ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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18:名無しNIPPER[saga]
2020/09/21(月) 20:38:16.09 ID:amUbMXcr0

「ティグレ・ヤガーさん……」

「よ、よーし! シンデレラ! 今日から私たちはマブダチだガオ! だからあなたも私を好きなニックネームで呼ぶ。それで相殺!」

「せ、拙がニックネームを?」

 さも名案! と声も高らかに宣言されたその条件。しかし、他人を愛称で呼ぶなど、ましてやそれを付けるなど、これまでの人生で一度も経験したことがない。

「ヒヒッ、お前友達居なかったもんなぁ……」

 机の上のアッドがしみじみと呟く。本当のことではあるが、やめて欲しい。

 それに、時計塔に来てからはライネスなどを筆頭に交流する人物も増えたのだ。フラットが誰彼かまわずニックネームを付ける様子だって、何度も見ている。

 隣の部屋でしかめっ面で受話器を耳に当てている師匠に、いくつもの異名(マスターVだのグレートビッグベンロンドンスターだの)が付けられていることも知っていた。

 よし、やってみよう。大きく息を吸い、肺を膨らませて気合を入れる。

 愛称というものは、概ね二種類に大別できるだろう。名前を縮めて呼びやすくしたものか、その人特有の性質を端的に表したものである。

 前者はやりやすい。名前の縮め方というのは概ね決まっているからだ。例えばエリザベスという名前ならエリ、リズ、ベスと一部を切り取る様に略して愛称とすることがほとんどだろう。

 だがここは異国である。ティグレ・ヤガーという名前も、彼女の親――未開部族の人間によってつけられた名前だろう。下手に縮めて変な意味になってしまったとしても自分には判別がつかない。ティグレの透明な逆鱗に触れたくは無かった。

 では後者だが、自分にとっては難易度が高いように思える。これは純粋にセンスの問題になるし、そもそもティグレのことをほとんど知らないのだから当然だった。

 前者と後者。どちらを採用するにしろ、このまま自分の中だけで考え続けてもいい案は出ないだろう。意を決して、目の前のティグレに訊ねてみる。

「そ、そういえば、ティグレ・ヤガーさんのお名前には何か特別な意味が? こだわられておりましたので」

「んー? "虎殺し"って意味ガオ」

「それは……」

 咄嗟に返す言葉に詰まるが、失礼になってはいけないと言葉を無理やりに絞り出す。

「……その、豪快ですね」

「だしょ?」

 満面の笑みで頷くティグレ。その表情だけ見れば、数時間前、成人男性4名を昏倒させて逃走した人物だとはとても思えないだろう。

 その笑顔につられて――というわけでもないが、ひとつ思い浮かんだ案がある。前者と後者の折衷案のようなものだが。

「それでは……ティガー(Tigger)というのはどうでしょう?」

 ティグレ・ヤガーという名前の略でもあり、Tiger(虎)のもじりでもある。虎殺しという意味の後半は反映できなかったが、そもそもそちらの方は難易度が高過ぎるので勘弁してほしい。

 さて、問題のティグレの反応は――

「いいね!」

 シンキングタイムゼロ。こちらがかなり悩んだのに対し、ティグレ改めティガーは吟味する様子もなくサムズアップしてきた。

 ……色々と思うところはあるが、気に入って貰えたのならそれでよしとしよう。


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