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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」
- 118 : ◆tdNJrUZxQg [sage saga]:2022/11/03(木) 18:21:14.31 ID:aNVgiSRu0
- なんかアンカー含めてミスしまくってる…
>>115-117はなしで。
■Chapter006最初から投下し直します。
すみません
- 119 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:22:10.03 ID:aNVgiSRu0
-
■Chapter006 『盗人を捕まえろ?』 【SIDE Yu】
せつ菜「──それでは、この辺りで……私はセキレイシティ方面に向かいますので!」
侑「ああ……もう、お別れかぁ……」
せつ菜「旅をしていれば、またどこかで会えますよ」
侑「……うん。次会うときはもっと強くなれてるように、頑張るね!」
せつ菜「楽しみにしています♪」
せつ菜ちゃんがすっと私の方に手を差し出す。
せつ菜「一トレーナーとして……また会ったときは、全力で競い合いましょう!」
侑「うん……!」
それに応じて、握手を交わす。
せつ菜「歩夢さんとリナさんも、またどこかで!」
歩夢「うん♪ またね、せつ菜ちゃん」
リナ『とっても勉強になった、せつ菜さん、ありがとう』 ||,,> 𝅎 <,,||
せつ菜「次会ったときは、サスケさんにもっと美味しいカレーをご馳走しますね!」
「シャーーーボッ」
歩夢「あ、あはは……」
歩夢が何故か苦笑いしてる……?
侑「あれ……? そういえば、私……せつ菜ちゃんのカレーを食べたあと、どうしたんだっけ……?」
「ブイ…」
リナ『侑さん、それ以上は思い出しちゃいけない』 ||;◐ ◡ ◐ ||
「ブイブイ」
侑「……?」
なんだろ……? まあ、いっか。
せつ菜「それでは、侑さん! 歩夢さん! リナさん! 良い旅を!」
侑「じゃあね! せつ菜ちゃーん!」
せつ菜ちゃんは、折り畳み自転車に乗って、手を振りながら風斬りの道方面へと走り去っていった。
侑「それじゃ、私たちも行こうか!」
歩夢「うん!」
リナ『目標ダリアシティ。リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||
私たちはダリアシティを目指して、早朝の5番道路を自転車で走り出すのだった。
- 120 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:25:38.56 ID:aNVgiSRu0
-
👑 👑 👑
──ツシマ研究所。
善子「──しずく、悪かったわね。結果的に、貴方まで足止めしちゃって……」
しずく「いえ、自分から残っていただけなので、お気になさらないでください」
かすみ「……やっと、旅に出れます……かすみん、たくさんコキ使われて、もうくたくたですぅ……」
「ガゥガゥ…」
かすみんは、この2日間の大変なお片付けを思い出して、ゾロアと一緒に項垂れてしまいます。
しずく「ほら、かすみさんも博士に挨拶しないと……」
かすみ「挨拶の前にぃ〜、ヨハ子博士〜」
善子「何? というか、そのヨハ子博士ってのやめなさいよ」
かすみ「頑張ったかすみんにぃ〜、何かご褒美とかないんですかぁ〜?」
善子「あんた、本当にたくましいわね……感心するわ」
しずく「あはは……」
ヨハ子博士もしず子も、なんか呆れ気味ですけど、かすみんホントに頑張ったもん! 昨日なんか、朝早く起きて、夜遅くまでずーーーーーーっとお手伝いしてたんですからね!!
善子「んーそうね……何かあったかしら」
そう言いながら、博士は周辺をがさごそと探し始める。
かすみ「えっ!? ホントに何かくれるんですか!?」
「ガゥガゥ♪」
しずく「は、博士……かすみさんの言うことは真に受けなくていいんですよ……?」
善子「まあ……頑張りは認めてあげないとね。実際、片付けの手伝いは真面目にやってたし」
かすみ「さすが博士ぇ! 話がわかる〜♪」
「ガゥ♪」
しずく「かすみさん、調子に乗らないの!」
善子「……あ、これなんかいいかもしれないわね」
そう言いながら、博士は持ってきたものをゴロゴロと机に置く。
かすみ「……なんですか、これ?」
「ガゥガゥ♪」
しずく「“きのみ”ですね。えっと、種類は……ザロクにネコブ、タポルにロメ……」
善子「あとウブとマトマの6種類よ。二人にあげるから、何個か持ってくといいわ」
かすみ「えぇーー!? ご褒美、ただの“きのみ”ですかぁ!?」
善子「この“きのみ”にはちゃんと効果があるのよ」
かすみ「効果……?」
しずく「ポケモンにあげると、なつきやすくなるんですよね」
善子「そうよ。さすがしずくね、よく勉強してるわ」
かすみ「む……か、かすみんもそれくらい知ってるもん」
しず子ばっかり、褒められててずるい……。
- 121 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:28:14.71 ID:aNVgiSRu0
-
善子「これがご褒美。好きなだけ持っていきなさい」
かすみ「す、好きなだけ!? ヨハ子博士太っ腹〜!! 大好き〜?」
「ガゥガゥ〜♪」
善子「……あんた、たぶん大物になるわね」
しずく「あの……いいんでしょうか? ロメなんかは結構高価な“きのみ”ですよね……?」
善子「この研究所でたくさん栽培してる種類だから大丈夫よ。それにポケモンに使うだけじゃなくて、旅の食事用にもなると思うから」
しずく「何から何まで……ありがとうございます、博士」
善子「まあ、いいのよ。いろいろあったけど、私が自分で選んで、貴方たちにお願いしてるわけだからね」
かすみ「しず子も早く〜!」
自分のバッグに“きのみ”をたくさん詰めながら、しず子を呼びます。
しずく「って、かすみさん、そんなに持ってくの!?」
かすみ「だって、好きなだけ持って行っていいって言ってたじゃん!」
「ガゥ♪」
しずく「いいって言っても限度があるでしょ!? 少しは遠慮しなさい!」
そう言いながら、しず子が私の手から“マトマのみ”を取り上げる。
かすみ「ちょ……! それかすみんのマトマ! 返してよぉ!」
しずく「これは戻すの……!」
かすみ「返してよ〜!」
二人で取り合っていた“マトマのみ”でしたが──揉み合っている拍子に……ぐちゃっ。
しずく「あ……」
かすみ「あぁ!? しず子が離さないから、潰れちゃったじゃん!」
しずく「ご、ごめん……」
かすみ「もう、もったいない……」
「ガゥゥ…」
手にマトマの赤い汁が付いちゃいました……勿体ないですね……。かすみんは、手に付いた赤い汁を舌でペロっと舐める。
しずく「あ!? か、かすみさん、マトマの果汁なんか舐めたら!?」
かすみ「──からあぁあぁぁあぁあぁぁ!!?」
「ガゥッ!!?」
ちょっと舐めただけなのに、口の中が燃えるような辛さに襲われる。
叫ぶかすみんにゾロアもびっくりして、肩の上から転げ落ちる。
かすみ「水!!! 水ぅ!!!!?」
しずく「大変!! えっと、水……!! メッソン!!」
──ボム。しず子が投げたボールから、メッソンが出てくる。
「メソ…?」
しずく「かすみさんに向かって、“みずでっぽう”!」
「メソー」
ぷぴゅーと可愛らしい音と共に、メッソンから放たれた水が、かすみんに襲い掛かる。
- 122 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:29:58.76 ID:aNVgiSRu0
-
かすみ「ぎゃー!!? 旅立ち前なのに服がびしょ濡れにぃー!? ってか、飲み水持ってきてよ!?」
しずく「あ、ごめん……」
かすみ「しず子のバカー!!」
普段、優等生ぶってる癖して、焦ると変なことするんだからぁ……。
善子「なんか、大変そうね……。私はそろそろ寝たいから、あとは好きにしなさい……夜型にはぼちぼち堪える時間なのよ……ふぁぁ……」
かすみ「こっちはこっちでダメ人間じゃないですか!!」
しずく「あはは……」
もう……! 旅立つ前だってのに、踏んだり蹴ったりですぅ……!!
👑 👑 👑
──さて、“きのみ”をたくさん貰ったあと、かすみんたちは研究所から出て、いよいよ旅立ちのときです!
かすみ「さぁ、行くよしず子! 冒険の旅が、かすみんのことを今か今かと待ってるよ!」
「ガゥ」
しずく「まずどこに向かうの?」
かすみ「もっちろん、最初はセキレイジム! 曜先輩のところに行くよ!!」
──
────
──────
セキレイジムに辿り着くと、扉の前に一枚の張り紙がありました。
──『現在ジムリーダー不在のため、ジムをお休みしています』
かすみ「な、なんで……」
「ガゥ…」
かすみんはゾロアと一緒にがっくりと肩を落として項垂れます……一昨日、侑先輩とジム戦してたのに……。
しずく「あはは……曜さんって多忙でジムを空けてることが多いらしいね。よくサニータウンでも見かけてたし……」
かすみ「また出鼻を挫かれたぁ〜……」
しずく「どうする? 帰ってくるの待ってみる?」
かすみ「何日掛かるかわからないし……いつまでも、セキレイでのんびりしてたら、歩夢先輩たちにどんどん置いてかれちゃうよっ!」
それに、ジム戦自体は最終的に全部制覇するなら、どの順番で行っても大差ないですもんね! 今ここでセキレイジムに拘る理由はありません!
しずく「そうなると……北のローズか、西のダリアかな? 南は山越えになるから、遠慮したいなぁ……あはは……。かすみさんはどっちに行きたい?」
かすみ「うーん……しず子はどこに行きたい?」
しずく「え? 私?」
しず子がきょとんとした顔をする。
- 123 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:31:07.48 ID:aNVgiSRu0
-
しずく「私はジム巡りをするつもりはないから、どっちでもいいけど……」
かすみ「そうじゃなくて! 旅するって決まってから、いろいろ調べてたじゃん! 行きたいところとかあるんじゃないの?」
しずく「それは……そうだけど……。私が行きたいところはポケモンジムがないから、かすみさんの目的とは合致しないというか」
かすみ「とりあえず、それはいいから! しず子はどこに行きたいの?」
しずく「私は……フソウ島に……」
かすみ「フソウ島って、確かサニータウンから海を渡った先だよね」
しずく「うん。ここからだと東方面かな」
かすみ「じゃあ、進路は東に決定!」
しずく「いいの……?」
かすみ「だって、しず子、ずっとかすみんのこと待っててくれたし……行き先くらいはしず子が決めていいよ」
かすみんがそう言うと、
しずく「……ふふ♪」
何故か笑われる。
かすみ「な、なんで笑うの!」
しずく「うぅん♪ かすみさんって、そういうところは律義だなって思って……ふふ♪」
「ガゥガゥ♪」
しずく「ゾロアもそう思うよね♪」
「ガゥ♪」
かすみ「ちょ……笑わないでよ! ゾロアも!」
しずく「それじゃ、9番道路に向かいましょう!」
「ガゥッ♪」
かすみ「ちょっとぉ!! かすみんのこと無視しないでよぉーー!!」
👑 👑 👑
──ジムから歩いてきて、今は9番道路を進行中です。
かすみ「……疲れた」
しずく「結構歩いたもんね。街の端から端を往復したわけだし」
ツシマ研究所は、街の南東側で、ポケモンジムは街の西側──風斬りの道に続く6番道路に近い場所にある。つまり街の端から端なので、結構距離があるわけです。
しずく「一旦休憩する?」
かすみ「さ、賛成〜……」
しずく「じゃあ、あそこの木陰でお休みしよっか」
かすみんはふらふらと木陰まで歩き、
かすみ「きゅぅ……」
バッグを放り出して、そのまま倒れ込む。
- 124 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:32:39.13 ID:aNVgiSRu0
-
しずく「かすみさん、大丈夫?」
かすみ「……昨日の疲れが抜けきってない感じがする……。ヨハ子博士、ホントに一日中手伝わせるんだもん……」
しずく「まあ、それはかすみさんが悪いから、仕方ないけど……」
しず子は苦笑いしながら、かすみんの隣に腰を下ろして、バッグの中からポケマメケースを取り出す。ポケマメっていうのは、ポケモンのおやつにもなるマメですね。
しずく「メッソン、おやつだよ」
「メソ…」
かすみ「うわ!? メッソン、いたんだ……」
しず子がポケマメを肩の辺りに差し出すと、スゥーーとメッソンが現れて、ポケマメを食べ始める。
しずく「メッソン、外に慣れてないみたいだから、連れ歩いてるんだ。普段はこんな感じで姿を消しちゃうんだけど……」
「メソ…」
ポケマメを食べると、またスゥーと消えてしまう。
かすみ「まだ、慣れるのには時間がかかりそうだね」
しずく「あはは……そうだね。ゆっくりでいいから、少しずつ慣れていこうね」
「メソ…」
しず子が新しいポケマメを差し出すと、またスゥーと現れる。これはこれで、ちょっと面白いかも。そんなしず子とメッソンを眺めていると──
「ガゥガゥ」
ゾロアがかすみんに向かって吠えてくる。
かすみ「はいはい、ゾロアもおやつね」
かすみんはポケットから、“マゴのみ”を取り出して、ゾロアにあげる。
「ガゥ♪」
ゾロアは嬉しそうにがっつき始めました。
かすみ「全く、ゾロアは食いしん坊ですねぇ。誰に似たんだか」
しずく「あれ……? さっき貰った“きのみ”に“マゴのみ”ってあったっけ?」
かすみ「うぅん、これはゾロアのおやつ用に普段から持ってるやつ。昔から“マゴのみ”が好きなんだよね」
「ガゥガゥ♪」
かすみ「せっかくだし、他の子にもおやつをあげよっか」
しずく「そうだね。マネネ、ココガラ出て来て」
「マネネェ」「ピピピィ」
しず子がマネネとココガラを出す。かすみんも、ボールからキモリを外に出してあげる。
- 125 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:34:21.66 ID:aNVgiSRu0
-
「キャモ」
かすみ「そういえば、キモリって何が好きなんだろう……? “マゴのみ”食べる?」
「キャモ…」
かすみ「なんか渋い顔してる……」
しずく「あはは……好みじゃないみたいだね」
「ピピピィ」
しずく「ココガラ、今あげるから焦らないで」
「ピピピィ♪」
「マネマネ♪」
しずく「マネネ? ケースから食べてもいいけど、食べ過ぎちゃダメだよ?」
「マネッ♪」
ココガラはしず子の頭の上にとまり、しず子の手からポケマメを受け取っておいしそうに食べている。
マネネはもうどこにおやつがあるのか知ってるみたいで、勝手にケースからポケマメを取り出している。
かすみ「かすみんもポケマメにすればよかったです……。あんま売ってるの見たことないけど……」
しずく「私は両親がアローラ地方から取り寄せているのを分けてもらっているから……」
かすみ「羨ましい……」
かすみんが羨ましがってると──
「マネッ」
「キャモ?」
かすみ「ん?」
マネネが、キモリのもとへ、ポケマメを1個持ってきてくれました。
かすみ「くれるの? マネネは良い子ですねぇ〜?」
「マネマネッ!!!!」
「キャモッ!!?」
マネネはそのまま、ポケマメをキモリの口元にぐりぐりと押し付ける。
かすみ「……って何やってるの、あれ」
しずく「たぶん、私の真似だと思う……。ココガラにあげてるのを見て真似したくなっちゃったのかな……あはは」
マネネがひたすら、ポケマメをキモリの口元に押し付けていると、
「キャモッ!!!」
「マネェッ!!?」
あ、ついにキモリが怒った……。尻尾でマネネを追い払ってる……。
しずく「もう、マネネ……キモリにポケマメあげて戻っておいで」
「マネェ…」
「キャモ」
キモリはマネネから、ポケマメを受け取ってポリポリと食べ始める。
そんなみんなの様子を見ながら、かすみんは寝ころんだまま上を見上げる──木々の葉っぱの間から木漏れ日が差し込み、そよそよとそよ風に乗ってお花の良い香りがする。
お花畑が近いからですかねぇ……。平和ですねぇ……。
- 126 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:36:57.13 ID:aNVgiSRu0
-
しずく「かすみさん、寝ちゃダメだよ?」
かすみ「っは……! 危うく意識が遠のきかけた……」
しずく「んー……それじゃ、何かお話しでもする? 寝ちゃわないように」
お話しか……。何か話題……。
かすみ「……そうだ。しず子、フソウ島に行きたいって言ってたけど、何か理由があるの?」
しずく「あ、うん。フソウ島には、オトノキ地方でも一番大きなコンテスト会場があるでしょ? それを見たくって……!」
かすみ「しず子、コンテストに興味あるの?」
しずく「コンテストというか……舞台に興味があるって感じかな」
かすみ「舞台……そういえばしず子、女優になりたいんだっけ?」
しずく「うん! 私、小さい頃から女優のカルネさんが大好きで……! 私もいつか、カルネさんみたいな大女優になりたいって思ってるの! カルネさんのように、いつかはポケウッドの舞台で……!」
かすみ「ポケウッド! ポケウッドの映画なら、かすみんもいくつか観たことあるよ! 『ハチクマン』とかだよね!」
しずく「ふふ、確かに有名な映画だね! 『ハチクマン』三部作はどれも名作だから……」
かすみ「かすみん的には登場人物だとハチクマンよりもルカリオガールが可愛くて好きなんだけど〜……ハチクマンがゾロアークを使ってるところはセンスがいいなって思ったかも!」
「ガゥガゥ♪」
かすみ「ゾロアもそう思うよね♪」
「ガゥ♪」
しずく「『ハチクマンの逆襲リターンズ』で使ってたよね! もちろん『ハチクマン』も好きだけど……私は『魔法の国の 不思議な扉』もよく見てたなぁ。主演のジュジュベ役のナツメさんがホントに素敵で……」
かすみ「あーわかる! でもでも、かすみん的にはやっぱりメイ姫が好きかなぁ♪ かすみんみたいな可憐なお姫様だしぃ♪」
しずく「ふふ、かすみさんらしいね♪ ねぇねぇ、ポケウッドだと他は何が好き!? 私が一番好きなのは、もちろんカルネさんが出てる作品なんだけど……!!」
かすみ「えーそうだなぁ……。……って、あれ? かすみんたち、ポケウッドの話してたんだっけ? フソウ島に行く理由の話だったような……」
しずく「っは……!」
しず子はハッとなり、熱くなって話してしまったのが恥ずかしかったのか、少しだけ顔を赤らめる。
しずく「……コホン/// えっと、だからね、フソウ島のポケモンコンテスト、一度見てみたいなって思って……。ポケウッドとは違うけど、何か表現の参考になりそうだし」
かすみ「ふむふむ、そういう理由だったんだね。参加はしないの?」
しずく「参加は……まだ早いかな。もちろんいつかはあの舞台に立ってみたいと思うけど。かすみさんこそ、コンテストに参加とかしないの? 好きそうだし、セキレイにも大きな会場があったよね?」
かすみ「え? ま、まあ……そのうち、コンテストも制覇しちゃいますけどね? 今は準備中というか……」
しずく「そっかぁ……お互い、いつか参加できるといいね」
セキレイ会場はかわいさコンテストの会場ですし、もちろんそのうち、かすみんが制覇しちゃう予定ですけど……。
あの会場は、永世クイーンに王手の現コンテストクイーンのことり先輩と、その前にクイーンの座についていた曜先輩の本拠地ですからね……。
入念な準備をして臨まないといけないわけです……。
しずく「ねぇ、かすみさん」
かすみ「ん?」
しずく「かすみさんは、この旅で何かしたいことってあるの? そういえば、聞いてなかったなって」
かすみ「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれたね、しず子」
かすみんはガバっと上半身を起こす。
かすみ「したいことというか、なりたいもの、なんだけど……!」
しずく「うん」
かすみ「かすみんは、ポケモンマスターになりたいの! だから、この旅はそんなポケモンマスターへの第一歩っていうわけなんだよ!」
- 127 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:37:49.00 ID:aNVgiSRu0
-
かすみんが胸を張って言うと、
しずく「ポケモン、マスター……?」
しず子はポカンとしたあと、
しずく「……ふ、ふふふ♪」
何故かおかしそうに笑いだしました。
かすみ「ち、ちょっとぉ!? なんで笑うの!?」
しずく「ご、ごめんね……ふふ♪ かすみさんらしい目標だなって思って」
かすみ「むー……バカにしてるでしょ」
確かにポケモンマスターって、子供の夢っぽいし、具体的に何してる人なのかよくわかんないところはあるけど……。
しずく「してないよ♪ なれるといいね、ポケモンマスター♪」
かすみ「やっぱり、バカにしてるー!!」
しずく「してないしてない♪」
かすみ「むぅ……かすみん、いつかそんな態度取ったことを後悔させちゃうくらいの、ポケモンマスターになっちゃうんだからね……」
しずく「ふふ♪ 期待してるね♪」
全く、しず子ったら、失礼なんだから……! ぷんぷんと頬を膨らませていると──かすみんの上着の裾をくいくいと引っ張られる。
「ガゥガゥッ」
かすみ「ゾロア? もしかして、おやつのおかわり?」
「ガゥッ♪」
かすみ「もうないよ……ポケットにそんなに入んないもん」
「ガゥゥ……」
そんな、あからさまに落ち込まなくても……。
かすみ「あ、そうだ! せっかく、ヨハ子博士から、たくさん“きのみ”貰ったんですから、それをおやつにしちゃいましょう♪」
しずく「あ、確かにそれはいいかもね」
かすみ「それじゃ早速……──」
かすみんが、自分のバッグに目を向けると──
「クマ?」「ジグザク?」「ザグマ??」
いつの間にか口が開けられたかすみんのバッグに、茶色と黒の縞模様のちっちゃいタヌキさんのようなポケモンが群がっているところでした。
かすみ「ちょ!? かすみんの“きのみ”!?」
「ザグ?」「グマグマ??」「ジグザグ」
しずく「ジグザグマ……!? “きのみ”の匂いに釣られて寄って来たんだ……!」
「ザグザグ」「マグジグ」「クマァ」
というか、よく見たら、すでに口元にべったり果汁が付いてる……!?
かすみ「ちょっと!! 勝手に食べないでくださいぃ!?」
かすみんがバッグに飛び付くと──
- 128 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:38:55.45 ID:aNVgiSRu0
-
「クマーー」「ジグザーー」「グマグーー」
ジグザグマたちは、それを避けるように散開する。
かすみ「かすみんの“きのみ”、すっごい減ってる……よ、よくもぉ……!」
──キッと、1匹のジグザグマを睨みつけると、
「クマ」
口元には、“ウブのみ”が咥えられていた。
かすみ「って、ちょっとぉ!? まだ持ってくの!?」
さらに、他のジグザグマも見てみると、他の子も“きのみ”を口に咥えている。
かすみ「ど、泥棒ーー!!」
叫びながら、1匹のジグザグマに飛び掛かると──
「ザグザグ」
ぴょんと避けて、
かすみ「ぐぇ」
かすみんの頭を踏んずけてから、
「ジグジグ」「ザグザグ」「クマー」
ジグザグマたちは、ぴゅーんと走り去って行ってしまいました。
かすみ「…………」
しずく「……完全に持っていかれちゃったね」
かすみ「……かすみん、ここまでコケにされたのは初めてです……。あのジグザグマたち、許しませんよ……!!」
かすみんはすっくと立ち上がる。
かすみ「ゾロア!! キモリ!! ジグザグマを捕まえますよ!!」
「ガゥ」「キャモ」
かすみんは2匹を従えて、走り出しました。絶対に許しませんからね!? あのジグザグマたちぃぃぃ……!!!
しずく「あ、ちょっとかすみさん!? 荷物置いたままじゃ、また盗られる……。……って、行っちゃった……」
👑 👑 👑
かすみ「確かこっちに行きましたよね……!!」
「ガゥガゥ」「キャモッ」
ジグザグマを追って辿り着いたのは──見渡す限りに広がるお花たち。
- 129 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:41:18.13 ID:aNVgiSRu0
-
かすみ「“太陽の花畑”……」
ここはオトノキ地方でも有数の花園。
「ポポッコ〜」「フラ〜」「フラァ〜」
ポポッコやハネッコたちがふわふわと飛んでいるのが目に入る。ジグザグマたちは、このお花の中に紛れ込んだようですね……。
かすみ「今とっつかまえてやりますからね……!!」
かすみん、気合い十分な感じで花畑を睨みつけます。……でも、この花畑の中で、どうやってジグザグマを見つけるか……。
かすみ「ん……?」
よく見ると──地面が何かの水分を吸って色を変えている場所があることに気付きます。
「ガゥ…クンクン」
かすみ「もしかして、この地面が濡れてる場所……“きのみ”の果汁?」
「ガゥガゥ!!」
かすみ「そうなんだね、ゾロア!」
「ガゥ!!!」
随分“くいしんぼう”な子がいるみたいですね。なら、やることは決まりました……!!
かすみ「ゾロア! キモリ! GO!」
「ガゥ!!」「キャモッ!!」
かすみんの指示で、ゾロアとキモリが花畑に突入する。
直後、
「ザグーー!!?」「ジグーーッ!!?」
ジグザグマがゾロアとキモリの攻撃によって、花畑から飛び出してくる。
かすみ「ふっふっふ、全くおまぬけさんですね、ジグザグマたち。こんな果汁を残していたら、居場所がバレバレですよ〜?」
かすみん、花畑の外まで転がってきたジグザグマの前で、仁王立ちして見下ろしてやります。
「ジ、ジグザ…」「グザグマ…」
もちろん、ジグザグマたちは怯えて逃げようとしますが──そうは行きません。
「ガゥガゥッ!!!!」「キャモッ!!!」
「ジグザグ…」「ザグザグ…」
すぐに花畑から引き返してきたゾロアたちと、ジグザグマを挟み撃ちにします。
かすみ「もう逃げ場はありませんよ……ひっひっひ……」
「ザグゥ…」「マァ…」
さて、どうしてやりましょうか、このイタズラタヌキたち……と思った矢先、
かすみ「ぶぁ!!?」
かすみんの可愛いお顔に向かって、何かが飛んできました。
- 130 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:42:28.90 ID:aNVgiSRu0
-
かすみ「ぺっぺっ……! な、なにこれ、“すなかけ”……?」
顔に砂をかけられて、怯んだ隙に、
「ザグザグ…!!」「ジグザグ…!!」
かすみ「あ!? ちょっと!?」
ジグザグマたちがかすみんの横をすり抜けて逃げていきます。そして、それと同時に──
「グマァ…!!!」
お花畑の方から急に、低く唸るような鳴き声。
「ガゥ…!!」「キャモ」
かすみ「なーんか、やる気まんまんって感じじゃないですか……」
確かにさっき逃げたジグザグマ……3匹くらいいたもんね。
かすみ「この気迫、群れのリーダーってところですか! いいですよ!! そっちから来てくれるなら、やってやりますよ!!」
「グマァッ!!!!」
次の瞬間、ジグザグマが花畑の中から、ゾロアに向かって飛び掛かってきました。
かすみ「ゾロア、“みきり”!!」
「ガゥ」
「グマッ!!?」
ゾロアが攻撃を見切り、外したジグザグマはびっくりしたまま、勢い余って地面を滑る。
かすみ「キモリ! “このは”!」
「キャモッ!!!」
キモリがシュッと鋭い“このは”を投げつける。
「クマァ!!!?」
かすみ「追撃の“でんこうせっか”!!」
「キャモッ!!!!」
さらに、息もつかせぬ追撃によって、決着──したかと思いましたが、
「クマ…!!!!」
「キャモッ!!?」
かすみ「んな!? 防がれた!? “まもる”!?」
さらにジグザグマは、防いだ反動で後ろに飛び退きながら、体を回転させ、
「ザーーグマーーー」
周囲に鋭い体毛を飛ばしまくる。
かすみ「い、いたたたた!!? ミ、“ミサイルばり”ですかぁ!!?」
「キ、キャモッ…!!」「ガゥゥ…!!」
まずいです……! むしタイプの技の“ミサイルばり”はキモリにもゾロアにも効果抜群……!
- 131 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:44:02.56 ID:aNVgiSRu0
-
かすみ「や、やるじゃないですか……!! さすが、群れのボスだけありますね!!」
「グマッグマッ!!!」
さらに、怯んだ2匹に向かって、お得意の“すなかけ”を畳みかけてくる。
「ガ、ガゥゥ…」「キャモッ…」
かすみ「ゾロアもキモリも、怯まないで! このままじゃ、逃げられちゃう……!!」
「クマッ…!!」
かすみんの反応を見て、好機と思ったのか、ジグザグマが逃走を図ります。
かすみ「……まあ、逃げられちゃうなんて、嘘なんですけどね」
「クマッ!!?」
急にジグザグマが何かに足を取られ、つんのめりながら転ぶ。
──いつの間にか、ジグザグマの足元の葉っぱの葉先が結ばれて、ジグザグマの足を取っていました。
かすみ「キモリ! ナイス“くさむすび”!」
「キャモッ」
「クマッ!!?」
そうです、かすみん最初からジグザグマを油断させて、転ばせるつもりだったんです。
そして、転んでしまったジグザグマに──
「ガゥゥゥゥ…ッ!!!!!」
唸り声をあげながら、近付いていくゾロア。
「ク、クマァ…!!!」
かすみ「ゾロアも、“すなかけ”で能力を下げられて、お怒りですよね!」
「ガゥッ!!!!」
かすみ「ゾロア!! “うっぷんばらし”!!」
「ガァァァゥ!!!!!」
「クマァッ!!!?」
“うっぷんばらし”は能力を下げられた後だと、威力が倍になる技です。
怒りのパワーを乗せた、爪がジグザグマを切り付け、そのパワーで吹っ飛ばす。
「ク、クマァ…」
大きなダメージを受けて、もう逃げる体力も残っていないであろうジグザグマに、かすみんは歩いて近寄ります。
かすみ「ふっふっふ……人の物を盗った報いですよ」
「ク、クマァ…」
かすみ「泥棒はいただけませんが、目聡くレアなものを集めるところは嫌いじゃないですよ。なので、これからはその能力をかすみんの為に使ってください」
「クマ…?」
かすみんはポケットから取り出した空のモンスターボールを、ジグザグマに向かって投げつけた。
──パシュン。ジグザグマはボールに吸い込まれたのち、1回、2回、3回揺れて……大人しくなった。
- 132 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:45:28.13 ID:aNVgiSRu0
-
かすみ「ジグザグマ、ゲットです!」
「キャモ」「ガゥガゥ♪」
かすみ「ふっふっふ……かすみんの“きのみ”を強奪した分、たくさん働いてもらいますよぉ……? 食べ物の恨みは怖いんですからねぇ……?」
しずく「──……どっちが悪役なんだか」
気付くと、後ろでしず子が呆れ気味に肩を竦めていました。
かすみ「あ、しず子、見て見て〜イタズラジグザグマはこのとおり、捕まえたよ〜」
しずく「あんまりジグザグマのこと、いじめちゃダメだよ?」
かすみ「いじめないよ! これからジグザグマはかすみんのために誠心誠意働いてくれるんだから〜♪」
かすみんは、今しがた捕まえたジグザグマをボールから出す。
「──クマ…」
かすみ「ほーら、ジグザグマ〜、あなたの“おや”のかすみんですよ〜」
かすみんがジグザグマの頭を撫でようとすると、
「ガブッ」
かすみ「いったぁぁーーー!!!? 何するんですかぁ!!!?」
噛み付かれました。
しずく「そりゃそうだよ……捕まえたばかりで、まだなついてないでしょ?」
かすみ「えぇ……それじゃ、かすみんのお宝ザックザク計画はどうなるんですかぁ……」
しずく「なついて貰えるように頑張るしかないんじゃないかな」
かすみ「むー……困りましたね」
しずく「それよりかすみさん、バッグ……置きっぱなしだったよ」
そう言いながら、しず子がバッグを手渡してきます。
かすみ「ああ、ごめん。ありがと、しず子」
バッグを受け取る際──コロっと“ネコブのみ”が転がり落ちます。
「…! グマッ!!!」
そして、落ちたネコブをジグザグマがパクっと……。
かすみ「ああ!? まだ食べるの!?」
眉を顰めるかすみんとは裏腹に、
「…クマァ♪」
ジグザグマは幸せそうな笑顔を浮かべ、器用に後ろ脚で立ちながら、かすみんのバッグに前脚を伸ばしてくる。
かすみ「なんですか……まだ食べたいんですか?」
「クマァ」
かすみ「……伏せ」
「クマァ」
ジグザグマはかすみんの指示にすぐさま従って、身を屈める。
- 133 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:46:46.13 ID:aNVgiSRu0
-
かすみ「……食べた瞬間、さっきの“なまいき”な態度が一変しましたね……」
しずく「あ、もしかして……」
かすみ「?」
しずく「“ネコブのみ”の効果じゃないかな? ポケモンがなつきやすくなるって言う……」
かすみ「……! なるほど! じゃあ、この“きのみ”をたくさん食べさせれば……! ジグザグマ!」
「クマ?」
かすみ「もっと、“きのみ”食べていいですよ! その代わり、これからかすみんにいっぱい協力してください!」
「クマァ♪」
バッグをひっくり返して、ジグザグマの前に“きのみ”を落とすと、ジグザグマは幸せそうに、“きのみ”にむしゃぶりつき始めました。
かすみ「ふっふっふ……これで、お宝ザックザク計画は成功したようなものです……ふへへ」
「ガゥガゥ♪」「キャモッ」
しずく「結局、“きのみ”食べられちゃってるけど……」
かすみ「? しず子どうしたの? 変な顔して……?」
しずく「まあ、かすみさんがいいなら、それでいいと思うよ……」
かすみ「……?」
しず子の言葉に首を傾げる中、
「クマァーー♪」
ジグザグマの幸せそうな鳴き声が、しばらくの間、太陽の花畑に響いているのでした。
- 134 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:47:21.17 ID:aNVgiSRu0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【太陽の花畑】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__●_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち キモリ♂ Lv.8 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.8 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.6 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:45匹 捕まえた数:4匹
主人公 しずく
手持ち メッソン♂ Lv.6 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.6 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
ココガラ♀ Lv.6 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:56匹 捕まえた数:3匹
かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 135 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 21:28:04.71 ID:aNVgiSRu0
-
■Intermission🐏
──ここはセキレイシティの北にある道路、10番道路……。
「ブーーーン!!!!」
虫の頭にムキムキの体をした敵が彼方ちゃんたちに殴り掛かってくる。
遥「お姉ちゃん!」
彼方「大丈夫、大丈夫〜。バイウールー、“コットンガード”〜」
「メェェェー」
相手の拳が──ボフッという音と共に、毛皮に飲み込まれる。
彼方「ふっふっふ〜、肉弾戦で彼方ちゃんのバイウールを倒せるかな〜?」
「マ、ッシブ…!?」
あれ……? なんか、ちょっとショック受けてる……?
「マッシ、ブーン!!!」
彼方「わぁ!? こっち来たぁ!?」
敵がバイウールーを無視して、私の方に突っ込んでくる。
彼方「お、怒らないでよ〜!」
遥「ち、挑発なんてするから……!」
彼方「た、助けて〜! 穂乃果ちゃ〜ん! 千歌ちゃ〜ん!」
彼方ちゃんが助けを呼ぶと、
千歌「ルカリオ!! “コメットパンチ”!!」
「グゥォッ!!!」
「ッシブッ!!!」
千歌ちゃんのルカリオが、敵に向かって拳を叩きこむ。
千歌「肉体が自慢なら、相手してあげるよ!」
「ブーンッ!!!」
彼方「た、助かった……」
遥「お姉ちゃん、大丈夫……?」
彼方「頼もしいボディガードのお陰で無事だよ〜」
遥「良かった……」
彼方「それにしても、あのマッチョムシ……まさか、彼方ちゃんに直接殴り掛かってくるなんて……。さすがの彼方ちゃんも、肝が冷えたぜ……」
遥「マッチョムシって……勝手に変な名前つけちゃダメだよ、お姉ちゃん」
千歌ちゃんのルカリオと対峙したマッチョムシは、
「マッシブッ!!!!!」
急にポージングを始める。
- 136 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 21:30:01.21 ID:aNVgiSRu0
-
千歌「お……?」
「ッシブッ!!!」
千歌「筋肉を自慢してるのかな……? よーし! それなら、ルカリオ! “ビルドアップ”!!」
「グゥォッ!!!!」
「マッシブッ!!!!」
千歌「やるね……!」
千歌ちゃんも張り合うように、ルカリオに“ビルドアップ”を指示して、ボディビルバトルを始める。
遥「あ、あの……千歌さん……倒さないと……」
千歌「え? ……そういえば、そうだった。ルカリオ! 拳、集中!」
「グゥォ──」
ルカリオが指示のもと、一気に精神を集中させて──拳に力を籠める。
──直後、カッと目を見開いて、
千歌「“きあいパンチ”!!」
風を切り裂くほどのスピードでマッチョムシに向かって、拳が放たれる。
これで決着──と思いきや、
「マッシブッ…」
マッチョムシは、ルカリオの拳を手の平で受け止めていた。
千歌「と、止められた!?」
「グゥォッ!!?」
「マッシブッ!!!!」
そのまま、ルカリオの腕を掴んで上に向かって放り投げる。
「グゥァッ!!!?」
千歌「ル、ルカリオー!?」
「マッシブッ!!!!」
そのまま、今度は千歌ちゃんに向かって飛び掛かってくる。
千歌「わ、やばっ! 穂乃果さん、バトンタッチ!!」
穂乃果「了解〜!」
飛び掛かってくる、マッチョムシとの間に躍り出た穂乃果ちゃんがボールを投げる。
「ゴラァァーーースッ!!!!!」
穂乃果「ガチゴラス!! “かみくだく”!!」
ボールから飛び出した穂乃果ちゃんのガチゴラスが、空中のマッチョムシをガブリと大顎で捕まえ、そのまま地面に叩きつけた。
千歌「さっすがぁ!」
「マ…シブッ!!!」
でも、マッチョムシも負けていない。噛みつかれながらも腕を伸ばして、ガチゴラスの頭部に掴みかかる。
遥「あ、“あてみなげ”です!!」
- 137 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 21:31:28.82 ID:aNVgiSRu0
-
“あてみなげ”は先行を譲る代わりに、確実に投げを成功させるカウンター技……! 超パワー系だと思ったのに、意外にもそんな返し技を隠していたらしい。
だけど、穂乃果ちゃんは全く怯まず、
穂乃果「“かいりき”!!」
「チゴラァァァーース!!!!」
むしろ、パワーで押さえつける。
遥「か、確実に成功するはずの投げ技が、力で抑え込まれてる……」
「マ、マッシブッ…」
さすがに、この展開は予想していなかったのか、マッチョムシのパワーが僅かに鈍った瞬間──ガチゴラスは一気に頭を上に向かって振って、
「ゴラァァスッ!!!!」
「ッシブッ!!!?」
マッチョムシを空に放り投げる。すぐさま、空中で翅をバタつかせ始めるが、飛行体制に入りきる前に──
穂乃果「“もろはのずつき”!!」
「ゴラアァァァァッスッ!!!!」
「…ッシブーーーンッ!!!!?」
落ちてきた、マッチョムシに破砕の一撃を叩きこんだ。
マッチョムシは数十メートル吹っ飛んだあと──
「…ブーーーーンッ!!!!」
空中に空いている“穴”の中へと逃げていった。
穂乃果「ふぅ……」
千歌「さすが、穂乃果さん!」
穂乃果「えへへ♪ パワー系、相手なら任せて!」
彼方「助かったよ〜、穂乃果ちゃん〜、千歌ちゃん〜」
遥「お二人とも、ありがとうございます」
穂乃果「うぅん、彼方さんと遥ちゃんが無事で何よりだよ♪」
千歌「とりあえず、本部にメール打っておくね!」
穂乃果「うん、お願い!」
千歌ちゃんが簡単な事後処理を済ませて、
穂乃果「じゃあ、帰ろっか」
用事は済んだので、これから帰還しようと、穂乃果ちゃんがリザードンをボールから出したそのときだった。
「──そこにいるのは、もしや千歌さんではありませんか!?」
辺りに響く、通る声。
振り返るとそこには、ウインディに跨って、黒髪を風に靡かせている女の子の姿。
- 138 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 21:32:16.85 ID:aNVgiSRu0
-
千歌「あれ? せつ菜ちゃん?」
せつ菜「こんなところで会うなんて、奇遇ですね!」
千歌「……ええと、せつ菜ちゃん、今さっきの戦闘って見てた?」
せつ菜「戦闘……? 特に何も見ていませんが……先ほどまで、野生のポケモンと戦っていたのでしょうか?」
千歌ちゃんの質問に、せつ菜ちゃんがきょとんとした顔をする。よしよし、見てなさそうだね。
せつ菜「それよりも、こんなところで出会ったのも何かの縁です!! トレーナー同士が出会ったら、することは一つ……!」
千歌「……ふっふっふっ、ポケモンバトルしかないよね……!」
両者、当然のようにボールを構えて戦闘態勢に……。
彼方「千歌ちゃんノリノリだ〜」
穂乃果「えっと、それじゃ私は彼方さんと遥ちゃんを町まで送っちゃうね」
千歌「うん! バトルが終わったら追いかけるから!」
せつ菜「準備はいいですか!? 千歌さん!!」
千歌「いつでもOK!」
二人がボールを構えて、バトルを始めようとしているところを見ながら、リザードンが浮上していく。
穂乃果「リザードン、お願いね」
「リザァッ」
私たちは、リザードンの背に乗りながら、10番道路を後にするのでした〜。
………………
…………
……
🐏
- 139 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:10:24.74 ID:U/9mkAOw0
-
■Chapter007 『海を越えて!』 【SIDE Kasumi】
──ジグザグマを捕獲し、太陽の花畑を抜けたかすみんたちは……。
かすみ「サニータウン到着〜! 見てよしず子! 海だよ、海! 潮の香りもしてきて……あぁ、かすみん今、冒険してる……」
しずく「私はここに住んでるから、毎日見てたんだけどね……」
そういえば、しず子は毎日この町から、学校のあるセキレイシティに通ってたんだった。
かすみ「あ、それじゃ、しず子は一旦家に帰る?」
しずく「うーん……それはいいかな。せっかく旅に送り出した娘が2日で家に帰ってきたら、逆に心配掛けちゃうよ」
かすみ「ふーん……?」
かすみんのパパとママは、かすみんが帰ってくるのはいつでも歓迎してくれるんですけどね?
まあ、しず子のお家って、なんか厳しそうだしなぁ……。
しずく「だから、サニータウンは出来るだけ早く素通りしたいかなって……」
かすみ「わかった。じゃあ、港に行こっか」
かすみんたちはそのまま、サニー港まで直行します。
👑 👑 👑
──サニー港から、すぐに船でフソウ島を目指そうとした、かすみんたちだったんですが……。
しずく「──エンジントラブルですか……?」
船乗り「ああ、そうなんだよ。最近調子が悪くなることが多くってね」
またまたまたまた、足止めを食らうことになってしまいました。なんと船がエンジントラブルで欠航しているそうです。
かすみ「日頃の整備が適当なんじゃないですか……?」
しずく「こ、こら! かすみさん! 失礼なこと言わないの!」
船乗り「ははは……耳が痛いね。ただ、この港から出る船は特に調整に気を遣うからね……他の港だったら、気にしないような些細な部分でも、ここでは必要以上に慎重になっちゃうんだよ」
かすみ「……? どういうことですか?」
船乗りさんの言葉に、かすみんは小首を傾げる。
しずく「……“船の墓場”、ですね」
船乗り「ああ、君は地元の子かい?」
しずく「はい。……それなら、仕方ありませんね、船の調整が終わるまで待つしかないです……」
船乗り「悪いね、お嬢ちゃんたち」
しずく「いえ、お仕事頑張ってください。かすみさん、行こう」
かすみ「う、うん……?」
しず子に言われるがまま、港を離れることに。かすみんは歩きながら、しず子に訊ねます。
- 140 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:11:36.15 ID:U/9mkAOw0
-
かすみ「ねぇ、しず子。“船の墓場”って何?」
しずく「えっとね……サニータウンでは有名なんだけど……。この町から東側に抜けていく水道──つまり、15番水道はね、昔から船が沈むことがすごく多い海域なの」
かすみ「海が荒れやすいの?」
しずく「うぅん、特別荒れやすいってほどじゃないと思う」
かすみ「じゃあ、なんで船が沈むことが多いの……?」
海が荒れもしないのに、船が沈むなんて……やっぱり、整備不良なんじゃないですかね……?
しずく「原因はあんまりわからないけど……急に航行不能になって、そのまま沈んじゃうってことが多いって言われてるかな。海の怨霊のせいだなんて噂もあるくらいで……」
かすみ「な、なになに!? 怖い話!?」
しずく「まあ、怖い話かも……。船乗りさんってゲン担ぎを大切にする人が多いから、ここの港から出る船は少しでも不調が見られたら、基本的に欠航になるんだよ」
かすみ「……かすみん、フソウ島に渡るのやめようかな……」
しずく「調子が良ければ問題ないんだよ? あと不思議なことに、船以外での水難事故は少ないみたい」
かすみ「お、泳いで行けってこと!?」
しずく「うーん……さすがに遠すぎて、ポケモンの“なみのり”以外だと、フソウ島まで行くのは難しいかな……」
嫌なことを聞いてしまった気分です……。この後、船が直っても乗って行くのを躊躇しちゃいそう……。
しず子と話しながら、港沿いに歩いて行くと、綺麗な砂浜が視界に入ってくる。
かすみ「こんなに綺麗なビーチのある海なのに……」
そのとき突然、
「──クマァ♪」
ジグザグマが勝手にボールから飛び出してきました。
かすみ「ん? ジグザグマ、どうかしたの?」
「クマッ♪」
ジグザグマはそのまま、砂浜の方へと走り出す。
かすみ「砂浜で遊びたいのかな……?」
しずく「調整に時間もかかるだろうし、砂浜の方に行ってみる?」
かすみ「そうしよっか」
ジグザグマを放っておくわけにもいかないしね。
「ザグマァ♪」
かすみ「ジグザグマ? 何してるの?」
ジグザグマは砂浜の砂を掘り返している。
しずく「何か見つけたんじゃないかな? ジグザグマって、探し物が得意なポケモンだから」
かすみ「おお! 早速お宝ザックザク計画開始ってわけだね!」
しずく「そんなにうまくいかないと思うけどなぁ……」
「クマッ」
ジグザグマが何かを見つけたのか、口に咥えて、かすみんのところに持ってくる。
かすみ「何拾ってきたの? ……わぁ、なんか綺麗な欠片! 良い子だねぇ〜ジグザグマには『かすみん4号』の称号をあげちゃいますよ〜」
- 141 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:12:51.60 ID:U/9mkAOw0
-
ジグザグマが拾ってきたのは黄色い綺麗な欠片みたいなものです。高く売れたりするかな? ワクワク♪ ──あ、ちなみに『かすみん3号』はキモリですよ!
しずく「そ、それって……“げんきのかけら”じゃない?」
かすみ「ほぇ?」
しずく「戦闘不能になったポケモンの元気を取り戻すアイテムだよ」
かすみ「おぉー! ホントに良い物じゃないですかー! ジグザグマ! もっと、探そう!」
「クマ♪」
しずく「お宝ザックザク計画……意外と順調……?」
この調子で、ここらのお宝たくさんゲットですよ〜♪
👑 👑 👑
しずく「“きずぐすり”、“スーパーボール”、“なんでもなおし”、“げんきのかけら”……あとこれは“おおきなキノコ”かな……?」
かすみ「ジグザグマ〜おりこうさんですね〜♪」
「クマァ〜♪」
しずく「“ものひろい”って思ったより、すごいのかも……」
かすみ「この調子でもっとたくさん集めますよ〜♪」
「ザグマ〜♪」
引き続き、お宝ザックザク計画を続行しようとしていると、
「──あれ? もしかして、かすみちゃんとしずくちゃん?」
突然、声を掛けられる。振り返ると、そこにいたのはアッシュグレーでショートボブの先輩トレーナーさん──
かすみ「あれ? 曜先輩?」
曜「二人とも、こっち方面に進むことにしたんだね」
しずく「曜さんも今日はこちらでお仕事を?」
曜「うん、私の仕事はセキレイ〜フソウ間をメインに、いろんなアミューズメントを考えることだからね」
かすみ「あれ? 曜先輩って、コンテスト運営委員会の人じゃなかったんですか?」
ジムリーダー以外には、そういう仕事をしているって聞いてましたけど……?
曜「それも私の仕事かな。コンテストを盛り上げるための一環として、オトノキ地方の二大会場がある、セキレイ、フソウにたくさん人が来るように考える。今はその仕事をしてるところだよ」
しずく「コンテスト会場に人を呼ぶのも、運営委員会の仕事なんですね」
曜「そういうこと。ところで、二人はここで何してるの?」
かすみ「お宝ザックザク計画の真っ最中です!」
曜「お宝ザックザク計画……?」
しずく「私たち、船が整備中で欠航しちゃって……直るのを待ってるところなんです」
曜「あーなるほど。……確かに、ここの港は出港にもすごく気を遣うからね……私たちにとっても困りの種なんだよね」
曜先輩も腕を組んで、困り顔になる。そりゃそうですよね、セキレイ〜フソウへの人の往来を増やすために仕事をしているのに、肝心の船が欠航しやすいなんて、致命的です。
- 142 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:13:43.31 ID:U/9mkAOw0
-
かすみ「いっそ、船なんかなくして、ポケモンでの渡し便を作っちゃえばいいのに……」
曜「……かすみちゃん、良い着眼点だね」
かすみ「はぇ?」
適当に言ったことだったので、曜先輩のリアクションに対して間抜けな声が出る。
曜「実は今、そういう方向で考えててね……って、実際に見てもらった方がいいかな! 二人とも、付いてきて!」
曜先輩はそう言いながら、颯爽と海の方へと、走って行く。
かすみ「え、ええ……?? なんだろう……」
しずく「とりあえず、行ってみる?」
かすみ「……うん」
かすみんたちは、お宝ザックザク計画を中断して、曜先輩に付いていきます。
👑 👑 👑
曜「二人とも、こっちこっち!」
──かすみんたちが連れてこられた場所は波打ち際で……なにやら、看板が立っています。
かすみ「なんですか、この看板のマーク……?」
しずく「……もしかして、マンタインですか?」
曜「しずくちゃん、正解! みんな、出ておいで!」
曜先輩が、ピューっと指笛を吹くと──
「マンター」「タイーン」「マンタァー」
マンタインたちが海から顔を出しました。そして、そのマンタインたちは背中になにやら手すりのようなボードが取り付けられています。
しずく「もしかして……マンタインサーフですか?」
曜「またまた、しずくちゃん正解!」
かすみ「マンタインサーフってなんですか……?」
しずく「アローラ地方にある、マンタインに乗ってサーフィンする遊びのことだよ。確か、競技にもなってたはず……波でジャンプしながら、技を決めてその技術を競い合うんだよ」
曜「うんうん! 船が出せなくてフソウ島に遊びに行けないんだったら、もう行くところから遊びにしちゃったらどうかなって思って!」
かすみ「えっと……つまり、マンタインサーフしながら、フソウ島まで渡っちゃおうってことですか?」
曜「そういうこと!」
なるほど。曜先輩が良い着眼点だって言っていたのは、これのことだったんですね。
- 143 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:15:04.85 ID:U/9mkAOw0
-
曜「まあ、まだ調整中なんだけどね。もうちょっとしたら、正式に出来るようになると思うよ!」
かすみ「調整中ってことは、まだダメなんですか? マンタインはもういるのに……」
曜「十分な数のスタッフやライフジャケットの手配とか、ルート選定とか、あと本当に安全かのテスト運用も必要だから、すぐってわけにはなかなかね……。あーそうか……スタッフはともかく、慣れてない人も想定しないといけないから、テスト運用の際は一般公募枠も作らないとかな……」
かすみ「なんだか、何かをやるのって大変なんですね……」
曜「あはは、まあこれが仕事だし。大変だけど、考えるのも意外と楽しいんだよね」
しずく「なにはともあれ、うまく行くといいですね! これが実現すれば、セキレイやフソウだけでなく、サニータウンも活気付きますし!」
曜「そうだね、頑張って実現してみせるよ!」
力こぶを作って見せる曜先輩。確かに、この人の行動力なら、遠くないうちに実現しそうです。
──ふと、そこで、かすみん思いました。
かすみんたちは海を渡りたい。渡るには船よりポケモン。曜先輩は試しにやってくれる人を探している……。
かすみ「あの、曜先輩」
曜「ん? 何かな?」
かすみ「テスト運用で一般から人を集めたい、みたいなこと、さっき言ってたじゃないですか」
曜「うん、そうだね」
かすみ「それって、かすみんたちじゃダメですか?」
しずく「かすみさん?」
曜「……んっと、問題ないけど……予定とか大丈夫? 旅の途中でしょ?」
かすみ「大丈夫です!」
しずく「ち、ちょっと、かすみさん、勝手に……!」
かすみ「まさに今かすみんたちは、フソウ島へ渡ろうとしてるところですから!」
曜「え? 今?」
曜先輩は少し驚いた顔をしましたが、すぐに思案し始める。
曜「……確かにライフジャケット2着くらいなら今でもあるし……暫定ルートもある程度はマンタインたちに教えてある……いけるかも」
しずく「え、えっと……曜さん?」
曜「ちょっと今ライフジャケット取ってくるね!」
かすみ「はい! お願いします!」
曜先輩は身を翻して、近くの小屋に走って行く。恐らく、あそこにいろいろな機材やらと一緒にライフジャケットが置いてあるってことでしょう。
しずく「え、えええ!? ホントにやるつもりなの!?」
かすみ「早くサニータウンを出たいんでしょ? 船を待つくらいなら、マンタインで行っちゃおうよ!」
しずく「だ、大丈夫かな……」
かすみ「大丈夫だって〜、しず子は心配性だなぁ〜♪ 何事も当たって砕けろだよ!」
しずく「砕けたくはない……」
かすみ「せっかく海を渡れるなら、あれだよ……えーっと……なんだっけ」
しずく「……まさに渡りに船だね」
かすみ「それそれ! それが言いたかったの!」
程なくして、曜先輩が戻ってくる。
- 144 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:16:00.20 ID:U/9mkAOw0
-
曜「かすみちゃん! しずくちゃん! ライフジャケット、持ってきたよ!」
──さぁ、レッツ・マンタインサーフです♪
👑 👑 👑
かすみ「ひゃっほーーー♪」
「タイーーン」
しずく「か、かすみさん! 先に行き過ぎないでー!」
「マンター」
マンタインは水しぶきをあげながら、波の上を進んでいく。
かすみ「お! また、波が来ましたね! 行きますよ〜!」
「マンタイーン」
かすみんは波に向かうように、重心をずらしながらマンタインを操ります。
そして、スピードを殺さずに波の頂点から──
かすみ「ジャーンプ!!」
「タイーーン」
ハイジャンプ! ジャンプすると、マンタインが風を受けてくれるので、少しの間カイトの要領で空も飛べちゃいます!
かすみ「そして、ナイス着地〜♪ 楽しい〜♪」
しずく「かすみさん! だから、先行しすぎないでって!!」
しず子が、かすみんの横に追い付いてきて、ぷりぷりと文句を言う。
かすみ「しず子もちゃんと追い付いてこれてるじゃ〜ん」
「タイーン」
しずく「もう! 曜さんに言われたでしょ!?」
うるさいなぁ……。
出発前に、曜先輩に言われたことを思い出す──
──────
────
──
曜「二人とも、あんまりスピードを出し過ぎないように。あと、あんまり高く飛び過ぎちゃダメだよ?」
かすみ「はーい♪」
しずく「わかりました」
曜「ライフジャケットがあるし、水に落ちてもマンタインがすぐに助けてくれるから慌てずにね! あともし、何かあったらポケギアに連絡してね? これ、私のポケギア番号だから──」
──
────
──────
- 145 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:17:03.30 ID:U/9mkAOw0
-
かすみ「でも、マンタインサーフって本来、波でジャンプしたりして、競い合うってしず子自分で言ってたじゃん!」
「マンター」
しずく「私たちの目的はフソウ島まで、渡ることでしょ!?」
「タイーン」
かすみ「これはテストでもあるんだよ? じゃあ、本来のマンタインサーフをこなさなきゃ♪」
「マンタイー」
しずく「もう!! かすみさんっ!!」
「ンタイーン」
ぷりぷり怒るしず子をスルーしながら、視線を前に戻すと──さっきよりも大きな波が迫っていることに気付く。
かすみ「これは大技チャンスです♪」
しずく「かすみさん!!」
かすみ「行くよ、マンタイン!」
「タイーン」
大きな波に合わせて──
かすみ「ジャーーーーンプ!!!!」
「マンタイーーン」
──ああ、かすみん、今風になってる……♪
高く飛べば飛ぶほど、風を感じられる……マンタインサーフ、最っ高♪
しずく「────!!!」
うるさいしず子の声も、こーんなに高く飛んじゃったら、ほとんど聞こえないですねぇ〜♪
風に乗って、カイトのように飛んでいると、しず子の姿がどんどん遠く──どんどん、遠く……?
かすみ「あ、あれ……? ち、ちょっと飛びすぎじゃない?」
「タイーーン」
かすみ「マンタイン、もういいよ〜」
「タイーン…」
かすみんがもういいと言っても、マンタインは全然高度を下げません。
かすみ「マンタイン……?」
「タイーン」
あれ、なんか様子がおかしい……?
というか──
かすみ「なんか、加速してない……?」
眼下のしず子をどんどん引き離していく。
そこでやっと気付く。
かすみ「もしかして、風に煽られて、流されてる!?」
「タイーーン…」
かすみ「ち、ちょっと!! マンタイン、下りられないの!?」
「タイーン…」
そのとき──prrrrrrrrとポケギアが鳴り出す。
かすみ「い、今取り込み中なんですけどぉ!?」
- 146 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:18:20.32 ID:U/9mkAOw0
-
ポケギアの着信を見ると──相手はしず子だった。
しずく『かすみさん!! 早く高度落として!! 進路から外れてる!!』
かすみ「か、風に煽られちゃって、下りられないの!!」
しずく『ええ!? だから、言ったのに……!!』
かすみ「ど、どうしよう……」
しずく『とにかく、どうにかして下りるしかないよ!!』
かすみ「ど、どうにかって……」
かすみん、どうすればいいかわからなくて、オロオロしてしまいます。
そして、オロオロしている間にさらに──ビュウっと突風が吹いてきました。
しずく『かすみさん!? また、加速してる!?』
かすみ「さ、さらに強い風が吹いてるー!? た、助けてー!?」
しずく『かすみさ──』
──ブツ、ツーツーツー。
かすみ「しず子!? しず子ー!!」
急にしず子との電話が途切れる、何かと思ってポケギアの画面を見ると──
かすみ「け、圏外……?」
電波が届かない場所まで、ルートを大きく外れてしまったみたいです。
かすみ「た、た、た、助けてーーー!!!!」
かすみんは風に流されて、どこまでも飛んでいきます……。
👑 👑 👑
かすみ「……うぅ……」
「タイーン…」
再び海に無事着水出来たときには……もう随分風に流されてしまいました。辺りは見渡す限り海海海……完全に沖まで飛ばされてしまいました……。
しず子の姿は全く見えなくなってしまったし、ポケギアも依然圏外のまま……。
かすみ「どうしよう……」
不幸中の幸いと言うべきなのは、落ちた先に地面がなかったことですかね。
激突していたら、大変なことになっていました……。
ただ、逆にここまで海しかないと、帰る方向もわからない……。
かすみ「……うぅ……こんなことなら、しず子の言うこと聞いておくんだった……」
「タイーーン…」
- 147 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:19:21.15 ID:U/9mkAOw0
-
ぷかぷかと浮かぶマンタインの上で、膝を抱えていると──
かすみ「……っ!?」
急に背筋がゾクリとする。
かすみ「な、何……!?」
びっくりして顔を上げると……気付けば、辺りは霧に包まれていました。
かすみ「え、嘘……何これ……」
「タイーン…」
急な出来事に呆然としていると──
かすみ「!?」
霧の中に大きな影がヌッと現れる。
かすみ「な、な、な、なんなんですかぁ……っ……」
半べそをかきながら、影を睨みつけていると──霧の中からその影の正体が姿を現し始めた。
これは……。
かすみ「……ふ、船……?」
そう、かすみんの目の前に現れたのは、大きな大きな木製の船でした。
かすみ「えっと……」
かすみん、戸惑いを隠せませんが……。
「タィーン…」
かすみ「…………」
このまま漂流しているのは危ないし、この船に乗せてもらおう。そう思って、
かすみ「マンタイン、船の方に進んでくれる?」
「タイーン…」
かすみんは、船に近付いて行きます。
👑 👑 👑
かすみ「……でっか」
間近で見ると、船はものすごい大きさでした。
ただ、船自体は動くことなく、止まっています。
かすみ「もしかして、誰も乗ってないのかな……?」
見た感じ、壊れてたりはしなさそうだけど……?
- 148 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:20:17.42 ID:U/9mkAOw0
-
かすみ「でも、壊れてないなら、こんなところに船だけあるのっておかしいよね……?」
「タイーン…」
むーっと、腕を組んで少し考えてみましたが……いつまでも海の上でぷかぷか浮いていても仕方ありません。意を決して……。
かすみ「すみませーーーーん!! 誰か乗ってませんかーーーー!!!」
大きな声で、船の上の方に呼びかける。
かすみ「ここまで流されちゃってーーー!!! 助けてもらえませんかーーー!!!」
船に向かって助けを求めるけど、
かすみ「…………」
反応はありません。
かすみ「やっぱり、誰も乗ってないのかな……」
まあ、無人なら無人で、どうにかして乗り込めれば少し落ち着けるかも……?
かすみ「……でも、どうやって……?」
特に周りに、はしごみたいなものがあるわけでもないし……よじ登るっていうのは、キモリじゃないと……。
かすみ「! そうだ、キモリ!」
閃いたかすみんはキモリのボールを船に向かって放り投げます。
「キャモッ!!!」
飛び出したキモリは、ボールから出ると同時に、船の外壁に足で張り付く。
かすみ「キモリ! 上にあがって、何か登るための道具とかないか見てきてくれるー?」
「キャモッ」
キモリがヒョイヒョイと壁面を登って行く。
──程なくして、パサっと音を立てて何かが垂れ下がってきた。
かすみ「! 縄ばしご……!」
縄ばしごの上の方を見ると──
「キャモーー」
キモリが上から、かすみんの方を見ています。
どうやら、キモリが見つけて下に投げてくれたようです。
かすみ「ありがとう、キモリ……!」
かすみんは、縄ばしごに手足を掛ける。
かすみ「マンタインはここで待っててもらっていい?」
「タイーン」
かすみ「ありがとう、ちょっと行ってくるね」
- 149 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:21:15.39 ID:U/9mkAOw0
-
マンタインにはここで待機してもらう。マンタインを入れるボールを持っているわけじゃないし……かといって、かすみんのポケモンでもないから、捕まえることも出来ないからね……。
かすみ「よいしょ……よいしょ……」
縄ばしごなんか登ったことがないので知りませんでしたが、思った以上に揺れて登りづらい。
ゆっくりゆっくり登って行って……。
かすみ「はぁ……はぁ……登りきった……」
かすみんはやっと船の壁面を登り切りました。
「キャモ!!」
かすみ「キモリー! ありがとねっ!」
キモリをハグしながら、お礼を伝えて──降り立った船の甲板を見回します。
人影のようなものは全く見当たりませんが……。
かすみ「なんか……思ったより、綺麗な船……」
古めかしい木造の船で、港で見られるような船ではないけど……それなりに手入れもされていて、アンティークな見た目の割に、穴が空いていたり、木が傷んでいるといった感じもしない。
やっぱり、人が乗ってるのかな……?
かすみ「誰か、いませんかー?」
返事を期待して呼びかけるものの……かすみんの声は、霧の中に吸い込まれて消えていきます。
かすみ「うぅーん……」
奥の方にいるのかな……?
かすみ「とりあえず、奥まで行ってみる……?」
「キャモ」
とりあえず、船の奥の方に行ってみようと思い、歩き出した瞬間──
かすみ「……!?」
急に背後から、視線を感じて、背筋に悪寒が走った。
慌てて、振り返るけど──
かすみ「な、なにもいないよね……?」
「キャモ…?」
やっぱり、ここにいるのはかすみんとキモリだけ。
かすみ「な、なんだか、気味が悪いですね……」
「キャモ」
かすみ「……こ、ここはみんなで探索しましょう! ゾロア! ジグザグマ! 出て来てください!」
「ガゥ!」「ザグマァ」
かすみ「よし! 奥に行ってみますよ!」
「キャモ」「ガゥ」「ザグ」
かすみんはポケモンたちと一緒に探索を始めます。
- 150 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:22:25.08 ID:U/9mkAOw0
-
👑 👑 👑
かすみ「すみませーん……誰かー……いませんかー……」
「ガゥガゥ」
甲板から、船の中に入り、狭い船内の廊下を歩きながら訊ね続ける。
でも、かすみんの可愛い〜声が反響してくるだけで、乗組員からの反応のようなものは一切ないまま。
ただ、時折──
かすみ「……!? ま、また……!」
「ザグマ?」
背筋に悪寒が走る現象だけは定期的に発生している。
かすみ「もう……なんなんですかぁ……っ……」
「キャモ」
ポケモンたちが相槌を打ってくれるのが唯一の救いです……。一人だったら、心細すぎて、泣き出しちゃうかも……。
船内の廊下を区画分けしているであろう、ドアを一個ずつ開けながら、歩を進めていると急に──トントンと、肩を叩かれます。
かすみ「何? ゾロア?」
「ガゥ?」
ゾロアが足元で返事をします。
かすみ「あれ……? キモリ? ジグザグマ?」
「キャモ?」「クマ?」
これまた、足元から返ってくる2匹の鳴き声。
かすみ「え……? じゃあ、今の何……?」
恐る恐る振り返ると──黒い得体の知れない“なにか”がぼやぁっと浮かんでいました。
かすみ「!!?!? ぎゃああああああああああああああ!!!!!!? お化けえええええええええええ!!!?」
かすみんはびっくりして、尻餅をついてしまいます。
「キャモッ!!!」
それを見たキモリが、いの一番に飛び出して、お化けに向かって尻尾を振るう。
ですが、相手はお化け──案の定、スカッと攻撃が空振りしてしまう。
かすみ「だ、だ、だ、ダメだよ、キモリ……!! お化けだから、すり抜けちゃうよぉ……!!」
「キ、キャモ…」
「グルルルル…ガゥガゥガゥ!!!!!」
攻撃じゃダメと判断するや否や、ゾロアが“ほえる”。
「──!!! ……」
すると、お化けはスーッと壁の向こうに行ってしまいました。
- 151 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:23:23.80 ID:U/9mkAOw0
-
かすみ「ゾ、ゾロア〜……」
「ガゥガゥ♪」
ゾロアのお陰で助かりました……。
かすみ「なんですか、ここぉ……! 人どころか、お化けがいるんですけどぉ……」
かすみん、こんなところにはいられません。足が震えるのを我慢して、立ち上がる。
かすみ「に、逃げよう、みんな……!」
「ガゥ」「キャモ」「ザグ」
来た道を戻るために、通路のドアに手を掛ける。
──ガチャガチャ。
かすみ「あ、あれ……?」
──ガチャガチャガチャ。
何故か、ドアが開かない。
かすみ「う、うそ……」
これって、もしかしなくても……。
かすみ「と、と、閉じ込められましたぁーー!!!!」
「ガゥ!?」
ガンガンとドアを叩いてみるけど、頑丈なドアはうんともすんとも言いません。
──と、いうか……改めて辺りを見回すと、
かすみ「この船……ボロボロじゃん……」
先ほどまで、綺麗だと思っていた船は、あちこちの木が傷み、床も壁も天井もボロボロ。
何十年も人の手が入っていないことが一目でわかる有様です。
かすみ「かすみんたち……もしかして、幽霊船に誘い込まれた……?」
サァーっと血の気が引いて行く。
そして、次の瞬間──ボッボッボッと音を立てて、通路のランタンに青い炎が灯る。
かすみ「ぴゃあああああ!!?」
「キャモッ!!!」「ガゥガゥ!!!」「ザグマァ…!!」
そして、それと同時に──さっきのお化けが再び姿を現しました。
……今度はたくさんの仲間を連れて。
かすみ「いやあああああああ……っ……!!!!」
「キャモッ!!!?」「ガゥッ!!!」
かすみんは怖くなって、全速力で走り出します。全力ダッシュのかすみんを──
「────」「…………」「〜〜〜」
飛んで追ってくる、お化けの姿。
- 152 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:24:27.94 ID:U/9mkAOw0
-
かすみ「付いてこないでえええええ!!!!」
かすみんは絶叫しながら、夢中で走り続ける──
👑 👑 👑
かすみ「はぁ……はぁ……はぁ……」
どれくらい全力でダッシュし続けてたかわからない。夢中で走って走って走りまくって……気付いたら、お化けたちの姿は消えていた。
かすみ「うぅ……外に出るどころか……すごい奥まで来ちゃった……」
「ガゥ…」
急にかすみんが走り出したせいもあって、ゾロア以外とはぐれちゃったし……。
かすみ「探さないと……」
とは思うものの、今自分がいる場所もよくわからない……。
こうして夢中で逃げ込んで来たこの場所にあるのは──足が折れて使い物にならない椅子と、ボロボロで見るからに傾いている引き出しの付いた机。
そして、壁には帽子が掛けてある。
かすみ「ここ……船員さんのお部屋なのかな」
辛うじて、人間味のある物を見つけて、なんとなく安心する。
もちろん、ここにある物も、もう何年も人に触れられていないことがわかる代物だけど……。
傷んだ床を踏み抜かないように、慎重に歩きながら、机や帽子の掛かった壁の方に歩を進める。
「ガゥ」
かすみ「ゾロア……?」
一緒に探索していたゾロアが、机に飛び乗るや否や、鳴き声をあげる。
何かと思って、目を向けると──傾いて、勝手に空いてしまったであろう、机の引き出しの中に、
かすみ「なんだろ……?」
一冊のノートのようなものがあった。なんとなく手に取る。
かすみ「うわ、埃っぽい……」
パッパッと手で埃を払って、改めてよく見てみると──『Diary』の文字。
かすみ「これ、日記だ……」
パラパラとめくってみる。ところどころページが破けていて、読めないページも多いけど……なんとなく理解できる範疇だと、
かすみ「……えっと、この船……この海域の調査に来た船みたい」
「ガゥ?」
度重なる不審な船の沈没。その原因を探るために、この15番水道まで来た船らしい。
そして、その中に気になる記述を見つける。
- 153 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:25:45.85 ID:U/9mkAOw0
-
かすみ「『原因が判明した。それは我々が当初から当たりを付けていたとおり、この海域に生息するゴーストポケモンの仕業だったのだ。』……ゴーストポケモン。……さっきのお化けの正体はポケモン……?」
「ガゥ?」
さらにページを捲っていくと──急に字が殴り書きになっているページに辿り着く。
かすみ「『もうダメだ、この船は完全にゴーストポケモンたちに包囲されてしまった。奴らには実体がなく、攻撃を当てることもままならない。逃げる最中に、せっかく取り寄せた秘密兵器もなくしてしまった。奴らはもうすぐそこまで迫ってきている。もはや、ここまで』」
そこで、日記は終わっていた。
かすみ「…………」
「ガゥ…?」
かすみ「いや、これ……かすみんも殺されちゃうパターンじゃないですかぁ……っ……!」
相手に実体がなくて攻撃できないって言うんなら、それこそどうしようもないです……。
逃げるしかないけど……結局逃げ道も塞がれちゃって……。
ただ、この日記には、一つ気になるところがあります。
かすみ「『せっかく取り寄せた秘密兵器』……これってもしかして、対ゴーストポケモン用の道具だったんじゃ……」
そうとなれば、やるべきことは決まりました。
かすみ「このまま、逃げることも倒すことも出来ないままやられるなんてまっぴらです! この秘密兵器とやらを見つけて、ゴーストポケモンたちをやっつけて、外に出ますよ!」
「ガゥガゥッ!!!!」
かすみんは希望が見えて、元気が出て来ました。その秘密兵器とやらを探すために、この船員さんのお部屋を出ようとしたそのときでした。
「────」「…………」「〜〜〜〜」
かすみん「ひぃ!?」
「ガゥガゥッ!!!!!!」
目の前に現れるお化けたち。
かすみ「ちょっと待ってぇ!? まだ、秘密兵器見つけてないよぉ!?」
「────」「…………」「〜〜〜〜〜」
じりじりとかすみんの方に近付いてくる、お化けたち。
かすみ「こ、ここでかすみんの冒険、終わっちゃうの〜……!?」
「ガゥガゥッ!!!!!」
「────」「…………」「〜〜〜〜」
ゾロアが“ほえる”けど、お化けたちはひるまずにじり寄ってくる。
かすみ「い、いやです……!! こんなところで、終わるなんて……!!」
「ガゥッ!!! ガゥッ!!!!」
「────」「…………」「〜〜〜〜」
かすみ「た、助けて……誰か……」
「ガゥゥゥ…!!!!」
「────」「…………」「〜〜〜〜」
かすみ「助けて……」
最期にかすみんの脳裏に浮かんだのは、
- 154 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:26:36.04 ID:U/9mkAOw0
-
かすみ「しず子……!」
しず子だった。
「──ココガラ!! “きりばらい”!!」
「ピピピピィィィィ!!!!!!」
かすみ「!?」
急にお部屋の扉が勢いよく開いて、声と共に強風が吹き荒れる。
「────!!!」「…………!!!」「〜〜〜〜!!!」
その風に飛ばされるようにして、お化けたちはかき消えてしまった。
声の主の方に目を向けると、そこには──
しずく「かすみさん!? 大丈夫!?」
かすみ「し、しず子ぉ〜〜……っ……!」
しず子が絶体絶命のかすみんを助けに来てくれたところでした。
👑 👑 👑
かすみんたちは通路を走りながら、逃走中です。
かすみ「──しず子、どうしてかすみんがここにいるってわかったの!?」
しずく「ポケモン図鑑だよ!」
そう言いながら、しず子がこっちにポケモン図鑑を見せてくれる。
そこにはマップが表示されていて、15番水道の東の果て辺りがピコピコと光っています。
かすみ「なにこれ!?」
しずく「サーチ機能だよ! 私たちが貰った3つの図鑑はお互いに居場所をサーチできるようになってるみたいなの!」
かすみ「マジで!? そんな機能あったんだ……!」
初めて聞きましたが、お陰で助かりました……。
そんなやりとりをしている最中、
「────」「…………」「〜〜〜〜」
かすみ「うわ!? もう、復活した!?」
背後で謎の唸り声をあげながら、再びかすみんたちを追いかけてくるお化けたちの姿。
しずく「かすみさん、あれってなんなの!?」
かすみ「えぇ!? しず子、わからないまま追い払ってたの!?」
しずく「ガス状だったから、風で飛ばせるかなって思って……」
さすが、しず子……やりますね。
- 155 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:27:51.60 ID:U/9mkAOw0
-
しずく「ただ、追い払うのがやっとで……攻撃してもダメージを与えられないし、気付いたらあちこちドアが開かなくなってるし……」
かすみ「って、あーーー!!! ここのドアも開かないーーー!!」
走りながら、ガチャガチャとドアを開けながら走る。
「────」「…………」「〜〜〜〜」
しずく「ココガラ! “きりばらい”!!」
「ピピピピィーーー!!!!!」
接近される度にしず子のココガラが吹き飛ばしてくれますが──
「────」「…………」「〜〜〜〜」
かすみ「ど、どんどん復活速度が速くなってるぅ〜〜!? 早く秘密兵器を見つけないと!!」
しずく「秘密兵器!? そんなものがあるの!?」
かすみ「船員さんの日記に書いてあったの! どこかに落としちゃったって! って、うわっ!?」
急にかすみんの足が何かに引っ張られて、前につんのめって転ぶ。
かすみ「ぐぇ!」
しずく「かすみさん!?」
かすみ「あ、足に何かが……ってひぃぃぃぃ!!!」
「────」
気付けば、お化けの1匹がかすみんの足元にガスをまとわりつかせているじゃないですか……!
かすみ「ちょっと、こっちの攻撃は当たらないのに、掴めるなんてずる過ぎますよぉ!!」
「────」
転んだかすみんに、お化けがどんどんにじりよってくる。
しずく「“きりばらい”!!」
「ピピピィィィィィーーー!!!!!!」
再び、ココガラが風で吹き飛ばします。
「…………」「〜〜〜〜」
他のお化けは吹き飛ばされていったけど、
「────」
かすみ「しず子〜〜!! 一番重要なのが、吹き飛ばせてないぃぃ〜〜!!」
かすみんの足を掴んでいるやつは飛んでいきません。
しずく「っく……! 正体さえ、わかれば……!」
「────」
かすみ「ひぃぃぃぃ!!!」
- 156 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:29:51.80 ID:U/9mkAOw0
-
絶体絶命だったそのとき、上の方から、ガンッ! という大きな音と共に、上のダクトの中から、
「キャモッ!!!」「ザグマ〜」
かすみ「キモリ!? ジグザグマ!?」
キモリとジグザグマが飛び降りてくる。
かすみんは咄嗟に、
かすみ「た、“タネマシンガン”!!」
「キャモモモモモモッ!!!!!!」
攻撃の指示。やっぱり攻撃はすり抜けちゃいますが、一瞬お化けの動きが鈍る。
かすみ「無事だったんだね……! よかった……!」
「キャモッ」「クマァ」
しずく「マネネ! “ねんりき”!!」
「マネネェ!!!」
「────」
気付けば、しず子がマネネを出して応戦している。
しずく「かすみさん、今のうちに!!」
かすみ「ありがと、しず子!!」
確かに実体はないけど、サイコパワーなら押し返すことは出来るみたいですね……!
かすみんはその隙に、どうにかまとわりついているガスから足を抜いて、脱出を図ります。
そうこうしている間にも、
「〜〜〜〜」「…………」
かすみ「また出て来た……!」
しずく「“きりばらい”!!」
「ピピピィィィィーーーー!!!!!」
出て来ては吹き飛ばすの繰り返しが続く。しず子が時間を稼いでくれてる間に、かすみんは秘密兵器を早く見つけなきゃ……!
「クマァ〜〜」
かすみ「ごめんね、ジグザグマは今は構ってる場合じゃ……ん?」
ジグザグマをよーく見てみると──なにやら双眼鏡のような形をしたスコープを咥えているじゃありませんか。
かすみ「!? これ、見つけたの!?」
「クマァ〜〜」
もしや、これが、秘密兵器!?
かすみ「お手柄だよ、ジグザグマ!! えっと、これどうやって使うんだろう……」
しずく「かすみさん……!! もう、これ以上もたない!!」
かすみ「ああもう!! とにかく使ってみるしかない!!」
- 157 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:32:05.42 ID:U/9mkAOw0
-
かすみんは思い切って、そのスコープでお化けを覗いてみる。すると──
かすみ「!」
スコープ越しに映るお化けは、さっきと違う姿をしていることに気付く。
そして、それと同時にスコープから──ウイーンという音がする。
しずく「それもしかして、“シルフスコープ”!?」
かすみ「? なにそれ?」
未知のアイテムから出ている音の発生源を見てみると──双眼鏡の真ん中辺りがパカッと広き、そこから……ピカッ!!
「────!!!?」「…………!!!?」「〜〜〜〜!!!!?」
強烈な閃光が放たれ──
「ゴ、ゴスゴス」「ゴーースゥ」「ゴスゥゴスゥ…」
その光を浴びたお化けたちは、気付けばポケモンの姿として捉えられるようになっていました。
しずく「! ガスじょうポケモン、ゴース!!」
かすみ「! 完全に姿が見えました! ゴースたちがお化けの正体だったんですね……!」
『ゴース ガスじょうポケモン 高さ:1.3m 重さ:0.1kg
古くなって 誰も 住まなくなった 建物に 発生するらしい。
薄い ガスのような 体で 風が 吹くと 吹きとばされる。
毒を含んだ ガスの 体に 包まれると 誰でも 気絶する。』
かすみ「正体さえ、わかっちゃえばこっちのもんです!! ゾロア!!」
「ガゥッ!!!!」
しずく「マネネ!!」
「マネッ!!!」
かすみ「“あくのはどう”!!」
しずく「“サイケこうせん”!!」
「ガゥゥゥゥッ!!!!!」「マーーーネェェーーー!!!!」
「ゴスゥーー!!!?」「ゴゴゴーーース!!!!」
“あくのはどう”と“サイケこうせん”が炸裂して、2匹のゴースが吹っ飛んでいく。
しずく「効果は抜群ですね!」
「マネネ!!」
そして、最後の1匹のゴースは、
「ゴ、ゴーーースッ」
かすみ「あ、逃げた!?」
勝てないと悟ったのか、ぴゅーっと逃げていく。
かすみ「逃がしませんよ!!」
「ガゥッ!!!」
しずく「あ、ちょっと、かすみさん!?」
奇しくも、逃走を図るゴースはさっきかすみんの足にまとわりついていたやつです。
かすみ「絶対に逃がしませんよぉ〜〜〜!!!」
- 158 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:33:13.43 ID:U/9mkAOw0
-
怖い思いさせられた分は、しっかり倍返しにしてやりますからね!!!
「ゴ、ゴーーース」
全力で追いかけていると、逃げるゴースの先に扉が見えてきた。
そして、ゴースはそのまま、その扉をすり抜けて部屋の中に入って行く。
かすみ「逃がしませんよぉ!!!」
──バンッ!! と勢いよく扉を押し開け中に入ると、大きな舵のあるお部屋に辿り着きました。どうやら、操舵室のようです。
かすみ「いない!! どこですか!?」
操舵室内全体を見回しますが……ゴースの姿は見えず、その代わりに──
かすみ「え……? なにこれ……?」
しずく「か、かすみさん……深追いしちゃ……ダメ、だよ……はぁ……はぁ……」
かすみ「…………」
しずく「かすみさん……? ……え」
かすみ「しず子……これ、なんだと思う?」
しずく「…………」
しず子も無言になる。優等生なしず子でも知らないものらしい。
私たちの目の前にあったのは──穴だ。
拳大くらいの小さな穴。でも、それは……床や壁に空いた穴ではない。
かすみ「空間にあいた……穴」
しずく「…………」
そう、そこにあったのは──空間にあいた穴でした。穴が浮いていました。
しずく「もしかしたら……」
かすみ「?」
しずく「ゴースたちは、この穴を通って、ここに来たのかも……?」
かすみ「……どういうこと?」
しずく「だって、ここは海の上だし……突然ゴースが現れるなんておかしいし……」
かすみ「それは、まあ……」
確かに……言われてみれば、ゴーストポケモンが船を襲っていたのはわかりましたが……どうして、ゴーストポケモンがここにいるのかはよくわかりませんね……?
しずく「もし、これがゴーストポケモンの巣みたいなものなんだとしたら……」
かすみ「……したら?」
しずく「……仲間を呼んで戻ってくるかも」
かすみ「!?」
そ、それはまずいです……!?
- 159 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:34:13.74 ID:U/9mkAOw0
-
かすみ「し、しず子!! 急いで船を出よう!!」
しずく「そうだね……これが本当にそういうものなのかはわからないけど……」
かすみ「もうゴーストポケモンは懲り懲りですぅ……!!」
「ガゥガゥ」
かすみんたちは、これ以上ゴーストポケモンたちと戯れるつもりはありません! 大急ぎで船から退散するのでした。
👑 👑 👑
かすみ「ドア、全部開くようになってたね」
しずく「……たぶんあれも、ゴースたちの仕業だったんだろうね」
二人で縄ばしごを使って船から降り、待ってくれていたマンタインと合流する。
かすみ「でも、ここからどうしよう……フソウ島ってどっち?」
しずく「フソウ島は、南方面だね」
かすみ「そ、それくらいわかるよ! 問題はどっちが南かって話で……。……って、しず子何見てるの?」
しずく「え? 何って、図鑑のコンパス機能だけど……」
かすみ「はい!? 図鑑にそんな機能あったの!?」
しずく「うん……。というか、方角がわからないと、かすみさんの図鑑をサーチしても、かすみさんのいる場所に辿り着けないし……」
かすみ「は……! い、言われてみれば……。え……それじゃあ、もしかしてその機能って……」
しずく「……かすみさんの図鑑にも搭載されてると思うよ」
かすみ「……」
かすみんはポチポチと図鑑を操作してみる。
かすみ「……あ、あった。…………」
かすみん、思わずマンタインの上でへたり込んでしまいます。
しずく「か、かすみさん!?」
かすみ「最初から気付いてれば……あんな怖い思いすることなかったのにぃ……」
しずく「あ、あはは……まあ、みんな無事に脱出出来てよかったって思うことにしよ? ね?」
「マネマネ」
かすみ「うぅ……もう二度とこんな場所来ませんからねぇ……」
軽い憎しみを込めて顔を上げると──
かすみ「あ、あれ……?」
さっきまで、ずっと視界を遮っていた深い霧はいつの間にか晴れ、かすみんたちは月に照らされていました。
そして、
かすみ「船は……?」
しずく「あ、あれ……?」
あの大きな船は、きれいさっぱりいなくなっていました。
- 160 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:35:16.54 ID:U/9mkAOw0
-
しずく「……正真正銘の幽霊船だったって、ことかもね」
かすみ「……なんか、とんでもない目に遭いました……」
思わず溜め息を吐いてしまいます。
しずく「とりあえず、フソウ島まで急ごうか……もう、随分遅くなっちゃったし」
かすみ「朝までに着くのかなぁ……」
もうすっかり夜ですからね……。徹夜はお肌の敵なんですけど……。
そのとき──prrrrrrとポケギアが鳴り出す。画面に表示された相手を見ると……。
かすみ「……曜先輩!? もしもし!!」
曜『かすみちゃん!? よかった、繋がって……かすみちゃんもしずくちゃんも、遅いからずっと連絡入れてたのに、電波が届かないって言われて心配してたんだよ……?』
しずく「す、すみません! すぐ、フソウ島へ向かいますので!」
曜『二人とも怪我はない? 無事?』
かすみ「はい! 疲れましたけど、一応無事です!」
曜『そっかそっか。私、今14番水道にいるから、途中で合流しようね! ラプラス、GO!』
『キュゥ〜』
電話を切ると──空に向かって、七色の綺麗な光の筋が一直線に夜空を切り裂いているのが見えた。
かすみ「わー……綺麗ー……」
しずく「恐らく、曜さんのラプラスの“オーロラビーム”ですね。あれを頼りに合流しようということだと思います」
かすみ「うん。それじゃ、マンタインお願い」
「タイーン」
かすみんたちは、あのオーロラの根元を目指して、海の上を走り出すのでした。
- 161 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/04(金) 11:35:45.86 ID:U/9mkAOw0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【忘れられた船】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥・ :● ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち キモリ♂ Lv.10 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.11 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.8 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:54匹 捕まえた数:4匹
主人公 しずく
手持ち メッソン♂ Lv.8 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.8 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
ココガラ♀ Lv.8 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:64匹 捕まえた数:3匹
かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 162 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 13:52:59.85 ID:Ya9HaHl50
-
■Chapter008 『学徒の街ダリアシティ』 【SIDE Yu】
──せつ菜ちゃんと別れてから、しばらくして……。
私たちは次なる目的地に到着していた。
侑「ダリアシティ、到着だね!」
「ブイ」
歩夢「うん♪」
自転車をレンタルショップに返却して、私たちは街を歩いている真っ最中。
入ってすぐ、街の北側に位置する有名な建造物が見えてくる。
歩夢「見て、侑ちゃん! ダリアの大時計塔だよ!」
侑「すごい存在感……ボスでも潜んでそうだね」
歩夢「ふふ♪ 確かに、ゲームだったら魔王とか、伝説のポケモンがいそうだね♪」
大きな存在感を放っているのは、ダリアの大時計塔だ。テレビやガイドブックでもよく取り上げられるダリアシティの名所の一つ。
あの時計塔の中は、オトノキ地方でも最大の蔵書量を誇る図書館になっていて、いろんな地方から人が訪れるらしい。
そんなダリアシティはセキレイシティと雰囲気は違うものの、オトノキ地方の中では大きな街の一つで行き交う人が多く、活気に溢れている。
中でも目を引くのは──
侑「白衣を着てる人がたくさんいるね」
「ブイ…」
リナ『この街は学園都市だからね。学生さんや学校に関わる人、研究機関に携わってる人がすごく多い』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「じゃあ、あの白衣の人たちも……」
リナ『うん。たぶん、研究機関の人だと思う。それ以外にも、オトノキ地方最大の図書館があったり、とにかく教養に特化した街みたい。通称「叡智の集う街」』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「『叡智の集う街』……! かっこいい!」
「ブィィ」
リナ『一般開放されてて、見学が自由なところも多いから、行きたいところがあったら入ってみるといいかも』 || > ◡ < ||
リナちゃんの言うとおり、大通りを歩いているだけでも、一般開放されている研究室が目に入る。
面白そうなのがあったら、見てみるのもいいんだけど……。
歩夢「ふふ♪ 侑ちゃんは、研究室見学よりも、先に行きたい場所があるんだよね♪」
侑「あはは、やっぱ歩夢にはお見通しだね……。まずは、ダリアジムに行きたい!」
リナ『ダリアジムは街の南側だよ、マップを表示する』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん、お願い。イーブイ、頑張ろうね!」
「ブイッ!!」
私たちはとりあえず、街を一直線に抜けて、ダリアジム方面を目指す。
- 163 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 13:54:57.69 ID:Ya9HaHl50
-
🎹 🎹 🎹
一直線に大通りを抜けて、街の南側に出ると、程なくしてダリアジムの建物が見えてきた。
途中ポケモンセンターにも寄り道して、イーブイたちのコンディションも完璧。
歩夢「ダリアシティのジムリーダーって……」
侑「にこさんだね!」
歩夢「ポケモンリーグの決勝のときに、解説をしてた人だよね」
侑「そうそう! しかも、元四天王! にこさんがどんなバトルをするのか、考えただけでもときめいちゃうよ♪」
リナ『ときめいちゃうのもいいけど、気を引き締めてね。にこさんは公式戦での戦績もすごく良い。間違いなく強敵』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「リナちゃんって、そんなデータまであるんだ」
リナ『データだけならね。私には経験値が圧倒的に足りないから、侑さんのバトル、期待してる』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん! 頑張るね!」
「ブイ」
──私はジムの前に立って、息を整える。
やっぱり、ポケモンジムに入るときは緊張する。……襟を正したくなるというか、なんとなくこれから神聖な場所に入るんだって気がするんだよね。
侑「……よし、行こう!」
「ブイ!!」
侑「た、たのもー!」
ジムに入ると──
にこ「あら、チャレンジャーかしら?」
すぐに、にこさんに出迎えられる。よかった……! スムーズにジム戦が出来そうだ……!
侑「はい! 私、セキレイシティから来た、侑って言います! ジムバッジは1個持ってます!」
にこ「じゃあ、これが2つ目のジム戦ってわけね」
侑「はい! お願いします! 行くよ、イーブイ!!」
「ブイブイ!!!」
バトルスペースについて、戦闘準備は万端!
にこ「気合いたっぷりじゃない! いいわ、かかってらっしゃい! ──……って、言いたいところなんだけどね」
侑「え?」
にこさんは何故か、自分のバトルスペースを離れてこっちに歩いてくる。
にこ「悪いけど、私は今ジムバトルは出来ないのよ」
侑「え……? あ、あの……もしかして、今は都合が悪かったとか……?」
にこ「いや、そういうことじゃなくてね」
侑「……?」
にこ「実はにこ──ダリアシティのジムリーダーじゃないのよ」
侑「…………?」
私はにこさんの言っている言葉の意味がわからず、首を傾げる。
- 164 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 13:59:11.29 ID:Ya9HaHl50
-
侑「えっと……にこさんってダリアシティのジムリーダーですよね? 私、オトノキ地方のジムリーダーは全員ちゃんと覚えてるから、間違いないはず……」
にこ「ちゃんと予習してきてるのね、感心感心! どこかの誰かさんは、ジムリーダーのことなんか、ほとんど知らずに旅してたのにね。……っと、これはこっちの話だけど」
リナ『どういうこと? ダリアシティのジムリーダーはにこさんで間違いない。ポケモンリーグの公式な情報にもそう記載されている』 || ? ᇫ ? ||
にこ「あら……あなた、もしかしてロトム図鑑? 最近の子は良いモノ持ってるのね……」
侑「え、えっと……あの、それで……にこさんがジムリーダーじゃないって言うのは……。リナちゃんの言うとおり、公式の情報にも載ってるなら、それこそどういうことか……」
にこ「ああ、えっとね。実はそれ、フェイク情報なのよ」
侑「え!?」
リナ『フェイク!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「フェイクって……公式にもある情報なのに……?」
にこ「もちろん、リーグの承認も得てるからね。リーグ公認のフェイクジムリーダーってわけ」
歩夢「あ、あのー……」
後ろで話を聞いていた歩夢がおずおずと手をあげる。
にこ「あら、この子の連れの子ね。なにかしら」
歩夢「ジムリーダーって、街のシンボルみたいな人だから、フェイクはまずいんじゃ……」
にこ「もちろん、それも一理あるわ。だから、私は基本的にはジムリーダーと同等の権限を持っているわ。緊急事態には率先して出張ることが多いわね」
歩夢「じゃあ、どうしてフェイクジムリーダーなんか……」
にこ「新しいジムリーダーから提案があったのよ」
侑「新しいジムリーダーからの……?」
なんで、新しいジムリーダーはそんなことを……?
にこ「ジムリーダーってどんな仕事だと思う?」
侑「え? えっと……ポケモンジムでトレーナーからの挑戦を受けて、腕試しをする場所……ですか?」
リナ『補足すると、その腕試しによって、トレーナーの育成を行う意図がある』 || ╹ᇫ╹ ||
にこ「そうね。段階的にトレーナーの実力を試すことによって、トレーナーの育成を行う。それが、ポケモンジムの役割よ。ただ、このシステムには少し不都合があってね……」
歩夢「不都合……ですか?」
にこ「例えば、にこのエキスパートタイプって知ってるかしら?」
侑「フェアリータイプです!」
にこ「そのとおり。にこのエキスパートはフェアリータイプよ。侑の言うとおり、少し予習すればジムリーダーの使うタイプや手持ちはわかっちゃうのよ」
リナ『挑戦をする以上、事前に調べて対策をするのは当たり前のことだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
にこ「それもそのとおり。でも、トレーナーっていつでもどこでも自分が知ってる相手や、起こることがわかっている問題に直面するわけじゃないでしょ? というか、そういう機会の方が稀よ」
それは確かにそうかも……。私たちもつい昨日、そういう場面に直面したばっかりだし。
結果として、せつ菜ちゃんが助けてくれたけど……。
にこ「トレーナーの育成を謳っているのに、本来トレーナーに必要なイレギュラーへの対応能力が全然育たないのは問題じゃないかって、新しいジムリーダーの子から、リーグに対して問題提起があったのよ」
リナ『なるほど。一理ある』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
にこ「トレーナーは常に自分の足で歩いて、目で見て、耳で聴き、頭を使って戦うべきだってね。だから、このジムではただバトルするだけじゃない。前情報が一切ない相手とどう戦うか、そして……」
侑「そして……?」
にこ「自分が戦うべき相手をどうやって見つけるかの知恵を試すポケモンジムとして、やっていくことになったってわけ」
侑「どうやって見つけるか……? ってことは……」
にこ「ええ、察しのとおり、ここにはそのジムリーダー本人はいないわ。あなたたちは、このダリアシティのどこかにいるジムリーダーを探し当てて、戦わないといけないってこと」
侑「え、ええーー!!」
- 165 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:00:29.76 ID:Ya9HaHl50
-
この広いダリアシティのどこかって……。
侑「ヒ、ヒントとかは……?」
にこ「そうねぇ……ジムリーダーは確実にダリアシティの中にいるわ。さすがにそれは守られてないとフェアじゃないからね」
侑「み、見た目とかは!?」
そこらへんで歩いている人の中にジムリーダーが紛れてたら、さすがにわからないよ……。
にこ「仮にもジムリーダーよ? 雰囲気でわかると思うわ」
リナ『意外に雑……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
まあ、確かにジムリーダーって貫禄のある人ばっかりだけど……。
にこ「あと、人に協力を頼むのはありよ。上手に人を頼るのも能力の一つだからね。それこそ、一緒にいるそこの貴方、えっと……」
歩夢「は、はい! 歩夢です……!」
にこ「歩夢に協力してもらっても、全然構わないってことね。それとこの課題への参加証明として、ポケギアの番号を教えて頂戴。何かあったときに連絡することもあるかもしれないから」
侑「あ、はい」
言われたとおりににこさんに、自分のポケギア番号を伝える。
にこ「ありがと」
リナ『ルールはそれだけ?』 || ╹ᇫ╹ ||
にこ「あとそうね……フェイクジムリーダーのことは、街の外に出たら口外禁止ってことだけ守ってくれればいいわ。こんなジムだから、街では事情を知ってる人も結構多いから、ダリアシティ内でまで口を噤んでおけとは言わないわ。他は何かある?」
侑「わ、わかりました! とにかく、街のどこかにいるジムリーダーを見つけて、バトルして勝てばいいんですよね!」
にこ「ええ、そうよ。それじゃ、健闘を祈るわ、侑」
……というわけで、ダリアのジム戦は予想外にも、人探しから始めることになりました。
🎹 🎹 🎹
歩夢「侑ちゃん、どうする……?」
侑「……とりあえず、街の人に訊いてみよう!」
「ブイ」
リナ『聞き込みは基本。ルール的にもOKって言われてた』 || ╹ ◡ ╹ ||
とりあえず、近くを歩いている白衣を着た通行人に声を掛ける。
- 166 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:03:05.69 ID:Ya9HaHl50
-
侑「あの、すみません!」
通行人「あら? なにかしら?」
侑「私、この街のジムリーダーを探してるんですけど!」
通行人「……? ジムリーダーなら、南のポケモンジムにいると思うけど?」
侑「えーっと……そうじゃなくて……本当のジムリーダーを探してまして……」
通行人「?? ジムリーダーに本当とか、本当じゃないとかがあるの?」
侑「あ、いや……えっと……」
通行人「もういい? 私そろそろ研究室に向かわないといけないんだけど……」
侑「あ、はい……すみません……ありがとうございます」
「ブイイ…」
通行人は軽く会釈して、すたすたと歩き去ってしまう。
侑「全然ダメだ……」
「ブイ…」
歩夢「ジムのこと知らないのかな……?」
リナ『街の誰もが知ってるわけじゃないのかも……性質上、公にしているわけじゃなさそうだし』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……そうだね。とにかく聞き込みを続けてみよう!」
歩夢「うん、わかった! 手伝うね!」
🎹 🎹 🎹
──あの後も、聞き込みを続けていたんだけど……。
侑「……全然ダメだ……」
「ブィィ…」
歩夢「知ってる人……全然いないね……」
あまりに手応えがない結果に、イーブイ共々項垂れる。
大抵の人は最初に訊ねた人のように、なんのことかわからないという感じだった。
中には、何かあることを知っていそうな人こそ、いたにはいたんだけど──「たまにそう訊ねてくる旅人さんがいるけど……そういうイベントがあるの?」くらいの反応が返ってくる程度だ。
侑「私たちと同じように、ジム挑戦者が街の人に訊ねてることはあるみたいだけど……」
リナ『訊ねる相手を間違ってるのかもしれない』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「訊ねる相手?」
リナ『この街はいろんな分野の学科や研究室がある。ポケモンジムについても、自分の勉強してることと関係ない人にとっては、そんなに関心がないのかも……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「なるほど……もっと、ポケモンジムに関心のある人たちに訊かないとダメってことだね……」
ポケモンジムに興味のある人って言うと……ポケモンバトルが好きな人とか?
侑「……そうだ、ポケモンバトルの研究室とかないかな?」
リナ『探せばあるはずだよ。ちょっと検索してみるね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「お願い、リナちゃん」
リナ『…………見つけた。こっちだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
- 167 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:05:38.15 ID:Ya9HaHl50
-
リナちゃんに案内される形で、私たちはポケモンバトルの研究室へと赴く。
──歩くこと数分。それなりに大きな研究室が見えてきた。
侑「わあ……思ったより大きい……」
「ブィィ…」
歩夢「うん。私も研究室って、もっとちっちゃいイメージだったよ」
リナ『ポケモンバトルの研究室ともなれば、少なくともポケモンバトルが出来る大きさの施設が必要だから、必然的にこれくらいの大きさになるんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「なるほど……でも、ここなら知ってる人もいそうだね!」
「ブイ」
私は早速、中に入ってみる。
侑「す、すみません!」
受付の人「あら? 見学の方ですか?」
侑「あ、えっと……見学というか、お訊ねしたいことがあって……」
受付の人「なんですか?」
侑「私、今ジムリーダーを探しているところでして……!」
受付の人「ダリアジムにはもう行かれましたか?」
侑「は、はい! にこさんには会ってきました!」
受付の人「ということはダリアジムのチャレンジャーの方ですね」
侑「!」
この反応、ジムチャレンジの内容がわかっているということだ。やっと事情を知っている人に会えた……!
ただ、私の期待とは裏腹に、
受付の人「ですが、残念ながらここにジムリーダーはいませんよ」
という答えが返ってくる。でも、せっかく知ってそうな人を見つけたんだ……もうちょっと、頑張らないと……!
侑「何かヒントとかありませんか?」
受付の人「というと?」
侑「どこにジムリーダーの人がいるかとか……」
受付の人「すみません、それは私たちも知らないんです」
侑「え……街の人はある程度、事情を知ってるんじゃ……」
受付の人「もちろん、ジムチャレンジの内容にジムリーダー探しがあるのは知っていますが……どこにいるかまでは……」
侑「そ、そんなぁ……。……せ、せめてどんな人かだけでも……」
せめて、容姿さえわかれば、と思って訊ねてみるけど、
受付の人「……すみません、見たことがある人もほぼいなくて……」
侑「嘘……!? この街にいるんですよね!?」
受付の人「そう聞いてはいますが……そもそも、容姿すら知っている人がほとんどいないので……」
侑「そうですか……」
せっかくここまで来たのに手がかりがあまり掴めないなんて……。
- 168 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:07:17.39 ID:Ya9HaHl50
-
受付の人「あの……もし、よかったら、ダリアジムを突破したことのある者をお呼びしましょうか?」
侑「え!? いいんですか!? 是非、お願いします!」
受付の人「わかりました、少々お待ちください」
受付の人は、ポケギアを取り出して、連絡を取り始める。
歩夢「よかったね、侑ちゃん」
リナ『とりあえず、一歩前進』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん!」
受付の人「……連絡が取れました、今こちらに来てくれるそうなので、少々お待ちくださいね」
侑「はい! ありがとうございます!」
やった……! これで、ジムリーダーのもとへとたどり着ける……!
🎹 🎹 🎹
待つこと数分。研究室の奥の方から、エリートトレーナーらしき女性がこちらに向かってきた。
受付の人「こちらの方です」
トレーナー「君がジムへの挑戦者かい?」
侑「は、はい!」
トレーナー「何が訊きたいのかな?」
侑「あの、ジムリーダーの居場所を教えて欲しいんですけど……!」
私がストレートに訊ねる。
トレーナー「ははは! 君は素直だね! でも、さすがに答えそのものは教えてあげられないよ。それじゃ、ジムチャレンジの意味がないからね」
侑「ぅ……そうですよね……」
流石に直接的すぎた……。じゃあ、他に聞いておきたいことと言えば……。
侑「ジムリーダーの見た目とか……」
トレーナー「申し訳ないが、ジムに挑戦した際に、ジムリーダーの容姿等は他言しないという約束をしているんだ。だから、それは教えられない」
侑「そ、そんなぁ……」
リナ『やっぱり、その辺りはしっかり対策されてる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「うぅ……そうみたいだね……」
これじゃ、せっかく知っている人がいるところまでたどり着いたのに、大した成果も得られなさそう……私はがっくりと項垂れてしまう。
あまりに私ががっかりしているのが、不憫だったのか、
トレーナー「そうだな……じゃあ、一つヒントをあげよう」
トレーナーのお姉さんが自らヒントを教えてくれる。
- 169 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:09:42.20 ID:Ya9HaHl50
-
侑「お、お願いします!」
トレーナー「ジムリーダーの容姿は言えないけど……この街のジムリーダーはね」
侑「は、はい……!」
トレーナー「きっと君でも、会ったらすぐにジムリーダーだってわかるよ」
侑「…………」
「ブイ…」
トレーナー「ははは、不満そうな顔だね」
そりゃ、まあ……あんまりヒントになってないし……。
歩夢「やっぱり、にこさんが言っていたみたいに、雰囲気でわかるってことですか……?」
トレーナー「詳しくは教えられないけど、そういう感じだよ」
侑「むむむ……」
トレーナー「とにかく、もう少し頑張って考えてみるといい。それじゃ、私はそろそろ戻らせてもらうよ。ジムチャレンジ、頑張ってくれ」
侑「は、はい……ありがとうございます」
🎹 🎹 🎹
侑「結局ほとんど何もわからなかった……」
歩夢「人に聞いてもいいけど、自分たちで考えないと答えには辿り着かないってことなのかな……」
リナ『少ない情報の中から、いかに辿り着くかが課題なんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「って言っても、情報が少なすぎるよ……」
「ブィィ…」
歩夢「とりあえず……今ある情報だけでも整理してみない?」
侑「……うん、そうだね」
私は歩夢の言葉に頷く。もしかしたら、手掛かりがあったかもしれないし。
侑「当たり前だけど、居場所はわからなくて……」
リナ『容姿は不明』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「街の人も見たことがある人はほとんどいなくて……」
侑「会えばわかる……らしい」
「…ブイ」
侑「やっぱ、何もわからないじゃん!?」
歩夢「あはは……」
リナ『逆に言うなら、わからないことはわかったかも』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……? どういうこと?」
リナ『これだけ人の多い街なのに、目撃情報すらほとんどないのは逆に違和感』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「……えっと?」
私は首を傾げてしまったけど、歩夢はリナちゃんの言葉で、少しだけピンと来たらしい。
- 170 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:15:03.45 ID:Ya9HaHl50
-
歩夢「……もしかして、ジムリーダーは常に人目に付かない場所にいるってこと……?」
リナ『確定ではないけど、十分そう推測出来るとは思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「確かに……」
今も周りにはたくさんの人の往来がある。ジムリーダーはどうやら、会えば雰囲気でわかるらしいし……そんな存在感の人がいたら、みんな気付くはずだよね……?
侑「となると……裏路地とか?」
「ブイ」
歩夢「確かに裏路地なら、人目には付かないかも……」
侑「よし、行ってみよう!」
歩夢「うん!」
🎹 🎹 🎹
──さて、あれから1時間ほど経過して……。
侑「見つからない……」
「ブイ…」
歩夢「そうだね……」
さっきから、虱潰しで裏路地に入って確認しては出ることの繰り返し。
今も裏路地を進んでいる真っ最中だけど──
侑「行き止まり……」
「ブイ…」
ただの行き止まりに辿り着いてしまうことが多い。
もちろん、たまに研究室に行き着いたりはするものの……一般開放されていない研究室だったりで、ジムリーダーの姿は影も形もない。
今入って来たここも、薄暗い裏路地があるだけで、何も収穫はなさそうだ。
侑「はぁ……戻ろうか」
「ブイ…」
「シャボ…」
歩夢「サスケ? どうかしたの?」
先ほどまで歩夢の肩で寝ていたサスケが、急に声をあげる。
「シャーボ」
歩夢「? 何かいるの?」
侑「え?」
言われて、よーく裏路地を観察してみると──
侑「あれ……?」
薄暗い裏路地の隅に小さい何かがいることに気付く。
- 171 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:17:05.57 ID:Ya9HaHl50
-
「……ニャァ」
侑「ポケモン……?」
歩夢「あれ、この子……?」
リナ『ニャスパーだね』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「ニャスパーって街にもいるんだね」
侑「……にも?」
歩夢「この間、7番道路でも見かけたんだよ。そのニャスパーには警戒されちゃって、友達になれなかったんだけど……」
リナ『……いや、このニャスパー。あのときのニャスパーだよ』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「え? あのときのニャスパーって……」
リナ『7番道路で出会ったニャスパーと全く同じ個体』 || ╹ᇫ╹ ||
「ニャァ」
侑「そんなことわかるの?」
リナ『性別や大きさ、鳴き声の波形、虹彩パターン、どれを見ても一致する。ほぼ間違いないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃん、そんな機能まであるんだ……。
歩夢「もしかして、ここまで付いてきちゃったのかな……?」
リナ『単純に7番道路から、ここまでが生息域なだけの可能性もある』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
「ニャァ」
侑「というか……」
「ニャァ」
歩夢「うん……。ずっと、こっち見てるね」
さっきからずっと、無表情な二つの目が私たちをずっと凝視している。
「ニャァ」
侑「やっぱり、付いてきたのかな……? ニャスパー、そうなの?」
「ニャァ」
名前を呼んでも、一切トーンの変わらない無機質な鳴き声が返ってくる。
歩夢「私たちに何かあるの?」
「ニャァ」
歩夢「お腹空いてるのかな……」
歩夢はバッグの中から、“きのみ”を取り出す。
歩夢「ニャスパー、“オレンのみ”だよ〜?」
「ニャァ」
歩夢「……」
「ニャァ」
侑「……食べに来ないね」
歩夢「お腹が空いてるんじゃないのかな……」
ニャスパーは依然、その場にとどまったまま、こっちをじーっと見ているだけ……。
- 172 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:18:20.00 ID:Ya9HaHl50
-
「ニャァ」
リナ『……ちょっと気になるけど、ここでにらめっこしてても仕方ない。早く、次の裏路地を探した方がいい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
リナちゃんが真っ先に痺れを切らしたのか、ふよふよと元来た道を戻って行く。
すると──
「ニャァ」
ニャスパーは急に空を見つめて鳴いたあと──ふわっと浮遊した。
侑「うわ、飛んだ……!?」
歩夢「サイコパワーで飛んでるのかな……?」
「ニャァ」
そして、また一鳴きしたあと──すぅーーっと飛び上がり、裏路地から飛んでどこかへ行ってしまったのだった。
侑「結局なんだったんだろう……?」
歩夢「わかんない……」
まあ、いっか……。ちょっとマイペースなポケモンだっただけだよね。
リナちゃんの言うとおり、私たちは今、裏路地の捜索中なんだし……そう思って、踵を返して戻ろうとしたそのときだった。
──ポツ。と私の頭に水滴が落ちてくる。
侑「……つめた!」
「…ブイ」
それは、次第に勢いを強めて降り出し始める。
侑「雨……」
歩夢「大変……! 今、傘出すね……!」
侑「いや、こんな狭い路地じゃ、傘が引っかかっちゃうよ! 一旦大通りに戻ろう!」
歩夢「……あ、うん!」
私は歩夢の手を引いて、走り出した。
🎹 🎹 🎹
侑「──これは、本降りになりそうだね……」
窓の外に流れる水滴を眺めながら、ぼんやりと言う。
歩夢「これだと、これ以上裏路地を探すのは大変だね……はい、エネココアだよ」
侑「歩夢、ありがと」
歩夢が、カウンターから持ってきたエネココアを私の前に置いてくれる。
- 173 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:20:15.37 ID:Ya9HaHl50
-
歩夢「イーブイには“ポロック”あげるね。イーブイの好きな“ももいろポロック”だよ♪」
「ブイ♪」
「シャー」
歩夢「サスケにもあげるから、ちょっと待っててね」
歩夢がイーブイとサスケにおやつをあげているのを見ながら、エネココアのカップを傾ける。
甘く温かい液体が喉を滑り落ちていく。……ああ、落ち着く。
侑「……そういえばさ」
歩夢「?」
侑「私、さっき裏路地で傘を差そうとしてた歩夢を見て思ったんだけどさ」
歩夢「うん」
侑「あんな狭い場所で、ポケモンバトル……出来るのかな?」
リナ『……言われてみれば』 || ╹ᇫ╹ ||
裏路地には、積んである木箱やゴミ箱とかも置いてあったし……バトルが激しくなったら、何かの拍子に周りの物を壊してしまいそうだ。
侑「……もしかして、この課題の解き方って、そういうことなんじゃないかな」
歩夢「……そういうことって?」
──私たちは、自分たちが探してる相手は、顔も、名前も、どこにいるかも、何もわからないって思い込んでたけど……この課題には最初からわかっている重要なことがあるじゃないか。
侑「私たちが探してるのは──最初からジムリーダーなんだ」
歩夢「……?」
侑「ジムリーダーってことは、会ったらバトルが出来る場所にいないといけない……」
歩夢「……あ」
侑「そうなると、狭い場所じゃない……」
となると、裏路地のような狭い場所はそもそも探す候補から外れることになる。
侑「……それに、ジムリーダーは挑戦者を待ち続ける必要があるんだよね……」
リナ『ルール上、基本的にはそうだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「じゃあ、天気とかに左右される屋外も候補から外れる」
歩夢「確かに……それじゃあ、人目に付かないバトルが出来るくらい広い屋内ってことになるのかな……」
リナ『確かにそれなら、随分条件は限定されるかも』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「問題はそれがどこかだよね……」
リナ『さすがに一般開放されてる施設なのは間違いないと思う。そうなると、街中のバトル研究室系か、ポケモン生態研究所とか……』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「今度はそういう施設に絞って探してみればいいのかな?」
侑「……でも、そういう施設にいるとしても、どうやって探せばいいんだろう……」
歩夢「? どういうこと?」
侑「だって、事情を知ってる人でも、直接的に居場所や容姿を教えるのはダメなんでしょ?」
歩夢「あ、そっか……。もし、訪れた施設にいたとしても、本人を直接捕まえられないと結局ダメなんだ……」
侑「うん……」
- 174 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:22:59.92 ID:Ya9HaHl50
-
それにもう一つ、ずっと気になっていることがある。
──『仮にもジムリーダーよ? 雰囲気でわかると思うわ』
──『きっと君でも、会ったらすぐにジムリーダーだってわかるよ』
抽象的な表現なのに、ずいぶん断定的に“会えばわかる”と言っていたのが不思議でならない。
侑「雰囲気なんて言われても……ホントにわかるのかな」
私は机に突っ伏して頭を抱える。ジムリーダーだから、本当にすごいオーラみたいのを放っていて、一目でわかっちゃうのかもしれないけど……。
いや……。
侑「──少なくとも、小さい頃ことりさんのことはジムリーダーだって、わからなかった」
近所の優しいお姉さんくらいの認識だった。ポケモンバトルが好きになって、初めてすごいトレーナーだって認識して、すごく憧れを抱いたことを今でも覚えている。
もしかして……雰囲気っていうのは何かの例えなのかな……?
侑「うぅ〜……わからないぃ……」
リナ『どっちにしろ、雨が止むまでは一旦お休みでもいいと思う。候補を虱潰しで当たるにしても、雨の中歩き回るのは非効率だし』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「それはそれで、落ち着かないよぉ……雨、早く止まないかな……」
歩夢「あはは……侑ちゃん、一度これをやる! って決めたら、止まるの苦手だもんね」
侑「そうかも……。歩夢は平気なの……?」
歩夢「うーん……そわそわしちゃうのはわかるかな。でも、その時々で楽しみ方を考えちゃうかも」
リナ『その時々で楽しみ方を考える? どういうこと?』 || ? _ ? ||
歩夢「例えば今だったら……雨がたくさん降ってて憂鬱だけど、こうして喫茶店で雨の音を聴きながらのんびりするのも、風流で楽しいかもって思ったり」
侑「……あ、それはわかるかも。なんか、喫茶店ってだけで、雨音もオシャレな音楽に聞こえてくるよね」
歩夢「そうそう♪」
リナ『なるほど……面白い考え方。勉強になる』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
歩夢「喫茶店の雰囲気がそうさせてくれるだけなのかもしれないけど……それでも、そういう風に考えたらちょっぴり雨の日も楽しい時間になるかなって」
侑「喫茶店の雰囲気……。……雰囲気……?」
──『雰囲気でわかると思うわ』。
侑「雰囲気で……わかる……?」
歩夢「侑ちゃん?」
侑「……そうか、雰囲気って、その人が持ってるものだけじゃない……その空間や、そのときの時間、うぅんそれだけじゃない……いろんなもので変わるんだ」
リナ『侑さん?』 || ? ᇫ ? ||
ポケモンジムに入る前は、襟を正さなくちゃいけない気持ちになる。そんな硬い“雰囲気”がポケモンジムにはある。
そうなると、どこだろう。会えば絶対にジムリーダーだと思えるような、ポケモンジムみたいな、そんな“雰囲気の空間”は、建物は……。
ふと顔を上げると──窓の外、雨に煙る街の中に、一際大きな建造物が見えた。
侑「……ダリアの大時計塔……」
大きな大きな存在感を放つ。いかにもボスが待ち構えていそうな、荘厳な建物が。
──ガタ! 私は、思わず椅子をはねのける様にして立ち上がった。
- 175 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:24:17.38 ID:Ya9HaHl50
-
歩夢「ゆ、侑ちゃん……?」
侑「……あそこだ」
リナ『侑さん??? さっきから、様子がおかしい』 || ? ᇫ ? ||
侑「……行くよ、イーブイ!」
「ブイ」
イーブイが机の上からぴょんと、私の肩に飛び乗ってくる。
歩夢「え、ち、ちょっと待って侑ちゃん!?」
リナ『あわわ、急に侑さんが走り出した!? 待って!?』 || ? ᆷ ! ||
私は、確かに感じた勘に──その“雰囲気”に従って、走り出していた。
🎹 🎹 🎹
私は先ほど思ったことを二人に説明しながら、ダリア図書館を目指す。
リナ『なるほど……確かに筋は通ってる』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「だから、にこさんは“雰囲気でわかる”なんて、曖昧な言葉を使ってたんだね……!」
侑「まだ、私の勘でしかないけどね」
「ブイ」
歩夢「でも、説得力はあると思う!」
侑「……うん!」
──二人への説明もそこそこに、私たちは辿り着いたダリア図書館に入館する。
侑「とりあえず、上の階に行こう」
歩夢「うん」
上の階に行く途中、館内のあちこちにエテボースやエイパムが本棚の整理や、荷物を運んで行き来しているのが目に入ってくる。
そして、館内のいたるところにいるミネズミやミルホッグは、監視の役割を担っているのかもしれない。
仕事中の彼らの邪魔にならないように、上の階、上の階へと階段を急ぎ、辿り着いた最上階には──
侑「………………」
「ブィ…?」
普通の図書館が広がっていた。
歩夢「あ、あれ……?」
侑「違った……?」
「ブイ…」
まさか、ここまで来て間違いなのかな……?
逆にここがそうじゃないなら、他にどこが……。
- 176 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:27:09.01 ID:Ya9HaHl50
-
リナ『待って』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「リナちゃん?」
リナ『この階はまだ最上階じゃないと思う。外観の高さから考えて、まだ上に1〜2階分は入るスペースがある』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「え、それじゃあ……!」
リナ『恐らく、さらに上に行く方法があると思う』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
歩夢「侑ちゃん……!」
侑「歩夢! 探そう……!」
歩夢「うん!」
歩夢とリナちゃんと私とで、本がぎっしり詰まったこの階の探索を始める。
よく周りを確認してみると、この階にはここで働いている人間のスタッフや、エイパムたちの姿がほとんどない。
人気がすごく少ない階というのが、私の勘を後押ししてくれているようだった。
私はオトノキの史書コーナーの本を端から順番に見ながら奥に進んでいくと、
「ブイ」
イーブイが何かに気付く。イーブイの視線を追うと──1冊だけ、なんだか背表紙の色が浮いている本が目に入る。
侑「『叡智の試しの至る場所』……」
そこにあったのは、白地の背表紙にそんなタイトルの書かれた1冊のハードカバー。
その本を手に取り、開くと──ほぼ白紙のページしかない本だった。
パラパラとページを捲って、捲って……最後のページに、
侑「『叡智の最後の行き先は奥に押し込んだ先に開かれる』」
そう書かれていた。
侑「奥……」
奥ってなんだろうと、一瞬思ったけど……。
侑「……もしかして、本棚の奥?」
今しがた、この本を抜いたことによって、本棚に出来た穴を覗いてみると──
侑「……! あった……!」
奥に四角いボタンのようなものがあるのが見えた。
つまり、
侑「この本を……押し込む……!」
手に取った本を棚に戻し──そのまま、奥にボタンごと押し込む。
──ガコン!
歩夢「……侑ちゃん! 今の音……!?」
リナ『何か見つかった!?』 || ? ᆷ ! ||
音を聞きつけて、歩夢とリナちゃんが私のもとに駆け寄ってくる。
- 177 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:28:38.62 ID:Ya9HaHl50
-
侑「見つけたよ、『叡智の最後の行き先』……──」
歩夢「……やったね! 侑ちゃん!」
リナ『侑さん、すごい!』 ||,,> 𝅎 <,,||
私は、ゆっくりと目の前に降りてくる折り畳み式の階段を一歩ずつのぼり始める……。
🎹 🎹 🎹
──ゆっくりと階段をのぼり、辿り着いたそこは、天井の高い部屋だった。
壁面には下の階同様、これでもかと本が本棚に詰め込まれているが……中央には何も置かれておらず、モンスターボールを象ったような線が引かれている。
これはまさに──ポケモンバトルのフィールドだ。
そして、そのフィールドを挟んだ部屋の奥に、
「──ようこそ、叡智に辿り着きし挑戦者さん」
小柄な女性が、本を片手に、椅子に腰かけていた。
侑「あなたが……ダリアシティのジムリーダーですね」
花丸「うん、マルの名前は花丸。あなたの言うとおり、このダリアシティのジムリーダーを務めさせてもらっているずら」
花丸さんは、本をパタンと閉じ、ゆっくりと椅子から立ち上がると、優しく笑う。
花丸「よくここまで辿り着いたね。……あなたの名前を聞かせてもらってもいいかな?」
侑「……侑です。セキレイシティから来ました」
花丸「セキレイシティの侑ちゃん。あなたのその知恵を認め、ダリアジムのジムリーダーとして、ジム戦への挑戦権を与えます。もちろん、バトル……するよね?」
侑「……はい!!」
私はボールを構える。
花丸「使用ポケモンは2体だよ。それじゃ、始めよっか。ダリアジム・ジムリーダー『叡智の塔の歩く大図書館』 花丸。あなたの知恵で辿り着いたその先を、マルに見せて欲しいずら!」
花丸さんの手からボールが放たれた。ジム戦──開始……!!
- 178 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/05(土) 14:29:11.57 ID:Ya9HaHl50
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ダリアシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. ● . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.15 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.13 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
バッジ 1個 図鑑 見つけた数:27匹 捕まえた数:2匹
主人公 歩夢
手持ち ヒバニー♂ Lv.10 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.11 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:56匹 捕まえた数:10匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 179 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/11/06(日) 03:02:11.86 ID:exh30Ujo0
- VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
- 180 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:28:32.32 ID:waqA86PW0
-
■Chapter009 『決戦! ダリアジム!』 【SIDE Yu】
花丸「ウールー、行くずら」
「メェェーー」
侑「出てきて! ワシボン!」
「ワシャ、ワシャッ!!!!」
こちらの1番手はワシボン。対する花丸さんは、ウールーを繰り出してくる。
リナ『ウールー ひつじポケモン 高さ:0.6m 重さ:6.0kg
パーマの かかった 体毛は 高い クッション性が ある
崖から 落ちても へっちゃら。 ただし 毛が 伸びすぎると
動けなくなる。 体毛で 織られた 布は 驚くほど 丈夫。』
侑「先手必勝! ワシボン! “ダブルウイング”!!」
「ワッシャァッ!!!!」
ワシボンが飛翔し、ウールーに飛び掛かる。
開幕、肉薄しての翼による二連撃……!!
「メェー」
素早いワシボンの動きに対応出来ないのか、無抵抗なウールーに──バスッ、バスッ!! と音を立てながら、攻撃を直撃させる。
侑「よし! 決まっ……た……?」
「メェー」
しかし、攻撃が直撃したはずのウールーは涼しい顔をしている。
侑「な……!? 効いてない!?」
「ワシャッ!!?」
花丸「ウールー、“ずつき”」
「メェーーー」
「ワシャボッ!!!?」
攻撃を耐え、そのままお返しと言わんばかりに“ずつき”をかましてくる。
侑「ワシボン!?」
「ワ、ワシャァッ」
さすがに、一発でやられるほどヤワじゃない。ワシボンは仰け反りながらも羽ばたいて、体勢を立て直す。
リナ『侑さん! ウールーの特性は“もふもふ”! 直接攻撃は半減されちゃうよ!』 || >ᆷ< ||
侑「! な、なるほど……」
あの体毛のせいで攻撃が通りにくいんだ……! なら……。
侑「ワシボン、“つめとぎ”!!」
「ワシャシャシャッ!!!!」
フィールドに降りて、床に爪を立てながら研ぎ始める。
そして、そのまま──地面を力強く蹴って、飛び出す。
- 181 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:29:25.75 ID:waqA86PW0
-
侑「翼でダメなら、今度は爪で……!!」
「ワッシャボッ!!!!」
侑「“ブレイククロー”!!」
「ワッシャッ!!!!」
研ぎ澄まされた鋭い足爪でウールーに切りかかる。
「メ、メェェェーー!!?」
侑「! よし! 効いてる!!」
ウールーは“ブレイククロー”に引き裂かれて、羊毛をまき散らしながら、フィールド上をテンテンと転がっていく。
花丸「ん……“ブレイククロー”で防御力が下がっちゃったね」
「メェーー…」
侑「たたみ掛けるよ!! 同じ場所を狙って!!」
「ワッシャッ!!!!」
ワシボンが間髪入れずに飛び掛かる。先ほどと同じように“ブレイククロー”を振り下ろす。今度はさっき引き裂いた毛の部分……致命傷は避けられないはず……!!
──と、思ったのに、
──ボフッ。
「ワシャッ!!!?」
侑「なっ!!?」
ワシボンの攻撃は受け止められてしまった。気付いたら、先ほど刈り取ったはずの羊毛が元に戻っている。
花丸「“ずつき”!」
「メェェェーーー!!!!」
「ワッシャボッ!!!!?」
再び炸裂する“ずつき”を食らって、ワシボンが吹き飛ばされ、地面を転がる。
侑「ワ、ワシボン! 頑張って!」
「ワ、ワシャ……!!」
ワシボンはどうにか起き上がるものの……。
侑「な、なんかさっきより強くなってない……!?」
さっき“ずつき”を受けたときは、もう少し余裕があると思ったのに……!?
リナ『ゆ、侑さん! 大変!』 || ? ᆷ ! ||
侑「え、何!?」
リナ『ワシボンの防御力が下がってる!』 || ? ᆷ ! ||
侑「え!?」
ウールーが防御力を下げてくるような技使ってた……!?
リナ『それだけじゃない! ウールーの防御力、元に戻ってる……』 || > _ <𝅝||
侑「な……」
さっき、確かに“ブレイククロー”で防御力を下げたはずなのに……なんで……!?
- 182 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:30:17.74 ID:waqA86PW0
-
花丸「勝負を急ぎ過ぎだよ。侑ちゃん」
侑「……!」
花丸「下げられた防御力は、ワシボンにお返ししたよ」
侑「お、お返し……? お返しってどういう……?」
リナ『! まさか、“ガードスワップ”!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「“ガードスワップ”……?」
リナ『防御力の上昇下降をまるまる相手と入れ替える技……』 || > _ <𝅝||
侑「……!」
だから、ワシボンの防御力が下がって、ウールーの防御力が元に戻ってたんだ……!
侑「どうしよう……こっちが攻めてるはずなのに……」
「ワ、ワシャ…」
「メェー」
侑「こっちが押されてる……」
こっちから攻撃を仕掛けても、受け止められて、返されてしまう。
どうする……? 思考に入って、私が動きを止めると──
花丸「来ないの? それなら、こっちから行くずら。“こうそくいどう”!」
「メェーーー」
今度はウールーの方が地を蹴って飛び出す。
侑「っ……! 空に離脱!」
「ワ、ワシャ」
とりあえず、時間を稼ごうと空に逃げる。……が、
花丸「ウールーの毛は防御以外にも使い道があるずら」
ウールーの方から、パチパチ、パチパチと何かが弾けるような音が聞こえてくる。
侑「な、何の音……!?」
あれ、でもどこかで聞いたことあるような……。パチパチパチパチ……あ……!?
侑「まさか……静電気……!?」
花丸「気付くのが遅いよ! “エレキボール”!!」
「メェーーー!!!」
体毛に蓄えた電気を球状にして、上空のワシボン向かって撃ち放ってくる。
「ワ、ワシャッ!!?」
突然の攻撃に回避もままならず、“エレキボール”がワシボンに直撃して、周囲に電撃の火花が走る。
「ワ、ワシャーーーー!!!!?」
侑「ワシボン!!」
ワシボンはそのまま、揚力を失って真っ逆さまに落っこちてくる。
──が、
「ワ、ッシャァッ!!!!」
- 183 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:31:10.68 ID:waqA86PW0
-
地面に墜落する直前で、バサッと翼を羽ばたかせて、再び空に飛び立つ。
侑「ワシボン……! よかった……」
花丸「気合いは十分あるみたいだね。でも、気合いだけじゃ次は耐えられないよ」
侑「……っ」
花丸さんの言うとおり、次は恐らく耐えられない。
「メェーー」
考えている間にも、ウールーは再び──パチパチパチと音を立てながら、静電気を蓄え始める。
もう時間がない……!
──そのときだった。──バチンと大きな音がしたと思ったら。
「メ…!?」
ウールーの体毛の先がチリチリと燃えていた。
「メ、メェェ!!!?」
花丸「!? こ、転がって火を消して!」
「メ、メェェ」
コロコロと転がりながら、ウールーが自分の毛に点いた火を消しにかかる。
花丸「……静電気がショートしちゃったずら」
もしかして、あのモコモコの体毛……すごい防御力を誇る代わりに──すごく燃えやすい……?
侑「なら……!! ワシボン!!」
「ワシャッ!!!」
侑「“はがねのつばさ”!!」
「ワッシャッ!!!!」
ワシボンが空中からきりもみ回転をしながら、急降下を始める。
花丸「上から来るなら、狙い撃つまで! “エレキボール”ずら!」
「メェェーーー!!!!」
ウールーから放たれる“エレキボール”。確かにウールーに一直線に突っ込んで行ったら、この攻撃を避けるのは難しい。でも、ワシボンが狙ってるのは……!
「ワッシャッ!!!!」
──急にギュンと角度を変え、ワシボンが地面に向かって突っ込む。
花丸「ずらっ!?」
花丸さんの驚きの声と共に、鋼鉄の翼がフィールドの床を砕く。
砕かれた反動で浮き上がった瓦礫をそのまま、
侑「瓦礫を羽で弾いて!!」
「ワッシャァッ!!!!」
──ウールーに向けて、撃ち放つ……!!
- 184 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:35:06.98 ID:waqA86PW0
-
侑「“がんせきふうじ”!!」
「メ、メェェェ!!!?」
花丸「し、しまった!?」
瓦礫に飲み込まれ、動きが封じられたウールー。
そして、ワシボンは、
「ワシャァッ!!!!!」
その場で、バサッと翼を大きく広げる。
そして、その翼を力強く羽ばたかせながら、送る風は──灼熱の風……!!
──ボゥッ!!
「メ、メェェェ!!!?!?」
ワシボンが覚える唯一のほのお技……!!
侑「ワシボン!! “ねっぷう”!!」
「ワッシャァァァァァ!!!!!!!!」
動けないままのウールーに、直撃した超高温の風は、“もふもふ”の体毛に引火する。
ウールーの毛は予想通り、とてつもなく燃えやすかったらしく、すぐに──ゴォォォォォ!! と音を立てながら、大きな火柱に成長し、
「メ、メェェェェェ!!!!!!」
ウールーを一気に灼熱の炎が飲み込んでいった。
体毛を燃料に、一瞬で焼き尽くされたウールーは、
「メ、ェェェ……」
体毛をぶすぶすと焦がされながら、戦闘不能になったのだった。
花丸「……戻って、ウールー」
侑「やったぁ! ワシボン! ナイスファイト!」
「ワシャ…」
ただ、ワシボンももう限界が近い。これ以上無理はさせられない……。
侑「ワシボン、よく頑張ったね……! ひとまずボールの中で休んで」
「ワ、ワシィ……」
ワシボンをボールに戻す。
あとは、
侑「イーブイ、行くよ!」
「ブィィッ!!!」
イーブイが、バトルフィールドに踊り出る。
花丸「2匹目はイーブイだね。マルの2匹目は……行け、カビゴン!!」
「カビーーー」
花丸さんの投げたボールから、現れた巨体は──ズンッ!! と重量感のある大きな音を立てながら、フィールドに降り立つ。
- 185 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:36:05.47 ID:waqA86PW0
-
侑「2匹目はカビゴン……!」
リナ『カビゴン いねむりポケモン 高さ:2.1m 重さ:460.0kg
1日に 食べ物を 400キロ 食べないと 気がすまない。
基本的に 食うか 寝るかしか していないが なにかの
きっかけで 本気を出すと 凄い パワーを 発揮するらしい。』
花丸「カビゴン! “のしかかり”!」
「カビーーー」
のっしのっしとカビゴンがイーブイの方へと向かってくる。
あんな巨体にのしかかられたら、イーブイが潰れちゃう……!
侑「……でも、あの遅さなら、十分逃げられるね! イーブイ!」
「ブイッ!」
イーブイはフィールドを走り出す。
「カビーー」
カビゴンは逃げるイーブイを追いかけては来るけど……すばしっこいイーブイにはまるで追い付けてない。
“のしかかり”を注意しながら戦うなら──
「ブイッ!!」
イーブイがちょこまかと走り回りながら、カビゴンの背後に回り込んだところで、
侑「“でんこうせっか”!!」
「ブイッ!!!」
飛び出す、高速突進。
上手にヒットアンドアウェイしながら、ダメージを稼いで……と思っていたけど、カビゴンに“でんこうせっか”が直撃した瞬間。
──ぼよ〜ん。
侑「……いっ!?」
「ブ、ブィィ!!!?」
イーブイはカビゴンの背中にめり込んだあと、元に戻る反動で跳ね返されて吹っ飛ばされてしまった。
リナ『体重差がありすぎて攻撃が通じてない……』 || >ᆷ< ||
侑「ち、直接攻撃じゃダメだ……!」
「ブ、ブィ」
イーブイは地面を転がりながら、すぐに体勢を立て直す。
ダメージこそ大したことはないものの、ぶつかり合っちゃダメだ……!
侑「“スピードスター”!!」
「ブイイーーー!!!!」
ピュンピュンと音を立てながら、星型のエネルギー弾がカビゴンを捉える。
- 186 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:38:39.67 ID:waqA86PW0
-
「カ、カビ……」
侑「よし、効いてる!! カビゴンも肉弾戦のポケモンだから、この作戦で──」
花丸「ふふ、侑ちゃん。思い込みは良くないずらよ」
侑「え……?」
花丸「カビゴン! “かえんほうしゃ”!!」
「カーーービィーーーーー!!!!!!」
カビゴンが急に灼熱の炎を噴き出した。
侑「嘘!?」
「ブ、ブィィ!!!?」
イーブイは驚きながらも、どうにか“かえんほうしゃ”を紙一重で回避する。
侑「ほのお技なんて使えるの!?」
花丸「“ハイドロポンプ”!!」
侑「!?」
「カーーービーーーーー!!!!!」
「ブ、ブィィィ!!!!?」
今度は大量の水がカビゴンの口から発射される。
度重なる予想外の攻撃に、今度は回避しきれず、イーブイに激しい水流が直撃し、吹っ飛ばされる。
「ブ、ブイ……」
侑「イーブイ!? 大丈夫!?」
「ブ、イ……」
リナ『だ、ダメージが大きい……このままじゃ』 || >ᆷ< ||
イーブイはどうにか、よろよろと立ち上がるものの、リナちゃんの言うとおり受けたダメージが大きい。
花丸「ポケモンバトルは知識が大事ずら」
侑「……?」
花丸「もし、侑ちゃんがカビゴンの覚える技がわかっていれば、対応が出来たかもしれない」
侑「そ、それは……」
花丸「このジム戦は最初から最後まで、知恵試しなんだよ」
花丸さんがスッと手を上にあげると──急に上の方から光が差し込んでくる。
どうやら、この部屋の上の方にある窓から日の光が差し込んで来ているようだ。
花丸「この技は……何かわかるかな?」
──空から差し込んできた光が……カビゴンに集まってる……?
侑「……っ! ……イーブイ、“でんこうせっか”!!」
「ブィィィ!!!!」
その場からイーブイが全力で飛び出す──と、同時に今の今までイーブイがいた場所に光線が降り注ぎ、床を焼く。
- 187 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:39:53.15 ID:waqA86PW0
-
リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「や、やっぱり、“ソーラービーム”を撃ってきた……っ」
花丸「ふふ、“ソーラービーム”のチャージだと気付けたのはさすがだね。でも、避けたのはいいけど──」
「カーービ」
花丸「焦ってカビゴンに近付いちゃったね」
侑「……っ!」
逃げる方向を指定する暇がなかったせいか、咄嗟に回避で使った“でんこうせっか”で皮肉にも──イーブイはカビゴンの目の前に躍り出てしまっていた。
そこはカビゴンの得意な肉弾戦の射程──
花丸「“メガトンパンチ”!!」
「カーーービ!!!!!!」
侑「“みきり”っ!!」
「ブィ!!!」
攻撃を間一髪で見切って躱せたものの──
「ブ、ブィィ……」
侑「な……」
気付けば、イーブイは捕まっていた──足を氷に取られる形で……。
花丸「“メガトンパンチ”をそのまま、“れいとうパンチ”に派生させたずら。イーブイが“みきり”を覚えるのは知ってたからね。ここぞというときに、使ってくると思ってたよ」
「ブ、ブィィ……」
──パキパキと音を立てながら、イーブイの足を取っている氷が侵食するように下半身……そして、上半身へと広がっていく。
花丸「イーブイは氷漬け。勝負あったずらね」
侑「……まだです。まだ、イーブイは戦闘不能になってません」
花丸「……そうだね。でも、氷漬けになったイーブイに反撃の術はないよ。ブースターだったら、違ったんだろうけど……」
侑「……いいえ。私のイーブイはまだ戦えます」
花丸「……?」
侑「私の“相棒”はまだ戦えます!! ね? イーブイ!!」
「ブイィィィィ!!!!!」
イーブイが雄たけびと共に──燃え上がる。
花丸「ずら!? イーブイが燃えてる!? そ、そんな技覚えるなんて話!?」
自身を捕える氷を溶かしながら──
花丸「……!? ま、まさか、“相棒わざ”!?」
侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
「ブゥゥゥゥィッ!!!!!!!!」
激しい炎を身に纏って、カビゴンに突撃する……!
「カ、カビィ!!?」
驚くカビゴンは、回避も防御もままならず、そのままイーブイは──カビゴンのお腹にめり込んでいく。
- 188 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:41:08.62 ID:waqA86PW0
-
「カ、カビィィィィィ!!!!!?」
花丸「や、柔らかいお腹に!?」
侑「さすがにこれだけ激しい炎を纏っていたら、大ダメージですよね!」
「ブィィィィィィ!!!!!!」
柔らかい体が仇となり、お腹を直接焼かれ、カビゴンが苦悶の声をあげる。
侑「イーブイッ!! このまま、押し切──」
花丸「“のしかかり”!」
「…カビッ!!!」
──ズゥン!
侑「!」
リナ『お、お腹のイーブイごと……前に倒れ込んだ』 || > _ <𝅝||
花丸「はぁ……さ、さすがに焦ったずら」
侑「…………」
花丸さんが、汗を拭いながら、私に話しかけてくる。
花丸「でも、これでイーブイは、じきに戦闘不能。どうする? ワシボンに交代する?」
侑「…………花丸さん」
花丸「なにかな」
侑「……ここは知識を試すジムなんですよね」
花丸「? そうだけど……」
侑「そんなジムのジムリーダーの花丸さんなら……知ってるんじゃないですか? ──こんな絶体絶命のピンチをチャンスに変えるイーブイの技を……!」
花丸「……? ……ま、さか!?」
花丸さんの視線が、カビゴンに引き戻される。それと同時に──
「カビッ」
カビゴンが一瞬、僅かに宙に浮いた気がした。
花丸「ま、まずい!? カビゴン、すぐに起き上がって!?」
侑「逆にその巨体、倒れ込んだら、すぐには起き上がれないですよね!」
「カビィッ!!!?」
今度は、完全に目に見えて、カビゴンが僅かに浮いた。
次の瞬間──
「ブゥゥゥゥイイイイ!!!!!!!」
カビゴンの下で“じたばた”と激しくもがくイーブイが、カビゴンの巨体を完全に浮き上がらせた。
リナ『これは、“じたばた”……!? ダメージを大きく受けているときほど、威力が上がるカウンター技!!』 || ? ᆷ ! ||
──“じたばた”攻撃で浮き上がらされたカビゴンはバランスを崩し、よろけながら後退る。そこに向かって、
侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
「ブゥゥゥゥゥィ!!!!!!」
- 189 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:42:19.42 ID:waqA86PW0
-
トドメの“相棒わざ”を無防備な頭部に叩きこむ。
「カビィィィ!!!?」
花丸「か、カビゴン!?」
大技の直撃により、カビゴンは吹っ飛ばされ、後ろに向かって転がりまくったのち、
「カ、ビィィィ……」
戦闘不能になり、大人しくなったのだった。
花丸「やられたずら……」
侑「……イーブイ!」
「ブィ!!!!」
名前を呼ぶと、イーブイが私の胸に飛び込んでくる、
侑「ありがとう!! 勝てたよ、私たち!」
「ブイブイッ!!!」
二人で喜びを分かち合っていると、
歩夢「侑ちゃん……!」
歩夢も駆け寄ってくる。
歩夢「侑ちゃん! すごかった! かっこよかったよ……!」
侑「うん!」
リナ『侑さん、すごい……私、もう絶対ダメだと思った』 || > _ <𝅝||
侑「あはは、イーブイのガッツのお陰でどうにか勝てたよ!」
「ブイッ!!」
リナ『最後まで諦めない心……すごく、勉強になった。リナちゃんボード「じーん」』 || 𝅝• _ • ||
仲間たちが労ってくれる中、
花丸「まさか、“相棒わざ”を覚えてるなんて……」
カビゴンをボールに戻した花丸さんも、会話に加わってくる。
侑「えっと、わかってたというか……花丸さんってノーマルタイプのエキスパートですよね?」
花丸「うん、見てのとおりノーマルタイプのジムリーダーずら」
侑「だから、同じノーマルタイプのイーブイの技もひととおりバレちゃってるかなって……。だからもし、意表を突くなら“相棒わざ”しかない! って……」
花丸「“れいとうパンチ”を待たれてたってことだね……」
侑「“れいとうパンチ”というか、こおり技ですけど……ほのお、みず、くさタイプといろいろ使って来てたので、こおり技もあるかもって!」
花丸「動きを止めるために選んだ“れいとうパンチ”が裏目に出たずらぁ……うぅん、そうじゃなくても“じたばた”はちゃんと意識しておくべきだったね……。焦って、頭から抜けちゃってたずら……まだまだ、修行が足りないね」
花丸さんは、自嘲気味に笑って、肩を竦めた。
花丸「……その知識と、勇気と、実力を認め、侑ちゃんをダリアジム公認トレーナーと認定します。この“スマイルバッジ”を受け取って欲しいずら」
侑「……はい!」
花丸さんから、丸い笑顔のマークのバッジを手渡される。
- 190 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:43:39.67 ID:waqA86PW0
-
侑「えっへへ♪ “スマイルバッジ”、ゲットだね!」
「ブブイー♪」
これで、2つ目のバッジゲット……! 一時は辿り着けるかどうかも怪しいと思っていたけど、こうしてジムにも勝利出来て一安心だ。
花丸「あ、そうそう……このジムに挑戦した人みんなにお願いしてるんだけど……マルがジムリーダーだってことは、外では言わないでね?」
侑「あ、はい!」
歩夢「わかりました」
リナ『リナちゃんボード「ガッテン」』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||
花丸「そういえば、侑ちゃん手持ちは2匹?」
侑「はい。……そろそろ、新しい手持ちが欲しいなーとは思ってるんですけど」
花丸「それなら、ダリアの南にある4番道路のドッグランに行くといいずら。あそこはいろんな種類のポケモンがいるからね」
リナ『ドッグランなら、どちらにしろコメコへの通り道だからちょうどいい』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||
侑「じゃあ、次は南を目指して出発だね♪ 行こう!」
「ブブイ」
歩夢「そ、その前に……!」
侑「ん?」
歩夢「今日は、宿に泊まらない……? もう、夕方だよ?」
歩夢が上を見上げる。釣られて私も見上げてみると、上にある窓から夕日が差し込み始めていた。
どうやら、先ほどまでの雨も、バトル中に上がっていたらしい。
歩夢「今から4番道路に向かったら、夜になっちゃうから……」
花丸「それなら、宿を紹介してあげるから、そこに行くといいずら」
侑「え、いいんですか!?」
花丸「今日一日、ここに辿り着くために、街中走り回ったでしょ? そのお詫びというか、労いということで、挑戦者には宿を紹介してるずら。はい、これ紹介状。ホテルの受付に見せれば泊めてもらえるから」
侑「そういうことなら、お言葉に甘えて……」
花丸さんから、紹介状を受け取る。
花丸「それじゃ、侑ちゃん。ジム巡り頑張ってね! マルは滅多に外に出ないけど、ここから応援してるずら」
侑「はい! 頑張ります!」
結局、一日がかりでの挑戦になったダリアジムだったけど、どうにかクリア出来たことに胸を撫で下ろしながら──疲れを癒すために、私たちは宿へと向かうのでした。
- 191 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/06(日) 14:44:13.88 ID:waqA86PW0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ダリアシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. ● . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.18 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.15 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
バッジ 2個 図鑑 見つけた数:29匹 捕まえた数:2匹
主人公 歩夢
手持ち ヒバニー♂ Lv.10 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.11 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:58匹 捕まえた数:10匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 192 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:27:37.54 ID:HEs2RhQZ0
-
■Chapter010 『コンテストの島』 【SIDE Shizuku】
「ミャァミャァ」「ミャァミャァミャァ」「ミャァ」
──水を切る音に紛れて、キャモメの鳴き声が聞こえる。
しずく「──ん……んぅ……」
ゆっくりと目を開けると──朝日を反射してキラキラと光りながら流れていく水面が視界に飛び込んできた。
寝起きでぼんやりする頭に酸素を送って、少しでも早く覚醒させるために、朝の深呼吸。
しずく「……すぅー……はぁ……」
「メソ…」
しずく「メッソン。おはよう」
「メソ…」
私の肩の上で小さく鳴くメッソンを撫でてあげると、満足したのか、メッソンはまた姿を隠してしまった。
早く慣れてくれるように、積極的にボールの外に出してはいるものの、やっぱりまだまだ臆病で、外の世界が怖いのかもしれない。
とはいえ、こうして私が目を覚ましたのに気付いて、朝の挨拶をしてくれたのは、大事な一歩だろう。
私はとりあえず、ボールと荷物を確認する。
しずく「マネネのボールも、ココガラのボールもある……っと」
バッグ共々、身の回りの持ち物に異常がないことを確認。ついでに、隣にいる人も確認する。
かすみ「……むにゃむにゃ……えへへ、かすみん……さいきょーれす……」
「ガゥ…zzz」
かすみさんもいる……っと。まだ、ゾロアと一緒にお休み中だ。
最低限の身の回りの確認は出来たので、今度は私たちの前で座ったまま、私たちを送ってくれている方へ朝の挨拶です。
しずく「曜さん、おはようございます」
曜「お、しずくちゃん、起きたんだね」
しずく「あの……もしかして、曜さん徹夜ですか?」
曜「ラプラスに任せても問題ないんだけど……二人を送り届ける間に何かあったら困るから、一応ね」
しずく「すみません……ご迷惑をお掛けしてしまって……」
曜「むしろ、謝らなきゃいけないのはこっちだって! 二人を危ない目に合わせちゃったしさ……。マンタインサーフ、やっぱりもうちょっと安全性を考えて調整しないといけなさそうだね……あはは」
「タイーン」「マンタイーン」
私たちが乗せてもらっているラプラスの横には、並んで泳いでいる2匹のマンタインの姿。
昨日私たちをサーフで運んでくれていた子たちです。
──昨夜はあの後、ラプラスで沖まで来てくれた曜さんと合流し、フソウ島まで送ってもらうことになった。
その道中、私とかすみさんは、疲れ切っていたのもあって、気付けばラプラスの背の上で眠ってしまっていたというわけだ。
しずく「ラプラスも、ありがとうございます」
「キュゥ〜〜♪」
曜「乗り心地良いでしょ? 自慢の相棒なんだ♪」
「キュゥ♪」
しずく「はい、お陰様でぐっすりでした……あはは」
- 193 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:28:42.33 ID:HEs2RhQZ0
-
本当にあまりに熟睡しすぎてしまったくらいで、少し恥ずかしい。
曜「それなら、何よりだよ。このまま無事に二人のことを送り届けられそうだしね」
曜さんはそう言いながら、前方を指差す。その先には──
しずく「! かすみさん、起きて!」
かすみ「……ふぇ……? ……かすみんのサインはじゅんばんに……」
「…ガゥ?」
しずく「寝ぼけてる場合じゃなくて! 見て!」
かすみ「……んぇ? ……わ!」
しずく「見えてきたね……!」
かすみ「フソウ島!」
「ガゥ、ガゥッ♪」
噂に聞くリゾート島、フソウ島の到着が迫ってきていた。
曜「じゃあ、二人も起きたしラストスパート! 飛ばすよ、ラプラス!」
「キュゥ〜〜〜♪」
波に揺られて、目的地まであと少し……。
💧 💧 💧
かすみ「到着ぅ! ああ、久しぶりに陸に降り立った気がしますぅ♪」
「ガゥ♪」
しずく「久しぶりって、1日も経ってないよ……」
上陸したのも束の間、テンション高めに飛び跳ねるかすみさんを見て、肩を竦める。
曜「まあ、普通の人は半日以上海上で過ごすことも滅多にないだろうからね」
かすみ「そういうことです!」
「ガゥッ!!」
曜「うんうん、かすみちゃんが元気そうで曜ちゃん先輩は嬉しいよ」
しずく「曜さん、ここまで送っていただいて、ありがとうございました」
曜「うぅん、二人に大事なくてよかったよ」
かすみ「かすみんたち、危うく冥界に連れてかれるところでしたからね……」
「ガゥゥ…」
曜「私は見たことがなかったんだけど、確かに昔からゴーストシップの噂はあったんだよね……。一応、私からリーグに報告しておくよ。あまり人が近寄らないようにしてもらわないと」
しずく「お手数ですが、よろしくお願いします」
曜「うん、任せて♪ これもジムリーダーのお仕事……ん?」
曜さんは取り出したポケギアを見て、画面を凝視したあと、少し眉を顰めた。
しずく「曜さん……? どうか、されたんですか?」
曜「ああいや、リーグに連絡しようと思ったら、そのリーグの方からちょうどメールが届いてびっくりしただけ」
そう言いながら、曜さんは再びラプラスに飛び乗る。
- 194 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:29:47.05 ID:HEs2RhQZ0
-
かすみ「あれ? 曜先輩、フソウタウンには行かないんですか?」
曜「うん。私は用事が出来たから、一旦セキレイに戻るよ」
しずく「い、一旦休まれた方が……」
曜さん、私たちのために徹夜までしてくれたのに、これから用事だなんて……。
私の心配が顔に出ていたのか、
曜「ありがと、しずくちゃん。でも帰りは一人だし、サニーまではラプラスに任せてお昼寝するから大丈夫だよ♪ お願いね、ラプラス」
「キュゥ♪」
曜さんはそんな言葉を返しながら、私にウインクしてくる。
しずく「そうですか……ですが、どうかご無理はなさらないでくださいね」
曜「了解♪ それじゃ、ラプラス! 全速前進ヨーソロー♪」
「キュゥ〜♪」
曜さんを乗せたラプラスは再び海を進み始める。
かすみ「曜せんぱ〜い、ありがとうございました〜♪」
しずく「道中、お気を付けてくださーい!」
曜「ありがとー! 二人とも〜! 良い旅を〜!」
手を振りながら、海を駆ける曜さんを見送ったあと、
かすみ「それじゃ私たちも行こっか、しず子」
しずく「うん、そうだね」
私たちもフソウタウンへと歩を進める。
かすみ「いやぁ……曜先輩に会えてラッキーだったね。なんだかんだ、ここまで送ってもらえたし」
「ガゥ♪」
しずく「ふふ、そうだね」
かすみ「これもかすみんの日頃の行いのなまものだよね〜♪」
「ガゥ…?」
しずく「……賜物ね」
そう言う割に幽霊船と出会うなんて、よほどアンラッキーな気もしなくはないけど……とりあえず、黙っておくことにする。
しずく「そういえば……かすみさん、よかったの?」
かすみ「え? 何が?」
しずく「せっかく、曜さんに会えたのに、ジム戦のお願いとかしなかったけど……」
かすみ「…………あ!? ……か、完全に忘れてた……!?」
「ガゥゥ?」
しずく「……まあ、そんなことだろうと思ってたけど」
かすみ「曜せんぱ〜い!? 待ってくださーい!! かすみんと、かすみんとジム戦だけしてくださ〜い!! 曜先輩〜!?」
「ガゥ…」
しずく「はぁ……私たちは、早く町の方に行こっか」
「メソ…」
海に向かって叫ぶかすみさんに半ば呆れながら、私はさっさと町の方へと歩いて行くのだった。
- 195 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:30:56.78 ID:HEs2RhQZ0
-
💧 💧 💧
──フソウタウンは、オトノキ地方でも最大規模を誇るコンテスト施設がある町だ。
頂点のポケモンコーディネーターを決める大会“グランドフェスティバル”もこの町で開催される。
この町には、ポケモンジムのようなバトル施設がない代わりに、コンテストを中心とした観光産業を主としていて、特別な催し事のある日でなくとも、あちらこちらに出店が立ち並んでいて、今日もたくさんの人で賑わっている。
そして──
かすみ「見て見てしず子! “バニプッチパフェ”! 買っちゃった♪ めちゃくちゃ可愛くない!?」
「ガゥガゥ♪」
しずく「う、うん……」
絶賛、賑わっている人がここにも。
かすみ「って、あーー!? あれ、“ハートスイーツ”だよ、しず子!! あっ! 見て見て!! あそこに売ってる飴細工もめっちゃくちゃ可愛い! ちょっと買ってくる!!」
「ガゥッ」
しずく「か、かすみさん、そんなに買ったらおこづかいが……あ、行っちゃった……」
さっきから、気になる出店を見つけるたびに、かすみさんが買いに走っているせいか、なかなか前に進めていない。
しずく「コンテスト大会まではもう少し時間があるから、別にいいんだけど……」
今日開催される、うつくしさ大会のウルトラランクを見たいと思っているから、間に合うようにはしたいけど……恐らく開催時間の前に、かすみさんの財布が先に限界を迎える気がするし……。
かすみ「しず子〜! “ハートスイーツ”ゲットしたよ〜♪」
しずく「あ、戻ってきた……」
かすみ「フソウタウン最高かも! かすみんの好きな感じの可愛いスイーツがたっくさんあって幸せぇ〜♪」
「ガゥガゥ♪」
かすみ「ゾロアも嬉しいよね〜♪ はい、“オレンアイス”あげるね♪」
「ガゥ♪」
かすみ「しず子は何も買わないの?」
しずく「え? うーん……」
これだけ出店が立ち並んでいると、食べ歩きをしたくなる気持ちはわかるんだけど……。恐らく、ここで尽きるであろう、かすみさんの旅の資金を補うのは、私のおこづかいからだろうし……少し躊躇する。
かすみ「せっかく、フソウタウンまで来たんだから、しず子も楽しまないと!」
「ガゥッ♪」
逆に楽しみを消費する速度が速過ぎて心配なんだけど……。でも、かすみさんの言うとおり、せっかくそういう町に来ているわけだし、少しくらいは見ていってもいいのかもしれない。
しずく「メッソン、何か欲しいのある?」
「メソ…」
肩に乗っているメッソンに訊ねると──スゥッと姿を現して、
「メソ…」
小さな手で派手な看板たちに隠れた、味のある看板のお店を指差す。
- 196 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:32:30.52 ID:HEs2RhQZ0
-
しずく「えっと、向こうにあるのは……。……! も、“もりのヨウカン”……!?」
「メソ…」
かすみ「えー? ヨウカン? 地味じゃない?」
しずく「何言ってるの!? シンオウ地方ハクタイシティの隠れた名物なんだよ! 一度食べてみたいと思っていたけど、こんなところで巡り合えるなんて……!」
かすみ「お、おぉう……そういえば、しず子って和菓子好きなんだっけ……?」
しずく「うん! 買ってくるね!」
「メソ…」
💧 💧 💧
──町の中央まで来て、今は噴水広場のベンチに腰掛けている。
しずく「んー……おいしい♪」
そして、早速“もりのヨウカン”を食べている。
初めて頂く“もりのヨウカン”は、上品な甘さとなめらかな舌触りが口いっぱいに広がって、幸せな気持ちになる。
かすみ「そんなにおいしいの?」
しずく「かすみさんも一口食べてみる?」
かすみ「うん!」
黒文字(菓子楊枝)を使って、一口大に切ってから、
しずく「はい、あーん」
かすみ「あーん♪」
かすみさんにおすそ分け。
かすみ「あむっ。もぐもぐ……」
しずく「どう?」
かすみ「こ、これは……! おいしい……!」
しずく「でしょでしょ! 糖分のべた付きを感じさせない滑らかな舌触りなのに、それでいて餡子の自然な甘味がしっかりと活きている……まさに至高の逸品だよね……」
かすみ「め、めっちゃ語るじゃん、しず子……」
しずく「メッソンもお食べ」
「メソ…」
メッソンの口元に運んであげると、小さな口で“もりのヨウカン”をもしゃもしゃと食べ始める。
しずく「おいしい?」
「メソ…♪」
しずく「あ、笑った♪」
「メソ…♪」
メッソンは凄く臆病で、いつも泣きそうにしているから、こうして笑ってくれるだけでなんだか嬉しくなる。
しずく「まだあるから、またあとで残りも食べようね♪」
「メソ…♪」
かすみ「それにしても、すごい町だね。……あむっ」
- 197 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:34:33.82 ID:HEs2RhQZ0
-
かすみさんが“バニプッチパフェ”を頬張りながら、辺りを見渡す。
かすみ「まだ午前中なのに、すごい賑わい。今日ってお祭りなの?」
しずく「聞いた話だと、一年中こういう感じらしいよ。今日はウルトラランクの開催日だから、その中でも特に活発な日だとは思うけど」
かすみ「ふーん……セキレイの賑やかさとは雰囲気が違うけど、かすみん的にはこういうお祭りっぽいのは大好物なんだよね♪ はい、しず子、お返し。口開けて♪」
しずく「……あむっ」
かすみ「どう? “バニプッチパフェ”は」
しずく「ふふっ、パフェもおいしいね」
かすみ「でしょでしょ! おいしいだけじゃなくて、見て可愛いのもポイント高いんですよねぇ♪」
「ガゥガゥ!!!」
かすみ「はいはい、ゾロアにもあげるから。あーん」
「ガーゥ♪」
かすみ「そういえば、しず子……行きたい場所があるんだったよね? コンテスト会場だっけ」
しずく「うん」
かすみ「それって、どこにあるの?」
しずく「ああ、それなら……」
私は振り返る。
かすみ「……噴水?」
しずく「じゃなくて……その奥。噴水がコンテスト会場なわけないでしょ……」
確かに噴水広場の噴水前のベンチだから、振り返ったらすぐそこに噴水はあるけども……。
──噴水のさらに向こう側にそびえる建物を指差す。
恐らく、この町において、最大の建造物に当たるであろう。フソウのコンテスト会場が鎮座している。
かすみ「え、あれ、コンテスト会場なの……!? セキレイのよりも遥かに大きい……」
しずく「オトノキ地方、最大規模のコンテスト会場だからね」
かすみ「何か他の競技場みたいなものかと思ってた……」
確かにかすみさんが驚くのも無理はない。
セキレイ会場もかなりの広さだけど、フソウ会場はその比ではなく、下手したら倍以上の大きさがある。
最大の収容人数、最大の演出設備等を誇り、同時にこの地方で最大のステージ舞台を擁する巨大施設なのだ。
しずく「確か、中にはスタッフやコンテストクイーンのために居住スペースもあったんじゃないかな……?」
かすみ「マジ!? かすみんもあそこに住みたい!」
しずく「なら、コンテストクイーンにならないとね……あ、ただ、今のコンテストクイーンはことりさんで、ことりさんはウテナシティのポケモンリーグで生活してるから、一般開放されてたはず……」
かすみ「え、じゃあ今がチャンスじゃん!」
しずく「……いや、一般開放って自由に住んでいいってわけじゃないからね? 見学出来るだけだよ」
かすみ「えー……なんだぁ……」
かすみさんは、がっくりと項垂れているけど……歴代のコンテストクイーンが代々利用してきた部屋を見られるのって結構すごいことなんだけどな……。
確か、一般開放に当たっていろいろ展示物もあるらしいし……せっかくだし、後で見に行きたい。
そんなことをぼんやり考えていると──
かすみ「ねぇ、しず子……」
かすみさんが袖を引っ張りながら、小声で話しかけてくる。
- 198 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:35:46.46 ID:HEs2RhQZ0
-
しずく「何?」
かすみ「あの人……なんか変じゃない?」
しずく「あの人……?」
かすみさんの視線を追うと──サングラスを掛けて、マスクと深めの帽子に、長めのコートを羽織ったお姉さんの姿。
しずく「変というか……」
一周して、変装しているのがバレバレな気がする。
しずく「有名なコーディネーターさんなのかな……?」
コーディネーターは人によっては人気すぎて、会場に辿り着けずに失格になるなんて事態が発生することがあるらしい。
だから、コンテストクイーンは会場内に居住区を持っているなんて噂さえあるくらいで……。
しずく「たぶん、変装してるんだと思うよ」
かすみ「いや、服装のことじゃなくて……」
しずく「?」
言われてもう一度、彼女に視線を戻すと──
「…………? …………」
何度も、手元の端末らしきものを確認しては、キョロキョロと辺りを伺い、また確認に戻って、また辺りを見回す。そんな行動を繰り返している。
あの端末……確か、ポケナビだっけ? 地図や通話機能を持っている端末だったはず……。
しずく「もしかして……道に迷ってる……?」
かすみ「そんなわけないでしょ……この島、港からここまで一本しか道なかったよ?」
しずく「確かに……。……ま、まさか……!」
かすみ「まさか……?」
しずく「密売人……とか……!」
かすみ「えぇ!?」
しずく「わざわざ島まで足を運んで、しきりに端末を確認している……いかにもだと思わない……?」
かすみ「い、いや……あんな目立つ場所で確認しなくても……」
しずく「それがカモフラージュなんだよ! 木を隠すなら森の中って言うように、人を隠すなら人の中! むしろ堂々としてる方が見つからないんだって!」
かすみ「じゃあ、なんで変装してるの!? 矛盾してない!?」
しずく「きっと、あのコートの下にいろんな秘密兵器が──」
お姉さん「──貴方たち、ちょっといいかしら?」
しずく・かすみ「「!?」」
気付いたら、怪しいお姉さんが目の前で、ベンチに座っている私たちを見下ろしていた。
しずく「な、ななな、なんですか……!?」
動揺で声が上ずる。ま、まさか今の会話を聞かれていて、私たち、消され……!?
- 199 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:38:31.54 ID:HEs2RhQZ0
-
お姉さん「コンテスト会場って……どっちかしら」
しずく「……へ?」
お姉さん「道に迷っちゃったみたいで……」
かすみ「…………」
かすみさんが隣でジト目をしているのが、見なくてもわかった。
しずく「え、えっと……会場ならすぐそこに……」
背後の建物を指差す。
お姉さん「あ、あらやだ……あれだったのね。……ごめんなさい、助かったわ」
しずく「い、いえ……」
お姉さん「貴方たちは観光に来たのかしら?」
しずく「は、はい……コンテストの観覧に」
お姉さん「あら……だったら、この後のウルトラランク、楽しみにしていてね♪」
お姉さんはそう残して、会場の方へ去って行った。
かすみ「…………」
しずく「…………」
かすみ「……で、誰が密売人だって?」
しずく「か、かすみさんだって、迷子はありえないって言ってたでしょ!?」
かすみ「密売人の方がありえないでしょ! しず子の妄想、途中で無理あるって自分で気付かなかったの!?」
しずく「ぅ……ごめん……」
かすみ「……はぁ、しず子ってたまに暴走するよね。そういうとこ、嫌いじゃないけどさ……」
ああ、恥ずかしい……。たまに、自分の中で妄想が膨らみ過ぎちゃうことがある。かすみさんはこうして理解してくれているからいいものの……今は旅の真っ最中だし、もう少し自重しなきゃ……。
それにしても……。
しずく「あの人の声……どこかで聞いたことあるような……」
かすみ「あれ、しず子も?」
しずく「え? かすみさんも?」
かすみ「うん」
しずく「私たちも声を知っているくらいの有名人ってことかな……?」
かすみ「……かも」
──まあ、その真相を知るなら、お姉さんの言っていたとおり、
しずく「……会場、そろそろ行こうか」
かすみ「あ、うん。ゾロア、行くよ」
「ガゥ」
ウルトラランク大会を見ればわかるってことだよね……?
- 200 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:41:44.32 ID:HEs2RhQZ0
-
💧 💧 💧
司会『──レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、コンテストの聖地、ここフソウタウンにて繰り広げられる、最もうつくしいポケモンを決めるコンテスト……フソウうつくしさコンテスト・ウルトラランクのお時間です!!』
暗い舞台にスポットライトが灯り、眼鏡を掛けた司会のお姉さんの口上と共に、コンテスト大会がスタートした。
この旅で一番楽しみにしていたことの一つが、今目の前で始まったんだと思うと、ドキドキしてくる。
司会『さて、早速出場ポケモンとコーディネーターの紹介です! エントリーNo.1……ニャルマー&優理!』
歓声と共に現れるコーディネーターと、そのポケモンのニャルマー。
かすみ「わぁ♪ 見て、しず子! あのニャルマーお洋服着てるよ! 可愛い!」
しずく「コンテストの一次審査はビジュアル審査だからね。ああいう風に着飾るコーディネーターさんが多いんだよ」
かすみ「なるほど……」
司会『エントリーNo.2……キリキザン&イザベラ!』
次に現れたキリキザンは、全身研ぎ澄まされた鋼鉄のボディを輝かせながらの入場。
しずく「あのキリキザン……全身の光沢がすごい。磨き抜かれていますね」
かすみ「確かに綺麗だけど……可愛くはないかなぁ」
しずく「あはは……」
うつくしさコンテストだから、可愛くなくてもいいんだけどね……。
司会『エントリーNo.3……ニンフィア&凪!』
3番目に現れたニンフィアは、ひらひらのドレスを身に纏っての登場だ。
かすみ「かっわいいっ!! しず子!! あのお洋服着たニンフィア、すっごい可愛い!!」
しずく「う、うん、わかったから、あんまり騒ぎすぎないでね……?」
私の希望で、ここに来ているはずなのに、かすみさんの方がテンションが高い気がする。
いや、楽しんでくれているなら、全然構わないんだけど。
司会『エントリーNo.4……キュウコン&果林!』
そして、最後のポケモンとコーディネーターが登壇する──と同時に、一気に歓声が大きくなる。
しずく「……あ」
そして私たちも彼女の姿を一目見ただけで思い出す。
しずく「あの人、さっきの……!」
かすみ「え!? テレビとかでよく見るモデルの……!?」
私たちが先ほど会場の外で出会った人のあの声は、テレビやCMで何度も聞いたことのある声だった。
彼女は──
司会『お、おおーっとぉ!! 割れんばかりの歓声です! さすがカリスマモデル……! ただし、これはポケモンコンテスト! キュウコンのうつくしさを見てあげてくださいね!』
- 201 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:43:50.57 ID:HEs2RhQZ0
-
しずく「──カリスマモデルの、果林さん……」
彼女は今やカリスマモデルとして、あちこち引っ張りだこの人気者──果林さんだった。
私が夢見ている、表の舞台に立つ人。もちろん、女優とモデルでは少し違うけど……それでも、人前に立ち、自分を表現する人間。
いや、それだけじゃない、
かすみ「あのキュウコン……きれい……」
しずく「うん……」
着飾られたアクセサリーはワンポイントの帽子だけで──とは言っても、帽子も意匠を凝らした物を被っている──少し寂しいようにも見えるけど……それを感じさせないくらいに、全身のきめ細かい黄金の体毛が光を反射してきらきらと輝いている。
キュウコン自体は何度か見たことがあったけど、今まで見たキュウコンとは毛並みが根本的に違う。
もはや、別のポケモンにすら見えてくる。
しずく「……あの毛並みを殺さないために、必要以上に着飾らないようにしてる……」
着飾ることを生業にしているはずの彼女が、ポケモンを魅せるために、自分が普段行っていることとは逆の手法で、キュウコンの魅力を引き出している。
あの人は恐らく、根本的に“魅せることが何か”を理解している。
その証拠に、
かすみ「…………すごい」
先ほどまで、大はしゃぎで、ニャルマーやニンフィアを可愛い可愛いと褒めちぎっていたかすみさんが、キュウコンの“うつくしさ”に魅了されている。
しずく「──そっか……表現をどう魅せるか考えることに、人も、ポケモンも、関係ないんだ……」
これは果林さんの──プロの世界の表現を見ることが出来るまたとないチャンス。
私はこのステージを、しっかりとこの目に焼き付けなくてはいけない。そう直感した。
司会『さあ、それでは一次審査を開始します! 皆さんお手元にペンライトの準備はよろしいでしょうか──』
💧 💧 💧
しずく「…………」
かすみ「……なんか、すごかったね」
前方のメインスクリーンに目を向けると──エントリーNo.4のキュウコン&果林の審査メーターだけが飛び抜けていた。
誰もが認める、キュウコンと果林さんの完全勝利。会場全てが彼女たちのうつくしさに魅了されていた。……それはもう、圧倒的だった。
仮にもこの大会はウルトラランクだと言うのに……。
かすみ「なんか、ポケモンからしてレベルが違ったって感じがしたよね……あのキラキラした毛並み、反則級だったかも」
しずく「……うぅん、そうじゃない」
かすみ「え?」
私はずっと、果林さんとキュウコンを観察していた。そのときに、気付いたことがあった。
──あのキュウコンの毛並み、輝きすぎている、と。もちろん、普段からの手入れも最上級に拘っているんだろうけど……。
- 202 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:45:35.72 ID:HEs2RhQZ0
-
しずく「私の気のせいじゃなければ……会場の照明の位置から、どこに立てばキュウコンの毛並みが最も綺麗に輝くかを計算しながら演技をしていた……」
かすみ「え、う、うそ……?」
私も自分で演劇で舞台に立つ際に、考えることはある。自分の衣装が最も映える照明の角度。何度も他の演者と調整しながら、一番良い場所を探って行くのだが……コンテストライブの照明は、もちろんコンテスト主催側の裁量でしかない。
その癖を一瞬で見抜いて、自分たちが一番輝ける場所を探り当てていたとでも言うのだろうか。
しずく「それだけじゃない……カメラが自分たちに向いたら、一瞬でカメラに目線を向けていた……キュウコンも、果林さんも……」
一次審査も二次審査もずっと、一瞬たりとも気を抜かず、動く照明、動かない照明、自分たちを捉えるカメラ、それら全てを意識しながら、圧倒的なパフォーマンスをこなす。
そんなことが、本当に可能なのか……? どれだけの研鑽を積めば、あんなことが──
しずく「あれが、プロの世界……カリスマモデル・果林さんたちの表現……」
侮ってはいなかったつもりだ。自分も舞台に立つ一人の表現者として、アーティストとして、戦える物を持っている気がしていた。
でも、それは思い上がりだった。果林さんとキュウコンの演技は……私の表現とは比べ物にならない、遥か遠くに感じるくらいレベルが高かった。
観客1「──今、エントランスホールに果林さん、いるらしいよ!」
観客2「ホントに!? 私、アクセサリー贈りたい!」
観客1「行こう行こう!」
しずく「……!」
どうやら、今なら彼女と話が出来るらしい。
しずく「行かなきゃ……!」
かすみ「あ、しず子!?」
突き動かされるように、私はライブ会場を飛び出した。
💧 💧 💧
──エントランスホールは、人でごった返していた。
キャーキャーと響く、黄色い歓声──恐らくこの先に、果林さんがいる。
しずく「……と、通して……ください……!」
人込みの中を無理やりかき分けながら、前に進む。
普段なら、こんな強引なことは滅多にしない。でも私は、今あの人と話がしたい。
ファン1「果林さん! わたしのアクセサリー受け取ってください!」
ファン2「ち、ちょっとずるい! 私のアクセサリーを……!」
果林「待って待って、順番に……」
しずく「果林さん……!!」
果林「だから、順番に──あら……? 貴方……さっき、外で」
しずく「……!」
果林さんの視線が私に向く。チャンスだと思った。
- 203 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:46:53.29 ID:HEs2RhQZ0
-
果林「さっきは会場を教えてくれてありがとう。お陰で助かったわ」
しずく「あ、あの!!」
自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。
しずく「どうすれば、果林さんみたいなパフォーマンスが出来るようになりますか……!?」
果林「あら……そんなに私のパフォーマンス、よかったって思ってくれたのね」
しずく「はい……! 見ていて、私もあんなパフォーマンが、演技が出来るようになりたいって思って……私……!」
必死に自分の言葉を紡ぐ私に、
女の子「はぁ……貴方、おこがましいですよ」
急に傍にいた、黒髪の女の子がイライラしたような口調で噛み付いてくる。
しずく「え……あ、えっと……」
女の子「果林さんが素晴らしいのは当たり前です。日々、血の滲むようなトレーニングや研究を積み重ねて、この場に臨んでる。そんな果林さんのようになりたい? 簡単に言ってくれますね」
しずく「ご、ごめんなさい……」
果林「こら、ケンカしちゃダメでしょ?」
女の子「で、ですが……」
果林「ダメでしょ?」
女の子「す、すみません……」
果林さんが窘めると、その子は急に大人しくなる。
しずく「あの、ごめんなさい……私……」
果林「ふふ、いいのよ。貴方も私のパフォーマンスに魅了されちゃっただけだものね」
しずく「果林さん……」
果林「憧れてくれて光栄だわ。……そうね、もし私みたいに、なりたいって思うのなら」
しずく「なら……?」
果林「舞台に立つときは、自分が今何を求められていて、今の自分に必要な役割を考えて……その上で出せる最高の自分を演じてみると、いいんじゃないかしら?」
しずく「自分の役割と……その上で最高の自分を演じる……」
果林「役割を理解していれば自ずとチャンスは巡ってくる。チャンスが巡ってきたらそのときは──今、私がこの舞台で一番輝いてるって、胸を張ってパフォーマンスをする……ね?」
しずく「は、はい……!」
女の子「そろそろいいでしょうか?」
気付けば、先ほどの女の子が私を静かに見つめていた。
しずく「す、すみません……!」
確かに、これだけのファンに囲まれている中で、私だけがいっぱい話しかけていたら、不満もあるだろう。
私は、果林さんに一礼してから、その場を撤退しようとしたその背中に、
果林「貴方、名前は?」
しずく「……! し、しずくです!」
果林「しずくちゃんね。覚えておくわ。頑張ってね♪」
しずく「は、はい……!///」
- 204 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:47:32.78 ID:HEs2RhQZ0
-
思わぬ激励を貰って、胸がドキドキする。
最後にさっきの女の子から、さらに強い視線を背中に受けた気がするけど……なんだか、どうでもよくなってしまった。
どうにか人込みから抜け出すと、かすみさんがニヤニヤしていた。
かすみ「一発目から、推しに認知されるなんて……しず子、やるじゃん」
しずく「認知って……そういうんじゃ……///」
かすみ「よかったね、しず子♪」
しずく「……うん///」
かすみ「あと、さっきの子……あんまり気にしなくてもいいと思うよ」
しずく「え?」
かすみ「しず子を待ってる間に周りのファンの子に聞いたんだけど……あの人、果林先輩が無名だった時代からのファンらしいよ。いわゆる古参ファンってやつ」
しずく「そうなんだ……」
言われてみれば、果林さんも少し砕けた感じに接していた気がする。
確かに、昔からのファンからしたら、新たに現れた人が急に「果林さんみたいになりたい」なんて言い出したら生意気だと思われても仕方ないか……。
かすみ「もういいの?」
しずく「うん……聞きたいことは聞けたから。それに、ずっとこの人込みの中にいるの大変だったでしょ? 待たせてごめんね、かすみさん」
かすみ「うぅん、全然大丈夫だよ。じゃあ、行こっか」
私はかすみさんに手を引かれて、人込みを縫うようにして、会場を後にする。
しずく「──自分を……演じる」
さっき貰った言葉を何度も反芻しながら──
- 205 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/07(月) 12:48:37.94 ID:HEs2RhQZ0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【フソウタウン】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| ● ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 しずく
手持ち メッソン♂ Lv.9 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.9 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
ココガラ♀ Lv.9 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:69匹 捕まえた数:3匹
主人公 かすみ
手持ち キモリ♂ Lv.10 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.12 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.8 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:59匹 捕まえた数:4匹
しずくと かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 206 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:22:50.08 ID:YYNh6Lpr0
-
■Chapter011 『フソウエレクトリカルパニック』 【SIDE Shizuku】
かすみ「しず子、この後はどうする?」
コンテストの観覧も終わり、ひとまず私の目的は達成されたことになる。
今のところ、次の目的みたいなものは特別設定していないけど……。
しずく「とりあえず、今日泊まる場所を探しちゃった方がいいかなって思うんだけど……」
かすみ「あー……確かにそれもそっか」
ただ、かすみさんはチラチラと出店の方に視線を送っている。
しずく「まだ出店を見たいなら、かすみさんは見ていてもいいよ。ホテルは私が探しておくから」
かすみ「え、いいの!?」
しずく「うん。コンテストには付き合ってもらったし、フソウに来たかったのは私の都合だから、宿泊先を探すくらいはしなくちゃ」
かすみ「じゃ、お言葉に甘えて……行くよ、ゾロア!」
「ガゥガゥ!!」
しずく「あんまり、お金使すぎないようにね〜」
かすみさんを見送り、私はホテルを探すために、ポケモン図鑑を開く。
しずく「……あれ?」
しかし、何故かマップアプリを開いてもなかなか地図が表示されない。しばらくして、通信エラーと出てしまった。
しずく「電波の調子が悪いのかな……?」
仕方ないと思い、近くのマップを表示している電光掲示板を探す。
ここは中央広場だし、探せばあるはずだ。キョロキョロと辺りを見回すと──予想通り、電光掲示板はすぐに見つかった。
近寄って、近くのホテルの位置を確認しようとする。
しずく「……?」
……確かに、地図は表示されている。問題はないと言えばないのだが……。
しずく「何か……表示がおかしいような……?」
建物の名前の表示が、文字化けしていて読むことが出来ない状態になっていた。
しずく「故障かな……?」
少し悩んだものの、フソウ島は観光地な上、大きな島ではないし、時間帯的にはまだ日中だ。
無理に地図を使わなくても、ホテルを見つけることは出来るだろうと思い、足で探すことにする。
しずく「良いお散歩にもなるしね。マネネ、ココガラ、出ておいで」
「マネッ!!」「ピピピピィ」
ついでに、みんなと一緒にお散歩しようと、マネネとココガラも外に出してあげる。
しずく「みんな、お散歩しながら、今日泊まるホテルを探そう」
「マネ!!」「ピピピィッ」
- 207 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:24:17.12 ID:YYNh6Lpr0
-
元気に鳴く2匹。そして、すでにボールから出て私の肩に乗っていたメッソンが──スゥッと姿を現して、
「メソッ」
ぴょんと跳ねて、地面に降りた。
しずく「メッソンもお散歩する?」
「メソ」
メッソンはコクンと頷いて、とてとてと歩き出す。
「マネ、マネネ♪」「メッソ」「ピピピィ♪」
やっと外や仲間たちにも慣れてきてくれたのかもしれない。
しずく「ふふ♪」
私は微笑ましく思いながら、みんなと散歩をし始めた。
👑 👑 👑
かすみ「……むー」
破れたポイを見つめて唸る。
かすみ「おじさん、この『トサキントすくい』、ホントにすくえるんですかぁ……? インチキとかしてないですよね……?」
おじさん「ははは、残念だったね嬢ちゃん。でも、ずるとかはしてないよ」
かすみ「ホントですかぁ……?」
おじさん「カントー地方には名人がいるらしくてね、それと同じポイで全部すくっちまうらしいよ」
かすみ「へー……」
世の中すごい人がいるんですね……。
かすみ「まあ、いいです。気を取り直して、次の屋台に行きましょう!」
「キャモ」「ガゥ」「ザグマァ」
ポケモンたちを従えて屋台を回る。フソウの大通りの屋台は、食べ物屋さんだけじゃなくて、縁日みたいな遊びもたくさんあって、お祭り気分に浸れます。
何を隠そう、かすみんお祭りは大好きですからね! セキレイでも、年に一度6番道路の河原で花火大会があって、そこの縁日でたくさん遊んだ記憶があります。
屋台のおじさん「そこの可愛いお嬢ちゃん、『アーボわなげ』やっていかないかい?」
かすみ「えぇ〜? 可愛いって、もしかしてかすみんのことですかぁ〜? どうしよっかなぁ〜♪」
それに屋台のおじさんは、かすみんのこと、たくさん可愛いって言ってくれるから好きです♡
でも、『アーボわなげ』かぁ……。ぴょこぴょこ出てくるディグタに向かって、輪になったアーボを投げるゲームですよね。
歩夢先輩が好きそうだけど……かすみん的にはちょっと疲れちゃいそうだからなぁ……。
かすみ「ごめんなさい、今はちょっと他のを見て回りたいんで〜」
屋台のおじさん「そうかい、また気が向いたら来てくれよお嬢ちゃん!」
かすみ「は〜い♪」
- 208 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:27:03.87 ID:YYNh6Lpr0
-
おじさんに手をふりふりしながら、『アーボわなげ』の屋台を通り過ぎる。
なんだかこうしていると、人気者になったみたいで気分がいいですね!
賑わう縁日は歩いているだけで楽しい気分になってくる。そんな中、かすみんの目を引くものが一つ……。
かすみ「わ、きれい〜……!」
屋台のおばさん「あら、お嬢ちゃん、こういうの好きかい?」
かすみ「なんですか、この宝石みたいな枝は……」
屋台のおばさん「これは、サニーゴの角だよ」
かすみ「サニーゴ? サニーゴって、さんごポケモンのサニーゴですか?」
屋台のおばさん「そうだよ。綺麗な水の養分を取り込んだサニーゴの角は、太陽の光を浴びると宝石のように七色に光るんだ」
かすみ「へぇ〜……」
屋台のおばさん「場所によっては、安産祈願のお守りとしても有名だね」
安産祈願ですか……さすがにかすみん、赤ちゃんが出来る予定は当分ないですが……。
綺麗だし、そういうの抜きでもちょっと欲しいかも。
かすみ「でも、サニーゴたち、角を折られちゃうの、可哀想じゃないですか……?」
屋台のおばさん「サニーゴの角は簡単に折れるけど、3日もするとすぐ元に戻るんだよ。もちろん、取り過ぎないように制限はあるけどね」
かすみ「3日で元に戻るんですか!」
屋台のおばさん「そうだよ。それに、ここフソウからホシゾラを繋ぐ13番水道は有名なサニーゴの群生地だからね。しかも、他の地方と違って、ここは水色をした色違いのサニーゴも多いんだよ」
確かに言われてみれば、サニーゴの角はピンクのものと、水色のものが並んでいる。水色のやつは色違いなんですね。
せっかくだし、1本買っちゃおうかな、とも思ったけど……。
かすみ「そういえばおばさん、ここはサニーゴがたくさん生息してるって言ってましたよね?」
屋台のおばさん「そうだね。海の方に行けばたくさんいるよ」
かすみ「その野生のサニーゴって、バトルして捕まえちゃってもいいんですか?」
屋台のおばさん「野生のポケモンだからね、問題ないはずだよ。乱獲みたいなやり方をすると、よくないだろうけどね」
普通に捕まえる分には、よしってことですね……!
かすみ「みんな!」
「キャモ?」「ガゥ」「ザグマァ」
かすみ「サニーゴ! 捕まえに行くよ!」
「キャモ」「ガゥガゥ♪」「グマァ〜」
せっかくなら、自分の手で捕まえてみたいじゃないですか! かすみん、次の目的が決まりました! サニーゴゲット大作戦です!
屋台のおばさん「捕まえに行くのかい? お嬢ちゃん、“ダイビング”出来そうなポケモンは持ってなさそうだね」
かすみ「はい、みずポケモンは持ってなくて……。……もしかして、潜らないとダメ系ですか……!?」
屋台のおばさん「いや、サニーゴは“つりざお”でも釣り上げることが出来るよ」
かすみ「ホントですか!?」
屋台のおばさん「あっちに釣り道具のショップがあるから、行ってごらん」
かすみ「ありがとうございます〜!」
かすみん、意気揚々と釣り道具ショップへと向かいます♪
- 209 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:27:51.33 ID:YYNh6Lpr0
-
👑 👑 👑
かすみ「……高い」
釣り道具のショップに来ましたが……“つりざお”って思った以上に値が張るんですね。
かすみん、結構屋台でおこづかい使っちゃったし……ちょっと足りない。
かすみ「……無念です」
「キャモ」「ガゥゥ…」「ザグマァ?」
かすみんが肩を落として、店から出ると──
おじさん「おやぁ、お嬢ちゃん、もしかして釣り道具を買いに来たのかな?」
おじさんに話しかけられる。今日のかすみん、おじさんにモテモテですね。
かすみ「はい。でも、高くてちょっと買えそうになくて……サニーゴ釣りたかったんだけどなぁ」
おじさん「そうか、確かにそりゃ残念だったな……。でも、お嬢ちゃん、ラッキーだったね」
かすみ「へ?」
おじさん「実はおじさんも釣り道具を売る商売をしていてね」
かすみ「は、はぁ……」
おじさん「“つりざお”、安く売ってあげようか?」
かすみ「……安くって、どれくらいですか?」
おじさん「そうだなぁ……お嬢ちゃん、可愛いからサービスして……500円でどうだい?」
かすみ「ご、500円!? え、そこのお店の何分の一ですか、それ!?」
おじさん「どうだい、買うかい?」
かすみ「買います!! ください!!」
おじさん「毎度あり♪」
やっぱり、かすみんには幸運の女神でも憑いているんでしょうか……!
サニーゴゲット作戦、これで実行できそうです……!!
👑 👑 👑
──フソウ港。
かすみ「よし、やりますよ!」
「キャモ」「ガゥガゥ」「ザグマァ」
無事、“つりざお”を入手したかすみんは早速、港の釣りが出来る場所までやってきました。
かすみ「さぁ、行きます!」
善は急げです。かすみん、“つりざお”を振り被って、水面にキャストします。
──ちゃぽん。針が水中に潜り、浮きが水面にぷかぷかと浮かぶ。
- 210 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:29:47.46 ID:YYNh6Lpr0
-
かすみ「釣りは忍耐らしいです! 頑張るぞ〜!」
「ガゥガゥ♪」「キャモ」「ザグマ」
これから腰を据えて待つぞ、と思った矢先でした。
急に手元が海の方に引かれる。
かすみ「!? 早速ヒット!?」
もしかして、かすみん釣りの才能あるんじゃ!?
せっかくかかった獲物を逃がさないように、“つりざお”を引き上げます。
かすみ「ん〜〜〜〜!! やぁ!!」
思いっきり引っ張ると、水の中からポケモンが釣り上げられてきました──
かすみ「来た!! サニーゴ!?」
「──コ、コココココ」
かすみ「……」
陸に釣り上げられたポケモンがびちびちと跳ねています。このポケモンって……。
かすみ「コイキング……」
「コ、コココ、ココココ」
せっかく釣り上げたので、バトルして捕まえるか、少し悩みましたが……。
かすみ「かすみんの狙いはあくまで、サニーゴです。逃がしてあげましょう」
「コ、ココココ」
コイキングを持ち上げて、そのまま海に放流する。
かすみ「……でも、すぐに釣れたのは幸先良しです! 次こそ釣りますよ、サニーゴ! ……やぁ!!」
サニーゴが釣れるまで、いくらでもかすみん頑張りますからね!!
気合いと共に、再び海に向かってキャストするのでした。
💧 💧 💧
──あの後、ホテルを探すこと30分ほど、のんびり歩きながら散歩をしている。
ただ、ホテルが密集している地区は北の港から、中央のコンテスト会場を挟んで反対側だったらしく、地図がない今結構な遠回りをしてしまった。
しずく「この辺りがホテルがある地区かな?」
「メソ…」
しずく「ごめんね、メッソン。疲れた? 肩に乗っていいよ」
「メソ…」
足元に寄ってきたメッソンを肩に乗せてあげる。
しずく「よしよし」
「メソ…」
- 211 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:32:10.57 ID:YYNh6Lpr0
-
メッソンは私の肩に乗ると、スゥッと姿を消してしまった。さすがにあの小さい足でずっと歩き続けていたから、疲れたのだろう。
「マネ…!!」
しずく「マネネは真似して登らないの……」
「ピピピィ…」
しずく「ココガラまで……」
ココガラが私の頭の上でリラックスし始めた……。マネネもよじ登ってきたし、3匹に乗られるとさすがにちょっと重い……。
「マネマネ」
しずく「って、マネネ……どうして、バッグに入るの?」
よじ登る最中、マネネが私のバッグに頭を突っ込み始めて、何かと思ったけど、
「マネ!!」
しずく「……あ、“もりのヨウカン”」
どうやらおやつが食べたかったらしい。勝手にバッグから見つけて、封を開けだす。
しずく「めっ! かすみさんみたいなことしちゃダメでしょ?」
「マネェ…」
叱りながら、“もりのヨウカン”を没収する。
しずく「食べるなら、みんなで分けようね」
手で3分の1ずつに分けて、その一欠片をマネネにあげると、
「マネ♪」
マネネは嬉しそうに鳴き声をあげながら、ヨウカンを食べ始めた。
しずく「ココガラ」
「ピピピィ♪」
頭に乗っているココガラにも、一欠片与え、
しずく「メッソンも、お食べ」
肩の近くに最後の欠片を持っていくと、メッソンがスゥッと現れて、
「メソ…♪」
ヨウカンを受け取って、もしゃもしゃと少しずつ食べ始める。
「マネ!!」
しずく「マネネ、もう食べちゃったの……? もうないよ」
「マネ…!?」
- 212 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:33:46.20 ID:YYNh6Lpr0
-
もうないと伝えると、マネネは辺りをキョロキョロしはじめる。いくら見回したところで、もうないものはないんだけど……。
そんなマネネの様子を見て、盗られると思ったのか、
「メソ…」
メッソンはヨウカンを食べながら──スゥッと透明になって消えてしまった。
騒がしい手持ちたちに思わず肩を竦める。
……というか、みんなくつろいでいるけど、私も結構歩いているので、そこそこ疲れているんだけど……。
しずく「私も飲み物でも買って、少し休憩でもしようかな……」
近くに自動販売機とかないかな……。
しずく「あっ……ありました」
少し見回すと、すぐに見つけることが出来た。
お金を投入して、ボタンを押そうとして──ボタンが点灯していないことに気付く。
しずく「あ、あれ……これも故障……?」
随分あちこちでいろんな機械が故障している気がする。
“サイコソーダ”が飲みたかったんだけど……ボタンは点灯していないが、一縷の望みに賭けてボタンを押すと──
「コッチがオススメだヨ」
という機械音声と共に──“モーモーミルク”が排出された。
しずく「勝手に決められた……? なんですか、この自動販売機……?」
さすがに、これは納得が行かない。自動販売機の管理会社の情報とか、どこかに書いてないかな……。
連絡先を探すため、中腰になって自動販売機の表面をじーっと見ていると──
「ナニジロジロみてるンだ」
中腰になっていた私の顔に──ゴン!
しずく「いったぁ!?」
取り出し口から、ジュース缶が飛び出してきて直撃した。
びっくりして、そのまま尻餅をつく。
「マ、マネ…!?」
しずく「本当になんなんですか、この自販機!?」
思わずジュース缶の直撃を食らった鼻を押さえてしまう。コロコロと転がっている、私の顔面に攻撃を食らわせた缶ジュースを見ると、“サイコソーダ”と書かれていた。
……当初の予定のものが出て来ていた。
「ヨカッたネ」
しずく「よくないです!!」
- 213 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:34:54.07 ID:YYNh6Lpr0
-
思わず、自販機を睨めつける。
かすみさんのような反応をしてしまっている気がしなくもないけど、さすがに一方的に暴力を浴びせられて、黙っているのも何か違う気がする。
ただ、この自動販売機、とにかく人を追い払いたいのか、
「アッチいケ」
再びジュース缶を飛ばしてきた。
しずく「マネネ! “ねんりき”!」
「マネ!!」
それを、“ねんりき”によって、空中で静止させる。
しずく「今度は“ミックスオレ”……」
「アッチいケ」
しずく「…………」
「アッチいケ」
どうしても、この自動販売機は向こうに行って欲しいらしい。
しずく「……わかりました、もう構いません。ただ、管理会社に電話して、撤去してもらわないと」
「ムダなコトヲ」
ポケギアを取り出して、画面を見る。あることに気付いたけど、そのまま先ほど見た番号をプッシュして、耳に当てる。
しずく「……もしもし。すみません、フソウ島にある自販機のことでお電話を差し上げたんですが……」
「!? “かいでんぱ”の影響でポケギアは使えないはずロト!!?」
しずく「ロト……?」
「あ、いや…ナゼポケギアがつかエる」
ロト……。そういえば、ガラル地方では、そんな語尾で喋る機械があったことを思い出す。
つまり、これは──
しずく「マネネ、あの技使える?」
「マネ」
小声でマネネにとっておきの技を指示して、再び自販機を睨めつける。
「ダカラ、アッチにイけ」
──パカっと取り出し口が開いたが、
「ロ、ロト!? ジュースが飛んでかないロト!!?」
しずく「やっぱり、貴方ポケモンですね」
「ギク!! ワれはドウミテもジハンキ」
しずく「今更、嘘吐いても無駄ですよ。貴方が飛ばしていたものは実質“どうぐ”扱いされるものなので、マネネの使った“マジックルーム”により、使えなくなりました」
「ロト!!?」
“マジックルーム”は一定時間、使用者の周囲での“どうぐ”を使用できなくする技だ。
- 214 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:36:17.03 ID:YYNh6Lpr0
-
しずく「あと、ついでに教えてあげます。さっきポケギアで通話していたのは演技です」
「ロトト!!?」
しずく「画面を見た時点で、画面表示がおかしくなっていたので、一芝居打たせていただきました。動揺して、まんまと尻尾を出しましたね。貴方、ロトムですよね?」
「ひ、卑怯者ロト!!!」
しずく「それはこっちの台詞です! 自販機に化けて、しょうもないイタズラをしている貴方の方がよほど卑怯者です!」
「ロト…!!? よくも侮辱してくれたロトね…でも、ここから出なければ関係ないロト。どうせ、お前は何も出来ないロト」
しずく「やっぱり、卑怯者じゃないですか……」
「なんとでも言えロト、そこで指でも咥えてればいいロト」
確かに、自販機に入ったままじゃ、手の出しようがない。でも、それなら──引き摺りだせばいいだけのこと。
「ボクの完全勝利ロト」
しずく「そうですか? 踊りたくなってきませんか?」
「ロト? 何言って…な、なん…!? ボクの体が勝手に…!? お前、何したロト!!!?」
「マネ、マネ〜〜♪」
しずく「さぁ、一緒に踊りなさい! “フラフラダンス”!」
マネネが私の肩から飛び降りて、不思議なステップを踏み始めると、自販機の中のロトムもそれに釣られて動き出す。“フラフラダンス”は強制的に自分の周りのポケモンも一緒に踊らせて“こんらん”させる範囲技。
自販機の中に隠れていようが、相手がポケモンであるなら効果がないわけがない……!
「ちょ、と、止め──」
直後──スポーーン! と自販機からロトムが飛び出してくる。
「ロ、ロトーーー!!!?」
しずく「マネネ!! “サイケこうせん”!!」
「マーーネェ!!!!」
マネネから飛び出す、七色の光線が一直線にロトムを捉える。
技が決まった──と思った瞬間。
“サイケこうせん”を押し返すように黒い球体が飛んできて──
「マネッ!!!?」
しずく「なっ!?」
“サイケこうせん”に完全に撃ち勝ち、そのままマネネを吹き飛ばす。
しずく「今の、“シャドーボール”!?」
ロトムは今、“こんらん”しているはずなのに……!?
慌てて、ロトムに視線を戻すと、
「ロト、ロトトト??」
確かにロトムは“こんらん”しているのかおかしな挙動で飛んでいる。
偶然と思ったが、その直後──ピュン! と光線が飛んできて、私のすぐ頭上を掠めた。
私の頭上を掠めたということは──
「ピ、ピピピィ〜〜〜!!?」
私の頭の上に乗っていたココガラを、撃ち抜かれたということ。
- 215 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:37:31.39 ID:YYNh6Lpr0
-
しずく「ココガラ……!!」
「ピ、ピピィ〜〜……」
今のは“チャージビーム”……!?
どうして!? ロトムは“こんらん”しているはずなのに、こんな正確に攻撃を……!?
驚く私を次に襲ったのは──バチン! という音と共に、手に痛みが走る。
しずく「いった……!」
思わず手に握っていたポケギアを落としてしまう。
しずく「ポケギアがショートした……っ……!?」
火花を散らせ、アスファルトの上を跳ねるポケギアから、急に、
「よくもやってくれたロトね…」
音声が響く。
しずく「な……」
「お陰でフラフラするロト」
気付けばさっきまで、そこで浮いていたロトムがいない。
恐らくあの一瞬の隙に、私のポケギアを乗っ取ったんだ。
しずく「“こんらん”しながら、そんな判断……」
「お前のミスはボクの強さを侮ったことロト。場数が違うロト」
しずく「場数……?」
「ボクはこれでも、歴戦のポケモンロト。ちょっと“こんらん”して頭がフラフラしても、止まってるポケモンくらい、勘で攻撃出来るロト」
しずく「……!」
苦し紛れの言い訳のようにも聞こえるけど──その言葉からは、強者の持つ特有の圧のようなものを感じた。
ふざけたポケモンだけど……このロトム、本当に強い……!
「お仕置きロト」
ロトムの言葉と共に──フワリと、私の周囲に落ちていた飲み物たちが浮遊する。
しずく「“ポルターガイスト”……っ!?」
逃げなくちゃと思い、戦闘不能にされたマネネとココガラを急いでボールに戻して、駆けだそうとしたが──足元に“モーモーミルク”の瓶が転がりこんで来て、
しずく「あっ!?」
瓶を踏んづけて、私はそのまま尻餅をつかされる。
しずく「いった……っ」
尻餅をついたことに驚く間もなく、今度は周囲に浮遊していた、“サイコソーダ”と“ミックスオレ”の缶の天井部がスパッと切れて吹き飛び──バシャァッとひっくり返したコップのように、中身が私の頭に掛かる。
しずく「…………」
- 216 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:39:26.56 ID:YYNh6Lpr0
-
“サイコソーダ”と“ミックスオレ”でずぶ濡れになった私を見て、
「いい気味ロト〜♪」
ロトムは機嫌良さそうに笑う。
完全に遊ばれてる……。“ポルターガイスト”は“マジックルーム”では無効化出来ないし、これ以上ロトムの動きを制限出来ない。
「もうお前は手持ちも残ってないロト♪ さぁ、次は何をしてやるか、ロトトトト♪」
しずく「……! ……貴方みたいなポケモン、野放しにするわけに行きません……」
「ロト? じゃあ、どうするロト??」
嘲笑するように声をあげるロトムの入ったポケギアに向かって──人差し指と中指を前に、親指を立てて、手で銃を作るようなジェスチャーをする。
「何のつもりロト?」
しずく「……貴方が実は歴戦のロトムだったように、私も隠してたことがあるんですよ……」
「ロト?」
しずく「私、実は……エスパー少女なんです」
「ロトト!! それは傑作ロト!! じゃあ、その指の先からエネルギー弾でも撃ってみればいいロト!!!」
しずく「……」
「ほら、動かないから狙ってみろロト!!!」
指先の銃口を……しっかり、ポケギアに向けて──
しずく「……今っ!!」
私の声と共に──勢いよく飛び出した“みずでっぽう”が、ポケギアを貫いた。
「んなぁロト!!!? ホ、ホントにエスパーだったロト!!?」
驚くロトム、
「だ、脱出ロト…!!」
ポケギアから逃げるつもりだ……! させない……!
しずく「“なみだめ”!!」
「メェェェェ……ッ!!」
──スゥッと姿を現したメッソンが目から大量の水を放出し、ポケギアごと“みずびたし”にする。
「ロ、ロトガボボボボ」
ロトムの体は電気で出来ている。だからこそ、電子機器を乗っ取ることが出来るし、空気中に飛び出せば目にも留まらぬスピードで動き回るけど……!
しずく「電気の体じゃ、水中に閉じ込められたら、逆に脱出できないですよね……!」
「ロトボボボボボ!!!?」
滝のように、メッソンが水を浴びせかけている場所に──先ほど先端を切り裂かれて、コップ状になっている、ミックスオレの缶を引っ手繰るように掴んでロトムの上から──ガン!! と音を立てながら思いっきり覆いかぶせた。
しずく「はぁ……はぁ……!」
「メソ…」
- 217 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/08(火) 14:41:27.63 ID:YYNh6Lpr0
-
水自体は電気を激しく通すが、水の中から、電気が空気中に逃げていくのは伝導率があまりに違い過ぎて、簡単に行かないはずだ。
溜まった水に沈められたら、全身電気で出来ているロトムにとっては、檻も同然になる。
「ロド、ロドドドドド!!?!?」
しずく「苦しいでしょう……? メッソンの涙は、タマネギ100個分の催涙成分を持っていますからね……! 近くにいるだけで、涙が止まらなくなる水に閉じ込められたら、どんなに強くても無事ではいられないはずです……!」
後は缶を押さえながら、ロトムが諦めるのを待つだけだ。
私は自分の体重を乗せて、上から缶を押さえつける。
その際、一瞬──
しずく「──……っ゛……!?」
全身を電撃が走るような衝撃があったけど、手は離さない。外になんか絶対逃がさない。そんな強い意思で、缶を押さえ続けていたら──10秒もかからずに、ロトムは大人しくなった。
しずく「……か、勝った……」
「メソ…」
私が安心してへたり込むと、メッソンが泣きそうな顔で寄り添ってくる。
しずく「……ありがとう、メッソン……。メッソンがずっと、透明になって姿を消していたから、ロトムが勝手に私にはもう手持ちがいないって勘違いしてくれたよ……」
「メソ…」
正直かなりギリギリの戦いだった。恐らく全身超強力な催涙液に浸からされて、気絶しているだろうけど……。
しずく「ボールに入れるために、水中から出すのも危険だよね……」
私はバッグの中から、ゴム手袋を取り出す。出来るだけ水を零さないように、素早く缶を上向きに戻した後、ロトムが潜んでいる壊れたポケギアごと、ゴム手袋の中に流し込んで口を結ぶ。
しずく「このまま、ポケモンセンターに連れていこう……」
「メソ…」
お陰で、手持ちもメッソン以外、戦闘不能になってしまったし……。
念のため、もう片方のゴム手袋も使って、二重に縛ったのち、私は歩き出す。
しずく「そういえば……」
「メソ…」
しずく「どうして、メッソンは“こんらん”していなかったんだろう……?」
ロトムに追い詰められた際、姿を隠したメッソンが私の手の方に移動してくる感覚があったから、エスパー少女の芝居を打ったわけだけど……。
“フラフラダンス”はその場にいる全てのポケモンを“こんらん”させる技だ。
すぐ戦闘不能にさせられたココガラもだが……メッソンも例外ではなかったはず。
そんな私の疑問に答えるように、
「メソ…」
メッソンは小さな黒い欠片を、丸まった尻尾の中から取り出す。
しずく「それ、もしかして……“もりのヨウカン”の欠片?」
そこでふと思い出す。“もりのヨウカン”をポケモンが食べたときの効果って、確か──
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