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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」
- 1 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:03:51.67 ID:QLy5TvuG0
- ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会SS
千歌「ポケットモンスターAqours!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1556421653/
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1557550388/
の続編です。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1667055830
- 2 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:08:52.99 ID:QLy5TvuG0
- ......prrrr
......prrrrrr
pi!!
『……聞こえるかしら? 選ばれし子供たち』
『──ふふ、良い返事だわ』
『ごきげんよう、可愛い可愛いリトルデーモンたち。いよいよ、明日が旅立ちの日ね』
『改めて、私は堕天使ヨハネ。ここセキレイシティのツシマ研究所にて、博士をやっているわ。ヨハネ博士とでも呼んで頂戴。……と言っても、貴方たちとは既に何度も顔を合わせているし、今更名乗る必要もないかもしれないけど……──え? 善子? ……善子言うな!!』
善子『コホン……。こういうのは儀式みたいなもんなのよ。大人しく聴いてなさい』
善子『この世界にはポケットモンスター──通称ポケモンと呼ばれる生き物たちが、草むら、洞窟、空、海……至るところにいて、私たちはポケモンの力を借りたり、助け合ったり、ときにポケモントレーナーとして、ポケモンを戦わせ競い合ったりする』
善子『私はここオトノキ地方で、そんなポケモンと人との関わり合いの文化を研究しているわ。そして、今回貴方たちにはその研究の一環として、ポケモンたちと一緒に冒険の旅に出て欲しいと思っている』
『ムマァ〜ジ♪』
善子『って、うわぁ!? や、やめなさい、ムウマージ!! 今大切な話ししてるところだから!? 後で遊んであげるから、あっちいってなさい!!』
善子『はぁ……元気が有り余り過ぎてて困るわね……。……さて、最後に貴方たちの名前を改めて教えてくれるかしら? え? もう知ってるだろって? これも儀式みたいなものなのよ、いいから名乗りなさい』
…………
善子『……歩夢、かすみ、しずくね。ふふ、やっぱり私が選んだだけあって、みんな良い名前だわ』
善子『それじゃ3人とも。私は研究所で待ってるから。また明日──』
【セキレイシティ】
口================== 口
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- 3 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:13:39.26 ID:QLy5TvuG0
-
❓ ❓ ❓
──ローズシティ。ニシキノ総合病院のとある一室。
聖良「…………」
綺麗な顔をしたまま、ベッドの上で何年も眠り続けている彼女の顔を見る。
──ピ……ピ……ピ……と、無機質なバイタルサインの音と、呼吸とともに僅かに上下する胸の動きで、まだ生きていることはわかった。
この地方を大きく揺るがすこととなった、グレイブ団事変から、すでに3年が経過しようとしている。
そのグレイブ団のボスも……勇敢なトレーナーたちに阻まれ、敗北し、その代償として今もなお眠り続けている。
こうしてわざわざ彼女の病室に忍び込んだのは……彼女への贖罪のつもりなのだろうか。それとも、同じ轍を踏まないための自分への戒めか。
我ながら、鬼にでも悪魔にでもなる心づもりだったのに、夢を語り、野望を胸に、戦っている人間を利用するのは……いや、利用したのは──胸が痛む。
それでも──選んだから。彼女がそうしたように、自分の目的のために、何かを犠牲にしてでも──取り戻したいものがあるから。
「…………」
最後に彼女の顔を一瞥して、病室を後にする。
もう迷うつもりはない。きっと……最後の迷いを断ち切るために、ここに来たのだ。
だから、迷わずに、進む。
何を犠牲にしてでも──取り戻すと、決めたのだから。
- 4 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:18:37.52 ID:QLy5TvuG0
-
■Chapter001 『新たなる旅のはじまり』
実況『──ポケモンリーグ決勝戦!! この一戦でオトノキ地方の頂点のトレーナーが決定します!!』
大歓声の中、トレーナーがマントをたなびかせながら、ボールを携えてフィールドに現れる。
実況『先に現れましたのは、皆さんご存じオトノキ地方現チャンピオン!! 今リーグもほとんどの試合をほぼ1匹で勝ち抜いてきた無敵のポケモントレーナー!! チャンピオン・千歌!!!』
千歌さんの姿を認めると、盛り上がっていた会場の歓声は、さらに大きくなり会場を震わせる。
実況『そして、そんなチャンピオンに立ち向かうチャレンジャーは……!! なんと、今大会初出場!! 新進気鋭の超新星──せつ菜選手!!!!』
実況の紹介の中、堂々とした立ち振る舞いでバトルコートについたせつ菜ちゃんが天に向かって拳を突き上げると、またしても大きな歓声が会場を包み込む。
実況『なんと、こちらのせつ菜選手、6匹で戦うフルバトルルールにも関わらず、使用ポケモンは5体!! ですが、その圧倒的な実力でここまで全てのバトルを制してきました!!!』
両者がバトルフィールドにつき、ボールを構える。
実況『さぁ、泣いても笑ってもこれが最後!! 決勝戦は実況の私に加え、元四天王で現在は故郷のダリアシティにてジムリーダーを勤めております、にこさんに解説をお願いしています!!』
にこ『みんな〜おまたせ〜♪ 大銀河No.1アイドルトレーナーのにこだよ〜♪ よろしくお願いしまぁ〜す♪』
実況『よろしくお願いします!! それでは、お待たせしました!! ただいまより、ポケモンリーグ決勝戦を開始いたします!!』
千歌さんとせつ菜ちゃんが同時にボールを構える。そして、審判の合図と共に──ボールが宙を舞った。
実況『バトル!!!!スタァーーーート!!!!!』
──ワアアアアアアア!!!と割れんばかりの歓声と共にバトルが始まり、両者のポケモンがフィールド上に現れる。
せつ菜『スターミー!!! 速攻で行きますよ!!』
『フゥッ!!!!』
実況『スターミー飛び出した!!』
にこ『せつ菜ちゃんは先発のスターミーで速攻を決めることが多いにこ〜♪』
回転しながら、猛スピードで突進するスターミー、だけど、
千歌『ネッコアラ!! “ウッドハンマー”!!』
『コァー』
『フゥッ!?』
せつ菜『スターミー!?』
真正面から突っ込んでくるスターミーを、持っている丸太でいとも簡単に叩き落とす。
実況『ネッコアラ、いとも簡単に猛スピードのスターミーを叩き落としたぞォ!? ネッコアラ本来の緩慢な動きが嘘のようだァ!!?』
にこ『千歌ちゃんはとにかく攻撃の精度が高いのが有名にこね〜♪』
実況『ここまでもあの正確無比な一撃で多くのトレーナーを打ち破ってきました!! 決勝戦でも、やはり無敵のチャンピオンは無敵だった!! スターミー開始早々あえなく──』
にこ『……いえ、まだよ』
実況『え?』
実況の間の抜けた声と共に、スターミーに目をやると──スターミーがネッコアラの丸太の下で、光り輝いていた。
- 5 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:23:13.17 ID:QLy5TvuG0
-
せつ菜『スターミー!!! “メテオビーム”!!!』
『フゥゥッ!!!!!』
千歌『!?』
そのまま、スターミーは至近距離から極太のビームをネッコアラに直撃させた。
千歌『ネッコアラ!?』
超威力のビームを至近で受けたネッコアラは吹っ飛ばされて、フィールドにドスンと落ちたあと──
『コァァ…』
戦闘不能になってしまった。
一瞬の静寂のあと──会場が一気に湧き上がる。
実況『な、な、なんということでしょう!!!! 数々のトレーナーたちを圧倒してきた、チャンピオンのネッコアラを、せつ菜選手のスターミーが打ち破りました!!! とんでもない番狂わせだァァァ!?』
にこ『……最初の突進はブラフで、せつ菜のスターミーが使っていたのは“コスモパワー”。最初から攻撃を受ける気で、懐に潜り込んだところに“メテオビーム”を叩きこむ作戦だったのね』
実況『ですが、“メテオビーム”はチャージが必要な技のはずですよね? その予兆は特になかったように思いますが……』
にこ『持ち物よ。“パワフルハーブ”を使った奇襲。せつ菜、あの子なかなかやるわね……』
実況『あの、にこさん、最初と口調が変わっていますが……』
にこ『っは……! な、なんのことにこ〜? 千歌ちゃんも、せつ菜ちゃんも頑張れにこ〜♪』
実況『にこさんも思わずキャラを忘れてしまうほどの熱戦ということですね!!』
にこ『キャラとか言わないでよ!!』
千歌『うーん、そっかぁ……やられちゃったな。でも、次はそうはいかないよ──ルカリオ!!』
『グォ…!!』
今度はボールから出て来たルカリオが、スターミーに向かって飛び出して──
「──もう、侑ちゃん!!」
興奮しながら、画面に食い入る私を現実に引き戻したのは──世界一聞き慣れた幼馴染の声だった。
侑「歩夢……今、良いところなんだけど……」
歩夢「知ってるよ。もう、そのビデオ、何度も一緒に観たもん」
侑「なら、もうちょっと、もうちょっとだけ……!!」
歩夢「もうちょっとって……このバトル、最後まで観てたら1時間くらい掛かっちゃうよ」
侑「そう! そうなんだよ! このバトルは1時間も続くポケモンリーグ史に残る名勝負なんだよね!! せつ菜ちゃんの手持ちはたった5匹しかいないのに、お互い激しい攻防と目まぐるしいポケモンチェンジで目が離せない試合の中、千歌さんの6匹目まで引きずりだして!!! でも、最後は結局千歌さんが2匹残して勝利……やっぱり、チャンピオンは最強だったってなるけど……でも、私はせつ菜ちゃんのチャンピオンの前でも臆さない、堂々とした戦い方がかっこよくて、すっごくときめいちゃって!!」
歩夢「もう何度も聞いたよ……それより、博士との約束に遅れちゃうよ?」
侑「え? もうそんな時間?」
言われて時計に目をやると──確かに約束の時間が迫っていたことに気付いた。
侑「じ、準備しなきゃ!」
歩夢「もう……侑ちゃんったら」
侑「あ、歩夢ー!! 手伝ってー!!」
歩夢「ふふ、はーい♪ もう、しょうがないなぁ、侑ちゃんは」
ニコニコする歩夢を後目に、私は慌ただしく出掛ける準備を始めるのだった。
- 6 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:25:02.47 ID:QLy5TvuG0
-
😈 😈 😈
善子「さてと……あとは3人が来るのを待つだけね」
並んだ3つのモンスターボールと3色の図鑑を見ながら一息。
今日はやっと、新人トレーナーたちの旅立ちの日。
善子「私もついに、トレーナーを送り出せる日が来たのね……」
なんだか、感慨深い。……あの日、出来なかったことがやっと叶うのだ。
善子「…………」
脳裏に焼き付く苦い思い出を想起しながら、頭を振る。
今回は大丈夫。今日旅立つ3人は、入念に準備をして、セキレイシティのジムリーダーやポケモンスクールとも連携を取った上で慎重に選んだ3人だ。
善子「……」
わかっていても、なんだか落ち着かない。早く時間にならないかしら……。
善子「マリーも私たちを送り出すときはこんな感じだったのかしら……」
あの人、お気楽そうに見えて意外と繊細だしね。
善子「……外の空気でも吸いに行こ」
新鮮な空気を吸えば、少しは落ち着くかもしれない。そう思いながら席を立ったところに──
「ムマァ〜〜ジ♪」
相棒のムウマージがどこからともなく現れた。
善子「でたわね、イタズラっこ。どうかしたの?」
「ムマァ〜♪」
何かと思ったら、ムウマージの傍には、私のポケギアが着信音を鳴らしながら、ふわふわ浮いていることに気付く。
善子「電話? 持ってきてくれたのね。ありがと」
「ムマァ〜ジ♪」
お礼交じりに撫でてあげると、ムウマージは気持ちよさそうに声をあげる。
ご機嫌なムウマージはさておき、ポケギアの画面を見ると──
善子「……マリー?」
どうやら、先ほど頭に思い浮かべていた人物からの連絡だった。
緊張していそうな私への……激励とか?
善子「……ないない」
- 7 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:26:47.95 ID:QLy5TvuG0
-
数年前に勝手に飛び出してきてしまった研究所の主だ。
今でこそ、こうして独立出来たけど、当時から褒められるのはずら丸の方で、私は叱られてばかりだったもの。
……まあ、昔のことはおいといて。
善子「もしもし? マリー?」
鞠莉『チャオ〜♪ 善子、今いい?』
善子「ヨハネよ。何か用?」
鞠莉『Presentは届いたかなと思って』
善子「プレゼント……あのグレーの図鑑みたいなやつ?」
鞠莉『そうそう、それそれ』
自分で新人トレーナー向けの図鑑やら、ポケモンやらを工面するのに必死で、あまり気に掛けていなかったけど、言われてみればマリーからグレーの図鑑が送られて来ていたことを思い出す。
鞠莉『ちゃんと届いていたならよかったわ♪ ヨハネのために、グレーカラーでボディを作っておいたから♪ 好きでしょ? あの色♪』
善子「今更、図鑑を送られて来ても……データでも集めろって?」
オハラ研究所にいたとき、随分とデータ集めにあちこち奔走させられたことを思い出す。
鞠莉『そういうわけじゃないけど……あの図鑑、最新機能搭載型で──』
善子「こっちはこっちで、もう独立してるの。今更世話焼いてくれなくても結構よ」
鞠莉『む……何よ、その言い方』
善子「私はもう自分で図鑑も工面出来るし、ポケモンの手配も出来るってこと! いつまでも、子供扱いしないで! 今日は新しいトレーナーの旅立ちの日なんだから……用事、それだけならもう切るわよ」
鞠莉『全く……相変わらず、可愛くないわね……』
善子「うるさい」
鞠莉『All right, all right. あの図鑑、使わないなら千歌にでも渡しておいて』
善子「はいはい、会う機会があったらね」
全く……せっかく、気分転換しようと思っていたのに、却って気疲れしちゃったじゃない……。
口うるさい古巣の師からの連絡に眉を顰めながら、通話を切ろうとする。
鞠莉『善子』
善子「……だから、何よ」
鞠莉『頑張りなさい』
善子「……」
鞠莉『あなたはわたしのこと、あまり好きじゃないかもしれないけど……わたしはあなたのこと認めているし、応援もしているから。頑張って。それじゃあね、See you♪』
──ツーツー。ポケギアの向こうで通話が切れた音だけが流れる。
善子「……はぁ」
私は白衣にポケギアを突っ込んで溜め息を吐いた。
善子「……別にマリーのこと、好きじゃないとか……言った覚えないんだけど」
予想外な言葉のせいで、気持ちのやり場に困って視線を彷徨わせていると──
「ムマァ〜ジ♪」
ムウマージがニヤニヤしながら、私のことを見つめていた。
- 8 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:28:00.88 ID:QLy5TvuG0
-
善子「な、何よ……」
「ムマァ〜♪」
善子「ご主人様のこと、からかうんじゃないわよ! おやつ抜きにするわよ!」
「ムマァ〜ジ♪」
顔を顰めながら怒ると、ムウマージはご機嫌なまま、研究所内の壁に消えていった。
善子「全く……」
今日何度目かわからない溜め息を吐くと共に──
善子「……ん?」
先ほどまで自分がいた、新人用のモンスターボールと図鑑の前に、見覚えのある後ろ姿があることに気付く。
特徴的なアシンメトリーカットのショートボブの女の子。名前は──
善子「かすみ?」
かすみ「ぴゃぅ!?」
名前を呼ぶと、かすみはビクッと飛び跳ねながら、こっちに振り返る。
かすみ「こ、こんにちは〜、ヨハ子博士〜……」
善子「…………」
かすみ「…………」
走る沈黙。
善子「まさか、貴方……」
かすみ「ち、違いますぅ!! かすみん、抜け駆けなんてしようとしてませんよぉ!」
善子「はぁ……」
もともとイタズラ好きな子だというのはわかっていたけど、困ったものね。
善子「事前に説明したと思うけど、ポケモンを選ぶのは3人揃ってからよ」
かすみ「わ、わかってますよ〜。ちょっとした下見です!」
善子「なら、いいけど……」
かすみ「……って、あー!!! かすみん、忘れ物しちゃいました!! 取りに戻らないと!!」
善子「え、ちょっと……!」
言いながら、かすみは研究所を飛び出して行ってしまった。
善子「……慌ただしい子ね」
やれやれと嘆息気味に、かすみが凝視していたモンスターボールに目を向けると、しっかりボールは3つ残っている。
まあ、さすがに白昼堂々かすめ取って行ったりしないか。
肩を竦めながら、時計に目をやると──そろそろ、約束の時間が近付いてきていた。
善子「……というか、かすみ……今から家に帰って、時間に間に合うのかしら?」
なんだか、先が思いやられるなと思いながらも、私は新人トレーナーたちを待つ……。
- 9 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:29:23.82 ID:QLy5TvuG0
-
🎹 🎹 🎹
服を着替えて、バッグの中身を確認。忘れ物は……ない!
侑「よし!」
準備万端! 私が元気よく立ち上がると、
歩夢「あ、待って侑ちゃん。髪跳ねてるから」
言いながら歩夢が、跳ねた髪を直してくれる。
歩夢「……うん! もう大丈夫だよ!」
侑「ありがと、歩夢!」
今度こそ、出発だ!
侑「歩夢、行こう!」
歩夢「うん」
歩夢は頷きながら、私の部屋のベランダにたたたっと走って行き、
歩夢「サスケ! おいで!」
隣の部屋──歩夢の部屋に向かって声を掛ける。すると、
「シャー」
紫色のヘビポケモンがベランダの柵を伝って、そのまま歩夢の腕に巻き付くように登る。
侑「サスケ、おはよう」
「シャボ」
私が声を掛けると、サスケは歩夢の肩まで登りながら、鎌首をもたげ、私に向かって鳴き声をあげる。
歩夢「ふふ♪ サスケもおはようって言ってるよ♪」
「シャー」
侑「サスケ、連れてくんだね?」
歩夢「うん。サスケが一番仲良しだから、旅に行くなら一緒がいいなって思って♪」
「シャー」
侑「サスケがいるなら頼もしいね! よろしくね、サスケ!」
サスケはまるでタオルを首に掛けるかのように、歩夢の両肩に細長い体を乗せて、大人しくなる。ここがサスケの定位置だ。
ちなみにこのサスケというのは、ヘビポケモンのアーボのニックネームだ。
私たちが小さい頃から、歩夢と一緒に住んでいる幼馴染ポケモンってところかな。
- 10 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:31:03.45 ID:QLy5TvuG0
-
侑「それじゃ、今度こそ出発!」
歩夢「おばさんたちに何か言わなくていいの?」
侑「旅立ち前の挨拶は、朝のうちにちゃんと済ませたから大丈夫!」
歩夢「そっか」
侑「歩夢は一回、家に寄る?」
歩夢「うぅん、私も挨拶は済ませたから」
侑「そっか! じゃ、行こう!」
歩夢「うん!」
歩夢と一緒に玄関の扉を押し開ける──さぁ、私たちの冒険──トキメキの物語の始まりだ……!
🎹 🎹 🎹
歩夢と二人、並んで研究所を目指す。
侑「そういえば、歩夢」
歩夢「ん? なぁに、侑ちゃん?」
侑「サスケはボールに入れないの?」
ボールっていうのは、モンスターボールのこと。
さすがにモンスターボールの詳しい説明はいらないよね? ポケモンを入れて携帯出来るカプセルのことです。
歩夢「あ、うん。出来れば外で伸び伸び過ごして欲しいから……ね、サスケ?」
「シャー」
侑「でも、ずっと肩に乗せてたら、重かったりしない?」
歩夢「うぅん、むしろ毎年ポケモンセンターでの健康診断のとき、軽いのを心配されちゃうくらい……サスケはちょっと小さめなアーボだから」
「シャー」
侑「へー……そうなんだ」
セキレイシティ近郊だと、アーボはほとんど生息していないから、小さいと言われてもあんまりピンと来ないけど……。
歩夢「この前測ったときは大きさが1.2mしかなかったんだよ。普通アーボは2m以上になるのに……。ご飯はちゃんとあげてるんだけどなぁ」
侑「うーん……比較対象がないと、ピンと来ないけど……案外歩夢の肩に乗れなくなるのが嫌だから、大きくならなかったりして」
歩夢「えー? そうなの? サスケ?」
「シャー」
サスケは「シャー」と鳴きながら、歩夢の頬に頭をこすりつけている。
歩夢「あはは♪ くすぐったいよ、サスケ♪」
「シャー」
サスケの言葉はわからないけど、きっと当たらずとも遠からずな気がする。
体の大きさが、そういうことで決まるのかはよくわからないけど……。
- 11 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:32:17.07 ID:QLy5TvuG0
-
歩夢「でも、侑ちゃんの言うとおり、サスケが大きくなって私の肩に乗せられなくなっちゃったら、少し寂しいかも……」
侑「でしょ? だから、サスケはこのままでいいんだよ。ね、サスケ?」
「シャー」
歩夢「ふふ、そうかもしれない♪」
二人でサスケを見ながら、くすくす笑っていると──
「──侑せんぱーい! 歩夢さーん!」
後ろの方から名前を呼ばれる。この声は……。
侑「しずくちゃん?」
振り返ると、ロングヘア―と大きなリボンがトレンドマークの女の子が小走りでこっちに向かってくるところだった。
しずく「おはようございます。侑先輩、歩夢さん」
歩夢「おはよう、しずくちゃん」
「シャー」
しずく「サスケさんも、おはようございます♪」
侑「しずくちゃんも研究所に行くところ?」
しずく「はい! 私もご一緒して、いいでしょうか?」
侑「もちろん!」
この子はしずくちゃん。歩夢と一緒に選ばれた、ポケモンを貰う3人のうちの1人。ポケモンスクールでは一個下の学年で、私と歩夢の後輩だ。
しずく「そういえば、お二人ともかすみさんを見かけたりはしていませんか?」
侑「かすみちゃん? うぅん、見てないけど……」
歩夢「私たちもさっき家を出たところだから……」
かすみちゃんというのは、最初にポケモンを貰うことになった3人の内の最後の1人のことだけど……。しずくちゃんとは同級生で、かすみちゃんも私たちの後輩に当たる子だ。
しずく「そうですか……さっきから、ポケギアを鳴らしても全然反応がなくて……。寝坊とかしていなければいいんですけど……」
歩夢「きっと大丈夫だよ。かすみちゃんも今日の旅立ちすっごく楽しみにしていたし」
侑「案外、楽しみ過ぎてすでに到着してたりしてね」
しずく「それなら、いいんですが……」
しずくちゃんは、かすみちゃんと仲良しだからなぁ。私も歩夢と連絡が取れなくなったら、少し心配になるし、気持ちはちょっとわかる気がする。
しずく「そういえば、侑先輩」
侑「ん?」
しずく「結局、歩夢さんと一緒に行くことにされたんですね」
侑「ああ、うん」
私はしずくちゃんの言葉に頷く。
──本日ポケモンを貰うのは歩夢、かすみちゃん、しずくちゃんの3人であって、実は私は関係ない。
じゃあ、なんでそんな私も一緒に研究所に向かっているのかというと……。
- 12 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:33:27.53 ID:QLy5TvuG0
-
侑「私が一緒に旅をしたいっていうのもあったんだけど……歩夢のお母さんにお願いされちゃってさ。『侑ちゃん、歩夢のことよろしくね』って」
歩夢「私も一人だと心細いから、一緒にお願いしちゃったんだ、えへへ……」
しずく「確かにいきなり一人旅は不安がありますよね……そういう不安も込みで旅の醍醐味なのかもしれませんが……」
歩夢「それでも、いきなり一人で旅に行ってこいって言われたら、私どうすればいいかわからなくなっちゃうよ……」
「シャー!!」
歩夢「あ、ごめんね。サスケがいてくれるから一人ではないけど……」
侑「逆に言うなら、私は歩夢と違って、サスケみたいな子もいないから、むしろ私が歩夢に守ってもらうみたいになっちゃうかも……」
我が家にはポケモンがいなくて、お父さんお母さんと三人家族。
逆にお隣の歩夢は、お家にたくさんポケモンがいる。サスケはそのうちの1匹というわけだ。
私と歩夢の家は、昔から家族ぐるみの付き合いだったから、生活の中にポケモンがいないという感覚はなかったし、ポケモンに慣れていないみたいなことはないんだけど……。
とはいえ、旅に出るなら近場で1匹くらいは、捕まえてから街を出た方がいいかもしれない。
侑「そういえば二人とも、貰うポケモンはもう決めた? 確か、事前に教えてもらってるんだよね?」
しずく「はい。私はみずとかげポケモンのメッソンを選ぼうと思っています」
歩夢「私は可愛いから、うさぎポケモンのヒバニーがいいかなって」
しずく「私と歩夢さんは、被っていませんが……かすみさんがどの子を選ぶか次第ですね」
歩夢「かすみちゃんも可愛い子が好きだから……被っちゃうかも」
しずく「確かにかすみさんは教えて頂いた3匹の中だと、ヒバニーが好きそうではありますね……」
侑「被っちゃったらどうするんだろう……? 話し合いかな?」
しずく「それか、トレーナーらしくバトルの実力で決めたりするのかもしれませんね……」
歩夢「バ、バトル!? いきなりは自信ないよぉ……」
侑「えー、歩夢のバトルしてるところ、私は見てみたいけどなぁ」
歩夢「もう! 侑ちゃんったら、他人事だと思って……」
侑「あはは、ごめんごめん」
ぷくーと可愛く膨れる歩夢に謝りながら──間もなく、目的地の研究所に到着しようとしているところだった。
🎹 🎹 🎹
歩夢「ちょっと緊張してきたね……」
しずく「は、はい……」
研究所を前にして、歩夢としずくちゃんが少し身を強張らせる。そんな中、私は、
侑「はぁ〜……ここがツシマ研究所……!」
思わず、研究所を見つめながら、うっとりしてしまう。
しずく「侑先輩? どうかしましたか?」
そんな私を見て、しずくちゃんが不思議そうに小首を傾げた。
- 13 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:35:05.92 ID:QLy5TvuG0
-
歩夢「ふふ、入ったらすぐにわかると思うよ」
しずく「?」
侑「よし、行こう!」
意気揚々と研究所の入り口のドアを押し開ける。
歩夢「こんにちは〜……」
しずく「し、失礼します……」
少し緊張気味な二人と共に、屋内へ足を踏み入れると──
善子「来たわね、リトルデーモンたち。ようこそ、ツシマ研究所へ」
入ってすぐ、待っていたヨハネ博士が出迎えてくれた。
歩夢「は、はい!」
しずく「ほ、本日はよろしくお願いします……!」
善子「こちらこそ。歩夢、しずく」
博士は歩夢としずくちゃんを順に見たあと、
善子「貴方は、確か……」
私に視線を向ける。
善子「侑、だったかしら?」
侑「! わ、私のこと知ってるんですか!?」
善子「ええ、ポケモンスクールの子たちは全員、顔と名前が一致するくらいには、知っているつもりよ」
侑「感激です!! ヨハネ博士に覚えてもらえているなんて!!」
善子「あら、ありがとう。そんな風に言ってもらえるなんて、嬉しいわ」
侑「私、去年のヨハネさんの試合、会場で見てました!! 準決勝での千歌さんとの試合!! ネッコアラ1匹で勝ち進んでいた千歌さんに対して、あの大会中に初めて2匹目以降を出させたんですよね!! 特にアブソルが2匹連続で倒したときは私、ほんっとうにときめいちゃって!!」
善子「あーあの試合ね……確かに最初は調子よかったんだけど、結局最後は千歌のエースに圧倒されちゃったのよねぇ……」
侑「でも、すごかったです!!」
興奮気味にまくしたてる私を見て、
しずく「……なるほど、すぐにわかるというのはこういうことだったんですね」
歩夢「うん。侑ちゃん、ポケモントレーナーのことが大好きだから」
しずくちゃんは納得した様子。
善子「……褒められて悪い気はしないんだけど……侑、貴方はどうして研究所に?」
侑「歩夢の付き添いです! 今回、歩夢と一緒に旅に出ようと思っていて……」
歩夢「博士、一人旅じゃなくなっちゃうけど……いいですか?」
善子「もちろん構わないわ。どんな旅をするかは個人の自由よ。さすがに最初のポケモンはあげられないけど……」
歩夢「よかったぁ……一人で旅しなくちゃダメって言われたら、どうしようかと思ったよ……」
侑「よかったね、歩夢!」
- 14 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:36:09.89 ID:QLy5TvuG0
-
博士からの許可も貰えて一安心したところで、私は改めて研究所内を見回す。
研究所内にはあちこちに水族館のような、大きなガラス張りの部屋の中に作られた飼育スペースがあり、その中にポケモンたちの姿が見える。
歩夢「見て、侑ちゃん! あっちのお部屋にいるの、ププリンだよ! 可愛い!」
しずく「あちらの森の環境を再現した部屋にいるのは、クルマユでしょうか? なんだかあの表情、見ているだけで癒されますね……」
二人も私同様、研究所内に興味を引かれている様子。研究所内なんて、なかなか見られる機会ないからね。私もこの機会によく見ておこう。
侑「こっちの雪の部屋にいるのは……見たことないポケモンだ」
私が見た部屋は雪原の環境を再現した部屋で、真っ白な丸っこい幼虫みたいなポケモンが数匹いるのがわかる。
善子「あれはユキハミよ。この地方では、グレイブマウンテンの北部側に極僅かに生息してるだけだからね。知らなくても無理ないわ」
しずく「主にガラル地方に生息しているポケモンですよね!」
善子「ええ、そのとおりよ。しずく、詳しいのね」
しずく「はい! 小さい頃、家族とガラル地方のキルクスタウンに旅行に行ったときに見たことあるんです!」
雪原や森の部屋の他にも、岩肌を再現した部屋や洞窟を模した部屋など、さまざまな飼育部屋があちこちにある。
侑「あ、あの! もっと近くで見学してもいいですか!?」
善子「ええ、構わないわ。約束の時間までまだあるしね。ただ、見るだけで触ったりしちゃダメよ?」
侑「はーい! 歩夢、行こう!」
歩夢「うん!」
🎹 🎹 🎹
しずく「……かすみさん、遅いですね」
研究所内をひととおり見て回れるくらいの時間は経った気がする。確かに遅いかもしれない。
善子「まあ、案の定って感じね……」
歩夢「どういうことですか?」
善子「かすみ、さっき一度研究所に来てたのよ。でも、忘れ物をしたって言って、一度家に帰ったわ」
しずく「もう……かすみさんったら、今日だけは遅刻しないようにって、ちゃんと言ったのに……」
善子「まあ、いないものは仕方ないわね。もう、約束の時間は過ぎてるし……これから選ぶ3匹との、顔合わせだけでもしちゃいましょうか」
歩夢「いいのかな……?」
善子「選ぶのは3人揃ってからだけどね。歩夢、しずく、こっちに」
博士に呼ばれて、二人は3つのモンスターボールと3色の図鑑が置かれている机の前に移動する。
善子「今回貴方たちに選んで貰うのはこの3匹よ」
博士が3つのモンスターボールの開閉スイッチを押すと──ボム、という独特な開閉音と共に、中からポケモンが飛び出す。
- 15 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:37:15.30 ID:QLy5TvuG0
-
「バニー!!」「メッソ…」
歩夢「わぁ……!」
しずく「この子たちが、ヒバニーとメッソン……!」
歩夢「初めまして、歩夢って言います♪」
「バニーー!!!」
ヒバニーは歩夢から挨拶をされて、元気に飛び跳ねる。
歩夢「どうしよう侑ちゃん……写真で見るよりも全然可愛いよ!」
侑「ふふ、そうだね」
一方メッソン。
しずく「こんにちは、メッソンさん。私は、しずくって言います♪」
「メソ…」
しずくちゃんに話しかけられたメッソンは、スーっと体が透明になっていく。
しずく「あ、あれ……? 消えちゃいました……」
どうやら、メッソンは少し臆病なポケモンらしい。ヒバニーとは対照的だ。
侑「それじゃ、残りの1匹は……?」
ボールの置かれたテーブルの方に目を配らせると、
善子「あら……? おかしいわね……」
博士が3つ目のボールの開閉スイッチをポチポチと押し込んでいるところだった。
侑「博士?」
善子「何で出てこないのかしら……? 緊張してる……? いやそんな性格の子じゃないはず……。顔見せの時間よ! 出て来なさい!!」
侑「どうしたんですか?」
善子「この子だけ、開閉スイッチを押しても出てこないのよ……。まさか、ボールの故障?」
博士はそう言いながら、件のボールを持ち上げて、軽く振ったり、叩いたりしている。
そのときだった。
「ガウーーー!!!!!」
善子「!?」
急にボールが──吠えた。
善子「な……!? はっ!?」
さすがの博士も突然の出来事に面食らったのか、咄嗟にボールを放る。
そのまま落ちたボールはまるで自分の意思でも持ったかのように、跳ねながら──今度は紫色の鈍い光に包まれた。
侑「な、何!?」
目の前の出来事に混乱しながらも、跳ねながら光るボールを目で追うと──ボールは、形を変え、
- 16 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:38:12.00 ID:QLy5TvuG0
-
歩夢「え?」
しずく「あ、あの子って……」
善子「な、なに……?」
「ガウッ」
気付けば小さな黒い狐のような姿に変わっていた。
善子「……ゾロア?」
そこにいたのは──ばけぎつねポケモンのゾロアだった。
この場にいた全員が、急な展開にポカンとしてしまう。
「ニシシッ」
直後、イタズラっぽく笑ったゾロアは、近くにあったパステルイエローの図鑑を口に咥える。
──直感的にわかった。図鑑を持って逃げようとしている……!
侑「は、博士──」
善子「ドンカラスッ!!」
「カァーーーー!!!!」
「ガゥッ!?」
声をあげて、それを伝えようとした次の瞬間には、どこから現れたのか、博士のドンカラスがゾロアを上から大きな足で押さえつけているところだった。
「ガゥ、ガゥゥ!!!」
侑「は、はや……」
しずく「気付いたら、ゾロアが捕まっていました……」
歩夢「全然わからなかった……」
善子「……このゾロアに心当たりあるかしら?」
しずく「えっと……」
「ガゥゥ…」
押さえつけられて、弱々しく唸るゾロア。その姿は学校でも何度か見た覚えがあって……。
しずく「かすみさんのゾロアだと、思います……」
かすみちゃんがよく一緒にイタズラして、先生に叱られていた、見覚えのあるゾロアだった。
善子「……やってくれたわね……あの子……」
博士はカツカツとヒールを鳴らしながら、押さえつけられたゾロアに近付いていく。
善子「何が『かすみん、抜け駆けなんてしようとしてません』よ!!」
歩夢「もしかして、最後の1匹は……」
善子「かすみに持ち逃げされた……!!」
しずく「ああもう……かすみさん……」
困惑する歩夢、呆れるしずくちゃん、そして怒りに肩を震わせるヨハネ博士。そんな中、押さえつけられたゾロアが、
「ガゥァゥアァアァァァァァァ……!!!!!!!!!」
- 17 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:39:12.26 ID:QLy5TvuG0
-
急に大声で泣き出した。
侑「うわわ!?」
善子「う、うるっさ……!!」
「ガゥ、ガゥガゥァァァァァッ!!!!!!!!」
大粒の涙を流しながら、ドンカラスの足元でじたばたと暴れまわるゾロア。
歩夢「あ、あの博士……ゾロアが泣いてます……」
善子「わかってるけど……」
歩夢「あの……放してあげてくれませんか……?」
善子「……いや、そう言われてもね」
歩夢「でも、あの子もかすみちゃんに指示されてやっただけだと思うし……あんなに泣いてるし……せめて、もう少し優しくしてあげて欲しいです……」
善子「…………」
歩夢の言葉に、博士は頭を掻きながら、
善子「ドンカラス、少し力を弱めに──」
指示を出した瞬間。
しずく「だ、ダメです!? それ、“うそなき”ですよ!?」
善子「え゛っ!?」
響き渡るしずくちゃんの言葉。
「…ニシシッ!!!!」
それと同時にゾロアの体から真っ黒なオーラが膨張を始めた。
善子「全員伏せなさいッ!!」
しずく「は、はいぃ!!」
侑「歩夢……!!」
歩夢「きゃっ!?」
咄嗟に歩夢に覆いかぶさるようにして伏せる。
その直後、膨れ上がった黒いオーラは衝撃波となって、私たちの真上の空気をびりびりと震わせる。
衝撃と共に、研究所内に物が落ちる音や割れるガラスの音が響き渡る。
歩夢「きゃあああ!?」
侑「歩夢!! 落ち着いて!!」
大きな音にパニック気味な歩夢を抱きしめたまま、しばらく待っていると──
しずく「お……終わりました……?」
侑「歩夢、大丈夫!?」
歩夢「う、うん……ありがとう、侑ちゃん……。サスケ、ヒバニー、怪我しなかった……?」
「シャー…」「バニー…」
- 18 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:40:09.61 ID:QLy5TvuG0
-
怖がりながらも、歩夢はサスケとヒバニーを抱き寄せていたらしく、声を掛けられた2匹が歩夢の腕の中から顔を出す。どうやら、2匹に怪我はなさそうだ。
そして、ゾロアの攻撃は落ち着いたようで……研究所内は再び静かになった──のは一瞬だけだった。
顔を上げるのと同時に──バサバサバサ!!! と大きな羽音を立てて、何かが飛び立つ。
それが、先ほどの飼育部屋から飛び出したポケモンなんだとわかるのに、そう時間は掛からなかった。
気付けば家具やら壊れた何かの破片やらでごちゃごちゃになった研究所内には、飼育部屋から脱走したポケモンたちが走り回り飛び回り、好き放題している状態になっていた。
善子「ま、まずい……!?」
博士が真っ青な顔のまま、近くを走り回っているポケモンを咄嗟に覆いかぶさるようにして捕まえると──
「ピ!? ピ、チュゥゥゥゥッ!!!!!」
善子「んぎゃっ!?」
博士が小さく悲鳴をあげる。
ピチューの“でんきショック”だ。
侑「は、博士!!」
善子「だ、だいじょう……ぶ……むしろ、ピチューは、じ、自分で……痺れて、う、動けなくなってくれる、から……た、たすかる……わ……」
「ピ、チュゥゥ…」
博士の言うとおり、ピチューは自分の電気で痺れて目を回しているけど……。
しずく「そ、それより、ゾロアがいません!!」
言われてみれば、この惨状を作り出した張本人であるゾロアの姿がなくなっている。
ついでに先ほどゾロアが口に咥えていたパステルイエローのポケモン図鑑もだ。
善子「と、とりあえず、ゾロアはいい……先に逃げたポケモンたちを捕まえないと……」
よろよろと立ち上がる博士。
研究所内にはあちこちに逃げ出した、ポケモンたちの姿──最初のポケモンとポケモン図鑑を貰いに来たはずなのに……なんだか大変なことになっちゃった……!?
- 19 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:40:53.98 ID:QLy5TvuG0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち 未所持
バッジ 0個 図鑑 未所持
主人公 歩夢
手持ち アーボ♂ Lv.5 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 未所持
主人公 しずく
手持ち ???? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
バッジ 0個 図鑑 未所持
侑と 歩夢と しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 20 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:16:12.17 ID:QLy5TvuG0
-
■Chapter002 『パートナー』 【SIDE Yu】
善子「……とりあえず、捕まえられたのはこれで全部?」
ヨハネ博士は椅子に座ってモンスターボールを並べながら、眉を顰める。
善子「何匹か足りないわ……。外に逃げちゃったのね」
「ゲコガァ…」「ムマァ…」「カァー」「シャンディ…」「ヒュララァ」「ソル」「ゲルル…」
善子「貴方たちのせいじゃないわ。手伝ってくれてありがとう、みんな」
あの後、どこからともなく現れたヨハネ博士の手持ちによって、研究所内を走り回っていたポケモンたちは瞬く間に捕まえられたんだけど……何匹かが外に逃げてしまったらしい。それと──
しずく「メッソン! メッソーン! 出て来てくださーい! ……うぅ、ダメです……見当たりません……」
善子「……無理もないわね。メッソンは臆病なポケモンだから……」
先ほどの騒ぎに驚いたのか、メッソンも逃げ出してしまったらしい。
善子「メッソンともども、早く探しに行かないと……」
博士は椅子から立ち上がろうとして、
善子「ぅ……」
侑「わ! 危ない!!」
すぐによろけてしまったところを、慌てて支えに走る。
歩夢「ピチューの電撃を浴びちゃったんですから……無理しないでください」
善子「……面目ないわ」
再びゆっくりと椅子に座らせてあげると、博士は深く深く溜め息を吐いた。
善子「それにしても、かすみには困ったものね……」
侑「かすみちゃんもゾロアも、イタズラ好きだからね」
しずく「今回に関しては、いくらなんでも度を超えています! こんなやり方で抜け駆けしようとするなんて……」
侑「あはは……こんなことするほど、最初の1匹に拘りがあったのかもね」
しずく「……あれ?」
私の言葉を聞いて、しずくちゃんが首を傾げた。
侑「どうしたの?」
しずく「……かすみさん、最初のポケモン選びで出し抜くために、こんなことをしたんですよね?」
侑「う、うん? そうだと思うけど……」
しずく「なのにどうして、ヒバニーは残っていたのでしょうか……?」
歩夢「そういえば……」
「バニ?」
そういえば、ここに来る途中も話していたけど、かすみちゃんの趣味だとヒバニーを選びそうだって言ってたっけ?
侑「最後の1匹がもっと好みだったとか?」
しずく「えぇ……? かすみさんがあのポケモン選ぶのかな……?」
- 21 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:17:32.83 ID:QLy5TvuG0
-
しずくちゃんはどうにもピンと来ないらしい。
侑「最後の1匹って、どんな子だったの?」
歩夢「えっと……最後の1匹はね──」
👑 👑 👑
かすみ「はっ……はっ……!! はぁ……はぁ……!! こ、ここまで来れば大丈夫だよね……?」
息を切らせながら、かすみんは後ろを振り返る。
うん、大丈夫、誰も追って来てない。
かすみ「最初の1匹、すごくすごく大事なパートナーだもんね! こればっかりは譲るわけにはいかないんです!!」
何せ、かすみんが欲しいのは今回選べる3匹の中で、とびっきり可愛いうさぎさんポケモンのヒバニー!
しず子と趣味が被るかは微妙だけど、歩夢先輩は絶対ヒバニーを選ぶに決まってます!
かすみ「かすみん最初のパートナーは絶対にヒバニーって決めてるんだから!」
あとで叱られるかもしれないけど、先にヒバニーと仲良くなってしまえば、さすがの歩夢先輩も、かすみんからヒバニーを取り上げたりはしないはずです! こういうのは既成事実さえ作ってしまえばいいんです!
ゾロアで誤魔化すのにも限界があるだろうし、善は急げ! 早速ボールから出して仲を深めていきましょう♪
かすみ「さぁ、出ておいでヒバニー♪」
私がヒバニー入りのモンスターボールを放ると──ボムという特有の開閉音と共に、
「──キャモ」
黄緑色のポケモンがボールから飛び出した。
かすみ「………………………………え?」
「キャモ」
……この子、誰??
うーんと、うーんと……えっとぉ……。
かすみ「たぶん、ヒバニーじゃなくてぇ……」
「キャモ」
事前に聞いた3匹のポケモンを冷静に思い出す。
1匹目はうさぎポケモンのヒバニー。めちゃくちゃ可愛くて絶対この子がいいって思ったかすみんイチオシのポケモン。
2匹目はみずとかげポケモンのメッソン。この子も可愛いんだけど、かすみんが好きなのは元気な可愛さ! だから、メッソンはかすみんのイメージとは違うなって思ったんだよね。
そして、3匹目は……。
「キャモ」
かすみ「もりトカゲポケモンの……キモリ」
正直かすみんはキモリが一番ないかなーって思ったんだよね。だって、他の2匹よりも可愛くないし!
- 22 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:21:33.12 ID:QLy5TvuG0
-
「キャモ」
かすみ「…………もしかして、かすみん……選ぶモンスターボール……間違えた……?」
一人頭を抱えて蹲る。博士に見つかり掛けてたから、焦って選ぶボールを間違えちゃったみたい……。
かすみ「…………やっちゃった、かすみん、これは盛大にやらかしました……」
「キャモ」
普段のかすみんなら、ドジっ子なかすみんも可愛いかも♪ なんて自分に言い聞かせて乗り越えるところなんですが、今回ばかりは凹みます。マジ凹みしてます。
かすみ「うう……どうしよう……」
「キャモ」
かすみ「…………そうだ! もしかしたら、まだゾロアと入れ替わってるって、バレてない可能性もある!」
こうなったら今から研究所に戻って、しれっとボールを元に戻して、普通に3匹の内からヒバニーを選ぶしかないです!
当初の予定とは変わってしまいましたが、イレギュラーにも対応してこそ、一人前ですよね!
かすみ「よし、キモリ。ボールに戻って」
キモリをボールに戻してっと……。さあ、気を取り直して研究所に戻りましょう♪
👑 👑 👑
さぁさぁ、研究所に到着した、かすみんです!
かすみ「……さすがにもうしず子も歩夢先輩も到着してるよね」
研究所の扉を静か〜に開いて中の様子を伺います。
かすみ「…………え?」
ただ、中の様子を見て、かすみんは愕然としてしまいました。
研究所の中は、まるで嵐でも過ぎ去ったかのように、荒れまくっていました。
そんな研究所の奥には、しず子と歩夢先輩……それと、あれは侑先輩……? そして、椅子に座っているヨハ子博士。
テーブルの上には、3つあったはずのモンスターボールは全部なくなっていて……ついでに机の上のポケモン図鑑もかすみんが好きそうなパステルイエローの図鑑がなくなっている状態です。(あ、かすみん目はすっごくいいので、入り口からでもばっちり見えちゃってますよ〜☆)
……状況からして、すっごくいや〜な予感がしてきましたね……。
かすみ「……たぶん、今入るのは自滅です。自殺行為です」
察して、静か〜にドアを閉めて、そろりそろりと退却の姿勢を取ります。そのときです──
かすみ「わひゃっ!? な、何かふわっとしたものが足に……」
「ガゥッ!!」
かすみ「な、なんだ、ゾロアか……驚かさないでよ」
「ガゥッ!!!」
足元のゾロアを見ると、嬉しそうに尻尾を振りながら、口に咥えたパステルイエローのポケモン図鑑を差し出してきます。
- 23 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:24:05.36 ID:QLy5TvuG0
-
かすみ「ふふ、さすが『かすみん2号』の異名を持つだけあって、ちゃーんと、かすみんのお願い聞いてくれたんだね、ありがとゾロア♪」
「ガゥガゥッ♪」
かすみ「でも、今はちょ〜っと事情が変わっちゃってね」
「ガゥッ?」
かすみ「今から一旦退却しなくちゃいけないの」
「ガゥッ」
かすみ「よし! それじゃ、このまま一旦セキレイの外まで──」
「──行けると思ってるのかしら?」
かすみ「………………!?!!?」
振り返ると、そこには……──鬼がいました。鬼の形相をした、かつてヨハ子博士だった者がいました。
善子「かすみ」
かすみ「え、っと……あ、の……」
善子「……何か言うことがあるんじゃないかしら?」
かすみ「そ、の……。……か、かすみん、遅刻しちゃいました〜☆ えへっ☆」
善子「よし、火責め水責めどっちがいいかしら? あ、氷責めっていうのもあるんだけど……」
「シャンディ」「ゲコガ」「ヒュララァ」
かすみ「ひっ!?」
かすみん、怖かったんですよ。もう生物としての本能で、今この場から全身全霊で逃げ出さないといけないって命令が、脳からシュピピピーンって全身に駆け巡って、反射的に走り出してたんですよ。
かすみ「──ガッ!?」
でも、そんなかすみんの動きは、次の瞬間に固まってしまいました。
善子「逃がさないって、言ったでしょ?」
かすみ「からだ、が、うご、かな……い……! なに、こ、れぇ……!」
善子「“かなしばり”よ。ご苦労、ユキメノコ」
「ヒュララ」
かすみ「……あ、あ、あ、あの、あの、あの……」
善子「覚悟はいいわね?」
かすみ「……ご、ごごごごご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!! か、かすみんにも、かすみんなりの事情があって……!!!」
善子「ムウマージ、“サイコキネシス”」
「ムマァージ」
かすみ「ぴゃああああ!!? 身体が浮いたあぁぁぁ!?」
善子「じゃあ、その事情とやらは、中でゆっくり聴かせて貰おうかしらね?」
そう言いながらニヤッと口角を上げて笑うヨハ子博士の笑顔は──この世の中にこんなに怖い笑顔があるのかと思わせるくらい、とっても恐ろしい笑顔でした……。
かすみ「た、助けてええええええええええ!!!!!!!!」
- 24 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:25:33.64 ID:QLy5TvuG0
-
🎹 🎹 🎹
かすみ「ひぐ……っ……えっぐ……っ……ご、ごべんなざい……っ……がずみんも、ごんな大事になるなんで……っ……おもっでなぐでぇ……っ……」
しずく「叱られて泣くくらいなら、最初からやらなければいいのに……」
かすみ「だっでぇ……ヒバニー欲しがっだんだもん……っ……」
しずく「だからって、こんなやり方しちゃ、めっでしょ?」
かすみ「ごめんなさいぃぃぃ……っ……」
「ガゥ…」
かすみ「かすみん、いっぱいいっぱい謝りますからぁ……許してくださいぃ……っ……せめて、ゾロアだけでもぉ……っ……」
侑「あはは……」
あの後、かすみちゃんは事情の説明を始めたわけだけど……終始冷やかな笑顔を浮かべるヨハネ博士の迫力があまりに怖かったのか──正直、傍で見ていてもめちゃくちゃ怖かった──ついに泣き出してしまって今に至る。
歩夢「あの……かすみちゃん? そんなにヒバニーがいいなら私……」
善子「ダメ。もはやかすみには選ぶ権利はないわ。歩夢としずくが選んだあとにしなさい」
しずく「そうですよ、歩夢さん! かすみさんをこれ以上甘やかしちゃいけません!」
善子「貴方は二人が選び終わるまで、このぐちゃぐちゃになった研究所の片付けを手伝いなさい。いいわね?」
かすみ「……そんなぁ……っ……」
研究所の床にへたり込んだまま、項垂れるかすみちゃん。まあ、さすがにこれは自業自得かな……。
善子「とはいえ……今はメッソンがいないから探しに行かなくちゃいけないわね……」
言いながら立ち上がる博士。かすみちゃんを捕まえるために研究所の外に出ていたし、動けないほどじゃないみたいだけど……まだ少し調子が悪そうだ。
しずく「研究所のポケモンも何匹か、逃げちゃってるんですよね……」
歩夢「どの子がいないのかって、わかってるんですか?」
善子「ええ、さすがに自分の研究所にいるポケモンくらいは把握してるからね……。今この場にいないのは、ミミロル、ゴルバット、ニャースの3匹よ。早く見つけないとね……」
ふらふらと歩く博士を見て、私は──
侑「あの!」
善子「なに?」
侑「逃げちゃったポケモン、私たちが探してきます!」
気付いたら、そう提案していた。
しずく「それは名案ですね!」
歩夢「うん! 私も良いと思う!」
善子「え、いや……でも……」
侑「むしろ、そんな身体のまま、博士を行かせるわけにいきませんよ!」
善子「…………」
かすみ「そ、それなら、かすみんが行きます」
善子「いや、かすみ、貴方はここで……」
かすみ「かすみん、さすがに反省してるんです!! こうなっちゃったのも、元はと言えばかすみんのせいだし……。かすみんこれでも、バトルの成績はそこそこ良かったから、絶対逃げちゃったポケモンたち連れ戻してきますから!!」
善子「…………」
- 25 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:27:49.87 ID:QLy5TvuG0
-
博士は困ったような顔をする。確かにこの状況でかすみちゃんを信用しろと言われても難しいかもしれないけど……。
しずく「あの……博士、私からもお願いします」
そんなかすみちゃんに助け舟を出したのは、しずくちゃんだった。
かすみ「し、しず子……!」
しずく「かすみさん、たまにやり過ぎちゃうことはあるけど……根は良い子なんです。今回も悪気があって、ここまでのことをしたわけじゃないみたいですし……今言っていることは、心の底からの言葉だと思うので。……チャンスをあげてくれませんか?」
善子「……ふむ」
博士は少し考えていたけど、
善子「……わかったわ。そこまで言うなら、しずくの言葉に免じて、もう一度だけ信じてあげる」
最終的には、首を縦に振ってくれた。
善子「ちゃんと出来る?」
かすみ「は、はい!! もちろんです!!」
善子「わかった。それじゃ、任せるわ」
かすみ「はい! かすみん、任されました!!」
しずく「よかったね、かすみさん」
かすみ「うん! ありがとね、しず子! それじゃ行くよ、ゾロア!」
「ガゥッ」
先ほどまで大人しくしていたゾロアはかすみちゃんの声に反応して、肩に飛び乗る。
しずく「それじゃ、行こっか」
かすみ「へ?」
しずく「まさか、一人で行くつもり? もちろん、私たちも探しに行くから」
侑「みんなで手分けした方がいいもんね。ほら、歩夢も」
歩夢「う、うん!」
かすみ「み、みなさん……!」
かすみちゃんは感激したのか、目の端にうっすら浮かべた涙をぐしぐしと手で拭う。
善子「なら、この研究所のポケモン用のモンスターボールを持っていきなさい。普通のボールじゃヨハネのポケモン扱いだから弾かれちゃうけど……このボールになら、ちゃんと入るはずだから」
かすみ「わかりました! ……よし! それじゃみんな! 行きますよー!!」
侑・歩夢・しずく「「「おーー!!!」」」
かすみちゃんの号令のもと、私たちは逃げ出したポケモンたちの捕獲作戦に出発するのでした。
🎹 🎹 🎹
侑「逃げ出したポケモンは3匹って言ってたよね」
しずく「メッソンも含めると4匹ですね……」
かすみ「そうなると、1人1匹ずつですね! かすみん、一番に捕まえて、みなさんのお手伝いしに行きますね!」
- 26 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:35:15.62 ID:QLy5TvuG0
-
かすみちゃんは言うが早いか、街の南側目指して飛び出して行ってしまった。
しずく「あ、かすみさん……! ……行っちゃった」
侑「それじゃ、私は街の北側に……」
歩夢「じゃあ、私も侑ちゃんと一緒に行くね」
侑「え? 手分けした方が……」
歩夢「侑ちゃん……やっぱり、気付いてない」
侑「? 気付いてないって?」
歩夢の言葉に思わず首を傾げる。
歩夢「侑ちゃん……ポケモン持ってないでしょ? 手持ちポケモンもなしに捕まえるつもりなの?」
侑「……っは!」
歩夢に言われてハッとする。
侑「どうにかしなくちゃってことで頭がいっぱいで……全然気付いてなかった……」
歩夢「あはは、やっぱり……」
侑「あれ、でもそうなると私……足手まといなんじゃ……」
完全にいるだけの人なんじゃ……。
しずく「いえ、戦って捕獲したりすることが出来なくても、単純に探すだけなら人手が多いに越したことはないと思いますよ! 目撃情報を聞いて回るのにも、人手は必要ですし」
歩夢「うん♪ だから、侑ちゃんは私と一緒に探すのを手伝って欲しいな」
侑「ん、わかった。しずくちゃんはどうする?」
しずく「私は、メッソンを探そうと思っています。最初からメッソンを選ぼうと思っていましたし……何より、心配なので」
侑「わかった。それじゃ歩夢、行こう」
歩夢「うん」
しずく「それでは、お二人とも、またあとで」
しずくちゃんと別れて、歩夢と二人で街の北側に走り出す。
──捜索開始!
🎹 🎹 🎹
侑「あ、すいませーん!」
通行人「あら? なにかしら?」
侑「ちょっとポケモンを探してて……えっと、ゴルバット、ミミロル、ニャースなんですけど……」
通行人「うーん……ちょっと見てないわね」
侑「そうですか……ありがとうございます」
まずは聞き込み。不幸中の幸いで3匹とも、この近くには生息していないから、目撃情報があったらそれはイコール研究所から逃げ出したポケモンたちということだ。
歩夢「──……はい、そうですか……ありがとうございます」
侑「歩夢、そっちはどう?」
- 27 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:38:08.49 ID:QLy5TvuG0
-
他の通行人に目撃情報を訊ねていた歩夢に声を掛ける。
歩夢「うぅん、特にそれらしいポケモンを見たって人は今のところ……」
侑「そっちもか……うーん」
歩夢「とりあえず、街の外まで行ってみる……? あてずっぽうにはなっちゃうけど……」
侑「……そうしよっか。南側はかすみちゃんたちが探してくれてるし、私たちはとりあえず北側を探そう」
歩夢「わかった」
頷く歩夢と一緒に、北側の10番道路方面に行こうとした矢先、
女性「──さっきから見てたんだけど〜、君たちポケモンを探してるの〜?」
突然のんびりとした口調の女性から声を掛けられた。
侑「あ、はい! ミミロル、ゴルバット、ニャースを探してるんですけど……」
女性「ミミロル、ゴルバット、ニャース……。確かだけど……その子たちってこの辺りには生息してなかったはずだよね〜……?」
侑「は、はい……知り合いのところから逃げ出しちゃって……」
女性「むむ、それは大変だ〜……。お姉さんが手伝ってあげよう〜……と、言いたいところなんだけど……この後、妹を迎えに行かなくちゃいけなくて……ごめんね〜……」
侑「い、いえ! 気にしないでください!」
なんだか、独特な雰囲気のお姉さん……。
女性「あ、でもでも、そのポケモンかはわからないけど、さっき大きな翼で羽ばたくポケモンなら、見かけた気がするよ〜」
侑「ホントですか!?」
歩夢「ゴルバットかも……!」
侑「うん! どっちに行ったかわかりますか!?」
女性「あっちの方かな〜」
お姉さんは街の西側を指差す。
歩夢「あっちってことは……西の6番道路の方だね」
侑「お姉さん、助かります!」
女性「ふふ、どういたしまして〜。……そういえば、その子は違うのかな? その子も、野生では珍しいポケモンだと思うんだけど〜……」
侑「……? その子……?」
お姉さんの視線を追うと──歩夢の足元あたりに、
「ヒ、バニ!!!」
ヒバニーがいた。
歩夢「あ、あれ? ヒバニー、付いてきちゃったの?」
「バニッ」
歩夢「どうしよう、侑ちゃん……」
侑「えっと……」
歩夢が困り顔で訊ねてくる。……というか、どうしてヒバニーは私たちに付いてきているんだろう……。
考えている間に、
「ヒ、バニッ!!!」
歩夢「きゃっ!?」
- 28 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:39:40.09 ID:QLy5TvuG0
-
ヒバニーはぴょんぴょんと跳ねるように歩夢の身体を駆け上がって、歩夢の頭の上にしがみつく形になる。それと同時に、
「シャーーーー!!!!!」
さっきまで大人しかったサスケが、歩夢の声に反応したのか、ご主人様を守るためにヒバニーを威嚇する。
歩夢「サ、サスケ、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけだから……」
「…シャボ」
歩夢「ヒバニーどうしたのかな……?」
侑「もしかして、手伝ってくれるの?」
「バニッ!!」
ヒバニーは私の言葉に答えるように、首を縦に振る。
侑「もしかして……さっき、歩夢に助けられたからかな?」
歩夢「え? 私、助けたってほどのことはしてないけど……」
歩夢はそう言うものの、ゾロアの攻撃の中、確かにヒバニーとサスケを庇っていた。
侑「少なくとも……ヒバニーは守ってもらったって思ってるんじゃないかな」
「バニッ」
歩夢「えっと……それじゃ、お手伝い、お願いしていい?」
「ヒバニッ!!」
ヒバニーは歩夢の言葉に頷きながら、鳴き声をあげた。
女性「ふふ、それじゃポケモン探し、頑張ってね〜」
侑「はい、ありがとうございます! 行こう、歩夢!」
歩夢「うん」
私たちは街の西側──6番道路を目指します。
👑 👑 👑
かすみ「ミミロルー! ゴルバットー! ニャースー! 可愛いかすみんはここですよー! 出て来てくださーい!」
「ガゥッ」
かすみ「うーん……全然、見当たりませんね。ゾロアは何か見つけた?」
「ガゥゥ…」
かすみんの肩に乗っかって周囲を見回しているゾロアも、特に収穫なし……。困りましたね。
探し方が悪いのかな……?
かすみ「うーん……」
かすみん少し考えます。
かすみ「こんな広い場所で探し物をするなら、まず大雑把に特徴を捉えた方がいいかも……?」
今探しているのはミミロル、ゴルバット、ニャースの3匹。つまり、茶色いうさぎポケモン、紫のコウモリポケモン、白いネコさんポケモンを見つければいいんです。
ピンポイントでそのポケモンだけを探そうとするからいけないんですよ。特徴に着目して追いかけてみましょう!
- 29 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:45:37.77 ID:QLy5TvuG0
-
「コラッタ!!!」
かすみ「紫だし、あれはネズミポケモン」
「ジグザグ」
かすみ「あれは茶色だし、タヌキさんですね」
「フニャァ…」
かすみ「あの子……ネコさんポケモンですけど、紫色ですね」
「ニャァ」
かすみ「……? あれは、なんか額に小判付いてる……ニャースっぽい? ……けど、灰色のネコさんですね……色が違います」
「エニャァ」
かすみ「わっ! ピンクのネコさん! 可愛い!! ……じゃなくて。……うーん……」
唸りながら、辺りをキョロキョロと見回していると──
かすみ「ん? あれって……」
しずく「──メッソーン!! メッソーン!! どこですかー!? 出て来てくださーい!!」
「マネネー」
メッソンを探す、しず子の姿。
かすみ「しず子ー!」
しずく「あ、かすみさん……」
「マネ」
かすみ「それにマネネも連れて来てたんだね」
しずく「うん……今回の旅はマネネも連れて行こうと思ってたから……」
「マネ」
マネネは学校にいたときから、しず子がよく連れていた子ですからね。かすみんのゾロアと同じような感じです。
かすみ「ところで、メッソン見つかった?」
しずく「うぅん……かすみさんはどう?」
「マネマネ…」
かすみ「全然ダメ……ネコさんポケモンはたくさん見つかったんだけど、色が違う子ばっかりで……」
しずく「あはは……確かにネコポケモンでも色が違うんじゃ、ダメだね……」
かすみ「紫のネコさん、灰色のネコさん、ピンクのネコさんは見つけたんですけどねぇ……」
しずく「えっ!?」
かすみ「わ!? な、なに!? 急におっきな声出さないでよ、しず子……」
しずく「か、かすみさん、灰色のネコポケモン見たの!?」
しず子は急に詰め寄って、私の両肩を掴んでくる。
かすみ「え? う、うん……でもニャースって白いネコさんだよね?」
しずく「……ああ、しまった……!! 伝え忘れてた……! 研究所にいたのは普通のニャースじゃないんだよ!!」
かすみ「……? 普通のニャースじゃない……?」
普通じゃないニャースってなんだろう……?
- 30 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:47:06.94 ID:QLy5TvuG0
-
しずく「研究所のいたのはアローラニャースなの!!」
かすみ「アロー……? なにそれ……?」
しずく「えっとつまり……! 灰色のニャースなんだよ!!」
かすみ「えっ!? じゃあ!?」
さっきまで、灰色のネコポケモンがいた方向を急いで振り返る。
かすみ「い、いない……!! でも、まだ遠くには行ってないはず……!!」
とにかく、かすみんはさっき見た灰色のネコさんポケモンがいた方向に向かって、走り出します。
しずく「か、かすみさん!?」
かすみ「まだ、近くにいるかもしれないから! しず子、教えてくれてありがとう!! ニャースは絶対捕まえて戻るから、しず子は絶対メッソンのこと見つけてよね!!」
しずく「! わかった!」
かすみ「ゾロア、行くよ! ちゃんとニャースを捕まえて、汚名挽回です!!」
「ガゥッ!!!!」
ここで取り返さなくちゃいけないんだから!! かすみん、全力で頑張りますよ!!
しずく「あ……汚名は返上するもの……って、行っちゃった……」
「マネネェ…」
🎹 🎹 🎹
歩夢と一緒に、6番道路に向かう道すがら。
歩夢「…………」
侑「うーん……やっぱ、風斬りの道の方まで行っちゃってるのかな……」
歩夢「…………」
侑「……歩夢、大丈夫?」
歩夢「え? あ、ごめん、何かな?」
侑「……。……やっぱり、歩夢何か落ち込んでる?」
歩夢「え!? ど、どうしてそう思うの……?」
侑「なんか、研究所での一件以来、いつもより口数が少ないなってずっと思ってたんだ」
歩夢「あ……」
他に喋っている人がたくさんいたから、会話に入ってこなかっただけなのかとも思っていたけど……こうして二人っきりになると、いつもより明らかに口数が少ないのがよくわかる。
歩夢は私からの指摘を受けて、少し目を逸らしてから、それについて言うか否かを迷っている素振りをしていたけど……。
歩夢「……やっぱり、侑ちゃんには隠し事……出来ないね、あはは」
そう言いながら、力なく笑う。
- 31 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:48:45.54 ID:QLy5TvuG0
-
侑「どうしたの? 話、聞くよ?」
歩夢「……えっと、ね」
侑「うん」
歩夢「……こうなっちゃった原因……私にもあるのかなって……」
侑「え?」
私はポカンとしてしまった。歩夢にも原因があるって……?
歩夢「ほら、博士のドンカラスがゾロアを捕まえたとき……私、泣いてるゾロアが見てられなくって……」
そこまで聞いて、歩夢が何を思い悩んでいるのかはわかった。歩夢らしいと言えば歩夢らしいかな……。
歩夢「……私があのとき“うそなき”だって、ちゃんと気付けてれば……博士を止めてなければ……あそこまでゾロアが大暴れして、研究所があんなことになったりしなかったんじゃないかなって……」
侑「考えすぎだよ」
歩夢「で、でも……!」
侑「確かに歩夢は素直すぎて、ああいう嘘が見抜けないところがあるのは知ってるよ、昔から」
歩夢「ぅぅ……」
侑「でも、それは歩夢が優しいからであって、悪い部分じゃないよ」
歩夢「……侑ちゃん……でも……」
侑「だから、歩夢はそのままの歩夢でいて欲しいな。歩夢が打算的になっちゃったら、私ちょっとやだな……ね、サスケもそう思うでしょ?」
「シャー」
歩夢「きゃっ……サ、サスケ、くすぐったいよ……」
私の言葉を受けて、サスケは歩夢の頬をチロチロと舐める。そして、そんなサスケ同様、
「バニバニッ」
ヒバニーも歩夢の頭の上でぴょこぴょこと跳ねる。
歩夢「わわ……! 頭の上で跳ねないで〜……」
侑「ほら、サスケもヒバニーも、今の優しい歩夢でいて欲しいって言ってるよ」
歩夢「……うん」
侑「だから、自分が悪かったなんて思わないで欲しいな」
歩夢「侑ちゃん……うん」
侑「それにもし今後、歩夢を騙したり、歩夢に酷いことする人が現れたら……」
歩夢「現れたら……?」
侑「私が絶対、歩夢のこと守るからさ!」
歩夢「……!」
歩夢は私の言葉を聞いて、びっくりしたように目を見開いた。
歩夢「ホントに……?」
侑「もちろん! 何かあったら守るし、助けるよ! 約束する!」
歩夢「……そ、そっか……えへへ、ありがとう、侑ちゃん……」
歩夢は少し頬を赤らめながら、嬉しそうにはにかむ。ち、ちょっとかっこつけすぎたかな……?
いや、でも何かあったら歩夢のことは私が守る! それは本心!
- 32 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:49:42.15 ID:QLy5TvuG0
-
歩夢「侑ちゃん」
侑「ん?」
歩夢「私も……侑ちゃんに何かあったら、侑ちゃんのこと、守るね。えへへ……」
侑「ふふ、ありがと、歩夢♪」
歩夢の言葉を聞いて安心する。
どうやら心のつっかえは取れたようでよかった。
一安心したところで、私たちは間もなく6番道路に差し掛かろうとしていた──そのとき、
侑「……あ!?」
歩夢「え、どうかし──あっ!!」
二人で同時に声をあげる。
なぜなら、ちょうど視線の先に──
「ロル…?」
茶色いうさぎポケモン──ミミロルの姿があったからだ。
侑「やっと1匹見つけた……!!」
本来探していたゴルバットとは違うけど、運よく見つけたミミロルに向かって、ダッシュする。
歩夢「侑ちゃん!?」
「ロル!?」
侑「ミミロル、確保ー!!!」
そのまま、ミミロルに飛び付くようにして、捕獲──
「ロルー!!!?」
侑「よし!! 捕まえた!!」
両手でしっかりとミミロルを捕まえることに成功……!!
「ロルッ!!! ロルゥッ!!!!!」
侑「わわ!? あ、暴れないで……!!」
私は暴れるミミロルをどうにか押さえながら、捕獲用のボールに手を伸ばす──その際に、私はミミロルの右耳に触れてしまった。
その直後──
「!!!!! ロォルッ!!!!!!!」
侑「っ!!?」
ミミロルの左耳が勢いよく伸びてきて、鼻っ柱に直撃。その勢いはとてつもなく、そのまま吹っ飛ばされて、私は地面を転がる。
侑「いったあああああ!?」
歩夢「侑ちゃん!? 大丈夫!?」
侑「ぐぅぅぅ……ど、どうにか……」
体育の授業で、ボールを顔面に食らったとき……いやそれ以上の衝撃だったかも……。鼻を押さえて、痛みを堪えながら、私はどうにか上半身だけでも身を起こす。
「ロルゥッ…!!!!!」
- 33 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:51:16.65 ID:QLy5TvuG0
-
ミミロル、めちゃくちゃ警戒してる……ど、どうしよう……。
小柄で可愛らしいポケモンだったから、素手でも平気だと思ったんだけど……やっぱりポケモンのパワーはとんでもないことを思い知らされた。
歩夢「…………私が行くね」
侑「え!?」
突然、歩夢が一人で前に出る。
侑「あ、歩夢!! 危ないよ!!」
歩夢「…………大丈夫、私に任せて」
侑「あ、歩夢……」
歩夢「ミミロル。ごめんね、怖がらせて」
「ロルッ…!!!!!!」
ミミロルは依然警戒していて、歩夢のことを威嚇している。
歩夢「ごめんね、研究所で静かに暮らしてたのに……急に大きな音がして、怖かったんだよね」
「ロルゥゥゥッ!!!!!!!」
歩夢「あそこにいたら危ないって思って、逃げて来たんだよね……ごめんね、怖い思いさせて……」
「ロ、ロルゥ…!!!」
歩夢「だけど、お外には野生のポケモンもいて、もっと危ないの……だから、一緒に研究所に帰ろう?」
「ロ、ロル…!!!」
歩夢「大丈夫、怖くないよ」
歩夢は言いながら、ミミロルに手を伸ばす。
ミミロルの──耳に。
侑「!! だ、ダメ!! 歩夢ッ!!」
さっき殴られたからわかる。ミミロルは耳を触られると反射的に殴り返してくる……!!
私は跳ねるように立ち上がって、歩夢の方へダッシュしたけど──
歩夢「よしよし……良い子だね」
「ロルゥ…」
侑「……って……へ?」
ミミロルは歩夢に“右耳”を撫でられて、気持ちよさそうにしているだけだった。
侑「な、なんで……?」
さっきとあまりに違う状況に事態が飲み込めず、ポカンとする。
歩夢「あのね、この子の耳なんだけど……」
侑「……?」
歩夢「右耳は綺麗な毛並みなのに対して、左耳は何度も打ちつけたように荒れてるなって思って」
侑「え?」
歩夢に言われて、ミミロルをよく見てみると──確かにミミロルの耳は左右で毛並みが全然違っている。
- 34 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:53:00.22 ID:QLy5TvuG0
-
歩夢「もしかして、普段からお手入れをしてもらってるのは右耳だけで、左耳は武器になってるから、あんまり触らないようにしてるのかなって思って」
「ロルゥ…」
侑「歩夢、知ってたの……?」
歩夢「うぅん、なんとなく……ミミロルのこと見てたら、そうなのかなって」
侑「そ、そっか……」
そういえば歩夢って、ポケモンを毛づくろいしてあげるのが、昔からすごくうまかったっけ……。
そのお陰か、いろんなポケモンとすぐ仲良くなれちゃうんだよね。
侑「歩夢は相変わらずすごいね……」
歩夢「え? 何が?」
侑「うぅん、ミミロル大人しくなってくれてよかったね」
歩夢「あ、うん!」
侑「とりあえず、ボールに……」
私は改めて、博士から渡されていた捕獲用のボールをミミロルに向けると──
「ロルッ!!」
耳が伸びてきてバシッ──とボールを弾き飛ばされる。
侑「あ、あれ……? なんか、私嫌われてる……?」
やっぱり、さっきうっかりミミロルが嫌がるところを触っちゃったのがよくなかったかな……。
歩夢「ミミロル、少しの間だけど……ボールの中で待っててくれないかな? すぐにお家に戻れるから……ね?」
「ロル…」
ミミロルは歩夢のお願いを聞くと、歩夢の腰辺りをもぞもぞと探ったあと、
「ロル──」
歩夢の腰についている空のボールに、自ら入って行った。
歩夢「ふふ、ありがとうミミロル♪」
侑「……」
歩夢「よし! それじゃ、このままゴルバットも……──侑ちゃん? どうかした?」
侑「いや、なんでもない。それより、ゴルバットだよね!」
歩夢「あ、うん!」
ミミロルからの扱いの差に思うところがないわけじゃないけど……今は捜索の続き、続き……!
👑 👑 👑
──セキレイシティ南の道路……8番道路。
かすみ「ニャースー!!! 出て来てくださーい!!」
「ガゥガゥッ」
- 35 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:54:26.52 ID:QLy5TvuG0
-
ニャースを追いかけて8番道路まで来ちゃったけど……完全に見失っちゃいました……。
かすみ「8番道路って、特に特徴もない道なんですけど……だだっぴろいし、背の高い草むらも多くて探しづらいんですよね……」
「ガゥゥ…」
かすみ「こーなったら、高いところから見渡して……!」
かすみんは辺りをキョロキョロと見回します。
道幅の広い道路の中で高い場所といえば──
かすみ「看板!!」
この道路には『G』と書かれた、8番道路であることを示す標識ポールがあります。
高さで言うと、かすみん1.5人分くらいあります! 高さは十分のはず……!
かすみ「……あ、でもかすみん、今スカートでした……」
かすみんは旅のお洋服も可愛いのがいいから、お気に入りのスカートを履いてきているんです☆
かすみ「これは……看板を登るのは無理ですね」
「ガゥ…」
かすみ「ちょっと、ゾロア呆れないでよ!? 可愛い女の子として、ここは超えちゃいけないラインでしょ!? 呆れるくらいなら、ゾロアが登ってよ!」
「ガゥ」
ぷんぷん頬を膨らませる、かすみんの言葉を受けて、ゾロアがぴょんっとポールに飛び付きます。
──が、
「ガゥゥ…」
ゾロアは情けない声をあげながら、ずるずるとポールの根本まで滑り落ちていきます。
身軽なゾロアと言えど、さすがに表面がつるつるなポールを登るのは難しいみたい……。
かすみ「……というか、冷静に考えてみると、この垂直のポールを登るのはかすみんでも無理かも……」
「ガゥガゥッ!!!!」
かすみ「わ!? お、怒んないでよー!!」
でも、どうしよう……改めて辺りを見回しても、ぼーぼーな草むらのせいで、ガサガサガサガサと何かがいる音こそするものの、何がいるのかが全然見えません……。
かすみ「揺れてるところを虱潰しで探すしかないかなぁ……」
一周して戻って来てしまった結論に頭が痛くなる。早く見つけたいのにぃ……。
そのときだった──カタカタカタと、腰の辺りで何かが震え出す。
かすみ「わ!? な、なんですかなんですか!?」
慌てて、自分の腰周りに目をやると──
かすみ「……モンスターボール?」
何故か、モンスターボールが震えています。……あれ? かすみん、今連れているのはゾロアだけのはず──
かすみ「……あ!」
……そういえば、忘れていました!
腰のボールをポンっと放ると──
- 36 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:55:41.10 ID:QLy5TvuG0
-
「キャモ」
かすみ「キモリ……返すのをすっかり忘れてました……」
ヨハ子博士に返し忘れていたキモリが顔を出しました。
よく考えてみればかすみん、ヨハ子博士のユキメノコに捕まったあとはそのまま折檻もといお説教を受けていたので、返すタイミングがありませんでしたね。
ところで、
かすみ「キモリは何しに出てきたの……?」
「キャモ…?」
訊ねるとキモリは、先ほどまでかすみんとゾロアが必死に登ろうとしていた看板ポールに飛び付き、
かすみ「お、おぉ……!?」
そのまま、ひょいひょいと上に登っていくじゃありませんか!
かすみ「もしかして、手伝ってくれるの!?」
「キャモ!!!」
あっという間に看板の上にまで登り切ったキモリは、そこから辺りを見回し始めます。
かすみ「キモリー! そこから、ニャースの姿、見えますかー?」
「キャモ…」
キモリは看板の上で、前傾姿勢になって、見下ろしていますが、どうにもうまく行ってないみたい。
やっぱり、背の高い草むらは上から見ても邪魔ということですね……。せめて、ニャースがもっと派手派手な色だったり光っていたりしてくれれば……。
かすみ「ん……? 光って……? ……そうだ!」
そこでキュピピーンと、かすみん名案を閃いちゃいました!
かすみ「キモリ!」
「キャモ…?」
かすみ「かすみんが、ニャースを“光らせます”! キラキラしたのを見つけたら、教えてくれますか!?」
「キャモッ!!」
キモリが頷いたのを確認して──
かすみ「行くよ! ゾロア! “にほんばれ”!!」
「ガゥガゥッ!!!!」
ゾロアに指示したのは“にほんばれ”! 日差しを強くする補助技です!
かすみん、ゾロアと一緒にイタズラする……じゃなくて、いろんな状況に対応するため、便利な技をたくさん覚えさせているんですよね!
ニャースの額には小判が付いています。だから、天から強い日差しが降り注げば──
「!! キャモッ!!!!」
──小判に光が反射するから、よく見えるはず!!
かすみ「そこですね!! ゾロア!!」
「ガゥッ!!!!」
- 37 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:56:36.05 ID:QLy5TvuG0
-
キモリが指差した先に、ゾロアを振り被って、
かすみ「いっけぇぇぇぇ!!!!」
投げ飛ばします!!
「ガゥゥゥッ!!!!!」
草むらに飛び込むと同時に行う奇襲の一撃!!
かすみ「ゾロア!! “ふいうち”!!!」
「ガゥァッ!!!!!」
「ンニャァッ!!!?!?」
かすみ「! 手応えありです!!」
かすみん、ニャースの鳴き声を確認すると同時に走り出します。
ニャースがいるであろう草むらを回り込んで逆側に走ると──
「ンニャッンニャァッ!!!!!」
「ガゥッガゥガゥッ!!!!」
草むらから追い出されたニャースが、ゾロアと取っ組み合いをしている真っ最中……!
かすみ「今です!! モンスターボール!!」
「ニャァッ!!!?」
かすみんの投げたボールはニャースの額の小判に直撃! そのままニャースは、ボールに吸い込まれていきました。
かすみ「……や、やったあああああ!!! 捕獲出来ましたぁー!!!」
「ガゥガゥッ!!!」
喜ぶかすみんに飛び付いてくるゾロア、そして──
「キャモッ」
かすみ「キモリも、ありがとね!」
「キャモッ」
任務を終えて、看板から降りて来たキモリにもお礼を言う。
かすみ「それじゃ、一旦戻りましょうか! 他のみんなのお手伝いに行きましょう!」
「ガゥッ」「キャモッ」
かすみんは8番道路をあとにして、一旦セキレイシティへと戻るのでした。
🎹 🎹 🎹
ミミロルを捕まえたその後──私たちは6番道路をさらに奥に進んでいた。
侑「ゴルバット……見当たらないなぁ」
歩夢「うん……」
「バニィ…」
- 38 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:58:04.73 ID:QLy5TvuG0
-
それなりに大きなポケモンだし、飛んでいれば見つけられそうなものだけど……。
侑「もしかして、もう別の場所に行っちゃったのかなぁ……?」
歩夢「その可能性はあるよね……」
辺りを見回すと、ポッポやマメパトといった鳥ポケモンたちがたくさん飛んでいるのが目に入る。
ここ6番道路──通称『風斬りの道』はサイクリングロードとなっている橋の周りを、たくさんの鳥ポケモンが飛んでいることで有名だ。たぶん鳥ポケモンやひこうタイプのポケモンが好む気候なんだと思う。
もしかしたら、ひこうタイプのゴルバットも同じような理由で自然とここに来たのかと思ったけど……。
侑「とりあえず、橋の下だけでも確認してみよっか」
歩夢「うん。橋の上は自転車がないと探せないもんね」
橋の脇にある階段を伝って、河原の方へと降りていく。
侑「そういえば、小さい頃一緒に遊びに来たっけ」
歩夢「ふふ、そうだったね。ここは近くにある一番おっきな川だから、よくお母さんたちに連れて来てもらってたね」
侑「フワンテにだけは気を付けなさいよ〜って言われたっけ」
歩夢「そうそう♪ あ、覚えてる? ここでかくれんぼしたときのこと……侑ちゃん、橋の下に隠れるの好きだったよね?」
侑「あったあった! 柱の裏側って意外と死角になったりするんだよね♪」
歩夢「お昼でも、日が当たらなくて薄暗くなる場所だと特に……侑ちゃん、いっつも黒い服着てるから、見つけるの大変だったよ……」
侑「あはは、私の作戦勝ちだね♪」
昔を懐かしみながら、橋桁の裏を覗く──案外私と同じでここに隠れていたりして……。
侑「……まあ、そんなに都合よく行かないか」
橋桁の裏は、昔歩夢と遊んだときのように、日が当たらず薄暗い。ゴルバットみたいなコウモリポケモンは好きそうだなって思ったんだけど……。
「…シャーボ」
歩夢「ん? サスケ? どうしたの?」
侑「ん?」
普段おとなしいサスケが急に鳴き声をあげた。
歩夢「そういえば……」
侑「ん?」
歩夢「かくれんぼのとき、最終的に侑ちゃんを見つけたの……サスケだったよね」
侑「……そうだったかも。たしか、アーボには熱で獲物を探す能力があるって、歩夢のお母さんが……」
気付けば、橋桁の上の方を見上げるサスケに釣られるように上を見る。
日が完全に遮られて薄暗い中、整備用に取り付けられたであろう小さな足場の先に──何かの影が見えた。
侑「!? 何かいる!?」
見つけたと同時に──その何かは大きく口を開いた。
侑「!! ゴルバ──」
──キィィィィィィィン!!!!!!
- 39 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:59:13.74 ID:QLy5TvuG0
-
侑「い゛ッ!!?」
歩夢「っ゛!!?」
標的の名前を叫ぶと同時に──私の声を掻き消すように、耳障りな音が辺り一帯に響き渡る。
「ヒ、ヒバニッ…」
歩夢「ヒバニー……!?」
歩夢の頭にしがみついていたヒバニーが目を回して落っこちそうになったところを歩夢がキャッチする。
侑「こ、これ……ッ……ゴルバットの……ッ……“いやなおと”……ッ……!?」
もしかしたら、耳の大きなヒバニーには、この音の影響が大きいのかもしれない。
歩夢もすぐに気付いたのか、ヒバニーの耳を塞ぐように胸に抱き寄せる。
それだけじゃない、近くの草むらから小型の鳥ポケモンが一斉に飛び立ち、他にもコラッタやオタチといった小型のポケモンたちが草むらから飛び出して逃げ回っている。
歩夢「とにかく……っ……音を……どうにか、しなきゃ……っ……!!」
「シャボッ…!!」
歩夢「サスケ……!! “どくばり”……!!」
「シャーーーッ!!!!」
サスケがゴルバットに向かって、小さな毒の針を無数に吐き出す。
「ゴルバッ!!」
サスケの攻撃に気を散らされたのか、小さな鳴き声と共に“いやなおと”が止む。それと同時に──バサッと大きな翼が開かれ、ゴルバットが橋桁から飛び出した。
「ゴルバッ…!!!!」
ゴルバットは私たちの姿を認めると──大きく翼を振るって、
侑「!? 歩夢!! 危ない!!」
歩夢「え!? きゃっ……!!」
風の刃を飛ばしてきた。“エアカッター”だ。
間一髪、歩夢の手を引いて、無理やり自分の方に抱き寄せると──先ほど歩夢がいた場所が風の刃に切り裂かれて、河原の地面が軽く抉りとられる。
侑「歩夢!? 怪我は……!?」
歩夢「だ、大丈夫……ありがとう……」
ホッとするのも束の間──ゴルバットに目をやると、大きな翼で空を旋回しながら、私たちを睨みつけている。
侑「敵だと思われてる……?」
歩夢「ゴルバット……! 私たち、あなたをお家に返してあげようとしてるだけで……!」
「ゴルバッ!!!」
歩夢の声を掻き消すように、再び飛んでくる風の刃。
侑「っ……!!」
私は歩夢の腕を引いて、走り出す。
とどまってちゃダメだ……!!
- 40 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:00:19.71 ID:QLy5TvuG0
-
歩夢「ゆ、侑ちゃん……! どうしよう……あのゴルバット、全然お話聞いてくれない……!」
侑「ミミロルみたいにはいかなさそうだね……! 歩夢、戦おう……!!」
歩夢「え、ええ!? で、でも……! 私、戦い方なんて、わ、わかんないよ……!!」
侑「でも、やらなきゃ……!」
歩夢と問答している間にも──
「ゴルバッ!!!!」
侑「!!」
ゴルバットが大きな牙を歩夢に向けて、飛び掛かってくる。やるしかない……!!
侑「サスケ!! “とぐろをまく”!!」
「シャーーーボッ!!!!」
私の指示と共に、歩夢の肩の上でサスケがとぐろを巻いて、防御姿勢を取る。
──ガッ!! 鈍い音と共にゴルバットの攻撃をサスケが体で受け止める。
今だ……!!
侑「モンスターボール!!」
腰から外したモンスターボールを投げつける──が、
「ゴルバッ…!!」
察知したのか、すんでのところで躱され、ゴルバットは再び上空へ。
侑「くっ……! 歩夢!! とにかく、隙を作って!!」
歩夢「わ、わかった……! が、がんばる……!」
「ヒバニッ」
歩夢「ヒバニー……! もう平気なの?」
「バニッ!!!!」
先ほど目を回していたヒバニーも復活したようで、歩夢の腕の中から外に飛び出す。
歩夢「じゃあ、お願い! 一緒に戦って! “ひのこ”!!」
「バニィーーー!!!」
「ゴルバッ!!!?」
小さな火球がゴルバットに直撃する。
侑「よし……!! 効いてるよ、歩夢!!」
歩夢「うん!」
このまま弱らせて、捕獲したい。とはいえ、ゴルバットもただやられてはくれない。
「ゴルバッ!!!!」
今度はヒバニーを標的とした“エアカッター”。
歩夢「ヒバニー!! 走って!!」
「バニッ!!!!」
- 41 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:02:47.02 ID:QLy5TvuG0
-
ヒバニーは走り回りながら、“エアカッター”を避け、
「バニーーーッ!!!!!」
隙を見つけて、“ひのこ”をゴルバットに撃ち込む。
侑「よし……!! この調子で……!!」
「ゴルバァッ…!!!」
良い調子かと思ったら、
「ゴ、ルバァァッ!!!!!!」
急にゴルバットが辺り一帯に無差別に“エアカッター”を乱発し始めた。
侑「う、うわぁ!?」
歩夢「お、怒ったのかも……!」
侑「て、撤退ー!!」
歩夢の手を引いて、橋桁の裏へと走る。
その間もヒバニーは走り回りながら上手に攻撃を避け続けているけど……。
侑「ど、どうしよう……もっと強い攻撃を当てないと……!」
このままだと、いつかヒバニーも攻撃に被弾して、やられてしまうかもしれない。
歩夢「もうちょっと……もうちょっとだけ待てば……」
侑「え?」
歩夢「たぶん……もうちょっと頑張れば、強い攻撃……出来ると思う」
侑「ホントに……?」
歩夢「……うん」
歩夢が何をしようとしているのかはわからない。だけど、さっきのミミロルのように、歩夢は何かに気付いたのかもしれない。
なら、今はヒバニーと歩夢を信じて、そのときを──
「──……ブィ」
侑「え?」
歩夢「? 侑ちゃん?」
侑「今……何か……聞こえた気が……」
小さくか細い鳴き声が──
声の聞こえてきた方に目を凝らす。
ヒバニーがちょこまかと走り回りながら、ゴルバットの“エアカッター”を避け続けているバトルフィールドの少し先に──小さな何かが蹲っていた。あれは──ポケモン……!?
侑「!? 逃げ遅れた野生のポケモンだ!?」
歩夢「えっ!?」
先ほどの“いやなおと”で周りの野生ポケモンは全て逃げてしまったんだと思い込んでいたけど──逃げ遅れたポケモンがいたんだ……!!
侑「あのままじゃ、巻き込まれちゃう……!!」
- 42 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:03:40.19 ID:QLy5TvuG0
-
私は咄嗟に橋桁から飛び出して、逃げ遅れたポケモンのもとへと走る。
歩夢「ゆ、侑ちゃん!?」
侑「歩夢はそこにいて!!」
叫びながら、私は一直線に走る。
無謀なのは承知だ。でも、何も関係ない子を巻き込むわけにはいかない。
「ブイィィ……」
か細い鳴き声がどんどん近くなる。
それと同時に、風を薙ぐ音が何度も自分の間近を通り過ぎる。
急げ、急げ、急げ……!!
「ブィィィ……」
──あと、ちょっと……!!
あと大股で何歩か、というところで──私の背後から、風の刃の音が迫ってくるのが聞こえた。
歩夢「──侑ちゃん!!!! 避けてえええええ!!!!!」
歩夢の悲鳴のような声が響く。私の背後に“エアカッター”が迫っていることがわかった。
──ダメだ、今避けたら、あの子に当たる……!!
侑「うあああああああああああああっ!!!!」
一か八か……! 私は地面を蹴って、頭から飛び込んだ──
「ブイッ…!!!」
ポケモンを抱き寄せながら、
侑「……ッ!!!!」
地面を転がる。──ズシュッ! 嫌な音がした。
侑「……ッ゛……!!」
肩に走る鋭い痛み。
「ブイ……」
心配そうな鳴き声が、胸元から聞こえて来た。
侑「……あはは……大丈夫、大丈夫……掠っただけだから……それより、君は大丈夫だった……?」
「ブイ……」
侑「無事みたいだね……よかった……」
「ブィィ…」
侑「……早く、お逃げ……」
「ブイ…」
胸の中から這い出てくる小さなポケモンに逃げるように促し、その子の壁になるように片膝を突きながら立ち上がる。
肩の切り傷もだけど……河原の石の上を転がったから、全身が痛い。
- 43 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:04:45.28 ID:QLy5TvuG0
-
「ゴルバッ!!!!!!!」
未だ怒り狂うゴルバットの姿。
その攻撃を避けながら、走り回るヒバニーの姿。そして、気付けば、走り回るヒバニーの足元は赤く赤熱していた。
これが歩夢の言っていた強い攻撃の予兆……!
もう少しで歩夢たちがどうにかしてくれると思った瞬間──再び、私に向かって、風の刃が飛んできた。
侑「──……あ」
──周りがスローモーションになったように感じた。ゆっくりと風の刃が私の真正面に迫ってくる。
──もうダメだと……思った。そのときだった。
「──ブイ」
──トンと、私の背中、肩、そして頭へと、何かが駆け上がっていく。
その何かは、そのまま私の頭を踏み切って──
「ブイィィィィ!!!!!」
私の目の前に迫る、風の刃の前で──眩く光った。
「ブイ」
侑「う、嘘……?」
気付けば、先ほどまで迫っていた風の刃はその光に掻き消され、綺麗さっぱり消えていた。
歩夢「ヒバニー!!!!」
侑「!」
目の前の光景に、呆けていたのも一瞬。歩夢の声で意識を引き戻される。
「バーーニニニニニ!!!!!!!」
気付けば、猛スピードになりながら、走った道を真っ赤に燃やすヒバニーの姿が目に入ってくる。
歩夢「いけっ! ヒバニー!!」
「バーーーニィ!!!!!!!」
ヒバニーは歩夢の合図と共に、進路を橋桁の方に変え──猛スピードの勢いのまま、橋桁を一気に垂直に駆け上がり──
「ゴルバァッ!!!!!!」
空中で怒り狂っているゴルバットに高度を合わせて──
「バーーーニィッ!!!!!!!」
柱を蹴る反動で──燃え盛りながら飛び出した……!!
歩夢「“ニトロチャージ”!!!」
「バニィィィーーーーーー!!!!!!!」
- 44 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:05:31.49 ID:QLy5TvuG0
-
燃え盛る炎の突進が──
「ゴ、ルバァッ!!!!!?」
ゴルバットに直撃した。ゴルバットはその衝撃で河原に墜落し──
「ゴ、ゴルゥ……」
目を回して、戦闘不能になったのだった。
侑「……そうだ、捕獲……!!」
私は地面で伸びているゴルバットに向かってボールを投げつけた。
──パシュンと音がして、ゴルバットがボールに吸い込まれる。
侑「はぁ……よかった……」
へたり込んだまま、安堵する。
歩夢「よくないよっ!!」
侑「うわぁ!?」
気付けば、歩夢がすぐそこで私のことを見下ろしていた。……目の端に大粒の涙を浮かべて。
歩夢「なんで、あんな無茶したの!?」
侑「えーあー……いや……」
歩夢「もう少しで大怪我するところだったんだよ!?」
侑「その……でも、本当に掠り傷だったから……」
肩の傷も、ちょっと表面に切り傷が出来た程度で本当に掠っただけだ。
歩夢「侑ちゃんに何かあったら……私……っ……」
侑「ご、ごめん……歩夢……私、必死で……」
「ブイ…」
そのとき私の近くで鳴き声がして、ハッとする。
侑「そうだ……君が助けてくれたんだよね?」
「ブィ…」
気付けば先ほど助けたポケモン──茶色くてふわふわの毛を身に纏ったポケモン……イーブイが私に身を寄せてきていた。
侑「さっきの技……もしかして、“とっておき”?」
「ブィ…」
侑「すごい……!! “とっておき”って、千歌さんのネッコアラもよく使ってた大技だよね!?」
「ブイ…?」
侑「あれ? でも、“とっておき”って、いくつか技を使ったあとじゃないと、出せないんじゃないっけ……」
「ブイ…」
侑「あ……! もしかして、ずっと“なきごえ”をあげてたから……!?」
「ブイィ…」
歩夢「──……侑ちゃん? 反省してる?」
急に怒気の籠もった声にビクっとする。
- 45 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:06:42.02 ID:QLy5TvuG0
-
侑「し、してるしてる!! ごめん!! でも、ホントに大した傷じゃなかったから、ね!?」
歩夢「はぁ……もう……」
「バニバニッ」
私たちの様子を見て、歩夢の頭にしがみついているヒバニーが笑っている。
侑「そういえば、さっきのヒバニーの技……」
歩夢「あ、うん……ヒバニーの足の裏と鼻の頭にある、この黄色い模様なんだけど……」
「ヒババニッ」
歩夢が説明しながら触れるとヒバニーはくすぐったそうに声をあげる。
歩夢「ここね、なんだかヒバニーが動くたびにちょっとずつ温かくなってる気がしたの」
侑「そうなの……?」
私もヒバニーの足の裏の黄色い模様に触れてみると、たしかに温かい。
歩夢「それで、ほのおタイプのポケモンだし……もしかしたら、ここから熱を放出して戦うんじゃないかと思って」
侑「そっか……! 走り回って上がった体温が、炎になってここから放出されるんだ……!」
歩夢「うん。そうなんじゃないかなって」
侑「すごいよ歩夢! よく気付いたね!」
歩夢「えへへ……なんとなく、そうなのかなって思っただけだったんだけど……当たっててよかったよ」
歩夢は言いながらはにかむ。
歩夢「それより、一旦研究所に戻ろう?」
侑「あ、うん。そうだね。ミミロルもゴルバットも捕まえたし……」
歩夢「侑ちゃんの怪我の治療もしなくちゃいけないし」
侑「え? それは別に……」
歩夢「ダメ! 怪我を甘く見ちゃいけないんだよ!」
侑「ぅ……はーい……」
「ブィ…」
歩夢は私の手を強引に引っ張りながら、研究所への道を戻っていくのだった。
💧 💧 💧
しずく「……はぁ」
「マネ…」
マネネと一緒に溜め息を漏らす。
しずく「メッソン……本当にどこに行ってしまったんでしょうか……」
「マネ…」
- 46 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:07:56.45 ID:QLy5TvuG0
-
メッソンはみずポケモンです。研究所から比較的近い8番道路側の池や、街中の噴水なども探しましたが……メッソンを見つけることは出来ませんでした。
マネネと二人、項垂れていると、
かすみ「しず子〜!」
しずく「あ……かすみさん」
8番道路側から、かすみさんが走ってくるのが見えた。
かすみ「見て見て! ニャース捕まえたよ!」
しずく「ほ、本当!?」
かすみさんはそう言いながら、ニャースが入っているであろうモンスターボールを私に見せてくれます。
かすみ「かすみんの大活躍、しず子にも見せてあげたかったよ〜」
しずく「ふふ、かすみさん、頑張ったね。ナデナデ♪」
かすみ「えっへん! かすみんこれで名誉返上ですよ!」
しずく「あはは……」
「マネネ…」
名誉は挽回して欲しいなぁ……。
侑「かすみちゃーん! しずくちゃーん!」
かすみさんに苦笑いしていると、今度は街の西側から侑先輩の声。
しずく「侑先輩! 歩夢さん!」
かすみ「って、侑先輩ボロボロじゃないですかぁ!?」
かすみさんの言うとおり、侑先輩はあちこち傷だらけで、服もボロボロです……。
侑「あはは……ちょっといろいろあって……」
歩夢「侑ちゃん、すぐに無茶するから……」
歩夢さんがぷくーっと頬を膨らませると、侑先輩は罰が悪そうに目を逸らす。何があったのかはわかりませんが……侑先輩が相当身体を張ったのだということはわかりますね。
それと、もう一つ気になることが……。
しずく「あの侑先輩」
侑「ん?」
しずく「その子は……」
私は侑先輩の足元に視線を注ぐ──侑先輩の足元に寄り添っている、小さなポケモンに。
「ブイ…」
侑「あ、えっと……なんか、付いてきちゃって……」
歩夢「ふふ、すっかりなつかれちゃったね」
かすみ「って、そのポケモンイーブイじゃないですか!? 可愛いぃ! 羨ましい!」
しずく「……文脈を読み取るに……侑先輩が捕まえたわけじゃないんですね?」
侑「うん。野生の子なんだけど……」
侑先輩の言葉を聞いて、かすみさんの目が光る。
- 47 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:10:03.22 ID:QLy5TvuG0
-
かすみ「だったら、かすみんが捕獲します!! バトルですよ!! イーブイ!!」
しずく「かすみさん、めっ!」
かすみさんの目の前で人差し指を立てながら、制止する。
かすみ「じ、邪魔しないでよ、しず子〜!」
しずく「ポケモンにも“おや”を選ぶ権利があります。イーブイ、貴方はどうしたいですか?」
「ブイ…」
私がイーブイに向かって訊ねると、
「ブイ」
侑「わわ!?」
イーブイはぴょんぴょんと跳ねながら、器用に侑先輩の身体をよじ登り、
「ブイ…」
侑先輩の肩の上で腰を下ろして、落ち着いた。
歩夢「イーブイ、侑ちゃんと一緒にいたいみたいだね♪」
侑「……イーブイ、私と一緒に冒険してくれる?」
「ブイ」
しずく「ふふ、きっとイーブイも『うん』って言ってますよ♪」
かすみ「むー……わかりました。侑先輩、かすみんの分もそのイーブイ、可愛がってあげてくださいね」
侑「うん! 任せて!」
「ブイ」
欲望に忠実なかすみさんも、今回はどうにか納得してくれた様子。
しずく「そうだ……侑先輩、歩夢さん、首尾はどうですか?」
歩夢「あ、うん! 私たちはミミロルとゴルバットを捕まえたよ!」
かすみ「ホントですか!? かすみんはニャースをばっちり捕まえちゃいましたからね!」
侑「ホントに!? それじゃ、メッソンも……!」
3人の期待がこちらに向く。ですが……。
しずく「すみません……メッソンはまだ……。ご期待に沿えず申し訳ないです……」
かすみ「そっか……じゃあ、あとはメッソンを探そう!」
侑「4人で手分けすればきっと見つかるよ!」
歩夢「その前に、侑ちゃんは怪我の手当てが先……!」
侑「わわ!?」
歩夢さんが侑先輩を引き摺りながら、
歩夢「手当てが終わったら、すぐ手伝いに戻るからね」
侑「ふ、二人ともまたあとで〜」
研究所の方へ行ってしまいました。
かすみ「……それじゃ、しず子! かすみんは東の9番道路の方探してみるね!」
しずく「わかった。お願いね、かすみさん!」
- 48 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:11:11.77 ID:QLy5TvuG0
-
──パタパタと走り去るかすみさんの背中を追いながら、思う。
しずく「……皆さん、ちゃんとポケモンを見つけたんですね。……何も出来ていないのは……私だけ……」
「マネ?」
しずく「うぅん、なんでもない。頑張って見つけよう、マネネ」
「マネ…」
💧 💧 💧
──その後、私たちはメッソンの捜索を続けましたが……。
かすみ「しず子〜!」
しずく「かすみさん……」
かすみ「一旦、研究所に戻ってこいって、ヨハ子博士が……」
しずく「……でも、まだメッソンが……」
かすみ「もう日が暮れちゃうからって……」
しずく「……」
確かに、気付けば日は傾き、空には茜が差し始めました。
しずく「……私はもう少しだけ」
かすみ「しず子……でも、夜になっちゃうよ」
しずく「……日が落ち切ったら、それこそ見つかるものも見つからなくなっちゃうよ。それに……」
かすみ「それに……?」
しずく「私だけ……まだ何も出来ていない。このまま、戻るわけには行かないよ……」
「マネ…」
マネネも心配しているのがわかる。だけど……私だけ何も出来ないままなわけにはいかない。
しずく「私だって……博士に選ばれたトレーナーなんだから……っ……」
かすみ「しず子」
かすみさんが私の肩を掴む。
かすみ「どうしちゃったの……? 今のしず子、なんか変だよ……」
しずく「……かすみさんも侑先輩も歩夢さんも、みんな自分の役割を全うしてるのに……私だけ……」
かすみ「でもでも、これは元はと言えばかすみんが悪いだけで……しず子のミスじゃないじゃん!」
しずく「…………」
かすみ「だから、しず子がそこまで気負う必要ないよ……確かに、メッソンを選ぶって決めてたしず子にとって、特別な思い入れがあるってことは、かすみんもわかってるけど……」
しずく「……そうじゃない」
かすみ「え?」
しずく「……これは、私のミスでもあるんだよ」
かすみ「……どういうこと……??」
かすみさんが困惑した表情になる。
- 49 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:12:50.64 ID:QLy5TvuG0
-
しずく「……あのとき、ゾロアが暴れ出したとき、私は……私は、自分の身を守るので精一杯だった。歩夢さんは……すぐにヒバニーとサスケさんを抱き寄せていた。侑先輩は歩夢さんを庇って……なのに、私は……メッソンの一番近くにいた私は、何もしなかった」
かすみ「……」
メッソンが臆病なポケモンだってことは、わかっていたのに。あの場で、メッソンを守ってあげることが出来たのは、私だけだったのに。パートナーになろうって、前から決めていたはずの子の一番近くにいたはずなのに、私は……。
しずく「……それなのに、まだメッソンの手がかり一つ見つけられてない。このままじゃ……胸を張って、メッソンのトレーナーになんか、なれないよ……」
かすみ「しず子……」
歩夢さんには、ポケモンを想い、有り余る愛情がある。
かすみさんには、自分のやりたいことを貫く原動力と、それを実現する行動力がある。
じゃあ、私には何がある? 今日この日に一緒に旅立つ二人と肩を並べるには、何がある? わからない。わからないから、せめて──
しずく「メッソンは……私が見つけなくちゃ……!」
パートナーのことくらい、私が見つけてあげなくちゃ……!
かすみ「……わかった。しず子は意外と強情だもんね」
しずく「ごめんね、かすみさん。だから、博士にはもう少し掛かるって──」
かすみ「一旦、研究所。戻るよ」
──グイっと強引に、腕を引かれる。
しずく「えっ!? い、今の話聞いてた!?」
かすみ「聞いてた」
しずく「なら……!!」
かすみ「しず子の持ち味は、そういうとこじゃないもん」
しずく「え……?」
かすみさんは何を……? 持ち味って……? 私は軽く呆けてしまう。
かすみ「そういう諦めないぞ〜!! みたいなのは、かすみんのキャラです!! しず子はこう……一歩引いて、冷静に考えて決めるタイプでしょ!!」
「マネマネ!!!!」
かすみ「ね、マネネもそう思うよね!」
「マネ!!」
しずく「……」
かすみ「だから、一旦研究所に戻って、頭冷やした方がいいよ」
しずく「……ごめん」
かすみ「いいよ。許す」
私はかすみさんに腕を引かれたまま、研究所へと戻っていく──
- 50 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:14:18.46 ID:QLy5TvuG0
-
💧 💧 💧
善子「日、完全に落ちちゃったわね……」
博士が窓の外を見ながら、肩を竦める。
歩夢「……メッソン、どこに行っちゃったんだろう……」
善子「臆病なポケモンだからね……。隠れるのも上手なのよ」
侑「うーん……街の噴水広場とか、研究所の近くの池にはいなかったんだよね?」
かすみ「はい……その辺りはすでにしず子が何度も探してくれたので……」
善子「……とりあえず、探すのはまた明るくなってからかしらね……」
しずく「そんな……!」
善子「大丈夫、外はドンカラスとムウマージに捜索させてるわ。あの子たちは暗闇の方が得意だから、きっと見つけてくれる」
しずく「……」
善子「みんな、疲れたでしょ? ロズレイティーでも淹れてあげるわ」
歩夢「あ、手伝います……!」
侑「私も……!」
博士と歩夢さん、侑先輩が部屋から出ていく。
しずく「…………」
「マネ…」
かすみ「しず子……」
しずく「はぁ……ダメだな、私」
かすみ「そ、そんなことないよ!」
しずく「かすみさんはそう言ってくれるけど……良い案なんて全然思い浮かばない」
「マネェ…」
かすみ「だ、大丈夫だよ! メッソン絶対見つかるよ!」
しずく「ふふ……そうだね」
かすみ「気休めとかじゃなくって!! 絶対見つけられる!! だって、かすみんもゾロアも、かくれんぼでしず子から逃げきれたことないもん!! しず子は隠れてる人とかポケモンとか見つける才能、絶対あるから大丈夫だって!!」
しずく「ふふ、ありがと。かすみさん。……でも、ゾロアはともかく、かすみさんはわかりやすいからなぁ」
かすみ「む……そんなことないもん」
かすみさん、かくれんぼだって言うのに、バレバレなところというか……ちょっとだけ裏をかいた感じの場所に隠れるし。
しずく「なんか、性格どおりの場所に隠れるなぁって……」
かすみさんだったらどう考えるだろうって思いながらやると、意外と簡単に見つけられちゃうんだよね。
しずく「……?」
……そこでふと思う。
──『こんにちは、メッソンさん。私は、しずくって言います♪』
『メソ…』
『あ、あれ……? 消えちゃいました……』──
メッソンは私と顔を合わせたときも、すぐに体を透明にして隠れてしまっていた。
- 51 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:18:38.79 ID:QLy5TvuG0
-
しずく「──……そんな臆病で、人見知りな性格のポケモンが……外に逃げるのかな……?」
かすみ「しず子?」
ましてや、今まで研究所の中でしか生活をしたことのないようなポケモンが、緊急事態が起きたからといって、外に逃げ出す……?
いや、最初は気が動転して、逃げ出すかもしれないけど……すぐに戻る気がする。
少なくとも……もし、自分が臆病で人見知りが激しい性格だったとしたら……絶対外になんか、逃げない。
むしろ──
しずく「……もし、私がそうなら……」
私は立ち上がる。
歩夢「ロズレイティー、淹れて来たよ〜」
侑「しずくちゃん?」
私は──博士が最初に並べていたボールが置かれた机の前に立つ。
善子「ああ、ボールはあの後一応、元の場所に戻したわ。かすみが持って行ったキモリのボールはないけどね」
かすみ「……ギクッ」
私が“もし、臆病なポケモンだったら”── 一番慣れ親しんだ、安全な場所に戻る。
しずく「──自分のモンスターボールの中に」
私が机の上のボールのボタンを押し込むと──ボムッ。
「メソ…」
しずく「やっと、見つけましたよ。メッソン」
メッソンがボールから飛び出してきた。
歩夢「メッソン、ボールの中に戻ってたの……!?」
侑「どうりで見つからなかったわけだ……!」
しずく「モンスターボールは中にポケモンが入っていても重さが変わるわけではありません。入っていないと思い込んでいたら、誰にも見つけることは出来ない。最高の隠れ場所なわけです」
「メソ…」
私はメッソンを抱き上げる。
しずく「ごめんなさい、メッソン……。もう、何があっても、離したりしませんからね」
「メソォ…」
ぎゅっと抱きしめると、メッソンは私の胸の中で、小さく鳴き声をあげた。
かすみ「しず子〜!!」
しずく「きゃっ!?」
急にかすみさんが、私の背中に抱きついてくる。
- 52 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:20:45.10 ID:QLy5TvuG0
-
しずく「か、かすみさん」
かすみ「しず子すごい!! すごいよー!! ホントに見つけちゃうなんて!!」
しずく「えへへ……かすみさんが信じてくれたお陰だよ、ありがとう♪」
「メソ…」
かすみ「……って、あれ? メッソン透明になっちゃいました……?」
しずく「あはは……まだ、かすみさんには慣れてないみたいだね。ボールに戻してあげなきゃ」
私は透明になったメッソンをボールに戻してあげる。
そして、改めてメッソンの入ったモンスタボールを握りしめる。
──確かに重さは変わらないけど、確実にメッソンの重さを感じる……そんな気がした。
善子「──しずく」
しずく「! ヨハネ博士……」
善子「大したものだわ。驚いた」
しずく「いえ……偶然です」
善子「いいえ、偶然なんかじゃないわ。メッソンのことを考えて、メッソンの気持ちに寄り添ったからこそ、貴方はその子を見つけることが出来た。貴方はメッソンのパートナーに相応しいわ」
しずく「……はい!」
善子「──歩夢」
歩夢「は、はい!」
善子「侑から聞いたわ。ヒバニーの能力を引き出して、戦ったそうね」
歩夢「い、いえ……なんとなく思いついただけで……」
「バニバニ」
善子「ふふ、その“なんとなく”がこれから貴方を幾度となく助けてくれると思うわ。ヒバニーと一緒に強くなりなさい」
歩夢「は、はい……!」
「バニ!!!」
善子「──そして、かすみ」
かすみ「! し、仕方ないですねぇ……。ヒバニーは歩夢先輩に、メッソンはしず子になついちゃってるし……かすみん、取り上げたりなんかしませんよ。それに、キモリも案外悪くないかも〜って思ってるところもなくはないですし?」
善子「ふふ、納得してくれたなら嬉しいわ」
そして最後に、ヨハネ博士は侑先輩に向き直る。
善子「侑、貴方もありがとう」
侑「い、いえ!!」
善子「本当は、まだポケモンを持っていないって話だったから、この研究所の中から1匹くらい、研究用の子を旅のお供にあげようかと思ったんだけど……もう、問題なさそうね」
「ブイ…」
侑「はい。このイーブイと一緒に旅に出ます」
善子「わかった。心に決めた子がいるなら何よりだわ」
なんだか、旅立ち初日から、本当に大変な一日でしたが……無事最初のポケモンたちも決まり、これにて一件落着ですね♪
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