ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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名無しNIPPER
[saga]
2020/10/10(土) 22:29:13.94 ID:mG1v5QBi0
だがその疑問に、師匠は何でもないという風に首を振って見せたのだった。
「いや、解明すべき謎はひとつだけだ。"どうして件の神霊は、今回に限って村を襲ったのか"。それ以外は大した謎でもないし、それさえ分かれば対処できるだろう」
あまりの唐突さに思わずぽかんと口を開けてしまっていることに気づいて、赤面しつつ慌てて唇を引き結ぶ。
どうやら師匠の中では既に推理が進んでいたらしい。しかし、自分はまだ五里霧中の心境だった。分からないことだらけで、情報をどう取捨選択するか、その基準さえも定まっていない状態だ。
何をどう言えばいいのかも分からなかったので、自分の口を突いて出たのは最もインパクトの強い人物についての疑問だった。
「あの、例えばティガーさんの獣性魔術については……」
「ああ、それはジャガーマンだろう」
こともなげに師匠は言う。
「ジャガーマンはメソアメリカ文明で古くから信仰されていた存在だ。一般的にはジャガーの毛皮を被った戦士の姿を象る。テスカトリポカの"ナワル"――霊的な別の側面がジャガーの形であることから、テスカトリポカとも深い関係があるとされている。いわば低位の神霊だな。一説によれば、テスカトリポカは多くのジャガーの戦士を従えているとか」
「つまり、ティガーさんは神霊なんですか?」
「もちろんそうじゃない。あんなふざけた神がいてたまるか。彼女、というか彼女の部族はあくまでシャーマン――ジャガーマンの力をその身に宿しているだけに過ぎない。先ほど言ったナワル、という言葉は、別の姿に変身することが出来るシャーマンを指す言葉でもあるんだ」
そういえば昨晩、たき火の傍でそんなことを講義していた気もする。
忘れていたことを隠すようにふんふんと真面目さを装って頷いておく。幸い、師匠はそのまま話を進めた。
「スヴィンの獣性魔術とは似て非なるものだ。獣性魔術は己の内側から獣性を引き出すことが本質だが、彼女はその逆――外からジャガーマンの力の一端を借り受けているんだろう。どちからといえば降霊術に近い。先ほど神霊の格云々について説明したが、その延長だな。限定した力を、限定した時間だけ憑依させている。それでもなお人間という器では耐えきれないから失踪者――というか、おそらく発狂するなり廃人になるなりが出るんだろうさ」
「あの……こう言っては失礼かもしれませんが、あのティガーさんがそんなに高度なことをやっているんですか?」
「体系立てて制式化しているわけではないだろう。多分に感覚的なものなのではないかな。この手の降霊術に必要とされる資質は『無垢であること』だと言われている」
「無垢……ですか」
何とか納得できないこともない。彼女のように裏表のない、悪く言えば子供じみた性格は無垢に繋がるものだともいえる。
師匠はこめかみの辺りをこつこつと人差し指で叩いて見せた。
「自身の中に異物を呼び込むわけだからな。むしろ理知的な人間であれば反発してしまうのさ。世界的に見ても、シャーマンや巫女がトランスを行う際には、アルコールを始めとした薬物を用いることが多いだろう? あれはそういった脳の抵抗を減らすためのものだ」
「なるほど……いえ、しかしそもそも現代では神霊を呼ぶことはできなかったのでは?」
「フェイカーも神代形式の魔術を使っていただろう。極東の一部ではいまだにその形式の魔術が使用されているらしいしな。現代においても、ほんの僅かな力を借り受けることくらいなら可能というわけだ」
神代形式の魔術が現代の魔術と違うのは、神からその力を直接引き出すということである。その点でいえば、確かにフェイカーは現代において神霊の力を呼び出していると言えた。
しかし、ティガーは自身の異能が、村人の何人かに共通して存在するものだと言っていた。そしてそれが、この地に由来する神霊を降ろすことができるシャーマンとしての能力であるならば――
「つまり、この村はアステカの魔術師達が造り上げたもので、ティガーさん達はその子孫?」
「この村は確かにアステカの魔術師達が造った物だろう。結界の存在を考えてもそれは間違いない」
この村と遺跡へ辿り着く為には、"案内人"を使わねばならないというルール。それはここら一帯を覆う結界に端を発するものだ。
その結界を造ったのが誰か、といえば、それは滅び去ったアステカの魔術師たちに違いない。遺跡がアステカ時代の様式である為だ。結界がそれより以前――メソアメリカ文明初期の頃に張られていたものだったというのであれば、そもそも結界の内側にアステカ人たちが遺跡を建築することはできない。
「だが彼女たちがその子孫であるというのはどうかな。君も気づいているだろうが、ミズ・ティガー達の顔つきには妙な偏りがある。メソアメリカ系でもない。出立前から可能性としては考えていたが、彼女たちはやはり――」
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