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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2
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92 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:07:22.77 ID:c3b0uZJF0
穂乃果さんが異を唱えた。
海未「何故ですか?」
穂乃果「……従わされているって言うには、少しふざけてるというか……追い詰められてるような雰囲気を感じなかったんだよね」
侑「確かに……愛ちゃんはなんというか……終始ふざけているような感じだった気がします」
穂乃果「うん。協力的ではないけど……消極的でもなかったというか……」
かすみ「確かに、ずっと周りを小馬鹿にしたような喋り方する人でしたね! かすみん、ちょっとイライラでした!」
海未「ふむ……」
海未さんは口元に手を当てる。
海未「……どちらにしろ、彼女に関しては情報が少なすぎて、ここで結論を出すのは難しそうですね……。リナの言うとおり、発信機とスタン機能の付いている首輪の存在は気になりますが……」
海未さんは愛ちゃんに関しては、ひとまずそうまとめて、
海未「わかる方の情報を整理しましょう」
次の話へと移る。
海未「情報がほとんどない愛に対して──果林は情報が多いです。彼女は言わずと知れた有名なモデルで、メディアにも多く露出していました。この場にいる人も、彼女を知っている方は多いんじゃないでしょうか」
ことり「うん……コーディネーターとしても有名だから、ことりは何度かお話ししたこともあるよ」
曜「私も、何回かコンテスト会場で会ったことがあるかな。……いっつもファンに囲まれてて、本当にカリスマファッションモデルって感じだった……」
海未「彼女のモデルとしての実力は本物なのでしょう……ですが、冷静に見てみると、おかしな点がいくつかあります」
ことり「おかしな点……?」
海未「彼女は──4年程前から、唐突に芸能界に現れているんです」
曜「そうなんですか……?」
海未「はい。経歴を洗い出してみたら……本当にある日突然、大企業のファッションモデルとして抜擢されているんです」
ことり「言われてみれば……確かにそうだったかも」
海未「いくら実力があっても……唐突に大企業からのバックを得るのはさすがにおかしいと思いませんか?」
曜「確かに……協賛契約を結ぶのって大変なんだよね……」
海未「それが気になったので……先日彼女に急に大きな仕事を依頼したいくつかの企業の取締役に、精神鑑定を受けてもらったんですが……。……漏れなく、催眠暗示のようなものを受けているということがわかりました」
彼方「……! まさか、フェローチェの毒……」
海未「……やはり、何か心当たりがあるんですね?」
彼方「果林ちゃんの持ってるフェローチェってウルトラビーストは……人を魅了して操る力があるんだ……」
海未「やはりですか……直近で彼女に仕事を依頼したローズのビジネスショウの責任者にも、同様の精神鑑定を受けてもらったら、同じ結果が出ましたし……」
真姫「……え?」
海未さんの言葉を聞いて、真姫さんが驚いたように目を見開いた。
海未「そういえば真姫は……つい数日前に、彼女と仕事の打ち合わせをしたそうですね」
真姫「え、ええ……」
海未「しかも、その日、その会議を行ったビルにて……ポケモンによるテロが起こった。……これは偶然ではなく、恐らくあのテロも一連の計画の中で仕組まれたものだったと考えた方が自然です」
真姫「……! まさ、か……」
海未「ただ、解せないのは……何故彼女がそんなことをしたのか、ですね……。目的が千歌であるなら……わざわざこんな目立つことをする意味がない……となると、他に何か目的が──」
真姫「……っ!!」
真姫さんは──ダン!! と机を叩きながら立ち上がった。
93 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:08:07.10 ID:c3b0uZJF0
にこ「ま、真姫……?」
花陽「ま、真姫ちゃん、どうしたの……?」
真姫「……っ……あのテロは最初から……せつ菜を唆すために起こしたものだったのね……っ!!」
真姫さんはクールで冷静沈着なジムリーダーだと言うのが有名な人なのに──今は私が見ても一目でわかるくらいに怒りを剥き出しにしていた。
海未「真姫……それはどういうことですか?」
真姫「……あの子の父親は……反ポケモン派で有名な人なの……! あの子の父親もあの打ち合わせに居て、あの子が父親の前でポケモンを使うように仕向けられたのよ……!! 目の前で、人がポケモンに襲われていたら、あの子はなりふり構わず、絶対助けるに決まってる……!! だから……!!」
にこ「ま、真姫!! あんた、ちょっと落ち着きなさい!!」
真姫「…………」
海未「真姫、にこの言うとおりです。あの現場でポケモンを無力化したのは一般のトレーナーで、名前は──」
真姫「……菜々でしょ」
善子「……え?」
ヨハネ博士が真姫さんの言葉に反応した。
私もその名前には聞き覚えがあった。菜々って……まさか……。
真姫「ナカガワ・菜々……」
海未「え、ええ……確かに、ナカガワ・菜々さんですが……」
真姫「私の秘書で……──普段は、ユウキ・せつ菜と名乗っているポケモントレーナーよ……」
真姫さんが言うのと同時に──ガタンッ! と大きな音を立て、椅子をひっくり返しながら立ち上がった人がいた。
善子「……どういう……ことよ……」
ヨハネ博士だった。
真姫「善子……」
善子「菜々は…………せつ菜だって言うの……?」
真姫「…………」
善子「まさか……あんた、全部知ってて……」
真姫「…………」
善子「……菜々が……千歌を……攫ったってこと……?」
真姫「…………」
善子「…………ちょっと……どうして、そんなことになるの……? 菜々は誰よりも優しい子なのよ……? その菜々が……なんで、そんなことするようになっちゃうの……?」
真姫「…………ごめんなさい……」
善子「……っ……!! ごめんなさいじゃないでしょ!? あんた、一体菜々に何を教えて──」
鞠莉「Be quiet.」
善子「……!」
鞠莉「善子……座りなさい。ここはケンカをする場じゃないでしょう」
善子「でも……!」
鞠莉「Sit down. 座りなさい」
善子「……っ」
ヨハネ博士は、下唇を噛みながら立ち尽くす。
94 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:08:50.34 ID:c3b0uZJF0
曜「善子ちゃん、座ろう……?」
善子「……」
隣に座っていた曜さんが、倒れた椅子を直しながら、ヨハネ博士をゆっくりと座らせる。
海未「……何か、いろいろと私の知らない事情があるようですね……。……とりあえず真姫、説明をしてもらえますか? あのテロがせつ菜を唆すためのものだったと言っていましたが……」
真姫「……果林たちは、なんらかの方法でせつ菜の正体が菜々であることを掴んで……あの子と父親が同じ場に居合わせるような場を仕組んだ……。菜々がポケモンを使って戦う姿を目の当たりにしたら……あの子の父親は菜々からポケモンを取り上げようとする……。……そうしたら、菜々は……どうにか説得をしようとするはずよ」
海未「……説得というと……」
真姫「……あの子、父親と話をしたあと……チャンピオンになるって飛び出して行ったから……。……父親とそういう約束をしたんだと思う……」
ダイヤ「……確かに……ローズでテロがあった日の夜、ウテナにせつ菜さんが来られました。……千歌さんを探していましたわ」
真姫「その次の日に……千歌から、せつ菜とのバトルを急用で中断することになったと聞かされたわ……。恐らく果林は……その直後に、あの子に接触して……唆した」
穂乃果「……! そっか、あのときの不自然なウルトラビーストの誤報は……!」
彼方「せつ菜ちゃんと千歌ちゃんが戦う機会を設けてから……千歌ちゃんが、無理やり戦闘を中断しなくちゃいけない状況を作るため……。フソウとダリアに愛ちゃんがそれぞれウルトラビーストを放ってたか……それか、まだ他に協力者がいるのかはわからないけど……」
真姫「それも全部……せつ菜を唆して、千歌とぶつけるため……」
海未「……確かに、彼女は今最も千歌に迫る実力を持っているトレーナーと言っても過言ではない……。もし、千歌を無力化させるなら、彼女をぶつけるのが最も効率がいい……」
彼方「それに……せつ菜ちゃんはウルトラビーストを使ってた……。果林ちゃんが、千歌ちゃんを倒させるために、渡したんだと思う……」
海未「少しずつ……全体像が見え始めましたね……。……彼方の言うとおりならば、彼女らの目的はこの世界を滅ぼすこと……なのかもしれませんが、具体的に何をするつもりなのかがわからないと対策の打ちようがない……」
海未さんはまた腕を組んで唸り始める。
確かに具体的に何をしようとしているのかが、よくわからないのは確かだ……。
そこで、私はふと──果林さんたちが戦っている最中に言っていたことを思い出す。
侑「……あの」
海未「侑? どうかしましたか?」
侑「……果林さん、歩夢が自分たちのこれからの計画に必要だって……そう言ってました。もしかしたら……歩夢を利用して、何かをしようとしてるんじゃないかなって……」
海未「歩夢……? 連れ去られた、ウエハラ・歩夢さんのことですか?」
侑「はい」
海未「……必要とはどういうことですか……? 歩夢さんとしずくさんは、人質として連れ去られたのでは……」
かすみ「そういえば……歩夢先輩にポケモンを手懐ける力があるーとかなんとか言ってましたね……」
海未「ポケモンを手懐ける力……?」
侑「その……なんというか、歩夢はポケモンからすごく好かれる体質で……そういうのを言ってるんだと思います……。それがどう必要なのかは……よくわからないんですけど……」
海未「…………」
海未さんは口に手を当てて考え始める。
海未「一つ確認したいことが出来ました。穂乃果」
穂乃果「ん、何?」
海未「ウルトラビーストとやらの姿を確認出来るものは持っていたりしますか?」
穂乃果「あ、うん! 私のポケモン図鑑なら、ウルトラビーストのデータも入ってるから見られるよ!」
海未「わかりました。パソコンに繋げてプロジェクターで映すので、少し貸してもらってもいいですか?」
穂乃果「うん」
海未「鞠莉、少し手伝ってもらえますか? 図鑑の操作なら、貴方が一番だと思うので……」
鞠莉「OK.」
95 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:09:24.37 ID:c3b0uZJF0
海未さんは穂乃果さんから、ポケモン図鑑を受け取り、鞠莉さんと一緒にセッティングをしていく。
程なくしてセッティングが終わり──プロジェクターに図鑑の画面が映し出される。
海未「穂乃果、彼方、侑、かすみ。貴方たちに……果林の使っているウルトラビーストの──フェローチェのことについて、お聞きしたいのですが」
侑「フェローチェのこと……?」
穂乃果「えっとね、フェローチェはこのポケモンだよ」
そう言いながら、穂乃果さんがフェローチェの画面を表示する。
──スラリとした体躯の真っ白なポケモンが表示される。
海未「このポケモンで間違いありませんか?」
かすみ「はい! こいつがフェローチェです! こいつが……しず子を……」
侑「……?」
ただ、私は首を傾げる。
侑「色が……違う……?」
彼方「あ、そっか……侑ちゃんは色違いのフェローチェしか見たことないもんね……」
海未「……それは、どんな色ですか?」
侑「えっと……上半身はこのままなんですけど……下半身が黒くて……」
リナ『博士、私をパソコンに繋いでもらえないかな?』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「いいけど、何するの?」
リナ『画像に直接色を塗って、色違いを再現する』 || ╹ ◡ ╹ ||
鞠莉「なるほど……。OK. わかったわ」
鞠莉さんは手際よくリナちゃんをパソコンに繋ぎ──
リナ『画像を直接いじって、色違いを再現するね。侑さん指示して』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「わかった。えっと、この部分が黒で……」
私はプロジェクターに映った画像を指差しながら、リナちゃんに少しずつ色を付けてもらう。
侑「そうそう……こんな感じだった」
だんだん、完成形が近づいてきたそのとき、
ことり「……あれ……?」
ことりさんが、声をあげた。
曜「ことりさん?」
ことり「……これ、どこかで見覚えが……あ」
ことりさんは立ち上がり、
ことり「あ、あの……リナちゃん! この画面、速く動かしたりって出来る?」
そうリナちゃんに注文を出す。
96 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:10:04.42 ID:c3b0uZJF0
リナ『画面ごと動かせばいいの?』 || ╹ᇫ╹ ||
ことり「うん! ものすっごく速く行ったり来たりさせてみて!」
リナ『わかった! 動かすね!』 || > ◡ < ||
リナちゃんはことりさんの注文どおり、ものすごいスピードで画面を動かし始める。
花陽「……えっと、ことりちゃんは何を……」
かすみ「う、うぇぇ……これ、ちょっと酔うかもぉ……」
確かに、画面の上を何かが高速で横切っているのが何度も何度も繰り返されている映像は、少し酔いそうになる。
何が映っているかわからないし……見えるのはせいぜい白と黒の残像くらいで……。
ことり「……このポケモンだ」
侑「え?」
ことり「前、ことりを襲ってきたの……このポケモンだよ! この残像、見覚えがあるもん!」
にこ「残像に見覚えがあるって……すごいこと言うわね、ことり……」
海未「やはりそうでしたか……」
ことり「え?」
海未「ことり、以前に言っていたではありませんか、あのとき自分を襲ったポケモンは──人間くらいの大きさで、色は白かったような、黒かったような……と」
ことり「あ……!」
海未「それにポケモンを手懐ける能力……という言い方はあまり好きませんが、ことりはポケモンから好かれやすいというのは私も認めるところです。歩夢さんもそのような人なんだとしたら……」
希「……そっか、もともとはことりちゃんを狙ってたけど……強すぎて捕まえることが出来なかった。でも、同じような体質の歩夢ちゃんなら連れていけるって判断したんやね」
海未「そういうことです。即ち──彼女たちはポケモンを手懐けて何かをしようとしている……」
ツバサ「ポケモンを手懐けて出来ることと言ったら……」
英玲奈「大量のポケモンを捕獲し……それを使った無差別攻撃とかだろうか」
海未「他世界を滅ぼすというのが、どのレベルのものを指しているのかはわかりませんが……純粋に攻撃などをして、機能を低下させることを指しているのだとしたら、ありえない話ではないですね……」
ダイヤ「なら……各町の警備レベルを上げておいた方がいいかもしれませんわ。向こうが襲ってきてからでは、対応も遅れてしまうでしょうし……」
海未「そうですね……出来る限り各町にジムリーダークラスの実力者を常駐させる必要があるかもしれません」
リナ『そろそろ、画面の方はいい?』 || ╹ᇫ╹ ||
海未「あ、はい。ありがとうございます。侑も、お陰で新しいヒントが得られました。感謝します」
侑「い、いえ! 恐縮です!」
リナちゃんがパソコンから離れて、私のもとへと戻ってくる。
すると画面は再び、果林さん、愛ちゃん、せつ菜ちゃんを映した画面に戻る。
97 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:11:00.43 ID:c3b0uZJF0
理亞「…………」
ルビィ「理亞ちゃん……? どうしたの、画面をじーっと見て……」
理亞「……やっぱ、この人……見たことある」
ルビィ「え?」
にこ「あのねぇ……果林はかなり有名なモデルなのよ? 確かにあんたはテレビとか興味なさそうだけど、見たことくらいは……」
理亞「いや、そっちじゃない。もう一人の方」
にこ「え?」
海未「理亞……愛に見覚えがあるのですか?」
理亞「うん。……前、グレイブマウンテンの北側の基地で飛空艇を開発してるとき……この人が居たと思う」
海未「……なんですって? それは本当ですか?」
理亞「というか、こっちの青髪の方の人も、実際に見た覚えがある……」
海未「グレイブ団とも繋がりが……? 他には何か覚えていませんか?」
理亞「……やり取りは全部ねえさまがしてたから……それ以上のことは……」
海未「そうですか……」
理亞「せめて……ねえさまが喋れる状態なら……」
海未「……そう、ですね」
海未さんはまた口元に手を当てて思案を始める、が、
かすみ「あのー……ちょっといいですかー?」
かすみちゃんが手を上げて、それを中断させる。
海未「なんですか?」
かすみ「ずっと聞いてて思ったんですけど……皆さん難しく考えすぎじゃないですか……?」
侑「かすみちゃん……? どういうこと……?」
かすみ「この会議って千歌先輩を助けるための会議なんですよね? 向こうの目的とか、そんなに難しく考えなくてもいいんじゃないですか?」
海未「……ふむ?」
かすみ「果林先輩たちは、千歌先輩がいると困るから、千歌先輩を捕まえに来たんですよね? なら千歌先輩さえ取り戻しちゃえば、また相手は困った状態に戻ると思うんですよぉ……だったら、かすみんたちは千歌先輩たちを取り戻すことを一番優先して考えるべきだと思うんです」
海未「……なるほど」
鞠莉「果林たちの計画に千歌の排除が含まれているなら……千歌を奪還しちゃえば、向こうはまたそのプロセスをもう一度踏まないといけなくなる……そういうことが言いたいのかしら?」
かすみ「そうですそうです!」
確かに随分周到な準備をして千歌さんを攫っているあたり、千歌さんの強さというのがよほど障害になると考えていた可能性は高い。
実際、千歌さんが味方にいるのといないのとでは、心強さが全然違うし……。
侑「でも、そのためには千歌さんたちの居場所がわからないといけないし……そもそも、私たちはウルトラスペースに行く方法もないわけだし……」
むしろ、そこが問題なんだ。だけど、かすみちゃんはきょとんとして、
かすみ「え、でも……さっきの話聞いてると、そのウルトラスペースってやつを渡る方法も、全部リナ子の元になった人? が考えたんですよね? じゃあ、リナ子が完全復活しちゃえば、渡る方法も教えてもらえるんじゃないですか?」
そう答える。
98 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:11:44.99 ID:c3b0uZJF0
ダイヤ「仮にそうだとしても……問題はそんな簡単に行くかという話で……」
かすみ「だって、リナ子の居場所は見当がついてる〜みたいに言ってたじゃないですか。やぶれた世界……でしたっけ?」
ダイヤ「ですが、宝石に意思が宿るという話も言い伝えレベルのものですわ……。言ったのはわたくしですが、鞠莉さんがそういう意味で聞いているとは思わなかったので……。正直、まだ仮説の域で……」
かすみ「仮説でもなんでも、可能性があるならまずそれをやるべきですよ! 鞠莉博士の言うとおり、本当にそこにリナ子がいたら、全部解決するんですから!」
かすみちゃんが自信満々に言うと、
果南「あはは、全く持ってそのとおりだ♪」
果南さんが、かすみちゃんの頭をわしゃわしゃと撫で始める。
かすみ「わわっ、や、やめてください〜! 髪崩れちゃいます〜!」
果南「鞠莉、確かにいろんな情報が出てきて混乱するけどさ、私たちは最初からやろうとしていたことをやるべきだと思うよ」
鞠莉「果南……」
海未「最初からやろうとしていたこと?」
鞠莉「わたしたちは……ずっとリナの記憶を元に戻す方法をずっと考えていたの。……そもそも今のリナは少し不自然な状態なのよ」
侑「不自然……?」
リナ『私の記憶領域は飛び飛びになってる。領域が存在してるのはわかるのに、間が抜けててアクセス出来ないところがたくさんある』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「えっと……? ……地続きなら読めるんだけど、歯抜けになってるせいで、読み込めない部分があるってこと?」
リナ『そんな感じ』 || ╹ ◡ ╹ ||
鞠莉「リナは明らかに自分の意志でわたしたちにコンタクトを取って来たわ。なのに、あえて歯抜けになってる自分を作り出すのっておかしくないかしら? 普通に考えたら、より多くの情報が伝えられるように、出来るだけ多くの記憶にアクセス出来るように自分を作るはずよ。でもそうしなかった。そう出来なかっただけという可能性もあるけど……わたしには、自分にまだ足りない記憶や情報があることを伝えるためにやっているように思えるわ」
海未「つまり……最初から、残りの自分の因子を探させるために、不完全な自分を果南の図鑑に忍ばせた……ということですか」
果南「だから、私たちは目的を2つに絞ってずっと行動してた。1つはもう一度やぶれた世界に行く方法。もう1つはピンクダイヤにたどり着いた時に、そこからリナちゃんの“魂”を回収する方法」
侑「“魂”の回収方法……」
確かに、仮にピンクダイヤモンドとやらに、リナちゃんの“魂”があるんだとしても、それを回収する方法がなければ結局意味のない話だ。
だけど……そんな方法あるのかな。
果南「それでね……実は後者の方はもう当てが付いてるんだ」
侑「え……?」
果南「その鍵は……侑ちゃんがすでに持ってる」
侑「え……!?」
私は驚いて声をあげる。鍵って……!? 私、そんな重要なモノに覚えがないんだけど……。
果南「私はずっと、マナフィってポケモンを探してたんだ」
侑「マナフィ……?」
果南「マナフィにはね、心を移し替える“ハートスワップ”って技が使えるんだ」
かすみ「心を移し替えるってことはもしかして……」
果南「そう、この技があれば、ピンクダイヤモンドに宿った“魂”だけをリナちゃんに移動できるんじゃないかってこと」
マナフィにそういう能力があるのはわかったけど……。
侑「えっと……それで、私はそのマナフィへの鍵を持ってる……ってことですか……?」
果南「そういうこと」
侑「えぇ……?」
99 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:12:19.32 ID:c3b0uZJF0
全く心当たりがないんだけど……。
果南「さっき、侑ちゃんが持ってたタマゴが孵ったでしょ?」
侑「え? は、はい……フィオネですよね?」
果南「実はマナフィはね、フィオネたちの王子って言われてるポケモンなんだ」
侑「……え?」
果南「そして、フィオネにはどれだけ遠くに流されても、自分が生まれた海に戻ることが出来る帰巣本能がある」
侑「じゃあ……」
果南「フィオネに案内してもらえば、マナフィのもとにたどり着けるってこと!」
侑「……」
私はポカンとしてしまう。……まさか、さっきタマゴから生まれたポケモンがそんなに重要なポケモンだったなんて……。
果南「あとはやぶれた世界に行く方法を見つけて……リナちゃんの記憶を戻せば、歩夢ちゃんたちを助けに行く道が見えるかもしれない!」
侑「……!」
果南「ただ、フィオネの“おや”は侑ちゃんだから、無理強いは出来ないんだけどさ……手伝ってくれるかな?」
そんなの、聞かれるまでもない。
侑「はい……! 私、絶対に歩夢を助けに行きたいんです……! 協力させてください!」
果南「ふふ、よかった」
かすみ「じゃあ、かすみんはやぶれた世界に行く方法を探しちゃいます! どうすればいいんですか?」
鞠莉「やぶれた世界に行くためには、空間の裂け目を見つける必要があるわ」
かすみ「空間の裂け目……? それってどんなのですか?」
鞠莉「まあ、一言で言うなら空間にあいた穴ね」
かすみ「空間にあいた……穴……?」
かすみちゃんが自分の頭に人差し指を当てながら考え始めたとき、
海未「ちょっと待ってください」
海未さんが待ったを掛ける。
果南「ん、なに?」
海未「さっきから話を聞いていて思ったのですが……まさか果南……侑とかすみを奪還作戦に連れて行くつもりではないですよね?」
果南「ダメなの?」
海未「ダメに決まっているではないですか!? 危険すぎます!! 何を考えているんですか!?」
侑「え……」
最初は強い人に任せようなんて言っていた手前……自分勝手かもしれないけど、私は海未さんの言葉にショックを受ける。
侑「わ、私……歩夢を助けに行っちゃいけないんですか……?」
海未「貴方たちの身の安全を考えたら、当然の判断です」
侑「そんな……」
せっかく、歩夢を助けに行く決心が付いたのに……。
そのとき、
100 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:12:58.04 ID:c3b0uZJF0
かすみ「あーーーーっ!!!!」
海未「!?」
侑「!?」
かすみちゃんが急に大声をあげた。
海未「な、なんですか、急に……?」
かすみ「かすみん……空間の裂け目、見たことあります……!」
鞠莉「……え!?」
海未「なんですって!?」
果南「かすみちゃん、それ本当?」
かすみ「は、はい! 間違いありません! 空間に浮いてる穴みたいなやつですよね! えっと、場所は……」
場所を言いかけて──かすみちゃんは急に黙り込む。
海未「……? どうしたんですか、早く場所を……」
かすみ「……かすみん、しず子を助けに行く作戦には連れてってもらえないんですよね?」
海未「何度も言わせないでください。そのつもりです」
かすみ「……なら、交換条件です!! かすみんが空間の裂け目の場所を皆さんにお教えする代わりに、かすみんと侑先輩を作戦に連れて行ってください!!」
侑「か、かすみちゃん……!?」
海未「……なんですって?」
かすみ「この条件が呑めないなら、かすみん空間の裂け目の場所は教えてあげませーん!」
ぷんと顔を背けながら言う、かすみちゃんに対して、
海未「……いいから、教えなさい」
海未さんがドスの効いた声で返す。
……普通に迫力があって怖い。
かすみ「ぴゃぁーーー……!? そ、そ、そんな風にすごまれても、交換条件が呑めないなら、教えられませんもんっ!!」
かすみちゃんは涙目になって、果南さんの背後に隠れながら言う。
果南「あはは! 一本取られたね、海未」
海未「笑いごとではありません! 一歩間違えれば、命に関わる……そういう相手なんですよ? 貴方たち、それをわかっていますか?」
かすみ「そ、それくらい、知ってますもん……べー!」
侑「……自分なりに覚悟はしているつもりです。私も……私のポケモンたちも」
「ブイ」
少なくとも……私たちは、前回の戦闘で殺されかけている。
歩夢のお陰で命は助かったけど……相手が情け容赦を掛けてくれるような相手ではないというのは、理解しているつもりだ。
……もちろん、今の私たちが実力不足で、だから作戦への参加を拒否されていることも。
ただ、そんな私たちに助け船を出してくれたのは、
希「……ま、ええんやない? 本人たちも覚悟してるんなら」
海未「希……!?」
希さんだった。てっきり四天王だから、海未さん側なのかと思っていたんだけど……。
101 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:13:36.59 ID:c3b0uZJF0
希「3年くらい前にも似たようなことがあったような気がするんよ〜……。そのとき、誰かさんは人の反対も聞かずに、自分の弟子を作戦に参加させようとしてへんかったっけ?」
海未「……そ、それは……」
希「まさか……自分の弟子はいいのに、そうじゃない子はダメなんて、言わんよね〜?」
海未「そ、その言い方は卑怯ですよ、希!」
希「ちなみにことりちゃんと真姫ちゃんは、ウチに賛成してくれると思うんやけど、どうかな〜?」
真姫「……こっちに話振らないでよ……」
ことり「……え、えっと……こ、ことりからは何も言えませーん……!」
曜「あはは……」
希さんの視線から逃げるように目を逸らす、ことりさんと真姫さん。そんな二人を見て、苦笑する曜さん。
なんかわからないけど……賛成してくれる人もいるようだ。これなら……説得出来るかも……!
侑「あの、海未さん……!」
海未「……なんですか」
侑「歩夢は、私にとって……すごくすごく大切な幼馴染なんです。……確かに今の私は弱くて、足手まといかもしれません……でも、それでも、歩夢が怖い思いをしているときに、指を咥えて見てるだけなんて出来ません……!」
海未「…………」
かすみ「それはかすみんも同じです!! しず子は、かすみんが頬っぺた引っ叩いてでも、連れ戻すんですっ!!」
侑「私……歩夢と約束したんです。歩夢に怖い思いさせないために……強くなるって。強くなって、歩夢を守るって……」
……あのとき、歩夢が自分を犠牲にしてでも、果林さんを止めてくれなかったら……私は今ここにいないと思う。
侑「私は歩夢に守ってもらった……。……だから、今度は私が歩夢を助ける番なんです……!!」
「イブィ!!」
海未「……はぁ……ポケモントレーナーというのは、どうしてこう……強情な人が多いのでしょうか……」
海未さんは額に手を当てながら、溜め息を吐く。
海未「……侑、かすみ、貴方たちの気持ちは理解しました」
かすみ「ホントですか!?」
侑「それじゃあ……!」
海未「ですが……ポケモンリーグの理事長として、実力のないトレーナーを危険な地に送り出すことは出来ません」
かすみ「り、理解してないじゃないですかっ!?」
海未「……ですので、条件を出します」
侑「条件……?」
海未「貴方たち、ジムバッジは今いくつ持っていますか?」
侑「えっと……6つです」
かすみ「かすみんも6つです」
海未「残りのジムは?」
侑「ダリアとヒナギクです」
かすみ「かすみんはダリアとクロユリです!」
海未「なるほど」
海未さんは頷くと、
海未「……果南、鞠莉」
果南さんと鞠莉さんの方に目を向ける。
102 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:14:38.80 ID:c3b0uZJF0
果南「ん?」
鞠莉「なにかしら」
海未「マナフィ捜索ややぶれた世界へ向かうための準備は、どれくらいで出来そうですか?」
鞠莉「えっと……ディアルガとパルキアの調整がいるから……。さすがに1日2日だと難しいかな……」
果南「あと、マナフィ探索用の機器の用意もしてもらわないと」
鞠莉「……それもわたしがするのよね……。……ってことで、そうね……5日は欲しいわ」
海未「わかりました」
果南さんと鞠莉さんの話を聞いた上で、海未さんは私たちに向き直る。
海未「侑、かすみ。貴方たちがこれから戦う相手は──チャンピオンを攫うような輩です。……貴方たちにチャンピオンほどの力を持てとは言いませんが、それ相応の力がないと、ただ無駄にやられるだけ……だからと言って貴方たちが強くなるまでゆっくり待っていられるほど時間もありません」
侑・かすみ「「……」」
海未「ですので、貴方たちには──残り5日であと2つのジムバッジを集めてもらいます」
そう、条件を出してきた。
かすみ「……ふっふっふ、なーんだ、そんなことですか……! かすみん、ここまでジム戦は全部ストレートで勝ってきてるんです!! それくらい、朝飯前ですよ!」
海未「ただし……今後、行ってもらうのは、普通のジム戦ではありません」
かすみ「はぇ……?」
侑「普通のジム戦じゃない……?」
海未「真姫、理亞、英玲奈。この二人とジム戦を行う際は──本気の手持ちを使ったフリールールでお願いします」
侑「え……!?」
──ジムリーダーは本来、トレーナーの段階的な育成を目的とした施設だ。
だから、ジムバッジの数を基準に、挑戦者のレベルに合わせたポケモンを使うんだけど……本気の手持ちというのは、まさに文字通り、ジムリーダーたちが本気で戦うときに使うポケモンたち。
かすみ「あ、あのぉ……フリールールってなんですか……?」
果南「フリールールって言うのは、文字通りなんでもありってことだね。実戦形式って言った方がわかりやすいかな……? バトルフィールドも自由、交換も自由、ポケモンを同時に出すのもOKなルールってこと」
海未「場所と詳細な勝敗条件はジムリーダー側が決めてください」
かすみ「え、えぇ!? それ、かすみんたち不利すぎませんか!?」
海未「実戦の相手は、当然自分たちに有利な環境で戦おうとします。これで勝てないだなんて言っている人を作戦に参加させることは出来ません」
かすみ「ぐ……!? そ、それは……確かにですけどぉ……」
つまり……これが私たちが今後の戦いに参加するための、最低条件ということだ。
侑「やろう、かすみちゃん。もとより、歩夢たちを助けるためには……私たちは強くなるしかないんだ」
かすみ「侑先輩……。……わかりました! 本気だろうがなんだろうが、やってやりますよ!」
理亞「……私はいいけど……相手になるの……?」
英玲奈「久しぶりにジム戦で本気を出していいのか……楽しみだな」
理亞さんが私に、英玲奈さんがかすみちゃんに目を向けながら言う。
そして、
真姫「そういうことなら……出来るだけ早く済ませちゃった方がいいわよね」
真姫さんがそう言いながら、こちらに視線を向けてくる。
103 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:15:15.30 ID:c3b0uZJF0
真姫「今すぐに……って言いたいところだけど、準備もあると思うから。ローズジム戦は明日行いましょう」
かすみ「侑先輩……どっちが先にやります……?」
侑「えっと……」
真姫「順番なんて決めなくていい。二人同時に相手してあげるわ」
かすみ「え、でも……」
真姫「本気の手持ちを使えばルールはこっちで決めていいんでしょ、海未?」
海未「それで実力を測れると思うのでしたら、構いません」
真姫「なら、てっとり早く──二人まとめて捌いてあげるから」
侑「よ、よろしくお願いします……!」
かすみ「ふふん♪ そんなルール許可しちゃったこと、後悔しないでくださいね〜?」
かすみちゃんは得意げに鼻を鳴らす。
私は自分から2対1を提案してくるあたり、相当自信があるんじゃないかなって思えて、ちょっと不安なんだけど……。
海未「それでは……理亞と英玲奈も近日中にジム戦をする準備をお願いします」
理亞「わかった」
英玲奈「承知した」
まあ……条件付きとは言え、どうにかこうにか、作戦への同行の道は繋がって一安心かな……。
穂乃果「とりあえず……次の方針は決まったってことでいいのかな?」
海未「そうですね……ひとまずは果南主導でマナフィの捜索と……やぶれた世界の方に関しては鞠莉にお任せします」
果南「了解」
鞠莉「わかったわ」
海未「あと、かすみ」
かすみ「!? な、なんですか……? いくら怖い顔したってかすみん、無条件で空間の裂け目の場所を教えたりしませんよ!?」
海未「それはいいです。……ただ、もし5日以内にバッジ8つが達成できなかった場合には、大人しく教えてもらいます。そうでなければ、こちらも条件を提示する意味がありませんから」
かすみ「わ、わかりました……。さすがにかすみんもそこまで卑怯なことするつもりありませんし……」
海未「よろしい」
空間の裂け目についての交渉も、両者納得したみたいだ。
ダイヤ「あとは……人の配置でしょうか」
海未「そうですね……。今後、地方内に攻撃をされる可能性がありますので、全ての町にジムリーダー、もしくは四天王を配置するようにします」
ツバサ「フソウはどうするの?」
希「アローラにいるえりちに、一旦戻ってきてくれるように連絡してみるよ。えりちならフソウの土地勘もあるだろうし」
海未「では、ウチウラ、ホシゾラ、コメコ、ダリア、セキレイ、ローズ、ヒナギク、クロユリはそれぞれのジムリーダーに警固をお願いします。フソウは希の言うとおり、絵里に頼むとして……ウラノホシ、サニー、アキハラは四天王側でどうにかカバーしましょう。ウテナには私が常駐します」
ツバサ「そうなると一人余るから……私が地方全体を遊撃するわ」
海未「いつもすみませんツバサ……よろしくお願いします」
ツバサ「大丈夫よ。ドラゴンたちは速いし、飛び続ける体力もある。私が適任だもの」
海未「ありがとうございます。……穂乃果はこの後はどう動くつもりですか? 出来れば穂乃果にも地方警固をお願いしたいのですが……」
穂乃果「ごめん……私はやることがあるから……。でも、ピンチなところがあったら、出来る限り全速力で駆け付けるよ!」
海未「わかりました、ではそのようにお願いします。……あとは、引き続きになりますが……出来る範囲で敵についての情報を探りましょう。全てをリナに賭けるわけにもいきませんからね」
104 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:15:52.78 ID:c3b0uZJF0
確かに方針はリナちゃんの記憶を取り戻す方向に進んでいるけど……もしかしたら、空振りになる可能性もあるんだ。
敵の情報は少しでも多い方がいいし……探れるなら探っておくに越したことはないよね。
彼方「あ、それなら……果林ちゃんと仲の良かった子を知ってるよ。その子なら、何か知ってるかも……」
かすみ「もしかして、エマ先輩ですか?」
彼方「うん。かすみちゃんも知り合いだったんだね」
海未「では、そちらの方にも話を伺ってみましょう。彼方、仲介をお願いしてもよろしいですか?」
彼方「うん、任せて〜!」
海未「さて……とりあえず、話は纏まりましたね……。随分長い会議になってしまいましたが……他に意見がなければ、本日はここでお開きとさせていただきます」
海未さんの言葉と共に──長い会議はやっとお開きとなったのだった。
⚓ ⚓ ⚓
──会議が終わると同時に、
善子「…………」
曜「あ、ちょっと、善子ちゃん……!」
善子ちゃんは無言で会議室を出て行ってしまった。
ルビィ「善子ちゃん……結局あの後、一言も喋らなかったね……」
花丸「うん……」
曜「私、ちょっと追いかける……!!」
私も善子ちゃんを追いかけて、会議室を飛び出す。
会議室を出ると──善子ちゃんはとぼとぼと歩いていたので、すぐに追いつくことが出来た。
曜「……善子ちゃん」
善子「…………」
曜「……大丈夫?」
善子「…………」
声を掛けると善子ちゃんは足を止め……しばらく何も言わず立ち尽くしていたけど──
善子「…………菜々が……トレーナーになってたって聞いて……嬉しいって思ってる私と……菜々が……人を傷つけたって聞いて……悲しいって思ってる私がいるの……」
ぽつりぽつりと喋り始める。
105 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:16:27.33 ID:c3b0uZJF0
曜「善子ちゃん……」
善子「……なんで、あの子が苦しんでるときに……私はいつも……傍に居てあげられないのかな……」
曜「…………善子ちゃんにとって……菜々ちゃんは特別だもんね」
善子「…………」
曜「……後悔してるんだね。あのとき、強引にでも手を取ってあげられなかったこと……」
善子「…………」
曜「なら、出来ることは一つだよ」
善子「…………え……?」
善子ちゃんは振り返りながら、声をあげる。
曜「もう、後悔しないように……次はちゃんと菜々ちゃんの手を取ってあげないと。善子ちゃんが」
善子「…………曜」
曜「だから、今は下向いてる場合じゃないよ! 私たちに出来ることをしよう!」
善子「…………」
善子ちゃんは少しの間、無言で私の顔を見つめていたけど、
善子「……はぁ……これだから、陽キャは……落ち込ませてもくれないんだから……」
溜め息交じりに肩を竦めながら、そう言う。
曜「だって、落ち込んでる善子ちゃんなんて、見たくないもん」
善子「わかった。……出来ることをしましょう。……菜々に胸を張れる大人であるために」
曜「うん♪ それでこそ、善子ちゃんだよ♪」
善子「……ありがと、曜。……あと、善子言うな」
🍅 🍅 🍅
真姫「……」
出て行ってしまった善子を見て、罪悪感があった。
菜々が図鑑と最初のポケモンを貰う約束をしていたのが善子だったというのは、もちろん知っていた。
だけど……せつ菜はトレーナーになってからも、善子に自分の正体を明かさなかった。
理由はなんとなく見当がついている。……きっと、ばつが悪かったのだろう。
その意思を汲んで私も何も言わなかったけど……。
今こんな事態になってしまってから、一言私の口から伝えておくくらいはしておいてよかったんじゃないかと……そんな風にも思っていた。
106 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:16:57.78 ID:c3b0uZJF0
海未「真姫」
真姫「海未……」
海未「……情報提供感謝します。……実はせつ菜の素性は、調べてもなかなか出てこなくて……困っていたんです」
真姫「……私はせつ菜の保護者のようなものだからね、当然よ……。……だから、今回のことは……私にも責任がある」
海未「真姫……」
真姫「私が育てたトレーナーが起こした問題だから……この騒動が解決したら……私は責任を取るつもり」
海未「…………」
真姫「だけど……今は先にやることがある。……だから、全部終わってから」
海未「……わかりました」
真姫「ひとまず……菜々のご両親に、起こっていることを説明しに行くわ」
海未「私もご一緒します。ポケモンリーグの理事長として……説明することもありますから」
真姫「うん……お願いね」
☀ ☀ ☀
穂乃果「鞠莉ちゃん、ちょっといいかな?」
鞠莉「穂乃果さん……?」
穂乃果「これ……渡しておこうと思って」
私はそう言って、鞠莉さんにフラッシュメモリーを手渡す。
鞠莉「これは……?」
穂乃果「ウルトラビーストのデータだよ。これで、みんなのポケモン図鑑でもウルトラビーストを認識出来るようにしてあげて」
鞠莉「なるほど……助かるわ」
データは戦闘の上では重要な武器になる。鞠莉さんに渡せば、みんなの図鑑をアップグレードしてくれるはずだ。
穂乃果「それじゃ、よろしくね」
鞠莉「ええ、任せて」
鞠莉さんにデータを託し──私はセントラルタワーを出て、中央区の外へ向かう。
中央区だとリザードンを出しづらいからね……。
私は歩きながらポケギアを取り出し、電話を掛ける。
相談役『──もしもし、穂乃果さん?』
穂乃果「これから、音ノ木に向かいます」
相談役『……わかったわ。彼方さんは?』
穂乃果「一旦、果南ちゃんに近くにいてもらうようにお願いしました。……果南ちゃんなら、ウルトラビーストが現れたとしても、まず負けないと思うし」
相談役『わかりました。……もし、音ノ木に異変があったら、すぐに連絡してください』
穂乃果「了解です」
私は通話を終了し──外周区に到着すると共に、リザードンに乗ってローズシティを飛び立ったのだった。
107 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:17:43.56 ID:c3b0uZJF0
🎹 🎹 🎹
侑「……はぁ……つ、疲れた……」
かすみ「かすみんも……お話ししてただけなのに……くたくたですぅ……」
かすみちゃんと二人で机に突っ伏してしまう。
彼方「あはは……ちょっと、難しいお話しだったもんね」
侑「……でも、ここで彼方さんと会えてよかったです……」
彼方「ふふ、彼方ちゃんも二人と会えてちょっとホッとしたよ〜。わたしもまだ、本調子ってわけじゃないけどね〜……。……あと、かすみちゃん」
かすみ「? なんですか?」
彼方「しずくちゃんのこと……ごめんなさい……」
彼方さんはそう言いながら、かすみちゃんに向かって頭を下げる。
かすみ「え、ええ!? き、急にどうしたんですか!? 頭上げてください!?」
彼方「……果林ちゃんがフェローチェを使うことはわかってたんだから……あの時点でしずくちゃんだけでも、避難させるべきだったんだ……そうすれば、しずくちゃんが付いていっちゃうことはなかったのに……」
かすみ「彼方先輩……。……でも、階段にははる子が倒れてたんですよね? だったら、何言ってもしず子は一人で避難なんてしなかったと思います。だから、これは事故です。彼方先輩が気にすることじゃないですよ」
彼方「かすみちゃん……」
かすみ「それに、しず子はかすみんが引っ叩いてでも連れ戻すって決めてますから! 心配しないでください!」
彼方「……ふふ、ありがとう、かすみちゃん」
リナ『そういえば……遥ちゃんは……』 || ╹ᇫ╹ ||
彼方「遥ちゃんは、国際警察の医療施設に運ばれて……まだ眠ってるよ。いつから、お姉ちゃんよりお寝坊さんになっちゃったんだろうね……」
そう言いながら、彼方さんは力なく笑う。
彼方「でも、大丈夫だよ。命に別状はないって、お医者さんが言ってたから。……ただ、ちょっとショックを受けすぎちゃって、眠ってるだけ……」
侑「そう……ですか……」
彼方「それよりも侑ちゃんとかすみちゃんは、明日にはジム戦があるんでしょ? 疲れてるんだったら、今日は早く休んだ方がいいよ」
かすみ「それもそうですねぇ……侑先輩、行きましょうか」
侑「……そうだね」
椅子から立ち上がると──
侑「あ、あれ……?」
私の視界がふわぁっと暗くなる。
果南「──おっと……大丈夫?」
侑「え……?」
近くにいた果南さんに抱き留められ、そこでやっと、自分が倒れそうになっていたことに気付く。
かすみ「ゆ、侑先輩……!? もしかして、まだどこか痛むんですか!? ご、ごめんなさい、それなのにかすみん、侑先輩に無茶させて……」
リナ『侑さん、大丈夫……?』 || 𝅝• _ • ||
「ブイ…」
108 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:18:14.76 ID:c3b0uZJF0
かすみちゃんやリナちゃん……そしてイーブイが心配して、私の周りに寄ってくる。
侑「あ、あれ……おかしいな……」
別に痛いところとかはないはずなのに、身体に力が入らなかった。
なんでだろうと思っていたそのとき──
──ぐぅぅぅぅぅ……。……と、大きな音を立てながら、お腹が主張を始めた。
侑「…………」
「ブイ……」
かすみ「…………」
リナ『…………』 || ╹ᇫ╹ ||
そういえば私……ここ数日、まともにご飯食べてなかったんだった……。
侑「お腹……空いた……」
果南「ふふ、お腹が減るのは元気な証拠だよ♪ ひとまず、みんなでご飯にしようか」
彼方「それじゃ、彼方ちゃんが何か作るよ〜」
かすみ「やったー! ご馳走です〜♪」
リナ『それじゃ外周区の食材売り場と、レンタルキッチンを探すね』 ||,,> ◡ <,,||
果南「侑ちゃん、おんぶしてあげるから、乗って」
侑「す、すみません……」
あまりの空腹で足元が覚束ないので、果南さんにおんぶしてもらう。
かすみ「彼方先輩の料理は絶品ですから、楽しみにしておいてくださいよ〜!」
彼方「おう、任せとけ〜!」
リナ『なんで、かすみちゃんが自慢気なんだろう』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
みんなの楽しそうな会話を聞いていて、ふと思う──歩夢もここに居たら……もっと楽しかったのにって……。
侑「歩夢……今、どうしてるかな……」
「ブイ……」
ちゃんと……ご飯食べてるかな……。
侑「……歩夢……」
果南「歩夢ちゃんを助けるためにも、今はしっかり食べて体力つけないとだね」
侑「……はい」
歩夢……絶対助けに行くから、待っててね……。
私は胸中で一人、そう誓うのだった。
109 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/19(月) 12:18:47.26 ID:c3b0uZJF0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ローズシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | ● __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.63 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.63 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.59 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.53 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドロンチ♂ Lv.56 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.1 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:200匹 捕まえた数:8匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.63 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.56 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.54 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.56 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.55 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
テブリム♀ Lv.56 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:192匹 捕まえた数:9匹
侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2022/12/19(月) 18:18:44.75 ID:CXrIr5dv0
あげ
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2022/12/19(月) 18:24:16.88 ID:sOGR6cy00
はい
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2022/12/19(月) 20:17:49.77 ID:thzP3vp90
頑張れ
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2022/12/20(火) 00:02:50.75 ID:6Afa9EdC0
あげ
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2022/12/20(火) 00:04:28.98 ID:6Afa9EdC0
あげ
115 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 00:32:32.82 ID:B+X5AS2s0
■Intermission👠
愛「航路安定、あと数日もしたらウルトラディープシーに到着すると思うよ」
果林「ありがとう、愛。姫乃、歩夢やしずくちゃんはどんな様子かしら?」
姫乃「特におかしな様子は見られませんね。歩夢さんは最初は脱出しようと、ポケモンを使っていろいろ試していましたが……壊すのは無理だと悟ったようで、今は大人しくしています。しずくさんは……まるで糸の切れた人形のようですね……。ずっと、ベッドに横たわったまま、ほとんど動きません……」
姫乃は監視カメラの映像を見ながら、二人の様子を教えてくれる。
姫乃「あれも禁断症状の一種でしょうか……」
果林「そうね……あとで少しフェローチェを魅せに行くわ」
しずくちゃんはフェローチェを使えば、私に従順に動いてくれる。
歩夢やせつ菜のような使い道はないけど……駒としての利用価値は十分にある。
愛「……ねぇ、果林。ウルトラディープシーに向かってるってことは、ウツロイドを使うの?」
果林「ええ。このままだと、歩夢は言うことを聞いてくれないでしょうからね」
愛「……たぶん、ウツロイドを使っても、歩夢は私たちに従うようにはならないよ? ウツロイドの神経毒は理性を麻痺させるだけだから、やりたくないことはさせられない……というか、むしろやりたくないことは絶対にやらなくなっちゃうし」
果林「別に私は歩夢をコントロールをしたいわけじゃないのよ」
愛「どゆこと?」
果林「ウツロイドの毒は、回り切れば人格そのものを破壊する。目的は歩夢のフェロモンなんだから、生きたまま物言わぬお人形さんにさえなってくれればいいのよ」
愛「……相変わらず、おっかないねぇ……悪人の鑑だ……。歩夢のエースバーンを怒らせて、燃やされないようにね」
果林「……? どういう意味……?」
愛「果林は“オッカない”からね。なんつって」
「ベベ、ベベノ♪」
果林「……」
“オッカのみ”はほのおタイプの攻撃を弱める“きのみ”だ。
わざわざそれを言うための振りをしなくてもいいのに……。
姫乃「……くだらないこと言ってないで、操縦に集中してください」
愛「“おぉっと”、残念!! “オート”操縦だ!」
「ベベ、ベベベノ♪」
愛「いやー、ベベノムはこんなに大爆笑してくれてるのにな〜」
姫乃「はぁ……どうして、上はこの人をいつまでも重用するんでしょうか……」
果林「……利用価値があるからよ。こんなでも、愛の頭脳は本物よ」
愛の科学力は研究班の中では頭一つ抜けている。いや……頭一つどころか、二つ三つは飛びぬけている。
結局、彼女がいなければ、ウルトラスペースを行き来する方法もここまで発展しえなかったのだ。
──尤も……あの事故さえなければ、今頃技術はもっと発達していたのだろうけど……。
そう言われるくらいには、あの子──璃奈ちゃんは、愛すらも凌ぐ本当に優秀な科学者だった。
愛「そういやさ」
果林「何?」
愛「せっつーあのまんまでいいの? しずくみたいに、マインドコントロールとかしてないんでしょ?」
確かに、せつ菜にはウルトラビーストを与えただけで、実は彼女自身には特別な細工をしていない。
116 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 00:33:28.01 ID:B+X5AS2s0
愛「せっつー頭良いしさ……あのテロを起こしたのも果林のバンギラスだったって、すぐに気付くよ?」
果林「たぶん、せつ菜は私に利用されてることには、薄々気付いてるわよ」
愛「……マジ? 反逆されたりしない?」
果林「大丈夫よ。あの子は……自分の言葉を曲げられない──いえ、自分の言葉に縛られると言った方がいいかもしれないわね。そんな不器用な子なのよ」
せつ菜は、良く言えば素直だけど……悪く言えば愚直だ。
天真爛漫で無邪気さがあり、自分のやりたいことへはひたむきだが──裏を返せば、自信家でプライドが高く、思い込みも激しい。
チャンピオンになると宣言してしまえば、それ以外の方法を選べなくなってしまうし──自分で力を求めて、その力で誰かを傷つけてしまったら……もうそこから逃げられなくなる。
きっと今彼女の中では、自分は蛮行を行い……もう、戻れないところに来てしまったと、そう感じているのだろう。
その証拠に彼女は──『もう、帰る場所なんて……ありませんから……』──と口にしていた。
果林「彼女は自分で、自身が悪に染まる道を選んでしまった。その自覚があの子の中にあり続ける以上、簡単に裏切ったりはしない……出来ないわ」
愛「なんか、せっつーについて随分知った風じゃん?」
果林「どこかの誰かさんと似てるのよ。……自信家でプライドが高いところとか……特にね」
せつ菜を見ていると……時折、鏡を見ているような気分になることがある。
だからこそ……あの子が追い詰められたとき、どんな行動をするかが手に取るようにわかったし……彼女を唆すための作戦が、あまりにうまく行きすぎて……自分が少し怖くなったくらいだ。
果林「だから、せつ菜は裏切らないわ」
愛「ふーん……。ま、果林がそう言うならいいけどさ」
せつ菜は絶対に裏切れない。自分が一度ついてしまった陣営も──自分自身の言葉にも。
そして……『もう戻れない』と言うせつ菜と同じで、私も──
果林「──……そう……もう……今更、戻れないのよ……」
愛たちに聞こえないくらいの小さな声で、そう呟くのだった。
………………
…………
……
👠
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2022/12/20(火) 07:26:38.63 ID:6Afa9EdC0
あげ
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2022/12/20(火) 09:54:32.99 ID:XENnri720
ファイト
119 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:28:58.06 ID:B+X5AS2s0
■Chapter053 『決戦! ローズジム!』 【SIDE Yu】
──ホテルを出ると、外はこれでもかというくらいの快晴だった。
リナ『いいお天気!』 || > ◡ < ||
かすみ「ジム戦日和ですね!」
侑「…………」
「ブィィ…?」
果南「侑ちゃん、緊張してる?」
口数の少ない私を見て、果南さんが声を掛けてくる。
侑「は、はい……」
果南「確かに真姫さんは強いからね。……でも、自分と自分のポケモンを信じて戦えばきっと大丈夫だよ」
彼方「そうそう! コメコで会ったときからは考えられないくらい、侑ちゃんも侑ちゃんのポケモンたちも逞しくなってるよ! 自信持って!」
侑「果南さん……彼方さん……」
かすみ「彼方先輩! かすみんは!? かすみんはどうですか!?」
彼方「ふふ♪ もちろん、かすみちゃんたちも逞しくなってるよ〜♪」
かすみ「えへへ〜……そんなことありますよ〜♪」
そうだ……私たちは旅の中で強くなってきたんだ……。
そして、もっともっと強くなるためにも……今日、絶対に真姫さんに勝たないといけない。
不安になっている場合じゃないんだ……!
侑「ありがとうございます! ……勝ってきます!」
果南「うんうん、その意気だ♪」
彼方「勝利祝いのおいしいご飯を作って待ってるから、頑張ってね♪」
かすみ「おいしいご飯……!」
彼方「もちろん、勝利祝いだから、負けちゃったときは果南ちゃんと二人で食べちゃうからね〜?」
かすみ「ぜ、絶対に勝たないと……!」
侑「あはは……」
食べ物に釣られるかすみちゃんには、ちょっと笑っちゃうけど……でも、
侑「かすみちゃん」
かすみ「なんですか、侑先輩!」
侑「絶対に勝つよ……! 私たち二人で!」
かすみ「はい! もちろんです!」
想いは一緒だ。
私たちはジム戦のために──真姫さんから指定のあった場所へと向かいます。
120 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:30:31.10 ID:B+X5AS2s0
🎹 🎹 🎹
真姫さんから指定のあった場所──そこはローズシティの西端部、外周区のさらに外……。
かすみ「ここも一応、ローズシティ……なんですよね? ……随分、雰囲気が違くないですか……?」
侑「うん……」
かすみちゃんの言うとおり、ここは……廃屋がいくつもあるような場所だ。ローズシティの雰囲気とは正反対というか……。
侑「リナちゃん、ここ……ローズシティだよね……?」
リナ『うん。滅多に人は近付かないけどね』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「なんで、こんな場所があるんですか? ローズシティって、超都会! 最先端! ってイメージなのに……」
かすみちゃんがそんな疑問を口にすると──
「──ここは廃工場地帯よ」
空から声が降ってきた。
かすみちゃんと二人でその声の方に目を向けると──
真姫「……二人とも、ちゃんと時間通りに来たわね」
真姫さんがメタングに腰掛けながら、私たちの上を浮遊していた。
侑「真姫さん!」
真姫さんは、メタングから飛び降り、私たちの前に降り立つ。
かすみ「廃工場って……今は使ってないってことですか?」
真姫「ええ。工場は中央区が出来たときに、全部そっちに移転して……ここには廃棄された工場だけ残ったってこと」
かすみ「解体とかしなかったんですか?」
真姫「この場所って、カーテンクリフが近いでしょ? そこから、たまに野生ポケモンが来るの。ローズの人って、ポケモンが苦手な人が多いから、ほとんどが中央区に移り住んで、ここは場所自体が放棄されたってわけ」
リナ『ローズでは野生のポケモンが近くに出るってだけで、人が寄り付かなくなるからね』 || ╹ᇫ╹ ||
真姫「だから、ローズシティの敷地内だけど、ここに来る人はほとんどいないし、いるとしても野生のポケモンくらいってわけ。二人とも、付いてきなさい」
侑「は、はい」
「ブイ」
真姫さんの後を追ってたどり着いた場所は──
かすみ「うわ……でっか……」
一際大きな廃工場だった。驚いて建物を見上げる私たちを後目に、真姫さんは工場の中へと入っていく。
倣うように屋内へ足を踏み入れると──中も広々とした工場だった。
あちこちにベルトコンベアがあり、見上げると2階くらいの高さに、工場内の点検や作業用のキャットウォークが設置されている。
真姫「ここはモンスターボール工場だった場所よ」
かすみ「モンスターボールって……あのモンスターボールですか?」
真姫「ええ。ローズシティは昔から、この地方のほぼ全てのモンスターボールを生産しているの。今は中央区の方に工場が移ったから……こんな大規模な工場だけがここに残されてるってわけ」
121 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:31:48.85 ID:B+X5AS2s0
そう言いながら、真姫さんは私たちを置いて──キャットウォークの方へと階段を上って行く。
真姫「……そして、この廃工場が、今日のバトルフィールドよ」
侑「……! ここが……」
かすみ「場所はジムリーダーが決めるって言ってましたもんね……」
真姫「ルールは事前に言ってあるようにフリールール。交換も同時にポケモンを出すことにも、一切制限がないわ。使用ポケモンの数にも制限は設けない」
かすみ「え? それじゃ、こっちは侑先輩とかすみんの手持ち合わせると……」
真姫「ええ。それぞれのトレーナーが6匹ずつ。つまり、そっちは二人合わせて12匹のポケモンをフルで使って大丈夫よ」
かすみ「……ちょっとちょっと侑先輩! これ、もしかして楽勝で勝てちゃうんじゃないすか!?」
侑「……」
確かに一見私たちに有利な条件にも見えるけど……真姫さんの毅然とした態度。
やはり本気の手持ちを使うのもあってか、よほど自信があるのかもしれない。
侑「私たちは、真姫さんの手持ち6匹を全部倒せばいいってことですか?」
真姫「それでもいいけど……勝敗の条件は──これよ」
そう言いながら、真姫さんは上着をめくって内側を見せる。
そこには──ジムバッジが2つ輝いていた。
侑「“クラウンバッジ”……」
ローズジムを攻略した証として貰える、“クラウンバッジ”だ。
真姫「貴方たちの勝利条件は──私を戦闘不能に追い込むか、この“クラウンバッジ”を奪うことよ。逆に……貴方たちの敗北条件は、貴方たちが戦闘不能もしくは行動不能になること」
今回のフリールールは実戦形式と言っていた。実戦を模した戦いということはつまり──仮にポケモンが残っていても、私たちトレーナーが戦闘を継続できなくなった時点で勝敗が付くということだ。
真姫「もちろん、大怪我をさせるつもりはない。ただ、これは実戦形式……ちょっとした怪我くらいは覚悟して貰うわよ」
かすみ「の、望むところです!」
真姫「ま……仮に怪我したとしても、私が診てあげるから安心なさい。私はジムリーダーであると同時に、医者でもあるから」
侑「け、怪我せずに勝てるように頑張ります!」
真姫「ええ、頑張って頂戴」
真姫さんは2階から私たちを見下ろしながら、腰のボールを外す。
真姫「本来なら……私は貴方たちの、友達を助けたいという意志を応援していたと思うわ。だけど……今回は菜々も関わってる。……だから、貴方たちが生半可なトレーナーであるなら、ここで足切りさせて貰うわ」
──真姫さんにも、全力を出す理由があるということだ。
侑「かすみちゃん……! やるよ!」
「ブイブイッ!!!」
かすみ「もちろんです!! 二人であっと言わしてやりましょう!!」
リナ『二人とも、頑張って! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 ||,,> ◡ <,,||
私たちもボールを構えた。
真姫「ローズジム・ジムリーダー『鋼鉄の紅き薔薇』 真姫。本気の私に勝てるか、やってみなさい……!!」
工場内でボールが放たれた──バトル、開始……!!
122 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:32:21.84 ID:B+X5AS2s0
🎹 🎹 🎹
かすみ「行くよ、サニーゴ!!」
「──……サ」
侑「出てきて、ウォーグル!」
「──ウォーーーッ!!!!」
サニーゴとウォーグルがフィールドに飛び出す。
真姫「メタグロス!! ニャイキング!!」
「──メッタァーー!!!!」「──ニ゙ャア゙ァァァーーーッ!!!!」
一方、真姫さんが出してきたのは、メタグロスとニャイキングだ。
リナ『メタグロス てつあしポケモン 高さ:1.6m 重さ:550.0kg
2匹の メタングが 合体した 姿。 4つの 脳みそは
スーパーコンピュータよりも 速く 難しい 計算の
答えを 出す。 4本足を 折りたたみ 空中に 浮かぶ。』
リナ『ニャイキング バイキングポケモン 高さ:0.8m 重さ:28.0kg
頭の 体毛が 硬質化して 鉄の ヘルメットのように なった。
ガラル地方の ニャースが 戦いに 明け暮れて 進化した
結果 伸ばすと 短剣に 変わる 物騒な ツメを 手に入れた。』
真姫「メタグロス!!」
「メッタァッ!!!!」
メタグロスは足を折りたたみ、2階から私たちのいる場所向かって飛び出してくる。
かすみ「しょっぱなから、突っ込んできますか!! サニーゴ、“てっぺき”!!」
「……サ」
侑「かすみちゃん!? 真っ向から攻撃を受けちゃダメ!?」
かすみ「へっ!?」
サニーゴは体を硬質化させ、防御の姿勢を取るけど──
真姫「“コメットパンチ”!!」
「メタァァーーー!!!!!!!!!!」
“コメットパンチ”が直撃すると──ヒュンッと風を切りながら、かすみちゃんの横スレスレを吹っ飛んでいく。
かすみ「ひ……!?」
しかも、それだけに留まらず──サニーゴは壁に向かって跳ね返り床に──床に当たるとまた跳ね上がり──まるでピンボールの球のように、フィールド内を跳ね回り始める。
かすみ「ぎ、ぎゃわああああ!?」
──ガンッガンッ!! と激しく音を立てながら、壁や床をバウンドするサニーゴ。
サニーゴはしばらくフィールド内を跳ね回ったあと──ボゴッ! と音を立てて、近くにあった空のドラム缶を凹ませながらめり込んだ。
かすみ「さ、サニーゴ……っ!!」
かすみちゃんはやっと止まったサニーゴのめり込んでいるドラム缶へと駆け出すが、
123 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:33:07.67 ID:B+X5AS2s0
真姫「ニャイキング!! “メタルクロー”!!」
「ニ゙ャア゙ァァァァァ!!!!!!!!!」
かすみ「うぇ!?」
かすみちゃんに向かって、ニャイキングが爪を構えて、死角から飛び掛かって来ていた。
真姫「周りを見てなさすぎよ」
かすみ「や、やば……っ!!」
爪がかすみちゃんを捉えようとした、その瞬間、
侑「ウォーグル!!」
「ウォーーーーー!!!!!!」
かすみ「わぁ!!?」
「サ……」
ウォーグルが、かすみちゃんとサニーゴをそれぞれの足爪で掴んで、一気に飛翔する。
──直後、ザンッ!! と音を立てながら、ドラム缶が切り裂かれ真っ二つになる。
かすみ「──ゆ、ゆうせんぱーい……ありがとうございますぅ〜……!」
侑「か、間一髪……!」
でも、ホッと息を吐く間もなく、
真姫「仲間を助けてる場合かしら? “サイコキネシス”!!」
「メタァァァーー!!!!!」
侑「!?」
「ブ、ブィ!!?」
メタグロスの“サイコキネシス”で、肩に乗っていたイーブイごと、私の身体が浮き上がり──そのまま、背後の壁まで吹っ飛ばされる。
──ドンッと背中から壁に叩きつけられて、
侑「……かはっ……!」
一瞬息が詰まる。
かすみ「侑先輩!?」
侑「……ぐ……うっ……!」
すぐに目を開けて、前方を見ると──
「メタァァァ!!!!」
メタグロスがこちらに向かって“こうそくいどう”で接近してくる。
でも、私たちは“サイコキネシス”で壁に押し付けられているせいで、このままじゃ回避が出来ない。
侑「イーブイ……! “いきいきバブル”……!!」
「ブ、ィィィ…!!!」
壁に押し付けられながらも、イーブイの体毛から──ぷくぷくと大量の泡が発生して、飛んでいく。
だが、
真姫「そんな攻撃で止まると思ってるのかしら?」
「メッタァァァァ!!!!!」
124 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:38:48.77 ID:B+X5AS2s0
真姫さんの言うとおり、メタグロスは“いきいきバブル”の中をお構いなしに突っ込んでくる。
侑「ぐ……っ……」
絶体絶命の瞬間に、
「──ニャーー」
ボールから勝手に飛び出すニャスパーの姿。
私は咄嗟に指示を出す。
侑「ニャスパー……!! パワー全開で“サイコキネシス”!!」
「ニャーーーー!!!!」
ニャスパーが閉じている耳を完全に立てながら──“サイコキネシス”をメタグロスに向かって放つと、
「メ、タァァァ…!!!!」
メタグロスが空中で静止する。
そのタイミングで──壁に押し付けられていた私とイーブイの身体は解放される。
侑「はぁ……はぁ……っ……」
「ウゥゥニャァァァァ」
どうにか、メタグロスは止めた──でも、
「メッタァァァ…!!!!」
メタグロスはじりじりとこっちに向かって、迫ってきている。
ニャスパーのリミッターを完全解除しているのに……押し返しきれていない。
息を切らして、休んでる場合じゃない……! 次の作戦を……!
そう思って、立ち上がった瞬間──メタグロスの頭上に白い何かが縦回転しながら、降ってきた。
かすみ「テブリム!! “ぶんまわす”っ!!」
「テーーーーブゥッ!!!!!!!!!!」
──かすみちゃんのテブリムだ……!!
テブリムは縦回転しながら、自分の頭の房を乱暴に振り回し、上空から“アームハンマー”顔負けの拳を叩きつけ──そのまま反動で跳ねながら離脱する。
「メッタァッ…!!!?」
上空からの奇襲に、一瞬メタグロスの体が沈み込むが──すぐに持ち直し、浮き上がる。
まだ、威力が足りてない……!
かすみ「侑先輩!!」
かすみちゃんが、ウォーグルの足からサニーゴを抱えて飛び降りながら、声をあげる。
侑「ウォーグル!! “ばかぢから”!!」
かすみ「“シャドーボール!!”」
「ウォーーーーッ!!!!!」
「サ、コ」
125 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:39:39.07 ID:B+X5AS2s0
落下しながら、放たれるサニーゴの“シャドーボール”と、ウォーグルの爪による急襲でメタグロスを上から押さえつける。
それと同時に、ウォーグルを巻き込まないために、
侑「ニャスパー!! サイコパワー解除!!」
「ニャ」
ニャスパーがぱたっと耳を閉じる。
それによって、さっきまでサイコパワーで浮かされていたメタグロスは急に浮力を失うのと同時に、ウォーグルの“ばかぢから”とサニーゴの“シャドーボール”を受け──轟音を立てながら、地面に叩きつけられる。
550kgの巨体に耐えられなかったのか、そのまま床が砕け──メタグロスは床下に沈み込んだ。
かすみ「よっしゃぁ!! やってやりましたよ!!」
「サ…」「テブッ!!」
かすみちゃんは頭にテブリムを、小脇にサニーゴを抱えながら、小さくガッツポーズをするけど、
「メッタァァァ!!!!!!」
メタグロスは床にめり込みながらも、激しく4つの足を乱暴に振り回しながら、暴れている。
かすみ「うそっ!? まだ、倒れないの!? ……ゆ、侑先輩!!」
かすみちゃんはメタグロスを後目に、私の方へ駆けてくる。一旦合流するつもりだろうけど──私の視点からは、かすみちゃんの背後に迫っている影が見えていた。
侑「かすみちゃん、伏せて!!」
かすみ「えっ!? はいぃっ!!」
私に言われたとおり、かすみちゃんが咄嗟に身を屈めると──
「ニ゙ャア゙ァァァァァ!!!!!!」
かすみちゃんの頭の上を“メタルクロー”が薙ぐ。
かすみ「ひぃぃぃっ!!? テブリム、“サイケこうせん”!?」
「テーーブーーーッ!!!!」
テブリムがかすみちゃんの頭の上に乗ったまま、ニャイキングを“サイケこうせん”で攻撃するものの、
「ニ゙ャ…ア゙ア゙ァァァァァ!!!!!」
ニャイキングは一瞬怯んだだけで、すぐにかすみちゃんに向かって、爪を構えて飛び掛かってくる。
かすみ「わぁぁぁぁ!!?」
侑「っ……!! ウォーグル!!」
そのニャイキングを真横から、
「ウォーーーーーッ!!!!!!!」
「ニ゙ャア゙!!?」
ウォーグルが足爪で、蹴り飛ばしながら、壁に叩きつけた。
かすみ「た、助かったぁ……!!」
侑「……!」
126 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:40:26.75 ID:B+X5AS2s0
今度は私が、かすみちゃんの方へと走り出す。
このまま、こんな開けた場所に居ちゃダメだ……!!
私は転んでいるかすみちゃんの手首を掴んで、
侑「かすみちゃん!!」
かすみ「わわっ!?」
半ば無理やりに引き起こす。急に引っ張ったら痛いかもしれないけど……!
「ニ゙ャア゙ァァァァ!!!!!」「メッタァァァァァ!!!!!!」
──それどころじゃない!
ニャイキングとメタグロスが雄叫びをあげながらこっちを睨んでいる。
「ウォーーー!!!!」
ウォーグルはすぐに私の意図に気付いてくれたのか、ニャイキングを壁に押し付けるのをやめ、私のもとへと飛んでくる。
私はそのウォーグルの脚に掴まり──かすみちゃんの手首を掴んだまま、低空飛行で、ニャイキングとメタグロスの近くから離脱する。
かすみ「わ、わわぁっ!!?」
侑「く……」
どこに逃げる……!? 工場内に視線を泳がせ、隠れられそうな場所を探す。が、
真姫「“はかいこうせん”!!」
「メッタァァァ!!!!!」
侑「!?」
背後から、飛んできた“はかいこうせん”が、
「ウォーーーッ!!!!?」
ウォーグルの翼を掠め、バランスを崩して、空中で回転を始める。
かすみ「ぎゃわぁぁぁぁ!!?」
侑「っ……!!」
回転する中──私の視界に飛び込んできたのは、ボール運搬用のベルトコンベア。
侑「かすみちゃん、ごめんっ!!」
かすみ「へっ!!?」
腕の反動を使い──ベルトコンベアの方に向かって、かすみちゃんを放り投げる。
かすみ「ぎゃわぁぁぁぁ!!?」
かすみちゃんが悲鳴をあげながら、ベルトコンベアの上を転がり──隣の部屋に続く穴へと滑り込んでいく。
私もベルトコンベアの上に着地しながら、その穴へと走る。
侑「リナちゃん!! ベルトコンベア操作出来たりする!?」
リナ『動力があれば!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
127 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:42:08.73 ID:B+X5AS2s0
胸に張り付いていたリナちゃんが近くのコントローラパネルに向かって飛んでいく。
侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
「ブイッ!!!」
イーブイがベルトコンベアの下に垂れていた、コンセントに向かって放電するのと同時に──ゴォンゴォンと音を立てながら、猛スピードでベルトコンベアが稼働する。
侑「ウォーグル!! 翼畳んで、先に行って!」
「ウ、ウォーー!!!」
真姫「逃がさないわ……!! ニャイキング!!」
「ニ゙ャア゙ア゙ア゙アァァァァァァ!!!!!」
真姫さんに指示で、飛び掛かってくるニャイキング。
侑「ニャスパー!! “サイコショック”!!」
「ウニャー」
空中に“サイコショック”のエネルギーキューブを作り出し、ニャイキングを牽制しながら、私はニャスパーを小脇に抱えて、穴に向かって滑り込む。
侑「リナちゃん!!」
リナ『うん!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
リナちゃんに声を掛けると、リナちゃんもすぐに私のもとへ飛んできて──全員穴に逃げ込んだことを確認すると同時に、
侑「イーブイ!! “すくすくボンバー”!」
「ブイッ!!!」
イーブイが穴の両脇に“すくすくボンバー”を植え付けた。
「ニ゙゙ャア゙ァァァァ!!!!!」
ニャイキングは爪を構えて突っ込んでくるが、
真姫「……! ニャイキング! 深追いしないで!」
「ニ゙ャア゙ァ…」
真姫さんはニャイキングを制止する。
それと同時に、樹は一気に成長し──ベルトコンベアを破壊しながらも、私たちが逃げ込んだ穴の口を塞いでくれた。
侑「はぁ……はぁ……」
相手の攻撃が強大とはいえ……あの野太い樹を切るのは一瞬では出来ないはずだ……。
しかも、“すくすくボンバー”は“やどりぎのタネ”……おいそれと手を出せば、体力を吸収されることになる。
恐らく真姫さんは“すくすくボンバー”の効果を知っていて、ニャイキングを止めたんだと思うけど……これで、時間は稼げるはずだ……。
中腰になりながら、穴を奥へ進んでいくと、視界が開け、
かすみ「──侑先輩ぃ……酷いですぅ……」
「テブ」
隣の部屋で、かすみちゃんがひっくり返った状態で不満を漏らしていた。
ちなみにテブリムは、ひっくり返ったかすみちゃんのお腹の上でふんぞり返っている。
128 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:42:53.06 ID:B+X5AS2s0
侑「ごめんね、かすみちゃん……でも、ああするしかなくてさ……」
かすみ「うぅ……もちろん、かすみん許しますけどぉ……」
「テブリ」
「ウォー…」「……サ」「ブイ」
「ニャー」
侑「とりあえず、全員無事だね……」
リナ『うん、大丈夫』 || ╹ ◡ ╹ ||
ウォーグルもサニーゴも無事。
小脇に抱えたニャスパーも元気そうだし……殿のイーブイも問題なさそうだ。
でも……ここに留まっているのは危険かな……。
侑「ウォーグル……もうひと頑張りお願いできる?」
「ウォーー」
飛んでくるウォーグルの脚を掴み、
侑「かすみちゃんも」
かすみ「は、はい」
かすみちゃんもウォーグルの脚に掴まって、工場内を飛行しながら、ゆっくりと移動を開始する。
かすみ「……あの……真姫先輩のポケモンたち、強すぎませんか……? あの攻撃力とか、もはや意味わかんないですよ……?」
侑「レベルが違うっていうのはあるけど……一番大きいのはニャイキングがいるからだろうね」
かすみ「はぇ……? どういうことですか……?」
リナ『ニャイキングの特性は“はがねのせいしん”。自分と味方のはがねタイプの攻撃力を上げる特性だよ』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「えぇ!? そんなの聞いてないですぅ……」
侑「とはいえ、逃げてばっかりじゃ、どうやっても勝てない……」
かすみ「いっそ、奇襲して真姫先輩からバッジを奪っちゃいますか?」
リナ『それもありだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
確かに、レベル差を埋めるには、真っ向から戦わないというのも一つの手ではある。
ただ……。
侑「それをするにも、問題はあるよね……」
かすみ「問題……ですか?」
侑「たぶん……真姫さんの方がこの工場には詳しいから、常に奇襲を受けにくい場所を選ぶと思うんだ」
今考えてみれば、真姫さんが試合開始直前に2階に上がったのも、有利な位置を取るためだろう。
改めて……相手が有利な戦場で戦うことの難しさを実感する。
かすみ「となると……真姫先輩、もう最初の場所から移動しちゃってますかね……」
侑「たぶんね……。この広いバトルフィールドの中で、あの場に留まり続ける理由もないだろうし……」
ウォーグルで飛行しながら、改めてこの廃工場を見渡してみる。
屋内は天井が高く、ウォーグルが自由に飛びまわってもほとんど問題ないくらいには高さが確保されている。
あちこちにベルトコンベアが走っており、ボロボロのものも多いけど……さっきみたいに通電すれば無理やり動かすことが出来るものもある。
真姫さんが上がっていた場所のように、点検用のキャットウォークもあちこちに張り巡らせており、この戦場はほぼ全域に渡って二層構造になっていると言ってもいい。
部屋はいくつかに分かれているけど……各部屋を繋ぐドアの前には瓦礫が崩れて通れなくなっていたりする場所もあり、どちらかといえばさっき私たちが逃げてきたような、ベルトコンベアの運搬路の方が無事な場所が多い。
129 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:43:49.03 ID:B+X5AS2s0
リナ『セオリーで言うなら、高所を取った方がいいけど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
かすみ「じゃあ、2階で戦います……?」
確かに高所からの方が一方的な攻撃をしやすいけど……それは相手が下にいる場合の話だ。
侑「むしろ……2階だと遮蔽物が少ない分、逃げるのが難しいかもしれない……」
かすみ「むむ……確かにそれはそうですね……。……とにもかくにも……一度腰を落ち着けて作戦を考えたいですぅ……」
侑「あ……。あそことか、いいんじゃないかな」
私は大きな工場の端の方にコンテナを見つけて、そこに降り立ってみることにした。
床に無造作に置かれたコンテナは、扉が外れていて、簡単に中に入ることが出来そうだった。
かすみ「……うわー……おっきなコンテナですねぇ……」
リナ『これでモンスターボールを大量に運搬してたんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「だね……一旦ここで作戦を考えよう」
真姫さんがどれくらいこの工場を把握しているかはわからないけど……見晴らしのいい場所よりは、死角の少ない場所の方がいい。
もちろん、追い詰められたら逆に逃げ場がない場所だから、ずっと留まるつもりはないけど……。
かすみ「あのー……やっぱりかすみん、この試合はバッジを奪って勝つ方がいいと思うんですよ〜……」
リナ『確かに……真っ向から戦うには、パワーに差がありすぎる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
リナちゃんの言うとおり、どう考えても相手が格上だ。真っ向から戦うのは無謀というのは間違いない。
だけど……。
侑「たぶん……やめた方がいいと思う」
かすみ「どうしてですか? バッジさえ手に入れちゃえば、こっちの勝ちじゃないですか! 真姫先輩がどうしてあんなにあまあまな人なのか知りませんけど……あえて、簡単に勝てる条件を付けてくれたんだから、それは利用するべきですよ!」
侑「うぅん、そうじゃなくてね。……なんで、そんな条件を出したのかってことを考えないといけないんじゃないかなって」
かすみ「……? どういうことですか?」
これは、私たちの実力を試すための戦いだ。
それなのに、何故わざわざそれを緩くする条件を付けるのだろうか?
私はそれが疑問だったけど……。
侑「私はジムバッジを奪わせるように誘導してるように感じる」
かすみ「誘導……?」
侑「実力差を見せつけられたときに、もし真っ向から戦わずに勝てる方法があったら……誰もがそっちに行っちゃうと思うんだ」
かすみ「……それはそうですね。かすみんもそう思っちゃいましたし」
侑「でもそれって逆に、真姫さんの視点からしたら、相手の目的を簡単に絞れるってことにもならない?」
かすみ「言われてみれば……」
侑「実力差がある中で、真っ向から倒すのが難しいのは確かにそうだけど……実力差がある相手が防御に集中したら、倒すよりも奪う方が難しいんじゃないかな……」
真姫さんはこの地方のジムリーダーの中でも、特に攻守速のバランスがよく、補助技の使い方もうまい。
戦い方は打算的で合理的で論理的だ。試合運びが上手で、セオリーを軸に将棋を指すような先読みで相手を制すタイプ。
なら、いかにも追い詰められた私たちがしそうな行動は特に読まれやすい。避けるべきだ。
むしろ……バッジを奪うことを勝利条件にしてきたこと自体が向こうの狙いに思えてくる……。
130 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:44:39.45 ID:B+X5AS2s0
侑「奪えるなら奪ってもいいと思う。だけど、積極的に奪うことを考えて戦うのは……たぶん、通用しない」
かすみ「……じゃあ、どうします……? 奪わないにしても、真っ向から出て行って戦うわけにもいかないですし……」
侑「……うーん……」
それは確かにそうだ。
完全にパワーで負けている以上、大なり小なり奇襲を織り交ぜる必要はある。
かすみ「せめて、真姫先輩の居場所がわかればいいんですけど……」
侑「居場所……」
そこでふと、あることを思いつく。
侑「ねぇ、リナちゃん」
リナ『何?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「真姫さんの居場所を探せるレーダーとかってあったりしない? 相手の所がわかれば、少しは有利に立ち回れると思うんだ」
リナ『……さすがにレーダーはない。けど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
かすみ「けど?」
リナ『音さえあれば、エコーロケーションで、おおよその場所を探ることは出来るかも』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
かすみ「えこー……? なにそれ……?」
侑「音の響きで相手の位置を計算する方法……だよね?」
リナ『うん。反響定位ってやつ』 || ╹ ◡ ╹ ||
かすみ「リナ子ってそんなことも出来んの!? さすが高性能AI……」
侑「リナちゃん、お願いしてもいい? 出てきて、フィオネ」
「フィオ〜」
フィオネはまだ生まれたばかりでレベルも低いから……今回バトルで使うことはないと思ってたけど、
侑「フィオネ、“ちょうおんぱ”!」
「フィオ〜〜」
音を出すことなら、この子にも出来る。
リナ『エコーロケーション開始!』 || > ◡ < ||
🍅 🍅 🍅
真姫「……さて、どこに隠れたのかしらね」
キャットウォークの上を歩きながら、隠れられそうな場所をチェックする。
もちろん、その際は奇襲出来る死角を作らないように、ポケモンと一緒に視界をカバーし合う。
──予定では……もう少し早くバッジを奪いに現れると思ったんだけど……。
真姫「……気付いたのかしらね」
131 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:45:56.75 ID:B+X5AS2s0
もちろん、こんなものは相手を引き摺り出すための餌だ。
格上の攻撃を掻い潜りながら、トレーナーの懐に潜り込んで、バッジを奪うなんて現実的じゃない。
そのとき、ふと──耳に違和感を覚える。何か……高周波のような……。
真姫「……なるほど。そういうこと」
なかなか、面白い作戦で来るみたいね。
真姫「いいわ、相手してあげる──」
🎹 🎹 🎹
リナ『──測定中、ちょっと待ってね』 || > ◡ < ||
リナちゃんがエコーロケーションを行っているのを見守る中、私たちは次の動きの準備をする。
侑「場所がわかり次第動くよ、かすみちゃん」
かすみ「はい!」
いつでも飛び出せる準備をして、待っていたそのとき──キィィィィィィィ!!!!! と、金属をひっかくような不快音が、遠くから響いてくる。
侑「っ!!?」
かすみ「な、なんですか、この“いやなおと”……っ……!」
リナ『これは、まさに“いやなおと”と“きんぞくおん”……! こ、これじゃ、エコーロケーションが出来ない……!』 || × ᇫ × ||
まさか──
侑「こっちの作戦がバレた……!?」
私は一旦フィオネをボールに戻す。
侑「相手が動いてきた……! 一旦、隠れる場所を変えよう……!」
かすみ「は、はい」
が──直後、ゴゴゴゴッと地鳴りのような音が聞こえてくる。
かすみ「え!? な、何の音ですか!?」
侑「……!! 早く出よう!!」
何かヤバイと思い、かすみちゃんの手を取って走り出した直後──コンテナの出口から見える景色が回転を始めた。
侑「っ!?」
かすみ「わひゃぁっ!?」
いや、違う──回ってるのは……コンテナの方だ……!?
かすみ「じ、ジュカイン!! “グラスフィールド”っ!!」
「──カインッ!!!!」
132 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:46:34.04 ID:B+X5AS2s0
かすみちゃんは咄嗟にジュカインを出しながら“グラスフィールド”を指示し、一瞬でコンテナ内部に草が敷き詰められる。
──程なくして、回転は収まった。
かすみ「ゆ、侑先輩……! 無事ですか!?」
「テ、テブゥ…」「……サ」
侑「な、なんとか……」
「ブ、ブィィ…」「ウォーグ…」「ニャー」
リナ『リナちゃんボード「おめめ、ぐるぐる……」』 || @ ᇫ @ ||
コンテナが大回転していたせいで、あちこちに身体を打ち付けたけど、“グラスフィールド”のお陰でダメージには至らなかった。
急いで、コンテナから逃げ出そうとするが──ザンッ!! と音を立てながら、コンテナの壁が切り裂かれ、外の光が差し込んでくる。
その隙間から覗く赤い鎧──
「──キザン」
侑「キリキザン……!!」
恐らく、さっきの“きんぞくおん”はこのキリキザンの、“いやなおと”はニャイキングのものだ。
そして、キリキザンの後ろには、メタグロスの姿も見える。
──恐らくコンテナを吹っ飛ばしたのはメタグロスだろう。
侑「ウォーグル!!」
「ウォーーッ!!!」
こんな袋小路で戦うのは絶対に避けないといけない……!!
ウォーグルに指示を出し、かすみちゃんの腕を掴みながら、コンテナの外まで飛翔する──が、
「──デマルッ!!!」
侑「……!?」
コンテナから飛び出したウォーグルの上に──小さな何かが降ってきた。
真姫「──トゲデマル! “ほっぺすりすり”!」
「ゲデマー♪」
落ちてきたトゲデマルがウォーグルに頬ずりをすると──バチバチと、静電気のような音が鳴り、
「ウ、ウォォーー…ッ」
侑「うわぁ!?」
かすみ「え、ちょっ……!?」
飛翔しかけのウォーグルは一気に失速し──墜落した。
侑「つぅ……っ……!」
「ウ、ウォー…」
かすみ「こ、今度はなんですかぁ……!!」
急いで身を起こすと──ウォーグルが“まひ”して動けなくなっていた。
侑「一旦戻って、“ウォーグル”……!!」
「ウォー…──」
真姫「“びりびりちく──」
侑「ライボルト!!」
「ライボッ!!!」
133 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:47:07.68 ID:B+X5AS2s0
すぐさまライボルトをボールから出すと──
「ゲデマーー!!!?」
針をバチバチと鳴らしながら、トゲデマルがライボルトに引き寄せられてきた。
侑「“ほのおのキバ”!!」
「ライボッ!!!!」
ライボルトがキバに炎を滾らせながら、噛み付くが、
真姫「“ニードルガード”!!」
「ゲデマー!!!」
「ライボッ!!!?」
噛み付かれた瞬間、全身のトゲを伸ばしての反撃。
驚いたライボルトはトゲデマルを口から放してしまう。
「ラ、ライボ…」
侑「大丈夫だよ、ライボルト……!」
仕留めきることは出来なかったけど──ライボルトは、今フィールドに居ることに意味がある。
真姫「キリキザン、“メタルクロー”!!」
かすみ「ジュカイン、“リーフブレード”!!」
「キザンッ!!!!」
「カインッ!!!!」
斬りかかってくるキリキザンをジュカインが迎撃する。
2匹の刃がギィンッ!!と音を立てながら鍔迫り合う。
真姫「“ひらいしん”ね……。ライボルトが居る限り、トゲデマルのでんき技は使えない。……尤も、それはそっちも同じだけど」
リナ『侑さん、トゲデマルの特性も“ひらいしん”だよ……!』 ||;◐ ◡ ◐ ||
お互いのでんき技は“ひらいしん”のポケモンが居る限り引き寄せられてしまう。
いや、それはいいんだ……。
かすみ「ぎ、逆に見つかっちゃいましたよ、侑先輩……!」
見つかったというより──真姫さんはすでに私たちがいることがわかっていた。
メタグロスがコンテナを攻撃したことも、トゲデマルが降ってきたことも、真姫さんがすでに私たちがここにいると確信していたことを物語っている。
私たちのエコーロケーションを打ち消しながら、どうやって自分たちだけ──そこまで考えてハッとする。
侑「エコー……ロケーションだ……」
かすみ「え? そ、それはさっき失敗して……」
侑「違う……さっきの“いやなおと”と“きんぞくおん”で……真姫さんもエコーロケーションをしてたんだ……」
かすみ「えぇ……!?」
かすみちゃんの驚きの声と同時に──
「キザンッ!!!!」
「カインッ…ッ!!!」
134 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:48:05.76 ID:B+X5AS2s0
ジュカインがキリキザンとの鍔迫り合いに力負けして、後退る。
かすみ「ジュカイン!? 大丈夫!?」
「カインッ…!!」
致命傷にこそなっていないみたいだけど……。
「メタァ…!!!!」「キザン…!!!」「ニ゙ャァ゙ァ゙ァ」
メタグロス、キリキザン、ニャイキングに囲まれた……!
しかも、その3匹の背後には、
「ゲデマッ」
トゲデマルが構えている……。ライボルトがやられると、めでたく電撃による遠距離攻撃まで解禁されることになる。
ライボルトは死守しないと……。
真姫「エコーロケーション……なかなか面白いことするじゃない」
そんな中、真姫さんが話しかけてくる。
真姫「でもね、エコーロケーションが出来るのは自分たちだけだって思うのは……少し考えが甘かったわね」
かすみ「え……で、でも真姫先輩にはリナ子みたいなAIとかいないでしょ……!?」
侑「メタグロスだ……」
かすみ「え?」
侑「メタグロスは4つの脳でスーパーコンピューター並の計算が出来る……エコーロケーションで場所を探るなんて、わけない……」
真姫「正解。しかも、メタグロスは“クリアボディ”で“いやなおと”や“きんぞくおん”による能力低下もない。貴方たち以上に適性があるのはこっちだったみたいね」
完全に相手が上手だ……。
囲まれているし、気付けば後ろは壁だ……。
真姫「さぁ、どうする?」
ジリジリと間合いを詰めてくる真姫さん。
……こうなってしまったら、もうやるしかない……!
侑「ドロンチ!!」
「──ロンチ!!」
ドロンチはボールから飛び出すと同時に前方に飛び出し、
侑「“ワイドブレイカー”!!」
「ロンチッ!!!!」
大きく尻尾を振るって、
「キザンッ!!!」「ニ゙ャア゙ァッ!!?」「メタ…」
3匹のポケモンを薙ぎ払う。
“ワイドブレイカー”は強靭な尻尾で相手を振り払い、攻撃の手を止めさせる技だ。
しかも不意の攻撃だったため、キリキザンとニャイキングは、怯ませられたが、
「メタァッ…!!!!」
135 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:49:14.00 ID:B+X5AS2s0
この効果も“クリアボディ”のメタグロスには効かない。
──メタグロスが腕を振り上げた、その瞬間、
「……メタッ!!!?」
──メタグロスの足の一本が、床に沈み込んだ。
侑「え!?」
真姫「な……!?」
さすがに、これは真姫さんも予想外だったらしく、当惑の声をあげる。
かくいう私も驚いてしまったけど……。
今落ちたメタグロスの足元から──
「クマァ♪」
ジグザグマが顔を出し、やっと意味がわかった。
かすみ「よくやりましたよ!! ジグザグマ!!」
「クマァ〜♪」
かすみちゃんはいつの間にかジグザグマに“あなをほる”を指示して床下に忍ばせ──メタグロスの足元を掘らせていたんだ……!
かすみ「そのでかい図体じゃ、足元をちょっと掘りぬけば、自分の重さで落っこちるに決まってます!!」
相手の包囲網に──穴が出来た……!
逃げるなら今しかない……!!
侑「ライボルト!!」
「ライボッ!!!」
ライボルトが、私の合図で走り出す。私はその背に飛び乗る。
──直後、爆発的なスピードでライボルトが猛ダッシュし、身動きの取れないメタグロスの真横をすり抜ける。
かすみ「ジュカイン!! 逃げますよ!!」
「カインッ!!」
かすみちゃんも、ジュカインに抱きかかえられる形で──包囲網の穴を飛び出して行く。
が、
真姫「“じしん”!!」
「メッタァァ!!!!!!」
──床にはまった腕でメタグロスが、“じしん”を起こしてきた。
その大揺れによって、猛スピードで走っていたライボルトは、
「ライボッ!!!?」
侑「うわぁっ!!?」
バランスを崩してしまい、その拍子に私も放り出され、床を転がる。
リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||
かすみ「侑先輩!?」
136 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:49:49.33 ID:B+X5AS2s0
リナちゃんとかすみちゃんが、私に近寄ってくる。
侑「だ、大丈夫……ちょっと擦りむいたくらいだから……!」
リナ『ほ……っ』 || >ᆷ< ||
かすみ「ちょっとぉ!! 味方巻き込んでまで、逃がさないために“じしん”とかしますか!?」
──かすみちゃんの言うとおり、“じしん”は味方も巻き込む技だ。
その証拠に、
「ニ゙ャア゙ァ…!!」
「キザンッ…!!!」
ニャイキングとキリキザンは、バランスを崩して手をついていた。
もちろん、すぐに立ち上がったけど──きっとあの至近距離だ。“じしん”によるダメージは少なからずあったはずだ。
ちなみにトゲデマルは“ニードルガード”で丸まって防いでいる。
真姫「逃がすくらいなら、ここで味方を巻き込んででも止めた方が早いと思っただけよ」
かすみ「ぐぬぬ……」
かすみちゃんは不満そうな目で睨みつけているけど……真姫さんの判断は間違っていない。
「…ライボ」
お陰でじめんタイプが弱点のライボルトは満身創痍。
侑「ライボルト、ボールに戻って……!」
「ライボ──」
戦闘不能はギリギリ免れたけど……この状態で私を乗せて走り回るのは恐らく無理……。
つまり、逃げるための足を失ってしまった状態だ。
真姫「これで……チェックかしらね」
かすみ「ジュカイン……!!」
「カインッ!!!」
ジュカインが刃を構えながら、身を屈める。そのとき、ふと──上の方の窓から、僅かに光が差していることに気付く。
真姫「最後の一撃かしら?」
かすみ「……」
かすみちゃんは恐らく──“ソーラーブレード”の太陽エネルギーを集めている。
真姫さんは……まだ、気付いてない……。
なら、気付かれないように、私が時間を稼ぐ……!!
侑「ドロンチ!! “りゅうのはどう”!!」
「ローーンチッ!!!!!!」
ドロンチが“りゅうのはどう”をキリキザンに放つ。
キリキザンは──
「キザンッ!!!!」
137 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:51:11.62 ID:B+X5AS2s0
真っ向から刃で“りゅうのはどう”を斬り伏せる。
キリキザンが受け止めている中、
「ニ゙ャア゙゙ア゙ァァァァ!!!!」
ニャイキングがこちらに向かって飛び出してくる。
侑「ニャスパー!! パワー最大!! “サイコキネシス”!!」
「ウーーーニャァァァァ」
耳を真っすぐ立てて──ニャスパーがサイコパワーを前方に向かって放つと、
「ニ゙ャア゙゙ア゙ァァァ…!!!!」
ニャイキングがそのエネルギーに押されて吹っ飛びそうになる──が、ニャイキングは自分の爪を床に突き刺して耐える。
耐えられてしまっているだけど──これくらい時間を稼げば十分だ……!
かすみ「……ジュカインっ!!」
「──カインッ!!!!」
ジュカインの腕が光り輝く。
──“ソーラーブレード”のチャージが完了した。
反撃の狼煙を上げるために、ジュカインが腕を振り上げようとした瞬間、
真姫「──“ソーラーブレード”のチャージをしてること……私が気付いてないと思ったの?」
物陰から、ジュカインに向かって一直線に──青白いビームが飛んできた。
かすみ「!?」
そのビームが直撃した、ジュカインは──“ソーラーブレード”を構えたまま……凍り付いていた。
かすみ「う、うそ……」
侑「“れいとう……ビーム”……?」
真姫「……ええ、そのとおりよ」
真姫さんの言葉と共に──工場内の機械の物陰から、
「エンペ…」
エンペルトが顔を出した。
真姫「……チェックメイトよ」
かすみ「…………」
かすみちゃんがぺたんと……その場にへたり込む。
かすみちゃんの絶対的エースの必殺技を──封殺された。
真姫「それが最後の望みだったんでしょ? それが不発に終わった今……貴方たちはもう終わりよ。降参しなさい」
138 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:51:59.69 ID:B+X5AS2s0
相手は……私たちの心を折りに来ていた。
考えてみればこのバトル──私たちの敗北条件は私たちトレーナーが戦闘続行が出来なくなることだ。
でもそれは裏を返せば、1匹でもポケモンを残して諦めずに逃げ回れば、いつまで経っても戦闘は終わらないという意味でもある。
だから、真姫さんは……最初から心を折ることで、諦めさせることで勝利しようとしていた。
いや、バトルの中だけの話じゃない──そうしないと、私たちは歩夢たちを助けることを諦めたりしないってわかってるから。
侑「…………」
ダメ……なのかな……。……私たちじゃ……やっぱり、届かない……。
そう思い、諦めかけた、そのとき──
かすみ「──ヤブクロン」
「ブクロン」
かすみちゃんがヤブクロンをボールから出した。
かすみ「“どくガス”!!」
「ブクローー!!!!」
ヤブクロンは一気に“どくガス”を吐き出し── 一気に周囲に充満していく。
真姫「“どくガス”……? はがねタイプには効かないわよ」
かすみ「ありったけの“どくガス”吐き出して……!! げほっ……!! 今体内にある毒全部使っていいから……!! げほっ、ごほっ……!!」
かすみちゃんはヤブクロンに指示を出しながら、口元にハンカチを当て、咳き込んでいる。
侑「かすみちゃん……!? 何を……ごほっ、げほっ!!」
かすみ「侑先輩……げほっ、げほっ……!! あんま、喋っちゃ、げほっ! ダメです……! “どくガス”、吸い込んじゃいます……げほっ……!!」
真姫「まさか……捨て身の“どくガス”でトレーナーを気絶させるつもり……!?」
真姫さんもハンカチを取り出して、口元を覆う。
かすみ「さぁ……根比べですよ……!! げほっ、げほっ……!!」
真姫「……ここまで、馬鹿な子だと思わなかった……!! キリキザン!! ニャイキング!!」
「キザンッ!!!」「ニ゙ャァ゙ァ!!!」
キリキザンとニャイキングがヤブクロンを止めようと飛び出してくる。
かすみ「サニーゴ!! キリキザンに“かなしばり”!! げほっ……! テブ、リムッ!! ニャイキングに“サイコショック”……!! ごほっごほっ!!」
「サ……」「テブ…ッ!!!」
「キザンッ!!!?」「ニ゙ャァ゙ァ…!!?」
キリキザンをその場で縛り付け、ニャイキングを牽制する。
かすみ「どう、したんです、か……げほっげほっ……指示が雑に、なってます、よ……!! げほっごほっ!!」
真姫「っ……こんな馬鹿なこと、げほっ……! 今すぐ、やめなさい……っ!! こんなことしても、貴方たちは、勝てない……げほっ……!」
かすみ「いーや……!! これは、げほっげほっ……! 勝ちへの、一歩です……っ……げほっ……!」
気付けば周囲には完全に“どくガス”が充満しきり、あまりの濃度のせいか、霧がかって見えるほどだ。
かすみ「げほっ、げほげほっごほっ……!!」
侑「かすみちゃん……っ……!! もう、やめよう……!! このままじゃ、かすみちゃんが……っ……げほっげほっ……」
139 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:52:49.19 ID:B+X5AS2s0
私がかすみちゃんの肩を掴みながら制止すると──
かすみ「──侑先輩、かすみんが合図したら、ニャスパー抱えて、後ろに猛ダッシュしてください」
かすみちゃんは私にだけ聞こえる声量で、そう伝えてきた。
侑「……!」
かすみちゃんの横顔から見た瞳は──まだ死んでいなかった。
かすみちゃんには──何か策があるんだ。
リナ『ゆ、侑さん……侑さんのポケモンも、かすみちゃんのポケモンも、みんな“どく”状態になっちゃった……侑さんたちも、このままじゃ……』 || 𝅝• _ • ||
侑「大丈夫……」
リナ『侑さん……?』 || 𝅝• _ • ||
侑「私は……かすみちゃんを……信じる……っ……ニャスパー、おいで……!」
「ニャァ…」
私は言われたとおり、ニャスパーをすぐに抱えられる位置まで呼び戻す。
かすみ「さっすが……かすみんの大好きな侑先輩、です……っ……!」
かすみちゃんはそう言うと同時に──口元からハンカチを外して、
かすみ「テブリムッ!! サニーゴに向かって、“ぶんまわす”!!」
そう指示を出した。
真姫「はぁ!?」
「テーーブッ!!!!」
「……サ」
テブリムが頭の房をぶん回して──サニーゴを敵の方に向かって、殴り飛ばした。
そして、それと同時に──
「ヤブッ!!!!」
ヤブクロンも敵陣に向かって走り出す。
かすみ「侑先輩!! 今です!!」
侑「う、うん!! イーブイ!! 私から離れないでね!!」
「ブイィ…」
侑「行くよ、ニャスパー!!」
「ニャァ…」
私はニャスパーを抱きかかえて、後ろに向かって走り出す。
真姫「な、なに!?」
かすみ「“どくガス”で根比べ? そんなことしませんよ……!! 今からするのは──ドッキリ爆発大脱出です……!」
真姫「……!? ま、まさか……!?」
かすみ「テブリム!!! 着火ぁっ!!!」
「テーーーブッ!!!!!」
テブリムが“マジカルフレイム”を飛ばすのと同時に──敵陣のど真ん中に飛び込んだ、サニーゴとヤブクロンがカッと光る。
140 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:53:23.11 ID:B+X5AS2s0
かすみ「“じばく”!!」
真姫「……!!」
テブリムの出した炎が大量の“どくガス”に引火し、さらに2匹の“じばく”を合わせ──とんでもない威力の大爆発へと昇華する。
至近距離で起こった爆発の衝撃波が、爆音と一緒に屋内を劈きながら周囲の工場機械を吹っ飛ばし、爆炎をまき散らして、膨れ上がっていく。
侑「わぁっ!!?」
「イブイッ…!!!」
リナ『わあぁぁぁぁ!!?』 || ? ᆷ ! ||
私もその爆風で身体が浮き上がり、吹っ飛んでいく。
そんな中で、
かすみ「ゆうせんぱあぁぁぁぁぁいっ!!!!」
かすみちゃんも爆風によって、吹き飛んでくる。
かすみ「フィオネとぉーー!!!! ニャスパーーーー!!!!」
侑「!!」
私は空中でフィオネのボールの開閉ボタンを押し込む。
「フィオーー!!」
侑「フィオネ!! “みずでっぽう”!!」
「フィオーー」
フィオネが口から水を噴き出し、
侑「ニャスパー!! “テレキネシス”!!」
「ニャァーー!!!」
ニャスパーが私たちと──フィオネの出した水を浮き上がらせる。
かすみ「テブリムっ!! “サイコキネシス”!!」
「テブッ!!!」
そして、かすみちゃんと一緒に飛んできたテブリムが──浮かせた水の塊を球状に整形していく。
侑「かすみちゃん……!!」
かすみ「侑先輩……!!」
私は空中でかすみちゃんに手を伸ばして──掴んだ。
そのまま、どうにか手繰り寄せて── 一緒に水球の中に、ザブンと飛び込んだ。
──程なくして、私たちは爆風に煽られながら──水球と共に落下していった。
141 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:53:56.96 ID:B+X5AS2s0
🍅 🍅 🍅
真姫「──……はぁ……はぁ……!」
「エンペ…!!」
真姫「ありがとう……エンペルト……」
「エンペ…」
あのとんでもない爆炎の中、エンペルトの“みずのはどう”と、メタグロスが最後の力を振り絞って、盾になってくれた。
真姫「“どくガス”をめいっぱい充満させて……ほのお技で着火……。その炎を2匹の“じばく”でさらに大規模な爆発に……意味わかんない……あの、かすみって子……おかしいんじゃないの……」
お陰で建物は半壊し、壁や天井は吹き飛んで、太陽の光が降り注いでいる。
至近距離で爆炎を食らった、ニャイキング、キリキザン、トゲデマルも戦闘不能だ。
皮肉なことに……氷漬けにしたジュカインは凍ったまま、そこらへんに転がっていた。あの爆炎の中、溶けもしないなんて、私の最初のパートナーの技がいかに強力なのかを実感するばかりだ。
そしてそんなエンペルトが自己判断で、瞬時に消火を行ってくれたからよかったけど……強力なみずポケモンがいなかったら、危うく大惨事になるところだった。
真姫「……ジム戦なのに、死人が出てもおかしくないわよ……?」
──いや……。
あの子たちは……友達を助けるために、命を懸けている……そういう意志の表れなのかもしれない。
真姫「……いいわ……やってやろうじゃない……」
私は6匹目のボールを放る。
「──ハッサムッ!!!」
真姫「ハッサム……メガシンカよ!」
「ハッサムッ!!!」
ハッサムが眩い光に包まれ──丸みを帯びていた体のパーツが直線的になり、両腕のハサミは複数のトゲを持つ巨大なものになる。
真姫「ハッサム、エンペルト……あの子たちに、見せてやるわよ……ジムリーダーの本気を……!!」
「ハッサムッ!!!」「エンペ!!!」
🎹 🎹 🎹
侑「はぁ……はぁ……」
かすみ「はぁ……はぁ……し……死ぬかと……思いました……げほっげほっ……」
侑「ホント……無茶、するよ……ごほっ……」
リナ『二人とも……毒が……』 || 𝅝• _ • ||
かすみ「大丈夫です……そんなに吸い込んでない、つもりです……ごほっごほっ……」
確かに咳き込みはするけど、とりあえず今のところ、意識には問題がない。
かすみ「まだ……戦えます……!」
侑「うん……! けほっけほっ……」
リナ『でも、二人の手持ち……状態異常だらけ……』 || 𝅝• _ • ||
142 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:54:32.32 ID:B+X5AS2s0
リナちゃんの言うとおり、手持ちはボロボロの状態だ。
イーブイ、ドロンチ、フィオネ、ニャスパー、テブリムが“どく”状態。
ウォーグルは“まひ”していて……。
ヤブクロン、サニーゴは戦闘不能。ライボルトは戦闘不能寸前……。
あと……ジグザグマは……。
キョロキョロと辺りを見回していると──もこっと床が盛り上がり、
「クマァ♪」
ジグザグマが顔を出す。
かすみ「ジグザグマ……! 咄嗟に潜って逃げたんですね……偉いですよ〜……!」
「クマァ…♪」
地面の中にいたからか、“どくガス”も吸っていない様子だった。
侑「となると……無傷なのは、かすみちゃんのジグザグマとゾロア……」
かすみ「ですね……ジュカインは、どうなったかわかりませんけど……凍ったままか……。……むしろ氷が溶けてたら、戦闘不能かもしれませんね……」
侑「そうだね……」
かすみちゃんの機転というか……無茶無謀のお陰で、どうにかあの場を切り抜けることは出来たけど……まだ、真姫さんは切り札を出していない。
それに脱出出来たというだけで、こっちは手持ちがほぼ満身創痍……。
かすみ「テブリム、“いのちのしずく”」
「テブー」
テブリムが周りのポケモンたちに不思議な水を振り撒く。
かすみ「これで気持ち回復したと思います!」
侑「うん……ありがとう」
本当に気持ちだけど……。“どく”状態は継続しているし、テブリム含めて倒れるのも時間の問題だ。
そんな中、
かすみ「“マジカルシャイン”」
「テブ」
ぽわ〜と控えめな“マジカルシャイン”がテブリムの頭の上で光る。
侑「かすみちゃん……? どうしたの急に……」
かすみ「なんかフェアリーの光って可愛いじゃないですか〜。侑先輩も〜かすみんの可愛さでポケモンたちと一緒に癒されてください〜♪」
侑「あはは♪ ありがとう、かすみちゃん♪」
確かに、フェアリータイプの光は優しい感じがして気分が落ち着く。
なんというか……こういうときに癒しを意識するのはかすみちゃんらしい配慮かもしれない。
お陰で、少し肩の力が抜けた気がした。
「ブイ」
イーブイもじーっと光を見つめている。
143 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:55:05.26 ID:B+X5AS2s0
侑「イーブイもこの光、好き?」
「ブイ」
かすみ「ふっふ〜ん♪ 可愛い大先生のかすみんならではの癒しですね!」
リナ『その調子で本当に回復出来たらいいのに』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「あはは……」
さて……休憩もそこそこにしないと……ゆっくりしている場合じゃないんだ。
真姫さんもじきに私たちを追ってくるだろう。
侑「かすみちゃん、行こう……!」
かすみ「はい……! ここまでやったんです! 絶対勝ちますよ!」
侑「うん!」
私たちが立ち上がり、真姫さんがいるであろう方向へと歩き出すと、ポケモンたちもぞろぞろと付いてくる。
「ロンチ」「ニャー」「フィオ」「テブリ!!」「クマァ♪」
侑「……あれ? イーブイは?」
キョロキョロと見回すと──
「ブイ」
イーブイは未だに、テブリムの出した“マジカルシャイン”を見つめていた。
もう徐々に光が弱まり……線香花火の最後みたいになってるけど。
侑「イーブイ、行くよ?」
「ブイ」
でも、イーブイは振り向かない。
侑「イーブイ……?」
あろうことはイーブイは──
「ブイ」
パクリと、“マジカルシャイン”の残り火を──食べた。
侑「え!?」
それと同時に──
「ブーーーィィ♪」
イーブイの目の前にパステルカラーの旋風が発生した。
かすみ「……!? え、なんですかなんですか……!?」
侑「わ、わかんない……」
その旋風は──周囲に光る花びらを舞い踊らせ、一気に廃工場の中がファンシーな雰囲気に包まれる。
それと同時に──
144 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:55:38.77 ID:B+X5AS2s0
侑「……あ、あれ……?」
かすみ「……息苦しさが……なくなった……?」
毒が回って息苦しかったはずなのに──急に呼吸が楽になった。
それだけでなく、
「ロンチ〜」「ニャ〜」「フィオ〜♪」「テブリ?」
ポケモンたちの鳴き声も元気なものに戻っていた。
かすみ「い、一体さっきのは……?」
侑「……まさか」
私がリナちゃんの方を見ると、
リナ『……“相棒わざ”……まさか、“マジカルシャイン”を食べたことが原因で覚えるなんて……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
リナちゃんも驚いていた。
侑「……状態異常を回復する、“相棒わざ”……?」
リナ『うん! “相棒わざ”、“きらきらストーム”だよ! フェアリータイプのエネルギーにイーブイが適応したみたい!』 || > ◡ < ||
かすみ「新技ってことですか!?」
侑「うん……! かすみちゃんのお陰だよ!」
かすみ「え、えへへ〜……♪ かすみんとテブリムの可愛いパワー、イーブイにも伝わっちゃったんですかね〜♪」
「ブイ♪」
かすみちゃんは嬉しそうにイーブイを抱きしめるとイーブイも嬉しそうに返事をする。
もしかしたら──本当にかすみちゃんたちの可愛いが届いて、イーブイが新しい技に目覚めたのかもしれない。
そんな風に思えてしまうくらい、私たちにとって、このタイミングで本当に欲しかった技を覚えてくれた。
かすみ「侑先輩……! かすみん、ちょっと良い作戦思いついちゃいましたよ!」
侑「私も……! この戦い……勝てるかもしれない……!」
かすみ「えへへ……見えてきましたね、勝利への道が!」
侑「うん!」
私たちは決戦に向けて、最後の作戦会議を始めた。
🍅 🍅 🍅
「──ハッサムッ!!!!」
──ガシャンッ!! と音を立てながら、ハッサムが工場の機械を破壊して道を作る。
真姫「……ここにもいない」
工場の地図は頭の中に入っている。ハッサムで隠れられそうな場所を適宜破壊しながら進んでいるから、そろそろ隠れる場所もなくなってきたはず……。
145 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:56:13.31 ID:B+X5AS2s0
真姫「次会ったときが最後よ……」
また一つ──ガシャンッ! と機械を大きなハサミで殴り飛ばしながら、視界を確保すると──前方に人影が見えた。
真姫「……見つけた」
特徴的なアシンメントリーのショートボブ──かすみだ。
かすみ「……!」
かすみは私に気付くと、たたたっと走り出す。
真姫「ポケモンも出さずに余裕ね? 偵察ってわけ? エンペルト、“ハイドロポンプ”!!」
「エンペーーーッ!!!!」
エンペルトが激流を発射し、かすみを狙うが、
かすみ「……!!」
かすみはピョンと跳ねて、攻撃を回避しながら、ベルトコンベアの上に乗り、隣の部屋に繋がる穴へと走り出す。
真姫「ちょこまかと……!」
でも、あの先は──ドアが崩れていて、出入り口があのベルトコンベアの運搬口しかない。
かすみ「…………!!」
必死に逃げるかすみが、穴に滑り込んでいくのを見て、かすみが脱落したことを悟る。
真姫「まさに、袋のネズミね……」
かすみが逃げ込んだ穴の前に立ち、
真姫「観念しなさい。もう逃げ場はないわよ」
声を掛ける。
真姫「降参するなら、これ以上攻撃しないけど……まあ、降参なんてしないわよね。ハッサム! “つるぎのまい”!!」
「ハッサムッ!!!」
ハッサムが攻撃力を上げる舞を踊る。
ただでさえ、メガシンカしてパワーが上がっている中でさらに強化された攻撃で一気に両断する──
真姫「“シザー──」
指示と共に、ハッサムがハサミを振りかぶった瞬間──
かすみ「──“しっとのほのお”!!」
真姫「……!?」
かすみの指示の声と共に──穴から炎が溢れ出してくる。
「エンペーーーッ!!!!」
146 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 12:58:18.44 ID:B+X5AS2s0
エンペルトが咄嗟に“ハイドロポンプ”で消火したため、ダメージは全くないが──問題はそこじゃない。
問題は、かすみの声が聞こえてきた方向だ。かすみの声は──上から聞こえてきた。
直後、
「──ウォーーーーーーッ!!!!!!!」
「エンペッ!!!?」
真姫「なっ……!?」
エンペルトの真上にウォーグルが強襲してきた。
侑「──ウォーグル!! “フリーフォール”!!」
「ウォーーーーーッ!!!!!」
そして、上から侑の声。
それと同時に、
「エンペッ!!!!?」
エンペルトが上空に連れ去られる。
それと同時に、声がしてきた方に顔を向けると──キャットウォークを走りながら、侑がウォーグルに指示を出しているのが目に入る。
なんで、ウォーグルが……!? “まひ”していたんじゃ……!?
真姫「……く、ハッサム!!」
いや、ウォーグルが回復している理由を考えている場合じゃない……!
ハッサムは遠距離技は得意じゃないけど……このまま、エンペルトを連れ去られるわけにはいかない……!!
ハッサムに技の姿勢を取らせようとした瞬間、
かすみ?「…ニシシ」
かすみが、さっき逃げ込んだベルトコンベアの穴から顔を出し、
かすみ「──“ナイトバースト”!!」
かすみ?「ガーーゥゥッ!!!!!」
真姫「!?」
黒いオーラを放ってきた──
「ハッサムッ!!!」
ハッサムが咄嗟に私を庇うように前に出て、オーラを切り裂くが──
真姫「まさか、下にいるのは、かすみじゃない……!?」
かすみ「今更気付いても遅いですよ!! ジュカイン!!」
「──カインッ!!!」
真姫「ジュカイン!?」
さっき凍って転がっているのを確認したはずのジュカインが──腕に光を蓄えながら、頭上のキャットウォークを踏み切ったところだった。
147 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 13:01:30.28 ID:B+X5AS2s0
侑「かすみちゃん、お願い!!」
かすみ「任せてください!!」
「ウォーーーーッ!!!!!」
「エンペッ!!!?」
ウォーグルが上空で、持ち上げたエンペルトを放す──そして、それに合わせて横向きに薙がれる、特大の光の剣。
かすみ「“ソーラーブレード”!!」
「ジュカイィンッ!!!!!」
「エン、ペェッ…!!!!!!」
特大の陽光剣はエンペルトを斬り裂きながら、工場の壁に叩きつけた。
真姫「エンペルト……!!」
完全にクリーンヒット。強烈な攻撃を防御出来ない体勢で貰ったエンペルトは、
「エン、ペ…」
気絶して、床に墜落した。
真姫「……」
そして、気付けば、私とハッサムは──
「テブリッ!!!」「ガゥガゥッ!!!!」「カインッ!!!!」
「ウニャァ〜」「ロンチィ…」「イブイッ」
侑とかすみのポケモンに囲まれていた。
🎹 🎹 🎹
かすみ「さぁ、もう逃げられませんよ……!」
侑「形勢、逆転です……!」
「ウォーーーッ!!!!」
かすみちゃんと一緒に、ウォーグルの足に掴まって、真姫さんとメガハッサムがいる1階へと降り立つ。
真姫「……ふふ、一体どんなトリックを使ったのかしら……」
真姫さんは呆れているのか、感心しているのか……含むように笑う。
──私たちが取った作戦はこうだ。
まず、“イリュージョン”でかすみちゃんの姿になったゾロアが、真姫さんの注意を引く。
その隙に、“きらきらストーム”で“まひ”を回復したウォーグルで天井スレスレを飛び、ジュカインの場所へ。
氷漬けだったジュカインの“こおり”状態も回復して──大技“ソーラーブレード”でエンペルトを仕留める。
真姫さんからしたら、動けなくしたはずのポケモンたちからの不意打ち。
真姫さんも完璧に意識の外からの攻撃に対応しきれず、エンペルトを撃破することが出来た。
そして、エンペルトを倒しきれば──あとは真姫さんの切り札、メガハッサムだけだ……!
148 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 13:03:11.01 ID:B+X5AS2s0
かすみ「いくら真姫先輩が強いって言っても……7対1で勝てますか!?」
真姫「確かに貴方たちの戦い方には驚かされるわ……でも」
真姫さんは肩を竦めながら言う。……が、真姫さんの目は追い詰められている側どころか、
真姫「たかが7匹で──私の切り札を倒せると思ってるの?」
まだ狩る側の目をしていた。
真姫「──“バレットパンチ”!!」
「サムッ!!!!」
「ガゥッ!!!?」
侑「!?」
かすみ「はやっ!!?」
一瞬で、弾丸のようなパンチが、ゾロアを殴り飛ばす──
侑「ドロンチ!! “かえんほうしゃ”!!」
「ローーーンチィィィ!!!!!」
相手が動き出す前に、ドロンチが“かえんほうしゃ”を噴き出す。
メガハッサムははがね・むしタイプ……! 当たれば間違いなく大きなダメージなる……!
が、
真姫「“きりばらい”!!」
「ハッサムッ!!!!」
メガハッサムが翼を高速で羽ばたかせると──それによって巻き起こった風で、“かえんほうしゃ”を霧のように吹き飛ばす。
リナ『“きりばらい”で炎をかき消した!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「う、嘘でしょ!?」
かすみ「なら……!! これなら、どうですか!!」
「──テブリッ!!!!」
跳躍したテブリムが頭の房を、組むようにして合わせ、
かすみ「“ぶんまわす”!!」
「テブリィッ!!!!」
身体を縦回転させながら──ゴォンッ!! と音を立てながら、ハッサムの脳天に叩きつけた。
「…ハッサムッ」
が、ハッサムまるで意にも介しておらず。
ハサミでテブリムを掴んで──乱暴に床に叩きつけた。
「テブ…リィッ…!!」
かすみ「テブリム……!!」
侑「く……! ニャスパー!! パワー全開!!」
「ウニャァッ」
ニャスパーが耳を開けて、サイコパワーを叩きつけようとした瞬間、
149 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 13:03:48.67 ID:B+X5AS2s0
真姫「“しんくうは”!!」
「ハッサムッ!!!」
ハッサムの腕が見えなくなるようなスピードで振られ──
「ニャッ!!?」
次の瞬間には、ニャスパーが吹っ飛ばされていた。
侑「ニャスパー!?」
真姫「……パワーも耐久もスピードも……足りてないわ」
侑「く……っ……ウォーグル!! “ばかぢから”!!」
「ウォーーーッ!!!!」
かすみ「ジュカイン!! “リーフブレード”!!」
「カインッ!!!!」
ウォーグルが上空から頭部を、ジュカインが地上を滑るようにして刃を構えながら腰部を狙うが、
「──ハッサムッ!!!!」
ハッサムの大きな両腕のハサミでウォーグルとジュカインをそれぞれ掴み、
真姫「“カウンター”!!」
「ハッサムッ!!!!」
「ウォーーッ!!!?」
「カインッ!!!?」
2匹の勢いを使って、そのまま床に叩きつけた。
そして、地に伏せった2匹に向かって、
真姫「“バレットパンチ”!!」
「ハッサムッ!!!!!」
弾丸のような拳を連打してくる。
侑「う、ウォーグル!!」
かすみ「ジュカインっ!?」
「ウ、ウォーー…」
「カインッ…」
倒れるウォーグルとジュカイン。直後、メガハッサムの背後で──ユラリと影が現れた。
「──ロンチィ!!!!」
真姫「……“つじぎり”!」
「サムッ!!!!」
「ロ、ン…ッ!!?」
侑「……!」
真姫「……どさくさに紛れて“ゴーストダイブ”していたの……気付いてたわよ」
侑「……っ……」
“ゴーストダイブ”による奇襲もあっさり看破され、ドロンチが崩れ落ちる。
気付けば、7匹いたはずの私たちの手持ちは──あっという間にイーブイだけになってしまった。
150 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 13:04:31.44 ID:B+X5AS2s0
侑「つ、強い……」
かすみ「というか、強すぎますよ……!?」
真姫「いいえ……むしろ、本気の私を……よく最後の1匹まで追い詰めたと思うわ。本当にすごい」
真姫さんは私とかすみちゃんの顔を順に見ながら言う。
真姫「ただ、貴方たちの敗因は……エンペルトを倒した時点で、もう一度逃げなかったことよ」
侑「…………」
かすみ「ぐ、ぬぬぬ……さすがに7匹いればいけると思ったのに……」
真姫「追い詰めた側って言うのは……肝心なところで詰めを誤るものよ」
かすみ「じゃあ、その言葉……そっくりそのまま、お返ししますよ!!」
かすみちゃんの声と共に──
「クマァッ!!!!」
メガハッサムの足元から、“あなをほる”でジグザグマが飛び出す。
「フィオ〜!!」
そして、その尻尾にはフィオネがしがみついていた。
ジグザグマが掘り進んだ穴を一緒に進み──地面をこれでもかと湿らせて、泥にした……!
かすみ「“マッドショット”っ!!」
「クーーマァァッ!!!!」
地面の中から、メガハッサムに泥を浴びせかける。
“マッドショット”はメガハッサムに纏わりつき──動きを鈍らせる。
そこに向かって、
侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
「ブゥゥゥーーーイィッ!!!!!」
全身に炎を纏ったイーブイの攻撃が──直撃した。
かすみ「へっへーん! どうですか!」
侑「……これなら……!」
真姫「……確かに……真っ向からハッサムを倒すなら、強力なほのおタイプの技を直撃させる。正しい判断よ。セオリー通りで私好みな詰め方。……だけどね──」
「──ハッサムッ!!!」
ハッサムはハサミを盾のようにして、燃え盛るイーブイの体を受け止めていた。
侑「……う、うそ……」
かすみ「倒れて……ない……?」
真姫「……残念だけど、レベルが違いすぎるわ」
そしてハッサムはそのまま、大きなハサミを乱暴に振り回し始め──
真姫「“ぶんまわす”は……こうやって使うのよ」
「──ハッサムッ!!!!!」
「ブイィッ…!!!」「ク、クマァッ!!!?」「フ、フィォォ…!!!」
151 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 13:06:03.11 ID:B+X5AS2s0
私たちのポケモンを圧倒する。
かすみ「……じ、ジグザグマ……」
真姫「……勝負、あったわね」
侑「……まだです」
「ブ、ブィィ…」
満身創痍のイーブイが立ち上がる。
真姫「……大したガッツね」
「ハッサムッ!!!!」
メガハッサムがトドメのために腕を引いた瞬間──
「──ライボォッ!!!!!」
メガハッサムの背後から、ライボルトが猛スピードで“ワイルドボルト”を炸裂させた。
「ッサムッ…!!!」
真姫「……!」
そして、攻撃がインパクトした瞬間に──
侑「“びりびりエレキ”!!」
「ブーーーーィィィッ!!!!!」
イーブイが“びりびりエレキ”を放つ。
もちろん、放たれた電撃は──ライボルトの“ひらいしん”に吸い寄せられる。
背後から突進しているライボルトとイーブイの間には──メガハッサムがいる!!
位置関係的に、絶対に避けられない──必中の雷撃!!
「ハ、ッサムッ!!!!!」
──バチバチと音を立てながら、稲妻が迸り、メガハッサムはさすがに耐えきれず──
「──ハ、ッサムッ!!!!!」
侑「!?」
ハッサムは翼を高速で振動させ、
「ライボッ!!!?」
ライボルトを弾き飛ばした。
侑「ライボルト!?」
「ラ、ライボッ…!!!」
ライボルトはすぐに受け身を取って立ち上がる。
あくまで咄嗟に追い払うためのものだったのか、ダメージこそほとんどなかったが──
152 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 13:06:37.75 ID:B+X5AS2s0
かすみ「まだ、耐えるんですか!?」
侑「……っ……! ライボルト、こっちに!!」
「ライボッ!!!」
ライボルトは、脚の筋肉を電気で刺激し、稲妻のような速度で真姫さんたちの周りを迂回しながら、私のもとへと戻ってくる。
真姫「奇襲に奇襲を重ねて……最後の最後に、さらに奇襲を残していたってわけね……まさか、手負いのライボルトを最後の手段に残しておくのは予想出来なかったわ」
侑「…………」
真姫「でも、もうさすがにネタ切れでしょう?」
「ハッサムッ…!!!」
ハッサムがハサミを構える。
真姫「ハッサム、“バレット──」
かすみ「ストーーーーップッ!!!」
かすみちゃんが大きな声を出して、真姫さんを制止した。
真姫「……」
かすみ「……試合は……ここまでです」
真姫「……降参ってことね。わかった」
真姫さんが、やっとか……と言った表情をする。
でも、かすみちゃんはニヤッと笑って。
かすみ「……まさか……──かすみんたちの、勝ちですよ」
そう言い放った。
真姫「……はぁ?」
真姫さんが怪訝な顔をする。
かすみ「ね、侑先輩!」
侑「うん」
私はかすみちゃんの言葉に頷きながら──傍らのライボルトの口元に手を寄せると、ライボルトの口から──小さな2つのソレが、チャリ……と音を立てながら、私の手の平の上に乗せられた。
何を隠そうそれは──“クラウンバッジ”だった。
真姫「……!?」
真姫さんは驚いた顔をしながら、焦って自分の上着をめくると──上着の裏側には、赤い破片が突き刺さっていた。
真姫「な……!?」
侑「このルール、私たちの勝利条件は、真姫さんを戦闘不能にするか──“クラウンバッジ”を奪うことでしたよね」
真姫「…………嘘……?」
真姫さんは心底何が起こったのか理解できていない顔をしていた。
153 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 13:07:13.67 ID:B+X5AS2s0
かすみ「その赤い破片はですね、この工場のあちこちに落ちてた、壊れたモンスターボールの破片です! ジグザグマが“ものひろい”で拾ってきたんですよ!」
侑「そして、その欠片をライボルトに持たせて……物陰に潜ませていました。……真姫さんに接近出来る機会をずっと待ちながら」
真姫「……まさか…………“すりかえ”……?」
侑「はい」
そう、ライボルトが最後に背後から攻撃したのは──メガハッサムを倒すためじゃない。
真姫さんのすぐ真横を通るためだ。
至近距離まで近付けば──“すりかえ”で奪うことが出来ると思ったから。
侑「ライボルトが、真姫さんを横切る瞬間に──“すりかえ”ました」
真姫「……………………」
真姫さんはしばらく絶句していたけど……。
真姫「…………私の負けよ。完敗」
そう言いながら、ハッサムをボールに戻した。
その動作が、言葉が、完全に試合が終わったことを意味していた。
侑「……か……勝った……」
私は力が抜けて、尻餅をつく。
隣を見ると、
かすみ「ど……どうにか、勝てたぁ……」
かすみちゃんも力が抜けてしまったのか、私と同じようにへたり込んでいた。
リナ『侑さん!! かすみちゃん!! すごい!! ホントに勝っちゃうなんて!!』 ||,,> 𝅎 <,,||
侑「あはは……ホントにね……」
かすみ「むー……絶対勝つって最初に約束してたじゃないですかー……。かすみんはずーーーーっと勝てるって思ってましたもんね!」
かすみちゃんがぷくーっと頬を膨らませる。
そんな私たちのもとへ、
真姫「……貴方たちの覚悟、見せてもらったわ」
真姫さんが近付いてくる。
真姫「どんな状況に陥っても勝利を諦めない執念。追い詰められても、勝ちを手繰り寄せる策を選び取る冷静さ。見事だったわ。貴方たちは、その“クラウンバッジ”を持つのにふさわしいトレーナーよ」
侑「真姫さん……」
かすみ「えへへ……そんなことありますよ〜」
真姫「私も……慢心せずに強くならなくちゃね」
真姫さんは少し自嘲気味に言う。
真姫「ここまで来たら……最後のバッジもちゃんと手に入れてよね。私だけ本気の手持ちで負けたなんて知れたら、赤っ恥もいいところなんだから」
かすみ「ふふ、任せてくださいよ!」
侑「はい、必ず……!」
154 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 13:07:57.77 ID:B+X5AS2s0
こうして私たちは、死闘の末──ローズジムの真姫さんを倒し、“クラウンバッジ”を手に入れたのでした。
残すは──最後のバッジのみ……。
🎹 🎹 🎹
彼方「──二人とも、ローズジムクリアおめでとう〜♪」
リナ『わ〜どんどんぱふぱふ〜』 ||,,> 𝅎 <,,||
ホテルに戻ると──ジム戦前に彼方さんが言っていたとおり、ご馳走が並んでいた。
かすみ「これ全部食べていいんですかぁ〜!?」
彼方「もっちろん♪ 頑張った二人へのご褒美だよ〜♪ 好きなだけ食べて♪」
かすみ「わーい! いっただきま〜す♪」
侑「いただきます!」
彼方「ポケモンちゃんたちにもそれぞれに合わせて、彼方ちゃん特製ブレンドのポケモンフーズを作ったから、味わって食べるんだぞ〜?」
「ブイブイ♪」「ガゥ♪」「フィオ〜」「ウニャァ」「クマクマァッ♪」「ブクロンッ♪」
元気な子たちが夢中でご飯を食べ始める中、
「テブリ」「…カイン」「…ライ」「ロンチ」「ウォーグ」「……サ」
大人しい組は静かに食べ始める。……こういうところにも個性が出るね……。
かすみ「いや〜今日のかすみんの活躍っぷり、彼方先輩と果南先輩にも見せてあげたかったですよ〜」
果南「ふふ、私も見たかったよ」
彼方「彼方ちゃんも〜」
かすみ「ですよねですよね! いや〜かすみんの考えたドッキリ爆発大脱出があったから、今日は勝てたんですから〜」
かすみちゃんは元気いっぱいに今日の試合を振り返っているけど……。
果南「侑ちゃんは……勝ったって言うのに、あんまり元気ないね?」
かすみ「えぇー? 侑先輩、せっかく勝ったのに嬉しくないんですか〜?」
侑「ん……。……もちろん、嬉しいけど……でも、今回はかすみちゃんと二人だったからさ……」
……今回はあくまで二人の力を合わせてどうにか勝つことが出来ただけだ。
侑「もし一人ずつ戦ってたら……絶対に勝てなかった……」
かすみ「それは……まぁ……。……でも、勝ちは勝ちですよ!」
もちろん、勝ちは勝ち。向こうの指定したルールでちゃんと勝利を収めたんだ。
それに関してはそれでいい。……だけど、次のジム戦は正真正銘一人で戦うことになる。
侑「……このまま戦っても……私もかすみちゃんも、最後のジムは突破出来ない……」
かすみ「そ、そんなこと言わないでくださいよ〜!!」
これは臆病風に吹かれたとか、そういう話じゃない。
私たちの今の実力と、本気のジムリーダーの実力では、それほどまでに根本的なレベルの差があるということだ。
155 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 13:08:29.59 ID:B+X5AS2s0
リナ『正直、私も厳しいと思う……レベル差がありすぎる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
果南「……確かにこのままじゃ二人とも、理亞ちゃんにも英玲奈さんにも勝てないだろうね」
かすみ「ちょ……リナ子と果南先輩まで……」
侑「だから、対策を考えないと……」
果南「……ま、侑ちゃんがそう言うと思って、私考えてきたんだよね」
侑「え?」
かすみ「何をですか?」
訊ねると、果南さんは、
果南「私が二人が強くなるための修行法……考えてきたからさ!」
にっこり笑いながら、そう言葉にするのだった。
156 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/20(火) 13:09:01.73 ID:B+X5AS2s0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ローズシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | ● __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.65 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.65 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.63 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.57 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドロンチ♂ Lv.59 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.44 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 7個 図鑑 見つけた数:208匹 捕まえた数:8匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.66 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.58 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.57 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.57 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.56 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
テブリム♀ Lv.60 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 7個 図鑑 見つけた数:199匹 捕まえた数:9匹
侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
157 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 03:31:36.27 ID:/nLmInIK0
■Intermission🎀
──私がウルトラスペースに来て……何日が経ったかな。
四方を壁に囲まれているせいで、時間の感覚が全然ないから、自分がここを訪れてどれだけ経ったかが全くわからない。
ただ、定期的に姫乃さんが私と私のポケモンのためのご飯を運んできてくれる。
仮にそれが日に3回ずつちゃんとあるなら……たぶん1週間くらいかな。
やることと言えば、ポケモンとお話ししたり、一緒に遊んだり……ブラッシングしてあげるくらい。
ポケモンがいてくれるお陰で、寂しくて寂しくてどうしようもないというほどではないけど……。
歩夢「……侑ちゃんに……会いたいな……」
どうしても、侑ちゃんのことを考えてしまう。
歩夢「……ダメ……しっかりしなきゃ……」
きっと、侑ちゃんたちが助けに来てくれる……今は耐えなくちゃ。
そう思いながら、深呼吸をして心を落ち着けていると──
姫乃「──歩夢さん、失礼します」
姫乃さんが部屋に入ってきた。
歩夢「姫乃さん……? あの、もうご飯の時間ですか……?」
食事は体感では……1時間前くらいに食べたと思うんだけど……。
私が気付かない間にそんなに時間が経っちゃってたのかな……?
自分の体内時計の性能の悪さに、少々不安を覚えてしまう。
だけど、
姫乃「いえ、食事ではなく……」
姫乃さんは少し困った顔をしながら言う。
姫乃「貴方も……意外と肝が据わってますね……」
歩夢「え、あ、その……ご、ごめんなさい……」
……もしかして、食いしん坊だと思われちゃったかな……恥ずかしい……。
姫乃「それより──部屋から出てください。果林さんがお呼びです」
歩夢「え……?」
158 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 03:32:23.57 ID:/nLmInIK0
🎀 🎀 🎀
姫乃「果林さん、歩夢さんをお連れしました」
果林「ありがとう姫乃」
私が呼び出されたのは、最初に連れてこられた、この船のコクピット……ええっと、こういう場所ってブリッジって言うんだっけ……?
そこにはすでに、しずくちゃんとせつ菜ちゃんの姿もある。
歩夢「あの……一体何が始まるんですか……?」
愛「そろそろ、目的地に着くんだよ〜」
私の疑問に愛ちゃんが答えてくれる。
歩夢「目的地……?」
程なくして──前面に張られた大きなガラスの外に広がっていた、宇宙空間のような場所に──大きな空間の穴のようなものが見えてくる。
愛「入るよー」
果林「お願い」
船はなんの躊躇もなく──その穴に突入していく。
入ると、同時に──ゴゴゴゴッと大きな音と共に、船が大きく揺れる。
歩夢「きゃっ……!?」
激しい揺れに転びそうになったが、
せつ菜「おっと……大丈夫ですか……?」
せつ菜ちゃんが、抱き留めてくれる。
歩夢「あ、ありがとう……せつ菜ちゃん……」
せつ菜「いえ……」
ただ、私はお礼を言ってからすぐに、せつ菜ちゃんから逃げるように離れる。
今のせつ菜ちゃんは……なんだか、ちょっと怖い……。
前みたいな、朗らかな笑顔は全くなく……ずっと、冷たい声音で喋っているし……。
──揺れる船内の中で、しばらくじっと待っていると──洞窟の中のような景色が見えてきた。
愛「着陸するよー」
果林「ええ」
どうやら……目的地というのはここらしい。
程なくして──ゆっくりと船が洞窟内の地面に着陸する。
159 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 03:37:29.83 ID:/nLmInIK0
愛「到着っと……」
果林「愛、ご苦労様」
愛「あいよ〜。……んで、果林。どうすんの?」
果林「どうって、何が?」
愛「誰か降りるのかって話。アタシは降りるのヤだよ?」
果林「ヤダって……まあ、貴方には船に居てもらうから降ろすつもりはないわ」
姫乃「でしたら、私が……」
果林「いいえ、ここは──しずくちゃん」
果林さんがしずくちゃんの方を見て、声を掛ける。
しずく「はい、なんでしょうか♡」
果林「今から、ここに歩夢を降ろすわ」
歩夢「え……?」
しずく「前に説明していただいたとおり、私は歩夢さんを見張っていればいいということですよね♡」
果林「ええ、おりこうさんね」
しずく「はい♡」
歩夢「……」
しずくちゃんは……完全におかしくなってしまっていた。
果林さんの言うことはなんでも聞く……ずっとフェローチェのことばかり口にしている……。
きっと、あのポケモンが持ってる不思議な雰囲気が……しずくちゃんをおかしくしてしまっているんだと思う。
愛「果林」
果林「何?」
愛「こんな場所にしずく放り出していいん? かなり危ない場所だよ?」
果林「……そうかもしれないわね」
せつ菜「そうかもしれない……?」
せつ菜ちゃんが果林さんの反応に眉を顰める。
せつ菜「……人質なら、もう少しまともに扱っては?」
果林「そんな怖い顔しないで、せつ菜。別に死ぬわけじゃないわ」
しずく「せつ菜さん、私は大丈夫です! 果林さんにフェローチェを魅せてもらうためなら、命を捨てる覚悟くらいあります♡」
歩夢「……」
果林「本人もこう言ってるし」
せつ菜「……。……さすがに人質に何かあっては寝覚めが悪いです……私が一緒に降ります。先にハッチに向かっています……」
せつ菜ちゃんはそう言いながら、ブリッジを出て行く。
たぶん……外に出るハッチがどこかにあるんだと思う。
姫乃「果林さん……いいんですか?」
果林「まあ、本人がそうしたいって言うなら、そうさせてあげましょう」
愛「自分でそう仕向けた癖によく言うねー」
果林「人聞きの悪いこと言わないで。……それじゃ、しずくちゃん」
しずく「はい♡ 行きましょう、歩夢さん♡」
160 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 03:38:33.84 ID:/nLmInIK0
そう言いながら、しずくちゃんが私の腕を掴んで歩き出す。
歩夢「……しずくちゃん」
しずく「こちらです♡」
しずくちゃんに腕を引かれて、ハッチへ向かう。
歩夢「……ねぇ、しずくちゃん……?」
しずく「なんですか?」
歩夢「……どうして、果林さんの言うことを聞くの……?」
しずく「どうして、果林さんの言うことを聞かないんですか? フェローチェを魅せてもらえなくなってしまうじゃないですか♡」
歩夢「……そっか」
しずくちゃんの洗脳を解くには……果林さんのフェローチェをどうにかするしかない……。
歩夢「しずくちゃん、大丈夫だよ……きっと、助けるからね……」
しずく「はい、そうですか♡」
歩夢「……」
しずくちゃんと少し歩くと──ハッチらしき場所でせつ菜ちゃんが待っていた。
せつ菜「……行きましょうか」
しずく「はい♡」
歩夢「……」
せつ菜ちゃんを伴いながら、ハッチの外へと出る。
──そこは不気味な青白い光を放っている水晶が生えた洞窟のような場所……。
しずく「それでは奥へ♡ ここの地図は果林さんに見せてもらったので、頭に入っています♡」
せつ菜「……」
しずくちゃんに腕を引かれ──奥へと進んでいく。
せつ菜ちゃんはそんな私たちの後ろを無言で付いてくる。
歩夢「……ねぇ、しずくちゃん。私に……何をさせようとしてるの……?」
しずく「これから、歩夢さんは果林さんのために、お人形さんになるんですよ♡」
歩夢「お人形……さん……?」
せつ菜「……」
しばらく、歩いて行くと──崖のある場所に出る。
しずく「あれです♡」
そして、しずくちゃんが崖下を指差す。
歩夢「……」
恐る恐る崖下を覗いてみると──
161 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 03:40:02.29 ID:/nLmInIK0
「──ジェルルップ…」「──ヴェノメノン…」「──ジェルル…」
歩夢「な、なに……あれ……?」
不思議な生き物が、崖の下で大量に浮遊している。
しずく「あれはウルトラビースト・ウツロイドです♡」
歩夢「ウツ、ロイド……?」
しずく「ウツロイドは強力な神経毒を持っていて、とても危険なウルトラビーストです。歩夢さんには今から、そんなウツロイドの群れの中に──落ちてもらいます♡」
歩夢「……!?」
私は、しずくちゃんの言葉を聞いて、腕を振り払う。
しずく「おっとっと……」
歩夢「…………っ」
どうしよう……逃げなきゃ……!
私はしずくちゃんから逃げるように背を向けて走り出すけど、
しずく「いいんですか? 歩夢さんが逃げたら、私が果林さんにどんな目に遭わされるか、想像できますか?」
歩夢「……!」
その言葉で、私は足を止める。
せつ菜「貴方……」
しずく「果林さんは私を利用するためにフェローチェを魅せてくれています♡ もし、正しく命令を遂行出来なければ……私はきっといらない子。一体何をされるんでしょうね?」
歩夢「…………っ」
せつ菜「…………」
しずく「さぁ、歩夢さん♡ こちらへ戻ってきてください♡」
歩夢「…………」
しずく「歩夢さん、私たち友達でしょう? 私のこと、見捨てないでください♡」
歩夢「っ……」
私は──振り返って、しずくちゃんのもとへと戻る。
歩夢「……」
しずく「ありがとうございます♡」
歩夢「しずくちゃん」
しずく「なんですか?♡」
歩夢「私のこと……どう思ってる?」
しずく「どう……とは……?」
歩夢「しずくちゃんにとって、私は……どういう存在……?」
しずく「ふふ、そんなの決まってますよ。優しくて頼りになる先輩で、仲間で──大切なお友達です」
歩夢「…………わかった。私、しずくちゃんを信じるよ」
せつ菜「…………」
せつ菜ちゃんが無言で見守る中、私は覚悟を決める。
162 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 03:41:17.84 ID:/nLmInIK0
しずく「ありがとうございます、歩夢さん♡ では、私の言うとおりにしてください♡」
歩夢「うん」
しずく「まず、モンスターボールを全てベルトから外してください♡」
歩夢「……わかった」
私はボールベルトから、モンスターボールを全て外して、足元に置く。
それと同時に──ボールたちがカタカタと震えだす。
歩夢「みんな……大人しくしてて」
私がそう言うと、揺れるボールたちは大人しくなる。
しずく「それでは、そのまま──崖を背にして一歩ずつ後ろに下がりましょう♡」
歩夢「……うん」
私はしずくちゃんを見ながら、一歩ずつ後ろへと下がる。
一歩ずつ一歩ずつ、足元の地面を確認しながら下がっていくと──足元に地面が確認できない場所にたどり着く。
つまり──私の後ろは、もう崖だ。
崖下から風を感じて、背筋がぞくりとしする。気付けば脚が勝手に震えだしていた。
しずく「……そうだ、歩夢さん」
歩夢「……な、なに……?」
震える声で返事をすると、
しずく「その髪飾りも──預かりますよ。外してください」
しずくちゃんは──侑ちゃんに貰った髪飾りを外すように要求してきた。
侑ちゃんの気持ちの籠もった──ローダンセの花飾りを……。
歩夢「これは……」
しずく「私を……信じてくれるんじゃないんですか?」
歩夢「………………。…………わかった」
私はゆっくりと──髪飾りを外す。
そして、それをしずくちゃんに手渡す。
しずく「ありがとうございます♡」
歩夢「……しずくちゃん」
しずく「はい?」
歩夢「……絶対に、侑ちゃんやかすみちゃんが助けに来てくれるはずだから……絶対に……絶対に一緒に帰ろうね」
しずく「…………」
歩夢「それまで……預けるね……。きっと、私の分まで……侑ちゃんの想いが、しずくちゃんを守ってくれるはずだから……だから──」
──ドンッ。
しずくちゃんが──私の肩を押した。
身体が後ろに傾き──支えるものが何もない私の身体は──背中から、崖下に向かって落下を始める。
最後に見たしずくちゃんの顔は──少しだけ悲しそうに見えた。
163 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 03:44:10.73 ID:/nLmInIK0
歩夢「……っ……」
浮遊感に包まれたのも束の間──私の身体は何かに優しく受け止められる。
もちろんその何かは──
「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルップ…」
ウツロイド。ウツロイドの触手が腕を脚を──私の全身をどんどん絡め取っていく。
歩夢「しずくちゃん……!! 絶対、絶対、侑ちゃんたちが助けに来てくれるから……!! だから──んぅっ、」
口元が触手に覆われる。
そのまま、視界も覆われ……私は……目の前が、真っ暗になった──
💧 💧 💧
しずく「…………」
せつ菜「……こんなことをして、心は痛まないんですか……? ご友人なんでしょう?」
しずく「……お説教ですか?」
せつ菜「……貴方……まだ理性が残っているじゃないですか……なのに、どうしてあんな酷いことが出来るんですか……」
しずく「貴方に言われたくありませんね」
せつ菜「な……」
しずく「せつ菜さん、貴方の話、果林さんから聴かせてもらいましたよ♡ ……貴方だって、ウルトラビーストに心を売ったようなものじゃないですか」
せつ菜「それ……は……」
しずく「私はウルトラビーストの美しさに、せつ菜さんはウルトラビーストの強さに魅入られ……魂を売ってしまっただけ──所詮、私たちは同じ穴の貉ですよ」
せつ菜「…………。…………そうかも……しれませんね……。……自分だけ、綺麗でいようとするのは……卑怯でした。……すみません」
しずく「いえ、お気になさらないでください♡ さて……」
私は振り返る──先ほど歩夢さんが、外して地面に置いたボールたちが、ガタガタガタと激しく揺れ、
「──バーース…!!!」「──シャーーーーッ…!!!!!」「──マホイッ…!!!」「──グラァ…ッ!!!!!」「──エッテ…!!!」
歩夢さんのポケモンたちがボールから飛び出してくる。
しずく「ふふ……敵意剥き出しですね。ご主人様に酷いことをした私が許せないんですよね」
ボールから、ポケモンを繰り出す。
「──インテ…」「──バリバリ!!」「──ロゼ…」
しずく「お相手しますよ。トレーナー無しで私に勝てるのかは知りませんけど♡」
「バーースッ!!!!」「シャーーーボッ!!!!!」「マホイップッ!!!!」「グラァァーーー!!!!」「エッテェェッ!!!!」
………………
…………
……
💧
164 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:01:37.48 ID:/nLmInIK0
■Chapter054 『試練の山』 【SIDE Yu】
かすみ「……侑先輩」
侑「ん……何……?」
かすみ「かすみんたち……なんで、山登りしてるんですかね……」
侑「あはは……なんでだろうねぇ……」
振り返ると──遠くにローズシティが見える。
ここは……カーテンクリフだ。
かすみ「……うぅ……早く帰りたい……」
侑「……気持ちはわかるけど……時間もないし、早く進もう」
かすみ「あ、待ってくださいよぅ……侑先輩ぃ……」
私たちが何故、再びカーテンクリフを登っているかというと……話は昨日の夕食の時に遡る──
──────
────
──
侑「──修行法……ですか……?」
果南「そう、修行法」
食卓を囲みながら、果南さんはそう話し始めた。
果南「実は私、二人がジム戦をしてる間に、他の町のジムリーダーに連絡して、侑ちゃんとかすみちゃんのジム戦のバトルビデオを送ってもらって、見てたんだよ」
彼方「ちなみに、彼方ちゃんも一緒に見てたよ〜」
かすみ「へ……? ビデオなんてあったんですか……?」
リナ『ジム戦は公式戦だから、基本的に録画してる場所が多いよ。今日みたいな野外バトルとかだとさすがにしないみたいだけど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
果南「野外試合だった、かすみちゃんのウチウラジム戦とセキレイジム戦、侑ちゃんのホシゾラジム戦はデータがなかったから、曜とルビィちゃん、凛ちゃんに電話で直接どんな試合か聞いたよ。……あと、侑ちゃんのダリアジム戦はビデオもなかったし、試合内容も教えられないって、にこちゃんから言われたんだけど……何か特別なルールだったの?」
侑「あー……えーっと……まあ、いろいろです」
花丸さんはクローズドなジムリーダーだから、そりゃ映像には残らないし、試合内容も喋れないよね……。
果南「まあ、いいや……その上で、彼方ちゃんと話しながら、二人のバトルの問題点を洗い出してきたんだ」
かすみ「お二人とも、そんなことしてたんですね……。……まあ、かすみんの欠点なんてそんなにないと思いますけどね〜?」
彼方さん特製のから揚げを頬張りながら、かすみちゃんは自慢げに胸を逸らす。
果南「……じゃあ、まずかすみちゃんから、話そうか。……かすみちゃんは捨て身の攻撃が多すぎる」
かすみ「……ぅ」
果南「特に“じばく”みたいな相討ち上等な立ち回り方が目立ってる」
かすみ「……だ、だってぇ……あれは、大逆転できるパワーを秘めてる技だからぁ……」
果南「確かに打開の策としては間違ってないと思うよ。実際に、それで勝ってきてるわけだし。……でも、心のどこかでどんなに追い詰められても、最悪“じばく”で相討ちを取ればいいとか思ってない?」
かすみ「……ぅ……そ、それは〜……」
165 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:02:15.38 ID:/nLmInIK0
かすみちゃんが盛大に目を泳がせる。
欠点、そんなにないんじゃなかったの……かすみちゃん……。
果南「試合ではお互い最初から使うポケモンが決まってるから、使いどころを間違わなければ状況をひっくり返す技なのは確かだよ。でも、実戦はそうじゃない。相手の数だって決まってないし、もしかしたら連戦しなくちゃいけないかもしれない。場合によっては撤退を余儀なくされることもある。そういうときに手持ちが減るっていうのは致命傷になりかねない」
かすみ「…………」
果南「逆転する力、ポテンシャルとバトルに対するひらめきはかすみちゃんの長所だけど……逆を言うなら、戦闘が無計画すぎるところがある」
かすみ「…………ぐすっ……じ、自分でもわかってるもん……それくらい……」
彼方「ほら、泣かない泣かない」
かすみ「泣いてませんっ!」
果南さんの評価は思ったよりも厳しめだった。
でも……的は射ている気がする。
とはいえ、面と向かって厳しい評価を下されるのは、なかなかに堪えるものだと思う。
果南「……次は侑ちゃんだけど」
侑「は、はい……!」
私の番が来て、思わず背筋が伸びる。
かすみちゃんへの評価を聞いた直後というのもあるけど……元チャンピオンから自分のバトルを評価してもらえるというのは、またとない機会だから、変に緊張してしまう。
果南「まず、持久戦への崩しが苦手すぎる」
侑「……ぅ……じ、自覚してます……」
彼方「でも、こればっかりは相性もあるからね〜……」
果南「まあね。ただ、守られたときに攻撃がうまく通らないことで焦る癖は直した方がいいよ。防御に対しては相手にしないのも一つの戦術なんだから」
侑「は、はい……」
果南「あともう一つ……こっちの方が問題かな」
まだあるんだ……。
果南「侑ちゃんは、諦めが早すぎる」
侑「そ、そうですか……?」
果南「自分の負け筋が見えすぎてるというか……相手の勝ち筋が見えすぎてるというか……相手のやりたいことが見えすぎてるせいで、劣勢になると相手の勢いに呑まれちゃうところがあるんじゃないかな」
侑「…………そう言われると……ちょっと、思い当たる節があります……」
実際、直近の試合でも、ホシゾラジム戦では歩夢が声を掛けてくれなかったら雰囲気に呑まれていたところはあったし、クロユリジムでもワシボンが止めてくれなかったら、私は降参していた。
そして、今日のローズジム戦でも……最後まで諦めなかったのはかすみちゃんだ。私は……一人だったら、途中で諦めていたと思う。
果南「戦局を見る力があるとは思う。もちろん、それは実戦ですごく大事だし、引きどころを間違えないという意味では長所にもなるけど……絶対に負けられない戦いの場では──考え方の癖って言うのかな……それは絶対に侑ちゃんの足を引っ張ることになるよ」
侑「……はい」
つまるところ……私には引き癖というか……劣勢になると、考えるのを諦めてしまう癖みたいなものがあるようだ。
特に私たちがこれから挑む戦いは、絶対に負けが許されない戦い……そこで、もう勝てないかもなんて思ってたら、本当に負けてしまう。
リナ『でも、考え方をすぐに矯正するのは難しい』 || ╹ᇫ╹ ||
果南「そうだね。……でも、いざ実戦のときに、直りませんでした。じゃあ、困るでしょ?」
侑「……はい」
166 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:02:47.97 ID:/nLmInIK0
確かに出来ることなら直したい……。
勝負を諦める癖なんて、明確にデメリットだ。
果南「ただね、侑ちゃんにしても、かすみちゃんにしても……二人の欠点の根幹にあるのは同じ理由だと思うんだよ」
侑「同じ理由……ですか……?」
果南「それは──自信だよ」
かすみ「自信……?」
私とかすみちゃんは顔を見合わせてしまう。
果林「かすみちゃんの一発逆転を狙う癖も、侑ちゃんの諦め癖も……どっちも、自分たちのパワーやスピード、テクニックが相手に劣ってるって、頭のどこかで思っちゃってるからだと思うんだ」
侑「……それは、そうかもしれません」
かすみ「ぅぅ……かすみんもちょっと思い当たる節があります……」
果南「それを払拭するには、純粋に鍛錬を積んで、パワー、スピード、テクニック……その他もろもろ、自分たちが強くなったって実感を持たないと難しい」
彼方「まあ、簡単に言っちゃうと二人とも、根本的にステータスが足りてないよって話なんだけどね〜」
かすみ「身も蓋もなくないですか!?」
つまり──
侑「そのための──私たちのステータスを根本から上げるための修行法を考えて来てくれたって、ことですよね……?」
果南「ま、そんなところ」
かすみ「そうならそうと早く言ってくださいよ! かすみん、落ち込み損じゃないですか!」
果南「ただ……タイムリミットは後4日──ジム戦をする日を考えたら3日しかない。だから、かなりきついやつを選んできたから」
侑「き、きついやつですか……」
果南「うん、それはね──」
──
────
翌日、私たちはローズの西端で、カーテンクリフを見上げていた。
かすみ「こ、これ……登るんですか……?」
果南「そ。昨日も言ったけど、緊急時以外はウォーグルやドロンチを使って飛行するのは禁止。あ、でも戦闘には使ってもいいからね」
侑「わ、わかりました」
「ブィ…」
果南「あと……かすみちゃん、ポケモン図鑑出してもらっていい?」
かすみ「は、はい? いいですけど……」
果南「リナちゃんもこっちおいで」
リナ『わかった』 || ╹ᇫ╹ ||
ふよふよとリナちゃんが果南さんのもとへと漂っていく。
167 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:03:20.46 ID:/nLmInIK0
果南「今回は二人ともポケモン図鑑なしで挑むこと」
かすみ「ええ!? な、なんでですか!?」
果南「何にも頼らない精神が己を鍛えるんだよ。……って言いたいところだけど、鞠莉から持ってくるように言われててね。ウルトラビーストを認識出来るように、バージョンアップしてくれるらしいからさ」
かすみ「あ、図鑑をパワーアップしてくれるんですね〜♪ なら、仕方ありませんね〜♪ ……って、なりませんよ!」
侑「……あくまで、自分と自分たちのポケモンの力で乗り越えてこいってことですね」
果南「そゆこと。ただ、ここのポケモンは強いからね。戦ってる最中、うっかり足滑らして落ちないようにね」
かすみ「え、縁起でもないこと言わないでくださいよぉ〜……」
果南「それじゃ、最後にもう一度確認するね」
果南さんはそう言って、昨日教えてくれたルールを再度おさらいしてくれる。
果南「二人は3日以内に、私が西の遺跡に置いてきたアイテムを拾って戻ってくること。わかりやすくしておいたから、たどり着ければすぐにわかると思うよ」
かすみ「誰かに取られたりしませんか……?」
果南「大丈夫、君たち以外が持ってても、意味のないものだから」
侑「私たち以外が持ってても、意味のないもの……?」
果南「何かは見てのお楽しみ。あと侑ちゃんにはこれ」
そう言って、果南さんは小箱を差し出してくる。
侑「これは……?」
果南「今回のアイテムのために用意した鍵だよ。到着したら箱から出してね」
侑「わかりました」
私は貰った箱をバッグにしまう。
果南「それじゃ、二人とも頑張っておいで」
リナ『侑さんが帰ってくるの……待ってるね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん! 待っててね、リナちゃん! 行こう、かすみちゃん!」
かすみ「うぅー……わかりました……帰ってきたら、ご馳走用意しておいて欲しいですって、彼方先輩に伝えてください……」
果南「はは♪ りょーかい♪ 伝えておくよ♪」
──
────
──────
──そして、今に至る。
かすみ「それにしても……山というか崖ですね……」
侑「ローズ側からだと、多少緩やかなんだけどね……」
カーテンクリフも東端は多少なだらかに始まっている。
……本当に多少で、すぐに崖みたいな急勾配になったけど……。
「ブイ」
イーブイは軽い身のこなしで、ぴょんぴょん登っていくけど──私たちはそうも行かない。
侑「よい……しょ……。……かすみちゃん!」
168 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:04:16.81 ID:/nLmInIK0
私が岩を一段よじ登り、かすみちゃんに手を伸ばす。
かすみ「あ、ありがとうございます、侑先輩」
要所要所でお互いを引っ張りあげながら、どうにかこうにか登っていく。
かすみ「……はぁ……こんな崖みたいな山、果南先輩はホントに自力で登ったんですかね……?」
侑「彼方さん曰く、あっという間に登って降りてきたって言ってたよね……」
一体いつアイテムを遺跡に置いてきたのかと思ったけど……どうやら、私たちがジム戦をしている間にやっていたらしい。
ローズ側の麓で待っていた彼方さんによると──本当にものの数時間で戻ってきたとか……。
実際、その後私たちのバトルの分析とかもしてたわけだし……たぶん、嘘ではないと思う。
かすみ「あの人、人間なんですか……?」
侑「……それくらい、果南さんには実力があるってことなんだよ。きっと」
また一段登り──ふと後ろを見ると、ローズのセントラルタワーが少し下に見える。
侑「結構、登った気がするね……」
かすみ「でも……ここから先、さらに崖みたいになってますよぉ……」
かすみちゃんの言うとおり、崖はどんどん険しくなっていく。
侑「ここは……私たちだけじゃ、登れそうにないね」
「ブイ…」
かすみ「ですね……」
目の前の崖を一段上に登るには、少し高い……。イーブイもこれは登れないと思ったのか、私の肩の上に戻ってくる。
一応登山用の道具は果南さんが用意してくれたものを持っているけど……この崖を自力で登ろうとすると、時間がかかってしまう。
ここまで、ポケモンたちの体力温存のために、二人で登ってきたけど……これ以上は、ポケモンたちの力を借りる必要がありそうだ。
かすみ「ジグザグマ、出てきて」
「──クマァ♪」
かすみちゃんはジグザグマをボールから出す。バッグからロープを取り出して、ジグザグマのお腹辺りに括りつけ、技の指示をする。
かすみ「“ロッククライム”!」
「クマ!!」
ジグザグマは指示を受けると、全身の硬い体毛を岩壁に突き刺しながら、上に登っていく。
崖を一段上に上がりきったところで、ジグザグマは体毛を岩壁に突き刺し、
かすみ「そこで待っててね〜」
「クマァ〜」
一旦待機させる。
かすみ「それじゃ、先に行きますね」
侑「うん」
かすみちゃんは、ロープを自分に巻き付け、ジグザグマが窪ませた穴に手足を掛けて登っていく。
私も同じように、
169 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:04:51.41 ID:/nLmInIK0
侑「ウォーグル」
「──ウォーー!!!」
侑「“ブレイククロー”」
「ウォー!!」
岩壁に、手足を入れる隙間をウォーグルに作ってもらう。
……これは、飛行じゃないからセーフだよね?
侑「よし……イーブイ、落ちないようにね」
「ブイ」
かすみちゃんと同じように、崖の窪みに手足を掛けながら登っていく。
かすみ「侑先輩! 掴まってください!」
侑「うん……!」
最後は先に登ったかすみちゃんに引っ張り上げてもらって──また一段上へ。
侑「ありがとう、かすみちゃん」
かすみ「どういたしましてです♪」
お礼もそこそこに、また崖を見上げる。
かすみ「一体……いつまで続くんでしょうかねぇ……」
「クマァ…」
侑「尾根まで登り切れば……勾配は減るはずだから、そこまで頑張ろう……」
「ブイ」「ウォーグ」
私たちの登山修行は続く──
🐏 🐏 🐏
──さて……彼方ちゃんは今、コメコシティに戻ってきております。
今いる場所は──エマちゃんの寮のお部屋。
もちろんエマちゃんのお部屋だから、エマちゃんはいるんだけど……もう1人。リーグの偉い人、海未ちゃんと3人で座っている。
海未ちゃんがいるのは、彼方ちゃんのボディガードを兼ねているけど……もちろん、本題はそっちじゃありません。
海未「アサカ・果林さんは、当地方のチャンピオンである千歌を拐かし、さらに一般人を人質として連れ去ってしまいました……」
エマ「え……」
エマちゃんに果林ちゃんのことは聞くため、彼方ちゃんが仲介したのです。
彼方「一般人って言うのは……歩夢ちゃんとしずくちゃんのことだよ」
エマ「……そんな……果林ちゃんが……」
海未「……ご友人だったと伺っています。辛いかもしれませんが……果林さんがどういう方だったのか、聞かせてもらえませんか……?」
エマちゃんはしばらく無言だったけど……。
エマ「…………果林ちゃんが普通の人じゃないのは……なんとなく、わかってました」
170 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:05:33.16 ID:/nLmInIK0
ぽつりぽつりと喋り始めた。
エマ「……彼方ちゃんも」
彼方「ん……」
エマ「……果林ちゃんも、彼方ちゃんも……遥ちゃんもだけど……会ったときから、全然変わらないから……」
海未「全然変わらない……とは……?」
エマ「見た目が……全然変わらないんです」
海未「見た目が、変わらない……?」
彼方「えっと……わたしがこっちに落ちてきたのは18歳のときで……遥ちゃんは16歳だったんだけど……。……実は彼方ちゃんたち、歳を取ってないんだって」
海未「……それは本当ですか?」
彼方「原因はわからないんだけど……ウルトラスペースから過剰にエネルギーを浴びたのが原因で、身体の時間が一時的に止まってるんじゃないかって説明されたよ」
生き物は生まれてから死ぬまでに、たくさんたくさんエネルギーを使って、最後は死んでいくけど……。
そのエネルギーの消費が、ウルトラスペースから異常なエネルギーを浴びたせいで、極端に遅くなっているから、彼方ちゃんたちは歳を取らないように見えるらしい。
……国際警察の科学捜査部の人は、細胞分裂……? とか、テロメアの減り具合……? とか言ってたけど……彼方ちゃんには難しいことはわからないから、これ以上の説明は出来ないけど……。
海未「……歳を取らないというのは……不老ということですか……?」
彼方「うぅん。揺り戻しがあるから、何年かしたら止まってた年月分、一気に歳を取り始めるみたい。今までも“Fall”の中にはそういう人がいたらしいから」
海未「なるほど……。エマさんは、それに気付いていたんですね……?」
エマ「はい……ただ……本人が隠してるのには気付いてたし……無理に聞くのはよくないって思ったから、わたしが知ってることは、あまり……」
海未「……そうですか……」
まあ、果林ちゃんも……いくら仲が良いからって、うっかりエマちゃんに喋っちゃうような人とは思えないからなぁ……。
エマ「……果林ちゃん……ずっと、何かに追い詰められているというか……いつも焦ってるなって……ずっと思ってました……」
彼方「…………」
璃奈ちゃんが亡くなって、愛ちゃんが問題を起こし、わたしが組織から逃げ出してしまった……。
4人居た組織の幹部は……実質、果林ちゃんしか残らなかった。
果林ちゃんは自分たちの世界を救いたいという想いが、人一倍ある人だったから……その責任感から、必要以上に背負いこんでしまった節はあるのかもしれない。
エマ「……冷たく突き放したようなことを言うことはあるけど……本当は優しい人なんです……。……可愛い物やポケモンが大好きで、実はお寝坊さんで、すぐ迷子になっちゃって……でも、わたしが困ってたら助けてくれて……」
彼方「エマちゃん……」
辛そうに喋るエマちゃんを見ていると、エマちゃんは本当に果林ちゃんを大切に想っていたことが、それだけで伝わってきた。
エマ「……あの……もし果林ちゃんを見つけたら……どうするんですか……?」
海未「……彼女の正確な目的がわからないので、完璧に答えるのは難しいですが……恐らく、彼女の身柄確保を目指して動くことになると思います。ですが、相手の力は強大です……極力避けたいですが、場合によっては──」
海未ちゃんはそこで言葉を止める。……恐らく、そういうことだと思う。
捕まえる余裕があるとは、考えづらいもんね……。
エマ「……。……話し合いで……解決出来ませんか……?」
海未「もちろん、それが理想ですが……。……向こうは人に危害を加えることに躊躇がない。そういう相手を説得出来るかと言われると……」
エマ「……そう……ですよね……」
エマちゃんはぎゅっと手を握る。
171 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:06:26.74 ID:/nLmInIK0
エマ「……行くときは……一言言ってくれるって……約束したのに……」
彼方「エマちゃん……」
海未「……」
全員が無言になった部屋の中、突然──prrrrとコール音が響く。
海未「……私のポケギアです。少し失礼します」
海未ちゃんがそう言って部屋を出ていき、私はエマちゃんと二人きりになる。
エマ「…………彼方ちゃん」
彼方「なにかな」
エマ「……果林ちゃんは……悪い人なのかな……?」
彼方「……どの立場から見るかによるとしか、言えないかな……」
エマ「果林ちゃんは、何をしようとしてるの……?」
彼方「……具体的にどうするかはわからないけど……この世界を滅ぼすつもり……だと思う。少なくともわたしはそう聞いてた」
エマ「…………そんなことしないよ、果林ちゃんは……」
彼方「……エマちゃん」
エマ「…………」
再び静寂に包まれる。
しばらく、二人で無言のまま過ごしていると、海未ちゃんが部屋に戻ってきた。
海未「彼方、もうじきこちらに果南が来るそうです。私は……次の場所へ移動しないといけないので……」
彼方「わかった。果南ちゃんと合流したら、一緒に行動するね」
海未「……果南が来るまでいた方がいいですか?」
彼方「平気だよ〜。守ってもらってるけど、彼方ちゃんも強いから〜。もうすでに果南ちゃんがこっちに向かってくれてるなら大丈夫だよ〜」
海未「わかりました。そういうことでしたら、私は行きますね。……エマさん、貴重なお話、ありがとうございました」
エマ「いえ……」
海未「……出来る限り、彼女と争わない道を考えるつもりです。……期待はしないで欲しいですが」
エマ「……はい」
そう残して、海未ちゃんはエマちゃんのお部屋を後にする。
エマ「…………」
エマちゃんは、酷く落ち込んでいる。
そりゃ、そうだよね……。果林ちゃんはエマちゃんにとって親しい友人だったみたいだし……。
彼方「エマちゃん、おいしいクッキーでも焼こうか……? おいしいもの食べたら元気も出ると思うから……」
エマ「ありがとう、彼方ちゃん。……でも、今はちょっと考えたいことがあるから……一人にしてもらってもいいかな……」
彼方「エマちゃん……。……わかった。ごめんね、辛い話をさせちゃって……」
エマ「うぅん、大丈夫だよ。クッキーは今度食べたいな。彼方ちゃんの焼いてくれるクッキーすっごくおいしいから」
彼方「うん、わかった。次来るときは焼きたてのを持ってくるね」
エマ「うん」
172 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:07:46.72 ID:/nLmInIK0
そう約束して、わたしもエマちゃんの部屋からお暇するのだった。
🏹 🏹 🏹
コメコを発ち、ローズに向かってカモネギで飛行している最中──音ノ木の付近で、見慣れたポケモンが飛んでいることに気付く。
海未「……リザードン? ということは……」
私はそのリザードンに向かって近づいていく。
穂乃果「──はい。……今のところは特に変わったことは何も……」
海未「穂乃果?」
穂乃果「あれ? 海未ちゃん? ……あ、はい。じゃあ、また連絡します」
どうやら、ポケギアで誰かと連絡をしていたようだ。
穂乃果は私に気付くと、通話を切り、私の方へと向き直る。
海未「ポケギアの相手は……相談役ですか?」
穂乃果「うん」
海未「……貴方たちは一体何をしているんですか……?」
穂乃果「えっと、音ノ木に変わったことがないかなって」
海未「音ノ木に……?」
この緊急事態に穂乃果や相談役は何故、音ノ木に拘るのだろうか……?
海未「……そういえば、グレイブ団事変のときも、貴方は音ノ木にいましたね」
穂乃果「あーうん……まあ」
海未「……言えない事情があるみたいですね……まあ、いいです」
相談役の指示ということは、大雑把に言えばリーグの指示と言っても過言ではない。
現理事長は私ですが……穂乃果は相談役が理事長をしていた頃から、彼女の指示で動いていたようですし、考えがあってのことだ。
国際警察のような機密を扱う機関とのやり取りだからこそ、先方との擦り合わせの問題で共有できない部分もあるのだろう。
ここで私が無理に穂乃果の動きに干渉すると、不具合が生じかねない。
それに、そもそも穂乃果はリーグ所属の人間ではないですしね……。私が彼女に指示を出す権限はありません。
海未「今アキハラタウンにことりがいると思います。いつも会いたがっていましたので、余裕があったら顔を見せてあげてください。喜ぶと思うので。……それでは」
穂乃果「あ、あれ? もう行っちゃうの?」
海未「ええ。ローズで約束があるので」
穂乃果「そっか……気を付けてね」
海未「はい、穂乃果も。カモネギ」
「クワ」
カモネギに指示を出し、私は再びローズへと進路を向ける。
173 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:08:38.06 ID:/nLmInIK0
🎹 🎹 🎹
「──ゴドラァ!!!!!」
侑「ニャスパー!! “サイコキネシス”!!」
「ウニャァ〜」
振り下ろされるボスゴドラの拳をニャスパーが全開のサイコパワーで受け止める。
が、
「ゴドラァ!!!!」
「ニャ、ニャァァ…!!」
侑「ぱ、パワー、つよ……!」
こっちはフルパワーなのに、拳を止めきれない。
かすみ「ゾロア!!」
「ガゥ!!!」
そんな中、ゾロアがボスゴドラの顔面に飛び付き、
「ゴドラァ…!!?」
かすみ「“ナイトバースト”!!」
「ガーーーゥゥ!!!!」
至近距離で“ナイトバースト”を炸裂させる。
「ゴドラァ……ッ!!!!」
かすみ「侑先輩、大丈夫ですか!?」
「ガゥ!!」
侑「うん、ありがとう、かすみちゃん……!」
「ニャァ…」
「ゴド、ラァ…!!!」
かすみ「ふふん♪ 闇がまとわりついてよく見えないですよね!」
「ガゥ!!」
“ナイトバースト”には相手の命中率を下げる効果がある。
あれだけ至近距離で食らったら、その追加効果の影響をもろに受けてしまったに違いない。
侑「よし……! 今だよ! ウォーグル!」
「ウォーーーーッ!!!!」
ウォーグルが爪を構えながら上空から強襲し──
侑「“ばかぢから”!!」
「ウォーーーーッ!!!!!」
上から爪で力任せに押さえつける。
「ゴドラァ…!!!!」
だけど、ボスゴドラは視界が奪われているはずなのに、ウォーグルをパワーだけで押し返してくる。
174 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:09:27.56 ID:/nLmInIK0
「ウ、ウォーー…!!!!」
侑「ウォーグル!! 負けないで!!」
かすみ「ヤブクロン!! “アシッドボム”!」
「ブクロンッ!!!」
どくタイプの攻撃は、はがねタイプには効果がないけど──ヤブクロンが攻撃を放ったのはボスゴドラの足元だ。
足元に落ちた“アシッドボム”は着弾と共に、地面を溶かし、
「ゴ、ドラッ!!!?」
ボスゴドラの足元を滑らせた。
侑「今だ!!」
「ウォーーーーーッ!!!!!」
「ゴ、ドラァ…!!!!」
ウォーグルが爪で蹴り飛ばしてボスゴドラを押し倒す。そこに向かって、
侑「ドロンチ!!」
かすみ「サニーゴ!!」
侑・かすみ「「“シャドーボール”!!」」
「ロンチィーーー!!!!」「サ……」
2匹から放たれた“シャドーボール”がボスゴドラに直撃し、
「ゴドォッ…!!!!」
その衝撃で吹っ飛んだボスゴドラは──崖から落下していった。
かすみ「はぁ……ど、どうにか倒せたぁ……」
侑「あはは、そうだね……」
やっと撃退出来て、一息──吐いたのも束の間、
「タンザン…!!」
侑「!? かすみちゃん、危ない!?」
かすみ「へ!?」
突然、黒い液体のようなものが飛んできて、私はかすみちゃんを押し倒すように伏せる。
侑「あ、あのポケモンは確か……セキタンザン……!」
かすみ「ま、まだ出てくるんですかぁ!?」
「タンザンッ!!!!」
セキタンザンは再び黒い液体のようなものを飛ばしてくる。
かすみ「サニーゴ! “ミラーコート”!!」
「……サ」
侑「かすみちゃん!! それに当たっちゃダメ!!」
かすみ「へ!?」
その黒い液体は、サニーゴにぶつかると──べしゃっと音を立てながら、サニーゴにへばりつく。
175 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:10:06.75 ID:/nLmInIK0
かすみ「ちょ、サニーゴ!? なんですか、あのねばねばして気持ち悪いの!?」
侑「あれは“タールショット”だよ……! ねばねばしてて、よく燃える液体……!」
かすみ「よく燃える!?」
説明している間にも、
「タンザン…!!」
セキタンザンの背中の炎が赤熱し、口から炎が溢れ出し、大の字になりながらこっちに飛んでくる。
かすみ「ぴゃーーー!? “だいもんじ”−−!!?」
侑「イーブイ! “いきいきバブル”!! フィオネ! “バブルこうせん”!!」
「ブーーーィィッ!!!!」「フィオーー」
2匹のみず技で消火を試みる。
が、勢いが強すぎて、止められる気がしない。
かすみ「か、加勢します!! サニーゴ! “ハイドロポンプ”!!」
「……サ」
タールまみれになりながら、サニーゴが強烈な水流を発射し──それによって、やっと“だいもんじ”は勢いを失い始めるが、
「タンザンッ!!!!」
セキタンザンが、そこに向かって走りこんでくる。
侑「!? ま、まずい!?」
セキタンザンが自ら、泡と水の中に突っ込み──ジュウウウウ!! と音を立て、蒸気を上げる。
かすみ「へ!? なんか、湯気出てますよ!?」
「タンザン…!!!」
直後、猛烈なスピードでセキタンザンがこっちに向かって突進してくる。
かすみ「は、はやっ!?」
侑「……っ!!」
このスピードじゃ、回避しきれない……!!
なら……!
侑「ドロンチ!!」
「──ロンチィ…」
ドロンチがユラリとセキタンザンの進路に現れ、
「タンザンッ!!!?」
侑「足元、薙ぎ払え!!」
「ロンチィ!!!」
「タンザンッ!!!?」
176 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:10:47.81 ID:/nLmInIK0
猛スピードで走るセキタンザンの足元を“ドラゴンテール”で薙ぎ払った。
走っている真っ最中に足払いを食らったセキタンザンは前方に向かってすっ転ぶ。
そして、転んだセキタンザンに向かって真上から──
かすみ「テブリム!!」
「テーーーブゥ!!!!」
テブリムが頭の房を叩きつける。
が、セキタンザンはまだ倒れず、
「タンザンッ…!!!!」
かすみ「タフですねぇ……!」
テブリムに手を伸ばしてくるが──直後、セキタンザンの身体が、ボゴッと音を立てながら地面に沈み込む。
「タンザン…!!?」
かすみ「得意の落とし穴トラップですよ!!」
「クマァッ♪」
ジグザグマがセキタンザンの足元を掘りぬきながら、飛び出してくる。
あの巨体だ。自分の立っている地面の下が空洞になったら、その重さに耐えきれずに、穴に沈み込むは当然のこと。
そして、動けなくなったセキタンザンに向かって──
侑「ドロンチ!! “ドラゴンダイブ”!!」
「ロンチィ!!!!」
「タンザンッ!!!?」
セキタンザンに強烈なプレスをかました。
さすがにこの連続攻撃には耐えきれなかったようで、
「タン、ザン…」
セキタンザンは、ガクリと気絶し、戦闘不能になった。
かすみ「……はぁ……」
侑「あ、危なかったね……」
かすみ「なんですか、あのスピード……見た目に合ってませんよ……」
侑「セキタンザンの特性は“じょうききかん”って言って、みずタイプかほのおタイプの技を受けると、素早さが上昇するんだよ……」
かすみ「な、なるほど……」
“じょうききかん”が発動した時はどうなるかと思ったけど……素早さを逆手に取って、どうにか倒すことが出来た。
かすみ「……そうだ、サニーゴ……すぐにタール、落としてあげるからね……」
「サ……」
かすみちゃんは、タールでべとべとになったサニーゴの体をバッグから出したタオルで拭い始める。
かすみ「……タオルが一瞬で真っ黒に……」
侑「水で洗い落とした方がいいかな……フィオネ、“みずでっぽう”」
「フィオー」
ぷしゃーと水を噴きかけ、サニーゴのタールを少しずつ落としていく。
177 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:11:41.29 ID:/nLmInIK0
かすみ「ありがとうございます……。……それにしても……ここの野生ポケモン……強いですねぇ……」
侑「ホントに……」
やっと尾根まで登り切って、急勾配に苦しめられることがなくなったと思った矢先──野生ポケモンたちが次々と襲い掛かってきて、それの撃退にてんやわんやだ。
かすみ「ここまでで何匹と戦いましたっけ……今戦ったセキタンザン、ボスゴドラ……ニドキング、ドンファン、ハガネール……」
侑「ゴローニャ、ダイノーズ、チャーレムにバクオング……」
かすみ「はぁ……ポケモンたちは“げんきのかけら”で回復できますけどぉ……かすみん、もうさすがに疲れましたぁ……早く帰りたいぃ……」
侑「まあまあ……その成果は出てるからさ」
かすみ「成果……?」
そう言いながら、私はドロンチを見る。
すると、ドロンチは体をぶるぶると震わせていて、次の瞬間──カッと光り輝く。
かすみ「わ!? こ、これって……!」
侑「うん!」
「──パルト…!!!」
侑「戦って得た経験値で、ドロンチがドラパルトに進化したよ!」
「パルト♪」
侑「確実に私たちの力にはなってる。だから、この調子で頑張って進もう」
かすみ「……わかりました。弱音吐いてる場合じゃないですもんね……!」
一緒に戦っていたポケモンが目の前で進化するというのは、少なからず、かすみちゃんにやる気と勇気を与えてくれたようだ。
侑「もう尾根も半分くらいまでは歩いてきたと思うからさ。あと半分、頑張って進もう」
「ブイ」
かすみ「はーい! 頑張ります!」
「ガゥ」
私たちは真っ赤な夕焼け空の中、再び歩き出す。
日が落ち切る前に、少しでも進んでおかないとね──
🏹 🏹 🏹
──さて、私が忙しなくコメコからローズへと来たのには、もちろん理由があります。
それは……説明をしなくてはいけない方たちのもとへと訪れたから……。
マンションの一室で、テーブルを4人の大人が囲っていた。
もちろん、1人は私。……そして、もう1人は──真姫です。
並んで座る私たちの向かいには──
菜々父「…………」
菜々母「…………あ、あの……それで、お話とは……」
神妙な面持ちのナカガワ夫妻の姿。特にご主人の方は、何か心当たりがあるのか、重い表情をしているように見てとれた。
──ここは菜々のご実家。菜々のご両親に事情の説明をしに来たということです。
178 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:12:28.62 ID:/nLmInIK0
海未「本日は、菜々さんについて……ご説明しなくてはいけないことがあって、参りました」
菜々母「菜々の……?」
海未「結論から言うと、菜々さんは……とある事件に巻き込まれていて……今現在、犯罪組織の人間と一緒にいるそうです……」
菜々母「え……」
真姫「それについて、私から説明させてもらってもいいかしら……」
真姫がそう切り出す。
真姫「まず……菜々が、ポケモントレーナーであることは……ご存じですよね。私がポケモンを持たせたことも……」
菜々父「……はい。存じております」
菜々母「主人から、話は伺っています……菜々はチャンピオンになると言って……飛び出して行ってしまったと……」
真姫「菜々は……焦ってチャンピオンに挑み……敗北したそうです」
真姫は伏し目がちに言いながら、言葉を続ける。
真姫「そして……敗北で弱っているところを……その組織の人間に唆されて……付いていってしまった……」
菜々母「そ、その犯罪組織というのは……」
海未「詳しくは調査中ですが……この地方の平和を脅かす存在なのは間違いありません。……少なくとも、善人ではないです……」
菜々母「そん、な……」
菜々の母親の顔色が一気に青ざめる。
真姫「菜々は……すぐにでも強くなるための力を欲するあまり……より強いポケモンを受け取るのを条件に……その組織の人間に……付いていってしまいました」
真姫の言葉を聞いて、
菜々父「…………私が……あんな言い方をしてしまったからか……」
菜々の父親は顔を両手で覆いながら、肩を落とす。
真姫「今回、このような問題を起こしてしまったのは……私の責任です。ご両親が反対しているのを知っていながら、菜々にポケモンを持たせたのは私ですし……その上で、彼女をしっかりと見てあげられなかった。……本当に申し訳ありません」
真姫は立ち上がり、深々と頭を下げる。
菜々父「…………」
菜々母「……な、菜々は……娘は……どうなるんでしょうか……?」
海未「もちろん……リーグが責任を持って連れ戻します」
菜々母「そう……ですか……」
私の言葉を聞いて、菜々の母親は可哀想なくらい気落ちしているのが一目でわかった。
……一人娘が、悪人たちに付いて行ってしまったなんて聞かされたら当然だろう。
だが、母親以上に──
菜々父「………………」
父親の狼狽振りの方が酷かった。
この事態が起こる直前に、菜々と話をしたというのは真姫から聞いている。
その内容も凡その予想が付いていて……そのときに菜々とした会話が、今回の引き金になったという想いがあるのかもしれない。
あまりの気落ち振りに──
179 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:13:12.09 ID:/nLmInIK0
菜々母「あなた……大丈夫……?」
菜々父「……あ……あぁ……」
ご夫人も心配そうにしている。
菜々母「……顔色が悪いわ……。……あとは、私が話を伺うから……あなたは奥で休んでいて」
菜々父「…………しかし…………」
菜々母「いいから」
海未「ご無理は、なさらないでください……今、体調が優れないのであれば、後日でも大丈夫ですので」
菜々父「…………すみません……。……少し、席を外させてもらいます……」
そう言って、菜々の父親は重い足取りで奥の部屋へと下がっていった。
菜々母「…………主人は……菜々からポケモンを取り上げようとした結果、あの子が飛び出して行ってしまったことを……酷く後悔していました……。……それが、まさかこんな事態にまでなってしまうなんて……」
海未「心中……お察しします」
菜々母「ただ……勘違いはしないで欲しいんです。……主人が菜々からポケモンを遠ざけようとしていたのは、菜々を想ってのことなんです……。あの人は……幼少期にポケモンに襲われて親を失っていて……菜々には同じ想いをして欲しくないと……そう口にしていました……」
真姫「……菜々も同じようなことを言っていたわ」
菜々母「私は……このローズで生まれて、ポケモンとほとんど関わらずに育って、あの人と結婚しました。……私はポケモンと関わらない人生を不幸に思ったことはありませんし……少し、怖い存在だと今でも思っています。だから私も……ポケモンと関わらずに、菜々が幸せになれるのなら、その方がいいと思っていました……。ですが……私たちの、その考えが……ずっと、菜々を苦しめていた……」
真姫「…………」
菜々母「いえ……本当は……菜々がポケモンに興味を持っていることには……ずっと前から気付いていました……。だけど、あの人の主張も理解出来て……菜々がしたいことが出来なくて苦しんでいるとわかっていながら……あの人の意見も正しいからと、そんな風に自分に言い訳して……あの子の気持ちから、目を逸らしていたんです……っ……」
菜々の母親は、目元を押さえながら、そう話す。
菜々母「こんなことになるなら……もっと、話を聞いてあげればよかった……っ……菜々を……見てあげればよかった……っ……。……っ……」
彼女の目から、ぽろぽろと涙が零れる。
私は席を立ち、彼女に近付き、ハンカチを差し出す。
海未「……使ってください」
菜々母「……すみません……っ……」
さめざめと涙を流すナカガワ夫人を見て、
真姫「ごめんなさい……私も……隠れてポケモンを持たせたりせず、もっとご家族と向き合えるようなやり方を……ちゃんと考えてあげるべきでした……。……ごめんなさい」
再び頭を下げる真姫。
菜々母「あ、頭を上げてください……真姫さんは……菜々の夢を……叶えるために、あの子の傍に居てくれたんですよね……」
真姫「……その……つもりだったんだけどね」
真姫も、酷く後悔した顔をしていた。
その胸中は……わざわざ説明する必要もないでしょう。
菜々母「あの……真姫さん……」
真姫「……なんでしょうか……」
菜々母「あの子は……菜々は、ポケモントレーナー……だったんですよね」
真姫「……はい」
菜々母「今からでも、あの子が……その……ポケモントレーナーとして戦う姿を……確認出来るものは……残っていますか……?」
真姫「え……?」
180 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:13:56.93 ID:/nLmInIK0
真姫は菜々の母親の言葉に驚いたように目を見開く。
菜々母「私は……私たちは……菜々のことを全然見ていなかった……。……私たちには戦う力がありません。……だから、こんなことになってしまった今、菜々にしてあげられることは何もない、ただ待つことしか出来ない。……だけど……せめて……あの子が心の底から大事に思っていたものを、大好きだと思っていたものを……ちゃんと見ないといけないんじゃないかって……そう思ったんです。今更、遅いのかもしれませんが……」
菜々の母親の言葉に、真姫は、
真姫「……是非、そうしてあげてください……きっと、菜々は両親がそう思ってくれただけで、喜ぶはずだから……」
そう返す。
真姫「海未、ポケモンリーグのバトルビデオ……本部なら残ってるわよね?」
海未「もちろんです。後日、リーグからこちらに送らせていただきます」
菜々母「ありがとうございます……。……あの人にも、一緒に見てもらうようにお願いしてみます……あの子の……大好きなものを……。あの子にとっての……大切なものを……」
菜々の母親の言葉を聞いて、真姫は力強く頷いた。
真姫「あの子は……菜々は、絶対に私たちが連れて帰ります……! だから、待っていてください……!」
菜々母「はい。菜々のこと……どうか、よろしくお願いします……っ……」
菜々の母親は、最後にもう一度、深々と頭を下げて、私たちにそう懇願するのだった。
🏹 🏹 🏹
ナカガワ宅を後にし、ローズの街を歩く最中、
真姫「……私も……ダメね」
真姫がそう零す。
海未「どうしたんですか、突然」
真姫「……私も人のこと言えないなって……。……菜々のご両親は、絶対に話を聞いてくれるはずないって……勝手に決めつけて、せつ菜のことをずっと隠していた……。……今になって考えてみたら、もっとやりようはあったんじゃないかって……」
海未「気持ちはわかりますが、今言っても仕方ありません……。それに、今私たちにはやるべきことが山積みです。……悔やむのは全てが終わってからにしませんか」
真姫「……そうね。……ごめんなさい」
そうだ。私たちにはやるべきことがたくさんある。
海未「……そういえば、侑とかすみは今どうしているんですか? ローズジム戦には勝利したと報告は受けましたが……」
真姫「今は果南が出した課題をこなすために、カーテンクリフを登っているみたいよ」
海未「それはまた……果南らしい、課題の出し方ですね……」
彼女の教え方は非常に大雑把だ。
一つ一つ問題点を解決するというよりは……とにかく、やらせて伸ばすというか……。
しかも、そのやらせる内容はかなり無茶なことが多い。
確かに、それをこなせれば相応の自信と実力を付けられるものになっているのには間違いないのだが……。
海未「大丈夫でしょうか……」
181 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:14:39.65 ID:/nLmInIK0
自分が条件を出しておいてなんですが……私は少しだけ、彼女たちが心配になっていた。
🎹 🎹 🎹
かすみ「──もう……! あのヨノワールしつこすぎでしたよ!」
「ガゥゥ…」
侑「あはは……そうだね……」
「ブイ」
日もとっぷり暮れて……朝からずっと動き続けていた私たちは、さすがにくたくた……今日はここら辺で休もうという話になったんだけど……。
そんな中でも、お構いなしに襲ってくる野生ポケモンをどうにか撃退したところだ。
侑「とにかく、テント張っちゃおうか」
かすみ「はいぃ……もう、さすがに休まないと死んじゃいますぅ〜……」
二人掛かりで、テントを張ろうとして──
侑「……ん?」
ペグを打とうとしたら──地面にすでにペグを打ったような穴があることに気付く。
かすみ「どうかしたんですか、侑先輩?」
侑「あ、いや……すでにペグを打ったみたいな穴があってさ……」
かすみ「もともとあったってことですか?」
侑「うん……」
周りをよく見てみると──焚火跡のようなものもある。
……せっかくだし、使わせてもらおうと思うけど……。
かすみ「ここで野宿でもしてる人がいたんですかね……?」
ここで野宿する人なんているのかな……? なんて思ったけど、
侑・かすみ「「……あ」」
かすみちゃんと同時に思い出す。
侑「……せつ菜ちゃんだ」
かすみ「……せつ菜先輩です」
侑「考えてみれば……ここでの修行って、せつ菜ちゃんもしてたことなんだ……」
かすみ「確かに、強い野生ポケモンもたくさんいますし……ここに籠もるのってもしかして、すっごく効率がいいんですかね?」
侑「かもしれないね」
やっぱり、果南さんはチャンピオンなだけあって、用意してくれたの課題は適切なのかもしれない。道具だけ渡して行ってこいって言うのは、大分スパルタだとは思うけど……。
そんなことを考えていると──くぅぅぅ〜〜……と可愛らしい音が聞こえてくる。
かすみ「ぅぅ……お、お腹なっちゃいましたぁ……///」
侑「……ふふ、早くテント張って、ご飯食べよっか」
182 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:15:17.54 ID:/nLmInIK0
私たちは一刻も早く空腹を満たすためにも、野営の準備に取り掛かるのだった。
🎹 🎹 🎹
侑「……ねぇ、かすみちゃん」
かすみ「なんですか?」
お湯を入れるだけで作れるポタージュを飲みながら、かすみちゃんが小首を傾げる。
侑「強い人って……どんなこと考えてるか、わかる……?」
かすみ「んー? ……うーん……もっと強くなるぞーとか? ……正直、よくわかんないですね」
侑「あはは、そうだよね。私も……よくわかんない……。……わかって、あげられなかった……」
かすみ「……もしかして、せつ菜先輩に言われたこと……気にしてるんですか……?」
侑「うん……ちょっとね……」
遺跡でせつ菜ちゃん言われたこと──『貴方なんかに──私の気持ちは、理解出来ませんよ……』──
侑「せつ菜ちゃん……すごく苦しそうだった……。……だから、ずっと考えてたんだ……だけど、わからなかった……」
かすみ「……せつ菜先輩って……菜々先輩なんですよね」
侑「……みたいだね。……会議でその話を聞いたときは、びっくりした……」
かすみ「かすみんもです……。でも、菜々先輩がせつ菜先輩だったってことは……かすみんたちには想像出来ないくらい、大変なことがあったんじゃないかなって思うんです……」
侑「……そうだね」
親に旅立ちを許してもらえなかった菜々さんが……せつ菜ちゃんとして、この地方のチャンピオンに迫る実力を得るまでに、一体どれだけの苦労と、苦悩があったのか……私には想像も出来ない。
かすみ「かすみんたちは……選ばれて、図鑑も、最初のポケモンも貰って旅に出れましたけど……せつ菜先輩が実は菜々先輩だったって知った途端……せつ菜先輩にとって、かすみんたちってすっごく恵まれた人たちに見えてたんじゃないかなって思うようになりました……」
侑「……うん」
私たちはなんとなく、最初のパートナーに目を向ける。
「ブイ…?」
「カイン」
私のイーブイに関しては、博士に貰ったポケモンではないけど……。
かすみ「たぶん……そういう羨ましいー! って気持ちとか、なんであの人は貰ってるのにー! って気持ちが一度出てきちゃうと、悔しくて悔しくて、仕方なくなっちゃうんじゃないかなって……少なくともかすみんが同じ立場だったら、すっごく悔しいです」
今考えてみればだけど……その悔しさみたいなものは、せつ菜ちゃんの手持ちにも反映されていた。
侑「……せつ菜ちゃんが手持ちを5匹しか持ってなかったのは……そういうことだよね……」
せつ菜ちゃんにとって……最後の1匹──いや、最初の1匹は……ヨハネ博士から貰うはずのポケモンだったんだ。
183 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:16:46.16 ID:/nLmInIK0
かすみ「だから……せつ菜先輩がかすみんや侑先輩に八つ当たりしちゃう気持ち……かすみんはわかる気がします。……もちろん、果林先輩が余計なことを言ったんだとは思いますけどね!」
侑「うん……」
かすみ「結局、かすみんたちはせつ菜先輩が欲しかったものをすでに持ってるわけですから……せつ菜先輩がどう辛かったか〜とか、悔しかったか〜とか、そういう気持ちって、想像する以上のことは出来ないと思うんですよ」
侑「……まあ……そうだよね」
かすみ「だから、どっちかと言うとせつ菜先輩自信の問題だと思います。侑先輩、すっごく優しいから気になっちゃうんでしょうけど……侑先輩が悩んじゃうくらいなら、気にしなくてもいいんじゃないかなって」
侑「……ありがとう、かすみちゃん。……話したら、ちょっとすっきりした」
かすみ「なら、よかったです♪」
かすみちゃんは、ニコニコ笑いながら言う。
かすみ「じゃあ、今度はかすみんから侑先輩に聞いてもいいですか?」
侑「ん、なにかな」
かすみ「侑先輩は……どんなトレーナーになりたいですか?」
侑「どんなトレーナー……うーん……」
改めて聞かれると悩んでしまう。
かすみ「きっとせつ菜先輩には明確に、そういうものがあったのかな〜って……だから、そういうのを考えていったら、意外とわかったりして」
侑「……確かに……うーん……でも、なんだろう……。……かすみちゃんは?」
かすみ「かすみんはポケモンマスターになりたいって思って、ずっと旅してますよ!」
侑「ポケモンマスターかぁ……」
かすみちゃんらしいけど、ちょっと抽象的だなぁ……。
侑「具体的には……?」
かすみ「具体的……? うーんと……可愛くて強いトレーナーです! あと、誰にも負けないトレーナーになりたいです!」
侑「可愛くて強くて、誰にも負けないトレーナー……なんか、それもかすみちゃんらしいね」
かすみ「はい! 自分でもかすみんらしいと思います! それで、侑先輩はどうですか?」
侑「私は……」
考えてみる。私はどんなトレーナーになりたいのかな……。
未来の自分を想像してみる。
強くはなりたい……強いトレーナーになって……。
……チャンピオンになる……? うーん……なんか違う……。もちろんなれたら嬉しいけど……私がポケモンたちと一緒に目指したいのってそういうことじゃない気がする……。
じゃあ、ジムリーダーとか、四天王になる……? それもなんだかしっくりこない。
……なら、どうして強くなるんだろう。
強くなって……何をするんだろう。
そのとき、ふと……頭に浮かんできたのは……。
侑「……歩夢……」
──歩夢の顔だった。
侑「……そっか。わかった……私……大切な人を守れるトレーナーになりたいんだ」
私の旅は、いつだって歩夢と一緒にあった。歩夢がいなくなってしまって、より一層強く思った。私は……歩夢を守れるトレーナーでありたい。
184 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:17:31.28 ID:/nLmInIK0
かすみ「……素敵です、侑先輩らしいですね♪」
侑「歩夢だけじゃない……かすみちゃんも、しずくちゃんも、リナちゃんも……せつ菜ちゃんも。私が大切って思った人たち、みんなを守れる強いトレーナーになりたい」
かすみ「じゃあ、お互い強くならないといけませんね! まあ、かすみんは守ってもらわなくても大丈夫なくらい強くなっちゃうんですけど♪」
侑「ふふ、頼もしいね♪ じゃあ、私はかすみちゃんに守ってもらっちゃおうかなぁ……」
かすみ「任せてください! 最強の可愛い強いトレーナーはそれくらい出来て当然ですから!」
侑「ふふ、期待してるよ♪」
そして、そんな風になるためにも──私たちはこの修行を乗り越えないといけない。
私たちの……未来を守るためにも。
かすみ「……ふぁぁ……」
侑「かすみちゃん、眠い?」
かすみ「はい……ご飯食べたら……急に眠くなってきました……」
侑「明日も朝早いだろうから……今日はもう寝ちゃおっか」
かすみ「はい……」
私はテントの中に、果南さんからもらった鈴を取り付ける。
野生ポケモンがテントに触れたら、鈴が鳴って報せてくれるようにするものらしい。
大きなテントではないので、ポケモンたちをボールに戻して……。
と、思ったら、
「カイン」「…ライボ」
ジュカインとライボルトは私たちがボールを向けると首を振る。
かすみ「ジュカイン……もしかして、見張りしてくれるの?」
「カイン」
侑「ありがとう、ライボルト。でも明日もあるから、せめてジュカインと交替で休んでね」
「…ライボ」
2匹にお願いして、私たちはテントの中に入る。
「──ガゥ♪」
かすみ「……って、ボールから出てきちゃダメじゃないですか……。仕方ないなぁ……一緒に寝よっか、ゾロア」
「ガゥ♪」
侑「ふふ、それじゃ寝ようか。イーブイ、おいで」
「ブイ♪」
こうして、私たちの修行1日目は終わりを迎えるのだった。
🍭 🍭 🍭
──時刻は夜です。ルビィは今、夜のローズシティにいます。
なんでこんなところにいるかというと……。
理亞「ルビィ、こっち」
ルビィ「うん」
185 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:18:52.81 ID:/nLmInIK0
理亞ちゃんにローズの病院に来て欲しいと言われたからです。
お互いジムリーダーなので、海未さんに許可を取って……少しの間、四天王さんたちの守る範囲を広げてもらっています。
ルビィ「それにしても……理亞ちゃん、急にどうしたの……?」
理亞「……ルビィには、知っておいて欲しいと思って」
ルビィ「……?」
そう言って前を歩く理亞ちゃんは──案の定、聖良さんの部屋に向かっていた。
理亞「──ねえさま。ルビィを連れてきたよ」
ルビィ「お、お邪魔しま──……え……?」
私はベッドに横たわる聖良さんを見て、びっくりする。
聖良さんの目が開いている。
理亞「ねえさま、意識が戻ったんだ。……だけど、心がないんだって」
ルビィ「……心が……ない……?」
確かに、聖良さんは目こそ開けているものの……なんというか、人間味のようなものが感じられない。無表情って言うのかな……?
理亞「やぶれた世界に行ったって言うのもあって……心だけが……どこかに行っちゃったって……」
ルビィ「…………」
確かにありえない話じゃないと思った。
聖良さんはディアンシーの怒りを受けた。……それが理由で、心を──魂を奪われてしまったのだとしたら……。
理亞「ただ……会議で話を聞いていて……思ったの。もしかしたら、ねえさまの魂は──ピンクダイヤモンドに閉じ込められてるんじゃないかって」
宝石には人の魂が宿ることがある。お姉ちゃんが言っていたことです。
お姉ちゃんは迷信レベルの話だから、本気にされてもと困っていたけど……ルビィは正直、迷信だとは思っていなかった。
何故なら……私の心は、コランに宿っていた気がするから。
守りたいって気持ちが一番強くなったときに、コランと共鳴して──私の心に住んでいたグラードンが出てきてくれた。
だから、ここまで聞いて、理亞ちゃんの言いたいことはなんとなく理解出来た。
ルビィ「……ディアンシー様に、会いたいんだね」
理亞「……! ……うん」
理亞ちゃんは頷くと、私の前で跪いた。
理亞「……クロサワの巫女様。……私を……ディアンシー様と会わせてください」
ルビィ「……理亞ちゃん、顔を上げて」
理亞「…………」
理亞ちゃんがゆっくりと顔を上げる。
ルビィ「前にした約束……覚えてる?」
約束──それは、やぶれた世界で戦ったときのこと。
186 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:19:49.46 ID:/nLmInIK0
理亞「ディアンシー様に、クロサワの巫女様に……認めてもらえるよう努力するって話だよね……」
ルビィ「うん。ルビィ、ずっと理亞ちゃんのこと見てたよ」
理亞ちゃんにとって、この3年間は大変なことの連続だったと思う。
その頑張りは、ちゃんと成果に出ていて──今では町の人にも慕われるジムリーダーになった。
ルビィ「クロサワの巫女として……今の理亞ちゃんなら、ディアンシー様と引き合わせても、大丈夫だと思えるよ」
理亞「ルビィ……! それじゃあ……!」
ルビィ「うん! 一緒に、やぶれた世界に行こう! それで、ディアンシー様に聖良さんの魂を返してもらえるようにお願いしよう♪」
理亞「……うん!」
バイタルサインの響く、聖良さんの病室で……。
3年前の約束を守るために、ルビィは──クロサワの巫女として、成長した理亞ちゃんと共に、ディアンシー様のもとへ行くことを決意したのでした。
🎹 🎹 🎹
──翌日。
侑「はぁ……はぁ……」
かすみ「やっと……ですね……」
朝から野生のポケモンたちと戦いながら歩き続けて──やっと到着した。
侑「遺跡の……階段……!」
かすみ「はい! あとは階段を登るのみです!!」
でも、もう日が沈み始めている……つまり2日目の夜になろうとしているということだ。
私たちはここまでに2日掛かっているわけだけど……まだ帰りがある。
このままだと帰りは倍の速度で進まなくちゃいけないことになる。
侑「時間がない……急ごう」
「イブイ!!」
かすみ「はい!」
「ガゥ!!」
私はかすみちゃんと一緒に、遺跡の長い長い階段を登り始めた。
187 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:21:47.67 ID:/nLmInIK0
🎹 🎹 🎹
──大急ぎで階段を登ると……。
かすみ「……いや、雑過ぎませんか……?」
「ガゥゥ…」
侑「あ、あはは……」
「ブィィ…」
登りきったところに……いかにもな宝箱が置いてあった。
大きさは長辺が30pくらいの小脇に抱えて持ち運ぶのがちょうどいいかなというサイズのものだった。
侑「まあ……わかりやすくしてあるって言ってたし……」
かすみ「だとしてもですよ……」
なんとなくわかっていたけど……果南さんは相当大雑把な人らしい……。
かすみ「まあ……さっさと開けて中身回収しちゃいましょう……」
かすみちゃんが開けようとするも、
かすみ「あ、あれ……? 開かない……」
箱はウンともスンとも言わなかった。
かすみ「んぎぎ……!! な、なんですか、これぇ!? 鍵でもかかってるんですか!?」
侑「あ……そうだ……鍵貰ったじゃん」
かすみ「……そういえば、貰ってましたね」
果南さんにもらった小箱だ。
到着したら箱から出すように言われていたものだ。
バッグから小箱を取り出し──中身を確認しようとした、そのとき、
かすみ「……!? 侑先輩!! 危ない!!」
侑「えっ!?」
「イブィ!!?」
急にかすみちゃんが飛び付いてきて、私は尻餅をつく。
直後、今さっきまで私の頭があった場所を──輝くレーザーが迸る。
侑「……!! 野生のポケモン……!! ライボルト!!」
「ライボッ!!!」
私はライボルトをボールから出しながら、すぐさま身を起こし、
かすみ「わっ!?」
かすみちゃんの手を引いて走り出す。
そして、走り出した瞬間に今私たちが転んでいた場所に、先ほどと同じレーザーが飛んできて床を焼く。
走りながら、レーザーを撃ってきたポケモンの方に顔を向けると──
188 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:22:19.49 ID:/nLmInIK0
「ジュラル」
侑「……! ジュラルドン!!」
ごうきんポケモンのジュラルドンが、こちらに向かって光を集束させているのが確認出来た。
さっきのレーザーと同じ技──
侑「“ラスターカノン”だ……!! ライボルト!! “チャージビーム”!!」
「ライィィーーボォッ!!!!!」
「ジュラルドンッ!!!!」
ライボルトの“チャージビーム”とジュラルドンの“ラスターカノン”が真正面から衝突し、逃げ場を失ったエネルギーが爆発して、砂塵を巻き上げる。
かすみ「ゆ、侑先輩ぃ!! 宝箱から離れて行ってますよぉ〜!」
「ガゥガゥゥ…!!!!」
侑「わかってるけど……! ゆっくり開けてたら狙い撃ちにされちゃうよ!」
「ブ、ブイ」
とにかく狙い撃ちにされないように、私たちは走り回る。
かすみ「ゆ、侑先輩! あそこに!」
かすみちゃんが指差す先は──遺跡に立っている柱だ。
侑「うん……!!」
とりあえず、影に隠れようと、後ろに回ると──
「オノ…」
侑・かすみ「「!?」」
先客が居た。
「オノッ!!!!」
かすみ「……ジュカインっ!!」
「──カインッ!!!」
大きな顎で襲い掛かってくるポケモンを、飛び出したジュカインが両腕の刃で対抗する。
この鋭いアゴを持ったポケモンは──
侑「オノノクス……!」
かすみ「あーもう!! ダンジョンのボスってわけですか!? 侑先輩……!! こっちはかすみんたちがどうにかします!! 侑先輩はジュラルドンを!!」
侑「わかった……!!」
私はジュラルドンに向かって走り出す。
「ジュラル!!!」
ジュラルドンが再び“ラスターカノン”を放ってくるが、
侑「ライボルト!! “10まんボルト”!!」
「ライィィボォォォォ!!!!!」
迸る電撃が、それを相殺する。
189 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:22:52.97 ID:/nLmInIK0
侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
「ブーーーィィッ!!!!」
イーブイが電撃を発し……ジュラルドンを捉えるが──
「ジュラル…」
ジュラルドンはノーリアクション。
侑「き、効いてない……!」
相手は、はがね・ドラゴンタイプ。
でんきタイプの技じゃ、効果が薄い。
なら……!
侑「“めらめらバーン”!!」
「イッブィッ!!!!」
イーブイが全身に炎を纏って、ジュラルドンに向かって駆けだす。
一気に肉薄し、
侑「いっけぇ!!」
「ブーーィッ!!!!」
イーブイの炎の突進が炸裂したが──ガァンッ! という硬い音と共に、
「ブイッ!!!?」
イーブイが弾き返される。
侑「“てっぺき”!?」
さらに──ジュラルドンから、耳障りな音が周囲に向かって発せられる。
侑「……っ゛!? ……き、“きんぞくおん”……っ……!」
そのうえ、ジュラルドンは見た目からは想像出来ないような素早いフットワークで、今しがた弾き飛ばしたイーブイに近付き──大きな尻尾を振るって叩きつける。
「ブィィィッ…!!!」
侑「イーブイ……!! 今度は“ワイドブレイカー”……!」
“びりびりエレキ”で“まひ”しているはずなのに、この速さ……相手のレベルの高さが一目でわかる。
このジュラルドン……強い……!
……でも……前なら焦っていたけど──
侑「修行の最後の敵に相応しいじゃん!」
今は不思議と、戦意が高揚していた。
侑「イーブイ!! “こちこちフロスト”!!」
「イーーブィッ!!!!」
黒い冷気が纏わりつくようにして──ジュラルドンの足元を凍り付かせていく。
190 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:23:29.05 ID:/nLmInIK0
「ジュラル」
ジュラルドンは体を振るって氷を破壊するけど──その隙を突いて、
侑「ライボルト! “かえんほうしゃ”!!」
「ライボッ!!!!」
ライボルトと一緒に走りながら、“かえんほうしゃ”で攻撃する。
「ジュラル」
が、ジュラルドンは火炎の中でも怯まず、
「ジュラーールッ!!!!!」
“りゅうのはどう”をこっちに向けて発射してくる。
侑「……っ!」
私は咄嗟にライボルトの背を掴み──それと同時に、
「ライボッ!!!」
ライボルトが脚の筋肉を電気で刺激し、猛加速して、“りゅうのはどう”をすんでのところで躱す。
攻撃はどうにか捌けてる……だけど、相手を倒す決定打が足りない……。
侑「……どうにか、打開策を考えないと……!」
👑 👑 👑
かすみ「──“りゅうのはどう”!!」
「ジューーカインッ!!!!」
相手の鋭い顎を刃で受けながら、口から“りゅうのはどう”を相手の顔面に向かってぶっ放してやります!
「オノノクッ…!!!」
さすがに至近距離からのドラゴンタイプの攻撃は、相手を怯ませましたが、
「オノッ!!!」
怯んだのは一瞬だけで──後ろに半歩引く反動をそのまま、身体を捻る動作に変換して、太い尻尾を真横からジュカインに叩きつけてくる。
「カインッ!!!?」
ジュカインは、尻尾の一撃を食らい遺跡の石畳の上を吹っ飛んでいく。
かすみ「い、今の“アイアンテール”!? ジュカイン、大丈夫!?」
「カ、カインッ!!!」
191 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2022/12/21(水) 15:24:02.88 ID:/nLmInIK0
駆け寄りながら、声を掛けると、ジュカインはすぐに受け身を取って立ち上がる。
だけど、受け身を取って立ち上がった直後のジュカインに向かって──大量のウロコが飛んできた。“スケイルショット”です……!
かすみ「“タネばくだん”!!」
「カインッ!!!」
ジュカインは体を大きく捻って、背中の丸いタネを飛ばすと──それがドォンッドォンッ!! と音を立てながら爆発して、“スケイルショット”を相殺する。
やっとの思いで、かすみんがジュカインのもとにたどり着くと同時に、
「オノォッ!!!!」
“タネばくだん”によって発生した爆煙の中から、オノノクスが鋭い顎を構えて、飛び出してきた。
「カインッ!!!」
ジュカインはそれを再び両腕の刃で受け止める。
──けど、今度は相手が速かった。
受け止めたと同時に、オノノクスの口から“りゅうのはどう”が発射され、
「カインッ…!!?」
ジュカインの頭部に直撃する。
かすみ「ジュカイン!? っ……! ゾロア、“ナイトバースト”!!」
「ガーーーゥゥ!!!」
「オノッ…!!」
咄嗟に至近距離で“ナイトバースト”を顔面にぶちかます。
相手は倒れる気配こそ全然ないものの、顔面を暗闇に包まれて、一瞬かすみんたちのことを見失う。
かすみ「ジュカイン、平気!?」
「カインッ…」
声を掛けると、ジュカインはすぐに立ち上がる。
どうやら、致命傷にはなっていないようで安心する。
かすみ「……ぐぬぬ、お昼だったら、“ソーラーブレード”が使えるのに……!」
辺りはすっかり日が落ちきって、もう夜の時間帯になってしまった。
こうなると、ソーラー系の技はほとんど使えないと考えた方がいい。
あの技がないと、決定打に欠ける……。
かすみ「どうにかして……一発、大きいのを決めないと……!」
「カインッ…!!」
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