ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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45:名無しNIPPER[saga]
2020/09/22(火) 20:32:53.93 ID:kGu0y7r00

 何となく漂う気まずい雰囲気を払拭するように、師匠がごほんと咳払いをしてみせた。

「彼女は確かに特別な限定礼装の使い手ですが、神霊と真正面からやり合えるものではないと御理解頂きたい」

「な、なら昨晩あれが退いたのは、あの妙な女が――?」

「ティグレ・ヤガー――あのエキセントリックな女性の名前ですが、彼女は確かに特異な異能を持つようです。ですが、神霊相手に勝利できるほどだとは思えない。昨晩の結果は、単純な力押しで得たものではないでしょうね」

「そ、そうか――いや、待て! ならばまた奴が襲ってきたらどうすれば――!」

 再度の襲撃。その可能性を指摘され、思わず身が強張る。勝てるイメージが全く浮かばない。

「それについて考える為にも、まずは事態を把握しなければ。調査隊の被害は?」

「……こっちだ。歩きながら話す」

 不承不承という感じながらも、ゴルドルフは先頭に立って歩き出した。師匠と自分もそれについていく。

 師匠の交渉の手並みは実に見事なものだ。自然と神霊の脅威を煽ることで、相手が気にしていた自分とアッドの秘密のことを流してしまった。貴族特有の格式ばった謀略ならばライネスに分があるのだろうが、それ以外なら師匠の権謀術数振りも負けてはいないだろう。

「奴が襲撃してきたのは、我々が村に到着して少しした頃だった。いきなり村の中に飛び込んできて、ところかまわず火を放ちおってな。隊長であるアープ、及び副隊長のイーガンは即死。突如現れた化物に攻撃したのはいいが、反撃一発で粉々になった」

「……イーガンはアープ子飼いの魔術使いだったな。傭兵崩れで、魔術はともかく戦闘の腕ならば典位にも引けは取らないという話だったが」

「まあ、確かに我々の中では頭一つ飛びぬけてはいたのだろうな。もっとも、敵の足元にも及ばなかったわけだが……まあ、考えてみれば当然だ。神霊に現代の魔術が通用する筈などないからな」

 それは神秘の強度としての理屈だった。

 かつてスラーの地下で、フェイカーと蒼崎橙子が魔術戦を行ったと聞いたが、その際には冠位魔術師の刻んだ大量のルーンが、フェイカーの神代形式の魔術ひとつで吹き散らされたらしい。神秘はより強い神秘によって無効化される。現代の魔術が誇る神秘の強度では、対魔力や特別な加護を持たない英霊程度ならともかく、神霊が備える神秘の強度に抗しえないのである。

 ゴルドルフは溜息と共に首を振った。続ける。

「あとは散り散りに撤退戦だ。荷物の運搬に使っていたゴーレムやら設置型のトラップやらで時間を稼ぎながら、村人を連れて森の中に逃げ込んだ。そいつが来たのは丁度その頃だ」

 そいつ、の辺りで振り返り、こちらを視線で示してくるゴルドルフ。何とはなしにぺこりと頭を下げると、ふんと鼻を鳴らして前を向かれてしまった。嫌われてしまったのだろうか。

「それで、残りのメンバーの状態は?」

「5人が命に係わる重傷、4人がオドを使い果たして昏倒。残りはほぼ無傷だが、逆に言えば戦闘はからっきしで補助に徹した連中が残っただけだ。不幸中の幸いという奴で、その中に治癒の魔術を使える者がいたが、焼け石に水だな。いまは重傷者の延命に当たっているが、いつまでもできるものではない。早く運び出して、外で本格的な治療を受けさせねば」

「すると、動ける者は――」

 師匠が何か言いかけた辺りで、ゴルドルフは足を止めた。

 どうやら目的の場所に着いたらしい。視線を向ければ、自分達の到着を待っていたように、目の前の建物からひとりの青年が出てくるところだった。


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