中野攻「墓碑のような夜のビルの前に花束が」 【亜人SS】
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12: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:17:30.62 ID:FGITa5EtO

 投票日はフォージ安全で佐藤と戦った日からちょうど一年後だったので、おれは家からいちばん近い投票所には行かなくて、途中で元フォージ安全のビルの前を通る投票所へ行った。

 午後から半休を取って、電車を乗り継いでバスに乗った。バスの中で投票の流れをスマホで調べながら、たまに窓から景色を眺めた。めちゃくちゃ高いビルに、歩道を歩く半袖のカッターシャツの会社員たちが見える。おれとは無縁な人らだと思ったけど、もしかしたらこの中に亜人がいるのかもしれないとも思った。見覚えのあるビルが近づいてきているのが見えて、おれはバスから降りた。投票所までちょっと距離があるけど、歩いていけなくはなかった。

以下略 AAS



13: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:18:26.78 ID:FGITa5EtO

 投票所は小さな公民館で冷房が効いて涼しかった。受付の人に投票所入場券を渡して本人確認が済んでから投票用紙を渡された。ツルツルしていて手触りが良かった。こんな紙は生まれて初めて触った。おお、すげーなって感じだ。

 記載台には候補者の名前が書いてある紙が貼られていて、おれはその中からどの人の名前を書くか少し迷い、おれは亜人だしそれに他の亜人のためになる人がいいよなと考え、亜人の権利を主張しているところの名前を書いた。おれの書いた字は下手くそでこれでほんとに投票できるのかとすこし不安になった。二つ折りにした投票用紙を投票箱に入れた。おつかれさまでした、と投票箱の前にいた人が言った。

以下略 AAS



14: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:19:14.00 ID:FGITa5EtO

 ラーメンと炒飯を食って花を買ってからフォージ安全があったビルに戻ってきたときにはもう日が沈んで夜になっていた。周りのビルには灯りが点いていて、フォージ安全があったビルだけ真っ暗だったから昼に見たときよりますます墓石みたいに見えた。おれは平沢さんたちのために花束を買ったから、供えるなら十五階と屋上に供えたほうがいいだけど、ビルは侵入禁止だったから近づけるギリギリのところに花束を供えることにした。

 ビルの入り口のあたりは道路工事で見るようなフェンスで塞がれていた。殺風景で、まるでこれから解体工事が始まるみたいだった。
 花を供えるんなら真正面がいいよなと思ったので、おれはフェンスの隙間を覗いてビルの入り口を探した。しばらくフェンスの前をウロウロして、おれはやっとビルの入り口を見つけ出した。ホッとしてそこに花束を置こうとしたとき、おれは気づいた。


15: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:19:42.59 ID:FGITa5EtO


 そこには、すでに花束が供えられていた。




16: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:20:34.10 ID:FGITa5EtO

 おれは花束を持ったまま走り出していた。人が行き交う通路に出て、首を左右に振って周りを見渡したけど、おれとは無縁そうな会社帰りのサラリーマンしか見えない。

 あの花束は昼に見たときには絶対になかった。フェンスのすぐ近くまでには行かなかったけど、おれは視力が両方とも二・〇だから、もし昼に花束があったら見落とすはずない。

以下略 AAS



17: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:21:19.97 ID:FGITa5EtO

 五分くらいずっとそうしていた。粒子を出しながら、おれはその場で夜空を見上げ、あちこちに眼を向けた。そうしているうちに、そういや真鍋さんもいるじゃん、と思い当たった。そっちの可能性もあった。ていうか、そのほうが可能性が高かった。フォージ安全があったビルの近くにはバス停があって、ずっとこうして立っているとバス停にいる人がおれのことをジロジロ見ている気がする。

 落ち着かない気分になってきた。内心焦りだすと、だんだん永井はそんなことするようなやつじゃないような気持ちがどんどん強くなってきた。あいつ、誰が死んでも知ったこっちゃないとか言ってな、とおれは思った。

以下略 AAS



18: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:21:52.38 ID:FGITa5EtO


 そして、黒い粒子を見た。




19: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:22:35.34 ID:FGITa5EtO

 黒い粒子の狼煙はビルの屋上から昇っているように見えたけれど、よく眼を凝らすとビルを挟んだ反対側から昇っていた。たぶん角度とか距離感とかそういうのが違うんだろう。夜の空に昇っていく粒子は黒いのに、はっきりと見えた。おれが黒い粒子を頼って永井に会いに行ったときと同じにはっきりしていた。

 おれは少しの間ボーッとしていて、はっと気づいたときおれも黒い粒子を上げた。

以下略 AAS



20: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:23:35.73 ID:FGITa5EtO


  おれは立ち上がり、バス停に向かって歩いていった。家に帰り、風呂に入った。風呂に入る前にクーラーを入れておけばよかったと後悔しながら窓を開けた。冷房が効いてきた。おれは窓を閉め、明日のためにぐっすり眠ろうとベッドに入った。


以下略 AAS



21: ◆8zklXZsAwY[saga]
2020/08/16(日) 22:26:56.42 ID:FGITa5EtO

新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483369191/の続きの書き溜めが消えてしまって半年くらい意気消沈してましたが、リハビリがてら一気にこの話を書きました。続きの方は書き途中です。目処がついたら新しくスレを立てますので、気がむいたら読んでいただけると幸いです。


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