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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2
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592 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:16:01.33 ID:2N444K9g0
果林「……!」
さあ、必殺技の解禁だ……!
──────
────
──
侑「──私の長所……ですか……?」
彼方「うん〜。わたしも果南ちゃんも、侑ちゃんの短所にばっかり言及しちゃってたからね〜。でも、短所に関しては、ここまでで十分補強できたから、ここからは長所をちゃんと理解してもらいたいなって思って」
侑「なるほど……。……それで、私の長所って……?」
彼方「前にも果南ちゃんがちょっと言ってたけど〜……侑ちゃんが得意なのは戦局の見極めだね〜。特にトレーナーが何をしようとしているのかを、見抜く力がある」
侑「確かに……前にダイヤさんからも似たようなことを言われました。トレーナーをよく見てるって……。……でも、それって結構基本的なことなんじゃ……」
彼方「確かに相手のやりたいことを考えて動くのは戦闘の基本だね〜。でも、それが出来るトレーナーって意外と少ないんだよ〜?」
侑「そう……なんですか……?」
彼方「バトル中って考えることがたくさんあるからね〜。果南ちゃんやかすみちゃんはあんまりそういう組み立て方はしてないだろうし〜……」
言われてみれば、あの二人は組み立てる戦いというよりも……自分たちの出来ることを無理やりにでも通すって戦い方かもしれない……。
彼方「そういう彼方ちゃんもそっちタイプではないし……千歌ちゃんとか穂乃果ちゃんも違うからな〜……。……強いていうなら、せつ菜ちゃんが一番侑ちゃんに近いかも」
侑「え……!?」
思わぬところで、憧れのトレーナーの名前が出てきて驚く。
侑「せ、せつ菜ちゃん……?」
彼方「せつ菜ちゃんは純粋に頭が良い子みたいだから、たくさんの戦術を知ってるし……相手のポケモンやトレーナーの癖を考えながら、バトルを組み立てるタイプ。理論派って言うのかな? もちろん、ポケモンの鍛え方もトップクラスだから、彼方ちゃんも相手にするのは気が重いんだけどね〜……」
侑「じ、じゃあ……私も長所を伸ばしていけば、せつ菜ちゃんみたいに……!」
彼方「ふふ、そうだね〜。でも、この考え方を実行するには、出来なくちゃいけないことがあるのです!」
侑「出来なくちゃいけないこと……?」
彼方「それは、いなしと防御だよ〜」
侑「いなしと……防御……?」
彼方「相手を観察する戦い方って、もともと戦ってる姿を見たことがある相手には最初から使えるけど……初めて戦う相手の場合、まず相手を観察しなくちゃいけないでしょ?」
侑「は、はい……それは確かに」
彼方「でも、戦いにおいて一番難しいのは、初めて見る攻撃を対処すること」
侑「なるほど……だから、いなしと防御が必要だと……」
彼方「そういうこと〜。ただ、侑ちゃんのポケモンは防御が得意なポケモンばっかりじゃないよね。うぅん、どっちかというと苦手な部類かな」
侑「……そうかもしれません」
私の手持ちで出来る防御手段というと、イーブイのいくつかの“相棒わざ”とニャスパーのサイコパワーくらいだ。
彼方「そこで考えるのがいなし。例えば真っすぐ飛んでくる拳は〜」
そう言いながら、彼方さんがこっちにゆっくり拳を向けてくる。
593 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:16:41.46 ID:2N444K9g0
彼方「真っすぐ拳をぶつけて相殺するより、上から叩いて攻撃を逸らす方が、少ないパワーで相手の攻撃を無力化できるよね?」
侑「はい」
彼方「じゃあ、これが炎だったらどうする〜?」
侑「えっと、水で消火するとか……?」
彼方「うんうん。他には岩で火を遮ったり、風で進路を逸らしたり。攻撃を無力化する方法って実はいろいろあるんだ。これをいかに無駄なく、瞬時に選べるか……それがいなしの技術ってわけ。それを侑ちゃんには習得して欲しいってわけだよ〜」
侑「なるほど」
どうやら私の長所は、相手の攻撃を防ぐ手段があってこそ真価を発揮するという話のようだ。
そんな中、ずっと話を黙って見ていたリナちゃんが、
リナ『でも、常に全部の攻撃をいなすのって難しくない?』 || ╹ᇫ╹ ||
そんな疑問を彼方さんにぶつける。
彼方「そうだね〜。いなしが得意な人でも、全ての攻撃をいなすのは難しい。特に相手が速い場合や攻撃範囲が広い場合は、ほぼ無理かも。だから、いなしだけじゃなくて、どこかで防御も必要ってこと」
リナ『なるほど』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「でも、私のポケモンじゃ、防御手段が……」
彼方「ふっふっふ……そこで彼方ちゃんの出番なわけですよ〜」
リナ『どういうこと?』 || ? ᇫ ? ||
彼方「何を隠そう、彼方ちゃんは防御戦術の達人なのだ〜。だから、これから侑ちゃんに新しい防御手段を授けよう〜」
侑「お、お願いします……!」
──
────
──────
黒い盾はフェローチェの蹴撃を弾く。
「フェロ…!!!」
着地し、一旦距離を取ろうとするフェローチェに向かって、
侑「“でんげきは”!!」
「ライボッ!!!」
高速で広がる電撃で攻撃する。
果林「フェローチェ!!」
「フェロッ……!!!!」
果林さんの呼び掛けと共に──フェローチェが一瞬で、果林さんの傍まで離脱する。
リナ『本来“でんげきは”は必中クラスになるはずの高速技なのに……』 || > _ <𝅝||
侑「相手がそれだけ速いんだ……そこは割り切ろう」
「ライボ…!!!」
それよりも──ちゃんと実戦で成功した。
この黒い盾が、彼方さんと編み出した、私の防御手段の切り札だ……!
果林「一体どうやってるのかしら──ね!!」
「フェローーーッ!!!!!」
594 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:17:27.97 ID:2N444K9g0
今度はフェローチェが真上から“とびかかる”で降ってくるが、
「ライボッ!!!」
「フェロ…!!!」
黒い盾が真上に移動し、フェローチェを弾く。フェローチェはまたすぐに反撃を受けないように離脱し、
果林「サザンドラ!! “りゅうのはどう”!!」
「サザンドーーーラッ!!!!」
サザンドラがライボルトに向かって、“りゅうのはどう”を放ってくる。
歩夢「フラージェス!! “ムーンフォース”!!」
「ラージェスッ!!!」
それを、フラージェスが“りゅうのはどう”を相殺する。
が、
「バンギィッ!!!!」
メガバンギラスが前に飛び出し、ドラゴン技の防御に入っていたフラージェスを“アイアンヘッド”で叩き落とす。
「ラージェスッ…!!?」
歩夢「フラージェス……!? も、戻って!!」
歩夢がフラージェスとボールに戻すのとほぼ同時に──
「フェロッ」
歩夢「……!?」
歩夢の目の前にフェローチェが膝を引きながら、現れる。
「ライボッ!!!」
そこに割り込むように飛び込んだライボルトが黒い盾で攻撃を防ぐ。
歩夢「ら、ライボルト……! ありがとう……!」
攻撃を防いだ瞬間、
果林「サザンドラ!! “りゅうのはどう”!!」
「サザンドーーーラッ!!!!」
サザンドラが再びライボルトに向かって、“りゅうのはどう”を発射してくる。
侑「ニャスパー!!」
「ニャーーーッ!!」
そこにニャスパーが飛び込み、サイコパワーで“りゅうのはどう”をいなす。
が、いなした瞬間、
「バンギィッ!!!」
またしても、メガバンギラスが防御したポケモン──今度はニャスパーを叩きに来る。
595 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:18:12.07 ID:2N444K9g0
侑「フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
「フィーーーオーーーーッ!!!!」
「バンギッ…!!!」
フィオネの“ハイドロポンプ”でメガバンギラスの腕を弾いて攻撃を中断させるが、
「フェロッ!!!」
「フィーーーッ!!!?」
フェローチェが標的を変え、フィオネを蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたフィオネは、そのまま岩壁に叩きつけられる。
侑「フィオネっ!?」
「フィ、フィー…」
侑「戻って!!」
ボールに戻す隙にも、
果林「“りゅうせいぐん”!!」
「サザンドーーーラッ!!!!!」
次の攻撃が降ってくる。
歩夢「マホイップ! “マジカルシャイン”!!」
「マホイーーーーッ!!!」
マホイップが降ってくる流星を、フェアリータイプの“マジカルシャイン”で破壊するけど──
歩夢「きゃぁっ……!」
歩夢から少し離れた場所に消し損ねた流星が落ちてきて、その衝撃で地面が揺れ、歩夢が転倒する。
流星の数が多すぎる……!
侑「歩夢!! この数を捌ききるのは無理だ!! ニャスパー! こっち!!」
「ウニャー」
私はニャスパーを呼び寄せながらライボルトにまたがり、稲妻のような速度で走り出しながら、歩夢に手を伸ばす。
侑「歩夢!!」
歩夢「うん……!」
すれ違いざまに歩夢の手を掴み、ライボルトの背中に引っ張り上げた。
侑「一旦退避を──」
「フェロッ!!!」
侑「ッ!?」
走るライボルトの横にフェローチェが追い付いてきていた。
並走しながら、フェローチェの脚が迫る。
「ライボッ!!!!」
──ゴッと音を立てながら、フェローチェの蹴りをギリギリで黒い盾がガードする。
596 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:18:59.20 ID:2N444K9g0
侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
「ブーーーイィッ!!!」
「フェロッ…!!」
しかし、またしてもフェローチェはヒット&アウェイで攻撃を回避する。
侑「防げても攻撃が当てられない……っ」
純粋なスピードでは、メガライボルトよりもフェローチェの方が速いかもしれない。
どうにか防御で凌いで、攻撃をヒットさせたいんだけど……!
黒い盾を傍らに浮遊させながら、ライボルトが“りゅうせいぐん”の降りしきるフィールドを走り回る。
歩夢「……その黒い盾……もしかして、砂鉄……?」
リナ『歩夢さん、正解! よく気付いたね!』 || > ◡ < ||
歩夢「なんか、この黒い盾……近くにいると肌がピリピリするから……電磁力か何かで操ってるのかなって思って……」
侑「ほ、ホントによく気付いたね……」
そう、彼方さんと一緒に考えたこの黒い盾の正体は──砂鉄だ。
周囲のフィールドから砂鉄を集め、メガライボルトの超高出力の電磁力で制御、超圧縮し、頑強な壁を生成している。
メガバンギラスの起こす“すなあらし”のお陰で砂鉄の回収効率もかなりのものになっていて、意図せずこちらにとって好都合な環境になっている。
侑「ただ、でんきエネルギーのほとんどを防御に回しちゃうから、攻撃の出力が落ちちゃうんだ」
リナ『攻防両立とはなかなかいかない……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「フェローチェは防御力が低いウルトラビーストらしいから……攻撃を当てさえすれば、ダメージにはなると思うんだけど……!」
一旦距離を取って、態勢を立て直そうとした、そのとき──急にグラグラと地面が大きく揺れ始め、
「ライボッ…!!!?」
侑「いっ!?」
歩夢「えっ!?」
リナ『わーーーっ!?』 || ? ᆷ ! ||
これ“じならし”……!?
メガバンギラスからの攻撃だと気付いた時には、ライボルトが転倒し、私たちの身体は宙に浮いていた。
しかもライボルトの走行速度が速度だけに、このまま地面に激突したらやばい……!?
侑「“テレキネシス”!?」
「ニャァァッ!!!!」
すぐさま“テレキネシス”で落下による地面への激突は防ぐけど──
リナ『横の勢いが止まらない!?』 || ? ᆷ ! ||
歩夢「きゃぁぁぁぁっ!!?」
私と歩夢はそのまま、岩壁に激突しそうになった瞬間、
「パルトッ!!!」
ジェット機のようなスピードで飛んできたドラパルトが間一髪のところで、私たちを頭で拾い上げるように乗せて救出する。
そして、ライボルトは──
597 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:19:36.76 ID:2N444K9g0
「ライボッ!!!!」
“でんじふゆう”を壁に向かって使い激突を防ぐ。
侑「あ、ありがとう……ドラパルト……」
「ブ、ブィ…」
歩夢「ぶ、ぶつかっちゃうところだった……」
リナ『間一髪……』 || > _ <𝅝||
ドラパルトは旋回をしながら、宙を舞うが──その進行方向に、
「サザンッ!!!」
全身に黒いエネルギーを集束させた、サザンドラの姿。
侑「やばいっ!?」
果林「“あくのはどう”!!」
「サザンドーーラッ!!!!」
「パルトッ!!!?」
侑「ドラパルトッ……!?」
歩夢「きゃぁぁぁぁっ!!?」
“あくのはどう”の直撃を受けて、私たちはドラパルトから振り落とされ──再び地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。
侑「ニャスパー!! もっかいっ!!」
「ウニャーッ!!!」
今度はさっきと違って、重力による自由落下だけだから、“テレキネシス”だけで落下の衝撃を防げるけど──
「ニャッ!!?」
そのとき突然ニャスパーがサイコパワーを全開にし──
侑「えっ!?」
歩夢「っ!!?」
周囲にいた私たちを吹っ飛ばす。
私は宙を舞いながら咄嗟に──
侑「歩夢ッ!!」
歩夢を抱き寄せ──地面の上を転がる。
侑「ぅ……ぐぅ……っ……!」
歩夢「ゆ、侑ちゃん……!」
侑「あゆ、む……無事……っ……?」
歩夢「わ、私は平気だけど……侑ちゃんが……!」
侑「へ、平気だよ……そんなに高い場所から落ちたわけじゃないから……」
全身の痛みに耐えながら立ち上がると──
「フェロ…」
「…ウニャ…」
598 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:20:28.46 ID:2N444K9g0
ニャスパーがフェローチェの“ふみつけ”を受けて、戦闘不能になっていた。
フェローチェの攻撃を察知して、咄嗟に私たちだけを吹き飛ばしたんだ……。
そして、目が合った瞬間、
「フェロッ!!!!」
一瞬で肉薄してくるフェローチェ、
「──ライボッ!!!!」
そこに割り込むように、ライボルトが防御する。
侑「“スパーク”!!」
「ライボッ!!!」
ライボルトが火花を散らせるが、
「フェロッ」
やっぱりフェローチェには逃げられてしまう。さらにそこに──
果林「それ……物理の防御にしか使ってないわよね」
侑「!?」
上空からギクりとする言葉を掛けられる。
そう、砂鉄による防御はあくまで物理攻撃への防御手段。
特殊攻撃へは特筆出来るほどの防御にはならない。
果林「“かえんほうしゃ”!!」
「サザンドーーーラッ!!!!」
しかも、ドラゴン技じゃないから、フェアリータイプで無効化出来ない……!?
歩夢「マホイップ!! イーブイに“デコレーション”!!」
「マホイ〜〜!!」
そんな中、マホイップがイーブイに、クリームやリボンのあめざいくを“デコレーション”をし始める。
侑「……! イーブイ! “めらめらバーン”!!」
「ブーーーィィィッ!!!!」
“デコレーション”は味方の攻撃能力を上昇させる技だ。
強化された炎を身に纏い、イーブイが真っ向から炎に突撃する。
“デコレーション”の効果もあって──こちらの炎の勢いが上回り、
「ブーーーィィッ!!!!」
炎同士の衝突によって、“かえんほうしゃ”の方向をどうにか逸らす。
が、そこに向かって──
果林「“あくのはどう”!!」
「サザンッ!!!!」
攻撃を受けきったばかりのイーブイに、追撃の“あくのはどう”が飛んでくる。
599 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:21:26.93 ID:2N444K9g0
侑「“どばどばオーラ”ッ!!」
「ブーーィィィッ!!!」
咄嗟に“どばどばオーラ”を放って防御させるが、
「ブィィィッ…!!!」
完全には防ぎきれず、イーブイが撃ち落とされる。
侑「イーブイッ!!」
私がイーブイの落下地点に走り出した瞬間、
「フェロッ」
侑「くっ……!?」
フェローチェの蹴撃が迫る。
「ライボッ!!!!」
俊足のライボルトが、それをすかさずガードし──私はスライディングしながら、イーブイをキャッチする。
侑「イーブイ平気!?」
「ブ、ブィ…!!」
ダメージは少なくないけど──どうにか無事だ。
ほっと一安心した、そのとき、
歩夢「侑ちゃんッ!!!!」
歩夢が私の名前を叫んだ。
ハッとして顔を上げると──
「──バンギッ!!!!!」
「──フェロッ」
腕を振り下ろすメガバンギラスの姿と、脚を振り下ろすフェローチェの姿。
「ライボッ!!!!」
またしても、フェローチェの攻撃を絶対防御する姿勢を貫いているライボルトが、フェローチェの攻撃は防いだものの──バンギラスの攻撃が私に向かって降ってきていた。
歩夢「侑ちゃん、逃げてぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
歩夢の絶叫が響く。
──無理だ、避けられない。
目の前の光景がスローモーションになる中、
「イッブゥィッ!!!!」
腕の中のイーブイから──闇が放たれた。
600 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:22:24.82 ID:2N444K9g0
侑「……!?」
周囲が突然真っ暗になり何も見えなくなったかと思ったら、腕の中からイーブイが飛び出し──月光のような淡い光を纏いながら、
「バンギッ!!!!」
「ブーーーィッ!!!!」
自身の体でバンギラスの攻撃を受け止めた。
侑「……うそ!?」
まさか──
リナ『“相棒わざ”!? “わるわるゾーン”!?』 || ? ᆷ ! ||
物理攻撃のダメージを減らす“相棒わざ”……!?
私が呆気に取られていると──
歩夢「──マホイップッ!! “マジカルシャイン”ッ!!」
「マホイーーーーッ!!!!」
「バンギッ…!!?」
歩夢の叫ぶような技の指示と共に、メガバンギラスが足元から強烈な閃光で焼かれ、よろける。
──ハッとして、ライボルトに視線を向けると、
「ライボッ…!!」
バチバチと“スパーク”するライボルトの傍からはすでにフェローチェの姿は消えていた。
でも、これはこのタイミングなら、むしろ好機だ……!!
侑「ライボルト!! バンギラスに“ライジングボルト”!!」
「!! ライボォッ!!!!」
「バンギィィッ!!!!?」
立ち上る電撃を足元から受け、立て続けの攻撃にふらつくバンギラスに向かって、
侑「イーブイ!! “いきいきバブル”!!」
「ブーーーィィッ!!!!」
イーブイが大量のバブルでメガバンギラスの全身を埋め尽くし──
「バ、バンギ…ッ…」
メガバンギラスの体力を吸いつくし、戦闘不能に追い込んだのだった。
あとはサザンドラと、フェローチェ……!!
果林「くっ……サザンドラ、“りゅうせい──」
果林さんが技を指示しようとした瞬間、
「──ジェルルップ」
果林「っ!!?」
突然、果林さんの背後から、ウツロイドが飛び掛かった。
果林さんは咄嗟にサザンドラから飛び降りて、回避するが、
601 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:23:08.16 ID:2N444K9g0
「サザンドーーーーーラッ!!!!!?」
ウツロイドは、サザンドラの頭に纏わりつき、サザンドラに神経毒を注入し始める。
果林「戻りなさいっ!! サザンドラ!!」
果林さんは落下しながら、サザンドラをボールに戻し──
着地の衝撃を受け身を取って殺しながら、すぐに立ち上がる
さすが訓練された人間だけあって、見事な動きではあるけど──
果林「……っ……」
さすがに、それなりの高さがあったこともあって、全く無傷とは行かなかったようだ。
しっかり立ってはいるものの、足に少しふらつきが見える。
加えて、毒を注入されたサザンドラは恐らくもう戦闘は出来ない……!
侑「サザンドラも倒した……! これなら……!」
が、直後──
「フェロッ!!!」
「──ジェルップ」
ウツロイドの真上にフェローチェが突然現れて、かかと落としの要領で叩き落した。
歩夢「ウツロイド……!!」
地面に墜落したウツロイドは──
「──ジェルル…。…」
動かなくなってしまった。戦闘不能だ。
果林「……はぁ……はぁ……。……ずっと……背後からウツロイドを忍び寄らせてたわね……」
歩夢「あと……ちょっとだったのに……」
果林「本来は貴方が寄生されるはずだったのに……悪いこと考えるじゃない……」
フェローチェの姿が掻き消えたと思ったら──
「フェロッ!!!!」
歩夢「……!」
次の瞬間には歩夢の顔面にフェローチェの脚が迫り、
「ライボォッ!!!!」
ライボルトが、もう何度目かわからないディフェンスをする。
果林「はぁ……はぁ……。何よ……なんで、邪魔するのよ……ッ!」
だんだん果林さんに焦りが見えてきた。彼女は息を切らせながら、大声をあげる。
直後、
「フェロッ!!!!」
602 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:24:02.72 ID:2N444K9g0
フェローチェが歩夢の背後に回り、後頭部を蹴ろうとし、
「ライボッ!!!」
歩夢「きゃっ!?」
「フェロッ!!!!」
そして今度は側頭部、
「ライボッ!!!!」
歩夢「……っ!!」
「フェロッ!!!!」
また正面から、
「ライボッ!!!!」
歩夢「……っ!!」
連続攻撃を、ライボルトがギリギリで防ぐ。
果林「私が負けたら……!! 私の世界の人たちはッ!! みんな死んじゃうのよッ!!」
「フェロッ!!!!」
「ライボッ!!!!」
歩夢「っ……!! ゆ、侑ちゃん……っ」
フェローチェが歩夢へ連続攻撃を始める。
どうにか、ライボルトが防ぐ中、
侑「ライボルト!! “でんげきは”!!」
「ライボォッ!!!!」
「フェロッ!!!? …ローチェッ!!!」
あまりに捨て身な連続攻撃だったため、ここで初めてこっちの攻撃がフェローチェにヒットする。
ただ、攻撃は当たったが──フェローチェの攻撃が止まらない。
侑「ライボルトッ!! 歩夢を連れて逃げて!!」
「ライボッ!!!」
歩夢「きゃっ!?」
ライボルトが歩夢の襟後を咥え、無理やり背中に乗せて走り出す。
でも──
「フェロッ!!!」
フェローチェは執拗に歩夢を狙う。
果林「そう、歩夢がいれば、歩夢の身体があれば、世界が救える、救えるの……ッ」
侑「果林さんッ!! 歩夢が死んじゃったら、歩夢の能力も使えなくなるんじゃないのッ!!?」
果林「うるさいッ!!! 少しでも息があればいいのよ……ッ!!!」
追いつめられて、果林さんは正常な判断力を失っているのが、私の目から見てもわかった。
603 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:24:59.76 ID:2N444K9g0
侑「ライボルトッ!!! とにかく逃げてッ!!!」
「ライボォッ!!!!」
歩夢「っ……!!」
「フェロッ!!!!」
駆けるライボルト、追うフェローチェ。
侑「く……っ」
私は果林さんのもとへと走る。
侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
「ブーーーィィッ!!!」
イーブイの“びりびりエレキ”を果林さんのすぐ真横に落とす。
果林「きゃぁっ!!?」
侑「果林さんッ!! フェローチェに止まるように指示して!!」
果林「お、お断りよ……ッ!!」
侑「っ……! イーブイ!! “びりび──」
いったん気絶させようと、イーブイに指示を出そうとした、そのときだった。
度重なる防御で──ライボルトもいい加減疲労が限界だったんだろう、
「フェロッ!!!」
「ライボッ!!!?」
歩夢「きゃっ!!?」
フェローチェの“ローキック”がライボルトの脚に引っ掛かり──ライボルトがバランスを崩す。
それと同時に──猛スピードで走るライボルトの背に乗っていた歩夢が、放り出された。
侑「歩夢ッ!!?」
歩夢が放り出された瞬間。
「マホイッ!!!!」
歩夢の胸元にいたマホイップが“サイコキネシス”で飛んでいく勢いを軽減するが──それでも、ニャスパーのような強力なサイコパワーですら止めきれなかった勢いは殺しきれず、
「マホイッ…!!!」
マホイップは自身の体を下敷きにするように、“とける”で歩夢のクッションになろうとする。
──ベシャッ、ベシャッと音を立て、クリームをまき散らしながら、歩夢が地面を転がる。
侑「歩夢−−−−ッ!!!」
「イブィーーーッ!!!!」
リナ『歩夢さんっ!!』 || > _ <𝅝||
私は歩夢のもとへと走り出す。
歩夢「……っ゛……あ、ぐ、ぅ……っ……」
「マ、マホィ…」
歩夢「……あ、はは……クリームまみれ……だ……。……けど……お陰で、たすかった……よ……マホイ……ップ……」
「マホ…」
604 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:25:54.25 ID:2N444K9g0
辛うじて、歩夢の意識はあった──が、
「フェロ…」
動けなくなった歩夢の前で、フェローチェが脚を振り上げる。
ライボルトは──
「ライ、ボッ…」
先ほどの攻撃によって、猛スピードで転んだことで、すぐに起き上がれるような状態じゃなかった。
ライボルトはもう──歩夢を守れない。
マホイップも全身のクリームが飛び散っていて、すぐに戦える状態じゃない。
「フェロ──」
侑「歩夢ーーーーーーッ!!!! 逃げてぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」
フェローチェの脚が振り下ろされ──そうになって……フェローチェの脚が──止まった。
侑「……え……」
リナ『………………!?』 || ? ᆷ ! ||
果林「……う、そ……」
フェローチェの軸足に──
「──シャーーーボ」
歩夢の上着の袖から顔を出した──サスケが、噛み付いていた。
歩夢「……サスケ……おりこうだね……」
「シャーーーボッ」
「フェロ……」
ライボルトの電撃を受けていたこともあり……防御力が極端に低いフェローチェは──最後はアーボのサスケの“どく”により……力尽きて崩れ落ちた。
一瞬、呆然としてしまったけど──すぐに我に返って、また駆け出す。
侑「……歩夢っ……!!」
歩夢「……ゆう……ちゃん……」
ボロボロの歩夢を抱き起こす。
侑「歩夢、大丈夫……!?」
歩夢「……ゆう、ちゃん……わたしたちの……勝ち……だよ……」
侑「そんなことどうでもいい……!! 歩夢……!!」
歩夢「どうでも……よく、ないよ……。……ちょっと痛いけど……大丈夫……」
怪我をしているのは間違いないけど……意識もちゃんとある。
侑「……すぐに治療してあげるから……もう少しだけ我慢してね……」
歩夢「……ぅん」
歩夢を抱き上げようとした、そのとき、
605 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:26:34.98 ID:2N444K9g0
果林「──ゴロンダッ!!」
「──ロンダ…」
侑「……!?」
「イブィッ!!!?」
果林「“アームハンマー”!!」
「ロンダァッ!!!!」
侑「っ……!!」
私は歩夢を抱きかかえたまま、その場から飛び退き、地面を転がる。
歩夢「ぁ゛……っ゛……」
侑「ご、ごめん、歩夢……!! 痛かったよね……」
歩夢「へい……き……だ、よ……」
侑「……っ……すぐ、終わるから……!」
私は顔を上げる──
果林「…………はぁっ…………はぁっ…………。……私は……私は…………負けちゃ……いけないの……っ……」
「ゴロンダァ…」
まだ──ポケモンが残っていた。
リナ『こ、こわもてポケモン……ゴロンダ……』 || > _ <𝅝||
侑「く……イーブイ!!」
「ブイッ!!!」
果林「私は…………負ける、わけに…………いかないのよ………………」
果林さんは、引き攣った顔で、そう呟く。
この満身創痍の状態……イーブイ1匹で体力満タンの果林さんのポケモンに勝てるの……!?
「ロンダァッ…!!!」
ゴロンダが走り込んでくる。
侑「……やるしかないっ……!! イーブイ!! “きらきらストーム”!!」
「ブーーーーィィィィッ!!!!!」
「ゴ、ロンダァ…!!!!」
ゴロンダをパステル色の風が包み込み──
「…ゴ、ロンダ…ァ…」
侑「あ、あれ……?」
「ブイ…?」
ゴロンダは一発の攻撃で、力尽きて、倒れてしまった。
侑「強く……ない……?」
果林「あ……ぁ…………」
果林さんがそれを見て、カタカタと震えだす。
606 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:28:35.29 ID:2N444K9g0
果林「…………ダメ、ダメよ……私は……負けちゃ……ダメ、なの……」
侑「果林さん……!! もう、終わりです!! 私たちの勝ちです!!」
果林「終わり……違う……終わりじゃない……!!」
もうポケモンは残っていないはず。だけど、果林さんは私に向かって歩いてくる。
そして、懐から──サバイバルナイフを取り出した。
侑「う、嘘でしょ……?」
果林「私は…………たくさんの人の…………想いを……願いを……背負ってるのよ…………だから……だから……ッ」
果林さんが走り込んできて──ナイフを振りかざした。
侑「……ッ!!」
私をナイフで切り付けようとした、その瞬間──私を庇うように、人が飛び込んできた。
レンガレッドのおさげを揺らしながら──
エマ「……っ……!」
侑「エマ……さん……!?」
果林「!? え、エマ……!?」
エマ「…………果林、ちゃん……」
エマさんは果林さんの名前を呼びながら、その場に崩れるようにして蹲る。
その肩には──真っ赤な血の痕が服に滲んでいた。
侑「え、エマさん……!? 血が……!」
エマ「大丈夫……ちょっと掠っただけ……。……全然深くないから……」
果林「え、エマ……な、なんで……」
エマ「果林ちゃん……もう……こんなこと……終わりにしよう……? これ以上……誰かを、傷つけないで……」
果林「…………ダメよ……」
エマ「……本当はこんなこと……もう、したくないんでしょ……?」
果林「…………ち、違う……私は……私の意志で、ここに……」
エマ「……もう、大丈夫だから……一人で抱え込まないで……一人で泣かないで……いいんだよ……」
エマさんがよろよろと立ち上がる。その足には添え木とギブスがしてあった。
怪我をしている足で立ったら痛むはずなのに……エマさんは優しい表情を崩さず──果林さんを抱きしめる。
エマ「そのゴロンダちゃん……わたしが最初にあげたヤンチャムちゃんだよね……?」
果林「…………ぁ…………それ、は…………」
エマ「まだ持っててくれたんだね……。……それに……果林ちゃんがお家に残していった……他のヤンチャムちゃんたち……メール持ってたよ……?」
果林「…………」
エマ「……『この子たちのこと、よろしくね』って……これから滅ぼす世界に……そんなメール持たせたポケモン、置いてかないでしょ……?」
果林「わた……し……は……」
エマ「……あれは……わたしに宛てた……果林ちゃんからの……SOSだったんだよね……? ……『私を止めて』って……『もうこんなことしたくない』って……」
果林「…………っ」
エマ「大切な人たちを守るために……頑張って悪い人になろうとしてたんだよね……。……でも、果林ちゃんが一人で抱えなくていいんだよ……」
607 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:29:34.95 ID:2N444K9g0
カランと音を立てて、果林さんの持っていたナイフが地面に落ちる。
それと共に、果林さんが膝から崩れ落ちた。
果林「………………」
エマ「果林ちゃん……ここまでずっと……一人で頑張ったんだよね……偉いよ……」
エマさんは果林さんを抱きしめたまま、頭を撫でながら言う。
そして、そこにもう一人……。
彼方「……果林ちゃん」
果林「……彼方……」
彼方「……ずっと……ずっと……一人にして……ごめんね……。果林ちゃんと……ちゃんと向き合ってあげられなくて……ごめんね……」
果林「…………私……は……」
彼方「…………これからは一緒に考えよう……一緒に……みんなが笑顔になれる世界のこと……。……簡単じゃないのはわかってる……だけど、一緒に、ちゃんと……考えよう……わたしたちの世界のこと……」
そう言いながら、彼方さんも果林さんを抱きしめる。
すると──果林さんは、全身の力が抜けたかのように……エマさんと彼方さんにもたれかかる。
果林「…………彼方。……私……もう……疲れちゃった……」
彼方「……ごめんね……いっぱい、いっぱい……背負わせちゃって……。……でも、これからは一緒に背負うから……だから、今はもう……休んでいいよ……果林ちゃん……」
果林「…………うん……」
こうして私たちの死闘は──意外な形で……幕を閉じることとなったのだった。
608 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/04(水) 13:30:07.38 ID:2N444K9g0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ウルトラキャニオン】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.77 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.75 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.73 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.73 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.71 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:250匹 捕まえた数:10匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.65 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
ウツロイド Lv.71 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:211匹 捕まえた数:20匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
609 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 02:29:42.07 ID:mDhGJcE10
■Intermission👏
「ディァ…ガァァ…」「バァァ……ル…」「ギシャ…ラァ…」
愛「伝説のポケモンって言っても、こんなもんなんだね」
倒れた3匹のポケモンたちを見ながらぼやく。
鞠莉「……っ…………つよ……すぎる……」
強い……強いかぁ。
愛「愛さんからしたら……他の人が弱すぎるだけなんだけどね……」
鞠莉「……っ……」
昔から疑問だった。どうしてポケモントレーナーは戦いになっても、自身が前に出ないのか。
ポケモンの真価を発揮するなら──トレーナーも一緒に戦うべきだ。
ただ、どうやらポケモンバトルというものでは、そういう考え方はあまり主流ではないらしい。
ま……正直もうどうでもいいけど……。
愛「んじゃ、貰ってくよ」
そう言いながら、ディアルガにボールを投げる。
「ディァ…ガァ…──」
ディアルガが、パシュンとボールに吸い込まれる。
鞠莉「……スナッ……チ……!?」
愛「ん、こっちではそういう言い方するんだ。……愛さんはね、ビーストボール──こっちの世界で言うモンスターボールの開発の研究をしてたんだよね」
マリーにそう説明しながら、今度はパルキアにボールを投げる。
「バァル…──」
愛「上書き捕獲機構くらい、大して難しい技術じゃないんだけどね」
鞠莉「あなたは……っ……そのポケモンたちを、捕まえて…………なにを、するつもり…………?」
愛「んー……アタシはね……──全ての世界を一つに繋げる」
鞠莉「……? ……一つに……繋げる……?」
愛「ま……言ってもわかんないだろうね。わかんなくてもいいけど」
そう言いながら、ギラティナに向かってボールを投げた瞬間──
「ギシャラァッ…!!」
ギラティナが影に潜って逃げ出した。
愛「……外した。ま……すぐに追いかけて捕まえるからいいけど。……あ、そうだ」
アタシはマリーに近付き、
愛「それ、貰っとくわ」
610 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 02:30:40.60 ID:mDhGJcE10
彼女が手に持っていた、“こんごうだま”と“しらたま”を奪い取る。
奪い取ると言っても、だいぶ痛めつけてあげたから、もう抵抗する力もないっぽいけどね。
鞠莉「っ……」
愛「さーてと……ギラティナ捕まえに行って、あとはおさらばかな〜。……あ、そうだ……せっかくだし、最後にいいもの見せてあげるよ」
そう言いながら、マリーの目の前に今しがた捕まえたディアルガとパルキアをボールから出す。
「ディァガァ…」「バァル…」
鞠莉「……なにする……つもり……?」
愛「“こんごうだま”と“しらたま”……君たちはこれをディアルガとパルキアに指令を送るための“どうぐ”だと思い込んでたみたいだけど……。ホントの使い方はこうするんだよ」
アタシは“こんごうだま”をディアルガの胸の宝石に向かって、“しらたま”をパルキアの肩の宝石に向かって投げつける。
すると──
「ディァ…ガ──」「バァル…──」
“こんごうだま”と“しらたま”はディアルガとパルキアの体にある宝石に吸い込まれていく。
鞠莉「……な……」
するとディアルガとパルキアの体の形が変化していく。
ディアルガは側頭部の甲殻が口元を覆う顎当てへと変化し、胸部の甲殻は首の中ほどに移動し、宝珠を中心に詰めた砲のような形へと変わる。前足が肥大化し、後ろ足が細くなる。そして胴には特徴的な突起のついたリングが出来ている。
パルキアは腕が四足獣のような蹄を持った前脚へと変化し、後ろ脚も前脚と同じように、蹄を持った形に。尻尾は細長い5本のものになり、こちらにも特徴的なリングが胴に現れる。
愛「……これが、このポケモンたちの“オリジンフォルム”ってやつだよ」
鞠莉「“オリジン……フォルム”……?」
愛「……ああそういや……“はっきんだま”も貰っておかないとね。……マリーは持ってなさそうだから……あの二人のどっちかか……」
アタシは気絶しているダイヤと果南の持ち物を漁ってみる。すると──すぐに見つかった。
愛「おっし……そんじゃ、あとはギラティナ捕まえに行きますか〜」
ディアルガとパルキアをボールに戻しながら、肩をぐるぐる回して気合いを入れていた──そのとき、
「──ボルテッカー!!!」
「ピィィーーーーカァァァーーーーッ!!!!!」
愛「! リーシャン!!」
「リシャァァァァンッ!!!!!」
リーシャンが咄嗟に音の障壁を作り出し、突っ込んできたピカチュウを弾き返そうとするが──
「ピィィィィカァァァァ!!!!!!」
ピカチュウは音の障壁をお構いなしにどんどんめり込んでくる。
愛「く……!? リーシャン!!」
アタシはリーシャンの体をグリップしながら身を捻る──直後、
「ピカァァァァァッ!!!!!」
611 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 02:32:03.27 ID:mDhGJcE10
ピカチュウが音の障壁を貫き、アタシがそれをギリギリで躱すと──背後に突っ込んだピカチュウが轟音をあげながら、周囲にとんでもない規模の雷撃を散らす。
このピカチュウ、この強さ……思い当たるトレーナーは一人しかいない。
穂乃果「……駆けつけて来てみたら……大変なことになっててびっくりした」
愛「……最後に規格外なのが来たね」
恐らく……この地方で最も強いトレーナー……。元チャンピオン・穂乃果。
果南のパワーでも破られなかった音の障壁を軽々とぶっ壊してきた。
穂乃果「でも、いいリベンジマッチの機会かな。ここなら、“テレポート”で飛ばされることもないだろうし」
愛「だから、穂乃果とは……まともに戦いたくなかったんだよね」
穂乃果「まあまあ、そう言わないでよ。……愛ちゃん、強いでしょ?」
そう言いながらボールを構える。
愛「……わかった。ただ、さすがの愛さんでも、穂乃果相手に手加減は出来ないから──死んでも文句言わないでよね?」
穂乃果「安心して、私が勝つから!」
どうやらここが愛さんにとっての──ラスボス戦みたいだね。
………………
…………
……
👏
612 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 16:16:22.75 ID:mDhGJcE10
■Chapter069 『決戦! DiverDiva・愛!』 【SIDE Honoka】
穂乃果「ピカチュウ!! “10まんボルト”!!」
「ピーーカ、チュゥゥゥゥゥ!!!!!!」
愛ちゃんを挟んで向かい側にいるピカチュウが、電撃を放つ。
それに対し、
愛「リーシャン!!」
「リシャァァァァンッ!!!」
愛ちゃんがリーシャンの名前を呼ぶと、ピカチュウの電撃が狙っていたはずの愛ちゃんから逸れて、変なところに落ちる。
その隙に愛ちゃんはリーシャンを左手で掴み、ステップを踏みながらピカチュウから距離を取る。
穂乃果「音で作った障壁……!」
さっきピカチュウの“ボルテッカー”を避けるときにも使っていた。
リーシャンの持つ音の振動を増幅して行う攻撃とサイコパワーという二つの能力を掛け合わせ、発生させた音の衝撃をサイコパワーで自分の周囲に留め、壁として存在させている。
それの精度がものすごく緻密で高度……さらに、その間集中して動けないはずのリーシャンは、愛ちゃんが直接手に持って移動することによって、トレーナーが欠点をカバーしている。
人が手に持てるくらい小さなポケモンである、リーシャンの性質を生かした、よく考えられた戦い方だ。
穂乃果「なら……! ケンタロス!!」
「──モォォォォォォッ!!!!!」
ケンタロスがボールから飛び出すと同時に、愛ちゃんに向かって突っ込んでいく。
愛「リーシャン!!」
「リシャァァァァンッ!!!!」
愛ちゃんは左手に掴んだリーシャンを前に突き出し、音の障壁を展開する。けど──
「ブモォォォォォ!!!!!」
愛「と、止まらない……!? ルリリっ!!」
「ルリィッ!!!」
ケンタロスは音の障壁をただの“とっしん”でぶち破る。
愛ちゃんは後ろに身を引きながら、今度は右手に持ったルリリが尻尾を振るってくる。
「ブモッ…!!!?」
ルリリの尻尾がケンタロスの側頭部を叩き、ケンタロスが一瞬怯むけど──
「ブモォォォォォッ!!!!!」
ケンタロスは3本の尻尾で自分の体をピシピシと叩きながら、自身を“ふるいたてる”。
「ブモォォォォォッ!!!!」
そして、再び愛ちゃんたちに向かって“とっしん”していく。
愛「く……しつこい……!?」
613 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 16:17:02.93 ID:mDhGJcE10
愛ちゃんは後ろに向かって跳躍しながら、リーシャンを真下に向け、
愛「リーシャン!!」
「リシャァーーーンッ!!!!」
リーシャンが真下に向かって、音の障壁を発生させ、その反動で空に跳び上がる。
「ブモォォォォォッ!!!!!」
確かに空に跳ばれたらケンタロスでは手が出せない。けど──
穂乃果「ピカチュウ!! “かみなり”!!」
「ピッカァァァァッ!!!!」
ピカチュウが“かみなり”を空中にいる愛ちゃんの上に発生させる。
愛「リーシャンッ!!」
「リシャーーーーンッ!!!!」
すぐにリーシャンを真上に掲げ、音の障壁を作り出す。けど、“かみなり”は愛ちゃんの真上ではなく、真横に落ち──真横から急に軌道を変えて、横から愛ちゃんたちに直撃した。
愛「がぁっ……!!?」
「リシャンッ!!!?」「ルリィッ!!!?」
──バリバリと音を立てながら、稲妻が迸り、
愛「……ぐ……ぅ……」
愛ちゃんが、地面に落下する。
穂乃果「ふぅ……」
さすがに生身で“かみなり”を受けたら、戦闘継続は不可能かな……。
そう思ったけど、
愛「……っ……い、今……完全に空中で不自然に曲がったよね……」
穂乃果「な……」
愛ちゃんはすぐに立ち上がる。
愛「……アタシ、これでも技術担当だからね……服に耐電加工くらいしてきてるよ……」
穂乃果「……さすがに一筋縄ではいかなさそうだね……」
「ティニ…」
愛「……! さっきの不自然な“かみなり”の挙動……ビクティニの“しょうりのほし”か……」
“しょうりのほし”。ビクティニの特性で、味方の命中率を底上げする特性だ。
ビクティニは勝利をもたらすポケモンと言われていて、ピカチュウの“かみなり”は勝利をもたらすために“偶然”軌道を変えて愛ちゃんに襲い掛かったというわけだ。
愛「あー……やっぱ、穂乃果は強すぎるわ……。……久しぶりに本気出さなきゃダメそう」
穂乃果「ピカチュウ!! “かみなり”!!」
「ピッカァァッ!!!!!」
再び迸る雷撃が、また勝利に導かれ……愛ちゃんに吸い込まれるように飛んでいくけど──愛ちゃんに当たる直前で跳ね返ってくる。
穂乃果「!? ピカチュウ!! 尻尾!!」
「ピ、ピッカァッ!!!!」
614 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 16:18:06.23 ID:mDhGJcE10
ピカチュウは咄嗟に尻尾を向けて、跳ね返ってきた“かみなり”を“ひらいしん”で吸収する。
「ピ、ピカァ…ッ!!!」
それでもエネルギーが吸いきれず、周囲に稲妻が放出され、あちこちに雷撃が落ちて大地を破壊し始める。
穂乃果「っ……! 溜めちゃだめ!! “ほうでん”!!」
「ピカァッ!!!」
ピカチュウは尻尾に落ちてきた電撃をその場で“ほうでん”して体から逃がしながら、“かみなり”を受け止める。
それによって──どうにか吸収しきれた。
穂乃果「ほ……。……今の反射、“ミラーコート”……!」
愛「そーゆーこと」
「──ソーナノ!!」
どうやら、ソーナノに反射されたらしい。
「ブモォォォォォッ!!!!!」
ケンタロスが愛ちゃんに向かって、“とっしん”していくけど、
愛「“カウンター”!!」
「ソーーナノッ!!!!」
「ブモォォォッ!!!?」
ソーナノは物理技でも反射出来る。
ケンタロスはそのまま跳ね返されて、地面を転がる。
穂乃果「ケンタロス、大丈夫!?」
「ブ、ブモォォォッ…!!!」
ケンタロスはすぐに体勢を立て直して起き上がる──が、起き上がったケンタロスの頭に……紫色の何かが引っ付いていた。
「──レズン…」
穂乃果「……!? エレズン!?」
──“カウンター”で反撃する際に、一緒に張り付けられた……!?
愛「“ほっぺすりすり”」
「レズン」
「ブ、ブモォォッ!!!?」
エレズンが自身の頬を擦り付けると──ケンタロスが“まひ”で動きを鈍らされる。
そこに向かって──
愛「“すてみタックル”!!」
「ルーーーリィッ!!!!!」
「ブモォッ!!!?」
愛ちゃんの手から離れて飛んできたルリリがケンタロスの顔面にめり込んだ。
「ルリッ」
615 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 16:18:41.20 ID:mDhGJcE10
ルリリは尻尾をバネにしながら、離脱し──
「ブ、モォ……」
ケンタロスは崩れ落ちた。
穂乃果「……!」
愛「ルリリ、エレズン、戻っておいで」
「ルリ」「レズン」
逃がしちゃダメだ……!!
穂乃果「ラプラス!! “フリーズドライ”!!」
「──キュゥゥゥ!!!!」
繰り出したラプラスが、広がる冷気をエレズンとルリリに向かって発射する。
でも、そこに向かって──
愛「リーシャンッ!!」
「リーシャンッ!!!」
愛ちゃんが逃げる2匹を庇うように、リーシャンを構えながら飛び込んでくる。
またしても、音の障壁を作りながら冷気を吹き飛ばそうとするけど──
「キュゥゥゥゥ!!!!」
愛「いっ!? 冷気でも貫通してくんの!?」
ラプラスは強引に音の壁ごと凍らせ始める。さらに──
穂乃果「“ハイドロポンプ”!!」
「キュゥゥゥゥッ!!!!!」
冷気の層に向かって、それを押し込むように、“ハイドロポンプ”を発射する。
音の壁を凍らせ始めていた“フリーズドライ”の層にぶつかった“ハイドロポンプ”は──凍り付いて杭のように、音の壁に突き刺さる。
愛「ぐっ……!?」
愛ちゃんは咄嗟の判断で身を伏せて、ギリギリ氷の杭を回避するけど──私はそこに向かって次のポケモンのボールを投げ込む。
穂乃果「ガチゴラス!!」
「──ゴラァァァァスッ!!!!!」
愛「!?」
伏せた愛ちゃんに──ボールから飛び出したガチゴラスが大顎を開けながら、“かみくだく”!!
愛「ソーナノッ!! “カウンター”!!」
「ソーーナノッ!!!!」
ソーナノが飛び込んできて、ガチゴラスの大顎による攻撃を反射し、無理やりこじ開けようとするけど、
穂乃果「“ばかぢから”!!」
「ゴラァァァァァスッ!!!!!!」
押し返されそうになった、ガチゴラスはパワーでソーナノの反射を無理やり抑え込む。
616 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 16:19:13.15 ID:mDhGJcE10
愛「は、反射をパワーで!? む、無茶苦茶……!?」
「ソナノッ!!!?」
ガチゴラスはパワーで無理やり圧倒したソーナノに噛みつき、そのまま頭を振るって、ブンと真上の放り投げる。
「ソ、ソーナノーッ!!!?」
穂乃果「“もろはのずつき”!!」
「ゴラァァァァスッ!!!!!」
「ソーーナノッ!!!!?」
空中で抵抗できないソーナノが、破砕の一撃で、吹っ飛ばす。
愛「っ……!! リーシャン!!」
「リシャンッ!!!」
吹っ飛ぶソーナノを、リーシャンがサイコパワーで受け止め、助けるけど──
「ソー…ナノ…」
落下のダメージがなくても、打撃の威力だけで十分だ。
ソーナノはすでに戦闘不能になっていた。
愛「ごめん、ソーナノ……無茶させすぎた」
「ソーナノ──」
愛ちゃんは謝りながら、ソーナノをボールに戻す。
直後──
「ゴラァァァァスッ!!!!!」
ガチゴラスが勝手に頭を構えて走り出した。
穂乃果「え!?」
指示はまだ出してない……!?
ハッとして、フィールドを見ると──
「レズンレズン♪」
エレズンが手を叩いていた。
穂乃果「しまった!? “アンコール”!?」
同じ技を出させる技によって、“もろはのずつき”を無理やり誘発させられ、
愛「さすがに突進系の大技は軌道が読みやすいよね……!!」
愛ちゃんはガチゴラスの下を潜るようにスライディングしながら、
愛「“ハイパーボイス”!!」
「リシャンッ!!!!」
「ゴラァァスッ!!!?」
真下からガチゴラスの顎を狙って、音の衝撃を直撃させ、さらに──
617 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 16:19:53.16 ID:mDhGJcE10
愛「“アクアジェット”!!」
「ルリッ!!!!」
「ゴラァスッ!!!?」
追い打ちを掛けるように、もう一発、真下から顎に向かってルリリが強烈な突撃でガチゴラスの顎を跳ね上げる。
愛「“ふぶき”!!」
「ルーーーリィッ!!!」
「ゴラァァァス…!!!?」
そして、トドメと言わんばかりに至近距離から、ガチゴラスが苦手とするこおりタイプの技で一気に氷漬けにする。
穂乃果「ガチゴラス……!?」
氷漬けになったガチゴラスがゆっくりと横転するのと同時に──
愛「リーシャン!!」
「リシャンッ!!!」
「…レズンッ!!!」
愛ちゃんの指示の声と共に、突然エレズンが猛スピードで吹っ飛んできて、
「キュゥッ!!!?」
ラプラスの顔に張り付いた。
穂乃果「なっ……!?」
愛「“ほっぺすりすり”!」
「レズン♪」
「キュゥ…!!!?」
ルリリがガチゴラスを攻撃している間に、愛ちゃんはリーシャンの音の衝撃によって、エレズンをラプラスに向かって飛ばしてきた。
理解したときにはもうラプラスは“まひ”させられていて、さらに──エレズンはボールを抱えていた。そのボールから、
「──ベベノッ」
白光の体色を持った、色違いのベベノムが飛び出してきた。
愛「ベベノム!! “ヘドロウェーブ”!!」
「ベーーベノーーーッ!!!!」
「キュゥゥゥゥ!!!!?」
穂乃果「ラプラス!?」
ラプラスが、至近距離から発生した、波のように押し寄せてきた毒液にまみれ、
愛「“とどめばり”!!」
「ベベノッ!!!!」
「キュゥッ…!!!!」
ダメ押しの一撃を食らって戦闘不能になる。
穂乃果「ピカチュウ!! “かみなり”!!」
「ピッカァァァッ!!!!」
618 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 16:20:51.90 ID:mDhGJcE10
“かみなり”をベベノムの頭上に落とすけど、
愛「“アイアンテール”!!」
「ベノッ!!!!」
ベベノムが“とどめばり”によって、爆発的に上昇させた攻撃力によって、尻尾を振るって強引に“かみなり”を弾き飛ばす。
さらに畳みかけるように、
「レズンッ!!」
「ピカッ!!?」
エレズンがピカチュウに跳び付いてくる。
穂乃果「くっ……!? ピカチュウ!! “10まんボルト”!!」
「ピィーーーカァ、チュゥゥゥゥゥッ!!!!!!!」
「レズンッ!!!!!」
取り付いたエレズンごと電撃で攻撃する。が、その隙に、
愛「ベベノム、“いえき”!!」
「ベベノッ!!!」
「ティニッ!!!?」
ビクティニがベベノムから“いえき”を掛けられる。
愛「ルリリ!! 今のうちに“はらだいこ”!!」
「ルリッ!!!」
ルリリがパワーを高め始める。
一方、
「ピカァァァァァッ!!!!!」
「レ、ズンッ…!!!」
ピカチュウは優勢。
でも、至近距離から電撃による反撃を食らっているエレズンが倒れそうになった瞬間、
愛「“じたばた”!!」
「レズンッ!!!」
「ピカッ!!!?」
エレズンがピカチュウの目の前で全身を無茶苦茶に振り回しながら暴れだし、ピカチュウを吹き飛ばす。
穂乃果「“かえんだん”!!」
「ティニーーーッ!!!!!」
ビクティニが周囲に向かって、真っ赤な炎弾を撃ち出して、
「レズンッ!!!?」「ベベノッ!!!!」
エレズンとベベノムを強烈な炎で攻撃し、
「ベ、ベベノ…!!!」
619 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 16:22:39.12 ID:mDhGJcE10
ベベノムにはギリギリ耐えきられて、逃げられてしまうが、エレズンはどうにか戦闘不能に追い込む。
が、
愛「“たきのぼ、り”ッ!!!」
「ルーーーリィッ!!!!!」
愛ちゃんが水のエネルギーを全身に纏ったルリリを──ビクティニに向かって、ぶん投げてきた。
「ティニッ!!!?」
穂乃果「ビクティニ!?」
「ティ、ティニ……」
“はらだいこ”でフルパワーになったルリリのパワーによって、ビクティニは一撃で戦闘不能に、
穂乃果「ピカチュウ!!」
「…ピッカァァァッ!!!!!」
エレズンの“じたばた”で大きなダメージを負ったものの、どうにか耐え切ったピカチュウが、全身に電撃を纏いながら、ビクティニを倒して着地したルリリに向かって、
穂乃果「“ボルテッカー”!!」
「ピィィィィィカァァァァァァァッ!!!!!!」
「ルリィーーーッ!!!!?」
ルリリを撃破する。
愛「く……ルリリ、エレズン、戻れ……!」
「ルリ…──」「レズン…──」
愛ちゃんがルリリとエレズンをボールに戻す。
穂乃果「ラプラス、ガチゴラス、ビクティニ、戻って!」
「キュウ…──」「……──」「ティニ…──」
私も戦闘不能になったラプラスとビクティニ、氷漬けになってこれ以上の戦闘が続けられないガチゴラスをボールに戻す。
愛「いやぁ……ホント強すぎ……っ、こんな追い詰められたのいつ以来だっけ……」
「ベベノ…」「リシャンッ」
穂乃果「それはお互い様かな……」
「ピカッ…!!!」
愛ちゃんはベベノムとリーシャンと共に身構え、私はピカチュウと──
穂乃果「リザードン!」
「──リザァッ!!!」
リザードンを出して──メガリングをかざす。
穂乃果「メガシンカ!!」
「リザァァーーーッ!!!!」
リザードンが光に包まれると共に──やぶれた世界の中に、強い日差しが差し込んでくる。
それと同時に、リザードンは尻尾が長く伸び、翼も一回り大きく変化。頭には一際大きな角が頭頂から1本伸び、腕にも翼を備えた姿──メガリザードンYへとメガシンカする。
「リザァァーーーーッ!!!!!」
穂乃果「リザードン……! “かえんほうしゃ”!!」
「リザァーーーーーッ!!!!!」
620 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 16:23:32.63 ID:mDhGJcE10
リザードンが強烈な火炎を放つ。
愛「く……リーシャンッ!!」
「リシャァーーーーンッ!!!!」
リーシャンが例によって、音の障壁を発生させるが──とてつもない火炎は、音の障壁に阻まれるどころか、一瞬で防壁を貫く。
愛「うわっちっ!!? き、距離取るよ!!」
「リシャンッ!!!」
愛ちゃんは、リーシャンの音撃の反動で、後ろに向かって距離を取るけど、
穂乃果「ピカチュウ!!」
「ピッカァッ!!!!」
ピカチュウが全身に電撃を纏い、“ボルテッカー”の構えを取りながら走り出す──そして、走りながらそのエネルギーを拳へと集中させ、
「ピッカァッ!!!!」
愛「……っ!?」
稲妻のような軌道を描きながら、リザードンの吐いた炎を飛び越えて──真上から愛ちゃんたちに向かって飛び掛かる。
穂乃果「“ボルテッ拳”!!」
「ピカァァァァッ!!!!!」
愛「リーシャンッ!! “ハイパーボイス”!!」
「リシャァーーーーーーンッ!!!!!」
愛ちゃんが咄嗟に、真上から飛び掛かってくるピカチュウに向かって、爆音によって攻撃してくるけど──
「ピィィィィィカァァァァァァッ!!!!! チュゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!」
“ボルテッ拳”のパワーは音の衝撃のエネルギーを遥かに凌駕し──
愛「く……っ……!?」
「リ、リシャァァァッ!!!!?」
一瞬の静寂ののち──バヂバヂバヂバヂッ!!!!! と激しい稲妻の音を空間内に轟かせながら、電撃のエネルギーを盛大に爆ぜ散らせた。
その反動で、
「ピッカァッ!!!」
ピカチュウがくるくると回転しながら、私の隣に着地しながら戻ってくる。
そして、電撃エネルギーによって、巻き起こった爆発が晴れると、
愛「ぐ……く、そぉ……」
「リシャンッ…」
愛ちゃんがリーシャンと共に倒れていた。
穂乃果「……これなら、どう……?」
愛「っ゛……」
さすがに愛ちゃんの表情が歪む。
耐電撃スーツでも、さすがに“ボルテッ拳”を無効化しきることは出来なかったようだ。
621 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 16:24:43.12 ID:mDhGJcE10
穂乃果「……もう終わりだよ」
愛「…………っ」
私はうつ伏せになって倒れている愛ちゃんへとゆっくりと近付く。
穂乃果「……さぁ、降参してくれるかな?」
愛「……。……わかった。……降参……──するもんかっ!!」
「──ベベノッ!!!!」
穂乃果「……!?」
うつ伏せの愛ちゃんの胸の下から──ベベノムが飛び出してきて、毒液を射出する。
毒液は私の顔に真っすぐ飛んできて──
「ピッカァッ…!!!」
穂乃果「!! ピカチュウ!!」
ピカチュウが私を庇って毒液を受ける。
穂乃果「リザードンッ!!」
「リザァァッ!!!!」
リザードンが至近距離で“ねっぷう”を起こし、
愛「ぐぅぅっ!!?」
「ベ、ベベノォッ!!!?」
愛ちゃんを焼き尽くす。
愛「ぐ……ぅ……」
さすがに、この攻撃で愛ちゃんも大人しくなる。
穂乃果「……ピカチュウ……ありがとう……」
「ピカカ…」
穂乃果「うん、ボールに戻って、休んでね」
「チャー…──」
ピカチュウをボールに戻す。
愛「………………つよ……すぎ……でしょ……」
穂乃果「……! まだ、意識があるんだね……」
愛「…………耐熱も…………してん……だよ……」
穂乃果「でも、もう動けないよね」
愛「……ぁ゛ー……動きたくは……ない、ね……」
穂乃果「……とりあえず、ディアルガとパルキア……返してもらうよ」
そう言いながら、私は屈んで愛ちゃんが腰に着けたボールに手を伸ばす。
愛「……これが……試合みたいな……ポケモンバトルじゃなくて……よかった……」
穂乃果「え?」
愛「…………やっぱ、アタシは……そういうルールに縛られた戦いよりも…………ただ、相手を倒す戦いの方が、向いてるっぽいね……」
穂乃果「何言って──」
622 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 16:28:17.30 ID:mDhGJcE10
──ゴッ!!! 鈍い音と共に、頭に強い衝撃を受けた。
穂乃果「ぁ゛……っ……!!」
衝撃と痛みで私はその場に倒れ込む。
倒れた私の目の前には──
「──ウソッ」
穂乃果「ウソ……ハチ……っ゛……」
ウソハチがいた。ウソハチが──私の頭上に、落ちてきた。
「リザァッ!!!!」
リザードンが咄嗟に、炎を吐こうとしたが、
愛「ウソハチ……“だいばくはつ”……!!」
「ウソッ…!!!」
「リザッ!!!?」
ウソハチがリザードンの懐に飛び込み──爆発して吹き飛ばした。
愛「…………悪いね。……真面目に戦ったら、勝てる気がしなかったから……卑怯な手、使わせてもらったよ」
穂乃果「いつ、の……間に……空に……」
愛「……“ボルテッ拳”だっけ? ……あのとんでも技が上から飛び掛かってくる使い方で……助かったよ」
穂乃果「…………あの、とき、の……“ハイパー……ボイス”……」
愛ちゃんは、ピカチュウの攻撃を相殺するように見せかけて──遥か上空に向かって、ウソハチの入ったボールを打ち上げていたんだ……。
私の視界が赤く染まっていく。私は……頭から大量の血を流していた。
愛「……もう、立つのは無理っしょ……猛スピードで落ちてきた岩が……頭に直撃したようなもんだからね。勝負ありだよ……」
穂乃果「…………っ゛……」
愛ちゃんがよろよろと立ち上がって、私に背を向ける。
愛「さーて、今度こそ……ギラティナ捕まえて、おさらばだ……」
そう言いながら立ち去ろうとする背に──
穂乃果「──……ま、って……」
立ち上がって、声を掛ける。
愛「…………冗談でしょ? あれ食らって立つの……?」
穂乃果「あなたは……野放しにしちゃ……いけない……」
愛「…………」
穂乃果「リザー……ドン……」
「…リザァ…ッ…!!!!」
ウソハチの“だいばくはつ”で吹っ飛ばされたリザードンが、羽ばたきながら戻ってくる。
623 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 16:29:10.58 ID:mDhGJcE10
愛「ここまで来ると……ポケモンも……トレーナーも……化け物じゃん……」
穂乃果「あなたは……ここで……とめ、る……」
意識が朦朧とする。だけど、この人だけは……絶対にここで止めないとダメだ。
ここで逃がしたら──本当に誰にも手が付けられなくなる。
そのときだった。愛ちゃんが抱き抱えていたベベノムが──
「ベベノ…──」
カッと眩く光り輝いた。
穂乃果「この光……しん、か……?」
この土壇場で──愛ちゃんのベベノムが進化して、アーゴヨンに──
愛「ただの、進化じゃないよ……」
「──アーゴッ…!!!」
確かに愛ちゃんのベベノムは色違い。
進化したアーゴヨンも、本来の色とは違い、黄色と黒の警告色をしたアーゴヨンへと姿を変える。でも──それだけじゃなかった。
穂乃果「……なに……これ……?」
目の前のアーゴヨンは──翼から目が痛くなるような、激しいオレンジ──超オレンジと言っても差し支えのない、強烈な閃光を放ち、お腹の毒針からもそれがエネルギーとしてスパークしている、異様な姿だった。
愛「……悪いね……。……アタシは……止まるわけにいかないんだよ」
私とリザードンは……アーゴヨンから放たれた閃光に──飲み込まれた。
👏 👏 👏
穂乃果「…………」
「……リ、ザ……」
愛「…………」
今度こそ、動かなくなった穂乃果に背を向けて歩き出す。
愛「……さて、ギラティナ……出てきてくんないかな……。……逃げられないこと……わかってるっしょ……?」
虚空に向かって呼び掛けると──
「──ギシャラァッ…」
満身創痍のギラティナが、空間を裂いて現れる。
そして、その直後──そこらへんを転がっていた、果南、ダイヤ、マリーの真下に空間の裂け目が生じ、3人を飲み込んだ。
愛「……!」
それと同時に──背後の穂乃果……さらに、彼女たちがボールに戻せていなかったポケモンたちも空間の裂け目に飲み込まれて姿を消す。
624 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 16:29:39.86 ID:mDhGJcE10
愛「……逃がしたってことか……」
「ギシャラ…ッ」
愛「……自分がもう、アタシから逃げられないってわかってて……。ギラティナがいなくなったら……この空間自体、維持できないもんね……。……そんなナリで意外と義理堅いじゃん。愛さん、そういうの嫌いじゃないよ」
「ギシャラァッ!!!!!」
ギラティナが最後の力を振り絞って飛び掛かってくる。
愛「ま……それでも、捕獲させてもらうけどね……」
「アーゴッ!!!!」
「ギシャラァァァァァッ!!!!!」
ギラティナの雄叫びが──やぶれた世界に、響き渡った。
625 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/05(木) 16:30:09.97 ID:mDhGJcE10
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
レポートに しっかり かきのこした
...To be continued.
626 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:05:43.89 ID:djK6Kzqg0
■Chapter070 『戦いを終えて』 【SIDE Yu】
侑「……歩夢、もう痛いところ……ない……?」
「ブイ…」
歩夢「うん、大丈夫だよ。エマさんのママンボウが治療してくれたから……」
「ママァ〜ン」
遥「やっぱり、ママンボウの治癒力はすごいですね……。……幸い骨に異常はなさそうですし……私が診た感じでも、問題ないと思います」
歩夢「遥ちゃんも……ありがとう」
あの後、エマさんのママンボウに傷を治してもらい……遥ちゃんから怪我を診てもらっていた。
ママンボウの治癒効果のお陰で、切り傷や擦り傷はすぐに治り、私も歩夢もすっかり元気になっていた。
歩夢「ただ、その……服がクリームでべとべとだから……出来れば、着替えたい……かも……」
「マホ…」
歩夢「あ、ご、ごめんね!? マホイップを責めてるわけじゃないの! むしろ、マホイップがいなかったらもっと大怪我してたし……」
「マホ〜…」
侑「とりあえず、あとで着替えよっか。歩夢の着替えも持ってきてるから」
歩夢「うん、ありがとう……侑ちゃん」
さて……どうにか歩夢を救出することに成功したわけだけど……。
彼方「……手錠……痛くない……?」
果林「…………ええ、大丈夫よ」
果林さんは、武装を完全に解除させられ……彼方さんが持ってきていた手錠を着けられている。
エマ「か、彼方ちゃん……やっぱり、手錠までしなくても……。果林ちゃん……もう、酷いことしないと思うから……」
果林「いいえ……今は……こうしておいて……。……もう、私が変な気を起こしても……大丈夫なように……」
エマ「果林ちゃん……」
果林さんは……先ほどまでの攻撃的な表情が嘘のように、戦意を失っていた。
そんな中、
姫乃「──あ、貴方たち!! 果林さんから、離れてくださいっ!!」
急に声が響く。
目を向けると──拘束されて、彼方さんのカビゴンに担がれている姫乃さんが、声を荒げていた。
果林「姫乃……」
彼方「姫乃ちゃん、目が覚めたんだね〜……」
姫乃「果林さん!! そんなやつらの口車に乗ってはいけませんっ!! 私たちは使命を帯びてここにいるんです……!! だから……」
果林「……もう、いいの」
姫乃「か、果林さん……」
果林「…………私たちの……負けよ……」
姫乃「…………」
果林「姫乃……今まで、一緒に戦ってくれて……ありがとう……」
姫乃「…………私は……」
627 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:06:15.90 ID:djK6Kzqg0
姫乃さんは果林さんの言葉を聞き、何か言いたそうにしていたけど……結局口を噤んだ。
果林さんが負けを認め……戦いは終わった。
そして、ちょうどそこに──
「──侑せんぱ〜い!! 歩夢せんぱ〜い!! リナ子〜!!」
声が聞こえてくる。
この声は──
侑・歩夢「「かすみちゃん!」」
リナ『かすみちゃん!』 || > ◡ < ||
かすみ「侑先輩!! 歩夢先輩!! リナ子!!」
声の方に振り向くと同時に、かすみちゃんが抱き着いてくる。
かすみ「お二人とも、ボロボロじゃないですか……でも、無事でよかったです……」
侑「あはは……そう言うかすみちゃんも、ボロボロだよ」
まさに全員死闘を終えたという様相になっていた。
しずく「本当に……みんな無事で、よかったです……」
そして、ゆっくりと追い付いて来るしずくちゃんを見て、歩夢が、
歩夢「しずくちゃん……!」
しずく「わわっ……?」
しずくちゃんに抱き着く。
歩夢「ありがとう……しずくちゃんのお陰で……私の大切なもの……全部、全部失くさずに済んだよ……」
しずく「ふふ……お力になれたのなら……何よりです……」
侑「それにしても……あれが全部演技だったなんて……」
しずく「敵を騙すにはまず味方から……ですよ♪」
侑「あはは……ホントに騙されたよ……」
かすみ「……そういえば、それについてなんだけどさ」
私に抱き着いていたかすみちゃんが、不満そうな顔をしながら口を開く。
628 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:06:50.88 ID:djK6Kzqg0
しずく「ん?」
かすみ「しず子、戦ってる最中……かすみんのこと、勧誘してたよね? フェローチェの虜になりましょう〜とか」
しずく「あ、う、うーん……言ったかも……?」
かすみ「あそこで、かすみんがうんって言ったらどうするつもりだったの? せつ菜先輩を引っ張り込むために本気で戦うフリしてたのはわかるけど……勧誘までする必要なくない?」
しずく「それは……その……。……役に……のめり込みすぎちゃって……つい……」
かすみ「…………はぁ……。……ま、しず子らしいけど……」
しずく「で、でも! かすみさんなら、絶対にあそこで「うん」なんて言わないってわかってたし……!」
かすみ「ま……結果丸く収まったし……そういうことにしてあげなくもないかな〜……」
しずく「む……かすみさんだって、勢いに任せて……その……す、すごいこと……言ったくせに……///」
かすみ「……!?/// だ、だから、あれは……///」
リナ『二人とも顔真っ赤だよ? 大丈夫?』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「なんでもないですっ!!///」
しずく「な、なんでもないよ!?///」
何やら、向こうは向こうでいろいろあったようだ……。
それは追い追い聞くとして──私はこちらに歩いてくる人影に目を向ける。
黒髪の右側を結んでいる、凜とした──私の憧れのトレーナー。
侑「……せつ菜ちゃん」
せつ菜「……侑さん」
私が立ち上がって目を合わせると──
せつ菜「侑さん……ごめんなさい」
せつ菜ちゃんは二の句を告げず、頭を下げた。
侑「せ、せつ菜ちゃん……!?」
せつ菜「あのとき……クリフの遺跡で、侑さんは私を止めようとしてくれていたのに……私が未熟だったばかりに、侑さんに酷いことを言ってしまって……八つ当たりしてしまって……」
侑「あ、頭を上げて……! 私、怒ってないから……!」
せつ菜「で、ですが……」
侑「私も……せつ菜ちゃんの気持ち……なんにもわかってないのに、勝手なこと言っちゃって……ごめん……。……せつ菜ちゃんの苦しみ……全然わかってなかった」
せつ菜「そ、そんなこと……」
侑「うぅん……。……勝手に憧れて、勝手に私の理想を押し付けてた……。……無責任なこといっぱい言っちゃって……。だから私、これからは憧れるばっかりじゃなくて……もっとちゃんと、せつ菜ちゃんのことが知りたい……」
せつ菜「侑さん……」
侑「……一人のポケモントレーナーとして……一人の……友達として……」
私はせつ菜ちゃんの手をぎゅっと握る。
せつ菜「……侑さん……っ……。……はい……っ……」
せつ菜ちゃんは目に浮かぶ涙を拭ってから、私の握手に応えるように両手で私の手をぎゅっと握りしめる。
そして、そんな私たちの頭にポンと手が置かれる。
善子「──それと……同じヨハネのもとから旅立った図鑑所有者としても……ね?」
ヨハネ博士だった。
629 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:07:40.20 ID:djK6Kzqg0
侑「ヨハネ博士……! 同じ図鑑所有者ってことは……!」
せつ菜「その……はい……。先ほど……ポケモン図鑑と……最初のポケモンを……頂きました……」
せつ菜ちゃんは少し恥ずかしそうに、目を伏せながら言う。
せつ菜「わ、私……その……侑さんに図鑑所有者でなくてもチャンピオンに、とか、なんか、いろいろ言ったから、そんな私が図鑑所有者になるのは、あれかと思うかもしれませんが、ですから、その……」
侑「よかったぁ〜〜!!」
せつ菜「わぁっ!?///」
私は思わずせつ菜ちゃんに抱き着いてしまう。
せつ菜「ゆ、侑さん……!?///」
侑「せつ菜ちゃんが……うぅん、菜々ちゃんが、やっと夢を叶えられて……よかった……」
せつ菜「侑さん……。……はい……」
侑「えへへ、これからはおんなじ図鑑仲間だ♪」
「ブイ」
抱き着きながら、ニコニコ笑っていると、
歩夢「…………むー……」
侑「おとと……? 歩夢……?」
歩夢が、私の腕に抱き着いてくる。
侑「え、えっと……どうしたの……?」
歩夢「…………むー……」
歩夢はぷくーっと頬を膨らませたまま、不満そうにしている。
わ、私……何かしたかな……?
そんな歩夢に、
しずく「歩夢さん、言いたいことがあるなら、ちゃんと言わないと、侑先輩にはわかりませんよ? 鈍感なんですから」
しずくちゃんがそんなことを言う。
歩夢「…………知ってるけど…………。……むー……」
侑「え、えっと……?」
「ブイ…」
侑「え、なんでイーブイ呆れてるの……?」
リナ『さすがの私もこれには、リナちゃんボード「あきれ」』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「リナちゃんまで!?」
ホントになんなの……!?
私が歩夢の反応にあたふたする中、
せつ菜「……そうだ、しずくさん」
しずく「はい?」
せつ菜ちゃんがしずくちゃんの手を取って──
せつ菜「私……結局、守ろうとした直後に敵対関係になってしまったせいで……まだしずくさんのことを、ちゃんと守れていません」
630 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:09:16.02 ID:djK6Kzqg0
せつ菜ちゃんは片膝を折って、
せつ菜「……何かあったら、1回だけ守るというのは約束したことなので……何かあったら言ってくださいね? 今度こそ、私が命を懸けてお守りします!」
まるで王子様のように、しずくちゃんに向かってそう宣言する。
しずく「へっ!?/// い、いや、ですがあれは私が騙したようなものなので、そんな律義に守らなくても……!?///」
せつ菜「いえ……私はあの一時だけでも、貴方のあの言葉に救われたんです……。ですから、守らせてください」
しずく「で、でも……/// ……じ、じゃあ……そういうときがあったら……///」
せつ菜「はい、お任せください!」
しずく「……///」
しずくちゃんが顔を真っ赤にしながら、しおらしい反応をする。
かすみ「ちょっとしず子!! 何、満更でもなさそうな顔してんの!?」
しずく「だ、だって……///」
リナ『一瞬であちこちに修羅場を作り出してる……せつ菜さん恐るべし……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
せつ菜「え? えっと……?」
私たちを見て、ヨハネ博士が、
善子「くっくっく……賑やかで何よりね。でも、仲良くしなさいよ。貴方たちはみんな、このヨハネのリトルデーモンなんだから」
そう言って笑うのだった。
🍊 🍊 🍊
曜「一件落着……みたいだね」
花丸「千歌ちゃんが、せつ菜ちゃんとの戦いには手を出さないで欲しいって言いだしたときは、どうしようかと思ったけど……」
梨子「千歌ちゃんったら……すっかりチャンピオンになってたんだね。ちゃんと一人のトレーナーとして……せつ菜ちゃんに道を示した」
ルビィ「ルビィもジムリーダーとして、見習わなくちゃ……!」
千歌「…………」
曜「千歌ちゃん?」
曜ちゃんが、反応がない私の顔を覗き込む。
でも、もう……無理……。
──バタン。
曜「わー!? 千歌ちゃん!?」
梨子「ち、千歌ちゃん!? もしかして、バトルで怪我したんじゃ……!?」
──ぐ〜……。
曜・梨子「「…………」」
花丸「人間、空腹には勝てないずら」
ルビィ「千歌ちゃん……ここに来る前に、あんなに食べてたのに……」
631 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:09:55.75 ID:djK6Kzqg0
たくさん動きすぎて、お腹空いた……。ついでに、眠い。
千歌「…………お腹空いた……眠い……疲れた……もう、ダメ……」
梨子「帰るまで頑張りなさい……って言いたいところだけど……今回ばかりはね……」
曜「カイリキー、千歌ちゃんのこと運んであげて」
「──リキッ」
ルビィ「あ……! ルビィ、飴さんなら、持ってるよ!」
千歌「食べさせてー……」
ルビィ「うん。はい、口開けて」
千歌「あーむ……」
花丸「棒が喉の奥に刺さらないように気を付けてね?」
千歌「ふぁ〜い……」
梨子「……棒付き飴なんだ……」
善子「うわ……!? カイリキーに抱えられてだらけた千歌の口に、ルビィが飴を押し込んでる……!? 何事……!?」
曜「おー……善子ちゃんが的確に状況を説明してる……」
善子「善子じゃなくてヨハネよ!!」
みんなが甘やかしてくれる……幸せー……。
身に沁みる飴の甘さを感じながら、私はぼんやりと──せつ菜ちゃんに目を向ける。
632 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:10:49.08 ID:djK6Kzqg0
侑「そういえばさ、そういえばさっ! せつ菜ちゃんが貰った最初のポケモンってどんな子なの!?」
せつ菜「あ、はい! 出てきて、ダクマ!」
「──ベァーマ…」
歩夢「わ、可愛い♪」
侑「ダクマ! この子がせつ菜ちゃんの最初のポケモンなんだねっ!」
せつ菜「最初というか、最後というか……少し言い方に悩んでしまいますけどね……」
「ベァ?」
せつ菜「あ、そうだダクマ! おやつがあるので、食べませんか? えっと……」
「ベァーマ」
歩夢「せつ菜ちゃん、ゲンガー用にあげたやつまだ余ってる?」
せつ菜「え? あ、はい。たくさん貰ったのでまだありますけど……」
歩夢「うん♪ じゃ、桃色の“ポフィン”をあげようね♪ ダクマが好きな味だから♪」
せつ菜「え、でも……ダクマだけ、自分用のおやつがないのは可哀想です……。……ゲンガーもおやつを取られたら嫌でしょうし、私が前に作ったやつが確か……」
歩夢「私がいくらでもあげるから、ダクマには桃色の“ポフィン”をあげようね?」
せつ菜「あ、歩夢さん……? ……な、なんだか……すごく圧が強いです……。ですが、私が作った自慢のやつがあるんです! ダクマ! おやつですよ!」
「ベ、ベァ…」
かすみ「し、しず子……あれ、炭みたいな色してない……?」
しずく「というか……炭そのもののような……」
歩夢「あーーーーーサスケーーーーー人のもの勝手に食べちゃダメだよーーーーー」
「シャーーーボッ」
せつ菜「あーーーーーっ!? 私特製の自慢の“ポフィン”がーーーーっ!?」
リナ『歩夢さんとサスケの尊い行いによって、また1匹のポケモンの命が救われた……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
歩夢「ごめんね、せつ菜ちゃん……。……お詫びに今度、私と一緒に“ポフィン”作らない?」
せつ菜「え……! い、いいんですか!?」
歩夢「うん♪ “ポフィン”はみんなで作った方がおいしくなるから、一緒に作ろう♪」
かすみ「歩夢先輩! かすみんも一緒にいいですか!? 歩夢先輩のお菓子作りの技術を盗──じゃなくて、教えてください!」
しずく「あ、それなら私もご一緒したいです」
歩夢「うん♪ みんなで作ろう♪ ──そのときに上手な作り方を徹底的に教えなくちゃ……うん」
せつ菜「? 歩夢さん、何かおっしゃいましたか?」
歩夢「うぅん♪ なんでもないよ♪」
侑「じゃあ、私はみんなが作ったのを食べるね! えへへ、楽しみ……」
「ブイ…」
リナ『ポケモン用のお菓子なのに、自分が食べる話ししてる……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
賑やかなあの子たちを見ていると──まるで昔の私たちを見ているような気持ちになった。
千歌「せつ菜ちゃん……よかったね……」
仲間に囲まれた彼女は……きっともう大丈夫……。
私は……チャンピオンとして、一人のポケモントレーナーとして……大切なことを教えてあげられたことに安堵するのだった。
633 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:11:17.71 ID:djK6Kzqg0
👠 👠 👠
果林「……」
彼方「……」
果林「……懐かしいな」
彼方「……そうだね」
侑たちを見ていると……昔の自分たちを思い出す。
同じ志を持った仲間たちと……過ごした日々を……。
果林「私たち……いつから……すれ違っちゃったのかしらね……」
彼方「果林ちゃん……」
果林「私はどこから……間違っちゃったのかしらね……」
彼方「…………」
果林「…………」
彼方「……やり直せばいいよ」
果林「ふふ……簡単に言うんだから……」
彼方「みんなが笑える世界を……目指そう……昔みたいに……一緒に……」
彼方が私の手を握る。
果林「……そうね。……彼方……後のことは……よろしくね……」
彼方には……この言葉で十分伝わるはずだ。彼方は……私の家族だから。
彼方「……大丈夫。私、頑張りながら……待ってるから……」
果林「……うん」
エマ「ま、待って……どういうこと……?」
そんな私たちの会話を聞いて、エマが瞳を揺らしながら訊ねてくる。
果林「どう足掻いても、私はこの後、国際警察に捕まるって話……釈放されるのに、どれくらい掛かるかしらね……」
エマ「そ、そんな……!」
果林「いいのよ、エマ。……それでいいの」
エマ「果林ちゃん……」
果林「私が出来る限りの罪を背負うから……外に出るのは、時間が掛かっちゃうかもしれないわね……」
姫乃「……! 果林さん、それって……!」
果林「……この一連の問題は全て──私が無理やり命令して従わせた。そういうことよ。姫乃も愛もね」
姫乃「ま、待ってください……! 私は……そんなことされても嬉しくありません……!」
果林「姫乃……」
姫乃「果林さんが負けを認めて、檻に入ることを選ぶなら……私もお供します……。……させてください……」
果林「……ありがとう、姫乃」
最初は利用するつもりでしかなかったのに……姫乃はいい子だった。……最後まで、私に付き従ってくれるらしい。
634 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:12:19.94 ID:djK6Kzqg0
せつ菜「──なら……私も一緒に檻に繋がれるべきです」
果林「せつ菜……」
いつから聞いていたのか、気付けばせつ菜が私たちの方へやってきて、自分にも責任があると言いだした。
果林「……ダメよ、それこそ貴方は私が利用しただけ。関係ないわ」
せつ菜「いいえ……私は自分の意志で貴方たちに付いて行きました。貴方たちが裁かれるなら、私も同じように裁かれて然るべきです」
果林「……子供がかっこつけるんじゃない」
せつ菜「な……」
果林「自分の意志でとは……よく言うわね。まんまと心の弱みに付け込まれて利用された分際で」
せつ菜「それは……」
果林「貴方は、貴方の帰るべき世界があるでしょう? ……なら、そこに帰りなさい」
せつ菜「…………」
果林「特に……親や……自分を大切にしてくれる人を悲しませちゃダメよ……」
せつ菜の後方にいる──彼女の両親や……彼女をずっと見守ってきたであろう真姫……そして、彼女たちの仲間を見ながら。
果林「なんて……私が言えた話じゃないけどね……」
せつ菜「果林さん……」
せつ菜は何か言いたげだったけど──後方の両親たちや仲間と私を何度か見比べたあと、
せつ菜「…………」
私に向かって、綺麗なお辞儀をしてから、仲間たちのもとへと──帰っていった。
果林「それと……愛もね。……愛は本当に私が無理やり従わせてただけだから……」
彼方「そういえば……愛ちゃんはどこにいるの……?」
果林「あちこち移動しているせいですぐにはわからないけど……発信機があるから、それでちゃんと見つけて……もう終わったことを伝えるわ。私たちの負けだって……」
それで全て終わり……。やっと全部……終わりなんだ……。
🎹 🎹 🎹
リナ『……』 || ╹ _ ╹ ||
侑「リナちゃん……行かなくていいの?」
果林さんたちをじっと見つめているリナちゃんに、そう訊ねる。
リナちゃんにとって……果林さんたちは、かつての仲間だ。……あの場に行きたいんじゃないかな……。
リナ『うぅん……いい。私はコピーだから……。璃奈はもう、死んだんだよ。あの輪に加わるべきなのは、私じゃない』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「リナちゃん……」
リナ『それに今の私は、侑さんのポケモン図鑑だから!』 || > ◡ < ||
侑「……わかった。リナちゃんの意思を尊重する」
リナ『ありがとう、侑さん』 || ╹ ◡ ╹ ||
635 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:12:50.49 ID:djK6Kzqg0
粗方の話もついて……。
あとは──
侑「あとは……帰るだけだね」
「ブイ」
かすみ「ですね」
私たちは歩夢と、しずくちゃんと、せつ菜ちゃんを無事救出し……果林さんの野望も食い止めた。
やっと戦いが終わったんだ……。
──そう思った、そのときだった。
「──しずくちゃーーーーんッ!!!」
空から電子音のような声が降ってきた。
しずく「この声……もしかして、ロトム……?」
「やっと見つけたロトッ!!!」
焦った様子で、しずくちゃんの目の前にロトム図鑑が舞い降りてくる。
しずく「どうしたんですか……?」
「た、大変ロトッ!!!」
焦った様子のロトムが口にしたことは、
「やぶれた世界に居た、マリーたちが…愛って人にやられたロト…!!!」
しずく「え!?」
まさに青天の霹靂。私たちの知らない場所で、まだ事態が動いていたことを知らされる。
侑「ど、どういうこと!?」
「ゲートを狙われたロト…あまりに強すぎて、果南ちゃんもダイヤちゃんも歯が立たなかったロト…」
果林「──なるほどね……愛はゲート側に行ってたのね……」
そう言いながら、彼方さんに手を引かれる形で、果林さんがこちらに歩いてくる。
果林「……今すぐ、愛を呼び戻すわ。もう戦闘が終わったことを伝える」
果林さんが愛ちゃんを止める旨を口にした瞬間──
「──その必要はないよ」
またしても、空から声が降ってきた。
その場にいた全員が、空を見上げると、
愛「……アタシはここにいるから」
「アーーゴ」
黄色と黒の巨大なハチのようなポケモンに掴まった──愛ちゃんがいた。
636 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:13:32.00 ID:djK6Kzqg0
侑「愛ちゃん……!」
果林「愛……もう戦いは終わったの……! 私たちの負けよ……!」
愛「……みたいだね。まんまと負けちゃったみたいでまぁ……」
果林「……ごめんなさい。でも、出来る限りの責任は私が負うから……だから──」
愛「んー……別にそれはどうでもいいや」
果林「どうでもいい……?」
愛「挨拶しにきただけだから──」
「アーーーーゴッ!!!!!」
直後、上空から──大量の“りゅうせいぐん”が降り注いできた。
侑「……!? イーブイ!! “きらきらストーム”!!」
「ブーィィッ!!!!」
歩夢「マホイップ!! “マジカルシャイン”!!」
「マホイーーーッ!!!」
咄嗟に私たちに向かってくる流星をフェアリー技で掻き消すが──大量の“りゅうせいぐん”を全ては捌ききれず、
侑「くっ……!! 歩夢、伏せて!!」
歩夢「きゃっ!!?」
せつ菜「……くっ! せ、せめて、戦えるポケモンが残っていれば……!」
かすみ「しず子……!!」
しずく「きゃっ!?」
全員でその場に伏せる。
でも──数が多すぎる。
果林「愛!! やめなさい!! ……くっ……!!」
彼方「エマちゃん!! 遥ちゃんと姫乃ちゃんと一緒に、わたしの近くで伏せてて!!」
エマ「う、うん……! 遥ちゃん! 姫乃ちゃん!」
遥「は、はい……! 姫乃さんも……!」
姫乃「あ、愛さん……一体何を……」
みんなが伏せる中、
彼方「ネッコアラ!! “ウッドハンマー”!! コスモウム!! “コスモパワー”!!」
「コァッ!!!」「────」
彼方さんのネッコアラが流星を強引に叩き落とし、コスモウムが頑強な体で隕石を破壊する。
さらに──
637 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:14:01.99 ID:djK6Kzqg0
曜「カメックス!! “ハイドロポンプ”!!」
「ガメェーーーッ!!!!」
梨子「メガニウム!! “ハードプラント”!!」
「ガニュゥーーーッ!!!!」
ルビィ「コラン!! “ひかりのかべ”!!」
「ピピピッ」
花丸「デンリュウ!! “チャージビーム”ずら!!」
「リューーーッ!!!」
千歌「はぇ!? なになに!? うわぁ!? でっかい隕石降ってきてる!?」
善子「あんたは寝てなさい!! アブソル!! “かまいたち”!!」
「ソルッ!!!!」
図鑑所有者の先輩たちが、隕石を破壊していく。
少し離れたところにいた、せつ菜ちゃんのお父さんやお母さんたちは、
真姫「絶対私から離れないで!! ハッサム!! “バレットパンチ”!!」
「ハッサムッ!!!!!!」
真姫さんのハッサムが守っている。
しばらく、流星による攻撃が続いたが──実力者たちの尽力によって、どうにか凌ぎ切る。
愛「……へー……耐えきるのか。さすがに実力者揃いだね……」
彼方「……さ、さすがに……戦闘で疲れきってるところに、この攻撃は堪えるよ〜……」
遥「それより……あのポケモン……なに……?」
しずく「ウルトラビーストじゃないんですか……? アーゴヨンってポケモンじゃ……確かに、色が違いますけど……」
善子「いや……データで見たアーゴヨンとは……姿が違う……。色違いだとしても……あんなエネルギーの塊みたいな、光る翼を持っているポケモンじゃない……」
確かに愛ちゃんのアーゴヨンは──見ているだけで目が焼かれそうなくらいの、超オレンジと言いたくなるような強烈な閃光を放っていた。
そして、お腹にある毒針らしき場所からも、バヂバヂと音を立てながら、エネルギーを爆ぜ散らしている。
愛「ああ、この子はね……。……ベベノムが……愛さんの気持ちに応えた姿だよ」
侑「気持ちに……応えた……姿……?」
善子「……まさ……か……」
その言葉を聞いて、ヨハネ博士が目を見開いた。
善子「……キズナ……現象…………」
愛「……へー……知ってる人がいるとは思わなかった。そうキズナだよ! この子はずっとアタシと共に、目的のために戦い続けてきた……!! そして、目覚めたんだよ!! キズナの力が……!!」
「アーーーーゴッ!!!!!!」
アーゴヨンが、超オレンジの閃光翼を羽ばたかせると──周囲にとんでもない勢いの風が発生する。
638 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:14:34.71 ID:djK6Kzqg0
侑「ぐぅ……!?」
歩夢「きゃぁ……!?」
せつ菜「ふ、風圧が強すぎて……! た、立っていられない……っ……!!」
果林「愛ッ!! もうやめなさい!! これは命令よ!! もう、戦いは終わったの!!」
愛「へー……」
姫乃「愛さんっ!! 何を考えているんですかっ!? 味方まで巻き込むつもりですか……!?」
愛「……アタシは最初から……カリンも姫乃も……味方だなんて、思ってなかったけど?」
姫乃「なっ……」
果林「彼方!! さっき私から回収したリモコン貸して!!」
彼方「り、了解〜!!」
彼方さんが取り出したリモコンを、手錠をした果林さんの手に受け渡す。
恐らく──前に聞いた、愛ちゃんの首に着けられたチョーカーに電撃を流すボタンだ。
果林「愛ッ!! 止まりなさいッ!!」
果林さんがボタンをポチリと押したが──
愛「…………」
愛ちゃんはケロリとした顔をしている。
果林「な……なんで……!?」
愛「はぁ……こんなおもちゃで本当にアタシに言うこと聞かせられると思ってたんだね」
そう言いながら、愛ちゃんは──チョーカーに手を掛け、バキっと折りながら外してしまった。
果林「な……そんな外し方したら……電撃が……」
愛「こんなのね、着けられたその日にはもう外してたよ……」
果林「嘘……それじゃ、今までは……」
愛「そ、逃げられないフリして……カリンのこと利用してただけ」
果林「ど、どうして……そんな……?」
愛「このポケモンたちを手に入れるためだよ……」
愛ちゃんはそう言いながら──3つのボールを放り投げる。
そのボールから飛び出したのは──
「──ディアガァァ…」「──バァァァル…」「──ギシャラァァァ…」
とてつもない威圧感を発する、3匹の巨大なポケモンの姿。
侑「……な、なに……あの、ポケモン……」
かすみ「い、一匹はギラティナですよね……!? で、でも、やぶれた世界以外じゃ、あの姿になれないんじゃ……」
私たちの疑問に答えるように、愛ちゃんが口を開く。
639 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:15:13.29 ID:djK6Kzqg0
愛「この子たちはね……真の姿を取り戻した、時の神、空間の神、反物質の神だよ……」
善子「まさかそれが……ディアルガ、パルキア、ギラティナの……本来の姿……ってこと……?」
愛「そーゆーこと」
彼方「そのポケモンたちを捕まえて、何するつもりなの……!?」
愛「それは簡単だよ。……これから、世界を── 一つに繋げるんだよ……」
善子「世界を一つに……繋げる……?」
愛「……もうちょっと具体的に言うとね……ウルトラスペース内の特異点を……神の力でインフレーションさせて、全宇宙のありとあらゆるエネルギーを均一化する……」
善子「なん……です……って…………?」
ヨハネ博士がその言葉に目を見開く。
善子「あんた、そんなことしたら全世界が──いや、全宇宙がどうなるかわかってんの!? それってつまり、全宇宙の熱的死が訪れるってことよ!?」
愛「もちろん。……ありとあらゆるエネルギー差異が消滅して……全てが無になる……」
善子「そんなことしたら、あんたも消えることになる!! 何考えてんの……!!?」
愛「……りなりーを迎えに行くんだよ」
果林「え……」
彼方「璃奈、ちゃん……を……?」
愛「全てが無になった──物質が消え去り……情報しかなくなった世界……つまり、全てがりなりーと同じになる……」
果林「愛……あ、貴方……何……言ってるの……?」
愛「ねぇ、カリン、カナちゃん。……りなりーが最期になんて言ってたか知ってる……?」
愛ちゃんは果林さんたちを見下ろしながら──
愛「……もし生まれ変われるなら……次は、みんなと繋がりたい……そう言ったんだ……。……だから……アタシがりなりーの夢を叶える……全宇宙を……情報レベルでバラバラになったりなりーと……一つに……繋げるんだ……」
果林「なに……言ってる……の……?」
善子「……狂ってる……」
愛「狂ってる? ……あははっ! だろうねっ! アタシはりなりーを失ったあの日から、もう狂ってるんだよ!! ……りなりーを奪った、世界のせいで……!」
果林「奪ったって……あ、あれは事故で……」
愛「あれが本当に不幸な事故だったと思ってんの?」
果林「え……」
愛「……確認したらさ……ウルトラスペースシップに細工してやがったんだよね……アイツら……。……ご丁寧にアタシたちが出発前点検を済ませた後に……」
彼方「ま、まさか……それじゃあ、あの事故は……」
愛「そうだよ。……政府方針に反対するアタシたちを消すために……仕組まれたんだよ」
果林「そん……な……」
愛「だから、こんな世界に未練なんてない。アタシはりなりーの望みを叶える。他のことなんてどうでもいい。……あはははははっ!! やっとこの時が来たんだ……!!」
愛ちゃんは高笑いを上げながら、そう宣言する。
そのとき、
リナ『──そんなこと、璃奈は望んでないッ!!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
大きな声をあげながら──私の傍から、リナちゃんが飛び出した。
侑「リナちゃん……!?」
勢いよく飛び出したリナちゃんが、愛ちゃんの目の前に相対する。
640 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:15:57.17 ID:djK6Kzqg0
愛「……何?」
リナ『璃奈はそんなこと望んでない!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
愛「……リナちゃん……だっけ? 名前が同じだけのロトム図鑑の分際で……りなりーの何がわかるの?」
彼方「愛ちゃん、その子は璃奈ちゃんなの!!」
愛「……は?」
彼方「璃奈ちゃんの記憶を持ってる子なの……!!」
愛「嘘でしょ……?」
リナ『彼方さんの言ってることは……嘘じゃない……。私はロトム図鑑じゃない。……璃奈の記憶をベースに作られた……AIだよ』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「……ベースに……か」
リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||
愛「…………じゃあ、答えてよ……」
リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||
愛「…………君は……りなりーなの……?」
リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||
愛「…………」
リナ『…………璃奈では……ない。……私は……コピー。……璃奈は今も……情報として……どこかを……漂ってる……。……璃奈は……もう……絶対に生き返らない……』 || 𝅝• _ • ||
愛「………………。…………だよね…………知ってる。……知ってるよ。……だって──りなりーの作った理論に……そう書いてあったから……りなりーの提唱した理論には……一度情報レベルでバラバラになった人間を……完全に復元するのは絶対に不可能だって……」
リナ『…………』 || 𝅝• _ • ||
愛「何度も何度も何度も何度も何度も何度も……計算しなおした……。もしかしたら、万に一つ、億に一つ、兆に一つ……あの理論が間違ってて……りなりーを救える可能性があるかもしれないって。でも…………りなりーが作った理論が……間違ってるはず、なかった……。……ないんだ……。……だって、りなりーが作った理論だから……。……りなりー自身が……もうりなりーが帰ってこないことを……証明してたんだ……」
リナ『…………』 || > _ <𝅝||
愛「でもさ……」
愛ちゃんはギュッと拳を握りしめて──
愛「……こんなときくらい──嘘……吐いてよ……」
絞り出すような声で……そう、言った。
リナ『……愛、さん……』 || _ ||
愛「そうじゃなきゃ……アタシ……っ……。……もう、本当に……止まれないじゃん……っ……」
愛ちゃんは──泣いていた。
直後──アーゴヨンの背後に巨大なウルトラホールが出現し、
愛「…………もう……全部終わりだ……この世界も、この宇宙も……全部……一つになる……。……りなりーと……一つになって……繋がるから……──」
リナ『愛さんっ!!』 || > _ <𝅝||
愛ちゃんは……ホールに飲み込まれて──消えてしまったのだった。
641 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:17:41.04 ID:djK6Kzqg0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ウルトラキャニオン】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
642 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/06(金) 17:18:11.36 ID:djK6Kzqg0
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.77 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.75 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.73 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.73 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.71 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:255匹 捕まえた数:10匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.65 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
ウツロイド Lv.71 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:221匹 捕まえた数:20匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.78 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.73 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.72 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.71 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.72 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.72 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:251匹 捕まえた数:15匹
主人公 しずく
手持ち インテレオン♂ Lv.66 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリコオル♂ Lv.65 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アーマーガア♀ Lv.65 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロズレイド♂ Lv.65 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
ツンベアー♂ Lv.65 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:224匹 捕まえた数:23匹
主人公 せつ菜
手持ち ダクマ♂ Lv.5 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
スターミー Lv.81 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
エアームド♀ Lv.79 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
ドサイドン♀ Lv.82 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:28匹 捕まえた数:9匹
侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
643 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 11:46:19.80 ID:Xct6+7De0
■Chapter071 『終焉と絶望。……それでも──』 【SIDE Yu】
リナ『…………』 || _ ||
侑「リナちゃん……」
リナ『…………ごめんなさい……愛さんを……止められなかった……』 || _ ||
歩夢「リナちゃん……」
かすみ「リナ子……!! なんで、嘘吐かなかったの!? 愛先輩の言うとおり、あそこで自分が璃奈だって言ってれば……!!」
しずく「かすみさんっ!! リナさんの気持ちも考えて!!」
かすみ「でも……!! このままじゃ世界、滅んじゃうんでしょ!?」
しずく「そ、それは……」
リナ『うぅん、かすみちゃんの言ってることは正しい……。……合理的に考えれば、あそこは嘘を吐いてでも止める場面だった』 || _ ||
侑「……じゃあ、どうして……嘘を吐かなかったの……?」
リナ『………………私…………愛さんには…………嘘……吐けなかった……。…………大好きな愛さんにだけは…………嘘……吐けなかった…………』 || 𝅝• _ • ||
かすみ「…………リナ子……。…………ごめん」
それは……リナちゃんが、どうしようもなく璃奈ちゃんだったから……愛ちゃんの目の前で……璃奈ちゃんの死を肯定せざるを得なかった。
侑「…………」
やるせなかった。
でも、もう……どうすればいいか。
みんなが沈黙する中……口を開いたのは──
歩夢「……愛ちゃんを、止めに行こう」
歩夢だった。
侑「歩夢……?」
歩夢「私……愛ちゃんの気持ち……ちょっとだけ……わかる気がするんだ……」
かすみ「ま、マジですか……?」
歩夢「……もし、侑ちゃんが……死んじゃったとして……。……それでも、侑ちゃんに繋がる何かがあったら……私はそれが世界を滅ぼすことになるんだとしても……きっと手を伸ばしちゃうと思う……」
侑「歩夢……」
歩夢「……大好きな人に嘘を吐けなかったリナちゃんの気持ちも……わかるよ……。……好きな人に嘘吐くのって……苦しいし……悲しいもん……」
リナ『歩夢さん……』 || 𝅝• _ • ||
歩夢「でも……それってどっちも、大好きで、大切だから、そう思うんだよね……? ……お互いを想い合う……大好きな気持ちのせいで……誰も望まない未来を選んじゃうなんて……悲しすぎるよ……」
歩夢の言うとおりだ。……こんな悲しい結末で、終わらせちゃダメだ……。
侑「……ねぇ、リナちゃん」
リナ『なぁに……?』 || 𝅝• _ • ||
侑「リナちゃんはどうしたい? ……オリジナルとか、コピーとかじゃなくて……。……リナちゃんはどうしたい?」
リナ『私は……』 || _ ||
リナちゃんは少しだけ悩んでいたけど──
リナ『……私は──愛さんを救いたい……!! 愛さんに、この世界で生きる未来を……選んで欲しい……!!』 || > _ <𝅝||
644 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 11:47:53.84 ID:Xct6+7De0
リナちゃんはそう、自分の気持ちを口にしてくれた。
侑「……うん! じゃあ、決まりだ」
歩夢「愛ちゃんを止めに……行こう……!」
私は歩夢と頷き合う。
かすみ「……そうですね……。……このまま、世界が消えるのを黙って待つなんて……絶対お断りですし」
しずく「せっかく、ここまで来たんですから……ハッピーエンドで終わらせないと、納得行きませんよね」
かすみちゃんとしずくちゃんが、歩み出る。
せつ菜「こんな形で、世界を終わらせるわけに行きません。……やっと、私は私を始められるんですから……!」
エマ「なにが出来るかわからないけど……。……誰かを想う気持ちが、悲しい結果になるのは……嫌だから……。わたしにも手伝わせて……!」
せつ菜ちゃんとエマさんが、協力を申し出て。
果林「……仲間の不始末は……さすがに責任取らないとね」
彼方「そうだね〜。一発愛ちゃんには厳しく言ってやらないと! 一人で考え込むな〜って」
果林さんと彼方さんが、仲間の為に決意する。
リナ『みんな……』 || 𝅝• _ • ||
侑「リナちゃん……! 愛ちゃんを止めに行こう……!」
歩夢「大切な人を想う気持ちを……悲しい結末にしないために……!」
リナ『……うん!』 || > _ <𝅝||
私たちは最後の戦いに臨むために……覚悟を決めた。
645 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 11:49:14.34 ID:Xct6+7De0
🎹 🎹 🎹
曜「とりあえず……愛ちゃんが具体的に何しようとしてるのかが、私たちにはよくわからなかったんだけど……」
善子「そうね……まず、その説明をしようかしら……」
せつ菜「確か……特異点のインフレーション……とか言ってましたよね……?」
しずく「それによって、全宇宙のエネルギーを均一化するとも……」
かすみ「果林先輩たちの世界って、エネルギーが他の世界に偏っちゃうから困ってたんですよね……? 均一化ってことは……みんなで平等に分け合うってことじゃないんですか?」
リナ『うぅん、そういう次元の話じゃない。エネルギー差異の完全均一化は全ての熱的活動の終焉を意味する』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「……???」
善子「えーっと……そうね……。めちゃくちゃ簡単に言うなら……熱いの反対は冷たいだけど……それが全部一定になったら、熱いも冷たいもなくなっちゃうって話かしら」
せつ菜「つまり……相対概念の消失……でしょうか」
リナ『そういうこと。さらにこれは、何も熱に限った話じゃない。光は暗いから明るい、空気が多い場所から少ない場所へ移動するから風が吹く……みたいに、ありとあらゆる現象はエネルギーの差異によって生じてる。これがなくなると……』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「えっと……熱さもないし、明るさもないし、風もない世界になる……ってこと……?」
リナ『それどころか、物質もエネルギーが動き続けてることによって存在してるから、エネルギー差異が完全消滅したら……全ての物質がなくなるに等しい。人やポケモンどころか、星も……宇宙すらも』 || ╹ᇫ╹ ||
花丸「つまり……無……」
かすみ「え……!? そ、それ……めちゃくちゃやばいじゃないですか……!?」
善子「だからヤバイって言ってるでしょ……。これが全宇宙の熱量的な終焉──熱的死と言われてる。愛はそれを無理やり引き起こそうとしている」
果林「つまり……全宇宙が滅びるってことね」
彼方「果林ちゃん……あんまり、わかってないよね?」
とりあえず……愛ちゃんを止めないと、全てが滅んじゃう……ってことはわかったかな……。
となると、次に話すべきは……どうやって愛ちゃんを止めるかだ。
善子「だから、私たちは愛が事を起こす前に、追い付いて止めないといけないんだけど……そもそも特異点ってシップで行けるの?」
リナ『たぶん……無理……。……特異点って言っても愛さんが行こうとしてるのは特異点の中核……。普通のシップじゃ行けたとしても、途中でバラバラになる……』 || > _ <𝅝||
善子「そうよね……向こうはキズナ現象を起こした規格外のアーゴヨンに……覚醒したディアルガ、パルキア、ギラティナまで持ってる……。それによって、やっとたどり着けるってことよね……」
リナ『速度自体はポケモン単体の速度よりかは全速力シップの方が上だから、もしかしたら特異点に着くまでに追い付くこと自体は出来るかもしれないけど……』 || 𝅝• _ • ||
果林「シップ内に居たらウルトラスペース内での戦闘は無理……。……追い付いたところで無抵抗のまま墜とされるのが関の山ね」
侑「となると必要なのは……ウルトラスペースを自由に航行すること、かつウルトラスペース内で戦闘して愛ちゃんを止められること……か……」
しずく「ウルトラビーストに乗って移動するのはどうでしょうか? 確かウルトラビーストには、ウルトラスペースのエネルギーを中和する効果があるんですよね? それなら、生身の人間でも活動出来るはずです!」
彼方「確かにそうだね〜……実際、愛ちゃんはアーゴヨンでウルトラスペース内のエネルギーを中和して、航行してるはずだし……」
善子「でもあのアーゴヨンは特別……エネルギーの出力的に普通のウルトラビーストじゃ追い付けないわよね?」
リナ『うん。速度の面でも、活動限界時間を考えても、普通のウルトラビーストで飛び出すのは少し無謀かも……』 || 𝅝• _ • ||
花丸「ちなみに……愛ちゃんはどれくらいで、その特異点とやらにたどり着くずら?」
リナ『私たちが以前行ったことがあるのは、あくまで重力圏内までだったけど……中核となると、全速力のシップでも何年も掛かるような距離だから、多少の余裕はある……と思う。ただ、ディアルガやパルキアがいるから、時空を歪めて加速とかはしてそう……。ざっくり1ヶ月くらいがボーダーだと思った方がいいかも……』 || > _ <𝅝||
遥「どちらにしろ……向こうが時空を操って移動出来る以上……こちらもかなりの水準でワープ航行レベルの速度が求められることになります……」
千歌「条件が厳しすぎるよ〜……」
確かに、必要とされていることはわかりやすいかもしれないけど……それを満たすことがあまりに難しすぎる。
早くも議論が詰まってしまったところで、口を開いたのは、
かすみ「は〜……相変わらず皆さん、難しく考えすぎなんですよ……」
646 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 11:50:01.55 ID:Xct6+7De0
かすみちゃんだった。
侑「何か考えがあるの……?」
かすみ「はい! 要は超速くて超強いウルトラビーストを捕まえれば万事解決です!」
しずく「それが出来たら苦労しないでしょ! 真面目に考えなさい!」
かすみ「いひゃい〜……ほっへひっはららいれ〜……」
かすみちゃんがしずくちゃんにほっぺを引っ張られて悲鳴をあげる。
姫乃「……とりあえず、ここでうんうん唸っていても仕方がないので、ひとまずシップをこちらに持ってきます」
遥「そういうことなら、姫乃さんの手錠……一旦外しますね。いいよね、お姉ちゃん?」
彼方「うん。さすがにこんな状況だし、敵も味方もないからね〜……果林ちゃんのも一旦外してあげるね〜」
姫乃「助かります」
果林「お願い」
姫乃さんたちが、シップの移動へと動き出す中──
侑「うーん……新しいウルトラビーストか……」
私はかすみちゃんの考えは、案外悪くない気はしていた。
今のこっちのカードじゃ、どっちにしろ追い付くことすら難しいというなら……新しい航行方法を得る方がまだ可能性がある気がするし……。
向こうがポケモンの力によって無理を通しているなら、それを覆すにはこっちも無理を通せるだけのポケモンの力が必要なんじゃないかな……。
そのときふと──
「────」
侑「コスモウム……?」
彼方さんのコスモウムが、私の前に舞い降りてきた。
……確かに修行中にそこそこ仲が良くなったポケモンではあるけど……。
侑「そういえば、コスモウムもウルトラビーストなんだっけ……」
「────」
まあ……あまりに遅すぎて、追い付くとかそういう次元じゃないんだけど。
歩夢「侑ちゃん……何か思いついた……?」
侑「うぅん……全然……。……歩夢は?」
歩夢「私も……なかなかいい案が思い浮かばない状態……」
侑「だよね……」
「────」
二人で悩んでいた、そのとき──唐突に歩夢の胸元が輝きだした。
歩夢「えっ!? 何……!?」
歩夢が驚きの声をあげると同時に──
「──ピュィッ!!!!」
歩夢「……! コスモッグ……! ずっと私の服の中に居たの……?」
コスモッグが飛び出し、光り輝いていた。その光は──今までにも、何度か見たことのある光だった。
647 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 11:50:44.54 ID:Xct6+7De0
侑「こ、これってまさか……!?」
歩夢「進化の光……!」
光に包まれたコスモッグは──
「────」
紅い水晶を持った、コスモウムへと……進化した。
そして、再び歩夢の胸元に降りてくる。
侑「コスモウムに進化した……」
かすみ「……ちょーっと待ってください……? コスモッグが進化しちゃうと、ウルトラスペースシップのエネルギーが取り出せなくなっちゃうんじゃ……!?」
果林「……そうね」
かすみ「ぬわーーー!? ますます、シップで追い付く希望がなくなっちゃいました〜〜〜!?」
かすみちゃんが頭を抱えるけど──
彼方「…………」
果林「…………」
果林さんと彼方さんが、急に口元に手を当てて何かを考え始めた。
エマ「果林ちゃん……? 彼方ちゃん……?」
果林「……ねぇ、彼方……もしかして、今私と同じこと考えてない?」
彼方「……奇遇だね〜、彼方ちゃんも今、果林ちゃんが同じこと考えてる気がしてたよ〜」
果林さんと彼方さんは、リナちゃんの方に向き直る。
果林「リナちゃん、コスモウムは……太陽の化身か月の化身に姿を変えるって前に言ってたわよね?」
彼方「それが本当なら……もしかしたら……追い付けるんじゃない……?」
リナ『……! 確かに、コスモウムは大きなエネルギーを内包している繭みたいな状態……それが覚醒して進化した姿なら……! もしかしたら……!』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「それじゃ、この子たちを進化させれば……!」
「────」
侑「ってことは……」
「────」
かすみ「コスモウムを持ってる歩夢先輩と彼方先輩なら、乗り込めるってことですか……!?」
彼方「んー……一人は歩夢ちゃんだけど……もう一人は彼方ちゃんよりも──侑ちゃんがいいと思う」
侑「え!? な、なんで!?」
「────」
彼方「コスモウム……さっきから侑ちゃんの周りを漂ってるし……」
侑「え?」
「────」
言われてみれば、確かにコスモウムが私の周りをくるくると回っていた。
648 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 11:52:42.72 ID:Xct6+7De0
侑「……ホントに私でいいの……?」
「────」
彼方「……コスモウムはもしかしたら……ずっと主を探してたのかもしれないね」
侑「え……?」
「────」
彼方「だって、彼方ちゃんの傍に4年も居たのに……進化の兆しすらなかったんだもん」
果林「太陽の化身、月の化身になぞらえて、“SUN”と“MOON”の称号を組織内で最も強い二人に与えていた……。それは単純な強さが化身の力を呼び覚ますと思っていたからだという節があるわ。……でも、本当はそうじゃなかったかもしれない」
侑「それって、一体……?」
「────」
彼方「それが何かはわからないけど……コスモウムは侑ちゃんに、その何かを見出したんじゃないかな」
侑「……そういうことなの? コスモウム?」
「────」
周りを飛びまわっているコスモウムに訊ねても、言葉が返ってくるわけじゃないけど……。
大人しかったコスモウムがこんなに活発に動き回っている様子が、答えなんじゃないだろうか。
侑「……わかった。それじゃ……私と一緒に来て、コスモウム」
「────」
歩夢「侑ちゃん……!」
「────」
侑「うん……! コスモウムたちを進化させよう……!」
「────」
🎹 🎹 🎹
──現在私たちは、ウルトラスペースシップに乗り込み……私たちの世界を目指しているところだ。
姫乃「果林さん、本当に全速でいいんですね……!? ここで燃料を使ったら、確実に愛さんを追いかけることはできなくなりますが……」
果林「ええ。とにかく、戻るのを優先して。どっちにしろ、シップで追い付けないなら、コスモウムたちが進化することに賭けた方がいい」
姫乃「……わかりました」
速いと言っても1日以上は掛かるらしいので、私たちは移動の時間を使いコスモウムの進化条件について考えているところだった。
リナ『私が以前読んだ石碑の碑文のとおりなら……コスモウムは、日輪と月輪が交差する場所で、交差する時に、人の心に触れ、化身へと姿を変えるって記されてた』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「太陽と月が交差する場所……」
「────」
歩夢「どういうことかな……?」
「────」
コスモウムたちは、どんどん活発に私たちの周囲を衛星のように回っている。
まるで、進化のタイミングを今か今かと待っているかのように……。
コスモウム側の準備が出来ているなら、あとは条件を整えてあげるだけだけど……。
649 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 11:53:26.40 ID:Xct6+7De0
しずく「人の心に触れという文面からして……確実に進化する場所があるのは、文明のある世界だと考えていいでしょうね」
かすみ「つまり、かすみんたちがさっきまでいた世界じゃ、どう足掻いても進化しないってことだよね……」
せつ菜「はい。……それで、日輪と月輪が交差する時というのですが……単純に昼夜が切り替わる瞬間のことではないでしょうか?」
かすみ「まあ確かに太陽はお昼のものですし、月は夜のものですもんね」
しずく「となると……夕暮れか夜明け……ですかね」
侑「確かに、試してみる価値はあるよね」
歩夢「じゃあ、時間は夕暮れか夜明けとして……問題は場所だよね……」
かすみ「うーん……日輪と月輪が交差する場所……。太陽と月……どっちにも近い場所ですかね?」
せつ菜「天体に少しでも近いとなると……宇宙?」
リナ『それだと、昼夜の概念と人の心に触れって場所がおかしくならない?』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「あ、確かに……」
かすみ「じゃあ……一番近い場所……高い場所ってこと?」
しずく「……あぁっ!!」
そのとき、しずくちゃんが突然大きな声をあげる。
かすみ「ちょ……び、びっくりさせないでよ、しず子……!」
しずく「あ、ありました……! 太陽と月と縁の深い場所……!」
侑「ほ、ホントに……!?」
歩夢「どこなの……?」
しずく「カーテンクリフの遺跡です! あそこには、太陽信仰と月信仰があったと考えられていたはずです!」
せつ菜「確かに……私も同じような話を聞いたことがあります」
かすみ「太陽と月を同時に崇めるなんて、欲張りな遺跡ですねぇ……」
せつ菜「確か……真西から日差しが差すときと、真東から日差しが差すときに、雲海に映る巨大な人の形をした影を神として崇めた……とかだったような……。……もちろん、その正体は自分自身の影なんですけど……。東に見た場合と西に見た場合、両方の人が主張をした結果、2つの信仰が生まれたという話だった気がします」
しずく「せつ菜さん……詳しいですね」
せつ菜「私は修行でよく登っていたので……気になって調べたこともありますし、実際に西にも東にも巨人の影を作ってみたことがありますよ! それと、もう一つ……あそこには面白い話があるんですよ」
歩夢「面白い話……?」
せつ菜「時間帯で……遺跡の呼び方が変わるんです」
かすみ「へ? なんでですか……?」
侑「地名そのものが変わるってこと……?」
しずく「……そっか、夕暮れか夜明けかによって、崇拝対象自体が変わるから……」
歩夢「あ、なるほど……夕暮れの神様を崇拝した呼び方と、夜明けの神様を崇拝した呼び方があるんだ……」
せつ菜「はい! そういうことです! 夕暮れ時が近づくと“黄昏の階(たそがれのきざはし)”、夜明け時が近づくと“暁の階(あかつきのきざはし)”と呼ぶそうですよ」
侑「じゃあ、交差するって言うのは……」
せつ菜「黄昏と暁が切り替わる場所……と考えれば辻褄が合うのではないでしょうか」
かすみ「なんかそれっぽい気がしてきました……!」
侑「……ふふ♪」
──ふと、笑みが零れてしまう。
650 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 11:54:33.76 ID:Xct6+7De0
歩夢「? 侑ちゃん? どうかしたの?」
侑「あ、ごめん……なんか、みんなどんどんアイディアが飛び出してきて、あっという間に正解なんじゃないかって場所にたどり着いちゃったから……なんか、すごいなって思って」
せつ菜「皆、それぞれに旅をしてきましたからね……その経験と知識が集まれば、わからないことなんてありませんよ!」
しずく「ですね。私たち、本当にいろんな場所を見て回ってきましたから……!」
かすみ「もしかしたら、かすみんたち……こうして世界を救うために、冒険の旅に出たのかもしれませんね!」
せつ菜「そう考えると、RPGの勇者一行みたいでかっこいいですね!!」
歩夢「ふふ……♪ 最初は、どうして自分が選ばれたのかわからなくって悩んでたのに……今は世界どころか……全宇宙を救おうとしてるなんて、あのときの私が知ったらびっくりして倒れちゃうかも……♪」
本当に……本当に、たくさんのものを、この旅の中で見てきた。辛いことも、悲しいことも、苦しいこともたくさんあったけど……それでも、思うんだ──
侑「……私……旅に出られて、本当によかった……。……歩夢、ありがとう」
歩夢「え?」
侑「歩夢が居てくれなかったら私……今ここに居なかった。……歩夢のお陰で偶然イーブイと出会って、たまたまポケモン図鑑を貰って……こうして、みんなと一緒に冒険できたことが……本当に夢みたいなんだ。だから──」
最後まで言おうとして、
歩夢「……違うよ、侑ちゃん」
歩夢に人差し指で口を押さえられる。
侑「……?」
かすみ「侑先輩、わかってないですねぇ……。いつまで経っても、自分はあくまで歩夢先輩のおまけみたいに言うんですから……」
しずく「侑先輩は、脇役なんかではありませんよ」
せつ菜「そのとおりです。侑さん、貴方はもう立派な強さと志を持った── 一人のトレーナーじゃないですか」
侑「……みんな……」
歩夢「……私が居たから、侑ちゃんがここに居るんじゃないよ。侑ちゃんがここまで歩いてきたから……侑ちゃんはここに居るの」
歩夢はそう言って私の手を握る。
侑「歩夢……」
歩夢「そして……それはみんな同じ。……侑ちゃんは私たちと何も変わらない」
しずく「もし侑先輩の旅立ちが偶然なら、私たちの旅立ちだって偶然ですよ」
せつ菜「むしろ、侑さんの場合は自分で掴んだ結果です。そんな消極的に捉えられたら、私の立つ瀬がないじゃないですか! もっと自信を持ってください!」
かすみ「選ばれたかすみんたちと侑先輩、じゃありませんよ。私たち5人みんなが、ヨハネ博士に選ばれたトレーナーです!」
侑「……!」
──私は、無意識のうちに、引け目を感じていたのかもしれない。
自分は選ばれたわけじゃないから。選ばれたみんなに便乗させてもらっただけだ……なんて。
でも、そうじゃない。……そうじゃ、なかったんだ。
本当は、きっかけなんて……どうでもよかったんだ。
私たちはみんな──旅に出て、いろんな景色を見て、時に悩んで、考えて、戦って……ポケモンたちといろんな困難を乗り越えてきた、一人の──ポケモントレーナーなんだ。
侑「そっか……そうだよね……」
「ブイ♪」
歩夢「イーブイも侑ちゃんとの出会いが偶然なんて言われたら、嫌だもんね〜?」
「ブイ!!」
歩夢「ほらね♪ イーブイに怒られないように、侑ちゃんも胸を張って。ね?」
侑「……うん!」
651 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 11:55:22.59 ID:Xct6+7De0
だから、私は言い直す。
侑「みんなと旅が出来て……本当によかった! これからも、そんな旅が続けられるように……私たちで守るんだ!」
私の言葉に、みんなが頷く。
決意を胸に──シップは進んでいく。
😈 😈 😈
──ローズシティ、病室。
善子「入るわよ」
鞠莉「……返事くらい待ちなさい」
善子「……こてんぱんにされたって聞いてたから、そんなこと言えるくらいには回復してるみたいでよかったわ」
そう言いながら、私はマリーの横にある椅子に腰かける。
ウルトラキャニオンから戻ってきてすぐ……私たちは海未からの報せで、瀕死のマリーたちが病院に担ぎ込まれた話を聞いた。
だから、こうして師の見舞いに来たというわけだ。
鞠莉「こんなことしていていいの? まだ、終わってないんでしょ?」
善子「出来ることがないだけよ。大勢で遺跡に押し寄せてもしょうがないからね……それに……」
鞠莉「それに……?」
善子「未来は……あの子たちに託してきたから」
私の自慢のリトルデーモンたちに、ね。
鞠莉「……言うようになったじゃない」
善子「ええ。マリーたちの仇は私の可愛いリトルデーモンたちが取ってくれるから、安心しなさい」
鞠莉「ふふ……頼もしい」
ウルトラビーストの出現報告も依然あるらしく……さっき言ったように、大勢でクリフの遺跡に押し寄せたところで、出来ることがあるわけではない。
だから、曜とルビィはジムに戻った。……ずら丸も何故かダリアに戻ったけど……まあ、やることがあるんでしょ。
リリーも事態が収束するまでは、ローズの防衛に参加するらしい。
そして千歌はリーグへと帰還した。
もちろん、私たちが戦う選択肢もあったけど……6人全員、満場一致だった。
未来は──新しい世代に託そう、と……。
善子「私たちは、もう前に世界を救ってるからね。おいしいところは、あの子たちにあげることにしたわ」
鞠莉「ふふっ、さっき出来ることがないって言ってたじゃない……」
善子「それはそれよ……んで、他の人たちは大丈夫なの?」
鞠莉「うん。ダイヤはさっき目が覚めたって聞いたわ。大怪我だったから、当分ベッドの上だろうけど……。あと……果南も大怪我してたはずなんだけど……」
そのとき、廊下からドタドタと騒がしい声が聞こえてくる。
652 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 11:56:19.35 ID:Xct6+7De0
ナース「ま、待ってください〜!!」
「ハピハピッ!!」
果南「無理〜〜!! 1ヶ月もじっとしてたら、死んじゃうって〜!!」
部屋のすぐ外で、慌ただしく果南が通り過ぎていった。
善子「……どっかで見た光景ね……」
鞠莉「まったくね……」
マリーは肩を竦める。
鞠莉「穂乃果さんは……かなり酷い怪我だったけど、どうにか意識は取り戻したみたい。命に別状はないって」
善子「そ……ならよかった」
私とマリーは、何気なく、窓の外を見る。
外には、今日も穏やかな青空が広がっていた。
鞠莉「……まさか、あと一月足らずで……この世界どころか……宇宙全てが滅びようとしてるなんてね……」
善子「本当にね……。……まあ、きっと大丈夫よ」
鞠莉「ふふ、そうね。自慢のリトルデーモンたちがいるものね♪」
善子「そういうことよ」
あの子たちは、度重なる困難を……ポケモンたちと力を合わせて、打ち破ってきた。
今回だって、きっとそうしてくれる。私はそう確信している。
善子「頼んだわよ……リトルデーモンたち……」
みんなの生きる世界を──お願いね。
🎹 🎹 🎹
侑「……相変わらず、何度見ても長い階段だね……」
「ブイ」「────」
かすみ「まさか、3回も登ることになるとは思ってませんでした……」
私たちは、カーテンクリフの遺跡に続く階段へとたどり着いていた。
彼方「これ……登るの〜……? 絶対無理〜……」
遥「お、お姉ちゃん、登る前から諦めちゃダメだよ……!」
姫乃「……果林さん、本当に上の遺跡に直接シップを着けなくてよかったんですか……?」
果林「でも、この階段……登った方がいいんでしょう?」
リナ『うん。進化は儀式だから。信仰では階段を登ることも儀式の手順に含まれてるみたいだし、その方が確実』 || ╹ ◡ ╹ ||
果林「じゃあ、登るしかないわね。彼方、しっかりしなさい」
彼方「はぁ……わかったよぉ……。彼方ちゃん、これでも怪我人なのになぁ……」
果林さんに言われて、彼方さんが渋々階段を登り出す。
653 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 11:57:26.36 ID:Xct6+7De0
エマ「それじゃ……ゴーゴート、お願いね」
「ゴォート」
足を怪我しているエマさんは、ゴーゴートの背に乗って登り出す。
果林「エマ。辛かったら、すぐに言うのよ」
エマ「うん、ありがとう、果林ちゃん♪」
姫乃「……」
仲の良さそうなエマさんと果林さんを見て、姫乃さんが不満そうな顔をしながら付いていく。
しずく「……この三角関係……ありですね……」
かすみ「なに言ってんのしず子……」
せつ菜「はっ……! こんなに長い階段……ダッシュで登れば、いい修行になるはず……!!」
「──ベァーマッ!!」
せつ菜「ダクマ……! まさか自分から出て来るなんて……! 一緒に修行したいってことですね!!」
「ベァーマ」
せつ菜「それでは一緒に階段ダッシュしましょう!! ……うおおおおおお!!!」
「ベァァァァ!!!!」
歩夢「……せ、せつ菜ちゃん……これは儀式だから、ダッシュは……。……行っちゃった……」
「────」
侑「あはは……せつ菜ちゃんらしいや……」
「ブイ」「────」
しずく「かすみさん、今回は走らないの?」
かすみ「さすがに3回目となると……ゆっくり景色でも見ながら登ろうかな……」
しずく「ふふ、そっか♪」
しずくちゃんがクスクス笑いながら、かすみちゃんと一緒に登り始める。
侑「それじゃ、私たちも行こっか」
「────」
歩夢「うん」
「────」
2匹のコスモウムを連れ、私たちも階段を登り始めた。
🎹 🎹 🎹
せつ菜「──皆さーんっ!! 遅いですよー!!」
「ベァ!!」
登っていくと、途中でせつ菜ちゃんとダクマが、足踏みしながら待っていた。
かすみ「あの人、どんだけ元気なんですか……」
彼方「……かなたひゃん…………もう、むりぃ〜……」
遥「お、お姉ちゃん……もうちょっとだから……頑張って……」
彼方さんはすでにヘロヘロで、さっきから遥ちゃんが後ろから押してあげている。
654 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 11:58:10.01 ID:Xct6+7De0
果林「まったく……それでも元“MOON”なの……?」
彼方「だってもう4年も前の話だよ〜……? それに、彼方ちゃんのスタイルは昔から座して動かずだったし〜」
果林「……はぁ……もう、手引いてあげるから、頑張りなさい」
彼方「わ〜♪ 優しい〜♪ 優しい妹とお義姉ちゃんに挟まれて、彼方ちゃんハッピーだよ〜♪」
果林「はいはい。調子いいんだから……」
遥「ふふ♪」
あちらはあちらで仲睦まじそうだ。
せつ菜「それにしても……すっかり日が暮れてしまいましたね」
そう言いながら、せつ菜ちゃんが私たちのところまで駆け下りてくる。
かすみ「上ったり下りたり忙しそうな人ですね……」
歩夢「あはは……」
「────」
リナ『これだと……もう黄昏時は過ぎちゃってるから……』 || ╹ᇫ╹ ||
しずく「そうなると次は、暁時ですね」
侑「頂上に行って、夜明けまで待つことになるかな」
「────」
せつ菜「ですね! それじゃ、ラストスパートです! 行きますよ、ダクマ!!」
「ベァーマッ!!!」
せつ菜「うおおおおお!!」
「ベァーーー!!!」
歩夢「せ、せつ菜ちゃん……あの……だから、これは儀式で……。……行っちゃった……」
「────」
侑「あはは……」
「────」
私たちは頂上を目指します。
🎹 🎹 🎹
──頂上にたどり着くと……辺りはすっかり暗くなっていました。
かすみ「野生のポケモン……いませんよね……?」
侑「……前に来たときは襲われたもんね」
「ブィ…」
しかも、かなり強かったし……。一応、警戒して周囲を見渡すけど、
せつ菜「皆さーん! 遅いですよー!」
「ベァーマ」
相変わらず元気そうなせつ菜ちゃんがいるだけで、野生のポケモンはいなさそうだ。
とりあえず一安心していた、そのとき──袖をくいくいっと引かれる。
歩夢「侑ちゃん……」
655 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 11:59:47.61 ID:Xct6+7De0
歩夢だった。
侑「どうしたの?」
歩夢「空……見て……」
侑「空……?」
歩夢に促されて見上げると──
侑「うわぁ……!」
そこには、今にも落ちてきそうな満天の星が瞬いていた。
しずく「綺麗……」
かすみ「前に来たときは、それどころじゃなくて気が付かなかったですけど……確かにこれはすごいですねぇ……!」
侑「うん……!」
そして、そんな星空に反応するかのように、
「────」「────」
コスモウムたちも活発に私たちの周囲を回っている。
せつ菜「コスモウムたちのこの反応……場所はここで間違いなさそうですね……!」
侑「うん! あとは、夜明けを待つだけだね!」
「ブイ」
しずく「夜明けとなると……あと9時間くらいでしょうか……?」
彼方「そんなに待てない〜……彼方ちゃんは寝る〜……すやぁ……」
姫乃「はぁ……マイペースですね……」
果林「……とはいえ、少し長いし、休息を取る必要はありそうね……。……特に侑、歩夢。貴方たちは突入もあるから、今のうちに休んでおきなさい」
侑「は、はい!」
歩夢「わかりました」
エマ「かすみちゃんたちも先に寝ちゃっていいよ♪ 見張りはわたしたち大人がするから♪」
かすみ「そういうことなら……お言葉に甘えて……」
しずく「うん、そうだね。暁時を逃さないためにも……早めに寝て備えるべきだしね」
せつ菜「でしたら、あちらに集まって寝ましょう!」
侑「うん」
「ブイ」
私たち図鑑所有者の5人は、先に仮眠を取らせてもらうことにする。
石畳の上にそのまま転がるのも憚られるので、シートを敷いて……薄手の毛布だけ出して、みんなで横になる。
656 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 12:01:06.15 ID:Xct6+7De0
せつ菜「……こうして、皆さんと星空を眺めて寝るなんて……キャンプみたいでワクワクしますね!」
かすみ「あ、ちょっとわかります! ここしばらく、外でこんな風にのんびりするタイミングもなかったですし……」
しずく「もう……二人とも、遊びじゃないんですよ? 今は休息が最優先。おしゃべりしてないで寝ますよ」
かすみ「ちょっとくらい良いじゃん……しず子のケチー」
せつ菜「ですが、しずくさんの言うことも一理あります。休むときは迅速に休む。これも大事なことですよ」
かすみ「えぇー……でも、すぐに寝ろって言われても眠れませんよぉ……」
せつ菜「コツがあるんですよ。目を閉じて……力を抜いて……呼吸を深く……。………………すぅ…………すぅ…………」
かすみ「え、うそ……もう寝ちゃったんですか……?」
侑「さすが、せつ菜ちゃん……休息の速さも一流……」
かすみ「オンオフ激しすぎませんか……?」
しずく「かすみさんも見習ってね。……さ、おしゃべりは終わり。目瞑って」
かすみ「ぅ〜……わかったよぉ……」
歩夢「……侑ちゃん……手、繋いでもいい……? ……その方が……すぐ眠れるから……」
侑「うん、いいよ」
「ブイ…zzz」
歩夢「ありがとう……♪」
胸元で寝息を立てるイーブイを撫でながら、私は歩夢と手を繋いで目を瞑る。
長い階(きざはし)を登ってきた疲れもあったのか、思いのほか、私の意識はすぐに微睡んでいった──
🎹 🎹 🎹
──────
────
──
──夢を見た。
愛「………………りなりー……」
「ニャァ…」
愛ちゃんが……泣いていた。
愛「りなりー……」
戸を叩いて……。
愛「ねぇ、りなりー……」
泣いていた。
愛「りなりー……開けてよ……りなりー……っ……」
「ニャァ…」
──胸が痛くなるような……悲痛な声で……。
──
────
──────
657 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 12:01:45.92 ID:Xct6+7De0
🎹 🎹 🎹
『──侑さん、時間だよ』
侑「…………ん、ぅ…………」
ぼんやりと目を開けると──
リナ『おはよう、侑さん』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんが目の前に居た。
侑「おはよう……」
ゆっくりと身を起こす。
歩夢「侑ちゃん、おはよう。あったかいエネココア作るけど……飲む?」
侑「飲む……」
歩夢「わかった♪ ちょっと待っててね」
歩夢が手際よくエネココアを作り始める。
辺りを見回すと──
しずく「ほら、かすみさんしっかりして。せつ菜さんも」
かすみ「まだ……ねむぃぃ……」
せつ菜「あふぅ……頑張りまひゅ……」
しずくちゃんはもう完全に目を覚ましていて、寝起きで乱れたかすみちゃんとせつ菜ちゃんの髪を梳かしてあげている。
果林さんたちは……。
果林「………………すぅ…………すぅ…………」
彼方「……すやぁ…………はるか……ちゃぁ〜ん…………」
遥「…………すぅ…………すぅ…………」
エマ「…………くぅ…………くぅ…………」
姫乃「…………」
すでに眠っている。どうやら、私が起きるのが少し遅かったようだ。
歩夢「はい、エネココア。火傷しないようにね」
侑「ありがと……」
歩夢「こっちはイーブイの分だよ♪」
「ブイ♪」
受け取ったエネココアを一口飲むと……甘さと温かさでなんだか、ホッとする。
658 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 12:02:18.33 ID:Xct6+7De0
歩夢「せつ菜ちゃんとかすみちゃんも、どうぞ♪」
せつ菜「ありがとう、ございます……ふぁぁ……」
かすみ「いただきまーす……。……ふー……ふー……。……こくこく……。……えへへぇ……おいしい……」
歩夢「しずくちゃんは……今飲む……?」
しずく「あ、すみません……。かすみさんの髪を梳かし終わったら頂きます。そこに置いておいてもらえれば……」
歩夢「うん、わかった♪」
「シャボ」
歩夢「サスケの分もすぐに用意するから、ちょっと待ってね」
「シャボ」
みんなにエネココアを配り終わり、歩夢も私の隣に腰を下ろして、エネココアを飲み始める。
これから最後の戦いを控えているというのに、なんだか随分と穏やかな時間が流れていた。
せつ菜「もう、すっかり深夜ですね……」
リナ『夜明けまで、だいたいあと4時間くらいだね』 || ╹ ◡ ╹ ||
かすみ「4時間……そう考えるとまだ結構あるかも……」
歩夢「みんなでお話ししてたら、すぐだと思うよ♪ 彼方さんたちを起こさないように、小さな声でだけど……」
しずく「そうですね」
リナ『どんなお話しするの?』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「……それなんだけどさ。……私、リナちゃんの話が聞きたいな」
リナ『私の?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「よく考えたら……私たち、リナちゃんが……璃奈さんとして、生きていた頃のこと……ほとんど知らないから……。もちろん、リナちゃんが嫌じゃなかったらだけど……」
リナ『構わないよ。……うぅん、というより、私も侑さんたちには、知っておいて欲しいかも。ただ、ちょっと長い話になっちゃうけど……いい?』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんの言葉を受けて、みんなが首を縦に振る。
侑「うん。……聞かせて、リナちゃんのこと」
リナ『わかった。……それじゃ、話すね。私が……プリズムステイツで──愛さんたちと過ごした、日々のこと……』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんはそう前置いて……生きていたときの──昔話を語り始めた……。
659 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 12:04:01.07 ID:Xct6+7De0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【暁の階】
口================== 口
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||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
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||. 回 . |_回o | | : ||
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口==================口
660 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/07(土) 12:04:43.14 ID:Xct6+7De0
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.77 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.75 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.73 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.73 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.71 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
コスモウム Lv.75 特性:がんじょう 性格:ゆうかん 個性:からだがじょうぶ
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:258匹 捕まえた数:11匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.65 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
ウツロイド Lv.71 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
コスモウム✨ Lv.75 特性:がんじょう 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:227匹 捕まえた数:20匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.78 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.73 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.72 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.71 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.72 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.72 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:253匹 捕まえた数:15匹
主人公 しずく
手持ち インテレオン♂ Lv.66 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリコオル♂ Lv.65 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アーマーガア♀ Lv.65 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロズレイド♂ Lv.65 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
ツンベアー♂ Lv.65 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:225匹 捕まえた数:23匹
主人公 せつ菜
手持ち ダクマ♂ Lv.15 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
スターミー Lv.81 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
エアームド♀ Lv.79 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
ドサイドン♀ Lv.82 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:50匹 捕まえた数:9匹
侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
661 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:28:01.72 ID:5MWtUFJH0
■Chapter072 『ツナガル物語』 【SIDE Rina】
璃奈「──え、えっと……い、以上の観測結果から……この世界とは別のところに、高次元空間が存在してて……えっと……ポケモンの発生させるエネルギーによって、空間を歪曲させて……じ、実際にアクセス出来る可能性……」
──私は、スクリーンに映し出された研究発表のスライドと共に、自分の考えている理論を、手元のメモを見ながらたどたどしく読み上げる。
でも……そんな私──テンノウジ・璃奈の研究発表を聞いている人はほとんどいない。
先ほどまで、たくさん人がいたはずなのに……最後の順番である私のときには、室内に残っているのは2〜3人しかいなかった。
……いや、順番を最後に回した時点で……最初から誰も、私の話なんて聞く気がなかったんだと思う。
きっと、私が──研究所の創設者の娘だから……お情けで発表の場を作ってくれただけなんだと思う……。
璃奈「……い、以上で……は、発表……終わり……ます……」
私が発表を終えると、残って聞いていた数人の人たちも、部屋を退出していく。
私も足早に、この場を後にしようとした、そのとき──
──パチパチパチと、拍手が聞こえてきた。
璃奈「……?」
チラりと目をやると──金色の髪をした女の子がパチパチと拍手をしていた。
これが──私と愛さんの出会いだった。
📶 📶 📶
発表を終え、早く自分の研究室に戻ろうと、せかせかと通路を歩く。
道中、研究員の姿を何人か見かけたけど……みんな私の姿を見ると、目を逸らしてこそこそと離れていく。
そんな日常にも、もうとっくの昔に慣れてしまった。
でも、そんな中──
「──ねぇ〜! 君〜! 待って待って〜!」
璃奈「……?」
後ろから、大きな声で私を呼び止める人がいた。
愛「もう〜……さっさと退出しちゃうからびっくりしたよ〜!」
それは、さっきの金髪の女の子だった。
璃奈「えっと……」
愛「さっきの研究発表、すっごく面白かったよ!」
璃奈「ありがとう……ございます……」
お礼を言いながら、私は彼女を観察する。……歳は……十代前半かな。……でも、私よりは少し年上かも。
若い研究者はたくさんいるけど……その中でも一際若い気がする。
それに女性はちょっと珍しい……。
662 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:28:44.16 ID:5MWtUFJH0
愛「アタシ、最近ここに来たばっかりでさ〜……若くて、まあ女じゃん? だから、周りのおじさんたちの目が厳しくてさ〜……。だから、君みたいな小さな女の子がいると思わなくて、びっくりしちゃったよ!」
璃奈「小さな女の子……。……私……13歳です……。……そんなに、変わらないと思う……」
愛「え……!? あ、愛さんと1つ違い……!? 10歳くらいだと思った……」
それは……よく言われる……。
私は背が低いから、特に……。
愛「でもそれって同年代ってことだよね!! ホント愛さん、同年代の子と会えるなんて思ってなかったから嬉しいよ!! ……あ! アタシ、ミヤシタ・愛って言うんだ!」
璃奈「……テンノウジ……璃奈……」
愛「んじゃ、りなりーだね! よろしく!」
璃奈「りなりー……」
彼女は、私の手を握ってぶんぶんと上下に振る。
なんというか……距離の詰め方が……すごい……。
愛「でさでさ! アタシ、もっとりなりーの話聞きたくってさ! だから、今からりなりーの所属してる研究室に行こうと思ってたんだ〜!」
璃奈「え?」
愛「いい?」
璃奈「……いい……けど……」
愛「そんじゃ、レッツゴー!」
璃奈「わ……!」
彼女は私の手を引いて走り出す。
璃奈「わ、私の研究室の場所……わかるの……?」
愛「……あ!」
私の言葉を聞いて、急に止まる。
愛「……わかんない……案内して!」
璃奈「……こっち……」
今度は逆に彼女の手を引いて、私は自分の研究室を目指して歩き出す。
📶 📶 📶
愛「ここがりなりーの研究室なんだね!」
璃奈「……うん」
部屋に入るなり、彼女は興味深そうに、私の研究室内をキョロキョロと見回す。
面白いものとか……別にないんだけど……。
663 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:29:37.26 ID:5MWtUFJH0
愛「他に室員の人は?」
璃奈「……いない。この研究室は、私だけ……」
愛「え、そうなん?」
璃奈「強いて言うなら……」
「…ウニャァ〜」
机の影から──ニャスパーがとてとてと私の足元に寄ってくる。
そんなニャスパーを抱き上げて見せる。
璃奈「この子くらい……」
「ニャァ〜」
愛「おぉ、ニャスパーじゃん! よろしくね、ニャスパー!」
「ウニャァ〜」
愛「この子はりなりーのポケモン?」
璃奈「正確には……お父さんとお母さんのポケモンだけど……」
「ニャァ〜」
愛「へー、お父さんとお母さんも研究者だったりするの?」
璃奈「……うん。というか、この研究所の創設者」
愛「創設者!? え、めっちゃ偉い人じゃん……! どーりで、りなりーがその歳で自分の研究室持ってるわけだ……。……って、創設した人に挨拶もしないとか、さすがにやばいな……。ねぇ、りなりー! お父さんとお母さんに挨拶させてよ!」
璃奈「……無理。……それは出来ない」
愛「そう言わずにさ〜……」
璃奈「……出来ない。……もう、お父さんもお母さんも……いないから」
愛「……え」
彼女は言葉を詰まらせる。
璃奈「お父さんと、お母さんは……私が8歳のときに……研究中の事故で死んじゃったから」
愛「あ……ご、ごめん……」
璃奈「……別にいい。気にしてない。だから、この研究室は正確には私の研究室じゃない……。……お父さんとお母さんの研究室。二人が死んじゃってからは……ずっと私一人」
私は生まれたときからこの研究所で育ってきたから……ここは実質自分の家のようなものだ。
愛「……お父さんとお母さんとの思い出の研究室だから、他に誰も研究者を入れてないってこと……?」
璃奈「そういうわけじゃない。……誰も寄り付かないだけ」
愛「寄り付かない……? なんで……?」
璃奈「創設者の娘である私に嫌われたら、ここに居られないかもって考えてるからだと思う……。……だけど、私はこの研究所で一番子供。そんな人間の下について研究したいとも思わないだろうし、そんな人間を自分の下に付けたいモノ好きもいない」
つまり、腫れ物扱い……ということだ。
璃奈「相続はしてるから、私の研究所ということにはなってるけど……実際に管理しているのは別の人だし、私に誰かを追い出す権利とかはないと思う……。それでも、創設者の娘との間に問題が起こる可能性を考えて、近寄らないのがベターって思うのは合理的だと思う」
愛「合理的って……」
璃奈「別にそれに不満はない。この時代に住む場所に困らないだけでもすごくありがたいし、ご飯も食堂で作ってもらえる」
服も白衣を支給してもらえるし……衣食住に困らないだけで、十分な話だ。
664 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:30:13.49 ID:5MWtUFJH0
璃奈「私はこの研究所で……お父さんとお母さんが遺した研究の続きが出来れば、それでいい」
愛「お父さんとお母さんが遺した研究……? ……じゃあ、さっき発表してたのは……」
璃奈「うん。お父さんとお母さんが研究してたこと。私の目的は……二人の考えていた理論を完成させること……」
愛「…………」
璃奈「だから、貴方がお父さんとお母さんが研究していたことに興味を持ってくれたのは素直に嬉しい。……だけど、私と関わってると研究所で居づらくなるかもしれない。……だから、あんまり私と関わらない方がいいよ」
私は彼女に向かって、ここにいると損することを伝える。
だけど彼女は、ここを去るどころか──
愛「……ずっと……一人で頑張ってたんだね……」
そう言いながら、私を抱きしめてきた。
璃奈「……えっと……?」
愛「……決めた」
璃奈「? 何を?」
愛「アタシ、この研究室に入る」
璃奈「え……?」
私は彼女の言葉に驚く。
璃奈「……なんで?」
愛「なんでって……今の話聞いちゃったら、ほっとけないって!」
璃奈「……ここは他の研究室に比べて予算も少ない。扱ってるテーマも特殊だし……何よりこの研究室に入ったって知られたら、貴方も他の所員から良い顔をされないと思う。メリットがない」
愛「メリットとか、デメリットとか、そういう問題じゃないんだって……!」
璃奈「……貴方が優しい人なのはわかった。その気持ちは嬉しい。ありがとう。……だけど、私は一人で大丈夫だから。これまでもずっとそうだったし……」
愛「大丈夫だって言ってる子は……そんな寂しそうな顔しないぞ」
璃奈「……え?」
彼女はそう言いながら、私の頬に手を添える。
璃奈「私……寂しそうな顔……してる……?」
愛「……してるよ」
璃奈「……私、研究所の人たちが、私は無表情で何考えてるかわからないって噂してるの、知ってる……きっと思ってても、そんな顔はしてない」
愛「……それは、他の人たちがりなりーのこと、ちゃんと見てないからだよ……」
璃奈「……」
愛「とにかく、もう決めたから! アタシ、この研究室に入る! 入室手続きとかっている?」
璃奈「別に……いらないけど……」
愛「おっけー! じゃあ、今いる研究室抜けてくるから、ちょっと待ってて!」
それだけ言うと、彼女は部屋から飛び出して行った。
璃奈「……行っちゃった……」
そして、30分もしないうちに、彼女は自身の所属研究室を抜けて、私の研究室に荷物を抱えて戻ってきたのだった。
665 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:30:51.24 ID:5MWtUFJH0
📶 📶 📶
璃奈「こっちが執務室……こっちが私の部屋で……こっちがシャワールーム。……実験室はあっち」
愛「おー……この部屋って、いろいろ揃ってるんだね」
璃奈「私たち家族の住居スペースを兼ねてたから、ここだけでも生活が送れるようになってる。ご飯は食堂に行くことがほとんどだけど……」
キッチンもあるにはあるけど、お父さんもお母さんも研究一筋の人だったし、使ったことはほぼなかった。
愛「なるほどね。んじゃ、ここに愛さんの荷物置いちゃうよ?」
そう言いながら彼女は、自分の私物らしきものを執務室に置く。
愛「研究系の資料は、そっちに運んでっと……」
璃奈「あの……本当にいいの?」
愛「ん? 何が?」
璃奈「さっきも言ったけど……ここで扱ってるテーマは特殊……。……貴方が研究したいことも研究出来るか……」
愛「さっきから気になってたんだけど……その貴方って呼び方やめよっか」
璃奈「え?」
愛「これからは、同じ研究室の仲間なんだから! 名前で呼んでよ!」
璃奈「……」
彼女は……私が何を言ったところで、自分の意見を変える気はなさそうだ……。
璃奈「……」
愛「ほら! 愛って呼んで♪」
璃奈「……愛……さん……」
愛「うん! りなりー♪」
彼女──愛さんは、私が名前を呼ぶと、嬉しそうに笑った。
愛「んで、研究テーマの話だけど……四次元空間だよね?」
璃奈「うん……正確には高次元空間とエネルギーだけど……」
愛「なら、アタシの研究テーマはそんなに大きく外れてないよ!」
璃奈「え?」
私は首を傾げる。
私以外に、そんなテーマを研究している研究室あったかな……。
世が世だけに、研究予算が降りやすいのは、実際に役に立つ技術が多い。
食料生産や、それをオートメーション化するためのロボット。……あとは、兵器関連。
だから、私の研究しているような、一見なんの役に立つのかがわかりづらい研究は予算をほとんど出してもらえない。
それなのに、愛さんは自分の研究テーマと大きく外れていないと言う。
愛「愛さんが研究してるのはね……ビーストボールについてだよ」
璃奈「ビーストボール……ポケモンを持ち運ぶためのボールだよね」
愛「そうそう」
666 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:31:43.22 ID:5MWtUFJH0
ポケモンは弱ると小さくなるという性質を利用した、携行用のボールを開発している研究室は確かにあった。
璃奈「確か……ほぼ実用レベルまで進んでるって聞いた」
愛「うん。もうそろそろ、流通も始まることになってるよ! んで、これはそのボールの試作品!」
そう言いながら、愛さんがボールを取り出し、そのボールに付いているスイッチボタンを押し込むと──
「──リシャン♪」
ボールからポケモンが飛び出してくる。
璃奈「リーシャン……!」
愛「この子はね、“愛”さんの“相”棒なんだ♪ 愛だけにね♪」
「リシャン♪」
璃奈「本当にボールに入れて持ち運べるんだね」
愛「うん。ただ、アタシはボールそのものよりも……どうやってポケモンたちが小さくなってるのかの方が気になってさ」
璃奈「確かに……小さくなる性質を利用はしてるけど……どうやって小さくなってるのかはよくわかってないらしいね」
愛「しかも、どんなに大きいポケモン、重いポケモンも、ボールに入れれば持ち運べる。これって、不自然だよね」
そこまで聞いて、私はなんとなくピンと来た。
璃奈「ポケモンの重さは……どこに失われてるか。……それがここじゃない、どこかに……ってこと?」
愛「あはは、さすが研究者なだけあって、理解が早いね♪」
つまり愛さんは──
璃奈「ポケモンは小さくなるとき……私たちには認識できない場所に、自身の質量をエネルギーとして放出してる……」
愛「ま、あくまで愛さんの考えた仮説だけどね。そして、その放出先ってのが、りなりーの研究してる高次元空間なんじゃないかなって、研究発表聞いてたら、ビビッと来てさ!」
璃奈「……すごく、興味深い考え方だと思う」
愛「でしょでしょ! あの研究室だと、ボール開発とか生産コストの研究にシフトしちゃってて、メカニズムを知るための研究はほとんど出来なくってさ……どうしよっかなって思ってたんだよね」
璃奈「なるほど……」
愛「だから、愛さんはここの研究室に入っても損はしない! むしろ、アタシの研究内容はりなりーの役に立つかもしれないってコト! どうかな?」
璃奈「……納得した」
確かにそれなら、愛さんの研究内容から遠く離れたものではないし……お互いの研究テーマがお互いにとっての助けになる可能性がある。
そうなってくると、この研究室に入ることを頑なに拒否する理由もない……。
璃奈「ただ……予算は少ないよ?」
愛「そんなもん、これから結果出して増やせばいいよ!」
璃奈「……わかった」
愛「ってわけで、これからよろしくね、りなりー!」
璃奈「うん。よろしく、愛さん」
こうして私の研究所に仲間が増えることとなった──私にとって、生涯で最も大切と言える人が……。
667 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:32:20.62 ID:5MWtUFJH0
📶 📶 📶
──愛さんが私の研究室に来て、早くも1ヶ月ほどが経とうとしていた。
「リシャン」
愛「ん……? リーシャン、どしたん?」
「リシャン」
愛「え? ……って、うわ……もうこんな時間じゃん……。りなりー」
璃奈「…………」
「ウニャ」
愛「りなりー」
璃奈「え? あ、ごめん……なぁに?」
愛「時間。……もう深夜だし、そろそろ寝た方がいいかなって」
璃奈「……あ、うん。……キリのいいところまで行ったら寝るね」
愛「ダメだよ。それで先週は朝まで寝なかったんだから。今日は終わり」
璃奈「で、でも……」
愛「でもじゃな〜い!! りなりー、アタシがいないときからずっとこんななの?」
「ウニャァ」
愛さんが訊ねるとニャスパーが頷く。
璃奈「ニャスパーが裏切った……」
愛「いいから、寝るよ〜」
璃奈「はぁーい……」
まだ1ヶ月しか経っていないのに……愛さんは世話焼きで、私の身の回りのいろいろなことをお世話してくれていた。
夜更かししがちな私に、時間が遅くなると寝るように言ったり……ご飯を作ってくれたりする……。
愛さんは意外なことに料理上手で、特に焼き料理を作るのが上手だった。
愛「ほら、白衣のまま寝ないの〜! シワになっちゃうぞ〜?」
璃奈「このまま寝れば、起きてすぐ研究を始められて効率いいのに……」
愛「せっかくパジャマ買ってあげたんだからさー」
璃奈「無駄遣い……」
愛「こーゆーのは無駄って言わないの。ほら着替えた着替えた」
璃奈「はぁーい」
「ウニャァ〜」
ニャスパーが愛さんの買ってくれたパジャマをサイコパワーで浮かせながら持ってきてくれる。
璃奈「ありがと、ニャスパー」
「ウニャァ〜」
愛さんの買ってきてくれたパジャマ──ニャスパーをイメージした、耳付きフードのついている可愛らしいパジャマだ。
愛「うん、可愛い可愛い」
璃奈「ん……」
愛「お、りなりー照れてるな〜」
璃奈「ん……」
668 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:33:07.03 ID:5MWtUFJH0
愛さんから顔を背ける。
愛「ふふっ♪」
愛さんは楽しそうに笑う。
愛「そんじゃ、愛さんも部屋に戻るから。また明日ね。こっそり研究続けちゃダメだぞ〜? ちゃんと、寝るんだよ?」
璃奈「あ、うん……」
愛「おやすみ、りなりー♪」
そう言って背を向けて、研究室を後にしようとする愛さん。
璃奈「……」
私はそんな愛さんの服の裾をきゅっと……掴む。
愛「りなりー?」
璃奈「…………」
愛「ふふ……どしたん?」
愛さんが優しい表情で私の頭を撫でてくれる。
歳は一つしか違わないはずなのに、こういうときの愛さんはすごく大人っぽく見える。
私よりも全然背が高いからかな……。
璃奈「もうちょっと……お話ししたい……。今日……研究ばっかりで……あんまりお話し出来てないから……」
愛「……ふふ、じゃあ今日はりなりーの部屋に泊まろっかな〜」
璃奈「ホント……?」
愛「うん♪ 今着替え取ってくるから、待ってて」
璃奈「うん」
📶 📶 📶
──愛さんと過ごすようになって、久しぶりに人とまともに話すようになった気がする。
だからかな……最近、愛さんがいない時間が妙に寂しくて……。
璃奈「愛さん……」
愛「んー? 今日のりなりーは甘えん坊だな〜」
璃奈「…………」
愛「じゃあ、りなりーが寝るまで、ぎゅーってしててあげるね」
璃奈「うん……」
最近、愛さんの前では少しだけ……自分が素直になれている気がした。
それと同時に……自分がこんなに甘えん坊な性格だったことに驚いていた。
669 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:35:16.05 ID:5MWtUFJH0
璃奈「…………愛さん……変に思わないんだね……」
愛「ん?」
璃奈「……私が……甘えてきても……」
愛「まーね。……アタシも昔は、よく近所のお姉ちゃんに甘えてたから。なんとなく気持ち、わかるというかさ」
璃奈「そうなの……?」
愛「うん。……まあ、お姉ちゃん身体が弱くってさ……もう死んじゃったんだけど……。……今の世の中、身体が弱っちゃうと、なかなかね……」
璃奈「…………」
愛「って、こんな暗い話聞きたくないよね、ごめんごめん」
璃奈「うぅん……愛さんが嫌じゃなかったら……愛さんの家族のこと……知りたい」
愛「そう……? ……えっと、アタシね……生まれてすぐにお父さんもお母さんも病気で死んじゃったらしくってさ。顔も写真でしか見たことないんだよね。だから、おばあちゃんに育ててもらったんだ。そんで近所には美里お姉ちゃんって人が居て……よく一緒に遊んでもらってた」
璃奈「……うん」
愛「おばあちゃんもいい歳だったし、お姉ちゃんも身体が弱かったからさ、あんまり遠出とかできなかったんだけど……。……一度だけお姉ちゃんの調子がよくなった時期があってさ、そのときに陽光の丘に一緒に遊びに行ったんだ」
璃奈「陽光の丘……ベベノムが生息してる街はずれの暖かい丘だよね」
愛「そうそう。……あそこって今では世界一のどかな場所って言われてるらしくってさ。ポニータの乗馬体験とか出来るんだよ」
璃奈「そうなんだ……」
愛「うん。お姉ちゃんはね、ポケモンが好きな人だったから、ポニータを間近で見られてすっごく嬉しそうにしてたんだ……それに、すっごく楽しそうだったんだ。だから、もっともっとたくさんお姉ちゃんとこうして楽しいことが出来ればって思ってたんだけど……お姉ちゃん、またすぐに身体の調子悪くしちゃってさ」
璃奈「…………」
愛「でさ、そのときに丁度、ポケモンをボールに収めて持ち運ぶ研究をしてるって話をたまたま知ったんだ。……もし、そんな風に持ち運べたら、お姉ちゃんにいろんなポケモンを見せてあげられるんじゃないかって」
璃奈「……だから、愛さん……ビーストボールの研究を……」
愛「うん、始めた理由はそんな感じ。……だけど、アタシが研究所に入るための勉強をしてる間に……死んじゃったんだ。丁度、半年前……“闇の落日”のときにさ、薬とか食料が不足した時期があったでしょ? そのときにね……」
璃奈「……そっか……」
愛「んで、アタシが研究所に入所が決まったのとほぼ同時くらいかな……今度はおばあちゃんが倒れちゃってね……。そんで、おばあちゃんもそのまま……。だから、実はアタシも今は身寄りとかないんだよね。……だからある意味……研究所に入れてよかったよ。ここは寮もあって、住み込みで研究出来るし……」
私たちの住んでいる場所では、親を亡くして身寄りがない子は少なくない。
“闇の落日”でより増えたとは思うけど……元より病死率が高いため、小さい頃から天涯孤独になってしまう子供がすごく多い。
だから、孤児院は多くあるし……13〜4歳くらいになると、お金を稼ぐために働き始める子も多い。
私や愛さんみたいに、その働き口が研究者なのはレアケースだけど……。多くの子は、実入りがある警備隊に入ることが多いと聞く。
ただ……隊での仕事は危険が伴うため、そこで死んでしまう子供も多い。……今は……そういう、世の中。
危険な場所に赴かずとも……仕事と住む場所を与えられている私たちは……確かに恵まれているのかもしれない。
愛「……だから、自分を重ねちゃって……りなりーのことほっとけないなって思っちゃったところもあるんだけど……。……今考えてみると、寂しいのはアタシも同じだったのかも、なんて」
そう言って力なく笑う愛さん。
私は……そんな愛さんの頭を撫でる。
愛「……ありがと、りなりー……」
璃奈「私は……愛さんのお陰で……寂しくないよ……。むしろ……愛さんと会うまで……今まで、自分が寂しいって思ってたことにすら……気付いてなかったんだ……」
愛「そっか……ならよかった」
璃奈「もし……私も愛さんの寂しさを少しでも埋めてあげられてるなら……嬉しい」
愛「……あーもー……! りなりーってば、ホント可愛い〜!」
璃奈「わわっ……あ、愛さん……く、苦しい……」
愛「うりうり〜……♪」
璃奈「愛さん……」
670 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:35:56.18 ID:5MWtUFJH0
強く抱きしめられて、少し苦しい。……だけど、嫌ではない。むしろ、この距離感が温かくて……なんだか幸せだった。
璃奈「……ねぇ、愛さん」
愛「んー?」
璃奈「……愛さんは、私の家族のこと……聞かないの……?」
愛「んー……気にならないわけじゃないけど……デリケートな話だから……。……でも、りなりーが話したいなら、いくらでも聞くよ」
璃奈「……うん。……聞いて欲しい……。……お父さんと……お母さんのこと……」
愛「わかった」
璃奈「……うん」
悲しくなっちゃうから……出来る限り思い出さないようにしていたけど……。
でも、きっと……これは忘れちゃいけないことだから……。
お父さんとお母さんの為そうとしていたことを……愛さんにも知って欲しかったから……。
私は、ぽつりぽつりと、話し始める。
📶 📶 📶
私のお父さんとお母さんは、お互いがもともと研究者の家系で、同じ研究所で出会い、結婚し、そのときに自分たちの研究所を持ち……その数年後に私が生まれた。
お父さんとお母さんは二人とも研究一筋な人たちで……家族の時間らしい時間がたくさんあったかと言われると、少し怪しかった気がする……。
だけど、間違いなく二人とも私を愛してくれていたし、私はお父さんもお母さんも好きだったし、子供心に研究者である二人を誇らしく思っていたことをよく覚えている。
だからかもしれないけど……私は小さい頃から、お父さんとお母さんの研究論文をよく読んでいた。
私が内容を理解出来るとお父さんもお母さんも喜んでいたし、褒めてくれたから、私は二人の研究結果をたくさん読んだ。
わからないことがあっても聞けばすぐに教えてくれたし、お父さんとお母さんの論文を読むために勉強をするのは楽しかった。
愛「──そのときから……りなりーのお父さんとお母さんは、高次元空間について研究してたの?」
璃奈「うん、ずっと研究してた。いつも私に『いつかこの研究が世界を救うから』って言ってたよ」
愛「世界を……救う……?」
愛さんは私の言葉に首を傾げる。
璃奈「あのね……お父さんとお母さんは、今の世界がどうしてこうなっちゃったのかが……わかってたみたいなんだ」
愛「……マジで?」
璃奈「うん……世界のエネルギーは……高次元空間にどんどん漏れ出して行ってるせいで……世界がどんどん委縮していっちゃってるんだって……」
愛「……じゃあ、世界のあちこちが急に崩落するのは……」
璃奈「……世界を維持するだけのエネルギーが……徐々に失われているから……。だから、私のお父さんとお母さんは、それが失われている先──高次元空間へアクセスする方法をずっと研究していた。……だけど、その研究の実験中に……事故が起きた」
愛「……」
いつもの昼下がりだった。
私は実験室の隅っこで、お父さんとお母さんの研究を見ていた。
671 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:36:30.63 ID:5MWtUFJH0
璃奈「……そのとき……開いたんだ」
愛「……開いた……?」
璃奈「──高次元への……ホールが……」
愛「え……?」
璃奈「お父さんとお母さんは……そこに吸い込まれて……消えていった」
愛「……う、嘘……? じゃあ、りなりーはもうすでに……高次元空間へアクセスする瞬間を……目撃してたの……?」
璃奈「うん。私も……ニャスパーがサイコパワーで守ってくれなかったら……吸い込まれてたかもしれない……」
「…ゥニャ?」
愛「じゃあ、それを発表すれば……!」
璃奈「うぅん、発表したけど……誰も信じてくれなかった」
愛「な、なんで……!? 実際に見たんでしょ……!?」
確かに私は見た。お父さんとお母さんが、ホールに飲み込まれるところを……。ただ……。
璃奈「証拠が……何も残ってなかった。……記録機器も全部ホールに飲み込まれちゃったし……そのときに研究資料の大半も一緒にホールに飲み込まれちゃった……」
愛「でも、りなりーの証言があれば……! 事故直後なら、子供の言うことだとしても全く検証しないことなんて……」
璃奈「私ね、そのときのショックが原因で……声が出なくなっちゃって……4年間くらい、喋れなかったんだ」
愛「え」
璃奈「だから、あのときのことを人に言えるようになったのは……本当につい最近。その間に、お父さんとお母さんのことは……実験中に起きた爆発事故として片づけられちゃって……」
愛「……」
だから、発表をしても、子供の妄想で片付けられてしまった。
……でも、それはそうかもしれない。
資料もない、記録もない、証拠は5年前に私が見たという事実だけ。
そんなものを信じるのは──科学ではない。
璃奈「だから……私はお父さんとお母さんが気付いてたこと……世界に何が起きてるのかを突き止めなくちゃいけない……。お父さんとお母さんの理論を、研究を、完成させないといけない……」
愛「りなりー……」
璃奈「そうじゃないと……お父さんとお母さんが、報われないから……」
愛「…………」
愛さんは無言で私を抱きしめる。
強い力で……自分の胸に、私を抱き寄せる。
愛「…………りなりー……」
璃奈「……なぁに……?」
愛「…………研究、絶対に……完成させよう……」
璃奈「……うん」
672 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:37:09.96 ID:5MWtUFJH0
📶 📶 📶
あの夜から数日後、私たちは本格的に二人で研究を始めた。
ここ1ヶ月は、お互いの研究や設備の確認。……後は、愛さんが私の身の回りのお世話をしてくれていたというか……。
だから、ようやく本格的な研究がスタートしたという感じだ。
愛「──まず、ホールを発生させる方法だけど……」
璃奈「たぶん……高エネルギーの衝突が方法……だと思う」
愛「それはりなりーが書いた理論でもそうなってたよね。……ただ、問題はどうやってぶつけるか……。りなりーのご両親はどうやってたの?」
璃奈「サーナイトが発生させるブラックホール同士を衝突させてた」
愛「そのサーナイトは?」
璃奈「お父さんとお母さんと一緒に……」
愛「……まあ、発生源に居たんだとしたら、そうなるよね……。まあ、どっちにしろ、サーナイトを捕まえる必要があるってことかな?」
璃奈「うん。でも、私……戦闘が苦手で……。……何度か試したけど、ラルトスすら捕まえられなかった」
「ニャァ」
仮にラルトスを捕まえたところで、サーナイトまで進化させる自信もない……。
特にラルトスは、臆病ですぐ逃げてしまうから、本当に難しい……。
愛「じゃあ、とりあえず……ポケモンを連れてくるべきだね。ま、それはアタシに任せてよ!」
璃奈「愛さん、頼もしい」
「ニャァ〜」
愛「へへ、愛さん戦闘は昔から得意だからね〜! それに今はボールもあるし! サーナイトだけじゃなくて、いろいろなポケモン捕まえてみよっか!」
璃奈「うん」
📶 📶 📶
「…コド…ラ──」
愛「ほいっと……コドラゲットっと」
「リシャン♪」
璃奈「すごい! これで10匹目!」
「ウニャァ〜」
愛「へへ、どんなもんだ〜♪」
璃奈「ホントにすごい! 愛さん、かっこいい!」
愛「あーもう! りなりーにそんなこと言われたら、愛さんもっと頑張っちゃうぞ〜!」
「リシャン♪」
愛さんは本当に戦闘が得意だった。
別に疑っていたわけじゃないけど……その実力は予想以上で、リーシャンと一緒に、次から次へとポケモンを倒しては捕獲していく姿はまさに圧巻だった。
璃奈「それにしても、ボールに入れちゃえば本当にいくらでも持ち運べちゃうんだね」
愛「うん、すごいっしょ♪」
673 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:37:43.72 ID:5MWtUFJH0
愛さんからボールを受け取ってバッグに入れる。
ボール10個となると、それなりに嵩張るけど……もしボールに入れていなかったら小型のポケモンが1匹入るか入らないかくらいと考えるとすごいことだ。
愛「運よくサーナイトも今日中に捕まえられたし!」
璃奈「うん! 幸先がいい!」
愛「この調子でガンガン行くぞ〜! ……って言いたいところだけど……」
璃奈「日も傾いてきた。……そろそろ、戻ろっか」
愛「そうだね。行くよ、リーシャン」
「リシャン♪」
璃奈「ニャスパー、帰るよ。おいで」
「ウニャァ?」
足元でじゃれているニャスパーを抱き上げて、研究所へ戻るために、街の方へと歩き出す。
研究所は街の端っこにあるため、街を突っ切っていくことになるんだけど……その道中、何やら人だかりが出来ていた。
愛「ん……?」
璃奈「なんだろう……」
二人で近寄ってみると──
男性1「やっと捕まえたぞ……」
男性2「手こずらせやがって……」
男性3「んで、どうする?」
数人の男性に取り囲まれた中心に──
「ベベノ…」
黄色と白色の体をした、小さなポケモンが蹲っていた。
璃奈「あれ、ベベノム……!」
色違いだけど……普段は陽光の丘に生息しているベベノムに間違いない。
璃奈「弱ってる……! 通して……!」
愛「あ、ちょっと、りなりー!?」
私は、大人の人たちの間をすり抜けて、中央のベベノムに駆け寄って、しゃがみこむ。
璃奈「大丈夫……?」
「ベベノ…」
ベベノムは明らかに様子がおかしかった。
どこかに異常があるに違いない……。ちゃんと診てあげたかったけど、
男性1「なんだい、嬢ちゃん。そいつを庇うのかい?」
璃奈「え、あ、あの……」
674 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:38:25.57 ID:5MWtUFJH0
おじさんがすごんできて、身体が強張る。
何も考えずに飛び込んできてしまったのを少し後悔する。
だけど……怪我したベベノムをほっとくわけにいかないし……。
なんて言葉を返せばいいのかわからず慌てる私に、
愛「ちょっとちょっと、大の大人がこんなちっちゃいポケモンに寄ってたかって何してんのさ……」
愛さんが人だかりを掻き分けながら、助け舟を出してくれる。
男性2「こいつはな、ここらで食料泥棒を働いてたんだよ」
愛「ベベノムが? わざわざ?」
璃奈「ベベノムは知性の高いポケモン……理由もなくそんなことしない」
「ベベノ…」
わざわざ人のテリトリーに侵入して、そんなリスクを冒すとは到底思えない。
男性3「だったら許せとでも? 貴重な食料を奪われてるんだぞ……!」
愛「わかった。じゃあ、この子アタシたちが引き取るからさ。それで大目に見てくんないかな?」
璃奈「愛さん……」
男性1「なんで見ず知らずの嬢ちゃんたちが、そんなこと勝手に決めるんだ?」
愛「どっちにしろ、捕まえたところで持て余すでしょ? それとも、紐にでも繋いで餓死でもさせる? そんなことしても、後味悪いでしょ」
男性2「それは……」
愛「食料奪われたのが気に食わないってんなら……盗られた分の代金払ってあげるからさ。……これで足りる?」
そう言いながら、愛さんはポケットから取り出した硬貨を男性に手渡す。
男性1「あ、ああ……これだけあれば足りるが……」
愛「んじゃ、これで手打ちにしてよ。野生のポケモンを寄ってたかってイジメてたなんてのがバレて、警備隊に目付けられるのも嫌っしょ?」
男性1「わ、わかったよ……。……行こう……」
男性2「あ、ああ……」
とりあえず、溜飲は下がったのか男性たちは去っていった。
いなくなったのを確認してから、
愛「りなりー、平気?」
愛さんがそう言って、私に手を差し伸べてくる。
璃奈「愛さん……」
ベベノムを抱えたまま、その手を取って立ち上がりながらお礼を言う。
璃奈「……私一人じゃ、どうすればいいかわからなかった……ありがとう……」
愛「うぅん。……貴重なお金、勝手に払っちゃってごめんね」
璃奈「大丈夫。むしろ、あれがベストだった」
無用な争いになるよりもずっといい。
それはそれとして……今は、
675 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:38:59.15 ID:5MWtUFJH0
璃奈「この子……早く診てあげないと……」
「ベベノ…」
愛「そだね。研究所に急ごう」
璃奈「うん」
私たちはベベノムを診るために、急いで研究所へと戻る──
📶 📶 📶
璃奈「栄養状態が悪くて、毒腺が詰まってる……。だから、狩りが出来なくて、人の食べ物を奪ってたんだね……」
「ベベノ…」
璃奈「でも、大丈夫だよ。ちゃんと栄養のあるものを食べれば、すぐ良くなるから」
「ベベ…」
璃奈「だけど……どうして、こんなになるまで……」
ベベノムは賢いポケモンだから、群れに弱っている個体がいたら、普通は食料を分け与える。
だから、こんな風に栄養失調で弱ったベベノムが単体でいるのはすごく珍しい。
……というか、そもそも街にいること自体が不可解だ。
人を必要以上に怖がらないポケモンではあるけど、人の集落にわざわざ好んで現れるかと言われると、そんなことはない……。
私が頭を捻っていると──
愛「……たぶん、この子……人が逃がしたポケモンだね」
愛さんが検査端末を弄りながら、そんなことを言う。
璃奈「……どうして、そんなことがわかるの?」
愛「この子……ボールマーカーが付いてるから」
璃奈「ボールマーカー……? ……えっと、ボールに入れたときに紐付けされる情報だっけ……?」
愛「そう。しかも、試作品のボールマーカーだね……。……開発資金を提供してた一部の金持ちに配られた型かな。たぶん、色違いが珍しくて試しに捕まえてみたはいいけど……結局手に負えなくなって、街中に逃がしたってところだと思う」
璃奈「それで……自分の住処に帰れなくなっちゃったんだね……」
「ベベノ…」
愛「だから、一般人の手に渡らせるのは、流通が始まってからの方がいいって言ったのに……。……一応アタシならボールマーカーの個別識別情報から、誰の手に渡った試作ボールかまで特定出来なくはないけど……どうする?」
璃奈「……うぅん、そこまでしなくていいと思う……。……その人のところに連れて行ったところで、責任なんて取らないだろうし……」
愛「ま……そうだろうね」
璃奈「とりあえず……元気になるまで、ここでお世話してあげよう」
「ベベノ…」
愛「それがいいかもね」
璃奈「もう安心して大丈夫だからね。ベベノム」
「ベベノ…」
676 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:40:27.78 ID:5MWtUFJH0
📶 📶 📶
──私たちはその後も着々と研究を進めていった。
愛「サーナイト、そこまでで」
「サナ」「サナ」
愛「……うーん……」
愛さんはエネルギー測定器の数値を見ながら、眉を顰める。
璃奈「やっぱり、理論式から考えても、エネルギーが全く足りてないね……」
愛「確かに、サーナイトたちの作り出すブラックホールの衝突が一番数値としては大きいけど……。さすがに、空間に穴を開けるのはこれじゃ難しいね……」
璃奈「うーん……でも、実際にホールが発生したときは、この方法だったと思う……」
愛「何か他に条件とかがあったのかな……」
璃奈「わからない……。……でも、二人は何度もこれを繰り返して少しずつエネルギー効率の高いぶつけ方を何度も検証してた……」
愛「そのうちのとある1回でホールが発生したと……」
璃奈「……ただ、こうして実際に数値を見る限り……他に要因がないと現象が起こるとは考えづらい……」
愛「……となると、今後考えることは3つだね。より効率の良いぶつけ方、他の要因探し、それと……」
璃奈「もっと大きなエネルギーを発生させうるポケモンを見つける」
愛「うん、そうなるね」
お父さんとお母さんも普通の研究者だったから、ポケモンを捕まえるのが得意だったわけじゃない。
ましてや今と違って、ビーストボールのような捕獲道具があったわけでもなかったし……。
サーナイトを実験で使っていたのは、お父さんとお母さんが子供の頃から、たまたまラルトスを持っていたからに過ぎない。
半面、愛さんは戦闘や捕獲が得意で、これまでに数十種類のポケモンを捕獲している。
今のところ、サーナイト同士が一番大きな成果を出しているけど、もしかしたら、今後これよりも大きな結果を得られる組み合わせが見つかるかもしれない。
それが3つ目の『もっと大きなエネルギーを発生させうるポケモンを見つける』というわけだ。
愛「まー……サーナイトのサイコパワーはトレーナーとの絆に呼応して強くなるって言うし……一緒に過ごす時間が長くなれば、結果も変わってくるかもしれない。根気よくやっていこうか」
そう言いながら、愛さんがサーナイトたちをボールに戻す。
愛「とりあえず一旦休憩にしよっか……朝からずっと検証してたから、さすがにくたびれたよ……」
璃奈「なら、ご飯にしよっか。パンがあるから」
愛「お、いいね」
二人で食事をしようと、実験室を出ると──
「ベベノ〜♪」
ベベノムがパンを持って、私たちのもとへと飛んでくる。
璃奈「ベベノム」
「ベベノ〜♪」
愛「お、持ってきてくれたん? ありがと、ベベノム〜♪」
「ベベノ〜♪」
璃奈「ベベノムも一緒に食べよっか」
「ベベノ〜♪」
677 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:41:01.57 ID:5MWtUFJH0
そう言うと、ベベノムは嬉しそうにくるくると踊り出す。
璃奈「ニャスパーもおいで、ご飯だよ」
「…ウニャァ〜」
愛「リーシャン、ルリリもおいで」
「リシャン♪」「ルリ」
お部屋で遊んでいた私たちのポケモンも呼び寄せて、みんなで食事をとり始める。
ニャスパーはすごく“マイペース”だから、適当にパンを一つとって、小さな口で齧りながらもくもくと食べ始める。
愛「リーシャン、はいあーん」
「リシャン♪」
愛さんが小さくちぎったパンをリーシャンに食べさせると、リーシャンは嬉しそうに鳴く。
愛「ルリリの分は……ここにおいておけばいい?」
「ルリ」
逆にルリリは、あんまり人の手から貰うのは好きじゃないらしいから、適当なサイズにちぎって渡してあげることが多い。
ポケモンごとによって食事の取り方もそれぞれだ。
「ベベノ〜♪」
璃奈「はい、ベベノム」
「ベベノ♪」
そして、ベベノムは人の手から貰うのがものすごく好きで、
「ベベノ〜♪」
愛「今りなりーから貰ったところでしょー? もう、甘えん坊だなぁー。……はい、あーん♪」
「ベベノ〜♪」
「リシャン」
愛「あーわかってるわかってる、順番ね〜」
「リシャン♪」
愛さんと私から、交互に貰いに来る。
璃奈「はい」
「ベベノ〜♪」
愛「それにしても……すっかり懐いちゃったね」
璃奈「もともと、人懐っこいポケモンだから、ある意味当然かもしれない」
「ベベノ〜♪」
愛「まーね……」
そんなベベノムの世話も出来ずに、街に放り出した人は……本当にロクでもない人だったんだと思う。
その証拠に、今ではこんなに懐っこいベベノムも、最初は私たちにあまり近寄らなかったくらいだから。
愛「ただこれだと、群れに返すって感じじゃなさそうだね……。むしろ、友達のベベノムがいた方がいいくらいかもなー……」
璃奈「ベベノムは群れで生活してるもんね。確かに仲間が居た方がいいかもしれない」
私はパンをパクつきながら、端末を弄り始める。
愛「りなりー……行儀悪いぞー……」
璃奈「さっきのデータを整理するだけ」
678 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:41:43.35 ID:5MWtUFJH0
取ったデータを簡単にグラフで視覚化して……。
璃奈「ん……まだデータ取り続けてる……。……愛さん、機器の電源落ちてない」
愛「……あ、忘れてた。機器の寿命を減らさないためにも、使わないときはちゃんと落とさないと……」
愛さんはそう言いながら席を立つ。
私はまだリアルタイムでデータを取り続けている端末のデータを見ながら、ふと、
璃奈「……?」
データ上に不審な点があることに気付いた。
愛「切ってきた〜。……って、どうかしたん?」
実験室から戻ってきた愛さんが、私の表情を見て、首を傾げる。
璃奈「……愛さん、ここのデータおかしくない?」
愛「え?」
私は愛さんに身を寄せて、端末の画面を見せる。
愛「…………こんなに大きな数値出てるタイミングあったっけ……?」
愛さんの言うとおり──妙に大きな数値が出ている瞬間があった。
少なくともさっき見ていたときはこんなに大きな数値を見た覚えがなかった。
璃奈「タイムスタンプと録画のデータを比較する」
私は端末を弄りながら、この数値が出た瞬間のカメラのデータを見てみて……驚いた。
それは──
璃奈「ポケモンを……ボールに戻した瞬間だ」
愛「……これって……」
璃奈「愛さんが前に言ってたこと……」
ポケモンがボールに入る瞬間──どうやって小さくなっているかの話。
璃奈「ボールに入って小さくなる瞬間……質量をエネルギーとして放出してる……?」
愛「りなりー!!」
璃奈「うん、早急に調べる必要がある」
「ベベノ〜?」
私たちは食事中だったこともすっかり忘れて、慌ただしく実験室へと戻るのだった。
679 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:44:47.45 ID:5MWtUFJH0
📶 📶 📶
──結論から言うと、ポケモンがボールから入る瞬間、エネルギーを放出しているというのは正しかった。
調べ方は簡単で、他の種類のポケモンをボールに戻す瞬間にも同じようなことが起きているか、ということを調べるだけだから、すぐにわかった。
ただ……。
愛「い、意味わからん……」
その数値をまとめたデータを見て、愛さんは頭を抱えていた。
愛「……放出エネルギーがポケモンの種類ごとによって違うのは、わかるんだけど……」
璃奈「……体重、身長、形状……そこに相関性が見つけられない……」
簡単に言うと、私たちは大きなポケモンや重いポケモンほど小さくなるときにたくさんエネルギーを放出していると考えていたんだけど……どうやら、それはあんまり関係ないらしい。
ボスゴドラの方がコロモリよりも放出エネルギーが小さいと言えば、それがどれくらいイメージに反していたのかが、わかりやすいだろうか。
ただ、一つわかったことがある。
璃奈「……これなら……より大きなエネルギー効率が出せるかもしれない……」
私たちが、研究を前に進める一歩を見つけた瞬間だった。
📶 📶 📶
──さて、私たちの目的は研究だけど……研究を続けていくためには必要なことがある。
それが……研究発表だ。
璃奈「……で、ですので……ポケモンがボールに収まる瞬間、お、及び飛び出す瞬間には……こ、高次元空間との、えねりゅぎーの……噛んだ……」
愛「……ふーむ……」
璃奈「やっぱり、ダメかな……」
愛「アタシはそういうりなりーも可愛くて好きだけど……やっぱ、発表の場ってなるとね……」
璃奈「……だよね……」
今はその練習中。
まだ私たちが目指している核心の部分ではないけど……途中でも、大きな発見があったときにしっかり発表する必要がある。
何故なら──それによって、次期の研究予算がどれだけ下りるかが変わってくるからだ。
でも……。
璃奈「私……やっぱり、発表は……苦手……」
私はとにかく発表というものが苦手だった。
680 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:45:22.85 ID:5MWtUFJH0
璃奈「そもそも……人前でうまく、話せない……」
愛「やっぱり、人前に立つと緊張しちゃう感じ?」
璃奈「それもあるけど……私、4年くらい誰とも話せなかったから……。……人ともほとんど関わらなかったし……。……所内でもお話し出来るの、愛さんと所員食堂のおばちゃんしかいない……」
愛「まぁ、発表は愛さんがするよ」
璃奈「でも……研究室長は私だし……」
愛「別に室長がしなくちゃいけないって決まりはないでしょ? そこは助け合おう♪」
璃奈「愛さん……。……うん」
確かに、もう発表まで日もないし……今回に関しては、もともと研究テーマ的にも愛さんがやっていたことだ。
璃奈「……もっと……上手に人とお話……したいな……」
愛「りなりー……」
お父さんとお母さんが目の前でいなくなっちゃったショックで喋れなくなっちゃって……。
ただ、ニャスパーはエスパータイプでテレパシーが使えたから、無理に喋らなくても最低限の意思疎通が出来たし……食堂のおばちゃんも事情を知っていたからか、メニューを指差せば察してくれていたお陰で、どうにかなっていた。
逆に言うなら、私はそれ以外のコミュニケーションを一切取ってこなかった。
そのツケというか……代償というか……。
璃奈「私……表情がないんだって……。……無表情で何考えてるかわからないって……噂されてるの……知ってる……」
愛「そんなことないよ」
璃奈「……そんなことある。……わかるのは愛さんが特別だから……。……普通の人は……私の顔を見ても……何考えてるか、わからない。……わからないものは……怖いから、誰も近寄らない……」
特に私は創設者の娘。……そんな人間がずっと無表情だったら……確かに近寄りたくないと思う。
璃奈「お父さんとお母さんがよく言ってた……私たち研究者は、未来の誰かの笑顔のために研究をするんだって……。……未来に繋ぐために研究をするんだって……」
愛「……」
璃奈「お腹が空くのは辛いから、お腹がいっぱいになれるように、食物の研究をする。不便だと大変だって思うから、それを解消しようって便利なものを作る。武器だって……人を傷つけるものだけど……根本にあるのは、自分たちや自分の大切な人や物を守りたいって想いがあるから……。……研究は、そういう想いがあって、初めて始まって……それが繋がって、大きくなって……為して行くものだって……」
愛「……そうだね」
璃奈「でも……それをしようとしてる人が……笑顔一つまともに出来ないようで……伝わるのかな……誰かの笑顔を……未来に繋げていけるのかな……」
今の私は……そもそも研究者として相応しいのか。
大袈裟かもしれないけど……そう、思ってしまう。
愛「……別に無表情な研究者は普通にいるし、それは願いの大小とは関係ないから……アタシはそんなに気にすることだと思わないけど……。……りなりーにとっては大事なことなんだよね」
璃奈「……うん」
愛「じゃあ、何か考えてみよっか」
璃奈「……ありがとう、愛さん。……でも、一朝一夕で表情が豊かになる方法なんてあるのかな……」
愛「うーん……なかなか難しいかもね」
璃奈「せめて……自分が今思ってる気持ちだけでも伝われば……誤解されることはなくなるのに……」
愛「……あ、ならさ」
璃奈「……?」
愛さんは、近くにあった紙にペンで何かを描き始める。
681 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:45:57.60 ID:5MWtUFJH0
愛「嬉しいときは、こう」 ||,,> ◡ <,,||
愛「楽しいとき」 ||,,> 𝅎 <,,||
愛「怒ったとき」 || ˋ ᇫ ˊ ||
愛「悲しいとき」 || 𝅝• _ • ||
愛「どうかな? 名付けて、璃奈ちゃんボード! これなら、りなりーの今の感情が、わかりやすく伝えられそうじゃない?」
璃奈「……! それ、すごくいい!」
愛「でしょでしょ! これなら“ボーっと”してても“ボード”で気持ちがわかっちゃう! なんつって!」
璃奈「うん! やってみて、いい?」
愛「もちろん♪」
私は愛さんに紙とペンを受け取り、
璃奈「にこにこ」 || > ◡ < ||
璃奈「むー」 || ˋ ᨈ ˊ ||
璃奈「ぐすん」 || > _ <𝅝||
璃奈「わかる?」
愛「喜んでるとき、むっとしてるとき、悲しいことがあったときって感じだね」
璃奈「すごい! ちゃんと伝わってる……!」
愛「表情で出せなくても、今どう思ってるのかが伝わればいいわけだからね!」
璃奈「単純なことなのに……うぅん、単純だからこそ……すごい……」
愛「すぐにりなりーの思い描く、表情豊かな人になるのは難しいかもしれないけど……。……少なくともこれなら、りなりーの気持ちは伝えられると思うよ」
璃奈「……うん! 璃奈ちゃんボード……!」
私は紙束を抱きしめる。
これから……この紙が私の気持ちを表す顔になってくれる。
璃奈ちゃんボードが誕生した瞬間だった。
📶 📶 📶
──愛さんが提案してくれた璃奈ちゃんボードのお陰もあり、私たちは幾度かの研究発表を乗り越え……。
璃奈「愛さん! また、予算増やしてもらった!」
愛「やったね! これで、設備をもっと充実させられる!」
璃奈「うん! それに、これならポケモンの数も増やせそう!」
愛「そうだね。ポケモンたち……増やせば増やすほど、餌代がとてつもなく高くなってくからね……」
私たちがデータを取るためにはたくさんの種類のポケモンが必要だから、そのための餌代はバカにならない。
璃奈「これも愛さんが璃奈ちゃんボードを作ってくれたお陰だよ」
愛「あはは、りなりーが頑張ったからだって♪」
璃奈「これからも二人で頑張ろうね」
愛「任せろ〜♪」
682 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:46:32.81 ID:5MWtUFJH0
──ただ、ここから研究進捗は難航していくことになる……。
📶 📶 📶
愛「さて、ベベノム! お前の故郷だぞ〜!」
「ベベノ♪」
ベベノムは嬉しそうに陽光の丘を飛びまわり始める。
璃奈「ベベノム、嬉しそう」
愛「そうだね、連れてきてあげてよかったね」
私たちは本日、野生のベベノムの生息地である、陽光の丘を訪れている。
愛「研究詰めだったし……アタシたちも久しぶりに羽を伸ばそうかね〜……」
璃奈「うん」
ここしばらく、なかなか思うように結果が進展していなかった。
より大きなエネルギーを持つポケモンを見つけることは出来ていたけど……それでも、ホールを発生させるほどの大きなエネルギーにはまだまだ遠く……相変わらずエネルギーの大小を決める要素もわかっていないままだった。
恐らく、ポケモンが内包しているエネルギーが関係しているんだとは思うけど……。
愛「お、ベベノム。早速、他のベベノムと仲良くしてるじゃん」
璃奈「ホントだ」
私たちの白光のベベノムは、本来の色のベベノムたちに紛れて楽しそうに飛んでいる。
でも、しばらくすると──
「ベベノ♪」
一度私たちのところに戻ってきてから、
「ベベノ〜♪」
「ベノ〜」「ベノム〜」「ベベベノ〜」
また、ベベノムたちのもとへと戻っていく。
そんなことを繰り返していた。
愛「アタシたちに楽しいこと、報告してくれてるのかもね♪」
璃奈「うん。きっとそう」
ぽかぽか陽気の丘で、ベベノムを見守っていると──
「ベベノ?」
1匹のベベノムが私に近寄ってくる。
「ベベベノ? ベノ?」
璃奈「ベベノム……私の周りを飛んでる」
683 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:47:14.78 ID:5MWtUFJH0
そのまま、私の頭に乗っかってくる。
璃奈「乗っかられた……」
「ベベノ」
愛「やっぱ、ベベノムは人懐っこいね〜」
璃奈「好奇心旺盛だからね。……よいしょ」
「ベベノ?」
頭の上にいるベベノムを掴んで、胸の辺りに持ってくる。
「ベノベノ♪」
璃奈「ホントに人懐っこいね」
「ベノ♪」
愛「だとしてもだけどねー……そんなに警戒心ないと、悪い人に捕まっちゃうぞ〜?」
「ベノ?」
愛さんの言葉に小首を傾げるベベノム。
すると、
「ベベノ〜?」
愛「おっ、おかえり、ベベノム♪」
私たちの白光のベベノムも戻ってくる。
「ベベノ?」「ベノベノ?」
「ベベベノ」「ベベベ♪」
璃奈「なんか喋ってるね」
2匹のベベノムは鳴き声で会話をしたあと、
「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」
2匹で踊り出した。
璃奈「この子なら、仲良くなれそう」
愛「そうだね。ねぇ、ベベノム、よかったらアタシたちのベベノムと友達になってよ」
「ベベノ〜♪」
ベベノムは愛さんの言葉を受けると、今度は愛さんの周囲をくるくると飛び始める。
愛「よかったね、ベベノム♪ 友達出来たよ♪」
「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」
璃奈「また、賑やかになるね」
愛「だね〜♪」
684 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:48:31.83 ID:5MWtUFJH0
📶 📶 📶
璃奈「愛さん、これ見て」
愛「ん?」
璃奈「2台の機材で同時に計測してみた結果」
愛「……微妙に出てる数値が違う……?」
璃奈「もしかしたら、エネルギーの集束点の座標がわかるかもしれない」
愛「確かに……! いやー、新しい機材買った甲斐あったね!」
璃奈「うん」
最近詰まっていた研究も……増えた予算で買った新機材のお陰で、少しずつだけど進みつつあった。
璃奈「──……やっぱり、ある程度エネルギーの集束点はランダムに変化してるね」
愛「たぶん……集束点の完全予測は不可能っぽいね〜……」
璃奈「ただ、範囲だけでも絞り込めれば、十分現実的な試行回数まで持ってけると思う」
愛「だねー……。……まあ、それでも根本的にエネルギーが足りてないんだけど……」
璃奈「ポケモンももう50種以上試したけど……」
愛「……アプローチを変えてみた方がいいんかねー……」
璃奈「例えば?」
愛「集束点がランダムに変化するなら……エネルギー同士をぶつけることも出来るかなって」
璃奈「……確かに。……というか、本来は技をぶつけてたんだから、もっと早く思いつくべきだった」
愛「ま、やっと発生するエネルギーの形がわかってきたところだからねー」
璃奈「……そうだね。……じゃあ、早速試してみよう」
──ぐー……。
璃奈「……」
愛「……っと、もう夕方じゃん……。お昼食べてなかったね」
璃奈「ご飯食べてからにする……」
愛「ん、そうしよっか」
──二人で実験室から出ると、
「ベベノーーー!!!」「ベベノーーー!!!」
璃奈「ベベノムたちがお怒り」
愛「あー、わかったわかった!! ご飯遅くなって悪かったって!」
「ベベノーー!!!」「ベノーー!!!」
ベベノムたちが飛びまわる中、簡単な食事の準備を始める。
685 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:49:13.57 ID:5MWtUFJH0
「ウニャァ〜」
璃奈「ニャスパー……今、愛さんがご飯作ってくれるからもうちょっと待っててね」
「ニャァ〜」
璃奈「……そういえば、愛さん」
愛「ん、なに?」
「リシャン」「ルリ」
璃奈「私たち、ニャスパーの数値って測ったっけ?」
愛「え? ……そういえば、そもそもりなりーのニャスパーってボールに入れたことなかったよね……」
璃奈「……初歩的な見落とし……」
愛「……もとから一緒に家族として暮らしてるポケモンだと、ボールに入れる必要が全くなかったからね……。うっかりしてた……」
璃奈「……それで言うと、ベベノムも」
そういうつもりで捕まえたわけじゃなかったというか……。もともとは怪我が治ったら野生に返してあげようとしていたから、ボールに入れるというのが頭から抜け落ちていた。
私も愛さんも最初は、方法を考えることで頭がいっぱいだったから、本当にうっかりしていた。
愛「ご飯食べたら、計測してみようか」
璃奈「うん」
ちっちゃくて愛らしいポケモンだから……そこまで期待はしていなかったけど──これが本当に私たちの運命を変える結果を叩きだすことになる。
📶 📶 📶
愛「…………」
璃奈「…………」
愛「…………これ、マジ……?」
璃奈「…………計器が故障してる可能性があるかも」
昼食後、真っ先に測ってみた白光のベベノムの数値は──今まで見たことのないような飛びぬけたエネルギー数値を見せていた。
さすがに何かの間違いだと思ったけど……何度調べても数値は異常に高い結果が出る。
愛「ち、ちょっと、通常のベベノムも測ってみよう……!」
「ベベノ…?」
璃奈「う、うん」
結果は──
686 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:49:46.85 ID:5MWtUFJH0
愛「…………」
璃奈「…………まだ、計器の故障の可能性がある」
愛「そ、そうだね……。……2台同時に故障するのかはわかんないけど……」
璃奈「ニャスパー、おいで」
「ウニャ?」
璃奈「ちょっと、このボールに入るけど、我慢してね」
「ウニャ」
璃奈「愛さん」
愛「ん、もう計測準備出来てるよ」
璃奈「それじゃ、ボールを固定して……ニャスパー、ボールに入れるよー」
「ウニャ…?」
ニャスパーをボールに押し当てると──パシュンという音と共にボールに吸い込まれた。
璃奈「愛さん、数値は?」
愛「……他のポケモンとほぼ変わらない」
璃奈「…………」
そんなことを言っている間にも、
「──ウニャァ〜」
慣れないボールが窮屈だったのか、ニャスパーが勝手にボールから飛び出してくる。
愛「計器の故障じゃない……」
璃奈「……見つけた……」
「ウニャァ?」
私たちが探していたポケモンは──どうやら、ベベノムだったらしい。
687 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:50:28.63 ID:5MWtUFJH0
📶 📶 📶
──日を改めて……。
愛「りなりー、資料全部別の部屋に移動した?」
璃奈「大丈夫」
愛「あんがと。計器こっちでいい?」
璃奈「うん。そこで固定して」
愛「了解」
璃奈「ボール固定、金属パーツアタッチメント装着……完了」
愛「計器固定完了したよ」
璃奈「ありがとう。さっき、愛さんの端末に録画機器の設置位置送っておいたから、それどおりに移動しておいて」
愛「任せろ〜!」
璃奈「あとは……」
愛「あ、録画機材のデータ、端末に自動送信になってる〜?」
璃奈「確認する」
私たちはバタバタと準備を進めていた。
昨日取ったベベノムのデータは……数値の上では、十分にホールを開きうるものになっていた。
つまり、これから行うのは──本番だ。
愛「……2つのボールのシステムリンクさせたよ。こっちの端末で操作できる」
璃奈「ベベノムに金属ベルト装着完了……ちょっと重いけど我慢してね」
「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」
璃奈「うん。いいこいいこ」
愛「電磁石の方も準備出来たよ。端末操作ワンタッチで起動しちゃうから注意してね」
璃奈「うん、わかった」
いざというときにベベノムたちを助けるための準備も出来た。
璃奈「あとは、私たち」
愛「うん。じゃあ、背中向けて。ハーネス着けちゃうから」
璃奈「お願い」
私たちも緊急時に自分たちを固定するための器具を取りつけていく。
璃奈「愛さんにも着けるから背中向けて」
愛「うん、お願いね、りなりー」
愛さんにも私と同じようなハーネスを取りつける。
──これで準備は出来た。
璃奈「愛さん、始めよう」
愛「うん」
688 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:51:30.47 ID:5MWtUFJH0
私たちは、実験を──開始した。
📶 📶 📶
愛「ベベノムたち、ボールに戻すよ」
璃奈「うん」
愛さんが端末を弄ると──
「ベベノ──」「ベノー──」
ベベノムたちがボールに収まる。
二つの機器でエネルギーの集束位置を確認。
璃奈「誤差10」
愛「OK. 繰り返すよ」
ボタンを押してベベノムをボールから出す。
愛「ベベノムたち、辛かったら言うんだよ!」
「ベベノ〜」「ベノ〜」
愛「続けるよ」
璃奈「うん」
──2回目、3回目、4回目と試行を続けていく。
璃奈「誤差2。……ベベノムたちのバイタルは?」
愛「問題ないよ」
璃奈「わかった。続ける」
一定以上、ボールに入る時に発生するエネルギーの発生位置が被れば、エネルギー同士が衝突して、ホールが発生するはず……。
こればかりは試行回数が必要だから、ベベノムたちの調子が悪くなる前に、ホール発生を確認したい。
──試行が20を超えた……そのときだった。
愛「ボール、入れるよ」
「ベベノ──」「ベノノ──」
ベベノムがボールに入った瞬間──空間に歪みが発生した。
璃奈「……! 来た!!」
それと共に、周囲の空気を吸い込み始める。
璃奈「ボールは……!?」
愛「無事!! ちゃんと固定されてる!!」
689 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:52:05.15 ID:5MWtUFJH0
ベベノムたちも無事。
そして、ガラスを挟んだ向こうに──幼い日に見た、両親を吸い込んだ穴が……そこには確かにあった。
璃奈「……実験、成功した……」
愛「やったね、りなりー……!」
璃奈「うん……!」
次第にホールの吸引力は弱まっていき──エネルギーが尽きてゲートが閉まるのかと思った……そのときだった。
ゲートの中から──何かの影が現れた。
「──シブーーン…」
璃奈「……!?」
愛「な……!?」
──異様な姿をした生き物だった。
虫のような頭に、筋骨隆々とした肉体、そして四足の下半身。
異様と言う以外、他に形容する言葉が見当たらなかった。
そいつは、
「マッシブ!!」
ガラスの向こうで、何故かポージングをし始めた。
それと同時に、背後のゲートはエネルギーを失って維持できなくなったのか、閉じていく。
璃奈「な、なに……? ポケモン……?」
愛「わ、わかんない……。……でも、絶対に外に逃がしちゃダメだよね……! リーシャン!! ルリリ!!」
「──リシャンッ」「──ルリッ」
愛さんがボールからリーシャンとルリリを繰り出す。
だけど、相変わらず謎の生物は、
「マッシブ…!!!」
ポーズを決めている。
璃奈「て、敵意は……ないのかな……?」
しばらくすると、そいつは──
「シブ…」
見せつける相手がいないことに気付いたのか、軽く項垂れたあと……その謎の生物の目の前に──先ほど消えたはずのホールが再出現した。
璃奈「……!?」
愛「ホールが……!?」
そして、謎の生物は──
「シブーン──」
ホールの中へと消えていき──いなくなるのと同時に、ホールも消滅してなくなったのだった。
690 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:52:42.60 ID:5MWtUFJH0
璃奈「……消えた……」
愛「……とりあえず、ベベノムたちのボール、回収してくる」
璃奈「う、うん。気を付けてね……」
私たちは目的のホールを発生させることが出来たが──想定外の謎の生物に遭遇し、困惑を隠せなかった。
📶 📶 📶
璃奈「……愛さん、これ」
愛「ん」
愛さんに開いた本のページを見せる。
今、私たちがいるのは──プリズムステイツにある国の図書館だ。
その伝説やUMA──所謂、未確認生物の本が集まっている場所に来ている。
そして、私が開いたページには──
愛「……虫の頭と翅、筋肉質な上半身、四本の足を持った異形……。……間違いない、こいつだ」
璃奈「……うん」
例の謎の生物と特徴の一致する記載があった。
愛「……名前は……マッシブーンと、名付けた……場所は……。……もう海に沈んじゃった島だね……」
璃奈「この発見例……500年以上前だからね……」
今はもう残っていない土地で……遥か昔に、発見例があった。
璃奈「この謎の生物は……ひとしきり、筋肉を見せつけたあと……空間に穴を開け、消えていったと言われている……」
愛「…………」
普段だったら、オカルトや伝説で片付けてしまうことだけど……。
愛「りなりー、同じような目撃例、集めてみよう」
璃奈「うん。書籍内の情報を自動で抽出するプログラム、作ってみる」
私たちは普段見ることのないような本の情報を片っ端から洗い始めた。
📶 📶 📶
──それによって、わかったことは……。
691 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/08(日) 12:53:29.25 ID:5MWtUFJH0
璃奈「ウルトラ……ビースト……」
愛「ここではない……ウルトラスペースからやってくると考えられている……異形の生き物のこと……」
璃奈「人智を超えたパワーを持っていて……空間の穴を通って、こちらの世界に現れることがある……」
愛「普段だったら、絶対……胡散臭いって思うのに……」
璃奈「たぶん……これは、事実……」
数百年に1度あるかないかの頻度で……この異形が現れているという記録……というか、伝説や伝承が見つかった。
種類は様々で……瞬足を持つ美しき純白の異形、巨大な竹のような腕を持った飛翔体、爆発する頭を持った霊魂など……一見、共通点が見当たらないように見えるけど……。
それらには、共通して……空間に開いた穴に消えていったという情報が見受けられた。
そして、その情報の中に──異世界からやってくる異形のことを……ウルトラビーストと名付けている記述があった。
愛「……これって、つまり……」
璃奈「恐らくだけど……私たちが探していた高次元空間に生息してる生物……ってことだと思う……。……帰っていったって記述を見る限り……あのポケモンたちは、異次元へのホールを自分たちで開けられるのかも……」
愛「……じゃあ、アタシたちの前に現れたのは……」
璃奈「……恐らく、こちらから穴が開けられたせいで……ウルトラスペースから、こっちに迷い込んできた……」
愛「……ってことだよね……」
そして、もう一つ……気になることがあった。
その、ウルトラビースト……という生き物に該当する存在に、
璃奈「……紫色の毒針を持つ、毒竜……。……これ……」
愛「ベベノムの進化系のアーゴヨン……だよね……」
璃奈「……うん」
この世界には、アーゴヨンというポケモンが居る。
ベベノムの群れには、ベベノムたちを甲斐甲斐しく面倒を見て育てる、進化系のポケモンがいる。それがアーゴヨンだ。私たちの世界でも稀に見ることが出来るポケモン。
つまり……実はベベノムはウルトラビーストの子供かもしれないということだ。……一見突飛な話にも聞こえるけど──
愛「……仮にベベノムがそういう存在なんだとしたら……異様に大きなエネルギーを持ってたこと……ホールを開けることが出来た理由を説明出来る……」
璃奈「……ベベノムはウルトラビースト……」
愛「でも、それだと逆にベベノムはなんでウルトラスペースに帰らないんだろう……?」
璃奈「……これは、私が考えた仮説だけど……。……逆なんじゃないかな」
愛「逆……?」
璃奈「アーゴヨンはもともとウルトラスペースに住んでいたけど……子育てをするために、安全な世界を見つけて……それが居ついて……」
愛「何百年、何千年って時間を掛けて……繁殖した個体がいたってこと……?」
璃奈「うん……。……もちろん、仮説の域を出ないけど……」
ただ、重要なのはそこではない。
璃奈「じゃあ、アーゴヨンにホールを開ける能力があるのか……だけど……」
愛「……たぶん、この世界で繁殖を続ける中で、失われたって考える方が妥当だよね……。……能力が残ってるなら、すでにホールの存在を誰かしらが気付いてる気がするし……」
璃奈「失われたというか……戻る必要がなかったから、今この世界にいる個体はウルトラスペースに行けることを知らないってだけかもしれないけどね……。それだけのエネルギーはベベノムたちでも持ってるわけだし」
愛「……なるほど」
さて、ウルトラビーストとウルトラスペースという伝説の産物が、恐らく事実であることを突き止めた私たちは……次に何をするべきだろうか。
──世界を救うために、私たちが次にするべき行動は。研究は。
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