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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」

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453 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/19(土) 15:49:19.20 ID:tV2B+qbY0

相変わらず表情の読めないニャスパー。理由はわからないけど……ドッグランからさらに、ここホシゾラシティまで追いかけて来たらしい。


しずく「付いてきたって、どういうことですか?」

歩夢「えっとね……最初は7番道路で会ったんだけど……」

しずく「7番道路……カーテンクリフの麓ですね」

歩夢「うん……。そこから、ダリアシティ、ドッグランでも会って……」

しずく「えぇ……? それって随分な距離ですよね? 野生のポケモンが移動する距離ではないような……」

歩夢「私もそう思うんだけど……」


しずくちゃんの言うとおり、どう考えても普通の野生ポケモンの移動距離ではない……。となると、


侑「やっぱり、私たちを追いかけてきてる……?」

リナ『そう考える方が、自然かも……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

 「ニャァ」


相変わらず、私の方をずっと見つめてるし……。


かすみ「あのあのあの!! 侑先輩!!」

侑「? どうしたの、かすみちゃん?」

かすみ「この子、野生のポケモンなんですよね!?」

侑「う、うん……たぶん」

かすみ「じゃあ、かすみんが捕まえちゃっていいですか!? いいですよね!!」

侑「え? え、えーっと……?」

しずく「ちょっと、かすみさん! 侑先輩たちの話聞いてたの!?」

かすみ「聞いてたって〜。つまり遠くまで侑先輩たちを追いかけてきた野生のポケモンってことでしょ?」

しずく「ま、まあ……それは、あってるけど……」

かすみ「そして、偶然その場にかすみんが居合わせたわけです! これって運命だと思わない!?」

しずく「……自分にとって都合の良い解釈過ぎるような」

かすみ「いやいや! こんな可愛いくて、かすみんにゲットされるために生まれてきたようなポケモン、捕まえないとむしろ失礼です!」

 「ニャァ」

しずく「歩夢さん、侑先輩……かすみさんを止めてくださいぃ……」


暴走するかすみちゃんに、早くも白旗を上げるしずくちゃん。……確かにかすみちゃん思い込みが激しいところあるからなぁ。


歩夢「うーんと……えーっと……。……でも、野生なら誰かのポケモンってわけじゃないし……」

侑「文句を言うのもおかしいよね……」

リナ『確かに。野生ポケモンの捕獲機会は全てのトレーナーにとって、平等であるべき』 || ╹ᇫ╹ ||

しずく「え、ええ……。……まあ、侑先輩たちがそれでいいなら、私はいいんですけど……」


しずくちゃんの言わんとしていることもわかるけど……。なんというか、かすみちゃんを止める理由もないというか……。


かすみ「話は付きましたね! それじゃ、行きますよ!」

 「ニャァ?」

かすみ「モンスターボール!!」


かすみちゃんが、空のモンスターボールをニャスパーに向かって投擲する。

相手は全く動かず、私の方をじーっと見つめているだけのニャスパーだ。外すわけもなく。
454 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/19(土) 15:50:09.49 ID:tV2B+qbY0

 「ニャッ」


ボールは──コンとニャスパーの頭にぶつかったあと……弾かれて、地面を転がる。


かすみ「……あ、あれ……??」

しずく「ボールに……入らない……?」

かすみ「ど、どうして……!? もう1回……!!」


かすみちゃんは再びボールをニャスパーに向かって投げつけるが、


 「ニャッ」


弾かれて──テンテンテンと音を立てながら、地面を転がるだけだった。


かすみ「なんでですかぁ……っ……?」

侑「……? どういうこと……?」

しずく「もしかして……誰かの捕獲済みのポケモンなんじゃないでしょうか」

歩夢「捕獲済みのポケモン?」

しずく「はい、前にも同じようなことがあって……すでに誰かが捕獲したポケモンは、他の人間が捕獲することは出来ないんです」

侑「そうなの?」


思わずリナちゃんに確認を取ると、


リナ『うん。モンスターボールとポケモンは紐づけされるから、“おや”以外がボールに入れることは出来なくなる』 || ╹ᇫ╹ ||


とのこと。


かすみ「じ、じゃあ……かすみんはこの子を捕獲出来ないってことですか……?」

 「ニャァ」

リナ『そうなる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「そんなぁ〜……」


かすみちゃんはガックリと項垂れてしまう。


歩夢「そうなると、この子にはすでに“おや”がいるってことになるけど……」

 「ニャァ」

侑「……その“おや”って誰……?」

 「ニャァ」


……やっぱり、ニャスパーはこっちをじーっと見つめたままだし。


かすみ「……実は侑先輩が“おや”なんじゃないんですか……。……ずっと、侑先輩のこと見てるし」

侑「いや、まさか……」


ニャスパーを捕まえた覚えはないしなぁ……。

一応試しては見るけど……。

ボールを手に持って、ニャスパーに近付き。


侑「ちょっとごめんね」

 「ニャァ?」
455 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/19(土) 15:50:56.48 ID:tV2B+qbY0

ボールを手に持ったまま、ニャスパーにボールを押し当ててみる。


 「フニャァ〜…」


しばらく押し付けてみるけど……。


侑「やっぱり、ボールには入らないよ……」


私でもボールに収めることは出来なかった。


しずく「となると……迷子のポケモンかもしれませんね」

歩夢「どこかから逃げ出しちゃった子ってこと……?」

しずく「はい……恐らくは」

歩夢「それだと、トレーナーの人……今頃、探してるかもしれないね」

侑「そうだね……」

 「ニャァ?」


ニャスパーは私たちの話がわかっているのか、いないのか……無表情のまま小首を傾げている。


侑「……とりあえず、一度ポケモンセンターに連れて行ってみようか」

しずく「それが良いかもしれませんね。もしかしたら、捜索願いが出ているかもしれませんし」

侑「うん。ニャスパー、ちょっとポケモンセンターまで行こうね」

 「ニャァ?」


腰を屈めて、ニャスパーを抱き上げる。

……ここまで、近付いてボールを押し付けても逃げたりしなかった辺り、大丈夫だとは思っていたけど……ニャスパーは私が抱きかかえても全く抵抗しなかった。


リナ『ポケモンセンターへ案内する』 || ╹ᇫ╹ ||


私たちは一旦、ポケモンセンターへと向かう──





    🎹    🎹    🎹





──ポケモンセンターにて。


侑「はい、そうですか……ありがとうございます」


私が代表して、ジョーイさんに捜索願いが出ているかを訊ねてみたけど……。
456 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/19(土) 15:52:00.13 ID:tV2B+qbY0

しずく「侑先輩、どうでしたか?」

侑「うぅん……特にそういう届け出はポケモンセンターには来てないみたい」

歩夢「“おや”の人は探してないのかな……?」

しずく「ですが、ボールに入らない以上、逃がされたポケモンではないはずなので……。この子の持ち主の方がなんらかの理由で探せない状態にある……とかでしょうか」

 「ニャァ?」

かすみ「トレーナーの人が病気で動けないとか?」

リナ『確かに、そういう可能性はあると思う』 || ╹ᇫ╹ ||

しずく「あと可能性としては……すでに──」


しずくちゃんは、そこまで言い掛けて、


しずく「……いえ、こういうことはあまり言うべきではありませんね」


最終的に、言葉を濁す。


リナ『まあ……可能性として、なくはない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「え? なになに? どういうこと?」

しずく「なんでもないよ、かすみさん」

歩夢「とりあえず……このニャスパーをどうするかだね」

 「ニャァ?」

侑「……私はこの子のトレーナーを探してあげた方がいいと思う」


ポケモンがトレーナーと離れ離れになるなんて……もし、それが自分のことだったら、すごく寂しいだろうし。


かすみ「かすみんも同感です! こんな可愛い子、理由もなくほったらかしにしてると思えませんし!」

しずく「となると……一旦ボールに入れてしまった方が良いかもしれませんね。連れ歩きをし続けるのは、何かと不便もあるでしょうし……」

リナ『そうだね。また逃げ出す原因にもなる』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「でも、ボールに入れられないんじゃないの?」

しずく「ポケモンセンターでなら、ボールの移動が出来ますよ。まあ、強いて問題があるとしたら……」

リナ『誰のボールに入れるか』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「じゃあ、かすみんが連れて行きます!」

しずく「ほら……」


しずくちゃんは、案の定とでも言いたげな顔で、溜め息を吐く。


かすみ「なんで溜め息吐くの!?」

しずく「私はかすみさんよりも、侑先輩が連れていくべきだと思います。このニャスパー、理由はわかりませんが、ずっと侑先輩を意識している気がしますし……」

 「ニャァ?」

歩夢「私も侑ちゃんと一緒の方がいいと思う……」

かすみ「えぇー……侑先輩、かすみんが連れていっちゃダメですかぁ……?」


かすみちゃんが瞳を潤ませながら、おねだりするように上目遣いでお願いしてくる。


侑「ええっと……」
457 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/19(土) 15:52:51.61 ID:tV2B+qbY0

ただ、私に委ねられても、ちょっと困ってしまう。

確かにニャスパーはよく私のことを見ているけど、私にはこのニャスパーとの繋がりになんら心当たりがない。

そう考えると、誰が連れていっても、出来ることはそんなに変わらないような……。

……こうなったら、本人──というか、本ポケモンに聞くべきだ。


侑「ニャスパーは誰と一緒がいい?」

 「ニャァ?」


でも、ニャスパーは訊ねても小首を傾げるだけだ。

困ったなぁ……。そんな中で、


リナ『私から提案がある』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんがフワリと前に躍り出る。


リナ『せっかくトレーナー同士なんだから、バトルで決めればいいと思う』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

しずく「なるほど……一理ありますね。一緒に旅をするなら、より強いトレーナーのもとにいた方が安全ですし」

かすみ「その話乗りました! 侑先輩! バトルで決めましょう!」

侑「わかった。このまま悩んでても決まらなさそうだしね」


どっちにしろ、かすみちゃんとはバトルしたかったしね。


歩夢「ニャスパーもそれでいい?」


歩夢が訊ねると、


 「ニャーニャー」


ニャスパーは頭上のリナちゃんの方を見ながらぴょんぴょん飛び跳ねていた。


かすみ「ニャスパーも賛成みたいですね!」

しずく「動くリナさんに目を引かれて、飛び跳ねてるだけのような……」

侑「あはは……まあ、一応OKということで」

歩夢「それじゃ……侑ちゃんとかすみちゃんが、全力でバトル出来るように、広い場所がいいよね?」

リナ『それなら、3番道路の流星山の麓がいいと思う。案内する』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


リナちゃんがいつものように、ふわふわと飛びながら道案内を始める。


歩夢「ニャスパーはしばらく、私と居ようね」

 「ニャァ?」


歩夢がニャスパーを抱き上げて、私たちは移動を開始した。



458 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/19(土) 15:53:34.62 ID:tV2B+qbY0

    🎹    🎹    🎹





──3番道路。流星山の麓までやってきた。

辺りは岩肌が露出している開けた場所。確かにここなら、思う存分戦うことが出来そうだ。


かすみ「そういえば、侑先輩はポケモン何匹持ってるんですか?」

侑「私の手持ちは今は3匹だよ」

かすみ「なら、かすみんも3匹で戦いますね!」

侑「いいの?」

かすみ「はい! 正々堂々勝たないと、気持ちよくニャスパーと冒険出来ませんから!」

侑「わかった。それじゃ、お互い使用ポケモンは3匹ね」

かすみ「それ以外のルールはありません! とにかく、相手のバトルポケモンを全部倒した方が勝ちです!」

リナ『シンプルなルール。侑さん、頑張ってね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん!」


お互い、ボールを構える。


歩夢「侑ちゃーん! 頑張ってねー!」

侑「うーん! 頑張るー!」


少し離れたところで観戦している歩夢に手を振る。


しずく「侑さーん! かすみさんに負けないでくださいねー!」

かすみ「ちょっとぉ!? しず子はかすみんを応援する流れでしょ!?」

しずく「はいはい、かすみさんも頑張ってねー」

かすみ「ぐぬぬ……いいもんいいもん! かすみん勝っちゃいますからね!」


両者、ボールを振り被って──


リナ『……バトル──スタート!!』 || > 𝅎 < ||


最初のポケモンを繰り出した。──バトル、開始!



459 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/19(土) 15:54:16.53 ID:tV2B+qbY0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【3番道路】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○_●.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.30 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.27 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.28 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:62匹 捕まえた数:3匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.24 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.22 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホミル♀ Lv.20 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:90匹 捕まえた数:12匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.18 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.19 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.16 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.17 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:98匹 捕まえた数:6匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.18 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.17 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      スボミー♂ Lv.17 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.20 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:108匹 捕まえた数:8匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/11/20(日) 13:15:17.58 ID:grcQQ0/FO
長時間配信(寝休憩あり)

『ポケモン新作・SVクリアするまで
飯も食わないし息もしない』Part.1
(土)15:00〜放送開始

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
461 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/20(日) 17:00:44.93 ID:uk513V0l0

■Chapter023 『決戦! ライバル・かすみ!』 【SIDE Yu】





──お互いが最初のポケモンを繰り出す。


侑「行くよ、ワシボン!」
 「ワシャァッ!!」

かすみ「サニーゴ! 行くよ!」
 「……」


私の1番手はワシボン。

相手はサニーゴ……いや、なんか随分血色が悪いような。


侑「まあいいや……ワシボン! “ブレイククロー”!!」
 「ワッシャァッ!!!」


先手必勝! ワシボンが飛び掛かるようにして、サニーゴに爪を立てるように切り付ける……が、サニーゴの角を狙って振り被った足爪は、


 「ワシャッ!!?」


──スカッ! とすり抜けてしまった。


侑「!? すり抜けた!?」

かすみ「サニーゴ! “かなしばり”!」
 「……」

 「ワシャッ!!?」


攻撃を空振って、動揺しているワシボンを“かなしばり”で縛り付けてく──“かなしばり”……!?


侑「え!? サニーゴってみず・いわタイプじゃ……!?」

かすみ「そのまま、“ちからをすいとる”!」
 「…………」

 「ワ、ワシャ…」


そのまま、パワーを吸い取られて、攻撃力を奪われてしまう。


侑「……! あのサニーゴ、普通のサニーゴじゃない……!」

リナ『侑さん! あのサニーゴはガラルサニーゴ! ゴーストタイプの姿だよ!』 || >ᆷ< ||

侑「ゴーストタイプ……!?」


どうりで、ノーマルタイプの“ブレイククロー”が効かないわけだ……! 確かによく見たら、あのサニーゴちょっと浮いてるし……もっと相手をよく観察しなくちゃ……!


侑「一旦交代!! 戻ってワシボン!」
 「ワシャ──」

侑「行け! ライボルト!」
 「ライボッ!!!」


試合開始早々、選手交代。2番手はライボルト!


侑「“10まんボルト”!!」
 「ライボッ!!!!」

かすみ「“シャドーボール”!!」
 「……」
462 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/20(日) 17:02:14.00 ID:uk513V0l0

電撃とゴーストタイプのエネルギー弾が空中でぶつかり合う。


侑「でんきタイプとゴーストタイプなら、相性は五分のはず……!!」


しかもこっちは進化系のライボルト……! 単純な攻撃のパワーなら迫り勝てる……!


 「ライボォッ!!!!」

かすみ「あ、あわわ!? 押されてるよ!? サニーゴ!?」
 「…………」

侑「いっけぇ!!」


ライボルトの電撃は“シャドーボール”を撃ち抜き──そのまま、サニーゴに電撃が直撃し、バチバチと音を立てながらサニーゴにダメージを与える。


 「…………!」
かすみ「さ、サニーゴっ!?」


しばらく、電撃をその身に受けたあと──サニーゴはポトッと地面に落ちてしまった。


侑「よし! まず1匹……!」
 「ライボッ!!!」

かすみ「サ、サニーゴ……」
 「…………」

かすみ「……な〜んちゃって〜♪」


かすみちゃんがペロリと舌を出す。


侑「!?」


直後、グラグラと地面が揺れ始め──ボンッ! と音を立てながら、ライボルトの足元が爆発した。


 「ライボッ…!!?」
侑「な、何!?」

リナ『“だいちのちから”!? まだ、サニーゴは戦闘不能になってない!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……っ!?」

かすみ「表情が読めないのが、役に立つこともあるんですよ〜♪ さぁ、畳みかけますよ!」
 「……」


再びサニーゴがふわりと浮くと同時に、またゴゴゴと地鳴りが聞こえてくる。


侑「また、“だいちのちから”……!? なら……! “でんじふゆう”!!」
 「ライボ…!!」


ライボルトが電磁力によって、ふわりと浮き上がる。

これで、じめんタイプの技は避けられるはず……!


かすみ「さすが抜かりないですねぇ……でも、これはじめん技じゃないですよ!」

侑「え!?」


確かに、地面からの攻撃はいつまで経っても来ない。ただ、地鳴りはまだ聞こえてくる。……でも、


侑「音は山側から……!?」


地鳴りの音源が、すぐ傍の山側からだと気付き、目を向けると──大岩がこっちに向かって大量に転がってきていた。
463 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/20(日) 17:08:27.90 ID:uk513V0l0

侑「“いわなだれ”!?」

かすみ「“しぜんのちから”をお借りしましたよ!」

リナ『岩場での“しぜんのちから”は“いわなだれ”になる!? 侑さん、避けて!?』 || ? ᆷ ! ||


避ける……!? 無理だ……!?

この量の岩じゃ、“でんじふゆう”していても飲み込まれてしまう。こうなったら、


侑「ライボルト!! 電撃を一点集中!!」
 「ライボッ!!!」


一か八か……!! 自分たちに向かってくる分だけ、撃ち抜いて破壊する!! 急速に“じゅうでん”を始めたライボルトは、ギリギリまで引きつけてから、岩に向かって集束した電撃による防御、


侑「“チャージビーム”!!」
 「ライ、ボォォォォ!!!!!」


眩く閃光が迸る。ギリギリまで引き付けたおかげで、光線はどうにか岩を穿ち、大きな岩の直撃だけはどうにか回避する。


侑「あ……あっぶな……!」
 「ラ、ライボッ…!!」


でも、全てを捌き切ることは出来なかった。小さな石の礫や塊は、ライボルトに直撃していた。

そのため、体力的にもうそろそろまずい。


かすみ「! やりますね、侑先輩!」


かすみちゃんの声に視線を前に戻すと──サニーゴの姿が見えなかった。


かすみ「でも、これで終わりですよ! “パワージェ──」

侑「──“かみなり”!!!」
 「ライボッ!!!!!」


空から、ライボルトに向かって、一筋の“かみなり”が迸った。


かすみ「んなぁ!?」


かすみちゃんの驚きの声と共に──ひゅーんとサニーゴが落っこちてきて、地面を転がった。


 「………………──」
かすみ「さ、サニーゴぉ!?」

侑「さすがに、今度こそ戦闘不能だよね……」


ここまでの戦闘でダメージも蓄積していただろうし、大技が直撃したんだから、これで倒れてくれないとさすがに困る……。


かすみ「ちょ……なんで、サニーゴのいる場所がわかったんですかぁ!?」


サニーゴの居場所──それは、頭上。ライボルトの真上だった。


侑「“いわなだれ”の処理でサニーゴを目で追えてなかったけど……。逆に言うなら、サニーゴからしても周りの岩が邪魔で攻撃しづらいからね」


そうなると、空を飛べるサニーゴにとって絶好の攻撃ポジションはどこか?
464 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/20(日) 17:09:37.42 ID:uk513V0l0

侑「そうなったら、頭上に位置取るかなって思って」

かすみ「ぎ、逆に誘い込まれたってことですかぁ……?」

侑「ふふ、まあね♪」

かすみ「ぐぬぬ……や、やるじゃないですか……!」


かすみちゃんの戦い方は、とにかく相手を攪乱しながら、自分のペースに巻き込んで、動揺したところに確実に攻撃を加えていくスタイルだ。

学校でイタズラを叱られて逃げるときも、自分たちの隠れ場所とは別の場所で音を鳴らして、注意が逸れた隙に逃げたりしていたし……恐らく、今回の戦闘でも同じような感じで、私の視線を誘導してくると思った。

だからこそ、あまり予想しづらい上空から攻撃をしてくると読めたということ。

本来相手に行動を予想させないはずの作戦だけど、付き合いの長さが仇になったわけだ。


かすみ「サニーゴ……戻って」
 「……──」

かすみ「……次、行きますよ!! ジュプトル!!」
 「──プトルッ!!!」

侑「次はジュプトル……! キモリの進化系!」


──ただ、この試合前にかすみちゃんは、ゾロアをボールに戻している。

ということは、


侑「“ほうでん”!!」
 「ライボッ!!!!」


あれはゾロアが化けている姿……!

周囲一帯を範囲攻撃で迎撃する。攻撃を食らったら“イリュージョン”は解けてしまうからだ。


侑「さぁ、これで──」


電撃によって、化けの皮を剥がされたゾロアが姿を現す──と思った、瞬間だった。


 「──プトル…!!」

 「ライッ!!?」
侑「!?」


すでに目の前に肉薄していた、ジュプトルが腕の刃を構えているところだった。


かすみ「“リーフブレード”!!」
 「プトルッ!!!!!」


── 一閃。至近距離から袈裟薙ぎに斬り裂かれたライボルトは、


 「ラ、イ…ッ」


そのまま、力尽きて倒れてしまった。


かすみ「侑先輩知らないんですか〜? くさタイプにはでんきタイプは効果いまひとつなんですよ〜?♪」

侑「ぞ、ゾロアじゃない……!?」

かすみ「“イリュージョン”は無理に使わなくても、手持ちにいるだけで、相手を騙せちゃうんですよね〜♪」


逆に決め打ちしすぎて、裏の裏を掛かれた……。さすがに一筋縄ではいかない……切り替えなくちゃ。


侑「ありがとうライボルト、戻って。もう一度行くよ! ワシボン!」


ライボルトをボールに戻して、再度ワシボンを繰り出す。
465 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/20(日) 17:10:22.99 ID:uk513V0l0

 「──ワッシャァ!!!」


ボールから飛び出すとともに、ジュカインに向かって肉薄する。


侑「“ダブルウイング”!!」
 「ワッシャァッ!!!」


一方かすみちゃんはそれを迎撃する形で、


かすみ「“リーフブレード”!!」
 「プトルッ!!!」


ジュプトルの両腕の刃で、攻撃を受け止める。

2匹の攻撃がぶつかると同時に弾け、その勢いのまま両者が後退する。


侑「勢いを殺さずに畳みかけるよ! “ブレイククロー”!!」
 「ワシャァッ!!!」


旋回しながら、勢いを保って、再び近接攻撃の姿勢に。

爪を突きだし、空中から飛び掛かる。一直線にジュプトルに向かって行く中で、


かすみ「“やどりぎのタネ”!!」
 「ジューーープッ!!!!」


ジュプトルは空中に向かって、“やどりぎのタネ”を吐きだしてきた。

もちろん、一直線に飛んでいたため、


 「ワシャッ!!?」


回避は出来ず直撃するが、


侑「怯まないで!!」
 「ワ、ワシャァッ!!!!」


そのまま、爪を使って、ジュプトルに斬撃を与え、再び空中へと離脱する。


 「ジュ、ジュプトッ!!!」
かすみ「これくらいなら誤差です! “グラスフィールド”!!」

 「プトルッ!!!」


かすみちゃんの指示と共に、ジュプトルを中心に辺りに草が生い茂り始める。


リナ『“グラスフィールド”は地上にいる間、HPが回復し続ける技だよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

かすみ「さらに、“こうごうせい”です!」
 「ジュプトォ!!!」


“こうごうせい”も回復技……。まずい持久戦に持ち込むつもりだ。

私の苦手な展開……。いや、だからこそ冷静に……!


侑「1個ずつ対策するよ! まず、“あまごい”!!」
 「ワシャァッ!!」


──ポツポツと雨が降り始める。


かすみ「って、わわわ!? なんてことするんですかぁ!?」

リナ『雨が降ってると、“こうごうせい”の効果は半減する! 良い対策!』 || > ◡ < ||
466 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/20(日) 17:11:16.38 ID:uk513V0l0

恐らくかすみちゃんが持久戦を選んできた理由は──


侑「ジュプトルは相性的に有効打が少ないからだよね……!」

かすみ「ギクッ」


積極的な撃ち合いを避けるんだったら、私にも考えがある。


侑「ワシボン!! “エアスラッシュ”!!」
 「ワシャシャッ!!!」


ワシボンが風の刃を連続で放つ。


かすみ「あーもう!! “れんぞくぎり”!!」
 「プトルルルッ!!!!」


一方で、ジュプトルはそれを的確に斬撃で相殺してくる。

──でも、それでいい。


 「ワッシャァッ!!!」

 「プトォルッ!!?」
かすみ「!? 突っ込んで来たぁ!?」


“エアスラッシュ”は目くらましだ。

撃った“エアスラッシュ”を追いかけるようにして、飛び込んでいったワシボンはそのまま、


 「ワシャッ!!!」


猛禽の爪でガッチリとジュプトルの両肩を掴む。


侑「そのまま飛ぶよ! “フリーフォール”!!」
 「ワシャァッ!!!!」

 「ジュ、ジュプト!!!」


ジュプトルは、ジタバタともがくが、ガッチリとホールドされている上に、空中に運び出されて自由が効かない。

さらに空に持ち上げてしまえば、“グラスフィールド”による回復の効果もなくなる。


かすみ「そ、それで回復を封じたつもりですか! まだ“やどりぎのタネ”があるもん!」


──確かにかすみちゃんの言うとおり、これは時間稼ぎであって根本的な解決にはなっていない。

“フリーフォール”だって、いつまでも持ち上げ続けているわけにはいかない。

だけど、“フリーフォール”は防御のためだけの技というわけではない。これはあくまで攻撃技だ。

ぐんぐん上空へと上昇したあと──


 「ワシャッ!!」


ワシボンは食いこませた爪をパッと放す。


 「プ、プトォッ!!」


もちろん、ここまでは相手も予想済みだろう。


かすみ「ジュプトルーーーー!!! 受け身取ってーーーー!! 受け身ーーー!!」

 「プ、プトォッ!!!!!」
467 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/20(日) 17:12:16.55 ID:uk513V0l0

上空に向かって叫ぶかすみちゃん。数秒と経たないうちに重力に引かれて地面に墜落したジュプトルは、接地と同時にゴロゴロと転がりながら、落下のダメージを殺す。


 「プ、プトォ…ッ…」
かすみ「せ、セーフ……! “グラスフィールド”があって助かりました……」


草の生い茂る地面のお陰か、どうにか立ち上がるジュプトル。さすがの身のこなしだ。

だけど、上空から叩きつけられたのは、小さくないダメージのはず。

そして──私が本当に狙っていたのは、この次だ。


 「プ、プトォ…!!?」


急に、ふわっとジュプトルの体が浮く。


かすみ「へ!? な、なに!?」

侑「わざわざ雨にしたんだから、利用しなくちゃ!!」


雨の中、上空に残ったワシボンは激しく翼を羽ばたかせながら、大きな風の渦を作り始めていた。


かすみ「!!? た、竜巻ぃ!!?」


竜巻のような大きな風の渦がジュプトルを引き寄せるようにして、宙に持ち上げていた。

普段はなかなか成功率が低いけど……風雨の中では一気に技を出しやすくなる大技……!!


侑「“ぼうふう”!!」

 「ワシャァァァァァ!!!!!!」

 「ジ、ジュプトォォォォ!!!?」


そのまま、ジュプトルは再び上空へと巻き上げられる。


かすみ「じ、ジュプトルー!!?」


上空にいるワシボンの場所まで打ち上げられた無防備なジュプトルに攻撃を加えるのはなんてことはない。


侑「“つばさでうつ”!!!」

 「ワシャァァァァァァッ!!!!!!」

 「プットォルッ!!!?」


上から思いっきり翼を叩きつけての一撃!

一気に落下して、ズドンと地面に叩きつけられたジュプトルは、


 「プ、プトォ…」


“グラスフィールド”による落下ダメージの軽減があっても耐え切れず、2度目の落下で今度こそ戦闘不能になった。


かすみ「も、戻ってジュプトル……」

侑「さぁ、残り1匹だね」


ただ、ワシボンも結構な時間、“やどりぎのタネ”で体力を吸われていた。そろそろ、HPも限界が近いだろう。


侑「戻ってワシボン」
 「ワシャ──」


一旦ワシボンは引かせる。そして、
468 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/20(日) 17:13:39.45 ID:uk513V0l0

侑「イーブイ! 最後、決めるよ!」
 「ブイ!!」


私の傍でずっと出番を待っていたイーブイが、フィールドに踊りだす。


かすみ「むむむ……ピンチです……。でも、かすみん負けるつもりはないですよ! ゾロア!」
 「──ガゥッ!!!」

侑「やっぱり、最後はゾロアだね……!」


恐らくかすみちゃんが最も信頼しているであろう相棒、ゾロア。だけど、“イリュージョン”は使っていないから、真っ向勝負だ……!


かすみ「ゾロア! “ちょうはつ”!!」
 「ガガゥッガゥガゥッ♪」

 「…ブイ?」


ゾロアがベロっと舌を出しながら、尻尾を振ってイーブイを“ちょうはつ”してくる。

イーブイは明らかに不機嫌そうな顔でゾロアを睨みつける。

“ちょうはつ”は相手の戦意を刺激して、補助技を使わせなくする技だ。


侑「望むところだよ! こっちは最初から搦め手で戦うつもりなんてないし! イーブイ! “でんこうせっか”!!」
 「ブイッ!!!!」


飛び出すイーブイ。一方ゾロアは、


かすみ「“みきり”!!」
 「ガゥッ!!!」


初っ端から“みきり”での回避。


侑「最初から使っちゃっていいのかな!!」


“みきり”は使えば使うほど、成功率が下がっていく技だ。

それに隠しておいた方が便利な技でもある。だけど、かすみちゃんは最初からその札を切ってくる。


侑「2度目は外さない!! もう1度──」

かすみ「“いちゃもん”!!」
 「ガゥガゥッ!!!」

 「…ブイ」


今度は文句を付けるように、激しく吠える。イーブイはさらに不機嫌そうな顔になりながら、攻撃の足を止めてしまう。


リナ『“いちゃもん”されると同じ技が連続で出せなくなっちゃう!』 || > _ <𝅝||

侑「っ……! また、補助技……!」

かすみ「動きを制限した今のうちに! “わるだくみ”!!」
 「ガゥ! シシシッ」


今度は自身の特攻を強化する、“わるだくみ”。

こっちの動きを制限しながら自分を強化して、有利に戦闘を運ぶつもりのようだ。


侑「相手を自由にさせちゃダメだ! “スピードスター”!!」
 「ブーーイッ!!!!」


イーブイから星型のエネルギー弾が発射される。

“スピードスター”は相手を追跡する、必中技……!
469 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/20(日) 17:14:34.70 ID:uk513V0l0

かすみ「遅いですよ! こっちの準備はもう十分です! “あくのはどう”!!」
 「ガーーゥッ!!!!!」


ゾロアを中心に一気に、黒い波動が広がり、“スピードスター”を飲み込み──


 「ブ、ブィィ!!?」


さらにそのまま、イーブイに襲い掛かる。


侑「イーブイ、大丈夫!?」
 「ブ、ブイ!!」


攻撃は直撃したものの、“スピードスター”で威力を殺せた分もある。

お陰で致命傷にはならなかったけど……。


侑「……相手の能力が上がってる分、攻撃が力負けしてる……!」


なら……。


かすみ「次の攻撃は回避したいって思いますよね!」

侑「!?」

かすみ「“みきり”は使わせませんよ! “ふういん”!!」
 「ガゥッ!!!」

 「ブ、ブイ!?」
侑「し、しまった……!?」


ゾロアが鳴くと、イーブイが一瞬ビクリと竦む。見た目にはほとんど変わりはないけど──“ふういん”は自分が覚えているのと同じ技を使えなくする技だ。

つまり、いくら私が“みきり”を温存しても、ゾロアが覚えている以上、この技は使えないということになる。


かすみ「ついでに“スピードスター”も使えませんよ〜? 貴重な遠距離攻撃技がなくなっちゃいましたね〜!」

侑「……」


確かに、イーブイは本来、進化後にいろんな姿になる分、進化前のエネルギーを蓄えている間は、技のバリエーションが少ないポケモンだ。

だけど──私の相棒は違う。


かすみ「さぁ、畳みかけますよー!!」
 「ガゥッ!!!!」


ゾロアから再び、黒いエネルギーが漏れだそうとした瞬間、


侑「“びりびりエレキ”!!」
 「ブーーイッ!!!!」


イーブイの体毛がパチパチと音を立てながら──電撃を放った。


かすみ「!?」
 「ガゥッ!!?」


かすみちゃんは急なことに面食らい、ロクに指示も出せないまま、ゾロアに電撃が直撃する。


 「ガ、ガガガガゥ!!!?」

かすみ「えぇーー!? な、なんで、イーブイが電撃撃ってるんですかぁ!!? ゾロア、大丈夫!?」
 「ガ、ガゥ…」


ダメージはあるものの、ゾロアは倒れてはいない。ただ、痺れてしまって、明らかに動きが鈍っている。
470 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/20(日) 17:15:47.77 ID:uk513V0l0

かすみ「ま、“まひ”しちゃったってことですか!? な、なんてことを……!」


“まひ”してしまえば、こっちのものだ。


侑「“すくすくボンバー”!!」
 「ブーーィッ!!!!」


イーブイが尻尾をブンと振ると、種子が飛び散り、それが地面に埋まって── 一気に巨大な蔦状の樹が成長し始める。

そして、蔦から巨大なタネがゾロアに向かって複数落下する。


かすみ「な、な、なんですかー!? それー!?」
 「ガ、ガゥゥ…」


麻痺して、満足に動けないゾロアは、予想外の攻撃を防げず、


 「ガゥゥゥッ!!!」


降ってきたタネの直撃を受けて、地面を転がった。


 「ガ、ガゥゥゥ…」


そして、力なくその場に倒れ込んだ。


リナ『ゾロア、戦闘不能。侑さんの勝利』 || > ◡ < ||

かすみ「そ、そんなぁ……。補助技に集中しすぎましたぁ……。……というか、なんですかさっきの技ぁ……っ……」

侑「えっと、“相棒わざ”って言う特別な技なんだけど……」
 「ブイ」

かすみ「そんなの聞いてませんよぉ……! ずるいですぅ……っ……」

侑「あーえーっと……」


かすみちゃんが涙目で詰め寄ってくる。

確かに初見殺しなところはあったかもしれないけど……。


しずく「でも、負けは負けだよ、かすみさん」

かすみ「しず子までぇ……」

歩夢「侑ちゃん、やったね!」

侑「うん。ありがとう、歩夢」


戦闘が終わって、歩夢としずくちゃんもこちらに寄ってくる。


しずく「それでは、最初に決めたとおり、ニャスパーは侑先輩が連れていくということでいいですね?」

かすみ「そんなぁ〜……」

侑「……そういえば、そうだった」


バトルに夢中で忘れてた……。


侑「ニャスパー、それでもいい?」


最後に、歩夢が抱きかかえたままのニャスパーに訊ねてみるも、


 「ニャァ」
侑「……相変わらず何考えてるか、わからないね……」
471 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/20(日) 17:16:51.86 ID:uk513V0l0

ニャスパーは無表情のまま鳴くだけなので、やっぱりよくわからなかった。


リナ『嫌がってるわけでもなさそうだから、それで問題ないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

 「ニャァ〜」

侑「……そうだね。それじゃ、ポケモンセンターでボールに入れる手続きしてこようか」

しずく「ですね。ほら、かすみさん、いつまでしょげてるの?」

かすみ「うぅ……わかったよぉ……。侑先輩、ニャスパーのこと、お願いしますね……」

侑「うん、任された」


というわけで、ニャスパー争奪戦(?)は私の勝利でとりあえず落ち着いたのだった。





    🎹    🎹    🎹






──さて、ポケモンセンターに戻ってきて、早速ニャスパーのボール移動をお願いしたのはいいんだけど……。


侑「時間がかかる……?」

ジョーイ「はい……普通だったら1時間も掛からないはずなんですが……」


預けてから、言われたとおり1時間後くらいにまた受付のジョーイさんのもとに受け取りにきたら……まだ時間がかかると言われてしまった。


しずく「何かトラブルでもあったんですか……?」

ジョーイ「トラブルと言いますか……元のボール情報の解析にてこずっていまして……」

かすみ「元のボール情報ってなんですか?」

リナ『ポケモンをボールから移動する際、元のボールに紐づけされた情報の解除が必要になる。それの解析のことだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

ジョーイ「はい……。それが、あまり見ないボール情報でして……」


どうやら、ニャスパーの“おや”の人がもともと入れていたボールが特殊なものだったらしい。

そのボールが具体的にどういうものなのかはわからないけど……。


歩夢「どれくらい掛かりそうなんですか?」

ジョーイ「……さすがに明日までには終わると思います」

かすみ「明日ですかぁ……」

侑「となると、今日はここで泊まりだね」

歩夢「うん、その方がよさそうだね」

ジョーイ「すみません、お待たせしてしまって……」

侑「あ、いえ! こちらこそ、急にお願いしちゃって、ごめんなさい……」

ジョーイ「いえいえ、それもポケモンセンターの仕事なので。もうしばらく、お待ちくださいね」

侑「はい、お願いします」


──というわけで、今日は一日ホシゾラシティで過ごすことになりそうだ。

まあ、そうは言っても……。
472 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/20(日) 17:17:56.68 ID:uk513V0l0

しずく「久しぶりに会ったわけですから、積もる話もありますし」

かすみ「ですです〜! せっかくですから、侑先輩と歩夢先輩の旅であったこと、聞かせてください〜!」

歩夢「私たちも、かすみちゃんとしずくちゃんの旅であったこと聞きたい!」

侑「うん! 早めに宿を探して、みんなで旅の報告会しよっか! 二人がどんなポケモン捕まえたのかも見てみたいし!」

かすみ「それじゃ、善は急げです! ちゃちゃっと宿を見つけちゃいましょ〜!」

侑・歩夢・しずく「「「おー!」」」


私たちは、お互いの旅の進捗を報告し合うために、意気揚々と宿を探しに町の探索に行くのだった。





    🎹    🎹    🎹





──その晩。4人部屋で取った旅館の一室。


侑「しずくちゃんはもう手持ちが5匹もいるんだね……」
 「ブイ?」「ワシャ」「…ライ」

かすみ「そうなんですよぉ……しず子ばっかりずるいと思いませんか?」
 「ガゥガゥ!」「…プトル」「ザグマ」「……」

しずく「あはは……なんというか、巡り合わせがよかったというか……。かすみさんもすぐに仲間が増えると思うよ」
 「マネマネ」「ジメ…」「カァカァ♪」「スボ」「…キルリ」

歩夢「私と侑ちゃんはまだ3匹だもんね……。……あ、でもニャスパーがいるから、一番手持ちの数が少ないのは私になるのかな……」
 「シャボ…」「ラフット」「マホミ〜♪」

侑「う、うーん……? ニャスパーは私の手持ちになるというわけでもないからなぁ……」


まあ、一応便宜上、私が連れ歩くことにはなるけど……。


しずく「それにしても……これだけポケモンがいると、広めの部屋でも、狭く感じますね……」

侑「人間4人に、ポケモン15匹だからね……」


お互い手持ちを見せ合うために、みんなをボールから出しているせいで、広い部屋を取ったのに随分手狭な感じになっていた。

そんな中、


 「マホミ〜♪」
歩夢「マホミル? どうしたの?」


マホミルがみんなの荷物をまとめている壁際にふわふわと近寄っていく。

そして──かすみちゃんのバッグに顔を突っ込み始める。


歩夢「え、ち、ちょっとマホミル!?」

かすみ「あれれ〜? 歩夢先輩、かすみんのバッグから物を盗ろうなんて、躾がなってないんじゃないですか〜?」

歩夢「ご、ごめんね! マホミル、ダメだよ!」
 「マホミ〜?」


歩夢に叱られるも、よくわかっていないのか、きょとんとするマホミル。
473 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/20(日) 17:18:53.63 ID:uk513V0l0

リナ『マホミルは甘い匂いが好きだから、バッグの中に何か甘いものがあるのかも?』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「甘い物……なにか入れてたかな……?」

しずく「そういえば、かすみさん。フソウ島でいろいろスイーツとか買ってなかった?」

かすみ「……あ、そうだった! いろいろ買い込みましたし……そういえば、侑先輩と歩夢先輩へのおみやげも買ったんだった!」

侑「え、おみやげがあるの!?」

かすみ「はい! ちょっと待っててくださいね〜……」

 「マホミ〜?」


かすみちゃんはマホミルに見つめられながら、バッグを漁る。


かすみ「はい! これ、おみやげです!」


そう言ってかすみちゃんが取り出したのは──


歩夢「わぁ♪ これ、もしかして“アメざいく”?」

かすみ「ですです〜♪ すっごく可愛かったんで、たくさん買っちゃったんです〜♪」


様々な形をした、可愛らしい“アメざいく”だった。

いちごにハート、ベリー、よつば、おはな……とにかくたくさん種類があった。


侑「本当にたくさん買ったんだね」

かすみ「はい♪ その中でも、侑先輩にはこの“スターアメざいく”をあげちゃいます♪ 歩夢先輩にはこの“リボンアメざいく”をどうぞ!」

歩夢「ありがとう、かすみちゃん♪」

侑「ありがとう、かすみちゃん」

かすみ「どういたしましてです〜♪」


受け取った“アメざいく”はビニールを被せているのに、すごく甘くて良い匂いがする。

確かに職人たちの手で作られた“アメざいく”たちは可愛らしく、いつまでも見ていられるけど──ぐぅぅ……。良い匂いに食欲がそそられたのか、お腹が鳴る。


侑「……た、食べてもいい、かな……?」

かすみ「え、えぇー!? 食べちゃうんですか!?」

侑「う、うん……ダメかな……? すごい良い匂いするし……」

しずく「確かフソウ島の“アメざいく”は原料にも凝っているという話だった気がします。見た目もさることながら、味も絶品だったはずですよ」

かすみ「え、そうなの?」

しずく「なんで買った人が知らないの……」

かすみ「で、でもでも……そんな可愛い“アメざいく”食べちゃうのは勿体なくないですか……?」

しずく「かなり日持ちするとは思うけど……ずっとそのままにしておいても悪くなっちゃうだろうから、おいしい間に食べてもらっちゃった方がいいと思うよ?」

かすみ「……まあ、それはそうだけどぉ……」

侑「それじゃ、いただきまーす!」


袋を開けて、星型の“アメざいく”を口の中に放り込むと──まろやかな甘さが口いっぱいに広がる。


侑「おいひぃ……♪」

歩夢「侑ちゃん、よかったね♪」

侑「うん……♪ かすみちゃん、ありがとう……♪」

かすみ「いえいえ、気に入っていただけたなら何よりです! 歩夢先輩はどうします?」

歩夢「うーん……私はすぐに食べちゃうのは勿体ないって感じちゃうなぁ……」
474 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/20(日) 17:19:42.44 ID:uk513V0l0

そう言いながら、歩夢が悩んでいると──


 「マホミ〜♪」


マホミルが歩夢の手に乗っている“アメざいく”を袋ごとかっさらっていく。


歩夢「あ、マホミル〜……」
 「マホミッマホミ〜♪」


マホミルは“リボンアメざいく”を手に持って、匂いを嗅ぎながら幸せそうにしている。


リナ『きっと、匂いがすごく好みなんだと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「だから、かすみんのバッグを漁ろうとしてたんですね」

歩夢「まあ……好きな匂いなら仕方ないかな……。よかったね、マホミル」
 「マホミ〜♪」


どうやら、歩夢はこの“アメざいく”をマホミルにあげることにしたようだった。


しずく「さて……それでは、今度は私の話を聞いてもらえますか? かすみさんが屋台巡りをしている間に出会った、不思議なロトムの話をしようかなと」

侑「不思議なロトムの話? 聞きたい聞きたい!」

かすみ「あ、その話、実はかすみんも気になってたんだよね」

しずく「少し長い話になりますが……」

歩夢「それじゃ、私お茶淹れるね♪」


──友達とわいわいしながら喋る旅の話はかなり盛り上がり、旅館の一室は夜遅くまでその灯りをともしたまま、夜が更けていくのであった。



475 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/20(日) 17:20:18.42 ID:uk513V0l0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ホシゾラシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.●_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.30 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.27 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.28 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:69匹 捕まえた数:3匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.24 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.22 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホミル♀ Lv.20 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:96匹 捕まえた数:12匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.20 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.21 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.16 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.18 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:101匹 捕まえた数:6匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.18 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.17 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      スボミー♂ Lv.17 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.20 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:110匹 捕まえた数:8匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



476 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:01:58.34 ID:1bK8AB/x0

■Chapter024 『決戦! ホシゾラジム!』 【SIDE Yu】





──ホシゾラシティでみんなと再会した翌日。


かすみ「ん〜……! 良いお天気ですねぇ〜!」


かすみちゃんが旅館から出て日光を浴びながら伸びをする。

確かにかすみちゃんの言うとおり、今日は雲一つない快晴。ぽかぽか陽気で、まさに最高の冒険日和だ。


しずく「それにしても……随分ゆっくりなチェックアウトになってしまいましたね」

歩夢「昨日は、かなり遅くまで盛り上がっちゃったもんね……あはは」

リナ『みんな、起こしても全然起きる気配がなかった。ぐっすりだったね』 || ╹ᇫ╹ ||


しずくちゃんたちの言うとおり、昨日は夜遅くまでみんなで旅の話をしていたため、全員揃って朝寝坊。

チェックアウトを済ませた今は、すでにお昼前くらいになっていた。


かすみ「でも、これならさすがにニャスパーのボール移動も完了してるはずですよね!」

侑「そうだね。とりあえず、ポケモンセンターにニャスパーを迎えに行こう」
 「ブイ」

リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 || > 𝅎 < ||


私たちはポケモンセンターへと足を向ける。





    🎹    🎹    🎹





ジョーイ「──お待たせしました! こちらのボールになります!」

侑「ありがとうございます」


ニャスパーの入れられたモンスターボールを受け取り、ジョーイさんにお礼を言って、待っている歩夢たちのもとへと戻る。


歩夢「ニャスパー、受け取れた?」

侑「うん。出ておいで、ニャスパー」


早速受け取ったボールから、ニャスパーを出してあげる。
477 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:02:56.51 ID:1bK8AB/x0

 「ニャァ」

かすみ「きゃぅ〜ん♡ やっぱり、可愛いですぅ〜♡」

 「ニャァ?」

侑「ニャスパー。ボールの中は居心地悪くない?」
 「ニャァ」

侑「……相変わらず、無表情で何考えてるのかわからない」

歩夢「あはは……」

しずく「ただ、嫌がっているわけでもなさそうなので……」

侑「うん。ニャスパー、これがしばらくの間、君のお家だからね?」
 「ニャァ」

侑「すぐに君のトレーナー、見つけてあげるからね」
 「ニャァ」

侑「……わかってるのかな……?」

リナ『暴れたりしていなければ、とりあえず問題はないと思う……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

 「ニャァ」

侑「あはは……とにかく、早く“おや”のところに帰してあげないとね」


とりあえず、ニャスパーの様子だけ確認して、ボールに戻す。


侑「ちゃんと、ボールにも戻せるっと……」


ボールの移し替えに手こずっていると聞いたときは少し心配だったけど、無事に出し入れどちらも出来ることを確認出来て一安心だ。


しずく「ニャスパーも無事ボールに入れられましたし……この後はどうしますか?」

かすみ「ジム戦! かすみん、ホシゾラジムに行きたいです!」


まあ確かに、凛さんが花陽さんと一緒に出掛けてから3日くらい経つし、今日くらいには戻ってきていてもおかしくないはずだ。


侑「それじゃ、一度ホシゾラジムに行ってみようか。歩夢もそれでいい?」

歩夢「うん、わかった」


歩夢は頷いたあと、


歩夢「……」


一瞬、何か考える素振りをする。


侑「歩夢? どうかした?」

歩夢「あ、うぅん! なんでもないよ!」

侑「気になることがあるなら、言って欲しいな……」


以前のこともあるし……。


歩夢「えっと……ちょっぴり考え事してるだけだよ。考えがまとまったら、ちゃんと侑ちゃんにも説明するから!」

侑「……そう? わかった」


少なくとも、前みたいな悩み方とは違うようだ。

なら、歩夢の方から言ってくれるのを待とうかな……。
478 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:03:57.63 ID:1bK8AB/x0

かすみ「それじゃ、ホシゾラジムに向かってしゅっぱ〜つ♪」

リナ『お〜♪』 || > 𝅎 < ||


意気揚々と走り出した、かすみちゃんの背中を追って、私たち一行はホシゾラジムへと移動する。





    🎹    🎹    🎹





到着したホシゾラジムの扉には──昨日のようなジム休業中の張り紙はなくなっていた。


かすみ「張り紙がない……ということは……つまり……!!」

しずく「ジム、再開してるみたいだね」

かすみ「やりました、ついにやりましたよ! たのもぉーー!!」


かすみちゃんはそのまま我先にとジムの中へと入っていく。

私たちもそれに続くようにして、ジムへと入る。

──ホシゾラジムの中は板張りの床で、まるで格闘道場のような内装になっている。さすが、かくとうタイプのポケモンジムなだけはある。

そして、その奥には──


凛「にゃ? 挑戦者かな?」


凛さんの姿。


かすみ「はい!! かすみん、セキレイシティから来ました! ジム戦してください!」

凛「いいよいいよ〜! えっと、一緒に来てる子たちは応援──……って、あれ?」


そこで、凛さんと目が合う。


凛「あ、あれれ? 侑ちゃんと歩夢ちゃんだよね?」

侑「はい!」

歩夢「えっと、こんにちは」

凛「二人とも、ホシゾラジムに来てくれたんだね! 嬉しいにゃ〜!」


凛さんが本当に嬉しそうに、こちらに手を振ってくる。


凛「もしかして、二人もホシゾラジムに挑戦かな!? 凛、また二人とはバトルしたかったんだ〜!」

かすみ「ちょっとちょっと待ってください〜!! 先にジム戦への挑戦を申し出たのはかすみんですよ〜!!」

凛「あ、そうだったね、ごめんごめん。……まあ、順番は誰が最初でも構わないんだけど……」

かすみ「侑先輩っ!! 1番はかすみんに譲ってください!! かすみんこれが3度目の正直なんですぅ……」


かすみちゃん、ジムリーダー不在でなかなか挑戦出来なかったみたいだからね……。
479 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:04:38.70 ID:1bK8AB/x0

侑「最初からそのつもりだよ。思う存分、バトルに集中して! 私は応援してるから!」

かすみ「やった〜!! さすが、侑先輩わかってますね〜!! ……と、言うことでかすみんが1番最初に挑戦します!!」

凛「それじゃ、挑戦者かすみん! 持ってるバッジはいくつ?」

かすみ「1つです!」

凛「わかった。それじゃ、使用ポケモンは2匹。全てのバトルポケモンが戦闘不能になった時点で決着だよ!」

かすみ「はい! わかりました!」


かすみちゃんと凛さんがそれぞれ、バトルスペースへと移動する。

私たちも、その間にかすみちゃんの後ろの観戦用の席に腰を下ろす。

そして、お互いが手にボールを構える。


凛「ホシゾラジム・ジムリーダー『勇気凛々トリックスター』 凛! 正々堂々、勝負だよ!!」


両者のボールが同時に宙に舞った──バトル、スタート……!!





    👑    👑    👑





かすみ「行くよ! ジュプトル!」
 「ジュプトーール!!!」

凛「コジョフー! 行くにゃ!」
 「コジョッ!!!」


かすみんの1番手はジュプトル! 対する、りん子先輩の1番手はコジョフーです!

さあ、まずは相手の様子を伺って──


凛「“ねこだまし”!!」
 「コジョッ!!!」

かすみ「!?」
 「プトルッ!!?」


と思った瞬間、ジュプトルの目の前でコジョフーが、両手を叩いて“ねこだまし”してくる。

唐突な攻撃に怯むジュプトル。そして、そこに向かって、


凛「“とびげり”!!」
 「コッジョッ!!!」

 「プトッ!!?」


顔面に炸裂する“とびげり”攻撃。ジュプトルはそのまま、後ろに吹っ飛ばされる。


 「ジュ、プトルッ…ッ!!!」


が、自慢の身のこなしで受け流すように、バク転しながら、ダメージを少しでも殺す。


かすみ「い、いきなり何するんですかぁ!?」

凛「コジョフーのバトルスタイルは先手必勝! もたもたしてると、一気に勝負がついちゃうよ!」

かすみ「むむむ……スピードなら、こっちも負けてないもん! “こうそくいどう”!!」
 「プトルッ!!!!」


ジュプトルは飛び出しながら、一気に加速する。
480 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:05:26.08 ID:1bK8AB/x0

凛「こっちも“こうそくいどう”だよ!」
 「コジョッ!!!」


2匹が同時に“こうそくいどう”を始め、フィールド内を走り回る。


かすみ「う……向こうも速い……」


お互いがある程度距離を取りながら、間合いを測っているため、自然とフィールド内を大きな円を描きながら回る形になる。

いつまでも追いかけっこをしているわけにもいかないし、どこかで距離を詰めないと……!


かすみ「仕掛けるよ! ジュプトル!」
 「プトォールッ!!!!」


かすみんの掛け声と共に、ジュプトルが強く踏み込みながら、フィールドを旋回中のコジョフーに向かって一直線に飛び出す。

一気に肉薄したジュプトルは、腕の刃をコジョフーに向かって振り下ろす。


かすみ「“リーフブレード”!!」
 「ジュプトォッ!!!!」


上から一閃する斬撃はそのまま、コジョフーを捉え、


 「コジョッ!!」

かすみ「やった! 直撃です!」


これで形勢は逆転──と、思ったら、


 「コジョォ…!!!」


コジョフーはその場で足を踏ん張り、攻撃を耐えていた。


かすみ「んな!?」

凛「“こらえる”から──“ローキック”!!」
 「コッジョッ!!!!」

 「プトォル!!?」


至近で攻撃を耐え、そのまま足払いを食らわされて、バランスを崩して前につんのめるジュプトル。

そのまま、体勢を崩したジュプトルに向かって、コジョフーは両手を添え、


凛「“はっけい”!!」
 「コジョッ!!!!」

 「プトォッ!!!?」


気功のエネルギーで吹っ飛ばした。


かすみ「じ、ジュプトル!?」
 「ジ、ジュプト…ッ」


壁際まで吹っ飛ばされるジュプトル。どうにか立ち上がるものの、ダメージが大きい。
481 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:06:14.37 ID:1bK8AB/x0

かすみ「ぐ、ぬぬ……防御はそんなに高くなさそうだから、押し切れると思ったのに……」

凛「その程度のスピードじゃ、簡単に見切れちゃうよ」

かすみ「むむむ……」

凛「それに、“ローキック”で素早さが下がった上に、“はっけい”には相手の筋肉を痺れさせる効果のある技にゃ。これでもうジュプトルは、スピードでコジョフーには追い付けないよ」
 「コジョッ!!」

かすみ「……っ」

凛「さぁ、トドメだよ! コジョフー!!」
 「コジョッ!!!」


コジョフーが床を蹴りながら、拳を構えて飛び掛かってくる。


 「プトル…ッ」


肉薄するコジョフー、構えた拳が当たる瞬間──ジュプトルの姿が突然掻き消えた。


 「コジョッ!!!?」
凛「にゃ!?」


驚きの声をあげる、りん子先輩とコジョフー。


かすみ「ニッシッシ……誰がもうコジョフーに追い付けないんですか〜?」
 「──プトルッ!!!!」


気付けば、コジョフーの背後に回ったジュプトルが刃を振るう、


凛「こ、“こらえる”!!」
 「コジョッ!!!」


間一髪で振り向き、腕で攻撃を防ぐ。


かすみ「やりますね! でも、何度も堪えられませんよ!」
 「プトルッ!!!」


再び、掻き消えるジュプトル。


かすみ「さぁ、追いつけますか!! かすみんのジュプトルに!!」

凛「な、なんで、こんなスピードが……!? と、とりあえずコジョフー!! 一旦フィールドの中央まで、逃げ──」

かすみ「遅いです!! “アクロバット”!!」
 「プトォーーールッ!!!!」


高速機動でフィールド内を縦横無尽に跳ね回っていたジュプトルは、狙いを定めて、コジョフーに尻尾を振り下ろした。


 「コジョォッ!!!?」


余りに速すぎるジュプトルの攻撃に対応しきれず、コジョフーはあえなく戦闘不能となりました。


かすみ「ナイス、ジュプトル!」
 「プトルッ!!」

凛「……戻って、コジョフー」
 「コ、コジョ…──」


りん子先輩がコジョフーをボールに戻す。
482 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:07:27.68 ID:1bK8AB/x0

凛「なんで、“まひ”したはずのジュプトルがあんなスピードで……」

かすみ「ふっふ〜ん、実は最初から状態異常は対策してたんですよ〜♪」

凛「対策……? ……“きのみ”」

かすみ「そのと〜りです! ジュプトルには予め“ラムのみ”を持たせていました!」

凛「そして、“まひ”を回復すると共に、“かるわざ”を発動させて、素早さを逆転された……」

かすみ「ですです〜♪ バトルは準備段階から始まってるんですよ〜!」

凛「そのとおりだね……。いい奇襲作戦にまんまとやられちゃった」

かすみ「いえいえ、それほどでも……こっちも“はっけい”での“まひ”がなかったら、かなりやばかったですから……。……とはいえ、もうここまで体の温まったジュプトルがいれば、2匹目も楽勝でしょうけどね〜♪」
 「ジュプトォル!!!」


もはや、このスピードのジュプトルに追い付けるポケモンがいるとは思えない。

これで、かすみんの勝利は約束されたようなものですね!


凛「確かに……その速さはピンチかも。……でも、勝負は最後までわからないよ! 行くよ! ゴーリキー!」
 「──ゴォーリキッ!!!」


りん子先輩の最後のポケモンはゴーリキー。これまた、かくとうタイプらしい、かくとうタイプのポケモンが出てきました。


かすみ「さぁ、ジュプトル! このまま、決めちゃうよ!」
 「プトルッ!!!」


ジュプトルが床を蹴って飛び出した。

一気に肉薄し、ゴーリキーに向かって、腕を振り下ろす。


かすみ「“リーフブレード”!!」
 「プトォル!!!!」

 「リキ…ッ!!」


あまりのスピードに回避もままならず、攻撃が直撃し、うめき声をあげるゴーリキー。


凛「“からてチョップ”!!」
 「リキッ!!!」


ゴーリキーも負けじと、攻撃を返してくるけど、


 「プトル!!!」
かすみ「そんな攻撃当たりませんよ〜!」


ヒット&アウェイで離脱するジュプトルはなんなく攻撃を回避する。


かすみ「ふっふ〜ん♪ これは楽勝な流れですね〜!」
 「プトルッ!!!」


再び接近し、ヒット&アウェイを狙った“リーフブレード”を振り下ろした、瞬間──ゴーリキーが自分から前に出てきた。


かすみ「!?」
 「プトルッ!!?」


まさか前に飛び出してくると思わなかったため、ジュプトルの縦薙ぎの攻撃は、ゴーリキーの肩辺りに振り下ろされる。

ジュプトルの腕は──ガッと音を立てながら、ゴーリキーの肩に上からぶつかり、


凛「そこっ!!」
 「リキッ!!!」

 「プトルッ!!?」
483 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:08:26.82 ID:1bK8AB/x0

ゴーリキーは自分の肩にぶつかった、ジュプトルの腕をがしりと掴んだ。


かすみ「え!? や、やば!?」

凛「“あてみなげ”!!」
 「ゴーーーリキッ!!!!」

 「ジュプトォ!!?」


ゴーリキーは身を捻りながら、ジュプトルを背負い投げして、地面に叩きつける。


 「プ、プトォッ…!!」


地に伏せったジュプトルに向かって、


 「リキッ!!!!」


ゴーリキーが腕を引く。


かすみ「やばっ!!? ジュプトル、回避!! 今すぐ起きて!!」
 「ジュ、プ、トォッ!!!」

凛「“メガトンパンチ”!!」
 「リキィッ!!!!!」


猛スピードで振り下ろされる拳を、跳ね起きの要領でギリギリ回避する。

──先ほどまで、ジュプトルがいた場所には、拳が突き刺さり、床板に風穴が空く。


かすみ「あ、あっぶな……!」


当たってたら間違いなく倒されてた……! ジュプトルはそのまま、ゴーリキーから一旦距離を置く。


かすみ「近付いたらダメかも……。じゃあ、遠距離攻撃に変更! “タネマシンガン”!!」
 「プトルルルルルッ!!!!!」


近接攻撃でカウンターを狙われるなら、遠距離から攻撃しちゃえば問題ないはず……!!


凛「“ビルドアップ”!!」
 「ゴーーリキッ!!!!」


りん子先輩の指示と共に、ゴーリキーはボディビルのようなボーズをしながら、筋肉に力を入れる。

力が籠もって、大きく盛り上がった筋肉は、飛んできた“タネマシンガン”をその身で弾きながら、


 「リキ」


少しずつ前進してくる。


かすみ「き、効いてない……!? 遠距離攻撃じゃ威力が足りてないってことですか!?」

凛「もう、逃げ回らせないよ。“じならし”!!」
 「ゴーリキッ!!!」


ゴーリキーがダンッと床に向かって、震脚し、地面を揺らす。


 「ジ、ジュプトッ」
かすみ「わ、わわわ……!?」


もう体力が限界に近いジュプトルは踏ん張るのも限界だったのか、一瞬揺れに足を取られる。

その一瞬を見逃さず、ゴーリキーが走り出した。
484 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:09:28.79 ID:1bK8AB/x0

かすみ「こ、こっち来たぁ!?」
 「ジ、ジュプトッ…!!」


足をもつれさせる、ジュプトルに迫るゴーリキー。


 「リキィ!!!」


再び腕を引き、振り被る。絶体絶命のこの瞬間、かすみんは──


かすみ「ジュプトル!! ゴーリキーの顔を見てっ!!」
 「プトッ!!!」

かすみ「“りゅうのいぶき”!!」
 「プトォォォルッ!!!!」


ジュプトルの口から青い炎が音を立てながら吹き出した。


 「リ、リキッ!!!」


顔面に“りゅうのいぶき”を浴びたゴーリキーがよろける。


かすみ「こ、これで倒れてください……っ!!」


顔面という急所に直撃させ、この一撃で決着してくれることを祈る──が、その祈りは届くことはなく、


 「リキ…」


ゴーリキーはまだ、ジュプトルの目の前に立っていた。


かすみ「……っ……!」

凛「“からげんき”!!」
 「ゴォォォォリキィ!!!!」


全力のパワーを載せたチョップが、足を取られ床で蹲るジュプトルに直撃した。


 「ジュ、プトォ…」


さすがに、この一撃は耐え切れず。ジュプトルは戦闘不能になって気絶してしまった。


かすみ「戻って、ジュプトル……ありがとう」
 「ジュ、プ…──」

凛「今度はこっちが“りゅうのいぶき”の“まひ”を利用させてもらったにゃ」
 「リキ」

凛「“からげんき”は状態異常になると威力が倍増する技。さらにゴーリキーの特性は“こんじょう”。状態異常になった今、攻撃力はさらに増大してるよ」

かすみ「…………」


さっきと状況が逆転してしまった。苦し紛れに放った“りゅうのいぶき”が却って悪い方向に働いてしまいましたね……。

もともとジュプトルで勝ち切るつもりだったから、結構ピンチな状況に見えますけど……。


かすみ「……ふっふっふ……この勝負、貰いましたよ」

凛「にゃ?」

かすみ「かすみんには対かくとうタイプ用に残しておいた秘策があるんですよ!」


かすみんはフィールドに向かって、最後のポケモンを繰り出す。
485 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:10:11.80 ID:1bK8AB/x0

かすみ「行くよ! サニーゴ!!」
 「──…………」

凛「サニーゴ……その見た目、ガラルサニーゴだね」

かすみ「さすがジムリーダーですね! そのとおり、この子はガラルサニーゴです! つまり、ゴーストタイプです!」

凛「……なるほど、ゴーストタイプには、かくとうタイプの攻撃が通らないね」

かすみ「そういうことです! メインの攻撃手段を失ったゴーリキーにどこまで出来ますかねぇ〜?」

 「リキ」


ゴーリキーがのっしのっしとサニーゴの方に近付いてくるけど、出来ることなんてほとんどないはずです。

あとはじわりじわりと攻めていけば勝ちは盤石──


 「リキ…」


ゴーリキーは拳を握りしめたまま、前進を続ける。


かすみ「気合い十分なのはわかりますよ〜。でも、効かない物は効きませんから!」

凛「“きあいパンチ”!!」
 「リ、キィッ!!!」

かすみ「だから〜、サニーゴにかくとうタイプの技は──」


──ヒュンと何かが、かすみんの真横を横切る。


かすみ「へ?」


後ろを振り返ると──サニーゴがジムの壁に突き刺さっていた。


かすみ「へ!? ちょ、な、なんで!?」


何故か、かくとうタイプが効かないゴーストタイプのサニーゴに攻撃が直撃していた。


凛「確かに、かくとうタイプの攻撃はゴーストタイプには効かない。……だけど、それを破る技があるんだよ」

かすみ「へぇ!? な、なんですかそれぇ!?」

凛「“みやぶる”。この技を使えば、ゴーストタイプの正体を見破って、かくとうタイプやノーマルタイプの攻撃が当たるようになるにゃ」

かすみ「う、うそぉ……!」


……や、やばいです……完全に計算が狂いました……。

完全に狼狽えるかすみん。

ですが、いつの間にかはまった穴から抜け出したのか、ふわ〜っとサニーゴが近付いてきました。


かすみ「さ、サニーゴ……?」
 「………………サ、コ」

かすみ「!」


仲間になってから初めて、サニーゴが鳴き声をあげました。


かすみ「……もしかして、やる気ってこと……?」
 「…………」


今度はスーっと、かすみんの前に躍り出る。

この絶体絶命なシチュエーションの中、どうやらサニーゴは戦意を失っていないようだった。
486 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:11:04.74 ID:1bK8AB/x0

かすみ「……わかった。サニーゴ、信じるよ!」
 「…………」

かすみ「“シャドーボール”!!」
 「…………サ」


影で出来た弾がゴーリキーに向かって撃ちだされる。


凛「“からてチョップ”!!」
 「リキッ!!!」


ゴーリキーはそれを直接チョップで叩き落とす。


かすみ「ち、直接殴って防いでくるなんて……! なら、数で勝負です!! “パワージェム”!!」
 「…………コ」


今度は宝石のようなきらめく光が複数発射される。


凛「“クロスチョップ”!!」
 「リキィィ!!!!」


今度は、腕をクロスにしたチョップで、一気に薙ぎ払う。


かすみ「……っ! これも、ダメ……っ……!」

凛「いつまでも、遠距離技に付き合うつもりはないよ!!」
 「リキィ!!!」


カイリキーが再び、手刀を構えながら迫ってくる。


かすみ「サニーゴ! 逃げ──……るのは無理かも……」
 「…………」


相手が“まひ”しているとはいえ、動きが絶望的にのろのろなサニーゴが迫ってくるゴーリキーから逃げるのは無理……!


かすみ「なら、迎え撃つしかない……!!」

凛「“からてチョップ”!!」
 「リキィッ!!!!」

かすみ「“てっぺき”!!」
 「………………ニ」


──ゴッ!! と硬いモノを叩く音と共に、チョップが炸裂する。

真上からの強烈な一撃に、浮いていることもままならず、サニーゴを床に叩き落とされ、そのまま床板にめり込んでしまう。


凛「さぁ、トドメ……!!」


再び、ゴーリキーが手を振り上げた瞬間──ゴーリキーの動きが止まった。


凛「……!? ゴーリキー!? なんで、攻撃しないにゃ!?」
 「リ、リキ…」


いや、止まったんじゃない。ゴーリキーは腕を“振り下ろせなくなった”だけ。


かすみ「今、触りましたよねぇ〜?」

凛「にゃ……?」

かすみ「触れられたら、たまーに発動するんですよ……この子の特性は……!!」

凛「特性……? まさか、“のろわれボディ”……!?」

かすみ「そのとーりです!! サニーゴの特性は“のろわれボディ”!! 直接触った部位に呪いを掛けて技を使えなくしますよ!! もう、ゴーリキーの拳は封じました!!」
487 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:12:08.66 ID:1bK8AB/x0

これはかなり大きなアドバンテージです……!! 拳を封じた今のうちに、次の策を──


凛「──“メガトンキック”!!」
 「リキィッ!!!!」


──考える間もなく、サニーゴは蹴り飛ばされて、


かすみ「……あ」


バゴッ!! と音を立てながら、再びかすみんの背後の壁にめり込んでいた。


凛「拳が使えないなら、蹴ればいいよ」
 「リキッ!!!」

かすみ「…………」

 「………………ゴ」
かすみ「……! サニーゴ……!」


まだ、サニーゴは戦闘不能じゃない……! 壁から抜け出して、ふらふらしながら飛んでいる。


凛「すごいタフさだけど……もう、さすがに限界みたいだね。今度こそ、トドメだよゴーリキー!」


りん子先輩の指示で歩き出したカイリキーは、


 「…リ、キッ」


急に膝を突いた。


かすみ・凛「「……え!?」」


二人で同時に驚きの声をあげる。

だって、サニーゴの攻撃はほとんど有効に通ってなかったのに、どうして……!?

サニーゴが何かをしたのかと思って、振り返ると──


かすみ「……っ!!!?」


サニーゴの虚ろな目の奥に──他に形容しがたいような、不吉な炎を宿したような光が見えた。

まるで何かを恨めしく呪うような──


かすみ「……あ」


そこで、気付いて思い出す。以前見た図鑑説明の文章を──

 『サニーゴ(ガラルのすがた) さんごポケモン 高さ:0.6m 重さ:0.5kg
 急な 環境の 変化で 死んだ 太古の サニーゴ。 大昔
 海だった 場所に よく 転がっている。 体から 生える 枝で
 人の 生気を 吸い 石ころと 間違えて 蹴ると たたられる。』


かすみ「……サニーゴを蹴っとばしたから、呪われたんだ……!」


つまり──今のゴーリキーは“のろい”で体力が削られ続けている状態だから、膝を突いたということ……!!


凛「ご、ゴーリキー!! あと少しだから……!!」
 「リ、リキ…」


ただでさえ、ジュプトルとの戦いでHPを削られていたゴーリキーは、“のろい”のダメージも相まって満身創痍。


 「………………サ、ニ、ィ、ゴ、ォ……!!!!!!」
488 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:12:50.85 ID:1bK8AB/x0

そこに向かって、サニーゴが今まで聞いたことのないようなおどろおどろしい鳴き声をあげると──


 「……リ、キ……ッ……」


急にゴーリキーはビクンと震えるように痙攣したあと──その場に大の字になって倒れ込んでしまったのだった。


かすみ「……へ」

凛「……うそ」

かすみ「……も、もしかして、勝ったの……? 私たち……?」

凛「……ゴーリキー戦闘不能……よって、チャレンジャーかすみんの勝利にゃ」

かすみ「…………や、やったぁぁぁ!! なんか、わかんないけど、勝ちましたーー!!!」
 「…………サ」


気付けば、かすみんの近くに飛んできていたサニーゴを抱きしめる。


かすみ「ありがとうーー!! サニーゴ!! お陰で勝てたよー!!」
 「…………ニ」

凛「最後の攻撃は“たたりめ”だね……。状態異常の相手に使うと威力が倍になる技だよ。“まひ”してたのもあったし、とてもじゃないけど耐えられなかったにゃ……」


りん子先輩はゴーリキーをボールに戻しながら、話を続ける。


凛「まさか、蹴ったことが原因で呪われるなんて……」

かすみ「かすみんも驚きました……完全にラッキーだったというか……」

凛「でも、負けは負けだね……。その実力を認めて、この──“コメットバッジ”を進呈するにゃ」


そう言って、りん子先輩は取り出した隕石の形をしたジムバッジをかすみんに手渡してくれました。


かすみ「ありがとうございます!! えへへ〜♪ やりましたよ〜! しず子〜! 侑先輩〜! 歩夢先輩〜!」
 「………………ゴ」


サニーゴを抱きかかえたまま、観戦していた、しず子たちのもとへと走る。


しずく「やったね、かすみさん! すごかったよ!」

歩夢「うん……! 特にサニーゴの逆転劇、すごかった……」


今回ばかりは素直に褒めてくれるしず子と、いつもどおり優しい歩夢先輩。そして──


侑「かすみちゃん!!」

かすみ「うわぁ!?」


侑先輩が目を輝かせながら、顔を近づけて来た。


侑「今のバトル、ほんっとうにすごかった!! 全然予想出来ない展開に、形勢が何度も入れ替わって……そして、最後のどんでん返しの大逆転!! 私、すっごくときめいちゃった!!」

かすみ「えへへ〜♪ それほどでもありますけど〜♪」
 「………………サ」

かすみ「かすみんのことばっかじゃなくて、この子も褒めてあげてください♪」

侑「うん! サニーゴ! ホントすごかったよ!!」

 「……………………ニ」
かすみ「うんうん♪ サニーゴも褒められて喜んでますね♪」

しずく「そうなの……?」

歩夢「ふふ♪ きっと、喜んでるんだと思うよ♪」
489 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:13:46.76 ID:1bK8AB/x0

仲間たちと勝利の余韻を味わっていると──


凛「さて……それじゃ、次は侑ちゃん? それとも、歩夢ちゃんかな?」


りん子先輩が、こちらにやってきて、そう問いかけて来た。


歩夢「あ……えっと……」


迷う素振りを見せる歩夢先輩。そんな歩夢先輩に、


侑「──歩夢、どうしたい?」


侑先輩がそう訊ねた。その顔は──すごくすごく優しい表情だった。





    🎀    🎀    🎀





歩夢「侑ちゃん……?」

侑「歩夢は、どうしたい?」

歩夢「私は……」


侑ちゃんがすごく優しい口調と表情でそう問いかけてくれる。


歩夢「……私は──ちゃんとやり直したい」


あのとき、うまく出来なかったことを、出来ないまま、終わりにしたくない。私の答えを聞くと、


侑「うん! 歩夢なら、きっとそう言うと思ってたよ!」


侑ちゃんはニッコリと笑って、そう返す。


侑「凛さん、ジム戦についてなんですけど」

凛「?」

歩夢「……凛さんと花陽さんの二人とマルチバトルでやらせてもらえませんか」

凛「……!」


凛さんは私たちの提案を聞くと、少し驚いたような顔をしたけど、


凛「そうだね、再戦が違う形だと歩夢ちゃんも侑ちゃんもすっきりしないもんね!」


すぐに納得してくれたようで、笑顔で頷いてくれた。


凛「でも、かよちんにも予定があるから、それだとすぐには出来ないから……後日ってことになるけど、いい?」

歩夢「はい!」

侑「もちろんです!」

凛「ありがとにゃ! それじゃ、かよちんがこっちに来られる日に都合がついたら、二人に連絡するよ!」

歩夢「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
490 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:14:28.84 ID:1bK8AB/x0

私と侑ちゃんは、凛さんとポケギアの番号を交換する。

再戦は後日──ホシゾラシティで、凛さん、花陽さんと戦う。

侑ちゃんと一緒に……!





    🎹    🎹    🎹





──ホシゾラジムを後にして……。


かすみ「侑先輩たちはこれからどうするんですか?」

侑「うーんと……ホシゾラジムのジム戦はすぐに出来ないだろうから、一旦ウチウラシティの方を目指すことになるかな? 歩夢もそれでいい?」

歩夢「うん、大丈夫だよ」


というわけで、私たちの次の進路はウチウラシティだ。


歩夢「かすみちゃんたちはどうするの?」

かすみ「えーっと、次のジムは……」

しずく「西のコメコシティかな」

かすみ「じゃあ、そっちです!」

しずく「というわけで、コメコの森に行くことになりますね」


かすみちゃんたちは私たちが来た方向へと進むようだ。私たちとは逆回りで巡っていたみたいだし、予想通りではあるけど。


侑「それじゃ、ここでお別れだね」

かすみ「もうお別れですか……かすみん、寂しいですぅ……」

歩夢「きっとまたすぐに会えるよ♪」

しずく「ですね。旅をしていれば、またどこかですれ違うでしょうから」

かすみ「……侑先輩、次は負けませんからね!」

侑「望むところだよ! 私だって、次も負けるつもりないから!」

しずく「全員、次会うときはさらに成長した姿を見せられるように、邁進しましょう!」

歩夢「うん! そうだね♪」


4人みんなで笑い合って、


侑「それじゃ、またね! 二人とも!」

歩夢「何か困ったことがあったら、いつでも連絡してね?」

しずく「侑先輩、歩夢さん、道中お気を付けて」

かすみ「次会うとき、あんまりにすごくなったかすみんに腰抜かさないでくださいよ〜!!」


またそれぞれの旅路へと歩き出すのであった。



491 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/21(月) 15:15:04.91 ID:1bK8AB/x0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ホシゾラシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
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  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.30 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.27 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.28 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:71匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.24 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.22 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホミル♀ Lv.20 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:98匹 捕まえた数:12匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.23 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.21 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.16 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.22 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:103匹 捕まえた数:6匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.18 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.18 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      スボミー♂ Lv.17 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.20 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:112匹 捕まえた数:8匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/11/21(月) 21:00:51.72 ID:/NUk1Mszo
『適当に話ながらポケモン厳選する』
SVレート戦準備編#1
(19:02〜放送開始)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
493 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/22(火) 12:11:09.64 ID:lNytOG/10

■Chapter025 『スボミーの森』 【SIDE Shizuku】





──時刻はお昼を過ぎ、太陽が少しずつ傾き始めた頃。


かすみ「それじゃ、コメコシティに向かってレッツゴー♪」

しずく「日が暮れる前に森を抜けないとね」


3番道路を通過し、コメコの森に差し掛かった。

コメコの森は、オトノキ地方最大の森だけど、道さえ外れなければ抜けるのはさほど難しくない場所だ。

野生のポケモンの気性も大人しいポケモンが多いし、苦労することもないだろう。

そんな中、私の腰についているボールが1つ、震え出す。


しずく「ん……?」


どうやら、外に出たがっているようなので、ボールを投げて、外に出す。


 「──スボ…」
しずく「スボミーどうしたの?」

 「スボ…」


ボールから出たがっていたのはスボミーだ。スボミーは外に出ると辺りをキョロキョロ見回しながら、とてとてと歩き始める。


かすみ「そういえば、しず子のスボミーってこの森のポケモンだったんだよね?」

しずく「うん……まあ、そうだね」

かすみ「やっぱり、故郷の空気が恋しかったのかな」

しずく「……そうかもしれないね」


……とはいえ、結果として群れから追い出されてしまった子だから、自分から外に出たがるとは思っていなかったけど……。


 「スボ…スボミ」


スボミーは辺りをキョロキョロと見回しながら、歩いている。


かすみ「なんだろう……見回りでもしてるみたいかも」

しずく「もしかして……敵がいないか見張ってるの?」
 「スボ」

しずく「大丈夫だよ、スボミー。この森は大人しいポケモンが多いから……。……あれ……?」

かすみ「どしたの、しず子?」

しずく「いや……」


ふと、思う。……このスボミーが群れから追い出された理由は、ロトムの言っていたことが正しいのなら、外敵に自分から攻撃を仕掛けていたからだ。

しかし、この森のポケモンは基本的に大人しい気性のポケモンばかり。……じゃあ、スボミーは一体何と戦っていたんだろうか……?


しずく「…………」


もしかして……スボミーたちの外敵足りうる何かが、この森には潜んでいる……?

森の木々が風に揺れ、葉同士が揺れて擦れ合う特有の音が聞こえてくる。

普段だったら、平和の象徴のような、穏やかな自然のBGMも、そんな疑念のせいか、少し不気味な音に聞こえる気もする。
494 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/22(火) 12:12:18.97 ID:lNytOG/10

しずく「考えすぎ……かな」


あたりを見回すと、


 「スボ…」「スボミ…」「ボミィ…」


いつのまにか、私たちを遠巻きに見つめるスボミーたちが、あちこちにいることに気付く。


しずく「スボミー……このスボミーが元居た群れの子たちかな……」
 「スボ」

かすみ「なんか、遠巻きに見てる……やっぱり怖がられてるみたいだね」

しずく「うん……」


ただ、スボミーはそんなことを気にも留めず、辺りをしきりに見回している。


しずく「スボミー……どうしたのかな……」

かすみ「やっぱり今でも、元居た群れの仲間たちが心配なのかもよ?」

しずく「……そういうことなのかな」


そういう理由なら、いいんだけど……。なんだが、スボミーの警戒の仕方に少しだけ異様なものを感じ始めた、そのときだった──


 「──フェロ」

かすみ「……え?」

しずく「……!?」


気付いたときには──細く、真っ白なポケモンが私たちの目の前に立っていた。

長身な人間くらいの高さで、透き通るような白い体躯の初めて見るポケモン。

姿を認めた次の瞬間──気付けば、私は尻餅をついていた。


しずく「……え?」


余りに自然に膝が折れて、尻餅をついている自分に驚いた。

それと同時に、身体が震えていることに気付く。

さらに、全身から嫌な汗を掻き始める。

──それは、生物としての本能だった。

理由はわからないけど、このポケモンは……まずい。脳が警鐘を鳴らしている。

咄嗟に、かすみさんにも視線を向けると、


かすみ「……あ、え……?」


かすみさんも同じような状態で尻餅をついていた。


 「フェロ…」


目の前のポケモンが、私に視線を向けて来る。目が──逢った。

視線が交わった瞬間──動けなくなった。


しずく「……だ、ダメ……」
495 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/22(火) 12:13:49.25 ID:lNytOG/10

脳が本格的に危険信号を発し始めたが、身体が動かない。

そんな中、


 「スボォォォーーーー!!!!!」


スボミーが雄たけびを上げながら、そのポケモンに向かって飛び掛かって行った。


しずく「だ、ダメ……!? スボミー……っ……!」


私の制止も虚しく、


 「フェロ」

 「スボォッ!!!?」


スボミーは目の前の白いポケモンに足蹴にされた。

吹きとばされるスボミー。

ここからはほぼ反射だった。力の入らない身体を必死に動かして、


しずく「スボミー……ッ!!!」


飛んでくるスボミーに向かって、抱き留めるようにして飛び付き、スボミーを抱きかかえると──そのまま、視界が回った。

あまりに強い勢いで蹴られたスボミーを受け止めたせいか、威力が殺しきれずに一緒に吹き飛ばされていたのだ。

そのまま、地面を転がり、


しずく「……ぐっ……!!」


森の木に背中を打ちつける形でやっと止まった。


かすみ「し、しず子……ッ!!」

しずく「…………ぁ……ぐ……っ……」


かすみさんの声がずいぶん遠くに聞こえる……。

いや、恐らくそれくらい吹っ飛ばされたんだ。

痛みを堪えながら、


しずく「スボミー……だい、じょうぶ……?」


スボミーに向かって、安否を訊ねる。


 「ス、スボ…」


すると、私の胸の中で、スボミーが鳴き声をあげた。


しずく「無事……みたい、だね……よかった……」
 「スボ…」


やっとわかった。スボミーが戦っていた外敵は──あのポケモンだ。

そして、あのポケモンは危険だ。危険すぎる。

立ち上がって、逃げなくちゃ。今すぐに。

顔を上げると──


かすみ「し、しず子……っ……!」
496 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/22(火) 12:14:55.33 ID:lNytOG/10

かすみさんがこちらに這いながら、寄ってきているところだった。

恐らくかすみさんも、目の前のポケモンの危険性には気付いている。

どうにか、逃げるんだ。

私も起き上がろうとした、そのとき、ふと──胸がドキドキと高鳴っていることに気付く。


しずく「……え?」


胸が高鳴っている。恐怖によるものではない。

気持ちが昂揚し、興奮しているときの、胸の高鳴り。

こちらに這って近付いてくる、かすみさんの先に──


 「フェロ」


先ほどのポケモンが私たちを見下すように立っていた。

そのポケモンを見て、思った──思ってしまった。


しずく「──綺麗……」


よく見ると、そのポケモンは美しかった。今まで見た、どんなポケモンよりも。

私がさっき視線を外せなかったのは、恐ろしかったからじゃない。

あのポケモンが美しすぎて、目を離せなかったんだ。

そんなことに気付いて、


しずく「……あは、あははは……♪」


何故か、笑いが込み上げてきた。


かすみ「し、しず子……?」

しずく「すごい……すごい……!! あのポケモン綺麗……今まで見たどんなモノよりも美しいポケモンだよ……」


なんだか、うっとりとしてしまう。


かすみ「ちょっと、しず子、どうしちゃったの!?」


やっと、私のもとに辿り着いたかすみさんが、私の両肩を掴む。


しずく「あ、か、かすみさん……あのポケモンが見えないよ……!!」

かすみ「しず子!? 何言ってるの!?」

しずく「もっともっと、目に焼き付けないと……♪」


私の顔を覗き込むかすみさんを避けるように、あのポケモンを視界に入れる。

──噫、美しい……♪ その透き通るように白くて、スラっとした細長い体躯は木漏れ日を反射しながら、輝いている。

見ているだけで、心が洗われるようだ。こうして視界に入れているだけで、幸福感が胸を満たしていくのがわかる。


 「スボォッ!!!」


そのとき、胸元で急にスボミーがボフンッ! と音を立てながら、花粉をまき散らした。


しずく「ぐ、げほげほ……っ……」
 「スボ、スボボ!!!」

しずく「あ……あれ……私……今……?」
497 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/22(火) 12:15:55.25 ID:lNytOG/10

今、私……何言ってたっけ……?

頭の中におかしな靄が掛かっていたような……。


かすみ「しず子!! 逃げるよ!!」


かすみさんがフラフラしながら立ち上がり、私の手を掴んで走りだそうとする、が、


かすみ「……わっ!?」


まだ身体の自由が効いていないのか、すぐにバランスを崩して、転んでしまう。


しずく「か、かすみさん!? 大丈夫!?」

かすみ「……っ……そ、それはこっちの台詞だよ……っ!!」

しずく「え……?」

かすみ「って、あぁ!! こっちに来てる!!」

しずく「え?」


振り返ろうとした瞬間、


かすみ「見ちゃダメ!!」


かすみさんが、私の頭を抱えるようにしてハグしてきた。


しずく「か、かすみさん!?///」

かすみ「しず子は絶対あいつのこと見ちゃダメ!!」

しずく「え、ええ……?」


私が動揺する中、


 「スボッ!!!」


スボミーが私の胸元から飛び出していく。


しずく「あ、スボミー!?」


そして、それと同時にスボミーが眩く光り出した。


しずく「!? まさか、このタイミングで進化!?」


視界のほとんどがかすみさんで埋まっているせいで、ちゃんと確認は出来てなかったけど、一瞬視界の端で捉えたあの光は恐らく進化の光だった。


かすみ「スボミー……!! しず子を守るために……!!」

 「──ロゼェッ!!!!」


そして耳に届いてくるのは、スボミーが進化したポケモン──ロゼリアの鳴き声。


かすみ「今のうちに……!! 逃げるよ……!!」

しずく「待って!? ロゼリアが戦っているのに“おや”の私が逃げるわけにいかないよっ!!」

かすみ「ロゼリアが時間を稼いでくれてる間に逃げるの!!」
498 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/22(火) 12:18:26.23 ID:lNytOG/10

二人で言い合いを始めた、次の瞬間には、


 「──ロゼェッ…!!!?」


ロゼリアは私たちのすぐ傍まで吹きとばされて、ぐったりとしていた。


しずく「ロゼリア……!?」
 「ロゼ…」

かすみ「だ、ダメです……っ……れ、レベルが違い過ぎます……」


私を抱きしめたまま、かすみさんが震え出す。

このままじゃ埒が明かない。


しずく「ごめん、かすみさん……っ!!」


かすみさんを引き剥がすようにして、


かすみ「きゃんっ!?」


両手でかすみさんを押すと、かなり弱い力だったのに、かすみさんは再び尻餅をついてしまった。

でも、このままじゃ全滅しかねない。

私は決意し、あの白いポケモンと対峙するために振り返った。


かすみ「見ちゃダメ、しず子っ!!」

 「フェロ」

しずく「……あ」


視界に入れた瞬間。全身の力が抜けて、再びへたり込む。


しずく「あ、えへへ……すごい……きれい……?」


あのポケモンの一挙手一投足を見ているだけで、脳が溶けるような気分になった。

一歩ずつ、一歩ずつ、私の目の前に迫り。


しずく「あ……?」


そのポケモンは、私の目の前で、その長い脚を振り上げた。


かすみ「しず子っ!!!!」


──あ、きっと死ぬ。

猛スピードで振り下ろされる脚が、何故かスローモーションのように見えた。

でも、自分が今際の際にいることすら、どうでもよく思えるくらい──美しかった。


 「──バイウールー!!! “コットンガード”!!!」


──が、その瞬間、私とそのポケモンの間に白いもこもことしたものが割り込んできて、ボフッと音を立てながら、蹴りを受け止めた。


しずく「……ぁぇ……?」

かすみ「しず子……っ!!」


かすみさんが飛びついてきて、再び抱きしめられる。
499 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/22(火) 12:19:26.83 ID:lNytOG/10

かすみ「大丈夫!? 怪我してない!?」

しずく「?? ????? ???」

女性「──大丈夫!?」


知らない人の声が聞こえる。


かすみ「た、助けてくださいっ!! しず子が、しず子がおかしくなっちゃって……!!」

女性「ウルトラビーストの毒が回ってるね……遥ちゃん、診てあげて」

女の子「う、うん! ちょっと失礼します!!」


急に、かすみさんから剥がされて、視界に現れたのは明るい茶髪のツインテールの女の子の顔。


女の子「……瞳孔の動きがおかしい……かなり、毒が回ってる……」

しずく「?? ???」

かすみ「毒!? 毒ってなんなんですか!?」

女の子「えっと……あのウルトラビーストには、特殊なフェロモンで人やポケモンを魅了する力があるんです」

かすみ「フェロモン!? だから、しず子がおかしくなって……!!」

女の子「とにかく、戦闘はお姉ちゃんたちに任せて、一旦離れましょう!!」

かすみ「は、はい!! わかりました!!」

しずく「??? ????」


私の身体が、ツインテールの女の子と、かすみさんの二人掛かりで持ち上げられる。


かすみ「しず子!! 今、助けるからね!!」

しずく「??? ?????」





    🐏    🐏    🐏





──ウルトラビーストの反応がして、すぐに駆け付けたら、人が襲われている場面に遭遇した。


 「フェロ!!!」

彼方「もいっかい! “コットンガード”!!」


振り下ろされる脚を、さらに増量した毛皮でガードする。


 「フェロ…ッ」


攻撃がうまく通らず忌々しそうにするフェローチェの背後から、


穂乃果「ピカチュウ!! “アイアンテール”!!」
 「ピッカァッ!!!」


穂乃果ちゃんのピカチュウが飛び込んできて、横薙ぎに“アイアンテール”を炸裂させる。


 「フェロッ…!!!」


吹っ飛ばされながらも、フェローチェはその身のこなしで受け身を取り──
500 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/22(火) 12:20:14.29 ID:lNytOG/10

 「フェロォ…!!!」


とてつもない、瞬発力で飛び回り始める。

このウルトラビーストは一瞬で時速200qにも到達する瞬発力を持っていて、目で追うのはほぼ不可能に近い。

でも、こんなスピードタイプ相手には──


穂乃果「千歌ちゃん!! 任せた!!」

千歌「了解です!! ルカリオ、行くよ」
 「グォゥッ!!!」


千歌ちゃんが、目を閉じる。

風を切りながら、森の中を飛び回るフェローチェの音──いや、気配を察知して、


千歌「……そこっ!! “いあいぎり”!!」
 「グゥォッ!!!!」


── 一閃した。


 「フェ、ロッ…!!!!」


高速機動をしながら、必殺の一撃で切り裂かれたフェローチェはそのままバランスを崩して、森の木にぶつかり、一瞬蹲ったあと──空中にあいた“穴”へと逃げていった。


穂乃果「おみごと! 千歌ちゃん!」

千歌「ふぅ……一発で成功してよかったぁ……」

彼方「それより、さっきの子たち……!!」

穂乃果「そうだった……!! 急ごう!!」

千歌「はい……!」


私たちは、遥ちゃんと一緒にいるはずの、さっき襲われた子たちのもとへと急ぐ。





    👑    👑    👑





しず子を二人掛かりで抱きかかえるようにして、少し離れた場所に逃げることが出来た。


かすみ「あ、あの……!! しず子は……!?」

遥「かなり……危ない状態です」


移動している最中に、遥と名乗った子はしず子の状態を確認しながら、そう言う。


かすみ「あ、危ないって……」

遥「フェローチェの毒は……感受性の強い人にとっては猛毒になります。……このまま毒が回りすぎると、精神汚染されてしまって……最後は……」

かすみ「精神、汚染……」


なんですか、その物騒なワードは……。


遥「とにかく、すぐに専門の治療をしないと……! 本部に連絡を入れます……!」


本部が何かはわからないけど……。
501 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/22(火) 12:21:19.49 ID:lNytOG/10

かすみ「それって、すぐに来てくれるんですよね!? 間に合うんですよね!?」

遥「……わかりません。でも、出来るだけ急いでもらいます」

かすみ「そんな……」


それじゃ、このままじゃ、しず子は……。


しずく「……ぁ」


さっきまで、虚ろな目で黙っていたしず子が小さく声をあげた。


かすみ「しず子……?」

しずく「……さっきの、さっきのポケモンは、どこ? ねぇ、どこ? どこどこどこ!?」

かすみ「!?」

遥「い、いけません!? もう禁断症状が!?」


さっきのポケモンの姿を求めて、急に暴れ出すしず子。


しずく「もっと、もっと見てたいのっ!!! ねぇ、どこ、どこどこどこ!!?」


大声をあげながら、暴れるしず子に向かって、


かすみ「しず子っ!!!」


かすみんは大きな声で呼びかけながら、肩を掴んで顔を覗き込んだ。


かすみ「かすみんを見てッ!!!!」

しずく「ッ!!?」

かすみ「あんなのより、かすみんの方がずっと、ずーーーーっと!!! 可愛くて、美しくて、綺麗で、魅力的でしょ!!!?」

しずく「……ッ!!!?」

かすみ「毒だか、フェロモンだか知らないけどッ!!! あんなの変なやつに負けないでッ!!!! かすみんがいるからッ!!!!」


ただ、必死に叫ぶ。1秒でも早くしず子に──大切なしず子に、いつものしず子に戻って欲しい一心で、叫んだ。


しずく「……か、すみ……さん……?」

かすみ「!! しず子!! うん!! かすみんだよ!!」

しずく「……かすみ……さん……」

かすみ「しず子、大丈夫っ!! かすみんがいるから……っ!!」


ぎゅっとしず子を抱きしめると、


しずく「…………う、ん…………」


しず子は小さく返事をしたあと、かすみんの胸の中で、クタっとなってしまった。


かすみ「し、しず子!?」

遥「発作が……収まった……」

かすみ「あ、あのあのあの!? しず子がクタって……!?」

遥「大丈夫です、発作が落ち着いて、気を失っただけだと思うので……」

かすみ「へ……? そ、そっか……」
502 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/22(火) 12:23:01.86 ID:lNytOG/10

かすみんも力が抜けて、しず子を抱きかかえたまま、へたり込んでしまう。

そこに──


 「おーい!! 遥ちゃーん!!」


さっきかすみんたちを助けてくれた、バイウールーのトレーナーのお姉さんが、向こうから駆けてくるのが見えた。


遥「お姉ちゃん!! こっち!!」


どうにか、撃退にも成功したようだった。

かすみんとしず子は……どうやら、九死に一生を得たことをここでやっと確信して、安堵するのでした。





    👑    👑    👑





あの後、気を失ったしず子をおんぶして、近くにあるロッジまで移動してきた。

どうやら、かすみんたちを助けてくれた人たちが借りているロッジらしい。

そこのベッドにしず子を寝かしつけ、遥──もといはる子が再び診察を始めた。


かすみ「あの……しず子は……」

遥「……とりあえず、症状は落ち着いてるみたいです。……目を覚ましてみないと、今後どうなるかわからないけど……すぐに大事に至ることはないと思います」

かすみ「ホント!? ホントに!?」

彼方「遥ちゃんが言うなら間違いないね〜。遥ちゃん、ずっとウルトラビースト症についてのお勉強してたから〜」

遥「……私は戦えないし、これくらいしか出来ないから……でも、症状が落ち着いてるというのは間違いないです。安心してください」

かすみ「……よかったぁ……」

遥「強く声を掛けたのが、よかったのかもしれません」


どうやら、かすみんの必死の叫びが届いたらしい。本当によかった……。

あとは、本部? とやらから、専門の治療をしてくれる人を待つだけですね……。


かすみ「あの、ところで……さっきから言ってる、ウルトラビーストってなんなんですか……?」

彼方「あ……流れで言っちゃった」

千歌「まぁ……巻き込んじゃった以上、説明しないわけにもいかないし、いいんじゃないかな」

穂乃果「緊急時どうするかは、私たちに任せられてるしね、へーきへーき」


……というか、しれっとこの地方のチャンピオンがいる気がするんですけど……簡単な自己紹介くらいならさっきしたとはいえ……結局なんなんでしょうか、この人たち。
503 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/22(火) 12:24:24.92 ID:lNytOG/10

穂乃果「全部は説明出来ないけど……ざっくり言うと、この世界じゃない場所から来たポケモン、みたいな感じかな」

かすみ「この世界じゃない場所から来たポケモン……? なんですか、それ……?」

千歌「文字通り、ここじゃない場所から来た、めちゃくちゃ強いポケモンだよ。まあ、詳しいことはあんまりわかってないんだけど……たまにこっちの世界に迷い込んでくるのを、私たちが撃退してるんだけど……」

穂乃果「今回は、私たちが駆けつけるのが遅れたせいで、かすみちゃんとしずくちゃんを巻き込んじゃった……ごめんなさい」

かすみ「え、い、いや……それなら、穂乃果先輩たちのせいじゃないじゃないですか……謝らないでください」

穂乃果「えへへ……ありがとう。でも、こうならないために、私たちがいるんだから……反省はしないとね」

千歌「うん……そうだね」

穂乃果「あ、それと……これ本当は秘密にしなくちゃいけないことだから、他の人には絶対話さないでね? パニックが起きちゃうから」

かすみ「は、はい、わかりました」


つまり、詳しいいきさつはわかりませんが、超強いトレーナーたちが異世界から襲ってくるエイリアンポケモンたちを撃退していたけど、たまたまそいつらにかすみんたちが遭遇しちゃった……という感じみたい。


彼方「とりあえず、今日は疲れたでしょ? ここなら、彼方ちゃん含めて、めちゃくちゃ強いトレーナーが3人もいるから、安心して休んで〜」

かすみ「……はい、そうさせてもらいます……」


かすみんも緊張の糸が切れたのか、眠くなってきました……。ああ、でも……汗くらいは流さないと……うら若き乙女がお風呂にも入らず、寝るなんて言語道断です。


かすみ「ふぁぁ……お風呂、貸してください……」

遥「はい! こっちが浴室なので!」


はる子に案内されて、浴室へ向かう。

部屋から出ていく際、ベッドのしず子に目を向けると──


しずく「…………すぅ…………すぅ…………」


静かに寝息を立てながら眠っている姿に、再度安心して、今日の疲れを癒すために、お風呂を目指すのでした。

──あまりに疲れすぎていたせいか、湯船で寝かけて溺れそうになったのは、ヒミツですよ?



504 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/22(火) 12:25:01.56 ID:lNytOG/10

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコの森】
 口================== 口
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  ||.  |___回●__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.23 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.21 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.17 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.22 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:111匹 捕まえた数:6匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.18 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.18 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.19 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.20 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:120匹 捕まえた数:9匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/11/22(火) 19:17:19.70 ID:KqqYGHRoO
『先着☆6テラレイドしまくる+配布会』
(16:32〜放送開始)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
506 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/23(水) 12:28:33.84 ID:O3G9ZVHQ0

■Chapter026 『潮騒の町・ウチウラシティ』 【SIDE Yu】





──かすみちゃんたちと別れてから、2番道路を歩くこと数時間。


リナ『侑さん、見えてきたよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん! あれが次の町……!」
 「ブイ」

歩夢「ウチウラシティだね!」


次の目的地、ウチウラシティへと到着した。


リナ『ウチウラシティは東西を海に囲まれてる海の町だよ。海産資源が多くて、別名・潮騒の町って呼ばれてる』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「確かに、町の中でも、潮の香りがするね」

侑「コメコシティとかホシゾラシティでも近くに海はあったけど……この町は本当に海の町! って感じかも!」
 「ブイブイ!」


少し遠くを見渡せば、西側に傾き始めた太陽に照らされた海とビーチが見える。

ここからでは、ちょっと遠くて見えないけど……今見ているのと逆側にも、真っ直ぐ進んで行けば海があるはずだ。


侑「どっちにも海があるのって不思議かも……!」

リナ『ここウチウラシティから、半島の南端のウラノホシタウンまでを繋ぐ1番道路は別名「海の道」とも呼ばれてる』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「地図で見るとわかりやすいけど、海を割るように半島が突き出てるから、そう言われてるんだよね」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「へー! せっかくだから、ウラノホシタウンまで行ってみたいなぁ……」

リナ『でも、ウラノホシにはジムはないよ?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「ふふ、でも侑ちゃんは行きたいんだよね」

侑「うん! だって、ウラノホシタウンと言えば──千歌さんの出身地だもん! チャンピオンの生まれ育った町に行けば、千歌さんの強さの秘密が何かわかるかもしれないし!」

リナ『なるほど』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「あと、この近くには研究所もあるからね! 行ってみたい場所はたくさんあるよ!」


凛さんと花陽さんの都合が付くまで、少し時間も掛かるだろうし……その間に、この一帯をいろいろ見て回れればいいな。


リナ『それじゃとりあえず、ジムに行くの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うーん……もうそろそろ夕方になるし……。まずは宿探しかな」

歩夢「じゃあ、ジム戦は明日にする?」

侑「うん。たくさん歩いて、ポケモンたちも疲れちゃっただろうし」
 「ブイ」

歩夢「ふふ、侑ちゃんも……でしょ?」

侑「あはは、バレちゃった?」

歩夢「今日はゆっくり休んで、明日のジム戦に備えようね♪」

侑「うん! それじゃ、張り切って良い宿を探そう〜!」

リナ『今、宿の候補を検索するね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「お願い、リナちゃん!」


いつもどおり、リナちゃんに検索をお願いして、私たちは宿を探し始めた。



507 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/23(水) 12:30:31.42 ID:O3G9ZVHQ0

    🎹    🎹    🎹





──あの後、海辺の旅館に宿を取って、腰を落ち着けた。


侑「はぁ〜……おいしかった〜♪」
 「ブイブイ♪」


晩御飯に出てきた海の幸を堪能出来て、幸せな気分。


侑「しかも、この後は温泉〜♪」

リナ『侑さん、ご機嫌だね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「ご飯もおいしいし、温泉にも入れるって言われたら、そりゃご機嫌にもなるよ〜! イーブイたちも温泉でゆっくりしようね!」
 「ブイ♪」「ワシャー♪」

侑「ニャスパーもだよ」
 「ニャァ?」

侑「温泉、お風呂。わかるかな?」
 「ニャァ」


説明してみるものの、ニャスパーは興味なさげに自分のモンスターボールで遊び始める。……まあいっか、ニャスパーがマイペースなのは、いつものことだし。


侑「ライボルトは……」
 「…ライ」


部屋の隅で、身を伏せて目を瞑っている。温泉には興味なさそう……。

ライボルトはなんというか……孤高というか、あんまりスキンシップを取りたがらないんだよね……。


侑「ま、いっか……」


お風呂の準備をしようとしていると、


歩夢「よいしょ……」


何故か歩夢が、上着を羽織っていることに気付く。


侑「歩夢? 外に行くの?」

歩夢「あ、うん。ちょっと、お散歩しようかなって思って」

侑「もう暗いよ?」

歩夢「近くを歩くだけだから、大丈夫だよ」

侑「私も付いていこうか……?」

歩夢「……ちょっと一人でお散歩したい気分なんだ。大丈夫、すぐに戻ってくるから」

侑「そう……? 何かあったらすぐに連絡するんだよ?」

歩夢「うん、わかった」


歩夢は頷くと手を振りながら、部屋を出ていく。


リナ『歩夢さん、どうしたんだろう?』 || ? _ ? ||

侑「わかんない……」


ただ、歩夢が一人になりたいと言うなら、止めるのも違う気がするし……。
508 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/23(水) 12:32:09.73 ID:O3G9ZVHQ0

侑「まあ……サスケもいたし、手持ちのボールも持ってたから、大丈夫だと思う」

リナ『そうだね。いざってときでも、図鑑があれば位置もわかるし』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「うん」





    🎀    🎀    🎀





私は一人、ウチウラシティの西にある浜を歩く。


歩夢「……もう、侑ちゃんったら、相変わらず過保護なんだから……」


そうやって、気に掛けてくれることが嬉しい自分もいるけど……。

でも、今は……そんな侑ちゃんの優しさに甘えてちゃいけないとき。


歩夢「ラビフット、マホミル、出てきて」
 「ラフット!!」「マホミ〜♪」


2匹をボールから出し、


歩夢「サスケも」
 「シャボ」


定位置にいたサスケも砂浜に降ろす。


歩夢「それじゃ、始めよっか」
 「ラフット!!」「マホミ〜♪」「シャーーボ!!」





    🎀    🎀    🎀





砂浜の砂を盛って、そこに拾った木の棒を立てる。


歩夢「──サスケ! “どろばくだん”!」
 「シャーーボッ!!!!」


その木の棒目掛けて、サスケが“どろばくだん”を放つ。

サスケの攻撃は木の棒を吹きばしたけど……それと同時に、盛った砂の山も吹き飛ばしてしまった。


歩夢「これじゃダメ……もっと的確に攻撃を当てないと……。サスケ、もう1回!」
 「シャーーボッ!!!」


いくつか作った砂の山に立てた木の棒に向かって攻撃を飛ばす。木の棒だけ狙い撃てればそれで成功だ。成功するまで、何度も繰り返す。


 「シャーーーボッ!!!」

歩夢「! やった! 今度は成功だよ! サスケ!」
 「シャボッ」

歩夢「それじゃ、次はラビフット!」
 「ラフット!!!」

歩夢「行くよ……! はい!」
509 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/23(水) 12:33:21.52 ID:O3G9ZVHQ0

同時に2つ放り投げた、小石を、


歩夢「“にどげり”」
 「ラビ、フット!!!!!」


的確に2つ蹴り飛ばす。


歩夢「うん! 上手だよ! もう1回!」
 「ラフット!!!」

 「──ふふ、特訓ですか?」

歩夢「っ!?」


急に声を掛けられて、ビクっとしてしまう。


歩夢「あ、えっと……」

女の人「あら……ごめんなさい。驚かせるつもりはなくて」

歩夢「い、いえ……」

女の人「こんな暗い中特訓なんて、精が出ますわね。ポケモントレーナーさんですか?」

歩夢「は、はい」


私に話しかけてきたのは、髪の長いお姉さんだった。

夜の砂浜は街灯もないため、髪が長いくらいの特徴しかわからないけど……とにかく、優しい声と柔らかい口調で喋る人だ。


女の人「技の命中精度を上げる特訓ですか……」

歩夢「はい。……少しでも、強くなりたくて」

女の人「ふふ、強くなるためには、焦りは禁物ですわよ? 実力というものはゆっくりと時間を掛けて身に着けても……」

歩夢「……私、近いうちに大事な試合があるんです」

女の人「……では、それに向けての特訓……ということですか」

歩夢「はい。……その試合、実は再戦で……今度は絶対に勝ちたいんです。それに、マルチバトルだから、一緒に戦ってくれる子の足を引っ張らないように、少しでも強くならないと……」

女の人「なるほど……。少し、ここで見ていてもいいですか?」

歩夢「え? いいですけど……きっと、面白くないですよ?」

女の人「いえ、頑張っている人を見るのが好きなので」

歩夢「は、はぁ……」


なんだか変わった人だなと思った。

でもまあ……本当に見ているだけなら、別に断る理由もないかな……。


歩夢「えっと……それじゃ、次はマホミル」
 「マホミ〜♪」


私はマホミルから少し離れた場所に移動して、


歩夢「マホミル! “アロマセラピー”!」

 「マホ〜〜」


マホミルの匂いが届くのを待つ。


歩夢「……えっと、じゃあ次はこっちに移動して……もう1回!」

 「マホミ〜♪」

歩夢「……うーん、ここだともう届かない……」
510 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/23(水) 12:34:13.85 ID:O3G9ZVHQ0

恐らく移動して、風上に来てしまったというのもありそうだ。


歩夢「そこから、もう少し“アロマセラピー”の範囲、広げられる?」

 「マホ〜〜〜!!!」


マホミルがさっきよりも大きな鳴き声をあげながら、“アロマセラピー”を発動すると、


歩夢「あ……ちょっとだけ、匂いが届くね! その調子!」


今度は私のもとに匂いが届いてきた。


女の人「なるほど……補助の得意なマホミルは少しでもサポート出来る範囲を広げるための特訓、ということですね」

歩夢「あ、はい」

女の人「ふふ、面白い特訓方法ですわね」


女の人は思ったよりも、楽しそうに私の特訓を観察していた。ホントに変わった人かも……。


歩夢「じゃあ、もう少し離れたところまで──」


私がマホミルの方を見ながら、少しずつ距離を取って後退していたそのとき、


歩夢「きゃっ!?」
 「──タマッ」


何かに躓いて背中側から転んでしまう。


歩夢「いたた……」

女の人「大丈夫ですか……?」


転んだ私を見て、女の人が駆け寄ってくる。


歩夢「は、はい、下が砂だったので、怪我とかは……。……突然、何かに躓いて……」


足元を見ると、


 「タマッ…」


青くて丸いポケモンが蹲っていた。


歩夢「ポケモン!? ご、ごめんね!? 怪我してない!?」
 「タマ…」


間近で見て確認をすると、少し怯えてこそいるものの、怪我はしていなさそうで安心する。


女の人「このポケモンは……タマザラシですわね」

歩夢「タマザラシ……? タマザラシって、寒い海にいるポケモンですよね?」

女の人「はい、ですからあまりこの辺りにはいないのですが……何分まだ泳ぐのが苦手なポケモンなので、たまにこうして流されて来てしまうことがあって……」

歩夢「そうなんですか……」


つまり、群れからはぐれてしまった子のようだ。


 「タマ…」


タマザラシは不安そうに、私に身を寄せてくる。
511 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/23(水) 12:35:31.97 ID:O3G9ZVHQ0

歩夢「お腹空いてるの? ……あ、“きのみ”があるから、ちょっと待っててね」


私はバッグから“フィラのみ”を取り出して、タマザラシに与える。


女の人「あ、その“きのみ”は……!」

 「タマ…♪」


タマザラシは“フィラのみ”を見ると、おいしそうに食べ始めた。


歩夢「ふふ、好きな味だもんね♪ まだ、たくさんあるからね♪」
 「タマ♪」

女の人「……あの」

歩夢「? なんですか?」

女の人「どうして、その子が辛い味が好きだとわかったのですか?」

歩夢「え?」

女の人「“フィラのみ”は強い辛味成分を含む“きのみ”で、苦手なポケモンは食べたら“こんらん”してしまうほどです……味の好みを完全に把握していないと、普通はあげられないのではと思いまして……」

歩夢「えっと……でも、この子、私に擦り寄ってきたので……“さみしがり”な子なのかなって。“さみしがり”な子は辛い味が好きで、すっぱい味が嫌いですし……」

女の人「この短時間で、初めて出会ったポケモンの性格を……」

歩夢「……?」

女の人「やはり、貴方は面白いトレーナーですわね」

歩夢「は、はぁ……ありがとうございます……?」


なんだかよくわからないけど……感心されてしまった。


女の人「そのタマザラシ、よかったら貴方が連れていってあげてください」

歩夢「え?」

女の人「群れからはぐれたタマザラシが元の群れに追い付くのは難しいでしょうし……“きのみ”をくれた貴方を信用しているようですから」

 「タマァ♪」

歩夢「……タマザラシ、私と一緒に冒険してくれる?」
 「タマ、タマァ♪」


問いかけると、タマザラシは嬉しそうに身を寄せてきた。


歩夢「うん。それなら、一緒に行こうか♪」
 「タマ♪」

女の人「ふふ、素敵なものを見せてもらったところで……わたくしはそろそろ帰りますわね」

歩夢「あ、はい。暗いのでお気を付けて……」

女の人「貴方も。……そうそう、貴方の特訓を見ていて思いましたが……」

歩夢「?」

女の人「貴方の持ち味は、鋭い攻撃や精度の高い技ではなくではなく……きっと、その優しさや愛情、ポケモンをよく見ている、その観察力にあると思いますわ。……なんて、余計なお世話かもしれませんが」

歩夢「……前にも、他の人から同じようなことを言われました」


少し言葉の選び方は違うけど……ニュアンス的にはエマさんが言っていたことに似ている気がする。


女の人「それを鍛えていくのではダメなのですか?」

歩夢「ダメ、というか……。……自信が欲しいんです」

女の人「自信、ですか……?」

歩夢「さっき大事な試合があるって言いましたよね。……その試合のことを考えると、まだ不安で。また負けちゃうんじゃないかなって……そんな風に考えちゃって……」
512 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/23(水) 12:36:34.11 ID:O3G9ZVHQ0

次こそは、胸を張って、自信を持って戦いたいと思うのに。どうしても、弱気な自分が顔を出してしまう。そんな状態から抜け出したくて、こうして侑ちゃんには秘密で特訓をしにきたわけだけど……。


女の人「今日の特訓で、自信は付きましたか?」

歩夢「……正直、あんまり」


技の精度や威力は、少しずつ上がっていっているのを実感している。でも……それでも、自分がまた負けてしまうんじゃないかという不安が頭から離れていってくれない。


女の人「そうですか……。……でしたら、最後にもう一つお節介を焼きますわね」

歩夢「?」

女の人「実戦で失った自信は、実戦でしか取り戻せないものです。その大事な試合とやらの前に、一度どこかで戦ってみてはどうでしょうか」

歩夢「どこかでバトルを……」

女の人「もちろん、決めるのは貴方自身ですが……。それでは、今度こそ帰りますわね」

歩夢「あ……すみません、引き留めたみたいになっちゃって……」

女の人「いえ、お気になさらず。……それでは、またお会いしましょう。おやすみなさい」

歩夢「はい、おやすみなさい」


女の人は小さく手を振ると、背筋を伸ばしたまま、夜の浜を後にして、町の方へと消えていくのだった。


歩夢「……? ……またお会いしましょう……?」


またどこかで会うのかな……? いや、社交辞令の一環みたいなものだよね……?


 「ラビフ!!」「シャボ」「マホミ〜♪」「タマァ」
歩夢「……そうだね、私たちもそろそろ戻ろうか」


あんまり長く続けていると、侑ちゃんも心配するだろうし……。

みんなを引き連れて、私も夜の浜辺を後にするのだった。





    🎹    🎹    🎹





歩夢が帰ってきたのは、散歩に出てから1時間くらいしてからのことだった。

特に変わった様子もなく、普通に戻ってきたから一安心……したんだけど。


 「タマ♪」
歩夢「タマザラシもお風呂入りたいの? こおりタイプでも、温泉って入って大丈夫なのかな?」

侑「歩夢の手持ちが増えてる……」

歩夢「あ、うん。さっき、そこの浜辺でお友達になったの」
 「タマ♪」


しかも、すごく懐いているし……。


歩夢「それじゃ、私お風呂行ってくるね」

侑「あ、私も!」

歩夢「え? 先に入ったんじゃ……」

侑「歩夢のこと待ってたんだ! ゆっくり温泉を楽しむなら、歩夢と一緒がいいなって思って」

歩夢「……ふふ♪ そっか♪」
513 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/23(水) 12:37:22.82 ID:O3G9ZVHQ0

歩夢は嬉しそうに笑いながら、


歩夢「じゃあ、早く行こ♪」


私の手を引く。


侑「わっとと、今行くから焦らないでって!?」

歩夢「ダ〜メ♪ 私いっぱい歩いて疲れちゃったから、早くお風呂でのんびりしたいの♪」

侑「そ、そうなんだ……? あ、イーブイ、ワシボン、ニャスパーもいくよー!」
 「ブイブイ」「ワシャ〜♪」「ニャァ?」

歩夢「みんなもおいで〜!」
 「ラフット」「シャボ」「マホマホ〜♪」「タマァ♪」


私たちは手持ちたちと一緒に賑やかな雰囲気のまま、一日の疲れを癒すために、温泉へと向かうのだった。



514 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/23(水) 12:37:56.31 ID:O3G9ZVHQ0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウチウラシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         ● .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.30 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.27 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.28 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:72匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.25 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.23 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホミル♀ Lv.21 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.18 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:99匹 捕まえた数:13匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



515 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/23(水) 23:08:39.11 ID:O3G9ZVHQ0

 ■Intermission🎹



──震えている女の子に、抱かれていた。


 「……おとうさん……おかあさん……」

 「こっちに来ちゃダメ……!」

 「逃げるんだ……!」

 「おとうさん……っ……おかあさん……っ……!!」


……直後、視界は眩い光に包まれて──ホワイトアウトする。



──ところ変わって……ご飯を食べる場所。


 「…………」

 「──もしかして、喋れないのかい……?」

 「…………」

 「そうかい……辛い思い……したんだね……」

 「…………」

 「おばちゃんで良ければ、頼ってね……ご飯を作ってあげることくらいしか出来ないけど……」

 「…………」


女の子は、頷いた。



 「…ニャァ」



──────
────
──



侑「……ん……ぅぅ…………?」


目が覚める。


侑「…………夢…………?」


なんだか……おかしな夢を見た。

あまりに身に覚えがない光景……。

いや、夢だから、そういうこともあるのかもしれないけど……。

内容はよくわからなかったけど……妙にリアリティがある夢だったような……。

ぼんやりと身を起こすと──


歩夢「…………すぅ……すぅ……」
 「ラビ…zzz」「…zzz」「マホ…zzz」「タマァ…zzz」


眠っている歩夢と、そのポケモンたち。


 「ブイ…zzz」「ワシャ…zzz」「ニャァ…zzz」「…ライボ」
516 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/23(水) 23:09:14.33 ID:O3G9ZVHQ0

私のポケモンたち。

そして、


リナ『侑さん……? どうかしたの? まだ早いよ?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんが居た。


侑「あ、うぅん……ちょっと変な夢見て起きちゃっただけ……」

リナ『そう?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「もうちょっと……寝ようかな……」

リナ『うん、その方がいいと思う。時間になったら起こすから』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「……うん、お願い……」


私は再び目を瞑って、眠りへと……落ちていくのだった。



………………
…………
……
🎹

517 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:11:31.44 ID:ffPGApYk0

■Chapter027 『決戦! ウチウラジム!』 【SIDE Yu】





──ウチウラシティで一晩を過ごし、その翌日。


侑「あー……緊張してきた」
 「ブイ」


ウチウラジムを前に、緊張で跳ねる鼓動を落ち着けようと深呼吸をする。


歩夢「侑ちゃん、頑張ってね!」

リナ『侑さん、ファイト』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「うん、頑張る!」


歩夢とリナちゃんの激励を受けながら、覚悟を決めて、ジムの扉をくぐる。

ジムの中は学校の体育館のような内装で、その床にはバスケットコートの様に、ポケモンバトル用のフィールドを示すラインが引かれている。

ここウチウラジムはポケモンスクールが併設されているから、ジム戦がないときは体育館としても使っているのかもしれない。

そんなジム内を見回しながら、奥に目を向けると──赤い髪の女の子が一人。


侑「ウチウラジムのジムリーダー──ルビィさん……!」

ルビィ「……チャレンジャーの方ですか?」

侑「はい! セキレイシティから来た、侑って言います! ジム戦、お願いします!」

ルビィ「わかりました! バトルスペースについてください!」

侑「はい! 行くよ、イーブイ!」
 「ブイ!!」


セキレイ、ダリア、コメコ、ホシゾラに続いて訪れた5つ目のポケモンジムにして、私の3つ目のジムバッジを懸けた戦いが始まる。

未だに緊張で高鳴る胸を、深呼吸でどうにか落ち着かせながら、チャレンジャーのスペースに向かう。

その最中、


歩夢「侑ちゃん! 頑張ってね!」


私の背後のセコンドスペースから歩夢の声。

私は力強く頷いてみせてから、再びルビィさんの方へと振り返ろうとした、そのときだった。


 「──そのジム戦、少し待ってもらえませんか?」


凜とした声が、ジム内に響き渡った。


侑「え?」

歩夢「……あれ、この声……?」

ルビィ「ぅゅ……? お姉ちゃん……?」


ルビィさんの背後から、歩いてくる黒髪の女性の姿を見て、私は目を見開いた。


侑「う、嘘……!? あの人って、まさか……!!」


チャンピオン率いる、4人の最強ポケモントレーナー──四天王の1人。その中でも鉄壁の防御力を誇ると言われるくさタイプのエキスパート──
518 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:12:12.29 ID:ffPGApYk0

侑「だ、ダイヤ……さん……」

ダイヤ「あら、わたくしのこと、ご存じなのですね。ありがとうございます」

侑「あ、あああ、当たり前じゃないですか!!」


ダイヤさんと言えば、元ウチウラジムのジムリーダーで、つい最近四天王に就任したというのはニュースにもなっていたし、知っていて当然だ。

この町に訪れる際も四天王の出身の町だし、もしかしたらどこかで会えるかもなどと淡い期待をしていなかったわけじゃないけど──まあ、セキレイシティも四天王出身の街だけど──まさか、もう去ったと思っていたこのウチウラジムで会えるとは思ってもみなかった。


侑「さ、さささ、サイン!! サインください!!」

ダイヤ「ふふ。わたくしのサインなんかでよろしければ、ジム戦が終わったあとに差し上げますわ」

侑「や、やったーーー!! 歩夢!! ダイヤさんからサイン貰えるって!!」


興奮気味に歩夢の方を振り返ると──


歩夢「……あの」


歩夢は何やら困惑していた。


侑「歩夢……?」

歩夢「えっと……」


そして、そんな歩夢の視線は私を通り過ぎて──ダイヤさんに注がれている。


ダイヤ「ふふ、昨日振りですわね」

歩夢「……やっぱり」

侑「え、何? 昨日振りって、どういうこと?」

歩夢「私……昨日、浜辺でダイヤさんと会ったの」

侑「え、嘘!? なんで教えてくれなかったの!?」

歩夢「真っ暗でほとんど顔とかは見えてなくて……まさか、四天王の人だったなんて……」

侑「な、なるほど……」


確かにそんな場面で会った人がまさか四天王の1人だなんて、想像出来ないかも……。


ルビィ「それより、お姉ちゃん……どうしたの? 今日はお休みだって言ってたのに……」

ダイヤ「確かに今は休暇中ですが……少し、そちらの方に用事がありまして」


そう言いながら、ダイヤさんの視線は再び歩夢に向けられる。


歩夢「……」

侑「歩夢に……!? やっぱ、昨日何かダイヤさんと話したの!?」


四天王のダイヤさんと歩夢がした会話……すごく気になる……!!


ダイヤ「昨日わたくしが最後にした話、覚えていますか?」

歩夢「……はい」

ダイヤ「でしたら、わたくしがここに出てきた理由も、なんとなくおわかりなのではないでしょうか?」

歩夢「……」


ダイヤさんの言葉を聞いて、歩夢が不安げな瞳を私に向けてきた。
519 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:13:07.74 ID:ffPGApYk0

侑「歩夢……?」

歩夢「……あの……侑ちゃん」

侑「なに?」

歩夢「……あの、ね……わがまま、言っていい?」


目を泳がせながら、不安げに言う歩夢に向かって。


侑「いいよ」


私は即答した。


歩夢「侑、ちゃん……」

侑「歩夢、何かしたいことがあるんだよね。だったら、私は協力する!」

ダイヤ「聞く前から、了承してしまっていいのですか?」

侑「はい! 歩夢のお願いですから!」


歩夢はいつも一歩引いている子だった。

私が好きなものに突っ走って、引っ張って、連れ回しても、文句一つ言わず、いつも私の傍にいてくれた。

そんな歩夢が、自分から、自分のしたいことを、わがままを、私に言ってくれることが、なんだか嬉しかった。


侑「どんなお願いでも、わがままでも、私が力になるからさ!」

歩夢「侑ちゃん……ありがとう」

ダイヤ「……ふふ、決まりですわね」

ルビィ「……?」

ダイヤ「ルビィ、このジム戦、少し特殊ルールにさせてもらってもいいですか?」

ルビィ「特殊ルール?」

ダイヤ「はい、特殊ルールとして──このジム戦はわたくしとルビィの二人で、チャレンジャーのお二人のお相手をさせていただきますわ」





    🎀    🎀    🎀





侑「──まさか、四天王と戦えるなんて……!!」
 「ブイ」


ダイヤさんとの話を終えて、戦いの準備取り掛かる中、侑ちゃんは興奮気味に言う。


歩夢「あの……侑ちゃん、本当に良かったのかな」


今更ながら、こんなことを私の一存で決めてしまってよかったのかと不安になるけど、


侑「いやいや、むしろありがとうって言いたいくらいだよ!! ジム戦が出来るだけでも贅沢なのに、四天王のダイヤさんと戦えるんだよ!? こんな機会普通ないんだから! 楽しまないと!」

歩夢「ふふ、侑ちゃんは本当にポケモンバトルが大好きなんだね」

侑「うん!」


嬉しそうな侑ちゃんを見て、安心する。

また私のわがままのせいで、大事なジム戦の難易度を上げてしまったかと思ったけど、それも杞憂のようだ。

──そして、このバトルをする以上は、
520 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:13:57.62 ID:ffPGApYk0

歩夢「……侑ちゃん」

侑「なに?」

歩夢「……私、勝ちたい」


勝ちたい。勝って、自分の自信にするために。


侑「違うよ、歩夢」

歩夢「え?」

侑「勝ちたい、じゃなくて──勝とう!」

歩夢「……! うん!」


侑ちゃんの手をぎゅっと握って、頷き合って、決意する。勝つんだ……!


リナ『二人とも頑張ってね。私もサポート頑張る』 || ˋ ᨈ ˊ ||

侑「うん、お願いね! リナちゃん!」

歩夢「頑張るね!」


リナちゃん含めて、戦いの準備が整ったところで、フィールドの向かい側にいるダイヤさんとルビィさんが声を掛けてくる。


ダイヤ「さて、準備はよろしいですか?」

ルビィ「こ、今回のルールは特別ルールで、それぞれのトレーナーが2匹ずつのポケモンを使ってのマルチバトルです!」

ダイヤ「そして、もちろんですがそちらが勝った暁には、ジムバッジをお二人に差し上げますわ。ただし、こちらの手持ちは侑さんのジムバッジ2個相当に合わせて選ばせていただきます。ジムバッジを持っていない歩夢さんには少し厳しい条件になりますが、そこはご容赦を」

侑「わかりました!」

歩夢「も、問題ありません!」

ルビィ「それじゃ、ジム戦を開始します……!」

ダイヤ「今は四天王ですが、本日はジムリーダーの一人として、お相手いたしますわ」


二人がボールを構える。


ダイヤ「ウチウラジム・ジムリーダー『花園の気高き宝石』 ダイヤ」

ルビィ「ウチウラジム・ジムリーダー『情熱の紅き宝石』 ルビィ!」

ダイヤ「さあ、ルビィ。行きますわよ!」

ルビィ「うん! お姉ちゃん!」


4つのボールが放たれて──……バトル、スタート……!!





    🎀    🎀    🎀





侑「行くよ! ライボルト!!」
 「──ライボッ!!!」

歩夢「ラビフット、お願いね!」
 「──ラフット!!!」


侑ちゃんの最初のポケモンはライボルト、私はラビフットを繰り出す。

対する、ジムリーダー側は、
521 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:14:53.69 ID:ffPGApYk0

ルビィ「行くよー! ヒトモシ!」
 「──トモシ〜」

ダイヤ「さぁ行きましょう、カリキリ」
 「──カリキリ」


ろうそくのようなポケモンと、小さなカマキリのようなポケモン。


リナ『ヒトモシ ろうそくポケモン 高さ:0.3m 重さ:3.1kg
   明かりを 灯して 道案内を するように 見せかけながら
   生命力を 吸い取っている。 吸い取る 命が 若ければ
   若いほど 頭の 炎は 大きく 妖しく 燃え上がる。』

リナ『カリキリ かまくさポケモン 高さ:0.3m 重さ:1.5kg
   昼間は 光を浴びて 眠り 夜に なると より 安全な
   寝床を 探し 歩き出す。 太陽の 光を 浴びると 甘く
   よい香りが するので 虫ポケモンたちが 寄ってくる。』


今のウチウラジムのエキスパートタイプは、ほのおタイプ。そして、先代ジムリーダーのダイヤさんのエキスパートタイプは、くさタイプだったはず。

侑ちゃんもそれは知っているだろうから、その上でくさタイプに相性のいいワシボンを出さなかったということは──


侑「ライボルト!! ヒトモシに向かって“チャージビーム”!!」
 「ライボッ!!!!」


開始早々、ライボルトの攻撃がヒトモシに向かって飛んでいく。


ルビィ「ヒトモシ、“ちいさくなる”!!」
 「トモシィ〜…」

侑「くっ、避けられた……! ライボルト、畳みかけるよ!」
 「ライボッ!!!」


ライボルトが侑ちゃんの指示でヒトモシに向かって飛び出して行く。

その際、一瞬だけ私に目配せをしてくる。


歩夢「……!」


侑ちゃんの言いたいこと、伝えたいことが自然とわかった。

──『ヒトモシは私たちが引き付けるから、カリキリをお願い!』

私はそれに応えるように、力強く頷いて見せる。


ダイヤ「──ボーっとしている余裕はありませんわよ!」

歩夢「!?」


ダイヤさんの声にハッとして視線を前に戻すと──カリキリがラビフットに向かって飛び掛かってきているところだった。


歩夢「避けてっ!?」
 「ラビフッ!!」


私の咄嗟の指示で、ラビフットは身を引くものの、完全には回避しきれず、


 「カリッ」


飛び掛かってきたカリキリが、ラビフットの脚に引っ付いた。


ダイヤ「“きゅうけつ”!!」
 「カリ、キリッ!!」


そして、そのままラビフットの脚にガブリと噛みついてくる。
522 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:15:48.06 ID:ffPGApYk0

 「ラ、ラビフッ!!」


カリキリは顎で噛みつき、体力の吸収を始める──剥がさなきゃ……!!

幸いこっちは有利なほのおタイプ。付かれた場所が脚ならすぐに剥がせる……!!


歩夢「“ブレイズキ──」

ダイヤ「“タネマシンガン”!!」

歩夢「……!?」


でも、私の指示よりもコンマ数秒早く、


 「カリカリリリリリリ」


カリキリはラビフットの脚から口を離して、タネを吐き出して攻撃してくる。


 「ラ、ラビッ!!?」


ダメージこそ大きくないものの、カリキリは吐き出すタネの反動で距離を取ってくる。


歩夢「せっかく、反撃のチャンスだったのに……」


いや、切り替えよう。距離を取ってくれたのなら、それはそれでいいんだ。


歩夢「ラビフット! “かえんほうしゃ”!!」
 「ラビ、フゥゥゥ!!!!!」


今度は口から火炎を噴いて攻撃する。近接攻撃じゃなくても、ほのお技で攻めていけば、こっちが有利だもん……!

──だけど、ダイヤさんは極めて冷静に、次の指示を出す。


ダイヤ「“このは”!」
 「カリ!!」


……“このは”……?

カリキリの目の前に大量の“このは”が集まってきて、


歩夢「……!?」


ラビフットの“かえんほうしゃ”を壁になって受け止める。


歩夢「う、うそ……くさタイプの技でほのおタイプの技を防いでる……!?」


予想外の防御手段に驚く。……とはいえ、いくら防いだと言っても、壁となっているのは、あくまで“このは”だ。

このまま、“かえんほうしゃ”を続けていれば“このは”の壁を焼き破るのはそんなに難しくないはず……!


歩夢「こ、このまま、“かえんほうしゃ”を続けて……!!」
 「ラビフゥゥゥーー!!!!!」


火炎で燃やされた“このは”の壁はメラメラと音を立てながら燃え上がる。

この調子ならもうすぐ、破れ──


ダイヤ「“きりばらい”!」
 「カリキリーー」

歩夢「!?」
523 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:16:25.11 ID:ffPGApYk0

そう思った瞬間、カリキリが強烈な風を巻き起こし、“このは”の壁もろとも、炎が霧散していく。

そして、何故か噴き付ける“かえんほうしゃ”は、カリキリを迂回するように逸れていってしまう。


歩夢「な、なんで……」


確かに“きりばらい”によって、吹いている風が炎の方向を操っているのかもしれないけど……ここまで、強い防御の技になるとは思えない。

当惑している私に向かって、ダイヤさんが口を開く。


ダイヤ「炎は風に煽られ、より燃えやすい方へと流れていきました」

歩夢「より、燃えやすい方……?」


何を言っているのかと思ったけど……よく見たら、炎が流れていった場所には──1本の道のように草が生い茂っていた。


歩夢「“グラスフィールド”……」

ダイヤ「そのとおり。炎の流れは草のフィールドと風の力でコントロールさせていただきました」

歩夢「……っ」


どうしよう、確実にこっちの方が相性は有利なはず……どうにか攻撃を当てなくちゃ……。


ダイヤ「攻撃がうまく決まらず、焦っていますわね」

歩夢「……」

ダイヤ「一つ、教えて差し上げますわ」

歩夢「……?」

ダイヤ「わたくしのエキスパートタイプ──くさタイプにはいくつ弱点があるかご存じですか?」


えっと……くさタイプの弱点は……。


歩夢「……ほのお、こおり、ひこう、むし、どくタイプです」

ダイヤ「正解。すらすら出てくるあたり、よく勉強されていますね。そんなくさタイプのポケモンたちですが……実は攻撃面でもそこまで恵まれてはいませんわ」


……確かに、同タイプのくさタイプをはじめ、ほのお、どく、ひこう、むし、ドラゴン、はがねと攻撃が半減されてしまう対象も多い。


ダイヤ「そんな相性の面では恵まれているとは言い難いくさタイプのポケモンたちが、どうすれば戦えるか、わたくしはずっと考えてきました。多い弱点も弱点にならないように、いくつも対策を考えて」


つまり……ダイヤさんが言いたいことは──


歩夢「ただ、弱点を突いただけじゃ……勝てない……」


今さっき、ほのおタイプの攻撃をいなされてしまったように、ダイヤさんは弱点のタイプへの対策が完璧なんだ……。

最初にやろうとした、“カウンター”としての“ブレイズキック”も、偶然ではなく、こっちの反撃を読み切っての回避行動だったということ。


歩夢「……っ」


圧倒的な実力差を感じる。


ダイヤ「さあ、次はどうされますか?」


強い……これが、四天王の実力。

──だけど、


歩夢「…………すぅ…………はぁ…………」
524 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:17:01.51 ID:ffPGApYk0

私は一度、深呼吸をする。

落ち着こう。落ち着いて、よく考えるんだ。

きっと何か打開する方法があるはずだ。

──もう簡単に諦めない。強くなるって、決めたから。

侑ちゃんの隣で、強くなるって、決めたんだから。





    🎹    🎹    🎹






──横で歩夢がダイヤさんに苦戦しているのが、目に見えてわかる。

どうにか、加勢したいけど……。


侑「“でんげきは”!!」
 「ライボッ!!!!」

 「トモシィ!!?」
ルビィ「わわ!? 回避率を上げてても、その技は当たっちゃう!?」

リナ『“でんげきは”は必中技! 侑さん、ナイス技選択!』 ||,,> 𝅎 <,,||

ルビィ「なら──“マジカルフレイム”!!」
 「トモーー!!」


ルビィさんの指示と共に、飛んできた青白い炎がライボルトに纏わりつくように燃え上がる。


 「ライボッ!!!!」
侑「ライボルト! 落ち着いて! そんなに威力の大きい攻撃じゃないから!」


炎を受け、慌てるライボルトを落ち着かせながら、ルビィさんを見る。


ルビィ「……」


ルビィさんは、目の前で戦っている私から、出来るだけ視線は外さないものの──さっきからチラチラとラビフットの方を気にしている気がする。


侑「リナちゃん」

リナ『なに?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ヒトモシの特性って、もしかして“もらいび”だったりする?」

リナ『うん、そうだよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「やっぱり……」


ヒトモシの特性は知らなかったけど、進化系のシャンデラの特性と同じらしい。

あのロウソクの体は見るからに炎によって強化されそうだし……恐らくさっきから、ラビフットを気にしているのは、ラビフットからの炎攻撃を受けて強化したいからだ。

相手はほのおタイプのエキスパート。そして、今ルビィさんが一緒に戦っているダイヤさんはくさタイプのエキスパート。

姉妹の二人のことだ。くさタイプを使うダイヤさんをフォロー出来るポケモンを意識して使っているというのは、想像に難くない。

そのために、“もらいび”のヒトモシを使っているとなると、


侑「やっぱり、ルビィさんを自由にさせるわけにはいかない……」


今は歩夢を信じて、ルビィさんのヒトモシに集中しよう。
525 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:17:38.80 ID:ffPGApYk0

侑「ライボルト! “かみくだく”!!」
 「ライボッ!!!!」


私の指示と共に、ライボルトが駆け出す。

“ちいさくなる”のせいで技は当たりづらいし、“マジカルフレイム”の効果によって、特殊攻撃力が下げられている。

なら、接近して直接攻撃をした方が手っ取り早い。


 「ライッ!!!!」


標的は小さいけど、自慢の俊足で肉薄したライボルトは、しっかりと目標を捉えてキバを突き立て──た、と思った瞬間、


侑「うぇ!?」


噛み付いたはずのヒトモシが──ドロリと溶けた。


リナ『侑さん! “とける”だよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「物理もダメ……!」


しかも、その直後、


 「ラ、ライボッライィッ」


急にライボルトがたたらを踏みながら、むせ始めた。


侑「ライボルト!?」


焦ってライボルトを確認すると──口元から、何やら黒い煙が……。


侑「まさか、“スモッグ”!?」

ルビィ「えへへ、成功だよ! ヒトモシ!」
 「トモ〜」

ルビィ「そのまま、“たたり──」

侑「“スパーク”!!!」
 「ライボッ!!!!」

 「トモシッ!!!?」
ルビィ「ピギィ!!?」


その場で激しく“スパーク”し、すぐさまヒトモシを追い払う。

それと共に、ライボルトは後退し、一旦相手から距離を取る。


侑「あ、あぶな……! “どく”状態から、さらに“たたりめ”を受けるところだった……」


どうにか最大打点は防いだものの、


 「ライボ…」


“どく”を受けてしまったことには変わりない。このままだと、まずいかも……。

何か思い切った攻め手を打つべきか……いや、でも、


ルビィ「ヒトモシ! ライボルトから目を離しちゃダメだよ!」
 「トモッ!!」
526 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:18:37.33 ID:ffPGApYk0

ルビィさんの狙いがいまいち掴み切れない。

さっきから、ラビフットを気にしているかと思いきや、ライボルトの相手はしっかりしている。

あれだけ多彩な補助技があるなら、ライボルトの攻撃を掻い潜ってラビフットの方に行くのも無理ではないはず。


侑「……いやむしろ、そうしないのはおかしいような……」


思わず口に出して呟いてしまう。

考えてみれば、ヒトモシの仮想敵は最初から、ダイヤさんの手持ちのくさタイプが呼ぶ、ほのおタイプやこおりタイプの相手なんだとしたら、大真面目にライボルトの相手をし続けているのには違和感がある。

加えて、でんきタイプの通りが悪い、くさタイプのポケモンがライボルトの相手をしに来る方が絶対に戦闘の効率もいいはず。

でも戦局はライボルトVSヒトモシ、ラビフットVSカリキリの構図になっている。……だけど、対戦相手を入れ替えようともしていない、そうしないだけの理由があるはずだ。


 「トモシ」


指示どおり、ライボルトから視線を外さないヒトモシ。そして、


ルビィ「…………」


相変わらずラビフットを気にしながら、私たちの次の行動を待っているルビィさん。

──私が知る限りでは、ルビィさんの公式試合での戦い方には、独特な緩急があるイメージだ。

膠着したような試合運びのように見えて、突然何かのきっかけで、一気に自分の方に展開を持ち込むような逆転型の戦い方が特徴のトレーナー。


侑「……」


もしかして──何か特定の行動を……待っている……?

そのとき、ふと、


ダイヤ「──さあ、次はどうされますか?」


ダイヤさんが歩夢の次の行動を促す言葉が聞こえてきた。


歩夢「……っ」


歩夢も攻撃を捌かれて焦っているのがわかる。

ダイヤさんは防御戦術の名手として知られている。

相性がよくても、なかなかあの防御力を崩せず苦戦するのも無理はない。


ダイヤ「どうしましたか? もうすでに最大火力の技は使ってしまいましたか?」


再び、攻撃を誘うような言葉。

そこでふと──一瞬だけ、ダイヤさんがライボルトの方をチラリと見たのを、私は見逃さなかった。


侑「……!」


──もしかして……そういうこと……?

……ただ、わかったとして、どうする?

歩夢に伝えたら、相手にもこっちが気付いたことを気取られる。

……いや──


侑「ライボルト、床に向かって“アイアンテール”!」
 「ライボッ!!」
527 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:19:26.67 ID:ffPGApYk0

──ガァンッ!!! と激しい音を立てて、ライボルトが地面に鋼鉄の尻尾を叩き付ける。

その大きな音と突然の行動に、


ルビィ「ピギィ!?」

歩夢「きゃっ!?」


ルビィさんと歩夢が同時に驚きの声を上げる。


歩夢「侑ちゃん……?」

ダイヤ「一体何を……?」


思いっきり攻撃をぶつけた床は、崩れて小さな礫が転がる。


侑「歩夢、これ使える?」

歩夢「え……」


歩夢は一瞬、私の言葉に目を丸くしたけど、


歩夢「うん」


すぐに頷いた。

それを確認すると、ライボルトが礫を咥えてから、ラビフットの方に放り投げる。


 「ラビフッ」


ラビフットはそれを器用にリフティングし始める。


ダイヤ「! 武器の調達ということですか」


ダイヤさんはこの意図には、すぐに気付いたようだ。


侑「歩夢、相手はどっちも守りがすごく堅い」

歩夢「う、うん……」

侑「だから、イチかバチか、私の合図で一気に最大火力で攻めてみよう」

歩夢「で、でも……」


歩夢の戸惑いの声。恐らく、我武者羅に突っ込んでも、また捌かれるだけかもしれないという心配だろう。

ただ、私は、


侑「大丈夫。私を信じて」

歩夢「侑ちゃん……」

侑「……いや、違うかな」

歩夢「?」

侑「私は歩夢のことを信じてるよ」

歩夢「! ……わかった」


歩夢も了承してくれた。

……あとは一発勝負だ。


 「ライボォッ…!」
528 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:21:12.81 ID:ffPGApYk0

ライボルトが足回りの筋肉に“じゅうでん”を始める。


侑「1,2,3で同時に行くよ……!」

歩夢「うん! 行くよ、ラビフット!」
 「ラビフッ!!!」


リフティングをしているラビフットの脚がメラメラと炎を宿す。


ダイヤ「ルビィ、来ますわよ!」

ルビィ「うん!」


相手方も迎え撃つ準備は万端のようだ。


侑「よし……! 行くよ、歩夢!」

歩夢「うん! いつでも!」

侑「1……2……3!! 行け! ライボルト!!」
 「ライボッ!!!!」

歩夢「ラビフット!! “ブレイズキック”!!」
 「ラビフットッ!!!!」


──ライボルトが充填した電気エネルギーを解放した“でんこうせっか”でヒトモシに向かって飛び出し、ラビフットが“ブレイズキック”で石に着火しながら、カリキリに向かって蹴り飛ばす。


ダイヤ「さあ、来なさい!!」
 「カリキリ」

ルビィ「ヒトモシ! 行くよ!!」
 「トモシッ!!!」


猛スピードで前進するライボルトと、それに並ぶように飛んでいく燃え盛る礫。

2つの攻撃が真っすぐ目の前の対象を捉えたその瞬間──ルビィさんの声。


ルビィ「“サイド──」

侑「“エレキボール”!!」
 「ライボッ!!!」

ルビィ「──チェンジ”!! え!?」


ルビィさんが技の指示を出し切る前に、ライボルトが尻尾から“エレキボール”を放つ──背後のラビフットに向かって。


侑「歩夢!! 本命のボールはそっちっ!!!!」

歩夢「!! ラビフット!! 蹴り返して!!」
 「!! ラビフット!!!!!!」


ラビフットが“エレキボール”を蹴り返すのと同時に──燃えた礫が急に上方向に軌道をずらし、ヒトモシの頭の上スレスレを通り抜けていく。


ダイヤ「なっ!?」

ルビィ「な、なんで!?」


驚きの声を上げる姉妹。

それもそのはず。最初から仲間と場所を入れ替える技──“サイドチェンジ”でヒトモシが“もらいび”で受け止めるつもりだったが、その受け止めるはずの炎の礫がヒトモシを避けるように天井に吸い寄せられていくからだ。


ダイヤ「っ!? “でんじふゆう”を使ったデコイ!?」
529 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:21:54.20 ID:ffPGApYk0

──そう、そのとおり。あの礫はライボルトが口に咥えたときに“でんじふゆう”で磁力を帯びさせていた。

最初から当てるつもりのない、囮の攻撃……! ラビフットが蹴り飛ばした直後にライボルトが一帯に強力な電場を作り出して、浮遊させたというわけだ。

礫が熱を帯びていたせいで、思ったよりも磁力で上に飛ばせなかったけど──ヒトモシにさえ当たらなければ十分だ……!

この一瞬でそれに気付いたダイヤさんはさすがだけど、


ダイヤ「カ、カリキリ!! “このは”!!」
 「カ、カリキ!!!」


この状況で防御の指示まで間に合うか──いや、間に合わせない!!


 「ライボッ!!!」


土壇場で作った“このは”の壁を猛スピードの突進で無理やり突き破り、


侑「“ほのおのキバ”!!」
 「ライボッ!!!!」

 「カリィ!!?」


燃え盛るキバでカリキリを抑えつけたまま、


侑「“オーバーヒート”!!!」
 「ライボォォォォ!!!!!!」

 「カリキィィィィィ!!!?」


ありったけの熱波を至近距離で解放して焼き尽くした。

そして、それと同時に──


 「トモシィ!!!?」
ルビィ「ヒ、ヒトモシー!!」


デコイの燃える礫を吸収する気満々で前に出てきたヒトモシは、ラビフットのキックで加速しながら跳ね返ってきた“エレキボール”が直撃して、


 「ヒ、トモォ…」


目を回して、戦闘不能になるのだった。


侑「……せ、成功したぁ……」


かなり無茶な作戦がどうにか成功して、思わずへたり込む。


ルビィ「う、うそ……」

ダイヤ「……してやられましたわね。戻って、カリキリ」
 「…カリィ──」

ダイヤ「ルビィも。ヒトモシを戻してあげてください」

ルビィ「あ……うん。お疲れ様、ヒトモシ……」
 「…トモ──」


戦闘不能になった2匹がボールに戻される。

相手のポケモンを先に2匹撃破した。このアドバンテージは大き──


歩夢「侑ちゃんっ!」

侑「わぁ!?」

歩夢「もう、あんな無茶なことするなんて聞いてないよっ!」
530 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:22:30.97 ID:ffPGApYk0

歩夢が軽く涙目になりながら、抗議してくる。


侑「ご、ごめんっ! 声に出したら向こうにバレちゃうって思ったから……!」

歩夢「そうだとしても、ホントにびっくりしたんだから! “エレキボール”がこっちに向かって飛んできたとき、私、一瞬頭が真っ白になっちゃったんだよ!?」

侑「だからごめんって! でもね、歩夢!」

歩夢「?」

侑「歩夢なら絶対に、私の作戦、すぐに理解してくれるって信じてたから、成功したよ!」


そう言って、ニコっと笑顔を作ると、


歩夢「も、もう……そういう言い方、ずるいよ……」


歩夢は可愛らしく、ぷくーっと頬を膨らませるのだった。


リナ『二人ともすごかった! ナイスコンビネーション!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「うん、ありがとう、リナちゃん」

歩夢「はぁ……今度から、こういう作戦は出来るだけ、あらかじめ決めておくようにしようね……」

侑「あはは、了解。でも、これで今回のバトルは4対2に持ち込めた……!」

リナ『うぅん、3対2だと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「え?」


言われて、フィールドを見ると、


 「ライ、ボッ…」


ライボルトが蹲っていた。


侑「しまった……“どく”のダメージがそろそろ限界だった……!」


ライボルトは“スモッグ”で受けた“どく”のダメージで、これ以上の戦闘は厳しそうだ。


侑「戻って、ライボルト! ありがとう!」
 「ライボ…──」


ライボルトをボールに戻して、歩夢以外が一斉にポケモン交換のため、バトルは一旦仕切り直しだ。


ダイヤ「──ポケモンを入れ替える前に、一つ聞いてもいいでしょうか?」

侑「なんですか?」

ダイヤ「ルビィのヒトモシの“サイドチェンジ”……わかっていたのですか?」


ダイヤさんからのそんな問い。


侑「あーえっと……“サイドチェンジ”をヒトモシが使えるかは知らなかったんですけど……」

ダイヤ「けど?」

侑「ルビィさんはずっとラビフットを気にしてたし……ダイヤさんも、不利相性のはずなのに歩夢の攻撃をいなすばっかりで、全然攻撃を仕掛けてなかったから、最初からラビフットに強力なほのお技を撃たせようとしてるんじゃないかなって。となれば、ヒトモシとカリキリのどっちかが、場所を入れ替わる技“サイドチェンジ”を使えるんじゃないかって思って」


“サイドチェンジ”自体はダブルバトルの試合で何度か見たことがあったけど、ヒトモシかカリキリがそれを使えるかどうかは、ある意味賭けだったけどね……。


ダイヤ「……なるほど」

ルビィ「ピギッ!?」
531 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:23:17.42 ID:ffPGApYk0

私の言葉を聞いて、ダイヤさんの鋭い視線がルビィさんに送られる。


ダイヤ「ルビィ、あれほど視線には注意しなさいと、いつも言っているでしょう……」

ルビィ「え、えぇ……ルビィ、ラビフットの方は見ないようにしてたつもりなのに……そんなに見ちゃってたかなぁ……」

ダイヤ「尤も……確信をしたのは、わたくしもどこかでライボルトの方を見てしまったから、なのかもしれませんが……」


恐らく、ダイヤさんもルビィさんに合図を送るために、わかりやすく大技を引っ張り出すタイミングを調整していたんだと思う。

その際、ダイヤさんが一瞬だけライボルトを見たのは、位置を入れ替えたカリキリが有利な展開を運ぶための策を考えるための確認だったんだろう。


ダイヤ「……とはいえ、あの一瞬であれだけの作戦を組み立てて実行する胆力。マルチバトルのパートナーを信頼していないと出来ない芸当。素直に称賛しますわ」

ルビィ「う、うん……確かにすごかった……」

侑「えへへ……だってさ、歩夢!」

歩夢「もう! 私まだ許してないよ! ……でも、侑ちゃんが私を信じてくれたのは……嬉しかったよ。えへへ……///」


さて、話も終わったところで、


ダイヤ「……さて、こうしてわたくしたちは不利な状況になってしまいましたが……。……2匹目はそう簡単には行きませんわよ」

ルビィ「侑さん! 次のポケモンの準備はいいですか!」

侑「はい!」


ダイヤさんとルビィさんがボールを放る。


侑「さぁ、出番だよ! イーブイ!」
 「ブイ!!」


後ろで待っていた、イーブイがバトルフィールドに飛び出し、それと同時に2つのボールがフィールドに放たれた。

さあ、第二ラウンドだ……!





    🎹    🎹    🎹




 「──ジャノビ」
ダイヤ「ジャノビー、お願いしますわね」

 「──シャモッ!!」
ルビィ「ワカシャモ! 行くよ!」


ダイヤさんはジャノビー、ルビィさんはワカシャモを繰り出してくる。


リナ『ジャノビー くさへびポケモン 高さ:0.8m 重さ:16.0kg
   生い茂った 草木の 陰を 潜り抜け 攻撃を 回避し
   巧みな ムチさばきで 反撃。 体が 汚れると 葉っぱで
   光合成が できなくなるので いつも 清潔に している。』

リナ『ワカシャモ わかどりポケモン 高さ:0.9m 重さ:19.5kg
   野山を 走り回って 足腰を 鍛える。 スピードと パワーを
   兼ね備えた 足は 1秒間に 10発の キックを 繰り出す。
   戦いに なると 体内の 炎が 激しく 燃え上がる。』


侑「歩夢、何してくるかわからないから気を付けて……!」

歩夢「う、うん」


──結果として相手の作戦は失敗したとはいえ、ルビィさんは場全体を巻き込んだトリッキーな戦略を仕掛けてきた。

今度も、姉妹で何か策を巡らせているかもしれない。そう思った矢先、
532 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:24:03.17 ID:ffPGApYk0

ルビィ「お姉ちゃん! ラビフットはルビィが──」

ダイヤ「いえ、ルビィはイーブイをお願いします」

ルビィ「え、でも……」


ダイヤさんは標的を指定する。


ダイヤ「むしろ、手を出さないように」

ルビィ「え、えぇ!?」

ダイヤ「……このままでは、わたくしが作戦のためだけに虚勢を張ったようではありませんか」


──なんの話だろう……? と思ったけど、


歩夢「あ、さっきの話……」


歩夢はすぐに思い至ったようだ。

ヒトモシと戦いながらだったから、しっかりは聞いていなかったけど──相性だけ良くても、自分のくさタイプのポケモンたちを突破は出来ない……みたいな話だったかな。


ルビィ「で、でも……あれはそういう作戦で……」

ダイヤ「とにかく、手を出さないように」

ルビィ「ぅ、ぅん……」


どうやら、ダイヤさん的に、このままではくさタイプのエキスパートとしてのプライドが許さないらしい。

──もちろん、これもさっきみたいな作戦の可能性もあるけど……。


侑「……でも、関係ない! イーブイ!!」
 「ブイ!!!」


私の声と共にイーブイが駆け出す──ジャノビーに向かって。


侑「歩夢!! 集中攻撃で先にジャノビーを倒すよ!!」

歩夢「う、うん! わかった!」


ダイヤさんもルビィさんも残る手持ちは1匹ずつ。なら、片方をさっさと倒してしまえば、2対1を作り出せる。

わざわざ、相手の拘りに乗ってあげる理由はない。これはバトルなんだ……!

駆け出したイーブイの体毛が赤く燃え上がる。


侑「“めらめらバーン”!!」
 「ブイィ!!!」


2匹のほのお技で一気に片を付ける……!

そう、思った瞬間──イーブイの前に影が躍り出て、


ルビィ「──“ブレイズキック”!!」
 「シャァモッ!!!!」

 「ブイッ!!!?」
侑「イーブイ!?」


イーブイを蹴り返した。

真っ向からキックを食らったイーブイは、ジムの床を転がりながらも、受け身を取ってどうにか体勢を立て直す。


歩夢「侑ちゃん!? 大丈夫!?」

侑「だ、大丈夫、致命傷にはなってないよ! びっくりしたけど……」
533 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:24:38.14 ID:ffPGApYk0

完全にジャノビーとの間に立って、イーブイを遮るように立ち塞がるワカシャモ。

それにしても──


侑「全然ワカシャモからの攻撃に気付けなかった……!」


ジャノビーに狙いを定めていて注意が向いていなかったとは言え、ワカシャモは弾丸のような目にも留まらぬスピードでイーブイに攻撃をしてきた。

さっきの腰を据えた戦い方をしていたヒトモシとは打って変わって──ワカシャモはとんでもないスピードタイプらしい。


ルビィ「イーブイさんのお相手は、ルビィたちがします!」
 「シャモォ……!!」


あくまでラビフットの相手は、ダイヤさんとジャノビーがするということらしい。


ダイヤ「さて、今度こそ、くさタイプの真髄、お見せしますわ」
 「ジャノー」


……いや、でも考えようによってはチャンスかも。


侑「歩夢。ダイヤさんはああ言ってるけど、ほのおタイプの方が有利なことには変わりないよ!」

歩夢「う、うん!」


確かに迫力はあるけど、向こうから有利な相性で戦ってくれるなら、望むところのはずだ。

むしろ、考えないといけないのは私の方。


 「シャモォ…!!」


かくとうタイプ特有の隙のない構えのまま、ジャノビーとの射線を塞いで立っているワカシャモ。

ノーマルタイプのイーブイにとっては、不利な相性の相手だ。

私たちこそ、慎重にいかなくちゃ……!


侑「でも……弱点を突けるのは私たちも同じだけどね!」
 「ブイッ!!!」


私の声を共に、イーブイの体からぷくぷくと泡のようなものが湧き出してくる。


侑「“いきいきバブル”!!」
 「ブーィッ!!!!」


ワカシャモは私たちがどうにかするから、ジャノビーは任せるよ、歩夢……!





    🎀    🎀    🎀





ルビィ「──ワカシャモ! “かえんほうしゃ”!!」
 「シャモォォォーー!!!!」

 「ブ、ブィィ」
侑「ぐぅっ……! すごい、火力……! 負けないで、イーブイ……!」


隣ではイーブイとワカシャモが、激しい攻撃の応酬を繰り広げていた。

相性は良いはずなのに、ワカシャモの“かえんほうしゃ”は、イーブイの“いきいきバブル”をジュウジュウと音を立てながら蒸発させている。
534 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:25:08.42 ID:ffPGApYk0

歩夢「侑ちゃん……!!」

侑「こっちはいいから!! 歩夢はダイヤさんとジャノビーに集中して!!」

歩夢「……っ! わ、わかった……!」


ルビィさんが侑ちゃんを遮ったように、こうなったらダイヤさんも私が侑ちゃんの加勢に行くことを許してはくれないだろう。


歩夢「やるしか……ない……」

ダイヤ「腹を括ったようですわね。さあ、どこからでもどうぞ」
 「ジャノ」


ただ、いざ相対したはいいけど──どうやって攻めればいいの……?


 「ラビ…」


ラビフットも困惑している。何せ、さっきのカリキリとの戦いでは、侑ちゃんの機転で突破出来たとはいえ、私たちはほとんど攻撃を有効に通せていなかった。

だから、頭を過ぎる……また、さっきみたいに捌かれてしまうんじゃないかという未来が。


ダイヤ「……警戒して来ませんか、なら──こちらから……!」
 「ノビー…!!」

歩夢「!」


ダイヤさんの指示で、ジャノビーが滑るようにして、こちらに向かって飛び出してきた。


歩夢「ラビフット! 走って!」
 「ラビフッ!!!」


それを見て、私はラビフットを走らせる。

ジムの外側を回るようにして走り出したラビフットを追って、ジャノビーが地を這う。


ダイヤ「逃げますか……。……いや」


私の逃げのように見える手は恐らくすぐに看破される。

でも、真っすぐ戦っても、さっきみたいにいなされるだけだ。

なら──


歩夢「走って! ラビフット!! 全速力で!!」
 「ラビフッ!!!」


スピードの戦いに持ち込む……!


ダイヤ「“ニトロチャージ”ですか……」


──そう、ラビフットはヒバニーのとき同様、走れば走るほど体に熱が蓄積されて加速していく。

いくらジャノビーが素早い身のこなしでも、極限まで速くなったラビフットには追い付けないはず……!


 「ラビビビビビ!!!!!」


侑ちゃんとルビィさんの戦いに巻き込まれない程度にフィールド上で円を描きながら加速するラビフット。

この調子で攪乱しながら、攻撃の機会を──


歩夢「あ、あれ……?」


気付くと、さっきまでラビフットと追いかけっこ状態だったジャノビーは、何故かフィールドのど真ん中で立ち尽くしていた。
535 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:25:44.92 ID:ffPGApYk0

歩夢「追って、来てない……?」


それと同時に、


歩夢「きゃっ……!?」


突然、身体が前に引っ張られるような感覚がして、声をあげてしまった。

──いや、気のせいじゃない。足をしっかり踏みしめて身を引いていないと、体が前のめりになってしまう。


歩夢「な、なに……!?」

ダイヤ「相手が逃げ回るなら……引き寄せればいいだけですわ」
 「ジャノォーー!!!」


ハッとして、再度ジャノビーに目を向けると──さきほどまで、フィールドを覆っていたグラスフィールドが、吸い寄せられるように渦を巻きながら、ジャノビーに向かって集まっている。

まさか……。


歩夢「この引き寄せる力は……風!? ジャノビーが操ってるの!?」

ダイヤ「この子はヘビポケモンですが……ヘビは1000年生きれば──龍となると言われていますのよ」


ダイヤさんのその言葉を皮切りに──吸い寄せる風はジャノビーを中心に渦巻きながら、一気に成長し始める。


ダイヤ「“たつまき”!!」


──ゴォッ!! と、音を立てながら、大きな“たつまき”が発生する。


 「ラ、ラビッ…!!」


ラビフットもその吸引力に引っ張られないように、必死に走り回るが、徐々にスピードを殺され始めていた。


歩夢「か、“かえんほうしゃ”!!」
 「ラビフーーー!!!!」


苦し紛れに“かえんほうしゃ”を“たつまき”に向かって放ってみるけど──火炎はみるみる内に風の渦に飲み込まれて掻き消えていく。


歩夢「……っ」


こんなフィールド全体を巻き込むような大規模な技、どうすれば……!


歩夢「フィールド全体……? ゆ、侑ちゃんたちは……!?」


ハッとしながら、イーブイの方に目を向けると──


侑「イーブイ……!! とにかく、“いきいきバブル”で耐えて……!!」
 「ブ、ブィィ!!!」


風に抗いながらで体勢を崩してしまっていた。

そんな中で襲いくるワカシャモの“かえんほうしゃ”。イーブイから仕掛けていたはずなのに、気付けば炎の勢いに押され気味になっていた。


歩夢「な、なんでワカシャモはこんな風の中でも攻撃が……」

リナ『わ、ワカシャモの足腰は強靭……! それにするどい爪を床に立てて体勢を保ってる……!』 || >ᆷ< ||

歩夢「リナちゃん!?」


風に煽られながら、頼りなく私に近寄ってくるリナちゃんを抱きとめる。
536 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:27:00.16 ID:ffPGApYk0

リナ『ありがとう歩夢さん……このままじゃ、“たつまき”に吸い込まれるところだった……』 || > _ <𝅝||

歩夢「う、うぅん、それはいいんだけど……」


リナちゃんの言うとおり、ワカシャモの方を見ると、


 「シャモォォォォ!!!!」


鋭い爪を地面に突き立てて姿勢を安定させたまま、“かえんほうしゃ”をイーブイに放っているところだった。


歩夢「このままじゃ……侑ちゃんたちも……」


──つまり、私がジャノビーを止めなくちゃいけない。


歩夢「……私に……出来るの……?」


目の前の巨大な“たつまき”を前に、気が遠くなりかけた、そのとき、


侑「歩夢!!」

歩夢「……!」

侑「大丈夫!! 歩夢なら、出来るよ!! ……うわっちち!!? イーブイ、もっと泡出して〜!!」
 「ブ、ブィィ!!!」

歩夢「侑ちゃん……」


懸命に炎を消火しながらも、私を励ましてくれる侑ちゃんの言葉に、私は、


歩夢「……出来るかじゃない……やらなくちゃ……!」


勇気を振り絞る。風に抗うように自分の足でしっかり立って。

──このままじゃ、イーブイもろともやられちゃう。

とにかく、あの“たつまき”を止めないと……。

でも、どうする? ……とにかく考えるんだ。

発生源はジャノビーだから、ジャノビーを直接攻撃すればいいのかな……。

でも、正面から炎で攻撃しても、風の壁に阻まれて、ジャノビーを止められない……。

じゃあ、


 「ラ、ラビビビビビ…!!!」


今も懸命に“ニトロチャージ”を続けるラビフットの加速した突撃で、壁を突き破る、とか……?

……それも無茶な気がする。


歩夢「せめて……風の吹いてない隙間でもあれば……」


それなら、どうにか中に飛び込むことが出来るかもしれないのに……。


リナ『隙間かわからないけど……風が吹いてない場所、あるよ』 || >ᆷ< ||

歩夢「え?」


抱きかかえたリナちゃんからの言葉に、一瞬なんのことかと思ったけど、


歩夢「……そっか! “たつまき”には一点だけ、風の吹いてない場所がある……!」
537 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:27:47.96 ID:ffPGApYk0

すぐにその意味に気付く。

あとはそこにたどり着く方法だけど──頭を過ぎった方法は、またしても無茶な作戦。でも──


歩夢「……さっきよりは出来そう……!!」


私は意を決して、ラビフットに向かって叫んだ。


歩夢「ラビフット!! “ニトロチャージ”!!」
 「!!! ラビフッ!!!!」


私は困惑気味だったラビフットに、道を示す。


歩夢「走って走って……とにかく走って!!」
 「ラビィィィ!!!!!」


ラビフットは迷いがなくなったのか、ジムの床を蹴りながら再び猛加速を始める。


ダイヤ「どうするつもりですか……?」


ダイヤさんはヤケでも起こしたのかと言いたげだったけど──


歩夢「とにかく速く、速く走って!! ラビフット!!」
 「ラビィィィィィ!!!!」


ラビフットは──ぐんぐん加速していく。

先ほどのスピードとは比べ物にならない速さで……!


ダイヤ「……! まさか……!」

リナ『ラビフット、“たつまき”を利用して、加速してる!?』 || ? ᆷ ! ||


──そう、“たつまき”が渦を巻きながら、周囲のモノを吸い込んでいるということは、


歩夢「渦の方向に逆らわなければ、それはむしろ“おいかぜ”になる……!」
 「ラビィィィィィ!!!!!」


風の力を利用して、爆発的な加速をするラビフット。その通り道は、大きな熱エネルギーによって、赤く赤く赤熱した跡を床に残しながら、さらにスピードを増していく。


ダイヤ「その爆発的なスピードで、突き破る気ですか……! なら、こちらももっと壁を堅牢にするまでですわ!! ジャノビー!!」
 「ジャノビィィーー!!!」


ダイヤさんの声と、“たつまき”の中から響くジャノビーの声と共に、周囲の“グラスフィールド”から巻き上げられた葉っぱたちが、まるで意思をもったかのように、“たつまき”を緑色に染め上げていく。


リナ『これは、“グラスミキサー”!?』 || ? ᆷ ! ||

ダイヤ「そのとおりですわ! 風だけではありません、大量の草を巻き上げて、さらに堅牢になった壁、打ち破れますか!」

歩夢「……ラビフット!! 今だよ!!」
 「ラビッ!!!!!」


加速しきったラビフットは急転換しながら、一点に向かって飛び出して行く。

ただ──


ダイヤ「……なっ!?」


行き先は“たつまき”の方じゃない……!
538 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:28:40.16 ID:ffPGApYk0

ダイヤ「何故、壁に向かって……!?」


そう、行き先は──ジムの壁……!


歩夢「ラビフット!! そのまま走って登ってーーー!!!」
 「ラビィィィ!!!!!」


真っ赤な線を引きながら、壁に突撃していったラビフットは──猛スピードのまま、壁を垂直に登っていく──


ダイヤ「なっ!?」


だけでは留まらず──そのエネルギーのまま、天井を逆さまに走っていく。

今、ラビフットの目指している場所……“たつまき”の風のない場所、それは──


ダイヤ「目的は……“たつまき”の目……!?」


そう、風のない場所とは、“たつまき”の中心点だ。

そしてそこに向かうため、少しでも風の壁が薄い場所があるとすれば──天井スレスレしかない。


歩夢「お願い!! ラビフット!!」
 「ラビッ!!!」


天井を逆さまに走りながら、“たつまき”の中心点に達したラビフットは、天井を蹴りながら、真下に向かって飛び降りる。

溜めに溜めた熱を宿した足を振り下ろしながら、


歩夢「“ブレイズキック”っ!!」

ダイヤ「……!!」


膨れ上がる熱が内側から、“グラスミキサー”を吹き飛ばす……!!


歩夢「きゃっ!!」


弾け飛ぶ草と風に、思わず顔を腕で庇ってしまう。

でも──


歩夢「出来た……! “たつまき”、攻略出来た!!」


あの絶望的な光景を打ち破った……!!


ダイヤ「……大したものですわ」


内側から膨れ上がる熱に、草と風が吹き飛ばされる中、


ダイヤ「……ですが」


今さっきまで“たつまき”のど真ん中だったであろう場所には、


歩夢「え……」

 「ジャノ」

 「…ラ、ラビフッ」


脚をジャノビーの“つるのムチ”に絡めとられながら、拘束されているラビフットの姿だった。
539 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:29:38.72 ID:ffPGApYk0

歩夢「な、なんで……」

ダイヤ「……まさか、あの“たつまき”をあんな方法で攻略されるとは思いませんでしたが……。……風のない場所で自由に動けるのは、ジャノビーも同じだったということですわ」

歩夢「あ……」


勝手にアドバンテージを取ったと思い込んでしまっていたけど──風の影響を受けていなかったのはジャノビーも同じ、いやそれどころか……。


ダイヤ「真上から一直線に落ちてくるとわかっていれば、容易ではなくとも、いなすことくらいは出来ますわ」

歩夢「そんな……」

ダイヤ「……“しぼりとる”」


そのまま、絡めとられて地に伏せったラビフットは、


 「ラ、ラビ…」


“つるのムチ”で縛り上げられて──戦闘不能になってしまった。


歩夢「……」


……ダメだった。……今回はうまく行くと思ったのに……。

思わず唇を噛みそうになった、そのときだった。


 「シャモォォォォーーー!!!?」

歩夢「……!」


響くワカシャモの声に視線を向けると、泡まみれになって、ダメージを負っているワカシャモに向かって、


侑「イーブイ!! “すてみタックル”!!」
 「ブーーーイッ!!!!!」

 「シャモォォォ!!!!!?」


イーブイが“すてみタックル”を炸裂させているところだった。


ルビィ「ワカシャモ!? 大丈夫!?」
 「シャ、シャモォ…!!」

ダイヤ「い、いつの間に形勢が……!?」

ルビィ「あ、あのイーブイ……かなり攻撃してたはずなのに、全然倒れてくれなくって……」


確かに、イーブイはずっと押されていたはずなのに……いつの間にか状況が逆転していた。


ダイヤ「確かあれは“相棒わざ”……存在は知っていましたが、効果までは把握しきれていませんが……状況を鑑みるに、恐らく吸収技ですわね」


どうやら、“いきいきバブル”の相手の体力を吸収する効果のお陰で持久戦に迫り勝ったということみたいだ。


ダイヤ「ルビィ、一旦ワカシャモを後ろに下げてください」

ルビィ「う、うん……! ワカシャモ、距離を取って……!」
 「シャモ…!」


手負いのワカシャモは跳ねるようにして、イーブイたちから距離を取って、フィールドの奥の方へと下がっていく。
540 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:30:13.78 ID:ffPGApYk0

リナ『状況がこっちに傾いてる! 今が攻め時だよ!』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「歩夢とラビフットのお陰だね!」

歩夢「……え」

侑「歩夢たちが、ジャノビーのあの大技を打ち破ってくれたからだよ!」

歩夢「……でも、結局勝てなくて……」

侑「それでもすごいよ! 私だったら、あんな作戦思いつかなかったと思うもん!」

歩夢「……だけど、また同じことされたら……」


──次はもう突破出来る気がしない。だけど、そんな私の心配に、


リナ『その心配はないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんが答える。


歩夢「……え?」

リナ『あんなフィールド全体を巻き込むような大技、最終進化系じゃないジャノビーには連発出来ないんじゃないかな』 || ╹ᇫ╹ ||

ダイヤ「……」


リナちゃんの言葉に対して、ダイヤさんは沈黙で答える。

その沈黙は即ち肯定を意味しているのに等しい。

私は、負けて倒れてしまった、ラビフットに目を向ける。

……確かに勝つことは出来なかったけど、


 「…ラビ…」


……役割は果たしたとでも言わんばかりに、ラビフットが小さく鳴いたのだった。


歩夢「……うん」


私は、ラビフットをボールに戻す。そのボールをぎゅっと胸に抱き寄せて、


歩夢「ありがとう……ラビフット」


お礼を言った。


侑「歩夢! 勝てるよ!」

歩夢「……うん!」


私は、この試合の最後のポケモンをフィールドに繰り出す。


 「──マホミ〜♪」
歩夢「行くよ、マホミル!」


試合は最終局面へ──



541 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:31:10.51 ID:ffPGApYk0

    🎀    🎀    🎀





ダイヤ「“グラスフィールド”」
 「ジャノッ」


手始めに、ダイヤさんは“グラスフィールド”を再展開する。


ダイヤ「ワカシャモには“グラスフィールド”で体力を回復しながら、後方支援をお願いします」

ルビィ「わかったよ、お姉ちゃん!」
「シャモ…!!」

リナ『相手は時間を稼いで体力を回復する気だよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「そんな暇与えない!! “いきいきバブル”!!」
 「ブーイッ!!!」


イーブイが全身から泡を飛ばして、後方のワカシャモを狙うけど、


ダイヤ「“リーフブレード”!!」


前で構えているジャノビーの草の刃で泡を斬り裂かれて無効化される。


ダイヤ「さすがに狙いが見え見えすぎますわ!」

侑「っ……“いきいきバブル”じゃ攻撃のスピードが遅すぎる……。なら、これならどうですか……!」


──パチパチとイーブイの体毛から火花が爆ぜる音と共に、電撃が飛び出す。


侑「“びりびりエレキ”!!」
 「ブイイイ!!!!」


泡の攻撃と違って、電撃は動きが速く捉えづらい。そんな侑ちゃんの思惑に対してダイヤさんは、


ダイヤ「“つるのムチ”を伸ばして!!」
 「ジャノ!!」

“つるのムチ”を電撃に向かって伸ばす。すると、電撃は“つるのムチ”の先端に向かって、吸い込まれていく。


侑「嘘!? “つるのムチ”を避雷針代わりにした!?」

ダイヤ「確かに電撃は動きが速いですが、操作もされやすい。攻撃は後ろには通させませんわ」


ワカシャモに通りの良い、みずタイプやでんきタイプをジャノビーが受け止めて、その間に“グラスフィールド”で回復する作戦。

単純だけど、対処が難しい。なら……!


歩夢「マホミル! “ミストフィールド”!」
 「マホミ〜!!」

ダイヤ「!」


回復手段のフィールドを書き換えちゃえばいいんだ……!


ダイヤ「“グラスフィールド”!」
 「ジャノッ!!!」

歩夢「“ミストフィールド”!」
 「マホミ〜!!!」


ダイヤさんも黙ってフィールドの書き換えを許すわけはないから、自然とフィールド展開の応酬が始まる。
542 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:31:47.50 ID:ffPGApYk0

ダイヤ「……っ! ルビィ!!」

ルビィ「うん! ワカシャモ! “かえんほうしゃ”!!」
 「シャモーーーッ!!!!」


これ以上のフィールド展開を許すまいと、マホミルに向かって後方から火炎が飛んでくる。


侑「させない!! “めらめらバーン”!!」
 「ブイッ!!!」


その炎を全身の炎で相殺するように、イーブイが盾となって受け止める。


ダイヤ「……先にマホミルを狙わないといけませんわね。“グラスフィールド”を一旦諦めましょう」


ダイヤさんが“グラスフィールド”の展開を諦めると同時に──身をくねらせて、突貫してきた。


侑「なっ……!?」

歩夢「え!?」


腰を据えた防御をしてくると思い込んでいた私たちは一瞬反応が遅れる。

ジャノビーは目にも留まらぬスピードでイーブイの横を通過し、


ダイヤ「“グラスミキサー”!!」
 「ジャノーーッ!!!!」

 「マホミーーー!!!?」


草の旋風をマホミルの真下から発生させて、渦の中にマホミルを捕える。


歩夢「マホミル!?」

侑「しまった……!? イーブイ! マホミルを援護──」

ルビィ「“かえんほうしゃ”!!」
 「シャモーーー!!!!」

侑「っ!?」


今度はワカシャモがイーブイとジャノビーの間に火炎を噴き出し、進路を妨害してくる。


ダイヤ「わたくし、防御の方が得意ですが、もちろん攻撃も抜かりありませんわよ……!」

 「マホミーーーー!!!」
歩夢「……っ……どうにか、どうにかしなきゃ……」


考えるんだ、自分と相手のポケモンをよく見て、何か解決策を──


歩夢「……あれ……?」


ふと、草の渦の中で、くるくると回転しているマホミルを見て、思った。


 「マホミーーーー♪」


──マホミル……楽しそう……?

反時計回りに渦を巻く、“グラスミキサー”の中で、マホミルは苦しそうというより……楽しそうだ。

理由はわからない、だけど……。
543 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:32:29.12 ID:ffPGApYk0

歩夢「侑ちゃん! 私たちのことはいいから、ワカシャモに集中して!」

侑「え!?」

歩夢「どうにか、出来ると思うから……!」

侑「な、なんかよくわからないけど、わかった! 歩夢を信じる!! イーブイ! 炎を纏ったまま、ワカシャモに突撃!!」
 「ブイッ!!!」


イーブイはマホミルへの援護を諦めて、ワカシャモの方へと走り出す。

そして私は再び渦の中で楽しそうに回り続けるマホミルに目を向ける。

──理由はわからないけど、あの子があんなに楽しそうにしているなら、きっとこれはピンチじゃない!

次の瞬間、


 「マホミーーー♪」


マホミルが渦の中で──光り輝き始めた。


ダイヤ「なっ!?」

ルビィ「これって!?」

侑「まさか!?」

歩夢「……進化の……光……!」


光の中から、マホミルの進化した姿──ピンク色のホイップクリームの体に、かすみちゃんから貰った“リボンあめざいく”を付けた姿のポケモン。


リナ『マホミルがマホイップに進化した!!』 ||,,> 𝅎 <,,||

歩夢「マホイップ……! それが、あなたの新しい姿なんだね!」
 「マホイップ♪」

リナ『マホイップ(ミルキィルビー) クリームポケモン 高さ:0.3m 重さ:0.5kg
   手から 生みだす クリームは マホイップが 幸せなとき
   甘味と コクが 深まる。 進化の 瞬間 体の 細胞が
   揺れ動く ことで 甘酸っぱい フレーバーに なった。』

ダイヤ「この土壇場で進化を……!?」

歩夢「マホイップ! あなたの新しい力を見せて!」
 「マホイ〜♪」


マホイップが楽しげに鳴き声をあげると、


 「ジ、ジャノッ!!?」


急にジャノビーの体がふわりと浮いて、自ら出したはずの“グラスミキサー”の渦の中に引きずり込まれる。


ダイヤ「これは“サイコキネシス”!? ジャノビー!? 今すぐ、脱出してください!?」
 「ジ、ジャノー!!?」


脱出の指示も虚しく、ジャノビーは為すすべもなく、渦の中で振り回される。

そして、渦の中心で楽しそうに回り続けるマホイップの周囲に、ポポポポっと紫色の炎が出現する。


歩夢「いけーーー!! マホイップ!! “マジカルフレイム”!!」
 「マホイップッ♪」


現れた紫色の炎は、“グラスフィールド”に巻き込まれる形で── 一気に紫色の炎の火炎旋風へと昇華した。


 「ジ、ジャノオオオッ!!!!?」


逃げ場のない、“マジカルフレイム”の旋風に巻き込まれたジャノビーは、そのまま炎の中を打ち上げられたあと──地面に落ちてきて、
544 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:33:10.76 ID:ffPGApYk0

 「ジ、ジャノ……」


目を回してひっくり返っていた。


ダイヤ「……ジャノビー、戦闘不能ですわ」

歩夢「やった……! やったよ! マホイップ!」
 「マホイ♪」


勝利の余韻に浸るのも束の間、


歩夢「……そうだ、侑ちゃんたちは……!」


まだ試合は終わっていない。

イーブイは、


 「ブイイイイイイ……!!!!!」

 「シャモオオオオオオオ!!!!!!!」


“めらめらバーン”を身に纏ったまま、ワカシャモの“かえんほうしゃ”の中、どうにか前に進もうとしているところだった。





    🎹    🎹    🎹





侑「イーブイ!! 頑張れー!!」
 「ブ、ブイイイイイ……!!!!!」

ルビィ「ワカシャモ! 火力で負けちゃダメだよ!」
 「シャモオオオオオ!!!!!」


イーブイがワカシャモに向かって攻撃してくることに気付いたルビィさんは、すぐに標的をイーブイに切り替えてきた。

どうにか“めらめらバーン”で炎の勢いを相殺しながら、接近しようとしているけど、


 「ブ、ブイイイイ……!!!!」


いかんせん相手の火力が強い。でも……でも──


侑「歩夢たちが頑張って作ってくれたチャンスなんだ……!! 絶対に負けない……!!」
 「ブイイイイイイイッ!!!!!!」


ここが正念場だ、この炎さえ突破出来れば──


ルビィ「ワカシャモ!! とっておきの炎、行くよーーー!! “だいもんじ”!!!」
 「シャモオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」

侑「なっ!?」
 「ブイッ!!!?」


まだ、これ以上の技を隠してた……!?

“かえんほうしゃ”の中を懸命に進むイーブイに向かって──より集束された大の字の炎の塊が飛んでくる。


侑「……っ!!」
545 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:33:47.01 ID:ffPGApYk0

そのとき、イーブイは、


 「ブイッ!!?」


炎の中で──“なにか”に躓いた。


侑「……!! イーブイ!! 突き進め!!」
 「ブイイイイイッ!!!!!!」


私の言葉、イーブイの雄たけびと共に──“だいもんじ”が着弾して、爆発を起こす。


侑「っ……!!」


強い熱波に思わず、顔を庇う。


ルビィ「いくらイーブイさんの“相棒わざ”が強くても、これは耐えられませんよね……!」

侑「……そう、ですね……」


ルビィさんの言葉と共に、爆炎が晴れていく。その中に、


侑「──……当たってたら、ですけど」


イーブイの姿は──なかった。


ルビィ「え!?」


そこにあったのは──小さなだけ穴だった。


ルビィ「え、何……? 穴……? イーブイは……?」

ダイヤ「ルビィ!! 下です!!」

侑「もう遅いです!!」
 「──ブイッ!!!!」


ワカシャモの真下から、急にイーブイが飛び出して、


 「シャモォッ!!!!?」


“ずつき”をかました。

──ゴンッという鈍い音と共に、吹っ飛ばされたワカシャモは、


 「シャ、シャモォ…」


ここまで蓄積したダメージもあってか、耐えきれずに倒れこむのだった。


ルビィ「あ……ワカシャモが……」

ダイヤ「ワカシャモ……戦闘不能ですわ」


ダイヤさんが口にする判定と共に、


侑「……ぃやったあぁぁぁぁ……!!」


声が漏れた。
546 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:34:42.30 ID:ffPGApYk0

侑「歩夢! 私たち──」

歩夢「侑ちゃん……!!」


私が声を掛けようとした瞬間、それを遮るかのように、歩夢が私に抱き着いてくる。


歩夢「侑ちゃん……! 私……私たち……っ……!!」

侑「……うん。……勝ったよ、私たち……」

歩夢「ホントに……ホントに勝ったんだよね……? ……私たち……っ……」


泣きそうな声で言う歩夢に向かって、


ダイヤ「……ええ。正真正銘、貴方たちの勝利ですわ」


ダイヤさんがそう答えながら、こちらに歩いてくるところだった。


ダイヤ「自分のポケモンと、自分のパートナーを信じて戦い抜いた、貴方たちの勝利ですわ」


ダイヤさんは試合中の表情が嘘のように、柔らかい笑顔でそう告げる。


歩夢「は……はい……っ……!」

侑「ふふ……やったね、歩夢!」

歩夢「うん……っ……!」


目に一杯の涙を浮かべながら喜ぶ歩夢のもとに、


 「マホ〜♪」「ブイ♪」


試合を終えた、マホイップとイーブイが駆け寄ってくる。


歩夢「マホイップ……イーブイ……ありがとう……っ……。……ラビフットも、ライボルトも、みんなが頑張ってくれたから……私たち、勝てたよ……っ……」

ダイヤ「歩夢さん、勝者がそんな泣いていてはいけませんわよ」

歩夢「す、すみません……っ……」

ダイヤ「……自信は付きましたか?」

歩夢「……はい……っ!」

ダイヤ「それは何よりです」


ダイヤさんは歩夢の返事に満足げな表情をするのだった。


ルビィ「あ、あの……侑さん。聞きたいことがあるんですけど……」

侑「? なんですか?」

ルビィ「最後……よく“あなをほる”……間に合いましたね。……ジムの床板もあるのに……」

侑「ああ、えっと……」


私はイーブイが最後に掘った穴に目を向ける。


侑「炎を凌ぐのに夢中で、ぎりぎりまで気付かなかったんですけど……炎の中でイーブイが躓いたんですよね」

ルビィ「躓いた……?」

侑「それで、気付いたんです」


──『ライボルト、床に向かって“アイアンテール”!』
547 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:35:26.55 ID:ffPGApYk0

侑「イーブイが躓いたのは、ライボルトが“アイアンテール”で床板を砕いた場所だったんだって」

ルビィ「あ……」

ダイヤ「それだけではありませんわ。ルビィ、気付きませんか? この香りに」

ルビィ「え? 香り……? ……言われてみれば、なんか甘い良い匂いがするかも……?」

ダイヤ「これは、マホイップの放っている“アロマミスト”ですわよね?」

歩夢「は、はい……」

ダイヤ「“アロマミスト”によって、上昇した特防で攻撃を耐えつつ、砕いた板材の下に咄嗟に潜り込んで“だいもんじ”を回避した、ということですわね」

侑「最後の最後で運がよかっただけかもしれないですけど……あはは」

ダイヤ「いいえ、運を引き寄せるのも、引き寄せた運を好機に変えたのも、貴方の実力ですわ。それでは、ルビィ」

ルビィ「う、うん」


ダイヤさんに促されたルビィさんは、ポケットから2つ──宝石のようなシルエットをしたバッジを取り出した。


ルビィ「侑さん、歩夢さんの実力を認め、お二人にはこの──“ジュエリーバッジ”を進呈します!」

侑・歩夢「「はい!」」


二人で1つずつ“ジュエリーバッジ”を受け取る。


侑「やったね、歩夢♪」

歩夢「うん……♪」

リナ『二人ともおめでとう♪ 見ていてずっとドキドキハラハラしっぱなしで、すごい試合だった!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「リナちゃんも、サポートありがとう」

歩夢「ありがとね、リナちゃん♪」

リナ『どういたしまして♪ 二人の役に立てて、私、嬉しい♪』 ||,,> ◡ <,,||

ダイヤ「ふふ、ロトム図鑑さんも含めて、良いチームワークでしたわ」

ルビィ「うん! すごかったです!」


称賛の言葉もそこそこに、


ダイヤ「それで、この後はどうされるおつもりですか?」


ダイヤさんはそう訊ねてくる。
548 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:36:04.26 ID:ffPGApYk0

侑「えっと……この近くに研究所がありましたよね? そこに行ってみたいなって……」

ダイヤ「アワシマ研究所ですわね。港から定期便が出ていますので、それを使えばすぐに行けると思います。あと、そちらの所長とは古い仲ですから、こちらからお二人のこと、連絡しておきますわね」

侑「いいんですか!?」

ダイヤ「ええ、もちろん。善子さんのところから旅立ったトレーナーが来ると聞いたら、きっと喜びますから。是非、訪ねてあげてください」

侑「わかりました!!」


次の行き先も無事決定。そして、ダイヤさんは最後に歩夢に向き直る。


ダイヤ「歩夢さん」

歩夢「は、はい……!」

ダイヤ「貴方はポケモンをよく見ている。きっとその目は、これからも貴方を助けてくれると思いますわ。今日の気持ちを、経験を忘れずに、精進してください」

歩夢「はい」

ダイヤ「……ふふ、いけませんわね。また説教臭いことを言ってしまいましたわ。教師時代の癖が抜けていませんわね……」


ダイヤさんはそうおどける。


ダイヤ「大切な試合。頑張ってください」

歩夢「はい! ありがとうございます!」


こうして私たちは激闘の末、四天王とジムリーダータッグの変則ジムバトルに勝利し──ジムバッジを手に入れたのでした!



549 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:36:40.00 ID:ffPGApYk0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウチウラシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         ● .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.34 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.27 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.30 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:77匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.30 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.23 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.25 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.18 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:104匹 捕まえた数:14匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



550 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:31:58.32 ID:vdkzhBrC0

■Chapter028 『葛藤』 【SIDE Shizuku】





──『しず子っ!!!』


かすみさんの声。


──『あんなのより、かすみんの方がずっと、ずーーーーっと!!! 可愛くて、美しくて、綺麗で、魅力的でしょ!!!?』


かすみさんが、私に向かって、叫んでいる。


──『毒だか、フェロモンだか知らないけどッ!!! あんな変なやつに負けないでッ!!!! かすみんがいるからッ!!!!』


かすみさんの声が、私の中で木霊していた。



──
────
──────



しずく「──…………ん……」


──瞼の裏に光を感じて、ぼんやりと目を開けると、見慣れない天井があった。


しずく「ここ……どこ……?」


自分がどうしてこんな場所にいるのか、寝起きの頭を働かせて思い出そうとするけど──記憶に靄がかかったかのように、直近のことがほとんど思い出せなかった。

ホシゾラシティで侑さんたちと別れて……コメコの森に入ったところまでは覚えている。


しずく「…………」


ゆっくりと身を起こすと、酷い眩暈に襲われた。

頭が……重い……。

重い頭を押さえながら、傍らに目を向けると──


 「…ロゼ…zzz」


ロゼリアが眠っていた。


しずく「……ロゼリア……? ……もしかして、スボミー……?」


──そういえば……スボミーが進化していたような……。記憶の中の靄の向こうに手を伸ばそうとした瞬間、


しずく「……いた……っ……!」


頭がズキンと痛んだ。

私は一体どうしてしまったのか……。

頭を押さえながら、改めて、周囲を確認していると──


かすみ「…………すぅ…………すぅ…………zzz」


私の寝ているベッドにもたれかかるようにして、かすみさんが寝息を立てていた。
551 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:32:41.04 ID:vdkzhBrC0

しずく「かすみさん……? ダメだよ、かすみさん……寝るならちゃんとベッドで寝ないと……風邪引いちゃうよ……」

かすみ「……ん、ぇ……?」


私が声を掛けると、かすみさんは少しビクっとしてから、顔を上げて──


かすみ「……しず子……?」


目を丸くする。


しずく「かすみさん……?」

かすみ「…………よ」

しずく「……よ?」

かすみ「よかったぁぁぁぁぁ!!! しず子〜〜〜!!!!」

しずく「きゃぁっ!?///」


突然かすみさんが、抱き着いてくる。




しずく「か、かすみさん!?///」

かすみ「よかった、よかったよぉ……! 痛いところとかない!? 大丈夫!?」

しずく「え、えっと……強いて言うなら……重い、かな……?」

かすみ「んなぁ!?」


ベッドの上で飛び付かれたから、軽くのしかかられている状態なわけだし……。


かすみ「か、かすみん重くないもん!! 確かに彼方先輩の作ってくれるご飯おいしくって3回もおかわりしちゃったけど……育ちざかりだから、すぐに消費されるもん!!」

しずく「あはは……冗談だよ。……彼方先輩……?」

かすみ「あ、うん! かすみんたちを助けてくれた人たちの一人なんだよ!」

しずく「助けてくれた……? ……えっと……どういうこと……?」

かすみ「え……? もしかして、しず子……なんにも覚えてないの?」

しずく「……う、うん……コメコの森に入ったところくらいから……記憶が曖昧で……」

かすみ「…………やっぱ、ウルトラビースト症……の後遺症……」

しずく「……え?」

かすみ「あ、いや! なんでもないよ! とりあえず、お医者さんがいるから──えっと、はる子って言うんだけど……! すぐ呼んでくるから、待ってて!」

しずく「あ、いいよ。お世話になったんだったら、私の方から挨拶に行かないと──」

かすみ「今起きちゃダメ!!」

しずく「!?」


かすみさんが珍しく激しい剣幕で声をあげる。

普段のぷりぷりと怒るような可愛い感じの雰囲気ではなく──本当に私が行くことに対して、否定的な意思を示しているのが嫌でもわかる……それくらいの剣幕だった。


かすみ「いいから、しず子はここで待ってて!」

しずく「わ、わかった……」


言い返すことも出来ず、素直に頷くと、


かすみ「絶対勝手に歩き回ったりしたらダメだからね!」
552 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:33:59.44 ID:vdkzhBrC0

そう残して、パタパタと駆けていってしまった。

どうやら、相当身体のことを心配されているらしい。


しずく「…………本当に、私……どうかしちゃったのかな……?」


一抹の不安を覚えながら、しばしかすみさんを待つことに──





    💧    💧    💧





遥「──ひとまず……問題はなさそうですね」

かすみ「……よかったぁ……」

しずく「ありがとうございます。遥さん」


かすみさんが呼んできたお医者さんこと──遥さん。

そして、そんな遥さんと一緒に部屋に来たのは、


彼方「遥ちゃんが平気って言うなら間違いないよ〜。よかったね、しずくちゃん」


そんな彼女のお姉さんだという、おっとりした雰囲気の人──彼方さん。

さらに、


千歌「何かあったらすぐ言ってね? 飛んでくるから!」


まさかのチャンピオン・千歌さんの姿。

そして、最後に、


穂乃果「とりあえず、しずくちゃんとは今後のことをお話ししたいんだけど……いいかな?」


初めて見る人だったけど……チャンピオンもいるようなこの場をまとめていることから、只者ではなさそうな──穂乃果さん。

かすみさん含めて、今私がいるベッドの周りには5人も集まってきていた。


しずく「今後のこと……ですか」


──今後のこと。

先ほど、自分がどうしてこんな場所で眠っていたのか、その理由を簡単な診察を受けながら聞かされた。

ただ……。


しずく「正直、何も覚えていないので……実感が湧かないというか……」


ウルトラビーストという未知の世界から来たポケモンに襲われ、命を失いかけたこと。

彼方さんたちが間一髪で助けに来てくれて、かすみさんともども命拾いしたこと。

そして、そんなウルトラビーストの毒に侵され、危ない状態を治療してもらって今に至ると説明されたが、正直頭が追い付いていない。


遥「フェローチェの毒は精神に強く作用します……だから、記憶に混濁が発生するのは仕方ないと思います……」

彼方「とはいえ、襲われちゃったのは事実だからね〜……」

遥「奇跡的に回復こそしていますが……いつ発作が現れるかも、わかないので……」

しずく「発作……ですか……」
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