4: ◆kBqQfBrAQE[sage saga]
2021/12/26(日) 23:10:19.56 ID:4Xl2PJ5H0
本来であれば、今日はネイチャもトレーナーもオフであり、昼過ぎの新幹線に乗るまでは時間が空いていた。そこで、以前お世話になった商店街をもう一度巡ってみようかと二人で話し合っていた。ところで、これはデートではない。そうネイチャは心の中で強く断言していた。
しかし、彼はトークイベント後、小倉にいる見習いや若手のトレーナーに特別講義を翌日してほしい、と依頼を受けた。トゥインクルシリーズで活躍したウマ娘を育てたトレーナーであり、彼の手腕が注目されるのは当然でもあった。だが、翌日はネイチャと二人で商店街に行く約束である。
5: ◆kBqQfBrAQE[sage saga]
2021/12/26(日) 23:10:48.25 ID:4Xl2PJ5H0
それから彼は特別講義についての打ち合わせを早速し始めた。しばらく話し込み、おおよその段取りを決めた後、ネイチャの方を振り返って彼女のツンとした表情を見たとき、彼は翌日に何をするはずだったのか、すべてを思い出した。
彼の人柄の良さは、ネイチャ自身もよく理解している魅力ではあったが……。
6: ◆kBqQfBrAQE[sage saga]
2021/12/26(日) 23:11:16.56 ID:4Xl2PJ5H0
ひゅうっと吹いた風がネイチャの意識を現在に引き戻す。こうして結局、彼女は一人で商店街巡りをすることになった。
足取りは少しばかり重いのは、彼がいない寂しさが表れたためであろうか。
7: ◆kBqQfBrAQE[sage saga]
2021/12/26(日) 23:12:06.05 ID:4Xl2PJ5H0
商店街の中に入ると、外の印象と打って変わって、熱気と活気に満ち溢れていた。しかし、道幅が狭い商店街である。その狭さたるや、歩いてすれ違う時に肩をぶつけないよう注意しなければならない。その小道の両側で店がひしめく様子は壮観である。以前、初めてこの場所を訪れたネイチャはその光景に圧倒されたが、久々にやって来ると改めて驚かされる。
大正時代から起源をもつ古い商店街である。店舗の多くが戦後に建てられ、その古さがこの商店街の独特の雰囲気を形成しており、ネイチャは初めて訪れたときからこのノスタルジックな雰囲気を気に入った。
8: ◆kBqQfBrAQE[sage saga]
2021/12/26(日) 23:12:38.02 ID:4Xl2PJ5H0
この商店街が取り扱っているのはほぼすべてが食品であり、それゆえ、この商店街は「北九州の台所」とも称される。市民の大事な食卓を囲うのみならず、市内の老舗の料亭もこぞってここを訪ねて食材を買い付けに来るそうだ。
特に魚のモノのよさは目を見張るものがある。瀬戸内と日本海の両面に接する北九州は、言わずと知れた魚の宝庫であり、その種類といい鮮度といい申し分ない。サワラやカマス、サバといった旬の魚が、まるで生きているかのような澄んだ目をして氷の上に陳列されている。
9: ◆kBqQfBrAQE[sage saga]
2021/12/26(日) 23:13:25.86 ID:4Xl2PJ5H0
「ありゃ。おじさん、お久しぶりです。ええ、ご覧の通り元気ですよ。おじさんはどう?」
「こっちも見ての通りよ! ……そういえば、小倉に何しに来とん? レースは今やっちょらんやろ?」
10: ◆kBqQfBrAQE[sage saga]
2021/12/26(日) 23:13:55.53 ID:4Xl2PJ5H0
「旦那じゃなくてトレーナーさんね。今日は仕事で小倉レース場なんです」
「かーっ。こんな遠い場所でこんな別嬪なねーちゃん置いて仕事っちゃア、いけん男やなあ」
11: ◆kBqQfBrAQE[sage saga]
2021/12/26(日) 23:15:12.86 ID:4Xl2PJ5H0
「ったく、しんみりしていけんな。……おお、そうだ。ねーちゃん、『例の』ポスターも、ばっちり貼っちょるよ」
「ポスター?」
12: ◆kBqQfBrAQE[sage saga]
2021/12/26(日) 23:16:43.72 ID:4Xl2PJ5H0
「こ、これは……?」
顔を赤らめながらネイチャは尋ねた。
13: ◆kBqQfBrAQE[sage saga]
2021/12/26(日) 23:18:05.97 ID:4Xl2PJ5H0
「はあ……」
ネイチャは大きく息を吐いた。
14: ◆kBqQfBrAQE[sage saga]
2021/12/26(日) 23:18:31.38 ID:4Xl2PJ5H0
だが、その虫はどうやら腹に移動したようである。ぎゅる、とネイチャの腹が鳴った。まだ正午を迎えるには十分に時間があったが、恥ずかしさから何度も声を上げたおかげで、エネルギーをつい消費したようであった。
多くの商店街は、定食屋や喫茶店、ラーメン店や居酒屋といった飲食店がある。一方で、この商店街は飲食の専門店という体裁の店は少なく、魚屋や総菜屋が丼モノや定食を提供するといった形式の店が多い。さらには、商店街の中には近くの公立大学が開放するスペースがあり、そこでご飯が盛られた丼を買い、店々の食材を少しずつ購入しながら自分オリジナルの丼を作るというユニークなものもある。
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