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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」
- 253 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 20:42:39.99 ID:hVp6cgNM0
-
■Intermission👏
ゆうゆの寝ている部屋を後にして、ロビーに行くと、
リナ『あ。愛さん』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんがふわふわと浮いていた。
愛「や、ここに居たんだね」
リナ『……今の歩夢さん、そっとしておいた方がいいと思ったから』 || 𝅝• _ • ||
愛「うん、その方がいいと思うよ」
リナ『愛さんはもう行くの?』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「約束があるからね」
リナ『そっか。……最後に聞きたいことがあるんだけど……いい?』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「何かな?」
リナ『なんで、“そんなもの”を付けてるの?』 || ╹ᇫ╹ ||
“そんなもの”。リナちゃんの視線は──私の首に巻かれたチョーカーに向けられていた。
愛「……このチョーカー、似合ってないかな?」
リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||
愛「…………」
リナ『言えない事情があるなら、これ以上追及はしない』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「そっか。質問はそれだけ?」
リナ『もう一つ』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「何?」
リナ『何で、あんな場所で待ってたの?』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「……。理由は説明したと思うけど……」
リナ『愛さんの強さなら……一人でも問題なかった気がする』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「あはは、それは買いかぶりすぎだよ。ゆうゆたちがいなかったら、愛さんここまで来れなかったって」
リナ『……そっか。じゃあ、質問はこれだけ』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
愛「そう? それじゃ、もう行くね」
リナ『うん、ごめんなさい。変なこと聞いて』 || ╹ᇫ╹ ||
愛「いいよ。それじゃ、二人によろしくね」
リナ『うん、伝えておく』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんに手を振りながら、私はポケモンセンターを後にする。
街灯の少ないコメコシティの夜道を歩きながら、考える。
愛「リナちゃん……ね」
名前といい、あの妙な鋭さ、物言い。思い出してしまう。
そして、
愛「あのニャスパー……」
- 254 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/09(水) 20:43:13.01 ID:hVp6cgNM0
-
私を助けたとき、ニャスパーと一瞬だけ、目が逢った。
あのニャスパー……。
愛「……いや、まさか」
そんなことは、ありえない。
これは、偶然だ。
こんな偶然で、アタシはブレちゃいけない。
アタシはもう……。とっくの昔に、覚悟を決めているのだから。
………………
…………
……
👏
- 255 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:24:31.83 ID:IGCv6YWI0
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■Chapter013 『農業の町コメコシティ』 【SIDE Yu】
侑「……ん……ぅ……」
瞼の裏に朝日を感じて、意識がゆっくりと浮上していく。
ぼんやりと目を開けると──
「ブイ…」「ワシャ」
イーブイとワシボンが私の顔を覗き込んでいた。
侑「おはよう、イーブイ、ワシボン」
「ブイ…」「ワッシャ」
2匹は私に体を摺り寄せて甘えてくる。
イーブイもワシボンも「こんなに甘えんぼだったっけ?」と一瞬疑問に思ったけど……自分の最後の記憶を辿ってみたら、なんとなく理由がわかってきた。
侑「……私あの後、気失っちゃったんだ……」
そう独り言ちて、ゆっくりと上半身を起こすと──
歩夢「侑ちゃん、おはよう」
傍らに座っていた、歩夢がにこっと笑う。
侑「おはよう、歩夢……心配掛けちゃったみたいだね」
歩夢「うん……心配したよ」
侑「ごめん……」
歩夢「うぅん、侑ちゃんが無事ならいいよ。……身体の調子はどう?」
歩夢の言葉を受けて、軽く肩を回したり、上半身を捻ってみる。
侑「……特に問題なさそう」
歩夢「痛いところとか、動かしにくいところとかない?」
侑「うん、平気」
ベッドから這い出て、そのままぴょんぴょんと軽く跳ねてみる。
歩夢「ゆ、侑ちゃん!? いきなり、そんなに激しく動いたら……!」
侑「……本当に何も問題なさそう。むしろ、ぐっすり眠ったお陰かな、むしろ快調かも!」
実際に電撃が掠った足も、全く問題ないし。
歩夢「ならいいんだけど……」
歩夢が安堵していると──
「…ライボ」
侑「!?」
部屋の隅の方から、鳴き声が聞こえて、思わず身が竦んだ。
- 256 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:26:35.66 ID:IGCv6YWI0
-
歩夢「あ、ライボルトも起きたんだね」
「ライボ…」
侑「ボ、ボールから出したの……?」
歩夢「うん。ジョーイさんに回復してもらったあとは、ボールから出してたよ。ね、ライボルト」
「ライボ…」
ライボルトはのっしのっしとこちらに歩いてきて、歩夢の傍に身を伏せる。
侑「……い、意外と大人しい……?」
歩夢「昨日の内に仲良くなったんだよ。ね、ライボルト」
「ライボ…」
ライボルトは表情こそ変えないものの、昨日の激しい戦闘が嘘のように大人しい。
侑「相変わらず、すぐポケモンと仲良くなれるんだね……歩夢は」
歩夢「え? 普通だよ……この子は大人しかったし」
「ライボ…」
歩夢が傍らのライボルトの鬣を撫でると、短く鳴き声をあげる。
……相変わらず、どっちが“おや”なのかわからなくなってくるなぁ。
歩夢「ライボルト、あなたの“おや”の侑ちゃんだよ」
「ライボ…」
何故か、歩夢から紹介されてるし……。
侑「よ、よろしくね、ライボルト」
昨日の激闘の手前、少しおっかなびっくりになってしまうが、
「ライボ」
ライボルトは再びのっしのっしと歩きながら、私の傍らまで近づいて、
「ライボ」
短く鳴きながら、頭を垂れた。
歩夢「ライボルトも侑ちゃんの強さを認めてくれてるみたいだね」
侑「……そっか」
どうやら、“おや”として、認めてくれてはいるようで安心する。
侑「ライボルト、これからよろしくね」
「ライボ」
これで手持ちも無事3匹目。これで、コメコジムに──
- 257 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:31:39.90 ID:IGCv6YWI0
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歩夢「そうだ、侑ちゃん!」
侑「?」
歩夢「私ね、侑ちゃんが寝てる間に、この町のこといっぱい調べたんだ♪ それでね、行ってみたい場所があるの! 朝食を取ったら、一緒に行こう?」
侑「え、でも……」
「私はジム戦に行きたい」と言い掛けたけど──
歩夢「……お願い」
歩夢は私の手を握りながら、言う。
侑「歩夢……?」
歩夢「侑ちゃんと一緒に……行きたいな」
侑「……。……あはは、そう言われたら断れないね♪ じゃあ、歩夢の行きたい場所、案内して!」
歩夢「……!」
私の言葉を受けて、歩夢の表情がぱぁっと明るくなる。
歩夢「うん!」
歩夢はニコッと笑いながら頷く。
歩夢「それじゃ、朝ごはん早く食べに行こう♪」
侑「ふふ、わかった♪」
私も笑って頷いて、部屋を後にする。
ただ、気付いてしまった──さっき私の手を握った歩夢の手は……確かに震えていたということに。
🎹 🎹 🎹
──朝食を取りながら、私が気を失っていた間に愛ちゃんはもう行ってしまったことを聞いた。
まあ、愛ちゃんは先を急いでいたわけだからね。またどこかで出会えたら、お礼を言いたいかな。
朝食後、荷物を纏めて二人でロビーまで歩いて行くと──
リナ『侑さん、歩夢さん、おはよう』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんがふわふわと近付いてくる。
侑「リナちゃん、ここにいたんだね」
「ブイ」
リナ『うん。侑さん、気分はどう?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「一晩ぐっすり寝て、すっきりだよ♪」
リナ『それなら、よかった。歩夢さんはちゃんと眠れた?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「うん。ゆっくり休めたよ」
リナ『二人とも万全みたいで嬉しい。リナちゃんボード「にっこりん♪」』 ||,,> ◡ <,,||
どうやら、リナちゃんは私や歩夢がゆっくり休めるように気を遣ってくれていたらしい。
- 258 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:32:44.07 ID:IGCv6YWI0
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侑「リナちゃんこそ、ゆっくり休めた?」
リナ『スタンバイモードで十分な休息は取ったから平気』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「そういうモードがあるんだね。……あれ、そういえばリナちゃんってご飯はどうしてるの?」
リナ『今日みたいに晴れてる日に、ソーラー充電してるよ』 || > ◡ < ||
歩夢「……? ロトムのご飯って太陽の光で、大丈夫なの?」
リナ『……あ、えーっと、それは』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「ほ、ほら! ロトムのご飯って、電気だから! 図鑑のバッテリーをソーラー充電して、それをご飯にしてるんだよ!」
リナ『そ、そうそう、そんな感じ』 ||;◐ ◡ ◐ ||
歩夢「あ、そうだったんだ……そういえば、今までもご飯食べたりしてなかったもんね」
リナ『うん、今日も電気がおいしい』 ||;◐ ◡ ◐ ||
私もうっかり忘れかけていたけど、歩夢にはリナちゃんはロトム図鑑だって説明しているんだった……。
どうにか、それっぽく誤魔化せたようだ。
リナ『えっと、それはそうと、今日はどうするの? やっぱり、ジムせ──』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「私ね、コメコ牧場に行ってみたいんだ♪」
リナちゃんに質問に対して、歩夢が食い気味に答える。
歩夢「コメコ牧場って、すっごくゆったりとした雰囲気で、ミルタンクやメェークルの乳搾りが体験できるんだって♪ せっかく、自然豊かな町に来たんだから、行ってみたいなって」
リナ『なるほど。確かにコメコシティは農業が盛んで、自然も豊富。近くのコメコの森では森林浴も有名だし、いいと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「うん♪ それじゃ、行こう侑ちゃん♪」
侑「あ、うん」
歩夢が私の手を引いて、歩き出す。
リナ『今日の歩夢さん、なんだか積極的』 || > ◡ < ||
侑「あはは、そうだね」
「ブイブイ」
強く、強く、私の手を握って、歩夢は歩き出す……。
🎹 🎹 🎹
歩夢「コメコ牧場は町の北側にあるみたいだよ」
侑「結構歩くんだね」
「ブイ」
リナ『コメコシティはこの地方でも随一の農業地帯。南部に居住地があって、北部はほぼ全域が畑や田んぼ、牧場になってるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「へー」
自然豊かという前評判のとおり、気付けば辺りは広い田んぼと畑が続いている。
セキレイシティで生まれ育った私としては、ここまで建物がなく、ただ農業地帯が続いているというのは初めて見る光景だ。
田畑には今も農作業をしている人たちが何人も見えるけど、それ以上に気になるのは……。
侑「人だけじゃなくて、ポケモンも一緒に農業をしてるんだね」
- 259 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:35:39.39 ID:IGCv6YWI0
-
先ほどから、田んぼの脇の道を歩いているけど、田んぼの中にはあちこちにドロバンコがいるのがわかる。
リナ『ドロバンコ うさぎうまポケモン 高さ:1.0m 重さ:110.0kg
頑固で マイペースな 性格。 土を 食んで 泥を 作って
泥遊び するのが 日課。 かなりの 力持ちで 自分の
体重の 50倍の 荷物を 乗せられても まるで 平気だ。』
歩夢「見て、侑ちゃん! あっちの畑にいるのは、ディグダだよ♪」
侑「ホントだ!」
ディグダがぴょこぴょこと頭を出しながら、畑を耕している姿が目に入る。
リナ『ディグダ もぐらポケモン 高さ:0.2m 重さ:0.8kg
ディグダが 棲む 土地は 耕され フンで 豊かに
なるため 多くの 農家が 大切に 育てている。
光に 照らされると 血液が 温められて 弱ってしまう。』
侑「ドロバンコもディグダも一緒になって農業をしてるんだ……」
リナ『コメコシティは遥か昔から、ポケモンと共存してきた町って言われてるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
セキレイシティでもポケモンが街に居ることはあるけど……確かに、ここまで人との距離感が近いのは初めて見るかも。
リナ『この町では、ポケモンの力で田畑を耕して、人の知恵で作物を育てて、出来た食物を分け合って……それが昔からずっと続いている、伝統的な農業地帯だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「すごいね……人とポケモンが、同じ目線で協力し合って暮らしてるなんて……」
歩夢は目をキラキラさせながら言う。
歩夢はポケモンと家族同然に暮らしてきた子だし、これほどまでに人とポケモンとの間に隔たりがないこの町に、感じるものがあるのかもしれない。
侑「いい町だね」
歩夢「……うん」
セキレイ、ダリアとこの地方でも大きな街が続いていたからか、コメコシティのゆったりと流れる時間の中にいると落ち着く気がする。
そんな道のりの中、水田に水を引いている近くの小河にもポケモンがいるのが目に入る。
「ゼル」
歩夢「わ、侑ちゃん! ブイゼルだよ!」
侑「ホントだ、でもまだちっちゃいね。子供なのかな?」
リナ『この町では数年前くらいから、繁殖期になると、ブイゼルが海から上ってきて、ここで子育てをするようになってるらしいよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「へー」
リナ『最初は人間や田畑のポケモンと縄張り争いになったりしてたらしいけど……今では、子育てする場所を提供してもらう代わりに、ディグダやドロバンコを外敵から守る役割をしてるみたい』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「今でも、新しい共存の工夫をしてるんだ……!」
リナちゃんの話を聞いて、歩夢が目を輝かせる。
侑「……ふふ」
歩夢「? 侑ちゃん? どうかしたの?」
侑「うぅん、なんでもない。牧場楽しみだなって思ってさ」
歩夢「ふふ♪ そうだね♪」
- 260 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:37:06.57 ID:IGCv6YWI0
-
よかった……。さっきまで歩夢の様子が少しおかしかったけど……いつもの元気が戻ってきた気がする。
それを見て私は一人、胸を撫で下ろす。
でも、その間もずっと……歩夢は私の手をぎゅっと掴んで離すことはなかった。
🎹 🎹 🎹
歩夢に手を引かれたまま、田畑の脇道を進んで行くと、だんだんと周囲の景色が田畑から、草原と柵、そして小屋のような建物が増えてきた。
恐らく、あれがポケモンたちの飼育小屋になっているんだと思う。
「モォ〜」「モォォォーー」
侑「だんだん、ミルタンクやケンタロスが増えてきたね」
歩夢「うん」
道の脇、柵を挟んで向こう側には先ほどとは趣の違うポケモンたちの姿。
リナ『ミルタンク ちちうしポケモン 高さ:1.2m 重さ:75.5kg
栄養満点の ミルクを 出すことから 古くから 人間と
ポケモンの 暮らしを 支えてきた。 牧場の 質が 良い
土地ほど 出す ミルクは コクがあり 美味しい。』
リナ『ケンタロス あばれうしポケモン 高さ:1.4m 重さ:88.4kg
スタミナに あふれた 暴れん坊。 走り出すと たいあたりするまで
どこまでも ひたすら 突き進む。 群れの 中で 1番 太く 長く
キズだらけの ツノを持つのが ボス。 荒っぽい 性格で 有名。』
伸び伸びと飼育されている、ミルタンクやケンタロスを眺めながら歩を進めると、程なくして大きめの施設が見えてきた。
リナ『あそこが乳搾り体験が出来る牧場施設だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「だってさ、侑ちゃん行こ♪」
侑「うん」
歩夢に手を引かれながら施設内に入ると、まさに牧場の飼育小屋といった感じの屋内の中、柵で仕切られたスペースの中にミルタンクたちの姿。
そして、そんなミルタンクたちを多くの作業員の人たちがお世話をしている。
作業をしている人たちはほとんどが高齢のおじいさんやおばあさんだけど……その中で一人だけ、目を引く若い女性の姿があった。
若い女性「あれ? お客さんかな?」
その女性は私たちに気付くと、持っていたミルタンク用らしき牧草を近くに下ろし、小走りで駆け寄ってきた。
歩夢「はい! あの、ここで乳搾り体験が出来るって聞いたんですけど……」
若い女性「わぁ! それで来てくれたんだね! 体験用のスペースは奥の方にあるから案内するね♪ 女の子二人と、イーブイにアーボ……それにロトム図鑑さんかな? 案内するね♪」
「ブイ」「…シャボ」
リナ『よろしくお願いします』 || > ◡ < ||
ご機嫌な様子の女性の案内で、奥に通される。
その際にも、周囲を見回していると、作業をしている人がたくさんいるけど……この女性のような若い人の姿はほぼない。
若い女性「どうかしたの?」
侑「あ、いえ……」
- 261 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:38:33.71 ID:IGCv6YWI0
-
案内の最中、私の視線に気付いたのか、目の前の女性は小首を傾げる。
侑「お姉さんだけ、周りの人に比べてお若いなって……」
若い女性「あ、なるほど。えっとね、この町の若い人は大人になると他の町に出ていっちゃう人が多いらしくって……」
歩夢「らしい……?」
やや他人事気味な物言いに歩夢が首を傾げると、
若い女性「わたし、実はこの町の出身じゃないの。もともとカロス地方の近くにある山村に住んでたんだよ」
侑「そこから、この町に?」
若い女性「うん♪ コメコシティはね、農業をやってる人にとっては世界的にも有名な町なんだよ♪ だから、前から興味があって、こうして実際に来ちゃったんだ〜♪」
女性がニコニコ笑いながら言うと、近くで作業をしていたおじいさんやおばあさんが顔を上げる。
おじいさん「エマちゃんが来てくれたお陰で助かってるよ〜」
エマ「わたしも毎日、素敵な体験させてもらってます♪」
おばあさん「ホント、一生ここに居て欲しいくらいだよ〜」
エマ「うふふ♪ わたしもここの生活は楽しいから、そんなこと言われたら迷っちゃうよ〜♪」
この人はエマさんと言うらしい。エマさんは口々に褒め言葉を投げ掛けてくるおじいさん、おばあさんに笑い掛けながらひらひらと手を振る。
どうやら、この牧場内でも、かなりの人気者らしい。
エマさんが前を通ると、作業をしているおじいさん、おばあさんがひっきりなしに話しかけてくる。
そして、一人一人ににこやかに笑いながら返事をしている辺り、エマさんも相当ここが気に入っていることがよくわかる。
エマ「えーと、そういえばまだ名前、聞いてなかったね」
侑「あ、私は侑って言います。この子は相棒のイーブイ」
「ブイブイ♪」
歩夢「歩夢です。この子はアーボのサスケ。侑ちゃんと一緒に旅してます」
「…シャーボ」
リナ『ロトム図鑑のリナです。よろしくお願いします。リナちゃんボード「ぺこりん☆」』 || > ◡ < ||
エマ「侑ちゃん、歩夢ちゃん、イーブイちゃんと、サスケちゃん、リナちゃんだね♪ 旅人さんなんだね〜」
侑「はい。セキレイシティから来ました」
エマ「えっと、あんまりこの地方の地理には詳しくないんだけど……確か、すっごい大きな街だよね? 前に果林ちゃんが教えてくれた気がする」
侑「……かりんちゃん?」
エマ「あ、えっとね、果林ちゃんはわたしのお友達なんだ♪」
侑「あ、エマさんのお友達が言ってたんですね」
果林……どこかで聞いたことある名前な気がするけど……。
まあ、それはいいや。
エマ「二人はどうして旅してるの?」
歩夢「あ、えっと……実はセキレイシティで最初のポケモンと、ポケモン図鑑を博士から貰って……」
エマ「わぁっ! じゃあ、リナちゃんはもしかして──」
侑「はい、リナちゃんは私のポケモン図鑑なんです」
エマ「それじゃ、歩夢ちゃんも?」
歩夢「え?」
エマさんの言葉に歩夢は逡巡する。
- 262 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:39:35.86 ID:IGCv6YWI0
-
歩夢「は、はい……一応」
歯切れ悪く返事をすると、控えめにポケットから取り出したポケモン図鑑をエマさんに見せる。
エマ「わぁ〜♪ それじゃ、選ばれたトレーナーさんなんだね♪」
侑「あはは……私は運良く貰えただけというか……選ばれたのはむしろ歩夢の方で……」
エマ「そうなの?」
歩夢「え、あ……は、はい……」
エマ「そうなんだ〜、すごいなぁ。わたし、戦うのはちょっと苦手だから、ポケモントレーナーさんはすごいなって思っちゃうよ〜」
歩夢「…………」
エマさんの言葉に、歩夢が息を詰まらせたのがわかった。
侑「え、えっと……せっかくこの町に来たから、牧場に行きたいって歩夢が提案してくれたんです! ね、歩夢!」
歩夢「え? あっ、う、うん!」
エマ「そうだったんだ〜! こうして、他の町から来た人が、興味を持ってくれるのはすっごく嬉しいな♪ そうだ! 二人はミルタンクとメェークル、どっちの乳搾りがしてみたい?」
侑「えっと、どう違うんですか?」
イメージだけで言うなら、乳搾りと言えばミルタンクだけど……メェークルの方がミルタンクよりも小さいから、ハードルは低い気もするかな……?
エマ「えっとね、ここのミルタンクの“モーモーミルク”はすっごく甘くて美味しいの! 特に搾りたてはすっごく美味しくって、飲みやすさもあるんだよ♪」
侑「……ん?」
エマ「メェークルのミルクはあっさりした味だけど、独特の風味はあるかな? 私はメェークルのミルクの方が好きなんだけど……あっ! バターやチーズを作るときでも、それぞれ全然違った味わいになってね、どっちも美味しいんだけど──」
侑「ま、待ってエマさん! 味の話じゃなくて……」
エマ「え?」
侑「あの、乳搾り自体がどう違うのかが聞きたくて……」
エマ「あ、そ、そうだよね! ごめんね……ここの牧場で採れるミルクはどれも絶品だから、つい……えへへ」
エマさんは少し恥ずかしそうに、頬を掻きながら笑う。
エマ「えっとね、ミルタンクは座ってる状態のミルタンクから、お乳を搾らせてもらうんだけど……メェークルはミルタンクみたいに座らせてお乳は搾れないから、お腹の下に手を伸ばして搾ることになるかな。初めてならミルタンクの方がイメージが掴みやすいかもしれないけど……乳搾り体験をお手伝いしてくれる子は、みんな大人しい子だから、どっちでもそんなに難しくはないと思うよ」
侑「なるほど……歩夢はどっちがいいと思う?」
歩夢「私は、侑ちゃんが選んでくれた方でいいよ」
侑「えー? うーん……どうしよう……やっぱり乳搾りって言ったら“モーモーミルク”だし、ミルタンクだけど……メェークルの乳搾りが出来るなんて珍しいし……」
私は腕を組んで、唸ってしまう。
エマ「ふふ♪ それなら、両方体験してみる?」
侑「それだ! お願いします!」
エマ「はーい♪ それじゃ、準備するからそこで待っててね♪」
- 263 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:41:08.56 ID:IGCv6YWI0
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🎹 🎹 🎹
エマ「──そうそう、その調子で優しく搾ってあげてね♪」
侑「はーい……よっと……」
「モォ〜」
エマ「そうそう、上手上手♪」
エマさんの指導のもと、ミルタンクから“モーモーミルク”を搾らせてもらっている真っ最中。
最初はなかなかうまくミルクが出てこなかったけど、エマさんが親切に教えてくれるお陰で、すぐに出来るようになってきた。
エマ「侑ちゃん、上手だね♪」
何よりエマさんが教え上手の褒め上手だから、なんだか頑張ってしまうというのもある。
そろそろ、バケツ半分くらいになるかな……? もう随分搾らせてもらった気がするけど……。
侑「エマさん、ミルタンクって1日にどれくらいミルクが出るんですか?」
エマ「うーんと、ここにあるバケツ2杯分くらいかなぁ? 元気な子だと、3杯分くらいお乳を出してくれる子もいるんだよ〜」
リナ『ミルタンクは1日に20リットルの乳を出すって言われてる。このバケツは1杯8.8リットルだから、確かに2杯ちょっとくらいだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「え、そんなに……」
エマ「わぁ♪ すごいね、リナちゃん! バケツの容量までぴったりだよ〜」
リナ『今日も測量センサーの感度ばっちり。任せて欲しい』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||
エマ「そういうことだから、遠慮せずにたくさん搾ってもらっていいからね♪」
エマさんはニコニコ笑っているけど、なんだかんだで乳搾りの力加減には結構気を遣わないといけないし、まだバケツ半分ということは、この作業の4倍やってやっと1匹分が終わりということだ。
しかも、この牧場にいるミルタンクはたくさんいる……思ったより途方もない作業かも。
エマ「? どうしたの? わたしの顔、じーっと見つめて?」
侑「いえ……農業って大変なんだなって思って……」
エマ「ふふ、それがわかってもらえたなら、こうして乳搾り体験を教えてる甲斐があるよ〜♪」
農業従事者たちの日頃の苦労に感謝しながら、乳搾りをせっせと続けていると──
「…ブイ」
頭の上で大人しくしていた、イーブイが急に身を乗り出してくる。
侑「わわっ、イーブイ!? そんな身を乗り出したら落ちちゃうよ?」
「ブイ…」
どうやら、“モーモーミルク”の溜まったバケツを覗き込んでいるらしい。
エマ「ふふ♪ “モーモーミルク”の良い香りが気になっちゃってるのかも♪ イーブイちゃん、搾りたてのちょっと飲んでみる?」
「ブイ!!」
侑「いいんですか?」
エマ「ご主人様が頑張ってる間、ポケモンちゃんにとってはちょっと退屈だもんね。ちょっと待っててね♪」
エマさんが搾乳用バケツの下の方にある栓を抜いて、ミルクをイーブイが飲みやすいサイズのお皿に注いでくれる。
- 264 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:42:26.79 ID:IGCv6YWI0
-
侑「歩夢も、サスケに飲ませてあげたら?」
私の隣でさっきからもくもくと乳搾りをしている歩夢にも訊ねると──
「シャボッ」
歩夢「…………」
返って来たのはサスケの鳴き声だけ。
侑「……歩夢?」
歩夢「……え? あ、ご、ごめん。何かな?」
侑「エマさんがポケモンたちに搾りたての“モーモーミルク”を飲ませてくれるって」
歩夢「あ、そうなんだ。サスケ」
「シャボッ」
サスケはご主人様のOKが出ると、普段ののんびりゆったりとした様が嘘のように俊敏な動きで、ミルクの入ったお皿へと移動していく。
歩夢「ふふ♪ もう、サスケったら食いしん坊なんだから」
エマ「イーブイちゃんもサスケちゃんも好きなだけ飲んでいいよ〜♪」
「シャボッ」「ブイブイ♪」
2匹が“モーモーミルク”をぺろぺろと舐め始める。
侑「イーブイ、おいしい?」
「ブイ♪」
イーブイも納得の味なようでご満悦だ。
エマ「それじゃ、侑ちゃんと歩夢ちゃんは乳搾りの続きをしようね♪」
侑・歩夢「「はーい」」
二人して乳搾りを再開したはいいんだけど、
歩夢「…………」
歩夢は相変わらず、もくもくと乳搾りをしている。
歩夢「………………はぁ」
たまに漏れ出てくる小さな溜め息。
そんな歩夢の様子が気になったのか、
エマ「……ねぇ、侑ちゃん」
エマさんが私に耳打ちしてくる。
エマ「歩夢ちゃんっていつもああいう感じなの……?」
侑「……いえ、普段はもう少し元気なんですけど」
エマ「そっかぁ……」
- 265 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:43:42.07 ID:IGCv6YWI0
-
エマさんは少しうーんと考えたあと、
エマ「ねえ、侑ちゃん」
侑「なんですか?」
エマ「メェークルの乳搾りはまた今度でもいいかな? その代わり二人を案内したいところがあるんだけど」
そう提案してきた。
侑「え、はい、それは構いませんけど……?」
エマ「よかった♪ それじゃ、ミルタンクの乳搾り、わたしも手伝うから、頑張って終わらせちゃおっか♪」
ニコニコしながら、“モーモーミルク”搾りに加勢するエマさんは、両手を使って、同時に2つのお乳から手際よく搾り始め──文字通りあっという間に乳搾りを終わらせてしまった。
やっぱり、農業をやっている人ってすごいと舌を巻かざるを得ない。
……ただ、その間も歩夢は、
歩夢「…………」
ずっと、ぼんやりとしたまま、口数少な目に乳搾りを続けているだけだった。
🎹 🎹 🎹
──乳搾り体験を切り上げて、私たちがエマさんに連れてこられたのは、
エマ「それじゃ、行こっか♪」
歩夢「ここって……」
侑「森……?」
コメコタウンの東側に位置する、大きな森だった。
リナ『ここはコメコの森。オトノキ地方の中でも一番大きな森だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
エマ「でも、道は舗装されてるから変に脇道に逸れなければ迷ったりはしないよ♪」
二人の説明を聞きながら見回してみると、視界のほぼ全てが樹木に覆われている、まさに森だ。
セキレイシティの近くでも、少し外れればちょっとした林くらいはあったけど……ここまで、いわゆる森と言えるような景色を見るのは初めてかもしれない。
歩夢「あ、あの……」
そんな中、おずおずと手を挙げる歩夢。
エマ「ん〜? どうしたの?」
歩夢「ここ……野生のポケモンが出るんじゃ……」
エマ「そうだね〜。自然の森だから、野生のポケモンさんはたくさんいるよ♪」
歩夢「そ、そうですか……」
エマさんの返答を聞くと、歩夢は私の腕をきゅっと掴んで自分の方へと引き寄せる。
- 266 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:44:39.92 ID:IGCv6YWI0
-
侑「あ、歩夢……?」
歩夢「侑ちゃん……離れないでね……」
侑「う、うん」
エマ「そんなに怖がらなくても、ここの子は大人しい子ばっかりだから大丈夫だよ〜」
リナ『この辺りに出るポケモンはナゾノクサやチュリネ、モンメン、スボミー、ハネッコみたいな、小型のくさポケモンくらいだから、こっちから刺激しなければ襲ってくることはないと思う』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「それなら、いいけど……」
と言いつつも、歩夢は私から離れようとしない。
エマ「奥まで歩くから、みんなはぐれないようにね♪」
侑「はーい」
歩夢「……はい」
エマさんに先導される形で森の中を歩き出す。
森というだけあって、いくら進んでも景色はずっと草木に覆われている。
ただ、もともとよくある森の鬱蒼としたイメージとは裏腹に、このコメコの森は常に葉と葉の間から木漏れ日が差し込んで来ていて明るく、先ほどエマさんの言ったとおり、人が通るであろう道は整備されているのかしっかり確保されている。
ちょっとした、ハイキング気分だ。
何より──
侑「すぅ…………はぁ…………」
空気がおいしい。緑が多いからなんだと思う。
「ブィ…」
頭の乗っているイーブイも随分リラックスしているのがわかる。
なんだか、この空気の中にいるだけで、気分が落ち着く。
でも、歩夢は……。
歩夢「…………」
ぎゅーっと私の腕を掴んだまま、辺りをキョロキョロと警戒しながら歩いているようだった。
侑「歩夢」
歩夢「……え? な、なにかな?」
侑「ここのポケモンたちは、そんなに危なくないと思うよ」
周囲を見回すと、すでに視界には木漏れ日の中を気ままに漂っているハネッコやモンメンの姿が見て取れる。
野生のポケモンには違いないけど、彼らは本当に風に流されて飛んでいるだけで、襲ってくることなんて本当になさそうだ。
歩夢「……でも、ここは町の中じゃないから……」
私の腕を引く力が、さらに込められた気がした。
侑「……そっか」
──それから歩くこと数分。
エマ「──着いたよ〜♪」
- 267 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:45:50.33 ID:IGCv6YWI0
-
エマさんに連れてこられたのは、森の奥の方にある少し開けた場所だった。
そして、そこには周囲の木々がまるで意識的に避けているかのように──中央に苔むした大きな岩が鎮座していた。
エマ「ここね、わたしのお気に入りの場所なの♪」
エマさんがニコニコしながら振り返る。
エマ「みんなこっちにおいで♪」
エマさんは手招きしながら、苔むした岩の傍に腰を下ろす。
侑「歩夢、行こう」
歩夢「う、うん」
言われたとおり、私たちもエマさんの隣に腰を下ろす。
すると──
「ブイ」
イーブイが私の頭から跳ねて、苔むした岩の上に飛び乗る。
そしてそのまま、
「ブイブイ…」
気持ちよさそうに伸びをしたあと、その岩の上で丸くなってリラックスし始める。
侑「ふふ、イーブイ早速気に入ったの?」
「ブィィ…」
エマ「ふふ♪ この岩、ひんやりしてて気持ちいいよね♪」
イーブイの様子を見て、嬉しそうに笑うエマさん。
ただ、そんな中でも、
歩夢「…………」
歩夢はまだ硬い顔をしたまま、私の腕を掴んでいる。
侑「…………」
さすがにそろそろ話をしないといけないと思った。
なんとなく、歩夢の様子がおかしい理由には見当が付いている。
私が口を開こうとした、そのとき、
エマ「歩夢ちゃん」
私よりも先に声を掛けたのは、エマさんだった。
- 268 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:46:54.83 ID:IGCv6YWI0
-
歩夢「……? ……なんですか……?」
エマ「深呼吸、してみよっか♪」
歩夢「……え?」
エマ「はい、大きく息を吸って〜」
歩夢「え? えぇ?」
エマ「歩夢ちゃん、息を吸うんだよ♪ すぅ〜…………」
エマさんがお手本だと言わんばかりに、両手を大きく上に伸ばしながら、息を深く吸う。
歩夢「…………すぅー…………」
歩夢がそれに倣うように、ゆっくりと息を吸う。
エマ「……吐いて〜……ふぅ〜……」
歩夢「……ふー…………」
エマ「……ふふ♪ もう一回。吸って〜……」
歩夢「…………すぅー…………」
エマ「……吐いて〜……」
歩夢「…………ふー…………」
歩夢はそのまま、何度か深呼吸を繰り返す。
歩夢が深呼吸をするたびに──私の腕を掴むのに込められていた力が、抜けていくのがわかった。
歩夢「………………ふー…………」
エマ「ふふ♪ 深呼吸すると、気持ちが落ち着くでしょ?」
歩夢「………………はい」
エマ「しばらくここでのんびりしよっか♪ ここはすっごく空気が綺麗だから、リラックス出来ると思うよ♪」
歩夢は少し困ったような表情で私の顔を見る。エマさんがどうして、急にこんなことを言い出したのかがわからない、と思っているのかもしれない。
ただ、私はなんとなくエマさんのしたいことがわかった気がした。だから、黙って首を縦に振る。
歩夢は私の首肯を確認すると、岩に背をもたれたまま、ゆっくりと木々を見上げる。
私も釣られるように、顔を上げると──そよそよと風に揺れる木々の間から、僅かに木漏れ日が差し込んでくる。
エマ「……そのまま、目を瞑って、風と緑の匂いを感じてみて」
歩夢「……はい」
私も歩夢と同じように目を瞑る。
そよそよと吹く風に、緑の匂いが運ばれてくる。
息をするたび、美味しい空気が肺を満たして、身体の力が抜けていく気がした。
そのまましばらく目を瞑ったまま、これが森林浴か……などと思っていると、急に肩に僅かな重みを感じた。
- 269 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:47:48.86 ID:IGCv6YWI0
-
歩夢「………………すぅ………………すぅ…………」
侑「……歩夢?」
歩夢「………………すぅ………………すぅ…………」
エマ「歩夢ちゃん、寝ちゃったね。きっと疲れてたんだね」
侑「……みたいですね」
エマ「歩夢ちゃん、理由はわからないけど……ずっと気を張ってるみたいだったから」
侑「……はい」
エマ「でも、ずーっと気を張ってたら……心が疲れちゃうよね」
侑「……そうですね」
歩夢「………………すぅ………………すぅ………………」
穏やかに寝息を立てる歩夢の顔を見て、私は何故だかすごく安堵していた。
ずっと、強張った歩夢の表情を見ていて、私も自然と気が張っていたのかもしれない。
エマ「余裕がなくなっちゃうと、いろんなものが見えなくなっちゃうから。疲れたときは、こうして自然の中でリラックスして、心を落ち着かせてあげた方がいいんだよ♪ 歩夢ちゃんも、侑ちゃんも」
侑「……はい」
歩夢だけじゃなくて……私も気付かないうちに疲れていたらしい。
エマさんはそんな私たちのために、このとっておきの場所に連れて来てくれたんだ。
侑「エマさん、ありがとうございます」
エマ「どういたしまして♪」
改めて、私は深く息を吸い込んでみる。
肺に新鮮な空気が流れ込んで来て、気持ちがいい。
侑「……ふぁぁ……」
そして、思わず欠伸が出る。
エマ「…………ふぁ……」
気付けばエマさんも欠伸をしていた。
眠いかも……。
リナ『侑さん、エマさん。何かあったら私が起こすから、眠っちゃってもいいよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「そう……?」
エマ「それじゃ、お言葉に甘えて、わたしもお昼寝しようかな……」
隣で、もうすでにうとうとしているエマさん。
私も目を瞑る。
「ブイ…zzz」
岩の上からはイーブイの寝息が聞こえる。
歩夢「………………すぅ………………すぅ………………ゆ、ぅ……ちゃん…………」
侑「おやすみ……歩夢…………」
- 270 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:49:01.76 ID:IGCv6YWI0
-
程なくして、私の意識はゆっくりと眠りに落ちていくのだった。
🎹 🎹 🎹
「──はい、順番。すぐにあげるから待っててね」
「ハネ〜」「ハネ〜」「モンメ」「チュリチュリ」
何やら楽しげな声が聞こえてきて、少しずつ意識が浮上してくる。
侑「ん……」
ぼんやりと目を開けると、
歩夢「あなたは“モモンのみ”かな? そっちのチュリネは“クラボのみ”がいいかな?」
「ハネ〜」「チュリ♪」
歩夢が周りに群がる大量のくさポケモンたちに“きのみ”をあげているところだった。
侑「……あはは、やっぱり歩夢は大人気だ」
歩夢「あ、侑ちゃん。おはよう」
侑「おはよう」
目を覚ました私に気付いて、歩夢が顔をこちらに向けると、その拍子に、
「ハネ〜」
歩夢の頭の上でくつろいでいたハネッコがぽ〜んと跳んで行った。
歩夢「あ、ハネッコ……跳んでっちゃった」
侑「あはは、ハネッコは軽いからね」
くすくすと笑いながら、歩夢を見つめる。
穏やかな表情で、野生のポケモンたちと戯れている姿は──すっかりいつもの歩夢だった。
侑「エマさんの言ってたとおり、みんな大人しいね」
歩夢「うん。起きたら、ハネッコとモンメンに視界を埋め尽くされてた時はびっくりしちゃったけどね……あはは」
侑「やっぱり歩夢は特別ポケモンに好かれるみたいだね」
歩夢「あはは、そうなら嬉しいかな」
侑「……歩夢」
歩夢「なに?」
侑「野生のポケモン、怖くない?」
歩夢「……全然怖くないわけじゃないよ。でも、怖い子ばっかりじゃない……大人しい子だったり、優しい子だったり、甘えんぼの子だったり。野生のポケモンにもいろんな子がいるんだよね……」
歩夢が近くを漂っているハネッコに手を伸ばすと──ハネッコが歩夢の手の平の上にふよふよと着地する。
歩夢「ラクライたちだって……自分たちの縄張りを守ろうとしてただけなんだよね……」
侑「歩夢……」
- 271 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:50:14.17 ID:IGCv6YWI0
-
話をするなら、今だと思った。
侑「歩夢、ごめん」
歩夢「? 突然どうしたの?」
侑「歩夢に……すっごく怖い思いさせたんだって、やっと気付いた」
歩夢「侑ちゃん……」
侑「私、せつ菜ちゃんに褒められたり、ジム戦が順調だったから……今回もどうにかなるって、調子に乗ってたところ……あったと思う」
歩夢「そ、そんなことないよ……!」
侑「ラクライの電撃を受けたとき、私の横をラクライたちがすり抜けていって……歩夢に飛び掛かって行った瞬間、本当に肝が冷えた。愛ちゃんが助けに来てくれなかったらって思うと……あのとき、歩夢怖かったよね。ごめん」
歩夢「侑、ちゃん……」
侑「私の方がバトルに慣れてるんだから……私はなんとしてでも歩夢を守ってあげるべきだったんだ。そのせいで、歩夢に怖い思いさせて……」
歩夢「…………」
歩夢は何か言いたげだったけど、私は言葉を続ける。
侑「だから、もう歩夢に怖い思いさせないためにも、私はもっともっと強くなるよ。強くなって、歩夢を守る」
歩夢「……!」
侑「歩夢にとって、この旅が怖い思い出にならないように……! 私が全力で守るから!」
そう誓って、歩夢の手を自らの両の手でぎゅっと握りしめた。
歩夢「ゆ、侑ちゃん……///」
侑「だから、もう怖がらないで大丈夫だよ。私が傍にいるから」
歩夢「……うん///」
歩夢は顔を赤くして、小さくもごもごと口を動かす。
歩夢「──本当はそういう理由じゃないんだけど……」
侑「え?」
歩夢「うぅん! なんでもない♪ 侑ちゃんが守ってくれるなら……もう怖くないよ、えへへ♪」
侑「そっか、よかった」
歩夢が幸せそうに笑う姿を見て、私は安堵した。
これでやっといつもどおりだ。
歩夢「……えへへ///」
歩夢は頬を赤く染めたまま、私の手をぎゅっと握り返してきた。
なんだか、昔に戻ったみたいだった。
子供の頃から、お互い気持ちがすれ違ってしまったときは、こうして手を握り合って、気持ちを伝え合って仲直り。それを何度もしてきた。
旅の中慌ただしくて、タイミングを計り損ねていたけど……こうして、気持ちを落ち着けられる場所に連れてきてくれたエマさんには感謝しないと。
二人でぎゅっとお互いの手を握りしめたままでいると、
リナ『侑さん、歩夢さん』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「きゃっ!?///」
急にリナちゃんが私たちの目の前に下りてきた。
それに驚いたのか、歩夢がパッと手を離す。
- 272 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:52:44.93 ID:IGCv6YWI0
-
侑「どうしたの?」
リナ『何か、いる』 || ╹ _ ╹ ||
侑「え……?」
歩夢「何かって……」
二人で顔を上げて、周囲を見回しながら、聞き耳を立てる。
エマ「……くぅ……くぅ……zzz」
可愛らしく寝息を立てるエマさんの他に──ガサガサと、茂みの奥の方から、草をかき分けるような音がしていることに気付く。
侑「……歩夢、下がって」
歩夢「ポ、ポケモンじゃないかな……?」
リナ『うぅん、あそこにいるのは、ポケモンじゃない』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんはポケモン図鑑だ。リナちゃんがポケモンじゃないと言うなら、間違いなくポケモンではない。
歩夢を背に庇うようにしながら、近くで眠っているエマさんの肩を揺する。
侑「エマさん、起きてください」
エマ「……んぅ……? ……どうしたの……?」
眠そうに目をこすりながら、身を起こすエマさん。
侑「何かが……います」
エマ「え……?」
私の言葉を聞くと、すぐにエマさんも音の源の方に視線を送る。
──ガサ……ガサ……。未だに鳴り続けている、茂みの音を聞いて、
エマ「ポケモンさん……じゃないね」
そう言いながら、腰のボールに手を伸ばしたのがわかった。
どうやらエマさんには、音を聞けばポケモンの出している物音ではないことがわかるらしい。
エマ「出てきて、パルスワン」
「──ワンッ」
エマさんが、ボールから犬ポケモンを繰り出す。
エマ「この子は普段、牧羊犬のお仕事をしている子で、外敵が近付いてくるのに敏感なんだよ。パルスワン、茂みの向こう……Vai!」
「ワンッ!!!」
エマさんの指示と共に、パルスワンが茂みの方に向かって走り出した──と思ったら、
「…クゥーン」
パルスワンは茂みの手前で、足を止めてしまった。
エマ「あ、あれ……?」
侑「止まった……?」
歩夢「……パルスワン、尻尾振ってる」
- 273 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:53:51.74 ID:IGCv6YWI0
-
歩夢に言われて、パルスワンの尻尾を見てみると──確かにふりふりと振りながらお座りをしていた。
侑「……どういうこと……?」
私がその様子に首を傾げていると、
エマ「パルスワンが警戒を解いたちゃった……? ……あっ! もしかして……!」
エマさんが、何か思い当たる節があったのか、先ほどの茂みの方に向かって突然駆け出した。
侑「え、エマさん!?」
エマ「もしかして、そこにいるの……! 果林ちゃん!?」
エマさんがそう呼びかけると──
「──……もしかして……エマ……?」
人の声が返ってきた。
そして、その声と共に茂みの奥から、ガサガサと長身のお姉さんが姿を現した。
エマ「やっぱり……!」
果林「エマぁ……助けてぇ……さっきから、ずっとコメコシティに向かっているはずなのに、同じところに辿り着いちゃうの……」
エマ「もう……なんで、“そらをとぶ”を使わずに森の中を歩いてきちゃうの……?」
果林「今日は大丈夫な気がしたのよ……」
どうやら、先ほどからの物音は、あの人が原因だったらしい。……というか、
侑「あの人って……もしかして……!」
歩夢「……う、うん」
侑「スーパーモデルの果林さん!?」
私が大きな声をあげると、
果林「……!?」
果林さんは一瞬ビクッとしたあと、こちらに視線を向けてくる。
エマ「果林ちゃん?」
果林「…………」
エマさんに泣きつくような姿勢だった果林さんは、急に背筋を伸ばし、
果林「……あ、あら、貴方たち、もしかして私のこと知っているの?」
動揺を隠しきれない様子のまま、綺麗な笑顔を作って微笑みかけてくる。
侑「え、あ、はい……」
リナ『全然、取り繕えてない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「あ、あはは……」
果林「………………っ……///」
リナちゃんの指摘に果林さんの顔がカァーっと赤くなるのがわかった。
- 274 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:55:08.53 ID:IGCv6YWI0
-
果林「ち、ちょっと森林浴してただけよ!!///」
侑「は、はい……なんか、すみません」
果林「は、早く帰らないとね……!!」
そう言いながら、立ち去ろうとする果林さん。
エマ「か、果林ちゃん! そっちはホシゾラシティ方向だよ!」
果林「…………」
そしてすぐに立ち止まる。
侑「もしかして……」
歩夢「方向音痴……?」
果林「…………っ……///」
果林さんは耳まで赤くして、ぷるぷる震えている。
──果林さんと言えば、テレビでもよく見る有名なモデルさんだ。
もちろん、私や歩夢も何度も目にしたことのある有名人。
せつ菜ちゃんのように、旅をしていたら、テレビの向こう側にいる人と会えたりするんじゃないかとワクワクしていたんだけど……まさか、こんな形で遭遇することになるとは思ってもみなかった。
現在進行形で道に迷っているところを私たちに見られて堪えているところに、追い打ちを掛けるように──くぅ〜……と可愛らしい音が鳴る。
たぶん、果林さんのお腹が鳴る音だ。
エマ「果林ちゃん、結構迷ってたのかな? お腹空いたんだね? もう暗くなっちゃうし、早くコメコに帰ろう?」
果林「………………っ……///」
果林さんはもはや何も言い返さず、無言でエマさんの言葉に頷くだけだった。
気付けば、森の木々の隙間から見える空は夕闇が迫り始めていた。
エマ「わたしたちは、このままコメコに帰るけど……二人はどうする?」
侑「私たちも一旦帰ろうか」
歩夢「うん」
コメコシティにはまだ用事があるし、このまま帰った方がいいと思ったんだけど、
侑「……あ」
歩夢「? どうしたの?」
侑「今日の宿……まだ探してなかった」
歩夢「……あ」
昨日はポケモンセンターに泊めてもらっていたから、うっかりしていた。
今からコメコに戻って宿を探さないといけない。
もちろん、もう一泊ポケモンセンターに泊めてもらうというのも手だけど……あそこは泊めてもらえるというだけで、宿泊施設というわけではない。
昨日の私たちのような怪我人や病人が休めるように、出来るだけ自分たちで宿を見つけて、部屋を埋めない方が望ましい。
侑「リナちゃん、コメコの宿って……」
リナ『……コメコ自体旅人が泊まれる宿が少ない。もうこの時間だと部屋が埋まってる可能性が高いかも』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「だよね……」
- 275 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:56:10.90 ID:IGCv6YWI0
-
お昼に町中を歩いているときから、そんな気はしていた。
あるにはあるんだろうけど……もし、部屋が埋まっていたら……。
歩夢「……どうしよっか」
侑「うーん……」
とはいえ、出来れば野宿も避けたい。
宿が空いていることに賭けて、コメコに戻るべきかな……。
私が唸っていると、
エマ「あ、そうだ! 宿を探してるなら、この先にある森のロッジに行ったらいいんじゃないかな?」
と、エマさんが提案してくれる。
歩夢「この先にあるんですか?」
エマ「うん! 旅人さんが自由に使えるロッジだよ!」
侑「ホントですか!? リナちゃん、場所わかる?」
リナ『もうすでに検索中……。……確かにロッジ、すぐ近くにあるみたい』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「助かったぁ……じゃあ、今日はそこに泊まらせてもらおう」
エマ「あ、ただ……今は長期で使ってるトレーナーさんがいるから、その人たちと一緒に泊まることになっちゃうと思うけど……」
侑「それくらいなら、全然問題ないです! いいよね、歩夢?」
歩夢「うん、もちろん」
むしろ、トレーナーの人と一緒に泊まって、あわよくば話が出来たら、ジム戦前にいい刺激になるかもしれないし……!
侑「それじゃ、私たちはそのロッジを目指します!」
エマ「うん、わかった♪ すぐに暗くなっちゃうと思うから気を付けてね」
侑「はい! いろいろ、ありがとうございました!」
歩夢「ありがとうございました、エマさん」
歩夢ともども、エマさんに頭を下げる。
エマ「どういたしまして♪ 今度はメェークルの乳搾りもやろうね♪」
侑「はい! 是非お願いします!」
エマ「それじゃ、果林ちゃん行こっか」
果林「…………ええ」
エマさんと果林さんがコメコの方へと向かう背中を見送る。
侑「歩夢、私たちも」
歩夢「うん」
侑「イーブイ、行くよ」
「…ブイ…?」
イーブイが眠っていたはずの、岩の上を見やると──
侑「……?」
確かにイーブイは岩の上にいたんだけど……。
- 276 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:57:29.72 ID:IGCv6YWI0
-
侑「……この岩、こんなだったっけ……?」
イーブイの周囲には豆の木を連想させるような木がにょろにょろと生えていて、さらにその周囲に何個か大きめのタネのようなものが落ちている。
歩夢「これ……もしかして、“やどりぎのタネ”……?」
侑「え?」
歩夢「家のいたハネッコの“やどりぎのタネ”に似てる……ハネッコが使ってたのより、ずっと大きいけど」
「ブイ…?」
イーブイが首を傾げながら、ピョンと岩から飛び降りると、その拍子に──コロコロとイーブイの尻尾から、岩の上に落ちていたものと同じタネが飛び出してきた。
侑「え!?」
「ブイ…?」
歩夢「このタネ……イーブイから、出てきた……?」
侑「でも、イーブイが“やどりぎのタネ”を覚えるなんて聞いたことないし……。野生のポケモンにこっそり植え付けられてたとか……?」
リナ『うぅん、今イーブイは“やどりぎのタネ”状態になってないよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「えっと……それじゃ、これは……」
「ブイ?」
本来イーブイが覚えるはずのない、新しいくさタイプの技……。
侑「もしかして新しい、“相棒わざ”……?」
リナ『この自然の中で、イーブイがくさエネルギーに適応したみたい』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「寝てただけなのに……」
リナ『でもこの岩、すごく純度の高いくさエネルギーを検知出来る』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「なるほど……」
確かに、近くにいるだけで私も歩夢もエマさんも、すごくリラックス出来たわけだし……イーブイも同様に自然のエネルギーをたくさんもらえた、ということなのかもしれない。
リナ『データを参照するに、この“相棒わざ”の名前は“すくすくボンバー”。大きな“やどりぎのタネ”を相手にぶつけて攻撃することが出来るみたいだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「そ、そっか……何はともあれ、新しい技だよ! イーブイ!」
「ブイ…?」
完全に寝耳に水──というか、寝耳に種? なせいで、リアクションに困るけど、新しい技が増えたのは純粋にめでたいことだ。
肝心のイーブイも本当に寝ていたら習得していたようで、自覚らしい自覚もないみたいだけど……。
リナ『……とりあえず、そろそろロッジを目指した方がいい。本格的に、日が落ちてからだと移動が大変になる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「……っと、そうだった」
道がしっかりしているとはいえ、ここは森の中だった。
夜になったら、足元も見えづらくなって危ないだろう。
私たちはロッジへの道を急ぐことにした。
- 277 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 11:58:52.99 ID:IGCv6YWI0
-
🎹 🎹 🎹
リナちゃんの案内に従いながら森の中を進み、件のロッジに辿り着いたのはもうすっかり日も暮れた頃だった。
歩夢「あ、侑ちゃん! あれじゃないかな?」
侑「ホントだ! ライボルト、もう“フラッシュ”やめても大丈夫だよ。ありがとう」
「ライボ…」
暗がりを照らしてくれていたライボルトをボールに戻し、窓から明かりの漏れるロッジに歩を進める。
確かにエマさんの言うとおり、すでに先客がいることを示す灯りだ。
私がノックをしようと、手を上げたそのときだった。
「──いってきま〜す!!」
元気な声とともに、扉が勢いよく開かれたのだ。
侑「うわっとと……!!」
飛び退くようにして、開く扉を回避する。
「わっ!? ご、ごめんね! 人がいるなんて思わなくって……!!」
侑「い、いえ、だいじょ、う……ぶ……?」
目の前で慌て気味に謝罪をする人の顔を見て、私は固まってしまった。
歩夢「……え……!?」
同じように歩夢も目を丸くしているであろうことがわかる、驚きの声が聞こえてくる。
「あ、あの……大丈夫? やっぱり、怪我させちゃったかな……?」
心配そうに私の顔を覗き込んでくるけど……でも、私は固まったまま動けなかった。
何故なら──目の前にいた人は、
千歌「……ど、どうしよう……全然反応がない……。とりあえず、中に入る……?」
オトノキ地方・現チャンピオン──千歌さんその人だったからだ。
🎹 🎹 🎹
千歌「彼方さ〜ん! 遥ちゃ〜ん! ちょっと来て〜!」
「な〜に〜?」
「千歌さん……? どうかしたんですか?」
- 278 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 12:00:15.44 ID:IGCv6YWI0
-
ロッジの中に呼びかける千歌さんを見ながら、私は完全に呆けてしまっていた。
なんで? なんで、こんなところに千歌さんが? 千歌さんってチャンピオンだよね? ウテナシティのポケモンリーグにいるはずだよね? なんでコメコの森にいるの??
ぐるぐると思考だけが空回りしている中、
歩夢「侑ちゃん、とりあえず、中に入ろう……?」
侑「……あ……うん」
私よりはまだ冷静だった歩夢が私の手を引く。
ロッジは木製の二階建てで、なかなかに立派な作りの建物だった。
これだと人が4〜5人いても有り余るくらいだから、泊まらせてもらうのには何一つ不便がなさそうだけど……。
ぼんやり室内を見回していると、二階に通じる階段から人が二人ほど降りてきた。
侑「……あれ?」
「およ?」
そのうちの一人はどこかで見覚えのある人だった。
歩夢「あ……セキレイでゴルバットの居場所を教えてくれた……」
彼方「すご〜い、こんなところで会うなんて〜。彼方ちゃんびっくりだよ〜」
遥「お姉ちゃんの知り合い?」
彼方「えっとね〜、この間セキレイシティにいたときにポケモンを探してたから、目撃情報を教えてあげた子たちなんだよ〜。ポケモンたちは無事に見つけられた〜?」
侑「は、はい! お陰様でみんな見つけられました!」
彼方「それはよかったよ〜。……っと、自己紹介がまだだったね〜。わたしは彼方って言いま〜す。この超絶可愛い子はわたしの妹の遥ちゃん!」
遥「お、お姉ちゃん……。えっと、遥です。よろしくお願いします」
侑「あ、私は侑って言います!」
歩夢「歩夢です」
リナ『リナって言います』 || > ◡ < ||
彼方「お〜! 最近の若い子はハイテクなものを持ってるんだね〜」
まさかこんなところで、再会するなんて……彼方さんの言うとおりびっくりだ。
いや、それはいいんだけど……。
千歌「えっと……それで、その、大丈夫かな?」
侑「あ、えっと……は、はい……。……あの」
千歌「ん?」
侑「ち……千歌さん……ですよね……?」
千歌「あ、もしかして私のこと知ってるの?」
侑「あ、当たり前じゃないですか!? チャンピオンですよ!?」
私がもはや叫びに近いような声をあげると、
「──あはは、千歌ちゃんは有名人だもんね〜」
部屋の奥の方から、さらにもう一人……。
今日は驚きの出会いがとにかく多くて、正直頭が追い付かなさそうなんだけど……さすがにもう誰が来ても驚かない自信がある。
- 279 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 12:01:17.07 ID:IGCv6YWI0
-
千歌「う〜ん……まあ、有名なの自体は悪い気はしないかなぁ?」
彼方「穂乃果ちゃんは有名じゃないの〜?」
穂乃果「え、うーん……私は千歌ちゃんほど表に露出しなかったからなぁ」
どうやら、この人は穂乃果さんと言うらしい。……表に露出しなかったってなんのことだろう?
一方で、
リナ『……とんでもない人がいる』 ||;◐ ◡ ◐ ||
リナちゃんが驚いていた。
歩夢「とんでもない人……?」
リナ『この人……穂乃果さんはオトノキ地方の歴代チャンピオンの一人……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「……はい?」
……歴代チャンピオン?
穂乃果「わっ! 私のことも知ってるの?」
リナ『データベースの情報だけだけど……。公式戦無敗のオトノキ地方歴代最強のチャンピオンらしい……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
穂乃果「えへへ〜歴代最強だなんて、照れちゃうな〜」
千歌「そーなんだよー! 穂乃果さんには結局一度も勝ててないままなんだよね……」
──私は再び空いた口がふさがらない状態になっていた。
……え、何この空間?
セキレイシティで会ったお姉さん──彼方さんと偶然再会。その妹の遥さんと……オトノキ地方現チャンピオンの千歌さん。そして、歴代最強のチャンピオンの穂乃果さん……?
普段だったら感動のあまり、今まで見た試合の感想を捲し立てていそうなものなのに、あまりの展開にもはや呆けるしか出来なくなってしまっている。
遥「……そういえば、千歌さん。ウテナに行くんじゃ……」
穂乃果「歓送迎会って言ってたよね? 早く行かないと遅刻しちゃわない?」
千歌「……あ! そ、そうだった! 遅刻したら、ダブルでお説教されちゃう……!!」
彼方「ボールベルト忘れてないー?」
千歌「うん! 今日も着けっぱなし! それじゃ、行ってきます! 穂乃果さん、あとお願いします!」
穂乃果「了解〜。任せて〜!」
千歌「侑ちゃん! さっきはぶつかりそうになってごめんね!」
侑「あ、いえ……」
思い出したかのように、慌ただしくロッジを飛び出していく千歌さん。
……玄関で鉢合わせたということは、千歌さんは出掛けようとしていたんだから、そりゃそうだよね。
彼方「そういえば、侑ちゃんたちはどうしてここに来たの〜?」
言われてみれば、本題がまだだった。
侑「えっと……今日の宿を探していて、ここに来れば泊めてもらえるって聞いたので……」
彼方「あ〜なるほど〜」
歩夢「あの突然でご迷惑じゃないでしょうか……?」
遥「迷惑なんてとんでもないです! 本来、旅人が自由に使えるロッジをこうして長期で貸していただいているのは私たちの方なので……お気になさらずくつろいでください」
- 280 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 12:02:13.49 ID:IGCv6YWI0
-
どうやら、腰を落ち着けることは出来そうだ。
……いや、でも、このままじゃ別の意味で落ち着かない。
侑「あ、あのー……」
彼方「ん〜なにかな〜?」
侑「その……彼方さんたちはどういう理由でここに滞在しているんですか……?」
事細かに訊きたいことはいろいろあるんだけど……とりあえず、どういう理由でチャンピオンたちがここに集まっているのかが気になってしょうがない。
だけど、その問いに対しては、
穂乃果「残念だけど、それは機密事項で話せないんだ〜。ごめんね?」
と煙に巻かれてしまった。
侑「あ、い、いえ……! だ、大丈夫です……! す、すみません、こちらこそ急に変なこと聞いちゃって……!」
穂乃果「うぅん。確かにいろいろ気になっちゃうよね〜」
考えてみれば歴代チャンピオンが一つの場所に二人もいるなんて、それこそ普通じゃないし……。
何か人に言えない重要な理由がある……んだと思う。とりあえず、それで納得しておこう。
彼方「とりあえず、みんなお腹空いてない〜? そろそろご飯を作ろうと思うんだけど〜」
歩夢「あ、それなら私、手伝います!」
侑「私も!」
「ブイ!!」
彼方「ありがと〜。そっちのイーブイちゃんにもおいしいご飯作るからね〜。今日はいつも以上に賑やかなご飯になりそうだね〜」
穂乃果「ふふ、そうだね♪ それじゃ、私はご飯を作ってる間に、周囲の見回りしてくるね」
遥「すいません、いつも……。よろしくお願いします」
穂乃果「任せて♪ いってきま〜す」
彼方「いってらっしゃ〜い」
見回りってなんだろう……?
彼方「は〜い、それじゃみんなで美味しい夕食を作ろうね〜」
侑「あ、はーい!」
……まあ、この状況、気になること全てを聞いていたら、時間がいくらあっても足りない気がするし……。
とりあえず、目の前のことから片付けていこうかな……。
どうにか頭を切り替えながら、彼方さんを手伝うために、ロッジのキッチンに向かうのであった。
- 281 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 12:02:53.89 ID:IGCv6YWI0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【コメコの森】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回●__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.25 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.20 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.26 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
バッジ 2個 図鑑 見つけた数:55匹 捕まえた数:3匹
主人公 歩夢
手持ち ヒバニー♂ Lv.15 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.15 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:82匹 捕まえた数:10匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 282 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 21:00:34.61 ID:IGCv6YWI0
-
■Intermission👠
果林「──ごちそうさま」
エマ「おそまつさまでしたー♪」
エマの作ってくれる料理は、美味しいから好き。
……ただ、少しカロリー高めなメニューが多いのは玉に瑕だけど。
また明日からカロリー調整、意識しないとね……。
「チャム」「ヤンチャー」
エマ「あれ? ヤンチャムちゃんたち、まだ足りないかな?」
果林「こーら。貴方たち、自分の分はさっきちゃんと食べたでしょ?」
「チャム」「チャムチャー」
果林「全く……」
我儘なんだから……。特にこの2匹は食いしん坊で困っちゃうわ……。まあ、そんなところも可愛いのだけど。
エマ「果林ちゃんのお家は可愛いヤンチャムちゃんがたくさんいて楽しいね〜♪」
朗らかに笑いながら、部屋の中を見回すエマ。
確かに、この家には5匹もヤンチャムがいるから賑やかではある。
果林「……あんまり、外でこのこと言わないでね?」
エマ「えー? 気にしなくてもいいと思うんだけどなぁ……」
果林「私にもイメージってものがあるの。あのスーパーモデルの果林が普段はヤンチャムに囲まれてるなんて、イメージと全然違うじゃない」
エマ「そういう果林ちゃんも可愛くて私は良いと思うよ?」
果林「……/// そ、そういうのはエマの前だけでいいってこと!」
エマ「そっかー。えへへ〜」
全くこの子は……わかって言ってるんじゃないかしら?
エマ「さて……それじゃ、わたしはそろそろ帰るね」
果林「ええ。ご飯まで作ってくれて、助かったわ」
エマ「うぅん。果林ちゃん、なかなか帰って来ないから……いるときくらいはお世話させて♪ また来るね♪」
果林「ふふ、ありがとう。おやすみなさい」
エマ「うん、おやすみなさ〜い♪」
ひらひらと手を振りながら、エマが家を後にする。
果林「…………」
エマが出て行ったドアを数秒見つめ──十分に人の気配がなくなったことを確認して、私は家の奥にある書斎へと足を運ぶ。
そのまま、書斎の奥の棚にある一冊の本を押し込むと──ゆっくりと本棚がスライドする。
棚がスライドしたその先には、カメラのレンズ。それを覗き込むように、目を近づける。
──ピッと小さな音で網膜センサーの認証音が鳴り。今度はパスコード入力用のテンキーが現れる。
パスコードを入力し、最後に指紋センサーで自分の指紋を認証させたら──エレベーターへの入り口がやっと開かれる。
果林「相変わらず厳重すぎるほど厳重ね……」
- 283 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 21:02:22.99 ID:IGCv6YWI0
-
一人呟きながら、エレベーターに乗り込むと、私は地下へと運ばれる。
エレベーターが動きを止め、目的地の地下階へと降り立つと──
「ベベノー」
白と黄色のボディが特徴的な小さなポケモンがふよふよと自由気ままに漂っていた。
そして、そのさらに奥には、このポケモンの主、大きなモニターの前に座った子が、金髪のポニーテールを揺らしながら、こちらに振り返る。
愛「やー、カリン。重役出勤だね〜」
果林「愛……。悪かったわ。ちょっとエマに捕まっちゃって」
愛「見てたよ〜。いやいや、仲睦まじそうで愛さん嬉しいよ。昔のカリンのこと思い出すみたいで」
果林「茶化さないで。というか、見ないで欲しいんだけど」
愛「それはダメだって。エマっちを監視しないわけにいかないっしょ? カリンにあれだけ近い存在なんだから」
果林「…………」
愛「そんな顔しないでって、アタシがそれだけ真面目に仕事してるってことじゃん」
果林「……そうね」
愛「アタシ結構頑張ってたんだからね? まさかカリンが丸一日も遅刻するなんて思わないじゃん?」
果林「だから、悪かったって言ってるでしょ……」
愛「ま、カリンのことだから、カナちゃんの様子見に行ったついでに、森で道に迷ったとかそんな感じでしょ?」
果林「……ここにいたなら発信機で概ね見当が付いてるんでしょ……」
愛「あっはは♪ ま、そうなんだけどね〜」
わざわざ、こんなことを言ってくるのは遅刻したことへの当てつけなのか、それとも……。
愛「んで、カナちゃんはどうだったの?」
果林「相変わらずよ。チャンピオン二人が脇を固めているから、近寄れないわ」
愛「だよね〜。ま、今チカッチは離れてるっぽいけど」
果林「穂乃果ちゃんがいるなら、どっちにしろ厳しいわね……」
相手は元とはいえチャンピオンだ。二人いるときよりはマシとは言え、私一人で相手取るには少々厳しいものがある。特に穂乃果ちゃんは……。
愛「ま、それはそれとして……ことりの方はどうだったの?」
果林「……あえなく撃墜されたわ。やっぱり私が指示を出せない状態で襲撃してもダメね」
愛「ひゃー……やっぱ、さすがの強さだね。んで、撃墜された後どうしたの? 回収できたん?」
果林「ええ。このとおりよ」
私は腰からボールを取り出して愛に見せる。
愛「カリンが撃墜地点まで行って回収したの? それって足付かない?」
果林「回収は姫乃にしてもらったわ」
愛「その後、姫乃っちとどっかで合流した感じ? 周りに人いない場所でやった?」
果林「いいえ。むしろ、コンテストで優勝したあと、ファンに囲まれている中で受け取ったわ」
愛「……相変わらず無茶するねぇ」
果林「ああいうのは、こそこそしている方がバレるものよ。人の多い場所でやった方がむしろ目立たないわ」
愛「木を隠すなら森の中〜人を隠すなら〜ってやつ? ま、わからなくもないけどね〜」
- 284 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 21:03:41.85 ID:IGCv6YWI0
-
私の報告を聞き終わると、愛は再びモニターに向き直って、キーボードで情報を整理し始める。
その際に、辺りに携帯食料の袋がいくつも落ちているのが目に入る。
果林「……愛、もしかしてずっとここに居たの?」
愛「誰かさんが遅刻したからね〜」
果林「それは悪かったって言っているでしょ? ……私の居場所に見当が付いていたなら、食料の調達くらい……」
愛「あっはは、ダメダメ♪ カリンはアタシの居場所は24時間どこに居てもわかるわけじゃん?」
そう言いながら、愛はこちらに振り返り、自分の首に付けられたチョーカーをわざとらしく弄って見せる。
愛「私はカリンにリードで繋がれてるんだからさ〜。ここで大人しくご主人様の帰りを待ってないとね〜」
果林「……当てつけみたいに言わないでくれる?」
愛「へいへい」
愛は肩を竦めながら、再びモニターに向き直ってしまう。
果林「……愛」
愛「んー?」
果林「……これでも私は、今でも“SUN”は貴方が相応しいと思ってるつもりよ」
愛「でも、上の人たちはそんなの許さないでしょ」
果林「……」
愛「別にいいって。“SUN”はカリンが、“MOON”は姫乃っちがって、ちゃんと役割決まってるんだからさ。アタシはサポートエンジニアでいいんだって」
果林「愛……」
愛「そんな心配する前に“STAR”の奪還の方が大事でしょ」
果林「……わかってるわよ」
私が口を閉じると、室内がカタカタという無機質なキーボードの音だけになる。
しばらく、その音だけが空間を支配していたが、
愛「……あ、そうだ」
ふと、思い出したかのように愛が口を開いた。
愛「ちょっと、面白い子見つけたんだよね〜」
果林「……面白い子?」
愛「この子なんだけどさ」
そう言って、一枚のデータ端末ボードを投げ渡してくる。
目を通す──
- 285 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/10(木) 21:04:22.19 ID:IGCv6YWI0
-
果林「……あら……この子」
愛「お? もしかして、知ってる?」
果林「……知ってるってほどじゃないけど、さっき偶然すれ違ったわ」
愛「ふーん。その子ね、たぶん天才だよ」
果林「天才?」
愛「まだ、芽が出る前だけど……とんでもない逸材だと思うよ。いやー、わざわざ張ってた甲斐があったよ」
果林「……へぇ」
愛「是非、アタシたちの計画に欲しいくらいだよ」
果林「……詳しく教えてくれるかしら?」
愛「OK.OK. この子はね〜」
モニターの明かりだけが照らす薄暗いこの部屋で──私たち、DiverDivaの情報共有は朝方まで続く……。
「ベベノーー」
………………
…………
……
👠
- 286 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:04:47.17 ID:xkYIlSIn0
-
■Chapter014 『ホシゾラの暴れる蕾』 【SIDE Shizuku】
──フソウタウンでの夜が明けて……。私たちは今、
しずく「んー……潮風が気持ちいいね、メッソン」
「メソ…」
ホシゾラシティに向かう船に乗っているところだ。
フソウからは無事にホシゾラ行きの便に乗れたため、私は快適な船の旅を楽しんでいる。
でも一方で、かすみさんは、
かすみ「…………」
「…………」
甲板の隅にしゃがみ込んで、転がっている真っ白なサニーゴを見つめながら、黙り込んでいた。
しずく「もう……かすみさん、いつまでそうしてるつもり?」
かすみ「じっと念を送り続ければ、普通のサニーゴにならないかなって……」
「なるわけないロトー」
かすみ「夢くらい見させてよ!」
「…………」
しずく「あはは……」
まあ、騙されちゃったわけだし、ダメージを受けるのも仕方ないのかな……。
とはいえ、ずっと落胆しているのは気の毒だし、何よりサニーゴも可哀想だ。
しずく「かすみさん、ショックなのはわかるけど……でも、もうかすみさんはそのサニーゴの“おや”なんだから。いつまでもそんな顔してたら、サニーゴが可哀想だよ?」
かすみ「……わかってるよぅ」
「…………」
しずく「ほら、この子もよく見れば愛嬌がある顔してるような気もするし」
かすみ「……そうかな」
「…………」
かすみさんと二人でサニーゴの顔を覗き込む。
その瞳は、深淵を彷彿とさせるような闇が、奥に広がっている気がした。
ずっと、見ていたら魂を吸い込まれそうな……。
しずく「……っは」
「あんまりジーっと覗き込んでると呪われそうロト」
危うく意識が遠のきかけた。やはり、ゴーストタイプは伊達じゃないということだろうか。
- 287 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:05:47.79 ID:xkYIlSIn0
-
かすみ「……決めた」
しずく「?」
かすみ「確かに本当に欲しかったのは普通のサニーゴだったけど……この子も、かすみんのところに来てくれた大切なポケモンだもん」
しずく「! そうそう、そうだよ! かすみさん!」
かすみ「だから、この子の魅力を磨きに磨いて、普通のサニーゴ以上にとびっっっっきり可愛くしてみせるんだから!」
「それは難しそうロトー」
しずく「ロトムは静かにしていてください」
「酷いロト」
せっかく、かすみさんがやる気を取り戻したところに、水を差さないで欲しい。
かすみ「自分のポケモンを魅力的に成長させるのも、ポケモンマスターになるには必要なことだもんね! これから、とびっきり可愛いサニーゴに育ててあげるからね!」
「…………」
当のサニーゴはかすみさんの言葉に、少しだけ身動ぎしたものの、相変わらず反応は乏しい物だった。
……いや、反応があっただけいいことなのかな?
かすみ「そして、ポケモンマスターへの第一歩のためにも! ホシゾラシティでジムを攻略しちゃいますよ!!」
「…………」
しずく「うん! その意気だよ! かすみさん!」
やっといつもの調子に戻ってきたかすみさんの姿に安心しながら、船は間もなくホシゾラシティに到着しようとしていた。
💧 💧 💧
──ホシゾラシティに到着して、私たちは真っ先にホシゾラジムに来ました。
かすみ「…………」
だけど、かすみさんの視線はジムのドアに貼られた一枚の張り紙に注がれる。
『ジムリーダー不在のため、ジム戦の受付を停止しています』
しずく「……あ、あの、かすみさん……」
かすみ「……かすみん、ポケモンジムから嫌われてるのかな……」
しずく「そ、そんなことないよ! 偶然! 偶然だよ!」
かすみ「じゃあ、偶然から嫌われてるんだ……」
しずく「う……え、えっと……。そうだ! このまま、ウチウラシティまで行こう! ウチウラシティにもジムはあるし、ここからそこまで遠くないから、きっとそこでならジム戦も出来るよ!」
かすみ「うぅ……ホント……?」
しずく「う、うん!」
- 288 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:07:03.11 ID:xkYIlSIn0
-
さすがにウチウラジムまでジムリーダー不在なんてことはないと思う。……思いたい。
結局セキレイでもタイミングが合わずにジム戦を逃しているわけだし、さすがにこのままだと、かすみさんが不憫だ。
ホシゾラシティに着いたばかりだけど、とりあえず、ウチウラシティを目指す方向に舵を切ろうとすると、
「ウチウラシティ方面は良くないロト」
何故かロトムが割って入ってきた。
しずく「……? 良くないって、何がですか?」
「フウスイ的な何かが良くない気がするロト」
しずく「……なんですか、それ」
かすみ「ウチウラシティもダメなんだ……」
ロトムの話を真に受けてしまったのか、かすみさんはふらふらとした足取りで歩き出す。
しずく「か、かすみさん!? そっちはウチウラシティ方面じゃ……!」
かすみ「かすみん、ポケモンセンターでちょっとお休みさせてもらいます……運気を回復しないと……」
「お大事にロトー」
しずく「ちょっとロトム! かすみさんが、また落ち込んでしまったではないですか!?」
「仕方ないロト。あっちは不吉ロト」
……詰まるところ、ロトムは南のウチウラシティ方面には行きたくないらしい。
つまり……。
しずく「……ロトムにとって都合の悪いものが南方面にある……?」
「ギクッ」
しずく「……次の目的地は決まりましたね」
「しずくちゃん、そっちは危険ロト」
しずく「そうですか」
「しずくちゃん」
とりあえず、ロトムを無視しながら、かすみさんの後を追う。
どうにか説得して、ウチウラシティ方面に向かうとしよう。
それにしても、ロトムのこんなわかり切った嘘にまで引っかかってしまうなんて、かすみさんは相当ダメージを受けているようだ。
……まあ、確かに落ち込むことが続いていたし、仕方ないか。
どうやって、説得するかを考えながら歩いていると──
かすみ「ぎゃわーーーーーー!!!!!」
しずく「!?」
前方のかすみさんから、悲鳴があがった。
しずく「かすみさん!? どうしたの!?」
かすみ「な、なんか、花粉みたいなの……くしゅんっ!!」
しずく「花粉……!?」
- 289 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:07:54.20 ID:xkYIlSIn0
-
駆け寄って、かすみさんの足元を見ると、
「…ボミー」
小さな蕾のようなポケモンが、頭部から花粉をぼふぼふとばらまいているところだった。
このポケモンは確か……。
しずく「スボミー……?」
『スボミー つぼみポケモン 高さ:0.2m 重さ:1.2kg
周りの 温度変化に 敏感。 暖かい 日差しを 浴びると
つぼみが 開き 激しい くしゃみと 鼻水を 引き起こす
花粉を ばら撒く。 きれいな 水の 近くが 住処。』
ロトムがスボミーの図鑑を開いて解説をしてくれる。
その最中もかすみさんは、
かすみ「くしゅんっ……!! くしゅん!!」
何度もくしゃみを繰り返している。
しずく「た、大変!」
スボミーの花粉を吸い込んでしまったのは見ればわかる。
スボミーは何故だか目の端を釣り上げて、激しく花粉をばらまきまくっている。
とりあえず、大人しくさせなきゃ……!!
しずく「メッソン!! “みずのはどう”!!」
「…メッソ」
肩の上で透明になっていたメッソンがスゥッと姿を現して、みずエネルギーの波動をスボミーにぶつける。
スボミーは臆病なポケモンだ。攻撃して驚かせれば逃げていくはず──と、思ったら。
「スボーーー!!!!」
しずく「!?」
逃げるどころか、“みずのはどう”を突っ切るようにして、こっちに走り出してきた。
そして、そのまま私の目の前でジャンプして──ボフッ!!! と音を立てながら、花粉を炸裂させた。
しずく「っ……! くしゅんっ!! くしゅんっ!!」
途端にくしゃみが止まらなくなる。それと同時に、花粉が目に染みて、涙が止まらなくなる。
「スボーー…」
かすみ「くしゅんっ!! はっくしゅっ!」
しずく「くしゅん……っ! ……っ……!」
二人してくしゃみが止まらない。
しずく「か、花粉を……っ……どうにか……くしゅんっ!」
「仕方ないロトね」
ロトムの声が聞こえたと思ったら、急に周囲に強い風が吹き始める。
- 290 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:09:17.38 ID:xkYIlSIn0
-
「スボッ!?」
「“きりばらい”で花粉は吹き飛ばしたロト」
かすみ「はぁ……はぁ……やっと、収まった……」
しずく「はぁ……はぁ……ロトム……あ、ありがとうございます……」
「スボ…!!」
花粉を吹き飛ばされて形勢が悪くなったと思ったのか、スボミーは短い足をせかせか動かしながら、どこかへ走り去っていってしまった。
かすみ「……た、助かったぁ……」
しずく「……い、今のは……一体……」
どうして、急にスボミーに襲われたのか見当もつかないが……。とりあえず、くしゃみのし過ぎで頭が痛い。
涙もまだ止まらないし……。
私たちが蹲っていると、
女の子「あ、あなたたち大丈夫!? もしかして、スボミーに襲われたの!?」
通行人らしき、女の子が駆け寄ってくる。
しずく「は、はい……ちょっと、花粉を浴びせられてしまって……」
女の子「大変……! ポケモンセンターに連れていくから、肩貸すよ……!」
しずく「す、すみません……お願いします……」
女の子「そっちの子も……!」
かすみ「は、はいぃ……」
私たちは二人揃って、通りすがりの女の子に連れられ、ポケモンセンターへ……。
💧 💧 💧
しずく「──最近暴れまわっているスボミー……ですか……」
女の子「うん……。数週間くらい前から、よく町に現れるようになったんだ……」
ポケモンセンターで治療を受けながら聞いた話によると──あのスボミーは最近ホシゾラシティで頻繁に現れて、暴れまわっているポケモンらしい。
かすみ「スボミーって思った以上に恐ろしいポケモンだったんですね……スボミーのイメージ変わっちゃいました……くしゅんっ」
しずく「かすみさんは、まだ花粉が抜けてなさそうだね……」
私は顔を洗って、うがいをしたら、症状が落ち着いたけど……かすみさんは私よりもたくさん花粉を吸い込んでしまったらしく、未だにくしゃみや鼻水が止まらないようだ。
「小さくても、どくタイプなだけはあるロト」
女の子「ただ、スボミーはベイビーポケモンだから……半日も大人しくしてれば症状も落ち着くと思うよ。この町で襲われた人も、そんな感じだから」
かすみ「……うぅ、かすみんしばらく大人しくしてますぅ……ずび……」
しばらくはここで休憩になりそうだ。
- 291 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:10:41.34 ID:xkYIlSIn0
-
しずく「……それにしても、あのスボミーどうしてあんなに怒ってたんだろう」
かすみ「たまたま狂暴な子なんじゃないの……? ……くしゅっ!」
しずく「まあ、そうなのかもしれないけど……」
そういう性格だと言われればそれまでだけど……スボミーというポケモンは本来大人しく、戦いを好まない。
もちろん外敵から襲われれば、毒の花粉で応戦はするだろうけど、基本的には群れを作って暖かい日差しを求めながら、のんびりと生活する生態のはずだ。
私は今まで結構な数の野生のスボミーを見たことがあるつもりだけど……あんなに好戦的──しかも、自分から人に襲い掛かってくるようなスボミーを見たのは初めてだ。
かすみ「そういえば、よく現れるって言ってましたけど、普段はどうしてるんですか……? やっぱり、追っ払ってる?」
女の子「うん……。ただ、普段はジムリーダーの凛さんが対応してたんだけど……今は不在で」
しずく「ジムリーダーが直々にですか……?」
いくら狂暴な野生ポケモンとはいえ、相手はスボミーだ。
地方でもトップクラスの実力者が、直々に対応するほどのことなんだろうか?
……いや、それ以前に、
かすみ「えー? この町のジムリーダーはスボミー1匹やっつけるのに何週間も掛かっちゃってるんですかぁ……?」
かすみさんも、私と同様の疑問を抱いたようだった。
そう、ジムリーダークラスの人間がスボミー1匹を無力化出来ないとは考えづらい話なのだ。
女の子「えっとね……凛さんはあくまで穏便に済ませたいみたいで……」
しずく「穏便に……とは?」
女の子「凛さんは自然保護派だから、出来れば野生のポケモンは自然に還してあげたいって考えみたいなの……」
確かにホシゾラシティのジムリーダーであるところの凛さんは、自然を愛するジムリーダーというのは有名な話だ。
この町の北に位置する流星山の頂上にあるホシゾラ天文台の所長を務める傍ら、普段は流星山やホシゾラシティ近郊の自然保護活動にも従事していると聞いたことがある。
女の子「この町は昔から自然に囲まれているし、町の人たちもそんなこの町で育ったから、凛さんの考えに賛同する人は多いんだけど……中には、早く捕獲するなり、討伐するなりしようとする人も居て……」
かすみ「討伐って……随分物騒な物言いですね」
しずく「うーん……」
まあ、どちらの意見もわかる話ではある。
野生のポケモンとはいえ、むやみやたらと傷つけるものではないというのは概ね同意出来る。
だけど、実害が出ているとなると、わかりやすく排除してしまった方がいいと考える人がいるのも道理だ。
ただ、少し疑問がある。
しずく「あの……ジムリーダーは具体的にどういった対応をされていたんですか?」
女の子「えっと、毎回コメコの森に逃がしてあげてるみたいだよ」
しずく「……? ということは、あのスボミーは森に逃がしたのに、またわざわざこの町に戻ってきているということですか……?」
私は思わず眉を顰めてしまう。普通、野生のポケモンは町の中には現れない。
何故なら、野生のポケモンからしたら、人間の存在は十分に脅威足りうるからだ。
だから、一部の例外を除けば、野生のポケモンは森、海、山や洞窟と言った人の居住していない場所に生息している。
凛さんもそれがわかっているから、コメコの森──本来のスボミーの生息地に還してあげているんだろうけど……スボミーは何故か、町にまた戻ってきてしまう。
どうにも腑に落ちない。眉根を顰めたまま、何か理由があるのか考えていると──
「──そっちに行ったぞー!!」
- 292 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:11:45.65 ID:xkYIlSIn0
-
ポケモンセンターの外から、大きな声が聞こえてきた。
かすみ「? なんですか?」
窓から外を伺ってみると──
「スボーーー!!!!」
「そっちだ!! 捕まえろ!!」
大人が数人、大きな声をあげて、網を振り回しながら、先ほどのスボミーを追い回しているところだった。
かすみ「あ、あれって、今言ってた過激派の人たちじゃないですかぁ!?」
女の子「た、大変……! 凛さんがいないからって、あの人たち……!」
しずく「……確かにあのままでは、危ないですね」
スボミーが、ではない。
あの人たちが、だ。
小さな子とはいえ、相手はポケモンに変わりない。
ポケモンの持っているパワーは人のソレとは比べ物にならないし、少なくとも虫取り網で捕まえられるような相手ではない。
しずく「あの人たち、ポケモントレーナーではないんですか?」
女の子「う、うん……この町にはポケモントレーナーはあんまりいないというか……ポケモントレーナーは旅に出ちゃうから……」
なるほど。だから、凛さんくらいしか事の対応に当たれる人がいなかったのか。
言われてみれば、この町は石材の切り出しや、加工が主な産業だったはず。
セキレイやローズ、ダリアとは違ってポケモンバトル施設などもジム以外にはないし、トレーナーの数が少ないのもおかしな話ではない。
……もしかして、凛さんが苦戦していたのは、無謀な住人たちを抑えるのにも労力を割いていたからなんじゃないかとも思わなくはない。
しずく「とにもかくにも……放っておくわけにも行きませんね」
私は立ち上がって、彼らの説得ないし沈静に向かうことにする。
かすみ「あっ、かすみんも! くしゅんっ!!」
しずく「かすみさんはまだそこで休んでて。私がどうにかしてくるから」
かすみ「でも……しず子一人で大丈夫なの……?」
しずく「私もポケモントレーナーなんだから。任せて」
かすみ「……む、無茶しないでよ……?」
しずく「うん、わかってる」
女の子「気を付けてね……」
しずく「はい。行って参ります!」
- 293 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:12:50.47 ID:xkYIlSIn0
-
💧 💧 💧
しずく「皆さん!! 下がってください!! 危険ですから!!」
虫取り網片手にスボミーを追いかけまわす大人たちの集団に向かって、声を張りあげながら追いかける。
町人「なんだい、お嬢ちゃん……? 今忙しいんだ、後にしてくれないか」
集団の一番後ろに居た男性が立ち止まって、嫌そうな顔を私に向けてくる。
しずく「はぁ……はぁ……危ないので、スボミーを追いかけまわすのはやめていただけませんか……?」
町人「危ないから、こうして捕まえようとしているんじゃないか」
しずく「だから、それが危ないんです……相手はポケモンなんですから、虫取り網なんかじゃ捕まえられませんよ……」
町人「そんなことはみんなわかっているよ」
しずく「ならなんで……」
町人「ジムリーダーのいない今、私たちが捕まえるしかないだろう。それとも、暴れ回るスボミーを黙って見ていろとでも言うのかい?」
しずく「そ、それは……」
町人「次は自分の家族が襲われるかもしれない。そうなる前にどうにかしなくちゃいけないんだ。もう私は行くよ。邪魔はしないでくれ」
そう言い残して、男性は再びスボミーを追いかけて走り去ってしまう。
「勇敢と無謀を履き違えているロトね」
しずく「……」
ロトムが毒づく。……確かに無謀だ。恐らく放っておけば怪我人が出る。
だけど、男性の言うことも尤もだった。放っておいても、スボミーがここに現れる続けるなら、さっきの私やかすみさんのように被害者はきっと増え続ける。
そうなれば、無茶でも無謀でも立ち向かおうとする人間が出てくるのは頷ける。
……なら、私はどうする?
「しずくちゃん。これはこの町の問題ロト」
しずく「……そうですね」
ロトムが遠回しに、首を突っ込むなと言ってくる。
理由は恐らく──今、私がどうにかする術を持ってしまっているからだ。
私は、無言のまま手持ちのポケモンたちをボールの外へと出す。
「マネ!!」「ピィィ」「メソ…」
しずく「みんな、力を貸して」
「マネネ!!」「ピィィィ!!」「メッソ…」
「しずくちゃんが、あの人たちの代わりにスボミーを倒すつもりロト?」
そう、私はポケモンと戦う術を持っている。だから、スボミーと戦って無力化することは出来るはずだ、でも……私がしたいのはそういうことじゃない。
しずく「私は……あのスボミーがどうして人を襲っているのかをちゃんと知る必要があると思うんです」
「どうしてロト?」
しずく「私の家は、サニータウンにあったので……毎日学校に通うために、セキレイシティに行く通り道の太陽の花畑で、何度も野生のスボミーを見てきました──」
- 294 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:13:39.87 ID:xkYIlSIn0
-
それこそ、今までに数え切れないほどのスボミーを見たと思う。
彼らは私の足音を聞くだけで、花や草木にすぐに隠れてしまうくらい臆病だった。
基本的に群れを成して、身を寄せ合い、暖かい場所で温厚に暮らしている。
そんなスボミーたちと掛け離れた行動をしている目の前のスボミー……どうしても、理由がある気がしてならない。
恐らく、凛さんも同じように考えていたからこそ、穏便に、慎重に事を進めていたのではないだろうか。
「……しずくちゃんはお人好しロトね」
私が自分の考えを話すと、ロトムはまるで溜め息でも吐くかのように言う。
しずく「だって、本当の自分を知ってもらえないまま……理解してもらえないまま、一人ぼっちになるなんて、寂しいじゃないですか……」
「ロト?」
──『しずくちゃんの言ってること、難しくてよくわかんない』
しずく「…………」
不意に思い出した、幼い頃の記憶を頭を振って掻き消しながら、
しずく「みんな、行こう!」
「メソ」「マッネ!」「ピピィィ〜」
私は再び駆け出す。
💧 💧 💧
──私が全力で走って追いついたころには、事態は悪い方向に進んでいた。
町人「よし!! 捕まえたぞ!!」
しずく「……!?」
何かを囲むようにして、集まる大人たちの中心からそんな声が聞こえてきた。
大人たちの集団の中、僅かな隙間の先に見えたのは──虫取り網を上から覆いかぶせられたスボミーの姿。
しずく「いけない……!!」
そんな刺激の仕方をしたら……!!
「スボォォーーーー!!!!」
町人「う、うわぁ!!?」
スボミーがボフンッ!! と大きな音を立てながら、周囲にとんでもない量の花粉を噴き出した。
視界を覆い尽くさんばかりの量の花粉。これはまずいと咄嗟に口と鼻を腕で覆うようにして、吸い込まないようにする。
「“しびれごな”ロト!!」
上から響くロトムの声。そして、前方から、
- 295 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:14:45.87 ID:xkYIlSIn0
-
「か、身体が痺れ……」
「う、動けな……」
“しびれごな”をモロに吸い込んでしまったであろう、町人たちの声。
しずく「……っ……ココガラ、“きりばらい”!」
「ピィィィ!!!」
とにかく、花粉が充満したままでは危険だと判断し、ココガラの風で吹きとばす。
視界が晴れると共に、開けた視界の先には──大の大人が数人地面に横たわっている姿と、
「スボーーーー!!!!」
網の中で怒りを露わにしている、スボミーの姿。
「言わんこっちゃないロト」
しずく「動ける人は負傷者を連れて、今すぐここから退避してください!!」
町人「なんだ、君は……!!」
町人2「せっかく、ここまで追い詰めたのに、あきらめろって言うのか!?」
しずく「だから、このまま、ここに居ちゃ危ないんです!!」
町人3「危ないのは百も承知だ!!」
町人4「よそ者は黙っててくれ!!」
しずく「……っ……」
もうすでに負傷者が出ているというのに、まるで聞く耳を持ってくれない。
私の言葉じゃ、感情的になったこの人たちを抑えきれない……そう思ったそのとき──ピシャーーーーンッ!! と轟音を立てながら、一筋の稲妻が迸った。
しずく「……!?」
町人「な、なん……!?」
あまりに突然のことに、驚き唖然とする町人たち。
今のって……。
「全く追い詰められてないし、邪魔だから怪我人連れて下がれって言ってるロト」
しずく「ロトム……」
ロトムの“かみなり”だった。
音と光に驚いた大人たちが、静寂に包まれた今なら……!
しずく「私はポケモンを持っています!! トレーナーです!! この問題、私が今日この場で解決するとお約束します!! ですから、皆さんは負傷者を連れて、今すぐ退避してください!!」
そう声を張りあげると、
町人「……て、撤退しよう……! 動けるやつは負傷者に肩を貸してくれ……!」
雷鳴に驚いた拍子に少し冷静になったのか、大人たちは負傷者を連れて退避を始めた。
「…これだから人間は…ロト」
しずく「ロトム……ありがとうございます」
「ボクは話を聞かないやつが嫌いなだけロト」
- 296 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:15:44.70 ID:xkYIlSIn0
-
ロトムは不機嫌そうに言う。今まで協力的な姿勢を見せていなかったので、こうして手を貸してくれたのは意外ではあったものの……彼にも何か思うところがあったのかもしれない。
周囲から大人たちが逃げ出す中、網を覆いかぶせられたスボミーは──
「スボッ!!!」
──ヒュンッと風を切る音を立てながら、“はっぱカッター”で網を切り裂いているところだった。
「まったくあんなちんけな網でよく捕まえられると思ったロトね」
しずく「やはり、虫取り網で捕まえるのは難しかったみたいですね……」
「それにしても、解決を約束するって確信でもあるロト?」
しずく「ああ言うのが、最も効果的だと思っただけです」
「しずくちゃん、女優ロトね」
しずく「まだ女優志望ですけどね」
さて、これ以上無駄口を叩いている暇はない。
「スボーーーッ!!!!」
お怒りのスボミーを中心に草の嵐が渦を巻きながら、こちらに飛んでくる。
しずく「“リーフストーム”……! マネネ!!」
「マネッ!!!」
しずく「“ひかりのかべ”!!」
「マネーッ!!!」
前に飛び出したマネネが壁を張って“リーフストーム”を防御する。
吹き荒ぶ草の嵐が、“ひかりのかべ”にぶち当たり、大きな音を立てる。
しずく「く……! さすがに大技だけあって、威力がありますね……!」
「マ、ネネェ…!!」
「スボーーー!!!!」
スボミーの“リーフストーム”がなかなか止まない。
恐らく、攻撃を放ち続けているということだ。
「マ、ネネェッ!!!」
しずく「マネネ! 頑張って……!」
“リーフストーム”は大技だ。なら──そろそろ仕掛けた技の効力が活きてくるはず。
「ス…ボッ!?」
急に、“リーフストーム”が勢いを失って不発し、スボミーが困惑した表情になる。
「…“うらみ”ロトね」
しずく「はい。ココガラの“うらみ”でパワーポイントを削らせてもらいました」
「ピピィ〜!!」
“うらみ”は直前に相手が使った技のPPを削る技だ。
ただでさえ大技でPPの少ない“リーフストーム”は、PPを削られたらすぐに使えなくなってしまって当然ということ。
「スゥボォォォ!!!!」
- 297 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:16:44.43 ID:xkYIlSIn0
-
怒り心頭な様子で、頭の蕾を開こうとするスボミー。
でも、そんなスボミーの背後で、
「──メソ」
突然──スゥッとメッソンが姿を現す。
「スボッ!!?」
しずく「“しめつける”!!」
「メッソッ!!」
メッソンが自分の尻尾を、スボミーの頭の上にある蕾に巻き付かせた。
「ス、スボーー」
しずく「これでもう、蕾は開けませんよ」
蕾が開けなくなれば、もう花粉をばらまくこともできなくなる。
「スボーーー!!! スボーーーー!!!!」
しずく「ありがとう、メッソン。そのままでお願い」
「メソッ」
私はメッソンに蕾を締め付けさせたまま、スボミーに近付いていく。
しずく「手荒な真似してごめんね、スボミー」
「スボーーッ!!!! スボーーーッ!!!!」
しずく「…………どうして、貴方はそんなに怒っているの?」
「スボォーーー!!!」
しずく「貴方が何を思って、こんなことをしているのか……私はそれが知りたいんです」
「スボォーーー!!!!」
しずく「何か理由があって、怒っているんですよね?」
「スボォーーー!!!!!」
怒り心頭のスボミーの前に膝をついて、スボミーの頭を撫でる。
「スボ……ッ!!!」
触れると、スボミーは一瞬ビクリとし、私を睨みつける様に、見上げてくる。
しずく「……理由を訊くのに、締め付けられたままじゃ嫌だよね。メッソン、もういいよ」
「…メッソ」
「し、しずくちゃん、拘束を解くのは危ないロト…」
しずく「大丈夫」
メッソンが尻尾の締め付けを緩めて解放すると──
「スボッ!!!」
スボミーが頭の先の蕾をパカッと開いて、私に突き付けた。
- 298 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:17:17.48 ID:xkYIlSIn0
-
しずく「…………」
「スボッ…」
しずく「いいよ、それで貴方の怒りが収まるなら」
「スボ…」
しずく「怒りって、簡単には落ち着かないもんね。大丈夫、貴方の怒りも受け止めてあげるから。落ち着いたら、貴方の気持ちを私に教えてくれないかな?」
スボミーはしばらく、開いた蕾の先を私に向けたまま、固まっていたけど、
「ス、スボ…」
結局花粉と飛ばすことなく──パタンと自分の蕾を閉じたのだった。
しずく「やっぱり、話せばわかってくれると思ってました」
「無茶するロトね」
ふわりとロトムが私とスボミーのすぐ傍まで下りてくる。
「それで、なんでこんなことしたロト?」
「…スボ、スボボ…スボ、スボ」
「…ふむふむ、ふむ、ロト」
しずく「……あ、そっか。ロトムはポケモンだから、言葉がわかるんですね……」
普段うるさいくらいに人の言葉を喋るから忘れかけていたけど……通訳が可能だということに気付く。
しばらく、ふむふむと話を聞いていたロトムだったけど、
「なるほどロトね……」
しずく「なんて言っているんですか?」
「…このスボミーは他のスボミーに比べて生まれつき体が大きかったらしいロト」
しずく「うん」
言われてみれば、少し大きめのサイズかもしれないかな……?
- 299 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:18:09.80 ID:xkYIlSIn0
-
「加えて…元から少し気性が荒い性格みたいロト」
しずく「まあ、それは……そうかもしれませんね」
「群れに襲い掛かってくる敵もこのスボミーが倒していたらしいロト」
しずく「みんなのリーダーみたいな存在だったということですね」
「その結果…群れから追い出されたらしいロト。どうりで、何度森に還しても、また戻ってくるわけロト」
しずく「……え?」
「群れを追い出されて町まで来たら…野生のポケモンが入り込んだと大騒ぎになって、咄嗟に花粉をばら撒いて反撃したら引っ込みが付かなくなって──」
しずく「ま、待ってください!」
「ロト?」
しずく「どうして、群れを追い出されたんですか!? 話が繋がっていないじゃないですか!」
「しずくちゃん、スボミーはどんなポケモンか、自分で言ってたじゃないロトか」
しずく「え……?」
「スボミーは小さな物音でも隠れてしまうくらい臆病で、身を寄せ合って温厚に暮らしているロト」
しずく「……はい」
「基本的にスボミーは戦いを好まないロト。せいぜい花粉をばら撒いて逃げるくらいロト」
しずく「…………」
少しだけど……意味がわかってきた。
しずく「じゃあ、スボミーたちは……積極的に戦って自分たちを守ってくれるこのスボミーが……怖くなってしまったということですか……?」
「簡単に言うと、そういうことロト」
しずく「そんな……」
スボミーは仲間を守っていただけなのに……?
しずく「そんな……そんなの酷すぎます……」
「ポケモンにはポケモンごとの生存戦略があるロト」
しずく「え……?」
「スボミーの生存戦略は逃げることロト。でも、こいつは戦いを選んだ。異分子だったロト」
しずく「…………」
「普通のポケモンの群れは、自分たちと違う考えや行動をするやつは怖いと考えるロト。人間と同じロト」
しずく「……!」
──『しずくちゃんの見てる映画、むずかしくてよくわかんない』
──『しずくちゃんっていっつも字がたくさんの本ばっかりよんでるねー?』
──『しずくちゃんへんなのー』
しずく「…………」
「群れで生きるなら、合わせる必要はあるロト」
「スボ…」
しずく「……違います」
「ロト?」
しずく「スボミーは自分らしくあるために、自分であるために、自分の考えを貫いて、仲間を守った。それだけです」
「スボ…?」
- 300 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:19:10.88 ID:xkYIlSIn0
-
それが例え周りと違っても。
しずく「周りのスボミーには、貴方の勇敢さは恐ろしいモノに映ったのかもしれません。でも、私はそうは思いません」
「スボ…」
しずく「周りの仲間が怖がっていると気付いていても……守らなきゃいけないと思って、前に立ち続けた。違いますか?」
「…スボ」
スボミーが小さく頷く。
しずく「貴方はみんなの為に、自分の為に、嫌われてでも、自分を貫いた。それは、誇らしいことですよ」
「スボ…」
しずく「少なくとも……私には出来なかった……」
「スボ…?」
──私は小さい頃から、親の趣味で古い映画や小説に囲まれて育った。
そのせいか、幼い頃は周りの友人たちと好きなものや価値観が噛み合わずに……孤立しかけた。
だから、私は自分を隠そうとした。自分の好きなモノを口にせず、みんなが好きなモノが好きな振りをするようになった。
……自分を出すのが……怖くなった。
自分であり続けることが……出来なくなった。
しずく「……ねぇ、スボミー」
「スボ…?」
でも、そんな私を変えてくれた人が居た。
──『かすみんは自分の好きを貫くって決めてるんだもん!』
──『だから、しず子も自分の好きを貫けばいいんだよ!』
私は、自信満々にそんなことを言うあの子に──かすみさんに憧れた。
そんな彼女に近付けるように。私も心の底から、自分の好きを貫けるようになるために。
しずく「私は……ありのままの貴方を受け止めるから、一緒に旅をしませんか?」
「ス…ボ…」
ずっと吊り上がっていたスボミーの目尻が下がり──じわっと目の端に涙が浮かんだ。
「スボ…スボボ、スボ…」
「…でも、自分は怒りっぽいから、迷惑を掛けるって言ってるロト」
しずく「迷惑なんかじゃないよ」
私はスボミーを抱きしめる。
- 301 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:20:23.76 ID:xkYIlSIn0
-
しずく「あのね、怒るのって実はすっごく難しいことなんだよ?」
「スボ…?」
しずく「私ね、怒りの演技って苦手なんだ。喜怒哀楽の中で……一番苦手かもしれない。でも、きっと怒りって人にとっても、ポケモンにとっても、大事な感情の一つだと思うんだ」
「スボ…」
しずく「それを自然に出せるのは、スボミーの個性だよ」
「スボォ…」
しずく「ふふ、大丈夫。私の手持ちは陽気な子だったり」
「ピィィー♪」
しずく「真似してばっかりの子だったり」
「マネネ♪」
しずく「泣き虫な子だったり」
「メソ…」
しずく「みんな個性的な子ばっかりだから。1匹くらい、怒りんぼな子が居ても大丈夫だよ♪ むしろ、私の演技の幅を広げるためにも、私の傍で怒って見せて?」
そう伝えたら、
「…ス、スボォ…スボォォォ…」
スボミーは大粒の涙を流しながら、泣き始めてしまった。
しずく「……って、これじゃ泣き虫が増えちゃったみたいですね。ふふ♪」
「スボォォ……スボォォォォォ……」
しずく「スボミー、一緒に行こう」
「スボォ……」
泣きながらも、スボミーは私の言葉に頷いてくれた。
「…そういえば、マリーも昔はボクのこと…」
しずく「え?」
「…い、いや、なんでもないロト」
しずく「……そうですか?」
こうして、ホシゾラシティで暴れまわるスボミーを仲間に加えるということで事態は一件落着。
私は泣きじゃくるスボミーを抱きかかえたまま、かすみさんたちのいるポケモンセンターへと戻るために、歩き出したのだった。
💧 💧 💧
かすみ「それじゃ、スボミーはしず子がゲットしたんだね」
──ポケモンセンターに戻ると、かすみさんはすっかり元気になっていた。
そして、説明をした。
このスボミーはもともと気性が荒くて群れから追い出されてしまったこと。
町にも森にも居場所がなかったスボミーを、連れていくと決めたこと。
- 302 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:21:38.64 ID:xkYIlSIn0
-
しずく「もう森には帰れないかもしれないけど……これからは私の傍に居ればいい」
かすみ「良かったね、スボミー。しず子なら優しいから安心していいよ。かすみんが保証してあげる」
「スボ」
女の子「あの……ごめんね、スボミー。……群れを追い出されていたなんて、私たち知らなくて……」
しずく「スボミーが暴れていたのも事実ですから……」
「スボ…」
かすみ「まあでもどっちにしろ、しず子が連れていくなら、解決ってことだよね」
しずく「そうだね」
かすみ「……さて、それじゃ、かすみんも次の町に向けて頑張らないとですね!」
言いながら、かすみさんが元気よく立ち上がる。
しずく「もう休憩はいいの?」
かすみ「しず子を見てたら、かすみんも頑張らないとって気合い入っちゃったんだよね! えっと、次は……」
「西のコメコシティロト」
しずく「南のウチウラシティを目指そうか」
「しずくちゃん、だからそっちは運気が悪いロト」
しずく「ウチウラシティはホシゾラシティから近いから、今から行けば日が落ちる前にはウチウラジムに挑戦できると思うよ」
かすみ「じゃあ、次に目指すはウチウラシティだね!」
「2人とも話を聞いて欲しいロト」
十中八九、こっちの方向にロトムに関する何かしらの情報があることも間違いなさそうだし、行き先は一択だ。
かすみ「それじゃ、ウチウラシティに向けて、レッツゴー♪」
しずく「おー♪」
「スボッ」
「…ボク今回は頑張ったのに…ロト」
- 303 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/11(金) 16:22:40.15 ID:xkYIlSIn0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ホシゾラシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.●_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 しずく
手持ち メッソン♂ Lv.15 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.15 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
ココガラ♀ Lv.15 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
スボミー♂ Lv.14 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
ロトム Lv.75 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:74匹 捕まえた数:5匹
主人公 かすみ
手持ち キモリ♂ Lv.14 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.15 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.13 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.15 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:64匹 捕まえた数:5匹
しずくと かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 304 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 12:56:38.50 ID:Cfp9Tcx10
-
■Chapter015 『浜辺の決戦!』 【SIDE Shizuku】
──ホシゾラシティを出て2番道路を歩くこと数時間。
そろそろ、日も傾きかけてきたという頃……。
かすみ「……やっと、着いたぁー!!」
私たちは、ようやく次の目的地のウチウラシティに到着しました。
しずく「どうにか、今日中に辿り着けたね」
かすみ「うん! さーて、早速ジムを探さなきゃ……!」
しずく「ロトム。ジムはどちらですか?」
「知らないロト」
しずく「マップを開いてください」
「マップ機能は故障中ロト」
しずく「……」
どうやら、ロトムはウチウラジムには行きたくないらしい。
しずく「仕方ないですね……かすみさん、図鑑でマップ開ける?」
かすみ「了解! ちょっと待ってて」
ポチポチと図鑑を操作しながら、かすみさんがタウンマップを開く。
かすみ「ジムはあっちみたい」
無事、目的地の場所もわかり、時間もないのですぐに移動を始める。
「それじゃ、ボクはポケモンセンターで待ってるロト」
しずく「ロトム、行きますよ」
「イヤロト」
頑なに拒否をしてくるが、とりあえず図鑑ボディごと掴んで歩き出す。
「しずくちゃん、離してほしいロト」
しずく「さて、本当に日が沈む前に、ジムに辿り着かないとね」
かすみ「うん! かすみん、燃えてきましたよー!!」
「しずくちゃん、無視しないで欲しいロト」
ロトムが行くのを拒んでいるということは、順調に彼の持ち主に近付いているということだと思う。
そういえば……ウチウラジムの昔のジムリーダーがでんきポケモンのエキスパートだった気が……。
ロトムは相当の手練れが育てたポケモンなのは間違いないので、もしかしたらウチウラジム先代ジムリーダーの手持ちだったりするのかな……?
- 305 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 12:57:34.89 ID:Cfp9Tcx10
-
💧 💧 💧
程なくして、ウチウラジムへと到着した私たち。
かすみ「よ、よし……! 行くよ、しず子!」
かすみさんはジムのドアの前で緊張気味に手を掛けた、そのときだった──ドアの方が自分から開いた。
そして、中から二つの人影。
「それでは、わたくしは行きますから。頑張るのですよ、ルビィ」
「う、うん!」
長い黒髪を携えた女性と、幼さを残す顔立ちの赤髪の女の子。一目見てピンと来る──まあ、ポケモンジムだし、誰が見ても関係者だってことはわかると思うけど……。
しずく「ダイヤさん、ルビィさん……ですよね?」
ダイヤ「あら……? すみません、扉の前に人がいるとは気付きませんでしたわ。いかにも、わたくしはダイヤですが」
ルビィ「る、ルビィです!」
ダイヤさんとルビィさんは姉妹でポケモントレーナーだ。このジムは代々彼女たちの一族がジムリーダーを務めているというのも有名な話だし、何度も彼女たちの姿は書籍などで拝見したことがある。
かすみ「あ、あの……!」
かすみさんは突然現れた姉妹の姿にやや面食らいながらも、
かすみ「た、たのもぉー!!」
少し気の抜ける、挑戦文句を目の前のジムリーダーに叩きつける。
ルビィ「ピギィ……!?」
突然大きな声を出されて驚いたのか、ルビィさんが驚きながら小さく跳ねる。
ダイヤ「あら、挑戦者の方でしたのね」
かすみ「はい!! ジム戦、お願いします!」
ルビィ「あ、あの……ごめんなさい……。ジム戦、実は今出来なくて……」
かすみ「……え?」
ルビィ「ジムの中がまだ改装中で……」
そう言いながら、ルビィさんの後ろにあるジム内へと目をやると──確かに、フィールドのあちこちに機材やらが置いてあったり、まさに改装の真っ最中という感じだった。
かすみ「そ、そんな……かすみん、またジム戦出来ないんですか……」
ルビィ「近いうちに終わるとは思うんだけど……」
かすみ「……あ、あんまりですぅ……」
かすみさんは心底悲しそうに項垂れる。
- 306 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 12:58:46.91 ID:Cfp9Tcx10
-
ルビィ「ご、ごめんなさい……」
かすみ「………………ぅ……」
ルビィ「どうしよう、お姉ちゃん……すっごく落ち込んじゃった……」
しずく「すみません……ここまで2つのジムを巡ってきたんですが、どちらもジムリーダー不在でジム戦が出来なかったもので……」
さすがに3連続ともなると、かすみさんに同情してしまう。
ダイヤ「なるほど……それは災難でしたわね」
かすみ「かすみんは不幸星に生まれた、不幸なかすみんになってしまいました……」
ルビィ「ご、ごめんなさい……」
しずく「いえ……改装中なら仕方ないですよ。ウチウラジムは今、いろいろ忙しいでしょうし」
かすみ「忙しい……? どゆこと……?」
しずく「かすみさん……知らないの? ニュースにもなってたでしょ?」
さすがに世間知らずな級友に呆れてしまう。
しずく「ウチウラジムはつい最近、ジムリーダーが代替わりしたところなんだよ」
ダイヤ「ええ、そのとおりですわ」
そう言いながら、ダイヤとしずくの視線がルビィに集中する。
ルビィ「え、えっと……! ウチウラジムの新しいジムリーダーになった、る、ルビィです……!」
かすみ「え!? こっちの人がジムリーダーだったの!?」
ルビィ「え、あ、ご、ごめんなさい……ルビィ、弱そうだよね……」
しずく「かすみさん! 失礼なこと言わないの! す、すみません、ルビィさん……!」
ルビィ「うぅん、確かにルビィ……お姉ちゃんみたいに威厳がないって昔から言われるから……」
かすみ「てっきり、かすみんはそっちのお姉さんがジムリーダーなんだと……」
しずく「だ・か・ら! ダイヤさんからルビィさんに代替わりしたの!!」
どうやら、かすみさんはそもそもウチウラジムのジムリーダーが誰かすらわかっていなかったらしい。本当に勉強不足だ。
もはや、自分の住んでいる地方のジムリーダーが誰かなんて、一般常識に近いものなのに……。
しずく「重ね重ね、かすみさんが失礼なことを言ってしまってすみません……」
ダイヤ「仕方ありませんわ。ウチウラジムはこの地方でも最南端に位置する端のジムですから」
かすみ「それじゃ、ダイヤ先輩はジムリーダーは引退しちゃったってことですか?」
ダイヤ「引退……とは少し違いますわね」
しずく「だから……ああもう……」
これまた失礼の重ね掛けに頭が痛くなってくる。
しずく「ダイヤさんは、リーグ公認でジムリーダーのさらに上に昇格したんだよ、かすみさん」
かすみ「ジムリーダーの上……? それって……」
ルビィ「四天王だよっ!」
かすみ「わっ、びっくりした!?」
急に大きな声を出すルビィさんに、今度はかすみさんが驚いて跳ねる。
- 307 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 12:59:30.33 ID:Cfp9Tcx10
-
ルビィ「お姉ちゃんはね、クロサワのお家でも初めて、四天王に就任したんだよ!」
かすみ「え、っと……確か四天王って……」
しずく「この地方のポケモンリーグ最高位に位置する4人のトレーナーの1人ってことだよ」
かすみ「えぇ!? めちゃくちゃすごい人じゃないですか!?」
かすみさんはやっと目の前の人物が誰なのかを理解して目を丸くする──失礼だから、もっと早く気付いて欲しかったけど……。
ダイヤ「ありがたいことに、この度オトノキ地方の四天王に就任させていただきましたわ。今はちょうど、ジムリーダーの引継ぎの真っ最中でして、ジムが改装中なのです」
かすみ「そ、そういうことだったんですね……なら、しょうがないか……はぁ……」
ルビィ「ご、ごめんなさい……だから、また後日──」
ダイヤ「ルビィ」
ジム戦を止む無く断るルビィさんを、ダイヤさんが食い気味に制す。
ルビィ「な、なに……?」
ダイヤ「せっかく苦労してここまで来てくださったのです。ジム戦用のポケモンも準備は出来ている。なのに場所が準備出来ていないから出直してくださいと追い返してしまうのは、挑戦者に失礼ですわよ」
ルビィ「え、でも……ジムが……」
ダイヤ「ポケモンバトルは、貴方と貴方のポケモンたちがいれば、どこでも出来るでしょう?」
ルビィ「……!」
ルビィさんはダイヤさんの言葉にハッとする。
かすみ「え、なになに……? ジム戦、やってもらえるんですか……?」
ダイヤ「ええ、少し変則ルールになってしまうかもしれませんが、それでよろしければ。いいですわよね、ルビィ?」
ルビィ「う、うん! かすみちゃん、ジムバッジは何個ですか?」
かすみ「えっと、ここが最初のジムかな」
ルビィ「わかりました! じゃあ、今ポケモンを用意するからここで待っててください!」
そう言ってルビィさんはジムの中へ、パタパタと駆けていく。
どうやら、今回はちゃんとジム戦に挑戦出来るようだ。
しずく「よかったね、かすみさん」
かすみ「うん! さぁ、やりますよー! かすみんの手持ちたち!」
かすみさんはぐるぐると肩を回しながら、やる気十分な様子。
ダイヤ「さて、それではわたくしはリーグに行かなくてはいけないので、ここで」
かすみ「あ、はい!! ありがとうございます!!」
お礼を言うかすみさんに向かってニコリと嫋やかに笑ったあと、ダイヤさんは私に近付いてきて、
ダイヤ「──その背中にくっついているの、どうしてここにいるのかわかりませんが、たぶんアワシマにあるオハラ研究所に連れて行くといいですわよ」
そう耳打ちしてきた。
しずく「え?」
そういえば忘れていたけど、普段喧しいはずの子が全く喋っていないことに気付く。
背中にくっついているのって……。
- 308 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 13:05:41.37 ID:Cfp9Tcx10
-
「ロ、ロト…」
ダイヤ「ふふ。それでは」
ダイヤさんはいたずらっぽく笑ったのち、ボールからオドリドリを出し、その子の足に掴まって、飛び去って行った。
しずく「アワシマ……オハラ研究所……」
どうやら、ダイヤさんはこのロトムについて何か知っているらしかった。
なにはともあれ、ジム戦後の行き先も決まったようだ。
かすみ「しず子? 今、ダイヤ先輩と何話してたの?」
しずく「うぅん、ちょっとね。今後のことを」
かすみ「ふーん……? まあ、いいや! それよりルビ子とジム戦です……!」
しずく「ルビ子って……」
かすみ「あの子、ルビィって言うんでしょ? だから、ルビ子です!」
──あの子……。かすみさん、もしかしてまだ何か勘違いしてるんじゃ……。訂正をしようか悩んでいると、
ルビィ「お待たせしました!」
件のルビィさんがボールを携えて、ジムから出てくる。
ルビィ「それじゃ、こっち! 付いてきてください!」
ルビィさんはそう言って、バトルフィールドとなる場所へと先導を始める。
かすみ「よーーっし!! 絶対かすみんが勝つんだから!!」
気合い十分に、ルビィさんの後を追いかけるかすみさん。
しずく「まあ……いっか」
とりあえずはジムバトルに集中させてあげようと思い、私は黙ってかすみさんを追いかけるのだった。
👑 👑 👑
ルビ子の後を付いてきて十数分。
かすみ「ルビ子……どこまで行くんだろう」
気付けば民家とかもなくなってきたし……町の外れって感じ。
それに、
「ピ、ピピー」
ルビ子の頭上には何かが浮いている。
- 309 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 13:06:48.20 ID:Cfp9Tcx10
-
かすみ「あのポケモン……ルビ子のポケモンかな?」
しずく「あのポケモンは確か……メレシーだったかな?」
かすみ「メレシー……」
かすみん、図鑑を開きます。
『メレシー ほうせきポケモン 高さ:0.3m 重さ:5.7kg
地下深くの 高温 高圧な 環境で 生まれた ポケモン。
体の 宝石が 曇らないように メレシーの 群れでは
ふわふわの ヒゲで お互いを 磨き合うのだ。』
かすみ「へー……ほうせきポケモン」
確かによく見ると、あちこちに赤い宝石がついているのがわかります。
見た感じ……いわタイプ、かな……?
かすみ「そういえば、ルビ子ってなんのタイプのジムリーダーなの? しず子?」
しずく「え?」
かすみ「え? じゃなくて……しず子なら知ってるでしょ?」
優等生なしず子なら、間違いなく知ってると思ったんだけど……。
しずく「えっと……新しいジムリーダーだから、エキスパートタイプは知らないかも……」
かすみ「えぇ!? じゃあ、どのポケモン出せばいいかわからないじゃん!!」
しずく「そんなこと言われても……」
かすみ「じゃあ、あのメレシーってポケモンは何タイプ!?」
しずく「メレシーはいわ・フェアリータイプだったかな……」
かすみ「いわ・フェアリーだと……えっと確か、いわタイプはみずタイプとこおりタイプに弱くて……? フェアリーはいわタイプに弱い……?」
しずく「全然違うよ……。いわ・フェアリータイプの弱点だと、みず、くさ、じめん、はがねかな。特にはがねタイプには弱いと思う」
かすみ「はがねタイプは持ってない……」
かすみんの手持ちはゾロア、キモリ、ジグザグマ、サニーゴの4匹。
あく、くさ、ノーマル、ゴーストだから……。
かすみ「うん、決めた! この子で戦う!」
かすみんが戦いに出す子を決めたところで、前を歩いていたルビ子が足を止めた。
ルビィ「ここで戦います!」
そう言いながら振り返る。
ここって……。
かすみ「浜辺……?」
すっかり日も落ちてしまい、暗くてよく見えないけど……。
近くに海があって、潮の香りがするし、なにより波の音がすぐ近くで聞こえる。
- 310 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 13:07:26.10 ID:Cfp9Tcx10
-
ルビィ「ここでジム戦をします!」
かすみ「ここで?」
しずく「かなり視界が悪いですが……大丈夫でしょうか?」
ルビィ「うん、だからお願いね。コラン」
「ピピピ♪」
ルビ子から、コランと呼ばれたメレシーはフワリと空中に浮きあがって、
ルビィ「“フラッシュ”!」
「ピピィーーーー!!!!!」
眩く光って辺りを照らす。
かすみ「おぉー、辺りが一気に明るくなったよ、しず子!」
しずく「確かにこれなら、対戦に支障はなさそうですね」
ルビィ「うん! それじゃ、使用ポケモンは2体です! かすみちゃん、準備はいい?」
かすみ「もちろんです!」
かすみんとルビ子は同時にボールを構えます。
ルビィ「ウチウラジム・ジムリーダー『情熱の紅き宝石』 ルビィ! 精一杯頑張ります!」
お互いのボールが放たれて──……バトル、開始です!!
👑 👑 👑
かすみ「行くよ! キモリ!!」
「キャモ!!」
かすみんの1番手はキモリ! これでいわ・フェアリータイプのメレシーが来ても大丈夫──
ルビィ「お願いね、オドリドリ」
「ピヨピヨ」
かすみ「……あれ?」
出てきたのは、深紅を基調としたボディと黒い縞模様を羽と尾羽に持った鳥ポケモン。
かすみ「……あれ、そういえばメレシーは照明係なんだっけ……?」
ということは……。
かすみ「バトルとメレシー関係ないじゃん!?」
ルビィ「オドリドリ! “めざめるダンス”!!」
「ピヨピヨ!!!」
オドリドリが踊りだすと、それに合わせて一気に炎が押し寄せてくる。
かすみ「ちょ!? 炎!?」
「キャモッ!!?」
かすみ「み、“みきり”!!」
「キャモッ!!!」
- 311 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 13:10:01.63 ID:Cfp9Tcx10
-
押し寄せる炎の波に対して、砂浜にある凹凸に身を滑り込ませて、炎を紙一重で回避する。
かすみ「ち、ちょっとぉ!? ルビ子って、いわタイプとかフェアリータイプのジムリーダーなんじゃないの!?」
ルビィ「え? えっと……ルビィは、ほのおタイプのジムリーダーなんだけど……」
かすみ「ほのお!?」
ちょっとそれ完全にくさタイプの弱点じゃないですか!?
かすみ「しず子!? タイプ全然違うじゃん!?」
しずく「だから、私はわからないって言ったでしょ……。相手はオドリドリ、“めらめらスタイル”! ほのお・ひこうタイプのポケモンだよ!!」
かすみ「ぐ、ぐぬぬ……お陰でここぞというときの“みきり”を使っちゃったじゃん……」
“みきり”という技は相手の攻撃を確実に避けることが出来る代わりに、使えば使う程、回避の精度が下がっていく技です。
かすみ「うぅ……! こうなったら、一気に畳みかけますよ! キモリ、“こうそくいどう”!!」
「キャモッ!!!!」
砂浜を蹴って、キモリが飛び出し、一気に距離を詰めて、そのまま、オドリドリの背後を取る。
かすみ「“つばめがえし”!!」
「キャモッ!!!!」
「ピヨッ…!!」
素早い動きで翻弄しながら、尻尾を使って攻撃する。回避不能の攻撃にオドリドリがよろけた足元に、
かすみ「“くさむすび”!!」
「キャモッ!!」
「ピヨヨッ!!?」
急に草が生えてきて、バランスを崩させる。
ルビィ「オドリドリ、落ち着いて! 一旦空に離脱!」
「ピ、ピヨッ」
オドリドリはルビ子の指示を受けると、すぐさま自分の足を取っている草を嘴を使って千切り、空へと逃げていく。
かすみ「ちっ……逃がしました。でも、それならそれで、次の準備を整えちゃいますからね!! キモリ、“つるぎのまい”!!」
「キャモッ!!!」
しずく「あ!? か、かすみさん、ダメだよ!?」
かすみ「え?」
キモリが“つるぎのまい”によって、攻撃力を上昇させ始めると──
「ピヨピヨピヨ!!!」
何故かそれに合わせて、オドリドリも踊り出した──と思ったら、
ルビィ「“ついばむ”!!」
そのままシームレスに攻撃に移行して、ロケットのようにオドリドリがキモリに向かって突っ込んできた。
かすみ「は、速っ……!?」
- 312 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 13:12:08.54 ID:Cfp9Tcx10
-
まだ、“つるぎのまい”を踊っている最中のキモリは避けることもままならず、
「キャモォッ!!!?」
なすすべもなく、海まで吹っ飛ばされる。
かすみ「き、キモリー!?」
バシャァーーンッ!! と大きな音をあげながら、激しく水しぶきがあがる。
かすみ「ちょ……なんですかなんですか!? 今のはなんですか!?」
ルビィ「オドリドリの特性は“おどりこ”。相手のダンスの効果をそっくりそのままコピーできる特性だよ」
かすみ「そんなの聞いてないよぉ!!」
しずく「そりゃ、対戦相手なんだから言わないでしょ……」
しず子が呆れたようなことを言っていますが、不意打ちなものは不意打ちです。
かすみ「許すまじ……」
ルビィ「ピ、ピギィ!? え、えっと……オドリドリ! “エアカッター”!!」
「ピヨピヨヨ!!!!」
かすみんの迫力にちょっとビビりながらも、ルビ子は次の攻撃を畳みかけてくる。
海に吹き飛ばされたキモリに向かって、飛んでくる風の刃たち。
しずく「かすみさん!! くさタイプのキモリに直撃するとまずいよ!!」
かすみ「わかってるって!」
対抗するため、海に向かって叫ぶ。
かすみ「“まねっこ”!!」
──指示を叫ぶと共に、海側からも“エアカッター”が飛び出してきて、空中の風刃と相殺しあう。
ルビィ「え、あれ……?」
ルビ子が急に驚いたような顔をした。
──ネタ晴らしはもう少し先にしたかったんですけどね。
かすみ「──“あくのはどう”!!」
今度は海の方から、黒い波動が飛んできて、
「ピ、ピヨヨッ!!!?」
飛んでいる、オドリドリを撃ち落とした。
ルビィ「あ、“あくのはどう”……!?」
ニシシ……! 驚いてる驚いてる。
- 313 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 13:13:35.92 ID:Cfp9Tcx10
-
ルビィ「お、オドリドリ! とりあえず、回避に専念を……!」
かすみ「させませんよ!! “じんつうりき”!!」
「ガァァーーーゥッ!!!!」
「ピヨヨッ!!?」
今度は雄たけびと共に、逃げようとするオドリドリを念動力によって、砂浜に向かって叩き落とす。
ルビィ「あのポケモン、キモリじゃない……!?」
いい加減ルビ子も気付いたようですね。
かすみ「ふっふっふ……そうです、この子はキモリじゃなくて──ゾロアですよー!!」
「ガゥガゥッ!!!!」
しずく「“イリュージョン”……!? 全然気付かなかった……」
かすみ「さっきからキモリも覚える技しか使ってなかったからね!」
ルビィ「オドリドリ! “こうそくいどう”!!」
「ピ、ピヨヨッ…!!!」
オドリドリは地面に撃ち落とされながらも、どうにか体勢を立て直して、砂浜を素早く走り始める。
能力を上げながら、立て直すつもりですね。……でも、そうは行きません!
かすみ「ゾロア!」
「ガゥガゥッ!!!!」
ゾロアも猛スピードで砂浜を走り始める。
こっちはもうすでにさっき“こうそくいどう”で素早さを上昇させ済みですからね!
加速の真っ最中のオドリドリの背後を取ったゾロアが飛び掛かる。
かすみ「こそこそ逃げながら能力を上げようとする、悪い子には──“おしおき”が必要ですね〜♪」
「ガゥワゥッ!!!!」
「ピヨヨヨヨォッ!!!!?」
背後から、飛び掛かったゾロアはそのまま、鋭い爪でオドリドリを切り伏せた。
激しい爪撃が直撃したオドリドリは、その衝撃で砂浜をゴロゴロと転がりながら、
「ピ、ヨォォォ……」
砂まみれになりながら、目を回して引っ繰り返った。
ルビィ「うゅ……オドリドリ、戦闘不能。……戻って」
オドリドリがボールに戻される。
しずく「か、かすみさんすごい!」
かすみ「ふっふ〜ん! ま、かすみんにかかればこんなもんですよ!」
ルビィ「全然ゾロアだって気付けなかった……かすみちゃん、すごいね」
かすみ「ふふん♪ もっと、褒めてくれていいんですよ〜♪」
ルビィ「うん! かすみちゃん、ホントにすごいよ! ルビィ嘘吐くのとか苦手だから……そういう戦術は得意じゃないんだ……。でも、負けるつもりはないよ」
そう言いながら、ルビ子が出した2匹目は、
- 314 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 13:14:24.58 ID:Cfp9Tcx10
-
ルビィ「行くよ、アチャモ」
「チャモッ」
かすみ「わ! 可愛い♪」
ひよこポケモンのアチャモです。
『アチャモ ひよこポケモン 高さ:0.4m 重さ:2.5kg
トレーナーに くっついて ちょこちょこ 歩く。 口から
飛ばす 炎は 摂氏 1000度。 相手を 黒コゲにする
灼熱の 玉だ。 抱きしめると ぽかぽかして 温かい。』
かすみ「摂氏……1000度!?」
ルビィ「アチャモ! “ひのこ”!」
「チャーーーモーーー!!!!!」
ボボボッ! と音を立てながら、“ひのこ”が飛んでくる。
かすみ「そんなの当たったら熱いじゃ済まないじゃないじゃん!? ゾロア、“シャドーボール”!!」
「ガーーウゥッ!!!」
ゾロアから放たれた“シャドーボール”が“ひのこ”と撃ち合って相殺した。
その際、ぶつかり合ったエネルギーの衝撃で、浜辺の砂が舞い上がる。
かすみ「うぅ……砂埃がすごい……」
砂煙が晴れると──
かすみ「あれ……? アチャモは?」
アチャモが姿を消していた。そして──
「チャモチャモチャモチャモッ!!!!!」
鳴き声が動きながら移動していることに気付く。
かすみ「な、なに!?」
「ガゥッ!?」
音の源を目で追うと──アチャモが砂浜を猛スピードで走り回っていた。
しかも、
かすみ「アチャモが走ったところ……燃えてない!?」
砂浜のアチャモが通ったところは、赤熱し、高温なのが一目でわかる状態になっていた。
しかも、アチャモはどんどん“かそく”しながらかすみんとゾロアの周りをぐるぐる回っている。
ルビィ「“ニトロチャージ”!!」
「チャァモォッ!!!!!」
「ガゥッ!!!?」
かすみ「ちょ!? ゾロアっ!?」
目で追うのが精一杯だった、かすみんはうまく指示することも出来ず、アチャモの燃える突撃がゾロアに直撃する。
かすみ「ぞ、ゾロア……!」
「ガゥゥ…」
- 315 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 13:15:07.48 ID:Cfp9Tcx10
-
見るからに強力な一撃に、ゾロアはなすすべもなく戦闘不能になってしまった。
とりあえず、ゾロアをボールに戻す。けど……。
かすみ「…………」
ルビィ「かすみちゃん? 次のポケモンは……」
かすみ「だ、出しますよ……?」
次のポケモンは──
かすみ「……い、行きますよ、キモリ!」
「キャモッ」
今度こそ正真正銘キモリだ。
このバトルで使用するポケモンはキモリでなくてはならない。
何故なら、このバトルでの使用ポケモンは2体。つまりゾロアが“イリュージョン”で化けていたポケモンを出さないと、ルール上反則になってしまう。
でも、キモリはほのおタイプを苦手とするくさタイプ……。
かすみ「キモリと一緒に……やるしかない……」
「キャモッ」
相性は確実に不利。……ただ、全く策がないわけじゃないです。
ルビィ「アチャモ! “ひのこ”!!」
再び飛んでくる灼熱の火球。もちろん、あんなもの直撃するわけにはいきません。
かすみ「キモリ! “このは”!!」
「キャモッ!!!」
鋭く飛ばした複数枚の“このは”を的確に火球にぶつける。
“このは”自体は瞬く間に燃えてしまうけど、火球の勢い自体は殺すことが出来る。
かすみ「要は攻撃がキモリに届かなければいいんです!」
「キャモ」
──そのとき、突然、
ルビィ「“でんこうせっか”!!」
「チャモッ!!!!」
引火して燃える“このは”の向こうから、アチャモが炎の中を猛スピードで突っ込んで来た。
「キャモッ!!?」
かすみ「!? “ファストガード”!!」
「キャモッ!!!」
咄嗟に攻撃を防ぐと、それによって弾けるように、アチャモが空中に跳ねる。
そして、そのまま──
ルビィ「“きりさく”!!」
「チャモォッ!!!!」
足の爪をキモリに向かって、振り下ろしてきた。
「キャモォッ!!?」
かすみ「き、キモリッ!!」
- 316 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 13:15:56.49 ID:Cfp9Tcx10
-
突然の連撃に対応しきれず、直撃。
しかも──爪で切りつけられた部分は、
「キャモ…ッ」
かすみ「!! や、“やけど”してる……!?」
熱で炎症を起こして、“やけど”状態になっていた。
ルビィ「いっぱい走って、足に熱を溜めてたんだよ! アチャモのままだと“ブレイズキック”は覚えられないんだけど……こうやって足を他の技で熱すれば同じようなことが出来るんだよ!」
しずく「疑似“ブレイズキック”……ということですね」
かすみ「……っ」
いや、まだです……!
「キャモ…」
“やけど”状態のキモリが尻尾の中から──丸い緑色の“きのみ”を取り出した。
そして、それをパクリと飲み込む。
すると、キモリの“やけど”がみるみるうちに回復していく。
しずく「! あれは“ラムのみ”!」
かすみ「ジグザグマが“ものひろい”で拾ってきた“きのみ”だよ!」
戦闘に備えて持たせておいてよかった……。とはいえ、回復出来るのはあくまで状態異常のみ。ダメージが回復出来るわけじゃない。
ルビィ「ならもう一回!! アチャモ! “きりさく”!!」
「チャモォッ!!!」
再び切りかかってくるアチャモ。
かすみ「……キモリ!! 思いっきり跳んで!!」
「キャーーーモッ!!!!」
キモリは砂浜を蹴って、一気に跳ねた──その跳躍力はアチャモを飛び越えるどころか、3メートルほどの大ジャンプになり、攻撃を余裕で回避しきる。
ルビィ「えぇ!? なんで、そんなにジャンプ出来るの!?」
驚くルビ子。
しずく「……そうか、“かるわざ”!」
かすみ「そうです……! かすみんのキモリの特性は“かるわざ”! 身のこなしでは負けませんよ!!」
「キャモッ!!!」
ルビィ「なら、追いかけるだけだもん! アチャモ! “ニトロチャージ”!!」
「チャーモチャモチャモ!!!!」
再び、アチャモが砂浜を蹴って、走り出す。
砂浜を真っ赤にするほどの熱を帯びたダッシュは確かに速い。だけど──
「キャモッ、キャモッ!!!」
キモリは砂浜の上を軽々と飛び回る。
一方でアチャモは砂に足を取られながらだからか、思うように追い付けていない。
- 317 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 13:17:09.51 ID:Cfp9Tcx10
-
かすみ「動きにくい砂浜でも、“かるわざ”のあるキモリなら、自由に動き回れますよ!!」
しずく「しかも、縦軸も使って逃げられるキモリの方が、地面を走り回るアチャモ以上に逃げやすい……!」
そして、逃げながら、攻撃を加えてやれば……!
かすみ「“タネマシンガン”!!」
「キャモモモモモッ!!!!」
キモリの口から撃ち出されるタネが、猛スピードで走り回るアチャモに直撃する。
「チャ、チャモ、チャモッ」
アチャモは“タネマシンガン”を嫌がりながらも、減速せずに走り回っている。
ルビィ「一発一発はそんなに威力がないよ! ひるまないで!」
「チャモォッ!!!」
かすみ「でも、ダメージが蓄積していけば、いつかは倒せるはず!!」
「キャモォッ!!!」
跳ね回りながら、“タネマシンガン”でちくちく攻撃するキモリと、懸命にダッシュしながら追いかけてくるアチャモ。
“タネマシンガン”が体力を削り切るのが先か、追いついて一発でも燃える突進を炸裂させるのが先か。
勝負はそこに委ねられました。
かすみ「こーなったら、最後まで逃げ切りますよ!! キモリ!!」
「キャモォッ!!!」
ルビィ「アチャモ!! 諦めないで!!」
「チャモォッ!!!!」
懸命に追いかけて来るアチャモ。だけど、キモリは上手にいなしながら、着実にダメージを蓄積させていく。このままなら……勝てる!!
かすみんが勝利を確信したとき、
しずく「……ルビィさんの攻撃……どうして、急にこんな単調に……?」
後ろの方から、しず子の呟きが聞こえてきた。
……言われてみれば、突然ルビ子の攻撃が突進一辺倒になったような気も……。
でも、それはキモリが逃げに徹してるから……。
かすみ「……いや、相手が跳んで逃げながら遠距離攻撃をしてくるなら、アチャモ側も遠距離攻撃で撃ち合った方が、いいような……?」
確かにルビ子の戦い方は少し違和感がある。
逃げながら、跳びはねるキモリの足元には、アチャモが走り回って赤熱した砂浜が──円を描いていた。
かすみ「……!? ま、まさか!?」
先ほど、ルビ子は──“ニトロチャージ”によって、アチャモの技を疑似的に炎の蹴撃へと強化した。
じゃあ、もしそれを──フィールドを使って、さらに大規模な技に昇華させようとしているのだとしたら……?
かすみ「やば!? キモリ、逃げ──」
かすみんが気付いたときにはもう時すでに遅し、熱された砂浜は──ゴォッと燃える火炎へと成長を始めていた。
「キャモッ!!?」
それはまるで、キモリを囲む円筒状の炎の壁──
- 318 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 13:19:05.09 ID:Cfp9Tcx10
-
ルビィ「“ほのおのうず”!!」
「チャモォォッ!!!!」
かすみ「キモリッ!!!?」
「キャモォォォォ!!!?」
激しく燃え盛る炎の嵐がキモリを呑み込む。もちろん、逃げることなんて不可能だ。
かすみ「キモリっ!!!」
「キャ、モォォォォォォ!!!!」
でも、名前を呼ぶと、キモリが苦しそうに鳴き声を返してくる。
……まだ、キモリは負けていない!
かすみ「キモリ!!! 負けないで!!!」
「キャモォォォォ!!!!」
くさタイプにこの灼熱の“ほのおのうず”。根性だけでどうにかならないかもしれない。
でも、それでも、
かすみ「キモリはかすみんが認めたパートナーなんだから!!」
「…!!」
最初は全然興味がなかったけど、一緒に戦って、意外と息が合うってわかって、この子を選んで、キモリと一緒に強くなろうって決めたから。
かすみ「かすみんはっ!! 最後までキモリのこと、信じるからっ!!!」
そのときだった、
「キャモォォォォォォ!!!!!」
キモリの雄たけびと共に、炎の壁の向こうで──キモリが激しく光を放った。
かすみ「!? な、なに!?」
しずく「これは……まさか……」
ルビィ「進化の……光……!?」
「──ジュプトゥルァァァァ!!!!!」
大きな鳴き声と共に、炎の円筒が──上の方から、一閃された。
かすみ「……うそ」
そして、斬り裂かれた炎の嵐の中には、
「ジュプト…」
腕に大きな草の刃を携えたポケモンと、
「チャモォ…」
それに斬り裂かれて、戦闘不能になっているアチャモの姿があった。
かすみ「……え……っと……?」
ルビィ「アチャモ、戻って」
ルビ子がアチャモをボールに戻す。
- 319 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 13:20:09.59 ID:Cfp9Tcx10
-
ルビィ「……あはは、ルビィ負けちゃったね」
かすみ「……か、かすみん……勝ったんですか?」
ルビィ「うん! かすみちゃんのキモリ……うぅん──ジュプトルの“リーフブレード”でアチャモの“ほのおのうず”は破られちゃったから」
かすみ「ジュプトル……」
「ジュプト」
かすみ「……い……いやったあああああああああ!!! ジュプトル!!! やりましたよ!!! かすみんたち、勝ちましたよおおおお!!!」
「ジュプト♪」
喜びのあまり、思わずジュプトルに抱き着いてしまう。
かすみ「もう、いきなり立派な姿になっちゃって……!! さすが、かすみんの選んだパートナーなだけありますね!!」
「プトル♪」
しずく「おめでとう、かすみさん♪」
バトルが終わって、しず子もかすみんの近くに寄ってきて、祝福の言葉を掛けてくれる。
かすみ「うん! やったよ、しず子!」
しずく「うん、すごかったよ!」
そして、気付けば、
ルビィ「かすみちゃん」
バトルを終えた、ルビ子もかすみんの傍に来ていました。
ルビィ「あなたをウチウラジム公認トレーナーとして認め──この“ジュエリーバッジ”を進呈します」
かすみ「! う、うん!」
ルビ子からバッジを受け取る。
かすみ「えへへ……見て、ジュプトル! 初めてのジムバッジだよ!」
「プトォル♪」
ルビィ「それと、かすみちゃんにはこのバッジケースも。今後集めていくバッジを保管するための入れ物だから、大事にしてね」
かすみ「ありがとう! ルビ子!」
ルビィ「えへへ、この先のジムも頑張ってね、かすみちゃん」
かすみ「任せて! ルビ子みたいなちっちゃい子も頑張ってるんだから、かすみん負けないように頑張っちゃうんだからね!」
ルビ子みたいなちっちゃな子供でも、ジムリーダーをやってるんだもん! かすみんもすぐにすごいトレーナーになっちゃうんですからね!
そんなことを言っていたら、急にしず子が、神妙な顔で話に割って入ってくる。
しずく「あ、かすみさん……そのことなんだけど……」
かすみ「? そのことって……?」
しずく「ルビィさん……かすみさんが思ってるより、ちっちゃい子ではないと思うよ」
かすみ「……? どういうこと?」
しずく「かすみさん、今何歳?」
かすみ「何歳って……15歳だけど……」
ルビィ「あ、えっと……ルビィ、18歳……」
……18……歳……?
- 320 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 13:21:19.71 ID:Cfp9Tcx10
-
かすみ「……年上!? え、ルビ子、かすみんより3つも年上!?」
ルビィ「あはは……確かにルビィ、背もちっちゃいし……年上に見えないよね」
かすみ「つまり、かすみんずっと先輩トレーナーに向かって……」
本来ルビィ先輩と呼ばなくてはいけない相手だったらしいです……これは、不覚です……。
ルビィ「あ、うぅん! ルビ子って呼び方、なんか新鮮で嬉しかったから……かすみちゃんが嫌じゃなかったら、これからもそう呼んでくれると嬉しいな」
かすみ「え? そ、そうですか……? な、なら、これからもルビ子って呼ばせてもらおうかな……!」
ルビィ「うん♪ ところで、二人とも今日の宿って決まってる?」
しずく「いえ……町に着いたらすぐにジムを訪ねたので……」
ルビィ「だったら、ジムにあるルビィのお家に泊まって行って」
かすみ「いいの?」
ルビィ「うん! お姉ちゃんから、挑戦者の人はちゃんとおもてなしするようにって言われてるから!」
しずく「そういうことでしたら、お言葉に甘えさせて頂きますね」
かすみ「これから、宿探しだと思ってたから、本当に助かる……ありがとう、ルビ子」
ルビィ「うぅん! それじゃ、ジムに戻ろっか!」
ルビ子の先導のもと、再びウチウラジムへと戻っていく。
かすみ「そういえば……」
しずく「どうしたの?」
かすみ「なんか……ロトム、やたら大人しくない?」
しずく「あー……そうだね」
かすみ「なんかあったの? ねぇ、ロトム」
何故か、しず子の背中に張り付いているロトムに声を掛ける。
「ボクはただの板ロト」
かすみ「……なにこれ?」
しずく「さぁ……。……たぶん、正体を知られたくない人が近くにいるんじゃないかなー」
「…ギクッ」
かすみ「……?」
ルビィ「二人とも、どうしたの?」
しずく「いえ、なんでもありません。ほら、かすみさん早く行こ?」
かすみ「あ、うん」
なんだか、よくわからないけど……まあ、いっか?
なにはともあれ、無事ジムバッジを手に入れることも出来たし、なにより──
かすみ「かすみんのパートナーの頼もしい姿も見れたしね♪」
「ジュプト」
かすみ「これからもよろしくね、ジュプトル♪」
「ジュプト♪」
今日はなんだか、気分がいいです。
こんな気持ちのいい日は──ぐっすり眠れる気がしますね。
かすみんは軽く伸びをしながら、ウチウラシティの綺麗な星空の下、相棒と一緒に帰路に就くのでした。
- 321 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/12(土) 13:21:58.22 ID:Cfp9Tcx10
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>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ウチウラシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. ● .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュプトル♂ Lv.16 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.16 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.14 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.15 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
バッジ 1個 図鑑 見つけた数:70匹 捕まえた数:6匹
主人公 しずく
手持ち メッソン♂ Lv.15 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.15 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
ココガラ♀ Lv.15 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
スボミー♂ Lv.14 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
ロトム Lv.75 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:80匹 捕まえた数:5匹
かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 322 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 02:32:22.41 ID:CEy3tu000
-
■Intermission🍊
──ウテナシティ。ポケモンリーグ本部。
海未「それでは、千歌。乾杯の音頭をお願いします」
千歌「え? 私でいいんですか?」
海未「はい。チャンピオンから直々にお願いします」
千歌「そういうことなら……」
私はグラスを掲げる。
千歌「──ダイヤさんの四天王就任と海未師匠の理事長就任を祝して……かんぱーい!!」
四天王たち「「「かんぱーい!」」」
千歌「んくんくんく……ぷはぁっ! やっぱ、オレンジュース最高!」
ツバサ「千歌さんったら、良い飲みっぷりね」
ことり「千歌ちゃんが成人してたら、みんなでお酒が飲めたのにね〜。んくんくんく……は〜おいしい〜♪」
希「あと1年の辛抱やんね。そしたら、千歌ちゃんも含めてみんなで飲もうね」
四天王が口を揃えて、一緒にお酒を飲みたいと言ってくる。……飲んだことないからわかんないけど、お酒ってそんなにおいしいのかな?
千歌「そんなにおいしいなら……お試しで一口くらい……」
そーっと、机にあるお酒の瓶に手を伸ばすと──バシッと手を叩かれる。
千歌「いったぁ!?」
海未「お酒は成人してからですよ。千歌」
千歌「何も叩くことないじゃないですか!!」
海未師匠はこんなときでもお堅いし、私に厳しいんだよなぁ……。
ダイヤ「……ふふ」
そんな私を見て、ダイヤさんがくすくすと笑う。
千歌「むー……ダイヤさんまで」
ダイヤ「ふふ、ごめんなさい。四天王の皆さんと随分打ち解けているんだなと思いまして」
ツバサ「千歌さんがチャンピオンに就任してから、もう3年だものね。打ち解けもするわ」
ことり「わたしはまだ2年くらいだけどね。希ちゃんも、もう3年くらいになるんだっけ……?」
希「せやね。えりちから推薦を受けたのがそれくらいだから、そろそろ3年かな」
ツバサ「千歌さんが四天王に挑戦したときから考えると、あのときの四天王は私だけになっちゃったわね」
──ツバサさんの言うとおり、私が四天王へ挑戦した3年前とメンバーが随分入れ替わっている。
にこさんは戦ったときに言っていたとおり、私がチャンピオンに就任後、ダリアのジムリーダーに戻ることになった。
そして、その空いた枠を埋めるために絵里さんからの推薦と昇格試験への合格で、希さんが四天王になった。
当の絵里さんは……その半年後に、一度修行をしにアローラに戻りたいとリーグに申し出があったそうだ。
- 323 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 02:35:24.49 ID:CEy3tu000
-
千歌「絵里さん……元気かなぁ」
希「この前、メールが来てたよ。元気にやってるみたい」
海未「彼女も真面目ですからね。バトルでもコンテストでも負けてしまいましたから、思うところがあったのでしょう」
千歌「なんかその言い方だと私が辞めさせたみたいじゃないですか……」
海未「結果だけ見たら、そういう部分もあるかもしれませんね」
千歌「い、いじわるなこと言わないでくださいよー……」
海未「ふふ、冗談です。絵里にとっても自分を見つめなおす良い機会だったということでしょう」
というわけで、絵里さんが退任し、そこに、ことりさんが入ることに。
そして、海未師匠は──リーグ理事長に就任するため、四天王を退くことになったということだ。
その代わりに四天王になったのが、
千歌「それにしても、まさかダイヤさんが四天王になるなんて思ってませんでした」
ダイヤ「あら……それはどういう意味ですか? わたくしでは実力不足だと思っていたと?」
千歌「ち、ちがっ、そういうことじゃないですって!」
ダイヤ「ふふ、冗談ですわ」
千歌「もう! 二人揃ってなんなんですかー!!」
ダイヤ「確かに、ジムリーダー序列では、わたくしよりも英玲奈さんの方が上でしたからね」
──ジムリーダー序列というのは、ジムリーダー同士で総当たりで戦ったときの戦歴で決められる、成績上のジムリーダーの強さと前に聞いたことがある。
1年に1回程度のペースでリーグ側から実力監査の名目で、試合を行うらしい。
エキスパートタイプによる有利不利もあるから、単純な勝ち負けではなく、試合の運び等も見られる試験で、その中でトップの英玲奈さんは、序列2位のダイヤさんよりも上だったそうだ。
ツバサ「英玲奈はねー……」
千歌「そういえば、ツバサさんって英玲奈さんと同じでクロユリ出身なんですよね?」
ツバサ「ええ。昔は英玲奈とはライバルのような関係だったわ」
千歌「ツバサさんもいるなら、一緒に四天王出来たのに」
ツバサ「ふふ、確かに千歌さんはそういう風に考えるタイプかもしれないわね」
海未「英玲奈にも四天王試験を勧めはしたんですよ」
千歌「え? そうなんですか?」
海未「ですが、拒否されました」
千歌「拒否って……」
海未「『同郷の人間がいると、鍛錬に身が入らない』と」
希「英玲奈さんストイックだもんね」
ツバサ「それもそうだけど……クロユリの町を守りたいって気持ちもあったんだと思うわ」
千歌「そっかー……」
確かにジムリーダーを離れる際は後任を決めないといけないから、簡単な序列だけで決まる問題でもない。
ことりさんは曜ちゃんを推薦して、ジムリーダーを交代したけど、希さんも後任探しは苦労していたのを思い出す。
ダイヤ「いろいろな結果の上で、わたくしが偶然条件に一致したというだけですわ」
希「ふんふん、そうやねそうやね〜♪」
ダイヤ「な、なんですか、希さん……?」
希「ダイヤちゃん、そうは言いながらも、昇格戦は鬼気迫る勢いだったな〜って思って」
ダイヤ「そ、そうでしたか……? ですが、希さんには手も足も出ませんでしたし……」
- 324 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 02:37:06.28 ID:CEy3tu000
-
──四天王昇格戦はそもそも参加資格からして厳しい試験だ。
前提条件として、ジムリーダー序列が8人中3位以上であること、さらに四天王からの直接の指名を受けるか、地方内のジムリーダー半数以上からの承認が必要になる。
そして、やっと資格を得ても、そこからの試験も過酷だ。
現行の四天王と直接戦い、少なくとも誰か1人には勝たないと四天王に昇格することは出来ないらしいのだ。
つまり、ダイヤさんは四天王たち──希さん、ことりさん、ツバサさん、海未師匠の4人と戦ったということだ。そんな中で、ダイヤさんが誰に勝利して昇格資格を得たかというと──
ことり「でも、ダイヤちゃん、海未ちゃんに勝ったんでしょ? ことりも海未ちゃんに公式戦で勝てたことってほとんどないのに……」
ツバサ「昇格戦で海未さんに勝てた人間は史上初なのよ? もっと胸を張っていいと思うわ」
──そう、海未師匠に勝ったのだ。
海未「偶然で勝てる相手だと思われていたと言われると、私も複雑ですね」
ダイヤ「あ、いえ……その、そういうわけでは……」
希「ダイヤちゃんがここにいるのは、偶然なんかじゃないんよ?」
海未「そうです。貴方は実力で勝ち上がった、それだけです」
希「ついでに愛の力やんね♪」
ダイヤ「んなっ!?///」
ダイヤさんの顔が急に真っ赤になる。
千歌「……愛って?」
ダイヤ「ち、ちょっと希さん!?/// 何を言っているのですか!?///」
希「だって、ダイヤちゃん、海未ちゃんには絶対負けたくなかったみたいやん?」
千歌「そうなんですか?」
ダイヤ「し、知りませんっ///」
私が訊ねると、ダイヤさんは急に、プイっと顔を背けてしまう。
千歌「……?」
私が怪訝な顔をしていると、
ことり「──ダイヤちゃんね、ずっと千歌ちゃんが海未ちゃんのことばっかり師匠師匠って慕ってたから、『自分も恩師のはずなのに』っていじけちゃってたんだって。果南ちゃんがそう言ってたよ」
ことりさんがそう耳打ちしてきた。
千歌「え? じゃあ、ダイヤさんが四天王になったのって……」
思わず、ダイヤさんをじーっと見つめてしまう。
ダイヤ「な、なんですか……///」
千歌「……えへへ♪ こうして、またポケモンリーグで一緒になれて、嬉しいよ、ダイヤ先生♪」
ダイヤ「……!///」
ダイヤさんは私の言葉を受けて、少し視線を彷徨わせたけど。
ダイヤ「……ま、まあ……千歌さんが、手のかかる教え子なのは今も変わりありませんから。近くで見ていられる方が安心しますからね……///」
そう言いながら、軽く咳払いするのだった。
- 325 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 02:38:44.97 ID:CEy3tu000
-
ダイヤ「尤も……最近リーグには居ないことが多いそうですが」
海未「確かに……果南と違って、リーグ所属のチャンピオンになってくれたのは助かるのですが……最近リーグに不在なことが多いですよね?」
千歌「……あ、えーっと……まあ、いろいろございまして……」
──リーグ所属チャンピオンというのは、文字通りリーグに所属しているチャンピオンということだ。
だからリーグの人間として、いろいろお仕事があるんだけど……実はチャンピオンというのは、チャンピオンになった時点で、リーグに所属するかしないかが選べるのだ。
歴代のチャンピオンだと穂乃果さんや果南ちゃんはリーグに所属しなかったらしい。所属しなかった理由は──
海未「まあ……必要な仕事をしてくれていれば、特に私から言うことはないんですが……。実際、千歌にはリーグのトップとして、公に露出してもらっていますし。果南たちは絶対にこういうことをしたがりませんからね」
そう、メディア露出等の仕事がやりたくなかったかららしい。
ただ、単純に強さを求め続けていた果南ちゃんと、自由奔放な穂乃果さんがやりたがらなさそうだと言うのはわからなくもない。
ダイヤ「逆に千歌さんがリーグ所属を選んだのも意外でしたが」
千歌「ん、そうですか?」
ダイヤ「貴方も堅苦しいのは好きではない子だったので……自分から、そういう立場を選ぶのは意外でした」
なるほど、言われてみればそうかもしれない。
千歌「……まあ、強いて理由を言うなら……」
ダイヤ「なら?」
千歌「曜ちゃんや、梨子ちゃんに負けたくなかったから……かも」
ダイヤ「……ふふ、なるほど」
同期である曜ちゃん、梨子ちゃんはそれぞれ、トップコーディネーターと有名な芸術家として、テレビや雑誌で目にすることも増えた。
今考えてみると、こうしてリーグ所属を選んだのは、それぞれの道で名を上げていく彼女たちに負けたくなかったのかもしれない。
千歌「それに、いろんな人たちに、ポケモンバトルの魅力を知って欲しいって気持ちもあるし!」
海未「今は強力なライバルもいますからね」
千歌「ホントに!」
ことり「それって……もしかして、せつ菜ちゃんのこと?」
千歌「はい!」
ダイヤ「せつ菜さん……確か、去年のポケモンリーグの決勝戦のお相手でしたわね」
ツバサ「それだけじゃないわ。せつ菜さんはこの間、四天王を全員突破して、千歌さんのもとまで辿りついてるのよ」
ダイヤ「え!? そ、そうなのですか……!?」
希「せやんね。せつ菜ちゃんはホントに強かったよ」
海未「結局、千歌がチャンピオン防衛をしたので、チャンピオン交代ということにはなりませんでしたけどね」
千歌「いやー、正直結構ギリギリだったよ! まあ、それでもまだ負けるつもりはないけどね!」
海未「そういえば、聞きましたよ? せつ菜と会うと、毎回バトルしているそうじゃないですか」
千歌「え? まあ、トレーナー同士、目が合ったらバトルするのが礼儀ですし!」
海未「貴方、まさかチャンピオン戦をしてはいないですよね?」
千歌「し、してないです!! チャンピオンマントは基本ポケモンリーグに置きっぱなしだし……」
海未「ならいいのですが……。公式戦をする際は必ず一報入れるように」
千歌「わかってますって……」
- 326 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 02:39:51.44 ID:CEy3tu000
-
海未師匠の言っているチャンピオン戦というのは、文字通りポケモンリーグのチャンピオンとして、挑戦者と相対する公式戦のことだ。
公式、非公式で何が違うのかと言うと──当たり前だけど、公式戦では、チャンピオンの称号を懸けての戦いになるということ。
別に野良試合のような方式で公式のチャンピオン戦をしてはいけないという決まりはないけど……海未師匠の言うとおり、それなりに意味や価値を持つ戦いなのには間違いないのだ。
だから、普段そこらへんで出会ったトレーナーと戦うように、カジュアルに公式チャンピオン戦を行うことは基本的にはない。
そして、公式非公式を分ける証として、公式チャンピオン戦を行うときは、多くの場合チャンピオンマントを身に着けて戦うことが慣習となっている。
チャンピオンマントは文字通り、この地方のチャンピオンにだけ渡されるマントで、逆に言うなら、これを身に着けて戦うときは公式にチャンピオンの座を掛けて戦うという意志の表れということになる。
海未「ある日気付いたら、チャンピオンが変わっていたなんて言われたら、いろいろと困りますからね……」
千歌「だから、大丈夫ですって! 師匠は心配性すぎるんですよ!」
海未「ですが、千歌ですよ?」
ダイヤ「まあ、千歌さんですからね……心配するのはわかります」
千歌「もぉーーー!! 二人してなんなんですかーーー!!」
この二人、私の師のはずなのに、どうしてこんなに私への信頼が薄いんだろうか……。
千歌「全く……失礼しちゃうな……」
ことり「もう海未ちゃんもダイヤちゃんも、あんまり口煩く言っちゃダメだよ? 千歌ちゃん、頼もしいところもたくさんあるんだから」
千歌「あぁ〜もう! チカのことわかってくれるのは、ことりさんだけです……!」
ことり「うんうん♪ むしろ、海未ちゃんのことしっかり見張っててね? 海未ちゃん放っておくと、ずーーーっと仕事しちゃうから……」
千歌「任せてください!!」
海未「こ、ことり……私の話は別に……」
ことり「良い機会だから言うけど、海未ちゃんは普段から無理しすぎです! 少しは自分を大切にしてくれないと、ことりが怒るからね!」
海未「う……ぜ、善処します」
ツバサ「ふふ、歴代最強の四天王も幼馴染の前では形無しね」
希「せやねぇ♪」
そんなこんなで楽しげな宴の席は続く。
しばらく、みんなで談笑を楽しみながら、時間が過ぎていく中……。
ことり「……お母さん、遅いね」
ことりさんがふと、そう呟いた。
実は、この宴の席、もう一人来る予定のはずの人がいる。
ことりさんのお母さんで、今はポケモンリーグ相談役──つまり前理事長だ。
千歌「まだ仕事してるのかも……私がお酒とご飯を持っていきます」
ことり「あ、ならわたしも……!」
千歌「あはは、ご飯持ってくくらい私一人で大丈夫ですから!」
私はお盆とお皿を持ってきて、そこに適当に選んだご飯とお酒を載せて相談役のもとに行く準備を整える。
ことり「それじゃ……お願いね、千歌ちゃん」
千歌「はーい! ことりさんが心配してるってことも伝えておきますね!」
ことり「うん、ありがとう」
私は踵を返して、部屋を後にした。
- 327 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 02:40:42.91 ID:CEy3tu000
-
🍊 🍊 🍊
相談役の部屋の前に立ち、扉をノックする。
相談役『どうぞ』
千歌「──失礼します」
許可が出たので、料理を持ったまま、部屋の中へ。
相談役「千歌さん。どうかしましたか?」
千歌「歓送迎会になかなか顔を出さないから、料理とお酒を持ってきました」
相談役「あら、ありがとう。そこに置いておいて。あとで頂くわ」
千歌「はい。……あの、まだお仕事中ですか?」
相談役「ええ。……仕事と言っても、先方からの返事待ちだけどね」
千歌「そうですか……」
相談役「……ボールベルトの調子はどうかしら?」
千歌「あ、はい! これすっごくいいですね!」
私は、腰に巻かれたボールベルトを手で撫でる。
相談役「それは何よりです。特注品ですから、大切にしてくださいね」
千歌「もちろんです」
これは相談役から私と穂乃果さん宛てに貰った物で、ある機能を備えた特別なボールベルトだ。
……今の私たちには必要なもの。
千歌「……あの」
相談役「なんですか?」
千歌「ことりさんや海未師匠には、今やってること、言わないんですか?」
相談役「……先方があまり多くの人間に情報を共有したくないみたいなの。だから引き続き、穂乃果さんと千歌さんの二人にお願いするしかないわ。……負担が大きくて申し訳ないけど」
千歌「い、いえ! 穂乃果さんもいるし、それは全然大丈夫なんですけど……。ことりさん、心配してたので……」
相談役「そう……。あとで少し、ことりのところにも行ってみるわ」
千歌「はい、そうしてあげてください」
顔を見せてあげれば、ことりさんも少しは安心すると思うしね……。
- 328 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 02:41:20.03 ID:CEy3tu000
-
千歌「……それじゃ、私は戻りますね」
相談役「ええ、ありがとう」
私が踵を返して、部屋を出ていこうとする背中に、
相談役「千歌さん」
声が掛けられる。
千歌「はい」
相談役「“Fall”のこと、お願いね。今は、貴方たちしか頼れる人がいないから」
千歌「はい、任せてください!」
私は力強く返事をして、今度こそ部屋を後にするのだった。
………………
…………
……
🍊
- 329 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:27:01.49 ID:CEy3tu000
-
■Chapter016 『決戦! コメコジム!!』 【SIDE Yu】
──朝。コメコの森のロッジ。
侑・歩夢「「お世話になりました!」」
「ブイ」
彼方「いえいえ〜」
遥「侑さんはこれからジム戦ですよね! 頑張ってくださいね!」
侑「うん! ありがとう、遥ちゃん!」
歩夢「彼方さん、ご飯すっごくおいしかったです! よかったら、今度教えて欲しいです……!」
彼方「是非是非〜、教えてあげるから、また遊びに来てね〜。リナちゃんとイーブイちゃんとサスケ君もまたね〜」
「ブイブイ」「シャボ」
リナ『ありがとうございました。リナちゃんボード「ぺこりん」』 || > ◡ < ||
彼方さんと遥ちゃんに見送られながら、ロッジを出る。
穂乃果さんにも挨拶したかったけど……。
侑「穂乃果さん……随分朝早くから、出ていっちゃいましたね」
彼方「穂乃果ちゃんは、朝の見回りがあるからね〜」
侑「そっか……」
昨日の夜は彼方さんや遥ちゃんといろいろ話をしたけど……穂乃果さんは何やら忙しそうにしていて、あまり話を聞いたりすることは出来なかった。
やっぱり、元でもチャンピオンは何かしら忙しいのかもしれない。
歩夢「穂乃果さんにも、よろしく伝えておいてください」
彼方「了解〜。伝えておくよ〜」
最後に歩夢と二人で彼方さんたちに会釈をして、コメコシティに向かって歩き出す。
侑「……それにしても、なんか昨日はすごい話聞いちゃった気がする」
歩夢「侑ちゃん、大興奮だったもんね」
侑「いや、興奮もするよ!」
私は昨日の会話を思い出す──
──────
────
──
食卓を囲みながら、私たちは雑談に花を咲かせていた。
彼方「それじゃ、侑ちゃんは千歌ちゃんの大ファンなんだね〜」
侑「はい! だから、さっき会ったときは頭の中が真っ白になっちゃって……ああ、ポケモンリーグのときの話とかいろいろ聞きたかったのに……。あ、でも千歌さん急いでたんだっけ……」
歩夢「侑ちゃん本当に、ポケモンリーグの千歌さんの試合、好きだもんね」
侑「だって、今まで一度も公式戦で使ってこなかった新顔のネッコアラだけで準決勝まで勝ち抜いてくの、本当にチャンピオンの風格って感じですごすぎたんだもん!」
彼方「ほほ〜、侑ちゃん、千歌ちゃんのネッコアラ好きとは、いいセンスしてるね〜。彼方ちゃんも鼻高々だよ〜」
リナ『鼻高々? 彼方さんの話じゃないよ?』 || ? _ ? ||
- 330 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:27:56.33 ID:CEy3tu000
-
確かに何故か彼方さんが胸を張っていた。ただ、その理由はすぐにわかる。
彼方「何を隠そう、ネッコアラでの戦い方を千歌ちゃんに教えたのは、この彼方ちゃんなのだ〜♪」
侑「……え? ……えええええぇえぇぇえぇぇ!!?」
驚きすぎて、思いっきり立ち上がってしまう。椅子はひっくり返るわ、机の上の食器たちが揺れてカチャカチャと音を立てるほど、驚いてしまった。
歩夢「ゆ、侑ちゃん、行儀悪いよ……」
侑「だ、だ、だって、え、え、え!? そ、それじゃ、彼方さんって、千歌さんのお師匠様!?」
彼方「はっはっは〜、彼方ちゃんをもっと褒めるがいいぞ〜。……って言いたいところだけど、彼方ちゃんが教えたのはネッコアラの使い方だけだよ〜。彼方ちゃんもたまたまネッコアラを使ってたからね〜」
侑「な、なんだ……でも、千歌さんに教えられることがあるなんて、それだけですごい……」
彼方「まあね〜。彼方ちゃん、バトルは結構強い方だから〜。それでも、千歌ちゃんや穂乃果ちゃんは、彼方ちゃんとは比べ物にならないほど強いけどね〜」
遥「私もお姉ちゃんみたいに、バトルが強ければなぁ……」
彼方「遥ちゃんは可愛いからいいんだよ〜」
遥「もう! そういう話じゃないよ……」
彼方「大丈夫大丈夫〜遥ちゃんは彼方ちゃんが守ってあげるから〜」
──
────
──────
侑「千歌さんのネッコアラの強さは彼方さんの教えだったなんて……」
リナ『公にそんな情報はなかったから、私もびっくりだった』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「またいろいろ話が聞けるといいな〜♪」
歩夢「ふふ、そうだね」
侑「今日の宿も、あのロッジに泊めてもらっちゃおうかなぁ……? もしかしたら、今日は千歌さんともお話できるかもしれないし!」
リナ『侑さん。それよりも今はジム戦に集中した方がいい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「っと……それもそうだった。頑張ろうね、イーブイ!」
「ブイ」
リナちゃんに指摘されて我に返る。
そうだった、これからジム戦だった……集中集中!
私たちは森を抜けて、コメコシティへと戻って行きます。
- 331 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:29:01.48 ID:CEy3tu000
-
🎹 🎹 🎹
コメコシティに戻ってきて、一直線にジムを目指す。
リナ『コメコジムはこの道を一直線に進めば着くはずだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん、ありがとう、リナちゃん」
歩夢「……侑ちゃん」
侑「ん?」
歩夢「その……昨日はごめんね」
侑「?」
歩夢「ジム戦行くの……止めちゃったから」
侑「ああ、そのことね。気にしてないよ。むしろ、リフレッシュ出来てよかったくらいだよ!」
歩夢「そっか、よかった……。もう、私……怖くないから。今日は侑ちゃんのこと、全力で応援するね!」
侑「うん! お願いね!」
そう、私は強くなるんだ。歩夢を守れるように。そのためにも、また一つずつジムを勝ち進んで、強くなる!
心持ちも新たに、私たちがコメコジムに辿り着くと──ジムの前に二人の女性がいた。
侑「ん……? あれって……?」
私は、ジムの前にいる二人に向かって駆け寄りながら、声を掛ける。
侑「あのー! すいませーん!」
女性「え?」
ショートボブの女性が私の声に振り返る。
侑「あの! 花陽さんですよね! ジムリーダーの!」
花陽「う、うん。そうだけど……」
侑「それと……」
花陽さんの隣にいる女性の方にも目を向ける。
侑「ホシゾラジムの凛さん、ですよね?」
凛「あれ? よくわかったね?」
侑「はい! ジムリーダーの皆さんの顔は全員覚えているので!」
花陽「わぁ、そうだったんだね♪ 嬉しいなぁ♪」
侑「あ、私、侑って言います! この子は相棒のイーブイ!」
「ブイ」
歩夢「ゆ、侑ちゃーん……待ってー……はぁ、はぁ……」
急に駆け出したからか、歩夢が息を切らせながら追いかけて来る。
侑「こっちは一緒に旅をしてる歩夢です」
花陽「侑ちゃんとイーブイちゃんと、それに歩夢ちゃんだね。よろしくね」
凛「それで、侑ちゃんたち……ポケモンジムに来たってことは、もしかして挑戦者?」
侑「はい!」
- 332 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:31:04.07 ID:CEy3tu000
-
どうして凛さんがいるのかはわからないけど、ジムリーダーが二人揃っている場面なんて、なかなか出くわせないことだし、思わずときめいてしまう。
もしかして、交流戦とか練習試合のために来てるのかな!? なんて、思いながらワクワクしていると、
花陽「あ、えっと……実はわたしたち、今から出掛けないといけないの……」
そんなワクワクとは正反対の回答が返ってきた。
侑「え?」
凛「ちょっと用事があってね。凛はかよちんを迎えに来たところなんだ」
侑「そ、それじゃ……ジム戦は……」
花陽「ごめんね……。帰ってきてからになっちゃう……」
侑「そ、そんなぁ……」
せっかくのジム戦日和だと思って意気揚々とここまで来たのに、出鼻をくじかれてしまった気分だ。
まあ……用事があるなら仕方ないか。ジムリーダーも人間だし……いつでもどこでもどんなときでもジム戦が出来るわけじゃないもんね。
花陽「本当にごめんね……。昨日だったら……ジム戦してあげられたんだけど……」
歩夢「……え……」
私の隣で、歩夢が声を漏らした。
そして、小さな声で、
歩夢「………………………………私の…………せいだ………………」
そんな呟きが聞こえた。
侑「歩夢……?」
──歩夢は急に前に出て、
花陽「きゃっ!?」
花陽さんの腕を掴んだ。
歩夢「……お、お願い……します……侑ちゃんと……ジム戦を……して、くれませんか……?」
花陽「え!? で、でも、これから用事が……」
歩夢「……い、一回だけで、いいんです……お、お願いします……」
侑「ち、ちょっと、歩夢……!」
私は思わず、歩夢の肩を掴んで止める。だけど、
歩夢「……お、お願い……します……お願い、します……」
歩夢は私の制止も聞かず、声を震わせながら、花陽さんに必死にお願いをしていた。
侑「歩夢……! 私は大丈夫だから……!」
歩夢「お、お願い、します……っ……!!」
花陽「……えっと……」
今にも泣き出しそうな歩夢の様子に、花陽さんもどうすればいいか困惑しているようだった。
そんな中、横でその様子を見ていた凛さんが、口を開く。
- 333 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:32:16.06 ID:CEy3tu000
-
凛「歩夢ちゃん、だったっけ?」
歩夢「……っ……。……は、はい……」
凛「今日じゃなくちゃ、ダメなのかな? かよちん、困ってる」
歩夢「…………っ……!」
少し鋭さを帯びた声音に、歩夢がビクリと身を竦める。
侑「歩夢……いいから、ね?」
歩夢「…………っ……」
私も歩夢の肩を掴んで下がらせる。
凛「それじゃ、かよちん。行こう」
凛さんはそのまま花陽さんの手を引いて、この場を去ろうとするが、
花陽「待って、凛ちゃん」
それを制したのは花陽さんだった。
凛「かよちん……?」
花陽「ジム戦をしたいのは侑ちゃんだけなんだよね?」
侑「え、は、はい……」
花陽「まだ、少しだけ時間に余裕があるから、1戦くらいなら出来ると思う。ジム戦しよっか」
侑「……え。……いいんですか?」
歩夢「! ほ、ほんとですか……!」
凛「か、かよちん!」
花陽「大丈夫だよ凛ちゃん。それに、わたしたちはジムリーダーだもん。せっかく来てくれた挑戦者を無下には出来ないよ」
凛「にゃ……それはそうだけど……」
凛さんは複雑そうな表情を浮かべて、小さく唸りながら考え始める。
凛「えっと……侑ちゃん、バッジはいくつ持ってる?」
侑「“アンカーバッジ”と“スマイルバッジ”の2つです」
凛「ってことは、セキレイから逆時計回り……コメコジムが終わったら、ホシゾラジムにも挑戦するってことだよね」
侑「……そうなりますね」
凛「ただ、凛たちは数日は戻れないと思うんだ。今ここで無理にジムバトルをしても、どちらにしろホシゾラシティで足止めさせることになっちゃうよ。それでも……歩夢ちゃんは今、この場でジム戦をしないとダメだって言うの?」
凛さんはそう言いながら、歩夢に視線を向ける。
歩夢「……ぁ……えっと……その……」
再び、言外の拒絶の意を受けて、歩夢が半歩下がる。
花陽「凛ちゃん、そんな言い方しちゃダメだよ……」
凛「かよちんは優しすぎ。凛たちジムリーダーにも事情があるんだよ。確かに挑戦者を大切にしなくちゃいけないのはわかるけど……」
花陽「うーん……でも……」
侑「あ、あの! ホントに大丈夫ですから! 歩夢、行こう!」
- 334 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:33:25.62 ID:CEy3tu000
-
私は歩夢の腕を掴んで、退散することにした。
これ以上、ジムリーダーの二人に迷惑を掛けるわけにはいかない。
だけど、
歩夢「…………今日じゃなきゃ……だ、ダメ……です……」
歩夢は、引こうとしなかった。
侑「歩夢……!」
歩夢「今じゃなきゃ……ダメ、なんです……」
侑「…………歩夢」
歩夢は断固として譲らないけど、その声は尻すぼみに小さくなっていく。
頑なな意志を見せる歩夢に、
凛「……わかった」
凛さんは溜め息混じりに肩を竦めて言う。
凛「なら、こうしよっか。あくまでジム戦を急ぐっていうなら、凛もジム戦をしてあげる。挑戦者が待ってるってわかったままじゃ、出掛けた後も落ち着かないし……」
花陽「え、でも……」
凛「ただ、2戦やる暇はないから──ジム戦は同時にやる」
侑「同時……?」
凛「そう。凛とかよちんのタッグとのマルチバトル」
侑「!? じ、ジムリーダー二人と同時に……!? わ、私ダブルバトルの経験は……」
いきなりジムリーダー二人を同時に相手して、勝てる気がしない。
花陽「り、凛ちゃん……! それはいくらなんでも……!」
凛「もちろん、一人で戦えなんて言わないよ。マルチとダブルで勝負するなんて、マルチ側が圧倒的に有利だし」
侑「じ、じゃあ……」
凛「そっちも二人、いるでしょ?」
そう言いながら、凛さんの視線が、歩夢を突き刺す。
歩夢「え……」
凛「これはあくまで譲歩だよ。これが嫌なら挑戦は諦めて欲しいかな」
歩夢「…………」
侑「ま、待ってください!! 歩夢はバトルはあんまり得意じゃなくて……!」
凛「なら一人で凛たち二人と戦う? 腕に自信があるなら、それでも構わないけど」
侑「ぅ……それは……」
そんなことをしても、結果は火を見るよりも明らかだ。
でも、歩夢にバトルはさせられない……。
なら、やっぱり、私が頑張ってダブルバトルで勝つしかない。
そう、思ったときだった。
- 335 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:34:14.82 ID:CEy3tu000
-
歩夢「……やり……ます……」
か細い声で歩夢が言った。
歩夢「……わ、私も……バトル……します……」
歩夢は震える声で、そう答えたのだった。
🎹 🎹 🎹
侑「……歩夢、大丈夫?」
歩夢「……うん」
ジム内部のバトルスペースに向かう途中、話しかけた歩夢はまだ少し震えていた。
歩夢「…………ごめんね……無茶苦茶なこと……言って……」
侑「うぅん。歩夢がチャンスを作ってくれたお陰で、ジム戦が出来ることになったんだから、むしろ感謝してるよ!」
歩夢「……侑ちゃん」
侑「だから、このチャンス無駄にしたくない! 私、頑張るからさ!」
歩夢「……うん」
侑「歩夢と二人なら、なんか出来る気がするからさ! 勝とう! 二人で!」
歩夢「……うん!」
歩夢が私の言葉に力強く頷く。それと一緒に震えも止まったようだ。
歩夢「私、頑張るね……!」
侑「うん!」
リナ『……侑さん、歩夢さん、準備はいい?』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんがふよふよと漂いながら、問いかけてくる。
リナ『相手はじめんタイプのエキスパートの花陽さんと、かくとうタイプのエキスパートの凛さんだよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「うん」
じめんタイプとかくとうタイプ相手となると、私や歩夢の手持ちでは、どうしても一方的に有利なタイプ相性で戦うことは難しいだろう。
多少思い切りが必要になるかもしれない。
侑「大丈夫」
リナ『わかった。私も全力でサポートするね』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「よろしくね、リナちゃん」
リナ『任せて!』 || > ◡ < ||
私たちは、バトルスペースにつく。
- 336 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:37:15.34 ID:CEy3tu000
-
🍚 🍚 🍚
バトルスペースに赴く道すがら、
凛「かよちんは、優しすぎるにゃ」
凛ちゃんがさっきと同じことを言う。
花陽「あの歩夢ちゃんって子……何か事情があるみたいだったから」
凛「だからって……」
花陽「見ていて思ったの。歩夢ちゃん、普段は主張の強い子じゃないんじゃないかって。……わたしも同じだったから、なんとなくわかるんだ」
凛「……」
花陽「そんな子が、友達のために頑張ってジム戦をして欲しいってお願いしてきたんだよ。断れないよ」
凛「やっぱり、かよちんは優しすぎるにゃ……」
花陽「そうかな? わたしも凛ちゃんのためだったら、頑張ってお願いすると思うよ? 凛ちゃんは、してくれないの?」
凛「……すると思うにゃ」
花陽「だよね♪」
凛「やっぱり、かよちんには敵わないにゃ……わかった、もう何も言わないよ」
やっと凛ちゃんも納得してくれたみたいで安心する。
凛「ただ、バトルは別。凛、相手にどんな事情があっても、わざと負けるつもりなんかないからね」
花陽「それはもちろん! ジムリーダーとしての真剣勝負だからね!」
凛ちゃんの言葉に力強く頷きながら、バトルスペースについた。
🎹 🎹 🎹
花陽「ルールは各自使用ポケモン2体ずつ……つまり4対4のマルチバトルです!」
凛「お互いのポケモンが全て戦闘不能になったら、その時点で決着だよ!」
侑「歩夢、行ける?」
歩夢「……うん! 行くよ、サスケ!」
「シャーー!!」
4人のトレーナーがそれぞれ構える。
花陽「コメコジム・ジムリーダー『陽光のたがやしガール』 花陽!」
凛「ホシゾラジム・ジムリーダー『勇気凛々トリックスター』 凛!」
花陽「全力で行きます!」
凛「全力で行くにゃ!」
4匹の手持ちたちが同時にフィールドに向かって放たれた──バトル、開始……!
- 337 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:38:12.52 ID:CEy3tu000
-
🎹 🎹 🎹
侑「行くよ! ワシボン!」
「──ワッシャァッ!!!」
歩夢「サスケ、お願いね!」
「シャーボ」
花陽「ディグダ、頑張ろう!」
「──ディグディグ」
凛「ズルッグ、行くよー!」
「──ズルッグ」
こちらはワシボンとサスケ、片や花陽さんと凛さんはディグダとズルッグを繰り出してきた。
侑「ワシボン! 先手必勝だよ!」
「ワシャァッ!!!」
ワシボンが羽ばたきながら飛び出していく。
凛「ズルッグ! 来るよ!」
「ズルッ!!」
凛さんのズルッグが迎え撃つ態勢になる。
だけど──ワシボンはズルッグの目の前で、軌道を横に逸らす。
凛「にゃ!?」
私の狙いは──
侑「“ブレイククロー”!!」
「ワッシャァッ!!!」
「ディ、ディグッ!!?」
花陽「狙いはディグダの方!?」
凛さんも花陽さんも、かくとうタイプのズルッグを狙ってくると思ったに違いない。
完全に予想と違う攻撃に面食らったのか、爪がそのまま、ディグダを切り付ける。
侑「畳みかけるよ!!」
「ワシャッ!!!」
花陽「ディグダ! “あなをほる”で一旦退避!!」
「ディ、ディグ」
侑「逃がさない!!」
「ワッシャァーーー!!!!」
穴に頭を引っ込めようとするディグダの頭を猛禽の爪でガッチリと掴む。
「ディ、ディグディグ」
凛「ディグダを離すにゃー!!」
「ズルッグッ!!!!」
ディグダを襲っているワシボンに向かって、ズルッグが飛び出そうとしてくる。
が、
歩夢「“どろばくだん”!!」
「シャーーーボッ!!!」
サスケが後方からの遠距離攻撃をズルッグに向かって放つ。
- 338 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:39:11.06 ID:CEy3tu000
-
凛「邪魔っ!!」
「ズルッグッ!!!!」
ズルッグは鳴き声と共に飛んできた、“どろばくだん”を拳で破壊し、再び攻撃態勢に戻ろうとするが、
「シャーーーボッ」
その隙にサスケは地を這いながら移動し、ズルッグの進路に立ちふさがる。
凛「邪魔するなら、どいてもらうだけ!! “ずつき”!!」
「ズルッ!!!!」
頭を前に突き出して、突撃してくるズルッグに対して、サスケはその場で、
歩夢「“とぐろをまく”!!」
「シャボッ」
とぐろを巻いて、攻撃を受け止める。さらに、
歩夢「“へびにらみ”!!」
「シャーーーーーッ!!!!」
「ズ、ズルッ!!!?」
蛇の眼光で睨みつけ、ズルッグを怯ませる。“へびにらみ”は相手を“まひ”状態にする補助技だ。
歩夢がうまくズルッグを引き付けてくれている。今のうちに……!
侑「ワシボン!! 私たちでディグダを止めるよ!!」
「ワッシャッ!!!!」
逃げようとするディグダを爪でガッチリ掴んでホールドする。
ディグダは自由にさせない……!
そう思っていたけど、花陽さんもただでは止まってくれない。
花陽「ディグダ! “じならし”!!」
「ディーーグッ!!!!」
ディグダは掴まれながらも、体を使って、地面を揺らす。
「シャーボッ…!!」
全体を巻き込む範囲攻撃。サスケも一瞬身動きが取れなくなる一方、
「ズルッ」
凛さんのズルッグは、長い皮に身を隠し、出来るだけ自分にダメージが通らないように防御姿勢を取っている。
そしてこの“じならし”、本来空を飛んでいるワシボンには当たらない技だけど、
「ワ、ワシャッ…!」
地面を揺らしているディグダ本体を掴んでいるためか、ワシボンも体が揺すられて、一瞬怯んでしまった。
花陽「今!!」
「ディグッ!!!」
「ワシャッ!!!?」
その隙を見逃さず、逆にワシボンの爪足を巻き込むようにして、地面に潜り始める。
- 339 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:40:02.10 ID:CEy3tu000
-
侑「やばっ!? 逃げて、ワシボン!?」
さすがに、地面に引き摺りこまれるのはまずい!?
「ワッシャッ…!!!」
ワシボンも咄嗟にディグダを掴んでいたのとは逆の足で地面を踏ん張るが、
「ディグ、ディグ、ディグ」
ディグダは鼻や体を器用に使って、ワシボンの足にまとわりつき、無理やり地面の中に引きずり込もうとしてくる。
ワシボンも堪えているものの、体勢が悪いせいか、力負けしはじめ、体が少しずつ地中に──
侑「っ……! ワシボン!!」
歩夢「助けなきゃ!? サスケ!!」
「シャーーーボッ!!!」
歩夢の合図で、サスケも“あなをほる”で地面に飛び込んだ、瞬間──
「ワシャァッ!!?」
ワシボンが突然、空に向かってすっぽ抜けた。
侑・歩夢「「っ!?」」
歩夢共々、何が起こったのかわからず、声にならない声をあげた。
リナ『侑さん!! 歩夢さん!! ディグダ、地面に出てきてる!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「え!?」
リナちゃんの言葉に、視線を地面に戻すと、確かに、
「ディグ」
ディグダは顔を地面から出していた。
ワシボンを引き摺りこもうとしていたディグダが急に地上に戻ったから、そのせいで勢い余ってワシボンが吹っ飛んでいったんだ。
そして、同時に──花陽さんの狙いに気付く。
侑「っ……!? 誘われた……っ!!?」
花陽さんの狙いは──最初からワシボンじゃない!?
花陽「“マグニチュード”!!!」
「ディィィィグ!!!!!!」
ディグダが全身を使って、地面を激しく揺らし始めた。
歩夢「きゃぁっ!?」
- 340 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:40:57.73 ID:CEy3tu000
-
歩夢がバランスを崩してよろけるほどの大きな震動がトレーナースペースまで届いてくる。
そして、そんな大きなエネルギーを最も近くで直撃したのは、
「──シャーーーーボッ」
地面の中にいた、サスケだ。
大ダメージを受けて、サスケが堪らず地面から飛び出してくる。
歩夢「サスケっ!?」
リナ『“マグニチュード”は地面の中にいるポケモン相手だと、倍近いダメージになる。サスケが“あなをほる”のを誘われてた』 || > _ <𝅝||
侑「っ……!」
この大揺れの中、せめて私はズルッグへ攻撃を……!!
幸い飛んでいるワシボンに“マグニチュード”の効果はない。なら、地面でモロに影響を受けているであろうズルッグを狙い撃つのは容易なはず……!
そう思って、地面に目を向けた、が、
侑「!? ズルッグはどこ!?」
気付いたときには、ズルッグの姿が見えなくなっていた。
凛「──ワシボンとおんなじ場所だよ!」
侑「え!?」
凛さんの声に視線を空中に向けると──
「ズル」
ズルッグが飛び跳ねたまま、ワシボンに迫っているところだった。
凛「“とびひざげり”!!」
「ズルッ!!!!」
「ワッシャッ!!!?」
空中で“とびひざげり”が炸裂し、ワシボンがジムの壁の方まで一気に吹っ飛ばされ、叩き付けられる。
侑「ワシボンっ!!」
「ワ、ワシャァッ…!!!」
ダメージは大きいが、ワシボンはどうにか気合いで立ち上がる。
まだ戦闘不能になっていないことに少しだけほっとするものの、状況はかなり悪い。
恐らく花陽さんが“マグニチュード”を撃つのがわかっていて、それに合わせて、ジャンプ攻撃に切り替えてきたということだ。
……でも、
侑「ズルッグは“へびにらみ”で“まひ”してたはずじゃ……」
そんな体のまま、あんな跳躍が出来るはずは……。
凛「ふふん、ズルッグの特性は“だっぴ”。皮を脱いで状態異常は回復しちゃうよ!」
侑「……しまった、忘れてた……」
- 341 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:42:19.38 ID:CEy3tu000
-
先手を取ったはずなのに、悉く作戦を返されてしまう。
サスケも大ダメージを負って戦闘不能になってしまったし、このままじゃまずい……と思った瞬間だった。
「シャーーーーボッ!!!!!」
「ディ、ディグーーー!!?」
花陽「え!?」
戦闘不能になったかと思っていたサスケが、ディグダの頭に噛み付いていた。
歩夢が何か作戦を指示していたのかと思ったけど、
歩夢「さ、サスケ!?」
当の歩夢も驚きの声をあげていた。ということは……。
「シャーーボッ、シャーーーー」
満身創痍なサスケが、自分の意思で攻撃しているということ。
もうボロボロで戦う力はほとんど残っていないはずなのに。
歩夢「サスケ……っ!! もういいからっ!!」
歩夢も、もうサスケに戦う力がほとんど残っていないことがわかっているのか、サスケを制止するものの、
「シャーーーーーッ」
それでも、サスケは自分のキバでしっかり、ディグダに噛み付き続ける。
「ディ、ディグググッ」
予想外の攻撃に驚いたディグダはサスケに噛み付かれたまま、地面に潜っていく。
ワシボンと違い、細長い体躯のサスケはそのまま地中へと引っ張られていく。
このままだと、サスケの体力が尽きるのは時間の問題……だけど、
侑「サスケが作ってくれたチャンスだ……!! ワシボンっ!!」
「ワシャァッ!!!!」
ワシボンが気合いの雄たけびと共に、バサっと翼を開いて飛び立つ。
フィールドから2匹が地中に潜っているこの瞬間。ズルッグとの1対1に私たちが勝つしかない……!!
そう息巻いて飛び出した。が、凛さんの判断も速かった。
凛「“とびひざげり”!!」
「ズルッッグ!!!!」
すでに再び対空蹴り攻撃に移行していたズルッグが、ワシボンの正面に迫る。
絶体絶命。お互い直線軌道でぶつかり合うと思った、次の瞬間──ワシボンが急降下した。
凛「にゃ!?」
「ズルッ!!?」
急な軌道変更に対応しきれず、ズルッグはそのまま勢いよく壁に膝を激突させる。
「ズ、ズルゥゥゥゥッ!!!?」
- 342 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:43:16.82 ID:CEy3tu000
-
膝をぶつけた痛みに悶絶するズルッグ。
そして、回避に成功したワシボンは、そのまま孤を描くように切り返す。
予測不可能な軌道とともに、相手に回避させない必中の飛行技──
侑「“つばめがえし”!!」
「ワシャァァァッ!!!!」
「ズルゥゥゥ!!!?」
膝の痛みに悶絶していたズルッグに、翼の一撃を直撃させた。
凛「ズルッグ!?」
「ズ、ズルゥゥゥ…」
自傷ダメージと効果抜群のひこう技を連続で受けて、ズルッグは堪らず戦闘不能になった。
侑「ナイス! ワシボン!」
「ワ、ワシャァァッ!!!」
ワシボンも満身創痍ではあるものの、辛くもズルッグとの撃ち合いには勝利。
そして、サスケとディグダは──
「ディグ…ッ」
地面にぴょこっと顔を出した、ディグダ。その頭にはまだサスケが噛み付いていたけど──ディグダがぶんと体を振ると、
「シャボ…」
もう限界だったのか、サスケのキバが抜けて、フィールドに放り出される。
歩夢「さ、サスケ……」
歩夢が真っ青な顔でその場にへたり込んでしまう。
バトルで自分の手持ちが傷つく姿に、まだ慣れていないのだろう。
とりあえず、お互いのポケモンが1体ずつ戦闘不能になった今、ポケモンチェンジもあるし、一旦仕切り直しかな……。
侑「歩夢……サスケ、ボールに戻してあげて」
歩夢「……うん」
歩夢が戦闘不能になったサスケをボールに戻す。
歩夢「サスケ……ごめんね……痛かったよね……ごめんね……」
ぎゅっとサスケの入ったボールを胸に抱くようにして、謝罪を口にする。
侑「歩夢、サスケのこと、後でいっぱい褒めてあげてね」
歩夢「……うん」
サスケの善戦により、劣勢だった展開からイーブンまで持ち込めた。
……と、思ったら、
「ディ、ディグ…」
花陽「ディグダ!?」
急にディグダも目を回して、気絶してしまった。
- 343 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:44:45.67 ID:CEy3tu000
-
侑「え? どういうこと……?」
リナ『ディグダ、“もうどく”状態になってた。そのダメージに耐えられなかったみたい』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「“もうどく”ってことは……」
花陽「さっきの噛みつき……“どくどくのキバ”だったんだね」
歩夢「サスケ……最後まで頑張ったんだね、偉いよ……」
侑「サスケ、大手柄だ……!」
イーブンどころか、これで残りは3対2……!
凛「ごめんかよちん……ワシボン倒しきれなかった……」
花陽「うぅん。わたしもディグダを相打ちまで持ち込まれちゃった……ごめんね」
凛「仕方ない。切り替えていこう!」
花陽「うん!」
ジムリーダーたちが2匹目のボール構える。
侑「このバトル……勝てるよ、歩夢!」
歩夢「……うん!」
歩夢は一度、息を整えながらゆっくり立ち上がり、2匹目のボールを構えた。
歩夢「お願い、ヒバニー!」
「ヒバニッ!!」
もちろん、歩夢の2匹目はヒバニーだ。
花陽「ドロバンコ! 出てきて!」
「ンバコ」
凛「オコリザル、行くにゃ!」
「ムキィィィィィ!!!!!」
花陽さんの凛さんの最後のポケモンはドロバンコとオコリザル。
さあ、試合再開だ……!
侑「ワシボン! ドロバンコに“ダブルウイング”!!」
「ワシャァッ!!!!」
勢いよく飛び出すワシボン。もう体力も残り少ないし、最後まで戦い切れる可能性は低いから、とにかく相手の体力を少しでも削ることに専念する。
ワシボンの両翼がしっかりとドロバンコを捉えるが、
「ンバコー」
侑「あ、あんまり効いてないかも……?」
スピードの速いワシボンに対して、ドロバンコは非常に緩慢で、まるで避ける気がない。
加えて、防御力が高いのか、あまりダメージを受けているようには見えない。
そんなワシボンに向かって──
凛「オコリザル!! “からてチョップ”!!」
「ムキィィィィィ!!!!!」
オコリザルが飛び掛かってくる。
- 344 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:45:43.70 ID:CEy3tu000
-
侑「くっ……!! “ブレイククロー”!!」
「ワシャァッ!!!」
どうにかギリギリで、チョップと爪を撃ち合わせて相殺させる。
凛「畳みかけるにゃ!!」
「ムキィィィィ!!!!」
オコリザルは一発撃ち合った程度では、攻撃の手を緩めてくれない。
再び、地面を蹴って、ワシボンへ飛び掛かってくる。
──やばい、逃げ切れないかも……!
相手もまずは手負いのワシボンを倒したいということだろう、
歩夢「ヒバニー! “ひのこ”!!」
「バニーーー!!!」
そんな中、ヒバニーがオコリザルにちょっかいを掛けるように、“ひのこ”を飛ばす。
「ムキィィィィィ!!!!」
歩夢「わわっ!? すっごい、怒ってる……」
鼻息を荒くしながら、オコリザルは今度はヒバニーに向かって猛ダッシュを始める。
歩夢「ひ、ヒバニー、逃げて!」
「バニー♪」
ヒバニーはご機嫌な様子でフィールドを走り始める。
オコリザルは確かに素早いポケモンだけど──かけっこならヒバニーも負けていない。
今のうちに──
侑「ワシボン!! “エアスラッシュ”!!」
「ワシャァッ!!!」
ドロバンコの体力を削る……!
空気の刃がドロバンコを切り裂くけど、
「ンバコー」
侑「か、硬い……!」
平気な顔をしている。ダメージが通っている感じが全然しない……!
当のドロバンコは足を踏み鳴らして、飛び回るワシボンを目で追っているだけだけど……。
侑「と、とにかく! 空からなら、一方的に戦えるはず!! もう一回、“エアスラッシュ”!!」
「ワシャァー!!!」
再び風の刃で攻撃するが、
花陽「ドロバンコ、落ち着いて」
「ンバコー」
風の刃を身に受けながら、ドロバンコはじーっとワシボンを見つめている。
何度か攻撃を繰り返すうちに、
「ワ、ワシャ…」
- 345 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:46:39.78 ID:CEy3tu000
-
さすがに、ワシボンも疲れが見え始める。
体力も底を尽きかけている中、飛び回って攻撃を続けているんだから、無理もないかもしれない。
一旦ボールに戻した方がいいかな……? そんなことを考えていると、
花陽「……今!! “うちおとす”!!」
「ンバコーーー!!!!」
急にドロバンコが足を踏み鳴らして砕いていた岩をワシボンに向かって、蹴り飛ばしてきた。
「ワシャッ!!?」
侑「!?」
完全に不意打ちだった。直撃を受けたワシボンは戦闘不能。
侑「っ……! 戻って、ワシボン!! イーブイ、お願い!」
「ブイ!!!」
素早くワシボンをボールに戻し、そのままイーブイを出す。これでバトル参加者全員が最後の1匹になった。
侑「あの硬さ、厄介すぎる……!!」
ドロバンコの防御力を突破しないと、じり貧になってしまう。
リナ『ドロバンコの特性は“じきゅうりょく”。元々タフだけど、攻撃を加えれば加えるほど、防御力が上昇しちゃう』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||
侑「そんなこと言われてもどうすれば……」
攻撃をしないと体力は削れないけど、攻撃をしたらどんどん硬くなっていくなんて……それこそどうすれば……。
リナ『どうにか攻撃をクリーンヒットさせるしかないかも』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||
侑「急所を狙えってこと!?」
そんなの狙って出来る気がしない。そもそも、ドロバンコの急所がどこかわからないし……。
困惑する私。だけど、歩夢は、
歩夢「……」
ドロバンコをじーっと見つめていた。
歩夢「ドロバンコの急所、狙えばいいんだよね」
侑「う、うん……そうなんだけど」
歩夢「……やってみる」
侑「え!?」
歩夢はもう一度、ドロバンコを見つめる。
そして、そんな中フィールドを走り回るヒバニーは、
「ヒーーーーバニーーーーー!!!!!!」
爆走しながら、“きあいだめ”を始める。
歩夢「オコリザルの気、引ける?」
侑「わ、わかった! イーブイ、“すくすくボンバー”!」
「ブイ」
- 346 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:47:44.22 ID:CEy3tu000
-
ヒバニーを追いかけて走り回るオコリザルの進路を予測して、イーブイが尻尾を振ると──大きな蔦状の樹がにょきにょきと生えてきて、そこから大きなタネをフィールドに落とし始める。
凛「わわ!? その技何にゃ!? “かわらわり”!!」
「ムーーキィィィィィ!!!!」
自分に向かって落下してくるタネをオコリザルがチョップで叩き割ると──中から“やどりぎのタネ”の蔦が飛び出してきて、オコリザルの腕に絡みつく。
「ムーーーキィィィィィ!!!!」
凛「わぁ!? ホントになんなのその技ー!?」
オコリザルが蔦を払うために、ヒバニーから意識を逸らす。
侑「歩夢! 今のうちに!」
歩夢「うん! ヒバニー!!」
「ヒーーーバニーーー!!!!!」
歩夢の掛け声と共に、ヒバニーがさらに加速して、一気にトップスピードに突入する。
そのまま、一直線にドロバンコの方へ迫っていく。
歩夢「さっきからワシボンの攻撃を受けるとき、あのドロバンコ……少しだけ頭を振りながら、攻撃をいなしてた」
侑「え? そ、そうだった?」
全く気付かなかったけど……。
歩夢「たぶん……頭に攻撃を当てられたくない場所があるんだ」
侑「……」
こういうときの歩夢のポケモンに対する観察力は、私の理解を遥かに超えている。
ここは歩夢に任せよう。
「ヒーーーバニニニニニニ!!!!!!」
歩夢「──きっと、急所は正中線!! 額の真ん中!!」
花陽「! ドロバンコ!! “てっぺき”!!」
「ンバコーーー」
身を固めて、防御姿勢を取るドロバンコの前で、ヒバニーはスピードを乗せたまま、踏み切って──跳躍した。
走り回った熱で、メラメラと足に炎を滾らせながら、
歩夢「“ブレイズキック”!!!」
「ヒーーーバニーーーー!!!!!!」
燃える蹴撃をドロバンコの額のど真ん中に炸裂させた。でも、
歩夢「…………」
侑「……っ……。だ、ダメだ……」
ドロバンコは倒れてくれない。
侑「……くっ……どうにか次の策を……」
歩夢「うぅん。大丈夫」
侑「え?」
「ン、バコォ…」
少しのタイムラグのあと、ゆっくりとドロバンコは横向きに倒れたのだった。
- 347 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:48:19.80 ID:CEy3tu000
-
花陽「……!」
凛「にゃ!? 本当に一発で急所に当てたの!?」
侑「す、すごい!! 歩夢!!」
歩夢「えへへ、やったよ! 侑ちゃん!」
これで残るは凛さんのオコリザルだけ……!! そして、そんな私たちの優勢を後押しするように──ヒバニーが光を放ちだした。
歩夢「!? あれって……!?」
リナ『進化の光だよ!! ヒバニーが進化する!!』 || > 𝅎 < ||
フィールド上を走り回るヒバニーは光に包まれ──
「──ラフット!!!!」
新しい姿で、フィールド駆け回り始める。
リナ『ヒバニーがラビフットに進化したよ!!』 ||,,> 𝅎 <,,||
リナ『ラビフット うさぎポケモン 高さ:0.6m 重さ:9.0kg
ふかふかの 体毛で 寒さに 強くなり さらに 高温の
炎技を 出せるようになった。 手を 使わずに 木の
枝から 木の実を 摘み取り リフティングの 練習をする。』
歩夢「ラビフット……!」
侑「歩夢! 勝てるよ!!」
歩夢「うん!」
流れが私たちの方に向いている。このままなら、押し切れるはずだ……!
花陽「凛ちゃん、ごめんね……」
凛「うぅん! あとは凛に任せて!」
対戦は最終局面に突入する──
🎀 🎀 🎀
──胸がドキドキしていた。
ほぼ初めてのバトル。野生のポケモンを除けば、トレーナー同士では、本当に初めてのポケモンバトル。
最初は怖かったけど、侑ちゃんが隣にいてくれれば、一緒に戦ってくれれば、怖いものなんてないんだ……!
さっき、攻撃を急所に当てたとき、自分でも信じられないくらい集中して、相手を見ることが出来た。
──私もちゃんと戦えるんだ……!
これで勝てたら私は──やっと、自分に自信を持てる気がする。
これで、やっと──
歩夢「──……侑ちゃんの……役に立てる……」
侑「え?」
歩夢「うぅん……! なんでもない……!」
だから、この勝負は絶対に勝ちたい……!
- 348 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:49:16.46 ID:CEy3tu000
-
歩夢「行くよ!! ラビフット!!」
「ラビッ!!!」
花陽「凛ちゃん……!」
凛「凛、少しあの子のこと見くびってたかも……でも」
「ムキィィィィッ!!!!」
凛「負けるつもり、ないよ!! オコリザル!! “じだんだ”!!」
「ムキィィィィィ!!!!!」
さっきから、侑ちゃんとイーブイが時間稼ぎのために周りをウロチョロしていたのがよほど鬱陶しかったのか、オコリザルは激しく“じだんだ”を踏みながら、イーブイを威嚇する。
侑「わぁっ!? イーブイ、一旦離脱!!」
「ブ、ブイ!!!」
激しく地面を打ち鳴らし始めたせいで、イーブイもおいそれと近づけない。
相手はかくとうポケモン、タイプ的にも一撃が怖いイーブイだから、侑ちゃんも無理が出来ないんだと思う。
なら──私が頑張らなくちゃ……!!
再び、オコリザルを観察し始める。
ただ、オコリザルはさっき倒したドロバンコに比べると、わかりやすかった。
しきりに鳴らしているあの大きな鼻。あそこがきっと弱点だ。
──狙える。
歩夢「ラビフット!!」
「ラビッ!!!!」
ラビフットが私の声に反応して、駆け出し始める。
侑「歩夢!?」
歩夢「侑ちゃん、私に任せて!!」
さっきの感覚だ。相手をよく見て、弱点をピンポイントで攻撃する、あの感覚。
「ラビビビビビ!!!!!」
加速しながら、再びラビフットの足が燃え盛る。
歩夢「これで──決めます!!」
「ラビィッ!!!!」
ラビフットが地面を踏み切る。脚を引き──一直線にオコリザルの急所へと、燃える足を振り被る。
何故か確信があった。絶対に次の攻撃も急所を捉えられる。
侑ちゃん……! 私が侑ちゃんを勝ちに導くよ……!
侑「ダメだ!! 歩夢!!」
歩夢「!?」
侑ちゃんの声が響いた。
攻撃は──
「ム…キィ……」
オコリザルの鼻を芯から捉えていた。
急所に攻撃が突き刺さっていた。
- 349 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:51:19.27 ID:CEy3tu000
-
歩夢「だ、大丈夫だよ、侑ちゃん! ちゃんと攻撃は急所を捉え──」
「ム、キィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
歩夢「っ!?」
耳を劈く怒りの雄たけびが、ジム内に響き渡った。
そして、次の瞬間──ヒュンと、風を切りながら、何かが吹っ飛んできた。
歩夢「……え?」
恐る恐る、吹っ飛んできた何かに目を向けると──
「ラ…ラビ……」
ラビフットがフィールドを通り越して、私たちの背後の壁に叩きつけられて、蹲っていた。
歩夢「………………え」
侑「イーブイ!! 逃げて!!」
「ブ、ブイ!!!」
何が起こったのかわからないまま、
「ブムキィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!」
怒り狂うオコリザルが、猛スピードで侑ちゃんのイーブイに迫っていた。
凛「“ばくれつパンチ”!!!」
「ブ、ムキィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!」
侑「……っ!! “みきり”っ!!」
「ブゥィィッ!!!!」
イーブイは肉薄したオコリザルの拳をすんでのところで、回避する。
透かされた攻撃は、そのまま地面に突き刺さって──デタラメな威力で、フィールドごと吹き飛ばした。
「ブィィィィィッ!!!!!」
侑「イーブイっ!!!」
もはや、爆発のようだった。
拳とは思えない、破壊的な一撃がフィールドごと割り砕き──その衝撃に巻き込まれたイーブイは回避も虚しく、
「ブ、ィィィ……」
床を転がったあと、大人しくなった。
歩夢「……え」
私は何が起こったのか、まだ理解出来ていなかった。
確かに私たちの攻撃は、芯を捉えたはずだった。手応えがあった。
凛「……ラビフット、イーブイ、戦闘不能だね。……危なかったにゃぁ……」
侑「……負けた」
歩夢「………………」
負けた……?
- 350 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:52:33.41 ID:CEy3tu000
-
歩夢「…………なん……で……?」
侑「オコリザルの“いかりのツボ”を刺激しちゃったみたい……だね、あはは」
歩夢「“いかりのツボ”……って……なに……?」
リナ『“いかりのツボ”は攻撃が急所に当たると、怒りのパワーで強化される特性。特性が違ってれば、間違いなく侑さんたちが勝ってた……すごく惜しかった』 || > _ <𝅝||
歩夢「え……」
……じゃあ、この敗北は、
歩夢「………………私の……せい……?」
さっきまでの高揚感が嘘のように、急に足元がなくなったような感覚がした。
🎹 🎹 🎹
侑「ジム戦、ありがとうございました! すみません、無理を聞いてもらっちゃって……」
花陽「うぅん、すごい接戦でドキドキしたよ。ね? 凛ちゃん」
凛「悔しいけど、ギリギリの戦いで、凛もハラハラしちゃったよ……。ごめんね、歩夢ちゃん。凛、ちょっと誤解してた」
歩夢「え……」
凛「歩夢ちゃんも立派なポケモントレーナーだったよ。また、機会があったらバトルしようね!」
歩夢「あ……はい……」
花陽「それじゃ、わたしたちはもう行くね。……ジムの再戦が先になっちゃうのは申し訳ないけど」
侑「いえ、大丈夫です! 花陽さんたちが戻ってくるまで、たくさん修行して待ってるんで!」
花陽「楽しみにしてるね! それじゃ、凛ちゃん、行こう」
凛「うん。それじゃ、二人とも、またね!」
そう言いながら花陽さんたちは、手持ちであろうトロピウスの背に乗って飛び去っていった。
リナ『さっきの試合……すごく惜しかった』 || 𝅝• _ • ||
侑「……そうだね。でも、すっごく楽しい試合だったよ! 歩夢のすごいところも見られたし」
歩夢「…………」
侑「花陽さんたちが戻ってくるまでに、しっかり修行しないといけないね!」
これからのことを口に出すと、歩夢は、
歩夢「…………私の……せい、だ……」
消え入りそうな声で、言う。
歩夢「…………私の……せいで……負けちゃった……」
侑「そんなことないよ。歩夢、精一杯頑張ってたじゃん!」
歩夢「………………私が……何も、知らなかったから……」
“いかりのツボ”のことかな。確かに歩夢が狙った急所によって、特性が発動してしまったわけだけど……。
- 351 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:53:29.60 ID:CEy3tu000
-
侑「最初から、知ってるものじゃないし、私も先に教えておくべきだったよね……。ごめんね、歩夢」
歩夢「……なんで、侑ちゃんが謝るの……?」
侑「なんでって……」
歩夢「私が……悪いのに……なんで……?」
侑「い、いやだから、歩夢が悪いんじゃないよ!」
歩夢「…………」
侑「一緒に戦ったんだから、連帯責任! 逆転負けは確かに悔しいけどさ。バトルしてたらこういうこともあるって!」
歩夢「……私が……余計なこと……したから……侑ちゃんが、負けちゃった……」
侑「あ、歩夢……だからさ」
困った、なんて声を掛ければいいんだろう。
迷ったけど、こういうときは、
侑「歩夢」
私は歩夢の手を取る。
侑「全力で戦った結果だから、悔いはないよ。だから、歩夢も気にしないで! 今回は負けちゃったけど、次勝てるように頑張ればいいだけだからさ! ね?」
手を握って、目を見て、想いを伝える。
そうすれば歩夢もわかってくれる。いつも、そうしてきたみたいに。
……だけど、歩夢は、
歩夢「……なんで……怒らないの……」
目を伏せたまま、そう言葉を漏らした。
侑「いやだって、怒る理由が……」
歩夢「あるよっ!!」
歩夢は突然、声を張りあげた。
侑「あ、歩夢……?」
気付けば目の前の歩夢は、ポロポロと大粒の涙を零していた。
- 352 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:54:40.22 ID:CEy3tu000
-
歩夢「私のせいで負けちゃったんだよ……っ!! それくらい、私にもわかるよ……っ!!」
侑「だ、だから、それは……!!」
歩夢「なんで怒ってもくれないの……っ!? 初心者だからっ!? 失敗してもしょうがないから……っ!? 怒ったら、私が可哀想だから……っ!?」
侑「ち、違」
歩夢「私が……弱いから……っ……?」
侑「違う!! そうじゃないよ!!」
歩夢「何が違うの……っ!?」
侑「歩夢頑張ってたよ……! 私のためにジム戦お願いしてくれて、突然だったのに一緒に戦ってくれて……! それなのに、なんで私が歩夢を責めたりしなくちゃいけないの……? その方がおかしいじゃん……」
歩夢「ジム戦だって、昨日私が止めなければ普通に出来てたもん……っ!! それに……頑張ったって……侑ちゃんの邪魔になったら……意味、ないよ……っ……」
侑「意味……ないって……」
歩夢「私……侑ちゃんの足……引っ張ってる……」
侑「そんなことないって……! なんで、わかってくれないの……?」
歩夢「だって……っ……侑ちゃん……今……──すっごく、悔しそうな顔……してるもん……」
侑「え……」
言われて思わず、ジムのガラス張りになったドアに顔を向けると──涙でぐしゃぐしゃになった幼馴染の横に、今まで見たこともないような、悔しさを隠しきれていない表情をしている、自分の顔が映っていた。
歩夢「私が……侑ちゃんに、そんな顔……させたんだ……」
侑「あ、いや……その、これは、違くて……」
歩夢「…………っ……」
侑「だ、だから、歩夢は悪くなくって……」
歩夢「…………もう、いいよ……っ……」
歩夢は私の手を振り払う。
侑「あ、歩夢……?」
歩夢「…………こんな私じゃ……侑ちゃんと一緒に、旅……出来ないよ……っ……」
歩夢は私に背を向けて走り出してしまう。
侑「っ!? 待って!! 歩夢……!!」
咄嗟に歩夢を追いかけて、走り出そうとしたそのとき──後ろから肩の辺りを引っ張られた。
侑「っ!?」
振り返ると──
彼方「うーん……今は……そっとしておいてあげた方がいいんじゃないかな……?」
彼方さんが私の肩を掴んで止めているところだった。
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