1:名無しNIPPER[saga]
2022/01/07(金) 02:05:49.12 ID:QiwimL520
寒い冬の夜、にちかという1人の女の子が歩いていました。
どこかを目指してるというわけではないのです。
持っているマッチが1つも売れず、途方に暮れているだけなのですから。
にちか「靴を、買わないと……!」
アイドルになるにはいろんなものが必要です。
見た目や才能なら諦めがつくかもしれませんが、そうじゃなくてお金で手に入るものというのは、頑張れば自分のものにできるかもしれないと思えてしまうから残酷で。
にちか「あれ、この建物……283プロ……?」
それは聞いたことのある名前でした。
気づけばにちかは、アイドルの事務所の前に着いていたのです。
しかし、彼女が中に入ることは許されません。
なぜって、部外者なのですから。
にちか「……はぁ。っ、さぶ……」
厳しい寒さに思わず縮こまるにちか。
すると、手元にあるマッチが目に留まりました。
そうだ!
どうせ売れないのなら、このマッチで暖をとってしまおう。
にちかは、箱から1本のマッチを取り出して、建物の壁で擦って火をつけました。
マッチはメラメラと燃え始めます。
明るくてあたたかい……本当に不思議な火です。
まるで、事務所の中にいるような、そんな感じ。
いえ、本当にそうなのです。
暖房の効いた部屋の中で、優しいプロデューサーさんや仲間たちに囲まれているのです。
手を差し伸べてくれます。
にちかが捕まろうと手を伸ばしたその時、マッチの火は風に吹き消されて、部屋も仲間たちもいなくなったしまいました。
残ったのは、手の中の燃え滓と、煙かため息か区別のつかない白いなにかです。
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2:名無しNIPPER[saga]
2022/01/07(金) 02:07:53.94 ID:QiwimL520
にちか「……っっ、ははっ! よーし、もう1本……」
にちかは、別のマッチを、やはり壁で擦りました。
火は勢い良く燃えて、眩しく光ります。
するとどうでしょう。
3:名無しNIPPER[saga]
2022/01/07(金) 02:08:55.99 ID:XISgh4q3O
にちか「……っっ、ははっ! よーし、もう1本……」
にちかは、別のマッチを、やはり壁で擦りました。
火は勢い良く燃えて、眩しく光ります。
するとどうでしょう。
4:名無しNIPPER[saga]
2022/01/07(金) 02:09:53.32 ID:XISgh4q3O
失礼しました。
>>2と>>3は同じ内容です(ミスによる連投)。
5:名無しNIPPER[saga]
2022/01/07(金) 02:11:38.07 ID:XISgh4q3O
にちか「まだ、まだ……!」
にちかはまたマッチを擦って火をつけます。
今度は太陽の光でした。
足元には砂、目の前には海、手には見たことのない綺麗な飲み物……これはビーチというやつなのでしょう。
6:名無しNIPPER[saga]
2022/01/07(金) 02:13:33.95 ID:XISgh4q3O
にちか「……。……っ」
寒いと痛い。
でも、さらにその先というのは、言うなれば『無』です。
にちかは感覚がなくなってきた手で、またマッチを擦って火をつけました。
7:名無しNIPPER[saga]
2022/01/07(金) 02:14:44.97 ID:XISgh4q3O
にちか「マッチ……まだまだあるんだよ、ほら。だから……」
にちかは残りのすべてのマッチの束を取り出して火をつけました。
お父さんがいなくならないように。あたたかいままで、いられるように。
マッチの光は真昼の太陽のそれよりも明るくなりました。
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