ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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46:名無しNIPPER[saga]
2020/09/22(火) 20:33:45.33 ID:kGu0y7r00

 年の頃は20半ばといったところだろうか。それはガラス細工のように整った容姿をしていた。イゼルマでみた黄金姫/白銀姫ほどではないが、それでも男の容姿はどこか作り物めいている。雪のような白い肌。この湿気の中であってもさらさらと風に揺れる銀糸のような髪。血の様に赤い瞳。その全てに魔性が宿っているようだ。

 僅かに思考に空白が生まれる。師匠も同じだったようで、先に口火を切ったのはその青年だった。にこやかに口角を上げて、右手を差し出してくる。

「調査隊のトラム・ローゼンです。お会いできて光栄ですよ、ロード・エルメロイ」

「……U世をつけて頂けるとありがたい」

 お決まりのやり取りをしながら、師匠と青年――トラムとやらが握手を交わす。

 手を離すと、トラムは慇懃に頭を下げて見せた。ひとつひとつの所作に、染みついた貴族的な礼儀作法が見え隠れする。

「失礼、ロード・エルメロイU世。私が怪我をした隊員の様子を見させていただいておりました――まあ、治療の術も使えませんのでね。精々雑用係というところですが」

「そうでしたか。ローゼン、というと――」

 珍しく、師匠の語尾が伸びた。「Well(ええと)」。知識の泉を総ざらいして、相手の情報を思い出そうとしている。

 そしてこれまた珍しいことに、師匠が知識を汲み上げるよりも早く、トラムが後を引き取った。

「ああ、レバノンにある小さな家ですよ。歴史だけはそこそこですが、大した結果は出せていませんので聞き覚えがなくとも当然かと。ムジーク家とは昔から懇意にさせていただいておりまして」

「トラムは私が小さいころからの付き合いでな」

 名前の出たゴルドルフが補足するように言葉を足した。

 何とはなしに、オルガマリーとその従者だったトリシャの組み合わせを思い出す。トラムは従者ではなくあくまで他家の魔術師なのだろうが、力関係は似たようなものらしい。ゴルドルフは彼に命じることに慣れているようだった。

「それで、トラム。様子はどうだ?」

「良くはありませんね。オドを消費しきった方々は、動けるようになるまで2、3日はかかるでしょう。治療魔術の心得がある者が交替で重症者の治療を行っていますが、手持ちの呪体や薬での快癒は不可能。延命はもって一週間というところです。ここはマナには困りませんが、それ以上は治療者の体力が持たない」

 トラムの背後を覗くと、やはり扉の無い建物の内部が僅かに覗けた。厚い布の上に寝かされた傷病人たちの間を、複数の人影が右往左往している。時折マナが流動するのは、治療魔術を使っているからだろう。

 魔術による怪我の治療の難易度は高いと以前に師匠の講義で習った。止血程度ならまだしも、命に係わる様なものであれば焼け石に水というのも頷ける。魔眼蒐集列車で傷を負った師匠も、オルガマリーの霊薬が無ければ助からなかった。

「そうか……」

「いっそ、切り捨てては? 我々だけで森から抜け出すなら、まだ目はありますが」

「ううむ……そちらはどう考える?」

 トラムの冷酷な提案に、ゴルドルフが悩むように師匠の方をみやる。

 ……驚いた。トラムの意見は、魔術師としては至極真っ当なものだ。魔術師にとっては自身の家系が根源に到達することのみが至上にして唯一の目的であり、他人のことなど踏み台程度にしか考えない。

 それに対して魔術の家を総べし当主であるゴルドルフは、"悩む"という優柔不断振りを示した。師匠曰く、ムジークは魔術の大家。であるというのに、ゴルドルフは人間らしい感性を残している。それが良いか悪いかは自分には判断しかねるが、ライネスやオルガマリーなど、これまで出会ってきたゴルドルフと同じ年頃の彼女たちがあまりにも魔術師らしかった為、虚を突かれたのだ。



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