侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2

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492 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:13:16.75 ID:w+jDVHjQ0

インテレオンが吹き飛ばされる。


しずく「戻って……!! インテレオン……!!」


直撃を受けたインテレオンは、あえなく戦闘不能……ですが、お陰で“シャドーボール”は消え去った……!


かすみ「ブリムオンッ!! “サイコ──」


目の前のズガドーンに攻撃を食らわせてやろうと思ったけど、


せつ菜「“オーバーヒート”」
 「ガドーーンッ」


こっちが攻撃態勢に入るよりも早く、ズガドーンの体から真っ赤な熱波がかすみんたちを襲った。


かすみ「あっつ……!!?」
 「リムオンッ…!!!?」


“ひかりのかべ”で防いでいるにも関わらず、全身が焼け焦げるような熱波が周囲一帯に広がっていく。

そんな中、


 「リムオンッ!!!」
かすみ「ブリムオン……!?」


ブリムオンが一歩前に出て、さらに私の周囲だけサイコパワーで熱波を逸らし始める。


かすみ「だ、ダメ……!! ブリムオンが燃えちゃう……!!」
 「リムゥォォォンッ!!!!」

しずく「ロズレイドッ、“はなふぶき”ッ!!」
 「ロズレッ!!!」


しず子が、少しでも熱波を防ぐようにと、ブリムオンの目の前にお花の壁を吹かせるけど──向こうは業炎、こっちは花。花は一瞬で燃え尽きてしまう。

そのとき、ちょうど、


 「……カインッ!!!」


ジュカインが“かみなり”を吸収しきり、


かすみ「か、“かまいたち”ッ!!」
 「カインッ!!!!」


背後から、ジュカインが刃を振るって作り出した“かまいたち”が飛んできて、それを身を捻って避けながら、かすみんは後ろに逃げる。

真空の刃が熱波をど真ん中から斬り払う。

どうにか、広がる熱波に対する逃げ道を見つけて、かすみんが致命傷を受けるのは免れたけど──


 「リム…オン…」


ブリムオンが崩れ落ちた。


かすみ「……っ……」


やっと落ち着いたフィールドでは──先ほど“マジカルフレイム”で戦闘不能になったツンベアーが横たわり、“ロックブラスト”で弾き飛ばされたサニゴーンが気絶して転がっている。


 「ガドーンッ」


そんな中、目の前でくねくねと身をくねらせているズガドーンと、かすみんの間に割って入るように、
493 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:13:56.73 ID:w+jDVHjQ0

 「カインッ!!!」


ジュカインが割り込んでくる。


せつ菜「……そのジュカイン、よく育てられていますね……ウルトラビースト2匹との攻防の中心にいながら、未だに主人を守るために前に立っている」

かすみ「……」

せつ菜「ですが……力不足です。……ウルトラビースト2匹の力には及ばない。……しずくさん、計算高い貴方も……最後の最後でつく陣営を間違えたようですね……」

しずく「……」

せつ菜「2対1なら勝てると思いましたか?」

しずく「……はい、そう思っていました。──そして、今も……思っています……!!」
 「ロズレッ!!!!」


ロズレイドがしず子の言葉と共に、ジュカインの前に踊り出した。


せつ菜「!? ロズレイドが単身……!?」


ズガドーンとの相性がすこぶる悪いロズレイドが前に飛び出してくるのは、さすがのせつ菜先輩も予想外だったらしく、一瞬判断が遅れる。

ロズレイドは両手の花をズガドーンに向けて、


しずく「“わたほうし”!! “どくのこな”!!」
 「ロズレィッ!!!!」


2つの花から、それぞれ別の技をズガドーンに向かって、放出する。


せつ菜「悪あがきを……!! “マジカルフレイム”!!」
 「ガドーーンッ」

 「ロズレッ…!!!」


至近距離から“マジカルフレイム”で焼かれて、ロズレイドが戦闘不能になる──けど、


かすみ「ダストダス!! “ベノムトラップ”!!」
 「──ダストダァァスッ!!!!!」


ボールから飛び出したダストダスが、“どく”状態の相手にだけ効く毒霧を噴射する。


 「ガ、ドォーーンッ」


“わたほうし”と“ベノムトラップ”によって、ズガドーンの動きが鈍った瞬間──


 「ガァァァァァーーーーーッ!!!!」


上空から、鳴き声が響く。


せつ菜「なっ……!?」

かすみ「さぁ、かましてやってください、アーマーガア!!」

 「ガァァァァァァ!!!!!!」

 「──ジ、ジジジジ」


上空から突っ込んできたアーマーガアが、“ボディプレス”でデンジュモクに向かって突っ込む──と同時に、デンジュモクの足元にヒビが入る。


せつ菜「……!?」

かすみ「実はかすみん……まだ得意な戦法があるんですよ……!」
494 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:15:02.04 ID:w+jDVHjQ0

その亀裂はどんどん大きな亀裂となり──


かすみ「動かない相手になら特に有効──落とし穴作戦ですっ!!」

 「──グマァァァァァァ!!!!!!」

 「──ジジジジ」
せつ菜「落とし穴……!?」


穴の中からマッスグマが雄叫びをあげる。それと同時に、せつ菜先輩ごと巻き込んで地面が崩落を始めた。


せつ菜「くっ……!?」


せつ菜先輩は軽い身のこなしで、その場から飛び退きますが──大きな巨体のデンジュモクはそうもいかない……!


 「──ジ、ジジジジ」

せつ菜「こんな巨大な穴、いつから……!?」

しずく「最初からですよ」

せつ菜「最初から……!?」

かすみ「逃げてるように見せかけて──せつ菜先輩の足元にはずっと穴を掘って追いかけるマッスグマがいたんですよ!!」


崩落する地面に足を取られ、さらに上からアーマーガアの“ボディプレス”を受け、体勢を崩したデンジュモクの巨体が倒れ始める。


せつ菜「デンジュモクッ!! “ほうでん”!!」

 「──ジジジジジジジ!!!!」

 「ガァァァァァッ…!!!!!」「グマァァァァッ…!!!?」


“ひらいしん”で吸い寄せる前に、直接電撃を浴びせられたアーマーガアとマッスグマが気絶して動きを止める。

だけど、もうバランスを崩したデンジュモクに、攻撃を回避する術はないし──


 「ガ、ドォォーーーーンッ」


動きの鈍ったズガドーンじゃ、もうサポートも間に合わない……!


かすみ「ダストダス!! “にほんばれ”!!」
 「ダストダァァァス!!!!」


降っていた雨をダストダスが再度晴らし──


 「カィィィンッ!!!!!」


ジュカインが、大地を踏み切って──飛び跳ねた。

雲の切れ間から、差し込む陽光の帯の中──太陽の光を輝く剣に集束して、


かすみ「“ソーラーブレード”ォォォォォッ!!!!」

 「カィィィィィィィィィンッ!!!!!!!!!」


バランスを崩し傾くデンジュモクの体を──頭から足の根本まで一直線に斬り裂いた。


 「──ジ、ジジジジ」


最大威力で斬り裂かれたデンジュモクは──そのまま、ゆっくりと大地に崩れ落ちたのだった。
495 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:16:07.56 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「やったぁ!! ナイスだよ、ジュカイン!!」

 「カァァインッ!!!!」


が、喜ぶのも束の間──ボォンッ!! と音を立てて、ジュカインが爆炎と共に吹き飛ばされた。


 「カィンッ…!!!?」

かすみ「ジュカイン……!?」


爆発に吹き飛ばされ、地面を転がったジュカインは──


 「カ、ィンッ…」


ついに戦闘不能になってしまった。


かすみ「じ、ジュカイン……!」

せつ菜「……確かに、デンジュモクを倒したのはお見事でした……。……ですが、いくら動きが鈍っていても、他のポケモンを攻撃している間に炎で狙い撃つのは容易いことです……!!」

 「ガドォーーンッ」

かすみ「だ、ダストダス……!!」
 「ダストダァスッ!!!!」


ダストダスが、腕を伸ばしてズガドーンを拘束する。


せつ菜「……“にほんばれ”のサポートをする時間で、ズガドーンを拘束するべきでしたね。尤もそれでは、ジュカインの“ソーラーブレード”が間に合いませんでしたが」


そう言うと同時に──


 「ガドーーーン」


ダストダスに拘束されているズガドーンの頭が──ポロリと落ちる。


かすみ「……!?」

せつ菜「ですが……ウルトラビースト2匹相手に、相討ちまで持っていったことは……素直に評価しますよ。──“ビックリヘッド”」


ズガドーンの頭が膨張し、爆発──しようとした瞬間。

──パァァァァンッ!!!! と音を立てて、落ちたズガドーンの頭が、水の弾丸に撃ち抜かれた。


せつ菜「……え……?」


撃ち抜かれた頭は不発し、


 「ガ、ドォン」


自身のエネルギーの大部分を内包する頭部を撃ち抜かれたことによって、ズガドーンの体も崩れ落ちた。


せつ菜「……な……に……?」


さすがに何が起こったのか理解出来なかったのか、せつ菜先輩が驚きで目を見開く。


しずく「……せつ菜さん。私の手持ちには──インテレオンがいるんですよ。遠方にアーマーガアが運び出し、そこから“ねらいうち”にさせてもらいました」

せつ菜「インテレオン……? インテレオンはさっき戦闘不能にしたはずです……!」

しずく「ええ、そうですね」


そう言いながら、しず子が手の平にボールを乗せて、せつ菜先輩に見せつける。
496 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:17:57.43 ID:w+jDVHjQ0

しずく「──この子が、本当に……インテレオンなら……ですが……」

せつ菜「は……?」


そう言いながら、しず子が戦闘不能になって、フィールドに倒れているロズレイドとツンベアーをボールに戻す。

かすみんも倣うように……ジュカイン、マッスグマ、サニゴーン、ブリムオン──そして、“アーマーガア”をボールに戻した。


せつ菜「……え……あ、アーマーガアはしずくさんのポケモンではなく、かすみさんのポケモン…………?」

かすみ「一時的に、ですけどね」

せつ菜「一時的に……まさか……戦闘前に……交換していた……? じゃあ、しずくさんの最後のポケモンは……!?」

しずく「せつ菜さんが、かすみさんの手持ちを把握していなくて……助かりました」


……そう、こんなことが出来るポケモンは──特性“イリュージョン”を使えるポケモンしかいない。


せつ菜「……ゾロ……アーク……?」

かすみ「……純粋なバトルじゃ、せつ菜先輩の方が、私たち二人より強いかもしれませんけど……騙し合い化かし合いでは、かすみんたちの方が1枚上手だったようですね」

せつ菜「…………」


せつ菜先輩は一瞬黙り込みましたが、


せつ菜「…………はは……ははは……あはははははははっ!!」


すぐに大きな声で笑いだした。


せつ菜「確かにすごいです……!! こんな戦法を取ってくるなんて、考えてもいませんでした……仮に私が貴方たちの立場だったとしても、思いつかなかったと思います……。一人のトレーナーとして……素晴らしかったと賞賛したいです。……ですが──」

 「────」

 「ダストダァ…ッ」


ダストダスが──突然崩れ落ちる。


かすみ「ダストダス……!?」

せつ菜「……まだ、私には……ウルトラビーストがもう1匹残っています……」

 「────」


この離れた距離から一瞬で肉薄し、ダストダスを斬り裂いたポケモンは──小さな折り紙のような見た目をしたウルトラビースト。


かすみ「……カミツルギ……」

せつ菜「……本当に、賞賛に値します。……ですが、貴方たちの負けです」

かすみ「…………っ」


どうする……どうする……。

本当の本当に私の手持ちは1匹も残っていない……。


せつ菜「覚悟は……出来ていますね……」

 「────」


カミツルギがこっちに、剣先を向けてくる。

直後──
497 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:21:37.82 ID:w+jDVHjQ0

 「────」


──パァンッ!! と音を立てながら、音速で飛んできた水の弾丸が、カミツルギによって斬り裂かれた。

それと同時に、


しずく「かすみさん、逃げるよ!!」

かすみ「しず子……!」


しず子が私の手を引いて、走り出す。


せつ菜「この状況でまだ、逃げられると思っているんですか……?」

 「────」


カミツルギがものすごいスピードで追いかけてくるけど……そんなカミツルギを狙い撃つように、連続で水の弾丸が飛んでくる。


せつ菜「……本当の本当に、悪あがきですね……」

 「────」


せつ菜先輩はゆっくり私たちの後を追いながら、カミツルギは音速の水の弾丸を、それよりも速い斬撃で斬り払っていく。


しずく「まだ……まだインテレオンがいるから……!! まだ、負けてないから……!!」

かすみ「……しず子」

しずく「私は……諦めない……!! 諦めないことを……今まで何度もかすみさんから教えてもらったから、絶対に諦めない……!!」


そう言って握られた、しず子の手は──震えていた。


しずく「二人で生きて帰るって約束したもん……! だから、だから……!!」


だけど──激しい戦闘の後で、体力が限界だったのかもしれない。

しず子が足をもつれさせ、


しずく「あっ……!?」


──転んだ。


 「────」


背後に迫るカミツルギ。


かすみ「しず子っ!!」


私は咄嗟に、転んだしず子に覆いかぶさり、カミツルギからの攻撃の盾になるように、跳び付こうとした──のに。

しず子は私の腕を引っ張りながら、自分は身を捻り、私が跳び付く勢いを利用して、まるで合気道のような方法で、逆に私を自分の背後に投げ飛ばした。


かすみ「……っ!?」


私は地面を滑る。

すぐに身を起こして振り返るけど、


 「────」


もう、カミツルギがしず子に向かって、刃を振り上げていた。
498 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:23:16.13 ID:w+jDVHjQ0

しずく「……護身術……まさか、初めて使う相手が──かすみさんだとは思わなかったよ」


しず子はそう言って、笑った。





    💧    💧    💧





──刃が迫る。

もうこの距離は絶対に避けられない。でもいいんだ。かすみさんを守れるなら。

それに私──せつ菜さんを、傷つけちゃったから……。

みんなを助けるためとはいえ……苦しんでいるせつ菜さんを、利用することを選んだ悪い子だから……。

もしその報いを受けなくちゃいけないんだとしたら──それは私の役目だから。


かすみ「──しず子ぉぉぉぉぉっ!!!!!」

しずく「ばいばい……かすみさん。……大好きだよ……」


背中でかすみさんが叫ぶ自分の名前を聴きながら──私はお別れの言葉を呟いて──目を閉じた。


…………。

…………。

…………。


あれ……?

おかしいな……。……痛みがない。

もしかして……痛みを感じる暇もないくらい……一瞬で死んじゃったのかな……?

私がゆっくり目を開けると──


しずく「……え……」


私の目の前には、


かすみ「う……そ……」


みかん色の髪の女性と、青色の波導を纏ったポケモンが居た。


せつ菜「……なん……です……って……?」


この地方最強のトレーナー──オトノキ地方・チャンピオン。


千歌「……」
 「グゥォ」


千歌さん、その人だった。



499 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:24:13.01 ID:w+jDVHjQ0

    🍊    🍊    🍊





千歌「……しずくちゃん、平気?」

しずく「……は、はい……」

千歌「そっか、よかった。……下がってて」
 「グゥォ」


ルカリオが波導の剣で受け止めたカミツルギの刃を振り払う。

そして私は──せつ菜ちゃんを見据える。


せつ菜「う、動かないでください……!!」

千歌「それは聞けないかな」

せつ菜「動くなっ!! カミツルギ! “いあい──」

千歌「“いあいぎり”」
 「グゥォッ」

 「────」


ルカリオの神速の波導が──カミツルギを一瞬で斬り裂き、カミツルギはその場に崩れ落ちた。


せつ菜「う……そ……」


せつ菜ちゃんが膝をつく。


かすみ「す、すご……」

しずく「な、何も見えなかった……」


せつ菜ちゃんが、膝をついたまま、拳を握りしめる。


せつ菜「…………」

千歌「せつ菜ちゃん、立って」

せつ菜「……え」

千歌「まだ、ポケモン……居るでしょ?」

せつ菜「…………!」

千歌「大切な……“せつ菜ちゃんのポケモンたち”が、まだいるでしょ?」

せつ菜「…………」


私がどうしてここまで来たのか、それは──


千歌「あのとき……出来なかったバトル、しに来たよ」


私はそう言いながら、バッグから──マントを取り出し、それを羽織る。


せつ菜「──チャンピオン……マント……」

千歌「そうだよ。……オトノキ地方のチャンピオンの証……チャンピオンマント」

せつ菜「……それを羽織る意味……わかっているんですか……!?」

千歌「わかってるよ」


意味、それは──このマントを羽織ってするバトルは、いついかなるモノであったとしても──オトノキ地方の頂点を決める、正式なチャンピオン戦となるということ。
500 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:24:52.29 ID:w+jDVHjQ0

せつ菜「わ、私が貴方に何をしたのか、理解して──」

千歌「んー、それはもう、この際どうでもいいや」

せつ菜「……!」

千歌「今更私たちが語るのは、言葉じゃなくていいよ。……ポケモンバトルで語ろうよ」

せつ菜「……」

千歌「私が勝ったらチャンピオン防衛。せつ菜ちゃんが勝ったら──今日からせつ菜ちゃんがオトノキ地方のチャンピオンだよ」

せつ菜「…………」


せつ菜ちゃんが、腰からボールを外して手に持った。


千歌「ありがとう」


──あのとき、私が未熟だったせいで、伝えられなかったことを伝えに……ここに来たから。

オトノキ地方のチャンピオンとして──誰よりも、ポケモンバトルを愛する……一人のポケモントレーナーとして。


千歌「──オトノキ地方『チャンピオン』 千歌!! 行くよ、せつ菜ちゃん……!!」


今度はちゃんと──伝えてみせるから……!!



501 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:25:57.21 ID:w+jDVHjQ0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.78 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.73 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.72 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.71 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.72 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.72 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:242匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.66 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.65 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.65 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.65 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.65 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:212匹 捕まえた数:23匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



502 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 02:32:28.29 ID:VUrl28Mg0

 ■Intermission✨



──やぶれた世界にて、ゲートの維持を続けていると……。


果南「真姫さん、こっちだよ」

真姫「……やぶれた世界……初めて来たけど、想像以上におかしな場所ね……」


真姫さんを先頭にした5〜6人ほどの集団を、果南がこのゲートまで案内してくる。


鞠莉「チャオ〜真姫さん」

ダイヤ「こんな状態のままで、恐縮ですが……」


わたしたちは、珠経由でディアルガとパルキアに指示を送りながら、挨拶をする。

彼女の後ろには、数人のリーグ職員と……四十代前半くらいの夫婦の姿があった。


鞠莉「そちらの人たちが事前に聞いていた……」

真姫「ええ、そうよ」


事前に聞いていた──ゲート先に通すことになっている人たちだ。

わたしが軽く会釈すると、ご主人は会釈を返し、奥様は深々と頭を下げてくれた。


真姫「鞠莉、ダイヤ、果南。ゲートの維持、お願いね」

ダイヤ「はい、お任せください」

鞠莉「みんなが帰ってくるまで維持するのが、わたしたちの役目だからね♪」

果南「何かあったときは私が対処するから、こっちは任せて」

真姫「ありがとう。それじゃ、今からこのゲートを潜って……世界を移動する。貴方たちは絶対に私たちから離れないようにして。その代わり、貴方たちの身の安全を最優先に守ることを、私含め、ポケモンリーグが全面的に保障するわ」


真姫さんが夫婦に向かってそう伝えると──彼らはその言葉に頷く。


真姫「行きましょう……!」


そして真姫さんたちは、ゲートを潜り──侑たちの向かった世界へと、飛んでいった。


ダイヤ「うまく……行けばいいのですが……」

鞠莉「こればっかりは、わたしたちにはどうすることも出来ないからね……」

果南「とにかく今は私たちに出来ることをしよう」


3人で頷き合う。


果南「って、言っても……この感じだと私の役割はあんまりなさそうだけどね〜」


確かに果南の言うとおり、ダイヤもわたしも、ディアルガとパルキアのコントロールが大分安定している。

このまま何事もなければ、ゲート維持自体は問題なく最後までこなせそうだ──と思った、まさにそのときだった。


 「──よっと……なーるほどねー。ここ、やぶれた世界ってやつだよね。こーゆーカラクリだったのかー」


──人影がゲートから、こちらの世界に躍り出てきた。

一瞬、今入っていった真姫さんたちが、何かの事情ですぐに引き返してきたのかと思ったけど──

その人物の容姿は──明るい金髪をポニーテールに結った少女の姿をしていた。それはまさに……数日前、会議で確認した姿そのもので、
503 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 02:33:19.88 ID:VUrl28Mg0

愛「表と裏の狭間にある世界から、ディアルガ、パルキア、ギラティナの力で、無理やり空間直通ゲートを伸ばすとは……よー考えたねー」


わたしたちの敵である──ミヤシタ・愛、本人だった。


ダイヤ「……っ!?」

鞠莉「な……!?」

果南「ラグラージッ!!!」
 「──ラァグッ!!!!」


果南が一瞬で攻撃態勢に移行し、繰り出したラグラージが飛び掛かる。

が、


 「リシャァーーンッ」
愛「まぁまぁ、そー焦んないでよー」

 「ラ、ラァァァグッ…!!!」


愛の傍らに居るリーシャンが一鳴きすると、作り出された音の障壁でラグラージが弾き返される。


果南「な……!? 止められた……!?」

愛「……もっとゆっくり楽しもーよ。……愛さんが遊んであげるからさ」


愛はそう言いながら──不敵に笑った。


………………
…………
……


504 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:30:44.67 ID:VUrl28Mg0

■Chapter066 『決戦! チャンピオン・千歌!』 【SIDE Setsuna】





──ドクン、ドクンと心臓が脈打ち、口から飛び出してきそうだった。

もう二度と、戦うことがないと思っていたのに。あれで──あの戦いで終わりだと、全て終わってしまったと……思っていたのに。

千歌さんが──私の目の前に居た。

今の私に勝てるの?

ウルトラビーストもなしに、彼女に……勝てるの……?

『特別』のない私が……『特別』な彼女に、勝てるの……?

そこまで考えて──私は頭を振った。

やめよう。そんなことを考えても意味はない。

ギュッとボールを握り込む。

『特別』がなくても、私は彼女に何度も挑んだ。

そして何度も負けて、何度も何度も悔しくて泣いて、それでも何度も何度も何度も彼女の戦いを見返して、考えて、分析して……次は勝てるようにと、そう自分に言い聞かせて、私は──私たちは強くなった。強くなってきた。

私のトレーナー人生は──千歌さんを倒すためだけに存在していたと言っても過言ではない。

これはきっと、千歌さんの最後の気まぐれだ。

もう二度と巡ってこない、本当の本当に最後のチャンス。彼女を超えるための──最後のチャンスなんだ。


せつ菜「……すぅ……。……はぁ……」


息を吸って、吐いて──ボールを握り込んだ。


せつ菜「行くよ……! ゲンガー!!」
 「──ゲンガァァーーーッ!!!!」


ボールからゲンガーが飛び出す。


せつ菜「“シャドーボール”!!」
 「ゲン、ガーーーッ!!!!」


フィールドに飛び出すと同時に発射された“シャドーボール”が猛スピードでルカリオに向かって飛んでいく、だが、


千歌「……“はっけい”っ!!」
 「グゥオッ!!!!」


千歌さんとルカリオが“シャドーボール”に掌打を合わせるように放つと、パァンッと音を立てながら、“シャドーボール”が霧散する。

大丈夫、これくらいのことは当たり前。やってくるに決まってる。

だけど、私が次の攻撃に入ろうと思ったときには、


 「──グゥォッ!!!!」


ルカリオは“しんそく”でゲンガーに肉薄していた。

そして、波導の剣を構える。

──恐らく技は、“いあいぎり”。本来ゴーストタイプのゲンガーには効かない技だが、彼女のルカリオが放つ刃は実体のないものすら“みやぶる”必中の斬撃。

あまりに速過ぎる、“しんそく”の居合が、ゲンガーを捉えようとした瞬間──


千歌「……!! ルカリオッ!!」

 「グゥォッ…!!!」
505 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:39:19.48 ID:VUrl28Mg0

ルカリオの刃がゲンガーにあと紙切れ1枚ほどで当たるか当たらないかの場所で、寸止めされた。

何故なら、ゲンガーが──黒いオーラを纏っていたからだ。


千歌「“みちずれ”……!」


さすが千歌さん。あの速さでありながら、咄嗟に攻撃を止められる判断力。そしてルカリオの技量。

ただ、それによって生じた隙に、


せつ菜「“あくのはどう”!!」
 「ゲンガーッ!!!!」

 「グゥオッ…!!!」


全方位に広がる“あくのはどう”でルカリオを吹き飛ばす。

そして、吹き飛んだことにより距離が離れた瞬間に、ゲンガーの口から、


「أ̷͕͈͈͆͊̂̀͂̾͂̃̿̂ͅن҉̱͚̬͍̘̟͎̙́̏̉̓́ا̸͈̞̭͎̰͚̥̮̮̱͔̄̓̌͒͂̇́́̑ ل̸̫̝͖̝̘̝͍̦̝͕̈͒̉̄͛ع̴͎͇̗̯͉̳̰̫͚̘͇͙̽̀̄̈́̐̽̃̈́̓́̓ن̷̗̲̠͎͖͖͖͉͂̃̈́̋̌̀̐̑̆͐͊ ي̶͙̙͖̙̘͔͖̬̰͙́̊̂͂̐̃م҉͔͚̳̦̗̍̀̀̌̿̚ك҈̖͍͙͍̞̩̾͂͒̈́̌̿̍̚ͅن҈̰̫͍͙͓̬͚̍̉͊̿̌̚ك҉̲̥̥̮̗̫͕̟̋̔̈̇̅̓́̀̍͆ ا҉̞͙̖͍̭̈̍̏̽ͅل̷͈̫̮͈̙͔̖̠̞͒̽̍͑̎̓̑̉̈͗͊ق̸̩̤̝͓̥̜̜̝̠̐͊͛̍̔̈́̿̍͋̓ي̶͖͎͚͇̥̙̩̊̔͂̅̿ا̴͔̣̗̲̫̳̠̫̙̦̃̉̓͛ͅͅم̸̟͓͇͚̯̜͓̥̮̞͚͆̑̓̌ ب҈͚͎͓̯͖̥̓̈̅̆ͅه̷͚͉̦̝̥̘͉̩͙̥̆̌͂̄̑́̊̽̐͑」


この世のものとは思えないような、呪いの歌が流れだす。


千歌「……! ルカリオ、戻──」

せつ菜「“くろいまなざし”!!」


千歌さんが一瞬で、“ほろびのうた”に気付きルカリオを戻すためにボールを投げるが、私はそれよりも早く“くろいまなざし”で交換を封じる。

交換は封じた……!! これで、千歌さんのエースを同士討ちに──


 「グゥォッ!!!」


と思った瞬間、ルカリオが“しんそく”により再び一瞬でゲンガーの懐に潜り込み、


千歌「“ともえなげ”!!」
 「グゥォッ!!!」


波導を纏った手でゲンガーの腕を掴みながら、真後ろに身を捨てつつ、足で押し上げるようにゲンガーを放り投げた。


 「ゲンガ──」
せつ菜「……!」


“ともえなげ”によって放り投げられたゲンガーは、私のボールに勝手に戻っていく。

──相手を強制的に控えに戻させる技だ。

千歌さんはゲンガーが場から退場して“くろいまなざし”が解除されると同時に、


千歌「ルカリオ戻れ!! 行け、フローゼル!!」
 「グゥォッ──」「──ゼルゥゥゥゥッ!!!!」


ルカリオを戻し、代わりにフローゼルを繰り出しながら走り出す。


せつ菜「スターミー!!」
 「──フゥッ!!」

千歌「フローゼル!! “かみくだく”!!」
 「ゼルゥッ!!!」


私がスターミーをボールから出すと、千歌さんは一瞬の判断で相性のいい“かみくだく”を選択指示するが、
506 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:40:05.34 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「“かたくなる”!!」
 「フゥッ!!!」

 「ゼルッ…!!?」


噛み付いたフローゼルの歯がガキッと硬い音を立てる。

間髪入れず、


せつ菜「“マジカルシャイン”!!」
 「フゥッ!!!」

 「ゼルッ…!!!」


至近距離から激しい閃光で焼き尽くす。

ダメージを負いながら吹っ飛んだフローゼルに向かって、


せつ菜「“10まんボルト”!!」
 「フゥッ…!!!」


今度はこっちが相性のいい“10まんボルト”で攻める。


千歌「“アイアンテール”!!」
 「ゼルッ…!!!!」


フローゼルは吹っ飛ばされながらも尻尾を硬質化し、それを地面に突き刺し、


千歌「“いわくだき”!!」
 「ゼルッ!!!!」


後ろに飛ばされている反動も利用し、てこの原理で足元の岩を砕きながら捲りあげて、盾にする。

普通なら驚いてしまうけど……千歌さんならそれくらいのことはしてくる……!!


せつ菜「それくらい、読んでます!!」


スターミーの“10まんボルト”は岩の盾に阻まれたように見えたが、岩にぶつかると沿うように回り込み、岩の後ろのフローゼルに向かってバチバチと音を立てながら襲い掛かるが──


千歌「“みずびたし”!!」
 「ゼルッ!!!」


フローゼルが、巨大な球状の水の塊を目の前の岩に向かって吐き出すと、“10まんボルト”は岩の水分に吸着されるように、それ以上前に進めなくなる。


千歌「水は電気をよく通すから、水に巻き込まれると進めなくなるんだよ!」

せつ菜「……!」


確かに、導電体の水から、絶縁体である空気中に向かって放電をするのは極めて難しい。

ご丁寧に“みずびたし”にする際も、口から出している水流から感電しないように、一度口の中で球状にしてから、ある程度の水量を纏めて発射し、自身と電撃の接触部分が出来ないようにしているのも芸が細かい。


千歌「フローゼルへの電気攻撃対策は完璧だから!」

せつ菜「なら、これはどうですか!! “10まんボルト”!!」
 「フゥッ!!!」

千歌「だから、効かないって!! “みずびた──」


再び放った“10まんボルト”に対して、千歌さんが再び“みずびたし”を指示しようとした瞬間──ボンッ!!! と音を立てながら、フローゼルの目の前で爆発が起きた。


 「ゼルッ…!!?」
千歌「うわぁっ……!?」
507 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:41:09.24 ID:VUrl28Mg0

千歌さんは爆風でフローゼルと一緒に地面を転がりながらも、すぐに受け身を取って立ち上がる。


千歌「ば、爆発した!?」


今の“10まんボルト”は電撃による直接攻撃が狙いじゃない。

私が利用したのは放電中に起こる電熱だ。

水は電気を流せば、水素と酸素に分解される。水素は熱を加えると酸素を使って爆発的に燃焼する物質。なら、2度目の電撃による電熱で急に加熱されたら爆発するに決まっている。

吹き飛んで出来た隙に向かって、


せつ菜「“こうそくいどう”!!」
 「フゥッ!!!」


スターミーが体を高速回転させながら、フローゼルに向かって突っ込んでいく。スピードアップしながらの渾身の突撃……!


せつ菜「“すてみタックル”!!」

 「フゥッ!!!」

千歌「っ……! “スイープビンタ”!!」
 「ゼルッ!!!」


フローゼルはすぐに体勢を立て直し、硬い尻尾でスターミーを弾き飛ばすが、


 「フゥッ!!!」


弾き飛ばされても、スターミーは高速軌道で、すぐに切り返してくる。


千歌「も、もう一発っ!!」
 「ゼルッ!!!」


2撃、3撃と連続で弾き返すが──高速回転しながらスターミーはどんどん速度を上げていく。

このままだと、捌ききれなくなることに気付いた千歌さんは、


千歌「“あまごい”!!」
 「ゼルッ!!!!」


雨を降らせ始める。雨が降り始めると──


 「ゼルッ!!!」


フローゼルは尻尾のスクリューを高速回転させながら、ものすごいスピードで動き出し、スターミーの突進を回避する。


せつ菜「……! “すいすい”……!」


“すいすい”は水中や雨の中で、自身の素早さを倍加させる特性。

さらに、


千歌「“アクアジェット”!!」
 「ゼルッ!!!」


水流を身に纏い、超加速しながらフローゼルが、横回転するスターミーの丁度中央のコア部分に突撃してくる。


 「フゥッ…!!!?」

せつ菜「スターミー!?」


お互いが超高速軌道で動いていることもあって、その一撃でスターミーがバランスを崩し回転しながら墜落して、突起部分が地面に突き刺さる。
508 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:42:05.73 ID:VUrl28Mg0

千歌「そこだっ!!」

 「ゼルッ!!!」


その一瞬の隙を見逃さずに、尻尾を高速回転させ始めるフローゼル。あれは見たことがある──“かまいたち”の予備動作……!

スターミーはどうにか突起の先から水を逆噴射させることで、地面に刺さった体をすぐに引き抜くが、フローゼルはもう攻撃の体勢に入っていた。


千歌「“かまいたち”!!」

 「ゼルッ!!!!」

せつ菜「“スキルスワップ”!!」

 「フゥッ!!!!」


が、スターミーのコアが光ると同時に──スターミーがまさに目にも止まらぬスピードで、風の刃を回避した。


千歌「うそっ!?」

せつ菜「“すいすい”、貰いましたよ!!」

 「フゥッ!!!!」


先ほどのさらに倍のスピードで雨の中を駆けるスターミーは、今度こそフローゼルの背後を取り、体を回転させながら突撃を炸裂させ──


千歌「“うずしお”ッ!!」
 「ゼルゥッ!!!」

 「フゥッ!!!?」

せつ菜「な……っ!?」


──たと思ったら、巨大な水の渦がフローゼルの背後に発生し、突っ込んできたスターミーを逆に渦の中に捕えてしまった。


千歌「これでも速い相手を見切るのは得意なんだよ!!」

せつ菜「くっ……!! “こうそくスピン”!!」

 「フゥッ!!!」


スターミーはすぐさま体を逆回転させ、渦を対消滅させる。

渦から解放された瞬間、


千歌「“ソニックブーム”!!」
 「ゼルッ!!!!」


フローゼルの尻尾から、音速の衝撃波が飛んでくる。


せつ菜「“ちいさくなる”!!」
 「フゥッ!!!!」


スターミーが指示と共に一気に体を小さくし、攻撃をギリギリ回避する。


千歌「く……!」


間一髪の回避。

スキルスワップにより、フローゼルの特性が“しぜんかいふく”に変わってしまったせいか、速度の面でスターミーに大きく軍配が上がっていたことも大きいだろう。

私はスターミーの回避を確認し、間髪入れずにボールを投げ込む。


せつ菜「ドサイドン!!」
 「──ドサイッ!!!!」
509 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:44:00.70 ID:VUrl28Mg0

ドサイドンがボールから飛び出すと同時に、大きな腕をフローゼルに向かって振りかぶる。


 「ゼルッ…!!?」
千歌「……っ!」

せつ菜「“アームハンマー”!!」
 「ドサイィィッ!!!!」


振り下ろされる重量級の拳に対して、


千歌「しいたけ!! “コットンガード”!!」
 「──ワッフッ!!!」


ボールから飛び出したトリミアンが、フローゼルを庇って、攻撃を受け止める。

ボフンと音がして、“ファーコート”に打撃が吸収される。

そして、その隙に、


千歌「フローゼル!! “ハイドロポンプ”!!」
 「ゼルゥゥゥッ!!!!」


トリミアンの影から、フローゼルが“ハイドロポンプ”でドサイドンを攻撃してくる。

……が、


 「ドサイッ…!!!」


ドサイドンはダメージを受けながらも、“ハイドロポンプ”を耐えていた。

ドサイドンはもともとタフな上に、特性は“ハードロック”。弱点タイプのダメージを軽減する特性なのが活きている。

さらに、ドサイドンの体からキラキラと輝く鉱物のようなものが舞い散る。


千歌「……!? や、やばっ!?」

せつ菜「“メタルバースト”!!」
 「ドサイッ!!!!」

 「ゼルゥッ!!!?」


さらにそのダメージを、はがねのエネルギーに変換し、フローゼルに叩きつけた。


 「ゼ、ゼルッ…」
千歌「戻って、フローゼル!!」


さすがに、耐えきれず動けなくなったフローゼルをボールに戻しながら、


千歌「しいたけ!! “アイアンテール”!!」
 「ワッフッ!!!」


トリミアンが硬質化した尻尾をドサイドンに突き刺してくる。


せつ菜「そんな威力じゃ、ドサイドンの防御は貫けませんよ!!」
 「ドサイッ!!!!」


お返しとばかりに、ドサイドンが“アームハンマー”を叩き付けるが、

またしても──ボフンッと音を立てながら、強力な打撃がいとも簡単に吸収される。


千歌「それを言うなら、こっちも防御力が自慢だよ!」
 「ワッフ!!!」
510 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:44:38.42 ID:VUrl28Mg0

さっきの高速軌道の戦いとは打って変わって、今度はどっしりと構えた物理戦が始まる。

──が、そんな悠長にやるつもりは最初からない。


せつ菜「そうは言っても……得意なのは物理攻撃に対してだけですよね!! “アームハンマー”!!」
 「ドサイッ!!!!!」


三たび振り下ろされる、重量級の拳が──


 「ギャウッ!!!?」
千歌「なっ!!?」


今回は毛皮に衝撃を吸収されずに、トリミアンを押しつぶす。

そして、怯んだところにドサイドンが手の平を突き付ける。


せつ菜「“がんせきほう”!!」
 「ドッサイッ!!!!!」


ドサイドンの手の平に空いた穴から、巨大な岩石が発射され、


 「ギャウンッ!!!!」


砕ける岩石がトリミアンを吹き飛ばした。


千歌「し、しいたけ!! 戻れ!!」


これで2匹戦闘不能……!!


千歌「……防御しきれなかった……? ……違う、防御力で受けてなかったんだ」

せつ菜「そうです……“ワンダールーム”です」
 「フゥ!!」


小さくなり、いつの間にか私の足元まで戻ってきていたスターミーが鳴き声をあげる。

体を小さくし、“ほごしょく”によって姿を眩ませていたスターミーが使っていたのは、“ワンダールーム”という技。

フィールド上にいる全てのポケモンの防御と特防を入れ替えるという不思議な効果を持つ。

それによって“ファーコート”を無効化し、“コットンガード”の上から押しつぶしたというわけだ。


せつ菜「さぁ……次のポケモンを出してください……!!」

千歌「……その前に」

せつ菜「……? なんですか……」

千歌「ドサイドン、戻した方がいいよ」

せつ菜「……はい? 何を──」


何を言っているのかと思った瞬間、


 「ドサイッ…!!!」


ドサイドンの巨体が崩れ落ちた。


せつ菜「な……!?」

千歌「しいたけがドサイドンに突き刺してたのは──ただの“アイアンテール”じゃないよ」


一瞬何かと思ったが、
511 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:45:11.07 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「……“どくどく”……!」


すぐに思い至った。ひっそりと刺した尻尾から“どくどく”を注入されて、“もうどく”状態にさせられていたというわけだ。

私は言われたとおり、ドサイドンをボールに戻す。


せつ菜「……やるじゃないですか」

千歌「せつ菜ちゃんこそ!!」


スターミーが再び“ほごしょく”で姿を消す中、お互いが次のポケモンのボールをフィールドに放つ──





    👑    👑    👑





安全圏に避難してきたかすみんたちは、千歌先輩とせつ菜先輩のバトルを見て言葉を失っていました。


かすみ「……一つ一つの判断が早過ぎます……」

しずく「……これが……最強クラスの人たちの戦い……」


かすみん……自分が強くなった自覚はありますけど……このレベルのバトルはまだ出来る気がしません……。


かすみ「……というか、せつ菜先輩……ウルトラビーストで戦ってたときより、強くない……?」

 「──そういうことなのよ、要は」

かすみ「え?」


声がして振り返ると──


善子「……千歌がここに来た理由は、きっとそういうことなのよ」

しずく「ヨハネ博士……!」


ヨハ子博士はかすみんたちに近付いてきて──ギューッと抱きしめてきた。


善子「二人とも……無事でよかったわ……」

かすみ「よ、ヨハ子博士……」

しずく「ヨハネ博士……ご心配をお掛けしました……」

善子「無事ならいいわ」


ヨハ子博士はそう言いながら、かすみんたちの頭を撫でる。


かすみ「あ、あのあの……それでそういうことって……どういうことですか……?」

善子「……見てればわかるわ」

しずく「見てれば……わかる……?」


ヨハ子博士はそれ以上多くは語らなかった。……見てればわかるって、どういうことだろう……?


善子「頼んだわよ……千歌」



512 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:45:59.46 ID:VUrl28Mg0

    🎙    🎙    🎙





千歌「ルガルガン!! “ドリルライナー”!!」
 「──ワォンッ!!!!」


体を回転させながら猛突進してくるルガルガンに対して、


せつ菜「エアームド!! “てっぺき”!!」
 「──ムドーーーッ!!!!」


こちらはエアームドを繰り出して、攻撃を真っ向から受ける。

──ギャギャギャと耳障りな音が鳴り響き、ギィンッ!! と音を立てながらルガルガンを弾き返す。

弾かれたルガルガンに向かって、


せつ菜「スターミー!! “ハイドロポンプ”!!」

 「フゥッ!!!」


小さい姿かつ“ほごしょく”によって潜伏しているスターミーが“ハイドロポンプ”でルガルガンを狙撃する。

ルガルガンに対して相性のいい大技のはずだが、


千歌「見つけた!! “ドリルライナー”!!」
 「ワォンッ!!!」


むしろ、千歌さんは──“ハイドロポンプ”に真っ向から突っ込んできた。

ルガルガンは激流を真っ向からドリルのパワーで穿ちながら、突っ切ってくる。


せつ菜「スターミー!! 一旦退避しなさい!!」

 「フゥッ!!!」


スターミーは攻撃を中断し、再び“ほごしょく”で姿を消す。


千歌「逃がしちゃダメ!!」

 「ワォンッ!!!」


スターミーが姿を消し、岩に突っ込んだルガルガンはそのまま弾けるように、スターミーの追跡を始める。


せつ菜「エアームド!! “フリーフォール”!!」

 「ムドーーーッ!!!!」


だが、そんなことは許さない……!

エアームドがルガルガンに向かって、鉤爪を構え上から急襲した──瞬間、


 「ピィィィィィッ!!!!!!」

 「ムドーッ!!!?」


ムクホークがエアームドに向かって突っ込んできた。

そのまま大きな爪でエアームドを地面に押し付けながら──


千歌「“インファイト”!!」

 「ピィィィィィィッ!!!!!!」
513 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:46:44.32 ID:VUrl28Mg0

爪と翼と嘴を使って、猛打を叩きこんでくる。

激しい近接攻撃だが──エアームドの防御を貫くにはまだ足りない……!


せつ菜「そこです!! “ドリルくちばし”!!」

 「ムドーーーッ!!!!」


攻撃に集中するあまり、防御がおろそかになっている部分を突いて、“ドリルくちばし”をムクホークの胸部に叩きこむ。


 「ピィィッ…!!!!」


嘴が直撃し、ムクホークは一旦後ろに逃げたが──

すぐに、爪でエアームドを抑えつけようとしてくる。

そのとき、


 「──フゥッ…!!!?」


スターミーの鳴き声が聞こえてくる。


せつ菜「くっ……!」


このムクホークの執拗な攻撃が、ルガルガンがスターミーを追いかけるための足止めだと言うのはわかっていたが、気付けば小さな小さなスターミーがルガルガンの口に咥えられていた。

ただ──いくらなんでも見つけるのが早過ぎる。


千歌「“かみくだく”!!」

 「ワォンッ!!!」

せつ菜「コスモパワー!!」

 「フ、フゥッ!!!!」


ガキン!! と音を立てながら、辛うじてキバを耐える。


せつ菜「“サイコショック”!!」

 「フゥッ!!!!」


そして、ルガルガンの口の中にサイコパワーで1個だけキューブを作り出し、


 「ワ、ワォ…!!?」


ルガルガンの口を無理やりこじ開ける。

今のうちに脱出させ──


 「ピィィィィィィッ!!!!!!」

 「ム、ムドーーーッ!!!!」

せつ菜「……!?」


今度はエアームドの鳴き声があがる。目を向けると、ムクホークが足でエアームドの体を掴み、低空飛行しながら引き摺り始めていた。

そのまま、ムクホークが飛び立とうとした瞬間、


せつ菜「エアームド!! “ボディーパージ”!!」

 「ム、ムドォー!!!!」
514 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:47:28.43 ID:VUrl28Mg0

エアームドが掴まれていた部分の鋼の鎧をパージして、脱出する。

でも、今度は、


 「フ、フゥゥ!!!!」

せつ菜「……!!」


スターミーがルガルガンの足に踏みつけられじたばたしていた。

──ルガルガンはスターミーの姿を完全に捉えている……!?

そこで、やっと気付く。


せつ菜「……しまった、“かぎわける”……!?」


相手は最初からスターミーの姿ではなく──ニオイで追っていたことに気付くが、もう時すでに遅し。


千歌「“ブレイククロー”!!」

 「ワォンッ!!!」

 「フゥッ…!!!?」


踏みつけていたスターミーを、防御を貫く爪撃で切り裂いたあと──


千歌「“アクセルロック”!!」

 「ワンッ!!!」

 「フゥゥッ…!!!?」


たてがみの岩を高速で突進しながら叩きつけられ──スターミーは戦闘不能になる。


せつ菜「く……っ! 戻りなさい、スターミー!!」


私はスターミーをボールに戻しながら──視線をエアームドに戻すと、


 「ムドーーッ!!!!」

 「ピィィィィィッ!!!!」


上昇して逃げるエアームドをムクホークが追いかけているところだった。


千歌「“こうそくいどう”!!」

 「ピィィィィィッ!!!!!」


千歌さんの指示でムクホークが加速し──


千歌「“すてみタックル”!!」

 「ピィィィィッ!!!!!」


“すてみ”による渾身の一撃が──エアームドに直撃した。


 「ムドォォォッ…!!!!」

せつ菜「エアームド……!!」


あまりの破壊力に全身の鎧をばらばらに砕かれ、落下を始めるエアームドを、


 「ピィィィィッ!!!!!」
515 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:48:12.97 ID:VUrl28Mg0

ムクホークが掴んで、そのまま地面に急降下を始める。


千歌「“ブレイブバード”!!」

 「ピィィィィィッ!!!!!」


そのまま一直線に──エアームドごと地面に墜落し、その衝撃で地面にヒビが入る。


千歌「エアームドが硬くても、こっちのパワーの方が上だったね!」


千歌さんが胸を張って自慢げに言ってくるが、


せつ菜「……あはは、千歌さん。忘れていませんか?」

千歌「……え?」

せつ菜「私のエアームドの特性──“くだけるよろい”ですよ」
 「ムドーーッ!!!!」

千歌「わ、忘れてた!?」


直後、鎧を脱ぎ去って加速したエアームドが、ムクホークの足元から飛び出し──


せつ菜「“はがねのつばさ”!!」
 「ムドーーーッ!!!!」

 「ピィィィィッ!!!?」


ムクホークの脳天に叩きこむ。


 「ピィィッ…!!!」


脳震盪を起こしてふらつく、ムクホークに向かって、


せつ菜「“ガードスワップ”!!」
 「ムドーーーッ!!!」


“くだけるよろい”で下がった自身の防御力を──ムクホークに移す。

“ガードスワップ”はお互いの防御の能力変化を入れ替える技だ。


せつ菜「エアームド──」


私がエアームドに次の指示を出そうとした瞬間、千歌さんも迎撃態勢に移る。


せつ菜「“てっぺき”!!」

千歌「させな──“てっぺき”!?」
 「ワォンッ!!!!」


だが、千歌さんはムクホークへの追撃を予想していたのか、エアームドが防御を固めてきたことに面食らって驚きの声をあげる。

それと同時に、飛び込んできたルガルガンの爪を──ギィンッ!! と音立てながら、エアームドの鎧が弾き返す。

“くだけるよろい”で下がった防御は“ガードスワップ”でフォローし、さらに再び“てっぺき”で硬質化させた鎧で、ルガルガンの爪を弾く。

──そもそも、ここで千歌さんが自由に攻撃をさせてくれるはずがない。

だから、私の選択肢は最初から……防御一択。

それに──


千歌「い、今のうちにムクホーク!! 逃げ──」


もうすでに、ムクホークへの攻撃は完了している……!
516 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:49:10.98 ID:VUrl28Mg0

 「ピィィィィィッ!!!!?」

千歌「……!?」


──突然、上空から落ちてきた、無数の鉄の剣が、ムクホークを斬り裂き、


 「ピ、ピィィィ…」


ムクホークは戦闘不能になってその場に倒れ込む。


千歌「今の……“くだけたよろい”で砕けた破片……!?」


そうだ。最初から私の作戦は、あの場でムクホークを動けなくさえすれば、もう完了していた。

そして今のうちに、


せつ菜「エアームド!! “はねやすめ”!!」

 「ムドーーー」


エアームドが地上に降り立ち、回復を始める。


千歌「っ……! “ドリルライナー”!!」
 「ワォンッ!!!」


地上に落りたエアームドに向かって、ルガルガンが回転しながら突っ込んでくる。

それに合わせるように、


せつ菜「“ドリルくちばし”!!」

 「ムドーーーッ!!!!」


両者のドリルの先端が真っ向からぶつかり合い、耳障りな音が周囲を劈く。

──ギャギャギャギャ!!! と大きな音を立て──ガキンッ!! という音と共に、お互いのポケモンが弾かれて、後ろに飛び退く。


せつ菜「……はぁ……はぁ……」

千歌「……はぁ……っ……はぁ……っ」


激しい攻撃の応酬に、さすがに息が切れる。それにしても……。


せつ菜「……千歌さんって、何度戦っても、いつもなにかしら前に見たことを忘れてますよね」

千歌「う……!? ……で、でも、“くだけるよろい”を攻撃に使うのは見たことなかった! 今の知らなかったもん!」

せつ菜「特性さえ知っていれば防げたはずでは?」

千歌「そーいうせつ菜ちゃんだって、私の技で見切れてないのたくさんあるじゃん!」

せつ菜「な……!? で、ですが、毎回少しずつ改善されてるじゃないですか!? 前に10番道路で戦ったときは、ほぼ見切っていたようなものです!!」

千歌「それでも、私たちもどんどん強くなるから、完全に攻略されることはないけどねっ!」

せつ菜「強くなってるのは私たちだって同じです!! いつか──いえ、今日こそ、完全に攻略してみせますよ!! エアームド!!」
 「ムドーーッ!!!」


エアームドが戦闘不能になったムクホークの傍に突き刺さっている鉄の刃を一本引き抜き嘴に咥える。

その動作の隙に、


千歌「“アクセルロック”!!」
 「ワォンッ!!!!」
517 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:49:49.63 ID:VUrl28Mg0

ルガルガンが飛び出してくる。

──ギィンッ!! ルガルガンのタテガミの岩と、エアームドの鉄の刃が鍔迫り合う。

パワーが拮抗する中、


せつ菜「引きなさい!」
 「ムドォ!!!」


エアームドが身を引く、


 「ワォッ…!!?」


急に身を引かれて、ルガルガンが一瞬前につんのめるが、


千歌「“ストーンエッジ”!!」
 「ワ、ワォンッ!!!」


千歌さんはよろけて前に踏み込む動作を、咄嗟の判断で攻撃に変換する。

ルガルガンの踏み込みと同時に鋭い岩が飛び出してくるが、


 「ムドォ!!!」


エアームドはその岩を足蹴にして、空に飛び立つ。

が、ルガルガンはすぐに自身のタテガミの岩で、“ストーンエッジ”を割り砕き、


千歌「“ロックブラスト”!!」
 「ワンッ!!!」


砕いた岩を投げ飛ばしてくる。


せつ菜「“きりさく”!!」
 「ムドォーーーッ!!!」


その岩を鉄の刃で斬り裂きながら、


せつ菜「“てっぺき”!!」
 「ムドォッ!!!」


さらに体を硬質化しながら、エアームドは岩石の弾丸の中、ルガルガンに向かって急降下を始める。


せつ菜「“ボディプレス”!!」
 「ムドーーーッ!!!!」

 「ワォンッ!!!?」


硬い鉄の鎧ごと、上空からルガルガンに叩きつけた。

ここまでのダメージも含め、これが決め手となり、


 「ワ、ワォン…」


崩れ落ちるルガルガン。


せつ菜「わ、私たちの勝ちです!!」

千歌「……残念、相打ちだよ」


千歌さんの言葉と共に──
518 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:50:44.81 ID:VUrl28Mg0

 「ムドォ…」


エアームドも崩れ落ちた。


せつ菜「エアームド……!?」


驚いて、倒れたエアームドを見ると──胸にルガルガンのたてがみの岩が折れて、突き刺さっていた。


せつ菜「か、“カウンター”……!」

千歌「これ折れるとまた生えるまで時間かかるんだけどねー……ま、仕方ない! せつ菜ちゃん相手にたてがみの岩一本の犠牲なら上出来だよ! 戻れ!」


そう言いながら、千歌さんはルガルガンとムクホークをボールへ戻す。


せつ菜「……戻ってください」


私も戦闘不能になって倒れているエアームドをボールに戻す。


千歌「さぁ、次だよ!!」


千歌さんがボールを構える。


せつ菜「望むところです……!!」


私も次のボールを構えたところで、


千歌「──せつ菜ちゃん」


千歌さんが私の名前を呼んだ。


せつ菜「なんですか?」

千歌「……楽しいね……!」

せつ菜「え……」

千歌「せつ菜ちゃんとのバトルは……予想外のことがたくさんあって……! 知らない技が、戦術がたくさんあって……! 何度戦っても、ドキドキワクワクする! ──せつ菜ちゃんは?」

せつ菜「……私は」


私は──

──胸が……ドキドキしていた。

でも、最初の動悸とは全然違う。

これは、このドキドキは──


せつ菜「──わけ……ないじゃないですか……」


このドキドキの正体なんて──そんなの……前から知っている。


せつ菜「──……楽しくないわけ……ないじゃないですか……っ!!」

千歌「うんっ!! そうだよねっ!!」


何度も何度も感じてきたこの高揚感。

そうだ、私は……ポケモンバトルの、この感覚がずっとずっと……大好きだったんだ。
519 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:51:28.82 ID:VUrl28Mg0

千歌「私も今、さいっこうに楽しい!! だからさ、もっともっと楽しいバトル、しようよっ!!」

せつ菜「望むところですっ!!」

千歌「行くよ、ルカリオ!!」
 「──グゥォッ!!!」

せつ菜「行きますよ、ゲンガー!!」
 「──ゲンガーーッ!!!」


私の“メガバングル”と、千歌さんの“メガバレッタ”が同時に光り輝く。


せつ菜・千歌「「メガシンカ!!」」
 「ゲンガァァァァァァァァァッ!!!!!!」「グゥォォォォォッ!!!!!!!」


メガゲンガーから影の力が、ルカリオから青い波導の力が溢れ出し、空間を震わせる。


千歌「ルカリオッ!! 波導全開ッ!! 行くよっ!!」
 「グゥオッ!!!!!」

せつ菜「ゲンガーッ!! 全身全霊で迎え撃ちますよっ!!」
 「ゲンガァァァァァァ!!!!!!」





    🎙    🎙    🎙





千歌「ルカリオ!! 波導の力を斬撃に……!!」
 「グゥオッ!!!」

せつ菜「“ふいうち”!!」
 「ゲンガッ!!!」

 「グゥオッ!!!?」
千歌「……!」


千歌さんの攻撃は確かに必中必殺の一撃。

だけど、ノータイムで連発出来るようなものではないし、一定以上の集中が必要になる。

攻撃を撃たせないことがもっとも正しい。

千歌さんも私の魂胆に気付いたのか、攻撃方法を切り替えてくる。


千歌「“ボーンラッシュ”!!」
 「グゥオッ!!」


剣状にしていた波導を長い骨の形にし振り回す。


せつ菜「“ゴーストダイブ”!!」
 「ゲンガッ──」


それを避けるように、ゲンガーが影の中に潜り、“ボーンラッシュ”が空振る。


千歌「なら……!」
 「グゥォッ!!!」


ルカリオは地面に骨を突き立て──それに掴まったまま上に伸ばして、上へと逃げる。


千歌「メガゲンガーは体が影に埋まってるから、空には追ってこれないでしょ!!」

 「グゥオッ!!」

せつ菜「確かにそうですね、ですがこれならどうですか!!」
520 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:52:07.91 ID:VUrl28Mg0

今しがた影に飛び込んだ場所──即ちルカリオが骨を突き立てた地面が、ジュウウッと音を立て始める。

それと同時に、骨がグラリと揺れる。


 「グゥオッ…!!?」

千歌「溶けてる……!? “ヘドロばくだん”だ……!! ルカリオ、離脱!!」

 「グゥォッ!!!」


ルカリオが“しんそく”で飛び出しながら、地上に向かってジャンプする中、地面がドロドロに溶け始め、そこからゲンガーが顔を出す。

相手が空中にいる間がねらい目……!!


せつ菜「“シャドーボール”!!」
 「ゲンガァァァァッ!!!!!」


ゲンガーの口から特大の“シャドーボール”が放たれる。


せつ菜「落ちながらで受け切れますか!!」


“はっけい”で対抗してくると思ったが──何故かルカリオの落下が急に止まり、


せつ菜「……え!?」


軌道を読み違えて外れた“シャドーボール”が、そのまま明後日の方向に飛んでいく。

よく見たら、ルカリオの足元が、わずかにスパークしているのがわかった。


せつ菜「まさか、“でんじふゆう”!?」

千歌「“ラスターカノン”!!」

 「グゥゥゥォォォッ!!!!!!」


集束した光線が空中に浮いたルカリオから発射される。


せつ菜「く……!? “シャドーボール”!!」
 「ゲンガァァァァ!!!!」


“ラスターカノン”に向かって、再度“シャドーボール”を発射するが──

特性“てきおうりょく”で強化された“ラスターカノン”は“シャドーボール”を貫いて、ゲンガーに直撃する。


 「ゲ、ゲンガァァッ!!!!」
せつ菜「ゲンガー……!?」

千歌「さぁ、ガンガン行くよー!!」

 「グゥオッ!!!」


ルカリオが再び“ラスターカノン”の態勢に入るが──


 「ゲンガ…!!!」


ゲンガーが空にいるルカリオに向かって手をかざすと──急に集束していた光が弱まり、消滅する。


千歌「ふ、不発……!? しまった、“かなしばり”……!?」


一瞬で正解にたどり着くのはさすがです……!
521 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:52:55.59 ID:VUrl28Mg0

千歌「でも、空にいればそっちの攻撃は──」

せつ菜「“かみなり”!!」
 「ゲンガァッ!!!!」

 「グゥオッ!!!?」
千歌「うわぁっ!!?」


目の前で、特大の落雷が発生し、空中にいるルカリオに直撃する。

ダメージを受けたルカリオがふらりと落ちてくる。

無防備に落ちてくるルカリオに向かって──


せつ菜「“きあいだま”!!」
 「ゲンガァーーーッ!!!!」


気合を集束したエネルギー弾を発射する。


千歌「ルカリオーーーッ!!! “はどうだん”ッ!!」

 「グゥ…オォッ!!!!」


落下しながらも、ルカリオの発射した“はどうだん”が“きあいだま”とぶつかり合い、相殺しあう。


そのまま、着地したルカリオは、跳ねるような身のこなしでゲンガーに接近し、


千歌「“はっけい”!!」
 「グゥオッ!!!!」


波導を纏った掌打をぶつけてくる。が、


せつ菜「“したでなめる”!!」
 「ゲンガァァァ〜〜〜」

 「グゥオッ!!!?」
千歌「いっ!?」


それに合わせるように──ゲンガーがベロリと舌を出す。

ルカリオの“はっけい”はゲンガーの舌にべちょりと音を立てながらぶつかった直後、


 「ゲンガッ…!!!?」


波導のエネルギーによって、ゲンガーが吹っ飛ばされる。

だが──


 「グ、グゥオ…!!!」
千歌「ま、“まひ”した……!!」


“したでなめる”の追加効果で“まひ”させた。

さらに、


せつ菜「“たたりめ”!!」
 「ゲンガァァッ!!!!!」


弱り目に“たたりめ”。状態異常の相手には倍の効果を発揮する呪いの攻撃でルカリオを攻撃する。


 「グゥ、オォォォ…ッ」


苦悶の顔を浮かべながら膝を突くルカリオに向かって──
522 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:53:47.46 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「“シャドーボール”!!」
 「ゲンガァァァァッ!!!!」


三度目の正直の特大“シャドーボール”を発射する。

怯んだルカリオは避けることも出来ず──


 「グゥォォォッ…!!!!」


影の球に呑み込まれる。


せつ菜「よし、このまま……!!」

千歌「“あくのはどう”!!」
 「グゥオォォォォッ!!!」

せつ菜「……!」


だが、ルカリオは影の球の中から全方位に向かって“あくのはどう”を放って、“シャドーボール”を吹き飛ばす。

そして、影の球から出てきたときには──


 「グゥオ…」


その手に──波導で出来た剣を手にしていた。


千歌「波導の力を斬撃に……!!」

せつ菜「させないっ!! “シャドーパンチ”!!」
 「ゲンガァァッ!!!!」


ゲンガーが自身の両手を影に沈めると──ルカリオの足元の影から、拳が飛び出す。

が、


 「グゥオ」


ルカリオは波導の剣で、冷静に受け止める。

でも……“いあいぎり”の集中は切った……!!

攻撃を畳みかけようとした瞬間──


 「ゲンガッ…!!!?」
せつ菜「な……!?」


ゲンガーの影から──波導のエネルギーが拳の形をして飛び出してきて、ゲンガーの体にめり込んでいた。


せつ菜「……“まねっこ”……!?」


“シャドーパンチ”を真似され、背後からの突然の攻撃でゲンガーが怯んだ隙に──


千歌「波動の力を斬撃に──」
 「グゥオッ!!!」


千歌さんとルカリオが必中必殺の型を完成させる。


せつ菜「“ゴーストダイブ”!!」
 「ゲンガッ!!!」


苦し紛れの回避択。ゲンガーが影に潜り込むが、
523 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:54:32.95 ID:VUrl28Mg0

千歌「影ごと斬り裂け──“いあいぎり”!!」
 「グゥゥオッ!!!!」


下から上に向かって薙がれる波導の剣が、ゲンガーの潜った影を一閃する──

一瞬、フィールド上が静寂に包まれたが──

数秒後、


 「…ゲン、ガ…」


影の中から戦闘不能になったゲンガーが浮かんできたのだった。


千歌「はぁ……はぁ……斬ったよ……!」
 「グゥオッ!!!」

せつ菜「ウインディッ!!」
 「──ワォンッ!!!」

千歌「……!」


間髪入れずに飛び出したウインディが、


せつ菜「“ねっぷう”!!」
 「ワォォォンッ!!!!!」


“ねっぷう”でルカリオを焼き尽くす。


 「グゥォォォッ…!!!!」
千歌「ぐ……っ!!」


最後は斬られたとは言え──不発も含めれば全力の集中技を3回も使わせた。

集中が必要不可欠な技はその分負担も大きい。畳みかけるなら、今しかない……!!


千歌「波導、全開ッ!!!」
 「グゥゥゥゥオオオオオッ!!!!!!」


ルカリオが“ねっぷう”の中、両手の平をこちらに向けて──残りの波導エネルギーを発射してくる。


せつ菜「“だいもんじ”!!」
 「ワァォンッ!!!!!」


それに対して、巨大な火炎で真っ向から立ち向かう。


千歌「ルカリオッ、頑張れぇぇぇッ!!」
 「グゥ、オォォォォッ!!!!!」


波導と“だいもんじ”がぶつかり合い、拮抗するが──


 「グゥ、ォォォォォ…!!」


ルカリオもさすがに体力の限界だったのか──次第に火炎が優勢になり。


千歌「くっ……!!」
 「グゥ、ォォォォッ…!!!!」


“だいもんじ”がルカリオを飲み込んだ。

業炎は千歌さんごと飲み込んだように見えたが──炎が晴れると、


 「グゥ、ォ…」
524 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:55:17.06 ID:VUrl28Mg0

戦闘不能になったルカリオの向こうで、


 「──バクフーーーンッ…!!!!」
千歌「……やっぱり、ここまで追い詰められちゃうか……」


業炎から主人を守るように、バクフーンが千歌さんの前に立っていた。





    👑    👑    👑





しずく「……これで、お互い……最後の1匹……」

かすみ「…………しず子、どうしよう…………かすみん、千歌先輩を応援しなくちゃいけないはずなのに…………せつ菜先輩は敵なのに……今、どっちにも負けて欲しくないって……思ってるかも……」

しずく「…………私も……」


胸が熱かった。

死力を尽くして戦う二人の姿を見ていたら、どうしようもなく、胸が熱かった。

胸が熱くて、ドキドキしていた。





    🎙    🎙    🎙





せつ菜・千歌「「“かえんほうしゃ”!!」」
 「ワォォォンッ!!!!」「バクフーーーンッ!!!!!」


2匹の“かえんほうしゃ”が真っ向からぶつかり、フィールドに炎を散らす。

ぶつかった、火炎の勢いは──


せつ菜「互角……!!」

千歌「なら……!!」


先に動いたのは、千歌さんだった。


千歌「“ふんか”!!」
 「バクフーーーーンッ!!!!!!」


バクフーンの背中から──爆炎が飛び出す。


せつ菜「ウインディ!!」
 「ワォンッ!!!」


私はウインディに飛び乗り、


せつ菜「“しんそく”!!」
 「ワォンッ!!!!!」


降ってくる火炎弾の中、ウインディが私を乗せて猛スピードで走り出す。

私は上を見上げ──落ちてくる火山弾の軌道を見ながら、ウインディのたてがみを引っ張り、避ける方向を伝える。


 「ワォンッ!!!!」
525 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:56:03.58 ID:VUrl28Mg0

ギリギリの軌道で炎弾を避け──最短ルートでバクフーンに肉薄し、


せつ菜「“インファイト”!!」
 「ワォンッ!!!!」


打撃を食らわせようとした瞬間、


千歌「“ふんえん”!!」
 「バクフーーーンッ!!!!」

せつ菜「ぐっ!?」
 「ワォンッ!!!」


バクフーンが背中をこちらに向けて、“ふんえん”を噴き出す。

全身が燃えるように熱かったけど──


せつ菜「今は……私の心の方がもっと熱い……!! “かえんほうしゃ”!!」
 「ワァォォォォンッ!!!!!!」


炎の中で、ウインディが炎を噴き出す。


千歌「くっ……!?」
 「バクフーーンッ…!!!」


“ふんえん”を押しのけて、火炎がバクフーンと千歌さんに襲い掛かり、


せつ菜「“フレアドライブ”ッ!!」
 「ワァォォォォンッ!!!!!!」


全身に炎を纏ったウインディが、自身の出した炎を突っ切りながら──バクフーンに突撃した、が、


 「バクフーンッ!!!!」


バクフーンはそれを両手で受け止める。


千歌「負けるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 「バク、フーーーーーーンッ!!!!!!!!!」


ウインディを受け止めながら、千歌さんに気合いの声に呼応するように、バクフーンの背中から気合いの炎が噴き出す。


千歌「“れんごく”ッ!!!」
 「バクフーーーーーーーンッ!!!!!!!!」


さらなる爆炎が、バクフーンの口から放たれる。


せつ菜「“だいふんげき”ッ!!!!」
 「ワァァァォォォォォンッ!!!!!!!」


ウインディも全身からありったけの業炎を放ち、お互いの炎がぶつかり合う。


せつ菜「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
 「ワァォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!」

千歌「燃えろおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
 「バクフーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!!」


お互いの爆炎が業炎が、ほのおのエネルギーぶつかり合い……膨張した熱が──爆発した。
526 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:56:37.00 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「ぐぅぅぅぅっ……!!?」
 「ワォンッ…!!!」

千歌「ぐぅぅぅぅぅっ……!!」
 「バクフーンッ…!!!」


お互いが爆風で吹き飛ばされる。


せつ菜「……ぐ、ぅぅぅ……ッ……!!! まだ……まだ、です……ッ……!!!」
 「ワォォォンッ…!!!!」


燃えるような熱さの中、立ち上がると──


千歌「はぁ……はぁ……ッ……!!」
 「バク、フーーーンッ…!!!!」


千歌さんも立ち上がっていた。

お互いの体力はもう限界。

恐らく次がお互い最後の技になるだろう。

だから、私は──


せつ菜「千歌さんッ!!!!」

千歌「……!?」

せつ菜「Z技を……使ってくださいッ!!!!」

千歌「……!!!」

せつ菜「あの技を超えないと──私は胸を張って、貴方に勝ったと言えないからッ!!!!」


最後だからこそ、手加減なしの全てとぶつかり合いたかった。

『特別』だとかそうじゃないとか、もうそんなことはどうでもよくて。

今はただ──全力の千歌さんとぶつかり合いたかった。


千歌「うんっ!! バクフーーーーンッ!!!! 行くよっ!!!!! 全力のZ技っ!!!!!」
 「バクフーーーーーーンッ!!!!!!!」


千歌さんの腕についたZリングが──燃えるような赤色の光を灯す。

そこから、エネルギーがバクフーンへと流れ込み──


 「バクフーーーーーーンッ!!!!!!!!!」


バクフーンから抑えきれないほどの炎熱のエネルギーを感じた。


千歌「行くよッ!!!!! せつ菜ちゃんッ!!!!!」

せつ菜「はいッ!!!!! 千歌さんッ!!!! 私は、今日、ここでッ!!!!! 貴方を超えますッ!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

千歌「“ダイナミックフルフレイム”ッ!!!!!!!」
 「バクフーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!」


バクフーンから──視界一杯を覆いつくすような業炎が──放たれた。



527 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:57:09.56 ID:VUrl28Mg0

    🎙    🎙    🎙





せつ菜「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!!!!!」


向かってくる大火球に向かって、ウインディが全身全霊の炎で迎え打つ。

とんでもない炎熱を肌で感じる。

だけど、


せつ菜「負けるかあああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!」


雄叫びをあげながら、立ち向かう。

──熱くて熱くてたまらない、苦しいはずなのに、今は、この瞬間が、この戦いが、終わって欲しくない。そんな気持ちでいっぱいだった。

そうだ。私が大好きなポケモンバトルはこれだったんだ。

ただ強い人と全力でぶつかり合って、胸が熱くなる。この瞬間が大好きだったんだ。

だから私は──ポケモンバトルが大好きだったんだ。

……ふと、思う。

私はいつから、この気持ち忘れてしまっていたのだろうか。

いつから勝ちにばかり拘るようになってしまったんだろうか。

いつから──選ばれることに拘るようになってしまったんだろうか。

本当は、『特別』だとかそんなこと、どうでもよくて──ただ、この楽しくて大好きな時間を、ずっとずっと味わっていたかった。ずっとこの中にいたかった。それだけのはずだったのに。

お父さんにポケモンを取り上げられそうになった瞬間、なくなってしまうと思った瞬間、怖くなってしまった。

だから私は、在り方ばかり考えて、ただ──結果だけを示そうとして。

でも違った。そうじゃなかったんだ。私の本当の気持ちは、強い自分を見せつけることなんかじゃない。実績を誇示して納得させることなんかじゃない。

ただ──私がポケモンを、ポケモンバトルを大好きだって気持ちを──伝えなくちゃいけなかったんだ。


せつ菜「……気付くのが遅いよ……私……っ……」


涙が零れて──炎の中で一瞬で蒸発する。

取り返しの付かないことをしてしまった。

大好きなポケモンで──人を傷つけてしまった。

許されないことを、してしまった。

これが終わったら……私はもう、ポケモントレーナーではいられない。

だから。きっとこれが最後だから──


せつ菜「全部の炎ッ!!!!!!! 出し切ってッ!!!!!! ウインディィィィィィィィィッ!!!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!」



528 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:58:38.61 ID:VUrl28Mg0

    👑    👑    👑





──なんでだろ。なんで……。


かすみ「なんで……かすみん……泣いてるの……っ……?」


せつ菜先輩と千歌先輩が全力でぶつかる姿を見ていると、胸が燃えるように熱くて、勝手に涙が溢れてくる。


しずく「私は……っ……わかる、気がするよ……っ……」

かすみ「え……」


しず子もポロポロと涙を流しながら、


しずく「だって、全力で何かをする人たちの姿は……っ、見ている人たちの心を──震わせるものだから……っ……」

かすみ「っ……!!」


そっか、今私の心は──震えてるんだ。

そう思ったら、居てもたっても居られなくて──


かすみ「せつ菜先輩ッ!!!! 千歌先輩ッ!!!!! どっちも頑張ってぇぇぇぇッ!!!!!」


かすみんは思わず叫ぶ。

ただ、全力で全てを懸けて戦う人たちに、自分の心の震えが少しでも届くようにと──


善子「……人とポケモンは、どうしてポケモンバトルなんてものをするのかしらね」

しずく「え……?」

善子「……歴史の中で、何度もポケモンを戦わせるのをやめさせようとしたことがあったらしいわ。戦いは野蛮だとか、ポケモンを傷つけるなとか、理由はいろいろあった。それでも……人もポケモンも……戦うことを、競い合うことをやめなかった」

しずく「………………」

善子「私たちは今……その答えを……見ているのかもしれないわね……」





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「あああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」


燃え盛る炎の中で、


 「ワォォォォォォォォンッ!!!!!!!!」


相棒と一緒に──生まれて初めて捕まえたポケモンと一緒に──ただ、心を燃やす。

529 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:59:36.30 ID:VUrl28Mg0

────────
──────
────
──


せつ菜「やっと……捕まえた……!」
 「ワン…」

せつ菜「私の……初めての……ポケモン……!!」
 「ワン…」

せつ菜「よろしくね、ガーディ!」
 「…ワンッ」


──ガブリ。


せつ菜「いったぁっ!!?」

真姫「……まさに飼い犬に手を噛まれるね」

せつ菜「うぅ……が、ガーディ……わ、私、君のトレーナーなんだよ……?」
 「ガルル…」

せつ菜「ま、真姫さぁん……」

真姫「ふふ、最初はそんなものよ。大丈夫、きっとすぐに仲良くなれるから」

せつ菜「ほ、ホントかなぁ……?」
 「ガルル…」


──
────


せつ菜「やったぁ♪ 勝ったよ、ガーディ♪」
 「ワンッ♪」


──ペロ。


せつ菜「きゃっ!? あはは♪ く、くすぐったいよ、ガーディ♪」


──
────


 「ワォォォォォンッ!!!!!」
せつ菜「これが……ウインディ……! ガーディの進化した……姿……!」

 「ワォンッ」
せつ菜「……うん。一緒にもっともっと強くなろう……。誰にも負けないくらい、強く、強く……!」

 「ワォォォォォォォンッ!!!!!」


──
────
──────
────────


せつ菜「私とウインディは……ッ!!!! 誰にも負けないッ!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!」


雄叫びをあげながら、業炎に立ち向かう──が、


せつ菜「ぐぅぅぅぅぅぅっ……!!!!」
 「ワォォォォォンッ…!!!!!!」


一向に勢いが弱まらない千歌さんたちの炎に次第に押され始める。
530 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:00:46.47 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「まだッ!!!! まだ、終わらせないッ!!!!!!!」
 「ワォォォンッ!!!!!!!!」

せつ菜「最後までッ!!!!! 諦めないッ!!!!!!」
 「ワォォォォォンッ!!!!!!!」

せつ菜「最後まで……諦めたくないッ!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォンッ!!!!!!!」





    👑    👑    👑





──せつ菜先輩側の炎が徐々に押され始めたのが、かすみんの目にもわかった。


かすみ「っ……!!! せつ菜せんぱぁぁぁぁぁいっ!!!!! 負けないでぇぇぇぇぇっ!!!!!!」

しずく「せつ菜さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!! まだ……まだ終わってないですよーーーっ!!!!!」


あの業炎の中、声が届くのかわからないけど──かすみんたちは叫ぶ。

ただ、真っすぐに戦う──先輩に向かって。

そのとき──


 「菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」


男の人が──菜々先輩の名前を呼んだ。


男性「負けるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」

女性「菜々ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!! 頑張ってぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」


その人と並んで、女の人が──菜々先輩の名前を叫んだ。

誰かはわからないけど──心の底から、菜々先輩のことを応援して叫んでいるのが、一目でわかった。





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「う、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
 「ワォォォォンッ…!!!!!!!!!」


目の前に迫る炎が大きくて、熱かった。

──ああ、これがチャンピオンの炎なんだ。

熱さに朦朧とする頭で、そう、思った。

いつか、届くかな。

いつか、この炎を超えられるかな。

……うぅん、いつか。超えよう。


 「ワ、ォォンッ……」
せつ菜「…………やっぱり、千歌さんは……強いなぁ……」


炎が私を飲み込もうとしている。

そのときだった──
531 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:01:32.51 ID:VUrl28Mg0

 『っ……!!! せつ菜せんぱぁぁぁぁぁいっ!!!!! 負けないでぇぇぇぇぇっ!!!!!!』

せつ菜「え……」

 『せつ菜さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!! まだ……まだ終わってないですよーーーっ!!!!!』

せつ菜「この……声……」


かすみさんと……しずくさんの……声……。


せつ菜「……っ……!!! ウインディッ!!!!!!」
 「ワォォォォォンッ!!!!!!!!!」


まだ終わってない。終わってない。終わりたくない……!!

──違う。そうじゃない、終わりたくない、じゃない。


せつ菜「私は……ッ!!!!!! 勝ちたいッ!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォンッ!!!!!!!!!」

 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』

せつ菜「……!!」


この声──


 『負けるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!』


せつ菜「おとう……さん……っ……」


お父さんの、声だった。

どうして今聞こえるのかわからないけど──お父さんが私を応援していた。


 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!! 頑張ってぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!』

せつ菜「おかあ……さん……っ……」


お母さんが私を応援していた。


 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! お前はこんなところで終わるのかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!! チャンピオンになるって言っただろうっ!!!!!!!!』

 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! 最後までっ、諦めないでぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!』


──お父さん、お母さん。


せつ菜「──うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!! ウインディィィィィィィィ!!!!!!!!!! “もえつきる”までぇぇぇぇぇ!!!!!! やきつくせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ウインディが──全身全霊の炎を、ぶつけた。



532 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:02:11.58 ID:VUrl28Mg0

    🎙    🎙    🎙





せつ菜「……………………はぁ…………はぁ…………」
 「ワォ、ン…ワォン…!!」

千歌「…………はぁ…………はぁ…………」
 「バク…フーーンッ…!!」

せつ菜「…………止め、ました……よ…………」

千歌「あ、はは…………すご、すぎ…………」

せつ菜「ウイン、ディ……」
 「ワォ…ン…ッ」


私はウインディと一緒に歩き出す。


せつ菜「決着をつけ……ましょう……」
 「ワォ、ン…」


もうすぐそこに──手を伸ばせば、チャンピオン、に──


 「ワォ…ン…」
せつ菜「………………」


ウインディが──崩れ落ちた。


せつ菜「………………負け……か……」


私は立ち尽くして、空を仰いだ。

私のポケモンは全て、戦闘不能になった。

この勝負は……私の負けだ。


千歌「……せつ菜ちゃん」


千歌さんがよろよろとした足取りで、目の前まで歩いてくる。

そして、


千歌「……さいっこうの……バトルだったよ……」


私を抱きしめた。
533 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:03:04.63 ID:VUrl28Mg0

千歌「また……やろうね……」

せつ菜「千歌……さん……。……でも、私は……もう……ダメですよ……」

千歌「そんなこと……ない……」

せつ菜「ダメ、なんです……私は……ポケモンを使って……人を、傷つけてしまった……もう、ポケモントレーナーを続ける資格なんて……私には……っ……」

千歌「…………せつ菜ちゃん。……ポケモンは好き?」

せつ菜「え?」

千歌「…………ポケモンバトルは、好き?」

せつ菜「………………はい」

千歌「なら……もうそれだけで十分だよ。……せつ菜ちゃんは……それだけで、ポケモントレーナーだよ……資格とか、そんなもの……必要ないよ……」

せつ菜「……千歌……さん……っ……」

 「──間違えたなら……またやり直せばいいわ」

せつ菜「……!」


声がして振り向くと──


真姫「……菜々」


真姫さんが居た。


せつ菜「真姫、さん……わ、私……」

真姫「いい。……今は、何も言わなくていいから」

せつ菜「…………真姫……さん……」

真姫「私よりも……ちゃんと話さないといけない人が来てるから」

せつ菜「え……」


その言葉を聞き──真姫さんの後ろを見ると、


菜々父「菜々……」

菜々母「菜々……」

せつ菜「お父さん……お母さん……」


お父さんとお母さんがいた。


せつ菜「あ…………わ、わたし……その……わた、し……おとうさんと、おかあさんに……迷惑……かけ……て……」

千歌「せつ菜ちゃん、そうじゃないよ」

せつ菜「え……」

真姫「今貴方が伝えなくちゃいけないことは……そういうことじゃないでしょ?」

せつ菜「………………はい」


私はお父さんとお母さんの前に歩み出て、二人の顔をしっかりと見る。


せつ菜「お父さん……お母さん……私──ポケモンが大好きなの。……ポケモンバトルが大好きなの。……危ないこともいっぱいある、うまく出来ないこともいっぱいある。だけど──大好きなの」

菜々母「……うん」

菜々父「……そうか」

せつ菜「だから、私がポケモントレーナーでいることを……許してください……! 私は大好きなものを諦めたくないから……! 大好きを諦めたら──私が私でいられなくなっちゃうから……! だから──」

菜々父「……じゃあ、いつかはチャンピオンにならないといけないな……」

せつ菜「え……」
534 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:04:04.37 ID:VUrl28Mg0

お父さんはそう言って、私の頭を一度だけ撫でた。

その後、背を向けて──


菜々父「……私は、ポケモンを好きにはなれないけどな……」


それだけ言うと、数人のガードの人と共に、お父さんは行ってしまった。


せつ菜「えっ……と……?」

菜々母「……ふふ、許してくれるって」

せつ菜「そ、そういうことで……いいの……?」

菜々母「お父さん……菜々にいろいろ言っちゃったから、素直に認めづらいみたいだけど……菜々のポケモンリーグのビデオ見てるとき、すっごく熱くなってたのよ?」

せつ菜「え?」

菜々母「判定に対して、『今のは合理的に考えて審判がおかしかった。やり直すべきだ』って」

せつ菜「お父さんが……?」

菜々母「そうよ。……菜々の試合を見てたらね……菜々がすごく真剣で、菜々は本当にこれが大好きなんだって……お父さんもお母さんも、わかったから」


そう言いながら、お母さんは私を抱きしめる。


菜々母「ごめんね、菜々……。私たち……貴方ともっともっとお話ししなくちゃいけなかった……。……遅いかもしれないけど……これからたくさん、菜々の大好きなもの、大切なもの……私たちに教えてくれないかな……?」

せつ菜「…………うん……っ……。私こそ……今まで……ちゃんと、言えなくて……ごめんなさい……っ……」

菜々母「うぅん……大丈夫よ」


お母さんは私を抱きしめながら、頭を撫でてくれた。


菜々母「それでね……。実は菜々……貴方に会いたいって人がいるの」

せつ菜「え……?」


そう言って、お母さんが私を離すと──その後ろに、その人が居た。


善子「──こうして……博士として会うのは……初めてかもしれないわね。せつ菜。……いいえ──菜々」

せつ菜「ヨハネ……博士……?」

善子「やっと、会えた……」


ヨハネ博士は私の目の前まで歩いてくる。


善子「手、出して」

せつ菜「え?」

善子「いいから」


私が手を出すと──


善子「これから頑張りなさい。……貴方は──このヨハネにとって、初めて旅に送り出すトレーナーなんだから」

せつ菜「……あ」


私の手の平に上に──真っ赤なポケモン図鑑と……モンスターボールが1つ、置かれていた。


善子「貴方のポケモン図鑑と──」


ヨハネ博士が私の手に乗せられたモンスターボールのボタンを押し込むと──
535 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:04:35.73 ID:VUrl28Mg0

 「──ベアーマ!!」


私の足元に、灰色の小さな熊のようなポケモンが姿を現した。


善子「貴方の最初のポケモン──ダクマよ」


その言葉を聞いて、


せつ菜「……ぁ……っ、……ぅぁぁっ……」
 「…ベァ?」


私は思わず図鑑とボールを持ったまま──両手で顔を覆って、膝を突いてしまう。


せつ菜「ぅっ……ぅぁぁぁっ……!!」


ポロポロと涙が溢れ出して……そんな私を──ヨハネ博士が抱きしめる。


善子「……あのとき、手を離しちゃって……ごめんね……。……でも、もう大丈夫だから……貴方は、私の大切なリトルデーモンよ……」

せつ菜「う、ぁ、ぁぁぁっ……ぅぁぁぁぁぁぁん……っ……うぁぁぁぁぁぁ……っ……」
 「ベァ?」


私は小さな子供のように、声をあげて泣きじゃくる。

こうして私は……長い長い戦いの果てで、やっと── 一人のポケモントレーナーとして、始まることが出来たのだった。

本当に……本当に……長い……長い……道の果てで──



536 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:05:08.19 ID:VUrl28Mg0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.5 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.81 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.79 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.82 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:10匹 捕まえた数:9匹


 せつ菜は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



537 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:01:28.94 ID:Sh64zN700

 ■Intermission✨



果南「“アクアテール”!!」
 「ラァグッ!!!!」

愛「……よっと!」


愛がラグラージの振るう尻尾を、後ろに飛び退きながら避けると、


 「リシャンッ!!!!」


愛の陰から、リーシャンが飛び出してくる。


愛「“しねんのずつき”!」
 「リシャンッ!!!!」

 「ラグッ!!!?」


的確にラグラージの顎下を突き上げるように、リーシャンが体をぶつける。


果南「く……っ!! “アームハンマー”!」
 「ラァグッ!!!」


ラグラージはすぐに顎を引き、目の前にいるリーシャンに向かって拳を振り下ろすが、


愛「“ねんりき”♪」
 「リシャンッ」


リーシャンの周囲に力場が発生して、ラグラージの腕を弾く。


鞠莉「ね、ねぇ……ま、まずくない……?」

ダイヤ「果南さんが……リーシャン1匹に押されてる……!?」

鞠莉「わたしたちも加勢に入った方が……!」


一旦ゲートを閉じてでも、愛の撃退をするべきかと思ったけど、


果南「ダメっ!! 二人はゲート維持に集中して!!」


果南は私たちの加勢を拒否する。


ダイヤ「ですが……!」

愛「そーだよー。加勢してもらった方がいいんじゃない〜?」


愛がケラケラと笑いながら果南を挑発する。


果南「相手の狙いはゲートでしょ!? こんなんで、ゲート閉じてたら、それこそ思うツボだって!!」

愛「へー押されてる割に冷静じゃん」

果南「そもそも私は、二人のゲート維持を邪魔させないためにいるんだ……! ラグラージ、メガシンカ!!」
 「ラァグッ!!!!」


ラグラージが光に包まれ、メガラグラージへと姿を変え、腕の噴出口から空気を逆噴射しながら、ラグラージが急加速する。


果南「“たきのぼり”!!」
 「ラァァァァグッ!!!!!!」
538 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:02:18.75 ID:Sh64zN700

ラグラージがリーシャンに向かって、滝すら登れるような、ものすごいスピードで飛び出す。

が、


愛「じゃ、こういうのはどう?」


愛はそう言いながら、リーシャンを胸に抱え込み──自らラグラージに向かって走り込んでくる。

そして、そのまま──スライディングをするように、突撃してくるラグラージの足元を潜り込んで、


愛「“ハイパーボイス”!」
 「リシャァァァーーーーンッ!!!!!!」

 「ラグッ…!!!?」


ラグラージの真下から、真上に指向性を向けた“ハイパーボイス”によって、ラグラージの体が宙を浮く。


果南「なっ……!?」


そして、滑り抜けた愛の手には、


 「──ルリッ!!!」

果南「ルリリ……!?」

愛「“たたきつける”!!」
 「ルリッ!!!」


愛はルリリの胴体を右手で掴み、自身の腕を横薙ぎに振りながら──その勢いをプラスしたルリリの尻尾が果南の脇腹辺りに飛んでいく。


果南「がっ……!?」


果南は咄嗟に腕でガードしたけど──その勢いに負けて吹っ飛ばされた。


鞠莉「果南っ!?」
ダイヤ「果南さんっ!?」

愛「……ダメだよ、これはただのバトルじゃなくて、戦争なんだからさ〜」


愛がそう言い放つのと同時に、


 「ラグゥッ…!!!?」


先ほど真上に飛ばされたラグラージが、落下してくる。


果南「ぐっ……! ぅ……っ……」

愛「って、マジ!? あれ直撃したのに、すぐ立つんだ!」

果南「鍛えてるからね……」


果南が腕を押さえながら立ち上がると同時に、


 「ラァァァァグッ!!!!」


ラグラージが大きな腕を振りかぶって、愛に飛び掛かる。が、


愛「“ねんりき”」
 「リシャンッ!!」


その拳との間に飛び出したリーシャンが──また力場でラグラージの拳を弾く。
539 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:02:52.63 ID:Sh64zN700

 「ラグッ…!!!」


腕をかち上げられて、隙が出来たところに、


愛「ほら、“プレゼント”だよ」
 「ルーリィ〜」


ルリリが“あわ”を吐き出し──それは、ラグラージの顔の目の前で大爆発した。


 「ラ、グ…ッ!!!」


至近距離で爆弾の爆発を受けたラグラージは、そのまま白目を向いてひっくり返る。


果南「ラグラージ……!! く……ギャラドス!!」
 「──ギシャァァァ!!!!」


果南はすぐに倒れたラグラージの代わりに、ギャラドスを繰り出した。


ダイヤ「……鞠莉さんっ!!」


わたしの名前を呼びながら、ダイヤが“こんごうだま”を投げ渡してくる。


ダイヤ「ディアルガの制御、お願いします!!」

鞠莉「え!?」


そう言いながら、ダイヤは、


ダイヤ「ハガネール!!」
 「──ガネェェェェルッ!!!!!」

ダイヤ「メガシンカ!!」


ハガネールをメガシンカさせる。


ダイヤ「“アイアンヘッド”!!」
 「ンネェェェェーーーールッ!!!!!」


メガハガネールは全身を回転させながら、愛に向かって突っ込んでいく。

それに対して愛は、


愛「リーシャン」
 「リシャンッ」


リーシャンを左手で掴んで、ジャンプしながらリーシャンを下に向けると──空気に弾かれるように上空に向かってジャンプする。


ダイヤ「なっ……!?」


突然予想外の大ジャンプをされ、ハガネールの攻撃が相手のいない地面に突き刺さる。

愛は、そのままハガネールの上に着地し、


愛「あらよっと……!」


そのまま、ハガネールの体の上を走りだす。

そして、右手に掴んだルリリをブンと振ると──伸びた尻尾が猛スピードでダイヤの側頭部に迫る。
540 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:04:38.55 ID:Sh64zN700

ダイヤ「……!?」

果南「ギャラドス!! “アクアテール”!!」
 「ギシャァァァァァッ!!!!」


ダイヤに向かって迫るルリリの尻尾に合わせるように、ギャラドスが尻尾を振るって弾き返す──が、


 「ギシャァァッ…!!!」


ギャラドスの尻尾も振りかぶり切れずに弾かれ、ダイヤのすぐ真横の地面に叩きつけられる。


ダイヤ「く……っ……!?」

果南「ダイヤ、無事!?」

ダイヤ「は、はい……!!」

愛「へー、やるじゃん」


ハガネールの上でステップを踏む愛だが──


 「ンネェェェーールッ!!!」

愛「おろ?」


ハガネールが勢いよく尻尾を振り上げて、愛を上空にぶん投げる。

そのまま、


 「ンネェェェェェルッ!!!!!」


大きな顎を開きながら──愛に向かって、頭から突撃していく。


ダイヤ「“かみくだく”!!」
 「ンネェェェェルッ!!!!!」


空中で無防備な愛に、大顎がバクンと噛みついた──ように見えたが、


 「ン、ネェェェェル…!!!」

愛「ふー、危ない危ない……」

ダイヤ「嘘……でしょ……っ!?」


ハガネールの口の中で、リーシャンが発生させた球状の力場がハガネールの大きな顎を無理やり押し開いていた。

愛を守る力場の球はハガネールが口を閉じようとする勢いを利用して──スポンと上に飛び出し、


愛「ルリリ!! かますよ!!」
 「ルリッ!!!」


空中に飛び出した反動を利用して、ルリリを振りかぶった。


愛「“アイアンテール”!!」
 「ルーーリィッ!!!!」


遠心力を使って伸ばされたルリリの尻尾が、


 「ンネェェェーーールッ!!!!!?」


ハガネールの頭を真上から殴りつけ──


ダイヤ「……!?」
541 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:05:23.49 ID:Sh64zN700

その衝撃を受けハガネールが白目を向いたまま──ダイヤに向かって、猛スピードで倒れ込んできた。

ハガネールの巨体はダイヤを巻き込み、その重量で大地を割り砕く。


果南「ダイヤッ!!?」

鞠莉「ダイヤッ!!!」


果南がダイヤに向かって駆けだす。

ダイヤは──


ダイヤ「…………」


押しつぶされこそしなかったものの、ハガネールが割り砕いた大地に巻き込まれ──全身のあちこちから出血しながら、気を失っていた。


愛「重量級のポケモンを使うと、こういうリスクがあるんだよねー」

果南「ダイヤッ……!!!」


果南がダイヤを瓦礫の中から救出しようとした瞬間──


愛「“ハイパーボイス”!!」
 「リシャァァァァァーーーーンッ!!!!!」

鞠莉「果南っ!! 避けてっ!?」


駆け寄る果南に向かって、“ハイパーボイス”が迫る。


果南「“アクアテール”!!」
 「ギシャァァァァッ!!!!」


それに対抗するように、ギャラドスが尻尾を音を超える速度で縦薙ぎにし──音波攻撃自体を吹き飛ばす。


愛「うぉっ!? マジ!?」


愛もさすがにそんな方法で“ハイパーボイス”を防がれると思っていなかったのか、驚きの声をあげる。


果南「ダイヤ……!!」


ギャラドスが攻撃を防ぎ、その間に果南がダイヤを瓦礫の中から抱き上げる。


ダイヤ「……か、な……ん…………さ……」

果南「喋らなくていい……! とにかく治療を──」

 「──ギシャァァァッ!!!?」

果南「!?」


ギャラドスの鳴き声に驚き果南が視線をギャラドスに戻すと──ギャラドスの首に、ルリリの伸ばした尻尾が巻き付いていた。


愛「……よそ見してるなんて余裕だね〜」
 「ルリッ」


その巻き付けた尻尾を戻す勢いに引っ張られるように愛がギャラドスの頭部に向かって飛び出し──


愛「リーシャン、行くよ!」
 「リシャァンッ」


左手に持ったリーシャンが発生させた力場を、まるで拳のようにして──
542 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:06:30.44 ID:Sh64zN700

 「ギシャァァァァッ…!!?」


ギャラドスの顔面を殴りつけた。


果南「ギャラドス!?」


ギャラドスの巨体が、いとも簡単に吹っ飛ばされる。


果南「っ……!」


果南がすぐ様、次のボールに手を伸ばした瞬間──果南の周囲に、大量のサイコキューブが出現する。


果南「……!?」

愛「“サイコショック”」
 「リシャンッ」

果南「ダイヤッ!!!」


果南は咄嗟にダイヤを庇うようにして、その場に伏せって覆いかぶさる。

直後、サイコキューブが弾丸のように、果南の背中に降り注ぎ──


鞠莉「果南っ!!?」

果南「……ぁ……ぐ……っ……。……く、そ…………ッ……」


果南はその場に崩れ落ちた。


愛「よし、いっちょあがり」

鞠莉「うそ……」


果南とダイヤが負けた……?

元チャンピオンと四天王よ……?


愛「さーて……あと一人」

鞠莉「……っ」


愛がこちらに視線を向けてくる。

どうする……。

わたしもバトルが苦手なわけじゃないけど、さすがに果南やダイヤほどの実力はない。

その二人をここまで圧倒した相手に、わたし一人で勝つのは難しい──いや、ほぼ無理だ。


鞠莉「……ロトム」
 「ロ、ロト…」

鞠莉「わたしの図鑑に」
 「──マ、マリー…」


ボールから出したロトムをわたしの図鑑に入れさせる。


鞠莉「わかるわね」
 「ロト…!!!」


ロトムはわたしの言葉に頷くと──ゲートの中に入っていった。

それを確認して、わたしは愛に向き直る。
543 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:07:02.43 ID:Sh64zN700

鞠莉「……あなたの目的は何? ゲートの破壊?」

愛「まあ、それも悪くないんだけどね。アタシの目的は──その子たちだよ」


そう言って指差したのは──ゲートの前にいるディアルガたち。


愛「大人しく渡してくれれば、アタシも手荒なことしなくて済むんだけどな」

鞠莉「……」


さっき善子から聞いたゲートの通過時間を考えれば……そろそろ、ロトムはゲートの向こうに抜けたはず……。


鞠莉「……ディアルガ!! パルキア!!」
 「ディアガァァァァッ!!!」「バアァァァァルッ!!!!!」


“こんごうだま”と“しらたま”を使って、ディアルガとパルキアに“テレパシー”を飛ばし、ゲートを閉じさせる。


愛「……はぁ、やるってことね」


どこまで出来るかはわからない……。だけどこのまま、はいわかりましたと、ディアルガやパルキアを渡すわけにはいかない。

わたしが戦闘態勢に入ると同時に──


 「──ギシャラァァァァァッ!!!!!!」


ギラティナが“シャドーダイブ”で愛に向かって突っ込んでいく。


愛「……ま、いいや」
 「リシャンッ!!」


愛がそう言いながら手に持ったリーシャンをギラティナに突き付けると、


 「ギシャラァァァァ…!!!!」


ギラティナもリーシャンの作り出したサイコパワーの力場で、押し返される。


愛「3匹まとめて相手してあげるよ」

鞠莉「行くわよ!! ディアルガ!! パルキア!! ギラティナ!!」
 「ディァガァァァァァ!!!!!!」「バァァァァァァルッ!!!!!!」「ギシャラァァァァァァァッ!!!!!」


3匹の伝説のポケモンの鳴き声が、やぶれた世界に轟いた。


………………
…………
……


544 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:16:45.81 ID:Sh64zN700

■Chapter067 『果林』 【SIDE Emma】





姫乃ちゃんとの戦いを終えて……。


彼方「いったたたたっ!!」

遥「うーん……肋骨……かなり折れてるね……。よくこれで肺に刺さらなかったね……」

彼方「お、お姉ちゃん……運、いいからね〜……」

遥「でもあんまり激しく動いちゃダメだよ? これから刺さるかもしれないし……」

彼方「善処しま〜す……」


今は戦闘後の治療の真っ最中。

そんな中わたしは、どうしても彼方ちゃんに聞きたいことがあった。


エマ「ねぇ、彼方ちゃん」

彼方「ん〜? な〜に〜?」

エマ「……彼方ちゃんって、果林ちゃんと一緒の孤児院で育ったって……さっき言ってたよね……?」

彼方「ああうん。……そうだね……」

エマ「……あのね、わたし姫乃ちゃんに言われてハッとしたの……。……わたし、果林ちゃんのこと……本当は何も知らないんじゃないかって……それで、説得しに来たなんて言っても……お前に何がわかるんだ〜って言われちゃって当然なのかなって……」


わたしが勝手に、果林ちゃんのことをわかった気になっていただけな気がしてならない。

もちろん、だからといって今の果林ちゃんを放っておけないという気持ちは本当だけど……。


エマ「ねぇ、彼方ちゃん……果林ちゃんが自分の住んでた世界にいたとき……どんな子だったか……教えてくれないかな……?」

彼方「…………結構辛い話になると思うけど、それでもいい?」


彼方ちゃんがそう確認を取ってくる。


エマ「うん……。むしろ、果林ちゃんの辛い気持ちに寄り添ってあげたいから……教えて」


わたしの言葉を聞くと、彼方ちゃんは頷いた。


彼方「……わかった。…………そうだなぁ……あれは……果林ちゃんが“虹の家”に来たときだから……もう、7年も前になるのかな……」


彼方ちゃんはそう前置いて、話し始めた。





    👠    👠    👠





──崖下で陽炎に揺れ燃える大地の中で、侑と歩夢が私と戦うために身構えていた。

しずくちゃんには……まんまとやられてしまった。まさかあんな形で裏切られるなんて……噫、私はいつもこうだ。

璃奈ちゃんも彼方も……みんな……私の傍から離れて行ってしまう。

愛も……本当に仲間と呼べた頃が、もう記憶の遥か遠くで……。今は何をしたいのかがよくわからない。

きっと……私の味方は……本当は最初から誰もいなかった……。全てがめちゃくちゃになった……あの、厄災の夜から──

545 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:17:17.49 ID:Sh64zN700

────────
──────
────
──


 「──大丈夫……!? しっかりして……!?」

果林「ん……ぅ……」


大きな声で呼びかけられ、目を開けると──見知らぬ女の人が居た。救助隊の格好をしているから……救助隊なのだろう。


女の人「……! 息がある……! 人工呼吸器回して!!」


人工呼吸器を口に当てられる。


女の人「あなただけでも……助かってよかった……」

果林「…………」


私が揺れる船の窓から、外に目を向けると──真っ暗な夜の闇の中……私の故郷の島が……今まさに……海に飲み込まれているところだった……。





    👠    👠    👠





あの夜──所謂“闇の落日”と呼ばれるあの日のことは、今でも忘れられない。

本当にそれは唐突で……急に大きな地震が起こったかと思ったら、大地が裂け、家が崩れて飲み込まれた。

命からがら脱出し、家族と逃げ惑う中、崩れた大地からは瘴気が噴き出し、それを吸い込んだご近所さんが喀血して、倒れた。

私たちは必死に逃げた。道中で、大地の崩落に友達が巻き込まれるのを見た。

「助けないと」と泣き叫ぶ私を、両親が無理やり引き摺るようにして、島の高台へと逃げ──その道中、砕ける岩の崩落にお父さんが巻き込まれて、瓦礫と共に消えていった。

島の高台にたどり着けたのは……私とお母さんと──


 「コーン…」


小さい頃から大切にしていた、ロコンしかいなかった。

高台に逃げても……どんどん水位が上がってきて……瘴気の影響もあって、私の意識は朦朧としていた。

そんなとき──救いの手とも言える、ヘリのライトが私たちを照らした。

朦朧とする意識の中──「果林! しっかりして!!」──母が私を押し上げ、ヘリの救助隊の人がやっとの思いで私をヘリに引っ張りこんだ直後──

お母さんとロコンは──高台ごと……海に飲み込まれた。一瞬だった。

私の意識は、そこで途絶え──次に目を覚ましたときには……船の上から……遠方で大きな渦潮に飲み込まれるように、私が生まれ育った故郷が沈む姿を眺めていたのだった。





    👠    👠    👠





院長「──今日からここが貴方のお家よ」

果林「…………ありがとう、ございます……」
546 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:17:48.58 ID:Sh64zN700

保護された私は、あの“闇の落日”の中でも残った大きな都市国家の一つである──プリズムステイツの郊外にある“虹の家”という孤児院に送られた。

当時15歳。

もう分別のわかる歳だった。だから……どうしようもないことが起こったんだと理解出来た。だけど……だからこそ、辛かった。

何もわからないくらい……小さな子供だったらよかったのにと、何度も思った。


院長「果林ちゃん15歳よね? 実はわたしの上の娘も同い年なのよ。かなちゃーん?」

 「なーにー?」


気の抜けるような声で返事をしながら、院長先生とよく似た髪色の女の子がとてとてと歩いてきた。


院長「この子、果林ちゃん。今日から、一緒に住むことになる子よ」

彼方「あーうん、言ってた子だよね〜。彼方ちゃんはね〜彼方って言うの〜。よろしくね〜」

果林「……よろしく」


これが──私と彼方の初めての出会いだった。





    👠    👠    👠





“虹の家”には私を含め、10人の子供と……院長先生の娘である彼方と遥ちゃんの計13人が一緒に暮らしていた。

大きな孤児院ではなかったけど、院長先生は率先して“闇の落日”で身寄りを失った子供を受け入れていたそうだ──もちろん、それでも孤児の数が多すぎるため、こうして受け入れてもらえただけでも、運がよかったと言える。

ここにはおおよそ10歳くらいの子が多く、私と彼方はその中でも最年長だったけど……私はあまり年下の子と上手に接する自信がなかったため、一人で過ごしていることが多かった。

もちろん、邪険に扱っていたわけではないから、嫌われたり、怖がられていたということはなかったけど……。

一方で彼方は……なんだか掴みどころのない子だった。

孤児院内で率先して家事を手伝っていたり、他の子たちの御守りも率先してやっていたとかと思えば……暇が出来ると、


彼方「…………むにゃむにゃ……」
 「……メェ……zzz」


ウールーと一緒に日の高いうちからお昼寝していたり……忙しないのか、のんびりしているのか、よくわからない子だった。

わかりやすいことと言えば……とにかく妹の遥ちゃんが大好きだということだろうか。

そして、一番わからなかったのは──


果林「……」


“虹の家”の近くの岬に……簡易的に建立された──沈んだ私の故郷の慰霊碑があった。

慰霊碑と言っても……本当に簡易的なもので、見た目はただの大きめの石。……これが慰霊碑であると言われなければ誰にもわからない。そんな代物だった。

私はこの慰霊碑に手を合わせるのが日課だった。

そして両手を合わせて目を開けると、決まって──


彼方「……」
 「メェ〜〜」


いつの間にか隣で、彼方も両手を合わせていた。仲良しのウールーと一緒に。


果林「……」
547 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:18:26.53 ID:Sh64zN700

私が無言で慰霊碑を後にすると──彼方も特に何も言わずに、孤児院へと戻っていった。それが毎日。

私は特別進んで彼方とコミュニケーションを取っていたわけではなかったけど……この時間は何故か、彼方と二人で過ごす時間だった。

私が慰霊碑を訪ねると、本当に毎日、律義なことに……気付けば彼方が隣に居る。さすがに気になって、ある日──


果林「…………ねぇ、彼方」


私は彼方に声を掛けてみた。


彼方「ん〜?」
 「メェ〜〜」

果林「院長先生に何か聞いたの?」


さすがに院長先生は、私の島のことは知っているけど……何も知らない彼方が、こうして手を合わせてくれる理由がよくわからなかった。

だから私は、てっきり院長先生が何かを言ったのかと思っていたんだけど……。


彼方「うぅん、特に何か聞いたわけじゃないよ〜? まあ……毎日手を合わせてるのを見たら……なんとなく、わかるし……」
 「メェ〜〜」

果林「……まあ、言われてみればそれもそうね……」


孤児院に居る人間が毎日欠かさず手を合わせている石を見たら……なんとなく、わかるか。


果林「……見ず知らずの人たちの慰霊碑に、毎日手を合わせに来るのは、大変じゃない?」

彼方「うーん……それは特に考えたことなかったな〜。もしかして、迷惑だった?」
 「メェ〜〜」

果林「迷惑なんてことはないけど……不思議だと思ったから」

彼方「彼方ちゃんは関係ない人なのに、どうしてこんなことしてるんだろうってこと?」

果林「まあ……そんな感じ」

彼方「う〜ん……それは……果林ちゃんがいっつも一人で行動したがるからかな」

果林「……どういうこと?」

彼方「果林ちゃんが……新しい場所でずっと一人だったら……心配しちゃうかなって思って……」


そう言いながら、彼方は慰霊碑を見つめる。


果林「彼方……」

彼方「あ、もちろんみんなで行動しろって意味じゃないよ〜? 一人が好きな人もいるからね〜。だから、こうしてご家族に報告するときだけでも……彼方ちゃんが隣にいるのを見れば、安心してくれるかなって……」


それは彼方なりの優しさだった。……見ず知らずの私の家族が、今の私を見て心配しないようにと……。


果林「……ありがとう……。……私の家族もきっと……安心してると思うわ……」

彼方「ならよかった〜。じゃ、戻ろっか〜」


私がお礼を言うと、彼方はニコっと笑う。優しい笑顔だった。


果林「…………聞かないの?」

彼方「ん〜果林ちゃんが言いたいなら」


彼方は不思議な子だった。

寄り添っているように見えて、自分からは踏み込んでこない。

それは彼女が人を優しく慮っているからこそ出来ることで……見ず知らずの私を家族として扱ってくれているからに他ならなかった。

だからだろうか……私を家族と思ってくれる人にくらいは……言ってもいいのかな、と……。
548 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:19:07.49 ID:Sh64zN700

果林「…………平和な島だった。あの日まで……」

彼方「うん」

果林「…………もちろん世界がどうなってるかは知ってるし……いつか起こるかもしれないとは、みんな思っていたけど……急だった。つい数時間前まで話してた島の人たちが、友達が……家族が、ポケモンが……みんな……私の目の前で、死んでいった……」

彼方「……うん」

果林「……全部……飲み込まれて……なくなっちゃった……。……もう、私の住んでた故郷は……影も形も……残ってないんだって……。残ってるのは……たまたまポケットに紛れ込んでた、この小石くらいかな……」


そう言って……彼方に小石を見せる。

逃げ惑っている際に紛れ込んでしまっただけだろうけど……今となっては、これ以外にあの島にあったものは何も残っていなかった。


彼方「……」
 「メェ〜〜」


そんな私を見て……彼方は無言で私を抱き寄せ──頭を撫でてくれた。


果林「大切な人が……場所が……なくなるのは……悲しい……。…………もう誰にも……こんな想い……して欲しくない……」

彼方「……うん」


もし、こんなどうしようもない世界を救う方法があるのだとしたら……私は迷わずにそれを選ぶのに。

あまりに無力な自分が……虚しくて……悲しかった。





    👠    👠    👠





孤児院に来て数ヶ月経った頃、私はプリズムステイツにある、警備隊へと入隊することを決めた。

プリズムステイツはいろんな場所から、いろんな種類の人間が故郷を追われ生活している場所だから……なんというか、あまり治安がいい場所ではなかった。

それ故に、警備隊での仕事は決して安全なものではないし……だからこそ、稼ぎも相応によかった。

それに孤児院経営も決して裕福な環境で行っているわけではないのは、近くで見ていればわかったし……少しでも、私を拾ってくれた院長先生への恩を返したい気持ちもあった。

そして、何より──


彼方「それじゃ〜、今日も頑張ろうね〜」


彼方が私と同じような考えで、この警備隊へ入ろうとしていることを聞いたから、一緒に入隊した。

──入隊すると、戦闘用のポケモンが支給された。そのときに彼方はネッコアラを貰い……なんの因果か、私に支給されたポケモンは、


 「コーーン」


故郷で失った家族と同じ種類のポケモン──ロコンだった。

自分で言うのもなんだけど、ありがたいことに私にはポケモンで戦うセンスがあった。

そしてそれは彼方も……。

私たちはあっという間に、警備隊の中でもトップクラスの強さへと伸し上がり──ものの半年で私は率先して前に出る攻撃部隊の隊長に、彼方は救護や防衛を主とする防御部隊の隊長になっていた。

ただ……それは決して、楽でもなければ、楽しいものでもなかった。
549 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:27:10.65 ID:Sh64zN700

果林「キュウコン、“ひのこ”!!」
 「コーーーンッ!!!」

男「あ、あちぃっ……!?」

果林「さぁ……盗ったもの……返しなさい。返さないなら……痛い目に合わさないといけないの……だから……」

男「か、勘弁してくれ……家族を食わせるためなんだ……」

果林「…………キュウコン、やりなさい」
 「コーンッ」


──窃盗は特に多かった。

土地が減れば、資源も食糧も乏しくなる。いつも誰かが誰かの住処と食糧と──命を奪い合っているような世界。

そして……私も、その一部だ……。


果林「…………」

彼方「……あの人……しばらく投獄されるって。常習犯だったから……お手柄だって、上の人が言ってたよ……」

果林「…………」

彼方「……果林ちゃん……」

果林「…………あの人の家族は……きっと、飢えて死ぬ……。……私が……殺したようなものだわ……」


私は寮のベッドの中で横になり、丸くなって、頭を抱える。

そんな私を見て──彼方はベッドに腰かけ、私の頭を撫でる。


彼方「果林ちゃん……果林ちゃんが辛いなら、彼方ちゃんと同じ防御部隊に回してもらうようにお願いしない……? 彼方ちゃんもお願いするから……」

果林「…………いい。……今は……一人にして……」

彼方「果林ちゃん……。……わかった。……あとでご飯持ってくるから、一緒に食べようね」


──きっとこれは私の役割だ。そう思っていた。

だから、上の人間には、彼方は防御部隊の隊長が適任であると、何度も伝えていた。

そして……私が攻撃部隊として……全てを排除すれば、彼女が辛い戦いをすることも減る……そう考えて、戦い続けた。

彼方には……誰かから奪うなんて似合わないから。





    👠    👠    👠





──警備隊に入って1年ほど経ったある日、


果林「政府主導の研究機関に統合される……?」

彼方「うん、そうらしいよ〜」


二人で食事をしているときに、彼方からそんな話を聞かされた。
550 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:27:45.33 ID:Sh64zN700

彼方「まだ、噂話を聞いただけだから……実際どういう感じになるのかはわからないけど〜……」
 「メェ〜〜」

彼方「はいはい、ご飯ね〜」
 「メェ〜」

果林「研究……聞いただけで、鳥肌立ちそう……」

彼方「あはは〜、果林ちゃんお勉強は苦手だもんね〜」

果林「……別にいいでしょ。……それにしても、なんでまた……」

彼方「なんでも、すご〜い研究者の人が、すご〜い発見をしたらしくってね〜」

果林「ふーん……そのすご〜い研究者のすご〜い発見ってなんなの……?」


私は話半分に聞いていたけど──


彼方「……世界を救う方法が、見つかるかもしれないんだって〜」

果林「え……?」


私は彼方の言葉を聞いて、目を見開いた。


果林「ホントなの……?」

彼方「なんかね、どうして世界がこんなになっちゃったのか……突き止められたかもしれないって〜。それをすご〜い研究者の人たちが見つけたみたいなの」

果林「も、もっと詳しく……!!」

彼方「あわわ……急に食いつきよくなった……。……でも、彼方ちゃんが知ってるのはここまで〜……噂話だから、どこまで本当なのかはよくわからないし……」

果林「なんだ……」

彼方「結局は実際に統合されてからじゃないとだね〜……。あ、ただ……」

果林「ただ……?」

彼方「噂によると……そのすご〜い研究者さんたちは15歳と14歳の女の子二人組らしいよ〜」

果林「……15歳と14歳って……」


どっちも私たちより年下じゃない……。





    👠    👠    👠





──実際に噂どおり、私たちプリズムステイツ警備隊は、政府主導でプリズムステイツの研究機関の実行部隊へと組み込まれることになった。

そして私と彼方は……警備隊での実績もあったため、その実行部隊の隊長、副隊長へと任命された。


彼方「か、かかか、果林ちゃん……!! この契約書見て……! お給料……すごいよ……!!」

果林「さすが政府の抱える実行部隊の隊長ね……」


──ここに来るまでに、なんとなくの説明は受けた。

確かに彼方の言うとおり、今この世界がどうしてこんなことになってしまったのか……それを突き止めた天才科学者が居たらしく、プリズムステイツでもトップクラスの戦闘能力を持つ私たちには、何かと発生する荒事を任せたいとのことだった。

その際、今この世界に何が起こっているのかも簡単に聞いたけど……正直何を言っているのかちんぷんかんぷんだった。エネルギーが世界から流出するのがどうたらとか……。

まあ、わかっていなかったのは私だけじゃなくて、彼方も同じような感じだったので、私の理解力が特別低いわけではない。……はず。

そして今日は、実際にその天才科学者二人と顔合わせするということで、早めに着いた私たちは研究所の応接室に通され待っているところだ。

今後は私たちとその二人の科学者さん、合わせて4人で連携を取っていくことになる。
551 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:30:40.44 ID:Sh64zN700

彼方「研究者さん、どんな子たちなんだろーねー?」
 「メェ〜」

果林「正直……気が進まないわ……」

彼方「そうなの〜?」
 「メェ〜」


彼方が膝の上のウールーを撫でながら、のんきな声で訊ねてくる。


果林「科学者って、きっと眼鏡掛けて白衣を着たお堅い形の子たちってことでしょ……? いかにも勉強の話ばっかりしてる感じの……」

彼方「偏見すごいね〜……。失礼だから、本人たちにそんなこと言っちゃダメだよ〜?」
 「メェ〜」

果林「言わないわよ……」


とはいえ、うまくやっていける気がしない……。

もちろん、世界を救うためと言うなら協力するのは吝かではない。むしろ望むところだ。

ただ……理論の話とかは聞きたくない。絶対にその日一日、頭痛に悩まされるハメになること請け合いだ。


彼方「まあ、嫌だったら果林ちゃんは横でおすまし顔しててくれればいいから〜。果林ちゃん綺麗だから、座ってるだけでも絵になるし〜」

果林「……場合によってはそうするかも……」

彼方「まあ、気楽に行こ〜。そろそろ時間かな〜?」


彼方の言うとおり、応接室内の壁掛け時計を見ると、そろそろ時間になろうとしていた。

そして──扉が開いた。


研究者1「お、もう着いてたんだね。待たせちゃったみたいで、ごめんね!」

研究者2「は、初めまして……」


そう言いながら応接室内に女の子が二人入ってくる。

私はその容姿で、すでに面食らってしまった。

一人は明るめの金髪をポニーテールに縛っている活発そうな女の子だった。

もう一人は外巻きカールのセミロングヘアをした小動物のような印象を受ける女の子。

この子たちが……噂の天才科学者たちなの……? イメージどおりなのは、白衣を着ていることくらいだった。

私と彼方は席から立ち上がる。


果林「この度、プリズムステイツ警備隊から統合される形で配属されました、アサカ・果林です」

彼方「同じく、コノエ・彼方です〜」

研究者1「あ、いいっていいって、これから一緒にやってく仲間なんだし、そういう堅苦しいのは無しで! 歳も近いらしいしさ! もっとフランクな感じでいーよ!」

果林「は、はぁ……」

愛「あっと……名乗ってなかったね。アタシはミヤシタ・愛! んで、この子はりなりー!」

璃奈「えっと……て、テンノウジ・璃奈です……」
 「ニャァ〜」

璃奈「この子は……お友達のニャスパー……です……」


璃奈ちゃんは腕に小さな猫ポケモンのニャスパーを抱いていて、その子も一緒に紹介してくれる。
552 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:31:12.72 ID:Sh64zN700

果林「……えっと……それじゃ、ミヤシタさんとテンノウジさん……」

愛「愛でいーよ! りなりーもファーストネームでいいよね?」

璃奈「うん。ファミリーネームは長いし……ややこしいから、璃奈でいい」

果林「……わかったわ。愛と……璃奈ちゃん」

 「ニャー」

果林「それと……ニャスパーね」


なんというか、愛は呼び捨てにしていい気がしたけど……璃奈ちゃんはなんというか……璃奈ちゃんという感じだった。


果林「それなら、私たちのことも下の名前で呼んで頂戴。良いわよね、彼方」

彼方「うん〜、もちろん〜。よろしくね〜、愛ちゃん、璃奈ちゃん〜。あ〜あと、この子は彼方ちゃんの親友のウールーだよ〜」
 「メェ〜〜」

愛「うん、よろー! カリン! カナちゃん! ウールーも!」

璃奈「よろしく、お願いします……果林さん……彼方さん……ウールー……」


挨拶をしながら、璃奈ちゃんは愛の後ろに隠れてしまう。


彼方「果林ちゃん、璃奈ちゃんが怖がっちゃってるかも……」
 「メェ〜〜」

果林「……彼方、それはどういう意味か説明してくれる?」

彼方「冗談だってば〜。璃奈ちゃん、もしかして緊張してるのかな〜?」

愛「あはは……りなりー緊張しいなんだよね。やっぱり、ボードあった方がいいんじゃない?」

璃奈「……初対面だから……素顔の方がいいと思ったけど……。……そうする」


璃奈ちゃんはそう言いながら──上着の中から、1冊のノートを取り出した。


璃奈「あ、あのね……私……人の顔を見て喋るの……緊張しちゃって苦手で……だけど、怒ってないし、怖がってないよ……」 || ╹ ◡ ╹ ||


そう言いながら、表情が描かれたページを開いて顔の前に掲げる。

少し変わっているけど……どうやらこれが、彼女なりの感情表現ということらしい。


彼方「あはは〜よかったね果林ちゃん、怖がられてないって〜」

果林「彼方……」

彼方「だから、冗談だって〜」

果林「はぁ……全く……。……これから一緒に頑張りましょう。私たちも早く貴方たちを理解できるように努力するわ」

璃奈「果林さんも彼方さんも優しそうな人でよかった。私もこれから一緒に頑張りたい。璃奈ちゃんボード「やったるでー!」」 || > ◡ < ||
 「ニャー」

愛「じゃ、これから、今後の活躍を祈って、もんじゃパーティーでもしますか〜!」

彼方「え、もんじゃってあのもんじゃ〜!? 今どき作れる人がいるなんて珍しい〜! 彼方ちゃんにも作り方教えて教えて〜」

愛「あははっ♪ 愛さん、もんじゃを作る腕には自信あるからね! 何を聞かれても、もんじゃいない! なんつって!」

璃奈「愛さん、今日もキレキレ!」 ||,,> ◡ <,,||

愛「どんなもんじゃいっ! あははは〜!!」


なんだか、思ったより変な人たち──主に愛が──だけど……。

想像していたよりは、意外と楽しくやっていけそうかも。私はそんな風に思うのだった。



553 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:31:44.45 ID:Sh64zN700

    👠    👠    👠





──結論から言うと、この二人……特に愛とはとても気が合った。


愛「あー!! また負けたぁー!!」

果林「はぁ……はぁ……。これで……私の10勝9敗7引き分けね……」

愛「カリンもっかい! 次勝って、10勝10敗にする!」

果林「あ、明日ね……今日はさすがにしんどいし、私はこの後取材があるし……愛にも研究があるでしょ……?」

愛「うー……わかった。でも、約束だからね!」


愛は研究者でありながら、とにかく戦闘でも腕が立つ子だった。

戦績としては拮抗しているように見えるけど……彼女の使うポケモンは全て小柄で進化前しかいない。

これで私と実力が拮抗しているのだから、末恐ろしい戦闘センスと言わざるを得なかった。


果林「……ねぇ、愛」

愛「ん?」


私は訓練場から、研究棟に戻る最中、愛に訊ねてみる。


果林「どうして、ベイビーポケモンばかり使うの? 貴方だったら、ポケモンを選べば実行部隊に居たとしても、遜色ないのに……」

愛「んー……リーシャンはもともと友達だったからだけど……りなりーが可愛いポケモンが好きって言うからさ」

果林「……それだけ……?」

愛「え? うん。それにりなりーったら、可愛いポケモンで敵をばっさばっさなぎ倒すところがかっこいいって褒めてくれてさ〜♪」

果林「……そう」


彼女と私とでは、戦いに対する価値観が違いすぎる……。

そこに関しては研究者らしい変わり者というか……だからこそ、戦闘員ではなく研究員なのかもしれない。


愛「──たっだいま〜♪」


愛が元気よく、中央研究室のドアを押し開くと、それに気付いた璃奈ちゃんと彼方が寄ってくる。


璃奈「愛さん、果林さん、おかえりなさい」
 「ニャァ〜」

彼方「二人ともおかえり〜」
 「メ〜」

果林「ただいま。彼方、今日は防衛演習があるんじゃないの? まだここに居て大丈夫?」

彼方「もう〜今日は夜間演習だって言ったよ〜? だから、今のうちにすやぴしておこうと思って〜」
 「メェ〜〜」

果林「……そうだったかしら……」


彼方は私と違って防衛隊の隊長だから、私とは訓練の運用スケジュールが全然違って覚えられる気がしない……。
554 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:34:49.89 ID:Sh64zN700

璃奈「愛さん。ボール収納時に発生する質量欠損と空間歪曲率の統計データ、ほぼ完成した」

愛「マジで!? まだだいぶ時間掛かる予定だったはずなのに……!?」

璃奈「予算がたくさん貰えたから、それで自動化ロボットを作る余裕が出来た。すごくありがたい」

愛「いや〜やっぱり、これもカリンとカナちゃんが来てくれたからだね〜♪ 統合サマサマだ〜♪」

彼方「あはは〜、やっぱりお金は大事だもんね〜」

果林「お陰で、“虹の家”の抜けた床と雨漏りが直ったって言ってたものね……」


政府主導の統合によって予算が増えたのは警備隊側だけではなかったらしく、研究所も正式な政府機関として、多額の予算が下りているというのは噂で聞いている。

それだけ、この機関には多くの期待が寄せられていた。

私は彼女たちの話を傍で聞きながら、トレーニングウェアを脱ぎ捨て、シャワーを浴びに行く。


彼方「あ〜も〜、また服脱ぎっぱなしにする〜……」
 「メェ〜」

果林「別にいいでしょ。急いでるのよ」

彼方「摸擬戦から帰ってきたばっかりなのに、もう出るの〜?」
 「メェ〜?」

璃奈「果林さん……今日はメディアからの取材がある」

果林「そういうこと」


私は手早くシャワーで汗を流して、表向きの格好に着替える。


彼方「あんまり忙しいなら……彼方ちゃんが代わるよ〜?」

果林「夜から演習なんでしょ。彼方は早く寝なさい」


私はそう残して、中央研究室を後にした。



555 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:35:22.67 ID:Sh64zN700

    👠    👠    👠





私たちのやっていることは……簡潔に言ってしまえば、この世界を救うための最先端活動だ。

璃奈ちゃんと愛が、ウルトラスペースと言われる異次元空間の存在を発見したことを端に、プリズムステイツ政府はそれに世界の命運を懸けて、多額の予算と──そして、警備隊から多くの戦力を実行部隊として送り込んだ。

最初は研究機関が戦力を求める理由がよくわからなかったけど……どうやら、ウルトラスペースという空間には、ウルトラビーストと呼ばれる危険な生物がいるらしく、私たちはその生物たちとの戦闘を想定して、ここに呼ばれたらしい。

特に私と彼方は、特別優秀な戦力として数えられているらしく、私は攻めの対ウルトラビースト戦略、彼方は守りの対ウルトラビースト戦略を任されている。

今回のこの研究の注目度はかなりのもので……物資や土地の奪い合いで睨み合っていた他国も、プリズムステイツ政府に多額の資金援助や物資援助を申し出ているほど……つまり、全世界が私たちの動向に注目している。

私と彼方は孤児院の経営のために、稼ぎの良い仕事していただけのはずなのにね……──璃奈ちゃんや愛が常軌を逸した天才で、世界が注目するのはわかるけど……。

ただ、その理由は実際にここに来て、すぐにわかった。世界が注目している研究ということは──世界中からメディアも押し寄せてくるからだ。

国家間での電信通信なんてものが失われて久しいこの世界において、各国のメディアは何がなんでも自国に情報を持ち帰りたがる。有り体に言えば……少し強引なこともしてくる。

故に──前に立たせる人間が欲しかったということだ。

そして、私はそれに選ばれた。理由は……俗的な話だけど、要約すると顔とスタイルがよかったかららしい。

若くて、麗しい少女たちが前線に立ち戦う姿は、人々から支持を得やすいという目論見が上にはあるらしかった。

まあ……俗的だとは思うけど、容姿を褒められて悪い気はしないし、私はそこまで嫌だとは思わなかった。

何より、人前に出るのが極端に苦手な璃奈ちゃんを守る盾は必要だったわけだし、理由にも納得出来た。

……目立ちたがり屋の愛は、たまに勝手に付いてきて一緒に取材を受けていることもあったけど……。

──気付けば私たち4人は……世界中の期待を背負って、世界の命運を託されていたのだった。





    👠    👠    👠





璃奈「空間歪曲率上昇。ウルトラホール、展開」


璃奈ちゃんが機器を操作する中、ガラス張りの向こうにある実験室で──空間に穴があく。


愛「おっけー、ホール安定。このまま、維持するよ。ベベノム、苦しくない?」

 『ベベノ〜』『ベベノ〜』


愛が端末越しに2匹のベベノムに話しかけると、ベベノムたちは元気に返事をする。


果林「それにしても……ベベノムがウルトラビースト……ねぇ……」

彼方「ベベノムって、街外れの丘にたくさんいるからね〜……。“虹の家”の外でもたまに見かけてたよね」


ウルトラビーストは大きなエネルギーを体に持っていて──それによって空間を歪めて、ウルトラホールをあけることが出来る……璃奈ちゃんたちが突き止めた大発見はこれによって始まったらしい。

実際に目の前で奇怪な空間の穴を何度も見せられているので、それが嘘ではないということは理解出来ているけど……ちょっと街の外れにいくと生息しているポピュラーなポケモンが、危険と称されるウルトラビーストの仲間だったと言われてもなかなかピンとこない。


彼方「……すやぁ……」

果林「彼方、寝ないの」

彼方「えぇ〜……だってぇ〜……毎回、こうやってホールを見てるだけなんだもん〜……」

果林「私たちは万が一に備えてここに居るのよ」

彼方「わかってるけど〜……」
556 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:35:59.74 ID:Sh64zN700

確かに、ただホールがあいて、それが消えるのを見るだけなのが退屈なのはわかる。

私も気を抜くと、欠伸の一つでもしていまいそうだと思いながら、見ていると──その万が一が発生した。


璃奈「……! ホールにエネルギー反応!」

愛「この数値……!? ヤバイ!! りなりー、ホール閉じて!!」

璃奈「もう、やってる……! けど……ホールが外側からこじ開けられてる……!」

果林「な、なに……!?」


直後──研究室内のホールがカッと光り、


果林「……っ……!?」


眩い光の中に──


 「──フェロ…」


真っ白な上半身と、黒い下半身をした──細身のポケモンが立っていた。


果林「綺麗……」


思わず目を引かれてしまうような──そんな、美しいポケモンだった。


璃奈「ウルトラビースト……フェローチェ……!」

愛「カリン!! 直視しちゃダメ!! ウルトラビーストには人を操る力を持った奴がいるから!!」

果林「え……?」


直後──


 「フェロッ!!!」


ガシャァンッ!! と音を立てながら、ウルトラビーストがガラス張りの壁を蹴り破り──私に向かって突っ込んできた。


彼方「ネッコアラっ!! “ウッドハンマー”!!」
 「コァッ!!!」

 「フェロッ…!!」


振り下ろされるウルトラビーストの脚に対し、彼方のネッコアラが割って入るように丸太を振りかざして、弾き飛ばす。


彼方「果林ちゃん、平気!?」

果林「あ、ありがとう、彼方……!」


私は頭を振る。なんだか、頭がボーっとしていた。

愛の言っていたように、人を操る力とやらにやられかけていたらしい。


愛「私も戦う……! りなりー! 下がってて!」

璃奈「う、うん……ニャスパー、隠れるよ」
 「ニャァ」


璃奈ちゃんが机の影に隠れ、愛がウルトラビーストの前に出てくる。
557 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:36:29.40 ID:Sh64zN700

 「…フェロッ」

果林「いいわ、暴れるって言うなら……貴方が私を魅了するよりも早く……倒してあげるから……!」





    👠    👠    👠





果林「……はぁっ…………はぁっ…………」

愛「し……死ぬかと思ったぁ……」

彼方「……かなたちゃん……もう……うごけないぃ…………」


私たちは、3人の力を合わせて、どうにかウルトラビーストを倒し……捕獲することに成功した。

戦闘後の研究室内は……ボロボロだった。


果林「……どうりで……戦力を欲しがるわけね……」


こんなのを愛一人で対応し続けるのは、確かに無理がある……。


璃奈「みんな……大丈夫……!?」
 「ウニャァ〜」


戦闘が終わって、物陰に隠れていた璃奈ちゃんが心配そうに飛び出してくる。


彼方「ど、どうにか〜……」

愛「平気だよ……カリンとカナちゃんがいなかったら、さすがにやばかったけどね……」

璃奈「今、医療班を呼んでくるから……!」


部屋を飛び出そうとした璃奈ちゃんが、


璃奈「あれ……?」


何か気付く。


愛「りなりー?」

璃奈「……ウルトラホールがあった場所に……まだ、何か……いる……?」

果林「……!?」


私は、その言葉を聞いて身構えた──けど、そこにいたのは……。


 「ピュィ…」


小さな小さな……紫色の雲のようなポケモンだった。



558 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:37:12.36 ID:Sh64zN700

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──そこで捕まえた雲のようなウルトラビーストは……コスモッグというらしく、大量のエネルギーを内包するポケモンであることがわかった。

結論から言うと、このコスモッグを捕獲したことによって、璃奈ちゃんと愛の研究は飛躍的に進むこととなった。

このポケモンが持っているエネルギーを利用すれば──理論上ウルトラスペースの中を航行しうるエネルギーになるということがわかったからだ。

政府は、急ピッチでウルトラスペースを航行するための船──ウルトラスペースシップの開発に着手し、半年という驚くべきスピードでウルトラスペースシップを完成させるに至った。

これにより、ウルトラスペース内の探索が可能になり、研究は次の段階へ……世間からも大きな賞賛を浴び、世界を救うという途方もない話がだんだん現実味を帯びてきていた。

戦闘によって捕まえたウルトラビースト──フェローチェは私が手持ちとして従えることとなり……いろいろなものが順調に進んでいく中──


──“虹の家”の院長先生が……彼方のお母さんが……亡くなった。





    👠    👠    👠





遥「おかあさん……っ……おかあ、さん……っ……」

彼方「……遥ちゃん……」


遥ちゃんが棺桶にすがるように泣きじゃくり、彼方がそんな遥ちゃんを抱きしめている。


果林「…………院長先生……」


数ヶ月前に過労で倒れたというのは聞いていたけど……ウルトラビーストとの邂逅もあり、私はなかなか時間が取れず──いや、正確には彼方を無理にでもお見舞いにいかせるために、仕事を強引に肩代わりしていたためだけど──まさか、こんなすぐに亡くなってしまうとは……思っていなかった。

“闇の落日”の時に吸った瘴気が……ずっと院長先生の身体を蝕んでいたらしい。


果林「…………」


短い間ではあったけど……私にとっては、もう一人のお母さんのようなものだったから……やるせなかった。





    👠    👠    👠





──葬儀も全て終わり……明日にはまた研究所に戻る。……そんな夜のことだった。

私と彼方は、すごく久しぶりに“虹の家”で過ごしていた。

ただ……どうしても寝付けなくて、水でも飲もうかと思いリビングに行くと──


彼方「…………」


彼方が遺影の前で、正座していた。


彼方「…………“虹の家”……立派になったね」


遺影に……院長先生に……母親に、話しかけていた。

私は親子の会話を邪魔したくなかったので、音を立てないように、物影に隠れる。
559 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:37:58.45 ID:Sh64zN700

彼方「…………あんなに軋んでた床も、音鳴らなくなったね。雨漏りもしなくなったし……立て付けの悪かったドアもちゃんと開くようになったね。職員の人も何人も雇っててびっくりしちゃった。孤児院としては、もう安泰だね」

果林「…………」

彼方「果林ちゃんと一緒に……頑張ってきてよかったって……思ったよ……」

果林「…………彼方……」

彼方「……わたしたち……これからも頑張るね……世界中の人……救って見せるから。……この世界を、果林ちゃんたちと一緒に……救って見せるから」

果林「…………」

彼方「………………でも…………でも、ね……っ……」


彼方の声が、震えていた。


彼方「…………ほんとうは……おかあさんに……っ……すくわれた世界を……みせて、あげたかった……よぉ……っ……」


彼方は……肩を震わせて泣いていた。

……私はこのとき初めて、彼方の泣いている姿を見た。

葬式の間、泣きじゃくる遥ちゃんや、この家の小さな子たちの前では、絶対に見せなかったのに……彼方が、声を震わせて、泣いていた。


彼方「…………おかぁ……さん……っ…………ぐす……っ……ひっく……っ……」

果林「………………」


──この世界は理不尽だ。

理不尽に奪われて、泣く人ばかりの世界で……そんな中でも、誰かに与えて手を差し伸べてくれる人が……命を落とす。

私はギュッと……拳を握りしめた。


果林「…………こんな世界……間違ってる…………」


こんな、誰かが泣かなくちゃいけない世界のままで……いいはずがない。


果林「…………私が……変えるんだ…………」


こんな奪われるだけの世界を……私が、変えなくちゃ……いけないんだ。





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──ウルトラスペースシップによる本格的なウルトラスペースの調査が開始された。

調査メンバーはもちろん、私、彼方、愛、璃奈ちゃんの4人だ。

その中で……私たちは、ウルトラスペースの中に、いろいろな世界があることを知った。

荒廃しきった世界や、巨大な電気を帯びた樹木が張り巡らされた世界、一面に広がる砂漠の世界、宝石のような輝く鉱物があちこちに生えた洞窟の世界……。

本当にいろいろな世界があって……そこにはいろいろな種類のウルトラビーストが生息していた。

時に捕まえ、時に撃退し、時に逃げ……私たちは少しずつウルトラスペースとウルトラビーストという存在を理解していった。

その中で、テッカグヤ、デンジュモク、カミツルギ、ズガドーン……そして、2匹目のコスモッグを捕まえることに成功した。

それと同時に……並行して行っていた、ウルトラスペースシップの2台目を完成させたり……とにかく調査は順調に進んでいた。

ただ……そんな調査の中でも……私たちが見つけた世界の中に、文明がある世界は一つしか見つけることが出来なかった。

それも、遠く……自由に行き来するとなると、コスモッグの持っている途方のないエネルギーをもってしても、少し不自由があるというくらいには遠くにだ。

そんなある日のことだった。
560 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:38:47.16 ID:Sh64zN700

璃奈「……!」


研究室にいるとき、璃奈ちゃんが急に椅子を跳ねのけるようにして、立ち上がった。


愛「り、りなりー? どうしたの? 何かひらめいたん?」

璃奈「………………わかった」

彼方「わかったって……何がわかったの〜……?」

璃奈「世界を………………救えるかも……しれない……」

果林「ホントに……!?」


私は、思わず璃奈ちゃんの両肩を掴んで、


果林「一体どういう方法なの……!? 璃奈ちゃん……!!」


思わず彼女に詰め寄るように訊ねてしまう。


愛「ちょ、カリン……!」

璃奈「……か、果林さん……い、痛い……」

果林「あ……ご、ごめんなさい……」

愛「……カリンが人一倍気持ちが強いのは知ってるけど……そんな風に詰め寄ったら、りなりーが困っちゃうからさ……」

果林「そう、よね……ごめんなさい……」

璃奈「うぅん……大丈夫」

彼方「それで……どういう方法なの……?」


彼方が訊ねるけど、


璃奈「……それは……」


璃奈ちゃんは、何故か酷く歯切れが悪かった。


璃奈「…………言っていいのか……わからない」

果林「言っていいのか……? わからない……?」


私は思わず眉を顰める。
561 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:39:20.03 ID:Sh64zN700

果林「世界を救う方法があるんでしょ……? それを言っていいのかわからないって、どういうこと……?」

璃奈「そ、それは……。……でも、今この場では……教えていいことか……私だけじゃ判断しかねる……」

果林「なによそれ……。……ねぇ、璃奈ちゃん……貴方も世界を救いたいんじゃないの……?」

彼方「か、果林ちゃん、落ち着いて……」

愛「…………何か思うことがあるってことだよね」

璃奈「……うん」

愛「わかった。……ただ、私たちは政府から託されて研究してるから……」

璃奈「……わかってる。……報告しないわけにはいかない……」

果林「なら、ここで言ってもいいんじゃないの?」

璃奈「……ご、ごめんなさい……」

愛「カリン、やめて。りなりーが困ってる」

果林「私たちは仲良しごっこしてるんじゃないのよ? 世界の命運を懸けて戦ってるの」

愛「……」

果林「……」

彼方「ふ、二人とも落ち着いて! 果林ちゃん、焦って聞いても彼方ちゃんたちにはよくわからないだろうし、ちゃんと報告した後にわかりやすく纏めてもらった話を聞こう? ね?」

果林「…………わかった」


私は璃奈ちゃんに背を向けて、近くの椅子に腰を下ろした。


璃奈「……ほっ」

愛「りなりー、大丈夫?」

璃奈「……うん」

彼方「ごめんね……果林ちゃんも悪気があって言ってるわけじゃなくて……最近、調査進捗とかメディアから詰め寄られることが多くって……だから、ちょっと焦っちゃってるだけで……」

璃奈「うん、理解してる。果林さん、ごめんね、すぐに言えなくて……」

果林「……私こそ……ごめんなさい……。……ちょっと、頭を冷やすわ……」

愛「……それじゃ、アタシとりなりーで一旦理論を纏めてくるから……」

果林「ええ……お願いね」


愛と璃奈ちゃんが部屋を後にする。

私は思わず両手で顔を覆って俯く。

璃奈ちゃんにやつあたりするなんて……何やってるの、私……。


彼方「……果林ちゃん、疲れてるんだよ……今日はお仕事やっておくから、休んで?」

果林「彼方……」

彼方「いっつも、前に立たせちゃって……ごめんね……。……果林ちゃんが一番しんどい位置にいることは……わたしも、璃奈ちゃんも、愛ちゃんもわかってるから……」

果林「……ありがとう……彼方……」





    👠    👠    👠





ここからしばらく、愛と璃奈ちゃんが理論を纏めるのに難航することとなる。

……どうやら、璃奈ちゃんの思いついた理論が……大きなリスクを孕んでいるものだからという噂は耳に入ってきた。
562 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:39:52.44 ID:Sh64zN700

 「──だからそれじゃ、根本的な解決にならないって言ってんでしょ!?」


応接室から、愛が荒げた声を聞く機会もだんだんと増えていった。恐らく、政府の役人と今後の方針で揉めているのだろう。

その間は調査が滞り、私たちは訓練と演習くらいしかすることがない中──ある辞令が下った。


果林「──……“SUN”と“MOON”……?」

彼方「うん。上からの辞令で……組織内でポケモンでの戦闘が強い二人に権限を渡すって話みたい」

果林「権限って……なんの?」

彼方「コスモッグを自由に扱う権利みたいだね……2匹のコスモッグがそれぞれ“SUN”と“MOON”に1匹ずつ渡されるみたい」


彼方が辞令に目を通しながら言う。


果林「それってつまり……」

彼方「……ある程度、自由にウルトラスペースを調査する権限みたいだね」

果林「……そう」

彼方「嬉しくないの? 果林ちゃん、“MOON”に任命されたってことは……出世みたいなものだよ?」

果林「そうね……」


私は思わず眉を八の字にしてしまう。

──組織内で戦闘が強い二人──

この指定の仕方は……恐らくだけど……私には愛が政府の役人に反発し続けた結果のように思えた。

反発をする愛に対し、上の人間は愛に自由を与えないために、作戦そのものの実行能力を持った人間に権限を与えようとしたけど……愛は彼方より強い。下手したら私よりも……。

研究者でありながら、作戦の実行能力も高い彼女から、全ての権限を奪いきれなかった結果、こんな不自然な辞令が下ったんじゃないかしら……。

もちろん、想像の域は出ないけど……。


彼方「……どうする?」

果林「……まあ、コスモッグを受け取るのは構わないけど……」


コスモッグはウルトラビーストではあるものの、戦闘能力が皆無なウルトラビーストだ。

故に持っていようが持っていまいが、そこまで大きな問題はないと思う。……ただ、エネルギーを放出させすぎると休眠状態になると予想はされているから、そこは考えないといけないけど……。

ちなみに他のウルトラビーストは、結局うまく扱える人がいなくて、持て余しているのが現状だ。

一度、彼方がテッカグヤを扱おうとしたものの……結局強すぎる力に振り回されてしまい断念。

私も何匹か使ってみたものの……フェローチェほど、しっくりくるものがなく、現状の手持ちの方が有効に戦えそうだったために、受け取りはしなかった。

閑話休題。

コスモッグを受け取るのはいいとしよう。ただ──


果林「だからって、私だけで調査に行くことってないと思うんだけど……」

彼方「……それはそうかも」


ウルトラスペースシップの操縦はほとんどプログラミングされた自動操縦らしいし、簡単な使い方くらいは聞いているから、動かすことは出来ると思うけど……。

それ以外のことは、完全に愛と璃奈ちゃん任せだから、私たちに持たされても使い道があまり思いつかない。

……他国のスパイとかに奪われる可能性が減るくらいかしら……?


果林「それにしても……なんで“SUN”と“MOON”……太陽と月なのかしら……?」

愛「──文献を見つけたからだよ」


そう言いながら、愛と璃奈ちゃんが部屋に入ってくる。
563 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:42:33.94 ID:Sh64zN700

果林「愛……」

彼方「文献って?」

璃奈「2匹目のコスモッグを見つけた世界で、石板があったの覚えてる?」

果林「あったような……なかったような……」

愛「まあ、あったんだけどさ。その石板にあった碑文をりなりーが言語解析プログラムにずっと掛けてたんだけど……それの結果が出たらしくってね」

果林「それが太陽と月だったの?」

愛「コスモッグは成長すると、太陽の化身もしくは月の化身へと姿を変えるんだってさ」

璃奈「日輪と月輪が交差する場所で、交差する時に、人の心に触れ、太陽の化身もしくは月の化身に姿を変えるって記されてた」

彼方「あーだからか〜……太陽と月をそれぞれ授けるぞ〜ってことだね〜」

璃奈「そんな感じ。強いトレーナーの傍に居れば、いつか覚醒して私たちの力になってくれるだろうって考えてるみたい」


まあ……自分で言っておいてなんだけど……正直命名の理由には言うほど興味はない。興味があるのは……──私が任命された“MOON”じゃない方。


果林「……“SUN”は貴方よね、愛」

愛「……まーね」

果林「上の人と揉めてるの……?」

愛「……」


愛は気まずそうに頭を掻く。

……恐らく、私の予想はそこまで大きく外していないのだろう。


愛「……大丈夫、ちゃんとチャンスは貰ったから」

果林「チャンス……?」

愛「世界……ちゃんと救える理論、見つけてみせるからさ」

璃奈「……私たち頑張る! 璃奈ちゃんボード「ファイト、オー!」」 || > ◡ < ||


愛は“SUN”の称号を得て、璃奈ちゃんと何かをしようとしていることはわかった。

ただ──これが……最悪の結果を招くことになる……。





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果林「──愛……!!」

愛「ん? カリン、どしたん?」

果林「どしたんじゃないわよ!! 璃奈ちゃんと二人でウルトラスペースの調査に行くってどういうこと!?」

愛「うぇー……情報筒抜けじゃん。独立した権限があるなんて嘘っぱちだねぇ……」

果林「行くなら私たちも連れていって……!」


ウルトラスペースは危険な場所だ。

いくら愛の腕が立つと言っても、たった二人で行くのは危険すぎる。
564 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:43:18.50 ID:Sh64zN700

愛「んっとね……最初はアタシもそうお願いしたんだけど、拒否されちゃってさ」

果林「拒否……? どうして……?」

愛「お前たちのわがままのために、貴重な戦力を危険な目に合わせるわけにいかないって」

果林「……危険な場所に行くの……?」

愛「まーね……。……だから、二人でしか行けないなら、アタシも断念しようとしたんだけど……りなりーがね。……行かないわけにいかないって」

果林「璃奈ちゃんが……」


あの気弱な璃奈ちゃんが……政府の役人に対して、そんなことを言ったなんて、想像出来ないけど……。

それでも、勇気を振り絞って言ったということだろう……。


愛「りなりーが行くって言うんだったら、愛さんが行かないわけにいかないっしょ!」

果林「愛……。……ちゃんと、帰って来るんでしょうね……?」

愛「もちのろん! ちゃんと成果持ち帰ってくるために行くんだから! 任せろって!」

果林「わかった。じゃあ、もう何も言わない」

愛「あんがとっ! ま、カナちゃんと一緒にお昼寝でもして待っててくれりゃいーからさっ!」

果林「ふふ、じゃあ……そうさせてもらおうかしらね」


──数日後、愛は璃奈ちゃんと一緒にウルトラスペースの調査へ出た。

結果────璃奈ちゃんが……死亡した。





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──ウルトラスペースシップが帰ってきた時点で、異変があった。

ウルトラスペースシップの形状が──変わっていた。シップの倉庫部となるはずの部分が消失していた。


果林「な、なにが……あったの……?」

彼方「わ、わかんない……」


船が戻ってくる報告を聞いて、離発着ドックに来た私たちは、酷く動揺していた。

そして、ボロボロのウルトラスペースシップの中から、


愛「…………」


愛が出てくる。


果林「愛……! よかった……!」


私たちは愛に駆け寄る。

よく見ると愛は随分とやせ細っていて──どこを見ているのかわからないような、そんな虚ろな目をしていた。


彼方「あ、愛ちゃん……?」


嫌な予感がした。


果林「……愛……? ……璃奈ちゃんは……?」

愛「──………………ちゃった……」
565 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:44:48.06 ID:Sh64zN700

愛は消え入るような声で、


愛「……りなりー…………いなく……なっちゃった…………」


そう、言ったのだった。





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彼方「…………どうして……」

果林「…………」

彼方「…………どうして……璃奈ちゃんが……」


愛が帰ってきて、半日ほどが経過した。

愛があまりに憔悴しきっていて、とてもじゃないけど話が聞けない状態だったため、詳しいことはまだわかっていないけど……調査中に事故でウルトラスペースシップが半壊し、その際に璃奈ちゃんが亡くなったという見方が強かった。


果林「…………まだ…………奪うの…………?」


私は唇を噛んだ。

そのときだった──急に研究所内にアラートが鳴りだした。


彼方「な、なに……!?」


──『離発着ドックにて緊急事態発生。緊急事態発生。』──


果林「彼方……! 行くわよ……!」

彼方「う、うん……!」


私たちはとにかく、離発着ドックへ走る。





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──たどり着いた離発着ドックでは、


愛「──あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
 「リシャーーーーンッ!!!!!!」


愛が、ドックを破壊していた。


彼方「あ、愛ちゃん……!?」

果林「愛っ!? 何やってるの!?」

愛「りなりーを……っ!!! りなりーを返せぇぇぇぇぇっ!!!!!」
 「リシャァァァァンッ!!!!!」


愛が大暴れしていて、他の職員はとてもじゃないけど、近付けない。

でも、このまま放っておいたら離発着ドックが使い物にならなくなる……!
566 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:46:31.68 ID:Sh64zN700

果林「彼方!! ドックを守って!! 消火も!!」

彼方「わ、わかった!! バイウールー! パールル!」
 「──メェ〜〜〜〜」「──パルル」


バイウールーがリーシャンの音攻撃を体毛で吸収し、施設の被害を抑えながら、パールルが“みずでっぽう”で壊れた機器から出火した炎を消火する。

その間に私は、


果林「キュウコン、“かなしばり”!!」
 「──コーーンッ!!!」

 「リシャンッ…!!?」


リーシャンの動きを止めて、


果林「愛っ!! やめなさいっ!!」


後ろから愛を羽交い絞めにする。


愛「りなりーをぉっ、かえせぇぇぇぇぇっっ!!!!!! かえせぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

果林「っ……!」


愛は錯乱しながら、叫び続ける。

とてもじゃないけど、呼び掛けで止めるのは不可能だと判断し、


果林「……フェローチェ……!」
 「──フェロッ」

果林「“みねうち”……!」
 「フェロ」

愛「がっ……!?」


愛のお腹に、手加減した打撃を叩きこんだ。


愛「……りな……りー……」


愛は気絶して……大人しくなった。璃奈ちゃんの名前を……呼びながら……。





    👠    👠    👠





──愛は、施設を破壊した責任を問われ……ひとまず拘束されることになった。今はポケモンを没収の上、自室で軟禁状態らしい。

加えて、このチームからも除名されるらしい。


彼方「…………果林ちゃん……“SUN”になるんだってね……。……彼方ちゃんが……“MOON”だって……」

果林「…………みたいね……」

彼方「…………研究班が足りなくなっちゃうから……。……人が補充されるみたい」

果林「……聞いた。……姫乃って子と……遥ちゃんよね……」

彼方「……うん」

果林「…………あの4人じゃなきゃ……ダメなのに……」

彼方「果林ちゃん……」

果林「なんで……なんで、こうなっちゃうのよ…………」
567 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:47:07.78 ID:Sh64zN700

私たちは……力を合わせて世界のために戦っていたはずなのに……。

気付いたら……愛も……璃奈ちゃんも……いなくなってしまった。





    👠    👠    👠





──そして、私たちはやっと、愛と璃奈ちゃんが……どうして、世界を救う方法とやらを教えてくれなかったのかを理解した。


果林「…………」

彼方「…………」


先ほど司令から……璃奈ちゃんが気付いた、世界を救う方法をざっくりと聞かされた。

それは──


果林「…………私たちの世界を救うには…………他の世界を……滅ぼすしか……ない……って……」

彼方「………………」


詳しい理屈はわからないけど、そうらしい。他の世界を滅ぼすことによって……私たちの世界の崩壊を、食い止めることが出来る。それが、璃奈ちゃんが突き止めた世界を救う方法だった。

それに加えて──もし、それをしなければ……私たちの世界は今後もどんどん、確実に、滅亡へと進んでいく……とも。

彼方は……珍しく私に背を向けていた。どんな顔をすればいいのかわからないからなのか……それとも……。


果林「…………ねぇ……彼方……」

彼方「…………なぁに……?」

果林「…………………………怒らないで、聞いて……」

彼方「…………うん」

果林「………………私は……何をしてでも……この世界を、守りたい……」

彼方「…………果林ちゃん」

果林「………………こんな酷い世界だけど……大切な人がたくさんいるの……思い出の場所が……大切な場所が……たくさん、あるの……もう……この世界から、誰かが、何かが失われるのなんて……耐えられない……」

彼方「…………」

果林「…………彼方……」


私は無言の彼方の背中にすがるように、おでこを押し付ける。


果林「…………貴方は……私の前から……いなく、ならないで……。……お願いだから……」

彼方「……………………」

果林「…………壊すのは……全部、私がやる……奪うのも……罪も、業も、憎しみも、恨みも……全部私が背負う……だから……彼方だけは……私の傍に居て…………お願い…………」

彼方「………………」

果林「………………彼方……」


でも、彼方は──


彼方「……………………ごめん、果林ちゃん……少し……考えさせて……」

果林「………………」
568 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:52:18.19 ID:Sh64zN700

私を置いて……行ってしまったのだった……。





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──なんとなく、わかっていた。彼方は誰かから奪うようなやり方に賛同なんてしないって。

案の定というか、数日もしないうちに彼方が司令に反対の意思を伝えたという話が耳に聞こえてきた。

彼方と……施設内ですれ違っても──


彼方「あ……」

果林「あ……か、彼方……!」

彼方「ご、ごめん……今、急いでるから……」

果林「……彼方……」


すっかり、避けられてしまっている。

ただ……上の人間たちは、完全に──他世界への侵略の方向で進めようとしている。

……このまま、彼方が反対し続けたら、何が起こるだろうか……?

彼方は事実上の組織の幹部……もし、組織の意向に沿えなかったからと言って……ただ、辞めることで解決できないところまで事情を知ってしまっている。そうなったら彼方は……。

だから私は──


果林「……」


──コンコン。だから私は、戸を叩く。中に入ると、政府の役人たちが会議をしていた。

内容は──彼方をどうするかについて話しているところだった。

だから、私は、こう言った。


果林「彼方は……私が説得します……」


彼方を守るには……もう、これしかないから。





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果林「………………」


深夜──私は計画書を見て、眉を顰める。

内容は……まさに他世界への侵略だった。

彼方もすでに、この計画書は受け取っているはずだ。この内容を踏まえた上で……私は彼方を説得しないといけない。

でも、やらなくちゃいけない。

私が……彼方を──家族を……守らないといけないんだ……。


果林「………………早く行かないと」
569 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:53:01.28 ID:Sh64zN700

躊躇している暇はない。

そう思ったけど──


果林「…………今更……何にびびってるんだか……」


私の手は……震えていた。


果林「…………そりゃ……出来るなら……奪いたくなんて……ないわよ……」


誰も悲しまない世界があるなら、その方がいい。そんなの当たり前だ。そうに決まってる。


果林「…………でも…………選ばなくちゃいけないなら…………選ぶしか、ないじゃない…………っ」


黙って滅びを待つなんて……出来ない。

だから、せめて……私が背負うから……私以外のみんなを守るために……私が背負って……地獄に落ちるから……。


果林「…………」


私は覚悟を決めて、彼方の部屋へと向かう。





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──コンコン


果林「彼方、今いい?」


返事がない。


果林「……入るわよ」


でも、話すしかないから。

私が部屋の中へ入ると──そこは本当に誰もいなかった。

今は深夜だ。外出しているとは考えにくいのだけど……。


果林「どこに行ったのかしら……?」


そんな風に言葉を漏らした、まさにそのときだった──

──『緊急事態発生。緊急事態発生。』──

施設内にアラートが鳴りだした。


果林「な、なに……!?」


──『何者かが、ウルトラスペースシップを占拠し、発進しようとしています』


果林「……!」


今この場でそんなことをする理由がある人間なんて、数えるほどしかいない。

加えて、もぬけの殻になった彼方の自室……そんなのもう……!
570 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:54:09.62 ID:Sh64zN700

果林「彼方……!!」


私は離発着ドックへと走り出した。





    👠    👠    👠





離発着ドックに着くと、職員が数人倒れていた。

ほとんど気絶していたけど、


職員「ぅ……」


まだ、意識のある職員がいた。


果林「何があったか教えて……!!」

職員「コノエ姉妹が……シップに乗り込んで……」

果林「遥ちゃんも……!?」


そんなことを言っている間に、目の前で一隻のウルトラスペースシップが──発進した。


果林「彼方……待って……!! ……くっ……!」


私は、もう一隻の方──愛が乗っていた半壊のウルトラスペースシップに乗り込む。

愛はちゃんと帰ってきたし、メインエンジンが壊れていたらしいけど、そこはすでに新しい物に換装されている。万全の機体ではないが、これでも追いかけることは出来るはず……!


果林「た、確か……ここにエネルギーを充填して……オートパイロット……行き先は……」


もし、この状況で向かうとしたら──もうここに戻ってくるのは想定していないはず。その上で、何もない世界に行っても、生きていくことなんて不可能。

なら──行き先は一つ。……私たちが滅ぼそうとしている……たった一つだけ見つけることが出来た、文明のある世界。

私はそこにオートパイロットを合わせる。

発進シークエンスに入ると同時に、通信が入る。


果林「今、忙しいの!! 後にして!!」

 『──果林か』

果林「……!」


通信相手は実行部隊の司令。私が彼方を説得すると、そう宣言した相手だった。


司令『彼方のやっていることが、どういうことか……わかるな?』

果林「……それは理解してます……でも、私が必ず説得します。説得して連れ帰ります……だから……!」

司令『わかった。連れ帰れたときは……君に免じて今回は不問にしても構わない。……だが、もし連れ帰れないときはどうする?』

果林「…………」


彼方たちがやっていることは──恐らく亡命だ。

亡命先で私たちの世界がやろうとしていることを知らされる。そんなことになったら、私たちの世界は……。

そういう意味での問い。もうこの時点で裏切り者の烙印を押されてもおかしくない中で、最後の最後の譲歩をされている。

だから、もしそれが出来なかったときは──
571 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:54:46.12 ID:Sh64zN700

果林「……私が……撃墜します……」


……私が、手を……下すしか……ない。





    👠    👠    👠





果林「…………なんで…………なんでよ……。……彼方……」


なんで、そんな道を選ぶのよ……。

なんで……。


果林「私を……置いていくの……」


ウルトラスペースシップは……倉庫部がない分、軽いからかむしろ通常よりもスピードが出ていた。

航行を続けていると──前方に彼方たちの乗っているシップが見えてきた。

私は通信を飛ばす。


果林「彼方っ!! 聞こえる!?」


私が問いかけると、


彼方『か、果林ちゃん……』

遥『果林さん……』

果林「止まって、二人とも!! お願いだから……!! もしここで止まってくれたら不問にするって、約束もしてもらった、だから、お願い……!!」

彼方『……でも、不問にして……計画に加担しろって、ことだよね……?』

果林「……彼方っ!! お願い、言うことを聞いて……!! 貴方を……失いたくないの……!!」

彼方『…………果林ちゃん』

果林「……知らない誰かの命よりも──私は貴方が大事なの……!! だから……っ!!」


私の言葉に対して──


彼方『…………わたしね、果林ちゃんに初めて会ったとき──ちょっと怖い子だなって思ったんだ……』

果林「……え……?」


彼方は突然、そんなことを言いだした。


彼方『……それは……果林ちゃんがそのときのわたしにとって……“知らない誰か”だったからなんだと思う……』

果林「…………」

彼方『でも……でもね……。……あのとき、果林ちゃんに会えて……よかったって、思うの……。……“知らない誰か”が、“大切な人”になったから、そう思うの……』

果林「かな……た……っ……」

彼方『……だから……“知らない誰か”が……いつかの自分にとって“大切な人”かもしれないって……思っちゃうんだ……。……だから、わたしは……戻れない……』

果林「…………っ……かなた……っ」

彼方『──……ごめんね、果林ちゃん』


その謝罪は──決別の言葉だった。
572 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:55:33.67 ID:Sh64zN700

果林「…………っ…………ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!! フェローチェッ!!!」

 『──フェロッ!!!!』


ウルトラビーストは、ウルトラスペース内でも活動出来る。

シップのボール射出機能で外に出したフェローチェが、彼方たちのシップに取り付く。


果林「“むしのさざめき”ッ!!!」

 「──フェロォォォォォッ!!!!!!」

彼方『っ゛ぅ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!?』

遥『ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!?』


もし、ここで彼方たちを逃がしたら──だから、私はもう選ぶしかなかった。


果林「フェローチェ……ッ!! やりなさい……ッ!!」

 『…フェロッ!!!』


音を遥かに凌駕するスピードで振り下ろされるフェローチェの脚が、彼方たちの乗っているウルトラスペースシップを……真っ二つに、両断した。

シップはそのまま……バラバラになって、ウルトラスペース内に消えていった。

私は……両手で顔を押さえる。


果林「なんで…………なんで…………こう、なっちゃうの…………なんで…………っ」


私は……どうして、大切な人を……自分の手で……。

なんで、どうして……どう……して……。





    👠    👠    👠





──私は……本当はどうすればよかったんだろう。

わからない。……わからない。

だけど、一つわかることがある。

……起こってしまったことは、もう戻らない。……だから私は……もう、戻れない。

私は──


果林「私は……私の世界を救うんだ……」


もう、進むしかない。





    👠    👠    👠





果林「……愛、入るわよ」


軟禁中の愛の部屋に押し入る。
573 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:56:15.60 ID:Sh64zN700

愛「……や、カリン。来ると思ってたよ」


愛は随分と余裕そうな表情をしていた。


果林「もっと落ち込んでると思ってたわ……」

愛「アタシもカリンはもっと落ち込んでると思ってた。……聞いたよ、カナちゃんの乗ったシップ……カリンが撃墜したんだってね」

果林「…………」


私は愛の首にチョーカーを着ける。


果林「……愛……私に協力しなさい……」

愛「…………ああ、これが首輪ってわけか。逆らったときは電撃? それとも、首でも飛ぶ?」

果林「電撃よ……。死なれたら困るわ……貴方には、やってもらわないといけないことがたくさんあるからね……」

愛「アタシがこんなおもちゃで言うこと聞くと思ってんの?」


私は、手に持ったリモコンのスイッチを入れる。


愛「っ゛、ぁ゛!!?」


愛に着けた首輪に電流が流れ、愛を痺れさせる。


果林「……もう一度言うわ、愛。私に協力しなさい……」

愛「……っ゛……。……まあまあ、カリン……そう、焦んないでよ……」

果林「…………」

愛「……言うこと聞くつもりはないんだけどさ……協力はしてやってもいいよ……」

果林「……は?」

愛「……その代わり……カリンもアタシに協力してよ……」

果林「……この状況で交渉しようって言うの?」

愛「どっちにしろ、アタシの頭が必要なんでしょ? いーよ、アタシの頭脳でよければ貸してあげるよ。ただ──アタシにもやりたいことが出来たから、それはやらせてもらう」

果林「…………」

愛「どーせこのおもちゃに発信機も付いてんでしょ? カリンの監視範囲内でアタシはアタシのやりたいことをやる。アタシはカリンの求める知恵と技術を提供する。それでお互いWin-Winっしょ?」

果林「……わかったわ」

愛「交渉成立だね〜♪ これからはカリンの駒として、せっせと働いてあげるよ」

果林「……信用してるわ、愛」

愛「へいへい、任せろ〜」


愛は何やら企んでいるようだけど……私の目的を邪魔するつもりがないならいい。

私は愛と協定を結んだ。





    👠    👠    👠





──私たちのチームは、璃奈ちゃんと彼方がいなくなり、愛が事実上の除名。副隊長候補だった遥ちゃんも居なくなったため……新しく入る姫乃という女の子を“MOON”に据え、二人──プラス愛──で動かすことになった。
574 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:56:55.61 ID:Sh64zN700

姫乃「──よ、よろしくお願いします!」

果林「よろしく、姫乃」

姫乃「あ、あの……」

果林「何かしら?」

姫乃「私、果林さんにずっと憧れていたんです……それで、組織に入っていつか一緒に働ければと思っていて……」

果林「そうだったの……ありがとう」

姫乃「果林さんも……“闇の落日”でご家族を失ったと聞きました……。……実は私も……それで孤児になって……」

果林「……大変な思いをしたのね……」

姫乃「いえ……それでも果林さんは世界を救うために、戦っていると聞いて……私も果林さんのお力になりたいと……ずっと思っていました……」

果林「……そう思ってくれて、嬉しいわ……」


この子はきっと──愛や璃奈ちゃんや彼方とは違う……。

大切な何かを選ぶためなら……優先順位の低い物を切り捨てられる子……直感で、そんな気がした。

きっと──この子は使える。信頼を得ておいた方がいい。

信頼を得るには……自己開示かしらね。


果林「……姫乃」

姫乃「な、なんでしょうか」

果林「これから一緒に戦う仲間だから……貴方には、私が……あの夜に見たものを、先に……話しておこうと思って……」

姫乃「か、果林さん……は、はい……」


私はもう……日和らない……。

世界を……私の守るべき世界を……救う。

そのために手段なんか……選ばない……。





    👠    👠    👠





──姫乃は優秀だった。

研究班として入ってきたが、もともと戦闘の腕もそこそこ立つ子だったし、二人体制になったことを知った瞬間、すぐに戦闘訓練に熱心に取り組み始め、あっという間に実行部隊のトップ2になった。

私たちはすぐにでも計画を実行したかったけど──問題があった。

それは、あの時点で“MOON”であった彼方が、コスモッグを持ち逃げしていたことだった。シップを撃墜した際に、落ちてしまったコスモッグを回収しないと、エンジンエネルギーの充填の問題でウルトラスペース内を自由に行き来しづらくなる。

そこで愛がコスモッグの持つエネルギーを探知する装置を作り出し──コスモッグを探すことになり、この作戦は星の子に準えて、コードネーム“STAR”と名付けられた。

そして、肝心の“STAR”の行き先は──


愛「……ああ、これ……アタシたちが滅ぼそうとしてる世界だね」


とのことだった。


果林「なら丁度いいわね……。確か、世界そのものに穴をあけるためには、ウルトラビーストをその世界に呼び込んで、大量のウルトラホールをあければいい……って話だったわよね?」

愛「そうそう。ただ、そのためにあっちこっちの世界からウルトラビーストを探すための航行エネルギーが必要だかんね。コスモッグは2匹欲しいってわけ」
575 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:57:43.90 ID:Sh64zN700

「別に地道に待っても3〜4年くらい待てば不自由ないくらい集まる気はするけどね〜」と付け加えながら。

──しかし、とある問題が起こった。

それは──


愛「……んー……“STAR”の反応……消えたね……」


目的の世界に来たときには、“STAR”の反応が消えてしまっていたということだ。

──痕跡はあったから、間違いなくこの世界にはいるはず……とのことだったけど……。

こっちの世界に来てからすぐに、フェローチェの毒を使い、モデル事務所をコントロールして資金を集めながら……私たちは“STAR”を探していた。

……そんなあるとき──偶然訪れた、コメコシティでのことだった。


果林「……のどかな町ね……」


右を見ても、左を見ても、大きな建物がないけど……とにかく牧場が広い。

このゆったりした空気は、私の故郷に似ている気がして、居心地がいい気がした。

そのとき、ふと──


果林「……え……?」


視界の先に、彼女は、居た。

オレンジブラウンのロングヘアーに、トロンと垂れた眠そうな瞳。見間違えるはずがない。

私が苦楽を共にした家族……。


果林「……彼方……」


彼方が前方から歩いてきていた。


果林「彼方……っ……!」


あのとき、私が手に掛けてしまったと思っていたけど……生きていたんだ。

私は感情が抑えきれず、彼方に向かって駆けだしていた。


彼方「……あ!」


彼方も私に気付いたように、駆けてくる。

どんどん近付き、私は彼方を抱きしめようとした──のに、


彼方「花陽ちゃーん! 今日もしかして、新米入ったの〜?」

花陽「あ、彼方さん! はい、今日は新米が入りました! やっぱり、お米は新米だよね!」


彼方は──私に気付かず、私の横を……すり抜けていった。

──彼方は、私を……覚えていなかった。


果林「………………」
576 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:58:48.24 ID:Sh64zN700

──そっか……。……シップごと……墜落したんだもの。

記憶がなくなっているくらいのことはあっても、なんらおかしくない。

だけど……。

このとき私は、思ってしまった。

──噫、私は……彼方にとって、忘れられる存在だったんだ、と。

忘れても……大丈夫な存在だったんだと……。

思ってしまった。


果林「……ふふ。……そっか」


そのとき──私の心の中で、大切にしまっていた何かが……壊れてしまった気がした。

このときを最後に、私はもう……本当に自分で自分を止めることが……出来なくなってしまった気がした。


──
────
──────
────────



私には……もう味方なんて、いらない……。

私はただ……自分の大切なものを守るために……選ぶだけ。

ただ、そのために……戦うことを選んだから。


果林「全部……壊してあげる……」


私は眼下の侑と歩夢を、自分の邪魔をする全てのものを……排除する。



577 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 13:00:32.66 ID:Sh64zN700

    🍞    🍞    🍞





彼方「……彼方ちゃんが覚えてるのは……シップが撃墜された、その瞬間まで……。……その後、コメコに“Fall”として落ちてきて……エマちゃんに助けてもらった後はエマちゃんも知ってるとおりかな」

エマ「……そっか」

彼方「聞いてみて……どう……思った? ……きっとね……果林ちゃんをあそこまで極端にさせちゃった原因は……わたしにあると思うんだ」

遥「お姉ちゃん……」


彼方ちゃんはそう言って声を沈ませるけど……。


エマ「……違うよ」


わたしはそうは思わなかった。


エマ「彼方ちゃんの優しさも……果林ちゃんの優しさも……どっちも間違ってなんかないよ。お互いの優しさが……ボタンの掛け違いみたいになっちゃっただけ……」

彼方「エマちゃん……」

エマ「今でもきっと……果林ちゃんの心のどこかに、彼方ちゃんと仲直りしたいって気持ち……きっとあると思う。前みたいに、家族に戻りたいって気持ち、あると思う」

彼方「……うん」

エマ「優しさがすれ違ったままなんて……悲しすぎるよ……。でも……果林ちゃんはもう自分の力じゃ止まれない……だから、誰かが止めてあげないと……」


大切な家族同士が……こんな形で争うなんて、悲しすぎるから。


エマ「だから、行こう……! 果林ちゃんを止めに……!」



578 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 13:01:01.92 ID:Sh64zN700

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 エマ
 手持ち ゴーゴート♂ Lv.40 特性:くさのけがわ 性格:むじゃき 個性:ねばりづよい
      パルスワン♂ Lv.43 特性:がんじょうあご 性格:ゆうかん 個性:かけっこがすき
      ガルーラ♀ Lv.44 特性:きもったま 性格:おっとり 個性:のんびりするのがすき
      ミルタンク♀ Lv.41 特性:そうしょく 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      ママンボウ♀ Lv.40 特性:いやしのこころ 性格:ひかえめ 個性:とてもきちょうめん
      エルフーン♀ Lv.40 特性:いたずらごころ 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 1個 図鑑 未所持

 主人公 彼方
 手持ち バイウールー♂ Lv.79 特性:ぼうだん 性格:のんてんき 個性:ひるねをよくする
      ネッコアラ♂ Lv.77 特性:ぜったいねむり 性格:ゆうかん 個性:ひるねをよくする
      ムシャーナ♀ Lv.78 特性:テレパシー 性格:おだやか 個性:ひるねをよくする
      パールル♀ Lv.76 特性:シェルアーマー 性格:おとなしい 個性:ひるねをよくする
      カビゴン♀ Lv.80 特性:あついしぼう 性格:わんぱく 個性:ひるねをよくする
      コスモウム Lv.75 特性:がんじょう 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 エマと 彼方は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



579 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:05:50.39 ID:2N444K9g0

■Chapter068 『決戦! DiverDiva・果林!』 【SIDE Ayumu】





果林「──キュウコン!! “かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!!!」


またしても、崖の上からこちらに向かって火炎が降ってくる。


歩夢「エースバーン! “かえんボール”!!」
 「──バーースッ!!!」


ボールから出したエースバーンが真上に向かって、火の玉を蹴り出し、キュウコンの炎と相殺させる中、


侑「フィオネ! “みずあそび”!」
 「フィオ〜♪」


フィオネが周囲に大量の水をばら撒き、私たちを包囲していた“ほのおのうず”を消火する。


侑「歩夢!」

歩夢「うん!」


侑ちゃんが私の手を取り、走り出す。


果林「待ちなさい……!! “かなしばり”!!」
 「コーーンッ!!!」


果林さんは逃げ出す私たちの動きを止めようと、“かなしばり”を放ってくるけど、


侑「ニャスパー!! “マジックコート”!!」
 「──ニャーーッ!!!」

果林「ぐっ……!?」
 「コーーンッ…!!?」


侑ちゃんとニャスパーがそれを反射して、逆に果林さんたちの動きを止める。


リナ『侑さんナイス判断!』 || > ◡ < ||

侑「今のうちに一旦距離を取ろう……!」

歩夢「うん!」


侑ちゃんに手を引かれながら、必死に足を動かしていると──


果林「ぐ……っ……ファイ、アロー……!! “ブレイブバード”……!!」

 「キィーーーーッ!!!!!!」


上空からファイアローが猛スピードで急襲してくる。


歩夢「ウツロイド! “パワージェム”!!」
 「──ジェルルップ…」

 「キ、キィーーーッ!!!」


そのファイアローをウツロイドが相性的にかなり有効な、いわタイプの技で牽制する。

ファイアローは目にも止まらぬスピードで身を翻しながら、“パワージェム”を回避するけど、なかなか近寄れず空中を旋回し始める。


侑「そういえば、歩夢……そのポケモン……ウルトラビーストだよね……?」
580 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:06:30.08 ID:2N444K9g0

二人で逃げる中、侑ちゃんがウツロイドを見ながら、そう訊ねてきた。


歩夢「あ、うん、ウツロイドって言うんだよ」
 「──ジェルルップ」

リナ『ウツロイド きせいポケモン 高さ:1.2m 重さ:55.5kg
   謎に 包まれた UBの 一種。 ポケモンや 人間に 寄生し
   寄生された 生物が 暴れだす 姿が 目撃されている。 意思が
   あるかは 不明だが 時折 少女の ような 仕草を みせる。』

リナ『きせいポケモンって言われてるみたいだけど……平気なの……?』 || 𝅝• _ • ||

侑「…………」


侑ちゃんとリナちゃんが少し不安げな表情をするけど──


歩夢「この子はそんな怖い子じゃないよ。ね、ウツロイド」
 「──ジェルルップ」


ウツロイドは私の言葉に答えるように、触手を持ち上げて返事をする。


歩夢「ウツロイドたちは怖いポケモンなんかじゃなくて……ちょっぴり“おくびょう”なだけなの……」
 「──ジェルルップ」


私は──しずくちゃんに崖から突き落とされたときのことを思い出しながら、侑ちゃんたちに説明を始めた。



──────
────
──


歩夢「──しずくちゃん……!! 絶対、絶対、侑ちゃんたちが助けに来てくれるから……!! だから──んぅっ、」


全身をウツロイドの触手に絡め取られ──私は一瞬で引き摺り込まれ、口元も視界も覆われて──目の前が真っ暗になった。

──このまま、毒を注入されちゃうのかな……そう思ったとき。


 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルップ…」

歩夢「…………?」


ウツロイドの触手は、私の身体をまさぐっているけど……なかなか毒を注入するような気配がない。

──もしかして……? 私がなんなのかを……確認してる……?


歩夢「…………」


全身をまさぐる触手が、私の手の平に触れたとき──思い切って、優しく握ってみると……。


 「──ジェルルップ」


ウツロイドは鳴き声をあげながら、私の手に触手を巻き付けてくる。

反応してる……──返事……してる……?

しずくちゃんはウツロイドには強力な神経毒があって危険と言っていたけど……ウツロイドは崖上から私たちが見ていても、近寄ってきて攻撃するようなことはなかった。


歩夢「………………」


もしかして──この子たちが危険なウルトラビーストだって言うのは……毒にやられた人間が勝手に言っているだけなんじゃないか。

調査と称して、自分たちに突然近付いてきた人間に驚いて……毒で自分たちを守っているだけなんじゃ……。


歩夢「…………ん、むぅ……」
581 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:07:08.76 ID:2N444K9g0

刺激しすぎないように、僅かに口をもごもごと動かすと──


 「──ジェルップ…」


口を塞いでいた触手が少しだけ浮く。


歩夢「…………そっか……君たちは……本当は、怖かっただけなんだね……」
 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルップ…」

歩夢「……ごめんね。……急に人が落ちてきたら……びっくりしちゃうよね。……攻撃されたのかなって思っちゃうよね……ごめんね……」
 「──ジェルル…」「──ベノメ…」「──ジェルルップル…」

歩夢「……大丈夫だよ。……私は君たちに怖いこと、したりしないから……」


ウツロイドの触手を優しく握って、頬に寄せる。


 「──ジェルルップ…」

歩夢「……ちょっとひんやりしてる……」
 「──ジェルル…」

歩夢「……うん。……大丈夫だよ、怖くない……私は君たちの味方だよ……」
 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルルル…」


──
────


結局ウツロイドは、私に何もしなかった。

そのままゆっくりと洞窟の地面に、私を降ろしてくれた。


歩夢「ありがとう、ウツロイド」
 「──ジェルルップ…」


私は地面に横たわり、未だ視界を埋め尽くすウツロイドたちを見ながら考える。

……恐らくこの後、毒で動けなくなるはずの私を、しずくちゃんたちが回収しにくるはず……。

なら、そのときを見計らって脱出を──そこまで考えて、首を振る。


歩夢「……だ、ダメ……それじゃ、しずくちゃんが果林さんに何されるか……」
 「──ジェルルップ…」

歩夢「あ、ご、ごめんね……ちょっと考えごとしてて……」


私が首を振る動作でウツロイドを少し驚かせてしまったようだ。

もう一度、優しくウツロイドの触手を握って頬を寄せる。


 「──ジェルル…」


すると、私が今接しているウツロイドが、私の頭にすっぽりと覆うように、頭に取り付いてくる。


歩夢「……その場所が落ち着くの?」
 「──ジェルルップ…」

歩夢「ふふ、わかった」
 「──ジェルル…」


ウツロイドも落ち着いたようだから、また考え始める。

……それにしても、こんな風に頭をすっぽり覆われた状態で、横たわっていたら……見た人は絶対、私が寄生されたって勘違いするよね……。


歩夢「……あ……」
582 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:08:26.76 ID:2N444K9g0

そうだ……勘違いしてもらえばいいんだ……。

もともと、寄生されている状況を狙っているわけだし……。


歩夢「……ウツロイド、しばらくの間……私の頭にくっついたままでいてもらってもいい?」
 「──ジェルルップ…」


どちらにしろ……私はこの洞窟から逃げる術もない……。

脱出の機会を伺うために、私は一旦寄生されたフリをすることにした。


──
────


ウツロイドたちの中で、横になったままじっとしていたら……気付けば眠ってしまっていた。

これだけ密集している状態は暑そうに思えるけど……ウツロイドの体はひんやりとしていて、なんだか心地よくて……。

我ながら能天気かも……と思いながら、寝起きのぼんやりとした頭のまま、引き続きその場で倒れたフリをしていると──


しずく「──……歩夢さん……」


しずくちゃんの声が近くで聞こえてきて──直後、抱き起される。


しずく「……歩夢さん……可哀想に……」


そのまま、しずくちゃんが私に頬を寄せて抱きしめてくる。

正直、肝が冷えた。寄生されているフリをしていることがバレないようにと、必死に息を殺していた、そのときだった──


しずく「──…………そのまま、寄生されたフリを続けてください」

歩夢「……!」


私の耳元で、私にしか聞こえないような小さな囁き声で、しずくちゃんが話しかけてきた。


しずく「…………絶対に、歩夢さんが逃げるタイミングを作り出します……それまで、私が歩夢さんと歩夢さんの大切なものはお守りします……ですので、どうかそのときが来るまで……耐えてください」

歩夢「…………」


──しずくちゃんはフェローチェに操られてなんかいない。その言葉だけで十分に理解出来た。

私はしずくちゃんの言葉に無言で肯定の意を示した。


──
────
──────



歩夢「──……だから、ウツロイドは私を助けてくれたお友達なんだよ」
 「──ジェルルップ…」


私の言葉を受けて、


リナ『……確かに、ウツロイドの神経毒には、宿主にウツロイド自身を守らせように心理誘導する作用が含まれてるらしい。強力な毒はあくまで外敵から身を守る手段でしかないというのは、歩夢さんの考えてるとおりなのかも』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんがそう補足してくれる。
583 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:09:03.22 ID:2N444K9g0

侑「とにかく、信用出来る歩夢の友達ってことだね!」

歩夢「うん!」

侑「歩夢がそう言うなら信じるよ! 一緒に戦って! ウツロイド!」

 「──ジェルルップ…」





    👠    👠    👠





果林「……く……! ……うご……きな、さい……!!」


全身に力を込めて、無理やり“かなしばり”を解除する。

崖の下に目を向けると──侑と歩夢から結構な距離を離されてしまっていた。

──果林、落ち着きなさい。

心の中で自分に落ち着くように促す。

あんな初歩的な反射技に引っ掛かるなんて、さすがに頭に血が上り過ぎている。

一度深く息を吸ってから──ピューイッ! と指笛を吹いて、ファイアローを呼び戻す。


 「キィーーーーッ!!!」


ファイアローがこちらに向かって切り返してきたのを確認して──私は崖から飛び降りた。


 「キィーーーーッ!!!!」


落下しながら、私を拾いに来たファイアローの脚を掴み──逃げた二人を追いかけて飛行を開始する。


果林「キュウコン、付いてきなさい!」

 「コーーーンッ!!!!」


指示を聞いて、崖を駆け下りるキュウコンと共に、私は猛スピードで追跡を始めた。





    🎹    🎹    🎹





侑「はぁ……はぁ……! ここまでくれば……!」

歩夢「はぁ……はぁ……う、うん……!」

リナ『距離は十分に取れた!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


──高所から一方的に攻撃されるのを避けるために、それなりに距離を離した。

でも、振り返ると──ファイアローに掴まった果林さんが猛スピードで追い付いてきているところだった。


リナ『もう、追い付いてきた……!?』 || ? ᆷ ! ||

果林「ファイアロー!! “だいもんじ”!!」
 「キーーーーッ!!!!」


ファイアローが口から特大の炎を噴出する。
584 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:09:38.08 ID:2N444K9g0

侑「く……! フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーッ!!!!」


“ハイドロポンプ”を発射し、“だいもんじ”を相殺しようとするけど──ジュウウウッと音を立てながら、水がどんどん蒸発していく。

それに加えて──


 「──コーーーンッ!!!!」


地面を駆けながら追い付いてきたキュウコンも加勢の“だいもんじ”を発射してくる。

──2匹分の“だいもんじ”を受けきるのは無理……!?

そう思った瞬間、


歩夢「トドゼルガ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「──ゼルガッ!!!」


キュウコンの火炎に対して、歩夢のトドゼルガが“ハイドロポンプ”で対抗する。

が、


歩夢「と、トドゼルガ、頑張って!」
 「ゼルガァァァァ!!!!!」


トドゼルガの水流はキュウコンの火炎に押され始める。

いや、歩夢だけじゃない。


 「フィーーーーーッ!!!!!」


私たちもファイアローの炎に負けそうになっている。


侑「く……イーブイ!! “どばどばオーラ”!!」
 「イーーブィッ!!!!」


肩の上から飛び跳ねたイーブイが周囲に相手の特殊攻撃を半減するオーラを発生させ──それでやっと拮抗し始める。


侑「これなら……!!」


──防ぎきれると思った瞬間、


 「キィーーーーッ!!!!」

侑「……!?」


ファイアローが自身で出した炎を突っ切り、“ハイドロポンプ”を掠めるように躱しながら、突っ込んできた。


果林「──“フレアドライブ”!!」
 「キィーーーーッ!!!!」

侑「くっ!? “ブレイククロー”!!」
 「ウォーーーーッ!!!!」


咄嗟にウォーグルへ指示。ウォーグルが大きな猛禽の爪を薙ぐが──ウォーグルの爪を掠めるように、ファイアローが宙返りで回避する。


 「ウォーグッ!!!?」


爪を空振り驚くウォーグル。しかも──その宙返りをしているファイアローの脚に、果林さんの姿がなかった。

直後──ズサァッと音を立てながら、私のすぐ横を果林さんが滑り抜けていく。


侑「な……!?」
585 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:10:32.87 ID:2N444K9g0

ファイアローが宙返りをする瞬間に手を離して、その勢いのまま私の背後に回り込みながら、


果林「“つばめがえし”!!」

 「キィーーーーーッ!!!!」

 「ウォーーーグッ…!!!?」
侑「ウォーグルっ!?」


炎を身に纏ったまま、切り返してきたファイアローがウォーグルに突撃し、さらに──


果林「バンギラス!! “じしん”!!」
 「──バンギッ!!!」


背後でボールから飛び出したバンギラスが、“じしん”によって大地を激しく揺らす。


侑「うわぁ……!?」


あまりの激しい揺れに立っていることもままならず、私は尻餅をつかされ、


歩夢「きゃぁっ……!?」


背後で歩夢も転倒し、二人で背中合わせで蹲ったまま動けなくなってしまう。

バランスを崩したのは私たちトレーナーだけでなく、


 「ゼルガァ…ッ」
歩夢「と、トドゼルガ……!!」


キュウコンと攻撃を撃ち合っていたトドゼルガも例外ではなく、大きな揺れで狙いが逸れてしまったのか、消火しきれなくなった“だいもんじ”が迫ってくる。

だけど、トドゼルガは──


 「ゼルガァッ!!!!」


むしろ自分から盾になるように“だいもんじ”突っ込んでいく。


歩夢「トドゼルガ!?」
 「ゼルガァァァ!!!!」


私たちに攻撃が届かないように、特性“あついしぼう”で炎を受け止めながら冷気を発して対抗する。

ただ、その間にも、


リナ『侑さん!! 攻撃が来るよ!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……!?」


果林さんは待ってなどくれない。


果林「“ばかぢから”!!」
 「バンギィッ!!!!」


バンギラスが両腕を振り上げ、蹲る私たちに向かって──力任せに振り下ろしてくる。


侑「歩夢ッ……!!」

歩夢「きゃっ!?」


揺れる大地で満足に動けないながら、私は背後の歩夢に跳び付くようにして、その場から離脱しようとする。

どうにか振り下ろされる腕そのものは回避できたけど──バンギラスのパワーで、大地が割れ砕け、その衝撃で、
586 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:11:09.86 ID:2N444K9g0

侑「っ゛……!!」

歩夢「きゃぁぁぁぁっ!!!」


歩夢ともども吹き飛ばされる。


歩夢「ふ、フラージェス!! “グラスフィールド”!!」
 「──ラージェス」


歩夢が咄嗟にフラージェスに“グラスフィールド”を指示し、私たちは敷き詰められた草の絨毯の上を転がる。


侑「つぅ……っ……」

歩夢「侑ちゃん、平気……!?」

侑「お、お陰様で……みんなは……?」
 「ブ、ブィ…」「ニャー…」「フィー…」

 「バース…」「──ジェルルップ…」


イーブイ、ニャスパー、フィオネ、エースバーンもどうにか無事。ウツロイドは浮遊して逃げていたらしく、歩夢のそばにふわふわと降りてくる。

ただ、


 「ウォ、ウォーグ…」


先ほどのファイアローの攻撃ですでに戦闘不能になっていたウォーグルと、


 「ゼルガァァァ…!!!」


私たちの盾になって、“あついしぼう”でどうにか炎を受けきったトドゼルガは、体力が限界だったのか、その場に崩れ落ちる。


歩夢「戻って、トドゼルガ……!」
 「ゼルガ──」

侑「戻れ、ウォーグル……!」
 「ウォーグ──」

リナ『侑さんっ!! 歩夢さんっ!! また来てる!?』 || ? ᆷ ! ||

 「キィーーーーッ!!!!!」

 「コーーーンッ!!!」

侑「っ……!?」

歩夢「……!!」


──本当に息つく暇がない……!


侑「ニャスパー!! サイコパワー全開!!」
 「ウニャーーッ!!!」

 「キィッ…!!!」


ニャスパーのサイコパワーを全開にし、発生した念動力の衝撃波をファイアローに向けて発射すると、ファイアローは押し返されるようにして、後ろに逃げていく。

そして、飛び掛かってくるキュウコンは、


歩夢「ウツロイド! “パワージェム”!!」
 「──ジェルップ」

 「コーーンッ…!!!?」


歩夢のウツロイドが迎撃して吹き飛ばす。


 「…コーーーンッ…!!!」
587 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:12:00.02 ID:2N444K9g0

それでもキュウコンは、全身の毛を逆立てながらすぐに立ち上がる。


リナ『“じしん”のダメージもあるはずなのに、すごいタフ……』 || > _ <𝅝||

侑「……歩夢、立てる……?」

歩夢「う、うん……!」


歩夢の手を取りながら、私たちは立ち上がるけど──


 「コーンッ!!!!」

 「キィーーーッ!!!!」

 「バンギィッ…!!!」


気付けば、あっという間に三方向から敵に囲まれてしまっていた。

さらに、ダメ押しとばかりに──果林さんの胸にあるネックレスが光を放つ。


果林「バンギラス、メガシンカ」
 「バンギラァァスッ!!!!!!」


バンギラスが光に包まれ──頭の角や、両肩、尻尾のトゲがより攻撃的に鋭く伸び、岩の鎧が全身を覆い、より攻守に優れた姿へとメガシンカする。

そして、それと同時に、周囲が激しい“すなあらし”に包まれる。


果林「……二人掛かりでなら勝てるとでも思ったのかしら?」

侑「く……」

果林「大人しくしていれば、痛い目に遭うこともなかったのにね……」


完全に果林さんの強さに圧倒されてしまっている。

どうにか態勢を立て直さないと……!

そのとき──歩夢がギュッと私の手を握ってくる。


侑「……!」

歩夢「侑ちゃん、落ち着いて」


そうだ……落ち着け。

焦ったまま戦っちゃダメだ……。

──果林さんのやろうとしていることを、冷静に考えてみるんだ……。

果林さんが積極的にやっていること、それは──包囲だ。

攻撃やポケモンを配置することによって、相手を包囲することを優先した戦い方をしている気がする。

理由は恐らく──歩夢だ。

果林さんにとって今一番困るのは、私が歩夢を連れて逃げ去ること。

果林さんの計画のために、現状最も重要なピースになっているのが歩夢だからだ。

なら今すべきことは包囲網を崩すこと──


侑「歩夢……バンギラス相手に時間、稼げる?」

歩夢「ちょっとなら……!」

侑「わかった、任せる……!」

歩夢「うん!」
588 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:12:42.87 ID:2N444K9g0

私は──キュウコンに向かって走り出す。

今包囲網を抜ける方法があるとしたら──狙うべきは手負いのキュウコンから……!!


果林「バンギラス!!」
 「バァンギッ!!!!」


もちろん、果林さんも簡単にそれをさせないように動くはず。


歩夢「ウツロイド!! “パワージェム”!!」
 「──ジェルルップ…」


動き出そうとするメガバンギラスに向かって、ウツロイドが攻撃を放つけど──宝石のエネルギー弾は、“すなあらし”に阻まれてほとんどが掻き消えてしまう。


果林「効かないわよ、そんな攻撃じゃ……!」
 「バァンギッ!!!」


そこに向かって──歩夢が他の手持ちのボールを放つ。


果林「“ストーンエッジ”!!」
 「バァンギッ!!!!」


歩夢のポケモンがボールから飛び出すと同時に、そこに鋭い岩が突き出てくるけど──岩が貫いた場所からは、ベシャッと粘性の高い音が鳴る。


果林「……!?」

歩夢「マホイップ!! “マジカルシャイン”!!」
 「マホイップッ!!!」


“とける”で攻撃を防いだマホイップが相性の良いフェアリー技を激しく閃光させる。


 「バァンギッ…!?」
果林「く……!?」

歩夢「フラージェス! “ムーンフォース”!!」
 「ラージェス!!!」

 「バンギッ…!!」


フェアリー技で畳みかけ、


歩夢「エースバーン!! “とびひざげり”!!」
 「バーーーースッ!!!!」

 「バンギッ…!!?」


エースバーンが怯んだメガバンギラスの頭部を蹴り飛ばす。

効果抜群の相性で有利な展開を取ったように見えたが、


 「バンギッ!!!!」


バンギラスは根性で仰け反った体を戻しながら、エースバーンに“ずつき”をかまして反撃する。


 「バーーースッ…!!!?」


反動の乗った反撃にエースバーンの体が宙を舞う。


歩夢「え、エースバーン!? 戻って!!」


歩夢がエースバーンをボールに戻す。無傷とはいかなかったけど──隙は十分作ってくれた……!!
589 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:13:13.02 ID:2N444K9g0

侑「フィオネ、“みずあそび”! イーブイ、“いきいきバブル”!」
 「フィーーーッ」「ブーーイィッ!!!」


フィオネが周囲に水をまき散らし、イーブイが周囲に泡を展開させる。


 「コーーーンッ!!!!」


それによって、キュウコンの“だいもんじ”の威力を軽減しつつ──


侑「ドラパルト!! “ドラゴンアロー”!!」
 「──パルトッ!!!!」
 「メシヤーーーッ!!!!!」「メシヤーーーッ!!!!!」


ドラパルトをボールから繰り出すと共に、音速で発射されたドラメシヤたちが、威力の下がった“だいもんじ”を突っ切り──


 「コーーンッ…!!!?」


火炎の向こうであがるキュウコンの鳴き声が、“ドラゴンアロー”の直撃を知らせてくれる。

よし……!

そして、


 「キィーーーッ!!!!」

侑「ニャスパー! パワー全開!! “サイコキネシス”!!」
 「ウニャーーーッ!!!」


横から迫ってくるファイアローをサイコパワーで牽制する。


 「キ、キィーーーッ!!!!」


またしても、ファイアローはサイコパワーの風を前にすると、後ろに退避していく。

やっぱりそうだ……! ファイアローはさっきから、攻撃を避けることを優先していた。

最初からファイアローは包囲網の維持を優先するように指示を受けているということだ。

メガバンギラスとファイアローを牽制し、キュウコンを撃退した。


侑「ドラパルト! “ハイドロポンプ”!!」
 「パルトォーーーッ!!!!」


私は威力の弱まった“だいもんじ”にダメ押しの水流をぶつけて消火し、道を作りながら、


侑「歩夢!! こっち!!」


歩夢を呼び寄せる。


歩夢「うん!」


歩夢は頷きながら踵を返して、私の方へと走り出す。

が、それと同時に、


果林「バンギラス!! “いわなだれ”!!」
 「バンギィッ!!!」


態勢を立て直したメガバンギラスが“いわなだれ”を発生させ、それが歩夢に迫る。


侑「ニャスパーッ!! “テレキネシス”!!」
 「ウニャ---ッ!!!」
590 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:13:54.01 ID:2N444K9g0

すぐさま、ニャスパーでサポートするけど──岩の量が多すぎて、全ての岩を浮遊させきれない。


侑「ドラパルト!! “りゅうのいぶき”!!」
 「パルトォーーーーッ!!!」


ドラパルトが少し上に浮遊しながら撃ち下ろす形で、歩夢の背後の岩をピンポイントで吹き飛ばし──私は歩夢に向かって両手を広げる。


侑「歩夢!! 跳んで!!」

歩夢「侑ちゃん……!!」


歩夢が岩に巻き込まれる寸前で踏み切って、私の胸に飛び込んでくる。

歩夢を抱き留めた瞬間──地面から巨大な樹が生えてきて、“いわなだれ”を塞き止めた。


侑「はぁ……せ、セーフ……」
 「イッブィ!!」

歩夢「この樹……“すくすくボンバー”……?」

侑「うん、そうだよ」


間一髪、仕込んでおいた“すくすくボンバー”で“いわなだれ”を凌ぎきったけど、またすぐに追撃が来るはずだ。


侑「歩夢、行こう!」

歩夢「うん!」


歩夢の手を引きながら再び走り出した瞬間──


リナ『侑さん! 上!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「上!?」

果林「──サザンドラ!! “りゅうせいぐん”!!」
 「サザンドーーーーラッ!!!!!」


サザンドラの背に乗った果林さんが指示を出すと──大量の“りゅうせいぐん”が降り注いでくる。


歩夢「侑ちゃん! 下がって!!」


歩夢が一歩前に出て、


歩夢「マホイップ! “ミストフィールド”! フラージェス! “ムーンフォース”!」
 「マホイ〜〜」「ラージェスッ!!!」


マホイップがドラゴンタイプの攻撃を半減するフィールドを展開し、フラージェスが月のパワーを放出し、落ちてくる流星に向かって発射する。

“ムーンフォース”が直撃すると、流星はエネルギーを失い、バラバラの塵になって消滅する。

そもそも、フェアリータイプにはドラゴンタイプの攻撃は効果がないから、マホイップやフラージェスのパワーでも十分対抗出来ている。

なら私は──


 「キィーーーーッ!!!!」

侑「後ろだ……!! “ドラゴンアロー”!!」
 「パルトッ!!!!!」
 「メシヤーーーッ!!!!!」

 「キィーーーーッ…!!!!?」

果林「……!」


後ろから急襲してきたファイアローを一点読みで撃ち落とし──
591 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:15:05.87 ID:2N444K9g0

 「メシヤーーーーッ!!!!」


もう1匹のドラメシヤはグンと軌道を変え、サザンドラに向かって突っ込んでいく。

が、


果林「“りゅうのはどう”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!!」

 「メ、メシヤーーーーッ!!!!!?」


そちらは攻撃失敗。迎撃されて、吹っ飛んできたドラメシヤをボールに戻し、他のドラメシヤをボールから出してドラパルトに装填する。


果林「……読まれた……?」


果林さんは戦闘不能になったファイアローに向かってボールを投げ、控えに戻しながら、怪訝な顔をする。

──包囲を優先する動きからして、サザンドラを見た瞬間、ファイアローは背後に回してくると思った。


果林「……ふふ、そういうこと……」


果林さんが含むように笑う。


果林「侑、貴方──ずっと、私の出方を伺ってたのね……」

侑「…………」

果林「考えてみれば当然よね……。意識を失った歩夢を助け出したとしても……フェローチェの速度からは逃げられないものね」


そう、そもそもフェローチェの速度からは、まともに逃げる術がない。

だからこの戦いは元から、最低限フェローチェは倒さないといけない戦いだった。


果林「わざわざこの決戦の地まで来たのに……弱すぎると思ったのよ」

侑「果林さんが戦闘中に意識してることは──包囲、行動阻害、死角からの攻撃ですよね」


そして、果林さんもフェローチェが居れば、最悪歩夢を奪われても打開出来ると考えていたということ。

私たちにとって、今一番まずいシチュエーションは──フェローチェに追跡されながら、他の手持ちに包囲され、一網打尽にされることだった。

だから、とにかくフェローチェを出してくるタイミングに注意しながら、果林さんが戦闘をどう組み立てるのかを伺っていたというわけだ。


果林「観察タイプのトレーナー……嫌な相手ね。なら、ここからは──観察させずに倒さないとね」


──腹を決める。

ここからが本番だ。


侑「ライボルト!! メガシンカ!!」
 「──ライボッ!!!」


ボールから出したライボルトが光に包まれると同時に──


果林「“とびひざげり”!!」
 「──フェロ…ッ!!!!」


一瞬で目の前に現れたフェローチェの膝を、


侑「ライボルト!!」
 「ライボォッ!!!!」


ライボルトの目の前に黒い壁のようなものが飛び出して、攻撃を防いだ。
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