高森藍子「加蓮ちゃんたちと」北条加蓮「生まれたてのカフェで」
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13:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/25(金) 20:48:07.17 ID:mOMWMpAw0
「そ、そうなんだ……」

藍子もまた、瞳に困惑を滲ませ私を窺う。何の気まずさなのか分かっていないそーちゃんだけが、私達の顔を交互に見ていた。

「……藍子ちゃんがテレビに映ると、ずっとそこから離れなくなるのよねぇ。どこかぼんやりしているのはいつもなんだけど――」

そこまで説明して、看護師さんは気まずそうに視線を逸らす。

「しろちゃん、あれからずっと好きな物探しをしていたみたいなのよ」
「好きな物探し……。前よりワガママになったって聞いたけど」
「そう。でも、藍子ちゃんには特に夢中になっていたみたい。私もね、あぁ、やっと見つけたのかなって思っちゃって。藍子ちゃんのことを調べたり映像を用意してあげたりしているうちに、すっかりファンになっちゃった」
「……じゃあアンタのせいでもあるんじゃんっ」
「仕方ないでしょ、本当にようやくだったのよ。本当にようやく……。夢中になれる物なら、たくさん見せてあげたいじゃない」
「それはっ……」

ふと、過去の記憶が蘇った。……とはいえ映像の端々に罅割れのある、曖昧で、自分に都合良く改竄されているかもしれないワンシーン。
私、病院にいた頃によくアイドルの話をしてた。多分相手はこの看護師さんで、それで……。私はたぶん、そこそこ楽しそうにしてて。看護師さんのことは顔も目も見てなかったから知らなかったけど、あの時の記憶を、肌の感覚で思い出すと……この人は、ひょっとしたら嬉しそうにしていたかもしれない。
世界に幸せを見つけられなかった女の子が、瞳の中に希望を見出した瞬間。
看護師さんにとって、それは自分のことよりも嬉しい出来事だったのかもしれない。

「……しょうがないなぁ」

緊張感が、冬部屋の温かさに緩んでいく。

「それはしょうがないよ。それに、藍子のファンが増えるのは嬉しいことだし。看護師さん、今回は許してあげるっ」
「……そっか」
「? そんなに不思議がることってある? 私だって、自分らしくないこと言ってるなーって思うけど」
「それは……ふふ。加蓮ちゃん、優しくなったのね」
「そうなんですっ。加蓮ちゃんって、すごく優しいんですよ」
「こら、藍子。こういう時だけ急に割り込んでくんなっ」

悔しいって気持ちも、心の片隅にしこりとしてこびり付いてるけど……。それよりも嬉しい気持ちの方が大きい、っていうのが本意だった。
しろちゃんが好きな物を見つけられたことも、藍子のファンが1人増えたことも。


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