7:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 22:26:12.60 ID:2kLflUvfO
店員のいない本屋から手あたり次第に漫画をかっぱらって、
自室に引きこもって、僕は漫画をひたすら読んだ。
親が飯だと呼ぶとき以外、ほとんど部屋の外にも出なくなった。
8:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 22:29:04.76 ID:2kLflUvfO
両親は二人とも口数が少なく、
思い出せる限り、温かな家族団らんってものを味わった記憶は僕にはなくて、
夫婦仲は険悪なのだとすら思っていた。
9:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 22:32:19.58 ID:2kLflUvfO
***
ペダルを回しながら、
10:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 22:38:03.30 ID:2kLflUvfO
ゆっくりとブレーキをかけ、僕は自転車を止めた。
いったい何が聞こえたのかと首をかしげ、
音の正体を探ろうと息をひそめた。
11:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 22:42:03.19 ID:2kLflUvfO
いくつかの交差点を通り過ぎて、
僕はほどなくその場所に辿り着いた。
12:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 22:45:31.12 ID:2kLflUvfO
彼女が歌うその姿は、一見するだけじゃあ
なんとも絵になりそうな綺麗な光景だった。
一見はね。
13:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 22:48:15.47 ID:2kLflUvfO
ギターの音色は途切れ途切れ、怪しい音がすぐ混入して、
歌の音程はすぐどっかに飛んで行ってしまいそうで、
まるでなんだか、死にかけた野良犬のうめき声みたいな演奏だった。
14:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 22:49:43.72 ID:2kLflUvfO
「何か用かい?」と、彼女は僕に尋ねた。
「路上ライブに感動でもしてくれたのかな」
そんなわけないだろ、と僕は思った。
15:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 22:52:35.47 ID:2kLflUvfO
「そうだ、強盗だ」
「あ、本当に強盗だったんだ」
16:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 22:54:43.15 ID:2kLflUvfO
「なんというか、まあ下策だね」
笑いながら彼女は言った。
「このご時世に、刺すだの殺すだのなんてさ」
17:名無しNIPPER[saga]
2021/02/27(土) 22:56:10.63 ID:2kLflUvfO
彼女はゆっくりと歩いた。
僕は自転車を押してその後に続いた。
二人分の足音と自転車の車輪が回る音が、
夕暮れの無人の街に、やけに大きく響いた。
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