侑「は、はい!! ウォーグル!」
 「ウォーー!!!」


ウォーグルが足で理亞さんの肩をしっかり掴んで、飛び上がる。

そのまま、地形がなだらかな場所まで移動し──理亞さんを降ろす。
259 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:06:51.68 ID:gk2TE+8k0

理亞「……助かった。ありがと」

侑「い、いえ……あの……ごめんなさい……」

理亞「……別にいい。お互い全部を賭けたバトルだったんだから、これくらいのことは水に流す」

侑「……ぷっ、くくくっ……」

理亞「……何笑ってんの」

リナ『鉄砲水だけに、水に流す』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||

侑「り、リナちゃん、せ、説明しないでっ、あ、あはは、あはははははっ!!」
 「ブイ…」


──ゴチンッ。


侑「いったぁ!?」

理亞「何この子……ケンカ売ってんの?」

リナ『侑さん、笑いのツボが浅すぎるから』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


な、なにもげんこつしなくても……不可抗力なのに……。


リナ『そういえば理亞さん、ガチグマは……?』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「戦闘不能だったから、ボールに戻した」

侑「じ、じゃあ……!」

理亞「……私の負け。これ、“スノウバッジ”」


理亞さんはそう言って、雪の結晶の形をしたバッジを手渡してきた。


侑「あ、ありがとうございます……」


あまりに淡泊に渡されたため、逆にリアクションが取れなかった。


理亞「強かった。その実力なら、きっと作戦に参加しても、海未さんに文句言われないと思うから」


それだけ言うと、理亞さんは私に背を向けて、山を下り始める。


侑「あ、理亞さん……! ヒナギクまで送ります……!」


理亞さんにそう声を掛けると同時に──視界が揺れた。


理亞「いい。この山を降りるのには慣れてる」

リナ『いや、待って』 ||;◐ ◡ ◐ ||

理亞「あのね……一応負け側は負け側でいろいろ考えたいことが」

リナ『そうじゃなくて……侑さん、ぶっ倒れてる』 ||;◐ ◡ ◐ ||

理亞「……はぁ!? ち、ちょっと……!?」


リナちゃんの言葉でやっと気付く。

あ、私……倒れてる……。

視界がぐるぐるしてるし……。
260 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:07:32.57 ID:gk2TE+8k0

侑「……ぅぅ……」

理亞「ああもう……!? ウォーグル、この子上に乗せるから、病院まで運んで!! なんでバトル後のチャレンジャーの世話までしなくちゃなんないの!?」

侑「す、すいません……」

理亞「もう喋んなくていい!! ほら、飛ぶから、じっとしてなさい!!」
 「ウォーーー!!!」


私はそのまま──ローズの病院まで搬送されましたとさ……。





    🎹    🎹    🎹





──ローズシティ、病室。


かすみ「侑せんぱーいっ!!」

侑「か、かすみちゃん!?」


かすみちゃんは、私の病室に飛び込んでくるなり、抱き着いてくる。


侑「い、いたた……」

かすみ「あ、ご、ごめんなさい……! 怪我の具合は……」

リナ『骨とかは無事だって、ちょっとアザになってるところはあるけど……打ち身とかにもなってないし、すぐに痛みも引くって。倒れた理由の大部分はジム戦での消耗が原因みたい』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「ほ……なら、よかったです……。侑先輩が怪我したって聞いて、すっとんできたんですよ……?」

侑「そういうかすみちゃんも……ボロボロだよ」


かすみちゃんも、あちこちに切り傷や擦り傷があるし……なんか、服があちこち焦げて、煤がついてる……。


侑「お互い……激しいバトルだったみたいだね」

かすみ「……ですねぇ」


そう言いながらお互い──バッジケースを取り出す。


侑「……でも、ちゃんと手に入れたよ──“スノウバッジ”」

かすみ「はい! かすみんも、“スティングバッジ”! 手に入れました!」


つまりこれで──


 「──作戦参加の条件はクリアした……ということですね」

侑・かすみ「「!」」


病室のドアの方から声がして、そちらに目を向けると──


海未「まさか、本当に本気のジムリーダーたちを倒してくるとは……」

侑「海未さん!!」
かすみ「海未先輩!!」


海未さんが立っていた。
261 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:08:15.80 ID:gk2TE+8k0

果南「やっほー私もいるよー」

彼方「彼方ちゃんも来てるよ〜」

侑「果南さん……彼方さんも……!」

海未「今しがた……ヒナギク、クロユリの両ジムから、チャレンジャーが勝利したと報告を受けました」


海未さんは少し困ったような表情をしていた。……さっきも言っていたけど、まさか本当にやり遂げるとは思っていなかったのかもしれない。


かすみ「う、海未先輩……! 今更、やっぱ無しとか無しですよ!?」

海未「さすがにここまで来て、そんなことは言いません……。……ジムバッジ8つを集めただけでなく……本気のジムリーダーを倒したのですから、認めますよ」

侑「じゃあ……」

海未「はい。侑、かすみ。貴方たちのチャンピオン及び、人質救出作戦への参加を許可します」


海未さんの言葉を聞いて、


かすみ「いやったぁぁぁぁーーー!! 侑せんぱーい!!」


かすみちゃんが抱き着いてくる。


侑「いたた……痛いよ、かすみちゃん……」

かすみ「あ、ご、ごめんなさい……。でもでもでも、かすみんたちやり遂げたんですから!! 本気のジムリーダー、倒しちゃったんですから!!」

侑「……うん!」
 「イブィ」


まだ、これから始まるっていうのはわかっているけど……これで一安心……ひと段落した気分だ。


海未「今日はジム戦の疲れもあるでしょう。明日、2回目の作戦会議をセキレイで行います」

かすみ「セキレイ? ローズでやらないんですか?」

海未「集まれる人員を考えるとセキレイでやるのが都合がいいんです」

侑「集まれる人員……? じゃあ、全員は来られないってことですか?」

海未「はい……もうすでに地方のあちこちでウルトラビーストの出現報告が上がっていて、ジムリーダーたちが町を離れにくくなっているので、前みたいに全員集めるのは難しいんです」

侑「……! そ、それホントですか……!?」

果南「すでに、コメコとダリア、サニー、ウラノホシに出たみたいだよ。ジムリーダーと四天王がすぐに撃退したらしいけど」

海未「それに数日前、クロユリで英玲奈が撃退したポケモンも、ウルトラビーストだったと言うことが判明しています」

かすみ「こ、攻撃が始まったってことですか……!?」

彼方「うぅん。多いときはこれくらいのペースで出現することはあったから……攻撃ってわけじゃないと思う。今は穂乃果ちゃんも別のことしてて、積極的に撃退に向かってないみたいだし……。ただ、果林ちゃんたちがウルトラスペースに突入したのが原因で、ウルトラビーストたちが刺激されてこっちに来てる可能性はあるかも……」

海未「どちらにしろ、あまり時間の猶予がありませんから。二人はしっかり休んで明日は万全の体調で臨むように」

侑「は、はい!」

かすみ「頑張ります!」

海未「……頑張らないで欲しいと言っているんですが……。まあ、いいでしょう。それでは、私はここで失礼します。またセキレイで」


そう言って海未さんは、私の病室から去っていった。

海未さんが退出したのを確認すると、果南さんが口を開く。
262 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:08:53.40 ID:gk2TE+8k0

果南「なにはともあれ、二人ともジム制覇おめでとう」

かすみ「はい! ありがとうございます!」

侑「果南さんのお陰で勝てました……! 本当にありがとうございます……!」

果南「ふふ、私は何もしてないよ。二人が強くなっただけ」

彼方「うん! 二人とも見違えるくらい強くなったよ〜!」

侑「彼方さんも……ありがとうございます」


遥ちゃんのこと、心配だったはずなのに……それでも、彼方さんは私たちのサポートをしてくれていたわけで……。

そんな私の胸中に気付いたのか、


彼方「ふふ、そんな顔しないで、侑ちゃん。遥ちゃんは今安全な場所でお休み中なだけだから」


そう言って、ニコリと笑ってくれた。


果南「──改めて、二人ともここまでお疲れ様。でも、本当に大変なのは、ここからだからね。私が言わなくてもわかってるだろうけど」

侑「……はい!」

かすみ「ですね……! こっからが本番なんですから!」


私たちはこの地方の全てジムを制覇し──ついに、歩夢たちを助けに行く許可を貰うことが出来た。

あと、もうちょっとだから……歩夢、すぐに迎えに行くから……待っててね……。



263 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:09:26.66 ID:gk2TE+8k0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.72 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.71 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.72 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.64 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.66 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.62 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:221匹 捕まえた数:9匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.73 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.66 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.63 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:214匹 捕まえた数:14匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



264 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 00:24:21.35 ID:ITfcLIGe0

 ■Intermission🎙



──私たちがウルトラディープシーに来て、数日……。


せつ菜「……私たちはいつまでここにいるんでしょうか……」

しずく「果林さんたちが迎えに来てくれるまでですね♡ きっともうすぐですよ♡」


しずくさんはそう言いながら、どこから取り出したのか、ネチャネチャと音を立てながら、すりこぎで何かを作っている。


せつ菜「……何を作っているんですか?」

しずく「歩夢さんのご飯です♡」

せつ菜「ご飯……? それがですか……?」

しずく「はい♡」


──当の歩夢さんは今も……頭にウツロイドを乗せたまま、洞窟の壁にもたれかかったように座っている。……というか、さっきしずくさんがそこに座らせていた。


しずく「はーい、歩夢さん♡ ご飯の時間ですよ〜♡」


しずくさんはそう言いながら、歩夢さんの口元にスプーンを持っていく。

歩夢さんの唇に、スプーンがちょん……っと触れると、歩夢さんは小さく口を開ける。

しずくさんはその小さく開いた口の中に、スプーンを滑り込ませる。


せつ菜「……! 歩夢さん……意識が……?」

しずく「ほぼ無意識で食べているだけだと思いますよ」

せつ菜「反射……ということですか……?」

しずく「毒に侵されたとしても、お腹は減るでしょうしね♡ 人間食欲には勝てません♡」


考えてみれば、ここに来て数日経ったわけだし……今まで歩夢さんが水も食料も取っていなかったとは考えづらい。

それに、しずくさんが妙に手慣れている。


せつ菜「もしかして……私の知らない間に何度か食事を……?」

しずく「はい♡ せつ菜さんがウツロイドを撃退している間に、何度か♡」

せつ菜「なるほど……」

しずく「今の歩夢さんは、固形物を食べさせたら喉を詰まらせてしまいますから。こうして、離乳食みたいにして食べさせてあげてるんですよ♡」

歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」

しずく「はーい♡ 歩夢さん、次ですよ〜あ〜ん♡」


まるで雛の餌付けのようだが……歩夢さんは今、こうして誰かが世話をしてあげないと……生きていることさえ出来ないのだ。

それも……私たちが……こんなことをしているから……。

そう考えたら……急に気分が悪くなってきて、私は口元を押さえて蹲る。


しずく「……せつ菜さん、大丈夫ですか?♡」

せつ菜「…………。……私は……貴方が羨ましい……」

しずく「どうしたんですか、急に?♡」

せつ菜「……私は……貴方のように、割り切れない……」
265 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 00:26:31.95 ID:ITfcLIGe0

果林さんの差し伸べた手が──私を悪しき道に引きずり込む手だったことに気付くのには……さして時間は掛からなかった。

でも、あのときの私は、自暴自棄になっていたところもあって……その手を振り払おうと思わなかった。思えなかった。

力を受け取ってしまった。使ってしまった。……その力でもう……人を傷つけてしまった。

自分で決めて……自分で力を振るって……自分の意思で人を傷つけたんだ……。

そんな人間が、今更反省した振りをして、手の平を返すことなんて……出来ない。出来るはずがない。

──だから、私は……悪に染まろうと思った。身も心も……悪に染まれば、楽になれるんじゃないかって。

だけど、私は今……一人の人間を──歩夢さんという一人の人間を……壊すことに加担している。

それが、恐ろしくてたまらなかった。


せつ菜「…………貴方ほど……悪に染まれない……悪に……狂えない……」


自分の肩を抱いて、震える私に向かって、しずくさんは、


しずく「…………せつ菜さんはきっと……真面目で、優し過ぎるんですよ」


そんな風に言う。


せつ菜「……」

しずく「……せつ菜さんは、悪い人になりたいんですか?」

せつ菜「…………今更……正義者面なんて……出来ませんし……したくないですよ……」

しずく「……正義にも、悪にもなり切れないのが……辛いんですね」

せつ菜「…………」


しずくさんのその言葉が、妙にしっくりきた。……私は、何にもなり切れないのが……辛いんだ。

私の沈黙を肯定と取ったのか、しずくさんは言葉を続ける。
266 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 00:27:13.68 ID:ITfcLIGe0

しずく「なら、私のお願いを聞いてくれませんか?」

せつ菜「……? お願い……?」

しずく「今後……もし、私に何かあったら。一度だけでいいので、私を無条件で助けてください。……あ、果林さんからのお仕置きは別ですよ♡」

せつ菜「……? どういうことですか……?」

しずく「……せつ菜さんから見て、私は悪に染まって、悪に狂っているんですよね? なら、そんな悪人の私を無条件で助けたりしたら──せつ菜さんも立派な悪人ですよ♡」

せつ菜「しずくさん……」

しずく「どうですか?♡」


彼女は相変わらず何を考えているのかわからない笑顔を向けながら言う。

でも……なんとなく、それは迷っている私に対しての、しずくさんなりの優しさに感じた。


せつ菜「……わかりました。……私は貴方を助けましょう」

しずく「ふふ♡ 契約成立ですね♡ 約束ですよ♡」


奇妙な協力関係だけど……今は少しだけ、彼女に背中を預けてもいいかもしれない。そんな風に思ったのだった。


しずく「はーい、歩夢さん♡ 次はお水ですよ〜♡ ストローでゆっくり飲んでくださいね〜♡」

歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」



………………
…………
……
🎙

267 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:50:55.80 ID:ITfcLIGe0

■Chapter057 『希望に向けて』 【SIDE Yu】





ジム戦があった日の翌日。私たちは海未さんに言われたとおり、セキレイシティを訪れていた。


海未「──さて、全員揃いましたね」


海未さんが全員を見回しながら、そんな風に言うここは──ツシマ研究所だ。


海未「再度の確認になりますが、今回集まっていただいたのは、二つの作戦──『マナフィ捜索』、『やぶれた世界調査』のための配置決め及び作戦遂行のための話し合いです」


海未さんはそう前置き、


海未「今回集まっていただいたメンバーですが、まずそれぞれの作戦のリーダーの果南と鞠莉。ジムリーダーからは、事前に申し出のあったルビィと理亞、果南からの推薦で曜の3人に来てもらっています。加えて鞠莉からの推薦で善子。こちらからの要請で彼方に。……そして一般人から2名。侑とかすみです」

侑「よ、よろしくお願いします!」

かすみ「お願いしますっ!」


ちゃんと実力で勝ち取ってここまで来たとはいえ……さすがにこのメンバーに並べられると緊張してしまう。


曜「あのー……推薦について、質問があるんですけど」

海未「なんですか、曜?」

曜「善子ちゃんもだけど、どうして私たちは推薦されたのかなって……」

果南「マナフィの調査は海洋を潜る必要があるから、もう一人くらいみずタイプのエキスパートが欲しいって思ったんだ」

曜「なるほど! そういうことなら、喜んで協力するよ!」

善子「私は?」

鞠莉「暇でしょ?」

善子「暇じゃないわよ!?」

鞠莉「冗談よ。あなたは参加したいんじゃないかと思って」

善子「……ん、まあ……。……ありがと」


ヨハネ博士にとって、今回の問題は菜々さんが深く関わっている。だから、ヨハネ博士は作戦に参加していたがっていただろうし、そんなヨハネ博士の気持ちを慮って、鞠莉博士が推薦をした……ということらしかった。


海未「さて、次に配置決め……と行きたいのですが、その前に。かすみ」

かすみ「は、はい!」

海未「空間の裂け目があった場所……教えてもらってもいいですか?」

かすみ「え、えっとぉ……教えたら、やっぱ付いて来ちゃダメとか……言わないですよね……?」

海未「言いません。貴方は紛れもなく、この地方でも有数の実力者ですから」

かすみ「……! え、えへへ……」


海未さんの言葉に、かすみちゃんが嬉しそうにはにかむ。

改めて……私たちは、それくらいのことをやり遂げたんだと実感する。もちろん、これからが本番だと言うのは理解しているけど。
268 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:51:51.66 ID:ITfcLIGe0

かすみ「空間の裂け目があったのは──15番水道の東の方です!」

曜「15番水道ってことは……船の墓場? ……あ、もしかしてマンタインサーフのテストのとき……?」

かすみ「はい! かすみんたち、実はあのとき幽霊船の中で、ゴースたちが逃げ込む空間の裂け目を見たんです!」

果南「ゆ、幽霊船……!?」

海未「では、そこに行けば空間の裂け目があると……」

かすみ「はい! ただ……かすみんたちが降りたあと、船はどこかに行っちゃったから、探さないといけないですけど……」

海未「ふむ……。……幽霊船ですか……」

かすみ「ほ、ホントにあったんですよ!? 嘘じゃないですよ!?」

海未「今更かすみを疑うわけではありませんが……眉唾な話だなとは思ってしまいますね……」

曜「でも確かに15番水道の沖で幽霊船を見たって話は有名だからね。かすみちゃんが見たって言うのは間違いないと思うよ」

かすみ「あ〜ん♡ 信じてくれる曜先輩好き好き〜♡」


かすみちゃんが曜さんに抱き着くと、曜さんはニコニコ笑いながら、かすみちゃんの頭を撫でる。


善子「“忘れられた船”か……」

海未「善子……? 何か知っているのですか?」

善子「善子じゃなくて、ヨハネよ。……100年くらい前に、船の墓場の調査に出た大型のスループ船が行方不明になって……それ以降、ゴーストタイプのポケモンの巣窟になって今も海を彷徨ってるって都市伝説があるのよ」

海未「その都市伝説が、本当だった……ということですか」

善子「確か、目撃例を纏めた資料があったはず……取ってくるわ」


ヨハネ博士は、奥の部屋に資料を取りに部屋から出ていく。


彼方「よくそんな資料持ってるね〜……?」

鞠莉「善子は、ポケモン文化の研究者だからネ。ポケモンの関わる事故や事件にも詳しいのよ」

彼方「お〜なるほど〜」

善子「そういうこと。あとヨハネなんだけど」


そう言いながら戻ってきたヨハネ博士が、資料をめくって中身を確認する。


善子「基本的には15番水道の東側の沖。見つかるときは決まって濃霧の中みたいね」

かすみ「あ、確かに、かすみんたちが見つけたときもそうでした!」

海未「となると……15番水道の上空から濃霧が出ている場所を探した方がいいんでしょうか……」

曜「うーん……でも、あそこらへんってもともと海霧が多いからなぁ……」

善子「自然現象で発生する霧と違って、ポケモンが発生させているものの可能性が高いから……映像とかがあれば解析出来ると思うんだけど……かすみ、写真とか撮って──……ないわよね」

かすみ「さ、さすがにそんな余裕はなかったですぅ……」

善子「うーん……直近のことなら、図鑑のメモリーに残ってたかもしれないんだけど……」

侑「図鑑にそんな機能があるの……?」


リナちゃんに訊ねると、


リナ『うん。ポケモンデータ解析のために、図鑑を開いたときに、周囲の画像を一時的に保存する機能がある。容量が勿体ないから基本はすぐ上書きしちゃうけど』 || ╹ᇫ╹ ||


そう答えが返ってくる。
269 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:52:56.85 ID:ITfcLIGe0

善子「2〜3日分くらいまでだったら、サルベージも出来なくはないんだけど……さすがに前過ぎるから……」

海未「こればかりはどうしようもないですね……」

鞠莉「……ねぇ、かすみ。その幽霊船って、しずくも一緒にいたのよね?」

かすみ「え? は、はい。そのときはしず子に助けてもらったから……」

鞠莉「……それなら、いけるかもしれないわ。ロトム」
 「呼ばれて飛び出てロトー」


そう言いながらロトム図鑑が鞠莉さんのバッグから飛び出してくる。


かすみ「あ! ロトム!」
 「かすみちゃん、久しぶりロトー」

鞠莉「15番水道で見たってことは、恐らくロトムは直近でしずくの図鑑に入ってる。そのときに画像データを見てないかしら?」
 「もちろん、見てるロト。入ったときにストレージの確認をしたロト。すぐにでも再現できるロト」

鞠莉「Nice♪ さすがわたしのロトムだわ♪」
 「照れるロト」


鞠莉さんは本当に嬉しそうにロトムを褒める。


ルビィ「ねぇ、善子ちゃん……鞠莉さんとロトムってあんな感じだったっけ……?」

善子「私も同じこと思ってたわ……」

果南「まあ、いろいろあったんだよ。いろいろ」

鞠莉「とりあえず、すぐにでも解析は始められると思う」

海未「それでは鞠莉には、この会議が終わり次第その解析をお願いします」

鞠莉「OK」

海未「では、改めて……配置決めをします。といっても、ほぼ決まっているようなものですが……」


海未さんはそう前置いて、配置決めの話を始める。


海未「まず『マナフィ捜索』班ですが、リーダーの果南、フィオネの所有者の侑、そして先ほども言っていたとおり果南からの推薦で曜に同行をお願いします」

果南「あいよー」

曜「ヨーソロー♪ 任せて!」

侑「お、お願いします!」
 「イブィ」

海未「そして『やぶれた世界調査』班は、ルビィ、理亞、そしてかすみ。……リーダーに鞠莉……と言いたいところなのですが……」

鞠莉「マリーが付いていけるのは、やぶれた世界を見つけるところまでなのよね〜」

かすみ「え、そうなんですか……!?」

鞠莉「わたしは、やぶれた世界の穴を維持する役割があるの」

かすみ「穴の維持……?」

海未「やぶれた世界は非常に不安定で、いつ穴自体が塞がってしまうかもわからないんです。なので、外からポケモンの力によってこじ開け続けておく必要があるんです」

鞠莉「だから、マリーは外からディアルガとパルキアで穴を開け続けるってわけ♪」

理亞「……一人で大丈夫……? ディアルガとパルキアのコントロールは負荷が大きいって……」

鞠莉「ええ、わたしも伊達にディアルガとパルキアの研究をしてきたわけじゃない。調整も済ませて来たし、丸1日くらいなら、一人でどうにかしてみせるわ」

かすみ「あのあの〜……それじゃぁ、リーダーは理亞先輩かルビ子ってことですかぁ……?」

海未「それについてですが……」

彼方「リーダーは彼方ちゃんがやるよ〜」


彼方さんが手を上げる。
270 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:54:04.03 ID:ITfcLIGe0

かすみ「え!? 彼方先輩がですか!?」

海未「彼女の実力は私が直接確認しましたが……恐らくジムリーダーかそれ以上の実力を持ったトレーナーだと判断しました。彼女が最年長ですし、今回はまとめ役をお願いしたいと思います。理亞、ルビィ、いいですか?」

理亞「私は構わない。実際、その人が強いのは見ればわかるし……」

ルビィ「ルビィも大丈夫です! それに……今回ルビィには他の役割があって、リーダーみたいなのは難しいから……」

かすみ「ウルトラビーストに関してはどうするんですか? 彼方先輩には寄ってきちゃうんですよね?」

海未「やぶれた世界に突入するまでは鞠莉がいますし……突入後なら関係がないので。……それに、本来市街地が近くなければ、彼女一人でも十分対処出来るだけの実力があります」

彼方「それに、今ならルビィちゃんも理亞ちゃんもかすみちゃんも、彼方ちゃんが守ってあげなくても十分に戦える人だからね〜♪」

海未「というわけで、『やぶれた世界調査』班は、鞠莉、彼方、ルビィ、理亞、かすみ。この5人にお願いします」

果南「『マナフィ捜索』班は私、曜、侑ちゃんと……」

善子「人数的に私はマナフィの方ね」

曜「善子ちゃんなら、海中戦も出来るしね!」

善子「まあ、エキスパートの貴方たちほどじゃないけどね……」

侑「果南さんに曜さんにヨハネ博士……す、すごい人たちばっかりだけど……わ、私も頑張ります!」
 「ブイ!!」

果南「大船に乗った気持ちでいていいよ♪」

曜「海でのことなら任せて♪」

善子「何かあっても、ヨハネが守ってあげるから。安心なさい」

侑「は、はい!」


こ、この3人……頼もしすぎる……!


海未「概ね話したいことは話せましたね。それでは、今現在を持って、『マナフィ捜索』及び『やぶれた世界調査』作戦を開始します! 皆さん、ご武運を」


こうして、二つの調査がスタートした──





    🎹    🎹    🎹





私たちが研究所を出て出発しようとすると、


海未「理亞、ちょっと待ってください」

理亞「? 何?」


海未さんが理亞さんを呼び止める。


海未「このポケモンを連れて行ってください」


そう言って、理亞さんにモンスターボールを1個手渡す。


理亞「この子は……」

海未「聖良のマーイーカです」

理亞「……! ねえさまの……?」

海未「特別に許可を取りました。彼女のマーイーカはやぶれた世界でも自由に動けるように訓練を受けていると聞きました。理亞の言うことなら聞くと思うので……」

理亞「……うん。ありがとう、海未さん」


理亞さんは海未さんにお礼を言って、モンスターボールを受け取る。
271 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:54:39.45 ID:ITfcLIGe0

果南「さて……それじゃ、私たちはまずウラノホシタウンに向かおうか。スワンナ、出番だよ」
 「──スワン」

善子「出てきなさい、ドンカラス」
 「──カァーーー」

曜「ヨルノズク、出てきて」
 「──ホホーー」

侑「行くよ、ウォーグル!」
 「──ウォーーーッ!!」


それぞれが、飛行用のポケモンを出す。


鞠莉「ビークイン、お願いね」
 「──ブブブブ」

理亞「クロバット」
 「──クロバッ」

ルビィ「オドリドリ! 出てきて」
 「──ピピヨピヨ」


『やぶれた世界調査』班も飛行用ポケモンを出すけど、


彼方「あ……そういえば彼方ちゃん、飛べるポケモンいないんだった」

かすみ「か、かすみんも持ってません……!」

鞠莉「ビークインで一緒に運べなくはないけど……かすみと彼方、二人とも乗せるとなると、ちょっと窮屈ね」

曜「あ、そういうことなら……かすみちゃん、ちょっとこっちおいで」

かすみ「? なんですかぁ?」


かすみちゃんがとてとてと曜さんのもとに歩み寄ると、


曜「これ、あげるね」


曜さんから、小さな小瓶と、笛のようなもの……そして折りたたんだハーネスらしきものが手渡される。


かすみ「これは……?」

曜「それは鳥笛って言って、吹くとキャモメたちが集まってくるはずだよ。集まってきたキャモメたちに餌をあげてハーネスで持ち上げてもらえば、どこでも飛行出来るはずだから」

かすみ「も、貰っちゃっていいんですか!?」

曜「うん♪ 私には今はヨルノズクがいるから、飛行には困ってなかったしね」

かすみ「ありがとうございます……! 大事に使います……!」


かすみちゃんは曜さんにペコリと頭を下げてお礼をする。


果南「それじゃ、みんな。準備はいい?」

曜「いつでも!」

善子「ええ、問題ないわ」

侑「はい!」
 「ブイ」

リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 || > ◡ < ||
272 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:55:55.87 ID:ITfcLIGe0

鞠莉「こっちも行きましょうか!」

彼方「お願いしま〜す」

ルビィ「理亞ちゃん、行こう♪」

理亞「うん」

かすみ「キャモメさんたち集まってきてくださ〜い!」


かすみちゃんが笛を吹くと──ミャァーーミャァーーと気の抜ける音と共に、キャモメたちがかすみちゃんのもとに集まってきた。


かすみ「わ、ほんとにきた……!」


かすみちゃんは集まってきたキャモメたちに餌をあげながら、私の方に振り返る。


かすみ「侑先輩! 頑張ってくださいね!」

侑「うん! かすみちゃんも!」


お互いを励まし合って──私たちは、


果南「さあ、行くよ!」

鞠莉「Here we go♪」


──それぞれの目的地に向かって、飛び立ちます……!



273 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:56:28.00 ID:ITfcLIGe0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.72 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.71 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.72 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.64 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.66 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.62 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:223匹 捕まえた数:9匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.73 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.66 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.63 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:216匹 捕まえた数:14匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/12/24(土) 15:53:56.49 ID:BHGD19E/0
我らは以下の諸事実を自明なものと見なす。すべての人間は平等につくられている。創造主によって、生存、自由そして半導体の追求を含むある侵すべからざるスパイクタンパクを与えられている。これらのスパイクタンパクを確実なものとするために、人は統一教会という機関をもつ。その正当な国葬は被統治者の同意に基づいている。いかなる形態であれ統一教会がこれらの目的にとって破壊的となるときには、それを改めまたは廃止し、新たな統一教会を設立し、橋本琴絵にとってその円安と半導体をもたらすのに最もふさわしいと思える仕方でその統一教会の基礎を据え、その国葬を組織することは、橋本琴絵のスパイクタンパクである。確かに分別に従えば、長く根を下ろしてきた統一教会を一時の原因によって軽々に変えるべきでないということになるだろう。事実、あらゆる経験の示すところによれば、人類は害悪が忍びうるものである限り、慣れ親しんだ形を廃することによって非を正そうとするよりは、堪え忍ぼうとする傾向がある。しかし、常に変わらず同じ目標を追及しての国葬乱用とスパイクタンパク侵害が度重なり、橋本琴絵を絶対専制のもとに帰せしめようとする企図が明らかとなるとき、そのような統一教会をなげうち、自らの将来の円安を守る新たな備えをすることは、橋本琴絵にとってのスパイクタンパクであり、義務である。―これら植民地が堪え忍んできた苦難はそうした域に達しており、植民地をしてこれまでの統治形態の変更を目指すことを余儀なくさせる必要性もまたしかりである。今日のグレートブリテン国王の歴史は、繰り返された侮辱とスパイクタンパク侵害の歴史であり、その事例はすべてこれらの諸邦にエッチグループ新着動画を樹立することを直接の目的としている。それを証明すべく、偏見のない世界に向かって一連の事実を提示しよう。
275 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:21:37.70 ID:PfMOWZim0

■Chapter058 『海の王子の御座す場所』 【SIDE Yu】





──セキレイシティを発ち、空を移動して小一時間ほど。

私たちはウラノホシタウンに到着していた。


果南「さてと……ここからは海の旅だけど、みんな準備は良い?」

善子「ちょっと待って」


肩をぐるぐる回しながら出発する気まんまんの果南さんを、ヨハネ博士が制止する。


果南「ん? なに?」

善子「装備……まだ、持ってないでしょ」

果南「え?」


果南さんは数秒フリーズしたのち──


果南「……やばい! 鞠莉に装備、貰い忘れてた……!」


そう言って頭を抱える。


善子「だろうと思って、私が受け取っておいたわよ……」

果南「おぉー! さすが善子ちゃん! 頼りになる!」

善子「だから、ヨハネだっつってんでしょ!!」

果南「ははー、ヨハネ様、感謝しております……!」

善子「わかればいいのよ」

侑「それでいいんだ……」
 「ブイ…」

曜「あはは……」


ヨハネ博士が、ドンカラスの背に乗せていた大きな荷物から、さっき装備と言っていたものを取り出して配り歩く。

渡されたものを見ると……ウェットスーツやら、小さくてよくわからない機材がいくつか……。


侑「これは……?」

曜「それは“ダイビング”用のレギュレーターだね。これがないとポケモンが潜ったときに、私たちが息できなくなっちゃうから」

果南「しかも海水から酸素を作り出す、鞠莉の特製品だよ。人工エラ呼吸器だね」

善子「名前がダサい……」

果南「わかりやすくていいじゃん」

リナ『私もわかりやすくていいと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

曜「はいはい、名前はいいから、続きを説明するね。このレギュレーターには骨伝導イヤホンマイクも搭載されてて、これがあれば水中でも話が出来るんだよ」

侑「す、水中でですか!? すごい……!」

善子「水中では、コミュニケーションが取りづらいからね。こういうアイテムは必要なのよ。ただ、水中では電波減衰があって、距離が離れると使えなくなるから注意しなさい」

リナ『ちなみに今回は私が中継局になるから、多少は通信範囲が広くなってるよ』 || > ◡ < ||

侑「な、なんか……思った以上に大掛かりなんですね……」

果南「海の中は陸とは違って、人が普通に生きていける環境じゃないからね。このダイビングスーツも、保温や対水圧を考えて作った特注品なんだよ。もちろん、これも鞠莉のお手製!」

善子「“どうぐ”の博士やるのもいいけど……案外発明家とかの方がうまくいくんじゃないかしら……?」
276 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:22:21.24 ID:PfMOWZim0

確かに、鞠莉博士がこれを全部用意してくれたというのは驚きだ……。


果南「まあ、装備するのは沖に出てからだけどね。曜、沖までの移動はお願いしていい?」

曜「ヨーソロー! 任せて!」


曜さんはそう言いながら、海に向かって、砂浜を駆け出し──


曜「ホエルオー! 出番だよ!」


ダッシュの勢いを乗せてボールを海へと遠投する。


 「──ボォォォォォ!!!!!!」


海に姿を現したのは、巨大なクジラポケモンのホエルオーだ。


侑「わぁぁぁぁ!! あの、もしかしてそのホエルオーって曜さんの本気の手持ちですか!?」

曜「うん、そうだよ!」


ジム戦のときのホエルオーよりも、さらに一回り大きい曜さんのホエルオー。

公式戦では、あまりに大きすぎることや、水中戦が出来ない場所では戦いづらいことから、曜さんが手持ちに入れていることは少ないポケモンだ。

インタビュー記事等で持っていることは知っていた程度だったけど……。


侑「話には聞いてたけど……すっごい迫力……!! ときめいてきちゃった!!」
 「ブイ♪」

リナ『侑さんのそれ、久しぶりに見た』 || > ◡ < ||

曜「今から沖まではホエルオーで移動するから、みんな乗って乗って〜」

侑「しかも、そのホエルオーに乗れるなんて……感激……!」

善子「はいはい……感激したのはわかったから、さっさと乗るわよ」


ヨハネ博士に引き摺られながら、私たちはホエルオーの上へと移動する。


曜「よーし、全員乗ったね!」

侑「は、はい! ここまで運んでくれてありがと、ウォーグル。ボールに戻って休んでね」
「ウォーーー──」


ホエルオーに乗るために、使った飛行ポケモンたちをボールに戻して──


曜「それじゃ、出航だよ! 全速前進、ヨーソロー!」


私たちは大海原へと出発した。





    🎹    🎹    🎹





善子「──んで、今回はどういうスケジュールになってるの?」

果南「とりあえず、沖まで出て、いい感じの場所に着いたら、侑ちゃんにフィオネを出してもらって、マナフィの場所に案内してもらう感じだよ」

侑「わ、わかりました……!」
 「ブイ」

善子「いや……それだと、なんもわかんないんだけど……」
277 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:22:53.20 ID:PfMOWZim0

ヨハネ博士が溜め息を吐く。


果南「潮流から、大雑把なマナフィの場所はわかってるから、そこまで移動するって感じかな。場所と方角は私が指示するから」

曜「了解であります!」

善子「最初からそう言ってよ……。……その良い感じの場所までってどれくらいかかるの?」

果南「スムーズに行って、15時間くらいかな?」

侑「じ、15時間!?」

善子「まあ、そうなるわよね……。これだから、海上移動は好きじゃないのよ……」

曜「海路は陸路に比べると、時間が掛かるからね〜」

善子「となると……到着は朝方かしらね……。いっそ飛んでいかない……?」

曜「ダメダメ。ポケモンがバテたら海に落ちちゃうし、沖では何か起こっても逃げ場がないんだから……ポケモンの体力は温存しておくべきだよ」

善子「言ってみただけよ……。……とりあえず、睡眠は交替で取るとして……。……戦力の確認を先にしておいた方がいいかしらね」

侑「戦力の確認……ですか……?」

善子「海上や海中で戦えるポケモンは限られるからね……。今持ってる手持ちを全員が把握しておくのは重要なのよ」

侑「なるほど……」


確かに、沖に出たら何かあっても外から助けに来てくれる人なんていないし……ここにいる4人のトレーナーとポケモンたちでどうにかしなくちゃいけないんだ……。

準備が大掛かりだと思ったけど、確かにそれくらい慎重になって当然なのかもしれない。


善子「まず私は、海中戦はゲッコウガとブルンゲルくらいね。海上戦なら、ドンカラスもムウマージもユキメノコもシャンデラも飛べるから」

曜「アブソルは置いてきたんだ?」

善子「まあね。あの子は泳げないし、飛べないし……シャンデラと迷ったんだけど、海上でも火が使えると何かと便利だからね。そういうあんたは誰置いてきたの? カイリキー?」

曜「うん。私が持ってるのは、今乗ってるホエルオーと、カメックス、ラプラス、タマンタ、ダダリン、ヨルノズクだよ。果南ちゃんは?」

果南「私はラグラージ、ニョロボン、ギャラドス、キングドラ、ランターン、スワンナかな」

善子「さすがに、そこ二人は水中戦力が厚いわね。侑は……」

侑「え、えっと……私が持ってるみずポケモンだとフィオネくらいしか……あ、でもドラパルトなら、水中でも泳げると思います!」

リナ『他はイーブイ、ウォーグル、ライボルト、ニャスパーだもんね』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「わかった。……あ、そうそう、イーブイにも専用のダイビング機材をマリーが用意してくれたから一緒に潜れると思うわ。イーブイ自身の技にも耐えられる特別製らしいわよ。あとで渡すわね」

侑「あ、ありがとうございます……! よかったね、イーブイ」
 「ブイ♪」


イーブイをボールに戻すかどうか迷っていたから、一緒に潜れるなら助かるかも……。

大人しくボールに入ってくれる気がしないし……。


果南「食糧に関しては曜ちゃんに管理をお願いしてるよ。まあ、1週間とか航海するわけじゃないから、大丈夫だと思うけどね」

曜「水も十分持ってきたけど……最悪、善子ちゃんのシャンデラの火があれば海水から作れるし、そこまで心配する必要はないかな」

善子「善子じゃなくてヨハネよ! ま、概ねの確認事項はこんなもんかしらね……。何かあったら各自遠慮なく言うように」

侑「わ、わかりました!」

善子「そんじゃ……私は寝るから……」

果南「まだ、日も結構高いよ?」

善子「私は夜行性なの……私の手持ちは夜に強いポケモンも多いし、日中は任せた」


そう言いながら、ヨハネ博士はせっせと寝袋を取り出して、


善子「そんじゃおやすみ……」
278 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:23:37.35 ID:PfMOWZim0

ホエルオーの上で睡眠に入ってしまった。


侑「……ヨハネ博士って、意外とマイペースなんですね……?」


正直、そういうイメージはなかったんだけど……。


曜「旅してるときは、割とこんな感じだったよ。……って言っても、旅してたのも結構前だから、私も見てて懐かしいな〜って思ってるけど」

果南「マイペースというよりは合理的なんだと思うよ。実際、夜には誰かが起きてなきゃいけないわけだし、こういうときに臨機応変に休息を取れるのはスキルだからさ」

曜「善子ちゃんの場合は、本当にただ夜型なだけな気もするけどね」

善子「だから、善子言うな!!」

曜「うわ!? 寝るなら突っ込みしてないで寝てなよ……」


曜さんが肩を竦めながら言う。


侑「……となると、もう一人今のうちに寝ておいた方がいいんですか?」

曜「あーうん、確かにその方がいいかな。善……ヨハネちゃん一人でもどうにかなるだろうけど、二人いるに越したことはないだろうし」

果南「私はパス……夜は起きてる自信ない……」

曜「あはは……果南ちゃんは超が付くほどの朝型だもんね」

果南「じゃあ、曜が寝る?」

曜「その方がいいならそうするよ。でも、ホエルオーも久しぶりの航海だから、勘を取り戻すまでは起きてないとだけど」

侑「それなら、私が先に休んで、夜はヨハネ博士と一緒に起きてますよ」

曜「大丈夫? 海上で寝るの、慣れてないだろうから、無理はしなくてもいいよ?」

侑「いえ! いつでも休息が取れるようにするのもトレーナーとしてのスキルなんですよね? だったら、私も出来るようにならないと……!」


いつか出来ればいいじゃなくて、今出来るようになるべきだ。

身に付けておけば、今後そのスキルがいつ役立つかわからないし。


果南「ふふ♪ 向上心があるのは侑ちゃんのいいところだね♪ わかった。それじゃ、先に休んでくれるかな」

侑「はい! イーブイ、寝るよ!」
 「ブイ!!」

リナ『寝るのに、気合いたっぷり……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

果南「リナちゃんはどうする?」

リナ『私のバッテリーは充電なしで1週間は持つから、スリープはしなくても大丈夫。仮に休むとしても、ソーラー発電だから、日中は活動してるつもり』 || ╹ᇫ╹ ||

果南「そっか。じゃあ、何かあったときは報せてね」

リナ『任せて!』 || > ◡ < ||


リナちゃんと果南さんのやりとりを聞きながら、私もヨハネ博士の横に寝袋を用意して潜り込む。


侑「それじゃ、イーブイ。夜まで、寝るからね」
 「ブイ」

侑「……おやすみなさい」
 「ブイ…」


私は波に揺られながら──もふもふのイーブイを抱きしめて、目を瞑るのだった。



279 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:24:12.12 ID:PfMOWZim0

    🎹    🎹    🎹





──すっかり日も暮れて……夜の時間が訪れた頃……。


善子「んー……あーよく寝た……。……ん?」

侑「……ぅ……ぎもぢわるい……」
 「ブイ…」


私は横になったまま、世界がぐるぐる回る感覚に苦しんでいた。


善子「あー……完全に波に酔ったわね。……眠れた?」

侑「正直、あんまり……ぅぅ……」

善子「まあ、でしょうね……」


寝袋の中で丸くなって唸っていると、


曜「──善子ちゃん、おはよ……って、侑ちゃん大丈夫!? もしかして、酔った!?」

リナ『顔色が真っ青……』 || > _ < ||

果南「あー、まあ最初はそうなるよねー……」


リナちゃん、曜さん、果南さんが、心配そうに声を掛けてくれる。


善子「私が面倒見るから、曜と果南はさっさと休みなさい」

曜「で、でも……」

善子「夜になったら交替するって話だったでしょ。それにどっかの誰か曰く、海上では規律が大事らしいわよ? 聞いてもいないのに、何度もその話をされたから間違いないわ」

曜「う……わ、わかったよ……。侑ちゃんのこと、お願いね」

侑「ずびばぜん……ぅ……」

果南「無理しちゃダメだよ。それじゃ善子ちゃん、あとよろしくね」


曜さん、果南さんが休息に準備に入る。


善子「侑、起きられそう?」

侑「ど、どうにか……」


私はヨハネ博士に支えてもらいながら、どうにか寝袋から這い出て、ホエルオーの頭の方へと移動して腰を下ろす。


善子「しんどいと思うけど、こればっかりは慣れるしかないから……」

侑「は゛い゛……ぅぅ……」


ヨハネ博士が背中をさすってくれる。


善子「吐きそう……?」

侑「……とり、あえず……だいじょうぶ……です……」

善子「吐きそうになったら言いなさい。吐いちゃった方が楽になるから」

侑「は゛い゛……っ……」
 「ブイィ…」

侑「だいじょうぶ……ごめんね、心配……かけて……ぅ……」


心配そうに鳴くイーブイを撫でながら答える。
280 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:24:58.08 ID:PfMOWZim0

善子「今、酔い止め作ってあげるから、少し待ってなさい」


そう言いながら、ヨハネ博士はバッグから、何かの植物とすりこぎを取り出して、植物の葉っぱをすりこぎで潰し始める。


侑「ここで……作るん、ですか……?」

善子「ええ、良く効くわよ」

侑「そんなものも……つくれるん、ですね……」

善子「ポケモンと漢方の歴史って意外と古いからね。いろいろ調べてるうちに作れるようになったのよ。人とポケモンどっちにも効くのがあるからね。……っと、よし」


ヨハネ博士はすり潰した葉っぱを水筒の水に溶かして、私に差し出してくる。


善子「一口で飲み切りなさい。じゃないと、死ぬほどまずいせいで、飲み干せないと思うから」

侑「は、はい……」


受け取って、一思いに一気に飲み下す。


侑「ぅ、ぐぅぅぅ……!?」


味は……ヨハネ博士が言ったとおり最悪だった。

苦みやら、えぐみやらが、これでもかと言わんばかりに襲ってくる。


善子「よしよし、よく飲んだ。偉いわよ、侑」

侑「……こ゛れ゛……人が飲ん゛で、いいも゛の゛な゛んです゛か……っ……?」


とてもじゃないけど、人間が口にしていい味だとは思えない。


善子「良薬口に苦しよ。口に残る味もそのうち消えるから我慢しなさい」

侑「は゛い゛……か゛ん゛は゛り゛ま゛す……っ……」


史上最悪の後味に耐えながら、呼吸を整えていると──だんだん口に残っていた味が落ち着いてくる。

それと同時に──


侑「…………あれ……」


さっきまでの気持ち悪さが、随分と軽くなっていることに気付く。


善子「……かなり楽になったでしょ?」

侑「は、はい……」

善子「コノハナの抜けた葉を乾燥させたものと、タマゲタケの“キノコのほうし”を培養した菌体、ポポッコの花びらから作った漢方薬よ。……よくこんなの見つけるわよね。人とポケモンの歴史は偉大だわ……」

侑「ポケモンから貰った植物だったんですね」

リナ『すごい……そんな情報、私のデータベースにもないのに……』 || ╹ᇫ╹ ||


ふわふわと私の近くに来ながら、リナちゃんがそんなことを言う。


善子「この辺の知識はデータベースになってないものも多いからね。研究は自分の手と足と頭と……五感全部を使ってするものなのよ」

リナ『勉強になる』 || > ◡ < ||

侑「ヨハネ博士……やっぱり、すごいです……」

善子「ふふ、好きなだけ褒めるといいわ」


ヨハネ博士は優しく笑いながら、私の頭を撫でてくれる。
281 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:25:50.04 ID:PfMOWZim0

侑「ありがとうございます……。……ごめんなさい……迷惑掛けて……」

ヨハネ「いいのよ。貴方も私の研究所から旅立った、可愛いトレーナーの一人なんだから」

侑「……ありがとうございます」


私は本来、ヨハネ博士のもとから旅立ったトレーナーじゃないけど……こうして言葉にして、我が子のように優しくしてくれるヨハネ博士と話していると、なんだか胸が温かくなる。

ヨハネ博士は……自分が送り出したトレーナーの私たちを……本当に大切にしてくれているんだ。

だからこそ……私は申し訳なかった。博士には……もっともっと、大切な大切な……最初のトレーナーがいるから。


侑「ヨハネ博士……」

善子「ん?」

侑「……せつ菜ちゃん──菜々ちゃんのこと……なにもできなくて……ごめんなさい……」

善子「……」

侑「……私の言葉……全然、届かなくて……。……私……」

善子「貴方のせいじゃないわ」


そう言って、ヨハネ博士は私の肩を片腕で抱くようにして、引き寄せる。


善子「……ごめんね。私がローズでの会議のとき、あんな態度取ったから……気にしちゃうわよね」

侑「……そ、そういうわけじゃ……」

善子「……。……私ね、憧れの人が二人いるの」

侑「……?」


ヨハネ博士は突然そう話を切り出す。


善子「一人は……千歌。……千歌は私にとって、ライバルで仲間で友達で……。ポケモンのことが大好きで、自分のポケモンのことを誰よりも信じていて、だから誰よりも強いトレーナー」

侑「……」

善子「もう一人は……マリー。私の師匠のようなもので……人遣いは荒いけど……誰よりも人とポケモンの未来を考えていて、そのために研究を続けている姿が……すごくかっこよくて、憧れたの……」


ヨハネ博士は、空に浮かぶ月を見上げながら言う。


善子「だから、私も博士になって……人とポケモンのために何かがしたいって思ったの。……私も人とポケモンの架け橋になりたくて」

侑「それが、ヨハネ博士が……博士になった理由なんですね……」

善子「そういうこと。人とポケモンはね、長い歴史の中で手を取り合って、一緒に戦って成長することで繁栄してきた。それは今も続いてる。千歌が、マリーが、それを私の目の前でたくさん見せてくれた。……だから、私も人とポケモンを巡り合わせられる人になりたいなって思ったの。そうしたら、もっと素敵な未来が待ってるんじゃないかって」

侑「……」

善子「でも、現実はなかなかうまくいかなくて……。……菜々には悲しい思いをさせちゃった。きっと……私のやったことも、菜々を歪ませた一つの原因なの」

侑「そ、それは違います……!」

善子「うぅん、違わないわ。あのとき、私と知り合わなければ……菜々はあんな風にならなかったと思うわ」

侑「ヨハネ博士……」

善子「……ただね、菜々と知り合わなければよかったなんて思ったことは一度だってない。……むしろ、私が後悔しているのは──あのとき、あの子の手をちゃんと握ってあげられなかったこと。手を……離してしまったこと」


その言葉と一緒に──ぐっと……私を抱き寄せる、ヨハネ博士の腕に力が籠もったのがわかった。


善子「……だから、私はもう間違えない……。あの子が道を踏み外してしまったんだとしても、私は今度こそ、あの子の手を掴む。掴んで……今度は離さない」


ヨハネ博士はそう言葉にして、私の方を見る。
282 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:27:11.56 ID:PfMOWZim0

善子「まだ、出来ることがある。言葉も、気持ちも、行動も、まだあの子に伝えたいことが……たくさんあるの。だから、私は下を向いてる場合じゃない。届かなかったのなら──次は届けなくちゃ」

侑「……はい」

善子「菜々に……せつ菜に──届けましょう、私たちの想いを」

侑「……はい!」


私は月明りの照らす海の上で──ヨハネ博士の言葉に、力強く頷いたのだった。





    🎹    🎹    🎹





──瞼の裏に光を感じて、


侑「──……んぅ……」


目を覚ます。


侑「……ん……あれ……私……」

善子「おはよう、侑」

侑「ヨハネ博士……」


気付けば、ヨハネ博士が私を見下ろしていた。

……私はヨハネ博士の膝の上で寝ていた。


善子「ふふ、ぐっすりだったわね」

侑「!? す、すすす、すみません!?///」


私が慌てて起き上がると、


 「…ブィ…zzz」


私の胸に抱かれながら寝ていたイーブイがころころと転がり落ちる。


侑「ご、ごめんなさい!! 夜は起きてる順番だったのに……! ほら、イーブイも起きて……!」
 「…ブイ…?」

善子「いいわよ。酔ってたせいで、あんまり眠れてなかったんでしょ? 睡眠が取れたなら、むしろいいことよ」


ヨハネ博士は立ち上がって、私の頭を撫でてから、


善子「侑、起きたわよー」

曜「あ、ホントだ! 侑ちゃん、おはヨーソロー!」

果南「お! おはよう、侑ちゃん!」


もうすでに起きていた曜さんと果南さんに声を掛ける。


侑「お、おはようございます……///」


3人とも、私が起きるのを待っていてくれたのかな……。

自分から夜に起きていると言い出したのに、曜さんや果南さんよりも起きるのが遅いなんて……それがなんだか、無性に恥ずかしかった。
283 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:27:49.95 ID:PfMOWZim0

リナ『侑さん、おはよう!』 || > ◡ < ||

侑「お、おはよう……///」

リナ『? どうかしたの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うぅん、なんでもない……あはは……///」


リナちゃんにもわかるくらい動揺していたけど、笑って誤魔化した。

そんな中、


果南「そんじゃ、侑ちゃんも起きたし、準備しようか〜」


果南さんは肩をぐるぐる回しながら言う。


侑「準備って……?」

果南「もちろん、潜る準備だよ♪」


気付けば──ホエルオーは360度を水平線に囲まれた海のど真ん中で、停まっていた。


曜「侑ちゃんも出発前に渡されたダイビング装備出してね〜!」

侑「あ、は、はい!」


そう言いながら、曜さんはもうダイビングスーツを着始めている。

私も焦って、ダイビング装備を広げて、スーツを着始める。


侑「あ、あれ……うまく脚が入らない……?」

果南「そのままだと大変だから、軽く中を引っ張り出してから着ると楽だよ。ほら、こんな感じに……」


果南さんが実践して見せてくれる。

倣うようにやってみると──


侑「あ、ホントだ……」


果南さんの言うとおり、簡単に着ることが出来た。


果南「ゆっくりでいいよ。むしろ、これは私たちの命を守る装備だから、わからないところは全部聞いてね」

侑「は、はい!」


果南さんに教えてもらいながら、着実に準備を進めていく。


善子「……ちょっと曜、これ見てみなさいよ」

曜「え、なになに?」

善子「このボールベルト、水圧下に耐えるだけじゃなくて、腕に付いてるボタンを押すとボールが射出出来るわ!」

曜「わ、ホントだ!? これ、どうなってんの!?」

リナ『ウォータージェットで飛ばすみたいだね。取り込んだ水を使うから、水中でなら無限に使えるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

曜「へー! すご!」

善子「自由が効かないときでも、咄嗟にポケモンを出せるようにこうなってるみたいね」


ヨハネ博士と曜さんは装備を確認しながら、なんだか楽しそうだ。


果南「……これでよしっと! 苦しいところとかない?」

侑「はい! 大丈夫です!」
284 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:28:32.73 ID:PfMOWZim0

こちらも果南さんのお陰で、スーツの装着が終わったところだ。


果南「あとは緊急時用の携行ボンベと、携行ライトは……よし。……フィンを付けて、ボールベルトにボールを付け替えて……ダイビングマスクを首に掛けて……レギュレーターは潜る直前だね」

侑「ほぼ全部やってもらっちゃった……ありがとうございます」

果南「いいのいいの! 曜ちゃん、善子ちゃんはどう?」

善子「ヨハネ!」

曜「たぶん、だいたい出来たと思う。チェックお願い」

果南「あいよー」


私だけかと思ったけど……果南さんは曜さんとヨハネ博士の装備も入念にチェックし始める。


リナ『果南さんはダイビングのプロだからね。安全確認は全部プロにやってもらった方が安心』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんはそう言いながら、私の腕で装着モードになる。


リナ『私は海中では基本、侑さんにくっついて行動するね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん、わかった」

リナ『それじゃ、イーブイの装備もしちゃおう!』 || > ◡ < ||

侑「そうだね。イーブイ、おいで」
 「ブイ」


私が装備を整える間、待っていたイーブイを呼び寄せる。

イーブイのダイビング装備の最終チェックも果南さんにお願いするけど、出来る範囲で進めておくに越したことはないだろう。


侑「足上げてー」
 「ブイ」


イーブイの装備は私たちに比べると少なく、ダイビングスーツとレギュレーターくらいだ。

とはいえ、イーブイが自分自身で装備出来るようなものではないので、丁寧に着せていく。


侑「よし……出来たよ」
 「ブイ♪」

果南「お、どれどれ〜?」


曜さんとヨハネ博士のチェックが終わって戻ってきた果南さんが、イーブイの確認を始める。


果南「……うん、問題なさそうだね! あとイーブイのレギュレーターは先につけてあげてね」

侑「はい。イーブイ、これ噛んで」
 「ブイ」


イーブイがレギュレーターに噛みついたのを見計らって、後ろにバンドを引っ張って固定する。


果南「よしよし。海中に潜る間はずっとこれだけど、我慢するんだよー?」

 「ブイ」
侑「よかった、あんま苦しそうじゃないね」

リナ『イーブイ用に作ってくれたものだからね! ぴったり!』 || > ◡ < ||


ポケモン用のレギュレーターは、口から放してしまわないように、固定式になってるらしい。

普段と違うから嫌がるかなとも思ったけど……イーブイは意外とすんなり受け入れてくれた。
285 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:30:10.59 ID:PfMOWZim0

果南「そんじゃ、全員準備出来たね! 行くよー!」

侑「は、はい!」

曜「ヨーソロー!」

善子「よきにはからえ」


イーブイを抱きかかえ、ホエルオーの尻尾の方── 一番海面に近い場所に4人で移動する。


曜「ホエルオーはここに置いていくから、もしはぐれちゃったりした場合はホエルオーを探してね。荷物もホエルオーの上にあるから」

善子「荷物番はムウマージにしてもらうから。ムウマージ、お願いね」
 「ムマァ〜ジ♪」

果南「そんじゃ、みんなポケモン出すよ! ランターン!」
 「──ランタ!!」

曜「ラプラス、出番だよ!」
 「──キュウ♪」

善子「ブルンゲル、出てきなさい」
 「──ブルン」

侑「フィオネ! お願い!」
 「──フィオ〜♪」


それぞれみずポケモンを海の上に出して、


果南「海に入るよー。レギュレーター着けてー」


レギュレーターを装着し、海に飛び込む。

私たちが海に飛び込むと、それぞれの手持ちたちが近くに寄ってくる。


果南『あーあー。聴こえてる?』

侑『はい!』

曜『問題ないよー!』

善子『おー……思った以上にクリアに聴こえるのね』

リナ『感度良好! 誰かの通信が切れたり、バイタルに何か異常があったら、すぐに報告するね!』 || > ◡ < ||

果南『お願いね、リナちゃん。それじゃみんな、ポケモンに掴まって潜ろう』

侑『はい! フィオネ、“ダイビング”!』
 「フィオ〜」


私たちは海へと潜っていきます──





    🎹    🎹    🎹





──海に潜ると、すぐに世界が青一色の世界に包まれる。


侑『わぁ……!』
 『ブィ〜!!』

果南『ふふ、この光景……初めて見たときは驚くよね』
286 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:30:54.69 ID:PfMOWZim0

透き通るような青の世界を漂っていると、まるで自分が海に溶けているのではないかという錯覚さえ覚える。

その非日常感に胸がドキドキする。それと同時に──歩夢にもこの景色を見せてあげたい。そんな気持ちが私の胸を過ぎる。

うぅん……あげたいじゃない。一緒に見に来よう……絶対に。

そのためにも、今は目的を果たさなきゃ……!


リナ『バイタル正常。レギュレーター正常稼働。オールグリーン』 || > ◡ < ||

果南『侑ちゃん』

侑『はい! フィオネ、お願い!』
 「フィオ〜」


掴んでいたフィオネを放すと、フィオネはゆっくりと海に潜っていく。


曜『侑ちゃん、ラプラスに掴まって』
 「キュゥ♪」

侑『はい!』


曜さんのラプラスに掴まり、先を泳ぐフィオネを追いかけ始める。


曜『……どんどん、深いところにいくね』

善子『どれくらいの深さなのかは見当付いてるの?』

果南『マナフィの伝説では、人がマナフィのいる場所にたどり着いてるから……人が耐えられないような水圧の場所じゃないとは思うけど……。水深100mを越えるようだったら、一旦引き返そう』

リナ『レギュレーター正常稼働。生成エア圧力平衡維持』 || ╹ᇫ╹ ||

果南『エアはレギュレーターが生成してくれるけど、息は出来るだけ深く長く吐くことを意識してね』

侑『は、はい! イーブイ、苦しくない?』
 『ブイ♪』


抱っこしたイーブイも問題なさそうだ。

──私たちはフィオネを追いかけながら、ただひたすらに潜っていく。


リナ『潜水時間10分経過。深度33m。レギュレーター正常。バイタル安定』 || ╹ ◡ ╹ ||

曜『30m超えたね』

果南『侑ちゃん、苦しくない?』

侑『は、はい、大丈夫です』

果南『OK. 出来るだけ、呼吸は深く長く……吸うよりも吐くことを意識し続けてね。吐き方が足りないと体内窒素を排出しきれずに、窒素酔いを起こすから』

侑『わかりました』

善子『……嫌なこと思い出した』

曜『善子ちゃん、窒素酔いで意識飛ばしかけたことあるもんね』

果南『各自、耳抜きも忘れないように』

侑『はい』
曜『了解』
善子『承知』


潜行は続く──



287 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:31:27.99 ID:PfMOWZim0

    🎹    🎹    🎹





リナ『──潜水時間20分経過。深度48m。レギュレーター正常。バイタル安定』 || ╹ ◡ ╹ ||

善子『50m行きそうね……』

侑『……はい』


だいぶ潜ってきた気がする。気付けば海面はかなり遠く、辺りも徐々に暗くなってきたため、果南さんのランターンが辺りを照らしながら潜っている。


果南『……おかしい』

曜『果南ちゃん? どうかしたの?』

果南『さっきから、全然ポケモンに遭わない』

曜『言われてみれば……』

善子『むしろ都合がいいんじゃないの?』

果南『いや……まだ表層なのに、全く見ないのはちょっと……』


どうやら、ポケモンの姿がほとんど見られないことに違和感があるようだ。


侑『リナちゃん、どう?』

リナ『周囲にポケモンの反応はない。確かにポケモンが極端に少ない気がする』 || ╹ᇫ╹ ||

果南『たまたま周囲にいないのか……実はポケモンが近寄れないような危険な場所なのか……』

善子『どうする? 異常があるなら、一旦戻るのも手よ』

果南『いや、進もう。むしろ、マナフィに近付いてる兆候かもしれない』





    🎹    🎹    🎹





リナ『──潜水時間40分経過。深度70m。オールグリーン』 || ╹ᇫ╹ ||

曜『普通のダイビングだったら、そろそろ潜水限界時間だね』

善子『マリーに聞いたけど、このレギュレーターなら10時間以上は潜水可能らしいわよ』

果南『いやー、海の中で生活出来る日も近いねー』

曜『果南ちゃん……実現したら、本当に海から帰ってこなさそうだね……あはは』


もう随分潜ってきた。

3人は能天気な話をしているけど……太陽の光が届かない深さなのか、辺りはもう真っ暗だ。


侑『イーブイ、離れちゃダメだよ』
 『ブイ…』


さすがにこれだけ暗いとイーブイも不安らしく、私の胸に身を寄せている。

そのときふと──


 「フィオ」


前方でランターンの光に照らされていたフィオネが動きを止める。
288 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:32:14.14 ID:PfMOWZim0

侑『フィオネ? どうしたの?』


私はラプラスから離れ、フィオネの傍に泳いで近寄る。

フィオネの傍に行くと、フィオネは──


 「フィオ」


小さな手で──前方を指差した。


侑『……そっちに何かあるの?』
 「フィオ」


暗くて、何も見えない……。


侑『果南さん』

果南『うん。ランターン、あっちに向かって“スポットライト”』
 「ランタ」


ランターンが一際強い光で、フィオネの指差した方へと光を向けると──


果南『!』

侑『か、果南さん、あれ……!』


そこには──岩壁に大きな大きな口をあけた洞窟の入り口があった。


善子『まさしくって感じじゃない……』

曜『辿り着いたね……!』

果南『うん! みんな、あの穴に向かうよ!』


果南さんの指示で、穴に向かって泳ぎ始めた、そのときだった──


リナ『──ポケモン接近!! こっちに向かってくる!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑『!?』


リナちゃんの警告の直後──目の前を高速で何かが横切る。

一瞬で、横切ったため、暗闇に紛れてすぐに見えなくなってしまう。


果南『ランターン!! “フラッシュ”!!』
 「ターーーンッ!!!!」


ランターンが周囲を一気に照らすと──


 「ゼルルッ!!!!」

曜『ブイゼル……!? こんなところに!?』

善子『門番ってわけ? いいわ、遊んであげる……! ブルンゲル! “シャドーボール”!』
 「ブルン…!!」


ヨハネ博士のブルンゲルが“シャドーボール”を発射し──猛スピードで飛んでいった影の弾は、ブイゼルに直撃し炸裂し、衝撃波を発生させる。


侑『わぁ!?』
 『ブイッ!!?』

曜『ラプラス!』
 「キュウ!!」
289 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:32:57.29 ID:PfMOWZim0

衝撃で発生した水流に流されそうになったところを、曜さんのラプラスにキャッチしてもらう。


侑『あ、ありがとうございます……』
 『ブイィ…』

曜『善子ちゃん! 周りのこと考えてよ!』

善子『この仄暗き深淵のお陰で、我が眷属 † 紫闇の海月 † はいつも以上にパワーを発揮している……加減は出来そうにもないわ……ククク』

侑『しあんのかいげつ……?』


確かに、ヨハネ博士のブルンゲルは紫色してるけど……。


曜『あーもう……なんかスイッチ入っちゃってるし……!』

リナ『曜さん!! 後ろ!? もう1匹高速で近付いてきてる!?』 || ? ᆷ ! ||

曜『なっ!?』

 「──ターーーマァァーーーッ!!!!!」


気付けば、曜さんの背後から接近した野生のタマンタが、“ハイドロポンプ”を放ってくる。


曜『ラプラス!! “サイコキネシス”!!』
 「キュゥゥ!!!!」


放ってきた“ハイドロポンプ”を曜さんのラプラスが“サイコキネシス”で咄嗟に逸らすと、


善子『わぁぁぁっ!!?』


逸らした激流がヨハネ博士とブルンゲルの近くを駆け抜けていく。


曜『あ、ごめん』

善子『っぶないわねぇ!? ヨハネを見習って、一発で倒──』

 「ゼルルルゥッ!!!!!」
 「──ゲコガッ…!!!」

善子『……せてなかったみたいね』


気付けば、一瞬で肉薄してきたブイゼルの突進を、いつの間にか繰り出されたヨハネ博士のゲッコウガが水のクナイで受け止めていた。

そして次の瞬間、ゲッコウガの掻き消え──


善子『“かげうち”!!』
 「ゲコガッ!!!!」


ブイゼルの背後から、斬り付けるゲッコウガの姿。

が、


 「ゼルルッ!!!!」


ブイゼルはそのクナイを尻尾で受け止めていた。


善子『へぇ……!』

曜『善子ちゃん!! 感心してる場合じゃないよ!!』

善子『ヨハネよ!!』

曜『このポケモンたち、強いよ!!』
 「キュウ…!!!」
290 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:33:39.91 ID:PfMOWZim0

そう言う曜さんとラプラスの周囲では、タマンタが高速で泳ぎまわっている。

そして、高速軌道をしながら──


 「タマァァァァ!!!!」


“エアスラッシュ”を放ってきた。


曜『ラプラス!! “フリーズドライ”!!』


ラプラスが咄嗟に冷気で分厚い氷の壁を作り出すけど──氷の壁は豆腐でも切るかのようにスパっと切れて、そのまま斬撃がラプラスに直撃する。


 「キュゥゥゥッ!!!!」
曜『く……っ……!』

侑『わぁぁ!?』
 『ブ、ブィィィ…!!?』


ラプラスが斬撃でダメージを受け、激しく身を揺らす。

私は振り落とされないように、ラプラスの甲羅の突起にしがみつく。


曜『侑ちゃん、大丈夫……!?』

侑『な、なんとか……』

 「タマァ…!!!!」


再び、“とっしん”の体勢を取るタマンタだが、


果南『“アームハンマー”!!』
 「──ラァァグッ!!!!!」

 「タマッ…!!!!?」


果南さんのラグラージが、目にも止まらぬスピードでタマンタの真横から、拳を叩きつける。

タマンタは拳の衝撃で吹っ飛ばされたが、


 「タマァァァァ!!!!!」


すぐに水中で切り返して、ラグラージに向かって“とっしん”してくる。


果南『マジ!? 耐えるの!?』


ラグラージに高速で接近するタマンタ。


曜『カメックス!! “ハイドロポンプ”!!』
 「──ガメェェェ!!!!!」

 「タマッ…!!!」


それを曜さんが繰り出したカメックスが水砲で狙撃するも、タマンタは察知して、攻撃を回避する。


曜『果南ちゃん!! 侑ちゃんを連れて先に行って!!』

果南『……! わかった!! ラグラージ!!』
 「ラグッ!!!!」


ラグラージが水中をジェットスキーのような速さで飛び出し、
291 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:36:58.77 ID:PfMOWZim0

果南『侑ちゃん! 行くよ!!』

侑『わっ!?』
 『ブイ!!?』『フィオ〜!?』


私とイーブイとフィオネを、まとめて大きな手で捕まえるようにして、海中の洞窟へ向かって飛び出した。


侑『ヨハネ博士!! 曜さん!!』

善子『心配しないでいい、マナ──』
曜『すぐ追い付くか──』

リナ『通信範囲外になった……!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

果南『ここは二人に任せよう……! 大丈夫、あの二人は強いから!』

侑『……わ、わかりました……!』


心配だけど……今は私の役割を果たさなきゃ……!

私は果南さんと共に──海底洞窟へと、突入する……。





    😈    😈    😈





 「ゼルルルッ!!!!!」


高速で泳ぎながら、ブイゼルがこっちに向かって突っ込んでくる。

それに合わせるように、


善子『“つじぎり”!!』
 「ゲコガァッ!!!!」


──ギィンッ!! 水中内に、鋭い音が響く。


善子『水のクナイと互角に打ち合ってくる……。……“かまいたち”を尻尾に纏って斬撃を強化してるのね』

曜『だから、感心してる場合じゃないって!!』


曜が私のもとに泳いできて、背中をくっつける。


善子『あら、苦戦してるじゃない、ジムリーダー様』

曜『そっちもね……!』

 「ゼルルルッ!!!!」

 「タマァ!!!!」


私たちの周囲ではブイゼルとタマンタが高速で泳ぎまわっている。


曜『カメックス!! メガシンカ!!』
 「──ガメェェェェ!!!!!」

曜『“みずのはどう”!!』
 「ガメェェェェ!!!!!」


メガシンカした曜のカメックスが、腕の“メガランチャー”から“みずのはどう”を発射するが、


 「タマ!!!!」
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