ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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19:名無しNIPPER[saga]
2020/09/21(月) 20:38:46.91 ID:amUbMXcr0

「……そんな軽い感じで納得できる程度のことで、私は気絶させられたのか」

「あ、師匠」

 いつの間にか支部長との電話会談を終えたらしい師匠が、こちらの部屋に戻って来ていた。頭痛をこらえるように額に手を当てている。

「その、支部長さんの方は大丈夫でしたか?」

「なんとか穏便に済んだよ。というのも、向こうは私が誘拐されたと思っていたらしくてな。仮にもロードを目の前で攫われたとなれば立場もないだろう」

 忘れられがちな事実だが、師匠は魔術師の総本山、時計塔の重鎮である。

 現地の最高責任者としては、ティガーの行動は寒気がするものだっただろう。

「無論、なすすべもなくやられて立場が無いのはこちらも同じことではある。だから結果として、我々の間に"何も問題はなかった"とすることが出来た。まあ、帰りに顔を出すことを約束させられたがね」

 政治的な判断、というわけか。

 一度肩をすくめて見せてから、師匠はいまだ床に座ったままのティガーと改めて相対した。何かを考えるように、口元に手を当てながらぶつぶつと呟いている。

「しかし、ティグレ・ヤガーか……報告書が曖昧だったのはそのせいか?」

「? どういうことです?」

「ティグレ、というのはスペイン語だ。スペインによる征服後、少なくとも彼女の生まれるより前に、彼女の部族が外界の文化を多少なりともとり込んでいた証だろう――ついでに言えば、メキシコに虎はいないことだしな。どういう動物か知っているかも怪しいものだ」

「失礼な! 虎ってあれガオ? ドラゴンと双璧を成す超怪物ガオ? きっと空も飛べると見た」

 虎に翼を地で行く彼女の台詞を、師匠は溜息を吐いて無視した。

「……それは置いておくとして、ティグレ・ヤガー――」

「あ、お兄さんもティガーって呼んでいいガオ……メルメロイ3世って呼びづらいし」

「エルメロイU世だ。結構、ではミズ・ティガー。幸運にも、という表現は絶対に使いたくないが、支部長のもてなしを受けなかったことで時間には余裕ができた。いまから村に向かうことは可能だろうか?」

「んー、ちょっと強行軍になるけど、出来なくもないガオ。でも、大丈夫? 密林の中を数時間歩き続けることになるけど」

「ふん、私も魔術師の端くれだ。それに、今回は耐環境礼装も準備している。問題はないさ」

 そう、胸を張って師匠は答えた。


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