15: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/14(金) 08:32:01.40 ID:QdYqO6ws0
「……」
漣は口を開かなかった。しかしその表情は冷静そのもので、廃れた故郷への悲しみや深海棲艦への怒りがあるようにも見えない。
ただ、俺のシャツの裾を掴んできたので、知らないふりをする。
16: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/14(金) 08:32:27.78 ID:QdYqO6ws0
「あそこにバス停がありました。小学校までは遠かったから、市営のバスが出てたんです。二十分くらいかな? 毎日、毎日……。
で、そのちょうど真向かいに駄菓子屋があったんです。駄菓子屋って言うか、雑貨屋? いろんなもの売ってました。夏はよくアイス買って、あと氷砂糖とか。懐かしいなぁ」
「あとで買ってやるぞ」
17: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/14(金) 08:32:57.14 ID:QdYqO6ws0
「テレビゲームとかは全然なくって、そもそも町におもちゃ屋がなくって。家で遊んでることはあんまりなかったですね。今? 今は、ほら、反動ですよ。
トンネルが多いんですよ。ほら、海岸のとこ。山を抜いて作った、ああいうのがいくつもあるんです。お化けが出るとかいう噂もあったなぁ。夏が来るたびに肝試ししよう、しようって話してたんですけど、結局一度もやらずじまいでした。
あそこに神社があって、境内で夏と秋にお祭りするんです。御神輿も出ました。わたしは御神輿の上で笛を吹く役目で、それって凄いことなんですよ? このあたりじゃ一番うまかったんですから」
18: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/14(金) 08:34:24.84 ID:QdYqO6ws0
そこでようやく俺の方を向いた。目が合う――視線が、壮絶な過去と、それに裏付けられた強さを伴って、俺の胸を打つ。
漣の話は言ってしまえば田舎によくある、日本中どこにでも見られる話にすぎない。だからといって価値がない、どうでもいいということになるはずもなく。
「どうですか? 海岸線を走る鉄路。駅。街中。品種改良センターと農業機械の工場。水田。畑。畦道。ぼろっちい国道。サイロ。森。山。海。この景色。町の跡。わたしの故郷はこれだけです。有りふれた、大したことのない、ちゃちな風景。歴史。それがわたしの故郷なんです」
19: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/14(金) 08:35:02.03 ID:QdYqO6ws0
「開発が、始まるそうです」
「……」
20: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/14(金) 08:35:57.05 ID:QdYqO6ws0
「俺のくにも、一度ぐちゃぐちゃになっててな」
だから、何の気もない世間話をするかのように、唇から滑り出ていく。
21: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/14(金) 08:36:35.40 ID:QdYqO6ws0
「漣」
「なに?」
22: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/14(金) 08:38:13.97 ID:QdYqO6ws0
――――――――――――――
おしまい
艦これ要素が消えた。
明日に大井の短編を一本上げる予定です。
23:名無しNIPPER[sage]
2020/08/14(金) 10:43:23.61 ID:mHdB99PTo
おつおつ
ありがとう
24:名無しNIPPER[sage]
2020/08/14(金) 12:30:09.37 ID:yKB0Rylco
おつ
25:名無しNIPPER[sage]
2020/08/14(金) 20:49:37.16 ID:WSh9eeuSO
おつです。
山城の話、ゆっくり書いてくださいな。
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