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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」
- 1 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:03:51.67 ID:QLy5TvuG0
- ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会SS
千歌「ポケットモンスターAqours!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1556421653/
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1557550388/
の続編です。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1667055830
- 2 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:08:52.99 ID:QLy5TvuG0
- ......prrrr
......prrrrrr
pi!!
『……聞こえるかしら? 選ばれし子供たち』
『──ふふ、良い返事だわ』
『ごきげんよう、可愛い可愛いリトルデーモンたち。いよいよ、明日が旅立ちの日ね』
『改めて、私は堕天使ヨハネ。ここセキレイシティのツシマ研究所にて、博士をやっているわ。ヨハネ博士とでも呼んで頂戴。……と言っても、貴方たちとは既に何度も顔を合わせているし、今更名乗る必要もないかもしれないけど……──え? 善子? ……善子言うな!!』
善子『コホン……。こういうのは儀式みたいなもんなのよ。大人しく聴いてなさい』
善子『この世界にはポケットモンスター──通称ポケモンと呼ばれる生き物たちが、草むら、洞窟、空、海……至るところにいて、私たちはポケモンの力を借りたり、助け合ったり、ときにポケモントレーナーとして、ポケモンを戦わせ競い合ったりする』
善子『私はここオトノキ地方で、そんなポケモンと人との関わり合いの文化を研究しているわ。そして、今回貴方たちにはその研究の一環として、ポケモンたちと一緒に冒険の旅に出て欲しいと思っている』
『ムマァ〜ジ♪』
善子『って、うわぁ!? や、やめなさい、ムウマージ!! 今大切な話ししてるところだから!? 後で遊んであげるから、あっちいってなさい!!』
善子『はぁ……元気が有り余り過ぎてて困るわね……。……さて、最後に貴方たちの名前を改めて教えてくれるかしら? え? もう知ってるだろって? これも儀式みたいなものなのよ、いいから名乗りなさい』
…………
善子『……歩夢、かすみ、しずくね。ふふ、やっぱり私が選んだだけあって、みんな良い名前だわ』
善子『それじゃ3人とも。私は研究所で待ってるから。また明日──』
【セキレイシティ】
口================== 口
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- 3 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:13:39.26 ID:QLy5TvuG0
-
❓ ❓ ❓
──ローズシティ。ニシキノ総合病院のとある一室。
聖良「…………」
綺麗な顔をしたまま、ベッドの上で何年も眠り続けている彼女の顔を見る。
──ピ……ピ……ピ……と、無機質なバイタルサインの音と、呼吸とともに僅かに上下する胸の動きで、まだ生きていることはわかった。
この地方を大きく揺るがすこととなった、グレイブ団事変から、すでに3年が経過しようとしている。
そのグレイブ団のボスも……勇敢なトレーナーたちに阻まれ、敗北し、その代償として今もなお眠り続けている。
こうしてわざわざ彼女の病室に忍び込んだのは……彼女への贖罪のつもりなのだろうか。それとも、同じ轍を踏まないための自分への戒めか。
我ながら、鬼にでも悪魔にでもなる心づもりだったのに、夢を語り、野望を胸に、戦っている人間を利用するのは……いや、利用したのは──胸が痛む。
それでも──選んだから。彼女がそうしたように、自分の目的のために、何かを犠牲にしてでも──取り戻したいものがあるから。
「…………」
最後に彼女の顔を一瞥して、病室を後にする。
もう迷うつもりはない。きっと……最後の迷いを断ち切るために、ここに来たのだ。
だから、迷わずに、進む。
何を犠牲にしてでも──取り戻すと、決めたのだから。
- 4 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:18:37.52 ID:QLy5TvuG0
-
■Chapter001 『新たなる旅のはじまり』
実況『──ポケモンリーグ決勝戦!! この一戦でオトノキ地方の頂点のトレーナーが決定します!!』
大歓声の中、トレーナーがマントをたなびかせながら、ボールを携えてフィールドに現れる。
実況『先に現れましたのは、皆さんご存じオトノキ地方現チャンピオン!! 今リーグもほとんどの試合をほぼ1匹で勝ち抜いてきた無敵のポケモントレーナー!! チャンピオン・千歌!!!』
千歌さんの姿を認めると、盛り上がっていた会場の歓声は、さらに大きくなり会場を震わせる。
実況『そして、そんなチャンピオンに立ち向かうチャレンジャーは……!! なんと、今大会初出場!! 新進気鋭の超新星──せつ菜選手!!!!』
実況の紹介の中、堂々とした立ち振る舞いでバトルコートについたせつ菜ちゃんが天に向かって拳を突き上げると、またしても大きな歓声が会場を包み込む。
実況『なんと、こちらのせつ菜選手、6匹で戦うフルバトルルールにも関わらず、使用ポケモンは5体!! ですが、その圧倒的な実力でここまで全てのバトルを制してきました!!!』
両者がバトルフィールドにつき、ボールを構える。
実況『さぁ、泣いても笑ってもこれが最後!! 決勝戦は実況の私に加え、元四天王で現在は故郷のダリアシティにてジムリーダーを勤めております、にこさんに解説をお願いしています!!』
にこ『みんな〜おまたせ〜♪ 大銀河No.1アイドルトレーナーのにこだよ〜♪ よろしくお願いしまぁ〜す♪』
実況『よろしくお願いします!! それでは、お待たせしました!! ただいまより、ポケモンリーグ決勝戦を開始いたします!!』
千歌さんとせつ菜ちゃんが同時にボールを構える。そして、審判の合図と共に──ボールが宙を舞った。
実況『バトル!!!!スタァーーーート!!!!!』
──ワアアアアアアア!!!と割れんばかりの歓声と共にバトルが始まり、両者のポケモンがフィールド上に現れる。
せつ菜『スターミー!!! 速攻で行きますよ!!』
『フゥッ!!!!』
実況『スターミー飛び出した!!』
にこ『せつ菜ちゃんは先発のスターミーで速攻を決めることが多いにこ〜♪』
回転しながら、猛スピードで突進するスターミー、だけど、
千歌『ネッコアラ!! “ウッドハンマー”!!』
『コァー』
『フゥッ!?』
せつ菜『スターミー!?』
真正面から突っ込んでくるスターミーを、持っている丸太でいとも簡単に叩き落とす。
実況『ネッコアラ、いとも簡単に猛スピードのスターミーを叩き落としたぞォ!? ネッコアラ本来の緩慢な動きが嘘のようだァ!!?』
にこ『千歌ちゃんはとにかく攻撃の精度が高いのが有名にこね〜♪』
実況『ここまでもあの正確無比な一撃で多くのトレーナーを打ち破ってきました!! 決勝戦でも、やはり無敵のチャンピオンは無敵だった!! スターミー開始早々あえなく──』
にこ『……いえ、まだよ』
実況『え?』
実況の間の抜けた声と共に、スターミーに目をやると──スターミーがネッコアラの丸太の下で、光り輝いていた。
- 5 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:23:13.17 ID:QLy5TvuG0
-
せつ菜『スターミー!!! “メテオビーム”!!!』
『フゥゥッ!!!!!』
千歌『!?』
そのまま、スターミーは至近距離から極太のビームをネッコアラに直撃させた。
千歌『ネッコアラ!?』
超威力のビームを至近で受けたネッコアラは吹っ飛ばされて、フィールドにドスンと落ちたあと──
『コァァ…』
戦闘不能になってしまった。
一瞬の静寂のあと──会場が一気に湧き上がる。
実況『な、な、なんということでしょう!!!! 数々のトレーナーたちを圧倒してきた、チャンピオンのネッコアラを、せつ菜選手のスターミーが打ち破りました!!! とんでもない番狂わせだァァァ!?』
にこ『……最初の突進はブラフで、せつ菜のスターミーが使っていたのは“コスモパワー”。最初から攻撃を受ける気で、懐に潜り込んだところに“メテオビーム”を叩きこむ作戦だったのね』
実況『ですが、“メテオビーム”はチャージが必要な技のはずですよね? その予兆は特になかったように思いますが……』
にこ『持ち物よ。“パワフルハーブ”を使った奇襲。せつ菜、あの子なかなかやるわね……』
実況『あの、にこさん、最初と口調が変わっていますが……』
にこ『っは……! な、なんのことにこ〜? 千歌ちゃんも、せつ菜ちゃんも頑張れにこ〜♪』
実況『にこさんも思わずキャラを忘れてしまうほどの熱戦ということですね!!』
にこ『キャラとか言わないでよ!!』
千歌『うーん、そっかぁ……やられちゃったな。でも、次はそうはいかないよ──ルカリオ!!』
『グォ…!!』
今度はボールから出て来たルカリオが、スターミーに向かって飛び出して──
「──もう、侑ちゃん!!」
興奮しながら、画面に食い入る私を現実に引き戻したのは──世界一聞き慣れた幼馴染の声だった。
侑「歩夢……今、良いところなんだけど……」
歩夢「知ってるよ。もう、そのビデオ、何度も一緒に観たもん」
侑「なら、もうちょっと、もうちょっとだけ……!!」
歩夢「もうちょっとって……このバトル、最後まで観てたら1時間くらい掛かっちゃうよ」
侑「そう! そうなんだよ! このバトルは1時間も続くポケモンリーグ史に残る名勝負なんだよね!! せつ菜ちゃんの手持ちはたった5匹しかいないのに、お互い激しい攻防と目まぐるしいポケモンチェンジで目が離せない試合の中、千歌さんの6匹目まで引きずりだして!!! でも、最後は結局千歌さんが2匹残して勝利……やっぱり、チャンピオンは最強だったってなるけど……でも、私はせつ菜ちゃんのチャンピオンの前でも臆さない、堂々とした戦い方がかっこよくて、すっごくときめいちゃって!!」
歩夢「もう何度も聞いたよ……それより、博士との約束に遅れちゃうよ?」
侑「え? もうそんな時間?」
言われて時計に目をやると──確かに約束の時間が迫っていたことに気付いた。
侑「じ、準備しなきゃ!」
歩夢「もう……侑ちゃんったら」
侑「あ、歩夢ー!! 手伝ってー!!」
歩夢「ふふ、はーい♪ もう、しょうがないなぁ、侑ちゃんは」
ニコニコする歩夢を後目に、私は慌ただしく出掛ける準備を始めるのだった。
- 6 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:25:02.47 ID:QLy5TvuG0
-
😈 😈 😈
善子「さてと……あとは3人が来るのを待つだけね」
並んだ3つのモンスターボールと3色の図鑑を見ながら一息。
今日はやっと、新人トレーナーたちの旅立ちの日。
善子「私もついに、トレーナーを送り出せる日が来たのね……」
なんだか、感慨深い。……あの日、出来なかったことがやっと叶うのだ。
善子「…………」
脳裏に焼き付く苦い思い出を想起しながら、頭を振る。
今回は大丈夫。今日旅立つ3人は、入念に準備をして、セキレイシティのジムリーダーやポケモンスクールとも連携を取った上で慎重に選んだ3人だ。
善子「……」
わかっていても、なんだか落ち着かない。早く時間にならないかしら……。
善子「マリーも私たちを送り出すときはこんな感じだったのかしら……」
あの人、お気楽そうに見えて意外と繊細だしね。
善子「……外の空気でも吸いに行こ」
新鮮な空気を吸えば、少しは落ち着くかもしれない。そう思いながら席を立ったところに──
「ムマァ〜〜ジ♪」
相棒のムウマージがどこからともなく現れた。
善子「でたわね、イタズラっこ。どうかしたの?」
「ムマァ〜♪」
何かと思ったら、ムウマージの傍には、私のポケギアが着信音を鳴らしながら、ふわふわ浮いていることに気付く。
善子「電話? 持ってきてくれたのね。ありがと」
「ムマァ〜ジ♪」
お礼交じりに撫でてあげると、ムウマージは気持ちよさそうに声をあげる。
ご機嫌なムウマージはさておき、ポケギアの画面を見ると──
善子「……マリー?」
どうやら、先ほど頭に思い浮かべていた人物からの連絡だった。
緊張していそうな私への……激励とか?
善子「……ないない」
- 7 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:26:47.95 ID:QLy5TvuG0
-
数年前に勝手に飛び出してきてしまった研究所の主だ。
今でこそ、こうして独立出来たけど、当時から褒められるのはずら丸の方で、私は叱られてばかりだったもの。
……まあ、昔のことはおいといて。
善子「もしもし? マリー?」
鞠莉『チャオ〜♪ 善子、今いい?』
善子「ヨハネよ。何か用?」
鞠莉『Presentは届いたかなと思って』
善子「プレゼント……あのグレーの図鑑みたいなやつ?」
鞠莉『そうそう、それそれ』
自分で新人トレーナー向けの図鑑やら、ポケモンやらを工面するのに必死で、あまり気に掛けていなかったけど、言われてみればマリーからグレーの図鑑が送られて来ていたことを思い出す。
鞠莉『ちゃんと届いていたならよかったわ♪ ヨハネのために、グレーカラーでボディを作っておいたから♪ 好きでしょ? あの色♪』
善子「今更、図鑑を送られて来ても……データでも集めろって?」
オハラ研究所にいたとき、随分とデータ集めにあちこち奔走させられたことを思い出す。
鞠莉『そういうわけじゃないけど……あの図鑑、最新機能搭載型で──』
善子「こっちはこっちで、もう独立してるの。今更世話焼いてくれなくても結構よ」
鞠莉『む……何よ、その言い方』
善子「私はもう自分で図鑑も工面出来るし、ポケモンの手配も出来るってこと! いつまでも、子供扱いしないで! 今日は新しいトレーナーの旅立ちの日なんだから……用事、それだけならもう切るわよ」
鞠莉『全く……相変わらず、可愛くないわね……』
善子「うるさい」
鞠莉『All right, all right. あの図鑑、使わないなら千歌にでも渡しておいて』
善子「はいはい、会う機会があったらね」
全く……せっかく、気分転換しようと思っていたのに、却って気疲れしちゃったじゃない……。
口うるさい古巣の師からの連絡に眉を顰めながら、通話を切ろうとする。
鞠莉『善子』
善子「……だから、何よ」
鞠莉『頑張りなさい』
善子「……」
鞠莉『あなたはわたしのこと、あまり好きじゃないかもしれないけど……わたしはあなたのこと認めているし、応援もしているから。頑張って。それじゃあね、See you♪』
──ツーツー。ポケギアの向こうで通話が切れた音だけが流れる。
善子「……はぁ」
私は白衣にポケギアを突っ込んで溜め息を吐いた。
善子「……別にマリーのこと、好きじゃないとか……言った覚えないんだけど」
予想外な言葉のせいで、気持ちのやり場に困って視線を彷徨わせていると──
「ムマァ〜ジ♪」
ムウマージがニヤニヤしながら、私のことを見つめていた。
- 8 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:28:00.88 ID:QLy5TvuG0
-
善子「な、何よ……」
「ムマァ〜♪」
善子「ご主人様のこと、からかうんじゃないわよ! おやつ抜きにするわよ!」
「ムマァ〜ジ♪」
顔を顰めながら怒ると、ムウマージはご機嫌なまま、研究所内の壁に消えていった。
善子「全く……」
今日何度目かわからない溜め息を吐くと共に──
善子「……ん?」
先ほどまで自分がいた、新人用のモンスターボールと図鑑の前に、見覚えのある後ろ姿があることに気付く。
特徴的なアシンメトリーカットのショートボブの女の子。名前は──
善子「かすみ?」
かすみ「ぴゃぅ!?」
名前を呼ぶと、かすみはビクッと飛び跳ねながら、こっちに振り返る。
かすみ「こ、こんにちは〜、ヨハ子博士〜……」
善子「…………」
かすみ「…………」
走る沈黙。
善子「まさか、貴方……」
かすみ「ち、違いますぅ!! かすみん、抜け駆けなんてしようとしてませんよぉ!」
善子「はぁ……」
もともとイタズラ好きな子だというのはわかっていたけど、困ったものね。
善子「事前に説明したと思うけど、ポケモンを選ぶのは3人揃ってからよ」
かすみ「わ、わかってますよ〜。ちょっとした下見です!」
善子「なら、いいけど……」
かすみ「……って、あー!!! かすみん、忘れ物しちゃいました!! 取りに戻らないと!!」
善子「え、ちょっと……!」
言いながら、かすみは研究所を飛び出して行ってしまった。
善子「……慌ただしい子ね」
やれやれと嘆息気味に、かすみが凝視していたモンスターボールに目を向けると、しっかりボールは3つ残っている。
まあ、さすがに白昼堂々かすめ取って行ったりしないか。
肩を竦めながら、時計に目をやると──そろそろ、約束の時間が近付いてきていた。
善子「……というか、かすみ……今から家に帰って、時間に間に合うのかしら?」
なんだか、先が思いやられるなと思いながらも、私は新人トレーナーたちを待つ……。
- 9 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:29:23.82 ID:QLy5TvuG0
-
🎹 🎹 🎹
服を着替えて、バッグの中身を確認。忘れ物は……ない!
侑「よし!」
準備万端! 私が元気よく立ち上がると、
歩夢「あ、待って侑ちゃん。髪跳ねてるから」
言いながら歩夢が、跳ねた髪を直してくれる。
歩夢「……うん! もう大丈夫だよ!」
侑「ありがと、歩夢!」
今度こそ、出発だ!
侑「歩夢、行こう!」
歩夢「うん」
歩夢は頷きながら、私の部屋のベランダにたたたっと走って行き、
歩夢「サスケ! おいで!」
隣の部屋──歩夢の部屋に向かって声を掛ける。すると、
「シャー」
紫色のヘビポケモンがベランダの柵を伝って、そのまま歩夢の腕に巻き付くように登る。
侑「サスケ、おはよう」
「シャボ」
私が声を掛けると、サスケは歩夢の肩まで登りながら、鎌首をもたげ、私に向かって鳴き声をあげる。
歩夢「ふふ♪ サスケもおはようって言ってるよ♪」
「シャー」
侑「サスケ、連れてくんだね?」
歩夢「うん。サスケが一番仲良しだから、旅に行くなら一緒がいいなって思って♪」
「シャー」
侑「サスケがいるなら頼もしいね! よろしくね、サスケ!」
サスケはまるでタオルを首に掛けるかのように、歩夢の両肩に細長い体を乗せて、大人しくなる。ここがサスケの定位置だ。
ちなみにこのサスケというのは、ヘビポケモンのアーボのニックネームだ。
私たちが小さい頃から、歩夢と一緒に住んでいる幼馴染ポケモンってところかな。
- 10 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:31:03.45 ID:QLy5TvuG0
-
侑「それじゃ、今度こそ出発!」
歩夢「おばさんたちに何か言わなくていいの?」
侑「旅立ち前の挨拶は、朝のうちにちゃんと済ませたから大丈夫!」
歩夢「そっか」
侑「歩夢は一回、家に寄る?」
歩夢「うぅん、私も挨拶は済ませたから」
侑「そっか! じゃ、行こう!」
歩夢「うん!」
歩夢と一緒に玄関の扉を押し開ける──さぁ、私たちの冒険──トキメキの物語の始まりだ……!
🎹 🎹 🎹
歩夢と二人、並んで研究所を目指す。
侑「そういえば、歩夢」
歩夢「ん? なぁに、侑ちゃん?」
侑「サスケはボールに入れないの?」
ボールっていうのは、モンスターボールのこと。
さすがにモンスターボールの詳しい説明はいらないよね? ポケモンを入れて携帯出来るカプセルのことです。
歩夢「あ、うん。出来れば外で伸び伸び過ごして欲しいから……ね、サスケ?」
「シャー」
侑「でも、ずっと肩に乗せてたら、重かったりしない?」
歩夢「うぅん、むしろ毎年ポケモンセンターでの健康診断のとき、軽いのを心配されちゃうくらい……サスケはちょっと小さめなアーボだから」
「シャー」
侑「へー……そうなんだ」
セキレイシティ近郊だと、アーボはほとんど生息していないから、小さいと言われてもあんまりピンと来ないけど……。
歩夢「この前測ったときは大きさが1.2mしかなかったんだよ。普通アーボは2m以上になるのに……。ご飯はちゃんとあげてるんだけどなぁ」
侑「うーん……比較対象がないと、ピンと来ないけど……案外歩夢の肩に乗れなくなるのが嫌だから、大きくならなかったりして」
歩夢「えー? そうなの? サスケ?」
「シャー」
サスケは「シャー」と鳴きながら、歩夢の頬に頭をこすりつけている。
歩夢「あはは♪ くすぐったいよ、サスケ♪」
「シャー」
サスケの言葉はわからないけど、きっと当たらずとも遠からずな気がする。
体の大きさが、そういうことで決まるのかはよくわからないけど……。
- 11 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:32:17.07 ID:QLy5TvuG0
-
歩夢「でも、侑ちゃんの言うとおり、サスケが大きくなって私の肩に乗せられなくなっちゃったら、少し寂しいかも……」
侑「でしょ? だから、サスケはこのままでいいんだよ。ね、サスケ?」
「シャー」
歩夢「ふふ、そうかもしれない♪」
二人でサスケを見ながら、くすくす笑っていると──
「──侑せんぱーい! 歩夢さーん!」
後ろの方から名前を呼ばれる。この声は……。
侑「しずくちゃん?」
振り返ると、ロングヘア―と大きなリボンがトレンドマークの女の子が小走りでこっちに向かってくるところだった。
しずく「おはようございます。侑先輩、歩夢さん」
歩夢「おはよう、しずくちゃん」
「シャー」
しずく「サスケさんも、おはようございます♪」
侑「しずくちゃんも研究所に行くところ?」
しずく「はい! 私もご一緒して、いいでしょうか?」
侑「もちろん!」
この子はしずくちゃん。歩夢と一緒に選ばれた、ポケモンを貰う3人のうちの1人。ポケモンスクールでは一個下の学年で、私と歩夢の後輩だ。
しずく「そういえば、お二人ともかすみさんを見かけたりはしていませんか?」
侑「かすみちゃん? うぅん、見てないけど……」
歩夢「私たちもさっき家を出たところだから……」
かすみちゃんというのは、最初にポケモンを貰うことになった3人の内の最後の1人のことだけど……。しずくちゃんとは同級生で、かすみちゃんも私たちの後輩に当たる子だ。
しずく「そうですか……さっきから、ポケギアを鳴らしても全然反応がなくて……。寝坊とかしていなければいいんですけど……」
歩夢「きっと大丈夫だよ。かすみちゃんも今日の旅立ちすっごく楽しみにしていたし」
侑「案外、楽しみ過ぎてすでに到着してたりしてね」
しずく「それなら、いいんですが……」
しずくちゃんは、かすみちゃんと仲良しだからなぁ。私も歩夢と連絡が取れなくなったら、少し心配になるし、気持ちはちょっとわかる気がする。
しずく「そういえば、侑先輩」
侑「ん?」
しずく「結局、歩夢さんと一緒に行くことにされたんですね」
侑「ああ、うん」
私はしずくちゃんの言葉に頷く。
──本日ポケモンを貰うのは歩夢、かすみちゃん、しずくちゃんの3人であって、実は私は関係ない。
じゃあ、なんでそんな私も一緒に研究所に向かっているのかというと……。
- 12 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:33:27.53 ID:QLy5TvuG0
-
侑「私が一緒に旅をしたいっていうのもあったんだけど……歩夢のお母さんにお願いされちゃってさ。『侑ちゃん、歩夢のことよろしくね』って」
歩夢「私も一人だと心細いから、一緒にお願いしちゃったんだ、えへへ……」
しずく「確かにいきなり一人旅は不安がありますよね……そういう不安も込みで旅の醍醐味なのかもしれませんが……」
歩夢「それでも、いきなり一人で旅に行ってこいって言われたら、私どうすればいいかわからなくなっちゃうよ……」
「シャー!!」
歩夢「あ、ごめんね。サスケがいてくれるから一人ではないけど……」
侑「逆に言うなら、私は歩夢と違って、サスケみたいな子もいないから、むしろ私が歩夢に守ってもらうみたいになっちゃうかも……」
我が家にはポケモンがいなくて、お父さんお母さんと三人家族。
逆にお隣の歩夢は、お家にたくさんポケモンがいる。サスケはそのうちの1匹というわけだ。
私と歩夢の家は、昔から家族ぐるみの付き合いだったから、生活の中にポケモンがいないという感覚はなかったし、ポケモンに慣れていないみたいなことはないんだけど……。
とはいえ、旅に出るなら近場で1匹くらいは、捕まえてから街を出た方がいいかもしれない。
侑「そういえば二人とも、貰うポケモンはもう決めた? 確か、事前に教えてもらってるんだよね?」
しずく「はい。私はみずとかげポケモンのメッソンを選ぼうと思っています」
歩夢「私は可愛いから、うさぎポケモンのヒバニーがいいかなって」
しずく「私と歩夢さんは、被っていませんが……かすみさんがどの子を選ぶか次第ですね」
歩夢「かすみちゃんも可愛い子が好きだから……被っちゃうかも」
しずく「確かにかすみさんは教えて頂いた3匹の中だと、ヒバニーが好きそうではありますね……」
侑「被っちゃったらどうするんだろう……? 話し合いかな?」
しずく「それか、トレーナーらしくバトルの実力で決めたりするのかもしれませんね……」
歩夢「バ、バトル!? いきなりは自信ないよぉ……」
侑「えー、歩夢のバトルしてるところ、私は見てみたいけどなぁ」
歩夢「もう! 侑ちゃんったら、他人事だと思って……」
侑「あはは、ごめんごめん」
ぷくーと可愛く膨れる歩夢に謝りながら──間もなく、目的地の研究所に到着しようとしているところだった。
🎹 🎹 🎹
歩夢「ちょっと緊張してきたね……」
しずく「は、はい……」
研究所を前にして、歩夢としずくちゃんが少し身を強張らせる。そんな中、私は、
侑「はぁ〜……ここがツシマ研究所……!」
思わず、研究所を見つめながら、うっとりしてしまう。
しずく「侑先輩? どうかしましたか?」
そんな私を見て、しずくちゃんが不思議そうに小首を傾げた。
- 13 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:35:05.92 ID:QLy5TvuG0
-
歩夢「ふふ、入ったらすぐにわかると思うよ」
しずく「?」
侑「よし、行こう!」
意気揚々と研究所の入り口のドアを押し開ける。
歩夢「こんにちは〜……」
しずく「し、失礼します……」
少し緊張気味な二人と共に、屋内へ足を踏み入れると──
善子「来たわね、リトルデーモンたち。ようこそ、ツシマ研究所へ」
入ってすぐ、待っていたヨハネ博士が出迎えてくれた。
歩夢「は、はい!」
しずく「ほ、本日はよろしくお願いします……!」
善子「こちらこそ。歩夢、しずく」
博士は歩夢としずくちゃんを順に見たあと、
善子「貴方は、確か……」
私に視線を向ける。
善子「侑、だったかしら?」
侑「! わ、私のこと知ってるんですか!?」
善子「ええ、ポケモンスクールの子たちは全員、顔と名前が一致するくらいには、知っているつもりよ」
侑「感激です!! ヨハネ博士に覚えてもらえているなんて!!」
善子「あら、ありがとう。そんな風に言ってもらえるなんて、嬉しいわ」
侑「私、去年のヨハネさんの試合、会場で見てました!! 準決勝での千歌さんとの試合!! ネッコアラ1匹で勝ち進んでいた千歌さんに対して、あの大会中に初めて2匹目以降を出させたんですよね!! 特にアブソルが2匹連続で倒したときは私、ほんっとうにときめいちゃって!!」
善子「あーあの試合ね……確かに最初は調子よかったんだけど、結局最後は千歌のエースに圧倒されちゃったのよねぇ……」
侑「でも、すごかったです!!」
興奮気味にまくしたてる私を見て、
しずく「……なるほど、すぐにわかるというのはこういうことだったんですね」
歩夢「うん。侑ちゃん、ポケモントレーナーのことが大好きだから」
しずくちゃんは納得した様子。
善子「……褒められて悪い気はしないんだけど……侑、貴方はどうして研究所に?」
侑「歩夢の付き添いです! 今回、歩夢と一緒に旅に出ようと思っていて……」
歩夢「博士、一人旅じゃなくなっちゃうけど……いいですか?」
善子「もちろん構わないわ。どんな旅をするかは個人の自由よ。さすがに最初のポケモンはあげられないけど……」
歩夢「よかったぁ……一人で旅しなくちゃダメって言われたら、どうしようかと思ったよ……」
侑「よかったね、歩夢!」
- 14 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:36:09.89 ID:QLy5TvuG0
-
博士からの許可も貰えて一安心したところで、私は改めて研究所内を見回す。
研究所内にはあちこちに水族館のような、大きなガラス張りの部屋の中に作られた飼育スペースがあり、その中にポケモンたちの姿が見える。
歩夢「見て、侑ちゃん! あっちのお部屋にいるの、ププリンだよ! 可愛い!」
しずく「あちらの森の環境を再現した部屋にいるのは、クルマユでしょうか? なんだかあの表情、見ているだけで癒されますね……」
二人も私同様、研究所内に興味を引かれている様子。研究所内なんて、なかなか見られる機会ないからね。私もこの機会によく見ておこう。
侑「こっちの雪の部屋にいるのは……見たことないポケモンだ」
私が見た部屋は雪原の環境を再現した部屋で、真っ白な丸っこい幼虫みたいなポケモンが数匹いるのがわかる。
善子「あれはユキハミよ。この地方では、グレイブマウンテンの北部側に極僅かに生息してるだけだからね。知らなくても無理ないわ」
しずく「主にガラル地方に生息しているポケモンですよね!」
善子「ええ、そのとおりよ。しずく、詳しいのね」
しずく「はい! 小さい頃、家族とガラル地方のキルクスタウンに旅行に行ったときに見たことあるんです!」
雪原や森の部屋の他にも、岩肌を再現した部屋や洞窟を模した部屋など、さまざまな飼育部屋があちこちにある。
侑「あ、あの! もっと近くで見学してもいいですか!?」
善子「ええ、構わないわ。約束の時間までまだあるしね。ただ、見るだけで触ったりしちゃダメよ?」
侑「はーい! 歩夢、行こう!」
歩夢「うん!」
🎹 🎹 🎹
しずく「……かすみさん、遅いですね」
研究所内をひととおり見て回れるくらいの時間は経った気がする。確かに遅いかもしれない。
善子「まあ、案の定って感じね……」
歩夢「どういうことですか?」
善子「かすみ、さっき一度研究所に来てたのよ。でも、忘れ物をしたって言って、一度家に帰ったわ」
しずく「もう……かすみさんったら、今日だけは遅刻しないようにって、ちゃんと言ったのに……」
善子「まあ、いないものは仕方ないわね。もう、約束の時間は過ぎてるし……これから選ぶ3匹との、顔合わせだけでもしちゃいましょうか」
歩夢「いいのかな……?」
善子「選ぶのは3人揃ってからだけどね。歩夢、しずく、こっちに」
博士に呼ばれて、二人は3つのモンスターボールと3色の図鑑が置かれている机の前に移動する。
善子「今回貴方たちに選んで貰うのはこの3匹よ」
博士が3つのモンスターボールの開閉スイッチを押すと──ボム、という独特な開閉音と共に、中からポケモンが飛び出す。
- 15 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:37:15.30 ID:QLy5TvuG0
-
「バニー!!」「メッソ…」
歩夢「わぁ……!」
しずく「この子たちが、ヒバニーとメッソン……!」
歩夢「初めまして、歩夢って言います♪」
「バニーー!!!」
ヒバニーは歩夢から挨拶をされて、元気に飛び跳ねる。
歩夢「どうしよう侑ちゃん……写真で見るよりも全然可愛いよ!」
侑「ふふ、そうだね」
一方メッソン。
しずく「こんにちは、メッソンさん。私は、しずくって言います♪」
「メソ…」
しずくちゃんに話しかけられたメッソンは、スーっと体が透明になっていく。
しずく「あ、あれ……? 消えちゃいました……」
どうやら、メッソンは少し臆病なポケモンらしい。ヒバニーとは対照的だ。
侑「それじゃ、残りの1匹は……?」
ボールの置かれたテーブルの方に目を配らせると、
善子「あら……? おかしいわね……」
博士が3つ目のボールの開閉スイッチをポチポチと押し込んでいるところだった。
侑「博士?」
善子「何で出てこないのかしら……? 緊張してる……? いやそんな性格の子じゃないはず……。顔見せの時間よ! 出て来なさい!!」
侑「どうしたんですか?」
善子「この子だけ、開閉スイッチを押しても出てこないのよ……。まさか、ボールの故障?」
博士はそう言いながら、件のボールを持ち上げて、軽く振ったり、叩いたりしている。
そのときだった。
「ガウーーー!!!!!」
善子「!?」
急にボールが──吠えた。
善子「な……!? はっ!?」
さすがの博士も突然の出来事に面食らったのか、咄嗟にボールを放る。
そのまま落ちたボールはまるで自分の意思でも持ったかのように、跳ねながら──今度は紫色の鈍い光に包まれた。
侑「な、何!?」
目の前の出来事に混乱しながらも、跳ねながら光るボールを目で追うと──ボールは、形を変え、
- 16 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:38:12.00 ID:QLy5TvuG0
-
歩夢「え?」
しずく「あ、あの子って……」
善子「な、なに……?」
「ガウッ」
気付けば小さな黒い狐のような姿に変わっていた。
善子「……ゾロア?」
そこにいたのは──ばけぎつねポケモンのゾロアだった。
この場にいた全員が、急な展開にポカンとしてしまう。
「ニシシッ」
直後、イタズラっぽく笑ったゾロアは、近くにあったパステルイエローの図鑑を口に咥える。
──直感的にわかった。図鑑を持って逃げようとしている……!
侑「は、博士──」
善子「ドンカラスッ!!」
「カァーーーー!!!!」
「ガゥッ!?」
声をあげて、それを伝えようとした次の瞬間には、どこから現れたのか、博士のドンカラスがゾロアを上から大きな足で押さえつけているところだった。
「ガゥ、ガゥゥ!!!」
侑「は、はや……」
しずく「気付いたら、ゾロアが捕まっていました……」
歩夢「全然わからなかった……」
善子「……このゾロアに心当たりあるかしら?」
しずく「えっと……」
「ガゥゥ…」
押さえつけられて、弱々しく唸るゾロア。その姿は学校でも何度か見た覚えがあって……。
しずく「かすみさんのゾロアだと、思います……」
かすみちゃんがよく一緒にイタズラして、先生に叱られていた、見覚えのあるゾロアだった。
善子「……やってくれたわね……あの子……」
博士はカツカツとヒールを鳴らしながら、押さえつけられたゾロアに近付いていく。
善子「何が『かすみん、抜け駆けなんてしようとしてません』よ!!」
歩夢「もしかして、最後の1匹は……」
善子「かすみに持ち逃げされた……!!」
しずく「ああもう……かすみさん……」
困惑する歩夢、呆れるしずくちゃん、そして怒りに肩を震わせるヨハネ博士。そんな中、押さえつけられたゾロアが、
「ガゥァゥアァアァァァァァァ……!!!!!!!!!」
- 17 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/10/30(日) 00:39:12.26 ID:QLy5TvuG0
-
急に大声で泣き出した。
侑「うわわ!?」
善子「う、うるっさ……!!」
「ガゥ、ガゥガゥァァァァァッ!!!!!!!!」
大粒の涙を流しながら、ドンカラスの足元でじたばたと暴れまわるゾロア。
歩夢「あ、あの博士……ゾロアが泣いてます……」
善子「わかってるけど……」
歩夢「あの……放してあげてくれませんか……?」
善子「……いや、そう言われてもね」
歩夢「でも、あの子もかすみちゃんに指示されてやっただけだと思うし……あんなに泣いてるし……せめて、もう少し優しくしてあげて欲しいです……」
善子「…………」
歩夢の言葉に、博士は頭を掻きながら、
善子「ドンカラス、少し力を弱めに──」
指示を出した瞬間。
しずく「だ、ダメです!? それ、“うそなき”ですよ!?」
善子「え゛っ!?」
響き渡るしずくちゃんの言葉。
「…ニシシッ!!!!」
それと同時にゾロアの体から真っ黒なオーラが膨張を始めた。
善子「全員伏せなさいッ!!」
しずく「は、はいぃ!!」
侑「歩夢……!!」
歩夢「きゃっ!?」
咄嗟に歩夢に覆いかぶさるようにして伏せる。
その直後、膨れ上がった黒いオーラは衝撃波となって、私たちの真上の空気をびりびりと震わせる。
衝撃と共に、研究所内に物が落ちる音や割れるガラスの音が響き渡る。
歩夢「きゃあああ!?」
侑「歩夢!! 落ち着いて!!」
大きな音にパニック気味な歩夢を抱きしめたまま、しばらく待っていると──
しずく「お……終わりました……?」
侑「歩夢、大丈夫!?」
歩夢「う、うん……ありがとう、侑ちゃん……。サスケ、ヒバニー、怪我しなかった……?」
「シャー…」「バニー…」
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