このスレッドは1000レスを超えています。もう書き込みはできません。次スレを建ててください

侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

653 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:56:52.80 ID:4td2vpP20

    👑    👑    👑





その後、かすみんたちは叡智のゴミ捨て場の中を彷徨い──


かすみ「やっと出れた……光ですぅ……外の光ぃ……」
 「ブクロン♪」

しずく「外への道をヤブクロンが知ってて助かったね」

かすみ「それはホントに……」


ヤブクロンがいなかったら、未だに中を彷徨っていたかもしれないと思うと、少しゾっとする……。

そして、外に出た頃にはもうすっかり太陽は傾き始め、空が茜色に染まっていました。


しずく「もう夜になっちゃいそうだね……」

かすみ「ジム戦は明日にしよう……」


とにかく今はお風呂に入りたい……。

ずっとゴミ捨て場に居たせいで……たぶん、臭う……。

かすみんはくたくたな体にムチ打ちながら、乙女の尊厳を守るために、ホテル目指して、ダリアシティに戻っていくのでした。



654 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:57:53.98 ID:4td2vpP20

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【叡智のゴミ捨て場】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回●    . |_回o |     |       :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.32 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.28 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.32 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.27 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.24 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:134匹 捕まえた数:7匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.25 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.21 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.25 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.25 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.26 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:143匹 捕まえた数:9匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



655 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:01:30.00 ID:RGwRBCJA0

■Chapter034 『激闘! ダリアジム!』 【SIDE Kasumi】





──翌日。


かすみ「ふっふっふっ。雲一つない快晴……絶好のジム戦日和ですねぇ……!」


ホテルを出ると、空には青空が広がっていた。

まさに今日という日が、かすみんを祝福してくれているようです。


かすみ「対ヤザワ・にこ決戦兵器を手に入れたかすみんに敗北の文字はありません! もう戦う前から勝ったも同然ですね!!」

しずく「あはは……。それにしてもヤブクロン、ちゃんとどく技を使えてよかったね」

かすみ「それはホントに……」


こうして今日のために捕獲したヤブクロンですが……1つ懸念がありました。それはヤブクロンがまともにどくタイプの技を扱えるのかということです。

ご存じのとおり、かすみんのヤブクロンは普通のヤブクロンと違って、良い匂いがします。

それは、本来のヤブクロンたちとは毒性が違うということを意味していて……もしかしたら、どくタイプの技が使えない説がありました。

ただ、それはしず子と二人でいろいろ試した結果──


しずく「草花にも有毒種はあるもんね。それこそ、ロゼリアにもどくタイプはあるし……」

かすみ「そこからちゃんと毒を作り出してるみたいだね」


くさタイプのポケモンが使う毒に似たような成分のどく技が使えることがわかりました。

これで、どくタイプの技が全く使えないなんて言われたら、ジム戦対策で捕まえた意味がなくなっちゃいますからね……。

ただ、本来どくタイプのポケモンが使うような、いかにもやばそうな毒ではなさそうですが……むしろ、クリーンなイメージのかすみんにはぴったりですね!

──というわけで、準備は万端です!

しず子と話しているうちに、あっという間にジムへとたどり着いてしまいました。


かすみ「さぁ、勝負ですよ、ヤザワ・にこ……! たのもーー!!」


かすみんは気合い十分に、ジムへと入っていきます。

ジムに入ると、目的の人物はチャレンジャーを待っているところでした。


にこ「チャレンジャーね? いらっしゃい」

かすみ「はい! セキレイシティからきた、かすみんって言います!! どっちが本物のアイドルトレーナーに相応しいか、勝負ですよ!! ヤザワ・にこ!!」

にこ「……なんか、随分威勢の良い子が来たわね」

しずく「す、すみません……! かすみさん、ダメでしょ! 初対面の人にそんな失礼な態度取ったら……!」

かすみ「これから戦うんだもん! 勢いで負けちゃダメなんだもん!」


勝負は試合が始まる前から始まっているんです……!
656 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:03:23.14 ID:RGwRBCJA0

にこ「あーえっと……気合いたっぷりなところ、悪いんだけど……実はにこはバトルは出来ないのよね」

かすみ「はぇ……?」

しずく「どういうことですか?」

にこ「実はにこ、今はここのジムリーダーじゃないのよ」

かすみ「はぁ? 何言ってるんですか?」

しずく「こら、かすみさん! ……ですが、ダリアのジムリーダーは、にこさんで間違いないはず……ポケモンリーグ公式の情報でもそうなってたはずですよね?」

にこ「実はね……それ、フェイクなのよ。このジムでは、バトルの実力だけではなくて、それ以外の知恵を試すための──」

かすみ「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


かすみんは思わず、人生最大級の溜め息が漏れてしまいます。


にこ「……今説明してるところなんだけど」

かすみ「……またこれです……なんなんですか……かすみんがジムに挑もうとすると、だいたいこれじゃないですか……セキレイでも、ホシゾラでも、ウチウラでも、コメコでも……かすみんはまず出鼻をくじかれてばっかです……」

にこ「えっと……急にどうしたの……この子……?」

しずく「……すみません。こちらのかすみさん、ジム戦がスムーズに出来た試しがなくて……」

かすみ「それでダリアでもですか……あーやだやだ……ポケモンジムっていつでもトレーナーたちの挑戦を待ってるなんて言っておきながら、いっつもこんなんばっかり……」

しずく「か、かすみさん、ジムリーダーの人たちにも事情があるからさ……」

かすみ「わかってるよ? 今までがたまたまタイミングが悪かっただけだってことくらい。でも、なんですか。こっちはちゃんと案内見て、この人と戦うんだって、いろんなこと考えてやっとの思いでジムにたどり着くんですよ? なのに、目の前にジムリーダーはいるのに、自分は本当はジムリーダーじゃないとか、酷くないですか?」

にこ「ぐ……。痛いところを……」

しずく「そんないじけなくても……」

かすみ「いじけてないもん……」

にこ「……なんか、悪かったわね。……でも、このジムはそういうルールなのよ……」

かすみ「……いいですよ。じゃあ、早くそのルールとやら、説明してくださいよ。別にいいですよ、にこ先輩となんて戦わなくたって、かすみんの方が可愛いアイドルトレーナーに向いてることなんて、最初からわかってたんですから」


別にかすみんとしては、白黒付けてやろうとしていただけで、勝つことなんて最初から決まっていましたし、別にいいんです。

ただ、当のにこ先輩は、


にこ「……なんですって?」


かすみんの言葉を聞いて、キッと睨みつけてくる。


かすみ「えーだって、アイドルトレーナーって言う肩書の割に、やってることはただの受付さんじゃないですか〜。どっちかというと、裏方的な? そんな人、アイドル性でも、ポケモンバトルでもかすみん負ける気しないですし……というか、もう興味なくなっちゃいました」

にこ「……言ってくれんじゃない……こちとら、元四天王よ? アイドルとしてもバトルでも、そんじょそこらの新米トレーナー如きに、後れを取るとでも?」

かすみ「なんで新人トレーナーだって決めつけるんですか!?」

にこ「じゃあ、トレーナー歴何年よ? ジムバッジはいくつ持ってるの? こちとら歴戦のアイドルトレーナーで通ってんのよ、立ち振る舞い見れば、新米かどうかなんて一目瞭然じゃない。よくそんなんで、負ける気しないなんて大口叩けたもんね。無知って怖いわねぇ〜」

かすみ「はぁ〜〜〜〜!? 先にバトルから逃げたのはそっちじゃないですかぁ!? 何逆ギレしてるんですか!?」

にこ「逃げてないわよ!? ルールがそうだって言ってんでしょ!? あんた話聞いてたの!?」

かすみ「聞いてましたぁ〜! 要約したら、かすみんに恐れ慄いて、逃げ出したって内容だったってだけですぅ〜!」

にこ「ぬぅわんですってぇ!? ああもう、あったま来た……!! バトルスペースに出なさい! そこまで言うなら相手してやるわよ!!」

かすみ「いや、いいですよ〜? 今更無理しないで、本当のジムリーダーさんと戦うんで〜? かすみんに恐れ慄いた逃げ出したジムリーダーさん」

にこ「むっかぁーーー!! さすがのにこも、ここまでコケにされて黙ってられないわよ!! いいわ!! 私がジム戦してやろうじゃない!!」

かすみ「いいんですか〜? 負けて、泣いちゃっても知りませんよ〜?」

にこ「はっ! それはこっちの台詞よ!! ボコボコにしてやるわよ!!」
657 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:04:06.71 ID:RGwRBCJA0

にこ先輩は肩を怒らせながら、奥へと歩いていく。


にこ「ちょっと今、一本連絡入れてくるから、そこで待ってなさい!! 逃げるんじゃないわよ!!」

かすみ「にこ先輩こそ、逃げないでくださいね〜」

にこ「〜〜〜っ!!! 絶対ぎったんぎったんにしてやる……!!」


そう言いながら、にこ先輩はジムの奥にある部屋に消えていきました。

なんか知らないですけど、バトル出来るらしいです。

ま、別にかすみんはジムリーダーが誰でもいいんですけどね? どうせ勝つのはかすみんですし。

そんな中で、私たちのやり取りを見ていたしず子が一言ボソッと呟いた。


しずく「……確かにこれはキャラ被ってるかも」

かすみ「……でしょ! でも、これで白黒つけてやるから! 真のアイドルトレーナーはかすみんです!」

しずく「……そういうことじゃないんだけどなぁ……」

かすみ「え?」

しずく「うん、まあ、気にしないで。ジム戦、頑張ってね」

かすみ「任せて!」


かすみんの実力見せつけてやりますよ……!!





    💮    💮    💮





花丸「今日も平和ずらぁ……」


天窓から入ってくる太陽の光を浴びながら、今日も読書。

今日は挑戦者来るかなぁ……。

お茶を啜りながら、ぼんやり過ごしていると──prrrrと備え付けの電話が鳴る。


花丸「もしもし?」

にこ『花丸、ちょっといい?』

花丸「にこさん。何かあったずら?」

にこ『今、ジムに挑戦者が来たんだけど』

花丸「あ、はーい。いつ来てもいいように、準備を──」

にこ『私が相手することになったから』

花丸「ずら?」

にこ『それだけ、じゃあね──』

花丸「あ、ちょっと、にこさ……切れちゃった……」


なんか、事情が全くわからなかったんだけど……。


花丸「まあ……それならそれでいっか……」


マルは再びお茶を一口。


花丸「今日も平和ずらぁ……」
658 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:04:52.21 ID:RGwRBCJA0

再び読書に没頭するために、本を手に取るのだった。





    👑    👑    👑





にこ「待たせたわね……」

かすみ「お構いなく〜。かすみんはどっかのジムリーダーと違って、いつでもどこでも準備万端ですので〜」

にこ「いちいち、むかつく言い方するわね……まあ、いいわ。バトルが始まったらそんな余裕かましてる場合じゃないだろうから。所持バッジの数はいくつ?」

かすみ「3つです」

にこ「わかった。使用ポケモンは3体。全て戦闘不能になった時点で決着よ」

かすみ「にしし……今回しっかり対策もしてきましたから、かすみん圧勝しちゃいますよ〜」

にこ「せいぜい今のうちに粋がっておくといいわ!」


両者、ボールを構える。


にこ「ダリアジム・ジムリーダー『大銀河宇宙No.1! フェアリーアイドル』 にこ! こてんぱんにしてやるからかかってきなさい!!」


チャレンジャー、ジムリーダー、両者の手からボールが放たれて──バトル開始です!





    👑    👑    👑





かすみ「いくよ! ヤブクロン!」
 「ブクロン!!」

にこ「トゲチック! 目に物見せてやりなさい!」
 「トゲチックッ!!!」


にこ先輩の1番手はトゲチック。

 『トゲチック しあわせポケモン 高さ:0.6m 重さ:3.2kg
  優しい人の そばに いないと 元気が でなくなってしまう。
  羽を動かさずに 空に浮かべる。 純粋な 心の 持ち主を
  みつけると 姿を 現し 幸せを 分け与えると 言われる。』

そして、かすみんの1番手はもちろん、昨日捕まえたばっかりのヤブクロンです!


にこ「はぁ……」


が、にこ先輩、かすみんのヤブクロンを見るや否や溜め息を吐きました。


かすみ「なんですか……」

にこ「フェアリーのジムだからって、はがねタイプとかどくタイプを用意してくる。芸がないわね……」

かすみ「む……かすみんのヤブクロンは普通のヤブクロンと違います!」
 「ブクロン!!」

にこ「確かに色違いだけど……」

かすみ「舐めてかかってると痛い目見ますよ! “ヘドロばくだん”!!」
 「ブクローンッ!!!」


ヤブクロンの口から毒の塊が飛び出す。
659 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:06:46.62 ID:RGwRBCJA0

にこ「それが芸がないって言ってんのよ。“サイコキネシス”!」
 「チックッ!!!」


が、“ヘドロばくだん”はトゲチックに届くことなく、空中で静止する。


かすみ「んな!?」

にこ「こちとら、弱点タイプへの対策なんて出来てるに決まってるでしょ。トゲチック、それは捨てちゃいなさい」
 「チック!!」


トゲチックは空中で止めた、“ヘドロばくだん”を脇に放り投げる。

べしゃっと音を立てて、何もない場所に散る“ヘドロばくだん”。


かすみ「ぐぬぬ……! “どくどく”!!」
 「ブクロッ!!!」


今度は鋭く毒液を飛ばす。


にこ「無駄よ! “しんぴのまもり”!」
 「チックッ!!!」


今度は現れたしんぴのベールが“どくどく”を阻む。


かすみ「こ、攻撃が通らない……!」

にこ「もちろん、対策は防御だけじゃないわよ!! “サイコショック”!!」
 「チックッ!!!」


にこ先輩の指示と同時にヤブクロンの周囲にブロックのようなものが現れて、


 「ヤブクロッ!!!?」


ヤブクロンに向かって突撃してきた。


かすみ「わ、わー!! ヤブクロン!?」

にこ「どくタイプのヤブクロンには、効果抜群ね」

かすみ「フェアリータイプの癖に、エスパータイプの技使うなんてずるいですよ!!」

にこ「ずるくないわよ。これは対策。あんたがこのジムに挑戦する前にしてたことと同じよ」

かすみ「ぐ、ぐぬぬ……言い返せない……」

にこ「さらに畳みかけるわよ!! “じんつうりき”!!」
 「チックッ!!!」

 「ブクロッ!!!?」


さらに追撃で、念動力による衝撃がヤブクロンを吹っ飛ばす。


かすみ「は、反撃しなきゃ……! “ヘドロばくだん”!!」
 「ヤ、ヤブクーーーッ!!!!」


再び、ヘドロの塊を発射する。


にこ「だから、効かないって言ってるでしょ!!」
 「トゲチックッ!!!」


でも、やっぱりこっちの攻撃は“サイコキネシス”で逸らされてしまう。
660 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:08:54.39 ID:RGwRBCJA0

かすみ「ぐ、ぐぬぬ……!! 一旦逃げる!! ヤブクロン! 走り回って!」
 「ブクロン!!」

にこ「あら、もう逃げの一手?」

かすみ「うるさいですねぇ! 今、次の作戦を考えてるんですよ!!」


とにかく狙いの的にされないように……。


にこ「なら、“みらいよち”よ!」
 「トゲチックッ!!!」

かすみ「!?」


トゲチックの周囲に何かエネルギーの塊のようなものが現れたと思ったら、それはすぐに掻き消える。


かすみ「な、なんですか今の……」

にこ「“みらいよち”は未来に向かって予め攻撃をしておく技よ。逃げ回るのは結構だけど、もうあんたたちが逃げ回る先に、攻撃は置いてきた」

かすみ「う、うぇぇ!? そんなのズルじゃないですかぁ!?」

にこ「さぁ、いくらでも逃げ回ればいいわ!! “みらいよち”の攻撃が来る前に対策を思いつかないと、あんたの負けだけどね!」

かすみ「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……!! 徹底して、エスパー技ばっかり……!!」

にこ「対策の対策なんて簡単なのよ。相手がしてくることがわかりやすくて、逆に大助かりだわ。あんた単純そうだし」

かすみ「う、うるさいですっ! こうなったら、肉弾戦ですぅ!!」
 「ブクロンッ!!」


走り回っていた、ヤブクロンは、トゲチックの方に方向転換する。


にこ「相手するわけないでしょ! “サイコキネシス”!!」
 「チックッ!!!!」


トゲチックがこっちに向かって手をかざすと──


 「ブ、ブクロ!!!?」


ヤブクロンは天井に向かって、吹っ飛んでいく。


かすみ「わー!!!? ヤブクロン!! 着地!! 天井に着地!!」
 「ブクロンッ!!!!」


ヤブクロンは身を捻って、どうにか天井に両足で着地、そのまま天井を蹴って、飛び出す。


にこ「へー! やるじゃない! でも、空中じゃ技が避けられないわね!! “サイコショック”!!」
 「チックッ!!!」


空中から一直線にトゲチックに向かっていく、ヤブクロンの進行方向に、大量の念力で出来たブロックが出現する。

そこに突っ込むようにして、飛び込んでいくヤブクロン。


 「ブ、ブクロンッ…!!!」

かすみ「頑張ってヤブクロン……!!」


そのまま、エスパーエネルギーの障害物を突っ切って、


かすみ「抜けた……!! お返ししますよ!! “しっぺがえし”!!」

 「ヤーーブクロンッ!!!!」


全身を使って、トゲチックに反撃を試みる。
661 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:09:48.08 ID:RGwRBCJA0

 「チチック…!!!」
にこ「よく耐えたって言ってあげたいけどね、エスパー技は遠距離だけじゃないのよ!!」

かすみ「!?」

にこ「“しねんのずつき”!!」
 「チックッ!!!!」


至近距離にいるヤブクロンに返しの“しねんのずつき”が炸裂する。


 「ブ、ブクロンッ!!!?」


ずつかれたヤブクロンは、一瞬怯んでたたらを踏む。


にこ「“じんつう──」

かすみ「怯まないで!! “ひっかく”!!」
 「ブクロンッ!!!!」


すかさず追撃してくるにこ先輩。でも距離を取らせたら、またやり直しだ……!

ヤブクロンは足を踏ん張って、そのまま短い手を振りかぶって、トゲチックに喰らいつく。


にこ「苦し紛れね!! そんなのほとんど効かないわよ!! “しねんのずつき”!!」

かすみ「受け止めて!!」
 「ブクロンッ!!!!」


再び、頭から突っ込んでくる、トゲチックを──真正面から受け止める。


にこ「んな!?」

かすみ「ヤブクロン!! 放しちゃダメだよ!!」
 「ブクロンッ!!!」

にこ「結構攻撃してるはずなのに……どんだけタフなのよ……!!」

かすみ「だから、言ったじゃないですか!! かすみんのヤブクロンは普通のヤブクロンと違うんです!!」

にこ「……まあ、それは認めてあげるわ。でも、あんた何か忘れてるんじゃないの?」

かすみ「え?」

にこ「……あんたたちは過去から攻撃されることが決まってるって言ったわよね!」

かすみ「!? あ、やばっ!?」


直後、ヤブクロンの周囲の空間がぐにゃりと歪む。

“みらいよち”による強大な念動力の力がヤブクロンに向かって、襲い掛かって来る。


かすみ「ヤブクロン、逃げ……!?」


かすみん、咄嗟に指示を出しますが、組み合った状態のヤブクロンは逃げる暇もなく。


 「ブ、ブクローーンッ!!!!?」


なすすべもなく、“みらいよち”の攻撃がヤブクロンを直撃した。


かすみ「……あ」

にこ「……“しねんのずつき”を受け止められたときは正直ビビったけど……。さすがにこれは耐えきれないでしょ。エスパータイプの中でも最強クラスの威力の技なんだから」


にこ先輩は得意げに言う。

……が、
662 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:10:40.89 ID:RGwRBCJA0

 「ト、トゲチッ!!!?」
にこ「え……?」


トゲチックの焦るような鳴き声に、にこ先輩が視線を向けると、


 「ブクロン…!!!!」


ヤブクロンはまだその場に立って、トゲチックの頭を抑えつけたままだった。


にこ「……はぁ!? どうなってんのよ!? “みらいよち”が当たったのよ!?」
 「ト、トゲッ!!!」


焦るにこ先輩とトゲチック。ヤブクロンに捕まったまま、自由の効かないトゲチックに向かって、


かすみ「“ヘドロばくだん”!!」
 「ヤーーーブクッ!!!!!」


至近距離から“ヘドロばくだん”をお見舞いする。


 「ト、トゲチッ…!!?」


ヘドロが派手に炸裂して、後方に吹っ飛ばされるトゲチック。


にこ「い、一旦撤退……!!」

かすみ「逃がしません!! “こうそくいどう”!!」
 「ブクロンッ!!!!」


逃げようとするトゲチックに、“こうそくいどう”で肉薄する。


 「チ、チックッ!!?」
にこ「はぁ!? “こうそくいどう”!? そんな技覚えないでしょ!?」

かすみ「そもそもヤブクロンは、“ひっかく”を覚えませんよ!」

にこ「!?」

かすみ「トドメです!! “ヘドロばくだん”!!」
 「ヤーブクゥッ!!!!!」


至近距離から二度目の“ヘドロばくだん”を炸裂させ、


 「ト、トゲチィィィ…」


ヘドロまみれになった、トゲチックは耐えきれず、その場に倒れこんだのだった。


にこ「う、うそ……」

かすみ「……あっれぇ〜? 対策の対策は完璧なんじゃないんですかぁ〜?」

にこ「ぐ、ぐぬぬ……こ、こんなの初見でわかる訳ないじゃない!!」


激昂するにこ先輩の前で、ヤブクロンの姿が靄のようにブレる。

そして、その姿はどんどん小さくて黒い狐のような、シルエットに変わっていく。そう、この子はヤブクロンじゃない、


かすみ「にっしっし……ナイスだよ、ゾロア!!」
 「──ガゥッ!!!」


“イリュージョン”で化けたゾロアだったんです。
663 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:11:58.30 ID:RGwRBCJA0

にこ「ず、ずるなのはどっちよ!!」

かすみ「ずる? これは対策って言うんですよ〜。いや〜こっちもにこ先輩が対策の対策をしてくるだろうなんて、わかりきってたんで、対策の対策の対策を仕込んできたんですよね〜」


まあ、ホントのことを言うと、エスパータイプで対策を打ってくると予想したのはしず子なんだけど……。

あくタイプのゾロアにとって、エスパータイプの攻撃は効果がありません。

だから、最初から食らっている振りをして、チャンスを伺っていたというわけです。


かすみ「あれ、なんでしたっけ? 芸がないとか、わかりやすくて助かるとか、誰かが言ってたような気がするんですけど〜」

にこ「ぐぬぬぬぬぬぬ……。……って、ちょっと待ちなさいよ! “サイコキネシス”で吹っ飛ばされてたじゃない!!」

かすみ「ああ、あれは“とびはねる”ですよ。派手に吹っ飛ばされた演技をしてました」

にこ「な、なんて姑息な……」

かすみ「姑息? これはかすみんとゾロアの作戦勝ちですよ。それに、にこ先輩がヤブクロンは“ひっかく”を覚えないって知ってれば、見破ることも出来たはずですよ〜?」

にこ「……ぐぬぬ……確かにそれを言われると、こっちの知識不足だったと言わざるを得ない……」


にこ先輩はそう言って、項垂れる。


にこ「……まあ、いいわ。ネタがわかっちゃえば、相性有利なゾロアなんて、数の内に入らないわ」

かすみ「……」


にこ先輩は負け惜しみのようなことを言うけど……あながちただの負け惜しみとも言い切れない。

ゾロアで出来るのは、それこそ不意を打っての一発勝負だけで、真っ向から戦って勝つのは少し厳しい。


かすみ「ゾロア、お疲れ様、戻って」
 「ガゥッ──」


だからかすみんは、ゾロアをボールに戻す。


にこ「賢明ね」


こうすれば次にゾロアを出したときに、また“イリュージョン”で姿を変えて場に出せるけど……。

たぶん、次は真っ先に“イリュージョン”を破るのを優先してくるはずだから、実質ゾロアが出来ることはここまで。


かすみ「さぁ、今度こそ出番ですよ、ヤブクロン!」
 「──ブクロン!!!」

にこ「今度こそ出てきたわね……。さぁ行くわよ、ペロリーム」
 「──ペロリ〜」


にこ先輩の2番手はペロリーム。

 『ペロリーム ホイップポケモン 高さ:0.8m 重さ:5.0kg
  嗅覚は 人の 1億倍以上。 空気中に 漂う わずかな においでも
  まわりの 様子が すべて わかる。 体毛に たくさん 空気を
  含んでいるので 触り心地は 柔らかく 見た目より 軽い。』


にこ「今度こそ、“サイコキネシス”!!」
 「ペロリ〜」


早速のエスパー攻撃。

今度は本当のヤブクロンなので、無効には出来ませんが──


 「…ヤブゥ」


ヤブクロンはちょっと浮いただけで、すぐにポトっと地面に落ちる。
664 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:12:54.67 ID:RGwRBCJA0

にこ「なんかしょぼいことになってる……!?」

かすみ「“ドわすれ”をしたから、エスパー技もそんなに痛くないですよ!!」


“ドわすれ”は痛みすらも忘れて、相手の特殊攻撃の威力を大幅に抑える技。

お陰でタイプ相性の悪いヤブクロンでも十分対策しきれます!


にこ「さすがにあそこまでやってくるのに、対策してないわけないか……! ただ、ヤブクロンに関しては、ダリアの人間は詳しいのよ! ペロリーム、“アロマセラピー”!!」
 「ペロリ〜〜」


ジム内に良い匂いが充満する。


にこ「“あくしゅう”が大好きなヤブクロンからしてみたら、この芳香は激臭のはずよ! 苦しみなさい!」

 「ヤブク〜♪」

にこ「……って、なんか嬉しそうなんだけど!?」

かすみ「だから、かすみんのヤブクロンは特別だって言ったじゃないですか! 良い匂いは大好きですよ! “ヘドロばくだん”!!」
 「ヤブックッ!!!!」


今度こそ、本物のヤブクロンから放たれる“ヘドロばくだん”ですよ!


にこ「やば……! “かえんほうしゃ”!!」
 「ペロリ〜〜〜!!!!」


ペロリームから、放たれる“かえんほうしゃ”が“ヘドロばくだん”を相殺する。


にこ「“10まんボルト”!!」
 「ペロ〜〜〜!!!!」


畳みかけるように飛んでくる電撃が、ヤブクロンに直撃する。


かすみ「わわっ!? 大丈夫!? ヤブクロン!?」
 「ヤブク〜…」

かすみ「“ドわすれ”が活きてる……!」

にこ「く……厄介ね……!」


そこまでダメージの通りはよくない。とはいえ、さっきから多彩な技ですね……!

何か仕掛けられる前に、動くべきですね……!


かすみ「ヤブクロン、動くよ!!」
 「ブク…ロロロロ」

にこ「うわぁ!? なんか、吐き出した!? ……って、花!?」


かすみんの合図と共に、ヤブクロンが体内のゴミを吐き出し始める。

まあ、お花なんですけど……。


かすみ「軽くなったね! 行けー! ヤブクロン!」
 「ヤブクーー」


ヤブクロンがペロリームに向かって走り出す。


にこ「って、速っ……!?」


にこ先輩も驚くほどの猛スピードで走り出したヤブクロン。

今さっきやったのは、“ボディパージ”。自分の体を構成するゴミを外にパージして、軽くなるのと同時に、速くなる技です!!
665 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:13:42.57 ID:RGwRBCJA0

かすみ「“とっしん”!!」
 「ヤブクーーー」


近接戦に持ち込み、ペロリームに真正面から突撃する、が、


にこ「“コットンガード”!」
 「ペロッ」


もこもこになった体毛にボフっと音を立ててぶつかり、勢いが殺される。


かすみ「防御された……! でも、速さで攪乱すればチャンスはいくらでもありますよ!」

にこ「動き回られると厄介ね……! でも、素早さ操作はこっちも得意なのよ……!」


高速で離脱しようとした矢先、


 「ヤ、ヤブ…」


ヤブクロンは今しがた突っ込んだ体毛から抜け出したと思ったら、急に動きが鈍くなる。


かすみ「!? 何かされた!?」


動きづらそうにするヤブクロンの体のあちこちに、綿がまとわりついている。


かすみ「まさか、“わたほうし”……!?」

にこ「正解よ! さらに、その綿はよく燃えるわよ! “かえんほうしゃ”!!」
 「ペロリーーーー!!!!」

 「ヤ、ヤブクーーーー!!!?」


ペロリームの噴き出した火炎が、ヤブクロンに纏わりついていた綿に引火し、ヤブクロンを一気に燃やしていく。


かすみ「やばっ!? “ころがる”で消火して!!」
 「ヤ、ヤブクーー!!!!」


ヤブクロンは体を転がして、フィールドに押し付けながら消火を図る。

ただ、“わたほうし”は本当によく燃えるらしく、なかなか火の勢いが収まらない。


かすみ「こーなったら、そのまま突っ込んじゃえ!!」
 「ヤブクーーー」

 「ペ、ペロリーー!!?」
にこ「のわーー!? こっち来るんじゃないわよ!!」


そのまま、ペロリームに突撃すると──ペロリームの体毛に引火して、2匹は一気に炎に包まれる。


 「ペ、ペロォォォ!!!!」
 「ブ、ブクロンーー!!!!」

にこ「ちょっとぉ!! 何してくれてんのよ!?」

かすみ「先に火つけてきたのはそっちじゃないですかぁ!?」


でももはや、こうなったら後は根比べ……!


かすみ「“ドわすれ”してるから、こっちに分がある……と思う!! ヤブクロン苦しいかもしれないけど、頑張って!!」
 「ブ、ブクローーーン!!!!!」

 「ペ、ペロリィィィィ!!!!!」
にこ「く、ヤバイ……! これじゃ、ペロリームの方が先に……!」


あくまでくっつけられた綿毛が燃えているだけのヤブクロンと、自身の体毛が燃えているペロリームでは炎によるダメージにも差が出てくる。
666 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:14:59.67 ID:RGwRBCJA0

かすみ「この勝負、もらいましたよ!!」

にこ「ぐ……!! こうなったら、止むを得ない……! 最後の手段よ、ペロリーム!!」

かすみ「え!?」

にこ「“ミストバースト”!!」
 「ペロ、リィィィィィィィィ!!!!!!!!」

 「ブクロォォォォ!!!!?」


にこ先輩の合図と共に、ペロリームがピンク色の光と共に──大爆発した。


かすみ「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!? 何してくれてるんですかぁ!!!?」

にこ「ああなったらもう、死なばもろともよ……!!」


ピンクの爆炎が晴れると──


 「ブ、ブクロン……」

 「リィ〜〜〜ム……」


ヤブクロンとペロリームが2匹とも、戦闘不能になっていた。


かすみ「ぐぬぬ……あのままなら、勝ってたのはこっちだったのに……」

にこ「勝てないと踏んだら、相討ちを取りに行くのも立派な戦略よ」

かすみ「この卑怯者!! 恥ずかしくないんですか!?」

にこ「先に相討ち覚悟で突っ込んできたのはそっちでしょ!?」

かすみ「ぐぬぬ……」

にこ「さぁ、早く次のポケモン、出しなさいよ」

かすみ「そ、そっちこそ……!」


二人で次のポケモンを選択する。

ゾロアを出す……? いや、“イリュージョン”がバレている状態で、フェアリータイプのエキスパートと戦うのは、かなり苦しい……。

実質、最後の手持ちがやられたら負けと言っても過言ではない。

なら……ここでやりきるしかない。


かすみ「頼みますよ……! かすみんのエース!」
 「──ジュプト!!!」

にこ「ジュプトルね。こっちはこの子よ!」
 「──フィァ」

かすみ「ニンフィア……!」

にこ「へー、よく知ってるじゃない」


そりゃ知ってますよ……ヤザワ・にこのエースと言えばニンフィアなんですから……。

もちろん、今回のはジム戦用の個体でしょうけど……。

 『ニンフィア むすびつきポケモン 高さ:1.0m 重さ:23.5kg
  リボンのような 触角から 敵意を 消す 波動を 発して 争いを
  やめさせる。 ひとたび 戦いとなれば 自分の 何倍もある
  ドラゴンポケモンにも いっさい怯まず 飛びかかっていく。』


にこ「さぁ行くわよ、ニンフィア!! “ハイパーボイス”!!」
 「フィアアアアアァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」

 「ジュプトォ…ッ!!!!!!!」
667 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:15:32.39 ID:RGwRBCJA0

出会い頭から、大音量の音波攻撃でジュプトルを吹っ飛ばされる。

──吹っ飛ばされながらも、ジュプトルは受け身を取って立ち上がり、フィールド内を走り始める。


かすみ「とにかく、あの音攻撃……! 食らわないようにしないと……!」


単純だけど、爆音による攻撃は強いと言わざるを得ない。

威力もだけど、何より範囲が広すぎる。

避けるとなると、距離を取って、少しでもダメージを抑えるか、あとは音が発せられるニンフィアの前方から逃げるかだ。

かすみんの選択は後者! ジュプトルの身のこなしを活かして、とにかく回り込んで避ける!

相手の横や背後を取れば、攻撃のチャンスも訪れるはずです……!


にこ「最後は逃げ回るのね! “ハイパーボイス”!!」
 「フィアァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

かすみ「ジュプトル!! とにかく、ニンフィアの前に行かないように!!」
 「ジュプトォ!!!!!」

にこ「ちょこまかと……!! “ハイパーボイス”!!」
 「フィィィィァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」


床を蹴り、壁を蹴り、身のこなしを生かして、どうにか攻撃を回避しながら、フィールド内を駆け回る。

この制圧力は本当に厄介だし、それこそゾロアじゃ対抗できない……!

ジュプトルでどうにか決め切らないと……!!


にこ「逃げてばっかりじゃ、勝てないわよ!!」


にこ先輩がなんか吠えてますけど、こればっかりは避けないわけにはいかない。


にこ「あくまで逃げるってことね……なら、これならどう! “スピードスター”!!」
 「フィァーー!!!!」


ニンフィアから、ピンク色をした星型弾が飛び出して、ジュプトルを追尾し始める。


かすみ「なんか追ってきてるし……!!」

にこ「“スピードスター”はホーミングよ!! 逃がさないわ!!」

かすみ「ぐぅ……! とにかく、足を止めちゃだめだよ、ジュプトル!!」
 「プトルッ!!!」

にこ「足ならこっちから、止めてあげるわ!!」


にこ先輩がそう言うと、ニンフィアがジュプトルの進行方向に、顔を向ける。

そりゃ、“スピードスター”からの逃げ先に撃ってきますよねぇ……!?


にこ「“ハイパーボイス”!!」
 「フィィィアァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」

かすみ「やばっ! ジュプトル!! 180度切り替えし!!」
 「プトルッ!!!」


音波の射程から逃れるために、今追ってきている“スピードスター”の方にあえて突っ込ませる。

突っ込みながらも、“スピードスター”の弾と弾の合間を掻い潜るように、身を捩らせながらの回避。


かすみ「せ、セーフ……」

にこ「へー! やるじゃない! でも、まだ“スピードスター”は追ってくるわよ!」


にこ先輩の言うとおり、“スピードスター”も折り返して、再びジュプトルを追いかけまわす。
668 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:16:11.53 ID:RGwRBCJA0

にこ「今の回避はなかなかだけど、そう何度も避け続けられるかしらね!」

かすみ「ぐぅ……!」


確かにこのままじゃジリ貧だ。

どこかで攻撃に転ずるしかない。


かすみ「ジュプトル! “スピードスター”に向かって、“タネマシンガン”!!」
 「プトルルルルル゚!!!!!!」


逃げ回りながらも、“スピードスター”を迎撃して、少しでも余裕を作ろうとする。

が、


にこ「なら追加の“スピードスター”よ!」
 「フィァーー!!!!!」

かすみ「ぎゃーー!? 増えたーー!?」


撃ち落としたところで、また新しい“スピードスター”が飛んでくるだけ。

このままじゃキリがない……!


にこ「どんだけ頑張って逃げても無駄よ無駄。音よりも速く動けない以上、逃げ切ることなんて不可能だわ」

かすみ「ぐぬぬ……」


悔しいけど、こればっかりはにこ先輩の言うとおりかもしれない。

確か、前にしず子が言っていた気がする……音ってめっちゃ速いんだよね。

ジュプトルがいかに素早いとは言え、音の速さより速く動くことは難しい。


かすみ「どうする……どうする……」


頭を回転させながら、どうにか打開策を考えるけど……逃げるのが精いっぱいで、なかなかいい案が浮かばない。


かすみ「やっぱり音より速く攻撃するしか……」


でも、そんな方法……。


かすみ「……あ、あれ?」


記憶の中で、何かが引っ掛かった。

音がすごく速いって、確かにしず子から聞いたけど……音が一番速いって話じゃなかった気がする。

なんだっけ、何か……音よりも速いものがあるって……。


かすみ「そうだ……ジュプトル!!」
 「プトル!!」

かすみ「音を、速さで、ぶち抜くよ!!」
 「プトルッ!!!!」


かすみんが天を指さしながら言うと、ジュプトルは壁を蹴りながら、ジムの上の方へと駆けあがっていく。


にこ「何するつもりか知らないけど、そんな方向に行ったら完全に的よ!!」
 「フィア!!!!」
669 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:16:47.33 ID:RGwRBCJA0

ニンフィアが空中のジュプトルに向かって、口を開く。

“ハイパーボイス”が来る……!!

チャンスは一度……!

天窓から差し込んだ光を背に受けながら、ジュプトルは──腕の刃を前に構えた。


にこ「“ハイパーボイス”!!」
 「フィィィィィアァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」


……あとで教えてもらったことだけど、この距離だとニンフィアの音波が届くまでの時間は1秒にも満たないらしいです。そんな時間の中──


にこ「な……!」


それよりも速く、天窓から集めた一筋の光が、一直線にニンフィアを貫いていた。


かすみ「──“ソーラーブレード”……!!」


直後、爆音の直撃を受けて、ジュプトルが天窓に叩きつけられ、さらに追い打ちをかけるように、“スピードスター”がジュプトルを襲って、エネルギーが爆ぜる。


 「ジ、プトォ……」


無防備な空中でありったけの攻撃を受けたジュプトルは、戦闘不能になって落下してきますが、


かすみ「……はぁ……はぁ……! かすみんたちの、勝ちです!!」

 「フィ、ァ……」


光速の剣で撃ち抜かれたニンフィアも、攻撃に耐えきれずに、地に伏せったのでした。

ワンテンポ遅れて、ドサっと地面に落ちたジュプトルは、


 「プトォ…ル」


最後の力を振り絞って、かすみんに向かって親指を立ててきた。

最後の力を振り絞ってやることがサムズアップだなんて、なんて粋なんでしょうね、この子は……!

まさにかすみんのエースに相応しいです!

思わず、かすみんも親指を立てて返しちゃいます。


かすみ「ナイスファイトだよ! ジュプトル!」
 「プトォル…!!!」

にこ「……う、うそでしょ……?」

かすみ「さぁ、にこ先輩。言うことがあるんじゃないですか? まだ、かすみんの手持ちにはゾロアが残ってますよ!」

にこ「ぐ……。……3匹全て戦闘不能。よってこの勝負、チャレンジャーかすみの勝利よ……」

かすみ「ふっふっふっ……どんなもんですか!!」

にこ「…………」

かすみ「やっぱ、かすみんに敗北の二文字はなかったってことですねぇ〜」

にこ「…………ニンフィア、ありがとう。ゆっくり休んで」


にこ先輩はニンフィアをボールに戻しながら、ゆっくりとこっちに歩いてくる。


かすみ「ほらほら、どうですか、かすみんの実力は? 褒めてくれていいんですよ? 崇めてくれていいんですよ?」

にこ「…………」


にこ先輩が無言で近寄ってくる。
670 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:17:28.39 ID:RGwRBCJA0

かすみ「……あ、あの……もしかして、めっちゃ怒ってます……?」

にこ「…………」

かすみ「あ、あのあのあの……こ、これも勝負なので……お、怒んないでくださいよ……!」

にこ「かすみ」

かすみ「ぴゃ、ぴゃぃ!?」

にこ「……にこの負けよ」

かすみ「……へ?」


かすみん、間抜けな声を出してしまいました。


にこ「……見くびってたわ。正直、生意気な態度について言いたいことはいくらでもあるけど……勝負で負けたことについては、認めざるを得ないわ。あんたの勝ちよ」


そう言いながら、にこ先輩はかすみんの手に何かを握らせる。


かすみ「あ……これ……」

にこ「ダリアジムを突破した証──“スマイルバッジ”よ。持って行きなさい」

かすみ「にこ先輩……」

にこ「何よ?」

かすみ「もしかして……にこ先輩、結構良い人ですか?」

にこ「……あんた最後まで失礼な奴ね……」


にこ先輩はそう言って溜め息を吐く。


しずく「──す、すみません、にこさん……! かすみさん、そういう態度取っちゃ、めっ! だよ!」

かすみ「だ、だって……」

しずく「正々堂々バトルした相手には、最後に言うことがあるでしょ」

かすみ「ぅ……。……にこ先輩、ジム戦ありがとうございました……」

にこ「……ふふ。どういたしまして」


にこ先輩は苦笑いしながら、肩を竦めた。
671 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:18:32.59 ID:RGwRBCJA0

にこ「それにしても……よく“ハイパーボイス”の中心を“ソーラーブレード”で撃ち抜こうなんて思ったわね」

かすみ「え、えっと……光の方が音より速いって……前にしず子が言ってたから……」

にこ「なるほどね……。でも、それを実行する胆力は大したものよ」

かすみ「えへへ……そ、それほどでも……」

にこ「にこの次にすごいと認めてやってもいいわ」

かすみ「……はぁ〜〜〜?」

にこ「最近の新米トレーナーも捨てたもんじゃないわね」

かすみ「勝ったのはかすみんなんですけど〜? この期に及んで、まだ自分の方がかすみんより上だと思ってるんですか〜?」

にこ「はぁ……ジムリーダーにはね、本気の手持ちってのがあるのよ。ジム戦突破の実力はもちろん認めてあげるけど、本気のにこに勝とうなんて、100年早いわ」

かすみ「な、な、な……!! なんですか、その態度!! じゃあ、本気の手持ち出してくださいよ!! かすみんがボコボコにしてやりますよ!!」

にこ「やめときなさい。泣いて帰る羽目になるわよ」

かすみ「それはこっちの台詞ですよ!! ぼっこぼこにしてやりますから、フィールドについてください!! しず子!! 手持ち回復して!! かすみんのバッグの道具使っていいから!!」

しずく「え、いやー……本当にやめておいた方が……」

かすみ「いいから!! 早く、今すぐ!!」

にこ「本当にいいのね? 本気の手持ちを使っても」

かすみ「当たり前です!! これで手加減なんかしたら、かすみん許しませんからね!!」





    👑    👑    👑





にこ先輩の本気の手持ちとやらとの戦いは……かすみんの手持ちの数に合わせて5匹対5匹で行われました。

結果は──


かすみ「──……ぅ……ぇぐ……しず子ぉ……っ……」

しずく「よしよし。頑張った頑張った」

かすみ「……がずみん……でもあじもでながっだよぉ……っ……」

しずく「仕方ないよ、相手は本当に歴戦のトレーナーなんだから。いつか強くなって、見返せるように頑張ろう! ね?」

かすみ「ぅ……ひぐ……っ……うん……っ……」


にこ先輩の1匹目のポケモンに5匹全員為すすべもなくやられるという惨敗に終わりました。


かすみ「……いつか……かすみんが勝つもん……」

しずく「うん、その意気だよ、かすみさん!」


いつか、誰にも負けないポケモントレーナーになってやります……。

もちろんアイドルトレーナーとしても一番になれるように、かすみん、これからも強くなるんですから……!

一番星が輝くダリアの星空の下、涙をぐしぐしと拭いながら、次へ進むために、歩いて行きますよ……かすみんは……!



672 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:19:11.28 ID:RGwRBCJA0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ダリアシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  ●     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.34 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.32 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.32 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.27 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.27 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:136匹 捕まえた数:7匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.25 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.21 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.25 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.25 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.26 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:145匹 捕まえた数:9匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



673 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 03:10:02.94 ID:s0SNcJvm0

 ■Intermission🎙



──ローズシティ。ローズジム。


菜々「真姫さん、こちらが今週の予定です」

真姫「ありがとう、菜々」


組んだスケジュールが入力された端末を手渡すと、真姫さんはそれに目を通し始める。

ジムリーダーを務める傍ら、医者としての研究、さらにこの街の多くの企業に影響を持っているニシキノ家のご令嬢である真姫さんは、常に多忙だ。

こうして、秘書をやらせてもらうようになり、実際に彼女のスケジュールを管理していると、それがよくわかる。

管理と言っても……私がやっているのは、彼女に来るアポイントメントを整理している程度だけど……。


真姫「うん。これで問題ないわ」

菜々「ありがとうございます」

真姫「それじゃ、今回の仕事はこれで終わりよ。また何日かしたら顔を出してくれればいいから」

菜々「え!?」

真姫「どうかしたの?」

菜々「いや……私、つい先ほど戻ってきたばかりですよ?」

真姫「そうね」

菜々「そうねって……」


せっかく仕事をしに、ローズまで戻ってきたのに……。


真姫「でも、このスケジュール完璧よ? 菜々にお願いしているのは、基本的にアポの管理業務なわけだし、貴方の仕事はここまででいいのよ」

菜々「で、ですが……! さすがにこれだけでは……申し訳ないと言いますか……」

真姫「菜々ったら、相変わらず真面目ね」

菜々「ま、真面目とかそういう話ではなく……!」

真姫「菜々は優秀な秘書になりたいの? 違うでしょ?」

菜々「……そ、それは……」


確かにそれは違うけど……。


真姫「貴方がなりたいモノは何?」

菜々「……チャンピオンです」

真姫「なら、それに向かって努力をすればいい」

菜々「どうしてそこまでしてくれるんですか……」

真姫「ひたむきに頑張る人の夢を応援するのに、理由が必要かしら?」

菜々「真姫さん……」

真姫「わかったら、早く行きなさい。貴方には最強を目指せるだけの資質があるんだから」

菜々「……ありがとうございます!」
674 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 03:10:38.53 ID:s0SNcJvm0

──真姫さんにはずっとお世話になってばかりだ。

こうして、私が私らしく、私の好きなことをしていられるのも……全部、真姫さんのお陰。

もし、そんな彼女に報いることが出来るとしたら──1秒でも早く、この地方のチャンピオンになることなんだろう。


菜々「……」


眼鏡を外し、三つ編みを解く。これが、私が……菜々が──せつ菜に変わる、スイッチ。


せつ菜「──ユウキ・せつ菜……! 行って参ります!」


──せつ菜として、最強を目指すために、私はまた修行の旅に出る。


………………
…………
……
🎙

675 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:19:23.83 ID:s0SNcJvm0

■Chapter035 『再戦! ホシゾラ・コメコジム!』 【SIDE Ayumu】





──朝、ホシゾラシティの旅館から出る。


侑「見て、歩夢……良い天気だ」
 「イブイ!!」

歩夢「うん」


雲一つない、青い空。


リナ『快晴! ジム戦日和!』 ||,,> ◡ <,,||

歩夢「ふふっ、そうだね♪ 侑ちゃん」

侑「なに?」

歩夢「ジム戦、頑張ろうね!」

侑「うん! もちろん!」


一日掛けて、ウラノホシタウンからホシゾラシティまで戻ってきて──ついに迎えた再戦当日。

私の心には、以前コメコジムに挑戦したときのような迷いはなく……晴れ渡っていた。今日のこの青空のように。

なんの迷いもなく、真っすぐ、正々堂々、戦える気がした。


歩夢「みんなも……よろしくね」


手持ちの入ったボールに話しかけると──みんな元気いっぱいにボールを震わせながら応えてくれる。


 「シャーボ」
歩夢「うん! もちろん、サスケもよろしくね!」

侑「それじゃ、行こう! 歩夢!」
 「ブイ!!!」

歩夢「うん!」


私たちはホシゾラジムへ向かいます。





    🎀    🎀    🎀





──ホシゾラジムへ向かうと、ジムの前に人影が二つ。


凛「あ! 侑ちゃ〜ん、歩夢ちゃ〜ん!」


私たちの姿に気付いた凛さんが、ぶんぶんと手を振ってくる。


侑「凛さん、花陽さん!」

花陽「こんにちは♪ 二人とも元気だった?」

歩夢「はい! あの……今日は再戦を受けてくださって、ありがとうございます」

花陽「うぅん、こちらこそ、再戦を申し込んでくれてありがとう♪ 凛ちゃんと一緒に、全力でお相手するね♪」

侑「よろしくお願いします!」

凛「それじゃ、いこっか!」
676 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:22:07.76 ID:s0SNcJvm0

そう言って凛さんが歩き出して、ジムから離れていく。


侑「あ、あれ……?」

歩夢「あの……ジム戦は……?」

花陽「あれ? もしかして、凛ちゃんから聞いてないの?」

侑・歩夢「「え?」」


二人で同時に首を傾げる。

聞いてないとは……?


凛「……あ! 言うの忘れてた!」

花陽「凛ちゃん……もう……。……あのね、今回のバトルは屋外でやろうと思って……」

歩夢「外でですか……?」

凛「理由は……まあ、移動しながら話そっ! こっちこっち!」

侑「は、はい、わかりました」


凛さん先導のもと、私たちは移動を開始します。





    🎀    🎀    🎀





侑「わー! 高いよ! イーブイ!」
 「ブイブイ!!」

凛「でしょでしょ! 流星山ロープウェイからの景色は絶景なんだよ! ホシゾラの自慢の一つだにゃ!」


──凛さんの案内で連れてこられたのは、ロープウェイだった。現在4人でロープウェイを使って、流星山を登山中。


歩夢「あの……もしかして、バトルするのって……」

花陽「うん。流星山の頂上だよ」

侑「流星山の頂上で!?」

凛「ホシゾラジムみたいな床張りの場所だと、ディグダみたいなポケモンは使いづらいからね」

侑「あぁ、なるほど」


確かにディグダみたいな体が地面に埋まっているポケモンは、床張りのジムだと動きが制限されちゃいがちかも……。


花陽「私はそれでも大丈夫って言ったんだけど……」

侑「いえ! やるなら、お互いが全力で戦える場所でバトルしたいです! ね、歩夢!」

歩夢「ふふっ、そうだね♪」

凛「二人なら、そう言ってくれると思ったにゃ♪」

花陽「ありがとう、侑ちゃん、歩夢ちゃん。正々堂々戦おうね♪」

侑・歩夢「「はい!」」


話していると、ロープウェイは間もなく頂上へと到着します──



677 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:22:44.46 ID:s0SNcJvm0

    🎀    🎀    🎀





流星山の頂上は思った以上に広々とした場所だった。


侑「うわぁ〜、頂上って思ったより広いんですね! 普通にバトルフィールドくらいの広さは余裕でありそう……」

リナ『この辺りは天体観測用の機材を置いたりすることも多いから、整備されてるんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「言われてみれば……流星山って天体観測で有名だったね」

凛「そうそう! ちょっと行けば、凛が所長をやってるホシゾラ天文所もあるから、遊びに来て欲しいにゃ! ……っと、それはさておき」


凛さんが花陽さんと一緒に奥の方へと歩いていき──こちらを振り返る。


凛「それじゃ、時間も勿体ないし、はじめよっか!」

花陽「二人とも、準備はいい?」


凛さん、花陽さんがボールを構える。


侑「はい! 歩夢、行ける?」

歩夢「もちろん!」

リナ『二人ともファイト〜』 || > ◡ < ||


私たちもそれぞれボールを構える。


凛「使用ポケモンはそれぞれ3匹ずつの計6匹対6匹だよ!」

花陽「全てのポケモンが戦闘不能になった時点で決着です!」

侑・歩夢「「はい!」」


侑ちゃんと二人で頷く。


凛「ホシゾラジム・ジムリーダー『勇気凛々トリックスター』 凛!」

花陽「コメコジム・ジムリーダー『陽光のたがやしガール』 花陽!」

凛「さぁ、楽しいバトルにしようね!」
花陽「二人の全力……! 私たちに見せて!」


4人が同時にボールをフィールドに放った──バトル、開始です……!!





    🎀    🎀    🎀





歩夢「お願い、サスケ!」
 「シャーーーボッ!!!!」

侑「ワシボン! 行くよ!」
 「ワッシャァ!!!!」


私たちの最初のポケモンは、前回と同じサスケとワシボン。

一方、凛さん花陽さんは、
678 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:23:42.20 ID:s0SNcJvm0

凛「行くよ、サワムラー!」
 「シャェェイ!!!!」

花陽「ダグトリオ、お願いね!」
 「ダグダグダグ」


サワムラーとダグトリオ。

ダグトリオは前回戦ったディグダの進化系だ。


リナ『サワムラー キックポケモン 高さ:1.5m 重さ:49.8kg
   脚が 自由に 伸び縮みして 遠く 離れている 場合でも
   相手を 蹴り上げることが できる。 はじめて 戦う 相手は
   その 間合いの 広さに 驚く。 別名 キックの鬼。』

リナ『ダグトリオ もぐらポケモン 高さ:0.7m 重さ:33.3kg
   チームワークに すぐれた 三つ子の ディグダ。 3つの
   頭が 互い違いに 動いて どんなに 硬い 地面でも 地下
   100キロまで 掘り進む。 地面の下は だれも 知らない。』


──開幕早々、サワムラーの手が伸びてくる。


凛「“ねこだまし”!」
 「シェイッ!!!!」

侑「“まもる”!」
 「ワシャッ!!!」


その手を、翼を目の前でクロスするようにしながら、ワシボンがガードする。


凛「!? 防がれた!?」

侑「サワムラーの初手“ねこだまし”は定石! わかってれば、防げる!」


サワムラーは伸びる手足でリーチに優れているポケモン。それを生かした先制攻撃だったけど、侑ちゃんはそれを読んで防御をしていた。


侑「しかも、失敗すれば、腕を引き戻す間リスクになる……!」

 「シ、シェイ」

侑「いけ!!」
 「ワシャッ!!!」


侑ちゃんの指示で、翼を広げ、ワシボンが飛び出した。

戻っていくサワムラーの腕を追いかけながら、翼を構える。


花陽「“がんせきふうじ”!!」
 「ダグダグ!!!!」


ただ、これはマルチバトル。横から、花陽さんのフォローの迎撃が飛んでくる、けど、


歩夢「“アシッドボム”!!」
 「シャーーーボッ!!!!!」


フォロー出来るのは、こっちも同じ……!

サスケの“アシッドボム”が、“がんせきふうじ”で飛んできた岩に直撃し、煙を出しながら、溶かしてしまう。


花陽「ええ!? 飛んできた岩を撃ち落とした!?」

歩夢「いいよ! サスケ!」
 「シャーボッ」


特訓の成果が出てる……!

技の命中率を上げる訓練をしていたのが功をなした。
679 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:24:41.18 ID:s0SNcJvm0

侑「ありがとう、歩夢!」


もう邪魔するものはないとでも言わんばかりに、構えた翼がサワムラーを捉える。


侑「“つばさでうつ”!!」
 「ワシャァッ!!!!」

 「シェェェイッ!!!!?」


攻撃が直撃し、吹き飛ぶサワムラー。


凛「サワムラー!」
 「シェイッ!!!!」


でも、凛さんもただやられるばかりじゃない。

吹き飛びながらも、地面に手を伸ばし、それを軸にしながらカポエイラのように身を捻る。

すると、2本の脚がうねるように伸びながら、ワシボンに襲い掛かってくる。


凛「どんな体勢からでも攻撃出来るのが、サワムラーの強みだよ! “まわしげり”!!」

侑「ワシボン! 怯まず突っ込め!!」
 「ワシャァッ!!!」

凛「え、突っ込んでくるの……!? どうにか、追っ払うよ! サワムラー!」
 「シェェェイ!!!!」


うねる脚を掻い潜りながら、ワシボンとサワムラーの攻防が始まる中、


歩夢「サスケ! “たくわえる”!」
 「シャーーーボッ」


サスケは自分の態勢を整える。

サスケの要は防御と遠距離からのサポート……!


歩夢「ダグトリオに向かって、“どろばくだん”!!」
 「シャーー、ボッ!!!!!」

花陽「! こっちも“どろばくだん”!」
 「ダグッ!!!」


サスケとダグトリオの“どろばくだん”が、ぶつかりあって相殺する。

私の役目は、花陽さんの注意を引くこと……!

サスケとダグトリオが攻撃を撃ち合っている間に、


 「ワッシャァッ!!!!」
 「シェェェイッ!!!!」


ワシボンはさらに距離を詰めて、サワムラーに大きな爪で襲いかかっている真っ最中だった。


侑「ワシボン!! そのまま、地面に押さえつけて!」
 「ワシャァァァッ!!!」


サワムラーは、体を上から押さえつけられながらも、


凛「離れるにゃぁー!! “ブレイズキック”!!」
 「シェェェェェイ!!!!!」


自分に覆いかぶさるワシボンに向かって、脚を伸ばしながら燃える蹴撃を放つ、


 「ワッシャッ!!!」
680 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:25:45.62 ID:s0SNcJvm0

攻撃を察知して、飛び立つワシボン。

そして、攻撃を避けたら、


 「ワシャァ!!!!」


再び、爪で襲いかかる。


凛「こ、これじゃ動けない……!」

侑「自由にはさせません!!」


凛さんの苦戦が見て取れたのか、


花陽「ダグトリオ! サワムラーを助けるよ!」
 「ダグダグ!!!」


ダグトリオが、組み合うサワムラーとワシボンの方に顔を向けた──瞬間、


 「シャーーーボッ!!!!!」


ダグトリオの進行方向の地面から、サスケが飛び出す。


花陽「“あなをほる”!? いつの間に!?」


さっき相殺して飛び散った泥を目くらましにしながら、潜らせて接近させていたんだ。

飛び出したサスケとダグトリオの視線が交差する。


歩夢「“へびにらみ”!!」
 「シャーーーーー、ボッ!!!!!」

 「ダ、ダグッ!!!?」


ヘビに睨まれて、“まひ”したように身を竦めて動けなくなるダグトリオ。


歩夢「いいよサスケ! 畳みかけて!」
 「シャーーボッ!!!」


サスケが大口を開けながら、ダグトリオに向かって飛び出す。


歩夢「“かみつく”!!」

花陽「あ、“あなをほる”!!」
 「ダ、ダグッ」


あともう少しのところで、ダグトリオが地面に頭を引っ込めて、サスケの攻撃が空振りする。


花陽「……ま、まずいよぉ」


花陽さんは焦り気味にチラチラとサワムラーを気にしている。

それもそのはず、


 「ワシャッ!!!」
 「シェェイッ!!!」
681 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:27:00.96 ID:s0SNcJvm0

取っ組み合いを続けるサワムラーは── 一瞬足りとも地面から飛び上がることが出来ない状態になっている。

ダグトリオは地面に潜って、“じしん”や“じならし”で全体を攻撃したいだろうけど、サワムラーを巻き込みそうで、攻撃が出来ずにいる。

いや──侑ちゃんが、サワムラーを地面から逃がさないようにしているんだ。

ダグトリオは潜って逃げたとはいえ、“まひ”して自由が効きにくい、なら……!


歩夢「攻めるなら今……! サスケ、“まきつく”!!」
 「シャーーボッ!!!」


サスケが尻尾を伸ばす──


 「シェェィッ!!!?」


──サワムラーの脚の根本に。


凛「にゃ!?」

歩夢「そのまま、“まとわりつく”!!」
 「シャボッ!!!」


そのまま“まとわりつく”に派生して、身をくねらせながら、サワムラーの両足、両手の根本に絡みついていく。

四肢を完全に縛られたサワムラーは身動きが取れず、


侑「ナイス、歩夢! ワシボン、決めるよ!!」
 「ワシャァッ!!!!」


その隙にワシボンが垂直に飛び上がり──空中で身を翻して、重力で加速しながら、一直線に突撃する……!


侑「“ブレイブバード”!!」
 「ワッシャァァァァ!!!!!!!」

 「シェェェェイ!!!!?」


サスケにホールドされて、逃げることもままならないまま、大技が直撃したサワムラーは、


 「シェ、シェィィ…」


そのまま、目を回して戦闘不能になった。


歩夢「侑ちゃん!」

侑「うん! ワシボン!」
 「ワシャッ!!!」


攻撃を決めた直後、ワシボンは、サスケの体を爪で掴んで、


侑「“そらをとぶ”!!」
 「ワシャッ!!!」


サスケごと、一気に飛翔する。

直後──グラグラと地面が大きく揺れる。

この揺れは──さっき地面に潜った、ダグトリオの“じしん”だ。


侑「味方が倒れた瞬間だったら、巻き込むことを心配しないで、範囲攻撃が出せるもんね」

歩夢「ありがとう、侑ちゃん」


だから、サスケはワシボンに掴んでもらって、空に逃げたということだ。
682 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:28:02.75 ID:s0SNcJvm0

リナ『二人ともすごい! ここまで完璧!』 ||,,> ◡ <,,||

花陽「り、凛ちゃん……これも読まれちゃってる……どうしよう……」

凛「……二人とも、前とはまるで別人だにゃ……」


凛さんはサワムラーをボールに戻しながら言う。


花陽「うん……チームワークが全然違う」

凛「しっかり、成長してきたってことだね……! 燃えてきたにゃ!」


凛さんが、次のボールをフィールドに放る。


凛「次はサワムラーのようにはいかないよ。行くよ、ズルズキン!」
 「──ズキン!!」

侑「今度はズルッグの進化系……!」

リナ『ズルズキン あくとうポケモン 高さ:1.1m 重さ:30.0kg
   縄張りに 入ってきた 相手を 集団で たたきのめす。 口から
   酸性の 体液を 飛ばす。 粗暴だが 自分の 家族や 群れの
   仲間や 縄張りを とっても 大切にしている ポケモンなのだ。』

凛「ズルズキン! “ちょうはつ”!!」
 「ッペ」


ズルズキンが地面に唾を吐いて“ちょうはつ”してくる。


 「ワシャ…ッ?」


ワシボンは明らかに不快そうな顔をして、ズルズキンの方に急降下を始める。


リナ『“ちょうはつ”に乗せられてる……』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「ワシボン、結構短気なところあるからね……」

歩夢「地上に引き摺り落として、ダグトリオで一掃するつもりかな……」

侑「たぶんね……」


となると、ダグトリオを止める役割が必要だ。


歩夢「侑ちゃん、ダグトリオは私たちに任せて」

侑「OK! 任せるよ! ワシボン! サスケを放して、“ダブルウイング”!」
 「ワッシャァーー!!!!」


ワシボンはサスケをパッと放しながら、急降下の勢いを乗せて、両翼を振りかぶる。


凛「“てっぺき”!」
 「ズキンッ!!!!」


ズルズキンは自身の皮を被って、防御に徹する。

攻撃が直撃して──ガス、ガス、と鈍い音が鳴るけど、


 「ズキン」


防御をしていただけあって、ダメージはあまり通っていないのがわかる。

一方、地面に降り立ったサスケは、


 「シャボ」
683 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:28:43.09 ID:s0SNcJvm0

地面を凝視していた。

チロチロと舌を出しながら、じーっと地面を観察したあと、


歩夢「“あなをほる”!」
 「シャボッ」


勢いよく頭から地面を掘って潜り始める。

──アーボには、敵を探すための能力が生まれつきいくつか備わっている。

舌先は非常に敏感に匂いを感じ取り、さらに──熱を感知して相手を探す能力がある。

今こうして地面に潜ったのは……地中のダグトリオを追跡するため……!


花陽「! ダグトリオ! 地面の外に顔を出して!」


花陽さんもこちらの思惑に気付いたのか、ダグトリオに外に出てくるように指示を出す。

だけど、ダグトリオは“へびにらみ”で“まひ”している状態。

相手の位置を正確に探れるサスケなら──狙った獲物は逃がさない!!


 「ダ、ダグゥ!!!!」
 「シャーーーボッ!!!!」


地面から飛び出してきたダグトリオの頭には、すでにサスケが噛み付いている状態だった。


花陽「だ、ダグトリオ!! “さわぐ”!!」
 「ダーーーダグダグダグダグ!!!!!!!!!!!」


3匹のダグトリオが大騒ぎし始める。

激しい騒音でサスケを振り払うつもりだ。

でも、


歩夢「させない……! “とぐろをまく”!」
 「シャボ」


サスケは騒ぎまくるダグトリオの頭に噛みついたまま、その身をぐるぐるとダグトリオに巻き付けていく。


歩夢「絶対に放さない……! ダグトリオは私が任されたから!」
 「シャーーボッ!!!」


もちろんこの状況、サスケはただ噛み付いて耐えているだけじゃない。


歩夢「“ギガドレイン!”」
 「シャーボッ!!!」


噛み付いた部分から、“ギガドレイン”で相手の体力を吸い取る。


 「ダ、ダグ、ダグググ…」


騒ぎ続けるダグトリオも、体力を直接吸収され、次第に元気がなくなっていき、


 「ダ、ダグ…」


最終的には力尽きておとなしくなった。


花陽「も、戻って、ダグトリオ……!」

歩夢「やったね、サスケ!」
 「シャーボッ」
684 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:29:40.72 ID:s0SNcJvm0

ダグトリオ撃破……!

それで侑ちゃんたちは……!?


凛「“かわらわり”!!」
 「ズルッ!!!」

侑「“ブレイククロー”!!」
 「ワシャッ!!!」


2匹の攻撃が相殺しあう。


侑「“つばさでうつ”!!」
 「ワシャッ!!!」

 「ズルズ…!!」


凛「“しっぺがえし”!!」
 「ズルゥッ!!!」

 「ワシャァッ!!?」


一進一退の肉弾戦。


歩夢「侑ちゃん、今加勢に……!」


サスケを向かわせようとした、瞬間──ボムッと音がして、


 「…ブルルル」


大きな馬ポケモンがサスケの行く手を阻む。


花陽「通しません……!」

リナ『あのポケモンは、バンバドロ……! ドロバンコの進化系だよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


花陽さんの2番手だ。


リナ『バンバドロ ばんばポケモン 高さ:2.5m 重さ:920.0kg
   10トン ある 荷物を 引きながら 三日三晩 休まずに
   山道を 歩き続けることが 出来る。 泥で 固めた 脚は
   岩より 硬くなり 一撃で トラックを 破壊する 威力。』


花陽「“ふみつけ”!!」
 「ブルルル!!!」

歩夢「さ、サスケ! 逃げよう!」
 「シャ、シャボッ」


あんな大きな足で踏みつけられた、一溜りもない。

サスケはバンバドロの足元を縫うようにして、すり抜けていく。


花陽「逃がさない……! “すなじごく”!!」
 「ブルルルル!!!!!!」


バンバドロが乱暴に足を踏み鳴らすと──足場の岩が砕かれて細かくなっていく。


 「シ、シャボォ…!!!」


砕かれた岩は砂利になり砂になり──そして、バンバドロを中心に流砂へと成長していく。


侑「サスケ……! 早く、ズルズキンをどうにかしなきゃ……!」
685 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:31:02.94 ID:s0SNcJvm0

侑ちゃんが、サスケのピンチに気付き、助けようとするけど、


 「ワッシャァッ!!!」

 「ズキンッ!!!」


ワシボンとズルズキンは今も攻撃の応酬をしている。

サスケのサポートに入るのは難しい状況……。

なら、私たちに出来ることは──


花陽「バンバドロ! “10まんばりき”!!」
 「ブルルルルルッ!!!!!!」


バンバドロが全身全霊の力を込めて、サスケを踏みつける。


 「シャ、シャーーーボォッ……!!!!」


サスケは踏みつけられて、じたばたともがくけど、相手が重すぎて、逃げることなんて到底できそうになかった。


 「シャ、シャボォ……」


結局、途中で力尽きて戦闘不能に。

私はサスケをボールに戻す。


歩夢「ありがとう、お疲れ様、サスケ……」


サスケは十分仕事をしてくれた。

サスケの頑張りは、次のポケモンが引き継げばいい。


歩夢「いくよ、マホイップ!」
 「──マホ〜」


私はマホイップをバンバドロの前に繰り出す。

小さい小さいマホイップは、バンバドロを見上げる形になる。


花陽「“ふみつけ”!!」
 「ブルルル!!!!」


バンバドロの足一本よりも小さいマホイップは、ぐしゃっと踏みつぶされてしまう。


 「ブルル…?」
花陽「……手応えがなさすぎる……」


バンバドロが足を持ち上げると──


 「マホ〜♪」


ぺちゃんこ──というか、ドロドロになった、マホイップが楽しそうに鳴き声を上げた。


花陽「……“とける”……!?」

歩夢「いくら踏みつぶされても、マホイップにはダメージになりません!」
 「マホ〜♪」


ここからは持久戦です……!



686 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:32:03.90 ID:s0SNcJvm0

    🎹    🎹    🎹





歩夢のマホイップがバンバドロを受けながら、時間を稼ぎ始める。

なら、ズルズキンは私たちでどうにかしないと……!


 「ワッシャァ!!!」

 「ズキンッ!!!!」


2匹は未だに、肉弾戦の応酬を続けている。

ただ、いい加減“ちょうはつ”の効果も切れているはず。

なら、正直に付き合い続ける必要もない!


侑「ワシボン! “そらをとぶ”!」
 「ワシャァッ!!!」


ガッと爪で攻撃する反動を利用して、ワシボンは一気に空へと離脱する。

これで、距離を取って、一旦態勢を立て直す……!

……が、凛さんの対応は早かった。


凛「逃がさないよ!! “うちおとす”!!」
 「ズルッ!!!」


ズルズキンは足元の小石を拾って──それをワシボンに投げつけてきた。


 「ワシャッ!!?」
侑「やばっ!?」


──石が頭に直撃して、今空に飛び立ったばかりのワシボンは、真っ逆さまに落ちてくる。

無防備に落ちてくる相手を、見逃してくれるわけもなく、


凛「“アイアンヘッド”!!」
 「ズ、キンッ!!!!!」


硬質化した頭でもって、地面に叩きつけられる。

逃げを打った結果、大きな隙を晒す羽目になったしまった。

……だけど、


侑「ワシボン……! まだ、終わりじゃないよね!」
 「ワシャァ…!!!!」


押しつぶしてくるズルズキンの頭の下で──ワシボンが“ばかぢから”で踏ん張っていた。


凛「嘘!? まだ耐えるの……!?」


ワシボンの闘志はまだ潰えていない……!!

自分を押しつぶしてくるズルズキンの頭を“ばかぢから”で少しずつ押し返していく。

迫り勝てる……!! そう思った瞬間だった、

──足元を大きな揺れが襲った。


侑「わぁ!!?」

歩夢「きゃぁ!!?」
687 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:32:59.37 ID:s0SNcJvm0

隣にいる歩夢ともども、大きな揺れに驚きの声をあげる。

それと同時に、踏ん張っていたワシボンも大きな揺れの影響を受け、


 「ワ、ワシャァァァ…!!!」


せっかく、押し返せそうだったのに、ズルズキンの頭に押し返されていた。

そして、トドメと言わんばかりに、


 「ズキン!!!!」


もう一度振りかぶって、振り下ろされた“ずつき”を脳天に食らって、


 「ワ、ワシャァ……」


ついに、気絶してしまった。


侑「く……戻って、ワシボン」


勝てると思ったのに……。

それにしても今の揺れ……。


侑「バンバドロの“じしん”……だよね」

花陽「ごめんね、凛ちゃん……出来れば、ズルズキンは巻き込みたくなかったんだけど……」

凛「うぅん、助かったよ……ありがと、かよちん」


凛さんのピンチに花陽さんが機転を利かせたということらしい。


歩夢「ご、ごめん侑ちゃん……止められなかった」


どうやら、歩夢との持久戦の中で、無理やり全員を巻き込んで攻撃してきたらしい。

歩夢は防御に徹して時間を稼いでいたし、やむを得ない。


侑「うぅん、大丈夫!」


それより次だ。まだ私の手持ちは2匹残ってる。

ただ、問題は……イーブイとライボルト、どっちを先に出すかだ。

ライボルトは花陽さんのじめんタイプと相性が悪いし、イーブイは凛さんのかくとうタイプと相性が悪い。

どっちを先に出しても、どうにか相性を覆す必要がある。

ボールに手を掛けながら、次のポケモンを迷っていると──腰につけたままのボールの一つから、ボムッと音がした、


侑「へ……!?」


びっくりして、振り返ると、


 「…ニャァ」


ニャスパーが出て来ていた。
688 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:33:37.10 ID:s0SNcJvm0

侑「に、ニャスパー! 今、バトル中で……」
 「ニャァ?」

凛「にゃ? どうかしたの?」

侑「あ、えっと、ごめんなさい! この子勝手に出てきちゃったみたいで……!」

凛「そういうことなら、戻しても大丈夫だよ」

侑「す、すみません! ニャスパー、ボールに戻って!」
 「ニャァ」


すぐさまボールに戻そうとするけど、ニャスパーは知らんぷりして、とてとてとフィールドへと歩いていく。


侑「ニャスパー……?」

リナ『もしかしたら……侑さんたちが戦ってるところを間近で見て、闘争本能が刺激されたのかも』 || ╹ᇫ╹ ||

 「ニャァ〜」
侑「……一緒に、戦ってくれるの?」

 「ニャァ」
侑「……」


相変わらず何考えてるかわからないけど……。少なくとも、明らかに戦っている中で、自分から前に出たということは、乗り気……と捉えてもいいのかもしれない。


侑「……わかった。すみません! やっぱり2匹目はこの子で戦います!」

歩夢「ええ!? ゆ、侑ちゃん!? 大丈夫なの!?」


まだ、この子のことはよくわからないことばっかりだけど、


 「ニャァ〜」


私たちのバトルを見て、自分も戦いたいと思ってくれたってことは……私たちの戦いを見て、少しでも熱くなってくれたということ。


侑「せっかくやる気を出して、自分から出て来てくれたんだから。その気持ちに応えてあげたいんだ!」

歩夢「侑ちゃん……。……わかった!」

凛「じゃあ、その子が侑ちゃんの2匹目でいいんだね?」

侑「はい! それじゃ行くよ、ニャスパー! 初陣だ!」
 「ニャ〜〜〜」





    🎹    🎹    🎹





リナ『侑さん、ニャスパーがなんの技を使えるかはわかる?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「大丈夫! 予習済みだから!」


ニャスパーが仲間になった後から、ニャスパーの覚える技は調べていた。

いつか、一緒に戦うこともあるかもって思ってたしね!

──まさか、それがジム戦の真っ最中になるとは思ってなかったけど。


侑「ニャスパー! ズルズキンに向かって、“シグナルビーム”!」
 「ニャァ〜〜」


ニャスパーから、点滅する光線が発射される。


 「ズルズッキンッ…!!!!」
689 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:34:50.61 ID:s0SNcJvm0

ズルズキンに攻撃が直撃する。技自体はすごく威力が高いわけじゃないから、倒しきるのは難しいけど……。

ズルズキンは遠距離技に乏しいし、特殊技に対する防御手段も少ない。

となると、


凛「ズルズキン! “とびひざげり”!」
 「ズキンッ!!!」

侑「接近してくるよね!」


ズルズキンは助走を付けて、ニャスパーに向かって飛び掛かってくる。

なら……!


侑「ニャスパー! “じゅうりょく”!」
 「ニャ〜」

 「ズキンッ!!!?」


空中に浮いていたズルズキンは無理やり、地面に叩き落される。

“じゅうりょく”が発動すると、周囲のポケモンは空を飛べなくなるし、“とびげり”や“とびひざげり”を使うことが出来なくなる。

全員が飛べなくなるということは、裏を返せば、すべてのポケモンが“じしん”や“じならし”を回避できなくなるということでもある。

これで、花陽さんは凛さんのポケモンを巻き添えにしないで、“じしん”を撃つことは出来なくなったわけだ。


リナ『侑さん、すごい! 初めてなのに、ニャスパーの技を使いこなしてる!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「えへへ、実は結構イメトレしてたんだよね!」


ニャスパーが覚える技を眺めているとき、面白い技がたくさんあるとは思っていたんだ。

エスパータイプは思った以上にいろんなことが出来て、面白い戦いが出来そうだなって……!


凛「無理にジャンプしなくても、出来る技なんてたくさんあるよ!! “じごくづき”!!」
 「ズキンッ!!!!」


ダッシュで突っ込んできた、ズルズキンが“じごくづき”をしようと、迫ってくる。

ニャスパーにとっては弱点タイプのこの技だけど──狙い通りだ!

次の瞬間、ズルズキンの“じごくづき”は──ベシャという音を立てた。


凛「にゃ!?」
 「ズキンッ!!?」

花陽「え!?」
 「ブルル…!!?」


驚きの声をあげる凛さんと花陽さん。そして、それぞれの手持ちのポケモンたち。

それもそのはず──ズルズキンの攻撃した場所には、


 「マホ〜♪」


“とける”で物理攻撃に強い耐性を持ったマホイップの姿。

そして、先ほどから地面を踏み鳴らしまくっていたバンバドロは、


 「バ、バンバ…!!!!」


脚を上げたまま、静止していた。

しかもその足元には──


 「ニャァ〜〜〜」
690 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:35:58.99 ID:s0SNcJvm0

ニャスパーの姿。


侑「成功! “サイドチェンジ”!」


ダイヤさん、ルビィさんとの戦いで使われた技だ。

使いどころを選べば、奇襲を掛けながら、有利なマッチアップを作り出せるテクニカルな技。


凛「ま、マホイップはまずいにゃ……!!」

歩夢「マホイップ! “マジカルシャイン”!」
 「ホイップ〜〜♪」

 「ズルゥーーッ!!!?」


輝く閃光がズルズキンを圧倒する。


リナ『あく・かくとうタイプのズルズキンには、フェアリータイプはこうかばつぐん!』 ||,,> ◡ <,,||


先ほどから、効果があまりないとわかっていても、バンバドロが攻撃によってマホイップを足止めし続けていたのは、ズルズキンと戦わせないためだということには気付いていた。

だからこそ、足止めしていたはずのマホイップが目の前に現れたのには面食らったことだろう。

加えて──


 「ニャァ〜〜〜」

 「ブ、ブルルル…」
花陽「バンバドロがパワーで押し負けてる……!?」


耳をわずかに開いたニャスパーが、バンバドロの足を少しずつ押し上げる。


侑「やっぱり、ニャスパーのサイコパワーは強力だって、図鑑に書いてあったとおりだ……!」


繊細なコントロールこそ苦手なものの、純粋に重いものを持ち上げたり吹っ飛ばしたりする、力任せな使い方なら、バンバドロのパワーにも負けてない……!


 「ニャァ〜〜〜」

 「ブルルッ!!!?」


ニャスパーはそのまま、バンバドロをひっくり返してしまう。


侑「すごいよ! ニャスパー!」
 「ニャァ〜」

侑「畳みかけるよ!!  “サイコショック”!!」
 「ニャァ〜〜」


実体化したサイコパワーが、バンバドロを集中砲火する。


 「ブ、ブルルル…!!!!」
花陽「く……強力な攻撃だけど……バンバドロの特性は“じきゅうりょく”です! 攻撃を受ければ受けるほど、防御力が増して……」

 「ブ、ブルル……」
花陽「え……!? ぜ、全然受けきれてない……!?」


転んで動けなくなった状態で、“サイコショック”の集中砲火を受けたバンバドロは、


 「ブ、ブルルゥ…………」


ダメージに耐えきれず気絶してしまった。


花陽「え、え……どういうこと……?」
691 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:36:35.82 ID:s0SNcJvm0

動揺する花陽さん。

それに答えたのは、


歩夢「……サスケが最後にした技、何かわかりますか」


歩夢だった。


歩夢「バンバドロが“10まんばりき”で踏みつける瞬間……サスケは技を使ってたんです」

花陽「え……?」

歩夢「“いえき”を」

花陽「……! だから、“じきゅうりょく”が……!」


“いえき”は相手の特性を消してしまう技だ。

それによって、バンバドロは“じきゅうりょく”を失っていたため、ニャスパーの攻撃に耐えることが出来なかったというわけだ。


花陽「完全にやられちゃったね……」

凛「侑ちゃんも、歩夢ちゃんも、すごいね……! すっごく強くなった!」

花陽「うん! そうだね。びっくりするくらい強くなってる!」

凛「でも、まだ凛もかよちんも、とっておきの子が残ってるからね! 最後まで勝負はわからないよ!」


凛さんと花陽さんは、それぞれズルズキンとバンバドロをボールに戻しながら言う。

二人の最後のポケモンは──


凛「行くよ、オコリザル!!」
 「ムキィィィィ!!!!!」

花陽「ドリュウズ! お願い!」
 「ドリュ!!!!」


オコリザルとドリュウズ。

特にオコリザルは、私たちにとっては因縁の相手だ。


歩夢「……オコリザル」

侑「歩夢」


緊張気味に相手の名前を呟く歩夢の肩をぽんと叩く。


侑「もうあのときみたいに、知らないままじゃないから。大丈夫」

歩夢「……うん、そうだね!」

侑「このまま、行くよ!」

歩夢「うん!」


さぁ、ジム戦も最終局面だ……!



692 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:37:39.07 ID:s0SNcJvm0

    🎹    🎹    🎹





花陽「ドリュウズ! “あなをほる”!」
 「ドリュ!!!」


最初に動き出したのは花陽さんのドリュウズ。

頭と爪のドリルを使って、地面に潜っていく。

狙いは恐らく──


侑「歩夢! 来るよ!」

歩夢「うん!」


マホイップだ。

相手は恐らく、数を削りたいだろう。

そうなると、マホイップと相性の良いドリュウズをぶつけてくるはずだ。


歩夢「マホイップ! “とける”!」
 「マホ〜〜」


ならばと、歩夢はさらに物理攻撃への耐性を上昇させる。

無敵ではないにせよ、これでタイプで不利なドリュウズ相手でも十分時間を稼げるはずだ。

そして、その間に、


 「ニャ〜〜」


ニャスパーでオコリザルを倒す……!


凛「オコリザル! 行くにゃ!」
 「ムキィーーーー!!!!」

侑「行くよ、ニャスパー!」
 「ニャ〜」


飛び出してくるオコリザルを迎え撃とうと、ニャスパーが前に走り出した瞬間──

ニャスパーの足元から、


 「ドリュッ!!!!!!」

 「ニャァッ!!!?」


ドリュウズが飛び出してきた。


侑「なっ!?」


──読みが外れた!?


花陽「“ドリルライナー”!!」
 「ドリュゥ!!!!!」

侑「さ、“サイコキネシス”!!」
 「ニ、ニャァ〜〜〜〜」


下から突き上げるように、ドリュウズが体を回転させながら迫る。

それをサイコパワーでどうにか押し返しながら耐えるニャスパー。
693 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:38:40.49 ID:s0SNcJvm0

侑「……そうだ、オコリザルは!?」


オコリザルはどうにか拮抗しているニャスパーとドリュウズ目掛けて走りこんできている真っ最中。

そこでやっと、相手はマホイップではなく、ニャスパーへ集中攻撃を選んだんだと気付いて、ハッとする。

今必死にドリュウズを抑えているニャスパーへ攻撃をされたらまずい……!


歩夢「マホイップ!」
 「マホ〜〜〜」


歩夢もそれに気付いて、マホイップを前線に送り出す。

──ただ、これが相手の狙いだった。

なんと、オコリザルは──ニャスパーとドリュウズの横を素通りした。


侑「え!?」


オコリザルの狙いは──マホイップ!?


凛「行けっ!! オコリザル!!」
 「ムキィィィィ!!!!」

歩夢「! マホイップ!」
 「マホ〜〜」


ドロドロの状態のマホイップに向かって、オコリザルが拳を突き刺した。

──ドチャッという粘性の高い液体の音が鳴る。

その音がオコリザルの物理攻撃は効果が薄いと物語っているはずなのに、


 「マ、マホ…マホイ…ッ!!!?」
歩夢「え!?」


急にマホイップが苦しみだした。


凛「もう一発!!」
 「ム、キィィィ!!!!!」

 「マ、マホ〜〜〜〜!!!?」


マホイップが悲鳴をあげながら、オコリザルと距離を取ろうとする。

確実にダメージが入っているということ。

何……!? 何をされてるの……!?

必死で頭を回転させる。

フェアリータイプのマホイップには、かくとうタイプは効果が薄いはずだ。

となると、あれはかくとうタイプの技じゃないのは間違いない。

フェアリータイプへの有効打となると、ドリュウズのようなはがねタイプや──


侑「……どく、タイプ……?」


そこでやっと気付く。


侑「歩夢!! “どくづき”だ!!」

歩夢「“どくづき”……!?」


“どくづき”は毒タイプの物理技。確か、オコリザルも覚えることが出来たはずだ、
694 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:39:28.21 ID:s0SNcJvm0

侑「ただの物理攻撃に見せかけて、拳から毒を注入してるんだ!」

歩夢「!?」

凛「バレちゃったね! でも、もう遅いよ!!」
 「ムキィィィ!!!!!」


3発目の拳が、マホイップに突き刺さる。


 「マ、マホィィィ…!!!」


苦しむマホイップ。


侑「歩夢、早く対策を……!」

花陽「歩夢ちゃんのポケモンを気にしていて大丈夫ですか?」

侑「!?」


花陽さんの声にハッとして、ニャスパーの方を見ると、


 「ニ、ニャァァァァ…!!!!!」

 「ドリュゥゥゥゥ!!!!!」


ドリュウズのドリルに今にも押し負けそうになっているところだった。

完全に注意がマホイップに向いていて、指示がおろそかになっていた。

花陽さんは、その隙を逃してはくれなかった。


花陽「“つのドリル”!!」
 「ドリュゥゥゥ!!!!!!」

 「ゥニャァァァァ!!!!?」


一撃必殺……!

“つのドリル”が直撃して、ニャスパーは回転しながら、吹き飛ばされた。


侑「ニ、ニャスパー!!」


吹っ飛ばされたニャスパーは、


 「フ、フニャァァァ…」


地面に落っこちて、戦闘不能になってしまった。

そして、それと同時に──


 「マ、マホ…」
歩夢「マホイップ……! ……ありがとう、戻って」


マホイップも“どく”に耐えきれずに戦闘不能になったところだった。


侑「……ニャスパーもありがとう。戻れ」


私もニャスパーをボールに戻す。

やってしまった。


侑「……っ」
695 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:40:05.90 ID:s0SNcJvm0

一気に流れが変わったのを感じる。

その原因を作ったのは……恐らく私だ。

完全に向こうの作戦を読み違えた。

百歩譲ってそこは仕方ないとしても……読み違えたことに動揺して、完全にその後の指示を間違えた。

嫌な汗が出てくる。この展開はよくない。これは逆転を許す流れだ。

どうにか、どうにかこの悪い流れを切らないと──

そんな焦る私を引き戻したのは──


歩夢「侑ちゃん、落ち着いて」

侑「え……?」


歩夢の言葉だった。


歩夢「大丈夫だよ」

侑「歩夢……」

歩夢「大丈夫」

侑「……」


ああ……私、何一人で焦ってるんだ。


侑「……すぅー……はぁー……」


深呼吸をする。


歩夢「落ち着いた?」

侑「うん……ありがとう、歩夢」


焦ることなんてない。

私には──こんなに頼もしいパートナーがいるんだから。


歩夢「侑ちゃん」

侑「ん」

歩夢「勝とう!」

侑「……!」


いつかのバトルで私が歩夢に言った言葉だ。


侑「……うん! 勝とう! 二人で!」

歩夢「うん!」


私たちは最後のポケモンを繰り出す。


侑「行くよ! イーブイ!!」
 「イブイッ!!!」

歩夢「ラビフット! お願い!」
 「ラビフッ!!!!」


イーブイとラビフット。奇しくも前回、敗北したときと同じ組み合わせ。

だけど──負けるつもりなんてさらさらない。
696 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:40:54.83 ID:s0SNcJvm0

侑「歩夢! 行くよ!」

歩夢「うん!」

侑「イーブイ! オコリザルに“すくすくボンバー”!!」
 「ブイッ!!!」


イーブイが尻尾を振ると、目の前に樹が生えてくる。

そして、その樹からオコリザル目掛けてタネを落としまくる。


凛「もう、それは前に食らったもんね! オコリザル、相手しちゃダメだよ!」
 「ムキィィ!!!」


凛さんは冷静に距離を取らせる。

この技はビジュアル的なインパクトこそすごいものの、技が敵に届くまで少々時間が掛かるという難点がある。

とはいえ、後ろに下げさせただけでも十分だ。

その隙に、


歩夢「ラビフット! ドリュウズに“かえんほうしゃ”!」
 「ラーーービィィィィ!!!!!!!!!」


ラビフットがドリュウズに向かって、炎を噴き出す。


花陽「“あなをほる”!」
 「ドリュ!!!!」


それを回避するように、またしてもドリュウズは穴に潜っていく。

さぁ、今度はどっちに来る……!


歩夢「侑ちゃん」

侑「歩夢?」

歩夢「任せて」

侑「! オッケー任せるよ! イーブイ!」
 「ブイッ」


イーブイは、自分で生やした“すくすくボンバー”の樹をぴょんぴょんと跳ねながら登っていく。

地中を突き進むドリュウズの射程外に行くために。


凛「にゃ!? 何かする気だね! オコリザル!」
 「ムキィィィ!!!!!」


凛さんの指示で、オコリザルが再びこっちに走ってくるが、


侑「“びりびりエレキ”!!」
 「ブーーーイッ!!!!!」

凛「わわっ!?」
 「ムキィッ!!?」


オコリザルの目の前に電撃を落として威嚇する。

歩夢の邪魔はさせない……!



697 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:41:41.66 ID:s0SNcJvm0

    🎀    🎀    🎀





侑ちゃんが、私を信じて、私が戦うステージを作ってくれている。


歩夢「行くよ、ラビフット」
 「ラビ!!!」


地中から迫るドリュウズ。

地面のどこから飛び出すか、出てくるまで目に見えない攻撃。

だけど、大丈夫。

──ヒバニーの頃から、この子の大きな耳は、いろんな音を聴き分ける。


歩夢「──よく聴いて」
 「ラビ」


集中すれば、


 「──ドリュ!!!!」


どこから、飛び出してくるかも、きっとわかる……!!

──ドリュウズが飛び出した瞬間、掠るようにギリギリで攻撃を躱しながら、


歩夢「そこっ!! “ブレイズキック”!!」
 「ラビッフッ!!!!!」


ドリュウズのボディに、横から炎の蹴撃を炸裂させた。


 「ド、ドリュゥ!!!!?」


完全に攻撃を直撃させるルートに入ったと思い込んでいたドリュウズは、攻撃に対応できずに、吹っ飛ばされる。

そこに畳みかける。


 「ラビビビビビビ!!!!!!!」


“ニトロチャージ”で加速しながら、全身を炎を纏ったラビフットが飛び込んでいった。


歩夢「“フレアドライブ”!!」
 「ラーービフゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!」

 「ドリュゥッ!!!?」


燃え盛る炎の一撃を、ドリュウズに炸裂させた。


花陽「ドリュウズ……!」
 「ド、ドリュゥ…」


リナ『ドリュウズ、戦闘不能……!』 || > ◡ < ||

侑「やった!」


そして、ドリュウズを倒すと同時に──


 「ラビ…!!!!──」


ラビフットの体が光に包まれる。
698 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:42:22.37 ID:s0SNcJvm0

侑「こ、これって……もしかして……!?」

歩夢「進化の……光……」


ラビフットが、最後の姿へと、その身を変える。


 「──バーーーース!!!!!」

侑「歩夢……! ラビフットが、進化したよ!!」

リナ『最後の姿……エースバーンだよ!!』 ||,,> 𝅎 <,,||

リナ『エースバーン ストライカーポケモン 高さ:1.4m 重さ:33.0kg
   小石を リフティングして 炎の サッカーボールを つくる。 するどい
   シュートで 相手を 燃やす。 攻守に 優れ 応援されると さらに
   燃えるが スタンドプレイに 走り ピンチを 招くこともある。』

歩夢「エースバーン……!」


残るポケモンは、


花陽「ごめん凛ちゃん……また、先にやられちゃった……」

凛「大丈夫! 凛がどうにかするから!」
 「ムキィィィィ!!!!!」


凛さんのオコリザルと、侑ちゃんのイーブイ。

そして、新しい姿を得た、私のエースバーン。

前回とほとんど同じシチュエーション。


侑「歩夢、大丈夫?」

歩夢「え?」

侑「前のときと……ほとんど同じだから」

歩夢「……」


確かに、ちょっとドキドキしていた。

また、同じ失敗をするかもって、そんな気にもなるけど。


歩夢「うぅん、平気。前の私だったら、プレッシャーを感じてたかもしれないけど……」


今は、大丈夫。

むしろ、今は、


歩夢「あのときの失敗を、乗り越えるチャンスなんだって、思えるんだ」

侑「歩夢……」


あの大失敗から、ずっと私の心につっかえていたものを、前に進むことを遮っていた壁を──全部、全部、壊して、前に進めるんだって。


侑「……うん! 進もう! 前に!」

歩夢「うん! 行こう! 前に!」



699 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:44:32.73 ID:s0SNcJvm0

    🎀    🎀    🎀





歩夢「エースバーン! 行くよ!」
 「バーーーースッ!!!!」

侑「イーブイ! GO!」
 「ブイッ!!!!!」


エースバーンとイーブイが一緒に走り出す。


凛「オコリザル!! “クロスチョップ”!!」
 「ムキィィィィィ!!!!!」


オコリザルが、イーブイに向かって飛び掛かってくる。

それを横から、


歩夢「“ブレイズキック”!!」
 「バースバーー!!!!」

 「ムキィィィ!!!!!」


蹴り飛ばす。吹っ飛ばされ、転がりながらも、オコリザルは受け身を取って立ち上がる。


凛「地面に向かって、“メガトンパンチ”!!」
 「ムキィィィッ!!!!!」


今度は、地面に拳を叩きつけ──


凛「“かいりき”!」
 「ムッキィィィィィ!!!!!」


パンチで砕いた大岩を持ち上げる。


侑「歩夢! 来るよ!」

歩夢「うん!」

 「ムッキィィィィィ!!!!!!!」


そして、大岩をこっちに向かって放り投げてくる。

それと同時に、


 「ムキィィィィ!!!!!!」


オコリザルが走り出す。


侑「オコリザルは私たちが止める!! 歩夢は岩を!! イーブイ! “めらめらバーン”!!」
 「ブイ!!!!」

歩夢「うん! エースバーン!」
 「バース!!!!」


エースバーンは足元にある小石を、足で器用にリフティングし始める。

そこに自身の炎を宿らせながら、火球を作り出す。

──ポーンと一際高く蹴り上げた燃えるボールを、


歩夢「“かえんボール”!!」
 「バーースバーーーッ!!!!!!」
700 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:45:26.87 ID:s0SNcJvm0

大岩に向かって、蹴り飛ばす!

猛スピードで蹴り出された炎のボールは──大岩にぶつかると同時に、炎のエネルギーを散らしながら炸裂した。

大岩は轟音を立てながら、バラバラと砕け散る。

そして、その下ではイーブイが、


 「ブイイイイイ!!!!!!!」

 「ム、ムキィィィィィ!!!!!!」


オコリザルの“クロスチョップ”に対して、全身に炎を纏いながら、迫り合っているところだった。


侑「イーブイ!! いっけぇぇぇ!!」
 「ブィィィィィ!!!!!!!!!」

凛「かくとうタイプの意地、見せるにゃぁぁぁぁ!!」
 「ムッキィィィィィィ!!!!!!!!!!」


最後の迫り合い。


歩夢「加勢に行って、エースバーン!!」
 「バースバーーーッ!!!!!!」


駆け出すエースバーン。

──恐らく、普通だったら、ここで決着だったんだと思う。

だけど、最後の最後で──神様がいたずらをした。

エースバーンが砕いた岩が、バラバラに砕け散って大量の礫が降っている。

その礫の一つが──偶然、


 「ブヒッ!!!!!!」


オコリザルの鼻っ柱──オコリザルの急所にぶつかった。


侑「なっ!?」

歩夢「えっ!?」

リナ『嘘っ!?』 || ? ᆷ ! ||

凛「にゃっ!?」

花陽「えぇ!?」


誰も予想をしていなかった展開に、この場にいる全員が驚きの声をあげた。


 「ムッキィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


──“いかりのつぼ”が発動した。


 「ブイッ!!!?」
 「バースッ!!!?」


オコリザルはイーブイの“めらめらバーン”で体が燃やされているのもお構いなしに、腕を引く。


凛「……“ばくれつパンチ”ィ!!!!」
 「ムッキィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!」


オコリザルのフルパワーの拳が──爆発した。

そう……爆発と言って差し支えなかった。
701 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:46:02.36 ID:s0SNcJvm0

 「ブ、ブィィィィィィィ!!!!?」
 「バァァァァス!!!!!!」


至近距離にいたイーブイはもちろん、援護をしようと駆け寄っている真っ最中だったエースバーンもろとも吹き飛ばす、爆発に匹敵する超威力の拳。

──また、負けるの?

吹き飛ぶエースバーンとイーブイを見て、そう思った。

……やだ。

やだ。


歩夢「……やだっ!! 負けたくないっ!!」

侑「歩夢っ!!!!」

歩夢「!?」

侑「まだだっ!!!!」


宙を舞う、エースバーンと、イーブイは、


 「バース、バァァァァ!!!!!!」
 「ブイィィィィィッ!!!!!!」


まだ闘志の炎を失っていない。


侑「イーブイッ!! “めらめらバーン”ッ!!!」
 「ブゥゥゥゥイィィィィィィ!!!!!!!!」


──ゴォっと音を立てながら、イーブイが燃え上がる。

そのとき、侑ちゃんとイーブイのやろうとしていることが、自然とわかった。


侑「歩夢ーーーーっ!!! いけーーーーっ!!!」

歩夢「エースバーンッ!!!! イーブイに向かって、“ブレイズキック”ッ!!!」


エースバーンは身を捻りながら──


 「バァァァァァァーーースッ!!!!!!!!!!!!!!」


空中のイーブイを、蹴り飛ばした。


 「ブゥゥゥゥイィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!」


燃える火球となったイーブイが猛スピードで、


 「ム、キィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!」


怒り狂うオコリザルの──急所を捉えた。

炸裂と共に、2匹分のほのおのエネルギーが一気に膨張し──爆裂した。


歩夢「きゃぁっ!!?」

侑「くっ……!!」


激しい爆風に思わず尻餅をつく。

そんな爆風が収まり──炎が晴れた先では、


 「ム、キィィィィ……」
702 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:47:36.73 ID:s0SNcJvm0

丸焦げになったオコリザルが、白目を向いて、ひっくり返っていた。


 「ブ、ブイ…ブィィ…」


そして、オコリザルの傍らには、ふらふらになりながら立っているイーブイ。

少し離れたところで、


 「バ、バァス…」


こちらも満身創痍ながら、どうにか立っているエースバーンの姿があった。


歩夢「え、っと……」


なんだか、ポカンとしてしまった。


侑「歩夢」

歩夢「侑ちゃん……?」

侑「私たちの──勝ちだよ」

歩夢「……ぁ」


オコリザル、戦闘不能。よって、この勝負は──


歩夢「私たち……勝ったんだ……っ……」


自然と涙が溢れてきた。


歩夢「勝ったんだ……っ……」

侑「うん……! 勝ったよ! 二人で!」

歩夢「……勝った……勝てたよぉ……っ……侑ちゃんと、二人で……っ……ひっく……っ……」

侑「うんっ! 歩夢が居たから、勝てたよ!」

歩夢「侑、ちゃん……っ……、ゆう……ちゃん……っ……!」


私は嬉しくて嬉しくて、涙が止まらなくて。

何度も何度も侑ちゃんの名前を呼びながら、しゃくりをあげて泣きじゃくる。


侑「歩夢……ありがとう……」

歩夢「……ぅぇ……っ……ひっく……っ……わ、わた、しも……あり、がとう……ゆう、ちゃ……っ……」

侑「うん……」


ぎゅっと抱きしめてくれる侑ちゃんの胸の中で、しばらくの間、泣き続けていました。



703 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:48:29.70 ID:s0SNcJvm0

    🎀    🎀    🎀





侑「落ち着いた?」

歩夢「……うん///」


なんだか、ものすごく泣いてしまった。

ちょっと恥ずかしい……。


侑「ふふ、ならよかった」


侑ちゃんがクスリと笑う。


歩夢「むー……笑わないでよ……///」

侑「ふふ、ごめんごめん」


また笑うし……。

そんな私たちのもとに、


凛「逆転勝ちだと思ったのににゃー……」

花陽「ふふ、そうだね」


凛さんと花陽さんが歩いてくる。


凛「でも、すっごい楽しいバトルだった!」

花陽「うん!」

凛「侑ちゃん、歩夢ちゃん。こっちにおいで」

侑「はい! ……歩夢」


侑ちゃんが私の手を引いて、立ち上がらせてくれる。


歩夢「……ありがとう、侑ちゃん」

侑「どういたしまして♪」


二人で、並んで凛さんと花陽さんの前に立つ。


凛「二人の果てしない信頼、強さ、勇気を認めて──この“コメットバッジ”と」

花陽「“ファームバッジ”を進呈します♪」

侑・歩夢「「……はい!!」」
704 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:49:03.27 ID:s0SNcJvm0

バッジを受け取り、私は思わず天を仰いだ。

すると、来るときは透き通るように青かった空は──綺麗な茜色に染まっていた。

きっと明日も晴れ渡っているんだろうな──今の私の心のように。


歩夢「侑ちゃん」

侑「ん?」

歩夢「これまで、ありがとう……!」

侑「ふふっ、こちらこそ」


私はやっとこれで一区切り出来た気持ちだった。

だから、これまでのお礼と、


歩夢「これからも、よろしくね!」

侑「うん!」


これからの気持ちを全部込めて、侑ちゃんに伝えるのでした。



705 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:49:43.29 ID:s0SNcJvm0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【流星山】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂●|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.39 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.36 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.28 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:111匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.37 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.33 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.32 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.26 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:138匹 捕まえた数:15匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



706 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/12/02(金) 22:51:07.51 ID:QMN4W/Ljo
『SVレート初戦』
(21:37〜)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
707 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:00:09.91 ID:ogLreJcM0

■Chapter036 『朧月の夢の中で』 【SIDE Ayumu】





流星山で激闘の末、凛さん、花陽さんとの戦いに勝利した私たち。

気付けば、すっかり日も落ちて、夜の時間が訪れようとしていた。


侑「歩夢……空、すごいね」
 「ブィ〜!!」

歩夢「……うん」


ふと空を見上げると、まだ日が落ちて間もないのに、空にはたくさんの星が瞬き始めていた。


リナ『流星山は天体観測の名所だからね。空気が澄んでて星がよく見える』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんの言うとおり、話には聞いていたけど……実際に見ていると、満天の星たちが今にも落ちてくるんじゃないかという錯覚に陥る。


 「…シャボ」


バトルの後、回復してあげて、すっかり元気になったサスケも、私に釣られて空を見上げる。


侑「サスケが、ご飯以外に興味を示すなんて珍しい……」

歩夢「ふふ、そうかも♪」
 「シャボ」


だって、本当にすごい星空なんだもん。普段ご飯にしか興味のないサスケだって、気になっちゃうよね。

──さて、ジム戦を終えたのに、どうしてまだ私たちがこの流星山に残っているのか、その理由は……。


侑「っと……あんまりのんびりして、凛さんたちを待たせてちゃいけないね」

歩夢「うん、そうだね」


凛さんの提案で今日はホシゾラ天文所に泊めてもらえることになったからだ。

凛さんと花陽さんは、一足先に天文所に行って宿泊手続きをしてくれている。

なので、私は侑ちゃんと一緒にのんびり夜空を見上げながら、天文所に向かっているところというわけだ。

とはいえ、この星空を堪能していたら、本当に一晩中、空を見上げたまま、ここに根っこが生えてしまいそう。

だから、一旦夜空の鑑賞はここまでにして、天文所へ向かうことにする。


侑「花陽さんが、コメコで採れた食材でご飯を作ってくれるらしいし!」

 「シャボッ!!!!」


ご飯と聞いて、サスケが私の肩から降りて、天文所に猛スピードで向かっていく。


歩夢「もう、サスケったら……」

侑「あはは♪ ジム戦頑張ったし、きっとお腹空いてるんだよ。私もお腹ペコペコだし……」
 「ブイ」


イーブイも侑ちゃんに同調するように、鳴く。

確かに、あんな激戦の後だから、私もお腹空いたかも……。


リナ『それじゃ、早く天文所に行こう♪』 || > ◡ < ||

侑「だね! 歩夢、行こう!」
708 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:02:29.09 ID:ogLreJcM0

そう言って、侑ちゃんが駆け出す。


歩夢「あ、侑ちゃん! 暗いから、走ったら危ないよ!」

侑「平気平気!」

歩夢「もう……!」


慌てて侑ちゃんの後を追いかけようとした、そのときだった。

少し離れたところに、星空を見上げる小さなポケモンが居た。


 「…ピィ」


小さな小さな星型のシルエット。

あれって……。


歩夢「……ピィ?」


ほしがたポケモンのピィ。

可愛らしくて、小さい頃から好きなポケモンなんだけど……すごく珍しいポケモンだから、野生の姿を見るのは初めてだった。

もっと近くで見てみたくて、ピィに近寄ろうとしたら、


 「ピ?」


ピィは私に気付いたようで。


 「ピィ〜」


ぴょんぴょん跳ねながら、どこかに逃げて行ってしまった。


歩夢「あ……行っちゃった……」


仲良くなりたかったんだけどな……。

ちょっぴり残念に思っていると、


侑「──歩夢〜? 何してるの〜? 早く行こうよ〜?」


侑ちゃんが呼び掛けてくる。


歩夢「あ、うん! 今行く!」


逃げられちゃったのは残念だけど……この山に生息しているなら、また会えるかな?

天文所に着いたら、凛さんに聞いてみようかな。

私は胸の内でそう決めて、侑ちゃんの後を追いかけるのだった。



709 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:03:05.56 ID:ogLreJcM0

    🎀    🎀    🎀





凛「──にゃ? ピィ?」


天文所の食堂で、花陽さんの作ってくれたご飯を食べながら、私はピィのことを凛さんに訊ねていた。


歩夢「はい、さっき見かけたんです」

侑「えー! 私もピィ見たかったなぁ……言ってくれればよかったのに……」

歩夢「だって、侑ちゃんどんどん先に行っちゃうんだもん……」


尤も、いの一番に飛び出して行っちゃったのはサスケなんだけど……。

羨ましがる侑ちゃんに対して、


凛「うーん……」


凛さんは腕を組んで唸っていた。


花陽「凛ちゃん、どうしたの?」

凛「うーんと……ピィかぁ……」

歩夢「……?」


凛さんの不思議な反応に首を傾げていると、リナちゃんがふわふわと近付いてきて、


リナ『流星山にはピィは生息してないはずだよ』 || ╹ᇫ╹ ||


そんなことを言う。


歩夢「え?」

侑「そうなの?」

リナ『うん。流星山にピィはいない。少なくとも図鑑の分布データでは生息してないってことになってる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「えぇ……?」

侑「もしかして、他のポケモンと見間違えた?」

歩夢「そんなはずないと思うんだけど……」


あの独特な星型のシルエット……見間違えるかな……?


凛「確かに……流星山にはピィは生息してないよ」

侑「やっぱり、見間違えたんじゃない?」

歩夢「えぇ……? あれはピィだったと思うんだけど……」


絶対にピィだったと思うんだけど……なんだか、みんなに言われると、自信がなくなってくる。


凛「ここ自体が研究施設だから、周辺のポケモン分布とかはしっかり調査されていて、ピィはいないってことになってるんだけど……」

歩夢「……そうなんですか」


思わずしょんぼりしてしまう。しょんぼりしてから、


歩夢「……いないってことになってる?」
710 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:04:02.40 ID:ogLreJcM0

不思議な言い回しだったことに気付く。


凛「実はね、天文所が出来るよりずーーーっと前。凛が生まれるよりもずっとずっと昔から、流星山にはちょっとした伝説が残ってるんだ」

歩夢「伝説……ですか?」

凛「流れ星の夜になると、月の世界からピィが流れ星に乗って遊びに来るっていう伝説。実際、流星山の周辺でたびたびピィを見たって情報があってね……」

歩夢「じゃあ、やっぱりあれは……!」

凛「……ただね。何度調査しても、ピィは発見されてないんだ。だから、ここの所長として言うなら、ピィは生息してない……って答えになっちゃうかも」

歩夢「そんなぁ……」

凛「ただ、夢のあるお話だから、凛もいるって信じたいんだけどね」


凛さんは苦笑いする。


侑「その伝説ってピィが遊びに来るってだけのお話なんですか? それだけだと伝説って言うよりはただの噂っぽい気が……」

凛「あはは、確かにそれだけだと噂だよね。なんでも、ピィは龍神様の遣いなんだって」

侑「龍神様……?」


侑ちゃんが首を傾げる。


歩夢「龍神様ってもしかして……龍の止まり樹の龍神様ですか?」

凛「歩夢ちゃん、よく知ってるね! その龍神様だよ」

侑「え、なにそれ?」

歩夢「ほら、セキレイの南におっきな樹があるでしょ?」

侑「ああうん、大樹・音ノ木だよね。この地方のシンボル」

歩夢「そこの頂上でお休みする龍のお話、聞いたことない?」

侑「……ああ、そういえば絵本で読んだことあるかも」


私が説明すると、侑ちゃんはなんとなく思い出したようだ。


侑「龍の咆哮だよね。毎年季節になると、大樹から龍の鳴き声がするってやつ。ちょうど今くらいが季節なんじゃないっけ?」

花陽「でも、あれはメテノが衝突する音なんだよね?」


確かに私もそう教わった。昔の人はそれが龍神様の咆哮だと思い込んでいただけだったって……。


凛「うん。今ではそう言われてるね。ただ、それは別の現象なだけで、本当は実際に龍神様がいるって考えもあるんだよ」

歩夢「そうなんですか?」

凛「普段は人目に付かないところでひっそり暮らしてるんじゃないかって。……そして、そんな龍神様のもとに導いてくれるのが、ピィだって言われてるんだよ」

歩夢「じゃあ、あれは……」

凛「もしかしたら、龍神様が近くに来てて、その遣いのピィも流星山に遊びに来てるのかもしれないにゃ」

侑「ホントなら、龍神様、会ってみたいなぁ……!」

凛「でも龍神様は、怒ると怖いらしいよ〜? 怒らせると、町一つくらいだったら簡単に消し飛ばしちゃうんだって!」

リナ『随分おっかないね、龍神様……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

凛「まあ、お伽噺の一つだからね。ちょっと大袈裟に表現してるんだと思う。ホシゾラの町では、親が子供に『言うこと聞かないと龍神様が怒って出て来るぞ!』なんて言って脅かすんだよ。凛も小さい頃お母さんから、よく言われたにゃ……」

花陽「ふふっ、凛ちゃんちっちゃい頃はよくいたずらして怒られてたもんね♪」

リナ『お伽噺はあんまり私のデータにないから興味深い』 || ╹ ◡ ╹ ||
711 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:04:42.22 ID:ogLreJcM0

話はすっかり、龍神様の話題になってしまったけど、


歩夢「やっぱり、あれは……ピィだったのかな……」


私は龍神様の遣いのピィのことがすごく気になっていた。





    🎀    🎀    🎀





──夜も更けてきた頃合い。

私たちは、用意してもらった宿泊部屋で過ごしていた。

もういい時間なので、隣では侑ちゃんがイーブイの毛繕いをしながら、船をこぎ始めている。

そんな中、


歩夢「……よし」


私は上着を羽織って、外に出る準備をする。


侑「んぁ……? 歩夢、外行くの……?」

歩夢「うん。ちょっと星が見たくて……」

侑「……私も……行く……」

歩夢「もう眠そうだし、無理しないで? 私もちょっと見たら、戻ってくるから」

侑「んー……そういうことなら……」


もともと一人で行くつもりだったし、完全にうとうとしている侑ちゃんを連れて行くほどではない。

ちょっと確認がしたいだけ。

さっきピィがいた場所を確認して、ピィがいなかったらすぐに戻るつもりだ。


歩夢「それじゃ、ちょっと行ってくるね」

侑「んー……いってらっしゃーい……」


ふにゃふにゃと手を振る侑ちゃんに見送られて、私はさっきの場所に一人で赴く。





    🎀    🎀    🎀





真っ暗な夜道を、足元に気を付けながら歩いていく。


歩夢「確か……この辺りだよね……」
 「シャボ」


さっきピィを見かけた場所は、天文所からそう離れた場所じゃなかったから、すぐにたどり着いた。

ただ、


歩夢「ピィ……いないね」
 「シャボ」
712 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:05:27.71 ID:ogLreJcM0

ピィの姿はないし、鳴き声のようなものも聞こえない。聞こえるのは、私の言葉に相槌を打ってくれるサスケの鳴き声くらい。


歩夢「やっぱり……見間違いだったのかな」


結構自信あったんだけどな……。

ちょっとしょぼんとしてしまう。

でも、見間違いだってことがわかっただけでも、すっきりしたかな。


歩夢「早く戻ろっか」
 「シャボ」


私が来た道を戻ろうとした、そのときだった。


 「──ピィ」


背後から、鳴き声がした。


歩夢「え?」


声がする方に振り返ると、


 「…ピィ」


いつの間にか、星型のシルエット──ピィが少し離れた場所にいた。


歩夢「……いた」

 「ピィ」


本当にいた……。

ピィは少し離れた場所で、ぴょこぴょこ飛び跳ねながら、踊っている。

何をしているんだろう。

今度こそ、間近で見たくて、私がピィの方へ歩を進めると、


 「ピッ!?」


私の足音に気付いたのか、ビクッとして、


 「ピピィッ!!!」


逃げ出してしまう。


歩夢「あ、待って……!」


慌てて追いかける。


 「ピ、ピィ!!!」


ピィはぴょこぴょこ跳ねながら、岩山を奥へ奥へと逃げていく。


歩夢「待って! ちょっとお話ししたいだけなの……!」

 「ピ…?」


私の言葉を理解したのかしていないのか、ピィが足を止める。
713 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:06:20.28 ID:ogLreJcM0

歩夢「ごめんね、びっくりさせちゃったみたいで……」

 「ピィ」


ゆっくり近付くと、ピィはおとなしく私を待ってくれている。

出来るだけ大きな音を立てないようにして近付き……ピィの目の前にしゃがみこんで、声を掛けてみる。


歩夢「こんばんは。私、歩夢」
 「ピィ」

歩夢「あなたは……龍神様の遣いさんなの?」
 「ピィ?」


ピィは私の言葉に小首を傾げる。


歩夢「って言ってもわかんないか……」


人間の作ったお伽噺でそう言われているだけだもんね。


歩夢「あなたはここに住んでるの?」
 「ピィ?」

歩夢「それともここじゃないどこかから来たの?」
 「ピィ」

歩夢「あはは、よくわからないや……」
 「ピィ」


手を伸ばして、優しく撫でてみる。


歩夢「よしよし♪」
 「ピィ♪」


ご機嫌に鳴くピィ。

触れるし……本当に目の前にいるのは確かだ。

でもデータ上、ピィがここには生息していないというのも恐らく事実なんだと思う。

嘘を言う理由がないし……。

そうなると、普段ピィは人目に付かない場所にいるってことになるけど……。


歩夢「あなたは普段どこにいるの?」
 「ピィ?」


そう訊ねると、ピィは、


 「ピィ…」


月を見上げる。


歩夢「お月様から来たの……?」
 「ピィ」

歩夢「……やっぱり、この子……龍神様の……?」


確証はないけど……やっぱり、なんだか不思議な感じがする。

ただ、しばらく撫でていたら、飽きてしまったのか。


 「ピィ」
714 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:07:08.41 ID:ogLreJcM0

私の手から離れて、またぴょこぴょこと岩山を奥へと跳ねていく。

少し名残惜しかったけど……なんだか、捕まえるという感じではないし、そっとしておいた方がいい気がした。

実際に、ピィがいることが確認出来てすっきりもしたし。

今度こそ、戻ろうかなと思った瞬間──遠くで大きな音がした。


歩夢「龍の咆哮……?」


さっき侑ちゃんが言っていたとおり、今はちょうど龍の咆哮の季節だ。

北側を見ると、音ノ木に向かって虹色の流星の筋が見えた。

色とりどりのメテノたちの姿だ。


 「シャボ」
歩夢「ああ、うん。戻るんだったね」


改めて戻ろうとした、そのとき、


 「ピィーーー!!!?」
歩夢「!?」


ピィの鳴き声が響く。

声がする方に、バッと振り返ると──


 「ピ、ピィィ!!!?」


ピィが岩の突き出た崖から落ちそうになっていた。短い手で必死に崖を掴んでいる。

まさか、龍の咆哮に驚いて、バランスを崩した……!?


歩夢「あ、危ない……!?」


私は咄嗟に、ピィのもとへと駆け出して、


歩夢「ピィ……! 今助けるからね!」
 「ピ、ピィィ…」


突き出した岩の上で腹ばいになって、ピィに手を伸ばす。


歩夢「おとなしくしててね……!!」
 「ピィィィ…」


ピィの小さな手を掴んで、手繰り寄せる。


 「ピィ…」
歩夢「もう、大丈夫だよ……」


しっかりと胸に抱き寄せる。

これで安心だ。

そう思った、瞬間──ガクンと視界が揺れた。


歩夢「っ!?」


急な浮遊感に、頭が真っ白になる。

突き出た岩が私の体重を支え切れずに──崩れた。


 「シャーーボッ!!!!!」
715 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:07:48.09 ID:ogLreJcM0

サスケが咄嗟に、私の腕に尻尾を巻き付けて、


 「シャボッ!!!!!」


崖に牙を突き立てて、噛み付く。

それによって、宙ぶらりん状態になるが、


 「シャ、シャボォォォォ…!!!」


サスケの小さな体で、私の体重を支えるのは無理だ……!


歩夢「サスケっ!? ダメ!! サスケじゃ支えきれないよ!?」
 「シャボォォォォ…!!!!」

歩夢「サスケだけでも、上にあがって!! 私のことはいいから!!」
 「シャァァボォォォォォ…!!!!」


このままじゃサスケの体がちぎれちゃう……!!


歩夢「サスケ、私を放して!!」
 「シャァァァァボォォォォォォ……」

歩夢「お願い!! 言うこと聞いて!!」
 「シャァァァァボ……」


だけど、一向にサスケは私を放そうとしない。

腕に食い込むくらいの力で尻尾を巻き付けてくる。

──ビシ。

頭上でさらに嫌な音がした。

直後──再び、全身が浮遊感に包まれる。

サスケが噛み付いていた崖ごと──崩れた。

でも、落ちながら──サスケがちぎれちゃうより、マシだなんて思ってしまった。


歩夢「サスケ……! ピィ……!」


落ちながら2匹のポケモンをぎゅっと抱き寄せる。

神様、お願い……! この子たちだけでも、助けて……!!


歩夢「お願い……!! 龍神様──」





    🎀    🎀    🎀





 「──シャボ」


──声が……聞こえる……。


 「──ピピィ…?」「シャボ」


──サスケと……ピィの……声……?


歩夢「……ん……ぅ……」
716 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:08:31.76 ID:ogLreJcM0

ぼんやりと目を覚ますと──


 「シャボッ!!!」「ピピィ!!」


サスケとピィが私の顔を覗き込んでいた。


歩夢「……サスケ……ピィ……」
 「シャーボッ」「ピィ」

歩夢「……私……生きてる……?」


ゆっくりと身を起こす。

まだ、ぼんやりしている頭のまま、周囲を見回すと──洞窟の中のような場所にいた。

でも、ただの洞窟というわけではなく……灯りがある。

壁に火の灯った松明が掛けられていて、お陰で視界が確保されていた。

それに、私が寝ていた場所も……平たい岩の上に藁が敷き詰められていて……寝床のような状態になっていた。


歩夢「ここ……どこ……?」


私……崖から落ちたんだよね……?

キョロキョロと周囲を見回していると──


 「──……目を覚まされたんですね」


背後から声を掛けられて、振り返る。

そこには、見たことのないデザインの和装──民族衣装かな──を身に纏い、やや緑掛かった黒髪をボブカットにし、左側を髪飾りで留めている女の子の姿があった。


歩夢「あなたが、助けてくれたの……?」

女の子「いえ、助けたのは、そこのピィですよ」

歩夢「え……?」

女の子「その子が、貴方をここに連れて来たんです」

歩夢「どういうこと……?」


まさか、ピィが私を持ち上げてここまで運んできた……とか……?

疑問が顔に出ていたのか、女の子は、


女の子「ピィが持ち上げて運んできたわけではありませんよ」


私の心の中の疑問を正確に復唱しながら否定する。


女の子「ピィが貴方をここに導いたんです」

歩夢「導いた……? えっと、ここはどこなの……?」

女の子「ここは……そうですね。どこでもない場所です」

歩夢「……?」


いまいち話が要領を得ない気がするんだけど……。

またしても、疑問が顔に出ていたんだろう。


女の子「そうですね……強いて言うなら、“朧月の洞(おぼろづきのうろ)”と呼ばれることがあります」


女の子はそう教えてくれる。
717 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:09:08.41 ID:ogLreJcM0

歩夢「朧月の……洞……?」

女の子「ええ。それと、ピィを助けてくださったようで、ありがとうございます」

歩夢「えっと……」


助けたのか、助けられたのか……ここはどこで、目の前の子は誰なんだろう……?

疑問だらけで、頭の中がこんがらがりそうになる。


女の子「順を追って説明をしましょう。……とりあえず、場所を移したいのですが……立てますか?」

歩夢「あ……うん……」


ゆっくりと立ち上がってみせると、目の前の女の子は一度小さく頷いてから、


栞子「私は栞子と言います。こちらへどうぞ」


そう名乗ってから、奥へと歩いていく。

私はその後ろを付いていく形で歩を進める。


 「シャボ」「ピィ」


サスケとピィも私に付いてくる。

私が眠っていた部屋からちょっと歩くと、開けた部屋に出た。

そこには──


 「ピッピ」「ピピッピ?」「ピッピプ〜」

歩夢「ピッピ……?」


たくさんのピッピがいた。

ピッピたちの群れを見た瞬間、


 「ピィ」


ピィがピッピたちの群れに向かって、とことこと駆け出していく。


 「ピピッピ?」「ピピピ」
 「ピィ」
 「ピピップ」「ピッピ」


何やら話をしながら、ぴょこぴょこと飛び跳ねている。


栞子「あのピィは群れで一番幼い子でして、時折勝手に外に遊びに出かけてしまうんです」

歩夢「は、はぁ……」

栞子「外は、身を守る手段の乏しいピィには危険な場所なので、行かないように言っているのですが……やんちゃで言うことを聞かないことが度々あって……」

歩夢「あの……外、って言うのは……」


さっきも言っていた、外とか、どこでもない場所、とか……。


栞子「そうですね……ここは、特別な結界の中にある場所……と言えば、少しはわかりやすいでしょうか」

歩夢「結界……?」

栞子「そう、結界……。外の世界とは隔絶された、特別な空間」

歩夢「……」
718 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:09:47.21 ID:ogLreJcM0

要領を得ないことには変わりないけど……私の頭の中で一つ、結びついたことがあった。


歩夢「龍神様の……遣い……」

栞子「そうですね、外でピィがそのように呼ばれることがあるのは把握しています」


私の言葉に、栞子ちゃんは首を縦に振る。

つまり、ここは……。


歩夢「龍神様のいるところ……ってこと……?」

栞子「はい、そうですね」

歩夢「あの話……本当、だったんだ……」


まさか、ピィが本当に龍神様の遣いだったなんて……。


栞子「ですが、本来は外の人間がここに来ることはありません」

歩夢「え? じゃあ、どうして私は……」

栞子「貴方が、落ちそうになったピィを、身を挺して助けてくれたからです」

歩夢「身を挺してって……あのときはただ夢中だっただけで……」

栞子「その姿勢が、龍神様のお気に召したのでしょう。仮に遣いの案内があっても、心の穢れた人間は入ることすら出来ない場所ですから」

歩夢「…………」


恐らく、龍神様の聖域……みたいな場所なんだと理解する。

落ちそうなピィを助けた結果、私も一緒に落ちちゃったけど……落ちている最中に、ピィがこの空間に私を飛ばして、助けてくれたということらしかった。

それはわかった……けど、


歩夢「あの……」

栞子「なんでしょうか?」

歩夢「あなた……栞子ちゃんは、どうしてここにいるの?」


この子がここにいる理由がよくわからなかった。そもそもこの子は誰なんだろう……?


栞子「いきなりちゃん付けですか……」

歩夢「あ、ご、ごめんなさい……! 馴れ馴れしかったかな……?」

栞子「いえ……あまり、そのように呼ばれたことがなかったので驚いただけです。呼び方は貴方のご自由に」

歩夢「あ……私は歩夢って言います!」


そういえば、まだ名乗っていなかった。
719 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:10:33.89 ID:ogLreJcM0

栞子「歩夢さんですね。覚えておきます。……それで、どうしてここにいるか、ですが……」

歩夢「うん」

栞子「私は……巫女なんです」

歩夢「……巫女……? えっと、龍神様の……ってこと?」

栞子「はい。私たちの一族は代々、龍神様の巫女として仕えてきました。その中でも当代の巫女は“翡翠の巫女”と呼ばれています」

歩夢「それじゃあ……栞子ちゃんがその翡翠の巫女なの?」

栞子「そうなります」

歩夢「ここには他の人はいないの?」

栞子「はい。私の一族は基本的には隠れ里に住んでいて、翡翠の巫女だけが、龍神様の傍にお仕えする決まりになっているんです。龍神様はあまり人間がお好きではなく……最低限の人間しか傍に置きたがらないので」

歩夢「そうなんだ……。じゃあ、栞子ちゃんはずっと一人で……」

栞子「一人ではありませんよ。ポケモンたちがいますから」

歩夢「ポケモンたちって……ピッピたち?」

栞子「ピッピたちもそうですが……。見た方がわかりやすいと思います。こちらへどうぞ」


栞子ちゃんはそう言って、さらに奥の部屋へと私を案内する。


栞子「このピッピたちの部屋は、月と星を通じて、ここと外界を繋ぐ部屋……つまるところ、この結解の玄関のような場所なんです」


栞子ちゃんの案内で、ピッピたちのいた部屋の隣の部屋へ入る。

そこは先ほどよりは小ぢんまりとしていて──部屋の中には、お布団や畳んだ衣服が置かれていた。


歩夢「もしかして、栞子ちゃんの部屋……?」

栞子「はい」


通された彼女の部屋の中から、生き物の気配がする。


栞子「みんな、出て来てください」


栞子ちゃんが声を掛けると、


 「キュゥ…」「ワン」「ビリリリ」「ウォー」


ポケモンたちが顔を出す。


栞子「こちら歩夢さんです。ピィを助けてくれたんですよ」
 「キュウ…」「ワンワン」「ビリリ」「ウォー」


出て来たポケモンは4匹。でも、どれも見たことのないポケモンばかり。


栞子「歩夢さん、こちら一緒に住んでいるポケモンたちです。ゾロア、ガーディ、ビリリダマ、ウォーグルです」

歩夢「え?」


ただ、栞子ちゃんの紹介する名前はどれも知っているポケモンの名前ばかりだった。

特にゾロアなんかは、かすみちゃんのゾロアを何度も見てきたから、馴染み深い。

でも、目の前にいるゾロアは、かすみちゃんのゾロアのような黒い毛ではなく……真っ白な毛並みをしていた。

ゾロア以外も、ガーディは白いもこもこで目が覆われているし、ビリリダマは……なんだか質感が木のようだ。

私が知っているガーディやビリリダマとは違う姿をしている。

ウォーグルは……実物を見たことがないから、あまりわからないけど……少なくとも、テレビで見たことがある姿とは何か違う気がする。
720 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:11:17.29 ID:ogLreJcM0

栞子「この姿、あまり馴染みがないかもしれませんね」

歩夢「う、うん……」

栞子「この子たちは今はもうない、ヒスイ……という地に生息していたポケモンなんです」

歩夢「ヒスイ……」

栞子「翡翠の巫女は、龍神様にお仕えすることの他に、このヒスイの地に生まれたポケモンたちを人知れず守るのも使命の一つとして代々受け継いできたんです」

歩夢「そうなんだ……。じゃあ、この子たちは栞子ちゃんの家族なんだね?」

栞子「家族……そうですね。私の家族です」

歩夢「そっか……じゃあ、私とおんなじだ」

栞子「?」

歩夢「私もお家にたくさんポケモンがいてね、小さい頃から家族同然に過ごしてきたんだ」

栞子「……だからですね」

歩夢「え?」

栞子「歩夢さんからは、少し不思議な雰囲気を感じていました」

歩夢「不思議な雰囲気……?」

栞子「はい。本来ここに住んでいるピィは警戒心が強くて、滅多に人間には近寄らないのですが……歩夢さんにはポケモンの警戒心を解く、不思議な雰囲気があるようです。それは恐らく、幼い頃から、ポケモンと家族同然に育ってきたからこそ、身に付いたものなのでしょう」

歩夢「そう……なのかな?」

栞子「ええ。だからこそ、ピィも心を許してくれたんだと思いますよ」


自覚はないけど……そうらしい。


栞子「他の部屋にも、別のヒスイのポケモンたちがいますが……特に仲の良い子はこの子たちなんです。あ、もちろん、ピィやピッピとも仲良しですよ」

歩夢「大切な子たちなんだね」

栞子「はい。この子たちがいるから、私は寂しくないんです。……寂しくありません」


そういう栞子ちゃんの声は……なんだか、強がっているような気がした。

歳は私と同じか……少し下くらいかな……。

そんな女の子がこんな薄暗い洞窟の中で、ずっと一人で過ごしていて、寂しさを感じないわけなんてない。

だから私は、


歩夢「……ねぇ、栞子ちゃん」

栞子「なんですか?」

歩夢「私と……お友達になってくれないかな?」


自然とそう提案していた。


栞子「お友達……ですか……?」

歩夢「うん。ダメかな……?」

栞子「ダメ……ではないです。そう言ってくださって嬉しいです。ですが……もう会うこともないでしょうから」

歩夢「え……」

栞子「本来、ここに外の人間が入ることも、存在を知らせることも、許されていないんです。今回はあくまで特例ですから」

歩夢「そっか……」

栞子「ですから……今日ここで見たことは、歩夢さんの心の中だけにしまっておいてください」

歩夢「……うん、わかった」

栞子「それでは……帰りの道をご案内します」
721 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:12:30.52 ID:ogLreJcM0

栞子ちゃんと一緒にさっきのピッピたちの部屋へと戻る。


栞子「そこの中央の丸い岩の上に」

歩夢「うん」


ピッピたちが踊る部屋の真ん中にある──大きな真ん丸のテーブルのような岩の上に立つ。

すると、不思議なことに、洞窟の中なのに、頭上に空が見えて、月の光が降り注いでくる。


栞子「そこを通れば、外の世界に戻れますよ」

歩夢「ありがとう、栞子ちゃん」

栞子「いえ……こちらこそ、ピィを──家族を、助けていただいて、感謝しています」


栞子ちゃんは丁寧に腰を折ってお辞儀をする。


歩夢「もう、会えないんだよね……?」

栞子「はい。不思議な夢を見たと、そう思ってください」

歩夢「……せっかくお友達になれたのに……ちょっと、寂しいな」

栞子「寂しくありませんよ。きっと外で、歩夢さんの大切な人たちが待っていますから」

歩夢「……うん……ばいばい、栞子ちゃん」

栞子「はい。お元気で」


私は──ゆっくりと、空にある朧月へと、吸い込まれていき……不思議な浮遊感に包まれながら、元の世界へと帰っていく──




722 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:13:16.50 ID:ogLreJcM0

    🎀    🎀    🎀





気が付いたときには、


侑「…………すぅ……すぅ……zzz」
 「ブイ…zzz」


ホシゾラ天文所の宿泊部屋にいた。

ベッドの上で侑ちゃんが眠っているから間違いないだろう。


歩夢「戻ってきた……」
 「シャボ」


なんだか、随分と不思議な体験をしてしまった気がする。

あまりに不思議すぎて……。


歩夢「……夢、だったのかな」


寝ぼけていただけなのかと、一瞬思ったけど……。

ピィも、ピッピも、ヒスイのポケモンたちも。

──栞子ちゃんも。

全部全部、鮮明に覚えている。

──『不思議な夢を見たと、そう思ってください』

栞子ちゃんには、そう言われたけど。


歩夢「……」


どうして栞子ちゃんが、ヒスイの家族たちを紹介してくれたのか。

ただ送り返すだけでもよかったはずなのに。

それは、もしかして……。


歩夢「……自分を、知って欲しかったから……じゃないかな」


たった一人で、龍神様に仕える中で、偶然現れた私に、自分という存在を伝えたかったんじゃないかな。

ここにいるよ。ここで使命を全うしているよ。ここで家族と暮らしているよ。

そんなことを、知って欲しかったんじゃないかなって。

わかんないけど……私の想像でしかないけど。

もう会うことはないって言われたけど……でも、


歩夢「忘れないでいれば……いつか、どこかで会うかもしれないから」


──たった、一時だけど、朧月の夢の中で出会った不思議な女の子……栞子ちゃんのことを。今日あった不思議な出来事を、忘れないように胸にしっかり刻んで、しまうことにした。

また、いつか……あの朧月の夢の中で出会える日を、願って……。



723 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:13:52.86 ID:ogLreJcM0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【流星山】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂●|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.37 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.34 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.32 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.26 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:143匹 捕まえた数:15匹

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.39 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.36 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.28 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:111匹 捕まえた数:4匹


 歩夢と 侑は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



724 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 01:55:00.14 ID:iC9FggQ30

 ■Intermission🎹



──そこは温かい丘だった。


 「ベベノ〜♪」

 「ベノ〜」「ベノム〜」「ベベベノ〜」


その温かい丘で、小さなポケモンがたくさん楽しそうに飛んでいる。

みんな同じポケモンで紫色のポケモンだけど……そのうちの1匹だけは目を引くような白と黄色の白光色をしていた。


  「ベノ〜♪」
 「アタシたちに楽しいこと、報告してくれてるのかもね♪」

 「うん。きっとそう」


──女の子二人がそんな会話をしていた。


そのうちの一人に──


 「ベベノ?」


さっきの小さなポケモンが1匹近づいてくる。

この子はたくさんいる紫色の子のうちの1匹だ。

その子は白光色の子と一緒に踊り始める。


  「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」

 「この子なら、仲良くなれそう」

 「そうだね。ねぇ、ベベノム、よかったらアタシたちのベベノムと友達になってよ」
  「ベベノ〜♪」

 「よかったね、ベベノム♪ 友達出来たよ♪」
  「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」

 「また、賑やかになるね」

 「だね〜♪」


なんだか楽しくて、嬉しくて、温かな光景だった……。



 「ニャァ…」



──
────
──────


侑「……んぅ……」


目が覚める。


侑「…………まただ」


また、この夢……。

最近、よく見る……。


侑「なんなんだろ……?」
725 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 01:55:44.87 ID:iC9FggQ30

最初は何も気にしていなかったけど……さすがに短い間に何度も見ると、何か意味があるのかと考えてしまう。

そういえば、夢の中に出てきた女の子……。どこかで見たような……?


侑「…………夢の記憶が曖昧で…………思い出せない……」


さすが夢とでも言うべきだろうか……。なんとなくの印象はあったけど……容姿を鮮明に覚えていないというか……。


歩夢「……ん……ぅ…………ゆうちゃん……?」

侑「あ、ごめん……起こしちゃった?」

歩夢「んーん……大丈夫……」


歩夢は眠そうに目を擦りながら身を起こす。


リナ『おはよう。侑さん、歩夢さん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「おはよう、リナちゃん」

歩夢「……おはよう…………ふぁ……」

リナ『歩夢さん、まだ眠そう』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「ん……ちょっと……」

侑「まだ寝てていいよ。ごめんね、起こしちゃって」

歩夢「……じゃあ……もう少しだけ……」


そう言うと、歩夢はぽてっと横になると……すぐに、すぅすぅと寝息を立て始めた。


リナ『歩夢さんの寝起きが悪いなんて、珍しいね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「確かにそうだね」


リナちゃんと二人ひそひそ声で話す。

歩夢は朝に強い方だから、私も珍しいもの見ちゃったかも。


侑「昨日、寝るの遅かったのかな? リナちゃん、知ってる?」

リナ『うぅん。スリープモードにしてたから……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「そっか。まぁ……昨日はジム戦もあったし、もう少しゆっくり休ませてあげよう」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「…………すぅ……すぅ……」


さて……歩夢が起きるまで、どうしようかな……。

あまり音を立てないように、ベッドの上で身体を伸ばしていると、


リナ『そういえば、侑さん。今日はどうする予定?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんがそう訊ねてくる。


侑「うーんと……せっかく流星山の頂上まで来たし、北に向かって、アキハラタウンを目指す感じになるかな?」

リナ『となると、流星山の北側を下山するんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん。アキハラタウンでは特にやることもないから……そのまま、セキレイを目指すことになると思う」
726 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 01:56:20.96 ID:iC9FggQ30

アキハラタウンはセキレイシティの南に位置する小さな田舎町。

二つの町を繋ぐ8番道路ものどかで、野生のポケモンも大人しいことから、ポケモンを持つ前にも、歩夢とお散歩で何度か行ったことがある場所でもある。

大樹・音ノ木があるから、観光地としては有名だけど、私たちセキレイ住民にとっては地元の範疇。

ジムもないし……この旅では素通りするだけになりそうだ。


侑「流星山の下山って厳しかったりする?」

リナ『登りよりは大変かもしれないけど、最近北側にも、山道が出来たから、大丈夫だと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「そっか、よかった。それじゃ、歩夢が起きたら、出発しよっか」

リナ『うん』 || > ◡ < ||

歩夢「…………すぅ……すぅ……」


………………
…………
……
🎹

727 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/12/04(日) 02:52:21.88 ID:mgqN8qMa0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
728 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:13:45.75 ID:iC9FggQ30

■Chapter037 『カーテンの裾にて』 【SIDE Shizuku】





かすみ「さぁ〜次の目的地に向かって、旅立つよ〜!」
 「ガゥガゥ♪」


──かすみさんのジムチャレンジが終わった翌日。

ダリアシティから、次の目的地を目指して出発する。


かすみ「ところで、次ってどこに行くの?」

しずく「えーと……ダリアからだと、北のヒナギクか、東に行ってセキレイに戻る感じになるかな……ただ、ヒナギクに行くためにはカーテンクリフを越えないといけないから、私たちには難しいかも……」

かすみ「カーテンクリフって……あれだよね?」


かすみさんが街の北側に目を向けると──大きな岩の壁が見える。

カーテンクリフとはオトノキ地方の西側にある大きな山脈のことだ。

ダリアシティとヒナギクシティの間を割るように東西に伸びている断崖絶壁で、山というより、もはや大きな岩盤を縦向きにしたかのような急傾斜をしている。

それがまるでカーテンを引いたかのような様から、カーテンクリフの名が付けられたと言われている。


かすみ「それにしても、ダリアから見ると、ホントに壁みたいだね……」


大きな山脈なので、セキレイからも見ることは出来るが、位置関係的に、カーテンを斜めから見るような形になる。

そして、ダリアから見ると真正面に横切っている形になるため、より『壁』という印象が強くなる。


かすみ「ヒナギクに行けないのはわかったけど……セキレイに戻る前に、一度近くで見てみない?」

しずく「そうだね。せっかく、こうして近くに来てるんだし、行ってみよっか」


今まで見てるだけだった場所に、実際に訪れてみるのも旅の醍醐味だろう。

私はかすみさんの意見に賛成する。


かすみ「それじゃ、カーテンクリフへレッツゴー♪」
 「ガゥガゥ♪」


私たちはカーテンクリフ目指して、ダリアシティを発つ──





    💧    💧    💧





ダリアの北の道路──5番道路を歩く。


かすみ「……もう結構歩いたよね?」

しずく「そうだね」

かすみ「なんか……思ったより、遠いね……」

しずく「カーテンクリフはとにかく大きいからね……」


あまりに大きい岩の壁を目の前に望みながら歩いていると、だんだん遠近感がおかしくなってくる。

とりあえず、目の前にずっと背の高い断崖絶壁があることがわかるという感じで、なかなか近付いている実感が湧かないのも無理はない。
729 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:15:08.86 ID:iC9FggQ30

しずく「カーテンクリフは5番道路と7番道路を続けて進んでいかないといけないからね」

かすみ「2つ分道路があるんだ……」

しずく「うん。ほぼ直線で繋がってるから、違う道路って印象は薄いけど……ダリアからカーテンクリフへの道のりは、この地方の中でもローズの北にある11番道路の次に長い道になってるんだよ」

かすみ「へー……さすが、しず子。物知り。とりあえず、すごい長い道なんだね」

しずく「あはは……まあ、大雑把に言うと、そんな感じかな」

かすみ「それにしても……ほんっとにでっかい山だねぇ……見上げてると、首が痛くなっちゃいそう」
 「ガゥゥ…」


かすみさんが、肩に乗っているゾロアと一緒にカーテンクリフを見上げる。


かすみ「どうすればこんな高い山になるんだろう……」

しずく「いろいろ説があるけど……ヒナギク周辺の山脈はほとんどが、陸がぶつかって隆起して出来たらしいよ。だから、グレイブマウンテンやカーテンクリフでは、かなり高い場所なのに、太古の海にいたポケモンの化石が見つかることがあるんだって」

かすみ「陸が……ぶつかって……? りゅーき……?」

しずく「ああ、えっと……無理やり押されて、高くなったって感じかな……」

かすみ「ふーん……?」


たぶん、わかってなさそう……。

まあ……これもあくまで学説の一つでしかなく、それこそ『こんなものが自然に出来るわけがない!』、『神が創った!』、なんて言う人たちも少なくない。

実際、カーテンクリフの西端の頂上には遺跡があるらしく、遥か昔から信仰があったと言われている。高い場所に位置し、天に近い遺跡故に太陽信仰や月信仰があったのではないかと考えられているらしい。

専ら、今は信仰というよりは、オカルト好きな人たちによって、神が創ったと主張されていることの方が多いらしいけど……。

わかっているのかは怪しいけど、かすみさんの何気ない疑問に答えながら進んでいると、


かすみ「……あ! しず子、あそこがカーテンの一番下の部分じゃない!?」


やっと、クリフの麓が見えてくる。……いや、麓というには、かなり切り立った岩肌になっているけど。


しずく「麓まで、こんなに明確に壁のようになっているなんて……さすが、カーテンというだけはあります……」


上から下まで……特に、ダリア側からは超が付くほどの急勾配だとは聞いていたけど、実際に目の当たりにすると、本当に聞いていた通りで、感動すら覚える。

やはり、実際に見に来てみるものだ。


かすみ「こうして根本が見えたら、もうあと少し! 行くよ、ゾロア!」
 「ガゥ!!」


かすみさんの合図で、ゾロアが肩から飛び降りて、一緒に走り出す。


かすみ「しず子〜♪ どっちが先に着くか競争だよ〜! 負けた方は、あとでジュース奢りね〜♪」
 「ガゥ♪」

しずく「あ、ずるい!?」

かすみ「さぁ、しず子は、かすみんに追い付けるかな〜?」

しずく「ま、負けないんだから……!」



730 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:15:47.61 ID:iC9FggQ30

    💧    💧    💧





かすみ「……ぜぇ……はぁ……はぁ……。……ま、まだ思ったより……距離が……あった……」
 「ガゥ?」


クリフの麓に到着する頃には、かすみさんは息絶え絶え、満身創痍な状態だった。


しずく「かすみさん、大丈夫?」

かすみ「……しず子……足速くない……? かすみん普通に追い越されたんだけど……」

しずく「ポケモン演劇部で走り込みとかしてたからね。演劇は体力必要だから」


文化部だから、体力がないように思われがちですが、実は運動神経は良い方なんです。

球技は……苦手なんですけど……。


かすみ「そんなのずるい〜……」

しずく「ずるくありません。それじゃ、あとでジュース奢ってね?」

かすみ「ちぇ、わかったよー……セキレイ戻ったらね」

しずく「よろしい」


何のジュースを奢ってもらおうかなと考えながら──すぐ傍に聳えるカーテンクリフに目をやる。


かすみ「……本当に壁って感じだね」

しずく「うん……」


これが自然に出来た物だとは、にわかに信じがたい。

神様を信じているわけじゃないけど……神が創ったなんて言う人が出てくるのも頷ける。

垂直に近い形で天に向かって伸びている岩のカーテンは、並大抵の鳥ポケモンでも飛んで越えることが出来ないと言われている。


しずく「……。……出てきて、アオガラス」
 「──カァーー!!!」

しずく「上まで、飛べる?」
 「カァー」


訊ねると、アオガラスは翼を羽ばたかせながら、垂直に飛翔していく。


かすみ「なになに? どうしたの?」
 「ガゥ?」

しずく「今の私たちで、どこまで行けるのか、試してみたくって……」


きっと、アオガラスのままでは難しい。

案の定、下で見ていると、岩の壁の中腹辺りで、アオガラスがバテ始めているのが見て取れた。


しずく「アオガラスー! 無理はしなくていいからねー!」

 「カ、カァーー…!!!」


そろそろ限界のようだったけど……アオガラスはバタバタと翼を羽ばたかせて、少しでも高く飛ぼうとする。


しずく「無理しなくていいって言ってるのに……」

かすみ「アオガラス、見栄っ張りですねぇ」

しずく「かすみさんには言われたくないと思うけど……」
731 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:17:40.07 ID:iC9FggQ30

かなり我武者羅に羽根をバタつかせながら、頑張っていたけど……。


 「カ、カァ……」


最終的には無理だと悟ったのか、ゆっくりと下に降りてくる。


かすみ「半分いけたくらい?」

しずく「そうだね……」


ここが今の私の手持ちの限界ということだろう。

もちろん、垂直の壁を登ったらそれで終わりというわけではなく、そこから山脈が始まるから、今の実力ではどう頑張ってもクリフを超えるのは無理ということだ。


 「カァ…」

しずく「ごめんね、無茶振りしちゃって。でも、ナイスファイトだったよ、アオガラス」
 「カァ〜……」

かすみ「鳥ポケモンでこんなんなのに、越えられる人なんているのかな……?」

しずく「きっと、進化してアーマーガアになれば、越えられると思う」

かすみ「そうなの?」

しずく「うん。アーマーガアに進化すると、飛翔高度も距離も、飛び続けられる時間も桁違いになるから」


実際ガラルでは、アーマーガアが地方全体の移動の要になっているくらいで、その飛行能力は折り紙付きだ。


しずく「アオガラスも、いつか進化したら、ここを越えられるようになるはずだから……! 頑張ろうね!」
 「カァ〜〜〜!!!」

かすみ「えーかすみんも空の旅したい〜!」

しずく「ふふ♪ いつかオトノキ地方中の空を、一緒に巡ろっか♪」
 「カァ〜♪」

かすみ「やった〜! 約束だからね! しず子! アオガラス!」

しずく「うん♪」
 「カァカァ♪」


そのためにも、私もアオガラスをアーマーガアに進化させられるくらい強くならなきゃ。

かすみさんに負けていられないな。


かすみ「さて、それじゃ……実際に見て、越えられないこともわかったし、セキレイシティに向かおっか〜」
 「ガゥ♪」

しずく「そうだね。風斬りの道を越えていくなら、自転車が必要だから……一旦、ダリアに戻って、レンタルサイクルかな……」
 「カァ〜」

かすみ「……あっ!?」

しずく「ど、どうしたの? 急に大きな声出して……?」

かすみ「最終的にセキレイシティに行くってわかってたんだから……最初から、ダリアで自転車を借りればよかったんじゃ……」

しずく「……あ」


確かに、言われてみればそうだ……。


かすみ「ち、ちょっとぉ〜……かすみん、走り損じゃないですかぁ〜……しかも、これからまた長い道を戻るの〜……?」

しずく「走ったのはかすみさんが勝手にやったことだと思うんだけど……」

かすみ「もうやだ〜……かすみん、歩けない〜……」
 「ガゥゥ…」


かすみさんはその場にへたり込む。
732 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:18:30.28 ID:iC9FggQ30

しずく「今向かおうって言ったばっかでしょ……」

かすみ「だって、ホントだったら、今頃自転車でスイスイだったんだよ!? そう考えたら、足が重く……もう一歩も動けない〜……」

しずく「はぁ……もう、そんなことばっかり言ってると、置いてくよ?」
 「カァカァ」


溜め息交じりに、振り返って歩き出そうとしたとき、


 「──ガドーン」

しずく「……!?」


そいつは気付けば、目の前に、居た。

パステルカラーで彩られた細長い体躯に真ん丸の頭の異形。

突然のことに身体が固まる。


かすみ「しず子っ!! こっちっ!!」


だが、かすみさんの反応は早かった。

呆気に取られて動けなくなってしまった私の手を、強引に引いて走り出す。


しずく「きゃっ……!?」

かすみ「足ぃ!! 動かしてぇ!! とにかく走ってぇ!!」
 「ガゥガゥ!!!!」


足がもつれて転びそうになるけど、どうにか踏ん張って走り出す。

全速力で走りながら、やっと少しずつ頭が回り出す。

あれは──あの異様な雰囲気のポケモンは……!


しずく「ウルトラビースト……っ……! 確か、名前はズガドーン……!!」

かすみ「なんで名前知ってんの!?」

しずく「遥さんに、ウルトラビーストのデータをいくつか見せてもらったんだよ! その中にいたウルトラビースト!」


ズガドーンは、その場から動こうとしないが──その周囲に紫の炎がポポポッと出現する。


 「ガドーン」

かすみ「なんかしてくる!? しず子伏せてっ!!」
 「ガゥッ!!!」

しずく「きゃっ!?」


かすみさんが覆いかぶさるようにして、私を地面に押し倒す。

その上を、紫の色の炎──“マジカルフレイム”が素通りする。


かすみ「あ、あちちっ!?」

しずく「かすみさん!?」

かすみ「だ、大丈夫……! ちょっと熱かっただけ……!」


掠ってすらいないはずなのに、とてつもない熱気を感じる。

それが相手の攻撃の威力を物語っていた。

──絶対に勝てない。とにかく、逃げなきゃ……!
733 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:19:26.05 ID:iC9FggQ30

かすみ「しず子、立って!」

しずく「……うん……!」


二人で立ち上がって再び距離を取るために走り出す。

幸いとでも言うべきか、今のところズガドーンはあまり熱心にこちらを追いかけてくる素振りはない。

それが逆に不気味でもあるが……。


しずく「……そうだ! 千歌さんたちに連絡を……!」


私は大急ぎでポケギアを取り出し、千歌さんに通話を飛ばすと──


千歌『──しずくちゃん!!』


千歌さんが秒で通話に出る。


しずく「ち、千歌さん、今……!!」

千歌『もう向かってる!! 7番道路だよね!? ウルトラビーストの種類は!?』

しずく「ず、ズガドーンです!」

千歌『わかった!! 15分……うぅん、10分で着くから、とにかく逃げて!』

しずく「は、はい!!」


通話を切って、


しずく「かすみさん、千歌さんがすぐに来てくれるから──」

かすみ「な、なんかあいつ、様子がおかしくない!?」

しずく「えっ!?」


言われて、ズガドーンを振り返ると、


 「ガドーーン」


ズガドーンが──自分の頭が取り外して、手に持っていた。


かすみ「あの頭取れんの!?」


確か、遥さんに見せてもらったデータでは──


しずく「に、逃げなきゃ……!!」

かすみ「わわっ!?」


あの珍妙な行動に、リアクションを取っている場合じゃない……!

今度は私がかすみさんの手を強引に引っ張って走り出す。


かすみ「ちょ、しず子!?」

しずく「とにかく……! とにかく、距離を……!!」


少しでも距離を離そうと全力疾走する。

……が、ズガドーンは逃げる私たちに向かって──自分の頭を放り投げてきた。
734 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:20:15.45 ID:iC9FggQ30

かすみ「な、投げてきたー!?」
 「ガゥワゥッ!!!?」

しずく「っ……!」


私は咄嗟に、手持ち全員をボールから出す。


 「ジメ…」「ロゼ!!!」「キル」「マネネッ」

しずく「“みずびたし”っ! “わたほうし”っ! “サイコキネシス”っ! “ひかりのかべ”っ! “きりばらい”っ!」


先に出ていたアオガラス含め、手持ち全員に叫ぶように指示を出す。

直後──目の前に鮮やかな色の花火が散った。

それと同時に全身が浮遊感に包まれ──吹っ飛ばされた。

あの頭が、目の前で大爆発したのだ。


しずく「ぐ……ぅぅぅ……っ……!!」


爆風を受けて、地面を転がる。


かすみ「……し、死ぬかと思ったぁ……!」
 「ガ、ガゥゥ…」

しずく「ど、どうにか、間に合った……」
 「ジ、ジメ…」「ロゼ…」「キルゥ…」「マ、マネェ…」「カァ…」


私たちは手持ちもろとも吹っ飛ばされたが、敷き詰められた“わたほうし”の上を転がることで、なんとか怪我せずに済んだ。


しずく「か……かすみさん……無事……?」

かすみ「な、なんとか……い、今の何……?」

しずく「“ビックリヘッド”……頭を大爆発させて攻撃する技みたい」

かすみ「なにそれこわっ!」

しずく「あんまり怖がらない方がいいと思う……」

かすみ「え?」

しずく「ズガドーンはそれで、驚かせた相手から生気を奪い取るらしいから……」

かすみ「ま、全く、それでかすみんを驚かせたつもりですかぁー!?」


取って付けたような強がりが出来ている時点で、かすみさんも無事なのは間違いないだろう。

それにしても、“ビックリヘッド”がどういう技があらかじめわかっていなかったら、本当に無事じゃ済まなかった。

ほのおタイプの爆発技。

“みずびたし”で爆弾自体を湿らせ、少しでも爆発と爆風の威力を殺すための“ひかりのかべ”と“きりばらい”。

身体を地面に叩きつけられないように、“サイコキネシス”で僅かに浮かせて、“わたほうし”を敷き詰めた地面に軟着陸。

手持ち全員が力を合わせてどうにか、耐えきった。

でも、まだ戦闘は終わっていない。

とにかく、千歌さんたちが来るまで逃げ続けないと……!

再びかすみさんの手を取って、逃げ出そうと、顔を上げると──


 「ガドーン」


ズガドーンが眼前に迫っていた。
735 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:20:54.55 ID:iC9FggQ30

しずく「……っ……!」

かすみ「わ、わぁぁぁぁ!!?」


ズガドーンの手に炎が灯る。

攻撃の予兆。

ダメだ、避けられない。


かすみ「しず子っ!!」


かすみさんが庇うように、ズガドーンに背を向ける形で、私を抱きしめる。

ズガドーンの手がこちらを向く。

炎が噴き出す。

もうダメだ。

そう思った瞬間、


 「──“ハイドロポンプ”!!」
  「フゥッ!!!!!!」

 「ガドーーンッ!!!!?」


声と共に、真上から激しい水流の筋飛んできて、ズガドーンを吹っ飛ばした。


かすみ「へ……な、なに……?」

しずく「い、今のは……?」


事態が呑み込めず、二人で唖然とする。

そんな私たちの頭上から──フワリと降りてくる影。

大きな星型のポケモン──スターミーに乗って、突然目の前に現れた一人の女の子。


女の子「大丈夫ですか!?」

かすみ「え……」

しずく「嘘……」


彼女の姿は、何度も見たことがあった。

ただ、会ったことがあるわけではない。

テレビの中で、だ。


かすみ「……せ……せ……!?」

せつ菜「何やらお困りのようですね! 僭越ながら、助太刀させていただきます!!」


前回ポケモンリーグの準優勝者──せつ菜さん、その人だった。



736 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:22:05.34 ID:iC9FggQ30

    💧    💧    💧





 「ガドォーン…」

せつ菜「見たことがないポケモンですね……。この地方はあちこち見て回ってきたつもりですが、まだ新しいポケモンに出会うことがあるなんて……やはり、世界は広いですね!」


スターミーの上に乗ったまま、ズガドーンと相対するせつ菜さん。

あまりに予想外の展開が続くせいで、また呆気にとられそうになったが……。

この人をウルトラビーストと戦わせちゃダメだ……!


しずく「せ、せつ菜さん! 戦わずに逃げてください!」

かすみ「そいつ、めっちゃくちゃ強いんですっ!」

せつ菜「逃げる? 強いというなら、ますます背中を見せるわけにはいきません!」

 「ズガ──」

せつ菜「“パワージェム”!!」
 「フゥッ!!!」


ズガドーンが動き出そうとしたときには既に、輝く閃光がズガドーンを貫いていた。


かすみ「は、はや……!?」


攻撃が直撃し、地面を転がるズガドーン。


 「ガ、ガドーン」

せつ菜「“10まんボルト”!」
 「フゥッ!!!」

 「ガドドドドッ!!!!?」


畳みかけるように、電撃による追撃。

が、ズガドーンもただでやられてはいない。


 「…ガ、ドォーンッ!!!!」

せつ菜「耐えますか……!」

 「ドォーーンッ!!!!!」


そして、黒い球体を猛スピードで、スターミーに向かって放ってきた。


 「フゥッ!!!?」
せつ菜「うわぁっ!!?」


ズガドーンの攻撃がスターミーに直撃し、その衝撃で上に乗っていたせつ菜さんが飛ばされる。

が、せつ菜さんは軽やかな身のこなしで、身体を捻りながら、地面に着地する。


 「フ、フゥ…」
せつ菜「やりますね……! “シャドーボール”ですか……! まさか、私のスターミーが一発でやられるなんて……!」


せつ菜さんはスターミーをボールに戻しながら、ズガドーンの強さに感心したように言う。


せつ菜「なら、この子はどうですか!」


だが、怯むどころか、間髪入れずに次のポケモンを繰り出す。
737 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:22:59.77 ID:iC9FggQ30

 「ゲンガッ!!!」
せつ菜「ゲンガー! 暴れますよ!」

 「ゲンガッ!!!!」

 「ガドォーーンッ」


再び、ズガドーンが黒い球体──“シャドーボール”を作り出し、撃ち放つ。


せつ菜「こちらも“シャドーボール”です!」
 「ゲンガッ!!!!」


一方せつ菜さんも対抗するように、“シャドーボール”を撃ち出し──双方のシャドーボールが衝突する。

両者の攻撃はぶつかると、その場で相殺し合い、黒い影を周囲に散らす。


しずく「ご、互角……」

せつ菜「私のゲンガーの“シャドーボール”……威力には自信があったんですが……!」


自分の予想を裏切るほどの相手の強さに感心するものの、せつ菜さんはやはり臆さない。


せつ菜「その強さに……敬意を示します! 私の全力、受け止めてみなさい!!」


そう言いながら、せつ菜さんの手首に嵌めていた腕輪が輝きを放ち始めた。


かすみ「あ、あれって……!?」

しずく「“キーストーン”……!?」


せつ菜「さぁ、行きますよゲンガー!! メガシンカです!!」
 「ゲンガァーー!!!!」


せつ菜さんが叫ぶと、ゲンガーも眩い光に包まれ──ゲンガーの体にある棘、腕、そして尻尾がより鋭角的に、さらに自身の体は足元の影と一体化し、


 「ゲンガァァァ!!!!!!」


赤紫色の怪しい光を放つ──メガゲンガーへと姿を変えた。

メガゲンガーの持つ妖気……とでも言えばいいんだろうか。

姿を変えた瞬間、肌がびりびりとするのを感じた。それくらい、すさまじいパワーを身に秘めているのが、素人目でも理解できる。


 「ズ、ガドォォォォーーー!!!!!!」


が、ズガドーンも全く臆することなく、再び“シャドーボール”を放ってくる。


せつ菜「今度は先ほどのようには行きませんよ!! “シャドーボール”!!」
 「ゲンガァァーーッ!!!!!」


二度目となる同じ技の撃ち合い。

だけど、今回は──


かすみ「……で、でかっ!?」


メガゲンガーの放った“シャドーボール”は先ほどより一回りも二回りも大きいもので、


 「ガドッ!!!?」


ズガドーンの放った“シャドーボール”をいとも簡単に呑み込んで──
738 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:26:03.08 ID:iC9FggQ30

 「ガ、ガドォォォォンッ!!!!!!!」


ズガドーンに衝突すると同時に、影のエネルギーが収縮し、ズガドーンを押しつぶしたあと──黒い影を散らしながら、爆散した。


 「ガ、ガドォォォォン……」


影が晴れると、ふらふらになったズガドーンの姿、


 「ガ、ガドォォォン……!!」


勝てないと悟ったのか、ズガドーンはスゥーっと地面に潜るようにして、消えてしまった。


せつ菜「あ……逃げられました。……メガゲンガーの“かげふみ”から逃げられるということは、やはりゴーストタイプだったようですね……」
 「ゲンガ──」


せつ菜さんは肩を竦めながら、メガゲンガーをボールに戻す。


しずく「う、嘘……」

かすみ「やっつけちゃった……」


またしても二人して呆けていると、


せつ菜「お二人とも、お怪我はありませんか?」


せつ菜さんは私たちのもとに駆け寄ってきて、そう訊ねてくる。


しずく「は、はい……」

かすみ「とりあえず、大丈夫です……」

せつ菜「それは何よりですね。真下で大きな爆発音が聞こえたので、何かと思いましたが……野生のポケモンに襲われるとは災難でしたね」

しずく「い、いえ……お陰で助かりました……」

せつ菜「……あ、自己紹介がまだでしたね! 私はせつ菜って言います! よくここにポケモン修行をしに来ているんです!」


存じております……。ここで修行をしているのは、知らなかったけど。


しずく「私は、しずくです……。こちらはかすみさん」

かすみ「あ、えっと……よろしくお願いします……」


あまりの展開に未だ頭が付いていっていないのか、かすみさんも自己紹介でのかすみん問答を忘れているほどだ。


せつ菜「お怪我はされていないようですが……心配なので、近くの街までお送りしますね! えっと、近くだとダリアかヒナギク……ん?」


そのとき、せつ菜さんは自分の腰のボールが震えていることに気付いて、その子を外に出す。


 「ワォンッ」
せつ菜「ウインディ? どうかしたんですか?」

 「ワォン」


せつ菜さんが訊ねると、ウインディは鳴きながら、クリフの上の方を見上げる。


せつ菜「ん……?」


せつ菜さんは少し考えたあと、


せつ菜「……あ、そうでした……! さっきまで、ご飯を作っている真っ最中でした……上に全部置いてきちゃいましたね。貰った“ポフィン”も……」
739 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:26:59.68 ID:iC9FggQ30

どうやら調理中に飛び出してきたということを思い出したらしい。


 「ワォンッ!!!」
せつ菜「ち、ちょっとウインディ!? 引っ張らないでください……! もう! 歩夢さんから“ポフィン”を貰って以来、随分食いしん坊になりましたね……?」

 「ワォンッ!!!」

しずく「あ、あの……私たち、街には戻れると思うので……」

せつ菜「……すみません、いつもはこんなに食に貪欲じゃないはずなんですが……」
 「ワォンッ!!!」

せつ菜「わ、わかったから……! 引っ張らないで……!」


せつ菜さんは少し焦りながらも、ウインディの背にまたがる。


せつ菜「それでは、すみませんが失礼します!」
 「ワォンッ」


せつ菜さんが背にまたがると、ウインディは跳ねるようにして、カーテンクリフを登って行ってしまった。


かすみ「……なんで、この壁、登れるの……?」

しずく「…………」


レベルが違うとは、こういうことを言うのかもしれない……。


かすみ「なんか……すごかったね……」

しずく「う、うん……」


ウルトラビーストとの遭遇もだが……それ以上に颯爽と現れ、風のように去っていったせつ菜さんのインパクトがあまりにすごすぎて、私たちはしばらくの間、その場で動けずに呆けてしまっているのだった。





    💧    💧    💧





──その後、間もなくして千歌さんたちが到着した。


彼方「──……ってことは、せつ菜ちゃんがやってきて、ズガドーンを倒しちゃったんだ……」

しずく「はい……」

かすみ「圧倒してました……」

千歌「さすが、せつ菜ちゃん……」

遥「でも、どうしましょう……一般人のウルトラビーストとの接触案件ですけど……」

しずく「まだ、クリフの上にいるとは思いますが……」

千歌「んー……会って説明した方がいいのかなぁ……?」

穂乃果「うーん……」


穂乃果さんは少し悩む素振りを見せる。


穂乃果「しずくちゃん、かすみちゃん。せつ菜ちゃん、ウルトラビーストを見て、どんな反応してたか覚えてる?」

かすみ「えっと……強い相手なら逃げるわけにいかない……って。全然怖がってませんでした」

しずく「そうですね……強い野生ポケモンの一種と認識していた気がします」


その強さに感じるものはあったのかもしれないけど……少なくとも外世界から来た異質なポケモンだと認識していたとは考えにくかった。
740 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:28:54.86 ID:iC9FggQ30

穂乃果「……となると、無理に説明したりしないで、そういうものだと思い込んでもらったままの方がいいかもしれないね。もちろん、本部へは一応報告するけど」

彼方「そうだね〜……特異な存在だって知っちゃうと、逆に関わりを持っちゃうから……」

千歌「まあ……せつ菜ちゃんなら、仮にまた遭遇しても同じように対処しちゃいそうだしね……あはは」


千歌さんは過去に覇を競い合った相手なだけあって、せつ菜さんの強さをよく理解しているようだった。

彼女たちがそう判断したのなら、私たちからこれ以上言うことは特にない。


千歌「それじゃ、近くの街まで送ってくよ。ダリアでいい?」

かすみ「はい……今日中にセキレイに行くつもりでしたけど、もうくたくたなので、ダリアで休みたいです……」

彼方「それじゃ〜そんなかすみちゃんに彼方ちゃんが元気が出るご飯を作ってあげよう〜」

かすみ「え、ホントですか!? キッチン付きのホテル探さなきゃですね……!」


現金なモノで、彼方さんがご飯を作ってくれると聞くと、かすみさんは意気揚々と歩き出す。

まだ元気、結構余っている気がするんだけど……。

そんな中、遥さんが、


遥「あの、しずくさん」

しずく「? なんでしょうか……?」

遥「再び襲われた今でも……旅を続けたいと思いますか」


真剣な目で、そう訊ねてきた。


しずく「……はい」

遥「……わかりました」


それだけ言うと、遥さんも彼方さんたちを追って先に行ってしまった。


しずく「……」

穂乃果「遥ちゃん、ずっと心配してたからね」

しずく「はい……」


遥さんに診てもらい助けてもらった手前、罪悪感はある。

そんな私の胸中を察したのか、


穂乃果「旅を続けるって決めたなら、しずくちゃんはそれを頑張ればいいんだよ」


穂乃果さんは優しい声でそんな風に言う。


しずく「はい……ありがとうございます」

穂乃果「それじゃ、行こう。ダリアへの道は長いから、急がないと日が暮れちゃう」

しずく「そうですね……」


私は穂乃果さんの言葉に頷いて──再び道を歩き始めるのでした。



741 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:29:49.80 ID:iC9FggQ30

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【7番道路】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||  |●|.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.27 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.22 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.27 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.27 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.27 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:9匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.34 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.34 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.33 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.27 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.27 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:140匹 捕まえた数:7匹


 しずくと かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



742 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/12/04(日) 16:37:49.08 ID:4TqIcDHeO
『ポケモンSVさらに精度を上げていく』
レート戦/戦力集め・その3 (14:21〜開始)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
743 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:30:00.87 ID:6bHKz0F20

■Chapter038 『凱旋セキレイシティ』 【SIDE Shizuku】





かすみ「──さぁ! セキレイシティに向かって、出発するよ〜!」
 「ガゥ!!」


かすみさんが自転車にまたがりながら、元気よく拳を突き上げる。


かすみ「さぁさ! 早く行かないと、日が暮れちゃうから!」

しずく「どこかの誰かさんが、チェックアウトギリギリまで起きなかったからね……」

かすみ「ぅ……! だ、だって、疲れてたんだもん……! しず子だって、いつもよりは起きるの遅かったって言ってたじゃん!」


まあ、確かに……昨日は全く想定外のウルトラビーストとの戦闘があったため、疲れていたというのはある。……精神的にも、肉体的にも。

ただ、私が起きるのが遅かったというのは、普段6時に目を覚ますのが6時半になった程度のものだ。

一方かすみさんは、起こそうとしても全く起きる気配がなく、本当にホテルのチェックアウトギリギリに焦って起こしたくらいだし……。

かすみさんより遥か前に起きた穂乃果さんや千歌さんたちは、「また何かあったら連絡してね」と残し去って行った。

彼方さんは「まさか彼方ちゃんよりお寝坊さんな子がいるとはね〜」なんて笑っていたし……。

まあ、かすみさんに寝坊癖があるのは、今に始まったことじゃないけど……。


かすみ「と、とにかく……! セキレイシティに行くの!」

しずく「はいはい、わかりました」

かすみ「出発進行〜!」
 「ガゥ♪」





    💧    💧    💧





かすみ「風が気持ちいい〜♪」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「ふふ、そうだね」


かすみさんの寝坊に苦言を呈しはしたけど、ダリア〜セキレイ間は、風斬りの道を自転車で駆け抜けるだけだ。

途中に草むらがあるわけでもなく、隅から隅まで人の手が入った橋を越えていくだけ。

時折、周囲を飛んでいる鳥ポケモンが下りてくることがあるらしいけど……基本的には風を斬りながら走るサイクリングを楽しむ道だ。

その証拠に橋の上では私たち以外にも、サイクリングを楽しんでいる人がちらほら見える。

……まさか、ここでもウルトラビーストに襲われるなんてことはないと信じたい。


かすみ「このペースなら、すぐ着いちゃうね〜♪」

しずく「うん。お昼過ぎくらいにはセキレイに着けそうかな?」

かすみ「なら、時間に余裕もあるね!」

しずく「かすみさん、セキレイに到着したらどうするつもりなの? 一旦、家に帰る?」

かすみ「もちろん、一度お家には帰るつもりだけど……それよりも、大事なところがあるじゃん!」

しずく「大事なところ……? あ、ポケモンスクールへの挨拶?」

かすみ「……もう! ポケモンジムに決まってんじゃん!!」


言われて思い出す。
744 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:33:03.51 ID:6bHKz0F20

しずく「そういえば、かすみさん、まだセキレイジムに挑戦出来てなかったね……」

かすみ「忘れないでよ!!」


セキレイシティのジムは、ポケモンスクールにも近いし……あまりに地元感が強くて、すっかり忘れていた。


かすみ「今日という今日こそは、セキレイジムで曜先輩とバトルしてもらうんだもん! かすみん、5個目のバッジも絶対ゲットしちゃうんだから!」
 「ガゥ!!」

かすみ「なんかそう考えたら、いち早く到着して挑戦したくなってきちゃった……! 全速力です!!」
 「ガゥガゥ♪」


かすみさんが、急にペダルを全速力でこぎ始める。


しずく「あ、ち、ちょっと!? そんなに飛ばしたら危ないって!?」

かすみ「今かすみん燃えてるの! しず子も早く来ないと置いてっちゃうよ!」


そう言いながら、かすみさんはどんどん突っ走っていく。


しずく「ああもう……」


やれやれと思いながら、私も立ち漕ぎになりペースを上げて、かすみさんを追いかける。

このやる気が空回りしないといいけど……。





    💧    💧    💧





──セキレイシティ。セキレイジム前。


かすみ「……何故」


ジムの前にはこんな張り紙──『現在ジムリーダー不在のため、ジムをお休みしています』。

前回来たときと同じ状態だった。


かすみ「もう〜!! なんで、曜先輩はいつもいないんですかぁ〜!!」
 「ガゥゥ…」

しずく「あはは……セキレイジムって何かとジムリーダー不在なこと多いよね……」


前任のことりさんもだが、セキレイジムのジムリーダーはバトルだけでなくコンテストにも携わっているからか、不在なことが多い。

それでも、ジムリーダーとして籍を置いているのは、街の人からの支持が高いことが理由らしい。

確かに、ことりさんも曜さんも、街の人から慕われているのが一目でわかる人気者だ。
745 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:33:39.83 ID:6bHKz0F20

かすみ「はぁ……さすがにこれは待つしかないよね……」

しずく「そうだね……」

かすみ「でも、待ってる間何してよう……。家に帰ろうかな……」

しずく「あ、待って! 帰る前に行かなくちゃいけないところがあるよ!」

かすみ「行かなくちゃいけないところ……? えーでも……ポケモンスクールは正直」

しずく「いや、スクールじゃなくて……」

かすみ「? じゃあ、どこ……?」

しずく「どこって……決まってるでしょ!」

かすみ「えっと……?」


どうやら、本当に見当が付いていないらしい。思わず、溜め息が漏れそうになる。


しずく「ツシマ研究所! 博士に旅の報告しないと!」

かすみ「……あ、あー!!」

しずく「もう……なんで忘れるのよ……」


私たちを旅に送り出してくれた張本人なのに……。


かすみ「い、いや、もちろん覚えてたよ? 今から、行こうと思ってたもん! ね、ゾロア!」
 「ガゥ?」

しずく「……」


思わず、かすみさんにジト目を向けてしまう。


かすみ「さぁ、行くよしず子! ツシマ研究所目指してレッツゴー!」
 「ガゥ」


かすみさんが、調子よさげに研究所に向かって走り出す。


しずく「はぁ……」


私は思わず額に手を当てながら、かすみさんの後を追うのだった。





    🎹    🎹    🎹





──流星山を北側から下山し、アキハラタウンを抜け、その先の8番道路を歩くこと数十分。


侑「帰ってきたね……!」
 「イブイ」

歩夢「うん!」
 「シャボ」


私たちはセキレイシティに戻ってきていた。

旅に出て大体2週間くらいだろうか。

すごく長い時間離れていたわけではないけど、今まで2週間も故郷から離れていたことなんてなかったし、こうして地方の南半分くらいを自分たちの足で歩いてきたと考えると、なんだか感慨深い。

それだけで見慣れた故郷の景色のはずなのに、一周回って新鮮に見えてくる。
746 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:34:31.70 ID:6bHKz0F20

リナ『とりあえず、どうするつもり?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「えっと……せっかく、セキレイまで戻ってきたから、一度家には寄ろうかなって思うけど……」

侑「まずは……あそこだよね」


私と歩夢の視線は──ここからすでに見えているツシマ研究所に向けられる。

ツシマ研究所は街の南側に位置しているから、8番道路からだと、すぐなのだ。


侑「ヨハネ博士への旅の報告!」
 「ブィ〜♪」

歩夢「だね♪」

リナ『なるほど』 || > ◡ < ||


早速ツシマ研究所へと近付いていくと、

──pipipipipipi!!! と、以前どこかで聞いた音が歩夢の方から鳴りだす。


歩夢「これ、図鑑の共鳴音……?」──pipipipipipi!!!
 「シャボ…?」

侑「ってことは……!?」


私がキョロキョロと辺りを見回すと──


 「侑せんぱーい! 歩夢せんぱーい!」──pipipipipipi!!!


共鳴音と一緒に元気いっぱいに駆け寄ってくる姿を見つける。


侑・歩夢「「かすみちゃん!」」

かすみ「はぁ……はぁ……! なんでなんで!? すごい偶然ですぅ〜!」

リナ『共鳴音が鳴ってるってことは、しずくちゃんもいるってことだよね?』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「あ、うん! そろそろ来ると思うけど……」


かすみちゃんが来た方向に目を向けると、一足遅れてしずくちゃんがこちらに小走りで駆けてくる姿が目に入る。


しずく「侑先輩! 歩夢さん! お二人もセキレイに戻ってきていたんですね……! 突然、図鑑が鳴りだしたから、驚きました……!」

歩夢「うん! 今から博士のところに、報告に行こうと思ってたところで……」

かすみ「先輩たちもですか!? ほんとすっごい偶然です〜! かすみんたちも今博士への報告に行こうと思ってたところなんですよ!」

しずく「……かすみさんはさっきまで忘れてたけどね」

かすみ「ちょっとしず子! 余計なこと言わないでよ!」

侑「あはは……」


二人ともいつもどおりで安心する。


歩夢「それじゃ、みんな揃って、博士に報告だね♪」

しずく「はい、そうですね」

侑「じゃ、行こうか!」


──4人揃って、研究所のドアを押し開け、中に入る。


侑「失礼しまーす!」
747 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:35:45.37 ID:6bHKz0F20

研究所の中に入ると、ヨハネ博士は奥の方で、ポケモンの世話をしている真っ最中だった。

博士が私たちの声に気付いて、こちらに顔を向けると、


善子「──あら、貴方たち……セキレイに戻ってきてたのね。ちょっと待ってて、今餌やり済ませちゃうから」
 「ハミィ?」


ヨハネ博士は手早くユキハミの飼育部屋の中に、新しい雪を補充したあと、私たちのもとへとやってくる。


善子「おかえりなさい、リトルデーモンたち。4人揃って戻ってくるとは、相変わらず仲良しみたいでなによりだわ」

侑「4人揃ったのはたまたまなんですけどね……」

しずく「今さっき、研究所の前で会ったところなんです」

善子「それだけ気が合うってことじゃないかしら。そういう偶然、運命に導かれている感じがして、私は好きよ」


ヨハネ博士はうんうんと頷きながら言う。


善子「それに、みんな顔つきが変わったわね。頼もしくなった」

かすみ「そうでしょうそうでしょう! かすみんめっちゃ強くなっちゃったんですから!」
 「ガゥガゥ♪」


胸を張る、かすみちゃん。


歩夢「えっと……そうなら、嬉しいです……えへへ」


控えめにはにかむ歩夢。


しずく「自分ではあまり自覚はありませんが……確かにいろいろなことを経験した分、成長出来たんじゃないかと思います!」


冷静に分析するしずくちゃん。


侑「みんなバラバラだね……あはは」

善子「気が合うんだか、合わないんだか……。侑は、どうかしら?」

侑「私は……いろんな場所を巡っている間に、たくさん仲間が増えました!」
 「ブイ♪」

善子「ふふ、それは何よりね」


ヨハネ博士は優しく笑ってから、一人一人の顔を順に見回す。


善子「……かすみ……しずく……歩夢……そして、侑──……ん?」


そして、私の隣で目を留める。


リナ『初めまして、ヨハネ博士! 私リナって言います!』 ||,,> ◡ <,,||

善子「!? え、これ侑に渡した図鑑よね!? なんで、喋ってんの!? ってか、浮いてるじゃない!?」

侑「えっと……?」


そういえば、鞠莉博士もなんか変な反応してたっけ……。


リナ『そのことについて、鞠莉博士から言伝を預かってる』 || ╹ ◡ ╹ ||

善子「こ、言伝……?」

リナ『「人から渡されたモノを、断りもなく勝手に他の人に預けるんじゃありまセーン! そのことについて話があるから、後で、直接連絡を寄越すように!」』 || ˋ ᇫ ˊ ||

善子「!?」

侑「えーっと……?」
748 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:36:31.64 ID:6bHKz0F20

何やら事態がよく呑み込めないんだけど……。


善子「……そーゆーことか……」


ヨハネ博士は、気まずそうに頭を掻きながらも、どうやら何かを察したようだった。


リナ『とりあえず、鞠莉博士からはそれだけ! 私のことについては鞠莉博士から聞いてね!』 || > ◡ < ||

善子「わかったわ……」

侑「えっと、私はどうすれば……?」


私の知らないところで、何かが起こっているっぽいんだけど……。


リナ『うぅん、鞠莉博士とヨハネ博士の話だから、侑さんは気にしないで』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「そう……?」


まあ、リナちゃんが気にしないでと言うなら……。


善子「コホン……。気を取り直して……旅の調子はどうかしら?」

侑「あ……! そうそう、旅でたくさん集めたんです……!」

かすみ「あ、旅で集めたって言ったら……もしかして……!」

侑「いろんなトレーナーから貰ったサイン!!」

かすみ「いや、サインの話ですかっ!?」

侑「はい! ダリアのにこさん、コメコの花陽さん、ホシゾラの凛さん、ウチウラではルビィさんとダイヤさんのサイン……! それに鞠莉博士からも貰っちゃいました!」

歩夢「侑ちゃん、いつの間に……」

しずく「なんというか……さすが侑先輩……」


実は花丸さんにも書いてもらったんだけど、これは言っちゃいけないから、黙っておく。


かすみ「もう、侑先輩! これはただの観光の旅じゃないんですよ!?」

善子「あのね、侑……」

かすみ「ほら! ヨハ子博士も言ってやってください!」

善子「私、サイン書いてないんだけど」

かすみ「そっち!?」

侑「っは……言われてみれば、バタバタしてたから貰い忘れてた……! ヨハネ博士、サインください!」

善子「くっくっくっ……苦しゅうない……」


ヨハネ博士は私から色紙を受け取ると、サラサラとサインを書いていく。


侑「わーい! ありがとうございます!!」

善子「大切にするのよ?」

侑「はい!」


新しいコレクションが増えて、思わずホクホクしてしまう。
749 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:37:28.28 ID:6bHKz0F20

かすみ「一体なんの報告ですかぁ……」

歩夢「あはは……」

かすみ「はぁ……ま、かすみん、サインは集めてませんけど、ジムバッジは4つも集まったんですよ!」

侑「あ、私もジムバッジは5つ集めたよ!」

かすみ「かすみんこの流れでバッジの数も負けてるんですか!?」

しずく「かすみさん……ドンマイ」


かすみちゃんが悔しそうに項垂れる。


善子「さっきのサインラインナップからしても、地方の南を回ってきたのかしら? となると、セキレイ、ダリア、コメコ、ホシゾラ、ウチウラのジムよね」

侑「はい!」

善子「となるとかすみは、どんなルートだったの……? ジム4つを巡るルートって結構限られると思うけど……」

しずく「あ、えっと、私たちはサニーからフソウに渡って、ウチウラ、ホシゾラ、コメコ、ダリアと進んで、セキレイに戻ってきました」

かすみ「セキレイジムがまだなんですぅ〜……曜先輩が全然捕まらなくてぇ……」

善子「あぁ、なるほどね。曜だったら、たぶんサニーにいると思うわ」

しずく「前と同じように、まだサニーでお仕事をされているんですね」

善子「ええ。当分はあっちにいるって言ってたから……ジム戦をしたいなら、サニーに行った方が早いかもしれないわね」

かすみ「じゃあ、次の目的地はサニーかなぁ……」

しずく「あ、それじゃあ、今日は私、サニーに帰ってもいいかな? 皆さん、今日はさすがにご自分のお家に帰られるでしょうし……かすみさんも家に帰るって言ってたよね?」

かすみ「うん。さすがにセキレイに戻ってきたわけだし……」

しずく「それなら、私も今日くらいは家に帰りたいかな。ついでに、サニーで曜さんに会ったら、明日にでもジム戦をしてもらえるように、お願いしておくよ」

善子「確かにそれが確実かもね。曜って落ち着きがないから、ちゃんと予定押さえておかないと、なかなか捕まらないし」

かすみ「じゃあ、しず子、曜先輩に会ったらお願いね!」

しずく「うん、わかった」


というわけで、かすみちゃんはジム戦のために東に向かうみたいだ。


歩夢「私たちはどうする……?」

侑「うーん……今日はさすがに家に帰るけど……」

リナ『ジム巡りを続けるなら、次に目指すのは北のローズシティだと思うよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「だよね。なら、次はローズを目指そっか」


次は順当に、まだ行っていない北に進むことになりそうだ。


善子「あ、ちょっと待って。ローズに行くなら、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」

侑「お願い、ですか……?」


なんだろう……?


善子「ローズシティにいる真姫に渡して欲しいポケモンがいるの」

しずく「真姫さんって言うと……ローズジムのジムリーダーですよね?」

侑「渡して欲しいポケモンって言うのは……?」

善子「えっと、ちょっと待っててね」
750 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:38:29.03 ID:6bHKz0F20

そう言うと、ヨハネ博士は一旦奥の部屋へと下がっていく。

恐らく件のポケモンを探しに行ったのだろう。

すぐに目的のポケモンを見つけて戻ってきた博士は、


善子「この子よ」


そう言いながら、一個のボールからポケモンを出す。

ボールから出て来たのは、


 「──ワォン」


黄昏色の毛色をした、オオカミようなポケモン。


侑「え……!?」


でも、私はこのポケモンにすごく見覚えがあった。


侑「こ、このポケモンってもしかして……!! 千歌さんのルガルガンじゃないですか!?」

歩夢「そうなの?」

侑「うん! この黄昏色の体毛……間違いないよ!」


この“たそがれのすがた”のルガルガンはオトノキ地方では、今のところ千歌さんしか持っていないと聞いたことがある。


侑「数が少ないから、研究のために千歌さんの手を離れてることがあるって噂には聞いてたけど……まさか、ツシマ研究所にいたなんて……!」

善子「あら……よく知ってるわね。ただ、つい最近千歌から手持ちに戻したいって言われてね」
 「ワォン」

しずく「千歌さんの……ポケモン……ですか……」

歩夢「しずくちゃん? どうかしたの?」

しずく「あ、いえ、なんでもありません。……えっと、それでどうしてそのルガルガンをローズシティの真姫さんに?」

善子「健康診断のために、千歌の手持ちに返す前に、一度ローズで診てもらうのよ。あそこは医療設備も整ってるからね」

かすみ「えー……でも、それくらいならパソコンで転送しちゃえばいいじゃないですかぁ〜……?」

善子「そうしたいのは山々なんだけどね……チャンピオンのポケモンってなると、欲しがる人なんて、ごまんといるから、転送でやり取りするのは不安があるのよ」

リナ『確かに、万が一でも、クラッキングで気付かない間に、転送先を変えられてたりしたら、大事だね』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「そういうこと。だから、出来るだけ人から人で受け渡しする方が確実なのよ。ただ、私もちょっと手が離せない研究があって、ここを離れる時間を作るのが難しくって……」

侑「なるほど! そういうことなら、私が真姫さんに届けます!」

善子「そうしてくれると助かるわ」

侑「はい! ……それに、あの千歌さんのポケモンと一瞬でも一緒に過ごせるなんて、貴重だよ……貴重すぎるよ……! 絶対に私がやりたい……!」
 「ブイ…」

リナ『侑さん、心の声が漏れだしてる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「あはは……」


歩夢とリナちゃんが苦笑してる──ついでにイーブイも呆れてる──けど……これは絶対私がやりたいんだもん! 仕方ないじゃん。
751 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:39:10.51 ID:6bHKz0F20

善子「あー……ただ……。お願いしておいて悪いんだけど……すぐにってわけにはいかないのよね……」

侑「? どういうことですか?」

善子「ホント唐突に言われたもんだから、こっちもルガルガンの必要な観察データがまだ取り切れてないのよ……。今大急ぎで進めてるから、明後日には送り出せると思うんだけど……」

リナ『そうなると……すぐには、ローズに行けないね』 || ╹ᇫ╹ ||

しずく「そういうことでしたら……私たちが、ローズまでお届けしましょうか? サニーで曜さんとジム戦を終えたら、私たちもローズに向かうと思いますし……」

侑「いや! 絶対、私がやりたい!」

歩夢「あはは……侑ちゃんなら、そう言うよね」


千歌さんの手持ちと過ごせるチャンス……! これだけは絶対に譲れない……!


歩夢「それなら……私たちも、かすみちゃんと一緒にサニータウン方面に行ってもいいかな?」

かすみ「え? かすみんは別に構いませんけど……」

歩夢「私たち、今回の旅でサニーにはまだ行ってないし……太陽の花畑を、ポケモンたちに見せてあげたいの」


太陽の花畑といえば、一年中四季折々の花が咲き誇る、オトノキ地方でも有数の大きな花畑だ。

かなり穏やかな場所で、野生のポケモンが大人しく、ポケモントレーナーでなくても安全に訪れることが出来る。

特に歩夢は、あそこがすごくお気に入りで、この季節になると毎年一緒にピクニックに出かけていたっけ。


歩夢「私の大好きな景色……旅で出会ったみんなにも見て欲しくって……」

侑「そういうことなら!」

歩夢「えへへ、じゃあ決まりだね♪」


歩夢は嬉しそうに言う。


善子「それじゃ、悪いけど……明後日にまた、研究所までルガルガンを引き取りに来てもらえる?」

侑「はい! わかりました!」

かすみ「となると、しばらくは侑先輩と歩夢先輩も一緒ってことですね!」

歩夢「うん、よろしくね♪」

リナ『旅路が賑やかになるね。リナちゃんボード「ハッピー♪」』 ||,,> ◡ <,,||


というわけで、私たちはしばらくかすみちゃんたちと行動を共にすることになりました。

明日は太陽の花畑を抜けて、いざサニータウンへ……!





    🎹    🎹    🎹





しずく「──それでは皆さん、また明日」

侑「うん! またね、しずくちゃん!」

歩夢「気を付けて帰ってね」

しずく「はい、ありがとうございます」

かすみ「しず子〜、曜先輩のことお願いね〜!」

しずく「うん、任せて!」


しずくちゃんは手を振って、サニータウンへと帰っていった。
752 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:39:48.91 ID:6bHKz0F20

侑「それじゃ、私たちも帰ろっか」
 「ブブイ」

歩夢「うん」

かすみ「はーい!」


3人で帰り道を歩き出す。


歩夢「なんだか、こうして3人で歩いてると、スクールに居た頃みたいだね」

侑「あはは、確かにそうかも♪」

かすみ「でもでも、今はあのときとはもう違いますから!」
 「ガゥ♪」


かすみちゃんが元気に言うと、ゾロアが同調するように鳴く。


かすみ「今はかすみんたち、ポケモントレーナーなんですから!」

歩夢「ふふっ、そうだね♪」


歩夢がくすくすと笑う。

なんだか、いつものセキレイシティの景色の中で、ポケモントレーナーになった歩夢やかすみちゃんと歩くのは不思議な感覚だった。

旅に出る前には考えられないくらい、いろんな人やポケモンと出会って、これまでにいろんなことがあった。

そして、何より──


 「ブイ?」


私には新しい仲間がいる。

歩夢にも、かすみちゃんにも、しずくちゃんにも。


リナ『侑さん、なんか嬉しそう』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん! 私たち、前に進んでるんだなって思って、なんか嬉しいなって」

リナ『そっか。侑さんが嬉しそうにしてると私も嬉しい』 || > ◡ < ||

侑「ふふ、ありがとうリナちゃん」


そして、リナちゃんもこの旅で出会った大切な仲間だ。

このオトノキ地方での旅は、こうしてセキレイシティに戻ってきたことによって、地方全体の凡そ半分くらいを旅してきたことになると思う。


侑「この先には……何があるのかな……!」


私は旅の続きが楽しみで楽しみで堪らない。

大きな期待を胸に、未来に希望を抱きながら、私は無限に広がっている空を仰いで、この先に続いているまだ見ぬ地を思い描きながら、帰路に就くのだった。





    🎹    🎹    🎹





……さて。

久しぶりに我が家へ帰宅した私だったんだけど……。


侑「まさか帰宅早々、夕飯の買い出しをやらされるとは……」
 「ブイ?」
2130.98 KB Speed:1.1   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む

スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)