ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
1- 20
50:名無しNIPPER[saga]
2020/10/10(土) 22:27:25.34 ID:mG1v5QBi0
          *


「……とはいえ、馬鹿正直に真正面から行っても他の調査隊の二の舞だ。まずは突破する為の材料を手に入れなければな」

 そんなわけで、自分と師匠は村の中を歩いていた。昨晩、師匠と別れたからあったことの仔細も既に話し終えている。

 ゴルドルフとトラムは別行動だ。というより、絶望的な状況にあることに気づいたゴルドルフがフリーズしてしまった為、あとはトラムに任せてきたのだが。

 改めて村の中を見て回ると、そこかしこに昨晩の爪痕が残っていた。焦げ跡。クレーター。倒壊した家屋。それらの片付けに村人たちが追われている。やはりというか、ティガーの服装は特殊なものだったらしい。彼らの多くは異国情緒溢れるゆったりとした民俗衣装に身を包んでいた。風通しの良さそうな布地が、赤や青といった鮮やかな色に染められている。

 改めて見ても、ここの村人たちの外見はメキシコの人々とはどこか違うように思われた。

 いや、そもそも現代における所謂メキシコ人は多様な人種が混ざったものなので"メキシコ人らしくない外見"というのは存在しないのかもしれないが、この村ではその人種の比率が妙に偏っているように見える。特にメキシコ人の大部分を構成するヒスパニック系はひとりも見当たらないのだ。

 師匠に聞いてみようかとも思ったが、その師匠は現在、真剣な表情で焦げた建材の一部を採取していたので声を掛けるのは躊躇われた。些事で煩わせるのは申し訳ない。

 さきほど話題に出た、魔術師にとっての"死"。それは、誰よりも師匠自身が恐れる結末だろう。いつか取り戻す予定の魔術刻印でさえ、二束三文で叩き売られてしまうかもしれない。

 代わりというわけでもないが、手に持っていた布袋を顔の高さまで持ち上げる。布を解くと、中からいつもの鳥籠に入ったアッドが姿を現した。

「アッド、体の具合はどうですか?」

「イッヒヒヒ! 体も何も、見ての通り顔しかねえぞ!」

 挨拶代りの軽口に応じるように鳥籠を軽く振ると、アッドはしばらく口を閉じた。人間でいうのなら、身だしなみを確認するとき、自身の身体を見回すようなものだろう。数秒を経て答えを出す。

「……まあ、そうだな。真名解放寸前までは行ったが、結局は失敗したんだ。大した負荷じゃなかったさ。あと一度くらいなら問題ないだろ」

「そうですか……」

 まずはほっと息を吐く。

 アッドは以前、十三拘束を一部解放した反動で機能停止に陥った。あの時は本当に胸が張り裂けそうになったのを覚えている。その後、文字通り奇跡的に回復したものの、自分と彼の間で"槍"の解放に関する取り決めを話し合うことになったのは必然であった。

 第三段階限定解除は完全に封印。第二段階も、一度使用したら10日は間を空けるということで合意している。それがアッドの自己修復能力の程度を鑑みての結論だった。

「とはいえ、無傷ってわけじゃねえからな。真正面から殴り合うのは勘弁だぜ。第一段階でだって、たとえば真っ二つにへし折られでもすりゃそこでお終いさようならだ」

「……そうですね。昨晩は手も足も出ませんでしたから」

 何度思い返しても恐るべき相手だった。神霊テスカトリポカ。"音を焼く炎"を除けば、魔眼や魔術といった搦め手は見せなかったが、単純な近接戦闘能力でいえばフェイカーを上回るだろう。

 怖気を押し殺して紡いだ自分の台詞に、しかしアッドは奇妙なぼやきかたをした。

「まあ、手も足も出なかった、ってのは変なんだけどな」

「?」

 首を傾げていると、立ち上がった師匠がこちらに振り向く。どうやら今のアッドの発言を耳にしたらしい。

「君も気づいていたか。まあ、文字通り直接対決したわけだからな」

「どういうことですか?」

「イッヒヒヒ! ちっとは自分で考えたらどうだ愚図グレイ! 脳みそが緩んで耳から垂れるぞ!」

 アッドからの叱咤に、むぅと呻いてから考えてみる。手も足も出なかったのがおかしい?

「……拙が頑張っていれば、もっと有利に立ち回れたということでしょうか?」

「かもな! だが大外れさ!」

 ブッブー! と不正解のオノマトペを吐き出すアッド。それを軽く睨み返しながら降参というように肩をすくめると、彼はこれ見よがしに溜息を吐いて見せた。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
65Res/174.43 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice