10: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/03/31(日) 21:00:31.32 ID:XVRz4++K0
館の前には、大きな机がいくつも並べられ大勢の人が食事をとっている。
驚くべきは、その料理の豪勢さだ。
村では祭りの時でしか口にしたことの無い豚や羊が、ピカピカのソースで光り輝いている。
11: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/03/31(日) 21:01:06.74 ID:XVRz4++K0
しかし、一方で料理に向かう人々は一様に身一つで薄汚れている。
美食とも呼べる料理と、みすぼらしい人々のその対照的な姿に違和感を禁じ得ない。
おそらく、彼らは僕と同じく何処かの集落から、逃れてきた人たちなのであろう。
12: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/03/31(日) 21:01:59.99 ID:XVRz4++K0
「背負ったまんまじゃ食事もできないでしょ。使用人の部屋で寝かせておいてあげるから」
僕は、妹を起こさぬようそっと女給仕に渡す。
13:今日はここまで ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/03/31(日) 21:02:41.28 ID:XVRz4++K0
大食漢がその大きなお腹のせいか二人分の席を使っていたせいで、僕は少し気後れしながらも目の鋭い男の隣に腰をおろした。
間近で見る料理は、圧巻の一言であった。
僕の顔よりも大きいパンに、思わず声があがる。
14: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:48:37.25 ID:VN/U1bqQ0
♦
空腹のあまり、街についてからのことはよく覚えていない。
案内されるがままに、丘を登り、席につき、飯を喰らっていた。
15: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:49:09.19 ID:VN/U1bqQ0
ご馳走に気を取られて、今の今まで気づかなかった。
この土地の慣習か何か知らないが、置いてあるのだから貰っておこう。
俺は、ためらいなくそれを懐に納める。
16: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:49:42.22 ID:VN/U1bqQ0
領主のことを「お館さま」と呼び、食事を勧めるホストのような振る舞い。
察するに、デブはこの館の人間だろう。
しかし、どうして館の人間が俺達のような流れ者と席を同じくしている。
周りを見渡しても、どいつもこいつも薄汚れて生気のない顔で飯を貪っている。
17: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:50:13.48 ID:VN/U1bqQ0
「おいデブ! 酒はないのか?」
デブは、目を細めこちらを睨みつけてきたが、悲しいかな少しも恐ろしくない。
18: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:50:52.04 ID:VN/U1bqQ0
「月が出る頃には、魔物の軍勢は街を囲うだろう」
「お館様……」
19: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:51:22.48 ID:VN/U1bqQ0
「さて、そこのお前」
領主の青みがかった目が、俺の濁ったそれと交錯する。
20: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/09(火) 13:51:58.21 ID:VN/U1bqQ0
「悪いが、剣や槍は既に枯れた。だが、代わりになるものを用意した」
領主が、テーブルナイフを握り俺の眉間に向ける。
思わずギョッとするが、向けられているのは俺の頭の先だ。
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