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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」

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18 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:40:09.61 ID:QLy5TvuG0

怖がりながらも、歩夢はサスケとヒバニーを抱き寄せていたらしく、声を掛けられた2匹が歩夢の腕の中から顔を出す。どうやら、2匹に怪我はなさそうだ。

そして、ゾロアの攻撃は落ち着いたようで……研究所内は再び静かになった──のは一瞬だけだった。

顔を上げるのと同時に──バサバサバサ!!! と大きな羽音を立てて、何かが飛び立つ。

それが、先ほどの飼育部屋から飛び出したポケモンなんだとわかるのに、そう時間は掛からなかった。

気付けば家具やら壊れた何かの破片やらでごちゃごちゃになった研究所内には、飼育部屋から脱走したポケモンたちが走り回り飛び回り、好き放題している状態になっていた。


善子「ま、まずい……!?」


博士が真っ青な顔のまま、近くを走り回っているポケモンを咄嗟に覆いかぶさるようにして捕まえると──


 「ピ!? ピ、チュゥゥゥゥッ!!!!!」
善子「んぎゃっ!?」


博士が小さく悲鳴をあげる。

ピチューの“でんきショック”だ。


侑「は、博士!!」

善子「だ、だいじょう……ぶ……むしろ、ピチューは、じ、自分で……痺れて、う、動けなくなってくれる、から……た、たすかる……わ……」
 「ピ、チュゥゥ…」


博士の言うとおり、ピチューは自分の電気で痺れて目を回しているけど……。


しずく「そ、それより、ゾロアがいません!!」


言われてみれば、この惨状を作り出した張本人であるゾロアの姿がなくなっている。

ついでに先ほどゾロアが口に咥えていたパステルイエローのポケモン図鑑もだ。


善子「と、とりあえず、ゾロアはいい……先に逃げたポケモンたちを捕まえないと……」


よろよろと立ち上がる博士。

研究所内にはあちこちに逃げ出した、ポケモンたちの姿──最初のポケモンとポケモン図鑑を貰いに来たはずなのに……なんだか大変なことになっちゃった……!?



19 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:40:53.98 ID:QLy5TvuG0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち 未所持
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 歩夢
 手持ち アーボ♂ Lv.5 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 しずく
 手持ち ???? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:??????
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 侑と 歩夢と しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.


20 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:16:12.17 ID:QLy5TvuG0

■Chapter002 『パートナー』 【SIDE Yu】





善子「……とりあえず、捕まえられたのはこれで全部?」


ヨハネ博士は椅子に座ってモンスターボールを並べながら、眉を顰める。


善子「何匹か足りないわ……。外に逃げちゃったのね」
 「ゲコガァ…」「ムマァ…」「カァー」「シャンディ…」「ヒュララァ」「ソル」「ゲルル…」

善子「貴方たちのせいじゃないわ。手伝ってくれてありがとう、みんな」


あの後、どこからともなく現れたヨハネ博士の手持ちによって、研究所内を走り回っていたポケモンたちは瞬く間に捕まえられたんだけど……何匹かが外に逃げてしまったらしい。それと──


しずく「メッソン! メッソーン! 出て来てくださーい! ……うぅ、ダメです……見当たりません……」

善子「……無理もないわね。メッソンは臆病なポケモンだから……」


先ほどの騒ぎに驚いたのか、メッソンも逃げ出してしまったらしい。


善子「メッソンともども、早く探しに行かないと……」


博士は椅子から立ち上がろうとして、


善子「ぅ……」

侑「わ! 危ない!!」


すぐによろけてしまったところを、慌てて支えに走る。


歩夢「ピチューの電撃を浴びちゃったんですから……無理しないでください」

善子「……面目ないわ」


再びゆっくりと椅子に座らせてあげると、博士は深く深く溜め息を吐いた。


善子「それにしても、かすみには困ったものね……」

侑「かすみちゃんもゾロアも、イタズラ好きだからね」

しずく「今回に関しては、いくらなんでも度を超えています! こんなやり方で抜け駆けしようとするなんて……」

侑「あはは……こんなことするほど、最初の1匹に拘りがあったのかもね」

しずく「……あれ?」


私の言葉を聞いて、しずくちゃんが首を傾げた。


侑「どうしたの?」

しずく「……かすみさん、最初のポケモン選びで出し抜くために、こんなことをしたんですよね?」

侑「う、うん? そうだと思うけど……」

しずく「なのにどうして、ヒバニーは残っていたのでしょうか……?」

歩夢「そういえば……」
 「バニ?」


そういえば、ここに来る途中も話していたけど、かすみちゃんの趣味だとヒバニーを選びそうだって言ってたっけ?


侑「最後の1匹がもっと好みだったとか?」

しずく「えぇ……? かすみさんがあのポケモン選ぶのかな……?」
21 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:17:32.83 ID:QLy5TvuG0

しずくちゃんはどうにもピンと来ないらしい。


侑「最後の1匹って、どんな子だったの?」

歩夢「えっと……最後の1匹はね──」





    👑    👑    👑





かすみ「はっ……はっ……!! はぁ……はぁ……!! こ、ここまで来れば大丈夫だよね……?」


息を切らせながら、かすみんは後ろを振り返る。

うん、大丈夫、誰も追って来てない。


かすみ「最初の1匹、すごくすごく大事なパートナーだもんね! こればっかりは譲るわけにはいかないんです!!」


何せ、かすみんが欲しいのは今回選べる3匹の中で、とびっきり可愛いうさぎさんポケモンのヒバニー!

しず子と趣味が被るかは微妙だけど、歩夢先輩は絶対ヒバニーを選ぶに決まってます!


かすみ「かすみん最初のパートナーは絶対にヒバニーって決めてるんだから!」


あとで叱られるかもしれないけど、先にヒバニーと仲良くなってしまえば、さすがの歩夢先輩も、かすみんからヒバニーを取り上げたりはしないはずです! こういうのは既成事実さえ作ってしまえばいいんです!

ゾロアで誤魔化すのにも限界があるだろうし、善は急げ! 早速ボールから出して仲を深めていきましょう♪


かすみ「さぁ、出ておいでヒバニー♪」


私がヒバニー入りのモンスターボールを放ると──ボムという特有の開閉音と共に、


 「──キャモ」


黄緑色のポケモンがボールから飛び出した。


かすみ「………………………………え?」
 「キャモ」


……この子、誰??

うーんと、うーんと……えっとぉ……。


かすみ「たぶん、ヒバニーじゃなくてぇ……」
 「キャモ」


事前に聞いた3匹のポケモンを冷静に思い出す。

1匹目はうさぎポケモンのヒバニー。めちゃくちゃ可愛くて絶対この子がいいって思ったかすみんイチオシのポケモン。

2匹目はみずとかげポケモンのメッソン。この子も可愛いんだけど、かすみんが好きなのは元気な可愛さ! だから、メッソンはかすみんのイメージとは違うなって思ったんだよね。

そして、3匹目は……。


 「キャモ」
かすみ「もりトカゲポケモンの……キモリ」


正直かすみんはキモリが一番ないかなーって思ったんだよね。だって、他の2匹よりも可愛くないし!
22 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:21:33.12 ID:QLy5TvuG0

 「キャモ」
かすみ「…………もしかして、かすみん……選ぶモンスターボール……間違えた……?」


一人頭を抱えて蹲る。博士に見つかり掛けてたから、焦って選ぶボールを間違えちゃったみたい……。


かすみ「…………やっちゃった、かすみん、これは盛大にやらかしました……」
 「キャモ」


普段のかすみんなら、ドジっ子なかすみんも可愛いかも♪ なんて自分に言い聞かせて乗り越えるところなんですが、今回ばかりは凹みます。マジ凹みしてます。


かすみ「うう……どうしよう……」
 「キャモ」

かすみ「…………そうだ! もしかしたら、まだゾロアと入れ替わってるって、バレてない可能性もある!」


こうなったら今から研究所に戻って、しれっとボールを元に戻して、普通に3匹の内からヒバニーを選ぶしかないです!

当初の予定とは変わってしまいましたが、イレギュラーにも対応してこそ、一人前ですよね!


かすみ「よし、キモリ。ボールに戻って」


キモリをボールに戻してっと……。さあ、気を取り直して研究所に戻りましょう♪





    👑    👑    👑





さぁさぁ、研究所に到着した、かすみんです!


かすみ「……さすがにもうしず子も歩夢先輩も到着してるよね」


研究所の扉を静か〜に開いて中の様子を伺います。


かすみ「…………え?」


ただ、中の様子を見て、かすみんは愕然としてしまいました。

研究所の中は、まるで嵐でも過ぎ去ったかのように、荒れまくっていました。

そんな研究所の奥には、しず子と歩夢先輩……それと、あれは侑先輩……? そして、椅子に座っているヨハ子博士。

テーブルの上には、3つあったはずのモンスターボールは全部なくなっていて……ついでに机の上のポケモン図鑑もかすみんが好きそうなパステルイエローの図鑑がなくなっている状態です。(あ、かすみん目はすっごくいいので、入り口からでもばっちり見えちゃってますよ〜☆)

……状況からして、すっごくいや〜な予感がしてきましたね……。


かすみ「……たぶん、今入るのは自滅です。自殺行為です」


察して、静か〜にドアを閉めて、そろりそろりと退却の姿勢を取ります。そのときです──


かすみ「わひゃっ!? な、何かふわっとしたものが足に……」
 「ガゥッ!!」

かすみ「な、なんだ、ゾロアか……驚かさないでよ」
 「ガゥッ!!!」


足元のゾロアを見ると、嬉しそうに尻尾を振りながら、口に咥えたパステルイエローのポケモン図鑑を差し出してきます。
23 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:24:05.36 ID:QLy5TvuG0

かすみ「ふふ、さすが『かすみん2号』の異名を持つだけあって、ちゃーんと、かすみんのお願い聞いてくれたんだね、ありがとゾロア♪」
 「ガゥガゥッ♪」

かすみ「でも、今はちょ〜っと事情が変わっちゃってね」
 「ガゥッ?」

かすみ「今から一旦退却しなくちゃいけないの」
 「ガゥッ」

かすみ「よし! それじゃ、このまま一旦セキレイの外まで──」

 「──行けると思ってるのかしら?」

かすみ「………………!?!!?」


振り返ると、そこには……──鬼がいました。鬼の形相をした、かつてヨハ子博士だった者がいました。


善子「かすみ」

かすみ「え、っと……あ、の……」

善子「……何か言うことがあるんじゃないかしら?」

かすみ「そ、の……。……か、かすみん、遅刻しちゃいました〜☆ えへっ☆」

善子「よし、火責め水責めどっちがいいかしら? あ、氷責めっていうのもあるんだけど……」
 「シャンディ」「ゲコガ」「ヒュララァ」

かすみ「ひっ!?」


かすみん、怖かったんですよ。もう生物としての本能で、今この場から全身全霊で逃げ出さないといけないって命令が、脳からシュピピピーンって全身に駆け巡って、反射的に走り出してたんですよ。


かすみ「──ガッ!?」


でも、そんなかすみんの動きは、次の瞬間に固まってしまいました。


善子「逃がさないって、言ったでしょ?」

かすみ「からだ、が、うご、かな……い……! なに、こ、れぇ……!」

善子「“かなしばり”よ。ご苦労、ユキメノコ」
 「ヒュララ」

かすみ「……あ、あ、あ、あの、あの、あの……」

善子「覚悟はいいわね?」

かすみ「……ご、ごごごごご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!! か、かすみんにも、かすみんなりの事情があって……!!!」

善子「ムウマージ、“サイコキネシス”」
 「ムマァージ」

かすみ「ぴゃああああ!!? 身体が浮いたあぁぁぁ!?」

善子「じゃあ、その事情とやらは、中でゆっくり聴かせて貰おうかしらね?」


そう言いながらニヤッと口角を上げて笑うヨハ子博士の笑顔は──この世の中にこんなに怖い笑顔があるのかと思わせるくらい、とっても恐ろしい笑顔でした……。


かすみ「た、助けてええええええええええ!!!!!!!!」


24 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:25:33.64 ID:QLy5TvuG0

    🎹    🎹    🎹





かすみ「ひぐ……っ……えっぐ……っ……ご、ごべんなざい……っ……がずみんも、ごんな大事になるなんで……っ……おもっでなぐでぇ……っ……」

しずく「叱られて泣くくらいなら、最初からやらなければいいのに……」

かすみ「だっでぇ……ヒバニー欲しがっだんだもん……っ……」

しずく「だからって、こんなやり方しちゃ、めっでしょ?」

かすみ「ごめんなさいぃぃぃ……っ……」
 「ガゥ…」

かすみ「かすみん、いっぱいいっぱい謝りますからぁ……許してくださいぃ……っ……せめて、ゾロアだけでもぉ……っ……」

侑「あはは……」


あの後、かすみちゃんは事情の説明を始めたわけだけど……終始冷やかな笑顔を浮かべるヨハネ博士の迫力があまりに怖かったのか──正直、傍で見ていてもめちゃくちゃ怖かった──ついに泣き出してしまって今に至る。


歩夢「あの……かすみちゃん? そんなにヒバニーがいいなら私……」

善子「ダメ。もはやかすみには選ぶ権利はないわ。歩夢としずくが選んだあとにしなさい」

しずく「そうですよ、歩夢さん! かすみさんをこれ以上甘やかしちゃいけません!」

善子「貴方は二人が選び終わるまで、このぐちゃぐちゃになった研究所の片付けを手伝いなさい。いいわね?」

かすみ「……そんなぁ……っ……」


研究所の床にへたり込んだまま、項垂れるかすみちゃん。まあ、さすがにこれは自業自得かな……。


善子「とはいえ……今はメッソンがいないから探しに行かなくちゃいけないわね……」


言いながら立ち上がる博士。かすみちゃんを捕まえるために研究所の外に出ていたし、動けないほどじゃないみたいだけど……まだ少し調子が悪そうだ。


しずく「研究所のポケモンも何匹か、逃げちゃってるんですよね……」

歩夢「どの子がいないのかって、わかってるんですか?」

善子「ええ、さすがに自分の研究所にいるポケモンくらいは把握してるからね……。今この場にいないのは、ミミロル、ゴルバット、ニャースの3匹よ。早く見つけないとね……」


ふらふらと歩く博士を見て、私は──


侑「あの!」

善子「なに?」

侑「逃げちゃったポケモン、私たちが探してきます!」


気付いたら、そう提案していた。


しずく「それは名案ですね!」

歩夢「うん! 私も良いと思う!」

善子「え、いや……でも……」

侑「むしろ、そんな身体のまま、博士を行かせるわけにいきませんよ!」

善子「…………」

かすみ「そ、それなら、かすみんが行きます」

善子「いや、かすみ、貴方はここで……」

かすみ「かすみん、さすがに反省してるんです!! こうなっちゃったのも、元はと言えばかすみんのせいだし……。かすみんこれでも、バトルの成績はそこそこ良かったから、絶対逃げちゃったポケモンたち連れ戻してきますから!!」

善子「…………」
25 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:27:49.87 ID:QLy5TvuG0

博士は困ったような顔をする。確かにこの状況でかすみちゃんを信用しろと言われても難しいかもしれないけど……。


しずく「あの……博士、私からもお願いします」


そんなかすみちゃんに助け舟を出したのは、しずくちゃんだった。


かすみ「し、しず子……!」

しずく「かすみさん、たまにやり過ぎちゃうことはあるけど……根は良い子なんです。今回も悪気があって、ここまでのことをしたわけじゃないみたいですし……今言っていることは、心の底からの言葉だと思うので。……チャンスをあげてくれませんか?」

善子「……ふむ」


博士は少し考えていたけど、


善子「……わかったわ。そこまで言うなら、しずくの言葉に免じて、もう一度だけ信じてあげる」


最終的には、首を縦に振ってくれた。


善子「ちゃんと出来る?」

かすみ「は、はい!! もちろんです!!」

善子「わかった。それじゃ、任せるわ」

かすみ「はい! かすみん、任されました!!」

しずく「よかったね、かすみさん」

かすみ「うん! ありがとね、しず子! それじゃ行くよ、ゾロア!」
 「ガゥッ」


先ほどまで大人しくしていたゾロアはかすみちゃんの声に反応して、肩に飛び乗る。


しずく「それじゃ、行こっか」

かすみ「へ?」

しずく「まさか、一人で行くつもり? もちろん、私たちも探しに行くから」

侑「みんなで手分けした方がいいもんね。ほら、歩夢も」

歩夢「う、うん!」

かすみ「み、みなさん……!」


かすみちゃんは感激したのか、目の端にうっすら浮かべた涙をぐしぐしと手で拭う。


善子「なら、この研究所のポケモン用のモンスターボールを持っていきなさい。普通のボールじゃヨハネのポケモン扱いだから弾かれちゃうけど……このボールになら、ちゃんと入るはずだから」

かすみ「わかりました! ……よし! それじゃみんな! 行きますよー!!」

侑・歩夢・しずく「「「おーー!!!」」」


かすみちゃんの号令のもと、私たちは逃げ出したポケモンたちの捕獲作戦に出発するのでした。





    🎹    🎹    🎹





侑「逃げ出したポケモンは3匹って言ってたよね」

しずく「メッソンも含めると4匹ですね……」

かすみ「そうなると、1人1匹ずつですね! かすみん、一番に捕まえて、みなさんのお手伝いしに行きますね!」
26 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:35:15.62 ID:QLy5TvuG0

かすみちゃんは言うが早いか、街の南側目指して飛び出して行ってしまった。


しずく「あ、かすみさん……! ……行っちゃった」

侑「それじゃ、私は街の北側に……」

歩夢「じゃあ、私も侑ちゃんと一緒に行くね」

侑「え? 手分けした方が……」

歩夢「侑ちゃん……やっぱり、気付いてない」

侑「? 気付いてないって?」


歩夢の言葉に思わず首を傾げる。


歩夢「侑ちゃん……ポケモン持ってないでしょ? 手持ちポケモンもなしに捕まえるつもりなの?」

侑「……っは!」


歩夢に言われてハッとする。


侑「どうにかしなくちゃってことで頭がいっぱいで……全然気付いてなかった……」

歩夢「あはは、やっぱり……」

侑「あれ、でもそうなると私……足手まといなんじゃ……」


完全にいるだけの人なんじゃ……。


しずく「いえ、戦って捕獲したりすることが出来なくても、単純に探すだけなら人手が多いに越したことはないと思いますよ! 目撃情報を聞いて回るのにも、人手は必要ですし」

歩夢「うん♪ だから、侑ちゃんは私と一緒に探すのを手伝って欲しいな」

侑「ん、わかった。しずくちゃんはどうする?」

しずく「私は、メッソンを探そうと思っています。最初からメッソンを選ぼうと思っていましたし……何より、心配なので」

侑「わかった。それじゃ歩夢、行こう」

歩夢「うん」

しずく「それでは、お二人とも、またあとで」


しずくちゃんと別れて、歩夢と二人で街の北側に走り出す。

──捜索開始!





    🎹    🎹    🎹





侑「あ、すいませーん!」

通行人「あら? なにかしら?」

侑「ちょっとポケモンを探してて……えっと、ゴルバット、ミミロル、ニャースなんですけど……」

通行人「うーん……ちょっと見てないわね」

侑「そうですか……ありがとうございます」


まずは聞き込み。不幸中の幸いで3匹とも、この近くには生息していないから、目撃情報があったらそれはイコール研究所から逃げ出したポケモンたちということだ。


歩夢「──……はい、そうですか……ありがとうございます」

侑「歩夢、そっちはどう?」
27 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:38:08.49 ID:QLy5TvuG0

他の通行人に目撃情報を訊ねていた歩夢に声を掛ける。


歩夢「うぅん、特にそれらしいポケモンを見たって人は今のところ……」

侑「そっちもか……うーん」

歩夢「とりあえず、街の外まで行ってみる……? あてずっぽうにはなっちゃうけど……」

侑「……そうしよっか。南側はかすみちゃんたちが探してくれてるし、私たちはとりあえず北側を探そう」

歩夢「わかった」


頷く歩夢と一緒に、北側の10番道路方面に行こうとした矢先、


女性「──さっきから見てたんだけど〜、君たちポケモンを探してるの〜?」


突然のんびりとした口調の女性から声を掛けられた。


侑「あ、はい! ミミロル、ゴルバット、ニャースを探してるんですけど……」

女性「ミミロル、ゴルバット、ニャース……。確かだけど……その子たちってこの辺りには生息してなかったはずだよね〜……?」

侑「は、はい……知り合いのところから逃げ出しちゃって……」

女性「むむ、それは大変だ〜……。お姉さんが手伝ってあげよう〜……と、言いたいところなんだけど……この後、妹を迎えに行かなくちゃいけなくて……ごめんね〜……」

侑「い、いえ! 気にしないでください!」


なんだか、独特な雰囲気のお姉さん……。


女性「あ、でもでも、そのポケモンかはわからないけど、さっき大きな翼で羽ばたくポケモンなら、見かけた気がするよ〜」

侑「ホントですか!?」

歩夢「ゴルバットかも……!」

侑「うん! どっちに行ったかわかりますか!?」

女性「あっちの方かな〜」


お姉さんは街の西側を指差す。


歩夢「あっちってことは……西の6番道路の方だね」

侑「お姉さん、助かります!」

女性「ふふ、どういたしまして〜。……そういえば、その子は違うのかな? その子も、野生では珍しいポケモンだと思うんだけど〜……」

侑「……? その子……?」


お姉さんの視線を追うと──歩夢の足元あたりに、


 「ヒ、バニ!!!」


ヒバニーがいた。


歩夢「あ、あれ? ヒバニー、付いてきちゃったの?」
 「バニッ」

歩夢「どうしよう、侑ちゃん……」

侑「えっと……」


歩夢が困り顔で訊ねてくる。……というか、どうしてヒバニーは私たちに付いてきているんだろう……。

考えている間に、


 「ヒ、バニッ!!!」
歩夢「きゃっ!?」
28 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:39:40.09 ID:QLy5TvuG0

ヒバニーはぴょんぴょんと跳ねるように歩夢の身体を駆け上がって、歩夢の頭の上にしがみつく形になる。それと同時に、


 「シャーーーー!!!!!」


さっきまで大人しかったサスケが、歩夢の声に反応したのか、ご主人様を守るためにヒバニーを威嚇する。


歩夢「サ、サスケ、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけだから……」
 「…シャボ」

歩夢「ヒバニーどうしたのかな……?」

侑「もしかして、手伝ってくれるの?」

 「バニッ!!」


ヒバニーは私の言葉に答えるように、首を縦に振る。


侑「もしかして……さっき、歩夢に助けられたからかな?」

歩夢「え? 私、助けたってほどのことはしてないけど……」


歩夢はそう言うものの、ゾロアの攻撃の中、確かにヒバニーとサスケを庇っていた。


侑「少なくとも……ヒバニーは守ってもらったって思ってるんじゃないかな」

 「バニッ」
歩夢「えっと……それじゃ、お手伝い、お願いしていい?」
 「ヒバニッ!!」


ヒバニーは歩夢の言葉に頷きながら、鳴き声をあげた。


女性「ふふ、それじゃポケモン探し、頑張ってね〜」

侑「はい、ありがとうございます! 行こう、歩夢!」

歩夢「うん」


私たちは街の西側──6番道路を目指します。





    👑    👑    👑





かすみ「ミミロルー! ゴルバットー! ニャースー! 可愛いかすみんはここですよー! 出て来てくださーい!」
 「ガゥッ」

かすみ「うーん……全然、見当たりませんね。ゾロアは何か見つけた?」
 「ガゥゥ…」


かすみんの肩に乗っかって周囲を見回しているゾロアも、特に収穫なし……。困りましたね。

探し方が悪いのかな……?


かすみ「うーん……」


かすみん少し考えます。


かすみ「こんな広い場所で探し物をするなら、まず大雑把に特徴を捉えた方がいいかも……?」


今探しているのはミミロル、ゴルバット、ニャースの3匹。つまり、茶色いうさぎポケモン、紫のコウモリポケモン、白いネコさんポケモンを見つければいいんです。

ピンポイントでそのポケモンだけを探そうとするからいけないんですよ。特徴に着目して追いかけてみましょう!
29 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:45:37.77 ID:QLy5TvuG0

 「コラッタ!!!」

かすみ「紫だし、あれはネズミポケモン」

 「ジグザグ」

かすみ「あれは茶色だし、タヌキさんですね」

 「フニャァ…」

かすみ「あの子……ネコさんポケモンですけど、紫色ですね」

 「ニャァ」

かすみ「……? あれは、なんか額に小判付いてる……ニャースっぽい? ……けど、灰色のネコさんですね……色が違います」

 「エニャァ」

かすみ「わっ! ピンクのネコさん! 可愛い!! ……じゃなくて。……うーん……」


唸りながら、辺りをキョロキョロと見回していると──


かすみ「ん? あれって……」

しずく「──メッソーン!! メッソーン!! どこですかー!? 出て来てくださーい!!」
 「マネネー」


メッソンを探す、しず子の姿。


かすみ「しず子ー!」

しずく「あ、かすみさん……」
 「マネ」

かすみ「それにマネネも連れて来てたんだね」

しずく「うん……今回の旅はマネネも連れて行こうと思ってたから……」
 「マネ」


マネネは学校にいたときから、しず子がよく連れていた子ですからね。かすみんのゾロアと同じような感じです。


かすみ「ところで、メッソン見つかった?」

しずく「うぅん……かすみさんはどう?」
 「マネマネ…」

かすみ「全然ダメ……ネコさんポケモンはたくさん見つかったんだけど、色が違う子ばっかりで……」

しずく「あはは……確かにネコポケモンでも色が違うんじゃ、ダメだね……」

かすみ「紫のネコさん、灰色のネコさん、ピンクのネコさんは見つけたんですけどねぇ……」

しずく「えっ!?」

かすみ「わ!? な、なに!? 急におっきな声出さないでよ、しず子……」

しずく「か、かすみさん、灰色のネコポケモン見たの!?」


しず子は急に詰め寄って、私の両肩を掴んでくる。


かすみ「え? う、うん……でもニャースって白いネコさんだよね?」

しずく「……ああ、しまった……!! 伝え忘れてた……! 研究所にいたのは普通のニャースじゃないんだよ!!」

かすみ「……? 普通のニャースじゃない……?」


普通じゃないニャースってなんだろう……?
30 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:47:06.94 ID:QLy5TvuG0

しずく「研究所のいたのはアローラニャースなの!!」

かすみ「アロー……? なにそれ……?」

しずく「えっとつまり……! 灰色のニャースなんだよ!!」

かすみ「えっ!? じゃあ!?」


さっきまで、灰色のネコポケモンがいた方向を急いで振り返る。


かすみ「い、いない……!! でも、まだ遠くには行ってないはず……!!」


とにかく、かすみんはさっき見た灰色のネコさんポケモンがいた方向に向かって、走り出します。


しずく「か、かすみさん!?」

かすみ「まだ、近くにいるかもしれないから! しず子、教えてくれてありがとう!! ニャースは絶対捕まえて戻るから、しず子は絶対メッソンのこと見つけてよね!!」

しずく「! わかった!」

かすみ「ゾロア、行くよ! ちゃんとニャースを捕まえて、汚名挽回です!!」
 「ガゥッ!!!!」


ここで取り返さなくちゃいけないんだから!! かすみん、全力で頑張りますよ!!


しずく「あ……汚名は返上するもの……って、行っちゃった……」
 「マネネェ…」





    🎹    🎹    🎹





歩夢と一緒に、6番道路に向かう道すがら。


歩夢「…………」

侑「うーん……やっぱ、風斬りの道の方まで行っちゃってるのかな……」

歩夢「…………」

侑「……歩夢、大丈夫?」

歩夢「え? あ、ごめん、何かな?」

侑「……。……やっぱり、歩夢何か落ち込んでる?」

歩夢「え!? ど、どうしてそう思うの……?」

侑「なんか、研究所での一件以来、いつもより口数が少ないなってずっと思ってたんだ」

歩夢「あ……」


他に喋っている人がたくさんいたから、会話に入ってこなかっただけなのかとも思っていたけど……こうして二人っきりになると、いつもより明らかに口数が少ないのがよくわかる。

歩夢は私からの指摘を受けて、少し目を逸らしてから、それについて言うか否かを迷っている素振りをしていたけど……。


歩夢「……やっぱり、侑ちゃんには隠し事……出来ないね、あはは」


そう言いながら、力なく笑う。
31 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:48:45.54 ID:QLy5TvuG0

侑「どうしたの? 話、聞くよ?」

歩夢「……えっと、ね」

侑「うん」

歩夢「……こうなっちゃった原因……私にもあるのかなって……」

侑「え?」


私はポカンとしてしまった。歩夢にも原因があるって……?


歩夢「ほら、博士のドンカラスがゾロアを捕まえたとき……私、泣いてるゾロアが見てられなくって……」


そこまで聞いて、歩夢が何を思い悩んでいるのかはわかった。歩夢らしいと言えば歩夢らしいかな……。


歩夢「……私があのとき“うそなき”だって、ちゃんと気付けてれば……博士を止めてなければ……あそこまでゾロアが大暴れして、研究所があんなことになったりしなかったんじゃないかなって……」

侑「考えすぎだよ」

歩夢「で、でも……!」

侑「確かに歩夢は素直すぎて、ああいう嘘が見抜けないところがあるのは知ってるよ、昔から」

歩夢「ぅぅ……」

侑「でも、それは歩夢が優しいからであって、悪い部分じゃないよ」

歩夢「……侑ちゃん……でも……」

侑「だから、歩夢はそのままの歩夢でいて欲しいな。歩夢が打算的になっちゃったら、私ちょっとやだな……ね、サスケもそう思うでしょ?」

 「シャー」
歩夢「きゃっ……サ、サスケ、くすぐったいよ……」


私の言葉を受けて、サスケは歩夢の頬をチロチロと舐める。そして、そんなサスケ同様、


 「バニバニッ」


ヒバニーも歩夢の頭の上でぴょこぴょこと跳ねる。


歩夢「わわ……! 頭の上で跳ねないで〜……」

侑「ほら、サスケもヒバニーも、今の優しい歩夢でいて欲しいって言ってるよ」

歩夢「……うん」

侑「だから、自分が悪かったなんて思わないで欲しいな」

歩夢「侑ちゃん……うん」

侑「それにもし今後、歩夢を騙したり、歩夢に酷いことする人が現れたら……」

歩夢「現れたら……?」

侑「私が絶対、歩夢のこと守るからさ!」

歩夢「……!」


歩夢は私の言葉を聞いて、びっくりしたように目を見開いた。


歩夢「ホントに……?」

侑「もちろん! 何かあったら守るし、助けるよ! 約束する!」

歩夢「……そ、そっか……えへへ、ありがとう、侑ちゃん……」


歩夢は少し頬を赤らめながら、嬉しそうにはにかむ。ち、ちょっとかっこつけすぎたかな……?

いや、でも何かあったら歩夢のことは私が守る! それは本心!
32 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:49:42.15 ID:QLy5TvuG0

歩夢「侑ちゃん」

侑「ん?」

歩夢「私も……侑ちゃんに何かあったら、侑ちゃんのこと、守るね。えへへ……」

侑「ふふ、ありがと、歩夢♪」


歩夢の言葉を聞いて安心する。

どうやら心のつっかえは取れたようでよかった。

一安心したところで、私たちは間もなく6番道路に差し掛かろうとしていた──そのとき、


侑「……あ!?」

歩夢「え、どうかし──あっ!!」


二人で同時に声をあげる。

なぜなら、ちょうど視線の先に──


 「ロル…?」


茶色いうさぎポケモン──ミミロルの姿があったからだ。


侑「やっと1匹見つけた……!!」


本来探していたゴルバットとは違うけど、運よく見つけたミミロルに向かって、ダッシュする。


歩夢「侑ちゃん!?」

 「ロル!?」

侑「ミミロル、確保ー!!!」


そのまま、ミミロルに飛び付くようにして、捕獲──


 「ロルー!!!?」
侑「よし!! 捕まえた!!」


両手でしっかりとミミロルを捕まえることに成功……!!


 「ロルッ!!! ロルゥッ!!!!!」
侑「わわ!? あ、暴れないで……!!」


私は暴れるミミロルをどうにか押さえながら、捕獲用のボールに手を伸ばす──その際に、私はミミロルの右耳に触れてしまった。

その直後──


 「!!!!! ロォルッ!!!!!!!」
侑「っ!!?」


ミミロルの左耳が勢いよく伸びてきて、鼻っ柱に直撃。その勢いはとてつもなく、そのまま吹っ飛ばされて、私は地面を転がる。


侑「いったあああああ!?」

歩夢「侑ちゃん!? 大丈夫!?」

侑「ぐぅぅぅ……ど、どうにか……」


体育の授業で、ボールを顔面に食らったとき……いやそれ以上の衝撃だったかも……。鼻を押さえて、痛みを堪えながら、私はどうにか上半身だけでも身を起こす。


 「ロルゥッ…!!!!!」
33 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:51:16.65 ID:QLy5TvuG0

ミミロル、めちゃくちゃ警戒してる……ど、どうしよう……。

小柄で可愛らしいポケモンだったから、素手でも平気だと思ったんだけど……やっぱりポケモンのパワーはとんでもないことを思い知らされた。


歩夢「…………私が行くね」

侑「え!?」


突然、歩夢が一人で前に出る。


侑「あ、歩夢!! 危ないよ!!」

歩夢「…………大丈夫、私に任せて」

侑「あ、歩夢……」

歩夢「ミミロル。ごめんね、怖がらせて」

 「ロルッ…!!!!!!」


ミミロルは依然警戒していて、歩夢のことを威嚇している。


歩夢「ごめんね、研究所で静かに暮らしてたのに……急に大きな音がして、怖かったんだよね」

 「ロルゥゥゥッ!!!!!!!」

歩夢「あそこにいたら危ないって思って、逃げて来たんだよね……ごめんね、怖い思いさせて……」

 「ロ、ロルゥ…!!!」

歩夢「だけど、お外には野生のポケモンもいて、もっと危ないの……だから、一緒に研究所に帰ろう?」

 「ロ、ロル…!!!」

歩夢「大丈夫、怖くないよ」


歩夢は言いながら、ミミロルに手を伸ばす。

ミミロルの──耳に。


侑「!! だ、ダメ!! 歩夢ッ!!」


さっき殴られたからわかる。ミミロルは耳を触られると反射的に殴り返してくる……!!

私は跳ねるように立ち上がって、歩夢の方へダッシュしたけど──


歩夢「よしよし……良い子だね」
 「ロルゥ…」

侑「……って……へ?」


ミミロルは歩夢に“右耳”を撫でられて、気持ちよさそうにしているだけだった。


侑「な、なんで……?」


さっきとあまりに違う状況に事態が飲み込めず、ポカンとする。


歩夢「あのね、この子の耳なんだけど……」

侑「……?」

歩夢「右耳は綺麗な毛並みなのに対して、左耳は何度も打ちつけたように荒れてるなって思って」

侑「え?」


歩夢に言われて、ミミロルをよく見てみると──確かにミミロルの耳は左右で毛並みが全然違っている。
34 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:53:00.22 ID:QLy5TvuG0

歩夢「もしかして、普段からお手入れをしてもらってるのは右耳だけで、左耳は武器になってるから、あんまり触らないようにしてるのかなって思って」
 「ロルゥ…」

侑「歩夢、知ってたの……?」

歩夢「うぅん、なんとなく……ミミロルのこと見てたら、そうなのかなって」

侑「そ、そっか……」


そういえば歩夢って、ポケモンを毛づくろいしてあげるのが、昔からすごくうまかったっけ……。

そのお陰か、いろんなポケモンとすぐ仲良くなれちゃうんだよね。


侑「歩夢は相変わらずすごいね……」

歩夢「え? 何が?」

侑「うぅん、ミミロル大人しくなってくれてよかったね」

歩夢「あ、うん!」

侑「とりあえず、ボールに……」


私は改めて、博士から渡されていた捕獲用のボールをミミロルに向けると──


 「ロルッ!!」


耳が伸びてきてバシッ──とボールを弾き飛ばされる。


侑「あ、あれ……? なんか、私嫌われてる……?」


やっぱり、さっきうっかりミミロルが嫌がるところを触っちゃったのがよくなかったかな……。


歩夢「ミミロル、少しの間だけど……ボールの中で待っててくれないかな? すぐにお家に戻れるから……ね?」
 「ロル…」


ミミロルは歩夢のお願いを聞くと、歩夢の腰辺りをもぞもぞと探ったあと、


 「ロル──」


歩夢の腰についている空のボールに、自ら入って行った。


歩夢「ふふ、ありがとうミミロル♪」

侑「……」

歩夢「よし! それじゃ、このままゴルバットも……──侑ちゃん? どうかした?」

侑「いや、なんでもない。それより、ゴルバットだよね!」

歩夢「あ、うん!」


ミミロルからの扱いの差に思うところがないわけじゃないけど……今は捜索の続き、続き……!





    👑    👑    👑





──セキレイシティ南の道路……8番道路。


かすみ「ニャースー!!! 出て来てくださーい!!」
 「ガゥガゥッ」
35 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:54:26.52 ID:QLy5TvuG0

ニャースを追いかけて8番道路まで来ちゃったけど……完全に見失っちゃいました……。


かすみ「8番道路って、特に特徴もない道なんですけど……だだっぴろいし、背の高い草むらも多くて探しづらいんですよね……」
 「ガゥゥ…」

かすみ「こーなったら、高いところから見渡して……!」


かすみんは辺りをキョロキョロと見回します。

道幅の広い道路の中で高い場所といえば──


かすみ「看板!!」


この道路には『G』と書かれた、8番道路であることを示す標識ポールがあります。

高さで言うと、かすみん1.5人分くらいあります! 高さは十分のはず……!


かすみ「……あ、でもかすみん、今スカートでした……」


かすみんは旅のお洋服も可愛いのがいいから、お気に入りのスカートを履いてきているんです☆


かすみ「これは……看板を登るのは無理ですね」
 「ガゥ…」

かすみ「ちょっと、ゾロア呆れないでよ!? 可愛い女の子として、ここは超えちゃいけないラインでしょ!? 呆れるくらいなら、ゾロアが登ってよ!」
 「ガゥ」


ぷんぷん頬を膨らませる、かすみんの言葉を受けて、ゾロアがぴょんっとポールに飛び付きます。

──が、


 「ガゥゥ…」


ゾロアは情けない声をあげながら、ずるずるとポールの根本まで滑り落ちていきます。

身軽なゾロアと言えど、さすがに表面がつるつるなポールを登るのは難しいみたい……。


かすみ「……というか、冷静に考えてみると、この垂直のポールを登るのはかすみんでも無理かも……」
 「ガゥガゥッ!!!!」

かすみ「わ!? お、怒んないでよー!!」


でも、どうしよう……改めて辺りを見回しても、ぼーぼーな草むらのせいで、ガサガサガサガサと何かがいる音こそするものの、何がいるのかが全然見えません……。


かすみ「揺れてるところを虱潰しで探すしかないかなぁ……」


一周して戻って来てしまった結論に頭が痛くなる。早く見つけたいのにぃ……。

そのときだった──カタカタカタと、腰の辺りで何かが震え出す。


かすみ「わ!? な、なんですかなんですか!?」


慌てて、自分の腰周りに目をやると──


かすみ「……モンスターボール?」


何故か、モンスターボールが震えています。……あれ? かすみん、今連れているのはゾロアだけのはず──


かすみ「……あ!」


……そういえば、忘れていました!

腰のボールをポンっと放ると──
36 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:55:41.10 ID:QLy5TvuG0

 「キャモ」

かすみ「キモリ……返すのをすっかり忘れてました……」


ヨハ子博士に返し忘れていたキモリが顔を出しました。

よく考えてみればかすみん、ヨハ子博士のユキメノコに捕まったあとはそのまま折檻もといお説教を受けていたので、返すタイミングがありませんでしたね。

ところで、


かすみ「キモリは何しに出てきたの……?」
 「キャモ…?」


訊ねるとキモリは、先ほどまでかすみんとゾロアが必死に登ろうとしていた看板ポールに飛び付き、


かすみ「お、おぉ……!?」


そのまま、ひょいひょいと上に登っていくじゃありませんか!


かすみ「もしかして、手伝ってくれるの!?」

 「キャモ!!!」


あっという間に看板の上にまで登り切ったキモリは、そこから辺りを見回し始めます。


かすみ「キモリー! そこから、ニャースの姿、見えますかー?」

 「キャモ…」


キモリは看板の上で、前傾姿勢になって、見下ろしていますが、どうにもうまく行ってないみたい。

やっぱり、背の高い草むらは上から見ても邪魔ということですね……。せめて、ニャースがもっと派手派手な色だったり光っていたりしてくれれば……。


かすみ「ん……? 光って……? ……そうだ!」


そこでキュピピーンと、かすみん名案を閃いちゃいました!


かすみ「キモリ!」

 「キャモ…?」

かすみ「かすみんが、ニャースを“光らせます”! キラキラしたのを見つけたら、教えてくれますか!?」

 「キャモッ!!」


キモリが頷いたのを確認して──


かすみ「行くよ! ゾロア! “にほんばれ”!!」
 「ガゥガゥッ!!!!」


ゾロアに指示したのは“にほんばれ”! 日差しを強くする補助技です!

かすみん、ゾロアと一緒にイタズラする……じゃなくて、いろんな状況に対応するため、便利な技をたくさん覚えさせているんですよね!

ニャースの額には小判が付いています。だから、天から強い日差しが降り注げば──


 「!! キャモッ!!!!」


──小判に光が反射するから、よく見えるはず!!


かすみ「そこですね!! ゾロア!!」
 「ガゥッ!!!!」
37 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:56:36.05 ID:QLy5TvuG0

キモリが指差した先に、ゾロアを振り被って、


かすみ「いっけぇぇぇぇ!!!!」


投げ飛ばします!!


 「ガゥゥゥッ!!!!!」


草むらに飛び込むと同時に行う奇襲の一撃!!


かすみ「ゾロア!! “ふいうち”!!!」

 「ガゥァッ!!!!!」

 「ンニャァッ!!!?!?」

かすみ「! 手応えありです!!」


かすみん、ニャースの鳴き声を確認すると同時に走り出します。

ニャースがいるであろう草むらを回り込んで逆側に走ると──


 「ンニャッンニャァッ!!!!!」
 「ガゥッガゥガゥッ!!!!」


草むらから追い出されたニャースが、ゾロアと取っ組み合いをしている真っ最中……!


かすみ「今です!! モンスターボール!!」

 「ニャァッ!!!?」


かすみんの投げたボールはニャースの額の小判に直撃! そのままニャースは、ボールに吸い込まれていきました。


かすみ「……や、やったあああああ!!! 捕獲出来ましたぁー!!!」

 「ガゥガゥッ!!!」


喜ぶかすみんに飛び付いてくるゾロア、そして──


 「キャモッ」

かすみ「キモリも、ありがとね!」
 「キャモッ」


任務を終えて、看板から降りて来たキモリにもお礼を言う。


かすみ「それじゃ、一旦戻りましょうか! 他のみんなのお手伝いに行きましょう!」
 「ガゥッ」「キャモッ」


かすみんは8番道路をあとにして、一旦セキレイシティへと戻るのでした。





    🎹    🎹    🎹





ミミロルを捕まえたその後──私たちは6番道路をさらに奥に進んでいた。


侑「ゴルバット……見当たらないなぁ」

歩夢「うん……」
 「バニィ…」
38 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:58:04.73 ID:QLy5TvuG0

それなりに大きなポケモンだし、飛んでいれば見つけられそうなものだけど……。


侑「もしかして、もう別の場所に行っちゃったのかなぁ……?」

歩夢「その可能性はあるよね……」


辺りを見回すと、ポッポやマメパトといった鳥ポケモンたちがたくさん飛んでいるのが目に入る。

ここ6番道路──通称『風斬りの道』はサイクリングロードとなっている橋の周りを、たくさんの鳥ポケモンが飛んでいることで有名だ。たぶん鳥ポケモンやひこうタイプのポケモンが好む気候なんだと思う。

もしかしたら、ひこうタイプのゴルバットも同じような理由で自然とここに来たのかと思ったけど……。


侑「とりあえず、橋の下だけでも確認してみよっか」

歩夢「うん。橋の上は自転車がないと探せないもんね」


橋の脇にある階段を伝って、河原の方へと降りていく。


侑「そういえば、小さい頃一緒に遊びに来たっけ」

歩夢「ふふ、そうだったね。ここは近くにある一番おっきな川だから、よくお母さんたちに連れて来てもらってたね」

侑「フワンテにだけは気を付けなさいよ〜って言われたっけ」

歩夢「そうそう♪ あ、覚えてる? ここでかくれんぼしたときのこと……侑ちゃん、橋の下に隠れるの好きだったよね?」

侑「あったあった! 柱の裏側って意外と死角になったりするんだよね♪」

歩夢「お昼でも、日が当たらなくて薄暗くなる場所だと特に……侑ちゃん、いっつも黒い服着てるから、見つけるの大変だったよ……」

侑「あはは、私の作戦勝ちだね♪」


昔を懐かしみながら、橋桁の裏を覗く──案外私と同じでここに隠れていたりして……。


侑「……まあ、そんなに都合よく行かないか」


橋桁の裏は、昔歩夢と遊んだときのように、日が当たらず薄暗い。ゴルバットみたいなコウモリポケモンは好きそうだなって思ったんだけど……。


 「…シャーボ」
歩夢「ん? サスケ? どうしたの?」

侑「ん?」


普段おとなしいサスケが急に鳴き声をあげた。


歩夢「そういえば……」

侑「ん?」

歩夢「かくれんぼのとき、最終的に侑ちゃんを見つけたの……サスケだったよね」

侑「……そうだったかも。たしか、アーボには熱で獲物を探す能力があるって、歩夢のお母さんが……」


気付けば、橋桁の上の方を見上げるサスケに釣られるように上を見る。

日が完全に遮られて薄暗い中、整備用に取り付けられたであろう小さな足場の先に──何かの影が見えた。


侑「!? 何かいる!?」


見つけたと同時に──その何かは大きく口を開いた。


侑「!! ゴルバ──」


──キィィィィィィィン!!!!!!
39 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 15:59:13.74 ID:QLy5TvuG0

侑「い゛ッ!!?」

歩夢「っ゛!!?」


標的の名前を叫ぶと同時に──私の声を掻き消すように、耳障りな音が辺り一帯に響き渡る。


 「ヒ、ヒバニッ…」
歩夢「ヒバニー……!?」


歩夢の頭にしがみついていたヒバニーが目を回して落っこちそうになったところを歩夢がキャッチする。


侑「こ、これ……ッ……ゴルバットの……ッ……“いやなおと”……ッ……!?」


もしかしたら、耳の大きなヒバニーには、この音の影響が大きいのかもしれない。

歩夢もすぐに気付いたのか、ヒバニーの耳を塞ぐように胸に抱き寄せる。

それだけじゃない、近くの草むらから小型の鳥ポケモンが一斉に飛び立ち、他にもコラッタやオタチといった小型のポケモンたちが草むらから飛び出して逃げ回っている。


歩夢「とにかく……っ……音を……どうにか、しなきゃ……っ……!!」
 「シャボッ…!!」

歩夢「サスケ……!! “どくばり”……!!」
 「シャーーーッ!!!!」


サスケがゴルバットに向かって、小さな毒の針を無数に吐き出す。


 「ゴルバッ!!」


サスケの攻撃に気を散らされたのか、小さな鳴き声と共に“いやなおと”が止む。それと同時に──バサッと大きな翼が開かれ、ゴルバットが橋桁から飛び出した。


 「ゴルバッ…!!!!」


ゴルバットは私たちの姿を認めると──大きく翼を振るって、


侑「!? 歩夢!! 危ない!!」

歩夢「え!? きゃっ……!!」


風の刃を飛ばしてきた。“エアカッター”だ。

間一髪、歩夢の手を引いて、無理やり自分の方に抱き寄せると──先ほど歩夢がいた場所が風の刃に切り裂かれて、河原の地面が軽く抉りとられる。


侑「歩夢!? 怪我は……!?」

歩夢「だ、大丈夫……ありがとう……」


ホッとするのも束の間──ゴルバットに目をやると、大きな翼で空を旋回しながら、私たちを睨みつけている。


侑「敵だと思われてる……?」

歩夢「ゴルバット……! 私たち、あなたをお家に返してあげようとしてるだけで……!」

 「ゴルバッ!!!」


歩夢の声を掻き消すように、再び飛んでくる風の刃。


侑「っ……!!」


私は歩夢の腕を引いて、走り出す。

とどまってちゃダメだ……!!
40 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:00:19.71 ID:QLy5TvuG0

歩夢「ゆ、侑ちゃん……! どうしよう……あのゴルバット、全然お話聞いてくれない……!」

侑「ミミロルみたいにはいかなさそうだね……! 歩夢、戦おう……!!」

歩夢「え、ええ!? で、でも……! 私、戦い方なんて、わ、わかんないよ……!!」

侑「でも、やらなきゃ……!」


歩夢と問答している間にも──


 「ゴルバッ!!!!」

侑「!!」


ゴルバットが大きな牙を歩夢に向けて、飛び掛かってくる。やるしかない……!!


侑「サスケ!! “とぐろをまく”!!」

 「シャーーーボッ!!!!」


私の指示と共に、歩夢の肩の上でサスケがとぐろを巻いて、防御姿勢を取る。

──ガッ!! 鈍い音と共にゴルバットの攻撃をサスケが体で受け止める。

今だ……!!


侑「モンスターボール!!」


腰から外したモンスターボールを投げつける──が、


 「ゴルバッ…!!」


察知したのか、すんでのところで躱され、ゴルバットは再び上空へ。


侑「くっ……! 歩夢!! とにかく、隙を作って!!」

歩夢「わ、わかった……! が、がんばる……!」
 「ヒバニッ」

歩夢「ヒバニー……! もう平気なの?」
 「バニッ!!!!」


先ほど目を回していたヒバニーも復活したようで、歩夢の腕の中から外に飛び出す。


歩夢「じゃあ、お願い! 一緒に戦って! “ひのこ”!!」
 「バニィーーー!!!」

 「ゴルバッ!!!?」


小さな火球がゴルバットに直撃する。


侑「よし……!! 効いてるよ、歩夢!!」

歩夢「うん!」


このまま弱らせて、捕獲したい。とはいえ、ゴルバットもただやられてはくれない。


 「ゴルバッ!!!!」


今度はヒバニーを標的とした“エアカッター”。


歩夢「ヒバニー!! 走って!!」
 「バニッ!!!!」
41 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:02:47.02 ID:QLy5TvuG0

ヒバニーは走り回りながら、“エアカッター”を避け、


 「バニーーーッ!!!!!」


隙を見つけて、“ひのこ”をゴルバットに撃ち込む。


侑「よし……!! この調子で……!!」

 「ゴルバァッ…!!!」


良い調子かと思ったら、


 「ゴ、ルバァァッ!!!!!!」


急にゴルバットが辺り一帯に無差別に“エアカッター”を乱発し始めた。


侑「う、うわぁ!?」

歩夢「お、怒ったのかも……!」

侑「て、撤退ー!!」


歩夢の手を引いて、橋桁の裏へと走る。

その間もヒバニーは走り回りながら上手に攻撃を避け続けているけど……。


侑「ど、どうしよう……もっと強い攻撃を当てないと……!」


このままだと、いつかヒバニーも攻撃に被弾して、やられてしまうかもしれない。


歩夢「もうちょっと……もうちょっとだけ待てば……」

侑「え?」

歩夢「たぶん……もうちょっと頑張れば、強い攻撃……出来ると思う」

侑「ホントに……?」

歩夢「……うん」


歩夢が何をしようとしているのかはわからない。だけど、さっきのミミロルのように、歩夢は何かに気付いたのかもしれない。

なら、今はヒバニーと歩夢を信じて、そのときを──


 「──……ブィ」

侑「え?」

歩夢「? 侑ちゃん?」

侑「今……何か……聞こえた気が……」


小さくか細い鳴き声が──

声の聞こえてきた方に目を凝らす。

ヒバニーがちょこまかと走り回りながら、ゴルバットの“エアカッター”を避け続けているバトルフィールドの少し先に──小さな何かが蹲っていた。あれは──ポケモン……!?


侑「!? 逃げ遅れた野生のポケモンだ!?」

歩夢「えっ!?」


先ほどの“いやなおと”で周りの野生ポケモンは全て逃げてしまったんだと思い込んでいたけど──逃げ遅れたポケモンがいたんだ……!!


侑「あのままじゃ、巻き込まれちゃう……!!」
42 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:03:40.19 ID:QLy5TvuG0

私は咄嗟に橋桁から飛び出して、逃げ遅れたポケモンのもとへと走る。


歩夢「ゆ、侑ちゃん!?」

侑「歩夢はそこにいて!!」


叫びながら、私は一直線に走る。

無謀なのは承知だ。でも、何も関係ない子を巻き込むわけにはいかない。


 「ブイィィ……」


か細い鳴き声がどんどん近くなる。

それと同時に、風を薙ぐ音が何度も自分の間近を通り過ぎる。

急げ、急げ、急げ……!!


 「ブィィィ……」


──あと、ちょっと……!!

あと大股で何歩か、というところで──私の背後から、風の刃の音が迫ってくるのが聞こえた。


歩夢「──侑ちゃん!!!! 避けてえええええ!!!!!」


歩夢の悲鳴のような声が響く。私の背後に“エアカッター”が迫っていることがわかった。

──ダメだ、今避けたら、あの子に当たる……!!


侑「うあああああああああああああっ!!!!」


一か八か……! 私は地面を蹴って、頭から飛び込んだ──


 「ブイッ…!!!」


ポケモンを抱き寄せながら、


侑「……ッ!!!!」


地面を転がる。──ズシュッ! 嫌な音がした。


侑「……ッ゛……!!」


肩に走る鋭い痛み。


 「ブイ……」


心配そうな鳴き声が、胸元から聞こえて来た。


侑「……あはは……大丈夫、大丈夫……掠っただけだから……それより、君は大丈夫だった……?」
 「ブイ……」

侑「無事みたいだね……よかった……」
 「ブィィ…」

侑「……早く、お逃げ……」
 「ブイ…」


胸の中から這い出てくる小さなポケモンに逃げるように促し、その子の壁になるように片膝を突きながら立ち上がる。

肩の切り傷もだけど……河原の石の上を転がったから、全身が痛い。
43 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:04:45.28 ID:QLy5TvuG0

 「ゴルバッ!!!!!!!」


未だ怒り狂うゴルバットの姿。

その攻撃を避けながら、走り回るヒバニーの姿。そして、気付けば、走り回るヒバニーの足元は赤く赤熱していた。

これが歩夢の言っていた強い攻撃の予兆……!

もう少しで歩夢たちがどうにかしてくれると思った瞬間──再び、私に向かって、風の刃が飛んできた。


侑「──……あ」


──周りがスローモーションになったように感じた。ゆっくりと風の刃が私の真正面に迫ってくる。

──もうダメだと……思った。そのときだった。


 「──ブイ」


──トンと、私の背中、肩、そして頭へと、何かが駆け上がっていく。

その何かは、そのまま私の頭を踏み切って──


 「ブイィィィィ!!!!!」


私の目の前に迫る、風の刃の前で──眩く光った。


 「ブイ」

侑「う、嘘……?」


気付けば、先ほどまで迫っていた風の刃はその光に掻き消され、綺麗さっぱり消えていた。


歩夢「ヒバニー!!!!」

侑「!」


目の前の光景に、呆けていたのも一瞬。歩夢の声で意識を引き戻される。


 「バーーニニニニニ!!!!!!!」


気付けば、猛スピードになりながら、走った道を真っ赤に燃やすヒバニーの姿が目に入ってくる。


歩夢「いけっ! ヒバニー!!」

 「バーーーニィ!!!!!!!」


ヒバニーは歩夢の合図と共に、進路を橋桁の方に変え──猛スピードの勢いのまま、橋桁を一気に垂直に駆け上がり──


 「ゴルバァッ!!!!!!」


空中で怒り狂っているゴルバットに高度を合わせて──


 「バーーーニィッ!!!!!!!」


柱を蹴る反動で──燃え盛りながら飛び出した……!!


歩夢「“ニトロチャージ”!!!」

 「バニィィィーーーーーー!!!!!!!」
44 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:05:31.49 ID:QLy5TvuG0

燃え盛る炎の突進が──


 「ゴ、ルバァッ!!!!!?」


ゴルバットに直撃した。ゴルバットはその衝撃で河原に墜落し──


 「ゴ、ゴルゥ……」


目を回して、戦闘不能になったのだった。


侑「……そうだ、捕獲……!!」


私は地面で伸びているゴルバットに向かってボールを投げつけた。

──パシュンと音がして、ゴルバットがボールに吸い込まれる。


侑「はぁ……よかった……」


へたり込んだまま、安堵する。


歩夢「よくないよっ!!」

侑「うわぁ!?」


気付けば、歩夢がすぐそこで私のことを見下ろしていた。……目の端に大粒の涙を浮かべて。


歩夢「なんで、あんな無茶したの!?」

侑「えーあー……いや……」

歩夢「もう少しで大怪我するところだったんだよ!?」

侑「その……でも、本当に掠り傷だったから……」


肩の傷も、ちょっと表面に切り傷が出来た程度で本当に掠っただけだ。


歩夢「侑ちゃんに何かあったら……私……っ……」

侑「ご、ごめん……歩夢……私、必死で……」
 「ブイ…」


そのとき私の近くで鳴き声がして、ハッとする。


侑「そうだ……君が助けてくれたんだよね?」
 「ブィ…」


気付けば先ほど助けたポケモン──茶色くてふわふわの毛を身に纏ったポケモン……イーブイが私に身を寄せてきていた。


侑「さっきの技……もしかして、“とっておき”?」
 「ブィ…」

侑「すごい……!! “とっておき”って、千歌さんのネッコアラもよく使ってた大技だよね!?」
 「ブイ…?」

侑「あれ? でも、“とっておき”って、いくつか技を使ったあとじゃないと、出せないんじゃないっけ……」
 「ブイ…」

侑「あ……! もしかして、ずっと“なきごえ”をあげてたから……!?」
 「ブイィ…」

歩夢「──……侑ちゃん? 反省してる?」


急に怒気の籠もった声にビクっとする。
45 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:06:42.02 ID:QLy5TvuG0

侑「し、してるしてる!! ごめん!! でも、ホントに大した傷じゃなかったから、ね!?」

歩夢「はぁ……もう……」
 「バニバニッ」


私たちの様子を見て、歩夢の頭にしがみついているヒバニーが笑っている。


侑「そういえば、さっきのヒバニーの技……」

歩夢「あ、うん……ヒバニーの足の裏と鼻の頭にある、この黄色い模様なんだけど……」
 「ヒババニッ」


歩夢が説明しながら触れるとヒバニーはくすぐったそうに声をあげる。


歩夢「ここね、なんだかヒバニーが動くたびにちょっとずつ温かくなってる気がしたの」

侑「そうなの……?」


私もヒバニーの足の裏の黄色い模様に触れてみると、たしかに温かい。


歩夢「それで、ほのおタイプのポケモンだし……もしかしたら、ここから熱を放出して戦うんじゃないかと思って」

侑「そっか……! 走り回って上がった体温が、炎になってここから放出されるんだ……!」

歩夢「うん。そうなんじゃないかなって」

侑「すごいよ歩夢! よく気付いたね!」

歩夢「えへへ……なんとなく、そうなのかなって思っただけだったんだけど……当たっててよかったよ」


歩夢は言いながらはにかむ。


歩夢「それより、一旦研究所に戻ろう?」

侑「あ、うん。そうだね。ミミロルもゴルバットも捕まえたし……」

歩夢「侑ちゃんの怪我の治療もしなくちゃいけないし」

侑「え? それは別に……」

歩夢「ダメ! 怪我を甘く見ちゃいけないんだよ!」

侑「ぅ……はーい……」
 「ブィ…」


歩夢は私の手を強引に引っ張りながら、研究所への道を戻っていくのだった。





    💧    💧    💧





しずく「……はぁ」
 「マネ…」


マネネと一緒に溜め息を漏らす。


しずく「メッソン……本当にどこに行ってしまったんでしょうか……」
 「マネ…」
46 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:07:56.45 ID:QLy5TvuG0

メッソンはみずポケモンです。研究所から比較的近い8番道路側の池や、街中の噴水なども探しましたが……メッソンを見つけることは出来ませんでした。

マネネと二人、項垂れていると、


かすみ「しず子〜!」

しずく「あ……かすみさん」


8番道路側から、かすみさんが走ってくるのが見えた。


かすみ「見て見て! ニャース捕まえたよ!」

しずく「ほ、本当!?」


かすみさんはそう言いながら、ニャースが入っているであろうモンスターボールを私に見せてくれます。


かすみ「かすみんの大活躍、しず子にも見せてあげたかったよ〜」

しずく「ふふ、かすみさん、頑張ったね。ナデナデ♪」

かすみ「えっへん! かすみんこれで名誉返上ですよ!」

しずく「あはは……」
 「マネネ…」


名誉は挽回して欲しいなぁ……。


侑「かすみちゃーん! しずくちゃーん!」


かすみさんに苦笑いしていると、今度は街の西側から侑先輩の声。


しずく「侑先輩! 歩夢さん!」

かすみ「って、侑先輩ボロボロじゃないですかぁ!?」


かすみさんの言うとおり、侑先輩はあちこち傷だらけで、服もボロボロです……。


侑「あはは……ちょっといろいろあって……」

歩夢「侑ちゃん、すぐに無茶するから……」


歩夢さんがぷくーっと頬を膨らませると、侑先輩は罰が悪そうに目を逸らす。何があったのかはわかりませんが……侑先輩が相当身体を張ったのだということはわかりますね。

それと、もう一つ気になることが……。


しずく「あの侑先輩」

侑「ん?」

しずく「その子は……」


私は侑先輩の足元に視線を注ぐ──侑先輩の足元に寄り添っている、小さなポケモンに。


 「ブイ…」
侑「あ、えっと……なんか、付いてきちゃって……」

歩夢「ふふ、すっかりなつかれちゃったね」

かすみ「って、そのポケモンイーブイじゃないですか!? 可愛いぃ! 羨ましい!」

しずく「……文脈を読み取るに……侑先輩が捕まえたわけじゃないんですね?」

侑「うん。野生の子なんだけど……」


侑先輩の言葉を聞いて、かすみさんの目が光る。
47 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:10:03.22 ID:QLy5TvuG0

かすみ「だったら、かすみんが捕獲します!! バトルですよ!! イーブイ!!」

しずく「かすみさん、めっ!」


かすみさんの目の前で人差し指を立てながら、制止する。


かすみ「じ、邪魔しないでよ、しず子〜!」

しずく「ポケモンにも“おや”を選ぶ権利があります。イーブイ、貴方はどうしたいですか?」

 「ブイ…」


私がイーブイに向かって訊ねると、


 「ブイ」
侑「わわ!?」


イーブイはぴょんぴょんと跳ねながら、器用に侑先輩の身体をよじ登り、


 「ブイ…」


侑先輩の肩の上で腰を下ろして、落ち着いた。


歩夢「イーブイ、侑ちゃんと一緒にいたいみたいだね♪」

侑「……イーブイ、私と一緒に冒険してくれる?」
 「ブイ」

しずく「ふふ、きっとイーブイも『うん』って言ってますよ♪」

かすみ「むー……わかりました。侑先輩、かすみんの分もそのイーブイ、可愛がってあげてくださいね」

侑「うん! 任せて!」
 「ブイ」


欲望に忠実なかすみさんも、今回はどうにか納得してくれた様子。


しずく「そうだ……侑先輩、歩夢さん、首尾はどうですか?」

歩夢「あ、うん! 私たちはミミロルとゴルバットを捕まえたよ!」

かすみ「ホントですか!? かすみんはニャースをばっちり捕まえちゃいましたからね!」

侑「ホントに!? それじゃ、メッソンも……!」


3人の期待がこちらに向く。ですが……。


しずく「すみません……メッソンはまだ……。ご期待に沿えず申し訳ないです……」

かすみ「そっか……じゃあ、あとはメッソンを探そう!」

侑「4人で手分けすればきっと見つかるよ!」

歩夢「その前に、侑ちゃんは怪我の手当てが先……!」

侑「わわ!?」


歩夢さんが侑先輩を引き摺りながら、


歩夢「手当てが終わったら、すぐ手伝いに戻るからね」

侑「ふ、二人ともまたあとで〜」


研究所の方へ行ってしまいました。


かすみ「……それじゃ、しず子! かすみんは東の9番道路の方探してみるね!」

しずく「わかった。お願いね、かすみさん!」
48 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:11:11.77 ID:QLy5TvuG0

──パタパタと走り去るかすみさんの背中を追いながら、思う。


しずく「……皆さん、ちゃんとポケモンを見つけたんですね。……何も出来ていないのは……私だけ……」
 「マネ?」

しずく「うぅん、なんでもない。頑張って見つけよう、マネネ」
 「マネ…」





    💧    💧    💧





──その後、私たちはメッソンの捜索を続けましたが……。


かすみ「しず子〜!」

しずく「かすみさん……」

かすみ「一旦、研究所に戻ってこいって、ヨハ子博士が……」

しずく「……でも、まだメッソンが……」

かすみ「もう日が暮れちゃうからって……」

しずく「……」


確かに、気付けば日は傾き、空には茜が差し始めました。


しずく「……私はもう少しだけ」

かすみ「しず子……でも、夜になっちゃうよ」

しずく「……日が落ち切ったら、それこそ見つかるものも見つからなくなっちゃうよ。それに……」

かすみ「それに……?」

しずく「私だけ……まだ何も出来ていない。このまま、戻るわけには行かないよ……」
 「マネ…」


マネネも心配しているのがわかる。だけど……私だけ何も出来ないままなわけにはいかない。


しずく「私だって……博士に選ばれたトレーナーなんだから……っ……」

かすみ「しず子」


かすみさんが私の肩を掴む。


かすみ「どうしちゃったの……? 今のしず子、なんか変だよ……」

しずく「……かすみさんも侑先輩も歩夢さんも、みんな自分の役割を全うしてるのに……私だけ……」

かすみ「でもでも、これは元はと言えばかすみんが悪いだけで……しず子のミスじゃないじゃん!」

しずく「…………」

かすみ「だから、しず子がそこまで気負う必要ないよ……確かに、メッソンを選ぶって決めてたしず子にとって、特別な思い入れがあるってことは、かすみんもわかってるけど……」

しずく「……そうじゃない」

かすみ「え?」

しずく「……これは、私のミスでもあるんだよ」

かすみ「……どういうこと……??」


かすみさんが困惑した表情になる。
49 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:12:50.64 ID:QLy5TvuG0

しずく「……あのとき、ゾロアが暴れ出したとき、私は……私は、自分の身を守るので精一杯だった。歩夢さんは……すぐにヒバニーとサスケさんを抱き寄せていた。侑先輩は歩夢さんを庇って……なのに、私は……メッソンの一番近くにいた私は、何もしなかった」

かすみ「……」


メッソンが臆病なポケモンだってことは、わかっていたのに。あの場で、メッソンを守ってあげることが出来たのは、私だけだったのに。パートナーになろうって、前から決めていたはずの子の一番近くにいたはずなのに、私は……。


しずく「……それなのに、まだメッソンの手がかり一つ見つけられてない。このままじゃ……胸を張って、メッソンのトレーナーになんか、なれないよ……」

かすみ「しず子……」


歩夢さんには、ポケモンを想い、有り余る愛情がある。

かすみさんには、自分のやりたいことを貫く原動力と、それを実現する行動力がある。

じゃあ、私には何がある? 今日この日に一緒に旅立つ二人と肩を並べるには、何がある? わからない。わからないから、せめて──


しずく「メッソンは……私が見つけなくちゃ……!」


パートナーのことくらい、私が見つけてあげなくちゃ……!


かすみ「……わかった。しず子は意外と強情だもんね」

しずく「ごめんね、かすみさん。だから、博士にはもう少し掛かるって──」

かすみ「一旦、研究所。戻るよ」


──グイっと強引に、腕を引かれる。


しずく「えっ!? い、今の話聞いてた!?」

かすみ「聞いてた」

しずく「なら……!!」

かすみ「しず子の持ち味は、そういうとこじゃないもん」

しずく「え……?」


かすみさんは何を……? 持ち味って……? 私は軽く呆けてしまう。


かすみ「そういう諦めないぞ〜!! みたいなのは、かすみんのキャラです!! しず子はこう……一歩引いて、冷静に考えて決めるタイプでしょ!!」

 「マネマネ!!!!」

かすみ「ね、マネネもそう思うよね!」

 「マネ!!」

しずく「……」

かすみ「だから、一旦研究所に戻って、頭冷やした方がいいよ」

しずく「……ごめん」

かすみ「いいよ。許す」


私はかすみさんに腕を引かれたまま、研究所へと戻っていく──



50 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:14:18.46 ID:QLy5TvuG0

    💧    💧    💧





善子「日、完全に落ちちゃったわね……」


博士が窓の外を見ながら、肩を竦める。


歩夢「……メッソン、どこに行っちゃったんだろう……」

善子「臆病なポケモンだからね……。隠れるのも上手なのよ」

侑「うーん……街の噴水広場とか、研究所の近くの池にはいなかったんだよね?」

かすみ「はい……その辺りはすでにしず子が何度も探してくれたので……」

善子「……とりあえず、探すのはまた明るくなってからかしらね……」

しずく「そんな……!」

善子「大丈夫、外はドンカラスとムウマージに捜索させてるわ。あの子たちは暗闇の方が得意だから、きっと見つけてくれる」

しずく「……」

善子「みんな、疲れたでしょ? ロズレイティーでも淹れてあげるわ」

歩夢「あ、手伝います……!」

侑「私も……!」


博士と歩夢さん、侑先輩が部屋から出ていく。


しずく「…………」
 「マネ…」

かすみ「しず子……」

しずく「はぁ……ダメだな、私」

かすみ「そ、そんなことないよ!」

しずく「かすみさんはそう言ってくれるけど……良い案なんて全然思い浮かばない」
 「マネェ…」

かすみ「だ、大丈夫だよ! メッソン絶対見つかるよ!」

しずく「ふふ……そうだね」

かすみ「気休めとかじゃなくって!! 絶対見つけられる!! だって、かすみんもゾロアも、かくれんぼでしず子から逃げきれたことないもん!! しず子は隠れてる人とかポケモンとか見つける才能、絶対あるから大丈夫だって!!」

しずく「ふふ、ありがと。かすみさん。……でも、ゾロアはともかく、かすみさんはわかりやすいからなぁ」

かすみ「む……そんなことないもん」


かすみさん、かくれんぼだって言うのに、バレバレなところというか……ちょっとだけ裏をかいた感じの場所に隠れるし。


しずく「なんか、性格どおりの場所に隠れるなぁって……」


かすみさんだったらどう考えるだろうって思いながらやると、意外と簡単に見つけられちゃうんだよね。


しずく「……?」


……そこでふと思う。


──『こんにちは、メッソンさん。私は、しずくって言います♪』
 『メソ…』

 『あ、あれ……? 消えちゃいました……』──


メッソンは私と顔を合わせたときも、すぐに体を透明にして隠れてしまっていた。
51 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:18:38.79 ID:QLy5TvuG0

しずく「──……そんな臆病で、人見知りな性格のポケモンが……外に逃げるのかな……?」

かすみ「しず子?」


ましてや、今まで研究所の中でしか生活をしたことのないようなポケモンが、緊急事態が起きたからといって、外に逃げ出す……?

いや、最初は気が動転して、逃げ出すかもしれないけど……すぐに戻る気がする。

少なくとも……もし、自分が臆病で人見知りが激しい性格だったとしたら……絶対外になんか、逃げない。

むしろ──


しずく「……もし、私がそうなら……」


私は立ち上がる。


歩夢「ロズレイティー、淹れて来たよ〜」

侑「しずくちゃん?」


私は──博士が最初に並べていたボールが置かれた机の前に立つ。


善子「ああ、ボールはあの後一応、元の場所に戻したわ。かすみが持って行ったキモリのボールはないけどね」

かすみ「……ギクッ」


私が“もし、臆病なポケモンだったら”── 一番慣れ親しんだ、安全な場所に戻る。


しずく「──自分のモンスターボールの中に」


私が机の上のボールのボタンを押し込むと──ボムッ。


 「メソ…」
しずく「やっと、見つけましたよ。メッソン」


メッソンがボールから飛び出してきた。


歩夢「メッソン、ボールの中に戻ってたの……!?」

侑「どうりで見つからなかったわけだ……!」

しずく「モンスターボールは中にポケモンが入っていても重さが変わるわけではありません。入っていないと思い込んでいたら、誰にも見つけることは出来ない。最高の隠れ場所なわけです」
 「メソ…」


私はメッソンを抱き上げる。


しずく「ごめんなさい、メッソン……。もう、何があっても、離したりしませんからね」
 「メソォ…」


ぎゅっと抱きしめると、メッソンは私の胸の中で、小さく鳴き声をあげた。


かすみ「しず子〜!!」

しずく「きゃっ!?」


急にかすみさんが、私の背中に抱きついてくる。
52 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:20:45.10 ID:QLy5TvuG0

しずく「か、かすみさん」

かすみ「しず子すごい!! すごいよー!! ホントに見つけちゃうなんて!!」

しずく「えへへ……かすみさんが信じてくれたお陰だよ、ありがとう♪」
 「メソ…」

かすみ「……って、あれ? メッソン透明になっちゃいました……?」

しずく「あはは……まだ、かすみさんには慣れてないみたいだね。ボールに戻してあげなきゃ」


私は透明になったメッソンをボールに戻してあげる。

そして、改めてメッソンの入ったモンスタボールを握りしめる。

──確かに重さは変わらないけど、確実にメッソンの重さを感じる……そんな気がした。


善子「──しずく」

しずく「! ヨハネ博士……」

善子「大したものだわ。驚いた」

しずく「いえ……偶然です」

善子「いいえ、偶然なんかじゃないわ。メッソンのことを考えて、メッソンの気持ちに寄り添ったからこそ、貴方はその子を見つけることが出来た。貴方はメッソンのパートナーに相応しいわ」

しずく「……はい!」

善子「──歩夢」

歩夢「は、はい!」

善子「侑から聞いたわ。ヒバニーの能力を引き出して、戦ったそうね」

歩夢「い、いえ……なんとなく思いついただけで……」
 「バニバニ」

善子「ふふ、その“なんとなく”がこれから貴方を幾度となく助けてくれると思うわ。ヒバニーと一緒に強くなりなさい」

歩夢「は、はい……!」
 「バニ!!!」

善子「──そして、かすみ」

かすみ「! し、仕方ないですねぇ……。ヒバニーは歩夢先輩に、メッソンはしず子になついちゃってるし……かすみん、取り上げたりなんかしませんよ。それに、キモリも案外悪くないかも〜って思ってるところもなくはないですし?」

善子「ふふ、納得してくれたなら嬉しいわ」


そして最後に、ヨハネ博士は侑先輩に向き直る。


善子「侑、貴方もありがとう」

侑「い、いえ!!」

善子「本当は、まだポケモンを持っていないって話だったから、この研究所の中から1匹くらい、研究用の子を旅のお供にあげようかと思ったんだけど……もう、問題なさそうね」

 「ブイ…」
侑「はい。このイーブイと一緒に旅に出ます」

善子「わかった。心に決めた子がいるなら何よりだわ」


なんだか、旅立ち初日から、本当に大変な一日でしたが……無事最初のポケモンたちも決まり、これにて一件落着ですね♪



53 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:21:53.45 ID:QLy5TvuG0

    🎹    🎹    🎹





善子「最後に──貴方たちにポケモン図鑑を託すわ。……と言っても、かすみはもう持ってるけど」

かすみ「……っは! かすみん、図鑑も返し忘れてました……!」


かすみちゃんは罰が悪そうな顔で、ポケットからパステルイエローの図鑑を取り出す。


善子「歩夢にはこのライトピンクの図鑑を」

歩夢「はい!」

善子「しずくには、ライトブルーの図鑑を」

しずく「ありがとうございます」

善子「ポケモン図鑑があれば、ポケモンの詳細なデータを確認することが出来るわ。きっと、旅の中のいろいろな場面で役に立つはずよ。有効に使って頂戴。それと……」

侑「?」


博士は私の方に視線を向けてくる。


善子「侑、貴方にも何かあげたいんだけど……」

侑「え!? い、いいですよ、私はあくまで歩夢の付き添いなんで……!」

善子「そう? でも、貴方にも迷惑を掛けちゃったし……。……あ、そうだ、ちょっと待ってて」


博士は何かを思い出したように、奥の部屋に行ってしまう。


侑「なんだろう……」

かすみ「何かお宝をくれるのかもしれませんよ!」

侑「ええ……? ホントにいいのに……」

かすみ「貰えるものは貰っちゃった方がいいですよ、侑先輩! 『出されたご飯は残さず食べろ』です!」

歩夢「……?」

しずく「『据え膳食わぬは〜』的なことを言いたいのかな……? それも意味がちょっと違うけど……あはは」


──しばらくして、戻って来た博士の手には、


善子「侑には、これを」


灰色の板状の端末があった。


侑「え、ええっと……これは……?」

善子「最新型のポケモン図鑑らしいわ」

侑「ええ!? う、受け取れません!?」

かすみ「最新型!? ずるいです!! かすみんにもください!!」

しずく「かすみさんはもう貰ったでしょ? めっ!」


最新型らしいポケモン図鑑は他のみんなのものと違って、薄い小型モニターに近い形をしていた。でも、最新型って……私付き添いで来ただけなのに、受け取れないよ……。

私が困っていると──
54 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:22:47.51 ID:QLy5TvuG0

善子「遠慮しないで、持って行ってくれないかしら? ちょっと知り合いに、これのデータ収集を頼まれちゃったんだけど……私は研究が忙しくて、集めてる暇もないのよ」

侑「い、いいのかな……?」

かすみ「貰えるものは貰っちゃいましょ!」

歩夢「博士が持って行って欲しいって言うなら……いいんじゃないかな?」

侑「……わ、わかりました。そういうことなら……」

善子「ええ、お願いね」


期せずして、私もポケモン図鑑をいただくことに……。それにしても最新型の図鑑なんて……ホントにいいのかなぁ……?


善子「さて……渡すものは渡したわね、それじゃ──」


博士が話を締めくくろうとしたとき、


 「──ヨーーーソローーー!!!!!!」


突然背後で、扉が勢いよく開く音と共に、元気な声が響き渡る。

振り返ると、そこには二人の女性の姿──


善子「うるっさ……もっと静かに入ってきなさいよ! 曜!!」

曜「いやー、新人たちもいるし、景気良い方がいいかなって思ってさ〜。……って、随分散らかってるね?」

ことり「あはは……ごめんね? 善子ちゃん?」

善子「こ、ことりさん!?」


珍しく博士の声が裏返る。


侑「ことりさんに曜さん!」

歩夢「どうしたんですか!?」

かすみ「え、なんでなんで、ことり先輩と曜先輩が……!?」


私たちは驚きながら、ことりさんと曜さんのもとに駆け寄る。


しずく「皆さん知り合いなんですね?」

善子「二人とも……セキレイシティの有名人だからね」

しずく「まあ……サニータウンから来ている私でも知っているくらいには、お二人とも有名人ですけど……随分と仲良しなんだなと思って」

善子「二人とも慕われてるのよ。特に子供からはね」
55 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:24:43.39 ID:QLy5TvuG0

ことり「ふふ♪ みんな久しぶりだね♪」

歩夢「はい、お久しぶりです!」

ことり「侑ちゃんと歩夢ちゃんにあげたポッポは元気かな?」

侑「はい! 2匹とも、今は歩夢の家で一緒に暮らしてますよ!」

ことり「あれ? 侑ちゃんにあげたポッポも、歩夢ちゃんの家にいるの?」

歩夢「はい。侑ちゃんが貰った♂のポッポは、私が貰った♀のポッポと仲良くなっちゃって……相談した結果、私の家で一緒に暮らしてるんです」

ことり「なるほど〜そうだったんだね〜♪ かすみちゃんにあげたスバメは元気かな?」

かすみ「えーあーえーっと……げ、元気……かも……?」

ことり「?」

しずく「あ……もしかして、そのスバメ……前に逃げられちゃったって、泣き付かれたことがあった……」

かすみ「しーー!!! しーーー!!! しず子、しーーーーっ!!!」

ことり「そっかぁ……スバメ逃げちゃったんだね。確かにすっごくお外が好きで、元気な子だったからね……そういうこともあるよね……」

かすみ「ご、ごめんなさいぃ……」


そういえば、そんなこともあったっけ。


善子「それはそうと、貴方たち何しに来たのかしら……?」

曜「いや、今日新人トレーナーが旅に出るからって言ったの善子ちゃんじゃん!」

善子「確かに教えたけど……というか、善子じゃなくてヨハネよ」

ことり「せっかく、ポケモントレーナーデビューする子たちだから──ポケモンジムに案内しようと思って♪」

かすみ「ジム!? ってことは、ジム戦して貰えるんですか!?」


かすみちゃんが勢いよく食いつく。確かにこの街にはセキレイジムがあるし、ポケモントレーナーだったら、ジムを巡るのも旅の目的の一つだ。

そのチュートリアルとして、この研究所に足を運んでくれたってことみたい。


かすみ「行きます行きます! かすみん、ジム戦やってみたかったんです!」


かすみちゃんはノリノリだけど……。


しずく「えっと……かすみさん」

かすみ「なに? もしかして、しず子もジム戦やりたいの? でも、一番乗りはかすみんに譲ってよ!」

しずく「そうじゃなくて……もしかして、忘れてる……?」

かすみ「何が……?」

善子「……かすみは研究所の片付けの手伝いが先よ」

かすみ「え゛!? ニャースを捕まえたからチャラなんじゃ……」

善子「誰もそんなこと言ってないわよ」

かすみ「そ、そんなぁ……!! 今日中に終わらないですよ〜……!!」

しずく「かすみさん、私も手伝ってあげるから。頑張ろう?」

かすみ「しず子〜……」


なんだかんだ、しずくちゃんってかすみちゃんに甘いよね……。
56 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:26:39.32 ID:QLy5TvuG0

しずく「ですので、ジムには侑先輩と歩夢さんで行ってください」

侑「わかった」

歩夢「二人ともお片付け頑張ってね!」

曜「ん、話は付いたっぽいね! 侑ちゃんと歩夢ちゃんはジム戦には挑戦したいのかな?」

歩夢「わ、私は見るだけでいいかな……」


歩夢はやっぱりバトルにはまだ消極的みたい。でも、私は──


侑「私は……やってみたいです……!」


夢にまで見た、初めてのポケモンバトル。初めてのジム戦……! やってみたい!


ことり「わかりました♪ それじゃ、侑ちゃんをセキレイジム挑戦者として、ジムにご案内します♪」

侑「よろしくお願いします!!」





    🎹    🎹    🎹





セキレイシティのポケモンジムは街の西側に位置している。

すっかり日も暮れたセキレイシティを4人で歩いて、セキレイジムを目指す。


ことり「着きました♪」

侑「……セキレイジム……!」


小さい頃から、街のバトル大会があるときにはここに観戦に来ていた。

そんな場所に今、挑戦者として立てるなんて……!


歩夢「侑ちゃん! 頑張ってね!」

侑「うん! 全力でやってくる!」

ことり「それじゃ、侑ちゃんはチャレンジャースペースにお願いします♪」

曜「歩夢ちゃんはセコンドスペースで観戦するといいよ」

歩夢「あ、はい!」


ことりさんが開けてくれたジムの門扉を潜り──目の前に現れた大きな大きなバトルフィールドに向かって歩く。

私がバトルフィールドに着くと──ことりさんが私の横を通り過ぎ……審判席に着く。

そして、セキレイジムの奥、ジムリーダースペースへと着いたジムリーダーが──ボールを構える。


ことり「使用ポケモンはお互い1匹ずつ! 使用ポケモン全てが戦闘不能になったら、そこで決着です!」

侑「はい! それじゃ、よろしくお願いします──曜さん!!」

曜「こちらこそ! セキレイジム・ジムリーダー『大海原のヨーソローシップ』 曜! 君の初めての航海、私に見せて!!」


曜さんは敬礼すると共に──モンスターボールをバトルフィールドに投げ放つ。

ジム戦──開始……!!



57 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 16:27:55.07 ID:QLy5TvuG0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
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  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.7 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
 バッジ 0個 図鑑 所有者を登録してください

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.6 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.7 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:31匹 捕まえた数:2匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



58 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:14:12.52 ID:DPwTRoer0

■Chapter003 『決戦! セキレイジム!』 【SIDE Yu】





曜「ゼニガメ! 出発進行!」
 「──ゼニィ!!!」

侑「イーブイ! 行くよ!」
 「ブイ」


私の肩に乗っていたイーブイが、バトルフィールドに降り立つ。

対する曜さんの使用ポケモンはゼニガメだ。


曜「ゼニガメ! “あわ”!」
 「ゼニーー!!!」

侑「イーブイ! 技をよく見て!」
 「ブイ」


ゼニガメが吐き出す“あわ”はふわふわと浮遊しながら、こっちに向かって飛んでくる。

でも、そのスピードはあまり速くなく、冷静に見ていれば避けられる!


 「ブイ」


イーブイはひょいひょいと“あわ”を躱しながら、ゼニガメへと近付いていく。


曜「うんうん! 冷静な判断、大事だね!」

侑「イーブイ! “なきごえ”!」
 「ブイーー!!!」

 「ゼニッ!!?」


最初からこの戦闘の戦い方は決まっている。近付いて“なきごえ”をしてから──


侑「イーブイ! “とっておき”!!」


この大技で一気にバトルを決める……!!

……と、思ったんだけど、


 「…ブィィ…」


イーブイは一瞬微かに光っただけで……その後は困ったように鳴きながら、こっちを振り返る。


曜「……? 不発?」

侑「え? あ、あれ?」

曜「……まあ、いいや! チャンスだよ、ゼニガメ! “かみつく”!!」
 「ゼニガァッ!!!!」

 「ブィッ!!?」
侑「わぁぁ!? イーブイ!?」


無防備なイーブイの前足にゼニガメが噛み付いてくる。


侑「ど、どうしよう……!? “とっておき”が使えない!?」


私は“とっておき”で決めるつもりだったので、技が不発してしまったことに気が動転してしまう。ど、どうにかしなきゃ!!


侑「ふ、振りほどいて!」
 「ブ、ブイ…!!!」
59 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:16:51.91 ID:DPwTRoer0

イーブイは体を捩りながら、大きな尻尾を振るう。


 「ゼ、ゼニ…!!」
曜「おとと、“しっぽをふる”だね」


もふもふの尻尾に怯んだゼニガメはイーブイに噛み付くのやめ、トントンとステップを踏みながら、曜さんの方へと後退していく。


侑「“しっぽをふる”……? イーブイが覚えてるのって“なきごえ”と“とっておき”だけなんじゃ……」

歩夢「侑ちゃん!!」


そのとき、セコンド席の方から歩夢の声。


侑「な、なに!?」

歩夢「そのイーブイ! さっきのゴルバットとの戦闘でレベルが上がって新しい技を覚えてるみたいだよ!!」


気付けば、歩夢はポケモン図鑑を手に持ち、そう伝えてくる。

きっとイーブイのデータを見てくれてるんだ……!


ことり「セコンド席、必要以上のアドバイスはダメですよー」

歩夢「す、すみません……!」


そっか……イーブイが新しい技を覚えたから“とっておき”が使えなかったんだ……!

“とっておき”は他に覚えている技をひととおり使ったあとじゃないと、使うことが出来ない技だ。

つまり──


侑「イーブイ!! 今出来ること全部やろう!!」
 「ブイ!!!!」


イーブイが地を蹴って飛び出す。“たいあたり”だ……!


曜「真っ向勝負? いいよ! ゼニガメ、“たいあたり”!!」
 「ゼニィ!!!」


──ドン! 2匹が“たいあたり”でぶつかり合う。


 「ブイ…!!!」
 「ゼニィ…!!!」


お互いの攻撃が相殺して、両者後退る。

いや……。


侑「ちょっとイーブイの方が強い? いけるかも!」
 「ブイ!!」


気持ちだけど……ゼニガメの方がイーブイよりも、大きく後退している気がする。


曜「“なきごえ”に“しっぽをふる”が効いてきちゃってるね……」

侑「このまま、押し切ろう! イーブイ! もう一回“たいあたり”!!」
 「ブイ!!」

曜「“からにこもる”!」
 「ゼニッ!!」


ゼニガメは即座に体を甲羅に引っ込めて、防御姿勢を取る。

防御態勢になったゼニガメをイーブイがそのまま、“たいあたり”で吹っ飛ばすと、ゼニガメは甲羅に籠もったまま、硬い音を立ててバトルフィールドを転がっていく。
60 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:18:03.86 ID:DPwTRoer0

侑「よーし! イーブイ!! もう一回!!」
 「ブイ!!」


三たび、“たいあたり”で向かっていく。ゼニガメは今、甲羅に体を引っ込めて、動けない状況……! 今の内に畳みかける……!!

防御に徹しているゼニガメに“たいあたり”が炸裂した──と、思ったら、


 「ブイィィ…!?!?」
侑「なっ!?」


逆にイーブイが吹っ飛ばされて、こちらに飛んでくる。


侑「イーブイ!? 大丈夫!?」
 「ブ、ブイィ…」


イーブイはバトルフィールドを転がりながらも、どうにか立ち上がる。


侑「な、なんで……? ゼニガメは今動けないはず……」

曜「侑ちゃん! そういう思い込みは、ダメだよ!」

侑「え?」

曜「ゼニガメ……GO!!」


曜さんの掛け声と共に──


 「ゼニッ!!!!!」


ゼニガメが甲羅に籠もったまま──突っ込んで来た。


侑「なっ!? イ、イーブイ!! 避けて!?」
 「ブイッ!!!!!」


真っ直ぐ迫ってくるゼニガメ。それから逃れるように、斜め前方にイーブイが急速ダッシュで回避する。


侑「! すごい! イーブイ!」
 「ブイィ!!!」

曜「! “でんこうせっか”を回避に使ってきたね! でも、ゼニガメの追尾は終わらないよ!」
 「ゼニィ!!!!」


曜さんの声と共にゼニガメが、再びイーブイに向かって飛び出す。

──位置関係上、ゼニガメを後ろから見ることが出来る位置になったため、やっとゼニガメの高速ダッシュのからくりが理解出来た。


侑「水を噴射してダッシュしてる!?」


そう、ゼニガメは甲羅に籠もったまま、後ろ向きに水を噴射してダッシュしていた。

さっきイーブイが吹っ飛ばされたのはこれによって、逆に“たいあたり”されたからだ……!


曜「そのとおり! こうすれば防御しながら、攻撃も出来るんだよ!」

侑「イ、イーブイ! “でんこうせっか”!!」
 「ブイィィィ!!!!!」


イーブイは再び土埃を巻き上げながら、高速で走り出す。


侑「とにかく逃げなきゃ……!!」

曜「そうだね! でも、“でんこうせっか”じゃ速すぎて、小回りが利かないんじゃないかな!」
61 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:19:20.86 ID:DPwTRoer0

確かに曜さんの言うとおり、“でんこうせっか”での移動は一定距離直線を高速で進むだけで、曲がりながらの移動は出来ていない。

でも、今はとにかく距離を取りたいから……!!


侑「イーブイ!! 連続で“でんこうせっか”!!」
 「ブイッブイィッ!!!!」


一定距離真っ直ぐ進んでは、止まり、真っ直ぐ進んでは、止まりを繰り返し攪乱を行って──いるつもりだったけど、


曜「軌道がわかりやすすぎるよ!! ゼニガメ!!」
 「ゼニッ」


ゼニガメは水の噴射と、甲羅を回転させながら……急に、曲がった。


侑「曲がっ……!?」


ゼニガメの攻撃が完全にイーブイの進路に合わせられたと気付いたときには、もう遅く、


 「ブィィッ!!!?」


甲羅に籠もったままのゼニガメの“たいあたり”がイーブイに炸裂し、吹き飛ばされる。


侑「イーブイ!!」
 「ブ、ブィィ…?」


まだ、立ってる……! よかった……でも、


曜「ゼニガメ! 畳みかけるよ!!」
 「ゼニィ!!!」


休ませてくれない。ゼニガメは再び水を後ろ向きに噴射しながら、迫ってくる。


侑「で、“でんこうせっか”!!」
 「ブイィィ!!!!」


再び始まる追いかけっこ。


曜「さーて、次のタイミング……狙っていくよー!」

侑「……っ」


これじゃ、またそのうち狙い撃ちされちゃう……!

なにより、こっちから攻撃が一切出来ていない。このままじゃ……!!


侑「どうにか……どうにかしなきゃ……」


ただ、イーブイがいくら新しい技を覚えたからと言っても、さすがに4つや5つも覚えているとは考えにくい。恐らく、これ以上打開できるような技があるとしたら──


侑「“とっておき”しかない……!!」


もう技は全部出し切ったと考えて、一か八か……!!


侑「イーブイ!!」
 「ブイ」


私の声で静止するイーブイ。


曜「お、正面から受けるのつもりなのかな……!」
62 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:20:36.71 ID:DPwTRoer0

迫るゼニガメ。

お願い……! 決まって……!!


侑「“とっておき”!!」
 「──ブイィィ!!!!」


イーブイの体が光を発する。


侑「やった……!! 出た……!!」


巨大な光がそのまま、突っ込んでくるゼニガメを呑み込もうとした……瞬間、ゼニガメの姿がブレる。


侑「!?」

曜「もちろん、そんなバレバレの大技に引っかかったりしないよ!!」


ゼニガメが軌道を変えて回り込んだんだと気付いたときには、


 「ブィィッ…!!?」


イーブイは側面から突撃されて、吹き飛ばされていた。


侑「イーブイ!?」
 「ブ、ブィィ…」


吹き飛ばされながらも、どうにかよろよろと立ち上がってはくれたものの……もう、限界が近い。


侑「どうする、どうする……!?」


逃げ回っても追い付かれる。大技を撃っても避けられる。どうにか、隙を作らないといけないのに……打つ手がない。


曜「ゼニガメ! GO!!」
 「ゼニィッ!!!」

侑「っ! イーブイ!! ジャンプして!!」
 「ブ、ブイッ」


苦し紛れの指示だったけど、高速で突っ込んでくるゼニガメをどうにか飛び越える。


曜「まだ避ける体力があるみたいだね! でも、どこまで続くかな!」
 「ゼニィッ」


再び折り返してくるゼニガメ。でも曜さんの言うとおり、もう限界だ。

すぐにでも打開策を──


歩夢「侑ちゃーん!!! 覚えてるー!?」

侑「!?」


そのとき、急に響く歩夢の声。


歩夢「子供の頃、一緒に遊んだゲームのことーーー!!」


一緒に遊んだゲーム!? 急に歩夢は何を──

一緒に遊んだゲームなんて、落ちてくるブロックを消すゲームとか、カートでレースするゲームとか、ジャンプが得意なヒゲの主人公が冒険するアクションゲームとか……。
63 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:22:30.26 ID:DPwTRoer0

侑「!!」


あった……!! ゼニガメの隙を作る方法……!!


曜「さぁ、終わりだよ!!」


突っ込んでくるゼニガメ。


侑「イーブイ!!! 私の声を聞いて!!」
 「ブイ!!!!」


迫るゼニガメ。

──まだ。まだだ。

一直線にイーブイに向かって突っ込んでくるゼニガメ。でも、私は待つ。

これは勘だった。ゼニガメは──きっとフェイントを掛けてくる。


 「ブイ」


私はまだ、声をあげない。

イーブイの眼前に迫るゼニガメ。

でも、まだ……!


 「ゼニッ」


次の瞬間ゼニガメは──軌道を変えた。


侑「!! 今!!」
 「ブイッ!!!!」

曜「!? 読まれた!?」


ゼニガメのフェイントを読み切ったジャンプ。


曜「でも、何度も読み切れるものじゃないよ……!!」


わかってる。だからこれは、回避じゃない……!!

跳ねたイーブイが、重力に引かれて落ちていく先は──ちょうどゼニガメの真上!!


侑「イーブイ!! ゼニガメを踏んづけて!!」
 「ブイッ!!!!」

曜「なっ!?」
 「ゼニッ!?」


踏んづけられたゼニガメは──その勢いで上下逆さまになって、フィールド上を滑っていく。


 「ゼ、ゼニィ!!?」


まさにひっくり返った亀の状態に……!


曜「ゼニガメ!? 落ち着いて!?」


急な天地逆転に動揺したゼニガメが顔を出してもがく。

この隙は絶対に見逃さない……!!
64 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:24:29.12 ID:DPwTRoer0

侑「イーブイ!! “たいあたり”!!」
 「ブイブイ!!!!!」

 「ゼニィッ!!!?」


イーブイの“たいあたり”が無防備なゼニガメに直撃し、その勢いでゼニガメが宙に浮く。

もう──逃げ場はない!!


侑「イーブイ!! “とっておき”!!」
 「──ブイイーーーーー!!!!!!」


イーブイから巨大な光が溢れ出して──


 「ゼニガァッ!!?」
曜「ゼニガメッ!?」


その光は宙を舞うゼニガメに──直撃した。

──ドサ。

攻撃が直撃したゼニガメは墜落したあと、


 「ゼニィィ……」


目を回して、戦闘不能になったのだった。


侑「はぁ……はぁ……」
 「ブイ」

侑「やった……」
 「ブイブイ」

ことり「ゼニガメ、戦闘不能! よって、勝者セキレイシティの侑ちゃん!」

侑「……いやったああああああ!!! 勝ったよ!!! 私たち勝てたよ!! イーブイ!!」
 「ブイーー!!!」


イーブイが私の胸に飛び込んでくる。


侑「ありがとう! イーブイ!!」
 「ブイブイーー」

曜「いや、最後にやられたよ……まさか踏んづけてくるとは……」


曜さんがゼニガメをボールに戻しながら、こちらに歩いてくる。


ことり「ふふ♪ すごかったね、侑ちゃん♪」

侑「あ、いや……でも、これは歩夢のお陰でもあるというか……」

歩夢「……!?」


セコンド席の歩夢の方へ振り返ると、歩夢は気まずそうにわたわたと手を振る。


ことり「ん〜……直接的なアドバイスじゃなかったから、今回はセーフにします♪」

歩夢「……っほ」

曜「でもまさか、テレビゲームをヒントに攻略されるとは思わなかったよ……あの赤い帽子のヒゲのおじさんのゲームでしょ? 私も昔千歌ちゃんとやったなぁ……カメ、確かに踏んづけると動けなくなるんだよね」

侑「成功するか、賭けでしたけど……あはは」


まさか、あんなに綺麗にひっくり返ってくれるとは思わなかったし……。


曜「なにはともあれ、勝ちは勝ちだし、負けは負け!」
65 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:25:38.90 ID:DPwTRoer0

曜さんがそう言いながら懐に手を入れ、


曜「勝者の侑ちゃんにはセキレイジムを突破した証として、この──“アンカーバッジ”を贈るよ」


曜さんから、錨型のジムバッジを手渡される。


侑「わぁ……!!」

ことり「あと初めてのジム戦だから、このバッジケースも。歩夢ちゃんにもあげるね♪」

歩夢「え、わ、私は……」

ことり「いいからいいから♪ いつか、挑戦したくなるかもしれないし。ね?」

歩夢「は、はい」


二人でバッジケースを受け取る。


曜「侑ちゃん、“アンカーバッジ”、はめてみて」

侑「は、はい!」


私は言われたとおり、バッジをケースの窪みにはめ込むと──カチリと小気味の良い音がした。


侑「えへへ♪ “アンカーバッジ”、ゲットだよ!」
 「ブイブイ♪」


イーブイと一緒に掴み取った初めてのジムバッジに嬉しくなる。


ことり「このバッジはポケモンリーグ公認のバッジ。持っているだけで、そのトレーナーの実力を保証してくれる証明にもなるから、大事にしてね♪」

侑「はい!」

ことり「そして8つ集めたら、ポケモンリーグで四天王に挑戦出来るようにもなるからね♪」

侑「はい! いつか、ことりさんのところにも辿り着いてみせます!!」

ことり「ふふ♪ 楽しみにしてるね♪ ことりはいつでも四天王の一人として、侑ちゃんの挑戦を待っています♪」

侑「はい!」


私もいつか、この地方の四天王と──そして、その頂きに立つチャンピオン・千歌さんと戦えたりするのかな?


侑「イーブイ! 私すっごいトレーナーになるから! 一緒に強くなろうね!」
 「ブイッ!!!」


私はイーブイに誓いを立てる。もっともっと強くなって……いつかは夢の舞台でもっとすごいトレーナーと戦いたい……!

私はそんな想いを胸に抱くのだった。



66 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:29:44.05 ID:DPwTRoer0

    😈    😈    😈





かすみ「…………かしゅみん……すごい……とれーなーに……えへへ……zzz」

しずく「かすみさん、まだ寝ちゃダメだよー? かすみさーん……」

善子「いいわよ。寝かせておいてあげなさい」

しずく「すみません博士……私が少し休憩しようなんて提案したばかりに……」

善子「気にしなくていいのよ。今日、頑張ってくれたのは事実だしね。そろそろ体力的にも限界だったんでしょ」

しずく「そうですね……朝も早かったみたいですし」

善子「それがイタズラの仕込みのためじゃなければねぇ……」

しずく「あはは……」


御覧のとおり、研究所の片付け中、一息入れている間にかすみは眠りの国に旅立ってしまった。

まあ、なんだかんだで一日中行動していたわけだしね。


しずく「……ふぁ」


それは、かすみだけじゃないけどね。


善子「ふふ。しずくも疲れたでしょう? 今日は研究所に泊まっていいから、もう休みなさい。二階の部屋が空いてるから」

しずく「うぅ……面目ないです。それでは、お言葉に甘えて……かすみさん、部屋まで行くよー?」

かすみ「ふぇ……? もう、かすみん……お腹いっぱいですよぉ……?」

しずく「そんな絵に描いたような寝言言ってないで……」

 「ガゥガゥ」

しずく「ゾロア?」


様子を見ていたゾロアがしずくの肩に飛び乗り“イリュージョン”で姿を変える。


しずく「……この姿……コッペパン……? ですか?」

善子「へー……かすみのゾロアは、食べ物にも化けられるのね」

かすみ「はぁぁ……おいしそうなコッペパン……」

しずく「……お腹いっぱいなんじゃなかったの?」


かすみの反応に、しずくが呆れ気味に肩を竦める。


善子「そのまま、上の階に誘導してあげなさい」

しずく「まあ……これで釣られてくれるなら、いいんですけど……。ほーらかすみさーん、おいしいコッペパンですよ〜」

かすみ「うぇへへ〜……まって〜……」


コッペパン(ゾロア)に釣られて、よたよたと追いかけていくかすみ。……階段から転げ落ちそうね。


善子「ムウマージ」
 「ムマァ〜」

善子「手伝ってあげなさい」
 「ムマァ〜♪」


ムウマージがいれば、落ちても助けられるし大丈夫でしょう……。


善子「さて……私はもうひと頑張り……」
67 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:31:46.34 ID:DPwTRoer0

軽く伸びをしながら、作業に戻ろうとすると──


曜「──ヨーソロー♪ 善子ちゃん、さっきぶり♪」


やかましいのが戻って来たようだ。


善子「もう夜よ。静かにしなさい」

曜「あはは、ごめんごめん」

善子「ジム戦は終わったの?」

曜「うん、負けちゃった。侑ちゃん、きっと強くなるよ」

善子「それは何よりね」

曜「はぁーぁ……でもやっぱ、負けるのは悔しいなぁ。カメックスとなら、負けなかったのに」

善子「当たり前でしょ……もうジムリーダーになって結構経つんだから、慣れなさいよ……」


千歌ほどではないけど、曜も大概子供っぽいところがあるのよね……。


善子「それで、戻って来たのは曜だけ?」

曜「あ、うん。侑ちゃんと歩夢ちゃんは今日はもう遅いから一旦家に帰るってことだったから。ことりさんは二人を送って行ったよ」

善子「そういえば……ことりさんとあの二人、同じマンションに住んでたわね。……んで、何しに来たの?」

曜「む、なんか冷たい言い方だなぁ……せっかく、同期が遊びに来てるのにさ」

善子「本音は?」

曜「……今日泊めて! 明日、サニータウン方面に行かなくちゃいけなくってさ! 私の家、街の北側でしょ? ここからの方が近いから……お願いっ!」

善子「そんなことだろうと思った。いいわよ、適当に二階の部屋でも使って」

曜「さすが善子ちゃん! 持つべきものは優しい同期だね!」

善子「はいはい……あ、でも上でかすみとしずくが休んでるから、うるさくしないでね。あとヨハネよ」

曜「了解であります! ヨハネ博士!」


全く調子いいんだから……。まあ、さすがの曜でも一人で大騒ぎは出来ないでしょう。……たぶん。


曜「ところで、善子ちゃん」

善子「ヨハネ」

曜「善子ちゃん的には期待してる子とかいるの?」

善子「何よ……藪から棒に……貴方も協力してくれたから、知ってるだろうけど、今回のトレーナー選びは慎重に行った分、みんな同じように期待してるわ」

曜「ふーん、そっかそっか」


具体的に言うなら、しずくは座学の優秀さ、頭の良さを重視して選んだ。純粋な優等生タイプ。

逆にかすみは意外性重視。確かに今日みたいな突飛なことをしでかす可能性もあるけど、バトルの成績はそこそこいいし、ポテンシャルは確かに感じる。ちょっとピーキーだけどね。


善子「ただ、そうね……」

曜「?」

善子「強いて言うなら……その3人の中でも、歩夢は特別かもしれないわ」

曜「特別?」

善子「今日、成り行き上ではあったんだけど……あの子たちが研究所から逃げ出したポケモンを捕まえてくれて……」

曜「うん」

善子「……歩夢ね、ミミロルをバトル無しで捕獲したらしいのよ」


正直、侑に話を聞いたときは、冗談かと思ったけど……確かに、ミミロルは掠り傷一つ負っていなかった。
68 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:32:40.74 ID:DPwTRoer0

曜「それって……何かすごいことなの?」

善子「ミミロルってポケモンはね、警戒心が強く、気性が荒くて、なかなか人になつかないポケモンなのよ」


一説によれば、現在確認されているポケモンの中でも、最もなつきにくいという学説さえあるポケモンだ。


善子「そんなミミロルを説得して大人しくさせたらしいのよ」

曜「……確かにそれはすごいかも」

善子「もしかしたら……歩夢には少し特別な力があるのかもしれないわね」


ポケモンと仲良くなる才能……とでも言うのかしら。

実際、最初の3人を選ぶ際にも、歩夢に期待していたのはポケモンとすぐに仲良くなれるという評価から選ばせてもらったんだけど……想像以上かもしれない。


善子「……まあ、そんな感じよ」

曜「そっか。とにかく3人とも期待出来るってことだね」

善子「そうよ。ま、私が選んだリトルデーモンなんだから、当然よね」

曜「そっか。……善子ちゃん、良かったね」

善子「……何よ、急に」

曜「ずっと、心配してたんだよ……2年前のあの日以来、思い悩んでること、多かったから」

善子「…………」


2年前のあの日……ね。


私は先ほどまで、最初の3匹が並んでいた机の──引き出しを開ける。

引き出しの中にあるのは──とあるポケモンの入ったモンスターボール。


善子「…………」

曜「その子、結局どうするの? 私はてっきり、最初の3匹の中にその子も入れるんだと思ってたんだけど……」

善子「どうもしない。……この子を渡す相手は、もう決まってるんだから」

曜「……そっか」

善子「……」


僅かに沈黙が流れる。


善子「……曜、明日早いんでしょ。さっさと寝なさい」

曜「わかった、そうさせて貰うよ」

善子「おやすみなさい」

曜「ん、おやすみ」


二階へと上がっていく曜の背中を見送って。

──私は開けた引き出しを元に戻す。


善子「……さて、仕事を片付けましょうか」


こうして、夜は更けていく──



69 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:33:15.16 ID:DPwTRoer0

    🎹    🎹    🎹





侑「──あー!! 疲れたー!!」


私は自室に戻ってくるなり、ベッドに倒れ込む。


侑「イーブイもおいで。疲れたでしょ?」
 「ブイ」


イーブイに声を掛けると、ぴょんとベッドに飛び乗り、私の傍に身を寄せてくる。


侑「うわ、毛ぐしゃぐしゃになっちゃってるね……毛づくろいしてあげるよ」
 「ブイ」


家に帰ってくるなり、お母さんにいたく気に入られたのか、撫でられまくってたから、綺麗な毛並みが荒れてしまった。

ブラシを使って、毛づくろいしてあげると、


 「ブイィ…♪」


イーブイは気持ちよさそうにしている。


侑「イーブイ、気持ちいい?」
 「ブィ♪」

侑「ふふ、よかった」


今日はイーブイのお陰で、初めてのジム戦にも勝利することが出来た。

だから、ちゃんと労ってあげないとね。


侑「……そういえば、イーブイ……また新しい技覚えたりしてるのかな?」


ジムでの戦闘によって、またレベルが上がって新しい技を覚えているかもしれない。

そうすると、“とっておき”はますます使いづらくなるかもしれないし、把握しておいた方がいいかも……。


侑「覚えてる技の確認……」


歩夢はポケモン図鑑を使って、教えてくれたっけ?

そういえば、図鑑……。


侑「博士に貰ってから、まだ起動もしてなかったっけ」


ミニサイズのモニター状のポケモン図鑑を取り出して、観察する。


侑「電源みたいなのが、どこかにあるのかな……?」


とりあえず、画面に触れてみると──


 『指紋登録中。そのままお待ちください』


可愛らしい機械音声が図鑑から流れてくる。


侑「あ、これでいいのかな?」
70 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:34:39.20 ID:DPwTRoer0

たぶん、私を図鑑所有者として登録してるんだと思う。

しばらく、待っていると、ブーンと音がして──顔が表示された。

──顔と言っても、人の顔とかじゃなくて、すごく簡素な絵文字のような顔。

えっと……『|| ╹ ◡ ╹ ||』こんな感じの顔。


侑「……? なにこれ?」
 「ブィ?」


何か図鑑の機能なのかな? 首を傾げていると──


 『あなたが私の図鑑所有者の人?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「……!?」
 「ブィ…!!」

図鑑が話しかけてきた。


侑「へ……!? え……!?」

 『あれ……? もしかして、何も説明されてない?』 || ? ᇫ ? ||


驚きで声が出ないまま、首をぶんぶんと縦に振る。


 『そっか。博士、説明を省く癖があるから。わかった、自己紹介する』 || ~ ᨈ ~ ||


そう言いながら、図鑑は私の手元から──フワリと浮く。


侑「……浮いた!?」

リナ『私はリナって言います。リナちゃんボード「にっこりん♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「え、えぇ……!?」
 「ブィィ…」


私のポケモントレーナーになった今日という日は、最後の最後まで予想外の展開が続くみたいです……。


71 :>>70訂正 ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:43:08.39 ID:DPwTRoer0

たぶん、私を図鑑所有者として登録してるんだと思う。

しばらく、待っていると、ブーンと音がして──顔が表示された。

──顔と言っても、人の顔とかじゃなくて、すごく簡素な絵文字のような顔。

えっと……『|| ╹ ◡ ╹ ||』こんな感じの顔。


侑「……? なにこれ?」
 「ブィ?」


何か図鑑の機能なのかな? 首を傾げていると──


 『あなたが私の図鑑所有者の人?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「……!?」
 「ブィ…!!」

図鑑が話しかけてきた。


侑「へ……!? え……!?」

 『あれ……? もしかして、何も説明されてない?』 || ? ᇫ ? ||


驚きで声が出ないまま、首をぶんぶんと縦に振る。


 『そっか。博士、説明を省く癖があるから。わかった、自己紹介する』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||


そう言いながら、図鑑は私の手元から──フワリと浮く。


侑「……浮いた!?」

リナ『私はリナって言います。リナちゃんボード「にっこりん♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「え、えぇ……!?」
 「ブィィ…」


私のポケモントレーナーになった今日という日は、最後の最後まで予想外の展開が続くみたいです……。


72 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 10:44:05.24 ID:DPwTRoer0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.8 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:1匹 捕まえた数:1匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.6 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.7 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:40匹 捕まえた数:10匹

 主人公 かすみ
 手持ち キモリ♂ Lv.6 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.6 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:33匹 捕まえた数:3匹

 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.5 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.5 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:31匹 捕まえた数:2匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



73 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/31(月) 21:12:59.54 ID:DPwTRoer0

 ■Intermission🐏



遥「なんだか、たくさん買っちゃったね……」

彼方「いいのいいの〜久しぶりのお買い物だったんだから〜。それより、重いでしょ〜? お姉ちゃんが荷物持ってあげるよ〜」

遥「ありがとう、お姉ちゃん」


私たち姉妹がセキレイデパートを出ると、もう日はとっぷりと暮れ、夜の時間が訪れていた。


彼方「二人ともお待たせ〜」

遥「お待たせしてすみません……」


外で待っていた二人に声を掛ける。


穂乃果「そんなこと気にしなくていいんだよ♪」

千歌「そうそう、これも私たちのお仕事なんだから! それより、姉妹水入らずでのショッピング、楽しかった?」

遥「はい! すっごく楽しかったです!」

彼方「お陰様で、リフレッシュできたよ〜。ありがと〜」


やっぱり、たまにこうして息抜きしないと、疲れちゃうからね〜。こうして、何気ない息抜きにも付き合ってくれる、穂乃果ちゃんと千歌ちゃんには感謝しないとだよね〜。


穂乃果「それじゃ、帰ろっか♪ 彼方さんはリザードンに」
 「リザァ」

千歌「遥ちゃんはムクホークに乗ってね」
 「ピィィ」

遥「はーい」

彼方「了解で〜す」


私たちは月夜の中を飛び立って、セキレイシティを後にするのでした〜。


………………
…………
……
🐏

74 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:13:02.13 ID:UaHzC7GK0

■Chapter004 『──旅立ちの日』 【SIDE Yu】





侑「んー……! 今日もいい天気だね!」
 「ブィ」

リナ『気温21℃、湿度48%、降水確率は0%、本当に良いお天気。リナちゃんボード「わーい」』 || > 𝅎 < ||

侑「そんなこともわかるんだ……」

リナ『博士にはありとあらゆるセンサーを搭載してもらった。なんでも聞いて』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||


マンションの廊下から見上げる空は、雲一つない青空が広がっている。

変わったことと言えば……。


侑「……」

リナ『ん? どうかしたの?』 || ? _ ? ||


不思議な喋る図鑑が私の傍にいることかな……。

今はこうして普通に会話しているけど……昨日のことを思い出す。



──────
────
──


侑「え、えっと……リナって言うのは……名前……?」

リナ『うん、そうだよ。でも、正確には「Record Intelligence Navigate Application system」の頭文字を取って「RINA」だよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「……?」


あんまり説明になってないような……。


侑「えっと……つまり、リナちゃん……? ポケモン図鑑なの?」

リナ『図鑑に搭載されてるシステムAIだよ。最新鋭超高性能自己進化型AI』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「そ、そっかぁ……」


なんだか、情報量の多い肩書きだ……。


侑「えっと……ロトム図鑑みたいな感じ……?」


世の中にはロトム図鑑という喋るポケモン図鑑があるらしいとは聞いたことがある。

ロトムは家電に棲み付くポケモンで、地方によってはいろんな機械にロトムが入って、人間をサポートしていると聞く。

なので、恐らくリナちゃんもそういう感じなのかな……? と思ったんだけど……。


リナ『うーん、ロトム図鑑とは少し違う。ポケモンじゃなくて、あくまでAI。……本当に何も説明を受けてないの?』 || ? _ ? ||

侑「うん……全く」

リナ『博士、こういうところがいい加減……。でも、私は博士から所有者と一緒に冒険をするように言われてる』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「言われてる……? そう指示されてるってこと?」

リナ『うん。私は自己進化型AIだから、いろんな情報を得ることによって、さらに進化する。あなたには、私がさらにすごいAIに進化するための、お手伝いをして欲しい』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


つまり、リナちゃんと一緒に各地を回って、リナちゃんにいろんなことを覚えさせて欲しい……みたいなこと、だと思う。
75 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:14:13.53 ID:UaHzC7GK0

リナ『もちろん、その代わりに私はポケモン図鑑として、あなたのサポートをする。ポケモントレーナーとして旅をするなら、悪い話じゃないと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「う、うーん……?」


悪い話じゃない……のかな……?

とはいえ、ヨハネ博士から託されたということは……私は博士から、リナちゃんに協力して欲しいと頼まれているのも同然のような気もするし……?


リナ『あまり反応が芳しくない。わかった、今から図鑑としての性能をお披露目する』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

 「ブイ…?」


リナちゃんはふわふわとイーブイに近付き、

リナ『イーブイ しんかポケモン 高さ:0.3m 重さ:6.5kg
   進化のとき 姿と 能力が 変わることで きびしい 環境に
   適応する 珍しい ポケモン。 今 現在の 調査では なんと
   8種類もの ポケモンへ 進化する 可能性を 持っている。』

イーブイの解説を読み上げてくれる。


侑「おぉ……!」

リナ『これだけじゃない。今、イーブイが覚えている技は“たいあたり”、“なきごえ”、“しっぽをふる”、“でんこうせっか”、“すなかけ”、“ほしがる”、“にどげり”、“とっておき”』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「覚えてる技まで……!」

リナ『ポケモン図鑑だから、これくらいの機能は当たり前。リナちゃんボード「ドヤッ」』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||


普通のポケモン図鑑と違って、自分で操作しなくても、言えば検索してくれるみたいだし……確かにこれは便利かも。

……まあ、それはいいんだけど……さっきから言っている、リナちゃんボードってなんだろう……?

あ、いや……名前はリナちゃんだし、見た目はボードだし、ある意味そのまんまかも……? 口癖みたいなものなのかな……?

かすみちゃんで言うところのそういうキャラ……的な?


侑「……というか、イーブイどんどん新しい技覚えてるね」
 「ブイ…?」


やっぱり、“とっておき”は今後もあんまり多用出来ないかも……。


リナ『これで、図鑑の性能は信用してもらえたかな?』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん」

リナ『それじゃ、私と一緒に冒険してくれる? リナちゃんボード「ドキドキ」』 ||,,╹ᨓ╹,,||

侑「わかった。一緒に行こう」


私は首を縦に振る。

突然の出来事にびっくりしてただけで、最初から断るつもりだったわけじゃないし。


侑「これからよろしくね、リナちゃん」

リナ『よかった! こちらこそ、よろしく。……えーっと』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そういえば、まだ名前を言ってなかったね。私の名前は侑だよ。タカサキ・侑」

リナ『侑さんだね! よろしく!』 || > ◡ < ||



──
────
──────



──と、言うわけで喋るポケモン図鑑・リナちゃんも一緒に旅に行くことになった。

リナちゃんの自己進化AIとやらが、あちこちでいろんな情報を得て進化するお手伝いをするらしいけど……。
76 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:15:27.66 ID:UaHzC7GK0

侑「まさか、ポケモンだけじゃなくて、ポケモン図鑑も育成することになるとは……」
 「ブイ…?」

リナ『そういえば、侑さん』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ん?」

リナ『旅にはまだ行かないの?』 || ? ᇫ ? ||

侑「うん。歩夢を待ってるからね」

リナ『あゆむ?』 || ? ᇫ ? ||


そういえば、まだ歩夢のこと説明してなかったっけ。


侑「歩夢はね、私の幼馴染で、一緒に旅に行くことになってる子だよ」

リナ『そうだったんだ。今回の旅は侑さんだけじゃないんだね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


リナちゃんは少しの間を挟んだあと、


リナ『あの……侑さん。お願いがあるんだけど……』 || ╹ᇫ╹ ||


そう話を切り出す。


侑「お願い?」

リナ『うん。私のことなんだけど……侑さん以外の人にはロトム図鑑だって説明して欲しいんだ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「え? どうして? 何か問題があるの?」

リナ『私の自己進化型AIはまだ開発段階で、世間に全く出回ってない。でも超高性能だから、人目に付きすぎると、もしかしたら企業スパイとかに狙われるかもしれない』 || 𝅝• _ • ||

侑「え、えぇ……?」

リナ『でも、ロトム図鑑としてなら喋るのも浮くのも、説明が付く。無用な争いを避けるためにも、お願い』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「わ、わかった……そういうことなら」

リナ『ありがとう、侑さん。リナちゃんボード「ぺこりん☆」』 || > ◡ < ||


まあ、確かに私もこんなポケモン図鑑は見たことも聞いたこともないし……──いや、ポケモン図鑑の実物を見たのは昨日が初めてだけど……。

企業スパイ……? というのがどういうものなのかはいまいちピンと来ないけど……。

なんか、それくらい大事なモノを託されたってこと……なのかな?

というか、そんな大事なモノ、私が持ってっちゃっていいのかな……。でも、持って行ってくれって言われたし……。

一人悶々と考えていると──


 「──侑ちゃ〜ん……た、たすけて〜……」

侑「ん?」
 「ブイ…」


隣の部屋の玄関の方から、ヘルプを求める声──もちろん、歩夢の声だ。

私はドア越しに声を掛ける。


侑「歩夢? どうかしたの?」

歩夢『み、みんなが放してくれなくて〜……』

侑「ああ、なるほど……」


歩夢の家を思い出して、納得する。
77 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:16:45.08 ID:UaHzC7GK0

リナ『ねぇ、侑さん』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ん?」

リナ『この扉の先から、すごい数のポケモンの反応がある。エイパム、ポッポ、ベロリンガ、コダック、ニョロモ、ハネッコ、ゴースト、エネコ……種類もタイプもバラバラ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ああ、うん。見ればすぐにわかるよ」


私は歩夢を救出するためにも、扉を開ける。

──すると、


 「エニャァ」
 「ゴスゴス」
 「ハネハネ」
歩夢「侑ちゃ〜ん……」
 「シャボ…」


頭にハネッコが乗っかり、ゴーストに肩を掴まれ、歩夢の足元をエネコがチョロチョロと走り回っている。


侑「相変わらず、大人気だね」

歩夢「連れていくのはサスケだけって、何度も説明したんだけど……」
 「シャー」

リナ『わ……すごい数のポケモン。これって、全部歩夢さんのポケモンなの?』 || ? _ ? ||

侑「うん、そうだよ」

歩夢「え? 誰かいるの?」


ポケモンたちに気を取られていた歩夢が顔を上げると──リナちゃんと目が合った。


リナ『初めまして、私リナって言います』 || > 𝅎 < ||

歩夢「……へ?」


一瞬のフリーズのあと、


歩夢「……え!? ぽ、ポケモン図鑑が、し、喋ってる……!? しかも、浮いてるよ……!?」


歩夢が焦りと困惑の入り混じった表情になる。まあ、そうなるよね……。


侑「落ち着いて歩夢。この子はロトム図鑑のリナちゃんだよ」

歩夢「ロトム図鑑……?」

リナ『うん! 私ロトム図鑑のリナです!』 ||,,> 𝅎 <,,||

歩夢「え、えっと……ロトム図鑑ってロトムの入った図鑑だっけ……? えっと、それじゃロトム図鑑の中にいるロトムの名前がリナちゃんなの……?」

リナ『うん、そんな感じ』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「そうなんだ……侑ちゃんの図鑑は最新型って言ってたもんね。ロトム図鑑だったんだ」

侑「うん、そうなんだよ」

歩夢「前に少しだけ、しずくちゃんにロトム図鑑のお話を聞いたことがあったけど……本当に図鑑が喋るなんて、すごいね」


やや強引だった気もするけど……さすが歩夢。何も疑ってない。

私も一枚噛んでるとはいえ、幼馴染としてちょっと心配になる騙されやすさだ……。


 「エニャァエニャァッ」
歩夢「きゃっ!? エ、エネコ……足元で暴れないで……」

侑「っと……そうだった」


歩夢を助けてあげないと……。屈んで、エネコを抱きかかえる。
78 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:17:46.39 ID:UaHzC7GK0

 「エニャァ」
侑「ほら、エネコ。部屋にお戻り。歩夢のお母さんに遊んでもらいな」
 「ニャー」

歩夢「ゴースト、そろそろ放して……ね?」
 「ゴス…」

侑「ほら、歩夢が困ってるよ」

 「ゴス…」


ゴーストはしぶしぶ、歩夢から離れて、壁の向こうに消えていく。


侑「ハネッコは……」


たぶん、歩夢の頭に乗ってるだけかな……。


歩夢「うん……ハネッコ、『プロペラ』」
 「ハネ〜〜」


歩夢が『プロペラ』と言うと、ハネッコは頭の葉っぱを回転させながら、ふわ〜と浮上していく。

無事みんなから解放されたところで、


侑「歩夢、今のうちに」

歩夢「う、うん! みんな行ってくるね!」


歩夢の手を引いて、玄関から脱出。


歩夢「ふぅ……ありがとう、侑ちゃん」

侑「あはは、家から出るだけで一苦労だね」


毎度のことながら苦笑いしてしまう。歩夢は本当にポケモンに好かれる体質というか、なんというか。


リナ『すごい数のポケモンと暮らしてるんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「うん、お外で遊んでるときに、仲良くなった子が付いてきちゃったりとかで……気付いたら……」

リナ『それにしても、ゴーストが家庭にいるのは珍しい。あまり人のもとに居付くポケモンじゃないから』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「3年前にゴーストポケモンが大量発生したことがあって、そのときに住み着いたんだよね」

歩夢「うん、それ以来ずっと一緒に暮らしてるよ」


あのとき、最初は歩夢が攫われるかもって大騒ぎになったけど、結局歩夢はゴーストと遊んでただけだったんだよね……。

……っと、それはともかく。


侑「歩夢、準備は良い?」

歩夢「あ、うん!」

侑「それじゃ、旅に出発しよう!」
 「ブイ♪」


予定より1日遅れてしまったけど、ついに私たちの冒険の旅のスタートです……!


リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||



79 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:19:19.08 ID:UaHzC7GK0

    🎹    🎹    🎹





──さて、旅が始まるのはいいんだけど……。


侑「どこに向かおうか……」


考えてみれば、旅の目的を特に決めていなかった。

セキレイシティは東西南北に道があるから、目的次第でどこに行くかが変わってくる。


歩夢「侑ちゃんはこの旅で何がしたい? 侑ちゃんが決めていいよ♪」

侑「え? でも、これは歩夢の旅だし……」


図鑑と最初のポケモンを託されたのは歩夢なわけだし……まあ、私も結果として図鑑を渡されたけど……。


歩夢「私は侑ちゃんの行きたい場所に行きたいな♪」

侑「うーん……なら、やっぱりジムを巡りたいかな……」


バッジケースを開くと、“アンカーバッジ”がキラリと光る。

せっかくなら、各地のジムを制覇して、このバッジケースをいっぱいにしたい。


リナ『そうなると、行先は北のローズシティ、西のダリアシティ、南のアキハラタウンから流星山を越えて、ホシゾラシティを目指すかのどれかだね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「結局あんまり選択肢が減ってない……」

リナ『効率的に巡って行くなら西ルートか南ルートだと思う。北ルートはローズシティのあと、クロユリシティかヒナギクシティだけど、どっちも遠いし、ジムを終えたら来た道を戻らないといけない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「ヒナギクからは一応ダリアに行けなくもないけど……確かにカーテンクリフを越えるのは現実的じゃないかもね」

歩夢「南もすぐに山越えがあるから……そうなると、西ルートがいいのかな?」

侑「じゃあ、西ルートでダリアシティを目指そう!」

歩夢「はーい♪」


……と言うわけで、私たちは昨日と同じように西側の6番道路へ向かいます。





    🎹    🎹    🎹





──6番道路・風斬りの道。


侑「歩夢! 準備OK?」

歩夢「うん、いつでも大丈夫だよ。サスケ、走るからね」
 「シャー」

侑「イーブイも振り落とされないようにね」
 「ブイ」

歩夢「あと……ヒバニー、出てきて!」


歩夢がボールを放ると──


 「──バニ!!」


ヒバニーが顔を出す。
80 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:20:28.89 ID:UaHzC7GK0

歩夢「ヒバニーは走るの大好きだから、一緒に走ろうね♪」
 「バニバニ♪」


私たちは先ほどレンタルサイクルで借りた自転車にまたがったまま、今から走る道を見据える──5番道路まで続く長い大橋を。

この橋の上はサイクリングロードになっているから、自転車がないと通り抜けが出来ない。

なので、セキレイシティ⇔ダリアシティの行き来の際はこうして自転車を借りるのが基本となっている。

ちなみにポケモンは大型ポケモンでなければ走ってもOKだ。


侑「リナちゃんはどうする?」

リナ『あんまり速いと追いつけなくなっちゃうから、バッグの中にいる』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

侑「わかった」


リナちゃんがバッグに入ったのを確認して、


侑「よし、歩夢行こうか」
 「ブイ」

歩夢「うん♪」
 「シャボ」「バニバニッ」


私たちはサイクリングロードを走り出す。





    🎹    🎹    🎹





侑「──風が気持ちいい〜♪」

歩夢「ホントだね♪」


歩夢と並びながら、自転車で風を切って走る。


 「バーニバニニニ!!!!!」
歩夢「ふふ♪ ヒバニーも楽しそう♪」


すぐ横の橋の柵上を並走してするヒバニーを見て、歩夢が嬉しそうに笑う。


侑「いいなぁ、私も一緒に走ってくれるポケモンがいれば……」

歩夢「ふふ♪ 大丈夫だよ、上を見て!」

侑「え?」


歩夢の言葉に釣られるように上を見ると──


侑「わぁ……!」

 「ポポ」「スバーーー」「ピィィーー」「ミャァミャァ」


いろんな鳥ポケモンたちが私たちの上を飛び回っている。

ここ風斬りの道は鳥ポケモンの名所。気が付けば、あちこちに鳥ポケモンたちが飛び回っている姿を見ることが出来るようになっていた。


リナ『見えてないけど、かなりの数のポケモンの反応』


バッグからリナちゃんの声。
81 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:21:39.20 ID:UaHzC7GK0

侑「ホントにすごい数かも!」

歩夢「すごいね、侑ちゃん!」

侑「うん!」


何匹かは歩夢のすぐ傍を並んで飛んでいる。もしかして、歩夢に寄って来てるのかな?

スバメやポッポ、ヤヤコマやムックルのような、街でもたまに見かけるポケモンの他にも──


侑「わ! あれってキャモメだよね!? 海で見るポケモン!」

歩夢「うん! キャモメだけじゃないよ! ペリッパーも!」

侑「! あれってヒノヤコマかな!? 初めて見るよ!」


旅……楽しい!!

旅立ち早々、見たこともないような景色に遭遇して、幸せな気持ちになってくる。


侑「でも、こんなにポケモンがいるなら……捕まえてみたいなぁ」
 「ブイ…」


考えてみれば、イーブイは自然になついて仲間になってくれた子だから、実際にポケモンバトルをして、捕まえることが出来たポケモンはまだいない。

良い機会だし、1匹くらい狙ってみるのもいいかもしれない。


侑「おーい! 誰かー! 私とバトルしてよー!!」


空を飛ぶポケモンたちに声を掛けるけど──鳥ポケモンたちは、私のことなんか特に気にならない様子で、風を受けて飛び続けている。


侑「……相手にされてない」

歩夢「あはは……どっちにしろ、イーブイだけだと飛んでるポケモンたちと戦うのは難しいかもしれないよ?」

侑「まあ、それもそっか……」


残念だけど、歩夢の言うとおりかも……。大人しく、風斬りの道を抜けた先で捕獲しよう……。

と思った瞬間──


リナ『ポケモン反応!! 背後から急接近!!』


リナちゃんがバッグの中から叫ぶ。


侑「え!?」

 「ワシャァーーー!!!!!」


振り返ろうとした瞬間、背負ったバッグを何かに掴まれる。


侑「ちょ、タ、タンマ……!!」


何かが強い力で後ろから引っ張ってきている。自転車で走っている真っ最中だから、このままだと……転んじゃう……!!


侑「イーブイ!! “でんこうせっか”!!」
 「ブイ!!!」


頭の上のイーブイが──ヒュンと風を切りながら、後ろでバッグを掴んでいるポケモンに突進する。


 「ワシャァッ!!!」
82 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:23:42.05 ID:UaHzC7GK0

攻撃が直撃したのか、短い鳴き声と共に──


侑「っ!?」


後ろに引っ張る力が急になくなったせいで、前につんのめりそうになる。


歩夢「侑ちゃん!?」

侑「だい、じょう、ぶっ!!」


ブレーキをめいっぱい握りしめながら、足を地面に着けて、無理やり急ブレーキを掛ける。

──ギャギャギャっと、ちょっとヤバい音はしたものの、


侑「セ、セーフ……」


どうにか止まれた。

そのまま、すぐに後ろを振り返ると──


 「ブイ…!!!」
 「ワシャッ!!」


イーブイと1匹の鳥ポケモンが向き合って、睨み合っているところだった。


侑「リナちゃん!」

リナ『うん!』 || ˋ ᨈ ˊ ||


リナちゃんがバッグから飛び出す。


リナ『ワシボン ヒナわしポケモン 高さ:0.5m 重さ:10.5kg
   どんなに 強い 相手でも 見境なく 勝負を 仕掛ける。
   倒れるたびに 傷つくたびに 強く たくましく 育っていく。
   強い 脚力と 丈夫な ツメで 硬い 木の実も 砕く。』

侑「ワシボン……!」


好戦的なポケモンだから、私に飛び掛かって来たんだ……!


侑「いいよ! なら、バトルしよう! ワシボン!」

 「ワシャ!!!!!」


ワシボンが空を切って突っ込んでくる。


侑「イーブイ! “たいあたり”!!」
 「ブイィ!!!」


2匹が正面からぶつかり──


 「ブィッ!!!」
 「ワシャッ!!!」


両者、攻撃が打ち合って後退する。


 「ワシャッ!!!!」


ワシボンは後退したと思ったら、すぐに近くの鉄橋のアーチの方に向かって飛んでいく。


侑「あ、あれ?」
83 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:25:02.63 ID:UaHzC7GK0

もしかして、今ので逃げちゃうの……?

私が軽く拍子抜けした瞬間──

──ギャギャギャギャっと耳障りが音が響く。


侑「う、うるっさ……!? “いやなおと”!?」

リナ『ワシボンは“いやなおと”は覚えない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「じゃあ何!?」

歩夢「つ、爪を研いでるんじゃないかな……っ?」


歩夢が耳を押さえながら近付いてくる。


リナ『歩夢さん正解! リナちゃんボード「ピンポーン♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「つ、つまりそれって……! “つめとぎ”……!?」

 「ワシャァッ!!!!!」


爪を研ぎ終わったワシボンが、鉄橋のアーチを蹴って、一気にこちらに向かって飛び出す。

攻撃力を上げて突っ込んでくる……!?


 「ブィィ!!?」


急なことに対応出来ず、イーブイに“つばさでうつ”が直撃する。


侑「イーブイ!?」
 「ブ、ブイイィ…!!!」


イーブイは攻撃を受けて、吹っ飛び転がりながらもすぐに体勢を立て直す──が、


 「ワッシャァッ!!!!!」


吹っ飛んだイーブイを追いかけるように、ワシボンが追撃してくる。

再び大きく振るった翼に──


侑「イーブイ!! “しっぽをふる”!!」
 「ブーーイ!!!!」


大きな尻尾で追い払うように、攻撃を受ける──


 「ブィ…ッ!!!」


ノーダメージとまではいかなかったけど、幸いにも十分勢いを殺せた……!

と、思った瞬間──


 「ワシャァ!!!!!」
 「ブィィ!!!?」

侑「ええ!?」


逆の翼が襲い掛かって来た。


リナ『あれは“ダブルウイング”!? あのワシボン珍しい技覚えてる!?』 || ? ᆷ ! ||


 「ブ、ブィィ…!!!!」


イーブイはよろけながらも、後退しながらステップを踏むようにして、なんとか持ちこたている。
84 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:26:17.08 ID:UaHzC7GK0

 「ワシャァ!!!!」


再び翼を広げて、飛び掛かってくるワシボン。


リナ『侑さん!! また来る!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


二発来るってわかってるなら、こっちも……!!


侑「イーブイ!! “にどげり”!!」
 「ブイッ!!!!」


イーブイは後ろ脚で、一発目の攻撃を受けるように翼を蹴り上げる。


 「ワシャッ!!!!」


先ほどのように、飛んでくる逆の翼での攻撃も──


 「ブイッ!!!!」
 「ワシャッ!!!?」


二発目の蹴りで迎撃する。


侑「二連続で攻撃出来るのは、そっちだけじゃないよ!」


自慢の攻撃が捌かれたためか、ワシボンに一瞬動揺が見えた。


侑「今だ!! “すなかけ”!!」
 「ブイッ!!!!」

 「ワシャッ!!?」


一瞬の隙を突いて、ワシボンの顔に砂を直撃させる。


 「ワ、ワシャァァ!!!!!」


目潰しを食らって、ワシボンはよたよたしながら、翼をぶんぶんといい加減に振り回す。

でも、そんな適当な攻撃は当たったりしない。この隙に決める……!!


侑「いっけぇ!! “たいあたり”!!」
 「ブーーイ!!!!!」

 「ワシャァ!!!?」


攻撃が直撃し、ワシボンが後ろに向かって吹っ飛んでいく。

そこに向かって私は──


侑「いっけーーー!! モンスターボール!!!」


モンスターボールを投擲した。

──パシュン!! ワシボンにボールが直撃し、中に吸い込まれる。


侑「お願いお願い……!!」


モンスターボールは一揺れ、二揺れ、三揺れしたのち……大人しくなった。
85 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:26:57.10 ID:UaHzC7GK0

侑「……やった」
 「ブィ」

侑「やったぁぁ!! 初捕獲成功ーーー!!!」
 「ブィブィ♪」


イーブイが私の胸に飛び込んでくる。


侑「イーブイ! 私たち捕獲出来たよー!!」
 「ブイブイ!!!」


二人で喜びを分かち合っていると──


歩夢「侑ちゃん、おめでとう!」


歩夢が自転車の乗ったまま、近寄ってくる。


侑「えへへ、ありがと歩夢♪」

歩夢「うん♪ それじゃ、イーブイは怪我を治そうね♪」


歩夢はそう言いながら、イーブイに“きずぐすり”を噴きかける。


 「ブイー♪」

歩夢「よし♪ これで、元気になったね♪ ワシボンも治療してあげないと♪」


ニコニコしながら、今捕まえたばかりのモンスターボールの方へ近付いていく。


侑「あ、ちょっと歩夢!? 最初にボールから出すのは私がやるって!?」

リナ『確かにこれだと、どっちが“おや”なのかわからない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「私がワシボンの“おや”だからー!?」


初めての捕獲の喜びも束の間、私は歩夢に先を越されまいと、慌ただしくモンスターボールのもとへ急ぐのだった。





    💧    💧    💧





──セキレイデパート。


しずく「“モンスターボール”は買いましたね。あとは“きずぐすり”と……“どくけし”や“まひなおし”も買っておかないと……」
 「マネマネェ…」


私が道具の棚の前で腕組みしながら考えていると、足元でマネネも腕組みをして考える素振りをする。


しずく「マネネったら、また私の真似して……」
 「マネネ」

 「──あれ、しずくちゃん?」

しずく「?」
86 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:28:08.27 ID:UaHzC7GK0

声を掛けられて振り返る。そこにいたのは──


しずく「あ……ことりさん」

ことり「こんにちは♪」


ことりさんだった。


ことり「旅に出たんだと思ってたけど……まだ、セキレイシティにいたんだね?」

しずく「はい。まだ、かすみさんが研究所で片付けの手伝いをしている真っ最中でして……」

ことり「待ってあげてるの?」

しずく「なんというか……かすみさんを一人放って行くのも少し気が引けますし……」

ことり「ふふ、そうなんだ♪ しずくちゃんは友達想いなんだね♪」

しずく「い、いえ……/// な、何より、一人で行かせるのが心配なので……!///」

ことり「そっかそっか♪」

しずく「うぅ……///」
 「マネ…///」


なんだか見透かされているようで恥ずかしい。というか、マネネはこういうところまで真似しなくてもいいのに……。


ことり「それじゃ、かすみちゃんのお手伝いが終わるまで、しずくちゃんは時間があるんだね?」

しずく「はい……むしろ、すでに暇と言いますか……」


かすみさんのお手伝いはもう少し時間が掛かりそうですし……。

こうして、買い物をしに来てはいるものの、最低限の旅の準備は昨日の時点で終わっていたわけで……。


ことり「なら、しずくちゃん、ことりのお家においでよ♪」

しずく「……え?」

ことり「というか決定です♪ それじゃ、行こう〜♪」

しずく「え!? えぇ〜!!?」
 「マネネェ!!?」


ことりさんは私の返事も聞かずに、私の手を引いて歩き出してしまいました。





    💧    💧    💧





ことり「いらっしゃいませ♪ ことりのお家へ♪」

しずく「え、えっと……お邪魔します」
 「マ、マネネェ…」


連れてこられたのは侑先輩と歩夢さんが住んでいるマンションの一番上のお部屋。

ことりさんも、同じマンションに住んでいたんですね……。

それにしても……。


 「ピィー」「ポポ」「ピピピヨ」

しずく「すごい数の鳥ポケモン……」
 「マネネェ」
87 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:29:30.66 ID:UaHzC7GK0

さすが、ひこうタイプをエキスパートとしている四天王……。

……というか、私は何故ここに連れてこられたのでしょうか?


ことり「しずくちゃんはどんな鳥ポケモンが好き?」

しずく「え? えっと……どんなと言われると難しいですね……」

ことり「かわいいとか、かっこいいとか、そういう大雑把なことでもいいよ♪」

しずく「えっと……力強い美しさがあるポケモン……でしょうか」


鳥ポケモンに限らず、内に秘めたエネルギーがあるポケモンが好き……だと思う。

我ながら、具体性に欠ける気がするけど……。


ことり「力強い美しさだね♪ わかった、いい子がいるから待っててね!」

しずく「は、はぁ……」

ことり「ココラガ、おいで!」


ことりさんが呼ぶと──


 「ピピピピィィーーー」


小さな鳥ポケモンが飛んできて、ことりさんの腕の上に止まる。


しずく「あ、このポケモン……」


目の前のポケモン──ココガラには、少しだけ見覚えがあった。


ことり「あれ? もしかして、ココガラ知ってるのかな? この地方では珍しいポケモンなんだけど……」

しずく「は、はい。小さい頃、両親と一緒に旅行で行ったガラル地方で見たことがありまして……」


確かこのポケモンは──


しずく「アーマーガアに進化するんですよね? ガラル地方では交通の便として、私も利用させて貰いました!」


ガラル地方では『空を飛ぶタクシー』として慣れ親しまれている、アーマーガアへ進化することで知られている。


しずく「アーマーガアの力強さ、そしてガラルという地方で人と共存し、生きている姿には幼いながらも感動させられた記憶があります……!」


あそこまで人とポケモンの生活が密接に結びついているのは、なかなか珍しいことだ。


ことり「そうなんだ! じゃあ、しずくちゃんにぴったりかも! よかったね、ココガラ♪」
 「ピピピピィィーー」

しずく「よかった……? あの、ことりさん……私は一体何をすれば……」


というか、何をさせられるんでしょうか……? 困惑していると──


 「ピピピピィーーー」

しずく「きゃっ!?」


ココガラはことりさんの腕から飛び立ち、今度は私の頭の上に止まる。
88 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:30:47.43 ID:UaHzC7GK0

しずく「え、えっと……」

ことり「ふふ♪ ココガラもしずくちゃんが気に入ったみたいだね♪ それじゃ、よろしくね♪」

しずく「……? えっと、よろしくとは一体……?」

ことり「ココガラと仲良くしてあげて欲しいな♪」


どうにも、会話が噛み合っていないような……。


しずく「…………もしかして、このココガラ……頂いても良いということでしょうか?」

ことり「あれ? 言ってなかったっけ?」

しずく「えっと……とりあえず、今のところは何も……」


そういえば、この街の子供はみんな、ことりさんから鳥ポケモンを貰う習慣があると、前に学校で聞いたことを思い出す。

通っていたのがセキレイシティの学校だったため、生徒のほとんどは幼少期にことりさんから鳥ポケモンを貰っていると言っていた気がします。

もちろん、かすみさん、歩夢さん、侑先輩も例外ではなく……というか、この話は昨日もしていましたね。


ことり「私、セキレイシティの子には、鳥ポケモンをよくプレゼントしてるんだよ♪」

しずく「ですが……いいんですか?」

ことり「ん〜?」

しずく「私はセキレイシティ出身ではなく、サニータウンから来ているので……」

ことり「でも、ここから旅立つんだったら、もうセキレイシティの子も同然だよ〜♪」


そ、そういうものなんでしょうか……?


ことり「別にセキレイシティの子にあげるって決まりがあるわけじゃないし……実際セキレイシティの出身じゃない、曜ちゃんにもあげたことがあるし♪」

しずく「え、そうなんですか?」

ことり「うん♪ まだ曜ちゃんが駆け出しのトレーナーだった頃だけどね♪」


街の人たちに慕われているジムリーダーの曜さんが、駆け出しだった頃……あまり想像が出来ませんが……。

そういえば、ことりさんと曜さんは師弟関係だという話を聞いたことがあった気が……確かにそれなら、ポケモンを譲り受けていてもおかしくない……のかな。


ことり「これはあくまでトレーナーデビューしたしずくちゃんへの、お祝いの気持ちだよ♪ だから、しずくちゃんもココガラと仲良くしてあげて欲しいな♪」

しずく「……わかりました。そういうことでしたら、ありがたく頂戴します……! よろしくね、ココガラ」
 「ピピピィィィーー」

ことり「うん♪ それじゃ、ことりはお仕事があるから、そろそろウテナシティのリーグに戻らなきゃ」

しずく「お、お仕事前だったんですか!? す、すみません……」

ことり「うぅん、気にしないで♪ ことりも好きでやってることだから♪」


ニコニコ笑いながら言うことりさんと共に、ことりさんの部屋を出る。


ことり「それじゃ、冒険の旅楽しんで来てね♪」

しずく「はい! ありがとうございます!」
 「ピピピピィィーー」

ことり「ココガラも、しずくちゃんの言うこと、ちゃんと聞いてあげてね♪」

 「ピピピピピィィィーーー」

ことり「よし! それじゃ、またね、しずくちゃん!」


ことりさんはそう言いながら──突然、手すり壁に手を掛け身を乗り出し、マンションの廊下を飛び降りた。


しずく「!?」
89 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:31:54.70 ID:UaHzC7GK0

ここ10階ですよ……!? 驚くのも束の間──目の前を、大きな綿雲の翼が飛翔していく。


しずく「チ、チルタリス……」


ことりさんは、空中で出したチルタリスに乗り、優雅に飛び去って行ったのでした。


しずく「さすが……ひこうタイプのエキスパート……」


移動も自由自在ですね……。

しばらく、感心やら驚嘆やらで呆然としていましたが……。


 「マネマネ」「ピピピピィーー」
しずく「……あ、うん。ここでボーっとしてても仕方ないよね」


ポケモンたちの声で現実に引き戻された私は、かすみさんの様子を見に、研究所へと足を向けるのでした。





    🎹    🎹    🎹





ワシボンを捕獲したあと、順調に橋を進んで──


侑「風斬りの道、抜けた〜!」


5番道路に到着した。


歩夢「やっぱり自転車があると、早いね♪」

リナ『障害物がない一直線の道なのもあるかも』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


気付くと、風斬りの道を抜けたからか、リナちゃんも外に出てきている。


歩夢「この調子だと、すぐにダリアシティだね」


歩夢の言うとおり5番道路に入って、少し南下すればダリアシティはすぐそこにある。

宿の問題もあるし、早めにダリアシティに到着出来るに越したことはないんだけど──


侑「ねぇ、歩夢。ダリアシティもいいんだけどさ……」

歩夢「え?」

侑「せっかくここまで来たなら……もっと近くで見たくない?」


言いながら指差す先は──ここから北にある、オトノキ地方随一の断崖絶壁。


侑「カーテンクリフ……!」

歩夢「わ……! 気付いたら、クリフにこんなに近付いてたんだね」


まだ結構距離があるはずなのに、目の前に聳え立っている自然の大壁は、かなりの存在感を放ちながら私たちを見下ろしている。
90 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:33:03.47 ID:UaHzC7GK0

侑「せっかくの旅なわけだしさ! 近くで見てみない?」

歩夢「ふふ♪ 侑ちゃんが行きたいなら、いいよ♪」

侑「やった♪」

リナ『それじゃ、進路は一旦北の7番道路に変更だね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

 「バニバニッ!!!!」


進路変更を聞いて、ヒバニーがぴょんぴょんと跳ねる。


歩夢「ヒバニー、まだ走る?」
 「バニバニッ!!!!」

侑「もっと走れて嬉しいー! って感じかな?」

歩夢「うん、そうみたい」

侑「ヒバニー、ホントに元気だね」

歩夢「うん。サスケとは正反対」
 「…zzz」


気付けばサスケは、歩夢の肩に乗ったままお昼寝中。器用だ……落ちないのかな。


侑「イーブイは走る?」
 「ブイ…」


訊ねると、イーブイは私の肩に乗ったまま、小さく鳴くだけだ。


侑「あはは、イーブイも大人しいね……」


戦闘のときはあんなに頼もしいんだけどね……。


侑「よっし! とにかく、カーテンクリフ目指してレッツゴー!」

歩夢「おー♪」

リナ『はーい♪』 || > 𝅎 < ||





    🎹    🎹    🎹





──しばらく自転車を走らせ、7番道路。


侑「着いたね……」

歩夢「うん……」

侑「見えてるのに、なかなか辿り着かないとは思ってたけど……」


辿り着いたカーテンクリフの麓から見上げる断崖絶壁は、予想以上のスケール感だった。

頂上は雲に遮られて、ここからだと全く見えない。ここまで続いていた道路を急に遮る形で存在しているソレは、まさにオトノキ地方のカーテンの異名に相応しいかもしれない。


歩夢「子供の頃から遠くに見てはいたけど……近くで見るとこんなにおっきいんだね……」

侑「うん……! やっぱ、実際に間近で見るとときめいちゃう……!」

歩夢「ふふ♪ ここまで来てよかったね♪」

侑「うん! あ、そうだ! せっかくだし、行けるところまで麓沿いに行ってみようよ! どれくらいカーテンなのかを自分の足で、もっと体感したい!」
91 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:34:08.81 ID:UaHzC7GK0

私は自転車を停めて、麓沿いに駆け出す。


 「ブイ…」


イーブイはのんびりしたかったのか、私の頭から飛び降りちゃったけど……まあ、いいや!


歩夢「あ、ちょっと待って侑ちゃん……!」

 「バニバニ〜!!!!」
歩夢「あ、ちょっと……! ヒバニーも……!」

侑「お、ヒバニー競争する?」
 「バニバニ!!!!」

侑「じゃあ、どっちが先に端に辿り着くかの勝負だよ♪」
 「バニー♪」

歩夢「端まで行ってたら日が暮れちゃうよぉ〜……」


半ば歩夢を置いていきかねない勢いで、ヒバニーと一緒に走り出した矢先──


リナ『ゆ、侑さん!? 上!!』 || ? ᆷ ! ||


リナちゃんが急に大きな声をあげた。


侑「上?」
 「バニ?」


ヒバニーと一緒に上を見上げると──大きな影が見えた。


侑「!?」


頭上から何かが落ちて来ていると気付いたときには──もう直撃ルートだった。


歩夢「侑ちゃん!! ヒバニー!!」
 「ブイブイ!!!!」

侑「っ……!!」


咄嗟に足元のヒバニーを掴んで、


 「バニッ!!!?」


歩夢の方に全力で放り投げる。


歩夢「! ヒバニー!!」
 「バニッ」


歩夢がキャッチしたのを確認したけど──


侑「っ……!」


もう目と鼻の先に迫る落下物。もうダメだ──そう思って目を瞑った瞬間、


 「──ウインディ!! “しんそく”!!」


響く声と共に、自分の身体がふわっと浮いた気がした。

──直後、ガァーーーン!!! 重い物が落下したんだとわかる大きな音が衝撃を伴って空気を震わせる。
92 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:35:06.34 ID:UaHzC7GK0

 「お怪我はありませんか!?」

侑「……え……?」


間近で声が聞こえて、目を開けると──


侑「!!?!? え、せつ……っ!!?!?」


目の前に、同い年くらいの見覚えのある女の子の顔。

そして、周りの景色が高速で流れている。

あまりの情報量の多さに混乱する中、


 「ボスゴーーーードラァ!!!!!!!」


響き渡る、低い鳴き声。


 「まだ、戦闘不能になってない……! このまま、決めます!! 掴まっていてください!!」

侑「へ!? えぇ!?」

 「ウインディ!! “インファイト”!!」
  「ワォォォーーーン!!!!!!」


揺れる景色がさらに激しくブレる。辛うじて前方に目を向けると──ウインディが、牙や頭、前足でボスゴドラに猛攻撃を食らわせているところだった。


 「ゴォーードラァ…ッ」


そして、その攻撃を受け、ボスゴドラは吹っ飛ばされながら、崩れ落ちた。


 「ふぅ……どうにかなりましたね。すみません、大丈夫でしたか?」


そう言いながら、目の前の女の子が私の顔を覗き込んでくる。


侑「は、はい……っ……///」


顔がカッと熱くなるのを感じた。何せそこにいたのは──


せつ菜「それなら、何よりです!」


──私の憧れのトレーナー、せつ菜ちゃんだったからだ。



93 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 14:36:01.11 ID:UaHzC7GK0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【7番道路】【セキレイシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||  |●|.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.10 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.9 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:23匹 捕まえた数:2匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.8 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.7 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:52匹 捕まえた数:10匹

 主人公 しずく
 手持ち メッソン♂ Lv.5 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.5 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      ココガラ♀ Lv.5 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:44匹 捕まえた数:3匹


 侑と 歩夢と しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



94 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 23:52:59.14 ID:UaHzC7GK0
 ■Intermission🐥



只今ことりは、ウテナシティに戻る真っ最中。


ことり「……」


空を切りながら飛ぶチルタリスの背後から、


ことり「……やっぱり、視られてるよね」
 「チルゥ」


ずっと視線を感じていた。

それも今日に限ったことじゃない、ここしばらくはずっとだ。

気のせいかな……とも思っていたけど、いい加減犯人さんを突き止めてしまった方がよさそうだ。

私は背後を振り返り、


ことり「追いかけてきている人!! 出て来てください!!」


背後に向かって大きな声で呼びかける。

ただ、ここは上空。隠れる場所なんてないはず。

だからこそ、ことりも気のせいだと思っていたんだけど……あまりに強い視線──というよりも、圧を背中に感じ続けていた。

何かがいるのはほぼ間違いないと、ことりの勘がそう言っていた。

その刹那──


ことり「きゃぁっ!?」


突風のように何かがことりの横を猛スピードで横切った。


ことり「やっぱり何かいる……!!」
 「チルゥゥゥ!!!!!!」


一気に臨戦態勢に入るものの──ギュンッ!!


ことり「っ……! 回避っ!!」
 「チルゥッ!!!」


咄嗟に回避を指示。

チルタリスは身を捩り、辛うじて避けられたものの、相手の動きが速過ぎて姿が捉えられない。

恐らく、純粋なスピードだけで逃げ切るのはチルタリスでは難しい。

もっと、スピード重視の子に入れ替えるのも考えたけど──

私はすぐに、純粋な速さ比べも力比べもするべきではないと判断する。

何故なら──私の知る限り、こんな高速で飛行しながら、攻撃を行うポケモンは“ひこうタイプ”には存在しないと思ったから。

相手が何者かもわからないまま、隠れる場所もないこの空中で、戦いを続けるのは得策じゃない。


ことり「……ならっ!!」
95 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/01(火) 23:53:40.98 ID:UaHzC7GK0

隠れる場所がないからこその、迎撃方法で立ち向かう……! ことりは両手で耳を塞ぎながら──


ことり「“ハイパーボイス”!!!」
 「チィィィルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!!!」


空間一帯を爆音で攻撃する。

チルタリスを基点に広がる振動のエネルギーが、周囲の空気を激しく震わせたのち──


ことり「……い、いなくなった……かな……?」


先ほどまで、空気を裂きながら飛翔していたポケモンの攻撃は、スンと止む。


ことり「……逃げたのかな……?」


無差別の音波攻撃によって、撃墜した可能性もあるけど……深追いは禁物かな。


ことり「チルタリス、少し時間掛かっちゃうけど……高度を下げて向かおっか」
 「チル」


私は出来るだけ遮蔽物のある地表付近を飛びながら、ウテナシティを目指すことにする。

帰ったら、すぐに海未ちゃんに報告しないと……。


………………
…………
……
🐥

96 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:15:39.38 ID:sJcXG/TG0

■Chapter005 『憧れのトレーナー』 【SIDE Yu】





せつ菜「──改めて、お怪我はありませんか?」


ウインディから降ろして貰うと、せつ菜ちゃんは再び私の顔を覗き込みながら、そう訊ねてくる。


侑「は、はい……っ」


軽く声を上ずらせながら返事をすると、せつ菜ちゃんは少し不思議そうに首を傾げる。


せつ菜「……やはり、どこか調子が悪いんじゃ……」

侑「い、いえっ!!」

せつ菜「そうですか……? なら、いいのですが……」


せつ菜ちゃんと直接話しているという事実に軽く動転していると、


歩夢「侑ちゃーん!!」
 「ブイブイ!!!」「バニーー!!!!」


歩夢とイーブイ、そしてヒバニーがこちらに駆け寄ってくる。


 「ブイーーー!!!!」「バニーーー!!!」


そのまま、イーブイとヒバニーが飛びついてくる。

侑「おとと……イーブイ、私は無事だよ。心配掛けてごめんね。ヒバニーも怪我がなさそうでよかったよ」
 「ブイ…」「バニー!」

せつ菜「! あなたのポケモンと……そちらは連れの方ですか?」

歩夢「は、はい……! 侑ちゃんを助けていただいて……。……え?」


歩夢もせつ菜ちゃんに気付いたらしく、言葉を詰まらせる。まあ、あれだけ一緒にビデオ見てたし、歩夢も気付くよね……。


せつ菜「? どうかされましたか?」

侑「えっと……」

せつ菜「?」

侑「せつ菜ちゃん……ですよね?」


私がそう訊ねると、せつ菜ちゃんは少し考えたあと、


せつ菜「……もしかして、どこかでお会いしたことが……?」


と、明後日の方向に結論が出た模様。


侑「い、いや……ポケモンリーグ決勝戦での試合で見たことがあって……」

せつ菜「ああ、なるほど! 観戦してくださってたんですね!」


せつ菜ちゃん……自分が有名人だって自覚ないのかな……?
97 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:16:34.90 ID:sJcXG/TG0

せつ菜「知ってくださっているなんて光栄です。そんな方を巻き込んでしまったなんて……面目ないです」

侑「巻き込んでしまった……? むしろ、助けてもらって……」

せつ菜「いえ……先ほど降ってきたボスゴドラは、上で私が戦っていた野生のポケモンなんです……」

歩夢「こんな場所でバトルを……?」

せつ菜「はい、修行のために……。ですが、ボスゴドラが落ちたあとに、下に人がいることに気付いて、急いで下って来たんです」


それはそれで、すごいような……。崖から落ちてくるボスゴドラに、追いついてきたってことだよね……?


せつ菜「なので、申し訳ありませんでした。まさか、カーテンクリフの麓に人がいるなんて思ってなくて……」

侑「い、いや、いいんです! お陰様で、このとおり無事ですし!」

せつ菜「そう言っていただけると助かります……。えーっと……」

侑「あ、私、侑って言います!」

歩夢「歩夢です、侑ちゃんと一緒に旅をしていて……」

せつ菜「侑さんと歩夢さんですね! 私はせつ菜って言います! ……って、もう知っているんでしたね」


せつ菜ちゃんはコホンと咳払いをする。


せつ菜「ところで、お二人とも見たところ同じくらいの歳に見えますが……」

侑「あ、はい! 私も歩夢も16歳です!」

せつ菜「ということは同い年ですね! でしたら、敬語は使わなくても大丈夫ですよ!」

侑「え、でも……」

せつ菜「どうか、お気になさらず! 私も敬語で話されるのはむず痒いので!」

侑「そ、そういうことなら……じゃあ、敬語は無しで話すね?」

せつ菜「はい!」

歩夢「私もそうした方がいいんだよね……?」

せつ菜「はい! お二人とも、それでよろしくお願いします!」

侑・歩夢「「…………」」


せつ菜ちゃんはまだ敬語なんだけど……。


リナ『お話、そろそろ終わった? 私も自己紹介したい』 || ╹ᇫ╹ ||


そんな中、マイペースに私たちのもとへと、飛んでくるリナちゃん。


せつ菜「おお!? 何やら機械が喋りながら浮いてますよ!?」

リナ『初めまして、リナって言います。ポケモン図鑑やってます』 || > ◡ < ||

せつ菜「ポケモン図鑑!? もしや、噂に聞くロトム図鑑とやらですか?」

リナ『そんな感じ。ロトム図鑑、名前はリナ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

せつ菜「初めて見ました……! ポケモン図鑑に……その子はヒバニーですよね?」


せつ菜ちゃんの視線はリナちゃん、そしてヒバニーを順に見やる。


 「バニ?」
侑「あ、このヒバニーは歩夢のポケモンだけどね」

歩夢「図鑑なら私も持ってるよ。リナちゃんみたいに喋ったりしないけど……」


歩夢がせつ菜ちゃんに見せるために、ポケモン図鑑を取り出す。
98 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:18:11.12 ID:sJcXG/TG0

せつ菜「ふむ、初心者向けポケモンにポケモン図鑑……もしや、新人トレーナーさんですか?」

歩夢「うん、昨日ポケモンを貰って、今日二人で旅に出たところで……」

せつ菜「なるほど……もしかして、それでクリフを見にここまで来られたということでしょうか?」

侑「あはは……実はそうなんだよね」

せつ菜「気持ち、わかりますよ! 確かに旅に出たら一度は近くで見てみたくなりますもんね!」

侑「だよね! 一度は自分の目で確かめてみたくってさ!」

せつ菜「ふふ、いいですね、初々しくて。私も旅に出た頃を思い出してしまいます……! ただ、私はポケモン図鑑や最初のポケモンみたいな子は貰っていませんが……」


せつ菜ちゃんは昔を懐かしむように言う。


せつ菜「少しだけ、お二人が羨ましいです。やはり、図鑑と最初のポケモンを貰って旅に出るのは、多くのトレーナーにとって憧れですから」


確かにせつ菜ちゃんの言うとおり、最初にポケモンを貰って旅に出る……なんて機会を与えられる子供は、そんなに多くない。

私たちだって、学校にいる生徒の中から選ばれたのは歩夢、かすみちゃん、しずくちゃんのたった3人しかいなかったわけだし。


せつ菜「ですので旅に出る前に、街の知り合いの方に捕獲を手伝ってもらって捕まえた──この子が最初の仲間、ということになりますね」
 「ワォン」


せつ菜ちゃんはそう言いながら、横でお行儀よく待っているウインディを撫でる。


侑「このウインディが最初のポケモンだったんだね……!」

せつ菜「はい!」

侑「この子が千歌さんのバクフーンと死闘を繰り広げた、せつ菜ちゃんの相棒だって思うと……! なんだか、ときめいてきちゃった!」

せつ菜「ふふ、ありがとうございます。結局、最後には負けてしまいましたけどね」

侑「でも、すっごい接戦だったよ! 私、あの試合が大好きで、何度もビデオに録画したの見てるんだよ!」

せつ菜「本当ですか? そう言っていただけると嬉しいです! 私もあんなに胸が熱くなった試合は初めてでした……やはり、全身全霊でぶつかり合う試合は心が震えますから!」

侑「うんうん!」


あのせつ菜ちゃんからの生感想にちょっと感激している自分がいる。


せつ菜「あのバトルは、言葉を交わしているわけではないのに、まるで千歌さんと会話をしているかのように千歌さんの気持ちが伝わってきて……本当に最高の試合でした」

侑「気持ちが伝わってくる……」


そっか、せつ菜ちゃん……あの試合のとき、そんなこと考えてたんだ。

話を聞いていたら、私も胸が熱くなってきた。

私も……そんなトレーナーになれるかな?


侑「……あ、あのさ、せつ菜ちゃん」

せつ菜「なんでしょうか?」


私は、せつ菜ちゃんを目の前にして、憧れのトレーナーを目の前にして、話を聞いて……どうしても、


侑「私とポケモンバトルしてくれないかな……!」


せつ菜ちゃんとバトルしてみたくなってしまった。
99 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:19:15.16 ID:sJcXG/TG0

せつ菜「え?」

リナ『侑さん、それは無謀。どう考えてもレベルが違い過ぎる。今の侑さんじゃ、絶対勝てない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

せつ菜「いえ、勝負は時の運。どんな戦いにも絶対はありませんよ、リナさん」

リナ『……一理ある。訂正する。99.9%勝てないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃん意外と毒舌だね……。


侑「……それでも、一度戦ってみたいんだ! せつ菜ちゃんと! せつ菜ちゃんは私の目標だから……! 今の私とせつ菜ちゃんがどれくらい遠いのか、知りたくって!!」

せつ菜「……ふふ♪ そんな風に言われたら断れませんね! いいですよ、侑さん! バトルしましょう!」


せつ菜ちゃんが私からの挑戦に、嬉しそうに笑う。


歩夢「え、ええ!? 本当にバトルするの!?」

せつ菜「とはいえ、リナさんの言うとおり、レベルの違いというのは確かにあります」

リナ『それに侑さんの手持ちはまだ2匹しかいない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

せつ菜「ですので、こうしましょう! 今回私は、このウインディ1匹で戦います!」
 「ワォン」

せつ菜「侑さんは今出来る全力でぶつかって来てください!」

侑「今出来る全力……! うん、わかった!」


私はボールベルトからボールを外して、構える。


歩夢「侑ちゃん……! 頑張ってね!」

侑「うん、ありがとう、歩夢」


歩夢がヒバニーを連れて後ろに下がったのを確認して、せつ菜ちゃんと向かい合う。


せつ菜「それではお相手させていただきます! 侑さん!」

侑「うん!」


すでに構えているウインディのもとへ、私がボールを放ち……ポケモンバトル──スタート!!





    🎹    🎹    🎹





侑「行くよ! ワシボン!!」
 「──ワシャッ!!!!」

せつ菜「行きますよ! ウインディ!!」
 「ワォン!!!!」

侑「ワシボン! 上昇!」
 「ワッシャッ!!!!」


真っ向から打ち合ったら、それこそ勝ち目なんてゼロだからね! まずはウインディの攻撃の届かないところへ……!


せつ菜「常套手段ですが、いい作戦です……! なら、こちらは迎え撃つための準備をするまで! “とおぼえ”!!」
 「ワォーーーーン!!!!!」


ウインディが上を向いて大きく口を開きながら、遠吠えする。
100 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:21:26.42 ID:sJcXG/TG0

リナ『“とおぼえ”を使うと攻撃力が上昇する。放置してるとまずいかも』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「もちろん、のんびり戦うつもりはないよ!!」
 「ワッシャッ!!!!」


ワシボンは一気にウインディの方へ急降下し、翼を構える。


侑「ワシボン! “ダブルウイング”!!」
 「ワシボーッ!!!!!」

 「ワゥッ!!!」


翼を使った二連撃をウインディの頭にお見舞いする。


せつ菜「ウインディ! 捕まえなさい!!」
 「ワォンッ!!!!!」


ウインディはワシボンを捉えようと前足を振り上げるが、


 「ワシボーー」


ワシボンは、上手くウインディの前足を潜り抜けるように回避して、またすぐに飛翔する。


せつ菜「身軽ですね……! 進化前特有の体の小ささを生かそうということですか……!」

侑「スピードもパワーもまだまだだけど、体の小ささは武器にもなるからね!」

せつ菜「ふふ……新人トレーナーとは思えない、良い着眼点ですね!!」

侑「えへへ……///」


あのせつ菜ちゃんに褒められるなんて……対戦相手だって言うのに嬉しくなっちゃう……!


侑「さぁ、このまま畳みかけるよ! ワシボン!」
 「ワシィーー!!!!!」


再度の急降下──今度は爪を構える。


侑「“きりさく”!!」
 「ワシィ!!!!」


この調子で、ヒットアンドアウェイを続ければ──と、思った矢先、


 「ワシィッ!!!?」


ワシボンから悲鳴があがる。


侑「え!? どうしたの、ワシボン!?」

歩夢「侑ちゃん! ワシボンの脚!!」

侑「脚……!?」


歩夢の声に釣られるように、ワシボンの脚を見ると──ワシボンの脚は真っ赤な炎に包まれていた。


侑「炎がまとわりついてる!?」

せつ菜「確かに、ひこうポケモンの機動力と、小柄な体躯を利用したヒットアンドアウェイ。見事な作戦ですが……相手をよく見て攻撃しないといけませんよ!」
 「ワォン」


気付けば、ウインディが体の表面にチリチリと小さな炎を纏っていることに気付く。
101 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:23:47.94 ID:sJcXG/TG0

侑「な、なにあれ……!?」

せつ菜「“かえんぐるま”です! 触れたらやけどしますよ! ──そして、炎が届けばこちらのものです!」
 「ワォンッ!!!!」


次の瞬間、ワシボンの脚にまとわりついていた炎は一気に火力を増して、


 「ワシィッ!!!?」
侑「ワシボン!?」


ワシボンを包み込む渦へと成長していく。


せつ菜「“ほのおのうず”!!」
 「ワァォンッ!!!!」

侑「ワ、ワシボン!! 炎を振り払って、空に離脱して!!」
 「ワ、ワシィ…!!!」


ワシボンは必死にもがくけど……まとわりついた炎は一向に剥がせない。


リナ『“ほのおのうず”で拘束されてる……! バインド状態を解除しないと、逃げられない!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「っ……!!」


どうする、どうする!?


せつ菜「さぁ、ウインディ! 全力で行きましょう!」
 「ワォーーーンッ!!!!!!!」


せつ菜ちゃんの掛け声に呼応するように、ウインディの体の周りにあった“かえんぐるま”がさらに勢いを増し──


せつ菜「“フレアドライブ”!!」
 「ワォーーーーンッ!!!!!!!!」


より強力な炎を纏って、ワシボンに体ごとぶつかってくる。


 「ワシャーー!!!!?」
侑「ワシボン!?」


“フレアドライブ”を受けたワシボンはそのまま吹っ飛ばされ──くるくる回りながら墜落する。


侑「ワ、ワシボン……!」
 「ワシィ…」

リナ『……。ワシボン戦闘不能』 || 𝅝• _ • ||

侑「……そっか、頑張ったね、ワシボン。ボールの中でゆっくり休んでね」


あえなく戦闘不能になったワシボンをボールに戻す。


リナ『……侑さん、続ける?』 || 𝅝• _ • ||

侑「……うん」

リナ『でも……やっぱり、力の差がありすぎる……』 || > _ <𝅝||

侑「いいんだ、私からせつ菜ちゃんにお願いしたことだし。それにまだ勝負は終わってないから……!」

リナ『侑さん……。……わかった』 || 𝅝• _ • ||


私は立ち上がって、もう一度せつ菜ちゃんとウインディに目を向ける。
102 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:25:52.74 ID:sJcXG/TG0

侑「せつ菜ちゃん」

せつ菜「なんでしょうか」

侑「最後まで……手、抜かないでね……!」

せつ菜「もちろんです! 私はいつだって、相手の全力には、全力でお応えしますよ!」

侑「うん! 行くよ!! イーブイ!!」
 「ブィィィィ!!!!!」


私の肩からイーブイがバトルフィールドに踊り出す。戦意は十分……!


侑「イーブイ!! “でんこうせっか”!!」
 「ブイッ!!!!!!」


──ヒュンッと風を切って、イーブイが飛び出す。


せつ菜「ウインディ!!」
 「ワォンッ!!!!!」


せつ菜ちゃんは掛け声と共に、ウインディの向かって左側に身を躍らせ、ウインディは口の炎を溜めながら向かって右側を警戒する。


歩夢「トレーナーが動いた……!?」

リナ『!? これじゃ左右に死角がない!?』 || ? ᆷ ! ||


──知ってるよ……! せつ菜ちゃんが前に試合でやっている姿を見たことがある。

トレーナーがポケモンの死角を庇うことによって、より広い範囲に対する迎撃を可能にする戦術……!

でも、私が選んだのは右でも左でもなくって……!!


 「ブイィッ!!!!!」

 「ワゥッ!!!!?」
せつ菜「!? 正面!?」


イーブイの“でんこうせっか”がウインディの右側頭部に直撃する。


侑「よし! せつ菜ちゃんだったら、絶対に機動力での攪乱を警戒してくると思ったんだ!」
 「ブイ!!!」


イーブイは攻撃を当てた反動を利用して、後ろに飛びながら華麗に着地する。


せつ菜「……! 素晴らしい読みと胆力です……!」

侑「さぁ、続けるよ! イーブイ!」
 「ブイッ!!!」


再び“でんこうせっか”で風を切って、飛び出す。


リナ『次は右!? 左!? 前!?』 || ? ᆷ ! ||

せつ菜「右も左も前も後ろも関係ありません! “バークアウト”!!」
 「ガゥワゥッ!!!!!!!!」


まくし立てるように大きな声で吠え始めるウインディ──全方位攻撃だ。


せつ菜「これで逃げ場は……!」


でも、私が知ってるせつ菜ちゃんなら、絶対に読み合い全体をケアする作戦を取ってくる……だったら、さらに裏をかく……!


せつ菜「……き、消えた!? イ、イーブイはどこですか!?」
 「ワ、ワォンッ!!!?」
103 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:27:25.92 ID:sJcXG/TG0

イーブイを見失ったせつ菜ちゃんとウインディが焦って辺りをキョロキョロと見回す。


侑「イーブイ! “スピードスター”!!」
 「ブイィィィ!!!!!!」

 「ワォォ!!!?」


突如ウインディの真下から、“スピードスター”が炸裂……!


せつ菜「……! 足元……!!」

 「ブイッ!!!!」


視界外からの攻撃に動転したウインディの目の前に、イーブイが跳ねる。


侑「“にどげり”!!」
 「ブーイッ!!!!」

 「キャゥンッ!!!?」


そして鼻っ柱に、蹴りをお見舞いする。

……よし! 押してる……!! でも、


せつ菜「“ほのおのキバ”!!」


せつ菜ちゃんは冷静だった。


 「ワァォンッ!!!!!」
 「ブイッ!!!?」


ウインディは“にどげり”の反動で離脱しようとしていたイーブイに飛び掛かるようにして、噛み付いてくる。


侑「イーブイ!?」


燃え盛る牙で、そのままイーブイを捉え、


せつ菜「そのまま、放り投げなさい!!」
 「ワォンッ!!!!」


上に向かって、放り投げられる。


リナ『空中だと、次の攻撃が避けられない!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「や、やばい!?」


空中に投げられ、回避が出来なくなったイーブイに、


せつ菜「“かえんほうしゃ”!!」
 「ワォーーーーンッ!!!!!!!」


ウインディの口から、火炎が放射される。


侑「イーブイ!!」


絶体絶命の中、


 「ブイ…!!!!」


宙に浮くイーブイの目は──まだ戦意を宿していた。
104 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:28:55.06 ID:sJcXG/TG0

侑「……!」


イーブイが──ゴオッ、と音を立てる灼熱の炎に飲み込まれる。


せつ菜「思わぬ攻撃で苦戦しましたが……! 勝負、ありましたね……!」
 「ワォーーーン!!!!」


勝利の雄たけびをあげるウインディ、だけど……。


侑「いや……まだ、終わってない……」

せつ菜「……え」

 「…ブィィッ!!!!!」


炎に包まれながら落下したイーブイは──まだ、立っていた。

全身に“めらめら”と炎を宿しながら──


せつ菜「な……っ」

侑「行けっ!! イーブイ!!」
 「ブィィィィィッ!!!!!!!!」


灼熱の炎を身に纏った、イーブイが地面を蹴って、飛び出す。


せつ菜「っ……!! ウインディ!! “フレアドライブ”!!」
 「ワォンッ!!!!!」


2匹は全身に炎を纏って、真正面から衝突した……!

──ゴォッ! と音を立てながら、炎が爆ぜ、私たちのところまで、火の粉が飛び散ってくる。


歩夢「きゃぁっ!?」

侑「うわっ……!?」

せつ菜「す、すごい火力……!? 決着は……!?」


爆炎が飛び散ったあと、晴れた視界の先に見えたのは──


 「ワゥ…」


膝を突くウインディと、


 「ブィィ……」


目を回してダウンしている、イーブイの姿だった。


リナ『イーブイ、戦闘不能。よって、せつ菜さんの勝利』 || 𝅝• _ • ||

侑「イーブイ……!」


私はイーブイのもとへと駆け出す。


 「ブィィ…」
侑「頑張ったね、イーブイ……! すごかったよ、さっきの技……!」


全力で戦ってくれた相棒を労いながら、抱きしめる。
105 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:30:17.69 ID:sJcXG/TG0

せつ菜「侑さんっ!」

侑「わぁ!?」

せつ菜「い、今の技なんですか!? 初めて見ました!? イーブイがほのお技を使うことが出来るなんて、知りませんでした!? あれは一体なんという技なんでしょうか!?」


駆け寄って来たせつ菜ちゃんが興奮気味に捲し立ててくる。


せつ菜「あれはウインディから受けた“かえんほうしゃ”を身に纏っていた……? いえ、ですがイーブイは確実にあの炎を自分のモノとして操っているように見えました! 実際、2匹の技がぶつかった瞬間を見れば、あれが偶然自身を焦がす炎を利用したものではなく、イーブイ自身が彼女の意思で以って、炎を使役していたと考えるのが妥当だと思います!! もしや、最初からこんな大技を隠し持っていたんですか!? 侑さん!?」

侑「え、えぇっと……なんだろう……?」

せつ菜「なんだろう……?」

侑「正直、私も……何がなんだか……」


せつ菜ちゃんの言うとおり、私もイーブイがほのお技を使うなんて聞いたことがないし、あれはなんだったんだろう……?


侑「あ、そうだ……」


こんなとき、この疑問について、聞ける相手がいるんだった。


侑「リナちゃん、さっきの技って何か知ってる?」

リナ『うん。さっきの技は“相棒わざ”って言われる技だよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


私の質問にリナちゃんは、そう答える。


せつ菜「“相棒わざ”……?」

リナ『イーブイは周囲の環境に適応して姿かたちを変えて進化する生態だけど……稀に進化前のイーブイがその力を操れるようになることがあるらしい』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「じゃあ今のは……」

リナ『イーブイがせつ菜さんのウインディの強いほのおエネルギーに適応したんだと思う。技の名前は“めらめらバーン”』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「なんで、“相棒わざ”って言うの?」

リナ『野生のイーブイがこの技を使った例は一件もなくて……トレーナー──つまり相棒との信頼関係がないと、修得が出来ないからそう呼ばれてるみたい。その理由自体はよくわかってないけど』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……! えへへ、じゃあ私……イーブイに信頼されてるんだね……!」
 「ブイィ…」


イーブイが抱かれたまま、私の腕をペロリと舐める。


侑「イーブイ、ありがとね……」
 「ブィィ…♪」


お礼交じりに頭を撫でてあげるとイーブイは嬉しそうに鳴く。

……あ、そうだお礼と言えば……!


侑「せつ菜ちゃん! バトルしてくれて、ありがとう!」

せつ菜「いえ、こちらこそ……! まさか、こんなに胸が熱くなるバトルになるとは、思ってもいませんでした……! 私こそ、侑さんに感謝しなくては!」


せつ菜ちゃんはそう言いながら、手を差し出してくる。

私もそれに応えるように手を差し出して──握手を交わす。


侑「あはは、でもやっぱりせつ菜ちゃんは強いなぁ……」

せつ菜「いえ、侑さんこそ新人トレーナーと聞いていましたが……私もウカウカしていると、すぐに追いつかれてしまうかもしれませんね!」

侑「だといいなぁ……」
106 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:31:22.10 ID:sJcXG/TG0

もちろん、トレーナーになりたてで勝てるとは思ってなかったけど……結果としてハンデありでも敵わなかったわけだから、もっと頑張らないとね。


歩夢「侑ちゃん、お疲れ様」

侑「うん、ありがと歩夢」

歩夢「イーブイ、治療してあげるから、こっちおいで?」
 「ブイ…」


歩夢が声を掛けると、イーブイは私の腕の中からぴょんと飛び出して、歩夢の胸に飛び込む。


歩夢「ワシボンも」

侑「あ、うん。ありがと」


言われるがまま、ワシボンのボールを歩夢に手渡す。


歩夢「それと、ウインディもおいで♪」

せつ菜「え!? そんな悪いですよ!? ウインディの治療はトレーナーの私が自分で……!」

 「ワゥ…」


焦るせつ菜ちゃんを後目に、ウインディは歩夢の方へと歩み寄って行って、歩夢の頬をペロリと舐める。


せつ菜「こ、こら!? ウインディ!!」

歩夢「ふふ♪ 大丈夫♪ 今、“きずぐすり”使ってあげるね♪」
 「ワォン♪」


ウインディは歩夢の前でゴロンとお腹を見せて、じゃれ始める。


侑「あはは……歩夢の前ではウインディも可愛い子犬に見えてくる」

せつ菜「驚きました……私のウインディが初対面の人にここまで心を許すなんて……」

侑「歩夢、とにかくポケモンに好かれる体質なんだよね」

せつ菜「世の中いろいろな方がいるものですね……」


せつ菜ちゃんは腕を組みながら、ウインディをじゃらしている歩夢を興味深く観察している。


歩夢「それじゃ、次はワシボンね」
 「ワシー」

 「バニ、バニッ!!!!」
歩夢「きゃっ……! もう、ヒバニーはバトルしてないでしょ?」

侑「ご主人様を取られたと思って、嫉妬してるんじゃない?」

歩夢「もう……順番ね?」
 「バニィ…」


歩夢、大人気……。


リナ『それより、侑さん、歩夢さん、せつ菜さん』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢・せつ菜「?」

侑「どうしたの? リナちゃん?」

リナ『もういい時間だけど……この後、ダリアシティには向かうの?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんに言われて、辺りを見回すと──確かに空は茜色に染まり始めていた。
107 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:35:00.16 ID:sJcXG/TG0

歩夢「ポケモンたちの治療をしてたら、夜になっちゃうかもね……」

侑「あーうーん……今から、ダリアまで行くのはちょっと大変かもね」

せつ菜「でしたら、今日はここでキャンプにしませんか? もちろん、お二人もご一緒に! 私は野営にも慣れていますし!」

歩夢「いいの?」

せつ菜「はい! とびっきりおいしいキャンプカレーをご馳走しますよ!!」

侑「ホントに!?」

せつ菜「はい! 任せてください! それでは、キャンプの設営をしてしまいますね!」

侑「私、手伝う!」

せつ菜「よろしくお願いします!」


期せずして出会った憧れの人と、まさか一緒にキャンプまで! もう、ホント旅に出てからときめいちゃうことばっかり……! 旅に出てよかった……!





    🎀    🎀    🎀





侑「カレー、カレー♪ まだかな、まだかな〜♪」

せつ菜「ふふ、もう少しですよ♪ 侑さんはお皿の準備をお願いします! 私はカレーに最後の仕上げをしてしまうので!」

侑「了解!」


私は二人が料理をしているのを、少し離れたところで、ポケモンたちと見守る。


歩夢「もう二人ともすっかり仲良しだなぁ……」


侑ちゃんとせつ菜ちゃんはすっかり打ち解けたようで、すごく楽しそう。


リナ『歩夢さん? どうかしたの?』 || ? _ ? ||

歩夢「あ、リナちゃん。えっと……侑ちゃんとせつ菜ちゃん、楽しそうだなって思って」

リナ『私もそう思う。今日初めて会ったとは思えない』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「うん。やっぱり、ポケモンバトルをしたからなのかな?」

リナ『そうかもしれない。正直、羨ましい』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「なら、リナちゃんもトレーナーになってみる? ……ポケモン図鑑兼トレーナーって、面白いかもしれないし」

リナ『その発想はなかった。斬新だけど、ありかもしれない』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||


リナちゃんくらい感情豊かなら、案外本当になれちゃうかも……あ、でも中身はロトムなんだっけ? ポケモンがポケモントレーナーになっちゃうのはどうなんだろう……?


リナ『歩夢さんは?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「え?」

リナ『バトル。歩夢さんはしないのかなって』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「えっと……」


リナちゃんから逆に質問されると思ってなかったから、言葉に詰まってしまう。

……私は改めて、自分の気持ちについて、少し考えてみる。
108 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:36:21.62 ID:sJcXG/TG0

歩夢「……まだね、バトルはちょっと……怖い、かな」

リナ『怖い?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「嫌ってほどじゃないんだけど……自分のポケモンが傷つくのも……相手のポケモンが傷ついちゃうのも、怖い」

リナ『じゃあ、やらない?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「……でもね、今日二人がバトルしてるのを見ていて……ちょっとだけ、胸が熱くなった」

リナ『……』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「私も、こんな風に夢中になれたりするのかなって……」

リナ『そっか。じゃあ、今は心の準備中なんだね』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「うん、そんな感じかな」


曖昧な答えになっちゃったけど、嘘偽りなく言ったつもり。

もしかしたら、いつか侑ちゃんみたいに、バトルをする日が来るのかもしれない。


歩夢「そしたら、一緒に戦ってね」
 「バニ?」


傍にいるヒバニーを撫でると、ヒバニーは不思議そうに首を傾げた。


リナ『……ん』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

歩夢「? どうかしたの?」

リナ『野生のポケモンの反応』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「え? どこ?」


もう薄暗くなっている辺りを見回すと──1匹の小さなポケモンがこちらを見つめていた。


 「ニャァ」

歩夢「わ、かわいい♪」

リナ『ニャスパー じせいポケモン 高さ:0.3m 重さ:3.5kg
   プロレスラーを 吹きとばす ほどの サイコパワーを
   内に 秘めている。 普段は その 強力な パワーが
   漏れ出さないように 放出する 器官を 耳で 塞いでいる。』

歩夢「ニャスパーって言うんだね? おいで♪」


敵意があるわけでもなさそうだし、こっちに手招きしてみる。


 「ニャァ」


でも、ニャスパーはジッとこっちを見たまま動かない。


歩夢「警戒してるのかな……?」

リナ『野生ポケモンだから、警戒するのが普通。ただ、ニャスパーは大人しいポケモンだから、放っておいても大丈夫だと思う』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「ん……そっかぁ」


可愛いから一緒に遊びたかったんだけど……仕方ないかな。


侑「歩夢ー! ご飯の準備出来たよー!」

歩夢「あ、呼ばれてる! みんな行こう!」
 「バニバニ!!!」「ブイ」「ワシボー」

歩夢「ほら、サスケも起きて?」
 「シャー…?」
109 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:37:25.73 ID:sJcXG/TG0

みんながゾロゾロと席に移動する中、何故かウインディだけ大人しくしたまま、お座りの姿勢を解かない。


歩夢「ウインディ? 行かないの?」
 「ワン」

歩夢「?」


どうしたんだろう……? お腹空いてないのかな……?


侑「歩夢〜! 早く〜! カレー冷めちゃう〜!」

歩夢「あ、はーい!」


侑ちゃんに呼ばれて、席まで駆け出す。

気付けば、テーブルの上にはカレーが盛られたお皿が並べられている。


侑「あーもう私腹ペコ! 我慢出来ない! あむっ!!」

歩夢「もう、侑ちゃん……いただきますもしないなんて行儀悪いよ。あ、そうだせつ菜ちゃん、ウインディあそこにお座りしたままなんだけど……」

せつ菜「ウインディ……カレーはあまり好きじゃないみたいで……」

歩夢「そうなの?」

せつ菜「あとで、“きのみ”をあげるので、気にしないでください」

歩夢「……せつ菜ちゃんがそう言うなら」


“おや”が言うんだから、そうなんだよね。


せつ菜「さて私もお腹ペコペコですので……いただきます! ……あむっ! やっぱり、外で食べるカレーは格別ですね!」

歩夢「それじゃ、私も……。侑ちゃん、カレー美味しい?」


先に食べ始めていた侑ちゃんに味の感想を求めると──


侑「──」


侑ちゃんは机に突っ伏していた。


歩夢「え? 侑ちゃん……?」

せつ菜「あれ? 侑さん、どうしたんでしょうか……? もしかして、相当疲れていたんでしょうか……?」

歩夢「疲れて寝ちゃったってこと……? 食事中に……?」


今までそんなことあったかな……?

私は思わず首を傾げる。そのとき、ふと目に入ったのはイーブイ。


 「クンクン…ブイ」


イーブイ……においを嗅いでから、そっぽを向いた気がする。一方ヒバニーは、


 「バニーッ! バー、ニッ…」
歩夢「……!?」


カレーにがっつき、その後すぐに突っ伏した。


歩夢「…………」

リナ『歩夢さん、これ、たぶん、やばい』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||


リナちゃんが、私の耳元まで飛んできて、そう囁く。
110 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:38:48.69 ID:sJcXG/TG0

せつ菜「あむっ、あむっ。……? 歩夢さん、どうかされました? 食べないんですか?」

歩夢「あ、えーと……なんでもないよ、あはは」

せつ菜「そうですか? 冷める前に是非食べて欲しいです! 隠し味にとっておきのものを入れた自信作なので!」

歩夢「そ、そっかぁ……」


私はとりあえず、スプーンを付けて小さじ一杯程度を掬ってみてから──口に運ぶ。


歩夢「……っ……!?」


口の中に形容しがたい強烈な味……というか、刺激が走る。


歩夢「せ、せつ菜ちゃん……このカレーって、何入れたの?」

せつ菜「それはお教えできません! とっておきの隠し味を入れた特製カレーなので!」

歩夢「いや、隠れてな──……じゃなくて……お、美味しいから、自分で作るときの参考にしたいな〜って思って……」

せつ菜「……うーん……本当は秘密なのですが、そういうことなら今回は歩夢さんにだけ、特別にお教えしましょう」

歩夢「わ、わーい」

せつ菜「“クラボのみ”をベースに作ったカレールー、具は前にキャンパーの方から頂いた、“やさいパック”と“あらびきヴルスト”を入れています!」

リナ『あれ、意外と普通……?』 || ? _ ? ||

せつ菜「そして、最後に隠し味に“リュガのみ”、“ヤゴのみ”、“ニニクのみ”を豪勢に使いました!」

歩夢「……!?」

せつ菜「どれも、稀少な“きのみ”ですよ! お陰でこんなにカレーがまろやかになっているんです! はぁ……美味しい……♪」


確か、リュガ、ヤゴ、ニニクって……。


リナ『どれも渋味や苦味がとてつもなく強い“きのみ”……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

歩夢「そ、そういえば私ダイエット中だったの思い出したよ!」

せつ菜「え? そうなんですか?」

歩夢「カレーはカロリーが高いから、残念だけど、このくらいにしておくね……!」

せつ菜「歩夢さんは十分細いから大丈夫だと思いますよ! それに、旅をするならしっかり栄養を付けないと!」

歩夢「うぅ、いや、でも……そのぉ……っ」


こ、これ以外の言い訳、そんなすぐに思いつかないよぉ……!?


リナ『せつ菜さん。歩夢さん、ここに来る前にセキレイデパートで、たくさんスイーツを食べちゃったから。私のカロリー管理アプリ的にも、もうこれ以上は危険信号、乙女のピンチ。かなり、ヤバい』 ||;◐ ◡ ◐ ||

歩夢「……! そ、そうなんだよね! 今日はもう完全にカロリーオーバーだから……!!」

せつ菜「そうですか……それは残念です」


シュンとするせつ菜さんには悪いけど……!


歩夢「き、今日は疲れちゃったから早めに休むね!」

せつ菜「はい、おやすみなさい、歩夢さん」


そそくさと、テーブルから離れテントに避難する。


歩夢「リナちゃん、ありがとう……っ」

リナ『カロリーはともかく、食べたら身体に響くのは間違いない……侑さんの犠牲だけで食い止められてよかった』 ||;◐ ◡ ◐ ||

歩夢「侑ちゃん……ごめんね……」
111 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:39:37.18 ID:sJcXG/TG0

私、あのカレーは食べられる気がしないよ……。

テントに向かう途中──お座りしたまま行儀よく待っているウインディと目が合う。


 「ワォン…」


なんだか、物悲しそうな目をしている気がした。


リナ『ウインディも苦労してたんだね……』 || > _ <𝅝||

歩夢「あはは……」


今後、ポケモンたちのご飯の味には、これまで以上に拘ってあげよう……そんなことを考えながら、旅の初日の夜は更けていくのでした……。

……ちなみに、大量のカレーの行き先なんだけど……。


 「シャボシャボッ!!!!!」
せつ菜「サスケさん、いい食べっぷりですね!! 私も丹精込めて作った甲斐があります!! どんどん食べてください!!」

 「シャーーーボッ!!!!!」


ほとんどがサスケの胃袋に消えたそうです。……自分の手持ちの意外な一面を知ることができました……。



112 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/02(水) 12:41:27.69 ID:sJcXG/TG0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【7番道路】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||  |●|.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.14 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.12 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:24匹 捕まえた数:2匹

 主人公 歩夢
 手持ち ヒバニー♂ Lv.9 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.10 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:53匹 捕まえた数:10匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



113 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 01:29:31.77 ID:aNVgiSRu0

 ■Intermission🐥



──ポケモンリーグ本部、理事長室。


ことり「海未ちゃん……! 報告したいことが……!」

海未「……ことり? どうかしましたか?」


私が理事長室に飛び込むと、事務仕事をしていたであろう海未ちゃんが、顔を上げる。


ことり「あ、あのね……実はここに戻ってくる最中なんだけど──」


──私は事の一部始終を説明する。

ここ最近、視線を感じることが多かったのと、今日ここに戻ってくる際に、何者かに襲撃されたこと、少なくともことりにはなんのポケモンかわからなかったこと。

そして、とりあえず撃退には成功したことを報告する。


海未「……ことり、どうしてもっと早く報告しなかったのですか」

ことり「だ、だって……気のせいかもしれないって思ってたから……。心配も掛けたくなかったし、確実な証拠が出てきたらにしようと思ってて……ごめんなさい」

海未「まあ、いいでしょう……。相手の特徴などは覚えていますか?」

ことり「えっと……動きが速過ぎてはっきりとは……」


ほぼ残像しか見えないような速度だったし……。


海未「色や大きさもわかりませんか?」

ことり「うーん……人間の大人くらいの大きさ……かな……? 色は……白かったような、黒かったような……」

海未「……ふむ」


海未ちゃんは口に手を当てて、少し考えたあと、再び口を開く。


海未「わかりました。遭遇した空域は、こちらで調査隊を出しましょう。ことりが倒している可能性もありますし、そうでなくとも、何かしらの手がかりが見つかるかもしれませんから」

ことり「うん……お願い」

海未「あと、希にも相談してみてください。彼女の占いなら、何かわかるかもしれませんから」

ことり「わかった。希ちゃん、今どこにいるかな?」

海未「四天王の間の自分の部屋にいると思いますよ。あそこが一番、精神統一出来るそうなので」

ことり「ありがとう、行ってみるね」
114 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 01:30:15.14 ID:aNVgiSRu0

希ちゃんのもとに行くために、理事長室を後にしようとすると──


海未「ことり」


海未ちゃんに呼び止められる。


ことり「なぁに?」

海未「……襲撃されたことは心配ですが……ことりが無事で何よりです。……すみません、これは最初に言うべきでした」

ことり「海未ちゃん……うぅん。海未ちゃんが理事長に就任してから、そんなに時間も経ってなくて、いっぱいいっぱいなのも、ことりわかってるから! ありがとう、心配してくれて」

海未「……ふふ、ことりにそう言って貰えると、いくらか気が楽になります。こちらこそ、ありがとうございます」

ことり「どういたしまして♪ 調査、手伝えることがあったらなんでも言ってね」

海未「はい、そのときはお願いします。ただ、くれぐれも無理はしないでくださいね」

ことり「うん♪」


海未ちゃんの言葉に笑顔で返して、私は部屋を後にしたのでした。


………………
…………
……
🐥

115 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:12:07.57 ID:aNVgiSRu0

■Chapter006 『盗人を捕まえろ?』 【SIDE Yu】





せつ菜「──それじゃあこの辺りで……私はセキレイシティ方面に向かいますので!」

侑「ああ……もう、お別れかぁ……」

せつ菜「旅をしていれば、またどこかで会えますよ」

侑「……うん。次会うときはもっと強くなれてるように、頑張るね!」

せつ菜「楽しみにしています♪」


せつ菜ちゃんがすっと私の方に手を差し出す。


せつ菜「一トレーナーとして……また会ったときは、全力で競い合いましょう!」

侑「うん……!」


それに応じて、握手を交わす。


せつ菜「歩夢さんとリナさんも、またどこかで!」

歩夢「うん♪ またね、せつ菜ちゃん」

リナ『とっても勉強になった、せつ菜さん、ありがとう』 ||,,> 𝅎 <,,||

せつ菜「次会ったときは、サスケさんにもっと美味しいカレーをご馳走しますね!」

 「シャーーーボッ」
歩夢「あ、あはは……」


歩夢が何故か苦笑いしてる……?


侑「あれ……? そういえば、私……せつ菜ちゃんのカレーを食べたあと、どうしたんだっけ……?」
 「ブイ…」

リナ『侑さん、それ以上は思い出しちゃいけない』 ||;◐ ◡ ◐ ||

 「ブイブイ」
侑「……?」


なんだろ……? まあ、いっか。


せつ菜「それでは、侑さん! 歩夢さん! リナさん! 良い旅を!」

侑「じゃあね! せつ菜ちゃーん!」


せつ菜ちゃんは、折り畳み自転車に乗って、手を振りながら風斬りの道方面へと走り去っていった。


侑「それじゃ、私たちも行こうか!」

歩夢「うん!」

リナ『目標ダリアシティ。リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||


私たちはダリアシティを目指して、早朝の5番道路を自転車で走り出すのだった。



116 :>115訂正 ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:15:30.53 ID:aNVgiSRu0

■Chapter006 『盗人を捕まえろ?』 【SIDE Yu】





せつ菜「──それでは、この辺りで……私はセキレイシティ方面に向かいますので!」

侑「ああ……もう、お別れかぁ……」

せつ菜「旅をしていれば、またどこかで会えますよ」

侑「……うん。次会うときはもっと強くなれてるように、頑張るね!」

せつ菜「楽しみにしています♪」


せつ菜ちゃんがすっと私の方に手を差し出す。


せつ菜「一トレーナーとして……また会ったときは、全力で競い合いましょう!」

侑「うん……!」


それに応じて、握手を交わす。


せつ菜「歩夢さんとリナさんも、またどこかで!」

歩夢「うん♪ またね、せつ菜ちゃん」

リナ『とっても勉強になった、せつ菜さん、ありがとう』 ||,,> 𝅎 <,,||

せつ菜「次会ったときは、サスケさんにもっと美味しいカレーをご馳走しますね!」

 「シャーーーボッ」
歩夢「あ、あはは……」


歩夢が何故か苦笑いしてる……?


侑「あれ……? そういえば、私……せつ菜ちゃんのカレーを食べたあと、どうしたんだっけ……?」
 「ブイ…」

リナ『侑さん、それ以上は思い出しちゃいけない』 ||;◐ ◡ ◐ ||

 「ブイブイ」
侑「……?」


なんだろ……? まあ、いっか。


せつ菜「それでは、侑さん! 歩夢さん! リナさん! 良い旅を!」

侑「じゃあね! せつ菜ちゃーん!」


せつ菜ちゃんは、折り畳み自転車に乗って、手を振りながら風斬りの道方面へと走り去っていった。


侑「それじゃ、私たちも行こうか!」

歩夢「うん!」

リナ『目標ダリアシティ。リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||


私たちはダリアシティを目指して、早朝の5番道路を自転車で走り出すのだった。



117 :>115訂正 ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/03(木) 18:17:45.79 ID:aNVgiSRu0

    👑    👑    👑





──ツシマ研究所。


善子「──しずく、悪かったわね。結果的に、貴方まで足止めしちゃって……」

しずく「いえ、自分から残っていただけなので、お気になさらないでください」

かすみ「……やっと、旅に出れます……かすみん、たくさんコキ使われて、もうくたくたですぅ……」
 「ガゥガゥ…」


かすみんは、この2日間の大変なお片付けを思い出して、ゾロアと一緒に項垂れてしまいます。


しずく「ほら、かすみさんも博士に挨拶しないと……」

かすみ「挨拶の前にぃ〜、ヨハ子博士〜」

善子「何? というか、そのヨハ子博士ってのやめなさいよ」

かすみ「頑張ったかすみんにぃ〜、何かご褒美とかないんですかぁ〜?」

善子「あんた、本当にたくましいわね……感心するわ」

しずく「あはは……」


ヨハ子博士もしず子も、なんか呆れ気味ですけど、かすみんホントに頑張ったもん! 昨日なんか、朝早く起きて、夜遅くまでずーーーーーーっとお手伝いしてたんですからね!!


善子「んーそうね……何かあったかしら」


そう言いながら、博士は周辺をがさごそと探し始める。


かすみ「えっ!? ホントに何かくれるんですか!?」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「は、博士……かすみさんの言うことは真に受けなくていいんですよ……?」

善子「まあ……頑張りは認めてあげないとね。実際、片付けの手伝いは真面目にやってたし」

かすみ「さすが博士ぇ! 話がわかる〜♪」
 「ガゥ♪」

しずく「かすみさん、調子に乗らないの!」

善子「……あ、これなんかいいかもしれないわね」


そう言いながら、博士は持ってきたものをゴロゴロと机に置く。


かすみ「……なんですか、これ?」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「“きのみ”ですね。えっと、種類は……ザロクにネコブ、タポルにロメ……」

善子「あとウブとマトマの6種類よ。二人にあげるから、何個か持ってくといいわ」

かすみ「えぇーー!? ご褒美、ただの“きのみ”ですかぁ!?」

善子「この“きのみ”にはちゃんと効果があるのよ」

かすみ「効果……?」

しずく「ポケモンにあげると、なつきやすくなるんですよね」

善子「そうよ。さすがしずくね、よく勉強してるわ」

かすみ「む……か、かすみんもそれくらい知ってるもん」


しず子ばっかり、褒められててずるい……。
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