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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」

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153 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:25:45.85 ID:U/9mkAOw0

かすみ「『原因が判明した。それは我々が当初から当たりを付けていたとおり、この海域に生息するゴーストポケモンの仕業だったのだ。』……ゴーストポケモン。……さっきのお化けの正体はポケモン……?」
 「ガゥ?」


さらにページを捲っていくと──急に字が殴り書きになっているページに辿り着く。


かすみ「『もうダメだ、この船は完全にゴーストポケモンたちに包囲されてしまった。奴らには実体がなく、攻撃を当てることもままならない。逃げる最中に、せっかく取り寄せた秘密兵器もなくしてしまった。奴らはもうすぐそこまで迫ってきている。もはや、ここまで』」


そこで、日記は終わっていた。


かすみ「…………」
 「ガゥ…?」

かすみ「いや、これ……かすみんも殺されちゃうパターンじゃないですかぁ……っ……!」


相手に実体がなくて攻撃できないって言うんなら、それこそどうしようもないです……。

逃げるしかないけど……結局逃げ道も塞がれちゃって……。

ただ、この日記には、一つ気になるところがあります。


かすみ「『せっかく取り寄せた秘密兵器』……これってもしかして、対ゴーストポケモン用の道具だったんじゃ……」


そうとなれば、やるべきことは決まりました。


かすみ「このまま、逃げることも倒すことも出来ないままやられるなんてまっぴらです! この秘密兵器とやらを見つけて、ゴーストポケモンたちをやっつけて、外に出ますよ!」
 「ガゥガゥッ!!!!」


かすみんは希望が見えて、元気が出て来ました。その秘密兵器とやらを探すために、この船員さんのお部屋を出ようとしたそのときでした。


 「────」「…………」「〜〜〜〜」

かすみん「ひぃ!?」 
 「ガゥガゥッ!!!!!!」


目の前に現れるお化けたち。


かすみ「ちょっと待ってぇ!? まだ、秘密兵器見つけてないよぉ!?」

 「────」「…………」「〜〜〜〜〜」


じりじりとかすみんの方に近付いてくる、お化けたち。


かすみ「こ、ここでかすみんの冒険、終わっちゃうの〜……!?」
 「ガゥガゥッ!!!!!」

 「────」「…………」「〜〜〜〜」


ゾロアが“ほえる”けど、お化けたちはひるまずにじり寄ってくる。


かすみ「い、いやです……!! こんなところで、終わるなんて……!!」
 「ガゥッ!!! ガゥッ!!!!」

 「────」「…………」「〜〜〜〜」

かすみ「た、助けて……誰か……」
 「ガゥゥゥ…!!!!」

 「────」「…………」「〜〜〜〜」

かすみ「助けて……」


最期にかすみんの脳裏に浮かんだのは、
154 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:26:36.04 ID:U/9mkAOw0

かすみ「しず子……!」


しず子だった。


 「──ココガラ!! “きりばらい”!!」
  「ピピピピィィィィ!!!!!!」

かすみ「!?」


急にお部屋の扉が勢いよく開いて、声と共に強風が吹き荒れる。


 「────!!!」「…………!!!」「〜〜〜〜!!!」


その風に飛ばされるようにして、お化けたちはかき消えてしまった。

声の主の方に目を向けると、そこには──


しずく「かすみさん!? 大丈夫!?」

かすみ「し、しず子ぉ〜〜……っ……!」


しず子が絶体絶命のかすみんを助けに来てくれたところでした。





    👑    👑    👑





かすみんたちは通路を走りながら、逃走中です。


かすみ「──しず子、どうしてかすみんがここにいるってわかったの!?」

しずく「ポケモン図鑑だよ!」


そう言いながら、しず子がこっちにポケモン図鑑を見せてくれる。

そこにはマップが表示されていて、15番水道の東の果て辺りがピコピコと光っています。


かすみ「なにこれ!?」

しずく「サーチ機能だよ! 私たちが貰った3つの図鑑はお互いに居場所をサーチできるようになってるみたいなの!」

かすみ「マジで!? そんな機能あったんだ……!」


初めて聞きましたが、お陰で助かりました……。

そんなやりとりをしている最中、


 「────」「…………」「〜〜〜〜」

かすみ「うわ!? もう、復活した!?」


背後で謎の唸り声をあげながら、再びかすみんたちを追いかけてくるお化けたちの姿。


しずく「かすみさん、あれってなんなの!?」

かすみ「えぇ!? しず子、わからないまま追い払ってたの!?」

しずく「ガス状だったから、風で飛ばせるかなって思って……」


さすが、しず子……やりますね。
155 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:27:51.60 ID:U/9mkAOw0

しずく「ただ、追い払うのがやっとで……攻撃してもダメージを与えられないし、気付いたらあちこちドアが開かなくなってるし……」

かすみ「って、あーーー!!! ここのドアも開かないーーー!!」


走りながら、ガチャガチャとドアを開けながら走る。


 「────」「…………」「〜〜〜〜」

しずく「ココガラ! “きりばらい”!!」
 「ピピピピィーーー!!!!!」


接近される度にしず子のココガラが吹き飛ばしてくれますが──


 「────」「…………」「〜〜〜〜」

かすみ「ど、どんどん復活速度が速くなってるぅ〜〜!? 早く秘密兵器を見つけないと!!」

しずく「秘密兵器!? そんなものがあるの!?」

かすみ「船員さんの日記に書いてあったの! どこかに落としちゃったって! って、うわっ!?」


急にかすみんの足が何かに引っ張られて、前につんのめって転ぶ。


かすみ「ぐぇ!」

しずく「かすみさん!?」

かすみ「あ、足に何かが……ってひぃぃぃぃ!!!」

 「────」


気付けば、お化けの1匹がかすみんの足元にガスをまとわりつかせているじゃないですか……!


かすみ「ちょっと、こっちの攻撃は当たらないのに、掴めるなんてずる過ぎますよぉ!!」

 「────」


転んだかすみんに、お化けがどんどんにじりよってくる。


しずく「“きりばらい”!!」
 「ピピピィィィィィーーー!!!!!!」


再び、ココガラが風で吹き飛ばします。


 「…………」「〜〜〜〜」


他のお化けは吹き飛ばされていったけど、


 「────」

かすみ「しず子〜〜!! 一番重要なのが、吹き飛ばせてないぃぃ〜〜!!」


かすみんの足を掴んでいるやつは飛んでいきません。


しずく「っく……! 正体さえ、わかれば……!」

 「────」

かすみ「ひぃぃぃぃ!!!」
156 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:29:51.80 ID:U/9mkAOw0

絶体絶命だったそのとき、上の方から、ガンッ! という大きな音と共に、上のダクトの中から、


 「キャモッ!!!」「ザグマ〜」

かすみ「キモリ!? ジグザグマ!?」


キモリとジグザグマが飛び降りてくる。

かすみんは咄嗟に、


かすみ「た、“タネマシンガン”!!」
 「キャモモモモモモッ!!!!!!」


攻撃の指示。やっぱり攻撃はすり抜けちゃいますが、一瞬お化けの動きが鈍る。


かすみ「無事だったんだね……! よかった……!」
 「キャモッ」「クマァ」

しずく「マネネ! “ねんりき”!!」
 「マネネェ!!!」

 「────」


気付けば、しず子がマネネを出して応戦している。


しずく「かすみさん、今のうちに!!」

かすみ「ありがと、しず子!!」


確かに実体はないけど、サイコパワーなら押し返すことは出来るみたいですね……!

かすみんはその隙に、どうにかまとわりついているガスから足を抜いて、脱出を図ります。

そうこうしている間にも、


 「〜〜〜〜」「…………」

かすみ「また出て来た……!」

しずく「“きりばらい”!!」
 「ピピピィィィィーーーー!!!!!」


出て来ては吹き飛ばすの繰り返しが続く。しず子が時間を稼いでくれてる間に、かすみんは秘密兵器を早く見つけなきゃ……!


 「クマァ〜〜」
かすみ「ごめんね、ジグザグマは今は構ってる場合じゃ……ん?」


ジグザグマをよーく見てみると──なにやら双眼鏡のような形をしたスコープを咥えているじゃありませんか。


かすみ「!? これ、見つけたの!?」
 「クマァ〜〜」


もしや、これが、秘密兵器!?


かすみ「お手柄だよ、ジグザグマ!! えっと、これどうやって使うんだろう……」

しずく「かすみさん……!! もう、これ以上もたない!!」

かすみ「ああもう!! とにかく使ってみるしかない!!」
157 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:32:05.42 ID:U/9mkAOw0

かすみんは思い切って、そのスコープでお化けを覗いてみる。すると──


かすみ「!」


スコープ越しに映るお化けは、さっきと違う姿をしていることに気付く。

そして、それと同時にスコープから──ウイーンという音がする。


しずく「それもしかして、“シルフスコープ”!?」

かすみ「? なにそれ?」


未知のアイテムから出ている音の発生源を見てみると──双眼鏡の真ん中辺りがパカッと広き、そこから……ピカッ!!


 「────!!!?」「…………!!!?」「〜〜〜〜!!!!?」


強烈な閃光が放たれ──


 「ゴ、ゴスゴス」「ゴーースゥ」「ゴスゥゴスゥ…」


その光を浴びたお化けたちは、気付けばポケモンの姿として捉えられるようになっていました。


しずく「! ガスじょうポケモン、ゴース!!」

かすみ「! 完全に姿が見えました! ゴースたちがお化けの正体だったんですね……!」


 『ゴース ガスじょうポケモン 高さ:1.3m 重さ:0.1kg
 古くなって 誰も 住まなくなった 建物に 発生するらしい。
 薄い ガスのような 体で 風が 吹くと 吹きとばされる。
 毒を含んだ ガスの 体に 包まれると 誰でも 気絶する。』


かすみ「正体さえ、わかっちゃえばこっちのもんです!! ゾロア!!」
 「ガゥッ!!!!」

しずく「マネネ!!」
 「マネッ!!!」

かすみ「“あくのはどう”!!」
しずく「“サイケこうせん”!!」
 「ガゥゥゥゥッ!!!!!」「マーーーネェェーーー!!!!」

 「ゴスゥーー!!!?」「ゴゴゴーーース!!!!」


“あくのはどう”と“サイケこうせん”が炸裂して、2匹のゴースが吹っ飛んでいく。


しずく「効果は抜群ですね!」
 「マネネ!!」


そして、最後の1匹のゴースは、


 「ゴ、ゴーーースッ」

かすみ「あ、逃げた!?」


勝てないと悟ったのか、ぴゅーっと逃げていく。


かすみ「逃がしませんよ!!」
 「ガゥッ!!!」

しずく「あ、ちょっと、かすみさん!?」


奇しくも、逃走を図るゴースはさっきかすみんの足にまとわりついていたやつです。


かすみ「絶対に逃がしませんよぉ〜〜〜!!!」
158 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:33:13.43 ID:U/9mkAOw0

怖い思いさせられた分は、しっかり倍返しにしてやりますからね!!!


 「ゴ、ゴーーース」


全力で追いかけていると、逃げるゴースの先に扉が見えてきた。

そして、ゴースはそのまま、その扉をすり抜けて部屋の中に入って行く。


かすみ「逃がしませんよぉ!!!」


──バンッ!! と勢いよく扉を押し開け中に入ると、大きな舵のあるお部屋に辿り着きました。どうやら、操舵室のようです。


かすみ「いない!! どこですか!?」


操舵室内全体を見回しますが……ゴースの姿は見えず、その代わりに──


かすみ「え……? なにこれ……?」

しずく「か、かすみさん……深追いしちゃ……ダメ、だよ……はぁ……はぁ……」

かすみ「…………」

しずく「かすみさん……? ……え」

かすみ「しず子……これ、なんだと思う?」

しずく「…………」


しず子も無言になる。優等生なしず子でも知らないものらしい。

私たちの目の前にあったのは──穴だ。

拳大くらいの小さな穴。でも、それは……床や壁に空いた穴ではない。


かすみ「空間にあいた……穴」

しずく「…………」


そう、そこにあったのは──空間にあいた穴でした。穴が浮いていました。


しずく「もしかしたら……」

かすみ「?」

しずく「ゴースたちは、この穴を通って、ここに来たのかも……?」

かすみ「……どういうこと?」

しずく「だって、ここは海の上だし……突然ゴースが現れるなんておかしいし……」

かすみ「それは、まあ……」


確かに……言われてみれば、ゴーストポケモンが船を襲っていたのはわかりましたが……どうして、ゴーストポケモンがここにいるのかはよくわかりませんね……?


しずく「もし、これがゴーストポケモンの巣みたいなものなんだとしたら……」

かすみ「……したら?」

しずく「……仲間を呼んで戻ってくるかも」

かすみ「!?」


そ、それはまずいです……!?
159 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:34:13.74 ID:U/9mkAOw0

かすみ「し、しず子!! 急いで船を出よう!!」

しずく「そうだね……これが本当にそういうものなのかはわからないけど……」

かすみ「もうゴーストポケモンは懲り懲りですぅ……!!」
 「ガゥガゥ」


かすみんたちは、これ以上ゴーストポケモンたちと戯れるつもりはありません! 大急ぎで船から退散するのでした。





    👑    👑    👑





かすみ「ドア、全部開くようになってたね」

しずく「……たぶんあれも、ゴースたちの仕業だったんだろうね」


二人で縄ばしごを使って船から降り、待ってくれていたマンタインと合流する。


かすみ「でも、ここからどうしよう……フソウ島ってどっち?」

しずく「フソウ島は、南方面だね」

かすみ「そ、それくらいわかるよ! 問題はどっちが南かって話で……。……って、しず子何見てるの?」

しずく「え? 何って、図鑑のコンパス機能だけど……」

かすみ「はい!? 図鑑にそんな機能あったの!?」

しずく「うん……。というか、方角がわからないと、かすみさんの図鑑をサーチしても、かすみさんのいる場所に辿り着けないし……」

かすみ「は……! い、言われてみれば……。え……それじゃあ、もしかしてその機能って……」

しずく「……かすみさんの図鑑にも搭載されてると思うよ」

かすみ「……」


かすみんはポチポチと図鑑を操作してみる。


かすみ「……あ、あった。…………」


かすみん、思わずマンタインの上でへたり込んでしまいます。


しずく「か、かすみさん!?」

かすみ「最初から気付いてれば……あんな怖い思いすることなかったのにぃ……」

しずく「あ、あはは……まあ、みんな無事に脱出出来てよかったって思うことにしよ? ね?」
 「マネマネ」

かすみ「うぅ……もう二度とこんな場所来ませんからねぇ……」


軽い憎しみを込めて顔を上げると──


かすみ「あ、あれ……?」


さっきまで、ずっと視界を遮っていた深い霧はいつの間にか晴れ、かすみんたちは月に照らされていました。

そして、


かすみ「船は……?」

しずく「あ、あれ……?」


あの大きな船は、きれいさっぱりいなくなっていました。
160 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:35:16.54 ID:U/9mkAOw0

しずく「……正真正銘の幽霊船だったって、ことかもね」

かすみ「……なんか、とんでもない目に遭いました……」


思わず溜め息を吐いてしまいます。


しずく「とりあえず、フソウ島まで急ごうか……もう、随分遅くなっちゃったし」

かすみ「朝までに着くのかなぁ……」


もうすっかり夜ですからね……。徹夜はお肌の敵なんですけど……。

そのとき──prrrrrrとポケギアが鳴り出す。画面に表示された相手を見ると……。


かすみ「……曜先輩!? もしもし!!」

曜『かすみちゃん!? よかった、繋がって……かすみちゃんもしずくちゃんも、遅いからずっと連絡入れてたのに、電波が届かないって言われて心配してたんだよ……?』

しずく「す、すみません! すぐ、フソウ島へ向かいますので!」

曜『二人とも怪我はない? 無事?』

かすみ「はい! 疲れましたけど、一応無事です!」

曜『そっかそっか。私、今14番水道にいるから、途中で合流しようね! ラプラス、GO!』
 『キュゥ〜』


電話を切ると──空に向かって、七色の綺麗な光の筋が一直線に夜空を切り裂いているのが見えた。


かすみ「わー……綺麗ー……」

しずく「恐らく、曜さんのラプラスの“オーロラビーム”ですね。あれを頼りに合流しようということだと思います」

かすみ「うん。それじゃ、マンタインお願い」
 「タイーン」


かすみんたちは、あのオーロラの根元を目指して、海の上を走り出すのでした。



161 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:35:45.86 ID:U/9mkAOw0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【忘れられた船】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥・ :● ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち キモリ♂ Lv.10 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.11 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.8 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:54匹 捕まえた数:4匹

 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.8 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.8 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ココガラ♀ Lv.8 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:64匹 捕まえた数:3匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



162 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 13:52:59.85 ID:Ya9HaHl50

■Chapter008 『学徒の街ダリアシティ』 【SIDE Yu】





──せつ菜ちゃんと別れてから、しばらくして……。

私たちは次なる目的地に到着していた。


侑「ダリアシティ、到着だね!」
 「ブイ」

歩夢「うん♪」


自転車をレンタルショップに返却して、私たちは街を歩いている真っ最中。

入ってすぐ、街の北側に位置する有名な建造物が見えてくる。


歩夢「見て、侑ちゃん! ダリアの大時計塔だよ!」

侑「すごい存在感……ボスでも潜んでそうだね」

歩夢「ふふ♪ 確かに、ゲームだったら魔王とか、伝説のポケモンがいそうだね♪」


大きな存在感を放っているのは、ダリアの大時計塔だ。テレビやガイドブックでもよく取り上げられるダリアシティの名所の一つ。

あの時計塔の中は、オトノキ地方でも最大の蔵書量を誇る図書館になっていて、いろんな地方から人が訪れるらしい。

そんなダリアシティはセキレイシティと雰囲気は違うものの、オトノキ地方の中では大きな街の一つで行き交う人が多く、活気に溢れている。

中でも目を引くのは──


侑「白衣を着てる人がたくさんいるね」
 「ブイ…」

リナ『この街は学園都市だからね。学生さんや学校に関わる人、研究機関に携わってる人がすごく多い』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「じゃあ、あの白衣の人たちも……」

リナ『うん。たぶん、研究機関の人だと思う。それ以外にも、オトノキ地方最大の図書館があったり、とにかく教養に特化した街みたい。通称「叡智の集う街」』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「『叡智の集う街』……! かっこいい!」
 「ブィィ」

リナ『一般開放されてて、見学が自由なところも多いから、行きたいところがあったら入ってみるといいかも』 || > ◡ < ||


リナちゃんの言うとおり、大通りを歩いているだけでも、一般開放されている研究室が目に入る。

面白そうなのがあったら、見てみるのもいいんだけど……。


歩夢「ふふ♪ 侑ちゃんは、研究室見学よりも、先に行きたい場所があるんだよね♪」

侑「あはは、やっぱ歩夢にはお見通しだね……。まずは、ダリアジムに行きたい!」

リナ『ダリアジムは街の南側だよ、マップを表示する』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん、お願い。イーブイ、頑張ろうね!」
 「ブイッ!!」


私たちはとりあえず、街を一直線に抜けて、ダリアジム方面を目指す。



163 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 13:54:57.69 ID:Ya9HaHl50

    🎹    🎹    🎹





一直線に大通りを抜けて、街の南側に出ると、程なくしてダリアジムの建物が見えてきた。

途中ポケモンセンターにも寄り道して、イーブイたちのコンディションも完璧。


歩夢「ダリアシティのジムリーダーって……」

侑「にこさんだね!」

歩夢「ポケモンリーグの決勝のときに、解説をしてた人だよね」

侑「そうそう! しかも、元四天王! にこさんがどんなバトルをするのか、考えただけでもときめいちゃうよ♪」

リナ『ときめいちゃうのもいいけど、気を引き締めてね。にこさんは公式戦での戦績もすごく良い。間違いなく強敵』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「リナちゃんって、そんなデータまであるんだ」

リナ『データだけならね。私には経験値が圧倒的に足りないから、侑さんのバトル、期待してる』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん! 頑張るね!」
 「ブイ」


──私はジムの前に立って、息を整える。

やっぱり、ポケモンジムに入るときは緊張する。……襟を正したくなるというか、なんとなくこれから神聖な場所に入るんだって気がするんだよね。


侑「……よし、行こう!」
 「ブイ!!」

侑「た、たのもー!」


ジムに入ると──


にこ「あら、チャレンジャーかしら?」


すぐに、にこさんに出迎えられる。よかった……! スムーズにジム戦が出来そうだ……!


侑「はい! 私、セキレイシティから来た、侑って言います! ジムバッジは1個持ってます!」

にこ「じゃあ、これが2つ目のジム戦ってわけね」

侑「はい! お願いします! 行くよ、イーブイ!!」
 「ブイブイ!!!」


バトルスペースについて、戦闘準備は万端!


にこ「気合いたっぷりじゃない! いいわ、かかってらっしゃい! ──……って、言いたいところなんだけどね」

侑「え?」


にこさんは何故か、自分のバトルスペースを離れてこっちに歩いてくる。


にこ「悪いけど、私は今ジムバトルは出来ないのよ」

侑「え……? あ、あの……もしかして、今は都合が悪かったとか……?」

にこ「いや、そういうことじゃなくてね」

侑「……?」

にこ「実はにこ──ダリアシティのジムリーダーじゃないのよ」

侑「…………?」


私はにこさんの言っている言葉の意味がわからず、首を傾げる。
164 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 13:59:11.29 ID:Ya9HaHl50

侑「えっと……にこさんってダリアシティのジムリーダーですよね? 私、オトノキ地方のジムリーダーは全員ちゃんと覚えてるから、間違いないはず……」

にこ「ちゃんと予習してきてるのね、感心感心! どこかの誰かさんは、ジムリーダーのことなんか、ほとんど知らずに旅してたのにね。……っと、これはこっちの話だけど」

リナ『どういうこと? ダリアシティのジムリーダーはにこさんで間違いない。ポケモンリーグの公式な情報にもそう記載されている』 || ? ᇫ ? ||

にこ「あら……あなた、もしかしてロトム図鑑? 最近の子は良いモノ持ってるのね……」

侑「え、えっと……あの、それで……にこさんがジムリーダーじゃないって言うのは……。リナちゃんの言うとおり、公式の情報にも載ってるなら、それこそどういうことか……」

にこ「ああ、えっとね。実はそれ、フェイク情報なのよ」

侑「え!?」

リナ『フェイク!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「フェイクって……公式にもある情報なのに……?」

にこ「もちろん、リーグの承認も得てるからね。リーグ公認のフェイクジムリーダーってわけ」

歩夢「あ、あのー……」


後ろで話を聞いていた歩夢がおずおずと手をあげる。


にこ「あら、この子の連れの子ね。なにかしら」

歩夢「ジムリーダーって、街のシンボルみたいな人だから、フェイクはまずいんじゃ……」

にこ「もちろん、それも一理あるわ。だから、私は基本的にはジムリーダーと同等の権限を持っているわ。緊急事態には率先して出張ることが多いわね」

歩夢「じゃあ、どうしてフェイクジムリーダーなんか……」

にこ「新しいジムリーダーから提案があったのよ」

侑「新しいジムリーダーからの……?」


なんで、新しいジムリーダーはそんなことを……?


にこ「ジムリーダーってどんな仕事だと思う?」

侑「え? えっと……ポケモンジムでトレーナーからの挑戦を受けて、腕試しをする場所……ですか?」

リナ『補足すると、その腕試しによって、トレーナーの育成を行う意図がある』 || ╹ᇫ╹ ||

にこ「そうね。段階的にトレーナーの実力を試すことによって、トレーナーの育成を行う。それが、ポケモンジムの役割よ。ただ、このシステムには少し不都合があってね……」

歩夢「不都合……ですか?」

にこ「例えば、にこのエキスパートタイプって知ってるかしら?」

侑「フェアリータイプです!」

にこ「そのとおり。にこのエキスパートはフェアリータイプよ。侑の言うとおり、少し予習すればジムリーダーの使うタイプや手持ちはわかっちゃうのよ」

リナ『挑戦をする以上、事前に調べて対策をするのは当たり前のことだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

にこ「それもそのとおり。でも、トレーナーっていつでもどこでも自分が知ってる相手や、起こることがわかっている問題に直面するわけじゃないでしょ? というか、そういう機会の方が稀よ」


それは確かにそうかも……。私たちもつい昨日、そういう場面に直面したばっかりだし。

結果として、せつ菜ちゃんが助けてくれたけど……。


にこ「トレーナーの育成を謳っているのに、本来トレーナーに必要なイレギュラーへの対応能力が全然育たないのは問題じゃないかって、新しいジムリーダーの子から、リーグに対して問題提起があったのよ」

リナ『なるほど。一理ある』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

にこ「トレーナーは常に自分の足で歩いて、目で見て、耳で聴き、頭を使って戦うべきだってね。だから、このジムではただバトルするだけじゃない。前情報が一切ない相手とどう戦うか、そして……」

侑「そして……?」

にこ「自分が戦うべき相手をどうやって見つけるかの知恵を試すポケモンジムとして、やっていくことになったってわけ」

侑「どうやって見つけるか……? ってことは……」

にこ「ええ、察しのとおり、ここにはそのジムリーダー本人はいないわ。あなたたちは、このダリアシティのどこかにいるジムリーダーを探し当てて、戦わないといけないってこと」

侑「え、ええーー!!」
165 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:00:29.76 ID:Ya9HaHl50

この広いダリアシティのどこかって……。


侑「ヒ、ヒントとかは……?」

にこ「そうねぇ……ジムリーダーは確実にダリアシティの中にいるわ。さすがにそれは守られてないとフェアじゃないからね」

侑「み、見た目とかは!?」


そこらへんで歩いている人の中にジムリーダーが紛れてたら、さすがにわからないよ……。


にこ「仮にもジムリーダーよ? 雰囲気でわかると思うわ」

リナ『意外に雑……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


まあ、確かにジムリーダーって貫禄のある人ばっかりだけど……。


にこ「あと、人に協力を頼むのはありよ。上手に人を頼るのも能力の一つだからね。それこそ、一緒にいるそこの貴方、えっと……」

歩夢「は、はい! 歩夢です……!」

にこ「歩夢に協力してもらっても、全然構わないってことね。それとこの課題への参加証明として、ポケギアの番号を教えて頂戴。何かあったときに連絡することもあるかもしれないから」

侑「あ、はい」


言われたとおりににこさんに、自分のポケギア番号を伝える。


にこ「ありがと」

リナ『ルールはそれだけ?』 || ╹ᇫ╹ ||

にこ「あとそうね……フェイクジムリーダーのことは、街の外に出たら口外禁止ってことだけ守ってくれればいいわ。こんなジムだから、街では事情を知ってる人も結構多いから、ダリアシティ内でまで口を噤んでおけとは言わないわ。他は何かある?」

侑「わ、わかりました! とにかく、街のどこかにいるジムリーダーを見つけて、バトルして勝てばいいんですよね!」

にこ「ええ、そうよ。それじゃ、健闘を祈るわ、侑」


……というわけで、ダリアのジム戦は予想外にも、人探しから始めることになりました。





    🎹    🎹    🎹





歩夢「侑ちゃん、どうする……?」

侑「……とりあえず、街の人に訊いてみよう!」
 「ブイ」

リナ『聞き込みは基本。ルール的にもOKって言われてた』 || ╹ ◡ ╹ ||


とりあえず、近くを歩いている白衣を着た通行人に声を掛ける。
166 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:03:05.69 ID:Ya9HaHl50

侑「あの、すみません!」

通行人「あら? なにかしら?」

侑「私、この街のジムリーダーを探してるんですけど!」

通行人「……? ジムリーダーなら、南のポケモンジムにいると思うけど?」

侑「えーっと……そうじゃなくて……本当のジムリーダーを探してまして……」

通行人「?? ジムリーダーに本当とか、本当じゃないとかがあるの?」

侑「あ、いや……えっと……」

通行人「もういい? 私そろそろ研究室に向かわないといけないんだけど……」

侑「あ、はい……すみません……ありがとうございます」
 「ブイイ…」


通行人は軽く会釈して、すたすたと歩き去ってしまう。


侑「全然ダメだ……」
 「ブイ…」

歩夢「ジムのこと知らないのかな……?」

リナ『街の誰もが知ってるわけじゃないのかも……性質上、公にしているわけじゃなさそうだし』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……そうだね。とにかく聞き込みを続けてみよう!」

歩夢「うん、わかった! 手伝うね!」





    🎹    🎹    🎹





──あの後も、聞き込みを続けていたんだけど……。


侑「……全然ダメだ……」
 「ブィィ…」

歩夢「知ってる人……全然いないね……」


あまりに手応えがない結果に、イーブイ共々項垂れる。

大抵の人は最初に訊ねた人のように、なんのことかわからないという感じだった。

中には、何かあることを知っていそうな人こそ、いたにはいたんだけど──「たまにそう訊ねてくる旅人さんがいるけど……そういうイベントがあるの?」くらいの反応が返ってくる程度だ。


侑「私たちと同じように、ジム挑戦者が街の人に訊ねてることはあるみたいだけど……」

リナ『訊ねる相手を間違ってるのかもしれない』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「訊ねる相手?」

リナ『この街はいろんな分野の学科や研究室がある。ポケモンジムについても、自分の勉強してることと関係ない人にとっては、そんなに関心がないのかも……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「なるほど……もっと、ポケモンジムに関心のある人たちに訊かないとダメってことだね……」


ポケモンジムに興味のある人って言うと……ポケモンバトルが好きな人とか?


侑「……そうだ、ポケモンバトルの研究室とかないかな?」

リナ『探せばあるはずだよ。ちょっと検索してみるね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「お願い、リナちゃん」

リナ『…………見つけた。こっちだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
167 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:05:38.15 ID:Ya9HaHl50

リナちゃんに案内される形で、私たちはポケモンバトルの研究室へと赴く。

──歩くこと数分。それなりに大きな研究室が見えてきた。


侑「わあ……思ったより大きい……」
 「ブィィ…」

歩夢「うん。私も研究室って、もっとちっちゃいイメージだったよ」

リナ『ポケモンバトルの研究室ともなれば、少なくともポケモンバトルが出来る大きさの施設が必要だから、必然的にこれくらいの大きさになるんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「なるほど……でも、ここなら知ってる人もいそうだね!」
 「ブイ」


私は早速、中に入ってみる。


侑「す、すみません!」

受付の人「あら? 見学の方ですか?」

侑「あ、えっと……見学というか、お訊ねしたいことがあって……」

受付の人「なんですか?」

侑「私、今ジムリーダーを探しているところでして……!」

受付の人「ダリアジムにはもう行かれましたか?」

侑「は、はい! にこさんには会ってきました!」

受付の人「ということはダリアジムのチャレンジャーの方ですね」

侑「!」


この反応、ジムチャレンジの内容がわかっているということだ。やっと事情を知っている人に会えた……!

ただ、私の期待とは裏腹に、


受付の人「ですが、残念ながらここにジムリーダーはいませんよ」


という答えが返ってくる。でも、せっかく知ってそうな人を見つけたんだ……もうちょっと、頑張らないと……!


侑「何かヒントとかありませんか?」

受付の人「というと?」

侑「どこにジムリーダーの人がいるかとか……」

受付の人「すみません、それは私たちも知らないんです」

侑「え……街の人はある程度、事情を知ってるんじゃ……」

受付の人「もちろん、ジムチャレンジの内容にジムリーダー探しがあるのは知っていますが……どこにいるかまでは……」

侑「そ、そんなぁ……。……せ、せめてどんな人かだけでも……」


せめて、容姿さえわかれば、と思って訊ねてみるけど、


受付の人「……すみません、見たことがある人もほぼいなくて……」

侑「嘘……!? この街にいるんですよね!?」

受付の人「そう聞いてはいますが……そもそも、容姿すら知っている人がほとんどいないので……」

侑「そうですか……」


せっかくここまで来たのに手がかりがあまり掴めないなんて……。
168 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:07:17.39 ID:Ya9HaHl50

受付の人「あの……もし、よかったら、ダリアジムを突破したことのある者をお呼びしましょうか?」

侑「え!? いいんですか!? 是非、お願いします!」

受付の人「わかりました、少々お待ちください」


受付の人は、ポケギアを取り出して、連絡を取り始める。


歩夢「よかったね、侑ちゃん」

リナ『とりあえず、一歩前進』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん!」

受付の人「……連絡が取れました、今こちらに来てくれるそうなので、少々お待ちくださいね」

侑「はい! ありがとうございます!」


やった……! これで、ジムリーダーのもとへとたどり着ける……!





    🎹    🎹    🎹





待つこと数分。研究室の奥の方から、エリートトレーナーらしき女性がこちらに向かってきた。


受付の人「こちらの方です」

トレーナー「君がジムへの挑戦者かい?」

侑「は、はい!」

トレーナー「何が訊きたいのかな?」

侑「あの、ジムリーダーの居場所を教えて欲しいんですけど……!」


私がストレートに訊ねる。


トレーナー「ははは! 君は素直だね! でも、さすがに答えそのものは教えてあげられないよ。それじゃ、ジムチャレンジの意味がないからね」

侑「ぅ……そうですよね……」


流石に直接的すぎた……。じゃあ、他に聞いておきたいことと言えば……。


侑「ジムリーダーの見た目とか……」

トレーナー「申し訳ないが、ジムに挑戦した際に、ジムリーダーの容姿等は他言しないという約束をしているんだ。だから、それは教えられない」

侑「そ、そんなぁ……」

リナ『やっぱり、その辺りはしっかり対策されてる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「うぅ……そうみたいだね……」


これじゃ、せっかく知っている人がいるところまでたどり着いたのに、大した成果も得られなさそう……私はがっくりと項垂れてしまう。

あまりに私ががっかりしているのが、不憫だったのか、


トレーナー「そうだな……じゃあ、一つヒントをあげよう」


トレーナーのお姉さんが自らヒントを教えてくれる。
169 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:09:42.20 ID:Ya9HaHl50

侑「お、お願いします!」

トレーナー「ジムリーダーの容姿は言えないけど……この街のジムリーダーはね」

侑「は、はい……!」

トレーナー「きっと君でも、会ったらすぐにジムリーダーだってわかるよ」

侑「…………」
 「ブイ…」

トレーナー「ははは、不満そうな顔だね」


そりゃ、まあ……あんまりヒントになってないし……。


歩夢「やっぱり、にこさんが言っていたみたいに、雰囲気でわかるってことですか……?」

トレーナー「詳しくは教えられないけど、そういう感じだよ」

侑「むむむ……」

トレーナー「とにかく、もう少し頑張って考えてみるといい。それじゃ、私はそろそろ戻らせてもらうよ。ジムチャレンジ、頑張ってくれ」

侑「は、はい……ありがとうございます」





    🎹    🎹    🎹





侑「結局ほとんど何もわからなかった……」

歩夢「人に聞いてもいいけど、自分たちで考えないと答えには辿り着かないってことなのかな……」

リナ『少ない情報の中から、いかに辿り着くかが課題なんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「って言っても、情報が少なすぎるよ……」
 「ブィィ…」

歩夢「とりあえず……今ある情報だけでも整理してみない?」

侑「……うん、そうだね」


私は歩夢の言葉に頷く。もしかしたら、手掛かりがあったかもしれないし。


侑「当たり前だけど、居場所はわからなくて……」

リナ『容姿は不明』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「街の人も見たことがある人はほとんどいなくて……」

侑「会えばわかる……らしい」
 「…ブイ」

侑「やっぱ、何もわからないじゃん!?」

歩夢「あはは……」

リナ『逆に言うなら、わからないことはわかったかも』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……? どういうこと?」

リナ『これだけ人の多い街なのに、目撃情報すらほとんどないのは逆に違和感』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「……えっと?」


私は首を傾げてしまったけど、歩夢はリナちゃんの言葉で、少しだけピンと来たらしい。
170 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:15:03.45 ID:Ya9HaHl50

歩夢「……もしかして、ジムリーダーは常に人目に付かない場所にいるってこと……?」

リナ『確定ではないけど、十分そう推測出来るとは思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「確かに……」


今も周りにはたくさんの人の往来がある。ジムリーダーはどうやら、会えば雰囲気でわかるらしいし……そんな存在感の人がいたら、みんな気付くはずだよね……?


侑「となると……裏路地とか?」
 「ブイ」

歩夢「確かに裏路地なら、人目には付かないかも……」

侑「よし、行ってみよう!」

歩夢「うん!」





    🎹    🎹    🎹





──さて、あれから1時間ほど経過して……。


侑「見つからない……」
 「ブイ…」

歩夢「そうだね……」


さっきから、虱潰しで裏路地に入って確認しては出ることの繰り返し。

今も裏路地を進んでいる真っ最中だけど──


侑「行き止まり……」
 「ブイ…」


ただの行き止まりに辿り着いてしまうことが多い。

もちろん、たまに研究室に行き着いたりはするものの……一般開放されていない研究室だったりで、ジムリーダーの姿は影も形もない。

今入って来たここも、薄暗い裏路地があるだけで、何も収穫はなさそうだ。


侑「はぁ……戻ろうか」
 「ブイ…」

 「シャボ…」
歩夢「サスケ? どうかしたの?」


先ほどまで歩夢の肩で寝ていたサスケが、急に声をあげる。


 「シャーボ」
歩夢「? 何かいるの?」

侑「え?」


言われて、よーく裏路地を観察してみると──


侑「あれ……?」


薄暗い裏路地の隅に小さい何かがいることに気付く。
171 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:17:05.57 ID:Ya9HaHl50

 「……ニャァ」

侑「ポケモン……?」

歩夢「あれ、この子……?」

リナ『ニャスパーだね』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「ニャスパーって街にもいるんだね」

侑「……にも?」

歩夢「この間、7番道路でも見かけたんだよ。そのニャスパーには警戒されちゃって、友達になれなかったんだけど……」

リナ『……いや、このニャスパー。あのときのニャスパーだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「え? あのときのニャスパーって……」

リナ『7番道路で出会ったニャスパーと全く同じ個体』 || ╹ᇫ╹ ||

 「ニャァ」

侑「そんなことわかるの?」

リナ『性別や大きさ、鳴き声の波形、虹彩パターン、どれを見ても一致する。ほぼ間違いないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃん、そんな機能まであるんだ……。


歩夢「もしかして、ここまで付いてきちゃったのかな……?」

リナ『単純に7番道路から、ここまでが生息域なだけの可能性もある』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

 「ニャァ」

侑「というか……」

 「ニャァ」

歩夢「うん……。ずっと、こっち見てるね」


さっきからずっと、無表情な二つの目が私たちをずっと凝視している。


 「ニャァ」

侑「やっぱり、付いてきたのかな……? ニャスパー、そうなの?」

 「ニャァ」


名前を呼んでも、一切トーンの変わらない無機質な鳴き声が返ってくる。


歩夢「私たちに何かあるの?」

 「ニャァ」

歩夢「お腹空いてるのかな……」


歩夢はバッグの中から、“きのみ”を取り出す。


歩夢「ニャスパー、“オレンのみ”だよ〜?」

 「ニャァ」

歩夢「……」

 「ニャァ」

侑「……食べに来ないね」

歩夢「お腹が空いてるんじゃないのかな……」


ニャスパーは依然、その場にとどまったまま、こっちをじーっと見ているだけ……。
172 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:18:20.00 ID:Ya9HaHl50

 「ニャァ」

リナ『……ちょっと気になるけど、ここでにらめっこしてても仕方ない。早く、次の裏路地を探した方がいい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


リナちゃんが真っ先に痺れを切らしたのか、ふよふよと元来た道を戻って行く。

すると──


 「ニャァ」


ニャスパーは急に空を見つめて鳴いたあと──ふわっと浮遊した。


侑「うわ、飛んだ……!?」

歩夢「サイコパワーで飛んでるのかな……?」

 「ニャァ」


そして、また一鳴きしたあと──すぅーーっと飛び上がり、裏路地から飛んでどこかへ行ってしまったのだった。


侑「結局なんだったんだろう……?」

歩夢「わかんない……」


まあ、いっか……。ちょっとマイペースなポケモンだっただけだよね。

リナちゃんの言うとおり、私たちは今、裏路地の捜索中なんだし……そう思って、踵を返して戻ろうとしたそのときだった。

──ポツ。と私の頭に水滴が落ちてくる。


侑「……つめた!」
 「…ブイ」


それは、次第に勢いを強めて降り出し始める。


侑「雨……」

歩夢「大変……! 今、傘出すね……!」

侑「いや、こんな狭い路地じゃ、傘が引っかかっちゃうよ! 一旦大通りに戻ろう!」

歩夢「……あ、うん!」


私は歩夢の手を引いて、走り出した。





    🎹    🎹    🎹





侑「──これは、本降りになりそうだね……」


窓の外に流れる水滴を眺めながら、ぼんやりと言う。


歩夢「これだと、これ以上裏路地を探すのは大変だね……はい、エネココアだよ」

侑「歩夢、ありがと」


歩夢が、カウンターから持ってきたエネココアを私の前に置いてくれる。
173 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:20:15.37 ID:Ya9HaHl50

歩夢「イーブイには“ポロック”あげるね。イーブイの好きな“ももいろポロック”だよ♪」
 「ブイ♪」

 「シャー」
歩夢「サスケにもあげるから、ちょっと待っててね」


歩夢がイーブイとサスケにおやつをあげているのを見ながら、エネココアのカップを傾ける。

甘く温かい液体が喉を滑り落ちていく。……ああ、落ち着く。


侑「……そういえばさ」

歩夢「?」

侑「私、さっき裏路地で傘を差そうとしてた歩夢を見て思ったんだけどさ」

歩夢「うん」

侑「あんな狭い場所で、ポケモンバトル……出来るのかな?」

リナ『……言われてみれば』 || ╹ᇫ╹ ||


裏路地には、積んである木箱やゴミ箱とかも置いてあったし……バトルが激しくなったら、何かの拍子に周りの物を壊してしまいそうだ。


侑「……もしかして、この課題の解き方って、そういうことなんじゃないかな」

歩夢「……そういうことって?」


──私たちは、自分たちが探してる相手は、顔も、名前も、どこにいるかも、何もわからないって思い込んでたけど……この課題には最初からわかっている重要なことがあるじゃないか。


侑「私たちが探してるのは──最初からジムリーダーなんだ」

歩夢「……?」

侑「ジムリーダーってことは、会ったらバトルが出来る場所にいないといけない……」

歩夢「……あ」

侑「そうなると、狭い場所じゃない……」


となると、裏路地のような狭い場所はそもそも探す候補から外れることになる。


侑「……それに、ジムリーダーは挑戦者を待ち続ける必要があるんだよね……」

リナ『ルール上、基本的にはそうだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「じゃあ、天気とかに左右される屋外も候補から外れる」

歩夢「確かに……それじゃあ、人目に付かないバトルが出来るくらい広い屋内ってことになるのかな……」

リナ『確かにそれなら、随分条件は限定されるかも』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「問題はそれがどこかだよね……」

リナ『さすがに一般開放されてる施設なのは間違いないと思う。そうなると、街中のバトル研究室系か、ポケモン生態研究所とか……』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「今度はそういう施設に絞って探してみればいいのかな?」

侑「……でも、そういう施設にいるとしても、どうやって探せばいいんだろう……」

歩夢「? どういうこと?」

侑「だって、事情を知ってる人でも、直接的に居場所や容姿を教えるのはダメなんでしょ?」

歩夢「あ、そっか……。もし、訪れた施設にいたとしても、本人を直接捕まえられないと結局ダメなんだ……」

侑「うん……」
174 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:22:59.92 ID:Ya9HaHl50

それにもう一つ、ずっと気になっていることがある。

──『仮にもジムリーダーよ? 雰囲気でわかると思うわ』

──『きっと君でも、会ったらすぐにジムリーダーだってわかるよ』

抽象的な表現なのに、ずいぶん断定的に“会えばわかる”と言っていたのが不思議でならない。


侑「雰囲気なんて言われても……ホントにわかるのかな」


私は机に突っ伏して頭を抱える。ジムリーダーだから、本当にすごいオーラみたいのを放っていて、一目でわかっちゃうのかもしれないけど……。

いや……。


侑「──少なくとも、小さい頃ことりさんのことはジムリーダーだって、わからなかった」


近所の優しいお姉さんくらいの認識だった。ポケモンバトルが好きになって、初めてすごいトレーナーだって認識して、すごく憧れを抱いたことを今でも覚えている。

もしかして……雰囲気っていうのは何かの例えなのかな……?


侑「うぅ〜……わからないぃ……」

リナ『どっちにしろ、雨が止むまでは一旦お休みでもいいと思う。候補を虱潰しで当たるにしても、雨の中歩き回るのは非効率だし』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「それはそれで、落ち着かないよぉ……雨、早く止まないかな……」

歩夢「あはは……侑ちゃん、一度これをやる! って決めたら、止まるの苦手だもんね」

侑「そうかも……。歩夢は平気なの……?」

歩夢「うーん……そわそわしちゃうのはわかるかな。でも、その時々で楽しみ方を考えちゃうかも」

リナ『その時々で楽しみ方を考える? どういうこと?』 || ? _ ? ||

歩夢「例えば今だったら……雨がたくさん降ってて憂鬱だけど、こうして喫茶店で雨の音を聴きながらのんびりするのも、風流で楽しいかもって思ったり」

侑「……あ、それはわかるかも。なんか、喫茶店ってだけで、雨音もオシャレな音楽に聞こえてくるよね」

歩夢「そうそう♪」

リナ『なるほど……面白い考え方。勉強になる』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「喫茶店の雰囲気がそうさせてくれるだけなのかもしれないけど……それでも、そういう風に考えたらちょっぴり雨の日も楽しい時間になるかなって」

侑「喫茶店の雰囲気……。……雰囲気……?」


──『雰囲気でわかると思うわ』。


侑「雰囲気で……わかる……?」

歩夢「侑ちゃん?」

侑「……そうか、雰囲気って、その人が持ってるものだけじゃない……その空間や、そのときの時間、うぅんそれだけじゃない……いろんなもので変わるんだ」

リナ『侑さん?』 || ? ᇫ ? ||


ポケモンジムに入る前は、襟を正さなくちゃいけない気持ちになる。そんな硬い“雰囲気”がポケモンジムにはある。

そうなると、どこだろう。会えば絶対にジムリーダーだと思えるような、ポケモンジムみたいな、そんな“雰囲気の空間”は、建物は……。

ふと顔を上げると──窓の外、雨に煙る街の中に、一際大きな建造物が見えた。


侑「……ダリアの大時計塔……」


大きな大きな存在感を放つ。いかにもボスが待ち構えていそうな、荘厳な建物が。

──ガタ! 私は、思わず椅子をはねのける様にして立ち上がった。
175 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:24:17.38 ID:Ya9HaHl50

歩夢「ゆ、侑ちゃん……?」

侑「……あそこだ」

リナ『侑さん??? さっきから、様子がおかしい』 || ? ᇫ ? ||

侑「……行くよ、イーブイ!」
 「ブイ」


イーブイが机の上からぴょんと、私の肩に飛び乗ってくる。


歩夢「え、ち、ちょっと待って侑ちゃん!?」

リナ『あわわ、急に侑さんが走り出した!? 待って!?』 || ? ᆷ ! ||


私は、確かに感じた勘に──その“雰囲気”に従って、走り出していた。





    🎹    🎹    🎹





私は先ほど思ったことを二人に説明しながら、ダリア図書館を目指す。


リナ『なるほど……確かに筋は通ってる』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「だから、にこさんは“雰囲気でわかる”なんて、曖昧な言葉を使ってたんだね……!」

侑「まだ、私の勘でしかないけどね」
 「ブイ」

歩夢「でも、説得力はあると思う!」

侑「……うん!」


──二人への説明もそこそこに、私たちは辿り着いたダリア図書館に入館する。


侑「とりあえず、上の階に行こう」

歩夢「うん」


上の階に行く途中、館内のあちこちにエテボースやエイパムが本棚の整理や、荷物を運んで行き来しているのが目に入ってくる。

そして、館内のいたるところにいるミネズミやミルホッグは、監視の役割を担っているのかもしれない。

仕事中の彼らの邪魔にならないように、上の階、上の階へと階段を急ぎ、辿り着いた最上階には──


侑「………………」
 「ブィ…?」


普通の図書館が広がっていた。


歩夢「あ、あれ……?」

侑「違った……?」
 「ブイ…」


まさか、ここまで来て間違いなのかな……?

逆にここがそうじゃないなら、他にどこが……。
176 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:27:09.01 ID:Ya9HaHl50

リナ『待って』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「リナちゃん?」

リナ『この階はまだ最上階じゃないと思う。外観の高さから考えて、まだ上に1〜2階分は入るスペースがある』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「え、それじゃあ……!」

リナ『恐らく、さらに上に行く方法があると思う』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

歩夢「侑ちゃん……!」

侑「歩夢! 探そう……!」

歩夢「うん!」


歩夢とリナちゃんと私とで、本がぎっしり詰まったこの階の探索を始める。

よく周りを確認してみると、この階にはここで働いている人間のスタッフや、エイパムたちの姿がほとんどない。

人気がすごく少ない階というのが、私の勘を後押ししてくれているようだった。

私はオトノキの史書コーナーの本を端から順番に見ながら奥に進んでいくと、


 「ブイ」


イーブイが何かに気付く。イーブイの視線を追うと──1冊だけ、なんだか背表紙の色が浮いている本が目に入る。


侑「『叡智の試しの至る場所』……」


そこにあったのは、白地の背表紙にそんなタイトルの書かれた1冊のハードカバー。

その本を手に取り、開くと──ほぼ白紙のページしかない本だった。

パラパラとページを捲って、捲って……最後のページに、


侑「『叡智の最後の行き先は奥に押し込んだ先に開かれる』」


そう書かれていた。


侑「奥……」


奥ってなんだろうと、一瞬思ったけど……。


侑「……もしかして、本棚の奥?」


今しがた、この本を抜いたことによって、本棚に出来た穴を覗いてみると──


侑「……! あった……!」


奥に四角いボタンのようなものがあるのが見えた。

つまり、


侑「この本を……押し込む……!」


手に取った本を棚に戻し──そのまま、奥にボタンごと押し込む。

──ガコン!


歩夢「……侑ちゃん! 今の音……!?」

リナ『何か見つかった!?』 || ? ᆷ ! ||


音を聞きつけて、歩夢とリナちゃんが私のもとに駆け寄ってくる。
177 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:28:38.62 ID:Ya9HaHl50

侑「見つけたよ、『叡智の最後の行き先』……──」

歩夢「……やったね! 侑ちゃん!」

リナ『侑さん、すごい!』 ||,,> 𝅎 <,,||


私は、ゆっくりと目の前に降りてくる折り畳み式の階段を一歩ずつのぼり始める……。





    🎹    🎹    🎹





──ゆっくりと階段をのぼり、辿り着いたそこは、天井の高い部屋だった。

壁面には下の階同様、これでもかと本が本棚に詰め込まれているが……中央には何も置かれておらず、モンスターボールを象ったような線が引かれている。

これはまさに──ポケモンバトルのフィールドだ。

そして、そのフィールドを挟んだ部屋の奥に、


 「──ようこそ、叡智に辿り着きし挑戦者さん」


小柄な女性が、本を片手に、椅子に腰かけていた。


侑「あなたが……ダリアシティのジムリーダーですね」

花丸「うん、マルの名前は花丸。あなたの言うとおり、このダリアシティのジムリーダーを務めさせてもらっているずら」


花丸さんは、本をパタンと閉じ、ゆっくりと椅子から立ち上がると、優しく笑う。


花丸「よくここまで辿り着いたね。……あなたの名前を聞かせてもらってもいいかな?」

侑「……侑です。セキレイシティから来ました」

花丸「セキレイシティの侑ちゃん。あなたのその知恵を認め、ダリアジムのジムリーダーとして、ジム戦への挑戦権を与えます。もちろん、バトル……するよね?」

侑「……はい!!」


私はボールを構える。


花丸「使用ポケモンは2体だよ。それじゃ、始めよっか。ダリアジム・ジムリーダー『叡智の塔の歩く大図書館』 花丸。あなたの知恵で辿り着いたその先を、マルに見せて欲しいずら!」


花丸さんの手からボールが放たれた。ジム戦──開始……!!



178 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:29:11.57 ID:Ya9HaHl50

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ダリアシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  ●     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.15 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.13 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:27匹 捕まえた数:2匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.10 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.11 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:56匹 捕まえた数:10匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



179 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/11/06(日) 03:02:11.86 ID:exh30Ujo0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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180 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:28:32.32 ID:waqA86PW0

■Chapter009 『決戦! ダリアジム!』 【SIDE Yu】





花丸「ウールー、行くずら」
 「メェェーー」

侑「出てきて! ワシボン!」
 「ワシャ、ワシャッ!!!!」


こちらの1番手はワシボン。対する花丸さんは、ウールーを繰り出してくる。


リナ『ウールー ひつじポケモン 高さ:0.6m 重さ:6.0kg
   パーマの かかった 体毛は 高い クッション性が ある
   崖から 落ちても へっちゃら。 ただし 毛が 伸びすぎると
   動けなくなる。 体毛で 織られた 布は 驚くほど 丈夫。』

侑「先手必勝! ワシボン! “ダブルウイング”!!」
 「ワッシャァッ!!!!」


ワシボンが飛翔し、ウールーに飛び掛かる。

開幕、肉薄しての翼による二連撃……!!


 「メェー」


素早いワシボンの動きに対応出来ないのか、無抵抗なウールーに──バスッ、バスッ!! と音を立てながら、攻撃を直撃させる。


侑「よし! 決まっ……た……?」

 「メェー」


しかし、攻撃が直撃したはずのウールーは涼しい顔をしている。


侑「な……!? 効いてない!?」

 「ワシャッ!!?」

花丸「ウールー、“ずつき”」
 「メェーーー」

 「ワシャボッ!!!?」


攻撃を耐え、そのままお返しと言わんばかりに“ずつき”をかましてくる。


侑「ワシボン!?」
 「ワ、ワシャァッ」


さすがに、一発でやられるほどヤワじゃない。ワシボンは仰け反りながらも羽ばたいて、体勢を立て直す。


リナ『侑さん! ウールーの特性は“もふもふ”! 直接攻撃は半減されちゃうよ!』 || >ᆷ< ||

侑「! な、なるほど……」


あの体毛のせいで攻撃が通りにくいんだ……! なら……。


侑「ワシボン、“つめとぎ”!!」
 「ワシャシャシャッ!!!!」


フィールドに降りて、床に爪を立てながら研ぎ始める。

そして、そのまま──地面を力強く蹴って、飛び出す。
181 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:29:25.75 ID:waqA86PW0

侑「翼でダメなら、今度は爪で……!!」

 「ワッシャボッ!!!!」

侑「“ブレイククロー”!!」

 「ワッシャッ!!!!」


研ぎ澄まされた鋭い足爪でウールーに切りかかる。


 「メ、メェェェーー!!?」

侑「! よし! 効いてる!!」


ウールーは“ブレイククロー”に引き裂かれて、羊毛をまき散らしながら、フィールド上をテンテンと転がっていく。


花丸「ん……“ブレイククロー”で防御力が下がっちゃったね」
 「メェーー…」

侑「たたみ掛けるよ!! 同じ場所を狙って!!」

 「ワッシャッ!!!!」


ワシボンが間髪入れずに飛び掛かる。先ほどと同じように“ブレイククロー”を振り下ろす。今度はさっき引き裂いた毛の部分……致命傷は避けられないはず……!!

──と、思ったのに、

──ボフッ。


 「ワシャッ!!!?」

侑「なっ!!?」


ワシボンの攻撃は受け止められてしまった。気付いたら、先ほど刈り取ったはずの羊毛が元に戻っている。


花丸「“ずつき”!」
 「メェェェーーー!!!!」

 「ワッシャボッ!!!!?」


再び炸裂する“ずつき”を食らって、ワシボンが吹き飛ばされ、地面を転がる。


侑「ワ、ワシボン! 頑張って!」
 「ワ、ワシャ……!!」


ワシボンはどうにか起き上がるものの……。


侑「な、なんかさっきより強くなってない……!?」


さっき“ずつき”を受けたときは、もう少し余裕があると思ったのに……!?


リナ『ゆ、侑さん! 大変!』 || ? ᆷ ! ||

侑「え、何!?」

リナ『ワシボンの防御力が下がってる!』 || ? ᆷ ! ||

侑「え!?」


ウールーが防御力を下げてくるような技使ってた……!?


リナ『それだけじゃない! ウールーの防御力、元に戻ってる……』 || > _ <𝅝||

侑「な……」


さっき、確かに“ブレイククロー”で防御力を下げたはずなのに……なんで……!?
182 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:30:17.74 ID:waqA86PW0

花丸「勝負を急ぎ過ぎだよ。侑ちゃん」

侑「……!」

花丸「下げられた防御力は、ワシボンにお返ししたよ」

侑「お、お返し……? お返しってどういう……?」

リナ『! まさか、“ガードスワップ”!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「“ガードスワップ”……?」

リナ『防御力の上昇下降をまるまる相手と入れ替える技……』 || > _ <𝅝||

侑「……!」


だから、ワシボンの防御力が下がって、ウールーの防御力が元に戻ってたんだ……!


侑「どうしよう……こっちが攻めてるはずなのに……」
 「ワ、ワシャ…」

 「メェー」

侑「こっちが押されてる……」


こっちから攻撃を仕掛けても、受け止められて、返されてしまう。

どうする……? 思考に入って、私が動きを止めると──


花丸「来ないの? それなら、こっちから行くずら。“こうそくいどう”!」
 「メェーーー」


今度はウールーの方が地を蹴って飛び出す。


侑「っ……! 空に離脱!」
 「ワ、ワシャ」


とりあえず、時間を稼ごうと空に逃げる。……が、


花丸「ウールーの毛は防御以外にも使い道があるずら」


ウールーの方から、パチパチ、パチパチと何かが弾けるような音が聞こえてくる。


侑「な、何の音……!?」


あれ、でもどこかで聞いたことあるような……。パチパチパチパチ……あ……!?


侑「まさか……静電気……!?」

花丸「気付くのが遅いよ! “エレキボール”!!」
 「メェーーー!!!」


体毛に蓄えた電気を球状にして、上空のワシボン向かって撃ち放ってくる。


 「ワ、ワシャッ!!?」


突然の攻撃に回避もままならず、“エレキボール”がワシボンに直撃して、周囲に電撃の火花が走る。

 「ワ、ワシャーーーー!!!!?」
侑「ワシボン!!」


ワシボンはそのまま、揚力を失って真っ逆さまに落っこちてくる。

──が、


 「ワ、ッシャァッ!!!!」
183 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:31:10.68 ID:waqA86PW0

地面に墜落する直前で、バサッと翼を羽ばたかせて、再び空に飛び立つ。


侑「ワシボン……! よかった……」

花丸「気合いは十分あるみたいだね。でも、気合いだけじゃ次は耐えられないよ」

侑「……っ」


花丸さんの言うとおり、次は恐らく耐えられない。


 「メェーー」


考えている間にも、ウールーは再び──パチパチパチと音を立てながら、静電気を蓄え始める。

もう時間がない……!

──そのときだった。──バチンと大きな音がしたと思ったら。


 「メ…!?」


ウールーの体毛の先がチリチリと燃えていた。


 「メ、メェェ!!!?」
花丸「!? こ、転がって火を消して!」

 「メ、メェェ」


コロコロと転がりながら、ウールーが自分の毛に点いた火を消しにかかる。


花丸「……静電気がショートしちゃったずら」


もしかして、あのモコモコの体毛……すごい防御力を誇る代わりに──すごく燃えやすい……?


侑「なら……!! ワシボン!!」

 「ワシャッ!!!」

侑「“はがねのつばさ”!!」

 「ワッシャッ!!!!」


ワシボンが空中からきりもみ回転をしながら、急降下を始める。


花丸「上から来るなら、狙い撃つまで! “エレキボール”ずら!」
 「メェェーーー!!!!」


ウールーから放たれる“エレキボール”。確かにウールーに一直線に突っ込んで行ったら、この攻撃を避けるのは難しい。でも、ワシボンが狙ってるのは……!


 「ワッシャッ!!!!」


──急にギュンと角度を変え、ワシボンが地面に向かって突っ込む。


花丸「ずらっ!?」


花丸さんの驚きの声と共に、鋼鉄の翼がフィールドの床を砕く。

砕かれた反動で浮き上がった瓦礫をそのまま、


侑「瓦礫を羽で弾いて!!」
 「ワッシャァッ!!!!」


──ウールーに向けて、撃ち放つ……!!
184 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:35:06.98 ID:waqA86PW0

侑「“がんせきふうじ”!!」

 「メ、メェェェ!!!?」
花丸「し、しまった!?」


瓦礫に飲み込まれ、動きが封じられたウールー。

そして、ワシボンは、


 「ワシャァッ!!!!!」


その場で、バサッと翼を大きく広げる。

そして、その翼を力強く羽ばたかせながら、送る風は──灼熱の風……!!

──ボゥッ!!


 「メ、メェェェ!!!?!?」


ワシボンが覚える唯一のほのお技……!!


侑「ワシボン!! “ねっぷう”!!」
 「ワッシャァァァァァ!!!!!!!!」


動けないままのウールーに、直撃した超高温の風は、“もふもふ”の体毛に引火する。

ウールーの毛は予想通り、とてつもなく燃えやすかったらしく、すぐに──ゴォォォォォ!! と音を立てながら、大きな火柱に成長し、


 「メ、メェェェェェ!!!!!!」


ウールーを一気に灼熱の炎が飲み込んでいった。

体毛を燃料に、一瞬で焼き尽くされたウールーは、


 「メ、ェェェ……」


体毛をぶすぶすと焦がされながら、戦闘不能になったのだった。


花丸「……戻って、ウールー」

侑「やったぁ! ワシボン! ナイスファイト!」
 「ワシャ…」


ただ、ワシボンももう限界が近い。これ以上無理はさせられない……。


侑「ワシボン、よく頑張ったね……! ひとまずボールの中で休んで」
 「ワ、ワシィ……」


ワシボンをボールに戻す。

あとは、


侑「イーブイ、行くよ!」
 「ブィィッ!!!」


イーブイが、バトルフィールドに踊り出る。


花丸「2匹目はイーブイだね。マルの2匹目は……行け、カビゴン!!」
 「カビーーー」


花丸さんの投げたボールから、現れた巨体は──ズンッ!! と重量感のある大きな音を立てながら、フィールドに降り立つ。
185 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:36:05.47 ID:waqA86PW0

侑「2匹目はカビゴン……!」

リナ『カビゴン いねむりポケモン 高さ:2.1m 重さ:460.0kg
   1日に 食べ物を 400キロ 食べないと 気がすまない。
   基本的に 食うか 寝るかしか していないが なにかの
   きっかけで 本気を出すと 凄い パワーを 発揮するらしい。』

花丸「カビゴン! “のしかかり”!」
 「カビーーー」


のっしのっしとカビゴンがイーブイの方へと向かってくる。

あんな巨体にのしかかられたら、イーブイが潰れちゃう……!


侑「……でも、あの遅さなら、十分逃げられるね! イーブイ!」
 「ブイッ!」


イーブイはフィールドを走り出す。


 「カビーー」


カビゴンは逃げるイーブイを追いかけては来るけど……すばしっこいイーブイにはまるで追い付けてない。

“のしかかり”を注意しながら戦うなら──


 「ブイッ!!」


イーブイがちょこまかと走り回りながら、カビゴンの背後に回り込んだところで、


侑「“でんこうせっか”!!」
 「ブイッ!!!」


飛び出す、高速突進。

上手にヒットアンドアウェイしながら、ダメージを稼いで……と思っていたけど、カビゴンに“でんこうせっか”が直撃した瞬間。

──ぼよ〜ん。


侑「……いっ!?」

 「ブ、ブィィ!!!?」


イーブイはカビゴンの背中にめり込んだあと、元に戻る反動で跳ね返されて吹っ飛ばされてしまった。


リナ『体重差がありすぎて攻撃が通じてない……』 || >ᆷ< ||

侑「ち、直接攻撃じゃダメだ……!」

 「ブ、ブィ」


イーブイは地面を転がりながら、すぐに体勢を立て直す。

ダメージこそ大したことはないものの、ぶつかり合っちゃダメだ……!


侑「“スピードスター”!!」
 「ブイイーーー!!!!」


ピュンピュンと音を立てながら、星型のエネルギー弾がカビゴンを捉える。
186 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:38:39.67 ID:waqA86PW0

 「カ、カビ……」

侑「よし、効いてる!! カビゴンも肉弾戦のポケモンだから、この作戦で──」

花丸「ふふ、侑ちゃん。思い込みは良くないずらよ」

侑「え……?」

花丸「カビゴン! “かえんほうしゃ”!!」
 「カーーービィーーーーー!!!!!!」


カビゴンが急に灼熱の炎を噴き出した。


侑「嘘!?」
 「ブ、ブィィ!!!?」


イーブイは驚きながらも、どうにか“かえんほうしゃ”を紙一重で回避する。


侑「ほのお技なんて使えるの!?」

花丸「“ハイドロポンプ”!!」

侑「!?」

 「カーーービーーーーー!!!!!」

 「ブ、ブィィィ!!!!?」


今度は大量の水がカビゴンの口から発射される。

度重なる予想外の攻撃に、今度は回避しきれず、イーブイに激しい水流が直撃し、吹っ飛ばされる。


 「ブ、ブイ……」
侑「イーブイ!? 大丈夫!?」

 「ブ、イ……」

リナ『だ、ダメージが大きい……このままじゃ』 || >ᆷ< ||


イーブイはどうにか、よろよろと立ち上がるものの、リナちゃんの言うとおり受けたダメージが大きい。


花丸「ポケモンバトルは知識が大事ずら」

侑「……?」

花丸「もし、侑ちゃんがカビゴンの覚える技がわかっていれば、対応が出来たかもしれない」

侑「そ、それは……」

花丸「このジム戦は最初から最後まで、知恵試しなんだよ」


花丸さんがスッと手を上にあげると──急に上の方から光が差し込んでくる。

どうやら、この部屋の上の方にある窓から日の光が差し込んで来ているようだ。


花丸「この技は……何かわかるかな?」


──空から差し込んできた光が……カビゴンに集まってる……?


侑「……っ! ……イーブイ、“でんこうせっか”!!」
 「ブィィィ!!!!」


その場からイーブイが全力で飛び出す──と、同時に今の今までイーブイがいた場所に光線が降り注ぎ、床を焼く。
187 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:39:53.15 ID:waqA86PW0

リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「や、やっぱり、“ソーラービーム”を撃ってきた……っ」

花丸「ふふ、“ソーラービーム”のチャージだと気付けたのはさすがだね。でも、避けたのはいいけど──」

 「カーービ」

花丸「焦ってカビゴンに近付いちゃったね」

侑「……っ!」


逃げる方向を指定する暇がなかったせいか、咄嗟に回避で使った“でんこうせっか”で皮肉にも──イーブイはカビゴンの目の前に躍り出てしまっていた。

そこはカビゴンの得意な肉弾戦の射程──


花丸「“メガトンパンチ”!!」
 「カーーービ!!!!!!」

侑「“みきり”っ!!」
 「ブィ!!!」


攻撃を間一髪で見切って躱せたものの──


 「ブ、ブィィ……」
侑「な……」


気付けば、イーブイは捕まっていた──足を氷に取られる形で……。


花丸「“メガトンパンチ”をそのまま、“れいとうパンチ”に派生させたずら。イーブイが“みきり”を覚えるのは知ってたからね。ここぞというときに、使ってくると思ってたよ」

 「ブ、ブィィ……」


──パキパキと音を立てながら、イーブイの足を取っている氷が侵食するように下半身……そして、上半身へと広がっていく。


花丸「イーブイは氷漬け。勝負あったずらね」

侑「……まだです。まだ、イーブイは戦闘不能になってません」

花丸「……そうだね。でも、氷漬けになったイーブイに反撃の術はないよ。ブースターだったら、違ったんだろうけど……」

侑「……いいえ。私のイーブイはまだ戦えます」

花丸「……?」

侑「私の“相棒”はまだ戦えます!! ね? イーブイ!!」
 「ブイィィィィ!!!!!」


イーブイが雄たけびと共に──燃え上がる。


花丸「ずら!? イーブイが燃えてる!? そ、そんな技覚えるなんて話!?」


自身を捕える氷を溶かしながら──


花丸「……!? ま、まさか、“相棒わざ”!?」

侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
 「ブゥゥゥゥィッ!!!!!!!!」


激しい炎を身に纏って、カビゴンに突撃する……!


 「カ、カビィ!!?」


驚くカビゴンは、回避も防御もままならず、そのままイーブイは──カビゴンのお腹にめり込んでいく。
188 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:41:08.62 ID:waqA86PW0

 「カ、カビィィィィィ!!!!!?」
花丸「や、柔らかいお腹に!?」

侑「さすがにこれだけ激しい炎を纏っていたら、大ダメージですよね!」
 「ブィィィィィィ!!!!!!」


柔らかい体が仇となり、お腹を直接焼かれ、カビゴンが苦悶の声をあげる。


侑「イーブイッ!! このまま、押し切──」

花丸「“のしかかり”!」
 「…カビッ!!!」


──ズゥン!


侑「!」

リナ『お、お腹のイーブイごと……前に倒れ込んだ』 || > _ <𝅝||

花丸「はぁ……さ、さすがに焦ったずら」

侑「…………」


花丸さんが、汗を拭いながら、私に話しかけてくる。


花丸「でも、これでイーブイは、じきに戦闘不能。どうする? ワシボンに交代する?」

侑「…………花丸さん」

花丸「なにかな」

侑「……ここは知識を試すジムなんですよね」

花丸「? そうだけど……」

侑「そんなジムのジムリーダーの花丸さんなら……知ってるんじゃないですか? ──こんな絶体絶命のピンチをチャンスに変えるイーブイの技を……!」

花丸「……? ……ま、さか!?」


花丸さんの視線が、カビゴンに引き戻される。それと同時に──


 「カビッ」


カビゴンが一瞬、僅かに宙に浮いた気がした。


花丸「ま、まずい!? カビゴン、すぐに起き上がって!?」

侑「逆にその巨体、倒れ込んだら、すぐには起き上がれないですよね!」

 「カビィッ!!!?」


今度は、完全に目に見えて、カビゴンが僅かに浮いた。

次の瞬間──


 「ブゥゥゥゥイイイイ!!!!!!!」


カビゴンの下で“じたばた”と激しくもがくイーブイが、カビゴンの巨体を完全に浮き上がらせた。


リナ『これは、“じたばた”……!? ダメージを大きく受けているときほど、威力が上がるカウンター技!!』 || ? ᆷ ! ||


──“じたばた”攻撃で浮き上がらされたカビゴンはバランスを崩し、よろけながら後退る。そこに向かって、


侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
 「ブゥゥゥゥゥィ!!!!!!」
189 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:42:19.42 ID:waqA86PW0

トドメの“相棒わざ”を無防備な頭部に叩きこむ。


 「カビィィィ!!!?」
花丸「か、カビゴン!?」


大技の直撃により、カビゴンは吹っ飛ばされ、後ろに向かって転がりまくったのち、


 「カ、ビィィィ……」


戦闘不能になり、大人しくなったのだった。


花丸「やられたずら……」

侑「……イーブイ!」
 「ブィ!!!!」


名前を呼ぶと、イーブイが私の胸に飛び込んでくる、


侑「ありがとう!! 勝てたよ、私たち!」
 「ブイブイッ!!!」


二人で喜びを分かち合っていると、


歩夢「侑ちゃん……!」


歩夢も駆け寄ってくる。


歩夢「侑ちゃん! すごかった! かっこよかったよ……!」

侑「うん!」

リナ『侑さん、すごい……私、もう絶対ダメだと思った』 || > _ <𝅝||

侑「あはは、イーブイのガッツのお陰でどうにか勝てたよ!」
 「ブイッ!!」

リナ『最後まで諦めない心……すごく、勉強になった。リナちゃんボード「じーん」』 || 𝅝• _ • ||


仲間たちが労ってくれる中、


花丸「まさか、“相棒わざ”を覚えてるなんて……」


カビゴンをボールに戻した花丸さんも、会話に加わってくる。


侑「えっと、わかってたというか……花丸さんってノーマルタイプのエキスパートですよね?」

花丸「うん、見てのとおりノーマルタイプのジムリーダーずら」

侑「だから、同じノーマルタイプのイーブイの技もひととおりバレちゃってるかなって……。だからもし、意表を突くなら“相棒わざ”しかない! って……」

花丸「“れいとうパンチ”を待たれてたってことだね……」

侑「“れいとうパンチ”というか、こおり技ですけど……ほのお、みず、くさタイプといろいろ使って来てたので、こおり技もあるかもって!」

花丸「動きを止めるために選んだ“れいとうパンチ”が裏目に出たずらぁ……うぅん、そうじゃなくても“じたばた”はちゃんと意識しておくべきだったね……。焦って、頭から抜けちゃってたずら……まだまだ、修行が足りないね」


花丸さんは、自嘲気味に笑って、肩を竦めた。


花丸「……その知識と、勇気と、実力を認め、侑ちゃんをダリアジム公認トレーナーと認定します。この“スマイルバッジ”を受け取って欲しいずら」

侑「……はい!」


花丸さんから、丸い笑顔のマークのバッジを手渡される。
190 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:43:39.67 ID:waqA86PW0

侑「えっへへ♪ “スマイルバッジ”、ゲットだね!」
 「ブブイー♪」


これで、2つ目のバッジゲット……! 一時は辿り着けるかどうかも怪しいと思っていたけど、こうしてジムにも勝利出来て一安心だ。


花丸「あ、そうそう……このジムに挑戦した人みんなにお願いしてるんだけど……マルがジムリーダーだってことは、外では言わないでね?」

侑「あ、はい!」

歩夢「わかりました」

リナ『リナちゃんボード「ガッテン」』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||

花丸「そういえば、侑ちゃん手持ちは2匹?」

侑「はい。……そろそろ、新しい手持ちが欲しいなーとは思ってるんですけど」

花丸「それなら、ダリアの南にある4番道路のドッグランに行くといいずら。あそこはいろんな種類のポケモンがいるからね」

リナ『ドッグランなら、どちらにしろコメコへの通り道だからちょうどいい』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||

侑「じゃあ、次は南を目指して出発だね♪ 行こう!」
 「ブブイ」

歩夢「そ、その前に……!」

侑「ん?」

歩夢「今日は、宿に泊まらない……? もう、夕方だよ?」


歩夢が上を見上げる。釣られて私も見上げてみると、上にある窓から夕日が差し込み始めていた。

どうやら、先ほどまでの雨も、バトル中に上がっていたらしい。


歩夢「今から4番道路に向かったら、夜になっちゃうから……」

花丸「それなら、宿を紹介してあげるから、そこに行くといいずら」

侑「え、いいんですか!?」

花丸「今日一日、ここに辿り着くために、街中走り回ったでしょ? そのお詫びというか、労いということで、挑戦者には宿を紹介してるずら。はい、これ紹介状。ホテルの受付に見せれば泊めてもらえるから」

侑「そういうことなら、お言葉に甘えて……」


花丸さんから、紹介状を受け取る。


花丸「それじゃ、侑ちゃん。ジム巡り頑張ってね! マルは滅多に外に出ないけど、ここから応援してるずら」

侑「はい! 頑張ります!」


結局、一日がかりでの挑戦になったダリアジムだったけど、どうにかクリア出来たことに胸を撫で下ろしながら──疲れを癒すために、私たちは宿へと向かうのでした。



191 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:44:13.88 ID:waqA86PW0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ダリアシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  ●     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.18 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.15 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:29匹 捕まえた数:2匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.10 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.11 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:58匹 捕まえた数:10匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



192 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:27:37.54 ID:HEs2RhQZ0

■Chapter010 『コンテストの島』 【SIDE Shizuku】





 「ミャァミャァ」「ミャァミャァミャァ」「ミャァ」


──水を切る音に紛れて、キャモメの鳴き声が聞こえる。


しずく「──ん……んぅ……」


ゆっくりと目を開けると──朝日を反射してキラキラと光りながら流れていく水面が視界に飛び込んできた。

寝起きでぼんやりする頭に酸素を送って、少しでも早く覚醒させるために、朝の深呼吸。


しずく「……すぅー……はぁ……」
 「メソ…」

しずく「メッソン。おはよう」
 「メソ…」


私の肩の上で小さく鳴くメッソンを撫でてあげると、満足したのか、メッソンはまた姿を隠してしまった。

早く慣れてくれるように、積極的にボールの外に出してはいるものの、やっぱりまだまだ臆病で、外の世界が怖いのかもしれない。

とはいえ、こうして私が目を覚ましたのに気付いて、朝の挨拶をしてくれたのは、大事な一歩だろう。

私はとりあえず、ボールと荷物を確認する。


しずく「マネネのボールも、ココガラのボールもある……っと」


バッグ共々、身の回りの持ち物に異常がないことを確認。ついでに、隣にいる人も確認する。


かすみ「……むにゃむにゃ……えへへ、かすみん……さいきょーれす……」
 「ガゥ…zzz」


かすみさんもいる……っと。まだ、ゾロアと一緒にお休み中だ。

最低限の身の回りの確認は出来たので、今度は私たちの前で座ったまま、私たちを送ってくれている方へ朝の挨拶です。


しずく「曜さん、おはようございます」

曜「お、しずくちゃん、起きたんだね」

しずく「あの……もしかして、曜さん徹夜ですか?」

曜「ラプラスに任せても問題ないんだけど……二人を送り届ける間に何かあったら困るから、一応ね」

しずく「すみません……ご迷惑をお掛けしてしまって……」

曜「むしろ、謝らなきゃいけないのはこっちだって! 二人を危ない目に合わせちゃったしさ……。マンタインサーフ、やっぱりもうちょっと安全性を考えて調整しないといけなさそうだね……あはは」
 「タイーン」「マンタイーン」


私たちが乗せてもらっているラプラスの横には、並んで泳いでいる2匹のマンタインの姿。

昨日私たちをサーフで運んでくれていた子たちです。

──昨夜はあの後、ラプラスで沖まで来てくれた曜さんと合流し、フソウ島まで送ってもらうことになった。

その道中、私とかすみさんは、疲れ切っていたのもあって、気付けばラプラスの背の上で眠ってしまっていたというわけだ。


しずく「ラプラスも、ありがとうございます」

 「キュゥ〜〜♪」

曜「乗り心地良いでしょ? 自慢の相棒なんだ♪」
 「キュゥ♪」

しずく「はい、お陰様でぐっすりでした……あはは」
193 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:28:42.33 ID:HEs2RhQZ0

本当にあまりに熟睡しすぎてしまったくらいで、少し恥ずかしい。


曜「それなら、何よりだよ。このまま無事に二人のことを送り届けられそうだしね」


曜さんはそう言いながら、前方を指差す。その先には──


しずく「! かすみさん、起きて!」

かすみ「……ふぇ……? ……かすみんのサインはじゅんばんに……」
 「…ガゥ?」

しずく「寝ぼけてる場合じゃなくて! 見て!」

かすみ「……んぇ? ……わ!」

しずく「見えてきたね……!」

かすみ「フソウ島!」
 「ガゥ、ガゥッ♪」


噂に聞くリゾート島、フソウ島の到着が迫ってきていた。


曜「じゃあ、二人も起きたしラストスパート! 飛ばすよ、ラプラス!」
 「キュゥ〜〜〜♪」


波に揺られて、目的地まであと少し……。





    💧    💧    💧





かすみ「到着ぅ! ああ、久しぶりに陸に降り立った気がしますぅ♪」
 「ガゥ♪」

しずく「久しぶりって、1日も経ってないよ……」


上陸したのも束の間、テンション高めに飛び跳ねるかすみさんを見て、肩を竦める。


曜「まあ、普通の人は半日以上海上で過ごすことも滅多にないだろうからね」

かすみ「そういうことです!」
 「ガゥッ!!」

曜「うんうん、かすみちゃんが元気そうで曜ちゃん先輩は嬉しいよ」

しずく「曜さん、ここまで送っていただいて、ありがとうございました」

曜「うぅん、二人に大事なくてよかったよ」

かすみ「かすみんたち、危うく冥界に連れてかれるところでしたからね……」
 「ガゥゥ…」

曜「私は見たことがなかったんだけど、確かに昔からゴーストシップの噂はあったんだよね……。一応、私からリーグに報告しておくよ。あまり人が近寄らないようにしてもらわないと」

しずく「お手数ですが、よろしくお願いします」

曜「うん、任せて♪ これもジムリーダーのお仕事……ん?」


曜さんは取り出したポケギアを見て、画面を凝視したあと、少し眉を顰めた。


しずく「曜さん……? どうか、されたんですか?」

曜「ああいや、リーグに連絡しようと思ったら、そのリーグの方からちょうどメールが届いてびっくりしただけ」


そう言いながら、曜さんは再びラプラスに飛び乗る。
194 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:29:47.05 ID:HEs2RhQZ0

かすみ「あれ? 曜先輩、フソウタウンには行かないんですか?」

曜「うん。私は用事が出来たから、一旦セキレイに戻るよ」

しずく「い、一旦休まれた方が……」


曜さん、私たちのために徹夜までしてくれたのに、これから用事だなんて……。

私の心配が顔に出ていたのか、


曜「ありがと、しずくちゃん。でも帰りは一人だし、サニーまではラプラスに任せてお昼寝するから大丈夫だよ♪ お願いね、ラプラス」
 「キュゥ♪」


曜さんはそんな言葉を返しながら、私にウインクしてくる。


しずく「そうですか……ですが、どうかご無理はなさらないでくださいね」

曜「了解♪ それじゃ、ラプラス! 全速前進ヨーソロー♪」
 「キュゥ〜♪」


曜さんを乗せたラプラスは再び海を進み始める。


かすみ「曜せんぱ〜い、ありがとうございました〜♪」

しずく「道中、お気を付けてくださーい!」

曜「ありがとー! 二人とも〜! 良い旅を〜!」


手を振りながら、海を駆ける曜さんを見送ったあと、


かすみ「それじゃ私たちも行こっか、しず子」

しずく「うん、そうだね」


私たちもフソウタウンへと歩を進める。


かすみ「いやぁ……曜先輩に会えてラッキーだったね。なんだかんだ、ここまで送ってもらえたし」
 「ガゥ♪」

しずく「ふふ、そうだね」

かすみ「これもかすみんの日頃の行いのなまものだよね〜♪」
 「ガゥ…?」

しずく「……賜物ね」


そう言う割に幽霊船と出会うなんて、よほどアンラッキーな気もしなくはないけど……とりあえず、黙っておくことにする。


しずく「そういえば……かすみさん、よかったの?」

かすみ「え? 何が?」

しずく「せっかく、曜さんに会えたのに、ジム戦のお願いとかしなかったけど……」

かすみ「…………あ!? ……か、完全に忘れてた……!?」
 「ガゥゥ?」

しずく「……まあ、そんなことだろうと思ってたけど」

かすみ「曜せんぱ〜い!? 待ってくださーい!! かすみんと、かすみんとジム戦だけしてくださ〜い!! 曜先輩〜!?」
 「ガゥ…」

しずく「はぁ……私たちは、早く町の方に行こっか」
 「メソ…」


海に向かって叫ぶかすみさんに半ば呆れながら、私はさっさと町の方へと歩いて行くのだった。



195 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:30:56.78 ID:HEs2RhQZ0

    💧    💧    💧





──フソウタウンは、オトノキ地方でも最大規模を誇るコンテスト施設がある町だ。

頂点のポケモンコーディネーターを決める大会“グランドフェスティバル”もこの町で開催される。

この町には、ポケモンジムのようなバトル施設がない代わりに、コンテストを中心とした観光産業を主としていて、特別な催し事のある日でなくとも、あちらこちらに出店が立ち並んでいて、今日もたくさんの人で賑わっている。

そして──


かすみ「見て見てしず子! “バニプッチパフェ”! 買っちゃった♪ めちゃくちゃ可愛くない!?」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「う、うん……」


絶賛、賑わっている人がここにも。


かすみ「って、あーー!? あれ、“ハートスイーツ”だよ、しず子!! あっ! 見て見て!! あそこに売ってる飴細工もめっちゃくちゃ可愛い! ちょっと買ってくる!!」
 「ガゥッ」

しずく「か、かすみさん、そんなに買ったらおこづかいが……あ、行っちゃった……」


さっきから、気になる出店を見つけるたびに、かすみさんが買いに走っているせいか、なかなか前に進めていない。


しずく「コンテスト大会まではもう少し時間があるから、別にいいんだけど……」


今日開催される、うつくしさ大会のウルトラランクを見たいと思っているから、間に合うようにはしたいけど……恐らく開催時間の前に、かすみさんの財布が先に限界を迎える気がするし……。


かすみ「しず子〜! “ハートスイーツ”ゲットしたよ〜♪」

しずく「あ、戻ってきた……」

かすみ「フソウタウン最高かも! かすみんの好きな感じの可愛いスイーツがたっくさんあって幸せぇ〜♪」
 「ガゥガゥ♪」

かすみ「ゾロアも嬉しいよね〜♪ はい、“オレンアイス”あげるね♪」
 「ガゥ♪」

かすみ「しず子は何も買わないの?」

しずく「え? うーん……」


これだけ出店が立ち並んでいると、食べ歩きをしたくなる気持ちはわかるんだけど……。恐らく、ここで尽きるであろう、かすみさんの旅の資金を補うのは、私のおこづかいからだろうし……少し躊躇する。


かすみ「せっかく、フソウタウンまで来たんだから、しず子も楽しまないと!」
 「ガゥッ♪」


逆に楽しみを消費する速度が速過ぎて心配なんだけど……。でも、かすみさんの言うとおり、せっかくそういう町に来ているわけだし、少しくらいは見ていってもいいのかもしれない。


しずく「メッソン、何か欲しいのある?」
 「メソ…」


肩に乗っているメッソンに訊ねると──スゥッと姿を現して、


 「メソ…」


小さな手で派手な看板たちに隠れた、味のある看板のお店を指差す。
196 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:32:30.52 ID:HEs2RhQZ0

しずく「えっと、向こうにあるのは……。……! も、“もりのヨウカン”……!?」
 「メソ…」

かすみ「えー? ヨウカン? 地味じゃない?」

しずく「何言ってるの!? シンオウ地方ハクタイシティの隠れた名物なんだよ! 一度食べてみたいと思っていたけど、こんなところで巡り合えるなんて……!」

かすみ「お、おぉう……そういえば、しず子って和菓子好きなんだっけ……?」

しずく「うん! 買ってくるね!」
 「メソ…」





    💧    💧    💧





──町の中央まで来て、今は噴水広場のベンチに腰掛けている。


しずく「んー……おいしい♪」


そして、早速“もりのヨウカン”を食べている。

初めて頂く“もりのヨウカン”は、上品な甘さとなめらかな舌触りが口いっぱいに広がって、幸せな気持ちになる。


かすみ「そんなにおいしいの?」

しずく「かすみさんも一口食べてみる?」

かすみ「うん!」


黒文字(菓子楊枝)を使って、一口大に切ってから、


しずく「はい、あーん」

かすみ「あーん♪」


かすみさんにおすそ分け。


かすみ「あむっ。もぐもぐ……」

しずく「どう?」

かすみ「こ、これは……! おいしい……!」

しずく「でしょでしょ! 糖分のべた付きを感じさせない滑らかな舌触りなのに、それでいて餡子の自然な甘味がしっかりと活きている……まさに至高の逸品だよね……」

かすみ「め、めっちゃ語るじゃん、しず子……」

しずく「メッソンもお食べ」
 「メソ…」


メッソンの口元に運んであげると、小さな口で“もりのヨウカン”をもしゃもしゃと食べ始める。


しずく「おいしい?」
 「メソ…♪」

しずく「あ、笑った♪」
 「メソ…♪」


メッソンは凄く臆病で、いつも泣きそうにしているから、こうして笑ってくれるだけでなんだか嬉しくなる。


しずく「まだあるから、またあとで残りも食べようね♪」
 「メソ…♪」

かすみ「それにしても、すごい町だね。……あむっ」
197 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:34:33.82 ID:HEs2RhQZ0

かすみさんが“バニプッチパフェ”を頬張りながら、辺りを見渡す。


かすみ「まだ午前中なのに、すごい賑わい。今日ってお祭りなの?」

しずく「聞いた話だと、一年中こういう感じらしいよ。今日はウルトラランクの開催日だから、その中でも特に活発な日だとは思うけど」

かすみ「ふーん……セキレイの賑やかさとは雰囲気が違うけど、かすみん的にはこういうお祭りっぽいのは大好物なんだよね♪ はい、しず子、お返し。口開けて♪」

しずく「……あむっ」

かすみ「どう? “バニプッチパフェ”は」

しずく「ふふっ、パフェもおいしいね」

かすみ「でしょでしょ! おいしいだけじゃなくて、見て可愛いのもポイント高いんですよねぇ♪」
 「ガゥガゥ!!!」

かすみ「はいはい、ゾロアにもあげるから。あーん」
 「ガーゥ♪」

かすみ「そういえば、しず子……行きたい場所があるんだったよね? コンテスト会場だっけ」

しずく「うん」

かすみ「それって、どこにあるの?」

しずく「ああ、それなら……」


私は振り返る。


かすみ「……噴水?」

しずく「じゃなくて……その奥。噴水がコンテスト会場なわけないでしょ……」


確かに噴水広場の噴水前のベンチだから、振り返ったらすぐそこに噴水はあるけども……。

──噴水のさらに向こう側にそびえる建物を指差す。

恐らく、この町において、最大の建造物に当たるであろう。フソウのコンテスト会場が鎮座している。


かすみ「え、あれ、コンテスト会場なの……!? セキレイのよりも遥かに大きい……」

しずく「オトノキ地方、最大規模のコンテスト会場だからね」

かすみ「何か他の競技場みたいなものかと思ってた……」


確かにかすみさんが驚くのも無理はない。

セキレイ会場もかなりの広さだけど、フソウ会場はその比ではなく、下手したら倍以上の大きさがある。

最大の収容人数、最大の演出設備等を誇り、同時にこの地方で最大のステージ舞台を擁する巨大施設なのだ。


しずく「確か、中にはスタッフやコンテストクイーンのために居住スペースもあったんじゃないかな……?」

かすみ「マジ!? かすみんもあそこに住みたい!」

しずく「なら、コンテストクイーンにならないとね……あ、ただ、今のコンテストクイーンはことりさんで、ことりさんはウテナシティのポケモンリーグで生活してるから、一般開放されてたはず……」

かすみ「え、じゃあ今がチャンスじゃん!」

しずく「……いや、一般開放って自由に住んでいいってわけじゃないからね? 見学出来るだけだよ」

かすみ「えー……なんだぁ……」


かすみさんは、がっくりと項垂れているけど……歴代のコンテストクイーンが代々利用してきた部屋を見られるのって結構すごいことなんだけどな……。

確か、一般開放に当たっていろいろ展示物もあるらしいし……せっかくだし、後で見に行きたい。

そんなことをぼんやり考えていると──


かすみ「ねぇ、しず子……」


かすみさんが袖を引っ張りながら、小声で話しかけてくる。
198 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:35:46.46 ID:HEs2RhQZ0

しずく「何?」

かすみ「あの人……なんか変じゃない?」

しずく「あの人……?」


かすみさんの視線を追うと──サングラスを掛けて、マスクと深めの帽子に、長めのコートを羽織ったお姉さんの姿。


しずく「変というか……」


一周して、変装しているのがバレバレな気がする。


しずく「有名なコーディネーターさんなのかな……?」


コーディネーターは人によっては人気すぎて、会場に辿り着けずに失格になるなんて事態が発生することがあるらしい。

だから、コンテストクイーンは会場内に居住区を持っているなんて噂さえあるくらいで……。


しずく「たぶん、変装してるんだと思うよ」

かすみ「いや、服装のことじゃなくて……」

しずく「?」


言われてもう一度、彼女に視線を戻すと──


 「…………? …………」


何度も、手元の端末らしきものを確認しては、キョロキョロと辺りを伺い、また確認に戻って、また辺りを見回す。そんな行動を繰り返している。

あの端末……確か、ポケナビだっけ? 地図や通話機能を持っている端末だったはず……。


しずく「もしかして……道に迷ってる……?」

かすみ「そんなわけないでしょ……この島、港からここまで一本しか道なかったよ?」

しずく「確かに……。……ま、まさか……!」

かすみ「まさか……?」

しずく「密売人……とか……!」

かすみ「えぇ!?」

しずく「わざわざ島まで足を運んで、しきりに端末を確認している……いかにもだと思わない……?」

かすみ「い、いや……あんな目立つ場所で確認しなくても……」

しずく「それがカモフラージュなんだよ! 木を隠すなら森の中って言うように、人を隠すなら人の中! むしろ堂々としてる方が見つからないんだって!」

かすみ「じゃあ、なんで変装してるの!? 矛盾してない!?」

しずく「きっと、あのコートの下にいろんな秘密兵器が──」

お姉さん「──貴方たち、ちょっといいかしら?」

しずく・かすみ「「!?」」


気付いたら、怪しいお姉さんが目の前で、ベンチに座っている私たちを見下ろしていた。


しずく「な、ななな、なんですか……!?」


動揺で声が上ずる。ま、まさか今の会話を聞かれていて、私たち、消され……!?
199 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:38:31.54 ID:HEs2RhQZ0

お姉さん「コンテスト会場って……どっちかしら」

しずく「……へ?」

お姉さん「道に迷っちゃったみたいで……」

かすみ「…………」


かすみさんが隣でジト目をしているのが、見なくてもわかった。


しずく「え、えっと……会場ならすぐそこに……」


背後の建物を指差す。


お姉さん「あ、あらやだ……あれだったのね。……ごめんなさい、助かったわ」

しずく「い、いえ……」

お姉さん「貴方たちは観光に来たのかしら?」

しずく「は、はい……コンテストの観覧に」

お姉さん「あら……だったら、この後のウルトラランク、楽しみにしていてね♪」


お姉さんはそう残して、会場の方へ去って行った。


かすみ「…………」

しずく「…………」

かすみ「……で、誰が密売人だって?」

しずく「か、かすみさんだって、迷子はありえないって言ってたでしょ!?」

かすみ「密売人の方がありえないでしょ! しず子の妄想、途中で無理あるって自分で気付かなかったの!?」

しずく「ぅ……ごめん……」

かすみ「……はぁ、しず子ってたまに暴走するよね。そういうとこ、嫌いじゃないけどさ……」


ああ、恥ずかしい……。たまに、自分の中で妄想が膨らみ過ぎちゃうことがある。かすみさんはこうして理解してくれているからいいものの……今は旅の真っ最中だし、もう少し自重しなきゃ……。

それにしても……。


しずく「あの人の声……どこかで聞いたことあるような……」

かすみ「あれ、しず子も?」

しずく「え? かすみさんも?」

かすみ「うん」

しずく「私たちも声を知っているくらいの有名人ってことかな……?」

かすみ「……かも」


──まあ、その真相を知るなら、お姉さんの言っていたとおり、


しずく「……会場、そろそろ行こうか」

かすみ「あ、うん。ゾロア、行くよ」
 「ガゥ」


ウルトラランク大会を見ればわかるってことだよね……?



200 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:41:44.32 ID:HEs2RhQZ0

    💧    💧    💧





司会『──レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、コンテストの聖地、ここフソウタウンにて繰り広げられる、最もうつくしいポケモンを決めるコンテスト……フソウうつくしさコンテスト・ウルトラランクのお時間です!!』


暗い舞台にスポットライトが灯り、眼鏡を掛けた司会のお姉さんの口上と共に、コンテスト大会がスタートした。

この旅で一番楽しみにしていたことの一つが、今目の前で始まったんだと思うと、ドキドキしてくる。


司会『さて、早速出場ポケモンとコーディネーターの紹介です! エントリーNo.1……ニャルマー&優理!』


歓声と共に現れるコーディネーターと、そのポケモンのニャルマー。


かすみ「わぁ♪ 見て、しず子! あのニャルマーお洋服着てるよ! 可愛い!」

しずく「コンテストの一次審査はビジュアル審査だからね。ああいう風に着飾るコーディネーターさんが多いんだよ」

かすみ「なるほど……」


司会『エントリーNo.2……キリキザン&イザベラ!』


次に現れたキリキザンは、全身研ぎ澄まされた鋼鉄のボディを輝かせながらの入場。


しずく「あのキリキザン……全身の光沢がすごい。磨き抜かれていますね」

かすみ「確かに綺麗だけど……可愛くはないかなぁ」

しずく「あはは……」


うつくしさコンテストだから、可愛くなくてもいいんだけどね……。


司会『エントリーNo.3……ニンフィア&凪!』


3番目に現れたニンフィアは、ひらひらのドレスを身に纏っての登場だ。


かすみ「かっわいいっ!! しず子!! あのお洋服着たニンフィア、すっごい可愛い!!」

しずく「う、うん、わかったから、あんまり騒ぎすぎないでね……?」


私の希望で、ここに来ているはずなのに、かすみさんの方がテンションが高い気がする。

いや、楽しんでくれているなら、全然構わないんだけど。


司会『エントリーNo.4……キュウコン&果林!』


そして、最後のポケモンとコーディネーターが登壇する──と同時に、一気に歓声が大きくなる。


しずく「……あ」


そして私たちも彼女の姿を一目見ただけで思い出す。


しずく「あの人、さっきの……!」

かすみ「え!? テレビとかでよく見るモデルの……!?」


私たちが先ほど会場の外で出会った人のあの声は、テレビやCMで何度も聞いたことのある声だった。

彼女は──


司会『お、おおーっとぉ!! 割れんばかりの歓声です! さすがカリスマモデル……! ただし、これはポケモンコンテスト! キュウコンのうつくしさを見てあげてくださいね!』
201 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:43:50.57 ID:HEs2RhQZ0

しずく「──カリスマモデルの、果林さん……」


彼女は今やカリスマモデルとして、あちこち引っ張りだこの人気者──果林さんだった。

私が夢見ている、表の舞台に立つ人。もちろん、女優とモデルでは少し違うけど……それでも、人前に立ち、自分を表現する人間。

いや、それだけじゃない、


かすみ「あのキュウコン……きれい……」

しずく「うん……」


着飾られたアクセサリーはワンポイントの帽子だけで──とは言っても、帽子も意匠を凝らした物を被っている──少し寂しいようにも見えるけど……それを感じさせないくらいに、全身のきめ細かい黄金の体毛が光を反射してきらきらと輝いている。

キュウコン自体は何度か見たことがあったけど、今まで見たキュウコンとは毛並みが根本的に違う。

もはや、別のポケモンにすら見えてくる。


しずく「……あの毛並みを殺さないために、必要以上に着飾らないようにしてる……」


着飾ることを生業にしているはずの彼女が、ポケモンを魅せるために、自分が普段行っていることとは逆の手法で、キュウコンの魅力を引き出している。

あの人は恐らく、根本的に“魅せることが何か”を理解している。

その証拠に、


かすみ「…………すごい」


先ほどまで、大はしゃぎで、ニャルマーやニンフィアを可愛い可愛いと褒めちぎっていたかすみさんが、キュウコンの“うつくしさ”に魅了されている。


しずく「──そっか……表現をどう魅せるか考えることに、人も、ポケモンも、関係ないんだ……」


これは果林さんの──プロの世界の表現を見ることが出来るまたとないチャンス。

私はこのステージを、しっかりとこの目に焼き付けなくてはいけない。そう直感した。


司会『さあ、それでは一次審査を開始します! 皆さんお手元にペンライトの準備はよろしいでしょうか──』





    💧    💧    💧





しずく「…………」

かすみ「……なんか、すごかったね」


前方のメインスクリーンに目を向けると──エントリーNo.4のキュウコン&果林の審査メーターだけが飛び抜けていた。

誰もが認める、キュウコンと果林さんの完全勝利。会場全てが彼女たちのうつくしさに魅了されていた。……それはもう、圧倒的だった。

仮にもこの大会はウルトラランクだと言うのに……。


かすみ「なんか、ポケモンからしてレベルが違ったって感じがしたよね……あのキラキラした毛並み、反則級だったかも」

しずく「……うぅん、そうじゃない」

かすみ「え?」


私はずっと、果林さんとキュウコンを観察していた。そのときに、気付いたことがあった。

──あのキュウコンの毛並み、輝きすぎている、と。もちろん、普段からの手入れも最上級に拘っているんだろうけど……。
202 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:45:35.72 ID:HEs2RhQZ0

しずく「私の気のせいじゃなければ……会場の照明の位置から、どこに立てばキュウコンの毛並みが最も綺麗に輝くかを計算しながら演技をしていた……」

かすみ「え、う、うそ……?」


私も自分で演劇で舞台に立つ際に、考えることはある。自分の衣装が最も映える照明の角度。何度も他の演者と調整しながら、一番良い場所を探って行くのだが……コンテストライブの照明は、もちろんコンテスト主催側の裁量でしかない。

その癖を一瞬で見抜いて、自分たちが一番輝ける場所を探り当てていたとでも言うのだろうか。


しずく「それだけじゃない……カメラが自分たちに向いたら、一瞬でカメラに目線を向けていた……キュウコンも、果林さんも……」


一次審査も二次審査もずっと、一瞬たりとも気を抜かず、動く照明、動かない照明、自分たちを捉えるカメラ、それら全てを意識しながら、圧倒的なパフォーマンスをこなす。

そんなことが、本当に可能なのか……? どれだけの研鑽を積めば、あんなことが──


しずく「あれが、プロの世界……カリスマモデル・果林さんたちの表現……」


侮ってはいなかったつもりだ。自分も舞台に立つ一人の表現者として、アーティストとして、戦える物を持っている気がしていた。

でも、それは思い上がりだった。果林さんとキュウコンの演技は……私の表現とは比べ物にならない、遥か遠くに感じるくらいレベルが高かった。


観客1「──今、エントランスホールに果林さん、いるらしいよ!」

観客2「ホントに!? 私、アクセサリー贈りたい!」

観客1「行こう行こう!」

しずく「……!」


どうやら、今なら彼女と話が出来るらしい。


しずく「行かなきゃ……!」

かすみ「あ、しず子!?」


突き動かされるように、私はライブ会場を飛び出した。





    💧    💧    💧





──エントランスホールは、人でごった返していた。

キャーキャーと響く、黄色い歓声──恐らくこの先に、果林さんがいる。


しずく「……と、通して……ください……!」


人込みの中を無理やりかき分けながら、前に進む。

普段なら、こんな強引なことは滅多にしない。でも私は、今あの人と話がしたい。


ファン1「果林さん! わたしのアクセサリー受け取ってください!」

ファン2「ち、ちょっとずるい! 私のアクセサリーを……!」

果林「待って待って、順番に……」

しずく「果林さん……!!」

果林「だから、順番に──あら……? 貴方……さっき、外で」

しずく「……!」


果林さんの視線が私に向く。チャンスだと思った。
203 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:46:53.29 ID:HEs2RhQZ0

果林「さっきは会場を教えてくれてありがとう。お陰で助かったわ」

しずく「あ、あの!!」


自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。


しずく「どうすれば、果林さんみたいなパフォーマンスが出来るようになりますか……!?」

果林「あら……そんなに私のパフォーマンス、よかったって思ってくれたのね」

しずく「はい……! 見ていて、私もあんなパフォーマンが、演技が出来るようになりたいって思って……私……!」


必死に自分の言葉を紡ぐ私に、


女の子「はぁ……貴方、おこがましいですよ」


急に傍にいた、黒髪の女の子がイライラしたような口調で噛み付いてくる。


しずく「え……あ、えっと……」

女の子「果林さんが素晴らしいのは当たり前です。日々、血の滲むようなトレーニングや研究を積み重ねて、この場に臨んでる。そんな果林さんのようになりたい? 簡単に言ってくれますね」

しずく「ご、ごめんなさい……」

果林「こら、ケンカしちゃダメでしょ?」

女の子「で、ですが……」

果林「ダメでしょ?」

女の子「す、すみません……」


果林さんが窘めると、その子は急に大人しくなる。


しずく「あの、ごめんなさい……私……」

果林「ふふ、いいのよ。貴方も私のパフォーマンスに魅了されちゃっただけだものね」

しずく「果林さん……」

果林「憧れてくれて光栄だわ。……そうね、もし私みたいに、なりたいって思うのなら」

しずく「なら……?」

果林「舞台に立つときは、自分が今何を求められていて、今の自分に必要な役割を考えて……その上で出せる最高の自分を演じてみると、いいんじゃないかしら?」

しずく「自分の役割と……その上で最高の自分を演じる……」

果林「役割を理解していれば自ずとチャンスは巡ってくる。チャンスが巡ってきたらそのときは──今、私がこの舞台で一番輝いてるって、胸を張ってパフォーマンスをする……ね?」

しずく「は、はい……!」

女の子「そろそろいいでしょうか?」


気付けば、先ほどの女の子が私を静かに見つめていた。


しずく「す、すみません……!」


確かに、これだけのファンに囲まれている中で、私だけがいっぱい話しかけていたら、不満もあるだろう。

私は、果林さんに一礼してから、その場を撤退しようとしたその背中に、


果林「貴方、名前は?」

しずく「……! し、しずくです!」

果林「しずくちゃんね。覚えておくわ。頑張ってね♪」

しずく「は、はい……!///」
204 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:47:32.78 ID:HEs2RhQZ0

思わぬ激励を貰って、胸がドキドキする。

最後にさっきの女の子から、さらに強い視線を背中に受けた気がするけど……なんだか、どうでもよくなってしまった。

どうにか人込みから抜け出すと、かすみさんがニヤニヤしていた。


かすみ「一発目から、推しに認知されるなんて……しず子、やるじゃん」

しずく「認知って……そういうんじゃ……///」

かすみ「よかったね、しず子♪」

しずく「……うん///」

かすみ「あと、さっきの子……あんまり気にしなくてもいいと思うよ」

しずく「え?」

かすみ「しず子を待ってる間に周りのファンの子に聞いたんだけど……あの人、果林先輩が無名だった時代からのファンらしいよ。いわゆる古参ファンってやつ」

しずく「そうなんだ……」


言われてみれば、果林さんも少し砕けた感じに接していた気がする。

確かに、昔からのファンからしたら、新たに現れた人が急に「果林さんみたいになりたい」なんて言い出したら生意気だと思われても仕方ないか……。


かすみ「もういいの?」

しずく「うん……聞きたいことは聞けたから。それに、ずっとこの人込みの中にいるの大変だったでしょ? 待たせてごめんね、かすみさん」

かすみ「うぅん、全然大丈夫だよ。じゃあ、行こっか」


私はかすみさんに手を引かれて、人込みを縫うようにして、会場を後にする。


しずく「──自分を……演じる」


さっき貰った言葉を何度も反芻しながら──



205 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:48:37.94 ID:HEs2RhQZ0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【フソウタウン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     ●  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.9 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.9 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ココガラ♀ Lv.9 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:69匹 捕まえた数:3匹

 主人公 かすみ
 手持ち キモリ♂ Lv.10 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.12 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.8 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:59匹 捕まえた数:4匹


 しずくと かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



206 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:22:50.08 ID:YYNh6Lpr0

■Chapter011 『フソウエレクトリカルパニック』 【SIDE Shizuku】





かすみ「しず子、この後はどうする?」


コンテストの観覧も終わり、ひとまず私の目的は達成されたことになる。

今のところ、次の目的みたいなものは特別設定していないけど……。


しずく「とりあえず、今日泊まる場所を探しちゃった方がいいかなって思うんだけど……」

かすみ「あー……確かにそれもそっか」


ただ、かすみさんはチラチラと出店の方に視線を送っている。


しずく「まだ出店を見たいなら、かすみさんは見ていてもいいよ。ホテルは私が探しておくから」

かすみ「え、いいの!?」

しずく「うん。コンテストには付き合ってもらったし、フソウに来たかったのは私の都合だから、宿泊先を探すくらいはしなくちゃ」

かすみ「じゃ、お言葉に甘えて……行くよ、ゾロア!」
 「ガゥガゥ!!」

しずく「あんまり、お金使すぎないようにね〜」


かすみさんを見送り、私はホテルを探すために、ポケモン図鑑を開く。


しずく「……あれ?」


しかし、何故かマップアプリを開いてもなかなか地図が表示されない。しばらくして、通信エラーと出てしまった。


しずく「電波の調子が悪いのかな……?」


仕方ないと思い、近くのマップを表示している電光掲示板を探す。

ここは中央広場だし、探せばあるはずだ。キョロキョロと辺りを見回すと──予想通り、電光掲示板はすぐに見つかった。

近寄って、近くのホテルの位置を確認しようとする。


しずく「……?」


……確かに、地図は表示されている。問題はないと言えばないのだが……。


しずく「何か……表示がおかしいような……?」


建物の名前の表示が、文字化けしていて読むことが出来ない状態になっていた。


しずく「故障かな……?」


少し悩んだものの、フソウ島は観光地な上、大きな島ではないし、時間帯的にはまだ日中だ。

無理に地図を使わなくても、ホテルを見つけることは出来るだろうと思い、足で探すことにする。


しずく「良いお散歩にもなるしね。マネネ、ココガラ、出ておいで」
 「マネッ!!」「ピピピピィ」


ついでに、みんなと一緒にお散歩しようと、マネネとココガラも外に出してあげる。


しずく「みんな、お散歩しながら、今日泊まるホテルを探そう」
 「マネ!!」「ピピピィッ」
207 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:24:17.12 ID:YYNh6Lpr0

元気に鳴く2匹。そして、すでにボールから出て私の肩に乗っていたメッソンが──スゥッと姿を現して、


 「メソッ」


ぴょんと跳ねて、地面に降りた。


しずく「メッソンもお散歩する?」
 「メソ」


メッソンはコクンと頷いて、とてとてと歩き出す。


 「マネ、マネネ♪」「メッソ」「ピピピィ♪」


やっと外や仲間たちにも慣れてきてくれたのかもしれない。


しずく「ふふ♪」


私は微笑ましく思いながら、みんなと散歩をし始めた。





    👑    👑    👑





かすみ「……むー」


破れたポイを見つめて唸る。


かすみ「おじさん、この『トサキントすくい』、ホントにすくえるんですかぁ……? インチキとかしてないですよね……?」

おじさん「ははは、残念だったね嬢ちゃん。でも、ずるとかはしてないよ」

かすみ「ホントですかぁ……?」

おじさん「カントー地方には名人がいるらしくてね、それと同じポイで全部すくっちまうらしいよ」

かすみ「へー……」


世の中すごい人がいるんですね……。


かすみ「まあ、いいです。気を取り直して、次の屋台に行きましょう!」
 「キャモ」「ガゥ」「ザグマァ」


ポケモンたちを従えて屋台を回る。フソウの大通りの屋台は、食べ物屋さんだけじゃなくて、縁日みたいな遊びもたくさんあって、お祭り気分に浸れます。

何を隠そう、かすみんお祭りは大好きですからね! セキレイでも、年に一度6番道路の河原で花火大会があって、そこの縁日でたくさん遊んだ記憶があります。


屋台のおじさん「そこの可愛いお嬢ちゃん、『アーボわなげ』やっていかないかい?」

かすみ「えぇ〜? 可愛いって、もしかしてかすみんのことですかぁ〜? どうしよっかなぁ〜♪」


それに屋台のおじさんは、かすみんのこと、たくさん可愛いって言ってくれるから好きです♡

でも、『アーボわなげ』かぁ……。ぴょこぴょこ出てくるディグタに向かって、輪になったアーボを投げるゲームですよね。

歩夢先輩が好きそうだけど……かすみん的にはちょっと疲れちゃいそうだからなぁ……。


かすみ「ごめんなさい、今はちょっと他のを見て回りたいんで〜」

屋台のおじさん「そうかい、また気が向いたら来てくれよお嬢ちゃん!」

かすみ「は〜い♪」
208 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:27:03.87 ID:YYNh6Lpr0

おじさんに手をふりふりしながら、『アーボわなげ』の屋台を通り過ぎる。

なんだかこうしていると、人気者になったみたいで気分がいいですね!

賑わう縁日は歩いているだけで楽しい気分になってくる。そんな中、かすみんの目を引くものが一つ……。


かすみ「わ、きれい〜……!」

屋台のおばさん「あら、お嬢ちゃん、こういうの好きかい?」

かすみ「なんですか、この宝石みたいな枝は……」

屋台のおばさん「これは、サニーゴの角だよ」

かすみ「サニーゴ? サニーゴって、さんごポケモンのサニーゴですか?」

屋台のおばさん「そうだよ。綺麗な水の養分を取り込んだサニーゴの角は、太陽の光を浴びると宝石のように七色に光るんだ」

かすみ「へぇ〜……」

屋台のおばさん「場所によっては、安産祈願のお守りとしても有名だね」


安産祈願ですか……さすがにかすみん、赤ちゃんが出来る予定は当分ないですが……。

綺麗だし、そういうの抜きでもちょっと欲しいかも。


かすみ「でも、サニーゴたち、角を折られちゃうの、可哀想じゃないですか……?」

屋台のおばさん「サニーゴの角は簡単に折れるけど、3日もするとすぐ元に戻るんだよ。もちろん、取り過ぎないように制限はあるけどね」

かすみ「3日で元に戻るんですか!」

屋台のおばさん「そうだよ。それに、ここフソウからホシゾラを繋ぐ13番水道は有名なサニーゴの群生地だからね。しかも、他の地方と違って、ここは水色をした色違いのサニーゴも多いんだよ」


確かに言われてみれば、サニーゴの角はピンクのものと、水色のものが並んでいる。水色のやつは色違いなんですね。

せっかくだし、1本買っちゃおうかな、とも思ったけど……。


かすみ「そういえばおばさん、ここはサニーゴがたくさん生息してるって言ってましたよね?」

屋台のおばさん「そうだね。海の方に行けばたくさんいるよ」

かすみ「その野生のサニーゴって、バトルして捕まえちゃってもいいんですか?」

屋台のおばさん「野生のポケモンだからね、問題ないはずだよ。乱獲みたいなやり方をすると、よくないだろうけどね」


普通に捕まえる分には、よしってことですね……!


かすみ「みんな!」
 「キャモ?」「ガゥ」「ザグマァ」

かすみ「サニーゴ! 捕まえに行くよ!」
 「キャモ」「ガゥガゥ♪」「グマァ〜」


せっかくなら、自分の手で捕まえてみたいじゃないですか! かすみん、次の目的が決まりました! サニーゴゲット大作戦です!


屋台のおばさん「捕まえに行くのかい? お嬢ちゃん、“ダイビング”出来そうなポケモンは持ってなさそうだね」

かすみ「はい、みずポケモンは持ってなくて……。……もしかして、潜らないとダメ系ですか……!?」

屋台のおばさん「いや、サニーゴは“つりざお”でも釣り上げることが出来るよ」

かすみ「ホントですか!?」

屋台のおばさん「あっちに釣り道具のショップがあるから、行ってごらん」

かすみ「ありがとうございます〜!」


かすみん、意気揚々と釣り道具ショップへと向かいます♪



209 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:27:51.33 ID:YYNh6Lpr0

    👑    👑    👑





かすみ「……高い」


釣り道具のショップに来ましたが……“つりざお”って思った以上に値が張るんですね。

かすみん、結構屋台でおこづかい使っちゃったし……ちょっと足りない。


かすみ「……無念です」
 「キャモ」「ガゥゥ…」「ザグマァ?」


かすみんが肩を落として、店から出ると──


おじさん「おやぁ、お嬢ちゃん、もしかして釣り道具を買いに来たのかな?」


おじさんに話しかけられる。今日のかすみん、おじさんにモテモテですね。


かすみ「はい。でも、高くてちょっと買えそうになくて……サニーゴ釣りたかったんだけどなぁ」

おじさん「そうか、確かにそりゃ残念だったな……。でも、お嬢ちゃん、ラッキーだったね」

かすみ「へ?」

おじさん「実はおじさんも釣り道具を売る商売をしていてね」

かすみ「は、はぁ……」

おじさん「“つりざお”、安く売ってあげようか?」

かすみ「……安くって、どれくらいですか?」

おじさん「そうだなぁ……お嬢ちゃん、可愛いからサービスして……500円でどうだい?」

かすみ「ご、500円!? え、そこのお店の何分の一ですか、それ!?」

おじさん「どうだい、買うかい?」

かすみ「買います!! ください!!」

おじさん「毎度あり♪」


やっぱり、かすみんには幸運の女神でも憑いているんでしょうか……!

サニーゴゲット作戦、これで実行できそうです……!!





    👑    👑    👑





──フソウ港。


かすみ「よし、やりますよ!」
 「キャモ」「ガゥガゥ」「ザグマァ」


無事、“つりざお”を入手したかすみんは早速、港の釣りが出来る場所までやってきました。


かすみ「さぁ、行きます!」


善は急げです。かすみん、“つりざお”を振り被って、水面にキャストします。

──ちゃぽん。針が水中に潜り、浮きが水面にぷかぷかと浮かぶ。
210 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:29:47.46 ID:YYNh6Lpr0

かすみ「釣りは忍耐らしいです! 頑張るぞ〜!」
 「ガゥガゥ♪」「キャモ」「ザグマ」


これから腰を据えて待つぞ、と思った矢先でした。

急に手元が海の方に引かれる。


かすみ「!? 早速ヒット!?」


もしかして、かすみん釣りの才能あるんじゃ!?

せっかくかかった獲物を逃がさないように、“つりざお”を引き上げます。


かすみ「ん〜〜〜〜!! やぁ!!」


思いっきり引っ張ると、水の中からポケモンが釣り上げられてきました──


かすみ「来た!! サニーゴ!?」

 「──コ、コココココ」

かすみ「……」


陸に釣り上げられたポケモンがびちびちと跳ねています。このポケモンって……。


かすみ「コイキング……」

 「コ、コココ、ココココ」


せっかく釣り上げたので、バトルして捕まえるか、少し悩みましたが……。


かすみ「かすみんの狙いはあくまで、サニーゴです。逃がしてあげましょう」

 「コ、ココココ」


コイキングを持ち上げて、そのまま海に放流する。


かすみ「……でも、すぐに釣れたのは幸先良しです! 次こそ釣りますよ、サニーゴ! ……やぁ!!」


サニーゴが釣れるまで、いくらでもかすみん頑張りますからね!!

気合いと共に、再び海に向かってキャストするのでした。





    💧    💧    💧





──あの後、ホテルを探すこと30分ほど、のんびり歩きながら散歩をしている。

ただ、ホテルが密集している地区は北の港から、中央のコンテスト会場を挟んで反対側だったらしく、地図がない今結構な遠回りをしてしまった。


しずく「この辺りがホテルがある地区かな?」
 「メソ…」

しずく「ごめんね、メッソン。疲れた? 肩に乗っていいよ」
 「メソ…」


足元に寄ってきたメッソンを肩に乗せてあげる。


しずく「よしよし」
 「メソ…」
211 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:32:10.57 ID:YYNh6Lpr0

メッソンは私の肩に乗ると、スゥッと姿を消してしまった。さすがにあの小さい足でずっと歩き続けていたから、疲れたのだろう。


 「マネ…!!」
しずく「マネネは真似して登らないの……」

 「ピピピィ…」
しずく「ココガラまで……」


ココガラが私の頭の上でリラックスし始めた……。マネネもよじ登ってきたし、3匹に乗られるとさすがにちょっと重い……。


 「マネマネ」
しずく「って、マネネ……どうして、バッグに入るの?」



よじ登る最中、マネネが私のバッグに頭を突っ込み始めて、何かと思ったけど、


 「マネ!!」
しずく「……あ、“もりのヨウカン”」


どうやらおやつが食べたかったらしい。勝手にバッグから見つけて、封を開けだす。


しずく「めっ! かすみさんみたいなことしちゃダメでしょ?」
 「マネェ…」


叱りながら、“もりのヨウカン”を没収する。


しずく「食べるなら、みんなで分けようね」


手で3分の1ずつに分けて、その一欠片をマネネにあげると、


 「マネ♪」


マネネは嬉しそうに鳴き声をあげながら、ヨウカンを食べ始めた。


しずく「ココガラ」
 「ピピピィ♪」


頭に乗っているココガラにも、一欠片与え、


しずく「メッソンも、お食べ」


肩の近くに最後の欠片を持っていくと、メッソンがスゥッと現れて、


 「メソ…♪」


ヨウカンを受け取って、もしゃもしゃと少しずつ食べ始める。


 「マネ!!」
しずく「マネネ、もう食べちゃったの……? もうないよ」

 「マネ…!?」
212 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:33:46.20 ID:YYNh6Lpr0

もうないと伝えると、マネネは辺りをキョロキョロしはじめる。いくら見回したところで、もうないものはないんだけど……。

そんなマネネの様子を見て、盗られると思ったのか、


 「メソ…」


メッソンはヨウカンを食べながら──スゥッと透明になって消えてしまった。

騒がしい手持ちたちに思わず肩を竦める。

……というか、みんなくつろいでいるけど、私も結構歩いているので、そこそこ疲れているんだけど……。


しずく「私も飲み物でも買って、少し休憩でもしようかな……」


近くに自動販売機とかないかな……。


しずく「あっ……ありました」


少し見回すと、すぐに見つけることが出来た。

お金を投入して、ボタンを押そうとして──ボタンが点灯していないことに気付く。


しずく「あ、あれ……これも故障……?」


随分あちこちでいろんな機械が故障している気がする。

“サイコソーダ”が飲みたかったんだけど……ボタンは点灯していないが、一縷の望みに賭けてボタンを押すと──


 「コッチがオススメだヨ」


という機械音声と共に──“モーモーミルク”が排出された。


しずく「勝手に決められた……? なんですか、この自動販売機……?」


さすがに、これは納得が行かない。自動販売機の管理会社の情報とか、どこかに書いてないかな……。

連絡先を探すため、中腰になって自動販売機の表面をじーっと見ていると──


 「ナニジロジロみてるンだ」


中腰になっていた私の顔に──ゴン!


しずく「いったぁ!?」


取り出し口から、ジュース缶が飛び出してきて直撃した。

びっくりして、そのまま尻餅をつく。


 「マ、マネ…!?」
しずく「本当になんなんですか、この自販機!?」


思わずジュース缶の直撃を食らった鼻を押さえてしまう。コロコロと転がっている、私の顔面に攻撃を食らわせた缶ジュースを見ると、“サイコソーダ”と書かれていた。

……当初の予定のものが出て来ていた。


 「ヨカッたネ」

しずく「よくないです!!」
213 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:34:54.07 ID:YYNh6Lpr0

思わず、自販機を睨めつける。

かすみさんのような反応をしてしまっている気がしなくもないけど、さすがに一方的に暴力を浴びせられて、黙っているのも何か違う気がする。

ただ、この自動販売機、とにかく人を追い払いたいのか、


 「アッチいケ」


再びジュース缶を飛ばしてきた。


しずく「マネネ! “ねんりき”!」
 「マネ!!」


それを、“ねんりき”によって、空中で静止させる。


しずく「今度は“ミックスオレ”……」

 「アッチいケ」

しずく「…………」

 「アッチいケ」


どうしても、この自動販売機は向こうに行って欲しいらしい。


しずく「……わかりました、もう構いません。ただ、管理会社に電話して、撤去してもらわないと」

 「ムダなコトヲ」


ポケギアを取り出して、画面を見る。あることに気付いたけど、そのまま先ほど見た番号をプッシュして、耳に当てる。


しずく「……もしもし。すみません、フソウ島にある自販機のことでお電話を差し上げたんですが……」

 「!? “かいでんぱ”の影響でポケギアは使えないはずロト!!?」

しずく「ロト……?」

 「あ、いや…ナゼポケギアがつかエる」


ロト……。そういえば、ガラル地方では、そんな語尾で喋る機械があったことを思い出す。

つまり、これは──


しずく「マネネ、あの技使える?」
 「マネ」


小声でマネネにとっておきの技を指示して、再び自販機を睨めつける。


 「ダカラ、アッチにイけ」


──パカっと取り出し口が開いたが、


 「ロ、ロト!? ジュースが飛んでかないロト!!?」

しずく「やっぱり、貴方ポケモンですね」

 「ギク!! ワれはドウミテもジハンキ」

しずく「今更、嘘吐いても無駄ですよ。貴方が飛ばしていたものは実質“どうぐ”扱いされるものなので、マネネの使った“マジックルーム”により、使えなくなりました」

 「ロト!!?」


“マジックルーム”は一定時間、使用者の周囲での“どうぐ”を使用できなくする技だ。
214 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:36:17.03 ID:YYNh6Lpr0

しずく「あと、ついでに教えてあげます。さっきポケギアで通話していたのは演技です」

 「ロトト!!?」

しずく「画面を見た時点で、画面表示がおかしくなっていたので、一芝居打たせていただきました。動揺して、まんまと尻尾を出しましたね。貴方、ロトムですよね?」

 「ひ、卑怯者ロト!!!」

しずく「それはこっちの台詞です! 自販機に化けて、しょうもないイタズラをしている貴方の方がよほど卑怯者です!」

 「ロト…!!? よくも侮辱してくれたロトね…でも、ここから出なければ関係ないロト。どうせ、お前は何も出来ないロト」

しずく「やっぱり、卑怯者じゃないですか……」

 「なんとでも言えロト、そこで指でも咥えてればいいロト」


確かに、自販機に入ったままじゃ、手の出しようがない。でも、それなら──引き摺りだせばいいだけのこと。


 「ボクの完全勝利ロト」

しずく「そうですか? 踊りたくなってきませんか?」

 「ロト? 何言って…な、なん…!? ボクの体が勝手に…!? お前、何したロト!!!?」

 「マネ、マネ〜〜♪」
しずく「さぁ、一緒に踊りなさい! “フラフラダンス”!」


マネネが私の肩から飛び降りて、不思議なステップを踏み始めると、自販機の中のロトムもそれに釣られて動き出す。“フラフラダンス”は強制的に自分の周りのポケモンも一緒に踊らせて“こんらん”させる範囲技。

自販機の中に隠れていようが、相手がポケモンであるなら効果がないわけがない……!


 「ちょ、と、止め──」


直後──スポーーン! と自販機からロトムが飛び出してくる。


 「ロ、ロトーーー!!!?」

しずく「マネネ!! “サイケこうせん”!!」
 「マーーネェ!!!!」


マネネから飛び出す、七色の光線が一直線にロトムを捉える。

技が決まった──と思った瞬間。

“サイケこうせん”を押し返すように黒い球体が飛んできて──


 「マネッ!!!?」
しずく「なっ!?」


“サイケこうせん”に完全に撃ち勝ち、そのままマネネを吹き飛ばす。


しずく「今の、“シャドーボール”!?」


ロトムは今、“こんらん”しているはずなのに……!?

慌てて、ロトムに視線を戻すと、


 「ロト、ロトトト??」


確かにロトムは“こんらん”しているのかおかしな挙動で飛んでいる。

偶然と思ったが、その直後──ピュン! と光線が飛んできて、私のすぐ頭上を掠めた。

私の頭上を掠めたということは──


 「ピ、ピピピィ〜〜〜!!?」


私の頭の上に乗っていたココガラを、撃ち抜かれたということ。
215 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:37:31.39 ID:YYNh6Lpr0

しずく「ココガラ……!!」
 「ピ、ピピィ〜〜……」


今のは“チャージビーム”……!?

どうして!? ロトムは“こんらん”しているはずなのに、こんな正確に攻撃を……!?

驚く私を次に襲ったのは──バチン! という音と共に、手に痛みが走る。


しずく「いった……!」


思わず手に握っていたポケギアを落としてしまう。


しずく「ポケギアがショートした……っ……!?」


火花を散らせ、アスファルトの上を跳ねるポケギアから、急に、


 「よくもやってくれたロトね…」


音声が響く。


しずく「な……」

 「お陰でフラフラするロト」


気付けばさっきまで、そこで浮いていたロトムがいない。

恐らくあの一瞬の隙に、私のポケギアを乗っ取ったんだ。


しずく「“こんらん”しながら、そんな判断……」

 「お前のミスはボクの強さを侮ったことロト。場数が違うロト」

しずく「場数……?」

 「ボクはこれでも、歴戦のポケモンロト。ちょっと“こんらん”して頭がフラフラしても、止まってるポケモンくらい、勘で攻撃出来るロト」

しずく「……!」


苦し紛れの言い訳のようにも聞こえるけど──その言葉からは、強者の持つ特有の圧のようなものを感じた。

ふざけたポケモンだけど……このロトム、本当に強い……!


 「お仕置きロト」


ロトムの言葉と共に──フワリと、私の周囲に落ちていた飲み物たちが浮遊する。


しずく「“ポルターガイスト”……っ!?」


逃げなくちゃと思い、戦闘不能にされたマネネとココガラを急いでボールに戻して、駆けだそうとしたが──足元に“モーモーミルク”の瓶が転がりこんで来て、


しずく「あっ!?」


瓶を踏んづけて、私はそのまま尻餅をつかされる。


しずく「いった……っ」


尻餅をついたことに驚く間もなく、今度は周囲に浮遊していた、“サイコソーダ”と“ミックスオレ”の缶の天井部がスパッと切れて吹き飛び──バシャァッとひっくり返したコップのように、中身が私の頭に掛かる。


しずく「…………」
216 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:39:26.56 ID:YYNh6Lpr0

“サイコソーダ”と“ミックスオレ”でずぶ濡れになった私を見て、


 「いい気味ロト〜♪」


ロトムは機嫌良さそうに笑う。

完全に遊ばれてる……。“ポルターガイスト”は“マジックルーム”では無効化出来ないし、これ以上ロトムの動きを制限出来ない。


 「もうお前は手持ちも残ってないロト♪ さぁ、次は何をしてやるか、ロトトトト♪」

しずく「……! ……貴方みたいなポケモン、野放しにするわけに行きません……」

 「ロト? じゃあ、どうするロト??」


嘲笑するように声をあげるロトムの入ったポケギアに向かって──人差し指と中指を前に、親指を立てて、手で銃を作るようなジェスチャーをする。


 「何のつもりロト?」

しずく「……貴方が実は歴戦のロトムだったように、私も隠してたことがあるんですよ……」

 「ロト?」

しずく「私、実は……エスパー少女なんです」

 「ロトト!! それは傑作ロト!! じゃあ、その指の先からエネルギー弾でも撃ってみればいいロト!!!」

しずく「……」

 「ほら、動かないから狙ってみろロト!!!」


指先の銃口を……しっかり、ポケギアに向けて──


しずく「……今っ!!」


私の声と共に──勢いよく飛び出した“みずでっぽう”が、ポケギアを貫いた。


 「んなぁロト!!!? ホ、ホントにエスパーだったロト!!?」


驚くロトム、


 「だ、脱出ロト…!!」


ポケギアから逃げるつもりだ……! させない……!


しずく「“なみだめ”!!」
 「メェェェェ……ッ!!」


──スゥッと姿を現したメッソンが目から大量の水を放出し、ポケギアごと“みずびたし”にする。


 「ロ、ロトガボボボボ」


ロトムの体は電気で出来ている。だからこそ、電子機器を乗っ取ることが出来るし、空気中に飛び出せば目にも留まらぬスピードで動き回るけど……!


しずく「電気の体じゃ、水中に閉じ込められたら、逆に脱出できないですよね……!」

 「ロトボボボボボ!!!?」


滝のように、メッソンが水を浴びせかけている場所に──先ほど先端を切り裂かれて、コップ状になっている、ミックスオレの缶を引っ手繰るように掴んでロトムの上から──ガン!! と音を立てながら思いっきり覆いかぶせた。


しずく「はぁ……はぁ……!」
 「メソ…」
217 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:41:27.63 ID:YYNh6Lpr0

水自体は電気を激しく通すが、水の中から、電気が空気中に逃げていくのは伝導率があまりに違い過ぎて、簡単に行かないはずだ。

溜まった水に沈められたら、全身電気で出来ているロトムにとっては、檻も同然になる。


 「ロド、ロドドドドド!!?!?」

しずく「苦しいでしょう……? メッソンの涙は、タマネギ100個分の催涙成分を持っていますからね……! 近くにいるだけで、涙が止まらなくなる水に閉じ込められたら、どんなに強くても無事ではいられないはずです……!」


後は缶を押さえながら、ロトムが諦めるのを待つだけだ。

私は自分の体重を乗せて、上から缶を押さえつける。

その際、一瞬──


しずく「──……っ゛……!?」


全身を電撃が走るような衝撃があったけど、手は離さない。外になんか絶対逃がさない。そんな強い意思で、缶を押さえ続けていたら──10秒もかからずに、ロトムは大人しくなった。


しずく「……か、勝った……」
 「メソ…」


私が安心してへたり込むと、メッソンが泣きそうな顔で寄り添ってくる。


しずく「……ありがとう、メッソン……。メッソンがずっと、透明になって姿を消していたから、ロトムが勝手に私にはもう手持ちがいないって勘違いしてくれたよ……」
 「メソ…」


正直かなりギリギリの戦いだった。恐らく全身超強力な催涙液に浸からされて、気絶しているだろうけど……。


しずく「ボールに入れるために、水中から出すのも危険だよね……」


私はバッグの中から、ゴム手袋を取り出す。出来るだけ水を零さないように、素早く缶を上向きに戻した後、ロトムが潜んでいる壊れたポケギアごと、ゴム手袋の中に流し込んで口を結ぶ。


しずく「このまま、ポケモンセンターに連れていこう……」
 「メソ…」


お陰で、手持ちもメッソン以外、戦闘不能になってしまったし……。

念のため、もう片方のゴム手袋も使って、二重に縛ったのち、私は歩き出す。


しずく「そういえば……」
 「メソ…」

しずく「どうして、メッソンは“こんらん”していなかったんだろう……?」


ロトムに追い詰められた際、姿を隠したメッソンが私の手の方に移動してくる感覚があったから、エスパー少女の芝居を打ったわけだけど……。

“フラフラダンス”はその場にいる全てのポケモンを“こんらん”させる技だ。

すぐ戦闘不能にさせられたココガラもだが……メッソンも例外ではなかったはず。

そんな私の疑問に答えるように、


 「メソ…」


メッソンは小さな黒い欠片を、丸まった尻尾の中から取り出す。


しずく「それ、もしかして……“もりのヨウカン”の欠片?」


そこでふと思い出す。“もりのヨウカン”をポケモンが食べたときの効果って、確か──
218 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:43:27.40 ID:YYNh6Lpr0

しずく「ポケモンの状態異常を回復する効果……」
 「メソ…」

しずく「そっか、マネネに盗られると思って、少しずつ食べてたんだね」
 「メソ…」

しずく「ありがとう、メッソンの機転のお陰で助かったよ」
 「メソ…」


普段は臆病で内気だけど、実は勇敢で賢い相棒を労いながら、私はポケモンセンターへの道を急ぐのだった。





    💧    💧    💧





しずく「──モンスターボールに入れられない……?」

ジョーイ「はい……。このロトム、すでに誰かの捕獲済みのポケモンのようでして……」


ポケモンセンターに着いた私がジョーイさんに言われたのは、ロトムをモンスターボールで捕まえることが出来ないという内容だった。

暴れていたロトムを捕まえたということで、急いでモンスターボールに入れられないかの相談をしているところだったこともあって、それが出来ないと言われて少し動揺してしまう。


しずく「誰かが逃がしたポケモンということですか……?」

ジョーイ「いえ……もし、“おや”の意思で逃がしたポケモンであれば、再度の捕獲が可能なので……。逃げ出したポケモンと考えた方がいいかと……」

しずく「逃げ出したポケモン……」


考えてみれば、あんなに強いロトムが野生にいるとは思えない。……というか、町中に野生でいるとは考えたくない。

それなら、どこかから逃げ出してきたと考える方が納得の行く話だ。


ジョーイ「一応ポケモンセンターでなら、一時的に他のボールに移動する方法がありますが……どうされますか?」


ポケモンセンターではモンスターボールが破損した際に、新しいボールへポケモンを移す手続きなどが出来る。その延長線のようなことなのだろう。

人のポケモンに勝手にそんなことをしていいのかとも思うものの……どちらにしろ、このままこのイタズラロトムを野放しにしておくわけにもいかない。


しずく「わかりました。お願いできますか?」

ジョーイ「承知しました。では、新しいボールに移動しますね」

しずく「はい」





    💧    💧    💧





しずく「さて……どうしましょう」
 「メソ…」


ポケモンセンターのレスト用の席に腰掛けながら、ロトムの入ったモンスターボールと睨めっこをしている。

一応、ボールには入れたものの──ボムッ!
219 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:45:12.95 ID:YYNh6Lpr0

 「ロト? ロト!! ロト、ロトトト!!!!」

しずく「ボールに入れたくらいでは、勝手に出てきますよね……」

 「ロト!!! ロトロトロトトト!!!」

しずく「特殊な捕獲用の檻に入れてもらっていますから、出られないですよ」

 「ロト!? ロトトト!!!!」


先ほどまで暴れていたことは伝えてあったので、いざというときのために、用意してもらった物だ。

暴れる電気ポケモンの治療や鎮静の際に用いる特殊な檻らしく、電気を弾く特殊なコーティングと、檻の格子一本一本から、特殊な磁場を発生させることによって、一切の電撃攻撃をカット出来るとのこと。

体が電気で出来ているロトムでは、隙間から脱出することも出来ない。

さすが、ポケモンのための専用医療施設なだけあって、対ポケモン用の道具は豊富に揃っているらしい。


 「ロトーーー!!! ロトトーーーー!!!!」

しずく「暴れないでください。これ以上、暴れるなら……」
 「メソ…」


メッソンがスゥッと姿を現して、目に涙を溜め始める、


 「ロトッ!!?」


それを見たロトムは、ビクッとしたあと、大人しくなる。

メッソンの涙で溺れたのが、相当トラウマになっているのだろう。


しずく「さて、行きますよ。ボールに戻ってください」


私は檻ごと持ち上げる。


 「ロ、ロトッ!!?」

しずく「当分は檻から出しません。ボールでしばらく大人しく出来たら、考えてあげます」

 「ロ、ロト、ロト、ロトトトトト!!!!」

しずく「なんですか?」

 「ロト…ロトォ…」


ロトムは力なく、チカチカと点滅する。

……多少、気の毒ではありますね。


しずく「……はぁ、絶対に暴れないって約束できますか?」

 「! ロト! ロト!!」

しずく「……わかりました」


私は頷いて、ポケットから図鑑を取り出す。


 「ロト…?」

しずく「檻の中に図鑑を入れるのでこれに入ってください。ただし、壊したりしたら、本当に許しませんからね?」
 「メソ…」


ポケギアは先ほどの戦闘で完全に使えなくなってしまったし、ポケモン図鑑まで壊されたら本当に堪ったものではない。図鑑がなくなってしまっては、博士も困るでしょうし……。

私が格子の隙間から、図鑑を差し入れると──


 「ロ、ロト…」
220 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:47:11.27 ID:YYNh6Lpr0

ロトムは少し迷っていましたが──結局、観念したのか、図鑑へと侵入を試み始める。


 「ロ、ロト…」

しずく「こんにちは、ロトムさん」

 「こ、こんにちはロト…あの…」

しずく「なんですか?」

 「こ、ここから出してもらえないでしょうかロト…」

しずく「出してもらえると思いますか?」

 「ロト…」

しずく「ボールに戻って、今後絶対に自分からボールの外に出ないと誓えるなら、考えてあげるのですが……」

 「も、もちろんロト!! 勝手に外に出ないと約束するロト!!!」

しずく「もちろん、信用出来ないので、当分はこの檻のまま運ぶことになるでしょうね」

 「ロ、ロトォ!!? 酷いロト!! お前、人でなしロト!!!」

しずく「メッソン、まだ涙出そう?」
 「メソ…」

 「ヒィィィィィ!!!! 嘘ですごめんなさいロト!!! 許してロト!!!」

しずく「はぁ……。あと、私は“お前”ではありません。“しずく”という立派な名前があります」

 「し、しずく…様」

しずく「様付けはしなくていいです」

 「しずく……ちゃん」

しずく「まあ、それでいいでしょう……」


とりあえず、ホテルを探すのがまだ途中だ。いつまでもポケモンセンターに居たら日が暮れてしまう。

私は、先ほどの宣言通り、ロトムの入った檻ごと持ち上げて、ホテルのある地区へと移動を開始する。


 「だ、出せ…じゃなくて、出して頂けないでしょうかロト…」


檻はかなり小さいサイズで重量もそこまでないため、多少荷物になる程度だからいいが……いかんせん、喧しい。

ロトムの主張を無視しながら歩く中、ふと先ほどジョーイさんが言っていたことを思い出す。

せっかく喋れるんだし、本人──というか、本ポケモンに聞いてみることにする。


しずく「ロトム、貴方脱走ポケモンなんですよね?」

 「…ギクッ!! ち、違うロト…」

しずく「今ギクッって言いましたよね……」


今日日、図星を言い当てられて本当に「ギクッ」なんて言う人……どころか、ポケモンに出会うとは……。

……いや、かすみさんは言うかも。


しずく「それで、どこから逃げてきたんですか?」

 「も、もしかして、ボクを“おや”に返すロト…?」

しずく「当たり前ではありませんか……ポケモンセンターにいつまでも預けておくわけにもいかない、逃がすわけにもいかないとなったら、持ち主に返す以外ないでしょう」

 「ま、ままま、待って欲しいロト!!! ボクをしずくちゃんの手持ちに加えて欲しいロト!!!」

しずく「……すごく嫌なんですが」

 「ボク強いロト!!! 絶対戦力になるロト!!! だから、お願いロト!!!」


確かに強いのは嫌というほど知っているけど……。
221 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:48:44.61 ID:YYNh6Lpr0

 「も、もし、このままあの“おや”のもとに帰ったら…か、確実に殺されるロト…」

しずく「殺されるって……そんな酷いトレーナーだったんですか?」

 「それはもう…普段から、ご飯もロクにくれなくて…泣く泣く脱走して、自販機で電気を食べていたところだったロト…」

しずく「それは、まあ……大変かもしれませんね」

 「もし、しずくちゃんの手持ちに入れてくれるなら、しばらくは檻の中でも我慢するロト!!! お願いだから、“おや”探しは止めて欲しいロト!!!」


先ほどまでの要求を覆している辺り、“おや”のもとに帰りたくないというのはどうやら本当らしい。

私は、少し悩んだものの、


しずく「……わかりました。とりあえず、今は“おや”を探すのは止めておきましょう」


とりあえず、ロトムの要求を呑むことにする。


 「ホ、ホントロト!?」

しずく「その代わり、当分檻の中になりますけど、それでもいいんですか?」

 「…や、やむを得ないロト…。ただ、ご飯だけはくださいロト…」

しずく「ふむ……」


私は、しおらしいロトムの態度を見て──ガチャリ、


 「ロ、ロト…?」

しずく「檻から出ていいですよ」


檻の鍵を開けてあげる。


 「い、いいロトか…?」

しずく「ただし、当分は図鑑から出ないでください」

 「ロト…?」

しずく「ポケモン図鑑から少しでも外に出たら、“おや”を探してもらうよう、はぐれポケモンとして届け出を出しますからね。それくらいの条件は呑めますよね?」

 「わ、わかったロト…」


ポケモン図鑑は戦闘用のフォルムではないから、自由に飛び回られるより制御もしやすいだろうし。


 「そ、それで、本当に“おや”は探さないでくれるロト…?」

しずく「はい」


私は頷く。……積極的に“おや”に返すように働きかけるつもりはない程度だけど……。

もし、旅の途中で見つかるようなら、引き渡すつもりだ。

このまま、制御の効かないロトムを檻に閉じ込めたまま一緒に旅するより、とりあえず表面上の要求を呑んで、言うことを聞いてもらう方がいいと判断したという話でしかないが。


 「ありがとうロト!! それじゃ、しずくちゃん、これからよろしくロト!!」

しずく「はい、よろしくお願いします。それでは、早速図鑑のマップ機能でホテルを探してもらえますか?」

 「え…ボクがやるロト?」

しずく「もちろんですよ。貴方は今、私のポケモン図鑑なんですから。まあ、嫌なら持ち主のもとへ……」

 「わ、わかったロト!!! 今すぐ検索するロト!!」

しずく「はい、お願いしますね」


成り行き上とは言え、喧しい仲間が増えてしまった感は否めないが……“おや”を見つけるまでは、どうにかやって行くしかない。
222 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:49:59.91 ID:YYNh6Lpr0

 「こっちロト!!」


早速ホテルを見つけたロトムの後を追って、ホテルを目指す。

気付けば、フソウの町は夕方の茜に包まれている時間だ。

そろそろ、かすみさんにも連絡をしないと……そう思い、ポケギアを手に取ろうとして、


しずく「あ……ポケギア……もう、ないんだった」


連絡手段がないことに気付く。

島の北側に居ることはわかっているから、早くホテルの部屋を取って、探しに行かないと。


しずく「ロトム、急ぎでお願いします」

 「ガ、ガッテンショウチロトー」


私はロトムと一緒に茜色に焼ける町中を急ぐのだった。





    👑    👑    👑





かすみ「……! かかりました!!」


──かすみん、思いっきり竿を持ち上げます。

すると糸の先から、水面が盛り上がりそこから、


 「──コココココココ!!!!!」


コイキングが釣り上げられます。


かすみ「…………」

 「コココココココ!!!!!」


釣り上げられて、びちびちと跳ね回るコイキングをすぐに海へとリリース。


かすみ「もう……何匹目……コイキングばっかじゃん、この海……」
 「ガゥ…」「キャモ」


もう何時間、釣りを続けているでしょうか……。

でも、釣れるのはコイキングばっかり……。この海、本当にサニーゴいるんですかね……?

しょぼい結果に疲れてきたかすみんの唯一の癒しは──


 「ジグザグ」

かすみ「あ、ジグザグマ! また、拾ってきたんだ! 良い子ですね〜♪」
 「ザグマァ〜♪」


こうして、ジグザグマが“ものひろい”でアイテムを拾って集めて来てくれることくらいです。

……ふむふむ、また“げんきのかけら”。回復アイテムが豊富に揃っているのは良いことですね!


かすみ「さて……もうひと頑張りです……!」


再び竿を構えて、キャストしようとしていたら──
223 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:51:33.78 ID:YYNh6Lpr0

しずく「──かすみさーん!」


背後からしず子の声が聞こえてきた。


かすみ「あ、しず子!」

しずく「ここにいたんだね」
 「ボクの言うとおりだったロト!!」

しずく「図鑑サーチを使っていますからね……これでいなかったら困ります」

かすみ「なんで、しず子の図鑑……喋ってるの……?」

しずく「ああ、えっと……説明すると長くなっちゃうんだけど……」
 「ボクロトムロト!! キミがかすみちゃんロトね? 今日からしずくちゃんの仲間になったロト!! よろしくロト!!」

かすみ「しず子、新しいポケモン捕まえたの!?」

しずく「捕まえたというか……まあ、成り行きで……。詳しくは後で説明するよ」


しず子は少し疲れた顔で言う。……なにかあったんですかね?


しずく「それより、もう夜になっちゃうし、ホテルに行こう? ちゃんと部屋見つけたから」


確かにしず子の言うとおり、もう辺りは薄暗くなり始めている。


かすみ「これは……次がラストチャンスになりますね……!」


しず子に続いてかすみんも、新しい仲間を手に入れなきゃ……!

かすみん、“つりざお”を振り被って、サニーゴゲット大作戦との最後の戦いに挑みます。

チャポンと音を立てながら、浮きが水面に浮かぶ。


しずく「かすみさん、釣りしてたんだね」

かすみ「はい……! 狙うは、サニーゴです!」

しずく「……え?」

かすみ「? どしたの?」

しずく「え、えっと……かすみさん……その……」

かすみ「なに? 言いたいことがあるならはっきり言いなよ」

しずく「じ、じゃあ……。……その“つりざお”だと、サニーゴ釣れないと思うよ……」

かすみ「……え?」


しず子の言葉に思わずフリーズする、かすみん。

その直後、浮きが沈み──


 「コココココココ!!!!!」


引いても居ないのに、勝手にコイキングが水の中から飛び出して──びちびちとコンクリートの上を跳ね回る。


かすみ「う、嘘……?」

しずく「私、家が海に近かったから、釣りは何度かしたことがあるんだけど……かすみさんが持っているのは“ボロのつりざお”だから……」

かすみ「“ボロのつりざお”……?」


言われてみれば、この“つりざお”、棒っ切れに糸を付けただけの簡素な物。安いから、こんなものかなと思ったんですけど……。
224 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:53:03.36 ID:YYNh6Lpr0

しずく「サニーゴは“いいつりざお”か“すごいつりざお”じゃないと釣れないんだよ……その“つりざお”、どこで手に入れたの?」

かすみ「えっと……釣りショップの前で、通りがかりのおじさんが安く売ってくれて……」

しずく「買ったの……? そこらへんにある枝に糸を付けただけだから、100円もしないと思うけど……」

かすみ「100円もしない!?」


かすみん、とうとう気付いてしまいました。


かすみ「だ、だ、だ、騙されたぁ〜っ!? この“つりざお”500円もしたんですよ!?」

しずく「あ、あはは……完全にやられちゃったみたいだね」

かすみ「こ、こんな棒っ切れ、返品してやりますっ!!」
 「ガゥガゥ」「キャモッ!!」「ザグマァ〜」


かすみんは顔を真っ赤にして、さっきおじさんから“つりざお”を売りつけられた場所に向かって走り出しました。


しずく「あ、ちょっと!? かすみさん!?」
 「慌ただしい子ロト」

しずく「どの口が言うんですか……」





    👑    👑    👑





かすみ「くっ!! どこに行きやがりましたか!!」


もう完全に日も落ち切った中、釣りショップの周囲をキョロキョロと見回す。


しずく「はぁ……はぁ……かすみさん……もし、詐欺をしているような人だったら……もう、いないんじゃ……」

かすみ「うぅん! あの手慣れた感じ、ここでよく観光客をカモにしてる感じだったもん! たぶん、この辺りでいつもやってるんだよ!」


釣りショップから出てきた人を狙い撃ちしているとしか思えないタイミングだったし、絶対常習犯です!


 「カモにされた観光客が言うと説得力があるロト」
しずく「余計なこと言わないであげてください……」


街頭が灯り始める中、周囲を見回していると──


 「キャモッ!!」


キモリが鳴き声をあげながら、建物の影の辺りを指差す。

そこでは、さっきのおじさんが“ボロのつりざお”をしまっているところだった。
225 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:54:18.20 ID:YYNh6Lpr0

かすみ「み〜つ〜け〜ま〜し〜た〜よ〜……!!」

おじさん「お? どうしたんだい? “こわいかお”して……おじさんの素早さが下がっちゃうじゃないか。なんつってな、がはは」

かすみ「怖い顔してじゃないです!! この“ボロのつりざお”返品します!!」

おじさん「おや、それは困るよお嬢ちゃん。もう使用済みだろ? 返品は受け付けられないねぇ」

かすみ「使用済みも何も、そこらへんにある棒と糸じゃないですか!! こんなの商品じゃないです!! サニーゴ釣れないし!!」

おじさん「コイキングは釣れただろう? “つりざお”としての役割は十分果たされているじゃないか」

かすみ「かすみんはサニーゴが釣りたかったんです!!」

おじさん「サニーゴが釣れるなんて、言った覚えはないねぇ」

かすみ「そもそもかすみんは最初から、サニーゴが釣りたくてって話してたはずです!! そんな理屈通じませんよ!! お金返してください!!」


かすみんはおじさんを睨みつけながら、捲し立てる。

だって、こんなの絶対納得いかないもん!


おじさん「はぁ、全く困ったねぇ……ときどき、君みたいないちゃもん付けてくる客がいるんだよ」

かすみ「かすみんをクレーマー呼ばわりですか!? いい度胸ですね……!! ゾロア!!」
 「ガゥガゥ!!」

おじさん「おっと、暴力は勘弁してくれよ……わかった、返品は受け付けられないが、とっておきのモノを売ってあげよう」

かすみ「はぁ!? まだ、何か売りつけるつもりですか!?」

おじさん「まあ、話を聞いてくれって。要はサニーゴが手に入ればいいんだろう?」

かすみ「……え、ええ、まあ、そうですけど……」

おじさん「だから、そのサニーゴを売ってあげようって言ってるんだ」

かすみ「……はい?」


そう言いながら、おじさんはがさごそとバッグを漁り、そこから1個のモンスターボールを取り出してかすみんに見せてきます。


おじさん「この中に、サニーゴが入ってる」

かすみ「はぁ……そんなあからさまな嘘吐かれても、かすみんわかっちゃうんですからね」


溜め息を吐きながら、ポケモン図鑑をボールにかざす。

これで、別のポケモンの名前が表示され──ると思ったんだけど、


かすみ「……あ、あれ……?」


確かにそこには『サニーゴ』の名前が表示されていた。


かすみ「ホントにサニーゴだ……」

おじさん「だから、言ってるだろう? こいつを3000円で君に譲ってあげよう」

かすみ「高いです」

おじさん「そこの釣りショップで“つりざお”を買ったら、安いものでも5000円はする。さっき売った“つりざお”と合わせてもお釣りがくるんじゃないかい?」

かすみ「せめて1000円にしてください」

おじさん「2500円」

かすみ「1200円」

おじさん「2000円」

かすみ「……1500円。これ以上は譲れません」

おじさん「……仕方ないな、1500円だ」

かすみ「……」
226 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:55:31.38 ID:YYNh6Lpr0

かすみんは、無言で1500円を支払い、サニーゴの入ったモンスターボールを受け取る。


おじさん「これで、チャラだからね。全く商売上がったりだよ」


おじさんはそう言いながら肩を竦めて、街頭の灯る夜の道の中、町の方へと消えていった。


しずく「かすみさん、よかったね」

かすみ「……よく、はないけど……とりあえず、欲しかったサニーゴは手に入りました」


ホントは自分で捕まえたかったけど、仕方ない……。

かすみんは早速新顔を確認するために、モンスターボールからサニーゴを出します。


かすみ「出ておいで、サニーゴ」


──ボムという音と共に、サニーゴが姿を現すと共に、コロコロと地面を転がる。


 「…………」

かすみ「サニーゴ、これからよろしくね」
 「…………」


メチャクチャ、反応薄いですね……。というか、転がってるし……。


かすみ「角がないじゃないですか……あのおじさん、角を折ってから売り付けましたね……」


最後までコスいことする奴ですね……。まあ、3日で再生するらしいし、これくらいは許してやりますよ。


しずく「このサニーゴ……白い」

かすみ「え?」


辺りが薄暗いから気付いてなかったけど……確かにこのサニーゴ、白いかも……?

というか……。


かすみ「さっきから、微動だにしてない気がするんだけど……」
 「…………」

かすみ「も、もしも〜し、サニーゴ……?」
 「…………」

 「しずくちゃん、こいつガラルサニーゴロト」
しずく「……あ、やっぱり……」

かすみ「ガラルサニーゴ?」

しずく「姿は見たことがなかったけど……ガラルに白いサニーゴがいるって聞いたことはあったんだ……」

かすみ「……ふーん? それじゃ、この子はそのガラルのサニーゴなんだ」
 「…………」


かすみんは改めて図鑑を開いてサニーゴの項目を確認してみることにした。


 『サニーゴ(ガラルのすがた) さんごポケモン 高さ:0.6m 重さ:0.5kg
 急な 環境の 変化で 死んだ 太古の サニーゴ。 大昔
 海だった 場所に よく 転がっている。 体から 生える 枝で
 人の 生気を 吸い 石ころと 間違えて 蹴ると たたられる。』


かすみ「え……死ん……え??」

 「ガラルサニーゴはゴーストタイプロト」

かすみ「…………」
 「…………」
227 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:56:27.96 ID:YYNh6Lpr0

地面に転がる真っ白なサニーゴが緩慢な動きで、少し浮く。


 「…………」
かすみ「…………」


のろのろと浮かび上がりながら、こちらに向ける顔は──綺麗で美しいサニーゴのソレとは思えないくらい、虚ろな目をしていた。


しずく「あ、あはは……か、可愛がってあげようね、かすみさん……」


苦笑いする、しず子。そして──


かすみ「……あああああーーー!!! また、騙されたあああああーーーーー!!!!」
 「…………」


夜のフソウ港に、かすみん今日一の叫びが響き渡ったのでした。



228 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:57:19.71 ID:YYNh6Lpr0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【フソウタウン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     ●  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.14 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.11 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ココガラ♀ Lv.11 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロトム Lv.75 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:72匹 捕まえた数:4匹

 主人公 かすみ
 手持ち キモリ♂ Lv.13 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.15 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.11 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.15 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:62匹 捕まえた数:5匹


 しずくと かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



229 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:18:21.22 ID:hVp6cgNM0

■Chapter012 『ドッグランでの“ワン”ダフルな出会い?』 【SIDE Ayumu】





──ダリアジムでのバトルから一晩明けて、


侑「んー……!」

歩夢「侑ちゃん。はい、傘」

侑「ありがとう、歩夢」


宿の外で空を見上げながら、身体を伸ばしていた侑ちゃんに、傘を手渡す。

……生憎、本日の天気は雨模様です。


リナ『今日の降水確率は100%……きっと一日中雨……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「昨日は途中で上がったのに……結局、雨になっちゃったね」

侑「まあ、仕方ないよ。こればっかりは私たちにはどうにもならないし」
 「ブイ」


もちろん、雨を嫌ってダリアシティでもう一泊するかという意見も出たには出たんだけど……。


侑「これくらいの雨なら、雨具があれば問題ないし、旅を続けるなら雨にも慣れないといけないしね」

歩夢「確かに、いつも晴れの中で旅が出来るとは限らないもんね……」


結局、雨がいつ上がるかわからないし、いつでもどこでも快適に旅が出来る保証はないということで、早く慣れるためにも、私たちは先を急ぐことにした。


リナ『幸いこの先の4番道路は進むだけならほぼ平原だから、雨旅に慣れるにはもってこいだと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「確か、ドッグラン……って言ってたよね?」

リナ『うん。犬ポケモンがたくさん生息している区域だよ。数百年前から、農業が盛んだったコメコシティの牧羊犬ポケモンたちが長い歴史の中で棲み付いて野生化した場所って言われてるよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「へー……」

リナ『ただ、世界的に見ても、あれだけ犬ポケモンが集中している場所は他に類を見ないみたい。全体的になだらかな地形が彼らの生態にマッチしたのかも』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

歩夢「侑ちゃんはそこで新しい子を捕まえたいんだよね?」

侑「うん、出来ればね」

歩夢「わかった! 私も全力で手伝うね♪」

侑「ありがとう、歩夢」


雨の中で、どこまでお手伝い出来るかはわからないけど……侑ちゃんも今後のジム戦では要求手持ち数も増えてくるって言ってたし、どうにか新しい子を捕獲させてあげたいな。


リナ『準備万端。それじゃ、ドッグランに向けてレッツゴー♪』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑・歩夢「「おー!」」


リナちゃんの掛け声と共に、私たちは雨のダリアシティを、南方面に向かって歩き出した。




 「…ニャァ」



230 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:20:09.37 ID:hVp6cgNM0

    🎀    🎀    🎀





ダリアシティの南に位置するポケモンジムを素通りして、さらにその先にある4番道路へとたどり着く。

雨の中だから、多少見通しは悪いけど……リナちゃんが言っていたとおり、4番道路に入ると一気に視界が開けて草原のような景色が広がっていた。


歩夢「一気に景色が変わった感じがするね」

侑「ダリアシティって人工物が多いから、ギャップがあってそう感じるのかもね……」

リナ『ここは環境保護区域でもあるから、自由な開発が禁止されてるのも関係してると思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「確かに……ザ・自然って感じかも」

リナ『左側にある大岩と、右側の林の間にある草原が4番道路──通称ドッグランって呼ばれている地帯になってる』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「ずっと先だけど……かすかに海も見えるかも」


雨にけぶる平原の先の方に、少し荒れ気味な海が見える。


リナ『途中に川もあるよ。岩石地帯、森林地帯、河川や海まで隣接してる草原だから、多種多様な犬ポケモンが生息出来るんだって言われてるよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「確かにこんな大自然だったら、手を加えるのを禁止するのも納得かも……」


ただ、そんな自然だらけの4番道路でも、差し掛かってすぐ──1ヶ所だけ木造の建物が立っていた。


侑「でも、なんだろ……あの小屋……? というか、家……?」

歩夢「あそこは育て屋さんだと思うよ」

侑「育て屋さん?」

リナ『そのとおり。ポケモン育て屋さん。この地方で唯一ここにある施設だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「へー」


ポケモン育て屋さんでは、タマゴが見つかることで有名で、この地方ではダリアシティの南──ここ4番道路にしかない施設となっている。

私の家のポケモンの中にはタマゴから生まれた子もいたから、タマゴの育て方について調べていたときに、この施設のことも知っていたというわけだ。

写真で何度も見た育て屋の外観を眺めながら歩いていると、ふと、


歩夢「あれ……?」

侑「? どうかしたの、歩夢?」

歩夢「育て屋さんの前……誰かいない?」

侑「え?」


育て屋さんの軒下に、人影が見えた。

何やら、空を見上げて、その場に留まっている様子。


侑「こんな雨の中、どうしたんだろう……?」

歩夢「何かあったのかな?」

侑「行ってみようか」

歩夢「うん」


私たちが育て屋の軒下まで歩いていくと、やはり彼女は空を仰いだまま立ち尽くしていた。

明るめの金髪のセミロングをポニーテールに縛っている女の人。

歳は……私たちの少し上か、同い年くらいかな……?
231 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:22:46.65 ID:hVp6cgNM0

侑「あの、どうかしたんですか……?」

女の人「……ん?」

歩夢「雨具がないんだったら、お貸ししましょうか……?」

女の人「ああ、いやいや! 傘は持ってるよ、ほら!」


彼女はそう言いながら、左手に持った畳まれた傘を持ち上げて見せる。


女の人「もしかして君たち、心配して声掛けてくれたの?」

侑「は、はい……立ち往生してるように見えたので……」

歩夢「何か困ってるのかなって……」

愛「うわっ! 君たちやさしーね! 愛さん、ちょっと感動しちゃったよ! あ、アタシ、愛って言うんだけど、君たちは?」

侑「私は侑って言います。この子は相棒のイーブイ」
 「ブイ」

歩夢「歩夢です。肩に乗ってるのはアーボのサスケです」
 「シャボ」

愛「侑とイーブイ、それに歩夢とアーボのサスケだね! それと、そこに浮いてるのは……」


愛さんが、浮遊しているリナちゃんへと視線を向けると、


リナ『私はリナって言います』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


リナちゃんがそれに答えるように挨拶する。


愛「え……?」


すると、愛さんは驚いたような顔で固まってしまった。

……確かに突然喋り出したらびっくりするよね。


侑「あ、えっと、この子はロトム図鑑のリナちゃんって言うんです!」

愛「ロトム図鑑? ……あ、ああ、リナって言うのはロトムのニックネームなんだね」

リナ『そんな感じ』 || ╹ ◡ ╹ ||

愛「そっかそっか……あはは、愛さんちょっとびっくりしちゃったよ」

歩夢「最初は驚きますよね……。私も初対面のときは、浮いて喋ってることにびっくりしちゃって……」

愛「ああ、いやいや! ロトム図鑑だってことはなんとなく見たときからわかってたんだけどさ! 友達に同じ名前の子がいて、それに驚いちゃっただけなんだよね」

リナ『なるほど。でも、リナって名前の人、結構いると思う』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「まあ、そのとおりなんだけどね。ちょっと喋り方の雰囲気って言うのかな? それがその友達と似ててさ。ごめんね」

リナ『うぅん、気にしてない』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「それより……愛さんは、どうして雨の中こんな場所に?」

歩夢「愛さん、傘も持ってるみたいですし……」

愛「さん付けとかしなくていいよ! 敬語もなしでOK! その代わりアタシも、タメ語でいいかな? って、もう使っちゃってるんだけど……」

侑「あ、うん! 私は全然大丈夫だよ!」

歩夢「私も、平気だよ」

愛「サンキュー♪ ゆうゆ♪ 歩夢♪」

侑「ゆうゆ?」

愛「あだ名♪ こういうのある方が親近感湧くでしょ? ゆうゆってあだ名、なんか一発でピンと来ちゃったんだよね! いいかな?」

侑「うん! 全然構わないよ!」

愛「あんがと♪ それで愛さんがここで立ち往生してるわけだったよね。えっと実はね……」
232 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:24:01.41 ID:hVp6cgNM0

愛ちゃんが説明を始めようとした瞬間──カッ! と周囲が一瞬明るくなり、直後──ピシャァーーンッと激しい雷鳴が辺りに響き渡った。


歩夢「きゃぁっ!?」


私は大きな音に驚いて、咄嗟に侑ちゃんの腕にすがりついてしまう。


侑「お、おとと……大丈夫?」

歩夢「ご、ごめん……ちょっと、びっくりして」

侑「歩夢、昔から雷が苦手だったもんね」

歩夢「音が大きいから、近くで鳴るとびっくりしちゃうんだよね……」

侑「あはは、わかるよ。……えっと、それで愛ちゃん、話が途切れちゃったけど……」


侑ちゃんが話を続けるために視線を戻すと──先ほどまでそこに居たはずの愛ちゃんの姿が見えなかった。


侑「あ、あれ!? 愛ちゃんは……!?」

リナ『侑さん、歩夢さん、下』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「下……?」


リナちゃんに言われて、私たちが下の方に目を向けると──


愛「…………ち、ちょっと、不意打ちはダメだって……」


愛ちゃんは建物のすぐ傍にお腹を押さえる様にしたまま、軽く涙目になって蹲っていた。


侑「……もしかして、愛ちゃんがここで立ち往生してた理由って……雷……?」
 「ブイ?」





    🎀    🎀    🎀





愛「──愛さん大抵のモノは平気なんだけど……雷だけはダメなんだよね……」


愛ちゃんは相変わらずお腹を押さえたまま、軒下で肩を竦める。


リナ『愛さん、さっきからお腹押さえてる』 || ? ᇫ ? ||

愛「だっておへそを隠しておかないと、雷様におへそ盗られちゃうんだよ!?」

リナ『そうなの?』 || ? ᇫ ? ||


おへそが盗られるかはともかく、愛ちゃんは雷が苦手だから、ここで立ち往生していたらしい。


侑「でも、さっきまで雷雨になるような、雨じゃなかったはずなのに……」


侑ちゃんが空を仰ぎながら言っている間にも、雨雲がゴロゴロと音を立てている。
233 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:25:22.00 ID:hVp6cgNM0

愛「このドッグランには、ラクライってポケモンが生息しててねぇ……」

歩夢「ラクライ?」

リナ『ラクライ いなずまポケモン 高さ:0.6m 重さ:15.2kg
  空気の 摩擦で 電気を 発生させて 全身の 体毛に
  蓄えている。 体毛に 溜めた 電気を 使い 筋肉を
  刺激することで 爆発的な 瞬発力を 生み出す。』

歩夢「そのラクライが雷を落としてるの……?」

リナ『うぅん、ラクライにはそこまでのエネルギーを操る個体は少ないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「直接的な問題はラクライじゃなくて、その進化系なんだよ……」

侑「進化系って言うと……確か、ライボルトだっけ?」

リナ『ライボルト ほうでんポケモン 高さ:1.5m 重さ:40.2kg
  たてがみから 強い 電気を 発している。 空気中の 電気を
  たてがみに 集め 頭の 上に 雷雲を 作りだし 稲妻を
  落として 攻撃する。 雷と 同じ スピードで 駆けると 言う。』

愛「姿は滅多に見せないんだけど……群れのボスらしくってね。ラクライの群れがいる場所にはライボルトもいるみたいなんだよ」

リナ『確かにドッグランには広範囲でラクライが生息してる。走り回るポケモンだから、活動範囲も広めかも』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「うん……だから、ドッグランはちょっとでも雨が降ると、一帯が雷雨になりがちなんだよね」

侑「そうだったんだ……」


私たち、慣れるためになんて言ってたけど……雨のドッグランってもしかしてすっごく危ないんじゃ……。


リナ『でも、問題ないと思う』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「? どういうこと?」

リナ『ラクライやライボルトの特性は“ひらいしん”。大抵の雷は彼ら自身が吸い寄せるから、近寄らなければ雷に撃たれる可能性は低い。むしろ、雷を吸い寄せてくれる分、逆に安全とすら言える』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「でも、雷鳴とか稲光は……」

リナ『そこは我慢してもらうしかない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「うぅ……だよねぇ……」


リナちゃんの言葉を聞いて、私は思わず肩を落とす。


侑「……じゃあ、どうにか突っ切っちゃう方がいいのかな?」

愛「うん……アタシもコメコで待ち合わせしてる人がいるから、早めに戻りたいんだけどさ……」

リナ『じゃあ、我慢するしかない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

愛「いや、さすがに愛さんもいくら雷が苦手だからって言っても、音とか光が無理ーなんて我儘言うつもりはないよ! ラクライたちを避けられない理由があるんだよ」

侑「避けられない理由?」

愛「愛さんがここ──育て屋に来た理由と関係しててね……」


愛ちゃんはそう言いながら、腰からモンスターボールを外して放る。中から出てきたポケモンは──


 「エレエレ…」


頭に白い稲妻のような模様を付けた紫色の小さなポケモン。
234 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:27:00.24 ID:hVp6cgNM0

侑「初めて見るポケモンだ……」

歩夢「私も……」

リナ『エレズン あかごポケモン 高さ0.4m 重さ11.0kg
  体内の 毒袋に 溜めた 毒素を 皮膚から
  分泌。 毒素を 化学変化 させて 電気を 出す。
  電力は 弱いが 触ると ビリビリと 痺れる。』

侑「へー、エレズンって言うんだ」

愛「この子はつい昨日タマゴから孵ったばっかのエレズンなんだよね」

侑「育て屋さんで受け取ったタマゴから生まれた子ってこと?」

愛「そういうこと。エレズンも無事に“孵った”から、さっさとコメコに“帰った”ろうと思ったんだよね〜」

侑「ぷっ」

愛「そしたら、雨が降ってきて、ラクライたちの落雷で、サンザンダー! 思わず気分が暗〜い気分になってきて、泣いちゃいそうだよ……Cryだけに……」

侑「あ、あはははは、あはははははっ!!」
 「ブイ…?」

愛「おお! ゆうゆ、めっちゃバカウケじゃん♪」

侑「だ、だって……! サンダーでサンザンダー……ぷっ、あははははははっ! 暗い気分でCry、く、くくくっ、あはははははっ!」
 「ブイ…」

リナ『すごいウケてる』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「侑ちゃん、笑いのレベルが赤ちゃんだから……」


侑ちゃん、昔からすごい笑い屋というか……テレビでもお笑いどころか、ちょっとしたギャグとかダジャレでも、大笑いして過呼吸気味になっちゃうんだよね……。


リナ『イーブイが軽く引いてる』 || ╹ᇫ╹ ||

 「ブイ…」

歩夢「イーブイ、侑ちゃんしばらく笑い続けるから、こっちにおいで」
 「ブイ…」


イーブイは笑い転げる侑ちゃんのもとから離れて、私の頭の上までぴょんぴょんと上ってくる。


愛「愛さんのダジャレでこんな風に笑ってくれる人、久しぶりに会ったよ! 嬉しいから、渾身のダジャレ100連発、見せちゃおっかなぁ〜?」

侑「あははは、あははははっ、や、やめてっ、これ以上笑ったら、し、死んじゃうっ」

リナ『正直、私も嫌いじゃない』 || ╹ ◡ ╹ ||

愛「お? いいねぇ、じゃあダジャレ100連発スタート──」


──ピシャァーーーンッ、ゴロゴロゴロゴロ!!!


愛「ひゃあぁぁぁぁっ!!?」

歩夢「きゃっ!?」


大きな雷の音で、再び愛ちゃんがおへそを隠して蹲る。


侑「はぁ、はぁ……わ、笑い死ぬかと思った……」

愛「あ、愛さんの渾身のギャグが、雷に中断された……サンザンダー」

侑「ぷっ、く、くくく……」

歩夢「それ、さっきと同じダジャレ……」
 「ブイ…」


私は溜め息を吐く。侑ちゃんがダジャレで笑い転げているせいで、話が全然進まない……。
235 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:28:37.05 ID:hVp6cgNM0

歩夢「それで、愛ちゃん……そのエレズンがどうしたの?」

愛「え? ああ、そうだった。えっとね……実はこのエレズンの特性が問題なんだ」

侑「特性……? エレズンの特性って……」

リナ『そのエレズンの特性は“せいでんき”。……なるほど、理解した』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「どういうこと?」

愛「特性“せいでんき”はね……野生のでんきタイプのポケモンを引き寄せちゃうんだよ……」

リナ『ボールに入れていても常時発動する……確かに、これじゃラクライが寄ってきちゃう』 || ╹ᇫ╹ ||


確かに雷雲の原因が近寄ってきちゃうのは確かに困るかも……。


愛「エレズンの周りには近寄らないように言ってやりたいよ……ラクライたち! “Say! 出禁!”なんつって!」

侑「あ、あはははははははっ!! “せいでんき”と“Say! 出禁!” あはははははははっ」

愛「“せいでんき”も普段は役に立つ、“特製”の“特性”なんだけどね〜」

侑「あはははははははっ! やめ、やめてっ! お、お腹痛い! し、死んじゃうっ!」


どうやら愛ちゃんはよほどのダジャレ好きらしい。

それはいいんだけど、話の腰を折らないで欲しい……侑ちゃんとの相性が悪い──いや、ある意味良すぎる──せいか、話がすぐ脱線してしまう。


歩夢「と、とにかく、愛ちゃんはコメコに行きたいんだよね!?」

愛「あ、うん! 実はコメコで約束してる人が居てね。明日までには戻りたいんだけど……それで途方に暮れちゃってさぁ。明日までに雨が止む保証もないし」

侑「はぁ……はぁ……ふぅ……な、なるほど……」

愛「……まあ、こうなったら、寄ってくるラクライを全部撃退しながら、進むしかないかもね……」

歩夢「雷雨が止むまで待つのはダメなの……? 約束してる人も説明すればわかってくれるんじゃ……」

愛「なかなか、そういうわけにもいかない相手なんだよねぇ……」


言いながら、愛ちゃんは自分の首に付けられたチョーカーをさすりながら肩を竦める。


愛「……ま、ここでいつまでもうだうだしてても仕方ないか! 女は度胸! 覚悟を決めて、突っ込んでくるよ!」

侑「待って、愛ちゃん!」

愛「?」

侑「それなら、一緒に行こうよ! 一人で行くよりも、みんなで行く方が少しは安全だと思うし!」


侑ちゃんの言葉に愛ちゃんは目を丸くする。


愛「いいの?」

侑「どっちにしろ、私たちもコメコシティに向かおうとしてる。目的は一緒だし……何より、困ってるのに放っておけないよ!」

愛「ゆうゆ……!」

歩夢「わ、私も……! バトルはそんなに得意じゃないけど、何か手伝えることがあれば……!」

リナ『「旅は道連れ、世は情け」って言う。私もお手伝いする』 || ╹ ◡ ╹ ||

愛「歩夢にリナちゃんも……! わかった! 一緒に行こう!」


愛ちゃんは嬉しそうに頷いて、


愛「みんなで一緒に“ドッグラン”を“グッドラン”で駆け抜けようー!! なんつって!」


渾身のダジャレで、出発の音頭を取るのだった。
236 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:29:46.54 ID:hVp6cgNM0

侑「ぷっ、あ、あははははは!! も、もうやめ、やめてぇ! あははははははは!!」

歩夢「……大丈夫かな?」
 「ブイ…」





    🎀    🎀    🎀





──ドッグランを歩くこと数分。

傘をしまい、レインコートを着込んで、ドッグランを前進中。


歩夢「……だんだん、ゴロゴロって音……大きくなってきてるね」

侑「うん。それだけ雷雲に近付いてるってことだと思う」

リナ『恐らく、もう少しでラクライの群れの活動圏内に入ると思う。気を付けて』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「それじゃ、作戦のおさらいだよ」


先頭を歩いていた愛ちゃんが、レインコートのフードを目深に被り直しながら、最後の確認を促してくる。


愛「襲い掛かってくるラクライは迎撃するけど、基本的には前進を優先すること! いちいち全部相手するには数が多すぎるからね」

侑「うん、わかった」

愛「“キリ”がないから、“キリキリ”進むこと! なんつって!」

侑「ぷふっ……く、くくく……」
 「ブイ…」

歩夢「愛ちゃん、話を進めてもらっていい?」

愛「OKOK! 先頭は愛さんが切り開くから、後ろからサポートお願いね」

侑「く、くく……はぁ……。……え、えっと、私はしんがりを勤めるね」

愛「お願いね、ゆうゆ! 最後に戦力の確認!」


愛ちゃんがモンスターボールから手持ちを出す。


 「ルリ…」「ソーナノッ!!」「シャンシャン♪」

愛「愛さんの手持ちの、ルリリ、ソーナノ、リーシャンだよ♪ エレズンは生まれたばっかだから、今回は戦闘には出さない方向で!」

リナ『エレズンはラクライたちから狙われるだろうし、それが無難』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

愛「ゆうゆと歩夢のポケモンは、イーブイとサスケ以外にもいるのかな?」

侑「うん。出ておいで、ワシボン」
 「──ワッシャッ」

歩夢「ヒバニー、出てきて」
 「──バニバニッ!!」

愛「ワシボンにヒバニーだね」

 「バニー…」
歩夢「でも、この雨だから……ヒバニーあんまり元気がなくて……」

愛「ほのおタイプだから、そこは仕方ないね……ワシボンもでんきタイプのラクライ相手に無理はさせられないね」

 「ワッシャァッ!!!」
侑「うん。でも、ワシボン自身はやる気まんまんみたい」

愛「あはは、頼もしいね♪」
237 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:30:54.17 ID:hVp6cgNM0

最後の確認もそこそこに──


 「ラクラ…」「ライ?」「ラクライ…」


ラクライの群れが前方に見えてくる。

ラクライたちは、ボールに入ったままのエレズンの“せいでんき”に気付き始めているのか、こちらに向かってちらちらと視線を送りながら、うろうろしている。


リナ『戦闘に入ったら、ラクライが押し寄せてくると思う』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「後戻りは出来ない。とにかく、みんな前進あるのみ! OK?」

歩夢「う、うん!」

侑「行こう!」

愛「よし……レディーゴー!!」


私たちは、愛ちゃんを先頭に、ラクライたちの群れに向かって走り出した。




 「…ニャァ」





    🎀    🎀    🎀





愛「道を作るよ!! リーシャン、“ハイパーボイス”!!」
 「リリリリリリリリ!!!!!!」

 「ライ!!?」「ラクラァッ!!!」「ライィ!!?」


開幕、愛ちゃんのリーシャンが“ハイパーボイス”で前方に居たラクライたちの群れを吹き飛ばす。

ラクライたちが吹き飛んで出来た道の真ん中を駆け抜けると同時に──


 「ライィ!!!」「ラクラァッ!!!!」


早くも攻撃態勢に入ったラクライが左右から1匹ずつ、私に向かって飛び込んできた。


歩夢「!?」


どっちを倒せばいい!?

突然のことに、困惑する私。


侑「“スピードスター”!!」
 「ブイィィ!!!」

愛「“サイコショック”!!」
 「リシャーンッ!!」

 「ラィ!!?」「ギャゥッ!!!」

歩夢「!」


私が迷っている間に、侑ちゃんと愛ちゃんが前後からラクライを撃退する。
238 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:32:11.82 ID:hVp6cgNM0

侑「歩夢! 大丈夫!?」

歩夢「う、うん……!」

愛「これからさらに攻撃が激しくなるから、足止めないようにね!」

リナ『完全に群れの中に突入した。止まったら囲まれるから、一気に走り抜けよう!』 || ˋ ᨈ ˊ ||

歩夢「わ、わかった!」


──そう言っている間にも、


 「ガゥ!!!!」「ライライッ!!!」「ラクラァッッ」「ラィィ!!!!」


数匹が先頭の愛ちゃんに向かって飛び掛かってくる。


歩夢「あ、愛ちゃん!」

愛「道を開けろぉー!!! ルリリ!!」
 「ルリ!!」


愛ちゃんがルリリを手の平に乗せて、掲げると──ルリリは自分の尻尾をぶん、と振り回して、


 「ギャゥッ!!?」


“たたきつける”!

そして、その勢いを殺さぬまま、尻尾を高い位置でぶんぶんと回し始める。


愛「“ぶんまわす”!!」
 「ルーーリィーー!!!!」

 「ラィィッ!!!?」「ラクラゥ!!!?」「ラァァイッッ」


飛び掛かってきていたラクライが尻尾を叩きつけられて、どんどん撃ち落とされていく。


侑「愛ちゃん、すごい!!」

愛「へっへーん♪ 任せろ♪」
 「ルリッ!!」


そのとき、背後から──パチ、と音が聞こえた気がした。


歩夢「! 侑ちゃん!! 電撃来るかも!! 後ろから!!」

侑「! イーブイ! “スピードスター”!!」
 「ブィィ!!!」

 「ギャゥッ!!?」


ラクライの鳴き声と共に、火花の音が止む。攻撃が防げたと思うと共に──今度は愛ちゃんの前方に何匹か毛が逆立っているラクライが見えた。


歩夢「愛ちゃん! 前に3匹! “じゅうでん”してる子がいる!」

愛「!? どいつ!?」

歩夢「あの子とあの子とあの子!!」


一瞬、首だけこちらに振り向いた愛ちゃんに、指で指し示す。


愛「! マジじゃん! リーシャン、“サイコショック”! ルリリ、“バブルこうせん”!」
 「リシャーーーンッ」「ルリィーー!!!」

 「ギャゥ!!」「ギャァッ!!?」
239 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:33:17.04 ID:hVp6cgNM0

2匹を遠距離技で攻撃し、“じゅうでん”によるチャージ攻撃を阻止したものの、


 「ラァァァイィィィ!!!!」


残った1匹のラクライが“でんげきは”を愛ちゃんに向かって放ってくる。


侑「愛ちゃん!」

愛「任せなって! ソーナノ! “ミラーコート”!」
 「ソーーーナノッ!!!」


愛ちゃんの頭の上に乗っていたソーナノが、飛んできた“でんげきは”をそっくりそのまま跳ね返し、


 「ラクラァッ!!?」


ラクライを返り討ちにする。


歩夢「愛ちゃん、すごい!」

愛「それほどでもないって♪ 歩夢こそ、すごいじゃん! よくラクライたちの“じゅうでん”に気付いたね!」

歩夢「なんだか、毛が逆立ってる子がいたから……。……!」


受け答えしている間にも、肌がピリピリとする感じがして、前方に目をやると──ラクライたちが密集し始めているのが視界に入ってくる。

集まってお互いの体毛を擦り合わせてる……?


歩夢「ま、また電撃してきそう!」

リナ『前方!? 密集した、ラクライたちから高エネルギー!?』 || ? ᆷ ! ||


次の瞬間、周囲一帯に網目のように、稲妻が走り──ゴロゴロ、ピシャァーーンッと空気を轟かせる。

一帯のラクライが一気に“10まんボルト”で攻撃をしてきた。


愛「わぁ!? “10まんボルト”が“じゅうまん”してる!?」

侑「ぶふっ!」

歩夢「愛ちゃん、真剣に戦ってぇ!!」

愛「わかってるって!! ソーナノ! “ミラーコート”!!」
 「ソーナノッ!!!」


咄嗟にソーナノが反射するものの、相手の手数が多すぎる。


歩夢「さ、サスケ、“たくわえる”から“あなをほる”!」
 「シャボッ!!!」


足りない防御の手数を補うために、サスケがエネルギーを“たくわえる”と共に地面に潜る。そして、地中を経由して、愛ちゃんの前に体をくねらせながら、躍り出し──


 「シャーーーーボッ!!!!」


電撃を身をもって受け止める。


愛「ちょ!? サスケ、大丈夫なの!?」


“たくわえる”で特防が上がっているとは言え、確かにダメージはある。でも──


 「シャーーーボッ!!!!」


電撃を受けたサスケは即座に体の表面の電撃を受けて痺れた皮を“だっぴ”して破り捨てる。
240 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:34:22.69 ID:hVp6cgNM0

愛「やるじゃん、サスケ!!」

 「シャーーボッ!!!」

愛「お陰で距離は十分詰められた! リーシャン! もう一発いくよ!」
 「リシャァーー!!!」

歩夢「サスケ! 戻っておいで!」

 「シャボッ!!!」


リーシャンの攻撃態勢を確認して、すぐさま声を掛けてを呼び戻すと、サスケは地中に潜って私の方に戻ってくる。

──これで、リーシャンの攻撃には巻き込まれない……。と、思った矢先、


侑「歩夢!! 右っ!!」

歩夢「え!?」


サスケに意識が向いていて、反応が遅れた。

咄嗟に右を向くと眼前に迫るラクライが“ワイルドボルト”を身に纏って飛び込んできている。

間に合わない──そう思った瞬間、


 「バニ、バニッ!!!」

 「ギャゥッ!!?」


ヒバニーが飛び上がり、“にどげり”でラクライを撃退してくれる。


歩夢「! ヒバニー!」
 「バニッ!!」

侑「あ、焦った……」

歩夢「ごめん、ありがとう! ヒバニー! 侑ちゃん!」
 「バニッ!!」

侑「うぅん、歩夢が無事でよかったよ……」


安堵する侑ちゃん、そして──


愛「“ハイパーボイス”!!」
 「リシャァァァーーー!!!!!」


リーシャンが一気に前方のラクライたちを蹴散らす。


リナ『みんな、そろそろラクライたちの縄張りを抜ける! あともう少し、頑張って!』 || >ᆷ< ||

愛「よっしゃぁ! “ラストスパート”! このまま、“ラストスパっと”終わらせるぞ! なんつって!」

侑「く、ぷくく……!!」

歩夢「ダジャレを挟まないでぇ!!」


全員でラクライを迎撃しながら、前進を続ける。

すると──視界の先にラクライが目に見えて少ない平原が見えてくる。


侑「! 縄張りから抜ける!」

愛「よっしゃ!! 最後のダッシュだよ!」

歩夢「うん!」


みんなで一気に駆け抜けるため、最後の加速をする。

そのとき突然、急に全身の毛が逆立つのを感じた。
241 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:35:24.32 ID:hVp6cgNM0

歩夢「!?」

侑「歩夢、どうし──」


──バチンッ!


侑「──ガッ……!?」


私が悪寒を感じた直後、火花のはじける音と共に、背後から短く聞こえる侑ちゃんの声。


歩夢「侑ちゃん!?」


思わず立ち止まって振り返る。


侑「……っ゛……」
 「ブ、ブイッ」「ワシャァ…」


すると、転んだ侑ちゃんと、それを心配するように身を寄せるイーブイとワシボンの姿が目に入る。


歩夢「侑ちゃん!! 立って!!」

侑「……っ……ぅ……」


侑ちゃんが顔を上げて、私の方に視線を送ってくるけど、侑ちゃんは全然起き上がろうとしない。

もしかして──


歩夢「電撃で痺れてる……!?」


私は侑ちゃんを助けるために、転んだ侑ちゃんに駆け寄ろうとして、走り出し──た瞬間、バチバチバチ!! と大きな音が周囲を劈く。


歩夢「きゃぁっ!!?」


轟音に怯み、頭を抱えてしゃがみ込む。

──音に驚いてる場合じゃない……!!

勇気を振り絞ってすぐさま顔を上げると──


 「ラァァッ!!!!」「クライッ!!!!」


私の方に向かって、飛び込んでくる2匹のラクライの姿。


歩夢「……あ」


──バチバチと激しい稲妻を全身に纏いながら飛び込んでくる。

咄嗟に身を逃がすように、後ろに下がったら、足がもつれてそのまま尻餅をつく。

すぐ立ち上がって逃げなきゃと思うのに、身体がうまく言うことを聞かない。

その間にもどんどん迫るラクライ。そのとき、何故か、ラクライたちの動きがやたらスローモーションで飛び込んでくるように見えた。

なのに、身体は動かなかった。動けなかった。

ゆっくりと迫るラクライ。あと数センチ、全身の毛が静電気で逆立ち、“スパーク”の熱で肌に熱さを感じた。

──怖くて、目を瞑った。
242 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:36:17.29 ID:hVp6cgNM0

愛「“しねんのずつき”!! “すてみタックル”!!」
 「リーーーシャンッ!!!!」「ルーーーリィッ!!!!」

 「ギャウッ!!!!?」「ギャンッ!!!!!」

愛「歩夢!? 大丈夫!?」

歩夢「……え」


ゆっくり目を開けると──先ほどのラクライたちは、リーシャンとルリリの攻撃で戦闘不能になっていた。


歩夢「あ……うん」


愛ちゃんが助けてくれた。そう理解して、すぐに立ち上がろうとしたけど、


歩夢「あ、あれ……」


脚が腕が、いや……全身がガタガタと震えて、うまく立ち上がれなかった。


愛「……無理しないで、歩夢はここで待ってて。ソーナノ、ついててあげて」
 「ソーナノッ!!」

歩夢「……そ、そうだ……侑ちゃん……」


震えながら、顔を上げて侑ちゃんの方を見ると──


侑「イーブイ、“とっしん”……! ワシボン、“ブレイククロー”……!」
 「ブイッ!!!」「ワシャッ!!!」


侑ちゃんは、ふらつきながらも立ち上がって、ラクライたちを迎撃しているところだった。


愛「アタシはゆうゆをフォローしてくる! もうラクライの縄張りはほぼ抜けてるから、動けそうだったら歩夢は先に行って!」

歩夢「愛……ちゃん……わた……し……」

愛「もう大丈夫だから、あとはアタシたちに任せて♪」


愛ちゃんはニカっと笑って、侑ちゃんのもとへと走って行った。


歩夢「…………私」


──『……侑ちゃんに何かあったら、侑ちゃんのこと、守るね。えへへ……』


歩夢「…………私……約束……したのに……」
 「バニ…」「シャボ…」

歩夢「……私……」





    🎹    🎹    🎹





 「ブイ!!!」「ワシャァッ!!!」


飛び掛かってくるラクライたちを、イーブイとワシボンの攻撃でひたすら捌く。


侑「はぁ……! はぁ……!」
243 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:38:53.90 ID:hVp6cgNM0

数が多い……! どうにか、脱出したいけど……──まだ、足が痺れていて、満足に走れる自信がない。

電撃を受けたのは一瞬だった。足に軽い“ほうでん”を受けた程度だと思う。

それでも、私の足を止めるには十分すぎた。


 「ラィ!!!」「クラァィ!!!!」「ラクラァ!!!!」


縄張りに侵入してきた外敵を許すまいと、次から次へと攻撃してくるラクライたち。

このままじゃ、ジリ貧……!


愛「──ルリリ! “ぶんまわす”!! リーシャン!! “さわぐ”!!」
 「ルーーリィ!!!」「リシャァァァァァ!!!!!」

 「ガゥッ!!!」「キャゥンッ!!?」「ラクラァッ!!!!」

侑「! 愛ちゃん!」

愛「ゆうゆ! 加勢に来たよ!」

侑「ありがとう……! 足に電撃を受けちゃって、走れなくて……」

愛「わかった! 時間を稼ぐから、先に行って!」

侑「うん……! ありがとう……!」


痺れる足を引き摺りながら、コメコ方面へと、脱出を図る。


愛「さぁ、リーシャン!! 存分に暴れていーからね!」
 「シャァァァァァァン!!!!!!」


ラクライたちの中心で、“さわぐ”リーシャン。

しばらくの間、騒ぎ続けて、周囲を音で攻撃し続ける技だ。

あの技が切れる前に、縄張りの外まで逃げてしまいたい。

そう思いながら、足を引き摺っていた──そのとき、


 「──アォォォーーーーーーーン!!!!」


辺り一帯に響き渡る、ポケモンの鳴き声。


侑「“とおぼえ”!?」
 「ブイ…」


そして、その“とおぼえ”と同時に──ラクライたちが一気にリーシャンの周囲に群がってきた。


愛「わぁ!? な、何!?」


愛ちゃんが驚きの声をあげたのとほぼ同時に──ピシャァーーーーンッ!!!! と轟音を立てながら、リーシャンに向かって雷が迸る。


愛「ちょっ……!! リーシャンッ!!!」
 「リー…シャ…」

愛「戻って!!」


“かみなり”で黒焦げになったリーシャンを、愛ちゃんがすかさずボールに戻す。

そして、先ほどまでリーシャンが騒いでいたバトルフィールドの先から──のっしのっしと毅然とした態度で歩いてくるポケモンの姿。

青い体に、黄色の鬣。あのポケモンは……!
244 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:39:54.42 ID:hVp6cgNM0

侑「ライ、ボルト……!」

愛「……どうやら、ボスのお出ましみたいだね」

 「ライボ…」


こちらを睨みつけてくるライボルト。そして、それに呼応するように、周囲のラクライたちも一斉にこちらに視線を向けてくる。


愛「ゆうゆ、走れる?」

侑「……少しなら。でも、逃げ切れるかな……」

リナ『ライボルトは“かみなり”を自在に操れる……逃げるのは厳しいと思う』 || > _ <𝅝||

侑「だってさ」

愛「なら、やるっきゃないね……! ルリリ!!」
 「ルリッ!!!」


ルリリが尻尾を掲げて、ぶんぶんと振り回し始める。

得意の“ぶんまわす”の態勢だ。


侑「愛ちゃん、周りのラクライ、お願いできる? 私はあんまり範囲攻撃が出来ないから……」

愛「OK. わかった。ライボルト、一人で行ける?」

侑「やるしかないかな」

愛「あはは、違いないね♪ 可能な限り早く蹴散らして、サポートするよ! ルリリ! GO!」
 「ルーーーリィ!!!!」


ルリリの尻尾が一気に周囲のラクライを蹴散らし始める。


侑「行くよ! イーブイ!」
 「ブイッ!!!」


ワシボンは相性が悪すぎるから、一旦待機。イーブイが戦闘態勢に入る。


侑「“でんこうせっか”!!」
 「ブイッ!!!」


ライボルトに向かってイーブイが飛び出す。

イーブイの最速の攻撃で一気に肉薄して、速攻を仕掛ける──つもりだったのに、


 「ライボ…」

愛「っ!?」


気付けば、ライボルトは愛ちゃんに肉薄していた。


侑「え!?」

愛「速すぎ……!!」


目にも止まらぬとは、まさにこのことだった。

──バチバチと音を立てながら、ライボルトが愛ちゃんに飛び掛かる。


侑「愛ちゃん!!」

愛「くぉんのっ!!」


愛ちゃんは咄嗟に身を屈めて、飛び掛かってくるライボルトの下をすり抜ける。

だけど、それと同時に──
245 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:40:57.84 ID:hVp6cgNM0

 「ラァクッ!!!!」「ラァィッ!!!!!」


ラクライたちが愛ちゃんの足元に群がってくる。


愛「っ!? や、やばっ!!」


あのラクライたちは──ライボルトのための“ひらいしん”だ。

愛ちゃんが咄嗟に腰のボールに手を掛けたのが見えたけど──もうその瞬間には天の雷雲が眩く光っていた。


侑「愛ちゃん!!」

愛「っ……!」


導雷針に導かれるように、愛ちゃんの頭上に稲妻が走ったその瞬間──


愛「え?」

侑「!?」


稲妻が──愛ちゃんを避けた。

正確には、当たる直前でカクッと、愛ちゃんを避けるように稲妻が方向転換をした。

そして、稲妻が曲がった、ちょうどその場所には──


 「──ニャァ」


小さな灰色のネコのようなポケモンが浮遊していた。


リナ『ニャスパー!?』 || ? ᆷ ! ||

愛「……君……」
 「ニャァ」

侑「ニャスパーが……愛ちゃんを、助けた……? なんで……?」


どうやら、急に現れたニャスパーがサイコパワーで“かみなり”の軌道を捻じ曲げたらしい。

なんで、ニャスパーはそんなことを……いや、それ以前にニャスパーがなんでこんなところに……。


 「ライボッ!!!」

侑「……!」


ライボルトの声で我に返る。 いや、考えるのは後だ……!

ライボルトはもうすでに次の“かみなり”の姿勢に入っている。


侑「相殺しきれるかわからないけど……!! やるしかない!! イーブイ!!」
 「ブイッ!!!」


今の状況はひたすらライボルトにとって有利な環境、だけど……!


侑「どんな環境にでも適応するのが、イーブイの能力!」
 「ブイッ!!」

 「ライボッ!!!」


──カッ! と天空が光ったのと同時に、その根元に向かって、


侑「イーブイ!! “まねっこ”!!」
 「ブイッ!!!」
246 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:43:41.17 ID:hVp6cgNM0

イーブイが全身の体毛を逆立てながら、空から“かみなり”を呼び込む。“まねっこ”は直前に見た技と全く同じ技を使うことが出来る技だ。

──二つの“かみなり”が同時に轟音をあげながら、上空で衝突する。

強烈な閃光を発しながら、空気を一瞬で熱し、爆縮しながら雷轟が響き渡る。


愛「うわっ!?」

侑「っ……!!」


激しいエネルギーがぶつかり合い、発する光と音と熱が激しい衝撃波を発生させる。


 「ラァクッ!!!?」「クラァァィッ!!!?」「ラクラァッ!!!」


衝撃でラクライたちが吹き飛ばされる中、揺れる空気が落ち着いたと思ったら、


 「ライボッ…」


再びチャージ態勢に入るライボルト、今度は自身の体に帯電を始める。

恐らく、今度は“かみなり”ではなく、自身から放つ電撃技によって、こっちを確実に狙ってくるつもりだ。

だけど……“まねっこ”で出来るのは直前に見た技だけ。

“かみなり”はそこらへんにいるラクライに引き寄せられてしまうから相殺には使えても能動的な攻撃として真似することは難しい。

どうする……! どうする……!?

激しく思考しながら、イーブイに目を向けると──イーブイの体も、何故かバチバチと帯電を始めていた。


侑「イーブイ!?」
 「ブイッ…!!!」

リナ『イーブイから、強いでんきエネルギーを検知!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「でんきエネルギー!? まさか……!?」


強力なでんきエネルギーが充満した、このフィールドに──イーブイが適応した……!?

つまり……!


侑「新しい、“相棒わざ”!?」

リナ『侑さん!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「うん! イーブイ!!」
 「ブイィィ!!!!」


──バチバチと音を立てながら、イーブイが激しく放電する。


 「ライボッ!!!」

 「ブイィッ!!!」


ライボルトとイーブイ、2匹の電撃が空中で激しくぶつかり合い──バヂバヂと音を立てながら──相殺した。


 「ライボッ…!!?」


毅然としていたライボルトだったが、ここで初めて動揺を見せた。

まさか、イーブイが自前の電撃を撃ってくるとは思ってなかったのかもしれない。

この隙を見逃すわけにはいかない。


侑「ワシボン!! 上空まで飛んで!!」
 「ワシャボッ!!!!」
247 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:44:46.25 ID:hVp6cgNM0

私の肩の上で待機していた、ワシボンを上空に送り出す。

ライボルトに隙がなかったせいで、いつ“かみなり”を落とされるかわからなかったから出来なかったけど、今この瞬間に狙うしかない……!!


愛「ゆうゆ!? 何するつもり!?」

侑「一瞬だけ!! 晴れさせる!!」


ただ、一点。それだけでいい……!

ワシボンは一気にライボルトの直上の空に飛翔し、


侑「ワシボンッ!! “にほんばれ”!!」
 「ワシャァッ!!!!」


雲に一番近い場所で、ワシボンが羽ばたき、ライボルトの真上の雲だけを一瞬吹きとばす。

すると──つよい日差しがライボルトの直上から地上に向かって降り注いでくる。


 「ライボッ!!?」

侑「雨のせいで、半減してた炎も──この日差しの下なら最大火力だよ!!」
 「ブイブイブイブイッ!!!!!」


全身に炎を纏ったイーブイが、ライボルトに向かって走り出す。


侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
 「ブーーーイッ!!!!!」

 「ライボッ!!!?」


晴れのパワーで強化された、“めらめらバーン”がライボルトに炸裂する。


 「ラ、ライボォッ…!!」


“やけど”を負いながら、地面を転がるライボルト。


リナ『侑さん!! 無力化させるなら、捕獲しよう!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「うん! いっけぇ、モンスターボール!!」


私はモンスターボールを放り投げた。

真っ直ぐ飛んでいくボールはライボルトにぶつかり──パシュンと音を立てながらボール内部に吸い込む。

──カツーンカツーンカツン。音を立てながら地面に落ちたボールは一揺れ、二揺れ、三揺れしたのち──大人しくなった。


侑「……ライボルト、捕獲完了……!」


そして、それと同時に──


 「ラク…」「ライィ…!!」「ラクラァ…!!」


ボスの敗北を悟ったラクライたちが、逃走を始めた。


侑「……か、勝ったぁ……」

リナ『侑さん、すごい!』 || > ◡ < ||

侑「あはは……ギリギリだったけどね」

愛「いやいや、マジですごかったよ! ゆうゆ!」

侑「わわっ!?」
248 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:45:43.23 ID:hVp6cgNM0

愛ちゃんが抱き着いてきて、思わず尻餅をつく。


愛「あの土壇場でよくあんな作戦ひらめいたね!」

侑「さっき歩夢が言ってたとおり、ヒバニーと同じでイーブイも主力のほのお技が雨で半減しちゃってる状態だったから……一瞬だけでも、イーブイの火力を最大まで引き出すには、雨雲を晴れさせるしかなかったからね」
 「ワシャボッ」

侑「おかえり。ありがとうワシボン。うまく行ってよかった」
 「ワシャッ」


肩にとまったワシボンを撫でながら労う。そして、


 「ブイッ」


ライボルトの入ったボールを咥えたイーブイが私のもとに戻ってくる。


侑「イーブイ、ありがとう。新しい“相棒わざ”のお陰で、また助けられたよ」
 「ブイッ!!」

リナ『さっきの技は“びりびりエレキ”って技だよ』 || > ◡ < ||

侑「“びりびりエレキ”……この調子でどんどん新しい“相棒わざ”も増えていくのかな?」
 「ブイ」

リナ『いろんな環境の場所に行けば、増えていくかもしれない』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「だってさ、イーブイ」
 「ブイ?」


……そういえば、イーブイの新しい技にも助けられたけど……。


侑「ニャスパーは……」

愛「……それが、もうどっか行っちゃったんだよね」

侑「え……?」


確かに、愛ちゃんの言うとおり、周囲を見渡しても、ニャスパーの姿はもうすでになかった。


侑「なんだったんだろう……」

愛「とりあえず今は助かったことを喜ぼうよ♪」

侑「まあ、それもそうだね……」


どうにか、ドッグランは無事に抜けられそうなわけだし……。


侑「……そうだ、歩夢は……!?」

愛「……歩夢なら、先に行ってるはずだよ」

侑「そ、そっか……すぐに迎えに行ってあげなきゃ!」


きっと、一人で不安だろうし……!

私が勢いよくその場から立ち上がると──視界がグラっと傾き始めた。


侑「あれ……?」


そのまま、景色はどんどん傾いて行き──最後には完全に横向きになった。


 「──ゆうゆ!?」『──侑さん!?』


愛ちゃんとリナちゃんの声が、なんだか遠くに聞こえるとぼんやり思いながら──私の視界はゆっくりと暗闇に飲み込まれていくのだった。



249 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:47:58.35 ID:hVp6cgNM0

    🎀    🎀    🎀





──コメコシティ、ポケモンセンター。


歩夢「…………」

侑「…………すぅ…………すぅ…………」
 「ブイ…」「ワシャ…」

歩夢「…………」
 「シャボ」「バニー…」


薄暗い部屋の中、静かに寝息を立てる侑ちゃんの傍らに座って、ただ黙っていた。

聞こえるのは侑ちゃんの寝息と、ときおり心配そうに鳴き声をあげるポケモンたちの声だけ。


歩夢「…………」


──ガチャ。薄暗い部屋のドアが開いて、廊下から少しだけ光が伸びてくる。

私はその光源に向かって、ゆっくりと顔を上げる。


愛「歩夢、ゆうゆ眠ってるだけだって先生が言ってたよ」

歩夢「……」

愛「少しだけど、電撃を浴びちゃったからね……。戦闘が終わって気が抜けた拍子に、そのときのダメージと疲労で気を失っちゃったみたいだね。でも、大きな怪我をしてたわけじゃないし、明日になれば目を覚ますだろうって」

歩夢「……」


愛ちゃんの言葉に多少の安心こそしたものの、私の心中は穏やかじゃなかった。

言葉が出てこないまま、私は再び眠ったままの侑ちゃんに視線を落とす。


侑「…………すぅ…………すぅ…………」

歩夢「……」

愛「歩夢……。みんな無事だったんだからさ、よかったじゃん」

歩夢「…………」

愛「トラブルはあったけど、全員無事にコメコまで来られた、それで──」

歩夢「私……約束、したの……」

愛「え?」

歩夢「侑ちゃんになにかあったら……私が、守る……って……」

愛「……」


なのに、私は──


歩夢「私……侑ちゃんに、守られてばっかりだ……」


研究所での騒動のときも、ゴルバットの捕獲のときも、カーテンクリフでの落石のときも。

真っ先に侑ちゃんは飛び出して、私や私のポケモンたちを守ってくれたのに。

私は──


歩夢「……私……ラクライが飛び掛かって来たとき……怖くて、動けなかった……」


侑ちゃんだったら、自分の危険を顧みずに、私を助けてくれたのに。
250 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:48:56.22 ID:hVp6cgNM0

歩夢「私は……侑ちゃんを、守ってあげられなかった……」

愛「…………」

歩夢「……私……」

愛「…………」

歩夢「…………ごめん。こんな話されても、困るよね……あはは……」

愛「もし……」

歩夢「……?」

愛「もし、歩夢が本当にゆうゆを守りたいって本気で思ってるなら……強くなるしかないよ」

歩夢「……」

愛「戦うのは、怖い?」

歩夢「…………」


私は愛ちゃんの言葉に、控えめに首を縦に振った。

戦うのは、怖い。


愛「傷つくの傷つけるのも、嫌?」


その質問にも、頷く。


愛「……そっか。……それが、悪いことだとは思わない。だけどね、力がなかったら……弱いままだったら、何も守れないよ」

歩夢「……」

愛「守りたいなら強くなりな、歩夢。強くないと……大切なモノが、自分の手の平から全部零れていっちゃうから……」


愛ちゃんはそう言いながら、遠い目をしていた。何かに想いを馳せるかのように、何かを思い出すかのように。


愛「ゆうゆが目を覚ますまで待ちたかったけど……愛さん、約束があるからもう行くね。ゆうゆが目を覚ましたら、よろしく伝えておいて」

歩夢「……うん」

愛「大丈夫。歩夢には、強くなれる素質はあるから」

歩夢「……うん、ありがとう」


それが愛ちゃんの優しさで、慰めの言葉だとわかっていても、少しだけ救われた気分だった。
251 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:49:42.44 ID:hVp6cgNM0

愛「それじゃ、またどこかで」


愛ちゃんが部屋を後にして……再び、部屋が薄暗い闇に包まれる。


侑「…………すぅ…………すぅ…………」

歩夢「……私、強く……ならなきゃ……」


穏やかに寝息を立てる侑ちゃんを見ながら、そう口にすると──何故だか、ポロポロと涙が溢れてきた。


 「ブイ…」「ワシャ…」

歩夢「…………強く……っ……なり、たい……っ……」
 「シャボ…」「バニ…」


侑ちゃんを起こさないように、声を押し殺すけど──悔しくて、情けなくて、そして……こんな自分が本当に強くなれるのか不安で、そんな風に思う自分がさらに情けなく思えて、涙が止まらなかった。


歩夢「…………ぅ……っ…………くっ……ぅ…………っ…………」


私はしばらくの間、ずっと声を押し殺したまま、泣き続けていた。

穏やかな顔で眠る侑ちゃんの傍らで──


252 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 11:50:21.13 ID:hVp6cgNM0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___●○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
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 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.24 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.20 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.26 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:39匹 捕まえた数:3匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.15 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.14 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:67匹 捕まえた数:10匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



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