ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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20:名無しNIPPER[saga]
2020/09/21(月) 20:42:25.92 ID:amUbMXcr0

          *

 そして、現在。

「し、死ぬ……休憩……休憩をしないか、レディス」

「15分前にしたばかりだガオ……」

 呆れた顔で振り返るティガー。自分も背後を見やると、死相を浮かべた師匠が生まれたての羊のように足をガクガク震わせながら、近くの木に寄りかかる様にして何とか直立していた。

 密林に入ってからすでに半日ほど経過していたが、彼女の話によれば、予定より大幅に遅れているらしい。木々の隙間から僅かに見える空の色も、だんだんと赤みがかっている。

 原因は言わずもがな、師匠の体力不足によるものだ。意気揚々と密林に入って行った師匠だが、その調子は20分しか持続しなかった。休憩なしで歩けたのは1時間である。

「……とはいえ、限界なのも確かです」

 細い顎の先からぽたぽたとひっきりなしに汗を零している師匠を見て呟く。

 師匠程ではないにしても、自分の疲労もかなり深まっていた。村まであとどのくらいか――そんな質問にティガーが返してきた答えは、おそろしく曖昧かつ独自表現に満ち溢れたもので、具体的なことは何一つ分からないというのも疲弊の一因となっている。

 ティガーの判断は迅速だった。空の具合を一瞥すると、適当な木の傍に荷物を降ろし(師匠の荷物は途中から全部彼女が背負ってくれていた)、しゅばっと謎のポーズを取る。

「私だけならともかく、夜の森を歩くのは危険だガオ。どうせ休憩するなら、朝までここをキャンプ地とする!」

 そんな宣言がされると、糸を断ち切られたマリオネットの様に、師匠は全てをかなぐり捨ててずるずるとその場にへたり込んだ。

「し、師匠!」

「おいおい、前も言った気がするけどよぉ、もうチョイ体力付けようぜぇ? ヒヒッ!」

 ティグレの荷物の横に降ろしたザックの脇から、アッドの嘲笑う声。

「っ……私は都会育ちなんだ」

 荒く浅い呼吸を繰り返しながら、師匠は何とかそんな反論を絞り出した。

 そんな師匠に肩を貸して、どうにか荷物の傍にまで連れてくる。地面に敷いたシートに座らせ、飲ませる水を探していると、ティガーは「なんかいいもの探してくるー」と一声残して密林の奥に消えていった。

 その背中を見て、思わず吐息を零す。凄まじい体力と脚力だ。強化を使っている自分でも辛いのに、彼女はけろりとした顔でひょいひょいと密林の中を進んでいく。慣れという奴なのだろうか。



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