十時愛梨「それが、愛でしょう」
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25:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:03:24.02 ID:n4MKx+790
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 正直なところ、いつもいっぱいいっぱいだった。余裕なんてない毎日だった。
 それが言い訳に過ぎないことはわかっている。それでも僕はいつしか、その言い訳に甘えてしまっていたのだ。
 いつだって、その後悔を忘れたことはない。
 愛梨のアイドル活動に問題はなかった。むしろ、順調だったといっていい。他に前例がないほどに、それこそ天海春香や日高舞を比較対象に持ってきて良いんじゃないかと、当時プロジェクトを統括していた上司が太鼓判を押してくれたほどだ。

 いつだって全力で、がむしゃらにやってきたつもりだった。愛梨を、初めて担当したアイドルをトップアイドルの座に押し上げようと寝る間も惜しんでビジネス書を読み漁ったり、営業回りに東奔西走したりと、それこそ命を削る勢いで仕事をしていたことは、昨日のことのように思い出せる。
 だからこそ、愛梨自身に問題はなかったはずだ。問題があるとすれば、それは僕の方だ。
 いつだってそんな気持ちで、仕事をとって、次に繋げようと頭を下げて。

 それでも、世界の進む速度は僕が全力で走るよりも遙かに速い。
 誰かが歌っていた。目にも留まらない速度で今日は昨日になって、明日だった日が気付けば昨日の死骸になって、足下におびただしく積み重なっている。
 意識していたかどうかはわからない。ただずっと、僕は回り続ける世界にしがみつこうと必死になっていた。
 今月の流行コーデがどうのこうのと宣っていた雑誌に映っていた服が、気付けば半額セールのハンガーに吊されている。先月、街頭ビジョンから流れていて、嫌でも聴かされていた曲は別のものに差し替わっている。
 そんな風に世界は目まぐるしく回っても、人間はそう簡単に変わることなんてできない。
 わかりきっていたことのはずだった。


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