ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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44:名無しNIPPER[saga]
2020/09/22(火) 20:32:03.35 ID:kGu0y7r00

 しかしこの場合、見られていたというのが驚きである。

「……あの時、意識があったんですか?」

 僅かに目を見張る。凄まじい勢いで木に衝突していたものだから、少なくとも気絶くらいはしていたと思っていたのだが。いや、よく考えてみれば、あれからほんの数時間しか経っていないというのに、こうして元気に動き回っている時点で妙だと気づくべきだったのだろう。

 こちらの問いに、ゴルドルフは肩をすくめて見せた。なんということはない、というジェスチャーを試みたのだろうが、隠しきれない誇らかさが滲んでしまっている。

「何とかな。不意打ち対策に各急所を鉄に変えていたのが功を奏した」

「お腹を、鉄に?」

 発した疑問に、横合いから師匠の解説が入る。

「ムジーク家は錬金術の大家だ。肉体の変成くらいやってのけるだろう。イスタリ家の<生きている石>ほどではないだろうが、緊急時の戦闘用としては申し分ない優れた術式だな」

 そういえばゴルドルフが木に激突した時、妙に重い音を立てていたことを思い出す。

 体の一部を金属に変えられるというのなら、確かに戦闘においては有用だろう。複雑怪奇な仕組みの人体を、強固で単純な形に出来るのなら、耐久力は飛躍的に向上するに違いない。

 自分が納得している横で、師匠が質問役を引き取った。

「ところでミスタ・ムジーク。調査隊に参加する筈だったのは先代当主――貴方の御父上だった筈だ。何故、貴方が?」

 発せられた師匠の言葉に思わず目の前の少年を二度見してしまう。自分よりも歳幼いであろうこの少年が、ひとつの家を背負った当主であるとは。

 だがゴルドルフは、余裕なく師匠の質問を遮った。わずらわしげに首やら腕やらを振り回して不満を表明している。

「僕――いや、私のことなどどうでもいいだろう! それよりもその娘は何者なのかと聞いている! 神霊を撃退するなど――」

「え?」

「うん?」

 ゴルドルフの台詞に違和感を覚え、思わず声を上げてしまう。すると、向こうも毒気を抜かれた様にきょとんとした表情を浮かべてきた。

「あの、拙はむしろ手も足も出なかったのですが……」

「え? そうなの?」

「はい……あの、見られていたんですよね?」

「いや……先ほど通訳をしていた女が乱入してきた辺りで意識が途絶えてな。まさかあの女が倒したわけ無いと思っていたから、消去法で貴様だと」

 ちなみにそのティガーは会談の後、焼けた住居の撤去作業を手伝いに行ったのでここにはいない。

 ならばこの人は彼女の獣性魔術も見ていないのだろう。この様子からすると、自分が"槍"を解放しかけたことも意識の外だったに違いない。


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