ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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51:名無しNIPPER[saga]
2020/10/10(土) 22:28:31.84 ID:mG1v5QBi0
「あのなぁ、もしもあれがマジモンの神霊なら『手も足も出ない』程度じゃ済まねえに決まってるだろ! 一瞬で村も人も丸ごと灰になってるさ。だろう、先生?」

 答え合わせを求めるような友人の視線に、それを向けられた師匠は頷きで返した。

「その通りだ。神霊とは単なる英霊の上位互換ではない。両者の間には隔絶した差というものがある。例えば君の"槍"は真名解放によって神霊級の魔術行使を可能にするが、逆に言えば神霊はそれと同等の一撃を我々が魔術を使うのと同じ感覚で放てるわけだ。もちろん神霊と言ってもピンキリはあるがね」

 言われて想像したのは、最近スラーでも見かけるようになったルヴィアが、得意のガンド撃ちを披露する場面だった。彼女の人差し指から呪いの代わりに聖槍が機銃掃射のように連発される様を思い描いて、思わず身震いする。地平線が焼け落ちそうだ。

「アッドの言う通り、そんなものを相手にしたのなら、全滅していてない時点でどこかおかしいということになる」

「けれど師匠。あれからは確かに神霊――神霊イスカンダルと同じ気配を感じました」

 凄まじい神秘の深度。現代に残存しているものとは思えぬほどの。

 あの炎を纏った人型は、確かにそれを備えていたのだ。

「君の感受性は確かなものだ、レディ。だからつまり、神霊ではあるんだろうさ。神秘の古さと力の出力が見合っていないというだけでな」

 ……そんなことがあるのだろうか。

 神秘は古ければ古いほど強力になる。これはこの世界の大原則だ。例えば何の魔術的な処置をされていない刀剣であっても、数百年を経れば結界破りなどの特性を持つこともあるという。

 そんな疑問に、師匠はいつもと同じように答えてくれる。

「可能性はいくつか考えられるが、もっともありそうなのは機能を削って霊基を成立させているということだ」

「機能を削る……ですか」

「ああ。そもそも神霊なんぞ、現代に呼び出せるわけがないんだ。ハートレスの計画とて、特殊な英霊を使った複雑な儀式と、霊墓アルビオンという環境が無ければ成立しなかった。この密林のマナも現代にしては破格ではあるが、アルビオンほどではないだろう」

 神霊イスカンダルの降臨。確かにあれは、限定された状況と、ハートレスの偏執的な計画があっての出来事だ。

「あの時とは逆だな。英霊を神霊にまで押し上げるのではなく、神霊を英霊と近しい出力にまで貶める。振るえる力の総量は落ちるだろうが、神霊としての神秘の深度は保てる。君のセンスは霊体の本質を捉えることに特化し過ぎている為、その神霊本来の"格"を感じ取ってしまったのだろう」

「……その方法なら、神霊を呼び出すことができるんですか?」

 尋ねると、師匠は難しい表情を浮かべた。

「いいや。現代の魔術理論を鑑みるに、絵空事でしかない。そもそも英霊をサーヴァントとして召喚すること自体、聖杯かそれに匹敵するリソースがない限り難しいんだ。ましてやそれが神霊なら、世界が滅びかけてでもしない限り……神霊側が召喚を望んでいたとしても難しいだろうな」

 溜息を吐いて、師匠は再び探索に戻るようだった。歩き出す背中を追いかける。

「……現代において神霊の召喚が不可能であれば、その神霊は神代から今日まで残り続けたものなのではないか、という考察もできる」

 歩きながら、師匠が呟く。

 それは、逆転の発想だった。師匠らしい発想の柔軟さだ。だが表情をみるに、誰よりも師匠自身がその考えを有り得ないと否定している。

「しかし師匠、それは……」

「……ああ、そうだ。絵空事というのはこれも同じだ。機能を可能な限り削り、この地のマナを吸い尽くしたところで、神霊としての深度を保ったまま数百年以上も活動できるはずがない」

 どこかで詐欺をやられている、と師匠は頭をがりがり掻きながらぶつくさ呟いていたが、唐突に苛立ちを消した。思考をリセットしたのだろう。瞑想法で意識を切り替えるのは師匠の得意技だ。

「だが現実問題として、この地に神霊は出現している。今更そのハウダニット(どうやって)を考えても無駄だろう」

「考えるべきはホワイダニット(どうして)……ですか。でも、分からないことが多すぎて……」

 一体、何の"何故"が分かればこの状況を解決できるというのか。

 師匠が冒頭で自分達に語った秘策は、奇しくもライネスが予言した通り、現状では意味のないものになってしまっている。

 師匠だけを連れてこの森から脱出することは可能かもしれないが、それをすれば魔術師としての師匠は死んでしまうのだろう。それはこの人が、もっとも望まないことだ。

 八方塞の現状を打破できるような答えが存在するというのか。



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