侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2

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392 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:41:10.22 ID:bMcrfVdQ0

それぞれの決意を口にして──

さぁ……いよいよ決戦だ……!





    🎹    🎹    🎹





あの後、彼方さんは海未さんに送られる形で、国際警察の医療施設の方へと飛んでいった。

……決戦前日の今日は、遥ちゃんと過ごしたいとのことだった。

エマさんはいつもどおり、自分の寮へ。明日の朝迎えに行くことになっている。

そして、私たちも……今日はセキレイへと帰ってきていた。


かすみ「……かすみんたち、これから世界を救う戦いに行くんですね」

侑「……そうだね」
 「ブイ…」

かすみ「旅に出たばっかりのときは……こんなことになるなんて想像もしてなかったです」

侑「私もだよ」

リナ『ごめんね、私たちの世界の事情に巻き込んじゃって……』 || 𝅝• _ • ||

かすみ「別にリナ子が謝ることじゃないよ」

侑「うん。みんなで解決しよう」

リナ『……うん! ありがとう!』 || > ◡ < ||


かすみちゃんと夜のセキレイシティを歩く。


侑「そういえばさ……」

かすみ「なんですか?」

侑「かすみちゃん……このこと、お父さんとお母さんには言った?」

かすみ「はい! ローズで入院してるときに言いました! パパとママには猛反対されたけど……絶対かすみんがしず子を助けに行くんだって言い続けたら、納得してくれましたよ!」

侑「そっか……。……やっぱ、反対されるよね……」

かすみ「……? ……もしかして、侑先輩……」

リナ『親御さんに言ってないの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……うん」


きっと何を言っても心配を掛けてしまう気がして……なんて言えばいいのかわからなくて……まだ言えていなかった。


かすみ「侑先輩、それはよくないですよ……!」

侑「……だよね」


さすがに命を懸けた戦いに行くのに、家族に何も言わないのは……よくないよね。


侑「……今日、話すよ」

かすみ「それがいいです! もし反対されちゃったら、かすみんに連絡してくださいね! 一緒に説得しますから!」

侑「うん、ありがとう、かすみちゃん」

かすみ「それじゃ、かすみんこっちなんで! ……また明日です! 侑先輩もリナ子もゆっくり休んでくださいね!」

侑「うん、かすみちゃんも」
393 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:44:10.81 ID:bMcrfVdQ0

私はかすみちゃんと別れて──自分の家に向かう。





    🐏    🐏    🐏





彼方「遥ちゃん」

遥「…………」

彼方「ふふ、すっごくお寝坊さんだね……誰に似たのかなぁ〜?」

遥「…………」

彼方「たくさん、怖い思いさせちゃったね……ごめんね……。……でも、次遥ちゃんが目を覚ますときは、怖いことは全部解決してるはずだから」

遥「…………」

彼方「お姉ちゃん……行ってくるね。全部に決着をつけてくるから……遥ちゃんはここでゆっくり休んでて」


そう伝えてわたしは席を立つ。


職員「もう、よろしいんですか?」

彼方「はい。遥ちゃんの近くにいると、離れられなくなっちゃうから……」


本当は一緒にいたいけど……少しでも自分の中にある闘志の炎を絶やさないように……。


彼方「行ってきます。夢の中で……応援してくれると嬉しいな」


そう残して、遥ちゃんの病室を後にしたのでした。




遥「………………お…………ねぇ…………ちゃん………………?」





    🎹    🎹    🎹





自宅のマンションへと帰ってくると──ちょうど、タカサキ家から人が出てくるところに出くわす。


侑「歩夢のお父さんとお母さん……」

歩夢母「あら……侑ちゃん……」

歩夢父「こんばんは」

侑「こんばんは」


挨拶を返しながら顔を見ると──二人とも少しやつれていた。

そりゃそうだ……娘の歩夢が攫われて……もう2週間以上経っているんだから。
394 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:44:55.38 ID:bMcrfVdQ0

侑「あの……」

歩夢母「……ふふ、大丈夫よ」

侑「え……」

歩夢母「歩夢は……ちゃんと帰ってくるって、信じてるから」

歩夢父「今いろんな人たちが、動いてくれているとリーグの方から聞いたからね……。……きっと大丈夫だよ」

歩夢母「だから、侑ちゃんも無理しないでね」

侑「……はい」

歩夢父「それじゃ、おやすみなさい」

侑「……おやすみなさい」


ペコっと頭を下げると、二人はお隣のウエハラ家へと帰っていった。


侑「……」


1秒でも早く、歩夢のご両親を安心させてあげたい……。

そのためにも、私は……戦わなきゃ……。

思わず、自然と拳を握って立ち尽くしてしまう。すると──


侑母「侑ちゃん、いつまでそうしてるの?」


お母さんが目の前にいた。


侑「お母さん……」

侑母「おかえりなさい、侑ちゃん。イーブイちゃんと、リナちゃんも」
 「ブイ♪」

リナ『ただいま』 || > ◡ < ||

侑母「ご飯出来てるから、冷めちゃう前に食べましょう? お父さん待ちくたびれちゃうから。あ、もちろんポケモンちゃんたちの分も用意してるからね」


そう言って、にっこり笑う。


侑「うん」
 「ブイ♪」


私は頷いて家に入る。


侑「歩夢のお父さんとお母さん……よく来るの?」

侑母「まあ……不安だろうからね」

侑「……そうだよね」


私の両親と歩夢の両親は古い付き合いらしいし……一緒にいるだけでも、不安が和らぐものだからね……。


侑母「あ、ご飯の前に手洗いうがいしなさいね」

侑「はーい」


私は洗面所で手洗いうがいをしてから──リビングに入ると……。


侑父「侑、おかえり。イーブイとリナさんもおかえり」

侑「ただいま」
 「ブイブイ♪」

リナ『ただいま』 || > ◡ < ||
395 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:45:27.93 ID:bMcrfVdQ0

お母さんの言うとおり、食卓で待っていたお父さんに出迎えられる。

そして食卓には──豪華な食事が並んでいた。


侑「うわぁ……!」

リナ『すごーい!』 ||,,> ◡ <,,||

侑母「今日は侑ちゃんの好きなものばっかり作ったから♪」

侑「うん!」


私は椅子に座る前に、


侑「みんな、出てきて!」
 「ウォーグ」「…ライボ」「ニャー」「パルト」「フィオ〜♪」

 「メシヤ〜」「メシヤ〜」「メシヤ〜」「メシヤ〜」「メシヤ〜」


みんなをボールから出す。ついでにドラメシヤたちも。


侑母「はーい、ポケモンちゃんたちのご飯はこっちだからね〜♪」

 「イブイッ♪」「ウォーグ♪」「…ライ」「ウニャァ〜♪」「パルト」

 「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」

侑母「リナちゃんのご飯も用意できたらよかったんだけど……」

リナ『気にしないで! その気持ちだけで嬉しい!』 || > ◡ < ||

侑母「ふふ、ありがとう♪」


──お母さんが用意してくれたポケモン用のご飯をみんなが食べ始めるのを見ながら、


侑父「ふふ、随分賑やかになったね」

リナ『侑さん、旅の中でたくさん仲間が増えたから』 ||,,> ◡ <,,||

侑父「そうみたいだね」


お父さんが優しく笑う。


侑母「さぁ、侑ちゃんも冷めないうちに食べて?」

侑「うん……! いただきます……!」


からあげをお皿に取って、口に運ぶ。


侑「……おいしい……っ!」

侑母「ふふ、侑ちゃん昔から好きだったもんね、お母さんのからあげ」

侑「うん! やっぱり、お母さんの作るご飯が一番おいしい……」

侑母「もう、おだてたってなにも出ないわよ〜? あ、デザートもあるからね♪」

侑父「ははっ、侑がお母さんのことを褒めると、どんどんメニューが豪華になりそうだな」

侑「あはは♪」


当たり前の家族の会話が……なんだか、すごく幸せに感じた。

だから……だからこそ……今、ちゃんと伝えないといけないと思った。


侑「……あ、あのさ……お父さん……お母さん……」

侑母「んー?」

侑父「なんだい」
396 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:46:15.20 ID:bMcrfVdQ0

二人が優しい表情で私を見つめてくる。


侑「……あ、あのね……私……」


ちゃんと、伝えなくちゃ……。息を吸って、


侑「…………歩夢を……助けに行くんだ……」


そう言葉にした。

でも、私の言葉を聞いたお父さんとお母さんは驚くどころか、


侑母「ふふ、知ってる」

侑父「わかってるよ」


優しい表情のまま、そう答える。


侑「え……?」

侑母「侑ちゃんが、歩夢ちゃんのこと助けに行かないわけないって……それくらい、お母さんたち最初からわかってるのよ?」

侑父「もしかしたら、言ってくれないんじゃないかって心配はしてたけどね」

侑「お父さん……お母さん……。……で、でもね……すごく危ないところに行くんだ……」

侑母「うん」

侑「もしかしたら……帰って、来られないかもしれない……」

侑父「大丈夫」

侑「え……?」

侑父「お父さんもお母さんも……侑のことを信じてるから」

侑「……!」


その言葉を聞いて──ふいに、頬を涙が伝った。


侑母「もう……泣くことないでしょ〜?」


そう言いながら、お母さんが席を立って、私の涙を指で優しく拭ってくれる。


侑「ご、ごめん……」

侑母「もちろんね……侑ちゃんが危ないところに行くのは心配……だけどね……侑ちゃんが自分で決めたことなんだよね? だったら、お母さんたちは侑ちゃんを信じて応援するよ」

侑「お母さん……」

侑父「ははっ、侑が泣くのを見たのは──歩夢ちゃんの旅立ちが決まったとき以来だね」

侑「!?/// お、お父さん!?///」

リナ『え? 侑さん、歩夢さんの旅立ちが決まったときに泣いちゃったの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「リナちゃんがいるのに変なこと言わないでよ!?///」


──実は私は……歩夢が旅立ちの3人に選ばれたとき、泣いてしまった。

私は小さい頃からずっとポケモンが……ポケモンバトルが大好きで、ずっとずっとトレーナーに憧れていて……。

自分もいつかは最初のポケモンと図鑑を貰って旅に出ることが夢で、いつかそうなるんだって思っていたから……。

私じゃなくて──歩夢が、大切な幼馴染がそれに選ばれたことが嬉しくて誇らしかったのと同時に……なんで私じゃなかったんだろうって、悔しくて泣いてしまったんだ。

でも、そんな姿を見せたら、歩夢は絶対に旅立ちをやめてしまう。だから、気持ちはこの家の中までに留めて……歩夢にはちゃんとおめでとうと伝えた。

……その後、歩夢に旅に付いてきて欲しいとお願いされたときは、なんだかすごく安心したのを覚えている。

最初のポケモンと図鑑を貰ってではないけど……私も、ポケモンたちとの冒険の旅に出られるんだって……。
397 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:47:43.99 ID:bMcrfVdQ0

侑父「お父さんとお母さんはね、ポケモンやポケモンバトルについては素人だから、詳しくはわからないけど……侑の顔と、侑のポケモンたちを見ればわかるよ」

 「ブイ♪」「ウォーグッ」「…ライボ」「ウニャァ〜」「パルト」「フィオ〜♪」

侑父「侑は素敵な仲間に恵まれて……強く、たくましくなってきたんだって」

侑「お父さん……」

侑父「あのとき、悔しくて泣いていた侑が……旅をして、大切な仲間に出会って、強くなって……大切な人を助けに行きたいと言っている。……それを応援しない親がいると思うかい?」

侑母「私たちは……いつだって、侑ちゃんの味方だよ」


お父さんが優しく笑い、お母さんが私を抱きしめてくれる。


侑「うん……、うん……っ……」


ポロポロ、ポロポロと涙が溢れてきた。


侑母「お母さんたちは……このお家で、侑ちゃんのこと、信じて待ってるから……」

侑父「侑は僕たちの自慢の娘だよ。だから、胸を張って……行っておいで」

侑「うん……っ……。……うん……!」


私はこの日、お父さんとお母さんの子供でよかったと……心の底から、そう思ったのでした。





    🎹    🎹    🎹





リナ『素敵なご両親だね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「……うん」
 「ブイ♪」


自分の部屋に戻ってきて……今はイーブイのブラッシングをしてあげている。


侑「……リナちゃん」

リナ『なぁに?』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「……絶対に、帰ってこよう……みんなで……!」

リナ『もちろん!』 || > ◡ < ||


それぞれの想いを胸に──決戦前夜は更けていく……。



398 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:48:17.41 ID:bMcrfVdQ0

    🎹    🎹    🎹





──翌日。やぶれた世界。


果南「全員、揃ったみたいだね」

ダイヤ「それでは……始めましょうか」

鞠莉「OK. 座標の最終調整開始」


鞠莉さんが端末を弄りながら、最終調整を行い。


鞠莉「捕捉完了!! ダイヤ、行くわよ!」

ダイヤ「はい、いつでも!」


鞠莉さんとダイヤさんが、手にそれぞれ珠を持ち、


 「ディアガァァァ!!!」「バァァァァァル!!!」


ディアルガとパルキアが雄叫びをあげると同時に──ゲートが開通する。

私は、


侑「みんな」


みんなを振り返る。


侑「絶対に……帰ってこよう! みんなで!」
 「イッブィッ!!」

リナ『うん!』 ||,,> ◡ <,,||

かすみ「当然です!」

彼方「任せろ〜♪」

エマ「うんっ!」

侑「……行くよ!!」
 「ブイッ!!!」


私たちは決戦の地に赴くために、ゲートに向かって──飛び込んだのだった。



399 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:48:53.79 ID:bMcrfVdQ0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【やぶれた世界】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.75 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.74 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.74 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.70 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.71 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.68 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:239匹 捕まえた数:10匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.76 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.72 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.70 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.70 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.71 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.71 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:234匹 捕まえた数:14匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



400 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 01:25:32.18 ID:qt5/exVx0

 ■Intermission👏



愛「……来たよ」


計器を見ながら、敵の来訪をカリンに伝える。


果林「……行きましょうか」

姫乃「はい」

しずく「仰せのままに♡」

歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」


先導するカリンの後ろを姫乃が、そしてしずくが歩夢を乗せた車椅子を押しながら歩き出す。


せつ菜「……決戦ということですか」

果林「気が乗らないのなら、来なくてもいいのよ」

せつ菜「……いえ、行きますよ」

しずく「せつ菜さん、私のこと守ってくださいね♡」

せつ菜「……ええ」


しずく……いつの間にか、せっつーに自分を守らせてるなんて、ホント食えない子だよねー。
401 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 01:26:24.24 ID:qt5/exVx0

愛「んじゃ、あと頑張ってねー」

姫乃「愛さん、貴方……まさか付いてこない気ですか?」

愛「愛さんにはちょっとやることがあってね〜」

姫乃「総力戦なんですよ!? 貴方はこんなときでも自分勝手な行動を……!!」

果林「姫乃、やめなさい。愛はあくまでエンジニアよ。戦力であることを強要するのはお門違い」

姫乃「ですが……!」

果林「……それになんだかんだで、必要な行動を勝手にしてくれる。それが愛よ」

姫乃「…………」

愛「いやー愛さん信頼されてんね〜」

果林「ただ……変な行動をしたときは……わかってるわよね」


果林が鋭く睨みつけてくる。


愛「おーこわ」


その視線を適当に受け流す。


果林「……行ってくるわ」

愛「行ってら〜」


果林たちが出て行くのを見送ったのち──


愛「……さて……アタシも始めるかー……」
 「──リシャン」


リーシャンと共に、“テレポート”でウルトラスペースシップを後にした。


………………
…………
……
👏

402 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:26:56.90 ID:qt5/exVx0

■Chapter062 『決戦』 【SIDE Yu】





──ゲートを潜ると……。


侑「ここが……果林さんたちの拠点世界……?」
 「ブイ…」


巨大な峡谷のような景色が広がっていた。


かすみ「……なーんか、思ったより異世界って感じしませんね……かすみんたちの世界にもこういう場所ありそう」

エマ「雰囲気はカロス地方の9番道路とかに似てるかな……?」

リナ『コウジンタウンと輝きの洞窟を繋ぐ道路だよね。確かにそんな感じだね』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「さしずめ、ウルトラキャニオンってところだね〜」


みんなが言うように、異世界という割にはそこまで私たちの世界との違いが感じられない。


侑「ここに……いるんだよね?」

リナ『うん、間違いない』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「とりあえず、立ち往生して先に見つけられると不利になるから……移動しようか〜。周囲の警戒は怠らないようにね〜」

かすみ「はーい! 了解です〜」


私たちは果林さんたちの拠点世界改め──ウルトラキャニオンを進んでいく……。





    🎹    🎹    🎹





かすみ「それにしても……向こうはかすみんたちが、こうして近くに来てることに気付いてないんですかね?」


周囲を警戒しながら峡谷を歩くかすみちゃんが、そう零す。


彼方「そんなことはないと思うけど〜……」

リナ『逆探知はされてると思う。向こうからしたら、私たちから追われるだろうってことも想定してるはずだし』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「でもでも、かすみんたちが来るってわかってるなら、普通留まらないんじゃないないですか? かすみんだったら別の世界に逃げちゃいます」

リナ『いや、それはないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「なんで??」

リナ『理由はいくつかある。一つは離れてもまたすぐに探知されるってことがわかってるから。こっちは向こうの機器の持つ固有の情報をほとんど掴んでるし。向こうもそれに気付いてるから』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「でも、電波とかを出す機械を全部取り換えちゃえばいいんじゃないの? しゅーはすう? 的なものが変わっちゃうとこっちも見つけるのが大変になっちゃうんでしょ?」

リナ『言うほど機器を取り換えるのは楽なことじゃない。計器の中には、かなり貴重なものもあるし……それこそコスモッグを探知するレーダーはかなりコストが掛かってる。航行にはコスモッグのエネルギーも消費するし、それを捨てるのはあまりにリスキーすぎる。だからと言って逃げ回るのもエネルギーを消費するし非効率ってこと』 || ╹ᇫ╹ ||


確かに仮にコスモッグを探知するレーダーを失った状態で、コスモッグに逃げられたらウルトラスペース内のどこかの世界から脱出できなくなる可能性があるわけだ。

こっちからコスモッグ探知レーダーの周波数を使って、場所を探られたからと言って、それを捨ててしまうのはあまりにリスクが大きすぎるというのは頷ける話だ。
403 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:28:24.64 ID:qt5/exVx0

侑「もう一つの理由は?」

リナ『それは歩夢さんの能力が関係してる』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「歩夢の……?」

リナ『ポケモンに対する引き寄せ体質を持ってる人の論文は私も昔読んだことがあるけど……。あの能力は一ヶ所に留まっていた方が効果が大きくなる』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そうなの?」

リナ『引き寄せ体質の人から放たれるフェロモンのようなものを感知したからって、すぐさまポケモンがわらわら集まってくるわけじゃないからね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……まあ、それはそっか」


確かに歩夢の周りには、よくポケモンが集まってきていたけど……そこまで極端な集まり方ではなかったはずだ。

もしそうだったら、歩夢はまともに旅なんか出来ないだろうし……。


リナ『それに果林さんたちが引き寄せようとしてるのはウルトラビースト。ウルトラビーストはそもそも数も少ないだろうし……大量に捕獲するつもりなら一ヶ所に留まって、捕獲を行うのが一番効率がいいはず』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「なるほど……」

彼方「それに……果林ちゃんたちは性格的に、逃げるよりは追ってくる戦力を徹底的に叩くのを選びそうだしね〜……」

リナ『うん。私も果林さんだったら、相手の戦力を削ぐことを優先すると思う』 || ╹ᇫ╹ ||

エマ「誰も追ってこれなくなっちゃえば、場所がわかっても関係ないもんね……」

リナ『そういうこと』 || ╹ ◡ ╹ ||


確かに私の目から見ても、果林さんは実力を誇示して、相手を折るタイプな気がするし……何より、一緒の組織に属していた彼方さんやリナちゃんが言うと説得力がある……。

果林さんたちが拠点世界を変えない理由に納得していると……。


リナ『みんな、止まって』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんがみんなを制止する。


彼方「みんな、一旦岩陰に入って」

侑「は、はい!」


私たちは指示通り、一旦近くの岩陰に隠れる。

隠れたところで、


彼方「リナちゃん、何か見つけたんだよね?」


彼方さんがリナちゃんにそう訊ねる。


リナ『うん。あそこの岩壁の上にウルトラスペースシップが見えた』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「え、ホントに……? なんにも見えないけど……」

リナ『私のカメラは高性能。間違いない』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||

彼方「コスモッグレーダーの反応も近付いてるってことだよね?」

リナ『うん。ただ、この世界には衛星がないから……GPSみたいな正確な位置情報の把握までは出来ないけど……』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「あ、それならリナ子のえこーろーてーしょん……? みたいなやつで探してみるのは?」

侑「いや、それはやめた方がいいと思う……。エコーロケーションしても、ローズジム戦のときみたいに逆に見つかるだけだよ」


相手の場所がわかっても、こっちの場所がばれたら意味がない。
404 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:29:07.99 ID:qt5/exVx0

彼方「とりあえず……この先にいるのは間違いないと思うよ〜」

リナ『わざわざ、ウルトラスペースシップを放棄する理由もないしね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「……じゃあ、このまま進んでいけば……」

リナ『間違いなく接敵するね』 || ╹ᇫ╹ ||


いよいよ、決戦の時ということだ……。


彼方「この先に進む前に……それぞれの役割をちゃんと確認しておこっか」


彼方さんの言葉にみんなで頷く。


侑「私は歩夢を助けること」


私の目的はとにかく歩夢の救出を第一目標にしている。

場合によっては歩夢を安全な場所に避難させるために、逃げることも視野に入れるという話になっている。

……もちろん、簡単に逃げられるような相手とは思っていないけど……。


かすみ「かすみんはしず子の目を覚まして連れ戻すことです!」


かすみちゃんの第一目標はしずくちゃんの救出。

しずくちゃんは、フェローチェによる魅了の力のせいで、敵になっていると考えた方がいい……。

かすみちゃんはしずくちゃんと戦闘になってでも、どうにかしずくちゃんを無力化して相手から引き剥がす。

それが、かすみちゃんに課せられたミッションだ。


エマ「わたしは果林ちゃんのところに行ってお話することだよね!」


エマさんの目的は果林さんの説得だ。

これが出来れば、全ての戦闘をそれだけで終わらせられるかもしれない。

ただ……エマさんはバトルが得意なわけじゃないから、私たち3人でエマさんをフォローしながらということになっている。

もちろん、説得が出来ないと判断した場合には、エマさんを優先してゲートの場所まで彼方さんが逃がすという話だ。


彼方「そして、彼方ちゃんは〜……せつ菜ちゃんの足止め〜。……正直、一番荷が重いよ〜……」


そして、彼方さんの役割は……せつ菜ちゃんとの戦闘だ。

敵戦力の中でもせつ菜ちゃんの強さは頭一つ抜けていると考えた方がいい。

誰かが抑える必要はあるということで、彼方さんがせつ菜ちゃんと戦闘する担当になったんだけど……。


かすみ「自慢の防御力で時間を稼いでくれればいいんですから! かすみん、すぐにしず子の目を覚まさせて加勢に行きますから!」

侑「私も、歩夢を安全な場所に避難させたら、すぐに戦闘に戻ってきます。せつ菜ちゃんも放ってなんかおけないし……」

彼方「うん、お願いね〜」


せつ菜ちゃんに勝つには1対1では不可能と考えて、まず彼方さんが足止めをし、先に目的を達成した人が加勢に行くことになっている。

もちろん……せつ菜ちゃんを助けることも大事な目的な一つだ。

──『貴方なんかに──私の気持ちは、理解出来ませんよ……』──

まだ、あのときの言葉が胸に刺さっているけど……。それでも、このまま……何も理解出来ないままなんて嫌だから……。

──そして、最後に……。果林さんと愛ちゃんについて。


彼方「愛ちゃんもだけど〜……エマちゃんが果林ちゃんの説得に失敗しちゃった場合とかは、この二人とは無理に戦わなくてもいいからね」
405 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:31:44.06 ID:qt5/exVx0

果林さんや愛ちゃんに関しては、この場で無理に倒す必要はない。

最優先は歩夢、しずくちゃん、せつ菜ちゃんを救出及び連れ戻すことだ。

もちろん、邪魔をしてくるのは間違いないだろうから……戦う必要が出てくる場面は予想されるけど……。

私に関しては歩夢を救出するだけだけど……かすみちゃんはしずくちゃんと敵対する可能性が高い分、負担は大きい。

もちろん、もっとも大変なのは彼方さんだけど……。


彼方「まあ、この作戦もあくまで、相手の戦力がこれしかいない場合だけどね……」

リナ『組織に属する人間が他にいる可能性もあるけど……それを言い出したらキリがないからね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

彼方「とはいえ……他世界遠征作戦は基本的に限られた少人数しか参加しないはずだから……たぶん、大丈夫なはず……。イレギュラーに関しては各自柔軟に対応してね」

侑「はい!」

かすみ「了解です!」

エマ「わかった!」


私たちは最後の確認を終え、戦いへと赴きます──



彼方「……侑ちゃんは歩夢ちゃん、かすみちゃんはしずくちゃん、エマちゃんは果林ちゃん。……それぞれ助けたい人や気持ちを伝えたい人がいるけど……リナちゃんは大丈夫?」

リナ『……』 || ╹ _ ╹ ||

彼方「愛ちゃんと……お話し出来るかもしれないよ?」

リナ『……悩んだけど……いい』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「そう……?」

リナ『……せっかく時間が経って……璃奈の死に整理がついてるかもしれないのに……璃奈の記憶を持った私が出ていったら……辛いこと思い出させちゃうだろうから』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「……そっか」

リナ『彼方さんこそいいの?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「え?」

リナ『果林さんのこと』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「……。……うん。きっと、もうわたしの言葉は……果林ちゃんには届かないから……」

リナ『……そっか』 || ╹ _ ╹ ||





    🎹    🎹    🎹





歩くこと小一時間──


侑「大分……近付いてきたね」

かすみ「……ですね」


私たちの目にも、岩壁の上に停まっているウルトラスペースシップが見えてきた。

出来るだけ目立たないように、岩壁に沿って進んでいると──峡谷の途中に、少し開けた場所が見えてきた。

大きな岩壁に囲まれているのは変わらないけど──広場のようになっていて、左側は岩壁が途切れ、空が見える。

道も続いていないところから見て、恐らくその先は崖になっているんだと思う。


かすみ「開けた場所まで来ましたね……」

彼方「気を付けてね。見晴らしがいいってことは……相手からも見つけやすいところってことだから……」
406 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:33:18.30 ID:qt5/exVx0

そのとき──突然、頭上から熱気を感じ、


侑「イーブイ!! “いきいきバブル”!!」
 「ブーーーィィッ!!!!」


咄嗟に放ったイーブイの体から発生した泡が──頭上から迫っていた炎の玉を鎮火させる。

この炎は──


果林「──へぇ……まさか、貴方たちが来るとは思わなかった」
 「コーン」

侑「……果林さん……!」


声がして見上げると……前方の岩壁の上に──果林さんが立っていた。


かすみ「不意打ちなんて相変わらずですね!!」

果林「あら、自分たちからのこのこ敵地に出向いてきて……不意打ち程度で怒らないで欲しいわ」

侑「……歩夢はどこですか」

果林「怖い顔ね……。可愛い顔が台無しよ、侑」

侑「答えてください」

果林「そう焦らないで。貴方の大切な歩夢は──ここよ」


果林さんがそう言うと──彼女の背後から、ウイーンと音を立てながら電動車椅子のようなものが独りでに前に出てくる。

そして、その車椅子の上には……。


歩夢「………………」
 「──ジェルルップ…」


頭の上に見たこともないようなポケモンを乗せ──ぐったりとしている歩夢の姿があった。


侑「……あゆ……む……?」


私の中でサァーっと血の気が引いていく。


果林「ふふ……そう、貴方の大好きな歩夢よ。素敵な姿になったでしょう?」

リナ『ウルトラビースト……ウツロイド……!?』 || ? ᆷ ! ||

彼方「果林ちゃん……歩夢ちゃんにウツロイドを寄生させたの!?」

果林「ええ、別に欲しかったのはこの子のフェロモンだけだもの」

かすみ「ひ、ひどい……」


ウツロイドというウルトラビーストが、どんなポケモンなのかわからないけど……今の歩夢はとてもじゃないけど、まともな状態でないのは一目でわかった。


侑「歩夢……」

果林「こんなになっても、ちゃんとこの子の能力は活きているけどね」

侑「っ……!!」


──まるで歩夢を道具扱いするような物言いを聞き、頭がカッと熱くなるのを感じて、前に踏み出した瞬間、


エマ「果林ちゃんっ!! もうこんな酷いことするのはやめてっ!!!」


エマさんが叫んだ。

今の今まで、私たちを煽るような物言いをしていた果林さんだったけど、
407 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:34:26.30 ID:qt5/exVx0

果林「……!? え、エマ……!? なんで、ここに……!?」


エマさんを認識した瞬間、露骨に動揺の色を見せる。


エマ「果林ちゃん!! 果林ちゃんがしたかったのは、本当にこんなことなの!? 誰かを傷つけてまで、酷いことしてまで、しなくちゃいけないことなの!?」

果林「……そ、そうよ……!! 私は最初からこういうことをする人間なの!!」

エマ「違うよ!! 果林ちゃんは本当は優しい人だもん!!」

果林「貴方は私に幻想を見過ぎなのよ!! ここまで来たのなら、わかっているんでしょう!? 私は……貴方の、エマの世界を滅ぼそうとしているのよ!!」

エマ「そんなの嘘だよっ!! 果林ちゃんはそんな人じゃないっ!! そんなこと心の底から望んでるはずないっ!!」

果林「……っ……! エマ、貴方に私の何がわかるの!?」

エマ「わかるよ……!! だって……だって……ずっと、果林ちゃんのこと……見てたもん……!」

果林「……だ、黙りなさい!!」

エマ「黙らないよっ!! 果林ちゃんが望んでないことして苦しんでるのに、ほっとけないもん!!」

果林「望んでないなんて、勝手に決めつけないで!! 私は私の意志で戦ってるの!!」


果林さんはエマさんの言葉に、想像以上に狼狽えていた。


果林「もし、私の邪魔するなら──」


果林さんは狼狽えながらも、手を上げ──それと同時に、


 「コーーンッ!!!!」


果林さんの背後のいるキュウコンの尻尾の先に狐火が宿る。


果林「……エマ……貴方にも、容赦しない……!!」


そう言葉をぶつけてくる果林さんに対して、


エマ「いいよ」


エマさんはそう答えて、前に歩み出る。


彼方「え、エマちゃん!? 前に出ちゃダメ……!」


彼方さんが制止しようとするけど、


エマ「果林ちゃん。私はここにいるよ」


エマさんは、彼方さんを手で制しながら、果林さんを挑発する。


エマ「わたしが果林ちゃんのこと何もわかってないって言うなら……その炎で燃やせばいい」

果林「な……」

エマ「……でも、果林ちゃんはそんなことしないって、わかってるよ。わたしは……果林ちゃんのこと、ずっと見てたから……」

果林「……っ……」


果林さんの振り上げた手が──震えていた。


エマ「……果林ちゃん……もう、やめよう……? 自分の気持ちを押し殺して……悪い人になろうとしても……悲しくなっちゃうだけだから……」

果林「う、うるさいっ……!! 私の気持ちがわかるなら……これ以上、私を惑わすこと言わないでっ!!」

エマ「なら……その炎を飛ばせばいいよ。抵抗しないから」
408 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:35:05.75 ID:qt5/exVx0

エマさんが無防備に手を広げた、そのとき──エマさんの頭上に、巨大な物体の影が差した。


 「──テッカグヤ!! “ヘビーボンバー”!!」
  「────」

エマ「っ!?」

彼方「エマちゃん!!」


咄嗟に彼方さんがエマさんを押し倒すように飛び付き、今しがたエマさんが居た場所に──落ちてきた巨体が轟音を立てながら、大地を割り砕く。


リナ『あわわ!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「うわぁっ……!!?」
 「イブィッ…!!?」


目の前で大地が割れ砕け、巻き込まれそうになった瞬間──後ろにグイっと引っ張られる感覚。


 「──カインッ!!」
かすみ「侑先輩!? 平気ですか!?」

侑「かすみちゃん!?」
 「ブイッ!!?」


気付けば、かすみちゃんのジュカインに抱きかかえられる形で、割れ砕ける大地から離脱する。

でも──エマさんたちは、今の攻撃に巻き込まれてる……!


侑「っ……!! エマさんっ!! 彼方さんっ!!」


エマさんと彼方さんの名前を呼ぶけど──巻き起こる砂塵のせいで、二人の姿を確認出来ない。

一方──砂塵の中に、巨大なポケモンの影が見える。そして、その中から声が響く。


姫乃「果林さん!! その女の言葉を聞いてはいけません!!」

果林「ひ、姫乃!?」

姫乃「こいつらは、その女が果林さんと繋がりがあるのを知った上で、果林さんを惑わすために連れてきた……!! これは敵方の策略です!! その女の言葉を聞いてはいけませんっ!!」


姫乃と呼ばれた女の子の声が響き渡る。

──私たちの知らない敵がいる……!?


エマ「──惑わす!? 作戦!? 違うよ!? あなたはなんで果林ちゃんに戦わせようとするの!?」

侑「……!」


砂煙の中から響くエマさんの声……! エマさんは無事だ……!


姫乃「黙りなさい……!! テッカグヤ!!!」
 「────」


テッカグヤと呼ばれた巨大のポケモンの影が巨大な手を振り上げ──音を立てながら崩れる大地にダメ押しをするように、叩きつけた。


エマ「──きゃぁぁぁぁぁっ!?」

彼方「エマちゃん……っ!!!」


轟音の中響くエマさんの悲鳴と、彼方さんの声。

そして、ガラガラと地面が崩れ落ち──砂塵が落ち着いた頃には……先ほどまであった広場の3分の1ほどが、崩落してしまっていた。

そこにエマさんと彼方さんの姿は無く──テッカグヤと呼ばれていた巨大なポケモンと、姫乃と呼ばれていた女の子の姿もなかった。

恐らく、崩落に巻き込まれた二人を追撃しに行ったんだ……!
409 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:36:52.91 ID:qt5/exVx0

侑「え、エマさんたちを助けにいかなきゃ……!!」

かすみ「あ、ちょっと、侑先輩!?」


着地したジュカインの腕を振り払うように飛び出し、崖の下に向かって飛ぼうとした瞬間──


果林「──“れんごく”!!」
 「コーーーンッ!!!!」

リナ『侑さん、攻撃!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「!? フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「──フィーーーッ!!!!」


飛んできた怨念色の炎を、咄嗟に繰り出したフィオネの“ハイドロポンプ”で消火する。


果林「…………どこに行くつもりかしら」


果林さんがこちらを睨みつけている。

その目には──先ほどまでの動揺は見てとれず、今までのような冷たい……射殺すような表情に戻っていた。


侑「……っ」


説得は──失敗した。


かすみ「救助にはかすみんが行きます!! 侑先輩は果林先輩を……!!」
 「カインッ!!!」


そう言いながら、かすみちゃんがジュカインと一緒に崖下に向かって、飛び出すけど──


 「──サーナイト、“サイコキネシス”」
  「サナ」


声がした直後、


 「カインッ!!?」
かすみ「えっ!?」


ふわりと浮き上がったかすみちゃんとジュカインが──上に押し戻されるように吹っ飛ばされ、岩壁に叩きつけられる。


かすみ「っ゛、あ゛……」
 「カ、カインッ…!!!!」

侑「かすみちゃん!?」
リナ『かすみちゃん!?』 || ? ᆷ ! ||


岩壁に叩きつけられ、鈍い声をあげながら地面に落っこちるかすみちゃんに駆け寄ろうとしたとき、


 「ダメですよ、かすみさん♡ せっかく、分断出来たんだから♡」


声が響く。

その声は──私もよく知っている人物の声。


かすみ「……しず……子……っ……!!」

しずく「ふふ♡ かすみさんの目的は私でしょ? 他に気を取られてないで……私と遊んでよ♡」


気付けば、果林さんの横に──しずくちゃんが立っていた。
410 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:38:36.62 ID:qt5/exVx0

しずく「果林さん、私はかすみさんを倒しに行っていいですか?♡」

果林「ええ……完膚なきまでに叩きのめせたら……ご褒美をあげるわ」

しずく「ホントですか!? 嬉しい♡ 頑張ります♡」


そう言いながら、しずくちゃんが崖を飛び降り──地面スレスレで、サーナイトのサイコパワーにより減速して着地する。


かすみ「……しず、子……」


しずくちゃんの名前を呼びながら、かすみちゃんがよろよろと立ち上がる。


侑「かすみちゃん、平気!?」

かすみ「これくらい……掠り傷です……」
 「…カインッ!!」

しずく「あはは♡ それでこそ、かすみさんだよ♡ もっと、私のこと楽しませて♡」

リナ『し、しずくちゃん……かすみちゃんを本気で攻撃して……』 || 𝅝• _ • ||


しずくちゃんは……かすみちゃんを攻撃して、笑っていた。

とてもじゃないけど、今目の前にいるしずくちゃんは──私たちの知っているしずくちゃんとは思えなかった。


かすみ「……全くしず子ったら……イタズラにしては……度が過ぎてるんじゃない……?」

しずく「え〜、かすみさんが私にお説教ですか〜?♡」

かすみ「イタズラしず子には……お仕置きが必要だね……!」


そう言いながら、かすみちゃんの腕に付けた“メガブレスレット”が光り輝き、


 「カイィィィィンッ!!!!!」


ジュカインがメガジュカインへと姿を変える。


しずく「うふふ♡ かすみさんが私を叱るなんて……10年早いよ♡」


そう言うのと同時に、しずくちゃんの首に提がっているブローチが眩い光を発し、


 「──サナ…」


しずくちゃんのサーナイトがメガサーナイトへと姿を変える。


かすみ「ぶん殴ってでも……目、覚まさせてあげる……」
 「…カインッ!!!」

しずく「あはは♡ 私はいつでも正気だよ♡」
 「…サナ」


かすみちゃんがしずくちゃんとの戦闘態勢に入る中──しずくちゃんの背後……崖の上にもう一つの人影……。

黒髪ストレートロングの右の髪を一房だけくくった──……私の憧れのトレーナー……。


侑「せつ菜ちゃん……」

せつ菜「……」


せつ菜ちゃんは一瞬だけ私に目を配らせたけど、すぐに目を逸らしてしまった。

直後──
411 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:39:23.80 ID:qt5/exVx0

果林「──“かえんほうしゃ”!!」
 「──コーーーンッ!!!!」

侑「!? “どばどばオーラ”!! “みずのはどう”!!」
 「ブーーーィィッッ!!!」「フィォーーー!!!!」


突然、果林さんの方から突然飛んできた攻撃を2匹の技で打ち消す。


果林「よそ見なんて余裕じゃない……」

侑「……っ」


果林さんから視線を外さないように、目の端でせつ菜ちゃんを確認すると──せつ菜ちゃんの視線は、かすみちゃんとしずくちゃんの方を見ていた。

なんで、そこで立ち尽くしているかはわからないけど……せつ菜ちゃんは、私よりもかすみちゃんを狙っているように見える。

それだと、かすみちゃんが1対2で戦うことになってしまう。どうにか、果林さんの攻撃を捌いて加勢に行きたいんだけど……!


 「コーーンッ!!!」


再び、果林さんのキュウコンの尻尾の先に狐火が灯る。

とてもじゃないけど、隙なんか見せてくれそうにない。

どうにかして、かすみちゃんが1対2になるのを防がないと……何か方法は……!

そう思った、そのとき、


かすみ「侑先輩!!」


かすみちゃんが私の名前を呼ぶ。


かすみ「侑先輩の目的……! 忘れないでください!!」

侑「……!」

かすみ「かすみんの心配は二の次でいいです! お互い、まずは自分の目的を果たしましょう……!!」


……そうだ、私の目的は──


 「──ジェルルップ…」
歩夢「………………」


まずは歩夢を助けることだ……!


侑「ごめん、かすみちゃん! すぐに助けに戻るから……! 行くよ、ウォーグル!!」
 「──ウォーーーッ!!!!」


私はボールからウォーグルを出して、崖上の果林さんに向かって飛び出した。



412 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:39:54.90 ID:qt5/exVx0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.75 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.74 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.74 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.70 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.71 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.68 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:241匹 捕まえた数:10匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.76 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.72 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.70 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.70 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.71 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.71 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:236匹 捕まえた数:14匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



413 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 02:06:46.29 ID:loIPccok0

 ■Intermission✨



──やぶれた世界。


曜「──それじゃ行ってきまーす!」


曜がゲートに飛び込み──


善子「……んじゃ、行ってくるわ」


千歌救出班の最後のメンバー、善子がゲートに向かう。


鞠莉「善子。みんなのこと、お願いね」

善子「……マリーこそ、途中でへばってゲート閉じないでよ」

鞠莉「あら、善子ったら……相変わらず可愛くないわね」

善子「はいはい、私は可愛くないですよ」

鞠莉「……ふふ」

善子「なによ」

鞠莉「いつもの言わないのね」

善子「……本気で心配して言ってるときくらい……私の真名で呼ぶこと……許してやらなくもない」


そう残して──善子はゲートの中に飛び込んでいった。これで千歌救出部隊の5人全員が向こうの世界に行った。


鞠莉「……行ってらっしゃい、善子」

ダイヤ「……ふふ」

鞠莉「……なんで笑うのよ」

ダイヤ「なんだかんだで、良好な関係のようで安心しましたわ」

果南「善子ちゃんが出て行ったとき、鞠莉ったらわんわん泣いてたもんね。もっと優しくしてあげればよかったーって」

鞠莉「ちょ!?/// い、今そんな話しなくていいでしょ!?///」

ダイヤ「ほら、動揺するとゲートが閉じてしまいますわよ?」

果南「ま、おしゃべり出来る余裕があるなら大丈夫そうだけどね〜」

鞠莉「ぐ、ぬぬぬ……」


果南もダイヤも、隙を見せるとすぐからかってくるんだから……!

……ああもう、集中集中……!

恥ずかしさを紛らわすように、手に握った“しらたま”に意識を集中しようとした──そのときだった。


鞠莉「……え……?」


目の前で──明るい茶髪をツインテールに結った女の子が……先ほど侑たちが入っていった世界に繋がっているゲートに向かって飛び込んでいった。


鞠莉「な……え……!?」

ダイヤ「い、今の……!?」

果南「二人とも、ゲート不安定になってる!! 今集中切らしたら善子ちゃんたちがウルトラスペースに投げ出される!!」


そう言いながら、果南が私たちの持っている“しらたま”、“こんごうだま”に上から手を乗せる、
414 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 02:07:25.34 ID:loIPccok0

鞠莉「っ……!! ダイヤ!!」

ダイヤ「は、はい!!」


ダイヤと共に集中する。

果南の助けもあり……ゲートはすぐに安定し始めるけど……。


鞠莉「い、今……人がゲートを……」

ダイヤ「わ、わかっています……ですが……」

果南「……私たちはこの場を離れられない……」

ダイヤ「……こうなってしまうと……もはや、本人にどうにかしてもらうしか……」

鞠莉「この後、一般人を通すって話は聞いてたけど……今の子じゃないわよね……? 護衛も付いてなかったし……」

ダイヤ「は、はい……」

果南「……とにかく、今はゲート維持に集中しよう。人が来たら、海未に報告を頼むってことで」

鞠莉「……OK. そうだネ……」


今は自分たちの役割を全うするしかない……。

でも、今の子……誰だったのかしら……?


………………
…………
……


415 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:04:16.24 ID:loIPccok0

■Chapter063 『ハルカカナタ』 【SIDE Kanata】





 「メェ〜〜」
彼方「……ふぃ〜……危なかったぜ〜……」


“コットンガード”によって、自分の体毛をこれでもかと大きく膨らませたバイウールーの綿毛から顔を出しながら、汗を拭う。


エマ「あ、ありがとう……彼方ちゃん……。バイウールーも……」

 「メェ〜」

彼方「エマちゃん、怪我してない?」

エマ「うん、お陰様で……」


テッカグヤの攻撃で地面が崩れ落ちる中、咄嗟にバイウールーの綿毛で自分たちを包み込み、そのまま落下してきた。

バイウールーの特性が“ぼうだん”だったこともあって、崩れ落ちる岩を防げたのも大きい。


彼方「それにしても……大分落ちてきちゃったね……」

エマ「うん……」


見上げると、私たちがさっきまでいたであろう場所が遥か高くに見える。


エマ「彼方ちゃん、早く上に戻ろう……!」

彼方「……いや、まずはエマちゃんを逃がすのが先」

エマ「え……」

彼方「説得は失敗した。……当初の作戦どおり、まずはエマちゃんを戦域から逃がすのを優先するよ」

エマ「ま、待って……! もう少し……もう少しお話し出来れば……!」

彼方「……」


確かに、エマちゃんの言葉は、元仲間のわたしも驚くほど、果林ちゃんの動揺を誘っていた。

……もしかしたら……エマちゃんなら、時間を掛ければ本当に果林ちゃんを説得出来ちゃうのかもしれない。

でも……もう戦闘は始まってしまっている……。


エマ「彼方ちゃん……お願い……! もう一度、果林ちゃんのところに連れていって……!」

彼方「エマちゃん……」

 「──その必要はありませんよ」

彼方・エマ「「……!」


上空から声がして、顔を上げる。

そこには──


姫乃「……何故なら、ここで私が始末するからです……」


姫乃ちゃんが空からわたしたちを見下ろしていた。

腕のバーナーから炎を噴き出し、飛行するテッカグヤに乗って。


エマ「あ、あなたは……さっきの……」

彼方「……まさか……あなたがここにいるとは思わなかったよ〜。……姫乃ちゃん」

姫乃「…………」
416 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:05:25.01 ID:loIPccok0

わたしの言葉に対して、姫乃ちゃんは返事をせずに冷たい視線だけ送ってくる。


エマ「彼方ちゃん……知ってる子なの……?」

彼方「組織に居たときに、研究班の中に居た子なんだ。……遥ちゃんと同期の子」

姫乃「……今は、実行部隊ですがね……そして、“MOON”です」

彼方「……果林ちゃんが“SUN”になったのは知ってたけど……まさか、姫乃ちゃんが“MOON”になってたとは思わなかったよ」


つまり……姫乃ちゃんは組織内のトップ2の実力にまで上り詰めたということだ。……今、愛ちゃんが組織内でどういう扱いなのかがわからないのは気になるけど……。


姫乃「ですので……コスモッグ、返して欲しいんですが? それは私が持っているはずのポケモンです」

彼方「それはだめー。第一もう進化しちゃったし」

姫乃「そうですね……全て貴方の裏切りのせいで……組織はめちゃくちゃですよ……!」
 「────」


テッカグヤのバーナーがこちらを向き──猛烈な勢いで“かえんほうしゃ”を発射してくる。


彼方「カビゴン!!」
 「──ゴンッ!!!」


咄嗟にカビゴンを出し、“あついしぼう”で炎を受けるけど、


 「カ、カビ…!!!!」
彼方「か、火力……つよ〜……!!」


特性の効果で半減されているはずなのに、猛烈な炎の勢いに気圧される。

わたしが次のポケモンを出そうとボールに手を掛けた瞬間、


エマ「ま、ママンボウ! “みずのはどう”!!」
 「──ママァ〜ン」

彼方「……!」


エマちゃんのママンボウが炎を消火してくれる。


エマ「彼方ちゃん、大丈夫……!?」

彼方「ありがとう〜エマちゃん、助かったよ〜」

エマ「わ、わたしも戦う……!」

彼方「ふふ、ありがとう〜。……でも、今は〜」


わたしは、エマちゃんの手を取り──姫乃ちゃんに背を向ける。


彼方「逃げるっ!」

エマ「ええ!?」


地上で速く動けないママンボウをカビゴンが抱え上げて、彼方ちゃんの横を走り出す。


姫乃「待ちなさい……! テッカグヤ、“エナジーボール”!」
 「────」


逃げ出したわたしたちに向かって飛んでくる“エナジーボール”を、


彼方「バイウールー!」
 「メェェ〜〜」


バイウールーが“ぼうだん”で受け止める。
417 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:12:11.89 ID:loIPccok0

姫乃「くっ……! “ラスターカノン”!!」

彼方「ムシャーナ! “ひかりのかべ”!!」
 「──ムシャァ〜」


立て続けに飛んでくる集束された光線を、繰り出したムシャーナが“ひかりのかべ”で防ぐけど──消しきれずに光線が屈折し、彼方ちゃんたちの足元に着弾して、爆発する。


彼方「わわっ!?」

エマ「きゃぁっ!?」

彼方「か、カビゴン!!」
 「カビッ!!」


爆風に吹っ飛ばされるわたしたちを、カビゴンが先回りしてお腹で受け止める。


彼方「やっぱ、向こうはウルトラビーストなだけあって……簡単には防ぎきれないな〜……。エマちゃん、無事〜?」

エマ「へ、平気だけど……。……彼方ちゃん、わたしのことはいいから……!」

彼方「それはダメ〜。今はエマちゃんの身の安全が最優先〜!」


すぐさまカビゴンのふかふかのお腹から飛び降り、再びエマちゃんの手を引いて走り出す。


彼方「エマちゃんは戦闘のために来たんじゃないんだから、無理な戦闘は絶対にダメ〜!」

エマ「彼方ちゃん……」


出来ることなら、早く姫乃ちゃんを倒して侑ちゃんたちの加勢に戻りたいけど……エマちゃんを守りつつ、ウルトラビーストの猛攻を掻い潜って戦うのはちょっと厳しい。


姫乃「“エアスラッシュ”!!」
 「────」

彼方「“サイコキネシス”!!」
 「ムシャァ〜〜」


ムシャーナのサイコパワーで防ごうとするも、軌道を少し逸らすのが限界で──彼方ちゃんたちからちょっと離れたところを空気の刃が地面を撫で、大きく抉り取る。


彼方「や、やば〜……! 当たったら、彼方ちゃんぶつ切りにされちゃうよ〜……!」


いくら防御が得意な彼方ちゃんでも、あの威力はまともに受けたらやばすぎるし、防御に集中出来ない状況じゃ受けきるのも難しい。

ただ、幸いここは峡谷……走っていたら、すぐに岩壁に挟まれた細い道が見えてくる。


彼方「とりあえず、こっち……!」

エマ「う、うん……!」


彼方ちゃんたちは、細い通路へと逃げ込む。


姫乃「ちょこまかと……!」


峡谷に出来た天然の細道は、9m以上あるテッカグヤの巨体では入り込むことは出来ないような狭さだけど、


姫乃「テッカグヤ!!」
 「────」


テッカグヤはそんなことおかまいなしに、両手のバーナーによる逆噴射で加速し、無理やり岩壁を破壊しながら、彼方ちゃんたちを追いかけてくる。


彼方「ご、強引〜!!」

姫乃「“いわなだれ”!!」
 「────」
418 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:12:51.11 ID:loIPccok0

テッカグヤが身を振るいながら、砕いた岩壁をこちらに向かって雪崩のように崩してくる。


彼方「“テレキネシス”!!」
 「ムシャァ〜〜」


大量の岩を“テレキネシス”で浮かせて、そのまま細い天然の通路をダッシュ。


姫乃「鬱陶しい……!!」


わたしがとにかく逃げ回りながら、攻撃を捌くことしかしないからか、姫乃ちゃんの苛立ちが見て取れる。

ただ、こうして細い道に逃げてきた判断は間違っていなかったらしく、強引に破壊しながら追ってきているものの、障害物を破壊しながら進んでいる分、テッカグヤのスピードは落ちているし、何より推進力に両腕を回しているため、出来る攻撃の種類が減っている。

これなら、逃げながら捌くことも難しくない。……だけど、問題もあって……。


彼方「ま、また分かれ道……! こ、こっち……!」

エマ「う、うん……!」


峡谷の細道は、複雑に枝分かれしていて、天然の迷路のようになっていた。


彼方「え、えっと〜……さっきは右に曲がったから、方角は〜……! もう〜! ゲートはどっち〜!?」


とにかく、エマちゃんをこの世界から逃がしてあげたいけど、こんな分かれ道だらけで見晴らしの悪い場所じゃ、方向感覚も無茶苦茶になるし、ゲートがどっちだったのかもわからなくなってくる。

それにずっと走ってると──


彼方「はぁ……! はぁ……!」


息も切れてくる。彼方ちゃん、走り回るのはあんまり得意じゃないんだよ〜……!


エマ「……彼方ちゃん」

彼方「な、なに〜!?」

エマ「ゲートがある場所まで行けばいいんだよね?」

彼方「そ、そうだけど〜……!」

エマ「じゃあ、こっち……!」

彼方「え……!?」


さっきまで私が引いていたはずの手を、逆にエマちゃんに引かれる。

エマちゃんは彼方ちゃんの手を引き始めると、ほとんど迷う素振りも見せずに分かれ道を進む。


エマ「……こっち……!」

彼方「え、エマちゃん、道分かるの……!?」

エマ「わたし、自然の中なら絶対に迷わない自信があるから!」

彼方「お、おお……!」


さすが山育ち……! 大自然で育った人はそういう感覚が根本から違うのかもしれない。

峡谷にある天然の迷路は奥まって行けば行くほど、どんどん複雑に折れ曲がっていき、次第に姫乃ちゃんのテッカグヤを引き離していく。

陰に隠れる形で、視界からテッカグヤが見えなくなったところで、エマちゃんが立ち止まる。
419 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:13:24.35 ID:loIPccok0

彼方「はぁ……はぁ……え、エマちゃん……?」

エマ「……彼方ちゃん、わたし……足手まといだよね……」

彼方「え……? そ、そんなこと……ないけど……」

エマ「うぅん、わたしがいるから彼方ちゃんが全力で戦えてないことくらいわかるよ」

彼方「…………」

エマ「たぶんだけど……向こうもわたしが戦力じゃないことには気付いてるよね」

彼方「……そうだね」

エマ「なら、わたしのことはそんなに積極的に狙ってこない……はずだよね」

彼方「それは……そうかも、しれないけど……」


確かに向こうからしたら、出来る限りこっちの戦力を削ることに注力したいはず……。

姫乃ちゃんが一番困るのは、彼方ちゃんが侑ちゃんたちのところに戻って、果林ちゃんとの戦闘に加勢をすることのはずだし……。

戦えないエマちゃんの優先度は一番低くなるはずだ……。


エマ「なら、わたしはここから先は一人で逃げるから……彼方ちゃんは戦って……!」

彼方「え、で、でも……」

エマ「悔しいけど……わたしには戦う力がないから……。でも、彼方ちゃんには戦う力がある……それなら、彼方ちゃんの力はわたしを守るよりも、戦いに使うことに集中して欲しい……」

彼方「エマちゃん……」


確かにこの峡谷の中、迷わずに走り抜けられるなら、むしろエマちゃんが一人で逃げて、わたしが足止めを兼ねて戦闘に集中した方が効率がいいかもしれない。


彼方「……わかった。でも、絶対途中で引き返したり、一人で果林ちゃんを説得に戻ったりしちゃダメだよ? 約束してくれる?」

エマ「うん、約束する」

彼方「おっけ〜! なら、彼方ちゃん、すぐに姫乃ちゃんを倒してくるから……!」

エマ「うん!」


エマちゃんは、カビゴンが抱えていたママンボウをボールに戻し、


エマ「出てきて! パルスワン!」
 「──ワンッ!!!」


代わりにパルスワンを出す。


エマ「彼方ちゃん、気を付けてね……!」

彼方「うん! エマちゃんも」

エマ「Grazie♪ パルスワン! Andiamo.」
 「ワンッ!!!」


エマちゃんはパルスワンに乗って走り出した。


彼方「さて、それじゃ……彼方ちゃんもやりますか〜……!」


振り返ると、


姫乃「──やっと……戦う気になりましたか」
 「────」


追い付いてきた姫乃ちゃんがテッカグヤの上から、こちらを見下ろしていた。



420 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:16:17.16 ID:loIPccok0

    👠    👠    👠





侑「ウォーグル!! “エアスラッシュ”!!」
 「ウォーーーッ!!!」

果林「キュウコン!! “ねっぷう”!!」
 「コーーンッ!!!!」


飛んでくる風の刃を、“ねっぷう”により無理やり吹き飛ばす。


侑「ぐっ……!?」

果林「そんな攻撃が私に届くと思ってるの? “かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!!」

侑「フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーッ!!!!」


空中でキュウコンとフィオネの攻撃が真正面からぶつかり合い相殺する。


果林「でも、防がれるのはめんどうね……! なら、こっちも空中戦をしてあげるわ……! ファイアロー!!」
 「──キィーーー!!!!!」

果林「“ブレイブバード”!!」
 「キィーーーッ!!!!」


ボールから飛び出したファイアローは猛加速して、ウォーグルに向かって襲い掛かる。


侑「は、はや……!? “ブレイククロー”!!」
 「ウォーーーッ!!!!」


猛突進してくる、ファイアローを爪で何とかいなしているが、そこに向かって、


果林「“かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!!」


追撃の火炎攻撃。


侑「くっ……!」
 「ウォーーーッ!!!!」


どうにか、空中で身を捻りながら辛うじて回避しているけど、あれじゃ私に近付けないわね。

そんな侑の姿を、


せつ菜「…………」


せつ菜が見下ろしながら、黙って眺めている。


果林「貴方が戦ってもいいのよ?」

せつ菜「いえ……私が戦わなくても、侑さんじゃ貴方にすら勝てない」

果林「あら……まるで貴方の方が私より強いとでも言いたげね」

せつ菜「……言葉の綾です」

果林「そう? まあ、別にいいけれど」


まあ確かに……私はまだフェローチェすら出していない。

それで苦戦している侑に勝ち目がないのは明白だ。
421 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:17:30.67 ID:loIPccok0

せつ菜「それに……私はしずくさんとの約束がありますから……」

果林「しずくちゃんがピンチになったら、しずくちゃんを守ってあげるって話?」

せつ菜「……そんなところです」

果林「ふふ……律義ね」

せつ菜「……今のしずくさんは……命を投げ出すことに躊躇がありません。ですが、貴方は彼女がどうなっても……助けたりしないでしょう?」

果林「だから、自分が助けると……。まるでナイト様ね」

せつ菜「……なんとでも言ってください」


最初からせつ菜を御しきれるとは思っていなかったけど、この子の場合は最悪戦闘に参加しない可能性すらあった。だから、これはむしろいい方だ。

今現在のせつ菜は、しずくちゃんの行動ありきで動いている節がある。それを知ってか知らずか……しずくちゃんはせつ菜に自分を守らせることで、せつ菜を戦場に引きずり込んでいる。

しずくちゃんがかすみちゃんを倒せなかったとしても……ピンチになったらせつ菜が戦闘に介入する。

つまり──かすみちゃんはこの戦いに絶対に勝てない。


せつ菜「貴方はせいぜい……そっちのお姫様を取り返されるようなヘマをしないことですね」

歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」


せつ菜はそう吐き捨てると、視線を再びしずくちゃんの方に戻す。


果林「まあ……負ける気なんてしないけどね」


私はファイアローとキュウコンの攻撃を捌くので精一杯な侑を見て、肩を竦めた。





    🐏    🐏    🐏





姫乃「テッカグヤ!! “ヘビーボンバー”!!」
 「────」

彼方「さぁ……彼方ちゃんの本領、発揮しちゃうよ〜!!」


降ってくる巨体に対して身構える。


彼方「ムシャーナ、“サイコキネシス”!」
 「ムシャァ〜〜」


ムシャーナが落ちてくる、テッカグヤをサイコパワーで押し返そうとするが、


姫乃「そんな技でテッカグヤが止められると思っているんですか……!」


もちろん、これだけじゃテッカグヤは止まらない。


彼方「バイウールー、“コットンガード”!」
 「メェ〜〜〜」


もこもこもこっとバイウールーが肥大化し、落下してくるテッカグヤの落下速度をさらに緩めて、


彼方「ネッコアラ、“ばかぢから”!」
 「──コァ〜〜…!!!!」


ボールから飛び出したネッコアラが“ばかぢから”を使う。ただし、テッカグヤ相手ではない──これはカビゴンを持ち上げるための技だ。
422 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:18:37.43 ID:loIPccok0

彼方「テッカグヤに向かって〜ぶん投げろ〜!!」
 「コァ〜〜!!!!」

姫乃「な……!?」


ネッコアラがカビゴンをテッカグヤに向かって放り投げ、


彼方「空に向かって〜〜〜“のしかかり”〜〜〜!」
 「カビ〜〜〜」


カビゴンが前に突き出したお腹がテッカグヤにぶつかると、柔らかいお腹にテッカグヤがめり込んで──それが弾力で戻るパワーによって、テッカグヤを弾き飛ばす。


 「────」
姫乃「きゃぁぁぁ!!?」


吹き飛ばされたテッカグヤの巨体は、そのまま岩壁に叩きつけられ──轟音を立てながら、岩壁を破壊する。

テッカグヤのような超重量級のポケモンがぶち当たったら、岩壁が木っ端みじんになるのも無理はない。


彼方「これが彼方ちゃんの本気防御だよ〜!」


姫乃ちゃんは崩れ落ちる岩壁に巻き込まれちゃったかと思ったけど、


姫乃「……やるじゃないですか……!」
 「──チリ〜ン…!!!」


今しがた繰り出したであろう、チリーンのサイコパワーで浮遊し、テッカグヤから離脱していた。


彼方「まあ、さすがにこれくらいじゃやられてくれないよね〜……」

姫乃「……その物言い、気に入らないですね……。まるで、自分の方が強いとでも言いたげで……」

彼方「そんなつもりはないんだけど〜……とはいえ、彼方ちゃん元“MOON”だからね〜。君の先輩だよ〜?」

姫乃「私は貴方を先輩だなんて思ったことはありませんよ……この裏切り者……!」
 「────」


姫乃ちゃんの言葉と共に──テッカグヤがこちらに向かって、バーナーを向けてくる。


彼方「おっと、それはやばい……!」


彼方ちゃんは攻撃の予兆を確認した瞬間、後ろに向かって走り出し、岩壁の細道に逃げ込む。


姫乃「“だいもんじ”!!」
 「────」


テッカグヤのバーナーから発射される大の字の業炎。

それを見ると同時に、


 「カビッ!!!!」「コァッ!!!!」


カビゴンが右側の岩壁を拳で殴りつけ、ネッコアラが左側の岩壁を丸太で殴打する。

それによって、ヒビが入った岩壁が崩れ落ち──


彼方「いっちょあがりぃ〜」


目の前に積みあがった瓦礫の山が、炎を防ぐ防火壁になり、それにぶつかって業炎が四散する。

でも、姫乃ちゃんもすぐに次の手を打ってきた。
423 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:22:28.17 ID:loIPccok0

姫乃「“ふきとばし”!!」
 「──テングッ!!!」


指示の声と共に、目の前の瓦礫たちが彼方ちゃんたちの方に襲い掛かるように、吹き飛ばされてくる。


彼方「わ、やばっ!? バイウールー、お願い!!」
 「メェ〜〜〜」


もこもこと肥大化するウールで、目の前から迫ってくる岩を受け止める。

そして、食い止めた岩を、


彼方「カビゴン! “ギガインパクト”〜!」
 「カビッ!!!!」


巨大なウールの中から飛び出したカビゴンが全体重を乗せた一撃で粉砕する。

目の前の岩を除去して、再び開けた視界の先では、


 「────」


テッカグヤのバーナーの先に──輝く鋼色のエネルギーが集束を始めていた。


彼方「!? そ、それはホントにヤバイって〜!?」

姫乃「“てっていこうせん”!!」
 「────」


迸り迫る、はがねタイプ最強クラスの技。

わたしは咄嗟にボールを放る──直後、“てっていこうせん”が投げたボールの場所に着弾し、爆発と共に、周囲に爆音と爆風が駆け抜ける。


彼方「ぅぅ〜〜……!!」


バイウールーのもこもこの中で身を縮こまらせながら、爆風に耐える。

そのまま耐え、爆風が止んだ頃に目を開けると──


姫乃「……っ」


姫乃ちゃんが忌々しそうな目を向けていた。

無理もないかもしれない。だって、わたしが“てっていこうせん”を防ぐために出したポケモンは──


 「────」
彼方「ありがとう……コスモウム」


コスモウムだったからだ。姫乃ちゃんにとっては因縁のあるポケモンだろう。


姫乃「人のポケモンで防ぐなんて……良い度胸ですね」

彼方「この子は彼方ちゃんのポケモンだよ〜」


そう言いながら、姫乃ちゃんの隣を見やると──


 「テング…」


いつの間にか、ダーテングの姿。

……さっきの“ふきとばし”はあの子の仕業か〜……。

ついでに言うなら……。
424 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:22:57.63 ID:loIPccok0

彼方「あ、暑い……」


気付けばここら一帯が強い日差しに見舞われている。

あのダーテングの“にほんばれ”だ。

そして、その日本晴れを利用するように、


姫乃「出てきなさい、ラランテス!!」
 「──ランテス」

姫乃「“ソーラーブレード”!!」
 「ランテス!!!!」


チャージタイムを省略して振り下ろされる、陽光の剣。

でも、


 「────」


真っ向からコスモウムが受け止め、バチバチと太陽のエネルギーを爆ぜ散らせながら──“ソーラーブレード”が逆に折れる。


姫乃「…………」

彼方「さぁ〜どうする〜? 攻撃、全部防いじゃったよ〜?」

姫乃「…………そろそろ……頃合いですか」

彼方「……?」


姫乃ちゃんの意味深な台詞に、わたしは一瞬身構える。

直後、ダーテングが自分の両手の葉を高く掲げると──太陽の光が反射して、


彼方「っ!?」


周囲が眩い光に包まれる。


彼方「……ふ、“フラッシュ”……?」


多少目がちかちかするけど、すぐに目を瞑れたから、視力が持っていかれるほどではなかった。

何より、このフィールドは太陽の光で照らされているため、暗所で使う“フラッシュ”程の効果はない。

ただ、


彼方「え……?」


目を開けたときには、そこに──姫乃ちゃんの姿はなかった。

そしてその直後──彼方ちゃんの頭上に大きな物体の影が差す。

ハッとして上を見ると──テッカグヤがバーナーを逆噴射しながら、彼方ちゃんの頭上を通り過ぎていくところだった。


彼方「え……?」


逃げた……? この状況で……?

姫乃ちゃんがいなくなり、さきほどまでの激しい戦闘とは打って変わってフィールドは静まり返る。

……いや……?


彼方「……なにか……聞こえる……?」
425 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:24:02.27 ID:loIPccok0

何か、僅かに耳に届いてくる音がある。本当に僅かに、違和感を認識できる程度の小さな音。

ただ、自然の音ではなく、明らかに何かから発生している……ノイズのような……。

何……この音……?

音といえば……あのチリーン……最初に姫乃ちゃんを浮遊させたあと、何もしてこなかったような……。

状況が飲み込めないまま困惑しているとき、ふと──この戦場に訪れる際に、かすみちゃんが言っていた言葉が頭を過ぎった。

──『あ、それならリナ子のえこーろーてーしょん……? みたいなやつで探してみるのは?』──


彼方「……エコー……ロケーション……?」


姫乃ちゃんは何故かわたしを無視して通り過ぎていった。

そして、さっきの台詞。

──『…………そろそろ……頃合いですか』──

それら全てが頭の中で繋がって、血の気が引いていく。

姫乃ちゃんはわたしを狙っているように見せかけて── 一人で逃げたエマちゃんが、わたしから十分に離れるのを待っていたんだとしたら……!?


彼方「ま、まずい!! エマちゃん……!!」


わたしはテッカグヤを追いかけて、全力疾走で走り出した。





    🍞    🍞    🍞





エマ「パルスワン、全速力で走って……!!」
 「ワンッ!!!」


私は片手で頭を押さえながら、パルスワンに指示を出す。

さっきから、明らかに自然の音と違うものが頭に響いてきて、気持ち悪い。

恐らく……ポケモンが発している音。

しかも、その発生源が徐々に近づいてきている。

直感でわかる──この音はわたしにとって、よくない音だ。

ゲートまではまだ距離があるけど……パルスワンなら全速力で走り続けられる。

それで、どうにか逃げきらなくちゃ……!

でも、そう思った瞬間──頭上から、轟音が響き、


エマ「……!?」
 「ワフッ!!!?」


咄嗟に見上げた頭上から、大量の崩れた岩が落ちてくる。


エマ「パルスワン……!」
 「ワッフッ!!!」


無理やりブレーキを掛け、落石に巻き込まれるのをギリギリ回避するけど、


エマ「……み、道が……」


目の前の道が落ちてきた大岩のせいで、完全に塞がれてしまう。
426 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:25:09.51 ID:loIPccok0

エマ「……っ! パルスワン、一旦引き返そう……!」
 「ワンッ」


すぐに戻って別の道を進むように指示を出すけど──振り返った瞬間、


エマ「きゃぁっ!!?」


──ゴォっと音を立てながら、炎が降ってきて、私たちの進路を炎の海にする。

そして、その上空から、


姫乃「……さぁ、もう逃げ場はありませんよ……」


姫乃ちゃんが見下ろしながら、私に言葉を投げつけてくる。


エマ「……ま、ママンボウ! “みずびたし”……!」
 「──ママ〜ンボ」


ママンボウをボールから出して消火するけど──


姫乃「“かえんほうしゃ”」
 「────」

エマ「きゃぁ……!?」


消火した傍から、また炎をばら撒かれる。


姫乃「……逃がしませんよ」

エマ「……っ」


どうして、姫乃ちゃんはわたしを狙うの……? まさか、彼方ちゃん……。


姫乃「彼方さんは無事ですよ」

エマ「……!」


姫乃ちゃんはまるでわたしの心を見透かしたように言う。


姫乃「……どうして自分が狙われているのか理解できないようですが……。……この場に訪れたのを見た瞬間から、わたしの狙いは貴方でしたよ」

エマ「ど、どうして……」

姫乃「どうして? それは、貴方が果林さんにしてきたことを考えれば当然でしょう?」

エマ「え……?」

姫乃「言葉巧みに果林さんを惑わして……目的遂行の邪魔をする……本当に腹立たしい……」

エマ「ち、違うよ……! わたしがここに来たのはそんな理由じゃない……!」

姫乃「なら何故、果林さんの邪魔をするんですか?」

エマ「邪魔……? むしろ、どうしてあなたは果林ちゃんを戦わせようとするの!? 果林ちゃん、あんなに苦しそうにしてるのに……! あなたたちが果林ちゃんに無理やり戦うことを強要するから、果林ちゃんはずっと一人で背負ったまま苦しんで──」

姫乃「──貴方に果林さんの何がわかるんですかッ!!!」

エマ「……!?」


心の底から怒気の籠もった言葉に、ビクリと身が竦む。


姫乃「可哀想……? 苦しんでる……? 貴方は果林さんの苦しみも、悲しみも、怒りも、憤りも、やるせなさも、何一つ理解していない……!! だから、そんな言葉が出るんです!!」

エマ「な、なに言って……」

姫乃「……果林さんの……覚悟も……知らないくせに……」
 「────」
427 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:26:31.96 ID:loIPccok0

直後──テッカグヤのバーナーの先に周囲の岩石を引き寄せるような、重力の球のようなものが集束され始める。


姫乃「もう……誰も……果林さんの邪魔……しないでください……お願いだから……。……果林さんの邪魔をするなら──消えてください。テッカグヤ、“メテオビーム”」
 「────」


集束された球から──極太のビームがわたしに向かって一直線に降ってくる。


エマ「……あ」


気付いたときにはもう逃げることも出来ず、頭が真っ白になる。


彼方「──コスモウムッ!!! “コスモパワー”ッ!!!」
 「────」


直後、炎の向こうから飛び込んできた彼方ちゃんが、コスモウムの技で“メテオビーム”を受け止め、それによって拡散したエネルギーが空中で大爆発する。


エマ「きゃぁ……!!」

彼方「ムシャーナぁ!! “ひかりのかべ”ぇ!!」
 「ムシャァーー!!!」


そして、爆発の衝撃をムシャーナが壁を作り出して、防いでくれる。


エマ「か、彼方ちゃん……」

彼方「はぁ……はぁ……ま、間に合った……」

エマ「か、彼方ちゃん、火傷してる……!!」


気付けば、彼方ちゃんは服のあちこちが焼け焦げ、脚は痛々しく赤く腫れている。

わたしを助けるために、炎の海を突っ切ってきたからだ……。


エマ「ママンボウ……!」
 「マ〜ンボゥ」


ママンボウが彼方ちゃんの患部に身を寄せる。ママンボウの体を覆う粘液には、傷を治す効果がある。


エマ「ごめんね、彼方ちゃん……わたしのせいで……」

彼方「これくらい掠り傷だよ〜……エマちゃんこそ、無事……?」

エマ「う、うん……」


彼方ちゃんは私の安否を確認すると、


彼方「……姫乃ちゃん。今の組織は非戦闘員にまで執拗な攻撃をするようになってるの?」


そう言いながら、姫乃ちゃんを睨みつける。普段温厚な彼方ちゃんにしては珍しく……わたしでもわかるくらいに怒気の込められた声だった。
428 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:29:16.97 ID:loIPccok0

姫乃「…………そもそも、貴方も貴方です、彼方さん」

彼方「質問に答えてくれないかな」

姫乃「果林さんの痛みを理解していながら……何故、平気で裏切れるのか……私には理解できない……。貴方も“闇の落日”を見たでしょう? “虹の家”で育った子たちを知っているのでしょう……?」

彼方「…………」

エマ「“闇の落日”……? “虹の家”……?」

姫乃「知らないようなので教えてあげますよ……。私たちの世界は常に少しずつエネルギーを失い崩壊していっていますが……世界のエネルギーの喪失がある基準を超えた瞬間、一気に崩壊が進むんです……。それによって、7年前、大規模な大災害が起こった……それが“闇の落日”です。この落日によって多くの人が住む家を、家族を……そして故郷を……失った」

彼方「……。……そのときにたくさんの子供が孤児になって……それを受け入れていたのが、わたしのお母さんが作った……“虹の家”って場所だったんだ。……お母さんは、もう病気で亡くなっちゃったけど……」

姫乃「そして……果林さんはその“虹の家”に住んでいました」

エマ「え……」


じゃあ、果林ちゃんは……。


姫乃「目の前で……たくさん友人が瘴気の中で血を吐き、崩落する山に大切なポケモンたちが巻き込まれ、割れる大地に最愛の家族が飲み込まれ……故郷の島が毒の海に沈んだ……。たった一晩で……遺品や遺体どころか、自分の住んでいた場所さえ、影も形もなくなった……。果林さんは……そんな島の、唯一の生き残りなんです……」

エマ「そん……な……」

姫乃「それでも、果林さんは気丈だった。自分と同じ想いをする人がこれ以上生まれないようにと、自分の世界を守る道を選んだ。……それの何が間違ってるんですか? おかしいんですか? 果林さんの気持ちがわかる……? 苦しみがわかる……? 私には、そんな言葉を軽々しく口にする貴方の方がよほど理解出来ない……!! あの人の苦しみはわかってあげたくても……どんなに想像しても……計り知れないじゃないですか……」

エマ「…………」


わたしは、果林ちゃんの境遇を知って……言葉を失ってしまった。


姫乃「……他者を傷つけることを望んでない? そんなの当たり前じゃないですか……! ただ、自分たちか自分たち以外かを選ばなくちゃいけないから選んだだけです……! それを覚悟するのに、果林さんが何も思わなかったと本当に思うんですか!?」

エマ「それ、は……」

姫乃「貴方の言葉は、そんな果林さんの覚悟を踏みにじる言葉です……!! 果林さんが助けられなかった人たちを侮辱する言葉……!! だから私は、果林さんを惑わす貴方を……許さない……!!」
 「────」


怒りの言葉と共に──テッカグヤが岩壁を破壊しながら、“ヘビーボンバー”で落下してくる。


彼方「ムシャーナ!! “サイコキネシス”!! バイウールー!! “コットンガード”!!」
 「ムシャァァ〜〜!!!」「メェ〜〜〜」

姫乃「また同じ手ですか……。なら、これならどうですか……──行きなさい、ツンデツンデ!!」
 「──ツンデ」


そう言いながら、姫乃ちゃんが投げたボールから──もう1匹巨大なポケモンが飛び出してくる。


彼方「……!? 2匹目のウルトラビースト!?」

姫乃「ツンデツンデ!! “ヘビーボンバー”!!」
 「ツンデ」

彼方「……っ……!!」


彼方ちゃんが、わたしを全力で突き飛ばす。


エマ「……!? 彼方ちゃん!?」

彼方「エマちゃん……逃げて……!!」


直後──


 「ムシャァ〜〜…!!!」「メェェェェ〜〜〜!!!!」


ムシャーナとバイウールーが上から落ちてくる2つの巨体に巻き込まれ──轟音を立てながら、大地が割り砕け、それによって発生した衝撃波で、身体が宙を浮く。
429 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:30:05.38 ID:loIPccok0

エマ「きゃぁぁぁぁ……!? え、エルフーン!!」
 「──エルッフ!!!」

エマ「“わたほうし”!!」
 「エルフーー」


吹き飛ばさながらも咄嗟に出したエルフーンが、周囲に綿毛をまき散らし──その綿毛に包まれたまま、地面に墜落する。

ただ……衝撃を殺しても、あまりに勢いが強かったからか、


エマ「あ……ぐ……ぅ……」


身体を強く打ち付け、痛みに悶える。


 「エ、エルフ…」
エマ「だ、大丈夫……だよ……」


心配そうに鳴くエルフーンを撫で、痛みに耐えながら身を起こすと──目の前は先ほどまで峡谷だったとは思えないような光景になっていた。

岩壁が消滅し、大地は爆弾でも落下したかのように、大地が割れ砕けていた。

結構な距離を吹き飛ばされたのか──離れたところにテッカグヤとツンデツンデの姿が見え……砕けた岩の隙間に──彼方ちゃんが倒れているのが見えた。


エマ「か、彼方ちゃん…………!!」


助けに行こうと立ち上がろうとして、


エマ「いた……っ……!!」


強烈な痛みを足に覚え、わたしはその場に転んでしまう。

痛みの場所に目を向けると──足首が赤く腫れていた。ずきずきと痛む足……よくて捻挫……最悪、骨が折れているかもしれない。


エマ「彼方ちゃん……っ……」


今すぐにでも助けに行きたいのに、わたしの身体は言うことを聞いてくれなかった……。





    🐏    🐏    🐏





──薄っすらと目を開けると……空が見えた。


彼方「……さ、すがの彼方ちゃん……も……死んだと、思った……ぜ〜……」


2匹の落下の衝撃で吹っ飛ばされ、砕けた岩石が降り注ぐ中──彼方ちゃんはどうやら奇跡的にその間にすっぽり嵌まる形で助かったらしい。

それに加えて……。


 「マ、マァ〜ン…」


ママンボウの粘液が、私を守ってくれたらしい。


彼方「ありがとう……ママンボウ……水がなくて、苦しいかもしれないけど……ちょっと、休ん、でて……」
 「マ、マァン…」


よろよろと身を起こす。全身が壊れそうに痛むけど、


姫乃「……本当に悪運の強い人ですね」
430 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:30:55.63 ID:loIPccok0

まだ戦闘は終わっていないから、休んでいるわけにはいかない。


彼方「……ウルトラ、スペースシップ……壊されても……生きてたから、ね……運には……自信、あるんだよね……」


言葉を返しながら周囲を素早く確認する。

フィールドに降り立ったテッカグヤとツンデツンデ、そして2匹の落下によって割り砕かれた大地には、


 「ムシャ…ァ…」「メェェ……」「……ワ、ン」


彼方ちゃんのムシャーナやバイウールだけでなく、エマちゃんのパルスワンも大ダメージを受けて戦闘不能になっていた。


彼方「まさ、か……姫乃ちゃん、が……ウルトラビースト……2匹も、持ってるとは、思わなかった、よ……」

姫乃「……悔しいですが、私は“MOON”でありながら、果林さんの実力には遠く及ばない。……だから、果林さんは優先して私にウルトラビーストを持たせてくれたんです」
 「────」「ツンデ」

彼方「なるほど……ね……」


さすがにこれは想定外だった。テッカグヤだけなら、どうにかなったかもしれないけど……もう1匹、大型ウルトラビーストのツンデツンデがいるとなると話が変わってくる。

でも、姫乃ちゃんは待ってくれるはずもなく、


姫乃「ツンデツンデ、“ジャイロボール”」
 「ツンデ」


ツンデツンデが体を構成する石垣を組み替え──球状になって、高速で回転しながらこちらに迫ってくる。

あの巨体……潰されたらもちろんお陀仏。


 「ツンデ」


割れ砕けた岩石が散乱するフィールドをまるで意にも介せず、すべてを踏みつぶしながら迫るツンデツンデ。

直撃まであと数メートルというところで──わたしの足元からポケモンが飛び出す。


 「────」
彼方「“コスモパワー”……!!」


──ガィィィンッ!!! と音を立てながら、飛び出してきたコスモウムがツンデツンデを弾き返す。

弾き返されたツンデツンデは、ゴロゴロと後ろに転がったあと、再び元の角ばった形に自分を組み替えなおして、こちらを見つめてくる。
431 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:32:38.61 ID:loIPccok0

 「ツンデ」

彼方「……どんな、もんだ〜……彼方ちゃんの、防御力は……無敵だぞ〜……」

姫乃「……彼方さん、貴方はどこまでも受動的ですね」

彼方「……?」

姫乃「貴方が動くときは……いつも自分からではなく、周りの人間が動いてからなんですよ」

彼方「……何が、言いたいの……」

姫乃「貴方が“MOON”まで上り詰めておきながら……組織を裏切った理由。……それは遥さんではないですか?」

彼方「……!? は、遥ちゃんは関係ない……!!」

姫乃「やはり、図星ですか。……遥さんは争いを好まない人でしたからね。差し詰め、計画を知った遥さんから、何か言われたのが原因で逃げ出したんじゃないですか?」

彼方「ち、ちが……っ」

姫乃「いつも飄々としているのに、随分狼狽えているじゃないですか。それでは、遥さんに何を言われたのか、当ててあげましょうか? 『誰かを傷つけてまで、自分たちが助かるなんて間違ってる』。違いますか?」

彼方「……っ」

姫乃「ほら、やっぱり。結局貴方は人の言葉で動いているだけ。自分の意志もなく、ただ周りの誰かの意見に乗っかっているだけの受け身人間。そういう考えが、戦い方にも現れてるんじゃないですか? だから、貴方は防御ばかりする」

彼方「…………」

姫乃「そんな自分の意志がない人だから──ちょっと揺さぶられただけで、足元がお留守になるんです」

彼方「……っ!!?」


急に地面が揺れ、ただでさえ不安定な岩の山がガラガラと音を立てて崩れ始める。


彼方「“じしん”……!? しまっ……!!」


ツンデツンデの“じしん”によるものだと気付いたときには、もう時すでに遅し。わたしは崩れ落ちる岩に巻き込まれて、滑り落ちる。

滑落しながら、わたしの全身に大小様々な岩が衝突し、


彼方「い゛、っ゛……ぁ゛……」


“いわなだれ”が収まった頃には、全身がズタボロになっていた。

身を起こそうとするけど、


彼方「ぁ゛……ぐ……ぅ……」


全身に激痛が走り、思わず呻き声をあげる。

全身打ち身だらけだし……右腕とあばら骨辺りは痛み方からして、たぶん折れてる……──あ、ヤバイ……。痛みで意識が朦朧としてくる。

ぼんやりする思考の中で──あのときの遥ちゃんと話したことが脳裏を過ぎる。



──────
────
──


遥「お姉ちゃん……!!」


青い顔をして、遥ちゃんが私の部屋に飛び込んできた。


彼方「遥ちゃん? どうしたの?」

遥「お、お姉ちゃん……これ、本当……?」


震える声で遥ちゃんが差し出してきたのは──ある書類だった。

それは、わたしが“MOON”に昇格する旨の書かれた辞令。
432 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:34:26.74 ID:loIPccok0

彼方「実行部隊のお姉ちゃんのお部屋に入ったの?」

遥「それに……この計画書……」

彼方「……ダメだよ、勝手に入っちゃ……」

遥「誤魔化さないで……! これに書いてあること……ホントなの……?」

彼方「それは……」


そこに書いてあった計画書には……ざっくりと他世界を衰退させることによって、わたしたちの世界を再生する計画が記されていた。

まだ、幹部クラスの人間にしか知らされていない、今後の組織の方針内容だ。


遥「私たち……こんなこと、しようとしてたの……?」

彼方「遥ちゃん……」

遥「自分たちが助かるために……他の世界の人たちを犠牲にしようとしてるの……?」

彼方「…………」

遥「お姉ちゃんは……こんなことに賛成してるの……?」

彼方「ち、違うよ……! ……彼方ちゃんも、反対はしてるけど……なかなか上層部は聞き入れてくれなくって……」


それに彼方ちゃんはつい最近、愛ちゃんが“SUN”を外れた結果、繰り上がりで“MOON”に昇格しただけで発言権がそこまで大きくないし……。

なにより……反対派だった、璃奈ちゃんと愛ちゃんが二人ともいなくなったせいで、今は特に賛成派の意見が強くなっている。


彼方「あんまり、大きな声で反対したら……きっといい顔されない。お姉ちゃんはそれでも大丈夫だけど……きっと、妹の遥ちゃんまで、そういう目で見られることになる……」

遥「そんな理由で守られても嬉しくないよ……!」

彼方「……遥ちゃん……」

遥「このままじゃ……異世界間で侵略戦争になっちゃう……。私たちがこんなことに加担してるなんて知ったら……死んじゃったお母さんが……悲しむよ……」

彼方「…………」


──この崩落する世界の瘴気にやられて身体を壊し……1年ほど前に他界したお母さんは、孤児院を作って多くの子供たちを受け入れていた人だ。

残り少ない資源しか残っていないこの小さな世界だから……譲り合って、助け合って、お互いを守り合おうと、そんな理念で、孤児院を運営し……わたしたちを育ててくれた。


彼方「…………」


確かにお母さんは悲しむかもしれない。

だけど……それだけじゃ、遥ちゃんを守れない……。

でも、悩むわたしに向かって、遥ちゃんは……。


遥「お姉ちゃん……。……どんな理由があっても……誰かを助けるために、誰かが傷つくことを肯定するなんて……間違ってる……」

彼方「遥ちゃん……」

遥「もし、それを肯定しないとここに居られないなら……こんなところに無理に居続けなくていい……」

彼方「…………」

遥「お姉ちゃんは幹部だから……そんな簡単に組織を抜けられないのもわかってる。……だから……私と一緒に逃げよう」

彼方「……遥ちゃん……? 逃げるって……」

遥「ウルトラスペースシップを使って……他の世界に逃げて、真実を伝えて匿ってもらおう……!」

彼方「そ、そんな、無茶だよ……! 第一、お姉ちゃんウルトラスペースシップの操縦なんて出来ないし……」

遥「ほとんど自動操縦だから、簡単な起動が出来れば大丈夫……! それに私は研究班で、起動方法くらいは習ってる……!」

彼方「遥ちゃん……本気……?」

遥「……本気だよ」

彼方「…………」
433 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:35:33.02 ID:loIPccok0

遥ちゃんの言っていることを実行するのは即ち……政府への反逆を意味している。

もし途中で捕まるようなことがあれば……無事じゃ済まない。


遥「……自分たちのために……誰かを犠牲にする世界なんて……私、嫌だよ……」

彼方「……遥ちゃん……」

遥「それに……お姉ちゃんが誰かを傷つけることなんて……耐えられないよ……」

彼方「…………遥ちゃん」


わたしは、遥ちゃんをぎゅーっと抱きしめる。


遥「お姉ちゃん……?」

彼方「…………遥ちゃんは強い子だね……」

遥「お姉ちゃん……」

彼方「……もう、戻ってこられないよ」

遥「……わかってる」

彼方「……捕まったら……殺されちゃうかもしれない」

遥「……わ、わかってる……」

彼方「それでも……お姉ちゃんと一緒に、ここから逃げてくれる……?」

遥「……うん」

彼方「……わかった。それじゃあ、一緒に逃げよう」

遥「……! お姉ちゃん……」

彼方「ただ、お姉ちゃんの手……絶対に放しちゃダメだからね……!」

遥「……うん!」


──その後、わたしは数日後に渡される予定だったコスモッグを奪取し……ウルトラスペースに逃げ込んだのち、果林ちゃんのフェローチェにウルトラスペースシップを破壊され……“Fall”となった……。


──
────
──────



──ああ……これが走馬灯ってやつかな……。

姫乃ちゃんの言うとおり……わたし……人に流されてばっかりなのかな……。


姫乃「……もう、限界のようですね」


姫乃ちゃんの声が聞こえる。


姫乃「……最後は苦しまずに死ねるように、首を落としてあげますよ。……せめてもの情けです」
 「────」


テッカグヤが腕を振り上げる音が聞こえる。


姫乃「テッカグヤ、“エアスラッシュ”」
 「────」


そして──空気の刃が彼方ちゃんに向かって飛んでくる。


彼方「──ごめ、んね……はる、か……ちゃん……」
434 :>>433 訂正 ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:38:42.47 ID:loIPccok0

遥ちゃんの言っていることを実行するのは即ち……政府への反逆を意味している。

もし途中で捕まるようなことがあれば……無事じゃ済まない。


遥「……自分たちのために……誰かを犠牲にする世界なんて……私、嫌だよ……」

彼方「……遥ちゃん……」

遥「それに……お姉ちゃんが誰かを傷つけることなんて……耐えられないよ……」

彼方「…………遥ちゃん」


わたしは、遥ちゃんをぎゅーっと抱きしめる。


遥「お姉ちゃん……?」

彼方「…………遥ちゃんは強い子だね……」

遥「お姉ちゃん……」

彼方「……もう、戻ってこられないよ」

遥「……わかってる」

彼方「……捕まったら……殺されちゃうかもしれない」

遥「……わ、わかってる……」

彼方「それでも……お姉ちゃんと一緒に、ここから逃げてくれる……?」

遥「……うん」

彼方「……わかった。それじゃあ、一緒に逃げよう」

遥「……! お姉ちゃん……」

彼方「ただ、お姉ちゃんの手……絶対に放しちゃダメだからね……!」

遥「……うん!」


──その後、わたしは数日後に渡される予定だったコスモッグを奪取し……ウルトラスペースに逃げ込んだのち、果林ちゃんのフェローチェにウルトラスペースシップを破壊され……“Fall”となった……。


──
────
──────



──ああ……これが走馬灯ってやつかな……。

姫乃ちゃんの言うとおり……わたし……人に流されてばっかりなのかな……。


姫乃「……もう、限界のようですね」


姫乃ちゃんの声が聞こえる。


姫乃「……最期は苦しまずに死ねるように、首を落としてあげますよ。……せめてもの情けです」
 「────」


テッカグヤが腕を振り上げる音が聞こえる。


姫乃「テッカグヤ、“エアスラッシュ”」
 「────」


そして──空気の刃が彼方ちゃんに向かって飛んでくる。


彼方「──ごめ、んね……はる、か……ちゃん……」
435 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:39:31.35 ID:loIPccok0

──お姉ちゃん……もう、死んじゃう……みたい……。

もう身体に力も入らない……。ごめんね……。

心の中で謝った、瞬間。


 「──お姉ちゃんっ!!!!」

彼方「え……?」

姫乃「……な……!?」


走り込んできた影が──わたしを庇うように、飛び付いてきた。

影はわたしを抱きしめたまま、二人で転がるようにして、“エアスラッシュ”をギリギリで回避する。

誰かが、助けてくれた……? いや、誰かなんて、言うまでもない。

わたしがこの声を聞き間違えるはずがない。

全身に走る激痛を堪えながら、顔を上げる。

すると、そこには、


遥「おねえ、ちゃん……間に合って、よかった……」


他の誰でもない──わたしの世界で一番大切な妹が、


彼方「遥ちゃん……!!」


遥ちゃんがいた。

そして同時に──手にぬるりとした感触がする。

それは──血だった。


彼方「遥ちゃん……!? “エアスラッシュ”が……!?」

遥「えへへ……掠っちゃった……みたい……」

彼方「い、今すぐ治療を……!!」

遥「お姉ちゃん……」

彼方「遥ちゃん……!? なに……!?」

遥「……誰かを守ることを……迷わないで……」

彼方「え……」

遥「……お姉ちゃんの力は……誰かを守る力だから……。……お姉ちゃんにしか出来ない……優しい、強さだから……」

彼方「遥……ちゃん……」

遥「だから……負け、ないで……」


遥ちゃんがカクリと崩れ落ちる。


彼方「遥ちゃん……!?」

遥「…………」


すぐさま、首筋に指を当てると──辛うじて脈はまだある。

彼方ちゃんが全身の激痛に耐えながら立ち上がると──


 「…ママァン…」


気付けば、満身創痍なはずのママンボウが岩石の上を跳ねながら、わたしたちのすぐ傍まで来ていた。

きっと、崩れ落ちる“いわなだれ”に一緒に巻き込まれて、落ちてきたんだ……。
436 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:40:13.87 ID:loIPccok0

彼方「ママンボウ……苦しいかもしれないけど……遥ちゃんの治療、出来る……?」
 「ママァ〜ン…」

彼方「ありがとう……お願いね……」


ママンボウの粘液の治癒効果は、医者いらず薬いらずと言われるほどだ。

満身創痍だとしても、安静に出来る場所さえあれば、遥ちゃんの治療も出来るはず。

遥ちゃんをママンボウに任せて──わたしは全身に力を込めて、真っすぐ立つ。


姫乃「……大した姉妹愛ですね」


目の前には姫乃ちゃんの姿。


姫乃「大人しく……当たっておけば苦しまずに済んだでしょうに……」
 「────」


テッカグヤがこちらに、バーナーを向けてくる。


姫乃「……お望みなら、姉妹まとめて……消し去ってあげます。……“かえんほうしゃ”!!」
 「────」


バーナーから噴出される“かえんほうしゃ”がわたしたちに迫るけど──炎はわたしに当たる直前で、まるでわたしたちを避けるように左右に枝分かれする。


姫乃「……なっ!?」


その炎の枝の根本には──


 「──パルル」

姫乃「パー……ルル……?」


パールルが炎を防ぎきっていた。





    🐏    🐏    🐏





……わたしたちが“Fall”になって、4年くらい経ってるから……お母さんが死んじゃったのはもう5年くらい前になるのかな。



──────
────
──


彼方「──お母さん、見て見て〜お弁当作ってきたよ〜♪」

彼方母「……ふふ、いつもありがとう、今日は看護師さんに叱られなかった?」

彼方「あーあの看護師さん怖いよね〜。『病院の方で栄養管理をしているので!』って〜。でも、今日はすんなりいいよって通してくれて拍子抜けだったよ〜」

彼方母「ふふ、そっか♪ はるちゃんは?」

彼方「遥ちゃんは今日は研究班の研修〜。遥ちゃんすごいんだよ〜? 同期の中では成績トップなんだって〜」

彼方母「ホントに? はるちゃんも頑張ってるんだ〜……お母さん嬉しい」

彼方「うん、遥ちゃんすっごく頑張ってるんだ〜わたしも鼻高々だよ〜」


遥ちゃんのことを褒められると自分のことのように嬉しい。もちろん、お母さんが褒めたとしてもだ。
437 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:41:00.41 ID:loIPccok0

彼方「はーい、それじゃあーん♪」
 「メェ〜」

彼方「あ、こらこら、ウールーには後でちゃんとあげるから。これはお母さんの分」
 「メェ〜」

彼方母「ふふ♪ 別にウールーにあげてもいいわよ?」

彼方「いいの〜これはお母さんの分だから。はい、あ〜ん♪」

彼方母「あーん」

彼方「おいしい〜? その出汁巻き卵、自信あるんだけど〜」

彼方母「うん♪ すっごくおいしい♪ かなちゃんまた腕を上げたね〜」

彼方「えへへ〜そうでしょ〜。お母さん絶対この味好きだろうな〜って作ったから〜」

彼方母「うん。かなちゃんの優しさがたくさん詰まってて……おいしい。かなちゃんは誰かの心に寄り添える子だから、きっと料理が向いてるんだね」

彼方「て、照れちゃうな〜……でも、本当にそうなら嬉しい……えへへ♪」

彼方母「でも、すっかりお母さんよりも料理上手になっちゃって……そこはお母さんちょっと寂しい……」

彼方「ええ〜? お母さんに比べたら、まだまだだよ〜……お母さんの料理からまだたくさん盗みたいから、早く退院して戻ってきて欲しいな〜。そうだ! 退院したらピクニックに行こうよ〜♪ 遥ちゃんと3人で〜♪」
 「メェ〜」

彼方「あ、ごめんごめん……もちろんウールーも一緒だよ〜」
 「メェ〜」


そう言いながら、お箸で次のおかずを取ろうとすると、


彼方母「かなちゃん」


お母さんがわたしの名前を呼ぶ。


彼方「んー?」

彼方母「……お母さんね──もう……長くないんだって」


わたしの手が止まる。
438 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:41:41.17 ID:loIPccok0

彼方「…………そうなんだ」

彼方母「うん。……もう、全身が瘴気に侵されちゃってて……ダメみたい。落日のときに……たくさん瘴気を吸いすぎちゃったみたいで……それで、身体のあちこちがもうボロボロなんだって」

彼方「…………あと、どれくらい?」

彼方母「1ヶ月持てば……良い方みたい」

彼方「……そっか」

彼方母「あんまり驚かないんだね」

彼方「……お母さんが突然倒れたときから……なんとなく覚悟してたから」

彼方母「そっか……。せっかく、お父さんが身体張って助けてくれたのにね……」

彼方「……そうだね……はい、あーん」
 「メェ〜」

彼方「だから、ウールーの分は後でだってば〜……はい、お母さん、あーん」

彼方母「あーん」

彼方「おいしい?」

彼方母「うん、おいしい♪ 出汁がよく効いてて……」

彼方「……実はね〜」

彼方母「んー?」

彼方「今日の卵焼き、本当は甘いやつなんだ〜……」

彼方母「…………そっか」

彼方「……やっぱり……もう、味……わかんないんだね」

彼方母「あはは……やっぱ、バレちゃってたか」

彼方「うん。実は……結構前から、なんとなく……」

彼方母「そっか……」


ずっと私のご飯をおいしいおいしいと言って食べてくれていたから……信じたくはなかったけど……。

もう……味覚も感じられないくらいに……身体が壊れかけている……。きっと味覚だけじゃない……あちこちが、もう……。

そのとき──お母さんがわたしの頭を抱いて、自らの胸に抱き寄せる。


彼方母「……あなたたちを残して先に逝っちゃうけど……ごめんね」

彼方「うぅん、いいよ……悲しいけど……お母さんがお母さんでいてくれて……わたしはすっごく幸せだったから」

彼方母「ありがとう……。……かなちゃんは強いね……」

彼方「……お姉ちゃんだからね〜」

彼方母「……そっか。はるちゃんのこと……よろしくね……」

彼方「任せて〜。遥ちゃんのことは、わたしが何が何でも守ってみせるから〜」

彼方母「ふふ、頼もしい♪」

彼方「うん。……だって、お母さんの子だもん。頼もしくて当然だよ」

彼方母「そっか。……かなちゃんの優しさで……たくさんの人を、たくさんのポケモンを……守ってくれたら……お母さん嬉しいな」

彼方「うん」


ただ、お母さんが優しくわたしの頭を撫でてくれる。そんな静かな病室の中で、


 「メェ〜〜」


事情がわかっているのかわかっていないのか……ウールーの気の抜ける鳴き声が昼下がりの穏やかな病室の中で、木霊するのだった。


──そして、この日からちょうど1ヶ月後に……お母さんは静かに息を引き取った。
439 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:42:15.14 ID:loIPccok0

──
────
──────


姫乃「パールル1匹で……テッカグヤの攻撃を防ぎ切った……!?」

彼方「ごめんね……遥ちゃん……。……お姉ちゃん……迷ってばっかりだ……」

遥「…………」


大好きな大好きな遥ちゃんをぎゅっと抱きしめて、そう伝える。


彼方「でも……もう、迷わないよ……」


伝えて──立ち上がった。


彼方「パールル、ここで遥ちゃんのこと、守ってね」
 「パルル」


わたしはボールからポケモンたちを出す。


 「──カビッ」「──コァ〜」


ボールから飛び出したカビゴンとネッコアラ、そして──


 「────」


コスモウムと一緒に姫乃ちゃんに向かって歩き出す。


姫乃「……さ、さっきのはきっとまぐれです……! “エアスラッシュ”!!」
 「────」

彼方「ネッコアラ、“ウッドハンマー”」
 「コア!!」


わたしが左手で方向を指差しながら指示をしたネッコアラの“ウッドハンマー”は、テッカグヤの“エアスラッシュ”を弾いて逸らし──弾かれた空気の刃が岩石を豆腐のように切り裂きながら明後日の方向へと飛んでいく。


姫乃「う、嘘……? ら、“ラスターカノン”!!」
 「────」

彼方「コスモウム、“コスモパワー”」
 「────」


集束された光のレーザーは、わたしが指差した先に移動したコスモウムが、芯で捉えるように受け止めると、その場で霧散する。


姫乃「ツンデツンデ……!! “ロックブラスト”!!」
 「ツンデ」

彼方「カビゴン、ネッコアラ」
 「カビッ」「コァ」


飛んでくる岩石の砲弾を一つ一つ指差し、


 「カビッ」「コァ!!!」


それをカビゴンの拳とネッコアラの丸太が、正確に撃ち落としていく。


姫乃「……な、なにが起こっているんですか……!?」


姫乃ちゃんが動揺して、半歩身を引く。
440 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:42:48.47 ID:loIPccok0

彼方「……前に、千歌ちゃんが言ってたんだ。攻撃には……芯があるんだって」

姫乃「な、なに言って……」

彼方「千歌ちゃんは攻撃の芯を相手に的確に当てることによって、必殺の一撃を繰り出すんだってさ」

姫乃「だ、だから……!! 何を言っているんですか、貴方は……!?」

彼方「……でも、わたし思ったんだよね。芯があるのは攻撃だけじゃないんじゃないかな〜って。……防御にも芯はあるんじゃないかって」


ポケモンにとって最も効率的に攻撃を通せる芯があるように──防御にも、最も効率よく防御を通せる芯があるんじゃないかって。


彼方「なんか今……それが見える気がするんだ」

姫乃「そ、それ以上近寄らないでください……!! ツンデツンデ!! “ジャイロボール”!!」
 「ツンデ」


ツンデツンデが丸い形に石垣を構築しなおし、高速で回転しながら、飛び出してくる。

猛スピードで転がってくるツンデツンデに対し、すっと指を真っすぐ前に出し、そこに向かって、


 「コァッ!!!」


ネッコアラが──ど真ん中を叩くように、“ウッドハンマー”を振るうと、


 「──ツンデ…!!」


体格差が嘘のように、ツンデツンデが野球ボールのように後ろに弾き返される。


姫乃「嘘……嘘嘘嘘です、こんなの……」

彼方「……相手をよく見て、相手のことを考えて、的確に防御を置き続ける……」

姫乃「て、テッカグヤ!! “ロケットずつき”!!」
 「────」


テッカグヤがバーナーを逆噴射し──頭をこちらに向けて真っすぐこっちに突っ込んでくる。


彼方「……きっと、わたしにしか出来ない……みんなのことをたくさん見てるから、みんなの言葉にたくさん耳を傾けてるからこそ、出来る強さなんだ」


スッと指を前に差す。

──ガァァァァァンッ!!!! という音と共に──コスモウムが、テッカグヤの突進を真正面から押し止めた。

テッカグヤは今もバーナーから噴射の推進力で前に進んでいるはずなのに、コスモウムは微動だにしない。


姫乃「……反則……です……」


それを見て、姫乃ちゃんがへたり込む。


彼方「だから、わたしの防御は、人に寄り添う優しさを強さに変えた絶対防御。あーでも……それで言うなら、彼方ちゃん……まだまだかもなぁ〜……」

姫乃「え……?」

彼方「だって……姫乃ちゃんが果林ちゃんの邪魔をする人が許せないように……彼方ちゃんも──遥ちゃんを傷つける人は絶対に許さないから。そこはまだ、優しく出来ないや」


コスモウムによって噴射をしながら空中で止まってしまったテッカグヤの頭を──カビゴンがガシリと掴んで、振り上げる。


姫乃「あ……あ……っ……」


そしてそれを思いっきり──


彼方「反省してね……“ばかぢから”!!!」
 「カビッ!!!!」
441 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:45:29.29 ID:loIPccok0

振り下ろした。


姫乃「……ッ!!!?」


振り下ろされたテッカグヤの巨体は、


 「ツンデ…!!!」


ツンデツンデの真上に振り下ろされ──超重量級のポケモン2匹分の加重によって、ツンデツンデを地面にめり込ませ──さらに発生した衝撃波で地面がひしゃげ、周囲の岩石を吹き飛ばした。


姫乃「きゃぁ……!?」


至近距離で衝撃波を受けて、姫乃ちゃんが吹き飛ぶけど、姫乃ちゃんは地面を転がりながらも受け身をとってすぐに起き上がる。

さすが、“MOON”……よく訓練してるな〜……。彼方ちゃんには真似できないや。


姫乃「じ、冗談じゃないです……!!」


姫乃ちゃんはわたしから視線を外さずに後退していく。


彼方「ありゃ? 逃げちゃう感じ?」

姫乃「こ、こんなこと認めません……!! う、ウルトラビーストが1度に2匹も倒されるなんて……!!」


うーん……彼方ちゃん今は痛くてあんまり速く走れないから、逃げないで欲しいんだけどなぁ……。

そんなことをぼんやり考えていると、後退する姫乃ちゃんの後ろから近付いてくる影に気付く。


彼方「あ、姫乃ちゃん……そっちに行くと……」

姫乃「こ、来ないでください……!!」

 「──え、えーっと……ご、ごめんね?」

姫乃「え……!?」


背後から声を掛けられ、姫乃ちゃんが驚いて振り向くと同時に、


エマ「“ウッドホーン”」
 「ゴートッ!!」

姫乃「ぴぎゅ……!?」


姫乃ちゃんの脳天にエマちゃんが乗っていたゴーゴートのツノが叩きつけられ──姫乃ちゃんは気を失って、ひっくり返ってしまった。


エマ「え、えーっと……よかったんだよね……?」

彼方「……うん、ナイスだよエマちゃん」

姫乃「……きゅぅ……」


満身創痍だけど……どうにか姫乃ちゃんとの戦闘に勝利できた彼方ちゃんは、安堵の息を漏らすのでした。



442 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:46:13.95 ID:loIPccok0

    🐏    🐏    🐏





遥「……ん……ぅ……」

彼方「あ、遥ちゃん……!!」

遥「……おねえ、ちゃん……?」

彼方「よかったぁ〜〜〜……!! 遥ちゃん痛いところない!?」


彼方ちゃんは遥ちゃんをこれでもかと言わんばかりに抱きしめます。


遥「い、痛い痛い、お姉ちゃんの抱きしめる力が強すぎて痛いよ……」

彼方「いたたたたた!!?」

遥「えっ!? なんでお姉ちゃんが痛がってるの!?」

エマ「だ、ダメだよ、彼方ちゃん……! 固定したとはいえ、右腕の骨が折れてるんだから……!」

彼方「は、遥ちゃんが目を覚ました喜びで忘れてた……」


あの後──エマちゃんが見つけてきてくれた倒木の破片を添え木にして……応急処置をしてもらった。

そして、遥ちゃんの傷だけど……。


彼方「遥ちゃん、背中の傷は平気?」

遥「え? ……言われみれば……全然痛くない……」

彼方「ママンボウのお陰だね〜ありがとうママンボウ〜」
 「ママァ〜ン」

遥「ママンボウが治療してくれたんだ……ありがとう」
 「ママァ〜ンボ」


ママンボウの治癒効果は本当に目を見張るほどで、すっかり切り傷が塞がっていた。


遥「でも……ちょっとふらふらするかも……」

彼方「血を流しちゃったからね……しばらくは大人しくしてないとダメ〜」

遥「う、うん……」

彼方「というか、どうやってここまで来たの?」

遥「えっと……お姉ちゃんの持ってる端末のGPS表示を見てたら……15番水道の端っこで消えちゃったから……そこにいるんだって思って……」

彼方「うん?」


そういえば、わたしと遥ちゃんは支給されてる端末を持っていて、お互いの端末位置は検索できるんだった。


遥「それで、病院から抜け出して……ある程度、船で移動したあと……ハーデリアに掴まって……泳いできた」

彼方「なんて危ないことしてるの!?」

遥「ご、ごめんなさい……! でも……居てもたってもいられなくって……」

彼方「もう〜……誰に似たんだか〜……」

エマ「ふふ、誰に似たんだろうね?」


くすくす笑うエマちゃん。

そういうエマちゃんもゴーゴートの背に腰かけたまま……足に添え木をしていて……。
443 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:47:02.54 ID:loIPccok0

遥「エマさんのその足は……」

エマ「あ、うん……わたしも足の骨が折れちゃったみたいで……」

彼方「ごめんね、エマちゃん……結局、怪我させちゃった……」

エマ「うぅん、わたしは大丈夫。こうして……姫乃ちゃんを止めることも出来たし……」

姫乃「……きゅぅ〜……」


完全に目を回して気絶している姫乃ちゃんは、今はロープで手足を縛った状態で手持ちも全部彼方ちゃんが回収済み。

外に出ていたポケモンも全部ボールに戻したから、もう姫乃ちゃんは完全に戦闘には参加できない状態になっています。


彼方「しばらくしたら、みんなのところに戻ろうね……」

エマ「うん。……わたし、やっぱりまだ果林ちゃんとお話ししなくちゃいけない。伝えきれてないこと……たくさんあるから


きっと戦闘は激化しているだろうけど……。さすがにすぐには動けない……。

今は、侑ちゃんとかすみちゃんを信じるしかない……かな……。



444 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:47:43.94 ID:loIPccok0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 彼方
 手持ち バイウールー♂ Lv.79 特性:ぼうだん 性格:のんてんき 個性:ひるねをよくする
      ネッコアラ♂ Lv.77 特性:ぜったいねむり 性格:ゆうかん 個性:ひるねをよくする
      ムシャーナ♀ Lv.78 特性:テレパシー 性格:おだやか 個性:ひるねをよくする
      パールル♀ Lv.76 特性:シェルアーマー 性格:おとなしい 個性:ひるねをよくする
      カビゴン♀ Lv.80 特性:あついしぼう 性格:わんぱく 個性:ひるねをよくする
      コスモウム Lv.75 特性:がんじょう 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 エマ
 手持ち ゴーゴート♂ Lv.40 特性:くさのけがわ 性格:むじゃき 個性:ねばりづよい
      パルスワン♂ Lv.43 特性:がんじょうあご 性格:ゆうかん 個性:かけっこがすき
      ガルーラ♀ Lv.44 特性:きもったま 性格:おっとり 個性:のんびりするのがすき
      ミルタンク♀ Lv.41 特性:そうしょく 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      ママンボウ♀ Lv.40 特性:いやしのこころ 性格:ひかえめ 個性:とてもきちょうめん
      エルフーン♀ Lv.40 特性:いたずらごころ 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 1個 図鑑 未所持


 彼方と エマは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



445 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:11:45.72 ID:8UVAxvmj0

 ■Intermission🍊



千歌「──バクフーン!! “ひのこ”!!」
 「バク、フーーーンッ!!!!」

 「フェロッ…!!!?」


鋭く飛ぶ“ひのこ”が高速で飛びまわるフェローチェを撃ち落とす。

クリーンヒットした“ひのこ”がフェローチェを撃墜するが、


 「ガドーンッ!!!」


すでに私の背後では、ズガドーンが頭を外して投げるモーションに入っている。


千歌「フローゼル!! “ハイドロポンプ”!!」
 「ゼーーールゥゥゥ!!!!!」

 「ガドーーンッ…!!!?」


投げようとしていた頭ごと激流でぶっ飛ばし──直後、ドォォンッ!! と音を立てながら、ズガドーンが爆発する。


千歌「くっ……!」


強引に距離を取ったから、爆発のダメージこそなかったものの、爆風が吹き付けてくる。

そして、爆風に一瞬動きを止めた私に向かって、


 「────」


カミツルギが斬撃を伴って、上から飛び掛かってくる。

その斬撃を、


 「ウォッフッ!!!」


飛び出したしいたけが“ファーコート”と“コットンガード”で強引に受け止め、剣を受け止められ一瞬止まったカミツルギを、


 「ワォーーーーンッ!!!!」


ルガルガンが“ドリルライナー”で突っ込んで仕留める。


千歌「今なら、空に抜けられる……! 逃げるよ!!」
 「ピィィィィィ!!!!」



私はムクホーク以外をボールに戻して、その場を離脱した。





    🍊    🍊    🍊





千歌「……はぁ……はぁ……。……さ、さすがに……このままじゃ……ヤバイ……」


息を切らしながら、飛び込んだ断崖にある横穴から外を覗く。

そこには──
446 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:12:24.55 ID:8UVAxvmj0

 「ブーーン」「フェロ…」「────」「──ジェルルップ…」


マッシブーン、フェローチェ、カミツルギ、ウツロイド……いや、それだけじゃない。

ありとあらゆるウルトラビーストの姿が確認出来た。

大型のウルトラビーストであるテッカグヤやツンデツンデもいる。

……さすがにアクジキングは、見た瞬間全力で逃げたけど……。


千歌「……たぶん……歩夢ちゃんの影響……だよね……」


ここに来たときから、ちらほらウルトラビーストは見かけていたし……恐らくこの世界は今、果林さんたちがウルトラビーストを呼び込んでいる世界とウルトラビーストたちが住んでいる世界のちょうど狭間にあるんだと思う。

彼女たちが歩夢ちゃんの力でウルトラビーストたちの呼び寄せを開始した結果、中継地点のようになっているこの世界にウルトラビーストたちが溢れかえっているんだ……。

彼女たちが歩夢ちゃんを使ってまでウルトラビーストを呼び寄せているのは恐らく捕獲目的だろうし、出来ることなら撃退したいけど……。

手持ちの体力も限界な上に……数が数……撃退するどころか……。


千歌「逃げ切れるかな……あはは……」


さすがに、この絶体絶命の状況に乾いた笑いが漏れる。


千歌「ダメだダメだ……! 弱気になるな……!」


弱気を打ち消すように、頭を振る。


千歌「とにかく、一点でいいから、うまく包囲網を抜けられそうな穴を作れば……!」


そう思った瞬間──背後でドォンッと嫌な音がした。


千歌「……!?」


ギョッとして振り返ると──背後の壁にヒビが入っている。そして、またドォンッという音ともに、壁のヒビが大きくなっていく。


千歌「や、やば……!! ムクホーク、逃げるよ!!」
 「ピィィッ!!!!」


ムクホークと一緒に横穴の外に逃げ出そうとした瞬間、


 「──シブーーーンッ!!!!」


ショルダータックルで壁をぶっ壊しながら、マッシブーンが突っ込んできた。

──避けきれない……!


千歌「“フェザーダンス”っ!」
 「ピィィィィッ!!!!」


咄嗟の判断で、大量の羽毛をまき散らし、マッシブーンの攻撃力を落とすが、


 「ブーーーーンッ!!!!」

千歌「ぐっ……!!」


タックルに吹っ飛ばされて、断崖の横穴から追い出される。

外に飛び出た瞬間、


 「ピィィィッ!!!!」
447 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:13:24.01 ID:8UVAxvmj0

ムクホークが私の肩を掴んで飛び立つ。


千歌「ムクホーク!! 高度上げてっ!!」
 「ピィィィッ!!!」


状況確認もまだ出来ていないけど、確実にウルトラビーストたちのど真ん中に放り出された。

狙い撃ちにされる前に上空に逃げようとしたが、


 「ピッ…!!!?」


ムクホークが急に掴んでいた私の肩を離す。


千歌「へっ!?」


急に浮遊感に包まれ、何事かと思った直後──ピシャーーーーンッ!!! という空気を劈く音が上から轟いてくる。

この音は──“かみなり”だ……!

落下しながら私の視界には──


 「────ジジジ」


巨大なデンジュモクの姿が目に入る。

ムクホークは“かみなり”の予兆に気付き、私を巻き込まないために、咄嗟に掴んでいた私を離して巻き込まれないようにしてくれたんだ……!

──猛スピードで落下する私は、地面に向かってボールを放つ。


千歌「しいたけーーー!! “コットンガード”ぉーーー!!!」

 「──ワッフッ!!!」


飛び出したしいたけが、体毛をもこもこと膨らませ、私はそこに向かって落下する。

──バフンという音と共に、しいたけの上に不時着したあと、


千歌「っ……!」


すぐに顔を上げ──


 「ピィィィ……」

千歌「ムクホーク、戻って!!」


“かみなり”の直撃で黒焦げになって落ちてくるムクホークをボールに戻す。

ムクホークの機転のお陰で助かったけど──これで飛んで逃げることも出来なくなった。

そして、周りは──


 「フェロ…」「ガドーーン」「──ジジジ」「シブーーン!!!!」


ウルトラビーストに取り囲まれていた。


千歌「バクフーン! ルガルガン! フローゼル!」
 「バクフーーッ!!!」「ワォンッ!!!」「ゼルゥッ!!!」

千歌「諦めてたまるかぁぁぁ!!!」
 「ワッフッ!!!」


私はポケモンたちと一緒に駆け出す。
448 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:13:59.73 ID:8UVAxvmj0

千歌「“ひのこ”!!」
 「バクフーーーッ!!!!」

 「フェロッ!!!?」


駆け出すと同時に、防御の薄いフェローチェを撃ち抜き、


千歌「“ストーンエッジ”!!」
 「ワォンッ!!!!」

 「──ジジジジ…」


ルガルガンが、範囲攻撃の得意なデンジュモクを優先して倒す。


 「ガドーンッ」


他のウルトラビーストを攻撃している隙に、頭を投げようとしている、ズガドーンに向かって、


千歌「“アクアジェット”!!」
 「ゼルゥゥゥゥッ!!!!!」

 「ガドーンッ…!!!?」


フローゼルが“アクアジェット”で黙らせ、


千歌「走るよ……!!」
 「バクフッ!!!」「ワォンッ!!!」「ゼルッ!!!!」


全員で包囲網を抜けるために走り出すが、


 「ワッフッ!!!」
千歌「……!?」


背後でしいたけが鳴く。

後ろを確認する間もなく──


 「シブーーーーンッ!!!!」


突っ込んできたマッシブーンのショルダータックルでしいたけが突き飛ばされ、それに巻き込まれるように私も吹っ飛ばされる。


千歌「……っ゛……ぐ……っ……!!」


吹っ飛ばされながらも、しいたけが私の身体を守るように抱き着いてきて──空中で姿勢を制御しながら、自分を下にして地面に落っこちる。


千歌「…………ぐ……」


痛みを堪えながら起き上がると──


 「ワフ…」


しいたけが私の下で戦闘不能になっていた。


千歌「しいたけ……ごめんね、ありがとう……戻って……」
 「ワッフ…──」
449 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:14:36.80 ID:8UVAxvmj0

しいたけをボールに戻す。

恐らくしいたけは私を庇って、死角からのマッシブーンの攻撃を受け止めようとしてくれたんだ。

しいたけが守ってくれなかったら、私の身体はマッシブーンのタックルによって、今頃バラバラになっていた……。

タックルだけでも大ダメージを受けていたはずなのに、落下の衝撃からも守ってくれたんだ……。

──でも、一難去ってまた一難。


 「────」

千歌「テッカグヤ……!」


目の前で、テッカグヤがバーナーをこちらに向けていた。


 「バクフーーーッ!!!!」

 「────」


吹っ飛ばされた私に駆け寄りながら、バクフーンが“もえつきる”でテッカグヤを焼き払う。


 「ゼルッ!!」「ワォンッ!!!」「バクフーーーッ!!!」


フローゼルが、ルガルガンが、バクフーンが、私を守るように周囲を固めるけど──


 「ッシブーーンッ!!!」「──ジェルルップ…」「────」「フェロ…」


マッシブーンに、ウツロイド、カミツルギ、フェローチェ……いや、それだけじゃない。

さっきとは別固体のデンジュモクやズガドーン、テッカグヤがこっちに近付いてくるのが見えるし……戦う意思があるのかはともかく、ツンデツンデも遠方に確認出来る。

さらに──


 「──ドカグィィィィィ!!!!」


アクジキングの鳴き声まで聞こえてくる。

手持ちは残り3匹……。みんな体力は限界ギリギリ。しかも、バクフーンは炎が燃え尽きてしまっている。

この戦力差は……もう……無理だ……。


千歌「……はぁ……はぁ……」


私は息が切れて、膝をついてしまう。

そこに向かって──


 「シブーーーンッ!!!!」「フェロッ!!!」「──ジェルルップ…」


ウルトラビーストたちが一斉に飛び掛かってくる。


千歌「くっそぉぉぉぉぉ……!!」


諦めかけた──次の瞬間、


 「──“ハードプラント”!!!」
  「──ガニュゥムッ!!!!!」


響く声と共に──


 「マッシブッ!!!?」「フェロッ…!!!?」「──ジェルルップ…」
450 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:15:14.32 ID:8UVAxvmj0

急に地面から生えてきた大樹が、ウルトラビーストたちを巻き込みながら、一気に成長していく。

大樹は私たちを守るよう壁のように、周囲を取り囲んでいく。


千歌「……この、技……!」


この技を使える人を……私は一人しか知らない。

上を見上げると──


梨子「──千歌ちゃぁぁぁぁんっ!!」

千歌「梨子ちゃんっ!!」


ピジョットに乗った梨子ちゃんが、上空から一直線に舞い降りてくるところだった。

それと同時に──


 「ガニュゥムッ!!!!」


メガニウムが私の近くに着地する。


千歌「メガニウム……! ありがとう……!」
 「ガニュゥムッ♪」


メガニウムの“ハードプラント”によって、救われた。


梨子「千歌ちゃん、無事……!?」

千歌「お陰様で間一髪……!」


プラントたちの防壁の中に降り立った梨子ちゃんが駆け寄ってくる。

が、


 「ガドーンッ!!!」


ズガドーンの鳴き声と共に──樹木の壁のすぐ外で爆発音が響く。


梨子「きゃ……っ!?」

千歌「……っ……!」


──“ビックリヘッド”が炸裂した。

強烈な爆発と爆炎によって、樹木の壁が一瞬で焼け崩れる。


 「──はーーい!! 消火しちゃうよーー!! “ハイドロポンプ”!!」
  「──ガメェェェェッ!!!!!!」

千歌「……!」


けど、炎はすぐに上から降ってきた大量の水によって消火される。

上を見上げると──カメックスが首と手足を引っ込めたまま、ランチャーだけを外に出し、水流の逆噴射で空を飛びながら、大量の水で消火を行っていた。


千歌「曜ちゃぁーーーん……っ!!」

曜「助けに来たよ!! 千歌ちゃん!!」


そして、曜ちゃんがヨルノズクから飛び降りて、私に駆け寄り抱き着いてくる。
451 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:16:54.72 ID:8UVAxvmj0

曜「絶対……無事だって、信じてた……!」

千歌「うん……っ……! 絶対、助けに来てくれるって……信じてた……っ……」

梨子「ふふっ」


再会を喜ぶ私たちに、


 「マッシブ!!!」「フェロッ!!!」


飛び掛かってくる、マッシブーンとフェローチェの姿。

でも、その攻撃は──


ルビィ「──コラン!! “リフレクター”!!」
 「ピピィッ!!!!」

 「シブッ…!!?」「フェロッ…!!?」


降りてきたルビィちゃんとコランによって、弾き返される。

そして、弾かれた2匹に向かって──


花丸「──カビゴン!! “のしかかり”!!」
 「ゴンッ!!!!」

 「シブッ…!!!」「フェロ…ッ」


降ってきた花丸ちゃんのカビゴンが“のしかかり”でまとめて押しつぶす。


千歌「ルビィちゃん……! 花丸ちゃん……!」

ルビィ「助けに来たよ!! 千歌ちゃん!!」

花丸「どうにか、間に合ったみたいだね……」


ただ、ウルトラビーストたちの猛攻は止まらない。

コランが展開してくれた、“リフレクター”を、


 「────」


カミツルギが斬撃で破壊する。


ルビィ「ぴぎっ!?」

花丸「か、“かわらわり”……!?」

 「────」


カミツルギが二の太刀を振り下ろそうとした瞬間──


善子「──……遅い」
 「…ソル」


いつの間にか降り立っていた善子ちゃんとアブソルが、カミツルギよりも速い斬撃で斬り裂いていた。


 「────」


カミツルギが崩れ落ちる。
452 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:18:29.54 ID:8UVAxvmj0

善子「本気の千歌の方が、100倍速いわ……」

千歌「善子ちゃん……っ!!」

善子「ヨハネだって言ってんでしょ」

千歌「えへへ……うんっ! ヨハネちゃん!」

善子「素直でよろしい」


みんなが──みんなが助けに来てくれた……!!


花丸「それにしても……すごい数ずらね〜……」

ルビィ「うん……何匹くらいいるのかな……?」

梨子「……まあ、数えきれないくらいいることはわかるかな」

善子「でも、私たち全員揃ってたら……これくらい訳ないでしょ?」

曜「当然!! みんな、千歌ちゃんを守るよ!!」

梨子「ピジョット!!」
曜「カメックス!!」
善子「アブソル!!」
花丸「デンリュウ!!」
ルビィ「バシャーモ!!」


梨子ちゃんの“メガブレスレット”が、曜ちゃんの“メガイカリ”が、善子ちゃんの“メガロザリオ”が、花丸ちゃんとルビィちゃんが首から提げているお揃いの“メガペンダント”が──同時に輝きだす。


梨子・曜・善子・花丸・ルビィ「「「「「メガシンカ!!!」」」」」
 「ピジョットォ!!!」「ガメェーーーッ!!!!」「ソルッ!!!!」「リュゥ!!!!」「バシャーーーモッ!!!!」


5匹が同時に光に包まれ──メガシンカする。


曜「撃ち抜け……!! “ハイドロポンプ”!!」
 「ガメガメガメガメェェェェェッ!!!!!」

 「ズガッ!!!?」「ガドドッ!!!?」「ドーーンッ!!!?」


連続で発射される水砲が、周囲のズガドーンたちを的確に撃ち抜き、


善子「──“かまいたち”!!」
 「ソルッ!!!」

 「────」「──」「───」


極太の風の刃がまとめて、カミツルギたちを薙ぎ払う。


 「──フェロッ!!!!」「ローーチェッ!!!」「フェローーーッ!!!!」


飛び掛かってくる、フェローチェたちは、


ルビィ「“ブレイズキック”!!」
 「シャァーーーーモッ!!!!」

 「フェロッ…!!!」「ローチェッ!!?」「フェロォ…!!?」


“かそく”するメガバシャーモが高速軌道で動き回りながら、炎の蹴撃で片っ端から叩き落していく。


 「──」「────」


空からこっちに向かってくる、テッカグヤたちを、
453 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:21:05.21 ID:8UVAxvmj0

花丸「“かみなり”!!」
 「リュウッ!!!」

 「────」「──」


花丸ちゃんがメガデンリュウの“かみなり”で正確に撃ち落とす。

そして、


 「──ジェルルップ…」「──ジェル…」「──ルップ…」


接近してくるウツロイドたちを、


梨子「ピジョット!! “ぼうふう”!!」
 「ピジョットォォォォォ!!!!!」


梨子ちゃんとメガピジョットが“ぼうふう”で吹き飛ばした。


千歌「みんな……すごい……!!」


頼もしい仲間たちの戦いっぷりに目を潤ませていると、


 「──ジジジジ」「──ジ、ジジジ」


デンジュモクたちが電撃を体に溜め始める。


千歌「……! い、いけない……! 電撃が……!」

花丸「任せるずら!! ドダイトス!! マンムー!!」
 「ドダイッ!!!!」「ムオォォォォ!!!!」

花丸「“ぶちかまし”!! “10まんばりき”!!」
 「ドダイトォスッ!!!!!」「ムォォォォォッ!!!!!!」

 「──ジジ…ッ」「──ジジジ…ッ」


でんきタイプの効かない、じめんタイプのドダイトスとマンムーが体に電撃を纏ったデンジュモクたちを、強力なじめん技で無理やりぶっ飛ばす。


 「マッシブーンッ!!!!」


突然、飛び掛かってくるマッシブーン。


曜「カイリキー!!」
 「──リキッ!!!」

 「シブッ!!!?」


それを曜ちゃんのカイリキーが4本の腕で組み伏せる。

5人が力を合わせて、迎撃をする中、


 「────ツンデ」


先ほどまで遠方にいたツンデツンデが、戦闘に刺激されたのか、こっちに向かって“ジャイロボール”で猛スピードで転がってくる。


曜「うわ、なんかでかいのきたよ!?」

梨子「任せて……! 行くよ──ダイオウドウ!!」
 「──パオォォォォォォ!!!!!」


梨子ちゃんの繰り出したダイオウドウが真正面から、ツンデツンデに体をぶつけて、押し止める。

──押し止めたツンデツンデを、
454 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:21:45.09 ID:8UVAxvmj0

善子「でかした、リリー!! ゲッコウガ!!」
 「ゲコガァッ!!!!」


善子ちゃんのゲッコウガが──石垣の継ぎ目に沿って大きな水の手裏剣で斬り裂くと、


 「…ツンデ」


ツンデツンデがバラバラになって崩れ落ちる。


梨子「善子ちゃん!! リリー禁止って言ったでしょ!?」

善子「善子言うな!?」


気付けば──周囲のウルトラビーストはほとんど倒しきっていた。


千歌「みんな……すごすぎだよ……!」


あと残るは──


 「──ドカグィィィィィ!!!!!」


さっき鳴き声だけ聞こえていたアクジキングが岩山を喰らいながら、こっちに向かって走ってくる。


曜「や、山食べてるよ!?」

ルビィ「ぅゅ……あ、アクジキングさん……」

花丸「山って、おいしいのかな……?」

梨子「そこ……?」

善子「……なかなかやばそうなのが来たわね」


見るからにヤバイウルトラビーストなのに、みんなは割と能天気な反応をしている。


善子「あ、そうそう……千歌」

千歌「ん?」

善子「忘れ物よ。ロッジで寂しく待ってたから、連れてきた」


そう言って、ボールを投げ渡してくる。


千歌「……!」

善子「最後の見せ場、あげるから……やっちゃいなさい」

千歌「……うん!!」


私は善子ちゃんから受け取ったボールを放る。


千歌「行くよ!! ルカリオ!!」
 「──グゥォッ!!!!」

千歌「メガシンカ!!」


ボールから飛び出したルカリオが、私の“メガバレッタ”の輝きの呼応して──メガルカリオへと姿を変える。


 「──グゥォッ!!!!」

千歌「ルカリオ……私の波導……感じるよね」
 「グゥォッ!!!」
455 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:22:29.99 ID:8UVAxvmj0

もう疲れ切っているはずなのに……。

頼もしい仲間たちが助けに来てくれた。

その嬉しさと喜びで、すごくすごく、気持ちが高揚していた。


 「ドカグィィィィィッ!!!」


──本来、アクジキングは見たら即逃走してもいいくらい危険な相手だけど……。


千歌「今は……負ける気がしない」
 「グゥォッ!!!!!」


ルカリオの波導が一気に膨れ上がる。

そして、両手に波導のエネルギーを集束し始める。


千歌「波導の力……見せつけるよ!!」
 「グゥォッ!!!!」


ルカリオが──両手を前に構えると同時に、波導のエネルギーが膨れ上がる。


千歌「“はどうのあらし”!!!」
 「グゥォォォォォ!!!!!!!」


両手の先から極太の波導のレーザーが発射され──アクジキングに向かって飛んでいく。


 「ドカグィィィィィッ!!!!」


アクジキングは大口を開けて、飛んできた“はどうのあらし”を飲み込んでいく。

が、


 「ドカ、グィィィィ…!!!?」


波導エネルギーを飲み込んでいたはずのアクジキングの口の中で──青いエネルギーが膨張し始める。


千歌「いっけぇぇぇ……!! 波導、最大っ!!!」
 「グゥォォォォォォォ!!!!!!」


私の気合いの掛け声に呼応するように──“はどうのあらし”はさらに一段階太くなり、膨張したエネルギーは、


 「ドカグィィィィィィ!!!!!!!?!!?」


アクジキングを中心に──大爆発を起こした。

その爆発の勢いがあまりに強すぎて、


千歌「ど、どわぁぁぁ!!?」


まだ結構距離があるはずなのに、爆風で立っていられずに尻餅をつく。


梨子「きゃぁぁぁ!!?」

ルビィ「ピギィィィィィッ!!!?」

曜「み、みんな伏せてっ!!」

善子「少しは手加減しなさいよ、アホー!!?」

千歌「ご、ごめーーーん!?」

花丸「このデタラメな感じ、やっぱ千歌ちゃんずら〜」
456 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:23:13.97 ID:8UVAxvmj0

しばらくの間、吹き荒ぶ爆風に耐えたあと……顔を上げると──


 「……ドカ、グィィィィ……」


アクジキングはひっくり返って動かなくなったのだった。





    🍊    🍊    🍊





曜「はい、千歌ちゃん♪ オレンサンド♪」

千歌「いただきまーす!! はむ、はむ、はむっ!! もぐもぐ……んぐっ!?」

梨子「ああもう……そんなに焦って食べるから……はい、お水」

千歌「ごくごくごく……!! ぷはっ……はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」

曜「たくさんあるから、ゆっくり食べて」

千歌「うん……ありがとう」


せっかく絶体絶命のピンチを乗り越えたのに、危うく世界一情けない理由で死ぬところだった……。


花丸「みんな〜“げんきのかたまり”と“かいふくのくすり”ずらよ〜」
 「バクフー」「ワォンッ」「ゼルゥ」「ピピィ」「ワッフ」

ルビィ「ポケモンさんたちのご飯もたくさんあるからね!」
 「ワフ、ワフワフッ!!」

ルビィ「わわ!? し、しいたけ……落ち着いて……」

千歌「あはは、しいたけ食いしん坊なのに、ずっと我慢してたもんね〜」


やっと思う存分食事が出来て、しいたけも嬉しそうだ。


善子「それにしても……ここ、岩と砂しかないんじゃない? よくこんな場所で2週間以上生きてられたわね……」

千歌「ホント死ぬかと思ったよ……」


ほぼ砂漠の中に岩山が生えてるみたいな世界だったしね……。野生のポケモンが持っている“きのみ”がなかったら死んでたと思う。


善子「千歌の生命力には感心するわ」

千歌「それ褒めてる……?」

善子「ま、6割くらいは」

千歌「全面的に褒めてよ〜……」


──2週間振りに思う存分ご飯を食べ、ポケモンたちも回復してもらって……。


千歌「よっしゃぁ! 完全復活!!」


身体に力がみなぎってくる。やっぱりご飯は大事だね、うんうん。
457 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:23:55.19 ID:8UVAxvmj0

梨子「それにしても……善子ちゃんがタマムシまで迎えに来たときはびっくりしたよ……」

善子「作品作ってる間、連絡確認しなくなる癖、直しなさいって何度も言ってるじゃない」

梨子「はい、反省してます……」

花丸「まあまあ、梨子ちゃんも忙しいんだよ」

善子「ちょっと……その言い方だと私が暇みたいじゃない!!」

ルビィ「もう、二人ともこんなところまで来てケンカしてないでよ〜!」

千歌「あはは、いつものみんなだ♪」


最近6人で集まれる機会なんて中々なかったから、こうしてみんなの会話を聞いていると、懐かしくなってしまう。

そんな中、


曜「千歌ちゃん」

千歌「ん?」

曜「海未さんから、渡すようにって言われて持ってきたよ」


曜ちゃんが私に、ある物を差し出してくる。


千歌「……!」

曜「あと、伝言もあって……」

千歌「……いや、そっちはいいや」

曜「え?」

千歌「……聞かなくても、わかるから」


どうしてこんなものを曜ちゃんに預けたのか……それを考えればわかる。

きっと、海未師匠は……こう言っていたはずだ。

──『役目を果たしなさい』──……と。


千歌「……行かなきゃ」


私は……もうひと踏ん張りするために、この世界を後にする──


………………
…………
……
🍊

458 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:11:42.96 ID:8UVAxvmj0

■Chapter064 『かすみとしずく』 【SIDE Kasumi】





──────
────
──


かすみ「はー……はー……」

果南「結局完走に2日掛かったね。……まあ、途中で睡眠も取ってるし……初回としては上出来かな」

かすみ「そ、そりゃどーもです……」

果南「それじゃ、今日は宿で休みな。明日は早朝に出るから」

かすみ「わかりました……」

果南「お、素直だね。てっきり、もう行きませんとか言うと思ったのに」

かすみ「だって……かすみんにとって……この修行は必要なんですよね……?」

果南「そうだね」

かすみ「なら、やってやりますよ……」

果南「そっかそっか♪ やっぱり、私が見込んだだけのことはあるよ♪」


そう言いながら果南先輩は、かすみんの頭を撫でます。


かすみ「やーめーてー……髪崩れちゃいますぅ〜……」

果南「あはは♪ あれだけ、ひぃひぃ言いながら走ってたのに、髪型に気を遣うのすごいね」

かすみ「髪のセットは乙女の命なんですぅ!!」


ぷりぷり怒りながら、果南先輩の手を振り払う。


果南「あはは♪ かすみちゃんって、ちょうどいいサイズ感だから撫でたくなるんだよね」

かすみ「むー……確かにかすみんは超絶可愛いから、ナデナデしたくなるのはわかりますけどぉ……」


それにしても果南先輩って、飄々としていて何考えているのか、よくわかんないんですよねぇ……。

彼方先輩よりも謎かもしれません……。


かすみ「あのー……果南先輩」

果南「ん?」

かすみ「どうして、かすみんの面倒見てくれるんですか……? かすみんが可愛いから?」

果南「あはは♪ 確かにかすみちゃんは可愛いけど、それが一番の理由ではないよ」

かすみ「じゃあ、どうして?」


かすみんにはずっと疑問でした。どうして果南先輩みたいな人が、わざわざかすみんに稽古を付けてくれるのか……。

いや、あの、正直内容が死ぬほどキツイのはどうにかして欲しいんですけど……。


果南「そうだなぁ……強いて言うなら──かすみちゃんの中に可能性を見たから……かな」

かすみ「可能性……? いや、確かにかすみん可能性の塊だと自負してますけどぉ……」

果南「あはは♪ そういうとこそういうとこ♪」

かすみ「……?」

果南「ポケモンバトルで……いや、人が生きていく上で一番大切なことってなんだと思う?」

かすみ「え?」
459 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:12:39.96 ID:8UVAxvmj0

急に難しいこと言いだしますね、この人……。


かすみ「うーん……。……みんなから愛される可愛い女の子になること?」

果南「あははっ、確かにそりゃ大事かもね! ポケモンバトルで役に立つかはわからないけど」

かすみ「じゃあ、なんなんですか……」

果南「諦めないことだよ」

かすみ「諦めないこと……?」

果南「生きてるとさ……どんな人でも苦しくて、足が止まりそうになることがたくさんあるんだ。戦うのが苦しくなったり、前に進めなくて辛くなったり、目標を見失って未来に希望が持てなくなったり……」

かすみ「果南先輩もですか?」

果南「うん、そうだよ」

かすみ「……お気楽能天気そうなのに……?」

果南「お? そんな生意気なこと言うのはこの口かな〜?」


果南先輩が、かすみんのほっぺを摘まんで引っ張ってくる。


かすみ「い、いひゃい〜……かしゅみんのかわいいほっへがのびちゃいまふぅ〜……」

果南「ホントにほっぺぷにぷにだね。ずっと引っ張ってたいかも」

かすみ「ひゃめて〜……」

果南「はいはい。じゃ、もう生意気なこと言っちゃダメだよ」


果南先輩はやっとほっぺを摘まんでいた手を放してくれる。


果南「……みんなだよ。みんな、前に進めなくなるときがあるんだ。侑ちゃんも、せつ菜ちゃんも……きっと私の見てないところで、歩夢ちゃんも、しずくちゃんもたくさん挫折して悩んでたんじゃないかなって思うんだ」


果南先輩はそう言って……目を細める。


果南「だけど、かすみちゃんだけは違った。……どんなに苦しいことがあっても、挫けそうなことがあっても、辛いことがあっても、かすみちゃんだけはずっと前を向くことをやめなかった。それはかすみちゃんが思っているよりも、ずっとずっと、すごいことなんだよ」

かすみ「そういうもんなんですか……?」

果南「そういうもんだよ。そしてそれは誰にも負けない武器になる」

かすみ「誰にもって……千歌先輩とか、せつ菜先輩にも?」

果南「うん……かすみちゃんはいつか、千歌やせつ菜ちゃんにも負けないくらい強くなるって私は思ってる」

かすみ「……。……な、なんですか……めちゃくちゃ持ち上げるじゃないですか……///」

果南「私は本来弟子なんて作るタイプじゃないんだけどね。……でも、かすみちゃんを見てたら……かすみちゃんにだけはいろいろ教えてみたくなった」


果南先輩が珍しく真剣な顔で言うから……かすみんなんだか恥ずかしくなっちゃって目を逸らしちゃいます。


かすみ「……そ、そういうことなら……かすみん……しばらく、果南先輩に教わってあげてもいいですよ……?」

果南「ふふ♪ じゃあ、教わってくれるかな♪」

かすみ「は、はい……その代わり……かすみんのこと、強くしてください!」

果南「うん、私に教わるんだから、強くなってくれないと困るよ♪」


──
────
──────

460 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:16:28.08 ID:8UVAxvmj0

かすみ「ジュカイン!! “ソーラーブレード”!!」
 「カインッ!!!」

しずく「サーナイト、“サイコキネシス”♡」
 「サナッ」


ジュカインが陽光の刃を振るうのに対して、メガサーナイトはサイコパワーで自身の目の前に黒い球体を作り出す。

すると、“ソーラーブレード”はその球を中心に軌道を捻じ曲げられ──しず子を避けるように飛んで行ってしまう。


かすみ「“リーフストーム”!!」
 「カインッ!!!」


今度は背を向け、しっぽミサイルに纏わせて“リーフストーム”を放つけど、


しずく「ふふ♡ 当たらないよ♡」


それも、黒い球に逸らされて、明後日の方向へ飛んで行ってしまう。


かすみ「……ブラックホール」

しずく「あはは♡ さすがに勉強してきたんだね、偉いよかすみさん♡」


事前に確認してきたサーナイトの図鑑によると……こう書かれていた。

 『サーナイト ほうようポケモン 高さ:1.6m 重さ:48.4kg
  未来を 予知する 能力で トレーナーの 危険を 察知し 空間を
  ねじ曲げることで 小さな ブラックホールを 作り出す 力を 持つ。
  胸の 赤いプレートは 心を 実体化したもの と言われている。』


しずく「そう、サーナイトはサイコパワーで小さなブラックホールを作り出せる。これがあれば遠距離攻撃は全部逸らすか吸い込むことが出来ちゃうんだよ♡」
 「サナ」

しずく「それにサーナイトがメガシンカのパワーで出来るようになったのは防御だけじゃないよ……♡ “ハイパーボイス”!」
 「サーーーナーーーッ!!」


──サーナイトから強烈な音波攻撃が発せられ、かすみんたちに襲い掛かってくる。


 「カインッ…!!」
かすみ「ぐ、ぅぅぅぅぅっ!!」


咄嗟に耳を塞いで鼓膜を守るけど──強力な音波は、耳だけでなく、物理的な衝撃となって、かすみんたちを吹き飛ばす。

衝撃で身体が浮くかすみんを、


 「カインッ…!!」


ジュカインが、尻尾を伸ばして、吹き飛んでいかないように助けてくれる。


かすみ「あ、ありがと……! ジュカインは平気?」
 「カインッ!!!」

しずく「ふふ♡ かすみさんのジュカインもメガシンカしてすっごくたくましくなったね♡ でも、メガシンカでドラゴンタイプが増えたせいで……“フェアリースキン”のメガサーナイトとは相性が悪くなっちゃったね♡」


しず子がくすくすと笑いながら言う。


かすみ「……相性なんて、パワーでくつがえしてあげる」

しずく「へー♡ 楽しみ♡」
461 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:17:19.58 ID:8UVAxvmj0

そう言いながら、しず子がすっと手を上げる。

攻撃の予兆を感じ、ジュカインも刃を構える。

──しず子が“サーナイトナイト”を持っていたのは最初から知っていたし、果南先輩と一緒にサーナイト対策はしっかりしてきた。

もちろん厄介な音波攻撃への対策も……!


しずく「サーナイト」
 「サーーーーー──」


空気を吸うサーナイト、そしてそれを見て、


 「カインッ…!!!」


刃を構えるジュカイン。

──果南先輩曰く……音波攻撃を攻略するには……。


果南『音より速く攻撃すればいいだけだよ』


とのこと……。

お陰で──……めちゃくちゃ可愛くない技を習得させられました……。


 「カインッ!!!!」


自らを“ふるいたてる”ことによって、ジュカインの腕の筋肉が隆起する。

強化した筋力で振り下ろす──神速の斬撃……!!


しずく「“ハイパーボイス”!!」
 「──ナーーーーーーーッ!!!!!!」

かすみ「“かまいたち”!!」
 「カァインッ!!!!!!!」


飛んできた音波を──音速の刃が斬り裂いた。


しずく「……! へぇ……♡」


音を斬り裂いたのと同時に、


かすみ「行くよっ!!」
 「カインッ!!!」


ジュカインが地を蹴って飛び出す。

俊足のジュカインは一瞬でメガサーナイトに肉薄し──


 「カインッ!!!」


“リーフブレード”を逆袈裟斬りの要領で振り上げる。


かすみ「いっけぇぇぇ!!」


攻撃が決まった──そう思った瞬間。


しずく「ふふ♡」


しず子がサーナイトの前に飛び出してきた。
462 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:18:13.40 ID:8UVAxvmj0

かすみ「!? ジュカインッ!?」
 「カ、カインッ!!!?」


ジュカインの刃が──しず子の脇腹を斬り裂く寸前で止まる。


しずく「“マジカルシャイン”♡」
 「サナ!!!」

 「カインッ…!!!?」


ジュカインは目の前で強烈な閃光を食らって仰け反り、


しずく「頭ががら空きですよ……♡ “サイコショック”!」
 「サナッ!!!」


サーナイトが目の前に作り出した──ちょうどジュカインの頭くらいのサイコパワーのキューブが、ジュカインの頭にぶつけられる。


 「カイン…ッ!!!!」

かすみ「ジュカインッ!!」


ジュカインの体がグラリと揺れたけど、


 「カイ、ンッ!!!!」


ジュカインはドンと震脚しながら踏ん張る。


しずく「あはは♡ 今のも耐えるんだね♡」

かすみ「っ……!! “アイアンテール”!!」

 「カインッ!!!」


ジュカインが身を捻って、尻尾を振るうけど、


しずく「はい、ダメです♡」


また、しず子が前に出てきて、


かすみ「っ……!! ジュカイン、ストップッ!!」

 「カ、カインッ…!!!」

しずく「“サイコキネシス”♡」
 「サナッ!!!」

 「カインッ…!!!」


サイコパワーでジュカインが、かすみんの方に吹っ飛んできて──


かすみ「ぐ……!?」


巻き込まれるようにして、ジュカイン共々地面を転がる。


かすみ「……っ゛……!!」

しずく「あはは♡ 咄嗟に“グラスフィールド”を展開して衝撃を殺したんだね♡ すごいすごーい♡」

かすみ「……ジュカイン……! 立てる……!?」
 「カインッ…!!!」


ジュカインは声を掛けると、すぐに立ち上がる。“グラスフィールド”を展開してくれたお陰で、大きな怪我にこそならなかったけど……。
463 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:20:34.32 ID:8UVAxvmj0

しずく「ふふ……♡ かすみさんは、私のこと攻撃出来ないって──信じてたよ♡」

かすみ「しず、子ぉ……!!」

しずく「かすみさんは私には絶対勝てないよ♡ だって、私が私である以上、かすみさんは私を傷つけられないもの♡ あはは♡ 今の私……すっごく悪役っぽいね♡」

かすみ「……ぐ……!!」


思わず拳を握りこんでしまう。

……まさか、ここまでしてくるなんて思ってなかった。

怒りで腸が煮えくり返りそうですけど……むしろ、そのお陰で完全に腹が決まった。


かすみ「何がなんでも正気に戻してやるから……っ!!」





    👠    👠    👠





せつ菜「……っ!!」


しずくちゃんが逆にポケモンの盾になったのを見て、せつ菜が今にも飛び出しそうになったけど……かすみちゃんのメガジュカインが攻撃を寸止めしたのを見て、その場に踏みとどまる。


せつ菜「…………」

果林「……しずくちゃんが自分の命に頓着しないと言ったのは貴方よ?」

せつ菜「わかってます……」


せつ菜はいつでも助けに入れるように身構え始める。

とはいえ……私もしずくちゃんがあそこまでするのは予想外だった。

お陰でせつ菜の視線は完全にしずくちゃんに釘付けになってしまっている。

……しずくちゃんは恐らくあの行動がもっとも私のためになると考えているのかもしれないけど……いや……案外、せつ菜の気を引きたいだけの可能性もあるのかしら……?

せつ菜としずくちゃんはウルトラディープシーにて、数日間寝食を共にしていたし……浅からぬ絆が芽生えていても……。

そこまで考えて、私は頭を振る。

いや……だとしても、フェローチェの魅了以上の動機で動くことはありえない。

どうにも、フェローチェというポケモンが持っている毒は、感性の強い人間相手だと影響が強すぎる。

調節が効かないものだから仕方ないけど……。

……まあ、せつ菜の注意が向こうの戦闘に寄っているのは別に構わない。

だって、


 「キーーーッ!!!!」

侑「ぐぅっ……!?」
 「ウォーーーグッ……!!!!」


空中で必死に攻撃を避けていたウォーグルを、今しがたファイアローが上から攻撃を加えて叩き落としたからだ。


 「コーーーンッ!!!!」

侑「“ハイドロポンプ”ッ!!」
 「フィーーーオォーーーーッ!!!!」
464 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:23:13.38 ID:8UVAxvmj0

落下しながらもキュウコンの炎はフィオネの激流が相殺する。

咄嗟の防御は一人前だけど……いつまでもつかしらね。





    👑    👑    👑





かすみ「避ける気がないなら、動きを封じればいい……!! ダストダス!!」
 「──ダストダァ!!!」


ダストダスをボールから出し、


かすみ「“どくガス”!!」
 「ダァァァス!!!!」


両手からしず子に向かって“どくガス”を噴出する。


しずく「“ミストフィールド”♡」
 「サナ」

かすみ「ぐ……」

しずく「“どくガス”……“ミストフィールド”で掻き消えちゃったね♡」

かすみ「なら、直接捕まえるだけ……!! ダストダス!!」
 「ダストダァァス!!!!!」


直接しず子を捕まえようと、ダストダスが腕を伸ばす。


しずく「“サイコキネシス”♡」
 「サナ」


片腕をサイコパワーで止められるけど──まだ、もう片腕が逆側から、しず子に向かって迫っている。

行ける……! そう思った瞬間、


 「ベァァァァ…!!!」

かすみ「……!」

しずく「私にも手持ちは複数いるんだよ?」


そう言いながら、もう片方の手は──しず子が繰り出したツンベアーがガッチリと掴んでいた。

ツンベアーは冷気で掴んだダストダスの腕を凍らせながら、


 「ベァァァッ!!!!」


手前に思いっきり引っ張る。


 「ダストダァッ…!!!?」


そのパワーにダストダスが引っ張られ体勢を崩して、転ばされる。


かすみ「ダストダス!?」

しずく「パワーはこっちに分があるみたいだね♡」
 「ベァァァ…」
465 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:24:05.64 ID:8UVAxvmj0

そして、そのままダストダスの腕を凍らせ、地面に縫い付けるようにして動けなくする。

が──氷漬けにされながらも、ジュウジュウと音を立てながら、ダストダスの腕の氷が溶けはじめる。


しずく「……! ツンベアー下がって!」
 「ベァァァッ」


異変を察知して、ツンベアーがダストダスの腕から離れると同時に──ダストダスの腕の氷が完全に溶け自由になり、


かすみ「“ロックブラスト”!!」
 「ダストダァッ!!!」


ダストダスが、手の平の先をツンベアーに向け岩を発射しようとした瞬間、


しずく「……ふふ♡」


しず子がその間に割って入ってくる。


 「ダ、ダストダァ…」


ダストダスは困った表情になり、攻撃を止めてしまう。


かすみ「……腕、戻して」
 「ダストダ…」


ダストダスが私の指示に従って、伸ばした腕を戻す。


しずく「あれ? もう終わり? なんだ、つまんないなー♡」

かすみ「ねぇ、しず子」

しずく「ん?」

かすみ「これが……本当にしず子の望んだことなの……?」

しずく「そうだよ?」

かすみ「自分を盾にして……そんな無茶苦茶な戦い方してでも……しず子がそこまでして戦う理由は何……?」

しずく「果林さんにフェローチェを魅せてもらうためだよ♡」


私はギュッと拳を握る。


かすみ「……しず子……いっつも、かすみんが危ないことしたら叱ってくれたじゃん……。……なのに、なんでそのしず子がこんな戦い方するの……」

しずく「なんでって……当たり前でしょ? ──あんなに美しいポケモンを魅せてもらえるんだよ?♡」

かすみ「…………っ」


──そのとき、わかってしまった。

もう……私の知っているしず子は……いないんだ。

誰よりも真面目で、誰よりも優しくて、誰よりも努力家で、いっつもお小言を言いながら……それでも私の傍にいてくれたしず子は……もう、いないんだ……って。

はる子が言っていた……毒が回りすぎると……もう治療出来ないって……。つまり、しず子は……もう……私が助けたところで……。

それがわかった途端──


かすみ「……ぅ……ひっく……っ……」


涙が出てきた。
466 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:25:12.38 ID:8UVAxvmj0

しずく「泣かないでかすみさん。かすみさんは何も悪くないよ♡ ……これが本当の私だっただけ♡」

かすみ「…………」

しずく「だから、かすみさんが泣かなくていいんだよ♡」

かすみ「…………」

しずく「黙らないでよ〜……。……うーん……あ、そうだ! そんなに悲しいなら、かすみさんも一緒にフェローチェの虜になろう♡ 幸せな気持ちになれるよ♡」

かすみ「…………」

しずく「戦いをやめてくれれば、かすみさんのこと果林さんに紹介してあげる♡ だから──」

かすみ「ああああああああああああああああああああっ!!!!! うるっさいっ!!!!!!! バカしず子っ!!!!!!!」

しずく「……!?」


私の大きな声に驚いたのか、しず子は一瞬ビクリと身を竦める。


しずく「な、なに……突然……!?」

かすみ「……決めた……」

しずく「……何を?」

かすみ「……最初は正気に戻すつもりだったけど……もうやめです。……とっつかまえて、ふんじばって、気絶させて……引き摺ってでも連れて帰る……」


もうきっと……連れて帰っても、しず子は元には戻ってくれない……。でも……。


かすみ「……引き摺って、連れ帰って、療養施設に叩きこんで……一生ウルトラビースト症の治療を受けさせてやるっ!!」

しずく「…………」

かすみ「それで……!!! それで……っ」

しずく「それで……?」

かすみ「かすみんが……病気のしず子のこと……一生面倒見てやりますよ……!!」

しずく「……!?///」

かすみ「ジュカイン!!」
 「カインッ!!!」


私はジュカインに飛び乗り──同時にジュカインが地を蹴って飛び出した。


しずく「つ、ツンベアー!!」
 「ベァァァァ!!!!」


進路を塞ぐように、ツンベアーが飛び出してくるけど──


 「ダストダァァァッ!!!!」

 「ベァァッ!!!?」


ダストダスが両手を伸ばし──ツンベアーを地面に押さえ付ける。

その隙に、ジュカインはツンベアーを飛び越え、しず子に迫る。


しずく「正面突破……!? サーナイト!! “サイコショック”!!」
 「サナッ!!!」


サーナイトが正面に特大のサイコパワーのキューブを作り出すけど──ジュカインは腕の刃に光を集束していた。

もちろん“ソーラーブレード”だけど……これはただの“ソーラーブレード”じゃない。

果南先輩と考えた──次の段階に進化した、最強の“ソーラーブレード”だ……!!

本来大きく伸びるはずの光の刃は──ジュカインの腕の刃の形に沿うようにして、集束していく。

大きく伸びると範囲がある分、威力が分散する……なら……!!
467 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:26:28.44 ID:8UVAxvmj0

かすみ「全部の太陽エネルギーを……!! 一本の小太刀に……!!」
 「カイィィンッ!!!!!」


光り輝く、腕の小太刀を縦に振り下ろすと──特大のサイコキューブは、真っ二つに斬り裂かれた。


しずく「っ……!? “サイコキネシス”!! ブラックホール展開!!」
 「サナッ!!!!」


斬り伏せたキューブの先で、サーナイトがサイコパワーでブラックホールを作り出す。

でも、関係ない……!!


しずく「!? ブラックホールに突っ込んでくる気!?」

かすみ「吸い込まれるよりも速く──斬り伏せる……!!」
 「カインッ!!!!」


振り上げられる神速の光剣は──真空の刃を作り出し、ブラックホールすら真っ二つにしてみせる。


しずく「なっ!?」
 「サナッ…!!!」

かすみ「しず子ぉぉぉぉっ!!!!」
 「カァァァインッ!!!!!」


サーナイトはもう目と鼻の先──ジュカインが刃を構える。

が、


 「サナッ!!!!」


サーナイトの胸の赤いプレートから──パステル色の輝きが溢れ出す。


しずく「“はかいこうせん”っ!!!」
 「サナァッ!!!!!!」

かすみ「……!!」


“フェアリースキン”によって強化された、至近距離からの最大威力の大技……!!

だけど……!!


 「カィィィィンッ!!!!!!!」


ジュカインの刃は、“はかいこうせん”をど真ん中から斬り裂きはじめる。


しずく「“はかいこうせん”まで斬るつもり……!?」
 「サーーーーナーーーーッ!!!!!」

 「カインッ…!!!!」


輝きの奔流の中、踏ん張るジュカインの体が揺れる。

確かに至近距離から放たれる“はかいこうせん”の威力がとんでもないのはわかる、だけど……!!

私の──私たちの刃を作り出す力の根源は……諦めない心だから……!!


かすみ「諦めなければぁぁぁぁ……!! 斬れないものなんて──ないっ!!」
 「カァァァインッ!!!!!!!!」

しずく「……!!」
 「サナッ!!!」


ジュカインの刃が完全に“はかいこうせん”を斬り伏せようとした瞬間、
468 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:27:40.37 ID:8UVAxvmj0

しずく「……っ!!」


しず子が飛び出してくる。

わかってるよ、それも知ってる。だから──


かすみ「──私がいるんだよっ」


私は、ジュカインから飛び降り……割って入ろうとする、しず子に向かって──飛びついた。


しずく「!?」

かすみ「いっけぇぇぇっ!!! ジュカインっ!!!」
 「カァイィィィィンッ!!!!!!」


ジュカインの集束“ソーラーブレード”が──


 「サ、ナ…ッ」


サーナイトを……斬り裂いた。

そして、


しずく「は、放して……!!」

かすみ「しず子ぉっ!!!!」


私はしず子の両腕を掴んで、馬乗りになる。

そして、思いっきり頭を引く。


しずく「や、やめ……!」


そのまま頭突きの要領で──頭を振り下ろした。


しずく「っ……!!」


しず子が目を瞑った。

………………。

…………。

……。

──コツン。


しずく「え……」

かすみ「しず……こぉ……っ……。……もう……かえろう……っ……」

しずく「かすみ……さん……」


私は……しず子のおでこに、自分のおでこをくっつけたまま……ポロポロと涙を流していた。

……本当は一発かましてやるつもりだったのに……。

しず子を目の前にしたら……結局、出来なかった。


かすみ「わた、しが……ずっと……ずっと……いっしょにっ……いるからぁっ……だから、だからぁ……っ……」

しずく「………………」

かすみ「しず、こが……っ……いないの、……いやなの……っ……だから、……っ……かってに、いなくならないで……よぉ……っ……わたしが、……まもって、あげるから……っ……そばに、……いてよぉ……っ……」

しずく「…………かすみさん……」
469 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:28:35.56 ID:8UVAxvmj0

涙で滲む視界の向こうで──


しずく「…………本当に……強く、なって……ここまで来たんだね……」


しず子が……笑っていた。いつもの、あの笑顔で……。


かすみ「しず……子……?」


が、そのとき、


 「──ズガドーン!! “シャドーボール”!!」
  「──ガドーーーンッ!!!!」


聞き覚えのある声が響くと同時に──後ろに向かって思いっきり引っ張られる。


かすみ「わっ!?」


何かと思ったら──


 「カインッ!!!!」


私を引っ張ったのはジュカインで──今の今まで私が居た場所を、特大の“シャドーボール”が通り過ぎていく。


かすみ「い、今の……!?」


距離を取って顔を上げると──


せつ菜「……しずくさん、無事ですか」
 「…ガドーンッ」

かすみ「せつ菜……先輩……」


せつ菜先輩がズガドーンを携えて、しず子に手を差し伸べていた。


しずく「……ありがとうございます」

せつ菜「貴方の全力見せてもらいました。ですが、それよりも彼女は強い……。……なので、約束どおり……ここからは私が助太刀します」
 「ガドーン…」

かすみ「……っ!」


せっかくしず子を連れ戻せそうだったのに……こんなところで、せつ菜先輩が割って入ってくるなんて……!

さすがにこの状況で2対1になるのは分が悪すぎる……。


しずく「……せつ菜さん、ありがとうございます。出てきて、バリコオル」
 「…………」


しず子がせつ菜先輩の手を取って立ち上がりながら、バリコオルをボールから出す。


せつ菜「いえ、約束したので」

しずく「そうですか……。……ごめんなさい」

せつ菜「……? 何故、謝るんですか?」

しずく「……せつ菜さんが……本当に優しい人で助かりました」

せつ菜「……? なに言って……」


直後──せつ菜先輩の背後に……高い高い“リフレクター”と“ひかりのかべ”の二重の障壁が出現する。
470 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:29:33.44 ID:8UVAxvmj0

せつ菜「……!? な、なにを……!?」


突然の展開に目を見開くせつ菜先輩、そしてそれと同時にしず子は大きく息を吸って──


しずく「歩夢さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!! 今ですっ!!!!!!!」


大きな声を張り上げた。





    🎹    🎹    🎹





 「コーーーーンッ!!!!!」
 「キーーーーーッ!!!!!」

侑「くっ!!! “ブレイククロー”!! “みずのはどう”!! “どばどばオーラ”!!」
 「ウォーーーーッ!!!!」「フィーーーオーーー!!」「ブーーイィッ!!!!」


地上に叩き落とされ、なお激しく攻撃してくるキュウコンとファイアローの攻撃を捌いているときだった。


しずく「──歩夢さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!! 今ですっ!!!!!!!」


侑「!?」
 「ブイッ!!?」

リナ『なに!?』 || ? ᆷ ! ||


しずくちゃんの大声が聞こえてきて、ギョッとする。


果林「な、なに……!?」


それは果林さんも同様だったらしく……一瞬、攻撃の手が止まる。

それと同時に──


歩夢「──……ウツロイド!! “アシッドボム”!!」
 「──ジェルルップ」


先ほどまで、車椅子の上でぐったりしていたはずの歩夢が──急に立ち上がり、歩夢の頭の上に寄生しているウツロイドが果林さんへ攻撃を放った。


侑「えっ!?」
 「ブイッ!!!?」

リナ『嘘!?』 || ? ᆷ ! ||

果林「なっ!? キュウコンッ!!」
 「コーーーンッ!!!!」


果林さんは咄嗟の判断でウツロイドの“アシッドボム”を火炎で蒸発させるが、その一瞬の隙に歩夢が駆け出して──


歩夢「ウツロイド!! 飛び降りるよ!!」
 「──ジェルルップ」

歩夢「……たぁっ!!」


そのまま、何の躊躇もせずに──崖から飛び降りた。

何が起こったのか理解出来なかったけど──


侑「……歩夢っ!!!」
 「ブイッ!!!!」
471 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:30:09.64 ID:8UVAxvmj0

私は反射的に駆け出していた。

歩夢は空中に飛び出すと──ウツロイドに掴まって落下傘の要領で降りてくる。


果林「……キュウコン!! “かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!!」


そこに向かって放たれるキュウコンの火炎。


侑「“ハイドロポンプ”!!」
 「フィオーーーーッ!!!!!」


それを阻止するように、フィオネが“かえんほうしゃ”を消火する。

果林さんも急なことに動揺しているのか、威力が十分に乗せ切れていない。


果林「く……!? ファイアロー!!」
 「キーーーッ!!!!」


先ほどまで、私たちを執拗に攻撃していたファイアローが歩夢の方へと飛び立とうとした瞬間、


 「ウォーーーーグッ!!!!!」

 「キーーーッ…!!?」


ウォーグルが爪で押さえつけるようにして、飛行を中断させる。

その間に私は駆ける──


歩夢「う、ウツロイド!! もうちょっとだから、頑張って……!」
 「──ジェルルップ…」

果林「“ひのこ”!!」
 「コーーンッ!!!!」


数で撃ち落とすのを優先してきたのか、9つの狐火がウツロイドに向かって降り注いでくる。


歩夢「よ、避けて……!!」
 「──ジェル…」


ふわふわと軌道を変えながら、避けようとするも──1発の“ひのこ”がウツロイドの傘に直撃し、爆発する。


歩夢「きゃぁっ!?」
 「──ジェルップ…」


その爆発の衝撃で歩夢がウツロイドを掴んでいた手を滑らせた──


歩夢「きゃぁぁぁぁぁぁ!!?」

侑「歩夢ーーー!!!!!」


私は歩夢が落ちてくるその場所に向かって──滑り込んだ。

朦々と砂煙が立ち込める中──

私は──

──歩夢を、ぎゅっと……抱きしめていた。
472 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:31:36.24 ID:8UVAxvmj0

侑「歩夢……っ……」

歩夢「──……侑ちゃん……絶対助けに来てくれるって……信じてたよ……」

侑「うん……っ……」
 「ブイィ…」

リナ『歩夢さん……本当に歩夢さんだよね……』 || > _ <𝅝||

歩夢「えへへ……イーブイとリナちゃんも……」
 「ブイィ♪」

リナ『うん♪』 || > ◡ <𝅝||

侑「歩夢……っ……もう……絶対、離さないから……っ」

歩夢「……うん……ずっと……離さないで……」


私は、世界一大切な幼馴染をぎゅっと……ぎゅっと……力強く抱きしめた。





    💧    💧    💧





かすみ「え……なに……どういうこと……?」


かすみさんがぽかんとしている。

そして、


果林「なにが……起こってるの……?」


バリコオルが展開した透明な壁の向こうで、果林さんが目を見開いて驚いていた。

私はそんな果林さんに向かって、


しずく「──そもそも、どうしてウツロイドは例外だと思ったんですか」


声を張り上げながらそう言葉をぶつける。


果林「え……」


しずく「歩夢さんにポケモンを手懐ける──いえ……ポケモンと仲良くなる歩夢さんの才能が、どうしてウツロイドには例外的に効かないと思ったんですか?」


果林「……ま、さか……しずくちゃん……貴方……!!?」


しずく「果林さん……私にこう言ってくれたじゃないですか。『舞台に立つときは、自分が今何を求められていて、今の自分に必要な役割を考えて……その上で出せる最高の自分を演じてみるといい。役割を理解していれば自ずとチャンスは巡ってくる。』って。だから……私は私の舞台で、私の役割を理解して──演じました。そして、チャンスは巡ってきました」


果林「……!? じゃあ、フェローチェの毒に侵されていたのも……!?」


しずく「ええ。私は貴方たちに付いていったあのときから……──フェローチェになんてこれっぽちも興味ありませんでしたよ♡ 私の狂人演技、どうでしたか? まんまと騙されてくれましたよね♡」


果林「……………………やって、くれるじゃない……」
 「コーーーンッ!!!!!」


怒りに任せてキュウコンが炎が飛んできますが──“ひかりのかべ”に防がれて霧散する。


しずく「このときのためだけに、ひたすら“リフレクター”と“ひかりのかべ”の練習をしていたんです。破らせませんよ……!」


果林「く……!」
473 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:32:26.39 ID:8UVAxvmj0

せつ菜「つまり……貴方は全員まとめて謀ったと……」
 「ガドーン」


そう言いながら、ズガドーンが“シャドーボール”を集束しながら、私に向かっていつでも発射できる状態にしていた。


せつ菜「数日間……寝食を共にした仲ですから……言い訳くらい、聞きますよ」

しずく「……そもそも……歩夢さんが攫われた時点で、絶望的な戦力差を埋める方法を私はずっと考えていたんですよ」

せつ菜「……」

しずく「だけど……どんなに考えても……戦力差は絶望的だった……だから、私は考えたんです──」


あのとき──カーテンクリフの遺跡で、彼方さんと遥さんの容態を見守っていたときのこと……。



──────
────
──



彼方「しずく……ちゃん……はるか、ちゃんのこと……おね、がい……」

しずく「彼方さん……!? そんな身体で、どこに行くつもりですか!?」

彼方「みん、なを……たすけ、なきゃ……戦闘に……な、ってる……」


確かに先ほどから激しい戦闘の音が響いているけど……。


しずく「なら、私が行きます……! 彼方さんはここに──」

彼方「ぜっ、たい……ダメ……、かり、んちゃんは……フェロー、チェを……持って、る……」

しずく「え……?」

彼方「いい……? ぜったい、ここに……いるんだよ……!!」


そう残して、彼方さんは身体に鞭打ちながら、階段を駆け上がっていった。

──フェローチェがいる……つまり、それは……。


しずく「かすみさんたちが戦っているのは……ウルトラビースト……!?」


待っていろと言われたけど……。


遥「…………」


すっかり気を失って、ぐったりしている遥さん。

でも上では戦闘が起こっていて、助太刀に行かないとかすみさんたちが危ない……でも、どうすれば……。

そのとき──


 『──侑ちゃんっ!! かすみちゃんっ!! 逃げてぇぇぇっ!!』

しずく「……!!」


歩夢さんの叫び声、


 『──もう、やめてぇぇぇぇぇっ!!!!』

しずく「……! 遥さん……ごめんなさい……!!」


私は階段を駆け出す。

階段を駆け上がった先にあった光景は──
474 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:34:12.43 ID:8UVAxvmj0

彼方「…………」

かすみ「……っ゛……ぅ……」

侑「歩夢……行っちゃ……ダメだ……!」

歩夢「侑ちゃん……来ないで……」

侑「……!!」


ボロボロになって気を失っている彼方さん。

満身創痍の侑先輩とかすみさん。

そして……歩夢さんが、目の前のある大きな空間の穴に向かって──果林さんと一緒に歩いているところだった。


歩夢「ごめんね……」

侑「あゆ……む……」


歩夢さんが連れ去られようとしている。

今、私に何が出来る? ポケモンを出して戦う……? いや、無理だ。

侑先輩やかすみさんに勝てなかった相手に、私が挑んだところで勝てるわけがない。

だから歩夢さんは自分を犠牲にして付いていくことを選んだんだ。そうじゃなきゃ、無抵抗に付いていったりするはずがない。

私は目の前で起こっている出来事に対して、脳をフル回転させながら分析し、激しく思考する。

──今、私に、何が出来る……?

その自問自答が至った答えは──


しずく「フェローチェ……」


果林さんの横に居るポケモンだった。

──ドクリと胸が高鳴る。あのときのフェローチェに酔う感覚を身体が思い出す。

でも──もし、これに抗って、敵の懐に潜入出来たら……? もしかしたら、今度こそ……本当に正気を失って……壊れてしまうかもしれない。

だけど、


しずく「……やるしかない」


今、私に出来ることは──いや……今、私にしか出来ないことは、これしかない……!


果林「さぁ、歩夢この穴に──」

しずく「──待ってください!!」


私は──大きな声で果林さんを引き留めた。


しずく「…………」

かすみ「しず……子……?」


──オウサカ・しずく。あなたは今から──フェローチェの虜になった、可哀想な女の子……。


しずく「…………私も、連れて行ってくださいませんか……♡」


この瞬間から、私は──私の戦場に自らを駆り出したのだった。



──
────
──────

475 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:36:00.56 ID:8UVAxvmj0

しずく「そして、その先で……せつ菜さん、貴方が彼女たちに与していることを知りました」

せつ菜「…………」

しずく「貴方が敵だとしたら……恐らく、まともに戦って勝てるトレーナーは千歌さんしかいない。ですが、その千歌さんも捕らえられていた。そこで私は考えたんです──まともじゃない戦況に貴方たちを引き摺り込むしかないと」


そう言った瞬間、


 「サ…ナ…」


私のすぐ足元で、瀕死寸前になっていたサーナイトが私の足を掴む。次の瞬間、フッと視界が切り替わる。


かすみ「へっ!? し、しず子が急に目の前に……!?」

せつ菜「っ……!? “テレポート”……!?」

しずく「かすみさん、走るよ!!」

かすみ「う、うん……!」


私はかすみさんの手を取って走り出す。それと同時に、


しずく「サーナイト、お願いね……!」
 「サナ…」


サーナイトに私のバッグを持たせ──再度“テレポート”させる。


せつ菜「くっ……!! 待ちなさい!!」

かすみ「えとえとえと……かすみん、何がなんだか……」

しずく「簡単に言うとね……! 私は最初から──せつ菜さんと果林さんを分断させて、多対一になる形を作ろうとしてたってこと!!」

かすみ「……!! じゃあ……!!」

しずく「かすみさん!! 二人でせつ菜さんを倒すよ!!」

かすみ「しず子……!! うんっ!!」


かすみさんとの共同戦線による──せつ菜さんとの戦いの火蓋が切って落とされた。





    🎀    🎀    🎀





歩夢「侑ちゃん……」

侑「歩夢……」


ああ……久しぶりの侑ちゃんの匂い……侑ちゃんの温もり……ずっとこうしていたいけど……。


リナ『ゆ、侑さん、歩夢さん……再会が嬉しいのはわかるけど……』 || >ᆷ< ||

歩夢「そうだね……侑ちゃん、行こう」

侑「歩夢……うん!」


リナちゃんに促されて立ち上がる。

直後──


果林「──“かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!」
476 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:39:18.29 ID:8UVAxvmj0

上から炎が降ってくる。


歩夢「ウツロイド!! “ミラーコート”!!」
 「──ジェルルップ」


その炎を反射する。


果林「くっ……!!」
 「コーンッ!!!」


果林さんたちは反射されたと判断した瞬間すぐに身を引いたから、ダメージは与えられなかったけど……十分牽制にはなった。

それと同時に、


 「サナ」


しずくちゃんのサーナイトが目の前に“テレポート”してくる。

サーナイトは私にしずくちゃんのバッグを預けたあと──ぱぁぁぁっと、優しい光を放ち……。


 「サナ…」


パタリと倒れてしまった。


リナ『今の……“いやしのねがい”……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「た、確か使ったポケモンが戦闘不能になる代わりに、控えのポケモンが全回復する技だよね……?」


つまり……。


歩夢「ありがとう……しずくちゃん……!」


しずくちゃんのバッグに入っていたサーナイト用のボールに倒れたサーナイトを戻し──さらにしずくちゃんのバッグから、私のボールベルトを取り出して腰に着ける。

そして最後に……たくさんの回復アイテムが詰まったバッグの奥に、小箱を見つける。

その箱を開けると──


歩夢「……ありがとう……しずくちゃん」
477 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:39:56.74 ID:8UVAxvmj0

心の底からのお礼を呟いて──私は箱から取り出したローダンセの髪飾りを身に着ける。

私の大切なものは……しずくちゃんが全部守ってくれた。

手持ちたちの育成から、回復まで、全部……大事な侑ちゃんからの贈り物も……全部……全部……!!

あと、私に出来ることは──


果林「“ほのおのうず”!!」
 「コーーーンッ!!!!!」


──ゴォっと炎を周囲にまき散らし、私たちの逃げ場を塞ぐようにキュウコンが炎を吐いてくる。


果林「……逃がさないわよ……」


怒りを顕わにした果林さんが、崖の上から見下ろしてくる。


歩夢「侑ちゃん……私と一緒に……戦って……!」

侑「うん! 私……歩夢と一緒なら、誰にも負けないから……!!」


二人で頷き合って、


侑・歩夢「「二人で倒そう……! 果林さんを……!!」」


私と侑ちゃんは果林さんを倒すために──前に踏みだした。



478 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:40:35.83 ID:8UVAxvmj0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.75 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.74 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.74 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.70 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.71 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.69 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:245匹 捕まえた数:10匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.63 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.63 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.61 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.62 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.60 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.70 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:207匹 捕まえた数:20匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.76 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.72 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.70 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.70 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.71 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.71 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:239匹 捕まえた数:14匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.65 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.64 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.64 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.64 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.64 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:208匹 捕まえた数:22匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



479 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 03:19:39.68 ID:w+jDVHjQ0

 ■Intermission☀





──音ノ木上空。


穂乃果「……うーん」


私はリザードンの背の上で、腕を組んで首を傾げる。


穂乃果「……ウルトラビーストの出現率は日に日に上昇してるし……野生のポケモンがウルトラビーストに襲われる件数も増えてるんだよね……」


相談役から貰ったデータを見ながら呟く。

正直、こういうデータを見る、とかは苦手なんだけど……それにしたって、少し妙だなと思ってしまう。


穂乃果「これは、地方の危機に含まれないってこと……? 龍の咆哮すらないなんて……」


もちろん龍の咆哮は、メテノの墜落の方じゃなくて、本物の方のこと。

確かに、グレイブ団事変のときに比べると、目に見えて危機に思えないのはわかるけど……向こうだって、目で見て判断しているわけじゃないはずなのに……。


穂乃果「うーん……」

 「──何を唸っているのですか」

穂乃果「……!」


声がして、振り向くと、


海未「ずっと、ここに居るんですね」


海未ちゃんがカモネギに掴まって飛んでいた。


穂乃果「なんだ、海未ちゃんか……」

海未「なんだとはなんですか……。……作戦が始まったことだけ伝えようと思って」

穂乃果「……! わかった」

海未「場所はわかりますか?」

穂乃果「15番水道にある幽霊船だよね。相談役から聞いてる」

海未「なら、よかった。可能であれば……助力を頂けるとありがたいです」

穂乃果「わかった」

海未「よろしくお願いします」


それだけ言うと海未ちゃんは私に背を向ける。
480 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 03:20:43.20 ID:w+jDVHjQ0

穂乃果「もう行っちゃうの?」

海未「ええ。本当に用件を伝えに来ただけなので」

穂乃果「なら、ポケギアに連絡入れてくれればいいのに……」

海未「普段滅多に出ない癖によく言いますね」

穂乃果「う……それは、ごめん……」

海未「……ふふ、冗談ですよ。……たまたまスケジュールに微妙な隙間があったので、パトロールがてらに幼馴染の顔を見に来ようと思っただけです。……居る場所がわかること自体が珍しいんですから、貴方は」

穂乃果「そっか」

海未「ええ。……穂乃果」

穂乃果「なに?」

海未「今回の騒動……片付いたら、久しぶりにことりと3人で……ご飯でも食べに行きましょう」

穂乃果「いいね、行きたい!」

海未「言質……取りましたからね。放り出したら承知しませんよ」

穂乃果「はーい」

海未「……では」


海未ちゃんは今度こそ、飛び去っていった。


穂乃果「…………」


私は傍らにある音ノ木に目を向ける。


穂乃果「……今回は……見逃してくれるってことなのかな……?」


私は未だ何の音沙汰もない龍神様に向かって、一人呟くのだった……。





    🏹    🏹    🏹





──ローズシティ。ニシキノ総合病院。特別治療室。


真姫「こっちよ」

海未「ありがとうございます」


真姫に病室まで案内をしてもらう。


真姫「それじゃ私は、もう行くわね……」

海未「はい。忙しい中、ありがとうございます」

真姫「ん」


私を案内し終わると、真姫はすぐにその場を後にする。

彼女にはこの後やることがありますからね。

病室に入ると、


理亞「……海未さん」

海未「理亞、こんにちは」
481 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 03:21:33.19 ID:w+jDVHjQ0

私に気付いた理亞が、少し不安そうな顔をする。

まあ、これから行うのは事情聴取ですから……多少の不安はあるでしょう。

そして──事情聴取をする当の本人に顔を向ける。


海未「……それと、聖良。……初めましてという方がいいでしょうか」

聖良「……ええ。お会いするのは初めてですね……」

海未「その様子だと……すっかり、声は出るようになったようですね」

聖良「ふふ、理亞がずっと話し相手になってくれていましたからね」


そう言って笑う聖良は、意外にも悪人の顔の片鱗は感じられず……その表情は、私が幼い頃、年の離れた姉から向けられていた顔に近い物を感じました。

……つまり、姉の顔ということです。


聖良「それで、私に聞きたいのは……グレイブ団事変の真相というところでしょうか?」

海未「……それもですが……今、この地方は少々立て込んでいまして……。貴方に聞きたいのは、この人物たちのことです」


そう言いながら、私は端末に二人の人物の写真を表示して、聖良に見せる。


聖良「……愛さんと果林さんですか」

海未「……! やはり、面識があるのですね」

聖良「はい。私たちの飛空艇──Saint Snowの設計をしてくださったのは愛さんです。……そして、果林さんからは資金協力を頂いていました」

海未「どうりであれほどの規模の飛空艇が作れたわけですね……。彼女たちとはどうやって?」

聖良「ディアンシーの研究をしている際に、私の研究内容をどこかで掴んでコンタクトを取ってきたという感じでした」

海未「では、向こうから……?」

聖良「はい」

海未「ふむ……」


自分から協力を名乗り出たということは……。


海未「……向こうの要求はなんだったんですか?」


必ず対価を求められたはずだ。


聖良「ディアンシーの捕獲に成功し、全てが終わったら──ディアルガ、パルキア、ギラティナを渡す約束をしていました」

海未「なんですって?」


私は少し考える。……確かにその3匹を手中に収めておけば、こちらは果林たちを追跡することがほぼ不可能になっていた。

……ということは、彼女たちはこの3匹の伝説のポケモンたちの力で、自分たちを追跡される可能性に最初から気付いていた……?

それなら一応筋は通っていますが……なんだか釈然としない。

聖良とのコンタクトがグレイブ団事変の前ということは……3年以上前のことなわけだ。

そのときには果林はモデル事務所をフェローチェの力で掌握し、表舞台に出ていたとはいえ……そこまで想定出来るものなのでしょうか……。


海未「果林は……その3匹を手に入れて何をしようとしていたのかわかりますか?」

聖良「いえ、そこまでは……という以前に、その3匹を欲しがっていたのは果林さんではありませんよ」

海未「果林ではない……? では……」

聖良「はい、その3匹を欲しがっていたのは愛さんです。加えて、そのことは果林さんには言わないで欲しいと言われていたので……。果林さんに言われたことと言えば……そうですね……出来る限りオトノキ地方内の戦力を削って欲しいとは言われましたが……」

海未「……」
482 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 03:22:29.24 ID:w+jDVHjQ0

果林の目的は理解出来る。オトノキ地方内の戦力を削れば、ウルトラビーストを撃退することもままならなくなるからだ。

だが……愛の目的が理解出来ない。

先のとおり、彼女がエンジニアとして、私たちの追跡をその時点で想定して、対策を打っておいたということも考えられなくはないですが……。

だとしたら、果林に隠す理由はなんでしょう……?


海未「まだ……私たちがわかっていないことがある……?」


リナや彼方のような、かつて組織に所属していた人間にも、知られていない何かが……?


聖良「私が彼女たちについて知っているのは……これくらいですね」

海未「そうですか……。……ありがとうございます」


そう言って私は席を立つ。


理亞「あ、あの……海未さん……! ねえさまは……これから、ねえさまはどうなるの……?」

海未「……事態が落ち着いたら、グレイブ団事変について、改めて事情聴取をすることになると思います」

理亞「そうしたら……ねえさまは……」

聖良「罪を償うことになるんでしょうね」

海未「……貴方が素直に罪を認めるなら、そうなるでしょう」

理亞「……ねえさま」

聖良「いいのよ、理亞。……私が犯した罪は事実ですから」

理亞「……」

聖良「私が寝ている間に……貴方はジムリーダーとして、多くの人に囲まれるようになっていた……。貴方が笑ってくれているなら……私はそれで満足です」

理亞「……ねえさま……」

海未「……とりあえず、後日また来ます。そのときに改めてお話ししましょう」

聖良「はい」


私は、そう残して──聖良の病室を後にした。

……それにしても……愛はディアルガ、パルキア、ギラティナを手に入れて……何をする気だったんでしょうか……?


………………
…………
……
🏹

483 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:04:19.83 ID:w+jDVHjQ0

■Chapter065 『決戦! ポケモントレーナー・せつ菜!』 【SIDE Shizuku】





しずく「──とりあえず一旦、せつ菜さんから距離を取ろう!!」
 「ベァ…!!!」

かすみ「う、うん! 行くよ、ジュカイン!」
 「カインッ!!」

かすみ「ダストダスは一旦戻って!」
 「ダストダァ──」


私はかすみさんの手を引きながら、峡谷の細い道へと走り出した。

その際かすみさんは、体が大きく走るのが苦手なダストダスを一旦ボールに戻す。


せつ菜「……逃げるなら内側にいるバリコオルを倒すまでです! ズガドーン! “かえんほうしゃ”!!」
 「ガドーンッ!!!」


ズガドーンが、透明な壁を作っているバリコオルへ攻撃を仕掛けるが、


 「…………」


バリコオルは無言のまま、壁をすり抜け、壁の外側へ移動する。


しずく「バリコオルの特性は“バリアフリー”です!! 展開解除自由自在ですから、自分が通る部分だけ解除してすり抜けることも出来ますし、再展開もすぐ出来ます!!」

せつ菜「く……!」

しずく「“バリアー”を解除したいなら……!! まずは私たちを倒すことですね!!」


そう言いながら、私はかすみさんの手を引き、峡谷の細道を曲がる。


しずく「次は……こっち……!」

かすみ「み、道知ってるの……!?」

しずく「出来る限りの下調べは徹底的にしたから……! 今はとにかくせつ菜さんを奥に誘い込むよ!」

かすみ「なんで!?」

しずく「広いフィールドで戦うと絶対に力負けするから! 少しでも、複雑な地形で搦め手を使わないと勝ち目がないって話!」

かすみ「ぐぬぬ……悔しいけど、確かにせつ菜先輩を真っ向から倒すのはきついかも……」


せつ菜さんはただでさえ強いのに……彼女が今使っているのはウルトラビースト。しかも、私の認識が間違っていなければ、せつ菜さんが持っているウルトラビーストの数は3体だ。

かすみさんは以前に比べたら信じられないほど強くなったし、性格的に真っ向勝負で戦いたいかもしれないけど……相手はあのせつ菜さん。勝率を少しでも上げるために策を弄する必要がある。

幸いここら一帯の地形は頭に叩き込んだ。複雑な峡谷の道をかすみさんの手を引きながら突っ走る。


しずく「……はぁ……はぁ……もうちょっと奥まで引っ張りたい……けど……」


ある程度走って、せつ菜さんと距離を離したところで、


かすみ「しず子……!」


かすみさんが足を止めて、私の顔を覗き込んでくる。


しずく「ん? なに?」

かすみ「ホントにホントに……フェローチェのこと……もう大丈夫なの?」
484 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:05:23.26 ID:w+jDVHjQ0

かすみさんは心配そうな表情でそう訊ねてくる。

……確かにかすみさんにとっては大事なことか。

もし、私がまだ完全にフェローチェの魅了から脱していないとなったら、いつ発作が起きるかもわからないまま戦うことになるだろうし……何より純粋に心配してくれているんだと思う。

ここからは、かすみさんとの共闘がどれだけうまく行くかに全てが懸かっている。せつ菜さんを引き離している今のうちに、話しておくべきだろう。


しずく「……平気だよ。もうフェローチェになんか、なんの興味もない」

かすみ「ホントに……? ずっと、果林先輩のフェローチェの近くに居たんでしょ……?」


……確かに、果林さんの信頼を得るためには、フェローチェに心酔している演技をし続ける必要があった。

だから、何度かご褒美と称してフェローチェを魅せてもらっていた。……そのとき、私の体内にある毒が何度も暴走しかけたけど……。


しずく「平気だよ……私は平気なの。……フェローチェの毒には絶対に負けない……」

かすみ「な、なんでそう断言できるの……?」

しずく「ふふ♪ かすみさんが言ったんだよ?」

かすみ「え?」

しずく「かすみさんの方が……フェローチェなんかよりも、可愛くて、美しくて、綺麗で、魅力的なんでしょ?」

かすみ「え、あ、そ、それは……///」


かすみさんの顔が赤くなる。

私は……いつかかすみさんが言ってくれた、この言葉のお陰で、負けずにいられた。


しずく「それとも、かすみさんは……私のこと、こんなに魅了しておいて……責任取ってくれないの……?」

かすみ「へっ!?/// あ、いや、だから、あれは別にそういう意味じゃなくて……しず子を助けるために必死で……/// あ、でも、しず子がそう思ってくれるのは嬉しくって……その……///」

しずく「ふふっ」


耳まで真っ赤になるかすみさんを見て、くすくす笑ってしまう。


しずく「あ、でも……フェローチェに魅了されてるのも悪くないかもなー……」

かすみ「へっ!? な、なんで!?」

しずく「だって、そうしたら──かすみさんが一生面倒見てくれるって言ってたから……それも悪くないかな〜……って」

かすみ「ぅ……/// だ、だから……それは……///」

しずく「そう言ってくれて……嬉しかった……」


そう言いながら、かすみさんの指に私の指を絡めると──なんだか、心地の良いドキドキがしてきて……この気持ちの方がフェローチェの魅了なんかよりも、ずっとずっと……幸せな気持ちだった。

──そのとき、近くでドカンッ!! と爆発音がする。

せつ菜さんが追い付いてきた……!


かすみ「や、やば……走るよ……!」

しずく「あ、うん」


かすみさんが私の手を引いて走り出す。

……むー……なんか誤魔化されちゃったな……。まあ、いいけど。

なんて、思っていたら、
485 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:06:06.64 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「あ、あのさ……」

しずく「ん?」

かすみ「……べ、別に……病気とかじゃなくても……しず子の面倒くらい……ずっと、見て……あげなくもない……から……///」

しずく「……へっ!?///」


──完全に不意打ちだった。自分の顔が一気に熱くなるのを感じる。


かすみ「だからっ……!! 今は、せつ菜先輩に勝たなきゃ!! 勝って、帰るよ!!」


そう言いながら、かすみさんが──あるものを投げ渡してきた。


かすみ「せつ菜先輩に勝つには必要でしょ!」

しずく「……! うん!」


それを受け取り確認した直後に──私も代わりにあるものをかすみさんに投げ渡す。


かすみ「さぁ〜て……! それじゃ、いっちょやってやりますか〜!」

しずく「うん……!」


位置も十分奥まで来た。

ここでせつ菜さんを迎え撃つ……!!





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「……」
 「ガドーンッ!!!」


先ほどからズガドーンが炎弾を放ち、岩壁を爆破で破壊しながら進んでいる。

さっき一瞬だけ、岩壁の影に彼女たちの逃げる姿を見つけられたが……また、奥へと走り去っていってしまった。


せつ菜「……誘い込んでいるわけですか……」


しずくさんは明らかに地形を把握し、死角の少ない場所を選んだ逃げ方をしている。

恐らく、ここの地形も事前に下調べをしていたのだろう。

最初から全て……私を倒すために作戦を立てていたわけだ。


せつ菜「あの言葉も、全部……演技──嘘だったんですね……」


胸がジクりと痛んだ気がした。せっかく……やっと、私の気持ちを理解してくれる人が現れたと思ったのに……。


せつ菜「とんだ……大女優ですね」


そして、今も彼女は策を弄し、私を誘い込んでいる。

それがわかった上で、攻め込むのは愚策だとわかっているけど──


せつ菜「いいですよ……その誘い……乗ってあげますよ。もちろん……ただで思惑通りに誘われるつもりはありませんが……!」


私も、やられたまま引き下がるなんて、性分が許さない。
486 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:06:47.41 ID:w+jDVHjQ0

せつ菜「ズガドーン!! “ビックリヘッド”!!」
 「ガドーーーーンッ!!!!!」


私はダメージ覚悟の爆発技で開戦の狼煙を上げた。





    👑    👑    👑





かすみ「…………」

しずく「…………」


二人で物陰に隠れて、せつ菜先輩を待ち構える。


しずく「音が……止んだ……?」


しず子の言うとおり、先ほどから鳴り続けていた爆発音が突然止まる。

……が、その直後……先ほどとは比べ物にならない轟音と共に──岩壁がこちらに向かって雪崩のように襲い掛かってきた。


しずく「っ!?」

かすみ「しず子!!」


かすみんは咄嗟にしず子の腕を掴み、


 「カインッ!!!」


私たち二人をまとめて抱き上げて、ジュカインがその場から離脱する。

それと同時に、


しずく「ツンベアー戻って!!」
 「ベァ──」


しず子が崩れ落ちてくる岩から、間一髪でツンベアーをボールに戻す。


かすみ「い、いきなりなんですか……!?」

しずく「まさか、“ビックリヘッド”……!?」

かすみ「それって、前に見た自爆するやつ!?」

しずく「うん……体力が大きく削れるから、こんな序盤から使ってくるとは思ってなかったのに……」


ガラガラと崩れるの岩の隙間から、せつ菜先輩の姿が見えた。


せつ菜「……見つけましたよ……」


直後、


 「────ジジジジ」


せつ菜先輩の傍らに──巨大な電線のようなポケモンが姿を現す。


かすみ・しずく「「……!?」」
487 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:08:31.37 ID:w+jDVHjQ0

そして、そのポケモンの体が──青白くスパークしながら、帯電を始める。

でも、かすみんたちは今……崩れる岩から逃れるために──空中に跳んでいた。


しずく「空中じゃ逃げ場が……!?」

かすみ「ジュカインッ!! 尻尾立てて!!」
 「カインッ!!!」

せつ菜「“かみなり”!!」
 「──ジジジ」


直後、カッと周囲が青白い閃光に照らされ──ピシャーーーーーンッ!! と轟音を立てながら空気を震わせる。

“かみなり”というよりも──もはや青白い光の柱のような雷撃を、メガジュカインの特性“ひらいしん”で受け止めます……が、


かすみ「威力が……強すぎる……っ!」


以前見た、侑先輩のメガライボルトの“かみなり”を彷彿とさせる──いや、もしかしたらそれ以上かもしれない電撃は、ジュカインの尻尾に吸収しきれず、バチバチと周囲に爆ぜ散っている。


しずく「地面にいないから、電気を逃がしきれてないんだよ……!」

かすみ「わかってるっ! “やどりぎのタネ”!!」
 「カインッ!!!」


ジュカインが地面に向かって、“やどりぎのタネ”を吐き出し──


かすみ「とりゃぁっ!!!」


電撃が爆ぜる中、ジュカインの背中のタネに手を伸ばしてもぎ取る。

そのとき──バチンッ!!


かすみ「っ゛……!?」


爆ぜた“スパーク”が指先に当たり──全身が痺れて動けなくなる。

──感電した。

気付いたときには、かすみんの身体はフラりと落下を始める。


しずく「かすみさんっ!!」


落ちそうになったかすみんの腕をしず子が掴み、


しずく「ロズレイド!! “アロマセラピー”!!」
 「──ロズレイドッ!!!」


心地の良い香りと共に、身体の痺れが和らぐ。


かすみ「っ……!! しず子、ありがと……っ!!」


お礼を言いながら、真下に向かって、タネをぶん投げる。

すでに地面で成長を始め、ツタを伸ばし始めている“やどりぎのタネ”の横に、ジュカインの背中のタネが落ちてきて弾けると──

ツタは一気に成長し──太い樹となって、ジュカインの足元まで伸びてくる。


 「カインッ!!!」


──その樹木に着地すると同時に、ジュカインの尻尾で吸いきれずに爆ぜていた電撃は、樹を通って、地面へと逃げていく。
488 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:09:58.42 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「ジュカインの背中のタネは……植物を急成長させるほどに栄養満点なんですよ……!」

しずく「それよりかすみさん、身体は平気……!?」

かすみ「ちょっと、ビリっとしただけ……!」


正直、感電した瞬間、軽く意識が飛びかけたけど……当たったのは指先だったし、すぐに“アロマセラピー”を使ってくれたお陰で痺れも一瞬で取れたから、動けないほどのダメージにはなっていない。

が、もちろん息をつく暇などない。


せつ菜「“うちおとす”!!」
 「ガドーーーンッ!!!」


ズガドーンが落ちていた石に業炎を纏わせ、火球にして飛ばしてくる。


しずく「ロズレイド! “にほんばれ”!!」
 「ロズレ!!」

かすみ「“ソーラーブレード”!!」
 「カインッ!!!!」


強い日差しの下で、集束“ソーラーブレード”を作り出し、火球を真っ向から斬り裂く。


せつ菜「“でんじほう”!!」
 「──ジジジジッ」

かすみ「尻尾向けて!!」
 「カインッ!!!」


今度は尻尾の“ひらいしん”で吸収し、地面に流して無効化する。


せつ菜「なら……“やきつくす”!!」
 「ガドーーーーーンッ!!!!」


畳みかけるような攻撃──今度はズガドーンが、やどりぎの樹木の根本に業炎を噴き付ける。

とんでもない火力で焼かれた樹木は一気に炎で焼け崩れ──グラリと傾き始める。


かすみ「わったたっ!? ジュカイン!! 地面に向かって跳んで!!」
 「カインッ!!!」


空中に居たらダメ……!! とにかく、地面に着地しないと……!!

傾く樹木を蹴って、地面に向かって一直線に飛び出すけど、


せつ菜「“かみなり”!!」
 「──ジジジジジ」


その一瞬の隙にすら攻撃を放ってくる。


しずく「ロズレイド! “パワーウィップ”!!」
 「ロズレ!!!」


“かみなり”がジュカインの尻尾に落ちるのとほぼ同時に──ロズレイドが腕にある花から“パワーウィップ”を伸ばして地面に突き刺す。

──落雷の轟音が空気を震わせる中、今度はそれがアースの代わりになって、地面に電撃を逃がす。

やっとの思いで着地をするも、


せつ菜「“かえんほうしゃ”!!」
 「ガドーーーンッ!!!!」


せつ菜先輩の猛攻は止まらない。
489 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:10:35.73 ID:w+jDVHjQ0

しずく「ツンベアー!! “しおみず”!!」
 「──ベァァ!!!」


再びボールから繰り出されたツンベアーが、炎に向かって口から“しおみず”を発射するが──ジュゥゥゥッ! と音を立てながら、どんどん蒸発していく。


せつ菜「そんな威力で受けきれると思ってるんですか!!」

しずく「く……っ!!」


確かにみずタイプじゃないツンベアーだと消火が追い付かない。でも、少しでも炎の勢いを殺してくれれば十分……!


かすみ「行くよ、サニゴーン!! “ミラーコート”!!」
 「──ニゴーーーンッ!!!」


ツンベアーの目の前にサニゴーンの繰り出し──“ミラーコート”で反射する。


かすみ「自分の炎で燃えやがれです〜!」


反射された“かえんほうしゃ”がせつ菜先輩たちに迫りますが──


せつ菜「“だいもんじ”!!」
 「ガドーーーンッ!!!!」


その炎をズガドーンが“だいもんじ”で相殺する。


かすみ「う、嘘!?」

しずく「……! 反射の可能性を考えて、あえて1段階弱い技を選んでたんだ……!」

かすみ「どんだけ先読みしてるんですか……!」

せつ菜「リスクをケアして攻撃するのは、当たり前のことですよ……」

かすみ「な、なら……!!」
 「ニゴーーーーンッ!!!!」


周囲の岩石がふわりと浮かび上がる。


かすみ「いっけぇーー!! “ポルターガイスト”!!」
 「ニゴーーーンッ!!!!」


大きな岩石たちが、せつ菜先輩を襲いますが──


せつ菜「“かみなりパンチ”!! “ほのおのパンチ”!!」
 「──ジジジ」「ガドーーーンッ」


大きな岩石さえも、雷撃と業炎を纏った拳がやすやすと割り砕いていく。


かすみ「こ、攻撃が通らない……っ」

しずく「ツンベアー!! “つららおとし”!!」
 「ベアァァァ!!!!」


しず子が間髪入れずにサニゴーンの目の前に巨大なつららを落として氷の壁を作る。


せつ菜「“マジカルフレイム”!!」
 「ガドーーーンッ!!!!!」


分厚い氷の壁が炎を防ぐと思いきや、ものすごい勢いで溶け始める。
490 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:11:24.71 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「ひ、日差しが裏目に出てる……!」

しずく「く……!! インテレオン、“あまごい”!!」
 「──インテ!!」


しず子が出したインテレオンが雨を降らせて炎の勢いを弱めようとするけど──あまりの炎の勢いに消火が間に合わず、燃え盛る炎がサニゴーンに襲い掛かる。


かすみ「“ミラーコート”!!」
 「ニゴーーーンッ!!!」


2度目の“ミラーコート”を構えるが──


せつ菜「2度も同じ技で反射出来ると思ってるんですか?」

かすみ「……!?」


“マジカルフレイム”はサニゴーンの目の前で──クンと軌道を上に逸らし──


 「ベァァァッ!!!?」


その背後に居たツンベアーに襲い掛かる。


しずく「ツンベアー!?」
 「ベァァ…」


ツンベアーが炎に焼かれて、その場に倒れる。

さらに、


せつ菜「──“ロックブラスト”!!」
 「ガドーーンッ!!!!」

 「ニゴーーンッ…」


炎を纏った岩石がサニゴーンを吹き飛ばす。

さらに、追撃、


せつ菜「“かみなり”!!」
 「──ジジジジッ」

かすみ「ジュカインッ!! 尻尾立ててぇっ!!」
 「カインッ!!!!」


落ちてきた青い柱をジュカインの“ひらいしん”で吸収する。

……が、青白い稲妻は何故かさっきよりも威力が強く、吸収しきれなかった電気が、稲光となって、周囲に迸る。


しずく「かすみさんっ! 伏せて!!」

かすみ「わわっ!?」


しず子に腕を強引に引っ張られ、転ぶように伏せると──今さっきまでかすみんの頭があった場所を稲妻が走る。


かすみ「な、なんで吸収できないの……!?」

しずく「たぶん、ズガドーンしか攻撃してないタイミングあったから、その間に“じゅうでん”してたんだと思う……っ! きゃぁっ!?」


しず子の目の前に──バチンと稲妻が爆ぜて、声があがる。


 「カインッ…!!!」
かすみ「ぐぅ……っ! ……じ、ジュカイン頑張ってぇ……!!」
491 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:12:28.40 ID:w+jDVHjQ0

本来でんき技を無効化するはずなのに、ウルトラビーストの規格外のパワーのせいで、それすら完遂しきれない。

“かみなり”が終わるのを身を伏せたまま耐えていると、


 「ガドーンッ」

かすみ・しずく「「……!?」」


伏せている私たちの目の前にズガドーンが立っていた──巨大な影の球を集束しながら。


かすみ「……っ……! ブリムオン!!」
 「──リムオンッ!!」

しずく「インテレオン!!」
 「インテッ!!!」

かすみ・しずく「「“シャドーボール”!!」」
 「リムオンッ!!!」「インテッ!!!」

 「ガドーーンッ」


ズガドーンから発射される“シャドーボール”に、2匹の“シャドーボール”をぶつける。

2匹掛かりで同じ技をぶつけるが──


しずく「ダメ……っ! 向こうの方がまだ強い……っ!」


巨大な“シャドーボール”に、こっちの2つの“シャドーボール”が飲み込まれ始める。

でも、


 「カィィィンッ!!!」


まだ、ジュカインは“かみなり”を吸収しきれていない……!

ジュカインを失ったら“ひらいしん”も使えなくなり、デンジュモクの範囲攻撃で一網打尽にされて一巻の終わり……!

何がなんでもジュカインは守らなきゃ……!


かすみ「ブリムオンっ! “ひかりのかべ”!!」
 「リムオンッ!!!」


2匹の“シャドーボール”を飲み込んだ、ズガドーンの特大“シャドーボール”が“ひかりのかべ”に衝突して、影のエネルギーが爆ぜ散る。

だけど、どんどん影の球は“ひかりのかべ”にめり込むようにして、かすみんたちの方へと迫り出してくる。


かすみ「お、抑えきれないぃぃぃ……! さ、“サイコキネシス”ッ!!」
 「リムォォンッ…!!!!」


追加の技で、“シャドーボール”を押し返そうとするけど──ゆっくりと影の球がかすみんたちに迫ってくる。

巨大な影の球が目と鼻の先まで迫ったそのとき──


しずく「インテレオン……!?」


しず子の声が響く。それと同時に、


 「インテッ!!!!」


インテレオンが体に“あくのはどう”を纏って、“シャドーボール”に自ら突っ込んだ。

衝突と同時に、“シャドーボール”の影のエネルギーが一気に破裂し──


 「インテッ…!!!」
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