ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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名無しNIPPER
[saga]
2020/09/21(月) 20:36:05.42 ID:amUbMXcr0
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さて、トゥーンアニメか何かなら、一度逃げ切ってさえしまえば後のことはうやむやになる。
だが当然ながら、実際はそうもいかない。堅い床の感触を膝に感じながら、自分はそんな無慈悲な現実を噛み締めていた。
「ええ……ええ……はい、こちらは大丈夫ですので。ええ……」
あれからバスを乗り継ぎ数時間後。場所はメキシコシティから離れ、部族の村があるという密林に最も近いという街にあるモーテルに移っていた。
隣の部屋では目を覚ました師匠が電話で南米支部長と話している。そして自分とティグレは床の上でジャパニーズ・セイザをさせられていた。
目を覚ました師匠の怒りっぷりは凄まじく、ティグレですら大人しく「うっす。反省してるっす、ガオ」と首を垂れるほどだったのだ。自分については言うまでもない。
「ヒヒッ! お前って奴は、この手のが相手じゃ本当に流されやすいな愚図グレイ!」
「アッド……」
テーブルの上に置かれた鳥籠の中身を恨みがましく見つめる。
言い返すことはできない。事実だからだ。自分の役目は師匠を守ることであり、ティグレの凶行を止めるべきだった。
だが、この怪人相手はどうもやりにくい。あまりにも無軌道すぎる。殺気も悪意も感じない為、どうしても対応がワンテンポ遅れるのだ。
「あの……ティグレ・ヤガーさん」
とりあえず相互理解を深めようと、隣で同じ姿勢をしている彼女に話しかける。人見知り気味の自分にとってはルビコン川を渡る様な心地だったが、それをするだけの危機感はあった。
「なんだガオ、シンデレラ」
「あの……」
そこで口ごもってしまう。思い切って行動してみても、それでいきなり社交スキルがアップするなら苦労はしない。
「その、なんでフルネーム以外で呼ばれるのが、そんなにお嫌なんですか?」
何とか絞り出した質問は、この騒動の原因を問うものだった。支部長も師匠も、それが切っ掛けで昏倒させられている。
「?」
対して、ティグレは質問の意図が分からない、とでもいうように首を傾げて見せた。
「おかしなやつだガオ。そんなの、当たり前の話でしょ?」
「当たり前、ですか?」
聞き返す。ティグレの表情は今までと比して真剣なものになっていた。
「名前は真実を表すもの。中途半端な名前で呼ばれるということは、呪いをかけ、貶めるのと同じだガオ」
「中途半端……」
グレイ(どっちつかず)と名乗る自分には、なんとも耳の痛い話だ。
だが納得できないこともない。師匠だって、U世と呼ばれることに強いこだわりを持っている。
名前というのは魔術的にも大きな意味を持ったファクターだ。時計塔では一般的ではないが、呪術の分野においては自身の真名を秘匿することが初歩にして基本的な防御のひとつとされているらしい。
「そそ。だから名前は丁重に扱わなくちゃいけないの。それを軽視する者は、死すら生ぬるい報いが与えられるガオ」
あの竹の棒で叩かれるのが死すら生ぬるい報いなのだろうか、と考えつつも、自分の口がほとんど無意識に紡ぎ出したのは別の疑問だった。
「でも、ティグレ・ヤガーさんは、拙のことをシンデレラと呼んでいますよね? グレイと自己紹介したのに」
「あっ」
世界共通の"やっちまった"という表情を浮かべるティグレ。追撃するつもりがあったわけでもないが、何となく先ほどの言葉を繰り返してしまう。
「死すら生ぬるい……」
他意はないがじっと見つめていると、ティグレは冷や汗をだらだらと流し始めた。冷や汗をだらだら流すコンテストがあれば間違いなく優勝できるだろう。
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