十時愛梨「それが、愛でしょう」
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22:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:00:46.51 ID:n4MKx+790
「どうしたんだ、愛梨?」
「えっと、今言うことじゃないかもしれないんですけど」
「ああ」
「スーツの胸ポケットにラーメンついてますよ」

 本当だ。いや、今言うべきことじゃないとかそっちじゃなくて、慌てて自分の胸元に視線を落としてみれば、急いでかきこんでいた名残のお弁当を持参してしまっている。

「ありがとう。はは……情けないな。自分じゃ気付かなかった」

 何とも締まらない限りだ。火が出そうな温度をいつもの仏頂面に押し込めて、何事もなかったかのように取り出したハンカチで付着していた麺を取り除きながら、僕は言った。

「ううん、どういたしまして。それと」
「まだ何かついてるかい?」
「違いますっ、ただ、まだあの砂時計、使ってくれてたんだなあって、ちょっと嬉しくなって」

 いつも、カップ麺が出来上がる時間を計るのに使っている小さな砂時計。入社一年目の冬からと随分長い付き合いになるそれは、愛梨から誕生日プレゼントの名目で貰ったものだった。

 ――プロデューサーさん、いつもカップ麺食べてますよねっ。

 溌剌とした彼女の声が、脳裏に蘇って反響する。
 別に好きで食べているわけじゃなかったし、今も好きで食べているわけじゃない。ただ、限られた時間の中で食べられるものという選択肢の中で、おにぎりや菓子パンよりはカロリー的にも栄養的にもマシかもしれないという、そういう消極的な選択だった。
 それでも、今も昼飯にカップ麺を食べているのは、愛梨からあの砂時計を貰ったからかもしれない。


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