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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」

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53 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:21:53.45 ID:QLy5TvuG0

    🎹    🎹    🎹





善子「最後に──貴方たちにポケモン図鑑を託すわ。……と言っても、かすみはもう持ってるけど」

かすみ「……っは! かすみん、図鑑も返し忘れてました……!」


かすみちゃんは罰が悪そうな顔で、ポケットからパステルイエローの図鑑を取り出す。


善子「歩夢にはこのライトピンクの図鑑を」

歩夢「はい!」

善子「しずくには、ライトブルーの図鑑を」

しずく「ありがとうございます」

善子「ポケモン図鑑があれば、ポケモンの詳細なデータを確認することが出来るわ。きっと、旅の中のいろいろな場面で役に立つはずよ。有効に使って頂戴。それと……」

侑「?」


博士は私の方に視線を向けてくる。


善子「侑、貴方にも何かあげたいんだけど……」

侑「え!? い、いいですよ、私はあくまで歩夢の付き添いなんで……!」

善子「そう? でも、貴方にも迷惑を掛けちゃったし……。……あ、そうだ、ちょっと待ってて」


博士は何かを思い出したように、奥の部屋に行ってしまう。


侑「なんだろう……」

かすみ「何かお宝をくれるのかもしれませんよ!」

侑「ええ……? ホントにいいのに……」

かすみ「貰えるものは貰っちゃった方がいいですよ、侑先輩! 『出されたご飯は残さず食べろ』です!」

歩夢「……?」

しずく「『据え膳食わぬは〜』的なことを言いたいのかな……? それも意味がちょっと違うけど……あはは」


──しばらくして、戻って来た博士の手には、


善子「侑には、これを」


灰色の板状の端末があった。


侑「え、ええっと……これは……?」

善子「最新型のポケモン図鑑らしいわ」

侑「ええ!? う、受け取れません!?」

かすみ「最新型!? ずるいです!! かすみんにもください!!」

しずく「かすみさんはもう貰ったでしょ? めっ!」


最新型らしいポケモン図鑑は他のみんなのものと違って、薄い小型モニターに近い形をしていた。でも、最新型って……私付き添いで来ただけなのに、受け取れないよ……。

私が困っていると──
54 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:22:47.51 ID:QLy5TvuG0

善子「遠慮しないで、持って行ってくれないかしら? ちょっと知り合いに、これのデータ収集を頼まれちゃったんだけど……私は研究が忙しくて、集めてる暇もないのよ」

侑「い、いいのかな……?」

かすみ「貰えるものは貰っちゃいましょ!」

歩夢「博士が持って行って欲しいって言うなら……いいんじゃないかな?」

侑「……わ、わかりました。そういうことなら……」

善子「ええ、お願いね」


期せずして、私もポケモン図鑑をいただくことに……。それにしても最新型の図鑑なんて……ホントにいいのかなぁ……?


善子「さて……渡すものは渡したわね、それじゃ──」


博士が話を締めくくろうとしたとき、


 「──ヨーーーソローーー!!!!!!」


突然背後で、扉が勢いよく開く音と共に、元気な声が響き渡る。

振り返ると、そこには二人の女性の姿──


善子「うるっさ……もっと静かに入ってきなさいよ! 曜!!」

曜「いやー、新人たちもいるし、景気良い方がいいかなって思ってさ〜。……って、随分散らかってるね?」

ことり「あはは……ごめんね? 善子ちゃん?」

善子「こ、ことりさん!?」


珍しく博士の声が裏返る。


侑「ことりさんに曜さん!」

歩夢「どうしたんですか!?」

かすみ「え、なんでなんで、ことり先輩と曜先輩が……!?」


私たちは驚きながら、ことりさんと曜さんのもとに駆け寄る。


しずく「皆さん知り合いなんですね?」

善子「二人とも……セキレイシティの有名人だからね」

しずく「まあ……サニータウンから来ている私でも知っているくらいには、お二人とも有名人ですけど……随分と仲良しなんだなと思って」

善子「二人とも慕われてるのよ。特に子供からはね」
55 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:24:43.39 ID:QLy5TvuG0

ことり「ふふ♪ みんな久しぶりだね♪」

歩夢「はい、お久しぶりです!」

ことり「侑ちゃんと歩夢ちゃんにあげたポッポは元気かな?」

侑「はい! 2匹とも、今は歩夢の家で一緒に暮らしてますよ!」

ことり「あれ? 侑ちゃんにあげたポッポも、歩夢ちゃんの家にいるの?」

歩夢「はい。侑ちゃんが貰った♂のポッポは、私が貰った♀のポッポと仲良くなっちゃって……相談した結果、私の家で一緒に暮らしてるんです」

ことり「なるほど〜そうだったんだね〜♪ かすみちゃんにあげたスバメは元気かな?」

かすみ「えーあーえーっと……げ、元気……かも……?」

ことり「?」

しずく「あ……もしかして、そのスバメ……前に逃げられちゃったって、泣き付かれたことがあった……」

かすみ「しーー!!! しーーー!!! しず子、しーーーーっ!!!」

ことり「そっかぁ……スバメ逃げちゃったんだね。確かにすっごくお外が好きで、元気な子だったからね……そういうこともあるよね……」

かすみ「ご、ごめんなさいぃ……」


そういえば、そんなこともあったっけ。


善子「それはそうと、貴方たち何しに来たのかしら……?」

曜「いや、今日新人トレーナーが旅に出るからって言ったの善子ちゃんじゃん!」

善子「確かに教えたけど……というか、善子じゃなくてヨハネよ」

ことり「せっかく、ポケモントレーナーデビューする子たちだから──ポケモンジムに案内しようと思って♪」

かすみ「ジム!? ってことは、ジム戦して貰えるんですか!?」


かすみちゃんが勢いよく食いつく。確かにこの街にはセキレイジムがあるし、ポケモントレーナーだったら、ジムを巡るのも旅の目的の一つだ。

そのチュートリアルとして、この研究所に足を運んでくれたってことみたい。


かすみ「行きます行きます! かすみん、ジム戦やってみたかったんです!」


かすみちゃんはノリノリだけど……。


しずく「えっと……かすみさん」

かすみ「なに? もしかして、しず子もジム戦やりたいの? でも、一番乗りはかすみんに譲ってよ!」

しずく「そうじゃなくて……もしかして、忘れてる……?」

かすみ「何が……?」

善子「……かすみは研究所の片付けの手伝いが先よ」

かすみ「え゛!? ニャースを捕まえたからチャラなんじゃ……」

善子「誰もそんなこと言ってないわよ」

かすみ「そ、そんなぁ……!! 今日中に終わらないですよ〜……!!」

しずく「かすみさん、私も手伝ってあげるから。頑張ろう?」

かすみ「しず子〜……」


なんだかんだ、しずくちゃんってかすみちゃんに甘いよね……。
56 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:26:39.32 ID:QLy5TvuG0

しずく「ですので、ジムには侑先輩と歩夢さんで行ってください」

侑「わかった」

歩夢「二人ともお片付け頑張ってね!」

曜「ん、話は付いたっぽいね! 侑ちゃんと歩夢ちゃんはジム戦には挑戦したいのかな?」

歩夢「わ、私は見るだけでいいかな……」


歩夢はやっぱりバトルにはまだ消極的みたい。でも、私は──


侑「私は……やってみたいです……!」


夢にまで見た、初めてのポケモンバトル。初めてのジム戦……! やってみたい!


ことり「わかりました♪ それじゃ、侑ちゃんをセキレイジム挑戦者として、ジムにご案内します♪」

侑「よろしくお願いします!!」





    🎹    🎹    🎹





セキレイシティのポケモンジムは街の西側に位置している。

すっかり日も暮れたセキレイシティを4人で歩いて、セキレイジムを目指す。


ことり「着きました♪」

侑「……セキレイジム……!」


小さい頃から、街のバトル大会があるときにはここに観戦に来ていた。

そんな場所に今、挑戦者として立てるなんて……!


歩夢「侑ちゃん! 頑張ってね!」

侑「うん! 全力でやってくる!」

ことり「それじゃ、侑ちゃんはチャレンジャースペースにお願いします♪」

曜「歩夢ちゃんはセコンドスペースで観戦するといいよ」

歩夢「あ、はい!」


ことりさんが開けてくれたジムの門扉を潜り──目の前に現れた大きな大きなバトルフィールドに向かって歩く。

私がバトルフィールドに着くと──ことりさんが私の横を通り過ぎ……審判席に着く。

そして、セキレイジムの奥、ジムリーダースペースへと着いたジムリーダーが──ボールを構える。


ことり「使用ポケモンはお互い1匹ずつ! 使用ポケモン全てが戦闘不能になったら、そこで決着です!」

侑「はい! それじゃ、よろしくお願いします──曜さん!!」

曜「こちらこそ! セキレイジム・ジムリーダー『大海原のヨーソローシップ』 曜! 君の初めての航海、私に見せて!!」


曜さんは敬礼すると共に──モンスターボールをバトルフィールドに投げ放つ。

ジム戦──開始……!!



57 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:27:55.07 ID:QLy5TvuG0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.7 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
 バッジ 0個 図鑑 所有者を登録してください

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.6 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.7 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:31匹 捕まえた数:2匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



58 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:14:12.52 ID:DPwTRoer0

■Chapter003 『決戦! セキレイジム!』 【SIDE Yu】





曜「ゼニガメ! 出発進行!」
 「──ゼニィ!!!」

侑「イーブイ! 行くよ!」
 「ブイ」


私の肩に乗っていたイーブイが、バトルフィールドに降り立つ。

対する曜さんの使用ポケモンはゼニガメだ。


曜「ゼニガメ! “あわ”!」
 「ゼニーー!!!」

侑「イーブイ! 技をよく見て!」
 「ブイ」


ゼニガメが吐き出す“あわ”はふわふわと浮遊しながら、こっちに向かって飛んでくる。

でも、そのスピードはあまり速くなく、冷静に見ていれば避けられる!


 「ブイ」


イーブイはひょいひょいと“あわ”を躱しながら、ゼニガメへと近付いていく。


曜「うんうん! 冷静な判断、大事だね!」

侑「イーブイ! “なきごえ”!」
 「ブイーー!!!」

 「ゼニッ!!?」


最初からこの戦闘の戦い方は決まっている。近付いて“なきごえ”をしてから──


侑「イーブイ! “とっておき”!!」


この大技で一気にバトルを決める……!!

……と、思ったんだけど、


 「…ブィィ…」


イーブイは一瞬微かに光っただけで……その後は困ったように鳴きながら、こっちを振り返る。


曜「……? 不発?」

侑「え? あ、あれ?」

曜「……まあ、いいや! チャンスだよ、ゼニガメ! “かみつく”!!」
 「ゼニガァッ!!!!」

 「ブィッ!!?」
侑「わぁぁ!? イーブイ!?」


無防備なイーブイの前足にゼニガメが噛み付いてくる。


侑「ど、どうしよう……!? “とっておき”が使えない!?」


私は“とっておき”で決めるつもりだったので、技が不発してしまったことに気が動転してしまう。ど、どうにかしなきゃ!!


侑「ふ、振りほどいて!」
 「ブ、ブイ…!!!」
59 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:16:51.91 ID:DPwTRoer0

イーブイは体を捩りながら、大きな尻尾を振るう。


 「ゼ、ゼニ…!!」
曜「おとと、“しっぽをふる”だね」


もふもふの尻尾に怯んだゼニガメはイーブイに噛み付くのやめ、トントンとステップを踏みながら、曜さんの方へと後退していく。


侑「“しっぽをふる”……? イーブイが覚えてるのって“なきごえ”と“とっておき”だけなんじゃ……」

歩夢「侑ちゃん!!」


そのとき、セコンド席の方から歩夢の声。


侑「な、なに!?」

歩夢「そのイーブイ! さっきのゴルバットとの戦闘でレベルが上がって新しい技を覚えてるみたいだよ!!」


気付けば、歩夢はポケモン図鑑を手に持ち、そう伝えてくる。

きっとイーブイのデータを見てくれてるんだ……!


ことり「セコンド席、必要以上のアドバイスはダメですよー」

歩夢「す、すみません……!」


そっか……イーブイが新しい技を覚えたから“とっておき”が使えなかったんだ……!

“とっておき”は他に覚えている技をひととおり使ったあとじゃないと、使うことが出来ない技だ。

つまり──


侑「イーブイ!! 今出来ること全部やろう!!」
 「ブイ!!!!」


イーブイが地を蹴って飛び出す。“たいあたり”だ……!


曜「真っ向勝負? いいよ! ゼニガメ、“たいあたり”!!」
 「ゼニィ!!!」


──ドン! 2匹が“たいあたり”でぶつかり合う。


 「ブイ…!!!」
 「ゼニィ…!!!」


お互いの攻撃が相殺して、両者後退る。

いや……。


侑「ちょっとイーブイの方が強い? いけるかも!」
 「ブイ!!」


気持ちだけど……ゼニガメの方がイーブイよりも、大きく後退している気がする。


曜「“なきごえ”に“しっぽをふる”が効いてきちゃってるね……」

侑「このまま、押し切ろう! イーブイ! もう一回“たいあたり”!!」
 「ブイ!!」

曜「“からにこもる”!」
 「ゼニッ!!」


ゼニガメは即座に体を甲羅に引っ込めて、防御姿勢を取る。

防御態勢になったゼニガメをイーブイがそのまま、“たいあたり”で吹っ飛ばすと、ゼニガメは甲羅に籠もったまま、硬い音を立ててバトルフィールドを転がっていく。
60 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:18:03.86 ID:DPwTRoer0

侑「よーし! イーブイ!! もう一回!!」
 「ブイ!!」


三たび、“たいあたり”で向かっていく。ゼニガメは今、甲羅に体を引っ込めて、動けない状況……! 今の内に畳みかける……!!

防御に徹しているゼニガメに“たいあたり”が炸裂した──と、思ったら、


 「ブイィィ…!?!?」
侑「なっ!?」


逆にイーブイが吹っ飛ばされて、こちらに飛んでくる。


侑「イーブイ!? 大丈夫!?」
 「ブ、ブイィ…」


イーブイはバトルフィールドを転がりながらも、どうにか立ち上がる。


侑「な、なんで……? ゼニガメは今動けないはず……」

曜「侑ちゃん! そういう思い込みは、ダメだよ!」

侑「え?」

曜「ゼニガメ……GO!!」


曜さんの掛け声と共に──


 「ゼニッ!!!!!」


ゼニガメが甲羅に籠もったまま──突っ込んで来た。


侑「なっ!? イ、イーブイ!! 避けて!?」
 「ブイッ!!!!!」


真っ直ぐ迫ってくるゼニガメ。それから逃れるように、斜め前方にイーブイが急速ダッシュで回避する。


侑「! すごい! イーブイ!」
 「ブイィ!!!」

曜「! “でんこうせっか”を回避に使ってきたね! でも、ゼニガメの追尾は終わらないよ!」
 「ゼニィ!!!!」


曜さんの声と共にゼニガメが、再びイーブイに向かって飛び出す。

──位置関係上、ゼニガメを後ろから見ることが出来る位置になったため、やっとゼニガメの高速ダッシュのからくりが理解出来た。


侑「水を噴射してダッシュしてる!?」


そう、ゼニガメは甲羅に籠もったまま、後ろ向きに水を噴射してダッシュしていた。

さっきイーブイが吹っ飛ばされたのはこれによって、逆に“たいあたり”されたからだ……!


曜「そのとおり! こうすれば防御しながら、攻撃も出来るんだよ!」

侑「イ、イーブイ! “でんこうせっか”!!」
 「ブイィィィ!!!!!」


イーブイは再び土埃を巻き上げながら、高速で走り出す。


侑「とにかく逃げなきゃ……!!」

曜「そうだね! でも、“でんこうせっか”じゃ速すぎて、小回りが利かないんじゃないかな!」
61 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:19:20.86 ID:DPwTRoer0

確かに曜さんの言うとおり、“でんこうせっか”での移動は一定距離直線を高速で進むだけで、曲がりながらの移動は出来ていない。

でも、今はとにかく距離を取りたいから……!!


侑「イーブイ!! 連続で“でんこうせっか”!!」
 「ブイッブイィッ!!!!」


一定距離真っ直ぐ進んでは、止まり、真っ直ぐ進んでは、止まりを繰り返し攪乱を行って──いるつもりだったけど、


曜「軌道がわかりやすすぎるよ!! ゼニガメ!!」
 「ゼニッ」


ゼニガメは水の噴射と、甲羅を回転させながら……急に、曲がった。


侑「曲がっ……!?」


ゼニガメの攻撃が完全にイーブイの進路に合わせられたと気付いたときには、もう遅く、


 「ブィィッ!!!?」


甲羅に籠もったままのゼニガメの“たいあたり”がイーブイに炸裂し、吹き飛ばされる。


侑「イーブイ!!」
 「ブ、ブィィ…?」


まだ、立ってる……! よかった……でも、


曜「ゼニガメ! 畳みかけるよ!!」
 「ゼニィ!!!」


休ませてくれない。ゼニガメは再び水を後ろ向きに噴射しながら、迫ってくる。


侑「で、“でんこうせっか”!!」
 「ブイィィ!!!!」


再び始まる追いかけっこ。


曜「さーて、次のタイミング……狙っていくよー!」

侑「……っ」


これじゃ、またそのうち狙い撃ちされちゃう……!

なにより、こっちから攻撃が一切出来ていない。このままじゃ……!!


侑「どうにか……どうにかしなきゃ……」


ただ、イーブイがいくら新しい技を覚えたからと言っても、さすがに4つや5つも覚えているとは考えにくい。恐らく、これ以上打開できるような技があるとしたら──


侑「“とっておき”しかない……!!」


もう技は全部出し切ったと考えて、一か八か……!!


侑「イーブイ!!」
 「ブイ」


私の声で静止するイーブイ。


曜「お、正面から受けるのつもりなのかな……!」
62 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:20:36.71 ID:DPwTRoer0

迫るゼニガメ。

お願い……! 決まって……!!


侑「“とっておき”!!」
 「──ブイィィ!!!!」


イーブイの体が光を発する。


侑「やった……!! 出た……!!」


巨大な光がそのまま、突っ込んでくるゼニガメを呑み込もうとした……瞬間、ゼニガメの姿がブレる。


侑「!?」

曜「もちろん、そんなバレバレの大技に引っかかったりしないよ!!」


ゼニガメが軌道を変えて回り込んだんだと気付いたときには、


 「ブィィッ…!!?」


イーブイは側面から突撃されて、吹き飛ばされていた。


侑「イーブイ!?」
 「ブ、ブィィ…」


吹き飛ばされながらも、どうにかよろよろと立ち上がってはくれたものの……もう、限界が近い。


侑「どうする、どうする……!?」


逃げ回っても追い付かれる。大技を撃っても避けられる。どうにか、隙を作らないといけないのに……打つ手がない。


曜「ゼニガメ! GO!!」
 「ゼニィッ!!!」

侑「っ! イーブイ!! ジャンプして!!」
 「ブ、ブイッ」


苦し紛れの指示だったけど、高速で突っ込んでくるゼニガメをどうにか飛び越える。


曜「まだ避ける体力があるみたいだね! でも、どこまで続くかな!」
 「ゼニィッ」


再び折り返してくるゼニガメ。でも曜さんの言うとおり、もう限界だ。

すぐにでも打開策を──


歩夢「侑ちゃーん!!! 覚えてるー!?」

侑「!?」


そのとき、急に響く歩夢の声。


歩夢「子供の頃、一緒に遊んだゲームのことーーー!!」


一緒に遊んだゲーム!? 急に歩夢は何を──

一緒に遊んだゲームなんて、落ちてくるブロックを消すゲームとか、カートでレースするゲームとか、ジャンプが得意なヒゲの主人公が冒険するアクションゲームとか……。
63 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:22:30.26 ID:DPwTRoer0

侑「!!」


あった……!! ゼニガメの隙を作る方法……!!


曜「さぁ、終わりだよ!!」


突っ込んでくるゼニガメ。


侑「イーブイ!!! 私の声を聞いて!!」
 「ブイ!!!!」


迫るゼニガメ。

──まだ。まだだ。

一直線にイーブイに向かって突っ込んでくるゼニガメ。でも、私は待つ。

これは勘だった。ゼニガメは──きっとフェイントを掛けてくる。


 「ブイ」


私はまだ、声をあげない。

イーブイの眼前に迫るゼニガメ。

でも、まだ……!


 「ゼニッ」


次の瞬間ゼニガメは──軌道を変えた。


侑「!! 今!!」
 「ブイッ!!!!」

曜「!? 読まれた!?」


ゼニガメのフェイントを読み切ったジャンプ。


曜「でも、何度も読み切れるものじゃないよ……!!」


わかってる。だからこれは、回避じゃない……!!

跳ねたイーブイが、重力に引かれて落ちていく先は──ちょうどゼニガメの真上!!


侑「イーブイ!! ゼニガメを踏んづけて!!」
 「ブイッ!!!!」

曜「なっ!?」
 「ゼニッ!?」


踏んづけられたゼニガメは──その勢いで上下逆さまになって、フィールド上を滑っていく。


 「ゼ、ゼニィ!!?」


まさにひっくり返った亀の状態に……!


曜「ゼニガメ!? 落ち着いて!?」


急な天地逆転に動揺したゼニガメが顔を出してもがく。

この隙は絶対に見逃さない……!!
64 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:24:29.12 ID:DPwTRoer0

侑「イーブイ!! “たいあたり”!!」
 「ブイブイ!!!!!」

 「ゼニィッ!!!?」


イーブイの“たいあたり”が無防備なゼニガメに直撃し、その勢いでゼニガメが宙に浮く。

もう──逃げ場はない!!


侑「イーブイ!! “とっておき”!!」
 「──ブイイーーーーー!!!!!!」


イーブイから巨大な光が溢れ出して──


 「ゼニガァッ!!?」
曜「ゼニガメッ!?」


その光は宙を舞うゼニガメに──直撃した。

──ドサ。

攻撃が直撃したゼニガメは墜落したあと、


 「ゼニィィ……」


目を回して、戦闘不能になったのだった。


侑「はぁ……はぁ……」
 「ブイ」

侑「やった……」
 「ブイブイ」

ことり「ゼニガメ、戦闘不能! よって、勝者セキレイシティの侑ちゃん!」

侑「……いやったああああああ!!! 勝ったよ!!! 私たち勝てたよ!! イーブイ!!」
 「ブイーー!!!」


イーブイが私の胸に飛び込んでくる。


侑「ありがとう! イーブイ!!」
 「ブイブイーー」

曜「いや、最後にやられたよ……まさか踏んづけてくるとは……」


曜さんがゼニガメをボールに戻しながら、こちらに歩いてくる。


ことり「ふふ♪ すごかったね、侑ちゃん♪」

侑「あ、いや……でも、これは歩夢のお陰でもあるというか……」

歩夢「……!?」


セコンド席の歩夢の方へ振り返ると、歩夢は気まずそうにわたわたと手を振る。


ことり「ん〜……直接的なアドバイスじゃなかったから、今回はセーフにします♪」

歩夢「……っほ」

曜「でもまさか、テレビゲームをヒントに攻略されるとは思わなかったよ……あの赤い帽子のヒゲのおじさんのゲームでしょ? 私も昔千歌ちゃんとやったなぁ……カメ、確かに踏んづけると動けなくなるんだよね」

侑「成功するか、賭けでしたけど……あはは」


まさか、あんなに綺麗にひっくり返ってくれるとは思わなかったし……。


曜「なにはともあれ、勝ちは勝ちだし、負けは負け!」
65 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:25:38.90 ID:DPwTRoer0

曜さんがそう言いながら懐に手を入れ、


曜「勝者の侑ちゃんにはセキレイジムを突破した証として、この──“アンカーバッジ”を贈るよ」


曜さんから、錨型のジムバッジを手渡される。


侑「わぁ……!!」

ことり「あと初めてのジム戦だから、このバッジケースも。歩夢ちゃんにもあげるね♪」

歩夢「え、わ、私は……」

ことり「いいからいいから♪ いつか、挑戦したくなるかもしれないし。ね?」

歩夢「は、はい」


二人でバッジケースを受け取る。


曜「侑ちゃん、“アンカーバッジ”、はめてみて」

侑「は、はい!」


私は言われたとおり、バッジをケースの窪みにはめ込むと──カチリと小気味の良い音がした。


侑「えへへ♪ “アンカーバッジ”、ゲットだよ!」
 「ブイブイ♪」


イーブイと一緒に掴み取った初めてのジムバッジに嬉しくなる。


ことり「このバッジはポケモンリーグ公認のバッジ。持っているだけで、そのトレーナーの実力を保証してくれる証明にもなるから、大事にしてね♪」

侑「はい!」

ことり「そして8つ集めたら、ポケモンリーグで四天王に挑戦出来るようにもなるからね♪」

侑「はい! いつか、ことりさんのところにも辿り着いてみせます!!」

ことり「ふふ♪ 楽しみにしてるね♪ ことりはいつでも四天王の一人として、侑ちゃんの挑戦を待っています♪」

侑「はい!」


私もいつか、この地方の四天王と──そして、その頂きに立つチャンピオン・千歌さんと戦えたりするのかな?


侑「イーブイ! 私すっごいトレーナーになるから! 一緒に強くなろうね!」
 「ブイッ!!!」


私はイーブイに誓いを立てる。もっともっと強くなって……いつかは夢の舞台でもっとすごいトレーナーと戦いたい……!

私はそんな想いを胸に抱くのだった。



66 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:29:44.05 ID:DPwTRoer0

    😈    😈    😈





かすみ「…………かしゅみん……すごい……とれーなーに……えへへ……zzz」

しずく「かすみさん、まだ寝ちゃダメだよー? かすみさーん……」

善子「いいわよ。寝かせておいてあげなさい」

しずく「すみません博士……私が少し休憩しようなんて提案したばかりに……」

善子「気にしなくていいのよ。今日、頑張ってくれたのは事実だしね。そろそろ体力的にも限界だったんでしょ」

しずく「そうですね……朝も早かったみたいですし」

善子「それがイタズラの仕込みのためじゃなければねぇ……」

しずく「あはは……」


御覧のとおり、研究所の片付け中、一息入れている間にかすみは眠りの国に旅立ってしまった。

まあ、なんだかんだで一日中行動していたわけだしね。


しずく「……ふぁ」


それは、かすみだけじゃないけどね。


善子「ふふ。しずくも疲れたでしょう? 今日は研究所に泊まっていいから、もう休みなさい。二階の部屋が空いてるから」

しずく「うぅ……面目ないです。それでは、お言葉に甘えて……かすみさん、部屋まで行くよー?」

かすみ「ふぇ……? もう、かすみん……お腹いっぱいですよぉ……?」

しずく「そんな絵に描いたような寝言言ってないで……」

 「ガゥガゥ」

しずく「ゾロア?」


様子を見ていたゾロアがしずくの肩に飛び乗り“イリュージョン”で姿を変える。


しずく「……この姿……コッペパン……? ですか?」

善子「へー……かすみのゾロアは、食べ物にも化けられるのね」

かすみ「はぁぁ……おいしそうなコッペパン……」

しずく「……お腹いっぱいなんじゃなかったの?」


かすみの反応に、しずくが呆れ気味に肩を竦める。


善子「そのまま、上の階に誘導してあげなさい」

しずく「まあ……これで釣られてくれるなら、いいんですけど……。ほーらかすみさーん、おいしいコッペパンですよ〜」

かすみ「うぇへへ〜……まって〜……」


コッペパン(ゾロア)に釣られて、よたよたと追いかけていくかすみ。……階段から転げ落ちそうね。


善子「ムウマージ」
 「ムマァ〜」

善子「手伝ってあげなさい」
 「ムマァ〜♪」


ムウマージがいれば、落ちても助けられるし大丈夫でしょう……。


善子「さて……私はもうひと頑張り……」
67 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:31:46.34 ID:DPwTRoer0

軽く伸びをしながら、作業に戻ろうとすると──


曜「──ヨーソロー♪ 善子ちゃん、さっきぶり♪」


やかましいのが戻って来たようだ。


善子「もう夜よ。静かにしなさい」

曜「あはは、ごめんごめん」

善子「ジム戦は終わったの?」

曜「うん、負けちゃった。侑ちゃん、きっと強くなるよ」

善子「それは何よりね」

曜「はぁーぁ……でもやっぱ、負けるのは悔しいなぁ。カメックスとなら、負けなかったのに」

善子「当たり前でしょ……もうジムリーダーになって結構経つんだから、慣れなさいよ……」


千歌ほどではないけど、曜も大概子供っぽいところがあるのよね……。


善子「それで、戻って来たのは曜だけ?」

曜「あ、うん。侑ちゃんと歩夢ちゃんは今日はもう遅いから一旦家に帰るってことだったから。ことりさんは二人を送って行ったよ」

善子「そういえば……ことりさんとあの二人、同じマンションに住んでたわね。……んで、何しに来たの?」

曜「む、なんか冷たい言い方だなぁ……せっかく、同期が遊びに来てるのにさ」

善子「本音は?」

曜「……今日泊めて! 明日、サニータウン方面に行かなくちゃいけなくってさ! 私の家、街の北側でしょ? ここからの方が近いから……お願いっ!」

善子「そんなことだろうと思った。いいわよ、適当に二階の部屋でも使って」

曜「さすが善子ちゃん! 持つべきものは優しい同期だね!」

善子「はいはい……あ、でも上でかすみとしずくが休んでるから、うるさくしないでね。あとヨハネよ」

曜「了解であります! ヨハネ博士!」


全く調子いいんだから……。まあ、さすがの曜でも一人で大騒ぎは出来ないでしょう。……たぶん。


曜「ところで、善子ちゃん」

善子「ヨハネ」

曜「善子ちゃん的には期待してる子とかいるの?」

善子「何よ……藪から棒に……貴方も協力してくれたから、知ってるだろうけど、今回のトレーナー選びは慎重に行った分、みんな同じように期待してるわ」

曜「ふーん、そっかそっか」


具体的に言うなら、しずくは座学の優秀さ、頭の良さを重視して選んだ。純粋な優等生タイプ。

逆にかすみは意外性重視。確かに今日みたいな突飛なことをしでかす可能性もあるけど、バトルの成績はそこそこいいし、ポテンシャルは確かに感じる。ちょっとピーキーだけどね。


善子「ただ、そうね……」

曜「?」

善子「強いて言うなら……その3人の中でも、歩夢は特別かもしれないわ」

曜「特別?」

善子「今日、成り行き上ではあったんだけど……あの子たちが研究所から逃げ出したポケモンを捕まえてくれて……」

曜「うん」

善子「……歩夢ね、ミミロルをバトル無しで捕獲したらしいのよ」


正直、侑に話を聞いたときは、冗談かと思ったけど……確かに、ミミロルは掠り傷一つ負っていなかった。
68 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:32:40.74 ID:DPwTRoer0

曜「それって……何かすごいことなの?」

善子「ミミロルってポケモンはね、警戒心が強く、気性が荒くて、なかなか人になつかないポケモンなのよ」


一説によれば、現在確認されているポケモンの中でも、最もなつきにくいという学説さえあるポケモンだ。


善子「そんなミミロルを説得して大人しくさせたらしいのよ」

曜「……確かにそれはすごいかも」

善子「もしかしたら……歩夢には少し特別な力があるのかもしれないわね」


ポケモンと仲良くなる才能……とでも言うのかしら。

実際、最初の3人を選ぶ際にも、歩夢に期待していたのはポケモンとすぐに仲良くなれるという評価から選ばせてもらったんだけど……想像以上かもしれない。


善子「……まあ、そんな感じよ」

曜「そっか。とにかく3人とも期待出来るってことだね」

善子「そうよ。ま、私が選んだリトルデーモンなんだから、当然よね」

曜「そっか。……善子ちゃん、良かったね」

善子「……何よ、急に」

曜「ずっと、心配してたんだよ……2年前のあの日以来、思い悩んでること、多かったから」

善子「…………」


2年前のあの日……ね。


私は先ほどまで、最初の3匹が並んでいた机の──引き出しを開ける。

引き出しの中にあるのは──とあるポケモンの入ったモンスターボール。


善子「…………」

曜「その子、結局どうするの? 私はてっきり、最初の3匹の中にその子も入れるんだと思ってたんだけど……」

善子「どうもしない。……この子を渡す相手は、もう決まってるんだから」

曜「……そっか」

善子「……」


僅かに沈黙が流れる。


善子「……曜、明日早いんでしょ。さっさと寝なさい」

曜「わかった、そうさせて貰うよ」

善子「おやすみなさい」

曜「ん、おやすみ」


二階へと上がっていく曜の背中を見送って。

──私は開けた引き出しを元に戻す。


善子「……さて、仕事を片付けましょうか」


こうして、夜は更けていく──



69 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:33:15.16 ID:DPwTRoer0

    🎹    🎹    🎹





侑「──あー!! 疲れたー!!」


私は自室に戻ってくるなり、ベッドに倒れ込む。


侑「イーブイもおいで。疲れたでしょ?」
 「ブイ」


イーブイに声を掛けると、ぴょんとベッドに飛び乗り、私の傍に身を寄せてくる。


侑「うわ、毛ぐしゃぐしゃになっちゃってるね……毛づくろいしてあげるよ」
 「ブイ」


家に帰ってくるなり、お母さんにいたく気に入られたのか、撫でられまくってたから、綺麗な毛並みが荒れてしまった。

ブラシを使って、毛づくろいしてあげると、


 「ブイィ…♪」


イーブイは気持ちよさそうにしている。


侑「イーブイ、気持ちいい?」
 「ブィ♪」

侑「ふふ、よかった」


今日はイーブイのお陰で、初めてのジム戦にも勝利することが出来た。

だから、ちゃんと労ってあげないとね。


侑「……そういえば、イーブイ……また新しい技覚えたりしてるのかな?」


ジムでの戦闘によって、またレベルが上がって新しい技を覚えているかもしれない。

そうすると、“とっておき”はますます使いづらくなるかもしれないし、把握しておいた方がいいかも……。


侑「覚えてる技の確認……」


歩夢はポケモン図鑑を使って、教えてくれたっけ?

そういえば、図鑑……。


侑「博士に貰ってから、まだ起動もしてなかったっけ」


ミニサイズのモニター状のポケモン図鑑を取り出して、観察する。


侑「電源みたいなのが、どこかにあるのかな……?」


とりあえず、画面に触れてみると──


 『指紋登録中。そのままお待ちください』


可愛らしい機械音声が図鑑から流れてくる。


侑「あ、これでいいのかな?」
70 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:34:39.20 ID:DPwTRoer0

たぶん、私を図鑑所有者として登録してるんだと思う。

しばらく、待っていると、ブーンと音がして──顔が表示された。

──顔と言っても、人の顔とかじゃなくて、すごく簡素な絵文字のような顔。

えっと……『|| ╹ ◡ ╹ ||』こんな感じの顔。


侑「……? なにこれ?」
 「ブィ?」


何か図鑑の機能なのかな? 首を傾げていると──


 『あなたが私の図鑑所有者の人?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「……!?」
 「ブィ…!!」

図鑑が話しかけてきた。


侑「へ……!? え……!?」

 『あれ……? もしかして、何も説明されてない?』 || ? ᇫ ? ||


驚きで声が出ないまま、首をぶんぶんと縦に振る。


 『そっか。博士、説明を省く癖があるから。わかった、自己紹介する』 || ~ ᨈ ~ ||


そう言いながら、図鑑は私の手元から──フワリと浮く。


侑「……浮いた!?」

リナ『私はリナって言います。リナちゃんボード「にっこりん♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「え、えぇ……!?」
 「ブィィ…」


私のポケモントレーナーになった今日という日は、最後の最後まで予想外の展開が続くみたいです……。


71 :>>70訂正 ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:43:08.39 ID:DPwTRoer0

たぶん、私を図鑑所有者として登録してるんだと思う。

しばらく、待っていると、ブーンと音がして──顔が表示された。

──顔と言っても、人の顔とかじゃなくて、すごく簡素な絵文字のような顔。

えっと……『|| ╹ ◡ ╹ ||』こんな感じの顔。


侑「……? なにこれ?」
 「ブィ?」


何か図鑑の機能なのかな? 首を傾げていると──


 『あなたが私の図鑑所有者の人?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「……!?」
 「ブィ…!!」

図鑑が話しかけてきた。


侑「へ……!? え……!?」

 『あれ……? もしかして、何も説明されてない?』 || ? ᇫ ? ||


驚きで声が出ないまま、首をぶんぶんと縦に振る。


 『そっか。博士、説明を省く癖があるから。わかった、自己紹介する』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||


そう言いながら、図鑑は私の手元から──フワリと浮く。


侑「……浮いた!?」

リナ『私はリナって言います。リナちゃんボード「にっこりん♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「え、えぇ……!?」
 「ブィィ…」


私のポケモントレーナーになった今日という日は、最後の最後まで予想外の展開が続くみたいです……。


72 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:44:05.24 ID:DPwTRoer0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.8 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:1匹 捕まえた数:1匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.6 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.7 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:40匹 捕まえた数:10匹

 主人公 かすみ
 手持ち キモリ♂ Lv.6 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.6 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:33匹 捕まえた数:3匹

 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.5 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.5 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:31匹 捕まえた数:2匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



73 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 21:12:59.54 ID:DPwTRoer0

 ■Intermission🐏



遥「なんだか、たくさん買っちゃったね……」

彼方「いいのいいの〜久しぶりのお買い物だったんだから〜。それより、重いでしょ〜? お姉ちゃんが荷物持ってあげるよ〜」

遥「ありがとう、お姉ちゃん」


私たち姉妹がセキレイデパートを出ると、もう日はとっぷりと暮れ、夜の時間が訪れていた。


彼方「二人ともお待たせ〜」

遥「お待たせしてすみません……」


外で待っていた二人に声を掛ける。


穂乃果「そんなこと気にしなくていいんだよ♪」

千歌「そうそう、これも私たちのお仕事なんだから! それより、姉妹水入らずでのショッピング、楽しかった?」

遥「はい! すっごく楽しかったです!」

彼方「お陰様で、リフレッシュできたよ〜。ありがと〜」


やっぱり、たまにこうして息抜きしないと、疲れちゃうからね〜。こうして、何気ない息抜きにも付き合ってくれる、穂乃果ちゃんと千歌ちゃんには感謝しないとだよね〜。


穂乃果「それじゃ、帰ろっか♪ 彼方さんはリザードンに」
 「リザァ」

千歌「遥ちゃんはムクホークに乗ってね」
 「ピィィ」

遥「はーい」

彼方「了解で〜す」


私たちは月夜の中を飛び立って、セキレイシティを後にするのでした〜。


………………
…………
……
🐏

74 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:13:02.13 ID:UaHzC7GK0

■Chapter004 『──旅立ちの日』 【SIDE Yu】





侑「んー……! 今日もいい天気だね!」
 「ブィ」

リナ『気温21℃、湿度48%、降水確率は0%、本当に良いお天気。リナちゃんボード「わーい」』 || > 𝅎 < ||

侑「そんなこともわかるんだ……」

リナ『博士にはありとあらゆるセンサーを搭載してもらった。なんでも聞いて』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||


マンションの廊下から見上げる空は、雲一つない青空が広がっている。

変わったことと言えば……。


侑「……」

リナ『ん? どうかしたの?』 || ? _ ? ||


不思議な喋る図鑑が私の傍にいることかな……。

今はこうして普通に会話しているけど……昨日のことを思い出す。



──────
────
──


侑「え、えっと……リナって言うのは……名前……?」

リナ『うん、そうだよ。でも、正確には「Record Intelligence Navigate Application system」の頭文字を取って「RINA」だよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「……?」


あんまり説明になってないような……。


侑「えっと……つまり、リナちゃん……? ポケモン図鑑なの?」

リナ『図鑑に搭載されてるシステムAIだよ。最新鋭超高性能自己進化型AI』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「そ、そっかぁ……」


なんだか、情報量の多い肩書きだ……。


侑「えっと……ロトム図鑑みたいな感じ……?」


世の中にはロトム図鑑という喋るポケモン図鑑があるらしいとは聞いたことがある。

ロトムは家電に棲み付くポケモンで、地方によってはいろんな機械にロトムが入って、人間をサポートしていると聞く。

なので、恐らくリナちゃんもそういう感じなのかな……? と思ったんだけど……。


リナ『うーん、ロトム図鑑とは少し違う。ポケモンじゃなくて、あくまでAI。……本当に何も説明を受けてないの?』 || ? _ ? ||

侑「うん……全く」

リナ『博士、こういうところがいい加減……。でも、私は博士から所有者と一緒に冒険をするように言われてる』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「言われてる……? そう指示されてるってこと?」

リナ『うん。私は自己進化型AIだから、いろんな情報を得ることによって、さらに進化する。あなたには、私がさらにすごいAIに進化するための、お手伝いをして欲しい』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


つまり、リナちゃんと一緒に各地を回って、リナちゃんにいろんなことを覚えさせて欲しい……みたいなこと、だと思う。
75 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:14:13.53 ID:UaHzC7GK0

リナ『もちろん、その代わりに私はポケモン図鑑として、あなたのサポートをする。ポケモントレーナーとして旅をするなら、悪い話じゃないと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「う、うーん……?」


悪い話じゃない……のかな……?

とはいえ、ヨハネ博士から託されたということは……私は博士から、リナちゃんに協力して欲しいと頼まれているのも同然のような気もするし……?


リナ『あまり反応が芳しくない。わかった、今から図鑑としての性能をお披露目する』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

 「ブイ…?」


リナちゃんはふわふわとイーブイに近付き、

リナ『イーブイ しんかポケモン 高さ:0.3m 重さ:6.5kg
   進化のとき 姿と 能力が 変わることで きびしい 環境に
   適応する 珍しい ポケモン。 今 現在の 調査では なんと
   8種類もの ポケモンへ 進化する 可能性を 持っている。』

イーブイの解説を読み上げてくれる。


侑「おぉ……!」

リナ『これだけじゃない。今、イーブイが覚えている技は“たいあたり”、“なきごえ”、“しっぽをふる”、“でんこうせっか”、“すなかけ”、“ほしがる”、“にどげり”、“とっておき”』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「覚えてる技まで……!」

リナ『ポケモン図鑑だから、これくらいの機能は当たり前。リナちゃんボード「ドヤッ」』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||


普通のポケモン図鑑と違って、自分で操作しなくても、言えば検索してくれるみたいだし……確かにこれは便利かも。

……まあ、それはいいんだけど……さっきから言っている、リナちゃんボードってなんだろう……?

あ、いや……名前はリナちゃんだし、見た目はボードだし、ある意味そのまんまかも……? 口癖みたいなものなのかな……?

かすみちゃんで言うところのそういうキャラ……的な?


侑「……というか、イーブイどんどん新しい技覚えてるね」
 「ブイ…?」


やっぱり、“とっておき”は今後もあんまり多用出来ないかも……。


リナ『これで、図鑑の性能は信用してもらえたかな?』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん」

リナ『それじゃ、私と一緒に冒険してくれる? リナちゃんボード「ドキドキ」』 ||,,╹ᨓ╹,,||

侑「わかった。一緒に行こう」


私は首を縦に振る。

突然の出来事にびっくりしてただけで、最初から断るつもりだったわけじゃないし。


侑「これからよろしくね、リナちゃん」

リナ『よかった! こちらこそ、よろしく。……えーっと』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そういえば、まだ名前を言ってなかったね。私の名前は侑だよ。タカサキ・侑」

リナ『侑さんだね! よろしく!』 || > ◡ < ||



──
────
──────



──と、言うわけで喋るポケモン図鑑・リナちゃんも一緒に旅に行くことになった。

リナちゃんの自己進化AIとやらが、あちこちでいろんな情報を得て進化するお手伝いをするらしいけど……。
76 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:15:27.66 ID:UaHzC7GK0

侑「まさか、ポケモンだけじゃなくて、ポケモン図鑑も育成することになるとは……」
 「ブイ…?」

リナ『そういえば、侑さん』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ん?」

リナ『旅にはまだ行かないの?』 || ? ᇫ ? ||

侑「うん。歩夢を待ってるからね」

リナ『あゆむ?』 || ? ᇫ ? ||


そういえば、まだ歩夢のこと説明してなかったっけ。


侑「歩夢はね、私の幼馴染で、一緒に旅に行くことになってる子だよ」

リナ『そうだったんだ。今回の旅は侑さんだけじゃないんだね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


リナちゃんは少しの間を挟んだあと、


リナ『あの……侑さん。お願いがあるんだけど……』 || ╹ᇫ╹ ||


そう話を切り出す。


侑「お願い?」

リナ『うん。私のことなんだけど……侑さん以外の人にはロトム図鑑だって説明して欲しいんだ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「え? どうして? 何か問題があるの?」

リナ『私の自己進化型AIはまだ開発段階で、世間に全く出回ってない。でも超高性能だから、人目に付きすぎると、もしかしたら企業スパイとかに狙われるかもしれない』 || 𝅝• _ • ||

侑「え、えぇ……?」

リナ『でも、ロトム図鑑としてなら喋るのも浮くのも、説明が付く。無用な争いを避けるためにも、お願い』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「わ、わかった……そういうことなら」

リナ『ありがとう、侑さん。リナちゃんボード「ぺこりん☆」』 || > ◡ < ||


まあ、確かに私もこんなポケモン図鑑は見たことも聞いたこともないし……──いや、ポケモン図鑑の実物を見たのは昨日が初めてだけど……。

企業スパイ……? というのがどういうものなのかはいまいちピンと来ないけど……。

なんか、それくらい大事なモノを託されたってこと……なのかな?

というか、そんな大事なモノ、私が持ってっちゃっていいのかな……。でも、持って行ってくれって言われたし……。

一人悶々と考えていると──


 「──侑ちゃ〜ん……た、たすけて〜……」

侑「ん?」
 「ブイ…」


隣の部屋の玄関の方から、ヘルプを求める声──もちろん、歩夢の声だ。

私はドア越しに声を掛ける。


侑「歩夢? どうかしたの?」

歩夢『み、みんなが放してくれなくて〜……』

侑「ああ、なるほど……」


歩夢の家を思い出して、納得する。
77 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:16:45.08 ID:UaHzC7GK0

リナ『ねぇ、侑さん』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ん?」

リナ『この扉の先から、すごい数のポケモンの反応がある。エイパム、ポッポ、ベロリンガ、コダック、ニョロモ、ハネッコ、ゴースト、エネコ……種類もタイプもバラバラ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ああ、うん。見ればすぐにわかるよ」


私は歩夢を救出するためにも、扉を開ける。

──すると、


 「エニャァ」
 「ゴスゴス」
 「ハネハネ」
歩夢「侑ちゃ〜ん……」
 「シャボ…」


頭にハネッコが乗っかり、ゴーストに肩を掴まれ、歩夢の足元をエネコがチョロチョロと走り回っている。


侑「相変わらず、大人気だね」

歩夢「連れていくのはサスケだけって、何度も説明したんだけど……」
 「シャー」

リナ『わ……すごい数のポケモン。これって、全部歩夢さんのポケモンなの?』 || ? _ ? ||

侑「うん、そうだよ」

歩夢「え? 誰かいるの?」


ポケモンたちに気を取られていた歩夢が顔を上げると──リナちゃんと目が合った。


リナ『初めまして、私リナって言います』 || > 𝅎 < ||

歩夢「……へ?」


一瞬のフリーズのあと、


歩夢「……え!? ぽ、ポケモン図鑑が、し、喋ってる……!? しかも、浮いてるよ……!?」


歩夢が焦りと困惑の入り混じった表情になる。まあ、そうなるよね……。


侑「落ち着いて歩夢。この子はロトム図鑑のリナちゃんだよ」

歩夢「ロトム図鑑……?」

リナ『うん! 私ロトム図鑑のリナです!』 ||,,> 𝅎 <,,||

歩夢「え、えっと……ロトム図鑑ってロトムの入った図鑑だっけ……? えっと、それじゃロトム図鑑の中にいるロトムの名前がリナちゃんなの……?」

リナ『うん、そんな感じ』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「そうなんだ……侑ちゃんの図鑑は最新型って言ってたもんね。ロトム図鑑だったんだ」

侑「うん、そうなんだよ」

歩夢「前に少しだけ、しずくちゃんにロトム図鑑のお話を聞いたことがあったけど……本当に図鑑が喋るなんて、すごいね」


やや強引だった気もするけど……さすが歩夢。何も疑ってない。

私も一枚噛んでるとはいえ、幼馴染としてちょっと心配になる騙されやすさだ……。


 「エニャァエニャァッ」
歩夢「きゃっ!? エ、エネコ……足元で暴れないで……」

侑「っと……そうだった」


歩夢を助けてあげないと……。屈んで、エネコを抱きかかえる。
78 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:17:46.39 ID:UaHzC7GK0

 「エニャァ」
侑「ほら、エネコ。部屋にお戻り。歩夢のお母さんに遊んでもらいな」
 「ニャー」

歩夢「ゴースト、そろそろ放して……ね?」
 「ゴス…」

侑「ほら、歩夢が困ってるよ」

 「ゴス…」


ゴーストはしぶしぶ、歩夢から離れて、壁の向こうに消えていく。


侑「ハネッコは……」


たぶん、歩夢の頭に乗ってるだけかな……。


歩夢「うん……ハネッコ、『プロペラ』」
 「ハネ〜〜」


歩夢が『プロペラ』と言うと、ハネッコは頭の葉っぱを回転させながら、ふわ〜と浮上していく。

無事みんなから解放されたところで、


侑「歩夢、今のうちに」

歩夢「う、うん! みんな行ってくるね!」


歩夢の手を引いて、玄関から脱出。


歩夢「ふぅ……ありがとう、侑ちゃん」

侑「あはは、家から出るだけで一苦労だね」


毎度のことながら苦笑いしてしまう。歩夢は本当にポケモンに好かれる体質というか、なんというか。


リナ『すごい数のポケモンと暮らしてるんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「うん、お外で遊んでるときに、仲良くなった子が付いてきちゃったりとかで……気付いたら……」

リナ『それにしても、ゴーストが家庭にいるのは珍しい。あまり人のもとに居付くポケモンじゃないから』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「3年前にゴーストポケモンが大量発生したことがあって、そのときに住み着いたんだよね」

歩夢「うん、それ以来ずっと一緒に暮らしてるよ」


あのとき、最初は歩夢が攫われるかもって大騒ぎになったけど、結局歩夢はゴーストと遊んでただけだったんだよね……。

……っと、それはともかく。


侑「歩夢、準備は良い?」

歩夢「あ、うん!」

侑「それじゃ、旅に出発しよう!」
 「ブイ♪」


予定より1日遅れてしまったけど、ついに私たちの冒険の旅のスタートです……!


リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||



79 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:19:19.08 ID:UaHzC7GK0

    🎹    🎹    🎹





──さて、旅が始まるのはいいんだけど……。


侑「どこに向かおうか……」


考えてみれば、旅の目的を特に決めていなかった。

セキレイシティは東西南北に道があるから、目的次第でどこに行くかが変わってくる。


歩夢「侑ちゃんはこの旅で何がしたい? 侑ちゃんが決めていいよ♪」

侑「え? でも、これは歩夢の旅だし……」


図鑑と最初のポケモンを託されたのは歩夢なわけだし……まあ、私も結果として図鑑を渡されたけど……。


歩夢「私は侑ちゃんの行きたい場所に行きたいな♪」

侑「うーん……なら、やっぱりジムを巡りたいかな……」


バッジケースを開くと、“アンカーバッジ”がキラリと光る。

せっかくなら、各地のジムを制覇して、このバッジケースをいっぱいにしたい。


リナ『そうなると、行先は北のローズシティ、西のダリアシティ、南のアキハラタウンから流星山を越えて、ホシゾラシティを目指すかのどれかだね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「結局あんまり選択肢が減ってない……」

リナ『効率的に巡って行くなら西ルートか南ルートだと思う。北ルートはローズシティのあと、クロユリシティかヒナギクシティだけど、どっちも遠いし、ジムを終えたら来た道を戻らないといけない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「ヒナギクからは一応ダリアに行けなくもないけど……確かにカーテンクリフを越えるのは現実的じゃないかもね」

歩夢「南もすぐに山越えがあるから……そうなると、西ルートがいいのかな?」

侑「じゃあ、西ルートでダリアシティを目指そう!」

歩夢「はーい♪」


……と言うわけで、私たちは昨日と同じように西側の6番道路へ向かいます。





    🎹    🎹    🎹





──6番道路・風斬りの道。


侑「歩夢! 準備OK?」

歩夢「うん、いつでも大丈夫だよ。サスケ、走るからね」
 「シャー」

侑「イーブイも振り落とされないようにね」
 「ブイ」

歩夢「あと……ヒバニー、出てきて!」


歩夢がボールを放ると──


 「──バニ!!」


ヒバニーが顔を出す。
80 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:20:28.89 ID:UaHzC7GK0

歩夢「ヒバニーは走るの大好きだから、一緒に走ろうね♪」
 「バニバニ♪」


私たちは先ほどレンタルサイクルで借りた自転車にまたがったまま、今から走る道を見据える──5番道路まで続く長い大橋を。

この橋の上はサイクリングロードになっているから、自転車がないと通り抜けが出来ない。

なので、セキレイシティ⇔ダリアシティの行き来の際はこうして自転車を借りるのが基本となっている。

ちなみにポケモンは大型ポケモンでなければ走ってもOKだ。


侑「リナちゃんはどうする?」

リナ『あんまり速いと追いつけなくなっちゃうから、バッグの中にいる』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

侑「わかった」


リナちゃんがバッグに入ったのを確認して、


侑「よし、歩夢行こうか」
 「ブイ」

歩夢「うん♪」
 「シャボ」「バニバニッ」


私たちはサイクリングロードを走り出す。





    🎹    🎹    🎹





侑「──風が気持ちいい〜♪」

歩夢「ホントだね♪」


歩夢と並びながら、自転車で風を切って走る。


 「バーニバニニニ!!!!!」
歩夢「ふふ♪ ヒバニーも楽しそう♪」


すぐ横の橋の柵上を並走してするヒバニーを見て、歩夢が嬉しそうに笑う。


侑「いいなぁ、私も一緒に走ってくれるポケモンがいれば……」

歩夢「ふふ♪ 大丈夫だよ、上を見て!」

侑「え?」


歩夢の言葉に釣られるように上を見ると──


侑「わぁ……!」

 「ポポ」「スバーーー」「ピィィーー」「ミャァミャァ」


いろんな鳥ポケモンたちが私たちの上を飛び回っている。

ここ風斬りの道は鳥ポケモンの名所。気が付けば、あちこちに鳥ポケモンたちが飛び回っている姿を見ることが出来るようになっていた。


リナ『見えてないけど、かなりの数のポケモンの反応』


バッグからリナちゃんの声。
81 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:21:39.20 ID:UaHzC7GK0

侑「ホントにすごい数かも!」

歩夢「すごいね、侑ちゃん!」

侑「うん!」


何匹かは歩夢のすぐ傍を並んで飛んでいる。もしかして、歩夢に寄って来てるのかな?

スバメやポッポ、ヤヤコマやムックルのような、街でもたまに見かけるポケモンの他にも──


侑「わ! あれってキャモメだよね!? 海で見るポケモン!」

歩夢「うん! キャモメだけじゃないよ! ペリッパーも!」

侑「! あれってヒノヤコマかな!? 初めて見るよ!」


旅……楽しい!!

旅立ち早々、見たこともないような景色に遭遇して、幸せな気持ちになってくる。


侑「でも、こんなにポケモンがいるなら……捕まえてみたいなぁ」
 「ブイ…」


考えてみれば、イーブイは自然になついて仲間になってくれた子だから、実際にポケモンバトルをして、捕まえることが出来たポケモンはまだいない。

良い機会だし、1匹くらい狙ってみるのもいいかもしれない。


侑「おーい! 誰かー! 私とバトルしてよー!!」


空を飛ぶポケモンたちに声を掛けるけど──鳥ポケモンたちは、私のことなんか特に気にならない様子で、風を受けて飛び続けている。


侑「……相手にされてない」

歩夢「あはは……どっちにしろ、イーブイだけだと飛んでるポケモンたちと戦うのは難しいかもしれないよ?」

侑「まあ、それもそっか……」


残念だけど、歩夢の言うとおりかも……。大人しく、風斬りの道を抜けた先で捕獲しよう……。

と思った瞬間──


リナ『ポケモン反応!! 背後から急接近!!』


リナちゃんがバッグの中から叫ぶ。


侑「え!?」

 「ワシャァーーー!!!!!」


振り返ろうとした瞬間、背負ったバッグを何かに掴まれる。


侑「ちょ、タ、タンマ……!!」


何かが強い力で後ろから引っ張ってきている。自転車で走っている真っ最中だから、このままだと……転んじゃう……!!


侑「イーブイ!! “でんこうせっか”!!」
 「ブイ!!!」


頭の上のイーブイが──ヒュンと風を切りながら、後ろでバッグを掴んでいるポケモンに突進する。


 「ワシャァッ!!!」
82 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:23:42.05 ID:UaHzC7GK0

攻撃が直撃したのか、短い鳴き声と共に──


侑「っ!?」


後ろに引っ張る力が急になくなったせいで、前につんのめりそうになる。


歩夢「侑ちゃん!?」

侑「だい、じょう、ぶっ!!」


ブレーキをめいっぱい握りしめながら、足を地面に着けて、無理やり急ブレーキを掛ける。

──ギャギャギャっと、ちょっとヤバい音はしたものの、


侑「セ、セーフ……」


どうにか止まれた。

そのまま、すぐに後ろを振り返ると──


 「ブイ…!!!」
 「ワシャッ!!」


イーブイと1匹の鳥ポケモンが向き合って、睨み合っているところだった。


侑「リナちゃん!」

リナ『うん!』 || ˋ ᨈ ˊ ||


リナちゃんがバッグから飛び出す。


リナ『ワシボン ヒナわしポケモン 高さ:0.5m 重さ:10.5kg
   どんなに 強い 相手でも 見境なく 勝負を 仕掛ける。
   倒れるたびに 傷つくたびに 強く たくましく 育っていく。
   強い 脚力と 丈夫な ツメで 硬い 木の実も 砕く。』

侑「ワシボン……!」


好戦的なポケモンだから、私に飛び掛かって来たんだ……!


侑「いいよ! なら、バトルしよう! ワシボン!」

 「ワシャ!!!!!」


ワシボンが空を切って突っ込んでくる。


侑「イーブイ! “たいあたり”!!」
 「ブイィ!!!」


2匹が正面からぶつかり──


 「ブィッ!!!」
 「ワシャッ!!!」


両者、攻撃が打ち合って後退する。


 「ワシャッ!!!!」


ワシボンは後退したと思ったら、すぐに近くの鉄橋のアーチの方に向かって飛んでいく。


侑「あ、あれ?」
83 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:25:02.63 ID:UaHzC7GK0

もしかして、今ので逃げちゃうの……?

私が軽く拍子抜けした瞬間──

──ギャギャギャギャっと耳障りが音が響く。


侑「う、うるっさ……!? “いやなおと”!?」

リナ『ワシボンは“いやなおと”は覚えない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「じゃあ何!?」

歩夢「つ、爪を研いでるんじゃないかな……っ?」


歩夢が耳を押さえながら近付いてくる。


リナ『歩夢さん正解! リナちゃんボード「ピンポーン♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「つ、つまりそれって……! “つめとぎ”……!?」

 「ワシャァッ!!!!!」


爪を研ぎ終わったワシボンが、鉄橋のアーチを蹴って、一気にこちらに向かって飛び出す。

攻撃力を上げて突っ込んでくる……!?


 「ブィィ!!?」


急なことに対応出来ず、イーブイに“つばさでうつ”が直撃する。


侑「イーブイ!?」
 「ブ、ブイイィ…!!!」


イーブイは攻撃を受けて、吹っ飛び転がりながらもすぐに体勢を立て直す──が、


 「ワッシャァッ!!!!!」


吹っ飛んだイーブイを追いかけるように、ワシボンが追撃してくる。

再び大きく振るった翼に──


侑「イーブイ!! “しっぽをふる”!!」
 「ブーーイ!!!!」


大きな尻尾で追い払うように、攻撃を受ける──


 「ブィ…ッ!!!」


ノーダメージとまではいかなかったけど、幸いにも十分勢いを殺せた……!

と、思った瞬間──


 「ワシャァ!!!!!」
 「ブィィ!!!?」

侑「ええ!?」


逆の翼が襲い掛かって来た。


リナ『あれは“ダブルウイング”!? あのワシボン珍しい技覚えてる!?』 || ? ᆷ ! ||


 「ブ、ブィィ…!!!!」


イーブイはよろけながらも、後退しながらステップを踏むようにして、なんとか持ちこたている。
84 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:26:17.08 ID:UaHzC7GK0

 「ワシャァ!!!!」


再び翼を広げて、飛び掛かってくるワシボン。


リナ『侑さん!! また来る!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


二発来るってわかってるなら、こっちも……!!


侑「イーブイ!! “にどげり”!!」
 「ブイッ!!!!」


イーブイは後ろ脚で、一発目の攻撃を受けるように翼を蹴り上げる。


 「ワシャッ!!!!」


先ほどのように、飛んでくる逆の翼での攻撃も──


 「ブイッ!!!!」
 「ワシャッ!!!?」


二発目の蹴りで迎撃する。


侑「二連続で攻撃出来るのは、そっちだけじゃないよ!」


自慢の攻撃が捌かれたためか、ワシボンに一瞬動揺が見えた。


侑「今だ!! “すなかけ”!!」
 「ブイッ!!!!」

 「ワシャッ!!?」


一瞬の隙を突いて、ワシボンの顔に砂を直撃させる。


 「ワ、ワシャァァ!!!!!」


目潰しを食らって、ワシボンはよたよたしながら、翼をぶんぶんといい加減に振り回す。

でも、そんな適当な攻撃は当たったりしない。この隙に決める……!!


侑「いっけぇ!! “たいあたり”!!」
 「ブーーイ!!!!!」

 「ワシャァ!!!?」


攻撃が直撃し、ワシボンが後ろに向かって吹っ飛んでいく。

そこに向かって私は──


侑「いっけーーー!! モンスターボール!!!」


モンスターボールを投擲した。

──パシュン!! ワシボンにボールが直撃し、中に吸い込まれる。


侑「お願いお願い……!!」


モンスターボールは一揺れ、二揺れ、三揺れしたのち……大人しくなった。
85 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:26:57.10 ID:UaHzC7GK0

侑「……やった」
 「ブィ」

侑「やったぁぁ!! 初捕獲成功ーーー!!!」
 「ブィブィ♪」


イーブイが私の胸に飛び込んでくる。


侑「イーブイ! 私たち捕獲出来たよー!!」
 「ブイブイ!!!」


二人で喜びを分かち合っていると──


歩夢「侑ちゃん、おめでとう!」


歩夢が自転車の乗ったまま、近寄ってくる。


侑「えへへ、ありがと歩夢♪」

歩夢「うん♪ それじゃ、イーブイは怪我を治そうね♪」


歩夢はそう言いながら、イーブイに“きずぐすり”を噴きかける。


 「ブイー♪」

歩夢「よし♪ これで、元気になったね♪ ワシボンも治療してあげないと♪」


ニコニコしながら、今捕まえたばかりのモンスターボールの方へ近付いていく。


侑「あ、ちょっと歩夢!? 最初にボールから出すのは私がやるって!?」

リナ『確かにこれだと、どっちが“おや”なのかわからない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「私がワシボンの“おや”だからー!?」


初めての捕獲の喜びも束の間、私は歩夢に先を越されまいと、慌ただしくモンスターボールのもとへ急ぐのだった。





    💧    💧    💧





──セキレイデパート。


しずく「“モンスターボール”は買いましたね。あとは“きずぐすり”と……“どくけし”や“まひなおし”も買っておかないと……」
 「マネマネェ…」


私が道具の棚の前で腕組みしながら考えていると、足元でマネネも腕組みをして考える素振りをする。


しずく「マネネったら、また私の真似して……」
 「マネネ」

 「──あれ、しずくちゃん?」

しずく「?」
86 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:28:08.27 ID:UaHzC7GK0

声を掛けられて振り返る。そこにいたのは──


しずく「あ……ことりさん」

ことり「こんにちは♪」


ことりさんだった。


ことり「旅に出たんだと思ってたけど……まだ、セキレイシティにいたんだね?」

しずく「はい。まだ、かすみさんが研究所で片付けの手伝いをしている真っ最中でして……」

ことり「待ってあげてるの?」

しずく「なんというか……かすみさんを一人放って行くのも少し気が引けますし……」

ことり「ふふ、そうなんだ♪ しずくちゃんは友達想いなんだね♪」

しずく「い、いえ……/// な、何より、一人で行かせるのが心配なので……!///」

ことり「そっかそっか♪」

しずく「うぅ……///」
 「マネ…///」


なんだか見透かされているようで恥ずかしい。というか、マネネはこういうところまで真似しなくてもいいのに……。


ことり「それじゃ、かすみちゃんのお手伝いが終わるまで、しずくちゃんは時間があるんだね?」

しずく「はい……むしろ、すでに暇と言いますか……」


かすみさんのお手伝いはもう少し時間が掛かりそうですし……。

こうして、買い物をしに来てはいるものの、最低限の旅の準備は昨日の時点で終わっていたわけで……。


ことり「なら、しずくちゃん、ことりのお家においでよ♪」

しずく「……え?」

ことり「というか決定です♪ それじゃ、行こう〜♪」

しずく「え!? えぇ〜!!?」
 「マネネェ!!?」


ことりさんは私の返事も聞かずに、私の手を引いて歩き出してしまいました。





    💧    💧    💧





ことり「いらっしゃいませ♪ ことりのお家へ♪」

しずく「え、えっと……お邪魔します」
 「マ、マネネェ…」


連れてこられたのは侑先輩と歩夢さんが住んでいるマンションの一番上のお部屋。

ことりさんも、同じマンションに住んでいたんですね……。

それにしても……。


 「ピィー」「ポポ」「ピピピヨ」

しずく「すごい数の鳥ポケモン……」
 「マネネェ」
87 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:29:30.66 ID:UaHzC7GK0

さすが、ひこうタイプをエキスパートとしている四天王……。

……というか、私は何故ここに連れてこられたのでしょうか?


ことり「しずくちゃんはどんな鳥ポケモンが好き?」

しずく「え? えっと……どんなと言われると難しいですね……」

ことり「かわいいとか、かっこいいとか、そういう大雑把なことでもいいよ♪」

しずく「えっと……力強い美しさがあるポケモン……でしょうか」


鳥ポケモンに限らず、内に秘めたエネルギーがあるポケモンが好き……だと思う。

我ながら、具体性に欠ける気がするけど……。


ことり「力強い美しさだね♪ わかった、いい子がいるから待っててね!」

しずく「は、はぁ……」

ことり「ココラガ、おいで!」


ことりさんが呼ぶと──


 「ピピピピィィーーー」


小さな鳥ポケモンが飛んできて、ことりさんの腕の上に止まる。


しずく「あ、このポケモン……」


目の前のポケモン──ココガラには、少しだけ見覚えがあった。


ことり「あれ? もしかして、ココガラ知ってるのかな? この地方では珍しいポケモンなんだけど……」

しずく「は、はい。小さい頃、両親と一緒に旅行で行ったガラル地方で見たことがありまして……」


確かこのポケモンは──


しずく「アーマーガアに進化するんですよね? ガラル地方では交通の便として、私も利用させて貰いました!」


ガラル地方では『空を飛ぶタクシー』として慣れ親しまれている、アーマーガアへ進化することで知られている。


しずく「アーマーガアの力強さ、そしてガラルという地方で人と共存し、生きている姿には幼いながらも感動させられた記憶があります……!」


あそこまで人とポケモンの生活が密接に結びついているのは、なかなか珍しいことだ。


ことり「そうなんだ! じゃあ、しずくちゃんにぴったりかも! よかったね、ココガラ♪」
 「ピピピピィィーー」

しずく「よかった……? あの、ことりさん……私は一体何をすれば……」


というか、何をさせられるんでしょうか……? 困惑していると──


 「ピピピピィーーー」

しずく「きゃっ!?」


ココガラはことりさんの腕から飛び立ち、今度は私の頭の上に止まる。
88 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:30:47.43 ID:UaHzC7GK0

しずく「え、えっと……」

ことり「ふふ♪ ココガラもしずくちゃんが気に入ったみたいだね♪ それじゃ、よろしくね♪」

しずく「……? えっと、よろしくとは一体……?」

ことり「ココガラと仲良くしてあげて欲しいな♪」


どうにも、会話が噛み合っていないような……。


しずく「…………もしかして、このココガラ……頂いても良いということでしょうか?」

ことり「あれ? 言ってなかったっけ?」

しずく「えっと……とりあえず、今のところは何も……」


そういえば、この街の子供はみんな、ことりさんから鳥ポケモンを貰う習慣があると、前に学校で聞いたことを思い出す。

通っていたのがセキレイシティの学校だったため、生徒のほとんどは幼少期にことりさんから鳥ポケモンを貰っていると言っていた気がします。

もちろん、かすみさん、歩夢さん、侑先輩も例外ではなく……というか、この話は昨日もしていましたね。


ことり「私、セキレイシティの子には、鳥ポケモンをよくプレゼントしてるんだよ♪」

しずく「ですが……いいんですか?」

ことり「ん〜?」

しずく「私はセキレイシティ出身ではなく、サニータウンから来ているので……」

ことり「でも、ここから旅立つんだったら、もうセキレイシティの子も同然だよ〜♪」


そ、そういうものなんでしょうか……?


ことり「別にセキレイシティの子にあげるって決まりがあるわけじゃないし……実際セキレイシティの出身じゃない、曜ちゃんにもあげたことがあるし♪」

しずく「え、そうなんですか?」

ことり「うん♪ まだ曜ちゃんが駆け出しのトレーナーだった頃だけどね♪」


街の人たちに慕われているジムリーダーの曜さんが、駆け出しだった頃……あまり想像が出来ませんが……。

そういえば、ことりさんと曜さんは師弟関係だという話を聞いたことがあった気が……確かにそれなら、ポケモンを譲り受けていてもおかしくない……のかな。


ことり「これはあくまでトレーナーデビューしたしずくちゃんへの、お祝いの気持ちだよ♪ だから、しずくちゃんもココガラと仲良くしてあげて欲しいな♪」

しずく「……わかりました。そういうことでしたら、ありがたく頂戴します……! よろしくね、ココガラ」
 「ピピピィィィーー」

ことり「うん♪ それじゃ、ことりはお仕事があるから、そろそろウテナシティのリーグに戻らなきゃ」

しずく「お、お仕事前だったんですか!? す、すみません……」

ことり「うぅん、気にしないで♪ ことりも好きでやってることだから♪」


ニコニコ笑いながら言うことりさんと共に、ことりさんの部屋を出る。


ことり「それじゃ、冒険の旅楽しんで来てね♪」

しずく「はい! ありがとうございます!」
 「ピピピピィィーー」

ことり「ココガラも、しずくちゃんの言うこと、ちゃんと聞いてあげてね♪」

 「ピピピピピィィィーーー」

ことり「よし! それじゃ、またね、しずくちゃん!」


ことりさんはそう言いながら──突然、手すり壁に手を掛け身を乗り出し、マンションの廊下を飛び降りた。


しずく「!?」
89 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:31:54.70 ID:UaHzC7GK0

ここ10階ですよ……!? 驚くのも束の間──目の前を、大きな綿雲の翼が飛翔していく。


しずく「チ、チルタリス……」


ことりさんは、空中で出したチルタリスに乗り、優雅に飛び去って行ったのでした。


しずく「さすが……ひこうタイプのエキスパート……」


移動も自由自在ですね……。

しばらく、感心やら驚嘆やらで呆然としていましたが……。


 「マネマネ」「ピピピピィーー」
しずく「……あ、うん。ここでボーっとしてても仕方ないよね」


ポケモンたちの声で現実に引き戻された私は、かすみさんの様子を見に、研究所へと足を向けるのでした。





    🎹    🎹    🎹





ワシボンを捕獲したあと、順調に橋を進んで──


侑「風斬りの道、抜けた〜!」


5番道路に到着した。


歩夢「やっぱり自転車があると、早いね♪」

リナ『障害物がない一直線の道なのもあるかも』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


気付くと、風斬りの道を抜けたからか、リナちゃんも外に出てきている。


歩夢「この調子だと、すぐにダリアシティだね」


歩夢の言うとおり5番道路に入って、少し南下すればダリアシティはすぐそこにある。

宿の問題もあるし、早めにダリアシティに到着出来るに越したことはないんだけど──


侑「ねぇ、歩夢。ダリアシティもいいんだけどさ……」

歩夢「え?」

侑「せっかくここまで来たなら……もっと近くで見たくない?」


言いながら指差す先は──ここから北にある、オトノキ地方随一の断崖絶壁。


侑「カーテンクリフ……!」

歩夢「わ……! 気付いたら、クリフにこんなに近付いてたんだね」


まだ結構距離があるはずなのに、目の前に聳え立っている自然の大壁は、かなりの存在感を放ちながら私たちを見下ろしている。
90 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:33:03.47 ID:UaHzC7GK0

侑「せっかくの旅なわけだしさ! 近くで見てみない?」

歩夢「ふふ♪ 侑ちゃんが行きたいなら、いいよ♪」

侑「やった♪」

リナ『それじゃ、進路は一旦北の7番道路に変更だね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

 「バニバニッ!!!!」


進路変更を聞いて、ヒバニーがぴょんぴょんと跳ねる。


歩夢「ヒバニー、まだ走る?」
 「バニバニッ!!!!」

侑「もっと走れて嬉しいー! って感じかな?」

歩夢「うん、そうみたい」

侑「ヒバニー、ホントに元気だね」

歩夢「うん。サスケとは正反対」
 「…zzz」


気付けばサスケは、歩夢の肩に乗ったままお昼寝中。器用だ……落ちないのかな。


侑「イーブイは走る?」
 「ブイ…」


訊ねると、イーブイは私の肩に乗ったまま、小さく鳴くだけだ。


侑「あはは、イーブイも大人しいね……」


戦闘のときはあんなに頼もしいんだけどね……。


侑「よっし! とにかく、カーテンクリフ目指してレッツゴー!」

歩夢「おー♪」

リナ『はーい♪』 || > 𝅎 < ||





    🎹    🎹    🎹





──しばらく自転車を走らせ、7番道路。


侑「着いたね……」

歩夢「うん……」

侑「見えてるのに、なかなか辿り着かないとは思ってたけど……」


辿り着いたカーテンクリフの麓から見上げる断崖絶壁は、予想以上のスケール感だった。

頂上は雲に遮られて、ここからだと全く見えない。ここまで続いていた道路を急に遮る形で存在しているソレは、まさにオトノキ地方のカーテンの異名に相応しいかもしれない。


歩夢「子供の頃から遠くに見てはいたけど……近くで見るとこんなにおっきいんだね……」

侑「うん……! やっぱ、実際に間近で見るとときめいちゃう……!」

歩夢「ふふ♪ ここまで来てよかったね♪」

侑「うん! あ、そうだ! せっかくだし、行けるところまで麓沿いに行ってみようよ! どれくらいカーテンなのかを自分の足で、もっと体感したい!」
91 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:34:08.81 ID:UaHzC7GK0

私は自転車を停めて、麓沿いに駆け出す。


 「ブイ…」


イーブイはのんびりしたかったのか、私の頭から飛び降りちゃったけど……まあ、いいや!


歩夢「あ、ちょっと待って侑ちゃん……!」

 「バニバニ〜!!!!」
歩夢「あ、ちょっと……! ヒバニーも……!」

侑「お、ヒバニー競争する?」
 「バニバニ!!!!」

侑「じゃあ、どっちが先に端に辿り着くかの勝負だよ♪」
 「バニー♪」

歩夢「端まで行ってたら日が暮れちゃうよぉ〜……」


半ば歩夢を置いていきかねない勢いで、ヒバニーと一緒に走り出した矢先──


リナ『ゆ、侑さん!? 上!!』 || ? ᆷ ! ||


リナちゃんが急に大きな声をあげた。


侑「上?」
 「バニ?」


ヒバニーと一緒に上を見上げると──大きな影が見えた。


侑「!?」


頭上から何かが落ちて来ていると気付いたときには──もう直撃ルートだった。


歩夢「侑ちゃん!! ヒバニー!!」
 「ブイブイ!!!!」

侑「っ……!!」


咄嗟に足元のヒバニーを掴んで、


 「バニッ!!!?」


歩夢の方に全力で放り投げる。


歩夢「! ヒバニー!!」
 「バニッ」


歩夢がキャッチしたのを確認したけど──


侑「っ……!」


もう目と鼻の先に迫る落下物。もうダメだ──そう思って目を瞑った瞬間、


 「──ウインディ!! “しんそく”!!」


響く声と共に、自分の身体がふわっと浮いた気がした。

──直後、ガァーーーン!!! 重い物が落下したんだとわかる大きな音が衝撃を伴って空気を震わせる。
92 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:35:06.34 ID:UaHzC7GK0

 「お怪我はありませんか!?」

侑「……え……?」


間近で声が聞こえて、目を開けると──


侑「!!?!? え、せつ……っ!!?!?」


目の前に、同い年くらいの見覚えのある女の子の顔。

そして、周りの景色が高速で流れている。

あまりの情報量の多さに混乱する中、


 「ボスゴーーーードラァ!!!!!!!」


響き渡る、低い鳴き声。


 「まだ、戦闘不能になってない……! このまま、決めます!! 掴まっていてください!!」

侑「へ!? えぇ!?」

 「ウインディ!! “インファイト”!!」
  「ワォォォーーーン!!!!!!」


揺れる景色がさらに激しくブレる。辛うじて前方に目を向けると──ウインディが、牙や頭、前足でボスゴドラに猛攻撃を食らわせているところだった。


 「ゴォーードラァ…ッ」


そして、その攻撃を受け、ボスゴドラは吹っ飛ばされながら、崩れ落ちた。


 「ふぅ……どうにかなりましたね。すみません、大丈夫でしたか?」


そう言いながら、目の前の女の子が私の顔を覗き込んでくる。


侑「は、はい……っ……///」


顔がカッと熱くなるのを感じた。何せそこにいたのは──


せつ菜「それなら、何よりです!」


──私の憧れのトレーナー、せつ菜ちゃんだったからだ。



93 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:36:01.11 ID:UaHzC7GK0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【7番道路】【セキレイシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||  |●|.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.10 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.9 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:23匹 捕まえた数:2匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.8 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.7 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:52匹 捕まえた数:10匹

 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.5 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.5 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ココガラ♀ Lv.5 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:44匹 捕まえた数:3匹


 侑と 歩夢と しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



94 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 23:52:59.14 ID:UaHzC7GK0
 ■Intermission🐥



只今ことりは、ウテナシティに戻る真っ最中。


ことり「……」


空を切りながら飛ぶチルタリスの背後から、


ことり「……やっぱり、視られてるよね」
 「チルゥ」


ずっと視線を感じていた。

それも今日に限ったことじゃない、ここしばらくはずっとだ。

気のせいかな……とも思っていたけど、いい加減犯人さんを突き止めてしまった方がよさそうだ。

私は背後を振り返り、


ことり「追いかけてきている人!! 出て来てください!!」


背後に向かって大きな声で呼びかける。

ただ、ここは上空。隠れる場所なんてないはず。

だからこそ、ことりも気のせいだと思っていたんだけど……あまりに強い視線──というよりも、圧を背中に感じ続けていた。

何かがいるのはほぼ間違いないと、ことりの勘がそう言っていた。

その刹那──


ことり「きゃぁっ!?」


突風のように何かがことりの横を猛スピードで横切った。


ことり「やっぱり何かいる……!!」
 「チルゥゥゥ!!!!!!」


一気に臨戦態勢に入るものの──ギュンッ!!


ことり「っ……! 回避っ!!」
 「チルゥッ!!!」


咄嗟に回避を指示。

チルタリスは身を捩り、辛うじて避けられたものの、相手の動きが速過ぎて姿が捉えられない。

恐らく、純粋なスピードだけで逃げ切るのはチルタリスでは難しい。

もっと、スピード重視の子に入れ替えるのも考えたけど──

私はすぐに、純粋な速さ比べも力比べもするべきではないと判断する。

何故なら──私の知る限り、こんな高速で飛行しながら、攻撃を行うポケモンは“ひこうタイプ”には存在しないと思ったから。

相手が何者かもわからないまま、隠れる場所もないこの空中で、戦いを続けるのは得策じゃない。


ことり「……ならっ!!」
95 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 23:53:40.98 ID:UaHzC7GK0

隠れる場所がないからこその、迎撃方法で立ち向かう……! ことりは両手で耳を塞ぎながら──


ことり「“ハイパーボイス”!!!」
 「チィィィルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!!!」


空間一帯を爆音で攻撃する。

チルタリスを基点に広がる振動のエネルギーが、周囲の空気を激しく震わせたのち──


ことり「……い、いなくなった……かな……?」


先ほどまで、空気を裂きながら飛翔していたポケモンの攻撃は、スンと止む。


ことり「……逃げたのかな……?」


無差別の音波攻撃によって、撃墜した可能性もあるけど……深追いは禁物かな。


ことり「チルタリス、少し時間掛かっちゃうけど……高度を下げて向かおっか」
 「チル」


私は出来るだけ遮蔽物のある地表付近を飛びながら、ウテナシティを目指すことにする。

帰ったら、すぐに海未ちゃんに報告しないと……。


………………
…………
……
🐥

96 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:15:39.38 ID:sJcXG/TG0

■Chapter005 『憧れのトレーナー』 【SIDE Yu】





せつ菜「──改めて、お怪我はありませんか?」


ウインディから降ろして貰うと、せつ菜ちゃんは再び私の顔を覗き込みながら、そう訊ねてくる。


侑「は、はい……っ」


軽く声を上ずらせながら返事をすると、せつ菜ちゃんは少し不思議そうに首を傾げる。


せつ菜「……やはり、どこか調子が悪いんじゃ……」

侑「い、いえっ!!」

せつ菜「そうですか……? なら、いいのですが……」


せつ菜ちゃんと直接話しているという事実に軽く動転していると、


歩夢「侑ちゃーん!!」
 「ブイブイ!!!」「バニーー!!!!」


歩夢とイーブイ、そしてヒバニーがこちらに駆け寄ってくる。


 「ブイーーー!!!!」「バニーーー!!!」


そのまま、イーブイとヒバニーが飛びついてくる。

侑「おとと……イーブイ、私は無事だよ。心配掛けてごめんね。ヒバニーも怪我がなさそうでよかったよ」
 「ブイ…」「バニー!」

せつ菜「! あなたのポケモンと……そちらは連れの方ですか?」

歩夢「は、はい……! 侑ちゃんを助けていただいて……。……え?」


歩夢もせつ菜ちゃんに気付いたらしく、言葉を詰まらせる。まあ、あれだけ一緒にビデオ見てたし、歩夢も気付くよね……。


せつ菜「? どうかされましたか?」

侑「えっと……」

せつ菜「?」

侑「せつ菜ちゃん……ですよね?」


私がそう訊ねると、せつ菜ちゃんは少し考えたあと、


せつ菜「……もしかして、どこかでお会いしたことが……?」


と、明後日の方向に結論が出た模様。


侑「い、いや……ポケモンリーグ決勝戦での試合で見たことがあって……」

せつ菜「ああ、なるほど! 観戦してくださってたんですね!」


せつ菜ちゃん……自分が有名人だって自覚ないのかな……?
97 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:16:34.90 ID:sJcXG/TG0

せつ菜「知ってくださっているなんて光栄です。そんな方を巻き込んでしまったなんて……面目ないです」

侑「巻き込んでしまった……? むしろ、助けてもらって……」

せつ菜「いえ……先ほど降ってきたボスゴドラは、上で私が戦っていた野生のポケモンなんです……」

歩夢「こんな場所でバトルを……?」

せつ菜「はい、修行のために……。ですが、ボスゴドラが落ちたあとに、下に人がいることに気付いて、急いで下って来たんです」


それはそれで、すごいような……。崖から落ちてくるボスゴドラに、追いついてきたってことだよね……?


せつ菜「なので、申し訳ありませんでした。まさか、カーテンクリフの麓に人がいるなんて思ってなくて……」

侑「い、いや、いいんです! お陰様で、このとおり無事ですし!」

せつ菜「そう言っていただけると助かります……。えーっと……」

侑「あ、私、侑って言います!」

歩夢「歩夢です、侑ちゃんと一緒に旅をしていて……」

せつ菜「侑さんと歩夢さんですね! 私はせつ菜って言います! ……って、もう知っているんでしたね」


せつ菜ちゃんはコホンと咳払いをする。


せつ菜「ところで、お二人とも見たところ同じくらいの歳に見えますが……」

侑「あ、はい! 私も歩夢も16歳です!」

せつ菜「ということは同い年ですね! でしたら、敬語は使わなくても大丈夫ですよ!」

侑「え、でも……」

せつ菜「どうか、お気になさらず! 私も敬語で話されるのはむず痒いので!」

侑「そ、そういうことなら……じゃあ、敬語は無しで話すね?」

せつ菜「はい!」

歩夢「私もそうした方がいいんだよね……?」

せつ菜「はい! お二人とも、それでよろしくお願いします!」

侑・歩夢「「…………」」


せつ菜ちゃんはまだ敬語なんだけど……。


リナ『お話、そろそろ終わった? 私も自己紹介したい』 || ╹ᇫ╹ ||


そんな中、マイペースに私たちのもとへと、飛んでくるリナちゃん。


せつ菜「おお!? 何やら機械が喋りながら浮いてますよ!?」

リナ『初めまして、リナって言います。ポケモン図鑑やってます』 || > ◡ < ||

せつ菜「ポケモン図鑑!? もしや、噂に聞くロトム図鑑とやらですか?」

リナ『そんな感じ。ロトム図鑑、名前はリナ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

せつ菜「初めて見ました……! ポケモン図鑑に……その子はヒバニーですよね?」


せつ菜ちゃんの視線はリナちゃん、そしてヒバニーを順に見やる。


 「バニ?」
侑「あ、このヒバニーは歩夢のポケモンだけどね」

歩夢「図鑑なら私も持ってるよ。リナちゃんみたいに喋ったりしないけど……」


歩夢がせつ菜ちゃんに見せるために、ポケモン図鑑を取り出す。
98 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:18:11.12 ID:sJcXG/TG0

せつ菜「ふむ、初心者向けポケモンにポケモン図鑑……もしや、新人トレーナーさんですか?」

歩夢「うん、昨日ポケモンを貰って、今日二人で旅に出たところで……」

せつ菜「なるほど……もしかして、それでクリフを見にここまで来られたということでしょうか?」

侑「あはは……実はそうなんだよね」

せつ菜「気持ち、わかりますよ! 確かに旅に出たら一度は近くで見てみたくなりますもんね!」

侑「だよね! 一度は自分の目で確かめてみたくってさ!」

せつ菜「ふふ、いいですね、初々しくて。私も旅に出た頃を思い出してしまいます……! ただ、私はポケモン図鑑や最初のポケモンみたいな子は貰っていませんが……」


せつ菜ちゃんは昔を懐かしむように言う。


せつ菜「少しだけ、お二人が羨ましいです。やはり、図鑑と最初のポケモンを貰って旅に出るのは、多くのトレーナーにとって憧れですから」


確かにせつ菜ちゃんの言うとおり、最初にポケモンを貰って旅に出る……なんて機会を与えられる子供は、そんなに多くない。

私たちだって、学校にいる生徒の中から選ばれたのは歩夢、かすみちゃん、しずくちゃんのたった3人しかいなかったわけだし。


せつ菜「ですので旅に出る前に、街の知り合いの方に捕獲を手伝ってもらって捕まえた──この子が最初の仲間、ということになりますね」
 「ワォン」


せつ菜ちゃんはそう言いながら、横でお行儀よく待っているウインディを撫でる。


侑「このウインディが最初のポケモンだったんだね……!」

せつ菜「はい!」

侑「この子が千歌さんのバクフーンと死闘を繰り広げた、せつ菜ちゃんの相棒だって思うと……! なんだか、ときめいてきちゃった!」

せつ菜「ふふ、ありがとうございます。結局、最後には負けてしまいましたけどね」

侑「でも、すっごい接戦だったよ! 私、あの試合が大好きで、何度もビデオに録画したの見てるんだよ!」

せつ菜「本当ですか? そう言っていただけると嬉しいです! 私もあんなに胸が熱くなった試合は初めてでした……やはり、全身全霊でぶつかり合う試合は心が震えますから!」

侑「うんうん!」


あのせつ菜ちゃんからの生感想にちょっと感激している自分がいる。


せつ菜「あのバトルは、言葉を交わしているわけではないのに、まるで千歌さんと会話をしているかのように千歌さんの気持ちが伝わってきて……本当に最高の試合でした」

侑「気持ちが伝わってくる……」


そっか、せつ菜ちゃん……あの試合のとき、そんなこと考えてたんだ。

話を聞いていたら、私も胸が熱くなってきた。

私も……そんなトレーナーになれるかな?


侑「……あ、あのさ、せつ菜ちゃん」

せつ菜「なんでしょうか?」


私は、せつ菜ちゃんを目の前にして、憧れのトレーナーを目の前にして、話を聞いて……どうしても、


侑「私とポケモンバトルしてくれないかな……!」


せつ菜ちゃんとバトルしてみたくなってしまった。
99 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:19:15.16 ID:sJcXG/TG0

せつ菜「え?」

リナ『侑さん、それは無謀。どう考えてもレベルが違い過ぎる。今の侑さんじゃ、絶対勝てない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

せつ菜「いえ、勝負は時の運。どんな戦いにも絶対はありませんよ、リナさん」

リナ『……一理ある。訂正する。99.9%勝てないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃん意外と毒舌だね……。


侑「……それでも、一度戦ってみたいんだ! せつ菜ちゃんと! せつ菜ちゃんは私の目標だから……! 今の私とせつ菜ちゃんがどれくらい遠いのか、知りたくって!!」

せつ菜「……ふふ♪ そんな風に言われたら断れませんね! いいですよ、侑さん! バトルしましょう!」


せつ菜ちゃんが私からの挑戦に、嬉しそうに笑う。


歩夢「え、ええ!? 本当にバトルするの!?」

せつ菜「とはいえ、リナさんの言うとおり、レベルの違いというのは確かにあります」

リナ『それに侑さんの手持ちはまだ2匹しかいない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

せつ菜「ですので、こうしましょう! 今回私は、このウインディ1匹で戦います!」
 「ワォン」

せつ菜「侑さんは今出来る全力でぶつかって来てください!」

侑「今出来る全力……! うん、わかった!」


私はボールベルトからボールを外して、構える。


歩夢「侑ちゃん……! 頑張ってね!」

侑「うん、ありがとう、歩夢」


歩夢がヒバニーを連れて後ろに下がったのを確認して、せつ菜ちゃんと向かい合う。


せつ菜「それではお相手させていただきます! 侑さん!」

侑「うん!」


すでに構えているウインディのもとへ、私がボールを放ち……ポケモンバトル──スタート!!





    🎹    🎹    🎹





侑「行くよ! ワシボン!!」
 「──ワシャッ!!!!」

せつ菜「行きますよ! ウインディ!!」
 「ワォン!!!!」

侑「ワシボン! 上昇!」
 「ワッシャッ!!!!」


真っ向から打ち合ったら、それこそ勝ち目なんてゼロだからね! まずはウインディの攻撃の届かないところへ……!


せつ菜「常套手段ですが、いい作戦です……! なら、こちらは迎え撃つための準備をするまで! “とおぼえ”!!」
 「ワォーーーーン!!!!!」


ウインディが上を向いて大きく口を開きながら、遠吠えする。
100 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:21:26.42 ID:sJcXG/TG0

リナ『“とおぼえ”を使うと攻撃力が上昇する。放置してるとまずいかも』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「もちろん、のんびり戦うつもりはないよ!!」
 「ワッシャッ!!!!」


ワシボンは一気にウインディの方へ急降下し、翼を構える。


侑「ワシボン! “ダブルウイング”!!」
 「ワシボーッ!!!!!」

 「ワゥッ!!!」


翼を使った二連撃をウインディの頭にお見舞いする。


せつ菜「ウインディ! 捕まえなさい!!」
 「ワォンッ!!!!!」


ウインディはワシボンを捉えようと前足を振り上げるが、


 「ワシボーー」


ワシボンは、上手くウインディの前足を潜り抜けるように回避して、またすぐに飛翔する。


せつ菜「身軽ですね……! 進化前特有の体の小ささを生かそうということですか……!」

侑「スピードもパワーもまだまだだけど、体の小ささは武器にもなるからね!」

せつ菜「ふふ……新人トレーナーとは思えない、良い着眼点ですね!!」

侑「えへへ……///」


あのせつ菜ちゃんに褒められるなんて……対戦相手だって言うのに嬉しくなっちゃう……!


侑「さぁ、このまま畳みかけるよ! ワシボン!」
 「ワシィーー!!!!!」


再度の急降下──今度は爪を構える。


侑「“きりさく”!!」
 「ワシィ!!!!」


この調子で、ヒットアンドアウェイを続ければ──と、思った矢先、


 「ワシィッ!!!?」


ワシボンから悲鳴があがる。


侑「え!? どうしたの、ワシボン!?」

歩夢「侑ちゃん! ワシボンの脚!!」

侑「脚……!?」


歩夢の声に釣られるように、ワシボンの脚を見ると──ワシボンの脚は真っ赤な炎に包まれていた。


侑「炎がまとわりついてる!?」

せつ菜「確かに、ひこうポケモンの機動力と、小柄な体躯を利用したヒットアンドアウェイ。見事な作戦ですが……相手をよく見て攻撃しないといけませんよ!」
 「ワォン」


気付けば、ウインディが体の表面にチリチリと小さな炎を纏っていることに気付く。
101 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:23:47.94 ID:sJcXG/TG0

侑「な、なにあれ……!?」

せつ菜「“かえんぐるま”です! 触れたらやけどしますよ! ──そして、炎が届けばこちらのものです!」
 「ワォンッ!!!!」


次の瞬間、ワシボンの脚にまとわりついていた炎は一気に火力を増して、


 「ワシィッ!!!?」
侑「ワシボン!?」


ワシボンを包み込む渦へと成長していく。


せつ菜「“ほのおのうず”!!」
 「ワァォンッ!!!!」

侑「ワ、ワシボン!! 炎を振り払って、空に離脱して!!」
 「ワ、ワシィ…!!!」


ワシボンは必死にもがくけど……まとわりついた炎は一向に剥がせない。


リナ『“ほのおのうず”で拘束されてる……! バインド状態を解除しないと、逃げられない!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「っ……!!」


どうする、どうする!?


せつ菜「さぁ、ウインディ! 全力で行きましょう!」
 「ワォーーーンッ!!!!!!!」


せつ菜ちゃんの掛け声に呼応するように、ウインディの体の周りにあった“かえんぐるま”がさらに勢いを増し──


せつ菜「“フレアドライブ”!!」
 「ワォーーーーンッ!!!!!!!!」


より強力な炎を纏って、ワシボンに体ごとぶつかってくる。


 「ワシャーー!!!!?」
侑「ワシボン!?」


“フレアドライブ”を受けたワシボンはそのまま吹っ飛ばされ──くるくる回りながら墜落する。


侑「ワ、ワシボン……!」
 「ワシィ…」

リナ『……。ワシボン戦闘不能』 || 𝅝• _ • ||

侑「……そっか、頑張ったね、ワシボン。ボールの中でゆっくり休んでね」


あえなく戦闘不能になったワシボンをボールに戻す。


リナ『……侑さん、続ける?』 || 𝅝• _ • ||

侑「……うん」

リナ『でも……やっぱり、力の差がありすぎる……』 || > _ <𝅝||

侑「いいんだ、私からせつ菜ちゃんにお願いしたことだし。それにまだ勝負は終わってないから……!」

リナ『侑さん……。……わかった』 || 𝅝• _ • ||


私は立ち上がって、もう一度せつ菜ちゃんとウインディに目を向ける。
102 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:25:52.74 ID:sJcXG/TG0

侑「せつ菜ちゃん」

せつ菜「なんでしょうか」

侑「最後まで……手、抜かないでね……!」

せつ菜「もちろんです! 私はいつだって、相手の全力には、全力でお応えしますよ!」

侑「うん! 行くよ!! イーブイ!!」
 「ブィィィィ!!!!!」


私の肩からイーブイがバトルフィールドに踊り出す。戦意は十分……!


侑「イーブイ!! “でんこうせっか”!!」
 「ブイッ!!!!!!」


──ヒュンッと風を切って、イーブイが飛び出す。


せつ菜「ウインディ!!」
 「ワォンッ!!!!!」


せつ菜ちゃんは掛け声と共に、ウインディの向かって左側に身を躍らせ、ウインディは口の炎を溜めながら向かって右側を警戒する。


歩夢「トレーナーが動いた……!?」

リナ『!? これじゃ左右に死角がない!?』 || ? ᆷ ! ||


──知ってるよ……! せつ菜ちゃんが前に試合でやっている姿を見たことがある。

トレーナーがポケモンの死角を庇うことによって、より広い範囲に対する迎撃を可能にする戦術……!

でも、私が選んだのは右でも左でもなくって……!!


 「ブイィッ!!!!!」

 「ワゥッ!!!!?」
せつ菜「!? 正面!?」


イーブイの“でんこうせっか”がウインディの右側頭部に直撃する。


侑「よし! せつ菜ちゃんだったら、絶対に機動力での攪乱を警戒してくると思ったんだ!」
 「ブイ!!!」


イーブイは攻撃を当てた反動を利用して、後ろに飛びながら華麗に着地する。


せつ菜「……! 素晴らしい読みと胆力です……!」

侑「さぁ、続けるよ! イーブイ!」
 「ブイッ!!!」


再び“でんこうせっか”で風を切って、飛び出す。


リナ『次は右!? 左!? 前!?』 || ? ᆷ ! ||

せつ菜「右も左も前も後ろも関係ありません! “バークアウト”!!」
 「ガゥワゥッ!!!!!!!!」


まくし立てるように大きな声で吠え始めるウインディ──全方位攻撃だ。


せつ菜「これで逃げ場は……!」


でも、私が知ってるせつ菜ちゃんなら、絶対に読み合い全体をケアする作戦を取ってくる……だったら、さらに裏をかく……!


せつ菜「……き、消えた!? イ、イーブイはどこですか!?」
 「ワ、ワォンッ!!!?」
103 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:27:25.92 ID:sJcXG/TG0

イーブイを見失ったせつ菜ちゃんとウインディが焦って辺りをキョロキョロと見回す。


侑「イーブイ! “スピードスター”!!」
 「ブイィィィ!!!!!!」

 「ワォォ!!!?」


突如ウインディの真下から、“スピードスター”が炸裂……!


せつ菜「……! 足元……!!」

 「ブイッ!!!!」


視界外からの攻撃に動転したウインディの目の前に、イーブイが跳ねる。


侑「“にどげり”!!」
 「ブーイッ!!!!」

 「キャゥンッ!!!?」


そして鼻っ柱に、蹴りをお見舞いする。

……よし! 押してる……!! でも、


せつ菜「“ほのおのキバ”!!」


せつ菜ちゃんは冷静だった。


 「ワァォンッ!!!!!」
 「ブイッ!!!?」


ウインディは“にどげり”の反動で離脱しようとしていたイーブイに飛び掛かるようにして、噛み付いてくる。


侑「イーブイ!?」


燃え盛る牙で、そのままイーブイを捉え、


せつ菜「そのまま、放り投げなさい!!」
 「ワォンッ!!!!」


上に向かって、放り投げられる。


リナ『空中だと、次の攻撃が避けられない!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「や、やばい!?」


空中に投げられ、回避が出来なくなったイーブイに、


せつ菜「“かえんほうしゃ”!!」
 「ワォーーーーンッ!!!!!!!」


ウインディの口から、火炎が放射される。


侑「イーブイ!!」


絶体絶命の中、


 「ブイ…!!!!」


宙に浮くイーブイの目は──まだ戦意を宿していた。
104 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:28:55.06 ID:sJcXG/TG0

侑「……!」


イーブイが──ゴオッ、と音を立てる灼熱の炎に飲み込まれる。


せつ菜「思わぬ攻撃で苦戦しましたが……! 勝負、ありましたね……!」
 「ワォーーーン!!!!」


勝利の雄たけびをあげるウインディ、だけど……。


侑「いや……まだ、終わってない……」

せつ菜「……え」

 「…ブィィッ!!!!!」


炎に包まれながら落下したイーブイは──まだ、立っていた。

全身に“めらめら”と炎を宿しながら──


せつ菜「な……っ」

侑「行けっ!! イーブイ!!」
 「ブィィィィィッ!!!!!!!!」


灼熱の炎を身に纏った、イーブイが地面を蹴って、飛び出す。


せつ菜「っ……!! ウインディ!! “フレアドライブ”!!」
 「ワォンッ!!!!!」


2匹は全身に炎を纏って、真正面から衝突した……!

──ゴォッ! と音を立てながら、炎が爆ぜ、私たちのところまで、火の粉が飛び散ってくる。


歩夢「きゃぁっ!?」

侑「うわっ……!?」

せつ菜「す、すごい火力……!? 決着は……!?」


爆炎が飛び散ったあと、晴れた視界の先に見えたのは──


 「ワゥ…」


膝を突くウインディと、


 「ブィィ……」


目を回してダウンしている、イーブイの姿だった。


リナ『イーブイ、戦闘不能。よって、せつ菜さんの勝利』 || 𝅝• _ • ||

侑「イーブイ……!」


私はイーブイのもとへと駆け出す。


 「ブィィ…」
侑「頑張ったね、イーブイ……! すごかったよ、さっきの技……!」


全力で戦ってくれた相棒を労いながら、抱きしめる。
105 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:30:17.69 ID:sJcXG/TG0

せつ菜「侑さんっ!」

侑「わぁ!?」

せつ菜「い、今の技なんですか!? 初めて見ました!? イーブイがほのお技を使うことが出来るなんて、知りませんでした!? あれは一体なんという技なんでしょうか!?」


駆け寄って来たせつ菜ちゃんが興奮気味に捲し立ててくる。


せつ菜「あれはウインディから受けた“かえんほうしゃ”を身に纏っていた……? いえ、ですがイーブイは確実にあの炎を自分のモノとして操っているように見えました! 実際、2匹の技がぶつかった瞬間を見れば、あれが偶然自身を焦がす炎を利用したものではなく、イーブイ自身が彼女の意思で以って、炎を使役していたと考えるのが妥当だと思います!! もしや、最初からこんな大技を隠し持っていたんですか!? 侑さん!?」

侑「え、えぇっと……なんだろう……?」

せつ菜「なんだろう……?」

侑「正直、私も……何がなんだか……」


せつ菜ちゃんの言うとおり、私もイーブイがほのお技を使うなんて聞いたことがないし、あれはなんだったんだろう……?


侑「あ、そうだ……」


こんなとき、この疑問について、聞ける相手がいるんだった。


侑「リナちゃん、さっきの技って何か知ってる?」

リナ『うん。さっきの技は“相棒わざ”って言われる技だよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


私の質問にリナちゃんは、そう答える。


せつ菜「“相棒わざ”……?」

リナ『イーブイは周囲の環境に適応して姿かたちを変えて進化する生態だけど……稀に進化前のイーブイがその力を操れるようになることがあるらしい』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「じゃあ今のは……」

リナ『イーブイがせつ菜さんのウインディの強いほのおエネルギーに適応したんだと思う。技の名前は“めらめらバーン”』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「なんで、“相棒わざ”って言うの?」

リナ『野生のイーブイがこの技を使った例は一件もなくて……トレーナー──つまり相棒との信頼関係がないと、修得が出来ないからそう呼ばれてるみたい。その理由自体はよくわかってないけど』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……! えへへ、じゃあ私……イーブイに信頼されてるんだね……!」
 「ブイィ…」


イーブイが抱かれたまま、私の腕をペロリと舐める。


侑「イーブイ、ありがとね……」
 「ブィィ…♪」


お礼交じりに頭を撫でてあげるとイーブイは嬉しそうに鳴く。

……あ、そうだお礼と言えば……!


侑「せつ菜ちゃん! バトルしてくれて、ありがとう!」

せつ菜「いえ、こちらこそ……! まさか、こんなに胸が熱くなるバトルになるとは、思ってもいませんでした……! 私こそ、侑さんに感謝しなくては!」


せつ菜ちゃんはそう言いながら、手を差し出してくる。

私もそれに応えるように手を差し出して──握手を交わす。


侑「あはは、でもやっぱりせつ菜ちゃんは強いなぁ……」

せつ菜「いえ、侑さんこそ新人トレーナーと聞いていましたが……私もウカウカしていると、すぐに追いつかれてしまうかもしれませんね!」

侑「だといいなぁ……」
106 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:31:22.10 ID:sJcXG/TG0

もちろん、トレーナーになりたてで勝てるとは思ってなかったけど……結果としてハンデありでも敵わなかったわけだから、もっと頑張らないとね。


歩夢「侑ちゃん、お疲れ様」

侑「うん、ありがと歩夢」

歩夢「イーブイ、治療してあげるから、こっちおいで?」
 「ブイ…」


歩夢が声を掛けると、イーブイは私の腕の中からぴょんと飛び出して、歩夢の胸に飛び込む。


歩夢「ワシボンも」

侑「あ、うん。ありがと」


言われるがまま、ワシボンのボールを歩夢に手渡す。


歩夢「それと、ウインディもおいで♪」

せつ菜「え!? そんな悪いですよ!? ウインディの治療はトレーナーの私が自分で……!」

 「ワゥ…」


焦るせつ菜ちゃんを後目に、ウインディは歩夢の方へと歩み寄って行って、歩夢の頬をペロリと舐める。


せつ菜「こ、こら!? ウインディ!!」

歩夢「ふふ♪ 大丈夫♪ 今、“きずぐすり”使ってあげるね♪」
 「ワォン♪」


ウインディは歩夢の前でゴロンとお腹を見せて、じゃれ始める。


侑「あはは……歩夢の前ではウインディも可愛い子犬に見えてくる」

せつ菜「驚きました……私のウインディが初対面の人にここまで心を許すなんて……」

侑「歩夢、とにかくポケモンに好かれる体質なんだよね」

せつ菜「世の中いろいろな方がいるものですね……」


せつ菜ちゃんは腕を組みながら、ウインディをじゃらしている歩夢を興味深く観察している。


歩夢「それじゃ、次はワシボンね」
 「ワシー」

 「バニ、バニッ!!!!」
歩夢「きゃっ……! もう、ヒバニーはバトルしてないでしょ?」

侑「ご主人様を取られたと思って、嫉妬してるんじゃない?」

歩夢「もう……順番ね?」
 「バニィ…」


歩夢、大人気……。


リナ『それより、侑さん、歩夢さん、せつ菜さん』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢・せつ菜「?」

侑「どうしたの? リナちゃん?」

リナ『もういい時間だけど……この後、ダリアシティには向かうの?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんに言われて、辺りを見回すと──確かに空は茜色に染まり始めていた。
107 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:35:00.16 ID:sJcXG/TG0

歩夢「ポケモンたちの治療をしてたら、夜になっちゃうかもね……」

侑「あーうーん……今から、ダリアまで行くのはちょっと大変かもね」

せつ菜「でしたら、今日はここでキャンプにしませんか? もちろん、お二人もご一緒に! 私は野営にも慣れていますし!」

歩夢「いいの?」

せつ菜「はい! とびっきりおいしいキャンプカレーをご馳走しますよ!!」

侑「ホントに!?」

せつ菜「はい! 任せてください! それでは、キャンプの設営をしてしまいますね!」

侑「私、手伝う!」

せつ菜「よろしくお願いします!」


期せずして出会った憧れの人と、まさか一緒にキャンプまで! もう、ホント旅に出てからときめいちゃうことばっかり……! 旅に出てよかった……!





    🎀    🎀    🎀





侑「カレー、カレー♪ まだかな、まだかな〜♪」

せつ菜「ふふ、もう少しですよ♪ 侑さんはお皿の準備をお願いします! 私はカレーに最後の仕上げをしてしまうので!」

侑「了解!」


私は二人が料理をしているのを、少し離れたところで、ポケモンたちと見守る。


歩夢「もう二人ともすっかり仲良しだなぁ……」


侑ちゃんとせつ菜ちゃんはすっかり打ち解けたようで、すごく楽しそう。


リナ『歩夢さん? どうかしたの?』 || ? _ ? ||

歩夢「あ、リナちゃん。えっと……侑ちゃんとせつ菜ちゃん、楽しそうだなって思って」

リナ『私もそう思う。今日初めて会ったとは思えない』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「うん。やっぱり、ポケモンバトルをしたからなのかな?」

リナ『そうかもしれない。正直、羨ましい』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「なら、リナちゃんもトレーナーになってみる? ……ポケモン図鑑兼トレーナーって、面白いかもしれないし」

リナ『その発想はなかった。斬新だけど、ありかもしれない』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||


リナちゃんくらい感情豊かなら、案外本当になれちゃうかも……あ、でも中身はロトムなんだっけ? ポケモンがポケモントレーナーになっちゃうのはどうなんだろう……?


リナ『歩夢さんは?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「え?」

リナ『バトル。歩夢さんはしないのかなって』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「えっと……」


リナちゃんから逆に質問されると思ってなかったから、言葉に詰まってしまう。

……私は改めて、自分の気持ちについて、少し考えてみる。
108 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:36:21.62 ID:sJcXG/TG0

歩夢「……まだね、バトルはちょっと……怖い、かな」

リナ『怖い?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「嫌ってほどじゃないんだけど……自分のポケモンが傷つくのも……相手のポケモンが傷ついちゃうのも、怖い」

リナ『じゃあ、やらない?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「……でもね、今日二人がバトルしてるのを見ていて……ちょっとだけ、胸が熱くなった」

リナ『……』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「私も、こんな風に夢中になれたりするのかなって……」

リナ『そっか。じゃあ、今は心の準備中なんだね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「うん、そんな感じかな」


曖昧な答えになっちゃったけど、嘘偽りなく言ったつもり。

もしかしたら、いつか侑ちゃんみたいに、バトルをする日が来るのかもしれない。


歩夢「そしたら、一緒に戦ってね」
 「バニ?」


傍にいるヒバニーを撫でると、ヒバニーは不思議そうに首を傾げた。


リナ『……ん』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

歩夢「? どうかしたの?」

リナ『野生のポケモンの反応』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「え? どこ?」


もう薄暗くなっている辺りを見回すと──1匹の小さなポケモンがこちらを見つめていた。


 「ニャァ」

歩夢「わ、かわいい♪」

リナ『ニャスパー じせいポケモン 高さ:0.3m 重さ:3.5kg
   プロレスラーを 吹きとばす ほどの サイコパワーを
   内に 秘めている。 普段は その 強力な パワーが
   漏れ出さないように 放出する 器官を 耳で 塞いでいる。』

歩夢「ニャスパーって言うんだね? おいで♪」


敵意があるわけでもなさそうだし、こっちに手招きしてみる。


 「ニャァ」


でも、ニャスパーはジッとこっちを見たまま動かない。


歩夢「警戒してるのかな……?」

リナ『野生ポケモンだから、警戒するのが普通。ただ、ニャスパーは大人しいポケモンだから、放っておいても大丈夫だと思う』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「ん……そっかぁ」


可愛いから一緒に遊びたかったんだけど……仕方ないかな。


侑「歩夢ー! ご飯の準備出来たよー!」

歩夢「あ、呼ばれてる! みんな行こう!」
 「バニバニ!!!」「ブイ」「ワシボー」

歩夢「ほら、サスケも起きて?」
 「シャー…?」
109 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:37:25.73 ID:sJcXG/TG0

みんながゾロゾロと席に移動する中、何故かウインディだけ大人しくしたまま、お座りの姿勢を解かない。


歩夢「ウインディ? 行かないの?」
 「ワン」

歩夢「?」


どうしたんだろう……? お腹空いてないのかな……?


侑「歩夢〜! 早く〜! カレー冷めちゃう〜!」

歩夢「あ、はーい!」


侑ちゃんに呼ばれて、席まで駆け出す。

気付けば、テーブルの上にはカレーが盛られたお皿が並べられている。


侑「あーもう私腹ペコ! 我慢出来ない! あむっ!!」

歩夢「もう、侑ちゃん……いただきますもしないなんて行儀悪いよ。あ、そうだせつ菜ちゃん、ウインディあそこにお座りしたままなんだけど……」

せつ菜「ウインディ……カレーはあまり好きじゃないみたいで……」

歩夢「そうなの?」

せつ菜「あとで、“きのみ”をあげるので、気にしないでください」

歩夢「……せつ菜ちゃんがそう言うなら」


“おや”が言うんだから、そうなんだよね。


せつ菜「さて私もお腹ペコペコですので……いただきます! ……あむっ! やっぱり、外で食べるカレーは格別ですね!」

歩夢「それじゃ、私も……。侑ちゃん、カレー美味しい?」


先に食べ始めていた侑ちゃんに味の感想を求めると──


侑「──」


侑ちゃんは机に突っ伏していた。


歩夢「え? 侑ちゃん……?」

せつ菜「あれ? 侑さん、どうしたんでしょうか……? もしかして、相当疲れていたんでしょうか……?」

歩夢「疲れて寝ちゃったってこと……? 食事中に……?」


今までそんなことあったかな……?

私は思わず首を傾げる。そのとき、ふと目に入ったのはイーブイ。


 「クンクン…ブイ」


イーブイ……においを嗅いでから、そっぽを向いた気がする。一方ヒバニーは、


 「バニーッ! バー、ニッ…」
歩夢「……!?」


カレーにがっつき、その後すぐに突っ伏した。


歩夢「…………」

リナ『歩夢さん、これ、たぶん、やばい』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||


リナちゃんが、私の耳元まで飛んできて、そう囁く。
110 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:38:48.69 ID:sJcXG/TG0

せつ菜「あむっ、あむっ。……? 歩夢さん、どうかされました? 食べないんですか?」

歩夢「あ、えーと……なんでもないよ、あはは」

せつ菜「そうですか? 冷める前に是非食べて欲しいです! 隠し味にとっておきのものを入れた自信作なので!」

歩夢「そ、そっかぁ……」


私はとりあえず、スプーンを付けて小さじ一杯程度を掬ってみてから──口に運ぶ。


歩夢「……っ……!?」


口の中に形容しがたい強烈な味……というか、刺激が走る。


歩夢「せ、せつ菜ちゃん……このカレーって、何入れたの?」

せつ菜「それはお教えできません! とっておきの隠し味を入れた特製カレーなので!」

歩夢「いや、隠れてな──……じゃなくて……お、美味しいから、自分で作るときの参考にしたいな〜って思って……」

せつ菜「……うーん……本当は秘密なのですが、そういうことなら今回は歩夢さんにだけ、特別にお教えしましょう」

歩夢「わ、わーい」

せつ菜「“クラボのみ”をベースに作ったカレールー、具は前にキャンパーの方から頂いた、“やさいパック”と“あらびきヴルスト”を入れています!」

リナ『あれ、意外と普通……?』 || ? _ ? ||

せつ菜「そして、最後に隠し味に“リュガのみ”、“ヤゴのみ”、“ニニクのみ”を豪勢に使いました!」

歩夢「……!?」

せつ菜「どれも、稀少な“きのみ”ですよ! お陰でこんなにカレーがまろやかになっているんです! はぁ……美味しい……♪」


確か、リュガ、ヤゴ、ニニクって……。


リナ『どれも渋味や苦味がとてつもなく強い“きのみ”……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

歩夢「そ、そういえば私ダイエット中だったの思い出したよ!」

せつ菜「え? そうなんですか?」

歩夢「カレーはカロリーが高いから、残念だけど、このくらいにしておくね……!」

せつ菜「歩夢さんは十分細いから大丈夫だと思いますよ! それに、旅をするならしっかり栄養を付けないと!」

歩夢「うぅ、いや、でも……そのぉ……っ」


こ、これ以外の言い訳、そんなすぐに思いつかないよぉ……!?


リナ『せつ菜さん。歩夢さん、ここに来る前にセキレイデパートで、たくさんスイーツを食べちゃったから。私のカロリー管理アプリ的にも、もうこれ以上は危険信号、乙女のピンチ。かなり、ヤバい』 ||;◐ ◡ ◐ ||

歩夢「……! そ、そうなんだよね! 今日はもう完全にカロリーオーバーだから……!!」

せつ菜「そうですか……それは残念です」


シュンとするせつ菜さんには悪いけど……!


歩夢「き、今日は疲れちゃったから早めに休むね!」

せつ菜「はい、おやすみなさい、歩夢さん」


そそくさと、テーブルから離れテントに避難する。


歩夢「リナちゃん、ありがとう……っ」

リナ『カロリーはともかく、食べたら身体に響くのは間違いない……侑さんの犠牲だけで食い止められてよかった』 ||;◐ ◡ ◐ ||

歩夢「侑ちゃん……ごめんね……」
111 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:39:37.18 ID:sJcXG/TG0

私、あのカレーは食べられる気がしないよ……。

テントに向かう途中──お座りしたまま行儀よく待っているウインディと目が合う。


 「ワォン…」


なんだか、物悲しそうな目をしている気がした。


リナ『ウインディも苦労してたんだね……』 || > _ <𝅝||

歩夢「あはは……」


今後、ポケモンたちのご飯の味には、これまで以上に拘ってあげよう……そんなことを考えながら、旅の初日の夜は更けていくのでした……。

……ちなみに、大量のカレーの行き先なんだけど……。


 「シャボシャボッ!!!!!」
せつ菜「サスケさん、いい食べっぷりですね!! 私も丹精込めて作った甲斐があります!! どんどん食べてください!!」

 「シャーーーボッ!!!!!」


ほとんどがサスケの胃袋に消えたそうです。……自分の手持ちの意外な一面を知ることができました……。



112 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:41:27.69 ID:sJcXG/TG0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【7番道路】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||  |●|.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.14 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.12 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:24匹 捕まえた数:2匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.9 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.10 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:53匹 捕まえた数:10匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



113 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 01:29:31.77 ID:aNVgiSRu0

 ■Intermission🐥



──ポケモンリーグ本部、理事長室。


ことり「海未ちゃん……! 報告したいことが……!」

海未「……ことり? どうかしましたか?」


私が理事長室に飛び込むと、事務仕事をしていたであろう海未ちゃんが、顔を上げる。


ことり「あ、あのね……実はここに戻ってくる最中なんだけど──」


──私は事の一部始終を説明する。

ここ最近、視線を感じることが多かったのと、今日ここに戻ってくる際に、何者かに襲撃されたこと、少なくともことりにはなんのポケモンかわからなかったこと。

そして、とりあえず撃退には成功したことを報告する。


海未「……ことり、どうしてもっと早く報告しなかったのですか」

ことり「だ、だって……気のせいかもしれないって思ってたから……。心配も掛けたくなかったし、確実な証拠が出てきたらにしようと思ってて……ごめんなさい」

海未「まあ、いいでしょう……。相手の特徴などは覚えていますか?」

ことり「えっと……動きが速過ぎてはっきりとは……」


ほぼ残像しか見えないような速度だったし……。


海未「色や大きさもわかりませんか?」

ことり「うーん……人間の大人くらいの大きさ……かな……? 色は……白かったような、黒かったような……」

海未「……ふむ」


海未ちゃんは口に手を当てて、少し考えたあと、再び口を開く。


海未「わかりました。遭遇した空域は、こちらで調査隊を出しましょう。ことりが倒している可能性もありますし、そうでなくとも、何かしらの手がかりが見つかるかもしれませんから」

ことり「うん……お願い」

海未「あと、希にも相談してみてください。彼女の占いなら、何かわかるかもしれませんから」

ことり「わかった。希ちゃん、今どこにいるかな?」

海未「四天王の間の自分の部屋にいると思いますよ。あそこが一番、精神統一出来るそうなので」

ことり「ありがとう、行ってみるね」
114 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 01:30:15.14 ID:aNVgiSRu0

希ちゃんのもとに行くために、理事長室を後にしようとすると──


海未「ことり」


海未ちゃんに呼び止められる。


ことり「なぁに?」

海未「……襲撃されたことは心配ですが……ことりが無事で何よりです。……すみません、これは最初に言うべきでした」

ことり「海未ちゃん……うぅん。海未ちゃんが理事長に就任してから、そんなに時間も経ってなくて、いっぱいいっぱいなのも、ことりわかってるから! ありがとう、心配してくれて」

海未「……ふふ、ことりにそう言って貰えると、いくらか気が楽になります。こちらこそ、ありがとうございます」

ことり「どういたしまして♪ 調査、手伝えることがあったらなんでも言ってね」

海未「はい、そのときはお願いします。ただ、くれぐれも無理はしないでくださいね」

ことり「うん♪」


海未ちゃんの言葉に笑顔で返して、私は部屋を後にしたのでした。


………………
…………
……
🐥

115 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:12:07.57 ID:aNVgiSRu0

■Chapter006 『盗人を捕まえろ?』 【SIDE Yu】





せつ菜「──それじゃあこの辺りで……私はセキレイシティ方面に向かいますので!」

侑「ああ……もう、お別れかぁ……」

せつ菜「旅をしていれば、またどこかで会えますよ」

侑「……うん。次会うときはもっと強くなれてるように、頑張るね!」

せつ菜「楽しみにしています♪」


せつ菜ちゃんがすっと私の方に手を差し出す。


せつ菜「一トレーナーとして……また会ったときは、全力で競い合いましょう!」

侑「うん……!」


それに応じて、握手を交わす。


せつ菜「歩夢さんとリナさんも、またどこかで!」

歩夢「うん♪ またね、せつ菜ちゃん」

リナ『とっても勉強になった、せつ菜さん、ありがとう』 ||,,> 𝅎 <,,||

せつ菜「次会ったときは、サスケさんにもっと美味しいカレーをご馳走しますね!」

 「シャーーーボッ」
歩夢「あ、あはは……」


歩夢が何故か苦笑いしてる……?


侑「あれ……? そういえば、私……せつ菜ちゃんのカレーを食べたあと、どうしたんだっけ……?」
 「ブイ…」

リナ『侑さん、それ以上は思い出しちゃいけない』 ||;◐ ◡ ◐ ||

 「ブイブイ」
侑「……?」


なんだろ……? まあ、いっか。


せつ菜「それでは、侑さん! 歩夢さん! リナさん! 良い旅を!」

侑「じゃあね! せつ菜ちゃーん!」


せつ菜ちゃんは、折り畳み自転車に乗って、手を振りながら風斬りの道方面へと走り去っていった。


侑「それじゃ、私たちも行こうか!」

歩夢「うん!」

リナ『目標ダリアシティ。リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||


私たちはダリアシティを目指して、早朝の5番道路を自転車で走り出すのだった。



116 :>115訂正 ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:15:30.53 ID:aNVgiSRu0

■Chapter006 『盗人を捕まえろ?』 【SIDE Yu】





せつ菜「──それでは、この辺りで……私はセキレイシティ方面に向かいますので!」

侑「ああ……もう、お別れかぁ……」

せつ菜「旅をしていれば、またどこかで会えますよ」

侑「……うん。次会うときはもっと強くなれてるように、頑張るね!」

せつ菜「楽しみにしています♪」


せつ菜ちゃんがすっと私の方に手を差し出す。


せつ菜「一トレーナーとして……また会ったときは、全力で競い合いましょう!」

侑「うん……!」


それに応じて、握手を交わす。


せつ菜「歩夢さんとリナさんも、またどこかで!」

歩夢「うん♪ またね、せつ菜ちゃん」

リナ『とっても勉強になった、せつ菜さん、ありがとう』 ||,,> 𝅎 <,,||

せつ菜「次会ったときは、サスケさんにもっと美味しいカレーをご馳走しますね!」

 「シャーーーボッ」
歩夢「あ、あはは……」


歩夢が何故か苦笑いしてる……?


侑「あれ……? そういえば、私……せつ菜ちゃんのカレーを食べたあと、どうしたんだっけ……?」
 「ブイ…」

リナ『侑さん、それ以上は思い出しちゃいけない』 ||;◐ ◡ ◐ ||

 「ブイブイ」
侑「……?」


なんだろ……? まあ、いっか。


せつ菜「それでは、侑さん! 歩夢さん! リナさん! 良い旅を!」

侑「じゃあね! せつ菜ちゃーん!」


せつ菜ちゃんは、折り畳み自転車に乗って、手を振りながら風斬りの道方面へと走り去っていった。


侑「それじゃ、私たちも行こうか!」

歩夢「うん!」

リナ『目標ダリアシティ。リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||


私たちはダリアシティを目指して、早朝の5番道路を自転車で走り出すのだった。



117 :>115訂正 ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:17:45.79 ID:aNVgiSRu0

    👑    👑    👑





──ツシマ研究所。


善子「──しずく、悪かったわね。結果的に、貴方まで足止めしちゃって……」

しずく「いえ、自分から残っていただけなので、お気になさらないでください」

かすみ「……やっと、旅に出れます……かすみん、たくさんコキ使われて、もうくたくたですぅ……」
 「ガゥガゥ…」


かすみんは、この2日間の大変なお片付けを思い出して、ゾロアと一緒に項垂れてしまいます。


しずく「ほら、かすみさんも博士に挨拶しないと……」

かすみ「挨拶の前にぃ〜、ヨハ子博士〜」

善子「何? というか、そのヨハ子博士ってのやめなさいよ」

かすみ「頑張ったかすみんにぃ〜、何かご褒美とかないんですかぁ〜?」

善子「あんた、本当にたくましいわね……感心するわ」

しずく「あはは……」


ヨハ子博士もしず子も、なんか呆れ気味ですけど、かすみんホントに頑張ったもん! 昨日なんか、朝早く起きて、夜遅くまでずーーーーーーっとお手伝いしてたんですからね!!


善子「んーそうね……何かあったかしら」


そう言いながら、博士は周辺をがさごそと探し始める。


かすみ「えっ!? ホントに何かくれるんですか!?」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「は、博士……かすみさんの言うことは真に受けなくていいんですよ……?」

善子「まあ……頑張りは認めてあげないとね。実際、片付けの手伝いは真面目にやってたし」

かすみ「さすが博士ぇ! 話がわかる〜♪」
 「ガゥ♪」

しずく「かすみさん、調子に乗らないの!」

善子「……あ、これなんかいいかもしれないわね」


そう言いながら、博士は持ってきたものをゴロゴロと机に置く。


かすみ「……なんですか、これ?」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「“きのみ”ですね。えっと、種類は……ザロクにネコブ、タポルにロメ……」

善子「あとウブとマトマの6種類よ。二人にあげるから、何個か持ってくといいわ」

かすみ「えぇーー!? ご褒美、ただの“きのみ”ですかぁ!?」

善子「この“きのみ”にはちゃんと効果があるのよ」

かすみ「効果……?」

しずく「ポケモンにあげると、なつきやすくなるんですよね」

善子「そうよ。さすがしずくね、よく勉強してるわ」

かすみ「む……か、かすみんもそれくらい知ってるもん」


しず子ばっかり、褒められててずるい……。
118 : ◆tdNJrUZxQg [sage saga]:2022/11/03(木) 18:21:14.31 ID:aNVgiSRu0
なんかアンカー含めてミスしまくってる…
>>115-117はなしで。
■Chapter006最初から投下し直します。

すみません
119 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:22:10.03 ID:aNVgiSRu0

■Chapter006 『盗人を捕まえろ?』 【SIDE Yu】





せつ菜「──それでは、この辺りで……私はセキレイシティ方面に向かいますので!」

侑「ああ……もう、お別れかぁ……」

せつ菜「旅をしていれば、またどこかで会えますよ」

侑「……うん。次会うときはもっと強くなれてるように、頑張るね!」

せつ菜「楽しみにしています♪」


せつ菜ちゃんがすっと私の方に手を差し出す。


せつ菜「一トレーナーとして……また会ったときは、全力で競い合いましょう!」

侑「うん……!」


それに応じて、握手を交わす。


せつ菜「歩夢さんとリナさんも、またどこかで!」

歩夢「うん♪ またね、せつ菜ちゃん」

リナ『とっても勉強になった、せつ菜さん、ありがとう』 ||,,> 𝅎 <,,||

せつ菜「次会ったときは、サスケさんにもっと美味しいカレーをご馳走しますね!」

 「シャーーーボッ」
歩夢「あ、あはは……」


歩夢が何故か苦笑いしてる……?


侑「あれ……? そういえば、私……せつ菜ちゃんのカレーを食べたあと、どうしたんだっけ……?」
 「ブイ…」

リナ『侑さん、それ以上は思い出しちゃいけない』 ||;◐ ◡ ◐ ||

 「ブイブイ」
侑「……?」


なんだろ……? まあ、いっか。


せつ菜「それでは、侑さん! 歩夢さん! リナさん! 良い旅を!」

侑「じゃあね! せつ菜ちゃーん!」


せつ菜ちゃんは、折り畳み自転車に乗って、手を振りながら風斬りの道方面へと走り去っていった。


侑「それじゃ、私たちも行こうか!」

歩夢「うん!」

リナ『目標ダリアシティ。リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||


私たちはダリアシティを目指して、早朝の5番道路を自転車で走り出すのだった。



120 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:25:38.56 ID:aNVgiSRu0

    👑    👑    👑





──ツシマ研究所。


善子「──しずく、悪かったわね。結果的に、貴方まで足止めしちゃって……」

しずく「いえ、自分から残っていただけなので、お気になさらないでください」

かすみ「……やっと、旅に出れます……かすみん、たくさんコキ使われて、もうくたくたですぅ……」
 「ガゥガゥ…」


かすみんは、この2日間の大変なお片付けを思い出して、ゾロアと一緒に項垂れてしまいます。


しずく「ほら、かすみさんも博士に挨拶しないと……」

かすみ「挨拶の前にぃ〜、ヨハ子博士〜」

善子「何? というか、そのヨハ子博士ってのやめなさいよ」

かすみ「頑張ったかすみんにぃ〜、何かご褒美とかないんですかぁ〜?」

善子「あんた、本当にたくましいわね……感心するわ」

しずく「あはは……」


ヨハ子博士もしず子も、なんか呆れ気味ですけど、かすみんホントに頑張ったもん! 昨日なんか、朝早く起きて、夜遅くまでずーーーーーーっとお手伝いしてたんですからね!!


善子「んーそうね……何かあったかしら」


そう言いながら、博士は周辺をがさごそと探し始める。


かすみ「えっ!? ホントに何かくれるんですか!?」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「は、博士……かすみさんの言うことは真に受けなくていいんですよ……?」

善子「まあ……頑張りは認めてあげないとね。実際、片付けの手伝いは真面目にやってたし」

かすみ「さすが博士ぇ! 話がわかる〜♪」
 「ガゥ♪」

しずく「かすみさん、調子に乗らないの!」

善子「……あ、これなんかいいかもしれないわね」


そう言いながら、博士は持ってきたものをゴロゴロと机に置く。


かすみ「……なんですか、これ?」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「“きのみ”ですね。えっと、種類は……ザロクにネコブ、タポルにロメ……」

善子「あとウブとマトマの6種類よ。二人にあげるから、何個か持ってくといいわ」

かすみ「えぇーー!? ご褒美、ただの“きのみ”ですかぁ!?」

善子「この“きのみ”にはちゃんと効果があるのよ」

かすみ「効果……?」

しずく「ポケモンにあげると、なつきやすくなるんですよね」

善子「そうよ。さすがしずくね、よく勉強してるわ」

かすみ「む……か、かすみんもそれくらい知ってるもん」


しず子ばっかり、褒められててずるい……。
121 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:28:14.71 ID:aNVgiSRu0

善子「これがご褒美。好きなだけ持っていきなさい」

かすみ「す、好きなだけ!? ヨハ子博士太っ腹〜!! 大好き〜?」
 「ガゥガゥ〜♪」

善子「……あんた、たぶん大物になるわね」

しずく「あの……いいんでしょうか? ロメなんかは結構高価な“きのみ”ですよね……?」

善子「この研究所でたくさん栽培してる種類だから大丈夫よ。それにポケモンに使うだけじゃなくて、旅の食事用にもなると思うから」

しずく「何から何まで……ありがとうございます、博士」

善子「まあ、いいのよ。いろいろあったけど、私が自分で選んで、貴方たちにお願いしてるわけだからね」

かすみ「しず子も早く〜!」


自分のバッグに“きのみ”をたくさん詰めながら、しず子を呼びます。


しずく「って、かすみさん、そんなに持ってくの!?」

かすみ「だって、好きなだけ持って行っていいって言ってたじゃん!」
 「ガゥ♪」

しずく「いいって言っても限度があるでしょ!? 少しは遠慮しなさい!」


そう言いながら、しず子が私の手から“マトマのみ”を取り上げる。


かすみ「ちょ……! それかすみんのマトマ! 返してよぉ!」

しずく「これは戻すの……!」

かすみ「返してよ〜!」


二人で取り合っていた“マトマのみ”でしたが──揉み合っている拍子に……ぐちゃっ。


しずく「あ……」

かすみ「あぁ!? しず子が離さないから、潰れちゃったじゃん!」

しずく「ご、ごめん……」

かすみ「もう、もったいない……」
 「ガゥゥ…」


手にマトマの赤い汁が付いちゃいました……勿体ないですね……。かすみんは、手に付いた赤い汁を舌でペロっと舐める。


しずく「あ!? か、かすみさん、マトマの果汁なんか舐めたら!?」

かすみ「──からあぁあぁぁあぁあぁぁ!!?」
 「ガゥッ!!?」


ちょっと舐めただけなのに、口の中が燃えるような辛さに襲われる。

叫ぶかすみんにゾロアもびっくりして、肩の上から転げ落ちる。


かすみ「水!!! 水ぅ!!!!?」

しずく「大変!! えっと、水……!! メッソン!!」


──ボム。しず子が投げたボールから、メッソンが出てくる。


 「メソ…?」
しずく「かすみさんに向かって、“みずでっぽう”!」

 「メソー」


ぷぴゅーと可愛らしい音と共に、メッソンから放たれた水が、かすみんに襲い掛かる。
122 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:29:58.76 ID:aNVgiSRu0

かすみ「ぎゃー!!? 旅立ち前なのに服がびしょ濡れにぃー!? ってか、飲み水持ってきてよ!?」

しずく「あ、ごめん……」

かすみ「しず子のバカー!!」


普段、優等生ぶってる癖して、焦ると変なことするんだからぁ……。


善子「なんか、大変そうね……。私はそろそろ寝たいから、あとは好きにしなさい……夜型にはぼちぼち堪える時間なのよ……ふぁぁ……」

かすみ「こっちはこっちでダメ人間じゃないですか!!」

しずく「あはは……」


もう……! 旅立つ前だってのに、踏んだり蹴ったりですぅ……!!





    👑    👑    👑





──さて、“きのみ”をたくさん貰ったあと、かすみんたちは研究所から出て、いよいよ旅立ちのときです!


かすみ「さぁ、行くよしず子! 冒険の旅が、かすみんのことを今か今かと待ってるよ!」
 「ガゥ」

しずく「まずどこに向かうの?」

かすみ「もっちろん、最初はセキレイジム! 曜先輩のところに行くよ!!」


──
────
──────


セキレイジムに辿り着くと、扉の前に一枚の張り紙がありました。

──『現在ジムリーダー不在のため、ジムをお休みしています』


かすみ「な、なんで……」
 「ガゥ…」


かすみんはゾロアと一緒にがっくりと肩を落として項垂れます……一昨日、侑先輩とジム戦してたのに……。


しずく「あはは……曜さんって多忙でジムを空けてることが多いらしいね。よくサニータウンでも見かけてたし……」

かすみ「また出鼻を挫かれたぁ〜……」

しずく「どうする? 帰ってくるの待ってみる?」

かすみ「何日掛かるかわからないし……いつまでも、セキレイでのんびりしてたら、歩夢先輩たちにどんどん置いてかれちゃうよっ!」


それに、ジム戦自体は最終的に全部制覇するなら、どの順番で行っても大差ないですもんね! 今ここでセキレイジムに拘る理由はありません!


しずく「そうなると……北のローズか、西のダリアかな? 南は山越えになるから、遠慮したいなぁ……あはは……。かすみさんはどっちに行きたい?」

かすみ「うーん……しず子はどこに行きたい?」

しずく「え? 私?」


しず子がきょとんとした顔をする。
123 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:31:07.48 ID:aNVgiSRu0

しずく「私はジム巡りをするつもりはないから、どっちでもいいけど……」

かすみ「そうじゃなくて! 旅するって決まってから、いろいろ調べてたじゃん! 行きたいところとかあるんじゃないの?」

しずく「それは……そうだけど……。私が行きたいところはポケモンジムがないから、かすみさんの目的とは合致しないというか」

かすみ「とりあえず、それはいいから! しず子はどこに行きたいの?」

しずく「私は……フソウ島に……」

かすみ「フソウ島って、確かサニータウンから海を渡った先だよね」

しずく「うん。ここからだと東方面かな」

かすみ「じゃあ、進路は東に決定!」

しずく「いいの……?」

かすみ「だって、しず子、ずっとかすみんのこと待っててくれたし……行き先くらいはしず子が決めていいよ」


かすみんがそう言うと、


しずく「……ふふ♪」


何故か笑われる。


かすみ「な、なんで笑うの!」

しずく「うぅん♪ かすみさんって、そういうところは律義だなって思って……ふふ♪」

 「ガゥガゥ♪」

しずく「ゾロアもそう思うよね♪」

 「ガゥ♪」
かすみ「ちょ……笑わないでよ! ゾロアも!」

しずく「それじゃ、9番道路に向かいましょう!」

 「ガゥッ♪」
かすみ「ちょっとぉ!! かすみんのこと無視しないでよぉーー!!」





    👑    👑    👑





──ジムから歩いてきて、今は9番道路を進行中です。


かすみ「……疲れた」

しずく「結構歩いたもんね。街の端から端を往復したわけだし」


ツシマ研究所は、街の南東側で、ポケモンジムは街の西側──風斬りの道に続く6番道路に近い場所にある。つまり街の端から端なので、結構距離があるわけです。


しずく「一旦休憩する?」

かすみ「さ、賛成〜……」

しずく「じゃあ、あそこの木陰でお休みしよっか」


かすみんはふらふらと木陰まで歩き、


かすみ「きゅぅ……」


バッグを放り出して、そのまま倒れ込む。
124 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:32:39.13 ID:aNVgiSRu0

しずく「かすみさん、大丈夫?」

かすみ「……昨日の疲れが抜けきってない感じがする……。ヨハ子博士、ホントに一日中手伝わせるんだもん……」

しずく「まあ、それはかすみさんが悪いから、仕方ないけど……」


しず子は苦笑いしながら、かすみんの隣に腰を下ろして、バッグの中からポケマメケースを取り出す。ポケマメっていうのは、ポケモンのおやつにもなるマメですね。


しずく「メッソン、おやつだよ」
 「メソ…」

かすみ「うわ!? メッソン、いたんだ……」


しず子がポケマメを肩の辺りに差し出すと、スゥーーとメッソンが現れて、ポケマメを食べ始める。


しずく「メッソン、外に慣れてないみたいだから、連れ歩いてるんだ。普段はこんな感じで姿を消しちゃうんだけど……」
 「メソ…」


ポケマメを食べると、またスゥーと消えてしまう。


かすみ「まだ、慣れるのには時間がかかりそうだね」

しずく「あはは……そうだね。ゆっくりでいいから、少しずつ慣れていこうね」
 「メソ…」


しず子が新しいポケマメを差し出すと、またスゥーと現れる。これはこれで、ちょっと面白いかも。そんなしず子とメッソンを眺めていると──


 「ガゥガゥ」


ゾロアがかすみんに向かって吠えてくる。


かすみ「はいはい、ゾロアもおやつね」


かすみんはポケットから、“マゴのみ”を取り出して、ゾロアにあげる。


 「ガゥ♪」


ゾロアは嬉しそうにがっつき始めました。


かすみ「全く、ゾロアは食いしん坊ですねぇ。誰に似たんだか」

しずく「あれ……? さっき貰った“きのみ”に“マゴのみ”ってあったっけ?」

かすみ「うぅん、これはゾロアのおやつ用に普段から持ってるやつ。昔から“マゴのみ”が好きなんだよね」
 「ガゥガゥ♪」

かすみ「せっかくだし、他の子にもおやつをあげよっか」

しずく「そうだね。マネネ、ココガラ出て来て」
 「マネネェ」「ピピピィ」


しず子がマネネとココガラを出す。かすみんも、ボールからキモリを外に出してあげる。
125 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:34:21.66 ID:aNVgiSRu0

 「キャモ」
かすみ「そういえば、キモリって何が好きなんだろう……? “マゴのみ”食べる?」

 「キャモ…」
かすみ「なんか渋い顔してる……」

しずく「あはは……好みじゃないみたいだね」
 「ピピピィ」

しずく「ココガラ、今あげるから焦らないで」
 「ピピピィ♪」

 「マネマネ♪」
しずく「マネネ? ケースから食べてもいいけど、食べ過ぎちゃダメだよ?」

 「マネッ♪」


ココガラはしず子の頭の上にとまり、しず子の手からポケマメを受け取っておいしそうに食べている。

マネネはもうどこにおやつがあるのか知ってるみたいで、勝手にケースからポケマメを取り出している。


かすみ「かすみんもポケマメにすればよかったです……。あんま売ってるの見たことないけど……」

しずく「私は両親がアローラ地方から取り寄せているのを分けてもらっているから……」

かすみ「羨ましい……」


かすみんが羨ましがってると──


 「マネッ」
 「キャモ?」

かすみ「ん?」


マネネが、キモリのもとへ、ポケマメを1個持ってきてくれました。


かすみ「くれるの? マネネは良い子ですねぇ〜?」

 「マネマネッ!!!!」
 「キャモッ!!?」


マネネはそのまま、ポケマメをキモリの口元にぐりぐりと押し付ける。


かすみ「……って何やってるの、あれ」

しずく「たぶん、私の真似だと思う……。ココガラにあげてるのを見て真似したくなっちゃったのかな……あはは」


マネネがひたすら、ポケマメをキモリの口元に押し付けていると、


 「キャモッ!!!」
 「マネェッ!!?」


あ、ついにキモリが怒った……。尻尾でマネネを追い払ってる……。


しずく「もう、マネネ……キモリにポケマメあげて戻っておいで」
 「マネェ…」

 「キャモ」


キモリはマネネから、ポケマメを受け取ってポリポリと食べ始める。

そんなみんなの様子を見ながら、かすみんは寝ころんだまま上を見上げる──木々の葉っぱの間から木漏れ日が差し込み、そよそよとそよ風に乗ってお花の良い香りがする。

お花畑が近いからですかねぇ……。平和ですねぇ……。
126 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:36:57.13 ID:aNVgiSRu0

しずく「かすみさん、寝ちゃダメだよ?」

かすみ「っは……! 危うく意識が遠のきかけた……」

しずく「んー……それじゃ、何かお話しでもする? 寝ちゃわないように」


お話しか……。何か話題……。


かすみ「……そうだ。しず子、フソウ島に行きたいって言ってたけど、何か理由があるの?」

しずく「あ、うん。フソウ島には、オトノキ地方でも一番大きなコンテスト会場があるでしょ? それを見たくって……!」

かすみ「しず子、コンテストに興味あるの?」

しずく「コンテストというか……舞台に興味があるって感じかな」

かすみ「舞台……そういえばしず子、女優になりたいんだっけ?」

しずく「うん! 私、小さい頃から女優のカルネさんが大好きで……! 私もいつか、カルネさんみたいな大女優になりたいって思ってるの! カルネさんのように、いつかはポケウッドの舞台で……!」

かすみ「ポケウッド! ポケウッドの映画なら、かすみんもいくつか観たことあるよ! 『ハチクマン』とかだよね!」

しずく「ふふ、確かに有名な映画だね! 『ハチクマン』三部作はどれも名作だから……」

かすみ「かすみん的には登場人物だとハチクマンよりもルカリオガールが可愛くて好きなんだけど〜……ハチクマンがゾロアークを使ってるところはセンスがいいなって思ったかも!」
 「ガゥガゥ♪」

かすみ「ゾロアもそう思うよね♪」
 「ガゥ♪」

しずく「『ハチクマンの逆襲リターンズ』で使ってたよね! もちろん『ハチクマン』も好きだけど……私は『魔法の国の 不思議な扉』もよく見てたなぁ。主演のジュジュベ役のナツメさんがホントに素敵で……」

かすみ「あーわかる! でもでも、かすみん的にはやっぱりメイ姫が好きかなぁ♪ かすみんみたいな可憐なお姫様だしぃ♪」

しずく「ふふ、かすみさんらしいね♪ ねぇねぇ、ポケウッドだと他は何が好き!? 私が一番好きなのは、もちろんカルネさんが出てる作品なんだけど……!!」

かすみ「えーそうだなぁ……。……って、あれ? かすみんたち、ポケウッドの話してたんだっけ? フソウ島に行く理由の話だったような……」

しずく「っは……!」


しず子はハッとなり、熱くなって話してしまったのが恥ずかしかったのか、少しだけ顔を赤らめる。


しずく「……コホン/// えっと、だからね、フソウ島のポケモンコンテスト、一度見てみたいなって思って……。ポケウッドとは違うけど、何か表現の参考になりそうだし」

かすみ「ふむふむ、そういう理由だったんだね。参加はしないの?」

しずく「参加は……まだ早いかな。もちろんいつかはあの舞台に立ってみたいと思うけど。かすみさんこそ、コンテストに参加とかしないの? 好きそうだし、セキレイにも大きな会場があったよね?」

かすみ「え? ま、まあ……そのうち、コンテストも制覇しちゃいますけどね? 今は準備中というか……」

しずく「そっかぁ……お互い、いつか参加できるといいね」


セキレイ会場はかわいさコンテストの会場ですし、もちろんそのうち、かすみんが制覇しちゃう予定ですけど……。

あの会場は、永世クイーンに王手の現コンテストクイーンのことり先輩と、その前にクイーンの座についていた曜先輩の本拠地ですからね……。

入念な準備をして臨まないといけないわけです……。


しずく「ねぇ、かすみさん」

かすみ「ん?」

しずく「かすみさんは、この旅で何かしたいことってあるの? そういえば、聞いてなかったなって」

かすみ「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれたね、しず子」


かすみんはガバっと上半身を起こす。


かすみ「したいことというか、なりたいもの、なんだけど……!」

しずく「うん」

かすみ「かすみんは、ポケモンマスターになりたいの! だから、この旅はそんなポケモンマスターへの第一歩っていうわけなんだよ!」
127 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:37:49.00 ID:aNVgiSRu0

かすみんが胸を張って言うと、


しずく「ポケモン、マスター……?」


しず子はポカンとしたあと、


しずく「……ふ、ふふふ♪」


何故かおかしそうに笑いだしました。


かすみ「ち、ちょっとぉ!? なんで笑うの!?」

しずく「ご、ごめんね……ふふ♪ かすみさんらしい目標だなって思って」

かすみ「むー……バカにしてるでしょ」


確かにポケモンマスターって、子供の夢っぽいし、具体的に何してる人なのかよくわかんないところはあるけど……。


しずく「してないよ♪ なれるといいね、ポケモンマスター♪」

かすみ「やっぱり、バカにしてるー!!」

しずく「してないしてない♪」

かすみ「むぅ……かすみん、いつかそんな態度取ったことを後悔させちゃうくらいの、ポケモンマスターになっちゃうんだからね……」

しずく「ふふ♪ 期待してるね♪」


全く、しず子ったら、失礼なんだから……! ぷんぷんと頬を膨らませていると──かすみんの上着の裾をくいくいと引っ張られる。


 「ガゥガゥッ」

かすみ「ゾロア? もしかして、おやつのおかわり?」
 「ガゥッ♪」

かすみ「もうないよ……ポケットにそんなに入んないもん」
 「ガゥゥ……」


そんな、あからさまに落ち込まなくても……。


かすみ「あ、そうだ! せっかく、ヨハ子博士から、たくさん“きのみ”貰ったんですから、それをおやつにしちゃいましょう♪」

しずく「あ、確かにそれはいいかもね」

かすみ「それじゃ早速……──」


かすみんが、自分のバッグに目を向けると──


 「クマ?」「ジグザク?」「ザグマ??」


いつの間にか口が開けられたかすみんのバッグに、茶色と黒の縞模様のちっちゃいタヌキさんのようなポケモンが群がっているところでした。


かすみ「ちょ!? かすみんの“きのみ”!?」

 「ザグ?」「グマグマ??」「ジグザグ」

しずく「ジグザグマ……!? “きのみ”の匂いに釣られて寄って来たんだ……!」

 「ザグザグ」「マグジグ」「クマァ」


というか、よく見たら、すでに口元にべったり果汁が付いてる……!?


かすみ「ちょっと!! 勝手に食べないでくださいぃ!?」


かすみんがバッグに飛び付くと──
128 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:38:55.45 ID:aNVgiSRu0

 「クマーー」「ジグザーー」「グマグーー」


ジグザグマたちは、それを避けるように散開する。


かすみ「かすみんの“きのみ”、すっごい減ってる……よ、よくもぉ……!」


──キッと、1匹のジグザグマを睨みつけると、


 「クマ」


口元には、“ウブのみ”が咥えられていた。


かすみ「って、ちょっとぉ!? まだ持ってくの!?」


さらに、他のジグザグマも見てみると、他の子も“きのみ”を口に咥えている。


かすみ「ど、泥棒ーー!!」


叫びながら、1匹のジグザグマに飛び掛かると──


 「ザグザグ」


ぴょんと避けて、


かすみ「ぐぇ」


かすみんの頭を踏んずけてから、


 「ジグジグ」「ザグザグ」「クマー」


ジグザグマたちは、ぴゅーんと走り去って行ってしまいました。


かすみ「…………」

しずく「……完全に持っていかれちゃったね」

かすみ「……かすみん、ここまでコケにされたのは初めてです……。あのジグザグマたち、許しませんよ……!!」


かすみんはすっくと立ち上がる。


かすみ「ゾロア!! キモリ!! ジグザグマを捕まえますよ!!」
 「ガゥ」「キャモ」


かすみんは2匹を従えて、走り出しました。絶対に許しませんからね!? あのジグザグマたちぃぃぃ……!!!


しずく「あ、ちょっとかすみさん!? 荷物置いたままじゃ、また盗られる……。……って、行っちゃった……」





    👑    👑    👑





かすみ「確かこっちに行きましたよね……!!」
 「ガゥガゥ」「キャモッ」


ジグザグマを追って辿り着いたのは──見渡す限りに広がるお花たち。
129 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:41:18.13 ID:aNVgiSRu0

かすみ「“太陽の花畑”……」


ここはオトノキ地方でも有数の花園。


 「ポポッコ〜」「フラ〜」「フラァ〜」


ポポッコやハネッコたちがふわふわと飛んでいるのが目に入る。ジグザグマたちは、このお花の中に紛れ込んだようですね……。


かすみ「今とっつかまえてやりますからね……!!」


かすみん、気合い十分な感じで花畑を睨みつけます。……でも、この花畑の中で、どうやってジグザグマを見つけるか……。


かすみ「ん……?」


よく見ると──地面が何かの水分を吸って色を変えている場所があることに気付きます。


 「ガゥ…クンクン」

かすみ「もしかして、この地面が濡れてる場所……“きのみ”の果汁?」
 「ガゥガゥ!!」

かすみ「そうなんだね、ゾロア!」
 「ガゥ!!!」


随分“くいしんぼう”な子がいるみたいですね。なら、やることは決まりました……!!


かすみ「ゾロア! キモリ! GO!」
 「ガゥ!!」「キャモッ!!」


かすみんの指示で、ゾロアとキモリが花畑に突入する。

直後、


 「ザグーー!!?」「ジグーーッ!!?」


ジグザグマがゾロアとキモリの攻撃によって、花畑から飛び出してくる。


かすみ「ふっふっふ、全くおまぬけさんですね、ジグザグマたち。こんな果汁を残していたら、居場所がバレバレですよ〜?」


かすみん、花畑の外まで転がってきたジグザグマの前で、仁王立ちして見下ろしてやります。


 「ジ、ジグザ…」「グザグマ…」


もちろん、ジグザグマたちは怯えて逃げようとしますが──そうは行きません。


 「ガゥガゥッ!!!!」「キャモッ!!!」

 「ジグザグ…」「ザグザグ…」


すぐに花畑から引き返してきたゾロアたちと、ジグザグマを挟み撃ちにします。


かすみ「もう逃げ場はありませんよ……ひっひっひ……」

 「ザグゥ…」「マァ…」


さて、どうしてやりましょうか、このイタズラタヌキたち……と思った矢先、


かすみ「ぶぁ!!?」


かすみんの可愛いお顔に向かって、何かが飛んできました。
130 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:42:28.90 ID:aNVgiSRu0

かすみ「ぺっぺっ……! な、なにこれ、“すなかけ”……?」


顔に砂をかけられて、怯んだ隙に、


 「ザグザグ…!!」「ジグザグ…!!」
かすみ「あ!? ちょっと!?」


ジグザグマたちがかすみんの横をすり抜けて逃げていきます。そして、それと同時に──


 「グマァ…!!!」


お花畑の方から急に、低く唸るような鳴き声。


 「ガゥ…!!」「キャモ」
かすみ「なーんか、やる気まんまんって感じじゃないですか……」


確かにさっき逃げたジグザグマ……3匹くらいいたもんね。


かすみ「この気迫、群れのリーダーってところですか! いいですよ!! そっちから来てくれるなら、やってやりますよ!!」

 「グマァッ!!!!」


次の瞬間、ジグザグマが花畑の中から、ゾロアに向かって飛び掛かってきました。


かすみ「ゾロア、“みきり”!!」
 「ガゥ」

 「グマッ!!?」


ゾロアが攻撃を見切り、外したジグザグマはびっくりしたまま、勢い余って地面を滑る。


かすみ「キモリ! “このは”!」
 「キャモッ!!!」


キモリがシュッと鋭い“このは”を投げつける。


 「クマァ!!!?」

かすみ「追撃の“でんこうせっか”!!」
 「キャモッ!!!!」


さらに、息もつかせぬ追撃によって、決着──したかと思いましたが、


 「クマ…!!!!」

 「キャモッ!!?」
かすみ「んな!? 防がれた!? “まもる”!?」


さらにジグザグマは、防いだ反動で後ろに飛び退きながら、体を回転させ、


 「ザーーグマーーー」


周囲に鋭い体毛を飛ばしまくる。


かすみ「い、いたたたた!!? ミ、“ミサイルばり”ですかぁ!!?」
 「キ、キャモッ…!!」「ガゥゥ…!!」


まずいです……! むしタイプの技の“ミサイルばり”はキモリにもゾロアにも効果抜群……!
131 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:44:02.56 ID:aNVgiSRu0

かすみ「や、やるじゃないですか……!! さすが、群れのボスだけありますね!!」

 「グマッグマッ!!!」


さらに、怯んだ2匹に向かって、お得意の“すなかけ”を畳みかけてくる。


 「ガ、ガゥゥ…」「キャモッ…」
かすみ「ゾロアもキモリも、怯まないで! このままじゃ、逃げられちゃう……!!」

 「クマッ…!!」


かすみんの反応を見て、好機と思ったのか、ジグザグマが逃走を図ります。


かすみ「……まあ、逃げられちゃうなんて、嘘なんですけどね」

 「クマッ!!?」


急にジグザグマが何かに足を取られ、つんのめりながら転ぶ。

──いつの間にか、ジグザグマの足元の葉っぱの葉先が結ばれて、ジグザグマの足を取っていました。


かすみ「キモリ! ナイス“くさむすび”!」
 「キャモッ」

 「クマッ!!?」


そうです、かすみん最初からジグザグマを油断させて、転ばせるつもりだったんです。

そして、転んでしまったジグザグマに──


 「ガゥゥゥゥ…ッ!!!!!」


唸り声をあげながら、近付いていくゾロア。


 「ク、クマァ…!!!」

かすみ「ゾロアも、“すなかけ”で能力を下げられて、お怒りですよね!」
 「ガゥッ!!!!」

かすみ「ゾロア!! “うっぷんばらし”!!」
 「ガァァァゥ!!!!!」

 「クマァッ!!!?」


“うっぷんばらし”は能力を下げられた後だと、威力が倍になる技です。

怒りのパワーを乗せた、爪がジグザグマを切り付け、そのパワーで吹っ飛ばす。


 「ク、クマァ…」


大きなダメージを受けて、もう逃げる体力も残っていないであろうジグザグマに、かすみんは歩いて近寄ります。


かすみ「ふっふっふ……人の物を盗った報いですよ」

 「ク、クマァ…」

かすみ「泥棒はいただけませんが、目聡くレアなものを集めるところは嫌いじゃないですよ。なので、これからはその能力をかすみんの為に使ってください」

 「クマ…?」


かすみんはポケットから取り出した空のモンスターボールを、ジグザグマに向かって投げつけた。

──パシュン。ジグザグマはボールに吸い込まれたのち、1回、2回、3回揺れて……大人しくなった。
132 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:45:28.13 ID:aNVgiSRu0

かすみ「ジグザグマ、ゲットです!」
 「キャモ」「ガゥガゥ♪」

かすみ「ふっふっふ……かすみんの“きのみ”を強奪した分、たくさん働いてもらいますよぉ……? 食べ物の恨みは怖いんですからねぇ……?」

しずく「──……どっちが悪役なんだか」


気付くと、後ろでしず子が呆れ気味に肩を竦めていました。


かすみ「あ、しず子、見て見て〜イタズラジグザグマはこのとおり、捕まえたよ〜」

しずく「あんまりジグザグマのこと、いじめちゃダメだよ?」

かすみ「いじめないよ! これからジグザグマはかすみんのために誠心誠意働いてくれるんだから〜♪」


かすみんは、今しがた捕まえたジグザグマをボールから出す。


 「──クマ…」
かすみ「ほーら、ジグザグマ〜、あなたの“おや”のかすみんですよ〜」


かすみんがジグザグマの頭を撫でようとすると、


 「ガブッ」
かすみ「いったぁぁーーー!!!? 何するんですかぁ!!!?」


噛み付かれました。


しずく「そりゃそうだよ……捕まえたばかりで、まだなついてないでしょ?」

かすみ「えぇ……それじゃ、かすみんのお宝ザックザク計画はどうなるんですかぁ……」

しずく「なついて貰えるように頑張るしかないんじゃないかな」

かすみ「むー……困りましたね」

しずく「それよりかすみさん、バッグ……置きっぱなしだったよ」


そう言いながら、しず子がバッグを手渡してきます。


かすみ「ああ、ごめん。ありがと、しず子」


バッグを受け取る際──コロっと“ネコブのみ”が転がり落ちます。


 「…! グマッ!!!」


そして、落ちたネコブをジグザグマがパクっと……。


かすみ「ああ!? まだ食べるの!?」


眉を顰めるかすみんとは裏腹に、


 「…クマァ♪」


ジグザグマは幸せそうな笑顔を浮かべ、器用に後ろ脚で立ちながら、かすみんのバッグに前脚を伸ばしてくる。


かすみ「なんですか……まだ食べたいんですか?」
 「クマァ」

かすみ「……伏せ」
 「クマァ」


ジグザグマはかすみんの指示にすぐさま従って、身を屈める。
133 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:46:46.13 ID:aNVgiSRu0

かすみ「……食べた瞬間、さっきの“なまいき”な態度が一変しましたね……」

しずく「あ、もしかして……」

かすみ「?」

しずく「“ネコブのみ”の効果じゃないかな? ポケモンがなつきやすくなるって言う……」

かすみ「……! なるほど! じゃあ、この“きのみ”をたくさん食べさせれば……! ジグザグマ!」
 「クマ?」

かすみ「もっと、“きのみ”食べていいですよ! その代わり、これからかすみんにいっぱい協力してください!」
 「クマァ♪」


バッグをひっくり返して、ジグザグマの前に“きのみ”を落とすと、ジグザグマは幸せそうに、“きのみ”にむしゃぶりつき始めました。


かすみ「ふっふっふ……これで、お宝ザックザク計画は成功したようなものです……ふへへ」
 「ガゥガゥ♪」「キャモッ」

しずく「結局、“きのみ”食べられちゃってるけど……」

かすみ「? しず子どうしたの? 変な顔して……?」

しずく「まあ、かすみさんがいいなら、それでいいと思うよ……」

かすみ「……?」


しず子の言葉に首を傾げる中、


 「クマァーー♪」


ジグザグマの幸せそうな鳴き声が、しばらくの間、太陽の花畑に響いているのでした。



134 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:47:21.17 ID:aNVgiSRu0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【太陽の花畑】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__●_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち キモリ♂ Lv.8 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.8 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.6 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:45匹 捕まえた数:4匹

 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.6 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.6 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ココガラ♀ Lv.6 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:56匹 捕まえた数:3匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



135 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 21:28:04.71 ID:aNVgiSRu0

 ■Intermission🐏



──ここはセキレイシティの北にある道路、10番道路……。


 「ブーーーン!!!!」


虫の頭にムキムキの体をした敵が彼方ちゃんたちに殴り掛かってくる。


遥「お姉ちゃん!」

彼方「大丈夫、大丈夫〜。バイウールー、“コットンガード”〜」
 「メェェェー」


相手の拳が──ボフッという音と共に、毛皮に飲み込まれる。


彼方「ふっふっふ〜、肉弾戦で彼方ちゃんのバイウールを倒せるかな〜?」

 「マ、ッシブ…!?」


あれ……? なんか、ちょっとショック受けてる……?


 「マッシ、ブーン!!!」

彼方「わぁ!? こっち来たぁ!?」


敵がバイウールーを無視して、私の方に突っ込んでくる。


彼方「お、怒らないでよ〜!」

遥「ち、挑発なんてするから……!」

彼方「た、助けて〜! 穂乃果ちゃ〜ん! 千歌ちゃ〜ん!」


彼方ちゃんが助けを呼ぶと、


千歌「ルカリオ!! “コメットパンチ”!!」
 「グゥォッ!!!」

 「ッシブッ!!!」


千歌ちゃんのルカリオが、敵に向かって拳を叩きこむ。


千歌「肉体が自慢なら、相手してあげるよ!」

 「ブーンッ!!!」

彼方「た、助かった……」

遥「お姉ちゃん、大丈夫……?」

彼方「頼もしいボディガードのお陰で無事だよ〜」

遥「良かった……」

彼方「それにしても、あのマッチョムシ……まさか、彼方ちゃんに直接殴り掛かってくるなんて……。さすがの彼方ちゃんも、肝が冷えたぜ……」

遥「マッチョムシって……勝手に変な名前つけちゃダメだよ、お姉ちゃん」


千歌ちゃんのルカリオと対峙したマッチョムシは、


 「マッシブッ!!!!!」


急にポージングを始める。
136 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 21:30:01.21 ID:aNVgiSRu0

千歌「お……?」

 「ッシブッ!!!」

千歌「筋肉を自慢してるのかな……? よーし! それなら、ルカリオ! “ビルドアップ”!!」
 「グゥォッ!!!!」

 「マッシブッ!!!!」

千歌「やるね……!」


千歌ちゃんも張り合うように、ルカリオに“ビルドアップ”を指示して、ボディビルバトルを始める。


遥「あ、あの……千歌さん……倒さないと……」

千歌「え? ……そういえば、そうだった。ルカリオ! 拳、集中!」
 「グゥォ──」


ルカリオが指示のもと、一気に精神を集中させて──拳に力を籠める。

──直後、カッと目を見開いて、


千歌「“きあいパンチ”!!」


風を切り裂くほどのスピードでマッチョムシに向かって、拳が放たれる。

これで決着──と思いきや、


 「マッシブッ…」


マッチョムシは、ルカリオの拳を手の平で受け止めていた。


千歌「と、止められた!?」
 「グゥォッ!!?」

 「マッシブッ!!!!」


そのまま、ルカリオの腕を掴んで上に向かって放り投げる。


 「グゥァッ!!!?」
千歌「ル、ルカリオー!?」

 「マッシブッ!!!!」


そのまま、今度は千歌ちゃんに向かって飛び掛かってくる。


千歌「わ、やばっ! 穂乃果さん、バトンタッチ!!」

穂乃果「了解〜!」


飛び掛かってくる、マッチョムシとの間に躍り出た穂乃果ちゃんがボールを投げる。


 「ゴラァァーーースッ!!!!!」
穂乃果「ガチゴラス!! “かみくだく”!!」


ボールから飛び出した穂乃果ちゃんのガチゴラスが、空中のマッチョムシをガブリと大顎で捕まえ、そのまま地面に叩きつけた。


千歌「さっすがぁ!」

 「マ…シブッ!!!」


でも、マッチョムシも負けていない。噛みつかれながらも腕を伸ばして、ガチゴラスの頭部に掴みかかる。


遥「あ、“あてみなげ”です!!」
137 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 21:31:28.82 ID:aNVgiSRu0

“あてみなげ”は先行を譲る代わりに、確実に投げを成功させるカウンター技……! 超パワー系だと思ったのに、意外にもそんな返し技を隠していたらしい。

だけど、穂乃果ちゃんは全く怯まず、


穂乃果「“かいりき”!!」
 「チゴラァァァーース!!!!」


むしろ、パワーで押さえつける。


遥「か、確実に成功するはずの投げ技が、力で抑え込まれてる……」

 「マ、マッシブッ…」


さすがに、この展開は予想していなかったのか、マッチョムシのパワーが僅かに鈍った瞬間──ガチゴラスは一気に頭を上に向かって振って、


 「ゴラァァスッ!!!!」

 「ッシブッ!!!?」


マッチョムシを空に放り投げる。すぐさま、空中で翅をバタつかせ始めるが、飛行体制に入りきる前に──


穂乃果「“もろはのずつき”!!」
 「ゴラアァァァァッスッ!!!!」

 「…ッシブーーーンッ!!!!?」


落ちてきた、マッチョムシに破砕の一撃を叩きこんだ。

マッチョムシは数十メートル吹っ飛んだあと──


 「…ブーーーーンッ!!!!」


空中に空いている“穴”の中へと逃げていった。


穂乃果「ふぅ……」

千歌「さすが、穂乃果さん!」

穂乃果「えへへ♪ パワー系、相手なら任せて!」

彼方「助かったよ〜、穂乃果ちゃん〜、千歌ちゃん〜」

遥「お二人とも、ありがとうございます」

穂乃果「うぅん、彼方さんと遥ちゃんが無事で何よりだよ♪」

千歌「とりあえず、本部にメール打っておくね!」

穂乃果「うん、お願い!」


千歌ちゃんが簡単な事後処理を済ませて、


穂乃果「じゃあ、帰ろっか」


用事は済んだので、これから帰還しようと、穂乃果ちゃんがリザードンをボールから出したそのときだった。


 「──そこにいるのは、もしや千歌さんではありませんか!?」


辺りに響く、通る声。

振り返るとそこには、ウインディに跨って、黒髪を風に靡かせている女の子の姿。
138 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 21:32:16.85 ID:aNVgiSRu0

千歌「あれ? せつ菜ちゃん?」

せつ菜「こんなところで会うなんて、奇遇ですね!」

千歌「……ええと、せつ菜ちゃん、今さっきの戦闘って見てた?」

せつ菜「戦闘……? 特に何も見ていませんが……先ほどまで、野生のポケモンと戦っていたのでしょうか?」


千歌ちゃんの質問に、せつ菜ちゃんがきょとんとした顔をする。よしよし、見てなさそうだね。


せつ菜「それよりも、こんなところで出会ったのも何かの縁です!! トレーナー同士が出会ったら、することは一つ……!」

千歌「……ふっふっふっ、ポケモンバトルしかないよね……!」


両者、当然のようにボールを構えて戦闘態勢に……。


彼方「千歌ちゃんノリノリだ〜」

穂乃果「えっと、それじゃ私は彼方さんと遥ちゃんを町まで送っちゃうね」

千歌「うん! バトルが終わったら追いかけるから!」

せつ菜「準備はいいですか!? 千歌さん!!」

千歌「いつでもOK!」


二人がボールを構えて、バトルを始めようとしているところを見ながら、リザードンが浮上していく。


穂乃果「リザードン、お願いね」
 「リザァッ」


私たちは、リザードンの背に乗りながら、10番道路を後にするのでした〜。


………………
…………
……
🐏

139 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:10:24.74 ID:U/9mkAOw0

■Chapter007 『海を越えて!』 【SIDE Kasumi】





──ジグザグマを捕獲し、太陽の花畑を抜けたかすみんたちは……。


かすみ「サニータウン到着〜! 見てよしず子! 海だよ、海! 潮の香りもしてきて……あぁ、かすみん今、冒険してる……」

しずく「私はここに住んでるから、毎日見てたんだけどね……」


そういえば、しず子は毎日この町から、学校のあるセキレイシティに通ってたんだった。


かすみ「あ、それじゃ、しず子は一旦家に帰る?」

しずく「うーん……それはいいかな。せっかく旅に送り出した娘が2日で家に帰ってきたら、逆に心配掛けちゃうよ」

かすみ「ふーん……?」


かすみんのパパとママは、かすみんが帰ってくるのはいつでも歓迎してくれるんですけどね?

まあ、しず子のお家って、なんか厳しそうだしなぁ……。


しずく「だから、サニータウンは出来るだけ早く素通りしたいかなって……」

かすみ「わかった。じゃあ、港に行こっか」


かすみんたちはそのまま、サニー港まで直行します。





    👑    👑    👑





──サニー港から、すぐに船でフソウ島を目指そうとした、かすみんたちだったんですが……。


しずく「──エンジントラブルですか……?」

船乗り「ああ、そうなんだよ。最近調子が悪くなることが多くってね」


またまたまたまた、足止めを食らうことになってしまいました。なんと船がエンジントラブルで欠航しているそうです。


かすみ「日頃の整備が適当なんじゃないですか……?」

しずく「こ、こら! かすみさん! 失礼なこと言わないの!」

船乗り「ははは……耳が痛いね。ただ、この港から出る船は特に調整に気を遣うからね……他の港だったら、気にしないような些細な部分でも、ここでは必要以上に慎重になっちゃうんだよ」

かすみ「……? どういうことですか?」


船乗りさんの言葉に、かすみんは小首を傾げる。


しずく「……“船の墓場”、ですね」

船乗り「ああ、君は地元の子かい?」

しずく「はい。……それなら、仕方ありませんね、船の調整が終わるまで待つしかないです……」

船乗り「悪いね、お嬢ちゃんたち」

しずく「いえ、お仕事頑張ってください。かすみさん、行こう」

かすみ「う、うん……?」


しず子に言われるがまま、港を離れることに。かすみんは歩きながら、しず子に訊ねます。
140 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:11:36.15 ID:U/9mkAOw0

かすみ「ねぇ、しず子。“船の墓場”って何?」

しずく「えっとね……サニータウンでは有名なんだけど……。この町から東側に抜けていく水道──つまり、15番水道はね、昔から船が沈むことがすごく多い海域なの」

かすみ「海が荒れやすいの?」

しずく「うぅん、特別荒れやすいってほどじゃないと思う」

かすみ「じゃあ、なんで船が沈むことが多いの……?」


海が荒れもしないのに、船が沈むなんて……やっぱり、整備不良なんじゃないですかね……?


しずく「原因はあんまりわからないけど……急に航行不能になって、そのまま沈んじゃうってことが多いって言われてるかな。海の怨霊のせいだなんて噂もあるくらいで……」

かすみ「な、なになに!? 怖い話!?」

しずく「まあ、怖い話かも……。船乗りさんってゲン担ぎを大切にする人が多いから、ここの港から出る船は少しでも不調が見られたら、基本的に欠航になるんだよ」

かすみ「……かすみん、フソウ島に渡るのやめようかな……」

しずく「調子が良ければ問題ないんだよ? あと不思議なことに、船以外での水難事故は少ないみたい」

かすみ「お、泳いで行けってこと!?」

しずく「うーん……さすがに遠すぎて、ポケモンの“なみのり”以外だと、フソウ島まで行くのは難しいかな……」


嫌なことを聞いてしまった気分です……。この後、船が直っても乗って行くのを躊躇しちゃいそう……。

しず子と話しながら、港沿いに歩いて行くと、綺麗な砂浜が視界に入ってくる。


かすみ「こんなに綺麗なビーチのある海なのに……」


そのとき突然、


 「──クマァ♪」


ジグザグマが勝手にボールから飛び出してきました。


かすみ「ん? ジグザグマ、どうかしたの?」
 「クマッ♪」


ジグザグマはそのまま、砂浜の方へと走り出す。


かすみ「砂浜で遊びたいのかな……?」

しずく「調整に時間もかかるだろうし、砂浜の方に行ってみる?」

かすみ「そうしよっか」


ジグザグマを放っておくわけにもいかないしね。


 「ザグマァ♪」
かすみ「ジグザグマ? 何してるの?」


ジグザグマは砂浜の砂を掘り返している。


しずく「何か見つけたんじゃないかな? ジグザグマって、探し物が得意なポケモンだから」

かすみ「おお! 早速お宝ザックザク計画開始ってわけだね!」

しずく「そんなにうまくいかないと思うけどなぁ……」

 「クマッ」


ジグザグマが何かを見つけたのか、口に咥えて、かすみんのところに持ってくる。


かすみ「何拾ってきたの? ……わぁ、なんか綺麗な欠片! 良い子だねぇ〜ジグザグマには『かすみん4号』の称号をあげちゃいますよ〜」
141 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:12:51.60 ID:U/9mkAOw0

ジグザグマが拾ってきたのは黄色い綺麗な欠片みたいなものです。高く売れたりするかな? ワクワク♪ ──あ、ちなみに『かすみん3号』はキモリですよ!


しずく「そ、それって……“げんきのかけら”じゃない?」

かすみ「ほぇ?」

しずく「戦闘不能になったポケモンの元気を取り戻すアイテムだよ」

かすみ「おぉー! ホントに良い物じゃないですかー! ジグザグマ! もっと、探そう!」
 「クマ♪」

しずく「お宝ザックザク計画……意外と順調……?」


この調子で、ここらのお宝たくさんゲットですよ〜♪





    👑    👑    👑





しずく「“きずぐすり”、“スーパーボール”、“なんでもなおし”、“げんきのかけら”……あとこれは“おおきなキノコ”かな……?」

かすみ「ジグザグマ〜おりこうさんですね〜♪」
 「クマァ〜♪」

しずく「“ものひろい”って思ったより、すごいのかも……」

かすみ「この調子でもっとたくさん集めますよ〜♪」
 「ザグマ〜♪」


引き続き、お宝ザックザク計画を続行しようとしていると、


 「──あれ? もしかして、かすみちゃんとしずくちゃん?」


突然、声を掛けられる。振り返ると、そこにいたのはアッシュグレーでショートボブの先輩トレーナーさん──


かすみ「あれ? 曜先輩?」

曜「二人とも、こっち方面に進むことにしたんだね」

しずく「曜さんも今日はこちらでお仕事を?」

曜「うん、私の仕事はセキレイ〜フソウ間をメインに、いろんなアミューズメントを考えることだからね」

かすみ「あれ? 曜先輩って、コンテスト運営委員会の人じゃなかったんですか?」


ジムリーダー以外には、そういう仕事をしているって聞いてましたけど……?


曜「それも私の仕事かな。コンテストを盛り上げるための一環として、オトノキ地方の二大会場がある、セキレイ、フソウにたくさん人が来るように考える。今はその仕事をしてるところだよ」

しずく「コンテスト会場に人を呼ぶのも、運営委員会の仕事なんですね」

曜「そういうこと。ところで、二人はここで何してるの?」

かすみ「お宝ザックザク計画の真っ最中です!」

曜「お宝ザックザク計画……?」

しずく「私たち、船が整備中で欠航しちゃって……直るのを待ってるところなんです」

曜「あーなるほど。……確かに、ここの港は出港にもすごく気を遣うからね……私たちにとっても困りの種なんだよね」


曜先輩も腕を組んで、困り顔になる。そりゃそうですよね、セキレイ〜フソウへの人の往来を増やすために仕事をしているのに、肝心の船が欠航しやすいなんて、致命的です。
142 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:13:43.31 ID:U/9mkAOw0

かすみ「いっそ、船なんかなくして、ポケモンでの渡し便を作っちゃえばいいのに……」

曜「……かすみちゃん、良い着眼点だね」

かすみ「はぇ?」


適当に言ったことだったので、曜先輩のリアクションに対して間抜けな声が出る。


曜「実は今、そういう方向で考えててね……って、実際に見てもらった方がいいかな! 二人とも、付いてきて!」


曜先輩はそう言いながら、颯爽と海の方へと、走って行く。


かすみ「え、ええ……?? なんだろう……」

しずく「とりあえず、行ってみる?」

かすみ「……うん」


かすみんたちは、お宝ザックザク計画を中断して、曜先輩に付いていきます。





    👑    👑    👑





曜「二人とも、こっちこっち!」


──かすみんたちが連れてこられた場所は波打ち際で……なにやら、看板が立っています。


かすみ「なんですか、この看板のマーク……?」

しずく「……もしかして、マンタインですか?」

曜「しずくちゃん、正解! みんな、出ておいで!」


曜先輩が、ピューっと指笛を吹くと──


 「マンター」「タイーン」「マンタァー」


マンタインたちが海から顔を出しました。そして、そのマンタインたちは背中になにやら手すりのようなボードが取り付けられています。


しずく「もしかして……マンタインサーフですか?」

曜「またまた、しずくちゃん正解!」

かすみ「マンタインサーフってなんですか……?」

しずく「アローラ地方にある、マンタインに乗ってサーフィンする遊びのことだよ。確か、競技にもなってたはず……波でジャンプしながら、技を決めてその技術を競い合うんだよ」

曜「うんうん! 船が出せなくてフソウ島に遊びに行けないんだったら、もう行くところから遊びにしちゃったらどうかなって思って!」

かすみ「えっと……つまり、マンタインサーフしながら、フソウ島まで渡っちゃおうってことですか?」

曜「そういうこと!」


なるほど。曜先輩が良い着眼点だって言っていたのは、これのことだったんですね。
143 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:15:04.85 ID:U/9mkAOw0

曜「まあ、まだ調整中なんだけどね。もうちょっとしたら、正式に出来るようになると思うよ!」

かすみ「調整中ってことは、まだダメなんですか? マンタインはもういるのに……」

曜「十分な数のスタッフやライフジャケットの手配とか、ルート選定とか、あと本当に安全かのテスト運用も必要だから、すぐってわけにはなかなかね……。あーそうか……スタッフはともかく、慣れてない人も想定しないといけないから、テスト運用の際は一般公募枠も作らないとかな……」

かすみ「なんだか、何かをやるのって大変なんですね……」

曜「あはは、まあこれが仕事だし。大変だけど、考えるのも意外と楽しいんだよね」

しずく「なにはともあれ、うまく行くといいですね! これが実現すれば、セキレイやフソウだけでなく、サニータウンも活気付きますし!」

曜「そうだね、頑張って実現してみせるよ!」


力こぶを作って見せる曜先輩。確かに、この人の行動力なら、遠くないうちに実現しそうです。

──ふと、そこで、かすみん思いました。

かすみんたちは海を渡りたい。渡るには船よりポケモン。曜先輩は試しにやってくれる人を探している……。


かすみ「あの、曜先輩」

曜「ん? 何かな?」

かすみ「テスト運用で一般から人を集めたい、みたいなこと、さっき言ってたじゃないですか」

曜「うん、そうだね」

かすみ「それって、かすみんたちじゃダメですか?」

しずく「かすみさん?」

曜「……んっと、問題ないけど……予定とか大丈夫? 旅の途中でしょ?」

かすみ「大丈夫です!」

しずく「ち、ちょっと、かすみさん、勝手に……!」

かすみ「まさに今かすみんたちは、フソウ島へ渡ろうとしてるところですから!」

曜「え? 今?」


曜先輩は少し驚いた顔をしましたが、すぐに思案し始める。


曜「……確かにライフジャケット2着くらいなら今でもあるし……暫定ルートもある程度はマンタインたちに教えてある……いけるかも」

しずく「え、えっと……曜さん?」

曜「ちょっと今ライフジャケット取ってくるね!」

かすみ「はい! お願いします!」


曜先輩は身を翻して、近くの小屋に走って行く。恐らく、あそこにいろいろな機材やらと一緒にライフジャケットが置いてあるってことでしょう。


しずく「え、えええ!? ホントにやるつもりなの!?」

かすみ「早くサニータウンを出たいんでしょ? 船を待つくらいなら、マンタインで行っちゃおうよ!」

しずく「だ、大丈夫かな……」

かすみ「大丈夫だって〜、しず子は心配性だなぁ〜♪ 何事も当たって砕けろだよ!」

しずく「砕けたくはない……」

かすみ「せっかく海を渡れるなら、あれだよ……えーっと……なんだっけ」

しずく「……まさに渡りに船だね」

かすみ「それそれ! それが言いたかったの!」


程なくして、曜先輩が戻ってくる。
144 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:16:00.20 ID:U/9mkAOw0

曜「かすみちゃん! しずくちゃん! ライフジャケット、持ってきたよ!」


──さぁ、レッツ・マンタインサーフです♪





    👑    👑    👑





かすみ「ひゃっほーーー♪」
 「タイーーン」

しずく「か、かすみさん! 先に行き過ぎないでー!」
 「マンター」


マンタインは水しぶきをあげながら、波の上を進んでいく。


かすみ「お! また、波が来ましたね! 行きますよ〜!」
 「マンタイーン」


かすみんは波に向かうように、重心をずらしながらマンタインを操ります。

そして、スピードを殺さずに波の頂点から──


かすみ「ジャーンプ!!」
 「タイーーン」


ハイジャンプ! ジャンプすると、マンタインが風を受けてくれるので、少しの間カイトの要領で空も飛べちゃいます!


かすみ「そして、ナイス着地〜♪ 楽しい〜♪」

しずく「かすみさん! だから、先行しすぎないでって!!」


しず子が、かすみんの横に追い付いてきて、ぷりぷりと文句を言う。


かすみ「しず子もちゃんと追い付いてこれてるじゃ〜ん」
 「タイーン」

しずく「もう! 曜さんに言われたでしょ!?」


うるさいなぁ……。

出発前に、曜先輩に言われたことを思い出す──



──────
────
──


曜「二人とも、あんまりスピードを出し過ぎないように。あと、あんまり高く飛び過ぎちゃダメだよ?」

かすみ「はーい♪」

しずく「わかりました」

曜「ライフジャケットがあるし、水に落ちてもマンタインがすぐに助けてくれるから慌てずにね! あともし、何かあったらポケギアに連絡してね? これ、私のポケギア番号だから──」


──
────
──────

145 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:17:03.30 ID:U/9mkAOw0

かすみ「でも、マンタインサーフって本来、波でジャンプしたりして、競い合うってしず子自分で言ってたじゃん!」
 「マンター」

しずく「私たちの目的はフソウ島まで、渡ることでしょ!?」
 「タイーン」

かすみ「これはテストでもあるんだよ? じゃあ、本来のマンタインサーフをこなさなきゃ♪」
 「マンタイー」

しずく「もう!! かすみさんっ!!」
 「ンタイーン」


ぷりぷり怒るしず子をスルーしながら、視線を前に戻すと──さっきよりも大きな波が迫っていることに気付く。


かすみ「これは大技チャンスです♪」

しずく「かすみさん!!」

かすみ「行くよ、マンタイン!」
 「タイーン」


大きな波に合わせて──


かすみ「ジャーーーーンプ!!!!」
 「マンタイーーン」


──ああ、かすみん、今風になってる……♪

高く飛べば飛ぶほど、風を感じられる……マンタインサーフ、最っ高♪


しずく「────!!!」


うるさいしず子の声も、こーんなに高く飛んじゃったら、ほとんど聞こえないですねぇ〜♪

風に乗って、カイトのように飛んでいると、しず子の姿がどんどん遠く──どんどん、遠く……?


かすみ「あ、あれ……? ち、ちょっと飛びすぎじゃない?」
 「タイーーン」

かすみ「マンタイン、もういいよ〜」
 「タイーン…」


かすみんがもういいと言っても、マンタインは全然高度を下げません。


かすみ「マンタイン……?」
 「タイーン」


あれ、なんか様子がおかしい……?

というか──


かすみ「なんか、加速してない……?」


眼下のしず子をどんどん引き離していく。

そこでやっと気付く。


かすみ「もしかして、風に煽られて、流されてる!?」
 「タイーーン…」

かすみ「ち、ちょっと!! マンタイン、下りられないの!?」
 「タイーン…」


そのとき──prrrrrrrrとポケギアが鳴り出す。


かすみ「い、今取り込み中なんですけどぉ!?」
146 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:18:20.32 ID:U/9mkAOw0

ポケギアの着信を見ると──相手はしず子だった。


しずく『かすみさん!! 早く高度落として!! 進路から外れてる!!』

かすみ「か、風に煽られちゃって、下りられないの!!」

しずく『ええ!? だから、言ったのに……!!』

かすみ「ど、どうしよう……」

しずく『とにかく、どうにかして下りるしかないよ!!』

かすみ「ど、どうにかって……」


かすみん、どうすればいいかわからなくて、オロオロしてしまいます。

そして、オロオロしている間にさらに──ビュウっと突風が吹いてきました。


しずく『かすみさん!? また、加速してる!?』

かすみ「さ、さらに強い風が吹いてるー!? た、助けてー!?」

しずく『かすみさ──』


──ブツ、ツーツーツー。


かすみ「しず子!? しず子ー!!」


急にしず子との電話が途切れる、何かと思ってポケギアの画面を見ると──


かすみ「け、圏外……?」


電波が届かない場所まで、ルートを大きく外れてしまったみたいです。


かすみ「た、た、た、助けてーーー!!!!」


かすみんは風に流されて、どこまでも飛んでいきます……。





    👑    👑    👑





かすみ「……うぅ……」
 「タイーン…」


再び海に無事着水出来たときには……もう随分風に流されてしまいました。辺りは見渡す限り海海海……完全に沖まで飛ばされてしまいました……。

しず子の姿は全く見えなくなってしまったし、ポケギアも依然圏外のまま……。


かすみ「どうしよう……」


不幸中の幸いと言うべきなのは、落ちた先に地面がなかったことですかね。

激突していたら、大変なことになっていました……。

ただ、逆にここまで海しかないと、帰る方向もわからない……。


かすみ「……うぅ……こんなことなら、しず子の言うこと聞いておくんだった……」
 「タイーーン…」
147 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:19:21.15 ID:U/9mkAOw0

ぷかぷかと浮かぶマンタインの上で、膝を抱えていると──


かすみ「……っ!?」


急に背筋がゾクリとする。


かすみ「な、何……!?」


びっくりして顔を上げると……気付けば、辺りは霧に包まれていました。


かすみ「え、嘘……何これ……」
 「タイーン…」


急な出来事に呆然としていると──


かすみ「!?」


霧の中に大きな影がヌッと現れる。


かすみ「な、な、な、なんなんですかぁ……っ……」


半べそをかきながら、影を睨みつけていると──霧の中からその影の正体が姿を現し始めた。

これは……。


かすみ「……ふ、船……?」


そう、かすみんの目の前に現れたのは、大きな大きな木製の船でした。


かすみ「えっと……」


かすみん、戸惑いを隠せませんが……。


 「タィーン…」
かすみ「…………」


このまま漂流しているのは危ないし、この船に乗せてもらおう。そう思って、


かすみ「マンタイン、船の方に進んでくれる?」
 「タイーン…」


かすみんは、船に近付いて行きます。





    👑    👑    👑





かすみ「……でっか」


間近で見ると、船はものすごい大きさでした。

ただ、船自体は動くことなく、止まっています。


かすみ「もしかして、誰も乗ってないのかな……?」


見た感じ、壊れてたりはしなさそうだけど……?
148 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:20:17.42 ID:U/9mkAOw0

かすみ「でも、壊れてないなら、こんなところに船だけあるのっておかしいよね……?」
 「タイーン…」


むーっと、腕を組んで少し考えてみましたが……いつまでも海の上でぷかぷか浮いていても仕方ありません。意を決して……。


かすみ「すみませーーーーん!! 誰か乗ってませんかーーーー!!!」


大きな声で、船の上の方に呼びかける。


かすみ「ここまで流されちゃってーーー!!! 助けてもらえませんかーーー!!!」


船に向かって助けを求めるけど、


かすみ「…………」


反応はありません。


かすみ「やっぱり、誰も乗ってないのかな……」


まあ、無人なら無人で、どうにかして乗り込めれば少し落ち着けるかも……?


かすみ「……でも、どうやって……?」


特に周りに、はしごみたいなものがあるわけでもないし……よじ登るっていうのは、キモリじゃないと……。


かすみ「! そうだ、キモリ!」


閃いたかすみんはキモリのボールを船に向かって放り投げます。


 「キャモッ!!!」


飛び出したキモリは、ボールから出ると同時に、船の外壁に足で張り付く。


かすみ「キモリ! 上にあがって、何か登るための道具とかないか見てきてくれるー?」

 「キャモッ」


キモリがヒョイヒョイと壁面を登って行く。

──程なくして、パサっと音を立てて何かが垂れ下がってきた。


かすみ「! 縄ばしご……!」


縄ばしごの上の方を見ると──


 「キャモーー」


キモリが上から、かすみんの方を見ています。

どうやら、キモリが見つけて下に投げてくれたようです。


かすみ「ありがとう、キモリ……!」


かすみんは、縄ばしごに手足を掛ける。


かすみ「マンタインはここで待っててもらっていい?」
 「タイーン」

かすみ「ありがとう、ちょっと行ってくるね」
149 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:21:15.39 ID:U/9mkAOw0

マンタインにはここで待機してもらう。マンタインを入れるボールを持っているわけじゃないし……かといって、かすみんのポケモンでもないから、捕まえることも出来ないからね……。


かすみ「よいしょ……よいしょ……」


縄ばしごなんか登ったことがないので知りませんでしたが、思った以上に揺れて登りづらい。

ゆっくりゆっくり登って行って……。


かすみ「はぁ……はぁ……登りきった……」


かすみんはやっと船の壁面を登り切りました。


 「キャモ!!」
かすみ「キモリー! ありがとねっ!」


キモリをハグしながら、お礼を伝えて──降り立った船の甲板を見回します。

人影のようなものは全く見当たりませんが……。


かすみ「なんか……思ったより、綺麗な船……」


古めかしい木造の船で、港で見られるような船ではないけど……それなりに手入れもされていて、アンティークな見た目の割に、穴が空いていたり、木が傷んでいるといった感じもしない。

やっぱり、人が乗ってるのかな……?


かすみ「誰か、いませんかー?」


返事を期待して呼びかけるものの……かすみんの声は、霧の中に吸い込まれて消えていきます。


かすみ「うぅーん……」


奥の方にいるのかな……?


かすみ「とりあえず、奥まで行ってみる……?」
 「キャモ」


とりあえず、船の奥の方に行ってみようと思い、歩き出した瞬間──


かすみ「……!?」


急に背後から、視線を感じて、背筋に悪寒が走った。

慌てて、振り返るけど──


かすみ「な、なにもいないよね……?」
 「キャモ…?」


やっぱり、ここにいるのはかすみんとキモリだけ。


かすみ「な、なんだか、気味が悪いですね……」
 「キャモ」

かすみ「……こ、ここはみんなで探索しましょう! ゾロア! ジグザグマ! 出て来てください!」
 「ガゥ!」「ザグマァ」

かすみ「よし! 奥に行ってみますよ!」
 「キャモ」「ガゥ」「ザグ」


かすみんはポケモンたちと一緒に探索を始めます。



150 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:22:25.08 ID:U/9mkAOw0

    👑    👑    👑





かすみ「すみませーん……誰かー……いませんかー……」
 「ガゥガゥ」


甲板から、船の中に入り、狭い船内の廊下を歩きながら訊ね続ける。

でも、かすみんの可愛い〜声が反響してくるだけで、乗組員からの反応のようなものは一切ないまま。

ただ、時折──


かすみ「……!? ま、また……!」
 「ザグマ?」


背筋に悪寒が走る現象だけは定期的に発生している。


かすみ「もう……なんなんですかぁ……っ……」
 「キャモ」


ポケモンたちが相槌を打ってくれるのが唯一の救いです……。一人だったら、心細すぎて、泣き出しちゃうかも……。

船内の廊下を区画分けしているであろう、ドアを一個ずつ開けながら、歩を進めていると急に──トントンと、肩を叩かれます。


かすみ「何? ゾロア?」
 「ガゥ?」


ゾロアが足元で返事をします。


かすみ「あれ……? キモリ? ジグザグマ?」
 「キャモ?」「クマ?」


これまた、足元から返ってくる2匹の鳴き声。


かすみ「え……? じゃあ、今の何……?」


恐る恐る振り返ると──黒い得体の知れない“なにか”がぼやぁっと浮かんでいました。


かすみ「!!?!? ぎゃああああああああああああああ!!!!!!? お化けえええええええええええ!!!?」


かすみんはびっくりして、尻餅をついてしまいます。


 「キャモッ!!!」


それを見たキモリが、いの一番に飛び出して、お化けに向かって尻尾を振るう。

ですが、相手はお化け──案の定、スカッと攻撃が空振りしてしまう。


かすみ「だ、だ、だ、ダメだよ、キモリ……!! お化けだから、すり抜けちゃうよぉ……!!」
 「キ、キャモ…」

 「グルルルル…ガゥガゥガゥ!!!!!」


攻撃じゃダメと判断するや否や、ゾロアが“ほえる”。


 「──!!! ……」


すると、お化けはスーッと壁の向こうに行ってしまいました。
151 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:23:23.80 ID:U/9mkAOw0

かすみ「ゾ、ゾロア〜……」
 「ガゥガゥ♪」


ゾロアのお陰で助かりました……。


かすみ「なんですか、ここぉ……! 人どころか、お化けがいるんですけどぉ……」


かすみん、こんなところにはいられません。足が震えるのを我慢して、立ち上がる。


かすみ「に、逃げよう、みんな……!」
 「ガゥ」「キャモ」「ザグ」


来た道を戻るために、通路のドアに手を掛ける。

──ガチャガチャ。


かすみ「あ、あれ……?」


──ガチャガチャガチャ。

何故か、ドアが開かない。


かすみ「う、うそ……」


これって、もしかしなくても……。


かすみ「と、と、閉じ込められましたぁーー!!!!」
 「ガゥ!?」


ガンガンとドアを叩いてみるけど、頑丈なドアはうんともすんとも言いません。

──と、いうか……改めて辺りを見回すと、


かすみ「この船……ボロボロじゃん……」


先ほどまで、綺麗だと思っていた船は、あちこちの木が傷み、床も壁も天井もボロボロ。

何十年も人の手が入っていないことが一目でわかる有様です。


かすみ「かすみんたち……もしかして、幽霊船に誘い込まれた……?」


サァーっと血の気が引いて行く。

そして、次の瞬間──ボッボッボッと音を立てて、通路のランタンに青い炎が灯る。


かすみ「ぴゃあああああ!!?」
 「キャモッ!!!」「ガゥガゥ!!!」「ザグマァ…!!」


そして、それと同時に──さっきのお化けが再び姿を現しました。

……今度はたくさんの仲間を連れて。


かすみ「いやあああああああ……っ……!!!!」
 「キャモッ!!!?」「ガゥッ!!!」


かすみんは怖くなって、全速力で走り出します。全力ダッシュのかすみんを──


 「────」「…………」「〜〜〜」


飛んで追ってくる、お化けの姿。
152 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:24:27.94 ID:U/9mkAOw0

かすみ「付いてこないでえええええ!!!!」


かすみんは絶叫しながら、夢中で走り続ける──





    👑    👑    👑





かすみ「はぁ……はぁ……はぁ……」


どれくらい全力でダッシュし続けてたかわからない。夢中で走って走って走りまくって……気付いたら、お化けたちの姿は消えていた。


かすみ「うぅ……外に出るどころか……すごい奥まで来ちゃった……」
 「ガゥ…」


急にかすみんが走り出したせいもあって、ゾロア以外とはぐれちゃったし……。


かすみ「探さないと……」


とは思うものの、今自分がいる場所もよくわからない……。

こうして夢中で逃げ込んで来たこの場所にあるのは──足が折れて使い物にならない椅子と、ボロボロで見るからに傾いている引き出しの付いた机。

そして、壁には帽子が掛けてある。


かすみ「ここ……船員さんのお部屋なのかな」


辛うじて、人間味のある物を見つけて、なんとなく安心する。

もちろん、ここにある物も、もう何年も人に触れられていないことがわかる代物だけど……。

傷んだ床を踏み抜かないように、慎重に歩きながら、机や帽子の掛かった壁の方に歩を進める。


 「ガゥ」
かすみ「ゾロア……?」


一緒に探索していたゾロアが、机に飛び乗るや否や、鳴き声をあげる。

何かと思って、目を向けると──傾いて、勝手に空いてしまったであろう、机の引き出しの中に、


かすみ「なんだろ……?」


一冊のノートのようなものがあった。なんとなく手に取る。


かすみ「うわ、埃っぽい……」


パッパッと手で埃を払って、改めてよく見てみると──『Diary』の文字。


かすみ「これ、日記だ……」


パラパラとめくってみる。ところどころページが破けていて、読めないページも多いけど……なんとなく理解できる範疇だと、


かすみ「……えっと、この船……この海域の調査に来た船みたい」
 「ガゥ?」


度重なる不審な船の沈没。その原因を探るために、この15番水道まで来た船らしい。

そして、その中に気になる記述を見つける。
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