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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」
- 553 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:35:47.69 ID:vdkzhBrC0
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その発作が具体的にどういったものかはわからないが……未知の毒に侵されている以上、楽観的な状況ではなさそうだ。
遥「今こちらに、もう少し精密に検査をするための機器を送ってもらっているんですけど……」
彼方「どっちにしろ、一旦本部に来てもらって、ちゃんとした設備で精密検査をした方がいいかもしれないね〜……」
しずく「精密検査……。それって、どれくらい時間が掛かるものなんですか……?」
遥「経過観察もあるので……1ヶ月から……最悪1年くらいは見てもらうことになるかもしれません……」
かすみ「1年!?」
遥さんの回答に、かすみさんが悲鳴のような声をあげた。
かすみ「それじゃ、旅は!? 旅はどうするの!?」
穂乃果「……残念だけど、中断してもらうしかないかな」
しずく「……そう、ですよね……」
かすみ「そ、そんな……」
私は穂乃果さんの言葉に俯いてしまう。
とはいえ、起こってしまったことは仕方がない。
しずく「わかりました……私の旅は一旦ここで──」
やむを得ないと、首を縦に振ろうとしたら、
かすみ「ち、ちょっと待ってよ、しず子!! しず子はそれでいいの!?」
かすみさんが、ベッドに手をつくようにして、身を乗り出しながら言う。
しずく「私だって旅を諦めたくはないけど……」
かすみ「じゃあ、諦めちゃダメだよ!!」
しずく「……でも」
かすみ「少なくともかすみんは、しず子が一緒に来てくれなきゃイヤだもん!!」
しずく「かすみさん……」
かすみさんの気持ちは理解出来る。……だけど、
彼方「あのね、かすみちゃん。……かすみちゃんが思ってるよりも、これって重い事態なの」
遥「ちゃんとした設備があれば、ウルトラビースト症の発作が起こったとしても、すぐに治療が出来ます……。なので、しずくさんには本部の医療施設に入ってもらって──」
かすみ「──しず子が旅出来なくなることの方が、重い事態ですっ!!」
説得を試みる彼方さん、遥さんの言葉をかき消すように、かすみさんが大声で反発する。
- 554 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:36:52.83 ID:vdkzhBrC0
-
しずく「かすみさん……もういいから。ありがとう、私は大丈夫だよ……」
かすみ「大丈夫じゃないっ!!」
しずく「かすみさん……」
かすみ「私知ってるもん!! しず子がこの旅に出るために、どれだけ勉強してたか、頑張ってたか……! 旅立ちが決まった後もいっぱいいろんな下調べして、いろんな街のこととか勉強してたのも知ってるもん!!」
しずく「それは……」
かすみ「それに……旅してる間のしず子、いっつも楽しそうだった……。新しい仲間に出会う度に、学校じゃ見たことなかったような嬉しそうな顔して……新しい景色を見るたびにワクワクしたような顔してたの……知ってるもん……」
しずく「……」
かすみ「そんなしず子が……もういいなんて、旅を諦めてもいいなんて……思ってるわけないもん……」
何か、説得する言葉を探すけど──私は言葉が出なかった。それくらい、かすみさんは私の気持ちを言い当てていた。
そんな中で、どうにか絞り出せたのは、
しずく「……子供みたいなこと……言っちゃ、ダメだよ……」
そんな弱々しい言葉だった。
かすみ「しず子のしたいことが出来なくなるのを協力するのが大人なら、かすみん子供でいいもん……」
しずく「……」
先ほどまで、説得を行っていた彼方さんや遥さんも、かすみさんの悲痛な言葉に、なんと言えばいいかわからない様子だった。
そんな中、口を開いたのは、
穂乃果「……じゃあ、かすみちゃん。聞くけどさ」
穂乃果さんだった。
穂乃果「しずくちゃんが発作を起こすところ、かすみちゃんは見たんだよね?」
かすみ「……はい」
穂乃果「……あの発作が起こるとまずいってことは、わかるよね?」
かすみ「それはわかります……でも、かすみんがまたいっぱい声掛けて、しず子の目を覚まさせます……!」
穂乃果「……なるほど。……じゃあ、もう一つ教えておくね」
かすみ「……?」
穂乃果「一度ウルトラビーストに魅入られた人は……また、ウルトラビーストと出会う確率が高くなるんだ」
かすみ「え……?」
──それは初耳だけど……。思わず、遥さんの方に視線を向けると……遥さんは黙ったまま頷く。事実らしい。
穂乃果「しずくちゃんと一緒に旅をするってことは、かすみちゃんもまたウルトラビーストに襲われる可能性が高いんだよ。ウルトラビーストがどれほど強いかは……かすみちゃんが一番よくわかってるんじゃないかな」
かすみ「それ……は……」
穂乃果「しずくちゃんだけじゃない。次は、かすみちゃんの命に関わることが起こるかもしれない」
かすみ「…………」
穂乃果「その反面、本部でなら、いつでもしずくちゃんを守ってあげられるし、絶対に身の安全は保証する。だから──」
かすみ「…………っ」
大人の理屈だった。でも、それ故に正しかった。
こんな理屈を突き付けられたら、誰も反論なんて出来ない。出来ない……はずなんだけど、
- 555 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:37:53.48 ID:vdkzhBrC0
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かすみ「なら……」
穂乃果「?」
かすみ「なら、ウルトラビーストに負けないくらい、かすみんが強ければいいってことじゃないですか……!!」
穂乃果「……」
かすみさんが急に机上の空論を言い出すからか、穂乃果さんも呆れて、言葉を止めてしまった。
穂乃果「…………どうしよう、確かにそれはそのとおりかも……」
──いや、違った。あれ、もしかしてこの人……実はかすみさんに近しい側の人……?
彼方「ほ、穂乃果ちゃん……重要なところで負けないでよ〜……」
穂乃果「いやでも、かすみちゃんがウルトラビーストより強ければ、確かに問題ないし……」
ま、まあ……かすみさんが強ければ解決するのは確かなんだけど……。
今、重要なのはそこじゃないような……。
かすみ「なら話は早いです!!」
かすみさんは、いそいそと荷物をまとめ始める。
しずく「かすみさん、どこに……?」
かすみ「ポケモントレーナーが強さを示すなら行く場所は一つ……! 今すぐコメコジムでジムバッジを手に入れてくるから、待ってて!!」
それだけ言うと、かすみさんは部屋を飛び出して行ってしまった。
しずく「え、あ、ちょっと待って、かすみさ──……行っちゃった……」
強さを示すのはいいにしても……ジムバッジ3個程度じゃ、穂乃果さんたちが納得する強さの証明にならないと思うんだけど……。
恐らく誰もがそう思っているだろうという中、口を開いたのは、
千歌「……少し、様子を見てもいいんじゃないかな」
ずっと黙ったまま、話を聞いていた千歌さんだった。
彼方「そういえば、千歌ちゃん……ずっと、黙ったままだったね〜……?」
千歌「あーうん……必死なかすみちゃん見てたら、なんか思い出しちゃって……」
彼方「思い出しちゃった……?」
千歌「……自分が旅をしてたときのこと。私も無茶なことたくさんしたなぁって……」
千歌さんは昔を懐かしむように言う。
千歌「そのたびに、危ない目に遭って……。それを周りの大人に反対されたこともあった。でも……それでも、ポケモンたちとそれを乗り越えてきてさ。……その先に今の私があるって思ったら……なんか、かすみちゃんの気持ち、簡単に否定出来ないなって……」
穂乃果「むー……千歌ちゃんばっかりずるいよ〜! 私だって、おんなじこと考えてたけど、今はしずくちゃんとかすみちゃんの身の安全が大事だって思って喋ってたのに……!」
千歌「ご、ごめんなさい……。でも、やっぱり、かすみちゃんの気持ち……全部無視するのは出来なくて……。……もちろん、しずくちゃんの気持ちも」
しずく「…………」
彼女たちも昔、ポケモントレーナーとして旅をして、今があるからこそ、私やかすみさんの旅に水を差すことに、思うところがあるのだろう。
……だけど、大人が大人として、私やかすみさんの身の安全を守ろうとしていることも、かすみさんが私と旅を続けられるように必死になっていることも、どちらの心情も理解出来るからこそ……私はどうすればいいのかがわからなかった。
- 556 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:39:18.92 ID:vdkzhBrC0
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千歌「私は……しずくちゃんがどうしたいかも大事だと思う」
しずく「……私は……」
千歌「素直に答えて欲しいんだけど……旅を続けたい?」
しずく「……それは……。……はい。続けたいです……かすみさんと一緒に」
千歌「だよね……。じゃあ、私たちの意思だけで勝手にダメだって決めつけちゃうのも……」
しずく「……でも……それと同じくらい……怖いって気持ちも、あります……」
少なくとも命が脅かされていることに覚える恐怖はある。
未知の毒に侵食されているかもしれない。またその原因と出会うことになるかもしれない。
そして、なによりも──次はかすみさんも命の危険にさらすことになるかもしれない。
それはどうしようもなく……恐ろしいことだと、私はそう思う。
穂乃果「……わかった。とりあえず、今後どうするか、しずくちゃん自身でよく考えてみてもらっていいかな?」
しずく「……はい」
穂乃果「その答え次第で、私たちもまた考えるから。……状況によっては、しずくちゃんやかすみちゃんの要望通りに出来るとは限らないけど……」
しずく「……わかりました」
私は穂乃果さんの言葉に頷く。
かすみさんの意向や行動に関わらず、私も自分自身がどうしたいのか、決断する必要があるだろう。
遥「とりあえず今日は安静にしていてくださいね。この後、簡易検査用の機器が届いたら、私が検査をするので……」
しずく「はい、よろしくお願いします」
とりあえず、今私に出来ることは、ここで考えながら安静にして待つことだ。
彼方「ん〜じゃあ、とりあえず話もひと段落したし、彼方ちゃんご飯作ってくるね〜。みんな、いっぱいお話しして、お腹空いちゃったでしょ?」
穂乃果「それじゃ、私たちは彼方さんがご飯を作ってくれてる間に、見回りに行こうか」
千歌「そうですね……森にウルトラビーストが出現したばっかりだから、警戒をちゃんとしておいた方がいいだろうし……」
それぞれが持ち場に戻っていき、人口密度の高かった室内が一気に寂しくなる。
私も、いろいろ考えて少し疲れてしまった……一旦、休ませてもらおうかな……。
そう思い、横になる。
しずく「…………私は……どうすればいいのかな……」
私はそう呟いて……目を閉じたのだった。
👑 👑 👑
──ロッジを飛び出したあと、かすみんはジムの前でぼんやりしています。
何故なら、ジムの扉にこんな張り紙がしてあったからです。
──『農作業のため、ジムに御用の方は午後以降にお願いします』──だそうです。
だから、こうしてジムの前でジムリーダーが戻ってくるまで待っているわけです。
- 557 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:40:04.80 ID:vdkzhBrC0
-
かすみ「かすみん、誰かからジム戦はスムーズに出来ない呪いでも掛けられてるんですかね……」
「ガゥ?」
……とはいえ、今回に関してはここで待っていれば絶対に来るわけですし、まあいいでしょう。
かすみ「それにしても、コメコのジムリーダーは働き者ですねぇ。ジムリーダーをやってるのに、農業もやってるなんて……」
コメコと言えば、農業の町で有名ですし、かすみんもお料理の買い物をするときは、よくコメコ産のお野菜とか果物とかを選んでいた気がします。
──くぅぅぅ〜……。食べ物のことを考えていたら、かすみんのお腹から可愛らしい音が鳴る。
「ガゥ」
かすみ「お腹空いた……」
やっぱり、何も食べずに飛び出してきたのは失敗でしたね……。
彼方先輩の作ってくれるおいしいご飯を食べて、ジム戦に備えるべきでした。
……なんてこと、今更言っても仕方ないので、今はそこのおにぎり屋さんで買った、塩むすび──豪勢な具を選べるようなお小遣いも残っていない──で我慢します。
かすみ「ゾロアも食べよ?」
「ガゥ♪」
大きめの塩むすびをゾロアと半分こして、パクつくと、
かすみ「……! お、おいしい……!」
「ガゥガゥ♪」
恐らく質素な味だろう思っていた塩むすびは、そんな予想に反して、思わず感想を口にしてしまうくらいおいしかった。
お米一粒一粒がしっかり感じられて、でも硬いわけではなくて、炊き立てのようにふっくらとした食感。
お米特有の風味が口いっぱいに広がり、それでいて炭水化物特有の口に残るような癖もほとんどない。
そんなおにぎりだからなのか、米そのものの味をしっかり感じられて──それを際立たせる絶妙な塩加減。
かすみ「かすみん……こんなおいしい塩むすび、初めて食べました……!」
「──ですよねですよね!! コメコのお米は世界一なんですよ!!」
かすみ「わひゃぁ!?」
──気付けば、知らない人の顔が至近距離にありました。
かすみ「だ、誰ですかぁ!?」
花陽「あ、ご、ごめんなさい……私、花陽って言います……。お米農家をしていて、うちのお米をおいしそうに食べてくれていたから、つい嬉しくなっちゃって……」
かすみ「な、なーんだ……そういうことですか。でも、このおにぎり本当においしいです!」
花陽「えへへ、ありがとう♪」
目の前の花陽という人は本当に嬉しそうにお礼を言ってくる。
かすみ「むしろお礼を言いたいのは、かすみんの方ですよ!」
花陽「かすみんちゃん……? 変わった名前だね?」
かすみ「かすみんちゃんじゃなくて、かすみんです! かすみだから、かすみんなんです!」
花陽「あ、そういうことだったんだね! よろしくね、かすみちゃん!」
かすみ「……」
な〜んか……テンポが狂う感じがしますねぇ……。
- 558 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:40:37.70 ID:vdkzhBrC0
-
かすみ「……と、とにかく。おいしいお米、ありがとうございます! お陰で元気出てきたんで、ジム戦もばっちりこなせそうです!」
花陽「あれ? もしかして、ジムの挑戦者さん?」
かすみ「はい。見たとおり、まだジムリーダーが帰ってきてなくて……」
確か、ここのジムリーダーの名前は……。なんか、りん子先輩が言ってたような……かよち? かよ……なんだっけ。
かすみ「かよ……子先輩でいいや。その人を待ってるんです」
花陽「かよ子……? ……あ、もしかして凛ちゃんに会ったのかな?」
かすみ「あれ、もしかしてりん子先輩と知り合いなんですか?」
花陽「うん♪ 凛ちゃんとは幼馴染なんだ♪」
かすみ「へぇ〜、そうだったんですね」
隣の町とはいえ、世間は意外と狭いものですねぇ。
花陽「それじゃ、凛ちゃんを倒して、ここに来たってことだね」
かすみ「はい!」
花陽「そっか! なら、私も気合い入れて頑張らないと……」
かすみ「……?」
花陽「ジムリーダーとして、全力でお相手するよ! よろしくね、かすみちゃん!」
かすみ「……はい? えっと、かすみんが待ってるのは、ジムリーダーであって……」
花陽「あ、えっとね。実は私がそのジムリーダーなんだ♪」
かすみ「…………へ?」
間抜けな声が出た。
かすみ「え、で、でも名前が……」
花陽「凛ちゃんからは、昔から、かよちんってあだ名で呼ばれてるんだ♪ だから、きっとかすみちゃんの言ってる、かよ子先輩は私のことだと思う!」
かすみ「じ、じゃあ、かすみんたち敵同士じゃないですかっ!!」
思わず、飛び退いてしまう。
ジム戦前に、ジムリーダーと仲良く談笑してる場合じゃないんですよ、かすみんは!!
かすみ「お米はおいしかったですし、それはありがとうって思いますけど……ジムリーダーなら話は別です!! かすみんは敵さんと仲良しこよししに来たんじゃないんです!!」
花陽「え、ええ!? ジムリーダーとチャレンジャーってだけだから……バトル外では仲良くしても……」
かすみ「それじゃ、戦いづらくなっちゃうじゃないですか!!」
花陽「た、確かにそうかも……。わかった! それじゃ、仲良くお話するのはバトルの後にするね! それじゃ、ジムの中に入ってください!」
かよ子先輩の先導でジムの中へと案内される。かすみんもゾロアをボールに戻しながら、その後ろを付いていく。
……なんだかおっとりしていて、良い人そうだけど、今日のかすみんは1ミリ足りとも手加減してやるつもりはありません。
ジムリーダーだろうがなんだろうが、完膚なきまでに叩きのめしてやるくらいのつもりです。
かすみ「しず子のために……圧倒するくらいじゃないと、ダメなんだから……!!」
今日は、完璧な勝利をもぎ取らなくちゃいけない。かすみんがしず子を守れるんだってことを、示すためにも……!!
- 559 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:41:20.77 ID:vdkzhBrC0
-
👑 👑 👑
ジムに入ると、中は地面を敷き詰めて作ったフィールドになっていた。
りん子先輩の道場のような板張りのジムとはだいぶ印象が違いますね……。
花陽「ルールの確認です! 使用ポケモンは3体ずつ! 全てのポケモンが戦闘不能になったら、その時点で決着です!」
ジムリーダーのバトルスペースから、かよ子先輩がそう伝えてくる。
かすみ「わかりました」
かすみんは軽く深呼吸をします。
かすみ「しず子……待っててね」
絶対絶対、何がなんでも、勝つ。そう意気込んで、ボールを構える。
花陽「それでは、これよりジム戦を開始します! コメコジム・ジムリーダー『陽光のたがやしガール』 花陽! よろしくお願いします……!」
かすみんとかよ子先輩、お互いのボールが同時に宙を舞う。バトル……スタートです……!!
- 560 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:41:55.48 ID:vdkzhBrC0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【コメコシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___●○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュプトル♂ Lv.23 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.22 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.17 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.22 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
バッジ 2個 図鑑 見つけた数:113匹 捕まえた数:6匹
かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 561 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:49:39.41 ID:K66c2REr0
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■Chapter029 『激闘! コメコジム!』 【SIDE Kasumi】
かすみ「──行きますよ、ジュプトル!!」
「プトルッ!!!」
かすみんの1番手はジュプトル! 今日は出し惜しみなしです! 最初からエースで一気に決めちゃいますよ!
花陽「お願い、ホルード!」
「ホルー!!」
相手のポケモンはホルード……なんか、うさぎさんっぽいのに絶妙に可愛くない……。
『ホルード あなほりポケモン 高さ:1.0m 重さ:42.4kg
大きな 耳は 1トンを 超える 岩を 楽に 持ち上げる。
ショベルカー並みの パワーで 固い 岩盤も コナゴナに
する。 穴を 掘り終えると ダラダラと 過ごす。』
かすみ「パワーはすごそうですけど、その分のろまさんっぽいですね……!」
図鑑をパタンと閉じる。どうやら、図鑑によればじめんタイプっぽいですし、有利相性で攻め込めますね……!
かすみ「ジュプトル! “リーフブレード”!!」
「プトルッ!!!!」
──ダンッ! と音を立てながら飛び、速攻で切りかかる。
「ホル!?」
予想どおり、のろまさんなのか、急に飛び出してきたジュプトルに驚いて動けなくなってますね……ふふふ。
「プトォルッ!!!!」
そのまま、縦に振り下ろした、草の刃が直撃し──パシッ。
かすみ「……へぇ!?」
──して、なかった。
花陽「ホルード、ナイスだよ!」
「ホル〜」
耳を使って、真剣白羽取りの要領で受け止められていた。
そして、ジュプトルの腕の葉っぱを掴んだまま、
花陽「“アームハンマー”!!」
「ホルーー!!!!」
地面に叩きつけようとしてくる。
かすみ「やばっ!? ジュプトル!!」
「ジュプトォッ!!!」
ジュプトルは咄嗟に口から、タネを吐き出す。
吐き出したタネは──ボンッ!と音を立てて、ホルードの前で爆発する。
「ホ、ホル…!!」
- 562 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:50:51.52 ID:K66c2REr0
-
爆裂したタネに驚いたホルードの耳は、思わずジュプトルを放す。
勢いはあったため、ぶん投げられこそしたものの、
「プ、プトルッ」
そこは自慢の身のこなしで華麗に着地する。
かすみ「セ、セーフ……」
花陽「咄嗟の防御に“タネばくだん”を使うなんて……!」
素早さで攪乱出来ると思ってたけど……そこは、さすがジムリーダー。一筋縄では行きませんね……。
遠距離技で一旦様子を見ようとしていた矢先、
花陽「“マッドショット”!」
「ホールーッ!!!!」
ホルードは泥の塊を複数飛ばしてくる。
かすみ「“リーフブレード”で斬り払って!」
「プトルッ!!!」
泥の塊を的確に斬り落としての防御。
多少、捌ききれずにぶつかりますが、こっちはくさタイプ。じめんタイプの攻撃ではそんなにダメージは通りません!
花陽「なら……!」
「ホルッ!!!」
急にホルードが自分の耳を土に突っ込むと、耳を突き立てた部分が赤みを帯びる。
花陽「“ねっさのだいち”!」
「ホルーーッ!!!」
そして、耳を使ってその土をひっくり返すように、こっちに向かって投げつけてくる。
「プトル…ッ」
かすみ「あ、あちち!? あついですぅ!?」
熱された土は、水分を失ったからなのか、砂になってジュプトルを襲う。
その熱量はかなりのもので、離れた場所から指示しているはずのかすみんのところにも熱気が届いてきている。
かすみ「ジュプトル、“やけど”しなかった!?」
「プトルッ!!」
どうやら、状態異常は免れたらしい。ラッキーです……!
ただ、熱にひるんだかすみんたちに、かよ子先輩は畳みかけるように攻撃を続ける、
花陽「“でんこうせっか”!」
「ホルッ!!!」
かすみ「いっ!? “ファストガード”!?」
「プ、プトルッ!!!!」
のろのろだと思っていたホルードが急に、猛スピードで突っ込んでくる。
咄嗟に、ガードをするけど──あまりに強力なスピードとかすみんの指示が相手よりワンテンポ遅れていたためか、完全に防ぎきれず、
「ジュプトォッ…!!!」
- 563 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:52:36.43 ID:K66c2REr0
-
またしても、吹っ飛ばされる。
かすみ「受け身とって!!」
「プトルッ!!!」
かすみ「よし! いい子ですよ、ジュプトル!」
「ジュプトッ!!!」
攻撃を受けてもどうにか受け身で威力を殺している。身のこなしの軽さが活きているけど……。
かすみ「あの破壊力……どこかで攻撃が直撃したら……」
恐らく直撃は食らったら終わり……!
どうにか、攻撃を直撃させられる前に策を練らないとと思うのに、
花陽「“メガトンパンチ”!!」
「ホルッ!!」
かすみ「ぴきゃぁぁぁ!? 逃げて逃げて!?」
「プ、プトォル!!!」
かよ子先輩は攻撃の手を緩めない。
花陽「──“とっしん”!!」
「ホル!!!」
花陽「──“アイアンヘッド”!!」
「ホーールッ!!!!」
花陽「──“10まんばりき”!!」
「ホルーーーー!!!!!」
畳みかけられる近接攻撃。とにかく回避に専念させて、逃げ回らせる。
それでも、ホルードはしつこくジュプトルを追い回しながら、攻撃をしまくってくる。
かすみ「当たったら終わり、当たったら終わり……!」
「プトル…ッ」
が、避けながら後退をしすぎたのか──気付けば壁際に追い込まれていました。
いや、
かすみ「も、もしかして、誘導されてた〜!?」
「プ、プトルッ…!!!」
あんな無茶苦茶に技を振りまくってるように見えて、少しずつジムの角の方に追い込まれていた。
花陽「これで、逃げ場はないよ! “ばかぢから”!!」
「ホーーーールーーー!!!!!」
壁に追い詰められたジュプトルに向かって、耳を大きく引きながら、殴りかかってくるホルード。
かすみ「っ……! 飛び越えて! “アクロバット”!!」
「ジュプトォル!!!!」
咄嗟の指示。飛び出したジュプトルは、ホルードの頭に手を突きながら、身を捻って、耳と耳の間をすり抜けながら飛び越える。
花陽「!」
かよ子先輩が驚いて息を呑むのが聞こえた。そして、その直後──ドゴォッ!! と大きな音を立てながら、ホルードの攻撃はジムの壁に炸裂する。
かすみ「……ひ、ひいぃぃ! か、壁に穴が……!」
- 564 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:53:05.76 ID:K66c2REr0
-
“ばかぢから”でぶん殴られた壁は、一発でジムの壁をぶち抜いて、そこから先に外が見える。
あの人、自分のジムなのに、容赦なくぶっ壊してきましたよ!?
あんなの当たったら本当に一溜りもありません……! 避けられてよかった……。
花陽「逃げてばっかりじゃ、勝てないよ!」
かすみ「そんなのわかってますよぉ! でも、そんなバカみたいな破壊力ズルじゃないですかぁ!!」
花陽「そ、そんなこと言っても、ホルードの特性は“ちからもち”なんです! これは、そういう個性ですから……!」
そんな特性を持っているなら尚更、真正面から戦うなんて出来ません……!
とにかく今は、距離を取って──
花陽「あくまでも逃げるんだね……なら──」
「ホル」
ホルードがまた耳を地面に突き刺す。また“ねっさのだいち”!? と身構えたけど、いつまで経っても、耳を引き抜かない。
かすみ「? な、なにを……」
いつ土をひっくり返してくるかと警戒していたけど──警戒する方向はそっちじゃなかった。
「プトルッ!!?」
かすみ「!? ジュプトル、どうしたの!? って、えぇ!?」
ジュプトルの驚く鳴き声に反応して、目を向けると──ジュプトルの足が砂に絡め取られていた。
花陽「“すなじごく”!」
「ホルッ!!!」
かすみ「こ、拘束までしてくるなんて、聞いてないですよー!!」
「プ、プトルッ」
花陽「これで……もう逃がしません……」
かすみ「脱出! 全力で脱出!」
「プ、プトォル…」
脱出を指示するも、完全に足が砂に埋まってしまっていて、逃げるのはもはや困難。
やばい、やばい……!! どうにかしないと、と考えている間にも、ホルードはジュプトルに迫ってくる。
回避は無理……! なら、近寄らせないしかない……!
かすみ「“タネマシンガン”……!」
「プトルルルル!!!!」
“タネマシンガン”でけん制をするものの、
「ホルー」
ホルードは耳で払い飛ばしながら、のっしのっしと迫ってくる。
小さいダメージはこの際気にしていないようだった。
そりゃぁ、あの破壊力だと、こっちは一発貰ったら終わりだから、わかる気もしますけどぉ……!?
かすみ「あ、あのパワーをどうにか……」
とはいえ、特性ということは、あのポケモンの唯一無二の性質みたいなものです。
どうにかするって言っても、どうにも……。
- 565 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:53:46.56 ID:K66c2REr0
-
かすみ「……? 特性……?」
そこでかすみんはハッとする。
かすみ「そうだ……! ジュプトル! あれです! ……“タネばくだん”!」
「!!! プットルッ!!!!」
ジュプトルはまたしても、口からタネを飛ばす。
花陽「また“タネばくだん”ですね……! でも、もうここまで来たら関係ないです! ひるまないで、確実に攻撃を仕掛けて!」
「ホルーー」
もはや回避するつもりもない。そのままタネは──ゴッと音を立てて、ホルードの頭に直撃した。
花陽「不発……?」
かすみ「う、うそ……」
花陽「ふふ……最後の最後で運が悪かったですね」
もうホルードはジュプトルの目と鼻の先。
かすみ「“リーフブレード”ォ……!!」
「プトォルッ!!!!」
苦し紛れに振るう草の刃、だけど、
花陽「受け止めて!」
「ホルッ!!!」
またしても、真剣白刃取りの要領で受け止められる。
花陽「これで、終わりです! “アームハンマー”!!」
最初と同じ展開で、今度は動けないジュプトルに向かって、ホルードの耳が振り下ろされ──……なかった。
花陽「!? ホルード、どうしたの!?」
「ホ、ホル…!!!」
「プトル…!!!」
何故か、ホルードはジュプトルの刃を掴んだまま、ほぼ力の釣り合った押し合いに発展していた。
花陽「な、なんで!? ホルードの方がパワーは圧倒的に上なのに!?」
かすみ「……にっしっし……引っ掛かりましたね〜?」
花陽「え……!?」
かすみ「さっきの“タネばくだん”……本当にただ不発なだけだったと思いますか〜?」
花陽「……!? まさか、さっきの他の技……!?」
かすみ「そのとおりです! 特性“ちからもち”は“ふみん”に書き換えさせて貰いましたよ!」
そうさっきの技は“タネばくだん”ではなく──
花陽「──“なやみのタネ”……!?」
相手の特性を“ふみん”にする技──“なやみのタネ”だったというわけです。
- 566 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:54:42.15 ID:K66c2REr0
-
花陽「……そ、それでもまだ力比べでなら、拮抗してる……! ホルード! 頑張って!」
「ホルゥゥゥ!!!!!」
「プ、プトルッ!!!」
特性を失った今でも、どうにか押し切ろうと、踏ん張りながら迫り合いを続ける。
さすが、ジムリーダーのポケモンとでも言いましょうか。よく育てられていて、“ちからもち”が消えちゃったあとでも、本当に押し切られちゃいそうですけど──
迫り合いを続ける最中、ホルードが耳で掴んでいる部分が、急に内側から光り出す。
花陽「なっ!?」
かすみ「……ここまで来て、かすみんたちは真正面から力比べなんてしませんよ!」
「プトルッ!!!!」
その光はどんどん輝きを増し──大きな刃となって、ホルードを貫く……!
かすみ「“ソーラーブレード”ッ!!」
「プトォル!!!!!!」
「ホルゥゥゥ!!!?」
ジュプトルの草の刃が──光の刃となって、ホルードの脳天から直撃した。
花陽「!! ホルード!!」
「ホ、ホルゥ……」
こんな至近距離で大技を食らったら、もうとてもじゃないけど、立ってるのは無理ですよね。
ホルードは太陽光の刃に吹き飛ばされて、気絶したのでした。
花陽「……やられちゃった。……ありがとう、ホルード。戻って」
「ホルゥ…──」
かすみ「……ふぅ、どうにか1匹目、突破です……」
「プトルッ」
かよ子先輩がホルードをボールに戻して、次のボールを投げる。
花陽「……お願い、ダグトリオ!」
「──ダグダグ!!」
──次に出てきたポケモンは、ダグトリオ。
『ダグトリオ もぐらポケモン 高さ:0.7m 重さ:33.3kg
チームワークに すぐれた 三つ子の ディグダ。
3匹は とても仲良し。 3つの 頭が 互い違いに 動いて
どんなに 硬い 地層でも 地下100キロまで 掘り進む。』
かすみ「さぁ、どんどん行きますよ! ジュプトル!」
「ジュプトォル!!!!」
ダグトリオ目掛けて、“リーフブレード”を構えて飛び出すジュプトル。この流れに乗って、2匹目も討ち取ってやります……!
肉薄して、横薙ぎにリーフブレードを一閃──したのですが、
かすみ「……あ、あれ……?」
そこにはダグトリオの姿はなく……。穴っぽこが空いているだけ。
かすみ「潜って逃げられた……! ジュプトル、気を付けて!」
「プトルッ」
- 567 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:55:23.96 ID:K66c2REr0
-
ジュプトルともども、キョロキョロとフィールド内を見回しながら警戒する。
どこから出てきても追い付いて攻撃するくらいのつもりで、神経を尖らせる。
そんな中……もこっと地面が盛り上がった場所は、
かすみ「……!? 真下……!? ジュプトル、逃げ──」
花陽「“ふいうち”!!」
「ダグッ!!!」
「プトォルッ!!?」
真下から突き上げられて、ジュプトルが真上に吹っ飛ぶ。
相手が逃げてるんだと思い込んでいたせいで、攻撃への対処が遅れた……!
かすみ「ぐぬぬ……! そのまま、“リーフブレード”!」
「…プトォォル!!!」
ただ、転んだままでいるつもりはない。尻尾を器用に使って空中で体勢を立て直し、そのまま落下のスピードを加えて、反撃を試みる。
──縦薙ぎの刃がダグトリオの直上から、一閃されるが、
「ダグッ──」
かすみ「……っ! また、潜られた……!」
またしても、ジュプトルの攻撃は空振り。
かすみ「ジュプトル、足元注意だよ!」
「プトル…!!」
次の攻撃は受けないと、足元に警戒を回したら──今度はジムの隅っこの方の地面が盛り上がる。
花陽「“トライアタック”!!」
「ダグダグダグ!!!!」
「プトォル!!!?」
かすみ「ちょ……! 今度は、遠距離!?」
三角形の頂点にほのお・でんき・こおりを宿したエネルギー弾がジュプトルに直撃する。
かすみ「ぐぅ……! “タネマシンガン”……!」
「プトルルルルルッ!!!!」
すかさず、遠距離技で反撃をするも、
「ダグッ──」
かすみ「ああーもう……! また、逃げられた……!」
ダグトリオはすぐに穴に潜って逃げてしまう。
かすみ「悠長に相手を待ってたら、ただの的ですね……! ジュプトル!」
かすみんがバッと手をあげると、
「! プトルッ!!」
ジュプトルは地面を蹴って跳躍し──壁に張り付いた。
- 568 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:56:33.14 ID:K66c2REr0
-
かすみ「これなら、少なくとも近接攻撃は当たりません!」
花陽「! なるほど……」
キモリの時代から、壁や樹に登るのは得意技なんですから……!
近距離攻撃を予防してしまえば、あとは遠距離攻撃対策に絞るのみ……!
と、思った瞬間──グラグラと地面が揺れ始めた。
かすみ「ひゃぁっ!? な、なんですかぁ!?」
「プ、プトォル…!!」
壁に張り付いたジュプトルを振り落とすような激しい揺れ。
かすみ「まさか、“じしん”ですか!?」
花陽「そのとおりだよ! 逃がさない……!」
かすみ「が、頑張ってジュプトル!」
「プ、プトル…ッ」
かすみんの応援も虚しく──ジュプトルは揺れに耐えきれず、壁から振り落とされてしまう。
かすみ「……っ! 起き上がって、ダッシュ!!」
「プトル…ッ!!」
振り落とされても、ひるんでいる場合じゃない。着地と同時に受け身を取って起き上がり、すぐに走り回り始める。
狙いを定めさせるわけにはいかない……!
でも、ダグトリオは、
「ダグッ!!!」
「プトルッ!!?」
かすみ「ひゃぁぁ!? なんで進路上に出てくるのぉ!?」
花陽「地面に潜ったポケモンは地上の振動を感知して攻撃するんです! “ヘドロばくだん”!!」
「ダグッ!!!」
かすみ「そんなのズルじゃないですかぁ〜!! タ、“タネマシンガン”……!!」
「プトルルルルッ!!!!!」
苦し紛れに相殺を狙うけど、ヘドロの塊を消し飛ばしきることは出来ず、
「プトォル……ッ!!!」
真正面からダメージを負う。
次の瞬間にはもうダグトリオは地面の中だし……!
かすみ「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……!! ひ、卑怯ですよぉ……!!」
花陽「ごめんなさい……でも、これも戦略だから……」
かすみ「むきーっ!! ジュプトル!! “タネマシンガン”!! “タネマシンガン”ですぅ!!」
「プートルルルルルッ!!!!!」
ジュプトルがフィールド一帯を手当たり次第に“タネマシンガン”で攻撃させる。
花陽「ヤケを起こしちゃったら、勝てないよ……?」
かすみ「うるっさいですっ!!」
花陽「……なら、もう決めちゃおう! ダグトリオ!」
かよ子先輩の指示と同時に──ジュプトルの足元がもこっと盛り上がった。
- 569 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:59:12.59 ID:K66c2REr0
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花陽「──“10まんばりき”っ!!」
直下からの大技──でしたが、
かすみ「……引っ掛かりましたねぇ〜?」
花陽「え!?」
ダグトリオは何故か──頭の先っちょだけ出たところで止まってしまっていた。
花陽「な、なんで!?」
かすみ「かよ子先輩、本当にかすみんがヤケっぱちを起こして、“タネマシンガン”をばらまいてたと思ってたんですかぁ?」
花陽「……!? ダグトリオ! 一旦潜りなおして!」
「ダ、ダグッ」
先っちょだけ出ていたダグトリオは、すぐに地面に潜りなおして離脱する。
花陽「い、一体何が……」
かすみ「かよ子先輩〜、二度もおんなじ作戦に引っ掛かってたら……勝てる勝負も勝てませんよ〜?」
花陽「同じ作戦……? ……まさか、さっきの……“タネマシンガン”じゃない……!?」
今更気付いても、もう遅い。さっきのブラフの“タネばくだん”同様……今回の“タネマシンガン”も実は“タネマシンガン”じゃなくって──
かすみ「もうダグトリオが掘った穴の中は──“やどりぎのタネ”から出た芽が張り巡らされてますよ!」
花陽「……!?」
さっきばら撒いていたのは、“やどりぎのタネ”……!
それをダグトリオが空けた穴目掛けて、打ち込みまくったというわけです。
穴同士は繋がっているわけですから、穴の中を縦横無尽に伸びまくるやどりぎの芽から逃げる方法なんて皆無です……!
そして、やどりぎに体力を吸収され続けていることがわかった今、
かすみ「そっちは無理やりにでも攻撃せざるを得ませんよね!」
──離れたところでもこっと盛り上がった地面目掛けて、
花陽「“トライアタック”……!!」
「──ダグ…ッ」
かすみ「“エナジーボール”!!」
「プトォーールッ!!!!」
勢いよく飛び出した“エナジーボール”が、まっすぐ“トライアタック”を捉えて相殺し、エネルギーが弾けた衝撃で周囲の土を巻き上げる。
──その土煙を突っ切るようにして、
かすみ「“リーフブレード”!!」
「プトォルッ!!!!」
ジュプトルがダグトリオを袈裟薙ぎに斬り裂いた。
「ダ、グ…」
効果抜群。たまらずダグトリオは戦闘不能となりました。
花陽「……戻って、ダグトリオ」
かすみ「……あと……1匹……!」
- 570 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:00:09.96 ID:K66c2REr0
-
自分が今、かつてない程バトルに集中していることを実感できた。でも、それは当たり前──
かすみ「今日のかすみんは……圧倒的に、絶対的に、無敵な感じを見せつけに来たんですから……!!」
しず子を守れるって証明するために──かすみんはジムリーダーに圧勝しに来たんです……!!
花陽「……かすみちゃん、強いね。びっくりしちゃった」
かすみ「そうでしょう、そうでしょう! 今日のかすみんは無敵なんですから!」
花陽「でも、私にもジムリーダーとしての意地があるから……この切り札で、劣勢を覆します……!」
かよ子先輩が、最後のポケモンのボールをフィールドに投げ込んだ。
👑 👑 👑
花陽「お願い、ナックラー!」
「──…ナク」
最後に出てきたポケモンは……ナックラー。
かすみ「なんか……最後によわっちそうなのが出てきましたね……」
今までで一番弱そうかも……。と、思った矢先、
「プトッ!?」
ジュプトルが驚きの声をあげながら、少しずつ前進……いや、滑ってる……?
かすみ「……違う!? 何かに、引っ張られてる!?」
かすみんは状況把握のために、図鑑を開いて、ナックラーのページを開く。
『ナックラー ありじごくポケモン 高さ:0.7m 重さ:15.0kg
すり鉢状の 巣穴の 底で じっと 獲物が 落ちて くるのを
待ち続けている。 大きな アゴは 大岩を 噛み砕く。 頭が
大きいので ひっくり返ると なかなか 起き上がれなくなる。』
かすみ「アリジゴク……!? じゃあ、ジュプトルを引っ張ってるのは……砂!?」
気付けば、いつの間にかジュプトルの足元どころか──ナックラーを中心にして、フィールド全体に大きな流砂が発生していた。
かすみ「やば……! 脱出! ジャンプ、ジャンプ!!」
「プトルッ…!!」
すかさずジャンプで脱出……! 身のこなしの軽いジュプトルなら、体が埋まる前なら、十分脱出が出来ます。
でも、相手もそれくらいはわかっていたようで、
花陽「“マッドショット”!!」
「ナックラ」
「ジュプトッ…!!」
泥の弾を飛ばしてきて、空中のジュプトルを撃ち落としにかかってくる。
かすみ「ああもう……! せっかく逃げたのに……!」
- 571 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:01:00.50 ID:K66c2REr0
-
叩き落されて、すぐに状況はリセット……いや、それどころか、
花陽「“すなあらし”!」
「クラ〜」
──ゴォッと音を立てながら、“すなあらし”が発生する。
かすみ「ぐぅ……!」
「プ、プトル…」
足元が悪いだけでなく、さらに砂がバシバシとぶつかってくる。しかも、視界まで悪くなってきた。
かすみ「これじゃ、遠くからナックラーが狙えないじゃないですかぁ……!」
そんな、かすみんの不満を無視するように、
花陽「“ねっさのだいち”!!」
「ナックラー」
「プトォル…!!!」
かすみ「あち、あちち!? だから、それ熱いんですってば!?」
飛んでくる灼熱の砂。向こうは容赦なく、範囲攻撃で攻めてくる。
かすみ「とにかく、近寄らなきゃ……! もう逃げるのはなし! ジュプトル、“リーフブレード”!!」
「…プトルッ!!!」
砂を蹴って、ジュプトルが前方へ飛ぶ。
足を取られて、動きづらいのは確かですが、この流砂はナックラーを中心にして引き寄せられている。
なら、近接攻撃はその流れに逆らわなければ、確実に相手に届くんです……!
「──プトォルッ!!!」
“すなあらし”の先で、ジュプトルが草の刃を振り下ろす影が見えた。
真っすぐに振りぬかれた攻撃は、ジュプトルの足元にいるであろう、ナックラーらしき影に直撃する。
かすみ「やりました……!」
相性ではこっちが有利……! 直撃さえしてしまえば、こっちのもの……!
だけど──
かすみ「……? ジュプトル……?」
ジュプトルの影が、動かない。
かすみ「な、なに……?」
“すなあらし”の先に、必死で目を凝らすと──
かすみ「……なっ!?」
ジュプトルの草の刃は──
「ナク」
花陽「捕まえたよ……!」
- 572 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:01:47.67 ID:K66c2REr0
-
ナックラーの大アゴで完全に受け止められていた。
考えてみれば……悪い視界の中、流砂の流れに従って行けば確実に敵に行きつくのと同様に、相手からしても攻撃してくる方向が簡単にわかってしまう。
かすみ「逆っ!! 逆の刃で、“リーフブレード”!!」
「プ、プトルッ!!!!」
当てさえすればいいんです……! 捕まってるなら、相手だって、動けないはずだもん……!!
だけど、かよ子先輩は、
花陽「“あなをほる”!」
「ナック」
かすみ「んなぁ!?」
「プトル…!?」
ジュプトルもろとも、地面に引き摺りこんできた。
悪い足場の中、どうにか踏ん張りながら、攻撃を仕掛けていたジュプトルはいとも簡単に体勢を崩して、ナックラーの巣穴に頭から突っ込む。
かすみ「やばっ!? 逃げて、ジュプトル、逃げてー!!」
かすみんの言葉も虚しく、頭から砂に埋もれて、下半身だけを外に出してもがいている状態のジュプトルに、脱出の手段など残されておらず、
花陽「“むしくい”!!」
「ナックナクナク」
地中から、好き放題噛みつかれたあと──気絶してしまったのか、もがいていた下半身は動かなくなってしまった。
かすみ「も、戻って、ジュプトル……!」
花陽「ジュプトル、戦闘不能だね」
かすみ「ぐぬぬ……」
パーフェクトは叶わず。……でも、まだまだこっちが優勢ですもん!
かすみ「ジグザグマ!」
「──ザグマァ!!」
ジグザグマを繰り出す、が……。
「ク、クマァ!!?」
ジグザグマは出てきて早々、足を砂に取られる。
かすみ「と、止まっちゃダメ! “しんそく”!」
「ザ、ザグマァ!!!」
足に力を込めて飛び出す。……が、“すなあらし”の邪魔もあってか、思うように速度が出ない。
速度が出なければまた自然と足を取られて──
「グ、グマァ…」
かすみ「ジ、ジグザグマぁ〜!?」
ジグザグマは砂にずぶずぶと沈んでいく。
花陽「ふふ……選出を間違えちゃったみたいだね」
かすみ「ぐぬぬ……! “じたばた”!」
「ザ、ザグマァ!!!」
- 573 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:02:33.41 ID:K66c2REr0
-
ジグザグマは手足を“じたばた”暴れさせ、周囲の砂を吹き飛ばしながら、これ以上沈むのを耐える。
花陽「じゃあ、追撃の“すなじごく”」
「ナク」
「グマァ〜〜!?」
抵抗虚しく、ジグザグマはみるみる砂に沈んでいく。
程なくして──ジグザグマの姿は完全に見えなくなってしまった。
かすみ「あ……」
花陽「これで2匹目も戦闘不能だね。ちょっとくらいなら砂に埋まっていても、ボールを投げれば手元に戻してあげられると思うから」
かすみ「…………」
花陽「かすみちゃん、ジグザグマをボールに戻して、次のポケモンを出してもらえるかな?」
かすみ「…………」
花陽「かすみちゃん、悔しいのはわかるけど、早くポケモンの交替を……」
かすみ「………………まだです」
花陽「? まだ……?」
かすみ「……まだ……ジグザグマは戦闘不能じゃ──ありませんよ……!」
次の瞬間──
「ナックッ!!!?」
ナックラーの体が砂の中に引っ張られるように、沈み込んだ。
花陽「えっ!?」
かすみ「かすみんのジグザグマはですね、穴掘りは得意なんですよ! 前に何時間も砂浜で、“ものひろい”をしてたくらいなんですから! 最初っから砂に足を取られてなんかなかったんですよ!」
花陽「……!? じゃあ、ナックラーのさらに下に潜り込んで……!?」
かすみ「相手を捕えたつもりが、逆に捕らえられちゃいましたね! 逃げ場のない砂の中で、爆音を食らわせてやりますよっ!! ──“ハイパーボイス”!!」
「──ザグマアァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」
地中から砂をぶっ飛ばす大音量で、ジグザグマが“ハイパーボイス”をぶっ放す。
そして、その大量の砂に交じって、
「……クラァ……」
至近距離からの大爆音に卒倒したナックラーが宙をくるくると回転しながら──ボスッと砂のフィールドの上に落ちていった。
花陽「…………ナックラー、戦闘不能。……このジム戦、かすみちゃんの勝利です」
かすみ「……やったー!! ジグザグマ! よく頑張りましたね!」
「ザグマァ♪」
飛びついてきたジグザグマを抱きしめる。
かすみ「あらら……こんなに砂だらけになっちゃって……」
体に付いた砂を払ってあげながら頭を撫でると、
「ザグマァ♪」
ジグザグマをご機嫌な鳴き声をあげるのでした。
- 574 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:03:19.25 ID:K66c2REr0
-
花陽「まさか……最後の1匹を見ることなく負けちゃうなんて……」
かすみ「ふふん、どうですか? かすみんの実力は!」
花陽「すっごく強かったよ……! 残りポケモンに差を付けられての負けって、ジム戦でもあんまりないから……びっくりしちゃった」
かすみ「そうでしょうそうでしょう! 今日のかすみんは最強なんですから……!」
花陽「うん、そうだね……! その証として──この“ファームバッジ”を受け取ってください!」
かよ子先輩から、稲穂型のバッジを受け取る。
かすみ「えへへ、ありがとうございます!」
本当は1匹も倒されないくらいの圧勝がしたかったけど……十分快勝だったと言えるレベルでしょう。たぶん。
かすみ「これなら……少しくらい、しず子を守れるって証明も──」
「──かすみさんっ!」
そのとき、声と共に──誰かが私を背中側から抱きしめてきた。
いや、誰かは……声を聞けばわかるんだけど……。
かすみ「し、しず子……!?」
しずく「かすみさん……バトル、すごかったよ……」
かすみ「え、えぇ!? み、見てたの……!?」
しずく「うん……途中からだったけど……」
かすみ「か、体は!? 体はもうなんともないの!?」
しずく「うん……簡易検査で、とりあえず動いても問題ないって言われたから……見に来たんだ」
かすみ「そ、そうだったんだ……」
しず子が後ろからぎゅーっと抱きしめてくる。
かすみ「しず子……苦しい……」
しずく「……ごめん……」
しず子は「ごめん」と謝った割には、全然力を緩めてくれなかった。
かすみ「しず子」
しずく「……なに……?」
かすみ「しず子のことは……かすみんが守るから」
しずく「……うん」
かすみ「だから──」
しずく「一緒に冒険……続けよう」
かすみんが口にする前に──しず子に言われてしまった。
それだけ言うと、しず子はやっとかすみんを解放してくれる。
振り返ると──今の今までかすみんを抱きしめていたはずなのに、今はこっちに背中を向けていた。
- 575 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:04:18.99 ID:K66c2REr0
-
かすみ「しず子? なんで、背中向けてるの?」
しずく「えっとね……かすみさんに言わないといけないことがあって……」
かすみ「言わないといけないこと?」
しずく「実は……旅、続けても大丈夫って、言われたんだ」
かすみ「……はい?」
しず子のカミングアウトに変な声が出た。
しずく「簡易検査の結果がすごくよかったみたいで……精密検査とかも大丈夫ってことで、旅を続けてもいいよって」
かすみ「………………」
え、じゃあ、かすみんの頑張りの意味は……?
かすみ「せっかく、かすみん……めちゃくちゃ頑張ったのに……」
しずく「……ふふ♪ でも、今日のかすみさん、すっごくかっこよかったよ♪」
しず子はいたずらっぽく笑いながら、かすみんに向かって振り返る。
しずく「それじゃ、一旦ロッジに戻ろうか」
かすみ「えー? 戻らなくてもよくないー? もう、しず子、特に身体とかに問題ないんでしょ?」
しずく「でも、帰ったら彼方さんの作ってくれるご飯が食べられるよ?」
かすみ「……! た、確かにそれは魅力的……」
しずく「それに、もう一晩くらい泊めて貰ったほうがいいんじゃないかな? かすみさん、お小遣い結構ピンチだし、宿代、浮かせたいでしょ?」
かすみ「……し、仕方ないなぁ……しず子がそう言うなら、戻ってあげますよ〜」
しずく「ふふ、ありがとう、かすみさん♪」
まあ、今日は気分もいいですしね。かすみんのジム戦での活躍でも語りながら、彼方先輩の作った、おいしい晩御飯を頂くとしましょう……!
かすみんは意気揚々とロッジを目指して、ジムを後にするのでした。
しずく「──……ありがとう、かすみさん。……今度は……私が頑張る番だよ……」
💧 💧 💧
──時刻は深夜を回ろうかという時間帯。
かすみさんはジム戦の疲労もあってか、鼻高々にジム戦のことを語りながらご飯を食べたあと、すぐに寝てしまった。
かすみさんが先に就寝し、この場には穂乃果さん、千歌さん、彼方さん、遥さん……そして、私が残っている。
そんな中で私は──
しずく「…………」
三つ指をついて、頭を下げていた。
自分で言うことではないかもしれないが、我ながら美しい姿勢で頭を下げていると思う。
厳しく躾けてくれた両親には感謝しなくてはいけない。
- 576 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:05:12.77 ID:K66c2REr0
-
遥「し、しずくさん……あ、頭を上げてください……」
しずく「…………」
彼方「しずくちゃん……えっと……あのね……。彼方ちゃんたちも困っちゃうというか……」
しずく「…………」
結論から言うと──私の簡易検査の結果はあまり芳しいものではなかった。
すぐさま、どうこうと言うほどのものではなかったが……ウルトラビーストが持つ、特有のエネルギーのような毒素が体の中に留まってしまっているらしく、出来る限り専門の医療施設で治療を受けて欲しいと説明を受けた。
……だから、その頼みを断るために、私を診てくれた遥さんの厚意を無下にするために、こうして頭を下げている。
しずく「……私が──私たちが旅を続けることを、許してもらえませんか……」
遥「……ど、どうしよう……お姉ちゃん……」
彼方「う、うーん……」
頭を下げ懇願する私と、困惑する彼方さんと遥さん。それを見かねてか、
穂乃果「……しずくちゃん、一度顔を上げてもらえないかな」
穂乃果さんがそう口にする。
しずく「……許可を頂けるなら」
穂乃果「……ちゃんと顔を見て話したいから、顔を上げて」
しずく「…………」
私は渋々顔を上げる。
穂乃果「……しずくちゃん、自分が何を言ってるか、わかってる?」
しずく「……わかってます」
穂乃果「しずくちゃんはいつ発作が起こってもおかしくないし……ウルトラビーストにまた襲われる可能性も高い……って言うのは、朝説明したとおりなんだけどさ」
遥「……少なくとも、しずくさんを診た人間としては……本部の医療施設に入って欲しいと思っています……」
しずく「……診ていただいたこと、治療していただいたことには感謝しています。……ですが」
私は──
しずく「……私は、かすみさんと一緒に……旅を続けたい」
本当は今日、あの場に観戦をしに行ったのは……検査の結果を受けて、専門の医療施設に入るため……かすみさんにお別れを言うためにジムに赴いていた。
だけど……かすみさんが必死に戦う姿を見て。
私と一緒に旅を続けるために、その力を示すために戦う姿を見て──自然と涙が溢れてきた。
諦めないかすみさんの姿を見て、私も簡単に諦めたくなくなってしまった。
しずく「……無茶を言っていることは承知しています。……ですが、この旅は……かすみさんと、ポケモンたちとする冒険の旅は、この一度きりしかないと思うんです……。……お願いします、私に、私たちに……時間をください」
私はただ懇願して、頭を下げる。
私が頭を下げると、再び場が静まり返る。
沈黙の中、ただひたすらに頭を下げ続けている中──沈黙を破ったのは、
千歌「……じゃあ、こうしよう、しずくちゃん」
- 577 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:09:29.95 ID:K66c2REr0
-
千歌さんだった。
彼女は腰のボールベルトからボールを外して、ポケモンを出す。
「──グゥオ」
しずく「ルカリオ……?」
千歌さんのルカリオが私に近付いてきて、手をかざすと──ボォっと青いオーラのようなものが見えた。
千歌「今、しずくちゃんの波導をルカリオに覚えてもらってる」
しずく「波導……?」
千歌「人の持ってるエネルギー……みたいな感じかな? 波導は距離が離れてても、集中してれば、ある程度感知が出来るんだ。だから、こうしてしずくちゃんの波導を覚えさせておけば、もし何か異常があったときに、すぐルカリオが報せてくれる」
しずく「……監視、ということですね」
千歌「うん。もし、しずくちゃんがウルトラビーストと遭遇したり、それこそ発作が起こるようなことがあったら、すぐに飛んで行くから」
──飛んで行く……というのは、私にとってプラスな理由だけではなく……発作が起こるようなことがあったら、今度こそ医療施設に入ってもらう、ということでもあるのだろう。
ただ、今は私の身を慮って言ってくれた提案を蹴って、無茶な要求を聞いてもらっている立場だ。これくらいの条件は付いていて当たり前。
しずく「わかりました」
千歌「穂乃果さん、彼方さん、遥ちゃん。それでいいかな?」
千歌さんが、3人に確認を取る。
遥「……わかりました。ただ、しずくさん、無茶だけはしないでくださいね……」
彼方「みんなが納得してるなら、彼方ちゃんからはこれ以上何か言うつもりはないよ〜……」
穂乃果「……わかった。ただ、しずくちゃんにはいくつか注意して欲しいことがあるんだけど……」
しずく「注意してほしいこと……ですか?」
穂乃果「何かおかしな気配を感じたら、何がなんでも逃げるのを優先すること。異常を感じたら、真っ先に私たちの誰かに連絡をすること。出来るかな」
しずく「は、はい……! もちろんです……!」
私が穂乃果さんの言葉に首を縦に振ると、
穂乃果「うん、ならオッケー!」
先ほどまで神妙な面持ちだった穂乃果さんは、柔らかい雰囲気で笑いながら、許可をしてくれたのでした。
彼方「そうと決まったら、今日は早く寝るんだよ〜? 明日からまた旅が始まるんだから〜」
しずく「は、はい……! そうさせてもらいます……!」
気付けば随分深い時間になりつつある。
明日もかすみさんと、ポケモンたちと共に旅を続けるのであれば、しっかり睡眠を取って明日に備えなければ。
寝室に行くために、リビングを出ていく際、
しずく「……皆さん、私のわがままを聞いてくださって……本当にありがとうございます」
もう一度、深々と頭を下げてから、部屋を後にしたのだった。
- 578 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:10:11.39 ID:K66c2REr0
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💧 💧 💧
かすみ「…………ふぇへへ…………どーれすかー…………かすみん…………むてきの…………トレーナー………………むにゃむにゃ……」
──寝室に入ると、かすみさんが寝言を言っているところだった。
しずく「ふふ……今日のジム戦の夢でも見てるのかな」
思わず、くすくす笑ってしまう。本当に今日のバトルはかすみさんの中でも会心の結果だったんだろう。
……実際、すごくかっこよくて、胸を打たれる戦いだった。
しずく「……ありがとう、かすみさん。これからもよろしくね」
かすみ「………………ふぇ…………? …………しず子ぉ……? …………なんか、言ったぁ…………?」
しずく「なんでもないよ。おやすみって言っただけ」
かすみ「……ん〜……そぅ…………………………すぅ……すぅ…………」
寝言で会話するなんて、かすみさんらしいなと思って、またくすくすと笑ってしまった。
しずく「…………」
これから先、私はどうなってしまうんだろうか。
不安はあるけど……。
かすみ「…………zzz」
かすみさんと一緒なら、きっと大丈夫。
今はそう思うから。
私は今度こそ、明日に備えて、布団に潜るのだった。
- 579 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:10:58.41 ID:K66c2REr0
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>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【コメコの森】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回●__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュプトル♂ Lv.29 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.23 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.22 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.22 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:118匹 捕まえた数:6匹
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.18 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.18 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.19 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
キルリア♀ Lv.20 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:127匹 捕まえた数:9匹
かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 580 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 20:37:43.90 ID:K66c2REr0
-
■Intermission🐏
遥「あの……穂乃果さん」
穂乃果「ん?」
遥「……本当に……行かせてしまっていいんでしょうか……」
彼方「遥ちゃん、もう決めたことだから、これ以上何か言うのはダメだよ〜? 今更、やっぱりダメって言っても、しずくちゃんもかすみちゃんも納得できなくなっちゃうし」
遥「でも……」
彼方「遥ちゃんは優しい子だからね〜……しずくちゃんのことが心配なんだよね。でも、今はしずくちゃんたちのこと……信じてみよう」
遥「……うん」
実際、自分たちの意思に関わらず、自由を縛られるというのが、どれほど大変なことかは、私も遥ちゃんもよくわかっているつもりだ。
しずくちゃんが心配だって気持ちは、もちろん私にもあるけど……彼女の自由を奪いたくないという気持ちもある。そしてそれは遥ちゃんも同じだと思う。だからこそ葛藤しているんだと思うしね。
穂乃果「それに……千歌ちゃんにあそこまでされたら、私も折れるしかないな〜って」
千歌「あはは……まあ、その〜……真っすぐ気持ちぶつけられると……弱くて……」
彼方「……? あそこまでされたらって、どういうこと……?」
穂乃果ちゃんの発言に首を傾げる。
千歌ちゃんにとって、ルカリオでしずくちゃんの波導を管理するのは大変だからなのかな……? くらいに思ったけど、
千歌「んっとね、完全に離れた場所の人の波導を感知し続けるってなると、ルカリオはほぼバトルには使えないんだよね」
大変なんてもんじゃなかった。ルカリオといえば、千歌ちゃんにとって、一番信頼しているエースのはずなのに……。
彼方「じゃあ……千歌ちゃんはエースを手持ちから外してまで……。……まあ、確かにしずくちゃん……すごい頑張ってお願いしてたもんね〜……」
千歌「しずくちゃんだけじゃなくて……かすみちゃんもかな」
彼方「かすみちゃんも?」
千歌「ご飯食べながら今日のジム戦のこと、聞いてたけどさ……私、自分が旅してるときに花陽さんとのジム戦で結構ギリギリの勝利だったんだよね。でも、かすみちゃんはジムリーダー相手に危うげなく勝ってきて……ちゃんと強さを証明して見せた」
彼方「なるほど〜……」
千歌「何かを背負いながらの戦いって、焦っちゃったりして、自分の力が発揮しきれなかったりするけど……かすみちゃんはそんな中でも、ちゃんと結果を見せてくれた。やっぱり、その努力には報いてあげたいなって」
千歌ちゃんなりに彼女たちの努力に報いた結果が、ああいう形だったということらしい。
千歌「それに……私たちにも落ち度はあるし……」
穂乃果「……そうだね。こうならないために、普段から見回って、一般人が接触する前に撃退してきたわけだし……。今回みたいに巻き込んじゃったのは、私たちの落ち度だね……」
そこは彼方ちゃん含めて、反省しなくちゃいけないことかも……。
だからこそ、これが彼女なりの責任の取り方なのかもしれない。
- 581 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 20:38:28.56 ID:K66c2REr0
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穂乃果「……ごめんね、千歌ちゃんだけに責任取らせるみたいになっちゃって……」
千歌「あはは、ダイジョブですよ! その代わり、穂乃果さんにはルカリオの分まで頑張ってもらうつもりなんで!」
穂乃果「ふふ、そういうことなら任せて! ……ところで、空いた手持ちの分は、補充するの?」
千歌「えっと……今、善子ちゃんの研究所にルガルガンを預けてるんですけど、あの子を手持ちに戻そうかなって。……あ、でも健康診断もするから一度ローズに連れてくとか言ってたっけ……。すぐにってわけにはいかないかも……」
一応手持ちの補充の当てはあるみたい。確かネッコアラと入れ替えで外してた子だったかな?
ただ、来るまでは時間が掛かっちゃうみたいだから……その間は、彼方ちゃんも頑張ってフォローしないと……!
フォローをしっかりするためにも……彼方ちゃんもしっかり、睡眠を取って明日に備えなきゃ……!
彼方「じゃあ、私たちも明日に備えて、そろそろ寝ちゃおうか〜」
遥・千歌・穂乃果「「「は〜い」」」
ロッジの夜はこうして、更けていくのでした〜……。
………………
…………
……
🐏
- 582 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:45:28.09 ID:4KWPSfBf0
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■Chapter030 『オハラ研究所』 【SIDE Yu】
──ジム戦を終えて……。
今は船に揺られて移動の真っ最中。
侑「潮風が気持ちいい〜!」
「ブイ〜♪」
歩夢「ゆ、侑ちゃん……! そんなに身を乗り出したら危ないよ……!」
甲板の手すりから身を乗り出して風を感じていると、歩夢が甲板口の方から声を掛けてくる。
侑「平気平気〜! ほら、歩夢もおいでよ!」
歩夢「い、いいよ……船って思ったより揺れるし……」
侑「いいからいいから!」
半ば強引に歩夢の手を引く。
歩夢「きゃ……!」
「…シャボ」
歩夢「だ、大丈夫だよ、サスケ。ちょっとびっくりしただけだから……」
「シャーボ」
侑「ほら! 風……気持ちよくない?」
歩夢「……ほんとだ」
侑「ね!」
セキレイシティには海がないから、船に乗ることなんてまずないし、せっかく経験出来ることは進んでしなくちゃ損だからね!
歩夢は初めて乗る船が思った以上に揺れることにおっかなびっくりだったものの、連れ出してしまえば、気持ちよさそうに風を感じてくれていた。
二人で船旅を満喫していると、間もなく、目指していた島に到着しようとしていた。
侑「もう着いちゃうのかぁ……まだ、もう少し乗ってたかったなぁ」
歩夢「あはは……島自体は最初から見えてたもんね」
すぐそこに迫った目的地は、近くで見ると思ったよりも大きく存在感を放っている。
侑「ここが……アワシマ……! オハラ研究所のある場所……!」
「ブイ」
リナ『アワシマ……ちょっと懐かしい』 || > ◡ < ||
歩夢「リナちゃんは、あの島に行ったことがあるの?」
リナ『うん! 私のボディはあそこの研究所で作ってもらったんだよ!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「へー! そうだったんだ!」
歩夢「それじゃあ、リナちゃんにとっては里帰りなんだね」
リナ『そんな感じかも!』 ||,,> ◡ <,,||
リナちゃんを作った場所っていうのも気になるし……本当に楽しみになってきた……!
今の今まで、船での移動が終わるのを名残惜しんでいたのに、気付けば気持ちは研究所を見られることに移り変わっていた。
一体、どんな場所なんだろう……! オハラ研究所……!
- 583 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:46:05.45 ID:4KWPSfBf0
-
🎹 🎹 🎹
──島に降り立ち、船着き場から歩くこと数分。
侑「……わぁ……!」
研究所が見えてきて、思わず声をあげてしまう。
侑「見て、歩夢! 研究所だよ!」
歩夢「ふふ、そうだね♪」
侑「小さな島にぽつりと佇む施設……! THE研究所って感じがするよね……! はぁー……なんかときめいてきちゃった……!!」
「ブイ」
リナ『外観を見ただけでここまでテンション上がるの……ある意味すごいかも』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「侑ちゃん、ポケモンに関する施設は大好きだもんね」
侑「うん! その中でも、ポケモン研究所って言ったら、いろんなポケモントレーナーが最初のポケモンを貰う場所なわけだし……! それこそ、千歌さんはここで最初のポケモンを貰ったトレーナーだし、曜さんやルビィさん、ヨハネ博士もここから旅に出たんだよ! そう考えたらすごいよ……! 今のチャンピオンやジムリーダーたちの歴史が始まった場所なんて言われたら、そりゃテンション上がるに決まってるじゃん……!!」
リナ『侑さん、楽しそう』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「ふふ、そうだね。それじゃ、ここで話してても仕方ないし……早く入ろっか」
歩夢にそう促されたけど、
侑「ま、待って……! 一度、深呼吸させて……!」
いざ、そんな場に立ち入ろうと思ったら、急に緊張してきた……。
リナ『大袈裟すぎる……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「あはは……」
大きく息を吸って、吐いて……。
侑「よし……!」
歩夢「大丈夫?」
侑「うん! い、行こう……!」
リナ『侑さん、手と足が一緒に出てる……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「あはは……大丈夫かな……」
「ブイ…」
🎹 🎹 🎹
──研究所の中に入ると、
「ピカチュ?」「ハニ〜?」
可愛らしく小首を傾げる、ピカチュウとミツハニーに出迎えられた。
- 584 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:46:50.27 ID:4KWPSfBf0
-
歩夢「わ、可愛い♪ こんにちは♪」
「ピカピカ〜♪」「ハニ〜♪」
このピカチュウたちは、研究所内で放し飼いにされているようだ。
そして、そんなポケモンはピカチュウやミツハニーだけでなく……。
「カラ」「…ラル」
カラカラやラルトスのようなポケモンたちの姿も見える。
そんな放されているポケモンたちの中でも、一際私の目を引いたのは、
「ブイ」「ブイ〜?」「イブイッ!!」
侑「わ〜! イーブイがこんなにいっぱい……!」
「ブイ…!!」
イーブイたちの姿。
イーブイはあまり数の多くない珍しいポケモンだから、これだけ集まっているところを見たのは初めてかもしれない。
歩夢「侑ちゃんのイーブイも、同じイーブイがいっぱいいるから興味があるみたいだね」
侑「同じイーブイ同士、仲良くなれるんじゃないかな? どう?」
「ブイ…」
肩に乗っているイーブイに訊ねてみるけど、当のイーブイは興味こそあれど、あまり気が進まないというか……私の頭を盾にして隠れてしまった。
侑「うーん……やっぱ初対面相手だと“おくびょう”な子だったことを思い出すね……」
私たちには随分と慣れてきたから忘れていたけど、人見知り──いやこの場合、ポケ見知り……?──する子なんだった。
歩夢「ふふ、帰るまでに仲良くなれるといいね♪」
侑「そうだね」
「ブイ…」
じゃれているイーブイたちのさらに奥には、これまた珍しいポケモンがいた。
「ポリ」
侑「わ……! あれって、もしかしてポリゴン!?」
歩夢「確か……珍しいポケモンだよね?」
侑「うん! すっごく珍しいポケモンだよ! 私こんな近くで見るの初めてだよ……!」
リナ『ここでは、あのポリゴンが来客番をしてるんだよ。だから、もうすぐ迎えの人が来ると思う』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「そんなところまでポケモンがやってくれてるんだ!? さすが、ポケモン研究所……!」
ヨハネ博士の研究所でも思ったけど、研究所では珍しいポケモンをたくさん見ることが出来て本当に楽しい……!
次は何が見られるかなと、ワクワクしていると──奥の扉が開く。
使用人「──お待ちしておりました。侑さんと歩夢さんですね」
扉からは、恭しい言葉遣いと共にメイド服に身を包んだ人が姿を見せる。
- 585 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:47:34.74 ID:4KWPSfBf0
-
侑「今度はメイドさん!? 歩夢! 私本物のメイドさん初めて見たよ!?」
歩夢「う、うん……私もメイドさんを見たのは初めてだけど……これは研究所だからなのかな……?」
リナ『この研究所の職員は、みんな博士に仕えてるメイドさんなんだよ』 || > ◡ < ||
歩夢「それはそれですごいかも……」
使用人「奥で博士がお待ちです。ご案内します」
侑「はい! よろしくお願いします!」
背筋をピンと伸ばしたメイドさんに案内されて、私たちはついに、この研究所の博士のいるところまで案内してもらいます……!
リナ『そういえば、歩夢さん。なんだか、落ち着いてるけど……あんまりこういう場所好きじゃないの?』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「うぅん、そんなことはないよ? むしろ、いろんなポケモンが見られるのは楽しいかな。けど……」
リナ『けど?』 || ? ᇫ ? ||
侑「はぁ……ポケモン研究所……最高……♪」
歩夢「侑ちゃんがあれだけテンション高いと、逆に落ち着いちゃって……」
リナ『……なるほど』 ||;◐ ◡ ◐ ||
🎹 🎹 🎹
──メイドさんに連れられて、研究所内の奥の方までやってきた。
使用人「博士、失礼します。お二人とも、どうぞ中へ」
言われるがままに部屋の中に入ると──
鞠莉「あなたたちが侑と歩夢ね? ようこそ、オハラ研究所へ。私がここの所長の鞠莉よ。待っていたわ」
鞠莉博士に出迎えられる。
侑「……!! ほ、本物の鞠莉博士……!」
鞠莉「あら〜、わたしのこと知ってくれていたのね?」
侑「も、も、もちろんです……!! あ、あ、あの……!!」
鞠莉「ん〜?」
侑「さ、サイン……!! サイン貰ってもいいですか……!?」
バッとサイン色紙を差し出す。
鞠莉「あらあら♪ わたしのサインなんかでよかったら、いくらでも書いちゃうわよ〜♪」
鞠莉博士は、わたしのサイン色紙を受け取ると、慣れた手付きでサラサラとサインを書いていく。
鞠莉「はい、どうぞ♪」
侑「わぁ……! 鞠莉博士の直筆サイン……!! か、感激です……!!」
思わず感動してしまう。
今日はダイヤさんやルビィさんからもサインを貰っちゃったし……最高の日だ。
- 586 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:48:14.45 ID:4KWPSfBf0
-
リナ『侑さんって、そんなに博士が好きだったの? 知らなかった』 || ? ᇫ ? ||
歩夢「う、うん……私も……。侑ちゃんってトレーナーが好きなんだと思ってたけど……」
侑「何言ってるの二人とも!?」
歩夢「!? え、えーっと……」
思わず、歩夢たちに詰め寄ってしまう。
侑「鞠莉博士と言えば、9年前のポケモンリーグでトリプル、ローテーション、シューターの3部門で優勝してる超凄腕トレーナーでもあるんだよ!?」
歩夢「そ、そうなの……?」
リナ『うん。確かに鞠莉博士はポケモンリーグでも結果を残してる。最近の大会では、出場自体してないけど……』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんが補足するように解説してくれる。
さすがに10年近く前の大会のことだったから、歩夢は知らなかったみたいだけど……。
そんな中、鞠莉博士は私たちの会話内容よりも──
鞠莉「あら……? もしかして、あなた……リナ?」
リナちゃんに反応を示した。
リナ『うん! 博士、久しぶり!』 ||,,> ◡ <,,||
鞠莉「え、ええ、久しぶりなのはいいんだけど……。どうして、侑たちと一緒に……?」
リナ『……? 博士が侑さんに私を渡したんじゃないの?』 || ? ᇫ ? ||
侑「え……? 私はヨハネ博士からリナちゃんを渡されたんだけど……」
リナ『?? どういうこと??』 || ? ᇫ ? ||
侑「……?」
私もどういうことって感じだけど……?
鞠莉「……ははぁーん……そういうことね……。……あの堕天使……」
ただ、鞠莉さんは一人納得した様子。
鞠莉「リナ。侑とはうまくやれているかしら?」
リナ『うん! 侑さんとの旅はいろんな発見があって楽しい!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「私も、リナちゃんにはいっつも助けられてるよ!」
リナ『それなら嬉しい! リナちゃんボード「にっこりん♪」』 ||,,> ◡ <,,||
鞠莉「そっか。リナが順調に経験を積めているならいいの。侑、これからもリナのこと、よろしくね」
侑「は、はい!」
……なにか、ちょっとした手違いがあったのかな?
話が食い違っている部分があるけど……まあ、よろしくって言われたし、大丈夫ってことだよね?
- 587 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:48:52.44 ID:4KWPSfBf0
-
鞠莉「それよりも、あなたたち。ダイヤ、ルビィとマルチバトルして勝ったって聞いたわ!」
侑「は、はい! 先ほど、ジムで戦わせてもらって……」
歩夢「侑ちゃんと一緒だったから、勝てました……えへへ」
鞠莉「大したものだわ……特に歩夢。あなたのことは、ダイヤもすごく褒めていたわ」
歩夢「え? わ、私ですか……?」
鞠莉「ええ。ポケモンをよく見ていて、心から寄り添える素敵なトレーナーだって」
歩夢「そ、そうですか……///」
鞠莉さんから、ダイヤさんの称賛の言葉を貰って、歩夢が恥ずかしそうに頬を染める。
侑「ふふ、よかったね。歩夢」
歩夢「う、うん……///」
歩夢は褒められたことが純粋に嬉しいのか、顔を赤くしながらも笑っていた。
私も自慢の幼馴染が褒められて、なんだか嬉しい気持ちになってくる。
鞠莉「あと、侑のことも褒めていたわ」
侑「え? 私のことも……?」
鞠莉「あなたは歩夢とは逆に、トレーナーをよく見てるって」
侑「トレーナーのこと……?」
鞠莉「トレーナー個々の癖や戦術、やろうとしてることを見抜く力に長けているって評価していたわ。相手に対する下調べもしっかりしていて、なかなか出来ることじゃないって」
侑「そ、そんな……/// ただ、ダイヤさんやルビィさんの試合はたまたま見たことがあったってだけで……///」
歩夢「ふふっ、侑ちゃん顔赤いよ♪」
侑「あ、歩夢だって、さっき顔真っ赤だったじゃん……っ!///」
褒められ慣れてないというのもあるけど……まさか、現役の四天王にこうして褒められるなんて思ってもいなかったから、すごく顔が熱かった。
でも……嬉しいな。
こうして褒められると、俄然やる気が湧いてくる。
侑「……もっともっと、強くなろうね、歩夢……!」
歩夢「うん、そうだね……えへへ」
鞠莉「なんだか、初々しくて、昔のこと思い出しちゃうわね……」
リナ『昔のことって?』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「もちろん、チカッチたちを送り出したときのことよ。あの子たちは6人とも……最初のポケモンを渡すときから大変だったんだから」
侑「……! そ、その話もっと詳しく聞きたいです!」
チャンピオンの千歌さんと、その同期の人たちが最初の3匹を選ぶときの話なんて、めちゃくちゃ興味があるし、聞いてみたい……!
鞠莉「あらそう? それじゃあ、どこから話そうかしら……。そうね、それじゃ一番最初にポケモンを持って行っちゃった子のことから話そうかしら──」
侑「はい!」
私はわくわくしながら、鞠莉さんの思い出話に耳を傾ける──
- 588 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:49:36.97 ID:4KWPSfBf0
-
🎹 🎹 🎹
鞠莉「──……そして、ルビィはアチャモを、花丸はナエトルを連れていくことになったってわけね」
侑「……花丸さんも、ここの研究所で最初の3匹を選んだ1人だったんですね……」
鞠莉「あら、花丸のこと知ってるの?」
侑「はい! ダリアで……えーっと、たまたま会っただけなんですけど……」
途中まで言いかけて、ダリアのジムリーダーのことは、あまり詳しく言っちゃいけなかったことを思い出して、適当に言葉をぼかす。
鞠莉「あら、そうだったのね。ダリアで大学に入ったあと、そのまま向こうの研究室に入ったみたいなのよね。連絡はちょくちょくくれるんだけど……今は何をやってるのかしらねぇ」
どうやら、鞠莉さんは花丸さんがジムリーダーをしていることを知らなさそうだ。セーフ、言わなくてよかった……。
それにしても、千歌さんたちの旅立ちの話は、興味深い話だった。
千歌さん、曜さん、ヨハネ博士、ルビィさん、花丸さんと……今でも一線級で活躍している人ばっかりだし……。
あ、でも……梨子さんって人のことはあんまり知らないかも……。
歩夢「あ、あの……」
鞠莉「ん〜? なにかしら?」
歩夢「もしかして、梨子さんって……今カントーで活躍してる芸術家の梨子さんですか……?」
鞠莉「Oh! That's right! その通りよ!」
侑「歩夢、知ってるの……?」
歩夢「うん! 梨子さんは絵を描いたり、作曲も手掛けてて……『星』って作品群がすっごく有名なの。ある地方を旅したときに見た輝きを表現したってインタビューで言ってたんだけど……それって」
鞠莉「……ふふ、そうね。きっとこの地方での旅のことよ」
歩夢「やっぱり……!」
歩夢は目をキラキラさせながら言う。
芸術家か……そこまで把握しきれてなかった……。
侑「私も見てみたい……」
歩夢「ふふ、今度家に帰ったら、梨子さんの出した本とCDがあるから、一緒に鑑賞しよっか♪」
侑「うん!」
鞠莉「あと梨子は、バトルも優秀な子だったわよ。ジムバッジも8つ全て集めていたし、千歌のライバルだったからね〜」
侑「そうなんですか!? ど、どんなトレーナーだったんですか……!?」
鞠莉「そうねぇ……最初はさっき言ったとおり、ちょっと困った子だったんだけど──」
鞠莉さんが梨子さんの話をし始めた、そのとき、
「──鞠莉〜? いる〜?」
鞠莉さんの研究室に知らない人が入ってきた。
深い海のような髪をポニーテールに縛っているお姉さん。
果南「あ、ごめん……来客中だったんだ」
鞠莉「あら、果南……っと……もうこんな時間だったのね。思ったより話し込んじゃったわね」
どうやらこの人は果南さんと言うらしい。
- 589 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:50:29.40 ID:4KWPSfBf0
-
果南「今タイミング悪いなら、後にするけど……ん?」
鞠莉さんとやり取りをしていた果南さんの視線は──ふよふよと浮かぶリナちゃんに留まる。
果南「あれ!? もしかして、リナちゃん!?」
リナ『うん! 果南さん、久しぶり!』 ||,,> ◡ <,,||
果南「どうしてリナちゃんがここに……!?」
鞠莉「いろいろあってね。今はそこにいる侑がリナと一緒に旅してるのよ」
侑「わ、私が侑です」
鞠莉さんから紹介を受けて、頭を下げて挨拶する。
果南「私は果南、よろしくね。そっちの子は?」
歩夢「私は歩夢って言います」
果南「歩夢ちゃんだね。よろしく」
鞠莉「この子たちは、善子のところから最初のポケモンと図鑑を貰って旅に出た子たちなのよ」
果南「へー。ってことは、かすみちゃんやしずくちゃんと一緒に旅に出た子たちってこと?」
鞠莉「そうなるわね」
そういえば、かすみちゃんたちもこの島に来たって話を、ホシゾラで聞いたっけ。
歩夢「あ、あの……果南さんは、鞠莉さんに何か用事があったんじゃ……」
果南「……っと、そうだった。……ただの定例報告みたいなもんなんだから、後でもいいんだけど……」
歩夢「い、いえ……! お仕事の邪魔をするわけにはいかないので……! ね、侑ちゃん」
侑「う、うん」
正直もっと鞠莉さんの話は聞きたいけど……確かに仕事の邪魔をするのは忍びない。
歩夢に手を引かれて、部屋を後にしようとするけど……名残惜しいというのが顔に書かれていたのか、
鞠莉「うーん、それじゃあ……侑たちがイヤじゃなかったら、今日はここに泊まっていったらどうかしら?」
と、鞠莉さんが提案してくれる。
侑「い、いいんですか!?」
鞠莉「ええ。だから、仕事が片付いたら、またお話ししましょ?」
侑「は、はい! 是非!」
鞠莉「それまでは、研究所の中を好きに見て回っていていいから。何かあったら、そこらへんにいる所員に聞いてくれれば対応するわ」
歩夢「ありがとうございます。侑ちゃん、リナちゃん、行こっか」
侑「うん」
リナ『お仕事頑張ってね。リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 || > ◡ < ||
歩夢とリナちゃんと一緒に、私たちは一旦、博士の研究室を後にした。
- 590 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:51:24.59 ID:4KWPSfBf0
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🎹 🎹 🎹
──あの後、研究所内をくまなく見て回って……鞠莉博士の仕事が片付いたあと、ここから旅立って行ったトレーナーたちの話をたっぷり聞かせてもらった。
ついでに夕食も頂き──メイドさんが作ってくれた絶品料理に舌鼓を打った──その後、お湯を頂き、今は所内にある客用寝室のベッドの上に寝転んでいる。
侑「いたれりつくせりだぁ……幸せぇ……♪」
「ブイ〜…」
歩夢「ご飯、すっごくおいしかったね。ホテルのご飯みたいで、ポケモンたちも大喜びだったし」
「シャーボ♪」
侑「大浴場まであるなんて、本当にホテルだよぉ……」
歩夢「侑ちゃん、風邪引いちゃうから、先に髪乾かさないとダメだよ? イーブイはこっちおいで♪ 毛繕いしようねー♪」
「ブイ♪」
侑「えー……イーブイばっかりずるいー……私にもブラッシングしてー……」
歩夢「ダーメ、ポケモンたちが先だよ」
侑「うー……わかったよー……」
私はもそもそと立ち上がって、ドライヤーをバッグから取り出して、髪を乾かし始める。
リナ『侑さんが見たことないくらい、だらけきってる……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「あまりに尽くされすぎて……ずっとここにいると、ダメ人間になりそう……」
歩夢「もう……侑ちゃんったら……。でも、本当にすごいね、この研究所……。所員……というかメイドさんもすごい数いるし、ご飯もお風呂も本当にホテルみたい……」
リナ『みたいというか、もともとホテルなんだよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「そうなの?」
リナ『博士のお祖父さんが経営してたホテルなんだけど、お父さんに代替わりしたときに研究所に改装したんだって』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「どうりで……あの大浴場ホントにすごかったもんなぁ」
歩夢「ホテルは辞めちゃったの?」
リナ『うぅん。海外とかでは今でもグループ展開で経営してるみたいだよ。鞠莉さんが博士になったときにお父さんとお母さんはそっちに集中するために、研究職は辞めたらしいけど』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「じゃあ、あのメイドさんって……元従業員?」
リナ『従業員というよりは、鞠莉さんの使用人かな。信頼出来るメイドさんを残して研究所で働いてもらってるみたい』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「へー……じゃあ、本物のメイドさんなんだね」
歩夢「本物のメイドさんにお世話される生活って、なんか想像出来ないかも……」
侑「確かに……今日の今日まで本物のメイドさんなんて見たことなかったし……」
庶民の私たちとは住む世界が根本的に違うのかも……。
「イッブィ…♪」
歩夢「……んー? ここ気持ちいいんだねー?」
そんな会話をしながらも、せっせとイーブイの毛繕いをしてあげている歩夢。
この甲斐甲斐しさなら、メイドとしてもやっていけるんじゃないかな……? なんて思ってしまう。
歩夢「? どうしたの? じーっとこっち見て……?」
侑「いや、イーブイ気持ちよさそうだなって」
歩夢「ふふ、イーブイ毛繕い好きだもんね〜?」
「ブイ♪」
歩夢「たまには侑ちゃんもしてみる?」
- 591 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:52:28.89 ID:4KWPSfBf0
-
そう言いながら、歩夢がイーブイを抱きかかえて私のもとに運ぼうとすると、
「ブイィ…」
イーブイはイヤイヤと首を振る。
歩夢「あ、あれ……?」
侑「歩夢の毛繕いがいいんだってー……」
全く、本当にどっちが“おや”なんだか……。
歩夢「じゃあ、もう少し……」
再び歩夢がブラシを握ると、
「タマァ…」
歩夢「きゃ!? ど、どうしたの、タマザラシ?」
タマザラシが歩夢の腰辺りに身を摺り寄せていた。
侑「タマザラシも毛繕いしてほしいんじゃない?」
歩夢「えっと……今はイーブイにしてあげてるから」
「タマァ…」
歩夢「ど、どうしよう……侑ちゃん……」
歩夢、相変わらずポケモンに大人気……。
侑「ほら、イーブイ。こっちおいで。もう十分してもらったでしょ?」
「ブイ…」
侑「タマザラシと交替。歩夢のこと困らせたくないでしょ?」
「…ブイ」
説得すると、イーブイは歩夢の膝から降り、私の隣まで来て腰を下ろす。
よしよし、こういうときにわがまま言わずに言うこと聞くなら、まだ“おや”としての威厳が保てている。……はず。
歩夢「それじゃ、タマザラシ、おいでー」
「タマァ♪」
侑「タマザラシ、随分甘えん坊なんだね」
歩夢「群れからはぐれちゃった子だからってのはあるのかも……ラビフットやマホイップに比べると……」
確かにラビフットやマホイップはワシボンと一緒に遊んでいるし、あそこまで歩夢に甘えるって感じではないかもしれない。
ちなみに、ライボルトとサスケはすでに寝ている──ライボルトに関しては目を瞑っているだけかもしれないけど。
あともう1匹──ニャスパーは、
「ニャァ…」
リナ『ずっと視線を感じてる』 || ╹ _ ╹ ||
侑「やっぱり、リナちゃんが気になるみたいだね、ニャスパー」
何故か、リナちゃんを目で追いかけていることが多い。
- 592 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:53:01.95 ID:4KWPSfBf0
-
歩夢「やっぱり、動くものが気になるのかな……?」
リナ『確かにネコポケモンは動く物体を追いかける習性がある。ここまで興味を持ち続けるのは珍しい気がするけど』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「ふーん……。……ねぇ、ニャスパー」
「ニャァ?」
侑「もしかして、リナちゃんのこと好きなの?」
リナ『私、好かれてる? リナちゃんボード「テレテレ」』 ||,,╹ᨓ╹,,||
「ニャァ」
侑「……ダメだ、全然わからない」
鳴いて相槌こそ打つものの、無表情すぎる。
侑「この子の“おや”だったら、わかるのかなぁ……?」
歩夢「早く、見つかるといいんだけどね……」
侑「そうだねぇ……」
まあ、今のところ手掛かりもない状態だからなぁ……。
すっかり髪も乾かし終わり、再びベッドに身を投げ出すと──
侑「……ふぁぁ」
あくびが出る。
侑「眠くなってきた……」
歩夢「ふふ。今日は朝からジム戦もしたから、そろそろ休もうか」
侑「そうだね……」
もぞもぞと動きなら、布団を被ると──
「…ブイ」
イーブイが私のベッドを抜け出して、歩夢のいるベッドにぴょんと飛び移る。
歩夢「イーブイ、私と一緒に寝る?」
「ブイ♪」
「タマァ…」
歩夢「タマザラシも一緒に寝ようね〜」
「タマァ…♪」
侑「……」
リナ『侑さん、ドンマイ』 ||;◐ ◡ ◐ ||
全く……ホントに誰が“おや”なんだか……。
イーブイの歩夢ラブなところに内心呆れながらも、私は目を瞑る。
歩夢の言ったとおり、今日は朝からジム戦もあったし、疲れからか睡魔はすぐに訪れた。
おやすみなさい……また、明日も頑張ろう……。
- 593 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:53:33.78 ID:4KWPSfBf0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【オハラ研究所】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ ●‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.35 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.30 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:99匹 捕まえた数:4匹
主人公 歩夢
手持ち ラビフット♂ Lv.32 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.26 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.26 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.20 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
バッジ 1個 図鑑 見つけた数:126匹 捕まえた数:14匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 594 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 20:22:35.94 ID:4KWPSfBf0
-
■Intermission✨
──時刻は深夜を回り……みんなが寝静まった時間。
果南「……」
鞠莉「……さて、そろそろかしら」
果南と一緒に研究室で待ち続けていると──扉が開く。
鞠莉「ご苦労様、ポリゴン」
「ポリ」
ポリゴンZは私からのお礼を受けると、恭しく頭を下げた後、持ち場へと戻っていく。
果南「……ホントにポリゴンZとは思えない律義さだ……」
鞠莉「まあ、ポリゴンZというか、ポリゴンZじゃないというか……」
まあ、それはいい……。目的はポリゴンZの観察じゃなくて──
リナ『博士、話ってなぁに?』 || ╹ᇫ╹ ||
そのポリゴンZが連れて来てくれた、リナと話すことだ。
リナ『部屋にいたら、急にポリゴンから通信が入ってびっくりした』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「とりあえず、こっちにいらっしゃい」
リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||
ふよふよと浮かぶリナを室内に迎える。
鞠莉「こうして3人で話すのも久しぶりかしらね……」
果南「もう……1年振りくらいかな?」
リナ『図鑑ボディに入ってから果南さんとは話してないし……それくらいになるかも』 || ╹ _ ╹ ||
鞠莉「組み込むのに結構手間取ったものねー……」
リナ『でもお陰で今はこんなに自由に喋れるし、動き回れる。ありがとう、博士』 ||,,> 𝅎 <,,||
鞠莉「どういたしまして。……それで、本題なんだけど……何か、変化はあった?」
リナ『……全然』 || ╹ _ ╹ ||
鞠莉「……まあ、そうよね」
リナ『どうすれば、他の部分にアクセス出来るかの見当もついてない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
鞠莉「何か外部刺激を受ければ変化があるかと思ったけど……やっぱり領域が連結されてないと、うまく読み込めないと考えるべきなのかしらね……」
まあ……ここまでは予想の範疇だ。……となると、打開策は──視線は果南へと移る。
果南「期待の視線を向けられてる中、申し訳ないけど、こっちも難航中だよ」
鞠莉「そうよね……わたしの方も全然手掛かりなし……」
果南「……そういえば……クロサワの入り江の裂け目って今どうなってるの? 何かの間違えで復活してたりとかしない?」
鞠莉「ずっと豆粒みたいなサイズだったけど、この間完全に閉じちゃったわ……何か変化があったら教えて欲しいとはルビィに言ってあるんだけど……」
- 595 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 20:23:32.63 ID:4KWPSfBf0
-
わたしも果南もリナも……それぞれの進捗は芳しくないと言ったところのようだ……。
とはいえ、
鞠莉「手掛かりなしのまま足踏みしてるわけにもいかない……とは思ってる」
果南「……まあ、やっぱり気になるしね」
鞠莉「大した理由がないならそれでもいいけど……わたしにはどうしても、もっと何か大切な意味があるって気がするから……」
あの日、リナと出会ったときのことを思い出す。
最初はたった9文字の信号でしかなかった──『・・・−−−・・・』。
あくまで直感でしかないと言われれば、それまでかもしれない。でも……それでも……わたしはこの信号にただならぬ何かを感じた。
少なくとも──意思を持った存在から送られた信号であったことには間違いなかったからだ。
リナ『そういえば、博士』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「なにかしら?」
リナ『私……侑さんと旅する予定じゃなかったの?』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「ああ、そのこと……。……ええ、本来は千歌か善子と一緒に行動してもらうつもりだったわ。何かの手違いというか……善子が一度もあなたを起動もせずに、侑に渡しちゃったのは予想外だったけど」
リナ『そうなんだ……今からでも、千歌さんか善子さんの場所に行った方がいい……?』 || 𝅝• _ • ||
鞠莉「……いいえ、侑の傍にいてくれればいいわ。リナも侑のこと、気に入ってるんでしょう?」
リナ『うん……! 侑さん優しいし、一緒にいるといろんな経験が出来て楽しい……!』 ||,,> ◡ <,,||
鞠莉「なら、それでいい。侑のこと、サポートしてあげて」
リナ『わかった!』 ||,,> ◡ <,,||
……それに、今は何やらキナ臭いことが起こっているという噂も耳にしている。
実力者への襲撃……。リナの存在が……もし、この襲撃に関与しているのだとしたら、千歌や善子みたいな、名前が知れ渡っている人間の傍に置いておくよりも、侑の傍の方が安全かもしれないし……。
鞠莉「……何より、リナが居たい場所に居られる方がいいものね」
果南「……ふふ。……かもね」
私が漏らした小さな呟きに果南が小さく笑うのだった──
………………
…………
……
✨
- 596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/11/27(日) 21:14:19.75 ID:EePErrFco
- 『ポケモンSV大戦会 vs視聴者』
(22:00〜開始)
https://youtube.com/watch?v=Q1b22FkS5P0
- 597 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:12:58.32 ID:9EuEq8f90
-
■Chapter031 『悠揚の町・ウラノホシタウン』 【SIDE Yu】
侑・歩夢「「──お世話になりました」」
──翌日、私たちは鞠莉博士に見送られる形で、オハラ研究所を後にするところだった。
侑「興味深いお話、たくさん聞かせてくれてありがとうございます!」
鞠莉「また、いつでも遊びに来て頂戴ね」
歩夢「はい!」
鞠莉「それと侑。リナのこと、よろしくね」
侑「はい!」
リナ『博士、行ってきます!』 ||,,> ◡ <,,||
鞠莉「侑、歩夢、リナ──Good luck! 良い旅を」
博士が手を振りながら、私たちを送り出してくれる。
侑「それじゃ、行こうか……!」
「ブイ」
歩夢「うん」
リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> ◡ <,,||
🎹 🎹 🎹
──アワシマから船に揺られること、数十分。
侑「やっぱいいなぁ、船旅……! 気に入っちゃったよ♪」
「ブイ」
苦手な人は苦手らしいけど、風が気持ちいいし、この独特の揺れも非日常感がして、私は嫌いじゃない。
歩夢「ふふ、今回は乗船時間が長くてよかったね、侑ちゃん」
侑「うん!」
ご機嫌な船旅で私たちが目指す先は──ウラノホシタウンだ。
本数は少ないものの、アワシマからウラノホシの南端の港を行き来する船があって、今はそれでウラノホシタウンへと移動中ということだ。
船着き場からすでに島が見えているウチウラシティとは違って、ウラノホシタウンの港は岬を迂回するため、少し時間が掛かる。
私としては、お陰で船旅が満喫出来て嬉しい。
歩夢「あ、見て侑ちゃん! あそこ……入江の洞窟になってるよ!」
侑「え、ホント?」
今まさに、迂回しようとしている岬の下には──歩夢の言うとおり、洞窟の口がぽっかりと口を開けていた。
侑「うわぁ〜! すっごい! こんなの写真でしか見たことなかったよ!」
歩夢「うん!」
- 598 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:13:47.75 ID:9EuEq8f90
-
実際に目の当たりにすると、小舟くらいだったら飲み込んでしまいそうな大きさの洞窟が海にせり出してきている様子は圧巻だった。
そんな自然の作り出す光景を目の当たりにして、歩夢と二人で興奮してしまう。
リナ『あそこはクロサワの入江だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「クロサワ? ってことは……」
リナ『うん、ルビィさんやダイヤさんの一族が管理してる場所なんだよ。入江の洞窟内は、メレシーってポケモンがキラキラ輝いてて、オトノキ地方に3つある、夜の虹の1つって言われてる』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「あ、オトノキの3つの夜の虹って、聞いたことあるよ! 大樹・音ノ木、クロサワの入江、クリスタルケイヴのことだよね」
リナ『歩夢さん、大正解! リナちゃんボード「ぴんぽーん!」』 ||,,> ◡ <,,||
侑「夜の虹……! なんかもう響きだけで、ときめいてきちゃう! 私、見に行きたい!」
リナ『残念だけど、今は一般開放はされてない……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「え、そうなの……?」
歩夢「3年前のグレイブ団事変のときに、戦いの場になったらしくって……それ以来は、調査以外では立ち入り出来ないんだったよね」
リナ『うん。洞窟内部もかなり崩れちゃったところもあるらしいし……関係者じゃないと中に入るのは難しい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「そっかぁ……」
せっかく名所の近くに来たのに、見られないのは残念……。でもまあ、入れないなら仕方ないか……。
侑「じゃあせめて、ウラノホシタウンは満喫するぞー!」
リナ『ウラノホシは温泉旅館が有名だから、のんびり過ごせると思うよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「ウラノホシの旅館はご飯もおいしいって話だよ」
侑「おいしいご飯……今から楽しみ……!」
なんだかここ数日、おいしいものを食べてばっかりな気はするけど……でも、各地のおいしいご飯も旅の醍醐味だよね……!
歩夢「ポケモン用のご飯を作ってくれる場所も多いみたいだから、着いたらみんなで食べようね♪」
「シャボ♪」「ブイブイ♪」
ポケモンたちもご機嫌な様子。
私たちはわくわくしながら──船は間もなく、ウラノホシの南の港へと到着します……!
🎀 🎀 🎀
──港で船から降り、船着き場を抜けると……すぐに緑の溢れる景色が見えてきた。
歩夢「自然豊かな町なんだよね、ウラノホシは」
リナ『うん。木々と海に囲まれた町で、すごく穏やかなところだと思う。悠揚の町なんて呼ばれ方をすることもあるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「悠揚の町……本当にゆっくり過ごせそうだね」
リナ『そうだね。温泉旅館も多いから、ここに来る人の大半はのんびりとした休暇を取りに訪れることが多いみたい』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「最近、バトルも多かったから……ポケモンたちと一緒に今日くらいはゆっくりしたいなぁ。侑ちゃんはどうする?」
侑「……」
歩夢「……侑ちゃん?」
侑ちゃんの方を見ると──何故か、侑ちゃんがぷるぷると震えている。
- 599 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:14:53.31 ID:9EuEq8f90
-
侑「……こ」
歩夢「……こ?」
侑「……ここが……チャンピオンの生まれ育った町なんだぁ……!」
侑ちゃんはぱぁーっと目を輝かせて、周囲をキョロキョロし始める。
歩夢「侑ちゃん……。千歌さんのこともいいけど、少しは町の雰囲気を楽しもうよー……」
リナ『侑さんはいつもどおりだね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「いや、楽しんでるよ! この自然溢れる町で、千歌さんは日々鍛錬に励んでたんだって思うだけで、あちこちが輝いて見えるよ……! この海で遠泳とか砂浜ダッシュとかしてたのかな……!」
歩夢「いや……鍛錬は旅しながらしてたんじゃ……」
リナ『侑さん、楽しそう』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑ちゃんったら相変わらず、好きなもののことになると、周りが見えなくなる子なんだから……。
少し呆れ気味に──でも、そんなところも可愛いなと思いながら、侑ちゃんのことを眺めていた、そのとき、
「──……侑さ〜ん! ……歩夢さ〜ん! ……リナさ〜ん!」
近くの砂浜の方から、私たちを呼ぶ声が聞こえてきた。
リナ『呼ばれてる?』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「あれ、この声……」
侑「もしかして……!」
「ブイ」
声のする方に目を向けると──黒髪のストレートロングを右側で一房括った髪型の少女が、ウインディと並走しながら、こちらに向かってくる。
あの子は……。
侑「せつ菜ちゃん!?」
せつ菜「……はい! こんなところでお会い出来るなんて……!」
歩夢「カーテンクリフ以来だね……! せつ菜ちゃん!」
せつ菜「そうですね! 砂浜ダッシュをしていたら、遠くに侑さんたちが見えて……! またお会いできて嬉しいです!」
リナ『せつ菜さんはなんで、ここで砂浜ダッシュしてたの?』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「それはもちろん、ここはチャンピオンである千歌さんの出生の地……! きっと、彼女もこの大自然の中で、日々鍛錬を積んでいたに違いありませんから! 私もそれに倣って、ポケモンたちと鍛錬をしているところだったんです!」
侑「……! せつ菜ちゃんもそう思う!? やっぱり、そうだよね!」
せつ菜「はい……!! こうして、ここで修行すれば、千歌さんの強さの秘訣がわかるかもしれませんし!」
侑「うんうん!」
歩夢「いや、だから……それはたぶん、旅の道中で……」
リナ『歩夢さん、ファイト』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑ちゃんと同じようなことを考えている人がまた一人……あれ、私がおかしいのかな……?
せつ菜「それはそうと、侑さん、歩夢さん、旅の方は順調ですか?」
侑「あ、うん! せつ菜ちゃんと別れた後いろいろあったけど……」
歩夢「ダリア、コメコ、ホシゾラ、ウチウラと進んできて、さっきアワシマから船でここに到着したところなんだよ」
せつ菜「そうだったんですね!」
侑「ジムバッジもほら……!」
- 600 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:15:35.78 ID:9EuEq8f90
-
侑ちゃんがせつ菜ちゃんにバッジケースを開いて見せる。
せつ菜「おぉ! もうバッジが3つも……! つい数日前に旅に出たばかりだというのに……これは、私たちもウカウカしていられませんね!」
「ワォン」
せつ菜「侑さんが頑張っているのを聞いたら、なんだか燃えてきました……! ウインディ! もう一本、砂浜ダッシュ行きますよ!」
「ワォン!!」
侑「あ、なら私も一緒にやってもいい!?」
せつ菜「是非是非!! 侑さんもポケモンたちと一緒に汗を流しましょう!」
歩夢「ストップ! ストーーップ!!」
今にも走り出そうとする侑ちゃんたちを制止する。
歩夢「さ、先に今日泊まる場所見つけよ? ね?」
リナ『確かに宿を確保してからの方がいいと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……それはそうかも」
どうにか納得してもらえてホッとする。
今のこの二人の熱量だと、それこそウラノホシで過ごす時間のほとんどがトレーニングになっちゃいそうだし……。
せつ菜「確かに……まだ宿をお決めになっていないなら、そっちを優先した方がいいですね……」
侑「あ……! せっかく宿を探すなら、せつ菜ちゃんも一緒に泊まらない!? いいよね、歩夢?」
歩夢「うん、私は構わないけど」
せつ菜「ホントですか!? 是非……! ……と、言いたいところなんですが……実は明日の朝までには、一度ローズの方に帰らなくてはいけなくて……」
リナ『そうなの?』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「はい……皆さんとご一緒したいのはやまやまなんですが……外せない用事があるので」
侑「そうなんだ……残念……」
せつ菜「ただ、夜までは滞在しているつもりなので……! それまで、ご一緒させてもらってもいいでしょうか?」
侑「それはもちろん! ね、歩夢?」
歩夢「うん♪」
それには異論はないかな。私もせっかく会えたんだから、せつ菜ちゃんとお話ししたい気持ちもあるし。
せつ菜「それでは、まずは侑さんたちの宿を見つけるところからですね……! あ、そうだ!」
せつ菜ちゃんが何かを思いついたかのように、ポンと両手を叩く。
せつ菜「もしよかったら、千歌さんのご実家の旅館にご案内しますよ!」
侑「え!? 千歌さんの実家……!?」
せつ菜「はい! 千歌さんのお家は温泉旅館を営んでいるんですよ!」
侑「そうなの……!?」
せつ菜「ただ、素敵な旅館はたくさんあるので、それ以外の場所を探すのもありだと思いますが──」
侑「うぅん! そこ! 絶対そこに泊まりたい! いいよね、歩夢!?」
歩夢「ふふ、いいよ♪ じゃあ、せつ菜ちゃん、そこに案内してもらってもいい?」
せつ菜「はい、お任せください! こちらです!」
私たちは、せつ菜ちゃんに案内される形で、千歌さんのご実家の旅館目指して歩き始めた。
- 601 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:16:22.81 ID:9EuEq8f90
-
🎹 🎹 🎹
侑「──ここが千歌さんの育った家なんだぁ……」
「ブイ」
訪れた旅館は、木造の大きな旅館だった。
せつ菜「チャンピオンのご実家というだけあって、ウラノホシの旅館の中でも人気なんですよ」
リナ『なら、なくなる前に部屋を確保しないとだね』 || ╹ ◡ ╹ ||
せつ菜「ですね。侑さん、歩夢さん、中に入りましょう」
歩夢「はーい」
侑「う、うん」
ちょっと緊張する。
引き戸を開けて、中に入ると──外観からも見てわかるとおり、和風の造りになっている館内。そして、そんな館内の受付に立っている妙齢の女性が一人。
女性「あら……? せつ菜ちゃん! いらっしゃい♪」
せつ菜「こんにちは、志満さん!」
どうやら、この人は志満さんというらしい。
志満「また泊まりに来てくれたの?」
せつ菜「いえ……私は日帰りなので……。ただ、友達が是非ここに泊まりたいとのことなので、案内していたんです」
志満「あら、そうだったのね。ありがとう、せつ菜ちゃん」
志満さんはせつ菜ちゃんにふわりと笑いかけたあと、
志満「ようこそ、お越しくださいました。旅館トチマンへようこそ」
綺麗なお辞儀と共に私たちを迎えてくれる。
志満「一部屋でよろしいですか?」
侑「は、はい! よろしくお願いします!」
歩夢「お世話になります」
志満「かしこまりました、少々お待ちくださいね」
志満さんは、そう言うと手続きを始める。よかった……部屋、まだ残っていたみたいだ。
そんな中、せつ菜ちゃんが、
せつ菜「こちらの志満さん、千歌さんのお姉さんなんですよ」
と、耳打ちしてくる。
侑「ええっ!? ち、千歌さんの……!?」
志満「あら……? もしかして、千歌ちゃんのファンの子かしら?」
侑「は、ははは、はい!!」
志満「妹のこと、応援してくれて嬉しいわ♪ 千歌ちゃんがいたら、お部屋への案内とかを任せたんだけど……最近、あんまり帰ってこなくて……ごめんなさいね」
侑「い、いえっ!? お構いなくっ!?」
- 602 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:17:19.80 ID:9EuEq8f90
-
千歌さんに、案内なんてしてもらったら、申し訳なくて逆にいたたまれなくなっちゃうよ……!?
志満「それでは、こちらに宿泊者のお名前と連絡先をいただけますか?」
侑「は、はーい」
渡された用紙に、必要事項を書いて渡す。
志満「タカサキ・侑ちゃんとウエハラ・歩夢ちゃんね。一緒に泊まるポケモンは4匹ずつの計8匹で大丈夫?」
侑「は、はい!」
志満「かしこまりました。それではお部屋にご案内しますね」
歩夢「はい、お願いします」
侑「よ、よろしくお願いします!」
志満「ふふ、侑ちゃん。あんまり緊張しなくていいのよ。千歌ちゃんはチャンピオンだけど、ここは普通の旅館だから」
私があまりに緊張しているように見えたのか、志満さんがクスリと笑う。
侑「は、はい……」
歩夢「ふふっ♪」
ついでに歩夢にも笑われてしまった。……だってあの千歌さんのお家なんだし……緊張くらいするよ……。
せつ菜「それでは、私は待合ロビーで待っていますので」
侑「あ、うん! 荷物置いたらすぐ戻ってくるね!」
歩夢「ちょっと待っててね、せつ菜ちゃん」
私たちは、志満さんに部屋まで案内してもらう。
その際、
歩夢「侑ちゃん、そういえばさ……」
歩夢が耳打ちをしてくる。
侑「も、もう緊張してないけど……?」
歩夢「えっと……そうじゃなくてね。千歌さんのこと」
侑「千歌さんのこと?」
歩夢「うん。せつ菜ちゃん、千歌さんのこと探してるみたいだけど……千歌さんのいる場所ってコメコの森だよね?」
侑「ああ……」
確かに、しばらくあそこに滞在しているみたいだし、コメコの森のロッジに行けば会える可能性はかなり高い。けど……。
侑「千歌さん、かなり忙しそうだったし……なんか、あんまり大っぴらにあそこにいるよって言わない方がいい感じだったよね……」
詳細はわからないけど……なんか、言えないことが多い仕事をしているっぽかったし……。
歩夢「……だよね。侑ちゃんならそう言うと思った。じゃあ、せつ菜ちゃんに悪いけど……千歌さんのことは内緒にしようね。リナちゃんも」
リナ『了解』 || ╹ ◡ ╹ ||
- 603 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:18:10.82 ID:9EuEq8f90
-
なるほど、これの確認がしておきたかったってことね。
まあ、確かにある程度示し合わせておかないと、誰かがぽろっと言っちゃうかもしれないしね。
内緒話をしていると、志満さんがとある部屋の前で足を止める。
どうやら、話している間に部屋に着いたようだった。
志満「こちらがお二人のお部屋です。ごゆっくりお過ごしください」
侑「はい、ありがとうございます」
歩夢「お世話になります」
案内してくれた志満さんにお礼を言うと、志満さんは柔らかく笑ってから、「くつろいでいってね」と言葉を残して、フロントの方へと戻っていった。
侑「それじゃ、私たちも早く荷物置いて、戻ろっか」
歩夢「うん、そうだね」
せつ菜ちゃんをいつまでも待たせちゃいけないからね!
🎹 🎹 🎹
侑「──じゃあ、せつ菜ちゃんはよくこの町に来るんだ」
せつ菜「はい! 今回でもう何度目かわからないくらいですね!」
せつ菜ちゃん曰く、この町には頻繁に足を運んでいるようだった。
そんな私たちの会話が聞こえたのか、受付カウンターにいる志満さんから「いつもご贔屓にしてくれてありがとうね♪」との声が。
志満さんが千歌さんのお姉さんだと言うのはさっき聞かされたことだけど、千歌さんにはもう一人お姉さんがいるらしく、名前は美渡さん。
千歌さんは三姉妹の末っ子らしく、次女が美渡さんで、長女が志満さんだそうだ。
侑「それにしても……千歌さんにお姉さんが二人もいたなんて……」
歩夢「ふふ♪ 侑ちゃんはトレーナーとしての部分以外には、なかなか興味が向かないところがあるからね」
侑「わ、笑うことないじゃん……」
確かに歩夢が言うとおり、千歌さんのバトルの腕にばかり目が行っていて、家族についてなんて全然考えたことなかったけど……。
せつ菜「確かにポケモントレーナーとしてだと、千歌さんは突出していますよね。ですが、志満さんもコーディネーターとしては有名な方らしいですよ!」
歩夢「コーディネーターって、ポケモンコンテストの?」
せつ菜「はい! なんでも、現コンテストクイーンのことりさんとはライバル関係だったとか」
侑「ことりさんと……!」
私たちにとって馴染み深い名前が出てきて反応してしまう。まさか、千歌さんのお姉さんがことりさんとライバルだったなんて……世間って思ったより狭いんだなぁ……。
侑「そういえば……せつ菜ちゃんがこの町によく来るのって……」
せつ菜「もちろん、千歌さんにお手合わせをお願いするためです! って、言っても……空振りになっちゃうことも多いんですけどね、あはは」
志満「──千歌ちゃん、本当にたまにしか帰ってこないんだもの……」
私たちが会話をしていると、いつの間にか志満さんがお茶を載せたお盆をこちらに運んで来てくれていた。
- 604 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:19:05.58 ID:9EuEq8f90
-
志満「よかったら、お茶菓子もどうぞ。ポケモンちゃんたちにも♪」
「ブイブイ♪」「シャーボ」
歩夢「あ、ありがとうございます」
侑「お、お気遣いなく〜……!」
志満「ふふ、お客様なんだから気遣いますよ」
……確かに。
せつ菜「私までいただいてしまっていいんですか……?」
志満「もちろん♪ お得意様ですから♪」
せつ菜「ありがとうございます。お言葉に甘えていただきますね」
志満「ええ。それじゃ、ごゆっくり」
志満さんはまた柔和な笑みを浮かべてから、パタパタと奥の方へと消えていく。
リナ『せつ菜さん、志満さんからすごく気に入られてるんだね!』 || > ◡ < ||
せつ菜「本当に何度も千歌さんを訪ねて来ていますからね。……本人に会えたのは数回ですが……」
リナ『千歌さんに会ってどうするの?』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「それはもちろん、バトルです! 千歌さんはお優しい方なので、チャンピオンでありながら、野良試合をほとんど断らないことでも有名なんですよ」
侑「そうなんだ……!」
じゃあ、私も千歌さんが帰ってくるのを待っていたら、バトルしてもらえたのかな? ……って、言っても今の私じゃ、全然歯が立たないだろうけど。
せつ菜「もちろん、公式戦ではないので、それで千歌さんに勝ってもチャンピオンの称号などは貰えませんが……。……と言っても、勝てたことはないんですけどね」
せつ菜ちゃんは自嘲気味に言う。
侑「で、でも……! せつ菜ちゃんは千歌さんに負けないくらい強いトレーナーだと私は思ってるよ……!」
せつ菜「ありがとうございます、侑さん。……ですが、千歌さんと実際に戦ってみるとわかるんです。私はまだまだだなと……。……もちろん、いつかは超えたいと思っていますが……!」
リナ『どうして、そこまで千歌さんに拘るの?』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「それはもちろん──チャンピオンを目指しているからです!」
リナちゃんの言葉に迷いなく答えるせつ菜ちゃん。
侑「かっこいい……!」
堂々と言い切るせつ菜ちゃんに思わずときめいてしまう。
うん、そうなんだよ……! 実力ももちろんだけど、この堂々とした言動、立ち振る舞いがせつ菜ちゃんの魅力なんだ……!
歩夢「それじゃ、こうして千歌さんを何度も訪ねてるのは……」
歩夢が、サスケとイーブイに貰ったお菓子を食べさせてあげながら、せつ菜ちゃんに訊ねると、
せつ菜「はい。少しでも……彼女の強さに迫るためです」
せつ菜ちゃんは力強く頷きながら、そう答える。
せつ菜「私は……強くならなきゃいけないんです。強くなって、証明したい」
侑「証明……?」
- 605 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:19:56.61 ID:9EuEq8f90
-
──証明。その言葉に首を傾げる。どういう意味だろうか。
せつ菜「あ、すみません。これだけ言われても、何を証明したいのか、よくわからないですよね。えっとですね……」
せつ菜ちゃんはそう言いながら、何故か浮遊するリナちゃんに視線を向ける。
リナ『?』 || ╹ _ ╹ ||
せつ菜「……歴代のチャンピオンと言われる人には共通点があるんです」
歩夢「共通点?」
せつ菜「はい。このオトノキ地方の歴代チャンピオンは──全員がポケモン図鑑の所有者なんです」
それは初耳だ。
侑「そうなの……?」
思わず、私もリナちゃんの方を見て確認してしまう。
すると、
リナ『確かに歴史上、この地方のチャンピオンは最初のパートナーポケモンとポケモン図鑑を貰って旅に出た人しかいないみたいだね』 || ╹ᇫ╹ ||
との回答が返ってくる。せつ菜ちゃんの言う共通点というのは、事実らしい。
せつ菜「もちろん、それをずるいとは思いませんし、ポケモン図鑑やパートナーポケモンの有無が、トレーナーの強さに直結するとも思いません。実際に図鑑とパートナーを貰って旅に出るトレーナーはそれ相応の才能を認められて選ばれるものですから」
リナ『図鑑を貰う人はそもそも強くなる素質を認められて選ばれることも少なくないからね。図鑑所有者がチャンピオンになるのは、ある意味道理なのかも』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
せつ菜「そうですね。……ですが、この地方にはたくさんのトレーナーがいます。その誰も彼もがポケモン図鑑と最初のパートナーを手にするチャンスがあるわけではありません」
せつ菜ちゃんは、一息吸ってから、
せつ菜「だから私は……そんなポケモン図鑑や最初のパートナーを持つ資格を得られなかった人間でも、最強の称号を手に入れられるんだと……証明したい」
そう言葉にする。はっきりと。
……ただ、その余韻のように、
せつ菜「──……そうじゃないと……私は……存在出来ないから……」
消え入るような声で、せつ菜ちゃんはそう漏らした。
侑「……え?」
せつ菜「……あ、す、すみません! 最後のは無しで……!」
侑「えっと……」
少し動揺してしまう。存在出来ないって……。
せつ菜「それくらい、私にとって強くなることは、重要だということですよ!」
リナ『それがせつ菜さんの、レゾンデートルなんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「レゾン……?」
歩夢「存在理由って意味だよ、侑ちゃん」
侑「なるほど」
- 606 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:20:29.98 ID:9EuEq8f90
-
それくらい、せつ菜ちゃんは強くなることにひたむきなんだ……。
そのひたむきさに胸を打たれたからか、
侑「きっと……なれるよ、チャンピオン……!」
私は自然とそう口にしていた。
せつ菜「侑さん……」
侑「わ、私が言っても……生意気に聞こえるかもしれないけど……」
せつ菜「いえ……嬉しいです! 応援してくれる侑さんのためにも、何が何でもチャンピオンにならなくてはなりませんね!」
せつ菜ちゃんはそう言いながら立ち上がって、
せつ菜「そうとなったら、もっと鍛えなくてはいけませんね……!! なんだか、やる気が湧いてきました……!!」
嬉しそうに笑う。
よかった。少しでもせつ菜ちゃんの背中を押せたんだったら、嬉しいな。
せつ菜「この気持ちがあるうちにもうひとっ走り……! と、行きたいところですが……」
せつ菜ちゃんが壁掛け時計の方に目を向ける。釣られて私も時間を確認すると──もう夕方と言っても差し支えない時刻になっていた。
せつ菜「名残惜しいですが……私はそろそろ、帰らないといけませんね……」
侑「もう、こんな時間……」
歩夢「ふふ、侑ちゃん、夢中でお話ししてたもんね」
せつ菜「あ……す、すみません、バトルのお話しばかりで……歩夢さん、退屈ではありませんでしたか?」
歩夢「うぅん! 全然退屈なんかじゃなかったよ! 私もせつ菜ちゃんのバトルのお話、聞いてみたかったから」
侑「歩夢も、あれからバトルをするようになったし、強くなったんだよ! ね?」
歩夢「そ、そんなに言うほどじゃないけど……うん、今はバトルの魅力もわかってきたと思う」
せつ菜「そうですか……! それはいいことですね! ……では、いつか歩夢さんとも、バトル出来る日が来るということですね!」
歩夢「え、えぇ……!? せ、せつ菜ちゃんとバトル出来るくらいになるまでだと……すっごい時間掛かっちゃうかも……」
せつ菜「大丈夫です! 歩夢さんが強くなるまで、チャンピオンとして待っていますから! もちろん、侑さんのこともですよ!」
リナ『まだチャンピオンになってないのに気が早い』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
せつ菜「ふふ♪ そうですね♪」
侑「あはは♪」
歩夢「ふふ♪」
思わず3人で顔を見合わせて笑ってしまう。
せつ菜「いつか──最高の舞台でお会いしましょう!」
せつ菜ちゃんはそう言って、最高の笑顔を見せてくれるのだった。
- 607 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:21:07.06 ID:9EuEq8f90
-
🎹 🎹 🎹
せつ菜「──お見送り、ありがとうございます」
侑「もっと話したかったなぁ……」
「ブイ」
せつ菜「ふふ、きっとまたどこかで会えますよ」
侑「……うん。そうだね!」
こうしてウラノホシタウンで会えたんだから、またどこかで偶然会うこともあるよね!
歩夢「もう日も落ちちゃったね……暗いから気を付けて帰ってね」
せつ菜「お気遣いありがとうございます。ですが、帰りは“そらをとぶ”でひとっとびなので、ご安心を!」
せつ菜ちゃんはそう言いながら、ボールからポケモンを外に出す。
「ムドー!!」
侑「わぁ! せつ菜ちゃんのエアームド!」
せつ菜「さすが侑さん、ご存じでしたか」
侑「うん! 攻守隙の無いせつ菜ちゃんのエアームド……大好きなんだ……!」
せつ菜「ふふ、ありがとうございます。エアームド、褒められていますよ」
「ムド」
せつ菜ちゃんの言葉を聞いて、エアームドはペコリとお辞儀をする。
侑「礼儀正しい……!」
せつ菜「ふふ、頭のいい子なので」
歩夢「……あ、そうだ!」
せつ菜「?」
歩夢は何かを思い出したらしく、バッグの中から、紙と袋を取り出す。
歩夢「これ、せつ菜ちゃんに」
せつ菜「これは……?」
せつ菜ちゃんが紙を開く。
- 608 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:21:53.67 ID:9EuEq8f90
-
せつ菜「『ウインディ:からいポフィン(赤)』『スターミー:あまいポフィン(桃)』……これは……メモ、ですか?」
歩夢「うん♪ 私が作ったポケモンのお菓子だよ! せつ菜ちゃんのポケモンの好みに合わせて作ってあるから!」
せつ菜「え? 私の手持ちの好みにですか……?」
歩夢「うん! 前にせつ菜ちゃんが試合で出してた5匹しかわからなかったけど……」
せつ菜「バトルを見ただけで私の手持ちの好みがわかったんですか……?」
歩夢「? うん。好きな色の“ポフィン”がメモに書いてあるから、そのとおりに食べさせてあげてね!」
せつ菜「わかりました! ありがとうございます!」
歩夢「絶対メモのとおりにあげてね」
せつ菜「? はい!」
歩夢「人が作ったものを勝手にアレンジとかしちゃだめだよ? 絶対に、書かれたとおりに、食べさせてあげてね」
せつ菜「は、はい……な、なんだか、ちょっと圧が強いですけど……承知しました!」
歩夢「うん」
リナ『歩夢さん。きっと、ウインディたちも泣いて喜ぶ』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||
侑「?」
いつになく歩夢がぐいぐい行ってるけど……そんなに会心の出来だったのかな?
まあ、せっかく作ったのなら、好きな味のものを食べて欲しいもんね。
せつ菜「さて……」
せつ菜ちゃんがエアームドの背に飛び乗る。
せつ菜「またどこかでお会いしましょう!」
侑「うん! またね! せつ菜ちゃん!」
「ブイブイ!!」
歩夢「案内してくれてありがとう!」
リナ『次会えるとき、楽しみにしてる』 || ╹ ◡ ╹ ||
せつ菜「はい! それでは──エアームド、行きますよ!」
「ムドーー!!!」
エアームドが鋼鉄の翼を羽ばたかせ、一気に飛翔する。
侑「ばいばーい!」
歩夢「またねー!」
手を振って見送る中、暗闇を切り裂く鋼の翼は、ぐんぐんと遠ざかり──すぐに見えなくなった。
侑「やっぱせつ菜ちゃんのエアームド、速いなぁ……」
リナ『すごくよく育てられてる証拠』 || ╹ ◡ ╹ ||
やっぱり、せつ菜ちゃんとそのポケモンたちはすごいんだって、感じちゃうなぁ。
そんなせつ菜ちゃんに追い付けるように。
侑「よし、私も頑張るぞ……!」
一人気合いを入れる。
歩夢「ふふ♪」
- 609 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:22:36.52 ID:9EuEq8f90
-
そんな私を見て、歩夢が微笑ましそうに笑う。
ふいに──潮の香りを孕んだ、夜風が吹き抜ける。
歩夢「……風、気持ちいいね」
侑「うん、そうだね」
これだけ自然豊かだからだろうか。空気がおいしくて、こうした何気ない風も、心地がいい。
旅館に戻る前に、もう少し外の空気を感じていたいなと思った。
どうやら、歩夢も同じことを考えていたらしく、
歩夢「侑ちゃん、少し……歩かない?」
侑「うん、そうだね」
私たちは少しだけ、夜道を散歩をすることにした。
🎹 🎹 🎹
「──ブイ、ブイ」
侑「イーブイー! あんま遠く行っちゃダメだよー!」
夜の砂浜を無邪気に駆け出すイーブイに声を掛けながら、私は歩夢とのんびり砂を踏みしめる。
歩夢「夜の海って……綺麗だね」
侑「そうだね……」
夜の水面は、昼のような澄んだ青さこそないものの──真っ暗な境界面に星や月の光を反射して、まるでもう一つ夜空がそこにあるかのような、幻想的な風景を作り出している。
きっと、こんな景色も……旅に出なかったら、見ることはなかったんだ。
侑「歩夢」
歩夢「なぁに?」
侑「私と旅に出てくれて、ありがとう」
歩夢「ふふ。どうしたの、急に?」
侑「歩夢が居てくれたから、私はこうして旅が出来てるんだって思ったら……お礼言いたくなっちゃった」
歩夢「もう……お礼を言いたいのはそれこそ私の方だよ。一緒に旅してくれてありがとう、侑ちゃん」
侑「……あはは♪」
歩夢「うふふ♪」
お互いお礼を言い合っているのがなんだか可笑しくって、今度は二人で顔を見合わせて笑ってしまう。
リナ『二人だけ、ずるい』 ||,,╹ᨓ╹,,||
侑「もちろん、リナちゃんも! いつもありがとう!」
歩夢「リナちゃんがいっぱいサポートしてくれるから、楽しい冒険が出来てるよ♪」
リナ『うん!』 ||,,> ◡ <,,||
セキレイから始まって、ダリア、コメコ、ホシゾラ、ウチウラ……そしてウラノホシと進んできた。
- 610 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:23:21.07 ID:9EuEq8f90
-
侑「ここまで……いろんなものを見てきたね」
歩夢「うん。短い間にいろいろあったね」
侑「力を合わせて進んだり……」
歩夢「ケンカもしちゃったね」
侑「そうだね……」
歩夢「でも……今になってみたら、ああやってケンカして、思ってることを言い合えたから、もっと侑ちゃんのこと、理解出来た気がする」
そう言いながら、歩夢は私の手を握ってくる。
だから、私も歩夢の手を握り返す。
歩夢「侑ちゃんと一緒に旅に出られて……よかった」
侑「歩夢……」
なんだか、胸があたたかかった。
空は暗闇の中に浮かぶ星と月だけで、お日様はとっくに沈んでしまっているのに、歩夢の言葉を聞いていると、ぽかぽかとお日様に照らされているような、あたたかさを感じる。
侑「……歩夢はお日様みたいだね」
歩夢「え?」
侑「いつも私の心を、あったかい太陽みたいに照らしてくれる」
歩夢「ええ……? それなら、太陽は侑ちゃんの方だよ! 侑ちゃんの隣にいると、すっごくあったかいもん……侑ちゃんの手も……」
侑「歩夢の手の方があったかいよ。だから、やっぱり太陽は歩夢の方だよ」
歩夢「えー? 侑ちゃんの方があったかいよ」
侑「歩夢の方があったかい」
歩夢「侑ちゃんの方が……」
侑「……っぷ」
歩夢「……ふふ♪」
言い合っているのが可笑しくて、また二人で笑ってしまう。
侑「じゃあ、二人とも、お互いがお互いの太陽ってことで!」
歩夢「ふふ、そうだね♪」
ああ、なんか……いいな、こういう時間。
侑「私……この旅、ずっと続けてたいな」
歩夢「ふふ、そうだね」
リナ『まだまだ、この地方は行ってない場所の方が多い。まだまだ、旅は終わらないよ』 ||,,> ◡ <,,||
侑「……旅を名残惜しむにはまだ早いか」
バッジもまだ半分も集まってないしね。旅はこれからだ……!
漣の音を聴きながら、胸中で決意をしていると、ふと──
侑「……? 何……?」
歩夢「侑ちゃん?」
侑「……何か……聞こえる……?」
- 611 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:24:06.58 ID:9EuEq8f90
-
──海の方から、何かが呼んでいる気がした。
その声に引き寄せられるように、波打ち際に視線を向けると──
侑「え……?」
それは、落ちていた。
波打ち際に、ぽつんと。
角の取れた、丸石のような、でも、それは石じゃなくて──
歩夢「侑ちゃん、これって……」
侑「──ポケモンの……タマゴだ……」
そこにあったのは──ポケモンのタマゴだった。
🎹 🎹 🎹
あの後、旅館に戻って、志満さんにタマゴの落とし物があったこと、探している人がいないかを訊ねたけど、
志満「──……少なくとも、この旅館には心当たりのいる人はいなかったわ……」
宿泊客に確認を取ってくれた志満さんからは、そんな回答が返ってきた。
この旅館の前の浜辺で拾ったから、誰か知っている人がいないかなと思ったんだけど……。
美渡「志満姉〜、役場にも確認してみたけど、タマゴの落とし物探してるみたいな届け出はなかったよ〜」
そんな風に志満さんに報告をしているのは、先ほど話に聞いた、千歌さんのもう一人のお姉さんの美渡さんだ。
志満「ありがとう美渡。……っていうことで、私たちにはそのタマゴのことはちょっとわからないわね……」
侑「そうですか……ありがとうございます」
歩夢「どうしようか、そのタマゴ……」
侑「う〜ん……」
誰か落とした人がいるならその人に返したいけど……。
美渡「誰も持ち主が居ないなら、貰っちゃってもいいんじゃないかな?」
侑「え、でも……」
美渡「もしかしたら、誰かの捨てたタマゴとかなのかもしれないし……」
志満「こら、美渡! 滅多なこと言わないの!」
リナ『……でも確かに、その可能性はある。強いポケモンを厳選する人の中には余らせたタマゴを捨てちゃう人もいないわけじゃない』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「タマゴって……ポケモンみたいに“おや”はわからないの?」
リナ『タマゴは生まれたときに、一番近くにいた人が“おや”になる。だから、まだ“おや”と呼ばれる人間は決まってない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
美渡「それに、タマゴは元気なトレーナーと一緒にいないと、孵化しないって言うしさ……警察とかに届けて持ち主が現れるのを待つのもありだけど……その間ずーっとタマゴのまま待ち続けるのも、気の毒だなって思うし」
志満「それはまあ……そうねぇ……」
侑「うーん……」
- 612 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:24:43.30 ID:9EuEq8f90
-
……普通に考えたら、もともとタマゴを持っていた人が居て、なんらかの理由で落としちゃったとかな気がするけど、
侑「…………」
私は何故か……理由はうまく説明できないけど、このタマゴはそういうものではない気がした。
このタマゴは──私を呼んでいた気がする。
少し考えたけど、
侑「……わかりました。私、このタマゴ、育ててみます」
……私はこのタマゴを、受け取ることにした。
歩夢「侑ちゃん、いいの……?」
侑「うん。もし、持ち主を探すにしても……タマゴのままじゃ、他のタマゴと見分けも付かないし……生まれてきたポケモンを見てから探した方がいいだろうしさ」
仮に落とし主がいるんだとしても、生まれてきたポケモンの種類を見れば、タマゴのままの状態よりは探す手がかりも見つけやすいだろうしね……。
美渡「うん、そうしな。一応、タマゴを探してるみたいな人が居たら、連絡はしてあげるからさ」
侑「はい、ありがとうございます」
志満「侑ちゃんたちがそれでいいなら、私はいいんだけど……」
こうして私たちは、ウラノホシの町でせつ菜ちゃんと出会い、そして……ふしぎなタマゴを拾うことになった。
……一体、このタマゴ……どんなポケモンが生まれてくるんだろう……?
- 613 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:25:17.67 ID:9EuEq8f90
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ウラノホシタウン】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o●/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.36 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.32 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:105匹 捕まえた数:4匹
主人公 歩夢
手持ち ラビフット♂ Lv.33 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.27 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.27 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.22 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
バッジ 1個 図鑑 見つけた数:132匹 捕まえた数:14匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 614 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 23:37:08.98 ID:9EuEq8f90
-
■Intermission🎹
──暗い部屋にいた。
「んー? 今日の──は甘えん坊だなぁ〜」
「…………」
「じゃあ、──が寝るまで、ぎゅーってしててあげるね」
「うん……」
なんだか……幸せな光景を見ている気がした。
私も嬉しかった。
「……私は──突き止めなくちゃいけない……。お父さんとお母さんの理論を、研究を、完成させないといけない……」
そうじゃないと──お父さんとお母さんが……報われないから……。
そんな声が……頭の中でぼんやりと木霊していた……。
「ニャァ…」
──
────
──────
- 615 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 23:37:48.72 ID:9EuEq8f90
-
侑「……んぅ…………」
ぼんやりと目を開ける。
侑「…………」
また、変な夢を見た……なんなんだろ……。
……まあ、夢に意味を求めてもしょうがないんだけどさ。
頭を掻きながら、枕元を見ると、
「ニャァ……zzz」
ニャスパーが眠っていた。
リナ『侑さん、おはよう』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「おはよう……リナちゃん」
リナ『今日は朝一でメールが届いてたよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「メール?」
リナ『凛さんから』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「! 凛さんからってことは……!」
リナ『うん! ジム戦の日取りが決まったみたい! 明日ホシゾラジムで待ってるって!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「明日……!」
ついに、再戦の時が来たということだ。
ホシゾラまでは1日もあれば十分戻れるから、今日は移動になるだろう。
歩夢「……んぅ……侑ちゃん……?」
リナちゃんと話していると、隣の布団で寝ていた歩夢も、目を覚ましたようだ。
侑「あ、おはよ、歩夢。ジムの再戦の日取り、決まったよ!」
歩夢「え、本当に!?」
侑「うん! 明日、ホシゾラジムで待ってるって! 急いで戻らないとだね」
歩夢「うん!」
変な夢のこともすっかり忘れて、私は朝から、ジムへの闘志で心を燃やすのだった。
………………
…………
……
🎹
- 616 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:03:18.53 ID:ULDkry570
-
■Chapter032 『ジグザグジグザグドッグラン?』 【SIDE Kasumi】
──朝。コメコの森のロッジ。
しずく「それでは、行ってまいります」
かすみ「お世話になりました! 彼方先輩! ご飯すっごくおいしかったです!」
私はしず子と一緒に、お世話になった彼方先輩たちへお礼交じりに挨拶をする。
彼方「ふふ、またいつでもおいで〜。次も腕によりをかけてご飯作ってあげるから〜」
遥「お身体にお気をつけて……」
穂乃果「二人とも、無茶しちゃダメだよ〜?」
千歌「何かあったら、いつでも連絡してね!」
しずく「はい、ありがとうございます」
ロッジの皆さんの送り出しの言葉にしず子が深々と頭を下げる。
この短い数日の間に、いろいろあったもんね。
かすみんもそれに倣って、ぺこっとお辞儀します。
かすみ「……さて、それじゃいこっか!」
しずく「うん!」
さぁ、冒険の旅の再開です!
👑 👑 👑
さて、ロッジを颯爽と旅立った、かすみんたちが次に向かう先は──
かすみ「……わぁ〜!! 広〜い!」
眼前に広がる、広大な草原。
いわゆる都会で育ってきた、かすみんたちからしてみると、こんなに広い草原はほとんど見たことがない。
そんなここは──コメコシティとダリアシティを繋ぐ4番道路。通称『ドッグラン』です!
これだけ広々としていると、かすみんも開放的な気持ちになっちゃいますね!
ただ、そんなかすみんよりも、
しずく「──見て見てかすみさん!! ヨーテリーとハーデリアの群れだよ! あ! あっちにはガーディ!」
しず子は、さらにテンションが高かった。目をキラキラさせながら、かすみんの腕をぐいぐい引っ張ってくる。
かすみ「し、しず子〜そんなに引っ張らないでよ〜」
しずく「あそこでボールを追いかけてるのは、ワンパチだよ! ワンパチはね、“たまひろい”って特性で、ボールで遊ぶのが大好きなんだよ! ……私もボールを投げたら、取ってきてくれるかな」
聞いてないし……。言うまでもなく、普段しず子のテンションがここまで高くなることはそんなにない。
ただ、理由ははっきりしています。
- 617 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:04:12.50 ID:ULDkry570
-
かすみ「しず子ってホントに犬ポケモン好きだよね」
しずく「うん! だって、あんなに可愛いんだよ!? 誰だって大好きだよ!」
しず子は筋金入りの犬ポケモン大好きっ子なんです。
「イヌヌワンッ!!」
しずく「見て見てかすみさん! ワンパチがボール拾ってきてくれたよ!」
かすみ「うんうん、よかったね、しず子」
何はともあれ、しず子が楽しそうで何よりです。
大丈夫だとは言われているけど、しず子は病み上がり。
かすみん、これでも結構気を付けて見ていたんですけど……これだけ元気なら本当に大丈夫そうですね。
しずく「ほーら、とっておいでー♪」
「イヌヌワンッ!!」
しず子が再びボールを放り投げると、ワンパチがそれに向かって駆け出す。
……野生ポケモンなのに、ここまで野生を忘れていると、ちょっと心配になりますね。
ボールを追いかけるワンパチを目で追いかけていると──そのワンパチの目指す場所に人影があることに気付く。
かすみ「あれ? あの人って……」
その人影には見覚えがあった。
青みがかった黒髪をウルフカットにしている、女性の後ろ姿──
しずく「!? も、もしかして──果林さんじゃないですか!?」
果林「?」
しず子の声に気付いて、果林先輩が振り返る。
果林「あら、貴方たちは……」
かすみんたちの姿を認め、こちらに近付いてくる。
果林「一週間振りくらいかしら? 確か……しずくちゃん、だったわよね?」
しずく「はい! 名前、覚えていてくださったんですね! でも、どうして果林さんがここに……お仕事ですか?」
果林「今日はオフよ」
かすみ「じゃあ、なんでこんなところに……?」
果林「こんなところなんて言ったら、コメコの人に怒られるわよ。えっと……貴方は……」
かすみ「かすみんは、かすみんです!」
果林「かすみんちゃん……? 変わった名前ね……?」
かすみ「かすみんちゃんじゃなくて、かすみんはかすみん──」
しずく「えっと、ごめんなさい! この子はかすみさんって言うんです!」
果林「ああ、なるほど……そういうことね」
果林先輩は納得したように、片手を顎に当てて、小さく頷いて見せた。
かすみ「それで、どうして果林先輩はドッグランにいるんですか?」
果林「ああ、えっとね……ちょっと友達と待ち合わせしてるところで……」
- 618 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:04:46.27 ID:ULDkry570
-
果林先輩が言いかけた矢先、
「──果林ちゃ〜ん!」
彼女の名前を呼びながら、コメコ方面から駆け寄ってくる女の人の姿。
果林「ああ、言ってる傍から来たみたい」
エマ「──おはよう、果林ちゃん!」
果林「おはようエマ」
エマ「ごめんね、待たせちゃったみたいで……」
果林「大丈夫よ、私もさっき着いたところだから」
赤毛を三つ編みおさげにしている青い目の女の人──果林先輩が待っていたこの人は、エマ先輩というらしい。
エマ「えっとあなたたちは……果林ちゃんのお友達?」
果林「前、コンテスト会場で見に来てくれた子たちよ」
エマ「あ、もしかして果林ちゃんのファンの子ってことかな?」
しずく「は、はい!」
かすみ「まあ、かすみんはそいうわけじゃ……」
しずく「か、かすみさん……! 本人の前でそんなこと……!」
果林「別にいいわよ。そんな気を遣わなくても」
慌てるしず子とは裏腹に、当人は涼しい顔をしている。なんか随分サバサバしてる人ですねぇ……。
エマ「コンテストってことは、フソウからここまで……? でも、この辺りでは見たことないし……もしかして旅人さん?」
しずく「あ、はい」
かすみ「何を隠そうかすみんたちは──ポケモン図鑑と最初のポケモンを貰って旅に出た、選ばれしトレーナーなんですよ〜」
かすみんは胸を張って自慢します。ポケモン図鑑の所有者に選ばれたトレーナーなんて、どこにでもいるわけじゃないですからね!
さぞ珍しがって、敬って貰えるかと思ったんですが、
エマ「あ! もしかして、歩夢ちゃんと侑ちゃんのお友達なのかな!?」
全然珍しがって貰えていませんでした。
しずく「侑先輩たちをご存じなんですか!?」
エマ「うん! 二人もちょっと前にコメコに来たんだよ!」
……考えてみれば、侑先輩たちはかすみんたちと逆回りでホシゾラシティまで辿り着いていたわけですから、コメコに知り合いが居てもおかしくないですね……。
エマ「わたしはエマ、よろしくね♪」
かすみ「あ、えっとかすみんは──」
しずく「こちらはかすみさんです。私はしずくと言います」
かすみ「ちょっとぉ!! 人の自己紹介、邪魔しないでよぉ!!」
しずく「だって、どうせ私が訂正する羽目になるし……」
かすみ「むー……」
エマ「かすみちゃんとしずくちゃんだね♪」
- 619 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:05:33.63 ID:ULDkry570
-
嬉しそうに笑いながら握手を求めてくるエマ先輩。
果林先輩とは真逆で、フレンドリーな人ですね〜。
一方で、件の果林先輩は、
果林「……へー……貴方たちが、図鑑所有者……」
かすみんたちのことをジロジロと観察していた。
かすみ「ちょ……な、なんですか……」
果林「あら、ごめんなさい……図鑑所有者と聞いて、少し興味が湧いちゃって」
かすみ「……へー、果林先輩もそういうの気になるんですね。いいですよいいですよ! 好きなだけかすみんを見てください!」
注目されているって言うなら満更でもない。かすみんは思わず得意になって、胸を張ってしまいます。
果林「しずくちゃん、貴方、図鑑所有者だったのね……」
しずく「え、あ、は、はい……///」
かすみ「もう、こっち見てない!?」
なんなんですか、期待させておいて……! ぐぬぬ……!
このかすみんを適当にスルーした癖に、果林先輩は、
果林「……」
しずく「あ、あの……果林さん……ち、近くないですか……?///」
しず子の顔を覗き込むようにして、じっくりと観察している。
果林「……ふふ、そう」
しずく「か、果林さん……?///」
果林先輩は一人で勝手に納得したように笑う。
果林「良い目になったわね、しずくちゃん」
しずく「そ、そうですか……?」
果林「ええ。……真の美を理解したような目になったわ」
しずく「し、真の美……ですか……?」
果林先輩の言葉にきょとんとするしず子。
……ってか、
かすみ「ホントに近いですよ!! 近すぎます!! 離れて離れて!!」
なんかちゃっかり、しず子の顎に手を添えて、顔を覗き込んでるし!
二人の間に割って入るようにして、引きはがす。
果林「あら、ごめんなさい」
しずく「……///」
かすみ「しず子も何、満更でもなさそうな顔してんの!」
しずく「だ、だって……///」
しず子にとっては憧れの人みたいだし……わからなくはないけどさぁ。
- 620 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:06:24.15 ID:ULDkry570
-
エマ「ところで、二人はこれからドッグランを抜けてダリアに行こうとしてるのかな?」
しずく「あ、はい。そのつもりです」
エマ「だったら、ちょっと気を付けた方がいいかも……」
かすみ「気を付ける? 何をですか?」
果林「今ドッグランは、野生ポケモンの縄張りがちょっと不安定らしいわよ」
かすみ「縄張りが不安定……?」
エマ「もともと犬ポケモンって、それぞれしっかりとした縄張りを持ってて、お互いがそれに干渉しないようにしてることが多いんだけど……最近ラクライの群れの縄張りが不安定みたいで……」
果林「それで、一旦それを落ち着かせるために、エマが駆り出されたってわけ。私はその手伝い」
果林先輩はそう言いながら、腕を組んで肩を竦める。
まさにそのとき、遠方の雲がピカっと光る。
かすみ「あれ、雷ですか……?」
かすみんがそう訊ねる頃に──ゴロゴロと音が聞こえてくる。
しずく「……2〜3kmくらい先ですね」
エマ「うん。今はあの辺りにいるみたいだね」
しず子の言葉にエマ先輩が頷いた。
かすみ「なんで、わかるの……?」
しずく「光は音より速いから、秒数を数えればなんとなくの距離がわかるんだよ」
かすみ「……ふーん……?」
なんかよくわからないけど、そうらしい。
果林「場所がわかったのはいいけど……こんなこと、わざわざエマがどうにかするようなことなのかしら……?」
エマ「あのね、ドッグランはコメコの人が昔から管理してきた場所なんだよ。だから、コメコの一員として、ドッグランの平和を守るのも私の仕事だよ!」
果林「そう……まあ、エマがそれでいいならいいけど」
エマ「それにラクライ以外にも、変な子が紛れちゃってるらしいし……そっちの対策もしないと……」
かすみ「変な子?」
エマ「えっとね……最近ドッグランにもともといなかったポケモンを間違って逃がしちゃった人がいるらしくって……」
しずく「確かドッグランは保護区域だから……特定の種類のポケモン以外は逃がしちゃいけなかったはずですよね」
かすみ「ええ? じゃあ、犬ポケモンたちの中に猫ポケモンが紛れちゃってるみたいな……?」
エマ「確認されてる子は一応犬ポケモンなんだけど……もともとここにはいない犬ポケモンだったの。だから、間違えちゃっただけだと思うんだけど……」
果林「だから、そういう本来いない種類の子たちを捕まえるのも、コメコの人たちの仕事の一つらしいわ」
かすみ「へー……そうなんですね」
エマ「そういうことだから、二人とも、ここを抜けるなら気を付けてね」
しずく「はい、ありがとうございます」
この場所を維持するのも大変なんですねぇ……。
果林「それじゃ、早く終わらせちゃいたいし、私たちも行きましょ、エマ」
エマ「うん、そうだね! それじゃあね、二人とも」
- 621 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:07:00.57 ID:ULDkry570
-
エマ先輩が手をふりふりしながら、ドッグランを奥の方へと歩き出す。
そして、その後に付いていくように果林先輩も、歩き出しながら──振り返る。
果林「……それじゃあ、またどこかで会いましょう」
果林先輩は最後にそう残してから、エマ先輩と行ってしまった。
しずく「また、どこかで……えへへ……」
かすみ「ちょっとしず子、何ニヤニヤしてんの」
しずく「べ、別にニヤニヤなんかしてないもん……」
しず子がぷくっと頬を膨らませる。
全く、こんなに可愛いかすみんが傍にいるのに、ちょ〜っと果林先輩がリップサービスしただけで、チョロチョロなんですから……。
👑 👑 👑
果林先輩たちと別れたあと、かすみんたちはのんびりとドッグランを進んでいるところです。
「──クマァ♪」
かすみ「わぁ♪ ジグザグマ、また拾ってきたんですね、偉いですよ〜♪」
しずく「今日はたくさん拾ってきてるね?」
かすみ「平原が広がってるから、見つけやすいのかな?」
この穏やかでだだっ広い場所だからか、今日はジグザグマの“ものひろい”が絶好調です。
かすみ「この調子でたくさん集めようね〜♪」
「クマァ♪」
ジグザグマから受け取った“げんきのかけら”をバッグに押し込む。
しずく「まだ集めるの……? もうかすみさんのバッグ、パンパンだけど……」
かすみ「手に入れられるものは手に入れておいて損はないの!」
しずく「でも、そこまでパンパンだと逆に物が取り出しづらくない? 少し間引いた方が……」
かすみ「ダメ! せっかく、ジグザグマがかすみんのために拾ってきてくれたものなんだから、全部かすみんが使うの! それに『備えあれば嬉しいな』って言うでしょ!」
しずく「それを言うなら『備えあれば憂いなし』ね……。あと『過ぎたるは及ばざるが如し』って言葉もあるんだけど……」
かすみ「ふーんだ、そんなこと言うしず子には、後で必要になっても分けてあげないんだから」
口うるさいしず子に言い返しながら、バッグを背負おうとした、その時──かすみんの足元を、猛スピードで何かが通り過ぎた。
かすみ「わっ!?」
急なことに驚いて、足がもつれる。そしてその拍子に、重いバッグが重力に引っ張られて、かすみんは後ろ向きにひっくり返る。
しずく「か、かすみさん!? もう、言わんこっちゃない……!」
かすみ「いたた……今何かが足元を……」
頭を上げて、何かが通り過ぎて行った方向に目を向けると──白と黒の縞模様をした細長いポケモンが、長い舌を見せながらこっちを見つめていた。
- 622 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:08:39.57 ID:ULDkry570
-
かすみ「……何あいつ……?」
しずく「……もしかして、ガラルマッスグマ?」
かすみ「マッスグマって……ジグザグマの進化系だっけ」
しずく「うん、そうなんだけど……あれはガラルの姿で、本来ドッグランには普通の姿のマッスグマしかいなかったはず……」
かすみ「じゃあもしかして、エマ先輩が言ってた変な子って……」
しずく「たぶん、ガラルの姿のマッスグマを逃がしちゃった人がいたってことじゃないかな……」
そんな話をしている間に、マッスグマはかすみんたちに背を向けて、猛スピードで走り去っていく。
かすみ「なんか、ガラルのマッスグマはずいぶんと凶悪な顔をしてるんだね……」
しずく「あくタイプが加わってて、こっちのジグザグマやマッスグマと比べると凶暴だって言うからね……」
かすみ「ふーん……」
それにしても、なんで急にかすみんのこと転ばせてきたんだろう。
それ以上、何か攻撃してくるでもなく、そのまま走って行っちゃったし……。
……まあ、いいや。
かすみんは起き上がって、周囲を伺います。
すると、転んだ拍子にバッグから散らばってしまった、アイテムの数々。
かすみ「……盛大に散らばっちゃった……」
落ちたアイテムを拾おうとした、瞬間──手を伸ばしたアイテムが目の前から掻き消えた。
かすみ「……へ?」
びっくりして顔を上げると──ジグザグマが居た。
でも、かすみんのジグザグマじゃない。
白と黒の──さっきのマッスグマと同じような色をしたジグザグマ。
それも1匹じゃない。2匹、3匹、4匹──いや、10匹はいる。
しかも……全員、今しがたかすみんが落としたアイテムを咥えている。
かすみ「ち、ちょっと! それかすみんのですよ!」
「グマグマ」「ググマー」「グママ」
かすみんが声をあげると、ジグザグマたちは散り散りになりながら、アイテムを持ち逃げしていく。
かすみ「こ、こらー!? 泥棒ー!?」
しずく「あれ全部ガラルジグザグマ……!? もしかして、さっきのマッスグマの子分……!?」
かすみ「んな……じゃあ、もしかしてかすみんを転ばしたのって……」
しずく「た、たぶん、最初から転んで散らばった“どうぐ”を奪うため……」
かすみ「むっかー……!! 寄ってたかって人の物を奪うなんて、許せません……!!」
「クマァ」
かすみ「行くよ、ジグザグマ! 絶対取り返してやるんだから!!」
「クマァ!!」
かすみんは怒り心頭、白黒のジグザグマたちを追いかけて、駆け出します。
しずく「あ、ちょっとかすみさん! 待ってってばー!?」
- 623 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:09:31.83 ID:ULDkry570
-
👑 👑 👑
かすみ「むむむ……どこに行きやがりましたか〜……」
しずく「行きやがったって……まだそんなにたくさんあるんだから、ちょっとくらい良いんじゃない……?」
しず子はかすみんのバッグを見て、そんなことを言う。
かすみ「ダメ! これは、せっかくジグザグマが頑張って拾ってきてくれたものなんだから! それに……」
しずく「それに?」
かすみ「まんまと奪われたままなんて、悔しいじゃん!」
しずく「……はぁ……。わかった……私も取り戻すの手伝うよ」
かすみ「ホントに!? やっぱ、しず子わかってる〜!」
しずく「わかってるというか、諦めてるだけだけど……。でも、どうやって探すの? 見失っちゃったけど」
かすみ「それを今考え中なの!」
最初は足跡を追えばいいかなと思っていたんだけど……ジグザグマたちは逃げている間も好き勝手ジグザグに走るせいか、逆に居場所を特定しづらい。
しずく「ジグザグマたち、結構逃げなれてる感じがするね……足跡を大量に作ってるのも、わざと攪乱するためなのかも」
かすみ「姑息な奴らですねぇ……!」
こうなったら、足跡を虱潰しに追うしかない……?
頭を抱えていると、
「クマ」
かすみんのジグザグマが足跡をくんくんと嗅いだあと、
「クマ」
とてとてと先に向かって歩き始める。
かすみ「もしかして、においで追える?」
「クマァ」
かすみ「さすが、かすみんのジグザグマです! あのガラルのジグザグマたち、すぐに追いついてやりますからね!」
「クマ」
ジグザグに歩きながら、においを追って進むジグザグマを追いかける。
気付けば、徐々に草原エリアから外れて、ちょっとした林のようなエリアに入ろうとしていた。
しずく「……ジグザグに進むからか、進みが遅いね……」
かすみ「ま、まあ……ジグザグマだし……。マッスグマよりも可愛げあっていいじゃん!」
しずく「別に悪いとは言ってないけど……」
確かに探し物をしているときは真っすぐ目的に向かって進んでくれたら嬉しいけど……これが、ジグザグマの可愛いところでもあるわけだし。
しずく「……そういえばさ」
かすみ「なに?」
しずく「かすみさん、ジグザグマの進化、キャンセルしてるよね?」
- 624 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:10:31.64 ID:ULDkry570
-
──進化のキャンセルとは、書いて字のとおり、進化をさせずそのままの姿にしているということです。
自分のポケモンの進化タイミングでポケモン図鑑にあるボタンをぽちっと押すと、進化させない電波が出るらしく、それで進化前の姿を維持できるんです。
しずく「進化させないの?」
かすみ「んー……進化させちゃうと可愛くなくなっちゃうし……」
しずく「そうかな? 私はマッスグマも愛嬌ある顔してると思うけど」
かすみ「うーん……」
マッスグマは見たことあるけど……かすみん的には少しシャープすぎるなぁって思うんですよね。
ただ──なんとなく、しず子の顔を見る。
しずく「……? どうかした?」
かすみ「……なんでもない」
穂乃果先輩に言われたように、かすみんたちはウルトラビーストに襲われる可能性がある。
なら、少しでも進化した方が強くなれるのかな……なんて思うけど……。
かすみ「……やっぱ、今はジグザグマのままでいい」
しずく「そう?」
かすみんはやっぱり可愛いポケモンたちに囲まれていたいんです──まあ、もうすでになんかそれっぽくない手持ちもいる気はしますが……。
もちろん、どうしても進化の必要性を感じたら、進化させることもあるかもしれないけど……それは今じゃない気がする。
しずく「まあ、進化させない方が育ちも速くなるし、かすみさんがそうしたいなら、それでいいと思うよ」
かすみ「うん」
林の中を、結構奥の方へと進んできたと思う。
そんな中、においを嗅いでいるジグザグマの動きに変化があった。
「クマ…」
しずく「ジグザグマ、さっきから行ったり来たりしてるね……?」
かすみ「ジグザグマ、どうかしたの?」
「クマ」
ジグザグマは困ったように周囲をキョロキョロとしている。
しずく「においがここで途切れちゃってるのかな……?」
かすみ「えーでも、なんもないし……」
さっきまで順調だったのに、急ににおいが途切れるものなんだろうか。
すると、ジグザグマは、
「クマ」
地面に鼻をこすりつけながら、そこを掘り返し始める。
すると──黄色いキラキラとした欠片のようなものが顔を出す。
- 625 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:11:18.79 ID:ULDkry570
-
しずく「! “げんきのかけら”……!」
かすみ「もしかしてこれ、かすみんたちの!? やりました! 取り返してやりましたよ!」
しずく「いや待って……なんでこんな場所に埋まってるの」
かすみ「へ?」
考えてみれば……なんでせっかく盗ってきた物を埋めちゃうんでしょうか。
しかも、集めて埋めてるわけでもなくて、これ1個だけ……。
かすみ「まるで見つけてくださいとでも言ってるような……」
しずく「……たぶん、そういうことだよ、かすみさん」
そう言いながら、しず子がかすみんの背中に、自分の背中を合わせてくる。
かすみ「え、なになに? どういうこと?」
しずく「周り……見て」
かすみ「え?」
しず子に言われて気付く。周囲の木々の影に──
「グマ」「グマァァ…」「ジグザ…」
白黒のジグザグマの姿が見切れていた。
その数、5匹……10匹……いや、
かすみ「な、なんかものすごい数いない……?」
さっきかすみんの道具を持ち逃げしていった子たちの倍以上……20匹以上はいる気がする。
かすみ「か、完全に囲まれてる……もしかして……」
しずく「……私たち……まんまと誘い込まれたみたい」
かすみ「え、ヤバイじゃんそれ!?」
かすみんが声をあげた瞬間、
「グマッ」「グマァッ!!!!」「グママ!!!」
ジグザグマたちが四方八方から一気に飛び掛かってきた。
かすみ「わぁ!? こっち来た!?」
しずく「く……! 出てきて、キルリア!! マネネ!!」
「──キル!!」「──マネネッ!!」
しずく「キルリア! “チャームボイス”!!」
「キル〜〜♪」
「グマッ!!?」「グザグザッ!!」「ザグマァッッ!!!」
しず子のキルリアが音波攻撃で飛び掛かってくるジグザグマたちを吹っ飛ばす。
かすみ「し、しず子、どうしよう!?」
しずく「とにかく逃げるしかないよ!! かすみさんもポケモン出して!!」
かすみ「えぇ、盗られたかすみんの“どうぐ”は!?」
しずく「言ってる場合!?」
- 626 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:12:29.50 ID:ULDkry570
-
ちょっと口論している間にも、次のジグザグマたちが飛び掛かってくる。
かすみ「ジ、ジュプトル! “シザークロス”!!」
「──ジュプトッ!!!」
「グマッ…!!!?」「グマァッ!?」
ジュプトルを出して、飛び掛かってくるジグザグマを撃ち落とすけど──数が多い。
倒しても倒してもどんどん次が襲い掛かってくる。
かすみ「ぐぬぬ……わかったよ、もう!! 逃げればいいんでしょ!!」
しずく「来た道を戻ろう!! 後ろは任せて! マネネ、“リフレクター”!!」
「マネッ!!!」
マネネが背後に物理攻撃を防ぐ壁を発生させると、そこにジグザグマたちが衝突して、地面に落ちる。
その隙にかすみんは今来た道を塞ぐように群がっているジグザグマたちに向かって、
かすみ「ジュプトル!! “りゅうのいぶき”!!」
「ジュプトォォォォ!!!!!」
「グマ!!?」「ジグザググ!!!!」
攻撃を放って、道を開く。
かすみ「しず子!! 走るよ!!」
しずく「うん!」
しず子の手を取って、かすみんは走り出します。
その間にも四方八方からジグザグマたちが飛び掛かってきますが、
かすみ「“タネマシンガン”!!」
「プトルルルルル!!!!!」
しずく「“マジカルシャイン”!!」
「キルゥッ!!!!」
どうにか、迎撃しながら突き進む。
しずく「マネネ! 振り落とされないようにね!」
「マネッ」
全力で包囲網を突破すると──先ほどまで引っ切り無しに飛び掛かってきていたジグザグマたちの姿が見えなくなる。
かすみ「やった、群れを抜けた……!!」
が、安心するのも束の間、林の中を並走するようにして猛追してくる白黒の影、
「マッスグ!!!!」「グマグマッ!!!」
しずく「今度はマッスグマ……!」
かすみ「もう勘弁してくださいよぉ!!」
両サイドから追ってくる2匹のマッスグマ。
樹々を縫うように、直角カーブを繰り返しながら、少しずつかすみんたちの方に幅寄せするように迫ってくる。
かすみ「は、挟まれる〜……!! “エナジーボール”!!」
「ジュプトッ!!!」
- 627 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:13:14.34 ID:ULDkry570
-
追い返すために、エネルギー弾を放ちますが、
「グマグマグマッ」
相手が速すぎる上に、攻撃が樹に阻まれて、うまく撃退出来ない。
かすみ「そ、そうだ、しず子!! エスパータイプの技でどうにかしてよ!!」
しずく「ガラルマッスグマはあくタイプだから、エスパータイプは効果ないんだよ!!」
かすみ「そ、そんな〜!!」
もう、とにかく走るしかない。必死に足を動かしていると──林の樹々の隙間から光が見えてくる。
かすみ「!! 出口……!!」
林から出てしまえば、その先は広い草原だ。
この視界の悪い林に比べたら、絶対に戦局も有利になるはず……!
かすみん、最後の力を振り絞って、全力でダッシュします。
しずく「かすみさん!! 前、なんかいる!!」
かすみ「へっ!?」
しず子に言われて視線を前に向けると──確かに、何かが立ち塞がっていた。
でも、咄嗟のことで反応しきれず、
かすみ「ぎゃんっ!?」
しずく「きゃぁっ!」
正面からソレに衝突して、かすみんはしず子ともども、すっ転んで尻餅をつく。
かすみ「いたた……」
しずく「かすみさん、大丈夫……?」
かすみ「しず子こそ、平気……?」
しずく「う、うん、でも……」
尻餅をついて蹲るかすみんたちの左右には、
「グマグマグマッ」「マッスグゥッ」
ガラ悪く舌をベロりと出したマッスグマたち、
「グマグマ」「ググマァッ」「ジグザグ」
そして、背後から追いかけてくるジグザグマたちの鳴き声。
さらに、かすみんたちがぶつかった前方の主は──
「……グマァッ」
大きな体躯で立ち塞がり、見下ろしていた。
ガラルのマッスグマをさらに一回り大きくして、ゴツくしたようなポケモン……。
- 628 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:13:50.26 ID:ULDkry570
-
かすみ「な、なんですか……こいつ……」
しずく「た、タチフサグマ……」
かすみ「タチフサグマ……?」
しずく「ガラルマッスグマの進化系だよ……」
かすみ「し、進化系!? マッスグマってさらに進化するの!?」
「──グマァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!」
タチフサグマはかすみんたちに向かって声を轟かせながら、威嚇してくる。
かすみ「う、うるさい……」
しずく「た、タチフサグマは大きな声で相手を威嚇するの……」
至近距離で叫ばれたせいか、頭がガンガンする。
でも、とにかく目の前のこいつをぶっ飛ばさないと、それこそ袋叩きにされる。
かすみ「ジュプトル……!! “リーフブレード”!!」
「ジュプトォッ!!!!」
自慢の草の刃で切り抜けようと、縦薙ぎに振り下ろされた、“リーフブレード”は、
「グマァッ!!!!」
「プトルッ!!!!?」
タチフサグマが前方でクロスしている腕に防がれて、弾かれてしまった。
かすみ「んなぁ!?」
しずく「あれは“ブロッキング”……!」
タチフサグマは、弾き飛ばしてよろけたジュプトルに肉薄し、クロスした腕を開くようにして、“クロスチョップ”をジュプトルに炸裂させた。
「ジュプトォッ…!!!」
かすみ「ジュプトル!?」
吹っ飛ばされるジュプトルをすかさずボールに戻す。
かすみ「あいつ強い……」
しずく「ごめん、かすみさん……」
かすみ「なんで急に謝るの……?」
しずく「まんまとタチフサグマのいる方に誘導されてた……私のせいだ……」
かすみ「しず子のせいじゃないって!!」
しずく「で、でも、このままじゃ……」
かすみ「だから、今考えてるの……!!」
- 629 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:14:47.77 ID:ULDkry570
-
背後からはすでにジグザグマたちが飛び掛かってきていて、マネネの張ってくれた“リフレクター”も限界までは時間の問題。
どうする? 後方のジグザグマたちをどうにか倒して逃げる? ……いや、また林の中に戻っちゃったら、マッスグマから逃げられない。
左右のマッスグマを振り切るのも、かなり難しそうだし……じゃあ、目の前のタチフサグマを倒す……?
かすみんの手持ちのエース、ジュプトルでも歯が立たなかった。
ゾロアでどうにか策を考える……? サニーゴで最悪相打ちを取るとか……いやでも、そもそも相性で負けてるし……。
必死で考えるけど、この場を切り抜けるビジョンがどうにも浮かんでこない。
そんな中でも、
「グマァッ」
タチフサグマがこちらに向かって歩を進めてくる。
絶体絶命。
もう、どうしようもない……。
かすみ「しず子……」
しずく「な、なに……?」
かすみ「かすみんがあいつに突っ込むから、その間に脇を通り抜けて林を出て」
しずく「!? だ、ダメだよ!! そんなことしたらかすみさんが……!」
かすみ「もうこれしかないの!!」
しずく「嫌!! せっかく一緒にまた旅に出られたのに、かすみさんだけおいてなんかいけない!!」
かすみ「しず子、お願いだから……!!」
しずく「嫌!! 絶対に嫌……」
しず子がぎゅっとかすみんの袖を握ってくる。
眼前にはタチフサグマが迫る。
タチフサグマが大きく息を吸ったのが見えた。
かすみんはもうダメだって思っちゃって……目を瞑った。……そのときだった、
「グマ──」
「──クマァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
タチフサグマの雄叫びをかき消すように──大きな鳴き声が響き渡った。
この声は、ずっとかすみんの聞いてきた鳴き声。
かすみ「ジグザグマ……?」
「クマァッ!!!!」
ジグザグマはかすみんの前に立って、自分の何倍もあるタチフサグマの前で、全身の毛を逆立てながら、威嚇していた。
かすみ「何やってるんだ……私……」
何勝手に諦めてるんだ……まだ、自分のポケモンは戦う意思を失ってないのに……。
かすみ「ジグザグマ……!! やるよ!!」
「クマァッ!!!」
しずく「かすみさん!? 無茶だよ!?」
かすみ「無茶でも、ジグザグマがやる気なんです!! “ミサイルばり”!!」
「クママママッ!!!!!」
逆立った体毛を飛ばして、タチフサグマを攻撃する。
- 630 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:15:35.78 ID:ULDkry570
-
「グマ…」
タチフサグマは両腕を上げて防御。ダメージはあんまりなさそうだけど……。足は止まった。
かすみ「しず子!! ジグザグマとマッスグマ任せるから、とにかく時間を稼いで!!」
しずく「……! わ、わかった! やってみる……!」
「キルッ」「マネネッ!!!」
周りの手下たちはしず子にどうにかしてもらう。
かすみんはとにかく、こいつを倒す……!
さっきから見ていると、タチフサグマはカウンター的な攻撃が得意らしい。
つまり、自分から積極的に攻撃してくるタイプではなさそうだ。
かすみ「なら、“はらだいこ”!」
「クマ、クマ〜」
ジグザグマは座るような体勢になって、ぽんぽことお腹を叩き始める。
自分を鼓舞して、攻撃力をフルパワーにする技です。
そっちから来る気がないなら、今のうちに準備を整えるまで、
「グマ…!!」
ですが、相手も戦い慣れしているのか、すぐにこっちの思惑に気付いて、走り出す。
地面にいる小さなジグザグマを、両手でガッと抑えつけると──そのまま、自分もろとも後ろに転がり始める。
しずく「か、かすみさん!! “じごくぐるま”だよ!!」
かすみ「わかってる!! しず子は雑魚散らしに集中してて!!」
相手は見た目通り、近距離技主体のポケモン。
何かしら肉弾戦を仕掛けてくるのはわかっていたから、ここまでは想像の範疇。
あとは──タイミングを間違えるな。
「ク、クマァァ」
「グマァッ!!!!」
“じごくぐるま”は相手もろとも転がったのち、回転の勢いを使って相手を投げ飛ばし、地面に叩きつける技。
叩きつけられるその一瞬、
かすみ「今です!! “こらえる”!!」
「クマァッ!!!!」
ゴッ!! と鈍い音を立てながら、地面に叩きつけられるジグザグマ。
ですが、どうにか攻撃を堪えて耐えきります。
「グマァッ!!!」
もちろん、すぐに追撃しようと、タチフサグマは起き上がって、ジグザグマに向かって走り出しますが、
「グ、マァッ!!?」
急にタチフサグマが痛そうな声を上げて怯んだ。
- 631 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:16:28.76 ID:ULDkry570
-
しずく「え!?」
かすみ「……痛いですよねぇ!! 足に鋭い欠片がぶっ刺さったら!!」
しずく「欠片……!? って、まさか……!?」
タチフサグマが痛そうに持ち上げた足の下には──黄色の輝く欠片が一つ。
しずく「“げんきのかけら”!?」
そう……! “じごくぐるま”を受けてる最中に、さっき拾った“げんきのかけら”を地面に突き立てて、即席の“まきびし”代わりにしたわけです!!
一発怯ませれば十分……!!
「クマァッ!!!!」
今度は逆にタチフサグマの懐に飛び込んでやります。
「グマッ!!?」
かすみ「かすみんたちのフルパワー!! 食らいやがれです!! “じたばた”!!!!」
「クマクマクマァァァァァ!!!!!!」
ジグザグマはタチフサグマの懐に潜り込みながら、全身の硬い毛を擦り付けるようにして、激しく攻撃する。
かすみ「“こらえる”で体力もギリギリ!! しかも、“はらだいこ”でフルパワーになった最大威力の“じたばた”です!!」
「クマァッ!!!」
「グマァァッ!!!!」
全身をくねらせながら、硬い毛と爪と牙で無茶苦茶に攻撃しまくって、タチフサグマをぶっ飛ばす。
「グマァッ…!!!」
見た目からは想像も出来ないようなパワーで吹っ飛ばされたタチフサグマは、樹に背中を打ち付けられて、ガクりと首を垂れたのでした。
かすみ「よっしゃぁ!! やってやりました!!」
「クマァッ…」
が、喜びも束の間で、
「マ、マネネェッ!!」
しずく「きゃぁっ!!?」
──パリンという何かが砕ける音と共にしず子の悲鳴。
“リフレクター”が破られた。
かすみ「……っ!?」
せっかく、タチフサグマを倒したのに、このままじゃ逃げ切れない。
かすみ「しず子……!!」
しず子に向かって飛び掛かるジグザグマたちがスローモーションに見えた。
視界の端では、マッスグマたちが“リフレクター”が壊れたことを認識して、飛び出そうと構えているのもわかった。
ダメだ。間に合わない。
かすみ「しず子ぉぉぉぉ!!!! 逃げてええええぇぇぇ!!!!」
- 632 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:18:13.06 ID:ULDkry570
-
叫ぶかすみん。だけど、しず子たちはもう逃げる余裕なんてなくて──白黒の毛むくじゃらがしず子たちに爪を立てようとした、瞬間、
「──キュウコン! “ひのこ”!!」
「コーーンッ!!!!!」
9つの火の玉が──飛び掛かってくるジグザグマたちをピンポイントで撃ち抜いた。
しずく「え……?」
かすみ「へ……」
突然の攻撃に驚いたのか、
「グマッ!!?」「グママ、グマグマッ」「グマ、ググマッ!!!」
ジグザグマたちは一目散に逃げ出し始める。
かすみ「あ、そ、そうだ……! マッスグマは……!」
「そっちも、大丈夫だよ」
優しい声と共に、
「ワンワンッグルルルルッ!!!!!」
激しいうなり声をあげる、黄色と黒の犬ポケモン──パルスワンが視界に入る。その傍らにはすでに1匹仕留めたのか、マッスグマが伸びていた。
バチバチと牙の周りに稲妻を迸らせて、もう1匹のマッスグマを威嚇している。
「グ、グマ…」
形勢が悪くなったと思ったマッスグマが逃げ出すと、
「ワンッ!!!!!」
パルスワンは駆け出し、追いかけていく。
気付けば……あれだけいたジグザグマやマッスグマの群れは、1匹残らずいなくなっていたのでした。
かすみ「た、助かった……?」
「大丈夫? 二人とも?」
「このタチフサグマ、かすみちゃんがやったの? すごいわね、お姉さん、ちょっとかすみちゃんのこと見直しちゃったわ」
声の主の方へ振り返ると──先ほどのお姉さんたちの姿。
しずく「果林さん!!」
かすみ「エマ先輩ぃぃぃ!!」
エマ「二人とも、怪我してない?」
果林「怪我の手当てもいいけど……一旦、林から出ましょうか。ここだと見晴らしが悪いわ」
エマ先輩と果林先輩の助太刀によって、どうにか窮地を脱したのでした。
- 633 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:19:27.73 ID:ULDkry570
-
👑 👑 👑
かすみ「パルスワン……戻ってきませんけど……」
エマ「パルスワンは三日三晩走っても大丈夫だから、疲れて動けなくなったマッスグマをちゃんと捕まえて戻ってきてくれるはずだよ」
果林「スピードでもマッスグマに負けてないしね」
エマ先輩の言葉に、果林先輩がそう補足する。
果林「それにしても、タチフサグマの雄叫びが聞こえて向かってきたら……貴方たちが戦っているんだもの。驚いたわ」
しずく「危ないところを助けていただいて……ありがとうございました……」
エマ「こっちこそごめんね……こんな場所に縄張りを作ってたなんて知らなかったから……」
しずく「あのガラルジグザグマたちが、本来ここにいないポケモン……ということですよね」
エマ「うん! だから、全部捕まえちゃうつもり!」
果林「って言っても、ボスはかすみちゃんが倒してくれたから、まとまりのなくなったジグザグマたちを捕まえるくらいならわけないと思うわ」
そう言いながら、果林先輩は今しがた捕獲した、タチフサグマの入ったボールをエマ先輩に手渡しながら言う。
エマ「ちょこちょこ草原エリアで目撃情報はあったんだけど……巣や縄張りがわからなくて捜索にずっとてこずってたんだ……。でも、二人のお陰で、どうにか全部捕まえられそうだよ〜。ありがとう」
かすみ「とりあえず……もう当分あんなのとは戦いたくないです……」
果林「ふふ、ジャイアントキリングだったものね」
そう言いながら、果林先輩がかすみんのジグザグマに視線を落とす。
果林「早速、その経験が反映されそうだけど?」
かすみ「え?」
言われてジグザグマを見ると、ジグザグマがぶるぶると震えていた。
進化の兆候だ。
かすみ「いけないいけない……!」
かすみんは図鑑を取り出して、キャンセルボタンを押す。
果林「あら……進化キャンセルしちゃうの?」
かすみ「はい! かすみんたち……まだしばらくはこのままでいいかなって」
「クマ」
かすみ「この姿でも工夫次第で戦えること、わかっちゃいましたから!」
「クマァ♪」
だから、進化はもうちょっと先でいいかな? いつか、本当に力が必要になったときまで、進化はお預けです!
エマ「二人はこのまま、ダリアに行くんだよね?」
しずく「はい、そのつもりです」
エマ「それじゃ、ドッグランを抜けるまで付き合うね! って言っても……他にはそんなに好戦的なポケモンはいないと思うけど……」
かすみ「助かりますぅ……かすみんもう結構くたくたなんで」
万が一にも、もうバトルはしたくない。
何かあったらエマ先輩たちに戦ってもらいましょう……。
- 634 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:20:32.53 ID:ULDkry570
-
果林「それじゃ、早く行きましょう。日が暮れちゃう前にエマを家まで送りたいし」
エマ「果林ちゃーん! そっちは、コメコ方面だよー!!」
果林「……わ、わかってるわよ……/// まだジグザグマが残ってないか確認しようとしただけ……///」
かすみ「……バトルもコンテストも強くて、スーパーモデルなのに……方向音痴……」
果林「……あら、何か言ったかしら〜?」
かすみ「ぴぇ! な、なんでもないですぅ〜! 早く行きましょう〜!」
果林「全く……」
ぞろぞろとダリア方面へと歩き出す。
かすみ「……あれ?」
しずく「どうしたの? かすみさん?」
かすみ「何か忘れてるような……」
そもそも、何か目的があって、ジグザグマたちを追いかけてたんじゃないっけ……。
かすみ「あっ!! 盗られた“どうぐ”!!」
しずく「もう、諦めよう。本当に日が暮れちゃうよ」
かすみ「そ、そんなぁ〜……かすみんたち頑張ったのにぃ……」
エマ「ジグザグマたちを捕獲するときに見つけたら、かすみちゃん宛てにポケモンセンターに届けておくよ」
かすみ「うぅ……そうしてくれると助かりますぅ……。ジグザグマ、また頑張って集めようね……」
「クマァ♪」
傾き始めた日が照らす中、落ち込むかすみんとは対照的に、ジグザグマは尻尾をぶんぶん振りながら、楽しそうに鳴き声をあげるのでした。
- 635 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:21:12.70 ID:ULDkry570
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>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【4番道路】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. ●|  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュプトル♂ Lv.31 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.25 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.30 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.23 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:130匹 捕まえた数:6匹
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.21 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.20 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.20 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.20 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
キルリア♀ Lv.22 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:139匹 捕まえた数:9匹
かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 636 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 20:27:50.75 ID:ULDkry570
-
■Intermission👏
──コメコシティ・DiverDiva拠点。
姫乃「──姫乃、戻りました」
愛「あれ? 姫乃っちじゃん」
声に振り向いてみると、姫乃っちの姿があった。
この子は大抵カリンの企み事に付き合って、地方中を行ったり来たりしているから、こうして拠点で会うのは珍しい。
姫乃「はい、今は果林さんから特に指示もないので……一度拠点に顔を出そうかと思って……」
そう言いながらしきりにキョロキョロとしている姫乃っち。
愛「カリンならいないよー」
姫乃「そうなのですか……?」
露骨に残念そうな顔をする。
姫乃「して……果林さんはどちらへ?」
愛「カリンなら、今エマっちとドッグランにいるよ」
姫乃「は?」
愛「なんでも、ラクライの縄張りを元の場所まで引っ張るのをお願いされたんだとさー。自分で牧場側に呼び出す作戦立てておいて、よくやるよねー」
姫乃「ありがとうございます、愛さん。それでは行ってまいります」
愛「待った待った。どこ行くつもりよ」
姫乃「もちろんドッグランへ……」
愛「ダメに決まってるでしょ。ってか、カリンに怒られるよ」
姫乃っちはカリンが自由に動くために、外での接触タイミングはかなり限られている。
ましてや、エマっちとカリンが一緒にいるタイミングで出て行くなんて言語道断だ。
姫乃「……」
愛「愛さんに向かって、そんな不機嫌そうな顔されても困るんだけど」
姫乃「果林さんは、あの現地人と距離が近すぎます……」
愛「それは前にも聞いたし、カリンにも伝えたよ。でもまあ、しょうがないじゃん?」
姫乃「愛さんはいいんですか」
愛「何が?」
姫乃「果林さんがあの現地人にうつつを抜かしていても何も思うことがないと」
愛「やることやってくれてれば私はどっちでもいいんだよねー。それに──私はカリンに逆らえないし」
そうおどけながら、首輪をつまんで見せる。
- 637 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 20:28:45.08 ID:ULDkry570
-
姫乃「そうですか……まあ、貴方には期待していません」
愛「酷いこと言うねぇ、姫乃っち」
姫乃「そうですか? ご自分にどうして、そんな首輪が着いているかを考えればわかることでは?」
愛「……」
姫乃「……失礼。言いすぎました」
愛「ま、いいよ、別に」
まあ、姫乃っちからしたら、アタシは目の上のたんこぶみたいなもんだからね。
別にいちいち怒るようなことでもない。
姫乃「お詫びと言ってはなんですが……面白い情報を手に入れてきましたよ」
愛「面白い情報?」
姫乃っちが私にデータの入ったUSBを手渡してくる。
早速データを読み込むと──人物資料が入っていた。
愛「ナカガワ・菜々……? ……ローズのジムリーダーの秘書……?」
情報に適当に目を通していく。ローズのジムリーダーと言えばマッキーだけど……。
愛「……って、ずいぶん若いね」
16歳で、ジムリーダーの秘書……? トレーナーとしてはそれくらいで大成してる人はいくらでもいるけど……トレーナーとしての経歴もないし……。
姫乃「はい、私もそう思いまして。合間に調べていたんですが……面白い人物と結びつきまして」
愛「面白い人物……?」
画面を下にスクロールしていくと──その人物の情報があった。
愛「……マジで?」
姫乃「十中八九、間違いないかと」
愛「……なるほどね」
なるほどどうして……これは叩けば埃が出そうな話だ。
愛「いいね……カリン、こういうの好きだと思うよ」
姫乃「ありがとうございます。果林さんに伝えておいてください」
そう言うと、姫乃っちは背を向けて、拠点から出ていこうとする。
愛「カリンに会ってかないの?」
姫乃「私の役目は果林さんの役に立つことですから。また、何か情報を探してきます」
そう残して、姫乃っちは拠点から出て行ってしまった。
愛「真面目だねぇ」
思わず肩を竦める。
それにしても──
愛「これは……面白いことになるかもね」
- 638 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 20:29:22.97 ID:ULDkry570
-
私はモニターに映る人物の資料を見ながら、一人呟くのだった。
「ベベノー」
………………
…………
……
👏
- 639 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:35:44.01 ID:4td2vpP20
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■Chapter033 『叡智の行き先?』 【SIDE Kasumi】
──ドッグランを抜けて、ダリアシティに着いた頃にはすっかり日も落ちていて……。
エマ先輩たちと別れた後はすぐに宿を探して、部屋に入った後は特に何をするでもなく寝てしまった。
……疲れていましたからね。
と、言うわけで、
かすみ「改めて……ダリアシティ、到着しましたよー!」
ホテルを出ると、すでに白衣を纏った人たちがちらほらと歩いているのが見える。
かすみ「博士がたくさんいるんですかね、この街は……」
しずく「当たらずとも遠からずかな。ここは学園都市だからね。きっと、あの人たちは研究者の人たちだよ」
かすみ「へー……」
かすみんからしてみると、好き好んで勉強をしているなんて、物好きな人たちって思っちゃいますけど……。
しずく「ところで、これからどうするの? やっぱりジム?」
かすみ「もちろん! ……と、言いたいところなんだけど」
しずく「……? かすみさんがジムに直行しないなんて珍しい……どこか行きたいところでもあるの?」
かすみ「行きたいところというか……新しい手持ちが欲しいんだよね」
しずく「新しい手持ち……? ジム戦に備えてってこと?」
かすみ「そゆこと!」
しずく「え……? 本当にそういうことなの?」
かすみ「何、その反応」
しずく「……もしかして、熱ある?」
かすみ「何!? その反応!?」
しずく「だって……行き当たりばったりなかすみさんが、ジム戦のために準備だなんて……」
なんて失礼なしず子なんでしょうかね。
- 640 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:37:04.95 ID:4td2vpP20
-
かすみ「かすみんだって、準備くらいするもん! ……それに、ここのジムリーダーには絶対負けられないんですよ……」
しずく「ダリアのジムリーダーって言うと……にこさんだっけ」
かすみ「そう!! ヤザワ・にこです!!」
しずく「なんでフルネーム……」
かすみ「ヤザワ・にこと言えば、アイドルポケモントレーナーなんですよ!!」
しずく「ああ、うん。そうだね。テレビとかでも見ることあるよね」
かすみ「許せません!!」
しずく「……だから、何が?」
かすみ「かすみんとキャラが被ってるじゃん!!」
しずく「被って……るかな……?」
かすみ「だから、かすみん、ここのジムリーダーにだけはぜーったい負けたくないんですよ!!」
しずく「はー……だから、対策用のポケモンが欲しいのね」
かすみ「そういうこと! んで、しず子!」
しずく「今度は何?」
かすみ「ジムリーダーのタイプと相性の良いタイプ教えて!」
しずく「あ、そこは知らないんだ……」
しず子は呆れたように、肩を竦める。
しずく「えっと……にこさんのエキスパートタイプはフェアリーだね。となると……相性が良いのは、はがねタイプかな……」
かすみ「はがねタイプぅ〜……? はがねタイプって、どこにいるんだろう……」
しずく「うーん……山岳地帯に多いイメージだけど……」
かすみ「えー山ぁ〜? なんかもっと楽そうな場所にいないの?」
しずく「楽そうな場所って言われても……。……あ、そうだ」
しず子は何かを思いついたようで、ポンと手を叩く。
かすみ「なになに? 良い場所思い浮かんだ?」
しずく「うん! 良い場所思い浮かんだよ!」
👑 👑 👑
──と、言うわけでやってきたのは……。
かすみ「野生ポケモン捕獲研究室……?」
しずく「ダリアにはたくさんの研究室があってね。野生のポケモンと捕獲についての研究室があったことを思い出したの」
かすみ「……で、ここがどうしたの?」
しずく「なんとね、ここの中では野生ポケモンが生息する環境が再現されていて、しかも、ここにいるポケモンを野生ポケモンと同様に捕獲していいことになってるんだよ!」
かすみ「え、ホントに?」
しずく「その代わり捕獲のときに使った技やボールとかは記録されるけどね。ここなら、はがねタイプも探しやすいかもよ」
かすみ「なるほど! しず子、冴えてる!」
かすみん、早速研究室にお邪魔します。
- 641 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:38:02.53 ID:4td2vpP20
-
かすみ「失礼しま〜す!」
室員「おおっ? 見ない顔だけど、見学者かな?」
入ると、いかにもな白衣を着て、眼鏡を掛けた人に出迎えられる。
──いかにもって言う割に、他の部分は赤髪を両サイドで縛っている、背の低い人で……ビジュアル的には本当にこの人研究者さんなのかなと思ったけど。
かすみ「はい! ここでポケモンを捕まえられるって聞いて!」
室員「カッカッカッ! 吾輩たちの研究室も随分有名になったものだな! ああ、確かにここでは自由に捕獲が出来るぞ」
……なんか、随分キャラが濃い人が出てきましたね。口調にやや面食らっていると、
しずく「はい。私たち、はがねタイプのポケモンを探してまして……」
しず子が事情の説明を始める。
室員「はがねタイプか……わかった、案内しよう」
しずく「はい、お願いします。かすみさん、行こう」
かすみ「あ、うん」
しず子は気にならないのかな……って思ったけど……まあ、研究者さんって変わり者が多そうだし、そういうものなのかも。
適当に自分を納得させつつ、案内された奥の部屋へと到着する。
室員「ここが、はがねタイプのポケモンがいるエリアだ。あとは自由に捕獲してくれたまえ」
そう言って、研究員の人は出ていこうとする。
かすみ「あれ? 記録する人とかいないんですか? 使った技とかボールとか記録するって聞きましたけど……」
室員「ああ、その辺は全てロボットが使用技やボールを判別するから、誰かが見て確認することはないんだ。吾輩たちも何かと忙しいからね。ただのデータ収集なら機械化してしまうに越したことはないしな」
かすみ「へ、へー……そうなんですね」
随分とハイテクですね……。確かに言われてみれば、そこらへんに観測機っぽいものがたくさんある。
なるほど、あれで技とかは判別するってことですね……。
室員「それに、自然環境では観測者は普通いないからね。少しでも野生捕獲を再現するためには必要なことなのだよ」
かすみ「な、なるほどー」
室員「それじゃ、後は好きに捕獲してくれたまえ」
そう残して、研究室の人は部屋を出て行ってしまった。
かすみ「……なんか、変わった人だった」
しずく「確かに独特の雰囲気ではあったね……」
かすみ「まあ、いいや……今は捕獲!」
新戦力拡充のためにも、案内された室内を見回す。
はがねタイプのために部屋の中を見回すと──どう見ても人工の研究室といった感じの室内だった。
かすみ「……? これのどこが自然再現なの……?」
しずく「あ、かすみさん、ここにこの部屋の解説掲示があるよ」
しず子に言われて、入り口のすぐ傍にある説明書きを見てみると、
- 642 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:38:34.77 ID:4td2vpP20
-
かすみ「『無人発電所の環境再現』……?」
と書いてあった。
しずく「なるほど……。確かに無人の発電所とかには野生ポケモンが棲み付くって聞いたことあるかも」
かすみ「へー……はがねタイプってそういうところにいるもんなの?」
しずく「確かに人工物に棲み付くポケモンには、はがねタイプのポケモンもいたと思う」
かすみ「例えば?」
しずく「えーっと……コイルとか」
かすみ「コイルって……あの丸っこいやつだっけ」
かすみんは頭にコイルを思い浮かべる。
丸いボディに磁石をくっつけたような見た目のあのポケモン。
かすみんがぼんやりコイルを頭に思い浮かべている矢先、
しずく「あ……! 早速いたよ! コイル!」
早速コイルが機材の物陰から、浮遊して出てきた。
確かにかすみんの記憶通りのコイルです。
『コイル じしゃくポケモン 高さ:0.3m 重さ:6.0kg
生まれつき 重力を さえぎる 能力を もち 電磁波を
出しながら 空中を 移動する。 電線に くっついて
電気を 食べ 停電の 原因に なることがある。』
しずく「どうかな、コイル。はがねタイプだし、結構可愛いと思うんだけど」
かすみ「う、うーん……確かに、可愛いと言えば可愛いけど……」
「ビ、ビビ?」
コイルと目が合う。一つ目でジロジロとかすみんを観察していますが……。
かすみ「なんか……こういう可愛いじゃないというか……」
しずく「ええ……わがままだなぁ……」
かすみ「他! 他にいないかな!」
かすみん、とりあえずコイルは保留です。
まだ1匹目だし、せっかく捕まえるなら吟味したいもん!
しずく「あとは……あ、見て! ギアルがいるよ!」
かすみ「ギアル?」
しず子が指差す方に目をやると──歯車が2つ合わせたようなポケモンがいた。
かすみ「あれがギアル……」
『ギアル はぐるまポケモン 高さ:0.3m 重さ:21.0kg
2つの 体は 組み合わせが 決まっている。 別の 体とは
噛み合わずに 離れてしまう。 大昔に ギアルを 見た
人間が 歯車の 構造を 思いついたと 言われている』
- 643 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:47:33.87 ID:4td2vpP20
-
しずく「あのポケモンもはがねタイプだよ。どう?」
かすみ「……」
しずく「あの表情とか可愛くない?」
かすみ「なんか、無機質な感じがする……」
しずく「……もう! かすみさん、文句ばっかり!」
かすみ「だって、かすみんの可愛いのイメージと違うんだもん! しょうがないじゃん!」
しずく「……はぁ。……じゃあ、どういう子がかすみんさんの可愛いのイメージなの……?」
かすみ「えぇ〜? それは、ピカチュウとかピッピみたいな、いかにも妖精みたいな感じの子かなぁ〜?」
しずく「はがねタイプでそんなポケモンいたかな……」
しず子はうーんと頭を悩ませ始める。
かすみ「しず子、頑張って思い出して! かすみんの新しい手持ちが懸かってるんだから!」
しずく「かすみさんも考えてよ……」
かすみ「だって、かすみん、しず子ほどポケモンの種類、わかんないし……」
しずく「頼ってくれるのは嬉しいけど……あんまり、人任せにしてると罰が当たるよ?」
かすみ「罰当たりでも地獄に落ちても、可愛いは最重要の正義なの!」
しずく「ええー……まあ、いいけど……そうだなぁ……」
しず子が考えてくれている間、辺りを見回すけど──コイルやギアルばっかり。
なんだか、ここには目ぼしいポケモンは居ないのかも……。
ジム戦用の新しいポケモン、どうしようかな……。そう思いながら、偶然壁際にあった、腰掛が目に入る。
待ってる間疲れちゃうし座ってよっかな。
かすみんが腰掛に座った瞬間──ガクンと身体が後ろに傾いた。
かすみ「え!?」
そのまま、かすみんの視界はぐるっと回転し──天井が見えたかと思ったら、すぐに暗闇に包まれる。
しかも、謎のスピード感と浮遊感──もしかして、かすみん……落ちてる!?
かすみ「きゃぁぁぁぁぁ!!?」
気付いたときには、かすみんは何やら狭い管のようなものの中を頭から滑り落ちていた。
かすみ「なになになになに、なんなのぉぉぉぉ!!?」
絶叫するかすみん。
が、すぐに管は終わり──開けた場所に放り出される。
……もちろん、そんな管から飛び出した場所は地面なんかではなくて、
かすみ「ぎゃぁぁぁぁぁ!! 落ちるぅぅぅぅぅ!!!」
かすみんは開けた空間の中を真っ逆さまに落ちていく。
時間として数秒もしないうちに──ぼふっと音を立てて、何かの上に落着した。
かすみ「……はぁ、はぁ……い、生きてる……?」
- 644 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:48:09.29 ID:4td2vpP20
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心臓がバクバクと爆音を上げているが、どうやら何か柔らかいものの上に落ちたらしい。
お陰でどうにか助かったらしい。……でも、
かすみ「く、臭い……」
強烈な悪臭が立ち込めている場所だった。鼻が曲がりそうになって、思わずハンカチを取り出して鼻と口を覆う。
かすみ「ここ、どこ……」
周囲を見渡してみるも、真っ暗で全然わからない。
かすみ「そうだ……出てきてジュプトル」
「──ジュプト」
かすみ「“フラッシュ”」
「プト」
ジュプトルが腕の葉っぱの先を光らせ、周囲を明るく照らす。
“フラッシュ”によって照らされたここは……大きなビニール袋があちこちに積まれている場所だった。
かく言うかすみんが落ちた柔らかいものの上というのも、ビニール袋の上……。
かすみ「……ここ、どこ……?」
眉を顰める。めっちゃ暗くて、割と広くて、かなり臭い場所……。
さっきまで研究室にいたはずなのに……。
「──……ゴミの保管所だよ」
かすみんの疑問に答えたのは上から降ってきた声。
声のする方に視線を向けると、
かすみ「あ、しず子!」
しず子がアオガラスに掴まって、ゆっくり下りてきているところだった。
しずく「もう……突然消えたかと思ったら、悲鳴が聞こえてきて、何かと思ったよ……。……それにしても、すごい臭い……」
しず子もかすみんと同じようにハンカチで鼻と口を覆いながら、そんなことを言う。
かすみ「……ってか、今ゴミの保管所って言った? かすみん、なんでそんな場所にいるの? かすみん、腰掛に座ろうとしただけなんだけど……」
しずく「はぁ……かすみさん、口の空いてるダスト・シュートに腰掛けたでしょ……」
かすみ「“ダストシュート”……? なにそれ……? ポケモンの技……?」
しずく「そっちじゃない。簡単に言うと、建物に付けられたゴミ捨て場への直通の管みたいなものかな……」
かすみ「え……じゃあ、かすみんもしかしてゴミ捨て場に落ちちゃったってこと!?」
しずく「さっきからそう言ってるでしょ」
しず子が呆れた顔で肩を竦める。
- 645 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:48:49.43 ID:4td2vpP20
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かすみ「なんでそんな危ないものの口、開けっ放しにしておくの!?」
しずく「鉄製だったから、コイルたちがいたずらで開けちゃったのかもしれないね……危ないことには代わりないけど。でも、元はといえばロクに確認もせず腰掛けたかすみさんが悪い」
かすみ「う……」
しずく「早速罰、当たったね」
かすみ「……」
しずく「……あ、どっちかいうと地獄に落ちたの方がそれっぽいか……。ゴミ捨て場なんて、ある種の地獄みたいなものだし……」
かすみ「半端にうまいこと言わないでよ……」
思わず項垂れてしまう。
可愛いポケモンを探しに来たはずなのに、よりにも寄ってゴミ捨て場に落ちてきちゃうなんて……。
かすみ「とにかく早く上に戻ろう……」
しずく「そうしたいのは山々なんだけど……」
かすみ「?」
しずく「あそこまで飛ぶのはちょっと難しいかも……」
そう言いながらしず子が見上げる先を目で追うと──結構高い場所に穴が見えた。
どうやら、あそこから落ちてきたらしい。
かすみ「え、じゃあどうするの?」
しずく「ここ自体がゴミ処理場なわけじゃないから……ゴミを運搬するための出入り口がどこかにあるはずだよ。そこを探そう」
そう言いながら、しず子はかすみんの手を取って、ゴミ袋の山を一歩ずつ下り始める。
しずく「足元……不安定だから、また転がり落ちないようにね」
かすみ「……ねぇ、しず子」
しずく「何?」
かすみ「もしかして……こんな場所だってわかってて、助けに来てくれたの……?」
しずく「そりゃそうでしょ……目の前で落っこちたら、助けに行かないわけにいかないし……」
かすみ「ふ、ふーん……そうなんだ……」
しずく「なんで嬉しそうなの」
かすみ「いやその……しず子だったら、呆れて自分でどうにかしなさいとか言うのかなって思ったから……」
しずく「呆れてはいるけど……言わないよ。私だって……何度もかすみさんに助けられてるんだから。お互い様」
かすみ「しず子……」
しずく「とにかく、早く外に出ちゃおう。腐敗したガスとかが充満してるだろうし……長くいると身体に悪いと思うから」
かすみ「う、うん! そうだね!」
かすみんたちは少しでも早く脱出するために、転ばない程度に早足でゴミ袋の山を駆け下ります。
- 646 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:49:32.01 ID:4td2vpP20
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👑 👑 👑
かすみ「思った以上に広いね……ここ……」
しずく「街全体のゴミを全部ここに集めてるらしいからね……ダリアの地下ほぼ全域に広がってるって聞いたことがあるかも……」
結構歩いたつもりですが、景色はゴミ山が続いている。
見通しが悪く、足場も悪いためか思った以上に前に進めてないというのはあるだろうけど……それでも、かなり広い空間であることには違いない。
気付けば、ジュプトルの“フラッシュ”だけでは心もとなかったのか、しず子もキルリアとマネネを出して“フラッシュ”をしているお陰で、暗闇で困るということはなくなった。
かすみんの手持ちはほとんど灯りになる技が使えないから助かりますね……。
かすみ「それにしても……なんでこんな大きなゴミ捨て場を使ってるんだろう……? セキレイではダスト・シュートなんてなかったよね?」
しずく「もともとダリアって街の東側が切り立った崖になってて……街中でゴミを運び出すよりも、一旦街の地下に落として、崖下の6番道路から運び出すのが効率がいいからって聞いたことがあるかな。通称『叡智のゴミ捨て場』なんて言われることもあるみたい」
かすみ「へー……じゃあ、ゴミ捨て場のためだけに、わざわざ地下を掘ったってこと?」
しずく「うぅん、ここは元からあった空間みたい」
かすみ「元から? どゆこと?」
しずく「もともとは、大昔ダリアに住んでいた貴族が有事の際に逃げ込むための地下壕として掘られたとか」
かすみ「え、ここってお姫様とかが住んでたの?」
しずく「お姫様かはわからないけど……貴族制度があった時代では、ここが首都的な扱いだったらしいね。今でこそ、貴族なんて階級もなくなって、残された街は学園都市になったけど……ダリア図書館の時計塔なんかはその当時から残ってる建造物の1つらしいよ」
かすみ「へー、しず子めっちゃ詳しいじゃん」
しずく「歴史の授業で習ったと思うんだけど……」
かすみ「歴史の授業なんて、起きてたことない……」
しずく「はぁ……全く……。……上層に街を発展させる中で、下層を有効活用するために、ここが大規模なゴミの保管施設がなったみたいだね。……まさか、こんなに大きいとは私も思ってなかったけど」
かすみ「なんかそれっぽく言ってるけど、ゴミを毎日出すのがめんどくさくなっただけだったりして……」
しずく「あはは……あながち間違いでもないかもね……研究者たちが1分1秒でも多く時間を使うために、ゴミをまとめてここに捨ててただけって言う説もあるからね……」
しず子からダリアの歴史について聞きながら、歩を進めていく。
しずく「……ふぅ」
かすみ「しず子、疲れた?」
しずく「ちょっと……」
この足場の悪い場所でずっと歩き続けているんだから無理もない。
かすみ「少し休憩しよっか」
しずく「いや……大丈夫だよ」
かすみ「いいから」
しず子にはあまり無理をさせたくない。空気が悪いから、あまり留まらない方がいいというのは確かだけど……。
少しでもゴミの少なそうな場所を探して、周囲をキョロキョロと見回していると──ガサガサッと、音を立てながら……ゴミ袋が動いていた。
かすみ「!? ……ゴミ袋が動いた!?」
「ヤブ…」
かすみんが声をあげると、それに反応して、ゴミ袋が──睨んできた。そして、その直後、
- 647 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:50:55.19 ID:4td2vpP20
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「ヤブーー!!!!」
鳴き声をあげながら、こっちに向かって飛び掛かってきた。
かすみ「な、なんかこっちきたぁ!? じ、ジュプトル、“エナジーボール”!!」
「プトォル!!!」
「ヤブゥッ!!?」
咄嗟に“エナジーボール”で迎撃すると、そいつは吹っ飛びながら、ゴミ袋の上を転がっていく。
しずく「かすみさん! あれ、ポケモンだよ!」
かすみ「ポケモン!?」
かすみんはすぐさま図鑑を開きます。
『ヤブクロン ゴミぶくろポケモン 高さ:0.6m 重さ:31.0kg
不衛生な 場所を 好む。 満腹まで ゴミを 喰らうと
口から 毒ガスを 吐き出す。 うっかり かぐと 即 入院
ゴミで 汚したまま 放っておくと 部屋にも 現れて 棲みつく。』
かすみん「ホントだ……! ヤブクロン……!」
これだけゴミがたくさんある場所だ。ゴミが好きなポケモンたちからしてみれば楽園……いてもおかしくはない。
「ヤブクゥ…」
吹っ飛ばされたヤブクロンはすぐに身を起こして、再びこっちを睨みつけてくる。
「ヤブクゥーー!!!」
突然叫んだかと思ったら──周囲のゴミ袋の中から、
「ヤブ」「ブクロン」「ヤーブク」
ヤブクロンたちが飛び出してきた。
かすみ「こ、これって、もしかしてヤバイ……?」
しずく「た、たぶん、縄張りを荒らされたと思って……怒ってるんじゃないかな」
かすみ「だ、だよねー」
「ヤブクゥッ!!!!」
最初の1匹の合図と同時に、一気にヤブクロンたちが飛び掛かってきた。
かすみ「やば……!! 逃げるよ、しず子!!」
しず子の手を取って、走り出す。
しずく「かすみさん!? 下!?」
かすみ「へっ!?」
しず子の声で、真下に顔を向けると──
「ヤブク…!!!!」
足元から飛び出してきたヤブクロンがかすみんの顔に張り付いてきた。
- 648 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:51:37.45 ID:4td2vpP20
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かすみ「!!?!!? ──む、むぐー!!!」
しずく「キルリア!! “ねんりき”!!」
「キルゥッ!!!」
「ヤブッ!!?」
すぐさま、しず子のキルリアがサイコパワーで引きはがしてくれる。
かすみ「うっ、げほっげほっ……!! くっさ……!!」
しずく「かすみさん、大丈夫!?」
かすみ「う、うん……ガス吸ったわけじゃないから……っ……でも、鼻曲がりそう……っ……」
再びハンカチを口元に当てて走り出すけど、あまりの激臭に泣きそう……。
その間もヤブクロンたちはひっきりなしに飛び掛かってくる。
しずく「マネネ! “サイケこうせん”!! アオガラス! “みだれづき”!!」
「マネッ!!!」「カカカカカァッ!!!!!」
かすみ「ジュプトル! “りゅうのいぶき”!!」
「プトルッ!!!!」
飛び掛かってくるのを迎撃しますが、不安定な足場のせいで思うように前に進めない。
このままじゃ物量で潰される……!!
かすみ「そ、総力戦です!! ゾロア、ジグザグマ、サニーゴ!! 出て来て!」
「──ガゥッ!!!」「──クマァッ」「──……」
しずく「私も……! ジメレオン、ロゼリア!」
「──ジメ…」「──ロゼッ!!!」
それぞれ手持ちを全部出して、飛び掛かってくる大量のヤブクロンたちを撃退する。
かすみ「“あくのはどう”!! “ずつき”!! “ナイトヘッド”!!」
「ガーゥゥッ!!!!」「ク、マァッ!!!」「……ニ」
しずく「“みずのはどう”!! “マジカルリーフ”!!」
「ジメェ…!!」「ロッゼッ!!!!」
「ヤブッ!!!?」「ブクローンッ!!!?」「クロンッ!!!?」
かすみ「よっし……! どうにか捌き切れてる……! サニーゴ行くよ!!」
「……サ……」
どうにか追っ払いながら、しず子の手を取り、動きが鈍いサニーゴを小脇に抱えて、ゴミ捨て場の中を駆け回る。
その際、
しずく「かすみさん!! あれ、なんか変じゃない!?」
しず子がそう言いながら、かすみんの手を引っ張る。
かすみ「へっ!?」
言われて、見てみると──
「ヤブッ」「ブクロンッ」「ヤブゥッ」
大量のヤブクロンが何かに群がっている。
最初は餌があそこにあるのかなと思ったけど……雰囲気的に何かに怒っているような感じだった。
- 649 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:52:11.67 ID:4td2vpP20
-
かすみ「なんかを攻撃してる……!?」
しずく「まさか、私たちみたいに落ちてきた人なんじゃ……!」
かすみ「……!?」
さすがにそれは放っておくわけにはいかない。
かすみ「しず子!! サポートして!!」
しずく「う、うん!」
かすみんは一人でヤブクロンたちが群がってる場所に駆け寄りながら、抱えたサニーゴを前方にかざす。
かすみ「“パワージェム”!!」
「……ニゴ……」
──ヒュンヒュンと輝くエネルギー弾が飛び出し、
「ヤブ…!!?」「クロンッ…!!!」
数匹を弾き飛ばす。
「ブクロン…」「クロンッ」
それと同時に、かすみんたちの攻撃に気付いたヤブクロンたちが、一斉にこっちに振り返り──飛び掛かってきた。
しずく「キルリア!! マネネ!! “サイコキネシス”!!」
「キルッ!!!」「マネネッ!!!」
が、ヤブクロンたちはしず子たちの攻撃で、空中で動きを止める。
かすみ「ナイスしず子!! ジュプトル!! “きりさく”!!」
「プトルッ!!!」
踏み切って高く跳んだジュプトルが、空中で釘付けにされていたヤブクロンたちを、1匹ずつ斬り裂いていく。
その隙にかすみんは、ヤブクロンたちに襲われていた人のもとへ滑り込む。
かすみ「だいじょう……ぶ!?」
かすみんが突っ込んだ先にいたのは──
「…ヤブ」
またしても、ヤブクロンだった。
かすみ「へ!? ヤブクロンがヤブクロンを襲ってたの!? どゆこと!?」
しずく「かすみさん! そこにいた人は無事!?」
かすみ「それが……」
駆け寄ってくるしず子に、身を退けて、ヤブクロンの姿を見せると、
しずく「え、ヤブクロン……!?」
しず子も困惑したような顔になる。
が、考える間もなく、
- 650 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:54:24.45 ID:4td2vpP20
-
「ヤブゥッ!!!」「ヤブクゥッ!!!!」
ヤブクロンたちがまた背後から追い付いてきた。
そして、それに反応するように、
「ヤブゥ……」
目の前のヤブクロンは怯え始める。
かすみ「なんかわかんないけど、この子いじめられてるみたい……」
なんだか、放っておけずに立ち止まってしまう。
しずく「かすみさん!! 来てるよ!!」
でも、ここで立ち止まっているわけにはいかない、でも置いてくわけには……。
かすみ「……そうだ、ヤブクロンたち……このゴミの臭いが好きなんだよね。しず子!! 逆にめっちゃ良い匂いにしたら、ヤブクロンたち嫌がるんじゃない!?」
しずく「……! なるほど! やってみる!! ロゼリア!!」
「ロゼッ!!!」
しずく「“アロマセラピー”!!」
「ロゼェーー!!!!!」
しず子の指示と共にロゼリアを中心に、お花の良い香りが一気に周囲を包み込む。
「ヤ、ヤブ…」「ブクロンッ…」「ヤブゥ…!!!!」
すると、ヤブクロンたちはその匂いから逃げるように、一目散に撤退を始めたのだった。
しずく「……せ、成功した……」
かすみ「……はぁ……最初からこうすればよかったね……」
二人でその場にへたり込む。ただ、すぐにまだ目の前に自分が助けたヤブクロンがいたことを思い出す。
かすみ「あわわ、そうだった、ヤブクロンには苦しいよね……!?」
慌てて、目の前のヤブクロンに目を向けると、
「ヤブクゥ♪」
ヤブクロンはご機嫌な鳴き声をあげていた。
かすみ「あ、あれ……? 平気なの……?」
「ヤブゥ♪」
ヤブクロンはむしろ元気になっているような……。
ついでに言うなら……さっきまで襲い掛かってきていた灰色のヤブクロンたちと違って、紺色をしていた。
そんなヤブクロンは急に、
「ヤブゥ♪」
かすみんの顔に飛びついてきた。
- 651 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:55:03.78 ID:4td2vpP20
-
かすみ「むがっ!?」
しずく「かすみさん!? ヤブクロン! 助けてもらって嬉しいのはわかるけど、飛びつかないでください!?」
「ヤブク…?」
しず子が焦って、引きはがす。
しずく「大丈夫、かすみさん!?」
かすみ「…………」
しずく「……かすみさん?」
かすみ「しず子……このヤブクロン……」
しずく「?」
かすみ「めっちゃ良い匂いする……」
しずく「……え?」
👑 👑 👑
かすみ「くんくん……やっぱり、すごく良い匂いするよ、この子」
「ブクロン♪」
しずく「……うん、確かに。普通のヤブクロンと色も違うし……特殊個体なのかな」
かすみ「特殊個体? そんなのいるの?」
しずく「ヤブクロンって普段からゴミを食べてるから、あの臭いと強い毒性を持つポケモンなんだけど……個体によって、好きなゴミが違うらしいの」
かすみ「ゴミが違う……?」
しずく「廃液が好きだったり、生ごみが好きだったり、ボロボロになったおもちゃとかが好きってこともあるんじゃないっけ……」
かすみ「人で言う、好きな食べ物の好み的な……?」
しずく「そういうことだと思う……。それでこの子は……」
「ヤブクゥ♪」
「ロゼ」
ロゼリアが腕にある花から花弁を1枚、ヤブクロンの前に落とすと──ヤブクロンはそれをむしゃむしゃと食べ始めた。
「ヤブ♪」
かすみ「お花が好きってこと……?」
しずく「まあ、確かに……散って落ちた花弁も広義の意味ではゴミかもしれないね……」
かすみ「良い匂いのお花が好きだから、このヤブクロンも良い匂いがするんだ……。ってか、ロゼリアは花食べられてもいいの?」
「ロゼ」
しずく「もともとリーダー気質の子だから……子分に餌を分けてあげてる気分なのかも」
かすみ「ふーん……そういうものなんだ……」
まあ、別にロゼリアが嫌がってないならいいんだけど……。
- 652 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:56:13.16 ID:4td2vpP20
-
かすみ「もしかして、このヤブクロンがいじめられてたのって……」
しずく「たぶん、この匂いのせいだろうね……。私たちにとっては良い匂いだけど、ヤブクロンからしたら“あくしゅう”ってことだろうし……」
かすみ「それだと……この子、またいじめられちゃうんじゃ……」
「ブクロン?」
しずく「だろうね……」
かすみ「そんなの……可哀想……ヤブクロンは自分の好きなものを食べてるだけなのに……」
しずく「かすみさん……」
かすみ「どうにか……してあげられないかな……」
しずく「難しいかもしれないね……野生ポケモンたちは自分たちと違うことをしてる個体を追い出して、群れを守ろうとする習性があるから……」
「ロゼ…」
そういえば、しず子のロゼリアも似たような感じなんだっけ……。
そうなると、この子はこれからもいじめられるし、いつかはここを追い出されるってこと……。
……それなら、いっそ──
かすみ「……い、いや……それは…………でも……」
しずく「…………」
「ブクロン?」
かすみ「……そ、そんな顔してもダメです……か、かすみんは可愛いポケモンでチームを作るって決めてて……」
しずく「かすみさん」
かすみ「……」
しずく「心配なら、連れて行ってあげれば? それにどくタイプなら、フェアリータイプにも有利だし、探していた条件にも合ってるよ?」
かすみ「ぅぅ……でもぉ……」
かすみんはピカチュウとかピッピみたいな、いかにもな可愛いポケモンが……。
「ヤブクゥ…」
しずく「ほら、見ようによってはヤブクロンも愛嬌があって可愛いよ? この子は他のヤブクロンと違って臭くもないし」
かすみ「……あぁもう!! わかったわかりました!! 連れて行きます!! 一緒に行こう、ヤブクロン!!」
「ヤブク…♪」
しずく「ふふっ♪ 新しい仲間が増えてよかったね、かすみさん♪」
かすみ「うん……そうだね……。なんでだろ……かすみんの当初想像してた6匹からどんどん離れて行ってる気がする……」
ただまあ……。
「ヤブク♪」
嬉しそうなヤブクロンを見ていたら、悪くはないのかな、なんて思ったり思わなかったりするのでした。
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