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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」

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353 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/13(日) 12:55:09.56 ID:CEy3tu000

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___●○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.26 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.22 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.26 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:58匹 捕まえた数:3匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.18 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.17 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:85匹 捕まえた数:11匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



354 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 17:15:18.14 ID:wroKVd390

■Chapter017 『すれ違い』 【SIDE Yu】





──気付けば、私の肩を掴む彼方さんの姿。彼方さんの後ろには、遥ちゃんの姿もある。


侑「追いかけるなって言うんですか……!?」

彼方「だって、今追いかけても、またさっきみたいに言い合いになっちゃうでしょ?」

侑「そ、それは……」

彼方「それに、リナちゃんも困ってるよ?」

リナ『……ごめんなさい。何言えばいいかわからなくて……』 || > _ <𝅝||

侑「あ……ご、ごめん……」


私たちが目の前で言い合いを始めてしまったから、リナちゃんを困らせてしまっていたらしい。


彼方「実は彼方ちゃんたち、こっそりジム戦を覗いてたんだよね〜。ジム戦が終わって外に出てきたと思ったら、急に二人がケンカを始めて、彼方ちゃんびっくりしちゃったよ〜……」

侑「それはその……ごめんなさい。……でも私……やっぱり、歩夢を追いかけないと……」

遥「あの、侑さん……余計なお世話かもしれませんが……私も、今はそっとしておいてあげた方がいいんじゃないかと思います……」

侑「遥ちゃんまで……」

遥「私も……お姉ちゃんに守られてばっかりだから、歩夢さんの気持ち……ちょっと、わかる気がします」

侑「…………」

彼方「歩夢ちゃんもいろんなことがあって、頭の中がこんがらがっちゃってるんだと思うよ〜。気持ちを整理する時間が必要だろうし、今はそっとしておいてあげた方がいいよ」

侑「…………」

彼方「それにさ、とりあえず、ジム戦で傷ついたポケモンたちを回復させてあげた方がいいんじゃないかな?」

侑「あ……」


歩夢とのことで頭がいっぱいで、ポケモンたちのことまで考えが至っていなかった。

私のために戦って傷ついたポケモンをないがしろにしているなんて……私も少し頭を冷やした方がいいのかもしれない。


侑「わかりました……」

彼方「それじゃ、一旦ポケモンセンターにレッツゴーだね〜♪」





    🎹    🎹    🎹





──ポケモンたちをジョーイさんに預けて、今はポケモンセンターのレストスペース。


侑「…………」


──『なんで怒ってもくれないの……っ!? 初心者だからっ!? 失敗してもしょうがないから……っ!? 怒ったら、私が可哀想だから……っ!?』

──『私……侑ちゃんの足……引っ張ってる……』

──『…………こんな私じゃ……侑ちゃんと一緒に、旅……出来ないよ……っ……』


侑「……はぁ」


生まれたときから幼馴染の歩夢。ケンカすることはたまにあったけど……あんなことを言われたのは初めてだった。
355 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 17:16:43.49 ID:wroKVd390

リナ『侑さん……大丈夫?』 || 𝅝• _ • ||

侑「……ごめん、あんまり大丈夫じゃないかも」

彼方「はい、侑ちゃん、エネココアだよ。甘い物を飲むと気持ちが少し落ち着くと思うから。彼方ちゃんの奢りだよ〜」


彼方さんが、机に突っ伏して落ち込んでいる私の前に、エネココアの入ったカップを置く。


侑「ありがとうございます……」


とりあえず、口を付ける。……甘くて温かい液体が体の中にゆっくりと落ちていくのがわかる。


彼方「落ち着いた?」

侑「……多少は」


腰を落ち着けてみて、さっきの自分は確かに少し頭に血が上っていたかもしれないと思う。

とは言うものの、


侑「……なんて言えばよかったんだろう……」


そんなことがずっと頭の中をぐるぐるしている。


彼方「そうだねぇ……難しいけど、ちょっと歩夢ちゃんに気を遣い過ぎちゃったのが却ってよくなかったのかもね〜」

遥「私も……歩夢さんの立場だったら、怒ってくれた方がって思っちゃうかもしれません……」

侑「……。……でも、歩夢だけのせいじゃないですし」

彼方「歩夢ちゃん、初めてのことが多すぎて、心がびっくりしちゃったのもかもしれないね〜……だから少しの間、ゆっくり考える時間をあげた方がいいんじゃないかなって彼方ちゃんは思うよ〜」

侑「……はい」

彼方「今はゆっくり歩夢ちゃんのことを待つときだよ。その間は彼方ちゃんと遥ちゃんが、侑ちゃんのお話し相手になってあげるから〜」

侑「それは、ありがたいですけど……。いいんですか……?」


チャンピオンたちと行動を共にしているわけだし、何かと忙しいんじゃないかと思ったけど、私の心配に対して彼方さんは、


彼方「大丈夫大丈夫〜、基本は暇だからね〜。コメコシティから出なければ問題ないよ〜」


とのこと。……本当に何をしている人なんだろう?

会ったのは昨日の今日だから、よくわからないのはある意味当然かもしれないけど……改めて考えてみると、彼方さんは謎の多い人だ。

ふわふわしている人だと思いきや、バトルの腕は相当──何せ、あの千歌さんにポケモンの使い方を指南したことがあるらしいし。

穂乃果さん曰く、言えないこともいろいろあるらしいけど……。


彼方「侑ちゃんは、なにか彼方ちゃんとお話ししたいこと、あるかな〜?」

侑「え、えーっと……」

遥「お姉ちゃん……そんなこといきなり言われても侑さん困っちゃうよ……」


遥ちゃんの言うとおり、突然話題がないかと言われてもちょっと困る。……というか──先ほどのジム戦のことで頭がいっぱいで、雑談するという気分でもなかった。

とにかく、歩夢が今どうしているかが気になる。心配だし、出来れば今すぐ歩夢を探しに行きたい気持ちでいっぱいだけど……彼方さんの言うとおり、今歩夢を探しに行っても同じことの繰り返しな気はする。

……歩夢を探すこと以外で、するんだとしたら……。
356 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 17:17:46.83 ID:wroKVd390

侑「今日のバトルの……反省……」

彼方「おぉ……侑ちゃん、真面目だね〜。彼方ちゃん、バトルの後は疲れちゃって、すぐにすやぴしたいくらいなんだけど……」

侑「だって私……歩夢のミスをカバーしきれなかった……」

彼方「……ふむ」

侑「私の方が歩夢より経験もあって、バトルにも慣れてて強いんだから……歩夢がミスしちゃっても、本当は私が全部フォローしてあげなくちゃいけなかったんだ……」


……そうだよ。元はと言えば、私が最後、オコリザルに勝ち切ってさえいれば、こんなことにもならなかったんだ。


侑「私は……もっともっと……強くならないと……」

彼方「……」

侑「……そうだ」


そこでふと、思いつく。


侑「彼方さんって、ポケモンバトル得意なんですよね!?」

彼方「ん〜まあね〜。千歌ちゃんや穂乃果ちゃんに比べると、さすがに敵わないけど〜」


彼方さんが戦っているところを実際に見たことはないけど、限定的な条件とはいえ、現チャンピオンを師事したというのは紛れもなく実力者の証。

考えようによっては──これはチャンスなのかもしれない。


侑「だったら、あの……! 私に稽古を付けてくれませんか……!」

彼方「稽古?」

侑「はい! 私、もっと強くなりたいんです!!」


歩夢が自分のミスを気にしなくてもいいくらい、私が強くなる……!

そうすれば、歩夢ももっと伸び伸び戦えるかもしれない。


彼方「……ふむ〜」


彼方さんは、少し考えていたけど、


彼方「わかった〜。じゃあ、彼方ちゃん、侑ちゃんが強くなるためのお手伝いしてみるよ〜」


最終的には、了承して頷いてくれた。


侑「ありがとうございます!」


やった……! 実力者に直接教えを乞えるなんて、またとない機会だ……!


侑「もっと強くなって……歩夢を安心させるんだ……!」

彼方「…………」

リナ『彼方さん……? どうかしたの?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「……うぅん、なんでもない。それじゃ、そろそろポケモンちゃんたちも回復したころだろうし、手持ちたちと一緒に南の浜辺に移動しよう〜」

侑「はい! お願いします!」


私は急いでエネココアを飲み干して、席を立つ。

甘くておいしいこのエネココアも、次はまた、歩夢と一緒に飲めるように、今は頑張るんだ……!



357 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 17:18:53.83 ID:wroKVd390

    🎀    🎀    🎀





──あれからどれだけ、一人で泣いていただろうか。


歩夢「…………」


無我夢中で走ってきて、気付けば町の外れだった。

泣きすぎたせいか、頭が痛い。


歩夢「……私……どうしよう……」


本当は、あんなことを言いたかったわけじゃないはずだったのに。

頭の中がぐしゃぐしゃになって、侑ちゃんに酷いことを言ってしまった。


歩夢「……どうしよう……サスケ」


思わず、いつも自分の肩に乗っているサスケに訊ねるけど、


歩夢「……あ」


サスケは先ほどのジム戦でボロボロになってしまい、今はモンスターボールの中でお休みしていることを思い出す。


歩夢「……私……サスケも……ラビフットも……回復してあげてない……」


私のために精一杯戦ってくれたのに。

自分のことで頭がいっぱいで、労いの一つもしてあげていない。


歩夢「……ポケモントレーナー……失格、だよ……っ……」


今の自分が、情けなさ過ぎて、また涙が溢れてきた。


歩夢「…………ぅ……っ……ひっく……っ……」


泣いてちゃダメだって、思うのに。涙が止まらない。

やっと自分に自信が持てるかもしれないと思ったのに……今は、自信なんて、一欠片も残っていない気がした。

いくら泣いても、いつも私を支えてくれるポケモンたちは、みんな倒れてしまった。私のせいで。

そして──いつもみたいに優しく慰めてくれる侑ちゃんも……いない。私のせいで。

心がどんどん泥沼にはまっていくようで、寂しさと悲しさ……そして悔しさが、どんどん自分の中で膨れ上がっていく。


歩夢「………………ゅぅ……ちゃん…………っ……」


消え入りそうな声で、また侑ちゃんの名前を呼んでしまった。

そのとき、


 「──……どうしたの?」


声を掛けられた。


歩夢「……え」


びっくりして、顔を上げると──
358 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 17:19:53.51 ID:wroKVd390

エマ「……大丈夫? 歩夢ちゃん?」


心配そうにエマさんが私の顔を覗き込んでいた。


歩夢「え、エマ……さん……」

エマ「泣いてるの? 何かあった?」

歩夢「ぁ……い、いえ……その……な、なんでもなくて……!」


エマさんに心配を掛けちゃいけないと思って、咄嗟に誤魔化そうとするが、


エマ「何か……辛いことがあったんだね……」


エマさんはそう言いながら、


エマ「……よしよし。頑張ったね」


私の頭を優しく撫でてくれた。

急に人の優しさに触れてしまったからだろうか、


歩夢「…………ぁ…………っ……」


頑張って引っ込めようとしていたはずの涙が、またポロポロと溢れ出してきた。


エマ「……ちゃんと傍にいてあげるから、今は泣いちゃっても大丈夫だよ」

歩夢「……っ……! ……ぅ……ぅぅ……えま、さん……っ……」

エマ「……うん。……大丈夫だよ、歩夢ちゃん」

歩夢「………………わた、し…………わたし……っ……!」

エマ「……ぎゅー」


エマさんに抱き寄せられて、ついに私は、小さい子供のように、泣きじゃくり始めてしまった。


歩夢「…………ぅ……っ……ひっく……っ……ぅぇぇぇぇ……っ……」

エマ「……よしよし」


エマさんは私が泣き止むまでずっと、ぎゅっと抱きしめたまま、頭や背中を撫でながら、優しく慰め続けてくれたのだった──





    🎀    🎀    🎀





エマ「はい、歩夢ちゃん。温めた“モーモーミルク”だよ♪」

歩夢「……ありがとうございます」


銀色のカップを傾けてミルクを飲むと、自然な甘味が口の中を満たしてくれる。


エマ「温かいものを飲むと、不思議と気持ちが落ち着かない?」

歩夢「……はい」


エマさんの言うとおり、温かい液体が身体に優しく染み渡っていき、気分が落ち着いていく気がした。
359 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 17:22:04.42 ID:wroKVd390

エマ「ふふ♪ 表情も少し和らいだ気がするし、歩夢ちゃんがちょっとでも元気になってくれてよかった♪」


エマさんがニコニコと笑いながら言う。

本当に掛け値なしに優しい人だということがその笑顔から伝わってくる。


歩夢「あの、エマさん……すみません、お仕事中だったのに……」

エマ「うぅん、気にしないで。もう午前のお仕事は片付けて、ゆっくりお散歩してただけだったから」


私は今、エマさんに連れられて、コメコ牧場の休憩室で腰を落ち着けているところだった。

──私がエマさんの前で泣き出してしまってから、自分がどれくらい泣いていたのか、よくわからなくなるくらい泣いていた気がする。

涙も枯れてきた頃になって、エマさんに手を引かれて、気付けば牧場の休憩室にいた。

泣き疲れていて判断力が鈍っていたのかもしれないけど……まるで何の疑問も持たずに、お母さんに手を引かれている子供のときのような気分のまま、ここに来たと思う。


エマ「歩夢ちゃんのポケモンちゃんたちも、今回復中だから、すぐに元気になると思うよ」

歩夢「すみません……ありがとうございます」


傷ついたポケモンたちは牧場のミルタンクから“ミルクのみ”で回復させてもらっているところ。

ミルタンクのミルクは栄養満点だから、これを飲めばすぐに回復するそうだ。

ポケモンセンターに寄る余裕もなかったから、本当にエマさんには頭が上がらない。

そんなエマさんから、


エマ「それで……何があったのか、訊いてもいい……?」


そう訊ねられる。


歩夢「あ……えっと……」

エマ「もちろん言いたくなかったら言わなくてもいいんだけど……もしかしたら、わたしが力になれることかもしれないし!」

歩夢「…………」


こうして、優しく世話を焼いてくれているエマさんに、こんな情けない自分の話……聞かせていいのかな。

私は言うかを迷ったけど……逆に言うなら、助けてもらったのに何も事情を説明しないのも不義理だと思い、


歩夢「…………その……すごく、しょうもない……というか……情けない、話……というか……」


途切れ途切れに話し始める。


歩夢「……何から、話せばいいか……」

エマ「歩夢ちゃんのペースで大丈夫だよ。ここで、ちゃんと聞いてるから」

歩夢「…………私と一緒に旅をしていた侑ちゃんなんですけど……幼馴染なんです」

エマ「うん」

歩夢「産まれたときから……うぅん、産まれる前から侑ちゃんとは、ずっとお隣さんで──幼馴染でした」


両親は私たちが生まれる前からマンションの部屋がお隣で、病院でお母さんのお腹にいたときから私たちは隣同士。

侑ちゃんが少しだけ先に産まれて……そのあと、私が産まれた。

物心が付いた時には、侑ちゃんは当たり前のように隣にいたし。昨日も今日も……ずっと隣にいた。


歩夢「私も侑ちゃんも、小さい頃からポケモンが大好きで……私の家にはポケモンがたくさんいたから、よくポケモンたちと一緒に遊んでました。……ただ、私はポケモンと一緒にお話するのが好きだったんですけど……侑ちゃんはポケモンバトルを観るのが大好きな子でした」
360 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 17:25:00.44 ID:wroKVd390

それは身近とはいえ、一緒に暮らしていたか、そうでなかったかの違いもあったのかもしれない。

理由はどうあれ、侑ちゃんは子供の頃は今以上に元気いっぱいで、外を走り回るのが好きな子で、近くの道路で戦っているトレーナーたちのバトルをこっそり覗きに行くのが大好きな子だった。

私もそんな侑ちゃんに連れられて、一緒にポケモンバトルを覗いていたけど……私は侑ちゃんほど、ポケモンバトルを好きになることはなかった。

もちろん、嫌いというほどじゃないし、ポケモンリーグのような競技シーンで熱戦を繰り広げるポケモンたちに夢中になる人たちの気持ちも理解は出来る。

いわゆる名試合と呼ばれるような試合では、侑ちゃんと一緒に胸を熱くしながら観ていたことだってある。

……だけど、私よりかは侑ちゃんの方が、ポケモンバトルを真剣に観ていたのは間違いないし、ポケモントレーナーに憧れていたのも、間違いなく侑ちゃんだ。


歩夢「でも……先にポケモントレーナーになったのは……私だった」


ある日、通っているポケモンスクールにいるときに校長室に呼び出されて、何かと思いながら向かうと──そこでヨハネ博士が待っていた。

私たちの住んでいるセキレイシティの研究所にいる博士で、その博士に呼ばれたということだった。

もちろんそこには、かすみちゃんとしずくちゃんもいて……私たちはポケモン図鑑とパートナーポケモンを貰って旅に出る3人のトレーナーに選ばれたということだった。


歩夢「最初は……侑ちゃんを差し置いて、私がポケモントレーナーになってもいいのかなって……思ったんです、でも……侑ちゃんは」


──『歩夢、博士に選ばれたのってホント!? それってホントにすごいことだよ!! おめでとう!! 私も幼馴染として、誇らしいよ!!』


歩夢「侑ちゃんは、自分のことのように喜んでくれて……私もそれが嬉しくて……そのときは立派なポケモントレーナーになりたいなって、思いました。ただ……」

エマ「ただ?」

歩夢「私は……立派なポケモントレーナーになれるか……ずっと不安でした」


──だって私には……何もないから。

一緒に選ばれたかすみちゃんは、いたずらっ子で校内でも有名だったけど、ゾロアのことをよくわかっていて、先生たちを出し抜いて悪さをすることもしばしば。

もちろん後でこっぴどく叱られるんだけど……先生たちも手を焼くほど、ポケモンの扱いに長けた子だった。

お勉強はともかく、バトルの成績は優秀で、学校のポケモンを借りて戦うバトルの授業でも、上級生に引けを取らなかったし、ポケモントレーナーになるべくしてなったような子だと思う。

逆にしずくちゃんは、かすみちゃんとは全然違うタイプだけど……座学もバトルも成績優秀な子で、学校では1年生でありながらポケモン演劇部──ポケモンと一緒に舞台演劇をする部活──のエース。

ポケモンたちと息を合わせながら舞台を創るその姿は、下級生とは思えないほどだったし、しずくちゃんが博士に選ばれたのも納得だった。

だけど──私は……なんで選ばれたんだろう。

確かに座学の成績は悪くはなかったとは思う。……ただ、バトルの授業はあまり好きじゃなかったし、それに関しては侑ちゃんの方がずっと優秀だった。

だから、どうして私が選ばれたのか……わからなかった。

私がポケモンを貰って、ポケモントレーナーとして旅に出るくらいなら──侑ちゃんが選ばれるべきだと思った。

……だけど、せっかく選んでもらったのに、私がそんな態度でいたら失礼だと思ったし……もしかしたら……もしかしたらだけど、博士は私を見て、何かすごい……私自身も気付いていない、特別な何かに期待してくれているんじゃないかって、そう思ったんです。

──ポケモン図鑑を貰ったトレーナーたちは、ほぼ例外なくその才能を花開かせて、一目置かれる存在になるらしい。

それは侑ちゃんの大好きなチャンピオンの千歌さんや、街のみんなも知っている実力者のことりさんや曜さん。そして、ヨハネ博士も昔は図鑑を貰って旅に出たトレーナーだったそうです。

なら、私も……私も、そんな人たちのような、特別な何かが眠っているのかもしれない……そんな風に思って……。

あまり自分に自信がない私だったけど……ポケモン図鑑と最初のポケモンを託される人に──特別な人に選ばれたということが少しだけ嬉しくて、その事実だけで少しだけ自分に自信が付いたような気がして。


歩夢「でも……それも全部、ただの思い上がりだった……」

エマ「思い上がり……?」

歩夢「私は……弱いままだったんです……。少し上手く行っただけで、自分は特別なんだって……思い込んで……」


あのとき……ジムバトルをしている間、どうして自分に特別な力があるって思い込んでしまったんだろう。


歩夢「その思い上がりのせいで……失敗して……侑ちゃんの大切なジム戦を……台無しにして……」
361 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 17:27:53.28 ID:wroKVd390

ジム戦だけじゃない。

ドッグランでも私は何も出来なかった。怯えて、尻餅をついて、ただ震えているだけだった。

侑ちゃんが目の前で倒れていたのに……いつも私や私のポケモンたちを身を挺して守ってくれた侑ちゃんが、目の前で倒れていたのに、私は怖くて何も出来なかった。

先に離脱して、コメコシティで待っていたところに、気を失った侑ちゃんを背負った愛ちゃんが現れたときは、血の気が引いた。

もしバトルをして、また同じように侑ちゃんが怪我をしたら? そう思ったら、侑ちゃんがバトルに赴くこと自体が怖くなった。

だから、無理やりジム戦に行かせないような真似をして……挙げ句、一緒に戦っても足を引っ張ってばかりで……。


歩夢「私はきっと……最初からポケモントレーナーになんて向いてなくて……本当に何かの間違いで、図鑑を貰って……ポケモンを貰って……ここにいるのかなって……」

エマ「……」

歩夢「……そんな自分が悪いだけなのに……侑ちゃんに八つ当たりして……酷いこと言っちゃって……そんな自分が情けなくて……許せなくて……」

エマ「歩夢ちゃん……」

歩夢「侑ちゃんは優しいから……私が謝ったら、許してくれると思います……だけど、そうやって侑ちゃんの優しさに甘えてたら、結局私はずっと侑ちゃんのお荷物のままで……」

エマ「……侑ちゃんは歩夢ちゃんのこと、そんな風に思わないんじゃないかな」

歩夢「…………」


確かに侑ちゃんはそんなこと考えもしないと思う。だけど……。


歩夢「侑ちゃんはきっと、弱い私のことを守ろうとしちゃうから……私は……これ以上……侑ちゃんの負担に、なりたくない、です……」


きっと侑ちゃんは一人でいた方がトレーナーとして強くなれる気がする。

だから、足手まといな私が……これ以上、侑ちゃんの傍にいるべきじゃない。


歩夢「……ごめんなさい。やっぱり、こんなしょうもない話……聞かされても困っちゃいますよね……」

エマ「……しょうもなくなんかないよ。ありがとう、話してくれて」

歩夢「いえ……」


私は目を伏せる。

少しだけ空間が沈黙に包まれる。私から、何か言った方がいいかな……などと考えているとき、


 「シャボー」「ラフット!!」


急に休憩室のドアを押し開けて、サスケとラビフットが部屋に入り込んできた。


歩夢「さ、サスケ!? ラビフットも……」
 「シャボ」「ラビ」


サスケは器用に体をくねらせながら、いつもの定位置まで登り、私の肩の上で鎌首をもたげながら、頬ずりしてくる。

ラビフットもぴょんぴょんと飛び跳ねながら、私の膝の上に乗ってくる。


歩夢「サスケもラビフットも、もう元気いっぱいだね……よかった」


私は回復した2匹の姿を見て、心底安堵した。手持ちがあそこまで傷つくという経験も初めてだったから、尚更だ。


エマ「……歩夢ちゃん」

歩夢「?」

エマ「歩夢ちゃんは、これから……どうしたい?」

歩夢「どう……したい……。……私……どうしたいんだろう……」
362 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 17:35:21.70 ID:wroKVd390

私の旅には、これといった目的があったわけじゃない。……ただ、侑ちゃんと一緒に旅がしたかっただけだ。

侑ちゃんの隣にいられなくなった今……私は自分がどうすればいいのか、どうしたいのかもわからなくなっていた。

ただ……。


歩夢「今は……バトルは……したくないな……」

エマ「……そっか」


これ以上、自分が惨めになるのは……辛い。

そして、もう誰にも迷惑を掛けたくなかった。

もちろん……エマさんにも。


歩夢「……聞いてくれて、ありがとうございました。話したら、少しだけすっきりしました。えへへ……」


私は席を立って、ペコリと頭を下げる。


歩夢「これ以上いたら、本当にお仕事のお邪魔になっちゃうと思うので……」


そう言って、この場を去るため、部屋を出ていこうとすると、


エマ「待って」


引き止められた。


歩夢「あの、本当にもう大丈夫なので……これ以上、迷惑は……」

エマ「うぅん、そうじゃなくて」

歩夢「?」

エマ「この後、時間があるなら──昨日出来なかったメェークルの乳搾り、してみない?」


私を引き留めたエマさんは、そんな提案をしてきたのだった。





    🎹    🎹    🎹





彼方「とうちゃ〜く!」


私たちは彼方さんがさっき言ったとおり、コメコシティの南にある浜辺を訪れていた。


リナ『ここで何するの?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんの言うとおり、ここでどんな稽古をつけてくれるのか気になる……。


侑「やっぱり王道だと……砂浜ダッシュとか?」

彼方「そういうのもいいけど〜……今回するのは違うかな〜」


言いながら、彼方さんはボールを1個、砂浜に放り投げる。

──ボムという音と共に現れたのは……。


 「パルル…」
363 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 17:37:40.24 ID:wroKVd390

1匹の貝のようなポケモンの姿。確か、このポケモンは……。


侑「パールル?」

リナ『パールル 2まいがいポケモン 高さ:0.4m 重さ:52.5kg
   頑丈な 殻に 守られて 一生の うちに 1個 だけ
   見事な 真珠を 作る。 本体が カラに 収まり
   切らなくなると 進化の 瞬間が 近付いた 証拠。』

侑「このパールルを……どうするんですか?」

 「パル…」


そう言っている間も、寄せては返す波に攫われるようにして、パールルが海の方へと移動していく。

水に潜ろうとしてるのかな……?


彼方「このパールルはね、彼方ちゃんにとって、自慢の防御力を誇る子なんだよ〜」

侑「まあ、確かに……見るからに硬そう」

彼方「それでね侑ちゃん。ジムバッジって持ってるかな?」

侑「え? はい……2つだけですけど」


ここまで集めてきた、ジムバッジ──“アンカーバッジ”と“スマイルバッジ”をケースから取り出す。


彼方「ちょっと貸してもらっていい?」

侑「はい」


言われたとおり彼方さんに手渡す。


彼方「おー、立派なバッジだ〜」

リナ『ポケモンジム公認バッジは特注製だから立派なのは当然だと思う。しかもすごく頑丈で、ポケモンの攻撃で壊れないように出来てるらしい』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「ほうほう〜。それなら、尚更安心だね〜」

遥「安心?」


遥ちゃんが彼方さんの言葉に首を傾げる。


侑「あの……そろそろいいですか……」


大切なジムバッジだ。ずっと人の手に預けたままだと、なんだか落ち着かない。

だけど、彼方さんはそれをぎゅっと手に握りこむ。


侑「彼方さん……?」

彼方「あのね、これから侑ちゃんに稽古を付けてあげるんだけど……そういうのって、漫然とやってても身にならないだと思うんだよね〜」

侑「は、はい……」

彼方「だから、いつだって危機感を持ってやる必要があるってこと」

侑「……危機感……ですか?」

彼方「そうそう〜。だから〜」


急に彼方さんが──バッジを握った手を振り被った。


侑「え!?」

彼方「とりゃ〜!!」


そして、そのまま海に向かって──バッジを投擲した。
364 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 17:45:29.06 ID:wroKVd390

侑「ええええ!?」

リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||

遥「お、お姉ちゃん!?」


海に向かって放り投げられた2つのバッジは──


 「パ、ルル」


海に浸かったまま、大きく殻開いたパールルがキャッチし──そのままパタンと蓋を閉じてしまった。


侑「わ、私のバッジ……」

遥「お、お姉ちゃん!? 何してるの!?」

彼方「何ってこれから修行を始めるんだよ〜」

侑「そ、それって、どういう……」

彼方「やることは簡単だよ」


彼方さんがビシっとパールルを指差す。


彼方「侑ちゃんは彼方ちゃんのパールルの殻をこじ開けて、ジムバッジを取り戻す! それだけ」

侑「え」

彼方「それじゃ、彼方ちゃんはあっちで見てるから。侑ちゃん、頑張ってね〜」


彼方さんはそう言って、ふりふりと手を振りながら離れていく。


侑「……ええええええええええ!?」


私の驚きの声は、青空と寄せては返す海の波に攫われて──消えていくのだった……。





    🎀    🎀    🎀





 「メェーー」
歩夢「おい……しょ……」

エマ「そうそう、上からゆっくり……優しく……うん、上手上手♪」


メェークルのお乳を握ると、ミルクが出てきて、それが少しずつミルクバケツに溜まっていく。

昨日やったミルタンクの乳頭と違って、メェークルのものは小さく、難しい。

ただ、何度かやっているうちにだんだんコツがわかってきた。


歩夢「よいしょ……よいしょ……」
 「メェーー」


コツがわかってくると、リズミカルにお乳を搾りだせるようになってきて……なんだか、楽しい。
365 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 17:57:28.75 ID:wroKVd390

エマ「ふふ♪ 歩夢ちゃん、楽しそうだね♪」

歩夢「あ……はい。上手に出来ると、楽しいです」

エマ「うん♪ 楽しんでくれてるみたいでよかった♪」

歩夢「エマさんの教え方が上手だからだと思います」

エマ「ふふ、ありがとう♪ でも、歩夢ちゃん本当に筋がいいよ!」


エマさんがすごく褒めてくれて嬉しい。

いっそこのまま、この牧場で働く人でも目指そうかな……と思ってしまう。どうせ、他にやりたいことも、達成したい目標があるわけでもないし……。

なんて考えながら乳搾りをしていたら、


 「メェーーー」「メェーーー」「メェェ」


他の場所にいたメェークルたちも何故か寄ってきていた。


歩夢「え、えぇ……? どうしたのかな……?」

エマ「歩夢ちゃんにお乳を搾って欲しいみたいだね。それくらい上手だって、思われたみたいだよ♪」

歩夢「そ、そうなんだ……」


ポケモンたちから認めてもらったらしく、それはなんだか純粋に嬉しかった。


 「メェーー」「メェメェ」「メェェェェー」

歩夢「わわわ……順番、順番にね?」

エマ「ふふ♪ 大人気だね♪」


エマさんがくすくすと笑う。


歩夢「メェークルって、お乳を搾ってもらうのが好きなんですね」

エマ「うーん、人に慣れやすいポケモンだから、嫌がる子は少ないけど……乳搾りしてるところに、自分たちから寄ってくるのはちょっと珍しいかも」

歩夢「そうなんですか?」

 「メェーー」


次の子のお腹の下にバケツを用意して、また搾り始めると、


牧場おじさん「おー、お嬢ちゃん上手だねぇ」

牧場おばさん「メェークルがこんなに寄ってくるなんてね〜」

牧場おじさん「いっそ、ここで働かないか〜?」


牧場のおじさんやおばさんたちも感心したように声を掛けてくる。


エマ「もう〜ダメだよ〜? 歩夢ちゃんは旅人さんなんだから〜」

牧場おばさん「そうだよ、若い子は今からなら、何にだってなれるんだから! エマちゃんもね! 他にやりたいことがあったら、おばちゃんたちは応援するから!」

エマ「あはは、ありがと〜♪ でも、しばらくはここで働きたいかな♪」


エマさんが手を振りながら微笑み掛けると、おじさんもおばさんも笑いながら、休憩室の方へと歩いていく。


歩夢「何にだってなれる……か」
366 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 17:59:22.16 ID:wroKVd390

思わず呟いてしまう。本当に何にでもなれるなら、どれだけよかっただろうか。

何にでもなれると言っても、やっぱり向き不向きはある。

少なくとも私は、ポケモントレーナーには向いてないし。

ああ、ダメだ……考えないようにしてたのに……。

ネガティブな考えを打ち消すように、小さく頭を振りながら、メェークルの右乳から、左乳に手を移動させる。


歩夢「よいしょ……よいしょ……」
 「メェー」


ミルクが勢いよく出てきて、バケツにどんどん溜まっていく。

やっぱり……私にはこういうのんびりポケモンたちと触れ合ってすることの方が向いているんだと思う。

そんな中、


エマ「歩夢ちゃん、よく気付いたね……?」


エマさんが、突然そんなことを言った。


歩夢「え?」


なんのことだろうと逆に首を傾げてしまう。


エマ「今、右のお乳から、左のお乳に手を変えたでしょ?」

歩夢「えっと……さっきの子よりも、お乳の張り……? みたいなのが、左の方がよかったから……こっちの方がよく出るのかなって」


実際思ったとおりで、その方がミルクの出がよかったので、乳の状態で搾る方を選んでいる。


エマ「すごい! それに気付くのって、普通だったら何年も掛かるのに……言われる前に気付くなんて」

歩夢「そうなんですか……?」

エマ「というか、言われても違いがわからない人も多いんだよ! 歩夢ちゃん、本当に才能があるのかも!」

歩夢「そ、そうかな……えへへ」


私が照れながら笑っていると、


 「メェーー」「メェェ」


まだお乳を搾られていないメェークルたちが、「まだか?」と言いたげに鳴き声をあげながら、私に身を摺り寄せてくる。


歩夢「だ、だからぁ……順番だから待ってってばぁ……」


そして、それを見たサスケが、


 「シャボ」


負けじと頬ずりを、


 「ラビフ」


ラビフットも脚に抱き着くようにまとわりついてくる。


歩夢「う、動きづらい〜……」


気付けばポケモンたちにおしくらまんじゅうされているような状態になっていた。
367 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 18:01:54.39 ID:wroKVd390

エマ「……ねぇ、歩夢ちゃん」

歩夢「な、なんですかー?」


どうにか、押し寄せてくるポケモンたちを優しくのけながら返事をする。


エマ「さっき、自分には何もないって言ってたけど……歩夢ちゃんは十分すごいと思うよ」

歩夢「え、いや……そんなこと、ないです……」

エマ「うぅん。ポケモンをよく見てるし……すごくポケモンのことを大切に想ってる」

歩夢「そんなの普通のことですよ……」

エマ「普通じゃないよ。今こうしてポケモンたちが歩夢ちゃんの傍に寄ってきてるのが何よりの証拠だよ。ポケモンたちは自分たちをいい加減に想っている人のところには近寄ってこないもん。そういう人って歩夢ちゃんが思っている以上にたくさんいると思うよ?」

歩夢「…………」

エマ「わたしね……さっき歩夢ちゃんの話を聞いてから、ずっと考えてたの。立派なポケモントレーナーってどんな人なのかなって」


エマさんは、真剣な顔で私を見つめていた。


エマ「ポケモントレーナーってただ、ポケモンバトルが上手な人のことじゃないと思う。ポケモンを見て、触れて、お話しして、知って、わかり合って……信頼しあって、大切に想い合える人が、ポケモントレーナーなんじゃないかって」

歩夢「……」

エマ「歩夢ちゃんは、自分は違うって思っちゃうのかもしれないけど……少なくともわたしには、今まで見てきたどんなトレーナーさんよりも、歩夢ちゃんは素敵なトレーナーさんに見えるよ」

歩夢「エマさん……」


私はエマさんの言葉にどう答えていいかわからず、思わず目を逸らしてしまう。


エマ「……そんなに急いで、自分が向いてるか向いてないかを決めなくてもいいんじゃないかな」

歩夢「…………」

エマ「少なくとも……歩夢ちゃんのことを素敵なトレーナーさんだと思っている人間が、ここに一人いるから」

歩夢「…………はい」


……私、ポケモントレーナーでいても……いいのかな……。

ぼんやり考えながら、ミルクの溜まっていくバケツを見つめていると──


 「ミル〜」

歩夢「!?」


バケツの中から、ふわりとミルクが浮いてきた。

いや、これって……。


歩夢「ポケモン……?」
 「ミル〜」


搾りたてのミルクのような色をしたポケモン。初めて見るポケモンだ。


エマ「マホミル……!」

歩夢「マホミル……?」


どうやら、このポケモンはマホミルと言うらしい。


エマ「甘い香りの成分が集まって出来たポケモンって言われてて……ミルクの匂いに反応して出てきたのかも」

歩夢「そうなんだ……」
 「マホミ〜♪」
368 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 18:04:05.55 ID:wroKVd390

マホミルが私の目の前をふよふよと漂うと、確かに甘い良い香りがする。


歩夢「ここのミルク……確かに甘くて美味しいですもんね。よく見かけるんですか?」

エマ「うぅん……少なくとも、このコメコ牧場では滅多に現れないすごく珍しいポケモンだよ」

歩夢「え……」
 「マホミ〜」


マホミルは鳴き声をあげながら、私の周囲をふよふよと漂っている。

逃げるような素振りは全くなく、


 「マホ〜♪」


むしろ、ご機嫌な様子だった。


エマ「わたしも、実際にマホミルを見たのは初めてなの! やっぱり、歩夢ちゃんすごいよ!」

歩夢「わ、私は何も……」

エマ「でも、現にマホミルは歩夢ちゃんになついてるし」

 「マホマホ〜♪」


確かにマホミルは明らかに私を意識して、周囲を漂っている。


エマ「歩夢ちゃん、さっき自分に何を期待されているのかわからないって言ってたよね」

歩夢「は、はい……」

エマ「もしかしたら、博士が歩夢ちゃんに期待してることって……そういうことなんじゃないかな」

歩夢「そういう……こと……」

エマ「ポケモンたちを心から想って……そして、ポケモンたちから想われる力……」

歩夢「…………」

エマ「それはきっと……歩夢ちゃんにしかない、すごい才能なんじゃないかな」


ポケモンを大切に想うなんて、当たり前すぎて意識したこともなかったし……今もあまりピンと来ていない。

だけど……それを才能と言って認めてくれる人がいるなら、


歩夢「──もう少し」


こんな私を認めてくれる人が、いてくれるなら、


歩夢「もう少しだけ……頑張ってみよう……かな……」

エマ「! うん! 絶対そうした方がいいと思う!」

歩夢「……はい」
 「マホミ〜♪」


もう一度だけ、立派なポケモントレーナーを目指して頑張ってみよう……私はそんな風に思ったのだった。



369 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/14(月) 18:04:45.69 ID:wroKVd390

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___●○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.26 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.22 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.26 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:59匹 捕まえた数:3匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.18 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.17 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホミル♀ Lv.15 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:86匹 捕まえた数:12匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



370 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 13:06:48.09 ID:BfviSDpF0

■Chapter018 『侑の弱点?』 【SIDE Yu】





侑「私の……バッジ……」


思わず浜辺で項垂れてしまう。

まさか、こんなことになるなんて……。

私の大切なジムバッジを、パールルに食べさせてしまった当の彼方さんは……いつの間にか、少し離れた場所にレジャーシートを敷いてくつろいでいた。

遥ちゃんとリナちゃんも最初は心配そうにしていたけど、彼方さんに促されて一緒にレジャーシートの上で待っている。

……自分でどうにかしろ、ということかもしれない。


侑「……切り替えよう。これは修行なんだ」


私は浜辺の浅い場所に沈んでいるパールルに目を向ける。

体は全部海の水に浸かってしまっているものの、水位は膝くらいまでしかない。

これなら、みずタイプのポケモンがいなくても、パールルを攻撃することは可能だ。

彼方さんの手持ちだし……レベルは高いかもしれないけど、幸いこっちにはパールルの苦手なでんきタイプのポケモンもいる。


侑「行くよ! ライボルト!」
 「ライボッ!!」


ボールからライボルトを繰り出す。とにかく戦闘不能にすれば、きっと貝も開くはずだ……!


侑「“10まんボルト”!!」
 「ライボッ!!!!」


──バチバチという放電の音と共に、電撃がパールルに向かって飛んでいく。

電撃は音と光を伴って、パールルの沈んでいる海面直上に落ちるが……パールルは全くノーリアクションだった。


侑「……あ、あれ……? も、もう一回!」
 「ライボッ!!!」


再び電撃をパールルの直上に撃ち落とすが──やっぱり、パールルはびくともしなかった。


侑「電撃……届いてるよね……?」


海の水は電気を通すはずだし、確実にパールルにも電撃は通ってるはずなのに……。


侑「威力が足りないのかもしれない……次はイーブイも一緒にやってみよう」
 「ブイ」


イーブイが私の頭からピョンと飛び降りる。


侑「ライボルト、“10まんボルト”! イーブイ、“びりびりエレキ”!」
 「ライボォ!!!!」「ブーイィ!!!」


今度は2匹の電撃が同時に、パールルに向かって迸る。……が、


侑「……だ、ダメだ……」


やはり、パールルはうんともすんとも言わなかった。


侑「もしかして、あの貝殻で防がれてるのかな……」
371 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 13:08:53.04 ID:BfviSDpF0

貝殻の表面を電気が伝っているだけで、本体には届いていないのかもしれない。

となると……。


侑「でんきタイプで弱点を突くだけじゃダメ……」


まあ、さすがにそんな簡単な課題出してくるわけないか……。


侑「なら、次は物理攻撃で……! ワシボン!!」
 「ワシャァッ!!!」

侑「“ブレイククロー”!!」
 「ワッシャァッ!!!!」


ボールから出したワシボンがパールルの上から、猛禽の爪で襲い掛かる。

──バシャっと音を立てながら、水中のパールルに爪を立てるものの、


 「ワ、ワシャァ…」


やはり、パールルは微動だにしない。


侑「ぐぬぬ……力で押してもダメかも……」


考え方を変えないといけないかも……。

こういうとき、強い人はどうするかな……。

今まで自分が見てきたバトルを思い出す。

硬い殻を持ったような相手を倒すって言うと……。


侑「……相手の急所を狙った必殺の一撃とか……!」


千歌さんが得意としている戦術。よし、これで行こう!

ただ、私は千歌さんみたいに、急所を見切ることは出来ないから……。


侑「ワシボン! たくさん攻撃して、パールルの急所を探そう!」
 「ワシャッ!!!!」


とにかく、手当たり次第にいろんな場所を攻撃してみることにした。





    🐏    🐏    🐏





彼方「侑ちゃん苦戦してるね〜」


レジャーシートの上でくつろぎながら、侑ちゃんの姿をのんびり眺める。


遥「お姉ちゃん他人事みたいに……」

リナ『侑さん、さっきから手当たり次第に攻撃してる』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「急所を探してるのかもねー」

リナ『パールルの特性は“シェルアーマー”。パールルの貝殻はそもそも急所を持たない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

彼方「そうだねー。だから、あれじゃダメそうだね〜」

リナ『私、教えてくる』 || ╹ᇫ╹ ||
372 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 13:13:00.13 ID:BfviSDpF0

リナちゃんが侑ちゃんにアドバイスしに行こうとするので、


彼方「それはダメ〜。アドバイスは禁止だよ〜」


と言って、リナちゃんを止める。


リナ『どうして?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「この修行は、侑ちゃんに足りないものを補うための修行だからね。侑ちゃんが一人でこなして気付かないと、意味が薄くなっちゃう」


侑ちゃんの戦いは今日やっていたジムバトルしか見ていないけど……それだけでも、侑ちゃんの弱点はたくさん見えてきた。

今回、侑ちゃんに課した試練は、内容こそ単純だけど、それなりに考えて侑ちゃんのウィークポイントを補強するものにしたつもりだ。


遥「侑さんに足りないものって……?」


一方で遥ちゃんはピンと来ていなかった模様。


彼方「侑ちゃんってね、すごく得手不得手がはっきりしてる子なんだよね」

リナ『というと?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「素早い戦闘においては、判断や反応が早いし、大技に対する切り返しが上手……ピンチをチャンスに変えるのが上手って感じかな」

リナ『確かに、今までのバトルでもそういう場面は多かったかも』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

彼方「でしょ? でも、逆に相手が一歩も動かないような守りを固められると、急に戦い方が雑になっちゃうんだよねー」


今日の戦闘を見ていてもそうだった。防御を固めるドロバンコに対して、無暗矢鱈と攻撃をしているだけで、全然攻撃を有効に通せていなかった。


リナ『言われてみればそうかもしれない……』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「その証拠に、今もああして闇雲に攻撃を始めちゃった」


侑ちゃんを見ると、ワシボンが上空から何度も爪や翼を立て、イーブイが“とっしん”し、ライボルトが“かみつく”。

まあ、その程度じゃ彼方ちゃんのパールルはびくともしないんだけど。


遥「でもそれって、いろんな場所を攻撃して急所を探してるんだよね……?」

リナ『でもパールルの殻に急所は存在しない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

彼方「そう。だから、あのままじゃ一生突破出来ないかもね〜」

リナ『だから、教えてあげた方がいい。あのままじゃ特性に気付くまで時間が掛かる』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「うん、そこも侑ちゃんの悪いところ」

リナ『どういうこと?』 || ? _ ? ||

彼方「侑ちゃん、オコリザルの“いかりのツボ”は知ってたのに……なんで、パールルの“シェルアーマー”は知らないの?」

リナ『……言われてみれば』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「パールルの殻は柔らかい中の本体を守るために、とにかく頑丈に出来てる……なんて、普通の感覚だったら、見ればわかることなんだけどね〜」

遥「……? 侑さん、パールルの殻が柔らかいなんて思ってないと思うけど……」

彼方「でも、侑ちゃんは何故か殻を割ることにばっかり意識が行ってる。別にバッジさえ取り戻せれば課題はクリアだから、そもそも割る必要はないんだよね。もちろん割れるなら割ってもいいけど」


まあ、無理だろうけどね。水に潜っているパールルに加える攻撃は水の抵抗で100%の力を通せないだろうし、どちらにしろ今の侑ちゃんの手持ちのレベルじゃパワー不足。


遥「なら……正解は物理攻撃じゃなくて、さっきみたいな電撃とかってこと……?」

彼方「まぁ、闇雲に物理攻撃をし続けるよりはいいかもしれないけど……。彼方ちゃんがパールルに何を持たせてるかわかる?」


リナちゃんにそう訊ねる。
373 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 13:14:50.72 ID:BfviSDpF0

リナ『あのパールルは“しんかいのウロコ”を持ってる。“しんかいのウロコ”はパールルの特殊防御力を倍増させる』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「お〜さすがポケモン図鑑だ〜♪ だから、電撃でも攻撃はあんまり通らないかなー」

リナ『……』 || ╹ _ ╹ ||

彼方「何か言いたげだね、リナちゃん」

リナ『侑さん……いつもは機転の利く人なのに、どうして今日に限って気付かないんだろう……?』 || ╹ᇫ╹ ||


恐らくリナちゃんの言うとおり、今までの戦いでもピンチをチャンスに変える妙手が侑ちゃんの戦闘を支えてきたんだろう。


彼方「どうしてだと思う?」

遥「どうしてって……」


遥ちゃんも答えがわからない様子。


彼方「それは、パールルは侑ちゃんが“見たことない相手”だからだよ」

リナ『見たことない相手……?』 || ? _ ? ||

彼方「侑ちゃんがポケモントレーナーになったのってつい最近なんだよね」

リナ『うん』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「なのに侑ちゃんは、ポケモンバトルに詳しすぎる」

遥「確かに侑さん……昨日お話ししたときも、いろんなバトルの話をしてたね」

彼方「侑ちゃんはポケモントレーナーになる前から、たくさんバトルを観てきたんだと思うんだよね」


特にポケモンリーグ大会のような、上位のトレーナーたちの試合をたくさん観てきたに違いない。


彼方「それによって侑ちゃんは、ピンチでもそれをひっくり返す展開や作戦をたくさん知ってる。……そういうバトルは印象にも残りやすいからね〜」


──そう、侑ちゃんのバトルを支えている根幹は、侑ちゃんが今まで好きで観てきた、他のトレーナーの試合。


彼方「逆に言うなら、テレビとかで取り上げられるような試合にあんまり出てこないポケモンや戦術は、侑ちゃんは“知らない”んだよ」

遥「で、でも……耐久するポケモンも大会には出てくるんじゃ……」

リナ『……確かに耐久戦術を使うトレーナーは上位にもいる……けど』 || ╹ᇫ╹ ||

遥「けど……?」

リナ『テレビとかメディアで流れることは……少ないかもしれない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

彼方「画面映えしないからね〜。防御主体の戦術で勝ってる試合なんかは、ダイジェストになっちゃったりしがちだよね」

遥「言われてみれば……そうかも……」

彼方「逆に耐久ポケモンが出てくる試合でも、圧倒的な攻撃力で防御を貫くトレーナーの試合や、千歌ちゃんみたいな必殺の一撃で防御そのものを無効化する試合はたくさん見たことがあると思うんだよね。だから、侑ちゃんの中ではそれが耐久破りの“正解”になっちゃってる」


正解だと思っているんだから、それを繰り返すのは当然かもしれない。


彼方「でも、それは多くのポケモンと戦ってきた経験や技、育ててきたポケモンたちのパワーとか、そういうもののお陰で実現してる。だけど、今の侑ちゃんにはそんなパワーも技術も経験も揃ってない」

リナ『侑さんは、それに気付いてない……』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「そこを補うために、トレーナーは今自分たちに何が出来るかを的確に判断して、自分たちに出来る最善手を編み出すことが必要なんだけど……侑ちゃんにはそれが出来てない」

リナ『なるほど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

遥「じゃあ、さっき言ってたオコリザルの特性は知ってて、パールルの特性を知らない理由って……」

彼方「きっとオコリザルが“いかりのツボ”で大逆転する試合を観たことがあったんだろうね〜」


もちろん、知っていることは悪いことではない。ただ、侑ちゃんの場合は知らないことに対する視野が狭すぎるのが問題だ。
374 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 13:16:11.21 ID:BfviSDpF0

彼方「さっきも言ったけど、パールルをよく観察すれば、あの殻がすごく硬くて、直接的な攻撃で破るのが得策じゃないってことは普通わかるんだよ。だから、1つの作戦がダメだったときは、観察して他のアプローチを考えるのがポケモントレーナーのお仕事なの」

リナ『でも侑さんは……それを覆すような試合をたくさん観てきたから……』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

彼方「うん。自分たちには出来ないことだと気付けず、それをやろうとしちゃってるってことだね〜」


詰まるところ、侑ちゃんは基礎が出来ていないまま、バトル上級者の行動を真似してしまっている。

それはいろんなところで、実際の侑ちゃんの実力と噛み合わず、これからの戦いにも歪みを生ませてしまう。

今日のジム戦はそのいい例だったということだ。

だから、これは……侑ちゃんがそれに気付くための修行ということ。


リナ『彼方さんの考えは理解した。私も黙って見守ることにする』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「うん。これも侑ちゃんのためだからね〜」


あとは当の侑ちゃんがそれに気付けるか……だけどね。





    🎹    🎹    🎹





……あれから、パールルをひたすら攻撃し続けて数時間。


侑「……はぁ……はぁ……」
 「ブィィ…」「ライボ…」「ワ、ワシャァ…」


攻撃が通る兆しが全く見えないまま、私たちは疲れ果ててしまっていた。

気付けば周囲は日も暮れ暗くなり始めている……。


彼方「侑ちゃん」

侑「! 彼方さん!」


そして、そんな私たちのもとに、彼方さんが声を掛けてくる。


彼方「苦戦してるね〜」

侑「これ、無理ですよ……」

彼方「あはは、そんな簡単に諦めちゃダメだぞ〜」


彼方さんは笑いながら言うけど……本当にどうしようもないんだけど……。


彼方「でも、今日はもうそろそろ暗くなっちゃうから終わりにしよっか〜。戻れ、パールル」


パールルが彼方さんのボールに戻される。

……もちろん、私のジムバッジごとだ。


侑「……」

彼方「続きは明日ね〜。今日もロッジに泊まるといいよ〜」

侑「……はい。ワシボン、ライボルト戻って」
375 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 13:17:31.45 ID:BfviSDpF0

私も手持ちをボールに戻し、


侑「イーブイ、行こう」
 「ブイ」


いつものようにイーブイを頭に乗せて、砂浜を後にする。


リナ『侑さん、お疲れ様』 || ╹ ◡ ╹ ||

遥「お疲れ様です!」

侑「ありがとう、リナちゃん、遥ちゃん。……全然ダメだったけど」

リナ『ドンマイ。また明日頑張ろう』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

遥「ま、まだ、始まったばっかりですから!」

侑「うん、そうだね」

彼方「それじゃ、みんな帰るよ〜」


彼方さんを先頭に、再びコメコの森のロッジへと帰ることに。

そういえば……。


侑「歩夢……泊まる場所とか、大丈夫かな……」
 「ブイ…」


あの様子で、宿をちゃんと探せているかな……。

今は一人にしてあげた方がいいというのはわかるけど、さすがに一人で野宿とかになったら危ない気がする……。


リナ『歩夢さんなら、牧場の方にいるよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「え? リナちゃんどうして知ってるの……?」
 「ブイブイ?」

リナ『図鑑サーチで場所がわかるだけだけど』 || ╹ᇫ╹ ||


……なるほど。歩夢の図鑑を探知して、位置がわかるということみたい。


彼方「あ、そうそう〜。歩夢ちゃんはエマちゃんのお家に泊まるみたいだよ〜」

侑「エマさんの家に?」

彼方「うん。さっきエマちゃんから連絡があってね〜。もし、侑ちゃんに会ったら伝えておいてって〜」

リナ『エマさん、良い勘してる。まさに彼方さんと一緒にいる』 || > ◡ < ||

侑「……というか、彼方さん、エマさんと知り合いだったんですね」

遥「はい! エマさんにはいろいろお世話になったので……」

彼方「エマちゃんは、彼方ちゃんたちの命の恩人と言ってもおかしくないくらいの人なんだよ〜」

侑「命の恩人……?」

彼方「エマちゃんがいなかったら今頃、彼方ちゃんと遥ちゃんは永久にすやぴしてるところだったもん……」

リナ『随分、物騒な話……』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

遥「いろいろあったので……あはは」

彼方「そうそう、いろいろね〜」


その話、すごい気になるんだけど……それはともかく、歩夢はどうやら無事にエマさんのもとにいるらしいので一安心だ。

ほっとしたついでに──ぐぅ〜……。


侑「……///」
 「ブイ…」
376 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 13:19:00.60 ID:BfviSDpF0

腹の虫が大きな主張をしてきた。


彼方「侑ちゃん頑張ってたからね〜。彼方ちゃんが美味しいご飯作ってあげるから、早く帰ろうね〜」

侑「はい……///」


照れを隠しながら、ロッジへの道を歩む。

気付けば日はすっかり沈み、夕闇が迫りつつあった。

……旅に出てから初めて、歩夢と離れて過ごす夜が訪れる。





    🎹    🎹    🎹





ロッジに着くと、


穂乃果「あ、彼方ちゃん、遥ちゃんおかえり〜」


穂乃果さんがちょうど、出掛けるところに出くわす。


彼方「穂乃果ちゃん、また見回りなの?」

穂乃果「うん……ちょっとここ数日不安定みたいで、数時間置きに見て回ってるんだ」

遥「すみません……苦労をお掛けしてしまって……」

穂乃果「あはは、遥ちゃんたちのせいじゃないって〜。それじゃ、行ってくるね! 侑ちゃんたちも、ゆっくりくつろいでね」

侑「は、はい、ありがとうございます!」
 「ブイ」


穂乃果さんはそれだけ言うと、夜の森の中を、ピカチュウの“フラッシュ”で照らしながら行ってしまった。


侑「穂乃果さん……やっぱり、忙しいんですね」

彼方「まあ、ちょっといろいろあってね〜……」


彼方さんが曖昧な言い方をしている辺り、昨日穂乃果さんが言っていた詳しく言えない話なんだろうけど……。


彼方「それじゃ、すぐにご飯作っちゃうから待っててね〜♪」


彼方さんはそう言いながら、キッチンへ行ってしまった。


侑「待ってる間……どうしよう」

遥「それなら、ポケモンたちのブラッシングをしてあげるっていうのはどうですか? 私もそろそろ、ハーデリアのブラッシングの時間ですし」

侑「ブラッシング……いいかも」
 「ブイ?」


頭の上のイーブイを降ろして、バッグからブラシを探す。


侑「イーブイ、ブラッシングするよー」
 「ブイ」

遥「ハーデリア、ブラッシングするねー」
 「ワフ」


ソファに座り、私の膝の上でくつろいでいるイーブイにブラッシングを始める。

気付けば遥ちゃんも、自分のポケモンらしきハーデリアをボールから出して、ブラッシングを始めていた。
377 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 13:27:04.11 ID:BfviSDpF0

 「ブィィ…」


ブラッシングをしてあげると、イーブイが気持ちよさそうに鳴き声をあげる。


遥「ふふ♪ 気持ちよさそうですね♪」

侑「イーブイはブラッシング好きだからね」
 「ブィ♪」

リナ『でも……侑さんが毛づくろいしてるところ、あんまり見た記憶がないかも』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「普段は気付いたら歩夢がしちゃってたから……あはは」


それこそ、リナちゃんを起動する直前にやっていたけど……旅に出てからは、イーブイだけじゃなくて、ワシボンもライボルトも歩夢がお世話していた気がしなくもない。


遥「歩夢さん、昨日も侑さんがお風呂に入ってる間に毛づくろいしてあげてましたしね」

侑「え、そうだったの……?」

リナ『うん、してた』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ホントに誰が“おや”なのか、わからなくなるよ……」
 「ブイ?」

侑「歩夢、ちょっと毛並みが崩れるだけで気付くからなぁ……」

遥「歩夢さんって本当にポケモンたちのこと、よく見てるんですね」

侑「歩夢はちっちゃい頃から、ずっとポケモンに囲まれて暮らしてきたからね……私とはポケモンと触れ合ってる時間が比べ物にならないから」


きっと、そんな歩夢だからこそ、ポケモンたちのちょっとした変化にも気付けるんだろう。

今日のジム戦でもその観察力のすごさには感心したし、それは間違いなく、歩夢にしか出来ないことだ。


侑「……そうだ、せめてそれを言ってあげればよかった……」


歩夢と口論になったとき、それを言ってあげられれば、少しは歩夢を傷つけずに済んだのかもしれない……。

今更そんなことを考えても後の祭りだけど……。

思わず天井を仰いでしまう。


侑「ん……?」


そのとき、天井に変わったオブジェのようなものがあることに気付く。

金色のフレームのようなものの中に、夜空のような深い青色をした水晶がはまっている。


侑「……綺麗な飾り……」


少し遠くて見えづらいけど、周りの金色のフレームはまるで日輪を彷彿とさせる。はたまた、真ん中の水晶は深い星空のようだった。


リナ『あれ……ポケモン?』 || ? _ ? ||

遥「え!?」


リナちゃんの言葉に遥ちゃんが、ビクッと肩を跳ねさせる。


侑「? あれ、ポケモンなの?」

遥「い、いえ、ポケモンってわけじゃ……!? あ、でもリナさんって、ポケモン図鑑……」

侑「……?」


なんだか、遥ちゃんが妙に焦っている気がする。なんか……聞いちゃまずかったかな。
378 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 13:28:07.68 ID:BfviSDpF0

侑「リナちゃん、結局ポケモンなの?」

リナ『……? わからない……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「わからない?」

リナ『ポケモンのような気がしたけど……さっきから何度サーチしても「NO DATE」って結果に辿り着いちゃう。だから、たぶんポケモンじゃないと思う』 || ╹ _ ╹ ||

侑「へー……そんなことあるんだね」


リナちゃんって、ポケモンだけじゃなくて、いろんな道具とか生活用品とかも検索してたから、何でもわかるんだと思ってた……。

まあ、知らないことがあるから、データ集めのために私たちと一緒に旅してるわけだし……そういうこともあるか。


遥「そ、それより、侑さん! ブラッシングの手、止まってますよ!」

 「ブイ…」
侑「あ、ああ、ごめんね、イーブイ」


言われて手元を見ると、イーブイが「集中してやれ」とでも言いたげに、私のことを見上げていた。


侑「はいはい、真面目にやりますよ」
 「ブイ」


イーブイの機嫌を損ねないように、集中してブラッシングを続けていると、


彼方「──二人とも〜、そろそろ出来るから、お皿用意して〜」


と、キッチンの方から彼方さんの声が聞こえてきた。

今日は朝からジム戦があって……歩夢とあんなことがあって……。さらにその後はずっと修行していたので、もうお腹がぺこぺこ……お待ちかねのご飯の時間だ。


侑・遥「「はーい」」


私は遥ちゃんと二人、彼方さんの呼びかけに応じて、食事の準備に向かうのだった。





    🐏    🐏    🐏





みんなでご飯を食べ終えてから、しばらくして、


侑「…………すぅ…………すぅ…………zzz」


侑ちゃんは疲れもあってか、すっかりすやぴモードになっていました。


リナ『侑さん、寝ちゃった』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「今日はいろいろあったからねー」

遥「侑さん……寝るなら、お布団で寝ないと、風邪引いちゃいますよ……」


遥ちゃんが侑ちゃんの肩を優しく揺する。
379 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 13:31:25.34 ID:BfviSDpF0

侑「…………ん……んぅ……?」

遥「ベッド、行きましょう?」

侑「……うん…………」

遥「私、侑さんをお布団まで連れていくね」

彼方「ん、わかった〜。遥ちゃんも早く寝るんだよ〜」

遥「はーい。侑さん、行きましょう。イーブイも行こうね」

侑「…………ふぁ〜い……」
 「ブイ」


寝ぼけまなこの侑ちゃんを遥ちゃんが寝室へと連れていき、その後ろをイーブイがトコトコと付いていく。

自然と部屋に残ったのは彼方ちゃんとリナちゃんだけになる。


リナ『彼方さんは寝ないの?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「彼方ちゃんは穂乃果ちゃんが帰ってくるのを待つつもりだよ〜。穂乃果ちゃんのご飯を温めてあげないといけないし。リナちゃんこそ、休まなくて平気?」

リナ『もう少ししたら、私も休むつもり。だけど、その前に彼方さんに聞きたいことがある』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「聞きたいこと?」

リナ『今日のジム戦のこと。もっと詳しく聞きたい』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「詳しくって?」

リナ『侑さんが修行をしてるときに話してくれたこと。すごく興味深かった。私にはない視点だったし、彼方さんみたいなバトルが上手い人はあの試合をどう思ったのか、本音が知りたい』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「本音かー……」


正直、言うか迷うこともたくさんあるんだけどなぁ……。彼方ちゃんがどこまで言うのか迷っていると、


リナ『私は侑さんのサポートをしてる。私にはデータはあるけど、戦略や立ち回りの考え方はよくわからない。だから、教えて欲しい。今後、もっと侑さんをサポートするためにも』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「……なるほどね〜」


それがリナちゃんの役割であり、リナちゃんが侑ちゃんのために必要だと思うことらしい。


彼方「ちょっと厳しめのことも言うけど、いい?」

リナ『構わない。むしろ、今の侑さんに何が足りてないのか、私もちゃんと把握しておきたい』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「わかった。じゃあ、出来るだけ本音で話すね」


侑ちゃんは良い仲間に恵まれているなと思いながら、彼方ちゃんはあのバトルで感じたことを話すことにした。


彼方「まず何から聞きたい?」

リナ『そもそも……侑さんは花陽さんに勝てたと思う?』 || ╹ᇫ╹ ||


恐らく、最初から1対1のちゃんとしたジム戦を挑んだときに、勝利することが出来ていたかという意味だろう。


彼方「勝負は時の運もあるから、絶対にこうだったとは言えないけど……たぶん勝てなかったと思う」

リナ『どうして?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「お昼にも言ったけど……侑ちゃんは相手の防御戦術や搦め手が苦手だからね〜。花陽ちゃんは下手したらこの地方のジムリーダーの中でも、侑ちゃんが一番苦手な相手かもしれないね」

リナ『でも、花陽さんの手持ちは2匹とも戦闘不能まで追い込んでたよ?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「よく思い出してリナちゃん。花陽ちゃんのポケモンを倒したのは2匹とも歩夢ちゃんだったでしょ?」


“どくどくのキバ”で相打ちにしたディグダと、ラビフットが急所を狙って倒しきったドロバンコの2匹だ。決まり手はどちらも歩夢ちゃんのポケモンだった。
380 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 13:33:55.21 ID:BfviSDpF0

彼方「それに立ち回りの面で言っても……侑ちゃんの戦い方はあんまりベストとは言いづらかったかも」

リナ『具体的には?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「まず侑ちゃんは最初にズルッグじゃなくて、ディグダを攻撃したよね」

リナ『うん』 || ╹ _ ╹ ||

彼方「でもワシボンなら、タイプ相性的にディグダよりもズルッグを狙った方が、たくさんダメージを与えられるはずだよね。それなのに、侑ちゃんはディグダを狙った」

リナ『恐らく……歩夢さんの手持ちを考慮してだと思う。アーボもヒバニーもじめんタイプは苦手だから』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「そうだね。だから、侑ちゃんは歩夢ちゃんのポケモンを守るために、ディグダを優先した」

リナ『仲間を守るのも重要な作戦じゃない?』 || ? ᇫ ? ||

彼方「確かにね〜。だけど、問題は歩夢ちゃんを守る必要があったのか、なんだよね」

リナ『守る必要があったか? どういうこと?』 || ? ᇫ ? ||

彼方「……彼方ちゃんが見た感じだと、歩夢ちゃんってすごーく相手をよく観察して戦う子に見えたし、戦い方自体も防御や補助が主体。前に出るときも、しっかり準備を整えてから攻撃に移る子なんだよね」


歩夢ちゃんの技選びは終始すごく堅実だった。“とぐろをまく”で防御姿勢を取り、“へびにらみ”で相手の動きを制限したり、攻撃に移る前にも“ニトロチャージ”や“きあいだめ”で技を確実に決める準備をしっかり行っていた。


彼方「歩夢ちゃんもタイプ相性くらいは理解してるだろうし、侑ちゃんがズルッグを狙って相手の数を削ることを優先したら、その間ちゃんとディグダの攻撃を受け切れたんじゃないかなって」

リナ『相性が悪くても?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「じめんタイプの技は仲間を巻き込んじゃう技も多いから、ズルッグをしっかり地上に釘付けにしておけば、“じならし”、“マグニチュード”みたいな技は撃ちづらくなるからね〜」

リナ『……なるほど』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

彼方「でもディグダを狙った結果、逆にワシボンが捕まって地面に引き摺り込まれそうになった。それを助けようとしたサスケ君が、大ダメージを受けることになっちゃったよね。だからこれは、侑ちゃんの判断ミスだったんじゃないかな?」

リナ『確かに……。でも、それは結果論とも言える。相手もディグダの方に攻撃が来たのには驚いてたし、侑さんの行動に向こうが対応した結果、起こったことでしかないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「確かにそれはそうだね〜。だから、そういう行動を取ることがそもそも間違いだった、とまでは彼方ちゃんも言うつもりはないかな〜。問題は……その行動の動機かな」

リナ『動機?』 || ? _ ? ||


そう、問題は行動の動機だ。そして、これが今回のバトルに置いて侑ちゃんが最も反省しなくちゃいけない部分。


彼方「そこまでして歩夢ちゃんのポケモンに攻撃が行かないようにしてたのって──裏を返せば、歩夢ちゃんのことを信頼してなかったってことにならない?」

リナ『……なるほど』 || ╹ᇫ╹ ||


いかに歩夢ちゃんに負担を掛けないか、いかに歩夢ちゃんを戦いに参加させないか、それは初心者に対する侑ちゃんなりの気遣いだったのかもしれないけど……。結局、歩夢ちゃんを信頼していなかったということに他ならない。


彼方「そもそもマルチバトルで一番重要なのは、パートナーを信頼すること。その点、凛ちゃんと花陽ちゃんは息ぴったりだったよね」


花陽ちゃんが全体攻撃を選ぶ瞬間、凛ちゃんのポケモンは必ず防御姿勢を取るか、技の当たらない場所にいた。

花陽ちゃんは凛ちゃんが巻き添えを受けない行動を取ることを信頼していたし、凛ちゃんは花陽ちゃんがどうしたいかを汲み取って戦っていた。


彼方「そして侑ちゃんだけじゃなくて、歩夢ちゃんも……最終的に二人で攻めればいいところを一人で先走って、敗北の決定打になる行動をしちゃった。二人の戦いは本来マルチバトルで必要な信頼とは掛け離れてて、なんだか二人のトレーナーが一人ずつ戦ってるみたいだったよ」

リナ『つまり、結果はどうあれ、そもそもチームワークが不足していた』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

彼方「そんな感じかなー」


そして、その侑ちゃんが歩夢ちゃんを信頼しきれていなかったという事実は、無意識な部分で歩夢ちゃんにも伝わってしまっていたんだと思う。

だからこそ、起こった衝突だと……少なくとも彼方ちゃんはそう感じた。


 「──でも、息を合わせて戦うのって難しいんだよねー……」


そのとき、急に背後から声。
381 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 13:34:44.22 ID:BfviSDpF0

彼方「およよ? 穂乃果ちゃん、帰ってたんだね? おかえりなさ〜い」

穂乃果「うん、ただいま!」


声の主は穂乃果ちゃんだった。


穂乃果「私も昔、何度も海未ちゃんに怒られたよ……『ちゃんと周りを見て戦え』って」

彼方「確かに難しいよねー……彼方ちゃんも気を付けないと、遥ちゃんを守ることで頭がいっぱいになっちゃうからー……」

リナ『彼方さんたちでも難しいんだ……』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「信頼って口で言うほど簡単じゃないからねー」

穂乃果「バトル中は他にも考えることがいっぱいあるから尚更だねー。ただ、マルチバトルは悪いことばっかりじゃないんだよ」

リナ『というと?』 || ╹ᇫ╹ ||

穂乃果「私が苦手な相手でも、パートナーにとっては得意な相手なときもあるから、対応の幅はぐっと広がるんだよ」

彼方「うん。だから、パートナーがどんな戦い方が得意なのか、それも考えてあげられると、動きがすごくよくなるんだよね〜」


特に侑ちゃんと歩夢ちゃんは得手不得手の相手が違うタイプだ……だから、信頼し合えれば、きっともっと強くなれるはず。


彼方「侑ちゃんがそこに気付けるかどうかが、今後の課題だね」

リナ『なるほど……すごく勉強になった』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

彼方「……歩夢ちゃんが侑ちゃんと、どうありたいと思ってるかに、気付いてあげることも含めて、ね」


彼方ちゃんはひととおり話し終えたので、立ち上がって、キッチンに向かうことにする。


彼方「穂乃果ちゃん、今ご飯温めなおすね〜」

穂乃果「ありがとうー! もうお腹ぺこぺこで……」

彼方「すぐに出来るから、ちょっと待っててね〜」


──さて、穂乃果ちゃんのご飯が終わったら、彼方ちゃんもすやぴしようかなー。

明日も侑ちゃんの修行を見守らないといけないからね〜。

火に掛けたシチューをかき混ぜながら、彼方ちゃんはぼんやり、そんなことを考えるのでした。



382 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 13:35:17.67 ID:BfviSDpF0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコの森】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回●__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.27 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.24 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.27 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:59匹 捕まえた数:3匹


 侑は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



383 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 19:05:12.81 ID:BfviSDpF0

 ■Intermission🏹



──ローズシティ。

本日はこのローズで大きな会議室を一つお借りして、人を集めました。

ポケモンリーグ理事長である、私──海未は会議室内に集まった面々を見渡す。

映える赤髪を指で弄りながら待っている、この街のシンボルとも言える存在。ローズシティ・ジムリーダー真姫。

先ほどから、私の横に座っていることりや千歌と、しきりに手を振り合っているのは、セキレイジム・ジムリーダー曜。

飛行手段に乏しいホシゾラジム・ジムリーダーの凛は今回も山を越えてくるのかと思いましたが……今回はコメコジム・ジムリーダーの花陽に相乗りさせてもらう形でローズを訪れたようです。

そして、ジムリーダーはもう一人。ダリアジム・ジムリーダーのにこ。……正確には、にこはダリアジムの正ジムリーダーではありませんが、花丸が正ジムリーダーであることは、リーグ内でも私とにこしか知りません。

もしかしたら、親しい人間は知っている可能性もありますが、口外禁止なため、こういった公の席では基本的に、にこが出席します。

……正ジムリーダーでないだけで、にこ自身はジムリーダー資格もありますし、ジムリーダーとしての権限はほぼ通常どおりに与えられているので、どちらかというとダリアはジムリーダーが二人いるという認識の方がわかりやすいのかもしれませんね。

閑話休題。


真姫「……そろそろ、時間かしら」


真姫がチラリと室内の時計に目を配らせながら言う。

確かに通達した開始時間にはなっているのですが……。


海未「……招集したジムリーダー7人の内、来たのは5人ですか……」


私は思わず眉を顰める。出席率が悪いですね……。

まあ……想定の範囲内です。ヒナギクとクロユリのジムリーダーは、こういった会議の席にはなかなか顔を出さないというのは元々なので……。


海未「それでは……時間になりましたので、会議を始めさせていただきます。まず、真姫。場所の提供ありがとうございます」

真姫「どういたしまして」

海未「ホシゾラ、コメコ、ダリア、セキレイのジムリーダーの皆さんもご足労感謝します。……それと先に補足しておくと、ウチウラシティのジムリーダーはルビィですが、就任して日が浅いので、本日は元ウチウラジム・ジムリーダーであり、現四天王のダイヤに名代をお願いしています」

ダイヤ「よろしくお願いしますわ。今はもうジムリーダーではありませんが……今日この場では、ウチウラジムのジムリーダーとして、お話に参加させていただきますわ」

海未「そして、リーグ本部からは、ことり、希、ツバサ。さらにチャンピオンの千歌にも参加してもらっています」


ジムリーダー5人。四天王4人。チャンピオンと私リーグ理事、合わせて11人の場になっているはずですが……。

もう1人──真姫の後ろに黒髪に眼鏡を掛け、髪を三つ編みにしている少女がいた。


海未「……真姫。その方は?」

真姫「私の秘書だけど。いたら、まずいかしら?」

海未「リーグ内機密の話もあるので、出来れば席を外していただけると助かります」

真姫「わかった。菜々、下がって」

菜々「承知しました」


菜々と呼ばれた少女は恭しく頭を下げると、背筋を伸ばしたまま会議室から退室していった。


凛「かよちん聞いた? 秘書だって……」

花陽「う、うん! 秘書さんがいるなんて……やっぱ真姫ちゃんは住んでる世界が違うかも……」

にこ「ぐぬぬ……このにこにーにだって、秘書なんていないのに……」

真姫「はぁ……秘書くらいでいちいち騒がないでよ……」

海未「そこ、うるさいですよ」
384 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 19:06:28.03 ID:BfviSDpF0

あそこの4人は昔から仲が良いのはいいのですが……。集まると少々姦しいと思うことがある。

まあ……いいでしょう。


海未「それでは、本題に入ります。すでに四天王とチャンピオンには、簡単に話しているので再度の確認になってしまうかもしれませんが……。先日、ことりがセキレイシティからウテナシティへ戻る際──何者かから襲撃を受けました」

曜「え!?」


驚いたような声をあげたのは曜。まあ、自分の師が襲われたなんて聞かされたら驚きもするでしょう。


ことり「あ、でも怪我とかはしなかったから大丈夫だよ、曜ちゃん」

曜「う、うん……」

真姫「……場所は?」

海未「クリスタルレイクの東……16番道路の外れの上空辺りですね」

花陽「何者かって言うのは……相手が誰かわかってないってこと?」

海未「はい。詳しくはことりの方から」


私が目配せをすると、ことりがコクリと頷いて話し始める。


ことり「ここしばらく、飛行中にずっと何かの視線を感じるような気がしてて……気のせいかなとは思ってたんだけど、やっぱり誰かに見られてるって思って、出てくるように声を掛けたの」

にこ「そしたら、襲ってきた……と」

ことり「うん。出てくるよう呼びかけた瞬間、突進してきて……」

凛「ことりちゃんに空中戦を挑むなんて無謀だにゃー……」

ことり「確かに、範囲攻撃で強引に撃墜は出来たと思うんだけど……相手が速過ぎて、なんのポケモンだったのかとかはわからなかったんだ……」

曜「……ことりさんが、わからなかった?」


ことりの言葉に、首を傾げたのは曜。


曜「空中戦だったってことは、相手もひこうタイプだったんだよね? ひこうタイプのエキスパートのことりさんが、わからないなんてことあるの?」

ことり「……少なくとも、私はあのスピードで高速機動出来るひこうポケモンはいないと思う」

ツバサ「一応、私も考えてみたけど……ドラゴンタイプでも、目に見えないほどのスピードで飛ぶポケモンにはちょっと心当たりがないわね」

千歌「カイリューとかボーマンダとかは該当しないんですか? 飛ぶのめちゃくちゃ速いけど」

ツバサ「確かに速いけど……何分、体が大きいから、姿を全く捉えられないということはないと思うわ」

ダイヤ「ことりさんのように空中の相手を捉えることに慣れている人なら尚更ですわね……」

真姫「……テッカニンとかは?」

凛「あ、確かにテッカニンは目にも止まらぬスピードで飛び回るよね!」

ことり「確かに一番イメージには近いかもしれないけど……テッカニンが飛び回るには高度もあったし、何より飛行距離が長すぎる気がするかな……」

ツバサ「一応むしタイプのエキスパートの英玲奈にも確認はしたわ。ことりさんと同じような答えが返って来たから、恐らくテッカニンである可能性も薄いわね」

海未「こちらでも、いろいろな説を考えましたが……私たちの知識の範疇では、どのポケモンか断定することは難しいという結論に至りました」

真姫「リーグ所属の人間に断定が難しかったら、誰にもわからないんじゃない?」


確かに真姫の言うとおり、リーグ所属の人間はタイプエキスパートが揃っている。つまり、リーグ全体を合わせれば、ほとんどのポケモンの生態を把握していると言っても言い過ぎではないと言える。

だが、その上で断定が不可能という以上、可能性は……。


海未「はい、ですから私は……今回ことりを襲撃したのは、新種のポケモンではないかと考えています」


本当に誰も知らないポケモンという結論だ。
385 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 19:07:58.73 ID:BfviSDpF0

曜「新種のポケモン……確かにそれならわからなくてもおかしくないのかな」

真姫「まあ……理には適ってる」

海未「希にも占ってもらいましたが……」

希「ことりちゃんに残ってたポケモンの残留思念って言うのかな? それはウチも見たことがないタイプのオーラだったよ」


エスパー少女である希がそう言っているのが後押しになって、新種のポケモン説に落ち着いたというのもある。

もちろん、それだけで断定は出来ないが、経験則から言って希の占いの的中率は相当な物だ。意見の1つとしての価値は十分にある。


海未「当の撃墜ポイントでも、それらしきポケモンは発見出来ませんでした……もしかしたら、まだどこかに潜んでいる可能性もあります。それか……」


それか──


海未「──すでにそのポケモンの持ち主が回収済みか」

真姫「……なるほどね。言いたいことがわかってきた」

にこ「この地方のどこかに……ことりを襲うような輩がいるかもしれないってことね」

海未「そういうことです」


これが誰かの手持ちのポケモンであったのならば、ひこうタイプのエキスパートに直接空中戦を挑むあたり、腕に自信があるトレーナーの可能性は高い。

だからこそ、こうして地方の実力者たちにこの件を共有することにしたのだ。


海未「こちらでも引き続き調査はしますが……ジムリーダー各位には、自分たちの町の安全確保と、もし何かわかったときは、リーグ本部の方に情報を寄せていただくと助かります。わかっていることはまだ少ないですが……1日も早く、地方内から不安を取り除くためにも、原因究明に協力をお願いします」





    🏹    🏹    🏹





会議も終わり、私も手早く荷物をまとめて出ようとしていると、


真姫「海未、ちょっといいかしら」


真姫が話しかけてくる。


海未「なんですか?」

真姫「……ちょっと聖良のことで、話があるの」

海未「聖良のことで?」


聖良と言えば……もう3年も眠り続けているグレイブ団の元首領だ。

グレイブ団自体、多くの職員がいたものの、理亞共々実情を把握出来ていたものは皆無に等しく、ほとんど全ての計画を聖良一人が動かしていたようなものだった。

そのため、3年経った今でもグレイブ団事変についてはほとんど調査が進められていない状況だ。

なにせ、事情を知っている唯一の人物が眠り続けているのだから……。

そんな聖良の話を、私に持ちかけてくるということは……。


海未「……聖良に回復の兆しが見えたとか?」


と、少し期待してしまう。


真姫「……まあ、見えたというか……なんというか……」

海未「?」
386 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 19:08:55.19 ID:BfviSDpF0

ただ、真姫は何故か歯切れが悪い。


真姫「……実際に見てもらった方が早いと思う」

海未「わかりました……では、ニシキノ総合病院に向かいましょう」


私は真姫と一緒に、病院の一室で眠る聖良のもとへと赴きます。





    🏹    🏹    🏹





──聖良の病室。


海未「…………」


私はその光景を見て、絶句した。


聖良「………………」


ベットに横たわる聖良は──目を開けていた。


海未「どういうことですか……これは」

真姫「意識が戻った……って言うのかしらね」


ただ、その姿には酷く違和感があった。

顔に精気がない……とでも言うのでしょうか。


海未「彼女は……起きているんですか……?」

真姫「……脳波を見る限り、人間の覚醒状態には近いと思う」


そう言いながら、真姫は聖良の顔の前でゆっくりと指を横に動かす。

すると、聖良の瞳はそれをゆっくりと追いかける。


海未「……確かに、見えていますね」

真姫「ただ、これは反射に近いというか……呼びかけても応じたりするわけじゃないのよね」


なるほど……確かにこれは説明されるよりも見た方が早いと言っていたのも理解出来る。


真姫「呼吸も自発的に出来てるし、目も見えてる。恐らく五感も正常に機能してるんだけど……思考しているように見えない」

海未「……ふむ」

真姫「強いて言うなら……意識はあるけど、意思がない……心がない、とでも言うのかしら」

海未「心が……ない」


確かに、植物状態や、記憶障害や意識障害とも何かが違う様子なのは、私の目から見てもわかる。

ただ……。


海未「心がない……というのはありえるんですか?」


その現象も正直よくわからない。心がないなんて状態の人間を考えたことがないからというのもあるが……。
387 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/15(火) 19:10:57.75 ID:BfviSDpF0

真姫「本来はあり得ない。……だけど、やぶれた世界なんていう訳のわからない場所で、伝説のポケモンと戦ったり、メガシンカを一度に3匹同時に使ったり、ディアンシーの攻撃を直接受けたり……何が起こってもおかしくないとは思う」

海未「……なるほど。……このことは理亞には?」

真姫「言ってないわ。……ちょっと、この光景をあの子に見せるのは少し躊躇しちゃって……」

海未「……そうですね」


確かに、実の家族には、今の状態の聖良を見せるのは酷かもしれない。

ましてや、理亞にとっては唯一残った家族だ。……もちろん、だからこそ伝えた方が良いという考え方も出来るが……。


真姫「理亞には、もう少し精密に検査をして、聖良の状況がわかってきてから、伝えたいと思ってる」

海未「その方が良いかもしれませんね……。……それにしても、どうして急にこのようなことに……」

真姫「それなんだけど……」

海未「?」

真姫「聖良が目を覚ます数日前……夜中に誰かがこの病室に忍び込んだ形跡があったの」

海未「病室に忍び込んだ……?」


聖良はグレイブ団事変の主犯格故に、この病室はかなり厳重な管理を敷かれている。

そこに忍び込んだというのは、並々ならぬことだ。


真姫「ご丁寧に、忍びこんで来たときの監視カメラはハッキングされて、監視映像を差し替えられてた。してやられたって感じね……」

海未「……相手は随分な技術を持っているようですね」

真姫「ホントに……」

海未「ですが……そこまでして、聖良に何をしたんでしょうか」

真姫「それはわからない。その侵入者が聖良に何かをしたのか、聖良がその侵入者に反応して、目を覚ましたのか……それとも実は目が覚めたのは偶然で全く関係ないのか、何もわからない状態。だけど、報告だけはしておこうと思って」

海未「なるほど……ありがとうございます。もし、何か続報があったら……」

真姫「ええ、海未には率先して報告するわ」

海未「助かります」


ことりへの襲撃……そして、聖良の不自然な覚醒と、彼女の病室への侵入者……。


海未「一体……この地方で、何が起こっているんでしょうか……」


私はグレイブ団事変以来の、地方の異変を肌で感じ始めていた。


………………
…………
……
🏹

388 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:30:44.45 ID:jDmvoJTA0

■Chapter019 『侑と歩夢』 【SIDE Yu】





夜も明けて。本日も私たちはコメコシティ南部の砂浜に訪れていた。


侑「ワシボン! “ブレイククロー”!!」
 「ワッシャァッ!!!」


ワシボンが鋭い爪を立てると、水の中からゴッ……と鈍い音が響いてくる。

でも、


侑「やっぱ……ダメだ……」
 「ワシャァ…」


水中のパールルはびくともしない。殻に傷一つ付けられないまま、時間がどんどん過ぎ去っていく。


侑「電撃も何度も試したけど……効果はないし……」
 「ライボ」「ブイ…」


他にも“すくすくボンバー”で“やどりぎのタネ”を植え付けたりもしてみたけど……。結局殻に阻まれて、やどりぎも無効化されてしまっている。


侑「うーん……」


どうしたものか。

弱点のでんきタイプもくさタイプ無効となると……やっぱり、パワーでどうにかする以外の方法がない。

じゃあ……。


侑「もっと物理攻撃がしっかり通せるようにしないといけないってことかな……。よし」


私は靴を脱いで、パールルのいる浅瀬までじゃぶじゃぶと入っていく。


侑「水中にいるから、攻撃がうまく通らないんだ! なら、陸に上げちゃえば……!」


パールルの前で屈みながら、大きな貝殻そのものに手を掛けて持ち上げる


侑「ふん……ぬぬぬ……!」


持ち上げ、


侑「……ぬぬぬぬぬ……!!」


持ち……上がらない。


侑「お、重すぎる……」
 「ワシャ!」「ライボ」「ブイブイ!!」

侑「みんな、手伝ってくれるの? よし、どうにかしてパールルを水から上げるよ!」
 「ブイ!!」「ワシャー」「ライ」



389 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:34:23.75 ID:jDmvoJTA0

    🐏    🐏    🐏





彼方「お、やっと違うことを始めたね」


今日もレジャーシートの上でのんびり見ていると、侑ちゃんはパールルへの攻撃を止めて、海から運び出そうとし始めた。


遥「でも全然動いてないね……重そう」

リナ『パールルの体重は52.5kgもある。たぶん侑さんより重い』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

彼方「殻が大きいからね〜。でも、みんなで力を合わせてるから、どうにか動かせそうだよ」


ワシボンが脚でガッチリ掴み、ライボルトが後ろから押して、侑ちゃんが引っ張っている。

イーブイは侑ちゃんの服の裾を噛んで引っ張っているけど……あれはあんまり意味なさそう。

イーブイだと浅瀬でも、溺れちゃうから仕方ないけどね。


リナ『そういえば、水から出しちゃうのはルール的にOKなの?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「別に禁止はしてないよ〜。条件は貝殻を開いてバッジを取り戻せばいいだけだし。……ただー」

遥「……ただ?」

彼方「そんな簡単にはいかないというか……んーまあ、見てればわかるよー」





    🎹    🎹    🎹





侑「よい……っしょ……!」


パールルを運び出す作戦を始めて数十分。


侑「……はぁ……はぁ……! やっと……海から、出せた……!」


みんなの力を合わせて、どうにか水の中から引きずり出して、砂浜の上にパールルを連れてこられた。

パールルを引っ張っているときに手が滑ってすっぽ抜け、何度もひっくり返ったため、すでに全身ずぶ濡れだけど……。


侑「とにかく、これで攻撃を100%通せるはず……! ……ん?」


よーく見ると、パールル……薄っすら貝殻を開けてるような……?

そんな気がして、貝の合わせの部分を覗き込んだ瞬間、その隙間から水が噴き出してきて、


侑「わぷっ!?」


私の顔に直撃した。そのまま、尻餅をつく。


侑「ぺっぺっ……しょ、しょっぱ……」


突然のことだったため、“しおみず”が口の中に入ってきた。しょっぱい……海の水の味がする……。


 「ブ、ブイー!?」「ライッ…!!」「ワシャボーッ!!?」
390 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:35:40.07 ID:jDmvoJTA0

気付けば、私の手持ちたちも同様に、パールルから“みずでっぽう”を浴びせかけられていた。

ダメージこそそんなに大きくないものの、水に阻まれて攻撃どころじゃなくなっている。

しかも、


侑「あ……!?」


パールルは僅かではあるものの、水の逆噴射でちょっとずつ海の方へと戻っていっている。


侑「ま、まずい……! せっかく、海の外に出したのに……!」


思わず、その動きを止めるためにパールルに駆け寄ると、


侑「わぷっ!!」


再び、同じように“みずでっぽう”で顔を狙撃された。


 「ブ、ブイィ…」


転んだ私のもとにイーブイが駆け寄ってくる。


侑「……だ、大丈夫だよ……水がしょっぱいだけだから……」


イーブイを撫でながら、パールルに目を向けると──もうすでに寄せては返す波に攫われて、海の中へと戻って行っているところだった。


侑「…………」
 「ブイィ…」

侑「……反撃してくるなんて、聞いてないよぉ……」

彼方「反撃しないとも言ってないよ〜」


気付けば、尻餅をついたまま項垂れる私の背後に彼方さんが近付いてきていた。


侑「彼方さん……」

彼方「着眼点は悪くなかったと思うよ〜」

侑「……ありがとうございます」

彼方「とりあえずそろそろお昼ご飯の時間だから、一旦休憩にしようね〜。彼方ちゃんが特製お弁当作ってきたから〜」

侑「……はい。イーブイ、ワシボン、ライボルト、休憩にしよう」
 「ブイ」「ワシャ」「ライボ」


なんだか、不意打ちを食らったようで釈然としないけど、確かに彼方さんの言うとおり、パールルが反撃してこないなんて一言も言っていなかったのは確かだ。

言われるがまま、リナちゃんと遥ちゃんが待つレジャーシートに行くと、すでに美味しそうなお弁当が広げられていた。


遥「侑さん、惜しかったですね……」

侑「あはは……陸までは引き摺りだせたんだけどね……」

リナ『でも、あんなに反撃されると近づけない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「そうだよね……」


思った以上に正確な狙撃のせいで、近付くことすら困難な状態。

しかも……攻撃したところで殻を壊せる保証が全くないし……言うほど、惜しくもない気がする。

状況は振り出しに戻ったというか……何も進歩していないというか……。
391 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:37:00.55 ID:jDmvoJTA0

侑「やっぱ、あのパールルも……“おとなしい”ように見えて、バトル慣れしてるんですね……」

彼方「まあ、彼方ちゃんのパールルだからね〜。はい、侑ちゃんの分のおにぎりだよ〜」

侑「ありがとうございます……あむ。……お、美味しい!」

彼方「彼方ちゃん特製混ぜご飯のおにぎりだよ〜。具も調味料も全部彼方ちゃんが考えたオリジナルなんだよ〜」

侑「ホントに美味しい……! いくらでも、食べられそうです……!」

彼方「うむうむ。しっかりスタミナ付けて、午後も頑張ろうね〜」

侑「はい……!」


こうしてご飯をしっかり用意してサポートをしてくれている辺り、特訓には真面目に付き合ってくれている……んだと思う。

課題がいじわるな気がしてならないけど……。


彼方「ポケモンちゃんたちもご飯にしようね〜」
 「ブイ」「ワシャ〜♪」「ライ」

彼方「侑ちゃん、この子たちの好きな味とかわかる?」

侑「あ、えーっと……確かイーブイが甘い味が好きで、ワシボンとライボルトは辛い味が好き……なはず」

彼方「はず?」


私の物言いに彼方さんが首を傾げる。


リナ『ポケモンたちのご飯は大体、歩夢さんが用意してた』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「あ〜……なるほどね〜」


ポケモンたちのご飯はいつも、気付いたら歩夢が用意していたから、味の好みまでは、少し曖昧だったりする。


彼方「それじゃあ、イーブイちゃんにはこのモモンサンドだね〜。ワシボン君とライボルト君には焼きマトマをあげよう〜」
 「ブイ♪」「ワッシャァッ♪」「ライボ」


3匹が彼方さんのご飯に群がって、食べ始める。

反応を見る限り、どうやら味の好みはあっていたようだ。……よかった。


侑「イーブイ、美味しい?」
 「ブイ♪」

侑「そっか、よかったね」
 「ブイ♪」


撫でてあげると、イーブイは上機嫌に鳴く。

これなら、午後もフルパフォーマンスで挑めそうだ。

……でも、


侑「どうやって、攻略すればいいんだろう……」


硬い防御、的確な反撃。

正直崩す手段が思いつかない。


侑「相手はほとんど動かないパールル1匹のはずなのに……強すぎる……」

彼方「まあ、彼方ちゃんのパールルだからね〜」


えへんと胸を張る彼方さん。


侑「パールルがあんなに強いなんて……。進化系のサクラビスとかハンテールならともかく……」

彼方「それは育て方次第だと思うよ〜?」
392 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:41:50.76 ID:jDmvoJTA0

簡単に言うけど……パールルって大人しくて戦闘向きのポケモンじゃないし……。

ふと、彼方さんはどうやってこんなに強く育てたのかが気になってくる。


侑「あの……彼方さんのポケモンって、どうしてそんなに強いんですか……?」

彼方「ん〜? どうしてか〜」

侑「育て方にコツとかがあるんですか?」

彼方「育て方は……よくわかんないかな〜」

侑「わからない?」

彼方「正確には覚えてないというか〜」

侑「……覚えてない……?」

彼方「気付いたときには彼方ちゃんの手持ちだったからね〜」

侑「……?」

彼方「実はね〜彼方ちゃんね〜、昔の記憶がないんだ〜」

侑「……え?」


突然のカミングアウトに一瞬意味が飲み込めず、ポカンとしてしまう。


侑「記憶がないって……記憶喪失……ってことですか……?」

彼方「うん、そんな感じ〜」

侑「…………あの、なんか……すいません」


軽い気持ちで聞いたつもりだったけど、思った以上に重い理由が返ってきて、恐縮してしまう。


彼方「あはは、そんなに気にしないで大丈夫だよ〜。別に記憶がなくても、そんなに不便なわけじゃないし〜。遥ちゃんもいるし〜」

遥「……お姉ちゃんはちょっと能天気すぎるような……。えっと、実は私もお姉ちゃんと同じで昔の記憶がないんです」

侑「そうなんだ……」

遥「私とお姉ちゃん……4年くらい前に、この浜辺で倒れているところを発見されて……」

彼方「目が覚めたときにはもう記憶がなかったんだよね〜。それでそのとき、彼方ちゃんと遥ちゃんを見つけてくれたのがエマちゃんだったんだ〜」

侑「エマさんが……」

リナ『昨日言ってた、エマさんが命の恩人って言うのは……』 || ╹ᇫ╹ ||

遥「はい……浜辺で気を失ったまま、衰弱しきった私たちを助けて看病してくれたのがエマさんだったんです」

彼方「だから、しばらくはエマちゃんと一緒に暮らしてたんだよー。その後、いろいろあって、穂乃果ちゃんや千歌ちゃんと出会って、今に至るって感じかなー」


そのいろいろがかなり気になるけど……まあ、たぶんそれは言えないことなんだろうから、これ以上聞くのは止めておこう。


彼方「目が覚めたときには、記憶はほとんどなくって、自分の名前が彼方で、遥ちゃんが大切な妹だってことしか覚えてなかったんだ。ただ、バトルは身体が覚えてたんだよね。きっと、記憶がなくなる前はすっごいトレーナーだったんじゃないかなー?」

遥「反面私は、バトルはからっきしで……」

彼方「きっと、記憶がなくなる前から、彼方ちゃんが遥ちゃんのことを守ってたんだろうね〜」

遥「私も少しは強ければなぁ……」

彼方「だいじょ〜ぶ! 遥ちゃんは彼方ちゃんが守ってあげるから〜!」


確かに彼方さんくらい強ければ……私も歩夢を守ってあげられるんだろうな……。

そんなことを思いながら空を仰ぐと──灰色の雲が少しずつ勢力を増してきていた。

曇天の予兆。まるで、今の私の心のもやもやを表しているかのようだった。



393 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:43:11.43 ID:jDmvoJTA0

    🎀    🎀    🎀





──コメコ牧場。


歩夢「よいっしょ……よいしょ……」

 「モ〜」

歩夢「ふぅ……これくらいでいいかな」
 「ラフット」


ミルタンクの乳搾りを一段落させて、私が袖で汗を拭っていると、そこにラビフットが近付いてきて、タオルを差し出してくれる。


歩夢「ありがとう、ラビフット♪ 持ってきてくれたんだね」
 「ラフット♪」


お礼を言いながら、頭を撫でてあげると、ラビフットは上機嫌のまま、再び牧場内を走りだす。

牧場が広くて自由に走り回れるからか、今日は特にご機嫌だ。

ラビフットを見送っていると、


 「ミルミル〜♪」


足元のミルクバケツの方から鳴き声が聞こえてきて視線をそこに移す。

すると、いつの間にやってきたのか、マホミルがバケツを覗き込んでいるところだった。


歩夢「あ、ダメだよマホミル。このミルクはあなたのおやつじゃありません」
 「ミル〜?」

歩夢「ちゃんとあとで、“マゴのみ”をあげるから、大人しくしててね?」
 「ミル〜♪」


あとで好物の“きのみ”をあげると伝えると、マホミルは嬉しそうにふよふよと休憩室の方へと飛んでいく。よしよし、ちゃんと言うこと聞いてくれてる。


エマ「ふふ、マホミルとも、もうすっかり仲良しだね♪」

歩夢「あ、エマさん! ミルタンクの乳搾り終わりました!」

エマ「もう終わったの? 歩夢ちゃんって、ホントに手際がいいんだね」

歩夢「いや、そんな……たまたまこの子のお乳の出がよかっただけですよ。ね、ミルタンク」

 「モ〜」

エマ「ふふ、牧場のおじさんたちじゃないけど……ここで働いてみる?」

歩夢「え? えーっと……どうしようかな……」


エマさんのリップサービスだとわかっていても、これだけたくさん褒められると嬉しくなっちゃう……。

正直、ここで働くのも悪くないなとも思っちゃうけど……。


歩夢「牧場でお仕事しながら、ポケモントレーナー……出来るかな……」

エマ「あ、冗談だよ、冗談! でも、そう言いたくなっちゃうくらい、歩夢ちゃんのお仕事が上手ってこと!」

歩夢「えへへ……ありがとうございます」

エマ「ありがとうはこっちのセリフだよ〜! 歩夢ちゃんが手伝ってくれて、大助かりだよ〜」

歩夢「お家に泊めて貰っているので、これくらいはさせてください」

エマ「そんなに気を遣わなくてもいいんだよ〜? わたしが好きでやってることなんだから」

歩夢「エマさん……ありがとうございます」
394 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:44:48.35 ID:jDmvoJTA0

エマさんは本当に優しいな……。

昨日は心の中が悲しい気持ちでいっぱいで、もうどうすればいいのかわからなかったけど……エマさんの優しさに触れていたら、だんだん気持ちも落ち着いてきた気がする。

侑ちゃんとのことは……どうすればいいのか、まだ答えは出ていないけど……。

ぼんやりとそんなことを考えていると、


 「シャボ…」


急にサスケが小さく鳴きながら、天を仰ぐ。


歩夢「サスケ?」


私も釣られて、空を見上げると──灰色の雲が少しずつ空を覆い始めていた。


エマ「天気……曇ってきたね。もしかしたら、雨になるかも……」

歩夢「早めに牧場の子たちを飼育小屋に入れた方がいいですか?」

エマ「そうだね……。……特にメリープとかウールーは雨に打たれると、毛が水を吸い過ぎて動けなくなっちゃうから……」

歩夢「それじゃ、私はウールーたちを小屋に入れてきますね」

エマ「ありがとう〜助かるよ〜。それじゃ、わたしはメリープたちを……」


早速ウールーたちの放牧地帯に行こうとした、そのとき、


歩夢「……?」


何か、変な感じがした。

肌がピリピリする。変な感じ。


エマ「歩夢ちゃん? どうかした?」

歩夢「あ、いえ、なんでもないです! 行ってきます!」

エマ「うん。何かあったら呼んでね!」

歩夢「はーい」


私は今度こそ、ウールーたちの所へと足を向ける。


歩夢「気のせい……だよね……?」


正体不明の違和感に首を傾げながら……私はなんとなく、妙な胸騒ぎを感じていた。





    🎀    🎀    🎀





歩夢「みんなー、こっちだよ〜」

 「メェ〜〜」「メェ〜〜〜」「メェェ〜」


飼育小屋の前からウールーたちを呼ぶと、コロコロ転がりながらこっちに向かってくる。


 「メェ〜」「メメェ〜」「メ〜〜」

歩夢「わわ!? 私じゃなくて、小屋の中に入ってー!?」
395 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:46:59.59 ID:jDmvoJTA0

飼育小屋に入らず、何故かウールーたちが私に向かって群がってくる。


歩夢「も、もう……早くしないと雨降ってきちゃうから……」


こうして群がられてしまうと、“もふもふ”で動きづらくて仕方がない。

少し可哀想だけどこのままじゃ埒が明かないので、1匹ずつ持ち上げて、小屋の中に放り投げる。

ウールーたちはかなりの数がいるけど、1匹1匹コツコツと小屋の中に入れていくと、次第に数が減ってくる。


歩夢「あなたが最後だね」

 「メェ〜」


最後の1匹を抱えたまま小屋に入って、中から外を見ると、ちょうど──ぽつぽつと雨が降り出した。


歩夢「よかった……間に合った」


安心で、一息。

そのとき──ピシャーーーンッ!! という轟音と共に稲妻が迸った。


歩夢「きゃぁっ!?」


思わずびっくりして、耳を押さえながら、蹲ってしまう。


歩夢「び、びっくりした……」
 「シャボ」

歩夢「……だ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから……ありがとう、サスケ」


心配して鳴き声をあげるサスケの頭を撫でながら立ち上がる。

雨の中、雷が落ちた方角を確認する。あっちの方って……。


歩夢「メリープ牧場の方だよね……」


エマさん、大丈夫かな……。

お手伝いに向かった方がいいかな……そう考えていたら──ピシャーンッ!! とまた雷が鳴る。

──と思ったら、さらにゴロゴロという音と共に、雷が轟き、また空を光らせた。


歩夢「……!?」


驚いて目を見開いている間にも、次の雷が轟音を立てながら空気を震わせる。まるで、雷が意思を持ったかのように、メリープ牧場付近に降り注いでいるようにも見えた。

あの光景には見覚えがあった。


歩夢「行かなきゃ……!!」


私は気付いたら雨の中を走り出していた。



396 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:47:50.93 ID:jDmvoJTA0

    🎹    🎹    🎹





──お昼休憩も終わって。


侑「うーん……」


私は浜辺で唸っていた。


侑「結局のところ、攻撃は通用しないし……もう一度、海から出してみる……?」


でも、海から出したところで、さっきと同じことになっちゃうだろうし……“みずでっぽう”を防ぐ手段を考えてからじゃないと……。


侑「うーん……」


私が唸ったまま、指示を決めあぐねていると、


 「ブイ、ブイ」


イーブイは、浅瀬にいるパールルの貝殻の上に乗って、ぱしゃぱしゃと水を立てながら叩いている。

さすがに、それくらいじゃノーダメージどころじゃないけど……。

でも、イーブイがああしたくなる気持ちもわかる。

本当に打つ手がない……。

でも、どうにかしてパールルの殻を破らないと、私のバッジも戻ってこないし……。


侑「どうしよう……」


思わず頭を抱える。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、


 「ブイ」


諦めたのか、それとも飽きたのか、イーブイが海から上がって、私のもとに戻ってくる。

そして、ブルブルと体を振るって、濡れた毛の海水を飛ばしてくる。


侑「わっ!? もう、濡れるの嫌なら、勝手に行かないでよ……ん?」


ふと、イーブイの全身が──泡だらけなことに気付く。


侑「イーブイ、その泡……どうしたの?」
 「ブイ?」

侑「パールルって“あわ”とか吐いてなかったよね……」
 「ブイ」


パールルの攻撃とかでないなら、なんだろう……。そう思いながら、手で軽く泡を拭ってあげると──拭ったそばから、また泡がぷくぷくと溢れだしてくる。


侑「……イーブイの体から出てる?」


……まさか、これって……。


侑「リナちゃーん!」


イーブイを抱きかかえたままリナちゃんを呼ぶと、すぐにふよふよとこちらに向かって飛んでくる。
397 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:49:12.43 ID:jDmvoJTA0

リナ『侑さん? どうかした?』 || ? ᇫ ? ||

侑「これ、イーブイの新しい“相棒わざ”じゃない!?」


そう言いながら、泡まみれのイーブイをリナちゃんに見せる。


リナ『ホントだ。ずっと海で修行してたから、水の多い環境にイーブイが適応したみたい』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「それじゃ、みずタイプの“相棒わざ”なんだね!」
 「ブイ」

リナ『うん。みずタイプの“相棒わざ”、”いきいきバブル”だよ。泡を通して相手からHPを吸収できる技みたい』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「“いきいきバブル”……! やったね、イーブイ! 新しい技だよ!」
 「ブイ?」


私は新技にテンション高めに話しかけるけど、当のイーブイはあまり興味がないらしく。


 「ブイ」


いつまでも持ち上げられたままなのが嫌だったのか、泡を使って、私の手から滑るように逃げ出す。


侑「テンションに落差がある……」

リナ『イーブイ的には適応しただけであって、新しい技を覚えたって感覚がないのかも』 || ╹ᇫ╹ ||

 「ブイィ…」


“あくび”してるし……。まあ、もともと“おくびょう”な子だったし、すっかり私にも慣れてくれたってことだと思う。たぶん。

イーブイのマイペースさに少し呆れていると──ポツ。


侑「つめた……!」


頭の上に水が落ちて来た。

思わず空を見上げると──


侑「……雨だ」
 「ブイ」


気付けばすっかり灰色の雲に覆われた空から、雨が降り出していた。


彼方「──侑ちゃーん! 一旦こっち戻っておいでー!」

侑「あ、はーい」


彼方さんに呼ばれて、シートの方に戻ると、気付けばパラソルが立っていた。


彼方「しばらくはここで雨宿りだねー」

遥「でもこの雨……すぐ止まなさそう……」

侑「確かに……」


少しずつ雨足が強くなっていく空をぼんやり眺めていると、


 「ブイ」


イーブイが耳をピクリと動かして、急に町側の方に顔を向けた。


侑「イーブイ? どうしたの?」


私も釣られて、町の方を見ると──何やら、町の人たちが慌ただしく走っている姿が目に入ってきた。
398 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:50:17.00 ID:jDmvoJTA0

侑「……? 何かあったのかな?」

遥「なんだか、随分慌ててるような……」

彼方「どうしたんだろう? 彼方ちゃんちょっと聞いてくるね」

侑「あ、私も!」


彼方さんの後を追って、町の方へ。彼方さんが、右往左往している町の人に声を掛ける。


彼方「あのー? 何かあったんですかー?」

町人「あ、ああ……どうやら、牧場の方が野生ポケモンに襲われてるらしいんだ……」

侑「え!?」


思わず驚きの声をあげるのとほぼ同時に──牧場方面の空がカッと光る。


彼方「あれ、もしかして……でんきポケモンの“かみなり”……?」

町人「牧場の方に野生ポケモンが来ることなんて滅多にないんだが……。とはいえ、この町にはトレーナーもほとんどいないし、どうしたもんかと……」

遥「……す、すぐに穂乃果さんに連絡します!」


遥ちゃんがポケギアを取り出して、穂乃果さんに連絡を取り始める。

そんな中、


リナ『侑さん! 大変!?』 || ? ᆷ ! ||


急にリナちゃんが大きな声をあげる。


侑「え、ど、どうしたの?」

リナ『今、コメコ牧場に──歩夢さんの図鑑の反応がある!』 || ? ᆷ ! ||

侑「な……!?」


じゃあ、まさか今、歩夢は……!?


侑「野生ポケモンに襲われてる……!? い、行かなきゃ!! みんな!!」
 「ブイ」「ワシャー!」「ライボ」

彼方「あ、ちょっと待って、侑ちゃん!?」


私は彼方さんの制止も聞かず、手持ちたちを引き連れ一目散に飛び出した。

早く、早く助けに行かなくちゃ……!!


侑「歩夢は戦えないんだ……!! 私が助けなきゃ……!!」





    🎀    🎀    🎀





──ウールーの小屋から飛び出すと、雨足はすぐに強くなり、激しい雨が降り出した。

その中を全力疾走で、メリープ牧場の方へ向かう。

向かう最中にも、空は光り、稲妻が迸る。

稲光の筋がどんどん数を増やしながら、雷鳴が絶え間なく鳴り響いている。


歩夢「急がなきゃ……!」
399 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:51:16.16 ID:jDmvoJTA0

私が必死に走って向かっていると、


 「ラフット!!」「マホミ〜」
歩夢「ラビフット! マホミル!」


ラビフットとマホミルも異変に気付いたのか、走っている私に並ぶようにして追いかけてくる。


歩夢「みんな、行こう……!」
 「ラビ!」「マホ〜」「シャーボ」


走ること数分、見えてきたメリープ牧場には──


 「メェーーー!!!!」「メェェーー!!!!」「メェメェーーー!!!!」


逃げ惑うメリープたちの姿と、


 「ラクゥ!!!」「ラァイッ!!!!」「ラクラァッ!!!!」

歩夢「!! やっぱり……!!」


その向こう側、牧場をぐるっと囲う柵の外側に、ラクライの大群が押し寄せていた。

そして、そんなラクライたちが柵の内側に入ってこないように、


エマ「ゴーゴート! “はっぱカッター”!」
 「ゴォーート!!!」

 「ギャゥッ!?」「ラクラァッ!?」


逃げ惑うメリープたちの前に立って、エマさんが戦っているところだった。


歩夢「エマさん!」

エマ「歩夢ちゃん!? 危ないから来ちゃダメ!!」


エマさんが私に近付かないように、促す間にも、


 「ラィィッ!!!!」


ラクライが飛び掛かってくる。


歩夢「エマさん、危ない!!」

エマ「ガルーラ!! “ピヨピヨパンチ”!!」
 「ガァーール!!!!」

 「ギャンッ!!!」


至近距離まで迫っていたラクライを、エマさんのガルーラがパンチで迎撃する。

エマさんはどんどん押し寄せてくるラクライたちを、どうにか捌き続けているけど……ダメだ、


歩夢「数が多すぎる……!」


やっぱり、加勢しないと……! そう思って、私も前に出ようとしたその瞬間──ピシャーーーーンッ!!!


歩夢「きゃぁっ!!?」


私の数歩前に雷が落ちてきて、思わず尻餅をつく。

大きな雷轟と共に、草が焼け焦げたような、嫌な臭いが漂ってくる。
400 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:52:19.53 ID:jDmvoJTA0

エマ「歩夢ちゃん!! 危ないから、下がって!!」

歩夢「……っ」


立たなきゃ。立って戦わなきゃ、そう思うのに……膝が震えていた。

……怖い。


エマ「大丈夫だよ!! 歩夢ちゃん!!」

歩夢「エマさん……」

エマ「この牧場にいる子たちは、みんなわたしの家族だから……!! 絶対にわたしが守るから……!!」


──バチン!! 大きな音を立てて、飛び込んで来たラクライの“スパーク”が爆ぜる。


エマ「きゃぁっ!?」
 「ガ、ガルッ…!!」

歩夢「エマさんっ!?」

エマ「ガルーラ、大丈夫!?」
 「ガ、ガルッ」


ガルーラはどうにか持ちこたえて、飛び込んできたラクライを掴んで投げ飛ばす。

でも、確実に大きなダメージが入ってしまった。

それを皮切りに、一気にラクライたちがなだれ込んでくる。


エマ「っく……頑張って!! ガルーラ!! ゴーゴート!!」
 「ガルゥッ!!!」「ゴーーットッ!!!」


このままじゃ……持ちこたえられない。

そんなことは、私の目から見ても明らかだった。

だけど、


エマ「絶対に……みんなを守らなきゃ……!!」


エマさんは、一歩も引かなかった。

どうして? どうして、そこまで出来るの?

いや……そんなの、


歩夢「……守りたいからだ……」


守らなくちゃいけないモノが自分の後ろにあるから、エマさんは諦めないんだ。諦めずに戦っているんだ。

じゃあ、私は……? 何のためにここまで来たの?

私はこのまま……守られているだけでいいの?


歩夢「いいわけ……ないよ」


震える脚に力を込めて、立ち上がる。


歩夢「私だって……ポケモントレーナーだもん……」


顔を上げると、稲妻が迸り、雷光と雷鳴が視覚へ聴覚へ、その凄まじさを主張してくる。

怖い。

数日前に見た、あのときと全く同じ恐怖が込み上げてくる。

だけど、
401 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:54:02.35 ID:jDmvoJTA0

歩夢「もう……あんな想い、したくない……」


自分が無力なせいで、目の前で大切な人たちが傷つく姿を……ただ、見ているだけなんて、そんなの──もう嫌だ。


 「シャーボッ!!」「ラビフットッ!!!」「マホミ〜〜!!!」


私は──1人じゃない。仲間たちがいるんだ。


歩夢「みんな!! 力を貸して!!」
 「シャボッ!!!」「ラフットッ!!!」「マホミ〜〜ル!!!」





    🎹    🎹    🎹





侑「──歩夢っ……!! 歩夢っ!!」


全力で駆けてきて辿り着いた牧場は、大変なことになっていた。

激しい雷雨にさらされ、絶え間なく落雷が続いている。

その雷を目印に、とにかく走る。


侑「歩夢……!! 歩夢……!!」


きっと、今歩夢は怖くて震えてる。

私が助けてあげなきゃダメなんだ。

今行くから……! 歩夢……!

走って走って走って……やっとたどり着いた、雷たちの根本にラクライの群れと──世界で一番見慣れた、幼馴染の姿が見えてきた。

ただ、


侑「え……」


歩夢は……怖くて震えてなんか、いなかった。

歩夢は──戦っていた。





    🎀    🎀    🎀





 「ガ…ル…」「ゴー…ット…」


攻撃を受け続けたエマさんのガルーラとゴーゴートが、ゆっくりと崩れ落ちるのが見えた。


エマ「ガルーラ……! ゴーゴート……!」


そして、今度はエマさんに向かって、


 「ラァーーークッ!!!!」「クライッ!!!!」


ラクライが飛び掛かる。
402 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:55:39.03 ID:jDmvoJTA0

エマ「……っ!!」

歩夢「ラビフット!! “にどげり”!!」
 「ラフットッ!!!!」

 「ギャンッ!!?」「キャゥンッ!!?」


間一髪のところで、ラビフットがラクライを蹴り飛ばす。


エマ「歩夢ちゃん……!?」

歩夢「もう……逃げません……!」


私はしっかりと前を、目の前のラクライたちを見据える。


 「グルルルルル…」「ラィィィィ!!!!」


ラクライたちは、バチバチと火花を爆ぜさせながら、低い唸り声をあげて、こちらを睨みつけてくる。

怖い。すごくすごく怖い。だけど、


歩夢「私の大切な人たちが、傷つく方が……もっと怖い……」

エマ「歩夢ちゃん……」

歩夢「大切な人たちの笑顔が守れるなら……!! ……怖くても、戦えます……!!」


 「ラィィ!!!」


ラクライがまた1匹飛び込んでくる。

その前に身をくねらせながら、躍り出るように、サスケが飛び出していく。


歩夢「サスケ!! “ポイズンテール”!!」
 「シャーーーーボッ!!!!」

 「ギャゥンッ!!?」


飛び込んでくる勢いを逆に利用して、ラクライの鼻っ柱に、サスケの尻尾が叩きつけられる。

迎撃しながら、周囲を見渡す。

辺りは激しい雷雨の影響か、フィールド自体が電気を帯びているような気がした。

直感だったけど、なんとなく、この自然と形勢された電撃のフィールドが、ラクライたちを活気付けているものな気がした。


歩夢「なら、まずはフィールドを書き換えなきゃ……!! マホミル!」
 「ホミ〜ル!!」

歩夢「“ミストフィールド”!!」
 「マホミ〜〜」


マホミルを中心に、霧が立ち込め、電撃を帯びたフィールドを上書きしていく。

しかも、“ミストフィールド”はポケモンたちの状態異常を予防する効果がある。

これによって、“まひ”で痺れることはなくなった。

さらに、


歩夢「“アロマミスト”!!」
 「マホーー!!!」


マホミルが周囲に不思議なアロマの香りを振り撒く。


歩夢「サスケ!! 前に出ながら“たくわえる”!!」
 「シャーーーボッ!!!」
403 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:57:04.30 ID:jDmvoJTA0

サスケがエネルギーを蓄えながらラクライたちの前に飛び出す。

それと同時に、


 「ラァァーークッ!!!!」


ラクライから“でんげきは”が飛んでくるが、


 「シャァーーーボッ!!!!」

 「ラクラッ!!?」


“アロマミスト”と“たくわえる”によって、一気に耐久を上昇させたサスケには、ほとんどダメージが通らない。

そして、ほとんどノーリアクションのサスケに驚いた、ラクライに向かって、


歩夢「“はきだす”!!」
 「シャーーーボッ!!」

 「ギャゥンッ!!!?」


サスケが蓄えたエネルギーをそのまま吐きだして、直撃させる。

激しく思考しながら、飛び掛かってくるラクライたちを、とにかく撃退し続ける。


歩夢「ラビフット、“ずつき”! マホミル、“ドレインキッス”! サスケ、“ヘドロばくだん”!」
 「ラフットッ!!!」「マホミィ〜」「シャーーーーッ!!!!」


ただ、数が多すぎるのには変わらない。全部倒しきるのは不可能かもしれない。

迎撃をしながら、どうすればいいかを考える。

侑ちゃんたちは、一体どうやって、あの群れを撃退したか。

きっと──ボスであるライボルトを捕まえたことによって、バトルを収束させたはず。

なら、


歩夢「新しいボスがいるはず……!!」


一朝一夕でラクライがライボルトに進化してボスになったということは考えづらい。

恐らく、群れの中から1匹、一番強いラクライが群れのボスに選ばれているはずだ。


歩夢「ボスは……どの子……!?」


雷轟と稲光の中、飛び掛かってくるラクライたちを必死に観察する。

新しくボスになるとしたらどの子……!?

体毛が長い子!? 短い子!? 色が鮮やかな子!?

それとも、群れのボスなら一番後ろで構えている子だろうか。

いや、


歩夢「違う……!!」


こんなに好戦的な子たちの中で、一番後ろで戦闘を回避している子が群れのボスなわけない……!!

この激しく動き回るラクライたちの中で、もっともわかりやすい強さのシンボルを持った子がいるとしたら──


歩夢「一番素早く動き回ってる、好戦的なラクライ!!」


でも、動きの速さなんて、この激しい戦闘中に見ても簡単に区別は付かない。だから、今見るべきは──ラクライの脚だ。
404 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:58:17.83 ID:jDmvoJTA0

歩夢「マホミル!! “あまいかおり”!!」
 「マホミーーー!!!!」


マホミルがフィールド全体に“あまいかおり”を発して、ラクライたちの動きを鈍らせる。

そして、私はその隙にラクライたちの脚に視線を向ける。

ラクライの瞬発力は、彼らが発する電撃で筋肉を刺激して、生み出されている。

実際に、ラクライたちがダッシュするその直前には彼らの脚の周りが僅かにスパークしていた。

だから、一番速いラクライはきっと── 一番大きな電撃で筋肉を刺激しているはず。

動きを鈍らせた上で、一際大きな火花を爆ぜさせているラクライがいないか、必死に探す。

すると──動きの鈍ったラクライたちの中に、一際大きな“スパーク”を爆ぜさせている個体を発見した。


歩夢「あの子がボス……!! ラビフット!!」
 「ラーービッ!!!!」


ラビフットが、群れのボスに向かって、跳躍する。

チャンスは一度。膝に全ての威力を集約した、大技──


歩夢「“とびひざげり”!!」
 「ラーーービフットッ!!!!」

 「ギャウンッ!!!!!」


空中からの強烈な一撃がラクライに直撃する。


 「キ、キャゥンッ…」

 「ラ、ラク」「ラィィ…」「クライ…」


ボスが倒れたことに気付いたラクライたちは、一目散に撤退を始めた。


歩夢「はぁ……はぁ……」


私は思わずへたり込む。


エマ「あ、歩夢ちゃん……!!」


そんな私にエマさんが駆け寄ってくる。


歩夢「えへへ……私、今度はみんなのこと……守れました……」

エマ「うん……うん! 歩夢ちゃん、かっこよかったよ……!」


エマさんがぎゅーっと抱きしめてくる。


エマ「やっぱり、歩夢ちゃんはすっごいポケモントレーナーだよ……!」

歩夢「えへへ……嬉しいです」
 「ラビ!」「シャボ」「マホマホ♪」

歩夢「みんなも……ありがとう。みんなのお陰で私、ちゃんと戦えたよ」
 「ラビフ!!」「シャボシャボ」「マホ〜〜」


傍に寄ってきたラビフット、サスケ、マホミルを順に撫でながら労ってあげる。

そのとき、ふと──少し離れたところに人影があることに気付く。

その人影は、私と目が合うと……すぐに踵を返して走り出してしまった。

──特徴的な、ツインテールを揺らしながら。
405 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 17:59:47.21 ID:jDmvoJTA0

歩夢「今の……侑ちゃん……?」





    🎹    🎹    🎹





──バシャバシャとぬかるむ地面を踏みしめながら、私は走る。

牧場から、砂浜に向かって。来た道を全力疾走する。

その途中、


リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||

彼方「あ、侑ちゃん……!?」


リナちゃんや彼方さんたちとすれ違ったけど、その横をそのまま通り過ぎて──私は砂浜に走る。


侑「私……何やってるんだ……」


何が、歩夢は戦えないだ。

何が、私が守ってあげなきゃだ。

少なくとも私には、ラクライの群れのボスがどの子かなんてわからなかった。

ラクライたちを捌きながら、ラクライのボスを的確に見抜いた歩夢が戦えない? そんなわけない。

──『私の大切な人たちが、傷つく方が……もっと怖い……。大切な人たちの笑顔が守れるなら……!! ……怖くても、戦えます……!!』──

歩夢は、野生のポケモンが怖かったんじゃない。


侑「私が傷つく姿を見るのが怖かったんだ……私を守れない……自分が許せなかったんだ……」


だから、バトルから遠ざけたり、自分を責めるようなことを言っていたんだ。

何度も気付くチャンスなんてあったのに。

どうして、気付いてあげられなかったんだ。

私は幼馴染で、歩夢のことを一番わかっているつもりだった。

でも、私は……歩夢のこと、全然わかっていなかった。

ずっと歩夢は──


侑「私の力になりたいって、そう思って頑張ってくれてたのに……っ……」


歩夢が弱いから、戦いに慣れていなかったから、ジム戦に負けたんじゃない。

歩夢は立派に戦っていた、なのに私は──歩夢が戦わなくて済むようにすることばかり考えていて、


侑「私が……歩夢を信じてあげられなかっただけじゃん……っ……!!」


本当に足を引っ張っていたのは、自分だった。

守るどころか、守られていた。

そんなことに今更気付いて。


侑「はぁ……はぁ……!!」
406 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 18:01:14.14 ID:jDmvoJTA0

砂浜まで、全速力で戻ってきて。

海に目を向けると──パールルは今も海の中にいた。

今のままじゃ、歩夢に顔向けなんて出来ない。

だから、せめて──


侑「この課題を……今この場で、クリアする……!」


彼方さんからの課題をクリアして、歩夢にちゃんと謝ろう。

──パールルに視線を向ける。

今も尚、硬い殻に身を隠し、じっとしている。

さぁ、どうする。ちゃんと、考えろ。

私は、自分が今まで観てきたバトルの知識を、総動員して考える。

千歌さんだったらどうする? きっと、必殺の一撃で、殻を割り砕く。

せつ菜ちゃんだったらどうする? 上手に攪乱しながら、自分の全力をぶつけられる状況を作り上げる。

パワーが自慢のあのトレーナーだったら? スピードが自慢のあのトレーナーだったら? テクニックが自慢のあのトレーナーだったら?

歩夢だったら……? どうする……?

……そこまで考えて、やっとわかった。


侑「みんな……違うやり方で、自分のやり方で、戦ってるんだ……」


じゃあ、私は誰の真似をすればいい?

……違う、そうじゃない。


侑「私の──私たちのやり方を見つけないといけないんだ」
 「ブイ」「ワシャ」「ライボ」


私には、千歌さんみたいな必殺技はないし、せつ菜ちゃんみたいな戦術もない。

パワーも足りない、スピードも足りない、テクニックだってまだまだだ。

なら、どうすればいい?


侑「そんなのわかりきってるじゃん……」


答えは簡単だった。そもそもポケモントレーナーが、やらなくてはいけないこと。


侑「自分たちに今出来る中で、ポケモンたちが一番の力を出せる方法を考えることだ……」


こんなこと、学校の授業でも教わる基本的なことなのに。


侑「……すぅー…………ふぅー……」


一旦、深呼吸。

当たり前のことがわかっていなかった自分を悔やむのは後でいい。

わかったなら、今は考えるんだ。


侑「まず、あのパールルの防御力……」


正攻法での突破は不可能と考えた方がいい。

物理攻撃でも特殊攻撃でも、あの殻に攻撃したところで、ほとんどダメージはない。

ならどうする?
407 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 18:04:03.51 ID:jDmvoJTA0

侑「…………陸に出すのも、海に逃げられちゃって、上手く行かなかったし……」


結局、陸に上げたところで、逃げかえられるのがオチだ。


侑「……ん?」


そこでふと思った。


侑「なんで、海に戻ろうとするんだろう……?」


確かに“みずでっぽう”で邪魔してきたりしたけど……。そもそも、陸に上げたところで、あの殻を破れるのかな?

確かに地上の方がフルパワーで物理攻撃を通せるとは思うけど……今の私たちに本当にそれが出来るんだろうか。

もちろん、試せていないからわからないと言えばわからないけど……そこまで劇的に変わるんだろうか。地上に出したところで、貝殻そのものが柔らかくなるわけでもないし。


侑「もしかして、他の理由がある……?」


パールルが海の中にずっといる理由……貝ポケモンが海の中にいる理由……?

それは思った以上に簡単な答えだったことに気付く。


侑「……呼吸だ」


みずタイプのポケモンの中には、コイキングやトサキント、ケイコウオのような完全に魚タイプのポケモンが数多く存在する。

彼らは泳ぎこそ得意なものの、足がないため、陸に上げると、かなり動きを制限される上に、長時間陸地にさらされると弱ってしまう。

その理由は簡単で、水の中にいる方が生きるのに適しているからだ。

ある程度は陸上でも活動は出来るが、基本的には水中にいることを前提としている。

それはすなわち──生き物にとって重要な呼吸をするときも水中の方が適しているということ。


侑「パールルって確か……深海に棲んでるんだっけ」


正直パールルの知識があまりないから、自信はないけど……少なくとも進化系のサクラビスやハンテールは海底を主な生息域にするポケモンたちだった気がする。

即ち、野生のパールルは一生を海底で過ごすと言っても過言ではない。

なら、


侑「……水がないと困るんだ」


そして、もう一つ。陸に上げても貝の隙間から“みずでっぽう”を撃ってきた、ということは──


侑「貝を閉じてても……水を吸ったり吐いたりしてるはず」


少なくとも水を溜め込むために、大なり小なり水を吸い込んでいると考えてもいいだろう。

呼吸するためにはある程度循環もさせているだろうし……。

仮にこの考えが正しいなら……一つ思いついたことがある。


侑「イーブイ、ちょっと私に考えがあるんだけど」
 「…ブイ!!」



408 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 18:05:23.71 ID:jDmvoJTA0

    🎹    🎹    🎹





私はイーブイを抱えたまま、パールルの目の前に移動する。

今も浅瀬の水に体を完全に沈めた状態で、殻を閉じている。


侑「イーブイ、その貝殻の合わせのあたり」
 「ブイ」


イーブイの準備は出来た。


侑「ワシボンも、ライボルトも、準備はいい?」
 「ワッシャァッ!!」「ライボ」


ワシボンとライボルトも頷く。


侑「それじゃ、イーブイ、行くよ!」
 「ブブイ!!」


イーブイが尻尾の先をすっと、貝殻の合わせの部分にくっつける。

そして、それと同時にぷくぷくと泡が出始める。


侑「“いきいきバブル”!」
 「ブーイ!!」


ブクブクブクブクと一気に泡が立ち始め、それがパールルの貝の合わせ辺りに一気に充満していく。

この技はみずタイプ──つまり、基本的には水だ。

貝殻を閉じているパールルは周囲の状況を確認して水を吸い込んでいるわけじゃないだろうし、一緒に吸い込まれるはず。

ただ泡ということは──空気でもある。

空気がもし貝殻の中に満たされていったら……?


侑「……水が欲しくて、泡を吐きだす……!」


案の定──パールルは僅かに貝殻を開いて、入ってしまった泡を吐きだし始めた。


侑「ワシボン!! 今!!」
 「ワッシャァッ!!!」


その一瞬を見逃さず、ワシボンが薄っすら空いた隙間に爪を差し込み、そのまま上昇する。


侑「“フリーフォール”!!!」
 「ワシャーーーッ!!!!」

 「パ、パルルッ!!?」


急に上向きに引っ張られたと思ったら、そのまま空中に浮き上がらされたパールルはびっくりして、上向きの上昇の力と重力による下向きの力によって、貝殻を一瞬開いてしまう。

そして、空中で中身を晒したパールルに向かって、


侑「ライボルト!! “チャージビーム”!!」
 「ライボッ!!!!!」


電撃のビームで狙撃する。


 「パルルルルルルッ!!!!?」
409 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 18:07:28.80 ID:jDmvoJTA0

攻撃が直撃したパールルは、目を回して気絶してしまった。

そして、その際に──キラキラと輝くものが2つ降ってきた。

私はそれをキャッチする。


侑「バッジ、返してもらうね」


パールルに食べられていた、“アンカーバッジ”と“スマイルバッジ”を握りしめる。


侑「ワシボン、もう降ろしていいよ」
 「ワシャ」


気絶したパールルを砂浜に降ろしてあげると、


彼方「──よく出来ました。侑ちゃん、合格だよ〜」


彼方さんが私の後ろで拍手をしていた。


彼方「さて、侑ちゃん。ここまでやってみて、この課題は何が目的だったかって理解出来たかな?」

侑「……自分たちより強くて硬い相手に対して、よく観察して、どうすれば自分たちの力を一番発揮できるかをちゃんと考えること……ですか?」

彼方「うん! 満点! よく出来ました〜」


彼方さんがポンポンと頭を撫でててくれる。


彼方「それじゃ、それと一緒に……侑ちゃんが反省するべきこともわかったんじゃないかな?」

侑「はい……。ごめんなさい……」

彼方「待って待って。謝る相手は彼方ちゃんじゃないでしょ?」


そう言いながら、彼方さんが振り返る。その先には、


歩夢「侑ちゃん……」

侑「……歩夢」


──歩夢が立っていた。


歩夢「あのね……牧場で、走ってく侑ちゃんを見かけて……その途中で彼方さんに会って、話を聞いたの」

侑「……そうなんだ」


正直、ばつが悪くて仕方がなかったけど、


彼方「侑ちゃん」


彼方さんに背中を押されて、歩夢の前に出る。


侑「……歩夢」

歩夢「……なぁに?」


歩夢の前に立って、


侑「……ごめん」


私は歩夢に向かって頭を下げた。
410 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 18:09:05.26 ID:jDmvoJTA0

侑「私、歩夢は戦いたくないんだって……勝手に思い込んでた。そうじゃなくて……私に傷ついて欲しくなかったんだよね」

歩夢「侑ちゃん……。うぅん……旅をしてたら、そういうことがあることくらいわかってたのに……私が我慢できなくて……」

侑「それだけじゃないんだ……私、歩夢の気持ち……全然わかってなかった」

歩夢「私の……気持ち……?」

侑「……歩夢。私、歩夢のことを守りたい。歩夢が傷つかないように、強くなって、歩夢を守りたい」

歩夢「……うん、そう言ってくれて、想ってくれて……嬉しいよ」

侑「でもそれってさ……歩夢も同じだったんだって」

歩夢「…………」

侑「歩夢も、私に傷ついて欲しくないって思ってくれてるし、守りたいって思ってくれてるんだって……」

歩夢「……そうだよ……そんなの当たり前だよ……。だって、大切な幼馴染なんだよ……っ……」

侑「ごめん、歩夢……私、歩夢のその気持ちを……ちゃんとわかってなかった……」

歩夢「…………ぐす……っ……私も……ごめんなさい……っ……ちゃんと、伝えられなくて……っ……」


歩夢が目元を拭いながら言う。


歩夢「私……強くなりたい……っ……侑ちゃんの傍で……侑ちゃんを守ってあげられるくらい……っ……でも、全然うまくいかなくって……っ……」

侑「そんなことないよ……私、ずっと歩夢に助けられてたんだよ?」

歩夢「え……?」

侑「私一人じゃ、毛づくろいもちゃんと出来ない……ほら、見て」
 「ブイ?」


イーブイを抱き上げて、歩夢に見せる。


侑「今のイーブイの毛並み……ぼさぼさ。歩夢がしてくれると、ちょっとのバトルじゃ乱れないくらい完璧な毛並みになるのに」
 「ブイィ…」

歩夢「……ふふ。ちゃんと毛づくろいしろって、睨まれちゃってるね」

侑「それに、イーブイたちの好きな味もあやふやで……。私はずっと歩夢に支えて貰ってた」

歩夢「……うん。でもね、私は……それ以外でも侑ちゃんのことを支えたくて……」

侑「もちろん、バトルでも」

歩夢「え」


歩夢は心底、驚いたように声をあげながら目を見開く。


侑「昨日のジムバトル……もし私一人だったら、花陽さんには勝てなかったと思う」

歩夢「そ、そんなことないよ!」

侑「うぅん……今ならわかるんだ。あのときの私じゃ、絶対に勝てなかった」


きっと、耐久ポケモン相手と愚直に戦って、負けてしまっていたと思う。


侑「だけど、歩夢は花陽さんのポケモンに勝ってた……! 確かに試合には負けちゃったけど……歩夢がいたから、あそこまで善戦出来たんだ。だから、ありがとう……歩夢」

歩夢「侑ちゃん……っ……。……うぅん、最後、一人で先走っちゃって……ごめんね……」

侑「私ももっと早くアドバイス出来なくて、ごめん……。……歩夢」

歩夢「なぁに……っ……?」

侑「私と一緒に、強くなろう……! それで、次は勝とう……!」

歩夢「……! ……うんっ……!」


自然と二人で手を握り合う。
411 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 18:10:23.43 ID:jDmvoJTA0

侑「私は歩夢を守れるようにもっともっと強くなる」

歩夢「私も……怖がらないで、侑ちゃんを守れるように、強くなるね……っ……」

侑「うん、頼りにしてるよ、歩夢」

歩夢「うんっ」


歩夢は頷きながら、やっと満面の笑顔を見せてくれる。

そんな私たちのもとに、リナちゃんが飛んでくる。


リナ『やっと二人が仲直りしてくれた。リナちゃんボード「ホッ」』 || > _ <𝅝||

歩夢「リナちゃん……ごめんね」

侑「ごめんね……心配掛けて」

リナ『うぅん、無事に仲直り出来たから問題ない』 || > ◡ < ||


やっとこれで元通りということだ。


彼方「一件落着みたいだね〜」

エマ「歩夢ちゃん、よかったね」

歩夢「は、はい……ご心配をおかけしました……」

侑「あ、あれ? エマさんもいたんですか?」

エマ「うん、歩夢ちゃんが急に走り出すから何かと思って追いかけて来たんだよ」

歩夢「ご、ごめんなさい……侑ちゃんの後を追いかけるのに必死だったから」

エマ「ふふ、大丈夫♪ 侑ちゃんと仲直り出来たなら、私も嬉しいよ♪」

歩夢「はい……ありがとうございます」

遥「とりあえず、今日はお二人とも疲れたと思いますから……一旦ロッジに帰りませんか?」

侑「あはは……確かにもうくたくただし……そうしようかなぁ」

歩夢「わ、私も……実はさっきからずっと、膝が笑ってて……」

彼方「それじゃ、二人の仲直り記念に、彼方ちゃんがご馳走を作ってあげよう〜♪ エマちゃんも一緒にどう〜?」

エマ「え、いいの!? 彼方ちゃんの作るご飯は本当においしいから、行きたい! あ、それなら一旦牧場に戻って新鮮な“モーモーミルク”を持ってくるよ♪」

彼方「お〜助かる〜♪ 今日は“モーモーミルク”パーティーだね〜♪ それじゃ、ロッジに帰るよ〜♪」

侑・歩夢「「はーい!」」


気付けば、雨もすっかり上がって綺麗な夕日が雲の隙間から差し込んでいた。


侑「歩夢」

歩夢「? なぁに?」

侑「これからも、よろしくね」

歩夢「ふふ♪ こちらこそ、これからもよろしくね♪」


その差し込んでくる綺麗な夕日はまるで──今の私の嬉しい気持ちを表しているかのようだった。




エマ「──そういえば……どうして、牧場に、あんなにラクライたちが押し寄せてきてたんだろう……? ……今まであんなこと一度もなかったのになぁ……」


412 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/16(水) 18:11:02.06 ID:jDmvoJTA0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___●○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.29 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.26 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.28 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:61匹 捕まえた数:3匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.24 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.22 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホミル♀ Lv.19 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:90匹 捕まえた数:12匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



413 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 02:22:42.27 ID:pCSsxJZL0

 ■Intermission👠



──ここはコメコシティの地下に作られたDiverDivaの前線基地。


果林「……そろそろかしらね」


私がモニターを見つめながら振り返ると、ちょうどいいタイミングで、


愛「──戻ったよー」

 「ベベノ〜!」
愛「おっとと……ただいま。善い子にしてたか〜? ウリウリ〜♪」
 「ベノベノ♪」


愛が戻ってくるなり、飛び付いてきた手持ちのポケモンとじゃれ始める。


果林「愛、お疲れ様」

愛「あんがと、カリン。……って言っても別に大したことしたわけじゃないから特に疲れてもいないんだよねぇ。エレズン連れて、ドッグランから北上して、コメコ牧場の方まで逃げてただけだし」


エレズンの特性は“せいでんき”。野生のラクライたちは、それに引かれて、エレズン目掛けて追いかけてくるが……牧場にはエレズンと同じ“せいでんき”の特性を持つ大量のメリープがいる。

牧場まで近づけばラクライたちは自動的に、数の多いメリープたちに引き寄せられ、牧場に襲い掛かるという寸法だ。

確かに愛の実力を考えると、ただの囮役というのはやや役不足感が否めないかもしれない。


果林「でもお陰で、満足の行く成果が得られたわ。愛の言っていたとおり、良いものが見られた」

愛「そりゃ何よりで。……にしてもカリンって、いっつも強引な計画ばっかり考えるよね」

果林「そうかしら?」

愛「今回だって、歩夢がラクライたち撃退しきれなかったらどうするつもりだったん? エマっちも無事じゃ済まなかったかもよ?」

果林「そのときは私がエマを助けに行っただけよ」

愛「うわ……マッチポンプだ。失敗しても、エマっちの好感度が稼げると……」

果林「好感度が稼げるって……別にそんなんじゃないわよ」

愛「普段あれだけイチャイチャしてるのに、よくそんなこと言えるね」

果林「イチャ……/// ……し、してないわよ! エマが勝手に世話を焼きに来てるだけ」

愛「まー私は別にいいんだけどさー。この間、姫乃が怒ってたよ?」

果林「え? 姫乃が……?」

愛「『最近、あの現地人と距離が近すぎる〜』って」

果林「…………」


姫乃の目から見ると、そう見えるのかしら……。


果林「と、とにかく……エマとはそんなんじゃないから」

愛「へいへい、そんじゃそういうことでいいよー」


愛は適当に返事をすると、席に座って端末を弄り始める。


果林「本当に違うのに……まあ、いいけど」


全く、私が現地の人間にそんなに肩入れするはずないのに。

だって、私たちには──譲ることのできない目的があるのだから。

目的達成の邪魔になるのだったら……もし、その相手が例えエマであっても私は……。
414 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 02:23:22.28 ID:pCSsxJZL0

果林「…………」


思わず、ぎゅっと胸の前で拳を握る。


果林「……何を犠牲にしてでも……やり遂げるわ……」


一人、そう呟くのだった。


………………
…………
……
👠

415 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/11/17(木) 02:41:14.62 ID:9tzTYWVS0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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416 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 15:33:16.98 ID:pCSsxJZL0

■Chapter020 『ロトム 前編』 【SIDE Shizuku】





かすみ「風が気持ちいい〜♪」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「かすみさん、あんまり身を乗り出して、落ちないでよ?」

かすみ「平気平気〜♪」
 「ガゥ♪」


甲板で風を受けながらご機嫌な様子のかすみさん。

今、私たちはアワシマに向かう連絡船に乗っている真っ最中だ。


かすみ「それにしても、しず子……あの島に何か用事でもあるの?」

しずく「うん……まあ」

 「ロト…」

しずく「逃げないでください」


 そろりそろりと逃げ出そうとするロトムを掴んで引き戻す。


 「しずくちゃん、ホントに行きたくないロト」

しずく「はぁ……いい加減、観念してください」


往生際の悪いロトムの様子に、思わず天を仰いでしまう。

仰いだ空には、とっくに南中高度を通り過ぎた太陽が見える。


しずく「本当は朝から向かうつもりだったんだけどなぁ……」


気付けば、もうすっかりお昼過ぎだ。


しずく「どこかの誰かが寝坊するから……」

かすみ「し、仕方ないじゃん! 疲れてたんだもん……」


まあ、確かに昨日は朝から船でフソウを出て、お昼にホシゾラシティでスボミーの騒動。その後、ウチウラシティでジム戦を行うという、かなり忙しない一日だったし、疲労があったのも致し方ない。

お昼前にやっと起きだしてきたかすみさんと共に、泊めて貰っていたルビィさんの家を後にし、アワシマ行きの船に乗り込んだ。

そして、この船に乗るまでも、度々逃げようとするロトムを捕まえていたせいで、すっかり遅くなってしまった。

……とにもかくにも、これでようやくロトムのことについては片が付きそうだ。


 「……ロト」



417 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 15:35:06.59 ID:pCSsxJZL0

    💧    💧    💧





アワシマは大きな島ではないため、目的地は自然と限られてくる。

もちろん、私たちの行き先はアワシマにあるオハラ研究所だ。


かすみ「わー……立派な研究所……。ここに用事があるの?」
 「ガゥ?」

しずく「うん。行きますよ、ロトム」

 「…ロト」


ロトムをひっつかんだまま、研究所のドアを押し開ける。


しずく「し、失礼します……」


所内に入ると、ヨハネ博士の研究所でも見たような機材たちが所狭しと並んでいる。まさかに研究室らしい様相の室内だ。

さらにそこでは、


 「ブイブイ〜」「ハニー」「ピカ?」


ポケモンたちが元気に走り回っていた。


かすみ「わ、可愛い〜♪ 研究所の人は誰もいないんですかね?」

しずく「うーん……奥の部屋にいるのかな……?」


ダイヤさんの言っていたとおり、ここにこのロトムのことを知っている人がいるなら、それは十中八九この研究所の主である──オハラ博士だろう。

研究所のエントランスまでは一般開放だろうけど、さすがに奥は勝手に立ち入るわけにもいかない。

誰か取り次いでくれる人でもいればと思い、室内を見回していると、


 「ポリ」


1匹のポケモンがこちらをジッと見つめていた。


かすみ「なんかこっち見てるよ?」

しずく「あのポケモンは……ポリゴンですね」

 「…あのポリゴンが通信で来客を中に教えるロト。すぐに案内の人間が来るロト」

しずく「……! やはり、貴方……ここを知っているんですね」

 「…ロト」


程なくして、ロトムの言うとおり、部屋の奥の扉が開いて、


使用人「──お待たせいたしました」

かすみ「わっ! メイドさん!? かすみん、本物は初めて見ました!」


いかにも、メイドさんのような姿をした人が顔を出す。

メイドさんは入室と共に、恭しく頭を下げたあと、こちらに顔を向けて、


使用人「あら……?」


私たちの方を見て、目を丸くした。
418 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 15:40:14.15 ID:pCSsxJZL0

 「…ロト」


それと同時にロトムが私の後ろに隠れる。

恐らく……ロトムに反応したのだろう。


しずく「あの……オハラ博士にお話がありまして……」

使用人「……そちらのポケモンについてですね。かしこまりました。こちらへ」


皆まで説明するまでもなく、奥に通してもらえる。

……やはり、このロトムは……。


しずく「行きましょうか」

 「…ロト」


ここまで来ると観念したのか、ロトムは逃げることなく、大人しく後ろを付いてくる。

メイドさんに案内され、奥の部屋の扉の前に辿り着くと、


使用人「こちらが、博士の研究室です」


メイドさんはそう説明しながら、扉をノックする。


女性の声『──入っていいわよ』


扉の奥から声が返ってきたのを確認すると、メイドさんは、


使用人「失礼します」


と言いながら、戸を開ける。すると中では金髪の女性が机に向かって何かの作業をしている真っ最中だった。


使用人「博士、お客様です」

女性「お客……? 特に約束はなかった気がするけど……」


そう言いながら振り返ったこの研究所の主──オハラ・鞠莉博士は私たちを見て、首を傾げた。


鞠莉「あら……あなたたちは確か……善子のところから旅立った子……よね?」

かすみ「かすみんたちのこと知ってるんですか!?」

鞠莉「ええ、簡単に教えてもらった程度だけど……。……あ、わたしは鞠莉。このオハラ研究所の所長よ」

しずく「私はしずくと言います。実は、オハラ博士に……」

鞠莉「ふふ、オハラ博士なんて堅苦しい呼び方しなくて大丈夫よ。マリーって呼んで?」

しずく「えっと……それじゃ──鞠莉博士にお聞きしたいことがあって……」

鞠莉「なにかしら?」

しずく「……出てきてください」


私が背後に声を掛けると、


 「…ロト」


ロトムが言われたとおり、前に出てくる。
419 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 15:43:41.31 ID:pCSsxJZL0

鞠莉「……!? ロトム!? あなたどこに行ってたのよ!?」

 「…ロト」

しずく「やはり……鞠莉博士のポケモンでしたか……」

かすみ「え? なになに? どーいうこと? ロトムってしず子のポケモンじゃなかったの?」


そういえば、かすみさんに説明するのをすっかり忘れていた。


鞠莉「……はぁ、ごめんなさい。しずく……だったわね? どこでこの子を?」

しずく「フソウ島の自動販売機で見つけました。ポケモンセンターで聞いたら、既に持ち主がいるとのことだったので……」

鞠莉「そうだったのね……。……ごめんなさい。わたしの手持ちが迷惑を掛けたみたいね」

しずく「いえ……持ち主のもとへ送り届けることが出来て何よりです」

鞠莉「ロトムのせいで何か困ったこととかなかった?」

しずく「あ、えっと……実は最初、ロトムと戦闘になって……そのときにポケギアが……」

鞠莉「なるほど……そういうことなら、ポケギアは弁償させてもらうわ。すぐ手配するから」

しずく「え!? そ、そこまでしていただかなくても……!」

鞠莉「いいえ、こんなんでもわたしのポケモンだから。責任は取らせて」


そんな鞠莉博士の言葉を受けてか、


 「ボ、ボクはしずくちゃんの手持ちロト」


ロトムがそんなことを言い出した。


しずく「は、はい……?」

 「ボクはもうしずくちゃんの手持ちロト!! マリーの手持ちには戻らないロト!!」

しずく「いや、えっと……」

鞠莉「ロトム。バカなこと言ってないで……」

 「しずくちゃんもボクが手持ちから抜けたら、すごく戦力が落ちるロト!!」

しずく「えぇっと……」


まあ、確かにレベルだけ見るなら、ロトムは群を抜いて高いけど……戦闘にはほぼ使っていなかったし……。


鞠莉「たぶん、その心配はないと思うわよ」

 「ロト…?」

鞠莉「しずくの手持ちから、強いエネルギー反応があるから」

しずく「え?」

鞠莉「さっきから、ここの機器が反応しているわ」


確かに鞠莉博士の目の前の機械が何やらランプを点滅させている。さらに──腰につけたボールが2つ。僅かにブルブルと震えていることに気付く。

メッソンとココガラのボールだ。

2匹をボールから出してみると、


 「メ、メソ…」「ピィィィ…」


2匹はブルブルと身を震わせながら、目を瞑っていた。


しずく「メッソン、ココガラ……どうしたの……?」
420 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 15:47:11.41 ID:pCSsxJZL0

目線を合わせようと、腰をかがめた瞬間──2匹はカッと眩い光を放ち始めた。


しずく「!?」

かすみ「こ、これって、キモリのときと同じ……!?」

しずく「進化の……光……!!」


進化の光に包まれたメッソンとココガラは──


 「──ジメ…」「──カァァァ!!!」

しずく「進化した……!」

鞠莉「経験値が溜まっていたのかもしれないわね。メッソンはジメレオンに、ココガラはアオガラスに進化したわ」

しずく「ど、どうしてわかったんですか!?」

鞠莉「この研究所はポケモンの道具や、それに関連した進化の研究をしているからね〜。ちょうどこのマシンが進化のエネルギーを観測検知するためのものなのよ」

しずく「な、なるほど……!」

鞠莉「見たとおり、しずくはトレーナーとしてちゃんと成長している。ロトム、あなたの出る幕はないんじゃないかしら?」

 「ぐ、ぬぬぬ…ロト」

鞠莉「意地張ってないで戻ってきなさい。いつまでもヒトサマに迷惑かけるんじゃありまセーン」

 「絶対にイヤロトーーー!!!!」


ロトムは大きな声をあげると共に、“でんきショック”で周囲に火花を散らせる。


かすみ「ち、ちょっとぉ!? 危ないじゃん!?」
 「ガゥガゥ!!!」

鞠莉「っ!? や、やめなさい、ロトム!?」


ロトムは放電しまくりながら、暴れまわったあと、


 「出て行けって言ったのはそっちロト!!!! 絶対マリーのところになんか戻ってやらないロトーーー!!!!」


そう捲し立て、室内から飛び出して行ってしまった。


鞠莉「ああ、もう……二人とも大丈夫?」

かすみ「は、はいぃ……なんともないですぅ……」
 「ガゥ」

しずく「…………」

鞠莉「しずく?」

しずく「え? あ、はい、なんともありません」

鞠莉「そう? ならいいけど……いや、良くはないか。……全くロトムにも困ったものね」

かすみ「というか、しず子なんであんなにバチバチしてたのに平然としてられるの……?」


かすみさんが電撃に驚いて身を屈めている間──私は立ち尽くしていた。

何故なら──ロトムは誰も狙っていなかったから。


しずく「…………」

鞠莉「ごめんなさい。昔から“なまいき”な子で……。あのボディ、しずくの図鑑よね?」

しずく「あ……はい」


そういえば、まだ自分の図鑑に入ったままだったことを言われて思い出す。
421 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 15:51:42.13 ID:pCSsxJZL0

鞠莉「あとで捕まえて図鑑から追い出すから……それまでは待っててもらえるかしら? ……お詫びと言ってはなんだけど、研究所内を好きに見てもらっていて構わないから」

かすみ「え、いいんですか!?」

しずく「すぐにロトムを追いかけないんですか?」

鞠莉「ちょっと、手が離せないことをやってる最中でね……。これが終わったらすぐに向かうから。本当にごめんなさい」

しずく「あ、いえ……! むしろ、そんな忙しいときにすみませんでした」


私はペコリと頭を下げる。


しずく「それでは……少しの間、研究所内を見学させてもらいますね」

鞠莉「ええ。何かあったら、所内にいる使用人に言ってくれればいいから」

しずく「わかりました。かすみさん、行こ」

かすみ「うん! この研究所、入り口だけでも可愛いポケモンがいっぱいいたから、見て回るの楽しみかも〜♪ 行こ、ゾロア!」
 「ガゥガゥ♪」


私はジメレオンとアオガラスをボールに戻しながら、鞠莉博士の部屋を後にする。


かすみ「さて……どこから見て回る?」


ノリノリなかすみさん。対して、私は、


しずく「……私は、ちょっとロトムを探してみるよ」


そう答える。


かすみ「え? でも、あとで博士が捕まえてくれるんでしょ?」

しずく「まあ、そうなんだけど……」


私はなんだか、ロトムの態度に少し引っかかりを感じていた。

……短い間とはいえ、一緒にいたから、情が湧いたというのもあるのかもしれない。


かすみ「何か気になるの?」

しずく「まあ、うん……ちょっと……だから、かすみさんは一人で見て回ってていいから──」

かすみ「なら、かすみんも一緒に探してあげる!」

しずく「え? いいの?」

かすみ「だって、気になるんでしょ? 二人で手分けして探した方がきっと早いし!」

しずく「かすみさん……ありがとう。それじゃ、お願いしていい?」

かすみ「任せて! 行くよー! ゾロア!」
 「ガゥガゥ!!」


かすみさんはゾロアと一緒に、元気よく駆け出して行った。

私もかすみさんに続くように、ロトムを探しにアワシマ内を歩き始める──



422 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 15:55:24.69 ID:pCSsxJZL0

    💧    💧    💧





……が、結論から言うと、かすみさんの助力はそこまで必要がなかった。

研究所から外に出て、真っ直ぐ行ったところにある浜辺に、


 「……ロト」


ロトムはいた。

ただ、かすみさんの姿は見えないので、恐らく今頃、違う場所を駆け回っているんだと思う。


しずく「ロトム」

 「ロト…しずくちゃん…」

しずく「本当に鞠莉さんのところには戻らないつもりなんですか?」

 「さ、最初からそう言ってるロト…!! 絶対に戻ってなんかやらないロト…!!」

しずく「なら、どうして──アワシマまで付いてきたんですか?」

 「ロ、ロト…!? だ、だって嫌がるボクをここまで連れて来たのはしずくちゃんロトよ!?」

しずく「……貴方が本気で抵抗したら、逃げるのなんて訳なかったんじゃないですか?」

 「……ロト」

しずく「でも、貴方は逃げませんでした」

 「……」


正直、途中から薄々気付いていたことだけど……ロトムは口で言うほど、“おや”のもとに戻ることにあまり抵抗していなかった。

私はいつでもどこでもロトムを捕まえられるような準備が出来ていたわけではないし、ロトムが本気で抵抗してきたら、恐らく私にもかすみさんにも止めることは出来なかっただろう。


しずく「本当は──鞠莉さんのところに戻りたいんじゃないんですか?」

 「……う」

しずく「う?」

 「う、うるさいロトーーー!!! ボクは絶対に戻らないロトーーー!!!!」


ロトムはそう大声をあげながら、海の上をピューンと飛び去って行ってしまった。


しずく「ロトム……」


どうして、あそこまで頑ななんだろうか。

『本当は戻りたい』というのは、そこまで外していない気がするのに……。

うーんと一人で考えていると──


 「ガゥガゥ!!!」
かすみ「こっちから、声が聞こえました!! ……って、しず子じゃん」

しずく「かすみさん……」


声を聞きつけたかすみさんが、こちらに駆けつけてくる。
423 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 16:00:35.23 ID:pCSsxJZL0

かすみ「ロトム、こっちにいなかった!? 今、ロトムの声が聞こえたんだけど!」

しずく「ああ、うん。海の方に飛んでいっちゃった」

かすみ「ええ!? しず子、捕まえるんじゃなかったの?」

しずく「うーん……強引に捕まえたいわけじゃないんだよね……」

かすみ「……? どゆこと?」


結局のところ、無理やり鞠莉さんのもとに戻されても、根本的な問題が解決していない気がする。

たぶん……ロトムは戻りたいと思っている気がする。だけど、それを頑なに拒否している理由がわからないとどうにもならないような……。

再び、考え出した矢先、


かすみ「──ひ、ひぃぃ!? な、なんか出てきた!?」

しずく「……え?」


かすみさんが急に悲鳴をあげ、私の腕にすがるようにしながら、海の方を指さす。釣られて、私も海の方に目を向けると──何かが海の中から這い出て来るではないか。


しずく「あれ……人……?」

かすみ「え……? 人……?」


かすみさんは目をぱちくりとさせながら、改めてその人影に目を向ける。


かすみ「……ホントだ……女の人だ」


冷静に見てみればなんてことはない。そこにいたのは、ウェットスーツを身に纏った女性だった。

紺碧のポニーテールから水をしたたらせながら、陸に上がってくる。


女の人「あれ……? もしかして、お客さん? 珍しいね、こんなところに……?」

しずく「えっと……私たち、鞠莉博士に……なんというか、ポケモンを届けにきたというか……」

女の人「鞠莉に? ……あ、もしかしてロトム?」

しずく「は、はい」

女の人「さっき、ロトムっぽい声が聞こえた気がして上がってきたんだけど……気のせいじゃなかったんだね」


どうやら、この女の人はある程度事情を知っている人らしい。


女の人「それで、これから鞠莉のところに行く感じ?」

しずく「いえ……博士とはさっきお会いしたんですが……」

女の人「? ……ってことは、結局また仲直り出来ずに逃げ出したってこと……? はぁ……相変わらずだなぁ……」

かすみ「相変わらず? じゃあ、あのロトムってよく脱走してたんですか?」

女の人「割と頻繁にね。……今回ほど、長くいなかったのは初めてだったんだけどさ」

しずく「鞠莉博士やロトムのことに詳しいんですね」

女の人「まあね。もうかれこれ10年以上の付き合いだから……鞠莉とも、ロトムともね」


博士やロトムと旧知の仲。この人だったら……もっと詳しい事情を知っているかもしれない。


しずく「あの……よかったら、ロトムのこと、詳しく教えてもらえませんか……?」

女の人「詳しく? それは別に構わないけど……よかったら、先に名前を教えてもらえるかな?」

しずく「あ、すみません……私はしずくと言います」

かすみ「かすみんはかすみんです!」

女の人「しずくちゃんと……かすみんちゃん……? 変わった名前だね?」
424 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 16:03:05.31 ID:pCSsxJZL0

女性は首を傾げる。


かすみ「かすみんはかすみんです!! かすみんちゃんじゃありません!!」
 「ガゥガゥ!!」

しずく「えっと……この子の名前はかすみさんです……」

女の人「ああ、そういうあだ名ね。了解」

かすみ「あだ名じゃなくて愛称……まあいいや」

果南「私は果南。ここで海洋調査をしてるんだ」

かすみ「研究所の人ですか? ……じゃあ、博士の助手ってこと?」

果南「助手……とはちょっと違うかな。鞠莉みたいな研究目的の調査とはちょっと違うというか……まあ、趣味みたいなもんかな?」

かすみ「へー……いろんな趣味があるんですね」

しずく「それで、果南さん……ロトムのことなんですけど」

果南「ああ、そうだったね。何が聞きたいの?」

しずく「どうして、ロトムは……ここを飛び出して行ってしまったんですか?」

果南「鞠莉とケンカしたんだよ。えっとね……」


果南さんは事の顛末を話し始めた。



──────
────
──


鞠莉「──ロトム!! あなたなんてことしてくれたの!?」


怒声が研究所内に響き渡ってきて、私は「またか」と思いながら、手を止めて、鞠莉の研究室に赴く。

鞠莉の研究室のドアを開けると同時に、


 「!! 果南ちゃん助けてロトーー」


ロトムが飛び付いてくる。


果南「おとと……鞠莉、またやってんの……?」


ロトムを受け止めながら、溜め息混じりに言うと、


鞠莉「今度という今度は許さないわ……! 果南、ロトムをこっちに渡して!!」


鞠莉は肩を怒らせながら、こちらに迫ってくる。


果南「何があったのさ……」

鞠莉「ロトムが環境再現装置の電力を勝手に食べちゃったのよ!! お陰で半年掛けた研究が一瞬でパーよ!」

果南「……なるほどね」


確かに、ここしばらく鞠莉はこの研究に付きっ切りだったし、怒るのもわからなくはない。
425 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 16:04:45.69 ID:pCSsxJZL0

果南「ロトム、どうしてそんなことしたの?」

 「ロト…」

鞠莉「どうせ、ロクな理由じゃないわよ! いつものしょーもないイタズラに決まってるわ!」

果南「鞠莉、決めつけるのは……」

 「…そんなんだから、善子ちゃんも花丸ちゃんも研究所を辞めちゃうんだロト」

鞠莉「んなっ!? ひ、人が気にしていることを……!!」

 「優しくしないとボクもいなくなっちゃうロト」

鞠莉「別にいいわよ! むしろ、いない方が研究が捗って清々するわ!」

 「!? それでも“おや”ロト!?」

鞠莉「そんなに嫌なら、好きに出ていきなさいよ!」

 「い、言ったロトね〜!? もうマリーなんて知らないロト!!」

鞠莉「でも、出ていくなら図鑑ボディは置いていきなさいね? それはあなたのものじゃないから」

 「上等ロト!!! こんなマリーのチューンしたポンコツボディ、こっちから願い下げロト!!!」

鞠莉「はぁ〜!?」

 「マリーのバーカバーカ、ボクがいなくなって寂しくなっても知らないロトからね〜!!」


ロトムは捨て台詞を残し、図鑑ボディーから飛び出して、研究所を飛び出していった。


果南「はぁ……鞠莉、これ何回目……?」

鞠莉「……知らない」

果南「いいの? ロトム、どっか行っちゃったよ?」

鞠莉「どうせ、半日くらいしか持たないわよ。根性無しなんだから」

果南「まぁ、別にいいけどさ……」

鞠莉「……しばらく、外で頭を冷やせばいいのよ!」


──
────
──────



果南「ってことがあって……」

しずく「それでフソウまで……」


海を渡っての移動だから、結構時間も掛かっただろう。

だから、空腹を満たすために、自販機で電気を食べていたわけだ。

そして、それを邪魔しようとした私に襲い掛かってきた、と……。


果南「ただ、鞠莉も言い過ぎたって反省はしててさ。むしろ、何日も戻ってこないから心配してたんだよ。迷子ポケモンとして届け出を出すか迷ってるくらいだったし」

かすみ「そう考えると鞠莉博士は優しいですねぇ。かすみんだったら半年も頑張ったことを台無しにされたら、絶対に許せませんよ!」

しずく「かすみさんがそれ言うの……?」


イタズラ常習犯で年がら年中叱られていたのに……。


果南「まあ……あれで、鞠莉はロトムに甘いところもあるから」

かすみ「そうなんですか?」

果南「何せ、あのロトムは鞠莉にとっての初めてのポケモンだからね」

しずく「初めてのポケモン……」
426 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 16:07:30.32 ID:pCSsxJZL0

私にとってのマネネ、かすみさんにとってのゾロアと同じような、昔からの友達のポケモンということらしい。


果南「ただ、最近はケンカしてばっかだったからね。……付き合いが長すぎて逆にって感じかな。昔はロトムと一緒にイタズラしてばっかりで、鞠莉のご両親も手を焼いてたくらいなのになぁ……」

かすみ「え、鞠莉博士も、一緒にイタズラしてたんですか!?」

果南「そりゃもう……イタズラのスケールがデカすぎて、ダイヤなんかよく泣かされてて……。っと……これはダイヤから言うなって言われてたんだった。今のなしで」

しずく「昔は本当に仲良しだったんですね」

果南「うん。名コンビって感じだったよ」

かすみ「大人になって、だんだん考えが合わなくなっちゃったんですかねぇ……」

果南「ロトム自体ゴーストタイプだし、人を驚かせたり、イタズラするのが好きなところがあるからね。感性は子供の頃の方が近かったのかもしれないなぁ」

しずく「……」


私は思わず、腰につけたマネネのボールに触れる。

マネネも人の真似をしたがる、少し子供っぽい、種族の気質がある。

そして、かすみさんも同様、


かすみ「? どしたの、しず子? かすみんの顔見つめて?」
 「ガゥ?」


ゾロアもイタズラ好きの子供のような気質だ。

私たちも大人になるにつれて、相棒たちと気持ちが離れて行ったりしてしまうのだろうか。

それは少し……いや、すごく寂しいことのような気がする。


しずく「どうにか……してあげられないかな」


少なくとも、本人たちの価値観がすれ違っているだけで、決して仲違いがしたいわけじゃないだろうし……。


果南「まあ、人間とポケモンだと心の成長の仕方が違うってことなのかもね……」

かすみ「でも、あのロトム、人の言葉を喋りますよね?」

しずく「あのロトムがというか……機械に入ったロトムは人の言葉を喋ることが出来るだけだよ、かすみさん」


ガラルに1度でも行ったことがあればわかることだけど、あの地方ではあちこちでロトムが生活をサポートしていて、喋る姿を見ることが出来る。

だから、あのロトムが喋ることもそこまで不思議なことではないはず。


果南「いや、鞠莉のロトムは特別だよ」

しずく「え?」

果南「ガラルとかで喋るロトムやロトミは、機械側にロトムの言葉を翻訳するプログラムが組み込まれてるらしいんだ。だけど、鞠莉のロトムはそういうプログラムを介さずに人の言葉を喋れる」

しずく「つまり、人の言葉を正確に理解してる……?」

果南「そういうこと。だから、図鑑ボディじゃなくても、音声の出せる機械ならどれに入っても喋れるんだよ」


……確かに、考えてみれば自動販売機やポケギアに、ロトムのための翻訳プログラムが組み込まれているとは考えにくい。

あまりに自然に喋るから勝手にそういうものなんだと思い込んでいたけど……どうやら、あのロトムは機械音声をちゃんと考え、人の言葉に組み立てて喋っていたということだ。


かすみ「もしかして……あのロトムって、めちゃくちゃすごい?」

果南「少なくとも、普通のロトムとは、ちょっと違うかな」
427 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 16:09:52.49 ID:pCSsxJZL0

人の言葉を解すポケモンは確かに存在する。ラプラスなんかは有名だし、それこそロトムも人の生活に密接故、頭の良いポケモンに数えられるだろう。

とはいえ、人語を完全に理解するのは普通のことじゃない。

人間だって、外国の言葉を習得するには、大変な労力が必要なわけで……。

どう考えたって、ロトムは最初から人の言葉がわかっていたわけじゃないだろうし、それはつまり──自らの力で習得したということだ。

多大な労力を払って。


しずく「どうして、そこまでして……」


ポケモンがそこまでする理由が私にはピンと来なかったけど、


かすみ「え? そんなの簡単じゃない?」


逆にかすみさんはすぐに理解出来たようだった。


かすみ「そんなの、人とお話ししたかったからに決まってるじゃん!」

しずく「……確かに」


そのお話ししたかった人って……どう考えても、


しずく「鞠莉博士と……お話しするために……」

果南「……そうだね」


鞠莉さんのために種族の壁を超えて、人の言葉を覚えたロトム。

そんな絆を持った人とポケモンが、すれ違ってしまうのは……有り体に言えば、なんだか嫌だった。


しずく「果南さん」

果南「ん?」

しずく「もう少し……詳しく教えてもらえませんか。ロトムと……鞠莉博士のこと」

果南「……そうだなぁ。それじゃ、鞠莉とロトムの出会いのこと、話すね。私も鞠莉から聞いたことまでしかわからないけど……──」





    💧    💧    💧





果南「──……ってわけで、ロトムは鞠莉のポケモンになったんだ」

かすみ「……なんだか、すごくドラマチックな話だった」

しずく「うん……」


果南さんから聞いた話は、鞠莉博士とロトムの結びつきを確かに感じられる素敵なお話だった。


かすみ「なんか、こんな話聞いちゃったら……かすみんも鞠莉博士とロトムに仲直りして欲しいって思っちゃいます……」

果南「まあね……。心の奥では、お互いのことを大事に想ってるのは間違いないんだよね」

かすみ「昔のことすぎて、忘れちゃったんでしょうか……」

果南「そうかもね……出来事としては覚えていても、気持ちはあのときと比べて薄れちゃったのかもね」
428 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 16:13:18.41 ID:pCSsxJZL0

なんだか、それもわかる気がした。

小さい頃大好きで毎日抱きしめて寝ていたぬいぐるみも、気付けばベッドの隅にあるインテリアになってしまったり。

大好きで一生遊んでいたいと思っていたおもちゃも、気付けば倉庫の中。

成長していく過程で、いろんなものを見て、知って、子供の頃、一番大切だったものよりも、さらに大切なものが見つかったり、好きなものが増えて、相対的に価値が薄まって行ったり……。

それは寂しいことであると同時に、成長しているということ。やむを得ず、そしてありふれた当たり前のこと。


しずく「…………」


でも、確かにあったことなんだ。ロトムと鞠莉博士の間には。確かにあった出来事で、大切な思い出で、大切な絆のはず。

だから、


しずく「……忘れないで欲しい」

かすみ「しず子……」

果南「そうだね。……でも、人は忘れる生き物だからさ」

しずく「なら……思い出させてあげましょう」

果南「え?」

かすみ「思い出させる……?」

しずく「ロトムにも、鞠莉博士にも、そのときの気持ちを思い出してもらいましょう。私に考えがあります」


私は二人に耳打ちをする。


果南「……なるほど」

かすみ「しず子らしいね! いいと思う!」

しずく「ただ、お二人にも協力していただくことになってしまいますが……」

かすみ「もう! 何、水臭いこと言ってんの! かすみんとしず子の仲でしょ?」

果南「ま、世話の掛かる幼馴染のためだからね。いいよ、私も協力するよ」

しずく「ありがとうございます! それと──ゾロアも協力してね?」

 「ガゥ?」


私はロトムと鞠莉博士のために、あることを実行するための準備を始める。





    💧    💧    💧





──その晩。


しずく「すみません果南さん……お家に泊めていただいてしまって」

果南「いいっていいって。アワシマって、鞠莉の研究所か私の家くらいしか寝泊まり出来る場所もないしさ」

しずく「ありがとうございます。お陰で集中して作業が出来そうです……!」


そんなに時間の余裕がないので、集中して早めに終わらせてしまいたい。
429 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 16:17:41.32 ID:pCSsxJZL0

かすみ「しず子、何か手伝えることある?」

しずく「うぅん、大丈夫だよ。かすみさんは先に寝ちゃってて?」

かすみ「でも……」

しずく「むしろ、明日は朝早くから覚えてもらうことになるから……早めに寝ちゃった方がいいと思う」

かすみ「……わかった。それじゃ、先に寝るね」

しずく「うん、おやすみ。かすみさん」

かすみ「おやすみ、しず子。ゾロア、行くよ」
 「ガゥ」


かすみさんが寝室に行くのを見送る。


果南「それじゃ、私も先に寝ようかな……しずくちゃんもあんまり遅くならないようにね」

しずく「はい。私も早めに終わらせて、すぐに寝るので」

果南「ん、そっか。おやすみなさい」

しずく「おやすみなさい」


果南さんも部屋を出ていき、残ったのは私一人。


しずく「よし……やるぞ」


気合いを入れて、机に向かおうとすると、


 「マネマネ!」


マネネが、ぴょんぴょんと跳ねながら机によじ登ってくる。


しずく「マネネ?」
 「マネマネ」


マネネは、机に転がっていたペンを持つと、小さな体でノートの端に線を書き始める。

恐らく私の真似をしているんだろう。


しずく「ありがとう、マネネ。手伝ってくれるんだね♪」
 「マネ♪」


お礼を言いながら頭を撫でてあげると、マネネはご機嫌な様子。

ニコニコ笑うマネネを見ていると、それだけで心がほっこりとする。

大好きなポケモンと何気なく触れ合う時間。この時間は失くしたくない。

もしかしたら私も、大人になったら……この気持ちを忘れてしまうのかもしれないけど……。


しずく「もし忘れちゃうんだとしても……思い出して欲しいよね」
 「マネ?」

しずく「うぅん、なんでもない」
 「マネ」


そのためにも、絶対に成功させなくちゃ……!

私は胸中で意気込んで、再び机に向かうのだった。



430 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/17(木) 16:18:22.49 ID:pCSsxJZL0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【アワシマ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       ●‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.17 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.16 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      スボミー♂ Lv.15 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:103匹 捕まえた数:7匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.17 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.17 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.14 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.16 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:93匹 捕まえた数:6匹


 しずくと かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/11/17(木) 19:34:59.01 ID:z/VaWhqHo
ポケモンSV発売記念
▽過去の自分を取り戻す生放送。

『ポケモンプラチナ金ネジキ
世界記録91連勝/一発勝負配信』
(18:31〜放送開始)

https://youtube.com/watch?v=Rf8uZtijqzo
432 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/11/18(金) 02:43:33.61 ID:gOIoLU6b0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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433 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/18(金) 14:13:55.41 ID:/fdwqF8y0

■Chapter021 『ロトム 後編』 【SIDE Shizuku】





──翌日。時刻はお昼過ぎ。場所はアワシマ島内の浜辺。

ちょうど今、目の前でかすみさんが果南さんとポケギアで連絡を取り合っている真っ最中。


かすみ「しず子! 鞠莉博士は果南先輩が連れてきてくれるって!」

しずく「そっか、よかった……それじゃ、あとは私たちがロトムを見つけるだけだね」


こちらの準備は整った。あとは、ロトムを見つけるだけだが……当のロトムがなかなか見つからない。


かすみ「さっきから、島中歩き回ってるのに全然見つからないぃ……」

しずく「島はひととおり見て回ったし……外にはいないのかな……」

かすみ「もし海の上とかだったらどうしようもないよぉ……」

しずく「うーん……ずっと飛んでるのも疲れるだろうから、海の上ではないと思いたいけど……」

かすみ「ねぇ〜……しず子〜……ロトムの電波をビビビッとキャッチできる道具とかないの〜……?」

しずく「そんなものがあったらとっくに使って……。……あれ、そういえば……?」

かすみ「え、ホントにあるの……?」


よくよく考えてみれば、ロトムは今……私のポケモン図鑑に入っているから……。


しずく「かすみさんの図鑑で位置を調べられるんじゃ……」

かすみ「……あ! 言われてみればそうじゃん!」

しずく「なんか、前にもこんなことあったよね……」

かすみ「あ、あのときは知らなかっただけだもん!」


忘れていた今回は尚悪いような気もするけど……。まあ、忘れていた私も、人のことは言えないかな……。


かすみ「あ、結果出たよ! しず子!」

しずく「どこにいるかわかった?」

かすみ「えっと……ここ」


言いながら、かすみさんが図鑑の画面を見せてくる。

場所は──研究所の中だった。


かすみ「って、ロトム研究所内に戻ってるじゃん!?」

しずく「……でも、ずいぶん奥まった場所だね」

かすみ「とりあえず、行ってみよ!」

しずく「うん、そうだね」


私たちは地図の表示に従って移動を開始した。



434 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/18(金) 14:15:44.37 ID:/fdwqF8y0

    💧    💧    💧





──辿り着いたそこは、研究所の地下の部屋。


しずく「ここ……倉庫かな……?」

かすみ「うぅ……埃臭い……」
 「ガゥゥ…」


いかにもな様相の倉庫だった。

長いこと人が訪れていないのだろうか、置かれているものは埃を被っている。

その中に、


 「…ロト」


ロトムはいた。大きな埃を被ったテレビの前で、止まったまま浮いていた。


しずく「ロトム、ここにいたんですね」

 「しずくちゃん…」

しずく「そのテレビ……もしかして……鞠莉博士と初めて出会ったときのテレビですか?」

 「? どうして、しずくちゃんがそのことを…?」


やっぱり、ロトムは……鞠莉博士のことを今でも……。

なら、尚更だ。


しずく「ロトム。来てください」

 「ロト…ボクは戻るのは…」

しずく「いいから。見せたいものがあるんです」

 「ロト…?」





    💧    💧    💧





ロトムを引き連れて、私たちは果南さんの家に戻ってきた。


果南「しずくちゃん。待ってたよ、ロトムは?」

しずく「はい、ここに」

 「ロ、ロト…果南ちゃん…」

果南「ロトム、中に入って待っててくれる?」

 「ロト…」


急な展開にロトムが動揺しているのがわかったけど、


しずく「ロトム。お願いします」
435 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/18(金) 14:16:56.28 ID:/fdwqF8y0

私がお願いすると、


 「…わかったロト」


ロトムはそれ以上は何も言わず、中に入ってくれた。


果南「これで、準備は完了だね。……ごめんね、広い屋内ってここくらいしか用意できなくて」

しずく「いえ、十分です。──演じることは身一つあれば出来ますから。かすみさん、準備はいい?」

かすみ「もちろん! ゾロアも準備万端!」
 「ガゥガゥ!!」

しずく「それでは──オウサカ劇場……開演です!」





    ✨    ✨    ✨





鞠莉「……さて、何が始まるのかしら」


果南に割と強引に連れてこられて、待つこと数十分。

今、私が待たされている薄暗いコンテナ倉庫の中は、いつもの水上バイクやら小型船舶が運び出されて、随分と広々としている。

そこに簡素なパイプ椅子が2つ置かれていた。恐らく座って待っていろということだと思ったので、黙って座って待っているけど……。


鞠莉「いい加減、研究に戻りたいんだけど……」


そんな中、コンテナの入り口の方から──


 「…マ、マリー…」

鞠莉「……ロトム」


ロトムが中に入ってきた。

なるほど……何かはわからないけど、わたしとロトムに何かを見せたいらしい。


 「…ロト」

鞠莉「……ふよふよ浮いてないで、そこの椅子に降りたら?」

 「ロト…」

鞠莉「わたしたち……これから、何か見せられるみたいだから」

 「ロト…?」


困惑しながらも、ロトムが私の隣のパイプ椅子に図鑑ボディのまま降り立つ。

程なくして──急に目の前で強い光が点灯する。


鞠莉「まぶし……」


目を慣らしながら、ゆっくりとその光の方を見ると──


しずく「…………」

鞠莉「しずく……?」

 「しずくちゃん…?」
436 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/18(金) 14:20:01.18 ID:/fdwqF8y0

そこにはしずくが立っていた。

光は“スポットライト”を当てるように彼女を照らしていた。

光源を追って上を見てみると──


鞠莉「Lanturn...?」


ランターンが、まさに“スポットライト”でしずくを照らしているところだった。

そんな中、


しずく『──はぁ〜ぁ……今日もこのおやしきの中ですごすのかぁ……』


しずくは急に大きな、通る声で喋り始めた。


しずく『毎日毎日……おやしきの中でたいくつ……。どうして、パパもママもわたしが外に出るのをゆるしてくれないのかしら』


これ……もしかして……演劇……?


しずく『まどの外には鳥ポケモンもいるけど……見てばっかりじゃ、やっぱりたいくつ……わたしも外であそびたい』
 『カァ〜〜カァ〜〜』


アオガラスがパタパタと飛んできて、屋内を軽く飛んだあと、捌けていく。


しずく『……でも、外に出たらおこられるしなぁ……。……はぁ、今日もおやしきの中をたんけんしようかな』


しずくはパントマイムをするように、ドアを開ける仕草をする。恐らく、登場人物は今部屋を出て、お屋敷の中を探検し始めたのだろう。

そして、そんなしずくの前に、


かすみ『お嬢さま〜探検ですか〜?』


メイド服に身を包んだかすみが現れて、声を掛ける。

……というか、あれ……わたしの使用人のメイド服じゃないかしら……。


しずく『うん。でも、もう2階も3階も4階も5階もたんけんしきっちゃったから……どこに行こうかな……』

かすみ『あとは〜……地下階くらいですかね』

しずく『地下か〜……うん、じゃあ今日は地下をたんけんしてみよ』

かすみ『いってらっしゃいませ。何かあったら呼んでくださいね』

しずく『うん。ありがとう』


しずくは再び歩き始める。程なくして、目的地にたどり着いたようだ。


しずく『ここが地下……何かおもしろそうなもの……あるといいな』


しずくは、ドアを開け、


しずく『うーん……なんにもないわね』


首を振りドアを閉め、他の部屋のドアを開けては、


しずく『ここにも……とくにおもしろそうなものはない』


また首を振って閉める。そんなことを何度か繰り返す。


しずく『……はぁ……ここには、わたしのたいくつをまぎらわしてくれるものは何もなさそう……』
437 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/18(金) 14:20:52.88 ID:/fdwqF8y0

心底がっかりしたような溜め息を吐きながら──次のドアを開く。

すると、


しずく『わ、なにここ……!』


急にしずくが目を輝かせる。それと同時に──何やらガラクタらしきものが、しずくの目の前に運ばれてくる。

コンテナ内の端の方に目をやると……暗がりの中に薄っすらプルリルの姿が見えた。恐らく、プルリルの“ポルターガイスト”だろう。


しずく『すごいすごい! いっぱいものが置いてある!』


しずくは無邪気に笑いながら、ガラクタたちを手に取って、眺め始める。

手に取って、じーっと見つめたあと、首を傾げたかと思うと、それを置いて今度は別の物を手に取る。

そしてまた手に取った物に飽きたら、次の物を手に持ち、興味深そうに眺める。

そんな中で、


しずく『……! なにこれなにこれ!』


──ガラクタの中に、何かを見つけた。

しずくの台詞と共に──周囲のガラクタが、サーっと捌けて、“スポットライト”が彼女とその何かを照らす。


鞠莉「え……」

 「ロ、ロト…!?」


あれは──


しずく『もしかして……テレビ……かな? でも、すっごくおっきい……』


それは大きな大きなブラウン管のテレビ。ただ、そのテレビには見覚えがあった。

今でも研究所の倉庫にあるはずの……テレビ。


しずく『お部屋のテレビはもっと薄かったけど……後ろに何か入ってるのかな?』


しずくは画面を手で払ってみたり、軽く叩いたりしている。

すると次の瞬間──画面がブンと点き、


 『ロトロトトトトト!!!!!!』


甲高い鳴き声と共に──画面から激しい光が漏れ、甲高い鳴き声の中に耳障りな雑音が流れ出し、さらに周囲にバチバチと“でんきショック”が走る。

普通の子供だったら……いや、大人でも驚くような光景の中、しずくは──


しずく『わぁ♪ なにこれなにこれ!! すごいすごい!!』


大喜びしていた。
438 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/18(金) 14:21:43.87 ID:/fdwqF8y0

しずく『これ、あなたがやってるの!?』

 『ロト…??』

しずく『もしかして、あなた……ポケモン!?』

 『ロトロトト』

しずく『えっと……なに言ってるのかよくわかんないけど、きっとポケモンなのよね!』

 『ロト? ロトト?』

しずく『わたしね、ポケモンとお話しするのはじめてなの!』

 『ロト』

しずく『あ……でも、わたしがポケモンとお話ししてるって、パパやママがしったら……おこられちゃうかな。もしかしたら、おいだしちゃうかも……』


しずくが心配そうに言っている場所に──


かすみ『お嬢さま〜? 今何か大きな音がしましたけど……』


少し離れた場所から、かすみが声を掛ける。


しずく『わ……! い、いけない……かくれてかくれて!』

 『ロト?』

しずく『見つかったらおこられちゃうから! おねがい!』

 『ロト』


しずくがそう言うと共に、テレビの光が消え、それと同時にかすみがしずくのもとに駆け寄ってくる。


かすみ『お嬢さま? 先ほどこちらから大きな音がしましたが……』

しずく『ごめんなさい、ちょっとつんであったものをくずしちゃって……』

かすみ『え、ええ!? お怪我はございませんか!?』

しずく『うん、だいじょうぶ、ありがとう。もんだいはないから、さがって平気よ』

かすみ『そ、そうですか……あまり危ないことはなさらないでくださいね』

しずく『はーい』


かすみが部屋から出ていくと。


しずく『もういいよ!』


しずくは再び、テレビに向かって話しかける。

すると、再びテレビの画面が映って、


 『ロト』


ポケモンが鳴き声をあげる。
439 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/18(金) 14:22:59.95 ID:/fdwqF8y0

しずく『言うこときいてくれて、ありがと! ポケモンさん!』

 『ロト』

しずく『あなたはそのテレビをあやつってるんだよね?』

 『ロト?』

しずく『もし、いやじゃなかったら……テレビからでてきて、あなたのすがたを見せてくれないかしら?』

 『ロト』

しずく『わたしね! あなたとおともだちになりたいの!』

 『ロト』


しずくの言葉を聞くと、ポケモンはそのテレビから──飛び出した。


 『ロト』


小さな丸い体にとんがった頭頂部を持ち、体の表面に薄緑色のオーラのようなものを纏った、オレンジ色のポケモン──ロトムだった。


しずく『それが、あなたのすがたなのね!』
 『ロト』

しずく『お名前はなんて言うの?』
 『ロト』

しずく『ロト? ……ロトって言うんだ!』
 『ロト』

しずく『よろしくね、ロト! 今日からわたしとあなたはおともだちだよ!』
 『ロト』


かすみ『──お嬢さま〜? やっぱり、そこに何かいるんですか〜?』


しずく『わっ! 今日はこれいじょうここにいると、見つかっちゃうかも……。また明日くるから、ちゃんとここにいてね!』
 『ロト』

しずく『やくそくだよロト! また明日ね!』


そう言って、しずくは部屋から駆け出して行き、場面が暗転する。

そして、再び“スポットライト”がしずく一人を照らす。


しずく『──これが、わたしとロトの出会い。わたしはこの日を境に、毎日のように地下にある倉庫のロトに会うため、ここを訪れた。ロトはわたしが来るたびにその姿を現して、音と光と電気でわたしをもてなしてくれた。わたしもそれに応えるように、精一杯今日何があったか、どんなお勉強をしたかをロトに教えてあげた。毎日のお勉強で使っている教科書とか、好きなご本とかも持っていってたくさん読み聞かせたりして……。私自身、お勉強をしているうちに、目の前のポケモンの名前がロトじゃなくてロトムだと知ったときは、少しばつが悪かったけど……。でも、それを話したらロトムはおかしそうに笑っていた。それに釣られて、わたしもたくさん笑ってしまった。……ロトムと一緒に過ごす時間は、退屈なわたしの日常を一変させてくれた。……そんな日々がしばらく続いたんだけど……ある日、恐れていたことが起こった──』


しずくのいる室内に、一人の人間が入室してくる。


果南『しずく』

しずく『ママ? どうしたの?』


どうやら、果南は母親役らしい……。
440 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/18(金) 14:25:22.64 ID:/fdwqF8y0

果南『貴方、最近地下倉庫によく行っているそうですね』

しずく『う、うん……』

果南『何をしているのですか?』

しずく『え、えっと……お、おそうじ?』

果南『……はぁ。……貴方、ポケモンと会っていますね』

しずく『!? 会ってない!! 会ってない!! ポケモンなんていないよ!』

果南『嘘を吐かない。パパに頼んで、もう倉庫内は調べてもらいました』

しずく『え!?』

果南『あの古いテレビ……ロトムが棲んでいたのですね』

しずく『え、いや……その……』

果南『貴方にはまだ、ポケモンは早いです。今後は倉庫には近づかないようにしなさい』

しずく『…………』

果南『返事は?』

しずく『……はい』

果南『よろしい』


それだけ伝えると踵を返して出ていこうとする母親。


しずく『ま、まって!』

果南『なに?』

しずく『ろ、ロトムは……どうするの……?』

果南『どうって……追い出すに決まってます』

しずく『お、おいだすって……! やめてあげて! あそこはロトムのおうちなの!』

果南『いいえ、ここは私たちの家ですよ』

しずく『……っ』

果南『あのね……ロトムはすごくイタズラ好きな、人に迷惑を掛けるポケモンなんですよ』

しずく『そ、そんなこと……ないもん……』

果南『いいえ、研究者のパパがそう言っていたんだから間違いないわ。そして、そんなポケモンと遊ぶのは貴方の教育にもよくない』

しずく『そんな……』

果南『……ロトムのことは忘れなさい』


最後にそう残すと、今度こそ母親は部屋から出て行った。


しずく『……ダメだよ』


しずくは絞り出すように言う。


しずく『ぜったいに……おいださせたりなんか、しない』


しずくが駆けだし、場面が暗転する。


しずく『ロトム!!』
 『ロト』

しずく『よかった……!! まだぶじだったんだね……!!』


そう言いながら、しずくは辺りにあるガラクタをドアの前に動かし始める。
441 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/18(金) 14:26:22.08 ID:/fdwqF8y0

 『ロト…?』

しずく『あのね、このままじゃロトムがおいだされちゃうかもしれないの……だから、ここにろうじょうしよう!』
 『ロト』

しずく『ママったら、ひどいの……あなたはきょういくによくないって……だから、おいだすって……』
 『ロト』

しずく『あなたはイタズラ好きのわるいポケモンだって……そんなことないよね』
 『ロト』

しずく『うん……わたしの言ってることがわかる、かしこいポケモンだもんね。あのね、人のことばをりかいできるポケモンってすくないんだよ。だから、ロトムはきっとすっごくかしこいポケモンで、ぜったいきょういくにわるいなんてことないもん!』
 『ロト』

しずく『だから、わたしはそれをパパとママにわかってもらうまで、ここでろうじょうする!』
 『ロト』

しずく『ぜったい、ロトムをおいださせたりなんかしないからね!』
 『ロト』


そのとき──ドンドンドン!! と激しくドアを叩くような音が鳴り響く。


果南『開けなさい!! 開けて出てきなさい!!』

しずく『イヤ! ロトムがきょういくにわるいポケモンじゃないってわかってくれるまで、外に出ない!』

果南『聞き分けの悪い子ですね……こうなったら実力行使です』


──ガン!! 扉を叩く音がさらに強くなる。

恐らく何かしらのポケモンの力で扉を壊そうとしているのだろう。


しずく『……っ……だいじょうぶだよ、ロトム。わたしがロトムのことぜったいおいださせたりなんか、しないから……!』
 『ロト』


──ガンッ!! さらに扉を打ちつける音が大きくなる。

しずくは、


しずく『……だいじょうぶだよ……っ……』


ポロポロと涙を流しながら、ロトムを抱きしめていた。


 『ロト…』


でも、結局、扉が破られるのは時間の問題で──バァン!! という大きな音と共に、扉が無理やりこじ開けられたしまった。

そして、中に入ってくる母親。


果南『観念しなさい』

しずく『イヤ……!』

果南『理解して。その子は貴方にとってよくないポケモンなの』

しずく『そんなことないもん!! ロトムはわたしのことばをりかいできる、すっごいかしこいポケモンなんだもん!! きょういくにわるくなんかないもん!!』

果南『そう思っているのは貴方だけですよ。適当に相槌を打つように鳴いているだけで……ロトムは貴方の言葉なんて理解していません』

 『ロト…』

しずく『そんなこと……ないもん……』
 『ロト…』


そのとき、抱きしめられたロトムが急にしずくの腕をすり抜けて──


しずく『あ!? ロトム……!?』
442 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/18(金) 14:27:10.91 ID:/fdwqF8y0

──ヒュン、とテレビの中に入り込んでしまった。

そして、次の瞬間──ブンとテレビが点き、


 『…………マ…………リー…………』

しずく『え……?』


──名前を呼んだ。


果南『え……』

しずく『ロトム……?』

 『………………マ、リー…………ナカ……イ、デ…………』


ブツブツの機械音声で、ロトムが、


 『…………ナカ…………ナイ、デ…………』


ロトムが、喋っていた。


果南『嘘……』

しずく『ロトム……わたしのことば……わかるの……?』

 『…………ワカ……ル…………』

しずく『……うん……っ……』

 『…………ボ、ク…………マリー……スキ……イッショ、イタ……イ……』

しずく『うん……!』


しずくはその言葉聞いて、立ち上がり、


しずく『ママ! ロトムは、わたしのことば、りかいしてるよ!! これでも、この子はきょういくにわるいポケモンなの!?』

果南『そ、それは……』

しずく『ねぇ、ママ……おべんきょうもちゃんとする、言うこともちゃんときく……だから、ロトムを──わたしのおともだちを、うばわないで……』

 『マリー……トモダ、チ……』

果南『…………はぁ。わかりました……今回はママの降参です』


そう言いながら、母親は両手を挙げて降参するのだった。
443 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/18(金) 14:28:19.47 ID:/fdwqF8y0

しずく『こうして、ロトムは──わたしの友達は、改めてこの家に迎えられることになりました。どうやら、ロトムは……わたしが持ち込んだ教科書や好きな本を見て、言葉を覚えていたらしい。パパも驚いていたけど……それ以外には考えられないって言っていたわ。世界には……稀に人の言葉を扱えるようになるポケモンがいるらしく、嘘か真か……ニャースが言葉を喋るなんてことがあったりなかったりするとか、そんなことも言ってたかな。……まあ、そんなことは置いておいて。……わたしはこうして、大切な友達と離れ離れにならずに済んだのでした』

しずく「──あれから、何年も経ってしまったと思います。……それでも、鞠莉さんにとって、ロトムは今も大切な友達なんじゃないですか? あのときの気持ちが消えてなくなったりなんて、してないですよね……?」

鞠莉「…………」
 「ロト…」

鞠莉「…………ロトム」
 「ロト…?」

鞠莉「……わたし、まだあなたに聞いてないことがあったなって」
 「聞いてないことロト…?」

鞠莉「どうして……装置の電気を食べたの?」
 「そ、それは…」

鞠莉「装置が止まったら、研究が止まること……わかっていたわよね。でも、どうして装置の電気を食べたの?」
 「…ロト」

鞠莉「怒らないから、聞かせて」
 「…………マリー…あの研究を始めてから、寝る間も惜しんで、頑張ってて…何度もうまくいかないって、すごく苦しそうで…だから、ボク…マリーがそんなに辛いなら…いっそ…って…」

鞠莉「…………そっか」


だから、“もうわたしが、これ以上苦しい研究をしなくてもいいように”装置を止めたんだ。


鞠莉「…………ごめんね、ロトム。わたし、あなたのこと……全然見てあげてなかった……」
 「…ロト」

鞠莉「本当は……イタズラしてくるのも、わたしが研究にかまけて、あなたの相手をしてあげなかったからだったって……気付いてた」
 「……」

鞠莉「ほんっとうに……酷い“おや”だね、わたし……っ……」
 「マリー…」

鞠莉「ごめんね……ロトム……っ……」
 「マリー…ナカナイデ…」


ロトムが──しずくの図鑑から飛び出して、わたしの頬にその身を摺り寄せてくる。


 「ロト、ロトトロト」
鞠莉「ふふ、今回は許してあげる……。でも、次からはちゃんと、言葉にして教えてね……?」

 「ロト、ロトロ、ロトトロトロト」
鞠莉「うん、これからは昔みたいに……いっぱいお話しして、伝え合おうね……」


果南「一件落着……みたいだね」

かすみ「やったね、しず子」

しずく「……うんっ」





    💧    💧    💧





──オハラ研究所。


鞠莉「はー……まさか、あんなことしてくるなんて思ってもみなかったわ……」

しずく「す、すみません……。ロトムと出会ったときの気持ちを思い出せば……仲直り出来るんじゃないかなって思って……」

鞠莉「……いいえ、むしろお礼を言わせて。ありがとう、しずく。……お陰で、初心を取り戻すことが出来た気がするわ」


そう言いながら、鞠莉博士はロトムを撫でる。
444 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/18(金) 14:29:44.53 ID:/fdwqF8y0

 「ロト」
鞠莉「なんのためにポケモンの研究をしているのか……見失うところだったわ。人とポケモンがもっとよりよく付き合っていくために研究しているわたしが、ポケモンの気持ちをないがしろにしちゃいけないわよね……」

果南「ま、たまにはいい薬だったってことだね」

鞠莉「む……なんか果南に言われると、素直に反省出来ないかも」

果南「えーなんでさ」

鞠莉「だって、マリーとロトムの秘密を勝手に教えたの、果南でしょ」

果南「いいじゃん、減るもんでもないんだし」

鞠莉「はぁ……相変わらず大雑把なんだから……」


博士は果南さんの態度に呆れたように溜め息を吐く。


鞠莉「それにしても……しずく、あれ1日で考えたの? ポケモン演劇ってやつよね?」

しずく「は、はい! 私、スクールではポケモン演劇部に所属していたので……こうすれば、昔の気持ちを思い出してくれるんじゃないかと思って……」

かすみ「しず子はポケモン演劇部のエースだったんですよ!」

鞠莉「どうりで……素晴らしい舞台だったわ」

しずく「あ、ありがとうございます……!」

鞠莉「そういえば……あのロトム役なんだけど……」

かすみ「もっちろん、かすみんのゾロアですよ! ねー、ゾロア♪」
 「ガゥガゥ♪」

鞠莉「“イリュージョン”を応用して、ここまで出来るなんて大したものだわ」

かすみ「テレビを再現するのになかなか苦労しましたけど……本番前に実物を見られたからどうにかなりました!」
 「ガゥッ♪」


日々、学校の用具に化けて、イタズラを繰り返していたからこそ出来たであろうということは、今日は黙っておくことにしよう。

ゾロアには本当に助けられたわけだしね。


鞠莉「あと、あの機械音声……どうやって作ったの?」

しずく「えっと……かすみさんのポケモン図鑑の音声再生機能から、1文字ずつ……地道に録音して作りました」

かすみ「あれ、大変だったよね……間違えて違う部分録音しちゃってやり直しになったり……」

鞠莉「Oh...努力のタマモノデース……」


ある意味今回用意するものの中で、一番大変だったかもしれない……。

まあ、苦労した分、納得の行くものが出来てよかったけど。


鞠莉「ところで、しずく」

しずく「なんでしょうか?」

鞠莉「ロトムの懸念も一応払拭しておこうと思って」
 「ロト?」


そう言いながら、博士は──ボールを1個私に向かって差し出してきた。


しずく「えっと……これは……?」

鞠莉「今日のお礼……ってことで、受け取ってもらえないかしら。研究所のポケモンなんだけど。きっと戦力になると思うから」

しずく「い、いいんですか?」

鞠莉「むしろ受け取ってもらわないと、ロトムが納得してくれないわ」
 「ロト」

しずく「そういうことでしたら……!」


私は博士からボールを受け取り、すぐにボールを放って、外に出してみる──
445 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/18(金) 14:30:54.43 ID:/fdwqF8y0

 「…キル」
しずく「このポケモンは……!? キルリア!!」

かすみ「わぁ、可愛い〜!!」

しずく「本当にいいんですか!?」

鞠莉「ええ、大切に育ててくれると嬉しいわ」

しずく「ありがとうございます!!」

かすみ「……なんか、しず子、いつにも増してテンション高くない?」

しずく「だって……! キルリアの進化系は、あのカルネさんの切り札のサーナイトなんだよ! この地方にはラルトスがあんまりいないから、手に入れられないと思ってたのに……! まさかこんな形で手に入るなんて!!」


期せずして、憧れの人の手持ちと同じポケモンを手に入れることが出来て、思わずテンションが上がってしまう。


鞠莉「それなら……一緒にこれも渡しておくわね」


鞠莉博士がさらに私に、“どうぐ”を2つ、手渡してくる。

一つは不思議な色をした珠。もう一つはブローチのようなものの中心に先ほどのよりも小さな珠が埋まったモノだ。


しずく「これは……?」

鞠莉「“キーストーン”と“メガストーン”よ」

しずく「え!? それってまさか……!」

鞠莉「ええ、メガシンカに使うためのアイテムよ。小さい珠が埋まっているのはメガブローチ。トレーナーが身に着けるもので、一回り大きい方の珠はサーナイトをメガシンカさせるための“サーナイトナイト”よ」

しずく「あ、ありがとうございます! こんな貴重な物を……!」

かすみ「えー!? しず子ばっかりずるいずるい!!」

鞠莉「もちろんかすみにも。はい」


そう言いながら、博士はかすみさんにも、“どうぐ”を手渡す。


鞠莉「かすみにはその“メガブレスレット”を。……“メガストーン”は、たまたまわたしが“サーナイトナイト”を持っていただけだから、かすみの手持ちに対応したストーンを探してもらうことになっちゃうけど……」

かすみ「いえ! “キーストーン”が貰えただけでも、かすみん大満足です!」

鞠莉「ふふ♪ それなら、よかったわ♪」

果南「ところで二人とも、次はどこに向かうの?」

かすみ「あー、えーっと……どこに向かうの?」

しずく「なんで、かすみさんが知らないの……。……えっと、またジムを巡るので、一旦ホシゾラに戻って、コメコ方面を目指すことになると思います」

鞠莉「それなら、ウチウラシティまでビークインで送ってあげるわ。宿の手配もしておくから、今日はウチウラシティに泊まるといいわ」

果南「アワシマに泊まるよりも、動きやすいだろうしね」

しずく「なにからなにまで……ありがとうございます」

鞠莉「気にしないで、世話になったのはこっちもだから。それじゃ、行きましょうか」

かすみ「はーい! よろしくお願いしまーす!」

しずく「お願いします」


私たちは、研究所を後にし、ウチウラシティへ──



446 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/18(金) 14:31:49.00 ID:/fdwqF8y0

    💧    💧    💧





──ウチウラシティ。


鞠莉「それじゃ、二人とも気を付けてね」

果南「私たちは大抵アワシマにいるからさ。会いたくなったら、また来てよ」

しずく「はい、ありがとうございます。お世話になりました」

かすみ「次会うときはきっとメガシンカを使いこなしてますからね!」

鞠莉「ふふ、楽しみにしてるわ」


鞠莉博士と果南さんに挨拶をし……そして、最後に。


しずく「ロトム」
 「ロト」

しずく「短い間でしたし、迷惑も掛けられましたが……今思えば、楽しい旅路でした」
 「ロトト」

しずく「何度か助けられたこともありましたね。ありがとうございました」
 「ロト」

しずく「鞠莉博士とこれからも仲良くしてくださいね」
 「ロトト♪」


もう図鑑ボディもないため、人の言葉は喋っていないけど……なんとなく、何を言っているのかはわかる気がした。


しずく「それじゃ、かすみさん、行こっか!」

かすみ「うん! 旅の続きへ!」

しずく「まあ、とりあえず今から向かうのは宿だけどね……あはは」


フソウ島で出会ったロトムを無事“おや”である鞠莉博士に送り届け、また新たな目的地に向けて……私たちの旅は続くったら続く──



447 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/18(金) 14:32:54.80 ID:/fdwqF8y0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウチウラシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         ● .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.17 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.17 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      スボミー♂ Lv.15 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.20 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:107匹 捕まえた数:8匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.17 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.19 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.15 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.16 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:97匹 捕まえた数:6匹


 しずくと かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



448 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/19(土) 15:44:31.11 ID:tV2B+qbY0

■Chapter022 『再会! ホシゾラシティ!』 【SIDE Yu】





侑・歩夢「「──お世話になりました!」」


早朝のコメコの森の中、二人でお礼を言いながら、頭を下げる。


エマ「もう、行っちゃうんだね……」

彼方「花陽ちゃんが戻ってくるまでゆっくりしてればいいのに〜……」

遥「お姉ちゃん、そんなこと言ったら侑さんたち、行きづらくなっちゃうよ。……私も寂しいけど」


エマさんも彼方さんも遥ちゃんも、名残惜しそうだけど……。


侑「二人で話し合って決めたので……。今は前に進もうと思います」

歩夢「ジムへの再挑戦は、旅の中でもっと強くなってからにしようって……」

侑「もちろん、歩夢と二人でね」

歩夢「うん♪」

リナ『二人ともすっかり仲直りしてくれて、私嬉しい。リナちゃんボード「ハッピー」』 || > ◡ < ||

彼方「まあ、そういうことなら仕方ないか〜……」


彼方さんは、そう言いながら肩を竦める。


侑「彼方さん、本当にありがとうございました。彼方さんのお陰で大切なことに気付くことが出来ました」

彼方「うんうん。これからも、その気持ちを忘れずに頑張るんだよ〜」

侑「はい! 遥ちゃんもいろいろありがとう!」

遥「とんでもないです! この先の旅も、頑張ってくださいね!」

侑「うん!」


私は二人から激励を貰い、感謝の言葉を返す。


エマ「歩夢ちゃん。疲れたときは、またコメコ牧場に来てね♪ いつでも大歓迎だから!」

歩夢「はい! また遊びに行きます!」

エマ「わたし、歩夢ちゃんはきっと、すっごいトレーナーになれると思ってるから……! 応援してるね!」

歩夢「えへへ……ありがとうございます……!」


歩夢もエマさんから激励を受けて、嬉しそうだ。

……さて、いつまでもこうしていたら、別れが名残惜しくて先に進めなくなっちゃう。


侑「穂乃果さんと千歌さんに、よろしく伝えておいてください」

彼方「うん、わかった〜。伝えておくよ〜」


結局、私が滞在している間、千歌さんは帰ってこなかったし、穂乃果さんは今日も今日とて、朝からロッジを空けていた。

二人とも忙しくて、しっかりとお話が出来たわけじゃないけど……チャンピオンたちと出会ったということ自体が良い刺激になったと思う。


侑「それじゃ、行こうか! 歩夢! リナちゃん!」
 「ブイブイ」

歩夢「うん!」

リナ『次の目的地に向けて出発進行〜!』 ||,,> 𝅎 <,,||
449 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/19(土) 15:45:25.60 ID:tV2B+qbY0

私たちはお世話になった彼方さんたちと別れて──再び、旅への一歩を踏み出した。





    🎹    🎹    🎹





明るいうちに進むコメコの森はすごく歩きやすく、1時間もしないうちに森を抜けることが出来た。

森を抜け、3番道路を抜けた先に──


侑「……ホシゾラシティだ!」
 「ブブイ〜」

歩夢「うん!」


新たな町が広がっていた。


リナ『ホシゾラシティは北の流星山、南のスルガ海、西のコメコの森、東のスタービーチに囲まれた、自然の町だよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「確か……石材の切り出しとか加工をやってる町なんだっけ?」

リナ『うん。ここで切り出されて加工された石材は、オトノキ地方中に出荷されてくんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||


どうやら、コメコに続いて、この町も自然産業の町のようだ。

確かにリナちゃんや歩夢が言うとおり、町のところどころに切り出された石材が並べられている。

自然の町だけど、コメコシティとは雰囲気が全然違い、新しい町にやってきたんだという実感が湧いてくる。


リナ『そういえば二人とも、この後はどうするの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「あー……どうしようか」
 「ブイ?」


ホシゾラシティにもポケモンジムはあるけど……今朝の時点で花陽さんが帰ってきていなかったということは、たぶん凛さんもまだジムを空けたままな気がするけど……。


侑「……とりあえず、一度ジムに行ってみようか。今挑戦するかはともかくとして、もし戻ってきてるなら凛さんに挨拶くらいしたいし。歩夢もそれでいい?」

歩夢「うん。それじゃ、ジムに行ってみよっか」

リナ『わかった。じゃあ、ジムへの道案内を始めるね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「よろしくね、リナちゃん」


リナちゃんの案内に従って、私たちはホシゾラジムを目指すことにする。

──町中を歩くこと数分。ジムまではさほど掛からずに辿り着く。


リナ『──あそこにあるのがホシゾラジムだよ』 || > ◡ < ||


リナちゃんの言うとおり、いかにもポケモンジムらしい建物が見えてくる。

そのとき突然、歩夢の方から──pipipipipi!! と音が聞こえてくる。


侑「? 何の音?」

歩夢「え?」


どうやら、音は歩夢の上着のポケットから鳴っているようだった。

歩夢がポケットに手を入れると──


歩夢「ポケモン図鑑が鳴ってる……?」──pipipipipipipi!!!
450 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/19(土) 15:46:17.78 ID:tV2B+qbY0

歩夢が自分のポケモン図鑑を見て小首を傾げながら、図鑑のボタンを押すと、すぐに音が鳴り止む。


歩夢「あ、止まった……」

侑「なんだったの?」

歩夢「うーん……わかんない……」


どうやら、歩夢にもなんで鳴っていたかに心当たりがないらしい。

……けど、その理由はすぐにわかった。

少し離れたところ──ジムの方から、同じように、pipipipipipi!!!! と音が聞こえてきたからだ。

音のする方に目を向けると、二人の女の子の姿。


女の子1「わわっ、急になになに!?」──pipipipipipipi!!!
 「ガゥゥ…?」

女の子2「これもしかして……」──pipipipipipipi!!!

女の子1「何か知ってるの……? ってか、しず子のも鳴ってんじゃん!」──pipipipipipi!!!

侑「あれ……!?」

歩夢「もしかして……!」

侑「うん!」

リナ『?』 || ? ᇫ ? ||


歩夢と頷き合って、ジムの前にいる女の子たちに駆け寄り、声を掛ける。


侑「かすみちゃん! しずくちゃん!」

かすみ・しずく「「え?」」──pipipipipipi!!!


名前を呼ぶと、女の子たち──もとい、かすみちゃんとしずくちゃんがこちらに振り返った。


かすみ「え!? 侑先輩に歩夢先輩!? なんでなんで!? なんでここにいるんですか!? ってか、これうるさいんだけど!」──pipipipipipipi!!!
 「ガゥガゥ♪」

しずく「かすみさん、図鑑のボタンを押せば止まるよ」

かすみ「……あ、ホントだ」


しずくちゃんが言ったとおりに、かすみちゃんが図鑑のボタンを押すと、音が鳴り止む。


かすみ「これ、なんの音だったの……?」

しずく「図鑑の共鳴音だよ。同じセットの3つの図鑑が揃うと鳴るって聞いていたけど……こういう感じなんだね」

侑「へー……ポケモン図鑑にそんな機能が……」


どうりで歩夢の図鑑も鳴っていたわけだ。


歩夢「それにしても……ちょっと会わなかっただけなのに、久しぶりに会ったみたいな気がするね。私たち、今さっきこの町に着いたところで、とりあえずジムに来てみたら、二人がいてびっくりしちゃった」

しずく「そうだったんですね。私とかすみさんも、今さっきこの町に戻ってきたところでして……」

侑「戻ってきた? 前にも一度来たってこと?」

しずく「あ、はい! 前に来たとき、ジムが開いていなかったので、一旦ウチウラシティ方面に行っていたんです」

かすみ「でも、結局ハズレみたいですぅ……ちょっと間を空ければ再開すると思ってたんですけどぉ……」


言われてジムの扉を見ると──確かに、『ジムリーダー不在のため、ジム戦の受付を停止しています』との張り紙がしてあった。
451 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/19(土) 15:47:12.43 ID:tV2B+qbY0

歩夢「やっぱり、凛さんもまだ戻ってなかったね」

侑「まあ、わかってたことだから、仕方ないね」


となると、次は私たちもウチウラシティ方面かな……などと考えていると、


リナ『……侑さん、そろそろこの二人のこと紹介して欲しい』 || ╹ᇫ╹ ||


私の目の前にリナちゃんが下りてくる。


侑「ああ、ごめんね。そういえばリナちゃんはまだ会ったことなかったね。この二人はかすみちゃんとしずくちゃん。歩夢と一緒に図鑑を貰った子たちだよ」

リナ『なるほど。一緒に旅に出たお友達なんだね』 ||,,> ◡ <,,||

かすみ「あれれ? 侑先輩の図鑑もロトム図鑑だったんですか?」

侑「かすみちゃん、ロトム図鑑のこと知ってるの?」

しずく「実は私たち、いろいろあって、少しの間ですが、ロトム図鑑と一緒に旅をしていたんですよ」

歩夢「そうだったんだ。今はもういないの?」

しずく「はい、もともと私のロトムではなかったので……持ち主にお返ししました」


事情はよくわからないけど、ロトム図鑑のことを知っているなら話が早い。

……リナちゃんは実はロトム図鑑じゃないから、言う前にロトム図鑑だと納得してくれるならそれに越したことはない。変に誤魔化さないで済むしね。


リナ『かすみちゃん、しずくちゃん、初めまして。私はロトム図鑑のリナって言います』 || > ◡ < ||

かすみ「こっちのロトム図鑑はニックネームが付いてるんですね! じゃあ、リナ子だね! よろしく!」

しずく「また勝手にあだ名付けて……。よろしくね、リナさん」

リナ『よろしくね、二人とも』 || ╹ ◡ ╹ ||


挨拶もそこそこに。


歩夢「とりあえず、ジム戦は出来なさそうだし……どこか落ち着ける場所に移動しない?」

しずく「そうですね! お互い、積もる話もあるでしょうし……! 近くに落ち着いた感じのカフェがあったので、そこはどうでしょうか?」

歩夢「わぁ! いいかも! 行こう行こう♪」


歩夢としずくちゃんが、ガーリーな会話をしながら盛り上がっている。

まあ、一旦腰を落ち着けて話したいのは確かだよね。


侑「私たちも行こうか、かすみちゃん」


歩夢たちに倣って、カフェに行こうとした、そのとき、


かすみ「ちょーーーっと待ってください!!」


かすみちゃんが大きな声をあげながら、私たちを制止する。


しずく「何? かすみさん、カフェに行かないなら置いてっちゃうよ?」

かすみ「カフェには行く! でも、その前にやることがあるでしょ!」

歩夢「やること……?」

かすみ「ここにはポケモントレーナーが4人もいるんですよ! ポケモントレーナー同士、目が合ったらやることは1つじゃないですか!!」


なるほど、そういうことか。
452 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/19(土) 15:48:12.94 ID:tV2B+qbY0

侑「ポケモンバトル……だね!」
 「ブブイ!!」

かすみ「そうですそうです! さっすが侑先輩!」
 「ガゥガゥ!!」

かすみ「さぁさぁ!! しず子と歩夢先輩も準備してください!!」


かすみちゃんが歩夢としずくちゃんにもバトルを促すと、


歩夢「え、えっと……バトルもいいんだけど……私はみんなとお話がしたいかなぁ……あはは」

しずく「私も……お話ししてからじゃダメかな……?」


二人とも、バトルよりも早くカフェに行きたいようだった。


かすみ「えぇー……もういいです! 侑先輩! 二人でバトルしましょう!」

侑「いいよ! イーブイ! お願い!」
 「ブイ!!!」

かすみ「ゾロア!! 行くよ!!」
 「ガゥッ!!!」


すでに外に出ていたイーブイとゾロアが飛び出して向かっていく。


かすみ「ゾロア! “ひっかく”!」
 「ガゥゥッ!!!」

侑「イーブイ! “とっしん”!」
 「ブブイッ!!!」


2匹がぶつかり合う、その瞬間だった。ゾロアとイーブイの間に──突然、小さな何かが降ってきた。


侑・かすみ「「!!?」」

侑「イーブイ、ストップ!?」

かすみ「ゾロア、止まってぇっ!?」

 「ブイッ!?」「ガゥゥッ!!?」


咄嗟にそれを巻き込まないようにストップを掛ける。

突然の指示だったけど、どうにかイーブイもゾロアも、ギリギリで止まることが出来た。


侑「あ、危なかった……」

かすみ「ちょっとぉ!? なんなんですかぁ!?」


改めて、落ちて来たモノに目を向けると──


 「…ニャァ」

侑「……え?」


ニャスパーがこちらをじーっと見つめていた。


かすみ「って、なんですかなんですか!! この可愛いポケモンは!!」

歩夢「あ、あれ……? このニャスパーって、もしかして……?」

リナ『また、このニャスパー……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「もしかして……ここまで付いてきたの……?」

 「ニャァ」
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